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アースクライシス2019⑰〜残華神域

#ヒーローズアース #戦争 #アースクライシス2019 #戦神アシュラ #神の空間

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 零れ落ちる肉塊を前にして、女は小さく息を吐いた。
「あーあ。一本しか使ってないってのに」
 一刀に纏わりついた血脂を払ってなおも、その肢体は鉄の匂いを失わない。六つの腕に刃を抱き、戦神――アシュラは一歩を踏み出した。
 今しがた切り捨てた肉体は既に熱を失っている。首も、胴も、四肢も、ただの肉塊となってしまえば全てが同じ。
 血に塗れた居城の内で、女は天を仰ぎ見る。
 己は殺されたのだ。紛れもなく一度、この原初の戦神が敗れたのだ。この力と心を恐れた者どもに。非力で脆い者どもに。
 ――世界に。
「覚悟しろよ――」
 燃える復讐者の瞳が、悪辣な笑みを浮かべた。


「戦争も折り返しを越えたな。皆、疲労は大丈夫か?」
 ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)の手には、既にグリモアが浮かんでいる。手短に行こう――と前置いて、彼は目を眇めた。
 パンゲア大空洞で石板を集めたことで、神の居城への道が拓けた。一度死したとあっても、原初の戦女神は未だ己の空間を手にするに足る存在であるということだ。
「相手取るのは戦神『アシュラ』。戦ったことのある者もいるであろうが、アシュラレディの大本だな。性質は悪辣で残虐――と、言葉にするより居城を見る方が分かりやすいか。覚悟しておけよ」
 一呼吸――。
 間を置いてから、男の手がゆらりと空間に翳される。予知に見た居城の、凄惨な光景を映すのだ。
 まず、赤が目に入るだろう。それが何によってもたらされているのかを知れば、自然『内装』が何を基調にしているのかも知覚できよう。
 ――肉だ。
 死体というのも憚られるような肉塊が折り重なっている。体の一部、或いはその中身。吹き出し凝った赤黒い粘つきも、濁った色の体液も、何もかもが無造作に積み上げられた地獄だ。
「阿修羅城。床から壁から、全て死体で出来ている」
 ――アシュラはかつて、その暴虐を見咎められたことで刑死した。
 至るまでに重ねられてきた所業も容易に想像がつく。まして今の彼女は復讐心に滾り、己を殺した者どもと、それらを救う――彼女曰く『異邦の侵略者』である猟兵たちに対する敵愾心は計り知れない。何をおいても、この犠牲者の山に加えることを優先してくるはずだ。
「改めて言うことでもないが――油断はしないでくれ。貴様らがこの死体の仲間入りなぞと、考えたくもない」
 幸いにして扱う力は割れている。無策で突っ込むよりは何がしかの対策を含めた方がやりやすくはあろうと、ニルズヘッグは一つ、真剣な眼差しをしてみせた。
「奴が作った骸の山に、奴を沈めてやるが良い。よろしく頼むぞ」


しばざめ
 しばざめです。アシュラみたいな女性が大好きです。

 今回のシナリオにおきましては、「敵のユーベルコードに対する対抗策」などを書いて頂けると、ボーナスを差し上げやすくなっております。
 プレイングの状況によっては、問題がなくても全採用が難しくなることがございます。ご了承ください。
 執筆ペースは再送を出さない程度となるかと思います。

 受け付けは11/19(木)18:00ごろを目安とさせていただきますが、状況によって前後するかと思います。プレイングが送れる限りは受け付けています。

 それでは、お目に留まりましたら、よろしくお願いします。
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第1章 ボス戦 『戦神アシュラ』

POW   :    戦女神光臨
【悪の『戦女神』としての神性】に覚醒して【戦いのためだけに造られた武器への無敵状態】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    阿修羅三眼装
【額の第三の眼を開く】事で【目にした者の戦闘行動を封じる『終戦神』】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    阿修羅破界撃
対象の攻撃を軽減する【神気を纏った『戦勝神』】に変身しつつ、【六刀本来の姿たる全てを断つ『破壊神』の刃】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

アリス・セカンドカラー
ふーん、戦いのためだけに造られた武器への無敵状態ね。ま、問題ないわね。戦女神光臨で強化されていくアシュラを眺めながらこちらも不可説不可説転の星辰(アストラル)界に変身するわ。普通の相手ならアストラルには物理無効とか言えるけど戦神だと普通に斬ってきそうねぇ。まぁ、不可説不可説転の私を殺しきるのは容易ではないし、精神を具現化した私はカートゥーンキャラみたいなギャグ補正に生きる理不尽な存在よ?そして、こうコミカルな感じでリポップしたり悪戯の延長みたいな感じで攻撃をするわ。で、アシュラの攻撃パターンを学習力で見切り、その攻撃の隙間に入り込む形で接近。狭い隙間に入り込む能力で耳経由して大食いで脳くちゅ♡




 戦神の根城を踏みしめる足音は軽い。骸がぶよぶよと居心地の悪い反発を伝えてくるのも気に留めず、殺気を隠そうともせぬアシュラへ歩み寄るのは、少女――アリス・セカンドカラー(不可思議な腐敗の魔少女・f05202)だ。
「あ? こんなガキも猟兵ってか? ははは、このアタシ相手にバカげた話だ」
「あら、そう見える?」
 こてりと傾げた首に無邪気さを湛えながら、アリスは決して怯まない。細めた瞳と持ち上げた唇に、相対する女にも似た――それより無垢な残虐さが浮かんだのは、復讐に曇った瞳に映ったかどうか。
「バカげた話かどうか、やってみたらどうかしら」
 笑う少女の花唇が次の言葉を紡ぐより先に、復讐鬼神は瞳に狂熱を宿した。
 見開かれた眼差しの奥に、宿したのは悪の神性。アシュラの命を糧に燃える復讐の焔は、己がかつて持ち合わせた残虐なる女神の性と混じり合い、紫の眼に滾る憎悪と変わる。
 そのさまをじっと眺めて暫し――アリスは瞬きながら、戦女神の覚醒を見送った。
 何故なら。
「ま、問題ないわね」
 彼女は『戦うためだけの武器』など使う気がないからだ。
 ――dlrow lartsa llewd tcartnoc ni siht tirips eht ydob.
 纏うは霊魂、住まうは精神世界。限りなく無限に近い数と現実の狭間を携えたアリスの体は、今や物理世界さえ凌駕する。
 歪む幻影、現れるのはややポップなアリス。この血腥い空間には不釣り合いにも見える、愛らしい姿だ。人間の世界で言うなら極めてゲームキャラクターとでもいうべきか、或いは漫画やアニメの住人とでもいうべきか――しかし原初の女神アシュラが、斯様な存在を見たことがあるわけもなく。
 思わず瞬く六本腕の女に、カートゥーンめいた動きで桃色の髪を揺らすアリスが、笑みすら浮かべたまま首を傾げた。
「普通の相手ならアストラルには物理無効とか言えるけど、戦神だと普通に斬ってきそうねぇ」
「フザけた格好しやがって。バカにしてて勝てんのかァ!?」
 襲い来る六本の腕がいとも容易く胴を両断する。その手応えの軽さに、アシュラが高笑いを漏らしかけた刹那――。
「残機ってやつを知らないの?」
 ぽよん。
 死体の山の上に、効果音と煙をひっさげ現れるのは、先に斬り伏せたはずのアリスの姿である。
 思わず呆気にとられる戦神の瞳に映るのは幻影などではない。現在のアリスは彼女の精神世界の具現化であり、それ即ち残機の限りリポップし続ける理不尽極まりない存在だ。
 そしてその残機の数は。
「不可説不可説転の私を倒しきるのは容易じゃないと思うわよ」
 くるりと回ったアリスの足が、アシュラの懐むけて飛び込んでいく。流石に憎悪や復讐心より困惑が勝ったか、躊躇ない少女の姿を見る女の足が、僅かにたたらを踏んだ。
「殺したいんでしょう? いくらでも殺させてあげる!」
「チッ、この、面倒くせえ――!」
 斬り落としたはずの首が即座に揺らいで消える。次はどこだと視線を巡らせるアシュラの耳に、するりと小さな指の感触。
 既に現実の領域から半分ばかり飛び立っているアリスを捉えようという方が無理だった。振り払うように六本の腕を振った女の鼓膜を揺らす確かな恍惚の声が、その中へと忍び寄る確かな感覚と――。
「うふ。いただきまーす」
 ――その後のことは、アリスのみぞ知る話だ。

成功 🔵​🔵​🔴​

ニルヴァーナ・ヒプノス
「なるほどー、つまりー私の攻撃は軽減されるわけですかぁ」
「でも、ほら、此処には幾らでも材料がありますねぇ、ありがたいことにー」
『死は甘く、尊きもの』を起動。使える死体は片端から利用し爆破する
「貴方が殺した命が、貴方を殺すんですねぇ、と言えば聞こえはイイですがぁ、まー些細なことですねぇ」
死とは、最期に与えられる眠りである。それを穢されたようで面白い状態ではない。殺すために殺すような、そういうのは全く好ましくない。
「それでは皆様ぁ」
「おやすみなさいましぃ」




 原初よりの戦神の持つ力と、人造の夢神のそれであれば、どちらが勝るのだろうか。
 ただ壊し殺すためだけの力を操る悪辣な神に相対するのは、ニルヴァーナ・ヒプノス(夢のような日々を・f23646)だ。眠たげでぼんやりとした出で立ちは、肉塊の上にあってどこか浮世離れした空気を纏う。
「ッどいつもこいつも、ナメたようなツラで――!」
「ナメてはいないつもりなんですけどねぇ」
 こてんと首を傾げる眼は、やはり夢と現を彷徨うよう。それが気に入らないのは相対するアシュラの方だ。
 構えられた六本の刃が、ずろりと姿を変えていく。豪奢な装飾に無骨な刃、一見してアンバランスにも見える破壊神の刃の数々を携えた戦勝神は、その身に纏った衣の力をも解き放ったとみえる。
 ――勿論、ニルヴァーナの表情は変わらない。
「なるほどー、つまりー私の攻撃は軽減されるわけですかぁ」
「そういうことだ。ボンヤリしたツラしてて良いのかい?」
 骸の山を蹴る女の足。向かい来る六刀を前にして、けれど少女の琥珀色の瞳が見据えるのは、舞い散った肉塊の方だった。
「でも、ほら、此処には幾らでも材料がありますねぇ、ありがたいことにー」
 ついと繊手が持ち上がれば、戦神の前で何かが弾ける。思わずその前進が止まった直後、足許に折り重なった無数の肉が轟音を立てて爆発した。
 この戦場において、人造の夢神の『弾数』は無限と言って差し支えない。何しろアシュラが築き上げた屍の山の全てこそ、彼女の操る爆弾の正体だ。
 ――ニルヴァーナ・タナトス。
 神話においても、夢神の片割れは死神だった。ヒプノスと同じ夜の子、死の神徳を持ったものの夢想が、この城の全てを彼女の味方へと変えている。
 次々と投げつけられる肉塊が、端から全て爆発していく。アシュラの六刃が切り裂いたとて、弾けるものが増えるだけのこと。
「貴方が殺した命が、貴方を殺すんですねぇ、と言えば聞こえはイイですがぁ、まー些細なことですねぇ」
 眇めたニルヴァーナの瞳に浮かぶのは、人を救う神の色とは僅かに意味合いを変えた感情だ。
 死とは――究極の眠りである。
 全てのいのちの行き着く先。その最期にもたらされる安息だ。ニルヴァーナの司る夢と眠りの粋でもある。
 だから。
「殺すために殺す、だって?」
 ――その神徳を穢すことは。
 ――神にさえも赦さない。
「寝言は永眠ていえ」
 紡がれた言葉と同時、操り得る全ての骸が阿修羅へ向かう。その爆風の彼方で、戦神は何を見ただろう。
 ニルヴァーナにとっては――些事であるけれど。
「それでは皆様ぁ」
 ふわりと一礼、向けられた言葉は誰への手向けか――或いは慰めか。
「おやすみなさいましぃ」
 涅槃の夢神は、もう夢を見ないから。

成功 🔵​🔵​🔴​

鷲生・嵯泉
探偵女史(f14037)同道
性質の悪い女だ、趣味に合わん
早々に骸の海へ叩き返すとしよう

……何時見ても見事なものだ
骸の壁が遮る間に此方の支度を整えるとしよう
――【歳殺】
此れから流れる血氣が代価だ、あれの左半身を抑えろ
右半身は私が抑える……何が有ろうと探偵女史の邪魔をさせるな
攻撃は戦闘知識と第六感にて軌道を先読み躱し
傷は激痛耐性と覚悟で無視する
お前如きの前に付く膝は無い
嘗ては神であろうが、今は唯のオブリビオンにすぎん
……第一既に1度敗れ潰えた身の上で
――負けず竜にも変じた女に勝てる筈が無かろう
そら、お前の破滅が其処に「居る」

復讐という行為を否定する気は無いが、お前の其れは唯の逆恨みだ


鎧坂・灯理
鷲生殿(f05845)と同道
フィジカルクソ女ですね やはり神はだめだな
神楽耶は神ではないので問題ありません
ええ、海に沈めてやりましょう

先制攻撃に対し念動力発動
全方位から死体を叩きつけることで妨害する
ついでに圧縮して壁にしようか
死体はただの物体だからな

鷲生殿が固めてくれたなら【落陽】発動
――私は私を信じている
つがいが、兄様が、友が、戦友が、社の仲間が信じる私を信じている
ニルズ兄様とハティが信じる、目の前の人間が信じる私を信じている
故に――我が前に敵無し

一撃だ
軽減など出来ると思うな

――沈め




「性質の悪い女だ、趣味に合わん」
「ええ。とんだフィジカルクソ女ですね。やはり神はだめだな」
 慣れた臓腑と鉄錆の臭いを掻き分け、亡骸の頂を踏み越えて現れた上背のある男女は、荒々しく周囲を睥睨する戦神を目にするや開口一番に切り捨てた。鷲生・嵯泉(烈志・f05845)と鎧坂・灯理(不死鳥・f14037)である。
 脳裏に浮かぶ『趣味に合う』方の女性の顔は別物だが、とまれ抱く感想は一致した。
 互いに得物を手にしてこそいるが、構えるというには呼吸が自然だ。肉の海に立つままの彼らは、そのまま更に一歩を踏み込む。
「お前の友人は良いのか」
「彼女は神ではないので問題ありません」
 ――浮かべた焔色は、今度こそ、脳裏で同じ顔で笑ったろう。
 ぎろりとこちらを睨む藤色の双眸に、相対するは柘榴と紫水晶の隻眼。晒した右目にかつての戦神を映し、獲物を定めた猛禽の如く眇め見る剣鬼が構えるのは遺された白刃――秋水だ。
「早々に骸の海へ叩き返すとしよう」
「ええ、海に沈めてやりましょう」
 唸るような声音に、凛と低い女の笑声が重なる。意志のみで怪物となった彼女の手には何も握られてはいない。
 鎧坂・灯理の武器は――いつだって『己自身』だ。
「さっきから好き勝手にほざくなァ。このアタシが人間風情に何度も遅れを取ると思うかい」
「人間風情? あの頭の悪い神はとんだ勘違いをなさっているようですよ、鷲生殿」
「全くだ。此の腕で以て解らせてやる他あるまい」
 六つ腕が纏うのは悪の女神の真骨頂。露わになる六刃本来の姿をそれぞれの手に携えて、勝利の神が悪辣な笑みを浮かべて見せた。
 それを前にしてなお、灯理の表情は崩れず、嵯泉の闘気も揺るがない。
 神であらば何だというのだ。勝利を司るというのならば上回れば良いだけのこと。神であろうが過去であろうが、捻じ伏せれば全て同じだ。
 ――人間の真の力は。
 ――意志の焔にこそ宿る。
「貴様が相手取っているのは、修羅と怪物だ」
「言ってろ、人間!」
 アシュラの刃が迸る先に嵯泉がいたのは、当然のことだったかもしれない。彼女の武器もまた刃なれば、非力な人間の拳よりも優先して排斥すべきだと考えるのも無理からぬことだ。
 しかし。
 刃を構える嵯泉が防御に転ずることはない。無数に飛来する肉塊を、己の前に圧縮展開される文字通りの肉壁を、既に察知しているからだ。
「……何時見ても見事なものだ」
「お褒めに与かり光栄です」
 成したのは灯理である。にこやかというには些か人の悪い表情で笑ってみせた彼女に、嵯泉が返すのも似たような幽かな笑みだ。
 そのまま大きな手が小柄を滑る。呼びかける先は殺気の凶将。
「――歳殺」
 術者の呼びかけに、軍神が応じることはない。対価を示せと声なく語り掛けるそれに、嵯泉の隻眼がゆるりと眇められた。
「此れから流れる血氣が代価だ、あれの左半身を抑えろ」
 果たして。
 現れるは土の将。携えた得物を構える禁精は、この場に在る戦の気配が『半分』に足ると判じたらしい。
「右半身は私が抑える……何が有ろうと探偵女史の邪魔をさせるな」
 頷くや否や、駆ける一陣。
「復讐という行為を否定する気は無いが、お前の其れは唯の逆恨みだ」
 踏み込んだ嵯泉の刃が、白刃の一本とぶつかって鎬を削る。火花までも舞い散らんばかりにぶつかる二刀の横合いより、打ち据えるように振りかざされるもう一本。
「逆恨みって言うなら人間の方じゃないかい!? 神のやることにいちいち文句をつけやがる! アンタたちもとっとと斬り刻んでやるよ!」
「――お前如きの前に付く膝は無い」
 躱すというには足りぬ距離――僅かに後退した嵯泉の目は、脇腹に走る激痛にも童子はしない。
 抑え役を買って出るのならば傷を負うのは必定だ。後方に控える者を護り抜くのが役目とあらばなおのこと。覚悟と意志で、全てを捻じ伏せ、彼は女神と称されるそれを睥睨する。
「嘗ては神であろうが、今は唯のオブリビオンにすぎん……第一、既に一度敗れ潰えた身の上で――負けず竜にも変じた女に勝てる筈が無かろう」
「ハ、竜だ――?」
 ただの畜生だと――嗤う気配があったから。
 眇めた瞳に殺気が宿ったのは、気のせいではなかったろう。
「其の眼で確かめるが良い」
 平坦に放った声に、灯理は見えぬと知っていながら、紫水晶を剣呑に細めて浅く頷いた。
 骸たちへ向けていた念動力の全てを開放し、拳を固め、深く息を吸う。
 ――灯理は灯理を信じている。
 つがいがいる。兄がいる。友がいる。いつの間にか賑やかになった己の巣がある。
 その全てが信じる己を信じている。
 眼前に立ち、全てを託して戦神の猛攻を食い止める姿がある。
 つがいが、兄が信じる『ひと』が信じる己を。
 ――鎧坂・灯理を信じている。
 故に――。
「我が前に敵無し」
 拳に籠もる力は揺るがない。駆け出す足に全てを焼き尽くす炎を纏い、覚悟と意志のみで立ち続けて来た女が、そこに愛を混ぜて肉の海を踏む。
 後方より迫る気配に、嵯泉の血に塗れた腕がふいと凶将を退けさせる。
「そら、お前の破滅が其処に『居る』」
 アシュラがその姿を捉えたときには――。
 浄化を齎す焔は、最早避けようもない位置にあった。
「『神様風情』が自惚れるなよ」
 その先もない癖に。
 一度敗れておきながら。
 未だそこで、未練がましくがなるのならば。
 ――灯理は沈黙が好きだ。
「沈め」
 叩き付けられた人間の拳が、神の体を穿った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

塩崎・曲人
戦闘行為を封じるんならよぉ~
『マトモに戦わなければいい』んじゃねぇ?

しかも敵の阿修羅三眼装の効果はよぉ
「変身」する所までなんだよなぁ
パワーアップするのは先制だが、そこから殴りかかるのは先制じゃねぇ

遭遇次第、アシュラをガン無視して『その場に散在する死体を一箇所に集めて弔う準備をする』という非戦闘行為に没頭するぜ
これで敵の攻撃はシャットアウトしつつチャンスを待つ

露骨に背を向けて作業をする等で挑発して、敵が突進して強力な一撃を出したら
全力で回避して死体の山に攻撃が入るように誘導

攻撃で死体が舞い散ったらそれを目くらましに【フェイント】で敵の視界外に潜り込み
手持ちの武器で思い切りぶん殴る

【アドリブ歓迎】




 死の山を越え、現れた橙の髪――塩崎・曲人(正義の在り処・f00257)が携えているのは、喧嘩にお誂え向きの鉄パイプだ。
 元がどこにあったものかも不詳。ただしその殴打による殺傷力は御墨付――勿論、戦神の六刀とまともにやり合えば、ただの鉄塊になってしまうことも織り込み済みだ。
 まして、この先にある殺気立つ気配は三つ目の眼を携えているという。捉えた者の動きを縛り、彼女自身に遥かな力を与える神の権能である。なれば真正面からの結び合いなど愚の骨頂だと、曲人は知っている。
 故に。
 その藤色の眼が橙を見据え――灰色が褐色を目に入れるや否や。
「じゃ、頑張っといてくれよ。オレは忙しいんで」
 そうひらひらと手を振って見せて、青年は敵に背を向けた。
 戦場にあってあまりに無防備な姿に、与えられた傷の屈辱で忘我の境地にあったアシュラが呆気にとられたのも一瞬、とうとう獲物が現れたかとばかりに唇が吊り上がる。
「とんだバカがいたもんだね! アタシに背を向けて、無事でいられると思うなよ!」
 血の海を蹴る女の足は、先までの速度を遥かに上回って、何やらしゃがみこんだ曲人の背に刃を振り上げる。晒されたままの体を、刀の一陣が両断――。
 ――することはなく。
「うわ。何だこれ。可哀想に」
 何らの痛みも感じていないどころか、血を迸らせることすらない青年の手が、零れ落ちた何かを拾い上げて溜息を吐く。骸のうちでも比較的原型をとどめているものを抱え上げ、こま切れとなった肉の一部をその上に乗せて、彼はこともなげに立ち上がった。
 ――目を見開いたアシュラの持つ絶対的な反応速度がもたらす『先手』は、全て強化に限られている。
 繰り出される一撃が猟兵に対し先制する場合、それは強化の恩恵だ。絶対の先手と直後の一手の間には、時間にすればごく僅か、ないも同然の隙間が存在する。それを逆手に取ろうというのが、曲人のやり方である。
 非戦闘行為に没頭する間、彼の時間は無限となる。今の曲人にとってアシュラは『永遠に止まって』いて、故にその攻撃が当たることもないのだ。
 正面から当たって不利ならば、まともに戦わねば良い。戦闘行為が封じられるのならば行わねば良い――。
「せめてゆっくり眠ってくれよな」
 時折祈りの言葉すら口にしながら、アシュラの連撃になどまるで興味を示さないまま、曲人は骸を運び続ける。着々と一点に集められていくそれが、一つの山となったころ。
「ふざけてるんじゃ――ねェぞォ!」
 業を煮やしたアシュラの腕が広げられる。ぬらりと血を孕む刃が鈍く光を反射して、屍の山に新たな死を刻まんと、眼前の獲物へめがけて跳躍した。
 そこでようやく――。
 弧を描いた灰色の瞳が、藤色を映す。
 刹那に飛びのいた曲人を、引き上げられた戦神の反応速度は確かに捉えている。しかし同じく威を纏う足には既に渾身の速度がついていた。最早急旋回が間に合うこともなく――女の刃は、築かれた骸の山を思い切り飛び散らす。
 視覚とは目に頼る。三つ目とはいえ根本は人と同じかたちをした神の眼は、前面と側面を捉えるにとどまる機構だ。即ち、飛び散る数多の血と肉の中にあって、一度見失った姿を探すには振り返る他にない。
「細工は流々」
 声のした方に思い切り振り返った、その背後。
「後は仕上げを御覧じろってな!」
 ――振り上げられた鉄塊と、曲人の会心の笑みを、戦神が捉えることは叶わなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

郁芽・瑞莉
幾度でも屠りますよ。現在を生きる私達に過去の悪神は必要ありません。
肉を切って骨を断ちましょう、この戦神を!

相手の攻撃は戦闘知識からの理論からの見切りで残像と迷彩で感覚を狂わせて片側の回避に集中しつつ、
もう片側は敢えて踏み込んで第六感で急所を外す様に武器受けとオーラ防御、各種耐性で耐えながら神霊体を降ろして。

ドーピングで一気に身体能力を上げたら迷わず今までのダメージで溜めた力の封印を開放、早業で一気に身体の真ん中目掛けてランスチャージで串刺しにして。
更に2回攻撃の2回目で高速詠唱で破魔の力を宿した全力魔法を薙刀に込めて。
相手ごと薙刀を投擲し、防御を砕きながら衝撃波を叩き込んで傷口を抉りますよ!




「こンの――この程度で、アタシを二度も三度も殺せると思ってるのかい!」
「幾度でも屠りますよ」
 誰のものかも分からぬ血に塗れたまま咆哮する戦神に、凛と確かな声が返る。
 歩み出た郁芽・瑞莉(陽炎の戦巫女・f00305)の烏羽色の瞳に宿る決意の色は揺らがない。身に纏う和服に黒い髪をなびかせ、携えるのもまた墨を流し込んだかの如き薙刀だ。
 見る全てを魅了する立ち姿に目を眇めるのは、悪しき女神の方である。
「次から次へと。物量戦でアタシに届かないのなんざ、こいつらを見るだけで分かってるだろうに」
「それは、やってみなくては分かりませんよ」
 生真面目で不敵な言葉に苛立ちの表情を浮かべる戦神が、その身に纏うのは勝利の力だ。立ち昇る神気は紅蓮の炎の如く荒々しく、変化する六つ腕の剣は破壊の色に染め上げられていく。
 ――その体が骸で出来た床を蹴るや、瑞莉の長い髪を揺らす一陣。
 けれど揺るがない。怯まない。
「現在を生きる私達に過去の悪神は必要ありません」
 何も覚えていなかった。名前とこの力の扱い方と、何かに選ばれた者である他に、過去の土台は何一つとてなかった。
 己が何者なのか。どこにあったのか。どこから来たのか――過去こそ何も知らずとも。これからどこに行くかは、彼女が決められる。
 ならば、悪を成す過去の禍を絶ち切ることに、何の躊躇があろう。
「郁芽・瑞莉、推して参ります! 肉を切って骨を断ちましょう、この戦神を!」
 名乗りを上げるや、瑞莉の姿はアシュラの懐へと飛び込んだ。左腕の剣が空を掻く――そこに残された残像に気を取られたのだ。
 蓄積された戦闘に関する知識は、彼女の中に深く根付いている。経験則と論理に基づいた身のこなしは、咄嗟に組み上げた理論に確かについてくる。相手が『六刀』であれ、『一刀』それぞれの動きには限度があるのだから、いくら原初の神のそれとて、三本ばかりならば躱せぬほどのものではない。
 ならば残りの三刀は。
 瑞莉の体に深く傷を刻む。だがその全て、命に至ることは決してない。裡側より溢れる力が、その勘が、致命の一撃を許さないのだ。
「そらそら、防御ばっかで勝てると思うなよ!」
「ええ。今からですよ」
 眇める黒い瞳に確かな闘志を宿す。
 ――指先を伝う血の雫の一滴までも、全ては瑞莉の理論のうちだ。
「巫覡なるこの身に神祇を宿し、禍を薙ぎ清めましょう!」
 高らかなる宣誓と共に、薙刀に収束するのは七紙の力の粋。命あるもの全てを祝福し、向かい風を絶つ魔の刃が、目覚めるようにして息吹を得る。
 巫覡載霊――薙ノ舞。
 揺れるのは純白の和服の裾。帯にあしらわれた紫黒は薙刀のそれと似た色で、太極を意味してみせる。
 同じく神霊の気配を纏った眼前の人間に、アシュラは何を思ったか。烏羽の瞳が見返す藤色は、僅か動揺したような気配があった。
 ふと――静謐に。
 瑞莉は告げるのだ。
「その力、お返しします」
 蓄積された負傷は全て――権能を以て力に変わる。故に今の瑞莉はただの娘にあらず。
 戦勝神をもってして捉えることの叶わぬ刃が身を抉る。深く深く突き刺さった薙刀は、その内側に蠢く魔を破る力を爆発させ――。
「過去が現在に勝てる、そんな道理はありません!」
「な――ガ――」
 渾身の力を込めて離されたその刃が、血を吐く戦神を空へと放って穿った。

成功 🔵​🔵​🔴​

月宮・ユイ
○◇
*器に<誘惑の呪詛>宿す呪:呪詛操るヤドリガミ

神殺し、挑ませて貰います。
[ステラ:左手に大盾・右手に槍]
初手盾を<早業>多数生成<念動力>で操り、敵の眼前に並べる
一太刀で断たれ様とUC発動の時間稼ぐ

《不死鳥》<破魔・生命力吸収の呪>付与
9つ纏め不死鳥6体、6つ纏い2を両手の武具へ宿す。
<情報収集:見切り>六刀に6体と武具で対抗
消えぬ炎で敵を焼き力喰らう。
9つ以上に分解されない限り即座に不死鳥再集結
命に穢れた神気なら、神気焼き祓い絶対切断の性質弱める

<念動:オーラ>纏い、負傷時も体操り継戦
切れ味鋭い故に衝撃少なく、念動での一時固定容易
傷は身に纏う6の炎で癒す。
私の命の炎、易々とは消せませんよ


グラナト・ラガルティハ
○△WIZ

【封印を解く】で神の力を限定開放。

この神の量産型とは戦ったが。
本体はさて、どれくらいの強さだろうな。
戦の神が相手だ油断や慢心はせんよ。
俺も炎と戦を司る神でな…お前ほどではないがやはり戦には猛るものがある。
勝負といこうではないか。

先制攻撃及び敵攻撃は【戦闘知識】で予測して対応。

石榴石の指輪と蠍の剣を中心にUC【我が眷属の領域】を発動。【全力魔法】と【属性攻撃】炎で威力を上げ最大火力の火炎柱をぶつける。




 屍を越えて現れる呼吸は二つ。片や小柄な少女――月宮・ユイ(捕喰連星・f02933)、片や精悍な巨躯――グラナト・ラガルティハ(火炎纏う蠍の神・f16720)だ。
 少女が携えるのは槍と盾。彼女の持つ星状の共鳴核がかたちを変えた、騎士然とした刃である。
 一方の男の手には、彼の性質をそのまま映すかの如き剣がある。蠍の尾の武器飾りがしゃらりと揺れて、アシュラの瞳が二人を映した。
「ははァ――アンタたち、人間じゃないね」
 瞑目。或いは幽かな首肯。復讐に濁っていても、戦女神の眼は確かに、そこに立つ二人の根源が人間と異なることを見抜いた。
 その身を覆うのは悪しき神性。一度潰えて過去の残滓に堕したとて、原初の戦勝神が纏う覇気と六つ腕の刃の煌めきは変わらない。
 ひらめく六刀を前に――。
 前に出たのは、ユイの方だった。
「神殺し、挑ませて貰います」
 言うや翳す左手の盾。即座に展開するのは、寸分違わぬ硬度を持った複製だ。宿神たらばこそ出来る芸当に、しかしアシュラが怯むことはない。
「モノなんてのはなァ、使われるモンだろうが!」
 一閃、盾を鉄塊へと帰した破壊の刃が、咆哮と共にユイの眼前に現れた。
 ――かりそめの肉を絶たんとしたそれを受け止めるのは、グラナトの振りかざした刃である。
 鎬を削る魔法剣越し、藤色の瞳を睥睨する金色の眼が、その薄い表情に確かな猛りを宿す。グラナトは、司るものを同じくする神を前に、隙を晒すような男ではない。
「俺も炎と戦を司る神でな……お前ほどではないがやはり戦には猛るものがある」
「へェ? そいつは結構なことじゃないか。原初の戦神に勝って、格を上げようってかい?」
「いいや」
 眇めた眼を前に振り上げられた五刀。そのうちの四本に念動力で介入する盾が間に合えば、残りの一刃の単純な軌道に、グラナトの積み上げた経験が勝る。
 睨み合う神の瞳。徐に地へと突き立てられるのは――蠍の剣。
「担ぎ上げられるのは面倒だ」
 ――それは、『グラナト・ラガルティハ』が神たる証。
 人に愛される兄弟神とは対を成す、戦のために生まれた権能。人々が彼を求め祈るのは、誰かが血を流して倒れる、そのときのみだ。
 それでも――なればこそ。
 今ここで、この戦神を討たねばなるまい。
「我に属するものたちの領域とする」
 ――立つは戦神。焔の蠍。
 突き立てた剣と手にある石榴石の指輪を触媒に、神の力が燃え上がる。瞬く間に炎柱と化したそれが、今にも剣を振り下ろさんとしていたアシュラをまともに飲み込んで、その身を焼かんと力を迸らせた。
 焦げ付く絶叫を耳に、グラナトは反撃に転じようとするユイへ視線を落とす。
「火力を弱めた方がやりやすいか」
「焼かれることはありません。お気遣いなく」
「そうか。ならば」
 猛る炎は主の命に忠実だ。グラナトが一つ指先を動かせば、すぐに咆哮するかの如くに勢いを強める。
「目眩ましにでも何にでも使え」
 歪む視界。グラナトの放つ神威の向こう、焼けるアシュラをその奥に見透かして、ユイは軽く息を吐いた。
「お言葉に甘えて」
 ――共鳴・保管庫接続正常、能力強化。無限連環具現化術式起動。概念制御。
 ――効果・対象指定、具現。
 地を蹴る足に焔が宿る。噴き上がるそれがユイの全身を覆い、炎に遮られた神の眼前に翼の如く広がった。そのまま、焔神の生み出した柱の最中に、少女は迷いなく吸い込まれていく。
「今の私は『ただのモノ』ではありません」
 いつか壊れ、再び手にしたこの体。宿した心は、ただ扱われるだけのモノであることをやめたのだ。
 共鳴。
 共鳴、共鳴、共鳴。
 神の焔の力を得、六の不死鳥が顕現する。同じ戦神の炎の中でも未だ立つアシュラの刃が、けたたましい咆哮を上げる鳥を振り払い、しかし即座に焔が呼び戻す。六刀をそれぞれに食い止める鳥の群れに、戦神の眼が怒りに歪む。
 ――それは概念具現の炎。九つ纏めて六の鳥、六つ纏いて己が身へ、残る二つは手に在る牙に。
 原初の戦女神の力を屠り、焔神の共鳴を得たその力は、最早この世の刃で止めること能わず。
「な――」
「私の命の炎、易々とは消せませんよ」
 ――その槍が、神の姿を貫いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユリウス・リウィウス
ふん。いい趣味だ。挨拶は無用だな、行くぞ。

アシュラの先手は「武器受け」「盾受け」で「見切り」対応する。
防御の要諦は最低限己の意識を保つこと。
俺が倒れた時が始まりだ。
亡霊騎士団を呼び出す要領で、この城を構成する死体を支配し操る。
これは戦闘行動ではないからな? 虐殺された無辜の民の、何故自分達が殺されねばならなかったのかという「呪詛」の発露だ。
死者達が望むのは戦闘ではなく復仇だよ。これをお前は止められるか?

悪魔召喚。ガミギン、来い。お前も城の死体の支配を手伝え。
アシュラの立つ場所を崩し、その上から死体の山を落とし込み押し潰す。
漂う呪詛は「呪詛耐性」で堪える。

殺した者に殺される気分はどうだ、復讐者。




 骸の海というのを人間の目で見ることが出来るならば、こういう場所になるのだろうか。
 死霊術士であり、かつて父のために汚れ仕事を行ってもいたユリウス・リウィウス(剣の墓標・f00045)には、肉塊と鉄錆のにおいが広がる場に満ちた呪詛も容易に感じ取れる。その無残な死にざまへの怨嗟はいかばかりか――と思えば、焼け焦げ血に塗れた眼前の戦女神へ向けて皮肉めいて鼻を鳴らすのも、致し方のないことだったかもしれない。
「ふん、いい趣味だ」
「アンタも随分、イイ趣味してるんじゃないかい?」
 相対するアシュラの三つ目の瞳が開く。それがユリウスをはっきりと捉えた刹那、彼の体を違和感が走った。
 不可視の鎖に縛り付けられているような、決して破ることの出来ぬ檻の中に閉じ込められたような、奇妙な感覚。眼前にいるのは確かに敵で、敵意も戦意も携えたまま、しかしこの腕のみが振り上げられない。原初に戦を司った女神の権能が一――終戦神の力だ。
「血の匂いがこびりついてる」
 小さく嗤ったアシュラの足が、無防備なユリウスをめがけて飛び掛かる。その腕の六刀に対し、彼が行えるのは回避行動のみだ。
 騎士団時代に積み上げてきた数多の経験は、良くも悪くも彼の体へ戦う術を刷り込んでいる。染みついた感覚と学んだ理論に基づいて、振りかざされた刃に重ね合わせる剣と盾、或いは一閃の狭間へ踏み込む体。
 アシュラの六に対してユリウスが持つのは二。負った傷は決して浅くないが、それでも意識を保つことは出来ている。唇から赤くいのちの色を零せば、臓腑の海に混じり合ってすぐに分からなくなる。
「ここまでだよ!」
「ぐ――!」
 耐えきれずに膝をついたユリウスを見るや、女神の藤色の瞳が残虐に歪んだ。その頭上めがけ、最後の一刀が振り下ろされんとした刹那。
 ――その腕を掴んだのは、既に命を落としたはずの、アシュラが刻んだ骸の一つ。
 つぎはぎめいた屍肉が、虚ろな両の目に戦神を映している。対して見開かれた眼鏡越しの瞳には、立ち上がる無数の肉が映り込む。
 それを齎しているのが、今しがた死のうとしていた男であると。
 悟るアシュラが叫ぶ。
「アンタ、どうして、戦えるんだい――!」
「これは戦闘行為ではないからな」
 言いながら、男は肩で荒い息を吐く。その瞳の翠玉は、未だ闘志を失わず、終戦の死体に引き倒される神を見上げた。
 ――あくまでも、ユリウスが与えたのは『立ち上がる力』のみ。
 今アシュラを捕らえているのはユリウスではない。その場に満ちる怨嗟で、絶望で、恐怖で痛みで疑念で悔恨で苦しみだ。それを与えられるだけ与えられ、彼女の剣の前に敗れた呪詛の発露だ。気まぐれな神に選ばれたというだけで死なねばならなかった無辜の民衆の、何故己だったのかという悲嘆の断末魔だ。
「死者達が望むのは戦闘ではなく復仇だよ。これをお前は止められるか?」
 ――死の顎に囚われ迷う怨念の塊どもよ、汝らの憎悪をもって偽りの生命に終焉を与えよ。
「クソ、クソッ、この、死んだ癖に、アタシに何をしやがる!」
「それはお前の方じゃないのか」
 死んだ癖に世界に害を成しているのだから。
 言いながら、ユリウスはふと目を眇める。漂う強い呪詛など慣れたものだが、その単独支配には限界がある。
「ガミギン、来い。お前も城の死体の支配を手伝え」
 いとも容易く応じた悪魔が、ユリウスの命の灯を喰らって顕現する。代償ある限り主に忠実な大侯爵は、蹄で駆け回るが如く、押さえつけられたアシュラの足許にある骸へ命じて見せる――『退け』。
「は」
 突然開いた大穴に、女の姿が飲み込まれる。思わず天井を見上げた彼女の目に映るのは、無数に飛来する肉の山。
 ――悲鳴ごと圧し潰された戦神の上に築かれた亡骸の山を、ユリウスの瞳がじっと見送った。
「殺した者に殺される気分はどうだ、復讐者」
 積み上げた骸の報復こそは叶えども。
 ――神の仇復が成る日は来ない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャオ・フィルナート
【星氷天】

いい趣味してるね…
死体なら見慣れてるけど…

敵の先制は★氷の翼で自らを包み防御
【暗殺】で鍛えた【第六感】で気配を察知
翼の隙間から距離感を【見切り】翼の切断のみで済むように
万一攻撃を受けても【激痛耐性】

翼は…空気中の水分さえあれば、何度でも再生出来る…
ん…でも、ちょっと痛かったし…
返してもらうね…

距離を取りつつ★死星眼発動
★氷麗ノ剣から放出する水流の【属性攻撃】や
再生成した氷の翼から放つ氷の弾丸の【一斉発射】で
敵を近づけさせないように

眼が合うたびに【催眠術、生命力吸収】で惑わせつつ回復狙い

零さん、ヘスティアさんとタイミングを合わせ【指定UC】で氷の渦潮を発生
攻撃兼足の凍結による足止め狙い


ヘスティア・イクテュス
【星氷天】
そう?わたしには悪趣味にしか見えないわね…
部屋に飾るなら金銀財宝が良いわ


敵の先制に対してスモークミサイル発射し視界を覆って
自分達を模したホログラムを展開【迷彩・残像】
これで攻撃対象の分散よ

ホログラム近くに展開したフェアリーで【鎧無視攻撃】
そっちに集中してる間に零、シャオと三人で囲む位置に移動

二人共、行くわよ!
三人でタイミング合わせて
マイクロミサイル、三度に分けて発射して一度に全ミサイルの破壊を防ぐ
三方向からの飽和攻撃、軽減したとて結構なダメージでしょ!
おまけにミスティルテインのビームに残ってるフェアリーで【一斉発射】よ!


天星・零
【星氷天】


【戦闘知識+世界知識+情報収集+追跡+第六感】で戦況
弱点や死角を把握し警戒、臨機応変に対応

※防御は星天の書-零-で【オーラ防御】

先制攻撃は技能を使い、敵の間合いや、癖、弱点などを見極めて避けつつ、グレイヴ・ロウや※を行い対応
また、避けることが難しい場合夕夜が代わりに受ける


遠距離は十の死とグレイヴ・ロウを戦況に合わせ使用
近接はØ

指定UCを発動し【呪詛】を用いて眠らせてダメージを与える


夕夜

装備enigmaの効果で
Punishment Blasterとグレイヴ・ロウを遠距離で敵背後から出現させ騙し討ちを仕掛ける

その後
上記武器とØで味方と連携し戦闘

口調ステシ
UC秘密の設定




 無数の骸と血の匂い。かつての記憶を呼び覚まされるようで、シャオ・フィルナート(悪魔に魅入られし者・f00507)は藍色の瞳に僅かな嫌悪の色を乗せた。
「いい趣味してるね……死体なら見慣れてるけど……」
「そう? わたしには悪趣味にしか見えないわね……部屋に飾るなら金銀財宝が良いわ」
 応じるのは視線を巡らせたヘスティア・イクテュス(SkyFish団船長・f04572)だ。海賊の嗅覚を以てしても、ここには宝の匂いは見出せない。あるのはむせ返るような鉄錆だけだ。
 そのどこかちぐはぐな応答に、小さく笑声を立てたのが天星・零(多重人格の霊園の管理人・f02413)だった。金色の髪をなびかせせて、肉の山を踏みしめている。
「皮肉というやつだと思いますよ」
「あら、そうだったの?」
 返すヘスティアが小首を傾げて、シャオが僅かに首肯してみせた直後――。
 ひときわ大きな骸の山より、六本の腕が這い出した。
「フザけたマネしてくれたねェ――猟兵とやらァ!」
 眼鏡は既に割れている。アシュラの藤色の瞳がありありと憎悪を映し出しているのがよく見えた。歯も割れんばかりに叫ぶ女の姿が、みるみるうちに悪しき神性に包まれるのを――。
 ただ見ている三人ではない。
 布陣は完璧だ。先手を取られてからでも十全に仕込みが出来るよう、アシュラから距離を取って立つ。前面に展開したシャオが、薄い表情にも睨むような色を湛えた。
 その背より、展開されるのは氷の翼。この場に満ちた血気を孕む空気が、彼の背部にて冷えた輝きを放つ。
 向かい来る六刀の冴えた色を、シャオの眼は確かに捉えていた。
 ――生きるためには手段を選ばなかった。息をするための手段は選べなかった。迫害され、囚われて、それでも命を繋ぐためには、その手を汚すことさえ必要だったのだ。
 その記憶が、勘が、この血腥い戦場にあってシャオに力を与える。迫り来る刃の気配と、凍てつく翼の隙間から見えるアシュラの動きに合わせて、少年の小柄な体躯が必要最低限の動きでもって、神の領域から逃れんとした。
「――ッ」
「ははは! 脆い翼だねェ、おい!」
 ――果たして、斬り飛ばされたのは翼一本。幽かに眉根を寄せたダンピールの端正な顔立ちに、アシュラの唇が愉悦の弧を描く。
 けれど。
 横合いから迫り来る風切り音に、女は反射的に腕の一本を動かした。
「――流石に反応が早いわね」
 両断されたのはヘスティアの撃ち出したミサイルだ。確実に不意を突いたにも拘わらず、こちらを捉えた藤色の瞳に、女海賊の藍色の眼もまた緊張の色を孕む。
 しかし此度の発射の本義は攻撃にあらず――。
 周囲を覆う煙幕が、突如噴出した煙に呆気に取られるアシュラを中心にして広がっていく。その間にも、指は素早く細工を仕込む。
 ヘスティアは海賊だ。略奪は彼女の本分である。どんな障害をも越えてみせよう。神からも奪ってみせよう。SkyFish団の名に懸けて、この世界に分け与えるのだ。
 ――平和を。
「鬱陶しいッ!」
 激昂の声と共に煙が払われたとき――アシュラの前には『六人』が立っていた。
 斬り落としたはずの翼を広げるシャオが二人。十の死を司る骸と共に立つ零が二人。長く伸びた青い髪をなびかせ、戦神を見据えるヘスティアが二人――。
 彼女の展開したホログラムだ。確たる技術をもって作られたそれらは、アシュラには見分けもつくまい。
「こン、の!」
 本体を引き当てる確率は単純計算で二分の一。それでもしっかりと血肉の通った零の体を引き当てるのは、戦神たるゆえんだったか。
 ――だが、その刃が彼の体に届くことはない。
「甘いですよ」
 怜悧な響きを帯びる声と共に、その体は破壊の剣の間を潜り抜ける。そのまま手にした刃で一閃――六つ腕が即座に阻む。
 その横合いより飛び込むのは絶対零度の冷気だ。そちらを睨み遣るアシュラの前に、いつの間に側面へ回り込んだか、氷の剣を携えたシャオがいた。
「翼は……空気中の水分さえあれば、何度でも再生出来る……」
 言いながら広げた背のそれが、弾丸の如く氷を撃ち出した。周囲の水素を凍てつかせ、無尽蔵に生み出される氷柱に、六本の腕と剣とて間に合うはずもない。
 体を抉られ血を吐くアシュラの瞳と――。
「ん……でも、ちょっと痛かったし……返してもらうね……」
 深海の如き藍色がかち合う。
 瞳に揺らぐのは幻影。神の無尽蔵の生気に、しかし確かに奪われる感覚があって、アシュラの足が僅か後退した。
 ヘスティアと零がその隙を逃すはずもなく。
「フェアリー!」
「夕夜!」
 ――この戦場にいるのは、『三人』だけではない。
 死の気配に紛れた『もう一人』。そして数多の妖精が、この地にて彼らを援護する。
「――任せろよ!」
 虚空へ響いた二人の声に、応じるのは人の声と機械音。
 ヘスティアの妖精の女王(ティターニア)より展開された妖精(フェアリー)の群れが現れる。それぞれが意志を持つかの如く、幻影の横より主の命を受けて放たれた球状のドローンが、縦横無尽に駆け巡ってはビームを放つ。
 攻撃圏より巧みに逃げていくそれらを追って、走り出そうとしたアシュラの後方から――その背を貫く大剣。
 次いで足許より飛び出す槍の如き骨は、ぐらつく体にも避けられた。
「流石は戦神って、褒めるところか?」
 なびくのは銀の髪。夕夜と呼ばれたその少年は、零とは真逆の色彩で――しかしいたく双子めいた出で立ちで、そこに立っていた。
「助かった!」
 言えば浅く頷いたもう一つの人格に意志の眼差しを返し、零が完全に体勢を崩したアシュラに向き直った直後。
 凛と――女海賊の号令が響く。
「二人共、行くわよ!」
「はい!」
「……うん」
 まず発されたのは静かなる霧。
 ――噂綴・壱、「永眠街」。
「な、何――?」
 突然襲い来る眠気に耐え切れず、アシュラが膝をつく。その体から生命力が奪われていることを、戦神は鋭敏に察知する。
「さぁ! 素敵なパーティーを始めましょうか!」
 言うや腕を広げたヘスティアの後方に展開する数多のミサイル。その一団が己めがけて突っ込んでくるのを許すアシュラではない。眠気を湛えた瞳で、なおも剣を構えんとするのを――。
「この絶対零度に……耐えられる……? 凍てつけ……」
 フィオの放つ氷の渦が許さない。
 足から這い寄る冷気が氷となって、即座に戦神の全身を覆う。なおも意識を失えなかったのは、彼女にとって幸か不幸か――。
「これで終わりよ!」
 ――向かい来る鉄の塊と、放たれる無数の光線に貫かれる己を、最後まで知覚したままだったのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ニコ・ベルクシュタイン
二度も処される事を望むか、女神なるものは相当な被虐趣味の持ち主か?
等と軽口を叩いて気を紛らわせる
そうでも無くば此の凄惨なる戦場に心を折られてしまいそうでな

双剣も魔導書も、精霊銃も杖も、取っておきの鎌さえ持たぬ
徒手空拳で相対しよう
俺が振るうのは己が拳、確かに武器にもなるのだろうが
誰かを、何かを守るためにも振るわれるものだ
さあ、無敵の構えを取る事は出来るか、戦女神よ

戦闘能力の増大は防げまいが、無敵でなければ付け入る隙も有ろう
足場を蹴るのも気が引けるが「ダッシュ」からの「ジャンプ」で
勢いを付けて【時計の針は無慈悲に穿つ】で反撃を
此の拳は、凶刃の犠牲となった人々の「怒り」と知れ

俺よ、躊躇うこと勿れ!


クロト・ラトキエ
○◇

実に似合いの城ですね?
…後は朽ちるだけって辺り。

敵のUC確認。
六つとて腕。可動域や軌道…太刀筋はある筈。
それを見切り、躱し、短剣で受け流し損傷を減じつつ。
UCの風の魔力を防御に、より軽く速く。

返す短剣で腕を狙う。
無敵?知ってます。
もう片手から繰り出すフック。
2回攻撃で密か張る鋼糸。
本命の刺突と斬撃。

武器とは道具。
戦さ場に於いては殺す為の。
…けれど道具は、使い方一つ。

片や元来、命綱。
片や元来、操る為の糸。
それを武器へと昇華させただけ。
如何なる道具をも使い、何を於いても勝ちを取る。
それが、暗器使い。

貴女はお強い。
故に敗北したは必定。
群れ、文明を築き…
彼らは脆く非力が故に足掻いた者達なのですから




 鉄の臭いだ。知っている。放っているのは臓腑だ。それも知っている。転がっているのは人の残骸で、己は今その上を歩んでいる。
 ――知っている。
「二度も処される事を望むか、女神なるものは相当な被虐趣味の持ち主か?」
 鼻を衝く異臭の中、軽口を叩くようにしてみせたのはニコ・ベルクシュタイン(時計卿・f00324)だ。そうして気を紛らわせようとする間にも、視覚と嗅覚が目をそむけたくなるような惨状を伝えてきて、彼の指先は落ち着かない様子で眼鏡の位置を幾度も直す。
「ええ。実に似合いの城ですね? ……後は朽ちるだけって辺り」
 その後方を歩くクロト・ラトキエ(TTX・f00472)の表情は、ニコのそれと比べればあまりに穏やかな笑みで――故に、この惨憺たる城においては異質にも見えた。
 数多の戦場に出た。その度に生きて帰ってきた。戦で勝つならば相手を殺さねばならない。故にクロトにとってみれば、惨事の臭いとは実に慣れ親しんだものでもあるのだ。
 残酷とも取れる台詞を軽い口調で吐き出す彼とは裏腹に、ニコは気ぜわしく息を吐いている。いのちの源は懐の懐中時計にあるとしても、人間の体を得、心を得た彼にとってみれば、この状況は心を傷付けるに足りすぎている。
 ――相反する二人の男の前にも、夥しい死を運んだ神は現れる。六つ腕は既に血に塗れ、ぎらぎらと輝く藤色の双眸は重なる怒りに混濁してこそいるが、持ちあわせた神性は衰えない。
 戦女神――アシュラは、歯の隙間より荒い息を吐き出して、眼前の獲物を屠らんための力を編み始めた。
「おや、随分な歓迎で。すっかりやりやすくなってるみたいですね」
「――ああ。だが油断は為らん」
 先に構えを取ったのはニコである。しかし彼の手には、普段の得物は一つたりとて握られていない。双剣も魔導書も、精霊銃も杖も、取っておきの鎌さえ――全ては置き去って来たのだ。
 その横に並んでゆるゆると笑むクロトが取り出したのは短剣。地を蹴る悪の神性と同時、振りかざした刃がぎりりと音を立てて剣を阻んだ。
 力で勝負すれば敗北は必定。わざと斜めにした刃へと相手の剣を滑らせて、次の太刀筋を冷徹な碧玉が見詰めている。
 ――生き残るために必要だったのは、何よりも知識だ。
 腕の可動域が分かれば近接武器の動きは読める。連写間隔と弾丸の飛距離に銃声を合わせれば、どう対処すれば良いのかが分かる。投擲されるナイフの描く軌道、投げられた石の放物線に至るまで、クロトは全てを使って生き延びてきた。
 なれば此度も、それが『六刀に増えただけ』のこと。
「済まぬが、暫し戦線を頼む」
「ええ。任されました」
 短く言葉を交わせば、クロトは再び女神の懐へと飛び込む。その足取りが軽いのは、先よりも速いのは――纏う風の力が、彼に『速度』という防御の力を与えているからだ。
 剣を受け止め、見切り躱す。肌を撫でられれば微かな熱と共に深紅が流れる。
 だからどうした。
 ――死なねば易い。
 返した刃がアシュラの腕を捉え――しかし弾き返される。
「戦うための武器なんざ、通用しないよ」
「知ってます」
 そうして繰り出すのは左手のフックだ。しかしそれすらもブラフに過ぎない。煌めく細い糸が張り巡らされ、女の体を切り裂くようにして拘束する。
「な、こいつは、戦うための」
「勿論、戦うためにも使えますがね」
 『そう使っている』のは、クロトなのだ。
 元より道具とは使い方により役目を変えるもの。料理に扱うための包丁が、一つの悪意で武器へと変わるように。物を切るための鋏が、殺意一つでナイフに変わるように。
 フックとは『命綱』。
 糸とは『操るためのもの』。
 それは、戦いのためだけに作られた武器などでは、決してない。
「如何なる道具をも使い、何を於いても勝ちを取る。それが、暗器使い」
 ――アシュラは。
 相手を見誤ったのだ。
「貴女はお強い。故に敗北したは必定」
「何を――強い奴が勝つに決まって」
「いいえ」
 一度瞑目したクロトが、ふるりと首を横に振る。その間にも女神を押さえつける腕の力は緩まない。ぎりぎりと音を立てて、もがく神への鉄槌を待ちわびている。
「群れ、文明を築き……彼らは脆く非力が故に、足掻いた者達なのですから」
 ――そして今、その全てが、彼女の命を穿つのだ。
 クロトが成した拘束を機と見るや、ニコの足は地を蹴っていた。無数の骸を踏みつける嫌な感触が、そのまま彼の心に凝る。それを罪悪感と称するまでに、少しの間が必要だった。
 それでも。
 今ここでニコが足を止めれば。
 誰が――彼らの無念を晴らすというのだ。
 固められた拳が戦う道具であるのは今だけだ。この身は幸福の時間を告げる『モノ』であり、この手は何かを護るためにある。
 ――ニコラウス・ベルクシュタインというモノは。
 眼前にある神のように、戦いのためだけに造られてなどいないのだ。
「さあ、無敵の構えを取る事は出来るか、戦女神よ」
 言うや否や跳躍した長身が、身動きを封じられたアシュラを影に遮る。眼鏡の奥の赤い瞳と藤色の瞳がかち合った。
 浮かぶ感情の色は同じ――『憤怒』。
「此の拳は、凶刃の犠牲となった人々の『怒り』と知れ」
 ニコの手に力が籠ったのは、彼自身の感情のせいだったろうか。それともこの場に満ちる無念が、時計卿へ全てを託して祈ったか。
 ――どちらでも良い。
 ニコの成すべきは一つだけ。同胞の作ったこの機を逃さず、この拳で神を討つ。
「『我ら』の力の粋、受けてみるが良い!」
 ――俺よ。
「躊躇うこと勿れ!」
 振り下ろされた義憤の拳が、神の暴威を叩き伏せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡
◆穂結(f15297)と


そうだな、もう増やさせない
行こう、……あいつを倒さなきゃ

穂結への初太刀を見て相手の動きを把握
即座に相手の動きを学習し
こちらへ向けられる太刀を見切って躱す
同種の敵との戦闘知識も活かせるだろう
完全回避といかずとも
以降の戦闘行動に支障がない程度の負傷に抑えてみせる

相手から目を切らない
抑えてくれる穂結の作った好機は無駄にしない
僅かでも怯んだ隙を突いて、眼を撃ち抜く
視えているなら、外しはしない

俺もお前も変わらない
ただ殺すためだけにあるものだ
だけど少なくとも今の俺には守りたいものがあって
……殺すことしかできないけど
“それだけ”で終わらせないために戦ってる
負けるわけにはいかないんだ


穂結・神楽耶
鳴宮様/f01612と

これだけの死体…
どれだけ殺してきたのでしょうね。
ですが、もう増えませんよ。

初撃は炎の《オーラ防御》で防ぎます。
負傷は免れ得ないでしょうが、《激痛耐性》で無視して突貫をば。
他個体との交戦経験から得た《戦闘知識》を元に、《拠点防御》の要領で一歩と引かず足止め。
苛立って攻撃が荒くなった隙に【鉛丹光露】を見舞います。

もちろんこれでは倒せないでしょう。
必要なのは一瞬の隙。
そこを見逃すほど温いひとではありません。

ねぇ、「女神」様。
いくら残虐を重ねたとて、
必要な存在だったなら刑には処されません。
その時点で見限られているのですよ。
だから――
あなたを不要と断じた「人間」の手で倒されなさい!




 骸の数を数えるだけでも嫌になる。足取りに満ちた決意だけは変えぬまま、穂結・神楽耶(舞貴刃・f15297)は眉根を寄せた。
「これだけの死体……どれだけ殺してきたのでしょうね」
 零れ落ちる言葉は、眼前の『女神』に届いたのだろうか。
 全身から滴り落ちる血が、彼女が今までに刻まれてきた数多の傷を示している。その限界が近いことも分かっていて、神楽耶は紅い瞳をじっとアシュラへ向けた。
「ですが、もう増えませんよ」
「そうだな、もう増やさせない」
 宣誓に重なるのは、静かな男の声。携えた銃の整備は十全――鳴宮・匡(凪の海・f01612)の準備は、それだけで充分だった。
 夥しい数の肉塊とて、匡はその気になれば数えられる。異様なまでの臭気の全てを嗅ぎ分けることも出来るだろうが、少なくとも今は必要ない。
 全ての知覚を眼前の神へ。その六本の腕と、幾度の衝突で傷のついた刃へ。
「行こう、……あいつを倒さなきゃ」
「ええ。この世界のためにも」
 例えアシュラがどれだけ傷を負っていようとも、二人は決して気を抜かない。手負いの獣が一番恐ろしいのだと、知っているからだ。
「やれるもんなら――やってみろ!」
 咆哮と共に顕現する戦勝神の威容に、神楽耶は目を眇めた。同じく『カミ』としての残滓がそうさせたのか、迫り来る六刃を前に呼吸を整える。
 ――その身より展開するのは、清澄なる炎の防壁。朱く纏ったそれは、しかし全てを防ぎきるとはいかず、神楽耶の体に食い込む剣が幾ばくかの傷を刻む。
 それがどうした。
 元よりかりそめの肉とあれば、刻まれる傷など些事に過ぎない。
 紅い瞳で睨み返せば、彼女への攻撃は悪手と取ったか、アシュラの足が僅か後退した。狙いを変える先にいるのは、トリガーに手をかけ彼女を見据える匡だ。
 割れんばかりに踏み込む音がして――。
 次の瞬間には、アシュラの姿は匡の眼前にある。
 凪の海に波紋が落ちることはない。先に神楽耶に向けられた太刀筋は『視て』いる。易々と身を翻し、そのまま距離を取れば、懐に入り込むのは一陣の刀だ。
「わたくしのお相手を願います」
 不敵に笑うのは戦守神。対して通らぬ攻撃に顔を歪めたのは戦勝神。戦いの場にて在る蓋柱が、己の刃をぶつけて睨み合う。
 重ねられてきた傷と、命を穿てぬ刃。神としての権能を振るうことを許されず、苛立ちの頂点に達したか、アシュラは不意に高く振りかぶった。
「――いい加減にッ、死ねよ!」
 それが、致命的な隙だった。
「ねぇ、『女神』様」
 凛と響くのは成り損ないの声。神たれと編み上げられた信仰の象徴でありながら、ひとも、故郷も、背柱さえも喪って、何にも届かなかった手だけを遺された女神の残滓。
「いくら残虐を重ねたとて、必要な存在だったなら刑には処されません。その時点で見限られているのですよ」
 人々は祈ったのだろう。誰かの罪を増やすだけの、残酷な戦の終わりを。その悪辣なる死の象徴をこそ、この世から消し去ることを。
 ならば神楽耶は応えねばならぬ。ひとの祈りに造り上げられた都合のいい『かみさま』は、どうあってもひとの願いを叶えずにはいられない。
 そのためだけに造られた。そのためだけにここにいた。そのためだけに――生きていた。
 けれど。
「だから――」
 背を預けるひとがいる。友だと笑うひとがいる。どうしようもない祈りの果てで、報われることすら望んでいなかった手に、いつの間にか沢山の『報い』があったから。
「あなたを不要と断じた『人間』の手で倒されなさい!」
 ――白刃一閃。燃えて弾けて、灰と散れ。
 突き刺した結ノ太刀より広がるのは、かつて彼女から全てを奪った炎の魔力。その身に宿すことを強いられた、破滅を齎す焔の熱。
 けたたましい音を立てて爆発したそれに、至近に立つ穂結の頬すら熱風を浴びる。それでも戦女神は未だ立っている。
 ――構いはしない。
 本命は、神楽耶ではない。
「俺もお前も変わらない。ただ殺すためだけにあるものだ」
 銃声一つ。響くのはそれだけで、次の瞬間にはアシュラの瞳に寸分違わず着弾する。血を迸らせのけぞる、彼の生まれ育った『戦場』を司る神を前に、匡は瞬き一つ零さない。
 己は人間だ。神は怖い。殺すのは苦しい。その全てを海の底に沈め、凪いだつもりで目を伏せていなくては、生きてはおれないほどに。
「だけど少なくとも今の俺には守りたいものがあって……殺すことしかできないけど、“それだけ”で終わらせないために戦ってる」
 ――だから、目は切らない。
 『視て』さえいれば、死神の鎌はどこにでも届く。片目を覆うアシュラが未だ健在であると『視る』や、トリガーは躊躇なく引かれた。
 戦いの中に生きて来た。明日はおろか、一秒先すらあるかどうかも分からぬ戦場こそが、匡の生きる場所だった。
 殺さねば生きられなかったのだからと人は言う。けれど、どう正当化したところで、重ねて来た罪の重みが変わることはない。己は数多の人を屠り、その全てに情を抱けず、殺したことよりそれに何も思えぬことに苦悩する、身勝手な――ひとでなしだ。
 今更この手を汚すことに、何も思えやしない。それでもこの汚れ切った両腕で、守りたいと思ってしまった彼方の光を守るため、何かを成せるというのなら。
 例え神とて――この牙から逃がしはしない。
「負けるわけにはいかないんだ」
 着弾と同時、絶叫するアシュラの体が、肉の床へと崩れ落ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立
○【絶刀】ヒバリさん/f15821

どの世界にもいますね、戦神。
その手の神様は横の一柱で十分です。

…極論言うと、視界に入らなきゃイイわけですよね。
忍術を使うまでもない。《闇に紛れる》ための“蓑”には事欠きません。
頭ひとつに腕足がふたつずつ。オレと似た形の置き物が沢山転がってます。
今更血とか臓物とか気にしませんし。

“戦勝神”ってのは“負けない体”になってるものと推測します。傷を負わない。負いにくい。
呪い数で縛って解除。【紙技・影止針】
ヒバリさんの影から三発《だまし討ち》
勝ち確定のチート野郎からただの戦神に引きずり下ろす。

同じ条件じゃないと不公平じゃないですか。
…で、どっちとやります?

一騎打ち。


鸙野・灰二
〇【絶刀】夕立/f14904
この世界、初めて訪れてやる事が神殺しとはな。
名の通り「神」 更には戦神、六刀流
心踊らん筈が無い。

俺は常通り正面から行く。
《先制攻撃》は俺もよく使う戦術、狙ッて来るだろう箇所は予想できる。
経験則から太刀筋《見切り》先ずはこの身で一太刀受けよう。
仮初めだが頑丈な肉、どれ程斬れるか見せて呉れ。

間髪入れず《早業》【刃我・相闘】。六刀総てと打ち合い望み奴の刃を狙う
余所見は無しだ。三つの瞳、此方に向けておけ。
尤も、斃して積んだ肉など一顧だにしないだろうが。

さて“戦勝神“から“戦神“に成れば対等
相手を選ぶのはお前だ、アシュラよ。

いざ尋常に、一騎討ちと行こうじゃアないか。




 骸とは目が合わない。
 閉じた片目より血を流し、枯れた喉をぜろぜろと鳴らして血を吐く戦女神の眼前で、矢来・夕立(影・f14904)の瞳は無数の骸を見ている。
「どの世界にもいますね、戦神。その手の神様は横の一柱で十分です」
 横の一柱――鸙野・灰二(宿り我身・f15821)の方はと言えば、相棒とは打って変わって一点を注視する。当然、その先にいるのは六つ腕の戦神だ。
 何しろ、此度ここを訪れた灰二の目的は。
 ――原初に戦を司ったという、文字通りの『神』の六刀流と、打ち合うことだ。
「この世界、初めて訪れてやる事が神殺しとはな」
「はあ?」
 ざりざりと掠れた声が二人の耳を打つ。成程、既に神は瀕死とみえる。
「アタシを殺せるだァ? 思い上がってるんじゃないよ」
 藤色の瞳に宿す嘲笑と憤怒が、アシュラの身に宿る勝利の力に転化されていく。傷付ききった肉体でなお構えられる剣を前に、翠玉は喜悦を孕み、緋色は厭わしげに眇められた。
「そのザマで言っても説得力ないですけど」
「殺せる。殺すと言ッた」
 前に出るのは箱入り刀の宿神。音もなく身を躍らせるのは暗殺者。
 戦神の標的となるのは前に出た男の方だ。襲い来る刃を前に、その身のこなしはごく僅か。
「仮初めだが頑丈な肉、どれ程斬れるか見せて呉れ」
 ――神の刃の切れ味を、その身で受け取る。
 命は取らせない。肉を断つ嫌な音と、身に走る激痛に、しかし灰二は怯まない。
 相対し、すべきは一つ――刃我・相闘。
「六刀総て、打ち合わせて貰う」
「は、言うねェ。なら結構、やらせてもらおうじゃないか!」
 閃く白刃。鎬を削るのは二本の剣。三つの眼は確かに爛々と灰二を見据え、彼の体に宿る『戦うための動き』を奪っていく。
 故に、今のままならば押し負けるのは宿神だ。じりじりと後退する足取りに、しかしアシュラは執拗なまでに刀を振り上げる。
 一騎打ちに夢中になって、眼前の巨躯の命を斬り刻むときのみを喜びとし――そこで、女は弾かれたように目を見開いた。
 敵は二人で現れた。目の前に一人。下がったのが一人。
 男の後方へ視線を遣っても、その姿は見当たらない。音も、気配も、風の一陣すらも感じさせぬまま、少年は掻き消えている。
 先まではそこにいた。アシュラは確かに記憶している。ならばいつ。どこに。そもそも『先』とはいつのことだ。己はどのくらい、この男と打ち合っていて――。
 ――もう一人は。
 思わず視線を巡らせたアシュラに、夕立を捉えることは叶わない。頭が一つ、腕と足が二本ずつ。夥しい鉄の匂いと『ひとのかたち』をした置物に埋もれてしまえば、暗殺者であり忍である彼の姿を捉えることなど、何者にも出来はしない。
 それに。
「余所見は無しだ」
 第三の目、その視線が外れた刹那――襲い来る修羅の太刀。
 長く伸びた灰色の髪を乱し、宿神の刃が女を襲う。それを反射的に押さえ込んだ刃に負荷がかかったか、女の腕の中で軋んだ鉄が、いよいよ嫌な音を立ててひび割れを刻む。
 舌打ちをした彼女が改めて灰二へ向き直るのを――。
 腕に走った痛みが許さない。
 藤色の瞳に映るのは、あらゆる一撃を阻む腕へ深々と突き刺さった手裏剣。アシュラが目を剥いたのは、それが単なる『折り紙であったから』。
 それが誰の仕業であるのかを本能的に悟ったとて、放たれた場所が分かろうはずもない。
 忍術、紙技。その成す式紙が一。水練。
「ところで、思い上がりって言葉の意味、知ってます?」
 もう一つ――重ねて刺さるもう一本。式紙、牙道。
 少年の声は骸の山より淡々と響く。血と臓腑に塗れ、しかし己は一滴の血も流さぬまま、緋色の瞳が灰二の影よりアシュラを『見ている』。
「今のあなたのことですよ、カミサマ」
 精確に放たれる式紙――黒揺が傷口に突き立つ。花開くように二つの成した傷を押し広げた百合の花で、ここに術は成立する。
 ――紙技・影止針。
 戦勝神の力は傷の低減。傷を負わねば敗北することはなく、敗北する前に勝てばそちらが勝者。負けないことを力とするからこその戦勝神であるのなら――『負けるようにしてやれば良い』。
 抜け落ちる勝利の力に、アシュラの喉が鳴る。破壊の刃はただの剣へ、戦勝神の権能は骸の海へ。身に纏う神威の全てを奪われて、後に残るのは六つ腕の女が一人。
「『只の戦神』に成ッたなら、俺と対等。此れで正々堂々やれるな」
 首を鳴らしながら構え直した灰二の腕は、既に自由だ。体に負った傷の総量を見比べても、こちらの方がまだ優勢かと言ったところか。
 瀕死に追い込まれ、巡らされた一計の罠にまんまと飛びつき、本能的に悟った己の敗北に呆然と立つアシュラにも、彼の戦意は衰えない。
「……で」
 音もなく姿を現した夕立が、上背のある相棒に並び立つ。いつの間にか携えられた斬魔の剣が、灰二の手にある刀と重なるように持ち上げられて――。
「どっちとやります? 一騎打ち」
 背中合わせに同時に向けられる刃。
 片や強者を求める戦神。
 片や理不尽の見本市。
 ――ただの悪神に堕した女へ、選択肢は与えられなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘンリエッタ・モリアーティ
こんにちは、アシュラ
うちのつがいが世話になったようで――ああほら、人間の
怒りでどうでもいい?
そうよね、私も気持ちはよくわかる

【黄昏】でお相手します
武器は使わないわ、無効化されるし無駄でしょ
お前はどうする?棒っきれ振り回す?
じゃあ、素手でへし折ってやる

怒りには怒りで立ち向かうのが一番いい
お前がナメた竜というのがどういうものか叩き込んでやる
さあ覚悟はいいよな復讐者
私と死合え ――ぶち殺してやる

「応龍」の行動解析とダメージ演算は常ですよ
ええ?やだな、武器じゃないです
ただの「よく見える」眼鏡

ぐちゃぐちゃのミンチになるまで殺す
私の拳が砕けようがどうなろうが
知ったことかよ
お前は未来にいらない
――絶えて死ね


ヴィクティム・ウィンターミュート
〇△

──正直な話をすれば
俺一人がテメェに立ち向かうのはあり得ない
だがよォ、テメェを殺せれば俺も強くなれる気がするんだ
勝ち続ける為に、神と呼ばれた存在を越える

全サイバネ【ハッキング】
出力を最大まで増強
知覚、演算、身体能力、反射──全てを引き上げる
【ドーピング】でコンバット・ドラッグを摂取、さらに上げる
初撃の軌道を【見切り】、【早業】で素早くステップして回避、ダッシュで距離をとる

──Forbiddenストレージを解放
封印指定、『Flatline』

全テヲ奪エ
立チ止マルナ
俺ヲ弱者ト侮レ
テメェガ俺ニ行ウ全テガ、俺ヲ強クスル
──欲シイ、奪イタイ
ソノ剣モ腕モ、魂ノ欠片デサエモ!
殺セ殺セ…奪エ奪エ奪エ奪エェ!




 まるで故郷のようだなと、ヘンリエッタ・モリアーティ(Uroboros・f07026)は思う。
 死の気配。命の軽さ。踏みつけられる生。蹂躙される――ひと。
「こんにちは、アシュラ。うちのつがいが世話になったようで」
「あ? つがい?」
「ほら、人間の」
「知るかよ」
 怒りに曇る瞳にも対面の挨拶は欠かさない。けれども返って来るのは意味を成さない――ヘンリエッタにとって、思考停止した言葉は鳴き声と同義だ――応答だけだ。
「そうよね。私も気持ちはよくわかる」
 大げさに肩を竦めて、彼女は薬液を手にする少年――ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)に目を遣った。
 同じく――恐らく彼は不本意ながら、ヒーローとなったのである。なればこの共闘こそは、世界に轟くかもしれない。ヴィクティムにとってみれば、それこそ勘弁願いたい事態だろうが。
「ヘイ、『ネームレス』。今回のプランは?」
「オーケー、『ウロボロス』。ジャスト・ワンだ」
 ひらり振られた円環竜の手に、応じるのは電脳怪盗のジェスチャーだ。立てた親指が首を横切り、力を振り絞って権能を纏う神の目に入るよう、下へと向けられる。
「勝つ」
 ひらり、身を翻したArseneのことを、ウロボロスはよく知っている。だからこそ、くすりと笑んで、ぎらつく銀月を眼前の敵に向けたのだ。
「とってもクレバーだわ」
 くすくすと笑う知己(チューマ)の声を受けて、ヴィクティムの瞳も戦意の中に僅かな柔らかさを孕む。
 ――ヘンリエッタがいるならば、己がしくじったとて『勝てる』。
 だからこそ、『一人』で勝つ気で挑めるのだ。
「アンタたちみたいなのに、ここからだって、敗けやしないよ」
「あぁ……その目だ。俺を見下ろす、上位者気取りの目だ」
 少年は弱者だった。
 こともあろうに愚かしい過ちを犯した。一度の敗北が、周囲の全てを狂わせた。なればこそ己は勝利の脚本を紡ぐ端役であらねばならず、故に眼前の神にただ一人立ち向かうことなど有り得ないはずだった。
 だが。
 この戦を司るという女神を殺せば――強くなれると確信がある。強くなければ勝てない。勝てなければ、また同じことを繰り返す。
 だから、勝ち続けるために――神と呼ばれた存在を越える。
 己の体に走る全てのサイバネにアクセス。迅速なハッキングでリミッターを解除。出力最大。知覚、演算、身体能力、反射――全ての門を突破して、口をつけるコンバット・ドラッグが、更に視界を明瞭にしていく。
 ヴィクティムの人間離れした増強を本能的に悟ったか、女神の剣が振り下ろされた。しかし先までいた地点に彼の体はなく、翻った身は既に遥か後方にある。
「――奪ってやる」
 どんな反動を背負ったところで、気にしてなどいられない。
 少年の非力な体で、神に勝たねばならない――そのためならば、理性さえも捨ててみせる。
 ──Forbiddenストレージを解放。
 封印指定、『Flatline』。
「金も、武器も、命も名前も存在意義も! お前から全てッ!!」
 咆哮したヴィクティムの目に、理性的な光はない。ぎらつく双眸に浮かぶのはただ、目の前の神より総てを奪い尽くす意志のみ。
 それを見詰めて――ヘンリエッタは笑った。
 成長する生き物が好きだ。成長のために何かを捨てる覚悟のある生き物が好きだ。変化は犠牲なくして得られない。全てを手に入れようだなんて欲をかいたら――目の前の神のようになってしまう。
「あら、素敵です。丁度良いわ。私もあまり、『他人』に見られたくなかったもので」
 だから彼女に出来るのは、ヴィクティムの命を、彼の変化の対価としないこと。
 歩み出た長身の女に、戦神の瞳が向けられる。数多の傷で疲弊し、僅か胡乱な光を湛えるその目を、怜悧な銀月が静謐に見る。
「ご存知ですか? 怒りには怒りで立ち向かうのが一番良いのよ」
「アンタが? アタシに? アタシの復讐心に勝てる怒りがあるって? 笑わせるね」
「ええ。あるんですよ、それが」
 振りかざされた刃を――。
「お前がナメた竜というのがどういうものか叩き込んでやる」
 雑音交じりの竜声が、『掴む』。
 刃が悲鳴を上げる。幾度の打ち合いの果てに摩耗したそれがただの鉄塊と化していくのを、女神は呆然と見開いた目で見た。
「さあ覚悟はいいよな復讐者。私と死合え」
 握られた拳に宿るのは、神をも殺す終焉の日の力。
「――ぶち殺してやる」
 黄昏。
 腹へ叩き付けられた拳が女神を打ち上げる。落下する体にもう一撃。眼鏡に映る予測ダメージが、まるでゲームのような感覚を与えてくるのが面白くて、ヘンリエッタは嗤った。
「アンタ――それが、武器かい」
「ええ? やだな、武器じゃないです。ただの『よく見える』眼鏡」
 固まる拳。次は顔へ。
 殴り倒されたアシュラの瞳に映るのはもう一人。手にしたナイフをぎらりと光らせ、獣めいて叫ぶヴィクティムだ。
「――欲シイ、奪イタイ。ソノ剣モ腕モ、魂ノ欠片デサエモ!」
 殺意も、敵意も、害意も恐怖も憎悪も攻撃も妨害も。
 今はただ、その命の一滴までもを奪い尽くさんとする彼の、餌になるに過ぎない。
 突き刺さった刃が腕の一本を引きちぎる。アシュラが激痛に声を上げる間もなく、ヘンリエッタの拳が胸に当たれば、どちらのものかも分からぬ骨がひしゃげる音がした。
 ――知ったことかよ。
 この女神を肉塊にせねば気が済まない。この場にある全ての骸のどれよりも、凄惨な姿を晒してもらわねば――。
 釣り合わないのだ。
「お前は未来にいらない」
 切り裂く。引きちぎる。潰す。抉る。穿つ。奪う。
 ――蹂躙する。
 己が人間に刻んできたあらゆる痛苦が、アシュラの身へ降りかかっては消えていく。藤色の瞳が死の気配に揺らいだとしても、『ふたつ』は決して止まらない。
「何モカモ、寄越セェッ!」
「――絶えて死ね」
 絶叫と静謐。断末魔。
 爆音の晴れたのち、神の姿はもう、どこにもない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年11月21日


挿絵イラスト