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夕暮れ猫と遍く詩

#UDCアース

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#UDCアース


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●友に贈る詩
 君よ、親愛なる君よ。
 君だけは、僕のおぞましい姿を見て恐れなかった。
 君だけは、冷たい真夜中の心細さを埋めてくれた。
 君だけが、僕を友として認めてくれた、たったひとつの命。

 けれど、どうして君は帰って来なくなったのだろう。
 何かあったのだろうか。僕のことが嫌いになったのかもしれない。
 それでもいい。でも、一目で良い。たった一度でも良いからまた逢いたい。
 だから僕は此処で待ち続けよう。
 君と僕が百日間も共に過ごした、この場所で――。

●怪物とアリス
 それは、ラグオ・ラグラと呼ばれる伝承の怪物。
 鑼犠御・螺愚喇とも記す彼の存在は怪物ではあるが、元は善良なモノだ。
 ヒトから見ればおぞましい邪神そのものとしか思えぬ姿かたちではあるが、彼は人語を解し、とても美しい声で優しい言葉を紡ぐ。
 善良な魂とは相反して、その躰は毒に満ちていた。
 彼の心が穏やかであるときは毒を撒き散らすようなことはない。だが、ひとたび心が乱されればたちまち躰から高濃度の酸の霧が噴き出して周囲の者を死に至らしめる。
 彼にはただ穏やかな日々さえあれば良かった。
 しかし、運命の悪戯によって骸の海より蘇りし怪物を、邪神として、そして世界の敵として祀りあげようとするモノたちがいる。
 その名は――マガツアリス。
 それらは群体にして個体。廃ビルの最上階にラグオ・ラグラを祀ったアリス達は今、彼の平穏を乱すことで街を毒の海に変えようとしている。

●世界を穢すもの
 グリモアベースにて、少年は何処か悲しげに語る。
 場所はUDCアースの日本。とあるちいさな街でのこと。
 数十体のマガツアリス。そしてラグオ・ラグラと呼ばれる優しき怪物によって引き起こされる未来は、撒き散らされた毒によってその街の全てが死に絶えるという惨劇。
「ラグオ・ラグラさんは見た目は怖いけれど、とても綺麗な心の持ち主らしいです。でも、そのからだの仕組みは彼が地球で生きるのに向いていないんです」
 グリモア猟兵のひとり、人狼のミカゲ・フユ(かげろう・f09424)は瞳を伏せる。その背後には彼がお姉ちゃんと呼ぶ少女の霊が心配そうに寄り添っていた。
 そして、顔をあげた少年は今回の『敵』について話しはじめた。

「彼には、おともだちがいました」
 骸の海に捨てられたはずの過去である彼は何らかの異常で世界に染み出した。
 幾ら自分が友好的であろうとおぞましい外見を好む人間などいない。
 そう考えていた彼は廃ビルの奥深くに身を隠して孤独で無為な時間を過ごしていた。
 だが、其処に彼を恐れぬモノが訪れた。
「……夕陽のいろみたいな毛並みの、綺麗なメスの猫さんだったそうです」
 夕暮れになるとビルに訪れる猫は彼によく懐き、彼も猫を可愛がった。
 彼女さえ傍にいてくれれば何もいらない。
 彼はそう思っていた。そうあって欲しかった。
 だが、いつしか廃ビルはラグオ・ラグラを邪神とするべく集ったマガツアリス達に占拠されてしまった。それによって猫はビルに近付くことはできなくなった。
 事情を知らぬ彼は酷く落ち込み、その心は乱された。
 そして今、マガツアリス達は待ち侘びている。ラグオ・ラグラの躰から毒を孕む酸が放たれ、周囲に死が満ちることを――。
「実はもう、はじまっています。いちど放出された毒は止まらなくて……ラグオ・ラグラさんの息の根をとめない限り、どうしようもなくなっています」
 事情を知ってしまった以上、倒したくはない相手かもしれない。しかし相手は骸の海から蘇った存在。それが望む望まないに関わらず、いつかは必ず世界を滅亡に導く。
「――だから、たおしてください」
 ミカゲは振り絞るような震えた声を紡ぎ、猟兵達に願った。

●夕暮れの街と猫の暮らし
 場所は寂れた繁華街の一角にある廃ビル。
 四階建てのビルには過去に幾つかの事務所などが入っていたらしい。廃墟となってからは内部の調度品などは引き払われており、すべてのフロアががらんどうになっている。
「ラグオ・ラグラは一番上の四階にいるみたいです。けれどまずは一階から三階までに散らばっているマガツアリスたちを倒すのが先になります」
 軍隊、もしくは群体。
 例えるならば蟻のような集団のマガツアリス達は十数体居るだろうと予測される。
 ラグオ・ラグラの状態がどのようなものなのかは実際に向かってみなければわからない。その為にはまず邪魔な者を蹴散らさねばならない。
 猟兵の力をもってすれば大丈夫だと信頼を抱き、ミカゲはちいさく頷く。その後ろではお姉ちゃんの霊がぐっと両手を握って鼓舞のポーズを取っていた。

「それから、猫さんのことですが……」
 曰く、廃ビルの路地裏には多くの猫が棲んでいるらしい。
 人懐っこい猫から、隠れる猫。大きい猫から子猫まで本当にたくさん。
 件の夕陽色の猫も元は其処から来ていたようだ。ビル内にマガツアリスが潜んでいることもあって何かを感じ取っていた猫達は日々怯えていたらしい。
 戦いの後に立ち寄り、路地裏の猫達の様子を覗ってみるのもいいかもしれない。
 餌をあげてみたり、もう大丈夫だと撫でてあげたり、ぎゅっと抱きしめてみたりと優しい心を持って接すれば思いは通じるだろう。
「猫さんたちのため、街の人たちのために、それから……」
 ――優しい怪物のためにも。
 そっと付け加えたミカゲはグリモアを手にして、仲間達を強く見つめる。
「それじゃあテレポートをはじめますね。いきましょう、皆さん!」


犬塚ひなこ
 今回の世界は『UDCアース』
 優しき怪物、鑼犠御・螺愚喇(ラグオ・ラグラ)の完全討伐が果たすべき目的となります。

 第一章は廃ビル突入シーンから始まるマガツアリス十数体との戦い。
 第二章は最上階に居る鑼犠御・螺愚喇を屠る為の戦い。
 第三章は路地裏にて猫たちと過ごす日常となります。

●三章について
 戦闘はシリアスですが、事後の日常シーンはゆったりな雰囲気です。
 戦いに参加しなかった(できなかった)方も遠慮なく、路地裏の猫と戯れていってください。お誘いあわせの上での参加も大歓迎です。その際はお互いにIDやお名前の指定、またはグループ名を明記してご参加ください。

 呼ばれない限りはリプレイには登場しませんが、ミカゲ・フユも猫のことがすごく気になっているようです。もし良ければお声がけください。
 その他、お好きな形で皆様の思うままに楽しんで頂けると幸いです。
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第1章 集団戦 『マガツアリス』

POW   :    古き神々の意志
【邪神「第零の蟻」】を召喚し、自身を操らせる事で戦闘力が向上する。
SPD   :    呪われし鉤爪
【異様に膨れた両腕の鉤爪】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    軍隊蟻の行進
いま戦っている対象に有効な【悍ましき妖虫】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

虻須・志郎
「こういうのは得意なんだ。奇襲するなら付いて来い」
裏口より侵入。鍵が掛かっていればマッドネスで構造解析し鍵開け

「招集が掛かって来てみりゃ……ハ、蟻ん子共が悪知恵をつけたか? 計画外だろうが、それでいて悍ましい」
「『お前達が存在したお陰でこうなった』俺の身だ。往くぞ三下共、終いを舞わせてやる」
仲間の攻撃を援護する為、内蔵無限紡績兵装を最大開放
敵の動きを封じる強靭な投網を形成、マガツアリスの一群に投射する

『第零の蟻如きが再び我に逆らうと? それは嗤えぬな』
『我等の贄の分際で、相応に持て成してやろうぞ』
・王者の石を起動、捨て身の一撃で殴り飛ばし生命を喰らう
・WIZ対策にアムネジアフラッシュで攪乱する


マリス・ステラ
廃ビルの屋上に倒すべき『敵』がいる
ミカゲはそう言いました。本当に倒すしかないのでしょうか?

廃ビルを見上げて思う
しかし、その前に倒さなければならないもうひとりの『敵』
「まずはあなたたちを倒します」
マガツアリスたちに宣言します

【WIZ】を駆使して戦います
【偉大なる魔術】で式紙を呼び出して戦闘を開始
他の猟兵や式神を弓で「援護射撃」しながら一体ずつ確実に屠ります
戦況に応じて式神を盾にするなどして立ち回ります
冷静に状況判断をしつつ、破魔の力を宿す弦音を鳴らして弓で射抜きます

奇襲を受けないよう警戒
「第六感」や「野生の勘」を働かせます

件の猫が迷い込んていないか「失せ物探し」で気にして可能なら保護します


神々廻・夜叉丸
……成る程、事情は理解した
おれとしても思うところはあるが、まずは目の前の敵を片付ける事から始めよう
事が始まってしまった以上、それに終わりを齎すのがおれ達猟兵の役目なのだから

群体が相手とあらば、こちらも数で押すとしようか
地に突き立つ刀を次々と手に取り、【残像】を残す程の速さで視界に映る全てを斬り、戦場を駆け抜ける
速度の代わりに正確さを犠牲にしている以上、その一撃一撃が致命に至らぬは必定
なれば【武器落とし】――その鉤爪と悍ましき妖虫を狙うことで皆の手助けとなろう。少なくとも数体の足止めは叶うはずだ

また、おれの勢いで多少なり敵に【恐怖を与える】事ができれば尚良し
竦んだ足では、他の猟兵の攻撃は躱せまい



●禍つ影
 路地裏に冷たい冬の風が吹き荒ぶ。
 見上げた廃墟ビル、三階の割れた窓から幽かに奇妙な物音がした。
 それは何かがギチギチと擦れ合う不可解な音。耳に届く奇妙な音は心を掻き乱すような不穏な響きを孕んでいた。

 おそらくあの音と存在が、この最上階にいるモノの心を乱している。
 ――マガツアリス。
 虻須・志郎(第四の蜘蛛・f00103)はビルの周囲に漂う禍々しい空気を感じ、己が宿敵であり眷属とも呼べる者たちの名を思い浮かべた。
「招集が掛かって来てみりゃ……ハ、蟻ん子共が悪知恵をつけたか? 計画外だろうが、それでいて悍ましい」
 それらは骸の海から染み出した過去の残滓のようなもの。
 元から群体にして個体であるように、マガツアリス達は群となって世界の滅亡を導く為の行動を取る。その過程がこの廃ビルの惨状ならば皮肉にもならない。
「……成る程、事情は理解した」
 神々廻・夜叉丸(終を廻る相剋・f00538)は耳障りな音に対して眉を僅かに顰め、これから戦場となる廃墟を見遣った。
 アリス達を倒して進んだ先、最上階に倒すべき『敵』がいる。
 そう告げられて此処に来たが、はたして――。
「本当に倒すしかないのでしょうか?」
 マリス・ステラ(星を宿す者・f03202)は廃ビルを見上げ、浮かんだ思いを零す。星の転がるような声色は冬風に乗って静かに消えていった。
 だが、今は考えているだけでは話は進まないと分かっている。
 夜叉丸としても思うところはある。しかしその思いは言葉にせず、先ずは目の前の敵を片付けることから始めるべきだと思考を律する。
「斃す為に戦う他ない。事が始まってしまった以上、それに終わりを齎すのがおれ達猟兵の役目なのだから」
 マリスの呟きに答えた夜叉丸とて無為に命を奪いたいわけではない。
 されど、相手はオブリビオン。
 心を殺し、そういうものなのだと思わなければ刃を振るえない。
 頷いたマリスがそっと身構えると、志郎は視線だけを此方に向けて仲間を呼んだ。
「こういうのは得意なんだ。奇襲するなら付いて来い」
 志郎は音を消し、息を潜め、猟兵達を伴って先陣を切る。回り込んだ先はビルの入口ではなく細い路地から続く裏口。
 廃墟とはいえ扉には鍵が掛かっていた。
 しかし志郎は邪神の力が宿る分析端末を用いて、いとも容易く鍵をあける。
 来い、と誘った志郎は扉を開き、一気に内部に踏み込んだ。
 先ず視界に入ったのは三体。
 他の個体はおそらく正面入口の方に居るのだろう。
 思わぬ場所から訪れた侵入者に対して身構えたマガツアリス達は敵意を向ける。その視線を受け止めた志郎は自らの刻印、王者の石を起動させた。
 その身は『彼女達が存在したお陰でこうなった』もの。
「往くぞ三下共、終いを舞わせてやる」
 志郎は敵が動くよりも疾く紡績兵装を紡ぎ、強靭な投網を形成する。
 それが放たれるまでの時間はたった一瞬。
 敵の一群に投射された網がその動きを縛る中、奇襲を狙う猟兵達が内部に身を滑り込ませる。マリスもそのひとりであり、しかとマガツアリスたちを見咎めた。
「まずはあなたたちを倒します」
 そう宣言したマリスは魔術式を組み、偉大なる力を発動させる。
 ――アルス・マグナ。
 呼び出された式神がマリスの周囲に展開されていく中、夜叉丸が床を蹴る。コンクリートの鳴る無機質な音と共に夜叉丸が駆けた先に地に刺さった刀の幻影が現れた。
「ここに振るうは無限の一刀。――参る」
 それを引き抜いた夜叉丸は刃を実体化させ、斬撃として放つ。
 だが、志郎の網を振り解いたマガツアリスが妖虫達を呼び出した。羽音を響かせた悍ましき虫は夜叉丸が振るう刃に体当たりを仕掛け、攻撃を相殺していく。
 だが、それをも上回る速さと勢いで夜叉丸の刃とマリスの式神が妖虫を穿った。
 志郎の身は裡に宿る邪神の力が巡っている。
 抵抗するマガツアリスに見下すような視線を向けた彼は冷たく言い放つ。
「我等の贄の分際で、相応に持て成してやろうぞ」
 ひといきに距離を詰めた志郎は一度で敵を屠る為、己の身すら鑑みぬ全力の一撃を解放した。機械的で不気味なほどに華奢な腹部に振るわれた一閃は標的の命を奪い取りながら喰らい尽くしていく。
 一瞬後、出来上がったのは腹に穴があいた躯体。
 マリスは一体目が死したのだと察し、残る個体に視線を向ける。再び式神を呼び出して援護に回したマリスは自らも後方支援に回ることを決めた。
 星屑の名を冠する弓を構えたマリスは標的をしっかりと見つめる。
「一体ずつ確実に屠りましょう」
「……ああ。対峙したからには葬るだけだ」
 夜叉丸はマリスからの声に応え、前を見据える。其処には両腕の鉤爪を振るって襲いかかろうとしてくる敵の姿があった。
 すかさずマリスが矢を放って敵の勢いを削ぐ。夜叉丸は地に突き刺さった刀を抜いて鉤爪を受け止め、その刃を捨てると同時に新たな刀を手にする。
 残像が見えるほどの疾さで夜叉丸は真横に身を翻した。
 そして、あいた射線に志郎が駆ける。
 対するマガツアリスも悍ましき妖虫を召喚した。だが、志郎はそれを読んでいたかのように腕を掲げる。途端に時計型の精神干渉器から光が溢れ、妖虫を打ち落とした。
「そちらは任せて構わないな」
 夜叉丸は志郎に一体の相手を任せ、自らはもう一体に狙いを定める。
 マリスは冷静に状況を判断しながら破魔を宿す弦音を鳴らし、志郎の援護となる射撃を行っていく。
 片腕を弓で射抜かれたマガツアリスは本能的に危機を察したのか、その身に邪神『第零の蟻』を宿した。だが、その判断はもう遅い。
「第零の蟻如きが再び我に逆らうと? それは嗤えぬな」
 志郎が腕を振るった、刹那。
 身じろぐ暇すら与えられなかったアリスはその場に力なく伏した。
 夜叉丸は残る一体に刀を向け、幾重もの連撃斬を放つ。一撃ずつは致命傷には至らないが、その分だけ刃には有り余るほどの速度が乗っていた。
「未だ倒れないか。ならば――」
 夜叉丸は振るわれた鉤爪を弾き返し、仲間に視線を送る。
 次の瞬間にはマリスの破魔の力を宿す矢と、志郎が放った光波がマガツアリスを貫いていた。そして、敵の喉元を狙った夜叉丸は一気に刃を押し込む。
 ぷつ、と首が千切れた音がして、敵は糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。
 それは数分にも満たぬ間の出来事。
 既に他の仲間も裏口や正面から各々に侵入し、遭遇した敵と戦っているだろう。
「行きましょう」
「まだ蟻共は健在か」
 マリスは奥に進んだ仲間の後を追う為に歩を進め、志郎も先を急いだ。そうだな、と頷いた夜叉丸も気を緩めぬまま二人に続く。
 神経を逆撫でするかの如き耳障りな音は未だ廃墟に響き続けていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

オズ・ケストナー
時間はかけられないけど
廃ビル突入前に路地裏で夕陽の色をした猫を探したい
ねえ、きみのともだちが大変なんだ
できればブローチに触れてもらってEine Welt für dichを使って連れて行きたいけれど
無理そうなら動画だけでも撮っていくよ
きみが彼のこと、きらいになったわけじゃないって教えてあげて

準備が整ったら廃ビルへ

斧のガジェットを振り回して攻撃
どいてっ
【フェイント】を織り交ぜて早く決着をつけるよ
シュネー、お願いっ

少しでも早く彼のところへ行きたい
倒すことはわかってるけど
もし、ほんの少しでも毒が止まる瞬間ができたら
いのちが消える直前でもいい
会わせることができるかもしれない

誤解したままなんてつらいから


朽守・カスカ
なんともやりきれない話だ…
せめて、穏やかに過ごせていたのならよかったのにな

まずはラグオ・ラグラまでの道を切り開かねばいけないか
群体の敵ならば絡め取られないように気を付けて
逆に分断して一体ずつ確実に倒して行こう

【ガジェットショータイム】
虫…しかも蟻退治なら熱に弱いだろう。
唸る蒸気エンジンから、高熱高圧のスチームを吹き付けて
ふふ、差し詰めスチームクリーナーみたいなものかな
マガツアリスの邪悪な企みも、
切合切を端から綺麗に掃除してあげよう

そして、掃除が終わったのなら次は進む前に探そう。
夕日色の毛並みの子を
友のもとへ戻りたがっているのなら
近くに来てはいないか、と
それぐらいはしてもいいだろう?



●夕陽色の猫
 ――なんともやりきれない話だ。
 件の怪物の話を聞き、朽守・カスカ(灯台守・f00170)は胸の奥に何かが刺さるような感覚をおぼえていた。
「せめて、穏やかに過ごせていたのならよかったのにな」
 思いが言葉になって零れ落ちたが、カスカはすぐに思い直す。同情めいた思いはきっと戦いの邪魔になる。そう考えたのだが浮かぶ感情は消えてはくれない。
 燻る感情は余所に遣り、裏口から突入した仲間に続くべくカスカは駆ける。
 しかし、そのとき。
 裏路地に続く道に影が見え、カスカは立ち止まった。
「キミ、こんなところで……」
 何をしているのか、と問い掛ける前に少年めいた姿の猟兵が振り返る。しぃ、と指先を口許に当てたのはオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)だ。
 彼の目の前には猫が居た。
 夕暮れ色の美しい毛並みの猫。その子がおそらく『彼』の友人だ。
 オズが猫に接触をはかろうとしているのだと察したカスカは裏口と路地裏を繋ぐ間に立ち、危険が迫って来ないか見張る役目に付いた。
「ねえ、きみのともだちが大変なんだ」
 オズは塀の上に佇む夕陽色の猫に語り掛ける。
 そっと手を伸ばすも、背後のビルからは敵が立てる奇妙で煩い音が響いて来ていた。此処に猫が居るということは彼女も廃墟に戻りたいと思っているのだろう。
 しかし、内部に蠢く存在を警戒しているらしき猫は其処から動こうとしない。
 たとえ入れたとしても狙われればひとたまりもない。
 されどオズには秘策があった。
 差し出したブローチは特別製。それはユーベルコード製であり、オズがすきなものをたくさん集めた美術館に繋がる扉のかわりでもあった。
「この中に入ってくれれば安全に『彼』の場所まで行けるよ」
 言葉が通じるわけではないが、それでも一縷の望みに縋りたい。ふたたび彼と彼女を逢わせたいと願うオズの思いはカスカにもよく分かった。
「きみが彼のこと、きらいになったわけじゃないって教えてあげて」
 にゃあ、と鳴き声が響く。
 オズが真剣に願った思いが通じたのか、それとも偶然か。猫がブローチに擦り寄った瞬間、その姿は瞬く間に魔法の世界に吸い込まれた。
 カスカも元より猫を探す心算だった。それゆえにオズの行動に安堵を覚えたのだが、同時に不安も過る。
「戦いの最中に連れていくことになるけれど、大丈夫だろうか」
「わからない、けど……この子は選んでくれたんだ。きっと賢い子だよ」
 オズはブローチをそっと握り、大切に懐へと仕舞い込んだ。そしてその代わりに身の丈ほどある斧を携えて強く頷いた。
 カスカも頷きを返し、二人は廃墟ビルへと突入する。
 既に他の仲間達は各フロアに散り、各個撃破の為の戦いが繰り広げられているようだ。そして、オズとカスカの前には群れからはぐれたらしき一体が立ちはだかる。
「どいてっ」
「虫……しかも蟻退治なら熱に弱いだろう」
 オズが蒸気の勢いに乗せた斧を振るえば、カスカも魔導蒸気から成る高圧霧噴射ガジェットを差し向ける。敵の鉤爪が振るい返されてもオズが構えた斧の刃がそれを弾き、カスカの放った高圧縮のスチームが蟻の身を貫いた。
 そして、オズは雪のような白い髪を持つ絡繰の名を呼ぶ。
「シュネー、お願いっ」
 フェイントを交えた絡繰の一閃が敵を惑わす中、カスカは勝機を感じ取った。
 潰すべきはマガツアリスの邪悪な企み。
「一切合切を端から綺麗に掃除してあげよう」
 カスカが放った一撃は真正面からマガツアリスを穿ち、その力を奪い取る。敵が倒れたことを確かめたオズはカスカを誘い、上階を目指す。
 少しでも早く『彼』のところへ行きたい。
 どれほど力を尽くしても斃す未来は変わらない。だから、いのちが消える直前でもいい。会わせたいと願うのはエゴだろうか。
 それでもきっと、誤解したままなんてつらいから。
 二人は同じ思いを抱いて戦場を駆けていく。ただ、悲しい別離を紡ぐ為に――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

黒金・華焔
目的の為なら汚い手段でも平気で使う
いいね、そういうのは好きだぜ
だがな、好き勝手にやるって事は相手も相応の対応をしてくるって事だ
お前らならいくらブチ殺そうが誰にも文句を言われることもねぇ
今日はちょっと暴れたい気分でな、私の為に死んでくれよ

まずは式神響歌を召喚、歌で支援させるぜ(高速詠唱)
準備が終わったら一気に行くか
黒焔呪月の力を解放、刃に焔を灯して薙ぎ払ってやるよ(属性攻撃、なぎ払い、範囲攻撃、二回攻撃)
虫は火に弱いってのが定石だろ?

敵の攻撃は動きをよく見て回避狙い
"見る"事は得意でな(見切り、情報収集)
他の猟兵とも連携して囲まれる事がないように立ち回るぜ(戦闘知識)


テスアギ・ミナイ
アリス達、あなた達にとっての美しく優しいものは、
私とは違うのでしょう。
だから、相入れないのです。
だから、私にとってはあなた達こそ邪魔なのです。
……さっさと消えて。

もうひとつ。残念ですが、
ラグオ・ラグラを邪神とする、それは無理なお話です。
邪ではないものが邪神になれはしない。

などというお話も、どうでもいいですね。
私、群がる小者は嫌いなんです。

放つコードは月の男。
虫は寒さに弱いと聞きました。



●正面階段にて
 鈍く軋む扉をあけると埃が舞った。
 裏口からの奇襲に向かった者達とは別に真正面から挑む猟兵も居る。
 鼻先を掠める古びた匂いに片目を瞑り、黒金・華焔(黒の焔・f03455)が見遣った先に有るのは上のフロアに繋がる階段。
 そして、階段の横手には一体のマガツアリスが居た。
 華焔の傍ら、テスアギ・ミナイ(さがさないでください・f04159)は幾度か瞬く。長い睫毛が微かに揺れる中、テスアギは一歩前に踏み出した。
「ここは私達に任せてください」
 その声は華焔ではなく、背後の仲間達に向けられている。
 どうやらマガツアリス達は数体ずつ、各フロアに点在しているようだ。
 それならば固まって戦っている間に物音を聞きつけてきた敵に乱入されるよりも、最初から各個撃破の方が効率はいい。
 まるで此処が蟻の巣にでもなったようだと感じたが言葉にはせず、華焔も自分達の後から廃墟に踏み入った仲間に告げる。
「全員で戦うには狭いな。先に上がっててくれよ」
 片を付けたらすぐ追う、と付け加えた華焔も敵の前に陣取る。
 これでテスアギと華焔が敵を遮ったことになり、二階への道がひらいた。
 仲間達が駆けていく足音を背にした華焔は黒式の術を紡ぐ。其処から顕われた式神、響歌は瞬く間に周囲に歌を響かせていった。
 どうやらマガツアリスも此方を排除すべき敵と見做したらしい。敵は異様に膨れた両腕の鉤爪を振りあげ、テスアギに迫る。
 鋭い爪が彼女を斬り裂かんとした瞬間。
 その間に割り込んだ華焔の小太刀が爪を受け止めた。きん、と甲高い音が辺りに響いたかと思えば敵は後方に下がって華焔と距離を取る。
「目的の為なら汚い手段でも平気で使う。いいね、そういうのは好きだぜ」
 華焔は彼女達が行わんとしている惨劇を思い、薄く口元を緩めた。そして華焔に庇って貰った礼を告げたテスアギは敵に眸を向ける。
「アリス達、あなた達にとっての美しく優しいものは、私とは違うのでしょう」
 ――だから、相要れないのです。
 ――だから、私にとってはあなた達こそ邪魔なのです。
 彼女達が、否、蟻達が行おうとしているのは悲劇に更なる悲劇を重ねる所業。
「……さっさと消えて」
 テスアギが差し向けたのは氷の如く冷ややかな視線。
 それは実際に氷結の力を宿し、マガツアリスに突き刺さってゆく。
 そして、敵が反撃に入る前に華焔が追撃を行う。呪われた月の如き鈍い光を宿す黒焔呪月を解放し、その刃に宿していくのは焔の力。
「だがな、好き勝手にやるって事は相手も相応の対応をしてくるって事だ。お前らならいくらブチ殺そうが誰にも文句を言われることもねぇ」
 今日はちょっと暴れたい気分だと話した華焔は焔を灯した刃を振るい、ひといきに敵を薙ぎ払った。
「だから、私の為に死んでくれよ」
 熱く、それでいて冷静な焔が敵の身を抉りながら迸った。
 テスアギの氷に華焔の炎。
 ただそのとき隣にいただけという即席の縁だったが、二人の相性は悪くないものに思えた。
 アリスは体勢を崩しながらも悍ましき妖虫を呼び寄せる。しかし、テスアギはそれを引き絞った弓から放つ疾き矢で打ち落とした。
「もうひとつ。残念ですが、ラグオ・ラグラを邪神とする、それは無理なお話です」
 何故なら、邪ではないものが邪神になれはしない。
 そう告げるも、そんな話も今となればどうでもいい。群がる小者は嫌いなのだと口にしたテスアギの耳に響歌の歌声が届く。そして、華焔は刃を構え直した。
「虫は火に弱いってのが定石だろ?」
「虫は寒さに弱いと聞きました」
 重なった言葉に一瞬だけ顔を見合わせた二人は同じことに思い至った。
「だな、それなら」
「ええ、それならば」
 瞬刻、華焔が放った焔刃の一閃とテスアギが向ける氷の眼差しが交差する。
 そして――炎斬と氷結の力に貫かれたマガツアリスは屠られた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
全く、善良なものほど割を食うものよ。
もはや救うことすら出来ない過去ならば、せめて早くに仕留めてやろう。
本意でない殺戮をする前に、その命と共に終わらせる……それがせめてもの慈悲というものであろうよ。

介錯の前に、邪魔な連中を散らさねばならんな。
【リザレクト・オブリビオン】で相手をしてやろう。蛇竜は攻撃に回れ、騎士は私の護衛だ。
戦場は相手の領域。フォローを頼むにも限界があろうからな。
手近な連中で、もしも騎士が必要な者がいれば声をかけろ。私自身の守護よりは優先できんが、役には立つだろう。
蛇竜は尻尾で叩きつけるか、黒炎で焼き払え。ふはは、蟻めいた外見だ、よく燃えそうだなァ。


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
…善良である者を陥れるもの…か
手遅れならば…せめて陥れた敵は全て倒してやりたい所だ

依頼に向かう同行者の皆と共に廃ビルに突入
単独行動になると危険故、なるべく連携しながら行動したい

突入の際は念の為光源の遮光板付ランタンを持参
探索は『忍び足』『聞き耳』『第六感』を使いながらマガツアリスの位置を探りつつ移動
可能ならば不意打ちにて先制を取りたい所だ
戦闘時は【ジャッジメント・クルセイド】とメイスを使い
『高速詠唱』や『全力魔法』『2回攻撃』等可能な限り試みつつ攻撃をして行けたらと思う
味方や己が囲まれたら力を込めて『なぎ払い』
…ここでやられるわけにはいかんだろう?


ユヴェン・ポシェット
まずは、元凶である此奴等の相手からか。

…全く。
俺は虫の類は嫌いではないが、此奴等は…な。
情も湧かない分、戦いやすい。

ロワ(ライオン)、蹴散らすぞ。

大まかな攻撃はロワに任せ、相手が怯んだり、此方の隙をついて攻撃しようとしたりする場合はミヌレ(槍)を振り、貫き攻撃する。

奴の爪など、噛み砕く(ロワが)。弾き飛ばす(槍で爪にひっかけて)。
あとは本体を貫くだけだ。

基本は本体狙いで、
妖虫は、邪魔してきたらロワの爪や槍で薙ぎ払う。



●二階、階段出口にて
 仲間に先行役を任され、登った上階には数体の敵が群れていた。
 ギチギチ、ギィ、と響く音は不快でしかない。間近で聞けば更に精神が蝕まれていくような気がして仕方がない。
「……善良である者を陥れるもの……か」
 ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)は此方に気付いたマガツアリスを見据え、小さく零した。
「全く、善良なものほど割を食うものよ」
「俺は虫の類は嫌いではないが、此奴等は……な」
 その声を聞いたニルズヘッグ・ニヴルヘイム(世界竜・f01811)とユヴェン・ポシェット(クリスタリアンの竜騎士・f01669)も同時に口をひらき、其々の思いを言葉にした。
 鑼犠御・螺愚喇に抱く感慨。
 そして、彼を利用しようとするマガツアリスへの感情。少しの違いはあれど抱く思いはよく似ていた。
「手遅れならば……せめて陥れた敵は全て倒してやりたい所だ」
「介錯の前に、邪魔な連中を散らさねばならんな」
 ザッフィーロの言葉にニルズヘッグが頷いた瞬間、三体のマガツアリスが此方に向かって来た。残る二体は別の仲間が向かった方へと動いている。
 ユヴェンは二人に目配せを送り、竜槍を強く握った。
「ロワ、蹴散らすぞ」
 黄金の獅子を召喚したユヴェンはその背に颯爽と乗る。
 そして、対するマガツアリス達は鉤爪を掲げて襲いかかって来た。後方の二体は悍ましき妖虫を呼び、猟兵達に解き放つ。
 ザッフィーロは向こうが迫り来るよりも先に掌を向け、裁きの光を顕現させた。
「其処か」
 その一閃はアリスを貫き、其処に獅子と共に駆けたユヴェンの槍が付き放たれる。
 妖虫達の羽音やアリスの気味の悪い動きには辟易するが、この手応えならば決して勝てない相手ではない。
 そう踏んだニルズヘッグは呼び寄せた死霊に命じる。蛇竜は攻撃に、騎士は護衛として傍に立たせたニルズヘッグは横目で上階を見遣った。
 あの先に、鑼犠御・螺愚喇は囚われている。
「もはや救うことすら出来ない過去ならば、せめて早くに仕留めてやろう」
 本意でない殺戮をする前に、その命と共に終わらせる。
 それがせめてもの慈悲なのだと己を律し、ニルズヘッグは死霊達に己の力を注いだ。煩い羽音を立てる妖虫は蛇竜に絡め取られて沈む。ニルズヘッグに向かったもう一匹の妖虫は騎士が振るった剣によって両断された。
 虫が地に落ちた先にはマガツアリス本体が居る。獅子と共に前に踏み込んだユヴェンはミヌレに「やるぞ」と呼び掛けて槍を振りあげた。
 ザッフィーロは再び光を紡ぎ、仲間が狙う標的に魔法力を矢の如く降らせる。
 それによって床に縫い付けられるように伏したアリスに向け、ユヴェンが鋭い一閃を放った。瞬く間に敵が一体、戦う力を失って倒れた。
「情も湧かない分、戦いやすいな」
 蟻めいた体からユヴェンが槍を引き抜くと、その身は霧散していく。
 此方に敵意を向けているのは残り二体。
 ニルズヘッグは後方で敵の動きを窺いながら、蛇竜に次の攻撃を願った。素早く動いた死霊の尾がアリスに叩きつけられ、標的は体勢を崩す。
 だが、それだけで終わりではない。蛇竜が漆黒の炎を吐き出してマガツアリスを穿つ様にニルズヘッグは双眸を細め、口許を薄く緩める。
「ふはは、蟻めいた外見だ、よく燃えそうだなァ」
 火達磨になったマガツアリスがもがき苦しんだ。半ば少女めいた外見の相手だが、其処に容赦などは不要だ。
 ザッフィーロは踏み込み、その勢いに乗せてメイスを振り被る。
 敵との距離はやや開いていた。だが、振るわれた戦矛の先端が柄から離れ、其処から伸びた鎖が鞭のように撓る。
「これでどうだ」
 ザッフィーロが銀の瞳を差し向けた瞬間、マガツアリスの脚部が鎖で絡め取られ、動きが阻まれる。そしてその一瞬を利用したザッフィーロは裁きの光を紡ぎ、真正面からアリスの胸元を貫いた。
 これで倒した敵は二体。
 残るマガツアリスは援護として妖虫を呼び寄せる。
 虫の狙いは倒れた敵から鎖を解こうと槌を引いたザッフィーロに定められていた。ニルズヘッグはその様子に気付き、自らを守る騎士を向かわせる。
「騎士よ、守護してやれ」
 その命を受けた騎士はザッフィーロの前に立ち、刃で妖虫を弾き落とした。
 しかし、妖虫も最後の力を振り絞って騎士の鎧を貫く。
 相打ちになった形だが、仲間を守れたという事実は変わらない。ニルズヘッグが死霊を喚ぶ力を揮えば、彼の前にふたたび死霊騎士が現れた。
 その間にユヴェンがマガツアリス本体を相手取る。
 振るわれる鉤爪を獅子のロワが躱し、その腕を噛み砕く勢いで反撃した。
「悪いが、時間を掛けている暇は無いからな」
 ユヴェンは敵がもう片腕を振るってくると察し、竜槍で一閃を受け止める。そして切先を爪に引っ掛けた彼はそのままの勢いでアリスを弾き飛ばした。
 後退したマガツアリスは標的を変えてザッフィーロに鉤爪を振るおうとしている。だが、次は後れを取ることなどない。
 メイスを構えたザッフィーロが爪を真正面から受け、鈍い衝突音が響く。そして、彼は力任せに敵を押し返した。それによって相手の体勢が揺らぐ。
「……ここでやられるわけにはいかんだろう?」
 双眸を鋭く細めたザッフィーロの視線の先にはニルズヘッグの姿があった。
「では、終いにするか」
 頼む、と眼差しで告げられた仲間の思いに応えるべく、ニルズヘッグは死霊を解き放つ。途端に黒炎が迸り、害虫の躰を包み込んだ。
 一瞬で黒焦げになった蟻は崩れ落ち、この場の戦いは収まる。
 ユヴェンとザッフィーロ、そしてニルズヘッグは視線を交わしあい、短く息を吐いた。
 戦いは未だ、続く。
 そうして彼等は上階を目指して駆けてゆく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ライラック・エアルオウルズ
――困ったな、悲しい話は余り得意じゃないんだ。
もしも、の先にばかりに想像を向けてしまうから。
…こんな僕でも、どうにも辛くなる。

【WIZ】
(技能:かばう・カウンター・見切り)

貴方達が御話を愛する少女であれば手加減もするけど。
残念乍らそうではなさそうだし、僕は虫も得意じゃない。
早々と『奇妙な友人』を呼び出して、
虫避けも兼ねての炎とナイフでの攻撃を。
仲間への援護(庇う・カウンター)も含めて、
召喚された物から先に倒して行きたいね。
敵の攻撃は見切りで必要に応じて避けよう。

召喚された物が片付いて敵に隙が出来たら、
『花の歌声』でマガツアリス達を出来る限り削る。
…貴方が蝶であれば、美しく見えたかもね。


海月・びいどろ
平穏な日々を望むことの、何がいけなかったというのだろう。
彼をとめなくてはいけないの?
……このおなかの中が熱く煮えるみたいなものは
いったい、なに?

機械海月の子らでマガツアリスを囲んで、追い詰めて
廃ビルの薄暗さや敵の多さには迷彩で溶け込みフェイントを仕掛けよう
一つ一つ、確実に撃破していくよ

ふわふわ、泳いで、捕まえて
沢山いるなら、沢山で応えるから


見たこともないキミなのに、変だね。
おともだちと生きていたいだけのラグオ・ラグラ。
どんな子、なのかな。


ルベル・ノウフィル
アレンジ・アドリブ・連携歓迎
WIZ 星守の杯

「哀しいお話」
それは、どうしようもないことなのでしょうか

まわりを見れば、この地を救わんと駆けつけた仲間たち
「その傷を癒し、皆様の背を後押ししましょう」
杯を逆さに、天よりやさしく降り注ぐは、甘やかなる星の一欠
傷ついたすべての方が癒されますよう

「どうしようもないこと、というのは、あるものです」
でも、ごくまれに
「救いというのも、あるものです」

この地に集いし勇士たちのこころが届きますように

もしかなうならば、その女の子の猫さんを探してお話したいものです
彼女は何を想うでしょうか
手を差し伸べ、共に彼のもとへ行くことがかなうなら、せめて最期にと
「難しい、でしょうか」



●二階、階段裏にて

 ――だれか。……はやく、僕を――。

 不意に、遠くから声が聞こえた気がした。
 それは仲間の誰のものでもない。か細くも美しい、透き通った声だった。上階から聞こえて来たらしきその声の主はおそらく鑼犠御・螺愚喇のものだ。
 その場に居合わせた海月・びいどろ(ほしづくよ・f11200)とルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)、ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)の三人は顔を見合わせ、静かに頷いた。
 しかし現在、目の前には行く先を阻む二体のマガツアリス達が居る。
「それは、どうしようもないことなのでしょうか」
「どうして、彼をとめなくてはいけないの?」
 平穏な日々を望むことの、何がいけなかったというのだろう。
 仲間と共に身構え、ルベルとびいどろは裡に抱く疑問を口にする。彼らの真っ直ぐで純粋な問い掛けに、ライラックは肩を竦める。
「――困ったな、悲しい話は余り得意じゃないんだ」
 何故なら悲劇を越えた、もしも、の先にばかりに想像を向けてしまうから。だが、今はギィギィと煩く羽搏く妖虫とマガツアリスが考えることを許してはくれない。
「いやはや……こんな僕でも、どうにも辛くなるね。だけど……」
 今は戦うべきときだ。
 ライラックは顔をあげ、フロアに着く前に召喚していた奇妙な友人に攻撃を願った。其処に続いてルベルが黒剣を構え、びいどろも機械海月の兵を呼ぶ。
 廃墟を進む中、偶然にも同じ場所で敵と遭遇した三人。
 彼らは各々ができることをするだけだと感じ、マガツアリスを迎え撃つ。
「哀しいお話」
 彼女達が引き起こした――否、元から決められていた未来を思って、ルベルはちいさく呟いた。何にしてもまずは敵を蹴散らすことが先決。
 その向こうに待っているのが悲しい戦いだとしても、立ち止まることはできない。
 ライラックの友人が夜のナイフを振るえば、びいどろも海月を解き放つ。
 敵をしっかりと見つめ、海月兵達を操るびいどろの裡にはうまく言葉に出来ない妙な感覚が生まれていた。
(「……このおなかの中が熱く煮えるみたいなものは、いったい、なに?」)
 機械兵でマガツアリスを囲んだびいどろは一体ずつを突撃させていく。対する敵は悍ましき妖虫を呼び寄せて抵抗した。
 びいどろは言い知れぬ熱に胸を押さえながら、懸命に戦う。
 妖虫はそんな少年やライラックを鋭い手足で引っ掻くように攻撃する。痛みの感覚が巡るが、後方で杖を構えたルベルがすぐに魔力を紡いだ。
 皆、この地を救わんと駆けつけた仲間たちだ。
 ならば癒しの力を持つ自分の役目は彼らを支えて、戦いに貢献すること。
「その傷を癒し、皆様の背を後押ししましょう」
 杯を逆さに、天よりやさしく降り注ぐは、甘やかなる星の一欠。
 傷ついたすべての方が癒されるよう願うルベルの力はライラックとびいどろを甘やかな心地で包み、痛みを和らげていく。
 そして、ライラックは邪魔な妖虫を打ち落とすべく指先を差し向けた。
「貴方達が御話を愛する少女であれば手加減もするけど。残念乍らそうではなさそうだし、僕は虫も得意じゃない」
 示した先に奇妙な友人が掲げたカンテラの炎が巡る。
 炎が蟻めいた敵の身体を包み込み、真っ赤な色が廃墟を淡く照らした。其処に合わせて動いたびいどろが掌を同じ標的に向けると海月達が一斉にふわりと浮く。
「一つ一つ、確実にたおしていくよ」
 ふわふわと宙を泳ぎ、揺蕩う海月兵はマガツアリスを翻弄する。
 突撃して弾け、弾けては突撃するそれらは敵の力を削り、そして――。
「キミはここで、ばいばい」
 びいどろがそっと言の葉を落とした瞬間、一体目の敵がその場に伏した。しかしまだ敵は残っている。ルベルはびいどろ達を支え続ける決意を抱きながらも、新たな標的に視線を向けた。
 友人の霊を擦り抜けたマガツアリスはびいどろに向けて爪を振るう。
 されどすぐさまライラックが少年を庇いに駆けた。その一閃は身体を深く抉ったが、ライラックは確りと地を踏み締めて耐える。
 心配は要らない。何故なら、背には癒しを担ってくれるルベルがいるから。
「頼んだよ」
 ライラックは背後の仲間に声を掛け、自らは敵への反撃に移った。はい、と答えたルベルは魔力を練り上げ、星守の力をふたたび発動させてゆく。
「どうしようもないこと、というのは、あるものです」
 ――でも、ごくまれに。
「救いというのも、あるものです」
 そう言葉を続けたルベルが掌を翳せば、空から甘き癒しが降りそそいだ。
 救い。それはきっと、友人同士が再び出逢えること。
 ルベルは知っていた。既に別の仲間が路地裏に入り、あの夕陽色の猫を安全なユーベルコード製の世界に入れて、戦場に連れてきていることを。
 その行動がどのような終わりに繋がるかは分からない。
 だが、一縷の希望はあるはず。
 ルベルが抱く思いが空気を伝わって感じ取れた気がして、びいどろはぎゅっと掌を握り締めた。どうしてだろう、誰もが『彼』のことを思っている。
 そして、びいどろ自身も――。
「見たこともないキミなのに、変だね」
 おともだちと生きていたいだけのラグオ・ラグラ。どんな子なのかな、と零した思いは戦いの音にかき消されていく。
 やがて戦いは巡り、びいどろとルベルは敵の力が弱っていると察した。
 ライラックも頷き、身構えた少年達に先手を託す。次の瞬間には海月兵達の突撃と、ルベルの放った呪詛の魔力が重なり、アリスを貫いた。
 そうして、ライラックは得物をリラの花弁に変え、最期の一撃として放つ。
「……貴方が蝶であれば、美しく見えたかもね」
 彼の声が紡がれ終わる前に、マガツアリスは崩れ落ちた。さらさらと塵が風に飛ばされるかのように消えていくそれを見送り、三人は顔をあげる。
 交わした視線は告げていた。
 はやく『彼』の元に行こう、と。そして――猟兵達は先に進んでゆく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

願祈・廻璃
自身が許されざる存在であっても、幸せを願う事自体は決して悪い事ではありません。
きっと猫さんも彼に逢いたいと願っているはずです。

たとえそこに沢山の敵が待ち構えていると分かっていても、
私は彼の細やかな望みを出来る範囲で叶えてあげたい…そう願います。
その願いが強ければ、きっと【神秘の加護】が私達に力を貸してくれます!

さすが巡瑠、いつも頼りにしてますよ。
まずは逢瀬を邪魔する悪い子達を追い払いましょう!

巡瑠の筆に二人乗りさせてもらって敵中を駆け抜けながら、
願いの筆で七色の線を縦横無尽に描いていきます。
宙に描いた無数の線で敵の力を封じていきますね。

(巡瑠と同行します。アレンジも大丈夫です。)


願祈・巡瑠
もし自身の体質を分かっているなら、彼も高望みし過ぎじゃない?
まあ、それを利用して世界を滅ぼそうとしている奴等の方がよっぽど気に入らないけど。
…どちらも結局倒さないといけないし。

廻璃はまた面倒な事を言いだして…もう、しょうがないわね!
その我儘な願いに付き合ってあげるわよ!

【祈りの大筆飛行】を使って魔法の箒の様に跨るわ。
廻璃をその後ろに横乗りさせて一気に突入するわよ!
他人を祀ってしか事を成せない奴等なんて、私達の敵じゃない!

敵の合間を縫ってフロアを縦横無尽に跳び回るわ!
そうすれば廻璃が多くの敵を封じてくれるでしょ。
封じ漏らしがあればそのまま突撃して吹き飛ばしてあげる!

(廻璃と同行、アドリブOK!)



●巡り、廻る思惑
 裏口から廃墟に入り、フロアを巡る。
 敵は各階に散らばっている。それを一団ずつ撃破するべく他の仲間達は各所に向かい、其々の戦いを繰り広げているようだ。
 そんな中、 願祈・廻璃(願い廻る神秘・f04941)と願祈・巡瑠(祈り巡る神殺・f04944)は討ち漏らしがないかを確認する為に祈りの大筆飛行に乗っていた。
「もし自身の体質を分かっているなら、彼も高望みし過ぎじゃない?」
「そうですね……。ですが、自身が許されざる存在であっても、幸せを願う事自体は決して悪い事ではありません」
 二人は辺りを見渡しながら今回の敵を思う。
 きっと猫も彼に逢いたいと願っているはず。想像するしかないが、ふたりは互いに好意を寄せあっている。
「まあ、それを利用して世界を滅ぼそうとしている奴等の方がよっぽど気に入らないけど」
 巡瑠は肩を竦めてマガツアリス達を思う。
 そして、一階は大丈夫みたいだと巡瑠が告げれば廻璃も頷き、二人は上を目指す。
 しかし二階を過ぎようとしたそのとき、巡瑠は気配を感じて止まった。
 其処に居たのはマガツアリス。
 何処かの戦場から退避してきたのか、数は一体のみだ。
「ここで倒してしまいましょう」
「そうね、結局は全部倒さないといけないし」
 二人が身構えるとアリスも悍ましき妖虫を呼び出した。羽虫が煩い音を立てて迫り来たが、巡瑠は飛行筆を操って避ける。
 その勢いに乗せて廻璃が願いの筆を振るうと、七色の線が戦場に縦横無尽に描かれていった。敵を穿つ一閃は煌めき、昏い廃墟に光を灯す。
「私は彼の細やかな望みを出来る範囲で叶えてあげたい……そう願います。その願いが強ければ、きっと神秘の加護が私達に力を貸してくれます!」
 攻防を重ねながら、廻璃は思いを言葉にした。
 マガツアリスが振るう鉤爪を華麗に避けつつ、巡瑠はちいさく息を吐く。いつも通り、廻璃が抱く思いは真っ直ぐだ。
「廻璃はまた面倒な事を言いだして……もう、しょうがないわね!」
 その我儘な願いに付き合ってあげる。
 そう告げた廻璃は急旋回し、追い縋って来る羽虫を筆の先で払い落した。
「さすが巡瑠、いつも頼りにしてますよ。まずは逢瀬を邪魔する悪い子達を追い払いましょう!」
 ギィ、と醜い声がして地に落ちた妖虫は果て、廻璃は賞賛の声をあげる。
 これで注意を払うべきはマガツアリス一体となった。
 廻璃はこの機を逃すまいとして無数の線を宙に描き、力を一気に解放する。
「その力、封じてしまいましょう」
 廻った神秘の力はアリスが振るう鉤爪を封じ、その動きを阻んだ。これが最大の好機だと見た巡瑠は神殺の血を代償にし、祈りの筆を突撃形態に変える。
「他人を祀ってしか事を成せない奴等なんて、私達の敵じゃない!」
 そして、有り余る勢いで以て突撃した巡瑠達の一閃は、マガツアリスに死という終わりを与えた。
 二人は飛行筆の上で視線を交わしあい、上階に続く階段を見上げる。
「行きましょうか、巡瑠」
「ええ、目指すは最上階ね」
 敵と――否、『彼』と対面するときが訪れるまで、あと僅か。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

イェルクロルト・レイン
よつろ/クレムと

協調性? そんなもの知らん
コレぐらい避けられるだろ?
舐めた調子に煽る口振りは変わらずで
当人を狙う事はしないがそれ以上の配慮もない

2回攻撃にだまし討ち、串刺し、敵を盾にする等
使えるもんはなんでも使う
廃ビルなら鉄パイプぐらいあるだろ

よつろの召喚した鷹が丁度いい所にいるから悪い
跳ねてもう一段、鷹を踏んで高々と
脳天から叩きのめしてやる

誰がペットだゲロ女ァ!
狼の耳はよく拾う
敵の攻撃、味方の挙動、あらゆるものを警戒
まとめてやれるもんならやってみろ

ったくうるせー奴らがキャンキャン喚きやがる
あからさまに嫌そうな顔をして
軽口叩きながらも敵への警戒怠らず
フォローされたら舌打ちで
余計なことを


四辻路・よつろ
イェルクロルト/クレムと

虫って嫌いよ
特にひっくり返った時あの足がね、無理
――殺虫剤とか効くのかしら、これ


くるりと杖を回して太刀を持った使用人”鈴丸”と鷹達を召喚
いくわよ鈴丸
一匹一匹ではなく束で殺るわよ
鷹達に頭上からフェイント攻撃をさせて、鈴丸には足を斬らせる
防御する際は敵か自らの死霊を盾にする
万が一間に合わない場合は仕込み杖を抜いて応戦

のっけから協調性のないイェルクロルトに舌打ち
ちょっとクレム!あなたのペットでしょう!?
躾ぐらいちゃんとしなさいよ!
まったく、弱い犬ほどよく吠えること
調子に乗ってよそ見してるとあなたごと敵を串刺しにするわよ、わんちゃん


クレム・クラウベル
ルト(イェルクロルト)/よつろと

協調から程遠いやり取りを交互に眺めて
肩を落として深々と溜息一つ
知らない、聞かない、聞いてない
どっちも良い年の大人だろうに……上っ面くらい穏便に出来ないものなのか
そこはかとない頭痛に額を押さえて

物理的にまで巻き添えられるのは御免だ
二人からはそれとなく距離を取りつつ
【援護射撃】でサポートは律儀にやる
2人がよく暴れてくれてるので
【おびき寄せ】で数体引き込んで処理してもらうのも良さそうか
同士討ちする前に確り敵の方を処理してくれよ

……全く、騒がしくてあれこれ考える暇もない
敵数は減ってるようだから良いが
厄介な虫はさっさと払って終わらせよう
……此処を死の街になどさせるものか



●三階、壊れた扉付近にて
 フロアに潜む敵を倒し、屠り、辿り着いたのは三階のフロア。
 は、と短く息を吐けば冷たい空気が僅かに白く染まる。四辻路・よつろ(Corpse Bride・f01660)は仕込み刀を緩く握り、真横を一瞥した。
「虫って嫌いよ」
 特にひっくり返った時あの足が、無理。
 先ほど斃してきた蟻少女達の亡骸を思い返し、よつろはくるりと杖を回す。
 その瞬間、太刀を持った使用人、鈴丸と鷹達を召喚された。そして、よつろの側面に迫るマガツアリス達が攻撃――される前に、イェルクロルト・レイン(叛逆の骸・f00036)が敵を薙ぎ倒した。
 獣化した腕、その爪はアリスの腕を深く抉り、体液を散らせる。
「イェルクロルト、あなた空気くらい読めないの」
「そんなもの知らん」
 鈴丸達に任せておけばいいのに、と舌打ちをしたよつろにイェルクロルトは知ったことかと頭を振った。
 協調や協力とは程遠いやり取りを交互に眺めて肩を落としたのはクレム・クラウベル(paidir・f03413)。彼は何度目かになるか分からない溜息を深々とつき、現実逃避の言葉を落とす。
「知らない、聞かない、聞いてない」
 廃墟に足を踏みいれてからずっとこうだ。
 それでいて標的は確実に屠っているのだから相性が悪いのか良いのか。クレムはもう一度息を吐き、そこはかとない頭痛に額を押さえる。
「どっちも良い年の大人だろうに……上っ面くらい穏便に出来ないものなのか」
「何か言った?」
「何か言ったか」
 思わずクレムの口から零れた言葉に二人が同時に反応する。
 しかし、それ以上の追及が入る前に新手が現れた。ギチギチと耳障りな音を立てるマガツアリスは五体。
 丁度いいわ、と口にしたよつろは鷹に目配せを送る。
 イェルクロルトも敵を迎え撃つ体勢を取り、クレムも後方に下がった。
「物理的にまで巻き添えられるのは御免だ」
 後方支援に入ると示したクレムが精霊銃を構え、禍々しき標的に銃口を向ける。そのときには既によつろが示した敵に鷹が滑空突撃を行っていた。
「――殺虫剤とか効くのかしら、これ」
 戯れに、それでいて欠片も興味がないように呟いたよつろ。その横には拾った鉄パイプを片手に、もう一体のアリスへと駆け出したイェルクロルトの姿がある。
 あろうことか彼はよつろの鷹の一羽が滑空した隙をみて、それを足場代わりにした。そして、イェルクロルトは鷹を踏んで高々と飛んだ。鷹だけに。
「脳天から叩きのめしてやる」
 一気に振り下ろした鉄パイプはアリスの頭に直撃する。それは見事な一撃だったのだが、あのようなことをされてよつろが黙っているはずがない。
「ちょっとクレム、あなたのペットでしょう!? 躾ぐらいちゃんとしなさいよ!」
「誰がペットだゲロ女ァ!」
「まったく、弱い犬ほどよく吠えること」
 名指しで呼ばれたクレムだが、喧々と怒鳴り合う二人は今からどんな返答をしても聞いてくれそうにない。
「……全く、騒がしくてあれこれ考える暇もない」
 半ば諦めた声を落としたクレムは気を取り直し、其々二体のマガツアリスへと援護射撃を行っていく。途中、召喚された妖虫が向かってきたが、クレムはそれを予測して華麗に避けた。
 イェルクロルトは鋭く眼を細め、自分の前に意識を向ける。ギィ、とアリスが連れた羽虫が奇妙な音を立てる。
「ったくうるせー奴らがキャンキャン喚きやがる」
 あからさまに嫌そうな表情を作ったイェルクロルトはマガツアリスに鉄パイプを振るった。其処にクレムによる魔を穿つ弾丸が放たれる。
 フォローされたと察したイェルクロルトは舌打ちをして「余計なことを」と呟いたが、クレムは気にせず次々と射撃を行ってゆく。彼らとつるむのならば、いちいち気にしていては身が持たない。
「厄介な虫はさっさと払って終わらせよう」
 クレムに続き、よつろも太刀を持った使用人に呼び掛ける。
「いくわよ鈴丸、一匹一匹ではなく束で殺るわよ」
 使用人の一閃と鷹の突撃。二体の敵を纏めて攻撃の奔流に巻き込んだよつろは一気に相手を弱らせた。それを好機とみたイェルクロルトは獣化された拳を突き上げ、ひといきに敵を殴り倒した。
「まとめてやれるもんならやってみろ」
「調子に乗ってよそ見してるとあなたごと敵を串刺しにするわよ、わんちゃん」
「はッ、そっちこそ油断してんなよ」
 其処によつろのからかうような声が割り入り、再び険悪な雰囲気が流れる。
 しかし彼らの一撃はアリスを屠り、斃し、その場の戦いを鎮めていく。クレムはもう一度深い溜息を吐き、亡骸の転がる床を見下ろした。
 いつのまにか近くに動くアリスはいなくなっていた。
 そのとき、イェルクロルトが不意に顔をあげる。よつろとクレムも違和を感じ取り、上階を見遣った。
 違和感の正体は鼻を衝く妙な匂い。きっとこれが鑼犠御・螺愚喇が撒き散らす毒の酸だ。未だ身体に変調を来す量ではないらしいが、じわじわと広がって来る匂いは気持ちの良いものではない。
 あれが、街に広がればどうなるかは想像に難くない。
 この上には死をばら撒く存在が待っている。たとえそれがどのような心を持っていようとも、けりを付けなければならない。
「……此処を死の街になどさせるものか」
 そう呟いたクレムは真剣な眼差しを向け、仲間を伴って進んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

伍島・是清
【BLC】クロエ/静海/ベリンダ

俺はこころを乱す程、誰かに逢いたいと願ったことはねェから
少し、羨ましい
少女の言葉に微かに瞬き、少し口端を緩め

──さァ往くぞ、虫狩りだ
…怪我するなよ

待たせたなァ
くれてやるよ、御前らが何処までも待ち侘びた死を
嬉し哭きか?
ああ、嬉しかろう、待ち望んだ死が満ちるぞ
歓喜に震えて死にさらせ

一体を見せしめのようにずたずたに絲で切り裂いて
煽って敵を引き付け
軽口叩くからにはやってくれんだろうなァ静海
引き付けるから後は一気に宜しく
暴れろよ、ベリンダ
爪位は受けてやるよ
疵は全部クロエが治してくれるだろうからさ

耳障りな虫の鳴き声が消えて清々する
後は──醜く優しい化物に、終わりを告げるだけ


ベリンダ・レッドマン
【BLC】

難儀な生き物もいたものだねえ
誰が作ったのかは知らないが、残酷な設計だ
ドラマチックではあるがね

この仕事の肝は心優しき彼の始末だ
道程の障害など些事も些事
ま、軽く蹴散らしていこうか!

張り切っているねえ伍島くん
迸るアドレナリンがこちらにも伝わってくるようだ
それでは私は焼却係を!
ショータイム!火炎放射器!
団体のお客様が引き付けられたところでバーン!だ!
取り逃しは任せたよ静海くん!

いいのをもらったらクロエくんにお礼を!ありがとう!
うん?何か言ったかい静海くん!

処理が終わったら一息
前哨戦としてはこんなものかな
いいウォームアップにはなったさ
しかし容赦のない仲間ばかりで頼りがいのあることだよ!


クロエ・アルページュ
【BLC】
生きていれば、いつか誰かを何かに渇望する日はきっとありますわ
今はせめて、この悲しみを断ち切ってさしあげましょう

まぁぞろぞろと虫風情が態度の大きいことで
わたくしたちに道をあけなさい

あらあら、是清もベリンダも勇ましいことですわ
ではわたくしは皆様の援護を致します
我先にと煽る是清の傷もわたくしの光で癒やしましょう
だからなにも顧みる必要はありません
ベリンダも終も存分に暴れてくださいまし
ふふ、どんどん燃えろ、燃えろですわ!

虫の駆除といえば丸めた新聞紙で叩き潰したくなりますわね
あら終、ベリンダもわたくしもちゃぁんとかよわい美少女なのですわ
でも頼もしき人がいればなにも怖くないのですわよ


静海・終
【BLC】

いつかは失う、それが早いか遅いか理不尽か
2つの悲劇の話があるのなら
多くの悲劇を生む方と指さされたそいつを殺して壊すだけ

あぁ、虫がたくさんいらっしゃる
きちんと潰しておかないと増えてしまいますかねえ
飛び出す2人は害虫駆除の手際が良い
ベリンダも是清もプロの業者になってみてはいかがでございましょう
なんて軽口を言いながら
えぇ、仕事はしっかりやしましょう
派手なことは二人に任せ私は取り逃さないよう虫を突き刺し穿ちましょう

おやおやこれは
クロエ嬢は意外とアクティブでございますね
お嬢さんであれば虫を見て怖がった方が…ベリンダ嬢、こっちを見ないで

片付けが済めば悲劇を殺しに壊しに



●三階、最上階への階段前にて
 階を越え、蟻達を薙ぎ倒し、猟兵達は目的の場所を目指す。
 上へ登るたびに何処かから幽かな声が聞こえて来た。
 ――だれか、はやく。だれか。
 その声の主が鑼犠御・螺愚喇なのだと感じて、伍島・是清(骸の主・f00473)は胸の裡に浮かんだ思いを言葉に変えた。
「俺はこころを乱す程、誰かに逢いたいと願ったことはねェから、少し――」
 羨ましい。
 そう零した是清の声を聞き、クロエ・アルページュ(ミレナリィドールの聖者・f02406)は緩やかに瞼を閉じ、ゆっくりと花唇をひらく。
「生きていれば、いつか誰かを何かに渇望する日はきっとありますわ」
 是清は少女の言葉に微かに瞬き、少しだけ口の端を緩めた。
 仲間と共に駆ける先、其処には四階――最上階に続く階段が見える。だが、その前には数体のマガツアリスが陣取っていた。
 静海・終(キマイラの人形遣い・f00289)とベリンダ・レッドマン(直し屋ファイアーバード・f00619)は頷きあった。
 他の仲間達は今、各フロアに散らばる敵と戦っている最中だ。ならば一番最初に最上階前に辿り着いた自分達の役目は、あれらを屠って路をひらくこと。
 ベリンダはガジェットを構えながら上階を見遣る。
「しかし、難儀な生き物もいたものだねえ。誰が作ったのかは知らないが、残酷な設計だ。ドラマチックではあるがね」
「いつかは失う、それが早いか遅いか理不尽か」
 終も鑼犠御・螺愚喇と猫の物語を思い、そっと呟いた。
 二つの悲劇の話があるのなら、多くの悲劇を生む方。そして、指さされたそいつを殺して壊すだけ。
 はい、と答えたクロエは蒼銀の瞳にアリス達を映し込み、身構えた。
「今はせめて、この悲しみを断ち切ってさしあげましょう」
 是清は仲間達を見遣った後、道を阻む虫達を睨み付ける。呼び出された悍ましき妖虫達が耳障りな音を立て、禍々しい空気が辺りに満ちた。
 だが、きっとこの群体を倒せばすべての敵を倒したことになるはずだ。
「──さァ往くぞ、最後の虫狩りだ。……怪我するなよ」
 是清がそう告げた、刹那。
 四人の猟兵と五体の蟻兵、双方の視線が鋭く交差する。
 緊張感が漂う最中、何よりも先に動いたのはベリンダだった。
「ま、軽く蹴散らしていこうか!」
 この仕事の肝は心優しき彼の始末。道程の障害など些事も些事だとしてベリンダ達はこれまでも各フロアのマガツアリス達を屠ってきた。
 ショータイム、と目を鋭く細めたベリンダはひといきに敵との距離を詰める。火炎放射器型のガジェットを敵に突き付けた彼女は零距離からの火炎撃を放った。
 炎が燃え、薄暗い廃墟を明るく照らし出す。
 其処に是清も飛び出し、鋼糸を戦場に張り巡らせた。
「くれてやるよ、御前らが何処までも待ち侘びた死を」
 言葉と共に四方から絲がマガツアリスを絡め取り、その身を切り刻んでいく。終は二人の手際に磨きがかかっていると感じ、自らも害虫駆除に乗り出す。
「あぁ、また虫がこんなにたくさんいらっしゃる。きちんと潰しておかないと増えてしまいますかねえ」
 これまでの戦いで妖虫が増えることは心得ていた。
 終が竜槍で以て飛んでくる妖虫を捉えたことに気付き、クロエも魔力を紡ぐ。
「相変わらずぞろぞろと虫風情が態度の大きいことで」
 わたくしたちに道をあけなさい、とクロエが告げれば終の槍が敵を貫いた。其処へクロエが魔力の奔流を打ち込んだことで妖虫は地に落ちる。
 手慣れた連携で邪魔物を屠っていく二人に妖虫を任せ、是清とベリンダはマガツアリスを弱らせていく。ギィ、と声が零れ落ちたことに是清は薄く双眸を細めた。
「嬉し哭きか? ああ、嬉しかろう、待ち望んだ死が満ちるぞ」
 ――歓喜に震えて死にさらせ。
 そして、見せしめのようにずたずたに絲で切り裂かれたアリスが倒れる。
「張り切っているねえ伍島くん」
 ベリンダは彼の容赦のない攻撃に賞賛を送り、迸るアドレナリンがこちらにも伝わってくるようだと評する。
「それでは私は変わらず焼却係を! 取り逃しは任せたよ静海くん!」
 そして、ベリンダは火炎放射器で戦場ごと包み込む勢いで敵を焼き払っていった。マガツアリス達も火から逃れようと動くが、ベリンダは終達に信頼を寄せている。
「あらあら、是清もベリンダも勇ましいことですわ」
「ベリンダも是清もプロの業者になってみてはいかがでございましょう」
 クロエと共にそんな軽口を言いながら終は炎から逃げ果せた個体に狙いを定めた。
 終が突き放った一閃は鋭く、正確に標的の胎を貫く。だが、振るわれた鉤爪は終の身を斬り裂き返した。
 煽って敵を引き付ける是清の元にも邪神を宿したアリスが迫る。
「軽口叩くからにはやってくれんだろうなァ静海」
 引き付けるから後は宜しく、と告げた是清は振り下ろされる爪を受け止めた。
「暴れろよ、ベリンダ。疵は全部クロエが治してくれるだろうからさ」
 是清が落とした言葉通り、終達の傷が見る間に淡い光によって癒されていく。
 クロエの身体には疲労が蓄積していたが、その分だけ仲間が守ってくれていた。だから、とクロエは皆に呼び掛ける。
「なにも顧みる必要はありません。存分に暴れてくださいまし」
「ああ、団体のお客様はここでこう……バーン、だ!」
 クロエからの声を受け、ベリンダはふたたび戦場を火炎の海へと化していく。その光景を見つめるクロエの瞳の中で炎が揺らいだ。
「ふふ、どんどん燃えろ、燃えろですわ!」
「おやおやこれは」
 クロエの言葉に終はその過激さにちいさな感嘆を落とす。だが、その間にも槍で敵を突き穿っていく彼の手際は見事だ。
 派手なことは是清とベリンダに任せ、取り逃さなぬよう敵を突き刺す終。
 傷付いた皆の背を支え、癒しに徹するクロエ。
 炎を散らし、虫達を火と死の海に巻き込むベリンダ。
 そして、敵を引き付けながら絲で斬り裂く是清。
 彼と彼女達は残る全てのマガツアリス達を屠り、塞がれていた道がひらかれた。
 これで、後は上に登るだけ。
 蟻の処理が終わったと感じ、ベリンダはほっと息を吐く。
「前哨戦としてはこんなものかな。いいウォームアップにはなったさ」
「クロエ嬢も意外とアクティブでございましたね。お嬢さんであれば虫を見て怖がった方が……」
 これまでの戦いの感想を終が零すと、明るいながらも鋭い視線が返って来た。
「うん? 何か言ったかい静海くん!」
「ベリンダ嬢、こっちを見ないで」
「あら終、ベリンダもわたくしもちゃぁんとかよわい美少女なのですわ」
 もう、と冗談交じりに胸を張ってみせるクロエに合わせ、ベリンダもくすくすと笑う。容赦なくも頼もしい仲間が居ればもう何だって怖くない。そんな気がした。
 フロアに響くのは仲間の声。
 耳障りな虫の鳴き声もう何処からも聞こえず、是清は清々したと口にして大きく腕を伸ばす。だが、これはまだ始まりに過ぎない。
「後は──醜く優しい化物に、終わりを告げるだけ、か」
 是清がそう口にすると、仲間達は唇を引き結び、真剣な眼差しを階上に向けた。
 悲劇を殺して、壊しに――。
 この先に巡る出会いと別れを思い、是清達は前に踏み出した。

●集結
 マガツアリスは全て屠られ廃墟内は静寂に包まれた。
 各所の敵を葬った猟兵達は今、最上階に続く階段の前に集っていた。

 ――はやく、僕を……――。

 最上階からは透き通った声が聞こえる。それはときおり猟兵達の耳にも届いていたもの。鑼犠御・螺愚喇が放つ、か細い声だった。
 彼は何を求めているのか。その心は対峙してみないことには分からない。
 だが、猟兵達は妙な気配を感じていた。此処まで来るときに察していた者もいる通り、毒酸の霧が階上から漏れてきているのだ。
 今はまだ薄く漂っているだけだが、その霧はまともに吸い込めば死に至るもの。
 心を乱す蟻達のざわめきや羽音が完全に止んだとて、もはや毒の放出は止められるものではないのだろう。
 そして、『彼』を殺して毒を止めることが此度の目的。
 仲間と頷きを交わした猟兵達は意を決し、最上階への階段を進んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『鑼犠御・螺愚喇』

POW   :    友、死にたまふことなかれ
【友を想う詩 】を聞いて共感した対象全てを治療する。
SPD   :    怪物失格
自身の【友の帰る場所を守る 】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
WIZ   :    永遠の怪
【皮膚 】から【酸の霧】を放ち、【欠損】により対象の動きを一時的に封じる。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は吾唐木・貫二です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●優しき怪物
 辿り着いた最上階。四階フロアがらんとしていた。
 だが、其処に何もないわけではない。
 鼻を衝くような強い匂いが満ちるフロア。その中央には悍ましい姿をした化け物――鑼犠御・螺愚喇(ラグオ・ラグラ)がいた。
『……だれ?』
 彼は身体を蠢かせ、訪れた猟兵達に向き直る。
 その姿は何も知らなければ悲鳴を上げてしまいそうなもの。おどろおどろしい、巨大な肉塊としか呼べぬものだ。
 身体に幾つも見える黄色の球は嗅覚や聴覚に優れた感覚器官らしく、それらは猟兵達を見つめるかのようにぐるりと動いた。
『駄目だよ、君たち。ここには僕の酸が満ちているから……はやく、逃げて』
 怪物は優しく透き通った声で悲しげに告げた。

 だが、誰もその場から動こうとはしない。
 鑼犠御・螺愚喇は困ったように感覚器官を蠢かせた。少しだけぞくりとした感覚が巡ったが、どうやら彼は黄色の珠が持つ力で此方の感情を読み取ったらしい。
『……そうか、君たちは僕を倒しに来たんだね』
 声は更に哀しげに沈んだが、彼は意を決したように言葉を紡ぐ。
 その間にもフロアには酸の霧が満ち、蝕むような痛みが猟兵達に襲い掛かった。はっとした様子の鑼犠御・螺愚喇は慌てて身体を蠢かせ、詩を謳う。
 ――死にたまふことなかれ。
 その声は淡く、癒しの力を持ってフロアに居る者達の身を癒す。
 そして彼は猟兵達に語り掛けていく。
『この毒はもう僕自身にも止められない。大好きなあの子に逢いたいと思ってたけど、もういいんだ……。僕は誰も、殺したくない……特にあの子だけは……』
 このフロアは徐々に色濃い毒で満たされはじめている。
 猫の友人の帰りを待ち続けた彼は全てを諦めていた。何故なら、このフロアに大切な友人が訪れたならば、すぐに命を奪ってしまうから。
 猟兵の中には、夕陽色の猫を毒の及ばぬ安全なユーベルコードの世界に匿って連れてきている者がいる。
 だが、彼が生きている間に猫を解放することは出来ない。
 そうしては、いけない。
 猫と彼をふたたび逢わせることは、自らの毒でたったひとりの友を殺すという望まれぬ結果を作り出すからだ。

 癒しの詩を紡ぎ続け、猟兵を気遣う鑼犠御・螺愚喇は言葉を続ける。
『僕は抵抗しない。君たちを癒し続ける。だから――』
 仮にも邪神に祀られるまでの力を持つ彼の身体は強靭で、幾度も攻撃を仕掛けなければ倒すことはできないだろう。
 それだけではなく、彼の意思とは別に蝕む酸の毒が此方を苦しめる。
 相手からの癒しが続けられるとはいえ、気を抜けば毒に侵されて倒れる可能性もある。だが、それでも此処に来た以上は彼を屠るしか道はない。
 全力を揮い、相手を倒す。
 非情ではあるが、今はただそれだけのことが求められている。
『だから……誰か、はやく……』
 そして、鑼犠御・螺愚喇は最初で最後の願いを告げた。

『――僕を、殺して』
マリス・ステラ
「倒すしかありません」
それ以外の方法がないか、その疑問は彼を見て決断に変わる
酸の霧は彼の息の根を止めることでしか止められない

その覚悟が持てないのであれば、この場から立ち去るほうが良いでしょう
彼が望む望まざるに関わらず、殺さなければこちらが死ぬだけです

【WIZ】毒に侵されても冷静に対応

酸の霧に蝕まれる猟兵を【生まれながらの光】で治療
自身は「毒耐性」で耐えて、「破魔」の力で邪気を払い、味方を「鼓舞」します

「あなたを人殺しにさせるつもりはありません」

激しい疲労にも毅然と前を向きます
彼の覚悟と、私たちを信じてついてきた『彼女』に応えるために

「魂の救済を」

ラグオ・ラグラのために「祈り」ます
優しいあなたに


願祈・巡瑠
まったく……。
『誰も傷つけたくないから僕を殺して』なんて貴方はどこまで邪神に向いてないのよ。
でも、だからこそ、あの猫も貴方を想ってくれたのかもしれないわね。

しょうがないわね……分ったわ。
貴方の最期の望みである「貴方自身の息の根を止める事」、
そして真の望みである「一目で良いからまた逢う事」、
どちらの願いも叶うよう私が全力で祈ってあげるわ!
だから貴方も最期くらい諦めないで気張りなさい!

【祈りの奇跡】で皆を奮い立たせてあげるわ!
これだけ心強い皆がいれば、貴方へ最期を与えるのに愁いはないわよね?
だから貴方は「一目逢う」
その一瞬の為に全力を注いで自身の邪悪な力と戦いなさい!

(廻璃と同行、アドリブOK!)


願祈・廻璃
好きな猫さんのためとはいえ、あなたは私達に倒される事も受け入れてくださっています。
…本当にお優しい方なのですね。
確かにその意思は尊いものです。でも、
『一目でも良いからまた君と逢いたい』
…そんな些細な我儘くらいは願っても良いのではないでしょうか?
あなたが本気で願うのなら、私はその願いを本気で後押ししましょう!

一目逢うだけなら、少しの間だけでも酸の霧の放出を止められれば…。
それなら【願いの描出】で、彼の酸の霧の放出を抑え込んでみましょう。
恒久的に封じる事は難しい邪神の力でも、一時的に封じるくらいの奇跡は起きると信じて。
…いえ、必ず起こしてみせます!

(巡瑠と同行します。アレンジも大丈夫です。)


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
応とも。貴様の願い、聞き届けてやろう。
……我々はそのためにここに来たのだからな。

悪いが、私は世界の味方であっても、正義の味方ではない。
容赦は出来ん。痛い思いもさせるだろうが、少しでも早く葬ってやろう。
この地上に死霊のない場所はない。【死者の毒泉】で攻撃力の強化を済ませたら、槍で応戦しよう。
発動するのは【ドラゴニック・エンド】だ。蛇竜の黒炎で、その鎧が早く焼けることだけを祈っているよ。

貴様の友は、貴様を愛していたのだろうなァ。貴様がそうまで愛したのと同じように。
……そうだったとして、その身の慰めになるのかは分からんが。


テスアギ・ミナイ
あなたは悪くない。
毒と呼ばれるそれも、私には涙に思えるのです。
この世界があなたの身を毒とした。ただそれだけの事。

大切なものと過ごしたこの場所を守りましょう。
そして、穏やかな日々を、もう一度。
取り戻しましょう。

――それが死と同義であっても。
生きるよりマシな事もあると、私は知っている。

友が何か、私にはよく分かりません。
私があなたに癒されたなら、
もしかしたら、私室にいるクマのぬいぐるみや、
私の背を守るこのハイカナコさんや、
ほかでもないあなたに抱く気持ちが
あなたが猫に抱いた気持ちと同じなのだと知るでしょう。


オズ・ケストナー
そっか、もうこんなに毒が
服の上からブローチにそっと触れて
ごめんね

戦闘前
カスカ(f00170)にEine Welt für dich使用
その後ブローチを夜の帳に包んで懐へ

ラグオ・ラグラに向き合う
大丈夫、きみの願いはかなえるよ
なるべく痛くないようにしたいけど…

ガジェットショータイムで攻撃しながら呼びかけ
きみのともだちはきみを嫌ってなんかないよ
ここに来ることができないようにされてたんだ
それでもこの路地裏にはきていたよ
きっときみに会うためだ
ねえ、やさしいきみと、わたしもともだちになりたかったな

毒が消えて安全が確認できたら猫に声をかけるね
出てきて大丈夫
念のため【毒耐性】ハンカチを猫にかけて
彼女を見守るよ


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
優しき魂の命を絶つのはつらいが…
大事な物を己の手で傷つけさせるなど…一番辛い事だろう
…その願い、叶えさせて貰う

基本は【ジャッジメント・クルセイド】にて攻撃
近寄ると毒が濃くなりそう故…なるべく距離を取りながら攻撃をしよう
『二回攻撃』『高速詠唱』『全力魔法』を使いながらなるべく苦しみが長引かぬ様、痛みが続かぬ様他の参加者と協力しつつ攻撃をして行きたいと思う

倒した後は…現場を立ち去る前に跪き魂に安らぎあるよう祈りを捧げよう
…橙色の友が天寿を全うした後、また共にあれるといいと…そう願う


イェルクロルト・レイン
【バッカス】
痩けた体は他者の鮮血を拒み続けた証
毒にも激痛にも鈍い感覚は生きることを最低限に留めた代償
鮮血不足で身体の機能に支障があるってのは厄介ばっかだが
今日ぐらいは感謝しておくか
死に際のツレが知らん奴で悪ィな

望まぬ殺しは苦しいよな
わかるよ、なんて軽々しく言うもんじゃない
おれにはおれの、お前にはお前の苦痛がある

痛くしないで済む方法なんて知らない
ただ全力で殺す事がおれなりの弔いだ
獣化した腕で殴り潰す
足りなければその手で引き裂いて
道具は使わない
おれはあんたに触れられる
ぬくもりを知って死んでいけ

おれはもう手遅れだけど、あんたはまだ大丈夫
殺してやるよ、ラグオ・ラグラ
あんたは友達を守って、立派に死ぬんだ


クレム・クラウベル
【バッカス】
罪は、罰は、誰に科せられたものだっただろう
そこに在るだけで全てを毒さねばならない痛みなど、計れるはずもない
ささやかな幸せを慈しんでいただけなのに
……憐れでならない
そうして終わらせるしか出来ない事が、ただ悔しい

討ち倒す前に一度その傍へ
酸に焼けるのも厭わず、手と思しき箇所を握る
構わない。彼の痛みに比べればこれくらい傷にも入らない

鑼犠御・螺愚喇
せめて祈らせてくれないか
もしもう一度巡るなら
過去の残滓としてではなく、正しい生を得る時が訪れたなら
何人も傷つけぬ優しいお前として生まれてこれる様に
優しきその心がどうか――報われる様に

祈りの火よ、送れ
その心を穢さぬまま
赦しを、眠りをどうか彼の者に


ライラック・エアルオウルズ
僕にも大切な『友人』は居るから、
どうしたって貴方の詩には共感してしまうんだ。
……とても有難いけれど。
殺さなければならない相手に癒されるのは、辛いね。

【POW】(激痛耐性・カウンター・投擲)
せめて彼の心だけは傷付けたくないから、
出来る限りは酸による痛みに耐える様にしたい。
けれど、倒れたらそれも無意味だから。
先ずは『鏡合わせの答合わせ』で可能なら相殺を試みる。

……彼が無抵抗なら栞の投擲も容易いかな。
彼への攻撃は『理不尽な裁判』、
ルールは――「敵を癒してはならない」。
敵である貴方には本来簡単である事の筈だけど、
きっと、きっと 破ってしまうだろうから。
本当に貴方は優しいね。…うん。本当に、悲しいよ。


四辻路・よつろ
【バッカス】

そう、最期まで誰も恨まないだなんて優しいのね
――ごめんなさいね、私はあなたを殺す事に反対も
躊躇もするような優しい人にはなれなくて

小さな、死霊の仔猫を一匹出して鑼犠御・螺愚に寄り添わす
この子はあなたの愛した友ではないけれど、きっと良い旅路の案内人になってくれるわ
大丈夫よ、その子はあなたを怖がることもないし
苦痛を感じる事もない

あなたは天国に行けるのだから
死ぬのはきっと怖くない
天国は良い所だってみんな言うもの
誰も帰りたがらないぐらいに素敵な所だって

苦痛もなく、一瞬で全部終わらせてあげる
おやすみなさい、鑼犠御・螺愚
よい夢を


伍島・是清
【BLC】クロエ/静海/ベリンダ
…猫
変な虫が一杯居て、近付けなかったって。

──もういいよ
鑼犠御・螺愚、そんなに優しくしなくていいよ
御前を殺しに来た連中なんだからさ
一生懸命唄わなくたって、俺達、簡単には死なねェよ …多分
だから御前は、御前の為に泣いとけよ

ぺちぺちと体躯を撫でて
行くよ、と呼ばれれば振り返り
返事をする代わりに眉尻を下げて、少し笑み

じゃあな、鑼犠御・螺愚
──プログラムジェノサイド、鋼糸乱舞
鋼糸を縦横無尽に奔らせて切り刻む



鑼犠御・螺愚の躰の一部で"人形"を仕立てる
掌サイズのそれは
何れ程似せようと御前には成れないかもしれないけど
御前の大切なモンに、詩を聞かせる位はしてくれるだろうから


ベリンダ・レッドマン
【BLC】

ああ、殺すとも
きみが優しい子であることは十分に伝わるさ
だから多くの言葉は無用だ

気付けば天国の花畑に寝転がっていることだろう
少しだけ我慢してくれたまえ
(常の笑みはたたえたまま、いつもよりは静かに)

時間をかけて大がかりな火器のガジェットを用意しよう
私にできる最大火力で、仲間とあわせて一斉攻撃だ
ほら、行くよ伍島くん

音と衝撃は派手な方がいいかな?
そのほうが彼が感じる痛みは鈍るかもしれない
何を思う間もないように送ってあげたいね
それが今日の一番大事な仕事さ

次こそはきみが穏やかに過ごせますように
柄ではないが、祈りを捧げさせてもらおう
幸いあれ!


静海・終
【BLC】
醜い、醜い優しい、ばけもの
こんなに悲しい形を見たのは初めてだ
ありがとう、優しい異形、さようなら、心安らかに

とても感傷的になってしまいました
けれども苦しめたくないという気持ちを隣人と頷き合い
不利な動きをしている彼に表情を曇らせながらも
せめてと腕を獅子に変え一撃を
なぜ貴方様は心と伴わない身体で生まれたのでしょうね

貴方様のお友達と過ごした優しい時間、忘れないでくださいませ
儚く短い時間であったでしょうけれども
悲しみだけで塗りつぶし去ってしまうのは悲しいでしょう
貴方もお友達も
だから眠るとき、思い出してくださいませ、彼女の名と、声を

貴方の悲劇をここで殺して終わらせました
おやすみなさい、良き夢路を


クロエ・アルページュ
【BLC】
うた、ですわ
いのちを込めた、うた
回復の疲労も楽になりましてよ
……頑張りすぎですわ

触れてよろしくて
わたくし毒にはちょっと強くありますのよ
少しでも、ぬくもりがわかるかしら

わたくしも貴方の救いになれましょうか
全力魔法のち光を収束させた刃を仲間と共に放ちましょう

今はわたくしたちの手でおねむりなさいな

次に目覚めたとき、貴方の大切な方を
貴方の手で抱きしめられますように
大丈夫、貴方とてもうつくしいですわ
こんなにも誰かを思いやる心を持つなんて
なかなかできないことですのよ

おやすみなさいませ、鑼犠御・螺愚喇。

是清も、ベリンダも、終も
(ぽんぽん、ひとりずつ撫でお疲れ様と)
(人形が出来上がったなら微笑って)


朽守・カスカ
戦う前にオズ君のブローチに入り
夕日色の子に会っておこう

言葉だけでは足りないかもしれないから
キミの鳴き声を、姿を撮ってから
キミのことを思っている
キミの友人に届けたいんだ
力を、貸してほしい

そうして準備ができたなら
ラグオ・ラグラと相対しよう

語り掛ける言葉は優しく
心を落ち着けて、聞いてほしい
…キミの友人は元気だよ
キミを嫌ってなんかいないよ
そうして撮っておいた姿を見せよう

【微睡の淵】
キミから出る毒を封じるよう尽力しよう

…例え、キミがオブリビオンで
この世界には相容れず
倒すしかない存在であっても

他の命を守る為に
自らの命を差し出そうとした
心根の優しく、美しいキミのため
せめて痛み少なく
心穏やかに逝けるように


神々廻・夜叉丸
お前がそれを望むならば、おれは猟兵としての役目を果たすとしよう
下手な感傷を持とうものなら、ただただ未練が残るだけ
おれは一切の手心を加えるつもりはない

【破魔】の力で、多少なり毒を中和できるだろうか
酸に関しては甘んじて受けよう
……これから与える痛みを考えれば、比べるまでもない

【暗殺】の経験から、人の形を成していなかろうと急所の位置くらいはわかるはずだ
皆にそれを伝えれば、無駄に長引き苦しめることもないだろう

表皮が薄くなれば【鎧無視攻撃】による抜刀術で急所を切り開き、核となる部分を一突き
それで、終わりだ

平和を謳う悲しき骸よ
お前の見たそれは泡沫の夢なれど――そう、それは……とても幸せな夢だったのだろうな


虻須・志郎
「ああ……こういうのは本当に、やりにくい相手だ!」
内臓無限紡績兵装を展開、耐酸性素材のシートを縫製し、
周辺にまき散らされた酸の霧を封じ込める。
気持ちで戦えないなら、今回は援護に徹する。
「殴って喰らう……それが出来りゃ大分楽だが、そうもいかねえしな」

展開したコ・ファルシオンも仲間の支援を徹底。
先に作った耐酸性シートで邪魔にならない様援護する。

その音が心を惑わせるなら、せめて少しでも気が確かになるように。
アムネジアフラッシュを明滅させ、精神汚染を防げるか試す。
意識が飛びそうならヴァンプ・シュワルグ(電子タバコ型血液パック)で
飛ばない様に血液を補充する。

「ここを、守りたかったのか? ……俺達もだよ」


黒金・華焔
ったく、敵の方から殺せなんて言われるとはね
調子狂うぜ
きつい奴は支援に専念してな
こういう殺しにくい奴を殺す事こそ私みたいな猟兵の仕事だろう

さて、望み通りさっさと終わらせてやるか
防御は捨てて火力に全振り、一秒でも早く殺してやる
まずは二体の式神を召喚(高速詠唱)
どちらも全力で攻撃させるぜ
私は後方から敵の様子を観察、
弱点を探して式神に指示を出す(情報収集、見切り、戦闘知識)

もし自分の攻撃で倒せそうなら黒式術を解除
最後は私自身の手で止めを刺してやる(属性攻撃、二回攻撃)

その名、その命の重みは覚えておいてやるよ
お優しいカミサマ


海月・びいどろ
たったひとり、たいせつな友を想う
キミのこころに応えたい
この身が唯のバグだとしても

毒耐性で彼の近くへ、声の届くところに
傷みも痛みも少なければ良い

やさしい詩が届くようにと重ねながら
どうか眠るなら夕陽色した友の
あたたかで、やさしい夢を

最期に一目、会えるようにと
願わずには、祈らずにはいられない


ユヴェン・ポシェット
痛い想いをさせてしまう事を申し訳なく思う。
これ以上、苦しませることは本位ではないからな、できることなら他の者とタイミングを合わせ一気に楽にしてやりたい。
ミヌレ…お前にも付き合わせる事になる。悪いな。
今回は攻撃に、与える一撃に集中したい。全力でいかせて貰うぞ。

本当はもっと別の形で救ってやる方法があれば良かったのだが…俺にはその手立てがない…すまない。


(ハーモニカで演奏し)
鑼犠御・螺愚喇、アンタを想い、俺ができることといえばこと程度の事しか思い浮かばなくてな。せめてもの慰めになれば良いのだが。


ルベル・ノウフィル
pow
アレンジ、アドリブ、連携歓迎

「抵抗なさらぬと仰いますか」
優しくも哀しいお気持ちに耳を伏せ
ならばその願いを疾く叶えましょう
終わらせる事でしかお力になれないのは、心苦しいのですが

UC黒風鎧装使用
前章で得た赤丸を活かし真の姿になります
柔らかな白毛の子狼に

跳躍
只一撃に全力を籠めて
苦しみの少ないよう爪か牙で急所を狙います

そののち元の姿に戻り、負傷者には可能なら星守の杯を使用
星の粒は全てのものに柔らかに降り注ぐ事でしょう

猫さんの鳴き声にやはり耳を伏せ、思い出すのは主人を亡くした過去の自分か

それでも、最期に心が救われたと信じて
……こういう事件を未然に防ぎたいものですね
現実とは厳しいものです。



●渇望
 ――殺して。
 邪神として崇め奉られようとしていた存在は願った。その躰から溢れる酸の霧は彼の苦しみに比例するかのように色濃く、周囲に満ちていく。
「そっか、もうこんなに毒が」
 オズは身を蝕む痛みに耐え、服の上から自分の胸元にそっと触れた。
 ごめんね。
 落とされた声は夜の帳めいた色を宿す布の中、其処に包まれたブローチに向けられている。そしてそれは、ユーベルコードの空間に入り込んでいる猫への言葉だ。
「カスカ、できるかな?」
「……駄目、だと思う」
 オズは嫌な予感を感じながら傍らのカスカに問い掛ける。
 しかし彼女は首を振ってブローチ内の世界に自分が入ることを拒んだ。否、そうせざるをえなかった理由がある。
 本当はカスカも内部に居る猫に会い、然るべきことをしたかった。だが、猟兵達の身には既に毒の酸が付着してしまっている。絶え間なく毒が溢れる戦場ではそれを払い落す時間も暇も与えられない。
 もしこのまま猫と接触すれば小さな命が潰える。
 それに、気になることがあった。どうやらラグオ・ラグラには眼が存在しないらしい。先程も感覚器官である黄色の珠をぐるりと動かしたが、見るのではなくただ此方の熱や動きを知覚しているだけのように思えた。
 つまり、もし画像や動画を用意できたとしても彼には見ることが出来ない。鳴き声だけは感じられるかもしれないが、それだけの為に猫の命を脅かす危険は侵せなかった。
 それでも、二人が成し遂げたかった思いや気持ちは尊く大切なものだ。
 カスカは唇を緩く噛み締め、オズもブローチに触れる。
 まだ出て来ちゃ駄目だよ、とそっと猫に告げたオズは自分達ができることの少なさに悔しさと心苦しさを覚える。
 だが、これ以上の悲劇は防ぎたかった。
「大丈夫、きみの願いはかなえるよ。なるべく痛くないようにしたいけど……」
 オズは歯車銃に変形したガジェットを構えてラグオ・ラグラを見つめる。
「キミがそれを望むなら、必ず――」
 カスカも優しい声色で語り掛け、手にした魔導蒸気機械を握り締めた。
 キミのことを思っているキミの友人から届けたい声が、姿があった。力を貸せるならば幾らでもこの手を差し伸べたかった。されど、伸ばした手は何も掴めないと知った。
 悲しい、哀しい戦いが始まる。
 しかし、このときは誰も想像さえ出来なかった。
 彼らの友情の行く末が、あのような結末として導かれたことを――。

 まったく、と呟けば深い溜息が零れた。
 巡瑠は優しい怪物に呆れた表情を見せ、武器を構える。
「貴方はどこまで邪神に向いてないのよ。でも、だからこそ……」
 あの猫も貴方を想ってくれたのかもしれない。そう感じた巡瑠がちいさく零すと、廻璃も哀しげな瞳を敵に向けた。
「……本当にお優しい方なのですね」
 親愛なる友人のためとはいえ、彼は猟兵達に倒されることも受け入れている。
 確かにその意志と思いは尊いもの。
「でも……」
 ちいさく頭を振った廻璃は思う。
 一目でも良いからまた君と逢いたい。彼はきっと、心の奥で未だ願っている。
「些細な我儘くらいは願っても良いのではないでしょうか?」
『けれど、もう僕は……』
 廻璃の声を聞いたラグオ・ラグラは、もういい、というように体を震わせる。
 だが、その声を遮るようにして巡瑠が声を紡ぐ。
「しょうがないわね……分かったわ。貴方の最期の望みである息の根を止める事も、そして、真の望みである一目で良いからまた逢う事。どちらの願いも叶うよう私達が全力で祈ってあげるわ!」
 祈りの筆を示した巡瑠に続き、廻璃も願いの筆を構えて告げた。
「あなたが本気で願うのなら、私はその願いを本気で後押ししましょう!」
 この筆達は願いを叶え、祈りに応える。
 頷きあった二人はもしかすれば、心の何処かでこの戦いの結末がどうなるかを感じ取っていたのかもしれない。
 彼が願い、彼女が選び、猟兵としての自分達が導く未来。
 それがどのようなことになっても必ず叶えてみせる。その覚悟を決めた廻璃がそっと祈りを込める中、巡瑠は強く言い放った。
「――だから貴方も最期くらい諦めないで気張りなさい!」

●決意
 仲間達の思いが、言葉が、戦場に響き渡る。
 誰もが其々の意志を抱いて此処に立っているのだろう。ニルズヘッグもまた、ラグオ・ラグラから告げられた『殺して』という言葉を受け、それに応えようと感じていた。
「応とも。貴様の願い、聞き届けてやろう」
 毒の酸が身を蝕もうともニルズヘッグは動じない。痛みなど疾うに覚悟していた。何が待ち受けていようとも自分は猟兵としての役目を果たす為に、此処にいる。
「……我々はそのためにここに来たのだからな」
 ――呪わば呪え。
 ニルズヘッグがこの地に宿る死霊を呼び起こせば、憎悪や怨嗟、絶望が呪詛となって廻る。地上に死霊のない場所はなく、その力はニルズヘッグに力を与えてゆく。
「悪いが、私は世界の味方であっても、正義の味方ではない」
 それゆえに容赦は出来ない。
 そう宣言したニルズヘッグは黒き蛇竜から変じた槍を構え、切先をラグオ・ラグラに向けた。痛い思いもさせるだろう。苦しい思いを聞くことにもなるだろう。
 だが、少しでも早く葬る為に全力を振るうことが最適な解だと彼は識っていた。
 そして、戦いは巡りゆく。

 華焔は酸が身を蝕む痛みに対して僅かに顔を顰めた。
「ったく、敵の方から殺せなんて言われるとはね」
 調子狂うぜ、とついた溜息は何処か悲しげではあったが、華焔の眼差しは揺らいではいない。高速詠唱によって二体の式神を傍に呼び出した華焔は呪月の刃をしっかりと『敵』に差し向けた。
「きつい奴は支援に専念してな」
 共に戦う仲間達に呼び掛けた華焔は双眸を鋭く細める。
 中には心を痛めている者もいるだろう。言葉にはしないが、刃を向けることに戸惑っている仲間だっているはずだ。
「こういう殺しにくい奴を殺す事こそ私みたいな猟兵の仕事だろう」
 自分ならば、この哀しい戦いを終わらせられる。それは決して善良とは言えぬ己を鑑みているからこそ自負できる思いだ。
 そして華焔は氷雨と白刃と呼ばれる式神達を呼び寄せる。氷呪を紡ぎ、鋭刃を振るい闘う者達へと己の力を注いだ華焔は指先を標的に向けた。
 それらを放ち、敵を瞳に映した華焔は思いを言葉に変える。
「さあ――望み通りさっさと終わらせてやるか」
 先ず行うべきは敵の動きをしかと見定めること。意思と関係なしに毒の酸が噴き出すならば何かしらの法則めいたものもあるはずだ。
 華焔の瞳は鋭く、世界の敵たる存在を捉えていた。

 華焔の言葉を聞き、志郎は頷く。
「ああ……こういうのは本当に、やりにくい相手だ!」
 思わず志郎が振るった腕は空を切り、揺らぐ酸の霧がちくりと肌を刺す。
 志郎はすぐさま内臓無限紡績兵装を展開して、耐酸性素材のシートを縫製してゆく。それは周辺にまき散らされた酸の霧を封じ込めていく――かのように思えたが、それよりもはやく毒は広がっていった。
 それでも志郎は諦めず、仲間の支援に徹することを決める。
 気持ちで戦えないのならば、今回の仕事は援護にまわることだ。
 発動――ファミリア・カーネイジ。
 周囲に展開した機動端末、コ・ファルシオンにも仲間の支援を徹底させた志郎は心底やり辛そうに呟いた。
「殴って喰らう……それが出来りゃ大分楽だが、そうもいかねえしな」
 ただ殴り倒せばいい、あの蟻達とは違う。
 目の前の相手には善良な意思があり、此方を気遣う心まである。
 深く吐いた溜息はひとつだけ。そして、気を強く持った志郎はコ・ファルシオン達と共に仲間を守り抜く意志を固めた。

「倒すしかありません」
 それ以外の方法がないか、その疑問は彼を見て決断に変わった。
 マリスは痛いほどに感じている。この空間に満ちる酸の霧は彼の息の根を止めることでしか止められない。
 その覚悟が持てないのであれば、この場から立ち去るほうが良い。
「彼が望む望まざるに関わらず、殺さなければこちらが死ぬだけです」
 そして、この街の人々や、路地裏に棲む多くの猫達もだ。
 マリスは身を蝕む毒に耐え忍び、己がやるべきことを始める。それは酸の霧に蝕まれる猟兵に苦しみを与えぬよう、癒しの光で背を支えること。
 破魔の力で邪気を払い、堪えるマリスは光で以て味方を鼓舞していく。
 放つ聖光に重なるようにして友を思う詩が猟兵を癒していった。それでも毒の酸は容赦なくフロアに広がる。
 そして、マリスはそっとラグオ・ラグラに語り掛けた。
「あなたを人殺しにさせるつもりはありません」
 その為に此処に来たのだから。そう告げる思いは強く、戦場に凛と響いた。

 優しき魂の命を絶つことは辛く、胸が痛む。
 だが、それ以上に苦しいことがあるのだとザッフィーロは感じていた。
「大事な物を己の手で傷つけさせるなど……一番辛い事だろう」
 酸の霧に耐える自分達とて様々な痛みを孕んでいる。身体を蝕む鈍い痛み、善良なる存在をただ屠ることしか出来ぬ苦しさ。
 しかし、それ以上に『彼』の方が苦痛に耐えている。
 親愛なる友に二度と会えず、会わないと覚悟した心。猟兵達から放たれる攻撃から齎される痛み。そして、自らの死を願った決意。
「……その願い、叶えさせて貰う」
 それらを感じ取れるからこそ、ザッフィーロは決して加減などしない。
 立ち込める毒霧を避け、後方に下がった彼はラグオ・ラグラに指先を向けた。
 裁くのは罪もない過去の残滓。
 それでも、放つ光で彼の生を終わらせねばならない。ザッフィーロ自身は過去、苦しみから救い赦しを与えるとされている物だった。
 されど此度の救いとは、死。
 何という皮肉だろうかとも思えたが、求められているものは変わらない。
 そして、ザッフィーロは己が持てる力を全て解き放ち、彼に報いようと決めた。

●覚悟
「抵抗なさらぬと仰いますか」
 ルベルは優しくも哀しい気持ちに耳を伏せ、頭を振った。
 それならば殺そう、などとは到底思えない。しかしそれが彼の願いならば、この世界の滅亡を導く一端になってしまうのならば、疾く叶えるのがルベルの役目。
「終わらせる事でしかお力になれないのは、心苦しいのですが」
 それでも、ルベルは前を向く。
 少しだけ揺らいだ心の迷いになど耳を貸してはいけない。非情であっても、良心が痛んでも、目の前の存在は世界の敵だ。
 ルベルは星守の杖を握り、その身に力を巡らせる。
 生命続く限り世界を巡り人々を助け続ける。その誓いが偽りではないことを示すかのように、ルベルはその身に力強い漆黒の旋風を纏った。
 黒き風が晴れた瞬間、ルベルの真の姿が解放される。
 白毛の子狼へと姿を変えた少年は深紅の瞳でラグオ・ラグラを見据えた。
 そして、白狼は高く跳躍する。
 ――速く、早く、疾く。
 終らせる為に此処に来たのだと己を律し、ルベルはその力を揮ってゆく。

 テスアギの瞳は『彼』を映し続ける。
 決して目を逸らさないのは、その姿を怖れたくはないから。そして、目の前の事実から瞳を逸らすことだけはしたくはないから。
「あなたは悪くない。毒と呼ばれるそれも、私には涙に思えるのです」
 テスアギは幾度か瞬き、この場に満ちる酸の霧を見遣る。
 それが有害な毒であったとしても、ラグオ・ラグラの存在自体は決して毒などではなかったはずだ。
 この世界があなたの身を毒とした。きっと、ただそれだけのこと。
「大切なものと過ごしたこの場所を守りましょう」
 テスアギは彼を殺す使命だけではなく、自らが言葉にした思いに意識を向けた。
 そして、穏やかな日々を、もう一度。
「取り戻しましょう。――それが死と同義であっても」
 生きるよりマシなこともあるとテスアギは知っている。想いを終わらせない為に、今という時を終わらせるのだ。
 矛盾であるように思えてそうではない。だから自分は此処にいるのだと感じ、テスアギはその身に魔力を巡らせる。そして、目隠しのシャーマン、ハイカナコさんが彼女の傍に現れ、共に『彼』を見つめた。

 猟兵達の攻撃が次々と放たれ、邪神の躰を貫いていく。
 強靭な肉体は少しの衝撃など跳ね返してしまう。だが、攻撃を続けなければ彼の望みを叶えることは出来ない。
「痛い想いをさせてしまう事を申し訳なく思う。だが……これ以上、苦しませることは本位ではないからな」
 ユヴェンは竜槍ミヌレと共に全力を振るっていく。
 仲間と機を合わせ、貫き穿つ一閃ずつに思いが込められていた。一撃を与える度に胸が痛み、締め付けられるような感覚がある。それでもユヴェンは手を止めなかった。
「ミヌレ……お前にも付き合わせる事になる。悪いな」
 共に戦う槍に語り掛けたユヴェンは、ミヌレもまた同じ自分と思いを抱いているのだと感じ取っていた。ただ目の前の邪神を倒す。そんな未来しか与えられなかった今を受け止め、ユヴェン達は真摯に立ち向かう。
 今は攻撃に、与える一撃に集中すべきとき。
「全力でいかせて貰うぞ」
 そして、ユヴェンは槍を突き放つ。
 この一閃が願われた終わりを導くことを願って――。

 自身にも、大切な『友人』がいる。
 ライラックは傍に浮かぶ友の死霊を見遣ってから、ラグオ・ラグラを見つめた。
 友とは様々なかたちを持っているもの。それがたとえ生きていなくとも、言葉を交わすことが出来ず、種族さえ違ったとしても、友は友だ。
 否応なしに沸き出す毒の酸の痛みを癒す為、ラグオ・ラグラは友に贈る詩を紡ぎ続けていた。その力はライラックをはじめとする猟兵の身体を癒していく。
「どうしたって貴方の詩には共感してしまうんだ。……とても有難いけれど、」
 ライラックは拳を握り締めた。
 殺さなければならない相手に癒されるのは、辛い以外の何でもない。身体が痛む以上に胸が痛む。だが、それ以上の痛みを相手は抱えているはずだ。
 彼は自分の痛みはおろか、此方に齎される痛みにも心を痛めているようだ。
 次の瞬間、新たな毒霧が吹き出す。
 ライラックは掌を差し向け、此方に広がった霧へと魔法の鏡を顕現させた。刹那の間だけ霧が消え、ライラックの身は守られる。
 どうやら一時的に相殺や防御は可能らしいが、周囲に立ち込めたままの霧は身を蝕む。それがラグオ・ラグラの意思とは無関係なのだから厄介だ。
 しかし、ライラックは耐えた。何故なら――。
「せめて貴方の心だけは傷付けたくないから」
 その思いと言葉は強く、悲しみが巡る戦場の中に静かにとけきえていった。

 たったひとり、たいせつな友を想う。
 その想いは尊くて大事なもの。蔑ろにしてはいけないもの。
 びいどろは海月型の機械兵達を傍に呼び寄せ、周囲に浮遊させた。
「キミのこころに応えたい」
 この身が唯のバグだとしても、今は分かる気がする。その苦しみが痛みに乗って伝わってくる。何故だかそんな風に思えた。
 怪物から吐き出される酸を受けた海月は次々と沈んでいく。
 びいどろ自身にも毒の影響が現れ、その身体が揺らいだ。しかし懸命に耐えた少年は、せめて、と声の届くところまで駆けた。
 傷みも痛みも少なければ良い。けれど戦いである以上、どちらも避けられない。
「守りたかったきもち、知りたいな」
 びいどろには未だ、解らない気持ちと感覚がある。
 邪神とされた彼とは初めて出会い、交わす言葉も殆どなかった。それでも識りたいと願ったのは裡に秘められた彼の思い。
 痛みを堪え、びいどろは手を伸ばす。
 毒と相反して好みを癒そうとするやさしい詩を聞きながら、懸命に――。

●決志
 罪は、罰は、誰に科せられたものだっただろう。
 クレムは怪物を瞳に映して独り言ちる。
 そこに在るだけで全てを毒さねばならない痛みなど、計れるはずもない。
「ささやかな幸せを慈しんでいただけなのに」
 憐れでならない、とクレムが口にすればよつろも静かに花唇をひらいた。
「そう、最期まで誰も恨まないだなんて優しいのね」
 見つめる先、ラグオ・ラグラは苦しげに体を蠢かせている。イェルクロルトはそれが何故か、自分と少しだけ似ていると感じた。
 この痩けた体は他者の鮮血を拒み続けた証。毒にも激痛にも鈍い感覚は生きることを最低限に留めた代償だ。今日ぐらいは感謝しておくか、と口にしたイェルクロルトは呼吸を整え、ラグオ・ラグラを見据える。
「死に際のツレが知らん奴で悪ィな」
『……、……』
 その声に化け物はちいさな呻き声で答えた。
 覚悟しているとはいえ猟兵達から与えられる痛みに必死に耐えているのだろう。しかし、その間にも彼の躰からは毒を孕む霧が放たれ続けている。
 望まぬ殺しは苦しいよな、と呟いたイェルクロルトは、わかるよ、だなんてことは軽々しく言わない。
「おれにはおれの、お前にはお前の苦痛がある」
 だから、と地を蹴ったイェルクロルトは敵の眼前まで踏み込み、獣化した腕の一撃でその身を抉った。続けてよつろが小さな死霊の仔猫を一匹、召喚する。
「――ごめんなさいね」
 謝罪の言葉は淡々としていた。
「私はあなたを殺す事に反対も躊躇もするような優しい人にはなれなくて」
 だが、戦場に呼んだ魂はせめてもの慈悲。
 この猫の死霊は彼の愛した友ではない。よつろ自身も分かっているが、きっと良い旅路の案内人になってくれる。
「大丈夫よ、その子はあなたを怖がることもないし、苦痛を感じる事もない」
 それが救いなるのかはわからなかった。
 慰めになるのかすら、彼自身にしか分からないとしても、よつろは独りではないことを報せてやりたかった。そして、鈴丸、と使用人を呼んだよつろは身構える。
 クレムは二人が抱く思いを聞き、自らも祈りの火を顕現させた。
「終わらせるしか出来ない事が、ただ悔しいよ。でも――」
 されどそれが救いになるのならばこの手を止めてはいけない。
 ――祈りよ灯れ、祈りよ照らせ。
 クレムが解き放った炎は薄暗い室内を一瞬だけ明るく照らした。そして、その軌跡は終わりに続く道筋を示してゆく。

 化け物はその身に似合わぬ美しい聲で謳った。
 それは友を思い、自分を屠りに来た相手すら想う透き通った歌。
「うた、ですわ。いのちを込めた、うた」
 クロエは己に蓄積した疲労が幾分か取り払われていく感覚をおぼえ、幾度か瞼を瞬かせた。どうして此処まで優しくなれるのだろう。何故、これほどに優しいものが邪神として生まれ落ちなければならなかったのか。
 醜い、醜い優しい、ばけもの。
「こんなに悲しい形を見たのは初めてだ」
 終は思わず呟き、鑼犠御・螺愚喇を見つめた。彼から放たれる癒しの力は、否応なしに溢れ出る毒を払おうと懸命に紡がれ続ける。
 終は痛みと癒しが重なる妙な心地に揺らぎそうになりながらも、ベリンダやクロエと共にしっかりと床を踏み締めて耐える。
 是清も深く息を吐き、身体を蝕む酸の霧が齎す痛みを堪えた。
「……猫。変な虫が一杯居て、近付けなかったって」
 そして、是清は鑼犠御・螺愚に本当のことを告げる。それは敢えて誰も伝えなかったことだが、今の彼が一番知りたかったことであり、欲しかった言葉だ。
『僕のこと、嫌いになったんじゃなかったんだ……よかったあ……』
 鑼犠御・螺愚喇は泣き出しそうな、それでいて嬉しそうな声をあげる。猟兵達の攻撃を受け続けているというのに、その声からは喜びが感じられた。
 そして、彼は再び願う。
『それならもう思い残すことはないよ。はやく、僕を……』
「ああ、殺すとも。きみが優しい子であることは十分に伝わるさ」
 だから多くの言葉は無用だ、とベリンダは彼の言葉を遮った。気持ちはもう分かっている。だからどうか、自分を殺してだなんて哀しいことは言わないで。
 そんな思いを込め、ベリンダはガジェットを構えた。
 クロエも首を横に振り、ひといきに鑼犠御・螺愚喇との距離を詰めた。
「……頑張りすぎですわ」
 彼の意思とは関係なく働いた防衛本能が色濃い酸の霧を放つ。しかしクロエは構わずその腕を伸ばした。
『離れて。あぶないよ……!』
 彼からの呼び掛けも聞かず、クロエは痛みと蝕む毒に耐え、鑼犠御・螺愚喇の躰に触れた。激しい痛みがクロエを襲うが、伸ばした掌はしかと彼の躰に触れている。
「触れてよろしくて。少しでも、ぬくもりがわかるかしら」
 クロエが行動で以て伝えたかった思いと熱は確かに伝わっていた。
 仲間達が其々の攻撃を放つ間も毒霧は止まらず、相対する者達を苦しめる。
 その度に鑼犠御・螺愚喇は懸命に詩を歌い続けた。是清はその姿が痛ましく、苦しげに見えて何度も頭を振る。
「――もういいよ。鑼犠御・螺愚、そんなに優しくしなくていいよ。御前を殺しに来た連中なんだからさ。一生懸命唄わなくたって、俺達、簡単には死なねェよ」
 是清の思いもまた、彼はちゃんと受け取っている。
 それでも鑼犠御・螺愚は詩を止めない。終はそれが彼の意地であり、自分達への想いの形なのだと感じた。
「なぜ貴方様は心と伴わない身体で生まれたのでしょうね」
 言葉にした思いの答えは求めていない。
 どうして、なぜ。問い掛けてみても現実とは残酷なもので、これ以外の道はないと示されてしまっている。
 不利な動きをしている彼に表情を曇らせながらも、感傷的な思いを振り払った終は腕を獅子に変えた。不必要に苦しませたくないと願う気持ちは隣人と同じ。
 鋭い一撃を終が放てば、ベリンダも攻勢に出る。
「気付けば天国の花畑に寝転がっていることだろう。少しだけ我慢してくれたまえ」
 ベリンダの口許には笑みが湛えられたまま。しかし、その表情はいつもよりは静かで慈しみめいた感情が宿っている。
「わたくしも貴方の救いになれましょうか」
 クロエもベリンダ達に続き、光を収束させた刃を解き放っていった。是清も鋼糸を迸らせ、彼の命を削る為の一閃と共に思いを放とうと決める。
 自分達は大丈夫。この身くらいは己で守れると身を以て伝え、是清は告げた。
「――だから御前は、御前の為に泣いとけよ」
 是清の声を聞いたクロエが、ベリンダが、そして終が頷く。
 やさしい怪物に向けるのは同じ思いを宿したやさしい気持ち。戦いが未だ続くことを感じ乍ら、四人は終幕への意思を強く持った。

 望みは残酷で、願いは儚い。
 死を望むことしか残されていなかった化け物を見つめ、夜叉丸は泡沫の柄を握り締めた。破魔の力で霧を払おうと刃を抜き放った夜叉丸は静かに口をひらく。
「お前がそれを望むならば、おれは猟兵としての役目を果たすとしよう」
 霧を僅かに遠ざけた泡沫の刃は見る者の目を奪うほどに美しく、窓の外から射し込む光を反射した。
 昏い室内に僅かな光が煌めいた瞬間、夜叉丸は跳躍する。
 放たれる酸は甘んじて受け、深く踏み込む。
「悪いな、おれは一切の手心を加えるつもりはない」
 そうしなければならぬ理由が此処にある。下手な感傷を持とうものなら、ただただ未練が残るだけ。
 そして、優しき怪物も容赦されることを望んではいないだろう。
 既に抜き放っていた刃が真正面から振り下ろされ、対象を斬り裂く。透き通ったちいさな声が思わず痛みを訴える。そして、防衛本能から放たれた酸が腕に絡み付くように迸ったが夜叉丸は止まらない。止まってはいけない、と己を律していた。
 身を焼く熱など大したことはない。己の痛みなど二の次でいい。
「……これから与える痛みを考えれば、比べるまでもない」
 今はただ願いを叶える為だけに戦う。そう、決めたのだから――。

●決着
 酸の霧が身体の奥を蝕み、鈍い痛みが響く。
 友を想う詩は癒しとなって猟兵達を包み込んでいくが、放たれ続ける毒の方が巡りは早かった。だが、猟兵達は戦い続ける。
 華焔はしかと敵の動きを読み、毒が放たれる周期を皆に報せた。
 オズ達はその言葉をよく聞き、痛みを最小限に抑えてゆく。
「きみのともだちはきみを嫌ってなんかないよ。ここに来ることができないようにされてたんだ。それでも、この路地裏にはきていたよ」
 きっときみに会うためだとオズは告げ、ガジェットの引鉄をひいた。
 ――ねえ、やさしいきみと、わたしもともだちになりたかったな。
 抱く思いは口にしない。そうすればきっと彼はとても困ってしまうから。もっと苦しんでしまうだろうから。
 オズが語り掛ける言葉に頷き、カスカもラグオ・ラグラに呼び掛けていく。
「大丈夫……キミの友人は元気だよ」
『うん……それなら、良いんだ……』
 オズと同じく、カスカも敢えて猫が此処にいることは告げなかった。
 代わりにカスカはランタンの灯を灯し、魔導蒸気の霧を周囲に満ちさせる。そして、其処から紡ぐ子守唄は辺りに淡く響いていった。
 やがて、安らかに。
 その力は一時的にではあるがラグオ・ラグラの身体能力向上を阻んだ。
 たとえ彼がオブリビオンで、この世界には相容れず倒すしかない存在であっても、他の命を守る為に自らの命を差し出そうとした心根は尊い。
 美しいキミのために、と武器を握り締めたカスカは思う。
 せめて痛み少なく心穏やかに逝けるように、と。
 そんな中でマリスは懸命に癒し手としての役割を担い続けていた。ラグオ・ラグラから紡がれる詩だけでは足りない。
 激しい疲労にも毅然と前を向き、マリスは仲間の体力を回復していく。
 彼の覚悟と、自分達を信じてついてきた『彼女』に応えるために、祈りを捧げたマリスは聖なる光を周囲に満ちさせていく。
 仲間の誰もが邪神になれない怪物を倒すために懸命な攻撃を続けている。ラグオ・ラグラの表皮は硬く、命を削るには困難を極めるだろう。
 だからこそ自分は癒しに徹するのだと心に決め、マリスは思いを紡ぐ。
「魂の救済を」
 マリスの声を聞き、巡瑠と廻璃は視線を交わしあった。
 戦いが未だ巡りゆくならば巡瑠がするべきことは祈りの奇跡で仲間達の力を高め、奮い立たせていくこと。
「これだけ心強い皆がいれば、貴方へ最期を与えるのに愁いはないわよね?」
「はい、皆さんが居ればきっと……」
 巡瑠の鼓舞が広がっていく中、廻璃は筆を宙に滑らせる。
 願いを込めて筆で描いた神秘の力は敵の動きを封じる為に迸った。それは願いの描出。少しだけでも、たった一瞬でも良い。酸の霧の放出を抑え込めたならば仲間達が一気に攻め込む隙が出来る。
 その狙い通り、神秘の文字はラグオ・ラグラに絡み付いて動きを阻む。
 ニルズヘッグとザッフィーロは好機を感じ取り、共に頷きを交わした。ニルズヘッグは死霊蛇竜を槍に纏わりつかせ、ひといきに床を蹴る。
 同時にザッフィーロが指先に光を集わせ、力を一気に解き放った。
「蛇竜の黒炎で、その鎧が早く焼けることだけを祈っているよ」
「苦しみは長引かせぬ。痛みも一瞬だ」
 二人の一閃は標的を見る間に貫き、身体の一部を削り取る。対するラグオ・ラグラはザッフィーロ達に感覚器官を向け、苦しげな声をあげた。
『う、うう……痛い、けど……がんばるよ……』
 その言葉は痛々しく、ニルズヘッグの表情が僅かに曇る。
 だが、彼は決して攻撃の手を止めなかった。ザッフィーロも立ち込める霧が濃い部分を避け、距離を取りながら敵を見据える。
 その間に志郎はラグオ・ラグラの側面に回り、少しでも痛みと苦しみを和らげるために光波精神干渉器を作動させていく。
「その痛みが心を惑わせるなら、忘れさせてやろう」
 せめて少しでも気が確かになるように、と志郎が明滅させた光はラグオ・ラグラが感じる苦痛を一瞬だけ取り払う。
 しかし、迫り来る霧の毒は志郎の意識を奪い取ろうとしていた。すぐにヴァンプ・シュワルグを取り出した彼は血液を補充し、深く息を吐く。
 まだ倒れるわけにはいかない。
 志郎の強い意志を感じ取り、ザッフィーロとニルズヘッグも更なる攻撃に備えた。
 テスアギもまた、目隠しの老女と共に攻勢に出ている。
 放たれる落雷に合わせてテスアギは氷の力を宿す透きとおった腕を解き放った。戦いの最中、耳に届く詩は友のことを謳っているのだと皆はいう。
 だが、テスアギにはそれが理解できていなかった。
「友が何か、私にはよく分かりません。でも、この身は癒されています」
 ならば、もしかしたら――私室にいるクマのぬいぐるみや、自分の背を守るこのハイカナコさんや、ほかでもないあなた、ラグオ・ラグラにテスアギが抱く気持ち。それは彼が猫に抱いた気持ちと同じなのだろう。
 分からないけれど、解った。そんな気がした。
 テスアギが再び氷の力を放てば、其処に続いたユヴェンが竜槍を振るう。切先は黄色の感覚器官を潰し、ラグオ・ラグラの身を突き崩した。
『僕はだいじょうぶ、だから……。君達も死なせはしないよ……』
 彼が落とした言葉を聞いたユヴェンの表情が僅かに歪む。どうして、何故彼と戦わねばならないのか。浮かんだ疑問に明確な答えは出ない。
「本当はもっと別の形で救ってやる方法があれば良かったのだが……俺にはその手立てがない……すまない」
 ユヴェンはただ謝罪の言葉を返すことしか出来ず、瞳を伏せた。
 しかし、竜槍を振るい続ける覚悟は消えてはいない。
 ユヴェンから感じられる決意と気迫に、ライラックも気を強く持った。そして、金の栞をラグオ・ラグラに向ける。
 彼が無抵抗なら栞の投擲もきっと容易い。栞を放ったライラックが告げる理不尽な裁判、そのルールは――。
「敵を癒してはならない」
 猟兵の敵である彼にはとっては本来、ルールを守ることは至極簡単だろう。だけど、とライラックは首を振る。
 このルールを課しても彼はきっと、きっと、破ってしまうだろうから。
 その考え通りラグオ・ラグラは癒しの詩を皆に施し続けた。それによって激しい衝撃が彼を襲う様にライラックは思わず眉を顰める。
 なんて残酷で、なんてやさしい光景だろうか。
 びいどろは胸の奥が痛み続ける感覚をおぼえながらも、やさしい詩が届くようにと声を重ねていく。
「さよならは、まだいわないけれど……一緒にうたうよ」
 揺籃航路の子守唄は蒼き海の心地を宿しながら安らかな眠りに誘う歌となって響き渡った。どうか眠るなら夕陽色した友のあたたかで、やさしい夢を。
 少年の声を背に、夜叉丸は敵との距離を詰める。
 凛と真っ直ぐに向けた眼差しが映すのは怪物の急所となる部位。これまでの攻防で見つけた脆い個所を狙い、夜叉丸は刀を抜き放つ。
 ――飛花落葉。
 風に散る花が如く、その命脈を枯れさせ、断つ。硬い皮膚は夜叉丸の刃によって深く貫かれ、肉塊が崩れ始めた。
「あれが核となる部分だ。狙うなら其処を――頼んだ」
 皆にそう告げた夜叉丸の瞳に迷いはない。ライラックが少年の言葉に従って再び栞を放ち、びいどろも
「分かったよ、早く終わらせてあげようか」
「もうすぐ終わるからね」
 やがて、びいどろ達の願いと思いは終わりを導く礎となる。
 ラグオ・ラグラの躰が揺らぎ、片足が崩れ落ちた。均衡を失った彼は倒れかけながらも詩を響かせ続けた。
『はやく、もうすぐ……だから……』
 息も絶え絶えに願うラグオ・ラグラとイェルクロルトの視線が合う。
 彼に目などないのだが如何してかそう思えた。自らの腕を獣化させたイェルクロルトは灰色の毛並みを逆立てる勢いで重い一撃を叩き込んだ。
 痛くしないで済む方法なんて知らない。だから、迷いなんて邪魔だ。ただ全力で殺す事が自分なりの弔いだとしてイェルクロルトは狼爪でその身を引き裂く。
 触れられるぬくもりを知って死んでいけ。狼の眼差しは只管に真っ直ぐだ。
「おれはもう手遅れだけど、あんたはまだ大丈夫。殺してやるよ、ラグオ・ラグラ」
 あんたは友達を守って、立派に死ぬんだ。
 そう告げたイェルクロルトが僅かに身を引けば、よつろが空いた射線に踏み込む。骨の尖の名を冠する仕込み杖の柄を握ったよつろは一気に刃を抜き放った。
 剣閃が煌めきを映し、鋭い衝撃が奔る。
 先程のラグオ・ラグラの声は震えていた。覚悟をしていても死は畏れであり、恐怖そのものだ。だから、とよつろは静かに伝えてゆく。
「あなたは天国に行けるのだから、死ぬのはきっと怖くない」
 天国は良い所だってみんな言うもの。誰も帰りたがらないぐらいに素敵な所だって。
 まるで子供をあやすような声色でよつろは話す。
 クレムもまた、苦しむラグオ・ラグラの前に駆ける。もうすぐ彼は望み通りに打ち倒される。その前にひとつだけやっておきたいことがあった。
「鑼犠御・螺愚喇、せめて祈らせてくれないか」
 クレムは酸に焼けることも厭わず、千切れかけた彼の手を握った。痛みは激しく身体を蝕んだが、構わない。彼の痛みに比べればこれくらい傷にも入らないだろう。
 もし、もう一度命が巡るなら過去の残滓としてではなく、正しい生を得る時が訪れたなら、何人も傷つけぬ優しいお前として生まれてこれるように。
「優しきその心がどうか――報われる様に」
 クレムは願い、白き浄化の炎を顕現させていく。
 祈りの火よ、送れ。その心を穢さぬまま。
 読み上げた祈祷文から生じた火は哀しき化け物の躰を包み込んでいった。
『くるしい……痛いよ……あ、あ……』
 ラグオ・ラグラは思わず声をあげる。それでも迸る火も、剣閃を放つ手も、爪を振りあげる腕も止めてはいけない。
 よつろ達が其々の一閃を放った直後、是清は傷付いた彼の躰に触れた。
 その手は優しく彼を宥めているかのよう。その姿を見つめたベリンダは是清に呼び掛け、重火器ガジェットの引鉄に手を掛けた。
 それは彼女がこれまで溜めに溜め、最大出力を引き出した代物。
「ほら、行くよ伍島くん」
 名を呼ばれて振り返った彼は返事をする代わりに眉尻を下げて、少しだけ笑む。そうして、是清は別れの言葉を口にした。
「じゃあな、鑼犠御・螺愚」
 ――プログラムジェノサイド、鋼糸乱舞。
 脳に刻まれた動きはもう止めることが出来ない。鋼糸を縦横無尽に奔らせて対象を切り刻む是清に合わせ、ベリンダが力を解き放つ。
 紅く燃え盛る炎が迸り、邪神の躰を包み込んだ。そして仲間に視線を送ったベリンダは更なる追撃を放つ。
 柄ではないが、今だけは祈りを捧げたくなった。
「次こそはきみが穏やかに過ごせますように。――幸いあれ!」
 其処に続いて終とクロエが動き、其々の力を紡いでいく。
 クロエは眼差しを向け、天から降り注ぐ光を昏いフロアに満ちさせた。終も獅子に変えた、その痛みごと喰らい尽くす心算で腕を振るう。
「貴方様のお友達と過ごした優しい時間、忘れないでくださいませ」
「今はわたくしたちの手でおねむりなさいな」
 次に目覚めたとき、貴方の大切な方を貴方の手で抱きしめられますように。
 儚く短い時間であっても、その思い出が悲しみだけで塗り潰され、去ってしまうのは悲し過ぎる。悲劇は此処で終わらせて、殺す。
「だから眠るとき、思い出してくださいませ、彼女の名と、声を」
 終がそう告げると、クロエも思いを言葉に変えていった。
「大丈夫、貴方はとてもうつくしいですわ」
 こんなにも誰かを思いやる心を持つなんて、誰にでもできることではないから。
 おやすみなさいませ。
 良き夢路を。
 鑼犠御・螺愚喇の名を呼んだ二人の獅子の力と光の一閃は終わりの始まり。
 ルベルは柔らかな白の毛並みを靡かせ、疾く駆けた。
 きっと次に巡る一撃が終幕を飾るものになる。そう感じたルベルは華焔に目配せを送り、自分に次いで追撃を行って欲しいと願った。
 頷いた華焔は黒式術を解除して、黒焔の力を宿した薙刀を構える。言葉はなくとも華焔とルベルは自分達が何を成すべきかよく分かっていた。
 思いはただひとつ。悲しき化け物に死を与えること。
 そして、強く床を蹴ったルベルは高く跳ぶ。
 只一撃に全力を籠めて、白狼は喰らい付くように牙を突き立てた。ルベルの渾身の一閃が敵の力を奪い取る最中、華焔も駆ける。
「その名、その命の重みは覚えておいてやるよ。お優しいカミサマ」
 刃が振り下ろされ、呪月の彩が揺らいだ。
 刹那、焔を纏った一閃が優しき邪神の躰を深く貫いた。

●親愛なる友よ
 これまで噴き出していた酸の霧の勢いが弱まり、ちいさな声が響いた。
『――これで、やっと終われる……』
 激しい痛みが身体中に巡っているというのに、ラグオ・ラグラが落とした言葉には安堵が混ざっていた。フロア内立ち込める毒霧は次第に薄れていくだろうが、完全に晴れるまでには時間がかかりそうだ。
 おそらく、彼が完全に息絶えるまでは霧が漂ったままだろう。
 このまま愛しい友人に会えないまま終わってしまうのだろうか。テスアギは非情な現実に瞼を閉じた。やっと彼の気持ちが分かったというのにこれでは救われない。
 それでもこれが宿命なのだと感じてユヴェンは痛いほどに拳を握り締めた。
 だが、そのとき。
「まだ出て来ちゃ駄目だよ、待って……!」
 オズの慌てた声が響き、その胸元から何かが現れた。
 それはブローチの中の世界から飛び出した夕陽色の猫だった。夜色のハンカチがひらりと床に落ちる中、猫は鳴いた。
 ――にゃあ。
 部屋に残った毒の残滓がちいさな身体を蝕む。その身はぐらりと揺れ、今にも倒れてしまいそうだった。
『あ、ああ……その声、は――』
 ラグオ・ラグラが千切れかけた四肢を動かして、鳴き声がした方に向き直った。
 誰もがあってはいけないことに息を飲む。
 手遅れだ、と夜叉丸は感じ取っていた。この部屋から猫を引き離しても助かる見込みはない。志郎も首を横に振り、ちいさな命に死が近付いていると実感した。
 猫とラグオ・ラグラ。ふたりの距離は遠い。
 抱き上げてすぐに保護するべきだったかもしれない。しかし、巡瑠と廻璃はそうはしなかった。祈りと願いの筆を掲げ、霧が立ち込める空間に破魔の力を向ける。
「わかったわ。貴方の足で会いに行きなさい!」
「奇跡は起きると信じて。……いえ、必ず起こしてみせます!」
 一目逢う。ただそれだけの為に二人は力を揮った。
 すると一陣の風が吹き抜け、猫が往こうとする先の霧を払った。カスカもまた、ランタンの灯を掲げて猫が進む道の先を照らす。
 きっと、猫は本能的に死を覚悟している。
 この事態は夕陽色の猫をこの場に連れて来なければ起こらなかっただろう。だが、彼女は自ら選んだのだ。
 ――この子は選んでくれたんだ。きっと賢い子だよ。
 カスカが思い出したのは、路地裏で聞いたオズの言葉。
「……そう、か」
 オズについていくこと。『彼』に会えるタイミングで飛び出したこと。
 すべて、『彼女』が自分で決めたことなのだと感じたカスカはただ見守るべきだと己を律した。続けてマリスは猫に向けて癒しの聖光を放つ。
 風と光は一筋の道を示し、最後の希望を紡ぐものとなってゆく。
「あなたは自分の意志で彼に会いに来た。そう、ですよね」
 マリスは己の癒しの力が少しでも望まれる未来に繋がるよう、力を揮い続ける。
 猫は駆けた。
 毒がその身を蝕んでいても懸命に地を蹴る。
 最期の力を振り絞り、最愛の友の元へ駆けた。
 誰もがその姿を見守ることしか出来ない。止める理由など、何処にもなかった。
『だめ、だめだよ……君が死んじゃう。僕の傍に来たら、君が……』
 ラグオ・ラグラの悲痛な声が辺りに響く。
 しかし猫は足を止めず、半ば崩れ落ちるように彼の元へ飛び込んだ。ちいさな身体を受け止めたラグオ・ラグラは友人を伸ばした腕で抱き留める。
 ――にゃあ。
 猫は鳴く。酷く苦しげながらも、何処か満足気な声で。
『……そうか。うん……僕もだよ』
 ラグオ・ラグラは猫が紡いだ音に込められた意味を理解したらしい。二人の間でどんな言葉が交わされたかは分からない。だが、続けて落とされた彼の声はこれまでとは違う、穏やかな響きを孕んでいた。
 それだけでふたりは通じ合い、共に逝くことを是としたのだろう。
 やがて彼の腕の中で猫は息絶える。
 その姿を見守っていたやさしい怪物の命の灯もまた、消えようとしていた。
 友人を抱き締めたラグオ・ラグラは猟兵達に最期の言葉を告げる。
『……ありがとう』
 その声はやさしく透き通っていた。
 そうして、邪神になれなかった怪物の生は其処で終わりを迎えた。

●遍く詩と旋律
 静寂が辺りを包んだ。
 華焔はラグオ・ラグラの躰が消えていく様を見送り、彼の最期を思う。
「独りきりで逝くことにならずに済んで良かったな」
 その言葉の裏には複雑な思いが込められていた。だが、これでいいのだとも感じられる。華焔の声に続けて思いを零したライラックも骸の海に還るものを見つめた。
「本当に貴方は優しいね。……うん。本当に、悲しいよ」
 ライラックはそっと俯く。
 ちいさな光の粒となって消失する躰はまるで星屑のようだ。
 志郎は消えゆくラグオ・ラグラを見下ろし、告げられなかった問いを言葉にする。
「ここを、守りたかったのか? ……俺達もだよ」
 形は違えど、同じ思いを抱いた彼を思った志郎は残された夕色の猫を見つめる。
 ニルズヘッグは暫し考え、己が纏う紫彩を宿す外套を脱いだ。そして、それで倒れた猫の亡骸を優しく包んでやった。
「貴様の友は、貴様を愛していたのだろうなァ。貴様がそうまで愛したのと同じように」
 二人の思いは通じ合っていた。
 猫の亡骸はだけが残されてしまったが、その魂は共に逝ったはず。ならば猫の骸もこのまま此処にあった方が良い。何故なら此処は二人にとっての特別な場所なのだから。
 ニルズヘッグが猫の亡骸を包む中、ルベルは夕陽色の猫が最期に振り絞った鳴き声を思い返していた。
 耳を伏せたルベルが思い出すのは自分だけが秘める過去のこと。
 ちいさな命が死を迎えたこと、善良なる魂が殺されるしかなかったこと。すべてを思い、ルベルは静かに唇をひらいた。
「……現実とは厳しいものです」
 それでも、最期に心が救われたと信じたかった。
 そしてルベルは癒しの力をその場に拡げる。星の粒は全てのものに柔らかに降り注ぎ、甘く優しい心地を宿していった。
 是清は鑼犠御・螺愚喇が居た場所を見つめ、手を伸ばす。其処に彼だったものの残滓は何も残らなかった。形あるものは、何も。
 だが、是清はそれでいいと感じていた。自ら死を厭わず、大切な友の最期に立ち会った猫は形なきもの――種族を越えた友情の証を遺してくれている。
 ベリンダはいつもより幾分か静かな笑みを浮かべて終と共に是清を見つめた。
 クロエは三人の背が悲しげに思え、そっと彼らを撫でる。
「是清も、ベリンダも、終も」
 お疲れ様、と微笑ったクロエが自分達を元気付けてくれているのだと察し、終は双眸を緩く細めた。そして、終は思いを言の葉に乗せる。
「ありがとう、優しい異形、さようなら、心安らかに」
 そう告げることしかできないが、それは心からの願いだった。
 終達の遣り取りを聞き、クレムとよつろも其々に抱く思いを声にする。
 胸の奥で燻る気持ちは拭い去れない。それでも今だけは善良なる者への追悼の言葉を送るべきだと感じた。
「赦しを、眠りをどうか彼の者に」
「おやすみなさい、鑼犠御・螺愚」
 よい夢を、とやわらかな言葉を落とすよつろ達の傍ら、イェルクロルトは琥珀色の瞳に猫の亡骸を映していた。
「……それで良かったのか、お前は」
 独り言ちた思いに答える者はいない。でも、きっと良かったのだろう。
 そう思わなければ何もかも信じられなくなりそうだ。生きねばならぬ衝動を棄ててまで駆けた猫の思いは、イェルクロルトにとって複雑なものだった。
 オズは外套に包まれ、眠るように横たわる猫に謝り続けていた。
「ごめんね。ごめんね……」
 わたしが連れて来なければ、わたしがこの手を伸ばさなければ、救えた命かもしれない。そう思うと胸が締め付けられるように苦しくなる。
 傍に佇むカスカは首を振り、オズの責ではないのだと告げた。オズが居たからこそ彼女は最善のタイミングで彼と対面できた。あのブローチがなければ、再び巡り合う前に命を落としていたかもしれないとカスカは語る。
「最期まで逢えないままより、ずっと善い結末だったはずだ」
 そうであることを願いたかった。
 ザッフィーロは仲間達の悲痛に耐える言葉や声を聞きながら其処に跪いた。
 魂に安らぎがあるよう、捧げるのは祈り。
 ――遠く、果てなき何処かで共にあれるといい。
 そう願うザッフィーロの祈りの言の葉は穏やかな心地を宿していた。
 マリスもラグオ・ラグラのために祈り、優しいあなたに、と両手を重ねる。巡瑠と廻璃も役目は果たしたとして哀しみを振り払い、テスアギも倣って掌を合わせた。
 そして、夜叉丸は死したものを思いを馳せる。
「平和を謳う悲しき骸よ。お前の見たそれは泡沫の夢なれど――そう、その最期は……とても幸せだったのだろうな」
 悲しみだけが巡ったのではない。それだけは確かなことだと夜叉丸が口にすると、びいどろがちいさな頷くを返す。
「そうだね。最期に一目、逢えたのだから……きっと」
 どう足掻いても彼が向かう先は死でしなかった。
 だが、終わりの間際に彼は救われた。びいどろはそう信じたかった。
 ユヴェンは何も語らぬまま、そっとハーモニカを取り出す。竜のミヌレが主を見上げる中、演奏されていくのは鑼犠御・螺愚喇を想って紡がれる静かな曲。
 自分ができることといえば葬送の旋律を贈ることだけ。
 この音が、皆が抱く思いが、せめてもの慰めになれば良い。そう願って奏でられる音色はやさしく、辺りに響き渡っていった。

 此処であったことは忘れない。きっと、忘れられない。
 やさしい怪物のことを。
 夕暮れ色の猫が生きた証を。
 そして、友を想う遍く詩が満ちた、この場所のことを――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『愛らしい猫達を存分に堪能…しませんか?』

POW   :    猫達を沢山抱っこしたり背に乗せたりじゃらしまくる!

SPD   :    猫が好みそうなおもちゃの動かし方をしたり、心地よさそうな撫で方をしてみる

WIZ   :    猫の好みそうな事を考えて、おもちゃ等を用意して一緒に遊ぶ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●路地裏猫と日常のひととき
 やさしき怪物は屠られ、街が死の海となる未来は潰えた。
 犠牲になった命はたったひとつ。
 だが、それはきっと犠牲などという言葉で片付けられるものではない。殺されることを望んだ怪物と、彼に寄り添って共に逝くことを選んだ夕陽色の猫。
 今となれば、それらはそうあるべき運命だったのかもしれない。
 そして――どれほど悲しいことがあろうとも、世界には変わらぬ日常が巡る。

 平和が戻った路地裏にはたくさんの猫がいた。
 にゃん。にゃーん。にゃあ。
 にゃー。にゃんにゃー。ぴゃー。
 様々な鳴き声が聞こえるこの場所は猫の楽園。
 塀の上で寛ぐ猫。日向で丸まる猫。きょうだい同士でじゃれあう子猫達。
 人懐っこく擦り寄ってご飯をねだる猫。人間が少し怖いけれど興味があり、陰からひっそりのぞく猫。白猫に黒猫、茶虎猫に雉虎、斑猫などなど、よりどりみどり。

 君は此処でどのように過ごしても構わない。
 悲しい事件があっても、猫達は変わらず今日や明日を生きていく。それが守るべきものであり、猟兵として護ったものの証だ。
 それをその身で知る為にも今は穏やかに楽しく過ごそう。
 きっと猫達はやさしく、時には元気に君達を迎えてくれるはずだから。
海月・びいどろ
なんてことない日常が、当たり前の顔をして戻ってきた
なんだか、酷くぼんやりとして
自分のことなのに、どんなきもちでいるのかも
よく解らなかった

ただ、とても、うつくしいものをみた
やさしい詩を、聴いていた

かなしい、とは、こんなきもち?
ひとりぼっちじゃなくて、ほっとした?
一目会えたならと信じていたい
……そんな気が、する

ちいさないきものは、どう扱って良いか分からないのだけど
けものの匂いと、熱と、鼓動と
ふわふわで、かわいいのだってデータにある

おっかなびっくり手を出して、引っ込めて
キミたちが良ければ、すこしだけ
あの彼らのように、ボクも触れてみたいと、思った



●触れる熱
 なんてことない日常が、当たり前の顔をして戻ってきた。
 なんだか、酷くぼんやりとする。
 先程までの戦いが本当にあったことなのか。もしかしたら夢だったのではないかと思えるほどに目の前は現実味に溢れ過ぎていた。
「でも、本当なんだね」
 びいどろはちいさく口にして路地裏に目を向ける。
 自分のことなのに、どんなきもちでいるのかもよく解らなくて俯いてしまいそうになる。しかしびいどろは顔をあげて首を横に振った。
 ただ、とても、うつくしいものをみた。やさしい詩を、聴いていた。
 かなしい、とは、こんなきもち?
 ひとりぼっちじゃなくて、ほっとした?
 分からない。解らない。わからない。けれど、一目会えたならと信じていたい。
 そんな気がして、びいどろはその場に屈み込む。
 目の前には灰色の猫が座っていた。ちいさないきものはどう扱って良いか見当もつかなかったけれど、びいどろの中にはデータがある。
 けものの匂いと、熱と、鼓動。それはふわふわでかわいいもの。
 あの彼らのように、ボクも触れてみたい。そう感じたびいどろは問い掛ける。
「こんにちは。キミに触れてもいいかな?」
 そういっておっかなびっくり手を出して、引っ込めて、戸惑ってしまうびいどろ。そんな少年の様子を見兼ねたのか、灰色の猫の方が掌に擦り寄ってきた。
 そのぬくもりはあたたかくてやわらかい。
「――彼らが最期に触れたときも、こんなにやさしいものだったのかな」
 そうであればいいと願い、びいどろは静かに目を閉じた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ライラック・エアルオウルズ
【SPD】
此処が『彼女』の…、うん。
駄目だね、どうにも悲しくなってしまうよ。
短く息を吐くも、無邪気な猫を見れば 座り込んで。

…貴方に喜んで貰える様な物は、あったかな。
そうだ。古い羽ペンならバッグに入れた侭だった。
試しに緩急を付けて振ってみて、じゃれる様なら続行。
暫し猫と遊んでちゃんと仲良くなれたのなら、
恐る恐る、そっ、と優しく撫でてもみようか。
柔らかい…想像以上に、多幸感があるね…。

…そうだ。猫さん、僕の友人になってくれるかい?
彼らもこういう遣り取りをしたのかな、何て思い乍ら。
何かしらの形で了承を得れたと感じたら、少し笑って。
ああ。嬉しいね。
こんなにふわふわした友人を持つのは、初めてだ。



●やわらかな友人
 滲む夕焼けの色は何故だか瞼の裏に焼き付いて離れない。
「此処が『彼女』の……、うん」
 駄目だね、と静かな言葉を落としたライラックの裡には悲しみが宿り続けていた。どうにも悲しくなってしまうのは『彼ら』の在り方が美しかったからこそ。
 短く息を吐けば、足元に子猫が近付いて来た。
 きょとんとした仕草で無邪気に見上げてくる子猫は愛らしい。ライラックは路地裏に無造作に置かれていた木箱に腰掛け、おいで、と猫を呼ぶ。
「……貴方に喜んで貰える様な物は、あったかな。そうだ」
 あれならあったはずだったと思い立ち、ライラックはずっと入れた侭だった羽根ペンを取り出して見せた。
 にゃ、と聞こえた鳴き声には興味の色が交じっている。
 試しに緩急を付けて羽ペンを振ってみると猫が木箱の上に飛び乗った。夢中でじゃれる様子に双眸を細め、彼は暫し子猫と遊んだ。
 ちいさな前足が動く羽を捉えたかと思えば肉球がライラックの手に触れる。
 子猫に警戒心はない。
 ライラックは恐る恐る、そっ、と優しく子猫の頬を指先で撫でてみた。心地好い部分だったらしく、喉がごろごろ鳴る音が聞こえた。
「柔らかい……想像以上に、多幸感があるね……」
 触れた指先に子猫が頭を擦り付けてくる。
 もっと撫でろと要求されているように感じてライラックの口許に笑みが浮かんだ。
 戯れにころりと彼の傍に寝転んだ子猫は前足だけを伸ばして、ゆるゆると羽根にじゃれつきはじめる。
「……そうだ。猫さん、僕の友人になってくれるかい?」
 問い掛けた声に子猫は、にゃ、と鳴く。
 やがて遊び疲れた子猫はライラックの膝の上に乗った。すやすやと寝息を立てはじめるちいさな仔を見つめ、穏やかに目を細める。
「ああ。嬉しいね。こんなにふわふわした友人を持つのは、初めてだ」
 ――きっと、彼らもこういう遣り取りをしたのかな。
 ライラックはそんなことを考え乍ら、心の痛みが和らいでいくようだと感じる。
 彼らのことは決して忘れない。
 けれどこの穏やかな時間こそが、日常に戻っていくという大切なことに違いない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マリス・ステラ
日当りのいい場所でひなたぼっこ
膝や足元に猫が来るなら優しく撫でます

「きっとミカゲは悲しむでしょう」

送り出してくれた彼を思う
事の顛末を話せば恐らくはそうなるでしょう

本当に他にやりようはなかったのでしょうか?
ラグオ・ラグラの毒は、彼の心の乱れに呼応したもの
既に制御不能で息の根を止めることでしか止められなくなっていた
ならば『息の根を止めてから生き返らせる』というのはどうでしょうか?

それは不可能な奇跡だったかもしれません
でも、試さない理由にはならないし、祈れば叶ったかもしれない
そうすれば彼女も……

「けれど、そうしなかった。だからこの話はこれで終わりなんです」

僅かに瞑目して改めて祈ります
どうか安らかに



●終わった物語
 日当りのいい場所でひなたぼっこをすれば、心が少し温かくなった。
 マリスは眩しい光に片目を眇め、寄って来た猫を優しく手招く。足元に擦り寄った雉虎猫の背を優しく撫で、思うのは或る少年のこと。
「きっとミカゲは悲しむでしょう」
 送り出してくれた彼に事の顛末を話せば恐らくはそうなるだろう。
 元から悲劇でしかないと分かっていた。マリスもそれを覚悟して戦いに挑み、邪神の命を屠ることを決めた。
 猟兵としては間違っていない、正しい選択だ。けれど――。
「本当に他にやりようはなかったのでしょうか?」
 ラグオ・ラグラの毒は、彼の心の乱れに呼応したもの。既に制御不能で息の根を止めることでしか止められなくなっていた。
 ならば、息の根を止めてから生き返らせるというのはどうだっただろうか。
「……」
 そんなことを考え乍らもマリスは解っていた。
 それは不可能な奇跡だ。骸の海から蘇ったものは世界において埒外の存在。それでも、試さない理由にはならず、祈れば叶ったかもしれない。
 そうすれば彼女も……。
 其処まで考えたマリスは首を横に振って、ゆっくりと息を吐いた。どうしかしたのか、というように抱いている雉虎猫がマリスを見上げている。
「けれど、そうしなかった。だからこの話はこれで終わりなんです」
 だからこれで良かった。
 そう思うしかないのだと自分に言い聞かせ、マリスは僅かに瞑目した。
 改めて祈るのは、ふたつの命が廻る先。
「――どうか安らかに」
 マリスが落とした声に重なるように、にゃあ、と猫の鳴き声が響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
……ま、何はともあれ一見落着か。
成すべきは成した。思うところがないわけではないが、今はそれで充分だ。

さて、楽しそうだなァ、猫よ。そら来い。餌をやろう!
とは言うものの、図体がでかいと動物には好かれんのだよなァ。たまに壁か何かと勘違いされることはあるが。
その辺りは、そこらに座っていれば多少はマシか。
そうだ、撫でて良さそうなのがいれば撫でてやろう。いや、動物は良いなァ……。

貴様らも穏やかに生きられると良い。そういう世界を守るのが仕事だがな。
まさしく――世界は、愛と希望に満ちていることだよ。



●世界の在り方
 廃ビルの向こうで日が傾いていく。
 ニルズヘッグは暫し夕暮れ時の空の色を眺めていた。
「……ま、何はともあれ一見落着か」
 不意に呟いた思いは何処か覚束なげで、吹き抜けた風に灰燼の髪が揺れる。
 だが、成すべきは成した。
 思うところがないわけではないが、今はそれで充分だ。そう思い直したニルズヘッグは路地裏の方に向かう。
 其処には様々な猫がたむろしていて、にゃあにゃあと鳴き声が響いていた。
「さて、楽しそうだなァ、猫よ。そら来い。餌をやろう!」
 とはいうものの、ニルズヘッグは知っている。
 自分の図体が大きいせいで動物には好かれにくいということを。たまに壁か何かと勘違いされることはあるのだが、と持参した猫おやつを取り出す。
 だが、猫とは現金なもの。
「にゃ?」
「にゃあー!」
 おやつの存在に気付いた猫達が突撃してくる。おお、と声をあげたニルズヘッグは手の中のおやつがかすめ取られていく様を見ているしかなかった。
 しかし、それでいい。嫌われてはいないようだと感じたニルズヘッグはその場の手近なドラム缶に軽く腰掛け、来い、と少し離れた所にいた白い猫を呼ぶ。
 するとその声に応えるように白猫はニルズヘッグの膝の上に跳び乗った。
 その子もおやつ目当てだったようだが、満足した様子の白猫はそのままニルズヘッグの傍で落ち着いてしまう。
「いや、動物は良いなァ……」
 撫でろと言うように手に頭を寄せてくる白猫を撫で、ニルズヘッグはしみじみと口にした。目の前にあるのは平和そのもの。世界はこうあるべきものなのだろう。
「貴様らも穏やかに生きられると良い」
 猫に触れる手から感じるのはぬくもり。そういう世界を守るのが己の仕事。
 まさしく――世界は、愛と希望に満ちている。
 そういうことだよ、と独り言ちたニルズヘッグの声には穏やかさが満ちていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

虻須・志郎
【WIZ】
廃ビルの屋上
内臓無限紡績兵装でハンモックを作り
横になりながら電子タバコ状の血液パックを燻らせた。
「……」
くたばった邪神に思いを馳せる
あんな奴もいるんだな
邪神、人間の信仰心を蒐集して復活する存在ならば
今回のアイツは何を糧に此処へ出たのだろうか
あるいは違うのかもしれない……その方がいい
そうでなければ、悍ましい

猫、まだこんな所までいるのか?
機動端末を出してじゃれさせる。俺は苦手なんだ
苦手「にゃーん」
にが「にやーーーん」
に「にゃーーーーーん」



『おい今すぐモフらせろでなければ喰らうぞ』
「ええい黙れ蜘蛛の邪神、貴様そんな乙女か!?」

そこに誰かいないか、今すぐ猫を避難させるんだ 早 く し て !



●猫もふもふ
 廃ビルの屋上にて、ハンモックがゆらゆら揺れる。
 紡績兵装で休憩場所を形作った志郎は横になりながら、電子タバコ状の血液パック――ヴァンプ・シュワルグを燻らせた。
「……」
 夕暮れ色に染まった空を仰ぎ、くたばった邪神に思いを馳せる。
 あんな奴もいるんだな、と零れた言葉は自分以外の誰の耳にも届かない。だが、志郎の中には様々な思いが渦巻いていた。
 邪神が人間の信仰心を蒐集して復活する存在ならば今回のアイツは何を糧に此処へ出たのだろうか。あるいは違うのかもしれない。
「その方がいい。そうでなければ、悍ましい」
 答えの出ない思考に独り言ち、志郎は不意に視線を落とす。
 すると、開けっ放しにしていた屋上の扉から黒い猫が歩いてくる姿が見えた。
「猫、まだこんな所までいるのか?」
 疑問に思ったが、もう既にビル内の毒の霧は晴れている。猫も自由に出入りが出来るようになるほど此処は平和になったという証だ。
 志郎は機動端末を出して猫をじゃれさせる。
 しかし――。
「悪いな、猫は苦手「にゃーん」
「にが「にやーーーん」
「に「にゃーーーーーん」
 どう足掻いても猫が志郎の声を遮る。どうやら懐かれたようだ。すると志郎の内なる邪神が猫に意識を向け、命じてくる。
『おい今すぐモフらせろでなければ喰らうぞ』
「ええい黙れ蜘蛛の邪神、貴様そんな乙女か!?」
 暫し拮抗する志郎の意思。猫はそんなことになど構わずにハンモックの上に跳び乗ってくる。慌てた志郎は思わず叫ぶ。
「そこに誰かいないか、今すぐ猫を避難させるんだ」
 ――早 く し て !
 だが、此処は誰もいない屋上。響く声は虚しくこだました。
 その後、彼がどうなったかはご想像にお任せしよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

八田・阿須摩
POW

あぁ、可愛いなぁ

しゃがみ込んで、警戒している猫に手を差し伸べて誘ってみたり
足元にすり寄る猫を優しく撫で回し
肩に乗ってきた猫に頬擦りしたり
始終でれでれ

煮干し、食べるかな
君達の為にいつも持ち歩いているから遠慮なく食べてくれ
手の平に煮干しを乗せて猫達へ差し出し

肉球も触らせてくれるかな
あぁいいねえこのぷにぷに

他の猟兵達や人に邪魔にならぬような場所で胡座をかいて座り込み、
膝や肩、果ては頭に数匹猫を載せて至福の時間を堪能



●至福は此処に
「あぁ、可愛いなぁ」
 八田・阿須摩(放浪八咫烏・f02534)は心地好い時を過ごしていた。
 戦いの中に身を投じる猟兵であっても、日常を過ごす時は大切なもの。しゃがみこんだ阿須摩の周りには数匹の猫が群がっている。
 最初は少し警戒されていたが、おいで、と呼んで暫し待っていたらおそるおそる近付いてきてくれた。そして現在、阿須摩は猫をおおいに堪能している。
 すりすりと膝に頭を擦り付ける斑猫の背を撫で、阿須摩は頬を緩めた。
 斑猫だけではなく、白と黒の毛並みが交じる猫や、茶虎猫、手足や尻尾の毛先だけが灰色の猫もいる。
 いつしか猫達も慣れてきたらしく、阿須摩の肩に乗ってくる猫まで出て来た。
 肌に触れる毛並みに頬擦りをする彼は始終でれでれ。ほのぼの。
「煮干し、食べるかな」
 君達の為にいつも持ち歩いているから遠慮なく食べてくれ、と阿須摩は猫用煮干しを差し出す。すると掌の上のそれを奪い合うように猫達が集まってきた。
「大丈夫、まだいっぱいあるから」
 その光景を微笑ましく眺め、そして手の平を舐める舌のくすぐったさに目を細めた阿須摩は幸せを感じている。
 にゃあにゃあ、と何かを喋っているかのように鳴く斑猫はお礼を言っているのだろうか。それとももっと欲しいだとか、遊んでくれとねだっているのかもしれない。
 抱っこかな、と斑猫を抱いた阿須摩はぬくもりを感じる。
 失礼にならないよう前足を触ってみれば、猫はくてりと体を預けてきた。肉球も触らせてくれるかなと話しかけても抵抗はされず、阿須摩はそっと猫の手を握る。
「あぁいいねえこのぷにぷに」
 その間にも他の猫達が構って構ってというように阿須摩にくっついてきた。
 胡座をかいて座り込んだ彼は、今日は猫達を全力で可愛がってやろうと決めた。否、それは最初からもう決まっていたことだ。
 にゃーあ。
 猫達の鳴き声が絶え間なく響く空間は幸せに満ちている。
 そして、阿須摩は猫と過ごす至福の時間を堪能してゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルベル・ノウフィル
SPD

これは愛らしい猫さんたちでございます
この子たちは儚くも逞しく、この世界を生きているのでございますね

真白の子狼姿に獣化したままで、まずは猫さんたちの近くにぽてっと座ります
そして、ぺたりとその場に伏せて怖くないよーとアピールしつつ、
僕が毎日丁寧にお手入れしている自慢のもふもふ尻尾をふぁさっふぁさっと揺らしましょう
猫さんたちがじゃれてきたら柔らかに揺らし続けて楽しませ、
疲れたら尻尾でなでなで、僕の毛皮をおふとん代わりに眠るとよいのでございます

猫さんたちの小さな体温がぬくぬく、心がほくほくあったかいのです
僕もだんだん眠くなり……すやぁ

他の猟兵様ももしよければ、僕を枕にどうぞ
自慢の毛皮でございます


テスアギ・ミナイ
これが平和、ですか。あたたかいのですね。

皆さんが触れたり遊んだりするのは楽しそうです。
けれど、その前に私は、猫らを知りたいと思いました。

日なたの猫を真似て寝ころんでみます。
お邪魔にならないように。そっと。それから、同じように
目を閉じてみます。



●温もりを識る
 ――にゃあ、にゃあ。
 路地の向こうから聞こえてくる声を辿り、出会ったのはルベルとテスアギ。
 お互いに猫を探して此処に来たと理解しあった二人は顔を見合わせ、ちいさく頷きあった。そして、二人はそっと声のする方を覗き込む。
 其処に居たのは三匹の茶虎猫。
 どうやら夏から秋頃に生まれたきょうだい猫達らしく、成猫になる前のほっそりとした体躯とまだ少しふわふわの毛並みがとても可愛い仔達だった。
「これは愛らしい猫さんたちでございます」
 ルベルが軽く猫達に手を振ると、にゃーにゃーにゃー、と三匹分の声が重なる。
 きっと、この子たちは儚くも逞しくこの世界を生きているのだろう。そう思うとルベルの胸にやわらかな気持ちが巡った。
 猫達は人懐っこく、テスアギの足元をくるくると回って頬を擦り付けてくる。
「これが平和、ですか。あたたかいのですね」
 テスアギは此処に来るまでに見て来た光景を思い返した。
 猫と遊び、猫とじゃれあい、触れる人達の姿を言葉で表すとしたら微笑ましいというのが一番しっくり当てはまる。
 テスアギが興味深そうに猫を見つめている中、ルベルは真白の子狼へとその姿を変えた。見ていてください、というようにテスアギを見上げたルベルはそっと猫達の近くに近付き、ぽてっと座り込む。
 そして、ぺたりとその場に伏せて自分が無害だとアピールした。
 猫は少しだけ驚いていたようだが、ルベルから感じる穏やかな雰囲気を感じ取ったようだ。彼が毎日、丁寧にお手入れしている自慢の尻尾がふわふわと揺れる様を暫しじっと見つめていた猫はゆっくりと近付いていく。
 てしてし。揺れるもふもふ尻尾に猫の手が絡まる。
 少しだけ爪が毛並みに触れたが、ルベルはそのまま尾を動かし続けた。
「猫、楽しそうです」
 テスアギはぼんやりと、それでいて興味を持った様子でルベルと猫のじゃれあいを眺めている。そして、テスアギはふと思い立つ。
 丁度、尻尾にじゃれるのに飽きた一匹の猫がルベルに引っ付いて寝転んだ。
 触れてもみたいけれど、猫らを知りたい。そう思ったテスアギは日向で寝ていた猫を真似て、ころんと寝転んでみた。
 すると残るもう一匹の猫もテスアギの方に引っ付いてお昼寝をはじめる。
 ルベルと残る一匹の猫の視線が合い、彼らはテスアギ達の方に近付いた。
 ――僕の毛皮をおふとん代わりに眠るとよいのでございます。
 そんな思いを込め、ルベルはテスアギと虎猫をあたたかな毛並みの尻尾で包み込んだ。猫達の小さな体温が伝わり、心まであたたかくなってくる。
(「僕もだんだん眠くなり……」)
 すやぁ。気付けばルベル自身も心地好い微睡みの中へ。
 テスアギは不思議な感覚をおぼえ、眠る猫と子狼を暫し見つめていた。何かが分かった気がしたけれど、それはまだ言葉にならない。
 眠る皆の邪魔にならないようにテスアギはそっと身体を寄せる。
 それから、彼女は目を閉じた。
 ヒトはみなおなじでなくていい。けれど同じ時間を過ごすということはまた別なのだと知り、少女は穏やかなひとときに身を委ねた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神々廻・夜叉丸
拭えぬ罪と、数多の血に塗れたこの手で猫に触れるのは忍びない
ほら、フユも猫達が気になるのであれば行ってくるといい
おれは皆が楽しく過ごす時間を邪魔せぬよう、少し離れたところからその様子を見守ろう

決して猫が嫌いという訳ではない。むしろ好きだ
だが、今のおれにとってその姿は少しばかり眩しすぎる

もし、そんなおれすらも受け入れてくれる物好きな猫がいるというのであれば――その時だけは、ほんの少し、この凍てついたこの心を溶かすとしよう
何物にも代え難い、おれ達が守ったこの穏やかな時を過ごす為に

頭を撫でてやればいいのだろうか
握り飯などをやれば、喜んでくれるのだろうか
こんな簡単なことすらも忘れていたのだな、おれは……



●思い出したもの
 路地裏の一角、夜叉丸達は一匹の猫と出逢う。
 ねこだ、と嬉しげに駆け出しそうになって、ミカゲは夜叉丸の方に振り返った。
「夜叉丸くんは来ないんですか?」
「いや、おれは……ほら、フユも猫が行ってしまう前に行くと良い」
「……は、はい!」
 頭を振った夜叉丸を気に掛けながらも、ミカゲは灰色の猫の方に向かう。
 その後ろ姿を見送った後、夜叉丸は自分の掌をじっと見下ろした。拭えぬ罪と、数多の血に塗れたこの手で猫に触れるのは忍びない。
 夜叉丸は腕を下ろし、夕陽に照らされた路地を見守る。
(「――おれなどが、皆が楽しく過ごす時間を邪魔してはいけない」)
 決して猫が嫌いという訳ではない。むしろ好きなのだが、今の自分にとってその姿は少しばかり眩しすぎた。
 辺りからは猫と仲間達が戯れる声が聞こえてきている。
 その声を聞くだけで、その光景を眺めるだけで、もう十分だ。そう自分に言い聞かせた夜叉丸の耳にミカゲの慌てた声が届いた。
「わあ、ねこさん待って」
 見えたのはミカゲの腕から灰色の猫がするりと降り、此方に向かってくる姿。ミカゲも一緒になって戻って来た様子に夜叉丸は首を傾げる。
 すると灰猫は足元に擦り寄り、夜叉丸の周りをうろうろしていた。
「ねこさん、夜叉丸くんの傍にいる方がいいみたいです」
「……おれが?」
 懐かれたみたいですね、と笑んだミカゲは撫でてあげて欲しいと灰猫を示した。
 何故にと疑問も浮かんだが、夜叉丸はそっと屈み込む。
 どう撫でればいいものかとやや戸惑っているとミカゲは夜叉丸の掌を取って、こうだよ、と手を重ねて動かしてみせた。
「あたたかいな……」
 触れたぬくもりに、少しだけ凍てついた心が溶かされた気がした。
 これは何物にも代え難い、自分達が守った穏やかな時だ。その為に猟兵としての使命がある。そう感じている夜叉丸の傍ら、ミカゲがはっとした。
「そうだ。この子、お腹がすいてるみたいなんです」
「握り飯などをやれば、喜んでくれるのだろうか」
「はい、それじゃあ少しあげてみましょう!」
 夜叉丸がおにぎりを小さく分けて掌に乗せると、猫は器用にそれを口にした。
 ぺろぺろと舐めて掌の上をさらう猫の舌の感覚はざらざらしていたが、不思議と悪い心地ではない。微笑む少年と見上げる灰猫の視線を受けながら、夜叉丸は浮かんだ思いを言葉に変えた。
「こんな簡単なことすらも忘れていたのだな、おれは……」
 そして――ふたりと一匹で共に見上げた夕陽はほんの少し、美しく思えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

紺谷・喜々丸
【BLC】
戦闘を終えたみんなに合流
あれ、とその場の雰囲気が楽しげなものではないことに気づいて
猫と遊べるて聞いてきてんけど、……なんかあったん?

そうかぁ、そんなことが
ベリンダさんもお疲れ様やな
はは、前向きでええこっちゃ、ボクも見習わんとなぁ

でもボクは、その子は一緒に逝けて幸せやったと思うで
ひとり取り残されるんは、辛いからなぁ……

よっしゃ~ボクも遊ぶで!とひときわ明るく
猫は小さいときに遊んだ覚えはあるけど
大人になってからはめっきり機会なかったんやわ

こうやって見るとやっぱりかわいいなぁ
しゃがみこんで、持ってきた猫じゃらしをゆらゆらさせる
あっ翼はやめてそれは遊ぶもんちゃうから……!


ベリンダ・レッドマン
【BLC】
合流した喜々丸くんに今回の経緯の説明を
色々とあったよ、色々とね

心に刻み付けるべき悲しき出来事ではあったが
私が下を向いていたところで起きた無常が無くなる訳でもない
切り替えて新たな友との触れあいを楽しむことにするさ
“彼”のような素敵な出会いがあるかもしれないしね!

ふふ、そうだねえ
あの子が望んで彼と道を共にできたのなら幸いだよ

さ、彼らに相手してもらうとしよう!
私は猫に…というより、
ヒト以外の生き物にあまり馴染みがないのだけれど
異種生物との友情を育むこともできるのだね
実に興味深い生態じゃあないか

どうだい、きみは私の友人になってくれるかい?
(近くにいた猫に声をかけてみる。結果・反応はお任せ)


四辻路・よつろ
是清/終と共に

見たこと無いモノに興味津々なのか
出しっぱなしだった死霊の猫は人形にじゃれつく

考えは人それぞれだけど、一緒に死ねて良かったんじゃないって思うわ
自分だけ置いていかれるだなんて辛いだけよ
満足した?例え嘘だとしても見れなかった光景がここにあって
差し出された灰皿にありがとう、と灰を落として女は目を伏せた


私、生きてる動物は苦手なのよ
死体を使ってるのに、生きてる方に懐かれても複雑じゃない
ほら、行ってきたら?
眺めるだけで十分、目は楽しいわ

……ちょっと、あなた達
ほんとに嫌なんだってば、動物
早くこれどっかにやってちょうだい
それで、私のいないどっか知らない所で勝手にみんなで幸せになってなさいよ


静海・終
是清/よつろと
なかなか遊ぶ気にはなりませんねえ
…ほんと、なりませんねえ
少し猫達の場所から離れてタバコを吹かし
私マナーある大人ですので携帯灰皿使いますよ
よつろ嬢もいかが?

人形と死霊の劇場を見守りながら
異形と猫の物語は双方が納得する幸せな形だったろうかと目を閉じる

近付いてきた猫を見やりタバコを灰皿に放り込み
しゃがみこんで猫を抱える
おやおや、物好きさんでございますね
遊んでいただけます?

おやあ、よつろ嬢はお嫌いで?お嫌いで?
抱えた猫を目の前に見せつけて笑い
おや…心底いやそうな顔をされる
是清とヒソヒソ話し合い
でも幸せになれというのには優しいなと笑い

今度があるならどうか悲劇など見ないよう祈るよ
君たちに幸を


伍島・是清
四辻路/静海

残滓も残らなかったが故に
中身がないままの鑼犠御・螺愚喇のからくり人形
少しだけ弄って地面に流せば、かたり、かたりと動き出す

──まァ、そうだな、何が幸せかは夫々だよな
じゃれ合う人形と死霊の猫を見つめ
満足かと応える代わりに双眸を緩ませる

同時に、自分に歩み寄ってきた猫を座り込んで抱き抱え
四辻路を仰ぐ
死んでる方が得意とは、聞いたけど
──可愛くない?
ほら、よく視ろって、なァ、なァ
(静海と一緒に猫を近づける)

…えぇ…本当に嫌そう、猫可哀想
ね、と静海に頷いて
ぎゅーと猫を抱き締めて顔を寄せる

鑼犠御・螺愚喇の感触を思い出す
如何か、如何か、君は幸せであれ


クレム・クラウベル
【バッカス】
焼けた掌はまだ痛むがいずれは治るもの
……戻らないものに比べれば安いものだ
覗きこんでくる猫の一匹を手招き撫で
打ち解けてから抱き上げ
早々にくらませた背中を探しに

端で過ごすルト(イェルクロルト)の傍へ行き
抱えてきたキジ猫をぐいっと押し付ける
そのまま隣に腰を下ろして

生き方に正解も間違いもない
お前はお前の後悔のない様に生きれば良い
ヤケみたいな死に方しようなんてしたら、流石に止めるがな

痛い。クロエにつねられた手にむすりと顔を顰め
そっちこそ無茶した癖にと反論は忘れず
……慣れてしまうつもりはないさ
ただ、彼にはそうしたかった
治らぬ程の傷を負う気はない
ましてや死にたがりでもない
だから、そこは心配するな


イェルクロルト・レイン
【バッカス】
呪縛のように響く「生きろ」と言う声が
死を想う傍から心を塗り潰していく
拒絶なのか羨望なのか
理由の分からぬ苛立ちを抱え、独り端に

あいつはあれで満足したんだろ
それならそれでいい
否定はしないが、おれには理解できない

押し付けられたキジ猫は拒まない
触れられるのならばぬくもりを貰う

やめろババァ、何匹持ってくンだ
調子狂うな、クソ……
心塞ぐのもバカらしい
クロエから猫を奪い湯たんぽがわりに
膝に座るし撫でるし勝手な女だな
舌打ちひとつで無視を決め込む

節介をかける様子を横目に見やって独り言
勝手に死ねば良かったんだ
預かり知らぬ所で死ねば、無関係でいられたのに
――おれは、お前みたいにはならない
説法は聞かないフリ


クロエ・アルページュ
【バッカス】
思うことは、たくさんあるでしょう
これもひとつの終り

じぃと目が合う白猫
そろりと撫でればにゃぁと可愛らしい
ねぇお前も元気つけてあげませんこと?
抱いた猫と共にイェルクロルト(以下ルト)とクレムの所へ

にゃーんとルトの後ろから猫を頭にのせて「だーれだ」
まぁ相変わらず口の悪い子
猫を取られ、暖をとってるルト姿に自分もお膝へダイブ
よく頑張りました、とルトを撫で

それからクレムに手みせて御覧なさいと説教モード
全く(自分は棚にあげ)無理ばっかりするんですからと
焼けた掌をひとつねり、癒やしの光を
…ふたりともあまり痛みに強くなりすぎないようにして下さいましね
そう、じゃぁ次心配させたら3倍つねることにしますわ



●Bad Luck Curse
 ――色々あったよ、色々とね。
 そういって締め括られたベリンダの話に紺谷・喜々丸(四片・f03891)は頷いた。
「そうかぁ、そんなことが」
 廃墟の前で語られたのはこれまでのこと。
 少女蟻達の企み。優しき邪神との出会い。夕暮れ色の猫の選択。
 一日にも満たぬ間に起きた出来事を語ったベリンダの笑みには、いつもとは違う色が見て取れた。笑顔であるというのに、少し違う。
 喜々丸はそのことに気が付いていたが敢えて何も言わず、労いの言葉を掛ける。
「ベリンダさんも、皆もお疲れ様やな」
 ちいさく頷いた彼女は首を振り、心配には及ばないと返した。
「心に刻み付けるべき悲しき出来事ではあったが、私が下を向いていたところで起きた無常が無くなる訳でもない。彼のような素敵な出会いがあるかもしれないしね!」
 切り替えて新たな友との触れあいを楽しむことにするさ、と笑ってみせた彼女が纏う雰囲気はいつのまにか普段通りに戻りつつあった。
「はは、前向きでええこっちゃ、ボクも見習わんとなぁ」
 喜々丸は眠たげな紺の瞳をベリンダに向け、緩く笑んだ。
 そして、僅かに瞳を伏せた彼は続けて口をひらく。
「でもボクは、その子は一緒に逝けて幸せやったと思うで。ひとり取り残されるんは、辛いからなぁ……」
 しみじみと語る喜々丸は路地の隙間から見える空を振り仰いだ。
 その仕草の裏には何か他の感情が隠されていたのかもしれない。深く聞くようなことはしなかったベリンダも頭上を見上げ、やさしい怪物と猫を思った。
「ふふ、そうだねえ。あの子が望んで彼と道を共にできたのなら幸いだよ」
 そして、視線を下ろしたベリンダは路地裏に続く道を歩き出した。喜々丸もひときわ明るく答え、彼女の後についていく。
「よっしゃ~ボクも遊ぶで!」
「さ、彼らが出迎えてくれているみたいだよ」
 二人が角を曲がると、数匹の猫が此方に気が付いて視線を向けて来た。
 どの猫も逃げようとはしない。喜々丸は小さい頃に遊んだ記憶を辿り、そっと猫達に片腕を伸ばす。
「大人になってからはめっきり機会なかったんやけど、どうかなぁ」
「私は猫に……というより、ヒト以外の生き物にあまり馴染みがないのだけれど」
 どうすればいいのかな、と喜々丸を見遣ったベリンダ。
 すると猫達は彼の手の匂いをすんすんと嗅ぎ始める。じっと喜々丸を見つめる猫もいたが、彼は幾度かゆっくりと瞬きをした。やがて喜々丸達が害を与える存在ではないと理解した猫は、その手に擦り寄る。
 なるほど、と彼と猫の近付き方に納得したベリンダもゆっくりと手を伸ばした。
「異種生物との友情を育むこともできるのだね」
「こうやって見るとやっぱりかわいいなぁ」
 実に興味深い生態だと感心する彼女の所にも猫達が近付いてくる。その調子や、とベリンダに声を掛けた喜々丸は続けて猫じゃらしを取り出す。
 途端に猫達が目を光らせて彼に元気よくじゃれつき、もとい襲い掛かっていく。待って待って、と思わず身を引いた喜々丸だが猫達は止まらない。
「あっ翼はやめてそれは遊ぶもんちゃうから……!」
 ひら、と数枚の羽が散った。それは猫と遊ぶうえでの尊い犠牲だ。
 助けて、と身を捩る青年自身がもう猫をじゃらす存在と化してしまっている。しかしそれも微笑ましいと感じたベリンダはその光景を見守った。
 そして、ベリンダは遊びには加わっていない大人しそうな猫に問い掛けてみる。
「どうだい、きみは私の友人になってくれるかい?」
 ――にゃあ。
 その返事がどんな意味を持つのかはわからない。それでも、擦り寄って来た猫のぬくもりはあたたかくて、ベリンダは不思議な居心地の良さを感じていた。
 無残に散った喜々丸の羽は後で拾って店の端にでも飾ってやろう。そんなことを考えながら、ベリンダは淡く笑んだ。

 かたり、かたりと人形が動き出す。
 それは是清が作った、『彼』を模したちいさな絡繰り人形だ。見たこと無いモノに興味津々なのか、よつろの傍にいた死霊の猫は人形にじゃれついた。
 残滓も残らなかったが故にそれは中身がないまま、ただ鑼犠御・螺愚喇を模しただけのものになる。
 だが、その光景は――在りし日の『彼ら』のように思えた。
 終は廃墟の壁に背を預け、人形と猫を暫し眺める。
「なかなか遊ぶ気にはなりませんねえ。……ほんと、なりませんねえ」
 煙草を吹かした終は猫達が居る路地裏とは離れた場所に居る。よつろ嬢もいかが、と終が携帯灰皿を差し出せば、彼女も其処に灰を落とした。
 そして、よつろは吐いた煙が空に立ちのぼってゆく様を見上げる。
「考えは人それぞれだけど、一緒に死ねて良かったんじゃないって思うわ」
 自分だけ置いていかれるだなんて辛いだけ。
 よつろがそう零すと、終は人形と死霊の劇場を見守りながら目を閉じた。
 異形と猫の物語は双方が納得する幸せな形だったろうか。その答えは彼らにしか分からないが、あれがふたつの命が選んだ結果だ。
 終が思いを馳せる中、是清も暫し目の前の光景を見つめる。
「――まァ、そうだな、何が幸せかは夫々だよな」
 返答としては間が空いたが、是清の言葉はよつろへ向けられたものだ。
 選択肢は殆ど無かった。
 本当に幸せかと問われればきっと幸せなどではない。それでも、彼らに残された道の中では善い終わりだった、と言えるのかもしれない。
「満足した?」
 例え嘘だとしても見れなかった光景がここにあって――。
 感情が窺えぬ声で問い掛けたよつろ。彼女が手にする煙草の灰が落ちそうになっていることに気付き、終は再び灰皿を寄越す。ありがとう、と彼に告げたよつろは目を伏せ、吸い終わった煙草を灰皿の中でくしゃりと潰した。
 是清は満足かと応える代わりに双眸を緩ませる。
 何も答えられない。また、答える必要のない問いだと終もよつろも知っていたが故に、特に言及することもなかった。
 少しの沈黙。
 弔いの標のように揺らいでいた煙草の煙は、既に風に乗って何処かへ消えていた。
 そのとき、おや、と終が声をあげる。
 路地裏から出て来た数匹の猫が此方に近付いてくる姿を見た彼は、煙草を灰皿に放り込んだ。僅かに眉を顰めたよつろは男達の背に隠れるように身を引く。
「私、生きてる動物は苦手なのよ」
 死体を使っているのに生きてる方に懐かれても複雑だと零した彼女は、行ってきたら、と二人に向けて軽く掌を振る。
 眺めるだけで十分に目が楽しいと話すよつろが気になりつつも、しゃがみこんだ終は特に人懐っこい様子の黒猫を抱きかかえる。
「おやおや、物好きさんでございますね。遊んでいただけます?」
「何だ、寒いのか?」
 是清もその場に座り込み、擦り寄って来た灰色の猫を抱く。よつろは動かず、ただ二人を見つめているだけだったが、不意に是清が腕を伸ばして彼女を仰いだ。
「――可愛くない? ほら、よく視ろって、なァ、なァ」
 灰色の猫は抵抗しない。是清に持ち上げられる形で寄せられた猫の体はよく伸びた。そのまま欠伸をする様もとてもかわいい。
 終も黒猫を抱いたままよつろに近付き、目の前に見せつけながら笑う。
「おやあ、よつろ嬢はお嫌いで? お嫌いで?」
「……ちょっと、あなた達」
 ほんとに嫌なんだってば、と下がった彼女の後ろには壁。逃げられない。
 そんなよつろを見た終と是清はひそひそと何やら言葉を交わす。
「おや……心底いやそうな顔をされる」
「……えぇ……本当に嫌そう、猫可哀想」
 ね、と終に頷いてから、ぎゅー、と猫を抱き締めて顔を寄せる是清はそのぬくもりに似たものを知っていた。
 鑼犠御・螺愚喇。
 彼の躰もまたあたたかかった。最期に触れた感触を思い出し、是清は願う。
 如何か、如何か、君は幸せであれと。
 猫を抱く彼らの様子を呆れた表情で見遣ったよつろは溜息をついた。
「早くこれどっかにやってちょうだい。それで……」
 ――私のいないどっか知らない所で勝手にみんなで幸せになってなさいよ。
 囁くように落とされた言葉は、彼女のやさしさの顕われなのだろう。そう感じた終は笑みを浮かべ、祈る。
 今度があるならどうか悲劇など見ないよう、君たちに幸を。
 其々の願いと祈り、思いが巡る中、絡繰り人形と猫は楽しげに戯れ続けていた。

 思うことは、たくさんある。
 これもひとつの終りであり、過ぎた過去なのだとクロエは思う。
 クロエは人形が猫と遊ぶ様に静かな笑みを向けて路地裏の先へと歩いていく。角を曲がる際、よつろの両脇に二人の男と猫が迫り、肉球をぐいぐいと押し付けられていた光景が見えた気がしたが、些細なことだ。
「ねぇお前も元気つけてあげませんこと?」
 そして、クロエはドラム缶の上に乗っていた白猫に問い掛ける。
 にゃぁ、と快さを孕む鳴き声が辺りに響いた。
 彼女が向かう更に先、薄暗い路地の奥にはイェルクロルトの姿がある。
「……、――」
 何かを紡ごうとしても声は出ず、イェルクロルトは建物の壁に背を預けた。
 理由の分からぬ苛立ちを抱え、独りきりになりたくて身を隠した路地裏に満ちる空気は冷たい。だが、イェルクロルトの傍らにはクレムが居た。
 戦いを終えても、焼けた掌はまだ痛む。しかしそれもいずれは治るもの。
「……戻らないものに比べれば安いものだ」
 クレムが独り言ちれば、イェルクロルトは苛立ちを押し隠さぬまま呟く。
「あいつはあれで満足したんだろ」
 それならそれでいい。否定はしないが、おれには理解できない。
 ただ、言葉通りの思いが其処にあった。
 そして軽く頭を振ったクレムはイェルクロルトにあるものを押し付ける。
 何だよ、と顔をあげた彼の身体の上に乗ったのはクレムが抱えて来たキジ猫。そのまま彼にひっついた猫に倣い、クレムも隣に腰を下ろす。
 彼の横に落ち付いたキジ猫を撫で、クレムはゆっくりと告げる。
「生き方に正解も間違いもない。お前はお前の後悔のない様に生きれば良い。ヤケみたいな死に方しようなんてしたら、流石に止めるがな」
「…………」
 クレムの説法は聞かないフリをしてイェルクロルトはそっぽを向く。すると――。
「だーれだ」
「にゃーん」
 クロエと猫。ふたつの声が重なって聞こえたかと思うと、イェルクロルトの頭の上に白い猫がぽすんと乗せられた。
「やめろババァ、何匹持ってくンだ。調子狂うな、クソ……」
「まぁ相変わらず口の悪い子」
 クレムにとどまらずクロエまで猫を押し付けてくる。悪態を吐いた彼は白猫を頭から退かして奪い取った。
 あら、と声をあげたクロエは猫で暖をとるイェルクロルトの膝に自ら乗っかっていく。よく頑張りました、と撫でる手への返答は舌打ちひとつ。
 そして、クロエは傍らのクレムの手を引き寄せる。みせて御覧なさい、と怪我の具合を見遣る彼女は眉を顰めた。
「全く無理ばっかりするんですから」
 焼けた掌をひとつねりした後、クロエは癒やしの光を施していく。
「そっちこそ無茶した癖に」
 クレムから抗議と反論の声が上がったが、痛みは見る間に和らいでいった。
「ふたりともあまり痛みに強くなりすぎないようにして下さいましね」
「……慣れてしまうつもりはないさ。ただ、彼にはそうしたかった」
 むすりと顔を顰めたクレムは答える。
 治らぬ程の傷を負う気はない。ましてや死にたがりでもない。だからそこは心配するな、と告げる彼に対するクロエは少しだけ不服そうな反応を返した後、完治したクレムの手をぺち、と叩いた。
「そう、じゃぁ次心配させたら三倍つねることにしますわ」
「痛い」
 そんな遣り取りを横目に見遣ったイェルクロルトは胸中で独り言ちる。
 勝手に死ねば良かったんだ。
 預かり知らぬ所で死ねば、無関係でいられたのに。
「――おれは、お前みたいにはならない」
 零れ落ちた言葉の裏にあるのは、拒絶なのか羨望なのか。
 呪縛のように響く、「生きろ」と言う声が死を想う傍から心を塗り潰していく。言葉に出来ぬ感覚に苛まれながらも、イェルクロルトは思う。
 それでも――今此処に在る感覚も、このぬくもりも、決して嘘ではない。
 そして、にゃあ、と路地裏に猫の声が響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

願祈・巡瑠
WIZ

猫が向こうから勝手に懐いてきて、何の苦も無く愛でられる廻璃が羨ましいわ。
……何で私には寄って来ないのかしら?納得がいかないわね。

廻璃の問いには、何となくばつが悪い様子で答えるわ。
「一緒に居たい」ただそれだけ……そうでしょ?

そうね。私達は彼と彼女の願いを少しでも叶えてあげられたのかしら?
……それはそれとして。廻璃ばっかり猫を愛でてるなんてズルいわよ!
私にもちょっとその子を撫でさせなさいよ!

廻璃の膝の上から私の方にそーっと移して……
そう、そのまま膝の上で大人しく……ああっ!?

こ、こうなったら秘密兵器の猫じゃらしとかを使ってでも
猫を懐かせてあげるんだから!

(廻璃と同行、アドリブOK!)


願祈・廻璃
SPD

寄ってきた猫さんを膝の上に乗せて撫でながら、巡瑠に訊いてみましょうか?
彼の真の望みは『一目で良いからまた逢いたい』
って巡瑠は言っていましたが、本当にそうだったのでしょうか?

(巡瑠の答えに対して)…さあ、結局の所どうだったのでしょう?
真の望みは彼と彼女にしか分かりません。
ただ、『一目逢いたい』とか『殺して』というのは極限の状況からくる願いで、
彼と彼女の本当の願いは、誰もが無意識に望む些細な幸せだったのかもしれませんね。

寄ってきた別の猫さんを撫でながら、巡瑠が何とか猫さんを愛でようと
四苦八苦している様子を見て微笑んでいましょう。巡瑠、ファイトです!

(巡瑠と同行します。アレンジも大丈夫です。)



●二人と猫の時間
 猫の鳴き声が響く路地裏にて。
「……何で私には寄って来ないのかしら? 納得がいかないわね」
 巡瑠は少し悔しそうに目の前の光景を眺める。
 其処には猫に囲まれた廻璃の姿がある。まだ何もしていないというのに何故か猫が向こうから勝手に懐き、何の苦も無く愛でられる廻璃が羨ましい。巡瑠がそんな思いを抱く中、廻璃は猫を膝の上に乗せる。
 そして、ふと裡に浮かんだ思いを訊いてみることにした。
 彼の真の望みは『一目で良いからまた逢いたい』ということ。そう巡瑠は言っていたが、それは果たして――。
「本当にそうだったのでしょうか?」
「一緒に居たい、ただそれだけ……そうでしょ?」
 巡瑠はばつが悪そうな様子で俯き、廻璃の問いに答えた。廻璃の声に頷くことはできなかった。何故ならそれは自分達が答えを出すものではないから。
「……さあ、結局の所どうだったのでしょう?」
 真の望みは彼と彼女にしか分からない。
 ただ、『一目逢いたい』、『殺して』という思いは極限の状況からくる願いで、彼と彼女の本当の願いは、誰もが無意識に望む些細な幸せだったのかもしれない。
「そうね。私達は彼と彼女の願いを少しでも叶えてあげられたのかしら」
 巡瑠は疑問としての言葉は落とさなかった。
 想像すればするほどに他の道があったのではないか、というもしもの思いが浮かぶ。しかし、彼らの物語はもう終わっている。
 はあ、と息を吐いた巡瑠は気を取り直し、猫を撫でる廻璃を見遣った。
「……それはそれとして。廻璃ばっかり猫を愛でてるなんてズルいわよ! 私にもちょっとその子を撫でさせなさいよ!」
「はい、どうぞ」
 廻璃は淡く微笑んで手を退け、巡瑠はそーっと猫を持ち上げる。
 そうして、自分の膝の上に猫を置いた。
「そう、そのまま膝の上で大人しく……ああっ!?」
 だが、するりと巡瑠の腕から擦り抜けた猫は巡瑠の膝に戻っていってしまった。
 あらあら、とおかしそうに笑んだ廻璃は猫を迎え入れる。その間にも別の猫が廻璃の傍にくっついてきており、なかなか離れようとしない。
「こ、こうなったら秘密兵器!」
 慌てた巡瑠はさっと猫じゃらしを取り出して猫の気を引く作戦にでた。巡瑠が四苦八苦している様子もまた愛らしいと感じて廻璃は応援の言葉を送る。
「巡瑠、ファイトです!」
「絶対に猫を懐かせてあげるんだから!」
 そして暫し、賑やかで穏やかなひとときが廻り、巡っていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朽守・カスカ
オズ君と

最善の結末だったのか
それを知る術は永遠に失われた
願うしかないさ、あの2人が幸せだったと

今はただ、それでも守れたものを
確かめにいこう

あの時はそれほど余裕が無くて
しっかりと見ていなかったけれど
随分と色々な子がいるんだね

オズ君を倣らうように屈んで招けば
指先に触れるあたたかくて柔らかな感覚

恐る恐る、撫でてみれば
指先にじゃれられて、舐められて
ふふ、指先を舐めても美味しくないだろうに
一頻り、寄る子が満足するまで構おう

……礼を言われるほどのことではないよ
私がすべきと思ったことをしただけだ
でも、それがキミの助けとなったのなら幸いだ
(それに、私だけでは出来ないことばかりで)
此方こそ、ありがとう


オズ・ケストナー
カスカ(f00170)を誘って

(いつもよりちょっと足が重いような気がする
でもね
ラグオ・ラグラはありがとうって言ってくれた
夕陽色のあの子は彼に寄り添った
だから悲しいお別れじゃない
そう思いたくて)

カスカ、最初より猫がたくさんいるよ
しゃがんで
おいでと指で猫を招き
かわいいね
指先で喉を撫でたり抱き上げたり

なんて言ってるのかな
にゃーと猫に応えて顔寄せ
あったかい

ふふ、その子はカスカが好きみたい

あのね、カスカ
ありがとう

(一緒に戦ってくれたこと、慰めてくれたこと
なにより、どうするか話し合ったとき、笑ってくれたこと
誰かが笑ってくれるのはうれしくてほっとする
だからわたしも笑う)

ひとりじゃないって、すごく頼もしかった



●夕暮れ色のきみへ
 導かれた終わりは、最善の結末だったのか。
 それを知る術は永遠に失われた。
 カスカとオズは、ふたりが初めて顔を合わせた路地裏を歩いていた。
 いつもより少し足が重いような気がする。来た時は何でもなかったただの路地裏が、今はとても寂しい場所のように思えた。
 それでも、ラグオ・ラグラは『ありがとう』と最期に告げてくれた。
 夕陽色のあの子は彼に寄り添った。
 だから悲しいお別れじゃない。そう思いたくて、オズはカスカに眼差しを向けた。その視線を感じたカスカは双眸を細め、行こう、と路の先を示す。
「願うしかないさ、あの二人が幸せだったと」
 今はただ、それでも守れたものを確かめにいこう。
 頷きあったふたりはその先の角を曲がった。そっと覗き込めば何匹かの猫と目が合って、オズは口元を綻ばせる。
「カスカ、最初より猫がたくさんいるよ」
 オズは此方に寄って来た猫達の前に屈み、おいでと指で猫を招いた。
 かわいいね、とカスカを見上げたオズは擦り寄って来た白い猫の喉を指先で撫でてから、そっと抱き上げた。
 戦いの前はそれほど余裕が無く、しっかりと見ていなかったがこの路地裏にはこんなにたくさんの命があったのか。そう思うと護れたものの重さが改めてわかる。
「随分と色々な子がいるんだね。……おや、」
 カスカがオズに倣って屈み込むと、視界に不思議な色の猫が入った。
 それは夕陽色の毛並みを持った子猫。
 背恰好からして『あの子』ではないが、その色はとてもよく似ていた。
 おそるおそる、その猫に手を伸ばしてみる。指の先に鼻先を押し付けてきた猫はすんすんとカスカの匂いを確かめていた。
 そして夕陽色の子猫はカスカに擦り寄う。少し驚いたが、オズは不思議な感覚をおぼえながら微笑んだ。
 子猫はあの子の兄弟か、それとも子供なのだろうか。もし関係がないとしてもきっと、この子もまたこの路地裏で過ごす猫の家族のひとりだったはずだ
 触れた柔らかな感覚と、舐められる感触は少しくすぐったい。
「指先を舐めても美味しくないだろうに」
「その子はカスカが好きみたい」
 ふふ、と笑みが重なり、ふたりは其々に抱く猫と暫しじゃれあっていた。
 にゃーあ。にゃーん。
 猫達が鳴く声に首を傾け、なんて言ってるのかな、とオズは双眸を緩める。にゃーと猫に応えて顔を寄せれば、とてもあたたかくて心地好かった。
 不意にカスカと視線が重なり、オズは口をひらく。
「あのね、カスカ」
 改めて思い返すのは一緒に戦ってくれたこと、慰めてくれたこと。
 なにより、どうするか話し合ったとき、笑ってくれたこと。誰かが笑ってくれるのはうれしくてほっとする。だから、とオズは微笑む。
「ありがとう」
「……礼を言われるほどのことではないよ」
 私がすべきと思ったことをしただけだと首を横に振ったカスカだが、すぐに視線を合わせてあのときのように笑む。
「でも、それがキミの助けとなったのなら幸いだ。此方こそ、ありがとう」
 ――それに、私だけでは出来ないことばかりで。
 カスカとオズ。互いに抱く感謝の気持ちは心からのもの。
「ひとりじゃないって、すごく頼もしかった」
 オズは猫を抱き締め、あの二人を思う。
 関係も、状況も、命のかたちも違うけれど、ひとりじゃないということに感じる心強さやぬくもりはきっと似ている。あの子達も最期はこんな風に穏やかな気持ちだったのだろう。
 そう思うとほんの少しだけ救われた気がする。
 路地の隙間から射し込む夕陽は哀しくて、それでも――やさしい彩に見えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ザッフィーロ・アドラツィオーネ
腰を降ろし戯れる猫達を見つめつつ先に共に逝った二人の事に想いを馳せる
命をかけても良い程の友…か
長く在りはするがその様に大事な存在を知らぬ俺にとっては、
互いの事を思いやる気持ちは尊く美しく思え…とても羨ましく思う

「二人とも悔いなく逝けたのだろうな」
猫も残されたならばきっと一生後悔を残しただろう…とは思うが…胸が多少重くなる…な

もしも近づいてきてくれた猫が居れば、喉を撫でようと手を伸ばしてみる
「きっとお前にも大事な友が居るのだろうな。…呼んできて共に食べてはどうだ?」
路地裏に来る前に買ったツナ缶を開けて解し与えつつ声をかけてみよう
小さいながらも友を慈しめる愛おしい命達に祝福があらん事を心から願おう



●祈る想い
 手頃な場所に腰を下ろし、戯れる猫達を見つめる。
 冷たい風が頬を撫でていったが、浮かぶ憂愁の方が寒さよりも強く感じた。
「命をかけても良い程の友……か」
 ザッフィーロが思うのは先に共に逝った二人の事。馳せる想いは自分にはないものを持っていた彼らに向けられている。
 長く在りはするが、ザッフィーロ自身はあのような大事な存在を知らない。
 互いの事を思いやる気持ちは尊く美しく思え、同時にとても羨ましく感じられた。
「二人とも悔いなく逝けたのだろうな」
 そう思いたい。
 もし猫だけが遺されたならばきっと一生の後悔を残しただろう。しかし、命が散ったのも事実。胸が多少重くなる感覚をおぼえ、ザッフィーロは僅かに俯く。
 すると、足元に一匹の猫が近付いてくる姿が見えた。
 ザッフィーロはその三毛猫に手を伸ばし、指先で頬を撫でる。そのまま擦り寄って来た猫の喉を撫でれば、ごろごろと心地良さそうに喉が鳴る音が聞こえた。
「きっとお前にも大事な友が居るのだろうな。……そうだ、友を呼んできて共に食べてはどうだ?」
 問い掛け、差し出したのは猫用のツナ缶。
 ザッフィーロは路地裏に来る前に買ったそれを開け、中身を解して与えた。にゃーあ、という三毛猫の声に加えて、缶から漂う匂いに反応したのか、路地裏にひそんでいた猫達がザッフィーロの傍に集まってきた。
 尻尾をぴんと立て、顔を寄せあって食事をする猫達は愛らしい。
 缶の中身がなくなると、もっとないのかと強請るようにザッフィーロの手や膝の上に頭を擦り付け、乗ろうとしてくる猫達。
 思わずかすかな笑みが零れ、ザッフィーロは三毛猫達の頭を撫でた。
 此処にあるのは在るべき日常そのもの。何処かで悲しみが廻ろうとも、命の営みと日々はこうやって巡っていく。
「愛おしい命達に祝福があらん事を」
 いま、心から願おう。
 小さいながらも友を慈しめる、この子達の為に。
 そして、命を賭して友情を貫き通した命の為にも――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月16日


挿絵イラスト