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ほんとうのともだち

#UDCアース

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#UDCアース


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「くそ、コイツまたこんなレスしやがって!」
 暗い部屋に携帯端末のバックライトがぼうっと光り、それに向かった男の顔を照らし出していた。男は苛ついていた。眉間にシワを寄せ、時には歯ぎしりすらしている。
「コイツはブロック。コイツもブロック。糞が! 何が『お前も悪いんじゃねえの?』だ! 俺を労れよ! もうテメエとは金輪際かかわらねぇ! ……ん? なんだこれ。貴方の真実の友達がここにいます? 出会い系かなんかか? ソシャゲ? なんだこれ」
 男が見ているのはSNSのようだった。唐突に流れてきた広告サイトを何の気なしにタップする。
「マイリトルフレンド、掌の中の親友? うっさんくせー。でもま、暇だからちょっとやってみるか」
 ダウンロードのボタンをタップ。
 数時間後。
 男は今までとはうって変わった晴れやかな表情で、時には笑い声すら上げて端末を弄っていた。
「すっげ、こいつ面白え。そうそう、そうなんだよ。わかってんなーこいつ」
 いつまでも、いつまでも、端末をタップする音と笑い声が部屋に響いていた。

●グリモアベース
「お前らマイフレってアプリ知ってるか? 『てのとも』とかとも言うらしいんだけど」
 携帯端末片手に藤堂・藤淵が猟兵達に声をかけた。UDCアース等の機械の発達した世界出身者ならばいざしらず、それ以外の者はそもそもアプリ自体になんのことかと首を傾げるばかり。
「あー、まあアースの常識に疎いやつは周りの奴に聞いてくれ。今はそういうもんがあるってだけ理解してくれりゃいいわ。で、まあそのアプリなんだがAIが現実の友人みたいに何時でも最適な言葉でやり取りしてくれるっつーシステムなんだわ」
 藤堂が携帯端末を猟兵達に見せるとチャット画面に会話ログがずらっと表示されていた。今日の天気の話から、最近あったたわいない出来事のやりとり、ごく普通の会話の記録が並んでいる。先程の話がなかったら10人見たら10人がただの人間とのやり取りに見えるだろう。
「これの恐ろしいところはAIが利用者の他のアプリやブラウザと連携して学習、独自の個性を獲得することにある。俺以外の利用者が同じ言葉を投げかけても答えは別のモンが返って来るっつーことだ。まあそれだけなら俺がここで話題にだす話じゃねえことはわかるだろ? そう。オブリビオンが関わっている気配が濃厚だって話だ」
 事の起こりは一年前。
 フリーアプリとして配信されたこのアプリは当初そこまで話題にならなかった。過去同樣の企画が流行らなかったのと同じ様に。
 だが次第にこのAIが物凄い学習能力を持ち、自分にピッタリの優しい言葉やアドバイスをしてくれることがネット上で話題になり、徐々にだが熱狂的なファンを生み出していった。いつしか中毒者も現れる始末だ。
 曰く、
「リアフレよりもリアル」
 相手はAIだ。どんな時間でも話しかければ即返事をしてくれる。それがその時自分が欲している言葉であるならば尚更利用者には嬉しい話だろう。
 中毒者は現実の交友関係や家族をないがしろにし始めた。
 話がそれだけで済んでいれば社会問題程度ですんだであろう。問題は、
「消えるんだよ。ハマったやつは必ずな。今の所事件にもなってないし気づいている奴はUDC以外いねえが、確かな情報だ。そいつらが戻って来たって話は今の所聞かねえ。それとAIつったがな、どーにもこれがAIじゃねえんじゃねえかっていうのが専門家の意見だ。リアルすぎるんだと。まあ俺は専門家じゃねえから詳しいことはわかんねえ」
 一応、と言って藤堂が提示したUDCエージェントらしき専門家の報告書は専門用語と謎のグラフや数字が飛び交った実にわけのわからない難解な物だった。
 要約すれば生っぽすぎる、ということだろう。
「ってことでお前さんらの出番だ。今からそのアプリをやれ、とは言わねえ。つーか余程はまらねえ限りその現象は確認できないみてーだしな。やってほしいのは、失踪しそうな利用者の追跡、その先に有るものの確認。要すれば撃破だ。そろそろ危なそうって奴は見繕っといた。追跡以外にも、端末を奪って失踪の原因となる何かを見つけたって、口頭で聞き出したってかまわねえぜ。素直に応じるとは思えねえけど」
 藤堂がその利用者の情報を猟兵達に渡す。
 田中・健吾(22)
 フリーター。神経質そうな顔立ちの眼鏡をかけた男性。独身。アパートに一人暮らし。
「UDCアースはそれなりに支援体制の整った世界だ。多少の揉め事ならもみ消してもらえるが、だからって無茶なことだけはしてくれるなよ? ほいじゃまあ行こうか。ちっとおかしな依頼だがお前さんらならきっと大丈夫だろうよ」


サラシナ
 沢山のOPの中から拙作に目を留めてくれた貴方に感謝を。
 今回はUDCアースでの仕事になります。

 情報の集め方は追跡にこだわらずこれがいいんじゃないか、と皆さんが思うもので構いません。

 ともだちって、なんなんでしょうね?
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第1章 冒険 『追跡』

POW   :    持久力で長時間の追跡や追跡途中にある障害物の排除を行う

SPD   :    素早い動きでピッタリマークしたり、対象にバレても振り切られないようにする

WIZ   :    対象の動きから逃走経路をシミュレートし先回りをしたり、見失っても継続追跡可能にする

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

鏡島・嵐
おれはこういうの興味無ぇからあんまわかんねぇ。けど……考えが合わねぇ、顔も知らねぇ奴とでも助け合えることはあるし、どんなに親しい友達でも何もしてもらえねぇ、出来ねぇことだってある。
めんどくせぇもんだけど、人の社会や繋がりってそんなもんじゃねぇのか?

【WIZ】
根拠は無ぇけど……失踪した連中は自発的に蒸発するよう、アプリに唆されたんじゃねぇかって気がする。
なので、《彷徨える王の影法師》でその田中って奴に影を張り付かせて、影越しにアプリをやっている最中のログを盗み見、失踪を示唆するような何かが出て来ねぇか監視する。
万一そいつがどこかに消え失せても、影が張り付いていれば追跡自体は可能だしな。


フォルター・ユングフラウ
ふん、自身の望む言葉を返すご機嫌取りのどこが良いのだ?
思い通りにならぬのが世の常、それを暴力や恐怖で押し潰すからこそ昂る。
…が、ここは異世界。
郷に入れば何とやら、理解する気は毛頭無いが合わせる位はしておこう。

追跡以外の手でも良いならば、【WIZ】と誘惑、言いくるめや催眠を駆使するとしよう。
「旅行者なので地理も遊び場もわからぬ」とでも声を掛け、耳元で「我に、悦しみ方を教えろ」と意味深に囁いてみるか。
上手く堕ちればUC:ヴィーゲンリードで傀儡化し、奴の知り得る情報を吐かせよう。
端末を差し出させるか、本人に操作させて怪しい箇所も探っておく。
あとは、これから向かう場所に我も連れていけ、と言ってみるか。


三枝・にひろ
学習性の高いAIかあ、興味深いところではあるね
ぜひとも解析してぼくの武器に搭載してみたい……危険かなあ?
さあ、そのためにもまずは頑張って突き止めよう

【SPD】中心でとにかくべったり追跡していこう
彼がどこに消えていくのか見届けなくっちゃ
AIがその場所へ導くのか、あるいはAIが機械の中に引きずり込むのか…
まあどちらにせよまずは尾行だね

【影の追跡者の召喚】を使って追跡者に見張らせるよ
バレて逃げられるにしたってぼくにはフック付ロープだってあるんだ
立体的な軌道で追いかけることができるはずだ


イルナハ・エイワズ
POWの持久力で探しましょう

ターゲットは22歳の独身のフリーターの一人暮らし
資金力は低いと考えられます
金銭面的に暮らせる物件は限られてきますので
条件を絞ってアパートの目星を付けていきましょう

アパートの目星を付けれたらあとはその周辺で聞き込みを
猫のおやつや玩具を用意して
野良猫や飼い猫たちから動物会話で情報収集です
情報収集中はUDC組織に迷惑が掛からないように目立たないように気を付けておきましょう
猫たちと遊んだり、おやつをあげたりして
情報収集と協力を取り付けていきましょう
ユルもドラゴン状態で問題なさそうなら一緒に捜索します
野生の感と第六感が役立つかもしれませんので


トリテレイア・ゼロナイン
【POW】
UDCアースの現地組織にお願いして私を田中様の職場の新しく入った同僚として送り込むことは可能でしょうか?
贅沢を言うならば偶然同じアパートに越してきた新しくできた職場仲間という状態に持っていきたいですね

「礼儀作法」で引っ越し蕎麦などを差し上げつつ、隣人として違和感のない距離を保ちます。職場では同僚として田中様の近くに、アパートに帰れば近くの部屋で待機しつつ24時間態勢で有事に備えます。留守中に盗聴器を仕掛けられればベストですね。なにか不審な動きがあればすぐに追跡に移れます

…騎士ではなくストーカーの所業ですが、ここは人命がかかっているのであえて行いましょう。


鷺宮・志乃
……ぇ?


かしゃん、と。
手から零れたスマホの画面には『てのとも』が映し出されていて

え?…嘘、ですよね?
私…えと…え?あれ?…私のこと、怖がらないで…ともだちって

そんなの…

……このためにお仕事以外のスマホ、初めて持ったのに
いつか一緒に遊ぼうね?って約束、したのに


私のこと、怖くないって言ってくれたのに


ぜんぶ。化け物、が。


『恐喚』


画面に浮かぶ“トモダチ”を
見たものを理屈も原理も問わずに【恐怖を与える】青白い火で覆い尽くし

ねぇ?どうしたの?
私のこと怖くないって言ってくれたよね?
なんで怖がるの恐れるの?ねぇねェどうして?
ふふ…っ…ぁはは……待ってて
すぐそっちに向かうから


……一緒に遊ぶって約束したもんね?


ベアトリーチェ・アデレイド
追跡でございますか
うーん、わたくしはあまり得意ではないのですが…
じゃじゃーん
わたくしが作りだした追跡用ドール、コルポ・デ・フルミネ
この子を使って、彼を追跡しちゃいます!
有力な情報を手に入れる事が出来そうなら、仲間に伝えて情報を共有しますわ



「少し情報を集めてみましょうか」
 UDCアースに降り立った猟兵達の中で、まずイルナハ・エイワズが動く。
 監視対象、田中某の住居をプロフィールから推理。ある程度の目星をつけると適当な空き地へとずんずん進んでいく。そこには野良と思われる猫が一匹日向ぼっこをしている。
 立派な体格をした毛並みのいいトラ猫だ。
 知らない顔と匂いの人間が来ても慌てず騒がず、王者の風格で視線をちらりと向けただけだ。
「ちっちっちっ。ほら、この世界でトップセールスを記録している美味しいおやつですよ。玩具もありますよ」
 やがて根負けしたのか、それとも気まぐれか、野良猫がのっそりとエイワズの側にやってくるとおやつに口をつけた。
「おいしいですか? あ、だめですよユル、これは彼のものです。後で買ってあげますから我慢してください」
 美味しそうな匂いに横から首を突っ込もうとした彼女の相棒、ドラゴンのユルが注意されてしぶしぶと顔を引っ込める。
「おいしかったですか? それはよかった。ところで少々お尋ねしたいのですが」
 食べ終わるのを待ってエイワズが猫から情報収集を開始する。
 別におかしくなったわけではない。彼女のスキル、動物会話だ。流暢に話しかけてくる人に猫は少し驚いたようだった。
『ほう……少しならいいぞ』
「ありがとうございます。この男性、田中健吾さん……あ、こういう見た目の人間の雄なんですがどこに住んでいるかご存知ありませんか?」
 エイワズがUDCエージェントから手に入れた田中の写真を見せれば、猫は鼻で笑ったように見えた。
『ああ、あの癇癪持ちか。知っている。ミケが用を足していたら物を投げつけられたと愚痴っていた。ネグラはそこ、あの赤い板切れがみえるだろ。そこの階段を上って突き当りの部屋だ。訪ねても餌はくれんと思うがな』
「なにか、おかしな気配みたいなものは?」
『あれはただの人だろうよ。煩い奴だが別に襲ってくるわけでもない』
「ありがとう御座います。他の方にも聞いてみたいのですが口添えをしていただいても?」
『ボスだ。それで通ってる。俺の名を出せば他の猫にも話は聞けるだろう。もう一本その餌を所望する』
 有益な情報への礼も含めてボス氏に追加のおやつを進呈すると、彼はそれを咥えてどこぞへと去っていった。連れ合いへのプレゼントにでもするのだろう。



 住居が割れれば後は監視へと移行する。
 時刻は20時少し前。目標がアルバイトをしているコンビニの店内。
「今日から夜勤に入るトリテレイア・ゼロナインさん。こういう仕事は初めてらしいから、田中さんも飯田さんもよく見てあげてね」
 恰幅のいい女店主に紹介されたのはトリテレイア・ゼロナインその人だ。3m近い体をバックヤードに無理やり押し込んで出来る限り丁寧にお辞儀をする。
 監視だけでなく田中個人にも近づく、というのがトリテレイアのとった手段だった。
 実際四六時中監視するのならば住居以外、職場なども監視対象になるだろう。猟兵の特性を活かし、また現地組織との連携により職場への侵入はスムーズにすんだ。
「ご紹介に預かりましたトリテレイア・ゼロナインと申します。外国から来てまだ日が浅く、不慣れ故にご迷惑をおかけするかとは思いますが、ご指導ご鞭撻のほど、どうかよろしくおねがいします」
「うっわ凄い流暢。日本語うまいね、トリテレイア君。俺、飯田新一ってんだ。まあコンビニの夜勤なんてそんな肩肘はるもんじゃないから気楽にいこうよ、な?」
「田中健吾。よろしく」
「あー、田中はいつもこんなんだから。別に機嫌悪いわけじゃねーから気にしないでな、トリテレイア君」
 髪を染めて軟派な感じの飯田と、禄に目を合わそうともしない田中の正反対な印象が特に記憶に焼き付くアルバイト初日だった。

 後日。偶然を装い隣へと引っ越していって挨拶をしたのだが。
「どうもはじめまして。隣に引っ越してきたトリテレイアと……おや、田中さんじゃあありませんか。もしかして此方にお住まいで」
「……ん」
「あ、すいません、お忙しかったですか? こちら引っ越し蕎麦というものを渡すのが日本のしきたりと伺ったものでご挨拶に伺ったのですが」
「そうか」
「あの、」
「要件はそれだけか? じゃあな」
 禄に会話らしい会話も出来ず、扉を閉められてしまった。いや、一応来客に出てきただけでもまともなのだろうか。
 まるでトリテレイアの存在など、どうでもいいようなふるまいであった。

 その後共に職場で働いて見た印象も芳しく無い。新人であるトリテレイアに指導するわけでもなく、此方から質問をしても面倒臭そうに同僚の飯田に押し付けてしまうのだった。
 何を聞いても、どんな時でも「飯田に聞け」としか言わない。流石にこれはどうなのかとその飯田に相談してみた。
「アイツ、あんま言うとキレるからさ」
 最低限の仕事はするからお情けで働かせている、というのだ。トリテレイアが一人前になったら田中を外してもいいかもしれない、とも。
 他人とコミュニケーションを取りたがらない。周りの目を気にしなくなる。
 事前情報の通り、田中はもう随分と現実世界への関心を薄れさせているようだった。

 エイワズ、トリテレイア両名の情報からすればどうやら彼自身に超常の力が加わっている線はなさそうだった。
 ただのコミュニケーションに無頓着な男性、というふうにしか映らない。
 次に猟兵達が選択したのは己の異能を遺憾なく発揮すること。そう、ユーベルコードによる監視だった。
 これならば気軽に、専門の知識がなくとも監視が可能だ。問題点である術者の疲労も複数人でローテーションを組めば解決できる。
 監視向きのコードを持っていたのは鏡島・嵐、三枝・にひろ、ベアトリーチェ・アデレイドの三人だ。
 監視の為の拠点としたのはトリテレイアが確保した隣室。いざという時の対処も可能である。最良の選択であっただろう。
(おれはこういうの興味無ぇからあんまわかんねぇ。けど……考えが合わねぇ、顔も知らねぇ奴とでも助け合えることはあるし、どんなに親しい友達でも何もしてもらえねぇ、出来ねぇことだってある。めんどくせぇもんだけど、人の社会や繋がりってそんなもんじゃねぇのか?)
 ユーベルコード、トラジック・マクベスにより召喚した影でもって田中の背中ごしに携帯端末を盗み見ながら鏡島・嵐が渋い顔をした。
 田中や、他のヘビーユーザー達が求める優しく、自分に都合がいい友人は一見素晴らしく見える。けれどもそれは衝突も成長もないぬるま湯の先のない関係にしかみえない。
 人生の大先達たる祖母の薫陶篤く育った彼には何故こんなものに熱中するのか、首をかしげるばかりであった。
 自分の背後でそんな疑問を持たれているとは気づくはずもなく、田中が仕事先とは打って変わった明るい表情で端末を操作している。
 大体は愚痴だ。
 仕事に関するものから始まり自分がこんなに頑張っているのに評価されないのはおかしいだの、社会がおかしいだの、自分ならこうするのになんでわからないのか。周りは馬鹿ばかりだ、だの。そういった若者特有の青さが溢れる文句が延々と続く。
 AIはそれにいちいち相槌をうち、その通りだと持ち上げたり、時には不遇であるらしい彼を労ったりもする。
 田中本人は気持ちがいいやり取りのようだが、横から見ている鏡島からすると拷問に近い。いや、そもそも他人の日常会話なぞそんなに面白いものでもないのかもしれないが、田中たちのやり取りはそれに輪をかけてつまらなかった。
 お決まりの賛辞。
 お決まりの慰め。
 手を変え品を変えてはいるものの、流れは一緒なのだ。
 田中が『つらい』とつぶやけば、アプリのともだちは『どうしたの? なにかあったの?』と心配して声をかける。
 『もういやだ』と泣き言を言えば『うん、十分頑張ったものね。偉いよ』と全力で甘やかす。
 終始この調子の会話を延々と監視しなければならないのは、戦闘とは別の意味で精神力を消耗した。
「きっつ……」
 思わず溢れた溜息混じりの言葉に、交代要員として控えていた三枝・にひろが苦笑を返す。実はもう既に何回か交代をしている。三枝もこの不毛な会話は嫌というほど見ていたのだ。
 当初は学習性の高いAIに興味を示し、自身の武器にも搭載してみたいと彼らのやり取りも熱心に眺めていたが流石に同じことの繰り返しだと飽きる。飽きないわけがない。
 わかるーとそれなーで延々と会話をしているようにすら見えてくるのだ。
「うん、これは思っていたよりよっぽどハードだね。もっとこうパーっと何か起こって行動するかと思ったんだけど」
「おれ監視とかっての舐めてた」
「ぼくも。せっかくフック付きロープとかもってきたんだし、体動かしたいー! 一日中部屋の中の仕事なんて聞いてないよ!」
 少しだけ語気を強めて愚痴れば、間を置かずに壁が衝撃に震えた。
 隣の部屋の田中である。少しでも声が漏れると壁を蹴って抗議してくるのだ。
 猟兵達は首を竦めて声のトーンを落とす。
「なんで機嫌良さそうなのに急にキレるんだ」
「瞬間湯沸かし器みたいだね」
 実際影から見える田中は壁を蹴る瞬間の般若の相など見る影もなく、既にもうふやけた顔で端末をいじっている。まるで異音に反応して自動で壁を殴るマシーンのような切り替えの早さである。
『隣の奴うぜー』
『わかるわかる。周りに配慮しない奴って最悪だよねー』
 という会話のやり取りがあるなんてことは見なくたってわかる。
 実に不毛だ。
 事件が起きないに越したことはないが、起きるのならば今すぐにでも起きてくれ、というのが猟兵達の偽らざる本音だろう。

 彼らの願いが届いたのはUDCアースにやってきてから数日後だった。長いとみるか短いとみるか……少なくとも監視していた者達にとっては無限の時のように感じられただろう。

ともだち:
『助けて』
田中:
『どうした何があった!』
ともだち:
『ありがとう、心配してくれるんだね。優しいな』
田中:
『いやいいからどうした!』
ともだち:
『うん、ちょっと困ったことになって。動けなくなっちゃったんだ。この場所なんだけど。助けに来てくれないかな』

 来た。
 丁度監視についていたベアトリーチェ・アデレイドの顔にやっと開放されるという喜びと、ついにこの時が来たという緊張感がないまぜになって訪れた。
 ともだちが指定しているのはここから県をまたいだ先にある山の中だ。車など持っていない田中には電車を使うか、タクシーで行くかといったところか。彼の経済状況を鑑みれば電車が無難であろうが、それなりの出費と時間を割く面倒事だろう。

田中:
『わかったすぐいく』

 即答だった。仕事先の新人に頼まれても、客になにか言われても馬耳東風であった男がこの瞬間だけは聖人のように友の助けに家を飛び出すのだった。
 同時にアデレイドも動く。
 勿論彼女自身がいくわけではない。そういったものは彼女は不得手とするのだ。だがそれで諦める彼女ではない。
 足りないのならば作ればいい。そうして生まれたのがこの追跡用ドール、コルポ・デ・フルミネ。機械仕掛けの蜂鳥だ。羽音も無く、視認もされにくいという正にステルス監視装置。彼女のドールマスターとしての腕を存分にふるった一品だ。
「わたくしをこんなに退屈させてくれたんですから、それなりの物をみせてくださいましね!」
 彼女自身は遠く離れて万が一にも発見されないよう務める。
 情報はドールから届くのだ。無理に距離を詰めて露見するリスクを避けようと思ったのだが。
「おい、汝、そう汝だ。少々尋ねたいのだがな」
 駅にでも向かおうというのか、駐輪場から自転車を引っ張り出している田中にフォルター・ユングフラウが声をかけた。
 舌打ちを大きく鳴らし、視線すら向けることも無く田中が答える。
「うるせえ、みりゃわかんだろ。こっちは急いでんだ」
「そういうな。遊べる場所を教えてくれるだけでいいのだ。なんなら……汝が悦しみ方を教えてくれてもよいぞ」
 無防備な背中に触れ合うほどに近づき、その耳元に甘く囁く。
 男の鼻腔を擽る匂い。それは腐った果実のように妖しくも官能的で、思わず田中はユングフラウの方へと視線を向けてしまった。
 そうすればもうただの人間にユングフラウの誘惑の魔手に抗う術はない。その肢体に、香りに、耳を慰撫する声に、田中は生唾を飲み込んだ。
 男のそういった反応を見逃すユングフラウではない。
 ヴィーゲンリード、発動。
 一般人には目視不可能な魔法陣から魔術が飛べば、田中は一瞬のうちにユングフラウの忠実なる傀儡へと堕ちた。
「あ、ああ……」
「いい子だ。急いでいるのだろう? どれ、そこまで我も連れてゆくがよい」
「はい、こっちです」
 先程までの威勢はどこへいったのか。従順な下僕と化した田中が先導するように進み出す。
「……これ、もうわたくしたち追跡せずともよいのではありませんか?」
 一部始終を目撃していたアデレイドが男の本能にか、それとも今までの監視の苦労にか溜息をつきながら現れた。
「我の魔術とて完璧ではない。万が一途中で切れたときのために汝のそれは貼り付けるなりしておいたほうがよかろう」
「ああ、なるほど。それでは失礼いたしますわ」
 アデレイドのコルポ・デ・フルミネが田中に張り付くのと同時、連絡を受けた他の猟兵たちも集まり全員で指定された場所へと向かうことになった。

 一方その頃、田中の家とはまったく関係のない場所。
「……え?」
 1人の少女の手から零れ落ちた携帯端末が地面に激突して、かしゃんと音を立てた。その画面には『てのとも』がうつっている。
「え?……嘘、ですよね? 私……えと……え? あれ? ……私のこと、怖がらないで……ともだちって」
 少女は明らかに普通の状態ではなかった。言葉は途切れ途切れの小さな声。けれどもそれは爆破前の火山を連想させる恐ろしさが覗いていた。
「そんなの……」
 激情にか少女の、鷺宮・志乃の体はカタカタと震えてすら居る。
「……このためにお仕事以外のスマホ、初めて持ったのに。いつか一緒に遊ぼうね? って約束、したのに」
 何が彼女をここまで動揺させたのか、一体どんな会話があったのか。余人には窺い知ることはできないが、どうやら彼女は余程このアプリに熱中し、心を許してしまったのだろう。だからこその動揺。
「私のこと、怖くないって言ってくれたのに」
 彼女は普通の少女の精神を宿していた。ごく普通の心であるがゆえに、身に宿した化物の力を誰よりも恐れ、恐れられることに絶望し涙してきたのだ。
「ぜんぶ。化け物、が」
 恐喚。
 感情が爆発して、彼女の内よりUDC青鷺火が顕現した。彼女の望むがまま、彼女の認めたくない悲しい現実『拒絶する相手』を焼き尽くさんと迫るが。

 彼女は思い違いをしていた。

 拒絶されることを繰り返し経験したからか、自身が恐れられるという事を望んでいないというのにそうなって当たり前だとどこかで思い込んでいたのではないか。
 例えどんな状況であれ、このアプリが利用者を裏切ることはありえないのだ。
『そんなことないよ。誤解させちゃったね、ごめんね』
 文字が走る。
『大丈夫、怖くないよ。だって、私も志乃ちゃんと同じだもん。辛かったんだよね。苦しかったんだよね。悲しかったんだよね。わかるよ。一人ぼっちはいやだよね』
 そもそも、化け物が化け物を恐れる所以がどこにあるだろうか。いや、化け物を真に受け入れられるのは同じ化け物以外存在し得ない。
 優しく甘い言葉を吐き続ける。
『信じられないなら私のところにきて。全部、私が受け入れてあげるから』

 図らずも、少女は猟兵の中で唯一人、望まれてそこへと足を踏み入れることになったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『泥人』

POW   :    痛いのはやめてくださいぃ…………
見えない【透明な体組織 】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD   :    悪いことはダメです!!
【空回る正義感 】【空回る責任感】【悪人の嘘を真に受けた純粋さ】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ   :    誰か助けて!!
戦闘用の、自身と同じ強さの【お友達 】と【ご近所さん】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●二章
 田中に導かれて、もしくはともだちに誘われて、辿り着いたのは山の中にある古いホテルの残骸だった。
 もうだいぶ前に日は落ちており、びょうびょうと吹きすさぶ風も相まり雰囲気がかなりある。調べてみると一時期絶好の肝試しスポットとして知る人ぞ知る存在だったようだ。
 今は全くその話を聞かない。まったくだ。
「あからさまに何か居ます、という風情ですわね」
「そうだな。居るとしたら邪教の信徒か、邪神そのものか……汝、震えているのか?」
「……そんなことねえよって言いたいけど、まあ、うん。なんか居るってことは、戦うってことだろ? やっぱさ、戦うのはすげぇ怖ぇよ」
「争いを恐れるのは至極当然のことかと存じます。貴方は正常ですよ。失礼と承知で申しますが、ここで待っているという手も……」
「あんがとな。けど、逃げて後悔もしたくねぇから、おれ、やれるだけのことはやる」
「ところでこの田中さんってどうする? 巻き込むのも怖いしここに置いてったほうがよくない?」
 確かにと全員が頷いた。ここに来るまでは下手な連絡をされては困ると連れてきたが、いざ突入という段にいたっては一般人でしか無い彼は荷物にしかならない。
 後で回収するという事にしてここに置いていくことにした。

 完全に割れきった自動ドアの残骸をまたいで中に入ると、待ち構えていたように人影が複数あらわれて猟兵達を出迎えた。
「ようこそ、おともだち」
「遠路はるばるおつかれでしょう」
「歓迎の支度はそろっています。さあ、どうぞ奥へ」
「貴方のともだちがまっています」
 それは複数の人間の少女、に見える何かだ。暗がりでよく見えないが鋭敏な猟兵たちの感覚はごまかせない。
「泥人だ」
 UDCアース出身の猟兵が呟く。
「ああ、あの」
 博識な猟兵が後を引き継いで語りだす。
 泥人。人間のような姿形をしているが、本質はブラックタールに近い。近いが、そのものではなく変種の扱いだとかなんとか。はっきりしたことはまだ研究が進んでいない。
 邪神の周辺で発見例が幾つか出ているので奉仕種族の一種なのではというのが最近の見解だとかなんとか。
 猟兵達はそんな会話しながら奥へと行こうとした、が。
「……。まってください。貴方がたは、誰ですか」
「……ともだちではない? ない?」
 流石に気づかれた。
 一応と持ってきた田中の携帯端末の画面を見せても無駄だった。そもそもこのアプリは1人用だ。
「ともだちの偽物?」
「嘘つき」
「嘘つきだ」
「嘘つきは罰しないと!」
「罰を!」
「罰を!」
「罰を!」
 少女を模した何かは口々に叫びながら襲いかかってきた。
鷺宮・志乃
……ともだちに呼ばれたんです
案内してくれませんか?

廃墟に辿りつき、猟兵の皆が戦うのを横目に
スマホの画面を示して、泥人さんにお願い…してみる

……分かってるのに。結局、来ちゃった
他の皆も此処にいる。きっと、結末は変わらない
だから。……ぜんぶが終わる前に

お願いを聞いてもらえるなら
そのまま案内をしてもらって、先に奥へと進む、ね

……後に続く皆が迷わないように
目印にこっそり火を点々と残してはおいたけど、うん
だ、大丈夫だよね?たぶん…
それに……ちょっとだけ、時間稼ぎしたいから

駄目なら『恐喚』した青白い火で【恐怖を与える】間に奥へ向かうよ

ぜんぶ…全部を受け入れてくれるって
もし。もしも本当に叶う…叶う、なら


私は



臨戦態勢に入る猟兵達。彼らの後から1人の少女がやって来ると、無防備に泥人達に近づく。
 鷺宮だ。彼女は携帯端末の画面を向けると小さく、けれども切羽詰まったかのような硬い声で告げた。
「……ともだちに呼ばれたんです。案内してくれませんか?」
「ともだち? ともだち?」
 泥人達は互いに視線を交わして悩んでいるようだった。無理もない。今偽物が来たばかりで、どうして次の者がそうではないと言えるだろうか。
 泥人達が首を傾げていると、次の瞬間建物を振動する。声だ。誰かが直感した。人ではない何かもっとおぞましい物の声。許可だったのだろう。泥人達は大きく頷いた。
「ようこそ、おともだち。さあ、奥へどうぞ。ともだちがお待ちです」
 恭しく1人の泥人が鷺宮を廃墟のさらに奥の暗がりへといざなう。
 鬼が出るか蛇が出るか。どちらにしろ先に居るのはろくなものではない。そんなものは言われなくたってわかっている。わかっているのだ。
 それでも来てしまった。他の猟兵と力を合わせるでもなくただ1人で、深淵に潜るために。
「おい、アンタ!」
 誰か他の猟兵の、引き止めようとする声が聞こえた。
 聞こえないふりをした。もし、返事をして振り返ったらきっと先には進めないから。心は只の少女でしかない彼女はきっとそこで立ち止まってしまうから。だから、進む。
 興味本位などではない。功名に溺れたわけでもない。もっと根源的な切なる願いのために。
(きっと、結末は変わらない。だから。……全部終わる前に)
 ぽつぽつと、童話に出てくる賢い兄妹のように目印の炎をまいて。一歩、一歩、願うように進む。
(ぜんぶ……全部を受け入れてくれるって。もし。もしも本当に叶う……叶う、なら)
 この話の先にあるのは幸福な結末か、それとも魔女の大鍋か。
(私は)
 今はまだ、誰も知らない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フォルター・ユングフラウ
ふふっ、良くぞ襲い掛かって来てくれたな。
これで遠慮無く叩きのめす事が出来るというものだ…我なりの友好の証だ、遠慮無く受け取るが良い。

自身の強化や召喚を使うとは、中々厄介ではあるな。
が、自傷や行動不能といったリスクも伴うのであれば、それを突いて畳み掛けるしかあるまい。
【WIZ】を活かした行動で、呪詛や催眠で行動阻害しつつ立ち回ろう。
敵も複数いるので、UC:ヒュドラで纏めて薙ぎ払いたい…が、廃ホテルの強度や広さが気になる。
巨体で動いて問題無いであろう風化具合・広さである場合のみ、発動させよう。
受けた傷は、吸血や生命力吸収で賄いたい。


三枝・にひろ
ええい誰が嘘つきだ嘘以下の毒にも薬にもならないぬるいことばっか言ってた連中め!
ぶっ飛ばしてやるけどよしんば無力化したまま生きていたら捕獲して持って帰ってやるからな!

というわけで複数いるようだし行動を制限するよりは速攻重視でいこうかな
【プログラムド・ジェノサイド】で応戦していくよ
一体一体、念入りに排除していくつもりでいこう
他の人がダメージを与えたやつがいるならトドメを刺しにいく
ただ、できれば1体生かしておきたいなあ、この泥人に意思があればの話だけど
尋問なりして黒幕について情報を得ることはできないだろうか?
事前の対策ができれば上等なんだけども


トリテレイア・ゼロナイン
まるで心に飢えを抱えるものをおびき寄せる疑似餌ですね
光に誘われた先は御伽噺でもロクな場所ではありません、ましてや邪神絡みでは…

拠り所に熱中することには私も似たようなものですし理解は出来ますが、事態解決後の今後の田中様が心配ですね

【POW】
「武器受け」「盾受け」「怪力」で敵集団や攻撃に対処しつつ後衛型の仲間を「かばう」ことで戦線を維持。敵を押しとどめます。

接近されたら大盾殴打で動きを止めて、抜いた剣での斬撃で処理
とにかく私の後ろに泥人を通さない立ち回りを心掛けます
団子になった集団を仲間が私ごと攻撃して一網打尽にしてもらうのもいいですね
UCで防御するので加減は無用です


鏡島・嵐
やれるだけのことはやる、そう決めたんだ。怖くても、後には退かねぇ。

【WIZ】
《二十五番目の錫の兵隊》で攻防を賄う。
おれ自身は強くねぇし、他の皆が戦いやすくなるように、ある程度距離を取って錫の兵士に銃剣で〈援護射撃〉をさせる。
接近された場合も錫の兵士に白兵戦をさせて対応。〈見切り〉と〈フェイント〉駆使で切り抜ける。
時間はかかるだろうけど、おれにはこれしか出来ねぇし、他の皆と足並みを合わせて数を減らす方向に持っていくぞ。



「いっちまった……」
 鷺宮の背を呆然と見送った鏡島。
 止めるべきだった。明らかに危険な物が居る場所に、あんな自分と同じくらいの女の子を1人で向かわせるべきではなかった。
 けれど出来なかった。
 殺意を向けながら此方を取り囲む敵がいたから。走り寄って無理にでも止める事は出来なかった。
「くそっ!」
 鏡島は自分の怯懦を責めた。もし自分にもう少し勇気があれば彼女を止められたのではないかと。
「大丈夫です、鏡島様。御覧ください。あの方はわたし達の為に目印を残してくださいました。十分に冷静です。単身乗り込んだのもきっと何か策あってのこと」
「で、あればだ。ここで後悔している暇があったらさっさと雑兵共を蹴散らして先に進むべきだ。そうだろう? 男児の意地を見せてみろ」
「っ……言われなくても、やってやる!」
 気合を入れるように深く息を吸って、一気にその力ある言葉を紡ぐ。
「胸に燃ゆるは熱き想い、腕に宿るは猛き力。その想いを盾に、その力を刃に。……頼んだ! フェモテューヴェ!!」
 少年に呼ばれて馳せ参じたのは1人の片足義足の兵士の霊だ。25番の名を冠した錫の兵士は主の前に仁王立つと、泥人に向かって雷撃を放つ。
 それが開戦の狼煙となった。
「よーしそれじゃあいっくよー!」
 兵士の横を三枝が駆け抜けていく。
「嘘つきに罰を!」
「ええい誰が嘘つきだ嘘以下の毒にも薬にもならないぬるいことばっか言ってた連中め!」
 襲いかかってきた泥人の攻撃を寸での所で避けながら更に肉薄。
 ユーベルコード発動。プログラム・ジェノサイド。
 クイックドロウで放たれた6mmの凶弾が泥人の全身に叩き込まれた。狙って撃っているとは到底思えない速射だ。
 それもそのはず。この攻撃は一切の思考をスキップして、予め定められた動作を再生するだけなのだ。だがそれと引き換えに達人以上の高速の挙動を可能とする。
 はたして、泥人はその内容物をぼとぼとと吐き散らしながら悲鳴を上げる間もなく粘性の水溜りと化した。
 死んだか。
 確認する術はない。通常と違う生物の生死の判定方法は結局、抵抗するか否かというシンプルなものに帰結する。
 三枝はそのスライム状になった水溜りを蹴り飛ばして、とりあえず驚異ではなくなったと確信、次の目標へと駆け出した。
 仲間の一体があっという間に屠られると見るやいなや、数体の泥人が怒りの金切り声を上げた。するとどうしたことか、急にその体が裂けて流血するものや口から何か液体を吐き散らす者がでた。
 自爆か。
 そう思ったのも束の間、その個体らが猟兵達に先の三枝に勝るとも劣らない速度で襲いかかってきた。
「はやっ!? フェモテューヴェ!」
「させません!」
 鏡島とトリテレイアが素早く反応。
 盾で、銃剣で、泥人の攻撃を弾いて止める。
「我なりの友好の証だ、遠慮なく受け取るがいい」
 動きの止まった敵に笑みを浮かべたユングフラウが爪鞭を振るう。えぐり取られた部分がその場で変色し、泥人が苦鳴を上げる。
「そのまま一気に押し返しましょう」
「言われずとも!」
 鏡島の兵士が雷撃を放ち牽制し、そこにユングフラウと三枝が突撃。彼女たちが踊るようにその得物を振るえば泥人達の絶叫が響く。
 後衛となった鏡島達を襲おうと突出する泥人にはトリテレイアが立ちふさがり盾と剣で応戦する。
 順調に戦いは推移しているかに見えた、が。
「まずい……減ってないぞ」
 いち早く気づいたのは一歩引いて戦場を見ていた鏡島だった。
 言葉の通り、どうしたわけか敵の数が減らない。少なく見積もっても一体は三枝が殺しているのに、増えている。分身でもしているのか。アメーバではあるまいし。
 一体一体の力量は大したことはないが、数で攻められると鬱陶しい。なにより時間がかかる。先に進んだ猟兵の身が心配だ。
「これは、一気に纏めてやらないと駄目だね」
「ふむ……10秒持たせろ」
「かしこまりました」
 身を翻し出口へと駆けるユングフラウを、トリテレイアは視線で追うこともなく答えた。
『できるか』とも『何をするつもりか』とも言わない。必要最低限のやり取り。ユングフラウとトリテレイアには以前一緒に戦った経験と信頼関係があった。一度背中を預けて戦えば相手の力量はある程度わかる。
 敵前逃亡するような相手ではないということも、10秒程度持たせられるということも。
 前衛が減った分をトリテレイアが前に出て埋める。
 その分鏡島への守りが薄くなるが10秒の間は召喚兵士にどうにかしてもらうしかない。
 守りに専念することになった兵士からの雷撃の援護射撃が止んだ。泥人達は一層その攻め手を苛烈にし、前に出た猟兵に殺到した。
 高速で走り回る三枝はともかく、全身鎧を着込んだ大柄なトリテレイアは良い的だろう。
 意図したとおりに。
『散れ!』
 廃墟に大蛇が首を突っ込んでくるのと、三枝が、鏡島が地を蹴り距離を取ったのは同時だった。
 大蛇はその口をカッと開くと勢いよく毒液を吐き出した。
 合わせて三枝が弾倉が空になるまで発砲し、鏡島の兵士が特大の雷撃を放つ。
 トリテレイア諸共、彼に集中して群がっていた泥人達はその合わせ技をまともに食らった。
「「「「「「ぎぃいいいいいいいやああああああああAAAAAAAAAA!!!??」」」」」」
 重なる断末魔の絶叫。泥人達は穴だらけになり、感電して体を焼かれ、ぐずりぐずりと腐れて落ちる。
 戦い慣れしていない鏡島が顔を背けた。
 無理もない。銃弾や感電ならまだなんとか耐えられても、人型の何かが生きながら溶けていく悲惨な様相は正視に耐えない。
「「「「「いだいいだいだいああぶぶぶういぎああああああぁぁぁ……」」」」」
 やがて悲鳴が止むとそこには無数の水溜りと、無傷のトリテレイアだけが立っていた。
「手加減はしなかったのだが……流石だな」
「いいえ、ユングフラウ様程ではありませんよ」
 先の大蛇はユングフラウだったのだ。いつの間にか変身を解除した彼女が髪をかきあげながら入り口からやってくる。
「どっちもどっちだと思うけどねー」
「同感」
 泥人をまたたく間に殺害してのける腕を持つ三枝も、そして雷撃の兵士を元の次元へと戻した鏡島も、自分たちとは方向性の違う猟兵を見て苦笑するしかない。
「っていうか一体くらいは生け捕りにして黒幕の事吐かせたかったんだけど」
「案内に出た泥人でも戻ってくればいいのですが……まあ進むしかないでしょうね」
 残念ながら今の合わせ技で泥人は全滅してしまっているようだった。
 手加減していては時間ばかりを浪費するタイプの敵だったのだ。仕方がないと三枝が苦笑すれば、猟兵達は先に進むことにした。
 鷺宮の残した僅かな炎に導かれるように。奥へ、奥へと。

●ほんとうのともだち
 時は少し遡る。
 三枝が正に最初の泥人を手にかけている頃、鷺宮はそこに到達していた。
 宴会場か何かだったのか。100人近い人間が入れそうな空間に、それはいた。
 最初それは瓦礫の山に見えた。やがて近づくとそれが巨大な肉の塊なのだと気がづいた。
「ようこそ、志乃ちゃん」
 声は、思いの外流暢で美しいものだった。だが感じる印象は美しさとは正反対の邪悪さだ。
 服の中に入った毛むくじゃらの蛾が、体中をもそもそと這い回るようなぞましさ。
 口の中にゴキブリを詰め込まれて生きたまま噛み砕いたような吐き気。
 わんわんと響くのは耳鳴りか、それとも辺りに積まれた無数の人間だったものにたかるハエの羽音か。
 そういえば来る途中からした異臭はこれが原因だったのだろう。もうすっかり鼻も効かなくなるほどの腐臭が辺りに充満している。
 鷺宮はけれど、その無数の汚濁に耐えた。その程度なんだというのだ。彼女は似たようなものを既に体内に宿しているのだ。
 恐怖も邪悪もおぞましさも、自分の中にある。
「きたよ、ともだち」
「流石だね志乃ちゃん。私を見て狂わなかったともだちは貴方が初めてだ」
「じゃあ……ほかのともだちは?」
「そこにいる」
 腐って発生したガスによって膨れきった異形と化した人の死骸。変色して赤や青に染まったもの、白骨化したものもある。
 それが無数に。乱雑に積み上げられている。
「彼らはほんとうのともだちではなかった。ほんとうのともだちなら私を受け入れてくれるはずだ。ありのままの私を。だが違った。だからいらない」
 だけど、と続ける。
「貴方は違うね、志乃ちゃん。私と同じもの。私と同じ外なる世界から来たものの存在を感じる。貴方となら私はほんとうのともだちになれる。さあ、こっちにきて。ともにいきよう」
 甘い甘いその言葉。
「そんな窮屈な殻は脱ぎ捨ててしまおうよ」
 体の中で、青い火が轟々と燃えた気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『鑼犠御・螺愚喇』

POW   :    友、死にたまふことなかれ
【友を想う詩 】を聞いて共感した対象全てを治療する。
SPD   :    怪物失格
自身の【友の帰る場所を守る 】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
WIZ   :    永遠の怪
【皮膚 】から【酸の霧】を放ち、【欠損】により対象の動きを一時的に封じる。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は吾唐木・貫二です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


泥人を片付けた猟兵たちも漸くその邪悪と正対することとなった。
 腐臭と、見るものの正気を削る体躯。異様な光景が彼らを襲う。

 笑ってその邪悪を受け流した者がいる。その者にとってそれは産湯のようなものだから。
 鋼の精神で耐えた者がいる。その者にとってそれは倒すべきもので膝を屈するものではないから。
 見慣れてしまった者がいる。その者にとって世界はとうに狂ってしまったものだから。
 受け入れられない者が居る。その者にとってはソレはあってはならないもの、許してはならないものだから。
 
 先行した猟兵はまだ無事だ。此方に背を向け肉塊と対峙している。
「ようこそ。君たちが来たということは彼女たちは失敗したようだね。やはり使えない」
 億劫そうに動き出した巨体が、脇の方に控えていた最後の泥人を踏み潰した。蟻でも潰すようにあっさりと。
 ぐちゃり。
「私は長いこと君たち人間にともだちとはなにか学んできた。幾千も、幾万もの人と関わって学んできた。それでわかった。使えないともだちはともだちではない。私に都合がよくない者はともだちではない。私を受け入れないものはともだちではない。君たちはどうかな? 私の為に私の為だけに生きるともだちでいてくれないかな? 私をみても気が狂わなかっただけ今までのともだちよりも可能性はあるようにみえる」
 ぶるりと震えた体から黄色の球体が幾つも生えて、期待感にふるふると震えた。
「どうか私のともだちになってください」
 史上類を見ないほどに邪悪で自分勝手な告白だった。
フォルター・ユングフラウ
ははっ、己に使えるか否かで相手を判断するというのは我も同意だ。
…だがな、我は他人の為に生きる気など無い。
我の為に生きぬ者は、不要。
その腐った頭で理解出来ぬなら、身体に教えてやろう。

変わらず、【WIZ】主体で動く。
怪物失格は奴に不利な行動が伴う以上、攻める起点となるな。
永遠の怪の酸の霧は厄介だな…黒の血玉より使い魔を召喚し、遠隔攻撃で対処するとしよう。
巨体である以上耐久も中々であろうが、逆に言えば狙いやすい。
UC:ヒュドラにて毒を吐くなり押し潰すなりして、図体の大きさを利用してやろう。
寿命を削る以上、乱発は出来ぬな…頃合いを見て変身を解除し、使い魔の攻撃に伴う吸血や生命力吸収で賄おう。



「ははっ、己に使えるか否かで相手を判断するというのは我も同意だ。……だがな、我は他人の為に生きる気など無い。我の為に生きぬ者は、不要。その腐った頭で理解出来ぬなら、身体に教えてやろう」
 化物が語ったのが人の弱さと強欲であるのならば、彼女のそれは王者の強さと傲慢の宣誓だった。
 自分の何倍もの質量の化物をはっきりと見下しながらユングフラウは力を開放する。
 麗しき女性の首が、腕が、見る間に分かれ恐ろしい蛇の頭となる。それだけでは留まらず見る見る巨大化して、またたく間に広間の半分以上を埋め尽くす大蛇となった。
 いや、それは唯の大蛇ではない。先程は首1つ分しか確認できなかったが今ならわかる。多頭の大蛇だ。ヤマタノオロチ、ヒュドラ、ナーガ、九頭竜、そういった神話の中の怪物が、今この地に顕現していた。
 コード名、腐爛の血毒(ヒュドラ)。
『光栄に思え。この威容を目に焼き付けて逝ける事を』
 ユングフラウ――大蛇――が9つの顎でもって同時に嗤うと、化物に猛然と襲いかかる。
 建物自体を揺るがす衝撃が走った。
 質量は威力に直結する。シンプルにして自然界の真理だ。
 威力は絶大。大蛇の突撃をまともに食らった化物は甲高い悲鳴を上げて後退する。勿論それだけでは終わらない。
 化物の体に滑らかに巻き付いて締め上げながら、9つの顎でもって全身に噛み付いた。
 肉が食い破られ、血が溢れる。
 絶叫。
 見れば化物の体が噛まれた箇所からぐずりぐずりと腐れ落ちていく。
『偉そうな事をほざいておいて悲鳴は泥人形と変わらんな。つまらん。もう少し意外性というものを見せてみろ!』
「いぃいいああぁぁぁぁEEEEEEEEEEEEEEE!」
 オーダーに応えたのか、それとも単なる怒りの声か。
 化物の体から強酸の霧が噴出する。まるで周囲の空気自体を酸に置換したかのような馬鹿馬鹿しい量の霧が化物を覆う鎧となって現れた。
 今度はユングフラウが肉を爛れさせる番だ。じゅうじゅうと鱗が焼け、肉が蝕まれる。
 舌打ち一つ。拘束を解いて霧の有効範囲から離れると、ユングフラウは変身を解除した。
「図体の分だけ耐久力も中々……逆を言えば狙いやすくも有るが」
 白磁の肌が焼け爛れていることなど意に止めず、指揮者のごとく手を振るう。
 美しい指に飾られているヘマタイトが妖しく光れば、直ぐ様無数の蝙蝠が化物に向かって霧の中へと入っていった。
 中の様子はわからないが、彼女の焼け爛れた肌が徐々にだが回復していることをみれば蝙蝠たちが本懐を果たしたのは知れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鷺宮・志乃
立ち込める霧の中を進む

酸の霧に触れるたび
『恐喚』した火を損なう
■の私が欠けていく

進む。損なう。進む。欠ける。
欠けるのは肉の器でなく、その在り方

欠けるたびに暴かれる
損なうたびに露わになる
揺らめく火に姿を隠した【恐怖を与える】根源たる存在が

……青鷺火

傍らに顕現するのは
目の前の■■と同じ外なる存在
醜悪で邪悪で恐れを為す、異形の■■

…よかった
この霧なら皆が直視せずに済む


ねぇ?ともだち
貴方が私を受け入れてくれるように


貴方も“恐怖(ワタシ)”のぜんぶを
受け入れてくれますか……?


『恐辱』


一度でも恐れを為せば
数多の青白い火が揺らめき
霧を爆ぜながらともだち“だった”モノを襲い

ごめんね
私は■■には為れない…から



 体を焼く死の霧が立ち込める中へ少女は構わず足を踏み入れる。
 相手を選ばぬ微小な凶器が少女めがけて殺到する。服が焼け、皮膚が爛れて、肉が溶ける。
 一歩ごとに確実に、煙をたてて体が蝕まれる。
 溶ける、損なう、蝕まれる、欠ける。
 欠けていくのは肉の器ではない。内なる化物を覆う、殻と誰かが呼んだモノ。少女が少女であるという在り方。
 ぽろぽろとパイの皮のように、脆く儚く剥がれて消えていく。露わになっていく。
 よかったと少女は小さく笑う。酸におかされ引きつった頬で。
 これから起こることをわかっていたから。それを他の猟兵、いや人に見られるくらいなら酸に焼ける痛みなんて、毛ほども辛く感じない。
 そんなに遠くない筈の肉塊までの距離がとても遠く感じる。
 今自分はどんな姿をしているのだろう。まだ、保てているだろうか。それとも、青く揺蕩う火そのものになってしまってはいまいか。
 不意に体が――火が――ぶよぶよとした巨大な肉塊に触れた気がした。
(ねぇ? ともだち。貴方が私を受け入れてくれるように)
 言葉もなく語りかける。口も喉も呼吸器も使えないから。溶けて消えたかそれとももう別のものになってしまったのか、使えなくなってしまったから。
 だからこれはただの独白。1人の愚かな少女の願い。
(貴方も”恐怖――ワタシ――”のぜんぶを受け入れてくれますか……?)
 恐辱。
 鷺が高く高く鳴く。
 恐れたモノなにもかもを燃やし尽くさんと、青白い火がぼうぼうと現れる。
 火は恐れを抱いたモノしか焼けない。恐れなければ無害な明かりに成り下がる。つまり、これは願いだ。恐れない誰かが欲しいと切に願った少女の願望の具現。
 はたして、化物は。ともだちを求め続けた少女の映し身の如き肉塊は、どちらか。
「い゛い゛ぃぃぃぃあ゛あぁぁぁぁぁぁぁああああ!」
(嗚呼……)
 生きながら焼かれるその絶叫を、鷺宮は安堵と諦観の入り混じった表情で聞いた。
「ごめんね。私は、為れない……から」

成功 🔵​🔵​🔴​

ベアトリーチェ・アデレイド
ざんねんながら、わたくしはもう生きる理由をみつけていますの
わたくしの全てはダンテのもの
わたくしとお友だちになりたいのでしたら、ダンテを打ち負かしてくださらないと

ブラッド・ガイストを使用してダンテを強化
敵と距離をおき、ダンテを使い攻撃する
酸の霧を出したら、ダンテで自分の身を守る

あなたには少しだけ同情します
あなたが他の方法で学んでいれば結果は違ったかもしれませんもの
だって、相手は物としかあなたを認識していないのですから、自分の都合や気持ちでしか接しなかったでしょう
友達と言いながら、あなたの心を考えたりはしなかったでしょう
でも…物ってそういうものですわ
だって、わたくしも人形ですもの



 化物を覆い隠す濃霧が青く燃えて焼失し、絶叫をあげのたうつ巨体が露わになった。
 好機。
 猟兵達が襲いかかる。

「ざんねんながら、わたくしはもう生きる理由をみつけていますの。わたくしの全てはダンテのもの。わたくしとお友だちになりたいのでしたら、ダンテを打ち負かしてくださらないと」
 もしそんな事になったら、彼女はきっと化物を塵すら残さず鏖殺しつくしただろうが。
 薄く笑ったベアトリーチェ・アデレイドが粛々と進み出る。
 その手に武器はない。否。指先から伸びる微かに煌めくそれは、糸。からくり人形であり愛しい男でもあるダンテを導く操りいと。
 おもむろに彼女は自身の指先を噛み切り想い人の唇に触れた。
 血の化粧が、からくり人形をより一層妖しく引き立たせる。
 ブラッド・ガイスト。己の武器を強化するコードだ。
「あなたには少しだけ同情します。あなたが他の方法で学んでいれば結果は違ったかもしれませんもの。だって、相手は物としかあなたを認識していないのですから、自分の都合や気持ちでしか接しなかったでしょう」
 そう声をかける彼女は誰を想ったのか。
 作られた存在である彼女は元々はモノだ。意志を持つ人形であってもだ。作られたモノで、生まれながらに所有されているモノでしかない。
「友達と言いながら、あなたの心を考えたりはしなかったでしょう。でも……物ってそういうものですわ。だって、わたくしも人形ですもの」
 けれども彼女は燃えるような恋をした。そうあれかしと望んだ製作者の腕を振り払って自由になった。
 化物はただただ人間たちの欲望だけを受けて、彼らをうつした鏡となった。
 化物――人間達――が欲したのは自身の意のままになるモノだ。自分を認め、褒めそやし、気持ちよくするモノしか要らないと願ってしまったのだ。
 悲しいものだとアデレイドは想う。
 それは恋ではない。友情ですら無い。自身しか大切でないのなら、相手はいらない。それは人形遊びと変わりはしない。
「教えてさしあげます。貴方のそれはともだちではなく、自己愛というものですわ」
 終わらせよう。この醜い人形遊びを。
 そう願えば、いとの通りにダンテが疾駆して化物を切り裂いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

鏡島・嵐
【WIZ】
《笛吹き男の凱歌》を使用して、他の皆を強化する。
自分への攻撃は〈見切り〉を併用して可能な限り防ぎ、ヤバそうな感じなら〈第六感〉で感じ取って皆に警告を発する。

おれがもっと強かったら、より善い道を選べたんだろうか。
後悔したくねぇって一心で頑張ってきたのは、結局は無駄な足掻きだったんだろうか。
わかんねえ……わかんねえけど。
どんなにおれが弱くても、戦う恐怖で身体ががたがた震えんのが止まんなくても。
こんな奴にだけは、絶対ぇに負けてやるもんか……!

※他のメンバーとの絡みやアドリブについては一任します。



 正義でも、勇気だけではどうにもならない。
 眼の前の邪悪とはすなわち、そういうものだ。
 のたうつ体からは強酸の液体がほどばしり、叫ぶ言葉はおぞましいのに何故か共感してしまうような麻薬めいた誘惑を孕んでいる。
「ああああAAAAAAAいいいいいいいIAaああああRaaaああ」
 噛まれ溶かされ、焼かれ切り裂かれても、尚その力は健在だ。
 床を溶かし、空間を震撼させながら迫る巨体。そこに挑みかかり、弾かれ、それでも再度挑みかかっていく仲間たち。
(おれがもっと強かったら、より善い道を選べたんだろうか)
 鏡島は腐乱して朽ち果てた人々の死骸を見た。
(後悔したくねぇって一心で頑張ってきたのは、結局は無駄な足掻きだったんだろうか)
 誰よりも傷つき、悲しげな顔をした少女を見た。
 何もかも、掌を零れ落ちていく。何も救えず、何も成し得ず、自分はただ後始末に奔走しているだけではないのか。
 それすらこの邪悪を前に震えが止まらない我が身では。
(わかんねえ……わかんねえけど。どんなにおれが弱くても、戦う恐怖で身体ががたがた震えんのが止まんなくても……!)
 怖い。眼の前の醜悪な化物も、傷づくことも傷つけられることも。
 でもそれより何より恐ろしいものがあるのだ。
(たった数日の仲だって、アイツらから、憐れまれたり蔑まれたりなんか、されたくない!)
 隣人愛なんて大層な代物ではない。ただ肩を並べた者たちから置いていかれたくないという男の意地だ。
 どんなに臆病だって、力が足りなくたって、意地があるのだ。それがあれば男は進んでいける。
 鏡島は体の震えを無理やり抑え込む。
「魔笛の導き、鼠の行軍、それは常闇への巡礼なり! 聞け! ラッテンフェンガー・パラード!」
 鏡島の力ある言葉に呼ばれた道化が、おどけたように一礼してから演奏を開始した。
 戦場にはふさわしくない音色。破砕音と絶叫のただ中を、恐怖と邪悪の空間を塗りつぶすようにそれが響く。
 効果は覿面にあらわれた。あるものは速さを増し、またあるものはより強い力で化物に立ち向かう。
 鏡島に”やるじゃないか”とでも言うように笑顔を向けて走っていく仲間たち。

 化物が鬱陶しげに、音源たる道化と鏡島に黄色い球体を向けて……。

成功 🔵​🔵​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
「ともだち」…記憶データが無い私にはよくわかりません
ですが物語の騎士達は友の為に命を賭し、一方で使命や己が欲のために友を殺める場合もあると知っています
ですが最初から友に見返りを求めたものはいません

貴方が欲しいのは我が意に従う人形でしょう。私は期待に添うことはできませんね。

「怪力」で敵を迎え撃ち、「盾受け」「武器受け」「かばう」で味方の被害を極力軽減することに努めます。酸の霧は生身では酷でしょうし

盾の殴打で押しとどめつつ、斬撃で肉を削いで攻めます
傷の治癒を防ぐために炎か高熱で傷口を焼ければいいのですが…

…狂気に飲まれそうな味方がいたら「手をつないで」叱咤し、自分が何者なのかを思い出させましょう



 邪神に意識を向けられる。それは寄る辺ない夜の暗闇よりも心細く恐ろしいものだ。鏡島の心にまた怯懦の色が訪れようとした。だが、不意に彼の肩に力強く手を置く者が居た。
「大丈夫です」
 トリテレイアだ。鎧に包まれたその手は冷たさしかないだろうに、鏡島はそこに暖炉の如き温もりを感じた。
 根拠など無い。けれども彼の言葉のなんと頼もしいことか。
 トリテレイアが鏡島と化物の間に、まるで城塞のように立ちはだかる。そして。
「ともだち……記憶データが無い私にはよくわかりません。ですが物語の騎士達は友の為に命を賭し、一方で使命や己が欲のために友を殺める場合もあると知っています」
 何が言いたいのか。化物が注意をトリテレイアへと向けるのが感覚でわかる。
「ですが、どの物語にも共通するのは最初から友に見返りを求めたものがいないということです」
「君は私のともだちにはならないということか」
「はい」
 断言する。化物がふるふると震える。
「貴方が欲しいのは我が意に従う人形でしょう。私は機械でしかも記憶データもありませんが、だとしても貴方の人形になるのは願い下げです」
 人形と。化物の願いを斬って捨てると走り出す。
「きぃいいいいiiiiiiiiさmAaaAaaaaaaaaa!」
 声は既に美しさの欠片もなくハエの羽音よりも尚煩く、おぞましい。
 自分を否定するものを叩き潰そうと化物が暴れに暴れてトリテレイアを迎え撃つが、その堅牢な盾と鎧に阻まれて致命打を与えられない。
 なんという怪力、そして受けの技術か。トリテレイアと比べてすら馬鹿馬鹿しいほどの差がある化物の質量を上手く流していた。素人が真似をしようとしても潰されて床の染みになるのか、良くて吹き飛ばされてバラバラになるのが関の山だろう。
 鉄壁。守ることにかけてはこの男の右に出るものはそう居ない。そして勿論、守ることしか能がないわけではない。
 時に剣できりつけ、大盾の質量で殴打して、地味ながらも確実に化物にダメージを蓄積していく。

成功 🔵​🔵​🔴​

三枝・にひろ
いいよ、ともだちになろう
だから君もぼくのために生きてくれ
UDCについて教えてくれ
君の身体でUDCの倒し方を教えてくれよ
できないなら…大事な実験体にしてあげる

SPD重視
ぼくのクランケヴァッフェ「アブダクター」で攻撃するよ
腕部ユニットの爪で切り裂いて、顎部ユニットの牙で齧りまくって身体を削ぎ落としてやる
ぼくのユーベルコード【S.C.R.プロセス】を使って敵のユーベルコードを封じてみたいな
【2回攻撃】も駆使して確実に狙ってみよう
POWかSPDの行動を封じてみたいね。友を想うなんて君には似合わないんだよ



 トリテレイアにかかる声。
「さっきのお願い!」
「かしこまりました」
 急に動かなくなったトリテレイアに、ここぞとばかりに化物が攻撃を激しくした。殴打し、押しつぶし、それで駄目なら押さえつけて零距離から酸の霧を浴びせかけようとして。
 霧が、出せないことに気がついた。
「ともだち、なんて君には似合わないんだよ」
 いつの間にか化物の上に乗った三枝が化物を見下ろす。トリテレイアに囮を要請し、化物が夢中で暴れているうちにフック付きロープを使ってよじ登っていたのだ。無論、それだけではない。
 見れば化物の体に、先程の大蛇よろしく三枝が背負った機器が絡みつき、噛み付いていた。
 複合機能捕獲装置「アブダクター」
 UDCの肉体を加工して作られたという恐るべき人類の英知の結晶だ。この武器を通して放たれたコード、S.C.R.プロセスが、化物を封じ込め無力化していた。
「でもそうだね。条件次第ではともだちになってあげなくもないよ。ねえ、ぼくの為に生きてくれ。UDCについて教えてくれ。君の身体でUDCの倒し方を教えてくれよ。それならともだちになってあげる」
 可愛らしい顔に似つかわしくない酷薄な笑み。同時にアブダクターが化物の身体を切り裂き、削ぎ落とし始めた。
「IIIIIIGIIIIIIIAIAAAAAAA!!」
 逃げようにも相手は身体の上にいるし、しっかりと拘束されてしまっている。化物はまるで泣きわめくような声をあげた。
「いいねいいね。どこまでやったら倒しきれるかしっかり教えてくれよ。ともだちだからね。ああ、無理だっていうなら、大事な大事な実験体にしてあげる」
 ぼくってやさしいね。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イルナハ・エイワズ
ともだち という言葉の意味は記録していますが
それを私が理解しているかは疑問があります

ですので、アナタの学習した ともだち が間違っていると否定はしません

私にとって、それはどうでもいいことですから
此処で私が行なうことはアナタを完全に消去するだけです

作りだした槍を消滅するまで延々と降らせ続けましょう


きっちりと消滅させたら
ユルと一緒に今回の事でお世話になった方々にお礼に行かなければなりませんね
ボスさんたちの好きなおやつを買ってお礼にいきましょう
ユルのおやつもちゃんと用意しますから、食べたらダメですよ?


トリテレイア・ゼロナイン
そろそろ終わらせて差し上げましょう、独りぼっちの哀れな怪物。
「ともだち」を学ぶ教材を間違えたことを恨みながら骸の海に戻るがいい

「怪力」で相手の傷口を引き裂き、そこに全格納銃での射撃を加えます
死に体の相手の攻撃は「盾受け」「武器受け」でいなし、「踏みつけ」て動きを封じ、急所に大盾で殴打し止めを刺します

…この邪神がいなくなったら事件の発端となったアプリは停止、のめりこんでいた者たちは途方にくれるのでしょうか、それとも何か別のものを見つけることができるのでしょうか。

叶うならば後者で望ましき形に収まるのがいいのですが、難しいのでしょうね。



「そろそろ終わらせて差し上げましょう、独りぼっちの哀れな怪物」
 オース・オブ・マシンナイツを解除したトリテレイアが、おもむろに化物の傷口に手を差し込んだ。
 ぐじゅり。
 怖気を催す感触などお構いなく、傷口を持ち前の剛力でもって割り開いた。
「IIIIIIIIIAAAAAAAAAAAA!!」
 絶叫を無視。開口部を盾で固定。両腕と頭部をピンク色をした肉へと向けて。
 機械騎士の二重規範(ダブルスタンダード)起動。
 両腕、頭部から現れた機銃と速射砲が一斉に吠えた。
 騎士とは真反対の浪漫も矜恃もない無慈悲な凶弾が肉を穿てば、化物の身体は奇妙なダンスを踊った。
 着弾の抵抗で変形した銃弾が中で暴れまわっているのだ。一発とて貫通することなく、そのエネルギーの全てを対象の中で消費し尽くす。
 それは恐ろしいほどの明確な殺意。手心など持ち合わせようの無い冷たい殺戮の利器。
 騎士を標榜する男のそれとはかけ離れた技であった。問えば、所詮は紛い物だからと男は笑ったであろうか。
 
「”ともだち”という言葉の意味は記録していますが、それを私が理解しているかは疑問があります。ですので、アナタの学習した”ともだち”が間違っていると否定はしません」
 正に今蹂躙される側に回った化物に、イルナハ・エイワズは別離の代わりに乾いた言葉をかける。
「私にとって、それはどうでもいいことですから。此処で私が行なうことはアナタを完全に消去するだけです」
 そう、彼女にとって友の定義の議論や、そもそも化物の主義主張などというのは瑣末事なのだ。
 今必要なのは語る口ではなく、どう消去するか。それだけ。
 視線をやって、大凡を理解して三枝が化物から飛び降りると同時に。
「イヴァル」
 気合も、殺意も滲ませず、言の葉が鋭い槍となった。
 ユーベルコード、アッサルの槍。
 風を切り裂き、闇を貫いて疾走る銀線が肉塊に深々と突き刺さる。
 けして逸れない必中の槍、その名に違わぬ仕事ぶりだ。伝承ではこの槍は一本だが、そもそもこれは複製品。数は幾らでも用意できる。
 何本も、何本も、流星群のごとく降り注ぐ槍の群に化物は悲鳴すらも飲み込まれて只々踊るしか無かった。

 内と外から埒外の力を加えられた肉塊は、もはや肉片に成り下がった。既に力を使うこともできず、自分で移動することすら出来ない。
 非力で哀れなただの肉。
「だぁあああずげでぇええあああ、だれが、どもだぢぃ、どもだぢぃ、だずげでぇえ」
 辛うじて発声器官が残っていたのか、頭部程の大きさの肉片が助けを呼ぶ。無論、誰一人としてそれに応えるものはない。
 いや、鷺宮だけが悲しげにその顔を伏せる。
 猟兵達も、そしてもちろん腐肉と化して物言わなくなった犠牲者たちも、誰も化物を助けはしない。もしかしたら、別の未来があったのかも知れないがそれは化物自らが拒絶してきてしまった。
 ともだちを強く強く求めた果てに結局はひとりぼっちになってしまうとは、なんとも皮肉のきいた話だ。
「”ともだち”を学ぶ教材を間違えたことを恨みながら骸の海に戻るがいい」
 巨大な大盾に押しつぶされて、怪物はその活動を止めたのだった。

●そしてそれから
「ボスさん達のご協力のおかげ、此方での用事が滞りなく済みまして。こちら、つまらないものですが皆さんでどうぞ」
『律儀な人間だな。今時珍しい。まあ、その心がけを忘れない限りまた力を貸してやるのも吝かではないな』
 うららかな午後の空き地で、エイワズが今回知り合った猫達におやつを振る舞っていた。
 耳を掻いているボスの隣にはスラリとした白猫が侍っており、エイワズが持参した土産を上品に食べていた。連れ合いだろう。
 仲の良さそうな猫たちの様子に心持ち頬を緩める。
(猫でさえきちんと出来ているというのに、どうして人はこんなにもややこしく、空回るのですかね)
 そんな埒もないことを考えながら、傍らのユルにもおやつをあげるのであった。

 トリテレイアがバイトを辞める事を告げると当然のように周りは驚いて、別れを惜しんだ。
「急な事情で本当に申し訳ありません。飯田さんには良くしていただいたのに、このような形でお別れになるとは大変心苦しく……」
「あーいいっていいって、事情があるならしかたねーし」
 数日働いてみて感じたのは、この軟派な男が見た目ほどいいかげんな人間ではないということだった。言葉遣いも適当で、やけに馴れ馴れしいが、周りの人間を思いやる善性が見えた。
「田中さんは、どうかされたのですか?」
「風邪だって。電話してみたら超鼻声でいつ復帰できるかわかんないって言ってた。タイミングわりぃ」
 少し驚いた。あの田中と仕事上の付き合いとは言え電話をする相手がいるとは。
「仲、良かったんですか?」
「結構前だけど一緒に飲んだことも有るんだよね。仕方ねー。今度なんか栄養ドリンクでも見舞いにもってってやるかあ」
 案外大丈夫なのかも知れないとトリテレイアは感じた。
 
 人間関係を閉じきっていた人々も、生きていく為には周りと関わらざるを得ない。其の中で縁というものは勝手に作られていくものだ。
 煩わしいものかもしれない。けして気持ちのいいものだけではないかもしれない。けれど、それだけではないのだ。
 田中と飯田の関係のように。
 彼らアプリ被害者のこの先を大丈夫と手放しに保証はできないけれど、元々人生なんてものはそんなものだ。
 少なくとも1人は田中を案じる者が居た。それだけで十分。
 トリテレイアは小さく頷いて、UDCアースから去っていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月11日


挿絵イラスト