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アースクライシス2019⑭〜過去を討つ

#ヒーローズアース #戦争 #アースクライシス2019 #オブリビオン・フォーミュラ #クライング・ジェネシス

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 日本、東京――浅草。
 高層ビルが立ち並ぶ都心に佇む巨大な提灯は、「雷門」の名で親しまれ、これまで多くの人の関心を引き付けてきた。
 日本全国のみならず、世界中からも観光客が集まるこの場所が戦場になろうなどと、誰も思わなかっただろう。
 だが、今日この日、その平和は踏み躙られた。たった一瞬で、悲惨な非日常へと引きずり込まれてしまった。
 逃げ惑う人々。駆け付けるパトカーとヒーロー。飛び交う報道ヘリたちが、一斉に浅草の映像を放映している。
 それら大衆の注目を浴びて、過去から現れた邪悪の権化、クライング・ジェネシスは顎を撫でた。
「いいねぇ……いいねぇ! 世界が俺を注目してるってェわけだ!」
 警官隊が銃を構える。発砲許可は下りているが、誰も引き金を引こうとしなかった。
 ヒーローたちすらも、動けない。敵から伝わる異様、そして歴然とした力量の差に、足を踏み出すことすらできないのだ。
「ようようクズども! 世界が見てるんだぜ、気張って戦えよオイ! それとも、ビビッて動けねぇのか?」
 クライング・ジェネシスの口が、笑みを形作る。悍ましい、どこまでも悪意に満ちた笑みだった。
 にわかに両腕を広げて胸を逸らせ、かつての無能者が哄笑する。かつて殺したヒーローやヴィランの肉体で継ぎはぎした醜い体が、脈打った。
「だったら働かせてやるよ! さぁ、最高のヒーローショーを始めようやッ!!」
 胸部に取り付けられた『骸の海発射装置』が、湛える黒を蠢かせる。直後、闇の彼方から無数のオブリビオン――それはかつてのヒーローでありヴィランである――が飛び出し、ヒーローや警官に襲い掛かった。
 怒号、攻撃、爆発、悲鳴。浅草が一瞬で阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。報道ヘリが伝える映像に、東京が、日本が、世界が震撼する。
 噴き出したオブリビオンと戦うヒーローたちを目に、クライング・ジェネシスが下卑た笑い声を東京に響かせる。
「ギャーッハッハッハァッ! そうだその顔、その顔が見たかったんだよォ!!」
 自己顕示欲を満たしながら、強大な邪悪は確実に、「骸の海発射装置」の充填を続けていく。
 クライング・ジェネシスが笑うたび、世界の終わりが、足音を立てて、近づく。



 戦場と化した浅草・雷門前の風景をグリモアベースに投影しながら、マクシミリアン・ベイカー(怒れるマックス軍曹・f01737)は集った猟兵たちの目を一人一人覗き込んだ。
「覚悟は、できているな?」
 誰も「何の」とは聞かなかった。もはや、言葉もいらないかもしれない。
 それでも、マクシミリアンは姿勢を正して腰の後ろに手を組み、ブリーフィングを始めた。
「貴様らの見事な活躍により、とうとう我々は過去から染み出したクソの親分、即ちオブリビオン・フォーミュラを引きずり出すことに成功した! 奴の名はクライング・ジェネシス。つい先ほど地球規模で立体映像を流したクソったれコメディアンだ」
 立体映像において、クライング・ジェネシスは世界への憎悪を語っていた。もとより望むべくもないが、穏便な終結はあり得ない。
 その直後、敵は世界の各地に姿を顕している。そのポイントはエッフェル塔、サグラダファミリア、ピラミッドなどといった超一級の観光地ばかりだ。今回の出現地点である雷門もまた、その例に漏れない。
「つまるところ、人の目の多いところだ。その行動に意図があるとは思えん。奴はただ、自身がヒーローたちを嬲り殺す姿を世界に見せつけたいんだろうよ」
 舌打ちに混じりに吐き捨て、マクシミリアンは背後の風景で暴れるクライング・ジェネシスを示す。
「奴の武器は――『骸の海』だ。このクソは、過去を現世に引きずり出して得物とする」
 それは、クライング・ジェネシスの胸部にある『骸の海発射装置』から現れる。この武装はチャージ中であるが、それでも過去を具現化し、世界の敵として放つことができるようだ。
 充填の途中であっても、ヒーローたちが苦戦するほどのオブリビオンを具現化することができている。もしも、『骸の海発射装置』が完全なチャージを終えたとしたら――。
「世界は、終わりの危機に瀕する。それを止めるのが、貴様たちの使命だ」
 かつては無能力者だったらしい敵も、今では恐るべき強敵だ。厳しい戦いが予想される。苦戦を強いられる可能性は、極めて高いと見ていいだろう。
 現れるのは、無数のオブリビオンか、対峙すべき過去の己か、あるいは現世を喰らう過去そのものか。確かなことは、無策で挑めば確実に過去に喰われるということだ。
 マクシミリアンは再び、集った猟兵たちを見回した。猟兵たちは、真っすぐに彼を見返している。
 強い覚悟の滲む眼光を一身に受け、一度頷き、帽子を直す。そして、彼は直立姿勢を取った。指の先まで伸びた右手を、額につける。
「過去に抗う勇敢なる兄弟に、敬礼! 奴を倒せば終焉は免れる。今を生き未来に進む貴様たちの、熱き銃弾を突き立ててこい! 決して――決して世界を、死なせるなッ!」
 高らか老兵の声音とともに、グリモアが輝き、世界が、波打つ。


七篠文
 どうも、七篠文です。
 今回はヒーローズアースです。戦争の最終局面です。
 難易度は「難しい」です。

 敵はクライング・ジェネシス。オブリビオン・フォーミュラです。
 この戦いでは、以下の条件でボーナスがつきます。
=============================
プレイングボーナス……『敵のユーベルコードへの対処法を編みだす』。
(クライング・ジェネシスは必ず先制攻撃してくるので、いかに防御して反撃するかの作戦が重要になります)
=============================
 敵が先に技を撃ちます。相殺したりバリアを張るなど、ユーベルコードでの対処は間に合いませんが、その他の行動であれば間に合います。
 なお、これはボーナスの条件です。対策がなくてもマイナスにはなりません。が、難易度が「難しい」ため、ダイスの結果がもろに反映されます。
 全体を通して難易度が高いですが、無策の場合は特に、苦戦を強いられる可能性が高いことをご承知おきください。

 また、クライング・ジェネシスは目立ちたいがために雷門を選んでいるため、壊す気はないようです。その辺りは気にしないで、存分に立ち回ってください。

 今回は文字数少なめ(七篠比)です。また、人数次第で全採用はできないかもしれません。その場合、ダイス判定の上位から、書ける範囲で書きます。

 七篠はアドリブをどんどん入れます。
「アドリブ少なく!」とご希望の方は、プレイングにその件を一言書いてください。
 ステータスも参照しますが、見落とす可能性がありますので、どうしてもということは【必ず】プレイングにご記入ください。

 また、成功以上でもダメージ描写をすることが多いです。これはただのフレーバーですので、「無傷で戦い抜く!」という場合は、プレイングに書いてください。
「傷を受けてボロボロになっても戦う!」という場合も、同様にお願いします。

 それでは、よい決戦を。皆さんの熱いプレイングをお待ちしています!
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第1章 ボス戦 『クライング・ジェネシス』

POW   :    俺が最強のオブリビオン・フォーミュラだ!
全身を【胸からオブリビオンを繰り出し続ける状態】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD   :    貴様らの過去は貴様らを許さねェ!
【骸の海発射装置を用いた『過去』の具現化】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【相手と同じ姿と能力の幻影】で攻撃する。
WIZ   :    チャージ中でも少しは使えるんだぜェ!
【骸の海発射装置から放つ『過去』】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を丸ごと『漆黒の虚無』に変え】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。

イラスト:yuga

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

トリテレイア・ゼロナイン
※ボロ…
全てを恨む咆哮…ある意味、子供の癇癪のよう
ですが美学や信念と「力」は無関係
悲しく認めがたいことですが、私もそれを良く知っています

それでもその力
人々に振るわせはしません
阻ませて頂きます

センサーでの●情報収集で索敵し敵が薄い層を●見切り突撃
格納銃器を全展開しての●なぎ払い掃射で道を切り拓き、●盾受け●武器受けで防御しスラスターでの●スライディング移動で突破

射程圏内に入ったらUC起動

貴方が内からの圧力に根を上げるか、私が物量に飲み込まれるか…
一か八かの賭け、根競べと行きましょう!

UC解除と同時●防具改造●破壊工作で施した爆裂ボルトで己の装甲を弾き飛ばし包囲を再度突破
●怪力で一撃を喰らわせます



 空が輝き、現れた幾人もの猟兵に、クライング・ジェネシスが目を見開いた。
「来やがったな……猟兵ィ!」
 得物を手に立ち塞がる戦士たちへと、諸悪の根源が牙を剥く。その様を見て、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は油断こそしないが、悲し気に呟いた。
「全てを恨む咆哮……ある意味、子供の癇癪のよう」
 いっそ哀れですらある。その様を理解できるが故に、なおさら。
 人の持つ美学や信念と「力」は、決して比例しない。その結果が時に残酷な結末をもたらすことを、トリテレイアは知っていた。
 過ぎたる力を得たクライング・ジェネシスに、同情さえ覚える。が、見逃す理由にはならない。
「その力、振るわせはしません。阻ませて頂きます」
「ほざけぇぇぇぇぇッ!!」
 笑いを交えた叫びを上げたクライング・ジェネシスが、胸部の発射装置から夥しい数のオブリビオンを噴出させる。
 現れるかつてのヒーローやヴィランは、一様に異常な敵意を溢れさせ、猟兵たちへと襲い掛かった。
 即座にセンサーで敵に分布を解析、噴出点から三メートル地点の斜め右前方に敵の希薄な地点を見つけ、大盾を構える。
「トリテレイア・ゼロナイン――推して参ります」
 スラスターが熱を放ち、火を噴いた。瞬間、トリテレイアの体が滑り出す。
 全身に搭載された格納機銃を全て展開し、弾幕を以て出現したオブリビオン軍団を撃ち落とす。自身の突貫だけでなく、仲間の猟兵やヒーローたちの援護も含めた射撃だった。
 次々に撃ち落とされる過去の亡霊に、クライング・ジェネシスが目を丸くする。
「は? はぁ? はぁぁぁぁっ!? ふざけんなよおい!」
「阻ませて頂くと、言ったはずですよ」
「なめんじゃねぇぞ鉄屑ぅッ!!」
 胸部の『骸の海発射装置』をトリテレイアへと向け、砲塔の奥に見える漆黒の渦が蠢く
 大盾を構えた刹那、オブリビオンが放たれた。トリテレイアは同時に対ユーベルコード制御妨害力場発振器射出ユニットを展開、盾を中心に輝くフィールドに包まれる。
 弾丸と化したオブリビオンたちの一斉攻撃を、受け止める。一瞬で歪む大盾。しかしトリテレイアは、地面にパイルを撃ち込んで動かない。
 真正面から受け止められると思わなかったのだろう、クライング・ジェネシスが舌打ちした。
「てめぇ……!」
「根競べと行きましょう、クライング・ジェネシス!」
「上等だオラァッ! 出力アップいくぜぇぇぇ!」
 放出の勢いが増し、押し戻され、距離が開く。しかし、それでいい。トリテレイアは冷静にクライング・ジェネシスを観察した。
 敵はフルパワーこそ出さないが、発射装置の制御を完全に見誤っている。トリテレイアが展開した発振器の影響を受け、暴走気味であることに気づかない。
「ギャーッハッハッハッハ!! 死ね死ね死ね死ねェ!」
「……そろそろですね」
「あぁ!? ……あ?」
 クライング・ジェネシスが気が付く。胸部の黒が広がり、過去という虚無が自身をわずかに侵食していることに。
「や、やべっ」
 目をひん剥いて明らかに動揺し、恐るべきオブリビオン・フォーミュラが召喚を停止させた。
 溢れ出たオブリビオンは無数にいるが、本丸の攻撃が止んだ。この好機を逃す手はない。
 小規模な爆発音とともに、トリテレイアの装甲が砕け飛んだ。破壊された盾を放棄し、剣をも投げ捨て、軽量化したボディを瞬時に加速させる。
 これまでとは比較にならない速度で眼前に迫り、トリテレイアは緑のモノアイで敵を見据えた。
「その『骸の海発射装置』。貴方には、過ぎた玩具です」
「てめ――」
 何かを言いかけた刹那、クライング・ジェネシスの継ぎはぎされた巨体が冗談のようにすっ飛んだ。全装甲を犠牲にしたトリテレイアの速度とパワーが乗った一撃に、なす術もなかった。
 浅草の道路を転がり滑っていく巨悪を眺めつつ、トリテレイアは敵を殴り飛ばした右手を、思案気に一、二度、ゆっくりと撫でた。

成功 🔵​🔵​🔴​

フィランサ・ロセウス
世界中が見ている中で激しく殺(あい)し合うなんて、ロマンチックよね❤
許すも許さないもないわよ?私は過去も貴方も、みんなみんな“好き”だから!

『視認している対象の過去を具現化する』という事は、
『そもそも対象を視認できなければ効果が及ばない』!

暗がりなどの[闇に紛れる]、爆炎をあげる建物や車を[迷彩]がわりにするなどして[目立たない]ように接近
明後日の方向に物を投げて音を立てたり、他の猟兵との戦闘で注意が逸れた所を[だまし討ち]にしてあげる❤
(奇襲失敗時は[残像]で惑わして的を絞らせない)
ついでに念のためナイフを突き立て[目潰し]しときましょうか
それからUC発動で畳み掛けちゃいましょ❤



 転送直後、味方が戦闘を開始するのを横目に姿を隠していたフィランサ・ロセウス(危険な好意・f16445)は、抑えきれない衝動と戦っていた。
「あぁ……クライング・ジェネシス! そんなに愛を撒き散らされたら、私……私もう、我慢できなくなっちゃう☆」
 空に飛ぶいくつもの報道ヘリ。あの全てがフィランサたちを映しているのだ。
 彼女らとオブリビオン・フォーミュラが、「愛し合う」姿を。
「世界中が見ている中で激しく殺(あい)し合うなんて、ロマンチックよね……♪」
 辛抱たまらんといった様子で口元の涎を拭いながら、フィランサは建物の影をこそこそと移動していった。
 クライング・ジェネシスは、猟兵たちに罵声を浴びせながら『骸の海発射装置』を放っている。あの装備がフルパワーまで充填されたら、世界は滅びてしまうかもしれないという。
 それはそれで、素晴らしい愛のカタチなのだけれど。好きが止まらなくなってしまうけれど。
「それまで我慢なんて、できないわ!」
 戦闘の余波で爆発炎上する車に隠れつつ、フィランサは徐々にクライング・ジェネシスとの距離を詰めていく。
 本当は正面から愛を伝えたいけれど、彼は照れ屋だから、恥ずかしがってしまうかもしれない。
 ならば、こっそり後ろから近づいて、ちゃんと愛してあげなければ。熱く、激しく。
「うふ、うふふふふ❤」
 思わず漏れた乙女の微笑を聞いて、怪我をして倒れていたヒーローが小さな悲鳴を上げつつ逃げてしまったが、彼もまたシャイなのだろう。フィランサは一切気にしない。
 トラックの下に這いつくばって潜り込み、目の前にいるクライング・ジェネシスを見上げる。彼は猟兵と激闘を繰り広げながら、激昂していた。
「てめぇら! 殺す! ぜってぇ許さねぇぇぇぇ!!」
「素敵、素敵よ……。わ、わたし、もう我慢できない!」
 臓腑の底までハートで埋め尽くされたフィランサは、腰からナイフを引き抜いて、トラックの下から這い出した。
 敵の、真後ろだ。彼女は今、完全にオブリビオン・フォーミュラの背後を取っていた。
 クライング・ジェネシスが、その気配に気づく。それより早く跳んで抱き着いたフィランサの手――両手ともナイフを握っている――が、その両目を覆った。
「だーれだ❤」
「ぎゃあああああああああッ!? 刺さってる! 刺さってる!」
 クライング・ジェネシスの報告通り、その両目には深々と、ナイフが突き立っていた。あたかも恋人を目隠しするかのように縋り付きつつ、フィランサはその視界を封じることに成功していた。
 強大なオブリビオンのことだ。永続的な目潰しとはいかないだろう。しかし、十分だ。
 今を、たっぷりと愛し合えるなら。
「お待たせ! これからたっぷりキミを愛してあげるからね❤」
「ざけんな……ざけんなよ! ぜってぇ許さねぇッ!」
「許すも許さないもないわよ? 私は過去も貴方も、みんなみんな“好き”だから!」
「意味分かんねぇよサイコ女! そもそも誰だよ貴様は!?」
「わたしはキミの、愛のて・ん・し❤」
「イカレてんのかくそアマッ――!?」
 ぱちん、と軽い音が鳴った。クライング・ジェネシスは、その音がフィランサの鳴らした指の音だと気づくことはなかった。
 直後に襲った強烈な痛みが、彼から考える余裕を奪い去ったのだ。
「い、いぎゃあああああああああッ!!」
 絶叫とともに上がる血飛沫。超スピードを得たフィランサが、桃色の疾風となって悪の権化を切り刻む。
 楽しかった。幸せだった。フィランセの心は、あったかい愛で満たされていった。
「あぁ……クライング・ジェネシスぅ❤ 好きよ❤ 好きよ❤❤ 愛してる❤❤❤」
「やめてぇぇぇぇぇぇぇっ!」
 味方の猟兵も近寄れないその光景が終わったのは、彼女が目潰しに成功してから十五分も経った後だった。
 全身を赤黒い血に染めて、それ以上に朱に染まった頬に艶っぽい笑みを浮かべて、フィランサは指についた敵の血を舐めた。
「楽しかったわ、クライング・ジェネシス。また――愛し合いましょう?」
「ふざけんな……俺は……俺は最強無敵の……」
 血だまりの中で何とか立ち上がってみせたクライング・ジェネシス。まだまだ戦う余力は残されているようだったが――。
 誰の目から見ても、強大なオブリビオン・フォーミュラは半べそをかきつつ、フィランサという少女に恐怖しているようだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

露木・鬼燈
いやー、今回の仕事も大変そうなのです。
穢れた過去ごと<斬祓>ってみせるのです。
まずは自分自身を斬らないとね。
自分のコピーは以前に斬っている。
あの時より僕は強くなっている。
なら今回現れる幻影は?かなり期待できるよね!
武は常に進歩する。
過去よりも現在の方がが優れている。
防御?一撃で終わらせればいいのです。
意識と魔剣を同調させ、肉体のリミッターを解除。
全速で間合いを詰め、地面を思いっきり踏みつける。
速度を破壊力に変換した大上段からの振り下ろし。
荒れ狂う力を怪力で捻じ伏せ軌道を調整。
最高の一撃を叩き込むっぽい!
幻影を斬った一撃の反動を利用して敵目掛けて突撃。
収束した破魔の力で敵を斬祓のです。



「クッソが! 猟兵! まじ許さねぇ!」
 吼えながら『骸の海発射装置』なる物騒なものを撃ちまくるオブリビオン・フォーミュラは、小悪党じみた雰囲気だが、どうやら世界を滅ぼすだけの力を持っているらしい。
 猟兵となってこの方、楽な仕事など一度もなかったが――。露木・鬼燈(竜喰・f01316)は相棒でもある魔剣『オルトリンデ』を肩に担いで、ため息など漏らした。
「いやー、今回の仕事も大変そうなのです」
「あぁっ!? 次は貴様かチビ野郎!」
 こちらを見るや指さして怒鳴るクライング・ジェネシスに、返事をしてやる気にもならない。剣を構えて答えとすると、にわかに敵が笑った。
「ギャッハッハ! 俺ってば天才かもなぁ。いいこと考えちまったぜぇ!!」
 胸部の砲塔から闇が蠢き、鬼燈はオブリビオンの出現を警戒する。しかし、現れたのは無数の過去ではなかった。
 発射装置から現れたそれは、たった一人の過去。赤い髪、紫の瞳、小さな額の角。
「……僕じゃん」
「そうだ、貴様のコピーってわけよぉ! ギャッハッハ! こいつらは恨みつらみを抱えた貴様だクソガキ!! 過去の貴様は今の貴様を許すことはねぇぞ!」
「ふぅん」
 なるほど。鬼燈は思わず笑みを浮かべた。クライング・ジェネシスの顔色が曇る。
「いいですね。試してみようか」
「ハァ? お前分かってんのか? こいつは貴様自身なんだぞぉ!?」
「別に、自分と戦うのは今回が初めてじゃないっぽい」
 挑発するように、現れた分身にかかってこいとジェスチャーを示す。瞬間、過去の鬼燈が牙を剥いて跳んだ。
 互いの距離は一瞬で迫る。集中力が高まり、クライング・ジェネシスの興奮した声が耳から締め出されていく。
 敵たる自分の剣は、速い。防ぐか、それとも。
 鬼燈は攻撃を選んだ。守りに回る必要はない。日々の鍛錬を欠かさない鬼燈が、どうして過去の己に破れよう。

 武は、常に進歩する。

 半秒にも満たぬ時の中で、意識と魔剣が同調していく。体の崩壊を防ぐ脳のたがが、外れる。
 かつての鬼燈が魔剣を振り上げる。その刃を見もせずに、今に生きる鬼燈は、ただの一歩でさらに間合いを詰め、コンクリートを砕いた踏み込みの勢いを刃に乗せた。
 一瞬の超加速が魔剣に宿り、破壊力と化す。荒れ狂う力を握りしめた怪力で従え、狙いを敵の脳天に定める。
 大上段、その振り下ろし。叩きつけられた道路が轟音とともに抉れ、陥没する。脳天から完全に破壊された鬼燈の幻影は、血と臓物を撒き散らす幻を残して死んだ。
 己の死を眼前にしながらも、鬼燈はもう止まらない。過去を斬った勢いをそのままに、幻の血肉の奥にいるクライング・ジェネシスへと、駆ける。
「おいちょっ――待てって!!」
「待つわけ――ないッ!」
 漆黒の魔剣に、破魔の力が収束する。横薙ぎ一閃、無数の見えない斬撃が吹き荒れる。
 クライング・ジェネシスは防ぐ間もなく不可視の刃に切り刻まれて、きりもみしながら雷門通りに倒れた。
 切っ先を敵に向けたまま、鬼燈は息を整える。毒づきながら起き上がる敵へと、口の端を持ち上げた。
「何度でも立つといいですよ。何度だって、切り刻んでやるっぽい」

成功 🔵​🔵​🔴​

セルマ・エンフィールド
転移と同時に『早業』で周囲を確認、建物の陰に素早く隠れます。
クライング・ジェネシスが私を視認して幻影を作るのには間に合わないかもしれませんが、幻影の私への遮蔽にはなります。

……UDCアースでしたか。以前にも自分と戦ったことがありましたね。
ですが、今回はあの時と違い、幻影の私を倒す必要はない。

クライング・ジェネシスの位置を確認し、転移前に『武器改造』しておいたフィンブルヴェトで煙幕弾を発射します。
私と幻影、お互いの狙撃を封じたら敵のいた場所63m内に近づき【絶対氷域】を。幻影に同じ技を使われても『氷結耐性』のある私に効果は薄い。無差別の冷気で苦しむのはクライング・ジェネシスのみです。



 倒れていた車の陰に身を隠したセルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)は、自身が敵に捕捉されていることを知っていた。
 だからこそ、姿を晒すわけにはいかなかった。敵の声が、ここまで届いているからだ。
「出てこいやクソスナイパー! 貴様が貴様を殺したくてうずうずしてるぜぇ!!」
「……幻影、ですか」
 愛用の銃「フィンブルヴェト」に弾を込めつつ、セルマはクライング・ジェネシスの言葉を反芻する。
 己との戦い。それをセルマは経験していた。あの日、UDCアースのネモフィラ畑で。
「……ですが、今回はあの時と違い、幻影の私を倒す必要はない」
 確実な勝利のために、戦闘は最小限に抑える。呼吸を沈めたセルマは、研ぎ澄まされていく集中力の中で、装填が完了した銃を握りしめる。
 気配が動く。恐らくは、もう一人の自分。その瞬間、セルマも動いた。
 車の陰から身を乗り出したのは一瞬、発砲した弾丸が着弾すると同時に、凄まじい煙が周囲を包む。
「は……? おいおいおい煙幕かよぉぉぉ!! 何とかしろ、貴様自身だろうがッ!」
 激昂するクライング・ジェネシスは、幻影のセルマに怒鳴っているのだろう。だがもし、本当に幻影が彼女そのものであれば、聞く耳を貸さないに違いない。
「あの手合いとは、会話が成り立ちませんからね」
 恐らく幻影は、狙撃を封じられたために接敵を避け、どこかに隠れるはずだ。いつもなら、セルマもそうする。
 そこを逆手に取った。煙に紛れて走り出し、クライング・ジェネシスとの距離を詰めていく。
 都度発砲し、煙をより濃く深くする。白が増せば増すほど、セルマの決め手は敵に悟られない。
「畜生が! どこに隠れやがったんだ!?」
「隠れてなどいませんよ」
 淡々と言って、セルマは立ち止まった。道路の、ど真ん中だ。白煙に包まれてはいるが、その直線状に、クライング・ジェネシスがいる。
 狙撃手ならば決して選ばない、通ることすらない場所だった。だが、そここそが、セルマの間合い。
「私の手の内は銃だけではない。それを知らないあなたの、負けです」
 ひんやりと――そう感じたのは一瞬だった。直後に温度が急低下し、重力までもが凍てつきそうな冷気が浅草を包む。
 何かが凍る音が響く。街路樹か、建物か。あるいは、クライング・ジェネシスか。
「なん、なんだこれ!? 寒いなんてもんじゃ……」
「この領域では全てが凍り、停止する……逃がしません」
 一歩、セルマが歩き出す。冷気が移動し、強大なオブリビオンすらも、その胸の『骸の海発射装置』をも、凍てつかせる。
 クライング・ジェネシスの足元から、氷が競り上がる。地面から侵食する氷が、その身を包み込み始めていた。
「くそっ! 幻影は何をしてやがるんだ!?」
「慎重なんですよ、私は。狙撃が無力化される煙幕に飛び込むなんてこと、するわけないでしょう」
「じゃあお前は何なんだッ!?」
 激昂のままに叫ぶクライング・ジェネシスに、セルマは絶対零度の中でも絹のような銀の髪を、静かに掻き撫でた。
「私ならそうすると思うから、私がしないことをしたまで。当然じゃないですか」
「くッ――くそがぁぁぁぁッ!!」
 セルマは白煙の中に退避、再び建物の陰に身を潜める。銃弾を装填しつつ、晴れていく煙を見つめる。
 やがて、白煙が去った。聳え立つ氷像と化したクライング・ジェネシスが、憤怒に満ちた形相で虚空を睨んでいた。
 これで終わってくれたらいいのだが。セルマは一人、ため息をつく。
「そう簡単には、いきませんか」
 呟いた刹那、氷が砕けた。起動した『骸の海発射装置』から放たれた虚無が、セルマの氷を喰らったのだ。
「うぜぇ……うぜぇ、うざってぇ!! 絶対地獄に叩き堕としてやるからな、猟兵ぃぃぃッ!!」
 クライング・ジェネシスが、虚無やらオブリビオンやらを放って、八つ当たりをするかのように戦いを繰り広げる。
 その体力が明らかに消耗していることを、セルマは確かに認めた。
「声だけは、疲れ知らずですね。まったく……」
 耳障りな絶叫に向かって、銃口を向ける。世界の平和のために。
 そして、一秒でも早く、あのやかましい声を黙らせるために。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルナ・ステラ
ヒーロー...彼女たちも頑張ってるかな?彼女たちの世界を守るためにも頑張らないと!

過去の己...姿と能力は同じでも、能力に関する知識や世界を守りたいという思いの強さは昔と違うはずです!

星霊を召喚されたら、弱点を考えて戦いましょう。(増やしてきた星霊の知識を活かし弱点を突きます!例えば、うみへび座の星霊なら【属性攻撃】の炎魔法で対処するなど)

昔の自分なら、UCに対処されたら焦るでしょう。その隙をついて【高速詠唱】でUCを!
—あなたは色んな星霊を倒してきた、ヘルクレス座の星霊さん?(対象に有効なものに変わるUC)

相手の星霊を倒せたら、獣奏器で【鼓舞】して強化した星霊さんと共にボスにも畳み掛けます!



 この世界に降り立つと、ルナ・ステラ(星と月の魔女っ子・f05304)はある人を思い出す。
 ヒーローと呼ばれる彼女たち。年はほとんど変わらない、元気で明るい、二人の女の子。
 ルナは、今もどこかで戦っているのだろう友人たちに思いを馳せた。
「彼女たちも、がんばってるかな? 彼女たちの世界を守るためにも、がんばらないと!」
 友達のためならば、俄然力が入るというものだ。魔法の箒「ファイアボルト」を握りしめ、ルナは眼前の敵、クライング・ジェネシスをきっと睨む。
「なにガンくれてんだガキぃ!」
「ガキじゃありません! 私はルナ・ステラ。あなたを倒して、必ず世界に平和を取り戻します!」
「ヒーローみてぇな口上たれやがって……気に入らねぇ! ガキは貴様自身と遊んでやがれッ!」
 クライング・ジェネシスの胸部に取り付けられた『骸の海発射装置』が蠢く。悍ましい闇の向こうから、凝縮した虚無が吹き出す。
 やがて虚無は人の形を取り、警戒して構えるルナの前に、一人の少女を作り出した。
 それは、ルナ自身であった。冷たい目で、こちらを睨んでいる。
「……!」
「さぁさぁ過去の貴様がお相手だ! 倒せるかあ? 自分自身をよぉ! ギャーッハッハッハッハァ!!」
 敵の汚らしい哄笑を浴びても、ルナは一歩も引かなかった。決意は揺らがない。この世界を護るという少女の意思は、強い。
「過去の己……。姿と能力は同じでも――!」
 双方同時に、杖を振り上げる。幻影のルナが星霊を呼び出し、星の光が巨大な九頭の蛇――古代ギリシアの怪物、ヒュドラと化す。
 自身の得意な魔法をコピーされたからこそ、ルナは冷静に対処できた。星霊たちのことは、彼女が一番よく知っているのだから。
 襲い来るヒュドラへと、杖の穂先を向ける。
「うみへび座さんには、炎ですっ!」
 箒の先に凝縮した火炎が球となり、その熱量にひるんだ星霊に向かって、容赦なく放たれる。
 ――ごめんね、うみへびさん。
 敵たる星霊に胸中で詫びるルナの眼前で、火球が幻影の星霊に直撃した。
 熱波を受けて、ヒュドラがのけぞる。その様を見た過去の自分が情けなく取り乱す姿は、なんとも恥ずかしい限りだった。だが、過去の自分が魔法を攻略されたなら、こうなることは分かっていたことだ。
 またとないチャンス。ルナは星の力を箒に溜めて、空に掲げる。
「あなたは色んな星霊を倒してきた。そうですよね、ヘルクレス座の星霊さんっ!」
 降り注ぐ数多の光が、屈強な人影を作り出す。それは、誰もが知る英霊。古代ギリシアの豪傑、神話のヒーローだ。
「ヘルクレスさん、悪い星霊さんをやっつけて!」
 指差すルナの声に応えて、星霊ヘルクレスが勇ましく雄叫びを上げる。牙を向いて襲い来るヒュドラへと、果敢に立ち向かっていく。
 巨大な星の精が輝きを迸らせながら組み合う姿は、あたかも神話のようだった。ヒーローやヴィランたちが、息を呑んで戦いを見守る。
 戦いは、ヘルクレスが制した。ヒュドラの首を何本もねじ切り、その傷口をルナが宿した拳の炎で焼き尽くす。それはまさしく、神話の通りの決着であった。
 かつて倒した化け物に、英雄が負けることはない。最後の首を破棄された三トントラックで下敷きにし、ヘラクレスは声高らかに咆哮して勝利を宣言した。その足元で、ルナもまた両手を上げて歓声を上げる。
「やったー! ヘルクレスさん、さすがです!」
「くそぉぉッ! 使えねぇコピーだなッ!」
 悔し気に地団駄を踏むクライング・ジェネシスは、自身が生み出した幻影を睨みつけた。
 うみへび座の星霊が破れ、困惑する幻影が薄れていく。消えゆく幻のルナは、昔のように泣いていた。
 胸を張って、ルナは眉をきりりと吊り上げる。
「幻影さんは悪くありません。私がもう、昔の私じゃないだけです! 過去なんかに、絶対に負けないんだから!」
「黙れ黙れ! こうなりゃ力づくだ、貴様を直接骸の海に――」
 クライング・ジェネシスの上に、影が落ちる。筋骨隆々の英雄が、勇ましい目で見降ろしていた。
 獣奏器の音色が、雷門前に響く。戦士を鼓舞するメロディーを受けて、星霊が強く光り輝く。その拳が、固く固く、握りしめられた。
「星霊さん、お願いしますっ!」
「待っ――」
 掬うように振るわれた強靭なアッパーが、巨悪をあっけないほどに跳ね飛ばす。
 ビルや家屋に衝突し、跳ね返って転がって、クライング・ジェネシスはタンクローリー車に突っ込んで爆破炎上した。
 思わずはしゃぐルナに微笑んで、星霊ヘルクレスが姿を消す。もうもうと立ち上がる炎と煙から這い出した敵に、星の魔法少女は箒の穂先を向けた。
「さぁ、観念してください!」
「調子に乗りやがって……! 許さねぇ。ぜってぇ許さねぇぞ!」
 怒りに震えるクライング・ジェネシス。その姿は、まるでプライドを折られたチンピラのようだった。
 世界を終わりに導く存在だというのに、ルナはもう、このオブリビオン・フォーミュラを怖いと思うことはなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
貴方の恨みは暗すぎ、世界を闇に染める…絶体、そんな事はさせない…!

【残像、呪詛、高速詠唱】幻影呪術を使用し、全包囲から敵に迫る自身の幻影を召喚…。
更に黒桜の呪力解放【呪詛、衝撃波、早業、なぎ払い】で攻撃と同時に放出した呪力で目晦ましを仕掛け、幻影と共に敵の発射を逸らして攻撃を回避…。
その隙に凶太刀の高速化で一気に接近…。
接近後は全ての魔剣を駆使して戦闘…。
敵の攻撃は【見切り、第六感】で攻撃を回避かアンサラーで反射・防御…。
敵の発射装置を使わせない様に至近距離でバルムンクで防御を砕き、凶太刀、神太刀の二刀で連撃を繰り出し、最後は胸の装置へ全ての力を集束した【ultimate】の一撃で仕留めるよ…



 迸る虚無が、雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)を闇へと引きずり込む。
 幻影呪術により生み出した自身の影が消える様に、璃奈はその原因たるクライング・ジェネシスを睨む。
「こんなものが、世界に向けられたら……!」
「ギャーッハッハッハァ! 消えろ消えろぉ! 死に腐れェッ!」
 笑い狂いながら『骸の海発射装置』を乱射する敵の中に、璃奈は凄まじく濃い憎悪を感じた。
 あれが、世界を終わりに導く感情か。薙刀状の呪槍「黒桜」から舞う桜の花弁にも似た呪力に包まれ、その穂先を敵へと向ける。
「貴方の恨みは、暗すぎる……!」
「あぁッ!? 俺に説教しようってか!?」
「そうじゃない……。貴方にもう、言葉は届かないから……ここで、斬る……!」
 璃奈の宣言を合図に、黒桜を携えた幻影たちが、一斉に得物を振るった。吹き荒ぶ呪力の風が、雷門を揺らす。
 過去を武器として放っていたクライング・ジェネシスが、両腕で目を覆った。それほどに濃い力の波動だった。
 だが、それによって敵が傷つくことはない。璃奈の本命はそこではなかった。
「いくよ……!」
 幻影を消し、左手に妖刀「九尾乃凶太刀」を召喚、刀の持つ特性により、神速を身に宿す。
 呪力の衝撃波が過ぎ去り、クライング・ジェネシスが顔を庇っていた手を下ろした。
「ふざけやがって、あのクソ狐――ッ!?」
 驚異のオブリビオン・フォーミュラは、目を見開いた。
 足元に、体勢を低くした璃奈がいる。銀の眼を輝かせ、その両手に見たこともない剣を握って。
「おいおいおいッ!」
「遅いよ……!」
 魔剣一閃、禍々しい刃が『骸の海発射装置』を斬りつける。
 固い金属音が響く。発射装置は傷一つつかず、どころか魔剣が闇に喰われてしまった。
 璃奈は身をかがめた。すぐ頭上を放たれた過去の波動が過ぎ去り、後方で燃える車を虚無に引きずり込む。
「っ……!」
 当たれば死ぬ。が、逃げては勝てない。
 持てる力を、全てここに。璃奈が念じた瞬間、彼女の周囲に無数の魔剣たちが浮かび上がった。
「世界を闇に染めるなんて…絶対、そんな事はさせない……!」
「貴様の意見なんざ知るかよぉッ!」
 クライング・ジェネシスが胸を反らし、蠢く過去が波動となって、今の世界に放たれる。
 頬をかすめる死の気配に、しかし璃奈は目を離さない。
 発射の隙を視認した瞬間、右手に竜殺しの魔剣「バルムンク」を召喚、その重量を叩き込む。
 屈強なかつてのヒーローの腕で防がんとする敵の防御を、魔剣はたやすく打ち破った。クライング・ジェネシスの両腕が、弾かれる。
「これで終わりにする……!」
 バルムンクが光と消え、璃奈の両手に現れるのは、二本の刀。凶太刀と神太刀から注がれる力を、神速の剣技で放つ。
「があああああッ!!」
 切り刻まれるクライング・ジェネシスが、絶叫する。しかし、刃が通らない。
 二本の呪刀は、何に防がれているのか。璃奈には分かった気がした。
 それは、世界への憎しみに他ならない。あまりにも悲しい力だった。
 だから、終わらせるのだ。圧倒されるクライング・ジェネシスがよろめいた刹那、璃奈は手を掲げた。
「全ての呪われし剣達……わたしに、力を……!」
 召喚されたいくつもの魔剣が、一つに収束していく。束ねられた呪いの力が、ひと振りの刃をどこまでも研ぎ澄ます。
 手にしたのは、究極のひと振り。璃奈は躊躇わなかった。全呪力を結集した魔剣を、『骸の海発射装置』に突き刺す。
「や、やめ――!」
「過去へ……帰って……!」
 黒い稲光が砲塔からスパークし、過去の波動がクライング・ジェネシスを侵食し始める。
「くッ――そぁぁぁぁッ!!」
 渾身の一撃を受けたオブリビオン・フォーミュラは、必死の形相で骸の海を撃ち出した。
 零距離で放たれたそれを直感で避け、璃奈は後方に跳躍した。
 魔剣を構える先で、敵はまだ、息をしていた。
「……」
「ふざけんな……! 俺は、俺はクライング・ジェネシス! 最強のオブリビオンなんだよ……!」
 血走った目でそう繰り返す諸悪の根源に、もはや余裕はない。その姿にわずかな同情を抱きながらも、璃奈は戦う意思を刃に乗せた。
 この憐れなる過去を、あるべきところへ返す。その先にある世界の安寧のために、躊躇う理由など、ない。

成功 🔵​🔵​🔴​

フランチェスカ・ヴァレンタイン
急加減速を繰り返す空中戦闘機動に幻惑機動(見切り+残像+フェイント+迷彩)を織り交ぜて、吐き出されたオブリビオン達の知覚を振り切りつつ
擦れ違いざまに斧槍でなぎ払い、集団へ向けてのマイクロミサイルの一斉発射など
UCを発動しての慣性無視の機動で戦域を飛び回り、強襲・爆撃・砲撃を駆使しての空襲で制圧していきましょう

機動と空襲のエネルギー消費で旋条の光刃が触れた対象を一瞬で消し飛ばすほどに威力を増しましたら
なおも吐き出し続ける胸の噴出口へ向けて、最大戦速でのランスチャージを敢行すると致しましょう…!

吐き出している間は無敵ということでしたら、ええ。――打ち止めになるまで抉り続ければよろしいだけでしょう?


エーカ・ライスフェルト
(バイクを【運転】して近づきながら、敵の体を眺めて発言する)
「私を、雑に殺せる己を飾り立てる道具として認識しているようね」
「私も貴方をただのオブリビオンとしか認識していないから、罪悪感なく殺せて気が楽だわ」本音よ

・敵攻撃への対処
攻撃されるまでは直線的に道路の上で【運転】し、敵が攻撃した直後に鋭角に曲がったり建物の屋根に跳躍する等して回避を試みる
「今回の報酬は、建物や道路の補修費用にまわしてもらいましょう。……予想の倍以上壊れているから、さすがにね」

私が今回使用するUCは【魔力の縄】
動きを封じて味方が大技を使うのを補助してもいいし、封じ手から【念動力】で骸の海発射装置を敵の体に押し込んでもいいわ



「死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇぇぇッ!」
 猟兵にこっぴどくやられたと見えるクライング・ジェネシスは、その胸部にある『骸の海発射装置』から虚無を連射し、浅草の街に未曽有の破壊をもたらしていた。
 そのくせ、目立ちたいがゆえに雷門は破壊していない。まったく自分勝手なことだと呆れつつ、エーカ・ライスフェルト(ウィザード・f06511)は宇宙バイクのハンドルを捻って飛来した「過去」を回避した。
 着弾点が漆黒の虚無に包まれ、そこにあった物を骸の海に消し去る。チャージしていなくてもこの威力。思わず眉を寄せる。
「フルチャージされたら、本当に世界が終わるわね」
 一刻も早く敵を討たなければ。バイクを加速させ、放置された車を台にして跳躍、観光客向けの茶屋の屋根を走る。
 乱射される虚無を避けつつ敵との距離を測っていると、その後部座席に何者かが着地したのを感じた。
 振り返ると、白翼を輝かせる女がいた。疾駆するバイクに優雅に立って、困ったように唇を指でなぞっている。
「オブリビオン・フォーミュラと聞いてどのような邪悪かと思えば……」
「言いたいことは分かるわ」
 まるで子供の駄々にすら見える。確かに強いし攻撃は危険極まりないものばかりだが、敵の性格が、あまりにも幼稚だ。
 だが、だからと言ってやる気がそがれたりする彼女らではない。斧槍を手に、フランチェスカが微笑む。
「理想は理想、といたしまして」
「いつも通りに、やるわよ」
 エーカがバイクのハンドルを捻り、フランチェスカが舞い上がる。二人は屋根から飛び降りつつ、それぞれ攻撃準備に取り掛かった。
 発射装置をこちらに向けながら、クライング・ジェネシスが叫ぶ。
「許さねぇ、許さねぇ!! ヒーローもヴィランも! 猟兵も! 世界もだッ!!」
 虚無と同時に、無数のオブリビオンが放たれる。過去からひり出されたかつての英雄たちが、一斉にフランチェスカとエーカへと襲い掛かった。
 即座に攻撃を開始する。フランチェスカが幾人にも分身し、その幻惑的な軌道を以て空中に散開し、すれ違いざまに片っ端から斧槍で薙ぎ払っていく。
 飛来する虚無の砲弾を細やかなハンドル捌きで回避して、エーカはクライング・ジェネシスとの距離をさらに詰めていった。目標はただ一つ、敵の、捕縛だ。
 もはや追い詰められているというのに、クライング・ジェネシスはしきりに上空を気にしていた。この期に及んで、まだ注目を集めたいと思っているらしい。
「私たちを、雑に殺して己を飾り立てる道具として認識しているようね」
「あぁ!? 当たり前だろうが! テメェらは俺の引き立て役なんだよ、大人しく死ねぇッ!!」
 もはや至近距離と言える間合いで放たれた砲弾が、エーカの真横を通り過ぎ、その先にあった車を消滅させる。当たっていれば、死んでいた。
 しかし、エーカは止まらない。瞳を光らせ、左手に握ったウィザードロッドを一振り、その先端に魔力を流し込む。
 敵とすれ違い、急ブレーキとともに反転、振り返るクライング・ジェネシスへと、殺意に満ちた眼光を向ける。
「私も、貴方をただの過去としか認識していない。罪悪感なく殺せて、気が楽だわ」
「ほざけ――ッ!?」
 こちらに向かって過去を放とうとしたクライング・ジェネシスが、転倒した。あたかも両足を縛られ、その腕すらも拘束されているかのように。
 否、実際にそうなのだ。目に見えないだけで、このオブリビオンは今、確かに縛り付けられていた。
 エーカの、魔力の縄によって。
「捕まえたわ。大人しく死になさい」
「おっ――おいおいおいおい!? やめろテメェ、世界が見てるだろうが!」
「そうね。いよいよクライマックスよ。上を見なさい」
 言われるがままに空を見上げて、敵が絶句する。そこに居たのは、無数のオブリビオンを過去へと叩き返したフランチェスカがいた。
 太陽を背負うように空に立ち、白翼を羽ばたかせてこちらを見下す、美しき淑女。その姿はさながら、愚かな人間に天罰を下す神の使いにすら見えた。
 仰向けのクライング・ジェネシスに向かって、フランチェスカは斧槍の穂先をぴたりと向ける。
「お帰りの時間ですわよ、クライング・ジェネシス」
「ふ――ふざけんなぁぁぁぁぁッ!!」
 絶叫とともに吐き出された、大量のオブリビオン。フランチェスカを叩かんと、真っすぐに上へと飛翔する。
 刹那、空が爆ぜた。迎撃のマイクロミサイルが一斉発射され、その全てがオブリビオンと衝突したのだ。
 爆炎の中を、フランチェスカが下へと飛翔する。なおも現れるオブリビオンは、エーカの念動力が次々に叩き落としてくれていた。
「トドメを頂きますわよ!」
「どうぞ、好きなだけ」
 エーカの軽口に頬を緩めて、フランチェスカはさらに加速した。戦闘機動により消費したエネルギーがそのまま速度と化し、白翼の天使は最大戦速に達する。
 穂先が輝く。万象を灼き穿つ光焔の刃が、過去を放出する『骸の海発射装置』に突き立った。
 しかし、動かない。クライング・ジェネシスがにわかに笑う。
「ギャッハッハッハ! ……いいこと教えてやるよ。俺はオブリビオンを呼び出し続ける間、無敵なんだよぉぉ!!」
 現れるオブリビオンは、出現と同時にフランチェスカの光刃に焼かれて消える。しかし、過去を引きずり出す力が発動している間、確かにその身は傷一つつかなかった。
 クライング・ジェネシスの勝利を確信した哄笑が、耳につく。しかしエーカは、それに応えるように微笑んだ。
「そのようですわね」
「ギャッハ……?」
「吐き出している間は無敵ということでしたら――えぇ」
 光焔の刃が、輝きを増す。フランチェスカはその微笑に、一瞬、深く強い敵意を宿した。
「打ち止めになるまで抉り続ければよろしいだけでしょう?」
「は? はぁぁぁぁぁッ!?」
 力が込められたヴァルフレイア・ハルバードが、徐々に砲塔の内部へと刃を突き立てていく。目を見開いて身をよじるクライング・ジェネシスだが、その指先までもが動かせない。
「みっともなくジタバタしてんじゃないわよ。世界が見てるんだから」
 冷たく告げたエーカを、敵が見上げた。その顔には、明らかにこちらの様子を楽しんでいる、そして蔑んでいる笑みが張り付けられていた。
「てめぇぇぇぇぇッ!!」
「短い天下だったわね。夢の続きは、骸の海で見てなさい」
 くつくつと笑うエーカに、クライング・ジェネシスが目を血走らせて何かを叫ぼうとした。瞬間、その口にすら魔力の縄が詰め込まれ、息が、止まる。
「ッ――!? ッッ――!!」
「えぇ、もう終わりにしましょうね……!」
 フランチェスカの斧槍が、虚無に沈み込む。刹那、オブリビオンの放出が、止まった。
 それが、最期だった。
「さような――らッ!!」
 にわかに込められた力に光焔が輝き迸り、穂先が『骸の海発射装置』の砲塔に、深々と突き刺さる。
 直後に、エーカとフランチェスカはその場を退避した。膨れ上がった過去の波動が、発射装置から溢れ出し、クライング・ジェネシスを呑み込み始める。
「アッ――ちくしょ――まだ、終わら――!」
「終わりよ。いつまでも遊んでられないわ」
 骸の海へとつながる虚無から這い出んとするオブリビオン・フォーミュラ。その顔面を、エーカは無造作に蹴り飛ばした。
「あっ」
 情けない悲鳴とともに、その巨体はあっけないほどに虚無へと吸い込まれていった。
 巨悪の全てを飲み干して、骸の海へと通じる虚無もまた、消えてなくなる。
 アスファルトに突き刺さった斧槍を引き抜いたフランチェスカは、掌を軽く払って息をつくエーカと目を合わせ、その場の勝利と戦士たちの健闘を、ほのかな笑みで称え合った。



 救急車やら消防車やら、騒がしくなってきた浅草を、猟兵たちは後にする。
 クライング・ジェネシスが吐き出したオブリビオンも、奴の死とともに虚空へと消えた。この街には、平和が戻ったのだ。
 だが、世界はそうではない。この瞬間も、どこかで今を喰らう者が現れては、過去を武器に暴れている。
 その全てを討ち倒し、二度と現世に這い出て来れなくするまで――。
 猟兵たちの戦いは、終わらない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年11月28日


挿絵イラスト