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アースクライシス2019⑧~恐竜達の待つ場所へ

#ヒーローズアース #戦争 #アースクライシス2019 #センターオブジアース

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●花咲く大空洞
 鮮やかな赤い花が咲いている。とても巨大な花だ。
 青々とした周囲の葉をガサガサと揺らしながら、ぬっと現れたのは、見上げるほどに大きな恐竜だった。悠々と歩くその姿を、一回り小さな恐竜が「待ってー!」とばかりに追いかける。どうやら親子のようだ。

 ふと、恐竜は顔を上げた。
 ――誰か来る。
 そう感じているようだった。

●大冒険のはじまり
「皆さん! 恐竜さん達が待っている大空洞を冒険していただけないでしょうか」
 岡森・椛(f08841)が猟兵達に声をかけた。
 神鋼の鎧を纏った強敵を撃破し、モニュメントバレーを制圧した猟兵達は、オブリビオン達が現れた洞窟を調査して、洞窟の奥がパンゲア大空洞に繋がっている事を突き止めた。そこは巨大植物が生い茂り、恐竜が闊歩する広大な地底の大空洞だった。

 「このパンゲア大空洞を探索して、センターオブジアースに繋がる「鍵の石版」を探して欲しいのです」
 椛はそう説明する。「鍵の石板」はパンゲア大陸のあちこちに隠されているという。その「鍵の石板」には大きな魔力がある為に、その周囲に不思議な現象が発生してしているのだ。

「今回向かっていただくのは、巨大な植物の生い茂る熱帯雨林みたいな場所になります。あちこちにすごく大きなお花が咲いて、壮観ですよ」
 赤、青、黄。ビビッドカラーの巨大な花が咲き誇っており、その鮮やかで冴えた色の花々の何処かに「鍵の石板」が引っ掛かっているらしいと椛は猟兵達に伝えた。巨大な池の浮島や、断崖絶壁にも花は咲いており、其処彼処を探す必要があるようだ。

「そして、そこにはたくさんの恐竜達がいます」
 恐竜はオブリビオンではないが、自分のテリトリーに入ってきた異物を好ましく思わず、襲い掛かってくる。その為、猟兵達がパンゲア大空洞内で何をするにしても恐竜が邪魔をしてくるという。「鍵の石板」を探して持ち帰るには何か手段を考えておく必要があるだろう。
 恐竜は野生動物なので、力の差を見せつけたり、ある程度ダメージを与えれば逃走させる事は可能だ。
「それで、これはお願いなのですが……出来るだけ恐竜達を殺さないで欲しいです」
 どうかお願いしますと椛は言う。恐竜達も生きているのだ。だから無力化させたり、仲間にしたり――そうすることでより良い道は開かれるだろう。

 恐竜は最低でも3メートル、平均10メートル程度というビッグサイズだ。これから向かう辺りには草食恐竜が多いらしく、親子連れの恐竜にも出会えるかもしれない。
「本物の恐竜さんと仲良くなれるとすごく楽しいと思います! 冒険ですし、体力の回復も兼ねておやつなんかも持っていくと良さそうですよね」
 とても楽しそうに椛は瞳を輝かせる。
 必要な数だけ「鍵の石板」を集めることで、センターブジアースへの道は開かれるという。どうぞよろしくお願いしますと、椛は頭を下げた。


露草
 露草です。
 今回は楽しい雰囲気のリプレイを想定しています。

 アドリブ多めになると思いますので、アドリブが苦手な方はお手数ですが一言記載をお願いします。

 ・このシナリオは「戦争シナリオ」で、1章のみで完結します。
 ・プレイングボーナスは「恐竜を無力化する/仲間にする」です。

●探索
 OPにありますように、花を目印に探していただけると「鍵の石板」を見つけやすいです。
「赤い花の辺りを探す」「甘い香りの花に注目する」「断崖絶壁に咲く花を探す」など、ご自由に指定してください。詳細お任せの大まかな指定でもOKです。
 なお、当シナリオで発見できる「鍵の石板」はひとつのみとなります。

●恐竜
 もしも会ってみたい恐竜がいたら教えてください。草食、肉食、翼竜、どれでも構いません。特に指定がない場合はステゴサウルスを中心とした草食恐竜になると思います。

 ・今回は戦争シナリオの為、普段よりもスピード重視でのリプレイ執筆を考えています。その為、もしも採用しきれない程のプレイングをいただいた場合は、大変心苦しいのですが全採用はお約束できません。何卒ご了承ください。その場合はプレイングボーナスの付いているプレイングを優先的に採用予定です。

 プレイング受付やリプレイに関するお知らせがある時はマスターページに記載しますので、お手数ですがご確認をお願いします。

 【11/14(木)AM 8:31】より、プレイング受付を開始致します。
 どうぞよろしくお願いします。
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第1章 冒険 『パンゲア大空洞の大冒険』

POW   :    探索の妨害となる恐竜を力づくで排除しつつ、正面から探索する

SPD   :    見つからないように移動するなどして恐竜に邪魔させず、周囲の状況を良く確認し、探索を有利に進める

WIZ   :    知恵を駆使して恐竜を懐柔あるいは排除し、探索の為の作戦を考案する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ヨナルデ・パズトーリ
ふむ、恐竜のう
ケツァルコアトル、最早死した我が夫と同じ名を持つ翼竜も居るんじゃったかのう
ま、遭えるものなら遭うてみたいものよのう
尤も、流石に依頼が優先じゃから多少触れるだけになるじゃろうが

『第六感』を高め魔力の高い物がありそうな所、若しくは様々な色の花が群生
する場所を探索
『野生の勘』を活かし警戒は常に怠らない

移動時は『迷彩』で『目立たない』様にし移動

恐竜と遭遇した場合、実力差を見せる為に恐竜のいない空中に『高速詠唱』
による『全力魔法』を『二回攻撃』で放ったり巨大な岩を『怪力』で持ち上げ
実力差を理解させた上で『存在感』を高め『威厳』ある姿で『動物使い』として手懐け、可能なら少し触れたりする


筒石・トオル
【WIZ】
探索は巨大な池の浮島で最も色鮮やかな花の周辺を探そうかな。
ただ飛べないと辿り着けないのが難だね。
恐竜が居るみたいだ。
こちらから攻撃する事はないし、移動時はなるべく刺激しないように身を隠しつつ静かにするけど、それでも見つかって襲って来たらUCで動きを止める。
翼竜は落ちても大丈夫なように池(水)の上で。
それでも衝撃はあるだろうから、近寄って「ごめんね。大丈夫?痛くない?」と声を掛ける。
無力化状態でも攻撃しない事で敵意が無い事を分かって貰えたらいいな。
もし懐いてくれたなら、背に乗せて貰って上空から探索出来たら嬉しい。

もふもふじゃなくても生き物は好きだから。なでなでぎゅってしたい。


月守・咲凛
お花いっぱいなのです!
どちらかと言うと花よりダンゴな子ですがそれなりには花も好きなので、見た感じ綺麗な、大輪の白い花を見つけて摘んでいきます。
ある程度の花束になった所で、草食恐竜に遭遇したら食べたそうにしてるので
「ダメなのです、これは私の分なのです!食べる分はあっちにいっぱい生えているのですよ!」とフヨフヨと浮かんで逃げ回ります。全力飛行すると花束が散ってしまうので、歩く程度の速度でしか飛べないので振り切れません。
結局捕まってしまって、攻撃して来ずに花を食べたがってるだけなのに根負けして花束を一本一本手渡しで食べさせてあげます。
「うー、仕方ないのです。ちゃんと味わって食べるのですよ?」


クラリス・スカイラーク
【Wiz・世界知識・歌唱・楽器演奏】
恐竜……大きなトカゲみたいな生き物って聞いたけど、実際に会うのは初めてだな……。
本当はゆっくり見たいけど、今は猟兵のお仕事を頑張らないとね!

事前に調べた【世界知識】を活かして、赤い花のある所を中心に探すよ。
恐竜に会ったら、心を込めた【歌唱】と【楽器演奏】で、恐竜のみんなと仲良くなれるか試してみたいな!


北・北斗
ヴォウッ!!
『ここって、大きいものが多いな。地上だと、既に存在していない者たちなんだよな』
【野生の勘】フル活用。
まず、襲いかかる恐竜対策に、自らの周囲に反重力を張り巡らす。
それでも、襲うのには反重力波動で浮かせておく。
『さすがに、これなら大丈夫だな』
という事で、花の多い場所を探し求めて、花が多い場所をポイントに石版を探し出す。
『石版なら、このあたりにありそうだな』


ティエル・ティエリエル
ティエル探検隊、出発だ~♪

熱帯雨林の木々の合間を飛んで進んでいくよ!
空を飛べるボクは断崖絶壁に咲くお花から回収した方がいいよね♪崖に向かっていくよ!

子供っぽい恐竜さんを見かけたら、「動物と話す」でお花の咲く崖がないか聞いてみるね♪
ボク、小さいからきっとあまり警戒されないと思うんだ☆
【フェアリーランド】に詰めてきた果物を取り出して交渉だ~

恐竜さんに手伝ってもらって、崖までたどり着いたら石版がくっついてないか1つずつ調べていくね♪




 鮮やかな世界が目の前に広がっている。瑞々しい緑の葉と、ビビッドカラーの花。まさに生き生きとした命そのものだ。
「ふむ、恐竜のう」
 緑色の長い髪をそよ風になびかせながら、ヨナルデ・パズトーリ(テスカトリポカにしてケツァルペトラトル・f16451)は周囲を見回す。すぐ傍の茎にそっと触れてみれば、生い茂る葉がゆらゆら揺れて、朝露らしい大粒の水滴がぽたりと落ちてきた。ぱしゃりと弾けた飛沫の冷たさが心地よい。森を思わせる緑の髪や、緑と白と赤のトリコロール配色に赤い目の蛇が添えられた印象的な髪飾りにも飛沫が掛かり、澄んだ雫が柔らかな光を浴びて輝いていた。
「ケツァルコアトル――最早死した我が夫と同じ名を持つ翼竜も居るんじゃったかのう」
 見上げた空はとても高く、とても此処が大空洞とは思えないほどだ。不思議な感覚に陥りながら、この空の何処かに忘れられない人と同じ名の翼竜がいるのだと思えば、一層特別に感じられる。
「ま、遭えるものなら遭うてみたいものよのう」
 思わず独り言つ。それは翼竜に対しての言葉でありながら、今はもう会えない人への想いとも重なっているかのようだった。

 筒石・トオル(多重人格者のマジックナイト・f04677)もまた、文字通り普通っぽい眼鏡のレンズ越しに巨大な植物の生い茂る大地を見渡していた。視力補正の意味合いもあるが、彼は人格が変わる際に変化する瞳の色を目立たなくする為にこの眼鏡を掛けている。別人格の名は『トール』。彼はトオルと同じく実験体だった元双子の兄である。実験の所為で兄の肉体は消滅したが、脳の一部が融合して弟の肉体に別人格として残り、いつもトオルを見守ってくれている。
 巨木の向こう側に何かが見えた。どうやら池のようだ。
 ――巨大な池の浮島で最も色鮮やかな花の周辺を探そうかな。
 トオルは池に向けて歩き出す。そこにはどんな花が咲き、どんな恐竜と出会えるだろうか――期待に胸を膨らませていると、大空洞の上部からクークーという鳴き声が聞こえてきた。その方向を仰ぎ見れば、遥か上空を旋回する翼竜の姿が見える。トオルは少しの間立ち止まり、その雄大な姿をじっと見つめて何かを思う。そして再び歩き始めた。

 大空洞に足を踏み入れた月守・咲凛(空戦型カラーひよこ・f06652)は瞳をキラキラと輝かせる。
「お花いっぱいなのです!」
 普段の咲凛はどちらかというと花よりダンゴだ。とはいえ美味しい物は普通に好きだが、食が細くあまり量は食べられない為に、彼女の主食はおやつである。それでもやはり綺麗な花も好きで、目の前に咲き誇っている美しい花々に夢中になっていた。
 膝まで伸びている水色のロングヘアを揺らしながら、咲凛は綺麗な大輪の白い花をそっと手に取った。ゆっくりと顔を寄せれば、芳しい香りが鼻腔をくすぐる。見た目はチューベローズに似ているが、ずっと大きくて、美味しそうな甘い香りがする花だ。
「いい香りなのです!」
 咲凛が嬉しそうに笑えば、ソラノナミダ――咲凛の髪から生えている水晶のような結晶体――も、その感情が伝わっているかのように、彼女の瞳と同じようにキラキラと輝いた。

 アルダワの竪琴を大切に胸に抱き、クラリス・スカイラーク(微笑む春風・f08606)は、背の低い植物が生い茂る小高い場所から、遠くにいる恐竜を見つめていた。
「恐竜……」
 ここからでは遠すぎて、その姿ははっきりとは見えない。けれども、今まで見たことのない、不思議な生き物だということはよく分かる。
「大きなトカゲみたいな生き物って聞いたけど、実際に会うのは初めてだな……」
 その雄大な姿に思わず溜息をついてしまう。遠くから見ているだけでもすごい迫力だ。すぐ傍でその大きな体を見上げれば、もっと感激するに違いない。初めての出会いはきっと素敵な詩の題材にもなる。だから、本当はゆっくり見たいけど――。
「今は猟兵のお仕事を頑張らないとね!」
 クラリスは自身を鼓舞するように気合を入れる。金色の髪が揺れ、腕の中で大切な竪琴もポロンと優しい音を立てた。ずっと一緒にいる竪琴の音色を聴くだけで、どんな時もクラリスの胸は踊る。さあ、行こう!

「ヴォウッ!!」
 全長2メートルを超える巨大なトド――北・北斗(遠い海から来たトド・f20984)は、大きな池の傍を勢いよく移動していた。ぐるりと辺りを見回せば、少し離れた場所に恐竜がいるのが見える。
『ここって、大きいものが多いな。地上だと、既に存在していない者たちなんだよな』
 遠い過去に絶滅した者たち。その事実に、北斗は感傷的な気持ちになった。柔和な表情が微かに曇る。かつて、遠い北の海で生まれ育ったトドである北斗は、ある狂科学者に囚われてサイキック実験によって改造され、今の『北斗』となった。恐竜達とは全く境遇は異なるが、それでも己とほんの少しだけ重なる部分があるような気がした。
 だが恐竜達は確かに今、ここにいるのだ。生きることを謳歌するように大地を踏みしめて歩いている。その姿を柔らかな眼差しで見つめながら、よし、と力強く頷いて北斗はさらに前へと進んだ。

「ティエル探検隊、出発だ~♪」
 明るく可愛い声を響かせて、ティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)は熱帯雨林の木々の合間を飛んで進んでいく。アックス&ウィザーズ世界の常春の地方にある妖精の国のお姫様である彼女の青い瞳は宝石のようにキラキラと輝き、大好きな蜂蜜を思わせるオレンジ色の柔らかな髪がふわふわ揺れている。
 ――空を飛べるボクは断崖絶壁に咲くお花から回収した方がいいよね♪
 そうと決めたら即行動だ。「冒険者」の英雄譚に心惹かれて、ママの目を盗んで冒険に飛び出したティエルの行動力は抜群である。
「崖に向かっていくよ!」
 背中の翅をパタパタとはためかせ、全力で崖に向かってティエルは飛ぶ。半透明な花びらを幾重にも重ねて花びらのスカートがひらひらと揺れ、ミスリル銀製のティアラに飾られた、ティエルの瞳の色とよく似た青い石も美しく煌めいていた。


 第六感を研ぎ澄まし、魔力の高い物がありそうな箇所を調査していたヨナルデは、どうやら様々な色の花が群生する場所がそれらしい雰囲気だと感じ取った。そこに石版があるのかもしれない。彼女は急いでそこへと向かうことにした。
 小柄で緑色の髪の持ち主であるヨナルデは、周囲に生い茂っている緑に紛れることも容易だ。加えて不死の怪物を殺して剥ぎ取ったという神獣の毛皮を身に纏い、最新の注意を払い目立たないように移動する彼女を見つけることが出来た恐竜は一匹もいなかった。

 目的地はゴツゴツとした岩場の合間にある花畑だった。鮮やかな花々が咲き誇っており、どの花も綺麗だ。名前は知らないが、柔らかな花びらの黄色い花が多く、辺り一面おひさまの色に染まっているかのようだ。
 ヨナルデは野生の勘を活かし、周囲を警戒しながら、花の中を覗き込むようにして石版を探していた。だが、突然何かが空から舞い降りてきた。ヨナルデはその姿を見て驚愕する。遭うてみたいと密かに願っていた、史上最大級の翼竜、ケツァルコアトルが目の前に現れたのだ。
 ケツァルコアトルは翼を広げてクワッと鳴いた。頭部の長さが3メートル近くあるその姿は、ヨナルデにはとても奇妙にも感じられた。だがのんびりと眺め続けている訳ではない。すぐさまヨナルデは巨大な黒曜石の戦斧を天に向けて掲げた。そのまま素早く詠唱し、時空を揺るがす魔力を空中へと立て続けに放つ。
「クワァッ!?」
 突然の出来事に驚きの声を上げるケツァルコアトル。このまま実力差を見せつけようと、ヨナルデは手近にあった大きな岩を持ち上げる為に掴んだ。
「どうじゃ?」
 その岩は半分くらい地面に埋まっていた為に気づかなかったが非常に巨大で、なんとケツァルコアトルと同程度の直径の巨岩だった。しかしヨナルデの怪力によって軽々と持ち上げられてしまう。身長1メートル程度の少女が、ゴゴゴと地響きのような音を立てながら10メートル近い岩を持ち上げる様子に、ケツァルコアトルは目を丸くした。
「ク……クワァ……」
 どうやら素直に実力差を理解したようだ。ケツァルコアトルは従順に頭を垂れる。ヨナルデは優しく手を伸ばし、ケツァルコアトルの顔に触れた。存在感たっぷりで威厳に満ちたヨナルデにすっかり手懐けられた巨大な翼竜は大人しくしており、穏やかに微笑んでいるようにも感じられた。
 ふと、ヨナルデは懐から黒曜石の鏡を取り出した。今はただの鏡だ。だが、かつて夫から送られた大事な物であり、たくさんの思い出が詰まっている。たまたま、同じ名前の翼竜と出会えたからだろうか。鏡を見つめながら指先でそっと輪郭をなぞると、なんだかとても懐かしい気持ちになった。


 巨大な池の浮島へと向かっていたトオルは、池の畔へと辿り着いた。移動している際にも恐竜と度々出会ったが、決してこちら側からは攻撃せず、なるべく刺激しないように身を隠しながら静かにやり過ごしていたので戦闘は発生しなかった。
 浮島はもう目の前だ。だが、飛ぶ手段のないトオルにとってはあと少しが遠い。泳ぐという手段もあるが、それ以外にそこへと辿り着く為の方法はないだろうかとトオルは考えていた。付近に落ちている木の枝を拾って筏を作る訳にはいかないだろうか――。

「ギャオー!!」
 突如、上空から聞こえてきた宙を裂くような鳴き声に、トオルは我に返った。翼竜に見つかったらしい。
トオルは上空で旋回している翼竜を見つめた。大きな頭部と、その後ろにある長くて大きなトサカ――プテラノドンだ。鋭く尖ったクチバシを開き、再び大きな声で鳴いた。
 恐竜を傷つけたくはない。それならばと、トオルは祈りを込めて詠唱する。
「光よ我が願いを叶えたまえ。聖なる力、邪なる者を封じる力をここに」
 その言の葉に応えるようにトオルの眼鏡は点滅し、間髪入れずにプテラノドンに向けて眩い光を放つ。
「ギャアァ!?」
 その光に包まれた翼竜は必死になって暴れたが、すぐに催眠に掛かった。一時的に動きを封じられたプテラノドンは飛行能力も奪われて、そのままバシャンと池へと落下する。大きな水飛沫が上がった。

 落ちても大丈夫なようにと、トオルは池の上でプテラノドンの動きを封じた。しかしそれでも墜落の際の衝撃はあるだろう。トオルは畔に流れてきたプテラノドンに急いで駆け寄った。
「ごめんね。大丈夫? 痛くない?」
 声を掛ければ、ぷかぷかと水に浮かんでいたプテラノドンはそこままの姿勢でトオルを見上げた。全く動くことが出来ずに隙だらけの状態なのに、トオルから攻撃されないことを奇妙に感じているいるようだ。
 トオルは穏やかに微笑みながらプテラノドンの頭を撫でた。――僕は君の敵ではないよ。仲良くなれるといいな。そんなトオルの気持ちが伝わったのか、プテラノドンの目はとても優しくなった。
 己の体を縛り付ける術から解放されて自由を取り戻したプテラノドンは、そっとトオルに寄り添った。トオルが背伸びしてその頭を撫でてあげると、嬉しそうに鳴いた後で、くいっと首を回した。どうやら背中に乗れと伝えているようだ。

 トオルは過去の経験から、他人を信じられずにいる。だがヒト以外の生き物は違う。もふもふが好きだが、もふもふじゃなくても好きだ。なでなでぎゅってしたくなる。もちろん、このプテラノドンも。
「よろしくね」
 笑顔で挨拶してからプテラノドンの背に飛び乗って、優しくその背を撫でる。そして両手を広げてぎゅっと抱きついた。プテラノドンも嬉しそうにキュウと鳴き、大空へと舞い上がった。
「あの浮島に行きたい。それに、上空から色々な場所を探したいな……一緒に探索してくれる?」
「ギャア!」
 トオルの願いに、プテラノドンは明るい声で返事をする。2人で繰り広げる大冒険は始まったばかりだ。


 チューベローズに似た白い花を何輪も摘み、持参したリボンでキュッと結べば豪華な花束の完成だ。咲凛はその花束を大事に抱きかかえて、ふわんと宙に浮いたまま満足そうに移動を始めた。とても綺麗でいい香りの花束は、見つめているだけでも幸せな気持ちになる。

 だが、その花束を狙うモノがいた。ばったりと遭遇してしまったイグアノドンだ。イグアノドンは、じーっと咲凛の大事な花束を見つめて動かない。――狙われている! そうはっきりと感じた咲凛は慌てて背中に花束を隠した。
「ダメなのです、これは私の分なのです! 食べる分はあっちにいっぱい生えているのですよ!」
 少し離れている白い花がたくさん咲いている場所を指差して、咲凛はフヨフヨと宙に浮かんで逃げた。彼女は空戦性能に優れる飛行型武装ユニットを装備している為、空を飛ぶことなど造作もない。だが、全力飛行すると花束が散ってしまうので、歩く程度の速度でしか飛べないのだ。こんな速度ではイグアノドンを振り切ることなど不可能である。
 それでも咲凛は必死になってフヨフヨと逃げ回ったが、イグアノドンもヒョコヒョコと付いてくる。側から見れば、楽しい追いかけっこをしているようだった。

 結局、咲凛はイグアノドンに捕まってしまった。角質で出来たクチバシで、姿勢制御用スラスターを複数備えた機甲の翼をパクリと咥えられてしまったのだ。このまま葉型の歯で噛み付いて攻撃してくるのか、もしや草食恐竜でありながらもバクリと食べられてしまうのかとハラハラしていたが、そのような様子はない。純粋に花を食べたがってるだけらしく、視線は咲凛が持っている花束に釘付けだ。
 あちこちに似たような花は咲いているのに、そんなにもこの花束が欲しいなんてと、咲凛は根負けしてしまった。そして花束を一本、手渡しでイグアノドンに食べさせてあげた。
 ぱくり。もぐもぐ。
 イグアノドンは瞳を輝かせる。そして、もっともっと! と、催促するように尻尾をゆらゆらと揺らした。
「うー、仕方ないのです。ちゃんと味わって食べるのですよ?」
 もう一本、そしてまたもう一本。咲凛はイグアノドンに食べさせてあげる。嬉しそうなイグアノドンを見ていると、咲凛も楽しい気持ちになってきた。
「おいしいですか?」
 問い掛ければ、イグアノドンはこくんと頷いた。最初に出会った時よりもずっと可愛らしく感じて、咲凛はイグアノドンの頭を撫でた。もうイグアノドンのおねえさんになった気分である。イグアノドンはキュウと嬉しそうに鳴いた。

 そこにクラリスがやってきた。
 彼女は事前に調べていたこの世界の知識を活かして、赤い花のある所を中心に石版を探していた。だがなかなか見つからず、次なる赤い花の群生地へと向かうその途中で、咲凛とイグアノドンの姿を見かけたのだ。
「わあ、大きな恐竜……!」
 遠くで見ている時もすごいと思ったが、近くで見ると感激もひとしおだ。しかもこのイグアノドンは全く攻撃的ではない。とても穏やかで友好的な印象だ。まるでもう友達のような――。
「お花をあげて、仲良くなったのです!」
 咲凛の言葉に納得して、クラリスは眦を和らげる。恐竜と出会ったら、戦わないで仲良くなりたいと思っていた。だから自分も咲凛のように仲良くなろうと、青い鳥の飾りが付いたアルダワの竪琴を手にする。
 土の楽譜、水の楽譜、風の楽譜、火の楽譜。全て揃っている。どれを演奏しようかとクラリスは楽しく悩み、風の楽譜を選んだ。清らかな音色と共に風の精霊が現れて、柔らかな風を運んでくる。その風に乗って、花びらもふわふわと舞った。
 イグアノドンはその光景を不思議そうに見つめていたが、目の前に花びらが飛んできた瞬間、口を大きく開けてパクリとその花びらを食べてしまった。花が好物なのかもしれない。その愛らしい姿に、クラリスは思わず笑みが溢れる。
「恐竜さん、聴いてね」
 そして歌い始めた。心を込めた、優しい歌だ。
 するとどうだろう。何処からか、何匹ものイグアノドンが現れたのだ。どうやら咲凛から花をもらったイグアノドンの仲間達らしい。クラリスの歌と演奏に引き寄せられたのだ。皆、静かにクラリスの歌を聴いていた。

 歌い終えた瞬間、咲凛の拍手とイグアノドン達の嬉しそうな歓声が辺りに響いた。クラリスはとても安堵した。歌唱と楽器演奏で、恐竜のみんなと仲良くなれるか試してみたいなと思っていたが、イグアノドン達に想いが伝わったのだ。
 まだ子どもなのだろうか、比較的小さめのイグアノドンがクラリスの傍にぴょこぴょこと寄ってきた。そしてキュッと鳴いて、クラリスに頭を擦り寄せてくる。
「あはは……ボクの歌、気に入ってくれた?」
 優しくその頭を撫でてあげると、小さなイグアノドンはとても幸せそうにキュウと鳴いた。
 今日のこの素敵な出会いを日記帳に纏めよう。きっと良い詩になる。クラリスはそう思い、まるで春風のように柔らかく微笑んだ。天真爛漫かつ前向きな彼女の瞳は、どんな時も眩しいくらいに輝いている未来を見つめている。


「ヴォウッオウッオウゥッ!!」
「グアアアァ!!!」
 北斗は野生の勘をフル活用して恐竜達を回避しながら池の畔を移動していたが、ついに恐竜に見つかってしまった。大きな声を上げながら追いかけてきたのは、どうやらこのカルカロドントサウルスらしい。ホホジロザメのトカゲという物騒な名前の通り、サメに似た薄いノコギリ状の鋭い歯を剥き出しにして北斗に襲いかかってきた。有名なサメ映画のモデルにもなった海の殺し屋と呼ばれるホホジロザメは、イルカやオットセイ、アザラシなどの海棲哺乳類を好むという。北の海にも生息しており、北斗もその危険性は熟知している。カルカロドントサウルスもまた、トドである北斗を美味しそうな獲物と認識したのか、すごい勢いで追いかけてきた。

 だが、北斗はしっかりと対策を取っている。自らの周囲に反重力を張り巡らしていたのだ。これで大抵の恐竜は近寄ることすらできないのだが、カルカロドントサウルスは巨体を揺らしながら果敢にも突進してくる。よほど空腹なのかもしれない。
「ギャオオオオォ!」
 カルカロドントサウルスの叫び声が辺りに響く。並大抵の生き物は足がすくんで動けなくなってしまいそうな恐ろしい声だ。それならばと北斗は立ち止まり、襲い掛かるカルカロドントサウルスと向き合った。
『ヴォウッオウッオォウッ!!』
 力強い雄叫びを上げながら、その両目から反重力の力を持つ波動光線をピカリと放った。反重力波動――アンチ・グラヴィディ・ウェーヴ。その光に包まれたカルカロドントサウルスは軽々と空中へと浮かび上がり、指先すらも動かせなくなった。北斗の技で動きを一時的に封じられたのだ。声すらも出せないらしく、光の中でぐったりとしている。
『さすがに、これなら大丈夫だな』
 その様子を見て、北斗は安堵する。そしてふと、今も北の海で暮らしているであろう仲間達は元気だろうかと気になった。囚われて改造され、このような人生を歩むのは自分だけでいい。皆が楽しく過ごしていることを祈りながら、北斗はカルカロドントサウルスから遠ざかった。

 北斗が探し求めるのは花の多い場所だ。己の周囲に反重力を張り巡らしたまま、北斗は生い茂る木々の隙間を移動する。しばらくすると、オレンジ色の花が咲き誇る場所に辿り着いた。まるで森の中の陽だまりのような場所だ。
『石版なら、このあたりにありそうだな』
 北斗は鼻先で綺麗な花をツンツンとつつきながら、石版を探し続ける。ふわんと、柔らかく甘い香りが北斗を包み込んだ。それは不思議と心地よい感覚だった。


 崖に向かって飛んでいたティエルは、その途中で小さな恐竜を見つけた。小さいといっても3メートル近くあるのだが、どうやらトロサウルスの子どもらしい。
 ティエルはくるりと宙で円を描いてトロサウルスの子どもに近づき、明るい笑顔で話しかける。素足に巻いた赤いリボンがひらりと揺れた。
「こんにちは! ボクとお話ししてくれる?」
「ガウ……?」
 トロサウルスの子どもはつぶらな瞳をぱちくりと瞬かせて、ふわりと宙に浮かぶティセルをきょとんとした表情で見つめている。

 ――ボク、小さいからきっとあまり警戒されないと思うんだ☆
 そう思っていたティエルの狙い通り、トロサウルスの子どもは20センチ程度の小さなティエルを異物とは見なしていないようだ。むしろ、今まで見たこともない小さくて可愛らしいフェアリーが不思議でたまらないらしい。小首を傾げてティエルの様子を伺っている。
「これあげるね! 美味しいよ!」
 ティエルは手にした小さな壺から次々に瑞々しい果物を取り出した。この壺の中はフェアリーランドであり、ティエルはそこにたくさんの果物を詰めてきたのだ。
 トロサウルスの子どもはちょっぴり警戒しつつ、けれども甘い香りに惹かれて、差し出された果物にパクリと噛りついた。もぐもぐと食べている姿をティエルはじっと見つめる。果たして贈り物は気に入ってもらえるだろうか。
 途端にトロサウルスの子どもの瞳がキラキラと輝いた。そして、もっとちょうだいとばかりに、ティエルに近寄ってくる。
「ガウガウー! ガウ!」
「いっぱいあるよ~! どんどん食べてね!」
 持ってきた果物を全て食べ終わる頃には、ティエルとトロサウルスの子どもはすっかり仲良しになっていた。

「ねえねえ、この辺りにお花の咲く崖がないかな?」
 ティエルの質問に、トロサウルスの子どもは少し考えてから「こっちだよ!」と歩き出した。ティエルはその後ろをふわふわと飛びながら付いていく。
 トロサウルスの子どもの案内で到着した場所は、様々な色の花があちこちに咲いている断崖絶壁だった。わあ、とティエルはその崖を見上げる。
「よ~し、やるよ!」
 何処かに石版が引っかかっていないかと、その花をひとつひとつをティエルは丁寧に調べ始めた。どの花もとても綺麗で胸がワクワクする。花から花へと飛び移るその姿は春を告げる妖精そのものだった。時々甘い蜜の香りも漂ってくるのでお腹が空いてしまったが、こんな時の為にと、みかんの花の花蜜を使った純粋はちみつも持ってきている。瓶の蓋を開けて、そっとひと匙掬って口に運べば、優しい甘さが喉の奥まで広がって疲れも吹き飛んだ。UDCアースの島国産のはちみつは美味しくて栄養満点。これでまだまだ頑張れる。
 崖の下では、トロサウルスの子どもがそわそわとティエルを見守っていた。他にも何かお手伝いすることがあれば言ってねと、ティエルに向かって叫んでいるようだ。
 ティエルはにっこりと笑い、ありがとうと手を振った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

榎・うさみっち
恐竜ってドラゴンと似たようなもんだよな?
連れてきたのはドラみっち!(装備欄参照)
A&Wから連れて帰った俺の大事な相棒!
更に【かみえしうさみっちクリエイション】で
精巧な仔恐竜の絵を描いて実体化!
俺はドラみっちの上に乗り、さぁ出発だ!

出会う恐竜は平均より小さめの草食恐竜の親子
親は警戒心が強いだろうけど
子供はきっとまだまだ好奇心旺盛な年頃
そっと近づき【動物と話す】で
君と一緒に遊びたい!って意思を伝える
お近づきの印に俺特製のうさみっちクッキーもプレゼント
仲良くなれたら仔恐竜を通して
親恐竜にも俺達は悪い奴じゃないぞと伝えて貰う

ドラみっちの勘に任せて花を探す!
果物みたいな美味しそうな花が好きらしい!




「おおー、すごい場所だぜー!」
 雄大な景色を眺めながら、榎・うさみっち(うさみっちゆたんぽは世界を救う・f01902)は感嘆の声を上げる。今日も午前8時31分発の特急列車に乗って、ガタンゴトンと揺られながらパンゲア大空洞に到着した。地底の大空洞、花咲く熱帯雨林、そして恐竜。浪漫溢れる場所にうさみっちのテンションは上がりっぱなしだ。

「恐竜ってドラゴンと似たようなもんだよな?」
 うさみっちは隣にいるピンク色のドラゴンに話しかけた。そのピンク色のドラゴン――ドラみっちは、頷きながら「ふぎゃー」と鳴く。
 ドラみっちは、かつてアックス&ウィザーズから連れ帰った、うさみっちの大事な相棒だ。丸みを帯びた横顔と、短い4本足。ずんぐりした体つきで、背中には蝙蝠の翼。見る人によってはさくらもちを想起させる優しいピンク色の体は、うさみっちとお揃いである。出会った瞬間に親近感が湧いて運命を感じ、肉で宥めたり肉で釣ったりしながら掛け替えのない相棒となったのだ。

 更にうさみっちは、うさぎデザインのペンを握り、うさぎマーク入りのスケッチブックに精巧な仔恐竜の絵を描いた。流石神絵師と誰もが唸る素晴らしい仔恐竜の絵が完成し、スケッチブックを覗き込んだドラみっちも嬉しそうにふぎゃふぎゃ鳴いている。
 そして、かみえしうさみっちクリエイションでその仔恐竜に命を吹き込み始めた。
「うさみっち先生のエモい作品、その目に焼き付けろー!!」
 スケッチブックが輝き始め、光の粒子がふわふわと舞う。その粒子が一箇所に寄り集まり、眩い光を放った直後には本物そっくりな愛らしい仔恐竜が実体化していたのだ。まさにエモエモなアートタイムである。
「キュー!」
 仔恐竜は可愛い声で鳴いて、うさみっちにすりすりと頬ずりした。所謂インプリンティング効果なのか、もううさみっちが大好きのようだ。えへへと笑いながら、うさみっちはドラみっちの上に飛び乗った。
「さぁ出発だ!」
 ビシリと前方を指差して、3人は仲良く歩き出す。ちなみに、ドラみっちはうさみっちの倍ほどのサイズだ。つまり身長40センチ足らず。うさみっちが上に乗っても合計60センチに満たない。ミニミニで可愛いコンビである。


 どんな恐竜と出会えるのか、うさみっちはワクワクが止まらない。
「ふぎゃー!」
 何かを見つけたらしいドラみっちが大きな声で鳴いた。なんだなんだとうさみっちが周りを見渡すと、前方に草食恐竜の親子がいた。頭部の後ろ側に6本の大きな角があるところを見ると、どうやらスティラコサウルスらしい。やはり全長数メートルはあるが、どうやら平均よりは小さめの個体のようだ。親子揃ってもぐもぐと地面に生えている草を美味しそうに食べている。その平和でのどかな光景に、うさみっち達は和んだ。恐らく親は警戒心が強いだろうが、子供はきっとまだまだ好奇心旺盛な年頃だろう。それならば、まずは子供にアプローチだ。うさみっち達はそっとスティラコサウルスの子供に近づいた。幸いなことに、親と子は少し離れた場所にいる。これなら『ミッション1:恐竜の子供と仲良くなれ!』は、達成し易そうだ。

 うさみっち達がすぐ傍まで来た時、気配に気づいてスティラコサウルスの子供が顔を上げた。あれれ? と、見慣れないピンク色の姿にきょとんとしている。そんな子供に、うさみっちは明るい笑顔で話しかけた。
「君と一緒に遊びたい!」
「キュウウー?」
 僕と……?
 スティラコサウルスの子供は悩んでいるようだ。
「これもあげる! 俺特製クッキー!」
 お近づきの印にと、うさみっちの手作りである特製うさみっちクッキーもプレゼントする。文字通り、うさみっちの形をした型抜きクッキーだ。なんと、クッキーの抜き型から手作りしたという、正真正銘の俺特製うさみっちクッキーである。
 スティラコサウルスの子供はやっぱり悩んでいたが、香ばしい匂いに惹かれてぱくりとクッキーを食べた。その途端に瞳がキラキラと輝き、もっと欲しいとうさみっちに近寄ってくる。
「キュー!」
「よしよーし! まだいっぱいあるぜ!」
 すっかり仲良くなって、ミッション1はコンプリートである。次は『ミッション2:親恐竜とも仲良くなれ!』だ。難易度は大幅に上がる。

 先程のように、動物と意思疎通が可能な特性を活かして直接話しかける方法もある。だが今回は仔恐竜を通して、親恐竜にもうさみっち達は悪い奴じゃないぞと伝えて貰う作戦でいくことにした。
 怪訝そうにこちらを見ている親恐竜に、仔恐竜はうさみっち達のことを一生懸命説明する。
「キュッ、キュウー!」
「ギュウウー? ギュワァッ」
「キュウーン!」
 うさみっちとドラみっちは、すごく頑張っている仔恐竜をドキドキしながら見守っていた。しばらくして、仔恐竜がうさみっち達を見つめて嬉しそうにキューと鳴いた。どうやら、親恐竜に気持ちが伝わったようだ。ミッション2も無事にコンプリートである。
「やったな! 2人とも、クッキーを食べてくれ!」
 うさみっちは笑顔でうさみっちクッキーを差し出した。親恐竜にもクッキーは大好評だ。その後はスティラコサウルスの背中に乗って散歩したり、大きな角に触ったり、眺めの良い場所を教えてもらったりと、皆で楽しい時間を過ごした。


 なんだかもうすっかり満足してエンドロールが流れそうな雰囲気になっていたが、石版が引っかかっているという花も探さなねばならない。
 スティラコサウルスの親子に別れを告げて、ドラみっちの勘に任せて花を探しに出発だ。どうやらドラみっちは果物みたいな美味しそうな花が好きらしい。
「美味しそうな花は、やっぱりいい匂いがしそうだよな!」
「ふぎゃあ!」
 様々な花が群生している辺りを探していると、ふわんといい香りが漂ってきた。甘すぎず、爽やかで、果物に近い香りだ。これはもしやと、うさみっち達は駆け出した。
 そこには赤くて丸い花が咲いていた。蜜がたっぷりでとても甘そうな花だ。これはエディブルフラワーのように食べられそうだと感じ、その旨をドラみっちに伝えようとしたが、ドラみっちは既に花をパクッと口に咥えていた。実に素早い。
 どうやら本当に果物のような味らしく、期待通りの美味しさにドラみっちは上機嫌だ。フルーティな香りを胸いっぱいに吸い込めば、初めてドラみっちと出会った時に訪れたレモン畑を思い出す。あの時、ドラみっちは枝から取ってきた黄色の果実を最初にうさみっちに渡してくれた。
「ふぎゃっ!」
 そして今も、ドラみっちは赤くて丸い花をうさみっちに手渡してくれたのだ。うさみっちは笑顔で受け取り、花を口へと運んだ。甘い蜜は濃厚でありながらも爽やかで、とても美味しかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クラリス・ポー
見た事もない程巨大な植物に、恐竜
わぁ!と思わず感嘆の声を上げてしまいそうです
未体験の世界は少し怖くて尻尾が震えてしまいますが
持てる勇気を奮るって突入します
お花に鍵の石板が掛かってないか、私はしらみ潰しに当たっていきます
死角に隠れていても第六感と学習力で匂いを頼りに探し出します

恐竜さんに襲われた時は
私もビーストマスターですので!
ジャンプで躱して、オーラ防御で間合いを取りながら
野生の勘、動物と話す、催眠術
動物使いの技をフル活用して渡り合い
恐竜さんに仲間と認めて貰える様ベストを尽くします
対話が可能なら石板の所在も訊いてみますね

命の危険を感じた場合のみ
ライオンさんを召喚しスピードアップで離脱を計ります


観那月・唯希
恐竜さんを見ることができるなんてすごいです!でも石版探しもしっかりやらないとですね

崖の近くに咲いている花をメインに探します。失せ物探しを使って暗い所では暗視で確認したり、時にはクライミングで登ったりして確認します

恐竜さんが出てきたらちょっと話してみたり、楽器演奏をしたりして仲良くなってみましょうか。優しさやコミュ力も使って敵対心がないこともアピール。せっかく恐竜さんと会えたのに攻撃するのは嫌ですから。持ってきた果物とか食べてくれるでしょうか?

【心優しき動物達】を使って周辺の動物達にも探すのを手伝ってもらいましょう。……この場合だと恐竜さんが出てくる気もしますが


セト・ボールドウィン
WIZ

恐!竜!!
こんなデカい動物見るの、初めてだ
やべー。わくわくする

俺としては、あまり戦いたくない
って言うか寧ろ仲良くなりたい
敵意がないことを示さないと…

物陰から親子連れの恐竜を暫く観察
子供の鳴き声を真似て、獣奏器で演奏してみるか

運よく俺が敵じゃないって判って貰えたら
縄張に勝手に入ってゴメンってことと
探し物をさせて欲しいことを言葉で伝えよう

小動物に話しかけるように、穏やかな感じで

探索可能な状態になったら
俺は樹の上に咲いてる花を中心に探そうか
木登りは得意だけど、高いところは恐竜にも手伝って貰えたら嬉しいな

動き回って疲れたら、持って来た林檎を恐竜達と分ける
これじゃ足りない?ごめんごめん、勘弁してね




「恐! 竜!!」
 大地を闊歩している恐竜を少し離れた場所から見つめて、セト・ボールドウィン(木洩れ陽の下で・f16751)は森を思わせる澄んだ緑色の双眸を輝かせた。
「こんなデカい動物見るの、初めてだ……やべー。わくわくする」
 この大空洞に到着してからずっと、セトの心は弾みっぱなしだ。もっと近くでその雄大な姿を見てみたい。セトは物陰に隠れながら、彼らを刺激しないように注意して恐竜へと近づいた。茶色の髪と緑色のマントの裾がそよ風に揺れる。
 その風に乗って、すぐ傍にいる恐竜達の匂いも鼻腔に届く。象やサイのような匂いを想像していたが、意外と爽やかな匂いにセトは驚いた。この匂いの主は巨大な草食恐竜のブラキオサウルスだ。もしかしたら、普段食べている草や花の香りを纏っているのかもしれないとセトは想像する。傍らの手乗りサイズのぬいぐるみドラゴンも、若葉に朝露の煌きを宿す眸でブラキオサウルスを興味深そうに見つめているようだった。

 ――俺としては、あまり戦いたくない――って言うか寧ろ仲良くなりたい。
 その為にはどうするべきかと、顎に手を当てて考えながらセトは独り言つ。
「敵意がないことを示さないと……」
 セトは物陰から親子連れのブラキオサウルスを暫く観察することにした。首がとても長くて頭部は小さい恐竜だ。最大級の草食恐竜だけあって非常に大きく、尾が首よりも短かったり、前肢が後肢より長かったりと、なんだか不思議な姿をしていて興味深い。子供のブラキオサウルスは親の三分の一程度の大きさで、それでも人よりもずっと大きいけれども、親に寄り添う姿がとても可愛かった。
 ブラキオサウルスは親子揃ってむしゃむしゃと、高い木に生えている葉や新芽を一生懸命食べている。首は垂直には持ち上げられないらしく、だからこそその巨大な体がますます長く感じられた。
 ――やっぱり仲良くなりたい。
 セトは改めてそう思う。草食恐竜で穏やかな雰囲気の彼らは、恐らくそれほど獰猛ではないだろう。敵ではないと認識してもらえれば、きっと仲良くなれる気がした。

「よし!」
 セトは決意して獣奏器を手に取った。
 様子を伺っている間に聞いたブラキオサウルスの子供の鳴き声を真似て、獣奏器で演奏し始める。可愛らしい音色が辺りに響いた。すぐにブラキオサウルスは顔を上げる。そしてキョロキョロと周囲を見回している。声の主はどこにいるのだろうと探しているようだ。
 セトは鳴き声によく似た音色を奏でながら、ブラキオサウルスの親子の前へと進み出た。
 ――あなたは、仲間……?
ブラキオサウルスの親子は、自分達の声とよく似た音色を奏でているセトをじっと見つめる。どうやら敵とは思われていないようだ。セトは安堵しながら演奏を終えて、親子に話しかける。その体は見上げるほどに大きいけれど、小動物に話しかけるように、穏やかな感じを心掛けた。
「縄張に勝手に入ってゴメン」
「クー?」
 縄張への侵入に関しては特には気にしていないようだ。セトはますます安心する。
「この辺りで探し物をさせて欲しくて……いいかな」
「クゥー」
 ブラキオサウルスの様子から察するに、探索しても問題ないようだ。敵とは認識されなくてよかったと胸を撫で下ろすセトに、ブラキオサウルスの子供が鼻先を近づけてきた。
「クッ、クー!」
「わっ!」
 どうやら自分とそっくりの鳴き声を奏でていたセトに親近感を抱いたようだ。そのつぶらな瞳はセトと同じようにキラキラと輝いており、初めて見る恐竜以外の生き物への好奇心に満ちていた。


 観那月・唯希(陽光に煌めく琥珀・f01448)も、恐竜と出会うことが楽しみで胸を踊らせていた。
「恐竜さんを見ることができるなんてすごいです!」
 ぐぐっと拳を握りしめ、気合いを入れる。ここからではまだ恐竜の姿ははっきりとは見えないが、少し離れた丘の向こう側には何匹もの恐竜が歩いている。見上げれば大きな翼を広げて悠々と滑空している翼竜もいる。すごいなと、思わずため息が出てしまう。

 物心がつく前から屋敷の中で育った唯希には、窓から見える景色だけが「外」だった。季節以外は全く変わり映えしない景色の中で生きてきた。だが彼は猟兵となり、外の世界に出ることができたのだ。
 外の世界はとても広かった。空は常に色を変えて、吹く風にも表情があることを知った。屋敷の庭には咲いていなかった花を見つける度に嬉しい気持ちになり、雨上がりに空にかかった虹の大きさにも感動した。外の世界へと足を踏み出してからずっと、胸のときめきが止まらない。この大空洞も、とても興味深い場所だ。地下とは思えないほどに天井は高く、何処からともなく光が差し込んでおり、まるで本物の空がそこにあるかのようだ。生い茂る草木も、鮮やかな花も、そして闊歩する恐竜達も、みんなすごくワクワクする。
 クリンゲという名のサバトラの毛並みを持つ頼れる相棒の猫も、にゃーと鳴いて好奇心旺盛な瞳で大空洞を見渡していた。
 もっと近くで恐竜を見てみたいと唯希は思う。
「……でも石版探しもしっかりやらないとですね」
 唯希は腕の中にいるクリンゲの頭を撫でながら、花が咲いている崖に向けて歩き出した。まるで崖のあちこちに花が飾られているようで、見ているだけでも楽しい。あの辺りを中心に探してみようと唯希は決めた。

 手の届く範囲の花には丁寧に触れて、違和感がないか確認する。足場が確保できそうな場所ではクライミングで登り、丁寧に花を調べていく。失せ物探しは得意なので広範囲を要領よく調べていくことができた。クリンゲも、てしてしと肉球で花に触れて探索を手伝ってくれる。
 崖の割れ目の、まるで洞窟のようになっている場所にも何かあるかもしれないと思い、中へと入ってみた。暗視能力のある唯希は暗い場所でも視界が失われることはない。陽の光の届かない場所にも関わらず花が咲いており、唯希はとても驚いた。外に咲いているたくさんの花よりはずっと小さめだが、仄かな光を湛えるように美しく咲く可憐な白い花を唯希はまじろぎもせずに見つめる。強い花だな、と思う。不思議とその花から目が離せなかった。
 ここにも石版はないようなので、白い花にさようならと手を振って、唯希は割れ目の外へと戻った。外はやはりとても眩しくて唯希は目を細める。だが暗闇に咲いていた花の仄かに光り輝くような白さは、この眩しさにも決して負けなかったような、そんな気がしていた。


 セトも高いところに登って花を調べていた。
 だが崖ではなく、樹の上だ。
 木登りが得意なセトは、四肢のうちの三肢で体を支え、一肢だけが自由な状態を維持して動くことを心得ている。だからバランスを崩すことなく、軽々と大きな樹に登ることができた。一緒に樹の傍まで来ていたブラキオサウルスの親子とはすっかり仲良くなっており、彼らは感心したようにセトを眺めている。

 地上から10メートルくらいの所に桃色の花がたくさん咲いていた。セトはその花の花びらを散らしてしまわないように優しく触れて、何か引っ掛かっていないかを確認する。もっと上の方にも花は咲いているが、そこまでは登れそうにない。興味深そうにこちらを覗き込んでいるブラキオサウルスにお願いして、高いところに咲いている花を確認してもらうことにした。
 ブラキオサウルスはこくりと頷き、長い首を伸ばして花をツンツンと鼻先でつつく。子供のブラキオサウルスも、親を真似て精一杯首を伸ばしている。その姿はとても愛らしく、セトは眦を和らげた。

 崖の探索を終えて次は何処を探そうかと考えながら歩いていた唯希は、セトとブラキオサウルス達の姿を見かけて駆け寄った。ブラキオサウルスの巨体に驚き、セトから彼らと仲良くなったと聞いてますます驚いた。
「ぼくも仲良くなりたいです!」
 唯希はドキドキしながらブラキオサウルスに話しかける。
「こんにちは! お会いできて嬉しいです」
「クー?」
 新たなる訪問者にブラキオサウルスの親子は興味を持ったようだ。その姿に敵意は感じられないが、まだ少し警戒しているらしい。こちらには敵対心がないことを分かってもらう為に、唯希は星のように輝く銀色のハーモニカを取り出した。そっと唇を寄せて、息を吹き入れる。twinkle star――それは唯希が動物達と思いを通わせるために使う大切な獣奏器。明るくて優しい音色が響き渡り、ブラキオサウルスの親子は楽しそうに体を揺らし始めた。
 その様子を見て、唯希は微笑みながらハーモニカを奏で続ける。曲が終わる頃には、ブラキオサウルスの親子から警戒心はすっかり消え去っていた。
「よかった……」
 唯希はホッとする。
 ――せっかく恐竜さんと会えたのに攻撃するのは嫌ですから。
 だから仲良くなれて、とても嬉しい。持ってきた蜜柑と柿も手のひらに乗せて差し出してみた。
「果物も、食べてくれるでしょうか?」
 ブラキオサウルスは鼻先を近づけてふんふんと匂いを嗅ぎ、ペロリと一口で食べてしまった。
「あ、俺も持ってきてる」
 セトは懐から林檎を取り出した。全部で3個ある。セトも動き回って疲れていたので、恐竜達と分けっこすることにした。2個をブラキオサウルスの親子にあげて、残りの1個はセトと唯希で半分こだ。
 ブラキオサウルスは林檎も一口で食べてしまった。もっと欲しいと、セトを鼻先でツンツンつつく。
「これじゃ足りない? ごめんごめん、勘弁してね」
 セトは少し困ったように、けれどもとても楽しそうに笑った。

 セトと唯希は進捗状況を報告し合い、まだまだ探す必要があることを再認識する。それならと、唯希はとある作戦を提案する。
「周辺の動物達にも探すのを手伝ってもらいましょう」
「動物達に?」
「はい! ――みんな、お手伝いを頼んでもいいですか?」
 唯希は朗らかに微笑みながらを周囲にいるであろう動物達に声を掛けた。こうすることによって周辺一帯にいる動物達が現れて、協力してくれる――はずだが。

「……この場合だと恐竜さんが出てくる気もしますが……」
 唯希の予感は当たった。あちこちから大量のブラキオサウルスが現れたのだ。どうやら最初に出会ったブラキオサウルスの親子の仲間らしい。あっという間にその場はブラキオサウルスの大集会の会場と化した。
 すごいことになったねと、唯希とセトは顔を見合わせて笑いあう。ブラキオサウルスの大きな背に乗って、石版探しは再開された。


 同じ頃、クラリス・ポー(ケットシーのクレリック・f10090)も大空洞へと降り立っていた。
 見た事もない程巨大な植物に、絵本や図鑑でしかその姿を見る機会がなかった恐竜達。
「わぁ!」
 クラリスは思わず感嘆の声を上げてしまった。そして、草を食む愛らしい兎が彫刻された金無垢の懐中時計をぎゅっと握りしめた。義母から贈られた大切な懐中時計だ。こうしていると、まるで大好きな義母と一緒にいるような、とても温かな気持ちになって勇気が湧いてくる。
 それでもやはり未体験の世界は少し怖い。尻尾がふるふると震えてしまう。けれども、クラリスは持てる勇気を奮るって、恐竜達が待っている大地へと突入した。
 果たして、金の兎は誰に幸運を呼び込むのか? それはきっと、何事にも一生懸命で、頑張り屋のケットシーの女の子に――。

 クラリスはキョロキョロと周囲を見回した。綺麗な花がたくさん咲いている。地上に咲いている花よりも大きな花ばかりで、小柄なクラリスは花の海に埋もれてしまいそうになっていた。
 この何処かに鍵の石版が引っ掛かっているかもしれない。クラリスは隅から隅まで、丹念に調べていくことにした。重なり合う葉っぱの影や、花びらの隙間のような死角に隠れていないか、怪しげな場所に顔を突っ込んでしっかりと覗き込む。そうしているうちにバランスを崩してチューリップのような巨大な花の中へと転落してしまった。慌てて身を起こして花の中から顔を出せば、その姿はまるでおやゆび姫そのものだった。
 第六感と学習力と、そしてケットシーの鋭い嗅覚だからこそ感じ取れる匂いを頼りに、クラリスは頑張って石版を探し続ける。
 そして、そんなクラリスを逆に見つけてしまった恐竜がいた。トカゲの暴君、ティラノサウルスだ。
「グオオオオォ!」
 突然聞こえてきた獰猛な声に、クラリスは飛び上がってしまった。大きな体に、鋭い牙。肉食恐竜の王様に相応しい姿をしたティラノサウルスに、クラリスはぶるりと震えた。ティラノサウルスは牙を剥き、クラリスに襲いかかってくる。

 だが、クラリスはビーストマスターだ。獰猛な肉食恐竜にただ怯えているだけではない。襲い来る牙をジャンプで躱して、すかさずオーラ防御を展開させて間合いを取った。
「グワァァァ!」
 獲物に逃げられたティラノサウルスはクラリスを睨みつけながら悔しそうに哮る。クラリスは六角形の魔法青金石に金のベルを誂えた杖形の獣奏器をしっかりと両手で握り、凛とした眼差しでティラノサウルスを正面から見据えた。野生の勘で恐竜の動きは凡そ予想がついた。上手く躱していけるだろう。
 戦って傷つけることなど決して望んでいない。仲間だと認めてもらって仲良くなりたい。
「待ってください! 私は敵ではありません!」
 この声が届きますようにと祈りながら話しかける。敵対心がないことを信じてもらう為に催眠術も併用し、動物使いの技を全て出し切って、逃げることなくティラノサウルスと向き合った。

 クラリスの声と想いが届いたのか、ティラノサウルスはだんだんと大人しくなっていく。そしてぴたりと動きを止めた。
「……信じてくれますか?」
 クラリスは勇気を出して、ティラノサウルスの体にそっと触れた。怒るのではないかと不安もあったが、ティラノサウルスは嫌がらない。大人しくしている。どうやら害を与える敵ではなくて、同じ世界に生きる仲間だと思ってもらえたよう だ。
「……ありがとうございます。私はクラリスといいます。ケットシーです」
 仲間と認めてもらえたことに感謝して、クラリスはペコリとお辞儀をする。ティラノサウルスも同じように巨大な頭をペコリと下げた。その姿は先程までの獰猛な様子からは想像もできないコミカルな雰囲気で、クラリスの頬は緩んでしまった。


 クラリスはティラノサウルスに石版の所在も訊いてみた。そんなものは知らないと膠も無い返事が返ってきたが、向こう側に珍しい花が咲いていたと、非常に小さな前肢で指差しながら教えてくれた。
「そうなのですね。そこに行ってみます!」
 クラリスはお礼を言い、その方向へ向かうことにした。しかしケットシーの足では、この広い大空洞を移動するのも大変だ。時間が掛かりすぎる。そこで黄金のライオンを召喚することにした。
 キラキラと星の煌めきを纏いながら現れたライオンの背に乗って、クラリスはティラノサウルスに教えてもらった方向へと一直線に走り始める。輝く鬣を揺らしながら風を切って駆ける全長80センチ足らずの小さくても頼もしいライオンにしっかりとしがみつきながら、クラリスは恐竜が闊歩する広い世界を興味深く眺めていた。

 だが途中でブラキオサウルスの大群に突っ込んでしまい、クラリスはびっくりした。ブラキオサウルスの背に乗っていたセトと唯希も、突然飛び込んできた金色に輝くライオンと修道服のケットシーの女の子に驚いた。
 けれども互いに猟兵なのだとすぐに気づき、それぞれの経緯を話せば、あっという間に打ち解ける。
「よかったら一緒に石版を探しませんか?」
「はい! よろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしく!」
唯希とセトの誘いにクラリスは笑顔で返事をした。
 3人はブラキオサウルスの背に揺られて、クラリスがティラノサウルスに教えてもらった珍しい花が咲いているらしい場所へと向かう。
 途中で色とりどりの金平糖を唯希から少し分けてもらう。一粒食べれば仄かな甘さが口の中に広がり、とても幸せな気分になった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シズホ・トヒソズマ
※連携アドリブ可

恐竜は翼竜希望

別UC『自動人形化』でからくり人形大帝巫を自律稼働させ本体のマスクを持たせます
予め自身らに認識改変の術『自分達を、攻撃する程の警戒を抱かない存在と認識する』を施させ
自分らを見たら◆催眠術が行使されるようしておく

◆情報収集で集めておいた好みの食料を出しつつ
あくまで石板を探すだけで危害は加えないと◆コミュ力で交渉
良ければ着用合体で協力を提案

着用合体したら指定UCを使用
分身に花の心当たりを聞き
共に空を飛び捜索します
断崖絶壁は特にチェック
『首長竜さんの時も視点が凄かったですが空を飛べる感覚も新鮮ですね!』

終わったら世界の危機を伝え
暇な時でいいので協力してくれないか提案


霧島・絶奈
◆心情
折角の機会です
恐竜との邂逅も愉しみましょう

◆行動
叶うならユタラプトルの群に出会いたいですね

【罠使い】の知識と経験を活かし【目立たない】様に「捕獲罠」を複数設置
恐竜捕獲後は『暗キ獣』を使用
【動物と話す】力で【恐怖を与える】【恫喝】と【優しさ】を織り交ぜて「お話」

私の目的の為、共に戦って下さいますか?
我が軍勢の戦術を間近で見れば、貴方達の群としての強さも上がるでしょう
断るなら…判っていますね?
…ああ、忘れていました
これは地上の美味しいお肉です
協力してくれるのであれば、此方も差し上げますよ

後は軽食でも摘まみながら観光気分で探索しましょう
花が目印と言う事ですから「珍しい色の花」を探してみましょう




 荘厳な雰囲気をその身に纏いながら、装飾の美しい猫耳付きフードで顔を隠した霧島・絶奈(暗き獣・f20096)は大空洞を見回していた。フードの隙間から美しい銀の髪が揺れている。
 彼女は神だ。小さな地下世界を管理していた「異端の神々」の一柱であり、その神格位を後天的に得た奇跡の人だった。彼女の耳に届く恐竜達の声は、彼らがそう遠くない場所にいることを告げている。

 絶奈は足元を注意深く見つめた。幾つもの大きな足跡があり、どうやらこの辺りは恐竜の群れが通りかかるらしい。それならばと、絶奈は妖艶に微笑んだ。
 ――折角の機会です。恐竜との邂逅も愉しみましょう。

 彼女は罠使いとしての知識と経験が豊富だ。それらを活かし、目立たないように捕獲罠を設置することにした。傷つけずに捕獲するのであれば箱罠が最適だとは思うが、恐竜のサイズを考えると現実的ではない。そこで足くくり罠を中心に準備を開始した。足跡の位置や向きをよく調べ、恐らく恐竜が通過するであろう地点の土の中に板を仕掛けておく。それを踏むとワイヤーが外れ、恐竜の足を締め付けて捕獲するという仕組みだ。恐竜のサイズに合わせると巨大な罠になるが、罠のエキスパートである絶奈はいとも容易く設置していく。恐竜達が暴れた時の為に麻酔針も大量に用意し、準備完了だ。もっと危険な罠もあるが、今回は生け捕りが目標なのでこの程度でいいだろう。

 恐竜の声が先程よりも近くなっている。そろそろここに来るだろう。怪しまれないようにと、絶奈はすぐ傍の大樹の陰に隠れて様子を伺った。
 程なくして恐竜の群れが近づいてきた。絶奈はその姿を確認する。あれは確か、ユタラプトルだ。獣脚類の中ではかなり発達している大きな手と、長く頑丈そうな尾。そして鋭い牙。ユタラプトルは群れで狩りを行っていたと言われているが、今まさに狩りに向かおうとしている所なのか、何匹ものユタラプトルがこちらに向かって疾走してくる。足が速く、優れた視力を持つ彼らは優秀なハンターなのだろう。
 だがユタラプトルは、獲物と出会う前に絶奈の罠と出会ってしまった。

 先頭のユタラプトルが土の中の板を踏み、バタンという大きな音と共に罠が発動する。瞬く間にユタラプトルの脚はワイヤーに捕らえられ、ギリギリと締め付けられる。
「ギョワアアアア!」
 突然のことに、ユタラプトルは大声を上げながらもんどりうって転倒した。高速で疾走していた後続のユタラプトルは避けることができず、転倒したユタラプトルに蹴躓いて連鎖的に倒れていく。同時に土の中に仕掛けた罠も次々に発動し、絶奈も麻酔針を狙い澄まして投げつけて、あっという間に全てのユタラプトルは捕獲されてしまった。
 絶奈の罠の前では、彼らは完全に無力だったのだ。


 絶奈は罠に捕らえられ、それでも逃げようと必死でもがいているユタラプトルの前へと歩み出た。そして穏やかな声で詠唱する。
「闇黒の太陽の仔、叡智と狡知を併せ持つ者。私を堕落させし内なる衝動にして私の本質。嗚呼……、此の身を焦がす憎悪でさえ『愛おしい』!』」
 その言の葉と同時に、絶奈は蒼白き燐光の霧を纏う異端の神々の似姿に姿を変えた。彼女の周囲には疫病を纏う屍獣の群と屍者の軍勢の槍衾がずらりと整列している。ただし、攻撃はさせない。今回は彼らが傍にいるだけで十分だ。

 絶奈は氷のように冷たく美しい微笑を浮かべながらユタラプトルの群れに語りかける。恫喝と優しさが織り交ぜられた声にユタラプトル達は震え上がった。
「私の目的の為、共に戦って下さいますか? 我が軍勢の戦術を間近で見れば、貴方達の群としての強さも上がるでしょう」
 絶奈の「お話」を、ユタラプトル達はブルブルと震えながら黙って聞いていた。
「断るなら……判っていますね?」
 こくこくと頷くユタラプトル達。物分かりがいい恐竜に絶奈の笑みが深まる。

「……ああ、忘れていました。これは地上の美味しいお肉です。協力してくれるのであれば、此方も差し上げますよ」
 ユタラプトル達の目の前に巨大な肉塊がどーんと投げ出される。牛一頭分の肉をそのまま持ってきたような量だ。ユタラプトル達はよだれを垂らしながら、絶奈に忠誠を誓う。現時刻をもって、絶奈の軍勢にユタラプトルの群れが加わった。

 あとは観光気分で探索だ。軍勢が用意してくれた輿に乗り、絶奈はサンドイッチを摘まみながら鮮やかな世界を見回していた。
「花が目印と言う事ですから「珍しい色の花」を探してみましょう」
 軍勢にそう指示すれば、彼らは変わった色の花を探し始める。虹色の花や、葉と一体化して見逃してしまいそうな淡い緑色の花を見つめながら、絶奈は紅茶のカップを優雅に口元へと運んだ。薔薇の形のクッキーもサクサクで美味しかった。
 見知らぬ花と出会うのはなかなか楽しい。次に見つかる花は何色だろうか。


 ユタラプトルも加わった軍勢を引き連れて熱帯雨林の中を移動している絶奈を見かけ、シズホ・トヒソズマ(因果応報マスクドM・f04564)はおおと感嘆の声を上げた。
『すごいですね! 私も頑張っていきましょう』

 シズホはヒーローマスクだ。
 だからこそ、まずはこれからと、大空洞に到着してすぐに自動人形化の術式を使用した。
『貴方に意識と力を授けます、人形は操られるのみならず!』
 力強い詠唱と共にからくり人形大帝巫を自律稼働させる。陰陽師型催眠人形『大帝巫』は、符を使い呪いや五行を操る陰陽師人形だ。『大帝の剣』の力を宿しており対象の認識を操ることができる。そのからくり人形に本体であるマスクを持たせ、予め自身らに認識改変の術を施させた。その内容は『自分達を、攻撃する程の警戒を抱かない存在と認識する』である。自分達を見たら自動的に催眠術が行使されるようしておけば、間違いなく今回の仕事の役に立つはずだ。

 自意識、感情、言語能力、思考能力、戦闘能力。そして様々な技能を宿されたからくり人形大帝巫は、人間と変わらぬ仕種でシズホの指示に従う。この術式の代償としてシズホ自身は毒を受けて全身に痛み感じていたが、それはそれでシズホにとっては心地よい痛みでもあった。


 そうして花と恐竜を捜索している最中に絶奈を見かけた訳だが、その直後にシズホの目の前に巨大な影が降り立った。
 翼開長が10メートル以上ある、史上最大の翼竜と呼ばれているハツェゴプテリクスだ。実際は体が重すぎて飛べなかったのではという説もあるようだが、重さを全く感じさせずに悠々と大空を飛んでいた。空からシズホを見つけた途端に、シズホの狙い通りに催眠術にかかり、彼女に興味を持って地上に舞い降りてきたのだ。
 相手から興味を持ってもらえたのなら話は早そうだと、シズホはハツェゴプテリクスが好む食べ物である肉の塊を差し出した。情報収集を行い、恐竜達の好みの食料を何種類か用意してきたが、やはり肉食翼竜のハツェゴプテリクスは肉が好きらしい。大喜びでムシャムシャと食べている。
『のんびりお過ごしのところにお邪魔してますが、あくまで石版を探すだけで危害は加えません!』
 シズホは丁寧に説明し、石版探しに関しての交渉を始める。そして、良ければ着用合体で協力をと提案した。
 ハツェゴプテリクスにはシズホの話は難しく、内容がよく分からなかったようだが、美味しいお肉をもらって気分が良くなっていたので、別にいいよと同意した。どうやら相当おおらかな性格の翼竜らしい。

『ありがとうございます! では早速……』
 シズホの本体は素早くハツェゴプテリクスの顔に飛びつき、着用合体した。瞬く間にシズホはその巨体と一体化した。
『おお、すごいですね! こうすれば飛べるのでしょうか……』
 鳥が飛び立つ姿を思い出しながら、ばさりと大きな翼を広げて大空へと舞い上がった。そして空中で新たなる術式を使用する。眠りし朋よ、共に歩もう――。
『暫しお目覚め下さい、共に在りし着用者!』
 その言の葉と共に、宙に淡い光の粒子がふわりと現れた。そこからハツェゴプテリクス自身の意識を持つ分身が生み出される。
 シズホは分身に花の心当たりを聞いたが、残念ながらそれらしい花は知らないという。それなら一緒に探しましょうと、共に空を飛び捜索を開始した。飛行しなければ調査の難しい断崖絶壁は特に丁寧に確認する。2匹の巨大な翼竜が並んで空を駆ける姿はとても雄大で美しかった。

『首長竜さんの時も視点が凄かったですが空を飛べる感覚も新鮮ですね!』
 シズホは初めて恐竜に着用合体した時のことを思い出していた。あの時はこの作戦が上手くいくか分からず、少々強引でも可能性はあるはずと試してみたのだが、普段とは全く異なる視界が高さが感動的だった。
 今回はさらに視界が高い。大空を滑空しながら大地を見下ろせば、草を食む草食恐竜の姿が見えた。少なくとも全長10メートルはあるはずだが、ここから見るその姿はとても小さく、まるでミニチュアだ。本当にとても高い場所を飛んでいるのだと実感し、シズホは胸を躍らせた。

 まだ石版は見つからない。もっと色々な場所を探そうと空を飛びながら、シズホは分身のハツェゴプテリクスにこの世界の危機を伝えた。まさかこの大空洞でのんびり過ごしている間に世界がそこまで大変なことになっているとは思いもよらず、ハツェゴプテリクスは驚きを通り越してキョトンとしていた。
『暇な時でいいので協力してくれませんか』
 シズホの提案に、自分に出来ることはあるのかな? と、ハツェゴプテリクスは首を傾げる。けれども、何かあれば協力するよとシズホと約束した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
綾◆f01786
アドリブ◎
おやつにと錦玉羹持参

見慣れない植物や恐竜に感嘆の声
普段より上機嫌に見え少年の様な綾を横目に微笑

綾も不安より期待の方が膨らんでるみてェだなァ
未知の世界を切り拓く感覚、俺は結構好きでよ

物音に視線向け
仔竜に警戒されない様に武器取らず
綾の音律に黙って耳傾け
仔竜を暫く様子見

篠笛の音…何故か懐かしく聴こえるな
心地よい音色だ

花に毒性があったのか
綾が花に詳しくて良かったわ
気付かず食ってたら危なかった
綾の話は勉強になるぜ

翼竜と触れ合い仲良くなる
食せる植物を見つけ仔竜が食す間、自分達も軽く間食
綾へ錦玉羹渡す

背に乗せて貰う
風感じる
断崖絶壁に咲く花を目印に鍵の石板探しへ
花の香りなどで辿れれば


都槻・綾
f04599/クロウさん

大地を往く跫
空を航る影
天地を統べる恐竜の巨躯

見惚れてしまいますねぇ

常より明るい口調は
好奇心の証

草葉の揺れる音に覗き見ると
翼持つ仔竜が
赤き花を興味津々に齧ろうとしているところ
知識を紐解けばグロリオサに似た花
故に球根には毒がある可能性に思い至り

仔竜の気を惹き、留める為
篠笛で軽やかな風の如き音律を奏でる
警戒を徐々に解けるよう、静から動へと調子を変えて

動物と話す事が叶うなら
毒性の危うさを教えて
食せる植物の見分け方を伝えたりと
仲良くなれたら嬉しい

頂いた和菓子を
仔竜と一緒に瞳を輝かせて眺める
まるで小宇宙を掌に乗せているかのよう

翼竜の背に乗り
断崖絶壁に咲く花と鍵を見つけに行きましょう




 遥か昔に失われた世界がある。
 決して手の届かない遠い過去に、その世界は存在していた。
 だが、今、目の前に広がる光景は幻ではない。誰もが夢に見るだけだった風景が、確かにここにある。

 大地を往く跫。
 空を航る影。
 天地を統べる恐竜の巨躯――。

「見惚れてしまいますねぇ」
 都槻・綾(夜宵の森・f01786)は楽しそうに青磁色の双眸を細める。熱帯のような気候の影響もあるのだろうか、今日の綾の眸は早春萌ゆる若葉の色彩に近いように感じられた。
「凄ェな。壮観だ」
 杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)もまた、火蜥蜴と七色鮟鱇の革で作られた頑丈な革靴で大地を踏みしめながら、見慣れない植物や恐竜に感嘆の声を上げた。そして普段より上機嫌に見える、少年のような綾を横目に小さく微笑んだ。
「綾も不安より期待の方が膨らんでるみてェだなァ。未知の世界を切り拓く感覚、俺は結構好きでよ」
 楽しげなクロウの言葉に、私もですよと綾は微笑む。今日の綾は常より口調が明るいことにもクロウは気づいていた。それは好奇心の証だ。
 長い時を生きている彼らが生まれるよりもずっと前から存在している恐竜達の世界の中で、2人のヤドリガミは楽しげに笑いあった。

 風は草花の香りを運び、其処彼処から獣に似た恐竜の聲が聞こえてくる。クロウは傍に生えているシダのような植物の葉に触れてみた。とても瑞々しく、生命の息吹を感じて思わず口角が上がる。
 そのシダの向こう側からガサリと物音が聞こえた。クロウは身構えてそちらへと視線を向ける。綾もクロウと同じように草葉の揺れる音に覗き見ると、そこには翼を持つ仔竜がいた。
「ン……子供か?」
 警戒されない様にと武器は取らず、クロウは静かに仔竜を見つめた。どうやらアンハングエラの子供らしい。頭部が非常に大きく、逆に胴体の部分はかなり小さかった。仔竜とはいえ翼開長は2メートル近くあり、クロウや綾よりも大きいが、好奇心に満ちたつぶらな瞳やちょこまかとした動きがとても可愛らしい印象だ。幼さ故か警戒心もそれほど強くはないらしく、近くにいるクロウや綾の気配を察して即座に襲いかかってくることはなかった。とはいえ、今すぐに仲良くなれそうな雰囲気でもない。

 アンハングエラは魚食性とされているが、どうやらこの仔竜は草花も好んで食べるらしく、赤き花を興味津々に見つめている。そのまま大きな口を空けて齧ろうとしたところで、綾は何かを感じて己の知識を紐解く。燃え上がる炎のような鮮やかな色、躍動感のある花姿。
 ――あの花はグロリオサに似ていますねぇ……。
 それ故に、球根には毒がある可能性に思い至った。その根は山芋に似ているが、コルヒチンやグロリオシンといった致死量の高い毒が含まれている。
 もしそうだとすればとても危険だ。綾は素早く懐から幽明の篠笛を取り出し構え、そっと唄口へと唇を寄せた。唄口の内側に下唇を軽く添えて、柔らかに息を吹き出せば、軽やかな風の如き音律を奏で始める。静謐も瀟灑も有るが儘寄り添ういのちの吟様はアンハングエラの仔竜の耳に届き、その体と心を柔らかに包み込む。仔竜は驚いたようにはっと顔を上げた。
 やさしい音が聞こえる。
 そう感じているのだろうか、不思議そうな表情で辺りをキョロキョロと見回した。篠笛を奏でる綾の姿を見つけても襲いかかりはせずに、ただ興味津々といった様子でじっと彼を見つめている。
 仔竜の様子を見つつ、クロウも綾の音律に黙って耳傾けていた。
 ――篠笛の音……何故か懐かしく聴こえるな。
 遠い昔にも聞いたことがあるような気がして、忘れかけていた微かな記憶を呼び覚まされるような不思議な感覚に陥りながら、クロウはその心地よい音色に浸る。

 綾は仔竜の警戒を徐々に解けるようと、静から動へと調子を変えていった。最初は静かに音色を聞いていた仔竜の体は自然と動き出し、揺れがだんだんと大きくなる。綾はその様子に小さく微笑み、さらにテンポを上げた。すると仔竜はぴょこぴょこと踊り出した。楽しそうに瞳を煌めかせて、音色に合わせて元気に跳ねる。
 演奏を終えた時には2人に対する警戒心などすっかり失われて、仔竜は綾にぴったりと引っ付いてきた。まるで人懐こい仔犬のようだ。綾はその頭を優しく撫でてやる。そして仔竜の瞳を見つめながら、穏やかな声で話し始めた。
「あなたが食べようとしていたあの赤い花には危険な毒があります」
 毒性の危うさを教えて、食せる植物の見分け方を伝える。仔竜は綾の言葉をしっかりと理解したらしく、こくこくと何度も頷きながら話を真剣に聞いていた。
「花に毒性があったのか……綾が花に詳しくて良かったわ。気付かず食ってたら危なかった」
 綾の話は勉強になるぜと、クロウは微笑む。それに毒を喰らって子供が苦しむ姿は見たくない――が、それを口に出すのは何故か妙に気恥ずかしく感じ、密かに心の中で思いながら仔竜に近寄る。無事でよかったと仔竜の頬を撫でると、幼いアンハングエラはクーと嬉しそうに鳴いた。


「この植物は食べられますよ」
 綾が教えれば、仔竜は大喜びでムシャムシャと食べ始める。その姿も可愛らしく、綾とクロウの眦が和らぐ。
 仔竜が食す間に自分達も軽く間食をと、クロウは持参した錦玉羹をウエストポーチから取り出して綾に渡した。
 受け取った錦玉羹を見つめ、その美しさに綾は感嘆の声を上げる。澄んだ青のグラデーションに染められて、金箔の星を散りばめた錦玉羹は星空そのものだ。よく見れば細い三日月も輝いており、まるで小宇宙を掌に乗せているかのような気持ちになる。仔竜も興味を持ったらしく、綾の傍にやってきて彼の掌を覗き込む。2人で一緒に瞳を輝かせて眺めた後で、半分こして食べることにした。想像通りの上品な甘さだ。
「もっとあるぜ。食うか?」
 初めて味わう甘さに感激していた様子の仔竜は、クロウから差し出された錦玉羹を見て、欲しい欲しいとぴょんぴょん跳ねる。綾も柔らかに微笑み、それではいただきますと手に取った。星空の次は色づいた銀杏や紅葉が舞い踊る秋の風景を切り取ったような美しい一品である。この錦玉羹も、綾と仔竜で半分こだ。その微笑ましい様子にクロウは相好を崩した。

 美しい音色と、甘くて美味しいお菓子。当たり前のことだが、どちらも仔竜には初体験だった。だからこそ感激もひとしおだ。お礼をしたいと考えた仔竜は、クロウと綾に自分の背に乗って欲しいと告げる。仔竜とはいえアンハングエラだ。その背に男2人を乗せることは容易い。
 クロウと綾は顔を見合わせて仔竜の言葉に甘えようと頷きあい、その広い背に乗った。
「クー!」
 さあ行くよと掛け声のように鳴いてから、仔竜は翼を羽撃かせて大空へと舞い上がった。瞬く間に地上が遠くなっていく。クロウは風を感じ、その心地よさに夕赤と青浅葱の瞳を細め、仔竜の背を優しく撫でる。
「重くないか? 無理はするなよ」
「クー!」
 クロウの言葉と想いも伝わったのか、大丈夫とばかりに仔竜は鳴いた。綾はそのやり取りに和み、仔竜の背に手を添えてありがとうと呟く。彼の髪に飾られた宵の絹糸聯ねる濃染の綾紐が風を受けてひらひらと揺れていた。

 向かう先は遥か遠くに見える断崖絶壁だ。そこに咲く花を目印に鍵の石版を探そうと、クロウと綾は考えていた。それに断崖絶壁にどんな花が咲いているのか、それを見るのも楽しみだ。きっと辺りに芳しい香りも漂っているのだろう。
 仔竜は風を切って進む。2人と一緒に空を飛ぶことが楽しくて仕方ないという様子で、すぐに目的地に到着しそうだ。
だが、もっと空の散歩も楽しみたいと、クロウも綾もつい考えてしまう。そしてそれは仔竜も全く同じ思いだった。

 猟兵としての仕事を終えた後で、もう一度一緒に大空を飛びませんか――。
 そんな綾の提案に、仔竜は元気よく鳴いて賛成した。この広い世界を隅から隅まで飛び回りたいくらいに仔竜は元気いっぱいらしい。望むところですねと、綾とクロウは笑いあう。気になる場所はたくさんある。あの断崖絶壁の向こうや、巨大な池の向こうには何が待っているのだろうか。
 とても楽しみだと、冒険に旅立つ少年のように2人は胸を躍らせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鵜飼・章
始祖鳥を捕まえるついでに石板を探しに来たよ
逆だっけ?でも僕の目当ては始祖鳥なんだ
恐竜ってイメージじゃないかもしれないけど
自分の足で探してみないとね

UCで呼んだ小学生のぼくに石板の捜索を手伝ってもらう
探す場所はジャングルの中
鴉たちにも散ってもらって花を探させよう
その間に僕は始祖鳥を捕まえに行くよ
ぼく不満そうだね…ほらそこに三葉虫がいるよ
持って帰っていいから

始祖鳥を見つけたら【動物と話す】で呼びかけて
おやつに持ってきたイナゴの佃煮を分けてあげよう
はあ…すごくかっこいいなあ
もふもふしたり追いかけっこしたりして遊ぶ
僕と一緒に来てくれたら毎日おいしいものをあげるよ
友達にならない?
できれば連れて帰りたいな




 鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は大いなる目的を胸に抱いてパンゲア大空洞にやってきた。それは、アーケオプテリクス――始祖鳥を捕まえることだ。ついでに鍵の石版も探すつもりではいる。
 ――逆だっけ? でも僕の目当ては始祖鳥なんだ。
 それに既に一度、鍵の石版を見事発見している章は割と余裕である。あの時のトリケラさんちのお宅訪問は楽しかったなと思い出しながら、周囲を見回した。生い茂る草木の陰からひょこりと始祖鳥が顔を出してくれないだらうか。いやいや、向こうから都合よく来てくれることを期待してはいけない。世の中そんなに甘くないことはよく分かっている。だからこそ、こちらから捕まえに――迎えにいくのだ。

 羽毛のある動物化石で知られる最古の鳥群である始祖鳥は、ジュラ紀後期に生存していたと考えられている。大きな羽と羽毛を持っており、同時に鋭い歯や鉤爪も持つという。
 どうやら爬虫類と鳥類の中間の生物だと言われているようだが、恐竜ってイメージじゃないかもしれない。けれども、最初から諦めずに、まずは自分の足で探してみないとね――。そうすればきっと出会えるに違いないと、章は期待に胸を膨らませる。特に根拠はないが、なんとなく出会えそうな気がしてならなかった。運命の糸の先っぽが見えたのかもしれない。

 ついでとはいえ、石版もしっかり探そう。でもそれは助っ人に任せよう。
 章はそう決めて、ジャングルの中心で静かに量子力学的多元宇宙論の証明を展開させる。
「僕は居ない。ぼくはここにいる」
 まるで謎かけのようなその言の葉に応えるように、小学生の鵜飼章が現れた。当たり前のように虫取り網を握りしめている。大きな虫籠もばっちり肩から掛けており、いくらでも虫を捕まえられそうだ。鵜飼少年は草木が生い茂るジャングルを見渡して、瞳をキラキラと輝かせた。
 ――カブトムシ、いっぱいいるかも……!
 だが章から言い渡されたのは「花を探すこと」だった。花には別に興味はない。好きなのは虫だけだ。だが、内向的でおとなしい性格の鵜飼少年は、章に逆らうことなく茂みに入って花を探し始めた。
 鴉達も連れてきており、あちこちに散って花を探すように指示をした。鴉達はクワッと鳴き、花を求めて飛び立っていく。やはり鴉達は頼りになる。最近はシチューも作ってくれるようになったし、あのどこからか料理の材料や道具を集めてくるスキルで花も探し出してくれるに違いない。
 これで鍵の石版探しは安心だと思ったが、鵜飼少年はとても不満げだ。ストレスのせいなのか、茂みでぶんぶんと虫取り網を振り回しているのが見えた。
「ぼく不満そうだね……ほらそこに三葉虫がいるよ」
 章が声をかければ、えっ! と鵜飼少年は顔を上げる。
「どこ? どこ?」
「ほら、あの沼のところ」
「わあー!」
 鵜飼少年は瞳を輝かせた。今すぐに捕まえたい。そんな気持ちが全身から溢れている。
「持って帰っていいから」
 章の言葉を聞くが早いか、鵜飼少年は茂みから飛び出して沼へと駆け寄った。その姿を見て、それでこそぼくだと章は満足そうに微笑んだ。


 彼らに探索を任せて、その間に章は始祖鳥を捕まえに行く。始祖鳥が空を飛んでいたことはほぼ間違いないらしい。崖や高い木の上から、翼を広げて滑空してはいないだろうか。あるいは、木陰でのんびりと休んでいないだろうか。
あちこち探し歩いたが、なかなか見つからない。ふと鵜飼少年や鴉達が何か見つけてはいないだろうかと気になり、元いた場所に戻ってみる。
 すると鵜飼少年は地面にうつ伏せになっていた。何かトラブルに巻き込まれしまったのかと思いながら慌てて近寄ると、別に倒れている訳ではなく、蟻の行列を見つめているだけだった。
「やはりここにも蟻はいるのか……」
「普通の蟻より大きいよ」
「そう? どれどれ……」
 章はしゃがみ込み、大行列を作っている蟻を見た。確かに大きくて興味深い。いつの間にかナチュラルにうつ伏せになって、鵜飼少年と共に蟻の行列に見入っていた。
「……いけない。このままではあっという間に夜になってしまう……もっと眺めていたいけれど、我慢しよう……」
 始祖鳥を捕まえにきたのだから、寄り道は程々にしなければならない。章はスマホであらゆる角度から蟻の写真を撮って、未練を断ち切り立ち上がった。

 再び始祖鳥を探し始めた章は、茂みの奥からクークーと鳴く声が聞こえたような気がした。その鳥に似た声に、章は何かを感知した。
 こっちだと、その茂みをかきわけて章は進む。思っていた通り、そこには始祖鳥がいた。全身が羽毛に覆われて、前足に翼が生えている。図鑑で見た姿そのままだ。始祖鳥は逃げはしないが、怪訝そうに章を見つめていた。
「こんにちは、始祖鳥さん」
 章は穏やかな声で話しかける。言葉は伝わったようだが、始祖鳥はまだ警戒しているようだ。仲良くなろうと、章はおやつに持ってきたイナゴの佃煮を始祖鳥に差し出した。
「とても美味しいよ。食べてごらん」
 自然の中では嗅いだことのないような香ばしい匂いがして、始祖鳥は興味を惹かれて嘴を近づける。しかし初めて見るものを口にするのは野生の本能的に抵抗があるらしく、躊躇いながら嘴を離す。けれどもやはり気になって、再び嘴を近づけてパクリとイナゴを咥えた。そして鋭い歯で噛み砕く。――おいしい!
 大きな眼を輝かせながら、2匹目3匹目とイナゴを食べる始祖鳥を章は嬉しそうに見つめていた。
「クァー!」
 全て食べ終えた時にはすっかり餌付けされており、始祖鳥は可愛く鳴きながら章にすり寄ってきた。章は始祖鳥を抱き上げて、もふもふとその羽毛を撫でた。
「はあ……すごくかっこいいなあ」
「クゥー? クァー!」
 始祖鳥は翼をばさばさと羽撃かせ、章の腕の中から飛び出した。そして小走りでジャングルの中を進み始める。逃げようとしているのかと思いきや、どうやら「こっちにきて欲しい」と章を案内しているようだ。章が追いかけていくと、そこは始祖鳥の塒だった。トリケラさんに引き続き、始祖鳥のお宅訪問も実現してしまった。
「ここに住んでるんだ。素敵なおうちだね」
 章は塒を覗き込み、始祖鳥を撫でる。ここに案内してくれたということは、心を許してくれたのだろう。そのことを嬉しく思いながら、章は始祖鳥に想いを伝えた。
「僕と一緒に来てくれたら毎日おいしいものをあげるよ。友達にならない? ――できれば連れて帰りたいな」
 始祖鳥は今の生活にも満足はしている。けれども、おいしいものをもらるなら。そして、たくさん遊んでもらえるなら。
「クゥー!」
 始祖鳥は明るい声で鳴いた。OKらしい。章と一緒に行くと決めたのだ。
「嬉しいな……ありがとう」
 まるでプロポーズに成功したかのように、章は始祖鳥を抱きしめてくるくると回った。この子の名前を考えなければならない。何という名にしよう。役所に登録する際は、やはり分類はバディペットだろうか。考えるだけで楽しくて、頬が緩んでしまう。

 始祖鳥は全長50センチ程度で、章が連れている鴉達よりは少し大きい。でもきっと鴉達ともすぐに仲良くなれるだろう。鴉達はみんないい子だし、この始祖鳥も優しそうだ。もし始祖鳥が慣れないサムライエンパイアの風習や現在社会に戸惑っても、鴉達と共に色々と教えて、毎日を楽しく過ごせるように手伝おう。
 新しくネオジャスティスミドウ城の一員に仲間入りした始祖鳥と、その最古の鳥と友達になった章の未来はキラキラと輝いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

浮世・綾華
オズ(f01136)と

あは、良く覚えてんねえ
竜とか気球とかに乗りてーって話な
折角だし叶うといーケド
何処にいっかな、恐竜
それ抜きでも恐竜は男のロマンだしネ

花が鍵なんだっけか
変わった花っつっても此処の花はどれも変わってるし――

わ、マジだ、でけー!
UCで出た恐竜の好きそうな食べ物で交渉
な、これやるから
ちょっとだけ協力してくんねえ?
俺にもくれんのか…まあ貰おう
恐竜につつかれれば
もっと食いてーの?いいよ

竜に乗って見る景色は壮観
あはは、すげ
へえ、泳ぐ恐竜もいるのか
オズ、帽子
落っことさないよーにしろよ

赤い花?ほんとだ
蒲公英みたいな花はあっかな

んー、とりあえずさ
此処で一番高いとこに咲いてる花
見つけに行かねえ?


オズ・ケストナー
アヤカ(f01194)と

きょうりゅうっ
空とぶ竜に乗りたいって話
アヤカとしたでしょ
かなうかもっ

ろまん、ろまんっ
かぎ
アヤカといっしょならきっと見つかるね

そうだねえ
おっきい花がたくさん…
あれ?
ねえアヤカ、あれきょうりゅう?
空とんでる

わたしもともだちになりたい
わたしのおやつもたべる?
果物差し出し
アヤカもたべる?
おいしいよ

とんだっ
ぶわっと風に煽られて目を閉じ
アヤカにぎゅっとつかまって

わあっ
みずうみにもきょうりゅうがいる
およいでるのかな
うん、と帽子を押さえ
花がおおきいから、上からでもよくわかるね
あのあたり、赤がたくさんだっ
(赤はアヤカの色だからすぐに目がいく

いいねっ
竜を撫でて
たかいところまで、れっつごーっ




 そこはとても雄大な世界だった。一歩足を踏み入れた途端に熱帯雨林の温かな空気が訪問者を包み込む。草花の匂いが漂い、空はとても高い。ここは地下の大空洞だから何処かに天井があるはずなのに、それらしいものは全く見えず、本物の空と勘違いしてしまうほどだ。

「きょうりゅうっ」
 オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は広大な世界を眺めながら、キトンブルーの瞳を煌めかせる。プラチナブロンドの髪を揺らしながらぴょこんと跳ねるように浮世・綾華(千日紅・f01194)の傍へと駆け寄って、真っ直ぐに彼の顔を見上げた。
「空とぶ竜に乗りたいって話、アヤカとしたでしょ」
 とても楽しげなオズの言葉に、綾華はその会話を交わした時の記憶が鮮明に蘇った。
「あは、良く覚えてんねえ。竜とか気球とかに乗りてーって話な」
 オズは色々なことをとてもよく覚えている。それはオズにとって、交わす会話も何処かへのお出かけも、全て大切な宝物だからだ。彼の心の中はキラキラ輝く大事な思い出でいっぱいだった。ひとつも忘れたくないし、忘れたりしない。
「かなうかもっ」
 きっと翼竜もいるはずだ。仲良くなれば、背に乗せてもらえるかもしれない。――とてもワクワクする。
「折角だし叶うといーケド……何処にいっかな、恐竜」
 風に乗って恐竜達の声は聞こえてくるが、まだ姿は見えない。それに。
「それ抜きでも恐竜は男のロマンだしネ」
「ろまん、ろまんっ」
 綾華は笑い、オズはわあいと諸手を挙げてはしゃいだ。

「花が鍵なんだっけか」
「かぎ。アヤカといっしょならきっと見つかるね」
 2人はグリモアベースで聞いた話を思い出していた。どうやら花を探していけばいいらしい。
「変わった花っつっても此処の花はどれも変わってるし――」
 ふむうと、綾華は顎に手を当てて辺りを見回した。見たことのない花があちこちに咲いている。花が好きな綾華だが、初めて見る名前の分からない花だらけだった。そして、全体的に巨大だ。
「そうだねえ。おっきい花がたくさん……あれ?」
 オズは空中を飛ぶ影を見つけた。綾華の服の袖をくいくいと引っ張る。
「ねえアヤカ、あれきょうりゅう? 空とんでる」
「わ、マジだ、でけー!」
 オズの指差す先にはズンガリプテルスが滑空していた。全長は3メーメル程だろうか。胴体は細いが、頭部とアゴはとても巨大だ。嘴は上に湾曲しており、とても不思議な顔をしているように感じられた。ズンガリプテルスは綾華とオズの傍に悠々と着地して、2人の様子を伺っている。幸いにも襲いかかっては来ないが、綾華とオズを警戒していることは伝わってくる。
「アヤカ、どうしようっ」
「そうだな……やっぱこれか」
 ズンガリプテルスの好きそうなもの――彼らは貝類や甲殻類などを餌としていたらしい。綾華はエビやカニをズンガリプテルスの前に並べて交渉を始めた。これで状況を打開したい。
「な、これやるから、ちょっとだけ協力してくんねえ?」
 綾華の言葉を最後まで聞く前に、ズンガリプテルスは凄まじい勢いでカニに噛りついていた。瞬く間に嘴の奥にある鋭い歯で固い殻もガリガリと砕き始める。お腹が空いていたらしく、なかなかにいい食べっぷりである。
「わたしもともだちになりたい」
 わあと目を丸くしながらもりもり食べるズンガリプテルスを見つめていたオズは、よおしと決意して翼竜に近づく。そして瑞々しい葡萄を手のひらに乗せて差し出した。
「わたしのおやつもたべる?」
 エビも食べ終えたズンガリプテルスは、その葡萄にそっと嘴を近づける。そしてピュッとすごい速さで葡萄を嘴に挟み、むしゃりと食べてしまった。どうやら果物も好きらしい。気に入ってもらえて良かったと、オズは朗らかに笑う。
「アヤカもたべる? おいしいよ」
 オズが持ってきた葡萄は、皮もおいしく食べられる種無し葡萄だ。
「俺にもくれんのか……まあ貰おう」
 綾華は一粒摘まんで口に放り込む。瑞々しくて甘い。
「お、うまい」
「でしょ?」
 オズは幸せそうに笑う。自分がおいしいと思ったものを、同じようにおいしいと感じてもらえると、すごく嬉しくなる。
 もう一粒と、葡萄を手に取った綾華をズンガリプテルスは嘴でつついた。攻撃してきた訳ではない。次なる食べ物を催促しているのだ。
「もっと食いてーの? いいよ」
 綾華は楽しげに笑いながら、今度は大量の貝を取り出して並べた。
「ギュワァ!」
 ズンガリプテルスは歓喜の声を上げてバリバリムシャムシャと全ての貝を食べ尽くす。その頃には、ズンガリプテルスはおいしい食べ物をくれた2人にすっかり懐いていた。


 綾華とオズは仲良くなったズンガリプテルスに、その背中に乗せてもらえないかとお願いしてみた。ズンガリプテルスはいいよと快く返事をし、巨大な翼竜と共に2人は大空へと舞い上がった。
 ズンガリプテルスに乗って見る景色は壮観だ。大地はあっという間に遠くなり、綾華は胸を弾ませる。
「あはは、すげ」
「とんだっ」
 オズもわあと感激する。だがぶわっと風に煽られて、思わず目を閉じた。吹き飛ばされないようにと慌てて綾華にぎゅっと掴まれば、綾華もオズの体をしっかりと掴む。これでズンガリプテルスの背から落ちてしまう心配はない。オズはほっと安心して目を開けた。その時、オズの瞳に飛び込んできたのは、眼下に広がる大きな湖だった。
「わあっ。みずうみにもきょうりゅうがいる。およいでるのかな」
 オズは身を乗り出して恐竜達を見ようとする。
「へえ、泳ぐ恐竜もいるのか」
 綾華も湖を見下ろした。恐らくプレシオサウルスだろう。上空のズンガリプテルスに気づいたのか、長い首を持ち上げてこちらを見つめている。オズは笑顔で手を振った。
「オズ、帽子」
 綾は風に煽られて飛んでいきそうになっていたオズの帽子にそっと手を添える。
「落っことさないよーにしろよ」
 オズは綾華の言葉にあっと気づき、うん、と帽子を押さえた。白い鳥の羽から作られた帽子飾りも風をうけてふわらと揺れる。旅の無事を祈って贈られたこの帽子飾りは、オズの大切なお守りだ。

「花がおおきいから、上からでもよくわかるね。あのあたり、赤がたくさんだっ」
「赤い花? ほんとだ」
 オズが指し示す先には大輪の赤い花が咲き誇っていた。
「わたしね、きれいな色が好き」
 いつかの早春の日、オズから同じ言葉を聞いたことを綾華は思い出した。その時、オズはぴんく色が好きだと言っていた。その時に出会った少女の大好きな兄の瞳の色がぴんく色だったことを思い出す。
「だからね、赤も好き」
 ――赤はアヤカの色だからすぐに目がいく。とてもとても、きれいな色。
 オズの真っ直ぐな言葉に、綾華はほんの少しだけくすぐったそうに笑う。以前、アックス&ウィザーズの『鍵』をモチーフとしたお祭りの夜市で手に入れた、鍵型のピアスにあしらわれた緋色の柘榴石が柔らかに煌めいた。
「そっか、俺も好きだしな。蒲公英みたいな花はあっかな」
 きっとオズの笑顔のような、温かなおひさまの光に満ちた蒲公英みたいな花も何処かに咲いているだろう。

 だがこの世界はとてつもなく広い。虱潰しに探すと時間がかかりすぎるし効率も悪い。どうすべきかと綾華は考え、思いついたことをオズに提案をした。
「んー、とりあえずさ。此処で一番高いとこに咲いてる花、見つけに行かねえ?」
 オズはその言葉にわあっと顔を輝かせた。一番高いとこ。それだけでもワクワクする。
「いいねっ」
 オズはズンガリプテルスを撫でてお願いをする。
「たかいところまで、れっつごーっ」
 オズの掛け声に合わせて、ズンガリプテルスはどんどん高度を上げた。


 断崖絶壁の更にその上の、まるで塔のように聳えている岩山の頂上の部分。普段は誰も近寄らず、偶に翼竜が羽を休める場所にも花が咲いていた。鮮やかな赤い花だ。花びらは蒲公英によく似た黄色で縁取りされている。
 その花に寄り添うように「鍵の石版」は置かれていた。まるでこの世界で一番高いところから、元気な恐竜達を楽しそうに眺めているかのようだった。

 綾華は石版を手に取った。石で作られているだけあって、ずっしりと重い。
「すごいっ。ここにあったんだね」
 オズはやったあと跳ねて喜ぶ。わたしも持ってみたいと綾華に伝えて石版を渡してもらえば、その重さに驚いてしまう。けれども、きっとこの石版には一生懸命探したみんなの想いが詰まっているから重いのだろうと、そんな風にオズは思った。


 こうして鍵の石版を探す冒険は終わりを告げた。
 これからも恐竜達が平和に暮らせるようにと祈りながら、猟兵達は帰路に着く。その為にもこの戦争に必ず勝たなければならないと、少しの休憩の後で次の戦いへと向かう猟兵も多かった。
 全てが終わったら、再びこの大空洞を訪れるのもいいだろう。仲良くなった恐竜達はきっといつでも歓迎してくれるはずだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年11月17日


挿絵イラスト