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アースクライシス2019⑪～追撃・精鋭護衛速攻隊

作者：みかろっと

　グリモアベースにて、詩音・マコトがホワイトボードに残る一枚の写真を見つめる。そして集まった猟兵に気づき一礼すると、彼女はその写真を手に取って話を始めた。
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。戦力を絞っての作戦も順調、なのですが……」

　現在、ダストブロンクスの人々はスカムキングの支配から抜け出そうとしている。
　人々が今までスカムキングに逆らえなかった原因は、ダストブロンクスに幾つも設置された『巨大汚水槽』への恐怖が大きい。
　巨大汚水槽には、一度撒き散らされてしまえば人々が生命活動を維持することすら困難になりかねない汚染水がたっぷりと詰められている。そのすぐそばに備えられた爆弾を起動させられると脅され人々は反抗できなかったが、今は現地のヒーロー達が爆弾の解除方法に辿り着き、それを実行しようとしているのだ。

「汚水槽の爆弾を守るべく、レディ・オーシャンのクローンがダストブロンクスに現れています。そして現地のヒーローはそれを突破する程の力を持っていません。故に、皆さんに協力して頂きたいのです」
　しかし、とマコトは続ける。
「今回は時間がありません。必要な戦力……四名程の猟兵さんだけを現地に転送します」

　ヒーローズアースのカタストロフまでそう時間は無い。一刻も早く戦争に勝利しかの世界を救う為、彼女は早速グリモアを浮かべて真剣な眼差しを猟兵に向けた。
「それでは転送を開始します。よろしくお願いします！」

●

　猟兵はダストブロンクスへ立つ。酷く悪臭の漂う空間を見渡せば、何やら五人程の集団が猟兵の姿に気づいて駆け寄ってきた。
「来てくれてありがとう！　俺達はヒーローチーム『カラーファイターズ』。そして俺はリーダーのキャップゴールドだ。ま、普段は荷物運びとか遭難救助ばかりやっているからこの通り、皆強いとは言えないんだが……」
　そう苦笑いで言う金色帽子の男は、背後の赤や黄、緑や青といったカラフルな学生服のメンバーを紹介する。彼等は皆一様に爆弾を解除する為の工具や機械を抱え、猟兵にぺこりと頭を下げていた。
「ここの爆弾は少し複雑らしくてな。五人がかりでやればそう時間は掛からないと思うんだが、アイツのせいで近づけないんだ」
　そうキャップゴールドが指さした先、汚水槽の前にはレディ・オーシャンのクローンの姿が見える。更にその背後にはかなり大きく複雑な爆弾が仕掛けられていた。
「道さえ作ってくれれば俺がカラーファイターズを率いて爆弾に向かう。猟兵の力を頼らせてくれないか」
　深々と頭を下げるキャップゴールド。そんなヒーロー達と共に、猟兵はオブリビオンへと立ち向かっていくのだった。

第1章 ボス戦 『レディ・オーシャンのクローン』

POW   :    リヴァイアサン 無敵の【海水の身体を持つアトランティスの守護竜】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。 SPD   :    オーシャンアーマー 自身に【清浄なる海水の鎧】をまとい、高速移動と【金属をも断ち切る高圧水流の刃】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。 WIZ   :    海を統べる者 「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動する。氷の津波、炎の竜巻など。制御が難しく暴走しやすい。 イラスト：hina 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「おや、見たことのある人が……」
　セルマ・エンフィールドはカラーファイターズの面々にふと既視感を覚える。すると彼等のうちの一人、ニーハイを履いた青い学生服の男がぱちりとセルマにウインクをしてきた。
「乗り掛かった船です。お付き合いしましょう」
　セルマは軽く会釈を返し、レディ・オーシャンの方に向き直る。
　目の前の敵はクローン。いわばジェネシス・エイトの捨て駒のようなものだ。故に――命を代償とする攻撃も厭わないのだろう。

　レディ・オーシャンはざぶりと海水を纏うと、小さく笑ってセルマへ水刃を撃ち出してきた。対し、セルマはマスケット銃『フィンブルヴェト』を構え、すうと目を細めて水刃に銃口を向ける。
「――そこです」
　フィンブルヴェトから氷の弾丸が放たれ、水刃を瞬時に凍てつかせていく。続く二射目、弾丸は的確に氷塊を捉えて一気にそれを撃ち砕いた。
　遠距離が不利なら、とレディ・オーシャンは素早くセルマへ駆け出す。海水を纏った身体は水中の魚のようにするりと突き進み、セルマとの距離を詰めていった。
「直接当てるだけが能ではありませんよ」
　カカカッ！　と弾丸がレディ・オーシャンの足元を撃ち抜く。恐るべき反応速度でそれを躱すレディ・オーシャンだが、彼女が纏う海水は一拍遅れ、その身を追うように動く。
　セルマの弾丸、ユーベルコード『アイスリンク・バレット』は海水に命中し、レディ・オーシャンの脚を固く縛り付ける。動きの止まったその胴へ、セルマは銃口を向けて氷の弾丸を放った。

　レディ・オーシャンが痛みに震え、無理矢理にも凍る海水から抜け出して息を上げる。肩を大きく上下させて呼吸を整えるレディ・オーシャン。その視線の先でには、セルマの後ろでわたわたと爆弾解除に向かうヒーロー達の姿が映るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「荷物運び、遭難救助、素晴らしいではないですか！」
　あまり強くないと苦笑していたヒーローに、ソラスティベル・グラスランは称賛の声を上げる。
「勇者の基本、無料奉仕に似たものを感じます、立派です！　そして今、共に戦おうとする意思……わたしは皆さんを尊敬しますよ！」
　カラーファイターズは皆一様に、照れくさそうに笑みを浮かべる。そして彼等はカシャカシャと工具や機材を取り出して、早速爆弾の解除作業を始めた。
　此処はお任せを、と笑顔を向けるソラスティベル。レディ・オーシャンはさせるかとユーベルコードを発動し、水の身体を持つ巨竜『アトランティスの守護竜』を創造した。

　カラーファイターズは思わず手を止めてひぃと目を瞑る。ソラスティベルは彼等を勇気づけるように、堂々と声を張り上げた。
「皆さんには手出しさせません、この大斧に誓って！」
　その声に反応してか、水竜がぶわりと身を動かしてソラスティベルへ突進していく。きらきらと煌めく海水の身体に笑みを浮かべつつ、ソラスティベルは同じく竜を呼ぶユーベルコードを発動した。
「魂の深淵に眠る、わたしの竜よ！　――気質が骨に、練気が爪に、そして気合が拳となるのですッ！」
　バシュウ！　と水竜の身体を受け止めるソラスティベル。彼女はそのまま竜を押し返しながら、不可視の竜の腕をレディ・オーシャンへ向かわせた。
「守護竜さん何してるんです～？　早く猟兵を――」
　呑気に水竜を操るレディ・オーシャン。彼女は突如ゴン！　と重い衝撃に吹き飛ばされ、目を丸くして後方へ転がっていく。同時にソラスティベルとぶつかっていた水竜は解けるようにその身を散らし、そしてふわりと消えてしまった。

「す、すごい……」
　カラーファイターズは怯えるのをやめて、あの巨大な水竜を相手に戦ったソラスティベルに目を輝かせる。いつかあのくらい強くなれたら、と小さく頷きながら、彼等は爆弾処理に集中していくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「相手はクローンとはいえ、『レディ・オーシャン』ですから気を引き締めて戦いましょう」
　火土金水・明がレディ・オーシャンの前に立つ。背後で爆弾を解除するカラーファイターズが攻撃に巻き込まれぬように警戒しながら、彼女は素早く先制をとった。
「――我、求めるは、冷たき力」
　明のは瞬時にユーベルコードを発動し、放たれる氷の矢へ更に魔法を重ねる。三百を超える矢は明の渾身の魔力を纏いながら、レディ・オーシャンへと襲い掛かった。

　一斉に降り注ぐ氷の雨。レディ・オーシャンは最早カラーファイターズを止める事すら思考から外し、反撃に神経を集中させる。咄嗟にざぶりと周囲に水流を起こすと、彼女はそれを水の竜巻へと変えて回避を試みた。
　ガガガと氷の矢が竜巻を凍らせながらレディ・オーシャンを追っていく。遂に速度が間に合わず腕に被弾し、レディ・オーシャンは痛みに顔を歪めながら竜巻を明に向かわせた。
　竜巻は明の姿を巻き込んで轟音を上げる。
「やりましたね～☆」
　レディ・オーシャンは笑う。――背後に回り込んでいた、明の姿に気づかずに。
「残念、それは残像です」
　明は再び氷の矢を放つ。
「さあ、オブリビオンは『骸の海』へ帰りなさい」
　至近距離からの射撃にレディ・オーシャンは反応が間に合わず、彼女の無防備な背は一瞬にして貫かれた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　カラーファイターズの爆弾解除作業は着々と進んでいく。
「あの連中を守ればいいのねぇ。まぁ、怪我させない様に頑張ってみましょうかぁ」
　アララギ・イチイはレディ・オーシャンとカラーファイターズの間に入るように現れるや否や、彼等の護衛にとシールドシステムを全て展開していく。そして敵の方へ向き直り、彼女はユーベルコードを発動した。
「さぁ、いっぱい集めるわよぉ♪」

　対してレディ・オーシャンは海水の鎧を纏い猟兵へ攻撃を繰り出そうとするが、その海水はしゅるりと解けてアララギの手へと収束していく。水はさらさらと砂に換わってアララギの足元へ落ち、レディ・オーシャンが海水を纏おうとする度に同じ現象が繰り返されていく。
「……これじゃ、無駄になっちゃいますね～？」
　海水が操れないのであれば、使わなければいいだけ。レディ・オーシャンは水刃の攻撃を諦めると一気にアララギに向かって加速し、肉弾戦を試みる。

　アララギはその動きの軌道を読み取ると、ばっとチェーンガンを周囲に浮かべた。念動力に操られながら銃口でレディ・オーシャンの姿を追い、チェーンガンは一斉に火を噴く。
　ガガガガッ！！　とレディ・オーシャンへ放たれる弾丸。その乱射は敵の動きを阻害し、制限していく。みるみるうちに逃げ場を失うレディ・オーシャン。アララギは追い込んだ敵へ容赦なく銃口を集中させると、一気に弾丸を叩き込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　レディ・オーシャンは体中に傷を負いながら、爆弾の解除音に焦りを見せていく。あれ以上作業を進めさせるわけにはいかない。レディ・オーシャンは渾身の力を込め、大きな水塊を作りだした。思い切りそれをカラーファイタースの方へと投げ放ち、レディ・オーシャンはがくりと膝をつく。

　シャオ・フィルナートはヒーロー達に目も合わせぬまま、さっさと水塊へ向かって駆けていく。励ましも労いも、そもそも会話すら得意ではない。その代わり猟兵として護る務めは果たす――そうひとり頭の中で呟きながら、彼は大きく氷の翼を広げた。
「……大人しくしてて……」
　シャオはカラーファイターズを庇うように立ち塞がり、氷麗ノ剣を構える。水塊へ向かって剣を振るい冷気を放ち、広げた氷の翼から一斉に氷の弾丸を撃ち出した。
　レディ・オーシャンの水塊は氷を飲み込み、少しずつ温度を下げていく。シャオが更に右目を金に輝かせて氷麗ノ剣を振るえば、水塊とレディ・オーシャンはぐらりと同時に揺れてその動きを止めた。

　水塊はばしゃりと崩れて消えていく。
「……ならもっと、大きくしますね～☆」
　レディ・オーシャンは何とかよろよろ立ち上がりながら、大きく腕を動かして大きな津波を呼び起こす。
　轟く水の壁にシャオはユーベルコード『蒼魔』を発動し、真っ直ぐに立ち向かっていった。
「水は……凍るよね……」
　シャオの身体は恐ろしい程に鋭く強力な冷気を纏い、そのまま津波へ突き進んでいく。
　ふっ、とシャオが手を差し出し、津波に触れれば――それは一瞬にして、巨大な氷の山と化した。

　氷を足場に跳び上がり、シャオはレディ・オーシャンとの距離を一気に縮める。シャオが至近距離から剣を振るえば、レディ・オーシャンはその身を凍り付かせながら真っ二つに切り裂かれて消滅していくのだった。

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　カラーファイターズは爆弾解除の最後の作業を終え、分解された爆弾を慎重に回収していく。人々の恐怖の根源を潰すことができた達成感に笑みを浮かべながら、彼等は猟兵に向かって感謝を述べ、そしてカラフルな頭を深々と下げるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年11月23日