アースクライシス2019⑫~青夜の神殿
●なお深き水
「パンゲア大空洞の探索、ありがとう。君たちが「鍵の石版」を発見してくれたお陰で、センターオブジアースへの道が開かれました」
猟兵たちを出迎えたのは、真っ白な司祭服に身を包んだ男だった。微笑と共に礼を告げスティレット・クロワール(ディミオス・f19491)は話を続けた。
「センターオブジアースは、巨大な世界樹に果実のように「神の神殿」が連なったものです」
世界を守護してきたのだが、この「神の神殿」の一部が、オブリビオンに奪われてしまったのだ。
「オブリビオン神殿となり、彼らに巨大なエネルギーを与えてしまっているのです」
居座るのは『清烈なる災厄』フッフール。
嘗て善神として戦った氷と冷気を統べる白き竜は、オブリビオン化した影響で悪が絶えることのない不完全な世界を、善なるものごと凍てつかせようとする。それは元来の潔癖さを超えた、白竜の変じきってしまった姿なのだろう。
「『清烈なる災厄』フッフールは「オブリビオン神殿」を破壊して、パワーの供給源を絶たない限り勝利は難しくなるでしょう」
オブリビオン神殿は、本来そこにあった「神の神殿」を破壊し、その上に造られたものだ。
「そこに本来あったのは、青夜の神殿。地下水を引き込んだ水に満たされた神殿。祀られていたのは騎士の神であったそうだよ」
だが今は、『清烈なる災厄』フッフールの紡ぐ氷によって神殿の名残は凍りつき、地下水の湧き出る水路は氷によって塞がれている。
「オブリビオンの神殿は、氷の神殿。分厚い氷に覆われ、氷柱が立つ。この神殿を君たちには破壊してもらいたいのです」
微笑んで、スティレットは告げた。
オブリビオン神殿の破壊は、巨大建造物を破壊するのに相応しいユーベルコードを求めるだろう。炎を扱うか、雷か。単純に重い一撃を選ぶか。戦いながらの破壊が可能だ。
「祀られていたのは騎士と誓約の神。かの神の力を呼び起こすような戦い方で、戦うことができれば、えぇ、神の神殿の力が蘇ることで「オブリビオン神殿」が崩壊してゆきます」
騎士としての矜持を示すか。
その身が騎士でなくとも、誓約を口にするのも良いだろう。
深き水を湛える神殿は、猟兵たちの覚悟を感じとることだろう。
「あぁ、勿論。かの神の神殿が戻ってくれば多少、地下水が出てくるだろうけど、沈む程のことはないよ。膝くらいかなぁ、ちゃぷちゃぷね」
ころり、と口調を変えて微笑んだスティレットは、猟兵たちを見た。
「神殿はあるべき形へと戻るべきもの。座する神の元に」
青き夜、水の神殿に。
「さーて、じゃぁ。案内しようか。運命の至る地へと」
微笑んだ司祭が手を伸ばす。青い光を零すグリモアが羽ばたくように、揺れた。
秋月諒
秋月諒です。
どうぞよろしくお願い致します。
「鍵の石版」の力により、センターオブジアースへの道が開かれました。
冒険感たっぷりですね。
●プレイングボーナス
敵のパワー供給源を断つ。
オブリビオン神殿(氷の神殿)を破壊してください。
●氷の神殿について
『清烈なる災厄』フッフール』の冷気と共に作り上げられた凍てつく神殿。
円形の天井と無数の柱が、地下水が湧き出る路を塞いでいる。
●神の神殿 青夜の神殿
地下水を引き込んだ美しい水の神殿。
滝とか神殿の中にあった。ぴちゃぴちゃしている。
騎士と誓約の神が祀られていた。
●プレイング受付
11月23日〜24日24時
状況によっては全ての方の採用はできないかと。最低限で終わる可能性もございます。
技能を列挙しただけのもの、使用意図が不明な場合不採用となる可能性が高いです。
●お二人以上での参加について
迷子防止の為、お名前or合言葉+IDの表記をお願いいたします。
それでは、皆様ご武運を。
第1章 ボス戦
『『清烈なる災厄』フッフール』
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POW : ホワイトミュート
全身を【全ての人工物を凍結させる冷気】で覆い、自身の【世界に蔓延る全ての悪を滅ぼす執念】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
SPD : アイスエイジ
【武具を凍てつかせる純白の吹雪】【防具を凍てつかせる青白い吹雪】【道具を凍てつかせる透明な吹雪】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ : アブソリュートゼロ
対象のユーベルコードに対し【ユーベルコードを凍結させる絶対零度の凍気】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
イラスト:さとあず
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「黒玻璃・ミコ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
アレクシス・ミラ
アドリブ・連携歓迎
世界に蔓延る悪と戦う、その信念が暴走しているのかな
だが罪なき人々まで傷つけようとするなら
僕はそれを正してみせる
神の神殿を氷から解放するまで
僕は…騎士として、竜から皆を守る盾となろう
剣を眼前に構える
守る為に戦う事を、我が剣と盾に、そして騎士と誓約の神に誓おう!
【天誓の暁星】で誓いを力に変え
前線へと駆ける
さあ…お相手致そう!
炎属性を剣に纏わせ
炎の衝撃波を翼目掛けて放つ
落とせなくても僕の方に注意向けれたらいい
此方に来たら見切り、炎で氷結耐性を高めた盾で受け流す
耐えきったら好機逃さぬように
一気に距離を詰め、冷気ごと斬るような光と炎属性の一撃を
守る為に戦う
騎士の誓いは…破れはしない!
日向・史奈
元の神殿は、そんな素敵な神様が祀られていたのですから、きっと美しいものなのでしょうね
早く氷を溶かして、見てみたいものです
私は騎士ではありませんが…悪の道に走らず、正義の道を違えず、正々堂々と過去の者たちを倒してみせます…!
…それらしく見えているでしょうか?誓約とは…このような形でいいのでしょうか?
敵が弱まったのを感じ取ったら魔法で荒々しい炎の竜巻を生み出し、一気に畳みかけます
敵が弱まる気配を見せなかったら氷の神殿を炎に巻き上げ破壊を試みます
魔法を封じられたら命取りですから、冷気で攻撃される気配を感じたらすぐに風の魔法を使用して素早く敵から距離を取ります
●青夜の神殿
立ち並ぶ氷柱が、青い影を描いていた。
無数の柱に支えられるように、神殿は巨大な円形の天井が隠されていた。そこが神殿だと知らなければ、巨大な空間かーー洞窟と思う者もいただろう。本来の神殿も大きかったのだろう。背の高い壁に、何事か紋章の書き込まれた後が僅かに見える。氷に覆われてなお、見える程の大きさであった文字は、だが、今はその意味さえ分からない。壁を覆うように立った分厚い氷は、神殿内に作られた滝が凍りついたものであった。
「ルァアア……」
水の流れる音など無い。
地下水を引き入れた数多の水路は凍りつき、今、最後の一本を、踏み込んだ足で凍気と共に沈めた巨体がゆるり、と視線を上げた。
「ルァ、ァアア……」
それは、美しい竜であった。
己が身にも氷を纏う白き竜は、侵入者たちの姿に気がつき翼を広げる。それは、嘗ての善神にとって「行うべきこと」であったからだ。
この世界には悪が絶えることのなく。不完全であるならば全てを、凍てつかせるべきである、と。善なるものごとーー全て。
「ルグァアアアアア!」
『清烈なる災厄』フッフールは、青き神殿にてーー吠えた。
「世界に蔓延る悪と戦う、その信念が暴走しているのかな」
肌を震わせるほどの、咆哮であった。
嘗ての善神の咆哮に、アレクシス・ミラ(夜明けの赤星・f14882)は視線を上げる。感じ取ったのは正しく、敵意であった。殺意では無く、敵意。かの竜は、本当に悪の耐えることがない世界を憂いたのか。
「だが罪なき人々まで傷つけようとするなら、僕はそれを正してみせる」
唇を引き結ぶ騎士と共に、見えたのは氷の神殿であった。
「青き神殿は、あの竜の氷で凍らされてしまったんですね」
氷に沈められたのは、青夜の神殿。
祀られていたのは騎士と誓いの神であるという。自分は騎士ではないけれど、と日向・史奈(ホワイトナイト・f21991)は思う。でも、ヒーローだ。新米だけれど、でも自分らしいヒーローの道を行くと少女は決めていた。だから、こうして戦場にも立っているのだ。
「元の神殿は、そんな素敵な神様が祀られていたのですから、きっと美しいものなのでしょうね」
早く氷を溶かして、見てみたいものです。
肌に感じるのは冷えた空気。喉が痛むほどの冷気に、呼吸を整える。一歩、巨体を動かした白き竜は、ぶわり、とその翼を広げた。神殿は、竜が翼を広げて尚、あまりある。
「ルァアアアアアアアアア!」
故に、フッフールは両翼を余すことなく広げーー行った。
「ーー来る」
警戒はアレクシスからだ。
白竜の突撃は爆圧の風を生む。巻き上がる風が冷気を纏い、瞬間、神殿の気温が一気に下がる。寒い、と口に出している余裕など無い。その代わりに、アレクシスは前に出た。庇うように、斜線に立つ。
「神の神殿を氷から解放するまで、僕は……騎士として、竜から皆を守る盾となろう」
それは騎士の誓い。
嘗て、喪失を知った青年の覚悟。
友を攫われ、家族を失った少年は十年戦い続けた。生き残るために、滅びゆく故郷で。二年の後、友と再会を果たしーーそれでも、彼の戦いは終わらない。守るべき者達の為に。
「守る為に戦う事を、我が剣と盾に、そして騎士と誓約の神に誓おう!」
剣を、縦に構える。
白銀の刀身が、暁色に閃く。
人々を救う為、大切なものを守る為、聖騎士は……暁の星は剣に、己に誓う。
「守ってみせる」
誓言が、騎士の体に加護を紡ぐ。前は任せて、と短く告げてアレクシスは一気に前に出た。突撃してくるフッフールに対し、自らも間合いを詰める。
「さあ……お相手致そう!」
剣は炎を纏った。
振り下ろされる竜の鋭い爪に対し、一気に切り上げる。ゴォオオ、と炎が走った。氷の翼と炎がぶつかり合い、ガウン、と爆発めいた音が上がる。白く上がった煙は熱と冷気が出会ったからか。白い煙の向こうから、竜の爪が来た。
「ルグァアアアア!」
「ーーっく」
振り下ろす一撃が、アレクシスに沈む。肩口を裂く痛みと共にばさり、と翼が広げる音を聞く。さすがに、落とせはしなかったか。
「だが……、それでも良い」
竜の視線は、今、こちらに向いている。
それは、アレクシスの覚悟。守ると決めた騎士は前線にて盾となる。このくらいの攻撃であれば耐え切れる。耐えると、決めた。
全身を鋭い冷気で包んでいく。低く、唸るフッフールの声が、咆哮へと変じた。
「ルグァアアアアアア!」
竜の体が浮く。
世界に蔓延る全ての悪を滅ぼすという執念と共に、飛翔する。
「私は騎士ではありませんが……悪の道に走らず、正義の道を違えず、正々堂々と過去の者たちを倒してみせます……!」
そこに、声が落ちた。
真っ直ぐな声は史奈のものだ。
アレクシスの稼いだ時間、それだけがあれば自然の力を、喚ぶには十分。
「……それらしく見えているでしょうか? 誓約とは……このような形でいいのでしょうか?」
「ーーあぁ、きっと」
不安げに視線を動かす彼女に、正面、竜の一撃を盾によって受け止めた騎士は笑った。最初の一撃からは遥かに違う。さすがに、飛翔能力と神速に至る竜の一撃は見切るのは難しい。ーーだが、受け止められている。天誓と共に、詰めた間合いだからこそ騎士は『見た』のだ。
氷柱に入った日々。
深い青の壁の向こう、描かれていた文字が淡く光ったのを。
『ーー即チ、それガ誓いデあれバ』
声は鳥の囀りのようでいて、人の声のようでもあった。だが、その声が体に届いた瞬間、オブリビオン神殿の奥にある、本来の神殿が応えたのだ。
「炎が、波が、太陽が……願いを聞き届けてくれたようですね。残念ですが、開戦のお時間です」
少女は、炎を呼ぶ。
伸ばされた指先から、ぽう、とひとつの炎が零れ落ちーー次の瞬間、竜巻へと変わった。
「ルグァアアア!?」
叩きつけられる熱に、『清烈なる災厄』フッフールが叫ぶ。暴れるように、身を震わせ、ぐん、と顔を上げた。
「グルァアアアア!」
咆哮が、その種類を変えた。
瞬間、放たれた絶対零度の凍気が向かう先はーー史奈か。走る冷気に、史奈は一気に身を飛ばす。風の魔法を紡ぎ、左へと飛ぶ。追いかけるようにその身を竜が振るう。だが、軸線に飛び込む者の姿があった。
「はぁああああ!」
凍気を盾に受ける。弾き上げる。踏み込みの意味を知った史奈が、再び炎の魔法を紡ぐ
「援護します」
踊る炎の中、アレクシスの剣は光を纏う。一足、力強く踏み込んだ騎士の刃が勢いよく振り上げられた。
「騎士の誓いは……破れはしない!」
冷気さえ切り裂いて、刃は届く。
竜の翼が、炎と剣戟に青白い光を吹いた。
「ルグァアアアアア!?」
痛みとも、苛立ちとも感じ取れる咆哮に二人は知る。オブリビオン神殿の加護に、確かに亀裂を入れたのだと。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
照宮・篝
【神竜】まる(f09171)と
騎士と誓約の神が、オブリビオンに力を奪われてしまっているのか…
まるは、竜としての誇りから、オブリビオンとは言え同じ竜に属するものを止めたいようだ
そのような誓いを聞いたら、私は…
【泉照魂籠】を翳し、【慈愛灯明】を
彼の想いが届くように、祈りを込めてフッフールの冷気と執念を照らすぞ
凍てつく氷の如く、君がひとを拒もうと、私は君を拒まない
おいで…怖いことはないよ
まるが打ち倒した竜が消えるまで、私の魂籠で照らし続けよう
黄泉路を…骸の海への路を、迷わず逝けるように
その路が、冷たくないように
崩れる柱に巻き込まれないよう、【黒虎轟】に乗って避けるぞ
騎士のあなたも、照らせただろうか
マレーク・グランシャール
【神竜】篝(f20484)と
ドラゴニアンとして、それから竜騎士として、気高き竜が正義と秩序を見失い、暴走するのを止めねばならん
今ここに、愛しき女神と、この水の神殿の住まう神に誓おう
我が熱き心と槍の一撃を持って悪に囚われし心を穿ち、如何なる硬き氷土をも撃ち砕いて見せると
高らかに宣言したら戦闘開始だ
篝が【慈愛灯明】で強化を解除したら接近してくるのを待つ
【黒華軍靴】(ジャンプ、ダッシュ)で敵の頭に飛び乗ったら、【雷槍鉄槌】で三つの槍を一つに合わせて脳天に剛槍を叩き込む
そして神殿を支える氷の柱を【雷槍鉄槌】で砕いて回ろう
誇り高き白き竜を黄泉路へ送るのは篝の役目
最期は女神の灯火に導かれて逝くがいい
●氷冷の地
落とす息さえ、白く染まった。高い天井を覆う氷のドームが青い影を作る。無数の氷柱は、神殿を支えるというよりは、貫くようであった。
「ルグァアア……グルァアアア!」
その中央に、白き竜の姿があった。
『清烈なる災厄』フッフール。嘗ての善神は、己が築いた凍気の神殿に踏み入った猟兵たちを前に、その巨体を振り上げた。
「ルァアアアアアアア!」
響く咆哮は怒りか、苛立ちか。
嘗ての善神は、今や敵意を隠すことなくーー吼える。
「……」
咆哮は、ピリピリと肌を震わせて響く。叩きつけられる冷気と風に照宮・篝(水鏡写しの泉照・f20484)の金糸を揺らしていた。
「騎士と誓約の神が、オブリビオンに力を奪われてしまっているのか……」
伏せた瞳がゆるり、と開く。白皙に浮かぶ表情は憂いであったか。来る者を楽園へ受け入れる希望の門を司る女神は、凍れる神殿の奥、僅かに感じる神気に、ほう、と息を零した。
封じられているか、押し込められている、に近いだろうか。壊されてはいないのは分かる。かの神を、解放する術があるからこそ篝は彼と共にこの地に来たのだ。
(「まるは、竜としての誇りから、オブリビオンとは言え同じ竜に属するものを止めたいようだ」)
黒髪が風に揺れていた。白竜の羽ばたきに、頬に入る傷を気にする様子も無いままにマレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)は紫の瞳を前にーー戦場へと向けた。
「ドラゴニアンとして、それから竜騎士として、気高き竜が正義と秩序を見失い、暴走するのを止めねばならん」
善神であったという。元より潔癖な性質があった竜は、オブリビオンと化したその影響で悪をに組むが故に世界の全てを凍てつかせることを選んだという。
この世に残る善の全てもーーこの不完全な世界と共に。
「今ここに、愛しき女神と、この水の神殿の住まう神に誓おう」
伸ばす手に、碧眼の小竜が乗る。淡い光と共に、碧玉の飾られる長槍がマレークの手に落ちる。
「我が熱き心と槍の一撃を持って悪に囚われし心を穿ち、如何なる硬き氷土をも撃ち砕いて見せると」
宣言は、高らかに青き神殿に響き渡る。キィインン、と甲高く響いた音は、青夜の神殿からか、微かに鈴のような音を聞きながら、篝は息を飲んでいた。
(「そのような誓いを聞いたら、私は……」)
それは、彼の誓いはこの地の神とーーそして、自分へと向けられたものだ。凍りついた大地の奥深く、確かにあった神気が震える。波紋のように描く「力」が、音のように篝の耳に届いた。
『ーー即チ、それガ誓いデあれバ』
声は鳥の囀りのようでいて、人の声のようでもあった。だがそれが、この地に祀られていた神からの返礼であると篝は気が付く。飛び込む竜の、その風を真正面から受けるように立ったマレークが、ふ、と笑った。
「我が女神よ」
「ーーあぁ」
口の端を上げて、小さく笑った彼を視界に篝は女神の魂籠を翳す。その動き、何かを感じ取ったか。フッフールの爪が床を掴みーー来る。
「ルグァアアアアア!」
瞬発の加速。迫る白竜の一撃を前に、マレークが立つ。近づけば髪さえ凍りつきそうだ。不思議はない、これこそ全ての人工物を凍結させる冷気。フッフールは今、世界に蔓延る全ての悪を滅ぼす執念と共に翼を広げたのだから。
「ルグァアア!」
「ーー」
短い咆哮と共に爪が来た。瞬発の加速。風が来ると同時に衝撃が来る。衝撃と共に、血がし吹く。突撃に吹き飛ばされるかける体を、マレークは支える。
「言っただろう。止める、と」
フッフールの一撃は重い。不思議ない。かの竜は今、執念に身を沈めているのだから。
「グルァアアア!」
咆哮と共に、翼が床を叩く。身を回すように動いた竜を前に、光がーー零れた。
「あまねく世界を照らし人々を安らげる命の灯火よ。如何なる硬き岩をも砕き、深き地の底までも我が愛の御光を届けたまえ」
篝の声だ。
フッフールの冷気と執念を照らすように光が落ちる。その柔らかな光が、声が、白き竜の纏う気配をーー揺らす。
(「あぁ、やはりーー……」)
女神の灯火に、ふ、とマレークは息を零す。竜の振るう尾が一拍、遅れる。その一瞬を、青年は逃しはしない。身を空に飛ばせば、ばたばたと黒衣が揺れた。
「グルァアアア!?」
「凍てつく氷の如く、君がひとを拒もうと、私は君を拒まない」
その背を追うように視線を上げたフッフールに、篝は告げる。溢れる光が、掲げた女神の魂籠が魂に寄り添うように。
(「彼の想いが届くように」)
祈りを込める。
嘗ての善神に、変わり果てた神に。
「おいで……怖いことはないよ」
誘いを、唇に乗せた。
「ルグァアアアアアアア!」
咆哮は、長く響いた。マレークを追いかけた視線は、瞬間、篝へと向く。眩い光は、フッフールの冷気を、執念をーー払う。
風が変わる。
その瞬間を、マレークは空中で迎える。竜の尾を蹴り上げ、一気にその頭上へと駆け上がった。
「破壊は再生の必然なれば我が槍を三位一体と成し」
竜の眼前、男の手の中で三槍が一つとなる。トン、と超弩級の剛槍が手に落ちる。
「ルグァアアアア!」
キュイインン、と甲高く響く音。急速に集まる冷気に、その咆哮よりも早くマレークは『清烈なる災厄』フッフールへと、一撃を叩き込んだ。
「神竜の雷の鉄槌をもって全てを粉砕せよ」
「ルグァアアア!?」
一撃と共に、衝撃が抜ける。ぐらり、と巨体が揺れた。暴れるように身を振るう竜から飛び降りると、そのままの勢いでマレークは剛槍を振るう。ガウン、と重い一撃と共に氷柱に罅が入り、砕ける。
「グルァアアアアアア!」
崩れ落ちる柱の向こう、竜の咆哮は怒りを告げる。暴れるように振るった爪が、崩された神殿に周囲に再びの冷気を刻んでいく。だがそれも、最初に見た時ほどではない。オブリビオンの神殿には罅が入り、柱もまた一本崩れた。永遠の力は、望めない。
「黄泉路を……骸の海への路を、迷わず逝けるように」
その路が、冷たくないように。
祈るように篝は魂籠で竜を照らす。光の中、嘗ての神がーー吼える。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
霧島・ニュイ
【華座敷】
さっっむ!!兄さん炎!!
元の神殿はとても綺麗だったんだろうねー
頑張ろうねー
兄の誓いは僕にはとても眩しくて
でも応援したくなる
やりたいことをやってるだけの身だから
【POW】
飛翔されたら飛んでいる隙に神殿破壊
上空注意
神殿壊して攻撃しやすいようにする
互いに声掛け、タイミング合わせ
二人の風と炎凄いなー
柱を狙い、神殿砕く
弾丸乱舞で畳みかけ
最初の不意打ちの一撃は見られないように、二人が意識を突き付けてるときに行う
スナイパーと一斉発射を使い、命中率UP
竜戦はUCを封じられない様注視し、見切り、避ける事試み
兄が真っ向勝負を挑んだら、2回攻撃を使い援護射撃
スナイパーで命中率上げ敵の翼を狙い、動きを幅む
クロト・ラトキエ
【華座敷】
嘗ての善神、今は災厄。
油断せず、されど一切の憐憫も無く、
お還り願いましょう。
騎士の清廉さなど、
血に怨嗟に死に塗れたこの身には程遠い。
誓約なぞ当然無縁
――だったのになぁ。
視線、頭部の動き等、攻撃は前兆を見切り回避を。
飛翔したら降下と突進には注意しつつ…寧ろ好機と。
千之助の攻撃に併せ。
その業炎、お借りします。
UCにて操るは攻撃力へ変じた風の魔力。
炎を煽り高め、鋼糸に巻き込み攻め穿つ。
狙うは湧水口、又は天井支える柱。
氷を溶かせたなら、後はニュイが砕いてくれるでしょうから。
消え入りそうな声。
…そのオーダーを承った。
見届け人も居た。
『俺は、俺だけは裏切らない』
故に、果たす前に斃れてなどやれんよ
佐那・千之助
【華座敷】
はい炎一丁
炎の紗纏うオーラ防御
ニュイの引鉄、クロトの鋼糸、奏でる指の先まで熱満ちるよう
この身は騎士どころか狂戦士なれど
誓約なら一つ
ひとを助けるため生きる
相手が誰でも関係なくただ目の前で助けを求める者のために
かつて善き神であった竜を不憫に思うが
悪が絶えぬ世界に倦んだならもうお眠り
悪に抗う猟兵なら数多の世界に大勢居る
だから安心して貰えぬか、と言葉で…余裕無ければ戦う姿勢で伝え
竜の悪滅ぼす執念を弱めて強化度合い落とせればと
UC炎龍を高速飛来する氷竜へ(早業
正々堂々真っ向勝負
この炎は善きものではないけれど
どうと炎煽るクロトの風
迷い無きニュイの弾丸
彼らと一緒なら、神の目ひらく篝火になれと願える
クーナ・セラフィン
騎士と誓約の神、か。
建造物を壊すのは得意じゃないけども頑張ろうか。
誓約の方なら…まあ、あるし。
人工物を凍結させる冷気についてはオーラ防御に加え、UC発動し炎の魔力で攻撃力強化しつつ対抗。
さらに炎のルーンを描いた符で火力増強して一点集中で神殿の要を砕こう。
神殿全体を見回して情報集めつつ、どこが脆そうか、どこに騎士と誓約の神の力が集まってそうか、それを推測して解放しやすいように。
誓約は騎士として歩み続ける事。
どれだけの理不尽が目の前にあろうと、例えば目の前の白竜のようなのとかがあっても人々を、世界を守る為にこの槍と剣を振るい続ける事。
それが私の誓い。真っすぐに、只進むだけさ。
※アドリブ絡み等お任せ
●止まらぬことを
「ルグァアアア!」
咆哮と共に、冷気が神殿を駆け抜けた。凍れる吐息は、砕け散った柱を覆うように走り、バキ、と氷柱を作り出す。ーーだが、そこから柱が再生するにはいかないか。既にオブリビオンに封じられていた青夜の神殿は、神気を取り戻そうとしている。確実ではない。だが、確かに、ブーツの裏、感じた水の流れにクーナ・セラフィン(f10280)は息を吸った。
「騎士と誓約の神、か。建造物を壊すのは得意じゃないけども頑張ろうか」
どちらかといえば、身軽さを得手とする身だ。ふぅ、と一つ息を吐く。羽付きの帽子に手をかけたの白竜が翼を広げたのを見たからだ。
「グルァアアアアアア!」
咆哮が先に来た。広げた翼と共に、滑空するように突っ込んでくる『清烈なる災厄』フッフールに、クーナは身を横に飛ばす。氷柱を足場に空へと躱せば、追うようにフッフールの視線がこちらを向いた。
「ルグァアア!」
「うん、見事にどこもかしこも氷漬けだね」
飛びながら神殿を見渡す。柱のいくつかには、既に罅が入っているようだ。先に戦いで、他の猟兵たちが刻んだものだろう。
「騎士と誓約の神の力が、どの辺りに集まっているか考えたかったのだけれど……」
「ルァアアア!」
「そこまでの時間は、貰えなさそうだね」
上へと、飛ばしていた身をくる、と回す。灰色の滑らかな毛が風に揺れ、瞳は、真っ直ぐにフッフールを捉えた。
「誓約は……まあ、あるんだ」
伸ばす指先が、銀槍が炎を纏う。片手で魔術符をばらまくと指先を滑らせた。描くは炎のルーン。一瞬にして、火力を強化させたクーナはフッフールへと一撃をたたき込んだ。
「ルグァアアアアア!」
一撃が、竜の頭上に落ちる。暴れるように身を振るう白き竜の背を駆け降りる。翼が、一気に冷気を纏った。
「グルァアア!」
キュィイイン、と甲高く響いたのは、集約される凍気か。撃ち出される咆哮の気配に、クーナは槍を縦に構える。
「誓約を告げよう」
誓約は騎士として歩み続ける事。
どれだけの理不尽が目の前にあろうと、例えば目の前の白竜のようなのとかがあっても人々を、世界を守る為にこの槍と剣を振るい続ける事。
「それが私の誓い。真っすぐに、只進むだけさ」
覚悟を身に、構えた槍がオーラの防御を紡ぐ。雪花の盾が真正面から咆哮を受け止めーー衝撃が、腕に返る。浅く入る傷。だが、クーナは炎を紡ぎ上げた凍気を弾き上げるように炎を紡ぐ。ーー瞬間、声がした。
『ーー即チ、それガ誓いデあれバ』
声は鳥の囀りのようでいて、人の声のようでもあった。瞬間、フッフールの周囲にあった柱が砕け散る。炎に解けるようにして崩れていく。
「グルァアア!」
氷結の咆哮が、天井へと抜けた。忌々しげに竜は翼を広げる。氷と冷気を統べる白き竜は、羽ばたき一つでオブリビオンの神殿に冷気を引きずり戻す。ーーだが、再生には程遠い。ただ、己が纏う冷気を引き寄せただけだ。
「さっっむ!! 兄さん炎!!」
とはいえ、寒いのは結局事実だ。
吐息を白く染め、思わず声を上げた霧島・ニュイ(霧雲・f12029)に佐那・千之助(火輪・f00454)は笑った。
「はい炎一丁」
指先に灯すは炎であった。すい、と一つ滑らせれば陽光に似た髪を揺らした男は炎の紗をニュイとクロト・ラトキエ(TTX・f00472)に届ける。ほう、と落ちる息こそ変わらず白く染まれど、紡ぎ上げられたのは炎の護りだ。
「ルグァアア……」
「気に食わないかの?」
その炎に、真っ先に気がついたのは『清烈なる災厄』フッフールであった。加護の炎すら許しはしないか、真っ直ぐにこちらを向いた竜が吼える。
「ルグァアアア!」
「来るよな」
「来ますね」
ニュイとクロトの声が重なりーー次の瞬間、床に爪を立てた竜が、加速をたたき込んだ。ゴォオオ、と風が唸り、一気に距離を詰めてきた竜が爪を振り上げる。薙ぐような一撃に、たん、と三人は身を飛ばした。
「ルグァアア!」
一気に狙おうとした分、浅くなったか。やれ、と息をついたクロトは、敵意を隠すことなくむけてくる竜に視線を合わせる。
嘗ての善神、今は災厄。
「油断せず、されど一切の憐憫も無く、お還り願いましょう」
浅く受けた一撃程度、死ぬには程遠い。引き寄せた鋼糸と共に、竜の視線を探る。頭の振りこそ早いがーー向けば来ると分かっていれば、避けられる。
「グルァアア!」
苛立ち紛れの声に、身を飛ばす。身を回転させ、放たれた尾の一撃は、攻撃というよりは暴れるだけのようだ。ガウン、と氷柱さえ巻き込むようにぶつかるがーー己が凍気で紡いだ柱は、その程度では傷つかないのか。
「……」
この地は、元は騎士と誓いの神が祀られていたという。青夜の神殿。清らかな地下水と共に、神殿はあったという。
「騎士の清廉さなど、血に怨嗟に死に塗れたこの身には程遠い」
誓約なぞ当然無縁。
そこまで、考えたところでクロトは息をついた。
「――だったのになぁ」
声は、ため息めいていたか。苦笑が滲んでいたか。竜の咆哮ばかりが響く神殿は、独り言は沈めてしまう。凍りついた床を走り、たん、とひとつ尾を飛び越えた千之助は静かに告げた。
「この身は騎士どころか狂戦士なれど、誓約なら一つ」
靡く髪をそのままに、掌に炎を灯す。
「ひとを助けるため生きる。相手が誰でも関係なくただ目の前で助けを求める者のために」
千之助の誓いに、キィイイン、と甲高い音が響いた。白き竜からではない。氷の奥、神殿の底にあるものからだ。
『ーー即チ、それガ誓いデあれバ』
声は鳥の囀りのようでいて、人の声のようでもあった。唄うような音色と共に、ニュイはひどい冷たさが一瞬、緩んだ感覚を覚える。暖かくなった訳じゃない。ただ「何か」が変わったと確かに思う。
「ルグァアアアアア!」
「当たりっぽいし!」
苛立ちと、怒りを身に纏い白竜は翼を広げる。バキ、バキと氷を派手な音を立てながら、その身を変えていく。
「ルグァアルァアアアア!」
それこそ、全ての人工物を凍結させる冷気。
青白き翼を広げた竜は、世界に蔓延る全ての悪を滅ぼす執念と共にその身を浮かせた。
「ルァアアアアア!」
接近は、一瞬だ。
咆哮と共に竜の質量を利用した爆圧の一撃が来る。飛翔する竜からすれば、引き潰す程の滑空か。その風を、真正面から千之助が受け止める。肩口に罅が入り、腕が赤く染まる。ばたばたと落ちる血を、だが、構わずに告げる。
「悪が絶えぬ世界に倦んだならもうお眠り。悪に抗う猟兵なら数多の世界に大勢居る。ーー……だから安心して貰えぬか」
かつて善き神であった竜を不憫に思う心はあった。せめて、竜の抱く執念を弱めることができないかと、言葉を重ねる。ーーだが。
「ルグァアアアア!」
「……無理な話か」
執念を、抱くに至る何かがあったのか。生来の潔癖さだけが重なったのか、仔細は知れず。ならば今、自分にできるのは、かの竜の敵意を真正面から受け止めること。突撃のタイミングを利用して、ニュイの銃弾が天井を穿つ。バキ、と一度、めり込んだ銃弾が罅を広げていく。破砕の音は、フッフールにも届いたか。
「ルグァアア!」
「己が神殿を崩されれば、か。そうじゃろうな」
ならば、せめて送る為に。
千之助は手を伸ばす。指先から空間が歪み出す。それは、大気を歪め渦巻く溶鉄の竜巻。生まれ出るは迸る炎の龍。
「熔けおとせ」
この炎は善きものではないけれど。
「彼らと一緒なら、神の目ひらく篝火になれと願える」
轟として嗤う炎を、フッフールへと放つ。身を逸らし、高速飛翔から避けるように飛ぶ竜を追う。
「その業炎、お借りします」
告げたのはクロトであった。鋼糸を空に放つ。例え、どれほどの速さを手に入れた竜であっても神殿という空間内にいる限り移動する場所は限られている。
「ルグァアアア!?」
炎が、変じた。
追うばかりであった炎が、ふいに巻き上げられたのだ。冷気が、軋む。己の翼に纏う氷が砕けては氷結し直していく。
「グルァアア!」
「気がつきましたか」
視線を、こちらへと向けた竜にクロトは軽く肩を竦める。放つ鋼系の角度を変え、指先で引き寄せる。風の魔力を扱い、煽り高めた炎の中を糸が抜ける。ゴォオオ、と唸る炎の向こう、鋼糸は氷柱を捉えた。湧水口を封じる氷だ。ピシ、と軋む。
「ルグァアア!」
怒りと苛立ちを隠すこともないまま、竜は吠える。一撃だけでは足りないか。その青に、僅か瞳を細めーークロトは薄く唇を開く。
「……そのオーダーを承った」
消え入りそうな声。
見届け人も居た。
『俺は、俺だけは裏切らない』
言の葉は、音となって響いたか。キィイイン、と甲高い音と共に、足裏に届く感覚が変わる。水だ、とクロトは思う。
「故に、果たす前に斃れてなどやれんよ」
騎士と誓約の神が、神気を以て応えれば湧水口を覆う氷がーー溶け出す。
「二人の風と炎凄いなー」
熱風に巻かれるようにフッフールが身を揺らす。その奥で、オブリビオン神殿が軋み出す。氷が、溶け出しているのだ。ニュイの銃弾で撃ち抜いた分もある。この地にあった本来の神が、誓約を聞き届けたのだろう。
(「誓い、か」)
兄の誓いは僕にはとても眩しくて、でも応援したくなる。やりたいことをやってるだけの身だから。
「ーーだから」
今一度、銃弾を装填する。白き竜へと悟られぬように、けれど必ず届くように。
「さぁて、避けられるかなー?」
二人の紡いだ風と炎の中、駆け抜けるようにニュイは一撃を放った。
「ルグァアアアア!?」
銃弾が、フッフールに届く。胴に弾丸が沈み、いきなりの衝撃に周囲を見渡す。不意打ちの銃弾。一撃が届けば、次の瞬間、迷いなくニュイは弾丸を乱れ打った。一撃は胴に、続け様の銃弾が翼を狙ったのは千之助が再び炎を手にしたからだ。
「終わりにするか」
「ルグァアアアア!」
咆哮に、真正面から炎を放つ。悪を憎み、憎くみ切ることさえ歪まされた竜が吼える。纏う氷が砕け散り、背後にあった柱が熱と共に溶け落ちれば、ぱしゃん、と青夜の神殿を流れる水が足先に触れた。
オブリビオンの神殿が砕けるまで、あとーー少しだ。
大成功
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黒金・鈊
氷の神殿と氷竜か、面白い。
我が身は正式には騎士ではないが、あいつがそうしろというならば、騎士として戦おう。
剣を掲げて誓おうか。
我が誓約。
この血のすべて、主のための戦いに奉じよう。
誓いながら、右腕で剣を持ち、左手を這わし血を零す。
いくら高速で舞おうとも、この身を襲う距離は近づくだろう。
傷口から炎を燃やし、神殿の傷を構わず剣を振るおう。
氷柱を巻き込むように距離をとって、相手が突撃してくれればいいが、さて。
力任せに、少々仰々しく。
炎を持つ俺を凍らせられるか?
ひとつ我慢比べといこう。
騎士とは命を賭して主の命を守るもの、だろう。
悪いが、貴様程度では善も悪も排除できん。
共倒れする気もない。
……さらばだ。
●騎士の誓い
ぴしゃん、と冷えた水が跳ねた。氷によって堰き止められていた水路の一つが通ったのだ。神殿を濡らす水は氷を溶かすには足らずーーだが、この地を凍りつかせた竜にも己が神殿の形に戻すだけの力は無いようだった。
「ルグァアアアア!」
苛立ちか、怒りか。
全て露わにして『清烈なる災厄』フッフールは吠える。敵意さえ隠すことなく、踏み込んだ青年へと分かりやすく視線を向ける。翼が広げられればーー加速までは早いか。
「氷の神殿と氷竜か、面白い」
冷気が頬を叩いた。風が先に届く。白皙に走る傷を気にすることなく、黒金・鈊(f19001)は薄く笑った。
「我が身は正式には騎士ではないが、あいつがそうしろというならば、騎士として戦おう」
この地には、騎士と誓いの神が祀られていたという。青夜の神殿。地下水の静謐を呼び込み、水気に満ちていた場所。ふ、と落とす息が白く染まった。引き抜いた刀を、竜の突撃の前に構える。掲げた黒曜が鈍く光る。
「我が誓約。この血のすべて、主のための戦いに奉じよう」
鋼の焔を零す右手で構えた剣。刀身に左手を這わせば、ぱた、ぱたと紅が血に落ちる。地下水のこぼれ出した神殿にあって、その血は流れない。鈊の足元に止まるようにしてーー焼く。
床を、氷を。
地獄の炎は焼べていく。刃ばかりは炎に溶けぬ。ゴォオォ、と唸ることは無く、だが、空気を揺るがせるほどの紅蓮の炎が神殿に生まれた。
不意に、キィイン、と甲高い音が響く。
竜の咆哮では無い。鈴の音に似た何かと共に、それは鈊の耳に届いた。
『ーー即チ、それガ誓いデあれバ』
声は鳥の囀りのようでいて、人の声のようでもあった。言えばーー主たる男が呼ぶ獣たちの声にも似ていた。
その音を、合図とするように氷の床が溶け出す。罅が、バキバキと入っていく。
「ルグァアアア!」
氷を溶かす炎に、フッフールは苛立ちを見せる。瞬間、竜の加速が来た。身を低めての突撃は、竜の膂力を利用した突撃に近い。
「グルァアア!」
「ーー」
ひゅん、と振り下ろす爪の一撃に刃を振り上げる。受け止め、押し込まれるようり先に刀身に滑らせる。キィイン、と高い音と共に火花が散った。刀身に触れれば、零れた炎がフッフールまで届く。
「ルァアアア!」
隠すことない苛立ちと共に、フッフールの纏う冷気が膨れ上がった。頬に冷たさと共に痛みが走る。崩れかけた神殿を、つなぎ合わせるように冷気が走る。
「ルグァアアアアアアアア!」
咆哮は、怨嗟に似ていた。その身を、全ての人工物を凍結させる冷気で覆い、竜は悪を滅ぼす執念へと身を沈める。数多の傷を受けた翼は、だが、力強く開き空をーー叩いた。
「グルァアアアア!」
怒号と共に、竜は身を振るった。薙ぐように来た尾の一撃が届く。腰を撃つ一撃を刃で受け切れば、瞬間、踏み込んできた竜の爪が肩口に沈む。
「ーーぐ」
ぁ、と息を零す。腕を落とすように入った爪に、だが地獄の炎が吹き出す。残る片腕まで落とす気はそう無い。竜が引き裂くより先に、鈊は身を引く。傷口から炎がこぼれ落ちる。
「ルグァア!?」
その熱に、驚いたように一瞬、フッフールが身を浮かした。その一時を、鈊は逃しはしない。身を低め、一気に飛ぶように距離を取る。氷柱の後ろへと踏み込めば、獲物を逃した事実に白き竜の咆哮が響いた。
「ルグァアアアアアア!」
怒号と共に、竜は来る。瞬発の加速。神速を得た白き竜とはいえ、神殿に溢れ返る氷柱はすり抜けることなどーーできない。
「炎を持つ俺を凍らせられるか? ひとつ我慢比べといこう」
ゴォオオオ、と音を立てながら、竜の突撃が柱を砕く。誓約を受入れ、青夜の神殿に祀られていた神が、その力を取り戻し竜へと永遠に注がれていた力を、奪っているからだ。
故に容易に柱は崩れ、轟音の中、跳ねた柱の上に鈊は飛び上がる。分かりやすく来た竜の凪払いを受け止める。力任せに、その爪を弾き上げた。
「ルグァアア!」
「騎士とは命を賭して主の命を守るもの、だろう」
騎士は炎を紡ぐ。数多の傷跡から地獄の炎を零す。口元、こぼれた血を拭い、苛立つように叩き込まれた突撃に、鈊は身を横に振った。軽く、横に。相手が早い分、回避は短く。濡れた地面に足を叩きつけ、一気にその懐へと飛び込んだ。
「ルグァアアアアアア!」
「悪いが、貴様程度では善も悪も排除できん。共倒れする気もない」
フッフールが大口を開く。冷気が、集まる。だが、その喉元さえ切り裂くように鈊は真闇を突き出した。
「……さらばだ」
ゴォオオ、と地獄の炎が吹く。穿つ一撃に、一拍後、竜の氷が砕け散る。
「ルァアアア!」
『清烈なる災厄』フッフールが吠える。冷気は力となる前に打ち消され、咆哮は苛立ちと共に響く。暴れるほどにぴしゃり、と水が舞った。舞い上がったそれすら、最早全ては凍りつかない。オブリビオン神殿の崩壊が、始まろうとしていた。
大成功
🔵🔵🔵
アルバ・アルフライラ
ほう、竜か
中々の面構えではあるが…
我が従者には到底及ばんな
然しこうも凍っていては寒くて堪えん
魔方陣より召喚した【愚者の灯火】で氷の破壊を試みる
ほんの僅かの炎では焼け石に水であろう
ならば出し惜しみはなしだ
高速詠唱で疾く次の召喚に取掛り
神殿を覆う氷を融かすに足る炎を生成
――さあ、派手に踊れ
相殺が叶うと云うならば好きにするが良い
貴様に届くまで幾らでも炎を操るだけだ
それでも一歩及ばぬならば
…多少の罅が生じようと構わぬ
我が渾身の全力魔法で灰燼に帰してくれる
…ふふん、この私が力を貸すのだ
神を騙る邪竜なぞ恐るるに足らず
――氷の棺は開かれた
今こそ目覚めの時
篤と御覧じろ、微睡みし神よ
必ずや、御身に勝利を齎そうぞ
●篝火
ゴォオオオ、と轟音を立てながら氷柱が砕けていく。破砕よりは、崩壊が言葉としては似合うのか。砕け散った柱の向こう、苛立ちように白き竜は冷気を零す。
「ルグァアア」
苛立ちを隠すことなく、敵意さえも曝け出して。広げられた翼は、竜の膂力を利用した突撃へと加速の為か。
「ルグァアアア!」
「ほう、竜か。中々の面構えではあるが……」
叩き込まれた加速に、アルバ・アルフライラ(f00123)は足を引く。竜の突撃が一直線とは限らないがーー奴の視線、踏み込みから見る力はまっすぐに通っている。
「ルグァアア!」
「我が従者には到底及ばんな」
故に、アルバは身を逸らすだけで一撃を躱す。振り返る『清烈なる災厄』フッフールの尾が地を叩く。バシャン、と派手に聞こえた水音は、この地、本来の姿であろう。
青夜の神殿。
騎士と誓いの神は、静謐な地下水と共にあったという。
「ルグァアグルァアア!」
その水を、再び凍らせるようにフッフールは咆哮を響かせた。勢いよく振り返った竜に、アルバは息をつく。吐息が、一気に白く染まった。
「然しこうも凍っていては寒くて堪えん」
頬にさえ、冷気が乗ったようだ。ため息混じりのその声に、竜が笑う。ルグァアア、と落ちた声は人語を理解してか。ならば、この氷、溶かせぬと思ったのか。
「ふふん」
杖に手を添える。指先から炎が灯る。ほんの僅かの炎では焼け石に水だろう。ならばーー出し惜しみは無しだ。唇に、魔術を紡ぐ。高速の詠唱。多重展開した魔法陣が赤く光りーー炎が、生まれた。
「――さあ、派手に踊れ」
巨大な炎が、氷の天井を照らす。バキ、と派手に入った罅にアルバへと狙いを定めていたフッフールが吠えた。
「ルグァアアア!」
瞬間、空気が凍つく。竜の咆哮が、天井へと放たれる。薙ぐような咆哮が、一角を崩したアルバの炎をかき消しーーだが、次の熱が神殿に灯る。
「グルァアア!」
「相殺が叶うと云うならば好きにするが良い。貴様に届くまで幾らでも炎を操るだけだ」
これがただ一度の炎では無い。その程度の魔術師ではない。運が悪かったな、と悠然とアルバは告げる。炎より、操る本人を狙うべきかとフッフールが視線をこちらに向ける。
「ルグァアアア!」
咆哮と共に、竜が加速をたたき込んだ。たん、とアルバは床を叩く。湧き上がった炎が、多重に展開する。熱をくぐり抜けるようにして、爪が浅く届いた。だが、それだけだ。この身を砕くには足りず、は、と息だけを落としてアルバは笑った。
「……ふふん、この私が力を貸すのだ。神を騙る邪竜なぞ恐るるに足らず」
――氷の棺は開かれた。今こそ目覚めの時。
「篤と御覧じろ、微睡みし神よ。必ずや、御身に勝利を齎そうぞ」
唇が紡ぎ落とす言葉と共に、再びの炎を引き寄せる。多重に展開した魔法陣の中、ふいに、キィイン、と高い音を聞く。
(「これは……」)
神気、だ。
精霊のそれとも、魔術とも違う。だが、正しく感じ取ったアルバは、ふ、と息を零し、一礼を以て神に応じる。
『ーー即チ、それガ誓いデあれバ』
声は鳥の囀りのようでいて、人の声のようでもあった。青夜の神殿に祀られし者。騎士と誓いの神が、その力を紡いだのだ。バキン、と天井の氷が砕ける。落下の氷さえ溶かすように、巨大な炎を紡ぎ上げる。
「ルグァアアアアアア!」
「ふん、させると思うか」
迎え撃つはフッフールの咆哮だ。ーーだが、アルバの炎は、冷気を喰らって駆けた。ゴオォオ、と唸るように神殿を溶かす炎が白き竜さえも穿つ。
「グルァアアアアアア……ッツ」
咆哮が、引きつる。穴の開いた翼から、体から、氷が落ちる。青白い光がこぼれ落ちる。怒りと苛立ちを隠すことなく、白き竜は吠えた。その体に光が触れる。オブリビオンの神殿、氷の屋根が砕かれーー光が届いたのだ。
「神、か」
足裏、感じた脈動にアルバは一度、瞳を伏せる。神域を覆っていたオブリビオンの冷気が確実に削られてきていた。終わりの時は近い、とそう思いながら。
大成功
🔵🔵🔵
泉宮・瑠碧
悪が絶えることのない不完全な世界、か
…歪んでしまった潔癖でも
フッフールの気持ちは少し分かる気がする…
水と氷の精霊達よ
あの竜と神殿を解放する為に…
通してくれた恐竜達の為にも…力を貸して
僕は杖を手に雷の槍を撃ち出す属性攻撃
攻守に第六感を研ぎ澄ませる
騎士では無い僕の誓約は…
悲しくとも、辛くとも、己で立つ様にする事だ
氷の神殿の破壊にはエレメンタル・ファンタジアで岩の落雷
氷は地下水が湧き出る路から退いて貰い
青夜の神殿の水達へおいでと呼び掛けよう
絶対零度の凍気には風と氷の精霊へ
凍気を散らす様に願う
被弾は主に見切りと氷の精霊による氷結耐性
回避不可ならオーラ防御
フッフール…君はもう休むと良い
おやすみ、お疲れ様
●かくも世界はーー……
「ルグァアアアアア!」
咆哮と共に響くのは怒りであった。神殿を崩されようとしている現実にか、それともーーこの世界、そのものにか。『清烈なる災厄』フッフールの咆哮が、溶かし崩されていく神殿をどうにか繋ぎ止めようとしていく。ーーだが、足らない。白き竜の紡ぐ冷気だけは届かず、故に、怒りと敵意を隠すことなく竜は吼える。
「ルグァアアアアアアアア!」
長く、強く響く咆哮と共に、竜は翼を広げた。瞬間、叩きつけられた風が泉宮・瑠碧(f04280)の頬を叩く。まだ距離があるというのにだ。
「悪が絶えることのない不完全な世界、か。……歪んでしまった潔癖でも、フッフールの気持ちは少し分かる気がする……」
戦場は、当たり前に戦いの中にあって。猟兵は、オブリビオンを倒さなければいけない。倒すのは当たり前でーーけれど、悲しい、と確かに瑠碧は思うのだ。
かの竜は、嘗ては善神であったという。命を失うに至る何かが、最後は、フッフールをオブリビオンとしてーーその心を、極端なまでに歪めてしまった。
「水と氷の精霊達よ。あの竜と神殿を解放する為に……」
手を、伸ばす。願うように、祈るように。
横に手にした杖が、淡く光を零す。涼やかな気配が、踏み込む竜を前に溢れ出す。
「通してくれた恐竜達の為にも……力を貸して」
リン、と鈴の音がした。囁くような声達が、瑠碧に応える。それは、瑠碧が元々持っていた精霊たちと通じる力。少女の願いに、思いに精霊たちは凍つく神殿にその姿を見せる。
「ルグァアアア!」
その顕現を、竜は異常と見とったか。羽ばたきと共に、接近が来た。ぐん、と伸ばされた爪に、瑠碧は体を後ろに飛ばす。浅く、肩に爪が沈んだ。
(「もう少し、後ろ。……だけど」)
今だ、と瑠碧は思った。
掲げた杖。精霊と共に雷を呼ぶ。ここに、と少女は告げる。瞬間、風が生まれる。髪を巻き上げ、雷光は槍へと変じーー竜へと、放たれた。
ゴォオオオ、と轟音と共に力が行く。真正面から一撃を受け止める形となったフッフールが苛立ち紛れに吼える。
「ルグ、グルァアア!」
「ーー」
その怒りに、痛みに瑠碧は唇を引き結ぶ。視線だけは決して逸らすことなく、小さく、息を吸う。この地は神殿、聖域であったのは空気で分かる。だから、紡ぐのだ。誓いを。
「悲しくとも、辛くとも、己で立つ様にする事だ」
騎士ではない自由の誓約。
覚悟にも似た言葉に、キィイン、と甲高い音が響く。唄うような囀るようなそれを「声」と瑠碧は聞き取る。耳に届いた、というよりは感じ取ったに近い。
『ーー即チ、それガ誓いデあれバ』
「ーー」
その「声」を巫女であった少女は感じ取る。周囲の空気が変わっていくのを感じ取る。神気、だ。精霊のそれとは少し違う、神の気配。地下水は静謐を示し、滲むように、溢れるように青夜の神殿に水が戻ってくる。
「ここに……」
岩の落雷を、神殿に落とす。自然現象を紡ぎ、精霊たちと共に瑠碧は紡ぐ。氷には地下水の湧き出る路から退いてくれるように、と囁く。
「おいで」
青夜の神殿に住まう水達を、瑠碧は誘う。ぴしゃり、ぴしゃり、滴り落ちる水が流れる音が耳に届く。
「ルグァア、グルァアアア!」
青夜の神殿を覆う、氷の天井は砕け散った。氷に覆われた床は、本来の姿を取り戻し、壁に僅か、残るだけの氷柱が青き紋章を塞いでいる。そこに、淡い輝きを見ながら、怒りと敵意を零す竜に瑠碧は告げる。
「フッフール……君はもう休むと良い」
終わりで、良いのだと。
告げた少女の前、『清烈なる災厄』フッフールの気配が一瞬にして、変わる。冷気を失い、纏う多くの氷を失っていた白き竜が、吼える。
「ルグァアアアアァアアアアア!」
長く強く、響く咆哮に初めて殺意が残った。声の行先を、少女は振り返る。そこには一人の美しい少女が立っていた。
「見付けましたよ」
長く、長く探していたのだと告げる少女が。
大成功
🔵🔵🔵
黒玻璃・ミコ
※美少女形態
◆行動
あぁ、伝承を辿りようやく見付けましたよ、氷の竜姫
今こそ宿命の怨敵たる屠竜の魔女が引導を渡す時
黒き竜騎士にして魔女たるモノが竜殺しの誓約を
崇める神は違えど神前で果たしましょう(愛槍を構え)
つまらぬ小細工など一切無用です
【黒竜の騎士】で戦装束を纏い挑みます
神域に漂う魔力と生命力をこの身に取り込み
脳内麻薬を過剰分泌させて神経加速&筋力増強して神殿を破壊しましょう
その後は全力全開の攻撃を何方かが斃れるまで叩き込み続けます
勝利した暁には亡骸ごとその力を取り込みますよ
こんな形で最初で最期の顔合わせかつ決着となってしまいましたが
本音はオブリビオンではない貴女を食べたかったです(ボソッ)
●氷の竜姫と屠竜の魔女
『清烈なる災厄』フッフールは、善神であった。氷と冷気を統べる白き竜。オブリビオン化した今、かの竜は悪を許さない。悪が絶えることのない不完全な世界を、善なるものごと凍てつかせようとする。元来、潔癖症なところはあった竜が『そうなった』理由を、もし知る者がいるとしたらかの魔女だけなのだろう。
屠竜の魔女。
靡くは結い上げた白い髪。漆黒の瞳と共に、美しい少女の姿を取った黒玻璃・ミコ(f00148)は告げた。
「あぁ、伝承を辿りようやく見付けましたよ、氷の竜姫」
白き竜姫の咆哮に相応しき応えと共に。青夜の神殿から、零れ落ちた静謐な水を踏み、冷気の残る地へと踏み込む。
「今こそ宿命の怨敵たる屠竜の魔女が引導を渡す時。黒き竜騎士にして魔女たるモノが竜殺しの誓約を」
構えるは愛槍。黒竜剣が第一圏。
正面に構えたミコは、ぐん、と身を起こすフッフールを見た。冷気が、凍気が集約されていく。竜姫とてこの時を待っていたのか。
「ルグァアアアアアアア!」
咆哮に、殺意が乗る。敵意と怒りを滾らせ、ただの一度も殺意を載せる事はなかった白き竜が、殺意と共に咆哮を響かせる。
来る、とミコは思う。口の端を上げ、笑う。
「崇める神は違えど神前で果たしましょう」
終わりへの戦いを。
どちらからが斃れるまで。それこそが、竜姫と魔女の運命であったのかもしれないのだから。
キィイイン、と甲高い音が響く。この地の神が、青夜の神殿に祀られし神が呼応したのだ。
『ーー即チ、それガ誓いデあれバ』
神気が満ちる。は、とミコは息だけを落とし、前を、見た。最後にひとつ、神から聞こえたのは騎士と誓いの神らしい言葉。
『存分ニ、振るわれヨ』
獣とも、人ともつかぬ声と共に、最後の水路を塞いでいた氷が砕けた。
「ルグァアアアアアアアアア!」
瞬間、白竜の踏み込みがーー来た。瞬発の加速。踏み込みと同時に竜は冷気を纏う。足先を沈めるほどの水を、表面だけは凍りつかせーー来る。
「グルァアア!」
薙ぎ払う爪に、ミコは床を蹴り上げる。身を、空に飛ばし空で紡ぐ。
「いあいあはすたあ……拘束制御術式解放」
多重展開される魔法陣が、黒く光を零す。それは目覚めの儀式。誘いの言の葉。第七圏に語られ市し、暴力の極致。
「混沌より目覚めなさい、第捌の竜よ!」
禍々しい黒竜騎士の甲冑を纏い、ミコは槍を振るった。一振り、薙ぎ払うだけのそれに、氷柱が砕け散る。神域に漂う魔力と生命力を取り込んだミコの前、オブリビオンの神殿は容易に砕け散る。ーーそれを、許さぬ一体がいるだけだ。
「ルグァアア!」
咆哮が届く。竜砲は苛立ちか怒りか。叩きつけられた殺意と共に、牙が来る。食らいつく一撃に槍を構えた。一撃、受け止めれば派手に火花が散る。竜の膂力と共に叩き込まれた突撃は、ミコの体を吹き飛ばす。ーーだが。
「まだですよ」
柱に、打ち付けられた背を起こす。背に、肩にこぼれ落ちるのは赤々とした血ではなく、黒が溢れる。その事実に、どちらも驚きはしない。竜姫も、魔女も互いが宿命の怨敵であると理解しているのだから。
「氷の竜姫」
謳うようにミコは紡ぐ。ゆるり、起こした体がーー浮く。白い髪が揺れる。
『清烈なる災厄』フッフールが、世界に蔓延る全ての悪を滅ぼす執念から力を得るのであれば、黒玻璃・ミコは三千世界の竜を屠ると言う執念から、力を得るのだ。
それは、どれ程の因果か。
互いにその身を空に置き、執念と共に身を焦がす。魔女の一撃に、オブリビオンの神殿、最後の柱は砕け散った。
「これで、後は貴女だけです」
「グルァア、ルグァアアアアアアア……!」
分かっているとばかりに、踏み込みが来た。動いた、と思った瞬間、竜姫の姿が眼前にある。フッフールの突撃に、だが、ミコは槍を振るう。一撃と共に受け止め、殺し切れなかった衝撃が腕を裂く。その痛みも、熱も、何一つ気にせぬままに、愛槍で弾き上げる。僅かに、身を浮かせたフッフールの頭上へとミコは体を飛ばした。空でくる、と身を回し、背後を取る。突き立てた一撃に、だが、白き竜は身を振るうだけの余力を残す。
「グルァアアアア!」
「ーー」
咆哮と共に、冷気が跳ね上がった。突き立てた槍ごと、喰らおうとするフッフールに、ミコは竜の背を駆け下りる。追うように、尾が揺れた。薙ぎ払う一撃はーーだが、もう「見た」ものだ。
「ーーこれでは」
だらりと腕は落ちていた。構わなかった。つまらぬ小細工など一切無用のつもりでいたのだから。これは、引導を渡す為の戦い。幻想を鏖殺せし極黒の魔女の因果。
「ルグァアアアアア!」
薙ぎ払う尾を飛び越す。地に、足をつける。フッフールの視線が自分を捉える。その瞬間に、ミコは一気に竜の懐へと飛び込んだ。
「グルァアアア!」
接近に気がついた竜が、真下へと爪を振るう。互いに速さは同じ。背に、切り裂いた爪をーーだが気にせずに魔女は告げた。
「清烈なる災厄・フッフール」
その胸に宿る青白き光。核へと槍をーー穿つ。びくり、と身を震わせた竜が、己が間合いに立つ黒竜の騎士を見る。禍々しき甲冑の奥、魔女の声を、姿を感じ取った竜が吼える。
「グル、ァアアアア……!」
長く、強く咆哮は響いた。白き竜の纏う冷気が空に抜け色彩を失った頭がゆっくりと倒れてくる。その頬に、ミコが触れた。抱きしめるように、額を合わせるようにして竜の亡骸に囁く。
「こんな形で最初で最期の顔合わせかつ決着となってしまいましたが」
とろり、と竜姫の輪郭が溶けていく。フッフールの亡骸ごと、魔女は力を取り込んでいく。
「本音はオブリビオンではない貴女を食べたかったです」
小さく、最後にミコは告げた。白き竜であった頃の貴女を。神たる竜を。
指先に最後、残った冷気が溶けてゆく。斯くして、青夜の神殿を覆っていた氷の神殿は消えーー清烈なる災厄・フッフールは屠竜の魔女によって死を迎えた。
それこそ伝承に語られる竜の、終わりであった。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2019年11月27日
宿敵
『『清烈なる災厄』フッフール』
を撃破!
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