花は心の色に咲く
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――特別な日にしか咲かない虹色の花。
精霊花と名付けられた花は、その神秘性が人々の心を掴み、長きに渡り親しまれている。
アックス・ウィザーズ......とある街は、催しを行うための準備をしていた。
街の中は様々な花で飾り付けられ、精霊花がモチーフとなったアクセサリーや料理が露店に並ぶ。
めでたき祭日に向け、街の人々は活気立っていた。
活気だった街での催しを楽しむために、その雄大な自然を心に収めるために、絵として筆を走らせ風景を残すために、また――人から人へ、噂になった"特別"な花占いをするために。
特別な昼下がりが、愛しい時間が人々には訪れるはずだったのだ。
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「花占いといえば一枚一枚、花びらを千切っていく物が一般的かしら。でも精霊花を使った花占いはちょっと不思議なものなの、聞いた事あるかしら」
机の上に佇んでいた本に手を伸ばすと、リドリー・ジーン(酒豪の歌い手・f22332)はその分厚い書籍を開いて目を落とす。
「精霊花は、積んだ人の心によって色が変わる。その変わった色で占いの結果を出すのが精霊花の花占い。心で色が変わるなんて不思議な現象よね」
精霊花が持つその不思議な特性。神秘的なその在り方は時に重要な存在として物語や歌にも登場している。
通常は精霊花は蕾でいる期間の方が長い。
花が開くのは"特別な日"だけと言われており、その為中々花が咲いた姿は目にできず、貴重な瞬間なのだ。
「アックス&ウィザーズにある街、"アニムス"周辺では精霊花がいたるところに群生しているわ。アニムスは天体や空気の流れ、街に伝わる伝承から花が開く日を予測できるみたいなの。そしてアニムスでは花が咲く日を精霊祭として祝い事にしてるみたいなんだけど」
花が一斉に開く光景は絶景で、冒険者の間でも噂になって多くの人が足を運ぶほど。
その祭日に向け、人々は浮足だっていたのだが。
「……そこへオブリビオンが攻め入る予知を見たわ。街にいた冒険者達は勿論討伐を試みたのだけれど、彼等ではオブリビオンに敵わない」
攻め入ったオブリビオンの数は膨大。冒険者にとってオブリビオンは一体であろうと苦戦を強いる強敵だ。親玉の顔を見る事すら叶わない。
「人々に危害を加える前に私達が拠点に攻め込み、アニムスに攻め入るオブリビオンの騎士、そしてそれを率いる小悪魔リリィ・デモンズを討伐してしまいましょう。――先ほど街からこの件を依頼として預かってきたわ。私達に任せてくれるそうよ」
強大な力を持ち、集団となったオブリビオン達は、街の付近に拠点を持ち、攻め入る時を今か今かと待ちわびている。
既に予知で場所は特定している。そこを奇襲し、叩く。
「……無事オブリビオンが討伐出来たらお祭りに是非参加してほしい、と、声を掛けられたんだけどどうかしら? 中々珍しい体験ができるかもしれないわ」
リドリーは閉じた本を机の上に置いて見せる。本の表紙に描かれているのは女性と男性、そして手に持たれた精霊花は淡いピンク色。
精霊花は二人が同時に触って積めば相性占いも出来るらしい。何とロマンティック。
「何はともあれまずはオブリビオンの討伐からね。皆さん、それでは準備ができた方からこちらに。敵の本拠地までずかずか乗り込みましょう」
グリモアに手を翳せば、白く強い光が放たれる。 ――アックス&ウィザーズの世界へと繋がる転移ゲートがゆっくりと開かれた。
以夜
初めましての方は初めまして、こんにちは。以夜です。
がっつり戦闘が続きましたので最後はのんびりゆったりしたいですよね…という事でのんびりできるシナリオを一つ。
舞台はアックス・ウィザーズです。
シナリオ傾向→緩くギャグ寄り戦闘、ゆったりめ。
●一章:集団戦
死亡フラグと負けフラグを掲げる騎士との集団戦。
●二章:ボス戦
頑張り屋で素直な悪魔に似合わぬ性格。
集団戦の敵以下の実力の小悪魔とのボス戦。
●三章:日常
精霊花のお祭りに参加します。
街周辺、または街の中にある精霊花を摘む事が出来ます。色は指定して頂いても、お任せして頂いても。また、双方同意があれば二人で積んで相性占いも。
街の危機を救った冒険者として街の人は猟兵達をもてなしてくれています。顔を合わせれば好意的に接してくれるでしょう。
露店では食べ物やアクセサリーなどが並んでいて街中華やかです。積んだ精霊花を見せれば何らか色に応じてサービスしてくれるかも。この章のみお声がけして頂ければリドリーも顔を出します。
●進行について
断章が追加され次第プレイング受付です。
二章以降もマスターページで受付日等お知らせ致します。
宜しければごゆるりと。プレイングお待ちしております。
第1章 集団戦
『絶対不敗・負けナイト』
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POW : 我が盾は無敵!誰にも破れない!
対象の攻撃を軽減する【盾を構えた防御型の姿】に変身しつつ、【盾による殴打や槍】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD : 完全に見切った!同じ手は通用しない!
【槍と旗の攻撃】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : この戦いが終わったら
【故郷の恋人の話をしながら限界突破モード】に変形し、自身の【生存フラグ】を代償に、自身の【攻撃速度と攻撃力】を強化する。
イラスト:真田ゆうき
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「なな!? なぁ!? 何よあんたたち!?」
目の前に現れた猟兵達に大きな翼を背負った小悪魔、リリィ・デモンズは驚愕の声をあげる。
動揺は顔に現れ、声に現れ、大きな神槍を抱きしめていた両手は震えていた。
「け、計画が台無しじゃない! おかしいおかしい、こんなはずじゃあ……奇襲しようとしていたのに奇襲されるなんてどういう事なの!?」
焦るリリィに対し、絶対不敗・負けナイトは主君を前に涼しげに、声は高らかに。
「大丈夫ですよ! 我々にお任せ下さい」
「案ずるに足らず! あのような者達に負けるはずがないでしょう!」
「あ、あんた達……」
圧倒的な頼もしさを見せつけられ、思わずリリィの表情はほころんだ。
そうだ、私にはこんなにも頼もしい僕がいる。その上にたつ私がしっかりしなくてどうするの――
「全力で戦おう! この戦い、我らが勝つ!」
「おうおう! お前気合入ってるな! あれだろ、あの故郷にいる……」
「ば、馬鹿! 俺の恋人の話はやめろ!」
「昨晩あれだけのろけてたくせに何今になって照れてるんだっつーの! この戦いが終わったらプロポーズするんだって熱く語ってたじゃねぇか」
「よ、よせやい!」
……どうしてだろう、どうしてこんなにざわざわするのだろう。
リリィの頭の中に、嫌な予感が張り巡らされる。
「大丈夫よね、きっと、うん」
あれだけ皆覇気があるもの、負ける訳ないわ、多分、きっと。前線に向かう騎士達の背中を見守るリリィの目は少しばかり不安に揺れた。
騎士達は熱き号令をあげ、武器を掲げる。
「――さぁ! 我が前に立ちはだかる者達よ! いざ勝負!」
黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流
街によって花の祭りも様々なんだな。今回のは心で色が変わるのか、俺のはどんな色に変わるんだろうか。
とにかく邪魔させないためにもオブリビオンは倒さないとな。
敵の攻撃は【第六感】で感知【見切り】で回避。回避しきれない物は胡・黒鵺で【武器受け】での受け流しをして、距離次第だが可能なら【カウンター】を叩き込む。それでも当たる物は【オーラ防御】と【激痛耐性】でしのぐ。
こちらの攻撃はUC月華で。月読尊と月下氷人は違うものだが、月繋がりという事で恋人の話をさせつつ生存フラグを目一杯折らせてもらう。
オブリビオンなのに恋人とか腹立つし、恋愛フラグがない俺への当てつけか?
小宮・あき
故郷の恋人にプロポーズ。素敵なお話ですね。
私も夫を持つ身。帰る場所に愛する人が居るのは良いものですよ。
……、あなたの場合は「帰れれば」ですけど(苦笑しつつ)
盗賊はオブリビオンです。
オブリビオンは倒すのが、猟兵の務め。
容赦なく、行かせていただきますね。
UC【愛雨霰】
マスケット銃(レベル本数)を【念動力】で操作。
【一斉発射】【援護射撃】【零距離射撃】をしたかと思えば
【フェイント】【だまし打ち】をしてみたり【スナイパー】で狙い打ったり。
マスケット銃を2本クロスさせ【武器受け】で進行を防ぐ。
敵SPD攻撃、当たらなければ問題ないのですよね?
じゃあ、ごめんなさい。あなたの攻撃は、私には届かないわ。
アックス&ウィザーズに降り立つ銀髪のヤドリガミ、黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は自身の周りに広がる景色を見渡した。
眼前に広がる景色一面には精霊花。まだ一つとして咲いてはおらず、蕾の姿で群生している。
(「……花の祭りというものはいくつか耳にした事があるのだが……今回のは心で色が変わるのか、俺のはどんな色に変わるんだろうか」)
ぼんやりとそう思いを巡らせながら蕾の精霊花に視線を這わせる。
今、蕾の花を掬いあげたとして、花が咲いていなければ色は変わらないのだ。
花が咲くまでの時間は後数刻。瑞樹の疑問はきっともうすぐ、花開いた精霊花が教えてくれるのだろう。
(「……とにかく邪魔させないためにもオブリビオンは倒さないとな」)
改め、瑞樹は右手と左手に構えた刀を強く握り、花へ向けていた視線をオブリビオン、絶対不敗・負けナイトへと移す。
猟兵達の前に立ちふさがる十数のオブリビオン。自身の身長よりも大きな赤い旗をはためかせた金髪の騎士は、視線を向けられた事に気づくとニタニタと笑いながら自信ありげに仁王立ちしていた。
「ほぉ、随分と青いのが来たな、ガキじゃないか」
――ガキ、と言われて瑞樹は眉をひそめた。確かに瑞樹は見た目は十代後半、年下にみられる事も数多い。
せせら笑いながらじろじろこちらを舐めるように見る視線は気味が悪く――心の底から不快だ。
「いやいやあ、俺もお前ぐらいの時は色々あったけどなぁ、山あり谷ありってやつ? ――俺は、高い山登って男になったんだよ。お前もそのうち、ここから生きていけたら、な!」
――心の底から不快だ。
思わず先ほどと同じ気持ちが沸き上がる。苛々する、腹も立つ。
そんな瑞樹の隣に並んだのは淡いピンクの髪と、空を閉じ込めた水色の瞳が印象的な少女、小宮・あき(人間の聖者・f03848)。マスケット銃を片手に、柔らかい笑みを携えオブリビオンと対峙する。
「盗賊はオブリビオンです。オブリビオンは倒すのが、猟兵の務め……」
涼やかな声に絶対不敗・負けナイトはヒュウと甲高い口笛を鳴らし、旗を――大槍を向けた。
「容赦なく、行かせていただきますね」
「はは――何だ何だ、出てきたのはまぁた子供! 子供ばっかりじゃないか! まぁ見てな! くらいな! 愛する者を持つ者の強さってやつを見せつけてやるから――よ!」
一人が地を蹴り、駆ける。それに続き何体もの負けナイト達が二人に襲い掛からんと声を張り上げ、槍を突き出し向かい来る。
さすがに舐めすぎだ。瑞樹はふぅと小さく息を吐く。
「――あまり使いたくないんだがな」
呟いて前線へと躍り出た瑞樹は、対峙した負けナイトから振り下ろされる槍を見切りで避ける。
攻撃がかわされた事に、ほぅ、と、感心したかのような声を負けナイトから漏らされた――随分と甘く見られている。抜刀――月山派の打刀、胡で槍先をいなし、懐に入り込み一線放てば鎧に一線傷がつき、その奥の肉まで刃を刻む。
胡を受けた負けナイトは瑞樹の、先ほどとは違う空気と姿、異変へと気付いた。
この少年、先ほどと本当に、同じ少年だったか――また軽口を叩こうとすれば、その頬に黒鵺が下から突き上げ襲いかかる。
「なんだ、これを避けるのか」
ひやりと冷たく発された瑞樹の言葉に冷や汗を流す負けナイト。
――だが、こんなものではと、後退はせず真っ向から襲い掛かる。瑞樹は攻撃に備え、神経を研ぎ澄ませて刀を構える――
「背後とったりぃ!」
二人の戦いの最中、瑞樹の背後へと回るもう一人の負けナイト。
歯を見せ笑いながら槍を腰低く構えると横腹向けて威力を放つ、詰められたこの距離からなら外す事はない――はずだったのだが。
手に、顔に、頭に飛んで来た銃弾に、その威力は発揮する事はない。
銃弾にはじかれ、地面へと槍は落ちて。
掠めた熱に苦痛の声を上げながら負けナイトは周囲を見渡す。
「ど、どこからッ……!?」
「えっと、先ほどは背後からでしたけど、望みであれば下からでも、上からでも」
問いの答えを出したのはあきだった。
あきの周囲を取り囲むように浮いているのはマスケット銃。
それは一つや二つ何てものではない。戦場にいる人の数よりも多いのだという事は一瞥しただけで解ってしまう程の膨大な数だ。
あきの念動力で操作されたマスケット銃の銃口は、負けナイト達を取り囲み、二言目を発する隙も与えず雨あられと銃撃の嵐で襲いかかる!
この膨大な量を一人で操るのは指南の技だろう。しかし、あきにとっては造作もない事なのだ。
「がっはぁ――ッぐ……、お前が、それを操作してるのかなれば……!」
あきの動向に気づいた負けナイト。それならば先に討つまで――と二体の負けナイトがあき一点に狙いを定め、槍と旗の猛攻の乱舞! だが、そのような大振りな攻撃、みすみすあたってやる必要もない。
「――ごめんなさい。あなたの攻撃は、私には届かないわ」
あきは手に持っていたマスケット銃を素早く二本にクロスさせ、襲い来る旗を受け止めると、勢いではじき返し、もう一体へは二丁の銃口を向ける。
銃口を向けられ思わず動きを止めた負けナイトは良い的となり、一斉発砲されたマスケット銃の餌食となった。
そして――あきに弾き飛ばされた負けナイトは瑞樹の刃の獲物となる。飛んで来た負けナイトを袈裟切りし、切り伏せる。
だが、それらの攻撃は全て、まだ致命傷までには届かない。
幾度も攻撃を受けた負けナイトはそれでも立ち上がり、また二人へと襲い掛からんと落ちた槍を拾う!
「まだまだ、まだまだだあぁ――!」
瑞樹は自身に振り下ろされた槍を何とかはじき返す。槍はまともに受けると重く、圧に刀が弾かれそうになった。
このままでは消耗戦。一体を倒す時間がかかりすぎている。――もっと、確実に仕留めていく方法は――
「……月読尊と月下氷人は違うものだが、月繋がりという事で……恋人がいるんだってさっき言ってたな」
瑞樹は漆黒に光る刃を向けながら――相手の言葉を引き出すように声をかけた。
故郷の恋人の話をすれば生存フラグを折る事が出来る。その性質を利用して――。
(「うまくいけば存分に語らせて……。誘導して、生存フラグを目一杯折らせてもらう」)
相手にするには負けナイトはいかんせん数が多い。少しでも弱体化させれば余計な体力を使わなくて済むというもの。
しかし、話はそううまく転ぶものだろうか。
「故郷の恋人の話……!?」
――そう、やはり、警戒はされてしまうか。
ならばこれからどうつなげていこうか、嘘でも共感できるような話をして話題を盛り上げてやろうかと、瑞樹が思案し始めた……矢先である。
「俺達の出会いはそう……精霊花ではないが、大自然の中、花畑の中だった、雄大な自然の中に現れた、女神との出会いだ……」」
一人の負けナイトが語り始めた。
「俺は幼馴染だったんだ……あいつ昔から怖がりでよ……」
――一人目が語り始めれば、二人目、三人目と…次々に語られるそれはまるで、かえるの合唱。
「えぇ~……出会いから、ですか……意気揚々と話し始めましたね……この物語が終わりを迎えるのは長そうです……」
あきは苦笑し、目くばせをする。
「あぁ、しかし……どいつもこいつも幸せそうな顔してるな……目は閉じてるし武器は下ろしているしで隙だらけだが」
壮大な恋愛劇の後に、感情を込めた故郷の恋人にプロポーズをする話を聞かされる猟兵二人。
……ハートフルな空間だが、着実に"死亡フラグ"は立ってしまっている事に負けないとは気付いてはおらず。
(「恋人に、プロポーズに……ですか」)
そっと、あきはマスケット銃に目を向けた。
手に持つマスケット銃には、全てのマスケット銃には名前が刻んである――愛しい名前、これはあきの夫の名前だ。
あきは夫を持つ身として、愛する者を持つ物として――。帰る場所に愛する人が居る事は、とても良いものだという事は身をもって知っている。
「ロケーションが大事なんだ、夜景が見える所がいい、絶景がいい。それに、精霊花はいい、恋愛パワーを更に増幅させてくれそうだし精霊花の花畑でプロポーズってのもいいなぁ、ありだ……」
ガキには分からないだろうけどな、といいながら得意げにする表情が、人の癪に触っている事に負けナイトが気付いているのか、わざとなのか。
――そうして一通り話を聞いた後、今まで口を閉じていたあきの口が小さく開いた。
「私も夫を持つ身。帰る場所に愛する人が居るのは良いものですよ。……、あなたの場合は"帰れれば"ですけど」
苦笑を思わずこぼしながら――念動力で浮かせたマスケット銃を負けナイトの背後にそろりと忍ばせ――そのままカチリと鎧につけての零距離射撃。
発砲、死角からのスナイパー射撃で一人、また一人と負けナイト達が膝をつく。異変に気づいた負けナイトが語りを止めてももう遅い。
そう、負けナイトを襲うのは縦横無尽に空を泳ぐマスケット銃だけではないのだ、空気を切る一線、二線、二つの刃がカマイタチのように目に留まらぬ速さで乱舞している。
「ぎぁああぁあ!」
負けナイトは攻撃速度と攻撃力があがっているはずなのだが、その猛威を発揮する事も出来ない。
それよりも早く、瑞樹の二刀が首筋へ、鎧の隙間へと吸い込まれるように振るわれるのだ。
「くそっ……! すまねぇ! 故郷で待つ俺の、恋人おぉぉぉ!」
断末魔が響けば――瑞樹の眉はまた顰められた。
(「オブリビオンなのに恋人とか腹立つし、恋愛フラグがない俺への当てつけか?」)
今まで一応大人しくは聞いていたのだが……もやもやする気持ちを押さえつけ、平常心を装おうとしながらも――少しばかり表情には出てしまい、刀を握る両手の力は強くなる。
後何体いるんだ? こいつら全員倒す度に恋人恋人叫ぶのか?
「これが負けフラグの力……恐ろしいです。能力は上がっているはずなんですけど、先ほどよりも倒しやすくなった気がして……。では、このままささっと討伐、いきましょうか」
「あぁ、こんな事で弱体化するのはありがたい――精神的に、こっちもきつかったけどな」
これ程弱体化してくれたならば一体一体撃破していったとしても、そう時間はかかりそうにない。
二人は再び武器を構えてオブリビオンと対峙する。
その様子を奥で心配そうにずっとこちらを伺っていたリリィは――いよいよやばくなってきたと、顔を引きつらせて後方でうずくまっていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
十文字・武
<アドリブ連携詠唱省略ok>
なんて圧倒的なフラグの数々……。
だが待てよ?フラグも積み立て過ぎれば、それは逆に絶対生存のフラグとなるって、UDC猟兵の誰かが言ってたな……(ヒトそれをギャグ時空と呼ぶ)
はっ!まさか、こいつらそれを狙ってッ!?
こいつら……できるっ!!(ギリッ)
こんなこうどなけーりゃくを考える奴等だ。決して油断は出来ない!
最初ッから全力だ!
UC【悪喰魔狼と狼少年】起動!
高速機動状態で戦場中を駆け回れ!槍と旗の間合いの外から斬撃を飛ばしてやるッ!【戦闘知識・なぎ払い】
うおおっ!オレはこの戦いが終ったら、リドリーさんと相性占いするんだー!(フラグ)
「故郷の恋人は、俺に大切な話があると言っていた。帰って俺はそれを聞いてやらなければならねぇんだ……」
「俺は故郷の恋人と、戦場に向かう前に指切りをしてきたぜ。必ず――戻ってくると誓ったんだぜ!」
「故郷の恋人……元気にしてるかな……」
口々に負けナイトが喋り出す"故郷の恋人"との話。
負けフラグ――彼等は聞いた事はないのだろうか。語れば語る程生存率が低くなるとは……まるで自身にかける呪詛。
十文字・武(カラバ侯爵領第一騎士【悪喰魔狼】・f23333)もまた、目の前の彼らの命はきっと儚く散る運命なのだろうと察しつつあった。
――だが、待てよ。
(「フラグも積み立て過ぎれば、それは逆に絶対生存のフラグとなるって、UDC猟兵の誰かが言ってたな……」)
身体に爆弾を抱え爆発すれば、普通ならば普通に死ぬが、絶対生存フラグを得れば爆発を直に受けても髪の毛がアフロになり、体はブラックタールのように丸焦げになるだけで済むらしいというもの。しかも大概は後遺症もない。……確か、ギャグ時空と言ってただろうか?
(「――まさか、こいつらそれを狙ってッ!?」)
あえて自死を宣言するような言葉を積み重ね、そして生存率を高めている……!?
考え抜かれたけーりゃくだと!? 相手を侮る事は、手のひらの上で踊るような事だったのか――
(「こいつら……できる!!」)
――武は奥歯を噛みしめる。
一時でも狡猾な敵を、弱者のように見くびった自分を恥じ、右手の平で頬を叩き、緩んだ気合を引き締めなおした!
パァンと景気のいい音が鳴れば、その音に導かれるように負けナイトがこちらに目線を向けた。
だが――その目がこちらを捉えるよりも早く、武は動いたのだ
「ディスガイズ・ビーストォォォッ!」
「あ、アレ――お前……ッソ……!」
咆哮の刹那! 負けナイトが見たのは武の残像、そして、自身に襲い掛かる獣のように伸びた爪だ。
間合いの外から飛んできた斬撃に回避行動をとろうにも――強化されたはずの負けナイトの動作は間に合わない。
薙ぎ払いをまともに受けた負けナイトは身体をくの字に曲げながら吹っ飛び、草原に身体を打ち付けながら転がった。
「ハ――! お前らのこうどなけーりゃくに屈するオレじゃねぇ! 残念だったな、今回は相手が悪かったんだ、相手がなあ!」
手を抜く事は必要ない。最初から全力で叩き伏せ、この後どのような目論見があろうとそれが発動する前に骸の海へと還すだけ。
武は草原を目に捉えられぬ速度で駆け回る。
だが、高速起動状態へと成った身体には数々の負担がかかる。鳴り始めたノイズ音に眉をしかめた。――代償、寿命を削るという感覚なのだろうか。骨がきしむ、目が霞む、だがこの状態を解くのは目の前の敵が全て消えたその時だ。
――斬撃を何度も負けナイトへと浴びせかける。背後を取る、死角を狙う。
(「反撃する隙は与えない。すぐに終わらせる――!」)
こいつらを討伐すれば平和になった街、アムニスで無事に精霊祭を迎える事ができるのだ。一人とて、逃す訳にはいかない。
そしてオレは――
「――相性占いするんだー!!」
武が咆哮を上げたその時だ、強い風が追い風になり武へと吹きつけ始めた! 身体はふわりと浮くように軽くなり、その風をまといながら一直線へと負けナイトへ飛ぶように駆ける!
「何だと……ッ!」
驚愕に目が開き――負けナイトは、正気に戻るとすぐさま槍を目の前に構え、武の突進から真っ向からぶつかる。
すんでの所で弾かれた武は勢いと反動で空中へと飛び、身体を捻り、一回転しながら地へと着地。
瞬間、負けナイトの呟きが、耳へと入った。
「――俺と、相性占いをするだと……!」
何でそうなった。
(「……ノイズ?」)
あまりに突拍子もない発言にそう思わずにはいられない。
しかし相手の反応、次々聞こえる言葉から、どうやら武の聞き間違えではないようで。
――負けナイトの瞳は憂いに伏せられ、震える声は悲しみに満ち溢れていた。
「そうか、お前も、故郷の俺の恋人と同じ――俺を一目みて好きになった……お前も……つまりは、一目惚れした……そういう事か……お前も……」
(「ハ……ぁ? 異性のみならず同性からも好意をよせられやすい体質で困ったもんだ、しかも今回は敵同士、何て罪深い――みたいな顔してやがるぞアイツ――ッ! ……いや、待て落ち着け、これも罠だ、けーりゃくだ……! アイツのテリトリーに巻き込み、戦況を変える手口――!? さっきまでのオレの圧倒的勝利な空気を打開するための! ――ならその考えに乗る訳にはいかねえ! 冷静に対処するんだ十文字・武!」)
「ハハ……いいだろう、精霊花が咲くまで後数刻だ、お前が花咲くその時まで俺との勝負、耐え抜く事ができれば俺からの褒美として死ぬ前にその夢、叶えてやろうではないか。さあ本気を出してかかってこい……その時はぐああああぁぁああっ!!!」
武の不意打ちに放った斬撃は、致命的な一撃を与えて負けナイトの言葉を遮る。
そうして最後まで言葉を紡ぎ終える事が出来ずに負けナイトは血を吹きだし足元から崩れ落ち――消滅した。
武は、構えていた刀を一度下げると、大きく息を吸い、吐く。
「……手強い相手だった……一瞬でも相手のペースに巻き込まれかけるなんて、な……俺もまだまだって事か……」
どっと武の身体にのしかかる疲労は戦いからか、悪喰魔狼と狼少年の代償からか、それとも――
額から滑りおちた一滴の汗を服の袖で拭う。
拘束具が肌を擦る感触は心地の良い物ではなく、思わず小さな苦笑が漏れた。
「――さぁ、次だ次! 次はどいつだ――!」
武はまた地を駆ける。まだ後もう少し、戦いは終わらない。
大成功
🔵🔵🔵
穂村・了
アドリブ連携可
畜生……畜生っ……。
お前らが変な計画立てるからっ……。
今日も今日とて休日返上で猟兵仕事だよ馬鹿やろー!
ヒーローズアース○×商社ヒーロー課所属!スーパーサイキック(社畜)ヒーロー、ここに参上!(ヤケクソ)【○×商社ヒーロー課規定:何時如何なる時でも○×商社の宣伝は忘れないようにしましょう。お客様との契約は何処に転がっているか解りません】
指定UCでスーパーヒーローに変身だ!(マスクとマントを付けただけ)
空を自在に飛び廻りスーパーキック!【空中戦・空中浮遊】
襲い来る敵をスーパーパンチで吹き飛ばせ!【怪力・吹き飛ばし】
これぞ必殺スーパーサイキック念動力だー!【念動力・衝撃波】
正義は勝つ!
「くっそ、あいつら中々やりやがるな……」
苦痛の声を漏らし、負けナイトは傷ついた盾を重そうに構え直す。
どくどく脈打つ負傷した肩を抱いて表情を歪めて。
「まってな、こっちもそろそろ本気だしてやるからよぉ……!」
恨みがましい瞳はぎょろりと動く――手短な敵、猟兵が一体。負けナイトは猛攻を仕掛けようと目を鋭く光らせたのだ。
その目線に囚われたのは穂村・了(スーパーサイキック社畜ヒーロー・f23964)だ。
負けナイトが盾を構え、対峙する。
「……ぅ」
か細い声が、負けナイトの耳に入った。了は何かを呟いていた。
了の声が、握った手が、ふるふると小さく小刻みに震えていた。
「畜生……畜生っ……」
「ちくしょ……? ハハ――何だ、怯えているのかぁ?」
下を向いたその顔色、負けナイトには視認は出来ず。大方勝てぬ強敵を相手に絶望し、憂いているのか――何て、思っていたのだ。
確かに絶望していた。確かに憂いていた。
ピシリとアイロン掛けがされているスーツ、服の袖から顔を覗かせる渋い色のベルトの時計。
どこからどうみても模範的会社員スタイルの了は、震えた声でぶつぶつと声を地面へと落とす。
「お前らが変な計画立てるからっ……」
「……はい?」
聞き取れた言葉に思わず、負けナイトは間の抜けた声を発した。
――了は奥歯を痛い程に噛みつけ――叫ぶ!
「……今日も今日とて休日返上で猟兵仕事だよ馬鹿やろーーー!」
空気を震わせる。了の声が轟く。負けナイトがもう少し近くに居れば鼓膜を破る事もできただろう。
それは悲痛だ。憂いだ。俺の休日が。俺の時間が。自由な時間を失った悲しみの声だ。
しかし招集された以上、無くなった休日を憂いた所でもうどうにもならない。
ならばせめてさっさと仕事を終わらせるのだ。ヒーローに残業などという概念はないのかもしれないが、求める物は定時退社だ!
「ヒーローズアース○×商社ヒーロー課所属!スーパーサイキック(社畜)ヒーロー、ここに参上!」
半ばヤケクソに叫んだ了の姿は、刹那、黄金のオーラをまとい神々しい姿と成った!
変身とはいうが、姿の変化は纏うオーラ以外を見ればマスクとマントをつけただけ。身を護る合金甲冑もフルフェイスサイバー的ヘルメットも海を割る大槍も了の手にはないのだが。
「何だ、おま、エッ……!?」
「はぁぁあ―――っ!」
その姿に呆気にとられた負けナイトを襲うのは空中から落とされた蹴りだ。
盾での防御も間に合わずに、了の蹴りは脳を揺らす。
思わず反応が遅れる程に驚愕したのはスーツヒーローが、マントをはためかせて空を飛んだからだ!
「おらおらどうしたどうした! かかってこい!」
了は風に乗り、マントをはためかせて空中を自在に飛び回り、人差し指をくいくいと曲げ見せて挑発めいたポーズ。
空中戦を行う了に、地上の騎士は歯が立たずに動きをとめる負けナイト。――ならば、少々隙でも見せてやるかと了は急降下。
すれば負けナイトは了を攻撃射程圏内に抑え、この機を狙えとばかりに集団で襲い掛かる! 力で押さえつけ、一撃でもくらわせてやろうと盾での突進 ――了の思惑通りに集まった。
「うらあッぁ!」
了は襲い来る盾を躱し、カウンターで拳を負けナイトへと叩きこむ。
負けナイトの顔面は了の拳の形にめり込み、そのまま勢いよく吹っ飛んだ! 瞬間に負けナイトが手を離したかなりの重量を持つ盾は、勢い付けて乱暴に草原を転がった。
当たれば身体が吹っ飛ぶ威力を持つ脅威の車輪となり、周囲の仲間に被害を招いて。……了が宙から見下ろせば敵がどよめいていた。その姿はまるで隊列を崩された蟻のように。
―ー了は構えを取る。
最後の攻撃、スーパーヒーローのサイキックで敵を制圧するために。
念を込めた渾身の一撃は外さないよう、細心の注意を払って撃つ――!
「――くらえ! スーパーサイキック!」
最適のタイミングを計り、衝撃波で負けナイトを弾き飛ばす!
「ぐああぁぁっ!」
まともに了のサイキックを喰らい、空高く飛び上がった負けナイト達は弧を描いて地面に叩きつけられ、強い衝撃に苦しそうに呻きをあげて。
――もはや立つ者はいなかった。
「正義は勝つ!」
勝利を確信し、了は声高らかに決め台詞と決めポーズ。背中の陽が後光となり、映像が残ればそれはそれは神秘な瞬間、エンドロール待ったなし。
……しかしながら、会社員業務だけでも激務に身体は鞭打ち状態にも拘らず、その上で課されるヒーロー業務。スーパーヒーロー、サイキッカーであれば過労死しない休まなくても大丈夫とでも上層部の人間は思っているのだろうか?
もはや諦めたかのような大きなため息を落とし、引き続きヒーロー業務にあたる。
宙から戦況を確認すれば、まだ何人かの騎士は猟兵と対峙している姿が見えて。
――あともう一仕事、身体を動かす必要がありそうか。
了のスーパーヒーローとしての業務は、まだまだ続く。
大成功
🔵🔵🔵
山梨・玄信
花の祭に攻め込むとは、無粋なオブリビオンじゃのう。
少しばかり話し合い(物理)が必要そうじゃ。
【POWを使用】
一応、侵略を止めないか問いかけてみるぞい。
拒否されたなら、戦闘開始じゃ!
騎士達の攻撃は見切りと第六感で読んで躱すぞい。躱し切れない攻撃はオーラ防御で受けてやるのじゃ。
体の小ささを活かし、敵の間をすり抜けて中央へ飛び込んだら、先ずは気の放出(範囲攻撃+鎧無視攻撃)をお見舞いしてやるぞい。
ダメージを入れて隊列が乱れたところで、1人ずつ灰燼拳で止めを刺して行くのじゃ。
「奇襲するつもりが奇襲されるようでは、侵略なんぞ上手く行かんと思うぞ。ここは諦めて帰るというのはどうかの?」
アドリブ歓迎じゃ。
麻海・リィフ
アドリブ、即興連携歓迎
ふぅ…む
士気は高い
練度は中々
では!打ち合おうぞ!
浮遊し一気に加速、突撃
接敵し次第念動力衝撃波UCを以て範囲を巻き込み串刺しに穿ち薙ぎ払う
敵の攻撃は同じく念動衝撃波とオーラ防御を込めた盾受け武器受けで弾く
カウンターの衝撃波シールドバッシュで範囲を吹き飛ばし敵陣を崩す
窮地の仲間は積極的にかばう
たとえUCが封じられたとしても、基本やる事は変わらない
三種の盾と剣で受け弾き、跳ね飛ばし突き貫く
色々ブツブツ鬱陶しい!
何かにつけて一生懸命口を開く!
貴様等!武術鍛練の何倍その口を動かしてきた!?
まぁとどのつまり
掲げる旗を間違えてるのよ…
全員一からやり直し!
敵の沈黙を確認し
剣の回転を止める
たとえ刃で傷つけられようと、サイキックで吹っ飛ばされようと、己の勝利は遠のいている事が目に見えていたとしても、負けナイトが背中を向ける事はない。
ボロボロになりながらも口端を上げて笑う騎士は、今もなお"絶対不屈"の旗を掲げて猟兵達の前に立ちふさがる。
「ふぅ……む」
色白の肌に映える漆黒のポニーテールを揺らし、麻海・リィフ(晴嵐騎士・f23910)はまじまじと目の前の騎士を観察していた。
(「まだこれだけの覇気を見せるか。さすがに、烏合の衆という訳ではないみたいだな」)
負けナイトは大多数が猟兵達に蹴散らされてもなお士気は依然高く、動きを見るに統率もとれており練度は中々と言っても良い。全体的には悪くない。
「花の祭に攻め込むとは、無粋なオブリビオンじゃのう。
少しばかり話し合いが必要そうじゃ」
黒の髪に黒の瞳、小さな少年山梨・玄信(ドワーフの破戒僧・f06912)は言って、黒帯を締め直すと、負けナイトへと歩み寄る。
「話し合い? ……話が通じる相手だろうか」
「そうじゃのう。話が通じなければ物理合いじゃ」
言葉で大人しくしてくれるのならば、余計な体力も、時間も使わなくても済むというものだが。
玄信を見送りながらリィフは、己の武器をしっかり構え、一先ずはと、話し合いの様子を伺った。
「……負けナイトと言ったかのう」
「何だぁ――?」
掛けられた声に負けナイトの一人が振り返る。
いつの間にか背後に佇んでいた玄信と目が合うと、眉を潜ませ、武器でもある旗を構え直す。
「まあ待て、武器の前にまずは言葉を交えようぞ。話し合いというやつじゃ」
「……話し合い?」
負けナイトの態度に余裕がみられるのは、玄信が子供だと気を抜いているからだろうか。姿で相手の強さを判断しているとするなれば、それは愚の骨頂だ。
しかし、今はそれの方が都合が良い。
「簡単な事話じゃ、この辺で手を引かぬか?」
「……はぁ? 手を引く?」
負けナイトは怪訝に表情を揺らしたが、対し玄信は涼し気に、いつも通り温和な表情を携えて。
「奇襲するつもりが奇襲されるようでは、侵略なんぞ上手く行かんと思うぞ。ここは諦めて帰るというのはどうかの?」
「――ハハッ! いきなり何を言いだすかと思えば! 侵略を止めれば悪いようにしないだって? このまま続けると言えばどうなるのかねぇ! どう悪くなるってんだ?」
ケタケタと笑いだす負けナイト。様子に気づいた他の負けナイトもつられるようにケタケタ笑う。
「俺達が怖いからそういう事言ってるんだろ?」
「はぁ、俺達本気出したらめっちゃ強いからなぁ、小指一本で戦うハンデ付けてもいい」
――それぞれの負けナイトが口々に。一人残らず返答は一つのようで。
「――止めないのじゃな?」
これが最終確認だ。玄信の言葉に、負けナイトは笑いで返答した。
その様子を後方で見ていたリィフは言葉をなくし、口端を引きつらせて。
(「オブリビオン、多少は評価していたが……結局、非常に、非常ーーーに残念な騎士だということが、よおく分かった――!)」
――同時、動く。
引かぬというならば、武器を取る道を選ぶというのならば。
「――では! 打ち合おうぞ!」
「了解だ玄信! オブリビオンに自身の立場をきっちり……分からせてやるとしよう!」
リィフは地を踏みしめ一つ、大きく跳躍し、ふわりと浮遊した。
オブリビオンも、群生する精霊花も、程遠く見える程の距離まで飛んで。
「打ち合うだってぇ!? ハ――笑わせる! ナメンなおらぁ!」
負けナイトの手に持つ盾が、玄信の頭をかち割らんとばかりに大きく上から振り下ろされた。
だが、動きは単純で避けられない速度でもなく、見切って躱す事は玄信にとって容易な事だ。
(「盾の打撃――……次は、右、槍が来そうじゃの」)
盾が終われば槍の一突き。外れれば別の敵からもう一突き。死角を狙った動きも、戦闘経験、第六感で体を動かし、避け続けていく。
しかし、襲い来る人数が人数なのだ。全てを避けるには相当の判断力と直感が必要でもあった。
玄信はギリギリで額を狙った槍の突きを避ける。だが、それを避けた瞬間、もう一人の負けナイトが横薙ぎに払う槍は――避けきるのは不可能だ。
ならばできるだけオーラで軽減させて受けてやろうと構えを取る。勢いに吹き飛ばされぬよう、体を屈め、重心を落とす。
「――ッハアアァ!」
その時、空中から弾丸のように突撃したリィフの機械魔剣の斬撃によって玄信に迫っていた負けナイトの槍は真ん中からぼきりと折れた。
絶対不屈の旗部分が無残に飛んでコロコロと転がっていく。
「――なぁぁ!! 俺の絶対不屈がああぁあ―――!!」
武器部分とアイデンティティーを失い、急激に軽くなった槍だった棒を手に、思わず絶叫をあげる負けナイト。棒立ち。
周りの負けナイトもその声に視線を取られ――
地に落ちた絶対不屈に目を奪われたのは数秒の事。
「――ストヲムルゥラァ…!応えろぉ!!」
空気をびりりと振動させるリィフの声。その数秒の間に起こるのは、リィフから放たれた視界を塞ぐ回転剣の放つ嵐の壁。
「な、な!? 何だこれは――!?」
「隊列! 隊列!」
「焦るな! 故郷の恋人の為にここで死ぬ訳にはいかない!」
「愛の力で切り開け――!」
わあわあとそれぞれの思いを叫びながら逃げ惑う負けナイトだが逃げ切るには一足遅い。彼等を容赦なく襲うは回転剣の乾坤一擲の突き。
逃げられぬ、避けられぬ、負けナイトが何らかそれぞれ叫んだが、全て轟音に消えていく。
「――色々ブツブツ鬱陶しい! 何かにつけて一生懸命口を開く! 貴様等!武術鍛練の何倍その口を動かしてきた!?」
そんな喧騒の中でも、一際通るのはリィフの一喝。
負けナイトが声に驚き小さくはねて振り返れば、苛立ちながらも凛とした佇まい。美しいリィフの緑の瞳に捉えられた。
実は熱血な一面を持つリィフ。スイッチが入ったその動きは、先ほどの動きと比べさらに機敏に、洗練された一撃を次々繰り出し負けナイトへ致命傷を叩きこむ。
――そして逃げる事敵わず串刺し、薙ぎ払われる。
折られた絶対不屈の旗の比ではない程に負けナイトの身体は吹っ飛ぶ。ストヲムルゥラァの威力を前に、オブリビオンである騎士の余裕の笑みは失う。
だが、そこでもまだだと諦めず、しぶとく立ち上がる。
口の中に広がった血を吐いて捨て、形勢逆転を狙う為、盾を構えて防御の姿勢――
「おらぁあぁーー! 陣形を取れ! 俺達は帰って俺達の恋人にプロポーズしなければならない!! 目にもの見せろ! 俺達の徹底防御を見せつけろ――!」
「オオォォォオ――!」
攻撃に対し、負けナイトがとる陣形は絶対無敵。
実際の所は無敵という程ではないのだが、攻撃を軽減する防御型の姿勢で剣の回転による攻撃を耐え、防ぎきる算段なのだろう。
しかしまさかのまさか、身体の小さな玄信は、その盾の間を掻い潜る……なんて、負けナイトにとっては悲しい誤算だったのだ。
。
陣形の中央まで素早く玄信は身を低くしながら移動する――気を放出する場所は、最も効果的な場所でだ。
「な、なんだぁあ、ぁぁ!? お、お前、いつのま……に!?」
不意を突かれた負けナイトは受け身をとる事すらできず、体制を崩して地へと身体を打ち付ける。
周囲全体に影響を及ぼすそれは、防御していたとしても盾や鎧を無視したダメージを与える事が可能なのだ。
隊列がそうして乱れた所へ、確実な一手を打ち込む。玄信の流れるような動きは完璧だった。
小柄な体、構える武器はない。騎士を討つのは自身の両手――素手だ。
「ま、る、ごし……!?」
「あの時、考えを改めておれば良かったんじゃがな、残念じゃのう」
数十秒程の前の彼らは思ってもいなかっただろう。自身達が宙に何度も吹っ飛ぶ事になろうとは。
そして吹っ飛ぶその先、負けナイトを待っているのは回転剣。
地に落ちる事を許されず、剣に乱暴に巻き上げられ負けナイト達はなす術もなく。更なる高みへと宙に舞いあがった。
やがて、静寂が訪れる。
見渡せば草原に残っているのはなぜか絶対不屈と書かれた槍であり旗のそれ。
それも時間と共に持ち手の部分からボロリボロリと砕け、壊れ、やがて絶対不屈の文字が書かれた赤い布だけの姿となると風にのってどこかへ飛んでいく。
「掲げる旗を間違えてるのよ……全員一からやり直し!」
草原に、リィフの凛とした声が響き渡る。
――負けナイトの沈黙を確認すれば、回転剣もその動きを止めて。
騎士は一人残らず死亡フラグをしっかりと回収し、骸の海へと還らせた。
そうして猟兵達が討伐すべき残る敵は――岩陰に身を隠すオブリビオン、あと一人となったのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『『小悪魔』リリィ・デモンズ』
|
POW : 悪魔の契約~デビルボム~
【悪魔の契約書(対象の署名・捺印が必要)】が命中した対象に対し、高威力高命中の【亀の歩みの様な超低速の誘導魔力弾】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 悪魔の神槍~デーモン・グングニール~
【刺そうと思ったら途中でボキッ!と折れた槍】を向けた対象に、【折れた槍の先端部分を拾い、投擲する事】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ : 悪魔の魔針~小悪魔ニードル~
レベル分の1秒で【針でチクッ!とされた様な威力の魔力針】を発射できる。
イラスト:らぬき
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「アララギ・イチイ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「――わぶッ!?」
風に飛ばされ、勢いよく飛んで来た"絶対不屈"の旗は顔面を覆うように絡まる。それをどうにか外そうと、リリィ・デモンズはじたばたしていた。
そうして視界を塞がれ慌てれば――足をもつれさせてどたんとこける。
「痛た……なに……なんなの、なんなのようあんた達……!」
気付けば自身に従えていた騎士はいない。さて、今の状況は何対何だ?
立ち上がり、スカートについた土を払う。リリィは眉を吊り上げ、自身の武器の槍を猟兵に突きつけ威嚇した。
「ふ、ふん! 今帰らないと痛い目みるのはあんた達なんだからね! ほらほら、帰った方がいいんじゃない!」
子供のちゃんばらのようにブンブンと槍を振るえば、先端はぐらつきどうも心もとない。この武器で戦って本当に大丈夫なのか。
その刹那、リリィの足元、精霊花の花弁が揺れて。
いつの間にやら白い蕾がゆっくりと、開き始めていた。
「あ? あぁあ゛!? も、もうそんな時間なの!?」
気付けば街は既にお祭りムード。遠く離れたこの地でも、空気を震わす打楽器の音が聞こえ、歌が街から流れて聞こえてくる。
既にこの場のオブリビオンはリリィしか残っていない。自身の計画はもう儚くも崩れ去っているも同然……それでも、引く訳にはいかない。
「精霊花のお祭り……始まっちゃう……ハッ!? ま、まさか、あんたたちも参加するって訳ないでしょうね!?」
――美味しい物が食べられて、飲んで遊んで花占いなんて乙女な遊びに心浮かれ、あまつ恋人同士でいちゃつこうって?
「――じゃあ、せめて! せ・め・て! それを阻止してやるわ! 覚悟しなさい! ……べ、別に、羨ましいとか思ってないから」
後半に呟いた言葉はぼそぼそと。それは聞きとる事も難しい。
そうして、リリィはぐらつく槍の切っ先を猟兵達に突き付けた
麻海・リィフ
アドリブ、即興連携歓迎
うん。健気ね。感動的だわ
普段の口調で棒読み&腕組み
先制でUC発動
この43枚、抜けられると思ったら来なさい
念動力衝撃波シールドバッシュで基本盾攻撃
盾受けオーラ防御念動衝撃波で防御
機あらば範囲とかカウンターとか二回攻撃とか
窮地の仲間は積極的にかばう
まあうん。何となくわかる。貴女見てると。お祭りを妨害したい動機
…正直残念だわ。オブリビオンでさえなければ、友達になりたいと思えているのに…
影朧だったら、生まれ変わりの目もあったろうに…侭ならないものね
(真摯な口調)
万一抜けて来たら「極光」にて念動衝撃波シールドバッシュで吹き飛ばす
友達の始まりなんて、気持ちと切っ掛けでしょ?違う?
黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流
もしかして割と普通に祭りを楽しみたかった?
残念な子っぽいし手が鈍りそうだ。そう、であって実際鈍らないが。
でも少し本当に残念かな。オブリビオンで無かったら一緒にまわっても良かったのに。
こちらの攻撃は【存在感】を消し【目立たない】ように移動。奇襲をかけ【マヒ攻撃】を乗せた【暗殺】のUC菊花を二刀流で攻撃。18回の攻撃があればマヒもいくつか通るだろ。UCの代償は寿命。
相手の攻撃は【第六感】で感知【見切り】で回避。回避しきれない物は黒鵺で【武器受け】からの【カウンター】。それも出来ない物は【オーラ防御】と【激痛耐性】でしのぐ。
ゆるやかに起伏する草原に、一どきに咲き始める精霊花。
白い花弁が緩やかに開き、花は草原の緑一面を徐々に白く点々と自身の色を敷き詰めていく。
猟兵に武器を突きつけながら立つ、桃の長髪を揺らしたリリィはいまだどこか挙動不審だ。
「うん。健気ね。感動的だわ」
麻海・リィフ(晴嵐騎士・f23910)は騎士を相手にしていた時とはまた別の、普段の口調でリリィに言葉を投げかける。――しかし言葉は棒読みだ。
腕組をしながらリリィを見るその瞳は、呆れみか、馬鹿にしているのか、それとも関心がないのか、あるいはそのどれでもないのか、今のリリィに読み取る事が出来ずにいた。
「な、なに、何か言いたい事でもあるわけ!? 何よう、何なのよその目は!?」
極めてリリィの口調は感情的。
口を開いて身体を強張らせ、小動物が噛みつくその瞬間のような気迫を見せる。
その姿、思わずため息がでてしまう程に。
「……構えが甘い、ほら、腰が引けてるわよ、それに……武器の整備も出来てないんじゃない? そんなものでどうにかできると本当に思っているの? 全然貴方も駄目ね、もっと……周りにも気は配った方がいいわ」
――リリィの顔がカッと熱くなった。
「ばっ、馬鹿にしてぇ!」
槍を振りかぶり、走り駆けてくるリリィを前に、リィフは静かに目を閉じる。
「……雲か霞か、攻めるも受けるも」
途端、リィフの周りに現れたのは機動浮遊攻防盾「雲霞」の複製達四十三枚。
次にリィフが目をあけた時、捉えたリリィの表情は驚愕へと成っており――
静かに、だが、どこまでも響く声で。
「この四十三枚、抜けられると思ったら来なさい」
容赦なく、盾達を念動力で操作し、放つ!
「う、うひゃぁああぁ! む、無理無理むりぃ――!?」
飛び狂うように、盾が次々にリリィへと襲い掛かる。
防御するには心もとない槍で受ける事はできず、翼をはためかせながら何とか空中へと逃げようとするリリィ。
「ひぃ――無理無理無理――じゃ、ない! 私は、オブリビオ――!」
逃げた空中で急停止! 振り返り迫る盾を羽を羽ばたかせながら左右に避けきり、槍を構えて空からの急降下攻撃で攻撃をけしかけようとすれば――頭上から降ってきた盾の打撃二発を続けざまに食らって地上へ真っ逆さまだ。
周りには気を配れ。先ほど言われたような。
「――っぐふぁ!」
地上に叩きつけられ、受け身を取り損ねて顔面から地面にめり込む。
「うぐ、ぐぇぇ……! な、なんのぉ!」
激痛が走る身体を叱咤し、何とか槍を杖のように扱い、リリィはよろよろと立ち上がる。……まだ戦闘始まって数十秒で満身創痍といえる姿となっていた。
そうして何とか立ち上がれば背後で振りかぶられた刃。黒い大振りなナイフ、黒鵺を持つ黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)が追撃する。
瑞樹の瞳が輝いて――殺気を隠した二刀流、暗殺の太刀筋にリリィは切られる瞬間まで、反応すらできなかった――!
「――はっ!」
瑞樹の声が空気を震わせ、斬撃が目にも捉えられぬ速さでリリィに襲い掛かる。
「――ッ!」
声すら出せずにその十八の攻撃を一身に全て受け、折角立ち上がったリリィはまた地面へと伏せる事になってしまった。
その衝撃で折れてしまった槍の先部分が無残に転がる。
「ぅぐえ、ぇ……」
実にあっけないやられっぷり。本当にボスと言えるかどうか疑わしい惨状を目の前に、二人は顔を見合わせた。
「よ、よくもぉ……! これ、槍の先、せめて当てて……ヒぇ……!?」
また、立ち上がろうとしたリリィは自身の身体が動けない事に気づく。 瑞樹の太刀に乗せられた麻痺の効果がリリィの身体を蝕み、ビリビリと痺れた身体は言う事を聞かず――
「なんでぇ……!?」
リリィは悔しさを込めた声を小さく発し小さくじたばたして――どうにもならない事態へと追い込まれているのだ。
「……まあうん。何となくわかる。貴女見てると。お祭りを妨害したい動機」
小さく発したリィフの言葉が、リリィの耳に届いたらしい。その身がぴくりと反応した。
「な、なに!? さっきから何なの!? 分かった風に……」
麻痺の攻撃を受けながらも何とか応戦しようとリリィは渾身の力を込め、よぼよぼと槍の先端へと手を伸ばし、投擲を行おうとその身に寄せる。
風が音を運ぶ、祭りが始まった合図の歓声が遠くで上がる。
その音に反応するように、リリィの眉はまた顰められて。
(「……もしかして」)
その様子を見ながら、瑞樹は小さく息を吐いた。そして思う。
――このオブリビオン。割と、普通に祭りを楽しみたかったのではないだろうか。
本当は、祭りで楽しむ人がただ羨ましいのだけではないだろうか。
「……少し、本当に残念かな」
――瑞樹の言葉に噛みつくように、リリィは牙を向く。
抜けきらない麻痺で身体の動きを鈍らせながら、槍の先端部分を振りかぶった。
「うるさい、うるさいうるさいうるさーーい! 弱くて、残念で悪かったわね! デーモン・グングニール……の、先端の餌食になれえぇぇぇぇ!」
飛ばされた先端は、麻痺で身体が鈍っているとは思えない程に正確に瑞樹の眼前目掛けて飛んで来た。
だが、その予備動作でどこへ飛んでくるかなんて予測するに容易く、軽く見切って躱せば先端は瑞樹には当たらず、遠く背後の岩にがつんと当たり、芝生の上へどさりと落ちる。
「……オブリビオンで無かったら一緒にまわっても良かったのに」
リリィにとって、その言葉の続きは予想外だったのだろう。
「あ、へ?」
間抜けな声を出して、思考停止、動きを止めた。
手合わせとは言い難い戦闘。一方的に攻撃を受け続けているリリィは、先ほど戦った負けナイト一人の実力を大きく下回るように思えて。
(「……女はオブリビオン、ここで止めなければ街で暴れまわり、人を傷つけていた……こっちの手は、鈍らせる事はないけれど」)
だが、オブリビオンでなかったとすれば、感情を素直に顔に出し、口に出す彼女とならば、もしかしたら楽しい一時が過ごす事が出来たのかもしれない。
硬直していたリリィは首を振り、その言葉を振り払うように先端の無くなった槍を握る手に力を込める。
「そんな事言われても! 還ってなんかやらないから! 絶対ここであんた達を倒してやるんだから!」
ヤケになっているようにも思える乱暴な動きで瑞樹に襲い掛かれば軽く一つ、刀で受けられ弾かれ、簡単にリリィは転がり倒れる。
「正直残念だわ、オブリビオンでさえなければ、友達になりたいと思えているのに……」
その様子を見ていたリィフは茶化す事なく、ただ、真摯な口調で言葉を零す。
「……影朧だったら、生まれ変わりの目もあったろうに……侭ならないものね」
ここでオブリビオンとして存在する以上、骸の海へと還り、また出会う事があったとしても、未来を喰らう存在としてリリィは目の前に立ちふさがってくるのだろう。
念動力で浮遊させた盾はよたつくリリィに容赦なく襲い掛かる。
オブリビオンであり、未来の破壊を願うのならば見過ごす事は出来ないのだから。
「な、何なの……何なのよさっきから……一緒に回るとか、友達とか! って、あ、ちょ、ちょっと! 本当に、これは無理! 避けるの無理! 無理だってば!」
襲い来る盾をぎりぎりの所で避けながら、リリィは悲痛の声をあげる。
その表情に現れる戸惑いは、襲い来る攻撃のせいだけでなく、きっとかけられた言葉の一つ一つが生み出したざわつきだ。
「友達の始まりなんて、気持ちと切っ掛けでしょ?」
風に遊ばれ漆黒のポニーテールが揺れた。
リリィは襲い来る盾の隙間からリィフの表情を覗き見る。
「――違う?」
リィフのその問いには答えられず、戸惑うリリィ。
迫る盾をぎりぎりの所で避け、巡らせる思考が攻撃の邪魔をする。
「……周りにはもっと気を付けた方がいいって言われてなかった?」
そう戸惑うリリィの背中を瑞樹の打刀、胡の刃が貫いた。
「うぐぁっ!?」
衝撃で倒れ、またもや受け身もとれずに本日何度目となるのか、顔面から地面へと突っ込む。
……だが、オブリビオンという存在は伊達ではないという事だろう。打撃、斬撃をまともに食らいながらもリリィはヨタヨタとまだ立ち上がった。
オブリビオンと猟兵である以上、破壊を願った以上は打ち合う事を止める訳にはいかず、刃はまだ陽光の下で鈍い光を放ち、盾も容赦なくリリィへと衝撃派を発生させながら襲い掛かる。
「ふ、ふふふ……こんな、攻撃……じぇ、じぇんぜん……効いてない、から……ハァ……ハァ……」
「岩に背をあずけて、武器と言えるのかもう怪しい棒を持った姿でよく言える……その精神力は大したものだな……」
だがきっとそれは虚勢だろう。二人の攻撃も、二人の言葉も、間違いなくリリィの身体にも心にも大きな打撃を与えて揺らしている。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
十文字・武
<アド連携詠唱略ok>
POW
くっくっく……そう、あとはお前を倒しさえすればオレ達の勝ち。
祭りで浮かれて、ちょっと開放的になったあの子とドキドキデートって寸法よっ!
ふははははっ!最早、勝ったも同然と言う奴だ!(フラグ2)
負けナイトにのせられそうになったし、油断大敵とは解っちゃいるが、なにかコイツに対してると、いぢめっ子な血が騒ぐな。
真面目にやらねぇと。
まずは【戦闘知識】で相手の出方をうかが……やべぇ、今までの戦闘経験が役に立たねぇぞ、こいつ!?
くっ……真面目に戦おうとすればするほどこいつのペースに乗せられ調子が狂うっ!えぇいこの!オレは急いでるんだよ!さっさとやーらーれーろー!【恐怖を与える】
穂村・了
お嬢さん……無理はするもんじゃない。
いいかい?自分に素直になる事はとっても大事なんだ。
そうして素直になれず、心に淀みを溜めてしまえば、いつか自分が壊れてしまうよ?
……そう、例えばこの戦いから帰ったら、極悪非道なクソ部長に か・な・ら・ず!正義の鉄拳を食らわせてやるっ!
とか………ジブンニスナオニね?
なお、部長閣下は格上ヒーローなので逆にぼこられ、休日は遠のくだけである。
大丈夫。俺は解ってる……キミも一緒にアソビタイのだろう?
そっと彼女に手を差し伸べる……【手を繋ぐ】
あぁ、解ってる……そーら、た・か・い・た・か・い!【怪力・投擲】
休みを潰してくれたオブリビオンちゃん……骸の海までぶっ飛びやがれッ!
既に戦況は大詰め、ヒットポイントはレッドゾーンへと到達したリリィだが、次なる猟兵が現れれば、よろけ腰の折れた姿勢を正して、えばるように胸を張った。
「……逃げ帰るなら、今のうちよ」
どの口が言うのだ。
どこかでそんなツッコミが思わず入りそうな現状だが――くつくつと漏れる不敵な笑いが聞こえれば、訝しんでリリィはその男の表情を注視する。
十文字・武(カラバ侯爵領第一騎士【悪喰魔狼】・f23333)は突如カッと目を見開く。その鋭く輝く眼光をリリィに向ければ圧倒されたリリィは半歩後ろに下がった。
「くっくっく……そう、あとはお前を倒しさえすればオレ達の勝ち。祭りで浮かれて、ちょっと開放的になったあの子とドキドキデートって寸法よっ!」
「は、はぁ!? あんた何言ってるのよ!」
困惑を表情に浮かべるリリィは見るからに弱い、先ほどの戦いを見るからにも実力は猟兵達と比べれば格下!
「ふははははっ! 最早、勝ったも同然と言う奴だ!」
手に持つ妖刀を突きつければ陽光が反射しギラリと光る。その光が眩しいのか、武という存在が眩しいのか、リリィは腕で目の前を覆った。
(「負けナイトにのせられそうになったし、油断大敵とは解っちゃいるが……なにかコイツに対してると、いぢめっ子な血が騒ぐな」)
油断大敵、もう一度口に出して気を引き締めると、両手の刀を強く握りしめ、草を、土を踏みしめ間合いをじりじりと詰めていく。
後一歩、刀が届くその距離で一度踏みとどまる。
睨みつけ、相手の挙動を探る。
――まずは、相手の出方を伺う。何か奥の手を持っているかもしれない。不用意に"弱い敵"と侮りつっこんでいけば窮地に陥るのは自分かもしれないのだ――油断、大敵。
それを隙と思ったか、リリィが動く。
――何をするつもりだ、と、武は挙動を注視した。
「あれ……確か、この辺に……」
間抜けな声、いや、これも作戦の一つかもしれない。間抜けと決めつけてはいけない。仮にも彼女はオブリビオンなのだから。
「あ、あったあった……」
そうしてリリィが武に――突き付ける!
「あれは……」
その様子を遠くから見ていた穂村・了(スーパーサイキック社畜ヒーロー・f23964)はリリィが突き付けたその紙の存在を見て目を細めた。
視界がぶれて、一瞬の眩暈。
――イヤナキオクという物がフラッシュバックし、眉を潜めた。
せめて、ヒーローをやっている間くらいは、見たくなかったものだ。その様子は、彼がよく見慣れた物だった。
「何だ……これ」
白い紙、その文頭に書かれている言葉は
『悪魔の契約書(対象の署名・捺印が必要)』
署名、捺印?
――契約書?
思考に浮かぶ疑問、もして疑惑。もしや、この状況を持ってこいつ、俺を仲間に引き入れようとしている!?
武は後ずさる。もしや何かめちゃくちゃ良い契約案件を引き合いに出して誘い込むつもりか!? よくある展開だ、闇を抱えた人間が悪魔堕ちするやつ……そういうやつか……!?
「これを俺に書かせて……どうするつもりだ……」
一応、相手が出す条件とやらを聞いてやる。勿論、悪に、リリィに堕ちるつもりは毛頭ないが――
「とりあえず署名と捺印……朱肉……無ければ血液でもいいからとにかく押して。そうすればあんたに、亀の歩みの様な超低速の誘導魔力弾が絶対命中するわ。私の高火力攻撃よ」
「え? 意味わかんねぇ」
まどろっこしく、ややこしい攻撃。素直に応じる奴ってどこにいるというのだろう。
――何だ、今まで戦ってきた敵とこいつ、馬鹿? いや、決めつけるな、決定的に何かが違う。戦闘知識が頭を駆け巡る。理解が追い付かずに何故か額に汗がにじむ。
「……いや書く訳ねえだろ。普通に考えて」
「なんでよ! 書いてくれないと困るわ! こっちだって必死なんだから! 一発ぐらい喰らってちょうだいよ! こちとら一発も攻撃まだ喰らわせてないんだから!」
武に突き付けられる悪魔の契約書。セールスマンの威圧的な押し売り。
「それとも何!? こんな可憐な私の攻撃が怖くて一発も受けれないっていうの!?」
「意味わかねぇ……」
リリィの気迫に押され、調子を崩される武にずいずいと今もなお契約書を突き付けるリリィ。瞳には涙も潤み、もはや情での駄目押しに思わず一歩足が下がった。
だが、ここで下がる訳にはいかない。
もう一度刀を構え直し――
「お願い! 押して!」
「嫌だ! んなもん書くか!」
二刀を振るう。リリィは危険を察知し、両羽で自身の身体を覆い、刀の攻撃を防御する!
「いっだあああぁ!!! 本当刀怖い! めちゃくちゃ切れて凄く怖い!」
だがそれで相当なダメージが入ったのか地面に倒れ転がるリリィ。
「え……何……」
やはり今まで相手にしてきたオブリビオンと一味二味違う。これが本当にボスなのだろうか。
武は急いでいる。一刻も早くこの場を切り抜けたい。だが狂った調子が刀の太刀筋に戸惑わせる。今の気持ちを例えるならばドン引きだ。
「まぁ……ここは俺に任せてくれや」
了は戸惑う武の肩をぽんと叩き、武の前へ、リリィの前へと歩を進める。
「りょ、了さん! 危ないっすよ! 下手に会話するとやられるっす! 頭がおかしくなる!」
「大丈夫だ……大人(社畜)を信じて待ってろ」
「――ッ!」
よく分からない怪しげな副音声が聞こえた気がしたが、武はその頼もしい背中に圧倒され――こくりと頷くと、一歩下がり、その姿を見守る。
リリィは傷ついた翼を撫でながら、間合いを詰めてきた了を涙目で見上げていた。
「お嬢さん……無理はするもんじゃない」
「へ?」
かけられた優しい言葉に、リリィは一瞬ほだされそうになりながら――ふるふると首を振った。
「む、無理? 無理なんかしてないわ! わたひはオブリビオンよ! こんなのあんた達が思っているよりは痛いと思ってないわ」
「ほら、またそんな虚勢を張って、翼があらぬ方向に曲がってるよお嬢さん……。ね、契約取るのって大変だよね? どう考えても無理な案件をさ、努力目標とかいって掲げられてさ。努力とか言っておきながらも中身は必達……本当、嫌になっちゃうよねぇ……」
「は? はぁ……」
「……いいかい?自分に素直になる事はとっても大事なんだ。
そうして素直になれず、心に淀みを溜めてしまえば、いつか自分が壊れてしまうよ?」
「え?」
そう言った了の目は優しいような、虚ろのような。
言葉にある重み、説得力のある言葉は経験からだろうか。
「……そう、例えばこの戦いから帰ったら、極悪非道なクソ部長に か・な・ら・ず! 正義の鉄拳を食らわせてやるっ! とか………ジブンニスナオニね?」
「は、はぁ? 何言ってるの? と、途中からよくわからなくなってきたんだけど?」
了の口調は優しく、しかしどこか淡々としている。
……極悪非道なクソ部長に正義の鉄拳を食らわせたいのは勿論了の本心、野望だ。
しかし悲しい事に部長閣下は了よりも格上ヒーロー。反旗を翻せば逆にぼこられ、休日は遠のくだけなんて、何て世界は無情なのだろう。
「大丈夫。俺は解ってる……キミも一緒にアソビタイのだろう?」
「ッは――ば、馬鹿、そんな、そんな事!」
そっと了はリリィに手を指し伸ばす。
(「了さん、そんな無防備に!? 危ねぇ綱渡りを――」)
そんな武の心配をよそに、了はリリィの両手を軽く救い上げる。
リリィの頭は混乱しているからか、それまでの間無防備だった。
「あぁ、解ってる……」
優しい言葉、物腰、だが、それはここまでだ。
急に了の手は力強く、怪力、フルパワー全力の勢いを出し――リリィを空高く放り投げた。
「た・か・い・た・か・い!」
「――えっえぇぇ!? ちょ、ひょぁああああああ!」
いともたやすく、了によって天高く飛び上がるリリィ!
「休みを潰してくれたオブリビオンちゃん……骸の海までぶっ飛びやがれッ!」
憎しみ、怒り、空まで怒号が響き渡る。
了の満喫するはずだった休日はこのオブリビオンによって潰された。その報い、骸の海までぶっとんでくれなければ気が済むはずもない。――本来部長閣下が受けるべき怒りもさらに載せられて。
「うひゃ、たっか……ふふ、空へ投げる……!? まぁ、私、飛べるけどね!」
リリィは空の上、眼下に了を捉えながら小さく笑みを浮かべて。
「何だ今の……外壊、他界!?(たかい、たかい) おっかねえ技だな……世界ってのはまだまだ知らない事だらけ、か……」
――世の中には色んなオブリビオン、色んな猟兵、色んな戦術がある。今まで知らなかった――武が得たのは新たな世界知識。
戻ってきた了と右手のひらををパァンと叩き合わせ、二人は目線で会話する。
人の休日という時間を奪ったオブリビオンに粛清を。
――既に二人の目線から外されたリリィはというと、「切られた羽が使い物にならない~~~!」と叫び声をあげ、そのまま地面へと急降下を決めていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
山梨・玄信
カップルを爆破したいじゃと?それなら、是非RB団に…と言いたい所じゃが…オブリビオンは倒さねばならんのじゃ。
【POWを使用】
褌一丁になって脱ぎ力を高め、UCで能力強化するぞい。
相手の反応は一切気にしないのじゃ。何時もの事じゃし。
悪魔の契約書は丸めてポイし、説教してやるのじゃ。
敵の攻撃は(素手でポカポカして来そうじゃが…)第六感と見切りで躱し、喰らっても害の少なそうな攻撃はオーラ防御で弾くぞい。
敵が攻撃に疲れた所で、UCで飛んで、脳天に拳骨を2回攻撃で叩き込むのじゃ。
「お主本当に悪魔か?色々甘すぎるぞい。例えば契約書にガラス繊維を仕込んで、丸めたら手が血だらけになるようにするとか…(以下略)」
――リリィは空から降ってきていた。
その光景を山梨・玄信(ドワーフの破戒僧・f06912)は静かにその成り行きを見届けながら、ふぅむと腕組をしたまま考え込んでいる。
(「ほぅ……カップルを爆破したいじゃと? それなら、是非RB団に……と言いたい所じゃが……」)
――リア充を少し不幸にする事で少しの幸福を感じ、反動で自滅する事まで楽しむのが"RB"――
負けナイトの方はさておき、(そもそもあれはリア充だから論外である)リリィ一人がしでかす事ならば、丁度いい不幸加減を与える事が出来るのではないだろうか。
そう思えば惜しい、惜しいのだが目の前にいる者はオブリビオンならば。
(「倒さねばならんのじゃ」)
タイミング良く玄信の前へとゴキドン! という音と共に華麗なる着地をする小悪魔リリィ。足首を見事に捻ったらしく、痛みに目の前で悶え苦しんでいた。
「――ッ! んずあぁ……!! 今、足首が鳴ってはいけない音出したぁ……」
「……ふむ」
正直放っておいても自滅しそうな気もするが。
――まあ、ここまできたら脱ぐしかあるまい。
玄信は黒帯に手をかけ、するりと解いて芝生の上に放り投げる。
はだけたドワーフメイルをも更に躊躇いなく脱ぐと、ぐるりと丸めて同じように芝生の上へ投げ捨てた。
「――えぇ……ちょちょちょちょ、ちょっと! 何で脱いでんの? 嘘でしょ!? そ、それも脱ぐのぉぉ!?」
玄信の力、ヌギカル☆玄信は露出度と脱ぎ力(ヌギチカラ)に比例して戦闘力が増強されるのだ。
風が、外の空気が肌に触れる度、自身の力が強化されていく事が感じ取れる。
顔を赤らめ目をそらされようが、ドン引きされようが、相手の反応は一切気にしない。
何せ慣れっこ。何時もの事なのだから。
そのまま玄信はお構いなしに脱ぎ続け、ついには褌一丁の姿になってリリィの目の前に仁王立ちで立つ!
「鎧? 服!? を目の前で脱ぎ捨てるなんて、ばばば、馬鹿にしてるの!? 私をあまり見くびらない方がいいわよ……こう見えて、悪みゃだし……さぁ、この攻撃を受けなさい!」
若干身を引いたリリィはそのまま引いてなるものかと身を乗り出した。
そして、玄信に突き出したのはぐっしゃぐしゃになった【悪魔の契約書(対象の署名・捺印が必要)】と書かれた一枚の紙!
「……適当じゃのう、汚いのう。一応ちゃんとした契約書ならもっと大事に扱った方がいいと思うんじゃが……」
「今日は一枚しか持ってきてなくて……」
ため息まじりにごにょごにょと何か呟き、リリィは一度、自身の手で契約書をびっびっと伸ばすと再度、玄信へとぐっしゃぐしゃのままの契約書を突き付ける。
「ここに署名、あと捺印宜しくね」
「何も直っとらんし宜しくせん」
突き付けられた契約書を流れる作業で玄信は奪い取りぐっしゃぐしゃに丸め、後方へとポイと捨てすれば――そのまま風に流され転がされ、たった一枚の契約書は一瞬のうちで二人の前から姿を消した。
「んわ――!? 折角さっき一生懸命伸ばしたのに!!? 何ってことするのよ!」
目に見えての激怒、感情的になったリリィの拳が振り上げられた。だがその攻撃はまるでやけくそのぽかぽか拳。
そんなものが玄信に当たる事はなく、見切る事も造作ない。
玄信に避けられた拳は空を切り、リリィは体制をぐらりと崩す。
「お主本当に悪魔か?」
「あ、当たり前でしょ! ちゃんとボス『小悪魔』リリィ・デモンズって肩書あったでしょ!?」
「いやそれは知らんのじゃが」
「うるさいくらえ!」
リリィは躓きそうになった体制を何とか立て直し、振り上げた拳をもう一度振り下ろす。
今度こそ確実に、その拳は玄信の身体へと振り下ろしたのだが、玄信のオーラ防御を揺るがせる事は出来ず、弾かれて今度は後ろに大きく仰け反って。
それは戦闘とは言い難い、まるで子供のお遊びだ。
「悪魔……それにしては色々甘すぎるぞい」
「あ、甘い? な、なにが」
「何もかもじゃ、――先ほどの契約書にもガラス繊維を仕込んで、丸めたら手が血だらけになるようにするとか……他にも色々と仕込んだり考えたり誘導したり、色々あるじゃろうが」
「は? 何それ! めちゃくちゃ勉強になるじゃない……次からそうしようかな……――って、違――う! そんな有難い助言何て聞き入れるものですか!」
「そうかそれは残念じゃ、でもお主はもっと悪魔らしさを勉強した方が良い。骸の海で頭も身体も鍛え直して精進せい」
「――ッ!」
その言葉に憤怒するも、既にリリィは疲れ切って体力ゲージはレッドゾーン。拳を振り上げる体力すらもう無くなっていた。
――ならば仕上げだ。玄信の露出と脱ぎ力で上げた能力には戦闘力だけでなく、飛翔能力も備わっている。
その足で地を蹴る。身体はふわりと上がり、空高く飛び上がればリリィの姿を真下に捉えた。
「――へ?」
玄信が目の前から消えた事でぽかんと口を開けて周りを見渡すリリィ。
その脳天へ、拳骨が二発襲いかかった。
大成功
🔵🔵🔵
小宮・あき
……、一緒に来ればいいのに。
なんて思ってしまいました。
いけません、いけません、オブリビオンでした。
でも、なんだかとっても可愛い女の子ですね~。
●WIZ行動
敵の攻撃を無効化する技を使いたいのですが、
レベル分の1秒ですか…結構賭けになっちゃいますね。
そうだわ、彼女なら、会話で気をそらす事ができるかもしれない。
「あなた、なぜあの街を襲おうとしたのです?」
足止めなので、気になった事を聞いてみます。
もしかして、花占いがしたいのかしら?
それとも、ただ幸せそうな人が憎いだけ?
UC【戦場の飴】
敵の口調やタイミングを見て、相殺するように発動。
そうね、今日は、少し甘酸っぱいクランベリーにしましょう。
目の前で痛みに悶えるリリィが小宮・あき(人間の聖者・f03848)の存在に気づくにはしばしの時間が必要だった。
羽はボロボロ、足も痛ければ腰も痛い。脳天も痛い。身体中が痛みだらけだ。
(「……、一緒に来ればいいのに。……なんて思ってしまいました」)
あきは頭に浮かび上がったその考えを、ふるふると頭を振って消し去る。
相手はただの女の子ではなく、オブリビオンなのだから。
しかし、なんだかとても可愛い女の子だと感じずにはいられず、戦闘の張り詰めた空気……というより少しばかり穏やかな気持ちになってしまう。
ようやくの事、そのほんわかとした空気を感じ取ったのか、リリィがあきの事を視認するとキッと眉を吊り上げ、よろりとよろけながらも指を突きさし威嚇する。
「な、なに笑ってるのあんた!」
「あぁいえ、別に、可愛い女の子だなって思っただけですよ」
「可愛い……? え、えへへ……そ、そんな事ないけど……じゃ、なくて! そうじゃなくて!」
一瞬あきの空気にほだされそうになったリリィは今一度と呼吸を整え、服を正すと戦闘態勢へ入らんと右手をあきに向かって掲げる。
「もう! 一矢でも報いなければ! もう、本当に、ボスなんだから……! 小悪魔ニードル、くらっていきなさい!」
「……そういえば、疑問何ですけれど」
――だが、あきの言葉でリリィの動きはぴたりと止まる。
あきの思惑通り、彼女には会話が通じる。
攻撃を無効化する技を使う為には一度技を防御しなくてはならないのだが、気を反らす事でタイミングを掴む事が出来そうだ。
あきの青の瞳が一度閉じられる。その温和な表情には戦意を感じる事が出来ず、リリィはまた戸惑い、一度かかげた手をゆるりと下ろした。
「な、なに? 何が、そういえばなの?」
言葉の続きを探るよう――思うよりも気になっているのか、あきの表情を伺う見るように言葉を落とす。
青の瞳が開かれれば、やはりそこにあるのは穏やかな笑みで。
「あなた、なぜあの街を襲おうとしたのです?」
そして投げかけられたのは純粋な、あきの疑問。
「え――?」
「もしかして、花占いがしたいのですか?」
「別にそういう」
「それともただ幸せそうな人が憎いだけ?」
矢継ぎ早に問いかけられる言葉にたじろぎ、リリィはその問いかけに答えようとするが、口が一度開いて、閉じる。
……そうして思案した時間は数秒、リリィはゆるりとまた口を開いた。
「――祭り、祭りって皆楽しそうにしてるじゃない」
街から聞こえる音楽、きっと近づけば浮かれた笑い声。笑顔。美味しい物を食べて、次は何をしようかと楽し気に相談し合う人々。
そして、恋人たちの未来を後押しする花占い。
「……私は――そういう日なら隙が突けるって思っただけ! オブリビオンだもの、そういう作戦だってたてるんだから! 羨ましいとか……そういうのとは違うわよ!」
一度、下げられたリリィの手がまた掲げられる。
そうして手から生まれる浮かぶ魔力針。いくら発射速度が速かろうと、そこまで時間を稼げれば十分だった。
「本当にそうなのでしょうか?」
飛んで来た針は構えたマスケット銃の金属部分へと当たり、甲高い音を立てて空間から追い出されたように滲んで消えていく。
「……ッ!」
「そうですか、……ごめんなさい、そうは見えなかったので」
「――本当、何なの……!」
また発射される魔力針の。
あきは手にした甘い甘いキャンディ――今日は少し甘酸っぱい、クランベリー味。ルビーの輝きのそれを口にして。
そうして借用するリリィの技を打ち返し、自身に刺さろうとする魔力針を当てて相殺して見せる。
「うっそぉ……」
その光景を前にリリィは――動揺を隠せない。
既に体力も、精神力も限界だ。リリィはもう一度攻撃をと目論んで手をあげるが――もう一発とも攻撃を行う事も出来なさそうで。
……諦めたように手を下ろした。
「……何かもう疲れちゃったわ、完璧な作戦と、完璧なタイミングの奇襲……だったはずなのに」
どうやら心のうちを見られてしまっている。
本当は――だったのかもしれないなんて。
認めたくないけれど、でもやっぱり――
ゆらりとあきに向き直り、リリィはため息まじりに小さく口を開いた。
「……――と、遊びに行けたら、楽しかったのかしら」
足下には既に開いた精霊花。しゃがみ込むと、一つ摘む。
そうすれば――摘まれた白い花は徐々に色を変えて。
「まぁ、無理なんだけどね、だって私、オブリビオンだから」
辺り一面は白の花、桃の髪の毛が風に遊ばれ揺れる。
リリィの元へとあきが近づいても、もう牙を向く事もなく、槍を突き付ける事もなく。
代わりにあきに突き付けるその手の中には一輪の精霊花。
「あんた達は、なんかちょっと変ね。……花がどんな色になるのか見て見たかったかも。きっと――な色になりそう」
渡された精霊花にあきが目線を落とした瞬間、リリィの姿はもう目の前から消えていた。逃げた――訳ではない。
残されたのは手に残る黒く染まった精霊花。
そのたった一つを残して祭りを脅かすオブリビオンの姿は骸の海へと還っていったのだろう。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 日常
『精霊花で占いを』
|
POW : 健康運を占う(色は自由に指定orお任せ)
SPD : 仕事運を占う(色は自由に指定orお任せ)
WIZ : 恋愛運を占う(色は自由に指定orお任せ)
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「あぁよくぞご無事で! あの脅威を討って下さったのですね……助かりました、本当にありがとうございます冒険者の皆さん! 貴方達のおかげで祭りを無事に開く事ができました!」
猟兵達を迎え、そう言葉を続けるこの男性は、アムニスの町長だ。
彼等はオブリビオンがアムニス付近で不振な動きをしていたのは気付いてはいたのだが、冒険者に依頼を頼み続けても拠点を発見する事ができず、ついに祭り当日になってしまったのだという。……一時は祭りの開催すら危ぶまれていたらしい。
脅威の火種は去り、町長もこれで一つ肩の荷が下りると今は安堵した表情だ。
本当に、感謝しているとまた一度、町長は頭を深々下げる。
「いやはや、貴方達はまさしくアムニスの英雄ですよ! 宜しければ精霊祭を心行くまで楽しんでください!」
それから祭りの名称になっている精霊花の花占い、良ければ是非にと、町長は手に持つ青く色付いた花を猟兵達に掲げて見せた。
●
精霊花は、そのまま積めば心の色に。
仕事運や健康等運勢を占うのならば、それを心の中で思いながら摘めば、良い結果ならば寒色に、悪ければ暖色に色づく。
恋愛占いをすれば良い結果は暖色に、悪ければ寒色にと、良い結果の色合いは逆転するようだ。
精霊花は街の至る所に咲いているが、祭りを楽しむ人はアムニスの中心の広場に集まっている。
広場には精霊花の大きな花壇、フラワーオブジェ、そして露店が立ち並ぶ。
少し離れた場所には自由に使える机と椅子も設置されており、疲れて座っていればドリンクサービスが回ってくる。
ドリンクはアルコールも提供されているようだが、未成年に渡されるのは綺麗な色をしたオリジナルジュース。
ドリンクを運ぶ人に声をかければ椅子に座っていなくとも渡してくれるだろう。
花を愛でながらのんびりするもよし。
露店をめぐるもよし。街の中心を離れ、のんびりとした時間を過ごすもよし。時間の使い方はそれぞれの自由だ。
――猟兵達の活躍は街の皆に知れ渡っている。その顔に気付けば皆好意的に、声をかけてくることだろう。
●補足
食べ物やアクセサリー等の出し物は広場中心に集まっておりますのでお好きな物があれば散策して探して見て下さい。大体のものは見つかると思います。
広場では色別に花を集めて大きなフラワーオブジェにしているので、積んだ精霊花をそこに渡せばオブジェとしてどんどん飾られていきます。
アムニスの精霊花は持ち帰っても、渡してしまっても、お好きに扱って頂ければと思います。
また冒頭でお伝えした通り、お声がけ頂いた時のみリドリーも顔を出します。
広場中心に散策しているようです。
プレイング受付は12/19 8:31からです。
どうぞお祭りをお楽しみください。
黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
一通り祭りの会場を歩き回り、とりあえず話のタネにでもそのまま摘むか(結果お任せ)
心の色ってどんな色だろう?楽しみだ。
恋愛は興味がないわけではないんだが…積極的に絡みたいわけではない程度。
自分の世界を広げるために人と関わるのは好きだが、そういう強い感情で良くも悪くも人が変わってしまうのが怖いっつーか。あんまりな…。
その後は露店めぐりして適度につまみになりそうな食事と酒をもらってのんびり過ごす。
このあたりの名物料理も楽しみたいし。
花は一応持ち帰って飾るか、出来そうなら押し花に加工かな。コツとかあるかなぁ?
辺りは客引きの声や子供が何かをねだる声、ドリンクを飲みながら仲間と談笑する声。
喧騒を極めるアムニスの街は活気に満ち溢れている。
そんなアムニスの広場で黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は露店が並ぶ街をぐるりと見渡して。
(「人も露店も凄いな。まずは……一通り会場を歩き回ってみるか」)
一つ頷き、メイン通りに連なる露店の方へと歩を進める。メインロードは活気立ってはいるが、広場よりは人が少なくなる印象だ。
(「――そういえば、花占い」)
目に付くのは花壇に花を開かせる精霊花。町長の話によれば精霊花はどの花壇からとっても良いとの事だった。
白い花弁が瑞樹を誘うようにふわりと揺れている。特に何かを占おうという気持ちで摘まなければ……心の色に染まると言っていた。
自分の心の色――精霊花はどんな色になるのだろう。
瑞樹は茎に触れ、プチリと花を摘んだ。
●
香ばしい肉の香りが風に乗り、辺り一面良い香りが充満していた。瑞樹がその匂いを辿れば景気の良い声の露店がすぐに見つかった。
「いらっしゃいいらっしゃい! 精霊花限定仕様、ハーブ風味のソーセージだよ! 小腹に一つ、おやつに一つ、お酒のつまみに如何ですかー!」
「……すみません、それ一つ頂いても?」
「あぁはい! ハーブソーセージお代は銅貨三枚ね」
簡易なパッケージの箱に、葉物と花の飾りが添えられたソーセージを差し出されると、瑞樹は依頼で貰った銅貨を渡す。
ふわりと湯気がたっている。中身は出来たてだ。
「まいどまいど……ん?」
お金を受け取った売り子の女がじぃっと瑞樹の顔を食い入るように見始めた。瑞樹はその視線の意味が分からず、少し身を引き、首を傾げる。
「お代、それで足りるはずだけど」
「いやいやお代には問題ないけど、その顔……お客さぁん……もしかして、いや、もしかしなくても凄腕の冒険者さん!? 祭りの危機を救ってくれた!?」
「俺の顔も知ってるの?」
「街の人ならみいんな冒険者さんの顔は知ってますよ! 救世主様ですもん、いやぁそれならそうと言ってくれればいいですのに! ガーリック風味もおまけしちゃいますよ、後、チーズとかもどうですかねぇいっぱい食べて下さいよ!」
渡した簡易パッケージの中に、上からトングでもう一本のソーセージを詰め込む。おまけにと渡された紙皿には何種類かのチーズが乗せられ、半ば瑞樹に押し付けるようにそれを手渡した。
「……悪いな」
「自家製のソーセージとチーズなんです。んふふ、良ければ美味しそうに食べ歩いて下さいよ」
そうすればうちの宣伝にもなるんで、と悪戯めいて笑う売り子。その宣伝という言葉に成程と相槌を打つ。
凄腕の冒険者――猟兵達が口にしている物ならば歩く看板ともなり評判になるのか。
「冒険者さんはこれから広場に行くんですか? 花占いしたんですか? 相性占いもやりました? やってないなら名物なんでやっていって下さいよ~!」
「いや、もう広場の方にはいかないよ。後は酒を貰ってのんびりするつもりだ。花占いはさせてもらったけど……恋愛関係の事で特に占うつもりはないかな」
「ええ? 冒険者さん程の人、ほっとく人いないでしょ? もしや恋愛事に興味なかったりするんですか?」
「興味ないわけでは、ないんだが……」
食い気味に問われ瑞樹は苦笑する。
自分の世界を広げるために人と関わるのは好きだ。だが、恋愛――強い感情が絡めば良くも悪くも人が変わってしまう。
悪いように転んでしまったら、もう元に戻るのは容易ではない。踏み込んで、踏み込まれて予期しない風に変わっていくのは。戻れない事になってしまうのは。
(「怖いっつーか。あんまりな……」)
その瑞樹の表情から察したのか、売り子は身を引き、言及するのを止めた――そして、思い出したかのように話題を変える。
「そうだ、花占い、花占いはしたんですよね? 良ければ摘んだ花見せて下さい」
「花? いいよ」
キラキラと輝く瞳に押され、瑞樹は摘んだ一輪の花を掲げて見せる。
――その色彩に、売り子はほうとうっとりした表情になり、魅入るように花を覗き込む。
「はぁ……これは、なんて美しいジェダイト」
瑞樹の摘んだ精霊花は元々が白い花弁とは思えない程に、艶やかで、透明感も感じる程に染まった翡翠色。
「凄い綺麗に染まってる。色が変わるといっても、こんなに綺麗に濃~く変わる事ないんですよ。珍しい色味だなぁ……」
「へぇ……そうなのか」
うっとりと見つめる視線。リップサービスではなく、本当の事なのだろう。
「この花、オブジェに挿していくんですか?」
「一応持ち帰るつもりだ。出来るなら押し花とかに加工したいんだけど」
「でしたら! あちらの方に行くといいですよ! 持ち帰る人の為にドライフラワーとか、他の花と合わせての花束とか! 色々花の加工を教えてるお店がありますから」
「へぇそういう物もあるのか……加工のコツとかも聞きたいし、落ち着いたら行ってみるよ。繁盛してそうだけどな」
小さく微笑みを携え、ありがとうと会釈をし、瑞樹は手を振る売り子の元を後にする。
そして瑞樹との話を堪能した売り子はまたにこやかに客引きを始めるのであった。
「お兄さんお兄さん! アムニスの名物の魚料理はどうだい? もしかして肉食かい?」
暫く祭りをめぐり、丁度休息場所を探していた瑞樹に男の声が飛び込んだ。
辺りを見渡せば、椅子と机がある。風景も自然のモニュメントが広がっていて観賞に丁度良いし、人も空いてのんびりできそうだ。
聞いていた花の加工店も近場にあり、休むには丁度良い。
「何かお勧めはあるだろうか。酒もあれば一緒に頼むよ」
「まいどまいど! それじゃあ何に、しよう、か、ん……?」
瑞樹の顔を見た瞬間、店主であろう男は目を丸めて――叫ぶ。
「お勧めは……全部だ! 救世主の冒険者様には全商品の小さな食べ切りサイズをおまけしてやるから、気に入ったらまた全部食っていってくれぇ!」
「ぜ、全部って……!」
そうして、瑞樹の座る机の上は一人で食べるにしては豪勢な程の露店の食べ物が並ぶ。
出された酒も、料理もどれもが絶品で、瑞樹はその味に舌鼓みを打ちながらのんびり祭りを楽しむのだった。
大成功
🔵🔵🔵
穂村・了
SPD
町に平和が訪れたようだね
俺も(休み返上で)頑張った甲斐があったと言うものだよ
さて、平和な世界にヒーローは要らない
君達の平和が永く続く事を遠く空の下から祈っているよ
(謎のヒーローは空の向こうへと去っていく)
あ、どうもどうも初めまして!私、○×商社の営業、穂村と申します!
いやぁ、盛大なお祭りになりましたね町長さん!
私もずっとこのお祭りに来るのを楽しみにしておりまして、えぇ、はい!
我が社と致しましてもこの皆が笑顔になれるお祭りを是非!世界中の皆様にお報せしたいと切に願って居る所でありまして、えぇ、はい!
こうして手に取るだけで鮮やかに色を変え……る?【仕事運:超ブラック】
社畜に休息の二文字は無い
穂村・了(スーパーサイキック社畜ヒーロー・f23964)がアムニスへと訪れれば、黄色い歓声が了の事を出迎え、その姿にすぐに人々に囲まれた。
「アムニスを救って下さった冒険者様! ありがとうございます!」
「かっこいい!」
「さっき空飛んでましたよね? 翼もないのにどうやって……!?」
「お顔もっと見せて!」
わやわやと集まる人々にまあまあと手で制し、ヒーロースマイルを携える了。
「……町に平和が訪れたようだね、俺も(休み返上で)頑張った甲斐があったと言うものだよ」
おぉ、と了の一言一句に感動し湧きたつ町人、そこには一般の者もいれば依頼を受けてなお拠点に攻め入る事が出来なかった冒険者達も居る。そんな彼等から渇望の眼差しを了が受けるのは当然の事だった。
「すっげぇ……町の……いや、世界のヒーローの貫禄を感じるぜ……」
「是非俺と一緒に酒を酌み交わそう! 貴方の話が聞きたい!」
「お前!ずりぃぞ! なあヒーロー! 俺と相性占いしてくれよ!」
スーパーヒーローにに詰め寄る人々をまあまあと再度手で制す。そして首を横に振るとその願いは聞けないと零し、薄く笑みを浮かべて。
「さて、平和な世界にヒーローは要らない。……君達の平和が永く続く事を遠く空の下から祈っているよ」
最後に人々を一瞥し、マントをはためかせて飛び立っていく。
遠く遠くへと飛び立つヒーローへ民衆の手は届かず、瞬きをすればもう姿は消えた。人々はざわめき、静止の声を掛ける。
「待ってくれよ! そんなぁ、行かないでくれ!」
「酒呑もうよ!」
「相性占い――!」
願う声届かず、スーパーヒーローは空の彼方にきらりと消えた。
●
「ふむふむ、滞りなく祭りは進行しており、皆笑顔、祭りは大盛況といったところか」
手を後ろへ回し、満足気に町を闊歩するのはアムニスの町長だ。
行き交う人々が楽しく祭りを楽しめる事が出来るのも彗星の如く現れた冒険者達のおかげだ。
町長は、街の誇りである祭りの空気に気分は高揚し、少し自身も羽目を外したい、そんな気分になってた。
そんな町長の目の前に現れたのは――スーツをピシリと着こなした了の姿。
不健康な顔立ちに携えた眼光の鋭さ。町長は、んん? と小さく声を漏らして足を止めた。
了は町長に歩み寄ると表情を温和に変え――頭をぺこりと下げる。
「あ、どうもどうも初めまして! 私、〇×商社の営業、穂村と申します! いやぁ、盛大なお祭りになりましたね町長さん!」
「〇×商社……?」
そんな場所は聞いた事がないと眉を潜めるが、この世界は町長が知るよりも広く、知らない国もある。
きっと遠路はるばる祭りを楽しみにきてくれたどこかの商店の方なのだろうと納得し、町長は気を許すように口端を上げて微笑んだ。
丁寧に名前まで名乗ってくれたのだ、自身も親しみを持って接するべきだ。
「どこかで商人をやっているお方……なのだな? 私はアムニスの町長のガーナと申します。祭りは、楽しんでくれますかな」
誇らしく胸を張り、笑みを浮かべながら訪ねる町長に、そりゃあもうと了は同じように笑みを浮かべて返答する。
「私もずっとこのお祭りに来るのを楽しみにしておりまして、えぇ、はい!」
了の人を引き付ける物腰とトーク術に気を良くした町長は既に了の人柄に惹かれていた。
町長はパーソナルスペースまで入り込み、肩をぽんと気安く叩く。
「そうかそうか、期待に沿えたようで嬉しい限りだ、ははは!」
「えぇ、本当に想像以上ですねぇアムニスのお祭りは! 我が社と致しましてもこの皆が笑顔になれるお祭りを是非! 世界中の皆様にお報せしたいと切に願って居る所でありまして、えぇ、はい!」
了は町中に咲いた精霊花を一瞥し、近くの花壇へと近寄っていく。精霊花はどこの花壇から摘んでも構わないという話だったのだ。
行き交う人々も足を止めては花壇の精霊花を摘んでいる。今、隣のカップルめいた二人は相性占いをしているのか、やたら身体を密着させいちゃいちゃしながら花を選び、了の傍をかけていった子供は何を願ったのだろうか、水色になった花を握りしめている。
紅に、群青に、山吹色に、手に取るだけで色を変えるなんてなんと面白い花なのだろう。
――町長はこちらを見ている。どうやら自慢のお祭りを、精霊花の占いを俺にも楽しんで貰いたいといった眼差しだ。
ならば期待に応えよう。営業マンらしく、仕事運でも。
「本当に凄い花ですね、精霊花! こうして手に取るだけで鮮やかに色を変え……る?」
ぷちりと摘んだ精霊花。みるみるうちにその白い花弁は――漆黒。暗黒。一点も濁りがない黒
(「超ブラック!!?」)
――思わず、顔が引きつった。
自然界までブラックを、社畜を突き付けられるとは何と無情な事なのか!
「おぉ! 黒! 黒何て珍しいな! 君本当に気に入ったよ! 何を占ったんだい?」
「し、仕事運……です……はい」
「そうかそうか! 黒はいいんだ。赤字より黒字! 仕事が休めない程に舞い込んで、慌ただしくも嬉しい悲鳴の日々になるって事なんだ!」
「いいですねぇ、それ……ははは」
休めない程に仕事が舞い込む!? いやそれは、今回みたいにまた休日出勤が重なるフラグではないのか――!?
「私はねぇ、了君を気に入ったよ、ほら、ちょっとばかし一緒に飲もうじゃないか、この町の酒はうまいぞ! 全種飲んでくと良い」
(「酒の接待!?」)
「それから町のすぐ外にねぇ、新しい名所、GOルック場があるんだ。是非とも君にもそれも堪能してもらいたい! 鉄の玉を鉄で打って穴に入れるスポーツなんだけどね、中々あれは楽しいぞぉ!」
(「こんなところでゴルフ接待!?」)
肩を組まれ、了は更に表情を引きつらせる。この町長、酒に既に酔ってるな?
「さあさあ! 君の話もたっぷり聞きたいからね! 朝まで語り明かそうじゃないか!」
「それは……こちらとしてもこ、光栄ですねぇ……ははは」
ヒーローの仕事が終われども、社畜には休息の二文字はなく。
了は新たな戦いへと駆り出されていったのだった。
大成功
🔵🔵🔵
十文字・武
WIZ
時は来た!
町は盛大な祭りに華やぎ舞台は上々
さぁ、今こそあの(大して面識も無い)優しげなおねーさまタイプの猟兵、リドリー・ジーンをお祭りデートに誘うのだ!
一緒に食べ歩きであ~ん♪して貰ったり!精霊花を一緒に摘んで相性占いなんかもしちゃったりなんかするのだ!
やってやるぜー!
が
え?あー敵がこうガー!って来たらオレがこうズバー!ってやって(井戸端奥様軍団に囲まれ)
いや、オレ未成年だから!飲めないっす!駄目っすよ!(酔っ払いに絡まれ)
だから精霊花饅頭も精霊花素麺もいらねぇって!はーなーせー!(商魂逞しい商人に捕まって)
1章より積み立てた負けフラグは高いのだ
うぅ、りどりーさ~ん……(ばたんきゅ~)
町は盛大な祭りに華やぎ舞台は上々。
行き交う人々の笑顔、幸せに満ち溢れた笑い声。
そんな人々の群れが行き交うメインロードを十文字・武(カラバ侯爵領第一騎士【悪喰魔狼】・f23333)は一つにまとめた長い髪をなびかせ、肩で風を切るように闊歩する。
そう――時は来た!
(「さぁ、今こそあの(大して面識も無い)優しげなおねーさまタイプの猟兵、リドリー・ジーンをお祭りデートに誘うのだ!」)
大して面識はないとはいっても武は何度か(依頼に)いってらっしゃい。(依頼から)お帰りなさい。程度の会話は交わしているのだ。声をかけても全く問題ないであろうと、武は軽い足取りでアムニスを散策していく。
――数分後、彼は多くの注目集める事になるのだが……
「(一緒に食べ歩きであ~ん♪ して貰ったり! 精霊花を一緒に摘んで相性占いなんかもしちゃったりなんかするのだ!)」
この時の武は、まさかそんな事になろうとは思いもしていないのだ――
●
「え? あー、敵がこうガー! って来たらオレがこうズバー! ってやって……」
「まあ凄い! それからどうなったの!?」
「かっくいー! おばちゃんもっと貴方の話が聞きたいわぁ!」
「好きな食べ物は? 冒険者歴何年? 何処住み? アレルギーある? もっと武ちゃんの個人情報知りたいわ!」
「あ? ああ!? えぇっとだな……これは――そんなことなんで……」
うららかな祭りの昼下がりに――井戸端会議をしていた奥様に"凄腕冒険者"である武はがっちり捕まり囲まれていた。
(「いやいやこの集団、話を少し聞きたいって……何十分拘束するつもりなんだ!? これ全然離すつもりがねぇぞ!」)
既にかれこれ一時間は経過した。――これでは埒が明かないと、その身を何とか翻し――
「そんじゃあ続きはまた今度ってことで!」
声を張り上げ爽やか笑顔で手を振れども。
「そんなぁ! まだ話ききたい!」
「今日祭りに来れなかった奥さんに自慢したいの!」
「個人情報教えて!」
奥様達は、武を離さない。がっちりと周りを囲み、一歩も動けないようにフォーメーションを固めている。それは刹那、迅速の域――中々の手練れ。
「あぁ……オレ急いでて……」
「あ?――こんなべっぴんさん達はべらせれるのにどこいく?」
そしてどこから現れたのか真打ち登場。
武の背後からのっそりと現れた男性は、筋肉隆々、スキンヘッドの眼帯、無精ひげ、身長――二メートル近いか? 熊を指で殺せそうなガタイの良い――
「うぅぃ~ひっく!」
――酔っ払い。
(「げっ! 酒くせぇ……また面倒そうなのが増えた!?」)
男はずいずいと武に近寄り、巨大グラスを頬に押し付ける。
「兄ちゃん酒飲みなぁ、俺のおごりだぜぇ? 有難く思えよぉ」
「い、いや、オレ未成年だから! 飲めないっす! 駄目っすよ!」
それを手で押し返せば眼帯男の眉が潜み、凶悪的な圧をかけられる。……厄介な酔っ払いだ。
「あぁん!? 未成年~~!? ウソつきやがれ! 俺と同い年くらいの面してんじゃねぇか!」
(「いやいやどう考えても四十近いだろこの酔っ払い! オレがそんな年齢に見えてたまるかよ……!」)
「まぁケンちゃん、冒険者さんは十八歳よ、確かに二十一歳のあなたと歳は近いけど、お酒は飲めないの。残念ね」
(「二十一は嘘だろ!?」)
この風貌で二十一歳とは詐欺めいてるが……見た目が四十に見えるとか、失礼な事をうっかり口を滑らせなかったのは正解だ。滑らせたものなら更に面倒臭く絡まれる事だったろうに。
……さて、今、武にチャンスが訪れた。
今度は酒癖の悪いケンちゃんを囲んで団地話を始めた奥様方。注意が武から逸れている。逃げるならば、今だ!
武は囲まれたサークルからそろりそろりと抜けるように、息を殺しながらゆっくり後退する。気付かれないように、足を忍ばせて――だが
「あぁ冒険者様ーー! 精霊花饅頭どうですか!?」
「おぉ冒険者様ーー!! 精霊花素麺の方がいいですよね!!」
(「くそっ……! また何か変な奴らに絡まれた!?」)
今度は商品を抱えた二人の商人が、新たに武の前に立ちふさがった!
「なぁーにおう!? 冒険者様は饅頭が欲しいといっただろ!? 心の中で!」
「はぁ!? 素麺をくれって注文したそうな顔してるのに何言ってんだあんた! それだから奥さんに逃げられるんだぞ!」
「商売に関係ない話を持ち出すな! 〇×▽×〇〇!!!」
「あぁぁぁぁん!!? ふざけんなお前の×◎××◇▽!!!!」
そうして突如目の前でバトルしだす目の前の露天商の罵倒祭り。あまりにも言葉が汚すぎて聞き取る事も困難だ。
バチバチ目から火花を散らす二人の言い争い、武が巻き込まれたのは不運以外何者でもない。
「いや……どっちもオレは遠慮しておこうかと……」
「まあまあ、食べればきっと十箱くらい欲しくなるから! お願い! 食べて! 素麺よりうまいから! うまいって言って!」
「えぇいお前は邪魔だ! 冒険者様! 素麺食べよ素麺! 饅頭よりもずっといいから、腹持ちするよ! 後ちょっと安い!」
ヒートアップした商人はがっしがっしと武の腕をつかんで引っ張り合い、鼓膜破れんばかりに罵倒し合う。
もはや何を言っているのか理解できない程にきったない言葉の嵐に、武の頭はおかしくなりそうだった!
「だぁぁ! だから! 精霊花饅頭も精霊麺もいらねぇって! はーなーせー!」
――そう騒ぎが起きれば
「ちょっとちょっと! 冒険者さん困ってるじゃない! 離しなさいよ!」
――団地話大好き奥様方が声を聞きつけやってきて。
「アルコール弱いやつもってきたから一緒に飲もうや、ひっく」
――酔っ払いがふらふら千鳥足で後を追い。
「壺買って」
――祭りの雰囲気に乗じて高額な壺を売りつける詐欺野郎もついてきた。
いつの間にやら、武の周辺にはなんだなんだと多くの人だかり。
集団で囲まれれば容易に逃げる事は出来ないが、それでも何とかここから出れないかとルートを探れば――
「あれは……武君?」
人だかりのその向こう、リドリーが武の存在に気づき、足を止めた姿が目に入る。確実に今、目が合ったのだ!
だが――
(「凄い、もうあんなに街の皆と打ち解けるなんて……人を寄せ付けるオーラがあるものね。楽しんでいるようで何よりだわ、現地の人との交流を邪魔しちゃ悪いわね――って顔してる気がする!?」)
一つ微笑み、手をひらりと振って。
踵を返し、その背中が遠のいていく。
「うぅ、りどりーさ~ん……」
武の積み立ててきた負けフラグが猛威を振るう。
ばたんと武が倒れるその時まで、周りの人々の勢いは留まる事が無かったのだ。
――そうして、数時間後。クールダウンした商人二人が武を困らせた詫びにと、大量の精霊花饅頭や素麺を箱積みにして無償で武に贈る。
このお土産に、長靴猫の国の愉快な仲間が喜んでくれれば武もほんの少し救われる。の、かもしれない……?
大成功
🔵🔵🔵
小宮・あき
弟のシェーラさん(f00296)と参加。
折角のお祭りですものね。一緒に巡りましょう。
◆花占い
私が占うのは仕事運。ホテルの今後でしょうか。
私、これでもホテル経営者でして(自旅団)。
あら、シェーラさんも仕事運?
◆花はオブジェに
折角なので飾っていただきましょう。
ふふ、占いの結果を皆で飾る…これはオミクジというのよ、たしか!
(日本文化を知らない日系人。どこか抜けた知識をエヘンと自慢そうに)
◆街を散歩
花を飾った後、2人で街を見て回りましょう。
花で彩られた街は、きっとどこを見ても綺麗なのでしょうね。
美味しい食べ物、ホテルで参考になりそうな装飾は無いかしら?
花をあしらった(モチーフにした)デザートとか!
シェーラ・ミレディ
姉さん(小宮あき・f03848)に誘われて参加だ。
祭りだと言うし、客は多い方が良いだろう?
◆花占い
僕も仕事運を占ってもらおうか。
金回りが悪くなると、この身体が維持できないからなぁ。
姉とは別の花を摘むが……さて、結果はどうだろう?(お任せ)
◆花はオブジェに
姉の言葉に、
「あちらでは新年にひくものらしいぞ?」
と返す。とはいえ、僕も詳しくは知らないのだが。
次はちゃんと御神籤を引きに行こうか、とか言っておく。
◆街を散歩
姉の誘いに乗って散策。
花の可憐さや香りを楽しみながら、姉の興味を引きそうなものを探す。
「ふぅん、花びらを砂糖漬けにしたりもするのだなぁ」
次第に自分の趣味で宝飾品を探してしまったり。
――アムニスの花祭りは多くの人で賑わっていた。
風が運ぶのは人々の笑い声や、美味しい露店の食べ物の匂いに、ふわりと漂う精霊花の香り
祭りが始まってどれくらい時間が経ったのだろう、まだまだ人の入りは衰える事がなさそうで。
そんな精霊祭にまた一人、二人と、足を踏み入れる猟兵の影。
「――ね、凄いでしょう!」
小宮・あき(人間の聖者・f03848)が笑顔を向けるのは弟のシェーラ・ミレディ(金と正義と・f00296)だ。
あきに連れられやってきたシェーラは、物珍し気に精霊花へと視線を向ける。
「特異性を持つ花、精霊花か……成程、話には聞いていたし、写真でも見た事があるんだけど」
街のいたる所に飾り、植えられた精霊花。
その配置も洗練されて、華やかだが上品さも感じられる。
「話に聞けば、このお花は枯れる事もないそうよ、本当に不思議な花よね」
「へぇ……どういう生体をしてるんだろう。不思議以外の言葉がないね……」
あきに促されるように、シェーラはまじまじと精霊花を眺める。聞けば摘むと色も変わるというし。
そう、今しがたも、とことこ走ってきた小さな子供がシェーラの隣で精霊花を摘み、色が変わる様子を瞳を輝かせて見ているのだ。
色は薄い紫。一体少年は何を願い、占ったというのだろう。
「――では、私は仕事運を占ってみようかな。……ホテルの今後を」
そう言って、あきは精霊花を選別するように花壇に近寄り、目を配らせる。――精霊花は祭りの間、どこの花壇から摘みとっても良いと町長には聞かされているのだ。
精霊花はどの花も美しいが、よく見れば一つ一つ小さく表情が違う気がして。
「んー……この子にしようかな」
そうして、くっつくように咲いた二輪の片割れに手を掛ければ、同時、隣に居たシェーラは、くっついていたもう片割れへと手を添えて。
はたと、あきとシェーラは顔を見合わせた。
「姉さんはもしかして仕事運?」
「えぇ……あら、シェーラさんも仕事運?」
「金周りが悪くなると、この身体が維持できないからね」
小さく口端を上げ、シェーラはあきに自重気味に微笑みかける。
ミレナリィドールの少年の笑みは、思わず歩いていた通行人を止めてしまう程、美術品のような美しさを携えていた。
●
「はぁ、濃いねぇ」
オブジェの前に立つアムニスの住民――祭りを取り仕切る役員なのだろう――は、あきとシェーラの持ってきた色の変わった精霊花を目にして、開口一番そう言った。
「濃い?」
「確かに、この精霊花、オブジェに飾っている他の物よりも色が濃く付いてるなぁ」
あきの手に持つ精霊花は空の色――鮮やかな露草色に、
対しシェーラの精霊花はまるで海の色、深い紺瑠璃。
オブジェに飾ってある精霊花達は色はついているがどれもグラデーションになっていたり、明らかに自身が持っている物よりも色付きが薄い。
「占いの結果としても良い結果として思っても良いのでしょうか?」
「そうだねぇ、少なくとも俺はこんなに色づく精霊花なんて滅多に見ない」
街でこれだけ濃くつける人間は町長ぐらいだ、と、男は続けては苦笑した。
はっきりと色が出るのは珍しいらしく、鮮やかな精霊花は人の目を惹いた。
「しかし……ここにきたって事は精霊花は置いて行ってくれるのかい?」
「えぇ、折角なので飾って頂きたくて」
「そうかい……こんなに綺麗な精霊花、個人的に欲しいくらいだ」
最後の言葉はボソボソと。その言葉は、リップサービスかともあきは思ったが、名残惜しそうな目線を見る限り、男の言葉は心中の声そのものらしい。
男はオブジェの方へと手を向けて、好きな所にと、二人を促す。
広場中央の花のオブジェは、既に沢山の人が花を飾っており、祭りが始まった頃の骨組みのオブジェの事を思えば、とても豪華なオブジェとなっていた。
挿す場所をどこにしようかと相談する姉弟の横を、今も何人もの人が精霊花を飾りにやってきている。
「一番目立つ所にする?」
「上の方?」
二人はオブジェの色バランスを見つつ、吟味しながら花をオブジェへと挿していく。
他より色が濃い分、適当に置けば色が浮いてしまいそうで。
それは二人の美的感覚的にもストップがかかるというものだ。
――そうして、二人が納得の行く場所へと花を挿せば、自然と二人は顔を見合わせて頷き合った。
「ふふ、占いの結果を皆で飾る……これはオミクジというのよ、たしか!」
胸を張ってエヘンと自慢そうにあきが言えば、シェーレの言葉の返しはいつも通り落ち着いた声。
「あちらでは新年にひくものらしいぞ?」
「え、そうなの?」
あきの表情がくるりと変わる。胸を張った自身満々な表情とはうってかわり、今はきょとんと、不思議そうな顔をして。
「そうなの、新年にひくもの……知らなかったわ。シェーラさん詳しいのね」
――詳しいと言われて、少しだけ言いよどむ。シェーラもそこまで詳しく知っている訳ではないのだが。
「次はちゃんと御神籤を引きに行こうか」
知らない事はまた現地で、本で、また知識を仕入れたら良いものだ。
「えぇそうね、それじゃあまた"新年"に、一緒に行きましょうね!」
「……そうだな、また一緒に」
お互い、顔を合わせ、小さく笑いあう。
些細な会話から、少しずつ二人の予定が埋まっていく。
二人で出かけるその日を楽しみに、日々を過ごす事が出来るのは何と幸せな事なのだろう。
二人の仕事運は"かなり良い"のだと、花が染まって教えてくれたのだし――これから心配する事はないのかもしれない。
●
「シェーラさん、これ、ホテルで取り入れられないかしら?」
先を歩いていたシェーラを引き留め、あきが指を指す。
「張った水の上に花か、これは色合いが見事だな」
「そう、とても色鮮やかで良い感じかしら」
差された先にあったのは大きなおわん型のガラスに水が張られ、その上に花が浮かされている物。
浮かべられた花は精霊花が主となっているが、精霊花を引き立たせるように精霊花よりも花弁の多い花や小さな花が一緒に並んで浮かんでいる。
「ホテル前の噴水でやれば間延びしてしまうかもしれないけれど、エントランスとかでうまく飾れば涼し気で良さそうよね、水が照明を反射して明るくなりそう」
「季節で色合いを変えれば何度でも来た人は楽しめるかもしれないな」
「そうね! 冬ならいっその事白一色? クリスマスカラーでも綺麗そう、帰ったら色々な組み合わせで試してみたいわ」
あきが口元に指をあてながら考え込む。
休暇とはいえ、祭りとはいえ、ホテルの事を第一に考え取り入れようと頭を働かせる彼女は根っからの商人気質なのだろう。
目に入る装飾やデザート、全てをただ楽しんでいるだけではないのがあきだった。
――実はシェーラは、そんなあきの興味を引きそうなものをずっと探している。
花の刺繍が丁寧に施されたレースのカーテン。パンナコッタにはラズベリーのジャム。そのジャムの色と合わせた花が添えられたデザート。
シェーラが見つけた商品をあきに促せば、嬉しそうに今後の装飾、料理に盛り込もうとこれはどうか、こういうアレンジをしたらどうかと提案する。
露店も、普段から構えている店も、どれもが気を引く物ばかりで――
「ふぅん、花びらを砂糖漬けにしたりもするのだなぁ」
次第に、姉の為に色々な物を探していたはずのシェーラの目が、自身の趣味の物へと気が惹かれていく。
露店で見つけた花びらの瓶詰は、砂糖漬けにされていて食べる事が出来るらしい。
このまま花びらを紅茶に浮かべるだけで優雅な姿を見せてくれそうだ。
入った瓶も模様や形が凝っており、花びらが全て無くなってもインテリアとして使えそうで。
(「ん? こっちの露店は宝飾品を売ってるのか」)
さらに辺りを見渡せば、シェーラを引き付けるのは宝飾の店。
輝くルースに引き寄せられるように、シェーラは店前へと歩を進ませる。
「おやおや、美形なお客人だね、気になるかい? ここに並べているもの以外もあるから見て行ってくれよ」
シェーラの視線に気づいた商人が、にまりと笑って自慢の子達だとブローチやピアスを台の下から取り出して見せる。
「これは……中々デザインの幅が広いな」
一粒のシンプルなもの、メレダイヤをふんだんに使ったゴージャスな物。カジュアルからアンティーク。商人が言うには、それらは同じ物が二つとない一点物だと誇らしげだ。
「どうだい? 綺麗だろう? 出来合いもいいけどね、こっちからルースを選んでくれればワイヤーで巻いてアクセサリーにでもしてやるよ。時間があるなら体験もできるけど、どうだい? 興味はあるかい? 今日は祭りだからね、お題はルース代だけでいい。自分の手で作るのも中々愛着がついていいもんだよ」
お兄さんは手先が器用そうだから、と、にまりと笑う商人は、返事を待たずに道具を取り出し更に台の上へと並べていく。
どうしたものかと返答に困るシェーラに後ろから掛けられたのは、聞きなれた声だった。
「シェーラさん、見つけた」
――先ほどまでずっと一緒にいた姉の声。
「姉さん」
「どこに行ったのかと思ったらこんな所に居たのね。私てっきりシェーラさんがずっとついてきてるものだと思って」
少しだけ、居ない事に気づかなくて見失ったとあきは恥ずかしそうに笑う。
「それは、申し訳ないな……つい気になって足を止めてしまった」
「どうして謝るの? 私もシェーラさんの好きな物、一緒に見たいと思っているのよ――私も見せて頂いてもいいでしょうか」
そう言って、シェーラが見ていた宝飾品に目を落とし、あきはうぅんと悩む。
「すごい、どれも綺麗。全部シェーラさんに似合いそうだわ」
「おぉ、新しい客人さん、私もそう思うよ。この方美人だからねぇ。えぇっと、ご友人かね?」
「そうでしょう、ふふ――でも友人ではなく、彼、私の弟なんですよ」
「成程おとうと……弟? ははぁ――!? そうだったのか! えらく美人な姉弟だなぁ!?」
エヘンと誇らしげに胸を張るあきと、二人の顔を見比べる商人。シェーラはまるで宝飾のような麗しい佇まいがあり、あきはまるで花のような美しさを持っている。――姉弟と言われれば――成程――と、納得してしまうだろう。
そうしてあきはシェーラに向き直ると、また花のような笑顔で、ふわりと笑った。
「シェーラさん。シェーラさんも遠慮なく、もっと好きな所に行って楽しんでくれなきゃ、ね」
折角、二人で楽しむ為に祭りに来たのだからと。
その笑顔につられるように、シェーラもまた、顔を少し綻ばせた。
――それならば少しだけ、二人でゆっくり宝飾品を見て回ろうとあきを誘う。
そうして疲れたら、先ほど目に入ってメニューが気になったカフェや、露店の食べ物を食べてのんびり食事に舌鼓を打てばいい。
ホテルの事も考えながら、味を楽しみ、精霊祭を楽しもう。
精霊花は咲く。夜が来て、次の朝が来るまで。
祭りは花がまた蕾になるまで終わらない。
――そう、二人の時間は、まだまだ沢山あるのだ
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵