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ガラクタを泳ぐ影

#アルダワ魔法学園

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#アルダワ魔法学園


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●ガラクタの山、その予知
 学園の制服を自称する個性的な衣服を身にまとった学生達は、迷宮内だというのに鼻歌交じりに足を進めていた。仄暗い区画のその足場は、うず高く積まれた魔導蒸気機械で固められ、一歩進むごとに微かな揺れと不安定な感覚を足裏に伝えていく。
 しかし、彼らにとってはそれすらも一種のアトラクションでしかない。学生たちは緊張感のない雑談を交わしては、灯りを左右に振り目的のモノを探していく。悪い足場と見通しの悪い空間、そこで行われる探索は多大な時間と労力を必要としたが、迷宮探索という点で見ればなんのことはないお遊びのようなものだった。
 そこはすでに踏破済みの区画。学園内からつながったダストシュートの先にある、言うなれば迷宮内のゴミ捨て場。
 こうした使われ方をし始めたのはいつ頃だろうか。少なくとも、この場にいる学生たちが学生となる頃には使われていた、伝統あるゴミ箱である。数えきれないガジェットは比較的見覚えのある新しいものが転がっているのだが、表層を一つめくれば時代を感じさせる壊れた魔導蒸気機械が眠っている。人によればお宝の山と考えるだろうが、彼らの中にガジェットオタクは一人としていない。そうした人員ははじめから弾かれているためだ。
 積まれた崖のようなゴミ山を登りきり、見えたのは廃棄物の平野。不可思議なフロアに塗れたこの迷宮内でも、このように人工物が積もった場所はそうないだろう。学生たちは感嘆の声をあげ、頂上から見下ろす広い空間を見やり……その蠢く足場に漸く気付くことができた。
 初めは自らの重量による不安定が原因であると考えていた。ゆらゆらと揺れる足場を踏みしめ、どかした足の下から更に揺れる感覚が全身を襲う。そう、おかしいと感じた時点で手遅れであった。
 ガジェットの床に空いた隙間は大きく小さく、そこから伸びる粘液が足へと絡むと彼らはゴミ山に引き倒される。
 溢れる粘液は彼らを飲み込み、本領を発揮する間もなく身動きを封じると……更に大きな影に飲み込まれ、声もなく消え去った。
 ガタガタと耳障りな破砕音を響かせながら、ゴミ山を崩しては慣らしていく大きな影。それはあっという間に平野の底へと身を潜め、粘液と共に姿を消してみせた。
 楽しげな声はすでにない。ガランと静まり返ったその区画に、新たなガジェットが積まれるだけ。ただ、それだけだった。

●インターミッション
「さて、今回も少しばかり面倒な仕事だ」
 グリモアベースの一室、両腕を組みむっつりとした表情の少女が、猟兵たちを見上げては見渡していく。
「目的は一つ、オブリビオンの駆除となる。ああ、ここでは災魔というのだったか……とにかく、被害が出る前に区画内の掃除を、というのが狙いだ」
 今回の派遣場所は、アルダワ地下迷宮内に作られた大規模なゴミ箱。本来ならば踏破済みの安全な場所であり、学生たちが軽装で入ったとしてもそれほどの危険はないはずの場所であった。
 そんな場所に、災魔が出た。まだ被害の報告は届いていないとのことだが、アオイが見た予知は近い未来の被害を予告するものでしかない。踏破、制覇済みのそこは地上へと続くダストシュートの穴がある。地下の危険と地続きになってしまっているのが現状であった。
「すでに何十年と使い続けているそこから別の場所へ、等と簡単にはいかないのが現実だ。であるなら、使えない原因を取り除くのが最も簡単な手段となる……まあ、聞け。面倒なのはここからだ」
 予知で見た粘液の災魔、そして大きな影。ネバメーバという災魔で有ることは特定できたが、大型のそれに関しては情報がない。
 さらに言えば、その広大な土地にどれほどの粘液が存在しているのかの見当など全く立っておらず、駆除の範囲はうず高く積まれたガジェットの海全体という面倒臭さ。具体的なネバメーバの生態の調べはついていないが、うまく誘導するなどしなければ取りこぼしが出てくることだろう。
「まあ、ともかくだ。まずは猟兵諸君らには予知で見たガラクタの山を目指して貰おう。そこに至るまでに襲われた形跡がないことから、山の奥の平野にやつらが陣取っている可能性は少なくない。道すがら奴らを追い詰める準備をしても構わん。ゴミ箱内のガジェットはどれだけ壊そうが好きにしていいそうだ、君たちの力を思う存分使うといい、頑張ってくれたまえ」
 ふわり、とアオイの肩口から浮かぶ白い光。グリモアベースを包む淡い光は猟兵を包み、視界を奪う。そうして、一つ二つの瞬きの間に彼らをゴミ山の入り口へと運ぶのだった。


三杉日和
 おはようございます、三杉日和です。
 今回はゴミ山の上を進んで、敵を倒して帰るとういシンプルな内容となっております。
 猟兵の皆さんには、広いフロアを進み、その間に敵を引きつけるなり場を整えるなり。平野へと向かっていただきたく思います。
 一人二人が平野へとたどり着いたとしても、おそらく敵が動くことはありません。(🔵の関係です)

●成功条件
 ゴミ山の平野へとたどり着く。

●場所
 送られたのは、オープニングにある通りゴミ山のフロア入り口です。本来なら別のフロアを通らなければなりませんが、そもそもこの一帯はすでに踏破済みの安全地帯であるため直接送り込むことに成功しています。
 高い場所に新たに作られた入り口からフロアへ入ると、そこは一面のゴミの山となります。足場が悪いので注意してください。

●状況
 未だ普通のゴミ捨て場として使われていましたが、グリモア猟兵からの情報で一時的に閉鎖している場所となります。ダストシュートは閉鎖されており、中には猟兵の皆さんだけが侵入している状況です。

 以上となります、よろしくお願いします。
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第1章 冒険 『ガラクタの山』

POW   :    体力まかせに突っ切る。

SPD   :    バランス感覚で乗り切る。

WIZ   :    慎重に足場を選んで渡る。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

エーカ・ライスフェルト
wiz
「ドレスじゃなく宇宙服を着てくるべきだったかしら」

今回の主役は【フック付きワイヤー】。
【エレクトロレギオン】で呼び出した機械兵器にフックが付いた部分を持たせて、私から5メートルくらい先行させて安定した場所にフックを取り付けさせるわ
低性能AIの機械だから足を踏み外してガラクタ山から転がり落ちて壊れたりするでしょうけど……
合計90体という数で補うわ
予備のフック付きワイヤーを持って行けるなら、難所には可能な限り残して後続の猟兵の助けにしたいわね

「【見切り】ができるようにしても筋肉が追いつかないわね。明日の……明後日の筋肉痛が今から怖いわ」
「ウィザード・ミサ……疲れで詠唱が、でき」(息切れ中)




 猟兵たちが見たのは、まさしくゴミの山であった。一面に広がる魔導蒸気機械の海は、アルダワ魔法学園の歴史を感じると共に、これだけの資源を捨ててきたのかと呆然とする思いも広がっていく。資源、という観点でみればどの世界を見たとしても無駄がないと言い切ることはできないが、こうして圧倒的な物量を目の当たりにしてしまうとそう思わざるを得なかったのだ。
 そうして、話に聞いていた以上に、そのゴミは足場を作るのに適していないこともわかった。激しい凹凸を生み出す先鋭さをかいたガジェットが天に伸び、半端な大きさの機械が無駄に広い空間を作っては転がっている。足場そのものはそれなりの頑強さを持っていることはわかったが、突き出た細かな部品や割れた外装など危険部位を探せば枚挙に暇がない。
 言ってしまえば、根の張る森や岩肌が突き出た山道だろうか。人工物に覆われたそのフロアは、まるで人工的とは思えない程に人の侵入を拒み佇んでいる。積まれたガジェットの隙間から覗く影は暗く深い。彼らは想像以上に面倒だと考えを改めながら、足元を確かめその一歩を進めていった。


「ドレスじゃなく宇宙服を着てくるべきだったかしら」
 一歩一歩を踏みしめながら、確かめながら。ゆったりと進むドレス姿の猟兵がいた。エーカ・ライスフェルト(電脳ウィザード・f06511)は背の低いヒールを何度も不安定な地面に押し付け、揺れない事を確認した後に足を前へと動かしている。
 そんな彼女の周りを固めるのは、八七体の機械人形である。蒸気機械を思わせる地面との親和性が高い姿をした彼らは、ユーベルコード『エレクトロレギオン』によって生み出された機械兵器たちだ。本来であれば敵へと突き進む、いわば鉄砲玉を思わせる使い捨ての戦法を得意とする彼らだが、今回は違う。エーカを守るナイトのように、その身を呈し足場となり手すりとなり、クッションとなっていた。
 既に三体の機械人形は地面の一部となり、持ち上がった床の土台の一欠片と相成った。一つは足を滑らせ、一つはエーカの尻もちを防ぐ。一つは……今まさに前方へと駆け出した機械人形が四体目として召された姿を見ればわかるだろうか。
 エーカが握るワイヤー、その先に取り付けられた鉤状のフックは彼女にとっての武器の一つであった。そのフックを持った機械人形が走りだし、彼女の前方を探っていた機械人形たちの誘導に従い、ガジェット同士の隙間に引っ掛ける。その人形はフックが外れないように押さえ込み、その様子を戦々恐々と他の機械人形が見守っている。これが、彼女の進む方法であった。
 このまま何も無ければ、エーカはフックを引っ掛けた場所へと歩を進め、グリモア猟兵が言っていた平野へと向かうのだろう。しかし、この地面と言うには不安定なゴミ箱は、たったそれだけのことを用意たらしめない。
 四体目のそれは、突然外れたフックに頭を打たれ、その衝撃で砕かれた。しかし、主人を思う気持ちは他の機械人形に負けてはいない。頭がなければ体と手足。それが動くのならば、エーカのために全霊を尽くす。
 外れたフックを体に引っ掛け、地面を力の限りつかみ、振り絞る。周りで見ていた機械人形達は慌ててそれを抑え、エーカが到着する頃には駆動系をすり減らし指一本動かせる状態ではなくなっている。
 そして、そんな彼を、機械人形達は勇者を見るような目で送り出すのだ。


 安定を確認できたワイヤーフックは残し、外れたものは回収していく。平時に比べれば遅い彼女の歩みであったが、機械人形とフックのおかげでそのペースは他よりも早いといえただろう。既に三割の機械人形を溶かしながら、手すりとして使えるワイヤーを使う猟兵は彼女の後方にいくらか見て取れたのだ。
「……はぁ……しかし、これは……」
 比較的早いペースだからこそ、だろう。いち早く彼女の前に現れたガラクタの山は、まさしく山脈のようであった。
 なだらかだった入り口から先ですら、筋肉痛を予想させる体力の使いようであったはずなのに。話によれば、このあと戦いが予想されているというのに。
 山登りを開始した機械人形たちを眺めながら、ユーベルコードの詠唱を試みた。
「ウィザード・ミサ……疲れで詠唱が、でき……やば、戦えるの、これ……」
 恨むのは自らの体力の無さか、こんな場所に現れたオブリビオンか。疲れから苛立つ思考を敵へと移し、オーケーサインをだす機械人形を信じて、エーカはワイヤーを握りしめた。

成功 🔵​🔵​🔴​

甘夏・寧子
【SPDバランス感覚で乗り切る】

っはぁー、いやいや、うん、これは見事なごみ山だよ、うん。
こういう古代物の知識がないから価値は全く分からないんだけどさ、このそびえたつ山が無駄に足場悪い地形だってのは分かるよ。
とにかく情報に合った平野ってのを目指すしかないね。
崩れそうなところは避けて、あとは平衡感覚を保ちながら進むよ。
これでもライダーだし、バランス感覚は良い方だ。何とかなると思うけどね。
もし山を越えそうな時点で敵を発見したら相手の動きを見つつ相手に悟られないように行動するよ。
不意打ちとかが出来るならそれに越したことはないし、その前にバレちゃあ行動に移れないからね。




「っはぁー、いやいや、うん、これは見事なごみ山だよ、うん」
 両手を腰に当てながら、一面に広がるごみ山を眺める一つの影があった。それは埃っぽい空気を気に留めることもなく、想定以上の広さのフロアにいっそ心が踊っているような、そんな笑みをこぼしている。
 甘夏・寧子(錦鈴の女・f01173)は仄暗いゴミの地面に目を凝らし、廃棄された魔導蒸気機械をつま先で小突き、ガタガタと揺れる足場を確認していた。先へと急ぐ猟兵たちの姿も見えるが、どれもこれもこの足場に難儀しているように見える。試しに一歩、今ぐらついていた場所以外へと踏みしめてみれば、これは成功だったのだろう。多少揺れる程度の足場は、寧子にとってはそれほどの障害とはならず、第一歩を踏みしめて見せた。
 もう一歩、もう一歩。踏み進めると分かる、統一感のない不安定を絵に描いた足場の群れ。地面と呼ぶには聞こえが良すぎる、初めに感じた印象そのまま、ここはゴミの山岳であった。
 更に一歩。大きくぐらつく足場を足先で揺らし、蒸気機械の隙間を埋めるとそこは硬い足場となった。
 面倒くさい、確かに面倒くさい。しかし、この程度であれば問題ない。
 寧子は口元に笑みを浮かべ、その山岳を見据えるとその足を更に伸ばしていった。


 牛歩の時代はあっという間に終わりを迎え、足場の確認の時間を最小限に抑えた足取りは軽やかなものとなっていた。スターライダーの職能によるものだろうか、それともそうして鍛えられたバランス感覚のおかげだろうか。揺れる足場を見つける目が養われ、多少の不安定はバランス感覚による強制力で安定をもたらしている。
 難儀だと思われたごみ山への侵攻であったが、慣れてしまえばちょっとした山登りの感覚である。ずんずんと進む彼女の足はまさに快進撃。高く積もったゴミの山へと到達するまで、その足が止まることはなかった。
 幾人かの先行した猟兵たちが、寧子同様立ち止まっている。不安定とはいえ、道程は並べられたゴミの床であったのが、今目の前にあるのは名実ともに山と積まれているのだ。既に猟兵の力を用いて登りはじめている者もいるが、寧子はどうしたものかと頭を捻っていた。
 話に拠れば、この山で学生たちは襲われているはずだ。オブリビオンの動きから感じられるのは、明確な敵意と戦術。素直に登ってしまっていいのか、という疑問があったのだ。
 ゴミ山を崩し、傷だらけになりながら登る猟兵を横目に、寧子は地面へ膝を付きじっとゴミ山の隙間を睨みつけた。登ることだけなら、今難儀している彼らより早く進むことは可能だろう。問題は、登ったあとの敵襲への対処だ。視線の奥の暗闇に、敵の動きは感じない。しかし、ここにいることは確実で……この山を登っているアタシたちを虎視眈々と狙っている。
 視線を上へ、山の頂上を仰ぎ見る。山への一歩を踏みしめた足は、蒸気機械をずらし安定を作った。足裏から感じる揺れに不自然さを感じないか。敵襲への備えを心に、寧子はつかの間の登山へと身を投じたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

絡繰・ビリー
ガラクタの山とか最高じゃん!掘りたい!
あぁでも仕事しなきゃ…必ず成功して漁るぞー!
・SPD行動
えーと、話に聞いたことから考えると…敵は獲物が来るのを待つ、待ち伏せ型なのかな?
どうやってこっちを探知してるのかなぁ?音?振動?匂い?
ま、推測はともかく。グッドナイス・ブレイヴァー!
「皆、ビリーだよ!今日はゴミ山に宝探し!と怪物退治!よろしくね!」
配信オッケー!気合いが入るね!
メカニック技能で直せそうなガジェットないかな?音が出る奴がいいね、蒸気を噴くやつとか。それを直して、ゴミ山の平野に向かって投げて、ネバネーバが集まるか試してみよう。やるだけタダだし。
足場とガジェットを探して投げて歩いていく。




「皆、ビリーだよ! 今日はゴミ山に宝探し! と怪物退治! よろしくね!」
 そこら一帯から破砕音と苛立ちの声が聞こえるガラクタの山に、一際明るい声が響いた。
 ユーベルコード『グッドナイス・ブレイヴァー』、静音性の高い空撮ドローンを生み出すその能力は、埃っぽさと乱雑さを隠そうともしない地面と自らの姿を同時に写し、くるくると周辺も同時にレンズへと収めていった。絡繰・ビリー(ガラクタクラフトマン・f04341)が語りかけるのは、映像の送り先、ストリーム配信を行っている顔も知らない誰かに対して。
 続々と増える視聴者数に一頻り頷いて見せると、ビリーは一帯の簡単な説明を初めた。どれだけ足場が悪く、猟兵たちが苦労しているか。バーチャルキャラクターの技術だろうか、リアルタイムに猟兵たちの姿をモザイクで隠し、それが誰かと特定されるようなヘマはしていない。難儀そうな彼らの動きを、視聴者はどうにも楽しんでいるフシはあるようだが。
「と、いうわけで。この宝の山……もとい、ゴミの山を進んで行くよ! てかまじで歩くの辛いんだけどなにこれほんとに」
 ぼやく声にすら反応がある。ビリーを応援する声もあれば、転ぶハプニングを待つ声もある。その一つ一つの感情に温度差はあれど、こうして進む姿を楽しんでもらえている、という事実がビリーの心を強くするのだ。三歩目で転んでしまった事も、視聴者には笑いとともに受け入れられていた。


 そんな配信での顔とは違い、ビリーの心づもりはまた別のところにあった。一際騒がしい独り言も、周りの猟兵は気にすることもない。戦場で生配信をすることで強くなるものもいるという認識は既に広がっており、少なくともこの場にそれを咎めるものはいなかった。ただ、その配信に顔をだすのは嫌なのだろう、ビリーの周りを歩く者はおらず、一人ゆっくりと前へ進むその状況は、図らずも実験を行うのに最適な環境となっていた。
「じゃあ、災魔が何に食いつくのか実験してみるね」
 そう言って背中から下ろしたバックパック。見る間に形を変えたそれは、多種多様な工作機械を兼ね備えた整備道具へと生まれ変わる。他の猟兵に遅れをとりながらも、拾い上げていたいくつかの機械部品。ひと目見ただけでどの道具を使うべきか、考えることもなくビリーの頭には浮かんでいる。
 鮮やかな手さばきは、視聴者の心を捉えて離さない。今何をしているか、などと理解できないガジェット素人からみても、迷いなく動く彼の手付きは掛け値なしに素晴らしいものだと認識できてしまったのだ。
 称賛のコメントにビリーは返事をしない。無言、ただ黙々と手を動かし、元が壊れた機械であったと確認できるのは破砕された外殻のみとなっていた。数分とかからない作業は終わりを迎え、魔導の力を加えた元廃棄機械は、蒸気を上げながらぶるんぶるんと音を立てだした。成功だ、の声にコメント欄は大わらわの拍手喝采であったが、一人出遅れたビリーの周りは人の気配などなくなっていた。


 しかしそれも丁度いい。暴れ馬のような音をたてるだけのガジェットに、数分間は動きだけの力を込めると、ビリーはゴミの山岳へと投げ捨てた。
 がたがたと暴れるガジェットは地面を粉砕し、自ら穴に埋まりながらも震えて登っては別の大地を壊してまわる。遠くへ行ったり戻ってきたり、その様子を配信しながら地面を気にするビリーであったが、少なくとも彼に様子の変化は感じられなかった。がたがたとうるさい音をたてるガジェットはじきに静まり、また猟兵たちのそぞろ歩く音が場を支配しはじめる。
「失敗かなー?」
 なんて言葉に、コメントが殺到する。画面を埋める言葉の奔流に、「変な音聞こえない?」という文言が消え去ってしまっても、それは仕方の無いことだったろう。

成功 🔵​🔵​🔴​

カーニンヒェン・ボーゲン
これはこれは、見事な『宝の山』にございますな。
素材として組み換えるにも打って付け。研究資料として歴史を紐解くにも良いですな。
それにしても些か量が…。

ふむ、多少強引に参りますかな(POW)。
【剣刃一閃】で一文字に道を拓きましょうか。
振り抜く時には、人様の迷惑とならぬように注意し、進行中に崩れても足が埋まらぬよう、切断面の深さを調整します。
谷状ならば、山の峰のように転がり落ちることはありますまい。
できた『地形の利用』をして進みますぞ。

さて、道中に災魔の残した痕跡などがあれば『情報収集』も行いたいですが、吹き飛ばしましたからな。
もし見つかれば『世界知識』と比べ、新たな情報がないか精査致しましょう。




 入り口に立ち止まり、難儀な道を進む猟兵を眺める一つの影。
 それは少しだけ出遅れ、殺到する猟兵を見ながらゆるりと足を進める男。カーニンヒェン・ボーゲン(或いは一介のジジイ・f05393)は我先にと進む彼らから視線を落とし、じっと地面に視線を這わせている。そこかしから聞こえる苦悩と苦痛の声、転んで破壊された地面の破砕音。それらをいささかゆるい戦場音楽として聞き流し、頭に浮かぶのは今回の敵となる災魔であった。
「これをゴミ、と呼ぶには。いやはや、本当に面倒なものです」
 粘液の災魔、それがこの地下深くにその身を潜め、侵入してきた輩を襲う機会を狙っているのはわかっている。与えられた任務もシンプルに、その撃滅である。そう、だからこそ面倒で……勿体無い。
 一面に広がる魔導蒸気機械の山は、このアルダワ学園の歴史を物語る重要な遺産ともいうべきものだ。今猟兵が踏み壊し進んでいる比較的新しいそれも、将来という長いスパンで見れば貴重な一品として扱われる事に間違いは無い。
「素材として組み換えるにも打って付け。研究資料として歴史を紐解くにも良いですな」
 しかし、その量は些か多すぎる。災魔を掃除するにあたり、この隙間だらけの地面というのは、敵にとって余りにも環境が良すぎるのだ。隠れるにしても、不意をつくにしても。ここを根城に住み着いたというのも、一種の淘汰であるかもしれない。
「仕方ありませんな。多少、強引にでも……」
 惜しむような視線を前方へ。握る柄が鯉口を切り、抜き放つ衝撃が更に先へと放たれる。斬撃の音は軽やかに、しかし弾かれた地面の部品がからからと音を立てて、舞い落ちる。


 ユーベルコード『剣刃一閃』、入り口から差し込む光を照り返す刀、老兎。刃こぼれの一つもない刀身は濡れたようにゆらぎ、地面に明確な亀裂を作ってみせた。
 まるで通り道でも作るように切り裂かれた地面は、表層の一部を刈り取られた。裂かれ崩れた機械部品が地に落ちると、その隙間を多少なりとも埋めて転がる。一歩を踏み出すその足に感じる不安定さは、殆ど無い。強く踏みしめればなおさらだろう、カーニンヒェンは削った道を足がかりとして歩を進める。
 進んでは道を作り、更に進む。その連続は多少なりとも体力を使うものではあったが、それ以上に気になるのは足元の奥。災魔の動きであった。
 削り取った表層に、ネバメーバの粘液は付着していない。数度繰り返せば山の麓にたどり着くであろう場所まで進んだカーニンヒェンは、くぼんだ地面に膝を付き、暗く深い隙間に目を凝らしてみせる。
 見えない、動きもない。複雑に組み合った廃棄部品の層だ、簡単に奥まで見えるものではないことは理解している。しかし、ここまでなんの動きも無いのが不自然ではあったのだ。
「なにもないのが情報、などと申しますが……この手応えの無さは些か……!」
 ひとりごちるカーニンヒェン。その視線は地面へと向き、深くへと姿を隠す災魔を思い、柄を握りしめる。
 えぐり取った地面にもう一度。返す刀で削る大地は、足場と言うには深い溝を作り出した。
 ばらばらと落ちる残骸が地に落ち、ガラガラと音を立てて深くへと落ちていく。
 何が聞こえる? 老いたとはいえ人狼の耳。もう一度、削られる大地が更に古い層に姿を変えたところで、聞こえた一つの違和感。
 ぢゅぷ。と、淡い水音。深層から聞こえる、微かな音。集中は周辺の音を打ち消し、地面の奥のそれだけを抽出し、もう一度刀をふるわせた。
 えぐり取った地面、およそ一メートルは下方に紫色の粘液が蠢き、そうして刈り取られた。

成功 🔵​🔵​🔴​

トレーズ・ヘマタイト
体力まかせに突っ切る
ブラックタールなら足場の悪さは無視できる、【バウンドボディ】も使えば山越え自体はすぐできるだろう
山が崩れても隙間から這い出ればすむ
奇襲を警戒しつつ戦うのは不味い、足場にできるゴミを探しながら進んでいこう、柱や鉄板などがあれば良いがなければ適当に持っていく、【怪力】と【刻印】で補強すれば持ち運べるだろう
支援の必要そうな者がいれば助ける
災魔は魔導蒸気機械の動力が主食で魔力や灯りに引き寄せられる習性を持つ可能性があるため、魔導蒸気機械の灯りを持ち込み引き寄せれないか試す
災魔を引き寄せれたら捕食を試みる、手に余るなら灯りを捨て逃走
以上

「問題は今回の災魔が刻印の燃料になるかだな」




 まともに歩くことすらままならないゴミの山、殆どの猟兵がその行動を制限されている中、悠然と先へと進む男がいた。伸縮自在の体を跳ね上げては、濁点のついた水音を響かせ揺れる地面に体をぶつける。移動というよりは投擲というべきだろうか、ユーベルコード『バウンドボディ』は、男の体を砲弾めいて打ち上げ、苦のない前進を実現していた。
 トレーズ・ヘマタイト(骸喰らい・f05071)の体が廃棄部品の山をつたい集まり、形を作る。あたりを見渡す顔面部位が、山の頂上から平野と猟兵を見下ろしていた。うぞうぞとバランスを取るまでもなく、廃棄機械にへばりつくタール状の体。ブラックタールたるその身を最大限に使った動きは、果たしてこの場において最適化されたものとなっていた。
 見渡す限りの平野に、彼の視点からなにか問題があるようには思えない。続々と集まりだす猟兵たちに黒く伸びる腕を差し出すトレーズは、一旦この場に留まることを選んだ。まずは猟兵の数を集めなければならない、こうしている間にも粘液の災魔はトレーズたちの足元まで迫っている可能性があるのだ。一人を引き上げたトレーズは、もう一人へと手を伸ばす。想定していたよりも厄介な敵は、悠長に山登りを楽しむ余裕を与えてはくれないだろう。


 先行組を一通り引き上げたトレーズは、先に平野へと駆け抜けていく猟兵たちを目で追っていた。下半身をタール状に溶かし、揺れる地面を固定する。ブラックタールの助けを受けた地面を踏みしめ、彼らは駆け下りながら戦闘の準備を初めているようだ。
 しかし、動きがない。グリモア猟兵の話では、学園生徒たちが山を登る頃には襲撃を受けていたはずだ。トレーズの頭に浮かぶのは、猟兵と生徒たちの違い。そして、過去根絶されたはずのネバメーバの生態の情報。
 それは変化している可能性もあるが、彼の想定を真とする場合、今の状況からは大きく違わない結果が待っているはずだ。
 トレーズは体の中から一つのランタンを取り出した。それは魔導の力で光を灯す、蒸気機械の簡素なガジェット。特別な才能を必要としないその小さなランタンは、力を込めるとそれだけで光を溢れさせる。
 仄暗いフロアであるからこそ、その灯りは強く輝いて見えた。左右へ掲げるランタンがゆらゆらと影をふらつかせ、未だそれと感じない手応えに小さく歯噛みをする。遠くで聞こえる破砕音、切り裂くような強い衝撃。猟兵が何かを試すなら、今をもって他にないだろう。
 トレーズは火の灯ったランタンを山頂に置き、ゆったりとしたスピードで平野へと降りていく。
 そうして、中腹に降り立つまで数秒。がたりと音を立てたランタンがバランスを崩す。山上から転がり落ちようとしたそれは、しかし不安定な形で動きを止め……地面へと引きずり込まれた。
 その際に壊れた外殻が弾け、転がり落ちる。
「魔導蒸気機械を狙っているぞ!」
 それは、フロア内の各地で始まる戦乱の合図となった。

成功 🔵​🔵​🔴​

三寸釘・スズロク
【SPD】アドリブ歓迎

いや壮観だなこりゃ。
俺はこれ「宝の山」に見えちゃう方の人間なんで眺めてるだけで楽しくなってくるね。
使えそうなものがねーか物色したいが、まずは余計なモノの掃除が先ってな。

【次元Ωから覗く瞳】発動して、演算対象を地形情報にする。
危険物を避けて、俺のフツーな身体能力&人形用のトランクケース持ってても登れそーな最適ルート探して進んでくって寸法で。
他の猟兵とか潜んでるヤツらのせいで変動するだろうから逐次計算しねーとな。
あ、先行した人らのアイテムは有難く使わせていただきます。どーもどーも

ついでに粘菌連中を誘き寄せるなら、んー光とかニオイとか?
灯り用にオイルランプでも持ってってみるか。




「いや壮観だなこりゃ」
 山の麓まであと半分。苦労して歩く猟兵たちを尻目に、最低限の注意だけを払い歩く男が居た。
 三寸釘・スズロク(ギミック・f03285)は、まるで足場となる位置を理解しているかのようにその足を進めていく。その足取りは、まさにちょっとした山登り。洗濯機を思わせる大きな足場を避け、飛び乗るのは丸みを帯びた小さなガジェット。標的に乗ったスズロクの足はピタリと安定し、また先へと進めていく。
 ユーベルコード『次元Ωから覗く瞳』、電脳世界を展開したスズロクは、超常の演算を行い足場の解析を行っていた。それは最奥までを見越した足場の強度を計算しているわけではないが、人一人を乗せる足場程度であれば表層の揺れと固定の具合を見れば問題ない。後はどれだけを視界に収め、演算処理に情報を乗っけるか。少なくとも、この場におけるスズロクの登山とはそういうものであった。
 仕掛けられたワイヤーを掴み、新たな情報を電脳世界へ投げ込み、足場を確認。単純明快といえばその通りだが、こうして無傷で進める分余裕が出てしまうのも事実ではあった。
 一足先に山頂へとたどり着いた猟兵の手を借り、足場ほど安定性のない山をどうにかこうにか登りつつ、掴んだガジェットを持ち帰りたいという思いにかられていた。
「なあ、これあとで物色していいんだったかな?」
 緊張感の無い声に、憮然として首をかしげるその猟兵。場違いな事を言ってる自覚はあったが、生真面目なその反応に苦笑が漏れる。それは、自分に対しての苦笑い。
「ああ、すまねえな。そんな場合じゃねえ。まずは余計なモノの掃除が先……ってな!」
 既に次の猟兵の手を握る彼をみて、それは独り言のようなもの。山頂から飛び立ち、異様なまでの安定感を持つ足場を踏みしめながら、スズロクは平野への第一陣として降り立った。


「しっかしよぉ、なんか想像と違うな、これ」
 平野だと聞かされていたそこは、まさしく言葉どおりの平坦な地面であった。山岳のような道程は形の残ったガジェットが地面を作り、足場たらしめない不安定さを見せていたはずだ。しかしここはどうだ。砕かれた機械部品が砂、砂利のように敷き詰められ、踏みしめるべき地面があったのだ。
 視界の奥にはフロアの壁。平野は山脈を挟み二分されたフロアの片方全体となっている。
 まずはじめに怒りがあった。自身のお宝があったはずなのに、こうして砕かれ捨てられていては流石に手の打ちようがない。拾ったところでスクラップ以下の、まさしくゴミでしか無い。
 頭に浮かぶのは誰がこうしたのか、という理不尽な思いだ。山岳を見る限り、アルダワのダストシュートから送られるゴミはこのように砕かれたものではない。スズロク自身が垂涎する程に、ただ壊れたままの状態で捨てられているはずだった。
 誰かがこうしたのだ。自らのものになるはずだった貴重なガジェットを、砕いてみせた何者かが居る。
 苛立つ思いは頭の奥底。まるで別人が怒っているような、他人事のそんな感覚。懐から取り出したオイルランプに火を灯し、地面に掲げてゴミを見てみると、熱い想いがふつふつと沸き立ち、沈み込む。
 灯りか、オイルか。粘液の災魔を引きつけるのに必要なものが何かと思考を巡らせ、思い立ったのがそれだった。
 山脈を挟んだ向こう側から騒がしい音が聞こえてくるものの、地面においたランプはかすかに揺れるだけで変化はない。それだけ地面が安定しているということであり、この地面は底まで砕かれた機械部品で埋まっているということを表している。
 まるで平野部を撹拌し、ガジェット群をミキサーにかけたような。少なくとも、この現状を言い表すのに的確な言葉は他にない。オイルランプに動きはない。はずれか、とそのランプを持ち上げた瞬間。
 登頂を助けた猟兵が何事か声をかけた。それはその場にいる全員を注目させるの十分な声量で、自然と視線が注がれる。
 山岳に水音が木霊する。弾かれたように湧き出た粘液が噴水めいて吹き上がり、噴火を思わせる勢いで見上げる猟兵たちに降り注いだのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『ネバメーバ』

POW   :    はじける
【攻撃された際、飛散した肉体の一部 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    からみつく
【ネバネバ 】【ドロドロ】【ベチャベチャ】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ   :    ふきつける
レベル×5本の【酸 】属性の【自身の肉体の一部】を放つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 ゴミの山を山脈と評するのであれば、それはまさに噴火であった。
 仕掛けられた魔導蒸気機械を射出点として、殺到したネバメーバが吹き上がり降り注ぐ。
 空から落ちる災魔があれば、地面から湧き上がる災魔もある。じわじわと溢れてくるネバメーバは粘菌めいて、その不定形の体を活かすように大きさも形も変えながら溢れてきた。
 どれほどの量が存在するのかわからない。ただ、目の前の紫色は数も大きさも、猟兵たちの想定を超えていたのだけは確かだ。
 地鳴りのような音が聞こえる。それは平野部で強く震え、山岳部の喧騒では対して揺れを感じなかった地面が明確にうごめいている。
 直感で気付くだろう、何者かがこの地面を移動している、と。
 特別に強い敵ではないそのネバメーバではあるが、正体のわからない敵と同時に相手取るにはいくか情報が足りないのは事実だろう。
 相手取る時間は、多くはない。

●マスターから(以下、後に削除予定)
 おはようございます、三杉日和です。ほんと修正できるようにしてほしいのですが……。

 第二章は『ネバメーバ』との集団戦です。
 戦闘箇所に関しては、既に山を超えて平野にいる、山頂で吹き出す災魔を目の前にしている、まだ山岳部で足元の悪い中戦う、とおそらく三種類に分けられると思います。
 一番足場が悪いのが山頂、良いのは平野部となるでしょう。
 もちろん、実はこういう事前準備をしていたので敵に対してこういう動きができます、といった提案も受け付けています。とはいえこれに関しては妥当性と、可能かどうかという部分を見つつ部分許容という形に落ち着くかもしれませんので、基本は災魔をかっこよく倒すプレイングを書いていただければいいかと思います。
 敵の大きさは不定です。希望がありましたら、こういうのと戦いたい、とあればおそらく希望に添えるかと思います。
 きっちり敵を倒しきれないとしても、なんだかんだ顔のない猟兵さんたちと協力して殲滅することになります。事後を考えたプレイングでも、戦うだけのプレイングでも結果には大きく変わりありません。

 以上となります、よろしくお願いしまします。
エーカ・ライスフェルト
wiz
ピンチだわ
酸を回避するほどの【見切り】の技も耐え抜く頑丈さもないのよね
炎の矢で迎撃しても気化した強酸という最悪な攻撃になりそうだし

機械兵器の尊い犠牲と引き替えに運び込まれた【宇宙バイク】に【騎乗】します
今回の【エレクトロレギオン】で呼び出した機械兵器も既に30機くらい壊れている気もしますが……
「働きを無駄にはしないわ」

戦闘では、平野をバイクで走り回りながら【属性攻撃】による単発炎属性矢で攻撃
酸は速度を活かして避けます

機械兵器の役割は投擲による【時間稼ぎ】
バイクで速度が出にくそうな場所に配置し、小さなガレキを投擲するよう命じます
本来の使用方法ではないので威力はないでしょうが、足止めで十分




 爆発を思わせる災魔の発生と、一人の猟兵の強い言葉。わっせわっせと周りを固めていた機械人形達と一緒にに天井を見上げると、濡れ光る紫の影が一面に広がっていた。ざわつく背筋に悪寒が走るのとほぼ同時、声もなく手を振り指示を出すと、機械人形達は安定した平野をがしゃがしゃと音を立て散っていく。残った十数体の機械人形は、力を合わせて掲げて持ち歩いていた宇宙バイクを地に降ろした。
 少なくとも普通の人間の力では持ち上げることなど敵わない宇宙バイクだ。運び込みに数体の機械人形がおしゃかになってしまうのは仕方ない上に、どうにも悲しそうな動きをしていても構っていられる余裕はない。
「あなた達の働き、無駄にはしないわ……ちょっと、お墓作る時間はないわよ!?
 第一陣といって良いのだろうか。粘液の災魔は雨のように降り注ぎ、砕かれた機械部品の地面に打ち付けられ、一瞬でその身体を大きく膨らませていく。
 ボトボトと重たい音を立てながら寄り集まる紫色の粘液を、エーカ・ライスフェルト(電脳ウィザード・f06511)は跨った宇宙バイクの車輪で轢き潰していく。走り回るには十分な広さのフロアは有り難いものではあったが、それだけ広範囲にこれが居ると考えると頭が痛くなってくる。
 端的に言えば、ピンチと言えるものだったろう。敵の数がわからない、その上このフロアに潜む大型の災魔も存在している。
 けれどそんなもの猟兵にとって探し求める一夜の恋人のようなものだ。危機と共に現れ、平和を取り戻し新たな危機を探して進む。あらゆる世界を探してみても、これほど不毛な仕事はあるまい。だが、これほど勇敢な仕事もないだろう。
 エーカはアクセルを握り、速度を上げる。降り注ぐ紫の雨を自在にかわす騎乗精度は、ダートコースを更に悪路にしたようなこの場でも発揮されていた。


 降り注ぐ粘液も、落ちたそばから潰し消し炭に変える。ユーベルコード『ウィザードミサイル』、纏う炎の属性を大幅に強化した矢は、少なくともネバメーバを相手取れば一撃必殺の力を発揮した。
 災魔が放つ百に迫ろうかという弾き出される粘液の球も、人ならざる速度で進む宇宙バイクには迫ることにすら敵わない。それどころか、その間隙を付いたひと矢が粘液に突き刺さると、白煙を上げながら悶え、その身を小さく溶かしていく。
「大したことない、なんてのはフラグかしら。でも、この調子なら……」
 空から落ちてくるネバメーバの数は、噴火を初めた当初に比べて随分と勢いが落ちていた。ともすれば、吹き上がる余力などなく、噴火口からはいでたその身を猟兵に潰されてすらいる。まだそこかしこに巨大な粘液が立ちふさがってはいるが、時間の問題なのは一目瞭然だった。
 そうしてエーカはハンドルを切る。次に狙いを定めた粘液を挑発するように、そこらを走り回る機械人形に瓦礫を投げさせた。素直な反応をするのは粘液の災魔、それに即時反応を返し打ち込まれる数十の酸性の身体は、惜しくも機械人形には当たらず機械部品の地面を溶かして消えていく。そこに接近しながら打ち込まれるウィザードミサイル、これで人形が減ることもあるが、おおよそ安定して敵を潰せる戦術であった。
 次の標的、とハンドルに力を込めた瞬間。ガタリと後部座席が揺れた。エーカの視界には、後部座席に載せていた一体の人形が飛び出し、前方へとジャンプしている光景だった。その直後、ウィンドスクリーンを覆う白い煙、鼻をつく酸い匂い。
 バイクを傾け急ブレーキを掛けた地面に転がっていたのは、内部構造を見せるように溶けた機械人形と、そこに居るはずのなかった人のサイズを優に超えるネバメーバ。
「なんで……!」
 今の今まで存在しなかった。どうして、と考える間に、地面は揺れ、砕かれた機械が巻き上げられる。それはある一箇所、幸いなことに視線を大きく動かさず見えるそこには、床から何者かによって吐き出された災魔の姿。寄り集まって大きくなっていく粘液の怪物を、大きいまま地面へを送り出す、そんな様子。
 眉間にシワを寄せ、今まさに二度目の酸の肉体を放出しようと身体を縮めている災魔を睨み、それよりも早く矢を射出してみせる。
 二本の矢はそれが攻撃するよりも早く粘液を貫き、業火を天井へと吹き上がらせた。白煙と気分が滅入る匂いを生み出しながら小さくなる身体を、バイクの車輪が踏み潰す。
「ピンチだわ」
 眼の前の驚異を潰した矢先に、別の場所から吹き上がる機械部品の噴水、同時に現れる粘液のそれ。エーカは苦い顔で呟くと、無事な機械人形を引き連れアクセルを吹かしはじめたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トレーズ・ヘマタイト
粘菌型災魔と聞き、事前に【黒剣】と体内のナノマシンに酸対策を施した、直接触れてもすぐには溶かされないだろう
山頂から山岳部にかけて味方の援護・救助をメインに動く、広範囲だが【バウンドボディ】を使ってカバーする
目を増設し見落としがないようにし、【刻印】で身体・思考能力強化、【生命力吸収】と【ブラッド・ガイスト】を使用した黒剣の一撃で災魔を蹴散らせるようにする
機会があれば災魔の群れに事前に体内に集めておいたゴミを拳大に固め複数投擲する、タールのぬめりで着弾までは塊のままだろう
災魔の【はじける】での連鎖反応が起きれば、被害少なく弱体化できるだろう
可能なら災魔を捕食し少しでも余力を作る

アドリブ歓迎、以上


絡繰・ビリー
実験や修理や考察で遅れた
あらー予想よりたくさんいるな
・山岳で行動
巻き込まないよう空撮ドローンはやや後方に配置
足場が悪いし、動くよりは迎撃すべきかな。当たると溶ける。いざって時は走るしかないけど!
それじゃ、目標はたくさん固まってる奴で、仲間に声掛けて【援護射撃】というか砲撃!
「射線に気をつけろよ!さあ、皆の応援のパワーに!」
オーバーチャージ・バスター!纏めて消し飛ばす!
「やったか!?」
まあダメなんだろうけど
ガジェット持ってるし、派手にやれば目立つだろう。来る敵に撃ちまくってやろう
くぅ、機械がもったいないが、まずは勝つ。次も控えてるんだ、仕方ない!




 凹凸激しいゴミの山。山頂から聞こえた声とどちらが早かっただろう、足元から湧き出てきた災魔は魔導蒸気のガジェットに絡みつき、食事でも摂るかのように溶かしていっみせた。
 即席で作った暴れるだけの玩具である。それが煙と消えてしまっても惜しくはないが、驚いたのは湧き出た災魔の大きさだった。
 初めはガジェットに絡みつき、紫色に覆うだけの薄いスキンを思わせるもの。それが、瞬きの間に溢れ、覆いかぶさり、気がつけば人一人のサイズを超えるほどに膨らんでいたのだ。
 絡繰・ビリー(ガラクタクラフトマン・f04341)は慌てふためくコメント群を頭の奥に押しやり、ドローンを上空へと逃そうと空を見上げ……降り注ぐ粘液の雨を視界に収めてしまった。即座に動くドローンは大きく旋回、粘液の直撃を免れたものの、視聴者の事を考えない三次元的な揺れ動く映像が不評を買ったのかネガティブなコメントが溢れかえっていた。
「気楽にいってくれるなぁ、もう!」
 それでも、ドローンはビリーを捉えている。カメラに映るビリーは地面に足元の壊れたガジェットを拾い上げ、まっすぐ自身へと飛んでくる粘液へと投げつけた。一つ二つとぶつけ落として行くものの、どうにも数が多い。さらに言えば、ガジェットを溶かしていた人サイズの粘液も、ゆったりとその身を動かしビリーへと狙いをつけているように見える。
 後ろ! というコメントに気付くのが送れたのは、迎撃の作業に追われるのと同時に、コメントを視界の隅に追いやっていたせいだ。身体を縮こまらせ、震える粘液。未だ降り止まない雨から一瞬視線を向けたそこには、今まさに身体を弾けさせようと膨らむ瞬間のネバメーバの姿があった。


「やばっ……」
 走り出そうと足が前へと伸びるものの、不安定な足場が改善されたわけではない。降ってきた酸性の災魔達が大量にいる、という事を考えると、溶かされて広がった隙間が状況を更に悪くしているかもしれない。それが直接の原因かどうかはわからない。ただ、ビリーは弾ける災魔の身体を見ながら、転ばぬように地面を踏みしめた。身体が殆ど硬直している、そんな状況をしっかりと理解していた。
 迎撃に使おうと手にしたガジェットも、投げる暇も余裕もない。出たのは一言にも満たない言葉と、足だけ。
 次の瞬間には空気を焼く酸の音と、辺りから広がる酸い匂い。視界が黒く染まり、不安定だった足元はふわりと浮き上がる。浮遊感は数秒に渡り、しかしビリーにとってはまるで天国へ召される、死の瞬間のようであった。
「そうか、私は死んでしまったのか……いい人生だったかわからないけど、あっけないもんだな。天国に行くのかな、どうだろうな。天国ってこんな……暑苦しいんだな」
 感慨にふけるビリーの頭は、直後に襲う振動によって覚醒させられる。そうして開けた視界は、天国とは似ても似つかないゴミ山の地面。酸と埃の匂いが更なる覚醒を促すと、よろける身体を受け止める黒い影があった。
「死にたいというなら、悪いことをしたな」
 のっぺりと人型を作る黒い液体。人型をしっかりと保てないまでも、作り出した人の声は紛れもなく意味を持ったものとなっている。ぱちぱちと瞳を開閉するビリーを写すドローンには、呆然としたビリーと一人のブラックタールの姿が写っていた。


 場所が悪いのだろう、満足に身動きを取れないまま狙われるビリーを、トレーズ・ヘマタイト(骸喰らい・f05071)は弾む身体を使い救い出した。
 酸耐性を施したナノマシンアーマーは流動的に形を変える身体を覆い、周囲をまとめて酸の驚異に晒す敵の攻撃を受け止めて見せたのだ。『バウンドボディ』を用い、ビリーを体内に取り込むと、そのまま災魔の雨の範囲外へと飛び上がった。その一連の流れを見ていたビリーの視聴者は、突然現れたトレーズに対する称賛のコメントで溢れかえっている。
「そんな訳! 助かったよありがとう、私は絡繰……」
 目を白黒させるビリーの言葉を、トレーズは無言で遮った。ナノマシンアーマーを付与したガラクタを体内から取り出し、そこら中で立ち上がり始めた災魔へと投げつける。空を切る轟音が小さなビリーをふるわせ、ガラクタは災魔の酸を物ともせずぶつかり、敵を弾けさせた。
「……挨拶の前に、自分にやれることはあるか?」
「ま、任せてよ!」
 トレーズはビリーの少ない言葉を聞くと、首肯の一つもなく舞い上がった。
 そうしてビリーはドローンのレンズに向き直り、大げさな身振りをしてみせた。
「さあ、みんなの応援をパワーに!」


 飛び上がったトレーズは迎撃するように弾ける災魔の攻撃をものともしない。いや、ジュウジュウと白い煙をあげる黒い体が削られているのは確かだが、アーマー部だけの損傷であればダメージのうちとは考えなかった。
 自身の身体同様、ナノマシンアーマーによる耐性を与えた黒剣が、トレーズのサイズを優に超える災魔を切り裂き、消し飛ばした。切り裂いた勢いで飛ぶ災魔に、彼の身体の一部が食らいつく。体積を減らした災魔が地に落ち、また元の身体に戻ろうと這い寄りつながる。
 ざわざわと周りから集まり気配に、いち早く飛び上がる。囲むように這い出た災魔はその身体弾けさせ、十字砲火を浴びせようとしていた。辛くも避けたトレーズであったが、下に見える敵は同士討ちなど物ともしない。弾けた肉体を自らに取り込み、さらに寄り合い大きく固まっていく。
 地に降りたトレーズを待っていたのも、弾ける酸の肉体だ。無数とも言える量の弾丸を黒剣が切り落とし、肉体が食らいつく。強い酸味に不機嫌な様子をみせるものの、まだまだ湧き出る災魔はまるで泉のようであった。
 敵は明らかにトレーズを狙っていた。その身体を大きくし、威嚇し攻撃を加え、集団で襲いかかる。彼らの攻撃を正面から受け止め、その上食らいつき攻め立てる。知能があまり高くない災魔であっても、このテリトリー内ですら不利を受けないそれを驚異と感じたのだろう。
 人のサイズから自動販売機、すぐに体積を増やした災魔は小さなプレハブ小屋程度の大きさに成り代わった。
 トレーズの顔部分に光る瞳の数が増える。全方向を見渡すその眼球が、周囲に災魔の痕跡が無いことを確認し、見えない口を歪めて見せた。
 吠えるように身体を前傾へ、プレハブサイズの災魔の身体が弾けるその前に。ユーベルコード『ブラッドガイスト』が変形させた黒剣が、巨獣を思わせる口蓋を作り出し、跳ねる勢いに任せてその土手っ腹を食い破った。
 小さく震え、少しだけた体積を減らした災魔は動じない。大きな体を揺らしながら、空いた穴を埋めていく。まるで効いていない。そう思わせるのが肝要であった。


「オーバーチャージ・バスター!!」
 災魔の群れと死闘を繰り返していたトレーズからやや離れた位置。少しだけ場所を変えたビリーは、その手に大型熱線銃ガラクタバスター装着させ機会を伺っていたが、まさにその時がきた。
 トレーズからの合図はない。ただ、敵を集めてくれればそれで良い。打ち合わせとも言えないその言葉を正しく理解したのだろう、トレーズは果たして山岳部の災魔を集めて固めてくれた。
 大声を張り上げるそれは、必要な詠唱などではない。ビリーの姿を見ている視聴者へのアピール。しかしそれが力になるというのであれば、声を出さないデメリットなどありはしない。
「限界超えの!」
 コメントには、『我が必殺の砲撃!』の文字が大量に流れていく。
「先に言うな! 我が必殺の砲撃……!」
 射線上に味方が居ないことはドローンの撮影で確認済み。すばやく動ける猟兵が少ないことから安全面は確保できている。で、あれば。
 完成したユーベルコード『オーバーチャージ・バスター』。ガタガタと震えるガラクタバスター。熱源はまっすぐにプレハブの災魔へと飛び、酸の肉体を消し済みに変えていく。気化した酸もその熱量の前では特性を失い、地面に大型の轍を作りながら消滅せしめたのだ。
「やったか!?」
 当然やっている。災魔の足元からえぐるように投射した熱線は、ガラクタバスターの砲塔を焼き落としながら大義を努めたのだ。
「大したものだな」
 飛び降りてきたトレーズの言葉に、ビリーは大きくうなずいて見せた。全方位を見渡す瞳がきょろきょろと動いているのは分かっていたが、ビリーは感謝の意思を示そうとその手を差し出した。
「私は絡繰ビ……」
「さあ、次だ」
 トレーズはその手は握らない。代わりにビリーをもう一度包むと、山岳部にはびこる災魔へと飛び上がり、次なる戦闘へとビリーを運んでいった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

甘夏・寧子
【SPD判定】
……さて、こっからが討滅の仕事だね。なぁに、ちゃんとやるよ。
相手の攻撃とかを避けたり、こっちの攻撃を当てたりするのに足場は大事だ。平野部分で敵と対するように移動しとくよ。

攻撃は基本クイックドロウで。手数に物を言わせておきたいから【2回攻撃】で攻め立てるよ。
相手の攻撃は当たりたくないから逃げ回りたいところだけど、もし周りに障害物があったら積極的に盾にしたいところだ。
状況に合わせて、臨機応変に動ければ幸さね。


三寸釘・スズロク
あぶね、俺が山の上に居たら転がり落ちてたカモな。

あー…暴れたい気持ちはわかるケド、お前が動くとすげー疲れんだよな。
後でデカブツが出てきそうだから今はステイだ、ココは俺がやる
…と脳内で別人格を宥めつつ

急いでトランクケース開けて、カンプピストルタイプのガジェット出して
【氷海に棲む蛇の牙】寄ってきた粘菌共に撃つぜ
出来るだけ多く引き付けて、まとめて酸ごと凍らせて動きを止める
砕くのは他の猟兵サン達にお任せしていい?

上からは火山弾ならぬ部品弾ってか
下からの急襲も気をつけなきゃなんねーし
平野部をなるべく立ち止まらずに動きつつ…
次戦でアンブッシュする用のガジェットリモコン爆弾を
ゴミ屑に紛れさせて蒔いとくぜ。




「まったく、漸く顔を出しやがった。こっからが討滅の仕事だね……!」
 砕かれた機械部品の平野を走る女が一人。甘夏・寧子(錦鈴の女・f01173)は手にした熱線銃の引き金に指を掛け、粘液の災魔が吹き出す山から距離を取るように足を進めていく。
 汚らしい水音が辺りから聞こえ、その直後から漂い始める焼け焦げた鉄の匂い。ボトボトと強い濁音は耳障りで、戦場として考えた場合これほど劣悪な環境も少ないだろう。
 噴火が始まって一分もしないその時、狙い定めたように彼女の頭上へ落下する数体の災魔は、蒸発の音と共に姿をかき消した。宙を貫く熱線の光が、寄り集まる前の粘液を貫いたのだ。
 黒く焦げた粘液は地に落ち、蠢くこともなくくちていく。生きている紫はまた地へ戻ろうと蠢くそれを、寧子は見逃さない。ジュッ、と音が聞こえたかと思えば、潜ろうと蠢くその姿は跡形もなく消え去った。代わりに残るのは、機械部品を焼いた黒い煤だけ。
「面倒ったら……もう!」
 ランダムに、しかしとめどなく降り注ぐ粘液の雨は、その物量をもって猟兵を押しつぶしていった。例えば素早い足がない、障害物がない。たったそれだけの要素が、降ってくるだけという単純な攻撃を難敵と変えていったのだ。
 既に火山口周辺は、堆く積もる災魔が着々と形を整えて居るように見える。放っておくわけにも行かないが、即座に対応できるほどの手が残っていない。
 寧子の熱線が的確に粘液を撃ち落としていくものの、多勢に無勢とはまさにこの事。撃ち落としたところで多数の災魔は地に落ち、寄り集まっていく。振り返ってみれば、平野部のあちこちに膨らみ立ち上がる紫の粘液が顔を出していた。
 寧子が走る先。周囲を確認し、視点を外していたのが災いしたのだろう。その災魔は、突如現れたと言っても良い。むっくりと立ち上がり、目のないその視線を寧子に向け、彼女の進行方向に立ちふさがった。そしてその大きな身体で迫り、無数の触腕を伸ばし絡みつこうと近づいたのだ。


「こい、つっ!」
 放たれる二連続の熱線が数本の触腕を焼き切るも、焼け石に水。すぐに次が生え伸びてくる粘液にとって、それはなんの支障にもならない。
 酸い匂いを寧子へともたらしながら、細腕を捕まえようとした粘液の腕。
 その次の瞬間である。鼻につく匂いが消え去ると、ひんやりとした感覚が全身を覆っていた。
「お助けスズロクさん、ってね。怪我ぁないカイ?」
 寧子の目の前には白く凍りついた災魔の姿があった。それは白い水蒸気を上げる氷像となっていた。
 声を掛けたのは、三寸釘・スズロク(ギミック・f03285)である。手元のカンプピストルに新たな弾を込めながら、氷像を蹴り上げる。その重さもあってかびくともしないが、してやったりの笑顔はどうにも胡散臭いものであった。
「ああ、たすかったよ。戦いこそがアタシらの本領発揮……と言いたいところなんだがね」
 氷像から離れるように足を動かしながら、辺り一帯を見渡す二人。火口付近の猟兵が抑えたのだろうか、空からの急襲はなくなったように思えるが、未だ地面より顔をだす粘液の数は果てしない。
 そこかしの地面、その隙間からぬめりと顔を出し、猟兵を探しては身体を弾けさせ、手足を伸ばし拘束をしようとしている。二人の、いやこの場にいる猟兵の思いは一つだろう。
「思ったより多いな、こりゃ」
 寧子は頷き、二人は駆け出した。


「なあ、アンタ!」
「へいへい、ナンでござんしょ」
 それは数分と立たない平野部の一部。突然、というタイミングで地面がえぐられ、ぽっかり空いた穴から吐き出された数体の粘液。それぞれ人のサイズを優に超え、ただ近くに居たというのが理由だろう。スズロクと寧子に襲いかかった。
 指向性の粘液弾が地面を溶かし、触腕を伸ばし、そして飛ばしてくる。動きは緩慢ではあるが足を止める事を良しとしない辛さがある。
 何よりも、この敵は明確な死がない。何度となくうち貫く熱線も、体積を削るだけでどれほどのダメージが蓄積されているのかわかったものではない。
 逃げ回り続ける体力がある限り負けることはないだろうが、決定打が足りない。先程から一人でぶつぶつと独り言を言っているスズロクも、様子がおかしい上に、長引いていては困ったことになるのは明白である。
「さっきの、やれるよね?」
「ああ!? 何が……凍らせるやつ、デスね? ええ、全部ってなるとちょっと面倒デスが、こっちにも考えがありまして」
 荒い語気に目を丸くするものの、寧子は足を止めることなく、そしてそれを気にすることなく、スズロクに頷いてみせる。数言の打ち合わせが終わると、寧子は駆け出し、未だ地下から這い出る粘液の方へと向かう。スズロクはといえば、急ブレーキを掛けた足をくるりと反転させ、目の前に迫る粘液を睨みつけた。
 ぶんぶんと頭を振り、険しい視線はまるで自分自身に放たれる思いのように。視線は下へ、ぐちゃぐちゃとかき混ぜられる脳内を一時的に削ぎ落とすと、改めて視線を前へ向けた。
 カンプピストルの銃口を、迫る粘液の一つへと向ける。撃ち放たれるのは、ユーベルコード『氷海に棲む蛇の牙』。軽い発射音の直後、近距離に迫る粘液へと着弾したその特殊な弾は、一瞬にして災魔の身体を氷像に変えてしまう。
「さて、お姉さんうまくやってくだサイよ」
 凍らせることができなかった災魔の攻撃をかわし、スズロクは逃げるためにその足を動かしていく。


 熱線銃を打ち込み注意を向ける。挑発するように災魔の手足をかいくぐり、また次の災魔の元へ。
 山岳部に比べて安定している、というだけで、この平野部の足場も万全とは言い難い。それでも、振り上げる足を止めてしまえば、災魔が打ち出す粘液のたまに撃ち落とされ、酸の海という地獄にとらわれてしまう。上がりはじめた息を整えながら、十数体の災魔に追われているのが、寧子の現状であった。
「まったく、これで本当に……っぶね! 頼んだからね!?」
 疲れからの油断だろうか。単調な動きを捉えられ、打ち出された粘液が足元をかすめ衣服に小さな穴を空けた。苛立ちと共に進路を変え、周囲に新たな災魔が生まれていないことを確認すると、くるりと向き直る。後ろ向きに歩みを進めながら、既に熱をもった熱線銃に祈りを込める。
(もってくれよ、まだまだあんたには頼らなきゃならないんだからね……)
「十分だろう! やっとくれ!」
 フロアに響くような怒声、言うが早いかというタイミングで打ち込まれた、災魔たちの大きさにくられべば小さな一発の弾。寧子に迫る粘液達は、我先にとその身で迫り、ひとかたまりとなっていた。
 声を掛けるまでもない。今しかないのだから。
 うぞうぞ群体として動き回る敵は、果たして氷り固まった。たった一発の銃弾が破裂し、氷結の煙を吹き上げながら、粘液の動きを止めて見せた。
 そして、その大きな氷像を、一瞬にして砕く大量の熱線。殆ど同時に撃ち込まれる熱線の光は、氷像を溶かすことなく、熱量をもって砕いたのだ。
 ユーベルコード『クイックドロウ』。百を超える光は数秒の元に吐き出され、凍った瞬間の粘液を砕き、滅ぼした。
 熱を放ち続ける熱線銃は、寧子の願いをかなえるように耐え抜いた。そうして得られた結果は、凍ったまま細胞を砕かれた大量の災魔。
「おつかれさんデス」
「あんたもね」
 軽口で声をかけるスズロクは、手慣れた様子で地面に穴をほっていく。寧子はといえば、他の敵が残っていないか、それ以上の言葉を掛けることもなく進んで行くのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

マルコ・トリガー
マリアドール(f03102)と同行
同じ旅館に宿泊する客程度の間柄

フーン、ネバネバの敵ね。別にガジェットの山に興味があったわけじゃないけど、たまたま通りがかったから退治を手伝ってあげるよ。お人好しのお嬢さんのサポートね、まあ暇つぶしには丁度いいんじゃないかな。

山頂で敵と対峙
足場の悪さは【竜飛鳳舞】で空中をジャンプしてカバー。

基本後衛
臨機応変に互いの背を守りつつ共闘

緩急をつけた【2回攻撃】と【誘導弾】で【援護射撃】
前衛が動きやすくなるように敵の注意をこちらに向けさせるために挑発をする。
隙を見て距離を詰めて【零距離射撃】も狙ってみる。
マリアが攻撃を受けたら心配する素振りを見せる。

アドリブ歓迎


マリアドール・シュシュ
アドリブ歓迎

「魔導蒸気機械の山ってロマンを感じるのよ。退廃的な雰囲気が、ね?
見たことないものがたくさんあってマリア楽しいのだわ!
そんな時にネバネバが現れたから、見過ごしておけなかったの。
マルコが”偶然”通りかかってくれて良かったのだわ。
ふふ、もう。優しいんだから」

同じ旅館の宿泊客のマルコ・トリガーと同行
山頂で目の前で敵と対峙
敵には触りたくないが、溢れる位なら早急に倒したい
足場が悪いので十分注意して小走り

基本前衛
臨機応変に互いの背を守りつつ共闘

【高速詠唱】で【透白色の奏】使用
嫌々、複数の敵を見て歪形の追想曲を竪琴で奏でる
敵の酸攻撃に青のドレスが溶けて小さく悲鳴
マルコが作った隙を活用して演奏で攻撃




「魔導蒸気機械の山ってロマンを感じるのよ。退廃的な雰囲気が、ね?」
 瞳を輝かせて語っていたのは十数分前の事。
「見たことないものがたくさんあってマリア楽しいのだわ! そんな時にネバネバが現れたから、見過ごしておけなかったの」
 その言葉に嘘はないのだろう。事実、ゴミの山を見て楽しそうにしている姿キラキラしていて、イライラするような足場の道程も、どこか楽しげであった。
「マルコが”偶然”通りかかってくれて良かったのだわ」
 マルコ・トリガー(ヤドリガミのブラスターガンナー・f04649)は、人を決めつけるそんな言葉が嫌いだった。そんな事を言う相手も、嫌いだ。
「ふふ、もう。優しいんだから」
 そして、そんな言葉につられてたどり着いたのは、ゴミ山の頂上。今まさに噴火のごとく吹き上がる粘液の災魔が、その酸性を吹き上げつつビリビリと地を揺らしていた。
「来なきゃよかった!」
 そう叫ぶマルコをどこか楽しそうに見つめるのは、マリアドール・シュシュ(クリスタリアンのサウンドソルジャー・f03102)。彼をここへ連れてきた張本人である。


 はるか上空、見上げる視界を空へと吹き上がる災魔たちが埋め尽くし、どれほどの規模が飛び上がっているのか想定もできない。フロアの天井は非常に高いものの、その天井にぶつかっているものも居るようだ。どれほどの数が溢れてきているのかわからないが、尋常でないということだけは確実である。
「これも素敵、なんて言わないよね?」
「まさか。これはとってもダメダメよ」
 常識的な答えが返ってきた事に安心するマルコ。彼の頭の中には行動の算段が浮かび上がり、その全てはこの場からの撤退を始めとして作られていた。
 二人の周りには既にビタビタと音を立てて災魔が落ち、山頂においてその身を結合しようと寄り集まっていく。降り注ぐ災魔を熱線銃で撃ち落としながら、マルコはマリアドールの手を引いた。言外に含める、一端引こう、という思い。それはマリアドール正しく伝わり……。
「いいえ、大丈夫よマルコ。私達なら大丈夫」
 引く手を握り返しながら、しかし頑として動かない。
「いや、いやいや! まずは体制を建て直さないと! 他の猟兵も下に降りて……」
「えぇ、だからこそ。こんないけないもの、放置してはいけない。そうでしょう?」
 周りを見れば、既に他の猟兵の姿はない。熱線で災魔を撃ち落としながら、マルコはむっつりとした表情を険しく変える。眉間の寄せたシワが深く刻まれ、その表情だけで「何を考えているんだ」と相手に伝えるほどのもの。
 マリアドールは笑みを絶やさない。だって、とその唇は形を作る。
「あなたは優しいから」
 マルコはマリアドールが嫌いだった。マルコが心配しているとわかった上で、無策に近いこんな戦いに誘い込み、自身が手を握り返すと知っている彼女のことが、本当に嫌いだった。
「……援護するだけだからね」
 そうして離した手を、マリアドールが握り返すことはなかった。


「壱、弐、参……!」
 空を駆けるマルコの姿は、小さいながら舞う鳥を思わせた。青い羽を翻し、一つ二つと空を蹴る。吐き出す熱線はまるで怪獣か、しかし優雅にすら見える舞はマリアドールへと降る災魔をすべからく撃退せしめていた。
 そんな彼に対して、地上に陣取るマリアドールは根を張るように山頂に腰を下ろしていた。黄昏色に輝くハープを膝に載せ、艶やかな旋律を奏でると白いまぶたをそっと閉じる。
 指を弾くたびになる音階が辺りをしっとりと濡らし、緩めかせていく。それはただの感覚でしか無いが、マルコにとって好ましい音であったのは確かだ。
 そうして、指先の慣らしが終わったのだろう。形を作り始めるメロディはおよそ戦場には似つかわしくないもの。優しく、どこか悲しい音色は徐々に熱を帯び、弦を弾くマリアドールの指がすばやく強くなっていく。
 見開かれた目は、吹き上がり続ける火口へ。打ち上がり続ける粘液が一瞬にして弾け飛ぶと、チリと化した元災魔は動くことなく地面の隙間に落ちていく。かき鳴らされる旋律は少しずつ早く、しかし焦るような感情を呼び起こさない、熱意と感じられるものになっていった
 マリアドールが目を開き、火口と上空へ飛んだ粘液を見つめれば、まだ塊として姿をなしていないそれは瞬間的にチリとなる。
 空を掛けていたマルコくるりと身を翻し、細かく空を蹴り上げながら山頂へと足を下ろした。
 鳴り続けるメロディは、優しさから情熱の旋律へ。頬を赤く染めながら、瞳を閉じては開く、それを繰り返すだけ。
 マルコは少しだけ感心していた。勝算無く戦いを挑んだのではない。無理筋の戦いに巻き込んだ訳ではななかったのだ。二人にとっての目標は、この噴火をなんとかすること。そして、こうして火口に陣取りマリアドールが力を行使できるのであれば、それは達成されたも同義であった。
「……ふん」
 それなら初めからそういえば言えばいいんだ。そんな事を口に出すこともなく、ハープを引き続けるマリアドールをぼんやりと眺めている。美しい少女だとは思っている。ただそれだけ、ただそれだけ。
 見惚れていたのは数秒だろうか。火口から吹き出ていた粘液の数が極端に減った事に気づいたのは、マリアドールだけである。マルコは、少しだけ。少しだけ、見惚れていた。それがまずかった。


 演奏がやんだ。急に止んだ音色に、不機嫌な表情を浮かべるマルコ。開いた目がマリアドールから火口へ向かうと、がたがたと揺れるゴミの山が見て取れた。
 何だ、と考える暇もない。途端に止んだ噴火は、つまり吐き出すはずだった粘液をその場にためているということ。吹き出し続けるだけではだめだと、集合体であるその災魔は考えたのだろう。十数秒の間は演奏を止めるにふさわしい不審な時間。終わったのか、と考えているその間。
 ドン、と強い破砕音を生み出したのは、山頂からそびえる、四、五メートルはあろうかという巨大な粘液。吹き出す代わりに寄り集め、その身を大きく膨らませた、ただひたすら巨大な災魔であった。
 意識の外を突かれた。その演奏が勝利を掴み、二人の仕事は円満解決すると考えていたのだ。
 紫色の粘体が、ブルリと震える。吐き出されるのは酸性を帯びた粘液、それは余りにも正確に二人が立っていた場所へと飛びかかる。弾数は百を超えるものの、もしもマリアドールが演奏を続けていれば、防げた攻撃かもしれない。
 座っていたマリアドールを抱え、ユーベルコード『竜飛鳳舞』で空へと駆け上がるマルコ。災魔の体積は通常のそれを優に超え、今まさに座っていた場所には酸で空けられた大穴が生まれていた。
 ブルブルと震える災魔。飛び上がったマルコへと狙いをつけ、もう一度その粘液を弾き飛ばす。空を掛け、地上へと降り立とうとするものの、まるでそんなタイミングを狙うように酸が飛ばされる。
 飛べる数はあと数回。ユーベルコードを使い直すにしても、一度地上に降りなければ……。
 そんなマルコの手の中から、重さがふと消えた。比較的地上に近い位置に居たのだろう、マリアドールが手を振りほどき、山頂へと足を下ろしたのだ。
 狙いが分かたれた災魔は、ビュッと焼け付く粘液をあらぬ方へと放って見せる。その多くは地を焼き、大穴を空けたが。たった一つ、飛沫のような粘液がマリアドールへと降りかかると、青いドレスを焼き穴を空けてしまった。
 悲鳴をあげるマリアドールであったが、ダメージはない。腹部を押さえるのも、途端にさらされた肌を隠すため。
 しかし、マルコの視点からは、その事実が見えない。まるで、酸がマリアドールの腹を焼き、致命傷を与えたのではないか。一度そう考えてしまえば、彼女がお腹を抑える仕草はそれにしか見えなくなってしまう。湯だつ頭が湧き上がり、不格好に山頂へと降り立った直後、彼はもう一度空へと駆け上がった。


 よくも!
 思いは言葉ではなく、行動として表れる。マルコは空へと飛び上がりながら、もう一つのユーベルコードを完成させた。
 『錬成カミヤドリ』。一九個の古式ゆかしい短銃がマルコの周りに生み出されると、弾薬をすべて取り外し能力を一部解除した。弾薬を掴み取り、もう一度。つかみ、もう一度、もう一度。一瞬でかき集めた銃弾は数百に上り、空中を翻りながら飛ぶマルコの視線は災魔にだけ向けられている。
 この!
 ばらまかれる弾薬は災魔の中へ。それがただの銃弾であれば、災魔も簡単に溶かして見せただろう。だがこれはユーエルコードの力をもった超常の弾。どぷん、と粘液の中に浮かぶ数百の弾薬は紫色の中に浮いていて……マルコは、それを熱線で撃ち抜いた。
 弾ける災魔の身体は、一瞬で粉々になる。あちらこちらへと飛び跳ね、地に落ちた瞬間に音を立て鉄を溶かしていく。火力が足りない、マルコの眉間が険しく寄せられる。が、まるでそれをなだめるように鳴る音があった。
 先程までの情熱的なものではない、優しい、ただ優しい音色。散って小さくなっただけ。ただそれだけの粘液は、まさしくそれが弱点となる。見つめられた粘液の欠片は、ハープの音色が振動させ、その身体を一瞬で崩壊させる。
 比較的大きな粘液も、数度見つめることで漸く消すことができた。空中から見下ろすマルコの視線の先に、恥ずかしそうにお腹をハープで隠したまま、演奏を続けるマリアドールの姿があった。
 火口からあふれる粘液の姿は、もう無い。最後に弦をゆっくりと慣らし、微笑む姿はいつもの彼女の姿だ。
「えっと、無事?」
「えぇ」
「……そっか、まあ、よかったんじゃない」
 降り立ったマルコはどうにもバツが悪い。傷ついた姿を見て激昂した自分。恥ずかしさに頬を染めながら、視線を合わせられずにいる。それでも、マリアドールは笑ってみせた。穏やかな笑みと共に、肌を隠すようにドレスを引き絞りながら。
「言ったでしょう。あなたは、優しいから」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『骸の海のダンクルオルテウス』

POW   :    噛みつき
【噛みつき 】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    尾撃
【尾っぽ 】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
WIZ   :    影化
【輪郭のぼやけた影 】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠秋冬・春子です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 果たしてネバメーバの駆除は迅速に行われた。この広いフロアである、まだどこかに潜んでいる可能性が無いとは言えないが、少なくとも驚異となる量が潜んでいる可能性は高くないだろう。
 ネバメーバとの戦闘の最中、地を泳ぎ大口をあけ、既に膨れ上がった粘液を吐き出す何かを見たものも多い。機械部品を巻き上げかき混ぜながら、戦場を泳ぎ回っていた、その張本人。
 初めに姿を現したのはゴミ山の平野部。大口を広げ、機械部品を飲み込みながら次々と新たな災魔を吐き出していった。次は山岳部。
 ゴミ山を泳ぐ怪魚が姿を現した。地面を水面とするように、緑に光る瞳を揺らし、猟兵を観察している。
 そして、怪魚は潜る。猟兵の手がとどかない場所へ。そうして、君たちの足元からその身を捕食せんと飛び上がるのだ。
 後はこの魚を釣り上げるだけ。猟兵の力をもって、このゴミ山に平和を取り戻してほしい。

●マスターから(以下、後に削除予定)
 おはようございます、三杉日和です。

 第三章は『骸の海のダンクルオルテウス』とのボス戦です。
 敵はゴミ山を泳ぎ、たまに顔を出しては攻撃を仕掛けてくる、ゲームに居たとしたらすごく面倒なタイプの敵を想定しています。
 開始時リプレイにもある通り、既に敵の予測を立てられるだけの情報を猟兵は握って居た可能性があります。
 ネバメーバとの戦闘中、もしくは戦闘後に想定していた敵を釣り上げる、打ち上げる準備をしていた、というプレイングを送っていただいて構いません。
 ただ、あまりに妥当性がない、実現性がない作戦である場合は、部分却下し採用することがあります。お気をつけください。

 以上となります、よろしくお願いしまします。
マルコ・トリガー
マリアドール(f03102)と同行

ハァ、次は怪魚?
乗りかかった船だからまた退治してあげるよ。
お転婆なお嬢さんも乗り気みたいだからサポートしてあげないと。

潜った怪魚を浮上させるには誘い出すしかないかな。
マリアが囮役を買って出てくれたから、確実に仕留めないとね。
これ以上その綺麗なドレスを汚させはしないよ…。

戦闘場所は山の平野部
囮役から少し離れて確実に狙い撃てる場所で待機
全体をよく見て危険を察知したらマリアにすぐ伝える。無理はさせない。
怪魚が浮上したら【クイックドロウ】で素早く【2回攻撃】
これを何度か繰り返す
攻撃を受けた敵の状態をよく見て弱点を発見出来たらなるべくそこを狙って攻撃

アドリブ歓迎


マリアドール・シュシュ
「機械の山に潜られると怪魚の居場所が分からないのだわ。
なら、あちらから出てきてもらえばいいかしら?光る瞳を探れば予測は出来ると思うけれど、もっと確実に。
仇をなせるのはマルコ、あなたしかいないとマリアは思うのよ」

前回同様、マルコ・トリガーと同行
囮役を名乗り出る

「さぁ!おいでなさい」

山の平野部に一人佇む
お腹に穴が開いたドレスを隠す様に竪琴構える
音色を奏でて【パフォーマンス・歌唱】
祈りのポーズで【サウンド・オブ・パワー】を使用
士気を鼓舞する交響曲
セレナーデの歌声

「マリアは信じているのだわ。マルコはそれに応えてくれるひと。
だから届けるの。溢れんばかりの力をあなたへ」

迷いなき星芒の雫は華水晶と共に煌く




 小さな機械部品は更に砕かれ打ち上がり、バラバラと音を立てて地に落ちる。バラ撒いて見せたのは、一瞬だけ顔を出した巨影の本体。糸をひくような眼光が明々と浮き上がり、轟音と共に地の底へと消えていく。
 黒い影の本体は、黒の怪魚に他ならない。仄暗いフロアの中において、形よりも音において自らを主張しているようだった。響く地鳴りは地の底へ。残る気配は揺れる地面、ただそれだけだ。
「潜られてしまうと、怪魚の居場所が分からないのだわ……」
 マリアドール・シュシュ(無邪気な華水晶・f03102)は腹部を押さえながら、微かな揺れだけを感じられる地面に視線を落とす。そう、元々あれはこの地の底を我が物顔で泳いでいたのだ。地面より送り出されていた数々の粘液の災魔も、あれが喰い集め腹の底でまとめ上げたものだったのだろう。
「大丈夫さ、あれはボクたち猟兵を狙ってる。すぐに顔をだすさ、それを待てば……」
 マルコ・トリガー(ヤドリガミのブラスターガンナー・f04649)の言葉に笑みを返す。可愛らしい笑顔である。たおやかに響く声と、控えめな笑み。好奇心を隠しきれない瞳の輝きと、正義感に燃える思い。それが綯い交ぜになった、マルコにとっては嫌な笑顔。
「わかってる? 待、て、ば、良いんだ」
 こくりと頷く姿は人形のようであったが、その表情に変化が無いことにマルコ頭が痛くなった。
「さっきのは確かに君の作戦があったおかげで上手くいった。でも今回もまたそんな役どころに……」
「いいえ、大丈夫よマルコ……
 マルコの眉間に深い皺ができあがる。
「暗い地面ですもの。あれだけ爛々と光る瞳は、きっと目印に輝くわ。それにもっと確実に怪魚を仕留める方法はあるはずよ」
「だから、方法を……」
「あら、そんなの簡単じゃない。仇をなせるのはマルコ、あなたしかいないとマリアは思うのよ」
 マルコには、それが彼女の心からの言葉に聞こえたことだろう。そしてそれはまさしく正しい認識であり、だからこそその言葉が重くのしかかるのだ。


 平野部に陣取る猟兵たちは、地を泳ぐ怪魚を迎え撃つべく武器を手に身構えている。地響きは強く弱く、まるで主役の登場を待ち望む観客のようにじっと息を潜め、遠く近くなる震源に耳をそばだてていた。
 緊張といってもいいだろう。粘液の災魔による大混乱から一転。いつ顔を出すとも分からない敵を待つという、緩急とも言える展開にじりじりと精神を削られ始めていた。そんな中、である。
 一人の少女が、しずしずと足を前に運んだ。人形のように整った顔と、煌めく銀色の長い髪。薄明かりの中ですら輝くようなその姿は、緊張に見を固めていた猟兵たちの視線を集めるのに十分な力をもっていた。
「さあ……」
 涼やか声色は強く伸びる。手元に構えた黄昏色の竪琴を一撫で。先程の戦いの最中聞いた覚えのあるものも居るだろう。周辺の猟兵は視線を外せず、何をしているのかと問いかけるように彼女を見つめていた。
「おいでなさい」
 その答えは、行動で示されることとなる。
 突然かき鳴らされる竪琴は、力強い音を緊張に包まれた場に響かせた。短いイントロの直後に強く鳴る、少女の声。直前の鈴が鳴るようなものとは違う、細い身体から出ているとは思えない声。力強く、臓腑を打ち、心を震わせる、声。
 ざわりと全身が震え、緊張感が消えていく。猟兵達はマグマめいた息を吐き、強張りかけた身体が高揚に膨らんでいくのがよくわかった。
 戦場に響き渡る、士気を鼓舞する交響曲。完成したのはユーベルコード『サウンド・オブ・パワー』。
 近づく地響きに恐れなどあろうものか。マリアドールは喉よ枯れよとばかりに声を張り上げ、自らの意思を示し、存在を示し、その強さを示した。


 弾け飛ぶのは機械部品。地を作り上げているくず鉄が、ショットガンじみた速度で打ち上がる。それは何もない地面だったが、直後に大きな影が浮かび上がった。
 耳障りだったのだろう。それに耳があるのかどうかは分からない。ただ、明確な強い意志、驚異となりうる何かを感じたのは確かだった。
 巨影は浮き上がり、青いドレスを身にまとった小さな影に狙いをつけた。邪魔だ、という意思をその眼光に込められた、濡れるように光る瞳。発行する緑は全身を渡り、大口を空けた怪魚が重力に従い地へと向かい……弾かれた。
 一筋の光は吸い込まれるように、怪魚の瞳へと向かっていく。聞こえる音は分割された破砕音、爆炎は殆ど同時に打ち上がり、後方へと跳ねるその魚肉を打ち、焼いていく。
 地面に打ち付けられる巨体が轟音を響かせ、びちびちと身体をくねらせながら跳ね上がった。そこに殺到する猟兵たちの攻撃。飛び道具、あるいは近接武器。持て余した力を一箇所に向け、直撃すればただでは済まない一撃を殆ど同時に繰り出した。
 怪魚が跳ねるのは一度だけ。飛び上がった身体が地に触れる頃には体勢を立て直し、口と頭を使い潜り込む。乱暴に進む地の音はあまりにも強く、そこから感じる怒りもひとしおであった。
 だからこそ、丁度いい。マルコは、もっとも難易度が高いであろうと想定していた初激をやり過ごしたことに、心からの安堵を覚えていた。


 迷いなく引いた引き金、それは同時にユーベルコードの使用を意味していた。
 流れるように打ち出される熱線は、秒間三十を超えるまさしく線のような一撃。『クイックドロウ』による初激が打ち当たれば、あとは逃れる術はない。気づいたときにはもう遅い、後は迫る熱線を身体に受ける、ただそれしか出来ないのだから。
 マリアドールは平野部の中心で微笑みかけた。たった一人、ハープを用いた交響曲。鼓舞の演奏は続いたまま、歌姫はただ一人に微笑みかけた。
「信じています」
 マリアドールの口がそう形どるのを見た気がした。一方的な信頼の押しつけに、マルコは笑みを返す。
「これ以上その綺麗なドレスを汚させはしないよ」
 きっとこのユーベルコードのせいだ。気概が表に、感情はそのままだというのに自らの身体から力が溢れてくるのを感じてしまう。恥ずかしげもないそんな言葉を、聞こえない距離にいるとは言え口にだすだなんて。きっとあのハープの音色のせいだ。
 しかし悪い気分ではなかった。湧き上がる力は多少なりともマルコに万能感を与えていた。嫌いだ、などと言う口をつむぐことすら、今の彼には可能であった。
 二度目の接近は、一度目よりも読みやすい。傷つき、怒りを顕にしたせいだろう。怪魚は静かに泳ぐことを取りやめ、地面を揺らし威嚇するような泳法を取り出した。
 盛り上がる地面が大きく割れ、飛び出した怪魚がマリアドールへと尾びれを振り上げ、跳ね飛ばされる。同樣にもたらされる熱線ではあったが、一度目の攻撃に比べ効きが悪いように思えた。ブレる輪郭、仄暗いフロアに溶け込むような揺れる境界線。
 舌打ちを鳴らすマルコは、もう一度引き金を引く。ダマになった熱線はぶれた輪郭を打ち破り、鱗を弾き、肉を焼いた。
 そして、怪魚は鳴く。演奏をかき消すように、魚ではないと主張するように。それでも鳴り止まない音楽を嫌い、地に潜る。怪魚との一合は、それを本気にさせるのに十分なダメージを負わせるに終わったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エーカ・ライスフェルト
wiz
【エレクトロレギオン】で機械兵器を召喚し、20体ずつで5つ班をつくらせるわ
足場が比較的しっかりした戦いやすそうな場所を選び、5班にそれぞれ別の方向を警戒させる
警戒の際、【フック付きワイヤー】で大型瓦礫同士を結びつけさせるなどして、足止め用の罠作りも行わせておく
「地下の敵を見つけられないのを承知の上で囮にするのは気分が悪いわ。……でも、これしか勝ち目のある手を思いつけなかったのよ」

私自身は気配を殺して待機
機械兵器が敵に襲われた後は、連携させず1班ずつ高速で突っ込ませる
私は出来れば【ウィザード・ミサイル】を打ち込み、それが無理なら【属性攻撃】で氷の矢を撃ち込む
せめて【時間稼ぎ】はしたいわ


トレーズ・ヘマタイト
怪魚はゴミの海を泳ぐので表皮はかなり硬く、粘菌災魔を運搬するなら口内は酸で覆われている可能性がある
【刻印】による身体強化と【ブラッド・ガイスト】で【黒剣】とナノマシン=全身を強化したうえで【バウンドボディ】による高速移動からの【怪力】込みの一撃で表皮を削れるか、更に口内に大型のゴミを打ち込み、酸の有無と強度を確認する

その後は他の者を【かばう】なり、援護や作戦の協力をする
釣り上げる際には、酸対策してある自分が黒剣で釣り針、自分自身がワイヤーの保護をすることもできると言っておく、粘菌災魔を取り込み多少ではあるが自分自身に酸耐性も備わっているだろう
影化した際には囮となり時間を稼ぐ

アドリブ歓迎、以上


三寸釘・スズロク
あのフォルムでこの金屑の中を泳ぐかよ…。
相当な筋力と見たぜあの尾ビレ。当たりたくねえ。
部品を食って、分解して粘菌に変えて吐いてる?
リクツで考えててもわかんねえか。やるか。

部品が飲み込まれる位置とタイミング見計らって
さっき埋めといたガジェットリモコン爆弾を起爆。
コレで倒せるとは思っちゃいねーけど、釣り上げられりゃ上々だな。
不安はあるが後は任せた。

『エレクトロワイヤー』スイッチオン、『バーゲスト』起動…
……潰してやるよ、悪食野郎!

顔を出した敵に【首なし人形の戯れ】射程距離まで接近、
攻撃…と見せかけて一度退く【フェイント】【だまし討ち】。
奴の攻撃で人形を壊されると『俺』が暴れられないんで困るからな。


絡繰・ビリー
ダイナミックでスリリングな体験だった。動画の撮れ高もばっちり
ちょっとフラフラするけど、最後までがんばろう!
・行動
平野に降りる
釣り、とは言っても釣りは初めてなんだよね

「急募、ゴミ山の怪魚の釣り方!」

やるだけやってみよう
あと、他の猟兵が何か仕掛けたり、作戦を練っていたら協力する
私の作戦は、自分のガジェットをメカニック技能で弄って大きな音が出るようにして、ビルドロボット!
自分を餌に釣ってみる!気分は鮫映画!ガジェットは壊れるけどね…
自他問わず、釣れたら武器受け技能で受け、流し、グラップル技能で潜らないように口、ヒレ、尾のどれかを掴む!
「怪獣対ロボはロマンよな!」

終了後は宝の山!趣味の時間だ、いえい!




「そこから右! そう、走れ!」
 雄叫びは地鳴りに消え入りそうになるものの、彼らを操る存在へと声を届けるには十分な大きさを持っていた。揺れる地面をワシャワシャと走るアンティーク調の機械人形は合計二十体。彼らは両手を上げながら、未だ歌い奏でる歌姫を抱え、掲げている。プリンセスを守るナイトのような、しかし彼らの動きのコミカルではあった。しかし命がけの作戦の一端ともなれば、微笑ましくも見えるその光景を笑うものは一人として居ない。
 彼らを追いかけるように盛り上がる地面、その山が大きく盛り上がる程に濃くなる緑の蛍光色は、地を泳ぐそれの明確な印であった。声もなく起動されるスイッチ。地鳴りとはまた別種の爆発音、スクラップを撒き散らしながら上がる豪炎が浮かび上がると、地鳴りはまた地の底へと深く沈んでいく。
「くそ、直撃はしてるはずなんだがな」
 憎々しげに吐き出し、燃え上がり続ける地面を眺めているのは三寸釘・スズロク(ギミック・f03285)だ。粘液との戦闘の際、いくつか仕掛けていた爆弾。遊泳の最中にそれをぶつければ。そんな提案は、機械人形たちの上で歌い続ける彼女への危機を減らすという意味でも有効な提案であった。
 爆発のダメージ、もしくはその勢いで地面から浮かび上がらせる。攻撃の動きを取る前にその身を晒させ、一気呵成の攻撃でトドメをさせればそれに越したことはない。しかし。
「ああなる前だったら、かしらね」
「だな」
 未だ深い地鳴りは、怪魚の接近を知らせない。勝ち誇ったように歌姫を担ぎ上げる機械人形に、次の爆弾位置付近へと移動するよう指示をだす。それは夜色のドレスを身にまとったエーカ・ライスフェルト(電脳ウィザード・f06511)である。エーカはそれ以外の人形たちにも指示を出しつつ、うんざりとした表情で地面を見つめている。
「こんな地面泳いでるんだ、バカみてえに硬いなんてのは分かってはいたけどよ。ありゃ反則だな、まったく。お嬢ちゃんには怖い思いさせちまうな」
「囮を買って出たのはあの子よ」
 違いねえ、と含み笑うスズロクに、エーカは真剣な表情を返す。懐からフック付きワイヤーを取り出し、やってきた一体の機械人形へ投げ渡した。そばだてる耳は地面の奥。このまま持久戦を行えば、猟兵に分があるのは間違いない。だが敵が妙な動きをすれば、この場にいる猟兵にどれほどの損害を与えられるかわかったものではないのだ。知識の上にいる敵とは違う。地を潜る魚なんて、馬鹿げているというほか無いのだから。
 できればすばやく、高揚の音楽が鳴り続けている間に。全員の無事を持って作戦を終わらせなければならない。
「ところで……」
「釣りだろ? 準備してる、あんまり焦らせるもんじゃねえよ」
 数十秒の休憩は、あっという間に終わりを迎えてしまう。大きく鳴り始めた地鳴りが地表に向かうのを感じ、二人は距離をとり敵の位置を確認する。
「次はそのまままっすぐ……ああ! 違う逆だ!」
 爆弾が埋まった場所へと誘導するスズロクの声は、人形たちの主人たるエーカへと今一度飛ばされていた。


 絡繰・ビリー(ガラクタクラフトマン・f04341)の背後から、けたたましい爆音と怒りに満ちた鳴き声が鳴り響く。地面に座り込み拾い上げてきたガラクタを弄り回す姿を、空中を踊るドローンが写している。ビリーに聞こえるその音は全てドローンのマイクが拾い上げ、視聴者の耳にも届いているだろう。おぞましい災魔の鳴き声、いつも呑気に視聴するだけの彼らを震え上がらせるのにはちょうどいい環境音であった。
 この戦場への不評のコメントともに、流れてくるのは釣りの方法について。
『急募、ゴミ山の怪魚の釣り方!』
 などと、おそらく世界中を探しても前例のない募集内容に寄せられるのは、ネットに転がっている情報の丸写しである、海釣り、渓流釣り、川釣り。およそ役に立つことはないだろうそれらは、押し並べてビリーをからかうコメント群であった。
「ああもう、勿論わかってるよ畜生!」
 ビリーとてまともな情報が流れて来るとは露程にも考えていない。こうして場を繋ぎつつ、視聴者の集合知というものに一つ賭けてみた、というのが実際のところだ。しかし返ってくるのは、想定した正しい釣りの方法について。大急ぎでワイヤーを仕込み、釣り針代わりのガジェットを作り出す。
 スクラップから作られたガジェットはどうにも不安定なもの。少なくとも、あの巨体の口に引っ掛け無事でいられるかどうかわからない代物で、それはコメントからも大きく指摘されている。わかっている、わかっているが、あれだけ大きな獲物を引っ掛けるだけの針など、すぐに用意できるはずもないのだ。
 餌はどうするの? というコメントにも頭を悩ませた。背後から聞こえる戦闘音が、流れ弾を予感させて気が気でない。あれやこれやと、考えることとやらなければならないこと。いっぺんに押し寄せてくる彼の神経を逆なでするのは、またも視聴者の言葉だ。ビリーが餌になれば? 当事者じゃない癖に好き勝手いいやがって、少しはこっちの気も知れば……。
「ちょっとまって!?」
 背後から爆発音と、破砕音。何かがぶつかり溶け出し、焦げる匂い。そんな戦場を他所に、ビリーはドローンへと顔を寄せる。作っていたガジェットを放り出して、さっきのコメントを呼び戻す。
 ビリーが餌になれば? すごく自分は嫌な顔を見せただろう。しかし、準備が足りない現状であれば悪くない。ビリーは頭を掻きむしり座り込むと、新たなガジェットの作成に取り掛かった。


 それは合計五度目の爆破。すっころんだ機会人形が爆破に巻き込まれながらも、爆風は怪魚の土手っ腹を打ち付け弾き出した。こうして姿を見るのは十数分ぶりだろうか。地に顔をだす前に潜り込む、そんな面倒な相手に気を張り続け、何よりも歌い続ける彼女は体力の底が見えてくるかもしれない。そんな折だった。
 打ち上がった怪魚は、最後に見た時と同じように、その身体をブレさせ全身を暗く揺らめかせていた。見計らったように打ち込まれる熱線は鱗の一枚を剥ぎ取るも、それは先程と同樣の結果を生むに過ぎない。
 地に打ち上げられた災魔は、その巨体を跳ね上げ地を打ち付ける。体勢を立て直し、頭から地へと潜る怪魚へと殺到するのは、絶妙な位置へと陣取っていた機械人形の束だ。およそ二十体のそれは歌姫を守る人形たちではない。別動部隊とも言える彼らは、怪魚が打ち上がるそのタイミングを図り、地面へと潜ることを防いでみせたのだ。
 そのかわり。一瞬で二体まで減らされた別動部隊の一群は、新たなスクラップとして地に落ちた。魚顔を殴りつけ、胴に体当たりをし、潜り込む隙間にその身を挟む。身を挺した、という言い方がまさしく正しい。粉々になりながら、彼らは一瞬の隙を作り出したのだ。
 怒りに震え、大声を上げる怪魚。瞬間、開いた口に投げ込まれるのは、山頂に転がっていたゴミの山。一つ二つではない、重量と質量を武器に、黒い巨影にぶつけられる。人の身長程はあろうかという大きなものから、抱えられる箱のような大きさのモノまで。同時に、複数。一気に投げ込まれたゴミの山は、影のようにブレる影にぶつかり砕かれ、その口の中へと入り込めばジュウジュウと音を立て、溶けていく。
「やはりか」
 全身を溶かした黒いタール。既に人型を模すことすらしない、地面に広がる身体の上には、新たに引っ張り込まれたゴミ山が大量に乗っていた。そして、粘液のような黒い身体がいびつに持ち上がると、二度目の投擲がほぼ間もなく撃ち込まれる。
 トレーズ・ヘマタイト(骸喰らい・f05071)のユーベルコード。『ブラッドガイスト』と刻印による身体強化が可能とする、力任せの砲撃だ。
「効かない、というわけではないが……」
 大口を開けた中に仕込み続けられていた粘液の災魔。酸に対する耐性があったのか、それともここで生活を続けるうちに耐性がついたのか、それはどちらでも構わない。問題なのは、粘液の災魔を運搬し続けるだけの耐性があり、そしてその口の中は既に強い酸で覆われている可能性が高いこと。そして、今の投擲でおおよそ分かってしまった。あれは、地中を溶かし、食い荒らしながら進んでいるということ。
「飲まれたら終わりということか」
 三度目の投擲は、新たな機械人形の助けがあったものの、成功には至らない。潜航の邪魔をする彼らを見計らい、その巨体で押しつぶし、位置を変える。だれかが、待て! と叫ぶものの、それは果たされることはなかった。


 強い地響きと共に地の底へ潜り、しかし明確な敵意を向ける怪魚。確実なダメージを与えているはずだが、決定打が足りない。次はどうしたら。トレーズがスズロクに目を向けるものの、仕掛けた爆弾は使い果たした、と首を降る。エーカの方に視線を向けるも、険しい顔をみせていた。
 経過した時間はわからないが、弱まり初めた戦場の演奏から長時間の戦闘を続けていることが分かる。一合ごとの戦闘時間は短い、短いはずなのだが。釣り上げる、と豪語していたビリーに視線を向ける。そこには爛々と目を輝かせ、ドローンにピースサインを向けるロボットの姿があった。
「怪獣対ロボはロマンよな!」
 トレーズはその声を知っている。オレンジ色の髪をしたバーチャルキャラクターの男のものだ。しかし、こんなに大きかっただろうか。こんなに……メカメカしかっただろうか。
「準備はできた! あとは我が釣り上げる……楽しみに待っているが良い!!」
 芝居がかった彼の声は、一段と高くやかましい。しかし、その自信に満ちた声は迷いなく、力強いものだった。
 彼が用意したのは、簡単な録音、再生が行えるガジェット。地面へとスピーカーを押し付け、再生するとくぐもった音が地面を震わせる。
「これはあの歌声と、演奏を録音したものだ。あの魚は執拗なまでに彼女へと襲いかかっていた。それならば、彼女と同等のものを新たに餌として使えばいい」
 説明は、おそらく彼の姿をみる視聴者に向けてのものなのだろう。
 機械人形に持ち上げられた歌姫よりも、多少音質が悪くともこうして直接響かせる音は、地中の魚へと強く伝わる。それが本物かどうか、分からなくたって良い。今この一瞬、彼女に歌うのをやめてもらえれば、怪魚が嫌う音源は唯一つになるのだから。
「我が、我こそが! あの魚を釣り上げてみせる。だから猟兵諸君、今しばらくまっているが……」
 そんな言葉を遮るように、一瞬で間合いを詰める地響きが、怪魚の顔を生み出した。狙いは音楽再生ガジェット、その真下。跳ね上がるその口が飲み込むと、閉じた口の中から白い煙がモウモウとあがる。
 音が割れ、弱々しくなっていくガジェットはその腹の中。怪魚は顔面から地面へと落ち……その尻尾が、ロボットの手によって掴まれていた。


「フィーッシュ!」
 決して釣りとは言えないその泥臭い状態は、長時間に渡る戦いにおける決定的なチャンスとなった。
 地面に潜ろうと身体全身をくねらせる怪魚に対し、両手でもって跳ね回る尾びれを掴む。魚顔を地面に擦り付けながら、くねるように左右へ跳ね回る。そんな動きに合わせて左右に揺れるのは、ユーベルコード『ビルドロボット』によってロボットへと合体を果たしたビリーであった。
 振り解かれそうになるマニピュレータを、壊れてもいいとばかりに握りしめる。水中を泳ぐ魚のようにぬめりが無いのが幸いしたのだろう、弾かれ駆動系が砕かれながらも、その手は尾びれを掴んで離さない。
「うお……おぉぉぉ!」
 芝居がかった声はいつしか消え去り、漁師のような力強い声が響く。ロボットの両指を破壊し弾き飛ばしながら、暴れる怪魚を上空へと振り回して見せた。
 がつん、と地を打つ怪魚の身体は、今までのような弾む動きを見せては居ない。一瞬だけ動きを止め、何が起こったのか理解できていないような、そんな間。へへ、と笑うビリーが一歩下がると、今まさに降り注がんと宙に浮く、氷の矢がそこにはあった。


 エーカが立ち、怪魚を静かににらみつける。
 空中に浮き上がる、白い水蒸気を震わせる百本に迫る氷の矢。
 ポカンと口を開いた巨影は呆けたように見える。だが、それに情けをかけるほど甘くはない。
 ユーベルコード『ウィザードミサイル』。属性攻撃によって変化させたその力の根源は、打ち当たる影の装甲を一瞬にして凍らせ、自由な動きを奪っていった。
 胸ビレで弾いた先から氷が張り付き、酸の海たる口内は氷で埋め尽くされた。ぎし、ぎしと音を立てながら動きを制限させる巨影ではあったが、しかし殺すには至らない。
 ぎん、と砕き、がん、と砕く。ホームグラウンドに居ないとは言え、その強化された身体はまさしく本物。そう簡単に仕留めることはできない。だが、別にそれで構わない。
 地に潜ることのできない魚、まな板の上の鯉というやつだ。エーカは最後の矢を打ち込むと、ゆっくりと背を向けて歩き出した。


 霜が降り、全身が白く膨らんだ怪魚。大きく開いたままの口は向かってくる一人の猟兵に向かい、しかし跳ね上がり食い殺すことが出来ない事に驚き、怒っているようだった。
「『エレクトロワイヤー』スイッチオン、『バーゲスト』起動…」
 スズロクはゆったりを歩みを進めていく。その大口に向かい、一歩一歩向かっていく。その目は剣呑と細まり、面倒を掛けた敵をにらみつける。
「……潰してやるよ、悪食野郎!」
 その言葉に、浮かび上がるのは二メートルを超える大きな機械人形『バーゲスト』。黒い体表のそれは、スズロクの両指につながる糸によって自在に動き回ってみせる。
 寒さのせいだろうか、それとも怯え、怒り。ガタガタと震える怪魚の口へと突貫するバーゲストを狙いすまし、トラバサミが閉じるような豪快な音をかちあげた。しかし、その口が捉えたのは空だけ。何も無い空間を噛み締め、ゆらゆらと揺れる瞳が動揺を物語っている。
「ばぁーか。つまんねえんだよ、てめぇ」
 あざ笑うようなスズロクの声。バーゲストの体表を覆う黒い影が、強化された力をもって怪魚の口を開かせる。ずるり、と滑るように潜り込んだ機械人形は、溶かし尽くさんと押しつぶす粘液を気にもとめない。
 そして、決着は一瞬で付いた。


 怪魚は体内から切り刻まれた。縦横に走る鉤爪が、酸で守られていたはずの臓腑を切り裂き、細切れに。
 びくん、と跳ねるその表面から、輪郭をぼやかす影が消える。すぐに動きを止める怪魚の口からでてきたのは、酸に焼けたトレーズの身体と、地にまみれたバーゲストだった。
 スズロクが一息をつき、頬を緩ませる。全身にかいた汗を乾かすように衣服をはためかすと、くるりと振り返った。
「おつかれサン。はいはい、撤収」
 スズロクのため息が伝播するように、猟兵たちも一斉にため息を付いた。面倒だった、だるかった。とにかく、普通に戦えない相手というのはストレスが溜まるものだったのだ。
 その場に座り込み休憩を始める者、伸びをし凝りをほぐす者、そそくさと家路に急ぐ者。
 各々に違いはあれど、おおよそすべての猟兵は疲れ果てていた。そんな中一人、大はしゃぎで駆け出す者が居た。
 絡繰ビリー、その人である。宝の山だ! 等と叫びながら、疲れているだろうその身体の鞭打ってガラクタの山頂へと駆け上ったのだ。
 そして、彼が見たのはおぞましい現実であった。
 強酸の粘液が溶かし、形をなくしたガジェット達。噴火後は大きく焼けただれ、溶け合ったくず鉄同士が無残な形を作っている。
 ならばと山岳部と呼ばれた場所へ赴けば、そこも削られ焼かれた、惨状とでも言うべき地平が広がっていたのだ。嘘だろ、と呟く声に返すものは居ない。宝の山は、正しくゴミの山へと姿を変えていたのだ。
 呆然とする彼の頭の中には、これを動画に撮っておけばよかった……という、逞しい配信者の叫びが響き渡っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月17日


挿絵イラスト