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風花ユートピア

#UDCアース #南極遺跡

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#南極遺跡


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●南極大陸
 冬の匂いがした。
 冷たく澄んで真っ直ぐな風が、喉と鼻の奥をつんとさせる。
 見渡す限りの真っ白な氷原と氷山は、空と海の青を映して少し青かった。
 きらきらと輝く風花が舞う。その風の真ん中で、彼女はほうと息を吐いた。
「美しいのう」
 吐いた息は白くならない。それが少し残念だった。けれどもこの身体をすっぽり包み込むヒートアーマーがなければ、到底この場所には――今から向かう場所には行けない。
 彼女、フォン・パーヴェルはただの研究者だ。耐冷耐狂装甲服がなければ、邪神の眷属がうろつく遺跡に入ることもできない。そして入ることができたとて、調査の結果を持ち帰れなければ何の意味もないのだ。故にフォユは、同行者を待っている。
「この歳になって一人でおつかいもできぬとは、嘆かわしいことじゃの」
 口調はどこか老爺めく。けれどもフォンはこのあいだ二十歳になったばかりだ。雪のような白銀の髪に青い瞳はほとんどヒートアーマーに隠されているけれども、覗き込めば好奇心と期待で、きらきらとしているのが見えるだろう。
「ところがどっこい、猟兵様に協力を仰いだと言う話じゃし? イケメン、イケジョ揃いと言う話じゃし? 儂のこと守ってくれるって話じゃし?」
 こんなにいい話があるだろうか。危機感より期待ばかりが高まるのは致し方あるまい。ヒートアーマーが重くなければ小躍りしているところだ。
「さあさあいざ行かん、南極大陸古代遺跡、目の保養及び調査紀行!」

●氷華の彩
「南極大陸って言って、想像つくか?」
 こういうのがいるところな、とエスパルダ・メアは小脇に抱えていた小さなペンギンをひょいと顔の前に掲げて、猟兵たちに尋ねた。一応は精霊であるペンギンは、よくわかっていない顔でぽけらっとしている。
「今回行って貰いたいのはそこで見つかった古代遺跡だ。なんでも、UDCの怪物共が築いたようなのが発見されたらしくてな」
 ペンギンをまた抱え直して、エスパルダは興味の眼差しを向けた猟兵たちを見渡した。
「そういう訳で、これはUDC組織からの依頼だ。あっちから専門の研究者が抜擢されて派遣される。その護衛が仕事ってわけだ」
 護衛、と繰り返した猟兵に、青い男は頷く。
「護衛する研究者の名前は『フォン・パーヴェル』。二十歳で、性別は女。度胸は満点、戦闘力はゼロ。耐冷対狂装甲のヒートアーマーは着てるから、多少ひどい目にあっても死にゃしねえ」
 宇宙服みたいなやつ、と付け加えて、エスパルダは続ける。
「ただ、この服ってのが重くて窮屈なシロモノでな。この研究者、逃げ足が速いのが特技になってたけど、危険なときにさっさと一人で逃げろってのは無理だと思う」
 多少逃げて隠れる、くらいはできるだろうが、素早く動くと言うのはなかなか難しいだろう。いざとなれば力自慢の猟兵ならば持ち上げて運ぶこともできるだろうが、それなりに重いのは間違いない。
「こんな任務に抜擢されるくらいだ。当人の度胸はあるし、多少怪我したところで怯む奴じゃあない。ほっといても調査はするし、最悪死んでもデータだけは持ち帰れるようにしてあるらしい。……けど、みすみす死なせるような真似は、お前らならしねえだろ」
 信用を滲ませて、エスパルダは笑う。
「フォンは生粋の面食いってやつらしくてな。男女問わず顔が良いのを見ると、テンションが上がるらしい。ま、過度に期待してるから、だいたい誰見ても大喜びするだろうけど」
 うるさいのが苦手な奴はあんまり構わないようにしろよ、と忠告めいたことを言って肩を竦める動作には、紛れもなく呆れがあった。
「とは言え最初はそいつと一緒に遺跡の入り口を探すとこからだ。……運が良けりゃ、ペンギンとかにも会えるかもな?」
 言うまでもないだろうが、寒いのには気をつけて。そうもう一言付け足して、エスパルダは猟兵たちを蒼白の氷原へ送り出した。


柳コータ
 お目通しありがとうございます。柳コータと申します。
 冬に向かう季節に乗って、南極大陸の古代遺跡へ調査の旅のご案内です。それぞれの章を少しずつ異なったテンションで楽しんで頂けたらと思っております。

●大まかな流れ
 一章:冒険。楽しく行きましょう。研究者と共に、古代遺跡の入り口を探します。南極なので、ペンギンやアザラシ、クジラなどが見られるかもしれません。顔が良ければ研究者がやる気を出してくれるので、遊びと手伝いの度合いは御自由にどうぞ。がっつり手伝うと、お喋りは陽気にしてくれます。
 二章:集団戦。格好良く行きましょう。遺跡に侵入し、現れた邪神の眷属の群れと純戦に近いバトルになります。研究者は調査を始めますので、守ってあげるのも良いでしょう。
 三章:ボス戦。心のままに行きましょう。データの収集が終わります。撤退となりますが、それを阻むボスと戦ってください。『強さ』や『恐怖』を問いかけて来ます。研究者の安否は問わず。倒しきるも、逃げ切るもありです。この章は特に心情に寄ります。

 ※いずれの章も南極ですので、基本的に耐冷対策をされている・寒いのが何らかの理由で平気なものと見なします。服装や装備などに拘りがある方は記載して下さい。

●プレイングについて
 ※研究者は面食いです。ノリが基本的にコミカルです。基本猟兵の皆さん全てがイケメン・イケジョに見えます。なので自分は平凡だ! ガッカリして! と言う方は記載して下さい。ノリノリでガッカリします。

 一章のプレイング受付は【11/24(日)08:31〜】となります。
 それ以前に送られたものは全てお返しします。二章以降はマスターページ等でお知らせ致します。
 また、なるべく多くの方をご案内したく考えていますが、全採用は難しい場合があります。再送の可能性もございます。返って来た場合のご再送はどなた様も歓迎ですが、至らず採用できなかった場合はどうかご了承下さい。

 同行者がおられる場合は【ID】または【合言葉】をお忘れなくお願い致します。研究者がいる都合上、四名様以上の団体様はお返しする可能性が高いです。

 それでは、どうぞ宜しくお願い致します。
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第1章 冒険 『南極遺跡調査』

POW   :    荷運びやUDC職員の護衛を行い、調査の安全を確保する

SPD   :    先行偵察や後方の警戒を行い、危険に備える

WIZ   :    UDC職員と共に遺跡周辺を調査し、入口となる場所を探す

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●古代遺跡
 その遺跡は、氷原と氷山の中にあった。
 ひと目でわかるのはその巨大さだ。ただ立って見るだけでは一望すらできないが、どうやら氷山のその中に遺跡は広がっているらしい。
「これは入口探しも骨が折れそうじゃの」
 フォンはやれやれとばかりに呟いてため息を吐いた。
「よくよく見れば石板やらよくわからん文字やらがあるかもしれんのう。入口でなくとも、手掛かりにはなりそうじゃし、うっかり壊さんようにだけして……いやしかしあれじゃ、イケメンとかイケジョがいれば儂、めちゃくちゃやる気出るんじゃが」
 平凡とか凡庸とか何処にでもいる顔は、フォンは求めていないのである。求むは顔が良い男や女。その定義は割とかなり広い。
「話せずとも良いから眺められたら満足じゃのう。いやはや目の保養が欲しい限りじゃ」
 でなければこんな極寒の地に、危険を承知でわざわざ来た意味がない。
「イケメン、イケジョの猟兵様はまだかのう!」
 研究者、フォン・パーヴェルは期待に胸を膨らませて、猟兵たちを待っている。
キトリ・フローエ
【F】
どこまでも真っ白な大地に、真っ青な空と海!
真冬の国ってこういう感じなのね、すごいわ!

もこもこの防寒具と火の精霊の力で暖を取りつつ
フォンとお喋り…いえ、お手伝いを
あたし、ちいさいけれどイケジョ?に見えるかしら?
どんな怪物が来てもあたし達が守ってあげるから、心配しないで!

フォンの指示を仰ぎつつ、まずは遺跡の入口探しね
第六感で危険な場所を避けつつ怪しい場所や石版なんかを探してみたり
あたしが入れそうな隙間の向こうが怪しいなら偵察も
近くにペンギンやアザラシがいたら声を掛けて(動物と話す)
そういう場所に心当たりがないか聞いてみるわね
もしフォンに意見を求められたらあたしなりに
直感で思ったことを答えるわ



●File:eaedf7
 目の前の世界は、きらめく白と青でいっぱいだった。
 すごいわ。声にせず囁いた息さえ白く凍って、星のような風花がきらきらと青空に舞う。
 これが南極。これが真冬の国。
「すごいわ!」
 キトリ・フローエ(星導・f02354)は白銀の髪を風花に靡かせて、楽しげな声を上げた。
「……んむ?」
 その声にフォンが気づいたのは、少し遅れてだ。鈍重なヒートアーマーをゆっくりと振り向かせて、研究者は首を傾げる。――何せ、振り向いた先には誰もいないように見えた。
「はて、何やら声がしたような、しないような」
「あら、見えていないかしら? フォン、フォン。あたしはここよ」
 キトリは花びらめいた蝶の翅をふわりと羽ばたかせて、フォンの顔の前に飛んだ。その身体は冷たい風にすぐ飛ばされてしまいそうなほど小さい。火の精霊の力を借りたもこもこの防寒具を着込み、アイオライトの瞳を輝かせる少女は、妖精だった。
 やっと目が合うと、フォンの青い瞳が丸くなる。
「あ……」
「あ?」
「愛らしい! 可愛らしい! 素晴らしい!! もしかしなくとも猟兵様! 中でもフェアリーの猟兵様!!」
「あら、ふふ。そうよ、あたしはキトリ。初めまして、フォン。あなたのお手伝いをしに来たの」
 大興奮と言った様子で一息に褒め称え始めたフォンに、キトリはくすくすと笑って、きちんと挨拶をする。
「あたし、ちいさいけれどイケジョ? に見えるかしら?」
「それはもう! 立派なイケジョじゃよ、眼福じゃとも! やる気も漲りまくるというもの!!」
 フォンが見たがっているイケメンやイケジョというものの基準はよくわからないけれど、当人が喜んでいるのは表情を見れば一目瞭然だ。嬉しそうな笑みには、つい釣られて笑ってしまう。
「どんな怪物が来ても、あたしたちが守ってあげるから、心配しないで!」
 そう頼もしく笑って見せて、キトリは氷山に覆われた遺跡を指差した。
「さ、行きましょう! どこから探せばいいかしら?」

 そうして、キトリとフォンの遺跡調査が始まった。入り口を探すところから、だけれども、そもそもどこからどこまでが遺跡か見当もつかない状況だ。一先ずは目星を付けるところから、ということで、あちらこちらを手分けして見て回ることになった。フォンの推測を受けて、キトリは身軽にあちこちを飛び回る。
「……とと。フォン、こっちはだめよ」
「と言うと?」
「危険な感じがするわ」
 早く早く、とフォンを先導して、その場所を離れる。途端にばきんと音がして、その場所の氷が割れたりした。
「……さすが猟兵様! ありがとう、フェアリー・キトリ。飛び回るのもはちゃめちゃに愛らしいのでずっと見ていたい儂がおる。しかし、その勘は凄いのう」
「お手伝い、上手にできていたら嬉しいわ。お喋りも楽しいし」
「儂も調査が捗る捗る! このヒートアーマーじゃ、狭いとこなぞ入れんしの」
「狭い場所ならあたしにお任せよ。……ね、フォン。あの隙間、怪しくないかしら」
 言いながらふわりと飛んで、氷山の影になった狭い隙間をキトリは示す。それに頼むとフォンが頷いて、キトリはそこに入り込んだ。――あったのは、石板。その欠片。それから。
「……あら、アザラシさん。こんにちは」
 抜けた先に、何頭かのアザラシが寝そべっていた。自然に声を掛ければ、アザラシたちからも応えるような仕草が返る。そのアザラシたちに何か入り口の心当たりはないか尋ねてから、キトリはフォンの待つほうへ戻った。
「戻ったわ、フォン。これ、石版の欠片のようなものを見つけたの」
「おお! これはありがたい。手掛かりが見つかったな」
「それと、向こうにアザラシがいたから話を聞いてみたの。そうしたら、入口は知らないけど、この妙な山は海のほうまで続いているんですって」
「……アザラシと話す」
 フォンは何ともぽかんとした顔になった。話せるのか、猟兵様すごい、などと呟きが聞こえた気がするが、すぐ気を取り直したようにフォンは満足げに笑った。
「いやはや、眼福、感嘆! さすがはフェアリー・キトリ。それは大変有意義な話じゃよ。……ちなみに、おぬしの直感では、海辺はどうじゃ?」
「え? そうね……」
 問われて、ほんの一瞬考えてから、キトリは丸い瞳を真っ直ぐ上げた。
「素敵な出会いがありそうよ!」
「ふふ。ならば良し、いざ行かん!」
「ええ、頑張りましょうね、フォン」
 きっとあなたなら見つけられるわ。小さな妖精は、自信に満ちた微笑みで幸運の導を研究者に残した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
リュカ(f02586)と

F
おてつだい
がんばろうね、リュカ
フォンをちゃんとまもるからね

さむい?
もこもこ手袋つけて手をつないで

フォンはなんきょくくわしいの?
リュカとわたしね、クジラに会いたいんだ

あっ、みてみてペンギンっ
つーってすべってるよ
たのしそうっ

ガジェットショータイム
ペンギンを模したソリ
これでまねっこできないかな?
フォンものろうよっ
3人でものれるのれる
後ろから押してみたり
ペンギンについてったら先が海で
わわわーっ
急ブレーキ
ふふ、びっくりしたねっ

え、なに?
指さす方を見て
ざぱーんと宙返りするクジラを見たら口あんぐり
いた、いたねっ
リュカのバイク、そらとべるの?
すごい、と乗る気満々で

最後は鯨に手を振って


リュカ・エンキアンサス
オズお兄さん(f01136)と

F

まずはお手伝い
…寒

…そ、鯨
ただ見たくて。一緒に
見れるところ知ってるなら、連れてって、と、フォンお姉さんに
あとは言葉少なく、でもいっぱいはしゃいで遊ぶ

ほんとだ、ペンギンいた
ペンギンは、空を飛ぶみたいに泳ぐってほんとかな
クジラもいいけどペンギンも気になる。見に行こう
橇、三人乗れる?
ペンギン追いかけて一緒に滑ろう

…本当だ
お兄さん、お姉さん、鯨だよ(テンションが上がっている
乗りたい
乗ろう
大丈夫、俺のバイクは空も飛べるから、橇を引いて追いかけられる
そんな事実は全くないけど、なんだかできそうな気がしてきた

だめか。…ダメか。ダメだった
ちょっとだけしょんぼりしながら鯨を見送った



●File:00a381
「……寒」
 マフラーの下から白い息を吐き出して、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)はぽそりと呟いた。
 猟兵と言えど、南極だ。いくら対策をしても寒いものは寒い。ついいつも以上に口数が少なくなるリュカの藍色の瞳を、キトンブルーの瞳がひょこりと覗き込んだ。
「リュカ、さむい?」
「寒いよ、オズお兄さん」
 そう、とオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は心配そうに首を傾いで、それからもこもこの手袋をつけた手でリュカの手を取った。その仕草は、青年ながらどこか稚い。
「じゃあ、こうしよう」
 これなら二人とも、ふたりぶんあったかい。ね、と子供のように笑って、オズはリュカの手を引いた。
「おてつだい。がんばろうね、リュカ」
「……ん」
 きらきら光る風花と、リュカの黒髪、それと対照的なオズの柔らかな金髪が揺れる。発展途上の少年と青年の実に絵になる光景を、フォン・パーヴェルは満足げに眺めていた。
「眼福なり、美少年……! 紛れもない期待以上のイケメンたちの登場に儂のやる気も漲るあまり目が離せない……」
「……フォン? だいじょうぶ?」
 見つけて以来目の前で微動だにしない研究者を気がかりそうに覗き込んで、オズはふわりと笑った。
「だいじょうぶだよ。フォンをちゃんとまもるからね」
「ま……」
「ま?」
 リュカが覗き込んだその先で、フォンは途端に機敏に動き出す。
「眩しすぎるイケメンの笑顔! 美少年のどアップ! 儂、めちゃくちゃ頑張るぞい!」

 ハイテンションなフォンと共に、南極での調査は始まった。隙あらばオズとリュカを眺めるフォンだが、その割に手際はやたらと良い。遺跡と思しき氷山を測量するところから作業は着々と進んでいる。あそこに行きたいとフォンが言えばオズが先行して安全を確認し、必要な道具をリュカがバイクで手早く運ぶ。そんなことを何度か繰り返しているうちに、やがて調査は海沿いに続く路に至った。
「フォンはなんきょく、くわしいの?」
「んん? そうじゃの、一応来る前に色々調べてはおるかの」
「そうなんだ。あのね、リュカとわたしね、クジラに会いたいんだ」
「クジラ?」
「……そ、鯨」
 ヒートアーマーの中で首を傾げたフォンに、リュカがこくんと頷いた。言葉は静かだけれど、その瞳はきらきらとはしゃいだ色で澄んでいる。
「ただ見たくて。一緒に」
 だから、とリュカは友達が握ってくれている手を握り直す。
「見れるところ知ってるなら、連れてって」
「そういうことなら勿論じゃとも! では鯨も調査するとして……」
「あっ」
 思案を始めたフォンの隣で、オズが楽しげな声をあげたのはそのときだ。
「みてみて、ペンギンっ」
「ほんとだ、ペンギンいた」
 覗いた先にペンギンの群れがいた。どうやら移動の最中らしい。深い色の海に向かうペンギンたちは、腹で器用に氷山を滑り降りてゆく。
「すごいすごい、つーってすべってるよ。たのしそうっ」
「うん、すごい。……ペンギンは空を飛ぶみたいに泳ぐってほんとかな」
「リュカ、気になる?」
「うん。気になる。見に行きたい……て、オズお兄さん?」
 つい瞳をきらめかせてペンギンを見つめていたリュカが視線を戻すと、オズはにこにこと楽しげな笑みを浮かべて、音楽を指揮でもするように、指をくるくる動かした。――そうしてその先に呼ぶのは。
「ペンギンっ。……を、まねっこの、ソリっ」
 目の前に現れたのは、しゅう、と蒸気を上げるガジェットのソリだった。愛らしいペンギンのフォルムを模したそれは、氷原にやたらとよく馴染む。
「ね、これでまねっこできないかな?」
「……これでペンギン、追いかけられる? これ、三人乗れる?」
「へいきっ。フォンものろうよっ」
 ちょっと狭いかもしれないけれど、それはご愛敬だ。どこかぽかんとしているフォンを乗せた三人で、ソリはペンギンと同じように滑り出す。
「……いやはや、猟兵様は常識で捉えてはならぬと思っておったけれども。顔がいいだけでないのう」
 などという感嘆は、ソリが滑る音に掻き消されてしまったけれど。ソリはぐんぐん、ペンギンと一緒にスピードを上げてゆく。
「とかやっておったら、この先見えるぞ、お二方!」
「え?」
 なに、とオズが目を丸くして、フォンが指を指して、リュカがその先を身を乗り出して見る。

 ――その瞬間に、海が見えた。白い巨体が青から覗き、波と共にざぱんと宙返りする。

「……鯨だ」
 ぽそ、とリュカが呟いた。小さな声だ。けれど、煌めいた声だ。
 オズの口もあんぐり、丸くなる。白い息を大きく吐いて、リュカは鯨を指さした。
「お兄さん、お姉さん、鯨だよ」
「うん! いたっ、いたねっ」
「すごい。大きい。乗りたい」
「いたじゃろ……って、え、リュカ少年、いま何と」
「乗ろう」
「いや無理じゃろ!」
「大丈夫、俺のバイクは空も飛べるから、橇を引いて追いかけられる」
「リュカのバイク、そらとべるの?」
「そんな事実は全くないけど、なんだかできそうな気がしてきた」
「そんな事実は全くないんかい!! 言ってるうちに海じゃ海! 助けて猟兵様!!」
「わわわーっ」
 派手な音を立てて、ソリがブレーキに軋む。すっかり追いついていたペンギンたちがなんだなんだという顔をしていた。そうして、海まであと少しのところで、ペンギン型のソリは何とか止まる。
「ふふ、びっくりしたねっ」
 止まってよかった、そうふわふわと笑うオズの後ろで、フォンはいやほんとにの、とどこか疲れたように項垂れていた。けれどもどこか満足げだ。
 リュカの視線は、ゆっくりと泳ぐ鯨から離れない。
「……鯨」
「いっちゃうね。ばいばい、しよう」
 オズがリュカと視線の高さを合わせるように並んで、鯨へ大きく手を振る。
 その隣でリュカも小さく手を振った。少しだけしょんぼりしてしまったけれど、最後に応えるように潮を吹き上げて、鯨は見えなくなった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
トモエさん/f02927

南極。氷河の極寒世界ね
未知なる場所は何時だって心踊る
ふわふわもこもこ、防寒はばっちりよ
トモエさん、たのしそう
ナユも期待に満ち溢れているわ

トモエさんと同年齢
知識と実力を備えているだなんて、ステキね
お手伝いならば任せてちょうだい

お友達のペンギンにはお会いをしたけれど
野生のペンギンと出逢うのははじめて
彼らに夢中なあなたを真似るよう挨拶を
なんて愛らしい子たちなのかしら
トモエさんは動物がとてもお好きなのね

土地勘に優れたもの、物知りなもの
力を貸していただけるのならば、喜ばしいわ
ペンギンたちの行動を見切って
第六感にて群れの中から主を見つけるわ
あの子よ、トモエさん
お話を聞いてみましょう


五条・巴
七結/f00421

南極の古代遺跡にペンギン
浪漫ってやつだね
ワクワクするなあ、早く行こう七結
…ふふ、七結がいつにも増してもこもこ。
寒いよね、暖かくして行こうか。

フォンは同い年なんだね
こんなに寒い場所で研究かあ、凄いね。
手伝えることは精一杯頑張るよ。

ペンギン…野生のペンギン
え、かわ、こんにちは
かわいいね(動物会話で口説く)
七結、この子達は連れて帰っちゃダメなのかな。
うん、すごく好き。見てほら、こんなにも可愛い。

遺跡の入口、どこだろう。
フォンは手掛りを持ってるかな?
手がかりを知らなくても研究について色々聞いてみたいな。
そうだ、ここで会えた生き物に聞いてみよう

ありがとう七結、早速あの子に聞いてみよう。



●File: e6cde3
 甘過ぎぬ涼やかな香りと共に、一輪の牡丹がふわりと咲いた。
 花のない氷河に彩りを添えるように降り立った五条・巴(見果てぬ夜の夢・f02927)と蘭・七結(戀紅・f00421)は一面に広がる真白い極寒の世界に、ほうと白く息を吐く。
「ここが南極……未知なる場所ね」
「古代遺跡にペンギンもいるって話だし、浪漫があるよね」
 ワクワクするなあ、と巴は好奇心と期待に満ちた瞳で初めて立った場所を見渡す。
「早く行こう、七結」
「トモエさん、たのしそう」
「ふふ、七結は? いつにも増してもこもこだ」
 楽しげに笑って問いかける巴は、答えを多分わかっていた。巴も勿論防寒対策はしているけれど、七結も暖かそうなふわふわもこもこが真白くその身体を覆っている。彩りに添えた赤いリボンが、遊ぶように風花に揺れた。
「ナユも期待に満ち溢れているわ」
「それなら良かった。暖かくして行こう。……ところで」
 巴は南極の氷原をゆっくり歩き始めながら、視線の先に見えるそれを見て首を傾げた。
「……あそこに立っているのって、多分フォンだよね。聞いていたヒートアーマー、着ているし」
「ええ、そうだと思うわ。微動だにしていないけれど」
 どうしたのかしら、と七結が呟いたところで、二人はフォンらしき人物の側に歩き着いた。
「フォン? だよね。こんにちは、君の手伝いに来たんだ」
「お手伝いならば、任せてちょうだい」
 巴と七結が声を掛けると、フォンはようやく少し身動ぎをする。
「麗しのイケメン、イケジョ……ここがランウェイ……網膜に焼き付けよ、フォン・パーヴェル……!!」
 呻きのような呟きのあと、途端に機敏さを増した研究者は、意気揚々と動き出した。

「二十歳……それじゃあフォンは同い年なんだね。こんな寒い場所で研究かあ、凄いな」
「いやはや、儂もこーんな寒いとこに行かされるとは思わなんだがのう。しかしこれだけの目の保養、儂、ここまで来て良かった……!!」
「ふふ、喜んで貰えているなら嬉しいけれど。知識と実力を備えているだなんて、ステキね」
 調査を進めるフォンの傍らで警護と手掛かりを探しながら、巴たちは既に見つかっていた石板の欠片があったと思しき氷山の一角にいた。フォンはやる気に満ちた表情で手際良く調査を進めている。
「フォンは遺跡の入り口、目星はついていたりする?」
「んん、そうじゃのー、まだ目星までは行かんかの。……ああ、けれどもこの氷山、向こうを覗くと良いものが見られると思うぞ」
 向こう、と首を傾げて、七結はフォンが示した抜け穴をそっと覗いた。そうして、花のような瞳が緩む。
「……あら。トモエさん、見て」
「どうかしたの? ……って、え、わ」
 七結の声に一緒に覗き込んだ巴は、声を煌めかせてそれを見た。
「ペンギン……野生のペンギン」
「ええ。お友達のペンギンにはお会いをしたけれど、野生のペンギンと出逢うのははじめて」
「行こう、七結っ」
 端正な顔立ちを少年のように無邪気な笑みにして、巴はするりと抜け穴を通り抜ける。その無邪気な様子に小さく笑みながら、七結も巴の後に続いた。
 そこにいたのは、ペンギンの群れだった。
「え、かわ……こんにちは。――かわいいね」
「こんにちは。……なんて愛らしい子たちなのかしら」
 とても嬉しげにペンギンたちに挨拶をした巴を真似るように七結も挨拶をする。巴の声がまるで口説いているように響いたのは気のせいだろうか。ペンギンたちも嬉しそうに寄って来た。
「トモエさんは動物がとてもお好きなのね」
「うん、すごく好き。見て、ほら」
 こんなにも可愛い、と既に懐いた様子に見えるペンギンを撫でて、巴は笑う。同じようにそっと小さな頭を撫でてやりながら、七結も釣られてくすくすと笑った。
「七結、この子たちは連れて帰っちゃダメなのかな」
「どうかしら。けれど、この地に住んでいるのだもの。物知りだったり、するかしら」
「そうだね、この子たちに聞いてみようか」
「……それなら、群れの主をさがしましょう」
 す、と七結は視線を据える。ペンギンたちの群れの中。その一羽一羽の行動を見切る。第六感に、感覚を委ねて。――目に留まったのは、大きな身体の一羽だった。
「あの子よ、トモエさん」
「ありがとう、七結。早速あの子に聞いてみよう」
 その直感を疑いもせず、群れの中をするりと抜けて、巴は群れの主の傍にゆく。そうして遺跡の入り口の手掛かりを尋ねれば、入り口はわからない、とペンギンは首を振ったようだった。
「お話、聞けたかしら」
 戻って来た巴に七結が首を傾げれば、巴は笑って頷いた。
「うん。入口は知らないけれど、フォンが見つけた石板みたいなのは、色んなところにあるみたい」
「そう……きっと、手掛かりになるわ。ところで、トモエさん」
「うん?」
「ナユの上着の裾で、ちいさな親子が眠ってしまったみたいなの。……もう少し、いてもいいかしら」
 唇にしろい指先を当てて七結が静かにしたお願いに、巴は柔らかな笑みで頷いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リチュエル・チュレル

タロ(f04263)と

これは壮観だな
前に入った氷の森も息を飲むような美しさだったが
今回は迫力が違う、圧倒されるな

って、おいこら、タロ!
いきなり服をかぶせるな!巻くな!
また雪だるま扱いか?
いつもより長めで厚手のヴェールを被ってきたんだぜ
別に寒くないってのに…

タロ、お前…気をつけろよ?
その研究者とかいうヤツ、綺麗なモンが好きなんだろうが
ぼんやりしてて攫われたりすんじゃねぇぞ

で、古代遺跡の入り口か
探し物はそれなりだが、ふむ
ポワレ(空飛ぶアロワナ型バディペット)を泳がせて
それをUCで追跡して探す、とか
現地に活発な動物がいるならそれを追ってもいいな

方向は…占ってみるかね
第六感と失せ物探しが役に立つだろ


タロ・トリオンフィ
F
リチュ(f04270)と

凄いね、此処は
真っ白できらきらしていて、空も高くて、ずっと遠くまで見える
そう言う僕は普段通りの格好だけれど、大きめのダウンコートを借りて羽織る
研究者さん、ええと、フォン先生が見てて寒いかと思って
ほらリチュも(着せるというより巻いてる)

調査に興味があるから、出来る限り手伝うつもり
専門知識は無いけど、
僕ら、探し物は得意だから

うん、研究者さんなら先生かなって
ね、ヒートアーマーは重いって聞いたよ
これから遺跡を見つけて調査をするのだし…
はい、と手を差し出せば、其処には『魔術師』のカードの絵柄が浮かび
念動の手を添えるようなイメージで軽くして

…ねえリチュ、なんだか遠足みたいで楽しい



●File:f7f6f5
 眩しいくらい白い景色が、光を放つかのようにそこにあった。
 吸う息は、多分冷たい。――寒いと感じることはないけれど。
「……これは壮観だな」
 白くもならぬ息を吐いて、リチュエル・チュレル(星詠み人形・f04270)はぽつりと溢した。広がる陸と空と同じに白と青に靡く薄手のドレスと、真白いローブが風花に揺れる。
「前に入った氷の森も息を飲むような美しさだったが、今回は迫力が違う。……圧倒されるな」
「そうだね、すごい……」
 呟いた言葉さえ白く凍るようだ。タロ・トリオンフィ(水鏡・f04263)は自分が吐く息が白いのを不思議そうに見てから、改めて辺りを見渡した。
「真っ白できらきらしていて、空も高くて。――ずっと遠くまで見える」
 地面を、空を埋める建物がない。木々すらない。あるのは真白い氷原と、氷山と、青い青い地平線。
「凄いね、此処は。いつか見た生まれたての世界みたいだ」
 きっと『寒い』のだろう。寒さを、ヤドリガミたるこの身体は感じないけれど。それはミレナリィドールである主人も同じだと、タロもよく知っているけれど。
「――って、おいこら、タロ!」
「え?」
「え、じゃねぇ! いきなり服をかぶせるな! 巻くな!」
 リチュエルがつい言ったのは、唐突にタロがリチュエルにダウンコートを着せ掛けたから――否、微妙な不器用が発揮されたおかげで、半分巻きつけるようになってしまっているからだ。
「うん、でも……」
「また雪だるま扱いか?」
 覚えてるぞ、と氷の森で言われた言葉を思い返しつつ、リチュエルはじとりとタロを見る。
「いつもより長めで厚手のヴェールを被って来たんだぜ。そもそも別に寒くないってのに……」
「うん、それは僕もなんだけれど。でもほら、研究者さんが見てて寒いかと思って」
 雪だるまと同じで、というわけでもない。ヒトではないけれど人のカタチを取って、ヒトのように話す自分たちは、彼女たち人間から見たほうが、きっとずっと人間めいて見えるのかもしれない。
「それならお前だって寒そうだろ」
 呆れたように言いながら、リチュエルは仕方ないとばかりに巻き付けられて愉快なことになったダウンコートを自分で羽織り直した。それを見て、タロは嬉しげに相好を崩す。
「僕も同じ上着を借りて来たんだ。あったかそうだよ。寒くはないけれど」
 そう言いながら、タロは自分も大きめのダウンコートを羽織った。柔らかなアイボリーのダウンコートで二人並べば、お揃いだ、と無邪気に笑う。
 ――そのふたりの様子を、目を輝かせて見ている研究者がいた。

「造!! 形!! 美!!」

 それだけを叫んで息も絶え絶えになっているのは、不審者そのものであったけれども。

「ええと、研究者さん……フォン先生? 大丈夫?」
 ひょこりとタロがフォンを覗き込むと、ようやく息を整えかけていたフォンは更に興奮した声を上げた。
「美少年のどアップ再び!! これぞ神に描き出された美しさ……華奢な美少女の端正な顔立ちと並ぶともはやこれは絵画……儂、幸せすぎて今日死ぬかもしれん」
「……大丈夫じゃなさそうだな。タロ、お前気をつけろよ?」
 呆れと若干の警戒が混じった声で、リチュエルはタロの腕を引いた。
「その研究者とか言うヤツ、綺麗なモンが好きなんだろ」
「そうらしいけれど、ええと、リチュ?」
「ぼんやりしてて攫われたりすんじゃねぇぞってことだ」
 よくわかっていない様子のタロにリチュエルははっきりと言った。本人がそこにいるが、どうやら何も気にしない性質のお陰で問題はなさそうだ。
「むむ! 心配ご無用、儂、イケメンイケジョ鑑賞には余念がないが、収集癖とかはないのでのー。今この時、この瞬間! 目に映るものを感動のままに記憶し、後で思い返すのが楽しみなのじゃ」
「イケ……うん、わからないけど、大丈夫なのはわかった、かな」
 ね、とタロがリチュエルに首をこてりと傾げれば、リチュエルは褒めちぎられた端正な顔を顰めて、やがて深々とため息を吐いた。
「……また妙な変人に出会っちまったのは、わかった」
「うむうむ、変人奇人、大いに結構! さあさ麗しきイケメンイケジョのお二方、儂の調査を手伝っておくれ。先に見つけたこの石板、このだだっ広い遺跡と思しき氷山に果たしていくつ眠っているか。儂もさーっぱり見当が付かぬからの!」
 まあ手伝いがなくとも今の儂なら何でも探せる気がするがの、とやる気を漲らせているフォンの要請を受けて、リチュエルとタロの古代遺跡調査は始まった。

「古代遺跡の入り口か……どうしたもんかな」
 フォンがくれた大まかな位置のアタリはある。けれどもその範囲もそれなりに広い。
 リチュエルは氷山が覆う遺跡と思しきそれらを見渡して、ふと波音を耳に留めた。
「……ポワレ」
 思い立って呼び出したのは、空に浮かぶ熱帯魚を模した魔導人形だった。ゆらりと長い身体を揺らして、ポワレはどこか不思議そうな顔で、リチュエルの周りを泳ぐ。
「おお、それは?」
「オレのバディペットだよ。どこぞの魔導具師が気まぐれで作った。……ポワレ、泳げ。行けるとこまで」
 フォンの問いに答えると共にリチュエルがそう告げてやれば、ポワレは心得たように遺跡の上を泳ぎ出した。
「しかし、儂らがあれを地上から追うのは無理がないかの?」
「大丈夫だよ」
 楽しげに笑って答えたのはタロだ。その隣で、リチュエルが藍色の影をふわりと伸ばす。――零れておいで。謳うように呼びかけた声に応えて、リチュエルの影から影の魚たちが泳ぎ出でた。そうして大小様々な魚たちは、さあっと真白い氷山の表面を泳いで、ポワレを追ってゆく。
「……ほら。あの子たちは、リチュと五感を共有しているんだ。僕らが入り込めないところまで、きっと探してくれるよ」
「これは……天晴れじゃのう」
 ぽかんとして口を丸く開けたフォンに、タロは少しだけ得意げに笑みを浮かべた。
「僕ら、探し物は得意だから」
「ならタロ、お前も手伝え」
「ふふ、勿論、そのつもりで来たんだから。……ね、フォン先生。ヒートアーマーは重いって聞いたよ」
 これから遺跡の中まで調査をするのだし、とタロはフォンに手を差し伸べた。手を引こうと言うのではない。ふわりとそこに浮かんだのは『魔術師』のタロットカード――その絵柄。
 ひかり、ささえ、みちびくように。
 強く光った一瞬、それを貸し与えるようにタロがフォンの腕に触れれば『魔術師』の絵柄が、フォンのヒートアーマーに紋章のように浮かび上がった。
「おお、おお! ビックリドッキリなんじゃなんじゃ……って、お? おお?」
 驚いたように大袈裟にフォンは跳ねる。そして跳ねられたことにも驚いた。
「体が……ヒートアーマーが軽いぞい!」
「よかった、上手くいった。少しのあいだにはなるけれど、動きやすいほうが調査も捗るかなって」
「勿論じゃとも、有り難いとも! 儂いま、眼福に重ねて翼が生えた気分じゃし!」
「おいタロ、それに研究者……フォン! あっちに何か見つけたぞ」
 うきうきと嬉しげにスキップでもし出しそうなフォンの向こうで、少し先行していたリチュエルが良く通る声を響かす。
「何かって?」
「石板みたいな……それと、ペンギン」
「えっ。会って行こうよ、ペンギン」
 軽い足音でリチュエルに追いついて、タロは笑う。――氷の森より、不思議の国の真白の世界より、柔らかくなった笑みは、何処か稚い。やっと楽しみを覚えた、子供のように。
 楽しげな声と足音で、調査は続く。
「ねえリチュ、なんだか遠足みたいで楽しい」
「……オレと帰るまでが遠足だぞ」
 ふわふわと微笑むタロに、リチュエルも呆れたように、けれどもゆっくり微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シノア・プサルトゥイーリ
宵蔭(f02394)と

あら、宵蔭のことはきっと気に入られると思うわ。
綺麗だし、美しいもの。
ーー可愛い、かしら?
故郷では言われたことなど無かったものだから、そんなことを言うのは宵蔭くらいよ
ペンギン……倒さなくて、良い……(はわ

フォンにはご挨拶を。有事の際には呼んでくださいな
力仕事ならどうぞ任せて

えぇ、見事な氷山。やはり地形から辿るべきかしら、密度もみて
探索はあまり得意では無いけれど…
何かが在るとすれば、死霊たちであれば感じ取れるかしら
あら、斬るなら……、っ意地の悪い方
氷山とて綺麗に斬れるわ

ペンギン達に出会えたら…あれが、ペンギン……。ペタペタ歩いて…
触れるかしら。ぺんぺん鳴くのかしら……?


黒蛇・宵蔭
シノア(f10214)さんと

イケてるかどうかは解りませんが、力添えに。
いえいえ、シノアさんだって美しく。それでいて可愛らしいですよ。
倒さなくても良いペンギンさんも楽しみですね。

フォンさんにも挨拶しましょう。
お互い顔を覚えておいたほうが良いでしょうし。
お役に立てるとしたら、力仕事か封印を破るくらいですけどね。

色や不自然な箇所はないか。周辺の力場や、地形の違和を触れつつ探します。
氷に閉ざされた世界に圧倒されつつ、見事な氷山です。
それをシノアさんが壊す……と。冗談です。

おや、あんな所にペンギンが。愛らしいですね。
触れ合うのはどうでしょう?
野生ですから。
(ぺんぺん)シノアさんは可愛いですね(笑いつつ)



●File:b7282e
 真白い地面に黒点が立つ。それは、黒尽くめの男だった。やたらと目立つ白い肌に映える、赤い瞳が僅かに丸くなって、黒蛇・宵蔭(聖釘・f02394)は圧倒されたように氷に閉ざされた地を見渡す。
「これは……見事な氷山です」
 それに並んだ桜色――シノア・プサルトゥイーリ(ミルワの詩篇・f10214)は、赤い片目を瞬かせ、彼と同じように地平の限りに続く氷山を見渡した。
「えぇ、見事な氷山。……あら、研究者のお嬢さんは調査に没頭しているようね」
 見渡した先で見つけたヒートアーマー姿の研究者たるフォンは、どうやら氷山の一角で、石板のようなものをじっと見つめていた。少し距離があるのと集中のおかげで、まだシノアたちには気がついていないらしい。
 集中を乱すような邪魔はすまいと軽く視線を交わして、宵蔭とシノアは周囲を確かめながら、遺跡と思しき氷山へ近づいた。
「随分な集中力ですね。余程これまでにイケメンやイケジョが訪れたのか。……私はイケてるかどうかは解りませんから、安心すべきでしょうか」
「あら、宵蔭はきっと気に入られると思うわ。綺麗だし、美しいもの」
 世辞でもなくシノアがそう口にすると、宵蔭は小さく笑う。
「いえいえ、シノアさんだって美しく。それでいて可愛らしいですよ」
 淀まず、何気なく。友人から向けられた褒め言葉に、シノアはぱちぱちと瞬いた。
「――可愛い、かしら?」
「ええ」
 宵蔭は殊更あっさりと頷く。
「故郷では言われたことなど無かったものだから。そんなことを言うのは、宵蔭くらいよ」
 戦場に立つことを厭わず、渡り鳥の紋章を掲げて。ひとたび太刀を抜けば、シノアの凛とした見目は、尚迫力を増す。自覚しているからこそ、誰かに、何かに可愛いとつい微笑み掛けることはあれど、それが自らに向けられるのは、どこか不思議な心地があった。

 シノアが僅かに首を傾げて白い息を吐いた、ちょうどそのときだった。
「――儂としたことが、美男美女の訪れに気づかぬとは、何たる失態! 口惜しい! 貴重なる目の保養の時間が減ってしまった……!」
 ヒートアーマーで少しくぐもった声が心底悔しそうに響く。
「おや、初めまして。フォンさんですね。遺跡調査、お疲れ様です」
 お気づきになられましたか、と柔らかな物腰で宵蔭が向けた挨拶に、シノアも続く。
「初めまして、フォン。有事の際には呼んでくださいな」
「くう、目を惹きつける大人の魅力! これが儂が持てぬ落ち着き、大人の余裕……。ミステリアスな漆黒に、凛々しくも愛らしい桜色……何より儂、お二方の赤い瞳に釘付けじゃ。小一時間は見ていられるし調査も捗りすぎると言うもの!!」
 やる気に満ち溢れた様子で、フォンは目を輝かせた。対してきらきらと舞う風花に立つ二人は、落ち着きを持って口元に笑みを浮かべる。
「それは良かった。お役に立てるとしたら、力仕事か、封印を破るくらいですけどね」
「ええ、力仕事ならどうぞ任せて」
「頼もしくも有難い! ではこの集めた石板をあの目印の旗のところまで運んで貰えるかの?」
 示されたのは、フォンの傍らにいくつか積まれた古めかしい石板だった。これまでの調査で見つかったのだろう。いずれも厚みがあり、重そうな色をしている。
 宵蔭とシノアは頷いて、それらをひょいと持ち上げた。
「では行きましょう。遺跡を見て回る機会にもなりそうです」
「やはり地形から辿るべきかしら。探索は、あまり得意ではないけれど……」
 背後に熱い視線を感じながら、二人は遺跡の氷山に沿って歩き出す。
「何かが在るとすれば、死霊たちであれば感じ取れるかしら」
「氷山として成ったのは遺跡ができた後でしょうが、入り口を隠そうと思えば、どこかしら不自然な箇所はあるかもしれません」
 宵蔭は言いながら、片手で氷山に触れて、その違和を探る。限りのない大自然の中に作られた、不自然。それは今手に持つ石板にも通じるものだ。
「しかし、改めて見ても圧倒されるような氷山ですね。さすがは南極です。……ペンギンもいるでしょうか」
 会えるかもしれないと言われていたその名を口にすれば、シノアがぴくんと反応した。
「ペンギン……倒さなくて、良い……」
 ――本音を言えば、愛らしいその姿が見たかった。シノアは可愛いものが好きだ。そして猟兵をしていれば、愛らしい見た目の敵にも遭遇することもある。いくらもちもちふわふわしていても、倒さなければならないペンギンも。
「ふふ、倒さなくて良いペンギンさんも楽しみですね。……おや。この氷山の向こう、生き物の気配がしますね」
 宵蔭はくすくすと笑いながら、冷たすぎるほど冷たい氷の山肌に触れる。
「シノアさん、壊して見ますか?」
「あら、斬るなら……。っ、意地の悪い方」
 つい太刀に手が伸びそうになったところで我に返って、シノアは宵蔭を拗ねたように見た。
「氷山とて綺麗に斬れるわ」
「そこですか。冗談ですよ。……斬らずとも、行けそうですし」
 いつの間にか辿り着いていた目印の旗の傍に石板を置く。軽く手を払ってから、宵蔭は長い指を氷山へ向けた。――そこにあるのは、抜け穴だ。
 シノアも石板を置いて、穴を覗き込む。見えたのは、白と黒の鳥。
「ペンギン……」
 つい呟いて、しゃがみ込む。軽く背を押されて、息をひそめて抜け穴を抜けた。すると目の前に、ぺたぺたと歩く姿が、ある。
 はわ、と声にならならい息が、白く煙った。
「これが、ペンギン……ペタペタ歩いて……」
 かわいい。言葉にするまでもなかった。つい頬が緩む。シノアに気づいた好奇心旺盛なペンギンが、ぺたぺたと近づいて来た。
「……触っても、いいかしら?」
 そっと手を伸ばす。ペンギンは逃げなかった。むしろ頭に触れられると、心地よさそうにつぶらな瞳を細くする。
「愛らしいですね」
 シノアとペンギンのふれあいを、宵蔭もその後ろから眺めていた。ええ、と頷いて、シノアは少女のようにやわく微笑む。
「いい子ね、お嬢さんかしら。……ぺんぺん鳴くのかしら……?」
「……ふ、シノアさんは可愛いですね」
 ぺんぺん。宵蔭は肩を震わせて笑った。どうして笑われているのかわからずに、シノアはきょとんとしてしまうけれど。
 一羽のペンギンが鳴いて、ぺんぺん鳴いてはいないのね、と驚いたように呟いたシノアに更に宵蔭が楽しげに笑うことになるのは、そのあとすぐのことだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴原・季四乃
F
俺も面食いだが、どうやらお前さんも大概だなァ。
分かりやすい奴は嫌いじゃないが、どうにもお守りは面倒臭い。

何、利害が一致するうちは根気良く付き合うさ。
俺は古代遺跡の綺麗なものを探す。
お前さんは面の良い猟兵が見たい、じゃなかったな。
古代遺跡の調査が目的。そういうわけだ。

……しかし、水族館に来たつもりは無いんだがなァ。
これじゃ綺麗よりはカワイイ、俺の守備範囲外だ。

ペンギンやらアザラシやらのお守りは他に任せたいが
俺がやれることは何かあるのか。
出来ることといったら細かい作業と力仕事はそこそこだなァ。
無きゃ無いで楽で良い。
てきぱきと調査を終わらせて次だ次。



●File:f8f4e6
「褐色! 長身! 無造作に見えて造形美の整った白き髪のバランス!! 覗く歯並びと刺青らしきものが儂を抉り込む……!! ありがとうイケメン……ありがとう猟兵様……」
 研究者は冴原・季四乃(テンポラリ・f24040)に気づくや否や、研究を放り出すようにして彼の傍に駆けつけた。鈍重なヒートアーマーでなければ秒速であったろう。きらきらとした瞳が、遠慮無く焼き付けるように彼を見る。
 褐色の肌に似合う、すらりと伸びた手足。肌と相反する白い髪は無造作に伸びているが、青い瞳は綺麗な景色を歪まず映す。夜色の爪先で髪を掻き上げて、呆れた声と溜息で、季四乃はフォンを見下ろした。
「……俺も面食いだが、どうやらお前さんも大概だなァ」
 彫刻家であり、クリエイターでもある季四乃は、綺麗なものを好む。イケメンイケジョの観賞を趣味とするフォンの思考はわからないでもなかった。
(分かりやすい奴は嫌いじゃないが)
 ――どうにもお守りは面倒臭い。
「おやおや? どうも面倒を見るのはお嫌いなようじゃの?」
 わかりやすく表情に出ていたらしい。むしろ嬉しげにフォンは笑った。
「結構結構! 儂、イケメンの嫌そうな顔も好きじゃし」
「それじゃ、比率が歪まないか?」
「うむ、悩ましいところじゃのー。けれども人間の持つ多彩な感情は美しい! ああ、それじゃ! 猟兵様が呆れ果てて傾げる首の角度までイケメン!!」
「賑やかな奴だなァ」
 季四乃は軽く肩を竦める。
「何、利害が一致するうちは根気良く付き合うさ」
「利害の一致?」
 そう、と季四乃は頷いた。
「俺は古代遺跡の綺麗なものを探す。お前さんは、面の良い猟兵が見たい……」
 じゃ、なかったな。くつりと笑って、男は長い指を氷り眠る遺跡に向けた。
「――古代遺跡の調査が目的」
「ほほう、猟兵様も綺麗なものがお好きと見える」
「ま、そういうわけだ。……それで? 調査はどこから手伝えば良い?」
 綺麗なものは何処にあるか。その心当たりを問うた声に、一方的な親近感を覚えた楽しげな研究者の笑みが返った。

「……水族館に来たつもりは無いんだがなァ」
 フォンの指示の元、季四乃は主に力仕事を担っていた。集めた石板を運び、並び替える――腕力はいるが、古いそれを壊さぬようにする細やかさも必要だ。
 彫刻家として、手先の器用さはそこそこにある。妙に慣れた様子で、季四乃は石板をいじっていた。その足元に、興味津々の様子のペンギンが時折近づいて来る。
「お前さんらは綺麗よりはカワイイ。……俺の守備範囲外だ」
 あっちで遊んでな、と言葉だけやって、手を動かす。
 氷山は白く、青く美しい。けれどもそこにアザラシやらペンギンがいるのは、可愛らしい景色だった。
「ミスター季四乃、具合はどうかの?」
「ああ、石板がまだ足りないな。この先か?」
「うむ、あるとすればの。しかし休憩もなしに、平気かの?」
「柔じゃ無いんでな。――ほら、次だ次」
 ひとつ、小さな石板の欠片を組み合わせて、季四乃はフォンと共に歩き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雨糸・咲
綾さん/f01786

薄青滲む白い世界に上げた感嘆の声は
口元まで覆った防寒具でくぐもってはいても
輝く瞳は嬉しげに足元を駆け回る白狐と同じく

あ、あそこ!

声を潜め指差す先に氷上で日向ぼっこする海豹

可愛いですねぇ
気持ち良さそう…

やる気満々のフォンさんの様子に少々驚き
思いがけない称賛に慌てて首を振って

えぇと、
綾さんは綺麗だと私も思います

整った顔立ちよりもむしろ
好奇心旺盛なところが可愛らしくて好ましいのだけれど
…というのは胸に仕舞っておいて

ついつい和みながら
でも仕事は勿論真剣に

古い文明を垣間見る浪漫に胸を躍らせつつ
人の手が入った痕跡など丁寧に探し
手掛かりになりそうな文字や記号があれば
世界知識で解読を試みる


都槻・綾
f01982/咲さん

身を切られるかの極寒でありながら
すっきりと心身が洗われていく心地

のんびり寛ぐ動物達も愛らしく
雪霞さんが跳ねる小さな足跡もまた楽しくて

えぇ
可愛らしいですねぇ

双眸を柔らに細めたのは
灯に煌く風花が眩かったことだけではなく
歓声をあげた咲さんの
仄かに染まった頬や輝く瞳が
たいそう美しいと感じたから

フォンさんもそう思いません?

雪の如く儚く清楚で
時に根雪みたいに意志の強い一面もある咲さんの魅力は
其の愛らしいかんばせにも表れているが故に
同意を求めて微笑

己へ賜った賛辞へは
からりと笑って礼

共に世界知識を紐解き乍ら
第六感を働かせつつ雪質や積雪等の違和を見つけたり
動物とお話ししたりで探索のお手伝いも



●File:274a78
「すごい……」
 我知らず漏れた感嘆の声は、口元まで覆った飴色のマフラーに吸い込まれて、白く凍る。
 白く、青く広がる世界を前に、つい立ち止まってしまった雨糸・咲(希旻・f01982)の足元から、ぴょんと飛び出した小さな姿があった。飛び跳ねるように駆け回るのは、白狐だ。露草の花冠を戴いた氷の精霊は、広がる氷の世界に、嬉しそうに瞳を輝かせている。――同じほど、咲も。
「……ふふ」
 ひとりと一匹のきらめいた瞳に笑み溢して、都槻・綾(夜宵の森・f01786)は咲の隣に並んだ。
 極寒の地特有の、身を切られるような寒さは、防寒具を身につけていてもなお容赦はない。けれども冷たすぎるほど冷たい空気を胸に吸い、白い息を吐くのは、どこか心地良くもあった。
「心身が洗われてゆくような。――そんな気がしますね」
 美しく冷酷で、無垢で過酷な氷の世界。そこに歩を進めるほど、白く染められてゆくようだ。藍色の襟巻を風花に靡かせて、綾は同じく瞳を輝かせたもう一人に視線を向けた。
「フォンさんはヒートアーマー越しになりますけれど、南極の地はいかがですか?」
「イケメンが儂に話しかけとる夢かもしれぬ。美少女の煌めく表情のなんと尊いことか……儂、眼福の極みでずっと心洗われておる……」
 これぞ至福、と言わんばかりの様子で、フォンは咲と綾を遠慮なく眺めていた。もう儂とかお構いなく、と言うフォンはそれでも手元でしている作業を止めていない。むしろ効率化が進んだようだ。
「やる気が漲る、漲るぞい!! お二方が並べば空と海を合わせたかのよう……猟兵様はイケメンイケジョ揃いじゃと聞いてはおったがもう儂ここで氷像になっても本望じゃし!」
「ひょ、氷像はだめですよ? それに私、そんな褒められるほどじゃ」
 興奮したフォンの様子に少しばかり驚いた咲が、慌てたように首を横に振る。咲は目立ったり正面から褒められるのには、あまり慣れてはいなかった。はしゃいでいた雪霞も、ちょこんとその足元に座って首を傾げる。――けれどもすぐ、その尻尾がぴんっと立った。
「雪霞さん?」
 小さな足跡を残して、白狐が駆ける。その先に。
「――あっ、あそこ!」
 ぱあっと瞳を輝かせて、けれど声を潜めて咲が指差したのは、見えていた海辺だった。そこにのんびりと転がっているのは、大きな体のアザラシだ。それを教えるように、ぴょんぴょんと雪霞が飛び跳ねる。少し離れたところにいるのは、アザラシを驚かせないようにだろう。
「ふふ、教えに行ってくれたんでしょうか。可愛いですねぇ、気持ち良さそう……」
「……えぇ。可愛らしいですねぇ」
 ほうと嬉しそうに頬を緩めて微笑んだ咲に、綾もふわりと双眸を細めた。
 光に煌めく風花が眩しい。――そして、隣の少女の輝く瞳が、淡く染まった頬が。
「美しいですね」
「え?」
 きょとんとした様子で見上げた咲に綾はくすりと笑って、フォンに、そう思いませんか、と声を向けた。
「雪の如く儚く清楚で、時に根雪みたいに意志の強い一面もある。咲さんの魅力は、其の愛らしいかんばせにも表れていると思います」
 惜しみのない賛辞を、咲へ贈る。世辞は言う必要がないから、心からの本音だった。
 けれども咲はなお慌てた様子で言葉を探す。
「で、ですから、えぇと。……綾さんは綺麗だと私も思います」
 だって、と顔を上げて、咲は一息置くと口をつぐんだ。その代わり、柔く笑んで綾を見る。
(整った顔立ちよりもむしろ、好奇心旺盛なところが可愛らしくて、好ましいのだけれど)
 ――などというのは口にはせずに、胸に仕舞っておくことにして。
「おや、ありがとうございます」
 その内心を知ってか知らずか、からりと笑って綾は礼を口にした。
 それから改めて辺りを見渡すと、すぐそこにあった遺跡を成す氷山、そこに積もった雪を指先で払う。
「……遺跡の入り口、でしたね。人が作ったものならば、それなりの形跡はあるでしょうか」
「ええ、きっと。あそこにアザラシさんたちがいるのを見ると、この辺りはさほど入り口に近くはないのでしょうか」
 ついつい心和んでしまうけれど、今も仕事の最中ではある。咲も古代から眠る遺跡への浪漫を感じながら、手掛かりになりそうなものを探す。フォンが今睨みつけているのは、どうやら石版の記号のような文字列だ。
「フォンさん、私たちにできるお手伝いは」
「ふむ。儂としてははちゃめちゃにやる気出ておるし、そこで麗しきご尊顔を輝かせていておくれ、と言いたいのが正直なところじゃが、そうじゃのー。……では、直感で答えておくれ、お二方。この先調べ進むなら、ヒョウか、トリか」
 猟兵様たちは随分と勘が良いようだし、とフォンが問いかけたのに、綾と咲は顔を見合わせて、少し考えた。――そうして、目を伏せる。自らの第六感に問いかける。答えは。

「――鳥」

 ふたりの声は、綺麗に重なる。それにまた顔を見合わせて、つい笑ってしまったけれど。満足げにフォンが頷いて、その先の道行きが定まった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鶴澤・白雪
ライオット(f16281)と

南極って本当に氷と雪ばっかりなのね
あのヤンキー、南極の氷と雪と一緒に外側から凍りそうなんだけど

夢中になって逸れないよう注意するわ
転んだり足踏み外さないようにも気をつけないとね

遺跡の入り口を探すついでに動物たちも探してみたいわ
ペンギンとかアシカとかクジラもいるのかしら?

あたしペンギンが群れでいっぱいいるの見てみたいの
絶対無理だと思うけど一生に一度くらいあのモフモフに囲まれて埋もれてみた……いえ、何でもないわ

研究員のお姉さんにコツを聞きつつ入り口を探しを始めましょ
……ペンギン、会えたらいいな

ペンギンいた?
ライオット…!折角だし一緒に行きましょっ
はしゃいで手を引いていくわ


ライオット・シヴァルレガリア
白雪さん(f09233)と

ここはとても寒いね
エスパルダを連れて来たら生き生きとするんじゃないかな
それに雪で方向感覚を狂わされてもおかしくない
逸れないように気を付けて

白雪さんは生き物が好きなのかい?
分かった、いいよ
僕も南極にどんな生き物が生息しているのか興味があるんだ

フォン女史にも挨拶と自己紹介を
それじゃあお供しましょうか、お嬢さんがた

遺跡の入口を探す道すがら、フォンさんに目的の遺跡について話を聞こうかな
アイスブレイクとして彼女自身のことも

もしも途中でペンギンの群れを見つけたなら、白雪さんに教えてあげよう
嬉しそうな彼女を見守るつもりだったけれど
手を引かれれば一緒になって楽しむよ



●File:fff462
「ここはとても寒いね」
 真白くも青い未知の場所を見渡して、ライオット・シヴァルレガリア(ファランクス・f16281)は驚いたように呟いた。
「ええ、南極って本当に氷と雪ばっかりなのね」
 ライオットの隣で鶴澤・白雪(棘晶インフェルノ・f09233)も頷いて、きらきらと舞う風花に長い黒髪を遊ばせる。
 溶ける素振りもなく氷山を成す南極の陸地は、けれどそれしかないと言っても良かった。あるのは降り積もった雪と、海の青。それらが世界の全てだとでも言うように、ずっと遠くまで続いている。
 けれど、一面に広がる氷原は、二人にとってはどこか既視感を覚える景色のような気もした。
「エスパルダを連れて来たら、生き生きとするんじゃないかな」
「そう? あのヤンキー、南極の氷と雪と一緒に外側から凍りそうなんだけど」
 どうやら思い浮かべたものは同じだったらしい。ライオットが口にした相棒の名に、白雪もくすくすと笑った。――けれども、ここは極寒の地。今は笑っていられても、ひとたび吹雪けば前後不覚になるのは間違いがない。それでなくとも似たような氷山が続いている。
「手掛かりを調べよう、白雪さん。氷雪で方向を見失わないよう、気をつけて」
「ええ、夢中になってはぐれないよう、注意するわ」
「それと――」
「転んだり足踏み外さないようにも、気をつけないとね」
 ライオットが言いかけた言葉を引き取るように白雪が言えば、信頼を滲ませた微笑みが返る。
「転んで、また身体にひびが行ったりしたら、大変だからね」
 いつか、不思議の城を探索したときのように。少しからかうような声で言われたそれも、ライオットの柔い笑みが伴えば怒る気にもならない。釣られるように笑って、白雪は頷いた。
「ありがとう。またおんぶされないように、気をつけるわ」

「――これぞイケメンとイケジョ。まぎれもなくイケメンとイケジョ! イケメンと! イケジョ!!」
 遺跡の調査を黙々と行っていたフォンは、ライオットたちが声を掛けるや、少しずつ声のボリュームを上げながら、叫んだ。
(……同じことしか言ってないけど、大丈夫かしら)
 白雪がつい心配になってしまうのは、ヒートアーマーの中に見えるフォンの容貌が、聞かされた年齢より若く――幼く見えたからだろう。そもそもの背丈が小さめなのもあいまって、きらきらとした大きな瞳がよく見えた。
「こんにちは、初めまして、フォン女史。僕はライオット。君の護衛に来た猟兵のひとりだよ。こっちは……」
「ご機嫌よう、白雪よ。よろしくね、研究員のお姉さん」
「ふむ! ミスター・ライオットと! 白雪…………姫!!」
「姫はやめて」
「だめじゃった。では白雪嬢!」
 それならまだマシか、とため息混じりに頷く。フォンの勢いのある楽しげな声は、随分と押しが強かった。
 ライオットはにこりと笑んで、首を傾げる。
「フォン女史、今は何を?」
「イケメンの顔面が凶器!! 今はの、やる気にさらに満ち溢れるばかりちと調査の範囲を広げようとしておるぞい」
「……その、組み立てられている石板はなにかしら?」
「イケジョの顔面も凶器!! この石板は猟兵様らに協力して貰って集めた石板じゃ。おそらくは入り口の手掛かりで、まだありそうなんじゃが、どうもさっきからアテが外れてな」
 むむ、と悩み込む様子のフォンは、手元で複雑そうな記号を組み合わせて首を捻っている。その様は優秀な研究者らしくもあるのだが、どうにも時折挟まれる叫びが緊張感を削いでゆく。
 連なり続く遺跡と思しき氷山を見やり、白雪はもう一度視線をフォンに戻した。
「アテはあるのね。なら、あたしたちも調べるわ。探すコツとか、あるのかしら」
「コツ? そうじゃの、儂のこの漲るやる気ならば心配ご無用! と言いたいが、有難い。猟兵様のカンは頼もしいし、あとはひたすら見てゆくしかあるまいな。不自然な氷の形があれば教えておくれ」
 言いながら、フォンはヒートアーマーを揺らして歩き出す。伴って白雪も歩き出せば、その背を守るように一番後ろから、ライオットも進んだ。
「それじゃあお供しましょうか、お嬢さんがた」

 どうやら遺跡は思った以上に広大だった。山となっているのだからそれも道理かもしれないが、南極大陸が有する大自然は、古代の浪漫と共に好奇心も刺激する。フォンに合わせて歩みを進めながら、白雪は海辺の青を瞳に映した。
「南極の動物……ペンギンとか、クジラもいるのかしら?」
「運が良ければ会えるだろうと、エスパルダは言っていたね。白雪さんは生き物が好きなのかい?」
「あたし、ペンギンが群れでいっぱいいるの、見てみたいの。それと、絶対無理だと思うけど、一生に一度くらいあのモフモフに囲まれて埋もれてみた……」
 酸漿色の瞳が、きらきらと輝きかけて、ふと我に返ったように瞬く。
「いえ、なんでもないわ」
「ふふ。……わかった、いいよ」
 ライオットは滲んだ無邪気を微笑ましそうに口元を緩める。
「僕も南極にどんな生き物が生息しているのか、興味があるんだ」
「いいの?」
「勿論。出会えるといいね」
 ええ、と白雪は頷いて、嬉しそうに白い頬が柔く笑んだ。
「……ペンギン、会えたらいいな」
 ほんの小さくこぼした呟きは、ライオットの耳には届いただろう。
 それから三人は、遺跡の入り口を、その手掛かりを求めて調査を続けた。フォンに遺跡の話を尋ねては、時折その身を労って休憩を挟む。
 そうして進むうちに、いくつかの石版を新たに見つけることができた。波の音が随分近づいた気がする。――その先で。
「白雪さん、見てごらん」
「え?」
 ライオットは、その視線を誘導するように指を白の景色の向こうへ向けた。そこに、人よりも小さな姿が、たくさん見つかる。
「ライオット……!」
「うん。どうやら、見つかったみたいだ」
 これ以上なく嬉しそうに表情を輝かせて、白雪はペンギンの群れを見た。ちいさい、かわいい、と小さな声が溢れている。
「折角だし、一緒に行きましょっ」
 子供のような無邪気さで、白雪はライオットの手を引いた。
 くすくすと笑いながら、ライオットもそのまま手を引かれて歩き出す。本当は、嬉しそうな彼女を見守るつもりだったけれど。一緒になって楽しむほうが、きっと楽しい。
「モフモフ、埋もれられるといいね」

 そうして、二人して向かった先のペンギンの群れは、怖がる様子もなく来訪者に好奇心旺盛にちょこちょこと近づいて来た。すっかり取り囲まれて、白雪もライオットも満面の笑みを浮かべるのは、すぐあとの話だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

青和・イチ
F

古代遺跡って、浪漫の塊…すごい楽しみ
(表情には出ないが、ウキウキで遺跡へ
あと、ペンギン…いたら良いなぁ

寒いの苦手だけど…胸躍る(結構着込んでもこもこ
くろ丸(相棒犬)は、寒さに強いけど…一応(ダウン着せた


研究者って、あの人かな…どうぞ宜しく
※普通に友好的に喋りますが、敬語・途切れ気味口調です

護衛が仕事、だから…危険があれば、必ず『庇い』ます
でも…入り口探し、遺跡の構造、文字や壁画等もあれば調査したい
『空中浮遊』で上からも見てみようかな

『暗視』や『聞き耳』、くろ丸の嗅覚や感覚も使って調査
困ったら、ペンギンやアザラシ(居たら)に『動物と話す』で聞いてみる
何か見つけたら研究者さんに報告、確認して貰う



●File:5383c3
 空は青くて、息は白かった。
「古代遺跡……」
 青和・イチ(藍色夜灯・f05526)は極寒の地でも眉ひとつ顰めることなく、もこもこと着込んだ防寒具を片手で引き合わせた。視線の先には、氷山に覆われた遺跡がある。
(寒いの、苦手だけど……すごい楽しみ)
 氷に閉ざされた、知られざる古代の遺跡。それだけで浪漫の塊を感じるというものだ。いつもと変わらぬ無表情には微塵も滲まないが、うきうきと胸躍らせてイチは古代遺跡と思しき氷山の前にいた。
「くろ丸……平気?」
 足元に立つ相棒たる黒犬を見やると、ぶんぶんと振られた尻尾と共に、勿論と言いたげな瞳と視線が合った。イチとは反対にくろ丸は寒さに強いけれども、一応ダウンベストを着せてやっている。
 行こう、と呟くと、先導するようにくろ丸が歩き出す。その小さな足跡の後ろに自分の足跡を並べながら、寒さにぎゅっと手を丸めた。とても寒い。けれどこの未知の世界には、知らないものがきっとたくさんある。――それに。
「ペンギン……いたら良いなぁ」

 研究者らしき人影は、すぐに見つかった。と言うよりは、あちらからずんずんと近づいて来た。
「麗しき! 眼鏡の! イケメン少年!!」
「……どうぞ、宜しくお願いします」
 輝きすぎるほどきらきらした瞳で覗き込まれて、ついぱちぱちと瞬きながら、イチはフォンに挨拶をした。どうやら聞いていた通り面食いらしい彼女は、それは嬉しそうに遠慮無くイチを覗き込んで来る。
「少年らしい発展途上の柔らかさ……!! 美少年ともイケメンともどちらとも言える、儂、このあらゆる可能性を感じる造詣にドキドキが止まらない……!! その上相棒の犬がいるのもまた良い、良いぞ」
「犬は、平気ですか」
 苦手そうな素振りもないが、一応訊ねると、フォンはやる気に満ちた表情で大きく頷いた。
「勿論じゃとも! ところでイチ少年、ちょーっとばかし顔の怖いその相棒殿の名も聞いても?」
「くろ丸、です。鼻は効くし、気配には聡い、から」
「それは有難い! ではお二方、よろしく頼むぞい」

 フォンとイチ、そしてくろ丸による遺跡調査は、遺跡に刻まれた文字や、壁画などと探すところから始まった。石版などの手がかりは見つかっているが、それを繋ぐための更なる手掛かりを探しているらしい。
「くろ丸、何か……見つけた?」
 表情に出ないながらも、興味津々に氷の下に隠れた遺跡を調べていたイチは、くろ丸がふと顔を上げたのに気づいて首を傾げた。すると頷くように踵を返して、くろ丸は身軽に歩き出す。
「イチ少年?」
「くろ丸が、何か見つけた、みたいで。……見てきます」
 フォンに言い置いて、イチはくろ丸を追って氷山を辿るように進んだ。そうしてしばらく行った先で、ふとくろ丸が足を止める。
「くろ丸、何が……あ」
 わおん、と得意げな声が一声鳴く。それはまるで、見つけたよ、と言っているようだ。
 くろ丸と視線を合わせて氷山の抜け穴の向こうを除いた先に、ペンギンたちがいた。
「本当に、会えた……」
 イチの藍色の瞳が、まるく煌く。会ってみたかった、野生のペンギンたち。てこてこと歩く彼らは、イチたちに気づくとすぐ興味津々に近づいて来てくれた。
 わふ、とくろ丸がイチの背を押すように頭をくっつけて来る。
「うん、そうだね。……話を、聞いてみよう」
 こくんと頷いて、ペンギンたちに話を聞いてみた。けれど入り口については知らず、ただイチたち猟兵たちやフォンが来てから、少し様子が変わったような場所がある――と、教えてくれた。
「……ありがとう。充分、手掛かり」
 場所を覚えて、イチは立ち上がる。フォンに報告をして、判断を仰いだほうがいいだろう。
「……行こう、くろ丸」
 最後にそっと手を伸ばしてペンギンの頭と、くろ丸の頭を撫でた。
 遺跡の浪漫はきっと、その中にこそあるだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
F
ジジ(f00995)と
何処迄も続く白い大地
…確かに美しいが
こうも変り映えなければ退屈よな

外套を翻し研究者の元へ
失礼、貴女が件の協力者ですか?
私はアルバ…此方がジャハルと申します
…ああ、驚かれました?
これでも歴とした男です
何時もの猫被りで紳士的に接し
彼女を導いたならば
共に凍てる風吹く氷原を駆けよう
レディ、寒くは御座いませんか?

併走する白黒――確かぺんぎんだったか
南極には斯様に愛らしい生物が居るのですね
最初は少し退屈と思っておりましたが…存外に面白い場所だ

…ジャハルが気になります?
奴は己の美に無自覚でして…やれ罪な男です
まああれでも可愛げはあるのですよ?
等とジジに聞かれぬよう秘密話でもしていよう


ジャハル・アルムリフ
F
師父(f00123)と
灰黒の外套の下から
冴える北空を見上げ
…鋭いが、澄んでいるな

探索となれば意欲は肝要
美しい顔など師がいれば十二分だろうが
持て成す位はしておこう

平たく割った氷の断片を橇代わりに師とフォンを乗せ
氷に絡めた怨鎖で引いて滑り移動
これなら互いに少しは楽だろう
後ろの探究心旺盛な二名へと時折
寒くは無いか
何か見えたかと訪ねながら探索の補佐を

…なにやら付いてきているぞ
隣には腹で滑るぺんぎんとやら
海には大きな鰭
追い越されてしまいそうだな
ならば速度を上げると致そうか
翼広げて空から引き、ぺんぎん達に併走
向こうの小さい毛玉は待っていた子供らだろうか

氷の大地を翔ければ舞う風花に
つい翼も心も先へと逸る



●File:001e43
 空は青く、高かった。
 遮るもののない地で見る太陽は酷く大きく見えるらしい。
(鋭いが、澄んでいるな)
 ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)がアルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)に呼ばれたのは、青く冴える北空に見つけた太陽の大きさに僅かに目を眇めたころだった。
 灰黒の外套を靡かせて、ジャハルはアルバの傍らに一歩で戻る。
「師父、見つかったか」
「見つけたとも。……どうも、これまでに来た猟兵たちにやる気を貰い過ぎたらしい。そこに座り込んでいるのがそうだろう」
 アルバが指差したのは、遺跡と思しき氷山の一角に電源が切れた玩具のようにくったり座り込んだ、ヒートアーマー姿の研究者だった。
 見る限り、遺跡は広大だ。猟兵たちと一緒とは言え、あちこちと調べて回れば、一般的な人間ならば、それなりに体力も消耗するはずだ。やる気があればあるだけ、疲労に気づいたときの気怠さは増すだろう。
「行くぞ、ジジ」
 外套を翻し、蒼き髪を靡かせて、アルバは代わり映えのしない白き氷原を歩き出す。
「……確かに美しいが、こうも変わり映えなければ退屈よな」

 ――研究者は、疲れていた。どうにも動く気になれず、思考も鈍ったおかげで、少しばかりの休息を貪っている。それもこれも。
「この遺跡、デカすぎじゃし。猟兵様イケメンすぎじゃしイケジョすぎじゃし眼福すぎて今日が命日やもしれぬ……」
 もうさすがにこれ以上眼福が増えることもあるまい、と幸せそうに記憶を反芻しかけた、そのときだった。
「失礼、貴女が件の協力者ですか?」
 美しい者がいた。きらめくようなサファイアブルーの長い髪はルビーレッドと淡く混ざって、陽に透けたように靡いて揺れる。瞳には、澄んだスターサファイアが見えた。人好きのする笑みを浮かべる整った顔立ちは、その性別を判然とさせない。
 外套に覆われていてもわかるその華奢な身体がやたら目立って見えるのは、その一歩後ろに控えるように立った、夜色の男のせいだろう。大きな体に見合った長い手足。無骨な身体つきは、よく鍛えているのだとこれも外套越しでもわかる。褐色の肌に艶めく黒い髪と黒い瞳は異国めいた神秘的な雰囲気を宿す。覗く角が陽を返して、美しかった。
「私はアルバ……此方がジャハルと申します」
「イケ……イケメ……イケジョ……?」
 つい、困惑した声も出る。耳に響くその声は聞きやすく、夜を響かせたような、深みのある声だ。その困惑を聞き分けた様子で、猟兵はにこりと微笑んだ。
「……ああ、驚かれました? これでも歴とした男です」
「――美しすぎるイケメンと!! イケメンすぎるイケメン!!」
 現金なことに、瞬間的に尽きかけていた体力が漲った瞬間だった。

(美しい顔など師がいれば十二分だろう)
 飛び起きた研究者の無事を見てとって、ジャハルは視線を氷山のほうへやった。アルバのことは美しいと思いこそすれ、自分の見目には特に頓着していない。ならば、自分にできそうなもてなしと言えば。
「……良い氷塊だ」
 すぐ近くに、ジャハルからすれば小さめの氷山があった。全長はジャハルの体長と同じほど。――ジャハルはそれを迷いなく、拳で叩き割った。
 え、と呆然とした声を上げたのは研究者のフォンだ。その目前で、氷山は真っ二つに割れ、どうと音を響かせて一方が倒れる。
「……乗れそうか」
「えっ乗るじゃと?」
「――失礼、レディ。ジャハルはお疲れの様子の貴女を気遣いたいのですよ。良ければあれを橇にして移動しましょう」
 ジャハルの言葉足らずを補うようにアルバが言えば、フォンも納得したらしい。
「しかし、橇とはいえ、あれでは動きようが……」
「問題ない」
 ジャハルは短く言うと、白亜の翼を広げて空に飛び立った。さらにあんぐりと口が開いているフォンを不思議そうに見下ろしながら、怨鎖を氷に絡める。
「――俺が引く」
 それからの調査は、実に順調に進んだ。そもそもが今まで集めた手掛かりを遺跡のそこかしこに当て嵌めてゆく作業がしたかったらしい。けれどもヒートアーマーでの長距離移動に疲れ果てていたおかげで、ジャハルが橇を引いて飛び、アルバが見解を伝え、フォンが結論を導く。その作業は、呆気ないほど速やかに進む。
「レディ、寒くは御座いませんか?」
「大丈夫じゃよ、ヒートアーマーに今は感謝しておる! ていうか力持ち過ぎぬかあの褐色イケメン猟兵様。あの見目でドラゴンの翼とか、それこそ浪漫の塊じゃし!」
 綺麗に猫を被った対応のまま、アルバも楽しげにフォンの入り口の仕掛けの予測を聞いては。見解を示していた。探究心が旺盛な者同士、話は弾む。
「寒くはないか、二人とも。……何やらついて来ているぞ」
 ジャハルが翼を大きく羽ばたかせながら、ふと二人に声を落とす。それでアルバたちも視線を落とした。
「おや、あれは――確か、ぺんぎんだったか」
 橇の後ろに、白と黒の鳥のような動物たちがわいわいとついて来ていた。動くものに興味を引かれるのか、楽しげに見えたのかは知れないけれど、氷を滑り慣れた彼らは、楽しげに橇に併走している。
「南極には斯様に愛らしい生物が居るのですね。最初は少し退屈と思っておりましたが……存外に面白い場所だ」
 競い合うように、楽しげにジャハルがスピードを上げたのを感じながら、アルバはくつくつと笑った。
「……ジャハルが気になります?」
 羽ばたく音に隠すように、声を潜ませて、アルバは空を見上げるフォンに首を傾げた。
「奴は己の美に無自覚でして……やれ罪な男です」
「あの見目で無自覚とは、目前に美しすぎるイケメンがいると、感覚狂うのかの?」
「というよりは、ただの性格でしょうけれど。――まああれでも可愛げはあるのですよ?」
 聞かせましょうか、そう悪戯に笑んで見せれば、当然のごとくフォンは瞳を輝かせて頷いた。

 橇は走る。ジャハルは飛ぶ。広く澄んだ空に翼を羽ばたかせるのは、心地が良かった。ペンギンたちと競うように地面を翔ければ、風花がきらきらと舞う。
(立派な翼だ)
 空は飛べぬが、白き大地と海をゆく鳥に賛辞を送って、ジャハルは遺跡の入り口と目される場所へ、飛び、翔けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『強欲の傀儡『烏人形』』

POW   :    欲しがることの、何が悪いの?
対象への質問と共に、【自身の黒い翼】から【強欲なカラス】を召喚する。満足な答えを得るまで、強欲なカラスは対象を【貪欲な嘴】で攻撃する。
SPD   :    足りないわ。
戦闘中に食べた【自分が奪ったもの】の量と質に応じて【足りない、もっと欲しいという狂気が増し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
WIZ   :    あなたも我慢しなくていいのに。
【欲望を肯定し、暴走させる呪詛】を籠めた【鋭い鉤爪】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【欲望を抑え込む理性】のみを攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●入り口
 猟兵たちと研究者が果てしない氷原を駆け回り集めた手掛かりは、いくつもの石板に色を灯した。
 出会った動物たちは全てが遺跡の入り口を知らぬと言った。
 ――それはそうだ。入り口など本来『なかった』のだ。
 色を灯した石板が、氷山のそこかしこで光る。それぞれが呼応しあうように光ればそのうちに、目前にあったひとつの氷山が消失した。
 瞬きの後、そこにあったのは空虚な穴だった。真白の中に生まれた、真っ黒な穴。地獄が口を開いたように、遺跡の入り口は生まれる。

「なるほどなるほど、これはいかにも邪神の巣と見えるのう。――しかし調査は入ってからが本番じゃ。儂は目の保養もさせて貰ったし、入ればまず調査に走る。最低限逃げ隠れはするが、データの安全を最優先に考えよう。猟兵様らは遠慮なく戦って、いざとなれば儂は見捨てて結構! 儂の魂たる調査結果だけは持ち帰っておくれ」
 さすがの研究者も尻込みしたらしい。早口にそう言えば、じゃけども、と猟兵たちを振り向いた。
「なるべく生きて帰りたいのう! 目の保養ファイル、全部書けておらんしの!」

●烏羽色
 それは遺跡の中で起き上がる。
 それらは黒い翼を動かして、すん、と甘美な匂いを捉えた。
「欲しいわ」
「足りないわ」
「欲しい、欲しい、欲しい」
 黒き羽ばたきの音が遺跡に響く。
 ただ空腹を満たすために。ただ腹を膨らませるために。
 烏人形たちは我先にと飛び立った。

 ――欲しがることの何が悪いの。

=============================
●第二章
 導入公開後からプレイングを受付けます。
 ほぼ純戦になります。格好良くどうぞ。怪我もあるでしょう。怪我プレがあるとどんどん怪我をします。敵はただ強欲に欲しがる者たちです。
 研究者の安否は問いませんが、守る行動にはプレイングボーナスがつきます。

●再送について
 二章の注意事項としまして、全ての方に再送がほぼ発生するだろうことをご了承下さい。最大二回。二回投げて返って来た場合は、キャパオーバーにより不採用となります。また、もし一章で不採用となってしまった方がおられた場合、プレイングによりますが、若干優先して採用します。
 以上、宜しければご参加お待ちしております。
蘭・七結
トモエさん/f02927

嗚呼、なんて強欲なのでしょう
けれど、あなたを否定はしない
求める儘に求めればいい
心から欲するならば、奪えばいい
ナユはね、とても欲張りなの
おんなじね

両の手には彼岸と此岸の残華
二世を司る双刀にて呪詛の鉤爪をなぎ払い

我慢、だなんて
ナユは欲望に従順よ
あなたたちと同じように、ね

言ったでしょう
求める儘に求めればいい、と
その強欲さを欲するわ
ナユは、あなたの生命力がほしい
“罪色の懇嘆”
嗚呼、満たされてゆく
あなたたちの貪欲さはナユのなかで生き続けるわ
だから、とっておきの毒に歪んでちょうだいな

唸る百獣の君主の頭を撫ぜて
お待たせするのは、もうおしまい
我慢なんて必要ないわ
さあ、たあんと召し上がれ


五条・巴
七結(f00421)と

何も悪くない。
いいよ、
好きなだけ求めたら良い。
おんなじ。
ただ、僕も欲しいものは譲れないよ。

弾は敵の死角から撃ち込み、肢体を狙うことで機動力を下げる。
敵の前で力強い舞を刻む七結に弾華を添えて。

おや、もうひとり(1匹)一緒に踊りたい子がいるようだよ。

"宵の明星"
春風が吼える。嗚呼、お腹がすいてるみたい。
君達が美味しそうだって。
いいよね?我慢しなくていいんだから。
先にそう言ったのは君達だよ。

儚い手が優しくたてがみを撫でる姿にふわり微笑んで、その手が離れれば大きな口が開かれる

さあ、いただきます


ハニー・ジンジャー
誰の声も最早届かず
溶けるよな目で既に意識はただ一点へ
だって、ねえ、何が悪いのと烏が啼くから

なんにも悪いことないですものね
こらえなくっていいですよ
我らも欲しいもの、ぜったい手に入れるもの
カラスのとこへと寄りましょう
我らchimeraゆえ、長い獣の爪、烏の羽を千切りましょう
噛み切ったほがお好みですか?

ああ、我らは我慢、してたでしょうか
お前の鉤爪が、効くのなら
きっとそうなのでしょうね
ふふ、お前にこらえなくってよいですよと言っておきながらこの様とは

車軸草
愛しい烏 ああ、我らもお前が欲しいとも
呪詛のよにどろどろと、欲しいと言葉を繰り返し
我慢しなくていいと言ったのお前です
ね。我らに呑まれても悔いはなかろ?


ライオット・シヴァルレガリア
白雪さん(f09233)と

もちろん、それが僕……盾の役目なんだから
さぁ2人とも、僕の後ろへ

攻め手は白雪さんに任せて、僕は守りを重視しよう
自分が傷を負っても気に留めないよ
飢えた哀れな烏たち、血の匂いに寄ってくるといい

『盾受け』で攻撃をいなした隙に『カウンター』で『シールドバッシュ』を叩き込むよ
盾の一撃というのもなかなか重いだろう?
後ろの2人に攻撃が及びそうになればすかさず『かばう』

手痛い攻撃が来そうになれば【無敵城塞】で盾として立ち塞がるよ
動けなくなっても問題ない
僕の大切な友人ならきっと上手くやってくれると信じているからね

この寒さなら、少しくらい焼けた方がちょうどいいんじゃないかい?


鶴澤・白雪
ライオット(f16281)と

出てきたわね
欲しがり過ぎると太って飛べなくなるわよ

ライオット、いつも通りお願いできる?
今回は守らないといけないお姫様がいるけど貴方なら問題ないでしょ
フォンはあたしと後ろにいてちょうだい

王子は顔が良いだけじゃなくてすごく頼もしいから大丈夫
任せておいて

両手に銃を携えてライオットの援護になるよう制圧射撃
でも優先はフォンの護衛よ
此方に向かってくる対象はガンブレードで串刺して引鉄を引くわ
精霊銃で追撃するかライオットの援護をするかは状況次第で

数が多い時とライオットが危ない時は範囲攻撃のUCで一気に焼き鳥にしてやるわ

守るってなると無茶するんだから
あの鳥たちタダじゃ済まさないわよ


都槻・綾
f01982/咲さん

例え腹が満ちても満たされぬ飢餓
永劫埋まらぬ虚を抱える人形達
然れど
甚だしく欲を抱く姿はまた
何かを強く希う事のない己にとって
少し羨ましくもある

咲さんの素直な呟きに淡く笑み
森を思わせる彼女の気に重ねて
柔らかな風の如きオーラを広げ
研究者殿の身も志も、確りと護り抜こう

えぇ
フォンさんは智を拓く方
あなたという書を閉じるには
未だ早いでしょう?

――咲さんも、ですよ?

同意の首肯と共に
扇状に持った符で一扇ぎ
身を裂くを厭わぬ咲さんも護れるよう
衝撃波を放って烏人形達と間合いを取る

機を逃さず高速詠唱で紡ぐ鳥葬は
いっそ貪欲な共食いにも見えて

清らかな白菊に
浮かべるあえかな笑みは
自嘲にも似ていたかもしれない


雨糸・咲
綾さん/f01786

あけすけな欲求に寸時眉を顰める
それは自分が何より忌避してきた感情だから

…いやな声、

呟きで嫌悪を振り払い
敵の進路に立ちはだかって緑輝くオーラでかばう
後ろのフォンさんにふわり微笑み

私、あなたのような潔い人が好きなのです
帰ってまた次のお仕事を頑張っていただかないと

ねぇ、と同意を求める声は綾さんへ

血肉が欲しいなら私のをどうぞ
…と言いたいところですが
それでは足りないのですよね?

肌を裂くのは気に留めず
けれど理性を手放すのは絶対に嫌

綾さんと死角を補い合い
杖へ変じた雪霞を鋭く振って風の属性攻撃
飛ぶ黒翼のバランスを崩しにかかり
光に煌く美しい白の世界を取り戻すよう
白菊の花弁で黒い欲望を押し包む


アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
ふふん、強欲に罪はないが
欲しければ奪ってみせるが良い

私の理性を砕いて良いのか?
そうなれば真先に蹂躙されるは貴様等ぞ

見捨てはせん
命ある者は須く守ってみせる
故に…ジジ、万一に備え
お前はフォン嬢に触れさせるよう護衛を
私は――魔方陣を描き、高速詠唱
【暴虐たる贋槍】で翼ごと撃ち落してくれる
はは、そう急くでない
慌てずともたんまりくれてやる
一陣のみに飽き足らず
追討ちをかけるが如く幾度も風槍を落とそう
理性を削がれようと行う事は変わりない
オブリビオンを殺す――唯それのみよ

…む、いかん
意識が飛んでおったか
私の四肢は健在か、ジジ?
やれ、そう怖い顔をするでない
気負わずとも、お前は良くやっているよ


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
…さっきまでの白銀の世界が嘘のようだな
さて
魔術師に研究者とて、求む心は変わるまいが
卑しきものらには

瞬きの間、渋るも承知
戦果は自身の手で持ち帰られよ、フォン

そら、似合いの遊び相手を呉れてやろう
【暴蝕】にて喚び出した群魔を人形共へ
とくに、風槍を避けた者、動きの鈍った者を狙い撃つ

フォンのみならず
師がそれ以上鉤爪に掛からぬよう引き寄せる
…何故、自分は知らぬままなのか
連中への憎悪の強さに推し測るもの

己の中から一撃ごと薄れる何か
握った短剣の刃と、眼前の群魔どもを焼き付けて
護りを忘れて飛び出さぬよう
…あれが、末路だ

別に、怒ってなどおらぬさ
…師父にはな
欠けて落ちた宝石は一片とて残さずに


青和・イチ
うわ…こんな仕掛けが、あったなんて
ますます心躍るね
でも、慎重に進もう…嫌な予感しか、しない

危険時にフォンさんを護れる位置で進む
『第六感・聞き耳』暗ければ『暗視』で敵襲に備える
くろ丸も、何か気付いたら教えて

…来たね
フォンさん、安全なとこに隠れてて
くろ丸は護衛に
敵は遠慮なく噛み千切っていいよ

自分は二人の前に立ち、いざとなれば『庇う』
【迷星】で多数炎を喚び、周囲の烏に連続でぶつけていこう
厄介そうな翼と鉤爪も『部位破壊』

反撃には『見切り・オーラ防御・盾受け』
怪我は『激痛耐性』で無視
死ななければいいや

呪詛は『呪詛耐性』で耐える…けど
今の僕の欲は「仲間を守って君達を倒したい」だから…
我慢しなくて、いいね?


オズ・ケストナー
リュカ(f02586)と

首かしげてから微笑
フォンのこと、みすてたりしないよ
ぜったいいっしょに帰れるよ

駆けながらガジェットショータイム
カラスがあつめるのはなにかな
斧に赤や橙色の木の実に似た飾りがたくさん
暗がりでもきらりと光る
振り下ろせばこっちだよと言うような鈴の音がガラン

わたしのところにおいで
注意をこっちに向けて
飛ぶならつばさから狙うよ

斧の飾りはつつけば一瞬で砂のように粉々
きらきら舞って

あげないよ

ほしがるのが自由なら
あげないのも自由だ
だからわたしはきみたちをたおすね

攻撃は武器受け
フォンとリュカの前で盾になる
その攻撃はとおさないからねっ

わたしはケガしたってへいき
ぜったいにリュカがしとめてくれるもの


リュカ・エンキアンサス
オズお兄さん(f01136)と

俺は命に代えてもあなたを守るとは言わないけれど
この程度の敵で、見捨てるも何もないだろう

そういうわけで遊びは終わり
お兄さんが敵を引き付けてくれている間に灯り木で撃つ
急所は何処かな。わかればそこを
わからなければその姦しい口でいいだろう
兎に角こちらを攻撃してくる敵をきっちり仕留めて数を減らしていくね

お兄さんが怪我したら
若干不機嫌そうに眉根を寄せて
そいつは念入りに、跡形もなく破壊しよう
お兄さんのことは頼りにしてるから、守りは考えてないけど
もし自分が怪我をしても、ひとまずは置いておく
気にするのは時間の無駄だ。慣れてるし

足りない…か
それはきっと、追い求めても果てのないものだよ


スキアファール・イリャルギ
アドリブ・連携OK

欲望に忠実な人がすでに此処に居るような
いやなんでもない、なんでもないんで調査続行どうぞ
近くで見守ってますんで

…あ、前出て戦うタイプじゃないんですよ
なんで存在感がっつり消しときます
私の事はひっそりと佇む妨害電波発信機と認識して下さい

喉の調子は…寒いけど大丈夫そうかな、ヨシ
ユーベルコードの対象は勿論オブリビオンのみ
こちらやフォンさんを狙う奴を最優先に、
なるべく広範囲に聞かせて戦う方々を支援
動きを止めた奴は呪瘡包帯を巻きつけて引きずり下ろしとこう
トドメ? 任せます(他力本願

欲望に忠実、大いに結構
でも押し付けはご遠慮頂きたいな
…これでも結構、我慢せず欲望に忠実に生きてる心算だ


黒蛇・宵蔭
シノア(f10214)さんと

ペンギンは飛ばないんですけどねえ、とベタな事を言いつつ。
そうですね、研究だけを持ち帰れば……では目覚めが悪い。守りましょうか。

シノアさんが動きやすいよう、串の雨で縫い止めてしまいましょうか。
あまり周囲を壊さないような射線を心掛けます。

欲望を解放する力ですか……。
ふふ、私は我慢などしていませんよ?
邪なるものの苦悶こそ、我が愉悦。
そして我が身を呪う血を常に意識している――何を今更、です。

とはいえ無条件で負傷するのもアレですから。鉄錆で爪を弾きつつ。
シノアさんが楽しそうに戦うのならば、その助けをするまでです。

ええ、戦う彼女がああも美しいのですから。
欲を否定しませんとも。


シノア・プサルトゥイーリ
宵蔭(f02394)と

あの子たちが飛べてしまったら……かわいい

こほん。
研究者さんはああ言ってはいるけれど愉快な方を失うのも惜しいもの
行きましょう

宵蔭がエスコートに、迷わず前に出ましょう
地に落ちた皆様、さぁ地上で踊りましょう?

血統覚醒で速度を上げ、近接で刀で斬り合いましょう
傷は気にしないわ
敵の動きをよく見て、私は壁役よ。宵蔭と研究員さんを守りましょう

欲しがることは何も悪くはないわ。
けれど、貴方が欲しがるなら私が欲しがっても良いでしょう?
我は狩人。さぁ、貴方の首を頂戴

カラスは羽を先に落としましょうか
満足はしないでしょう?貴方は欲しているのだから

愉悦を告げる横顔には、やっぱり美人でしょう、と誰と無く


キトリ・フローエ
フォンがなるべく狙われることがないよう
彼女から離れた所を飛び回って
空色の花嵐で敵をおびき寄せるわ
だってまだ、フォンといっぱいお話したいもの
絶対に守り切ってみせるって、思ってるのはあたしだけじゃないはずよ

鉤爪は見切って躱したいけれど、少しくらい傷ついたって平気
でも、あたし、別に我慢なんてあんまりしないから…どうかしら?
だって欲しい物を手に入れるために頑張るなんて、当たり前のことでしょう?
なのに手に入らないなんて、可愛そうね
それはそうよ、こんな暗くて冷たい所に閉じこもってたら
何も手に入れられないわ
だからといって、ここから出してあげたりなんてしない
あなた達にあげる物なんて、なんにもないんだから!


リチュエル・チュレル
タロ(f04263)と

ふん、あまり見縊ってくれんなよ
オレらの任務は護衛だぜ
データも研究者も守る、その為の猟兵だろうが
要らん心配よりもお前にしかできないことを存分にやってくれ

調査を見守りながら周囲を警戒だ
羽音が聞こえたらすぐに向かうぞ
フォンに意識が向かう前にこちらへ惹きつけねぇとな

敵が視界に入ったら炎の魔力を込めてUCで先制と行こう
嗅覚を頼りにしてるなら焦げた匂いで獲物を曖昧にできねぇかな…
敵を通さないことを最優先に
攻撃はできるだけ見切って盾で受け流してやんぜ


おい、木偶烏ども
欲しがるのは勝手だがな
奪おうとするなら話は別だろうが
奪うモノが奪われる者に反撃されて文句言うのはお門違いってヤツじゃねぇ?


タロ・トリオンフィ
リチュ(f04270)と

じぃ、と研究者さんの顔を覗き込み

…駄目だよ
言葉は想いのかたちを定めてしまう
運命を其方に傾けてしまう
だから、見捨てていいなんて言っては駄目

諭すというより、願うように、願って欲しいようにそう紡いで

うん、リチュの言うとおり
僕らはその為に来たんだから
だからどうか願う通りの言葉にして
必ず無事に帰ると
きっとそれは、なるべくじゃなくて――絶対になる

リチュが導く属性の色に頷いて
感覚を惑わせるなら
僕は抜けてくる者を狙ってUCで宙に描く
塗料の描く『獲物』に自ら誘い込まれてくれるといいな

フォン先生を狙われれば迷わず割り込んで庇う
大丈夫
僕は叶う願いが見たい
それは初めから抑え込んでなどいないから



●秘色
 遺跡の中は、澄んだ水と土のような匂いがした。
 見渡す限り薄青で満たされた、ぽっかりと丸い空洞が上に横にと広がっている。それがそのまま道となって、うねるように見えぬ先まで続いているようだ。
 そこかしこを覆うのは輝くばかりの氷と、色褪せた土塊。入り口を成した石板によく似た、読み取れぬ異形の文字に凍りついた壁面と、ぼろりと崩れて無造作に並んだ何も支えぬ色のない柱。
 洞窟のようにも、建物のようにも思えるその遺跡はどこか不気味で、しかも美しかった。
「……さしずめ『秘色の遺跡』かの」
 覚えるように呟いて、研究者フォン・パーヴェルはヒートアーマーの手に端末を開く。多くの猟兵の手を借り、姿を目に焼き付けて、目の保養は充分に果たした。この遺跡の調査が、研究者としての一番の目的だ。
「では調査を始める。猟兵様方、先も言ったように、儂のことは――」
「フォンのこと、みすてたりしないよ」
 少し首を傾げて言ったのは、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)だった。柔らかなお日様のような笑みを浮かべて、オズはフォンを追い抜くと、一歩先へ進む。
「いっしょに行って、いっしょに帰ろう。――ぜったいいっしょに帰れるよ」
 ね、リュカ。柔い笑みに信頼を滲ませてオズが見た先で、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)はひとつ呆れたようなため息を吐いた。
「そうだね。……俺は、命に代えてもあなたを守るとは言わないけれど」
 リュカの青い瞳が、遺跡の先を静かに映す。その先の蠢きを捕らえるように、癖のように、銃に掛けた手をそのまま持ち上げた。かちゃり、鳴るのはちいさな星の音。
 ――そして、貪欲な翼の音を、猟兵たちの誰もが聞いた。
 ばさ、ばさり。うねる道の先から、おぞましいほどの黒い翼が溢れて出てくる。飛んでいるのか、這っているのか、それさえわからないほどの。
「欲しいわ」「足りないわ」「欲しい欲しい欲しい」
 ひ、と小さな悲鳴を上げたのは研究者だった。それらを冷静に見据えたのは、彼女の前に迷わず出た猟兵たちだった。
「この程度の敵で、見捨てるも何もないだろう」
 リュカが吐いた白い息を合図にしたように、調査と戦闘は始まった。


「こっちよ!」
 真黒い羽ばたきに臆せず飛び出したのは、キトリ・フローエ(星導・f02354)だった。
 集まった猟兵たちの中でも一番小さな妖精は、柔らかな翅をひらめかせて、高く飛ぶ。きらきら舞うのは、青と白。風花のようにまぶしい輝きを持つ花びらが嵐となって、烏たちを誘う。
(なるべくフォンから離さないと)
 遺跡の中は広大だ。背に庇っても意識が向いてしまえば、いくらでも隙の突きようはある。
 距離を確かめるようにキトリが視線をフォンのほうへやれば、気がかりそうな瞳と目が合った。
(大丈夫よ)
 見えるだろうか。わからない。けれどキトリは自信に満ちた笑みを浮かべて、無造作に振り下ろされた鉤爪を避ける。
(だってまだ、フォンといっぱいお話したいもの)
 きらきらした瞳で喜んでくれた声も、一生懸命に考える姿も、ちゃんと覚えているから。
 キトリは烏たちを誘導するように旋回する。決して注意がフォンに向かぬよう、意志を同じくする猟兵たちの戦場へ、その翼を導く。
「絶対に守り切ってみせるって、そう思ってるのはあたしだけじゃないはずよ」
「――当然だろ。あまり見縊ってくれんなよ」

 キトリ目掛けて殺到した烏人形たちを、赤い炎を宿した水晶球が蹴散らした。強い魔力で練り上げられた炎は、丸い水晶の中で太陽のように燃え盛る。
 リチュエル・チュレル(星詠み人形・f04270)はしなやかな指先で水晶をごうと踊らせた。烏の翼を、赤い炎が焼き落とす。
「オレらの任務は護衛だぜ。データも研究者も守る。その為の猟兵だろうが」
「……うん、リチュの言うとおり」
 フォンの隣で、タロ・トリオンフィ(水鏡・f04263)が微笑んだ。真白きその身は光と共に護りを纏い、フォンのためにゆっくりと言葉を紡ぐ。
「僕らはその為に来たんだから。だからどうか、願う通りの言葉にして」
 願い、とフォンが呟いた。タロは頷く。可能性を示すように。
「必ず無事に帰る、と」
 願うこと。目指すもの。欲して押し寄せるその暴力に、運命を押し流されないように。
「きっとそれは、なるべくじゃなくて――絶対になる」

 炎に巻かれた翼を更に追い立てるように、風の槍が降り注いだのはそのときだった。
 描き出された魔法陣は、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)の前に淡い光と共に浮かんでいる。
「見捨てはせん」
 短く低く、けれどはっきりと口にされた言葉は、意志だ。――二度と、この手からこぼれ落ちるものがないように。
「命ある者は、須く守ってみせる」
 音か、吐息か。刹那で紡がれる詠唱と魔法陣が喚く烏たちの言葉より鋭く、その翼を撃ち落とす。
 ほしい、ほしいほしいほしい。欲することすら欲して更に押し寄せる者たちに、アルバは喉の奥で笑った。
「はは、そう急くでない。慌てずともたんまりくれてやる。……ジジ」
 その、耳に覚えた呼び名ひとつで、機を察するには充分だった。
 ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は褐色の長い腕を、外套の下からすいと持ち上げた。影が伸びる外套の下から、弾けるように飛び立ったのは、喚び出された黒き子竜たちだ。
 欲しがるもの、求めるもの。その源は、魔術師であれ研究者であれ、変わらぬものだろうけれど。
「そら、似合いの遊び相手をくれてやろう」
 卑しきものら。淡々と、そう囁いた。
 ジャハルは放った飢えた小さき竜たちは、風槍の撃ち損ねた隙間に飛び込むように、欲に駆られた烏たちを落としてゆく。
 どうと音を立てて堕ちゆく烏たちを満足そうに眺めながら、アルバは更に前へ出た。それに続くようにジャハルも行こうとする――けれども。
「ジジ。万一に備え、お前はフォン嬢に触れさせぬよう、護衛を」
「……」
 華奢な背が、言い置いて振り向くことなく進む。その後方で、虚を突かれた瞬きと、渋るような間があった。
「……承知した、我が主よ」
 従者は踏み出した脚を下げる。切れ長の双眸が、油断なく主と敵と、フォンへ向けられた。
「戦果は自身の手で持ち帰られよ、フォン」

 炎に風を受けて押し寄せた烏人形たちは、ひとつ、またひとつとその影を減らしてゆく。けれどもまだ奥から飽きもせず、蠢き来る羽ばたきも確かだ。
 可愛げのない黒き翼を瞳だけで追って、シノア・プサルトゥイーリ(ミルワの詩篇・f10214)はふと先程触れ合ったばかりの黒くて白くて愛らしいペンギンたちを思い出した。
「あの子たちが飛べてしまったら……かわいい」
「ペンギンは飛ばないんですけどねえ」
 決まり文句のような軽口じみた相槌を打って、黒蛇・宵蔭(聖釘・f02394)は小さく笑った。シノアははたとした様子で咳払いをひとつする。
「勿論、知ってはいるのよ。……研究者さんはああ言ってはいるけれど、愉快な方を失うのも惜しいもの。行きましょう、宵蔭」
「そうですね、頃合いです。研究だけを持ち帰れば……では寝覚めが悪い。守りましょうか」
 何気なく交わしていた言葉も、機を狙っていただけのこと。炎の水晶が踊り、風槍が撃ち落とす。――そこへ、鉄串の雨が降り注いだ。
「欲望を解放する力ですか……ともかく、少し群れが過ぎますね。エスコートとして、道は私が用意しましょうか」
 炎に風に叩き落とされた烏人形たちを、宵蔭が放つ無数に降り注ぐ鉄串が次々に縫い止めてゆく。羽ばたきに、ひび割れたような悲鳴が混じった。それでも確りと制御された苦痛の雨は、周囲を無駄には破壊しない。
 僅かな間で、視界が開く。蠢きが割れる。シノアはそこへ、迷わず飛び込んだ。同時に抜いた太刀でもがく黒翼を斬り伏せる。
「地に落ちた皆様。――さぁ、地上で踊りましょう?」

 ほしい、欲しい。烏人形たちはただ貪欲にそれを繰り返す。何を考えるわけでもなく、腹に抱いた飢餓を埋めるように、その血肉を欲する。それは決して乾きを癒すことなどないと、知りもせず。
 その様を、都槻・綾(夜宵の森・f01786)は見つめて、浅い息を吐いた。
(永劫埋まらぬ虚を抱える、人形たち)
 ――然れど、それは己にないものだ。
(甚だしい、欲)
 純粋たる我欲。それはあの人形たちが、創造主に与えられたものだろうか。それとも欲すら欲した結果だろうか。わからない。『それ』は考えても、綾には理解が及ばない。あれほどまでに何かを強く希うことのない己にとって、それは。
(少し、羨ましい)
 そう思ってしまうのは、器物に宿るものとして、自らの感情に物を言わせなかった所以だろうか。
「……いやな声」
 ちょうど、ぽつりと隣から溢れ聞こえた声は、綾が抱いたそれとは逆であったかもしれない。
 雨糸・咲(希旻・f01982)は僅かに眉を顰め、表情を消して烏たちを見た。常から浮かべることの多い表情とは違う、それに滲むのは静かな嫌悪だ。貪欲な我欲。それは何より、咲が忌避してきたものに違いない。何故なら、それは――。
「……っ」
 思考を振り払うように、前へ身体が滑り出た。咲が身に纏うのは森の色。鋭い鉤爪の往く道を、輝くばかりの緑が阻む。それに重なるのは、森を吹き抜けるような柔らかな風だった。
 綾の風だ。そうわかれば、強張った咲の身体から少し力が抜けるけれど。
「欲しがることの、何が悪いの」
 翼を落とされ、進路を阻まれ、それでも烏たちは喚く。

「なんにも悪いことないですものね」
 ふわり、笑んで。烏人形たちの前へ出たのはハニー・ジンジャー(どろり・f14738)だった。
 危ないと言ったのは誰だったろう。身を裂いたのは爪だったろうか、牙だったろうか、ささいなことだ。
(だって、ねえ)
 ――何が悪いのと、烏が啼くから。
 阻むもの、阻まれるもの。どちらにも迷いはなく、ハニーの意識は呼応するように、真黒い翼たちへただ向かう。
「こらえなくって、いいですよ」
 黒翼が、呂色に溶ける。ただの黒は、濡れたような美しい漆黒に呑まれてゆく。
 同時に研究者は、猟兵たちによって道が開かれるのを、見た。


「……行く、よ」
 まず駆け出したのはくろ丸だった。青和・イチ(藍色夜灯・f05526)もフォンを護り立つ位置取りで駆け出す。
 遺跡に入り込んでからずっと澄ませていた感覚と聴覚は、よく冴えていた。加えて聡い相棒が駆けてゆく道ならば、安全だと信頼できる。僅かな隙を縫うように、イチたちはフォンを護りながら進む。
 広大な遺跡を、ただ一箇所に留まるだけでは調査できないのは当然だ。敵を倒し、護り、進む。それが猟兵たちにしかできぬ役目だった。
「急がないで、大丈夫。……慎重に、進もう。嫌な予感しか、しない」
「ええ、その通り。どうやらこの先も団体さんがいるようですし」
 賑やかですね、と嘆息して見せたのは、スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)である。影に紛れるような出で立ちの痩身の男は、しかしずっとフォンの近くに控えていた。
「いつからいたんじゃ、影色イケメン猟兵様……」
「割と最初からですかね。……あ、前出て戦うタイプじゃないんですよ」
 なんで存在感がっつり消してました、とあっさり言ってしまうスキアファールに、フォンも目を真ん丸くさせてしまう。それに軽く笑って、男はぼさぼさの髪を掻き上げた。
「私のことは、そうですね。ひっそりと佇む妨害電波発信機とでも認識して下さい」
「思えるかい!」
 冗談めいた自己紹介にフォンがつい突っ込んだちょうどそのときだ。わおん、とくろ丸が鳴いた。
「……止まって」
 イチがフォンを制す。――その先に、入り口とよく似た、真黒い穴が見えた。
 こんな仕掛けが、あったなんて。ぽつりとイチが呟く。古代の遺跡、そこを進んでいるのは、今の自分たち。
「多分、先に進む道。……ますます、心躍るね」
「――心躍るのは、あっちも同じみたいね」

 銃声は一度。
 過たず狙い撃たれた烏が、黒い穴に落ちてゆくのを見て取って、鶴澤・白雪(棘晶インフェルノ・f09233)はスコープから酸漿色の瞳を上げた。
「欲しがり過ぎると太って飛べなくなるわよ」
「腕を上げているね、白雪さん」
 先手を行かれたみたいだ、と笑うのはライオット・シヴァルレガリア(ファランクス・f16281)だ。
「この立ち位置に慣れただけよ。ライオット、いつも通りお願いできる? 今回は守らないといけないお姫様がいるけど、貴方なら問題ないでしょ」
「もちろん、それが僕……盾の役目なんだから」
 騎士然として笑みを浮かべて、ライオットは先行く仲間たちの足並みへ、黒翼が蠢く前線へ真っ直ぐに突っ込んでゆく。
 傷は問わなかった。さして気にもならない。血は戦場にはつきものだ。増して己は、盾なのだから。
「飢えた哀れな烏たち、血の匂いに寄ってくるといい」
 構えた氷剣が、応えるように氷雪を纏い、突き抜いた翼を散らして、彼らは先へ進む。

 欲しい。欲しい。欲しい。
 声は続く。羽ばたく音は減り、そしてまた増してゆく。際限を知らぬ、欲の音。
「――嗚呼、なんて強欲なのでしょう」
 蘭・七結(戀紅・f00421)はその声を聞きながら、白く華奢な身体を黒翼に埋めるように進む。両の手には彼岸と此岸の双刀。少女は舞うように、欲するばかりの鉤爪を薙ぎ払ってゆく。
「けれど、あなたを否定はしない」
 求めるままに、求めればいい。
 心から欲するならば、奪えばいい。
 溢れ出る者たちに教えるように、七結は刀を振るう。その隙を埋めるように、銃弾が撃ち込まれた。
「そうだね、何も悪くない」
 いいよ。そう囁いて、五条・巴(見果てぬ夜の夢・f02927)は銃を構え直した。
「好きなだけ求めたら良い。……おんなじ」
「おんなじね」
 巴が撃ち抜き、七結が薙ぎ払う。戦場にしては柔らかな声が、花を咲かすように響いた。
「ナユはね、とても欲張りなの」
「僕も、欲しいものは譲れないよ」
 だから。――猟兵たちは、更に深淵の虚穴に飛び込んでゆく。


 穴の向こうは、空だった。
「ウッソじゃろおおおおおおおおおおお」
 息を呑んだもの、特に驚きもなく構え直したもの、翼を広げたもの、愉快そうに笑ったもの、盛大に悲鳴を上げたもの。――言わずもがな、研究者は悲鳴であったけれども。
 遺跡の更に地下は、大空洞があったらしい。地下であることを忘れるほど広い空間に、烏人形たちが群れを成して飛んでいる。
「リュカ! フォン! みんなっ」
 咄嗟にオズがどこか楽しげな声で喚び出したのは、ガジェットのソリだった。つい先程は雪の上を走った、ペンギンを模したそれ。
「お姉さん、ちょっと我慢してよ」
 意図を察して、リュカはフォンの身体をソリのほうへ押しやった。ぐえ、という声と共に、フォンがソリの中に突っ込んでゆく。
「ペンギンが、飛んでる……かわいい」
「飛んでますねえ、ソリですけど」
 シノアがつい呟いたのには、宵蔭が軽く笑った。
「飛んでると言うより落ちてるの、落ちてるのよ!」
 小さな翅を羽ばたかせて、キトリが少し慌てた声を上げるけれども。
「思ったより、すごい遺跡……かも」
「ええ全く、この作りだけ見れば随分と面白きものを作っていますね」
「……流石に落とせそうな氷塊はないな」
 イチがくろ丸を抱えてつい瞳を輝かせた。それにくつくつと笑うのは視線を走らせながら翼を広げたジャハルに身を任せたアルバだ。
「ナユは飛べはしないのだけれど……トモエは?」
「僕も飛ぶのはできないかな。……でも、今は飛んでいるし」
「皆さん割と普通にしてますけど、これ落ちたらひとたまりもないやつですよ? このままだと普通にぺしゃんこコースですよ? あれ?」
 スキアファールが七結と巴の向こうで首を傾げていたりする。
「ぺしゃんこは、困ってしまうよな。……欲しがるお前が、我らをそうするとも思えないけれど」
 ねえ。そうふわりと微笑んだハニーの視線の先で、羽ばたきは音を成して、群れを成して。
「リチュ、いざとなったら僕に思い切りしがみついてね。緩衝材にはなると思うし」
「真面目な顔して馬鹿言ってんじゃねぇぞ、タロ。そもそも緩衝材って言えば――」
「丁度良いのがたくさんいるから、大丈夫じゃないかな。……ああ、白雪さんは着地は僕に任せてね」
「それは有難うライオット。けど、着地より何より」
 ――落ちて行く先に広がる黒は、全てが烏だ。聞こえる囁きは、欲の鉤爪を光らせる。
「あそこにフォンさんを落とすわけには行きませんね。……ね、フォンさん、私、あなたのような潔い人が好きなのです」
「ええ。フォンさんは智を拓く方。あなたという書を閉じるには、未だ早いでしょう?」
 綾が咲へ淡く笑んで、頷く。落ちながらふたりのその身、その手は緑風のオーラを纏ってフォンを乗せたソリを護った。その可能性を、閉じさせぬために。
「――咲さんも、ですよ?」
 綾が風に紛れて名を呼んだその瞬間に、猟兵たちは烏の群れへ呑み込まれた。

 手元に開くは符。そして握られたのは杖。
 得た護りは互いを護り合い、綾が放つ航りの路は、黒に染まる烏たちへ彩りに満ちた羽ばたきをぶつける。
「往きなさい」
 ぶわりと爆ぜるようにぶつかり合う翼たちは、どこか貪欲な共食いじみて綾の瞳に映った。その向こうで。
「血肉が欲しいなら、私のをどうぞ」
 そんなもので、足りるとも思わないけれど。
 迷わず飛び込んだ咲の肌を裂く鉤爪は、痛みを告げる。赤い。熱い。痛い。――けれど、気に留めることではない。
「あなたも」
「あなたも」
「我慢しなくて、いいのに」
 声が響く。血肉に、魂にひびく。堅く鎖した、理性の鍵を壊すように。
「――絶対に、嫌」
 咲は知らず唇を噛んだ。その横を、鮮やかな鳥のしるべが飛んでゆく。それに導かれるように、咲の手元で白菊が咲く。染まる黒を、煌めく白へ帰すように。柔く美しい花びらが、漆黒の中で舞い踊る。
(黒に、白――)
 美しいもの。それは欲すら、そうだろう。綾が我知らずゆるりと浮かべた笑みは、どこか自嘲めいて、けれどその風は確かに目に映る景色を、護る。

 ひらり、舞う白の花弁に重ねるようにして、キトリもまた花を舞わせた。
 自由に宙を踊れる小さき妖精は、しなやかな動きでその爪を躱し、花嵐で敵を巻く。けれど鉤爪は、小さな身体をも容赦なく欲して向かい来る。
「……っ、少しくらい、平気だわ」
 心に差し込むような囁きを、鮮やかな痛みで忘れる。
「あたし、別に我慢なんてあんまりしないから。だって、欲しい物を手に入れるために頑張るなんて、当たり前のことでしょう?」
 真っ直ぐに見据える。臆せず大きな瞳にその動きを映せば、キトリは小さな身体を翼の隙間からすり抜けさせて、鉤爪の直撃を免れた。大きな烏たちは、互いに縺れ合って落ちる。
「なのに手に入らないなんて、可哀想ね」
「ええ、そう。我らも欲しいもの、ぜったい手に入れるもの」
 落ちるよりも滑らかに伸びた呂色の蔦が、翼を捕らえる。それを伝うようにして、ハニーは烏の群れへ寄り添うように入り込んだ。キトリが送るきらきら舞う花びらが、それを導く。
「噛み切ったほが、お好みですか?」
 ね。柔らかく溶かすように、稚く、けれども容赦なく、ハニーはその羽を千切り取る。
 裂かれるのを厭うでもない。痛みは当然のもの。甘い蜂蜜色で、青年のこどもはわらう。――このここちは、なんだろな。
「……ああ、我らは我慢、してたでしょうか」
 きっとそうなのでしょうね、とハニーは笑う。千切る。落とす。肉が落ちる音がした気がする。
「ふふ。お前にこらえなくってよいですよと言っておきながら、この様とは」
「――くろ丸、いいよ」
 更にハニーへ振りかぶった烏の鉤爪を、イチの声に応えるようにして、くろ丸が弾いた。その小さな身体は風に浮く。けれどもひしめき合う翼を器用に駆けて、彼女はフォンのいるソリへ駆けた。
「うん。……守って、いて」
 右手。左手。呼ぶのは、星。蒼き星。――それは炎だ。空を落ちながら浮かぶ迷星たちは、翼と鉤爪を狙って放たれる。瞬きの間に流れ落ちる流星のように、叩き、落とす。
 もがくようにイチを殴り飛ばす翼も、爪もあった。たぶん体が軋んだ。口の中に血の味がした。
(死ななければ、いいや)
 致命傷になりそうなものだけは確実に避けて、痛みを知らぬものにする。
「あなたも、欲しがればいいのに」
「――うん。でも今の僕の欲は、仲間を守って君たちを倒したい、だから」
 イチが星を放つ。キトリの花びらが舞う。ハニーがその羽を千切って。
「あたしたちはあげない。フォンもあげない! こんなところに閉じこもっているだけのあなたたちにあげる物なんて、なんにもないんだから!」
「ふふ、愛しい烏。……ああ、我らもお前が欲しいとも」
「そう。――だから。我慢しなくて、いいね?」

 花びらと、青い炎と呂色。それから、ペンギンのソリが飛んでいる。それを見上げて、オズは緩く笑った。
「わたしのところにおいで」
 がらり、がらん。鳴り響くのは鈴の音。手にした斧にはきらきらと輝くばかりの飾りが揺れる。赤に橙、まるで子供の玩具のように、オズはそれを振り下ろした。
 ガラン。
 音に、飾りに呼ばれたように烏が旋回する。向かい来るその翼が、鉤爪が、煌めく飾りを奪い取るように触れて。
 ぱきん、と粉々になった。
「あげないよ」
 オズはきらきら舞うかけらたちの中で、躊躇いなく斧を翼へ落とす。
「ほしがるのが自由なら、あげないのも自由だ」
 烏が落ちる。別の翼と鉤爪が喚きながらオズを容赦なく撃ち、穿った。嫌な音が頭に響き、身体が軋む。それでも、次いで返った翼を斧で受け止めた。
「だからわたしは――わたしたちは、きみたちをたおすね」
 傷を厭わずオズは笑う。その微笑みの後ろから、烏を撃ち抜く銃弾があった。
 一発。二発。三発。
(急所は何処かな)
 スコープを覗くリュカの瞳は、喚くばかりの口を狙い撃つ。オズに傷を負わせたその鉤爪を砕き、胴を砕き、あらゆる装甲を、その欲を跡形もなく破壊する。
 僅かに不機嫌そうに寄せられたリュカの眉根が、ばらばらと落ちてゆく烏を見て常のかたちを取り戻した。
「お兄さんのペンギンは飛んでいるけど、遊びは終わり。……数を減らそう」
 オズが引きつけた烏人形を、リュカが確実に仕留め落とす。落ちながらの射撃は体勢が取りづらかったけれど、オズが喚んだソリを足場にすれば、不可能ではなかった。
(ずっと此処から狙っていたら、いずれお姉さんも狙われる)
 ソリにはフォンが乗っている。それを狙わせるわけには行かない。その考えは、オズも同じだろう。
「リュカっ」
 オズが呼んだ。その身体が盾になるように構えを取り、翼を落とす。真黒い羽根が飛び散った――その隙間で、リュカも宙に身を投げる。撃つ。オズはその射線を確保するように斧を振るう。
「わたしは、ケガしたってへいき。ぜったいにリュカがしとめてくれるもの」
 恐怖も躊躇いも、負傷さえ気に留めない。それはオズとリュカ、どちらともだ。
 鉤爪がリュカの頬を掠った。けれど目も閉じずに引き金を引く。
(慣れてるし)
 気にするのは、時間の無駄だ。傷のない戦場がどこにある。
「欲しい」
「足りない」
「あなたも」
 姦しい口を撃ち抜いた。たりない、満ちぬ空虚と空腹を最後の音にして、烏が落ちる。オズの肩越しに次の標的に照準を合わせながら、リュカは呟いた。
「……それはきっと、追い求めても果てのないものだよ」

 リュカ少年、とフォンが手を伸ばした頃には、猟兵の少年はそこにいなかった。どこか呆然としてフォンはソリの中で抱え込んだ端末に手を戻す。
「欲しい、ですか。……欲望に忠実な人が既に此処に居るような」
「なんじゃと! 儂は食べちゃいたいほど愛してる系ではないぞ、食うたら見えなくなるじゃろ! っていうかここにおったのか猟兵様! 近距離! ミステリアス! イケメン!」
「元気なことで……ええまあ、前に出るほうじゃないんでって言ったでしょう。近くで見守ってますんで」
 あっさりとフォンの隣で言ってのけたのはスキアファールだった。影のような男は、肌を隠すように巻かれた包帯に手を当てて自分の喉を確かめる。
「喉の調子は……寒いけど大丈夫そうかな、ヨシ」
 落としても落としても迫り来る烏人形たちを視界に収める。――声はどこまで響くだろうか。己の歌は。
 スキアファールは口を開いた、歌を歌った。けれどその旋律も歌詞も、フォンにも誰にも聞こえなかった。
 男のその歌は、聴かす相手にしか聞こえない。今ならば敵。オブリビオン。歌声は、烏たちにのみ響き渡る。
「なんじゃ……?」
 それが響く様はまるで怪奇な様相だった。烏たちは突然に平衡感覚を失ったようによたつき、振りかぶった鉤爪を振り下ろすことができなくなる。ソリへ一直線に向かってきた敵は、何かに阻まれたように落ちて行った。
「――欲望に忠実、大いに結構。でも、押しつけはご遠慮頂きたいな」
 やれやれ、冗談めかしてスキアファールは笑う。歌う。歌――それが己のなによりの。
「これでも結構、我慢せず欲望に忠実に生きてる心算だ」

 地面は未だ見えず、底は黒い。
 動きが悪くなった黒翼を突き倒すように散らしながら、ライオットは抉ろうと向かって来た鉤爪を氷剣で殴り落とした。斬り落とせたなら一番だが、生憎斬るにはさほど向いていない。同時に爪で足の肉を引き裂かれるのがわかった。そちらを見ずに蹴り落とす。
(地面まではまだある。――宙で動けなくなるのは避けたほうが良いかな)
 いざとなれば後にいる頼もしい友人が上手くやってくれるだろうけれど。
 愚直に向かって来る数羽の烏人形に、半ば体当たりのような形で道を開けば、どちらもの身体が軋む音がした。
「……はは、痛いかい。盾の一撃というのも、なかなか重いだろう?」
 落下速度すら武器だ。その名の通り、ライオットは微笑みすらして押し進む。それを援護するように、撃ち抜く銃声があった。
(守るってなると無茶するんだから)
 両手に構えた銃を翼のように構えて、白雪は軽い身体を風に乗せる。視界の端にはフォンのいるソリがあった。自分の役割は後方支援、そしてあの研究者の護衛だ。――飛んで来るのがあのペンギンたちだったら良かったのに、なんて過ぎったのは気のせいにする。
「ライオット!」
 ぶわ、と新たな群れが底から舞い上がったのが見えた。咄嗟に叫ぶ。僅かに翡翠に透ける青い瞳と目が合った。
「いけるかい、白雪さん」
「やるわ。突き放して!」
 声と同時に、ライオットが群がった敵を振り払う。そこへ真っ赤な業火が叩き込まれた。炎は一瞬で群れを成す烏たちに広がる。ひとつがそれを抜けて白雪へ迫ったが、一瞬後には胸元に黒剣が貫き通されていた。新しく手に覚えたガンブレードは、無茶に応え易い。
「タダじゃ済まさないわよ」
 零距離で引金を引く。――瞬間、銃の反動と烏人形が砕ける衝撃が白雪へ伝わった。

 銃声に重ねるようにして、銃声が響く。巴の弾丸は華を咲かすように、烏たちの四肢を正確に撃ち抜いた。
「七結」
「ええ、行きましょう」
 足元に地があれ、なかれ、この手に握り見据える意思さえあれば、猟兵たちは決して止まることはない。
 変わらず七結が構えた双刀は、鮮やかにその翼を落とす。絹のような髪を舞わせてなぎ払う、その斬撃を彩る巴の銃弾がある。
「ナユは欲望に従順よ。あなたたちと同じように、ね」
 払う。いなす。斬り落とす。欲する声が、耳をつく。
「言ったでしょう。――求めるままに求めればいい、と」
 七結はその欲を否定しない。強欲なまでの、食らいつくばかりの生き様を。
「ナユは、あなたの生命力がほしい」
 ふたつの刀身が烏たちを貫き通す。――注ぎ込まれるのは、あかく染める、毒。その欲を、生命を奪い取る。七結の両の手に、身体に伝わる感覚。
(嗚呼、満たされてゆく)
 鼓動のようだ。花蜜のようだ。いのちの様だ。その欲は。
「あなたたちの貪欲さは、ナユのなかで生き続けるわ」
 ふわりと笑んだ儚色の少女の舞に、応えるように吠える声があった。
「……おや。もうひとり、一緒に踊りたい子がいるようだよ」
 ひとつ、また銃弾で烏を送って、巴が囁く。その側に、喚ばれ出づる黄金のたてがみがあった。春風、と巴はその毛並みを撫でる。
「君たちが美味しそうだって。……いいよね?」
 我慢しなくていいんでしょう。巴は静かに笑う。春風が七結の傍に辿り着く。
「先にそう言ったのは、君たちだよ」
 ふわり、七結の白い手が春風のたてがみを撫でる。それを瞳に映して、巴が微笑んだ。
「我慢なんて必要ないわ。――さあ、たあんと召し上がれ」
 七結の手がたてがみからゆるりと離れ、風に舞う。そうして大きな口が、開かれた。

 砕ける音はどちらのものか。ただ、落ちるのが烏だったものばかりなのは、容易く見て取れた。
 数多の黒がぼろりと崩れて落ちてゆく。翼は羽根と散り、それでも欲はとめどなく、空洞に響いている。
(さっきまでの白銀の世界が嘘のようだな)
 ぽつりと思いながら、ジャハルはフォンの乗るソリの近くで、己の翼を大きく動かす。
 視線は先に飛ぶアルバを捉えた。――空は、己の領分だ。けれど与えられた役割は、護り。故に師に追従するのは、喚び出した影の小竜たちだ。
(……何故)
 欲する声に、思考が被る。そのとめどない我欲。そのための生き方。――何故、自分は知らぬままなのか。
「――ふふ、強欲に罪はないが。欲しければ奪ってみせるが良い」
 笑う声は師のものだった。楽しげだ。その身が裂かれ、砕かれてもなお、笑っている。
 美しい星が落ちながら、笑っている。
 唸る風の音と共に、魔法陣がアルバの手に、その周囲に浮かんだ。風槍は鋭さを増して、烏たちを貫き落とす。
 穿つ鉤爪の鋭さに、軋み砕ける音がする。痛みはとうに笑い飛ばした。
「私の理性を砕いて良いのか? そうなれば」
 内側から削ぎ落とすような鉤爪と黒翼に身体が薙ぎ払われる。その勢いのまま、風槍を撃ち返せば、無防備に晒された背はジャハルが確と受け止めた。アルバは笑う。
 理性が失われたところで、オブリビオンを殺す、唯それだけは失われ得ない。
「――真先に蹂躙されるは貴様等ぞ」
 ばきんと割れる音がした。ほとんど同時に風槍が飛び、敵を落とす。――ぐらついた華奢な身体もそのまま、堕ちる。
 刹那、欠け落ちた宝石の欠片を失わぬよう、武骨な手がその身を引き寄せ、握り締めた。郡魔が烏たちを払い落とす。
(……憎悪)
 抱く強い感情は、短剣を握り締めてもなお深い。続けざまに砕けた衝撃か意識を失ったらしいアルバの身体を片腕で抱えて、ジャハルは烏人形たちを鋭い眼光で睨みつけた。――飛び出しては、ならぬ。
「……む、いかん。意識が飛んでおったか。私の四肢は健在か、ジジ?」
 僅かな間で瞳を開いたアルバは、開口一番そう問うた。
「健在だ。……砕けてはいるが」
「上々だ。……やれ、そう怖い顔をするでない」
 くつくつと笑うアルバは、言い渡した命を守った従者の胸をこんと叩いた。
「気負わずとも、お前は良くやっているよ」
「別に、怒ってなどおらぬさ」
 淡々とした、けれど普段よりは低い声で、ジャハルは呟く。翼の影から、更に小竜が増えて烏を食い潰すように群がった。
「……師父にはな」

 飛べる者がいるのなら、フォンの着地の安全は一先ず大丈夫だと考えて良いだろうか。
 ようやく見えた地面までの距離を測りながら、シノアは更に速度を上げた。
 瞬きひとつで赤い瞳が真紅に染まる。抜いたままの太刀まで赤いのは、己の血が伝ったせいか。それでも斬れ味が鈍るような刀でもなければ、腕でもない。
「欲しいわ」
「欲しいの」
「欲しがることの、なにがわるいの?」
「欲しがることは、何も悪くはないわ」
 群がり来る翼を蹴って、一太刀で落とす。問いと共に羽ばたいた烏の子を、横に薙ぐ。
「けれど、貴方が欲しがるなら私が欲しがっても良いでしょう?」
 笑んだ唇は、紅い三日月を描いた。馴染んだ音だ。感触だ。己を抉る痛みさえ。
 黒い翼を抉る赤い鉄串があった。与えられた刹那、姦しい首をシノアの刀身が写して落とす。
「我は狩人。――さぁ、貴方の首を頂戴」
 紅く染まる瞳に、太刀。舞う桜色の髪は桜吹雪のように宙へ踊る。
(楽しそうですね)
 宵蔭の口元にも、釣られたように笑みが浮かんだ。愛らしいものに囲まれた彼女もまた楽しげではあったけれども、こうして戦う彼女は楽しげで、そして美しい。
(ああも美しいものを――欲を)
「あなたも」
「ええ、否定しませんとも」
 迫った烏に微笑んで、鉄の雨と鞭を放つ。途端に溢れた苦悶の声に、宵蔭は微笑んだ。
「私は我慢などしていませんよ? 邪なるものの苦悶こそ、我が愉悦」
 そして美しく戦う友に、目を細める。
「そして我が身を呪う血を、常に意識している」
 だからこそ、宵蔭は削がれる理性に赤い瞳で、顔色ひとつ変えずに笑う。
「――何を今更、です」
 黒翼が散る。それを蹴って飛んだ。宵蔭とシノアの背が並ぶ。
「じき地表に着くわ。もう残るものは少ないけれど、宵蔭、備えて」
「ええ、そうしましょう」
 狩人たちは空から地表を目指す。その翼で勢いを殺しながら。
「……やっぱり美人でしょう」
 ぽつりとシノアが宵蔭の横顔を盗み見て誰となく呟いた声には、落ちた黒い翼で地表が埋まる音が返った。

「タロ!」
「わかってる。――フォン先生」
 次第に飛び交う烏たちの数が減り、地表が迫る。それを見て取って、リチュエルとタロは仲間たちに護られて落ち続ける研究者のソリに寄り添った。
「な、なんじゃなんじゃ? さすがにこの勢いで落下して儂無事じゃなかろと思っておるし、顔面凶器レベルの猟兵様たちがこんなに見れて冥土の土産もたんまりで思い残すところは……」
「駄目だよ」
 じ、とタロはフォンの顔を覗き込んだ。
「言葉は想いのかたちを定めてしまう。運命を、其方に傾けてしまう。だから、そんなふうに言っては駄目」
 紡ぐ言葉は諭すより、願うようだった。――願いを願う、声だった。
「見縊るなって言ったろうが」
 呆れた声で、リチュエルが先を示す。猟兵たちが開いた道は、落ちた翼で重ねられている。
 それでも尚向かい来る者たちを、リチュエルの水晶が叩き落とした。
「おい、木偶烏ども。欲しがるのは勝手だがな、奪おうとするなら、話は別だろ」
 欲も、何も。それは得たものだけが持つものだ。その権利を、運命を奪って良いものなどではない。
 ――欲しがるだけで、願いもなにも、積まれなかった人形たち。
「僕は、叶う願いが見たい」
 風が鳴る。タロの、リチュエルの纏った白が舞う。迷わずその身を盾にする彼らに、フォンはどこかぽかんとしていた。
「それは初めから、抑え込んでなどいないから」
 真白い少年は笑って、筆を取った。極彩色を自在に描けるその先から描く、その色は白。
 黒い翼を、限りなく染めて。ソリが落ちるその先の濁った翼の山を、雪のような純白に塗り替えた。
「……美しい。儂は覚えたものを、この手で持って帰りたい」
 ぽつりと溢れた声を庇ってタロは笑う。鉤爪が多分、背を抉った。
「無茶しすぎだ、阿呆!」
「ごめんリチュ、でも――」

 落下するソリをぐいと引く力があった。見上げれば、そこに蒼い青年を抱いた褐色の竜人――ジャハルとアルバがいる。
「減速させる。体勢を整えると良い」
「ああ、頼む。動けるか、タロ」
「平気。他の皆は……」
「皆、充分に緩衝を得ているようですよ」
 アルバが笑んで、タロもほっと息を吐いた。
「――なら、最後まで仕留めないとね」
「リュカ、わたしに掴まって」
 最後まで蠢くものをリュカの銃弾が撃ち抜き、オズがその手を引いた。
「春風、七結をお願い」
「……ふかふかね」
 巴の騎乗した春風に、七結が身を預けて。
「咲さん、こちらへ。……勢いは殺しましたが、安全とも言い切れません」
「それは綾さんもですよ。――でも、そうですね」
 ありがとうございます、と傷を負った身体を預けるように、咲は綾の手を取った。
「白雪さんも、いつも通りに」
「お願いするわ、ライオット。……多分普通に着地しても砕けちゃうもの」
「砕けるのはいけないな。――我ら、こうして生きているもの」
「……うん、生きてる。護ってくれて、ありがとう、くろ丸」
 ハニーとイチも、ソリに追いついた。ぴょんとくろ丸がイチの胸に尻尾を振って飛び込む。
「ええ、みんな生きて帰るの。――ね、フォン。帰る道で、たくさんお話しましょうね!」
 キトリがきらきらした笑みで、フォンの肩にちょんと座った。大丈夫だと告げるように。
「――おや、地面ですねえ。けれど」
「最後まで、狩られに来てくれるのね」
 寸前で飛び出した烏を、シノアの太刀と、宵蔭の鉄串が貫き落とした、その先で。
「……あ、そろそろ歌い終わっていいやつです?」
 スキアファールが烏にしか聞こえぬ歌を終わらせた。

 ――白い地表に、猟兵たちはそれぞれ、降り立って。
「データ収集、これにて完了じゃ!」
 実はソリの中でずっとデータを掻き集めていた研究者が、きらきらとした声を上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『マザー『テラー』』

POW   :    「アナタは研究対象外です」
全身を【「恐怖を感じてない者」からの干渉遮断状態】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD   :    「アナタの思う“強さ”とは何でしょうか」
対象への質問と共に、【隣室や培養カプセルなど、あらゆる場所 】から【「愛しい子供たち」】を召喚する。満足な答えを得るまで、「愛しい子供たち」は対象を【恐怖に支配されるまま、我武者羅な動き】で攻撃する。
WIZ   :    「さぁ、ワタシにアナタの“恐怖”を見せて下さい」
【発狂する程の恐怖 】を籠めた【言霊】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【恐怖心】のみを攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は斬崎・霞架です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●File:Mother.Teller
 遺跡のデータ収集は完了された。研究者の高らかな声を受けて、ならば次はと猟兵たちは動き出す。
「猟兵様方、いざ撤収じゃ!」
 ――そう、調査に来たのだ。帰らなければ、完遂に成り得ない。
 けれど、極寒の遺跡のその奥は、邪神の巣だと誰もが知っていた。
「ワタシの愛しい子供たちを壊しつくておいて、挨拶もなしに帰ってしまわれるのですか」
 ただの壁と思われたその向こうから、女は唐突に現れた。長い髪と白衣を靡かせた、それこそ研究者のような彼女は、極寒の地底で、凍えた様子もなく笑んでいる。
 いけませんよ。マザー・テラーは笑う。
 その背後に、一本の道が見えた。地形からしてあれを辿れば出口だろう、とフォンが早口に囁く。
「逃げる前にお答えを。アナタの思う強さとはなんでしょうか」
 テラーは微笑む。どこかで何かが泣く声がした。
「生きるための目的でしょうか。それは欲でしょうか。ただの本能でしょうか」
 帰路を塞ぐように、女はそこにいる。たったひとりだ。けれども、あの群れを成した烏たちより、ぞっとするものが何かあった。
 それは恐怖だ。
 腹の底を抉るような、心の裏側を覗くような。
 底知れぬ瞳で、邪神は微笑む。

「さあ、ワタシにアナタの『恐怖』を見せて下さい」

====================
●三章:注意事項
 この導入追記後から受付を開始します。ボス戦になります。
 『恐怖』に対する心情を重視し、少数採用(おおよそ達成度まで)になります。
 先着順ではありません。以上、宜しければご参加お待ちしております。
====================
リュカ・エンキアンサス
オズお兄さん(f01136)と

恐怖…か
俺は俺が死ぬのが怖い
誰にも顧みられない命だ
せめて、俺だけは俺を大事にしないと
俺はきっと、死んだら何にも残らない

まあ、自分のことばっかり考えてる人間だから、是非もないけど

ありがとう、お兄さん、守ってくれて
なるべく早く片付ける

というわけで死なないために撃つ
一人なら逃げるけれど、今日はお兄さんたちがいるから
見捨てては、いけない
まあ、本当にいざとなったら見捨てるけど
ほんと躊躇なく見捨てるんだけど
後悔も自己嫌悪もするだろうけど、それでも
そうならないように
生きていくために強くなりたい
今のところ、それが俺の求める強さかなあ

なんかこの考えが一番怖いな
お兄さんが、少し眩しい


オズ・ケストナー
リュカ(f02586)と

こわいこと?
無意識に過ぎるのは大事な「おとうさん」の倒れている姿
だいじなひとをなくすのが、たすけられないのがこわい
それは自分でも気づいていないこと
いやなかんじだけを抱いて
?を浮かべる

ざわざわする
わたしが前にでれば、だいじょうぶ?
リュカはケガしてほしくない
いっぱいケガしてたおれたら、――そしたら

リュカももう起きなくなっちゃう?

だめ、だめだめ
リュカ
かばう位置に立ちながら声をかける
言葉が返ってくれば不安はやわらぐ
リュカはわたしがまもるからね、だいじょうぶ

斧で攻撃
リュカへの攻撃を全て武器受け

たおしていっしょに帰るんだよ
そうしたらリュカだって後悔なんてしなくてすむもの
そうでしょ?




「こわいこと?」
 問いかける声に一歩踏み出して、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は首をこてんと首を傾げた。
 問いかけの意味自体を問うように、オズのキトンブルーはきらきらしたままマザー・テラーを映した。覗き込まれる恐怖そのものを、オズは知らない。否、知ってはいてもそれを『そう』と呑み込めてはいない。
「恐怖……か」
 一歩後ろでぽつりと呟いたのはリュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)だった。
(俺は死ぬのが怖い)
 戦場を渡って来たから。その命の重さも軽さも、容易さも、きっと覚えてしまっている。
 引き金ひとつ。それだけで命は絶える。それはどの『いのち』にも言えることだ。だから。
(せめて、俺だけは俺を大事にしないと)
 ――誰にも顧みられない命だ。
 いつからそうだったろう。もう覚えていないけれど、自分の命はそういうものだと、リュカはそう思っている。そういう命を、たくさん見てきた。誰も惜しんだりはしない。誰も絶えたことに気づかない。
(俺はきっと、死んだら何にも残らない)
「価値のない死が怖いのですか? 価値のない自分が怖いのですか?」
 胸の内側に踏み込むような不躾な問いは、柔らかな笑みで響く。リュカは短く息を吐いた。
「――動かなくなったら、同じことだよ」
「……うごかない?」
 銃声を響かせたリュカのその前で、ようやく言葉を拾えたようにオズが呟く。
 うごかない。――へんじがない。
 うごかない。――おきてくれない。
 うごかない。――たすけられない。
(おとうさん)
 浮かんで、認識するより先に消えた無意識があった。過ぎったのは誰だったろう。わからない。
 倒れていた誰か。とても大切なだれか。だいじなひとを、なくすのが。――それを助けられないのが。
(ざわざわする)
 いやなかんじがした。何かがとても怖い気がした。けれどオズは、気づかない。ただ、すぐそこにいる大好きな友人が、もしも動かなくなってしまったら。
「だめだよ?」
「……オズお兄さん?」
「リュカはケガしてほしくない。だって、いっぱいケガしてたおれたら、――そしたら」
 それは恐怖だった。それが恐怖だった。大きなこどもは、それに気づけやしないけれど。
(リュカももう、起きなくなっちゃう?)
「そう。……その子も、誰も、返事をしてくれなくなってしまいますね?」
「だめ。だめだめ」
 響く声を振り払うように、オズは更に前へ出た。リュカを庇い立つ壁のように。
「リュカ」
「……大丈夫。ありがとう、お兄さん。守ってくれて」
 返った声に、酷くほっとした。渦巻く不安が、少しだけ和らぐ。斧を握り直す。
「リュカはわたしがまもるからね、だいじょうぶ」
 リュカへ向けた言葉は、自分への言葉でもあったかもしれない。
 目の前にある背中を見上げてリュカは目を眇め、それからスコープを覗いた。
(今日は、お兄さんたちがいるから)
 一人なら逃げるだろう。だってそのほうが、生き残る確率が上がる。
(見捨てては、行けない)
 それでもいざとなったら見捨てるのだろう。躊躇もなく、それを選べる人間だ。そう自分を知っていて、今すぐそこの背中を見ても、そう思うのだから。
「見捨てても良いのですよ」
 テラーが囁く。
「今はしないよ。必要なら、後悔したってするけど」
 そうして自己嫌悪するのだろう。結局どこまでも、自分のことばっかり考えてる人間だ。それでも。
「そうならないように。……生きていくために、強くなりたい」
「なれるよ」
 なんかこの考えが一番怖いな、苦笑がちに思いながらリュカが引き金を引いたその銃声に被さって、真っ直ぐな声がした。
「ね、リュカ。たおして、いっしょに帰るんだよ」
 テラーの呼び声に応えるようにして向かって来た命未満の人形たちが、一斉に押し寄せて来る。斧でそれを引き受けるように押し留めて、オズは微笑んだ。
「そうしたら、リュカだって後悔なんてしなくてすむもの。そうでしょ?」
 その微笑みに返事したのは星の銃声だった。撃ち出された弾丸はがむしゃらな人形たちを一直線に撃ち抜いて、テラーまで届く。オズの振るう斧が叩き込まれる。
 きっと今誰より、自分のことよりもリュカのことを考えてくれているその背を僅かに見て、リュカはまた少し目を眇めた。
(お兄さんが、少し眩しい)

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

キトリ・フローエ
…あたしはちいさいから
おおきいもの全てが怖かったことがあるわ

それはまだあたしが世界を知らなかった頃の話で
今は、あたしが生きてるのはそういう世界だと知ってる
おおきなみんなの手にかかれば、あたしなんて簡単に潰されちゃうし
気をつけないとおおきな鳥や獣にぱくっと食べられてしまうわ
だから、まだ怖い時がないわけじゃないけれど
でも、一緒にいるみんなは大きくても怖くないのよ

挨拶代わりに黎明の花彩を
こんな答えじゃきっとあなたは満足してくれないでしょうけれど
でも、あなたとは絶対に解り合えないって知ってるもの
だから、そこを通してもらうわ
あたし達は逃げるんじゃなくて、帰るのよ
でも、その前にあなたも骸の海へ還してあげる




 恐怖を問う声に、震えた翅があった。――その感覚に、覚えがあった。
「……あたしはちいさいから」
 小さな身体のちいさな声は、花の囁きのようであったかもしれない。キトリ・フローエ(星導・f02354)は、小さな手を握りしめる。
「おおきいもの全てが、怖かったことがあるわ」
 気づいたらひとりだった。周りのものは全て自分より大きくて、風は強くて、知らない世界は広かった。
「でも、それはまだあたしが世界を知らなかった頃の話よ」
 ちいさな翅を広げて、妖精は飛ぶ。ちいさな手を開けば、その中にふわりと青い花が咲いた。
「今は、あたしが生きてるのはそういう世界だって知ってる」
 怖がっていたって世界は変わらなくて、踏み出さなければ知らない世界は知らないままだった。
「大きいものは、アナタを知らないまま潰してしまいますよ?」
「ええそうね。おおきなみんなの手にかかれば、あたしなんて簡単に潰されちゃうし、気をつけないとおおきな鳥や獣にぱくっと食べられてしまうわ」
 それくらいにキトリは小さくて、世界は大きかった。
 ならば怖いでしょう。恐ろしいでしょう。マザー・テラーは微笑む。
「……まだ怖いときが、ないわけじゃないけれど」
 ちいさな心を握り潰すように踏み荒らす声に抗って、キトリは真っ直ぐ視線を上げる。
「でも、一緒にいるみんなは大きくても怖くないのよ」
 笑って花をくれる人がいる。そっとキトリが飾った花に気づいてくれる友人がいる。
 時々寂しさを運ぶ風も、その先に咲く花も、今日出会って、笑ってくれたあの子も。
 ちいさな指先に花が咲く。空の青。海の青。雪の白。微笑みの桃色。――きらきらひかる、花の彩り。その指が指し示すその先へ、花弁を乗せて風が行く。
「こんな答えじゃ、きっとあなたは満足してくれないでしょうけれど」
 けれど、解り合えないことも知っている。キトリたちがどんな答えを用意しても、狂気に滲んだ問いを満たすものはきっとない。
 色とりどりの花びらがテラーを取り囲んだ。それは光となり、その身に咲くようにして舞い踊る。僅かな叫びをあげて、テラーはキトリを見た。
「逃げるのですね」
「あたしたちは逃げるんじゃなくて、帰るのよ」
 キトリが見据えるのはテラーの背にある道だ。その道を辿れば、皆で帰り着くことができる。
「だから、そこを通してもらうわ」
 帰る場所を知っている。生まれた場所を知らなくたって、今進むべき道を見据えることができる。だから少女は花と笑う。
「あなたも、骸の海へ還してあげる」
 大丈夫。――振り向き様に見えたフォンに笑って、キトリは光る花を咲かせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リチュエル・チュレル
タロ(f04263)と

コイツが木偶烏どもの創造主、か
くだらねぇ人形作りやがって
コイツはホントに胸糞悪ぃ

ふん、強さねぇ
答えたらそこをどいてくれんのか?
…なんて、愚問だよな
他人の強さなんざ聞いても無駄だろ
オレの強さはオレのモンだ
テメェには理解できねぇし、参考になんてなりゃしねぇ
他人から与えられた答えで満足すんなら研究者の真似事なんかやめちまえ


ふと脳裏に過るのは
オレを創ったアイツと
タロを作ったあの人と
混乱の中、ひとり、押し込められた部屋と
奪われた意思と、意識と
眠りの間に喪われた全て――

(それでもオレには遺されたたったひとつがあるから)

テメェなんぞに見せてやるモンは何もねぇ
ありったけ、ぶつけてやるぜ!


タロ・トリオンフィ
リチュ(f04270)と

あなたも、研究者さん?
諦めないひとは、きっと強いと思うけれど
…でも、例えば世界中のひとが答えても
あなたはきっと満足しないのでしょう?

突破するならフォン先生を守り切るのを第一に
万一のときは何時ものように庇おうと前に出ておく

大丈夫、僕は本体さえ無事なら消えないし

ひとの恐怖に触れたことはあっても
自身は『物』恐怖心は無いと思っていた
――言霊に過るのは、主人を失い取り残される自分

『オレと帰るまでが遠足だぞ』と紡がれた言葉に微笑ったとき
自分ではなくリチュが居ない場合を考えた事もなかった

ざわりと疼く
それは嫌、と細く呟いて
撰び取るのは『力』のタロット
自分の手が震えるのを、初めて見た――




「あなたも、研究者さん?」
 僅かにぐらついた白衣が揺れるのを見つめて、タロ・トリオンフィ(水鏡・f04263)は恐怖を問いかけたマザー・テラーに静かに返すように問うた。
「……例えば世界中のひとが答えても、あなたはきっと満足しないのでしょう?」
「答えを聞いてみなければ、わかりません」
「なるほど、それもそうかな」
「納得してんじゃねぇよ。――テメェがあの木偶烏どもの創造主か。くだらねぇ人形作りやがって」
 ぼす、とタロのダウンコートを後ろから軽く叩いたリチュエル・チュレル(星詠み人形・f04270)は不機嫌そうに眉根を寄せる。
(コイツはホントに胸糞悪ぃ)
 そう思うのは、リチュエルもまた『占い人形』として造られた存在だからだろう。あの人形たちをテラーが何のために造ったのかは知れない。けれど少なくとも、リチュエルに、そしてタロに刻まれたような作り手の温度は、何処からも感じられなかった。
「リチュ、それ以上前に出ちゃ駄目だよ。僕は本体さえ無事なら消えないし」
 大丈夫、とタロがリチュエルの前に庇うように立つ。お前はまた、と呆れそうになったが、横顔を見上げて文句を言うのをやめた。絶対に聞かない顔だ。
「……強さねぇ」
 美しいばかりだった宝物が、こうしてヒトの姿を取り、目の前にいる。そんな奇跡みたいなことが当たり前になった今。
「答えたら、そこをどいてくれんのか? ――なんて、愚問だよな」
 テラーは笑う。リチュエルは強くその得体の知れぬ笑みを睨んだ。
「他人の強さなんざ聞いても無駄だろ」
 手にしていた水晶が、魔力を含んでゆっくり浮かぶ。その水晶が解けるように、花弁に変わる。
「オレの強さはオレのモンだ。テメェには理解できねぇし、参考になんてなりゃしねぇ」
 リチュエルの周りに数多浮かぶのは、宝石の花弁。鮮やかなパールホワイトの花が咲き、テラーへ狙いを定める。
「他人から与えられた答えで満足すんなら、研究者の真似事なんかやめちまえ」
「――アナタは、ヒトの真似事をしているのですか?」
 微笑みが宝石に刻まれながら問いかけた。その瞬間に、リチュエルの脳裏に過ぎったものがあった。
 忘れもしない、自分の創り手。
 宝物を描いたあの人。
(やめろ)
 ひとり、押し込められた部屋があった。混沌と混乱の中で、奪われた意識と意志。ただの人形みたいに、大切に仕舞われて、勿論喋れもせず、夢だって見なくて。
(全部、なくなる)
 ――なくなった。ただ眠っている間に、すべては喪われてしまった。

「リチュ!」
 呼ぶ声が、した。それは今にしかない声だ。今のリチュエルに遺された、宝物。
 目を開く。それで閉じていたことを知った。泣きそうな顔が見えた。手を伸ばす。
(オレには遺されたたったひとつがあるから)
 伸ばした手を力強く掴む手があった。そんなに握ると普通は痛いのだって、教えてやらないといけない。
「リチュ。――しっかりして。ねえ、リチュ」
 タロは繰り返し名前を呼んだ。虚ろになった自らの主人を強く揺する。
(恐怖なんて、ないはずなのに)
 ざわりとなにかが疼く。寒さなんて気にならなかったはずなのに、酷く指先が凍えたような気がする。
 オレと帰るまでが遠足だと言ったリチュエルに微笑ったとき、彼女がいないことを考えたこともなかった。
 彼女がいなくなる。――ひとりに、なる。
「……嫌」
 消え入るような声で呟いて、タロはリチュエルを引き寄せた。その手が震えているのを、初めて見た。
「嫌だよ、リチュ――」
 初めて知った。君がいなくなることが、きっと一番怖いのだって。
「……情けねぇ声出すな」
 呆れたように、握り返す手があった。瞳が合う。ラピスラズリがタロを映す。行くぞ、と指先が、落ちかけた宝石花を導いた。
「リチュ」
「あんなやつなんぞにそんな面見せてやるんじゃねぇ」
 うん、と頷いて、タロが震える指先で撰び取ったのは『力』を記した一枚のタロット。手を重ねる。力を渡す。
「――ありったけ、ぶつけてやるぜ!」
 ふたりぶんの力を乗せた花嵐が、テラーの叫びごと呑み込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

スキアファール・イリャルギ
強さ?
生を彩る為の、欲望を満たす為の、手段のひとつですかね
生きる"だけ"なら強さも……歌も、きっと必要ないでしょう
私は人間を謳歌する為――
"自分が怪奇である"事を忘れない為に、それらを求める

……フォンさん
すみません嘘つきました
隣、少し留守にさせて下さい

敵に【叉拏】をぶちかます
動けないのを利用して近づく
恐怖を感じてない者からの干渉遮断?
――私が、"怪奇"だと
身体が業病に蝕まれていたと"気付いた"時から
恐怖を感じていないとでも?

勘 違 い も 甚 だ し い !

人間を忘れる事を!
怪奇を忘れる事を!
一瞬たりとも"怖くない"と思ったことはない!!

見えるんだろう、この恐怖が
――それでいい、全部見てしまえ




 その問いかけに、――強制的に胸に巣食った恐怖に、怯まなかったものがいたろうか。
 少なくとも、スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)は隣の護衛対象、フォン・パーヴェルの身体が竦んだのを見て取った。けれど。
「……フォンさん、すみません」
 ゆっくりと足を前に出す。進む。驚いたようにフォンが猟兵様、と呟いたのに僅かに振り向いた。
「嘘、つきました」
 見守っていると言ったその隣を、影は離れた。
「隣、少し留守にさせて下さい」

 恐怖を見せろと声は言う。強さとは何ぞと問いかける。その声の元へ進みゆく。
(強さ。――強さ?)
 は、と薄く息が漏れた。答えろと言うなら、答えてやろう。
「生を彩る為の、欲望を満たす為の、手段のひとつですかね」
 だってそうでしょう。男は笑う。
「生きる『だけ』なら、強さも……歌も、きっと必要ないでしょう」
 弱いなら弱いなりの生き方がある。かたちも影も持たぬ歌を、喉に焼き付ける必要だって、きっとなかった。けれどそうした。
 ゆらり、影は近づく。テラーは進みを揺らがせもせず、恐怖も滲ませない男から、ふと視線を外した。
「アナタは研究対象外です」
「嗚呼、そうですか。構いませんよ。けれど敢えて答えましょう」
 くつりと笑って、歩を進める。
 強さも歌も。それはスキアファールにとって、必要なものであった。
「私は人間を謳歌する為――『自分が怪奇である』ことを忘れない為に、それらを求める」
 人であったはずだった。けれどただの人ではなかった。
(――私が『怪奇』だと)
 そう、気づいたときから。
 この身体が業病に蝕まれていたと、気づいたときから。
「……恐怖を、感じていないとでも?」
 スキアファールはテラーの目前に立った。興味が失せたように視線を外した彼女と、やっと目が合った。包帯に覆われた手を伸ばす。影が伸びる。怪奇の手が、その両耳を塞ぐ。

「――勘違いも甚だしい!」

 ほんの一瞬の歌が、テラーに流れ込んだ。悲痛な音だ。悲痛な声だ。
「人間を忘れることを! 怪奇を忘れることを! 一瞬たりとも『怖くない』と思ったことはない!!」
 歌を叩き込まれたテラーが、もがく。その瞳には驚愕が滲んでいた。きっと、その攻撃は届かぬと思っていたのだろう。
 それに笑う。スキアファールは己が影をテラーへ落とす。
「見えるんだろう、この恐怖が」
 見たいんだろう、男は笑う。視線を逸らすことすら許さず、問われたものをその瞳に焼き付けさせる。傷ひとつ負うことなく、その生命が終わる恐怖を覗かせる。
「――それでいい。全部見てしまえ」
 この命が怪奇と、恐怖と、歌と共にあるうちに。

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
f01982/咲さん

符を一葉、フォンさんへ
彼女も恐怖に囚われてしまわぬよう、お守り代わりに

真摯で優しい咲さんの眼差しに淡く笑み
高速詠唱で編む、雪花の如き花筐

答えを希求する智への果てしない慾は
自身も持つもの故に
退路を拓く花嵐の中、穏やかにいらえる

強さとは克己、と思います
自身の負の想いさえ乗り越える力は尊い

私の恐怖は
いのちを賭すようなひと時にも
何かを識りたいと願う慾を抑えきれない事
身を護ることさえ軽んじてしまう事

ねぇ、テラー
あなたと似ているでしょう?

齎される癒しは瑞々しい森の香
生命の息吹
きっと私には相応しくない

其れでも
生きていなければ慾を満たせやしないのだから
今は己を疎かにはしないと、誓いましょう


雨糸・咲
綾さん/f01786

フォンさんには下がってもらい、テラーと対峙
愛しいと言いつつ「壊す」と言う
そこに僅かの違和感を覚えて

何でしょう
母と言うには、あなたは愛情が足りないように思えます

自分にとっての恐怖は喪失
手足を持って走り出した、その日に全て壊れてしまった
ただそれだけと願った全てが

だから私は、護ります
フォンさんも研究結果も他の人たちも
勿論――綾さん、あなたも

その為なら自分の何を賭けても良い
同じ思いをする方が
手足をもがれるよりずっと耐え難い

でも、

樹々生い茂る深い森の香りを乗せた青葉で自身も周囲も次々癒し

大丈夫
簡単に自分を疎かにしたりはしません

返る誓いに傍らを見上げ
今だけでは困りますよ、と穏やかに笑む




 倒れたのは猟兵と、マザー・テラーと双方だった。
 強さと恐怖。その双方を見せつけた影色に、テラーが困惑したように言葉を失くしている。その隙に迷わず踏み出しながら、雨糸・咲(希旻・f01982)は立ち竦んだ研究者の肩にそっと触れた。
「フォンさん、下がっていて下さい」
 じゃが、とか細く溢れた声には、都槻・綾(夜宵の森・f01786)が微笑んで符を一葉、握らせた。
「お守りです」
 恐怖に囚われぬよう、と含められた言霊に、揺らいでいたフォンの瞳が定まる。それを見てとって、咲と綾は足音をふたつ、響かせた。
 テラーがゆらりと顔を上げる。
「何故でしょう。アナタたちは恐怖を知っているのに。愛しい子供たちを壊して、その虚を覗いたはずなのに」
「……何でしょう。母と言うには、あなたには愛情が足りないように思えます」
 立ち上がった姿を見据えて、咲は覚えていた違和感を口にした。彼女が口にする『愛しい』と『子供たち』。それを『壊す』と言う。まるで、壊れることがわかっていたように。
 けれども、テラーはうっそり微笑むばかりだ。
「それが何か。研究に、失敗は付き物です」
「……それがあなたの慾ですか」
 咲の真摯な眼差しに淡い笑みを浮かべて、テラーから返った言葉に綾は白い息をほうと吐いた。その次の息で紡ぐ詠唱は、風の音に良く似ていたかもしれない。言の葉で編み上げるのは、雪花の如き花嵐。真白い花弁は無数に舞って、テラーを一息に包み込む。
 拓き導くのはその先の道だ。――きっとこの場所を放棄してまで追っては来ない。確信じみた心地があった。
「アナタは、知りたいのでしょう?」
「そう、識りたいのです」
 綾は穏やかな笑みで唇を彩る。答えを希求する智への果てしない慾は、自身も持つものだ。それゆえに。
「私の恐怖は、いのちを賭すようなひと時にも、何かを識りたいと願う慾を抑えきれないこと」
 花弁の隙間を縫うように入り込む恐怖のかたちに、ゆっくりといらえた。
「身を護ることさえ、軽んじてしまうこと」
 この身を今穿つ恐怖の破片さえ、智識の一端であるならば。
 四季を彩り、その身を刻む花ひとひらに、男は言葉を乗せた。
「ねぇ、テラー。あなたと似ているでしょう?」
「……ではアナタは知ってどうすると言うのでしょうか」
 猟兵たちが重ねた攻撃に、テラーは確実にぐらついていた。それでも浮かぶ笑みだけは変わらない。ぞっとする笑みだ。柔らかいのに、冷たい声だ。――その声を遮るように、ふわりと香る風があった。
 白銀の世界にはほとんど見られない瑞々しい青葉が、風を連れて吹き渡る。
(喪われないで)
 祈るように、咲は自身の手を組み合わせた。
 喪失。それが咲の抱く恐怖だ。問われるまでもなく、わかっていた。手足を持って走り出したあの日に。
(全て壊れてしまった)
 ――ただそれだけと願った、すべて。
「……だから私は、護ります」
 青葉が風に広がる。吹き抜けるのは刺すような冷たい風ではなく、花の、草木の、果実の香りを運ぶ甘やかな森の風だった。それはフォンを、咲を、綾を、その場に集った猟兵たち全てを癒してゆく。
「フォンさんも、研究結果も、他の人たちも。勿論――綾さん、あなたも」
 同時に自分の身が、ぐっと重くなるような錯覚があった。動いてもいないのに、息が微かに切れる。けれどそれも気にしなかった。
 自分も、誰も喪わないで済むのなら、そのためなら、自分の何を賭けても良い。
(あのときと同じ思いをするほうが、手足をもがれるよりずっと耐え難い)
 ――でも。
 咲は重ねた手をほどいた。青葉を掌に遊ばせれば、柔らかな緑風は、自身すら癒してくれる。
「大丈夫。簡単に自分を疎かにしたりはしません」
 群青色の髪を靡かせて、咲は微笑む。一歩前で花を咲かすそのひとに、生命の息吹を届けるように。
 もたらされた癒しの風に、綾は僅かな苦笑を浮かべた。心地の良い、森の香。
(きっとわたしには相応しくない)
 それでも、生きていなければ慾を満たせやしないのだ。なればこそ。
「……今は、己を疎かにはしないと、誓いましょう」
 指一本先で触れ合わぬ肩に、綾は誓いを告げる。
 傍らから返すように見上げる咲は少し瞳を丸くして、それから穏やかに笑みを浮かべた。
「今だけでは困りますよ」
 支え合うようにして、雪花の花弁と青葉が舞いゆく。――その先に、一筋の帰路が見えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鶴澤・白雪
ライオット(f16281)と

あと一息だけど素直に通しちゃくれなそうね
強さも恐怖も知らないわ
生産性のない哲学に興味ないの

そう思っていたのに走馬燈のようにあの子の最後が浮かぶ
やめて、あたしを助けようとしないで
お願いだから自分の事だけ考えて
もう2度と誰かの未来が、幸せがあたしのせいで消えてほしくない
あたしはあたしのせいで大切な人が傷つくことが何よりも怖い

だから守らなくてもいいと思わせるような前向きさが
誰かを守れる純粋な力があたしにとっての強さなのかもしれない
ライオットたちが眩しいと感じるのきっとそのせいね

ムカつく
でも強がる理由は再確認できたわ
上等よ、王子の目の前で無様な姿なんざ晒さないから見てなさい


ライオット・シヴァルレガリア
白雪さん(f09233)と

強さ、そして恐怖…
正直に言うと、僕にはまだよく分からないものだ
でもどちらも人間を形作る大切なものだってことは知っているよ

…ああ白雪さん、君は今『恐怖』というやつを感じているんだね
大丈夫かと声をかけようとしたけれど
僕が声をかける前に、白雪さんは自分の力で前を向いてしまった

そうか、きっと恐怖があるからこそこんなにも人間たちは強い
やっぱり人間は僕にとっては興味深い存在だよ

僕はこれからも人々の盾になる
誰かに強さを与えられるなら、盾としては本望だ

さて、それじゃあ戦おうか
白雪さんの強がり、この目で見届けさせてもらうよ




「あと一息だけど素直に通しちゃくれなそうね」
 光差す路をマザー・テラーの背後に見つけて、鶴澤・白雪(棘晶インフェルノ・f09233)は小さく舌打ちした。フォンだけでも逃がすことができたならあとはどうとでもなるだろうが、相手は物理よりは心の隙を狙うらしい。
「アナタの恐怖を――」
「強さも恐怖も知らないわ。生産性のない哲学に興味ないの」
 ばっさりと切り捨てるように遮れば、隣でライオット・シヴァルレガリア(ファランクス・f16281)がくすくすと笑った。
「白雪さんらしいね」
「そうかしら?」
「ああ。……正直に言うと、僕にはまだよく分からないものだから」
 ヒトの形を取って、まだ幾ばくも経っていない。人間たちのことは、随分と昔から見つめて来たつもりだけれど。
「でもどちらも、人間を形作る大切なものだってことは知っているよ」
 だから、と構えを取ったライオットの一歩後ろに下がって、白雪も銃を構えた。――スコープを覗いた先にテラーを捉えた、そのときだ。
 目の前が、真っ赤に染まった気がした。
(え――)
 ――『やめて』
 叫んだのは、たぶん自分だった。脳裏に忙しなく駆け巡ったのは、あの子の最期。
(やめて、あたしを助けようとしないで)
 あの頃、あのとき、世界でただひとり愛してくれていたあの子。
(お願いだから、自分のことだけ考えて)
 どうしてそんなに綺麗に笑うの。どうしてひとつも迷わなかったの。どうして代わりになってしまったの。

 ――どうしてあたしなんかを、愛したの?

(もう二度と誰かの未来が、幸せがあたしのせいで消えてほしくない)
 ばきばきと、音を立てて砕けるもの。
 手を伸ばしたって届かないもの。
 自分の目の前で、喪われる大切なひと。
(あたしはあたしのせいで大切な人が傷つくことが何よりも――)
 怖い。怖いのだ。そう不意に、わかってしまった。
「……だから」
 だから、守られなくてもいいと思わせるような前向きさが、誰かを守れる純粋な力が、眩しい。
「白雪さん」
「……むかつく」
 ライオットが呼びかけたちょうどそのタイミングで、ぽつりと白雪は呟いた。
「……白雪さん?」
「上等よ。王子の前で無様な姿なんざ晒さないから、見てなさい」
 白雪は顔を上げる。睨み付ける。尖晶石の瞳が、テラーを捉えた。
 突きつけられた恐怖で、気づいた。改めて認識した、強がる理由。――ライオットたちが眩しいと感じる理由。
(大丈夫そうかな)
 いつかのように呼び戻すように呼ばずとも、白雪は自力で前を向いた。その真っ直ぐな横顔を見て、そうか、とライオットは気づく。
(きっと恐怖があるからこそ、こんなにも人間たちは強い)
 その恐怖を、ライオットは真に理解できていない。できないのかもしれない。けれどだからこそ、盾は盾として、その恐怖の前に立てる。
「……やっぱり人間は僕にとっては興味深い存在だよ」
 戦場で武器を持つ理由。盾を持つ理由。何に恐怖し、何に激昂して、どうして生きるのか。
 知らぬことばかりだ。だからこそ、恐怖を問う声に、ライオットは笑う。
「僕はこれからも人々の盾になる。誰かに強さを与えられるなら、盾としては本望だ」
 ライオット。呼ぶ声に構えを取る。視線と気配で、タイミングは重なった。光が天から真っ直ぐに駆け抜け、蒼焔が光路を辿る。突きつけられた鉄槌は、宝石の棘と共に、テラーを深く貫いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
やれ、明け透けに人の闇を覗き込むとは
デリカシーのない輩は嫌われるぞ?

魔方陣より【女王の臣僕】を召喚
ほれ、少し頭を冷やしてやれ
女と戦う刹那、脳裏を過るはあの日の情景
無慈悲に砕かれ、散る宝石の残滓
耳を劈く悲痛な断末魔

血なぞ流れぬと云うに
血の気が引く様な感覚
呼吸が乱れる、鼓動が五月蝿い
――不意に、我が業へ身を委ねる阿呆が目に留る
唇を噛み、歩を進め
蒼褪めた頬へ力の限り拳を沈める
…目が覚めたか?
そうか、序でに私も目が冴えた

さて――悪夢を見せて貰った礼だ
盛大に持て成さねばなるまい
何、遠慮するな
女王も、その臣下も
貴様と戯れたいと仰られておる故

…ああ、広いな
そして寒い
疾く帰り、暖の支度だ


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と

許可なく踏み込む権利など貴様にはないぞ
女の周囲に陽炎のような影
気の所為と思えども耳に響く声

「我が身を優先した」
…そうだ
「その為に犠牲にした」
…ああ、そうだ
「また自分だけ生き永らえるに違いない!」

絞り出した筈の否定は言葉にならず
いつか護るべきものを裏切る苦痛に
指先から冷えてゆく
――師父、

応えたのは拳
一瞬、呆気に取られるが
それは微かだが確かに震えていて
…其方こそ
口内の血を吐き捨て直ぐに背を向け、戦場へ

見えぬ苦痛は如何に現れような
返すは【叛虐】
恐怖も痛みも全て
引き摺っていくことしか「そう」だと知らぬ愚か者故
通して貰うぞ

道の先、凍えるような真白が肺腑を刺そうと
…そとは広いな、師父




 くず折れた人影に、くつくつと笑う声があった。
「やれ、明け透けに人の闇を覗き込むとは、デリカシーのない輩は嫌われるぞ?」
 足元の覚束ないマザー・テラーにアルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は揶揄うような声でそう声を掛けた。
 うるさいですね。抑揚のない声が呟いた。それでもなお、テラーは壊れたように問うのだ。
「アナタの恐怖を、教えてください」
「……まったく。ほれ、少し頭を冷やしてやれ」
 呆れた色に声音を変えて、アルバは指先で円を描いた。その軌跡に浮かぶのは、蒼く光る魔法陣――出づるのは、青き蝶。その優雅な翅からきらきらと溢れる冱てる鱗粉は、極寒の地ではなお冷たさを増す。
「師父の云う通り、許可なく踏み込む権利など貴様にはないぞ」
 ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)も静かな声で、既に立ち上がる余力もないように見えるテラーへ一歩近づいた。
 その、刹那。アルバの脳裏に過ぎった景色があった。ジャハルの耳に、声なき声が聴こえた。
『――、――』
 誰が何を呼んだか。アルバが手を伸ばそうとしたその先で、砕け散った宝石があった。
 星屑のようにきらきらと散って、決してもとのかたちを取らぬ。
『――!!』
 耳を劈くような断末魔が頭に木霊した。すぐそこで聞いたその悲痛な声が、今、そこにいたような気がした。
 僅かに足元が揺らいだ。肩から落ちた髪を赤い指先でぐしゃりと掴む。その指先に、感覚がなかった。
(血なぞ流れぬと云うに)
 血の気が引くようだ。呼吸が乱れる。鼓動が五月蝿い。
 ぐらついたアルバの身体が、大きな身体にとんと触れた。――けれど、知らず寄りかかってしまったその大きな身体は、アルバよりも冷たかった。
 ジャハルの耳は、声を聞く。揺らぐ影の声を聴く。
『我が身を優先した』
(……そうだ)
『その為に犠牲にした』
(……ああ、そうだ)
『また自分だけ、生き永らえるに違いない!』
 絞り出したはずの否定は、言葉にならなかった。
 また、自分だけ目を覚ます。地獄の底だ。禍根の泥に塗れるようにして目を瞑っても、眠れもしない。今そこにある陽炎から、目を逸らせすらしない。
 いつか。
 また。
 灯された星の光を、護るべきものを裏切るのなら。
 ――業に囚われ、温度と呼吸を忘れ掛けたジャハルの頬が殴られたのは、その瞬間だった。
「……目が、覚めたか?」
 は、と浅い呼吸が聞こえる。細い肩が、大きく上下しているように見えた。正気に返るのは勿論、つい呆気に取られたのも致し方ないだろう。
 殴ったのは、確かにアルバの拳だった。
「――……師父」
 呼んで、ようやく焦点が定まる。同時に頬を殴った手が、僅かに震えていたのに気づいた。
 呼吸と一緒に滑り込んだ恐怖。それに侵されたのは、師も同様だったのだろう。
「……其方こそ」
 殴られた拍子に切れたらしい。口の中に広がった血を吐き捨てて、ジャハルは唇をぞんざいに拭うと、すぐさま背を向けるようにして前へ踏み出した。
「そうか、序でに私も目が冴えた」
 ゆっくりと息を整えて、アルバも笑う。
「さて、悪夢を見せて貰った礼だ。盛大に持て成さねばなるまい」
「……嗚呼、そうだな」
 視線を向けた先で、ついにテラーはけたけたと笑い出した。
「嗚呼、嗚呼、ステキな恐怖です。そして脆く逞しい強さ。ワタシはとても――」
「黙れ」
 低い声が二つ重なる。落ちたジャハルの影から飛び立ったのは竜だった。その黒き顎が牙を剥く。喉元に喰らいつく。
「見えぬ苦痛は、如何に現れような」
 テラーは何か叫んだのかもしれない。だが断末魔も問う声も、全ては返された牙と苦痛に呑み込まれる。
「――どうして?」
 問うたのは、誰だったろう。骸の海へ還るばかりの影だったか、記憶だったか。溢すように、ジャハルは呟いた。
「……恐怖も、痛みも。全て、引き摺っていくことしか『そう』だと知らぬ愚か者故」
 残った影を、青き蝶が埋め尽くす。アルバの華奢な足先が、残滓を踏み潰した。
 師の肩が触れる。支えるように、歩みを合わす。
「通して貰うぞ」
 帰る路は開かれた。猟兵たちは光差す道を歩み行く。
 そうして遺跡は紐解かれ、やがて真白が現れた。同じ真白を、ジャハルは吐き出す。白と、輝くばかりの青い空。
「……そとは広いな、師父」
 ぽつりと落ちて聞こえた声に、アルバは柔らかな声で頷いた。冷たいままのその手を引く。
「ああ、広いな。……そして寒い。――疾く帰り、暖の支度だ、ジジ」


 暫く呆然として立ち竦んでいたフォンが背を押されて、駆け出した。重いヒートアーマーを半分脱ぎ捨てて、真白い道をデータを抱えて駆けてゆく。
「……外じゃ」
 眩いばかりの白銀の氷原に飛び出すと、凍えるばかりの風を身に受けて、その銀色の髪が風花と靡いた。
「ありがとう、猟兵様! どうやら儂は生きて帰れるらしい。ありがとう! ――さすが、イケメンとイケジョの猟兵様じゃ!!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年12月19日


挿絵イラスト