アースクライシス2019⑪~汚濁の底に蒼穹を見るか?
猟兵たちの活躍により、ダストブロンクスの上層ダストブロンクス・アッパーは制圧された。
戦争と共にオブリビオンによる支配をうけていたダストブロンクスの住民はこれを機に立ち上がった。
しかし、旗色が変わり目をみせたところ、未だダストブロンクスに君臨する醜き王スカムキングは住民たちを脅しにかかる。
まだ猟兵たちの手の及んでいない下層ダストブロンクス・ダウンには、巨大な汚水槽が各所に設置されている。
スカムキングはそれらを爆破することによりダストブロンクスを汚染し、人の住めない環境にすると宣言したのである。
ダストブロンクスは決して健全な環境とは言い難い。しかし、それでも特有の秩序は存在するし、そこでしか生きることができない者はいる。そこには当然、ヒーローも。
恐怖による支配を目論むスカムキングの思惑はしかし、彼らの奮起を促すものにもつながった。
暗く明かりの届かぬダストブロンクス・ダウンの小道を走る者がいる。
踏みつければ金属音を立てるような格子状の床の下には、耐えがたい悪臭を漂わせる廃水が流れているが、辺りに足音はおろか金属音の一つもせず、ただ水の流れる音が耳障りに響くだけだった。
彼の名はディレイドアイ。本名ではない。防塵マスクを兼ねるゴーグルの奥に銀河のきらめきを湛える瞳を持つことからそう呼ばれるようになっただけだ。
彼にとって、地上は明るすぎる。それでも、ダストブロンクスに蔓延る小悪党どもに灸を据えて小銭を巻き上げているうち、彼はいつしかヒーローのように称えられるようになった。
善人は襲わない。何故なら、病気を持つ彼の妹を見捨てなかった医者もまた善人だったからだ。
彼らに報いねばならなかった。
ディレイドアイが自身を小悪党と言いながらもヒーローと称えられるのは、その善性にあった。
事実、その人柄は下手なヒーローよりも信頼に値するようで、彼を慕う者も少なくはない。
そんな彼もまた、スカムキングの策略を打破すべく立ち上がった一人であり、彼を慕う多くの住民が、その手助けをすべくありとあらゆる情報を提供した。
その結果、彼は既に巨大汚水槽に設置された爆弾の場所やその解除法を掴んでいた。
あとは現地に赴いて爆弾を解除するだけだ。さすがにこれを誰かにやらせる訳にはいかない。危険を冒すのは一人でいい。
「……チッ、やっぱ、一筋縄ってわけにはいかねぇか」
爆弾まであと一歩というところで、ディレイドアイは足元に落ちていた羽を見止めて、その存在を知る。
「邪魔をしに来たのですか? なぜ? これは全て、この星に住まう者が作ったもの。それが彼らに報いるだけのこと」
蒼穹の如き青い羽根が大きく羽ばたく。
彼にとっての絶望が、汚水槽の上を陣取り、見下ろしていた。
「臭いものには蓋をする主義でね。その為に隔離してんだろ?」
マスクの奥でシニカルに笑い、愛用の巨大レンチを構える。
ヒーローと呼ばれているのは、彼の善性に過ぎない。彼にある能力は、せいぜいが闇夜に視界が利くという壊れた眼だけだ。
それでも、彼は戦わざるを得なかった。
「いやはや、お待たせしました! いやーまだ、慣れないもので……え、ああ、まずは概要でしたね。えへへ」
グリモアベースはその一角、給仕姿の猟兵疋田菊月は、集まった猟兵にお茶を振舞いつつ、誤魔化すように笑みを浮かべると、依頼の概要を語り始める。
「皆様のご活躍により、都市群地下に広がるダストブロンクスの上層の制圧は完了致しました。お疲れ様です。それはよろしいのですが、それにより蜂起した現地住民の方々のいう事を聞かせるために、スカムキングは下層域の巨大汚水槽を爆破するぞと脅迫してきたみたいです」
すぐ隣、というほどではないにしろ、衝突は放置するほど大きくなる。支配する者は、たとえそれが凶行であっても、選ばずにはいられない。
そうはなるかと、住民たちとそこを根城にしているヒーローたちもまた、その策略を打開すべく爆破の阻止に動いているのだという。
「爆弾の解除に向かったのは、ディレイドアイという一匹狼のヒーローです。なんだかんだで味方の多い人ではありますが、今回はお一人みたいですね。ダストブロンクスでは知らない道はないというくらい、地理に詳しいそうですよ。でも、個人の戦斗能力は高いとは言い難いです。
せいぜい、喧嘩の強い有段者に勝てるくらいですかね。皆さんとは比べるべくもないです。
……そんな人で、オブリビオン相手は難しい筈です。
そこでですね。今回は、ディレイドアイさんと協力して、皆さんに爆弾を守るオブリビオン、ひいては爆弾の解除をお願いしたいのです」
念を押すように、菊月は指を立てて協力して彼を守りながら、という点を強調する。
その方法は、それぞれに得意な方法を用いてもいい。幸いにして、ディレイドアイは爆弾の設置場所及びその処理方法を心得ている。
彼に任せてもいいし、猟兵たちに得意な者が居れば解除に手を貸してもいい。
ただ、いずれにせよ、オブリビオンとの戦闘は避けられないだろう。逆に言えば、オブリビオンさえ倒してしまえば、あとは爆弾を解除するだけでいい。
どうやら、オブリビオンと連動して爆破などという、面倒なことは無いようだ。
色々と横道にそれながらも、一通りの説明を終えると、菊月は一度真面目な顔で一同を見回すと、
「ヒーローさんが見出した活路、見過ごしてしまうのは悲しいです。彼と、そしてダストブロンクスの人たちをいっぺんに救っちゃいましょう!」
にこり、と営業スマイルを浮かべるのだった。
みろりじ
どうもこんばんは。流浪の文章書きみろりじです。
三本目の戦争シナリオです。下水道での攻防戦ですね。ヒーローとの共闘です。あまりヒーローっぽくないキャラですが、根はいい奴です。
……どっちかというとヴィランじゃね?
いいんだよ、こまけぇこたぁ。
戦争シナリオなので、例によってプレイングボーナスが用意してあります。
ヒーローを助け、一緒に戦うといい事があるかもしれません。
ヒーローズアースは、多種多様なヒーロー・ヴィランを作ることもできるので、そこが面白いところではあるのですが、主役はあくまでも猟兵の皆さんです。
プレイング無くてはリプレイが成りません。
皆さんと一緒に楽しいリプレイを作っていきましょう。
第1章 ボス戦
『歪みし願いグロリアス』
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POW : 終焉齎すグローリア
【寿命を削りながら狂乱殺戮体】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD : 蒼き翼のグローリア
【破壊光弾を大量に放ちながらの超音速飛翔】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ : 遠き日のグローリア
【誓い】【覚悟】【祈り】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
イラスト:梅キチ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「死之宮・謡」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流
いつも思うがオブリビオンも色々いるよなぁ。
蘇ったことで歪んでしまったのは悲しい事だ。
UC鳴神で防御力強化。
連携可能で組む相手が正面での戦い方する人の場合。
囮にするようで悪いが、俺は【存在感】を消し【目立たない】ように移動し、奇襲をかけ【マヒ攻撃】を乗せた【暗殺】の攻撃を行う。
単騎の場合は挑発やヒーローより動き回る事で【おびき寄せ】をし、ヒーローへの攻撃は通さないように【かばい】続ける。
相手の攻撃は【第六感】で感知【見切り】で回避。回避しきれない物は黒鵺で【武器受け】からの【カウンター】。それも出来ない物は【オーラ防御】と【呪詛耐性】でしのぐ。
フィーナ・ステラガーデン
困ってるみたいね!
勝手に助けさせてもらうわよ!(ディレイドアイとオブリビオンの間に属性攻撃の火球を飛ばす)
ほら、あんたは守りたいもんがあるんでしょ?爆弾解除任せたわよ!
(片手でしっしとし、間に入り立ちはだかる)
そりゃ邪魔するわよ!それ爆発したらなんかすごい困るのよ!
(語彙が残念なのはデフォルト)
あんたはすっこんどいてもらえないかしら?
私肉弾戦とか得意じゃないんだけど
見た目と違ってえらく暴れてくるやつね!
最初は火球を撃ちつつダッシュやジャンプで距離を取りつつ戦うわ!
理性を失って無差別攻撃をしてきたら
ヒーローを守るように立ち、UCで迎撃
全力魔法で焼き払うとするわ!
(アレンジアドリブ連携大歓迎!)
「……チッ、やっぱ、一筋縄ってわけにはいかねぇか」
「邪魔をしに来たのですか? なぜ? これは全て、この星に住まう者が作ったもの。それが彼らに報いるだけのこと」
グリモア猟兵の予知の通り邂逅するヒーローのディレイドアイと、オブリビオンのグロリアス。
そこには明確な戦力差がある。
無為なほど勢力を広げてあちこちに張り巡らされた配管。前衛的なアートにも近い広大な地下スペースは、ただ配管を巡らせるだけに飽き足らず、そこにひとが住まうほどの余地を与えている。それがダストブロンクスという、日陰者の流れ着くある種の理想郷だった。
陽の光の下ではまともに生きることができない特性を得てしまったバイオモンスターの成れ果てや異能に目覚めた者。止む無く悪事に手を染めて表に出ることができなくなった医者や科学者。ありとあらゆる影が、この暗く湿った世界に身を寄せる。
ディレイドアイもその一人であった。その壊れた瞳は暗闇を見通すが、地上の明るさはその視界を眩ませる。
それ故に「ディレイドアイ(間抜けな瞳)」と呼ばれたが、彼はその名もその業も呪いはしなかった。
妹の重篤な症状に比べれば、彼の瞳など大したことではないと思っていたからだ。
天涯孤独だと聞かされ、一人やさぐれて育ったディレイドアイにとって、たった一人の肉親である妹の存在は巨大だった。
たとえ、彼女の呪いの一つを肩代わりすることとなっても、彼にとっては名誉なことであり、陽の下で二度と彼女の笑顔を見られないとしても、ダストブロンクスの片隅で小さな共同生活を送り続けるほどの幸福は無かった。
故に、
「臭いものには蓋をする主義でね。その為に隔離してんだろ?」
目の前の暗闇に絶望的な姿を見止めたとしても、彼はマスクの奥で口の端を歪めて軽口をたたき、愛用の大型レンチを構えるのだった。
喧嘩が強いほうではない。だがそれがどうした。俺はやり遂げる。この身が無残に引き裂かれたとしても、やり遂げねばならないのだ。
作業用の革手袋がギリギリと擦れる音が聞こえると、それを合図としたか、グロリアスの身体がふわりと揺れ、浮遊から滑空へと姿勢を変えた。
来る。そう確信させるだけの明確な殺意が、握りしめる槍とその眼差しからありありと伝わってくる。
華奢な体躯、誠実そうな面持ちに冷たい色を乗せたそれは、巨大な弾丸のようなスピードで迫る。
ダストブロンクスの下層に似つかわしくない綺麗で誠実な姿が、どうしてここまで歪んでいるのか、彼は知らない。
ただ解るのは、そのチャージをまともに受ければ、自分はぼろ雑巾の様にちぎれ飛ぶであろうということだ。
まるで地上の小動物に強襲をかける猛禽類を目の当たりにしたように、身体が強張っていう事を聞かない。
これが、絶対的有利を手にした者の攻撃なのか。
力むままにレンチを握りしめるディレイドアイが、最後の理性で後退しようとするのをこらえる最中、それは唐突に降り注いだ。
「むっ!?」
一直線に飛び掛かるグロリアスの滑空の進路を、紅蓮の火球が降り注いで阻み、危ういところを空中でたたらを踏む様に急停止したグロリアスの周囲で燃え上がる。
「何者ですか」
「ふふん、困ってるみたいね!」
強い視線を向けるグロリアスの前で、ディレイドアイをかばう様にして現れたのは、フィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)だった。
薄暗い下水道の中でも、赤と金と黒という強い色はやたらと目立つが、何よりも花の意匠の杖で黒いとんがり帽子を押し上げた先に浮かぶ活力に溢れた勝気な笑みが、この場の誰よりも存在感を放っていた。
ただ、その存在感に反して、その身の丈はやたらと小さく見えたが。
「な、何しに来たんだ嬢ちゃん!? ここはガキの来るトコじゃないぜ」
「あぁ? うっさいわね、勝手に助けさせてもらうわよ!」
「なにぃ? お嬢ちゃん、冗談言ってるんじゃ」
「ほら、あんたは守りたいもんがあるんでしょ? 爆弾解除任せたわよ!」
突然の闖入者にうろたえるディレイドアイだったが、フィーナの剣幕に押されて「お、おう」と勢いに負けて、火に阻まれるグロリアスを横切るようにして通り抜けようとフィーナに背を向ける。
一方でナチュラルにチビッコ扱いされたフィーナはちょっとカチンときたが、それは極力表に出さずしっしっと追い払うように手を振って、あらためてグロリアスと対峙するべく杖を構える。
「なぜ、邪魔をするのです?」
「そりゃ、邪魔するわよ。それが爆発したら……ええと、なんかすごい困るの!」
燃え上がっていた魔術の火球もなりを潜める頃、もはや相手にするほかないと察したグロリアスは、その生真面目そうな顔に明確な敵意を帯びてフィーナを見つめる。
気の利いた返しをしようと思ったフィーナだったが、しかし戦うことで頭がいっぱいなためか、うまい事言葉が出てこない。せっかく、かしこい! つよそう! な魔女ルックでキメてきたというのに、魔女らしいウィットに富んだ言葉が出てこない。
あまりにも残念な言葉しか出てこなかったせいか、後ろの方で吹き出すようなずっこけるような幻聴まで聞こえてくる始末だ。
「……。子供とて、容赦はしませんよ」
「あぁ? アンタら揃いも揃って、子ども扱いするんじゃないわよ」
ディレイドアイといいグロリアスと言い、ちまっとした魔女には、妙に当たりが柔らかいと思えば、どうやらとうに成人を迎えているフィーナを本当に子どもと思っているらしい。
歪んでしまっているとはいえ、生来の生真面目さは拭えないらしいが、それがかえって気に障ったらしいフィーナは先手必勝とばかり火球を放つ。
グロリアスはそれを飛んで回避するが、それを呼んで続けざまに火球を放つ。
飛び上がった状態で回避はできまいと思ったが、翼をもつグロリアスはそれも器用に潜り抜けると、一気にフィーナへの距離を詰める。
「やっば……!」
距離を取りながら戦っているつもりだったが、グロリアスの機動力を甘く見ていた。
その胸元に槍穂が迫る。
が、その蒼い切っ先は、金属音と共に阻まれた。
「──いつも思うがオブリビオンも色々いるよなぁ」
「くっ、いつの間に……」
フィーナの影から飛び出すように白刃を閃かせ、ほの暗さの中に発光するかのような白い髪をなびかせたのは、黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)だった。
その手に握られた、大振りの黒いナイフがグロリアスの槍をいなすと、崩されたところをもう片方の刀「胡」が刈り取らんと唸りを上げるが、寸でのところで捉え損ねた。
「アンタ、いつからっ!?」
「最初からだけど、隙を見て奇襲をってな。役に立ったろ?」
グロリアスが距離を取ったところで、一番驚いているフィーナが声をかけるが、瑞樹は飄々とした様子で受け流す。
比類なき剣の使い手、そしてシーフでもある瑞樹は、いわゆる隠行による気配遮断でフィーナの気配と重なることによりごく自然に姿を消して、奇襲の機会を窺っていたのだ。
尤も、奇襲するつもりが、フィーナを守ることに使ってしまったのだが。
「なぜ邪魔をする……。これは摂理なのです。人が残したものは、人に報いねばならない」
「理屈をこねるなよ。もうまともなモノは残ってないんだろ。蘇ったことで歪んでしまったのは悲しい事だ」
「……。止めさせは、しない」
増援の瑞樹の姿に、グロリアスは肩を震わせてわななく。
過去の無念の塊であるオブリビオンとまともに問答を交わすつもりはないとばかり、瑞樹は目を細める。
そしてその気配が変わったことに気が付く。
なにか、まずいものがくる。
「まずいわ。なにか、まずいものがくる」
「言われなくてもわかってるよ。それより、さっきの火球を撃って牽制してくれ」
「言われなくてもわかってるわよ!」
思わずモノローグ通りのセリフを吐いてしまうフィーナを叱咤する瑞樹に、同じ言葉を返しつつふたたびありったけの魔力を込めた火球を放つ。
それに合わせて瑞樹も二刀を手に駆ける。
「邪魔は、邪魔は、させない……させない!」
一方のグロリアスは気がふれたように目を見開くと、その手にする槍の切っ先が無数に枝分かれする。
気がふれたように頭を振り回し、その目から血の涙をこぼしながら、殺戮本能に押し流されるままに滅茶苦茶に槍を振るうと、枝分かれした槍穂があちこちに飛び散る。
もはやそれは細かな狙いをつけたものではなく、全方位へ向かう攻撃であり、動くものすべてを攻撃するものだった。
とくに素早く動くものにはそれは呼び寄せられるように槍穂が向かうようだった。
その多くはフィーナの火球によって撃ち落されたが、それに並走していた瑞樹にもそれは降り注いだ。
走りながらそれを迎撃するが、数が多すぎて足を止めざるを得なくなる。
そうすると今度は、爆弾処理に向かうディレイドアイを狙い始めるのだが、
「あんたは、すっこんでなさいっての!」
迫る槍穂を、極限まで収束された熱線が薙ぎ払う。
フィーナのユーベルコード【高密度迎撃熱線】によってそれらは灰と化すが、本人はその超絶的な焦点温度を誇る迎撃レーザーの生成のため、身動きが取れなくなってしまう。
防御に徹したユーベルコード故に、攻撃は瑞樹に任せることとなる。
一方の瑞樹もまた、ユーベルコード【鳴神】によって防御の膜を展開していた。
一時的な防御膜は、決して長くはもたないだろうが、この槍穂の雨を全力で突っ切る程度の時間ならもつはずだ。
再び加速する瑞樹の周囲を月光のような被膜に沿って蒼い槍穂が金切り声を上げる。
それでも構わず瑞樹は一直線に踏み込む。相手の攻撃が速さに引き寄せられるならば、とばかり瑞樹は渾身の踏み込みでその刃の嵐を突っ切る。
その全てを見切る事は不可能に近いが、軽くなった槍穂ならば致命打に成り得ない。
「うおおっ!」
一息に肉薄した瑞樹に反応したのか、狂乱状態のグロリアスが槍を突き出してくる。
相対速度の増した状態でそれを見切るのは至難。それでも瑞樹の鳴神は槍の切っ先を前についに破られ、それを迎え撃つ黒鵺が逸らし、その動きのまま振りかぶったもう片方の刀「胡」が振り下ろされた。
「ガアッ!?」
手応えは感じた。
刀を握る手に返ってくる甘やかな痺れは、肉を断ったものとは違う。
咄嗟に甲冑で受けたらしいが、その衝撃はグロリアスの動きを一瞬だけ痺れさせ、たたらを踏ませる。
致命打とはならなかったものの、確かにダメージは与えた。
戦いはまだこれからだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
アリソン・リンドベルイ
【WIZ 侵略繁茂する葛蔓】
―――全ての植物が、強い陽光を好む訳ではないのよ。日陰でしか生きられぬ木も、そんな木に寄りそう蔦も。冷涼を好む草も、荒地に咲く花もあります。…ですから、ただ一つの『正しさ』の輝きに目を眩ませるのは、少しばかり烏滸がましいと思うのよ。地の下には、闇の中には、彼らの理があるのでしょうから…
『奉仕、オーラ防御、かばう』で、ディレイドアイさんの盾になります。『侵略繁茂する葛蔓』で、半径50mを緑の蔓で埋め尽くし、敵に『生命力吸収、範囲攻撃』 蔓を絡ませ、足を引っ張って妨害。 ・・・『ヒーロー』である貴方に託します。どうか、爆弾を解除して、そして無事に帰ってきてくださいね?
伊能・龍己
※アドリブ、アレンジ歓迎っす
お兄さんの元には行かせねぇっすよ
刻印の呼ぶ雨雲と雨を使って〈範囲攻撃〉
注意を引くのも兼ねて、翼のお姉さん(オブリビオン)の目隠しならぬ〈目潰し〉と行かせてもらうっす
《当たるも八卦当たらぬも八卦》で、引きつけたぶんの光の回避を試みるっす
もし、お兄さんの方に攻撃が逸れそうなら太刀を使った〈捨て身の一撃〉で意地でもこっちに向けて貰うっすよ
大豪傑・麗刃
ディレイドアイくんとやら。とりあえず君は動かない事なのだ。
どうやらむこうさんは早く動かなければ手を出してこないぽいのだ。
わたしと戦っている場合はね。うん、システム上の問題で(意味不明)
で、わたしは敵さんを引き付けるために、速く動かないといけないと。
ならば。
(スーパー変態人2発動!)
右手に攻撃用の刀、左手に防御用のバスタードソード。んで超高速で飛び回り、相手の目をこちらに引き付けるのだ。
ただ超攻撃力超耐久力とまともにやりたくない。なら理性がない事を利用。相手の攻撃を誘い、突っ込んできた所をバスタードソードで武器受けし、刀で斬る!超耐久力といえどカウンターならなんとかダメージ入ってほしいと願う!
「そこを、動くな……!」
「うおっ!?」
ふらつく足取りから踏みとどまり、グロリアスが槍を投擲する。
放られた槍は、汚水槽に取り付けられた爆弾を目前としたディレイドアイに直撃するコースだったが、事前に踏みとどまっていたため蒼い軌跡はあさっての方向の闇へと消えていく。
戦いの隙を見て爆弾を解除できるディレイドアイを排除しようと目論んだグロリアスは歯噛みし、更に青白い光と共に槍を作り出すと、足を止めたディレイドアイに追撃を加えようと翼を広げる。
が、その前に立ちはだかるように、小さな人影が大きなおさげを泳がせて横入してくる。
優雅というより、どこかぼんやりとおぼつかない雰囲気のある幼さの残る少女が、両手と、そして背中から延びる白い翼を精いっぱい広げて立ちはだかる姿は、甲冑に身を包んだグロリアスも思わず躊躇してしまうだけの存在感があった。
「退きなさい。この汚水槽をこの地に還元するのは、いわば自然の摂理。邪魔立ては許しません」
「日陰でしか生きられぬ木も、そんな木に寄りそう蔦も。冷涼を好む草も、荒地に咲く花もある」
少女──アリソン・リンドベルイ(貪婪なる植物相・f21599)はグロリアスの言葉もどこ吹く風とばかり、自然を愛するという共通する部分で説き伏せようと、尚もディレイドアイの前に立ちはだかる。
「ただ一つの『正しさ』の輝きに目を眩ませるのは、少しばかり烏滸がましいというものだわ」
「それこそが、私の誓い、覚悟、祈り……!」
オラトリオの髪には花が咲く。アリソンが自身のおさげに絡む花一輪を愛でるが如く顔に近づけて目を細めると、グロリアスは激高したようにその肩を怒らせる。
彼女の言う誓いが、覚悟が、祈りが、己を正しいと妄信させる呪いが自らをその行動せしめんと呪縛し、思想を、肉体を変貌させ強化させる。
最早誰であろうと、立ちはだかる者は許さない。
「――全ての植物が、強い陽光を好む訳ではないのよ」
大きな構えで槍を振りかぶるグロリアスを前に、尚もアリソンは諭すような言葉と共に、林檎の木でできているという緑指の杖の先で無機質な床をなぞる。
彼女ごとディレイドアイを貫かんと槍を投げる構えのまま、グロリアスは動きを止めざるを得なくなる。
ユーベルコード【侵略繁茂する葛蔓】は、凄まじい生命力を秘めた葛の蔦を周囲に巡らせるものである。
本来、植物にはあり得ない速度の、まさに躍動するほどの成長速度で以てグロリアスはあっという間に絡めとられてしまう。
「ぬ、ぐ……離しなさい……!」
草木に絡まれながらも、グロリアスは強化された身体能力に任せてそれらを無理矢理引き千切りながら前進しようとする。
しかし蔦は地面のあちこちから伸びてきて、引き千切る傍から絡みついてくる。
「さあ、今のうちに。……『ヒーロー』である貴方に託します。どうか、爆弾を解除して、そして無事に帰ってきてくださいね?」
「お、おう。任せろって」
凄まじい草木の応酬に唖然としていたディレイドアイだったが、アリソンの言葉で正気を取り戻して、改めて爆弾の方へと駆け出す。
と、一気に駆け出したそれに反応したのか、植物に身体を覆われていたグロリアスの動きが変わる。
「やめろ、ヤメロヤメロ……邪魔をするなぁ!!」
ずがん、と固いものを打ち付けるような音と共にグロリアスの身体に絡みつく蔦が一気にちぎれ飛ぶ。
地に穿った槍穂が反射するように地面から幾重にも槍穂を枝分かれさせて周囲の植物を切り裂いたのだった。
その面持ちはもはや美しい少女のそれではなく、狂気に支配された様に血走っていた。
「そんな……」
「それに近づくなァッ!」
地面にぶつけた拍子にひしゃげた槍を投げつける。狙いはディレイドアイだが、そうはさせまいとアリソンは射線上に立ってありったけの魔力を防御に回そうとするが、
そこへ更に立ちふさがる人影。
「待ちたまえ!」
両手に剣を携えた豪傑の如き人物──が、飛来する潰れた槍を片手に持つバスタードソードで以て受け……ようとしたが、顔面に衝突してしまう。
「ぐはぁっ!?」
「だ、大丈夫!?」
「うーむ、大丈夫、ちゃんと武器受けしたのだ。システム的に」
急に前に立ったためか、槍をまともに顔面に受けてしまったものの槍穂がつぶれていたせいもあってか、本人は武器受けと頑なに主張しおでこを赤くする程度に留めていた。
そんな若干変態ちっくな闖入者こと大豪傑・麗刃(変態武人・f01156)は武器を手にしたまま器用に額をさすると、迫るグロリアスをひとまず置いておいてちらりとディレイドアイの方を向く。
「ディレイドアイくんとやら。とりあえず君は動かない事なのだ。
どうやらむこうさんは早く動かなければ手を出してこないぽいのだ。
わたしと戦っている場合はね。うん、システム上の問題で」
「いや、何言ってんだあんた……」
「うん? ああ、そうか。なんとわたしはアホなのだ」
一人意味不明なことを言いつつディレイドアイを困惑させながら、麗刃は何かに気付いたように鼻を鳴らす。
そうしてグロリアスに向き直ると、その六角形……ではないが大きいような小さいような目に真剣な輝きを宿す。
「わたしが一番早く動けばいいのだ」
狂気に支配されたグロリアスは速く動くものを優先的に狙う。ならば、自分が一番素早く動き回れば、それに引き寄せられる。
ならば今こそ使うしかない。筋肉……ではなく、ユーベルコード【スーパー変態人2】を。
「うおおお、わたしは超怒ったのだーー!!!」
叫びと共に青白いスパークが迸ると、シュインシュインと謎の黄金のオーラを纏い、麗刃はギュンッとグロリアスに突撃する。
とはいえ、真正面からぶつかり合うのは痛そうなので、ひとまず高速ですれ違ってみて、本当に引き付けられるかどうかを試してみる。
「ヌアァ、邪魔だァ!!」
乱暴に槍を振るうグロリアスの攻撃を避けつつ、ちゃんと誘導できたことを確認すると、二撃三撃と畳みかけてくる攻撃を距離を取りつつ、回り込みつつ回避する。
素早くすれ違うだけに徹すれば、力任せに振り回す攻撃にぶつかることは無さそうだ。
まるで理性の欠片も無い攻撃ならば、さすがの変態でも技巧を用いずとも回避できるのである。
だがそれでは、攻撃を加えることもできない。
ならばと、麗刃は大振りなバスタードソードを盾代わりに一歩深く踏み込む事を決意する。
敵中に踏み込まねば、麗刃の刀も届かない。
力任せに振るわれた槍がバスタードソードとかち合う。凶暴化したその膂力に麗刃は押し戻されそうになるが、肩から先を脱力させつつ力を逃してやると、その切っ先が下がるのを感じる。
重たい金属が地下道の床を打つ。次の瞬間には、麗刃の刀の切っ先がグロリアスを穿っていた。
「ぐ、が……!?」
止まることを知らないかのような暴れっぷりを見せていたグロリアスが甲冑を貫いた突きに後ずさりする。
「おお! 当たってしまった」
「ぐ、かはっ……お、おのれ……」
「うむ? まだ何かするつもりかな」
槍を取り落としたグロリアスの両腕に光が収束する。
それは収束したかと思えば、瞬く間に拡散する光弾となって飛び散ってきた。
「グミ撃ち! 同じネタで返してくるとは!」
続けざまに打ち込まれる光弾を防御することしかできないが、麗刃はなぜだか嬉しそうだ。
とはいえ、このままではまずい。
大量の光弾を放ちながら、グロリアスは翼を広げ飛翔して近づきつつある。
それに対し、アリソンも麗刃も防御に徹するしかない。
「おおっと、お兄さんの元には行かせねぇっすよ」
そんな光弾が降り注ぐ中、グロリアスを阻む様に黒い雨雲が現れる。
その雲の中から躍り出た少年が、剥き出しの素肌に燐光の様に帯びるのは竜のうろこのような刻印。
伊能・龍己(鳳雛・f21577)はその身に帯びる竜の刻印の特性により、雨雲を出現させてグロリアスの視界を塞いだのだった。
しかしそれでもグロリアスの繰り出す光弾を防ぐことはできない。
相変わらず降り注ぐ光弾を防御するしかない一同の中で、龍己だけは事前に先読みしたかのように刀を構えたままそれらを器用に回避していく。
そしてディレイドアイに流れ弾が飛ぶようなら、それも先読みしたかのように刀で弾いて逸らしてしまう。
これこそ、龍己のユーベルコード【当たるも八卦当たらぬも八卦】
竜の刻印により、少し先の運命へと干渉し風水を見るかの如く予見し、自身の能力の及ぶ範囲で対処する。
だが、未来を見るとは言っても、影響を及ぼすのはあくまでも彼自身の行動であり意志である。
身の丈を超えたことはできない。
だからこそ、己の身一つでできない事をするには、多少の無茶が必要になってくる。
雨雲に纏わりつかれ視界を奪われながらも、グロリアスはディレイドアイに向かって高速飛翔をし始める。おそらく、おおよその方向だけを定めて飛んでいるのだろう。
だが、それで十分だ。
たいして戦う力があるわけでもないディレイドアイにとってそれは致命的だ。
回避するに特化した能力でそれを回避することができるのは、あくまでも龍己だけだ。まさに、身の丈を超えた状況という訳だ。
「行かせねぇって、言ったっすよ!」
刺し違える覚悟、まさに捨て身の一撃を加えるつもりで、龍己は体ごとぶつかりに行く。
果たして、その一撃は功を奏し、二人は弾かれるように地を嘗める。
雨雲の晴れたグロリアスは膝をつき、龍己もまた刀を杖代わりに立ち上がる。
「くっ、これも駄目ですか……」
焦りの色の見え始めるグロリアス。その視界の先には、爆弾にとりついたディレイドアイの姿をとらえていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
ソラスティベル・グラスラン
善き想いはヒーローに不可欠
ですが力無くして人々は守れない…それもまた真理
ならば!わたしたちが貴方の善き力となりましょう!!
【オーラ防御・盾受け】て守りを固めディレイドアイさんを【かばう】
ここはわたしに任せ、貴方は爆弾を!
理性無き故に単調であろう攻撃を【見切り】、受け流し
【勇者理論(防御重視)】による限界を超えた【怪力】で受け止め、弾く!
わざと【ダッシュ】し誘い【見切り】、反撃の【鎧砕き】の大斧を差しこみます!
ディレイドアイさんは小悪党でも一匹狼でもありませんっ
貴方を慕う人が、貴方が救ってきた人々が言うのです!彼の力になってほしいと!
人々に背中を押される貴方は、正しく『勇者(ヒーロー)』ですっ!
御形・菘
見ず知らずの者同士が共通の目的のために即席タッグを組む、う~むエモい!
とゆーことで、爆弾解除のため、まずはこの邪魔な奴をボコるとしようではないか
はっはっは、妾が持ちかけ、嫌々了承した、そんな感じでOKであるぞ!
速く動く者を狙うというのなら、積極的に動けば妾が自動的にターゲットとなるであろう
超強化の攻撃に対し、味方を庇いながら凌ぐ…これまた実に素晴らしいシチュエーションではないか!
急所への一撃だけは確実にガード、掴んでしまえばこちらのものよ
組み付き絡み付き、決して逃がさん! そのまま締め付けてやろう
そしてディレイドアイよ、そのレンチを思いっきり頭にでもブチ込んでやるがよい!
バーン・マーディ
我はバーン・マーディ
ヴィランである
だが
悪の中に正義を宿すヒーローならば力を貸すのも吝かではない
【戦闘知識】でディレイドアイ(以下アイ)とグロリアスの位置の把握
更に敵の構えと動きから癖の見切りに掛かる
【オーラ防御】展開
防御増強
アイを庇える立ち位置へと構え
ユベコ発動
蒼き翼の天使よ
我が悪を以て躯の海へ送り返してやろう
飛翔して激突
闘いながらも常にアイの位置と状態は注意し
攻撃の余波に巻き込まれぬよう最悪庇う
敵の猛攻には【武器受け・カウンター・怪力・二回攻撃・吸血・生命力吸収】で反撃して切り裂いてはその血を奪う
常に動きを観察して猛攻を仕掛け此方に意識を向けさせアイへの意識は完全に逸らさせる
「もはや、正気は不要……ここに朽ちれども、私は、私は、愛する自然と共に滅んでいくさだめ……!」
グロリアスのひび割れた甲冑がその役を成さなくなるほどのダメージを負ったからには、もはや見届ける必要も無し。自らが爆弾と等しく爆裂するが如く狂気のままに汚水槽を破壊し尽くせば済む。
正気は不要。
甲冑の代わりに、彼女のありとあらゆる傷口、肌膚の至る所に青い槍穂が鱗の様に生え揃っていく。
能力の制限を解いて、代わりに正気を失った狂乱殺戮体と化したグロリアスはもはや、本人でも止められない怪物へと成り果てた。
「おいおいおい、こりゃあ、爆弾をどうにかして解決することじゃないんじゃねぇのか?」
小道具を手に爆弾相手に四苦八苦しているディレイドアイは、横目にその存在感を増していくグロリアスの姿を認めながら、状況の悪化に焦りを見せ始める。
「うろたえるな。自分の仕事をしろ」
そんな彼を守るようにして、その黒い影はいつの間にかそこに佇んでいた。
影が、闇が質量を得て重々しい鎧に姿を変えたかのような甲冑姿の後ろ姿には、逆十字の描かれた外套がその身より立ち昇る黒いオーラにより波打つ。
その名は、
「我はバーン・マーディ(ヴィランのリバースクルセイダー・f16517)。ヴィランである。
だが、悪の中に正義を宿すヒーローならば力を貸すのも吝かではない」
「そうです!」
威厳に満ちた声に反応するかのように、遥か上方の配管の隙間から新たな猟兵が派手な音を立てて落っこちてくる。
勇気と希望に満ちた強い眼差しを乗せた陽光の如き髪が揺れ、竜の翼が申し訳程度に粉塵を払い飛ばす。
がむしゃらに勇者を目指すうら若き少女の果てしない情熱が形を成したかのような姿が、狂気の塊と化したグロリアスをびしりと指さす。
「善き想いはヒーローに不可欠。
ですが力無くして人々は守れない…それもまた真理!」
ならば! と、バーンと並び立った若き猟兵ことソラスティベル・グラスラン(暁と空の勇者・f05892)は高らかに宣言する。
「わたしたちが貴方の善き力となりましょう!!」
「む……」
もはや勝利しかありえないと言うような言葉と共に、大斧を担いで突撃するソラスティベルに、バーンはやや不服そうに続く。
ヴィラン、いわゆる敵役として立つ以上、ソラスティベルのようなステレオタイプのヒーロー気質の側に立つのは少しばかり抵抗があったのだが、そこはそれ、言っても聞かなそうな若い娘相手にわざわざこの状況でコンコンと説明するわけにもいかない。
かつては騎士団を率いていた団長は、寛容なのである。
「ウオオッ!!」
猛然とダッシュで踏み込むソラスティベルに向かって動くものにひたすら攻撃を仕掛けるグロリアスは、武器と化した腕を猛然と振るうが、ドラゴンのパワーを帯びたバックラーで正面から受けるソラスティベルは止まらない。
やや遅れる形でバーンもそれに参戦する。
ディレイドアイに攻撃が向かぬようがむしゃらに攻撃を仕掛ける単純思考のソラスティベルに対し、バーンはその立ち位置や攻撃パターンの解析に加え、ディレイドアイに攻撃が及ばぬよう気を配りながらの年季を思わせる立ち回りで、間接的にソラスティベルの動きすら制御していた。
大振りな剣を巧みに操り、牽制とフェイントを織り交ぜた戦い方は、狂気のまま全身を武器化したグロリアスの注意を引きつつ、ソラスティベルの攻撃を助ける形になっていた。
そんな二人と一体の戦いを、やや後方から見つめるもう一つの視線。
「見ず知らずの者同士が共通の目的のために即席タッグを組む、う~むエモい!」
永い蛇の下半身をくゆらせるようにとぐろを巻き、御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)はグッと意味もなく拳を握りしめていた。
やや遅い参戦となってしまったが、こんなおいしい状況で手を出さずにいられるほどこの動画配信者は保守的ではない。
「はっはっは、妾も手を貸してやらんこともない。さあ、嫌々な感じで了承するがいいぞ」
「はぁ? 今忙しいんだよ! そっちはそっちの仕事をしてくれ!」
「ええー」
爆弾の解体作業で忙しいらしいディレイドアイに話を持ち掛けるも、デリケートな作業中だったらしく袖にされてしまい菘は思わず素の反応を出してしまうが、気を取り直して今の部分は後撮りにすることにして、ひとまず当面の仕事──グロリアスの退治に乗り出すことにした。
一方の主戦場となっている二人と一体はというと、狂乱殺戮体と化したグロリアス相手に二人は一進一退の攻防を繰り広げていたが、今までに数々の猟兵の攻撃を受け続けていたグロリアスは徐々にその蓄積されたダメージにより動きが鈍りつつあった。
「これは自然の報い……故に私の、」
うわごとの様に呟きながら鋭い槍穂を連ねた手足を振るう攻撃を、ソラスティベルがバックラーで受けつつ、流す。
「誓い」
「勇気!」
流れた腕の間隙を縫って、そのまま突き出したバックラーで殴りつける。
「覚悟」
「気合!」
のけぞって大きく隙が生まれたところに、大斧を振りかぶり、
「祈り」
「根性ォ!」
ユーベルコード【勇者理論】を唱え、防御から一転攻勢に持ち込み与えた一撃は、その槍穂のうろこを粉々に砕き、確かな手応えを得るに至ったが、それでもグロリアスは倒れない。
後ずさりするように距離を取ろうとするその足元に菘の長い蛇腹が絡みつくと、異形の腕が槍穂のはがれた顔面を掴む。
「超強化もこうなっては形無しよなぁ。それに、掴んでしまえばこちらのものよ」
ぎりぎりと蛇腹で締め上げると、その身にも槍穂が突き刺さるが、それは無理矢理体を変化させたグロリアスも同じことである。
そして敢えて刃物だらけの相手に絡みつくという不利な行動を取ることにより、菘のユーベルコード【逆境アサルト】は効力を増してその体を強化する。
身体を傷だらけにしながらもグロリアスを締め上げると、仕上げとばかり顔面を掴んだまま地面に叩きつける。
鉄骨同士をぶつけた様な衝突音が鳴り響くと、
「よぉし、仕上げだ。ディレイドアイよ、そのレンチを思いっきり頭にでもブチ込んでやるがよい!」
「あぁん? ちょっと待ってろ!」
あんまり期待はしていなかった宣言だったが、意外にも菘の投げかけた言葉に返ってきたのは、ガコンというなにか重たそうなものを思い切りレンチでぶん殴ったような音だった。
なんだそりゃ、と不審に思って顔を上げる菘の目の前には、なんとなく見覚えのある塊が落っこちてきた。
気のせいでなければ、汚水槽に取り付けられていた爆弾に見える。そしてその向こうには、フルスイングで大型レンチを振りぬいた様なポーズのディレイドアイが目に映った。
「あの野郎」
呆れたように声を上げる菘は、せめて周りの二人くらいは庇おうかと思ったが、肝心の二人は既に退避していたらしかった。
いくら窮地に強くなるとは言っても、これはねえだろ。
咄嗟に拘束を解いて体を守るように蛇腹でとぐろを巻いて備えたが、目の前にオレンジの輝きと耳を劈く炸裂音が響いてもはや自分がどんな格好をしていたかすら思考から吹き飛びそうになっていた。
「い、いったたた……これは、さすがにきつい……が、いい絵が撮れたんじゃないかぁ?」
身体が黒煙を上げ、全身がヒリヒリと悲鳴を上げるのももはやどうでもよく、聴覚が遠いのを覚えながらも、それでもなお、菘は予想以上のディレイドアイの重い一撃に面喰うよりも、動画映えを考えていたりしていた。
「ぐ、が……私が、こんな、こんなものに……」
爆発の衝撃で狂乱が解けたグロリアスは、もはや満身創痍だった。
それでもいくらか冷静になった頭で、爆弾が無効化されたことよりも、菘に再び拘束されない方法を考えていた。
地上に居てはだめだ。
黒煙が渦巻く今ならば、空中からの急襲は躱せまい。
もはや爆弾による汚水槽の破壊は、次回を待たなくてはならなくなった。それでも、あいつだけは……。
今回の作戦の一番の障害となったディレイドアイだけは殺しておかなくてはならない。
グロリアスは冷静さをいくらか取り戻してはいたが、もはや正気ではなかった。
そしてそれは、
「──そう、するだろうと読んでいた」
飛び上がったグロリアスの、そのさらに上から、重々しい声が下りてくる。
グロリアスの背中に冷たいものが奔る。
黒煙が晴れて、その背後に逆十字が浮かぶ。
禍々しい紅いオーラが、黒いフルプレートを象り、その身を飛翔させる、ユーベルコード【ヴィランズ・ジャスティス】。
「蒼き翼の天使よ。
我が悪を以て躯の海へ送り返してやろう」
掲げた大剣が、その黒い影と共に紫電の如く打ち下ろされる。
胴から真っ二つに両断されたそれは、もはや美しい少女のものではなく、オブリビオンの成れ果てに相応しく、黒い霧となって霧散していく。
「──悪には悪の、正義がある」
着地したバーンから紅いオーラが散っていく。
悪を謳いながら正義を名乗る、どこか矛盾したような信念。しかしそれでも気高い意志が、薄汚い臭気をひと時だけでも吹き飛ばしているかのようだった。
「……ふぅ~、終わったんだなぁ。いやぁ、おっかねぇ野郎だったぜ」
「おいお主、暢気にしとるが人ごと爆破しようとしたであろう」
「いやぁ、でかいのをドカンとやれって言われたからさ」
「お主がおいしいところを持って行っても困るんだよぉ。んもうー」
戦闘が終わったとなると、途端に喧嘩を始めるディレイドアイと菘だったが、菘はといえば、この後の動画をチェックするのがちょっと楽しみだったりするのだった。
「ディレイドアイさんは小悪党でも一匹狼でもありませんっ。
貴方を慕う人が、貴方が救ってきた人々が言うのです!彼の力になってほしいと!
人々に背中を押される貴方は、正しく『勇者(ヒーロー)』ですっ!」
「うわぁ、よしてくれ! 俺はそんなんじゃねぇってよ!」
やたらと綺麗なきらきらとした瞳で迫るソラスティベルに、ディレイドアイは本気で面倒くさそうに逃げるのだが、ソラスティベルは割としつこくそれを追いまわす。
そんな姿を遠目に、黒い甲冑姿のバーンは、愛用の大剣を担ぐと、その陰で密かに口の端を吊り上げる。
「自らを小悪党と嘯き、地下の民のため身を晒すか……。これも悪なる正義か」
そうして一人、暗がりに姿を消していく。
戦いの喧騒が抜ければ、やがて猟兵たちと孤独なヒーローは去っていく。
もとより人の寄り付かない下水道。何よりも、ここは汚水槽の近くで大変臭いのだ。
内心では誰もがさっさと帰りたがっていた。
そう、彼らは帰る場所を一つならず守ったのである。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵