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やさしい白花

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●病と雪
 言葉通り、何の変哲もない村だった。
 民家と畑、家畜のための小屋や、礼拝堂があるだけの。
 周りに広がる吹きさらしの草原も、家畜が細身の緑を黙々と探って食むだけで、時おり魔獣が紛れ込む以外は、至って平和だ。
 村で一番高い建物――石造りの礼拝堂の小塔には時計が備えられていて、技師でもある村長が鐘を鳴らすため、朝と晩に登る。
 村長が撞く鐘の音を聞いて人々は起床し、二度目の鐘で、放していた家畜を小屋へ戻し、実や花を摘んでいた人たちは家へ戻る。
 実り豊かではないが、村人たちは最小限の食べ物だけでも穏やかに生きていた。
 何の変哲もないその村を脅かしたのは、原因不明の熱病だ。
 だるさを覚え、全身の骨が軋むように痛み、高熱に魘され続け、やがて死亡する。
 はじめの発病者は老人で、風邪を拗らせたのだろうと思っている裡に亡くなった。
 村人たちがその脅威に気付いたときには、既に半数以上の老人と子どもが、亡くなった老人と同じ症状を訴えていた。
 雪が降り始めたのは、ちょうどその頃だ。
「おかあさん……おかあ、さ、熱い……」
 寝台で自分を呼び続ける幼い我が子の手を握りながら、ひとりの女性が祈りを捧げる。
 隣の家で、痛い、熱いと呻いてばかりだった子どもが、とうとう声を発しなくなった。同じ母となった幼馴染の啜り泣きが雪の向こうから聞こえてきて、つられそうになる。
 部屋の中は寒いのに、目の前の娘もとうとう言葉が掠れ始めた。
 だから女性は辛うじて開く窓から、少しずつ雪をつまんでは娘の額や頬にあてがい、口に運ぶ。雪に触れている間だけ、娘の顔つきが和らいだ。
「雪が、この子の熱を払い、苦しみから救ってくれるなら……」
 雪を運び続ける女性の指先はもう冷たく、感覚も失いかけていた。
「寒くても私はかまいません。ですからどうか、この子を」
 願う声さえ、震えて白い息に溶けた。
 意識が鈍り眠くなるのを、女性はどうにか堪えて祈ることしかできなかった。

 雪は美しく、やさしい。
 青き幻想術士は、雪に埋もれつつある銀世界に佇む。
 静まり返った村に笑い声は無い。苦しみや熱を訴える声が、苦痛に魘される大事な存在を想う悲鳴や祈りが、つめたい空気を伝って術士の元まで響く。
 術士はそのひとつひとつに、意識を傾けた。
 顔なき顔で、耳なき耳で、逃さず受け止めながら白き花で覆っていく。
 ひとたび眠りに就けば、長く感じた苦しみも終わる――術士はそれを知っていた。
 だから村には今も、雪がとめどなく降り積もる。

●グリモアベースにて
 丘陵地帯にある村へ向かってほしいのだと、グリモア猟兵のホーラ・フギト(ミレナリィドールの精霊術士・f02096)が告げる。
 そこは一年を通して気候も温暖で、平野を見下ろす丘の上の村――だったのだが。
「局地的に雪が降っているのよ。その村にだけ」
 狙い澄ましたかのように降り続ける雪は、すでに村の多くを包み込んでいる。
 降雪に備えた造りをしていない木造の納屋や家畜小屋は、雪の重さに潰れた。
 石造りの家が多いため民家は今のところ無事だが、出入り口も雪に埋もれ、室内では凍てつく寒さが住民を襲っている。防寒対策がされていなかった村だ。凍えて眠気を催す人や、身動きが取れなくなった人も多い。
「雪が降る少し前から、熱病でも苦しんでる村よ。まずは村人の救助をお願いね」
 急激に流行した熱病と大雪の影響で、病人でなくても精神的に参っているひとや、体力が心許ないひとも多い。一刻も早く対処する必要があるだろう。
 また、雪が降り積もってから病の感染は終息した。新たな感染者が出ることは無い。
 そして猟兵が出動するからには当然、オブリビオンの関与が疑われる。
 猟兵たちの顔を見てホーラは続けた。
 村人たちを助けて、オブリビオンを探してほしいのだと。
「オブリビオンは幻想を操る術士。雪を降らせてる本人よ。それだけわかってるの」
 術者であるオブリビオンを倒せば、雪は止み、気温も元に戻る。
「あとは現地判断でお願い。……さ、転送準備に取り掛かるわ!」


棟方ろか
 お世話になります、棟方ろかと申します。
 主目的は、村の救援並びにオブリビオンの撃破。
 第一章で救助活動、第二章が探索、第三章はボス戦です。

●一章について
 村人の救助や支援を行い、オブリビオンに関する情報収集をお願いします。
 病と雪で身動きが取れないお年寄りや子どもが多いです。
 能力値による指針も表記されておりますが、皆さまの「やりたいこと、やれると思ったこと」も大事にしたいです。思い思いに、どうぞ。
 なお、オープニングにある通り感染は終息したので、猟兵は熱病にかかりません。

●村について
 温暖な地域だったこともあり、寒さの備えは無し。
 雪を初めて見た、という村人しかいません。
 病や雪で既に亡くなった方や動物もいますが、埋葬などもできていない状態です。
 家々の形態も核家族から拡大家族まで様々で、各家に発病者がひとり以上います。

 それでは、皆様のプレイングお待ちしております!
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第1章 冒険 『白に沈む村』

POW   :    雪かきや屋根の雪下ろし、薪割り等の肉体労働を行うなど

SPD   :    狩りで食料を入手する、温かい料理を作るなど

WIZ   :    体調不良の村人を救護する、寒さ対策の情報を啓発するなど

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

籠目・祷夜
哀しい話だ
俺にできることがあれば全力であたらせてもらう

首巻きと上着、長靴をはいて完全防寒していく

雪慣れしていないのか
それならば屋根の雪下ろし、雪かきと薪割りをしよう
少しでも行き来が楽に慣ればいいが
手伝ってくれるという村人は家に押し戻す
「任せてくれればいい」
一人では手が足りんが、村人の手を煩わせるわけにはいかない
屋根の雪下ろしは足元にきをつけてやる

薪割りは、薪割りも張り切るか
老人や子供がいる家を中心に回る
雪かきあとだから全部はできないだろうが


神酒坂・恭二郎
・POW指定
こいつは参ったな。
白に沈んでいく街を見やりって溜息一つ。
被害は深刻でこのままだと村は消える。
参ったのは、これだけの災厄を起しながら悪意を感じない事だ。
経験上、後味の悪い仕事になりそうだと予感する。

・何はともあれ復旧が先だ。村を見渡せる屋根の上に立つと、刀を正眼に構え【力を溜める】。そしてサイコキネシスで触れた箇所に、軽めのフォース【衝撃波】を【誘導弾】でぶつけて雪下ろし。大雑把だが手早く片そう。
後は刀を雪に突き立て、フォースを放っての【トンネル掘り】で各家への連絡通路を構築したい。
流石に一人ではきついので、効率の良い指示か協力者が欲しい所だな。
・アドリブ歓迎、連携推奨


フィオリーナ・フォルトナータ
大丈夫です。わたくし達が必ず、皆様をお助けします
だからどうか、生きることを諦めないで下さい

共におられる猟兵の方々と手分けをして住民の皆様の救助に当たります
わたくしは力を活かして雪かきや雪下ろしを
それから、薪割りも
この村の家に暖炉があるのなら、火を起こして部屋を温めましょう
いずこかに搬送の必要などありましたらそのお手伝いも
力仕事が必要でしたら、何なりとお申し付けくださいね

わたくし達が現れたことを知れば、オブリビオンは必ず何らかの策を講じてくるはず
ですからまずは焦らずに、機を窺いながら、村人の方々の救援に全力を尽くします


幻武・極
病と雪に襲われた村らしいね。
雪はオブリビオンが原因らしいけど、病の方はどうなんだろうね。
まあ、病は終息しているみたいだし、雪の方をどうにかしながら情報を集めるよ。

雪に対して備えがないらしいからね。
まずは家が潰れないように雪降ろしから始めるよ。
一通り雪を降ろしたら、情報を集めよう。
原因をどうにかしないと、また雪降ろしをしないといけないからね。


レイン・フォレスト
【SPD】
寒さと病気…それに飢えかな、問題は
となると僕にできそうなのは狩り、そして狩った獲物の調理かな
温かい食べ物は人の心を和ませるし、栄養のあるスープを飲めば病人の体力も多少は戻るかもしれないし

周辺の探索に出掛け獲物を探す
鳥とか小動物とか、何かいないだろうか
見つけたら【千里眼射ち】で狙いを定めて射貫く
ごめんね
君の命は大事に頂くから

道すがら薪になりそうな枝を拾って
無ければ帰ってから薪割りかな
家には料理用の竈くらいあるだろうし、それを使わせて貰ってスープを作ろう
肉はよく煮込んで食べやすくして

できれば火は絶やさない方がいいよ
病人の額だけ冷やしてあげよう


アリウム・ウォーグレイヴ
アドリブ歓迎

白に沈む村は美しい。
静謐で静寂な光景に、ある種の感動を覚えました。
しかし、この村の影では今この瞬間にも苦しんでいる人がいる。
見惚れる愚行を他の猟兵に悟られないように、急いで食料調達に移りましょう。
狩りで取れる動物の他にも、可能であれば『情報収集』した木の実や茸類も採取していきます。
私一人では採取できる量にも限りがありますので、ホワイトナイトで索敵範囲を広げつつ効率よく行動です。
取れた食料は、他の猟兵と連携して消耗の激しい村人の元へ運びます。
大した料理はできませんが、必要であれば料理を。
他の猟兵にお任せできれば、再度食料調達へ赴きます。

狩れた動物への敬意と感謝は忘れません。


玖・珂
全てが真白に覆われた様は綺麗だ
だが……此処の景色は見えぬようただ蓋をしただけのように見える

私には医術の心得が無い
人手の足りぬ家へ行き申し出よう

此の儘では危ないだろうから雪掻きを手伝うぞ

住民の防寒が不十分だと感じたら
首や腹をしっかり暖めるよう伝えておく
布が足りぬなら白縞を貸しておこう
もし火が小さいなら薪を割り焼べよう

屋根に登ったら
雪はスコップで下す
樹枝状晶を伸ばし白炎で融かす
どちらが良いか効率重視で選ぶぞ

雪下ろし中
他に比べ雪が多く積もっている場所は無いか観察する
発生源に近いほど降る量も多そうなのだが
住民にも降り始めの様子を訊いてみるか

何事も始まりには終わりがある
此の雪もじきに止む、必ずな


シャルロット・ルイゾン
【WIZ】
アドリブ歓迎

これが初めての雪では苦しい最期になってしまいますわね。
どのような熱病なのか調査をしてみますわ。
オブリビオンに繋がる情報が見つかればいいのですけれど。

礼儀作法でご挨拶して家々を回ります。
コミュ力を駆使して雪や熱病についてなるべく多くお話を聞いて情報収集を行いますわ。
体調不良の方々のご容態や村人の見解も伺ってみましょう。
医術で治療を試み、回復を祈りますわ。

亡くなった方の埋葬はお手伝い致したいですわね。
寒さへの備えのない地域での雪ともあれば、腐敗はまだそれほどでしょうけれど
熱病とは異なる悪影響を生きる方々に与えないよう葬って差し上げなければ。
学習力と医術で検死も行いたいですわ。


リーヴァルディ・カーライル
…ん。状況は相当に悪いみたい
敵は吸血鬼じゃないけど…放置はできない、ね
熱病の原因は不明だし、支援物資だけでは心もとない
本当は1人1人治療して回った方が確実だけど…あまりに数が多すぎる
…不確実な手段だけど、これが一番効果的、かな?

…私は【限定解放・血の教義】を発動
生命力を回復する“光属性の霧”で村全体を治療できないか試みる
…これなら家屋の中にいる病人にも届く…はず

…戦闘ではなく救助活動だから、
普段より準備に時間をかけて力を溜め、
暴走する限界ギリギリのラインを第六感を駆使して見切り
吸血鬼化した自身の生命力を術式に吸収させて2回攻撃を狙う(攻撃じゃないけど)

…これが私の魔法。去りなさい、死の眠り


リヴィア・ハルフェニア
苦しむ人達を早く助けましょう。
基本的な事はもうしてると思うから、私は私の出来る事をするわ。

治療するにしてもこの寒さで不調の人が増えるかもしれない。
【全力魔法】と【属性】で多めの大きめの炎の華を作り入物に乗せ皆さんに届けに行くわ。
精霊の力だから暖かいし安全よ。オブリビオンを倒すまでの物だけど見た目が華の方が良いと思うの。
あと、何か羽織る物も探して持って行きましょうか。
んー、精霊達にも配達を頼もうかな。

回ってる間に怪我人や病人は直ぐに治療。
早く元気になるように【歌唱】で【鼓舞】する【優しい】旋律を紡ぎましょう。【UC】

作業が落ち着いたら、故人の方々を埋葬しましょうね…。

≪アドリブ、絡み大歓迎≫




 いの一番に現れた籠目・祷夜(マツリカ・f11795)は、首巻に埋めた口許から白煙をあげる。
 ――哀しい話だ。
 長靴で踏みしめれば白い地はざくりと音を立て、たしかに雪だと認識する。
 生と死の上に降り積もる雪は、明らかに異常だった。温暖な地域というだけあって、村の外は過ごしやすい陽気だ。だが村の上にだけ鈍色の雲が浮かび、流れゆこうともしない。
 美しさと残酷が共存する村。いっそ映画か小説などの物語であればと、祷夜も願ってしまう。
 ――できることを、全力であたらせてもらう。
 祷夜は近い塀から屋根へと登り、さっそく雪下ろしを始めた。
 玖・珂(モノトーン・f07438)もまた、人手が足りなさそうな家を探して雪深い村内を歩いていた。
 民家の殆どが、積もった雪で扉も窓も塞がれかけている。村人たちは家に閉じ込められていると言っても過言ではないだろう。
 白銀に埋もれつつも辛うじて開いていた窓をノックし、寝台に横たわっていた若い女性へ声をかける。頬や鼻先が赤いのは、寒さによるものか。窓から吹きこむ風と舞う白雪が心地好いらしく、表情こそ穏やかだが、室内にいるというのに女性の吐く息は白い。
「これから雪を除ける。屋根にも上がらせてもらうゆえ、暫し音が響くかもしれぬ」
 出来得る限り手を貸すと告げた珂に、意識が朦朧としていたらしい女性は虚ろな目を向ける。
 朧気な視界で、真白の雪景色を背負って浮かぶ柔らかな乳白色の髪に、女性は釘付けになった。
「どちら、さま……もしかして、天使様、ですか?」
 か細く届いたのは、訝しむのではなく縋るような問いだ。
 熱病に魘される彼女が何を求めているのか知れて、珂は眉根を寄せる。
「残念ながら、迎えに来たのではない。……これを」
 半睡半醒な女性へ、フードが付いた白いケープを窓から差し入れる。力無く受け取った女性に、首や腹をしっかり暖めるよう伝えて、珂は窓から離れた。
 次々猟兵たちが、屋根に上がっていく中、白に沈む村を、アリウム・ウォーグレイヴ(蒼氷の魔法騎士・f01429)が蒼氷の瞳で見晴るかす。
 村に入らず眺めてもわかる。この村だけ世界から切り取られたように、深々と降る静謐を湛えた空間であると。だから思わずアリウムは、咥内でのみ呟いた。
 ――美しい、ですね。
 雪華が彩る濃淡には、青や銀も薄く刷いてある。陽が傾けば橙と赤に溶け、闇夜には白がぼんやり浮かんで、さぞ神秘的だろう。これが普通の雪景色であれば。
 見蕩れていた事実を他の猟兵に悟られぬようかぶりを振り、アリウムは村に背を向け走り出した。健康を保ち、気力を取り戻すには胃を膨らませるのが最善だと考えて。
 リヴィア・ハルフェニア(歌紡ぎ、精霊と心通わす人形姫・f09686)は村人の体調を留意し、一軒一軒、辛うじて無事な窓や戸を叩いて回る。彼女の色の白い指が持つのは、炎の華が飾られた器。華はふっくらと大きく、艶めいて燃える。精霊の加護を得たリヴィアの炎は、白の濃淡に満ちた村の中を照らして進む。
 ――苦しむ人達を、早く。
 希望を運ぶリヴィアの両手で、風に煽られ光が踊った。
 窓や戸を遠慮がちに開けてリヴィアの贈り物を受け入れた家は、途端に明るくなる。
 不安げに眉尻をさげた女性が、差し出された器に手を伸ばせずいたときも、リヴィアは丁寧に耳を傾ける。
「でも、あの子……熱い熱いって魘されて……だから熱すぎるのは……」
 熱病の子を想う女性の声は、震えていた。
「これは精霊の力よ。暖かいだけで安全だわ。それに……」
 華やかな炎越しにリヴィアは微笑む。
「きっと、お花に囲まれた夢が見られるわ。精霊が頑張ってくれるもの」
 精霊、と聞いても村人たちは想像に欠けるのかもしれない。けれどリヴィアが笑顔と一緒に手渡した温もりは、少しずつ、人々の心を融かしていく。
 そうして家に暖かさと灯りを届けるリヴィアとは別に、シャルロット・ルイゾン(断頭台の白き薔薇・f02543)も挨拶するべく窓を尋ね歩いた。真珠を思わせる色の髪を波打たせて、シャルロットが試みたのは熱病の調査だ。
 体調が芳しくない相手や、精神的に滅入った村人ばかりだ。自分たち猟兵については聞かれたときに答えるだけに留め、シャルロットは容態を確かめようとする。
「医術の心得もありますの。少しお身体を診させて頂いても?」
 熱病に関する知識の無い村人にとって、シャルロットの言葉は頼もしかった。助かるのならなんでも、と引っ張りそうな勢いで彼女は迎え入れられる。
 村から離れ動く猟兵と、村へ飛び込んだ猟兵とが動き始めた今。
 神酒坂・恭二郎(スペース剣豪・f09970)の両の眼は、捉えた景色と想像した行く末に、溜息をひとつ吐いた。
 ――こいつは、参ったな。
 頭を掻いた恭二郎の脳裏には、重ねてきた経験ゆえにか惨い未来が浮かんでいる。
 放っておけば間もなく、村だけが一面の銀世界と化す。今もなお降る雪は、加減も躊躇いも知らない。やがて村人たちの命の灯が凍え切り、安らかな眠りと共に消えるのも時間の問題だろう。
 だが最も厄介だと恭二郎が肌身に感じていたのは、災厄を起こした原因から悪意が滲み出ていないことだ。いっそ金品財宝や食料目当てで暴虐の限りを尽くす賊か魔物の方が、わかりやすい。
 ――後味の悪い仕事になりそうだ。さて、どうなるか。
 予感が当たらないよう祈りはせずとも、恭二郎の足は迷いなく雪原を蹴る。
 フィオリーナ・フォルトナータ(ローズマリー・f11550)もまた、家の頂点へ達していた。遥々と遠目にするのは、ダークセイヴァーの世界にあっても平穏な丘陵地帯。ただ自分たちの立つ場所だけが、世界から取り残されている。
「いけませんね。これは、いけません」
 繰り返しながらフィオリーナは力を高める。炎や風は常に、魔導を司る彼女の味方だ。白花を融かす赤とそれを助ける風を纏って、屋根に圧し掛かる雪を落としていく。
 平野を駆ける獣、忙しなく生きる人々、咲き誇り散っていく花――どんな命の輝きも、彼女にとって尊ぶ存在だった。
 けれど村を覆うこの白花は違う。きらきらと舞う様は美しくとも、フィオリーナが受け入れる対象にはならない。それはきっと、オブリビオンが命の輝きを奪おうと見せている玉屑だからだ。
「オブリビオン、どうしてでしょう」
 どうして、こんな方法を選んだのか。
 尋ねたい想いを小さく呟いて、フィオリーナは家々から雪の重みを払い落としていく。
 ドサ、ドサッ、と雪の重たさを知らしめる音があちこちから鳴った。
 武術の修行と同じ息の整え方をして、幻武・極(最高の武術?を追い求める羅刹・f00331)が威勢よく雪を下ろす。集わせた力と息を合わせて腕を突き出せば、掌から放った波動と巻き起こった風で、雪の塊も難無く滑り落ちる。
 ――雪に対して備えがないってのは、たいへんだよね。
 呼吸を一定に保ち、固まった部分を蹴り飛ばせば、まとめて落下していった。リズムを覚えた極の肉体は、あるがまま武を揮う。
 猟兵でも戦士でもない村人が雪下ろしをすれば、一段落つくまでに相当時間がかかっただろう。
 そんな村人たちに比べ、猟兵たちは力ある者だ。腕力、知力、応用力を発揮させて積雪の問題を片づけていく。

 雪かきを猟兵たちが始めたのと同じ頃。
 レイン・フォレスト(新月のような・f04730)は俊足を生かして、村周辺で食料調達を行っていた。村内はともかく丘陵地帯は細々と緑が息吹き、低木や茂みも多い。気温も動物や虫が活動するのに程よく、人にとっても快適だ。
 気配を消してレインが見つめる先は、動きがある箇所。
 ――鳥、小動物、この感じなら何かいるはず。
 村の家畜は恐らく壊滅状態だろう。加えて家に閉じ込められた住民たちだ。寒さで感覚が鈍っている可能性も高く、飢えも見過ごせない問題だった。
 だからレインは野を駆ける。柔い風が撫でていくだけの丘陵地帯は、丘の上から一望すれば平穏そのものだろう。ふと村を振り返り、すぐにレインは矢を番える。
 ――肝心の丘の上が、白に沈んでいなかったらの話だね。
 降る雪に囲われた丘の上の村は、離れて見ても薄暗い。
 緩く頭を横に振り、千里眼で狙い定めたのは茂みから辺りを窺う野兎。大きいからだではないが貴重なたんぱく源だ。距離があるため野兎もレインに気付いておらず、緩やかな曲線を描いて射貫く。
「……ごめんね」
 そっと囁いて野兎を縛り担いだレインは、低木の周りでぴょこぴょこ跳ねる鳥の群れを遠目で発見する。
 ――君たちの命は大事に頂くから。
 言葉をかけつつも躊躇いはもたずに、村人たちのためレインは矢を放っていく。
 一方アリウムも、村から離れすぎない程度に探索していた。
 低木に成っていた木の実を粗方採り終えたアリウムは、今度は日が当たり難い斜面や切り株、倒木を熱心に覗き込む。心許ない大きさだが、茸もきちんと生えている。可食については村人に聞くのが確実だろうと、虫がついているかどうかも確かめながら採取した。
 そんなアリウムの傍には、彼が騎士様と呼び慕う白銀の騎士がいる――ひとり分の手よりも、ふたり分の手だと、アリウムが呼び寄せた騎士だ。
 騎士の協力を得た採集は、あっという間に袋を満たす。
 途中ではっと我に返ったアリウムは、作業を切り上げ、騎士と一緒に袋を覗きこむ。
「……足りますかね、これぐらいで」
 うーんと唸ったアリウムはそこで、村へ戻ろうとしているレインを見つけ、声をかけた。
 レインはすでに狩りを終え、野兎や鳥を運ぶ最中だった。身動きがとれないほどの大荷物にはならないだろうと、アリウムはある提案を示す。
「私はもう少し持って帰りたいので、この袋を一緒に運んでいただいても良いですか?」
 茸と軽い木の実が詰まった袋だ。大きさこそあれど重量としては負担にならない。そう判断したレインは、遅くならないようにだけ伝えると、アリウムの袋も持って村へと急いだ。
 レインの背を見送ってから、よしっ、と声を発したアリウムは気合いを入れ直し、再び村へ背を向けた。


 灰色も混じる光景の中、樹木の枝葉が白皙の肌に浮かぶ。屋根に立つ珂のものだ。
 舞え、と囁けば広がった樹枝状晶の紋様が白炎の花を咲かす。のぼれ、と音を紡げば花片から炎が雪面を伝い屋根の天辺まで広がる。白銀を照らす炎の数々が、珂の意志に沿って雪だまりをも溶かしていく。
 水滴となって零れていく過去を見遣り、珂は何気なく村を見渡した。綺麗だ、と一言で表せる真白に包まれた景色。その真白の下では、寒がる人と、熱に呻く人が混在し震えている。
 ――それが見えぬよう、ただ蓋をしただけに思える。
 過慮だと珂自身が頷くにはあまりにも、覚えた違和感が強すぎた。
 彼女がいる屋根から近く。
 す、と深く息を吸い込み刀を正眼に構えたのは恭二郎だ。腋が締まり、無駄に分散することなく穏やかな気の流れを保つ。
 いかなる剣術にも太刀打ちできる構えから、恭二郎が放ったのは念動力。見えざる力は瞬く間に宙を走り、絶妙な制御で触れた先から、地層のごとく積まれた白を削ぎ落していく。波打つ衝撃は力強く屋根を震わせ、手早く片そうとした恭二郎の考えに見事に嵌る。
「ここはもう大丈夫だな。さて次は、っと……」
 行動が早いに越したことはない。
 恭二郎は高所から村全体を見回しつつ、優先順位を自らの中で完結させて、別の屋根へ跳び移った。
 猟兵たちの動きは、窓から村人たちも見届けている。寝そべったままぼうっと覗く者、迅速な彼らの仕事振りに窓へ張り付いて見入る者。
 やまぬ雪とそれを追う雪かきを望み、瞑想していたかのように佇んでいたひとりの少女が、伏せていた瞼を押し上げる。闇を終わらせる誓いを刻んだ外套が、雪風になびく。
 彼女――リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)にとって討つべきは吸血鬼。それだけだ。此度の敵は、彼女が葬るべき相手ではない。
 けれど、見て見ぬふりはできなかった。
「……限定解放。テンカウント」
 リーヴァルディが展開したのはユーベルコード。制限を外れた力が、暴走も恐れず発動する。
「吸血鬼のオドと精霊のマナ。それを今、一つに」
 呼び声に応じた光が、霧となって辺りで渦巻く。コントロールが困難な力ゆえに集中を途絶えるわけにいかず、リーヴァルディは再び睫毛を伏せた。細かい光の霧は空気と同化し、雪片に振り払われもせず村を徐々に包み込んでいく。
 準備にもたっぷり時間をかけた。限界に達するか否かの微調整は、慣れている術者本人でも難しい。霧が万遍なく行き渡ることはできないだろう。それでも、家屋の中で苦しむ病人の助けとなるなら。
 ――不確実だけど、一番効果的、なはず。
 呼吸を乱さず、瞼の裏に村の全景を映して霧が作用する範囲を広げていく。少しずつ、言葉通り少しずつ。
 ――これが私の魔法。……去りなさい、死の眠り。
 精神を統一させ揺るぎなきものとするべく、リーヴァルディは外界からの刺激を遮断し、耐えた。凍える風、触れて落ちゆく瑞花。彼女の魔法を阻むものの一切を。
 光がじわじわと浸みこんでいく間、珂は積もった雪の量を目視で確かめていた。村にあるのは民家と畑、家畜小屋に礼拝堂ぐらいだと聞いていたとおり、村は白銀に沈みながらも素朴さを保っていた。
 ただ、民家からも離れた村の奥――埋もれて見えないが、畑があったであろう雪原の先。悪天候による薄闇で紛れてしまっているものの、ぽつんと立ち尽くす礼拝堂に、珂の勘が疼く。もしかしたらと、鼓動が訴える。
 村長が鐘を鳴らすために登るという、時計塔。
 その塔が備わる礼拝堂だけ、なぜだか積もる雪が薄く感じた。
 一方、雪かき中の祷夜は、窓から身を乗り出した村人の誘いを断っていた。外の人にばかりやらせるわけにいかないと、青白い顔で村人が告げてきたのだ。だから祷夜も、迷わず首を横に振った。
「任せてくれればいい。今は休んでいてくれ」
 雪が止んだ後は、村人たちの手で蘇らせなければならない。まともに動けない彼らへ向けた祷夜の眼差しと言葉は、当人たちを困惑させた。
 何故そこまで言ってくれるのかと、ひとりの男性が告げる。他の村と交流も無いらしいこの場では、よそ者に値する猟兵たちの行動が、奇妙に映るのかもしれない。
 赤を宿した瞳を微かに緩めて、祷夜は唇を震わす。
「俺たちは猟兵。ただ仕事をこなすまでだ」
 突き放すほど冷淡ではなく、過度に寄り添うほど甘くもない声で、そう答えた。村人が目を瞬く。
 するとそこへ、別の屋根で作業していた極が跳ねながら近寄ってくる。
「あっちは一通り降ろしたよ。……でもまだ家の行き来は、あれかな」
 極が腕組みをして考え込んだ途端、恭二郎の声が湧いた。
 屋根から落ちた雪を寄せ固め、家の扉がきちんと開閉できるよう、連絡通路を作っていた恭二郎は、極たちを下から手招く。
 すでにフィオリーナも手伝っている最中で、雪面にぽっかり穴が掘り進められていた。
「さすがに二人ではきついからな、上から指示もしてほしい」
「まだまだ力仕事が待っていますよ」
 恭二郎とフィオリーナに促され、極は元気よく飛び降り、村人が窓が閉ざしたのを視認してから祷夜も全体を見渡す位置に立つ。
 ――少しでも楽になればいいが。
 先程の村人の表情を祷夜は思い出した。まだ純白は深く、病や寒さのこともある。気力を取り戻しつつあっても、なかなか思い通りには動けないだろう。だからこそ今、自分たちがいる。
 不意に、穴を掘りながら極が首をかしげる。
「病は何が原因なんだろうね。雪はオブリビオンが原因って話だけど」
 極の浮かべた疑問を耳にしたフィオリーナや恭二郎も、手は休めず不思議そうに息を吐く。
 まろい白が、ふわりと浮いて消えた。外はいまだに寒い。
「……病気もオブリビオンが原因なら、話は早かったんだけどな」
 やるせなさを抱いた恭二郎の言葉も、フォースの力で口を開けた雪穴へと、静かに吸い込まれていった。


 通路が開通するまでに、リヴィアは精霊ルトの手を借りて羽織るものを窓から差し伸べ続け、レインとアリウムは一軒の家で調理にとりかかっていた。
 暖を取る必要のない地域のため暖炉の類は無くても、調理場はしっかり存在する。
 大した料理はできませんが、とやや控えていたアリウムも、レインと並んで料理をはじめたら慌ただしくなり、きびきびと動き始めた。竈に点けた火はそれだけで温かく、レインたちを冷えからも守る。
 病人が多いのもあり、ふたりが作るのは肉をよく煮込んだスープだ。野兎や鳥をレインが手慣れた様子で捌き、アリウムは食べやすい大きさに茸や肉を切って火を通す。
 コトコトと賑やかな音を立てて煮込まれる具が、芳しさを浴びて踊った。
 調理場の熱か、または薫りか、どちらかに惹かれた家の住民である女性が、ふらりと姿を現す。
 ゆっくり座ってて、とレインが告げると、女性は緩くかぶりを振って。
「あの子に……はやく食べさせたいと思ったら、つい。それに私もなんだか……」
 胃の辺りを擦る女性の指は、頬と同じく痩せて青白い。
 アリウムはそんな女性を呼んだ。
「味見をお願いしてもよろしいですか? お嬢さんに運ぶ前に」
 腹を空かせた人にとって、味見ほど魅惑に満ちた誘いはないだろう。女性はこくりと頷き、ふたりのもとへ近づく。
 そろりと伸びてきた女性の手を、レインが自らの手でくるむ。
「できれば火は絶やさない方がいいよ」
 冷え切った家で、熱病に苦しむ娘のため窓から雪を掬い続けていた女性の体温は、ひんやりの一言で言い表せる状態ではない。
 病に臥せた娘のこと以外、気が回せないほど疲れ切った女性の手を引いて、レインはスープが入った小皿を手渡す。じわりと小皿から伝う熱に、女性の指が震えた。油断すると皿が落ちてしまいそうだ。思わず、レインが支える。
 女性が窄まった喉から、おいしい、と絞り出したのを聞き届けてから、レインとアリウムは視線を重ねて頷いた。

 料理が出来上がる頃には、家を繋ぐ連絡通路も機能しはじめていた。
 雪下ろしで凍えた手足にも構わず、猟兵たちは薪を割り、各家で薪をくべて回る。暖炉が無いため、竈を盛大に燃やし、しっかり暖を取るための用意を施していく。
 そうして区切りがついたところで、情報を共有するため一堂に会した。
「……わたくしたちの存在を感知すれば、オブリビオンも、なんらかの策を講じてくるでしょう」
 フィオリーナが何と無しに口を開いた。
 猟兵たちの村での活動を、オブリビオンが観察しているのか否かはわからない。
 だが除雪に尽力し、村人を救助する間の空気をまったく察知していないなどと、フィオリーナには思えなかった。
 思い当たる場所があると、次に言葉を紡いだのは珂だ。屋根の上から遠く目撃した、礼拝堂の様相を集った猟兵たちへ伝える。
「礼拝堂のとこだけ雪が薄いのは、気になるな」
「では、当面の行き先は決まり、ですね」
 祷夜が声量を控えて答えれば、すぐにアリウムも連ねた。
 そのとき。
「もうひとつ、お伝えいたしますわ」
 猟兵たちに降りかかった声は、シャルロットのものだ。
 熱病を調べていた彼女は、月に似た光の瞳を細めて、こう話す。
「熱病は、オブリビオンとは関係ございませんことよ」
 検死を行った結果、明確な病名は判明しなかった。
 だがシャルロットの見立てでは、家畜が感染源ではないかとのことだ。別の土地から運ばれた菌が、放牧中の家畜を通じて、免疫力の低い村人に蔓延したのだろうと。
 原因について触れたあと、シャルロットは僅かに話し声を抑えた。
「ですが、特効薬をすぐに用意できる状態ではございません。つまり……」
 発症したが最後、己の免疫で抗えない者は、緩やかな死を待つのみだ。
「症状を、やわらげることはできるのかな?」
 極が尋ねると、シャルロットは首肯した。
 ユーベルコードの力があれば、死に至るまでの苦しみを、ある程度は取り除けるのかもしれない――完治はできずとも。
 突然、カチャリ、と猟兵たちの後方で戸が押し開けられた。調理場で火に当たっていた女性が顔を出す。
「皆さん、寒いでしょう? こちらでお茶をいれますよ」
 幼い娘が熱病にかかり、心身ともに弱り切っていた女性だ。
 腹を満たし、暖かさと接して落ち着いたことで心持ちは多少回復したようだが、相変わらず皮膚は青白い。
 そろそろ行かないと、と切り出したのはフィオリーナだ。
「皆様を雪からお助けするために、為さないといけないことがあるんです」
 きょとんと眼をしばたたかせた女性に、急ぎであることを横からレインが伝える。
「だからあなたもどうか、諦めないで下さい」
 それだけ話すと、フィオリーナは会釈をして戸を抜けて行った。
 雪はまだやんでいない。オブリビオンが、村のどこかでずっと降らせているのだ。
 村のため充分働いてくれた猟兵たちが、何のため急ぐのか知る由もない女性は、ひたすら不思議そうで。
「此の雪もじきに止む、必ずな」
 だから珂は、家を出ていく猟兵に続きながら、女性へ静かに囁く。
「何事も、始まりには終わりがある」


 護りと浄化の唄が、光の霧に乗った。
 リヴィアが奏でる優しい旋律は雪に反響し、村人たちの耳朶を打つ。
 鼓舞する歌声は、外でリーヴァルディが解放し続ける煌めく霧のなかで幾重にも響いて、村を満たす。
 少しでも苦痛が和らぐようにと、祈りに似たリヴィアの歌声で。

 そして猟兵たちは、村の奥でひっそり待つ礼拝堂へと向かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『時計塔』

POW   :    大胆に進む

SPD   :    慎重に進む

WIZ   :    アイテムを活用

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●塔
 淡い白雪にも似た色の石で造られた礼拝堂は、時計塔と呼ばれる塔を供える、村で一番高い建物だ。
 技師でもある村長が鐘を鳴らすため、朝と晩に時計塔へと登る。
 村長が撞く鐘の音を聞いて人々は起床し、二度目の鐘で、放していた家畜を小屋へ戻し、実や花を摘んでいた人たちは家へ戻る。
 そんな日々も、雪が降り積もったことで途切れてしまった。
 まるで、時間が止まったかのように。

 猟兵たちは、民家と比べて積雪が薄い礼拝堂の前に佇む。
 空気はいまだ寒く、雪下ろしや雪かき、暖かい食事などで支援したとはいえ、根本的な問題である『降り続く雪』を片づける必要がある。
 村人たちの心も、猟兵の助けによって暖かく溶けだした今。
 彼らの生活を元の「温暖な地域にある丘の上の村」に戻すため、オブリビオンを探し出さなければならない。
 祈りを捧げる場というだけあって、ごく普通の礼拝堂だった。
 奥の扉を抜けていけば、塔に繋がる道も、塔を登るための階段も見つかるはずだ。
 ただひとつ、猟兵たちも気になっていることがある。
 村で活動していた猟兵たちの存在に、オブリビオンも気付いているはずだった。
 邪魔者に怒りをぶつけてくるだろうか。だとすればおびき出すのが容易い。
 身を潜めて猟兵をやり過ごすだろうか。だとすれば隠れそうな箇所を探すと良い。
 恐れをなして逃げ出すだろうか。だとすれば逃走経路を潰し、追い詰めるべきだ。
 いずれにせよ、白に埋もれた村と、雪を降らせるという術士の傾向から、想像する他ない。

 さあ、村という名の棺へ白花を降らせた幻想術士を、探しにいこう。
アリウム・ウォーグレイヴ
アドリブ歓迎

引き続きホワイトナイトを利用し、礼拝堂周辺から『情報収集』を開始致しましょう。
ぐるりと1周し、異常が無ければ建物内へ。
やはり怪しいとすれば塔でしょうか?
高い所から私達猟兵を監視、観察していても何ら不思議はありません。
他の猟兵と協力しながら1階を確認をし、身を潜める場所や隠し扉が無いか念入りにチェックします。
問題が無いようであれば時計塔へ進みましょう。
ホワイトパスを使用し、敵からの奇襲に備えるのも良いかもしれませんね。
敵の正体が判明しない以上、油断せずに探索を続けます。

村人のためにも一刻も早く、この敵を倒さなければいけませんね。


神酒坂・恭二郎
・POW指定
勘になるが今回のオブリビオンに悪意はない。
これは相手なりの善意による行動だ。
村のときを止め、静かに眠るように終らせようと言う慈悲なのだろう。
ならば、挑発の手順は決まっている。

「凍った時間よ、動き出せってね」

塔に繋がる道を行き、時計塔の鐘が見えた所で足を止め。
腰を浅く沈めて力をため、居合い抜きで青い光を放つ念動の衝撃波を飛ばす。
誘導弾による狙撃なので、少し上向けて狙って曲射させて鐘を撃って鳴らそう。
駄目押しに二回攻撃でもう一発を撃ち込んで更に鳴らす。

日々の生活の鐘がまた鳴り響いたら、オブリビオンの望む風景は崩れる。おびき出せるかもしれない。
駄目ならそのまま目立つように行軍する。


籠目・祷夜
なんと雪は原因では……そうか
だがやるべきことは一つだ
想像以上につらい選択となりそうだな

POWで行動
礼拝堂ならば隠れられる場所も限られてくるはずだ
俺はしらみつぶしに探索する
身を隠すような場所を特に注意して探す
物陰や、隠し部屋があるかもしれない
敵がいる気配にも気を払う

あまり意味がないかもしれんが、足音は極力消していこう
不意打ちを受けないように武器を構えていく

アドリブ、絡み歓迎


レイン・フォレスト
【SPD】
雪を降らせた張本人がここにいるのか
雪で村人を閉じ込めるという手段を使ったのは何故なんだろう
あまり表に出てきたくないタイプなのかな
陰から眺めてほくそ笑むタイプと言うか……
もしそうなら中にも何か仕掛けてあるかもしれない
慎重にいこう

村の人達の窮した様子を思い出し眉を顰める
原因を探し出すからもう少し待ってて
ここにはいない彼らに向けて呟いて

「忍び足」と「目立たない」を使って中へ侵入する
怪しいのはやっぱり機械室かなと思うんだけど

「聞き耳」で声や足音、何かの物音聞こえたら方向を探る
微かな物音にも注意して
音がしない時は「第六感」も使ってみよう
僕の勘は当たるんだよ


シャルロット・ルイゾン
【SPD】
アドリブ歓迎

オブリビオンと雪は関係があっても、熱病とは関係がなく
それでいて、感染の終息と雪は繋がりがあるのでしょう。
けれど、雪で時間は止まりませんのよ。ええ、例え、鐘がならなくとも。

塔を目指して進みますわ。
村で最も高い建物ならば、きっと村を一望できるでしょう。
ならば、元凶となるオブリビオンはその高いところにいるのではないでしょうか。
第六感と聞き耳で気配を探りながら
暗いところも暗視でよく見
あらゆる情報を収集して学習力で解析を。
村を見渡せ、隠れやすそうな場所を探してみますわ。

もしかしたら……ですけれど、オブリビオンは雪という方法で熱病から村や村人を、救いたかったのではないでしょうか。


フィオリーナ・フォルトナータ
誰に邪魔をされることもなく、村の様子を見ることが叶う場所…
やはり、時計塔の天辺にいるのではないかと思うのです
けれど、わたくし達の存在に気づいているのであれば
雪が全てを真白く覆い隠すように、術士もまた隠れてやり過ごそうとするのではないでしょうか

剣を手に、必要とあらば先行を担う一員として
わたくしは時計塔へ向かいます
塔の入り口は一つでしょうか
内部の広さはどれほどでしょうか
身を潜めることが出来るような場所は、ありますでしょうか
わたくし、生憎と警戒は得意ではありませんから
大きな声で呼びかけたり、足音を立てるなどして
侵入者の存在を知らせながら上へ上へと進みます

一刻も早く、止まった時を動かしにゆきましょう


玖・珂
天使、か
……望みが何であろうと、オブリビオンの介入は許さぬ
それに、生きてほしいと病と戦っている者もいるのだ

雪を降らすならやはり高い処からだろうか
時計塔の上なら村も良く視えそうだ

探索前に、皆と離れた場所で敵の姿を確認したら
鳥を遣わす旨を伝えておくぞ

時を告げる鐘は謂わば日常の象徴
傷などはつけたくない
出来れば此処での戦闘は避けたいところだが……

階段を忍び足で登りつつ、敵という失せモノを探すぞ
念の為、途中に部屋があれば覗いて確認
鐘や歯車がある場所にも行き、術士の姿があれば羽雲を飛ばし報せよう

もし外へ逃亡したなら糸雨を塔へ引っ掻け緩衝に使い
ジャンプで飛び降りて追跡するぞ


リーヴァルディ・カーライル
…ん。ごく普通の礼拝堂、ね
順当に考えれば敵は時計塔の一番上にいそうなものだけど…
実は秘密の地下室があったり、隠し通路があったり…?
…念のため、事前に建物の事をよく知っている人物…村長がいれば村長…に聞いておこう
敵が隠れられそうな場所の心当たり、とか。無駄骨なら、それはそれで…

…怪しい場所の心当たりがあれば、そちらに向かう
無ければ周囲を警戒しながら塔の一番上を目指す
敵の退路を見切り【影絵の兵団】を配置しながら移動し、
第六感が危険を察知すれば即座に回避行動をとる
…奇襲や罠も注意する必要があるけれど、元凶に逃げられる事の方が問題
一応、礼拝堂の周囲にも配置しておいたけど…さて。敵はどう動く?


リヴィア・ハルフェニア
≪アドリブ、絡み大歓迎≫

早く見つけて倒し、村の人達を安心させてあげたいわ。

一先ず私は隠れられそうな場所又は手掛かりを慎重に進み、違和感や怪しい場所を見逃さない様に探しましょう。
ああ、何処に敵がいるか分からないから罠や奇襲にも気を付けなきゃ。

でもその前に仲間と情報共有しやすいように、許可を貰った人に【絆繋がりし自然】を使用するわ。
そうね‥闇属性から探知能力を持つ精霊(猫)にしましょうか。
対象は仲間だから、付けた人達にも何か役に立てばいいけれど。

そうして集めた情報を整理していったら、何か分かるかもしれない。【学習力,世界知識】

あとオブリビオンをもし見つけたら、直ぐに何らかの方法で仲間に伝えるわ。


幻武・極
たしかにここだけ雪が少ないね。
雪を降らせるオブリビオンだから、雪をより多く降らせてるかと思ったけど、違うようだね。

ボクは慎重に進むよ。
雪が少ないということは滑りやすいということだからね。

足元や上から何か降ってこないかも注意して進むよ。



●白い村
 深雪に沈む家々へ、手を差し伸べてきた猟兵たち。
 彼らの手を掴んだ住民の肌が温まる頃合い、猟兵たちは礼拝堂を視界に捉えていた。
 外観は、時計塔だけが高見から村を見下ろす質素な礼拝堂だ。
 施設に詳しい人から話を聞きたいと、暫し村に留まり村長を探すリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)だけを残して、猟兵たちは礼拝堂へ近寄る。
「たしかにここだけ雪少ないね」
 大きな赤い瞳をぱちりと瞬かせて、幻武・極(最高の武術?を追い求める羅刹・f00331)が白い堂を見上げた。
 そうね、と近くにいたリヴィア・ハルフェニア(歌紡ぎ、精霊と心通わす人形姫・f09686)が頷き、白皙の指で古の盟約を辿る。
「大丈夫だとは思うけど、念には念を、ね」
 リヴィアは澄んだ眼差しで、一匹の猫を招いた。リヴィアが親愛を抱く闇の精霊だ。
 美しいフォルムを保つ黒猫と化した精霊を、白銀の騎士と共にいるアリウム・ウォーグレイヴ(蒼氷の魔法騎士・f01429)の足元へ寄せる。
 周りから調査する予定のアリウムについてく黒猫は、リヴィアと五感を共有し、有事の際の伝達役も兼ねている。
「感謝します。何事もなければ、すぐに皆さんの後を追いますので」
 アリウムはそう応え、白騎士と黒猫をお供に礼拝堂を一周し始めた。
 今もしんしんと雪は降り、村の上だけ、塗りたくられた鈍色がかぶさるままだ――オブリビオンが原因で。
 目的も真意も姿も分からぬ、不気味な敵だ。姿無き敵を感じようと、極は礼拝堂の入り口で深く息を吸い込む。凍てる空気に鼻孔が痛み、止まずの花弁は極の鼻先を掠めた。人家が並ぶ地域で味わったのと、同じ冷たさと匂いだ。それなのに。
 ――ここだけ雪をより多く降らせてるかと思ったけど。
 同じ村でも、礼拝堂と居住区で降雪量に天と地ほどの差がある。極は純粋に疑問だった。
 ――もしかしてここがオブリビオンの拠点だからかな。
 うーんと一頻り唸ってから、極は礼拝堂へ乗り込んだ仲間に続く。
 雪を降らせた張本人がここにいるのかと、レイン・フォレスト(新月のような・f04730)もまた礼拝堂の顔を見上げた。連なり思い出したのは、窮した村人たち。眉を顰め、もう少し待ってて、と雪風に呟きを紛らせた彼女の足も、雪降る佳景から屋内へ向かう。
 一方、つい先刻まで歩いてきた道が雪で埋もれつつあるのを、籠目・祷夜(マツリカ・f11795)は振り返っていた。やはり人々が住まう場所に近いほど雪深い。地面が透けはしないものの薄い白が広がる礼拝堂の周辺は、平穏そのものだ。
 そこで祷夜は目を眇めた――拝んできた銀世界こそが、熱病の原因であったなら。恐らく、心持ちも良かったはずだ。しかし現実は無残にも、期待を抉り奪う。
「……そうか」
 か細く零れた音は、晴らしどころのない憂いを含んだ。物思い、祷夜が瞼を伏せる。
 ――だが、やるべきことは一つだ。これだけは変わりない。
 想定していたよりも辛い選択肢が銃口となって、自分たち猟兵に突きつけられている。それを自覚した祷夜は、両足が現実の冷たさで固まってしまう前に瞼を押し上げ、歩き出した。
 さくさくさく、と軽快な足取りでアリウムが礼拝堂周りを進む。沫雪を踏みしめているかのようだ。今にも解けてしまいそうな雪の野は、彼だけでなく騎士や黒猫の足も拒まない。柔く受け入れる雪白の絨毯は、やさしさゆえにか歩く者のバランスを崩そうともしない。
 だが吐く息の濃さは変化なく、腕をさすりつつ礼拝堂の壁に触れる。人の手でひとつひとつ、淡い白の石を積んでいったと想像できる造りの礼拝堂は、村人たちにとって救いの場でもあるはずだ。日頃から祈りを湛えていたであろう冷え切った石に額を当て、熱を冷ます。
 ――きっと熱病に罹った方も、こういうお気持ちだったのでしょう。
 村人たちを救助し、オブリビオンとの戦いが迫っている事実に、アリウムは高ぶるわけでもなくただ熱を帯びていた。熱いから冷やしたい。寒いから暖めたい。生きるものとしての感覚が赴くがまま動いたのに、胸の底から生じる不安が拭えない。
 徐に額を壁から離し、見守るだけの白騎士と黒猫へ大丈夫ですよと囁いて、再び歩き出す。
 結局、入口の扉と、小さな倉庫に続く横扉の他にめぼしいものはなく、アリウムはすぐさま礼拝堂へ入った。

●礼拝堂
 入場した世界は、そこそこ広い礼拝堂だった。会衆が礼拝するための身廊を抜けた先、佇むのは祭壇。そして祭壇を挟んだ両脇の壁は、奥へと続く扉を備えていた。
 足を滑らせないようにしないと、と極が高下駄で床をトントン叩いて、ついていた雪を落とす。他の猟兵たちも極に倣い、靴にこびりつく雪を払った。
「よし、先に塔を見てくる。ここは任せた」
 気になる点がある神酒坂・恭二郎(スペース剣豪・f09970)は、礼拝堂の奥へ向かい、時計塔へと繋がる戸を開けた。
 フィオリーナ・フォルトナータ(ローズマリー・f11550)も剣を握り緊め、いち早く道を切り拓かねばと塔へ駆けていく。
 同じくシャルロット・ルイゾン(断頭台の白き薔薇・f02543)も、迷わず時計塔へ向かった。
 塔を真っ先に攻略する者と、礼拝堂からじっくり探索する者とで、猟兵たちの行動は分散した。
「撃破対象を見つけ次第、鳥を遣わす」
 礼拝堂を探る仲間へそう伝えたのは、玖・珂(モノトーン・f07438)だ。白い猛禽、羽雲を片手に止め仲間の記憶へ姿を刻む。
「わかったわ、そうしたらすぐ駆け上がるわね」
 気を付けてね、と付け足してリヴィアが金色の双眸を和らげて、珂の背を見送る。
 キィ、と入口の扉が不意に開く。反射的に振り向いた猟兵たちは、射しこんだ姿に胸を撫で下ろす――リーヴァルディが到着したのだ。
「収穫はどう?」
 尋ねたリヴィアに、リーヴァルディはかぶりを振る。
「……ん。村長、いなかった。昨晩、礼拝堂に向かったきりって……奥様が」
 村長の家を訪れたリーヴァルディは、寝台で魘され続けていた女性と、少ししてから話せたらしい。痩せ細ったおかげで皺も目立つ女性は、力無き笑みで息も絶え絶え礼を述べ、そして夫について口にしてくれた。
 家の扉が雪で閉ざされるまで、長は村を回り、村民に声をかけ続けていたと女性は言う。薬も、症状を改善させる術も持たず申し訳ないと謝りながら。とうとう家の行き来が困難になった頃、熱病で女性の意識も朦朧としはじめ、村長も彼女に付きっきりだった。
 そこで村長は気付いたのだ――祈りたい。そう想いを抱いた人がもし、村長の知らぬ間に礼拝堂を訪れていたらと。帰れず困っているかもしれない。寒さで動けなくなっているかもしれない。背負った責任感が、村長を突き動かしたようだ。
「……家同士、連絡手段も無かったから、一軒ずつ回るより、行って確かめるしかない、って」
「そう、なんですね。けどここには……」
 リヴィアと共に耳を傾けていたアリウムが堂内を見回す。整然と並ぶベンチにも、柱の影にも、祭壇にすら人の姿は無い。
 いらっしゃらないみたいです、と続けたアリウムに、ベンチの下を覗き込んでいた極が、身を起こして頷く。
「村の人が祈りに来たか確かめるだけなら、塔までは行かないかな?」
 極の放った一言に、猟兵たちは唸り出す。
 そこへ、夜のように昏い髪を揺らして、祷夜が奥から音も無く出てきた。
 こっちだ、と彼は仲間を手招く。
「村長が倒れてる。意識はあるようだ」
 短く状況を告げ、猟兵たちの足を奥の部屋へ急がせた。

 しらみつぶしに探っていた祷夜は、机や棚が置かれた奥の小部屋で妙な音を耳にした。
 よくよく考えずとも衣擦れの音だとわかり、近づいてみたところ、机の物陰に倒れた村長が両足をさすっているのを見つける。外よりか良いとはいえ、礼拝堂内も寒い。足を挫いたこともありまともに動けそうになかった村長は、足をさすりつつ、持参した僅かな食べ物で夜を凌いだと話した。
 堂内に残っていた蝋燭を集めて灯し、村長の傍に置いた祷夜とは別に、リーヴァルディが口を開く。
「……礼拝堂か時計塔……秘密の地下室があったり……?」
 順当に考えれば、オブリビオンが居座るのは時計塔の一番上のはず。そう考えているリーヴァルディだが、疑わしい場所があるなら、調べておいて損は無い。
 村長は地下室と、ついでに隠し通路の存在も否定した。
 そして時計塔の構造について、村長が話し始める。どこまでも続きそうな階段をひたすら上がれば、塔の中枢部である部屋に着く。そこから更に両足を酷使し上がると鐘楼だ。鐘楼は四方に壁もなく、風をまともに受け寒い。その鐘楼から梯子で繋がったさらに上、屋根裏部屋がある。
 村長から得られる情報は、そこまでだった。
 ちらりと、極が天井を仰ぐ。祭壇裏のこの小部屋なら、頭上から村長が襲われる心配もないだろう。
 そしてアリウムが白騎士を、リヴィアが黒猫を手招く。村長の傍で待機させておけば、心置きなく探索に励める。
 リーヴァルディも、村長の護衛代わりに影絵の兵団を召喚し、村長がいる部屋の前へ配置させた。本来戦わせるための兵団だ。敵の気配がすぐ近くになければ、そのうち自然と消滅するだろう。
 こうして村長たちを小部屋に残し、猟兵は塔へ向かう。
「やはり、いるとしたら塔でしょうか?」
 アリウムが塔へ続く扉を見遣った。顎を撫でて思いを巡らす。オブリビオンが高所から猟兵を監視していても、不思議ではない。
 入念に確認した地上階から、彼らもいよいよ塔内へ突入する。

●機械室
 カタン、カタンと眠りにでも誘いそうな心地好い音を刻む、時計塔の中枢。
 日焼けを避けるためか、陽射しで熱が溜まるのを防ぐためか、窓ひとつない一室は薄暗かった。しかし薄暗さの中でも輪郭は知れる。歯車を主として構成された部屋は、いわば機械室だ。
「これだけでしたら、他愛無い部屋のひとつでしかないのでしょうけど」
 シャルロットが聴覚を頼るも、一定のリズムを刻む歯車の話声しか届かない。暗がりに強い眼で見まわしても、術師は影も形も無く。
 ――オブリビオン……もしかしたら。
 村の時間は鈍ったままなのに働き続ける歯車を見て、シャルロットは目を細める。
 雪を降らせているのはオブリビオンである幻想術師だ。村に流行った熱病の原因がオブリビオンでないとしても、雪と凍えるほどの寒さを以って熱病が終息したことは、シャルロットの思考に引っかかり、隅に置き忘れるなど到底できなかった。
 ――熱病から救いたかったのでしょうか。雪の冷たさで、村人を。
 人情に溢れるオブリビオンなのか。人々の苦しみに心揺り動かされやすいオブリビオンなのか。
 出会う前からシャルロットの脳を混乱させる程度には、難しい種類の敵なのかもしれない。だが。
「……雪で時間は止まりませんのよ」
 ――たとえ鐘が鳴らなくとも。
 塔のどこかで傍観しているであろう雪の主へ向けてぽそりと呟くと、シャルロットはふわりとドレスの裾を翻し、さらに上を目指した。
 民家と比べて随分高い塔だ。ここまで通った階段室はともかく、複雑に入り組む歯車が連なった機械室は、物の多さゆえに隠れるのに適している。
 そう怪しんだレインは、塔の最上階を目指す仲間たちを見送り機械室で足を止めた。床には何かが這いまわった細い跡が伸び、見渡せば古い歯車ばかりが、人の手に頼らず動作している。村人たちが家に籠もり動きを止めた、今もずっと。
 息を殺し、歯車以外の音を除いて機械室を歩き始めたレイン。彼女の姿に、頼もしげに頬をふっくら上げて、警戒を得意としないフィオリーナも上階へ向かう。
 ――わたくしたちは、止まった時を動かしにゆきましょう。
 上で騒げば嫌でも術師が現れるだろうとふんだフィオリーナの姿も、上階へ吸い込まれていく。
 残留したレインが聞き耳を立ててみても、届くのは歯車の演奏だけだ。術師の気配や物音は感じない。あるいは奏でる歯車を盾に紛れているのか。ひとつひとつ可能性を潰していけば、術師を見つけ出すのも難しくないだろう。
 ――雪で村人を閉じ込めた、か。
 歯車の向こう側も念入りに覗き込みながら、レインは村の風景を思い起こす。
 なぜ、その手段を使ったのだろう。過ぎる疑問は彼女の内側で渦を巻く。
 術式による雪だ。積もるのに大して時間もかからないとはいえ、村人を死へ誘うだけなら、妙に遠回りな気がした。
 ――あまり表に出てきたくないのか、もしくは。
 薄汚れた機械室の四隅には、行き場を失くしたらしき鼠の死骸があった。寒さを凌ごうと潜り込んで、そのまま息絶えたのだろう。
 眉をひそめてレインは、通ってきた道のりを振り返る。機械室の床に残された跡は、恐らくこの鼠のものだ。
 ――陰から眺めてほくそ笑むタイプなのか。
 時計塔を根城にしていたのなら、鼠たちが追い込まれていく様も、ここで尽きる様も、術師は知っている可能性がある。
 悪趣味だ。人や獣の目を逃れ、身を潜め、一部始終を眺めているなど。レインはひとりごちた。
 術師の気質がそれならば、仕掛けのひとつやふたつ設置されているかもしれない。慎重に進むに越したことはなかった。
 機械室には、不要な荷の類は放置されていない。修理に使う道具は、村長が別の場所に保管しているのだろう。おかげで視界を遮るものは歯車機関のみだ。踏破したが仕掛けらしきものもなく、ただ物言わぬ機械と鼠だけが横たわる。
 階段の先を見上げたレインは、なんとなく身を震わす冷気が吹き込むのを感じた。壁無き部屋へ繋がっているのだろうか。
 妙な予感がする。働いた第六感を疑えないほど、レインの勘はよく当たった。
 ――当たってほしくないこともあるけどね。
 だからレインは駆け足で、上階の仲間を追う。

●鐘楼
 冥々とした機械室から遥か高み。そこでは白んだ明るさが、猟兵たちを出迎えた。
「ここから上へ出られそうですわ、っと。わあ……!」
 階段をのぼり切ったシャルロットが、感奮のあまり声をあげる。続いたフィオリーナも、シャルロットが目の当たりにした景観を空色の双眸に映し、濃い息を吐いた。
 暗がりから解放されたばかりの世界は未だ冴えない白だが、ひとたび村から視線を逸らせば、広がるのは穏やかな丘陵地帯や野山といった眺望。しかし変わらぬ遠景の暖かさとは裏腹に、強い風と寒さが猟兵たちを包み込む。
 風に煽られ辺りを見回せば、四方の柱で支えられた屋根帽子を塔がかぶるその中央、大きな鐘が寒さにじっと身を縮めていた。時計塔の工具や修理資材が積まれている。木箱の群れの隅に箒やモップが立てかけられ、外から見えない位置に張られた紐には雑巾が何枚かぶらさがっている。
 外界ではなく、鐘を拝むこの場を確認していた珂が、細く息を吐いた。なんとも生活感をも覚える階だ。
 やはりここにいるのではないかと、フィオリーナは長い睫毛を伏せて瞳が乾くのを防ぐ。
 ここなら、誰に邪魔をされることもない。そして何より、村の様子を眼下に一望できる。ふと屋根を見上げれば、今まで登ってきた階段とは異なる木の梯子が、屋根裏へ続いている。
「ようやく天辺が見えたみたいです」
 フィオリーナは安心を微かに含んで呟く。
 恐らく相手は、猟兵の存在に気付いているはずだ。だからこそ、術師も隠れてやり過ごそうとするのではないかと、彼女は懸念を抱き続けていた。雪が全てを真白く覆い隠すように。
 そして塔を上がってくる間も、足音をあえて立て、大声を出すなど、彼女は様々な事柄に注視してきた。
 為すべきことはここでも変わらない。
「オブリビオン! 出ていらっしゃいな!」
 声を張り上げ呼びかけるフィオリーナは、ゆっくり梯子をのぼっていく。
 梯子の先を、珂が見ていた。決して広いと言えぬ塔の上。しかも村人たちの日々を飾る鐘もある。できることなら、此処での戦闘は避けたいと彼女は考えた。
 あの梯子で屋根裏へ上がれば、どこまでも高く昇りゆき、塔の先端に着けるだろうか。村も良く視えそうな、高い場所。
 それを考えた珂の脳裏に浮かぶのは、村での出来事だった。
 ――天使、か。
 病に臥せていた村人が何気なく発した一言が、珂の胸に痞える。病床の女性から見たら、朧気ななか窓から姿を現した珂は、自らを迎えに来た存在に思えたのだろう。
 天の彼方より降りゆく、命の運び手。それが天使だ。
 けれどいま高みに立つのは、雪で村を埋めようとするオブリビオンの魔手。
 ――望みが何であろうと、オブリビオンの介入は許さぬ。それに。
 生きてほしいと願い、病と戦っている者もいる。
 失われてはならない熱を想いながら、珂は梯子へ足をかけた。
 同じころ恭二郎は、鐘に近寄らぬまま鐘楼の階段口に立ち尽くしていた。
 ――今回のオブリビオンに悪意はない。勘になるが、これは善意だ。
 悪さをしている自覚も無い。鐘が鳴る朝晩の報せを常とする村の時間を止め、静かに、言葉通り眠るように終らせたい慈悲の心が行動理由――そんな気がして恭二郎は、眉間を人差し指で押す。
 そして彼の視界には、平時、村人たちへと家に帰る時間を報せ続けた鐘――挑発の手順は決まっていた。
 鐘から間合いをとったまま、恭二郎は腰を浅く沈めた。帯刀した鞘に触れ、目に見えぬ力を集わせる。
 狙い澄まし、鞘から抜き放つ動作に乗った、真空をも切り開く念動。曲射した光は青白く瞬き、短い飛翔の末に鐘を叩く。
 間近で聞いたがゆえにか、鐘の周りにいた猟兵たちの鼓膜が震える。そしてその衝撃は、塔内部を探索する猟兵たちにも伝った。
 それほどまでに大きな音で鳴った鐘へ、更に早鐘のごとく恭二郎が二打目を入れる。
 村中に響き渡る、ゴォォン、と深い余韻を残す鐘の音。
 直後、短い悲鳴があがる。
 フィオリーナがまるで屋根裏の入り口で足を滑らせたかのように落下した。
 屋根裏へ続く梯子をのぼっていた珂が、なりふり構わず梯子から飛び降りる。そしてすんでのところでフィオリーナを受け止め、梯子の傍から飛びのいた。
「来るぞ!」
 珂が告げるや否や、屋根裏への入り口となる穴から、まばたきよりも早くひとつの青が落ちてきた。落ちてきたというより、目にも留まらぬ速さで舞い降りたのが正しい。
 慌てた素振りも乱れもなく、青き衣を纏うひとつ眼の幻想術師が、猟兵たちの前へ姿を現した。
「こっ、これが幻想術師……っ」
 術師によって不意打ちでかけられた雪を顔面から払い落とし、フィオリーナが声をもらす。
 礼を告げて立ち上がったフィオリーナを見届けて、珂はすかさず、他の仲間へ報せの羽雲を飛ばした。
 甚く奇妙な出で立ちを眼前にして、シャルロットは目を瞠る。
「……やはり高いところにいましたわね」
 咎人を殺めるための武器を構えたシャルロットにも、術師は動じない。ゆらり、ゆらりと身を揺らすのみで。
 自ら出てきたオブリビオンを前に、恭二郎が不敵な笑みを口端に浮かべた。
 彼は常より考えていた。生活として染みついた鐘がまた鳴り始めれば、オブリビオンの願う景色は崩れる。村の人々へ救いの手を差し伸べるだけでなく、生活をも取り戻そうと動けば、相手はそれを阻むべく姿を現すはずだと――恭二郎の思惑は的中した。
「凍った時間は動き出したぞ、幻想術師」
 表情うかがい知れぬ顔で、術師は鐘を鳴らした張本人を見つめる。
 悲しげにも見える面で。憤りを秘めたようにも見える面で。ただ、じっと。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『幻想術師『パラノロイド・トロイメナイト』』

POW   :    記録■■番:対象は言語能力を失った。
【夢幻の眠りを齎す蝶の幻影 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    記録■■番:対象の肉体は既に原型を留めていない。
完全な脱力状態でユーベルコードを受けると、それを無効化して【数多の幻想が囚われた鳥籠 】から排出する。失敗すると被害は2倍。
WIZ   :    記録〓編集済〓番:〓編集済〓
対象のユーベルコードに対し【幻惑し迷いを齎す蝶の群れ 】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠鶴飼・百六です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●青い命、白い眠り
 仄暮れに沈む村を望んだ、塔の上――吹きさらしの鐘楼の階。
 ゆらり、ゆらり。
 揺蕩う身に秘めた想いは言葉にせず、顔なき顔に映しもせず、幻想術師は伏せた瞼でただただ猟兵たちを眺めるばかりだ。
 術師は理解している。猟兵たちが、己を倒すため気を張っていることを。
 術師は理解していた。猟兵たちが、深雪から村を解き放とうとしているのを。

 だから術師は物思い、閉じた瞼の向こうで訴える。
 病に苦しむ命がまだあるというのに、なにゆえ安らかな眠りを奪おうとするのかと。
神酒坂・恭二郎
「ぐぉっ!?」
カウンターで吹き飛ばされ、雪道を転がる。
幻影を振り払って、会心の突きが入ったのに吹っ飛んだのは自分だ。
血まみれで転がりながら、大きく後ろに飛んで追撃の蝶の幻影をかわす。

手ごわい。
惚れ惚れするような脱力は、敵じゃなければあやかりたい位だ。
どうにも自分とは相性が悪い奴だ。
楽しくなってきた……。

「そのやり方で救える奴はいる。だが苦しむ奴もいる。お前さんの一つ目で見えるのは片方だけかい?」
 納刀し、少しだけ哀し気に告げ、抜刀の衝撃波。
 わざと奴から外し曲射で鐘を鳴らす。
 そこに返しの突き。
 カウンターを恐れぬ捨て身技で串刺しを狙う。
 今の仕掛けで、奴の脱力が綻びるか否かの一発勝負だ。
 


幻武・極
雪で熱病の苦しみを抑えても、それは救いにはならないよ。
病に打ち勝つ体力をつけて、病に打ち勝たなければ、その苦しみは終わらないからね。

戦闘ではバトルキャラクターズを使用するよ。
ボク達の攻撃を返せるみたいだけど、それも無防備な状態でなければいけないみたいだね。
ボクとバトルキャラクターズの連続攻撃をいつまで返し続けられるかな。


リヴィア・ハルフェニア
『雪が降ってから確かに病気の感染は治まった。でもそれ以上にその雪の寒さで苦しむ人や悪化する人々がいるんだ。だから、お前には退場してもらう。』

できれば広い場所など戦いやすい所に移動したいけれど、無理そうならそのまま戦闘ね。

まず仲間を【歌唱】で【鼓舞】。村の人達を助けたい為、皆頑張って!

【学習】しながら【全力魔法】で蝶は【属性:炎、範囲攻撃】で焼き尽くし、【属性:氷や属性:風】でオブリビオン自体の足止めや攻撃の邪魔をしていくわ。
また必要な時は【ミレナリオ・リフレクション】も使い相殺。

仲間が傷ついたら回復していくけど、回復役が足りていたら後方からのサポートや攻撃に専念。

≪アドリブ、絡み大歓迎≫


リーヴァルディ・カーライル
…まずは説得を。無駄かもしれないけれど…悪意を感じない
駄目だった時は仕方がない。村の人達の為に、あなたを討つ

…ん。認めよう。こんな世界だもの
苦しみからの解放、安息の眠りが救いになる時も確かにある…
…だけど、それは私達が来なかった時の話

あなたの“救済”が必要なのは今では無いし、ここでも無い
真の救いは、死の先には存在しない
それでもあなたは、彼らから生きたいという願いを奪うの?

…戦闘では第六感を駆使して危険を回避し
敵の行動を見切りつつ【限定解放・血の聖槍】を発動
吸血鬼化して力を溜めた怪力で敵を掴み地面に叩きつけ、
生命力を吸収する呪詛の血杭で傷口を抉る2回攻撃を行う
…さようなら。良い夢を、幻想術士


シャルロット・ルイゾン
あなた様を否定は致しませんわ。
熱病の終息は雪のおかげで
安らかな眠りは苦しみを和らげましょう。
けれど、そうして向かう死は果ての幸福とは呼べませんわ。

わたくしは、彼らを診ました。
彼らは診察と治療を望み
生きる希望を求めました。
たしかに、助からぬ者も少なくありません。
けれど、眠りのうちに死に行くことも
病に苦しみ、愛しい者の死に嘆きながら
生きようともがくことも
彼らは自由なる意志で選ばねばならないのです。
それが人間に保障されるべき自由と権利と尊厳ですわ。

攻撃を見て学習し、見切り、仲間を庇い
ミレナリオ・リフレクションでの相殺やカウンターを試みます。
倒れぬよう生命力吸収し
必要ならば最後にギロチンでの攻撃を。


フィオリーナ・フォルトナータ
病に冒された命を、救えなかったとしても
例えその先に待つのが救いでなく終焉だったとしても
それは、あなたの手によって齎されるべきものではありません
幻想術師…あなたがオブリビオンである以上
わたくし達は、あなたを倒します

皆様と連携し、攻撃のタイミングなどを合わせつつ
なるべく鐘を傷つけないように立ち回りたく
まずはトリニティ・エンハンスで主に防御力を強化し
仲間の皆様を守りながら戦います
一度見た攻撃は、ミレナリオ・リフレクションで相殺を試みますね
好機があれば力を溜めて、守りを砕く重い一撃を

…戦いが終わったら、雪も、溶けるでしょうか
時は、動き出すでしょうか
そう願いたいのです
力強く響いた、あの鐘の音がある限り


アリウム・ウォーグレイヴ
アドリブ歓迎

独善的ですね。
自らの善意を過信して、誰も望まぬ願いを押し付ける。
それでは誰も救えませんよ。
絶望の中でも人は希望を模索し、進むことができる。眠らせて、その機会を奪う事は許せません。
村人のためにもここで討ち取らせていただきます。
一手目はホワイトファングの『属性攻撃』で動きの妨害をし、チャンスを作っていきます。
動きが鈍れば、他の猟兵や、私の槍で攻撃できる隙ができるかもしれません。
この敵は特殊な技を使います。油断せずに確実に仕留めていきましょう。
手向けは雪の華。白に沈むこの場所こそがあなたの墓場です。
眠れ、とこしえに。二度と目覚めぬ眠りをあなたへ贈りますよ。


レイン・フォレスト
【SPD】
安らかな眠り?病気では無い人や動物まで凍えさせておいて安らか?
病人は確かに幾分か楽にはなったようだけど、それでももしかしたら治る可能性だってあったかもしれない、それを奪ったのはお前の方だろう
可能性、希望、そう言う物を全部奪っておいてどの口がそんな事を言うんだ!

珍しく感情が露わになってるのが自分でも分かる
だから努めて冷静になるように自身に言い聞かせてハンドガンを構える
【ブレイジング】を使って「先制攻撃」
とにかく敵の気をこちらに引き付け味方が攻撃しやすくなるように
UCの効果が切れたら「援護射撃」で味方の援護を

間違った慈悲と共に飢えと寒さまで与えたお前は消えるといい


玖・珂
建物や周囲に傷を付けぬよう
能く能く狙って攻撃するぞ

やさしさは時に善意の押し付けとなる
しかし迷惑ではないかと躊躇しては何も出来なくなってしまうだろう
だからお主の行動も間違いではない

が、苦しみの原因には目を伏せ
一様に眠ればよいという考えは些か乱暴であろう

鳥の羽雲を差し向け脱力状態にさせぬよう図るぞ
蝶が纏わるならば糸雨で斬り落とす

戦闘中に情報収集し、第六感も頼り
最もダメージを与えられそうな箇所へ当たりを付け黒爪を穿つぞ
……どうにも戦い辛い

過去のお主は、眠る事でしか苦痛から逃れる術が無かったのだろうか

白縞を貸した儘であったな
ついでに様子を伺って帰ろうか
――私はただのヒトで、ただのお節介焼きだ




 青く、白く。凍てつくやさしさが、塔の上に降る。
 眠りに沈む冷たい村。その原因となった幻想術師と対面して、猟兵たちは思い思いの色を顔に浮かべていた。
 そんな中、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)が説得にあたった。声も言葉もない相手に、無駄かもしれないとリーヴァルディは考る。だがそれでも、感じない悪意に、背を向けるだけではいられない。
「……ん。認めよう。こんな世界だもの。苦しみからの解放、安息の眠りが救いになる時も、ある」
 ゆっくり紡ぐリーヴァルディの言葉は、淡々としながらも丁寧に術師の面へ流れた。
「……だけど、それは私達が来なかった時の話」
 幻想による救済を必要とする場は、ここには無い。死の先に存在しない救いを、今為すべきでもない。

 それでもあなたは、彼らから生きたいという願いを奪うの?

 リーヴァルディの真摯な問いかけに、術師は身を揺らすばかりだ――言葉が届いているのは感じた。
 だが、他の考えを受け入れようとする気配は、そこにはない。
 苦痛に涙せず、静かに眠って命尽きること以外に、安らかな終焉など、まるでこの世界には無いかのように。
「……そ。なら」
 呟きながら、得物を構えた。
「……村の人たちのため、あなたを討つ」
 リーヴァルディの一言は、術師との断絶を意味していた。
 幻武・極(最高の武術?を追い求める羅刹・f00331)もかぶりを振る。
「それは救いにはならないよ」
 術師へ肩を竦めてみせるも、揺らがない。しょうがないとキャラクターを生み出して、極は早々に術師を叩く。
 ――安らかな眠り? 病気では無い人や動物まで凍えさせておいて、安らか?
 レイン・フォレスト(新月のような・f04730)は感情を刃先に篭める。込み上げる想いに抗えない。
 治る可能性も、あったのかもしれない。生きられる可能性が、まだあったのかもしれない。
 誰にもわからない未来を、可能性を一方的に凍えさせた術師の言い分は、レインの中に眠る怒りに触れた。
「可能性、希望、そう言う物を全部奪っておいて……っ」
 露わになった激情を抑えるように、レインはハンドガンを構える。
「どの口がそんな事を言うんだ!」
 狙い外さぬ射撃は彼女の腕のあるまま術師の足元を撃ちぬく。僅か揺らいだが、レインは次に瞼を押し上げたときには元の表情を取り戻した。
 一方、シャルロット・ルイゾン(断頭台の白き薔薇・f02543)はじっと術師の動きを見定めていた。行動をつぶさに見れば、機会を逃すこともない。
「……あなた様を否定は致しませんわ」
 熱病の終息。それは雪のおかげだろう。苦しみを和らげる、冷たいやさしさ。
 だがシャルロットには理解し難かった。
「けれど、そうして向かう死は……果ての幸福とは呼べませんわ」
 シャルロットの言葉が突き刺さり、術師の顔なき顔が彼女を振り向く。
 そこへ、フィオリーナ・フォルトナータ(ローズマリー・f11550)が口を開いた。
「あなたがオブリビオンである以上、わたくし達は、あなたを倒します」
 深く息を吸い、自然が生み出す魔法を寄せ集める。フィオリーナの言葉違わず魔の力が、自身の守りを強固とした。
 幻想術師の両腕が、だらりと垂れる。
 鐘や建物との距離の感覚を身に刻みつつ、玖・珂(モノトーン・f07438)は、白い猛禽――羽雲を差し向けた。脱力する様に絡めた白が、術師に力を籠めさせる。
 独善的ですね、とオブリビオンへ言い捨てたのはアリウム・ウォーグレイヴ(蒼氷の魔法騎士・f01429)だ。力を抜き損ねた術師めがけて撃ちだした弾丸は、アリウムの眼差しを彷彿とさせる冷たさで、舞い始めた蝶を凍らせる。
「それでは誰も救えませんよ」
 善意を過信して、望まぬ願いを押し付ける。そんな術師へ向けるアリウムの感情は、銃弾のごとく強い。
 ふと神酒坂・恭二郎(スペース剣豪・f09970)が駆けた。
 力には力を。揮った一閃の刃は術師へ向かうものの蝶にまみれ、飛び込んだ彼の姿ごと呑み込んだ。切っ先から柄まで一瞬で覆った蝶の幻影に、ふわりと身が浮く。
 振り払い、もう一度、と抜き身で飛び込んだ恭二郎の刃を、脱力した術師の輪郭がはじき返した。
「ぐぉっ!?」
 術師の傍から転がり出た恭二郎は、ゆする鳥かごから零れた空想の煌めきをかわし、間合いを取る。
 手強い、と恭二郎は喉奥で呟き、しかし恐れ戦くのではない震えを覚えて頬を挙げた。勝負師としての本性が疼く。生死の境目、どちらに降りきれるかも知れぬ危機的状況。
 ――どうにも相性が悪い奴だ。楽しくなってきた……。
 全身を走る血の滾りを表情に灯して、恭二郎はオブリビオンを再び視界に入れた。
 リヴィア・ハルフェニア(歌紡ぎ、精霊と心通わす人形姫・f09686)が歌う。浄化を導く声は降る白花にも負けず響き渡り、鐘が微かに共鳴に震えた。
 ――みんな、頑張って!
 歌声に、鼓舞の意思を乗せて。
 レインが連射を散らして術師の気を惹き、戦場となる鐘の周りを駆けまわる。
 つられた瞑目の面がレインを追うのを、途中でアリウムが挟み更に惑わす。彼の背丈ほどある槍は白く、しかと握り緊めた。
 ――村人のためにも、ここで討ち取らなければ。
 村に振り撒いた術師の惨事を、アリウムは思い返す。弱くとも震える拳があり、弱くとも高らかに張り上げる声がある。絶望の中で希望を模索する人の姿も、アリウムにとって同じものだ。人が持つ力とそれを揮う機会を奪った術師は、だからこそアリウムの双眸を揺らす。
 するとアリウムの怒りに反応してか、幻想術師の伏せた視線が彼を捉えた。
「許せません」
 悲鳴にも似た甲高い風切り音を生んで、アリウムが空を斬る。白銀の花が降り続く空を断てば、術師の織りなす幻想が裂けた。蝶の片翅がはらはらと雪のごとく落ちる。
 ふたりの意識に気を取られた術師へと、シャルロットとフィオリーナが重ねたのは二種のミレナリオ・リフレクション。
「……わたくしは、彼らを診ました」
 シャルロットが見開いた眼は、術師を真っ直ぐ見据える。
「彼らは診察と治療を望み、生きる希望を求めました」
 蝶の幻影がシャルロットとフィオリーナの手を離れ、天を舞う――それは術師が召喚した幻想と、同じ景色。
 ひとつであれば拮抗したであろう蝶の乱舞も、ふたり分の力が重なれば術師を凌駕する。
「たしかに、助からぬ者も少なくありません。けれど……」
 続けたシャルロットの言に、術師は押し黙り顔を傾けるだけだ。耳が無くとも聞いているのか。それとも肌身で感じているのか。
 伝わるのかどうかわからずとも、シャルロットは渾身の情を言葉に乗せる。人にとって大事なものを訴えるべく。
「彼らの意志で選ばねばならないのです。それが人間に保障されるべき自由と権利、尊厳ですわ」
 シャルロットの話に、術師は頷きも否定もせず漂う。
 だが、向けられた想いが何かはわかるのだろう。纏う空気が、妙に滲む。
 蝶を蝶で掻き消したフィオリーナも、軸の外れぬ術師を見つめる。
「ええ、例えその先に待つのが救いでなく、終焉だったとしても……」
 フィオリーナは、剣を握る手をぎゅっと強めた。
「それは、あなたの手によって齎されるべきものではありません」
 何度でも、猟兵たちは幻想術師へ告げる。人の生き方の在処を、守られるべきものを。
 そこへ極のゲームキャラクターが飛び込む。だらりと力なく揺れる両腕めがけ、連ねに連ねた打撃で押せば、一歩、また一歩と術師の居場所が下がっていく。
 生まれた合間にリヴィアが炎を紡ぐ。精霊ルトの力を借りた火は、寒さを凌ぐ暖かさでもあり、青い眠りから目覚めさせる輝きでもあった。たなびく炎がかの者の囲い、動きを微かに鈍らせる。
 降雪によりたしかに感染は治まった。その現実からは、目をそらさずに。
「でもそれ以上に、雪の寒さで苦しむ人や悪化する人々がいる。だから……」
 リヴィアが唇に刷いたのは、盛る火と同じ情の熱。
「お前には退場してもらう」
 宣言は、違わずオブリビオンを射貫いた。
 直後、自由気ままに飛ぶ蝶の幻影が珂に襲い掛かる。影は雪降る空間を背に浮かび、薄さに劣らず力強い。翅霞む蝶の下、珂は術師へ向け唇を震わす。
「お主の行動も間違いではない」
 珂の内に紡ぐ考えの糸は、人の厚意を思い起こしていた。
 やさしさが時に善意と押し付けとなることも、それを理由に迷惑になるだろうと躊躇し竦んで何もできなくなることも、人が関わり合う上で逃れられぬ宿命だ。間違いではないと珂が口にしたのは、そうしたしがらみを想起してのことだ。だが。
「苦しみの原因には目を伏せ、一様に眠ればよいという考えは……」
 秘すれば花――己の命を養分とし珂の片目に咲いたのは、緋に染まる花。
 高まった力は、飛び行く蝶を切り裂き、鱗粉の雨が降るなか術師へ告げる。
「些か乱暴であろう」
 珂を彩る緋が敵をねめつけた。
 そうして切り結ぶ視線と幻影の後ろ、リーヴァルディは寂然に沈んだ意識を一点に集わせる。
「……限定解放」
 伏せた瞼は、秘めたるヴァンパイアの力を呼び起こす。
 不穏さを感知したのか、術師が蝶の幻影を生み出した。踊る幻を直感で避けたリーヴァルディは、床を蹴る。彼女の手には吸血鬼たる力の加護が宿った。
 そして突き出し術師へ放ったのは、魂をも震わすほど力強い掌打。す、とリーヴァルディが細く息を吸う。
「……刺し貫け、血の聖槍……!」
 圧縮された魔の力が血杭となって、リーヴァルディの手元を離れた。血杭に突かれた術師は呻きもせず、ただただ抉られた箇所を身に残す。


 白花舞う鈍色の景色を背に、シャルロットは幻影の蝶を走らせた。
 術師が使った蝶と寸分たがわぬ形をぶつけ、相殺する。同等のものが弾ければ、蝶を成していた幻の欠片もきらきらと量を増す。
 緋を片目に咲かせたまま珂が欄干を蹴り、跳ねる。飛び上がった身を捻り落下の衝撃を乗せて、蝶の幻影もろとも術師の身へ黒爪を穿つ。散った蝶の破片が舞う中、五指を覆う鉄の装甲は、血を吸い上げ蓄えたかのように色濃い。
 ――どうにも、戦い辛い。
 珂の胸中に滲むちりりとした痛みは、他ならぬ珂の思考から来るものだろう。
 雪の冷たさで熱の苦しみをやわらげ、そのまま凍えた世界で永遠の眠りを招く。幻想術師の仕出かした事態に、珂も思い巡らせずにいられなかった。
 ――過去のお主は、眠る事でしか苦痛から逃れる術が無かったのだろうか。
 両の眼に映す青き幻想術師は、珂の思惟も露知らず、ゆらゆら揺蕩うばかり。
 蝶が舞う。夢幻の眠りをもたらす蝶が、優雅に。姿を拝むだけなら穏やかなれど、夢幻の蝶が与えるのは無差別な攻撃だ。
 深く痛めつける蝶の幻影を真っ向から受けたのはフィオリーナだった。誇り高き様を連想させる紋章が刻まれた盾を構え、青紫にゆらめく蝶を殴打する。盾による強打は幻影を鱗粉のように粉砕し、消失させた。
 煌めく紫が視界に散りばめられる。目撃したフィオリーナは、思わずにいられない。
 ――戦いが終わったら……雪も、溶けるでしょうか。
 粉となり溶けた幻影と同じく、村にも暖かさが戻ることを願って、少女は二振りの剣をかざす。
 そこで術師の気を惹こうと動くのはレインだ。
「お前は、自分が何を村人たちに与えたか、自覚しているのか?」
 彼女の問いかけに術師は応じず身を揺らす。術師からなんらかの意思は感じられても、言葉を通い合わす次元にいない。ならば弾丸で言葉を撃ちこむべきだろうと、レインの銃口は術師を定める。
 与えたのは間違った慈悲、そして飢えと寒さだ。人心を狂わす要素でしかない。
 それらで村人を追い詰めたオブリビオンへの憤りを弾に込め、レインは引き金を引く。目にも止まらぬ速射が鳴り響き、翻した術師の手足を撃ち抜いた。液体に思える手足に空いた穴も厭わず、術師はレインが真っ直ぐ突きつけた想いを身に沈める。
 レインの攻撃へ術師の意識が向いた僅かな隙に、好機を逃さずぐっと力を籠め、フィオリーナが斬りかかった。
 ――芯まで、砕かせていただきます。
 振り下ろせば魔力に満ちた軌跡を描き、重い一撃が術師の身を叩く。叩き斬った拍子に、液状にも思える腕がぐわんと撓み、仕返しとばかりに剣を跳ね返す。
 ここまで学んだ術師の動きを頭に浮かべ、リヴィアは精霊ルトを手招く。
「ルト、炎を」
 リヴィアの願いに沿った精霊の加護は、炎で術師の足元を焦がす。蒼を呑む赤は眩く、術師の意識を妨げた。
 近くで、微かな音を零すのみで恭二郎は納刀した。時間の流れは常であるのに、息を吸い想いを言葉に換えるまで、時間が止まったかのようにも感じる。だから伝えるのに難は無かった。
「そのやり方で救える奴は、確かにいる」
 自らへ向けた言葉だと感付いたのか、術師が恭二郎に向き直る。
「だが苦しむ奴もいる。それがわからないのか、あるいは……」
 恭二郎の紡ぐ声はどことなく哀しげだ。
 刹那、鞘から姿現す刀身に沿って衝撃波が息衝く。術師が瞼越しに動きを捉え、全身の力を抜いた。一撃を受ける体勢だ。
 恭二郎は不敵に口角を上げた。
 ごうん、と大きな唸りが響く。術師のみならず猟兵たちまでも、わななく音に動きを一瞬止める。
 一刀のもと恭二郎が衝撃波で打ったのは、術師の身ではない。曲射の末に届いたのは、村へ時間を報せる鐘。
 術師の顔なき顔に驚きは見えず、けれど虚を突かれ鐘を鳴らされた事実は揺るがず、術師の頭部が村の象徴を仰いだ。そのとき、捨て身で突撃した恭二郎の一振りが、完全なる脱力が綻びた敵を貫く。
「お前さんの一つ目で見えるのは、片方だけかい?」
 恭二郎の言葉が刃を這った。
 声を失った術師は悲鳴も呻きもあげず、ただ身を捩り串刺しから逃れる。元々ふらつく足取りのオブリビオンだが、先ほどよりもこうべが垂れた。
 そこへ極とリーヴァルディが仕掛ける。
「病に打ち勝たなければ、その苦しみは終わらないからね」
 そう言いながら極のバトルキャラクターが連撃を喰らわせば、直後リーヴァルディが動く。細腕に籠もる怪力は視覚に映らず、あるがままリーヴァルディに依って振るわれ、術師の首根っこを掴む。
 駆けた勢いのまま仰臥させ、石造りの床へ叩きつけても、術師はやはり顔色ひとつ変わらない。苦しむ素振りさえ、見せない。
 ずっとそうして、術師は空想を思い描いてきたのだろう。リーヴァルディは目を眇めた。
「……さようなら、幻想のひと」
 淡々と口にした別れの言葉を呪詛に、リーヴァルディは首飾りの弾けた痕が生々しい箇所へ杭を打ち込んだ。
「……良い夢を」
 子守唄よりも静かにリーヴァルディが歌い、抉った傷口から杭を引き抜けば、青い体液が糸引く。直後、術師が蝶の幻影を生む。見切ったリーヴァルディがすんでのところで後ろへ飛び退いた。
 鐘楼の周りを覆い尽くさんばかりの青紫の翅も、先刻のものより揺らぎが強く見える――アリウムには、そう見えた。白花に代わる幻想術師の抗いを感じて、アリウムは目を細める。
「ご安心を」
 そう術師へ告げたアリウムの貌に浮かぶのは、曇天の最中に咲く雪の華。
 四季咲のゼラニウムを模した鍔で、舞う蝶の群れをはたき落とし、アリウムは術師の懐へ踏み込む。
「あなたの墓場はここです。どこにも行かせません」
 はらりと垂れた紺桔梗の雨の狭間に、二粒の蒼氷が覗く。凍てつく眼差しが射貫いた先、冬の湖を思わせる冴えた魔を帯びた剣身が、迷いなく術師の幻想を突き刺す。押し込む柄に必要以上の力を籠めずとも、根幹を断ったと伝わる感触で知れる。
「眠れ。とこしえに」
 アリウムの贈り物は、かの者の核を打ち砕く。
 まもなく、名残惜しむように術師が腕部を伸ばした。どこへともなく、ふらりと。
 青く溶けた指先は、しかし自らが生んだ白花すら掠り取れず、静かに消えた。
 一瞬の静寂ののち、フィオリーナは反射的に欄干へ駆け寄った。
 塔から覗き見た村から、雪片がひらひらと天へ昇る。まるで時間を遡るかのように。徐々に積雪は薄くなり、猟兵たちが掻き寄せた白い塊も頂きから溶け、鈍色の去った晴れやかな空へ吸い込まれていく。
 雪融けは、停止していた村の時間が完全に解けたことも告げる。
 揺れる瞳を露わに、欄干を握るフィオリーナの手にも力が籠もった。
「……動き、だしたのですね……やっと」
 家々に留まる人々の眼にも、明るくなった空へと還る雪花の群れが映っているだろう。
 眩い景色を眺め終えた恭二郎は、踵を鳴らして鐘へ向き直り、ぐっと腰を据える。
「景気づけといくか」
 宣言は揚々と。突き出すエナジーは円く。恭二郎の放った力は、術師を誘き出したときとは違う真っ直ぐさで鐘を叩いた。
 村中にふたたび響き渡る。
 凍える深い雪の終わりを、報せる鐘の音が。

●後の村
「落ち着いたら、村の人に武術でも教えに来てみよっかな」
 静かな村を見渡した極が、何気なく呟く。体力がつけば病と闘える可能性も格段に高くなるだろうと踏んで。
「たしかまだ食材があったはずですし、私はもう少し食事を用意して帰ろうかと」
 村には未だ病人が多数いて、その病人に付きっ切りの人も多い。アリウムの発言に近くでレインも頷く。
「僕も村で手伝ってから戻るよ」
「……ん。できることがあるなら、良いと思う」
 リーヴァルディのささやかな言葉に、そうだな、と恭二郎が口端を上げて続ける。
「村人たちも、これから自分たちの手でやってくとはいえ」
 立ち寄るのに不都合はなかろうと、顔を見合わせてそれぞれ頷いた。

 歌声が、村に響く。
 リヴィアはとある女性の家を訪れていた。女性に乞われ、病に臥せた娘の前で歌を披露している。先に歌って村人たちを鼓舞した際、歌を聞く娘の表情が和らいだのを、母である女性はどうしても忘れられずにいた。だから切実を塗った表情で、リヴィアに願いを向けてきたのだ。
 病と闘う中で、せめて苦しむ時間が少しでも短くなればと。
 リヴィアが無下にするはずもなく、歌を紡ぎ、苦痛に生じた眉間のしわを消す。傍では精霊ルトが彼女の唄で楽しげに身を揺らし、熱病に苛まれる娘のみならず、女性も穏やかな顔つきで休む。
 外では力に自信のあるフィオリーナが、雪の重みで崩れた納屋の材木から再利用できそうなものを選別し、長さや種類ごとに分けていた。
 ――この一手が。この一歩が。再興の助力となれたら幸いですね。
 仰いだ空には鈍色も白花も無い。フィオリーナは雪が降っていた間とは異なる澄んだ草の匂いをめいっぱい吸い込み、作業を続ける。
 その頃、シャルロットは墓場に佇んでいた。彼女は体力のある村人たちと協力して、まともに埋葬できずにいた者たちを弔う。幸か不幸か、シャルロットが想像したとおり、雪のため腐敗も無く、他の村人へ影響を及ぼすほどの状況には至らない。
「本当に、ありがとうございます」
 村人たちが口を揃えた。シャルロットは微笑みで応じるのみにとどめ、まだ墓前に頽れた人もいる場で、余分な言葉を控える。
 人としての尊厳を守るため戦った彼女にとって、墓場に流れる謝意も嘆きも、すべてが平等だ。
 ――幻想術師、わかりますわね、これが、これこそが。
 生きとし生けるものに与えられた、決して損なってはならない大切なこと。
 シャルロットは既に亡き術師へ、想いを手向けた。
 静謐を湛え、すべてを看取る望月の眼差しで。

 天使様ですか、と嘗て尋ねてきた女性は未だ寝台に横たわったまま、けれど言いつけ通りしっかり白いケープを羽織り、身を暖めていた。
 窓から差し込む微かな光が揺らいだためか、二度目の訪問者に、女性が徐に瞼を押し上げる。虚ろな女性の目が珂を捉え、ほんの少し和らいだ。
「天使様、お借りしていたものを……お返しします」
 女性はゆっくり身を起こし、守ってくれていた温もりを脱いで差し出す。
 熱に浮かされ、夢と現の境がもはや判らぬのか再びその名で呼んだ女性に、意識せず珂が眉をひそめる。
「私はただのヒトで、ただのお節介焼きだ」
 珂が事実を返すと女性はゆるりと瞬き、それから微笑んだ。
「……そう、ですね。感謝します、旅のお方」
 振り絞った掠れ声は安らかだ。悲しみや絶望の芽は無い。
 白縞を受け取ると、珂は多くを語らず立ち去った。
 そんな彼女の姿を見届けたあと、女性は礼拝堂が建つ方を向く。そして力無い笑みで掌を組み、指を折りたたんだ。
「天使様、天使様……お会いしたときは、どうか、お話しさせてください」
 濡れた睫毛を伏せ、言葉を綴る。
「やさしい白花よりもずっとずっとやさしい旅人が居たことを」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月22日


挿絵イラスト