アースクライシス2019⑦~汚水の中の力
「皆様のご活躍は耳にしております。さあ、今日も張り切ってまいりましょう!」
白い出で立ちの男、行間・埋(記す者・f21514)は集まった猟兵達を鼓舞するようにそう声を掛けた。半ば必死に猟兵達のモチベーションを上げようとするそのわけは、今回挑む敵、そしてその戦場の特性にある。
ニューヨーク地下で息を潜めていた下水道迷宮、ダストブロンクス。そしてその首魁たる「肥溜めの王」スカムキング。数多の猟兵達の活躍によってこの場所への侵攻が開始――されようとしていたのだが、敵もそう易々と自分の領地へ敵を招くわけもない。
番兵として配置された配下のオブリビオンは、全員ある特性を持っている。それは。
「流れる汚水を浴びる事で強くなる、というものでございます……」
予知を行うグリモアでさえ顔を顰めるほどのものだ、実際に相対したときの衝撃は並のモノではあるまい。当然だがショッキングなのは外見だけではない。実際にこの汚水を身に纏ったオブリビオンと真正面から戦えば、歴戦の猟兵であっても勝ち目は薄いだろう。それほどまでに、この強化は侮れない。
よって、まずはこの汚水をどうにか引きはがす策が必要となる。手段はいくらでも用意できるはずだが、神妙な顔つきで行間は猟兵達へと語った。
「――お気を付けを。強化は相手にとっても切り札、生半などっちつかずでは凌ぎ切られます」
とはいえ、汚水による強化は回復力には寄与しない。剥がし、殴る。これを続ければ必ずや敵を打倒しうる。
深々と頭を下げた白髪に見送られ、光に包まれた先に待つのは、嗅覚を劈くかのような悪臭。僅かに聞こえる水音。この先に、敵が、居る。
佐渡
●今回のシナリオに関する注意事項
このシナリオは「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「アースクライシス2019」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
佐渡と申します。
今回のシナリオはスカムキング配下として呼び出されたオブリビオンを撃破するシナリオです。敵は汚水を浴びる事によって強化される能力を備えており、対策がなければ非常に苦しい戦いとなります。
穢れを振り払う皆様の活躍を格好良く描写させて頂きますので、何卒宜しくお願い致します。
第1章 ボス戦
『研究バイオ筋のマイナ』
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POW : インフィニティバイオマッスル
【筋肉の優れたバイオモンスター至上主義】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
SPD : フライングバイオマッスル
全身を【受ける攻撃に合わせて変形し回避する筋肉】で覆い、自身の【筋肉の優れたバイオモンスター至上主義信念】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
WIZ : これこそ世の生物非生物全て筋肉に変える最高傑作!
【自身のビーム砲を浸食バイオウィルス砲】に変形し、自身の【発射したウィルスが当たった物の存在】を代償に、自身の【肉体と同じ筋力のバイオ兵士を生み出し戦力】を強化する。
イラスト:すねいる
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「九十九・静香」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
水路の奥から響く水音は、想像よりも大きい。体躯以上に、それはむしろわざと大きく音を上げているようにしか思えないだろう。その目的は――そう考えた猟兵達の度肝を抜く敵が、眼前へと飛び込んできた。
巨躯と言って過言ではない。全身に流々とした筋肉の鎧を植え付ける、女。その顔立ちとはアンバランスな程に逞しい肉体で、水を割るようなバタフライで下水道を泳いでいたのだ。
猟兵達が視認できたという事は、相手もこちらを視認したということ。ばんと大きな飛沫と共に着地し、立ちはだかるオブリビオン、人呼んで『研究バイオ筋のマイナ』。
「私の肉体は完全無欠、バイオモンスター由来の筋肉とこの水の相性は天下無双!」
……やばい、こいつは、やばい。言語化さえ阻む脅威を感じながらも、猟兵達は構える。
如何に圧倒されようと、タネの割れた手品など恐るるに足りない。策謀は、既に張り巡らされているのだ。
佐伯・晶
出発前に地図を貰い
汚染水の出そうな場所を予測しておこうか
地下に入ったら多機能ゴーグルで視界の不足を補うよ
まずはガトリングガンで攻撃してみるよ
最初は引き撃ち気味に相手の動きを把握しよう
他の人と協力できそうなら一緒に戦うね
筋肉上主義ねぇ
筋トレなのか改造なのか薬なのか遺伝子なのかわからないけど
バランス悪くて不格好とか
逆に健康に悪そうとか
道具や機械で補える分はそれでいいじゃないかとか煽ってみようか
狭い下水道の中でサイズが大きくなったら動けなくなるかな?
まともに動けなくなったら魔法陣を当てて
凍結魔法か封印の効果の大きい方を行うよ
汚水に触れそうになってるなら
汚水の出口を凍結魔法か封印で塞いで浴びるのを妨害
鈴木・志乃
っあーーーーーーきつい、まーじできつい本当苦手なタイプだわたしのっ!
こういう力あるやつ!!
しかも信念で強くなる?!
ふああああああ(叫)
オーラ防御常時発動
UC発動して敵の感情を奪いながら毒塗った光の鎖で足払いなぎ払い繰り返す
第六感で汚染水の噴出地点を見切り、念動力で器物を動かし穴を塞ぐ
器物がなかったら鎧砕きも出来る魔改造ピコハンで壁壊して穴を塞ぐ
可能なら念動力でこそりピアノ線ブービートラップを噴出地点近くに設置
ついでに毒も塗っとくか、血流良さそうだからすぐ毒回りそう
本当に汚染水浴びそうになったら全力魔法衝撃波でぶっ飛ばして引き剥がす
こんな事しか出来んなあ……
頼む、通ってくれ
アララギ・イチイ
ふむ、汚水から引きはがせばいいのねぇ
久しぶりにこの技(UC)を使用しようかしらぁ
前衛に戦闘人形フギン・ムニンを配置、フギンはランスにより【串刺し】、散弾砲の【範囲攻撃】、シールドで【盾受け】、ムニンは連装バルカンの【2回攻撃】でフギンを【援護射撃】するわぁ
敵の注意を逸らし【時間稼ぎ】してもらうわぁ
私はその後方で、周囲に汚染水が無い場所に移動ぉ
戦闘人形達と交戦中の敵を10秒間視認し続けて、【選択UC】発動ぉ
敵を自分の方に引き寄せて、両手にバトルアックス×2、レーザーブレード付き隠し腕×6を【早業】で展開して、敵の鎧の隙間を【部位破壊】する様に連続で叩き切るわぁ
意気揚々と現れ、汚水でぎとつく自身の肉体を披露していたマイナ。だがその余裕も一瞬、薄暗い下水道に瞬く砲火と反響によって鼓膜を裂く程に大きく長く続く銃声。開幕速攻を行ったのは、佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)。黒のドレスを纏い立つ彼女、いや彼の手に握られているのは巨大な回転式機関銃。そして、顔の上半分を覆うのは高性能ゴーグル。足元の空薬莢を蹴飛ばしながら、晶は構えを解かない。
――その警戒の通り、敵オブリビオンはかすり傷の一つさえついていない。汚水も少々吹き飛ばせたが、効果は薄い。
「おや、豆鉄砲とはお優しい。手加減ですか?」
挑発的な言葉を投げるマイナに対して、売り言葉に買い言葉とばかりに鼻を鳴らして晶もまた言葉をぶつけた。
「なに食べてそんな大きくなったのか知らないけど、まさに筋肉ダルマって感じだね。格好いいのは腕のマシーンだけだ」
相手の執着心のあるものを逆なでするようなセリフに、オブリビオンは激高する事はない。だが同情するようにじりじりと距離を詰めてゆく。
「お可哀そうに、私が筋肉の幸福を教えて差し上げましょう」
形は違えど誘引には成功、晶をターゲットとしたマイナの全身が、内に秘めた信念により一層の強化が……。
起こる事はなかった。いや、僅かに起きているが、それは目覚ましい変化ではない。困惑するオブリビオンから隠れ、ひっそりとユーベルコードを発動していたのは鈴木・志乃(ブラック・f12101)。相手の言動を聞いていた彼女は、自身の苦手なタイプであることを察し早々に直接戦闘を避けた。
(ああああもう、こういう信念とか云々で強化とか最悪だ、ぅああああ)
という具合に内心では叫び散らかしたいと思ってはいたが、流石にそんな浅はかな真似はしない。既に同じタイミングで戦場に立った晶との連携を組んだ志乃は、姿を出さずサポートに徹することに決める。
既に周囲の汚水を垂れ流すパイプにはあたりをつけ、毒を塗った鋼糸を罠のように仕込み、それが難しい箇所は瓦礫で壁を作ったりしてある。不用意に堰き止めて決壊が起きても困るので、時間稼ぎ程度でしかないが……相手の汚水が乾いたりすれば優位は逆転し、攻勢に出られる。汚水の強化さえなければ、所詮は通常のオブリビオンと大差ないのだから。
しかし、自身の技の効力が薄いと感づいたオブリビオンはすぐに汚水を吸収して、技の強化が足りない分を補おうとする。ぼんやりとした光の体となっている今は直接攻撃の手立てがない。晶のガトリングも装填中。
このままでは……と思った瞬間、突如物陰から飛び出す二つの影が筋肉の鎧に攻撃を仕掛けた。
一体は手にした槍と盾のそれぞれに銃の要素を掛け合わせた武器を持つ人形、もう一体もまた同じく人形ではあるが、こちらは完全に援護に特化した火器を装備しており、相方らしき人形を援護するように立ち回る。
「く、筋繊維の存在しない人形風情が!」
苛立ちを露わに力任せな攻撃で二体を破壊しようとするが、オブリビオンは翻弄されるばかり。余裕が薄らいできたのは、追い詰められた証。
何しろ志乃のユーベルコードによって技による強化の上乗せが思うとおりにできず、攻めきれなかった結果汚水は乾く一方。加えて最初こそ「豆鉄砲」などと揶揄していた晶の銃弾も、繰り返し繰り返し放たれることで徐々にダメージが蓄積が大きくなっている。人形による妨害も、足止めを最優先にした被弾を避ける動きの為に敵も捉えきれない。
ならばと、敵は強引に攻撃を受けつつ、下水の主流に飛び込もうと画策する。だが……それも、叶わぬ夢。
確かに強化の大本である汚水流れる下水に飛び込んだはずが、マイナがいたのは大きくそこから離れた場所。はたと顔を上げた先に居たのは、灼髪を揺らし、八つの腕に武具を携えた修羅の如き立ち姿。その正体は、アララギ・イチイ(ドラゴニアンの少女・f05751)。
人形を差し向け時間を稼ぎ、その間を使いユーベルコードを発動する事で近接攻撃のラッシュでとどめを刺す。それが彼女の立てた作戦。他の猟兵の重ねた隙も相まって、自身の存在を察知されることなく、獲物を懐へと招き入れることに成功したのだ。
「久しぶりだけど、うまくできるかしらぁ?」
自信がなさそうなのは言葉面のみ。浮かべた表情は得物を引き寄せたしたり顔、手にした大振りな斧と、光の刃を手にした六本の隠し腕は、今すぐ敵の腸を突き破るべく万全の態勢で待ち受ける。
しかし、ここまで来てもマイナは食い下がる。元から筋力、つまりは身体能力に特化したオブリビオン。ならば近接戦闘は自分の領域でもある。汚水の強化はなくなったが肉弾戦なら十八番。空中の不安定ながらイチイを狙い拳を振り上げ――。
「僕たちを忘れてもらっちゃ困るな」
(なんとかチェックメイトだよ、あーよかった)
その姿勢で、固まった。僅かに動いたオブリビオンの眼球が捉えたのは、ガトリングを地面に放って両手を構える晶。そして人間の姿であれば胸を撫で下ろしているだろう志乃が伸ばした光の鎖。時間停止魔法と清浄なる力を宿した鎖による二重の拘束は、今のオブリビオンには防ぎようがない。
防御をしようにも腕は振り上げられている。攻撃を優先した力押しの姿勢が、マイナの敗因となったのだ。
『外すと悲惨だけど、今は心配ないね!』
『抜刀術が奥義の一、千里斬りだわぁ』
前面より繰り出されるは八つの刃による斬撃の嵐。後方より叩き付けられるは凍結と封印を織り交ぜた魔法。身を捩る事すら許されぬ猛攻を受け、その身体は吹き飛び派手に吹き飛ばされていった。
……結果的に汚水の中へと逆戻りされてしまったが、それも計算の内。最後まで拘束を行っていた志乃の差し金である。
吹き飛んだ先には確かに汚水が流れているが、そこには自身の仕掛けたピアノ線のブービートラップが最も多く仕込まれている。毒をたっぷりと塗して。
汚水の強化は回復力には寄与しない。それを覚えていた彼女は強化が重ねられる前にその身に毒を流しておけば、後の猟兵の援護にもなるだろうと考えたのである。
「通ってくれると、嬉しいけどなあ」
ゆっくりと人型に戻りながら、どっと疲れた様子で壁に凭れる志乃。
大きな一撃は確かに与えた。牙を研ぎ続ける猟兵達は、汚水の中の敵を探り迷宮を行く。
大成功
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水鏡・怜悧
詠唱改変省略可
人格:アノン
UDCを纏い黒狼の姿になると、
UC触手式魔導兵器を発動
火属性の触手を纏ってウィルスから身を守りつつ、両手足に巻き付けた触手で風を操り、高速戦闘を仕掛ける
「随分重そうじゃねェか。当てれるモンなら当ててみろよ」
通常の銃撃は野生の勘で回避しつつ、挑発して相手を自分に引き付け、汚水の漏れていない通路で金属属性の触手を使い、自分と相手を囲う壁を作る
「これでもう強化出来ねェよなァ」
高熱を纏ったままマイナへ体当たりし、銃を前足で押さえて加熱しウィルスを焼き尽くす
再びマイナへ体当たりすると前足で切り裂き、噛み付く
藤堂・遼子
汚水で強化されるって聞いてるだけで頭痛いわね
というか、このオブリビオン女でしょう?汚水浴びるの嫌じゃなくて進んで浴びるとか理解出来ないイッてる感性してるわね
ともあれ汚水から引き剥がさないといけないわね
私の打つ手はこうよ【異界顕現・邪神胎内(クトゥルーノエサバ)】を招来するわ
下水道迷宮に邪神を限定召喚して邪神の胎内たる触手迷宮に上書きするわ
水の邪神だし、きっと下水から触手がドバッと出てくるわね
汚水補充を困難にした上で迷宮の触手で纏った汚水を引き剥がさせる
敵の攻撃で触手がバイオ兵士にされても、私本人も大鎌の狂気を刈るモノを持って前線に出て汚水補充の阻止だけはさせてもらうわ
「ぐ、まさかああもやられるとは……」
忌々し気に汚水の中を泳ぎながら、先程の戦いが起きた地点から離れようとするオブリビオン、マイナ。傷が癒える気配はないが、汚水による強化は再び行うことができた。筋肉が己のよりどころであるオブリビオンにとってはその強化がある種のドーピングとして作用し、痛みを薄らがせる――だが一時的な鎮痛は自身の不詳の重さを霞ませる。猟兵達へ傾いた流れは、変わらない。
反撃の為、一層濃い汚水を浴びねばと一度陸地へと上がり、道を進んでいた最中だった。何かが、おかしい。空気が違う。淀んでいるがそれは下水のようなものとはまた違う。まるで、そう。生き物の、口の中のような――。
「あら、気付いたのね」
背後から響く女の声と同時に、周囲の景色は一変する。灰に茶や苔の緑が混ざる汚らしい下水道は、その壁の罅や僅かな影から這い出す赤紫を帯びた奇怪の触手によって満ち、忽ちにして怪異の腹の中の如き様相へ。
そして、それを為したのはマイナの背後に立った猟兵、藤堂・遼子(狂気を狩る者・f09822)。空間の上書きというこの高度な魔術の目的はたった一つ、敵を汚水から引きはがす事。
……汚水を浴びて強化される、そして何よりそれを抵抗なく受け入れる。理解しがたい感性をしている相手だとは思いながらも、倒す分にはさして抵抗はない。常人では持つことすら難しいであろう厚い刃を持つ大鎌を構えながら、遼子は不敵に笑う。
だがそれはオブリビオンも同じだった。術者が目の前に現れているということは、今すぐに倒せばこの術も解除されるという事に違いない、と。
よく考えればそんな保証はないのだが、既に汚水によって力を得た充足感と余裕は思考を疎かにする。腕に取り付けた砲から、命中したモノを筋肉の僕にするレーザーを充填し、ているその最中。
「単純すぎて欠伸がでんな、オイ」
とても退屈そうな声だった。振り返る間もなく背中にぶつかる高熱。強化されているためダメージにはならないが、全身を満遍なく覆っていた水の一部が蒸発するだろう。二度目の背後からの不意打ちに怒りを露わにそちらへと砲を撃つものの、それが何かを捉える事はない。視線を切ったその瞬間に、遼子の姿さえ掻き消え、天井から壁、床で蠢く触手は隙を見せた敵を食い潰そうと蠢き続ける。
――マイナは苛立ちに咆哮するが、意味はなかった。早急な脱出の手段をみすみす逃し、この時点で最も避けるべき持久戦が決定したのだ。
触手の迷宮は長い。下水の迷宮であるダストブロンクスならいざ知らず、この空間の構造を熟知するのは猟兵側。強化が弱ったタイミングを見計らい、不意打ちやヒット&アウェイによってじりじりと傷を増やし、消耗は増して行く。そうして、漸く出口を見つけ……そこへ立ち塞がるように、男が立っている。
黒髪に赤い瞳、気怠げな表情。それはまさに、自身の広背筋を足蹴にした猟兵。水鏡・怜悧(ヒトを目指す者・f21278)――その中に宿る「獰猛」の相、アノン。
邪神の腹の中を模した迷宮をさ迷うことになった原因は彼。道中で、追い立てるように攻撃を行っていたのも彼。出口という光明による安心、そこへ立ちはだかる事で精神的負荷を最大限に高め。
結果、感情に任せた無策の突撃を引き出す事に成功する。
『ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん』
『餌だ、全力で働け触手』
直後マイナを覆う二種の触手。金属質の鞭が如きもの。そして、棘を持ち、消化や捕獲ではなく明確な殺意を持ったもの。
囲い、覆い、逃さないように取り込む。そこは、檻。逃げ場のない終点だ。
狭い空間の中全体を覆う、遼子の操る範囲の広い鎌での攻撃。纏うUDCと属性の力を持つ触手による高速戦闘で翻弄するアノン。膝を付けば棘の触手、壁にぶつかれば鋼が叩く。連撃の末、マイナは倒れた。
これで終わりか――そう思い遼子が術を解除すれば、そこは下水のど真ん中。慌てて二人は対比し落ちる事はないが、意識を失ったままの敵はそのまま流されていく。
とどめは刺せなかった。だが、巧みな連携は敵に更なる痛手を与えた。決着は近い。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アイシス・リデル
……本当は見るのも、触るのも、みんないや、だよね
わたしは、大丈夫
慣れてるから、ね
敵より先に、まず汚水を見つける、ね
急いで、スチームドローンに掴まって飛んでいく、よ
汚水を見つけたら、不浄の器の力で、汚れをわたしの中に取り込んで
敵が使えないように、みんな、きれいな水にお【掃除】しちゃうから
わたしには【毒耐性】があるから大丈夫、だよ
そうやって、わたしの中に取り込んだ……「食べた」汚水の毒で
【暴食者】を使って、わたしの身体をおっきく、つよくして戦う、ね
きたないもので強くなれるのは、あなただけじゃないし
周りの汚水は全部、ただのきれいな水にしちゃう、から
おっきくなった身体で道も塞いで、逃がしてあげない、よ
須野元・参三
なんでこんなところで敵は行動するんだよ
気品高き私にこんな下水道に合わない
でも、敵がいるんだから仕方がないんだよ!
汚染水を被りたいならば『優雅な歩調を敷物の道(エレガント・ステップ・カーペット)』の出口の先にあるぞ
まぁ、それまでは綺麗な絨毯が続くがな!フフーフ、これで敵の回復を邪魔出来ているという訳だ
迷路空間で【挑発】【存在感】で迷わせたり、【だまし討ち】攻撃したり
【第六感】【見切り】で逃げ込んだりして【時間稼ぎ】しつつ攻撃し続けるぞ
そもそも気品に汚い空間は似合わないんだよ
やっぱり綺麗じゃないと、お前を倒してさっさとここから私は出るぞ
(絡み、アドリブはお好み歓迎)
メンカル・プルモーサ
ふむ……汚水を浴びることで、ね……
それなら対応は1つ…まずは【尽きる事なき暴食の大火】を汚水に向けて発射…
…流れる汚水を燃料とし、白い炎で燃やしてしまおう…
…そして…1つ気になることは……バイオウイルスと私の白い炎、どちらがどちらを喰らうか、という事……
…汚水を燃料に大きくなった白い炎をバイオウイルス砲から発射されたウイルスに向けて発射…
…こちらが押せるならそのまま辿ってマイナを炎に包むよ…
…一度白い炎で包んでしまえば汚水を浴びようとしてもその炎が汚水を食らい尽くすから…もう汚水を抑える必要もない…そのまま焼き尽くす…
流れ流された先で、マイナは生きていた。いや、生きているという評価は正しくない。度重なる大ダメージにより傷口から汚水が体内へと流入した結果、最早肉体の主導権は本体にはない。もはや意志など感じられぬ、強化された影響で興奮するがまま暴れる狂戦士の如き有様だ。
汚水の中で狂気に満ちた叫び声を上げる相手を見、メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)は眼鏡を指先で持ち上げながら、天井近くのパイプから杖を掲げ詠唱を開始する。
『貪欲なる炎よ、灯れ、喰らえ。汝は焦熱、汝は劫火。魔女が望むは灼熱をも焼く終なる焔――』
直後、水が白く燃え上がる。廃油などが混ざっていようとここまでにはなるまいが、彼女の操る暴食の豪炎はそんな常識など関係がない。敵を強化する「汚水」そのものを燃やしてしまえば、敵は抵抗のしようがない……そう考えたのだ。
とはいえ、ただ火刑を受け入れるほど潔くはない。敵はバイオモンスターの因子を有した邪悪な効能を持つウイルスをまき散らす。炎とウイルス、単純に考えればわかりきった勝負だが、しかし。二つは拮抗する。
如何に汚水を燃料としようとも、汚水は止めどなく流れ溢れてくる。燃料として使ってもまだあまりあるそれで、敵が強化されている事に変わりない。強化は技にも適用されていた。
だが、その均衡は突如割り込んだ別の力によって終わりを告げる。
流れる汚水は高価な絨毯に早変わり、薄暗い下水道は瞬く間に成金趣味の宮殿仕立ての迷宮へと姿を変えた。既に理性を失ったマイナは、汚水がなくなったことに焦り歩を進めんするが、絨毯が沈み込みその足を取る。壁を強引に破壊しようとするも、その全てに効果がない。
「フフーフ、気品の無いお前には一歩進むことも難しかろう!」
繰り返し地面を転がる相手に、ちょっと遠いくらいの場所から高慢に言い放つ須野元・参三(気品の聖者・f04540)。最も彼女の余裕の大半は自らの生み出したこの空間があってこそ。「優雅な歩みをせぬものは沈む」という変わった法則の適用される迷宮は、敵を完全に封じ込める事に成功していた。
そのせいもあってか参三は挑発を行ったり、銃で撃ってこまごまとダメージを与え、凄まれたら距離を取りを繰り返す。些かコミカルな空間だが、この茶番に巻き込んでいる時点ですでに目的は達されている。
ちらりと時刻を確認した参三は、数十秒考えたのちに、意を決したように技を解除した。全力の横っ飛びによりドボンを避けた参三と対照的に、沈む絨毯に苛まれ続けていたマイナは、どぼんと先程のように下水道へと落下する。カーペットによって拭い去られた汚水を再び纏う事が叶う――そう、そのはずだった。
だが違う。下水道に流れる水は既に、透明。一点の穢れもない清流へと変わっていたのだ。勿論それでは強化は行われない。
なぜ、なぜ、なぜと水面を殴りつけるオブリビオン。勿論そこに映るのは、獣の如く歯をむき出しぎりぎりと擦り合わせる自分の顔のみ。
「逃がしてあげない、よ」
影が落ちる。下水の上流から、敵の背中に向けてそう投げかける幼い声。見上げるほどの大きさになったその正体は、アイシス・リデル(下水の国の・f00300)。
メンカル、参三、そしてアイシス。三人はあらかじめそれぞれの作戦を組み合わせたウルトCを実行していた。
メンカルは先ず相手の動きを制し他二人の準備を手伝いつつ、炎による攻撃を当て続けて汚水の強化を削り取る。参三は、相手の動きを制限し迷宮に惑わせることで、メンカルの炎で拭い去れない分の汚水を完全に除去しつつ更に時間を稼ぐ。そして、他二人の活躍の間に、現在敵オブリビオンのいる地点の上流で水の汚れを全てその身に引き受けたアイシスが、ぶっとばす。
汚水による強化、それができるのは敵だけではない。見るのも触るのも、きっと皆嫌がるだろうと、察しが付く。けれどそれが誰かを助けるために役に立つなら、全力を以て振るう。彼女の泥中に宿った魂は、誇り高く輝かしい聖者のそれに他ならない。それは確かに伝わっていた、共に戦った、猟兵達にもきっと。
呆然とするマイナを取り囲むように、銃弾を装填し直した参三、薪とする対象を切り替えた白炎の準備を整えたメンカル。そして、拳を振り上げるアイシス。
三位一体が、炸裂したのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御形・菘
当然ながら普段の妾であれば、いくらでも強化を許すのであるがな
ただ今回は、絵面的な意味で問題がの~
汚水を浴びるとか、視聴者に悪影響を及ぼしそうな映像はNG!
右手を上げ、指を鳴らし、さあ高らかに鳴り響けファンファーレ!
味方の炎は即消火するぞ
はっはっは、筋肉至上主義など片腹痛いぞ!
妾に敗北して、宗旨替えを検討するがよい!
炎上状態で妾が挑発までしてやれば、もはや強化の件は考えられまい
まったく、食べて鍛えても脂肪も筋肉も付かん妾への当てつけか?
格闘に持ちこみ、決して逃がしはせん! それでも強化に向かうなら、組み付いてでも止めるぞ
妾の力は身体サイズも筋肉も凌駕する! 左腕と尻尾でボコり倒してくれよう!
フェルト・ユメノアール
地下の下水道なんて……あまりにも華が無さ過ぎる!
道化師にとっては致命的だよー
とにかく相手を下水に触れさせなければいいんだよね!
汚水を浴びる事が相手の狙いなら、それを利用して相手の動きを先読みする!
まずは『トリックスターを投擲』して攻撃!
さらに『ワンダースモーク』を使い、煙幕で敵の視界を奪ってウィルス砲を躱し、近づいて接近戦を仕掛ける!
でも、それだけじゃないよ
ボクはすでに煙に紛れて【SPウィングウィッチ】を召喚していた!
薄暗い地下……ウィッチが隠れるための影は豊富だからね
あらかじめ汚水の近くにウィッチを潜行させ、汚水を浴びようとした敵に不意打ち
強化を許さず逆に二人で前後から挟み撃ちにするよ!
猟兵達の戦いの末、最早敵は這う這うの体。けれど汚水に浸された肉体は与えられた力のままに復活し、暴走を繰り返す。もはや敵かどうか等関係ない、オブリビオンに植え付けられた原初の破壊本能のまま、筋肉の塊は破壊を繰り返す。
そして、そんな怪物へと堕した敵へ引導を渡す為に現れたのは、二人のエンターティナーだった。とはいえ、敵は視聴者の目に入れたくないビジュアル、加えて狭苦しく薄暗い舞台、環境は最悪。こと「魅せる」事を目的とするならとことん逆境だ。
そんな中で先陣を切ったのは、御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)。動く存在を見つけ、汚水から這い出しながら目を爛々と輝かす怪異を、傲岸不遜に鼻で笑い飛ばすと、右手を突き上げ、指を鳴らした。
「視聴者に悪影響を及ぼしそうな映像は、ノーサンキューなのでな!」
故に我を見よ、我のみを見よ。何処からともなく鳴り響くファンファーレが下水道へと木霊したならば、敵の体が囂々と燃え上がった。汚水に塗れた肉体は傷つく事こそない。だが、その炎が与える菘への注目。いや、欲とも言うべき感情を呼び起こす効果は適用される。理性を捨てた獣同然のオブリビオンにとっては最早ただ溢れんばかりの殺意でしかないが、それでも、確かに敵の狙いは菘へと向かった。
敵が菘へ向かって拳を振り上げた、その時。ばんという音と同時に白い煙が立ち込める。自ら注目を集めておきながら、姿は霧の中へと消えたのだ。
咆哮し、腕に着いていた方を辺りかまわず撃ちまくるオブリビオン。そこに宿っていた信念やらも忘我の道中で置き去りにされ、下手な鉄砲はどれだけ撃っても当たらない。霧の中で踊らされる様は滑稽そのもの、だがそんな三流の芸もすぐに終わりを告げる。
「レディースアンドジェントルメン! 真打の登場だよ!」
快活な声によって行われる宣言、張られた煙幕の中から立ち上がる一人の影。派手な衣装に身を包み、手には小さなナイフ。フェルト・ユメノアール(夢と笑顔の道化師・f04735)が、現れたのだ。
「ピエロ風情が真打だと? 笑わせてくれるな」
「邪神より正義の味方の方が格好いいもんねー!」
……と、思いきや突然猟兵同士で睨み合いが始まる。方や世界を統べる真なる蛇神(という設定)の配信者、方やエンターテイメントで世界に夢と笑顔を届ける道化。目的は同じなのだが、それぞれスターが主役を取り合えばこうなるのも仕方があるまい。
視聴者からすれば様々な意見の飛び出すだろう映像と空気、だがそんな演出を理解するほど、今のオブリビオンに優秀なおつむは残っていない。敵が増えたなら纏めて潰すといわんばかりに迫り来る……が、両者ともそれをまるで見ていたかのように回避し、だのに視線は自身こそを主役だというお互いに向けられたまま。
何度も、何度も、攻撃を仕掛けては躱される。フェルトと菘のプロレス的口撃の試合を継続させながら、肝心の敵は完全にスルー。まるでおちょくっているかのようだ。
――そして、菘とフェルトは数分間のやり取りの末、こう決着をつける。
「「ならあいつを倒した方が今回のメインだな!」」
そう、最初から結論は決まっていた。今回の戦争の敵はヒーローヴィランまで垣根を超えて世界を滅ぼそうとしている。敵の団結力に、どうしても目が向いてしまう。
だがそれを振り払うメッセージ、猟兵達もまた種族や容姿、目的までもを異にしながら世界を救う為手を取り合う。ヒーロー、ヴィラン、一般人も。生きている者にはは生きているからこそ難しいのだろうが、それでもこうして、手を取り合うことができるのだと、この戦いを目にした人々に伝えるために。
フェルトは、腕部に装着したディスクからカードを引き出し、それを召喚する。『SPウィングウィッチ』と名付けられた少女と共に、煌びやかなエフェクトを撒きながらナイフの投擲と魔法による連携攻撃で、乾いてきた敵を汚水から引きはがす。神秘的な様相はまさに夢のよう。
強化が剥がれたとみるやすかさず懐に潜り込み、左手のラッシュと尻尾の広範囲高威力な殴打を組み合わせた菘の格闘術が炸裂する。泥臭いが熱く、暴力的だがヒロイック。思わず拳を握って見入るまさに奮闘。
全く攻め手の違う連続攻撃。汚水の強化も完全に途絶え、万事休した敵へ――二人はとどめの一撃を繰り出した。
菘の強烈なアッパーカットに合わせ、宙に浮いた身体を切り裂くナイフ、そして最後に召喚されたウィングウィッチの極大魔法によって生ずる爆発を背に、道化と邪神は拳をぶつけ合う。互いの健闘を、称えるように――。
後日、オンエアが行われたのはここまでだった。ちなみに、裏話をしておくと二人の言い争いも演出の内である。当人たちは嬉々としてやっていた。
序盤の菘がヘイトを稼いだのも、フェルトがもう一体『SPウィングウィッチ』を召喚するための時間稼ぎ。潜伏する間敵に気取られず情報を収集する事がメインのこの魔女を一人物陰に用意しておくことで、後半の言い争いの際も敵の動きを端末から把握することで簡単に避けられた。
様々な計算と演出があった、だが問題はそこではない。団結を訴えるメッセージは、きっと伝わるだろう。
世界の存亡をかけたはいよいよ後半へと差し掛かる。この下水迷宮の主と相まみえるときも近い。猟兵達の戦いは、まだ続く。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2019年11月16日
宿敵
『研究バイオ筋のマイナ』
を撃破!
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