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泡沫姫とティータイム

#アリスラビリンス

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#アリスラビリンス


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●泡沫の天使
 可哀想に、可哀想に。
 忘れてしまったまま、知らない世界を彷徨う可哀想なアリス。
 こんな所に留まっていてはいけません。私が、きっと、幸せな来世へ導きましょう。
 痛みは一瞬、息を吸って吐く頃にはおしまい。
 貴方の生きた証は私の元で煌めき続けるのです。
 アリスにとっては幸せなこと。
 だというのに。愉快な仲間達はいたいけなアリスを誑かしてしまうのです。
 いいえ、いいえ、彼らは彼らなりにアリスが彷徨わぬようにしているのでしょう。
 ならば私が赴きましょう。彼ら諸共アリスを殺してしまいましょう。
 さぁ出迎えて、愉快な仲間達。私のクラゲ達も、貴方達の夢を待ちわびているのですから。

●泡沫の魔女
 アリスラビリンスには、未だにオウガの侵略がない不思議の国が存在する。
 しかし平穏無事で居られるのもつかの間のこと。今回、ついにオウガの侵略に遭ってしまう不思議の国が予見されたとグリモア猟兵エンティ・シェア(欠片・f00526)は語るのだ。
「襲撃を受けるのは帽子の姿をした愉快な仲間達。楽しいお茶会とお喋りが大好きな子達さ。私と気が合いそうだ」
 彼らはふよふよと浮いて移動したり他の生き物などの頭に収まってお喋りを楽しむのが好きらしい。日がな一日他愛もないことを語り合い、新しい発見に瞳を輝かせ、面白い遊戯には積極的に参加していく平穏な日々を過ごしていた。
 いつか訪れるかもしれないアリスが寂しさでないてしまわぬよう、楽しいお話を幾つも幾つも語らい続けているのだ。
 そんな彼らの国へ、救済の名のもとにオウガが侵攻する。
 このオウガはアリスは殺されて来世へ導かれるべきと考えているため、アリスを持て成すばかりの彼らがそもそもお気に召さないらしい。
「このままでは皆殺しだ。幸いなことは、今この国にアリスが訪れていないこと、かな」
 彷徨うアリスの保護や行く末を案じることなく、不思議な国を守ることに注力できることだろう。
 さてそれでは肝心の敵の話をしようじゃないかと、エンティはメモをめくる。
 侵攻してくるのは『泡沫の天使』と呼ばれる人魚の姿に翼を持った娘。
 穏やかな口調に美しい声の、呼び名の通り天使さながらの娘は、美しい結晶から断末魔を放って攻撃してきたり、姿の通り飛ぶように泳ぎ回り、その手に持ったトライデントで突き刺してくる。
 また、こちらの『声』を結晶化する雷を放ち、声を奪うことでこちらの動きを封じてくることもあるそうだ。
「そんな天使殿が率いているオウガの群れは、クラゲだ」
 夢を主食とするクラゲ達は、あの手この手で眠らせようとしてくる。
 彼らだけならば愉快な仲間達でもある程度の応戦が可能だが、眠ってしまうと逃げることもままならない。
 その辺りをフォローして上手く被害が出ないように立ち回って欲しいと言う。
 なお、クラゲの頭部は上等なクッションのように柔らかくて、枕の素材としても一級品だとも。
「正直天使殿さえ居なければこのクラゲ殿とは仲良くやっていける気がするんだよね。まぁ、今回は仕方がない。後で心地よいクッションになってもらうために、クラゲ殿の頭部を沢山刈り取ってきておくれ」
 後で。そう、仕事の後にはお楽しみがあったって良いものだ。
 帽子の彼らは今日も楽しいお茶会をする予定だった。クラゲから刈り取った素材をクッションにして、ゆったりと寛げるお茶会にしてしまおうじゃないかと彼は言う。
「お菓子やお茶は用意されているからね、人を駄目にするような上質のクッションでお茶会場を埋めておあげよ」
 お茶会の会場は温室のような作りになっていて、温かい。いっそ程よく食べて、昼寝を楽しむのもいいだろう。
 お喋り好きが沢山居るのだから、少し賑やかではあるけれど、隅の方で眠る者の邪魔はしまい。
「どちらでも良いよ。楽しんでおいで。君達が楽しむことで、愉快な仲間達はまた一つ、アリスに語る楽しい日常を得られるのだから」
 そのためにも片付けなければいけないものがあるわけだが。肩を竦めてそう言って、エンティは空箱を重ねたようなグリモアを展開させる。
 お喋り達が集う不思議の国は、すぐそこに。


里音
 アリスラビリンスでの冒険です。不思議な国を守って下さい。
 集団戦、ボス戦、日常の流れとなります。

 第一章ではあの手この手で眠らせてくるクラゲの群れを倒しつつ、眠ってしまった愉快な仲間達がいれば起こしてあげてるなり運んであげるなりして下さい。
 帽子の形なので被って一緒に行動するなども可能ですが、ボスには歯が立たない彼らなので早めに逃がしてあげて下さい。

 第三章ではお茶とお喋りとついでにお昼寝が楽しめます。
 帽子の彼らはお喋りが大好きなので、何か楽しいお話をしてあげると喜んでくれます。
 また、第三章に限り、お声掛けがあればエンティもお邪魔させて頂きます。

 今回は三章のみ募集時期を告知させて頂きます。他の章は受付可能な状態であればいつでもどうぞ。
 また、三章のみの参加も歓迎です。
 皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『夢喰いクラゲ』

POW   :    おやすみなさい
いま戦っている対象に有効な【暗闇と、心地よい明かり】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
SPD   :    良い夢を
【頭部から眠りを誘う香り】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    気持ちよく眠って
【両手】から【気持ちいい振動】を放ち、【マッサージ】により対象の動きを一時的に封じる。

イラスト:透人

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ノエル・フィッシャー
死こそが救い――オブリビオンの考えそうな事だね。
でも生憎とボク達は生きている。そういう『死人』の発想を押し付けないで欲しいな。

「王子様のお通りだ! 寄らば刺す! 寄らずんば寄って刺す!」
UC【我が王道に轍無し】でユニコーンを召喚し【騎乗】。【大声】で鬨の声をあげて騒がしくすることで、眠ってしまった愉快な仲間を起こしつつクラゲ達を【おびき寄せ】る。
クラゲの眠り攻撃は自身の体に【無銘の剣】を刺して眠気を紛らわしつつ【激痛耐性】で耐えて対処しながら、【ランスチャージ】による騎馬突撃でクラゲ達を【串刺し】にして撃破していくよ。

アドリブ・絡み・共闘歓迎だよ。




 救いとは何か。それは求める者によって様々に変わる、確かな正解のないもの。
 けれど、そんな中から『死』へと誘われることをこそ正しいと主張する輩が居るという。
「オブリビオンの考えそうな事だね」
 辟易するとでも言いたげに肩を竦めて、ノエル・フィッシャー(アリスの王子様・f19578)はふよふよと浮きながら居並ぶ夢喰いクラゲの前に立つ。
「――でも生憎とボク達は生きている。そういう『死人』の発想を押し付けないで欲しいな」
 凛とした佇まいに、真っ直ぐに映える青の瞳が、彼らへ拒絶を突きつけた。
 クラゲ達は、そんなノエルの言葉を理解しているのか。いいや、彼らが理解をせずとも、その背後に控えているだろう『天使』とやらに届けば良い。
 さあ、聞こえているのだろう、オブリビオン。
 その主張を正義と言うならば、この声をねじ伏せてみろ!
「ボクが先陣を切ろう――キミの道はボクが切り拓くから」
 掲げた槍は、既に率いる軍も馬も持たぬ孤軍の将。
 その槍に馬を与えるべく、そしてこの国を彩る者達を守るべく、ノエルは高らかに告げるのだ。
 その声に応えるのは真白なユニコーン。ひらりと跨るノエルを掬い上げるようにして背に乗せると、蹄を鳴らし、クラゲの群れへと突撃した。
「王子様のお通りだ! 寄らば刺す! 寄らずんば寄って刺す!」
 張り上げた声は、ノエルの存在を知らしめると共に、クラゲの眠りを齎す技に絡め取られてしまった帽子の彼らを現に引き戻す。
 ふわりと浮かび、あるいはぴょこりと跳ねた帽子達は、ノエルを援護しようとしたり、避難する者を支えたりとてんでに動き始めた。
 ちらり、それを振り返り、それ以上は確かめることをせず、目の前の敵へと槍を突き立てるノエルは、刺し貫いたクラゲを駆け抜ける後方に捨て去りながら、次、次、と勇ましく群れを突っ切った。
 そんなノエルへと、クラゲ達も抵抗を――あるいは捕食者としての意思を示すかのごとく、ぷるぷると震わせた頭部から眠りを誘う香りを放った。
 夢喰いのクラゲすらも――それが仲間であるにも関わらず――眠らせるほどの強い香りは、当然、ノエルの眠気も引きずり出そうとしてくる。
 だが、微睡みの溺れまいと、ノエルは抜き払った剣を己の足に突き立てた。
 激しい痛みは眠気をも斬り払う。うつらと閉じかけた瞼を強く見開き、槍を握る手に強く強く、力を込める。
(ああそうだ、眠っている場合などではない!)
 ぽん、と一つ撫で付けたユニコーンも、ノエルの気概に応えるかのように嘶き、クラゲを踏み潰すかのように蹄を振り上げた。
 刺し貫いたクラゲを打ち捨てて、ノエルはひたに駆け抜ける。
 角つき白馬の身体にぱたり、明るい赤をにじませて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

須辿・臨
クロードさん(f19419)と

死こそが幸せなんて無いっすよ。
いつか自分を取り戻せるかもしれねえんすから。

確かにふよふよと気持ちよさげっす。
このクラゲ……食えるっすかね?

帽子姿な愉快な仲間達も含めて、童話な世界っすよねー。
俺なんて巧く斬れるかなーくらいしか考えなかったんで、
やっぱ文豪センセは目の付け所が違うっす(感心しつつ)
作品にカッコイイ剣士いれてくれてもいいっすよ?

つまり頭だけにしちゃえばいいんすよね?
ってことで脚を狙うっす。
暗闇にも負けねぇっす。最初っから目ェ閉じてれば大丈夫っすよね?
匂いはマフラーで何とか。

皆さん、寝ちゃ駄目っす!
はっ、クロードさんまで!
寝たら死ぬっすよ!!(柄でドツキ)


クロード・クロワール
臨君(f12047)と。

救済なんて、人それぞれだろう。
迷い込んだアリスとて、やりたいことくらい見つけるさ。

僕は、此処でクッションをゲットできると聞いたんだ。
クラゲの頭部は沢山あって良い。そう思うだろう?臨君

……イケるんじゃないか?
クッションにできるくらいだから…あぁ、しかし見た目も良い
依頼はサスペンスだったが、童話なんていうのも良いんじゃないか
ふふふふ、僕は作家だからね。考えずにはいられないんだ
その分では君も、斬らずにはいられないのかな。臨君

あぁ、創作意欲が湧いてきた
磔刑書から召喚した魔獣の狼たちにクラゲの頭部を狙わせる
最高傑作が作れる予感、が……なんでこれは?マッサージ…あぁ、これは…(すよ




 死こそが救済だと、泡沫の天使は言うのだそう。
 けれど、話を聞いた二人は揃って首を振った。
 ――死こそが幸せなんて無いっすよ。
 ――救済なんて、人それぞれだろう。
 さぁ、それでは迷い込んだアリスを、どうやって救ってやればいい?
 ――迷い込んだアリスとて、やりたいことくらい見つけるさ。
 ――いつか自分を取り戻せるかもしれねえんすから。
 無粋なことも、野暮なことも、してはやるまい。
 必要なのは、導く事と、見守る事。
 互いの意見が一致することを確かめるように視線を合わせてから、彼らは件の『救済者』の世界へと旅立った。

 踏み入れたその場所は、不思議の国というだけあって実に不思議で……ある意味ではしっくり来る異様さがあった。
 ふよふよと漂うクラゲの群れは、それだけならば幻想の一部ですらあるかも知れない。しかも、おそらくは別の猟兵がやったのだろう、足元に転がるクラゲだったものをそっと突けば、なんとも言えない柔らかさと来た。
 なるほど、とクロード・クロワール(ロールシャッハ・f19419)は頷く。
「僕は、此処でクッションをゲットできると聞いたんだ」
 確かにグリモア猟兵もそう言っていたし、実際とても気持ちいい。これをクッションにして身を沈めればとても駄目になれそうだ。
「クラゲの頭部は沢山あって良い。そう思うだろう? 臨君」
 問いかけられた須辿・臨(風見鶏・f12047)は足元の物体をむにむにしながら、うんうんと同意する。
 浮いている姿も気持ち良さげで、漂うクラゲ同士が接触すれば、ぽよん、と弾んでその反動でお互いが反対方向へと漂っていく。害さえなければ、あの中に埋もれるのも悪くはなさそうだ。
 クッションの素材としては一級品という、このクラゲ。けれど臨はじっと見つめたそれに、別の可能性を見出していた。
「このクラゲ……食えるっすかね?」
 じぃ……。
 ふよふよふよ。
「……イケるんじゃないか?」
 クラゲの可食部は何処だっただろうとかそんな思考が一瞬過りかけたしそもそもオブリビオンって食べれるんだろうかとかも思いかけたけれどそれはきっと考えだしたらきりがないことだ。クロードはそう理解した。
 クッションに再加工できるくらいだし、猟兵ならイケる。多分。
「あぁ、しかし見た目も良い。依頼はサスペンスだったが、童話なんていうのも良いんじゃないか」
 ふよふよぽよんとしたクラゲに、帽子姿な愉快な仲間達。長閑で穏やかな世界の風景と鑑みても、実に童話な世界だ。
 クロードは自身の頭の中に落とし込んだ情景の中でとことこと歩き始めた主人公の姿に、うん、と満足気に頷き、対する臨はそんなクロードの発想に素直に感心したような声を上げて、すらり、愛刀を掲げ、刀身越しにクラゲを見やる。
「俺なんて巧く斬れるかなーくらいしか考えなかったんで、やっぱ文豪センセは目の付け所が違うっす」
「ふふふふ、僕は作家だからね。考えずにはいられないんだ」
 今だって、漂うクラゲとの遭遇をどう描写しようか、頭の中では様々な展開が浮かんでいる。
 そんなクロードの作家としての性と同様に、臨は剣士として、その刃にこそ意義を見出す。
 静かに臨戦態勢へと移った同行者を横目に見て、クロードはゆるりと口角を上げて。
「その分では君も、斬らずにはいられないのかな。臨君」
 問いかけるような言葉は、促しにも等しく。新緑色の瞳に映った燃えるような赤が、その視界から離れ、構えられた。
「作品にカッコイイ剣士いれてくれてもいいっすよ?」
「検討しよう」
 敵と見れば一目散に駆け出す血気盛んな少年か。それともか弱い主人公を庇い立つ勇ましい青年か。
 浮かび上がった世界に立たせるには、どんな姿が似合うだろう。
 クッションを量産すべく、脚だけを狙って切り落としていく臨の姿をいくらか視線で追いかけてから、クロードは残った頭部分を拾い上げて、ふにふにと弾力を楽しむ。
「あぁ、創作意欲が湧いてきた」
 この心地よさを、楽しさを、高揚を、綴っていかねば。
 ――君に告げるべきは感謝なんだろう。
 口元からこぼれるように紡がれた声は、彼の著書に住まう魔獣を呼び出す。
 溢れるように飛び出たのは狼達だ。彼らは最もクロードの創作意欲を刺激したクラゲの頭部に、真っ直ぐと向かっては刈り取っていく。
 その光景さえも、クロードの物語を彩ってくれる。あぁ、最高傑作が作れそう。止めどなく湧き出ては組み立てられていく構想に、歓喜にも似た笑みを湛えたクロードに、もにゅん、と柔らかな手が伸ばされた。
「……なんだこれは?」
 とても心地の良い振動を放つ手が、創作活動で凝り固まった肩をほぐしていく。
 そうそう、凝っているのは肩だけではない。背中から腰も、机作業にはつきものだ。
「あぁ、これは……」
 強すぎず弱すぎず、適度に適切なマッサージを施され、クロードの瞼が自然と降りた。
 この心地よさなら夢の中でも良い作品が作れそうな……。
「寝たら死ぬっすよ!!」
 ゴン! 突然強烈な殴打に晒され、クロードがハッとしたように目を覚ます。
 見れば同じように眠りに落ちていたらしい帽子の愉快な仲間達が傍らに積み上げられていた。
「皆さんも、寝ちゃ駄目っす!」
 声を張り上げた臨は、鼻先までマフラーで覆いながら、常夜灯のようなほの暗く静かな明かりを睨めつけ、すっと目を閉じる。
 眠る気はない。あの明かりに催眠効果でもあるのなら、見なければいい。
 見なくったって、斬るべきものが目の前にあれば、その刃に躊躇いは無いのだ。
「またうっかり寝たら駄目っすよ?」
「……善処しよう」
 その時はまた殴るから、と剣の柄を振り上げる臨に、クロードは苦笑をしつつも、抱えたクラゲの頭部は離さないのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

八剱・忍(サポート)
明るく元気な関西弁女子。
マイペースでさばさばな暗殺者。
モットーは虎穴に入らずんば虎子を得ず。
人の生き死にには無頓着な方。

スキルやUCは臨機応変かつ積極的に使い分けてくわ。
スキルは【見切り】や【第六感】で攻撃をかわしつつ、【残像】で攪乱して【なぎ払い】や【二回攻撃】で斬り込んでいくスタイルや。あとは【暗殺】で相手の死角に回り込んだりや。
UCは敵を一掃する【黒き斬瘴】、畳み掛ける【断罪の大鎌】、【魂喰らい】。
サポートで【スウィート・アバター】で自分や敵の分身を作って攪乱、【痺れる誘惑】で敵の動きを止めたり。
敵が飛んどるなら【夜魔化粧】。

公序良俗は柔軟に。
後はがっつりお任せで、アドリブ大歓迎やで!


カシム・ディーン(サポート)
口調
基本丁寧なですます唇を

一人称

二人称
呼び捨て、君、あなた、お前(敵には


女好きの盗賊少年だが
サポート参加の場合では基本戦闘やそれ以外の補助をメインとした立ち回りに従事する

本当はもう少し楽しい事をしたいんですけどね

【情報収集】
戦う場所や敵について
その他有用な情報を集め仲間に伝え

戦闘
【属性攻撃】で風を全身に纏いスピード強化
基本攻撃は【盗み攻撃】で敵の武装の強奪による戦力低下を狙う
敵集団には一度【溜め攻撃】で魔力を収束させウィザードミサイル

単体相手にはシーブズギャンビットで服を脱ぎつつ猛攻を仕掛ける

一人で行動はせずにメイン参加者と息を合わせて攻撃を行う

今日の僕は盗賊として少し頑張ってみるとしますよ




 アリスが死を望むなら。それを与えてやるのも構うまい。
 アリスが生を望むなら。力を貸してやっても罰は当たるまい。
 望む声を聞かぬままに与える死を、救済だなんて。八剱・忍(黒の囀り・f13028)はどこか愉快げに笑う。
「都合がいいことこの上ないやんな」
 とは言え現状は件の『救済者』の姿もなく、アリスの姿もなく。居るのはふよふよとのんびり心地のクラゲの群れと、愉快な容姿の生き物達。
 クラゲが敵で、帽子が味方。それだけを把握して、忍は自身の得物である大鎌を構える。
「どっからでもかかってきぃ。返り討ちにしたるわ」
 無論、そちらから来ずとも、こちらから向かうことにも変わりはなく。軽やかに地を蹴った忍の大鎌が鋭く振り抜かれれば、クラゲは頭と脚とを分断されて、ぽとりと椿の花のように首を落とした。
 柔くて脆い。けれどその柔らかさは包み込まれると心地の良いものなのだそう。マッサージをお勧めしますと言わんばかりの触腕がゆらゆらしているのには興味も惹かれるが、かまけて敵に眠らされるようでは本末転倒というもの。
 それよりも気になるのは、ふわりと漂う香りの方か。大きく吸い込めば瞬く間に眠れてしまいそうな香りに、忍はそっと息を潜めて。
 ふと、ほど近くでにっこりと笑んでいる姿を目に留める。
「厄介そうですか」
「思うてたよりは」
 なんとなくだが、『眼福』と顔に書いてあるような気のする少年、カシム・ディーン(小さな竜眼・f12217)と一言だけ交わし、忍は漆黒の瘴気を漂わせた大鎌を大きく振りかぶる。
「纏めて片付けたる。ちょぉ下がっとき」
 ざわりと肌を粟立たせるような気配が、爆発的に増して。
「全部ぶった斬ったる!」
 振り抜かれた大鎌の軌跡に沿うように、放たれる。
 言葉通りにそこらで寝ている愉快な仲間達を頭に乗せながら退避したカシムは、軽い歓声を上げながら、ふむ、と呟く。
(多体戦に慣れているんですね。それなら、僕は取りこぼしを片付ける方がいいかな)
 頭に重ねた帽子な彼らを、適当な位置で重ねて降ろし、代わりにダガーを手に取った。軽く空を切れば、伴うように風が舞う。
 自身を身軽にする風を身に纏いながら忍の斬撃が奔った跡へと駆けたカシムは、虫の息となりながらもかろうじてうごめく姿を認めて素早く駆け寄り、ダガーを付きたて止めを刺す。
 そうして、その柔らかな頭部を暫しもにもにと撫で付けてから、ぽーい、と愉快な仲間達の方へと放りやった。
「危ないですからね、それを持って下がっていてください」
 ちょっとした衝撃なら受け止めてくれそうな頭部を抱えた帽子な彼らは、ぽんぽんとそれを跳ねさせながら指示通りに退避していく。
 見送り、再びみやった戦場では、忍が良い感じに暴れている。大鎌の異様に鋭利な刃が、長柄が、クラゲを斬り捌いて叩き伏せていく様子は痛快だ。
 けれどそこに、眠りを促す香りが充満しているのだろうことも、伺えて。
「囲まれた中で眠っては、大変ですね」
 ダガーと対の手に持つ杖を翳し、カシムは魔力を収束させた。ぽぅ、と杖の先端に灯る炎。それが、矢の形を作り出す。
 補助も良いが、もっと楽しいこともしたいもの。
 ただの後処理よりも、派手に魔法を行使してこそ、ルーンシーフと言えるだろう。
 炎で出来た無数の矢が、様々な軌跡を描きながら忍の周囲を浮遊するクラゲ達を打ち抜き、焼き払っていく。
 熱の広がりと共に眠りを誘う香りが薄れるのを感じて、それと同時に見つけたものに、忍は口角を上げて笑う。
「みぃつけた」
 炎に包まれて倒れていくクラゲ達の向こうに、静かに静かに佇む天使のような人魚の姿を、捉えて――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『泡沫の天使』

POW   :    儚い命の残した歌
【美しい結晶】から【絶望的な断末魔】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    全ては泡沫、幸福は来世に在り
【あらゆる空間を泳ぎ回る事】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【泡で包み込み、死角からトライデント】で攻撃する。
WIZ   :    その美しい遺品を、私にください
【トライデント】から【『声』を結晶化させる魔力を纏った雷】を放ち、【相手の『声』を奪う事】により対象の動きを一時的に封じる。

イラスト:Nekoma

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠知念・ダニエルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●泡沫に溶ける
 倒れたクラゲの頭部を良質なクッションにすべく、愉快な仲間達はせっせとそれを集めて運んでいた。
 けれどそのクラゲの集団が消える頃、不意に感じた冷たい殺気にあてられたように、皆一斉に逃げ出していく。
 逃げる彼らを追うでもなく、その存在はクラゲを屠る猟兵達を、ゆるり、ゆるりと見渡した。
「アリスを助けてあげたいのではないのですか」
 配下のクラゲ達が次々と倒れていくのを見届けながら、泡沫の天使は嘆くように問うた。
 けれどその声はどこか淡々としている。
 どうして邪魔をするのです。
 どうして理解しないのです。
「アリスを来世へと導いてあげるべきでしょう」
 不思議だ。わからない。理解できない。そんな感情を一纏めに嘆きとして吐き出しながら、泡沫の天使はまっすぐに猟兵を見据える。
「いいえ、そう、貴方達にも救いが必要なのでしょう」
 その時にきっと、理解できるようになる。
 掲げたトライデントは、それだけでも鋭利なもの。
 明確な殺意を湛えた泡沫の天使は柔らかく、語りかけるように紡ぐ。
「心配はいりません。貴方達の生きた証も、美しく遺しましょう」
 さぁ、その声を。その生を。どうぞ私に預けて下さい。
「きっと、素敵な来世へと至れましょう」
八剱・忍
明るく元気な関西弁女子。
マイペースでさばさばな暗殺者。
モットーは虎穴に入らずんば虎子を得ず。
人の生き死にには無頓着な方。

スキルやUCは臨機応変かつ積極的に使い分けてくわ。
スキルは【見切り】や【第六感】で攻撃をかわしつつ、【残像】で攪乱して【なぎ払い】や【二回攻撃】で斬り込んでいくスタイルや。あとは【暗殺】で相手の死角に回り込んだりや。
UCは畳み掛ける【魂喰らい】。

公序良俗は柔軟に。
後はがっつりお任せで、アドリブ大歓迎やで!


紬雁・紅葉(サポート)
『業邪…御鎮めします』
基本戦闘場面に参加

破魔、属性攻撃、衝撃波、薙ぎ払い等とUCを適宜組み合わせて攻撃

見切り、残像、オーラ防御、武器受け等とUCで防御や回避

窮地の仲間は積極的にかばい援護射撃

範囲攻撃と2回攻撃での雑魚払いが得意だが
ボスとの戦闘も遜色なく行えるし行う


羅刹紋を顕わに戦笑み
傷負っても笑みを崩さず
何処までも羅刹の血と"剣神"の導きに従い
災魔業邪を打ち倒す

敵の最期に
去り罷りませい!
の言葉を

 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!




 かわいそう。そう言うのならそうなのだろう。
「あんたの中では、永遠にな」
 相対した存在に、八剱・忍(黒の囀り・f13028)が掛ける言葉はなにもない。
 『救済者』たる泡沫の天使にとってはそれこそが真実で、こちらの言葉を聞く気はないのだろう。
 ならば忍がやることは変わらない。変わらず『敵対者』に刃を向け、切り捨てるだけ。
 もっとも、今この場にはそんな忍よりもよほど好戦的な気配があった。
「露払い……という段階ではないのね」
 それならそれで好都合と言うように、ゆっくりと口角を上げて微笑んだのは紬雁・紅葉(剣樹の貴女・f03588)。
 彼女は手に帯びた刃を無造作に握り、微笑むのと同じようにゆっくりと構える。
 対峙者を、忍、紅葉の順に見渡して。泡沫の天使は、「あぁ」と小さく声を漏らす。
「貴方達の生には幾多の犠牲が存在するのでしょう。付いて離れぬ血の匂いは、貴方達を苦しめるのでしょう」
 記憶を失い彷徨うアリスだけではなかった。血なまぐさい戦いの中にばかり身を置く猟兵だって、そう、救われなければならない存在だ。
 泡沫の天使は何度だって繰り返す。死は、救いだと。
 それを、叶えてあげるのだと。
「お気遣い頂いて恐縮ね。でも生憎だけど、必要ないわ」
 す、と瞳を細めた紅葉の眼差しが、泡沫の天使を捉える。
 低い姿勢で構えた刃の届く間合いを一瞬で図り、強く、踏み切った。
「――業邪……御鎮めします」
 薙ぐような一閃が、ギン、と甲高い音を立てて泡沫の天使が構えたトライデントとぶつかり合う。
 破魔の力を攻撃に宿しながら振るえども、泡沫の天使はまるで自分が邪ではない存在だと主張するかのように涼しい顔。
 あぁ、自身を正義だと信じ切ったものの厄介なこと。
 そういった手合の相手は十分にしてきたとばかりに、忍もまた深くへと踏み込む。
 お喋りな口も、切望する瞳も、縋るような手も、ぱくりと開く傷を与えて命を刈り取ってしまえば潰えてしまうもの。
 傷は大きければ大きいほうが良い。
 だって、そう――その方が苦しくないらしい。
 何処までも好戦的な二人の猛攻を凌ぐようにトライデントを振りかざし、振り回していた泡沫の天使は、不意に自身へその刃が掠めるのを見て、また、小さく嘆くような声を漏らした。
 その声に応じるように、彼女の手の中に美しい結晶が握られる。
 捧げるように、掲げるように、掌の上に大切そうに置かれたその結晶の美しさに、ほんの一瞬目を奪われた、その瞬間。
 その美しさからは到底思い描け無いような絶望を帯びた断末魔が、響き渡った。
 絹を裂くような女の声。恐怖に滲んだ男の声。どちらとも取れない、歪な不協和音。
 それが耳朶から二人へと襲いかかり、彼女らの精神を蝕むと同時に身体に傷を負わせた。
「っは……、その声を聞いてきて、『救われた』と言えるんやな」
 狂信であり盲信であることを裏付けるような声による攻撃に眩む頭を奮い立たせ、忍は指先で血の滲む箇所を撫で付けると、その血を魂刈りの大鎌へと与える。
「ねぼすけさん、そろそろ目ぇ覚ましや」
 やられてばかりで喰らえ無いのは嫌だろう。
 囁きかけるような忍の声に応えるかのように、大鎌から漆黒の炎が溢れ、刃を纏う。悪魔の本性を曝け出したような見目へと転じた大鎌は、その鋭さもさることながら、ただただ純粋に、食らうべき魂への欲求も増したよう。
 欲求に導かれたような忍の脚は軽やかに動き、泡沫の天使の死角へと滑るように回り込むと、一閃――ついでのもう一太刀は防がれたけれど、炎を纏った刃は抉るようにその身を斬りつけた。
「絶望の声を上げるのは、貴方の方よ」
 紅葉に刻まれた、独特の形をした羅刹紋は、彼女の血が伝って、どこか赤く艶めいている。
 それはまるで、血の流れることに昂揚する紅葉の心根を、表すようで。彼女が何処までも羅刹で、剣神の導きのもとにあることを示すようで。
「弐の式……来たれ」
 微笑む唇が紡ぐや、雷と氷、そして地の魔力がその身に宿る。
 振り抜く刃に込める魔力は、勿論、その切れ味を増すために。
 届いた刃が泡沫の天使に赤い傷を刻んでも。その口から絶望を思わせる声は、まだ、紡がれない――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

須辿・臨
クロードさん(f19419)と

奇麗な人魚さんっすね。
自分の歩く道は自分で、そういうのが大事なんすよ。
来世じゃなく、今夜の良い眠りのためにも。
クロードさん、さっき結構寝てたっすよ……?

その辺の石を拾って、人魚の注意を逸らす。
特にクロードさんに注意が向かないよう。
基本、目眩ましっぽく適当に投げつけるっす。
で、本命の礫が当たれば、オレの剣も当たる――ってね。
断末魔は正面から受け止めるっす。オレはあんたの嘆きから、逃げないっす。
へっへー、折角の舞台っす。格好好く戦わないとっすね。

オレの生きた証は別に。何かとして残す気はないんで。
文豪センセなら、作品っすかね。
なら、大傑作読むまでオレも死ねないっすねー


クロード・クロワール
臨君(f12047)と。

とりあえず、綺麗だが分かり合えない事は理解できたな。
誰にだって幸せになる権利はあるんだ
来世に行くのは、そいつが無理だって自分で決めた時にすれば良い
決めるのは、キミじゃない。

ふふん、そうだな。今夜の熟睡の為、素晴らしいクッション作りが進んでいるんだ
ふ、昼寝は前座にすぎないからな

臨君が前に出るなら、僕は援護だな。
別に、声がなくとも僕は書ける。朱露の森を起動、此処は僕の綴った世界だ
思うがままに舞台を綴る。
木々よ姿を見せろ、此度駆けるは武人の君

臨君を強化も思いのままさ
どうぞ、ご覧あれ

心地よいものだな、キミは。
ふふん。そうだとも。だが、残すなら傑作だ。大傑作はまだ書けてないからな




 話を聞いた。主張を聞いた。
 聞くだけ聞いて、クロード・クロワール(ロールシャッハ・f19419)は肩を竦めて少しだけ残念そうに呟いた。
「とりあえず、綺麗だが分かり合えない事は理解できたな」
 あぁ、確かにきれいだ、と。須辿・臨(風見鶏・f12047)も頷く。理解が出来ないという呟きにも、同様に。
「自分の歩く道は自分で、そういうのが大事なんすよ」
 立って歩く足がある以上、進む道を選ぶことだって出来るのだ。
 それは羽根を携え、二足を持たない『天使』には馴染まない感覚なのだろうか。それともそもそもがオブリビオンであるから、解り会えないのか。
「誰にだって幸せになる権利はあるんだ」
「死ぬことが、幸せなのだと気付いていないだけでしょう」
 どちらにせよ、彼女と彼らの意見が交わることはない。
 改めて一方通行にしかならないのを感じて、クロードは今度は声に出して残念だと呟く。
「来世に行くのは、そいつが無理だって自分で決めた時にすれば良い」
 挫折して項垂れても、前を向いて立ち上がると決めたのなら。
 その歩みを止めるべきではない。
 止められる謂れは、無い。
 そうやって、アリス適合者としてこの世界を彷徨ったクロードは自分の道を選んだのだ。
「決めるのは、キミじゃない」
 真っ直ぐな眼差しが泡沫の天使を見つめて居るのを横目に見て、臨もまた、同意の声を漏らす。
「とりあえずは、来世じゃなく、今夜の良い眠りのためにも」
「ふふん、そうだな。今夜の熟睡の為、素晴らしいクッション作りが進んでいるんだ」
 あのクラゲの頭部は本当に心地が良かったよ、と、名残惜しげに愉快な仲間達へ手渡した素材の感触を思い出しているクロードを、今度はじっと、顔も向けて見つめる臨。
「クロードさん、さっき結構寝てたっすよ……?」
「ふ、昼寝は前座にすぎないからな」
 然様で。
 文房センセの日常の在り方には口は出すまい。きっと筆が乗れば平気で夜を明かすような不規則な生活だ。気に入りの寝具を獲得できて、ぐっすり眠れそうな機会くらいは、楽しむべきであろう。
 そのためにも。ひょいと足元の石を拾い上げ、手元で遊ばせながら、臨は静かにトライデントを構える泡沫の天使を見据えた。
「貴方達もきっと理解できます」
 死んで、しまえたなら。
 対峙する二人をそれぞれに見つめてから、す、とトライデントを差し向ける。
 その対象はクロードだ。咄嗟に臨が前に出るけれど、泡沫の天使は青年の後ろに控える男をじっと見つめていて。
 カッ、と雷が弾けるような光線を放ったかと思えば、迸ったそれはクロードを狙い打ち、その喉から声を奪い取った。
 きらきら、光る結晶と化したクロードの声。
 自身に起きた異変にクロードは即座に気付き、思わずと言った風に喉に手をやり、臨はそんな彼を振り返り見たけれど。
 ――問題ないよ。
 音のないまま、クロードの唇がそう紡いで静かに紙とペンを取り出した。
 クロードが物語を紡ぎ上げ、綴るのは、声ではない。声でなくたっていい。
 紙とペンがあれば。なくても、何でだって、何にだって書ける。
 これが僕の綴る世界、僕の描く舞台。
 どうぞご覧あれ――。
 にっこりと笑んで開幕を告げた舞台の幕が上がる。
 足音さえも吸い込むような、しんと深い雪の降る森。白に降られながらそれでもなお映える朱が彩る世界。
 並ぶ木々が迷宮のように複雑な道を作るのを見つめる臨の背を、とん、とクロードが押した。
 行っておいで。そう言うように。
 ついでに僕の声を取り戻してきてとも、言われているのかも知れない。
 少しだけ見つめて、頷いて。白い息を吐きながら、臨は迷宮を駆けた。
 これは、著者の男が武人の彼と共に逃げるための迷宮ではない。
 駆けていく武人の行く道を助け、彼の力を強化するための、舞台。
 降る雪は、冷たいのに、力を与えてくれる。
 拾った石をぎゅっと握り、程なくして姿を捉えられた泡沫の天使の気を引くように、放り投げた。
「この中なら、クロードさんに追撃される心配とかも無いっすね」
「そう。でも、貴方は一人彷徨うばかりでしょう」
 迷路の中で、一人きり。
 嗚呼、可哀想に。
 泡沫の天使の嘆くような声がしたかと思えば、彼女の手の中に結晶が現れる。
「そうなる前に、終わらせましょう」
 憐れみを湛えた瞳が見据えると同時、美しいはずの結晶から絶望的な断末魔が迸る。
 けれど、臨はそれに対して防ぐことも身構えることすらせず、地を蹴って駆けた。
「オレはあんたの嘆きから、逃げないっす」
 断末魔に切り裂かれながらの二度目の投擲は、やはり彼女の気を引くための、あるいは逸らすための。その適当に投げた石を彼女が何気なく躱した瞬間、回避先を狙うように、礫を放つ。
 こつり、当たってころりと転がるだけの礫。それに引き寄せられるように、肉薄した臨の刃が、迫る。
 高威力かつ、高命中の渾身の斬撃は、泡沫の天使の体躯を大きく斬り捌き、その身をよろめかせた。
「へっへー、折角の舞台っす。格好好く戦わないとっすね」
 彼女の手から転がり落ちた結晶を叩き割れば、遅れて追いついたクロードの喉の違和感が晴れ、声が戻ったのを感じる。
「あぁ……彼の生きた証が……」
「そんな形でなくても――文豪センセなら、作品っすかね」
 白い雪に、赤を散りばめて。そんな姿で振り返り笑った彼の清々しいまでの表情に、クロードは、心地よいと感じる。
 うん、と。一度頷き、それから、胸を張る。
「ふふん。そうだとも。だが、残すなら傑作だ。大傑作はまだ書けてないからな」
「なら、大傑作読むまでオレも死ねないっすねー」
 人の『生き様』にそんな風に触れるのは、良いものだと思う。
 自分の生きた証は、別に。
 何とかして残す気もないけれど。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

不破・明憲(サポート)
●どのような依頼でも全力を尽くすのみですね。さあ、頑張りましょう。

●私は相手に何らかの形で触れることができれば「医術」を活かした「早業」で弱点を「見切り」、「鎧無視攻撃」を行使することが可能です。たとえそれがヒトの形をしていなくとも、「世界知識」の引き出しから弱点の判断を行います。防御行動は相手の攻撃を「見切り」、そして「早業」でもって行います。

●使うUCはその時の相手によりますが、基本は【触震】での強烈な一撃か、【クロクアップスピード】による翻弄作戦がメイン。あまりにも巨大であれば【ドルザ召喚】を使って戦いましょう。その時はドルザの近くで「空中浮遊」を用いて指示を出しましょう




 不破・明憲(ドクターノーフェイス・f21700)がその場にたどり着いた時。敵対者である泡沫の天使は、他の猟兵に依って駆逐されようとしていた。
 人間相手の医療知識がなくたって、猟兵としての経験がなくたって。それが最早倒されるべき時を待つ存在であることは、見て取れるのだ。
 足りないのはひと押。だとするならば明憲のやるべきことはごく単純だ。
 そのひと押しを、取りこぼすことなく全力で。
「さあ、頑張りましょう」
 翻した白の纏は明憲の生業と贖罪を象徴する色。ドクターノーフェイスを名乗るダークヒーローは、素早く敵対者へと肉薄する。
 その気配を察した泡沫の天使は、最早虫の息であるにも関わらず、即座に身を翻し、力のろくにこもらない腕でトライデントを構える。
 けれどそれが効果的な力を発揮しないことを察したか、潔く手放して、代わりに、両手で、大切なものを扱うようにして、美しい結晶を煌めかせた。
 捧げるように差し出されたその結晶が、明憲の視界に収まる。その刹那、美しさを掻き消すほどの絶叫じみた声が、迸った。
「私は、救わねばならないのです……」
 全ての悲嘆を込めたような絶望的な断末魔にまぎれて、ぽつり、小さな声が聞こえる。いやに、はっきりと。
 泡沫の天使にとって死こそが真なる救済であるという事実は改めるまでもなくわかっていたことだが、ついに理解し合えなかったことを、ほんの少し、少しだけ、物寂しく思わないでも、ない。
 何か一つに盲信するのは、まるで、そう、かつて悪の秘密組織にて洗脳されていた頃を思い起こさせるようで、明憲はふと、口の中に苦いものを感じたような気も、した。
 それをあえて飲み下すことをしないまま、明憲は傷を負った身体を奮い立たせ、力強く踏み込む。
 二度目はない。断末魔なんて、一度きりでいい。
「もう、休んでいいのですよ」
 語りかける声は優しく、勤める診療所へ訪れる患者へ掛けるよう。
 ぽん、と宥めるようなその手もまた、優しい。けれど、触れたその一瞬は、明憲にとっては敵の弱点を看破するための布石。
「――あなたの弱点、見切らせて頂きます」
 大きく開いた傷がある。幾つも幾つも、生々しくて鋭い傷が。
 その内の一番大きな胸部への傷へと手を宛てがい、明憲は衝撃波を放つ。
「――ッ、……ぁ……!」
 短い悲鳴は、正真正銘、彼女の断末魔だったのだろう。
 人の生きた証として声を集めた人魚は、己の儚い声を最期に聞き留めて、そうして、ふわり、泡のように弾けて消えた。
 死を救いと謳い、差し伸べるような手で声を奪い取ろうとした泡沫の魔女は、もう、いない――。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 日常 『お喋りな帽子達のお茶会』

POW   :    特技を披露して場を盛り上げる。

SPD   :    美味しいお菓子やお茶を楽しむ。

WIZ   :    お喋り帽子達との交流を楽しむ。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●泡沫姫の置き土産
 脅威が去ったことを認識してか、何処かに隠れていた愉快な仲間達が次々と飛び出てきた。
 ひょこんと頭に乗るシルクハットは案じるように猟兵を見下ろしながら揺れ、ふわりとつばを広げたキャペリンはまるで日差しを遮るように、猟兵達の痛みを遮る技を齎した。
「楽しいお茶会に血生臭さは要らないからね」
 無事の討伐を確認して、グリモア猟兵が労いと共に告げれば、帽子な彼らは同調するように飛び跳ねて、猟兵達を招き、あるいは背を押して少し離れた会場へと案内した。
 温室のようなその場所は、適温に保たれており、寒いさなかにはいっそ暖かくて心地よい。
 ふわりと湯気の立ち上るカップやポットが並ぶテーブルは、鮮やかに飾り付けられた状態で長く伸び、飾りに負けないくらい色とりどりのお菓子を揃えていた。
 その周りには椅子も勿論置かれているが、どの椅子にも、はては床にまで、むにむにでふわふわなクッションが置かれている。
 猟兵達が戦ってくれている間に一生懸命準備したらしい。大小様々なクラゲだったものは、抱えるのに丁度いいサイズからとっぷりと身体を沈められるものまで色々で、どれもこれもさわり心地が抜群と来た。
 お好きな席へどうぞ。そしてお喋りしましょう。
 わいわいと口々に誘い始める帽子な彼らの声に促されるまま席についてもいい。
 少し疲れたようなら、そっと帽子に囁きかけるといい。生け垣の隙間にクッションを敷き詰めたふわふわお昼寝コーナーを作ったのだと誇らしげに案内してくれるだろう。
 明るいのが気になるなら、帽子な彼らが遮ってくれるだろう。お喋り好きとは言え、その時ばかりは静かに見守ってくれるはずだ。
「助けてくれたお礼もあるけれど、元々もてなすのが好きなのさ」
 だからどうか、楽しんでいって欲しい。
 微笑む顔の頭上では、中折れ帽が満足気に収まっていた。
宝海院・棗
お茶会、お茶会、楽しみだなー!

お菓子もいっぱい食べたいし、UCで場を盛り上げるのもやってみたい!

食べたいお菓子:ミシシッピーマッドパイ(アイス添え)、バノフィーパイ、チョコとイチゴのミルフィーユ

クッションで寝そべりながらお菓子を食べたり、おいしい紅茶も飲んだりしたいな。

場の盛り上げタイミングを見計らってUCを使ってぎゅんぎゅん回転したり、丸まってぽんぽん弾んだりしちゃうよ!もちろん迷惑にならない程度にね!



●とんで、はねて
「お茶会、お茶会、楽しみだなー!」
 お喋り好きでもてなし好きな愉快な仲間達は、美味しいお菓子とお茶を用意して、訪れる猟兵を待ち構えていた。
 そう、待ち構えていたというのが相応しいくらい、るんるん気分の宝海院・棗(もち・ぷに・とろり。・f02014)を勢いよく会場へと引き込んだ。
「わわ、そんなに慌てなくっても」
 驚きこそしたが、歓迎されるのは素直に嬉しいものだ。にこにこと席について、棗はどんなお菓子があるかなと眺めた。
 アフタヌーンティーで出されるようなスコーンにマドレーヌと言ったシンプルなお菓子に、カラフルなゼリーやマカロン、つまみやすいトリュフなどが並んでいる中に、いくつか大きめのケーキやパイが並んでいるのを見つけて、ぱっと表情を明るくする。
 それを見て、これが良いのかな、気になるのかな、と愉快な仲間達はふわふわ浮き上がるケーキサーバーで器用に棗の皿を彩っていく。
 ざっくり食感と濃厚なチョコフィリングが癖になるパイにアイスを添えて、バナナとキャラメルのあまーい香りの漂うパイをお隣に。チョコとイチゴを重ねてあしらったミルフィーユをそっと乗せて、おまけの彩りにエディブルフラワーをちょこんとひとつ。
 さぁどうぞ、召し上がれ!
 差し出されたお皿とお菓子たちにキラキラと瞳を輝かせ、フォークでさっくりと掬い上げたパイを一口。
「んー! おいしい!」
 これも、これも、とってもおいしい、と頬を緩ませて楽しむ棗に、愉快な仲間達はわぁわぁきゃっきゃと嬉しそうにはしゃぐ。
 椅子の上から床までころころと転がるクッションは、抱きしめてもよし、枕にしてもよし、寝そべってもよし、となれば、身体が沈み込むくらいの大きなクッションにぽふりと寝転がり、ごろごろしながらお菓子をつまむなんて贅沢だって出来てしまう。
 ころりとうつ伏せになった棗の頭にふわりと乗ったキャスケットが、ねぇねぇ、と話しかけてくるのを上目に見上げて、他愛もないお喋りを。
「あ、そうだ!」
 のんびり長閑なお茶会も楽しいけれど、賑やかに場を盛り上げるためのパフォーマンスを用意してきたのだ。
 なぁになぁにとぴょこぴょこ集まりだした愉快な仲間達をくるり見渡し、棗はパッと両腕を広げた。
「素敵な私の特技を見せてあげる!」
 そう言うや、棗はその場でぎゅんぎゅんと回転を始めた。
 スケートリンクで見るそれよりも遥かに速いスピンがポーズとともにぴたりと止まったかと思えば、棗の身体がぽよんと跳ねるラバーボールに変化する。
 ころころ、ぽよぽよ。
 あっちへ行ったりこっちへ行ったりと暫しウロウロする棗を右に左に視線で追いかけていた愉快な仲間達を、ちらっと見上げて。
 ぽーん! 勢いよくバウンドして、彼らの頭上を飛び越えた。
 お菓子の並ぶテーブルはずっと向こう。広々ゆったりスペースをぽんぽん気持ちよく弾む棗に触発されたように、帽子な姿の彼らも、ぴょんこぴょんこと跳ね回る。
 不意に、ぽよんぽよんと跳ね回った棗に、じぃっと狙いを定めたハンチングがえいっと飛び乗った。
 気づいた棗が最後に(殺気よりはちょっぴり控えめな速度で)くるくる回ってフィニッシュ!
 わぁ、と上がる歓声に、ありがとうと手を振って。はしゃいだ後は、またお茶でのんびり一休み。
「楽しんでもらえたかな?」
 寝転びながら問う声には、口々にはしゃぐ声が降ってくるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

須辿・臨
【海月】

帽子さん達もご無事で良かったっす!
オレは角で、なかなか似合う帽子が……
あ、ミカエラさんもクラゲ、おひとつどうぞっす。

ふわっふわして、面白いっすね(ふみふみ)
このクッションの癒やしの力も……
こ、これは人を駄目にするやつっす……こんなのにクロードさんが座ったら――
……うん、寝たら死ぬ。二度目っすね。

お茶で眠気を飛ばし、お菓子も糖分で脳を活性化。
これはもう執筆しかないっすね!

それにしてもクロードさん器用っすねぇ。
へぇ、見えすぎる。オレも修行に目隠ししてみるっすかね?
そっすねぇ、ミカエラさん。
ん?
……目隠ししてたら、うっかり寝ててもバレないっすよね?

なーんて。
はは、おやすみなさいっす。


クロード・クロワール
【海月】

帽子達も流石なものだな。
ふむ、彼あたりが臨君にも似合うんじゃないか?
ミカエラ嬢も似合うじゃないか

それにこのむにむにのクッション…
床にまであるなんて、ふ…流石だな。

なに、今の僕はすこぶる筆の乗る予感がするからな
ちゃんと起きてるさ…座らなければどうということはないからな
く、もふもふそうに抱えて…(そわ
ーーうん。起きておこう。創作の扉の前に天国が見えそうだ

ふ、今なら最高傑作が書けるとも
冒険譚なんか良いんじゃないかと思っているのさ

僕のこれは、見えすぎるからだが(目を隠す布に触れつつ
ふ、キミも存外に似合うかもしれないな。
なに、良い仮眠の取り方も必要だからな(しれっと

おやすみ、ミカエラ嬢


ミカエラ・マリット
【海月】

お兄ちゃんたちのおさそい。おじゃましまーす。
うわぁ、くらげいっぱい。え、ぼうしさんお話するです?
ミカエラです、はじめまして(ちょこんとおじぎ)
ぼうし、にあうです?(えへ)

んー、お茶のいいかおり。
たしか、お茶をいっぱいのんだら眠気さましになるんだって。
なのでクロードさんもお茶のめば、ねないです。
ねたらミカエラがぺちぺちたたいておこします。安心してください!(えへん)

おかしもおいしくておなかいっぱい。
お目目つむったらねちゃいそうですよね?
いつもお目目つむってるのにおきてるクロードさんすごいです…ねぇ?(臨さんに同意求める視線)
って、ミカエラがねむくなっちゃいました…(海月抱えてスヤァ)



●ゆるり、やすんで
 ぽん、と戦いの名残を払い落として。須辿・臨(風見鶏・f12047)は集まる帽子達の姿に、ぱっと笑顔を見せた。
「帽子さん達もご無事で良かったっす!」
 安堵したような声に、帽子な彼らはそれぞれに無事を主張してくるくる回る。その背後にいくつものクッションが積み重ねられているのを見つければ、クロード・クロワール(ロールシャッハ・f19419)は感心したような声を。
「帽子達も流石なものだな」
 自衛の手段もさることながら、あの間にこれだけの準備を整えるとは。
 良かった良かったと和んでいる大人達の間から、ひょっこり、小さな顔が覗き込む。
「うわぁ、くらげいっぱい」
 きょろきょろとしているのはミカエラ・マリット(撲殺少女・f23163)だ。帽子な彼らと視線が合えば、ふよん、と浮かび近寄ってきたベレー帽がちょこんとミカエラの頭に収まった。
「え、ぼうしさんお話するです? ミカエラです、はじめまして。お兄ちゃんたちのおさそいできました」
 はにかむ表情は帽子にもちゃんと見えているようで、笑顔の代わりにぽふりと頭上で一つ跳ねて応えた。
 それを皮切りに、我も我もと臨やクロードへと帽子が集まってきた。
「オレは角で、なかなか似合う帽子が……」
「ふむ」
 ボーラーハットやマウンテンハットらが積み重なってぐらぐらしている頭上を上目に眺めて、クロードは遠慮がちな臨を他所に、目に止まった帽子を手招いた。
「彼あたりが臨君にも似合うんじゃないか? ミカエラ嬢も似合っているし、良いものはわかるのだろう」
「ぼうし、にあうです?」
「お二人はどれも似合うっすけど……」
「まぁそう言わず」
 乗ってご覧と促すようなクロードに、招かれたミニハットはひょいと臨の頭に飛び乗って、どやっ! と言わんばかりに形を整えた。
「お兄ちゃん、にあいます」
「うんうん、流石に愉快な仲間達だ。丁度良い位置に収まっているね」
「そ、そうっすか……」
 被り慣れない帽子姿は、どうなっているのか自分にはよくわからないからこそに、少しむず痒い心地になるけれど。似合うと告げてくれた二人の言葉を素直に受け止めて、頭上の帽子に礼を述べる。
 それから、ひょいと足元に転がっていたこぶりなクラゲクッションを拾い上げると、ミカエラへと差し出した。
「おひとつどうぞっす」
 差し出されたふかふかをギュッと抱きしめ表情を綻ばせたミカエラに倣うように、臨自身も手頃なサイズを抱える。
 ふわふわ。
 ふみふみ。
 むにむに。
「面白いっすね」
「床にまであるなんて、ふ……流石だな」
「このクッションの癒やしの力も……」
 でかいくっしょんに埋もれれば、即座にわかる。これは人を駄目にするやつだ。
 はっとして一番駄目になりそうなクロードを見やれば、ふふん、とばかりにドヤ顔を返された。
「なに、今の僕はすこぶる筆の乗る予感がするからな。ちゃんと起きてるさ」
 むにむにもふもふ。
「……座らなければどうということはないからな」
 ふかふかふよふよ。
「く、もふもふそうに抱えて……」
 クッションの魅力に誘惑されまくっている駄目な大人達を他所に、ミカエラはふかふかの上にお行儀よく腰掛けて紅茶を楽しんでいた。
「んー、お茶のいいかおり」
 ごくごく、もぐもぐ、ごっくん。美味しいお菓子を堪能して、クッションに魅了されている大人達を振り返る。
「たしか、お茶をいっぱいのんだら眠気さましになるんだって。なのでクロードさんもお茶のめば、ねないです」
 はいどうぞ。お茶を差し出す愛らしい少女にほっこりとした気分になりながら受け取るクロード。
 ちゃんと手に渡ったのを確かめると、それに、と小さな胸を張って、ミカエラは自信満々な顔をする。
「ねたらミカエラがぺちぺちたたいておこします。安心してください!」
 えっへん。
「……」
「……」
 齢8歳の幼女のぺちぺちは愛らしくてキュンとしてしまいそう?
 いえいえこの幼女、なんと強化人間でバーバリアンで力持ちなんですよ。
 まだまだ加減を知らない幼女のぺちぺちとは……果たして、本当に『ぺちぺち』なんて軽い擬音で済むのだろうか?
「……うん」
 寝たら死ぬ。戦闘じゃないのにこっちの方が危機感がヤバい。
「――うん」
 起きておくべきであろう。創作の扉の前に天国が見えそうだ。
 察した大人達、揃ってお茶を口にして、すっきりとした口当たりで嫌な想像を払拭すると、ついでにお菓子にも手を伸ばし、脳を活性化させるための糖分を確保した。
「目が覚めてきたっす。クロードさんもこれはもう執筆しかないっすね!」
 それならば眠るまい、と視線を送れば、ドヤ顔再び。
「ふ、今なら最高傑作が書けるとも。冒険譚なんか良いんじゃないかと思っているのさ」
 先程の戦闘の余韻がまだある。心地よい程度の高揚は執筆に良い影響を齎すだろう。
 紙とペンを取り出して走り書きのメモを幾つか綴っていく様子を、ちらり見て、臨は関心そのままの声をかけた。
「それにしてもクロードさん器用っすねぇ」
 布で隠した目元は、手元が見えているようには到底思えない。けれどクロードは淀みなくすらすらと文字を綴っていくのだ。
 その疑問は何も臨だけが抱くものでもない。あぁ、と顔を上げて、クロードは己の目元をなぞる。
「僕のこれは、見えすぎるからだが」
 天啓の宿る瞳は、見たくもないものまで映してしまう。閉ざすことで心の眼は研ぎ澄まされ、日常生活に何ら支障はないのだけれど。
 へぇ、と興味深げに聞きながら、臨も己の目元に触れてみる。
「オレも修行に目隠ししてみるっすかね?」
「ふ、キミも存外に似合うかもしれないな」
 もぐもぐとお菓子を食べながらそんなやり取りを聞き、それぞれの顔を見ていたミカエラは、食べきって満足したお腹を労るようになでて、きょとん、と小首をかしげた。
「お目目つむったらねちゃいそうですよね?」
 特に今はお腹がいっぱいだから、うっかり眠気が押し寄せてきそうだ。
 クロードにはそんなことはないのだろうか。素朴な疑問に、思わず、じぃーっとクロードを見た。
「いつもお目目つむってるのにおきてるクロードさんすごいです……ねぇ?」
「そっすねぇ、ミカエラさん」
 ……ん?
 臨は気がついた。いつも目隠しをしているなら、うっかり寝ててもバレないのでは?
 じっ、と見つめて小さく問えば、口角を緩く上げて微笑まれる。
「なに、良い仮眠の取り方も必要だからな」
 ここで寝たら『ぺちぺち』が待ってるっすよ、と肩を竦める臨の隣で、くしくしと目を擦るミカエラ。
 ふぁ、とこぼれたのは、小さなあくび。
「ミカエラがねむくなっちゃいました……」
 クロードが寝たら起こしてあげなきゃいけないのに、と小さく呟きつつも、満足感からくる眠気を後押しするように、クラゲのふかふかが心地よいぬくもりを与えてくれる。
 きゅ、と抱えたまま、ころりと転がってしまったミカエラに、大人達は微笑ましげな顔をする。
「はは、おやすみなさいっす」
 ブランケットを一枚借りようか。そう言って視線を巡らせたクロードの元に、察した様子のふかふかのニット帽が、お目当てのブランケットを抱えてくるところであった。
「おやすみ、ミカエラ嬢」
 ふぅわりとかけて、すよすよと穏やかな寝息を聞いて。
 不思議な国での一時は、ゆるりと過ぎていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年01月02日


挿絵イラスト