アースクライシス2019⑱〜ポリューション・ハザード
どんと置かれた高さ3メートルの薄型大画面テレビ。自らのグリモアたる液晶画面の隅、積み木で作った台座に立ったシーカー・ワンダーは両手を口元に据えて呼びかけた。
「皆さーん! スカムキングの討伐に、ご協力くださーい!」
ヴォンと音を立ててテレビ画面が点灯し、投影されたアメリカの地図がズームアップされる。フォーカスされたのは、ニューヨーク州ナイアガラ・フォールズ市。そこを通る川にワンダーの差し棒があてがわれた。
「もうご存知の方もいるかもしれませんが、『ラブ・キャナル』川がスカムキングの拠点に改造されていることがわかりました! 川の地下に要塞都市が作られていて、ここでUFOの改造が行われているようなんです」
画面が川の地下を横から見た断面図に切り替わる。デフォルメされた地下都市の上に大きなUFOのアイコン。周りに『逃走用に改造中』『エコじゃない』『プルトン製』などのテロップが浮かぶ。
「スカムキングはスーパープルトンからUFOをもらって、宇宙に逃げようとしてるみたいです。で、この改造UFOは沢山の物資を運び出せるようになっているんですが、代わりに物凄く環境破壊に悪いみたいなんです」
UFOのテロップが『排気汚染』『エコじゃないエネルギー』『危ない廃棄物』に変化した。スカムキングのUFOは、産業革命時代もかくやの大汚染を引き起こす死の方舟だ。現在は改造作業の真っ最中だが、もし発進すればスカムキングは自らの勢力を保持したまま宇宙に逃走。ナイアガラ・フォールズを命無き破滅の世界にしてしまうだろう。
「UFOの完成予定は、11月30日。それまでにスカムキングの命のストックを削りきって、復活できないようにする必要があります。ただ……向こうも邪魔されるのは想定内みたいでして。こっちはスカムキングに待ち伏せされる形になってしまうんです」
ワンダーのテレビがスカムキングのバストアップを大写しにする。
スカムキングはいかなる方法でか猟兵の侵入を察知し、必ず『ダスト・テリトリー』によるアンブッシュをかけてくる。これは周囲の無機物を汚染汚泥やスカムスモッグにする能力であり、猟兵の武器や、場合によってはユーベルコードによって召喚された物でさえ毒物にしてしまう危険な攻撃だ。
無策に赴けば、一瞬で制圧されることは確実。下手をすれば毒沼に沈む肥しと化す。何かしらの対策を練って挑むべきだろう。
テレビ映像が街を空から見た風景にスイッチ。
「それともうひとつ。スカムキングの街は有害物質の霧で覆われていて、物凄く臭いです。あんまり長居すると猟兵でも倒れてしまうかもしれません」
現在の地下都市はただでさえ有毒な上、スカムキングの能力によって毒の量は恐るべき勢いで増えていく。しかもスカムキングはそんな空間でも全く問題なく動けてしまうということも考慮にいれておくべきだろう。
ワンダーはポフポフと両手を叩いた。
「それじゃ、作戦タイムです! 準備が出来たら声をかけてくださいね。いつでも転送できますので!」
鹿崎シーカー
ドーモ、鹿崎シーカーです。ヒャッハッハ! 汚物は消毒だァ!
●舞台設定
ニューヨーク市ナイアガラ・フォールズ市の地下に広がる都市です。薄暗く、立ち込めるスモッグにより吐き気を催すレベルの異臭に包まれています。UFOの場所は不明で、猟兵が侵入すると同時にスカムキングがアンブッシュを仕掛けてきます。スカムキングがどうやって猟兵の侵入を探知しているかは謎に包まれています。
●第一章『スカムキング』(ボス戦)
かつてダストブロンクスを恐怖で支配した「肥溜めの王」です。汚泥の肉体に超国家級の膨大な汚染物質を保有し、一心同体の愛人アシュリーと連携攻撃を繰り出します。
スカムキングは必ず、『ダスト・テリトリー』による先制攻撃を行います。これに対処できなければ、如何に猟兵の武装と言えども丸ごと汚染物質化され、無力化されてしまうでしょう。
プレイングボーナス:スカムキングの先制攻撃を防御し、反撃する。
アドリブ・連携を私の裁量に任せるという方は、『一人称・二人称・三人称・名前の呼び方(例:苗字にさん付けする)』等を明記しておいてもらえると助かります。ただし、これは強制ではなく、これの有る無しで判定に補正かけるとかそういうことはありません。
(ユーベルコードの高まりを感じる……!)
第1章 ボス戦
『スカムキング』
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POW : キングアンドクイーン
自身の【体重60kg】を代償に、【体内から飛び出した破壊魔術師アシュリー】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【肉弾戦を挑むスカムキングとの連携攻撃】で戦う。
SPD : スーパートニックナイトメア
【アシュリーが禁断の呪文をかけ続ける】事で【近付くだけで敵を侵食する超汚染存在】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : ダスト・テリトリー
自身からレベルm半径内の無機物を【汚染物質】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
イラスト:V-7
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ヴィオレッタ・エーデルシュタイン
先制攻撃のダストテリトリーはレベルmまで。
ならばこちらはその外から攻撃するまでよ。
ユーベルコード【千里眼射ち】でレベル47の二乗mの射程2,209Mが射程内。
巨体だから霧の中でもシルエットぐらいは見えそうね。
「アウトレンジで狙い撃つわよ」
技能のスナイパーも使って命中率を上げ、1射目が汚染物質に変えられてしまうことも想定して2回攻撃も使用。
「さて、これならどうかしら?」
宮落・ライア
ダストテリトリーが先制攻撃か。
ふむ。
まぁ武器は持っていっとくか。囮に使う。
武器なんてただ単にリーチを得るとかそんな物だし。
そんで汚染物質を操るとは言っても範囲がある。
武器を無力化して距離を取らせたと思えば慢心もしよう。
本命は~…
【力溜め・怪力・気合い・衝撃波】【見えざる手】
離れた位置で思いっきり力を溜めて、全力全開で
視認不能な拳を巨大化させてぶん殴る。
ボクは武装で闘う猟兵ではなく、
自分を強化して戦う猟兵なんだよなー。
ラモート・レーパー
「自分の存在に後悔するといい!」
UC対策
自分の小柄さを上手く利用して、スカムキングの側をちょこまかと動き回る。こうすれば、スカムキングの攻撃を躱しつつ、アシュリーは誤射を恐れて魔法を使えないはず。
攻撃自体は自分のUCを発動するまで折った角のナイフで敵をひたすら切り込む。浅くて良いひたすら傷をつける。UCで免疫不全になる病魔をばら撒く。敵が感染すればこの劣悪環境下破傷風を始め多くの感染症の合併は避けられまい!
ナイ・デス
私は、ヤドリガミ
本体無事なら、そのうちに再生する、ですが……
ここで倒れたら、神隠しなどで転移まで、汚染され続けて、再生できなさそう、ですね
スペースシップワールドで、恒星に突っ込んでしまった時を、思い出します
……すぐに燃えて、意識失いましたので、全然覚えていませんが
まぁ、あの時ほどでは、ない、ですね!
【覚悟、激痛耐性】で汚染に耐え
ええ、汚染され、再生が追いつかないなら
逆に再生し、汚染を追いつかせません
『いつか壊れるその日まで』再生します
汚染物質も、今に在るものであるなら、その力を【生命力吸収】して消滅させます
そうして、力に変えながら【ダッシュ】
【鎧無視攻撃】で黒剣、突き放ちます!
クネウス・ウィギンシティ
アドリブ&絡み歓迎
一人称:私、自分
二人称:君、貴方
三人称:〜(名前)さん
「産業廃棄物は正しく廃棄せねば」
【POW】
●ダスト・テリトリー対策
(臭い対策に専用の【防具改造】を施したガスマスク着用:顔IC参照)
●POW対抗
「連携攻撃ですか、ならば……」
スカムキングの攻撃は『パイルバンカー』による【武器受け】、アシュリーに対してはスカムキングに接近し狙いにくくし『サーチドローン』の【牽制射撃】で妨害。
多少のダメージは覚悟し時間を稼ぎます。
●戦闘
「身体とエネルギーバイパス接続完了」
「マイクロブラックホール生成。投射!」
汚染物質を吸っても吸引力の変わらない小型のブラックホールを作成し投射します。
メンカル・プルモーサ
……汚染物質まき散らして逃げられたら迷惑だから……ここで仕留めないとね……
…汚染物質化の対策として予め状態固定術式を刻んでおいて装備の汚染物質化を防いでおこう…
その上で汚染物質の毒素に対しては中和剤を撒くことで一時的に対処…
…時間を稼いでいるうちに【尽きる事なき暴食の大火】を発動させて汚染物質を飲み込むよ…
…後は炎を操ってスカムキングを取り囲んで攻撃…
…それと…この汚染物質の変換・操作はUCによる物だから…その仕組みを解析して…【崩壊せし邪悪なる符号】で解除してしまおう…そうすれば仲間への援護にもなるはず…
……汚物は消毒しないとね……
マリス・ステラ
「主よ、憐れみたまえ」
『祈り』を捧げると星辰の片目に光が灯り全身に輝きを纏う
【光をもたらす者】を使用
蝶の姿をした星霊達が舞い上がる
「揺蕩えども沈まず」
『オーラ防御』の星の輝きを球形状に展開
汚染物質が触れる端から『カウンター』の星の煌めきで相殺
「灰は灰に、塵は塵に」
オブリビオンは骸の海に還します
弓で『援護射撃』放つ矢は流星の如く
響く弦音は『破魔』の力を宿して敵の動きを鈍らせる
星霊達も光線を『一斉発射』
それは光の奔流となって降り注ぐ
「あなた達に魂の救済を」
『封印を解く』と聚楽第の白い翼がぎこちなく広がり輝きを束ねる
翳した手を振り下ろす
星の『属性攻撃』は質量を伴う巨大な光弾
「光あれ」
世界が白に染まる
ヒルデガルト・アオスライセン
場の清浄化、もしくは壁を担当。空いてる方へ
先制のダストテリトリーを
氷結の属性攻撃&拠点防御でせき止めて
浄化の刃で裂き、汚染物質を塩に換えます
大地に、浄化の刃で六芒を記し
拠点防御から、UC制御用の小さき聖域を作成
持ち込んだありったけの聖水瓶を媒体に
エレメンタル・オードで浄化の嵐を喚び起こします
有害毒の沼と霧を緩和・相殺、ダストテリトリーの鈍化、鎮圧
スカムキングにとって不快な空間を生み出します
タンカーならば本体をひたすら足止めします
聖水瓶で相手からの攻撃を吹き飛ばし
アシュリーのコンビネーションには閃光瓶・爆音瓶で目、耳を攻撃して禁断呪文を中断させ
浸食汚染体に対して聖水オーラを纏い、時間稼ぎをします
ナイアガラ・フォールズ市、ラブ・キャナル川地下に建造された汚染都市―――。
都会のマンション地帯じみた極太の高層建築が、遥か高みを塞ぐ天井を大黒柱の代わりに支える。
光源は点々と並ぶ街灯のぼんやりとした光。暗黒スラム街めいた陰鬱な空気を、黄色の霧が薄っすらと包む。
静かな汚染都市の中を、大振りな機械ガスマスクとゴーグルを装備したクネウス・ウィギンシティ(鋼鉄のエンジニア・f02209)は慎重に進む。右手に純白のエネルギーソード、左手に縦長のシールド。視線や切っ先をあちこちに向け、周囲警戒を怠らない。
「……反応なし。妙ですね。話によれば、もう捕捉されているはずですが。メンカルさん、そちらは?」
「……こっちも。んー……ちょっと、危ないかも……?」
クネウスの後方、いくらか離れた場所を歩くメンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)がタブレット端末を視界の端に収めた。デジタル汚染メーターが乱高下。もはや生半なソフトでは解析不能なレベルの致死的汚染に取り囲まれているのだ。
白いローブが発するペールブルーの光を身にまといつつ、メンカルはさらに後方を振り返った。
「……私の汚染度メーター、振り切れてるけど。……大丈夫?」
「問題、ない、です」
応えたのはマフラーを口元まで引き上げたナイ・デス(本体不明のヤドリガミ・f05727)。さらにナイに続いて歩く宮落・ライア(ノゾム者・f05053)が、骨製巨大出刃包丁めいた大剣を担ぎながら逆の手で鼻をつまんでいる。表情は険しいしかめ面。
「予想はしてたけど、なんて臭いだ。沸騰する汚水で生ゴミとシュールストレミングをコトコト煮込んでるみたいな……ああクソッ」
ライアは鼻をつまんでいた手を開き、口元を覆い隠す。舌に触れた街の外気が、彼女の味蕾に泥じみてへばりついた。喉の奥をツンと突く痛み。腹に力を込めてせり上がってくる中身を押さえつけ、ライアは堪えるように言った。
「臭いが酷すぎて出所がわからない。この街全部がスカムキングだって言われても納得するよ。いい加減鼻が曲がりそうだ……!」
それを聞き、ラモート・レーパー(生きた概念・f03606)が怪訝な顔で街中をぐるりと見渡した。コンクリートの巨大樹海じみて居並ぶ高層建築。上方はロンドンスモッグの如き濃い霧に覆われ、下からでは伺い知れぬ。ラモートは鼻を鳴らして臭いを嗅いだ。
「死の匂いがさっきより濃くなってる。……ってことは、今ぼくたちはアイツの腹の中に向かって進んでるわけ?」
「スカムキングのお腹、汚そうで、嫌ですね。私でも、再生できなさそうです」
ナイが余ったマフラーを口元にぐるぐると巻く。クネウスはゴーグルの奥で物影や霧の向こうに目を光らせつつ、呟く。
「この街全部は言い過ぎにしても、スカムキングは何らかの方法でこちらの位置を把握しているとのことです。少なくとも、誘い込まれているのは確かでしょうね」
「……クネウス。ドローン、飛ばしてみる? 何か、わかるかも……」
クネウスはメンカルを肩越しに振り返り、頷いてみせた。メンカルが銀の杖を地面に突き立てた場所から青白く光る魔法陣が展開。白いローブの裾が超自然の風に吹き上げられて翻るのを遠目に、殿を務めるヒルデガルト・アオスライセン(リベリアス・f15994)は渋い面持ちでぼやく。
「……嫌な空気」
「同感です」
ヒルデガルトの隣で、マリス・ステラ(星を宿す者・f03202)。への字に曲がった唇に差した口紅が、仄かな桜色に光る。霧に隠された天蓋を見上げる星型の瞳からは感情を読み取れぬ。手の平を雨受け皿めいて上げたマリスは、黄色く曇った街に目を細めた。
「穢れに満ちた命無き地、星の見えない空。これは、地上にあって良いものではないはず。早く元を立つべきです」
「それは……そうなのだけど」
ヒルデガルトが煮え切らない口調で言い、目を閉じて眉間に人差し指を押し当てた。
「別に、そういう意味で言ったのではないのよね……」
「?」
きょとんとした表情で小首を傾げてくるマリスに、ヒルデガルトは首を振る。
「なんでもありません。……少し、昔のことを思い出しただけですから」
「……?」
マリスが不思議そうにしたその時。SNIFF! 一際大きな鼻の音が地下街に響いた。まなじりを鋭く逆立てたライアがメンカルを呼び止める。
「ん、待った。この臭い…………上かっ!」
ライアが反射的に真上を向いた瞬間、天蓋じみた黄色い霧から垂直落下する大柄な影有り! 薄汚いダスターコートを着込んだ肥満体のヘドロ肉体。肥溜めの王スカムキングが上空からストンピングアンブッシュをかけてきたのだ!
「YEAHHHHHHHHHHHッ、ハァ―――――――――ッ!」
「下がって!」
ヒルデガルトが鋭く声を張り上げて地を蹴った。銀靴の底がスラスター噴射して加速させると同時に、スカムキングの真下にいたナイとライア、ラモートが前後に跳び下がりストンピング射程から退避!
SQUAAAAASH! 地下都市を地鳴りが揺るがし、衝撃波が回避行動を取った三人に汚染スモッグの風を吹き当てる。巨大な蜘蛛の巣状の亀裂を生み出したスカムキングは、吊り上がった右目を下卑た笑みの形に細めた。素早く飛び下がる猟兵たちを見つつ、拳を握る。
「よお、お客様方。道に迷ってお困りと見たんで、観光案内に来てやったぜ。たっぷり楽しんでいきな……俺の、ダスト・テリトリーをォォォッ!」
スカムキングは汚水めいて濁った暗緑色のオーラをまとい、足元にパンチを繰り出した! CRAAASH! 手首まで埋まった彼の手を核にしてさらなる亀裂が広範囲に拡散! 左右に立ち並ぶ高層建築までもがひび割れた瞬間、亀裂の隙間から黄色いガスと汚泥が噴出。猟兵を飲み込まんとす!
「素っ裸にして埋め立ててやるぜ! ここのベッドは暖けぇからよォーッ!」
スカムキングが叫ぶと共に、ビルもヒビから黄土色のヘドロを吐き出しながら崩落した。GLOOOOOP! 粘ついた黄土色のヘドロが地に落ち、津波じみて距離を取る猟兵たちに押し寄せていく。クネウスと一緒に跳び下がっていたメンカルは杖を掲げた。
「忍び寄る破滅よ、潜め、追え。汝は炸裂、汝は砕破。魔女が望むは寄り添い爆ぜる破の僕。……中和剤、充填」
杖先の三日月型装飾が青白く輝き、スカムキングの空に巨大な魔法陣が開く。空中から風を切る音! スカムキングは真上を仰いだ。魔法陣以外には何も無し!
「あ? なんだってンだ?」
スカムキングが嘲り嗤った直後、メンカルは杖を迫る汚泥に突きつける!
「縋り弾ける幽か影……!」
スカムキングから放射状に広がるヘドロの海のそこかしこが星空めいて明滅。そして、BBBBBBBBOOOOOOOOM! 広範囲に及ぶ連鎖爆発と共に真っ白い霧がスカムキングのスモッグを上から塗り潰す! 不可視の爆弾に仕込まれた中和剤がヘドロの津波の色を希薄にしていく。
「……ヒルデガルト、止めるのは任せた……」
汚泥とスカムキングを挟んでメンカルの反対、靴裏からジェットを放ったヒルデガルトが前にいた三人の間をすり抜け、白く変じていく泥の大波に突っ込んでいく! 肘と手の甲の付け根に天使の翼をあしらったガントレットに黄金色の光をまとわせ、両手の平を突き出した!
「凍りなさいッ!」
SMACK! 掌底のインパクトが閃光を発し、白くなった泥を照らし出す。光が消えたそこは、汚泥を凍結させた純白の氷河に変化していた! スカムキングを取り囲む銀世界。ダスト・テリトリーの汚泥は全凝固! 両足と右手で制動をかけたクネウスは、左耳に目を向けて通信を飛ばした。
「ヴィオレッタさん、聞こえますか。狙撃支援をお願いします」
「ちゃんと見えてるわ。任せて頂戴」
スカムキングと対峙する猟兵たちの遥か後方、2キロメートルほど離れた地点にそびえるコンクリートビル25階の窓辺で、ヴィオレッタ・エーデルシュタイン(幸福証明・f03706)はショートボウを引き絞る。淡い藍色の光に縁どられた彼女の左目は、白い霧を振り払うスカムキングを目視!
「街ひとつを丸ごと汚染物質に変えかねない能力ね。確かに強力だけど、ここまで離れていればそもそも無意味。アウトレンジで狙い撃つわよ」
弓を水平に構え、目元に矢尻を引っ張り寄せる。視線がスカムキングの胸を狙い―――SHOOOOT! 放たれた矢がスカムキングめがけて飛翔した。一方のスカムキングは咳き込みながら足元の氷を割り砕く。
「ゲホッ、ゴホ! 中和剤に氷だァ? 舐め腐りやがって…………あン?」
スカムキングは飛来する矢に留め、デコピンの形にした右手を上げた。中指の先にオーラを収束させ、SHOT! 撃ち出されたオーラ弾が矢の先端から後端までをすっぽり飲み込み、ヘドロ状に溶解せしめる! ヴィオレッタは二の矢を番えて引き絞った。矢を包む藍色の電光!
「一射目は落としてくるんだ。さて、これならどうかしら?」
ZGAM! ヴィオレッタの手中で電光が爆ぜ、スカムキングが一歩よろめく。その胸には丸い風穴! 傷口を藍色の電光が舐め、一拍遅れて雷鳴が轟いた。たたらを踏むスカムキングを見止め、ヴィオレッタは弓を下ろした。
「おやおや。スナイパーごっこはお終いなのかい?」
「っ!?」
ヴィオレッタが背後を振り向いた瞬間、彼女の居たフロアが青白い光に埋め尽くされた! 25階の窓から閃光が迸り、CABOOOOOOM! 爆発したビル壁から煙が噴き出す! そこから仰向けの体勢で落下するヴィオレッタを追い、煙を破って裸体にヘドロをまとった女がビル壁を疾駆!
「あんたと会うのは初めてかい? あたしはアシュリー。あんたが今風穴開けたヤツのオンナさ!」
ヴィオレッタの指先がヴィオレッタに向き、青白い光を収束させる。ヴィオレッタは矢を光の粒に変えて消し、皮肉を返した。
「旦那さんの加勢をせずに、私の方に向かってくるのね。おそろいのピアス穴でも開けてほしいのかしら?」
「ハッ、そりゃあいい考えだ! 肝心のピアスは……そうさねえ、あんたの骨で作るとするよ!」
ヴィオレッタが収束させた青白い光を発射! ヴィオレッタは足元の壁を蹴って飛びこれを回避。バク宙しながら腰のリボルバーをクイックドロウして反撃に転ずる! BLAMBLAMBLAM! 放たれた銃弾を、しかしアシュリーは左手を薙いで光の壁を張って防御。弾丸腐蝕滅!
「なるほど。男が男なら愛人も愛人ですか」
「そういうことさね!」
アシュリーがビル壁からヴィオレッタへ跳躍した。ペールブルーの光をたたえた右掌底を、ヴィオレッタは両腕を十字に組んでガードする!
BOOOOOOM! 蒼白い爆発を遠くに、マリスは星型の瞳を光らせた。
「主よ、憐れみたまえ」
全身に星めいた輝きをまとって斜めにハイジャンプ! マリスが引く螺旋状の光の尾は煌めく蝶の群れへと姿を変えて舞い上がる。高高度で静止したマリスは大型の弓矢を構えて下方、胸の風穴を押さえてたたらを踏むスカムキングに狙いを定めた。
「灰は灰に、塵は塵に」
引き絞られた矢に光が収束し、膨れ上がった。ひらひらと舞う蝶たちがマリスの周囲に展開し、翅を広げて光量増加! 弦の音が鳴ると共に流星群じみた光を降り注がせた! 胸から響く痛みに吠える!
「あァァ痛ェ! こんんんのクソ畜生がァッ!」
身を反らして空に叫ぶスカムキングを包むオーラが瞬間膨張! 激しく噴き上がる暗緑色の光に当てられた白い霧が濁った黄色に変色し、肥えた汚泥の巨体を覆い隠した。一瞬でスモッグに逆戻りした中和剤の霧を光の矢が次々と射抜く中、ライアとクネウスが前後挟撃を仕掛ける!
「本格的に鼻が壊れる。とっとと片づけてしまおうか」
「賛成です。産業廃棄物は正しく廃棄せねば」
骨めいた大刀を振りかぶるライア、エネルギーブレードと大盾を構えたクネウスがマーブル模様を描く霧に特攻! ライアは大刀を大きく振るって暴風を巻き起こし、スモッグを吹き飛ばす! BLOWWWWWWWW! 退いていく黄色い霧の中からスカムキングが現れ、ライアに殴りかかった。
「最初に腐りてぇのは……お前かァァァァァァァッ!」
暗緑色のオーラが籠もった鉄拳を見据え、ライアは骨剣の腹で防御体勢を取った。だが拳にまとわりつくオーラに触れた瞬間、骨剣の腹は波紋が広がるようにヘドロ化して崩壊! 防御を貫いたパンチをライアは連続バク転を打って回避した。そのまま踵を返して距離を取る! 追うスカムキング!
「一人も逃がさねえよォ! お前らは一人残らずヘドロん中に埋め立てて、滑走路の肥しにしてやるァ!」
強烈な踏み込みで氷の大地を汚泥化し、反動で加速! 逃げるライアの背中へ一気に迫る! 肩越しに振り向いたライアが飛び込み前転で追いうちの拳かわした瞬間、彼女とすれ違ったラモートが低姿勢ダッシュでスカムキングの真横を抜けた。スカムキングのふくらはぎが裂ける!
「あン?」
傷口を見下ろすスカムキングの背後で、ラモートはヘドロ化した黒曜石のナイフを捨てて額から伸びた一本角をつかみ圧し折る! 白い手の中で薄く細く伸び、刃と化す角。額から角の残りが押し出されて落ち、新たな一本角が突き出した!
「生憎、こっちの武器は無限にあるんだ。自分の存在に後悔するといい!」
クラウチングスタートめいた体勢から地を蹴るラモート! スカムキングは遠ざかるライアを尻目に、ラモートへオーラキック! ラモートはヘッドスライディング回避し、角ナイフを振るう。片手と両足でブレーキをかけ、ドリフトじみた方向転換。スカムキングのアキレス腱に裂傷ができた!
「まだまだ!」
溶けるナイフを捨て、角を追って補充する。角が生え変わるのを待たずにスタート! スカムキングは振り返りながら、しかし大きく開いた口を歪めて笑った。
「ケッ、すばしっこいネズミ野郎がァッ!」
振り向きざまのサッカーボールキックを構えるスカムキングの後方、飛びかかったナイが黒い剣を振りかぶった。不意を突いた剣閃を、スカムキングは裏拳で迎撃! 足元に滑り込んだラモートの攻撃を跳躍して回避し、裏拳で食い止めた剣をナイごと振り回して投げ飛ばす! 着地!
「ふっ……!」
氷の大地を転がるナイは身をひねって回転跳躍して体勢復帰! 黒剣のスカムキングの裏拳に食い込んだ部分が黄色く溶けているのを見、刃を返して再度強襲をかけた。コマめいて回転跳躍したラモートと一緒に挟撃! スカムキングは握った右拳にオーラを凝集!
「しゃらくせえ! まとめてヘドロになりやがれぇぇぇぇぇアッ!」
地面を殴った拳からオーラがドーム状に拡張された。濁った暗緑色の光に飛び込んだラモートの角短剣がガス化して消滅! さらには身にまとう衣服までもが汚泥に変じた。一気に増した重量に引き寄せられ落下するラモート! 起き上がろうとするも、汚泥が氷の床にへばりついて離れぬ!
「服、がっ……!」
「馬ァァァ鹿がァ! その服も武器も結局は無機物! この手にかかりゃあゴミ同然よぉ! ハハハハハハハハハハ!」
スカムキングの哄笑と共に範囲を広げていく汚染物質化フィールド! だがスカムキングは異変に気づいて目線を上げた。聖なる光に包まれたナイが正面から斬り込んで来る! 額に脂汗を浮かべ、歯を食いしばって一息に肉迫。黒い刃を振り上げた!
「せああっ!」
裂帛に気勢を上げて振り下ろされる剣を、スカムキングはとっさの飛び膝蹴りで迎え撃った。避けたズボンの膝にズブリと沈み込む刃。跳ね上がった爪先がナイの顎を打ち据える!
「あぐっ!」
「はァーッ!」
追撃の空中回し蹴りがナイの喉笛を蹴り飛ばす! 再び氷の大地を転がるナイを警戒しつつ、スカムキングは右の瞳だけで周囲を見渡す。ダスト・テリトリーのオーラは膨張を止めたが今だ健在。しかし聖なる光に包まれたナイの衣服は裾や袖が煙を上げるのみで形を保つ!
「ダスト・テリトリーの中にあって、変質しねえだと? これだから猟兵ってのは……クソみてえな手品ばっか使いやがって。エエッ!?」
立ち上がりかけるナイへ走り出すスカムキングに、空中から無数の流星群が降り注いだ。舌打ちしたスカムキングは真横に跳んで被弾を避ける。疾駆する彼を追う閃光の雨を放ちながら、マリスは星の瞳により強い輝きを宿した。光線を乱射する蝶の群れの中央で、マリスは弓を引き絞る!
「黒き星の顕現を」
SHOOOOOOT! 黄金色の光の矢がスカムキングの行く手に突き刺さり爆発! ヘドロ肥満体を飲み込む飛び散る氷片と黒煙が、ひとつの方向に引き寄せられる。その先には突き出した両手を合わせて仁王立ちするクネウス! 腕先にはビー玉サイズの黒球が浮き、氷片と煙を吸収していく!
「身体とエネルギーバイパス接続完了。マイクロブラックホール生成」
鋼の装甲に刻まれたライン模様が翡翠色の光を放つ。吸い込まれまいと両足を踏ん張り防御姿勢を取るスカムキングを、クネウスはゴーグル奥の瞳で捉えた。ロックオン!
「投射!」
ZOOOM! 黒球が射出され、氷の地面を薄く抉って取り込みながらスカムキングに突っ込んでいく! 超小規模なブラックホールが徐々に迫る中、スカムキングは口元を歪めた。
「アシュリー! 手を貸せッ!」
「はいよッ!」
遥か後方から飛び出したアシュリーが指鉄砲から蒼白の閃光を発射! スカムキングの頭上を抜けた光線はクネウスのブラックホールに命中し極大発光、風船じみた破裂音を響かせた。クネウスは即座に両側の足元に突き刺していた機械盾とエネルギーブレードを手に取り身構える!
「連携攻撃ですか、ならば……」
かかとのバーニアに火を噴かせ、クネウスはスカムキングへ急接近する。ブラックホール爆散の光から復帰したスカムキングはジグザグスプリントしながら迫るクネウスを睨み、右手で左肩から生えた鉄骨を抜いた。背後に降り立ったアシュリーが指鉄砲をクネウスに向ける。
「行きな! 援護射撃ぐらいしてやる!」
「頼もしいぜ」
拳を握り、猛牛じみて走るスカムキング! 直後、クネウスの背中から機械鳥めいたドローンが分離飛翔した。ドローン下部の機銃がアシュリーを狙う。だが彼女は鼻で笑い、指鉄砲に光弾をチャージ! 最大まで溜め込まれた瞬間、横合いから銃声が響いた! 光弾爆裂!
「つっ!」
小爆発の衝撃でノックバックするアシュリーは銃声が飛んできた方を見やり、連続バク宙で空から降り注ぐ光矢を避けた。焦げ付き、ボロボロになったヴィオレッタは全身から白い煙を噴き上げながらガンスピンリロード! 銃口をアシュリーに突きつける!
「待ちなさいよ。そっちから売ってきた喧嘩でしょ?」
「はっ、健気だね。こっちのテリトリーの中だってのに!」
青白い光をたたえた両手を広げるアシュリー。その上空をクネウスの鳥型ドローンが舞い、ダスト・テリトリーの外で弓を引くマリスが光矢を引く。一方、スカムキングは迫りくるクネウスに真正面から殴りかかった! ダスト・テリトリーの力を込めた右ストレート!
「グラアアアアアアッ!」
SMASH! クネウスは機械盾を掲げて拳を防ぐ! だが鋼の盾は一瞬でクネウスの左前腕部ごと溶解。スカムキングの左フックがクネウスの横面を打った。吹き飛ぶガスマスクとゴーグルが液化! 眼鏡をかけたクネウスの素顔が露わとなる!
「ぐっ……」
「ほーお。こいつぁ傑作だ! お前ェ!」
追撃の右フックをクネウスはバク転して回避! 彼の喉笛めがけたエネルギーブレード斬撃を、スカムキングは右手首を蹴り上げて逸らす。クネウスの手首から先がヘドロと化した! スカムキングの左ブロウがクネウスの顔面を打ち抜く!
「がっ!」
SMAAASH! 仰向けで吹き飛んだクネウスは両手を地に着き、サマーソルトキックめいて体勢復帰。即座に飛んでくるスカムキングの前蹴りを右腕で防ぐもヘドロ融解! スカムキングが嘲笑った。
「まさかたぁ思うが、首から下は全部機械か!? そんなら都合がいい! 生首だけ残してドロドロにしてやるぜぇぇぇぇぇッ!」
振り下ろされる右拳! だが二人の間から噴き上がった白炎の壁が鉄拳をしのぐ。ダスト・テリトリーの外縁に浮遊するメンカルは機械仕掛けのフクロウを従え、銀杖を振り回しながら高く掲げた。
「貪欲なる炎よ、灯れ、喰らえ。汝は焦熱、汝は劫火。魔女が望むは灼熱をも焼く終なる焔」
回転を止めた杖先がバックするスカムキングに向けられた。次の瞬間、彼の周囲から白炎の柱が数本噴出! BOOOOOOM! 一瞬で形成された炎の牢獄。白い炎に噛みつかれた右拳を見下ろしたスカムキングは舌打ちをする。クネウスの腰裏から小型の機械箱を落とし、メンカルに目配せ!
「すみません、メンカルさん。腕の修理に時間を頂きます」
「……ん。時間稼ぎなら……任せて……」
メンカルは杖を横薙ぎに振るい、両腕を広げた。白い炎の柱がスカムキングに結集し、CABOOOOM! 一本の巨大な火柱と化す! 周辺に満ちる酸鼻な腐臭!
「ぐおおおおおおおおおお!」
「……ヒルデガルト」
メンカルの瞳がダスト・テリトリーの間近に立つヒルデガルトに向けられる。氷の床に刻まれた六芒星の上に立つ彼女は、両手に握れるだけ握った聖水ビンを投げ上げた。六芒星の切り傷が冷たい光を放出し、ヒルデガルトを照らし出す!
「聖域展開。エレメンタル・オード!」
ヒルデガルトの頭上で聖水ビンが内側から発光し、爆裂! 白い爆風は円環状に激しく渦巻き、周囲に旋風を巻き起こす! BLOWWWWWWW! 白い竜巻が膨張し、戦場を包むダスト・テリトリーのオーラと激突、風前の炎めいて吹き飛ばし始めた! そちらにアシュリーの意識が向いた。
「この感じ……ダスト・テリトリーを浄化してるのかい!? させないよッ!」
アシュリーの人差し指から光線が噴き出す! ヒルデガルトの金の瞳を射抜きにかかる魔導の閃光。それを金色の光球が上から押し潰して粉砕せしめた。星のオーラを球状に展開したマリスはアシュリーへ弓を引く!
「揺蕩えども沈まず。洗礼を受け入れなさい」
SHOOT! 放たれた一条の矢を、アシュリーは指を鳴らして爆ぜさせた。その懐にラモートが踏み込む! 彼女に絡みつくヘドロが白い風を受け、動画の逆再生めいて服へと巻き戻っていく。角が変じた黒曜石のナイフを握るラモートに、アシュリーは左掌を振り下ろす! 蒼白い破壊の光!
「砕けな!」
光る手の平がラモートの顔面をつかむ寸前、アシュリーの肘から先が斬り飛ばされた! 目を剥く女に、ラモートは薄っすら微笑を浮かべた視線で見やる!
「腕は斬った。ま、腕だけじゃないけど」
SLALALALALALALALALASH! アシュリー周囲でいくつもの剣閃がまたたき、全身に無数の切り傷を刻む。血飛沫を放つ彼女を見上げ、ラモートは囁くような声で詠唱!
「……の役目を持って、生命の均衡と調停を行う」
大きく吸息し、漆黒の息を噴き出す! 術者もろとも敵を覆い隠す闇。立ち上ったそこからバックジャンプで飛び出したアシュリーの着地点に、黄土色に変色した地面を氷の地面を突き破ったスカムキングが現れた! ふくよかなヘドロの胴体に背中から衝突、沈み込むアシュリー。
「あんた、ちょっと不味いんじゃないかい?」
「あァ?」
スカムキングが目を細め、戦場を見回す。凍りついた大地をぐるりと取り囲む白の風域。広範囲を覆っていた暗緑色のオーラは吹き飛ばされて既に無い。
「中和剤に氷と来て……あんだァこりゃあ」
「浄化の嵐です」
凛とした声でヒルデガルトが言い放った。六芒星に立つ彼女のドレスが風にあおられて揺れる。
「全ての不浄を打ち消す清純なる風。穢れのことごとくを祓う力に、先までの戦いぶりで抗うことはできません」
「あー、なるほど? つまり神サマだの天使サマだの由来のヤツか。つくづく面倒臭ぇ」
スカムキングが溜め息を吐く。マリスとヴィオレッタはそろって弓を引き、二人をけん制しながら宣告。
「穢れ帯びたる者よ、骸の海に帰りなさい。あなた達に魂の救済を捧げましょう」
「まぁ、要約すると頭撃ち抜くから早くやられて欲しいってことなんだけど」
「だそうだよ、あんた。どうする?」
「ンなの決まってんだろ、アシュリー」
両足を肩幅に開いたスカムキングのオーラが激しく湧き立つ! 身構え、猟兵たちを見据えて言った。
「全開だ。アレをやるぜ……」
「アレね。オーケー」
アシュリーがずぶずぶと埋まり、顔面だけを残してスカムキングの体内に沈没。小声で何かを唱え始めた瞬間、マリスとヴィオレッタは矢を放った! SHOOOOOT! 金藍二色の矢を、スカムキングは瞬間移動して回避した。空高くに跳んだスカムキングを戦場の端からライアが見上げる!
「よし、ここだ」
腰を落として右手を腰だめに引き絞り、ライアはその場で正拳突きを繰り出した! 直後、虚空のスカムキングが体をC字に折り曲げる。不可視の拳が彼の肥えた脇腹に食い込み、BOOOOOM!
衝撃波により吹き飛ばされた巨体が、今度は垂直に落下!
CRAAASH! 氷の大地に墜落し、白い粉塵が噴き上がる。刹那、白い煙は黄色く濁り全方位に暴風じみて吹き荒れた! 黄色に混ざる暗緑色。ダスト・テリトリー! 地を覆わんとする腐蝕の霧を見咎めたメンカルが杖を水平に構える!
「……解析完了。邪なる力よ、解れ、壊れよ。汝は雲散、汝は霧消。魔女が望むは乱れ散じて潰えし理」
メンカルの目前に開かれた魔法陣が蒼の竜巻を発射! 魔術の風は戦場を包みゆく霧に突っ込み、瞬時に白化させてただの冷気へと戻す。地を蹴ったナイとラモートが冷たい霧へと疾走していく! 霧から飛び出したスカムキングが二人を迎撃!
「ウゥオオオオオオオオ!」
「はっ!」
「せいっ!」
ナイとラモートの刃がスカムキングの胴をX字に斬り抜いた。同時、切り傷から黒黄の煙が噴出して二人を吹き飛ばす! 防御態勢を取った二人の肌に―――豹の如きまだら模様が浮かび上がった。次の瞬間、ラモートとナイの目鼻口から濁った血が迸った。
「ぐふっ!? いっだぁ! 目、喉がッ……!」
「うぅっ……!?」
目をつぶり、その場にうずくまる二人。黒黄の煙を振り払ったスカムキングは苦悶する彼女たちを見て下卑た笑みを浮かべて見せた。
「ケヒヒヒヒヒ……いい格好だぜ」
舌なめずりするスカムキングの体に、BLAMBLAMBLAM! 鉛弾が叩き込まれて穴が空く。だが血の代わりに立ち上るのは黒黄の煙。拳銃を握ったヴィオレッタは口元を歪め、リボルバーの撃鉄を手刀で連打! 銃を乱射しスカムキングの顔面を蜂の巣にする!
だが一歩よろめいたスカムキングの顔は即座に再生。変わらず笑みを浮かべ続ける!
「かゆいぜ。もっと撃ち込んで来いよぉッ!」
DASH! 一足跳びにヴィオレッタのワン・インチ距離に飛び込んだスカムキングは、彼女の腹に抉るような蹴りを繰り出して弾き飛ばす! その体を純白の爆炎が包み込む。杖を振るったメンカルは魔法陣を足元に展開。白炎の勢いをさらに強めながら合図を飛ばした。
「……ライア、抑えておく」
「ん、了解っと」
メンカルの真下、ライアは腰を落として右拳を限界まで引き絞る! 離れた位置で燃えているスカムキングを見据え、鋭いパンチを繰り出した! 弾丸めいて吹き飛ぶスカムキング。さらにライアはその場でアームハンマーを振り下ろす! 白く燃える肥満体が地に叩きつけられた!
「武器なくなったからってボクのこと忘れてたかな。ボクは武装で闘う猟兵ではなく、自分を強化して戦う猟兵なんだよなー。こんな風に、っと」
ライアが斜めに拳を振り下ろすと共に、見えざる巨拳がスカムキングに叩き下ろされた。SMAAAAASH! 拡散するインパクト! だが直後、スカムキングの真下から放射状に黒黄色が広がった。氷河が瞬時に汚染され、ドロドロの冷たい汚泥に変ずる! ヒルデガルトが顔をしかめた。
「しぶといですね……!」
ヒルデガルトは左右に伸ばした両手を真っ直ぐ合わせる。戦場を取り囲む白い風が鳴動し、範囲を一気に縮小していく! 中央にはスカムキングと彼から広がる汚染凍土! 竜巻が猟兵たちをすり抜け、汚染拡大を阻止。その時、ライアの拳から肉の焼ける音が響いた。
「あつっ!」
思わず手を引っ込めるライア。その手の甲にはナイ、ラモートと同じまだら模様が浮かび、手首から腕を伝って凄まじい速度で肉体を侵食していく! あっという間に顔面の右半分がまだらで埋め尽くされ、ライアの眼球が爆ぜた!
「ぐあっ! なんだこれ……!」
徐々に腐肉と化していくライアの右手! それを驚いた目で見るメンカルの頭に黒い影が差した。見上げたそこには、片足を振り上げるスカムキング!
「落ちな、魔法使いの嬢ちゃん!」
「……っ!」
メンカルはとっさに片手を掲げて魔法陣を展開! だが振り下ろされたスカムキングのかかと落としは陣をガラスめいて砕き、彼女の肩を強打した。骨破砕音と共に白い上着が一瞬で不浄のまだら模様に染め上げられる! スカムキングは蹴り足を振り抜く!
「ッハァ!」
SMASH! 墜落したメンカルの上空で二度前転し、垂直ストンピング追撃を敢行! だがスカムキングの足先に割り込んだマリスが両手を突き上げ、球状に広がった星のオーラで巨体の蹴り足を受け止めた! 足裏と星のバリアの間でバチバチと舞い散る激しい火花!
「邪魔臭ぇぞ! とっとと腐り落ちやがれええええええッ!」
「星の光は……永劫朽ちない久遠の導……!」
まなじりを逆立てたマリスは両手に力を込めてスカムキングを押し返さんとす! バリアの接触面が徐々に黒ずみ、ひび割れ始めたところでスカムキングの横合いからガトリング掃射するドローンが接近!
「チッ、玩具が……!」
舌打ちし、バック宙でドローンの神風特攻を難なくかわしたスカムキングはワープめいて地上へ移動。その脇腹に機械砲塔が突きつけられる。腕を修復し、大型狙撃機構を装備したクネウスだ!
「ヒルデガルトさん、マリスさん。今こそ使わせてもらいます。CODE:LAXIS。聖銀貫通弾、装填。打ち貫く!」
砲口が銀色に輝き、BOOOM! 放たれた銀色のレーザーに遥か後方まで押されたスカムキング。真っ直ぐ伸ばした彼の手から巨大なシルバーバレットが零れ落ちた。一瞬で黒く溶解した銀弾を踏みにじり、スカムキングは呆れたように首を振る。
「今時は機械野郎も救いだなんだにご執心か? 嫌ンなるぜ」
「貴方がそれを言いますか。魔術支援を受けた汚染物質である貴方が」
「俺ぁいいんだよ。別に救いやしねえからなあッ!」
スカムキングがクネウスへ一直線に突撃していく! クネウスは背負った機械コンテナの下部からジェット噴射して垂直上昇。空中で前後反転、上下逆転しながら砲を連続発射する。
BOOOM! BOOOM! BOOOM! 空からの砲撃をジグザグダッシュ回避するスカムキングに、黒剣を振り上げたナイが打ちかかった! スカムキングが繰り出すショートバックジャンプからの回し蹴りを剣の腹で受け、刺突で反撃。スカムキングは切っ先をつかんだ手に力を込めた。
「自信失くすぜ。アシュリーの力も借りて速攻起き上がられたんじゃあよお!」
穢れた暗緑色のオーラがスカムキングの腕を伝ってナイの剣に雪崩れ込む! ナイは全身に力を込めて聖なる輝きを強め、刃を侵食するオーラに抗う。余波のように漏れ出るスカムキングのオーラが折りに触れてナイの体や氷の地面に辺り、煙を上げて溶けさせた。ナイは歯を食いしばって耐える!
「スペースシップワールドで、恒星に突っ込んでしまった時を、思い出します……すぐに燃えて、意識失いましたので、全然覚えていませんが」
「あン? なんだ、遺言か?」
嘲笑めいたスカムキングを無視し、ナイは一歩深く踏み込む!
「まぁ、あの時ほどでは、ない、ですね!」
括目するナイ! 刹那、ナイの足元を覆っていたヘドロが螺旋を描いて彼女の体に吸い込まれ始めた。剣を押す力が強まる!
「こいつ……!」
「ソラ……私に、力を……っ!」
DASH! 氷の地面を蹴ったナイはスカムキングを押しながら猛然と走る! スカムキングの足元にあったヘドロをその身に取り込み力としながら、剣を引き戻して袈裟がけに一閃! 汚泥の腕にガードされるのも構わず、高速斬撃を浴びせかけた! 高速で両手を動かしいなすスカムキング!
「はぁぁぁッ……!」
「ケッ、何かと思えばコケ脅しか。ビビらせやがってッ!」
右鎖骨狙いの斬撃を打ち返し、スカムキングは神速の左ストレートをナイの顔面に叩き込んだ! さらに右ボディブローで彼女の胴を浮かせ、ヘッドバッドで地に叩き伏せる! スカムキングの右足がストンプを仕掛ける!
「腐ったトマトになりやがれ!」
その時、横合いから噴射される漆黒の風がスカムキングの体勢を崩した。血涙流れる左目をつぶって黒い霧を吐いたラモートは咳き込み、やや邪悪な笑みを浮かべる!
「けほっ……! 策士策に溺れる、といったところかな。免疫不全になる病魔だ……自分で作った環境で病を味わえ……!」
軽くよろめいたスカムキングは鬱陶しげに黒い霧を払いのける。効果がない! ラモートの表情が硬くなった。
「なんだって……」
「ハン、当たり前だろうが。病? 免疫? くだらねえ。俺自身が汚染であり、汚染という概念が形を成したのがこの俺だ! 病魔なんぞ効くわきゃねえだろうが!」
一瞬でラモートの眼前に辿り着いたスカムキングは、彼女の顔面を蹴り上げて喉笛をわしづかみにして吊り上げる。白磁の如き白い肌が黄色がかった黒に変色! ラモートの口に黒い血泡が湧き出した!
「がぼっ、がふっ……!」
「下らねえぜ!」
スカムキングはラモートを放り、顔面を殴り下ろした! SMAAASH! 地面に叩きつけられバウンドするラモートにサッカーボールキック! ゴムまりめいて吹き飛ぶ彼女を、ブースターを噴射させたクネウスが回り込んで受け止める。スカムキングは肩の鉄骨を引き抜き、ジャベリンめいて振りかぶった!
「死に腐れえええええええッ!」
THROWWWWWWWWW! 投げ放たれた鉄骨がクネウスの脳天を爆ぜ砕かんとする! クネウスは瞬間ブーストでラモートを抱えて浮き上がり回避。追撃に動き出そうとしたスカムキングの足が止まった。左足の甲を貫いた矢が彼をぬい留めている! ヴィオレッタ!
「今よ。きっちり片づけて!」
ヴィオレッタの声を合図に、ヒルデガルトは巨大な水鉄砲を構えて放水! 顔面に莫大な水流を叩きつけられたスカムキングは思わずのけ反る。色褪せるヘドロの肉体!
「ぬがあああああああ! なんだァこりゃあああああああッ!」
「聖水よ。ついでにこれも!」
ヒルデガルトは水鉄砲を持つ手とは逆の手からビンを放る。水流に巻き込まれたビンは真っ直ぐスカムキングの体に突き刺さり、巨大な閃光と轟音を撒き散らして爆裂! 絶えず流れていたアシュリーの呪詛めいた声が掻き消えた。スカムキングの直上に飛翔したマリスは白い翼を広げ、両手の平に星の輝きを集約!
「光あれ」
閃光放つ両手の平がスカムキングにかざされた瞬間、彼女の手が黄金色の光柱を地に突き立てた! SMAAAAAACK! 光は聖水を飲み込んで金と銀の光を散らし、スカムキングを影も残さず消し飛ばし、爆発四散させた。
大成功
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