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花に抱かれて安らかに

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●花咲く研究所
「な、なにこれ?」
 美しい花畑や豊かな森が地平まで広がる。そんな天国のように平和な光景の中、一人の少女が不安げに周りを見回しながら歩いている。
 少女の戸惑いも無理はない。彼女は望んでこの場所に来たのではなく、この土地を治める吸血鬼への生贄として連れて来られたのだ。
 少女は孤児だった。ダークセイヴァーではさして珍しい境遇ではないが、この過酷な世界で孤児が生き残れる可能性は極めて低い。ゆえに、どうせ死ぬならと、村の人々は彼女を初めとした孤児たちを吸血鬼の生贄に捧げた。
 理不尽だと思えど、少女たちに抗う術はなかった。どんな残酷な殺され方をするのだろう。ここに連れてこられるまでの道中、ずっとそのことばかり考えていた。しかし、蓋を開けてみれば、見たこともない長閑な場所。彼女が戸惑うのも無理はない。
「研究所みたいな建物に入った……はずだよね?」
 少なくとも建物の外観はそうだった。しかし、一歩中に入れば、見渡す限りの自然が広がっていた。戸惑いながらもしばらく歩いてみたが、吸血鬼はおろかその使い魔すら姿を現さない。
「吸血鬼がいるなんて嘘だったのかな?それなら、みんなを探して帰らなきゃ」
 一緒に連れてこられたはずの孤児の仲間。いつの間にかはぐれ、姿が見えなくなってしまっていた。
 出口も仲間も見つからない。自分以外の生物で見つけられたのは、蝶などの昆虫程度だ。心地のいい空間だったが、さすがに歩き疲れたため、少女は野原に身を横たえ、花に顔をうずめる。
 ――そして、花に埋もれていた子どもの死体と目が合った。
「(そうか、みんな、お花になってたんだね。どおりで見つからないはずだわ)」
 平常なら悲鳴をあげるところだが、不思議と少女の中からそのような危機感は失われていた。瑞々しい花の香りに誘われ、うつらうつらと眠くなる。
 少女の耳や眼球から新しい花が咲く。だが、少女に苦しむ様子はなく、花に抱かれて眠るように息を引き取った。彼女の身体からは無数の花が生え、その姿を覆い隠してしまう。
 やがて、少女は花畑の一部となった。

●トーカの依頼
「ダークセイヴァーで不可思議な研究所が発見されましたのん♪ 吸血鬼が周囲の村から生贄を集めて、人間を植物化させる研究を行っているみたいねん」
 グリモアベースに集まった猟兵たちの前で、トーカ・ピリカイペタム(雪原に咲く花・f04697)が剣山に花を挿しながら話を切り出した。
 植物の話題なので生け花なのはわかるが、なぜそれを今この場でやる必要があるのか。その答えは誰もわからない。たぶん、トーカも特に考えてない。ただのノリだ。
 訓練された猟兵は動じない。変人が多い猟兵の奇行一つ一つにツッコんでいたら話が進まないことを理解しているからだ。誰もツッコまない状況に、経験の浅い猟兵が戸惑い気味だったが、トーカは無視して話を続ける。
「外観は研究所なんだけど、中は見渡す限りの大自然らしいのねん♪ 広さが合わないから、幻術か異次元空間だと思うわん☆ まず間違いなく、なんらかのユーベルコードが使われてるわん」
 うんうんと唸って生け花を続けながら、トーカはプロジェクタを使って研究所の外観を映し出す。彼女の言うとおり、施設として見ればかなり大きいが、広大な花畑が入るほどとは思えない。
「でも、奇妙なことに吸血鬼の姿を見た人はいないわん★ 生贄を集める際は、使い魔を使って村に告知してるみたいねん♪ 慎重なのか面倒くさがりなのかはわからないけど、正体がわからないのは不気味ねん」
 ダークセイヴァーの世界では、オブリビオンこそが支配者だ。絶対的強者であると自覚しながら、姿を一切見せないというのは少し珍しい。吸血鬼でありながら、生贄の血を一切摂取しない殺し方という点にもその特異性が現れている。
 今回のオブリビオンがどんな特性を持ち、どんなユーベルコードを使うかは出会ってみるまでわからないようだ。
「今回の任務は、その正体不明の吸血鬼を倒してしまうことねん☆ 表立っては動かないタイプみたいだから、まずは嫌がらせしちゃうのがいいと思うわん」
 具体的にはどうすればいいのかという質問に、トーカは生け花の手を止めて、しばし考えこむ。
「研究施設を破壊したり、生贄の人たちを救出したりなどかしらねん♪ 研究の目的はよくわからないけど、研究をめちゃくちゃにしてやれば、そのうち出てくると思うわん」
 研究施設に連れてこられた生贄は、すぐに殺されるわけではない。研究施設内の自然をしばらく歩き回った後、眠るように息絶えるのだ。死ぬまでの間にタイムラグがあるため、救出することは可能だろう。
 救出した人間に関しては、研究施設の外で待機しているトーカが預かるため、外に逃がした後の心配は不要だ。
 トーカが挙げた手段の他にも、吸血鬼の研究を邪魔できるような手段ならなんでも有効だ。そのあたりは猟兵たちの発想次第だろう。
 最後にトーカは一際大きな花を生け花に添えた後、それまでのおどけた口調を消し、真剣な顔になって猟兵たちに向き合う。
「ダークセイヴァーの世界で孤児が生きるのは難しい。そんな彼らが花に包まれて安らかに死ぬ事は、人によっては救いと捉えられるかもしません。……だけど、私はそうは思いません。先に待つのがどんなに過酷な人生であっても、彼らの生死を決める権利は彼ら自身にあるべきです」
 トーカは床に指をつき、猟兵たちに頭を下げた。
「それは人として当たり前の権利。そんな彼らの尊厳を守れるのはあなたたちだけなんです。どうか、彼らを救ってあげてください」
 彼女の言葉に共感したかどうかはわからない。価値観は人それぞれだからだ。
 だが、猟兵はオブリビオンを狩るために存在する。動機は様々だが、それだけは変わらない事実だ。ゆえに、彼らは頷きでもって返す。その返答に、トーカは花のような笑顔を浮かべた。
「……ところで、生け花って初めてしたのだけど、私の作品どう思うん?」
 完成した作品を指差すトーカに対し、鼻を摘まんでいた猟兵たちが深い頷きを返してから答える。
「なぜラフレシアを生け花に使った!?」
「大きければ目立っていいと思ったのだけどねん……」
 彼女の美的感覚は普通からずれていたようだ。


くろまりも
 あけましておめでとうございます!
 本シナリオを担当させていただくくろまりもです。
 新年初のシナリオはダークセイヴァーから送らせていただきます。

 まだまだ新人マスターですが、みなさまに楽しんでいただけるように頑張ろうと思いますので、よろしくお願いいたします。
 マスターとしての傾向は、マスターの紹介文をご覧ください。

 今回のシナリオは冒険→集団戦→ボス戦の流れになっています。
 1章の冒険パートでは吸血鬼の研究に対する嫌がらせをして、姿を現さない吸血鬼を引きずり出してみてください。
 POW・SPD・WIZそれぞれの手段はもちろん、ユーベルコードを使った手段ももちろん歓迎です。
 みなさんの自由な発想をお待ちしております。

 また、3章のリプレイに関しましては、ボス戦に加えてエンディングも加筆いたします。
 プレイングの文字数に余裕がありましたら、エンディングでやりたいことも書いていただければ、可能な限り採用させていただきます。

 それでは、みなさんのプレイングをお待ちしております!
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第1章 冒険 『私の為に花は咲く』

POW   :    研究施設の破壊など

SPD   :    囚われた人をこっそり救出するなど

WIZ   :    侵入ルート、避難経路の割り出しなど

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

星噛・式
宿木禅と行動
SPDで対応

ミラージュを発動させ結晶の分身を作り禅、式、分身の3人で一定範囲内毎に子供を救出していく

「こんな花畑に吸血鬼とは似合わないもんだな」

周りには綺麗な花々が咲いておりいい香りもしており吸血鬼とは遠く離れたイメージである

泣いている子や花と遊んでいる子など多くの子供がいた

彼女は子供は好きだが口下手で子供を説得することや泣き止ませることができない為、主に式が子供を発見、禅が説得、式と分身が外に連れ出すといった役割分担をして救っていく

「子供はなぁ、好きだが何考えてるかわからんし俺の顔見れば泣くしで苦手だねぇ」

子供を救出しながら真剣に自分は顔が怖いのか考える


宿木・禅
星噛式と行動

「子供を相手にすると孫相手にしてるみたいで穏やかな気持ちになれるのぉ」

救出というけして穏やかな依頼ではないにも関わらず子供を相手にすることで殺気立つことなく依頼をこなしていた

「おぉ泣くでない。じいじがあるぞ」

完全に孫と祖父の光景であるがその後ろでは子供を探す為式が走り回っていた

「あやつも少しは子供のように無邪気なところがあればいいがのぉ」

式と子供達を照らし合わせ呟くが彼女に聞こえていたようで罵声が飛んでくる

「すまんすまん。さぁ、子供達やここは危険だからあのお姉ちゃんと外においき」

優しく諭すことで子供は落ち着き式に抱えられ外に出ていく

「さてさて、あと何人いることやら」



 荒廃した土地の真ん中に建つ真っ白な建物。絵に描いたような研究所と周囲の光景とのちぐはぐ感が、何と表現していいのかわからない空気を醸し出している。
 それだけでも異様な雰囲気であったが、研究所の中はさらに異世界だ。一歩扉の中に踏み入れば、そこは蝶が飛び、花が咲き乱れる大自然。振り返れば、自分たちが入ってきた扉は消えており、地平の彼方まで花々の景色が続いていた。

「こんな花畑に吸血鬼とは似合わないもんだな」
 星噛・式(赤水晶・f10488)が思わずぽつりと呟いた言葉は、その場にいた猟兵たちの誰もが少なからず思っていたことだろう。綺麗な花々が咲き、心地よい香りに包まれたこの空間は、吸血鬼とは遠く離れたイメージだ。事前の情報がなければ、ここが吸血鬼の居城だとは信じられなかったかもしれない。
「扉が消えちまったけど、どうなってるんだ?」
「幻術じゃな。よくできておるが、ここにきちんと扉がある。限りなく広がっているように見えて、実際は外観の研究所と同じ広さしかないじゃろう」
 共に来ていた宿木・禅(断斬人・f10500)が消えた扉に手を伸ばすと、そこには確かに扉の硬い感触があった。ヤドリガミである彼は本来目を持たないため、視覚に対する幻惑には強かった。
「へぇ、よくできてる。これじゃあ、子どもが脱出できないのも無理はないな」
 ユーベルコードでの戦闘に慣れている猟兵ですら騙されそうになったのだ。この地を支配しているのは、幻術を得意とするオブリビオンなのかもしれない。
「だけど、人を惑わすのは吸血鬼の専売特許じゃない」
 赤く輝く式の身体から陽炎が立ち上がったかと思うと、彼女と瓜二つの赤い影が現れる。忍びである式が作り出した分身だ。この研究所ほど大規模な術ではないが、その精度は極めて高く、どちらが本体かを見破るのは難しいだろう。
「そんじゃ、先に行くぜ」
 仲間たちに一声かけて、式は分身とともに走り出す。彼女は分身を使って人手を増やし、子どもたちを探し出して救出する手段を取った。
 目に見える広い野原や森が本物なら隅々まで探すのは不可能だが、それが幻術であるというなら話は別だ。実際の広さが外から見た研究所と変わらないなら範囲は限られているし、子どもたちもそう遠くに行っていないはずだ。
 式の思惑通り、さほど時間をかけずに一人の少年を発見する。少年は式には気づいておらず、ぼうっとした様子で花と遊んでいた。
「一人目、発見。この調子なら、そんなに長くはかからなそうだな」
 見つけた子どもをひょいと抱えると、式は次の子どもを探しに行こうと再び歩きだす。
 だが、その瞬間、少年は夢から覚めたように驚いた様子になり、式の顔を見て泣き出した。
「げっ!? お、おい、泣き止めよ」
 歩みを止めて、おろおろと困った顔になる式。どう対応すればいいかわからずに戸惑っていると、いつの間に追いついていた禅が、彼女の背後からひょいと顔を出す。
「おぉ、泣くでない。じぃじがおるぞ」
 好々爺といった様子で禅は子どもに微笑みかける。それでもなかなか泣き止まなかったが、彼はそのことに殺気立つことなく、辛抱強くあやし続ける。
 それが功を奏したのだろう。少しずつ落ち着いてきた少年は、まだ目端に涙を貯めながらも泣き止み、禅の服の端をぎゅっと握る。それはまるで祖父と孫のようで、禅は皺だらけの顔をさらにくしゃくしゃにして笑った。
「子供を相手にすると、孫を相手にしてるみたいで、穏やかな気持ちになれるのぉ」
「……俺は子どもは苦手だねぇ。子どもは好きだが何考えてるかわからんし、俺の顔見れば泣くし」
「なんじゃ、おぬし。この子がおぬしの顔を見て驚いたことを拗ねておるのか?」
「拗ねてねえよ!」
 膨れた顔になる式だったが、誰がどう見ても気にしていることは明白だった。その様子を見た少年がおずおずと声をかける。
「ご、ごめんなさい。お姉さんの顔が怖かったからじゃないんです。突然現れたから、吸血鬼かと思って……」
「あぁ、それもそうだのぉ。驚かせて悪かった。謝らなくてもいいよ」
 申し訳なさそうにする少年の頭を禅が撫でる。
 確かに、彼らの立場を考えれば、自分たちのことを吸血鬼かその手下と勘違いしても無理はない。自分の顔が怖かったのではないとわかり、ほっとすると同時に自分の勘違いに顔が赤くなる。
「……次、探してくる!」
 いたたまれなくなった式が、風のように走り去っていく。素直に勘違いを認めればいいものをと、禅はやれやれといった感じで溜息を吐く。
「あやつも少しは、子供のように無邪気なところがあればいいのだがのぉ」
「聞こえてるぞ、禅!」
「ほほっ。すまんすまん。さぁ、ここは危険だから、あのお姉ちゃんと外にお行き」
 禅は子どもを式の分身に預けると、それを見送ってから次の子どもを探しに向かう。
 この調子なら次の子どもも問題なく見つけられそうだが、如何せん幻術が精緻に過ぎるため、見落としがあるかもしれない。敵は未だに姿を現さないとはいえ、気を抜くわけにはいかなさそうだ。
「さてさて、あと何人いることやら」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

幻武・極
ボクも人里で生まれていたら同じ運命を辿っていたのかなぁ?
ううん、ボクはボクだ。
これまで生きてきた人生やこれから歩む道はボク自身のものだ。
さあ、吸血鬼のくだらない研究は阻止するぞ。

研究施設を跡形もなく壊してしまえば、研究なんかできないよね。
羅刹旋風のパワーチャージをして研究施設目掛けて打ち込むよ。
さあ、この調子でどんどん壊していこう。



 猟兵たちが手分けして見つけ出した子どもたちは意外に多く、次々に見つけては外に運び出してという行動を繰り返していた。
 救えずに死んだ子どもも含めれば、どれだけの数になるかわからない。それだけの数の孤児を生み出しているダークセイヴァーという世界に、幻武・極(最高の武術?を追い求める羅刹・f00331)は少し呆れた顔になる。
「ボクも人里で生まれていたら、同じ運命を辿っていたのかなぁ?」
 山奥で生まれ育った羅刹である彼女と彼らを同列で語るのは難しいだろう。だが、まだ年若い極は生贄の子どもたちと年齢が近いため、自分と彼らを重ねずにはいられなかった。
「ううん、ボクはボクだ。これまで生きてきた人生やこれから歩む道はボク自身のものだ。さあ、吸血鬼のくだらない研究は阻止するぞ!」
 両手で頬を打って気持ちを切り替えると、極は幻影の壁に手をつける。
 風景に溶け込んでいるが、確かな硬い感触がそこにある。不思議な感覚ではあるが、実在する壁なら破壊は可能なはずだ。
「研究施設を跡形もなく壊してしまえば、研究なんかできないよね。いくぞっ!」
 気合一拍、その年齢からは想像もできない綺麗な型で、正拳突きを壁に叩きこむ。山奥で研鑽し続けた鉄拳は、まだまだ発展途上である現状であっても、大岩を砕くだけの威力がある。拳と壁がぶつかった瞬間、地震でも起きたかのような重い振動が響き渡る。
 だが――
「むぅ、思ったより硬いな……」
 特殊な材質なのか、ユーベルコードをかけられている影響か、幻影の壁には変化が見られない。コツコツと軽く拳を当てて確かめてみるが、ヒビも入っていないようだ。
 極はそのことを残念に思うこともなく、むしろ楽しそうに笑った。
 肩の調子を見るように、何度も腕を回す。そのていどで拳の威力が大きく上がるわけではないが、魔法に習熟している者なら、彼女が腕を回すごとに拳に魔力が集まってきていることに気づいただろう。
「これはいい修行になりそうだ!ちょっと本気出してみようかな!」
 腕の回転を止めると、極は再び正拳突きの構えを取ると、一つ大きく息を吐いてから再度拳を壁に叩きこむ。
 羅刹旋風。予め武器を振り回しておくことで戦闘力を増強させる、極のユーベルコード。戦闘で使うには隙が大きいが、邪魔が入らない状況での威力は絶大だ。爆発でも起きたかのような衝撃とともに、花畑の風景が掻き消えて壁が破砕する。
 崩れた壁の向こうに広がる荒廃した大地。研究施設の外の風景だ。花畑の幻影はまだ消えていないが、障子に空いた穴のようにぽっかりと外の光景が覗いている。
「よし、成功!さあ、この調子でどんどん壊していこう。……でも、先は長そうだなぁ」
 研究施設はかなり広い。完全に破壊しようと思えば、かなりの時間と労力がかかるだろう。
 だが、それもまた修行だ。そう前向きに考え、極は別の壁を壊すべく、再度正拳突きの構えを取った。

成功 🔵​🔵​🔴​

アルジェロ・ブルート
【SPD】

つかなんで花?あいつらまじ意味分かんねぇな。
まーいーけどよぉ、吸血鬼のモン盗めンならなんでもさァ。

ルート割り出してる奴いればそっから入るし、いねーならテキトーに【第六感】で進むわ。
入ったら即花畑行きなのかね、ふっつーに研究所内に入りてぇんだが。
花をどーするにせよ研究なら資料があんだろ、【盗】んでいきてぇよなぁ。
ま、即花畑ってんなら探索しつつ、生きたガキ見っけたら外に出すとすっか。



 極が次々と壁を破壊していく音をBGMに、甘く見目麗しい外見の青年が花畑の中を歩く。映画の一場面であるかのように絵になる光景だったが、その口から洩れるのは青年の闇を表すような毒のあるものだった。
「つか、なんで花? あいつら、まじ意味分かんねぇな」
 アルジェロ・ブルート( ・f10217)は夜が嫌いだが、昼は好きだ。それで言うなら明るい花畑も嫌いではないが、それを作り出したのが吸血鬼ならば嫌悪しか湧かない。花を蹴散らしながら、第六感頼みで進んでいく。
「まーいーけどよぉ、吸血鬼のモン盗めンならなんでもさァ」
 ここが研究施設なら、研究資料を盗むことが吸血鬼に対する一番の嫌がらせになる。そう思って花畑を探索しているのだが、一向にそれらしい物にも場所にも辿り着かない。
「……おっかしいな。幻術のせいか?全然見つけられる気がしねえ」
 研究施設は広く、全体を幻術で覆いつくされているのだから、直感だけで簡単に見つけられないのは当たり前だ。だが、アルジェロはそれだけではない違和感を抱く。
 彼は吸血鬼のことを心の底から憎んでおり、連中を殺すことこそが自分の生きる意味だと考えている。……そんなアルジェロだからこそ、吸血鬼のことを誰よりもよく理解し、皮肉にも連中の考えを想像できた。
「……ここは研究施設じゃねえな。ガキどもも生贄のつもりで集めたわけじゃねえ」
 建物の外観から誰もが研究施設と思い込んでいたが、少し違う気がする。いや、研究は行われているのかもしれないが、研究の為に子どもたちを集めているわけではない。手段と目的が逆の気がするのだ。
「研究が目的でガキどもを殺してるんじゃない。ガキどもを救済するために、安らかに殺す方法の研究を行っているんだ」
 ダークセイヴァーの世界で孤児が生きるのは難しい。苦しんで生きるくらいなら、花に抱かれて安らかに死なせてあげよう。
 そんな歪んだ『優しさ』を、アルジェロは花畑から感じた。
「……くっだらねえ。何様のつもりだよ」
 結局のところ、ここを治める吸血鬼は、孤児たちを見下しているのだ。かつて自分を欠陥品呼ばわりした吸血鬼と同じように。
 それを理解したアルジェロの瞳に、怒りの炎が宿る。吸血鬼もピンキリだが、この花園の主は、自分が最も嫌悪するタイプの敵だ。
「ちっ、研究をおまけていどにしか考えてないなら、研究資料を探しても無駄か」
 研究資料を探すのを諦めたアルジェロは、まだ生きている子どもの探索に目的を切り替える。確かな殺意の炎を胸に隠したまま。

成功 🔵​🔵​🔴​

セラフィール・キュベルト
生贄にされようとしている方々を救出したいと思います。
花が咲いている辺りなどを探して、今にも力尽きてしまいそうな方がいれば、その方を優先的にお助けしたいところ。

施設に入った際、入口の位置に目印として旗を立てておきます。
事前に持ち込んだ保存食をお分けしつつ、生まれながらの光を使用の上にて、救出に来たことを告げ、心身を少しでも癒せるよう試みます。
「どうか諦めず、もう暫しのご辛抱を…私が、帰る道行を開いてみせますゆえ」

可能な限り多くの方を救助の上で、入口へ送って参ります。
彼らを送り出す際に、この地を支配するヴァンパイアを必ず倒す、と宣言の上にて。



 施設の入り口に目印として立てられた旗が翻る。その旗を目指して、猟兵たちが救い出した生贄の子どもたちが続々と集められていた。
 セラフィール・キュベルト(オラトリオの聖者・f00816)は、そこで子どもたちの治療をしつつ、あらかじめ持ち込んでいた保存食を分け与えていた。
「どうか諦めず、もう暫しのご辛抱を……私が、帰る道行を開いてみせますゆえ」
 子どもたちはいずれも幼く、猟兵たちが救いに来たと告げても不安げな表情でいた。だが、セラフィールが聖女のような慈愛に満ちた笑みを向けて慰めると、少し安心した様子に変わる。
 見目麗しいオラトリオの中でも特に整った容姿を持つ彼女……ではなく、彼の存在はただいるだけで人々に安心感を与える。花畑の中で子どもたちに微笑みかけるその様は、まるで美しい宗教画のような荘厳さがある。
「て、天使さま! お願いです! 弟たちを助けてください!」
 そんなセラフィールに一人の少女が駆け寄ってきた。その両腕には大きな花束が二つ抱えられている。……否、それは全身から花を生やした二人の赤ん坊だった。
 赤ん坊たちの息はすでになく、見たところもう手遅れだ。それを察したセラフィールの表情が少し曇るが、すぐに少女を不安にさせないよう笑顔に戻し、彼女から二つの花の塊を受け取る。
『私の力の及ぶ限り……この子たちに、救いと癒しを』
 セラフィールから発せられた温かな光が、花の塊と化した二人の赤子を包み込む。途端、どっと疲れが押し寄せ、セラフィールは倒れそうになるが、額に玉の汗を浮かべながらもユーベルコードの発動を止めない。
 少女が手を合わせて祈る。セラフィールも両腕が空いていたのなら、同じことをしていただろう。聖なる光に包まれた赤子たちはしかし、一向に目を開ける様子がない。
 やはり、無理なのだろうか?諦めかけたその時――
「おぎゃああああ!! おぎゃああああ!!」
 赤ん坊の泣き声が響き渡る。花がボロボロと枯れ落ちた下から現れた赤ん坊が、たったいま生まれたかのような元気な泣き声を上げていた。
「あぁ、よかった! ありが、とう、ございます……」
 少女の瞳にも涙があふれ、言葉を詰まらせながら、セラフィールから赤ん坊を受け取る。腕に感じるそれは花の集合体ではなく、一個の生命そのものだった。
 感謝してもしきれない。その思いから少女はセラフィールに目を向けたが、彼は悲しそうな顔をして首を横に振った。
 少女ははっとして、もう一人の赤ん坊を見る。そちらの花は枯れることなく、赤ん坊の身体にびっしりと根付いたままだ。少女はセラフィールの表情から、この子はもうこの世にいないということを察する。
 先刻とは違う涙が、少女の頬を伝う。花に包まれた赤子の死体を抱きしめ、尽きることのない涙を流す。
 セラフィールはそんな少女と赤ん坊を抱きしめた。
「……救えなくてごめんなさい。この地を支配するヴァンパイアは――この子の仇は必ず打ちます。だから、あなたは強く生きて。例えどんなに辛くても」
 天使の腕の中で、家族を失った少女が慟哭を上げた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ベアータ・ベルトット
こんなモノは救済でもなんでも無い
手前勝手な殺戮を、小綺麗な帳で覆い隠しただけの虚ろな楽園…
ならば、全て暴き壊してやる!
花に抱かれての美しい死ではなく、泥に塗れ…土を喰みながらでも繫ぎ留める生にこそ価値があるって、証明する為にもね

他の猟兵と連携
孤児救出完了の後、機腕に内蔵された銃火器や誘導弾をありったけぶっ放し破壊活動を行う
弾道を都度チェック。不自然な描き方をする箇所があったら何かがあると見て調べるわ
催眠対策として餓獣機関を活性。飢餓で眠気を吹き飛ばす

死んだ子への哀悼は無い
情に絆されてる暇も無い

只一発でも多くの弾を撃ち込み、楽園を地獄へと塗り替える事に専念する
…違う。此処ははなから地獄だったのよ



 泣き続ける少女を、一人の猟兵が離れたところから見つめていた。彼女……ベアータ・ベルトット(餓獣機関BB10・f05212)は、少女とその弟たちを見つけてここまで連れてきた猟兵だ。
 回復系のユーベルコードを持っていなかったため、ベアータは姉弟たちを大急ぎでここまで運んだ。その迅速な判断が一人の赤ん坊を救ったのだが、彼女の胸の内を締めたのはそのことへの満足ではなく、もう一人の赤ん坊を救うことができなかったことへの後悔だ。
 彼女たちをここまで運ぶ際、花に包まれた赤ん坊をその腕に抱いた。美しく、安からな死にざま。だがしかし――
「こんなモノは救済でもなんでも無い」
 赤子を抱いて泣く少女の声が、ベアータの胸に衝動を湧き上がらせる。それが人間の情動なのか、餓獣の本能なのかわからない。ただ、彼女の心に宿った殺意が、この花園を作り上げたおぞましい怪物を滅せよと叫ぶ。
 捜索に行っていた猟兵たちが戻ってきて、孤児たちの救出完了を告げる。このタイミングでそれを教えてもらえたことは運がよかった。自分はこれ以上、自分の中にいる獣を抑えられる自信がない。
 ベアータはガチンと三つの撃鉄を引く。一つは彼女の機腕に内蔵された銃火器の撃鉄を、一つは彼女の血肉を喰らって起動する餓獣機関の撃鉄を、そして最後は己が獣性を解き放つための心の撃鉄を。
 彼女の中の餓獣が吠えた。
「手前勝手な殺戮を、小綺麗な帳で覆い隠しただけの虚ろな楽園……ならば、全て暴き壊してやる!」
 花に抱かれての美しい死ではなく、泥に塗れ、土を喰みながらでも繫ぎ留める生にこそ価値があるということを証明する為、ベアータは体内に内蔵された兵器をありったけ撃ち放ち、施設に破壊の雨を降らせる。
 仲間の猟兵たちは誰も彼女を止めなかった。生き残ったすべての子どもたちを外へと逃がし終え、破壊の限りを尽くすベアータの背中に悲し気な目を向けた。きっと誰もが彼女の思いを理解していた。
 弾道が不自然な軌道を描いたかと思うと、花畑の幻術は消え、無機質な壁が現れる。銃砲撃を放ち続けながら、ベアータはその下にある者を見た。
 人の形をした花の塊。すべてを喰いつくされた後に残った白い骨。花畑の幻影に隠されていた、無数の頭蓋骨が無機質な目でベアータを見返してくる。
 一瞬、手を止めそうになったが、ベアータは咆哮を上げながら銃弾を放ち続け、施設を火の海へと変えていく。まるで花畑の最期の抵抗であるかのように花粉が巻き上がり、吸った者の眠気を誘ったが、彼女の中の餓獣はそんな眠気すら喰らいつくした。
 死んだ子への哀悼は無い。情に絆されてる暇も無い。
 只一発でも多くの弾を撃ち込み、楽園を地獄へと塗り替える事に専念する。
「……違う」
 銃弾を撃ち尽くし、数えきれないほどの薬莢が床を埋めた頃、ようやくベアータは手を止め、炎に包まれた施設に向かってぽつりとつぶやいた。
「此処ははなから地獄だったのよ」
 それが彼女なりの救えなかった者たちへの弔いであるかのように。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ファンガス』

POW   :    胞子散布
予め【胞子を周囲に撒き散らす】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD   :    闘虫禍争
自身の身長の2倍の【虫型の魔獣(形状は毎回変わります)】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
WIZ   :    毒の胞子
【口や茸の傘】から【胞子】を放ち、【毒】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 花畑の幻術が消え、炎に包まれた研究施設の中、もはや誰も生きていないかと思われる中をもぞもぞと動く何かがいた。
 生存者かと思って、一部の猟兵が走りだそうとしたが、すぐにその足を止める。
 炎の中から現れたのは、大人の人間よりも大きなキノコの集団。さらにその周囲には、頭や体からキノコを生やした巨大昆虫の群れが飛んでいた。
「花の次はキノコか。住処をめちゃくちゃにされて、ようやく重い腰を上げたみたいだな」
 一人の猟兵が不敵に笑って武器を取る。
 誰も彼もが、この楽園の皮を被った地獄を作り出した存在に怒りを抱いていた。誰かが号令をかけるまでもなく、猟兵たちはそれぞれの武器を手にキノコと蟲の群れへと踊りかかっていった。
セラフィール・キュベルト
今この時までに、これらのために幾つの命が奪われたのか…
これ以上の悲劇を繰り返さぬ為にも、ここで終わりに致しましょう。

ファンガス及び虫型魔獣の殲滅を行います。
攻撃には主に鈴蘭の嵐を使用。敵以外に被害を及ぼさぬよう、攻撃範囲には注意を払います。
攻撃と同時に、ファンガスの胞子を吹き飛ばせないかも試みてみます。それを以て、接近戦を行う方を援護できればと。

ファンガスの毒胞子を受けないよう、出来るだけ敵からは距離を取り、彼らが隠れられそうな茂みや木陰に接近する際は警戒し不意打ち回避に注力。



 ファンガスたちの身体が震え、空中に青紫色の胞子が舞う。研究施設を満たす炎の影響で気流が乱れ、毒の嵐となって前線で戦う猟兵たちを包み込んだ。
「今この時までに、これらのために幾つの命が奪われたのか……」
 灰になっていく花と骨を見つめながら、セラフィール・キュベルト(オラトリオの聖者・f00816)は、胸に下げているメダリオンを握りしめる。
 敵対者にすら慈愛を向けるほど優しい彼だったが、意を決して目を見開き、魔獣たちへと覚悟のまなざしを向けた。
「これ以上の悲劇を繰り返さぬ為にも、ここで終わりに致しましょう!」
 慈愛ですべてが救えればいい。それが彼の理想であったが、それは実現できないという現実も知っていた。聖戦に挑む熾天使のごとく、戦いの意志を持って己がユーベルコードを発動させる。
 メダリオンの鎖を千切り、セラフィールはそれを宙へと投げ放つ。刻まれた聖印が光ったかと思うと、メダリオンは無数の鈴蘭の花びらへと変わって、胞子の霧ごと魔獣たちを包み込んだ。
「救世の歌より生まれし花たちよ。我が同胞たちを守り、我が仇敵を打ち砕け!」
 吹き荒れる鈴蘭の嵐が胞子を押し返し、地に群がるファンガスや空を舞う虫型魔獣を斬り割いていく。青紫の霧が僅かに晴れ、毒に苦しめられていた猟兵たちの息が軽くなる。
 まるで聖騎士に加護を授ける天使のようだ。吹き荒れる花びらを操りながら、セラフィールは広い戦場に散る猟兵たちを的確に支援する。前線にこそ出ないが、彼のユーベルコードは味方全体を支えていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

幻武・極
花のオブリビオンだと思っていたけど、まさかキノコとはねえ。
どちらにしても、焼き払うだけだよ。

トリニティ・エンハンスで攻撃力を強化し、属性攻撃を炎にして、炎の武術で焼き払うよ。

そういえば、こういう粉っぽいものに火は危険っていわれているけど、ここまで研究施設が壊されていれば、換気もされてるし、大丈夫だよね。



 セラフィールの援護により毒が弱まったタイミングで、幻武・極(最高の武術?を追い求める羅刹・f00331)はファンガスの群れの中へと飛び込んだ。
「花のオブリビオンだと思っていたけど、まさかキノコとはねえ!どちらにしても、焼き払うだけだよ!」
 その両腕には炎の魔力がこめられ、赤く燃え上がっている。トリニティ・エンハンスにより練り上げられた炎の拳を、極はファンガスに叩き込んだ。
 巨大なキノコたちとその胞子に引火し、炎が連鎖して次々と延焼していく。炎が生み出す気流に呑まれ、青紫の霧は散って行った。
「わっぷ!?」
 想像以上に強い炎が生まれ、極は顔を庇いながら少し下がる。
 施設は大きく破壊されて胞子が散っているため、粉塵爆発こそ起きなかったが、十分に換気されているからこそ酸素が雪崩れ込んで火の勢いが強くなる。その勢いは魔獣たちだけでなく、猟兵たちまで巻き込みそうなほどだった。
 それは戦況を有利にするとも不利にするとも言える。ファンガスや虫型魔獣を巻き込む炎は敵を大きく削るが、時間を掛け過ぎれば猟兵たちまで炎に巻かれかねない。後は時間との勝負だろう。
「ちょっと予想外だったけど、炎のステージと考えれば格ゲーっぽいかもね!どんどん行くよ!」
 速攻ならば格闘家である極の得意とするところだ。彼女は炎を恐れることなく前進し、ファンガスを蹴り砕き、虫型昆虫を衝撃波で屠っていく。動きの鈍いファンガスは、小回りの利く彼女にはいい的だった。
 攻撃こそが最大の防御と言わんばかりに、相手が何かをする前に倒す、前のめりの戦い。一歩足を止めれば大事故が起こりかねないにもかかわらず、極の口元はその状況を楽しんでいるように吊り上がる。
 このていどのスリルはゲームのスパイスだとでも言うように、極の動きは鈍るどころかさらにスピードを増す。それはまるで、炎の中で踊る舞姫のごとき美しい演武だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

アルジェロ・ブルート
「キノコじゃん」
怪訝そうに眉を顰めた。

キノコ従えた吸血鬼ってワケ?……ふぅん……
ガキの救済なんざ吸血鬼がする筈がねー
って、俺は考えてんだが、…ま、いーや。追々分っかんだろ。

【毒耐性】はあっけど全部喰らってやる理由はなし。
【Sangue】で両断してくとすっか。
【2回攻撃】で【気絶】させて確実に。

つっても虫も面倒だよなァ。
…ああそーだ!お前ら毒を使うよーだが、こーゆー毒を喰らった事は?
【逆時計の置き香炉】
ユーベルコード無効化出来りゃ、他の奴等もやりやすいだろ。



「キノコじゃん」
 花のオブリビオンだと思い込んでいたのは極だけではなかったようだ。無数にいるファンガスや虫型魔獣の群れを見ながら、アルジェロ・ブルート( ・f10217)は怪訝な表情で眉を顰めた。
 キノコを従えた吸血鬼……いないことはないのだろうが、アルジェロの抱いていた吸血鬼のイメージとは異なる。吸血鬼らしくない花畑を生み出していたことにしても、とことん変わり種の吸血鬼のようだ。
「この調子だと、ガキを救済するつもりかもしれないっていう第六感も当たってるかも……いや、ガキの救済なんざ吸血鬼がする筈がねー。きっと気のせいだ」
 吸血鬼は徹頭徹尾残虐な生き物であり、僅かでも人を慈しむような考えを持つはずがない。それがアルジェロの考える吸血鬼だ。
 第六感で得られたイメージと、自分の価値観が生んだイメージの相違に、アルジェロは少なからず戸惑う。だが、最終的に自分の価値観を優先し、吸血鬼に慈悲の心があってたまるかと自分を言い聞かせる。
「……まっ、いーや。追々分っかんだろ」
 自問自答は無意味。相手の思惑が何であれ、吸血鬼は倒すべき敵であり、目の前の雑魚を叩き潰すことには変わりない。
 Sangue……鮮血の名を持つ拷問具を取り出し、アルジェロは前線へと躍り出る。セラフィールたちが毒を晴らしてくれたことに加え、もともと毒に対して耐性を持つ彼はほとんど影響を受けずに戦うことができた。
「毒を振りまくキノコも厄介だが、虫も面倒だよなァ。……ああそーだ!お前ら毒を使うよーだが、こーゆー毒を喰らった事は?」
 片手で拷問具を振り回しながら、アルジェロは懐から甘い香りを発する香炉を取り出した。
 香炉から発生した白煙と香り、そして亡霊のような手が周囲の虫型魔獣に絡みつく。それらを受けた虫型魔獣たちは多少動きが鈍ったものの、意に介した様子もなく、毒液をアルジェロ目掛けて吹きかける。
「――ひひ、残念。時計は逆に回る」
 しかし、毒液はアルジェロに当たる直前、ピタリと止まり、ビデオの逆再生のように虫型魔獣へと戻っていく。アルジェロのユーベルコード『逆時計の置き香炉』は、3種類の攻撃がすべて命中すると相手のユーベルコードを封じる効果がある。派手さはないが、妨害行動としてこれほどなく効果を発揮していた。
「ユーベルコード無効化出来りゃ、他の奴等もやりやすいだろ。一匹残らず真っ二つにしてやるよ」
 振り回した拷問具で敵を両断しながら、アルジェロは底意地の悪そうな笑みを浮かべた。

成功 🔵​🔵​🔴​

バレッタ・カノン
ベアータと(初対面)

こんな胸糞の悪いこと…ここには何の感情もなかったけど気に入らない
しかもよりにもよって虫なんて最悪
特に羽があるやつが一番嫌い

とにかく虫の数を減らす
地を這う奴は対戦車徹甲弾の投擲、殴打で頭を狙う
羽虫を見つけたらハンドショットガンの連続投擲で一番に羽を壊してやる
可能なら周囲から薬莢や研究所の瓦礫、金属片をすぐに手元に召喚して再投擲までの時間を短くしたい

数が多すぎる…一匹ずつ相手にしてたら面倒

こんな忙しいときに…お前は誰?
囮になるなんてイカれてる
でも面白そう、上から焼くから頑張って避けてね

一か所に集まったキノコと虫の集団を飽和爆撃で攻撃する
まき散らされた胞子ごと焼き尽くす


ベアータ・ベルトット
バレッタと(初対面)

疾く来い…機関が血を求めて唸り続けてる
この渇きは茸や蟲なんか喰らって満たされるモノじゃないわ

胞子を警戒し、敵との接近を極力避けての狙撃に努める
機腕で銃撃したり、ヴァリアブル・ウェポンで命中率を高めた一撃を放ったりして攻撃
近づかれても見切りや野生の勘を活用し被ダメージを抑えるよう立ち回る

とはいえ今一つ決定打に欠けるわね…

と、高火力の砲弾を武器に戦うちびっ子を捕捉
声をかけて連携を持ちかけるわ

囮となり、敵を狙撃して注意を引き、走って逃げて別の敵に撃つ…を繰り返し多くの敵を自分の周りに集める

さぁ、焼き尽くしなさい!

合図と共にダッシュ、至近の敵を踏みつけてジャンプ
爆心地から脱出するわ



 一塊になっていたファンガスたちが爆ぜ、地面がえぐれて大穴ができあがる。足下に転がってきた魔獣の肉片を踏み潰しながら、戦車砲弾を肩に担いだ少女が舌打ちする。
「こんな胸糞の悪いこと……ここには何の感情もなかったけど、気に入らない」
 不機嫌そうな彼女に、虫型魔獣たちが群がっていく。バレッタ・カノン(バレットガール・f11818)は肩に担いでいた徹甲弾を振りかぶり、襲い掛かってくる魔獣に叩きつけた。
 身の丈ほどもある弾頭は、一撃で魔獣の頭を砕き、足をへし折り、臓物を地面にぶちまける。その小柄な容姿からは想像もできない膂力で戦車砲弾を振り回し、一振りで二・三体まとめて巻き込みながら屠っていく。
 だが、虫たちはとにかく数が多い。粉砕して飛び散った体液が獲物と衣服にかかり、バレッタは嫌な顔になった。
「しかも、よりにもよって、虫なんて最悪。特に羽根がある奴が一番嫌い」
 空を飛ぶ虫たちを忌々しげに睨む。バレッタが空へと気を向けた隙に、一匹の巨大昆虫が体当たりを仕掛けた。
 しまったと思った時はもう遅い。怪力ではあっても軽いバレッタの身体が、宙に跳ねる。落下地点に集まる虫の群れに気づき、バレッタは身を丸めて目を閉じた。
 虫たちに群がられる……そう思った瞬間、怒涛の銃声が鳴り響き、虫たちを挽肉へと変えた。虫たちの死骸に突っ込みそうになったバレッタの小さな体を、機械の腕が掴んで止める。
「大丈夫?」
「あ、ありがとう」
 バレッタを受け止めたベアータ・ベルトット(餓獣機関BB10・f05212)の周囲に、無数の大型昆虫たちが群がってくる。おぞましい光景に、虫が苦手なバレッタは顔をひきつらせたが、ベアータは顔色一つ変えずに撃鉄を起こした。
「疾く来い……機関が血を求めて唸り続けてる。この渇きは茸や蟲なんか喰らって満たされるモノじゃないわ」
 身体に内蔵された兵器群が火を噴く。数を頼りに押し寄せる昆虫たちだが、正確無比な狙撃により近寄ることすらできない。
 だが、そんなベアータの銃砲も、縦横無尽に空を飛ぶ相手にはやや精度が落ちた。弾幕を張って追い払おうとするも、弾道の合間を抜けてきた虫たちが少女たちへと迫る。
「薬莢を借りる」
 そう言って、ベアータが床に生み出した薬莢の山を、バレッタが無造作につかむ。彼女の行動を訝しげに見るベアータの前で、バレッタは空飛ぶ魔獣たちに向かってそれらを全力投球した。
 ただの薬莢の束であるにもかかわらず、バレッタの常識はずれした膂力で放たれたそれは、散弾のごとく羽虫たちを穴だらけにする。硬い甲皮を持つはずの魔獣の身体が、まるで障子のように容易く貫かれていく。
「へえ、なかなかやるじゃない」
 弾を再装填しながら、ベアータは少女傭兵の戦いぶりに感心する。
「とはいえ今一つ決定打に欠けるわね……」
 善戦してはいるが、弾薬には限りがある。この後に吸血鬼との戦いが控えている以上、少しでも温存しておきたいところだ。
 いくつかの戦闘シミュレートを脳内で展開させるが、自分の装備では事態を打開できそうにない。そこでベアータは、傍らで戦う少女に声をかける。
「ねぇ、こいつらを一気に殲滅させたいのだけど、範囲攻撃手段はない?」
「あることはあるが、あまり精度はよくない。こんな乱戦で使えば、仲間を巻き込む」
「それなら、私ごとでいい。やって」
「えっ……」
 返事も聞かずに、ベアータは敵が集まる場所へと自ら飛び込んでいく。
 敵を狙撃して注意を引き、走って逃げて別の敵に撃つ……を繰り返し多くの敵を自分の周りに集める。見切りや野生の勘も駆使して回避するが、さすがにかわしきれずに少しずつ傷ついていく。
 だが、そんな状況でありながら、ベアータの顔には獰猛な笑みが浮かんでいた。額から流れた血を下で舐めとり、獣のように目を光らせながら銃火を絶えさせない。
「……自分ごと焼くことを前提とした囮なんて、イかれてる」
 そんなベアータの奮闘を見ながら、バレッタは両手に抱えられるだけの対戦車徹甲弾を生み出し、楽しそうに笑う。
「でも面白そう! 上から焼くから頑張って避けてね!」
 キノコと蟲の集団がベアータの元へ十分集まったところを見計らって、バレッタは高く跳躍する。空を飛ぶ巨大昆虫たちを踏み台にして高く高く飛び、巨大な塊となった魔獣たちを見下ろす。
「行くよっ!」
「さぁ、焼き尽くしなさい!」
 バレッタの掛け声に反応したベアータが、一目散にその場から駆け出す。それと同時に、バレッタは両腕に抱えた大量の砲弾を投げつけ、集まっている敵に飽和爆撃を仕掛けた。
 砲弾の火薬が炸裂し、破壊の炎があたりを包む。キノコや虫の魔獣たちはもちろんのこと、撒き散らされた胞子ごと焼き尽くした。
 地面に着地したバレッタは、吹き荒れる爆風から守るために腕で顔を覆う。砂塵が巻き起こり、辺りの様子を覆い隠した。
 囮となった彼女はどうなったかと思うバレッタの足元に、爆風に吹き飛ばされてきたサイボーグの少女が転がり込んできた。砂塵を吸い込んで咳き込む彼女を見て、バレッタが笑みを浮かべて手を差し伸べる。
「度胸があるのはわかったが、少し無茶が過ぎる」
「血の気が多いのは生まれつきよ」
 バレッタの腕を取って立ち上がったベアータは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて応えた。
 砂塵が晴れた後には爆撃によるクレーターだけが残り、砲撃を受けた魔獣たちは跡形もなく吹き飛んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『幻想術師『パラノロイド・トロイメナイト』』

POW   :    記録■■番:対象は言語能力を失った。
【夢幻の眠りを齎す蝶の幻影 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    記録■■番:対象の肉体は既に原型を留めていない。
完全な脱力状態でユーベルコードを受けると、それを無効化して【数多の幻想が囚われた鳥籠 】から排出する。失敗すると被害は2倍。
WIZ   :    記録〓編集済〓番:〓編集済〓
対象のユーベルコードに対し【幻惑し迷いを齎す蝶の群れ 】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠鶴飼・百六です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 なぜ? そう自問する。
 彼らが抵抗する理由を、幻想術師『パラノロイド・トロイメナイト』は理解することができなかった。
 パラノロイドは吸血鬼だが、人間を愛していた。あまりにも脆く、悲惨な運命を辿るしかない人間を憐れんでいた。人間という弱小生命体に生まれてしまった彼らのことが、可哀そうで可哀そうで仕方なかった。
 彼がこの花園を作り上げたのは、絶望の未来しかない人間たちに、覚めない眠りを施すため。せめて最期は安らかなれと、ただそのためだけにこの楽園を作り上げた。彼らを正しい道に導くことは、支配者たる自分の使命だと信じて疑わなかった。
 ゆえにこそ、パラノロイドからすれば、猟兵たちの行動は不可思議でならなかった。自分は彼らを救済しているのだから、感謝されこそすれ、敵視される理由がとんと思い浮かばない。
 なのに、彼らは安らかな死を迎えようとする子どもたちを誘拐し、その上、楽園を破壊しようとまでしている。
 だが、パラノロイドは怒っていなかった。劣等種族の人間が愚かなのは当たり前だからだ。少し脅せば諦めて帰るだろうと配下の魔獣をけしかけてみたが、激しい抵抗にあって殲滅されてしまった。
 パラノロイドはとてもとても悲しかった。吸血鬼である自分にそこまで反抗するほど、彼らは愚かなのだと悲しんだ。人間は吸血鬼の家畜であり、愛玩動物であり、奴隷だ。そんな常識もわからないほど、彼らは愚かなのだ。
 そんな愚かな者たちが、この世を幸せに生きられるはずがない。だから、自分が救ってあげなくてはならない。それこそがノブリス・オブリージュだ。

 その信念に欠片も疑念を抱かず、パラノロイド・トロイメナイトは猟兵たちの前に姿を現した。
 彼らこそ、安らかに殺してあげなければいけない、真に救うべき存在だと信じて。
ベアータ・ベルトット
バレッタと

…来たわね
頭ん中で、聞くに堪えない御託を四の五の並べてんでしょうけど…そんなの全部、私の牙が噛み砕く
アンタにかける言葉はただ1つ
「人間を…舐めるなッッ!!」

餓獣機関フル活性

接近戦に持ち込みたいけど、飛び交う蝶の幻影が厄介ね
催眠を飢餓で耐えるにも限度があるし

再び囮作戦を提案
…別に死に急ぐつもりはないわ
それよか、外すんじゃないわよ

ちびっ子と距離をおいてから眼帯を外し、敵に向け陽動のBEBを放つ
相殺せんと蝶群を此方に集中して仕向けてきたら…今よ、ちびっ子!

蝶の勢いが弱まるなり途絶えるなりしたら、その隙に一気に接近
振り翳した機餓獣爪で渾身の一撃を喰らわせるわ

啼け!喚け!血を流せ!

アドリブ歓迎


バレッタ・カノン
ベア―タと

救済のつもりなら蝶々はやめたほうが良い

さっきの眼帯女がまた囮になるって…ホントどうかしてる
でも何か吸血鬼の注意をそらす策があるみたい

今はとにかく集中、深呼吸して力を溜める

ユーべルコードは今度こそ味方を巻き込むかもしれない
隙を突かれて甚大な被害を受けるかも…
だから吸血鬼に対戦車徹甲弾をただそのまま全力の一投をぶつける
せっかく無茶してくれてるんだ、動きが止まる一瞬を逃すもんか

投げたらすぐに走って一気に接近、挟撃を狙う
眼帯女に続いて渾身の一撃で徹甲弾を腹にタッチダウンしてやる

痛くて、怖くて、絶望して、死ぬかもって時が一番生きてるって感じる
「お前もそう思うだろ、化け物!」

アドリブ歓迎



「……来たわね」
 内臓兵器の弾薬再装填を行いながら、ベアータ・ベルトット(餓獣機関BB10・f05212)は蜃気楼のように突如現れた吸血鬼を睨みつける。
 オブリビオンと戦う際に感じる肌を刺すような緊張……いつもなら感じるはずのそれを、今回のベアータはまったく感じなかった。猟兵とオブリビオンの戦いはいつだって命懸けであるはずなのに、パラノロイドは猟兵に対して一切の敵意を向けていないのが原因だ。
 同情・憐憫・慢心……予測されるパラノロイドの感情はいくつかあるが、そのいずれにも共通することにベアータは苛立たしげに歯軋りを鳴らす。
 ――舐められている。頭の中でどんな御託を並べているかはわからないが、パラノロイドがこちらのことを格下に見ていることは間違いない。そうでなければ、これから殺し合いを行う相手に欠片も敵意を抱かないなどありえない。
 こちらを敵とすら認識していない相手に対して、ベアータがかける言葉は一つだった。
「人間を……舐めるなッッ!!」
 餓獣機関BB10をフル活性させ、ベアータは敵に肉薄する。内から沸き立つ喰殺衝動を、目の前の敵一人に向けて、飢えた獣のごとく猛然と駆ける。
『記録■■番:■■■■■■■■■■■』
 ノイズ混じりの言葉がベアータの脳に直接響く。直後、パラノロイドの身体から無数の蝶が生まれ、猟兵たちに向かっていく。
 己の中の獣があれは危険だと叫ぶ。即座に避けようと身体を動かすが時遅く、ベアータの姿が色とりどりの蝶の群れに呑みこまれる。
 ベアータは自分の心が何かに塗りつぶされていく感覚を味わう。彼女の中の餓獣がそれらを喰らおうともがくが、まるで海の水を飲もうとしているようで、一瞬で飽和してしまう。
 刹那、ベアータは子どもの姿になっており、泣いていた。飢え・寒さ・心細さ・惨めさ、さまざまな情動が彼女の胸を締め付け、やがて泣く気力すら失われて倒れる。そして――
「しっかりしなさい、眼帯女ッ!!」
 小さいが力強い手がベアータを現実に引き戻す。ベアータの様子がおかしいことに気付いたバレッタ・カノン(バレットガール・f11818)は、蝶の群れに呑まれていた彼女の腕を掴み、外に向かって放り投げる。
 蝶の群れから脱したベアータの餓獣機関は再び活性化。彼女の心を覆っていた幻術の力を喰らって、ベアータを正気に戻す。ハッと気がついたベアータは、空中で体勢を整え、猫のように柔らかく着地する。
「ちびっ子!?」
 危機を脱したベアータだったが、今度は彼女を救うために蝶の群れに飛び込んだバレッタが幻術に囚われてしまった。彼女は蝶の群れに包まれた状態で抵抗する様子もなく、虚ろな表情で宙を見つめている。
 すぐに助けに戻ろうと立ち上がったベアータだったが、カチンという金属音の直後に爆発が起きたため、その足を止める。爆発源はバレッタの持っていた対戦車徹甲弾。ベアータは爆風にあおられて飛んできたバレッタの小さな体を反射的に受け止めた。
「脱出、成功……」
「成功じゃないわよ!瀕死じゃない!爆風で脱出とか、無茶しすぎでしょ、ちびっ子!」
「あまえ、だけには、言われたく、ない。あと、私は、ちびっ子じゃなくて、バレッタ、だ」
 ベアータの腕から離れ、バレッタは新たな徹甲弾を取り出す。口では強がっているが、その足元はふらついていた。
 大丈夫か、とは問わない。彼女自身がそう言わない限り、それを問うことは失礼になると思ったからだ。
「わかったわ、バレッタ。私はベアータ。先刻と同じように、私が囮になるから、重いのを一つたたき込んでやりなさい」
「正気?先刻みたいな雑魚が相手じゃないのよ?」
「あまり使いたくはなかったけど、切り札の一つくらいは残してあるわ」
 眼帯に手をやるベアータに対して、バレッタは深くは聞かなかった。戦友が『できる』と言ったのだ。ならば、自分はそれを信じよう。
「死ぬんじゃないわよ」
「別に死に急ぐつもりはないわ。そっちこそ、外すんじゃないわよ」
 そう言い残し、ベアータが敵に向かって駆ける。先刻、同じことをして死にかけたというのに、まったく恐れている様子がない。
「……ホント、どうかしてる」
 普通、一度死にかけたら少しは躊躇するものだ。半ば呆れながらも、バレッタは深呼吸して集中し、その時が訪れるのを待つ。
 再び接近してきたベアータに対して、パラノロイドが顔を向ける。無数の蝶が邪魔をして、未だ彼に傷を負わせることができた猟兵はいない。パラノロイドは余裕を持って蝶の群れをベアータに差し向ける。
 ベアータは体内の機銃を展開し、銃身が焼けつくのも気にせず、フルオートで蝶の群れを撃ち落とす。加えて、餓獣機関も活性化。撃ち漏らした蝶による幻術効果を打ち消す。
 オーバーヒートと喰殺衝動で自壊すら起こしかねない捨て身の戦法だが、それでもパラノロイドの余裕は崩れなかった。オブリビオンと一人の猟兵では力の差は歴然。ベアータが己の身を削っても、その牙が届く前に蝶の群れに呑みこまれ膝をつく。
 幻術にかかって虚ろな瞳になったベアータを見て興味を失ったパラノロイドは、他の猟兵に注意を向けることで彼女から視界を切った。
「人間を舐めるなって言ったでしょう。そこは既に射程圏内よ」
 そう呟いたベアータの眼帯を突き破り、餓獣の長い舌がパラノロイドを絡め取る。注意が逸れていたパラノロイドはそれに反応することができず、ベアータのBEBに囚われてしまう。
 しかし、一方のベアータも蝶の幻術に囚われて意識を刈り取られそうになっており、それ以上の身動きが取れない。だから、彼女は最後の力を込めて叫んだ。
「今よ、ちびっ子!」
「だから、ちびっ子じゃなくて、バレッタだ!」
 後方で意識を集中させていたバレッタが、吸血鬼に向かって対戦車徹甲弾を全力で投げつける。先刻負った傷が痛むが、仲間が身を削って作った機会を見逃す彼女ではない。
 放たれる砲弾。だが、パラノロイドはそれでも落ち着き払った様子を崩さず、手に持った鳥籠を掲げた。
『記録■■番:■■■■■■■■■■■』
 ノイズ混じりの幻聴。パラノロイドを捕らえていた舌と、彼に迫っていた砲弾は共に掻き消え、代わりに鳥籠から大量の蝶となって排出される。
 攻撃を無効化されたバレッタは――
「かかったな。次はおまえが騙される番だ」
 そう言って笑った。パラノロイドがその言葉の意味を理解する前に、彼はいつの間にか傍に立っていた存在に気付く。
 それは戦場の亡霊。バレッタのユーベルコード。バレッタの攻撃もまた囮であり、この攻撃を届けるために布石に過ぎない。亡霊はバレッタと同じように対戦車徹甲弾を生み出し、それをパラノロイドに撃ちこむ。
 パラノロイドは再び鳥籠を掲げ、すんでのところでそれを無効化する。心なしかほっとしたような表情になるパラノロイドの身体を、背後から鋭利な爪が引き裂いた。
 振り返ったパラノロイドの瞳が、いつの間にか背後まで迫っていたベアータの姿を捕らえる。連続して攻撃を無効化していたため、蝶の制御が緩くなっていた。その隙に接近していたベアータが機餓獣爪で貫いたのだ。
「啼け! 喚け! 血を流せ!」
 顔が触れ合うかというほどの近距離で、ベアータが叫ぶ。彼女に手を伸ばそうとしたパラノロイドだったが、真横から放たれた新たな対戦車徹甲弾を腹に受け、一気に吹き飛ばされる。
「痛くて、怖くて、絶望して、死ぬかもって時が一番生きてるって感じる。お前もそう思うだろ、化け物!」
 答えなど期待していなかったが、ベアータはそう言わずにいられなかった。吸血鬼はゆらりと立ちあがりながら、彼女の方へと目を向ける。
『私の知る人間とはずいぶん違う。不思議なものだな。人間というのは』
 パラノロイドから発せられる声なき声。男とも女とも判別がつかないが、大人より高い子どものような発音。答えがあるとは思わなかったベアータとバレッタは、驚いたように身体が固まる。
 だが、問答は一瞬。再び現れた蝶々の群れを前に、彼女たちは慌てて距離を取らざるを得なかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アルジェロ・ブルート
まじかよまじで救済するつもりだったわけ
冗談だろ
お前さあ、ほんっとーに救おうと思ってんの?思ってねぇだろ
どうでもいいんだろ
ガキの望みなんざ聞いてねぇだろ?
それで救済とかお笑い種
ああ、ほんとに。お前
邪魔だよ

いちいちまともに相手なんてしてやんねぇよ。
ただでさえ広範囲無差別なんざ面倒だってのによぉ。
お前の攻撃は【絶望の福音】で回避の一手。
【Sangue】に【毒使い】、そっから【2回攻撃】して潰してくわ。
それとも【恐怖を与える】か?
せいぜい下等種に怯えてくれよ。面白おかしく、な。



「まじかよ。まじで救済するつもりだったわけ? 冗談だろ」
 蝶の群れに押されて近寄ることができなかったアルジェロ・ブルート( ・f10217)には、パラノロイドとバレッタたちが交わした会話が聞こえていなかった。
 ただ、周囲に散らばる子どもたちの遺骨を見て、憎しみをこめた瞳でパラノロイドを睨みつける。
「お前さあ、ほんっとーに救おうと思ってんの?思ってねぇだろ。どうでもいいんだろ」
 アルジェロの怒りを孕んだ視線に、パラノロイドは悲しげに首を振る。まるで聞き分けのない子どもに対して呆れているような仕草で、それがさらにアルジェロの神経を逆撫でした。
 ベアータとバレッタが捨て身の攻撃を仕掛けたことで、パラノロイドの攻撃が少し緩んだことをアルジェロは敏感に察知する。その隙を見逃さず、拷問具『Sangue』を取り出すと、アルジェロはパラノロイドへと向けて走り出す。
 無数の蝶がその行く手を阻んだが、彼はまるで未来が見えているような動きでそれらを予測し、回避しながら距離を詰めていく。
 アルジェロのユーベルコード『絶望の福音』。10秒先の未来を予測する能力。彼一人に蝶が集中していれば避けきれなかっただろうが、広範囲無差別攻撃で狙いが分散している現状ならば回避は容易だ。
「ガキの望みなんざ聞いてねぇだろ?それで救済とかお笑い種。ああ、ほんとに。お前――」
 パラノロイドがアルジェロに気付き、蝶の群れをけしかけるが、その時すでに吸血鬼は拷問具の射程内に収まっていた。
「――邪魔だよ」
 アルジェロは抑えきれない怒りをそのまま吐き出すようにして、Sangueを憎き吸血鬼に叩きつける。
 パラノロイドはSangueに引き裂かれ、濁った赤い血を噴き出す。それを見て意地の悪い笑みを浮かべるアルジェロに対して、蝶の群れが放たれた。
 未来予測ができていても避けきれないほどの数。それを察したアルジェロは、急いでパラノロイドから距離を取る。拷問具に塗り込んでいた毒が効いたのか、追撃はやや遅い。
 だが、それでもすべてを回避することはできず、蝶の幻影がアルジェロにかする。その途端、アルジェロの脳に、子どもたちの死がビジョンとして浮かんだ。
 それはこの花園で死んでいった子どもたちではない。吸血鬼とは関係なく、飢えと人間による虐待で死んでいった惨めな死だ。ほんの一瞬だったため、その映像はすぐに途絶えたが、まるで自分が体験したような感覚に陥る。
「(なんだ、今のは。こいつの記憶か?まるで、こいつがそれを悲しんでるみたいじゃねえか)」
 ありえない幻想だ。人間を奴隷扱いして欠陥品呼ばわりする吸血鬼に、そんな感情があるわけがない。
 アルジェロはそんなことで自分の感情を揺るがすことはない。どうせこれは、あの吸血鬼が自分たちを惑わせるために見せている幻想だなのだと割り切る。どうやれば相手をいたぶり、恐怖を与えながら殺すことができるかだけを考える。
「せいぜい下等種に怯えてくれよ。面白おかしく、な」
 歪んだ笑みを浮かべ、アルジェロはそう呟いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

幻武・極
憐れんでって、やっぱりキミもヴァンパイアなんだね。
上からでしか物を見ていないんだね。
なら、ボク達が人の力を見せてあげるよ。
苦難にも負けず立ち上がる力を。

バトルキャラクターズをLV1で20体召喚するよ。
そして、みんなで連続攻撃をするよ。
相手のユーベルコードで逆に倒されてしまうかもしれないけど、
諦めずに繋げていけばきっと届くはずだよ。
ヴァンパイアに抗う弱く小さい人間の力がね。



 人間に対する憐み。幻惑の蝶を少し受けてしまった幻武・極(最高の武術?を追い求める羅刹・f00331)は、パラノロイドの感情を一部理解する。だが、それは到底、彼女には受け入れられるようなものではなかった。
「憐れんでって、やっぱりキミもヴァンパイアなんだね。上からでしか物を見ていないんだ」
 上から目線の身勝手な考え方に、極は少し腹を立てた。
 吸血鬼と人間の間で能力差があるのは仕方ない。だが、武術というのはそういった能力差を埋めるために編み出されたものであり、知恵や努力を持って高みに挑む人間の強さの象徴だと極は考えている。
「なら、ボク達が人の力を見せてあげるよ。苦難にも負けず立ち上がる力を」
 極は20体のバトルキャラクターを召喚すると、それらを盾にして蝶の波をかき分けて強引に突破を図る。召喚された彼らは蝶の群れにの呑まれて次々と倒れていくが、極はすぐさま新しいバトルキャラクターを召喚しなおして盾を途切れさせないようにする。
 無茶な連続召喚で極の脳がガンガンと痛くなり、息も上がってくる。だが、辛い修行の日々を思えば、これくらいなんてことないと足を止めない。
 諦めずに繋げていけばきっと届く。その精神性こそが、武術の修行に明け暮れた極の一番の武器だ。
『記録■■番:■■■■■■■■■■■』
 じりじりと近づいてきていた極に、パラノロイドは幻惑の蝶を集中させて、彼女を守るバトルキャラクターたちを一気に破壊した。
 このユーベルコードでこれ以上接近するのは難しいと判断した極は、バトルキャラクターたちを置いて一気に詰め寄る。素早さに自信があった極はパラノロイドの眼前まで到達するが、拳を打ち込もうとしたところでピタリと動きが停まる。
 あと一歩というところで、蝶に阻まれてしまった極の瞳から光が消え、幻惑の世界に捕らわれる。
 そこでは極はダークセイヴァーの寒村で生まれた孤児だった。飢えと寒さに苦しめられるも、村人たちは誰も助けてくれない。みな、自分の生活だけで手いっぱいだからだ。
 吸血鬼が生贄を求めた際、そういった子どもたちは真っ先に白羽の矢が立った。直接手を下したのは吸血鬼かもしれないが、間接的に殺したのは村人たちではないだろうか?本来は守るべき対象であるはずの幼い命を見捨てる人間たちを、パラノロイドは大勢見てきた。
『私を殺しても、彼らはいつか別の吸血鬼の生贄にされる。この世界では、そういう運命なのだ。ならば、せめて最後は安らかなれと願うことの何が悪い?』
 幻惑の中でパラノロイドは問いかける。超越者としての視点であることは代わりないが、そこには自分の考えは正しいという信念があった。
「それでも――」
 だから、極は抗った。
 彼の考えは一理あるのかもしれない。だが、彼女はそれを否定する。幼い自分に難しいことはわからないけど、どんな理屈があっても人を殺すことが正しいとは思えない。
「僕は抗う!生贄の連鎖がこれで終わらなかったとしても、僕は諦めずに最後まで戦い続ける!人間の力は弱く小さいけれど、最後まで繋げていけば、連鎖を断ち切ることだってできるはずなんだ!」
 極の瞳に光が戻る。幻影を打ち破ったのは、ユーベルコードではなく彼女の信念。幻影に惑わされない真っ直ぐな心を持って現実に戻った極は、目の前にいたパラノロイドに渾身の一撃を見舞った。

成功 🔵​🔵​🔴​

セラフィール・キュベルト
死こそが救済であるとは、あまりにも悲しい結論。
辛くとも苦しくとも生きる、血脈を未来に伝える。それこそが人の強さなのですから。

とはいえ、貴方を否定はしません。
この光を以て、私が、貴方を救って差し上げます…!

具体的手段としては、神祈顕現・輝光天使にて呼び出した天使騎士による攻撃。
槍の騎士には、敵の行動の予兆である蝶の幻影をなぎ払いつつ敵への攻撃を。
剣の騎士には、私への肉薄を牽制しつつ敵への攻撃を。
それぞれ行ってもらおうと思います。

「このような手段でしかお救いできないのは、心苦しいですが」
「既に死したる貴方にこそ、与えられるべき救いですから」



 少女が放つ重い一撃を受け、パラノロイドはよろめく。吸血鬼の高い再生能力ですぐに傷口が塞がるが、その速度も徐々に遅くなってきている。
 ダメージが蓄積されてきていることを実感した極が追撃を掛けようとしたが、その前にパラノロイドが生み出した蝶が彼女に殺到する。極はすんでのところでそれを躱し、歯噛みして後ろに下がる。
 しかし、彼女が下がるより蝶が押し寄せるほうが速かった。極が蝶の波に飲まれるかと思われた瞬間、天上より舞い降りた天使騎士がそれを阻む。
「死こそが救済であるとは、あまりにも悲しい結論。辛くとも苦しくとも生きる、血脈を未来に伝える。それこそが人の強さなのですから」
 大楯を構えた天使を隣に置き、セラフィール・キュベルト(癒し願う聖女・f00816)が、決然とした瞳でパラノロイドを見つめる。
 彼女の言葉を受けて、蝶の動きが少し鈍る。操り手であるパラノロイドは、じっとセラフィールの方を見つめていた。
 彼がこちらの言葉に興味を抱いていることを、セラフィールは感じた。蝶たちが見せる幻影……パラノロイドは決して根幹から悪であるわけではない。彼なりに子どもたちを救おうとしていたが、人間とは価値観がかけ離れ過ぎていただけだ。
 もしかしたら、話し合いで解決することもできたかもしれない。だが、ここまで来てはそれは望めない。なにより自分は、この吸血鬼を倒すと少女に約束したのだから。
「とはいえ、貴方を否定はしません。この光を以て、私が、貴方を救って差し上げます……!」
『――――記録■■番:■■■■■■■■■■■』
 パラノロイドの落ち着き払った声は変わらず。幾度攻撃を受け、追い込まれようとも、彼は恐怖とは縁遠い存在だった。だが、そこに少しの迷いが混じっていたと感じたのは気のせいだろうか?
「真理の輝き、正義為す御方。如何か、この小さき身をお護りください――」
 聖女の祈りに応じ、二体の輝光天使が動く。大楯を持った天使は蝶の波濤を防ぎ、槍矛を構えた輝光天使が蝶の幻影を薙ぎ払う。
 パラノロイドの力は目に見えて衰えていた。それは猟兵たちから受けたダメージによる影響だけではなく、彼らと交わした言葉のやり取りから、自らの行いに迷いが生じ始めていたからであった。
 彼は人間を愛していた。だからこそ、この楽園を作り上げたというのに、人間たちは誰もがそれを否定する。その言葉が、今まで動じなかった彼の心を乱し、幻術の制御を弱めているのだ。
 そのことを察したセラフィールは、パラノロイドに憐れみの瞳を向ける。生まれが違えば、あるいはもう少し人間に近い思考を持ってさえいれば、彼と争う必要はなかったかもしれないのにと。
「このような手段でしかお救いできないのは、心苦しいですが、既に死したる貴方にこそ、与えられるべき救いですから」
 なればこそ、ここで彼の過ちを正すことこそが彼への救い。彼を倒すことは子どもたちを救うことであり、それこそが彼の望みなのだから。
 胸の内に痛みを抱えながら、セラフィールは天使に槍矛を振り下ろさせる。その鋭い切っ先は、パラノロイドの胸を刺し貫いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アレクシア・アークライト
 敵の考えの一端に触れ、疑問を抱く。{精神感応}

「貴方は何故、人の“最後だけ”を救おうとするのかしら?」
「貴方は何故、人の“今と未来”を救おうとしないのかしら?」
「苦しむ人を見るのが楽しかったんじゃない?」
「苦しむ人を憐れむ自分に酔っていたんじゃない?」

「貴方は人を愛していた……貴方がそう思うのならそうなんでしょう。貴方の中ではね」

・敵は遠距離戦が得意であるため、接近戦を仕掛ける。[グラップル、念動力]{瞬間移動、全力の一撃}
・敵の幻影は、相殺しようと試みる。{幻覚}



 天使の槍矛に貫かれた胸から、ごぽりと青色の液体が溢れ出る。
 人間ならば致命傷。再生能力のある吸血鬼であってもただではすまない。勝敗は決したと安堵する猟兵たちだったが、すぐにその表情を強張らせる。
 傷口から溢れ出る青い血液が止まらない。床にぶちまけられたそれらは徐々に広がって行き、研究所を覆い尽くしていく。
 パラノロイドの身体の大きさを明らかに上回る質量であり、床から壁に駆け上がって行く様は不自然だ。危険な空気を感じて猟兵たちは距離を空けようとするが、それよりも速く血液の牢獄が彼らを覆い尽してしまう。
 猟兵たちの瞳から光が失われ、バタバタと倒れていく。最後まで立っていたのはただ一人――幾分身体が小さくなったパラノロイドだけだった。
『この力を手に入れるために、私は言葉を失った。肉体を失った。そして、■■■を失った。仮初の胸を穿ったところで、私を倒すことはできない』
「なるほど。その姿が貴方本来の姿なのね」
 振り向いたパラノロイドの視線の先に、宙に浮かぶ少女の姿があった。すべての猟兵たちが幻術に囚われてしまった中、超能力者であるアレクシア・アークライト(UDCエージェント・f11308)だけはとっさに念動力の力場を何重にも発生させることで幻術から逃れることに成功した。
 だが、そこまでしてもギリギリ耐えるのが限界だ。敵の隠れた実力を知り、アレクシアは冷や汗を流す。
「まさか、子どもたちを誘拐した犯人が【子ども】だったなんてね」
『視覚と記憶も失っている。本来の私がどんな姿をしているかは自分でもわからないが、おまえがそう言うのならそうなのだろう』
 まだ八歳ほどの子ども――幻想術師『パラノロイド・トロイメナイト』はノイズ混じりの念波でアレクシアに答えた。
 アレクシアは必死に打開策を考える。今この場を斬り抜けることができるのは自分だけだ。力量で差がある以上、力押しでは勝てない。ならば、どうすれば打ち倒すことができる?
「貴方は何故、人の“最後だけ”を救おうとするのかしら?」
 これまでのパラノロイドの行動を鑑みて、アレクシアが選んだ手段は言葉だった。
 彼は問いかけられれば常に答えを返してきた。幻術使いであるパラノロイドにとって、言葉は肉体へのダメージと同様か、それ以上の効果があるのだ。なぜなら、精神戦はアレクシアやパラノロイドのような超能力を操る者にとっては重要なファクターになるゆえに。
『人の“今と未来”には救いはないからだ』
 アレクシアの思惑通り、パラノロイドは舌戦に乗ってくる。ならば、これは心と心の戦い。アレクシアはそれに賭けた。
「貴方は何故、人の“今と未来”を救おうとしないのかしら?」
 敵の考えの一端に触れて感じた疑問をぶつける。本気で子どもたちを救おうと考えたのなら、それだって可能だったはずだ。この吸血鬼は何故それをしなかったのか。
 パラノロイドは首を傾げる。指摘されて、そのことを考えもしなかった自分に疑問を抱いたのだろう。その機会を見逃さず、アレクシアは畳みかける。
「苦しむ人を見るのが楽しかったんじゃない?」
『……違う。僕はみんなを救いたかった。苦しむ姿なんて見たくなかった』
 パラノロイドの口調が変わる。失われたはずの記憶が、アレクシアの言葉で蘇ってきているのだ。アレクシアは手ごたえを感じつつ、あえて突き放した言葉を投げかける。
「苦しむ人を憐れむ自分に酔っていたんじゃない?」
『違うっ!僕はみんなのことが好きだったし、彼らを救うためにいろんなものを犠牲にして強くなったんだ!』
 もはや子どもの癇癪だ。
 パラノロイドがどんな経緯で吸血鬼になったかはわからないが、その時の彼はただの子どもで、友人たちを救おうとする気持ちも純粋なものだったのだろう。
 だが、言葉や肉体、記憶を失ったことで、その思いは歪められた。彼自身、そのことに気付くことができないまま。
「貴方は人を愛していた……貴方がそう思うのならそうなんでしょう。貴方の中ではね」
『……あぁ、そうだった。最初はそのために吸血鬼になったんだ』
 アレクシアの精神感応を受けて記憶を取り戻したパラノロイドは、呆然とした顔で周囲を見る。彼が殺してきた子どもたちの骨が、命のない瞳で彼を見つめ返している。
『僕は、いつの間にか怪物になっていたんだね』
 ピシリと何かがひび割れる音が聞こえた。
 このタイミングしかない。そう確信したアレクシアは、瞬間移動でパラノロイドとの距離を一瞬で詰める。防御に回していた念動力をすべて拳に集めると、顔と顔が触れ合いそうなほどの距離から全力の一撃を放つ。
 防御する間もなく――いや、もしかすると、彼はもう防御する気もなかったのかもしれない。
 拳が当たる直前、アレクシアは彼の頬を一筋の涙が伝ったのを見た。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベアータ・ベルトット
バレッタと

真の姿を開放
アンタの全てを否定する!

餓獣機関と銃撃で蝶群を打ち払い接近
生命力吸収併用の2回攻撃6を駆使し、怒りを籠めた獣爪の連続攻撃を敢行
バレッタの拘束後、顔を機腕で掴み零距離銃撃
続けてBEA発動
敵の脳天に正確な舌の一撃を放つ
体内に食い込ませられたら一気に生命力吸収
力を振り絞り空に向けてぶん投げるわ

戦い後、生き抜いた子達に声をかける

苦でも楽でも、死は所詮死よ
抗いなさい
人間の底意地で只管に生き抜きなさい
アンタ達こそが、死者が生者を支配する…この歪みきった生存闘争を覇す為の陽光となり得るのだから

別れ際にバレッタにも

またどっかで会う気がするわ
それ迄くたばんじゃないわよ、同類さん

アドリブ歓迎


バレッタ・カノン
ベア―タと

幻想を見て涙
真の姿開放
お前は戦場で私を救いに来なかった
手の平に乗る世界だけ救って満足か?
今殺してやる

ベア―タに背負われて吶喊
背中から飛躍、聖女が貫いた穴に徹甲弾をダンクシュート
さらに弾を殴り深くねじ込む
敵を怪力で拘束、BEAを待つ

お前はもう動くな
ベア―タ、早く!

BEA後ダメ押しで空へ飽和爆撃
大量の榴弾を投げ続ける

戦いの後はお腹がすく、荷車にパンがあったはず
助かった子どもにパンを分けてやろう
でも皆欲しがって集まっちゃうかな
まだあるし…いいか

生きるのってお腹がすくってこと、生きたいなら食え
なんて説教臭いな
誰かの受売りだけど忘れたな

帰る時ベア―タに挨拶

戦場は私の家、生きてたらまたどこかで



 パラノロイドの幻術が解かれる。猟兵たちが目を覚ました頃には、パラノロイドは子どもの姿ではなく、元の姿へと戻っていた。
 アレクシアとパラノロイドの戦いを見た者は当事者以外にいない。だが、幻術を受けたことだけは理解したベアータ・ベルトット(餓獣機関BB10・f05212)はパラノロイドの危険性を再認識し、一刻も早く排除する必要があると駆け出す。
「ベアータ、私を投げろ!」
 先刻の負傷でベアータに背負われていたバレッタ・カノン(バレットガール・f11818)が叫ぶ。彼女の意図を察したベアータはバレッタの小さな体を機械の腕に乗せ、加減なしの全力で投げる。バレッタも足に力を込めて跳躍し、まさに人間砲弾(バレットガール)と化してパラノロイドへと迫る。
 アレクシアとの戦闘のショックからまだ立ち直れていなかったパラノロイドは、よける気配すらなくそれを受け止める。バレッタの武器である対戦車徹甲弾がその体に深く突き刺さった。
「おまえは戦場で私を救いに来なかった。手の平に乗る世界だけ救って満足か?」
 パラノロイドの胸倉を掴んで少女が吸血鬼を睨みつける。少年としての心を取り戻してしまったパラノロイドは、彼女の殺意に震えあがる。
「今、殺してやる」
 彼の様子に気づくことなく、バレッタは徹甲弾の弾尻を殴りつけ、パラノロイドの体内で信管を起動させる。体内で爆発した徹甲弾はパラノロイドの下半身を粉微塵に吹き飛ばした。
『手の平に乗る世界すら救えなかったさ……』
 上半身だけになったパラノロイドは、誰にも聞こえない声で一人ごちる。
 仲間たちを救いたいと思った気持ちは本物だった。少なくとも、初めはそうだったはずだ。ならば、自分は一体どこで間違えてしまったのだろう?それとも、そんなふうに思うこと自体が間違いだったのだろうか?
『死にたく、ないな……。僕が殺した子どもたちも、こんな気持ちだったんだろうな』
 上半身だけになったパラノロイドは、腕だけで這って逃げようとする。そこにはもう吸血鬼としての誇り高さはもうない。心が少年に戻った時点でそんなものは失われていた。
 哀れな敗走者となったパラノロイドの身体に小さな影が取り付く。目を向ければ、バレッタが彼を逃がすまいとしがみついていた。
 近距離で徹甲弾を何度も爆発させたダメージで、彼女の身体はもうボロボロだった。だが、執念だけで彼を拘束している。
「お前はもう動くな」
 パラノロイドは最期の力を振り絞って蝶の群れで彼女を包む。
 しかし、すでに致命的ダメージを負っているパラノロイドの幻術は見る影もなく弱まっており、バレッタを簡単に堕とすことができない。
 強い精神力で幻術に耐えながら、バレッタは叫んだ。
「ベア―タ、早く!」
 少女の声が届くより速く、餓獣はすでに駆けていた。
 残り弾数の少ない内蔵兵器をすべて起動させ、惜しみなく撃ちだしながら蝶の群れの中を進む。弱々しく、かつての勢いをなくした幻影の蝶を容易く薙ぎ払った。
「アンタのしてきたことは決して許さない!アンタの全てを否定する!」
 弾薬を撃ち尽くしたバレッタは、怒りを籠めた獣爪で残りの蝶を引き裂き、獣のようにパラノロイドに飛びかかる。
 バレッタにしがみつかれて身動きの取れないパラノロイドは、ベアータに頭部を掴まれて地面へと叩きつけられた。
「──餌食と為れ」
 ベアータの眼帯の下から、長い舌がウゾリとヒルのように這い出す。それを見たパラノロイドは本能的な恐怖を感じて暴れたが、もはや逃げるだけの余力は残っていなかった。
 餓獣の舌がパラノロイドの脳天を穿ち、彼の体内を食い荒らしていく。
 生きながらにして喰われていく恐怖。少年は心の底から悲鳴を上げたかったが、発声器官を失われた体ではそれも叶わない。逃げることも叫ぶこともできず、ただただ子どものように恐れ縮こまることしかできない。
 そのまま長い舌がしなり、パラノロイドの残骸を空へと放り投げる。
 もはやただのミイラと化したパラノロイドだったが、そんなになってもまだ僅かに生きていた。
 そんな彼に止めを刺すべく、バレッタが対戦車徹甲弾を振りかぶる。
 これはきっと罰なのだろう。自分はあまりにも多くの子どもたちを殺してきたから。記憶を失っていたなど、言い訳にもならない。
 皮肉なことだが、心を取り戻す前の方が幸せだった。自分の行いに何の疑問も抱くことなく、こんなふうに心と体の両方が傷つくことはなかったのだから。
『これが現実なら、夢から覚めたくなんてなかった、な……』
 彼の思いは、砲弾の爆発という形で叶えられる。
 子どもたちを夢の中に捕らえ、自分自身も夢の中で生きてきた吸血鬼――幻想術師『パラノロイド・トロイメナイト』。
 彼は真の意味で、永遠に目覚めない眠りにつくことになった。

●安らかな眠りの前に
 パラノロイドとの激闘を終え、猟兵たちは研究跡地の前で、帰還前の治療と休憩を行っていた。
 バレッタは特に重傷だった猟兵の一人だったが、治療系ユーベルコードを優先的に受けさせてもらったため、回復するのが早かった。
 帰還までまだ少し時間があったので、バレッタは物資運搬用の荷車からパンを取り出して頬張る。小柄な肉体に反して剛力である彼女は、カロリー消費も人より遥かに激しい。
 ふと視線を感じてそちらの方を見てみると、救い出した孤児の一人と目が合う。彼はバレッタのパンをじっと見つめて、口の端からよだれが垂れていた。
「……食うか?」
「えっ!?あ、ありがとう……」
 荷車の中にあるパンを一つ取って少年に渡すと、彼は獣のようにそれにかぶりつく。ダークセイヴァーで孤児である彼の生活は物乞いと変わらず、綺麗なパンを食べるなど生まれて初めての事だった。
 想像以上に喜ばれたことにバレッタは驚いたが、まぁ喜んでいるならいいかと思い直す。しかし、ふと周囲を見回せば、他の孤児たちが全員じっと見つめていることに気が付いた。
「まずかったかな。……まぁ、まだあるし、いいか」
 バレッタは荷車に積んである食料をすべて取り出すと、子どもたちに配り始める。飢えていた子どもたちは、わっと彼女の周りに集まった。
「生きるのってお腹がすくってこと、生きたいなら食え。……なんて説教臭いな。誰かの受売りだけど、忘れたな」
「説教臭くてもいいじゃない。私はその言葉、好きよ?」
 子どもたちが群がったことで、バレッタに注目が集まったからだろう。彼女に気づいたベアータが近寄ってきた。
 彼女は近くにいた子どもたちの頭を掴み、わしゃわしゃと撫でながら、笑顔で声をかける。
「苦でも楽でも、死は所詮死よ。抗いなさい。人間の底意地で只管に生き抜きなさい。アンタ達こそが、死者が生者を支配する……この歪みきった生存闘争を覇す為の陽光となり得るのだから」
 子どもたちに理解できたかはわからない。だが、少しでも心に届いていればいいと思う。
 ベアータは子どもたちから離れると、バレッタの元へと足を向ける。バレッタは、彼女がすでに旅支度を終えていることに気づく。
「もう行くのか?」
「えぇ、私はあなたほど大怪我は負ってないから、先に帰って次の戦場に行くことにするわ。……あなたとはまたどっかで会う気がするわ。それ迄くたばんじゃないわよ、同類さん」
 ベアータが拳を突き出しながら言う。それに対し、バレッタも拳を突き出して応えた。
「戦場は私の家、生きてたらまたどこかで」
 拳と拳が打ち合い、こつんと軽い音を立てて二人は離れた。
 戦場に身を置く者同士。いつ死ぬかなどわかったものではない。互いにそれを理解していながら二人は笑っていた。
 ――安らかな眠りにつくにはまだ早い。自分たちはまだ生きているのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月26日


挿絵イラスト