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疾風のように現れて

#サムライエンパイア

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●自分がこわい
 また盗ってしまった。
 女の悲鳴を背に受けたのも一瞬のこと。音より早く人影は駆け去り、後には風しか残らない。
 人影は手の中にある、分厚くしっかりとした感触を確かめる。まさしく、これが自分の求めるもの。
 持ち主の姉妹をはじめ、多くの人を愕かせながら、しかし自らの正体を暴けるものは誰もいない。
 自分、ちょっとすごすぎるかもしれぬ。もはや只人の域を超えていることは間違いない。天狗と呼ばれてもよい頃か。
 心は既に天狗、身体は半ば天狗。
 なりかけの天狗はほくそえんだ。見とがめたものは誰もいない。

●グリモアベースにて
「猟兵の皆さーん! 力を貸してくださーい!! オブリビオンの手によって、江戸の町が危機に瀕しています!」
 プルミエール・ラヴィンス(はじまりは・f04513)が声を張り上げ、猟兵達を呼び集める。彼女のただならぬ雰囲気に、猟兵達の緊張も高まったところへ、プルミエールは、声に出すのも憚られると言った調子でひそひそ言った。
「出るのです……」
 ここで溜めた。
「……風と共に、足袋泥棒が!」

 被害者は江戸でも評判の剣術道場の二人姉妹、男勝りの姉の袖と、大人しい妹、鈴。
 指導の厳しさでも姉妹の美貌でも名を馳せた道場で、姉妹二人しか子が無い為に、姉の袖へ婿を、との話が出ては、自分よりも腕の立たない男とめおとになるつもりはない、とけんもほろろ……ぐらいまでは、よく聞く話だ。
 袖に婿がねの無いこと以外は悩みもなく、仲良く暮らしていたそうなのだが、事件は起こる。――足袋が、無くなるのである。

 ある日、一足。またある日、一足。
 最初は奉公人のうっかりで片付けられたが、毎日消えるようになってはそうもいかない。
 身に覚えのないことで強く叱られた女中が、庭に干した隠れて足袋を見張っていると、突如吹いた風が、あれよという間もなく二人の足袋を吹き攫って行ったのだという。
「――こわくないですか!? 他にも御隠居さんの股引とか、なんなら御新造さんや女中さんの足袋も干してあったのに、お袖さんとお鈴さんの足袋だけじょおーーずに盗んで行ったそうです!!」
 猟兵達は顔を見合わせた。プルミエールは腰に手を当て、怖い顔をして見せる。
「あっ、盗みじゃなくて偶然なのでは? って顔ですね!? 良いでしょう、もっと怖い話をしてあげます!」

 あまり足袋が失せるので、袖と鈴は足袋を自室に干すことにした。行儀の良い行いとは言えないが、もうこれ以上、女中が叱られてはかわいそうという判断である。
 そのせいで、恐ろしい思いをするのだが。
 姉妹が自室で仲良く、足袋を傍らにして手習いに励んでいると、庭に面した障子がまた突如開いて、風と共に何者かが足袋を忽然持ち去ったらしい。
 不思議なことに、机に広げてあった半紙に乱れはほとんどなかったのに加え、勘の良い袖が、疾風の如く駆け去る、人影を見ている。在室中の人間に風体を悟らせずに盗みを働くなど、常人の為す業ではない。
「どーーー考えてもオブリビオンの絡んだ犯罪行為だと思いませんか!? ていうかプルミエールセンサーに反応した以上、これは絶対、オブリビオンが裏でうごめいているのです!! このプルミエール、戦慄を禁じ得ません」
 禁じ得ないらしい。猟兵達は顔を見合わせた。

「今やどこに干しても、衆人環視もなんのそので足袋は盗まれてしまう有様。
 気の弱いお鈴さんは、こうも自分達の足袋を執拗に狙う泥棒がいるという事実に加えて、怪しい者が部屋に入ってすぐ傍までやって来たことで神経が参ってしまい、今は道場主ご夫妻と川の字になって寝ているそうです。外出も控え、​足袋を履かずにすませようと、裸足のままで家に閉じこもって過ごす日も多いとか。
 ――でも、もっと心配なのはお袖さんです。お袖さん、見た目には平静を装っていますが、やはり動揺しているようで、剣も以前ほどの冴えがなく、婿がねの地位を射とめるには今が好機と、冷や飯食いの次男坊達が色めき立つ始末で……」
 プルミエールは俯き、沈痛な面持ちで呟いた。
「きっと深い事情があるのでしょう」
 あるのだろうか。
「病気のおばあさんがいて、毎日美人姉妹の足袋を煎じて飲まないといけないとか」
 そんなことあるのだろうか。
 首を傾げる猟兵達をよそに、プルミエールは強引にまとめにかかった。

「でもどんな事情があったとしてもなかったとしても、罪の無い女性を不安にさせる卑劣漢です。見つけ出してオブリビオン諸共、ほどよく成敗しちゃってください!!」


紺色
 お世話になります。紺色と申します。
 江戸の町に変な風が吹いているようです。
 ただの変態なのか、何らかの思惑があってしていることなのか、それとも両方なのか、皆さまで調査をお願い致します。

 武家の女性を「お袖」「お鈴」と呼ぶことは少なかったそうですが、プルミエールは語呂を優先したようです。
 皆さまもこだわらずどうぞ。
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第1章 冒険 『天変地異』

POW   :    歩き回って証拠を見つける

SPD   :    村人から話を聞く

WIZ   :    事件に関する物や場所を調べる

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

藤野・いろは
……オブリビオンの仕業であって欲しいような
ただの妙な事件であって欲しいような、何とも言えませんね
しかしです、お鈴さんにお袖さんが心を痛めているのは事実
特にお袖さんは急がねば心配なくらいです、ええ。精一杯頑張りましょう
どういう事件であれ、プルミエールさんがオブリビオンの事件を予知し、現場まで僕らをテレポートせたと言うことは猟兵の力が必要なのでしょう。
村を回って話を聞いていきましょうか、必要であれば天下自在符を見せれば村の人も話しやすいでしょうか?
あまり好ましい手段ではありませんが、不審な人物が居れば『忍び足』で後をつけて話や様子を探るという感じですね。
アドリブや改変・猟兵同士の絡みは歓迎です。


影守・吾聞
『』:技能

オブリビオンの仕業かも、はまだわかるけど
足袋を煎じて飲まないとって…それは流石に
(グリモア猟兵の言に盛大に突っ込みたいキマイラ)
まあ、困ってる人がいるなら助けなきゃだよね。力貸すよ!

※SPD
話を聴いて回るのは、攻略の基本だよね
『情報収集』『コミュ力』を駆使して
足袋を見張ったことがある人に絞って話を聴いてみようかな
どっちの方から風が吹いて現れたか、どっちへ逃げていったのか
犯人の姿がはっきり分からなくても、どこから来てるかは掴めないかな?

加えて
『動物と話す』で道場の周りにいる動物から話、聴けるかな?
猫でも犬でも雀でもいいんだ
人の視点とは、また違う情報が得られるかもしれないからね



 どうにも得心ゆかぬことの多い事件である。
 転移してもなお、複雑そうな顔をしているのは藤野・いろは(天舞万紅)。
 眉間に浅い皺、目を少し細めた怪訝そうな表情が、彼女の白皙に表れている。険しく見えるが、これは姉妹を案じる悩みが深きゆえ。誤解されやすい性質なのだ。
 オブリビオンの仕業であって欲しいような​、ただの妙な事件であって欲しいような。

 追い立てられるように江戸の町に降り立ったせいで「足袋を煎じて飲まないとって……それは流石に」と、やんわり突っ込む暇さえ与えられなかったのが影守・吾聞(先を読む獣)。言い逃した言葉が口の中でわだかまり、唇がむずむずする。

 しかし得心ゆかぬとはいえ、困った人を見捨ててはおけない。二人は難しい顔で、聞き込みを開始した。
 まず狙うは、足袋を見張ったことのある人物。

「とにかくあっという間のことだし……出たときは驚くばっかりで、風の方向なんか、あんまり考えなかったですからねぇ」
 洗濯を担当する下女中を見つけて声をかけてみると、彼女はすまなそうに言う。
 被害者とはいえ、武士の立場からしてみれば今回のことは不祥事には違いない。道場の使用人には口留めがされていたが、そこはいろはのそっと出した天下自在符が大いに役立った。……が、彼ら彼女らから得られた情報は『後には残された竜巻のような風ばかりだった』程度のもの。
 しかし吾聞には、もうひとつアテがある。
 人の目に映らぬものを、目にしていそうな目撃者の。

「――雀どもなんか所詮あたいのおやつだよ。聞きたいことならあたいに聞きな」
 まずは手近な雀に聞き込みを開始していた吾聞が、そのふわふわの癖毛のてっぺんで寛ぎだす雀に難儀していると、ため息交じりのしゃがれ声が彼を呼び止める。いろはの耳には、にゃぐにゃぐとしか聞き取れないが。
 行灯ほしのおたま。このへんではちょいと名の知れた三毛猫である。なお二つ名にある「ほし」は、空の星などというしゃれたものではなく、行灯の油を舐め『干して』しまうことに由来する。
 油をたっぷり飲んででっぷり太ったおたまは、ごろりと横になり、腹をみせつつ身をくねらせ、要するにしなを作る。
 ……呼び止めておいてなんだなんだと首を傾げた吾聞だが、言葉の分からぬいろはには分かった。いや、言葉が分からぬからこそ分かった。撫でてほしがっているのだ。
 いろはにうながされた吾聞がひとしきりおたまを撫でてやった末に、やっとおたまは言った。
「確かに動きの素早すぎる変な人間は見たけどね。あたいに人間の顔の区別なんかつくもんか」
「…………」
 じゃあ一体どうして声をかけたの、とは、吾聞は問わなかった。コミュ力の賜物である。
 無言の吾聞を前に、おたまはまたしてもセクシーポーズをとった。吾聞にもなんとなく察するものがあり、乞われるままに、おたまの腹を撫でさする。またしばしして、ようやく満足したおたまは言った。
「……あたい、人間の顔の区別はつかなくても髷の形の違いは分かるよ。人間があたい達を模様で区別するのと同じこと。あの髷の形は、おさむらいだね」

 吾聞の通訳を聞いたいろはは早速、侍姿の不審者を探すことにした。なお吾聞はおたまにまだ媚を売られている。
(お鈴さんにお袖さんが心を痛めているのは事実。特にお袖さんは急がねば心配なくらいです)
 家出中のいろはだが、それゆえ一層、家族の大切さは身に染みて感じている。毎週、家出したはずの両親へ手紙を出しているくらいだ。家族を心配させまいと気丈に振る舞う袖の方が、いろはには案じられる。
 何よりも、僕らの力が必要とされているのですから。急いで解決するために、精一杯頑張らねば。
 胸で思いをかみしめて、いろはは江戸の町を歩き回る。あてなく歩いて、結局、不審な侍は町中には見当たらなかったが、『町にはいなさそうだ』ということが分かったのも、まずは十分な成果である。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

化野・クミホ
事情はどうでいたいけな乙女の心を傷つけるのは許されない行い。
その上、ここぞとばかりに弱っている袖様の婿がねを狙う殿方がいるとはなんと酷い話でしょう。
どうやってでも犯人を突き止めてお縄に掛かって頂かなくてはなりませんね。

【WIZ】
とは言ったものの、相手が風となってはこちらとしても打つ手に困りましたね……。
まずは情報を集めてみましょうか、失礼を承知で袖様の足袋を一度拝見させて頂きましょう。
オブリビオンが関わっているということですし足袋に何かあるやもしれません。
それから事件の起こった場所や時間も調べてみましょうか。


フィスト・フィズム
【行動:SPD】
女性の足袋を盗むだけでも色々と許すまじなのに、室内に入って堂々と盗んでくなんて、下着ドロもここまでくれば潔すぎるわ…。
お袖さんとお鈴さんのためにもどうにかしなくちゃね。

というわけで捜索。
技能【情報収集2】【第六感2】を使用。
道場周辺に住む人たちをメインに、
「姉妹の二人以外にも足袋を盗まれた家はないか」
「近隣に何か足袋泥棒と関係するような噂話はないか」
を尋ねてみるわ。
途中でお袖さんをお見かけするような事があれば彼女に挨拶と世間話を持ちかけながら、周辺に何か怪しい気配がないか【第六感2】で探るわ。
何もなければ良いのだけど…、もし引っかかったなら、彼女に暇を告げて【追跡1】を。



 袖は背筋を伸ばして居室に坐していた。半畳分の距離を開けて相対するのは化野・クミホ(妖艶なる悪戯っ子)。
 クミホは、狙われている袖の足袋から調べることにした。事件にオブリビオンの関わりがあることから、狙われる足袋そのものに手がかりが残されていると見たのだ。

 クミホが失礼を承知で、と断りながら袖へ物腰柔らかく申し出ると、袖は戸惑いつつも、女同士、そっと自らの足袋を小箪笥の抽斗から取り出す。
「目に触れぬところへ、鈴の施した刺繍がございます。私、鈴、母にちなんだ図案で……揃えて畳む折に、目で見なくとも指でなぞるだけですぐ分かるようにと」
 これだ。クミホは渡された足袋の足首の裏をそっと返して、刺繍の柄を目でなぞる。袖の刺繍は、平行四辺形の中を玉止めで埋めたもので、風にたなびく袖だろう。
 オブリビオンの、あやしげなまじないの類がかかっているようには見えない。疾風より早い盗人が、どのように足袋を見分けているかは分かった。刺繍を指でなぞって確かめていたのだ。いや、目にも止まらぬ動きの中で、指触りを確認しているとは……やはり只者ではないらしい。

 クミホは鈴を振るような声音で、穏やかに問いかけた。
「この刺繍のことを、ご存知の方はどのくらいおいでなのでしょう?」
「……洗濯をしてくれる女中達、家内の者と、我が家の道場の門下生の一部でしょうか。稽古中は裸足になりますから」
「と、申されますと、足袋が袖様の身から離れて置かれることがございますね。道場内では盗まれたりなどは……?」
「いいえ、そのようなことは。……いえ、門下生を疑ってくれるなと申すのではありません。そういえば、道場の中で盗まれることも、箪笥の中を漁られることもなかったなと思い至ったのです」
 クミホがもう一つ調べようと思っていたのは、事件の起こった場所と時間だった。
 袖が話すには、足袋が盗まれるのはいつも、洗いあがって干してある足袋ばかり。夜に足袋を干しはしないから、盗まれるのは洗濯が終わった後の日中のみ。

 一方そのころ。
 ――足袋とはいえ、要するに下着泥棒である。憤るのはフィスト・フィズム(白銀の竜女)。清らかなドラゴニアンの乙女だ。
「下着ドロもここまでくれば潔すぎるわ……」
 呆れるやら憤るやらでため息をつきながらフィストはまず、道場周辺の住人へ聞きこみを行う。しかし袖達美人姉妹の存在は知れ渡っていたが、足袋を盗まれていることを知る者も、盗み取られた住人もいなかった。
「足袋ばっかり盗むだなんて、そんな変な話がありゃあ、すぐ瓦版に刷り出されると思うけどねぇ」
 この世界ではまだ繊維産業が発達しておらず、衣類はおしなべて高級品である。こうまで立て続けに狙われるのでは、被害額もばかには出来ない。
 訪ねた古着屋の中年男も、首をかしげるばかりだ。
 狙いは姉妹、二人のみ。盗んだ品は相当な枚数になるはずだが、売り払ってもいない。
 よけい怖気をふるうような話である。
「じゃあ、このあたりで何か、足袋泥棒に関係しそうな話はない? 風と一緒に盗んで姿を見せないらしいのよ」
「ちょいと待ってな。そういう……なんつうんだ? 天変地異のことなんかは瓦版に載る。
 たいていが眉唾物の話だけど、あんたはそういうのでも知りたいんだろう? うちのかかあがこういうの好きでねえ……」
 フィストが一枚分けて貰った瓦版には、袖達が暮らす侍屋敷から江戸の東南にかけての狭い範囲で、天狗の仕業と思われる、大風が吹くとある。

 フィストが聞き込みを続けていると、行く手から袖が現れた。袴履きの凛々しい男姿で、見送りのクミホも一緒だ。フィストは袖に挨拶して、共に歩き出す。方角は東南のかた。
「さる旗本の奥様のところへ、出稽古に参ります。……もったいないことに、このような私の腕を買って下さるお方もいらっしゃるので」
 フィストの相槌を受けながら、袖はぽつりぽつりと話し続けた。
「天下自在符という公方様お墨付きを頂いている皆様には遠く及びませんけれど、私は、私より強い夫に仕えるよりも自分自身で、剣の道を突き詰めてみたい。
 ……もうこの正月で、二十の歳となり、時間はあまり残されておりませんが」
 この世界では数え年二十で既に年増と呼ばれる。婿を取るなら、もうあまり選り好みできる齢ではない。

「ご覧ください。正月はあの神社に道場の皆で詣でるのですよ」
 袖はある神社の前を通りかかると、二人にそちらを指さした。
「……最近は稽古にも身が入りません。あちらに詣でている折、門下生にも諭されました。潮時だから観念してはどうかと」
「――お袖さん、申し訳ないけど見送りはここまで。私たち、行くところが出来たわ」
 神社の方角は袖の住む侍屋敷から東南。『なんとなく』としか言いようがないが、勘が働いた。フィストとクミホは目くばせしあい、袖へ暇を告げる。

 社の裏手の床下。果たして、足袋はそこにあった。全て小さくたたまれて、麻袋に詰め込まれている。
「袖様、鈴様の印の縫い取りはございましょうや?」
 クミホが袖の前でしたのと同じように、足袋の足首の裏を指でなぞった。間違いない、袖のものだ。丁寧な針運びで、平行四辺形の中を玉止めで埋めたもので、風にたなびく袖の縫い取りは、先にクミホが袖から見せられたものと一致する。

 フィストとクミホ、二人は薄々察しつつあった。
 盗んだ足袋を売りもせず、しかしこの騒動で、得をしている者たちがいるではないか。
 動揺が剣筋に出てしまい、調子を落とした袖を打ち負かし、婿入りを果たそうとしている、道場の弟子たち。
 班には袖を気落ちさせて、結婚へと気持ちを揺らがせることにまで成功している。

 道場内で盗まれなかったのは、腕に覚えのある者が多く、万が一のときに露見する恐れがあったから。事実、それまで女中の目に一度も止まらなかった姿が、袖の目には写っている。
 隠し場所は、通う姿が見つかっても不自然ではない、ゆかりの神社。

 門下生は、夢を持つ袖に、潮時とまで言ったという。
「お袖さんとお鈴さんのためにもどうにかしなくちゃね」
「事情はどうであれ、いたいけな乙女の心を傷つけるのは許されない行い。
 その上、ここぞとばかりに弱っている袖様を狙うとはなんと酷い話でしょう。どうやってでも犯人を突き止めてお縄に掛かって頂かなくてはなりませんね」
 フィストとクミホは二人、頷き合う。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

神薙・焔
足袋フェチの天狗? の仕業じゃ、かどうかは知らないケド、女性を不安にさせるのは良くないわね。
しっかし、男どもも情けない、こういう時に下心丸出しで色めき立つんじゃなくて静かにお袖さんを支えようって骨のあるヤツはいないのかしら。

まあいいわ、普通の人には一陣の風にしか見えなくても、あたし、目には自信があるのよ。足袋は五感を共有できる「影の追跡者」にこっそり目立たないように見張らせて、お袖さんの不安にかこつけようってヤツがいたら、お手合わせ願ってお引き取りいただこうかしら、その程度の相手なら打ち払いながらでも十分に見張れるってものよね。

技能:地形の利用1、目立たない1、暗視2、第六感1、追跡1、視力1


フォルセティ・ソルレスティア
【ペア/f00964】【SPD】
「絶対犯人を捕まえるんだから!」

【行動】()内は技能
他の猟兵さん達の調査結果や町の人への聞き込みで
「風の通り抜けた」方角から、大まかな移動方向を推測するよ。
目星をつけた方角の町はずれで待機するんだ(目立たない)

フィオ姉ちゃん(f00964)からの合図があがったら
Flying Broom GTSに即座に騎乗して、疾風が通るのを待ち構えるよ。
そしてフォルマ・ベンダバールで『馬』に変形させ高速移動で追跡するよ。
「疾風には疾風で対抗しないとね!」
(騎乗)や(操縦)を駆使し、また(地形の利用)を意識して
引き離されないようにする
少なくとも根城まで追跡して特定しておきたいかな


フィオリナ・ソルレスティア
【ペア/f05803】【WIZ】
「ある種のストーカーみたいなものだな」
被害にあった女性のためにも、早く犯人を捕まえないと。
同行する弟(f05803)と役割を分担して挑む

■作戦
道場の外で張り込みし、事件発生と同時に影の追跡者を使いつつ
町はずれに待機した弟のフォルセティにも追跡させる

■行動
事件が発生すると同時に「風」をとらえて
影の追跡者の召喚して追跡する(技能:高速詠唱)

さらにウィザード・ミサイルを上空に放って(花火と見せかけ)、
事件発生と犯人が逃げた方角を弟に伝える
「フォルセティ、頼んだぞ」



 袖達の暮らす侍屋敷は、表側の門弟達の多く出入りする道場部分と、裏側の袖達の居宅とに分かれている。外から出入りする者の目に入りやすいところには洗濯物を干したりはしないから、普段から居宅の裏庭に干されている。

 離れた位置にある道場と足袋とをそれぞれ見張るには策が必要となるが、神薙・焔(ガトリングガンスリンガー)はそれを用意していた。
 影の追跡者を足袋の干された裏庭に潜ませておくのである。焔は、目が良いとの自負がある。袖に人影が見えたというのなら、我が目にはもっと鮮明なものが映るはず。
 自らは、袖が出稽古に出て不在の道場に陣取り、門弟達の様子をぐるりと確認する。
 日頃の稽古は厳しいのだろうが、道場の門弟達は今、明らかに浮足立っていた。与えられた役職のない、いわゆる無役の者にとって、通い先の道場は武士同士、自らの力を見せる絶好の場でもあった。見込まれれば、上役へ口添えをもらい、いずれ何らかの形で取り立てられることもあるやもしれぬ。そのような思惑とは無関係の者も、誰を『若先生』と呼ぶことになるのか、分かったものではない。

「しっかし、男どもも情けない、こういう時に下心丸出しで色めき立つんじゃなくて静かにお袖さんを支えようって骨のあるヤツはいないのかしら」
 焔の嘆く通り、調子を落とした袖のことを案ずる者もいるにはいたが……風紀の乱れも道場にとっては火急の問題と言えた。
 焔がへらへらしたのを選んで手合わせして回ると驚き慌てふためく者ばかりで、また、深いため息が出る。
 ――が、一人。目の色の違う者が、一人あった。
 焔には目が良いとの自負がある。だから、今相対する使い手の木刀の剣先に、無用の力がこもっているのが分かった。
 まるで『速度が出すぎないよう、そうと悟られぬよう敢えて手を抜き、手加減しているような』。
 焔には、もっと恐ろしい敵と戦った経験などいくらもある。手加減されるまでもなく、純粋な力は焔が勝る。あっけなく焔が相手を打ち倒すと、あまり意外だったのか、見物の門弟達がひそひそとささやき合う。
 ぎらぎら不満げな眼差しの負けた剣士は、手合わせ後の一礼もおざなりに、、どすどす床をふみならして立ち去っていく。
「――あれは、最近めきめきと力をつけ、今では袖殿の婿がね第一の候補とされている男です。以前はまるで冴えませんでしたが、神速を得て、最近では奴と三合打ち合うことも難しいのに、いや、おつよい。溜飲が下がりました」
 よほどあの男が気にいらなかったのか、それとも袖をはじめとして焔のような強いおなごが好きなのか、門弟の一人からわざわざ聞かされるおべっかは適当に聞き流し、焔は立ち去っていく男の名、豊田なにがしとを聞き取った。

 そして、聞こえ来る悲鳴と怒声。また現れたのだ、不埒な盗人が。今このとき盗み取ったのは、おそらく憂さ晴らしにか。
 ――面体は影の追跡者が見てとった。
 速度の対策はしていなかったから、ほどなくして逃げ去る風には振りきられたが、元よりそこまで追うつもりは彼女にはない。
「あとは任せたわよ……」
 ざわつく門弟達をよそに、焔は託す。

 一方、ちょうどその頃、外で張り込んでいたフィオリナが動いていた。竜巻のごとき突風が門から滑り出ていったのを汐に、フィオリナは影の追跡者を召喚し、風の追跡を開始する。
 召喚は手早く、正確に。電脳魔術士としての彼女の技術は、圧縮に圧縮を重ねた音節、力として結晶する。影の追跡者が追い行くのを見送ることもせず、続けてフィオリナはもう一つ、力を行使した。すなわち、ウィザード・ミサイル。影の追跡者を追うように軌道を傾けて、フィオリナは上空へ一発、打ち上げる。方向は、まさに南東の方。日中とあって見えにくくはあったが、ミサイルの打ち上げ音も知らせとなる。風のごとく駆けても、まさか音速よりは速くはない。
「フォルセティ、頼んだぞ」
 素直に弟に託す言葉が出せるのは、その弟本人が、目の前にいないからこそ。
 フィオリナは、周囲のどよめきをよそに、青空をうっすら細い線で分断するウィザード・ミサイルの軌跡をじっと見上げた。
 ……いつまで経ってもどよめきが鎮まらないので、フィオリナは傍の町人へ向けて言い訳した。
「さっきのは花火だ。……ただのな」
 ……多少苦しかったか。

 ――結果のみ見れば、フィオリナの影の追跡者は早い段階で振り切られはしたが、それはそれとしてフィオリナと、彼女の弟とのコンビネーションは見事なものだった。
 フォルセティ・ソルレスティア(星海の王子様)は、町の南東、その外れで待機していた。
 当初調べるつもりだった風向きまでは分からなかった。思えば人一人分の質量しかないものがいかに早く動き回っても、風となって影響のある範囲はたかがしれているということか。
 しかし他の猟兵達が既に行った調査によって、大まかな位置は知れている。
「……フィオ姉ちゃんの合図だ!」
 目立たぬように待っていたフォルセティは、彼の流線形の美しいバイク――Flying Broom GTSに飛び乗った。それをフォルマ・ベンダバールでまじなえば、見る間にFlying Broom GTSは、馬の姿に形を変える。これで江戸の町を走ってもおかしな注目のされ方をすることはないだろう。
 疾風は町外れまではやってこなかった。焔、フィオリナの影の追跡者の気配を辿って、挟み撃つように、フォルセティのFlying Broom GTSは疾駆する。

 フォルセティは追跡に全力を傾けていた。騎乗、操縦、地形の利用、持てる有用なスキル全てを活用して風を追ったが、身を隠す工夫はしていない。
 自然、風もとい高速で疾走する男は、跡をつける馬とそれにまたがるフォルセティに気付き、振り切ろうと様々手立てを加えたが、フォルセティは引き離されない。

 やがて、江戸中を走り回ったかと思う頃、男はある神社へ駆け込んだ。
 おそらく、逃げ込んだのだろう。
 今まで姿も見られず盗んできたというのに、こうまで振り切ることも出来ず、追い詰められているのだから。
「疾風には疾風で対抗しないとね!」
 フォルセティは得意げににっこりした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『天狗の業、いかなるものぞ』

POW   :    魔道に堕ちかけている弟子の心を、ちょっと荒療治をしてでも改めさせねば。

SPD   :    弟子はその師匠が妖怪変化の類と知らないのだろう、説得できるかもしれん。

WIZ   :    過去に現れた天狗であれば記録が残っているはず、調べれば役に立つだろう。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
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 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
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※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 皆、思い思いの方法で捜査を進め、この男の逃げ込んだ神社へたどり着いた。
 卑劣な正体を現しはしたが、彼はただの人間だ。むろん、ただの人間でしかないどころか、以前はまるでよいところのなかった彼、豊田が、目にも止まらぬ神速を手に入れたのにはわけがある。
 この神社のどこかにいまだ潜む、オブリビオンの指南を受けたのである。

 男は取り柄も展望もない自らの将来を嘆くばかりであったが、たまたま彼が天狗と信じるオブリビオンを新たな師とし、神速を得ることとなった。通い先の道場の婿に収まる算段が、彼の胸の内でついたのである。
 しかし元来、小心者でもあった豊田は、袖自身と、仲の良い鈴の身の回り品を盗み取ることで更に袖を気弱にさせておいて、彼女の力を削ぎ落し、結婚にも乗り気にさせることを思いついた。
 ……なぜそこで敢えて足袋だったのかは、本人に聞かねば分からないが。
 彼は天狗を、自らの才能を見いだせなかった今までの師の代わりに、新たな師として得たのだと喜んでいるが、このままでは彼は、天狗そのもの……オブリビオンそのものとなってしまう。
 今だ姿を現さないオブリビオンとの戦いの前に、とりあえず、この豊田をなんとかせねばならない。
影守・吾聞
友達のテル(f04598)と連携

この豊田?も、オブリビオン被害者ではあるけど
うん、ここまで擁護の必要性を感じない被害者って珍しいね

※SPD
一先ず、姿を見せてもらえるよう
『コミュ力』も駆使して話しかけてみるよ
足袋の話題に絞って興味引いてみよっかな

足袋を盗んだのは悪いことだけど、何か深いわけがあるんでしょ?
病気のおばあさんがいて、毎日美人姉妹の足袋を煎じて飲まないといけないとか
え、違う?じゃあ何で足袋なのさ

出てきてくれたら
ひたすら足袋談義に花を咲かせる
ぶっちゃけ興味ないけど…顔に出ないように
共感してる風に適当に相槌入れて

豊田が油断してる隙に
他の猟兵さんにバトンタッチ
煮るなり焼くなりお好きにどーぞ


アステル・サダルスウド
友達の吾聞君(f00374)と連携するよ

※SPD
まずは豊田君と話してみたいな
『礼儀作法』『言いくるめ』『コミュ力』を駆使するよ

美人の足袋を煎じて…ほう、そんな民間療法があるのかい?
物知りだね豊田君!

聞いたよ、君は韋駄天のように足が速いのだってね
僕も君のような突出した能力を手に入れたいものだ
有能な君の話を聞きたいな、出てきてくれないかな?
『鼓舞』も使い「何を怖がることがあるの?君の足に適う者などいないよ」

出てきてくれたら吾聞君と足袋談議に参加
世には色んな趣味の方がいるからね
笑顔で相槌を打ちながら聞こうではないか
いやはや、奥深い世界だね!(半分くらい聞き流す

油断した頃合いを見て他の方にお任せするよ



 このなりかけの天狗を本当に天狗にしないため、どうしようもない男を、どうしてやるのがよかろうか。
 初詣の時期を過ぎた境内は他に人気もなく、しんと冷たく静まり返っていた。
 そこへ現れたのは現地猫の猛攻をかわしてたどり着いた吾聞とアステル・サダルスウド(星影のオルゴール・f04598)だ。
 ゆったりした銀髪を波打たせたアステルは特定層への需要が大いに見込まれる美少女然とした佇まいであったが、残念ターゲットはただの足袋フェチである。
 さておき吾聞とアステルは一瞬視線を通わせ、頷き合う。境内のどこかへ隠れて姿の見えぬ男に向けて、先んじて声を張り上げたのは吾聞だ。
「ねえ、足袋を盗んだのは悪いことだけど、何か深いわけがあるんでしょ?
 病気のおばあさんがいて、毎日美人姉妹の足袋を煎じて飲まないといけないとか」
 そのとき、離れた位置の茂みががさっと音を立てて揺れる。
 早くも居場所は容易に知れた。
 アステルが継いで言う。
「美人の足袋を煎じて……ほう、そんな民間療法があるのかい? 物知りだね豊田君!」
 また、離れた茂みが音を立てる。今度のこれは、この場さえやり過ごせば活路はあると思い込んでいたのに、名を呼ばれたことによる動揺によるものだろう。
「聞いたよ、君は韋駄天のように足が速いのだってね!
 僕も君のような突出した能力を手に入れたいものだ。有能な君の話を聞きたいな、出てきてくれないかな?」
 アステルの言は優しかったが、若干芝居がかっていた。無理もない、足袋泥棒に対する共感も敬意も、何より興味も無いのだから。そういう意味でも二重三重にも罪深い盗人である。探して口にした褒め言葉は、どう言いくるめようとしても、やはりどうしても白々しいものになったが、果たして豊田はそろそろ茂みから姿を現した。
 状況として豊田は追い詰められていた。名前までばれている以上、まあ表情の柔らかい二人を味方につけようと思ったようだ。
 埃と土とで彼の袴は汚れ、髷も乱れて葉っぱがついている。恰好だけ見れば哀れを誘う恰好である。

 吾聞が少し首をかしげて問う。
「ていうか、何で足袋なのさ。やっぱり毎日美人姉妹の足袋を煎じて……」
「このこわっぱ、言わせておけば何度も! 誰がそのようなもったいないことをすると言うたか!」
 誰がって、それはグリモア猟兵が言ったのだ。吾聞が言い出したわけではない。……と、反論するのは控える。
 あまりにもこだわりが強いようで、二人を味方につけようとしたはずの豊田はうっかり噛みつくように声を荒らげる。吾聞とアステルがとっさに表情を変えずにいられたのは、最初からそのように心掛けていたからだ。もったいないという表現がけっこう気持ち悪かったが、二人は笑顔で耐える。
「ただの足袋ではなく袖殿と鈴殿のだからよいのだ! 特に袖殿のがよいのだ!!」
 なお豊田が切々と語った内容は半分くらい聞き流すつもりで全部聞き流してしまったのでアステルにはよく分からなかった。
「いやはや、奥深い世界だね!」
 趣味と実益を兼ねた犯行であったということは、豊田が話し終わるまでにかかった時間から辛うじて伝わっている。
「あっ、味方にはなってくれない感じでござるね?」
 油断しきった豊田をとりあえず引きずり出し、まずは聞く耳持たせることには成功した二人は、他の猟兵と共に取り囲んで、逃がさぬようにバトンタッチである。
「煮るなり焼くなりお好きにどーぞ」
 ほどよいペースで相槌を打ち、打ち疲れた吾聞は肩をすくめた。後はもう吾聞は、彼がテルと呼んで親しむ友人と、並んで事の成り行きを見守ることにしてしまった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

フィスト・フィズム
【行動:POW】
囲んで棒で殴りたい所だけど、できるならそれは最後の手段かお袖さんのやるべき事として。
神速の持ち主ということだけど、チキンみたいだから適度に怖がらせてあげましょ。

「ねえ、豊田さん?あなた、天狗なのよね?だったら、これくらいは楽勝でできるわよね?」
【早業】【見切り】【第六感】を総動員して、ナイフで指と指の間を高速で突き刺す遊びを目の前で1分間披露。
披露して同じ事ができるかナイフを差し出しながら実践させてみるわ。
それを断るようなら
「神速で、それも人前で足袋盗んでくくらいしか能がないなんて天狗も、いえ、あなた大した事ないのね!」
できたら度胸は褒めてあげるけど、足袋泥棒として叱るわ。



『バトンタッチ』された先がフィストだったのは、下手人、豊田にとっての不幸と言えるだろう。
 フィストが凍えるような視線で見つめる先で、豊田はふてくされた顔をしながらも、目玉をきょろきょろせわしなく動かして、何かを探るような落ち着きないそぶりである。
 どうしてやろうか、思いついたフィストが指でちょいちょいと差し招くと、豊田はふてくされた表情で、フィストの方までゆっくりと歩み寄った。視線はあたりをきょろきょろさまよわせている。逃げられないことだけは悟り、しかし助けが現れるのを待っているのだ。
 せっかく与えた力をこのような、情けなさのあまり涙が出そうな犯罪にしか使わない小物を助ける、面倒見のよいオブリビオンなのだろうか。まさか意気投合したでもあるまいが。
 時間稼ぎをしようという魂胆は、こちらにとっても願ったり。説得の時間が出来ようというものである。

 フィストは豊田の性根を見抜いていた。
 彼女はのろのろと歩み寄った彼が間合いに入るとやにわにナイフを取り出して、豊田の鼻先をかすめて神社の植樹の一本につきつける。松の幹とナイフとは、触れ合う音もしなかった。残されたのはナイフの短い風切り音と、ひえっ、と漏れた豊田の悲鳴のみ。辛うじて手は腰の刀の柄にかかっているが、抜き払うには至っていない。
 彼の目が恐怖でナイフに釘づけになっている間に今度は、フィストはもう使われなくなって久しいと思しき古い板張りの絵馬掛けへ、大きく指を開いた自らの手の平を突いた。
 そして息を呑む豊田の目の前で、ナイフの切っ先を、親指のすぐ横へ強く、どすんと音立てて突き立てる。豊田の肩が大きく揺れた。
 突き立ったナイフは力をこめて抜き取られ、またも振りかぶられ、今度は人差し指と親指の間へ突き込まれる。間髪を容れず親指の隣へ突き戻して、次は人差し指と中指の間へ。
 動きはみるみる早くなり、背筋の凍るようなナイフの突き立つ音はそのまま一分ほども続いた。
最後、あわや手の甲にぶすり、と見えた瞬間、薄皮一枚のところでナイフが止まる。
 呻きとも喘ぎとも取れぬ声が、豊田の口からこぼれ出る。フィストが次に何を言うか、言われる前から分かったのだ。
「ねえ、豊田さん?あなた、天狗なのよね? だったら、これくらいは楽勝でできるわよね?」
 豊田の顔は青ざめて、差し出されるナイフを受け取りもしない。 
「神速で、それも人前で足袋盗んでくくらいしか能がないなんて天狗も、いえ、あなた大した事ないのね!」
「か、関係ないではないか! 天狗の技と、今の曲芸とは!」
 豊田は震え声で辛うじて叫んだ。
 内実の伴わぬただの神速など、誇りえるものではない。
 豊田は震えている。自らの弱さをまざまざと突きつけられたことに対する、恐れと怒りの震えだ。
 (囲んで棒で殴りたい所だけど、できるならそれは最後の手段かお袖さんのやるべき事として……)
 フィストのせめてもの慈悲心からきた行いは、豊田に届いたか否か。フィストは、彼を大いに動揺せしめた。

成功 🔵​🔵​🔴​

フォルセティ・ソルレスティア
【共同/f00964,f01122】【SPD】
焔さん、フィオ姉ちゃんと行動
ボクは男を説得する役割だね

【行動】
焔さんが男と勝負した後に説得してみるよ!
「豊田さん、と言うのかな。分かるよね?」
神社まで追いかけっこしたのはボクだよと明かす。
神速を得ても子供に勝てなかった事実を突き付ける
「ねえ。なんで天狗が豊田さんに力を貸したのか考えたことある?」
まさか才能があったなんて思っていないよね。
「簡単に操れるからだよ」
そして心まで支配され化け物になってしまう。
それが男の末路だと厳しい言葉を突き付ける。
「信じてもらわなくてもボクは構わないけど」
空間に向けてウィザードミサイルを放ち、圧力をかけ、
男の反応を見るよ


神薙・焔
【共同/f00964,f05803】【SPD】

とっちめてなりかけの天狗の鼻を折ってやれば、真人間になれるかはともかくオブリビオンには成り果てずに済むかしら。
フィオリナさんが調査のため神社に忍び込むなら、道場で一度立ち会ったし、あたしがやるわ。

あの時は手加減したつもりのようだけど、ここなら思いっきりやれる、口舌は無用。
さあ、速さを見せてごらんなさい、魔道に落ちて得たモノに表道具(?)は不要、ユーベルコードは使わず、目と速度で打ち破って見せるわ。

フォルセティくんが投げかける言葉には同感、神速を得てやることが下着ドロの類とは呆れるわ…。

技能:先制攻撃1、ダッシュ2、2回攻撃3、視力1、暗視2


フィオリナ・ソルレスティア
【共同/f00964,f05803】【WIZ】
「求婚する相手を弱らせて、相対的に優位に立とう等と
卑劣極まりない」
豊田に憤りを感じながらも、本当に倒すべき相手は
天狗(オブリビオン)だと自分に言い聞かせる
袖や鈴のためにも、絶対に天狗を引きずり出す!

■作戦
豊田は焔とフォルセティに任せて、自身は神社の中を捜索し
天狗の痕跡を探す

■行動
焔が豊田を煽っている隙に社の中へ入る
(技能:目立たない、鍵開け)
本尊、ご神体など重要なものに手がかかりがないか触れてみる
また奉納された書物等に天狗に繋がる情報がないか調べる

見つからない場合は、焔達と再合流して豊田に聞く
「師匠とやらはどこにいるのか、教えてもらえないだろうか」



 転移からは随分時が経っていた。冬のうすぼけた色の夕焼けがあたりを淡く染め出して、影を長く伸ばしている。
「――あの時は手加減したつもりのようだけど、ここなら思いっきりやれる、口舌は無用。
 さあ、速さを見せてごらんなさい、魔道に落ちて得たモノに表道具は不要、目と速度で打ち破って見せるわ」
 焔は豊田に正対し、にぃと美貌に笑みを浮かべて見せる。自信に満ち溢れた表情が、豊田をいっそういらだたせる。そも、口舌無用、表道具不要とまで言われては、豊田も引き下がれない。
「命を落とすことになっても知らんぞ」
 輝くような若い美貌と焔とは対照的に、豊田の顔色はどす黒い。ここまでに精神的にかなり追い詰められているし、そも、焔達猟兵達が言外に伝えようとしているところを、豊田は今のところ全く理解していない。彼に分かるのは、何故か彼らが自らの罪科を暴き出し、追い詰めようとしているのだということのみ。
 何故自分が追い詰められるのか。何故この場でいつも落ち合う師は、現れて自分を救ってくれないのか。何故秘密のはずの師のことを、目の前の少女が口にするのか。
 長く長く感じ続けていた劣等感から、自分本位の驕慢な考えに凝り固まった豊田には、何もかも全て、ただ自らを追い詰め、弄ばんとしているようにしか思えない。
 
 既に焔は豊田と先ほど一度立ち会っている。しかし道場とは違い、今ここに木刀はない。
 豊田の腰には本身……真剣があり、焔の腰には猟兵稼業の為の武器の他は何もない。その状況で焔は、表道具は不要、と言い切った。彼女は真剣に対し、徒手で立ち向かうつもりだ。
 これをこそして、自分を侮りきっていることの証左でなくして、何と言おう。
 彼には、焔が我が身一つで立ち向かうと決めた理由も理解出来はしない。

 豊田の視線は境内の植栽、松の木々の梢あたりをさまよったが、風の音がするばかりと分かると、意を決したように剣を抜き、大上段に構えた。
 
 しばし、風声のみの時が過ぎ、先んじたのは焔であった。
 焔が身をかがめた疾駆で肉薄すると、胴間声を張り上げた豊田が焔へ、力任せに手にした剣を振り下ろす。
 ――やはり動揺が、剣筋に出た。やはり得たのは神速のみ。
 不断の鍛錬に付随して本来得られる筋力も胆力も、彼にはない。
 あっけないほど簡単に、勝負はついた。振り下ろされた夕焼けに輝く刀身を、焔は曲げた人差し指と中指の股でしっかりつかみ、いなして空いた片手で、腹に一撃、叩きこむ。
 互いに命まではとるまいと思っていたからこその終わりであった。

 見ていたフォルセティが、もう良いだろうと静かに話しだす。
「豊田さん、と言うのかな。分かるよね? 神社まで追いかけっこしたのはボクだよ。
 もう豊田さんの神速はもう通用しない。今の焔さんにも、ボクみたいな子供にも勝てなかった」
 捕まれた刀ごと振り回され、一撃良いのをもらった豊田は地に膝をつき、ぜえぜえ喘ぐ。狙いが良かったのか、豊田は恨み言を漏らす余裕もない。万策尽き果て、頭上から注ぐ少年の声を、受け続けるしかない。

「ねえ。なんで天狗が豊田さんに力を貸したのか考えたことある? まさか才能があったなんて思っていないよね」
 ――それが無かったから、寂しかったのだ。同輩からは侮られ、家に居場所はなく、仄かに想う相手に、相手にもされない。こうしてやっと与えられた才能まで、この少年、少女たちに及ばない。
 その才能さえ、それを与えてくれた師さえ、偽りのものであったというのか。
「豊田さんみたいなのが簡単に操れるからだよ。そして心まで支配され化け物になってしまう」
 フォルセティの冷たく静かな言葉に対し、うそだ、との反論も出ない。うそだとして、ここまで追い詰められて自らを、いつまでも助けに現れないことの説明がつかないからだ。

「……師匠とやらはどこにいるのか、教えてもらえないだろうか」
 そこへフィオリナが現れてそっと質す。焔らが戦っている間に、隠れて神社内を捜索し、豊田が師と呼ぶ者の正体の手がかりを探していたのだ。
 フィオリナは氏子に関する記録を見つけ出していた。文書をよくよく読み込めば、名簿の墨黒々と一本線で消された名前が痛々しく、氏子が病死や転居などによらない、理由の分からぬ減り方をしていることが分かる。また収められた玉串料の控えから、皆短期間にしばしば参拝を繰り返していることも分かる。
 決定的な証拠にはなり得ないが、疑念を深めさせるには十分だ。
 重ねられたフォルセティの厳しい言葉が、豊田を更に追い詰める。
「信じてもらわなくてもボクは構わないけど」
 空に放たれたウィザードミサイル。サムライエンパイアの常識にはない力が、自らの与えられた超人的な力と重ね合わされた
「求婚する相手を弱らせて、相対的に優位に立とう等とは卑劣極まりない。
 ……が、私達にとって本当に倒すべき相手は別にいる」
 フィオリナの静かな言葉に、とうとう豊田の目から、滂沱と涙があふれ出た。豊田が人倫に外れた方法で得た力で為したかったことは、人の世での成功である。神隠しにあってまで力が欲しいわけではない。追い詰められて、追い詰められて、助けも現れない中、本当の敵は自分ではないと伝えられて、飛びつかない理由がない。
 豊田はフィオリナに、小さな声で答えた。
「師匠は……師匠はいつも、松の枝のどこかから、声をかけてくれた」
 本当に豊田は、心の弱い男だった。
「天狗の鼻は折れたみたい。真人間になれるかは分からないけど……」
 奪い取った刀を、豊田の腰の鞘に戻してやりながら、焔は安堵の言葉を漏らす。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『黒幕の助言者』

POW   :    死灰復然(しかいふくねん)
【Lv体の武者】の霊を召喚する。これは【刀】や【弓矢】で攻撃する能力を持つ。
SPD   :    含沙射影(がんしゃせきえい)
【無数の影の刃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    電光雷轟(でんこうらいごう)
【錫杖】を向けた対象に、【激しい雷光】でダメージを与える。命中率が高い。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠犬憑・転助です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 言われた通りに松を探すと、豊田の屈伏するまでを隠れて見ていたらしい、梢の方から男の影が姿を現す。
「――心の弱いのを狙ったつもりだったけど、弱すぎたみたいですね。せっかく力をあげたのに、足袋泥棒。ばかばかしい。しかもたった二人からしか盗らなかったんですって? 江戸をめちゃくちゃにしてもらおうと思ったのに、これじゃ台無しです。皆さんもそう思うでしょう?」
 腹に十字の刀傷。黒装束に身を包み、金の錫杖は禍々しい。顔は端正な男が、仄暗い口調でうっそり笑う。
 あれだ。あれが、天狗を名乗り、人の心を裏から操ろうとした、倒すべき敵だ。

「……あの、それがしのことはどうか、道場や袖殿達には内密に……」
 豊田の命乞いを、今は聞く必要はない。
影守・吾聞
『』:技能
【】:ユベコ

友達のテル(f04598)と連携

敵の動きを止めるのはテルに任せて
俺は攻撃に専念するよ!

気をつけて、とテルに声を掛けてから敵に接近開始
『野生の勘』『ダッシュ』『ジャンプ』を駆使して
敵の雷攻撃を回避しつつ駆け続ける
テルを信じて、後ろは振り返らないよ!

十分に攻撃が当たる距離まで近づいたら【悪魔の灯火】を発動!
大量の鬼火をぶつけて丸焼きにしてやる!
こいつをほっといたら間違いなく
また誰かの心に付け込もうとするだろうからね、ここで倒しきるよ!
今回目を付けちゃった人間が足袋フェチの変態だったのが、お前の運の尽きだ!

延焼分は適宜消して火力調整
戦場周辺まで燃やしちゃわないよう気をつけるね


アステル・サダルスウド
『』:技能
【】:ユベコ

友達の吾聞君(f00374)と連携
吾聞君が攻撃する隙を作るよ

僕は大丈夫!
吾聞君、君の方こそ気を付けて
『鼓舞』で信頼する友の背中を押すよ

『見切り』で敵の攻撃を避ける

天狗を名乗る君よ、僕が思うに心が弱すぎるのが問題ではないんじゃないかな
ほら、豊田君の拘りはある意味強い心が…ああ、その話は置いといて
特殊な性癖を見抜けなかった君自身に問題がある
少し見る目を磨いた方がいいよ?
この僕のようにね!

『フェイント』『スナイパー』を活用し【ミレナリオ・リフレクション】を発動
敵の攻撃を相殺したら「ね?」とウインクひとつ
我が友は傷付けさせないよ!
さあ吾聞君、下らない目論見諸共焼き尽くしてやれ!



 吾聞とアステル、二人の連携は図抜けていた。
「気をつけて、テル」
「僕は大丈夫!  吾聞君、君の方こそ気を付けて」
 身をかがめて全身に力をためていた吾聞は、背後のアステルのいらえを聞いてとるや、彼の鼓舞に応えて、解放されたばねがはじけとぶように飛び出した。
 目指すは敵の陣取る松の梢。まずは松の幹を二歩程蹴って駆け上がり、両手で枝をしかと掴むと、全身のばねと尻尾までを用いて身体を樹上へ引き上げる。
 ダッシュ、ジャンプ、野生の勘。頭上の敵から直下に放たれる電光雷轟を、松脂の焦げる香り漂う中、吾聞は持てる技術を用い、かわしていく。避けきれなかった雷撃は、樹下のアステルがミレナリオ・リフレクションで跳ね返す。敵は足元へ迫る吾聞を撃ち落とさんとするのに手いっぱいで、アステルにまでは錫杖を向ける余裕がない。
 松の幹の焦げるにおいは、アステルの元にまで漂いつつある。樹下のアステルは樹上の敵へ、とうとう語りだした。
「天狗を名乗る君よ、僕が思うに心が弱すぎるのが問題ではないんじゃないかな?
 ほら、豊田君の拘りはある意味強い心が……ああ、その話は置いといて……特殊な性癖を見抜けなかった君自身に問題がある」
 『黒幕の助言者』として、自らを指し示す名をすら失ったオブリビオンは、いらだたしげに首を振った。
「捨て駒を時間をかけて見極める必要性なんて感じませんね!」
「それにしたって、少し見る目を磨いた方がいいよ? ……この僕のようにね!」
 吾聞がすばしこく動いたせいで、二人の登った松の木は電光雷轟であちこち抉れていた。もはや、人二人を支えるほどの強度は無い。
 腹立ち紛れの雷撃が吾聞を襲う。が、二人、ユーベルコードの特性を揃えたのも功を奏して、既にアステルの目は十分に慣れていた。
 アステル渾身のミレナリオ・リフレクション。雷撃が背後から吾聞の髪の吹き散らしても、彼は振り返らない。その必要がないからだ。
 アステルの針の穴を通すような狙いが、​吾聞のすぐ横と常若の松の枝葉をすり抜けて、敵の電光雷轟を打ち消した。
「……ね?」
 アステルがにっこりする。松は半ばほどからめきめき音を立てて折れ、二人は落下する。敵は舌打ちと共に。吾聞はまるで、ステージギミックって燃えるよねとでも言いたげな表情で。
 敵を地上へ引きずりおろした吾聞はとうとうユーベルコードを発動する。悪魔の灯火。現れた十九体の鬼火は、敵の避ける軌道を追って殺到する。
 敵が一体避ける間に、鬼火が二体、叩きつけられる。敵が三体打ち払う間に、鬼火が六体、絡みつく。
 アステルは吾聞を盾に。吾聞はアステルを盾に。​そして、吾聞はアステルの矛に。アステルは吾聞の矛に。二人の連携は、完璧だった。
「今回目を付けちゃった人間が足袋フェチの変態だったのが、お前の運の尽きだ!」​
「そんな運の尽きはごめんです!」​
 一方的優位な立場を奪われて、敵の叫びはけっこう切実である。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フィスト・フィズム
…なるほど、こいつが“天狗”…一筋縄ではいかなそうね。
ひとまず。

【行動:POW】
トリニティ・エンハンス零を発動し、黒死の鱗盾に土の魔力を込めて防御力を高めるわ。
それから豊田に対し下がるよう警告する。

「逃げろとは言わないけど、下がりなさい!悔い改める気のないまま逝って閻魔大王の地獄のお仕置きを受けるよりはマシでしょう!?」

技能に【盾受け】【カウンター】【見切り】を使用。
敵の攻撃に対し、黒死の鱗盾で受けながら、隙を窺うわ。
【見切り】で隙を見いだしたら、【カウンター】によるシールドバッシュをかましてから『ドラゴニック・エンド』を使用して命中を試みる。
願わくば、それが他の猟兵にとって好機となれれば。


フィオリナ・ソルレスティア
【共同/f01122,f05803】【WIZ】
「ようやく黒幕がお出ましといったところか」
鋭い眼光で助言者をにらみつける

■作戦
(自らは防御・支援の役割)
黒幕の助言者の攻撃に対して、相殺用のUC等を駆使し
仲間と豊田を護り抜く

■行動
助言者の一挙手一投足に気を配り、攻撃する刹那に素早く
アイギスの盾を展開する(技能:高速詠唱)
更に迅速強靭な攻撃を予測し、全力魔法×2回攻撃の技能で
2枚重ねにし全力で防ぐ
※焔達のみならず、豊田もカバーする
「そう簡単にやらせはしない。今だ、フォルセティ!」
事前に示し合わせた通り、焔とフォルセティに攻撃を促す

なお死灰復然に対してはウィザード・ミサイルで対抗する


フォルセティ・ソルレスティア
【共同/f00964,f01122】【WIZ】
焔さん、フィオ姉ちゃんと連携して黒幕の助言者と戦うよ
ダメージを与えて戦闘力を奪う狙いだね

【行動】()内は技能
「まずは小手調べだね」
(先制攻撃)でウィザード・ミサイルを放つよ
「まあ、そうくるよね」
相手の反撃を誘い出したところで
フィオ姉ちゃんのUCで相殺するんだ
そして焔さんのガトリングガン攻撃から間髪いれずに
カラミダド・メテオーロを(高速詠唱×全力魔法)で叩きつける
確実に殲滅するため(2回攻撃)にするんだ

(戦闘知識)をフル活用して戦うよ

■豊田さん
戦いの後だけど…
今回の顛末を豊田さん自らの言葉でお袖さんやお鈴さん達に
説明してもらうよ。これは絶対譲れない


神薙・焔
【共同/f00964,f05803】

【心情】
この期に及んでまず保身とは呆れるわね、でも人を裁くのは猟兵の仕事じゃないわ。

【行動】
以下はフィオリナのアイギスの盾によって含沙射影の初撃から豊田が守られるとしたプレイング。

苦痛に顔を歪めつつ体を切り裂く、【ブレイズフレイム】の噴出する地獄の焔を壁にして豊田と戦場を分断、逃走を促す。

「ここは既に戦場、よけいなコト考えていると死ぬわよ」
「足には自信あるんでしょ?こいつはあたしたちに任せて、早く逃げなさい!」

豊田を逃がした後はガトリングガンで敵を足止め、フォルセティのメテオ発動の援護をする。

スキル:属性攻撃2、援護射撃1、地形の利用1、コミュ力1、かばう4



延焼は防がれていたものの、敵味方の激しい攻防により、境内は荒れつつあった。
「――ここは既に戦場、よけいなコト考えていると死ぬわよ」
「下がりなさい! 悔い改める気のないまま逝って閻魔大王の地獄のお仕置きを受けるよりはマシでしょう!?」
 焔とフィスト、乙女二人が口々に、この場に残られても足手まといにしかならぬ豊田へ避難を呼びかける。

 ――この期に及んでまず保身とは呆れるわね、でも人を裁くのは猟兵の仕事じゃないわ。
 距離感を保ったことを内心思いつつ、焔は両手を肩幅よりそっと広げる。
 そのとき、焔の衣服の袖口から、つ、と血が伝った。……いや、血ではなく炎だ。焔の身を裂き、血の代わりに流れ出した炎は彼女の手のひらを伝い流れ、地に落ちんとしたその瞬間、熱せられた油のように噴き上がった。
 炎は滴とはもはや呼べないほどの量、焔から噴き流れ、彼女のこらえきれない苦痛の呻きもかき消して敵の方向へ殺到した。ブレイズフレイム。地獄の炎。ただしその炎のたどり着いた先は敵の元ではない。
「……足には自信あるんでしょ? こいつはあたしたちに任せて、早く逃げなさい!」 
 焔のブレイズフレイムは紅蓮の壁となって、豊田と『黒幕の助言者』とを分かつ。
 ――逃げよと命じられた豊田だが、いっときひるんだ。焔の張り上げた声に隠し切れない苦痛がにじんでいたからだ。
 ほんのつい先ほど立ち会って、徒手でもって自らを打倒した少女が、我が身を裂いてまで自らを守ろうとしている。
 自らが卑怯であったために、自らの心弱きがために傷つけた袖、鈴と同じ女性に命を救われる内心を推しはかることは難しいが、その顔には確かに、傷ついたような表情が浮かんでいる。
 傷ついたのはプライドか良心か、豊田自身にもわからない。もはや彼はオブリビオンの加護を失っていた。突風のごとき神速は既にない。尻に帆かけて逃げて行く。

 豊田のことは焔たちに任せ、フィストは武器を構える。片手にはドラゴンランス。もう片手には黒死の鱗盾。​​
 白銀の竜の乙女が持つにはあまりに禍々しい鱗盾が、トリニティ・エンハンス零の守護に応じる。重みがずしりと一瞬増したのがその証拠。土の魔力は鱗盾の防御力を高めている。
 敵の唱えた死灰復然にて出ずるのは、ほとんど四十体もの、狭い境内を埋め尽くそうかという数の武者の死霊だ。それらが今しがた生まれた、ブレイズフレイムの壁の向こう側にゆらめいて見える。

 彼らを相手どり、フィストの息を呑むような接近戦が始まった。
 フィストは盾をかざして、炎の壁を突っ切る。まずは虚を突かれた刀持つ死霊を盾の衝撃で吹き飛ばす。倒れた敵はドラゴンランスの一突きで消え去るが、まずはここまで。あとは機を待ち、防戦に入る。フィストが構えた盾の表を刀や弓矢が滑るたび、盾一枚とは思えぬくぐもった重い衝突音が盾の内へと響くのは、土の魔力の守護のためだ。
 いや、防戦に入ったと見えたのは一瞬だけであった。崩れた扇型に陣した死霊たちの正面から、フィストは一歩一歩近づいてゆく。向けられる矢の全てを巧みに盾で受けながら、一歩一歩と敵陣へ歩み寄り、やがては扇の中心、要の位置の黒幕の助言者へ肉薄する。黒幕の助言者は陣形を変え、自らの前面に分厚く死霊武者を配し直したが、フィストは二、三体をまとめて体重をかけて押し戻した。ずしりと重たいシールドバッシュ。弾き飛ばした武者の霊ごと、黒幕の助言者を槍で刺し貫き、現れたのはドラゴン。鋭い咢が、動きの止まった敵に食らいつく。
 血しぶきをあげながら助言者は、憎悪で真っ赤に目を燃やし、フィストの背後に再度、武者の霊を呼びだしたが、錫杖を掲げた右手をも、突如放たれたウィザードミサイルに貫かれる。
 フォルセティの聖なる箒が、敵の錫杖を持つ手を指している。
 人ならざる黒い血が錫杖を伝い、助言者の額といい頬といい、雨のごとく濡らすが、黒幕の助言者は、掲げた錫杖を下ろさなかった。その指す先は、フォルセティ。
「――まあ、そうくるよね」
 読んでいた。
 まばゆく光輝く魔法の盾が、放たれた激しい雷光を迎え撃つ。フィオリナのアイギスの盾だ。光と光がぶつかり合い、もうほとんど日の沈み、薄暮に入った境内をいっとき日中のように真白く照らす。
 フィオリナは弟のウィザードミサイルが命中して即、電光雷轟が放たれることを読んでいたし、フォルセティはその電光雷轟を姉のフィオリナが防ぐことを読んでいた。
 その一撃は、フィオリナの全魔力を傾けられた二枚重ねの光の盾に打ち消され、ぶつかり合ってひときわ明く燃えた光の後には轟音のみがあり、他には何も残らなかった。
「そう簡単にやらせはしない。今だ、フォルセティ!」
 示し合わせていた通り、焔のガトリングガンの掃射が始まる。フィストは掃射に合わせて、後方へ飛びすさり距離をとる。フィストと彼らとの打ち合わせはなかったが、フォルセティの目論見は、既に言葉で語られなくても理解できている。フォルセティの聖箒ソル・アトゥースは、未だ黒幕の助言者へ向けられたまま。

 焔が我が身を犠牲にしてまで豊田を逃がしたのは、この為であった。
 フォルセティの詠唱は完成した。朗々謳い上げた詠唱は、薄暮の空を支配する詩。
 ――悠久に揺蕩う無限の星屑よ。星柩満ちて此へ集うは漆黒の紅炎。
 カラミダド・メテオーロ。
 焔のガトリングガンが舞い上げた枯れ松葉が、地に落ちずにそのまま上空へ上がる。
 その松葉を目で追えば、見えるだろう。上空に迫る巨大隕石が。隕石へ吸い込まれていく松葉は皆、端の方がちりっと赤く光ったかと思うと、たちまち燃え上がって灰ごと隕石に消えていく。
「……まさか……!!」
 錫杖がからりと音を立てて地に落ちる。驚愕の表情で空を見上げた黒幕の助言者のその瞳に、灼熱して赤黒く輝く隕石が、みるみる迫るのが映り込む。
 衝突のあとにはクレーターしか残らなかった。


 ――全て解決して、猟兵達が袖達の待つ道場へ戻ると、足袋を取り返して晴れ晴れとした表情の姉妹が出迎える。
 袖は出げいこからの帰り道、泥だらけの豊田にその場で土下座され、何もかも聞いたそうだ。
「豊田の処分は父が吟味するでしょう。それよりも私は明日、道場に人が集まったら、私に勝った弟子から婿を取るという宣言を取り消すつもりです。弱った女に勝って自らの将来に利しようなどという卑怯者がいたと分かった以上、その中からは婿は選びません」
 猟兵達は夕闇迫る中、江戸の町を後にする。人騒がせの事件であったが、これにて一件落着である。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月25日


挿絵イラスト