アースクライシス2019⑭〜幽愁暗恨、報仇雪恨
「オブリビオンに支配された四つの『知られざる文明』を解放した事で、とうとうオブリビオン・フォーミュラ『クライング・ジェネシス』が姿を現したわねぇ」
花唇から澱みなく佳声を滑らせたニコリネ・ユーリカ(花売り娘・f02123)だが、直ぐに頭を振って言い直す。
「ううん、皆が色んな戦場で大活躍したからこそ、彼は現れたのよ」
猟兵の目覚ましい活躍がクライング・ジェネシスを引き摺り出したのだ、と――。
事態は深刻だが、この事実が必ずや地球の危機に終止符を打つと信じるニコリネは、精悍な表情を揃える猟兵を前に言を続ける。
「クライング・ジェネシスは、全世界で多くの人に注目される場所に出現すると、迎撃に出てきた皆に戦いを挑むわ」
注目される場所。
それは全世界の人々が知る歴史的建造物や、見た目が派手な観光名所で、多くの者が危機感を持って見るであろう場所で、猟兵をセンセーショナルにやっつけるのが目的だ。
「皆を撃破する所を人々に見せつけて、鬱憤を晴らそうっていう訳ね」
全ては自己顕示欲を満たす為――。
其処に強い我欲と怨恨を感じた猟兵は、静かにさやかに凛然を萌す。
彼等の闘志に触発されたニコリネも語気を強め、
「今、クライング・ジェネシスは『骸の海発射装置』のチャージを行っているわ」
この様子では『骸の海発射装置』のチャージは『2019年12月1日』に完了し、ヒーローズアースにカタストロフを引き起こす。
猟兵達は、チャージが完了する前に、各地に出現するクライング・ジェネシスを撃破しなければならない――。
一瞬、桜唇を引き結んだニコリネは、地図を広げて再び説明を始める。
「私がお願いしたいのは、中国の『万里の長城』に出現する一体よ」
クライング・ジェネシスは、長城に駆け付けた猟兵に対し、直ぐに強力なユーベルコードを仕掛けて来る。
「皆は敵の先制攻撃を何とか凌いで、どーんと反撃して欲しいの」
「万里の長城は世界遺産だし、有名な観光地だが……」
「ええ、こんな所でって思うかもしれないけれど、敵は自分の活躍を引き立てる“舞台装置”と思っているから、地形や周辺を破壊したりはしないわ」
それと同じく、猟兵の攻撃も遺産に対してマイナスになる事はない。
今回の敵は非常に強力な為、相手をやっつける事に集中して欲しいというニコリネに対し、猟兵達も慥かな首肯を返す。
犀利を増す彼等の瞳に未来を視たニコリネは、花形のグリモアを召喚し、
「……どうか気を付けて。皆の無事を願ってます」
と、柔らかな微笑に送り出した。
夕狩こあら
オープニングをご覧下さりありがとうございます。
はじめまして、または、こんにちは。
夕狩(ユーカリ)こあらと申します。
このシナリオは、『アースクライシス2019』における第十四の戦場、オブリビオン・フォーミュラ『クライング・ジェネシス』を撃破する一章のみの戦争シナリオ(ボス戦:難しい)です。
●戦場の情報
中国『万里の長城』
一般人観光客や遺跡の管理人・職員等が居ますが、避難誘導プレイングは必要ありません。(彼等への配慮が無い事でリプレイ上で不利になる事はありません)
●敵の情報『クライング・ジェネシス』
元は無能力者で、殺したヒーローやヴィランの身体部位を移植する事でユーベルコードを得ました。醜い肉体を鎧で隠し、胸部の「骸の海発射装置」をチャージしています。
●プレイングボーナス『敵のユーベルコードへの対処法を編みだす』
このシナリオフレームには、特別な「プレイングボーナス」があります。
これに基づく行動をすると、戦闘が有利になります。
クライング・ジェネシスは必ず先制攻撃をしてくるので、いかに防御して反撃するかの作戦が重要になります。
●リプレイ描写について
フレンドと一緒に行動する場合、お相手のお名前(ID)や呼び方をお書き下さい。
団体様は【グループ名】を冒頭に記載願います。
複数での参加者様は一括採用のみで、個別採用は致しません。
プレイング受付及び締切につきまして、マスターページにてご連絡致します。
以上が猟兵が任務を遂行する為に提供できる情報です。
皆様の武運長久をお祈り申し上げます。
第1章 ボス戦
『クライング・ジェネシス』
|
POW : 俺が最強のオブリビオン・フォーミュラだ!
全身を【胸からオブリビオンを繰り出し続ける状態】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD : 貴様らの過去は貴様らを許さねェ!
【骸の海発射装置を用いた『過去』の具現化】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【相手と同じ姿と能力の幻影】で攻撃する。
WIZ : チャージ中でも少しは使えるんだぜェ!
【骸の海発射装置から放つ『過去』】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を丸ごと『漆黒の虚無』に変え】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
イラスト:yuga
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
中華人民共和国、北京市延慶区――。
世界遺産であり、新・世界七不思議にも選ばれる城壁遺跡『万里の長城』のうち、最も観光客が訪れる八達嶺長城の上空に、其は突如として現れた。
『ギャーッハァ! いい眺めだな! 地球のクズ共がアホ面揃えて見上げてやがる!』
耳を劈く様な喧噪しい醜聲。
その者がオブリビオン・フォーミュラ、『クライング・ジェネシス』とは知るまいが、穹から驟雨と降り注ぐ悪罵に視線を繋いだ観光客は、時を忘れて瞠目した後、血も凍る恐怖に躯を押し合って、蜘蛛の子を散らす様に逃げ出した。
「アイゴー!」
「オーマイガッ!」
あらゆる言語で悲鳴を上げる無辜の者達。
現地スタッフが直ぐに避難を促すも、俄に恐慌を来した長城を睥睨した巨大な狂邪は、愉悦に咽喉を転がして言い放つ。
『おっと、クズにはクズの仕事をしてもらうぜ! そこで世界が滅ぶ瞬間を見てろ!』
屹立し、刮目せよ!
己が光を見る猟兵の果敢無く散り、未来の斃れる瞬間を聢と瞳に焼き付けよ!
「マンマミーア……!」
「ティエンア……ッ!」
巨躯を屈め、頭を揺り動かして念を押す巨悪に逆らえよう筈も無い。
人々を恐怖に鎖いだ狂邪は、一転して靜黙に沈んだ長城に哄笑し、
『ギャーッハッハッハッ! 俺に見向きもしなかった連中を從えるのは最高だ!!』
直ぐにカタストロフを連れてやる、と野望を露わにした。
ギージスレーヴ・メーベルナッハ
逆恨みも此処まで至らば執念よな。
其を叩き潰すは…ハ、真愉しき戦となろうよ!
ヤークト・ドラッヘに【騎乗】し出撃。待ち構えるクライング・ジェネシスの元へ向かう。
そこに現れるのは即ち余自身。余である以上、為すは搭載武装による猛攻であろう。
なれば余も同じく【誘導弾】【制圧射撃】にて反撃。
だが此れは余の幻影を斃すのみが目的ではない。戦闘と機動で生ずる爆炎・土煙を以て視界を阻害、敵の目を欺くが主目的だ。
十分に煙幕が張れたと見たら機甲武装・高速殲闘を発動。
ジェネシス目掛け吶喊、近距離より火砲を叩き込んでくれよう。
余の幻影が追いすがるならば、ギリギリでの回避機動にてその攻撃をジェネシスに当てさせてくれようか。
マギア・オトドリ
……元がどんな存在であれ、撃破させて頂きます。
初手、対象から多数のオブリビオンが召喚し続けることを確認。
己が感知できる攻撃に対しては鋼鉄結晶を盾に防御、死角からの攻撃に対しては己が持ちうる【第六感】にて回避し対象に接近し続けます。
接近し敵の攻勢も強くなるならば、此方も応対開始。
断罪術式並びに「code=MAG:1A」を解放。フォーミュラ及び召喚されるオブリビオンの数だけ、自身の肉体を強化。【グラップル】により多数のオブリビオンを【吹き飛ばし】対象に接近、対象の胸部に【捨て身の一撃】を叩きこみます。
多少の痛みは既にある右眼・右腕の激痛であまり感じない事でしょう。敵の攻撃、負傷も無視し行動します。
亜儀流野・珠
目立つ場所で戦い俺達に勝つ、か。
負けた時のことは考えてないようだな?
まあそれは俺達も同じだがな!さあ覚悟しろ!
さあ木槌「砕」を握り締め……お?俺の幻影か!ふは、これは強敵だ!
だが「お前」はそちら側に居る。
正しさも信念も強い意志も、何も籠っていないその木槌で俺を叩き伏せることはできん!
相手の動きをよく【見切り】、相手の木槌攻撃は合わせるように木槌を当て弾き、反撃だ!
幻影が少し弱ったら相手は仕舞いだ!
隙を見て大振りで吹き飛ばし、「風渡り」で飛び越えジェネシスの元へ!
空を素早く駆け・蹴り加速、【怪力】でもって力一杯木槌を叩き込む!
そこの「俺」は真っ直ぐ俺を見てたが、俺が見てるのはお前だ、ジェネシス!
ミンリーシャン・ズォートン
◆戦場へ飛ぶ前に外套を着用し背中の翼を隠しておきます
アドリブ・連携歓迎
貴方の人々を恨む気持ちと私達猟兵の守りたいと願う気持ち、どちらの方が強いかは一戦交えれば解る事ですよね
どうぞ宜しくお願い致します
氷の刺突剣を構え
クライング・ジェネシスが装置から発射した攻撃は外套の下に隠していた翼で一瞬空へと回避するように試みて同時に魔力を剣へと注ぐ
漆黒の虚無が辺りを包めば着地する前に力を解放し、全てを氷で覆い被せ、人々に被害が出ぬよう同時に壁も作ります
近くに他の猟兵が入れば援護を優先
氷で動きを鈍らせたり仲間が戦いやすいように足場や壁を作る等行い
冷気纏う剣での攻撃や身の軽さを活かした体術で攻撃を行うよう試みる
マリス・ステラ
「主よ、憐れみたまえ」
『祈り』を捧げると星辰の片目に光が灯り全身に輝きを纏う
『オーラ防御』の星の輝きを何層にも展開して防御
貫く余波に輝きが星屑のように散る
「揺蕩えども沈まず」
【神に愛されし者】を使用
マッハ5を超える速度で空を翔ける私は箒星
弓で『援護射撃』放つ矢は流星の如く
「エリ、エリ……(主よ、主よ)」
味方を『かばう』
『カウンター』は流星が光の奔流となって降り注ぐ
「灰は灰に、塵は塵に」
『封印を解く』と高高度に舞い上がり、聚楽第の白い翼がぎこちなく広がる
全身の輝きは強さを増して、迸る様は十字架の顕現
「あなたに魂の救済を」
星の『属性攻撃』は光弾と化した体当たり
「光あれ」
世界が白に染まる
ピオニー・アルムガルト
過去だ虚無だのさらに全方位に恨み節を言って貴方なんか暗いわね!
放っておくとヒーローアースの皆に迷惑になるから全力で倒させてもらうわよ!
万里の長城は防衛の要!城壁、敵台、森林などを【地形の利用】して【ダッシュ】で攻撃を回避しようと思うわ!
あとは隙を狙って【全力魔法】! 胸のど真中!貴方の虚無を私の炎の意思で撃ち抜くわ!
過程は褒められたものじゃないけど強大な力を得るまでに至る意志は凄いわ!
まあ私も負けないけど!意志と意志のガチンコ勝負じゃい!
ザザ・クライスト
【狼鬼】
「堪えろよ。オマエならデキる」
先制攻撃をジャスパー"で"【盾受け】
余波は【激痛耐性】で凌ぐ
「肉削ぐ手間ァ省けたろ。お楽しみはこれからだ」
煙草に火を点けて【ドーピング】
【鉄血の騎士】を発動
銃が紅く染まり凍りつくような音で哭く
バラライカを【乱れ撃ち】
「派手に踊るぜ、ロックンロール!」
更に【援護射撃】
からの【スナイパー】の目で【部位破壊】
その動きは"負傷前"のオレ様のそれ、イヤ、それ以上
「ジャスパー、"アレ"をやるぜ」
"牙"を鋼糸形態にジャスパーを【操縦】して"人形使い"
【鉄血の騎士】を発動
ジャスパーが紅く染まり断末魔のような咆哮
四肢から焔を迸らせる奴は火の化身"ロキ"
「パーティやろうぜ」
ジャスパー・ドゥルジー
【狼鬼】
言われなくても知ってるぜ
俺が耐えれる事くらい
ザザの盾となり先制攻撃を一身に受け止める
致命傷だけは手にした驟雨で防いでやる
後の負傷は【激痛耐性】で無視
ありとあらゆる痛みが味わえる
最高じゃねえか?
「手間が省けた、その通りだ」
傷から流れる魔竜の血を燃やし
その炎を武器に肉弾戦
ザザの射線を防がねえように召喚された雑魚を掃討し
攻撃を【かばい】続ける
限界を迎えて倒れそうになった時
「俺の全部、あんたにやるぜ」
UC発動
瀕死の身体から一切のリミットを取っ払う
代わりに自我を失った俺は
ザザの手で敵を屠る「武器」となる
何もかも燃やし尽くす、炎の刃に
酷えと思うか?
ザザ相手じゃなきゃこんな事はしねえ
俺なりの信頼さ
穂結・神楽耶
ギュネス様/f00099と
力はそれだけでは意味を為さず。
何を為すかで意味付けされるものです。
ただ壊したいだけの、意味のない暴力に屈するほど、
猟兵は──未来は、安くありませんよ。
どうぞご随意に、ギュネス様。
無茶するひとの背を支えるのも、友人の役目ですからね。
破魔の鈴音を鳴らしてオーラ防御を張り、
ギュネス様を守りながら接近する道を続きます。
いくら理性を失っていたとてわたくしのことを傷つけるはずありませんもの。
まったくもう、言うだけあって無茶をする。
帰ったらお説教ですよ、ネグルさん?
【神業真朱】──自慢の砲ごと、断ち散らします。
見ての通り、力は使い方なのですよ。
分からぬなら骸の海で勉強してきなさい。
御形・菘
妾は特定の精神攻撃に絶対的に脆弱でな
まさかここで『過去』をぶつけられるか
精一杯にガードはして耐え凌ぐとも
気力がほんの少しでも残り、指先が僅かにでも動けば十分だよ
…みんな、私に力を頂戴
初っ端から醜態を晒してすまなかったな
だが残念、気力体力ミリ残しから、決して削り切れんのが妾の真の強さよ
ここからはずっと妾のターンだ!
お主と妾は似ているのかもしれん
だが妾は誰も妬まなかった、奪わなかった
醜い身体をなんとか受け入れ、苛む孤独に克てる場所を自力で作り上げた!
お主が虚無と過去を操るのであれば、妾は皆の歓喜と未来への希望で、塗り潰し返してくれよう!
エモさは不要、妾の左腕にボコられ無様に散れ、弱き簒奪の王よ!
白斑・物九郎
【エル(f04770)と】
●WIZ
ヒロアスのフォーミュラを狩りに来た
ワイルドハントの始まりっスよ!
●対先制
・長城を【ダッシュ】で機動し回避に専心
・発射装置の射線は目視で推量し、発射の緩急と弾速は【野生の勘】で先読み
・逃げ回りつつ、フォースオーラ【モザイク状の空間】の周辺地形への散布(投擲+なぎ払い)を敵死角で実施
・地形の見た目を改変(アート+早業)、敵がまだ『漆黒の虚無』化させていない箇所を『漆黒の虚無』同様の景観に仕立て、敵が強化を得るつもりでその偽地形に立った瞬間、エルへ反撃開始指示(だまし討ち)
●反撃
・【砂嵐の王】で『漆黒の虚無』を塗り潰して回る
・築かれた強化地形を潰し、また築かせない
エル・クーゴー
【物九郎(f04631)と】
●WIZ
最終撃破目標を目視で確認しました
これより、敵性の完全沈黙まで――ワイルドハントを開始します
●対先制
・【空中戦】用バーニア展開
・敵が地形をどれだけ『漆黒の虚無』化させたか正確には分からなくなりそうな程、射線を揺さ振るように敵周囲を飛翔し回避し抜く(物九郎の地形景観改変のアシスト)
・瞬間的な強噴射で己の身を【吹き飛ばし】ての緊急退避も回避手段として持つ
●反撃
・物九郎の指示を受けた瞬間、反撃開始
・【嵐の王・多用途空戦】発動
・最高速290km/h解禁と共、L95式全射撃兵装を二門一対(2回攻撃)で展開、敵発射装置の射出口目掛けて叩き込んで回る(誘導弾+スナイパー)
ネグル・ギュネス
穂結・神楽耶さんと
全てにおいて醜い塊だ
ただ喰らっただけで強くて凄いだ?
ふざけんのも大概にしろこの根性無し野郎が!
神楽耶さん、…オレのやり方に乗ってくれるか?
無茶しちまうけど許してくれよ、な?
『Are you ready?』
【エクリプス・トリガー】──変身!
敵が発射した敵をただ粉砕する機械となりて、殴り飛ばし、蹴り倒す
そしてダッシュで敵に近づき、一体を引っ掴んで、ジェネシスが発射する胸に、開いた瞬間捻じ込んでは、拳から衝撃波を放って内部に送り返してやる
ああ、今は無敵で何とも無いだろう
ただ発射が暴発したら?無敵は永続?──否だな、であればずっと無敵でいれば良いのだから!
神楽耶。…愚か者に、裁きを!
雷陣・通
いよいよ、親玉の登場ってわけか
ここで決着付けてやるぜ!
「紫電会初段、雷陣・通。治にいて乱を鎮める武を以って、汝を倒さん!」
さて、相手は自分自身
親父が帰ってくるのを待ってる俺
猟兵になる前の俺
一年前の俺
でもさ俺はこの一年、色んな戦いをして、色んな戦いを見てきた
何時までも待っている子供じゃないんだ
だからさ
●視力で攻撃を●見切り
●カウンターからの●先制攻撃による●鎧無視攻撃と●マヒ攻撃を乗せた一撃を幻影に叩き込む
本番はこれからだ
ウルトラサンダーボルト雷神丸
●二回攻撃で刀を抜けば
いま、戦っている人の想いをこの刃に乗せる、●勇気と●(共感)属性攻撃の『雷斬刃』
行くぜ!
これが俺達の刃
ライ!
ザン!!
バー!!!
己を価値の無いものと嘲笑り、侮蔑み、無視していた者達が視線を集める。
恐怖と蒼惶に身を震わせながら、我が巨躯を絶望の裡に仰いでいる。
『ギャーッハッハッハッ! 皮肉も往き着くとギャグだぜぇ!!』
世界終わったな、と嗤笑を噛み締める巨邪――クライング・ジェネシス。
終末に降臨した神が視る景色は斯くの如きかと、怯懦の羊を組み敷いたオブリビオン・フォーミュラは、然し屹立を命じた群れの中に、颯然と疾走る黒影に気付いた。
『……ほぉーん』
其は立ち尽していた人々こそ鮮烈に感じたろう。
(「ワッツ!?」)
(「ウプス??」)
慄然する躯を擦り抜け、爽涼と肌膚を撫で往く一陣の風――。
瞳に追えば、重力の枷鎖を物ともせず長城を駆ける黒い尻尾が辛うじて視えるか。
白斑・物九郎(デッドリーナイン・f04631)は犀利な金瞳を常に穹へと注ぎつつ、暴慢と降る醜罵に冷然と答えた。
『ギャーッハッハァ! 来たな、オレに嬲られ、踏み躙られる“能力者”!!』
「ヒロアスのフォーミュラを狩りに来たんスよ」
目下チャージ中の『骸の海発射装置』の照準を彼に合わせ、煙脂(タール)の様に粘着いた“過去”を放つクライング・ジェネシス。
物九郎は野性に根差した戰闘勘と、数多の獲物を屠って獲得した経験則によって、射角と射線、発射の緩急、そして彈速を読みながら、漆黒の邪彈を甚平一枚切らせて抜ける。
『ギャハハハハッ! 狩りに来たァ!? 誰がッ、誰をッ!!』
雷鎚と降り注ぐ轟然を視界の端に遣り過ごす物九郎だが、この世界で最もデカい獲物を為留めんという気概は、穹を見れば瞭然。
其処には彼の懐刀、エル・クーゴー(躯体番号L-95・f04770)が飛行用バーニアを展開して宙空より接近し、
「最終撃破目標を目視で確認しました」
と、言うや電脳ゴーグルの走査線に燐光を往復させ、ヒーローやヴィランの身体部位を移植したという鎧下の肉体をスキャンし始める。
翠光が全灯すれば解析完了か、凡そ感情を乗せぬ桜唇が無機質に佳聲を滑らせ、
「これより、敵性の完全沈黙まで――ワイルドハントを開始します」
「ワイルドハントの始まりっスよ!」
二人を結ぶ「ワイルドハント」なる言が天地を繋ぐ。
『ギャハハハ、ワイルドハント! 其もオレを引き立たせる舞台装置でしかねぇよ!』
物九郎一人を射ていた漆黒の煙脂彈を空へ、今度はエルも含んだ広範囲の斉射に變えるクライング・ジェネシス。
的中を得ずとも、其は周囲の地形を漆黒の虚無に沈め、塗り込めた範囲に応じて戰闘力を増強させた。
「――舞台装置、か」
メキメキと巨躯の強靭を増すクライング・ジェネシスを仰ぎつつ、亜儀流野・珠(狐の恩返し・f01686)がお気に入りの靴に軽やかな跫を連れてやって来る。
我が影を直ぐにも飲み込む狂邪の巨影が高嶺の如く立ち塞(はだか)るが、幼狐は一縷と臆せず佳聲を滑らせ、
「目立つ場所で派手に戰って俺達に勝ちたいようだが、負けた時の事は考えてないな?」
衆目を集めて敗れた時は嘸や恥ずかしかろう、と小気味佳く語尾を持ち上げる。
之を聴いた狂邪は、大仰に両手を広げるパフォーマンスを魅せ、
『ギャーッハッハッハッ! オレが負ける? 負けるつもりで出てくるかよォ!!』
「ああ、それは俺達も同じだ! さあ覚悟しろ!」
双方、闘争の気に申し分無し。
鎧兜に秘めし邪眼と、爛々と輝く緋眼が好戰的に結ばれた。
珠に続き、履き潰したキャンバス地のスニーカーで長城を駆けて来た雷陣・通(ライトニングキッド・f03680)は、魁偉が放つ怨毒に烱眼を射る。
「こいつがオブリビオン・フォーミュラ……いよいよ、親玉の登場ってわけか」
その圧倒的質量にも増して、ぶわりと迸る怨讐のオーラが肌膚を切り裂くよう。
粗削り、剥き出しの敵意が烈風となって少年の緋髪を梳るが、彼は武者震いを下胆田に押し込め、凛冽たる聲を発す。
「紫電会初段、雷陣・通。治にいて乱を鎮める武を以って、汝を倒さん!」
右手は握り込めて意志を貫く拳に、左手は開いて受け止める掌に。
そして我が闘志を蒼白い霹靂と漲らせた通は、万里と続く長城を稲妻の如く駆けた。
「ここで決着付けてやるぜ!」
『良いぜぇ、此処が貴様等の墓場だッ!!』
殺意と闘志が渦と巻き、烈風が長城を吹き抜ける。
その殺伐こそ、クライング・ジェネシスが求めていたものだったか――醜聲は愈々大きく穹を震わせた。
「――絶好の戰場、血闘を見守る観衆が必要か。其に奮い立つなら、お主も根はヒーローという事か」
群衆の間を文字通り蛇行し、動揺めきを連れて現れた御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)は、烱光を放つ金瞳に敵影を捉えると、丹花の唇に淡く囁(つつや)く。
蓋し其も一瞬の事。
クッと口角を持ち上げた菘は、丫(ふたまた)の舌を出して豪快に嗤笑い、
「観る者が多ければ佳いと言うなら、増やしてやろう!」
彈指活現、【喝采よ、妾に降り注げ】(エール・スクリーンズ)――!
刻下、生配信視聴者が映る無数のディスプレイを空中に召喚した彼女は、ライブ動画を配信すると同時、視聴者の歓声と応援、爆上がりしていくハートマークに底力を上げる。
蓋し之には巨邪も気分を佳くして、
『ギャーッハッハッハッ! 生配信とは都合がいい! オレがクズ共を支配する過程を、全世界に知らしめられるぜぇ!』
撮影用ドローン『天地通眼』にギンッと目線を寄越し、視聴者を威圧する。
敵に塩を与えたか――いや、菘は變わらず最強無敵の艶笑を湛えており、
「彼等もまた此処に居る者と同じく、歴史の証人となるであろうな」
その名誉を与えるべく、邪神のオーラをぶわりと迸らせた。
『ギャーッハッハアッ! いいぜぇ、積年の恨みをブチかます時が来た!!』
世界的に有名な場所を舞台に、多くの観客を從えて。
己を討伐に来たという猟兵達を組み敷く、巨躯からの眺望も申し分なかろう。
クライング・ジェネシスは怪腕を広げて存在の大きさを見せつけ、
『パクりにパクッた肉体とユーベルコードで、貴様ら能力者を公開処刑だぜぇ!!』
この瞬間に露わになった胸部――『骸の海発射装置』が漂わせる儼しさと禍々しさに、多くの猟兵が柳葉の眉を顰めた、その時だった。
「全てにおいて醜い塊だ」
鋭いカヴァリエ・バリトンが端的に言を告ぐ。
聲主はネグル・ギュネス(Phantom exist・f00099)。
彼は美し紫瞳に巨魁を映すや、その躯に顕れた醜怪なる稟性も見極めると、凡そ端整の唇に似合わぬ口跡で語気を荒げる。
「喰らっただけで強くて凄いだ? ふざけんのも大概にしろ、この根性無し野郎が!」
根性無し野郎。
曲り形にも此の世界で最強を冠するオブリビオン・フォーミュラに、斯く言ってのけられるのはネグルくらいであろう。
佳聲が紡ぐ悪罵を聴いた穂結・神楽耶(舞貴刃・f15297)は、淡く咲みを湛えた後に凛然を萌し、自身もまた巨魁の理念に反駁を示して見せた。
「力はそれだけでは意味を為さず。何を為すかで意味付けされるものです。ただ壊したいだけの、意味のない暴力に屈するほど、猟兵は──未来は、安くありませんよ」
淸澄の聲は言を飾らず、唯だ経験に裏付けられた至言を告ぐ。
沸々と心火が燈るのは、両者が図星を突いたからであろう、
『罵倒するクズに、説教をするクズか! 能力者ってのはどいつもクズだぜ!』
クライング・ジェネシスは怪腕を薙いで言を遮ると、胸部の装置より続々とオブリビオンを放出し、その距離を埋める。
無数の狂邪が吶喊する中、ネグルはそっと流眄を注ぎ、
「神楽耶さん、……オレのやり方に乗ってくれるか?」
「どうぞご随意に、ギュネス様」
多くを訊かずとも優艶の是を返す神楽耶は、彼の性格を佳く知っているのだろう。
邪の喊声が鼓膜を打つ中、二人は靜かに言を交して、
「無茶しちまうけど、許してくれよ、な?」
「無茶するひとの背を支えるのも、友人の役目ですからね」
其が合意であり合図だったか。
ネグルは刻下、左腕の義手『サイバースアームズ』に紫色のイグニッションキーを挿し込んで回し、トリガーを起動する。
「――Are you ready?」
變身、【エクリプス・トリガー】――!
両眼と右半身の機械を「深紅色の破壊形態」に變えた彼は、超攻撃力と超耐久力を得る代わり、敵を無差別に粉砕し続ける機械と成る。
ネグルが向かい来るオブリビオンを殴り飛ばし、蹴り倒す中、神楽耶の繊手は破魔の鈴音『穂垂ノ鈴』を鳴らし、淸浄なる音色に周囲を包んで彼の無意識を護った。
桜唇に結ぶ玉音は信頼を囁いて、
「いくら理性を失っていたとて、わたくしのことを傷つけるはずありませんもの」
しゃん、と神楽鈴を澄み渡らせた神楽耶は、ネグルが切り開く道に歩みを進めた。
「過去だ虚無だの、さらに全方位に恨み節を言って……貴方なんか暗いわね!」
「――逆恨みも此処まで至らば執念よな」
呆れた、という物言いで柳葉の眉を顰めるピオニー・アルムガルト(ランブリング・f07501)の隣、ギージスレーヴ・メーベルナッハ(AlleineBataillon・f21866)は皮肉めいた溜息に是を添える。
こんな男は御免とばかり、流眄に共感を交した二人は、刹那、眼前に迫るドス黒い流動体を左右に別れて躱す。
目尻の端に『過去』を遣り過ごしたピオニーは、魔導杖に精霊を喚ぶや、佳顔を霊気に浮き立たせ、
「放っておくとヒーローズアースの皆に迷惑になるから、全力で倒させて貰うわよ!」
「其を叩き潰すは……ハ、まこと愉しき戰となろうよ!」
云うや颯爽と繊躯を翻した少女は、重機甲戰闘車『ヤークト・ドラッヘ』に騎乗する。
轟ッと吼えて疾り出す、その爽涼の風に光輝くヴェールを翻したミンリーシャン・ズォートン(綻ぶ花人・f06716)は、泉の如き透徹の瞳に凛然を萌し、仕込み杖を構えた。
「貴方の人々を恨む気持ちと、私達猟兵の守りたいと願う気持ち……どちらが強いかは、一戰交えれば解る事ですよね」
抜劔すれば少女の闘志は冱々と耀こう。
繊躯に秘められた厖大なる魔力に反応したレイピアは、主を清冽なる冷気に包みゆく。
佳聲は淸らかに、言は丁寧に、蓋し音色は凛々と張り詰めて――。
「どうぞ宜しくお願い致します」
『宜しくだァ!? 上等だ、ズッタズタに引き裂いてやるぜぇ!!』
堂々と宣戰布告した花人は、咬み付く様に降り注ぐ暴悪に凍える鋩を向けた。
「胸部装置より、多数のオブリビオンの放出を確認」
キャプテンストライクにジャスティストルーパー、それにアーミーメン。
巨魁の胸部より続々と出現する敵影を紫瞳に捉えたマギア・オトドリ(MAG:1A・f22002)は、長城に降り立つなり攻撃を開始する彼等を具に観察する。
「オブリビオン部隊は、二方向からしか攻めて来ない……それなら、挟撃に警戒して」
長細い戰場には相応の戰い方がある、と爪先を彈いた可憐は、大柄の男達が振り下ろす拳を颯と躱し、或いは巨大な『鋼鉄結晶』を盾としながら、狂気の波濤を抜ける。
目標は飽くまでクライング・ジェネシス――。
「……元がどんな存在であれ、撃破させて頂きます」
先の超巨大立体映像から怨嗟の根源と過去を知ったマギアだが、彼奴がオブリビオンで己が猟兵である限り――やる事は變わらない。
可憐は白皙に返り血を浴びながら、沈着を崩さず『過去』の海を潜り抜けた。
ザウルスマンにスターヴ、それにあれは……オールドスパーキーか。
ヒーローズアースで戰ったオブリビオン達が続々と胸部の装置から現れる――絶望の景を紫煙に隔てたザザ・クライスト(人狼騎士第六席・f07677)は、飄然たる流眄を隣人に注いだ。
「同窓会か」
「――ああ、もう“消える”から」
オブリビオン・フォーミュラが斃れれば、連中も斯くは往くまい。
成る程ハシャぎも為るだろうと、納得の一瞥を返したジャスパー・ドゥルジー(Ephemera・f20695)が、繊指を櫛に黒髪を梳く。
目前と迫る惨憺にも麗然を崩さず、長城の甃に跫音を馴染ませた二人は、それから再た短く言を交し――爪先の方向を變えた。
「堪えろよ。オマエならデキる」
狼は紫煙を燻らせて後方へ。
鬼はその長躯に狼を隠して。
「言われなくても知ってるぜ。俺が耐えられる事くらい」
其が自信でなく事実だとは、言い終えぬ裡に襲い掛かったオブリビオン達の拳打刃撃を一身に受け止めた光景が証しよう。
文字通りザザの肉盾と成ったジャスパーは、怒涛と迫る攻撃を見切り、致命傷だけは手刃『驟雨』の鋩に躱しつつ、それ以外の猛撃を“無視”して――刻む儘にさせた。
血煙が噴き、血華が散り、鮮血は淋漓と白皙を濡らすが構わない。
ジャスパーは裂傷を疾走らせた口角を嘗めるや、鐵の味を舌に転がし、
「ありとあらゆる痛みが味わえる。最高じゃねえか?」
蓋し背越しに投げた科白は、衝撃の余波に攫われる。
見ればジャスパーを盾にしたザザも抗わず、猛攻の残滓が連れる激痛に甘んじていた。
「……やっぱハシャいでンなァ」
其は隣人を贄と差し出した義理か何かは判明らない。
唯だ、ザザは頬より滴る紅血を手の甲に拭いつつ――冷艶の嗤笑みに八重歯を覗かせていた。
「彼等がイェーガー……あんなバケモノに勝てるだろうか……」
「でも、アノ人達が負けちゃったら、世界は、ボク達はどうなっちゃうの?」
多くの猟兵が巨悪に立ち向かう様子を見ていた観光客は、その勇気に希望を抱きつつ、余りに巨きな邪悪を前に未来を見出せないでいた。
絶望と希望が混濁する中、外套『桜姫』を翻して現れたマリス・ステラ(星を宿す者・f03202)は、彼等に代わって揺るぎない祈りを捧げる。
「――主よ、憐れみたまえ」
困難にある無辜の命を慰み給え。
敢然と立ち向かう勇者達を護り給え。
そして、怨恨に縛られし者を――憐み給え。
桜唇に優艶の聲を紡いだマリスは、瞼を持ち上げるや透徹の瞳に星型の聖痕『星辰』を顕し、滔々と溢れ出る聖性の光を全身に纏う。
穹を見れば、狂邪の胸部より数多のオブリビオンが絶えず排出される――まるで魔界の甕が海に獣を流し込む様な惨憺が広がっているが、マリスは沈着たる儘、穢れを祓う紅唇に囁(つつや)いた。
「揺蕩えども沈まず」
星の輝きがオーラと溢れ、彼女を中心に幾層もの防禦壁を展開する。
長城に居る観光客をも包んだドーム型の光壁は、敵の熾烈な攻撃に揺れ、震わされるが、光が星屑の様に散って尚、破れず――人々を脅威から護った。
『ギャーッハッハッハッ! 死ぬ瞬間を揃えただけだ、瞳は確り繋いでおけ!!』
舞台に観客を必要とするクライング・ジェネシスは、大きく身を屈めて人々を睨める。
鎧兜に隠された顔貌に魂が凍らされるが、震える唇は抗って、
「……っっ、怖いけど……目を背けちゃいけない……!」
「ボク達は此処で、イェーガーが悪者をやっつける瞬間を見るんだ!!」
小さくとも、聲に出して言う。
微かながら反抗の心を萌した人々は、猟兵の戰いを聢と見守った。
†
『いい根性だ、クズ共! 其処で能力者がズタズタに千切られるのを見ていろ!!』
轟然と喊び、胸部の『骸の海発射装置』の出力を上げるクライング・ジェネシス。
過去を排出する其は、ドブの様に濁った流動体からオブリビオンを模り、次々と放つ。
蓋しマギアは幾許にも冷靜で、
「目標が攻勢を強めたなら、此方も応対開始します」
解縛、【術式解放:code=G】(コード・ギルティ)――。
刻下、右眼と右腕に巻かれた『封呪包帯』を解き、人体改造時に施された【断罪術式】を解放したマギアは、凶悪なる術式『code=MAG:1A』と合わせて肉体を強化する。
「フォーミュラ、及び召喚されるオブリビオンの数だけ、戰闘力は増強される……ッ」
然し其は、少女に耐え難い激痛を代償として負わせる諸刃の劔。
マギアは小柄な躯を裂かんばかり痛みに耐えながら、近接格闘術を以てオブリビオンを蹴散らし、玉臂から繰り出たとは思えぬ拳打によって波動を突き上げた。
『無駄だぜぇ! 装置は常に“過去”を放出し続けるッ!!』
全き無駄骨! 全き徒労!
虐笑を注ぎながら戰状を見下ろす巨邪に対し、ネグルは深紅色の半身に返り血を浴びつつ言を返す。
「無敵な代わり動けないなら、黙って其処で待っていろ」
『ッ! クチだけは威勢がいいぜ!』
だが其が口だけで無いとは、速く動く物を無差別攻撃し続ける今の能力が示そう。
オブリビオンを出し続ける“源流”が敵の胸部にあるなら、流れが強くなる方向に必ず辿り着くと、血煙の中を進む闘争の塊。
其は凄まじい進撃ながら、ダメージを受け付けぬ訳でなく――。
美し劔鋩の危うさを見る様だと、朱瑪瑙色の麗瞳にネグルの背を映した神楽耶は、彼の覚悟を透徹たる鈴の音に變えて響かせた。
「せめてその拳打蹴閃が翳らぬよう、血の穢れを祓います」
武舞を踊るように小袖を翻しつつ、破魔の音を振わせる。
鋭い劔戟の音、打撃の鈍い音がぶつかる殺伐の軍庭で、その音色は消して掻き消される事なく穹に染みた。
聴くに心地良い聖性を、或いはマリスも聴いたろうか。
「エリ、エリ……(主よ、主よ)」
マリスは我が主に呼び掛けると、【神に愛されし者】(アマデウス)――全身を包む星の輝きを帯と引き、最大速度6,300km/h、マッハ5を超える箒星となって穹を駆る。
繊手に構えた巨弓『星屑』は、オブリビオンが神楽耶に襲い掛かった瞬間を楔打ち、
「――灰は灰に、塵は塵に」
『ゼァァア嗚呼ッッ!!』
数多の流星が光の奔流となって降り注げば、狂邪は痛撃に時を止められた瞬間にネグルの拳撃に屠られた。
其の連携にクライング・ジェネシスは愈々嚇怒して、
『……束になれば如何にかなると思ってる様だが、束ごとボキ折ってやるぜ!』
出力全開――ッ!!
チャージを後回しにしてでも殲滅してやるッ、と鏖殺の気を迸らせた。
連携して戰う。
其は数多のヒーローを嘘とハッタリで殺した者には採り得ぬ戰術だったろう。
「肉削ぐ手間ァ省けたろ。お楽しみはこれからだ」
「手間が省けた、その通りだ」
一瞥も呉れぬ儘、艶帯びたハイ・バリトンを交すザザとジャスパー。
多くを語らずとも次なる行動を共有できる二人は、先ずはジャスパーが更に踏み出て、
「鬼でも悪魔でも魔竜にでも。なってやるさ」
無数に刻まれた創痍より魔竜の血を燃やす。
魔炎竜のオウガブラッドたる彼は、煌々と喊ぶ炎を武器に肉弾戰に移行し、尚も襲い来るオブリビオンの群れの敵意を集める。
ジャスパーが射線を防がぬよう立ち回るとは、誰よりザザが知ろう。
時の猶予を得た狼は、新たな烟草『Imperial』に集中を得て、鼻梁を抜ける紫煙と共に聲を発した。
「黙らせてやる」
発動、【鉄血の騎士】(ジークフリート)――!
己が血を代償に、ドラムマガジン式短機関銃『KBN18 バラライカ』を“魔器形態”と變じたザザは、銃爪を引くや独特な射撃音を喊ぶ其にクッと口角を持ち上げる。
「派手に踊るぜ、ロックンロール!」
銃身が紅く染まり、凍りつくような音で哭く。
まるで己の様だという皮肉を噛み砕いたザザは、鐵彈の嵐に彈幕を張り、或いは剛拳を振り被る敵の腕を狙撃してジャスパーを援護した。
血闘を愉しむザザは、銃鉛を彈く毎に研ぎ澄まされていく感覚を味わって、
(「――腕は“負傷前”のオレ様のそれ、イヤ、それ以上か」)
畢竟、己は鐵と血に拠るしかない、と窃笑した。
†
『貴様らの“過去”は、貴様らを許さねェ!』
鎧兜に隠れた邪眼を光らせ、『骸の海発射装置』より“過去”を放つクライング・ジェネシス。
然れば如何だろう、狂邪が視認する全て――最前線に据わった猟兵全員の幻影が現れ、鏡の如く本人の前に立ち塞(はだか)って進撃の勢いを削ぐ。
玉臂に巨槌『砕』を握り込め、いざ敵懐にと爪先を蹴った珠は、全く同じ挙措で迫り来る影に一瞬、麗瞳を丸くした。
「……お? 俺の幻影か! ふは、これは強敵だ!」
威勢佳く発聲し、牙ッと木槌の打撃を嚙合せる。
膂力も互角かと、繊手に伝わる振動に快哉を得た珠だが、気に喰わない事が二つある。
「そちら側に居る“お前”……空蝉が『砕』を握った処でその程度。そして、この世に二つと無い恩人の手掛かりまで映したのは見過ごせないな!」
『――ッ!!』
「正しさも信念も強い意志も、何も籠っていない木槌で俺を叩き伏せる事はできん!」
柔かく搖れる銀髪、其を結わうリボンを翻しながら、巨槌を振り下ろす。
幻影が繰り出す槌撃の軌道に合わせ、インパクトの瞬間こそ優位を得た珠は、腕に伝わる震撃を押し返し、振り抜いた――!
凄まじい衝撃が波動と駆け抜ける中、時に穹に笑聲が澄み渡る。
「ハハハハ! 良い面構えをしておる! 中々の出来ではないか!」
義眼に映る幻影は、花の零れる様な佳顔ながら、浮べる表情は傲岸不遜。
姿見(かがみ)の様に精巧だと褒めたギージスレーヴは、間もなく猛攻を仕掛ける写し身にクッと桜唇を引き結ぶと、全き同じ搭載武装――速射機銃、誘導ミサイルを展開した。
「余ならば余を超えてやるが、果して貴様は如何であろうな」
小気味佳く語尾が持ち上がったのも一瞬。
閃光火花が無数に瞬き、誘導彈が手を結び合う様に軌跡を一にして――爆ぜるッ!
刻下、轟く砲音が佳聲を掻き消し、爆炎と土煙が少女の不敵な咲みを隠した。
――扨て。
紫電と疾走って誰より早く、寧ろ『過去』が具現化するより早く渾沌に拳を突き入れた通は、一度霧散して靉靆と棚引き、再び形を成す影に一瞬、瞠目した。
「相手は……過去の俺……?」
親父が帰ってくるのを待ってる俺。
猟兵になる前の俺。
一年前の俺。
「……落雷に当たる前の俺だ」
時間が一気に巻き戻され、あの時の感情さえ鮮明に蘇甦る。
武者修行の旅に出ると言って消息を絶った父親を、いつか帰って来るものと待ち続けた日々が、期待を希望と變えていた11歳の自分が、あの時の瞳で己を映すのだ。
紫電を迸らせた右拳が覚えず止まるが、自ら駆け出す足を得た少年は、草臥れたスニーカーの靴底を踏み込み、再び拳を握り込める。
通もまた一年前の己を聢と瞳に映し、「――でもさ」と殺伐の戰場に波紋を打つ。
「俺はこの一年、色んな戰いをして、色んな戰いを見てきた。何時までも待っている子供じゃないんだ。――だからさ」
幼な空手少年の拳を、紫電を放たぬ純朴な衝撃を、教わった通りの体捌きで躱す。
睫毛の搖れる距離で拳を遣り過した通は、その儘カウンターに右拳を突き出し、雷鎚の如き冱撃を空手道着の上から叩き込んだ。
「――否定するわけじゃないけど、現在(いま)の俺が負けてられないから」
狭霧と消える影を抜け、再び踏み出る。
スフェーンと耀く瞳には、もう、暴悪の巨塊しか映ってなかった。
†
ヒーローズアースに迫る危機を幾度と禦ぎ、数多の強敵との戰いを制してきた猟兵は、竟に対峙した巨魁――オブリビオン・フォーミュラを前に一縷と怯まない。
其は歴と積まれた経験と智慧が、死闘を互角に持ち込んでいるからであろうが、然し、多くの能力者を謀殺してきた“無能力者”も場数では劣らなかった。
『時の排泄物、汚ねェ“過去”は然しオレを無尽蔵に強化するッ!!』
根深い怨恨を力に變え、胸部の発射口より“過去”を放つ。
其はドス黒く粘着く流動体の如く、或いは漆黒の塊となって猟兵に飛び掛かるが、咄嗟に盾と庇い出た菘には強烈な一撃と成ったろう。
『ギャハハハーッ! 手前ェ自身に殺されな!!』
「ッッ!! まさかここで『過去』をぶつけられるか……ッッ」
左腕の儀礼祭壇『五行玻璃殿』を展開し、邪の怨嗟に禦がせるも、邪神のオーラを喰い破って迫る“過去”に精神が削がれ、蝕まれる。
「ッ、ッッ……嘗ての妾、か……!!」
嘗てクライング・ジェネシスは無能力者であったが、菘もまた持たぬ者であった。
猟兵として怪人をボコり、動画を配信する迄は――外見こそ禍き枷鎖であった。
「…………ッッ」
――邪神さん劣勢ってマ?
――あっこれマジでリアルにガチなやつ。
躯を屈める菘と、暴慢と嗤笑うクライング・ジェネシスを見て、息を飲む視聴者。
然し漆黒の過去に塗れた繊躯の、僅かに動いた指先に視線を集めた皆々は、軈て届いたか細い聲に、一気に聲を張り上げた。
「……みんな、私に力を頂戴」
――邪神さん負けないで! 皆で彈幕張ろ?
――うぉぉおお邪神さん超がんがえ! ボコッたれ!!
然う。
菘には『現在』(いま)がある。
魂の奥底に火を燈す応援に雄渾を――現在の肯定を得た彼女は、顔を持ち上げるや邪神のペルソナに克己して、いつもの咲みを取り戻した!
「――いや、醜態を晒してすまなかったな。ここからはずっと妾のターンだ!」
観客への言葉も忘れず――これが今の菘だろう。
決して削り切れぬが妾の真の強さと、邪神は再びオーラを迸らせて歓声を浴びた。
『ッ畜生が……!!』
視界に入る全てを恨むクライング・ジェネシスは、瞋恚に煮え滾る“過去”を一条に収斂し、大きく弧を描いて薙ぎ払う。
『クソッたれの能力者ども!! 手前ェの“過去”に死んじまえ!!』
「わっわっ」
金の瞳を満月の如くして、闇黒の光線を間際で回避するピオニー。
然し彼女は誰よりも万里の長城の利を把握しており、大きな狼の尻尾を揺らしながら、城壁や高楼に飛び移って射線を手折った。
「万里の長城は防衛の要! あらゆる地形を利用して躱してやるわ!」
先人の知恵を借りる――三角帽子のブリムより覗く瞳は煌々と炯光を湛え。
光線が間際を過ぎた瞬間を反撃の機と見たピオニーは、直ぐにも魔導杖を振り被ると、【高貴なる紅】(エンプレス・スカーレット)――合計275本の炎の矢を放ち、その鋩を全て胸部の『骸の海発射装置』に集めた。
「狙いは胸のど真中! 貴方の虚無を、私の炎の意思で撃ち抜くわ!」
『ギャーッハッハッハッ! いいねぇ、振り払い甲斐があるッ!!』
紅炎の鏃の半数が怪腕に手折られ、半数がその腕に刺さった儘、赫々と燃え続ける。
不敵に嗤笑った巨邪は、受け取った激痛で怨嗟を増幅すると、其を暗澹たる“過去”と變えて胸部から放出した。
『オブリビオンがあらゆる形を成すのと同じく、“過去”はどんな形状にもなるぜ!』
ビームの如く一条を為せば、鐵鉛の如く無数と分れる事も出来る。
クライング・ジェネシスは思う侭に“過去”を撃ち出すが、その何れもが嘆きに満ちていると気付いたミンリーシャンは、目尻を掠める惨憺に長い睫を伏せた。
「人には良い過去も辛い過去もあるのに、降り注ぐ過去は昏く冷たい虚無ばかり……」
流眄が軌道を追って間もなく、漆黒の鏃が外套を裂く。
今度は矢の如く虚無が降り注げば、ミンリーシャンは裂帛の隙間より小さな翼を広げ、一瞬、軽やかに躍して追撃を躱した。
「この虚無が、人々に被害を及ぼしてはいけないから……!」
大地に染みて暗澹を広げる前に、氷を覆い被せる。
其は【†.゚・~Freezing World~・゚。†】(ヒョウケツノセカイ)――。
ミンリーシャンは宙に華奢を躍らせながら、氷の刺突劔に魔力を籠めると、キラキラと耀ける凍気を絨毯の様に広げて長城の甃を護る。
否、建造物だけでは無い。
可憐の爪先が跫を置いた時には、硝子と見紛う氷壁が立ち塞がり、人々を禍き虚無から隔てた。
†
『逃げ回るだけじゃァ、オレを斃せないぜ? 能力者ども!!』
持たざる者だったからこそ、与えられし者が恨めしい。
クライング・ジェネシスは煙脂彈を放射状に放ち、着々と長城を『漆黒の虚無』に塗り込めていたが、果して其が彼の戰闘力を高める“黒”であったか怪しかろう。
『血闘の庭を絶望に塗り込めたオレの圧倒的パワーで……、……んん??』
可訝しい、と気付くには遅かったが、其は物九郎が全き死角で動いていた所為。
彼は巨邪の背後から炯々たる金瞳を射るや、ヒヤリと冷たい低音を置いて、
「塗り込めた広さに応じた力が漲ってくるか……能力者の部位を継ぎ接ぎしたっていう、おたくの躰に訊いてみれば自ずと理解りましょうや」
『ッ、ッッ……!!』
然う。
物九郎は虚無彈を躱す傍ら、フォースオーラ『モザイク状の空間』を以て周囲の空間の色彩と輪郭を狂わせつつ、『漆黒の虚無』同様の景観に仕立てており、何処が我が陣地であるか判別つき難くしている。
其処が偽の地形――砂嵐の王の縄張りであるとは、正に彼の言う通り、全く強化を得ぬ肉体が語ってくれよう。
この瞬間、彼は勃然と聲を発し、
「――エル! 彈ァ寄越せ!!」
「マスターの指示を確認しました。反撃を開始します」
閃雷を喚ぶ如く号べば、電脳ゴーグルに紫電を疾らせたエルが動き出す。
「飛行ユニット出力全開、最高速290km/hを解禁。L95式全射撃兵装を二門一対で展開。照準、敵方発射装置射出口」
其は【嵐の王・多用途空戦】(ワイルドハント・マルチロール)――搭載兵装及び航空性能を飛躍した戰闘機兵が、コントレイル(凝結軌道)を描きつつ穹を滑る。
『ッッ、させるかよ――!!』
劔呑を察したクライング・ジェネシスは咄嗟に胸部を隠すが、冱彈の威力と手甲部強度を計算したエルは躊躇わず銃爪を引き、斉射――ッ! 掌手を貫き、胸部に悪魔の冱彈を捩じ込んだ!!
『ッ、ズァァアアアッッッ――!!』
チャージを並行していた装置が衝撃に揺らぎ、胸部に雷流が疾走る。
飜筋斗打った巨邪が膝を沈めれば、丁度其処には、八達嶺長城の最高地点「北八楼」に仁王立ちした物九郎が、怜悧な獣の瞳で見下ろしていた。
†
「――頃合いか」
煙幕は十分に張れた、と此処に機を見たギージスレーヴが嗤笑う。
己が幻影と交戰していた可憐は、鐵彈火砲の応酬を制するのが目的に非ず。
激戰によって広がる砲煙を以て視界を遮り、巨魁クライング・ジェネシスの目を欺く事こそ主目的だったと、銀の双眸に炯光が疾走る。
「余の幻影よ、尚も追い縋るならば――其の火砲、彼奴に呉れてやれ!」
ギージスレーヴは背後に迫る連装電磁砲の光条をギリギリで躱しながら、麗瞳は真直ぐ【機甲武装・高速殲闘】(シュネラ・ドラッヘ)――愛騎『ヤークト・ドラッヘ』を高速殲闘形態へ移行し、巨邪に向かって吶喊した!
「醍醐に勝る余の“至悦”、叩き込んでくれよう」
『ハァ――ッ!』
近距離より放たれる火砲は――遁れられない!
また少女の吶喊に合わせ、ピオニーが紅炎の魔矢を射た事にも肝を冷やしたろう。
「過程は褒められたものじゃないけど、強大な力を得るまでに至る意志は凄いわ!」
『貴様ァッ、褒めてんのか貶してんのか……どっちにしても恨むぜぇ!!』
共感も理解も要らぬ、と彼女の言と共に魔矢を拒む。
然し彼女の意志、渾身の魔力を注いだ紅炎は明々と燃え上がり、高速詠唱に次撃を重ね――275本の炎鏃を二度も射られば、激痛と焦熱が防禦の手を阻もう。
「まあ私も負けないけど! 意志と意志のガチンコ勝負じゃい!」
『ッッ、ズァァアッ!!』
意志に圧されたか、巨邪は胸部に痛烈な連撃を浴びて蹈鞴を踏んだ。
――そして、この瞬間。
「射線が、視えました」
次々と襲い掛かるオブリビオンを吹き飛ばし、己と対象を結ぶ一直線を見出したマギアは、身ごと光矢の如く敵懐に飛び込み、拳閃――捨て身の一撃を叩き込んだ!
『ガァア、ッハ……!!』
「ッッ、ッ……ッ!!」
発射装置の外殻に亀裂を疾走らせる致命打は、然し主にも相応のダメージを負わせる。
「……既に呪縛を解いて激痛を得ていれば、多少の、痛みは……ッ」
柳眉を顰め、花唇を引き結んで耐えるマギア。
頬を掠める装置の破片が、彼女の戰果を肌膚に刻んだ。
「――道が開かれた」
マギアが射線を見出した瞬間、同じく其処に突破口を見たのはネグル。
彼は向かい来るオブリビオン、プルトン人の一体を引っ掴むと、丁度マギアが亀裂を疾らせた装置の発射口目掛けて躯を捩じ込むと同時、拳から衝撃波を放って押し込める。
「送り返してやるよ、元の所に」
『むぅぐッ!!』
「今までは無敵で何とも無かったろうが……発射が暴発したら如何なる? 無敵は永続? ──否だな、であればずっと無敵でいれば良いのだから!」
言った矢先だった。
常にオブリビオンを排出し続ける装置は、内部で暴発して本体にダメージを与え、無敵と立ち塞(はだか)っていた巨躯が大きく傾く。
『んぉぉおっ!!』
吃驚の聲と共に蹈鞴を踏むクライング・ジェネシス。
この瞬間を好機と見たネグルは、巨邪を射たまま背越しに鋭く発聲し、
「神楽耶。…愚か者に、裁きを!」
然れば間隙なく凄艶は躍ろう。
神楽耶は己が本体たる『結ノ太刀』を抜き、霊気滴る白銀の刃を輝かせて舞い出た。
佳聲はやや婀娜めいて、
「まったくもう、言うだけあって無茶をする。帰ったらお説教ですよ、ネグルさん?」
小気味佳く語尾を持ち上げた凄艶は、然し巨邪に視線を移すや刃の如く鋭くなって、
「――断ち、散らします」
明鏡止水、【神業真朱】――。
今こそ太刀の神髄は顕れよう、真一文字に走(たばし)った斬撃は、胸部から肩口に掛けて水平に鎧冑を砕き、装置の発射口に大きな創痍を沈ませた。
『グァァアア嗚呼ッッ!! 畜生ッ!!』
血飛沫が穹を朱に染め、狂邪の悪罵が響く。
身に疾走る激痛も恨めしいが、醜い肉体が晒された事が何より屈辱であろう。
『オレの鎧が……クソッたれが、やってくれる!!』
クライング・ジェネシスは我が血に滑る拳を握り込め、激情の儘に喊んだ。
胸部の装置に破滅の兆しを見たザザが、鐵彈閃光の合間に淡然を置く。
「ジャスパー、“アレ”をやるぜ」
頃合いだとは、敵の状況と共に此方の損耗を鑑みての事。
蓋しジャスパー自身も限界が視えていて、肩で息をしていた彼は、言を置く様に囁(つつや)き、
「――俺の全部、あんたにやるぜ」
顕現、【リサシテーションの刃】(リビングデッド・ドール)――。
魔竜の血を燃やし続けた彼は、自我を手放すと同時、黒き魔炎に四肢を操られる傀儡と成る。
術者は――ザザ。
彼は『Weiss Fang』、通称“牙”を鋼糸と變えてジャスパーを操り、巧みな人形遣いとなって【鉄血の騎士】を発動した。
「武器の封印は解かれて魔器形態に――」
この瞬間、瀕死の身体から一切のリミットを取り払ったジャスパーは、ザザの手で敵を屠る「武器」に、何もかも燃やし尽くす炎の刃に成る。
そしてザザの優れた視覚と聴覚は、ジャスパーが紅く染まり、断末魔の咆哮を裂くのを聢と知覚したろう。
「四肢から焔を迸らせる、奴は――火の化身“ロキ”」
自我を失ったジャスパーが聴いたか如何かは判別らぬが、斯くもやってのけたのは、偏に相手がザザだったからこそ。
格別の信頼と躯を預けたジャスパーは、白磁の繊指に操られ――、
「パーティやろうぜ」
『な、ン……パーティだと……ッッ!!』
悪戯けてやがるッと聲を絞るクライング・ジェネシスに身を沈めた。
――時を同じくして。
己を映した空蝉と何合も槌撃を交していた珠は、次第に精彩を欠く相手の攻撃に、主たるクライング・ジェネシスの損耗を見出し、動いていた。
「そろそろ“お前”の相手は仕舞いだ!」
脇が甘くなった隙に大きく水平に薙ぎ、幻影を木槌ごと吹き飛ばす。
射線が空いた瞬間に【風渡り】(カゼワタリ)――甃を蹴るや62回、素早く穹へと駆け上がった珠は、更に宙空を助走して加速し、渾身の力を振り絞って巨槌を叩き込んだ。
繊麗の躯から繰り出たとは思えぬ怪力が、巨躯の肩部を覆う紅鎧を砕く――!
『ゲェアッ……ッハァ!! よくもオレの鎧を……砕きやがってッッ!!』
珠の槌撃に振り落とされた幻影は、墜下しざま彼女と同じ灼眼に、我が主の醜い肉体が暴かれる景を映し――影を解いていく。
刻下、蒼穹では強い意志の籠もった佳聲が澄み渡り、
「そこの“俺”は真っ直ぐ俺を見てたが、俺が見てるのはお前だ、ジェネシス!」
『ッ、ッッ……!!』
と、狂邪の矜持を強烈に楔打った。
過去に追われず、未来に頼らず――今、倒すべき相手だけを見据えるは通も同じ。
帯と引いて縋る幻影を振り掃いながら、少年は城壁を駆け上がって喊び、
「本番はこれからだ! ウルトラサンダーボルト雷神丸!」
抜刀して暴かれる刃を勇気に輝かせる。
いま、戰っている人の想いをこの刃に籠める。
然れば刃は応え、天地を紫電に結ぼう――通は凛然の顔を白ませて振り被り、
「行くぜ! これが俺達の刃――ライ! ザン!! バー!!!」
想い、雷に変えて刃と為す――其は【雷斬刃】(ライザンバー)ッ!!
刻下、鎧冑を砕かれて暴かれた醜い肉体に、焦熱滾る電刃撃が撃ち落とされた!!
『ッッズァァアア嗚呼嗚呼ッッッ!!』
ヒーローやヴィランの肉体を接いだ巨魁に電撃が駆け巡る。
鎧を失えば接合部は脆く――膝が崩れ、大地の土を踏んだ。
『畜生ッ! 能力者共がつけ上がりやがって!!』
激痛を罵声と變えて喚く巨邪に、凛冽の聲を置くは菘。
彼女は驟雨と降り注ぐ“過去”に耐えながら、黄金の炯眼に彼の闇を映し、
「お主と妾は似ているのかもしれん」
『――ッ、オレを理解し、共感しようってのかッッ!!』
「だが妾は誰も妬まなかった、奪わなかった」
『ッッ!!』
醜い身体を受け入れ、苛む孤独に克てる場所を自力で作り上げた、と――。
似た様な境遇に在りながら、決定的に行動を違えた両者が、今こそ訣別を置く。
「お主が虚無と過去を操るのであれば、妾は皆の歓喜と未来への希望で、塗り潰し返してくれる! 無様に散れ、弱き簒奪の王よ!」
『ッうぉぉおおおお雄雄乎乎ッッッ!!!』
争覇、角逐、相剋――!!
狂邪の巨拳と異形の剛拳が衝突し、凄まじい波動を突き上げる。
質量では圧倒しながら、その拳圧に押されるとは――クライング・ジェネシスは刹那、脳裏を過った感情を直ぐに噛み砕いた。
其が慥かに「恐怖」であったとは、マリスが証しよう。
「あなたの怨恨も恐怖も、全ては光に浄化(あらわ)れる」
『貴様ァ、いま何言ッたァ!!』
彼が憐みや慈しみを最も忌むとは既に気付いたマリスである。
彼女は高高度に舞い上がるや、儚な白翼『聚楽第』をぎこちなく広げ、告げた。
「あなたに魂の救済を」
『ッ、ッッ……!!』
繊躯を包んでいた光が輝きを増し、十字架の如く迸る聖性に言葉を失う。
マリスは身ごと星と成ると、光彈と化して体当たりし、衝突の瞬間に世界の全てを白に染めた。
「光あれ」
『――ッッ、ッズァァア嗚呼嗚呼ッッッ!!』
丁度、鎧冑が砕かれた肩部に白翼が閃く。
弱った部位を的確に撃たれた巨邪は、大きく身を反らして体幹を崩すが、翻筋斗打って仰様に轉がる無様は認めず――ダンッと踏み締めて留まった。
『ギャアッッハァ!! オレは認めねェ!!』
猟兵の力を認めるか? 却下だ!!
己の恐怖を認めるか? 絶対に却下だ!!
クライング・ジェネシスは、他者の肉体を繋いだ接合部より朱殷の血を噴き出しつつ、嚇怒の儘に死彈を放つが、既にスキャニングを完了したエルなれば、彼の反射を上回る速度で魔彈を撃ち出し、彈道を意の儘に變えていく。
「全彈、射手の望まぬ所へ――軌道を更新します」
『、ンだとォッッ!! だが外れても……漆黒の虚無は、オレに……!!』
斯くして命中を得ず宙を彷徨った死彈は、地に墜ちて虚無となる筈だったが。
其は物九郎が敷いたモザイクに虚しく飲み込まれていった。
『……オレが強くなるんだろ、ッッ!? どうしたッッ!!』
「自分が一番理解ってるんじゃニャーですか」
――然う。
嘗て万里の長城が自領の彊界を示した様に、既に周辺は全て物九郎の王土と塗り替えられており、其処に立つ王の威を膨れ上がらせていた。
「デッドリーナイン・ナンバーゼロ。俺めの『最初のユーベルコード』ですでよ」
『ハァッ……?』
名は【砂嵐の王】(ワイルドハント)。
目標を周到に陥穽ることを好む男の邪知が、完全に王手を決めた瞬間だった。
「……オブリビオン・フォーミュラなァ」
怜悧に、冷然と、語尾を伸ばす。
高楼を蹴って躍動した物九郎は、全身を鞭の如く撓らせて力を練り、虎縞模様の刻印を励起させて振り被る。
『――ッッ、ッ――!!』
クライング・ジェネシスに慥かな恐怖が差した瞬間、佳聲が更に時を止めた。
「援護します。全ての攻撃が届く様に――!」
この時、ミンリーシャンが凛然たるソプラノ・リリコを差し入れる。
彼女はアイスレイピアの鋩を巨邪に差し向けるや、瞳に映る大気を氷結させて氷の階段を作り上げ、空へ穹へ、冱撃を届けに往く猟兵を架け渡した!
『な、にを……ッッッ!!』
然れば天地の区別なく、時を同じくした猟兵が巨邪の視界を埋め尽くす。
鎧兜に秘められた邪眼は、一斉に飛び込む意志にドクンッと虹彩を震わせたろう。
『――ッッ!!』
ここにエルの一斉射撃が、
ギージスレーヴの火砲が、
マギアの捨て身の拳打が、
珠の槌撃が、
菘の拳打が、
ジャスパーを預ったザザの炎刃が、
ネグルの蹴撃が、
神楽耶の刀閃が、
ピオニーの魔矢が、
マリスの翼撃が、
通の雷刃が、
ミンリーシャンの氷結劔が、
そして物九郎の左拳が、
――全ての猟兵の攻撃が一点に集まり、胸部の『骸の海発射装置』を貫穿すると同時、その勢いの儘、背面を衝き抜いて爆発させた!!
『ズァァアア嗚呼嗚呼ッッ――ッ!!!』
今際の絶叫が碧落を突き上げ、激震を疾走らせた大地が長城を波打たせる。
天地を圧倒する凄まじい衝撃だったが、其を勝利の瞬間と受け取った人々は、直ぐにも歓喜の拳を突き上げた。
安堵と狂喜、そして喝采に満つ長城に降り立った猟兵が、人々に笑顔を返す。
「……勝った、な」
「ええ、これでカタストロフは禦がれました……」
漸う勝利を実感した猟兵達は、身に疾走る激痛と損耗に竟に膝を折り、どう、と大の字になって寝転ぶ。
見上げれば、血闘を終えたとは思えぬ程、淸々しい蒼穹が広がっていた――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
鳴宮・匡
◆鎧坂(f14037)と
観光って状況じゃないけどな
ギャラリーが多いのも俺としては面倒だし
まあいいけどさ
思ったこと? …………
(聞くに堪えない英語での最上級の罵倒)
これくらいでいい?
……こういうの苦手なんだよ、さっさと始めようぜ
生み出されるオブリビオンへは通常射撃で応戦
頭、胸、眼や手足の先
敵形状に応じて急所を見極めて的確に射撃で排除する
先手を凌いだら、オブリビオンたちの動きを注視
動きを見切り、本体までの射線が通る瞬間を見極め
一撃目、影の魔弾を確実に当てる
動けない敵だ、射線上の障害物さえなければ目を瞑ってたって当たる
力も命も食い破る【虚の黒星】はお前を逃がしやしない
じゃ、鎧坂
仕上げは頼むぜ
鎧坂・灯理
匡(f01612)と
万里の長城は初めて来るな
確かに見てる暇はないが
相手の無敵は匡が解除してくれるらしい
失敗するわけもないことだし、私はあれを殴ることに集中しよう
よし、さっさとやるか
匡も思うところあるなら言ってやるといい
(罵倒を聞く)はは、案外口が悪いんだな?
いいぞ、溜め込むのは体に悪いからな
念動力で己を浮かせ、空中戦
雑魚オブリビオン共は全員、念動力で押し潰す
邪魔だよ貴様ら ミキサーにかけたみたいにしてやろうか
多少の傷は無視だ、頭だけ守る そうすれば動ける
絶対にあいつに一撃入れてやる
敵の眼前で『黄龍』を使い近距離転移で背後へ
全力の【柘榴衝】をぶち込む
内側からブチ壊してやる
お疲れ、ナイスショット
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
嵯泉/f05845と
行こう、嵯泉
こいつの首持って、生きて帰ろう
さァ過去の残滓ども、貴様らの相手はこの竜だ
呼び出されたオブリビオンを挑発して引き受ける
嵯泉の邪魔はさせてやらないよ
蛇竜の黒槍で応戦する
攻撃は第六感で見切り、最低限の回避を
意識だけは覚悟で繋ぎ止めてやる
視界がぐらついて来た頃が丁度だろう
死ななきゃ安い、ってな
……なあ嵯泉、お願いがあるんだけど
これ終わったら気絶すると思うから、連れて帰ってくれ
はは、それなら安心して気ィ失えるな
――現世失楽、【大いなる冬】
呪われなかった私――叶わない理想
氷の魔術、呪詛の爆発、竜の暴威、全て使ってオブリビオンの群れをなぎ倒せ
ついでにそこの首魁もだ
鷲生・嵯泉
ニルズヘッグ(f01811)
……ああ、往き、必ず帰ろう
あの屑の首を叩き斬ってから、な
しかし先ずは辿り着かねばならん
戦闘知識と第六感の軌道先読みにて攻撃は躱し叩き落とす
多少傷を受けようが激痛耐性で無視して前へと進む
……!
何を仕出かすかと思えば……此の馬鹿者が
――解った。必ず連れて帰るから、其の心臓止めるなよ
万が一止め様ものなら、あの世迄連れ戻しに行くから覚悟しておけ
――往くぞ、幻影の我が友
無敵の張りぼてなぞ意味は無い
漂纂禍解――此の斬撃が齎すのは内なる破壊
此の獄炎の熱は「流れるもの」総てを灼き付かせ枯れ果てさせる
血も神経電流も通らぬ身体では動く事も侭為るまい
愚かな過去の残滓なぞ此の世界に必要無い
夜暮・白
わわ。出てきた途端に大暴れしてる!?
なるべくお客さんがいないところへ走るけど、先手は取られるよね。綺羅針を目晦ましに[投擲]、僕自身は[ジャンプ]で距離を稼ぎながら乱鐘機杖のワイヤーフックも駆使して攻撃をかわすよ。
そのまま空に飛び出して【朧月のまじない】で万里の長城の陰を縫うように回避。無益の蜜玉でここに宿る念を探り、封露連珠で引き出します。幻蛾の鱗粉も分けてあげよう。
演出程度にしかならないけれど、この地を侵すならなら本来の相手は彼らだ。
引き出した力や霊的存在に紛れて発射装置を狙い撃ちます。この場所より重みのある過去は出せないでしょ。下がってもらうよ。
蒼穹を脅かす巨魁が、醜い痛罵を矢雨と降らせ、大地を恐怖に染める――。
悠久の歴史を感じさせる長城には、今や終末を予感させる絶望の景が広がっていた。
「ヒーローズアースはもうダメだ……」
「ボク達、どうなっちゃうの……?」
多くの観光客が悄然と立ち尽くす中、冷艶なるメゾが爽涼を置く。
「万里の長城は初めて来るな」
遅れて来た観光客か。
否、聲の主は鎧坂・灯理(不死鳥・f14037)。
彼女が眼前に迫る脅威――クライング・ジェネシスの討伐に来た猟兵とは、次いで染み渡ったハイ・バリトンが示そう。
鳴宮・匡(凪の海・f01612)は、光悦茶の瞳を辺りに巡らせると、雄壮なる歴史的景観に似合わぬ暴慢に烱光を射た。
「観光って状況じゃないけどな。ギャラリーが多いのも俺としては面倒だし」
「――確かに見てる暇はないか」
互いに嘆声を揃えた時だった。
猟兵の気配――凛然たる意志を気取った巨邪が、鋸を引く様な虐笑を浴びせ、
『ギャーッハッハッハッ! ノコノコとやって来たな、“能力者”!! オレにズタズタに千切られ、潰され、其処でアホ面揃えて見てるクズ共と仲良く地獄に堕ちな!』
云うや刻下、胸部の『骸の海発射装置』よりドス黒い“過去”を放出し、オブリビオンと形を成して続々と長城に投下した。
『ギャアッハァ!! 貴様らが一体でヒーヒー言ってた連中だッ! 湯水の如く垂れ流して、全員まとめて骸の海に押し流してやるぜぇ!!』
大仰に両手を広げ、眼下の猟兵を驕慢に睥睨するクライング・ジェネシス。
あまりに一方的な罵声と先制攻撃が、この者の怨嗟に塗れた稟性を示していたが、其に気圧される猟兵は居るまい。
灯理は轟然と降り注ぐ悪罵の中、靜かに流眄を注ぎ、
「匡も思うところあるなら言ってやるといい」
「思ったこと? …………」
硬質の指を細顎に添え、暫し思案した匡は、視線を狂邪に戻すや「聞くに堪えぬ最上級の罵倒」を英語で浴びせ返し、沈着たる灯理を幾許か瞠目させた。
「これくらいでいい?」
「はは、案外口が悪いんだな? いいぞ、溜め込むのは体に悪いからな」
灯理がくつくつと窃笑したのが、和やかな空気の結び。
彼女が長い睫を持ち上げた瞬間には、匡はアサルトライフル『BR-646C“Resonance”』の銃口をオブリビオンの群れに注いでおり、
「……こういうの苦手なんだよ、さっさと始めようぜ」
「よし、さっさとやるか」
そっと首肯を添えた灯理は、無数の術式を編み込んだ『鳳凰』を翻して宙に浮く。
匡は長城の甃に、灯理は高楼より高く――天地に布陣した二人は、間もなく怒涛と押し寄せるオブリビオンと交戰した。
「わわ。出てきた途端に大暴れしてる!?」
胸部の『骸の海発射装置』から放出される“過去”は變幻自在。
時にオブリビオンの形を成して降り注ぎ、或いは猟兵の姿を映して戰わせる。
一条と束ねられて虚無のビームを放つ事もあれば、粒と分れて驟雨となり、大地を我が陣地と染める――。
其は正に夜暮・白(燈導師見習・f05471)の言う通り「大暴れ」であったろう。
『ギャーッハッハッハッ! チャージ中でも色々と使えるんだぜェ!』
暴慢と醜聲を降らせるクライング・ジェネシスを、ベールの陰から覗く白。
少年は飛雨と降り注ぐ“過去”が漆黒の虚無を広げる事に気付くと、長城に留められた観光客から離れるように甃を疾走る。
「綺羅針を目晦ましにして、先ずは距離を稼ぐ……!」
距離の分だけ回避にも反撃にも転じられると、『乱鐘機杖』(ハウリング・ワンド)よりワイヤーフックを伸ばし、今度は垂直方向に回避。
紫紺のローブを翻した彼は、そのまま穹へ――!
「万里の長城の陰を縫って、虚無に捕まらないようにしよう」
顕現、【朧月のまじない】(リアライズド・テンポラリリー)――。
月色の魔梟に變身した白は、間断なく降り注ぐ“過去”を力強い羽搏きに躱しつつ、左の義眼『無益の蜜玉<D2340 bi-OS>』に不可視の存在を視る。
「何千年もの間に、此処では多くの戰があった筈」
長城に宿る念を探り、『封露連珠』(ヴァラエティ・スペル)で引き出す。
「この地を侵すなら、本来の相手は“彼ら”だ」
猟兵の戰況を見守る観光客には視えぬが、不可視の存在は然し慥かに在る。
白は次々と喚び出した霊的存在に紛れつつ、風となって翔け抜けた。
『ギャーッハッハアッ! 貴様ら“能力者”に積年の恨みをブチかます時が来た!!』
嘗ては無能力者だったというクライング・ジェネシス。
持たざる者だったからこそ、与えられし者が恨めしい彼は、鎧兜に隠れた邪眼に猟兵を睥睨しつつ、煙脂(タール)の様に粘着いた“過去”を放って彼等の進撃を阻んだ。
『ギャアッハァ!! 舞台は整った、観客も居る! 公開処刑だぜぇ!!』
怨恨も募れば狂怒と變わらぬ。
胸部に装填された『骸の海発射装置』の脅威も然る事ながら、其の稟性に底知れぬ闇を視た猟兵は、決して彼奴にカタストロフを起させてはならぬと凛然を萌した。
「――行こう、嵯泉」
「……ああ、往き、必ず帰ろう」
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)と鷲生・嵯泉(烈志・f05845)も、犀利な烱眼を巨邪に注いだ儘、跫を揃えて殺伐の戰場に踏み入る。
二人は命を惜しみは為ないが、粗匇(ぞんざい)に扱う事も無い。
長城の甃を砂利ッと踏み込んだ男達は、冷儼の聲に慥かな誓いを結ぶと、轟然と立ち塞(はだか)る巨壁を睨めた。
「あの屑の首を叩き斬ってから、な」
「こいつの首持って、生きて帰ろう」
時に須臾。
二人の影を飲み込む程のオブリビオンの群れが、塊となって穹から襲い掛かる。
然れば嵯泉は『秋水』と『春暁』の二振りを抜き、霊気走(たばし)る刀鋩に迎えるや穹に血煙を繁噴かせた。
「先ずは辿り着かねばならん」
地には我が血が淋漓と滴るが、構わない。
柘榴にも似た赫い隻眼は、間断を許さず飛び込む追撃に烱光を絞りつつ、鋭爪を躱し、拳閃を叩き落し、怒涛を切り裂く舳先の如く進んだ。
「嵯泉の邪魔はさせてやらないよ」
彼の歩武が止まらぬよう、ニルズヘッグは威勢佳く聲を発して、
「さァ過去の残滓ども、貴様らの相手はこの竜だ!」
硬質の手に喚ぶは黒蛇竜『Ormar』――黒き長槍に姿を變えた愛竜を旋回し、碧落に鳴かせた黒翼の竜人は、一陣の風と成って狂邪の群れを蹴散らした。
†
「フォーミュラの無敵を解除する」
「では、私はあれを殴ることに集中しよう」
天地に別れて布陣する際、短く言を交して戰術を共有した匡と灯理は、距離を隔てつつも巧みに連携を取っていた。
「――唯の人形にしてやる」
次々と襲い掛かるオブリビオンを鐵鉛に邀撃する匡は水を打ったよう。
彼は怜悧冷静に、精確精緻に敵の武器を彈き、或いは急所たる頭、胸、眼を着実に撃ち抜いていく。
一方、念動力で宙を自在に駆る灯理は、狂濤の如く押し寄せるオブリビオンを超常の力に圧し潰し、
「邪魔だよ貴様ら。ミキサーにかけたみたいにしてやろうか」
『グッッ、ヲッ!!』
『ゲァァア……ッッ!!』
不可視の脅威が邪悪の群れを長城の甃に押し付け、捩り、摺り潰す。
醜い悲鳴が次々に朱殷の血溜りと化す中、クライング・ジェネシスは尚もオブリビオンを排出し続け、猟兵の損耗を狙った。
『ギャーッハッハッハッ! 無駄だぜぇ! “過去”が尽きる事はねェんだからよ!』
絶望に染まれ、と虐笑が穹を震わせるが、匡の腕に信を寄せる灯理は屈しない。
続々と猛攻を掛ける敵群に、常を變わらぬ凛冽の聲が置かれ、
「多少の傷は無視だ、頭だけ守る。そうすれば動ける」
彼女は致命傷だけは間際で回避しつつ、多くの創痍を許す代わり、首魁に近付く瞬間を見極めた。
『ギャーッハッハッハッ! 良い気味だぜぇ、終末に相応しい血宴じゃねぇかよ!』
穹より虐笑を注ぐクライング・ジェネシス。
己は無敵の巨壁と聳立するだけで、胸部の『骸の海発射装置』が常に大量のオブリビオンを放出してくれるのだ。
彼は血の海で踊る猟兵を睥睨しながら、嗜虐の笑みを浮かべていた。
「……っ、っっ」
「――ッ!!」
嵯泉もニルズヘッグも、本能に根差した戰闘勘を研ぎ澄まし、また歴戦を潜って積み上げた経験によって巧みに立ち回ってはいたが、敵の圧倒的物量に損耗を余儀なくされる。
続々と投入されるオブリビオンを挑発し、より多くの猛撃を集めていたニルズヘッグの創痍は特に酷い。
攻撃を見極め、致命傷だけは回避しながら返報の槍を突き入れていた彼は、視界がグラついてきた頃が頃合いと、我が血に滑って躯を傾ける。
「――死ななきゃ安い、ってな」
「……! 何を仕出かすかと思えば……此の馬鹿者が」
冷たい甃に長躯が沈む前に、咄嗟に手を伸ばして肩を支える嵯泉。
何処に深手を負ったと、緋瞳が揺れ動くのを視たニルズヘッグは、蒼白い唇に僅かな咲みを挿し、
「……なあ嵯泉、お願いがあるんだけど」
我が金瞳に聢と結ばれた視線を手繰る様に、そっと言を足した。
「これ終わったら気絶すると思うから、連れて帰ってくれ」
然れば男は真直ぐに聲を返して、
「――解った。必ず連れて帰るから、其の心臓止めるなよ」
「はは、それなら安心して気ィ失えるな」
「万が一止め様ものなら、あの世迄連れ戻しに行くから覚悟しておけ」
「……ああ」
――嗚呼。
この男の傍なら、己は己を手放せる。
意識を手放す間際まで、嵯泉のカヴァリエ・バリトンに紡がれる科白を聴いたニルズヘッグは、然して「白翼を具す金色の竜」と姿を變える。
――現世失楽、【大いなる冬】(フィンブルヴェトル)。
其は届かぬ儘に描いた「理想」が、裡より食い破り顕現した――「呪われなかった」己の姿。
耀ける竜鱗には聖性すら感じようか。
美唇を引き結んで彼の變容を見届けた嵯泉は、今なお溢れ出るオブリビオンの群れに炯眼を注ぐと、儼然と相対し、
「――往くぞ、幻影の我が友」
肌膚に爽涼の風ひとつ。
竜翼の羽搏きを応えと受け取った。
「幻蛾の鱗粉も分けてあげよう」
最高速度175km/hに至る飛翔能力があれば、飛雨と降る“過去”も十分に躱せる。
万里の長城に眠る霊的存在――多くは守人であったろう戰士達に力を与えた白は、己は長城の地形を利用して絶好の狙撃位置を探る。
嘗ては騎馬に優れた遊牧民族を排撃した要所なのだ。
「この場所より重みのある過去は出せないでしょ」
地の利を十分に引き出した少年は、今度は右の義眼『知恵の蜜玉<D2340 OD+NV>』に視力を強化し、発射装置に至る射線を見出して――銃爪を引いた。
「下がってもらうよ。クライング・ジェネシス」
『――ッッ!!』
全き死角からの一撃に、方向を辿る余裕も無い。
暴慢の狂邪は胸部に鋭い衝撃を受け取るや、ごぶりと“過去”を零し、一瞬、時を止める――。
その瞬間こそ、戰場を同じくした猟兵が攻勢に転じる起点となった。
†
「――見えた」
時に須臾。
無数のオブリビオンが降る穹に、クライング・ジェネシスまでの射線が通る瞬間を見極めた匡が、間隙を置かず銃爪を引く。
端整の唇は靜かにさやかに囁(つつや)いて、
「動けない敵だ、射線上の障害物さえなければ目を瞑ってたって当たる」
座標を違えぬ大きな的を撃つ――匡には樂な仕事だ。
彼は裡に潜む“全てを滅ぼす影”を宿した魔彈を撃ち出すと、己が視た射線の通りに彈道を描いていく黒影を見送る。
「力も命も食い破る【虚の黒星】(アナイアレイト)は、お前を逃がしやしない」
最強のユーベルコードも、無敵の鎧冑も、滅びの前では等しく無意味――。
主の儼然たる聲に送り出された魔彈は、正に装置の発射口に命中し、「オブリビオンを放出し続ける」能力と、「あらゆる攻撃に対し無敵になる」能力を無効化した。
『んなァァアアにぃぃッッッ!!』
匡は巨邪の叫びを聴くより、灯理の労いの言葉を受け取ったろう。
「お疲れ、ナイスショット」
「じゃ、鎧坂。仕上げは頼むぜ」
後は任せた、と銃口を降ろす仕草ひとつにも、彼女に寄せる信頼は瞭か。
匡より仕事を引き継いだ灯理は、クライング・ジェネシスが驚愕に時を止める間、能動補環『黄龍』を使って敵背に転移する。
「絶対にあいつに一撃入れてやる」
覚悟の科白は果して眼前で聴いたか、背後で聴いたか。
巨邪はヒヤリと迫った聲の方向を辿るより先、我が奥部より爆ぜる衝撃に慄然して、
「内側からブチ壊してやる」
『ッ、ッッ――!!』
発動、【体術:柘榴衝】(ザクロショウ)――!
繊手は拳を打ち込むと同時、防御無視の破砕念波を流入させ、ヒーローやヴィランの身体部位を継ぎ接ぎしたという肉体を、筋繊維から細胞まで破壊した!
『ぐっっ……ォォオオヲヲ嗚嗚!!』
絶叫――!
天地を震わせる邪の咆哮に、戰況を見守る観光客達が緊張を嚥下した。
――時を同じくして。
嵯泉とニルズヘッグ……白翼の金竜もまた狂気の海を割り、首魁の懐に辿り着こうとしていた。
『ゲェァア嗚呼!!』
『ギャヒッッ!!』
氷の魔術。呪詛の爆発。竜の暴威。
ニルズヘッグと同じ攻撃手段を以て、更に高い魔力と攻撃力にオブリビオンの群れを薙ぎ倒し、クライング・ジェネシスに到る道を切り開く翼竜。
狂邪の悲鳴を組み敷きながら、血煙の中を敢然と進んだ竜と嵯泉は、当初に交した誓いの通り、大将首を獲るべく殺伐の風を裂く。
「無敵の張りぼてなぞ意味は無い」
烱光を帯と引いた隻眼には、醜い肉体を隠した鎧冑も虚しく映ったろう。
嵯泉は二刀に獄炎を迸らせるや、渾身の力を絞って灼熱滾る斬撃を振り落ろす。
「此の斬撃は内なる破壊を齎し、此の獄炎の熱は『流れるもの』総てを灼き付かせ、枯れ果てさせる」
『――ッッ、ッ!!』
名を【漂簒禍解】(ヒョウサンガカイ)。
耀ける光条が逆袈裟に疾走って穹に抜ければ、クライング・ジェネシスは大きく仰け反って蹈鞴を踏み――体勢を立て直さんとするも、躯は微動だに為ず!
『こ、れは……っ!』
「血も神経電流も通らぬ身体では、動く事も侭為るまい」
『クッ、ッッ……ォオッ!!』
巨躯が反って固まれば、鎧兜に隠された咽喉も暴かれよう。
白き双翼の竜は、美し黄金色を輝かせながら其の喉笛に噛み付き、虐笑を転がしていた息の根を摘んだ。
『ッッ……ッ、ッ……!!!』
笛を切られては今際の絶叫も挙げられず。
クライング・ジェネシスは自ら招いた沈黙の中で嵯泉の言を聴き、
「愚かな過去の残滓なぞ此の世界に必要無い」
『ッ……ッッ――――』
この瞬間。
鎧冑が砕け、ヒーローやヴィランの身体部位を移植した肉体が解ける――。
大地に沈むより早く漆黒の虚無と化したクライング・ジェネシスは、猟兵の勝利に歓喜する観光客や、血闘を制して呼吸を置く英雄の姿を見る事なく――果敢無く霧散した。
虐笑を喊んだ男には、あまりに靜かな終焉。
蓋し其の靜謐こそ、何より饒舌に猟兵の制勝を喊ぶ様だった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴