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貴方に花を

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●scene
 母は花を『創る』のが好きだった。
 日々の不毛な農作業と、積み重なった家事に追われ、かたくささくれ立った掌で、アンナの母はいつも村の片隅に花の種を蒔いていた。ありもしない希望を手繰るように、世話をし続けるその行為を、アンナは栽培というより創作だと思った。
 とこしえの闇に沈んだこの大地に、美しい花など芽吹くはずもない。多くの花はつぼみすらもつける事なく枯れ果てて、奇跡的にひらいた花もそれはそれは弱々しいものだ。それでも毎日水をあげながら、母はアンナに言いきかせた。
『きっといつか、綺麗な花が咲く日が来るわ。昔ね、お父さんとあの森の奥に行った時、確かに見たことがあるのよ。お城の庭に、信じられないくらい綺麗な薔薇の花が咲いていたわ。鮮やかな紅色の、とても素敵な……』
 その父も数年前に病に倒れ、いまアンナは、母とふたりで貧しく暮らしている。
 アンナは、そんな母をーー馬鹿だと思っていた。

「……お母さん?」
 ある朝のことだ。数日前から風邪で寝込んでいたアンナの母は、古びたベッドの中でぐっすりと眠りこんだまま目覚めなくなった。
 その寝顔はとても安らかで、けれど何日経っても目覚めることはなく、村の医者も原因がわからないと匙を投げ、アンナはわらにもすがる思いで村を飛び出していった。
 お城へ。
 お城へ行かなくちゃ。
 今は荒れ、入った者が二度と帰ってこないとすら言われている、禁忌の森を抜けた先にある廃城へ。
 アンナは走った。ありもしないものだと、ずっと鼻で笑っていた希望のかけらに頼った。
 その庭に咲いているという深紅の薔薇がもしあるのなら、母だって助かるかもしれないと。

 村に彼女を引き留める者はいなかった。みな、自分が生きるだけでせいいっぱいだった。
 そして森の獣に襲われたアンナは、苦痛と恐怖と後悔の中で、ふいに安らかな眠気に襲われる。
 ああ、きっともうわたしも母も、この乾いた大地の底から、昏い空を見上げることはないのだろう。そうと悟ったアンナは、獣に喰われているというのに、不思議と笑ってしまった。
 やっぱりわたしも、あのひとと同じ馬鹿な娘だったのだ。

●warning
 グリモアベースに映るダークセイヴァーの風景は、いつ見ても厭になるほど陰鬱だ。今はどうしてか此処に集っている無数の鴉たちの鳴き声が、その重い空気を一層不気味なものに変質させていた。その中央で餌を撒いている、これまた曰くありげな雰囲気の青年が、どうやらこの鳥たちの主人であるらしい。
「古来、ある民族は夜半に啼く鳥の声を災いの前兆であると考えて恐れたらしい。迷信だけどね。きみはどんな動物が好き?」
 存外に甘く柔らかい、だがどこか冷ややかな声で、彼は猟兵たちに語りかける。猟兵たちが思い思いの反応を返すと、そう、きみはそういう人なんだねと、謎の青年は緩慢に頷いてみせた。
「狼は好き? 狼に食べられて死んでしまう女の子がいてね。それ自体は不幸な事故なんだけど、背景にオブリビオンが関わっているみたいだ」
 不審な青年はそこでやっと、自分はグリモア猟兵の鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)であると名乗った。
 遊学と称し、異世界をそぞろ歩く物好きな人間であること。好きな動物は恐らく鴉で、早寝早起きと掃除が苦手なこと以外、素性はまったくの不明という、結局謎の男であるらしかった。

 アンナの母を醒めない眠りに落としたのは、『パラノロイド・トロイメナイト』という名のオブリビオンだ。
「その子はね、死の運命にある人に安らかな眠りを与えにくるオブリビオンなんだ。救いを求めている人の前にしか現れないんだって。なんだか妖精みたいで可愛いよね」
 つまり、アンナさんのお母さんはあのまま放っておいたら、風邪をこじらせて肺炎で死んでしまうところだったんだけどーー鵜飼はそう続ける。
「これはあくまで僕の考えになるけど……パラノロイド・トロイメナイトは、完全に悪い子だとは言えない。でも、このまま放っておけば、眠りに落ちる人が増え続けて村の人も困るだろうね」
 だから、その前に探し出して倒す。
 そして、禁忌の森へ薔薇を摘みに行ったアンナも保護してほしい。それが鵜飼からの依頼だった。

「彼女はもう村を出てしまった後だけど、まだそこまで森の深くには行っていないはず。廃城への道もきっとお母さんに聞いているだろうから、まずは彼女を探してあげて」
 パラノロイド・トロイメナイトは、普段は件の森の奥の廃城に姿を潜めているらしく、簡単には見つからないだろう。
 そして討伐の他にも、やるべき事は色々ありそうな話だがーーそんな空気を察したのか、鵜飼は静かに微笑んだ。まるで相手を愛すべき獣だとでも思っているような、奇妙な眼をして。
「幻の薔薇、あると思う? 僕はその可能性は否定しないよ。生き物って不思議なものだから」


蜩ひかり
 猟兵の皆様、初めまして。蜩ひかりと申します。
 このたび皆様の冒険の一端を綴らせていただける事になりました。
 よろしくお願いいたします。

●重要なご連絡
 今回はリプレイの執筆開始が最短でも10日以降になります。
 OPもちょっと長めですので、ゆっくりプレイングを考えていただければ幸いです。
 早く送っていただいた方は同内容での再送も歓迎です。
 よろしくお願いいたします。

●大まかなシナリオの進行
 【一章】森へ入ったアンナを探して保護します。
 【二章】禁忌の森を突破し、廃城へ向かいます。
 【三章】廃城でボスと戦い、勝利すれば成功です。

 シナリオを成功させるための行動以外にも、このタイミングでこれをやるべきだと思った事はなんでも自由に書いてOKです。
 廃城の薔薇はあるかもしれないし、ないかもしれません。
 結末はプレイング次第で大きく変わると思います。

●登場人物
『アンナ』
 15歳の娘。現実的で、少しひねくれた性格の少女。
 母親の思い出の森がそこまで危険な状態になっているとは知らなかったようです。

『アンナの母』
 敵オブリビオンの能力により、自宅で眠り続けています。
 パラノロイド・トロイメナイトを倒さない限り目覚めず、目覚めても何もしなければ近いうちに病気で亡くなります。

『幻想術師【パラノロイド・トロイメナイト】』
 心を持った異形のオブリビオン。
 説得が有効な相手です。

●同行者/描写について
 ご一緒に冒険されたい方がいる場合、冒頭に【同行者のIDと名前】か【グループ名】を必ずお書きください。
 無記入でもこちらで連携させたりする場合があるので、ソロ描写をご希望の方は【ソロ】とご記入願います。

 以上です。
 部分的な参加、途中参加も歓迎です。
 プレイングをお待ちしております!
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第1章 冒険 『薔薇の檻』

POW   :    気合とパワーで追跡する

SPD   :    スピード重視で追跡する

WIZ   :    賢く効率的に追跡する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●1
 村の北東に位置するその森は、立ち入る者がいなくなって久しいようだった。遠目に見るとまるで幽霊のようなやせこけた木々が、無秩序に枝を伸ばし、絡み合い、昏い空を檻の向こうに閉じこめているようにも見える。
 いや――この風景に囚われているのはきっと、人間の方なのだろう。
 集まった猟兵達は、薔薇の檻へと足を踏み入れた。アンナをここから助けだすために。
リインルイン・ミュール
んー、これが既に死んでいるものであれば気にしなかったんですケド
思う所もありますし、当然、助けられるものは助けますヨ

というわけで、効率的に探しまショウ!
まずは情報収集、大体の方向を掴む為に足跡を探して
見つけたら、確認出来る内はそれを辿るように軽くダッシュ
彼女、走っていったんですよネ? であれば、歩いている時は避けるような場所も突っ切っていった可能性もありますカラ
足跡が見えないくらい深い森に入ったら、彼女の名前を呼びながら
踏み折られた木の枝や、人の身長辺りで掻き分けられた茂みなどを探して通りマス

保護出来たら……一人で村に帰すと途中で襲われるかもですし、どうしましょう?
その辺りは他の方とも相談ですネ


リヴィア・ハルフェニア
[WIZ]時間を気にしつつも、効率的に追跡する。

『走れば躓く、ね。確かにスピードも重要だけど、森の中だもの。迷ったり、時間がかかったら見つかる人も見つからないわ。』
狼等に会わない様に気を付けて探し、相棒(精霊)には『ねえ、ルト。私はアンナさんを森の中から探すから、貴方には上から探して欲しいわ。空でも目立ち過ぎないように気をつけて。何か見つけたり、気付いたら教えてね。』とお願いする。
アンナを見つける事が出来た場合は怪我をしていたら安全そうな場所まで移動(場合によっては移動せず)し、ユーベルコードを(優しい旋律で)使用。
不要なら、周りに気を付けながら保護する。

≪アドリブ、絡み歓迎≫  


岡森・椛
アンナちゃん
私と同じくらいの年齢の女の子
私も同じ立場なら、きっと同じ様に飛び出していたよ
だって…
縋れる希望を見過ごしたら後悔しか残らないもの

【WIZ】で追跡
可能ならアンナちゃんの家の玄関付近を調べ、彼女の靴の足跡を把握しておく
森で該当の足跡を見付けたら追跡するね
周辺地図もあるなら入手

急いで森を抜けようとしてるのだから、あまり左右の道に逸れたりはしないと思う
森を抜ける真っ直ぐなルートに近い場所を中心に調べる
踏まれた草とか人の気配とか、違和感は見逃さない
行き詰っても第六感でピンと来る感覚も活用し前へ進む
コミュ力使用で周囲の仲間とも情報共有

発見時は怖がらせない様に注意
アンナちゃん!
皆で助けに来たよ!



●2
 ごく平凡な街で、ごく平凡に育ってきたという少女の澄んだ瞳に、木漏れ日のさすことがない森の風景はいったいどのように映ったことだろう。
 岡森・椛(人間の精霊術士・f08841)とアンナは、まったくちがう世界で、まったくちがう暮らしを送ってきた少女たちだ。けれど、椛だからこそ理解できることがあった。
 ――アンナちゃん……私も同じ立場なら、きっと同じように飛び出していたよ。
 愛情にあふれた両親のことを想い、しばし空を見上げていた椛は、大事な紅葉の髪飾りをなくさないようしっかりと固定しなおす。
 もし母が病気で倒れたら――そう思ったら、放っておけなかった。縋れる希望を見過ごしたら、後悔しか残らない。

「急いで追いかけたいけれど……走れば躓く、ね。確かにスピードも重要だけど、森の中だもの。迷ったり、それで時間がかかったら見つかる人も見つからないわ」
 ゆえに急がば回れ、というわけだ。
 椛とリインルイン・ミュール(紡黒のケモノ・f03536)は、森に残るアンナの足跡に注目していた。効率を重視するリヴィア・ハルフェニア(歌紡ぎ、精霊と心通わす人形姫・f09686)としても、その着眼点は見逃せなく思ったようだ。
 日の当たらない森の土はところどころぬかるんでおり、人や獣の足跡がつきやすい状態だった。アンナの足跡さえ見つけることができたなら、ひとまず迷うことはなくなる。
「村で家の周りを調べてみたら、アンナちゃんの靴らしい足跡がわかったの。地図も貰ってきたよ。リヴィアさん、役に立ちそうかな?」
「ええ、やってみましょう。ねえ、ルト。私は森の中から探すから、貴方には上から探して欲しいわ。空でも目立ち過ぎないように気をつけて。何か見つけたり、気付いたら教えてね」
 リヴィアの友であり相棒の精霊ルトは、まかせてと言うようにリヴィアの周りをくるくる舞うと、変幻自在の身体を森の小鳥そっくりに変えた。これなら周りの風景にも溶けこめるだろう。
 神秘的な美しさをもつ人形姫の指に小鳥がとまる姿は、まるで物語の挿絵のようにロマンチックだ。椛はついついうっとりしてしまいそうな気持ちをぐっと引き締め、自分も周囲に踏まれた草などがないかを確認していく。

「お帰りなさい、ルト。足跡が見つかったのね、有難う」
 程なくして、ルトがリヴィアの元へ帰ってきた。ぱたぱたと羽ばたいていくルトを追い、猟兵達は森の奥へと進む。
「ふむ、世界にはこんな精霊もいるんですネ! では、ワタシも失礼致しマス!」
 『どろどろ系女子』としては、ルトの力に親近感を覚えたのだろうか。楽しげにぴょんと一跳ねしたリインルインの黒い身体もまた、漆黒の獣の姿に変わった。
 やがて見つけた足跡を辿って、黒い獣は誰よりも速く、まっすぐに駆けた。急いで森を抜けようとしてるのだから、まっすぐ走るはず――椛の考えは当たっていたようだ。
 泥がはねても元より黒い。折れた木の枝を踏んで、少しぐらいかすり傷を負っても、足を止めはしない。
「アンナー! 聞こえますカー! 聞こえたら返事をして下サーイ!」
 既に死んでいるものであれば気にはしなかった。けれど、まだ助けられるのならば、助けるのが当然。あまり過去にとらわれないリインルインの考え方はシンプルだ。それに、ほかに思う所もある。
 しかし、やがて足跡はとぎれ、リインルインはいったん足をとめた。ここより先は深い藪の中に入ってしまうようだ。
「歩いている時は避けるような場所も突っ切っていった、って事ですカ……」
 また別の追跡方法を考えねばならないだろう。だが、確実に近づけてはいる。

 そういえば、とリインルインは仲間たちのほうを振り返った。
「彼女……一人で村に帰すと途中で襲われるかもですし、どうしましょう?」
 追いついてきた猟兵達は思い思いの意見を口にする。その結果、どうやら今は『アンナを護衛して一緒に古城へ向かいたい』と考えている者が多数派のようだとわかった。
 ここまで一気に駆け抜けてきた皆を労って、リヴィアは癒しの歌を口ずさんだ。ルトのさえずりが優しい旋律と重なって、仲間たちの疲れや細かい傷を癒していく。
 『シンフォニック・キュア』――歌声に共感した者すべてを癒すユーベルコード。
 護りと浄化をもたらす祈りの歌は、集まった猟兵達の想いがひとつであることを示していた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

花邨・八千代
そうさなァ、眠るように死ねるなら苦痛も何もないんだろうよ
ただ、今際の際の話すらできねェのは聊か情緒がねェなァ
死人にゃ口なしだ、生きてるうちに話さねーとな

◆行動
その娘の家から一番近い森の入り口から捜索開始だ
【空躁】で飛びつつ高い位置から探すぜ
「第六感」でなんとなく居ると思う方向を中心に探しつつ、地面に足跡がないか注意しながら捜索
もし狼の鳴き声がしたらそっちの方にひとっ跳びだ、襲われてちゃやばいしな
捜索中に狼に出会ったら空躁で飛びつつ「恫喝」で散らす
諦めねぇなら「怪力」でぶん殴るぜ、容赦はしねぇ


藤塚・枢
妖精みたいなオブリビオン?
それこそ悪い夢だよ
実際にいるみたいだから、夢ではないのだろうけれど…
ま、アンナさんを捜索しないことには始まらない
お母さんが目を覚ました後のことは、まあ…(薬品鞄を眺め)やれるだけはやってみるよ

地縛鎖で地域の情報を収集
彼女を襲うのは狼だ
生息圏が分ればアタリもつけ易い
それを地図・足跡と照らし合わせて、15歳の少女が向かうことが可能な方向を重点的に捜索
颯の歩法を連発して時間短縮&やや上空から探すよ
他の猟兵に影の追跡者の召喚をつけて、情報の広範囲化もしておく

見つけることができたなら、古城へ一緒に行かないかと誘ってみる
私も少しだけ、信じてみたくなったところでね
深紅の薔薇の存在を


オブシダン・ソード
ヒトは時々よく分からないことを願うね
でも、願うなら手を貸すのが僕達『道具』だ

夢中で古城を目指しているって言うのなら、そっちにまっすぐ行ったんだと思うけど

深い藪、か
引っ掻けた衣服の切れ端とか、切っちゃった血とか、そういう形跡があったりはしないかな?
目立つ色の服とか着ててくれると良いんだけど
飛んだりとか鼻が利くとかできると良いなと思うんだけど、誰かやれる人いない?
何か手伝えることがあるなら手伝うよ

ある程度方向が定まったら、ほら、急ごう
邪魔な枝とか藪なら僕がぶった斬って退けるからね

見つけたら、励ましと一時の治癒を
ほら、諦めるにはまだ早いよ
見に行くと決めたのなら、最後まで行こう
ね?
僕も手を貸すからさ



●3
「深い藪、か……あー、君達はこっちこないでねー」
 目深に被ったフードの下から、常のごとくに飄々とした表情をのぞかせる青年は、かきわけた藪から飛び出してきた羽虫の大群を払いのけながら、ばつが悪そうに皆へ微笑んでみせた。
「引っ掻けた衣服の切れ端とか、切っちゃった血とか、そういう形跡があったりはしないかな?」
 きょろきょろと辺りを見回す彼の名はオブシダン・ソード(黒耀石の剣・f00250)。かつての持ち主とともに永く眠りについていたという剣のヤドリガミであるが、新たな生を謳歌する彼の言葉や表情は人間味にあふれるものだ。
 目立つ色の服とか着ててくれると良いんだけどなぁ、と独りごちたオブシダンは、ぽんと手を叩き思いつきを口にする。
「飛んだりとか鼻が利くとかできると良いなと思ったんだけど。誰かやれる人いない?」
「おう。難しいこたァよくわかんねーけど、跳んだりとか殴ったりとか、そういうのなら任しとけ」
「私はどちらかというと、策を巡らせる方が専門なんだけどね……出来なくはないさ、やってみよう」
 オブシダンの呼びかけに答えた花邨・八千代(可惜夜エレクトロ・f00102)と藤塚・枢(スノウドロップ・f09096)の二人が、それぞれ【空躁】と【颯の歩法】を使用し、宙を蹴って地上を離れた。
 まるでそこに見えない階段があるように、二人は軽快に空中を駆けあがり、高い木の枝の上に降り立つ。枢の羽織ったすこし大きいピンクのハーフコートが、昏い空の上で一際あざやかにたなびいていた。
 
 地上と上空に分かれた猟兵達は、各々の得意な方法で藪に入ったアンナを捜索していく。第六感を頼りにし、オブシダンの言っていたような形跡を探しながら木から木へと跳んでいた八千代は、ふと耳に入ってきた音を聞き、思わず舌打ちをする。
 ――狼の吼える声。
 アンナに危機が迫っているかもしれない。ひとっ跳びして声のした方へ駆けつけると、そこには枢もいた。地縛鎖で収集した狼の生息圏を地図や足跡と照合し、15歳の少女が向かうことが可能な方向を捜索すれば――自ずと狼にも出会う。
 八千代の姿に気づいた枢は静かに頷くと、下の茂みを指さす。
 茂みの中で光る眼があった。さわさわと叢が揺れ、土や木の香りにまじって、独特の獣臭さがほのかに漂ってくる。
 一つ、二つ……いや、もっといる。狼の群れだ。どうやら獲物を探しているらしい。
 野生の狼は用心深い動物であり、闇雲に人を襲うようなことはあまりないはずだ。だが、たったひとりで森を歩いていたか弱い少女は格好の獲物として映り、途中で襲われてしまったのだろう。
 捜索という目的からは少々はずれるものの、ここで狼たちを蹴散らしておけば、アンナが襲われる未来を回避できるかもしれない。そうと思ったら、八千代が動くのは速かった。
 突然木から落ちてきた八千代に驚いた狼達が、いっせいに彼女へ襲いかかる。だが、血で濡れるのは好都合――南天紋の描かれた印籠は八千代の血を吸って、敵に苦痛を与えるための凶刃と化す。
 女の身体にうっすらと、般若の形相が浮かぶ。
 凄まじい力で武器を振り回しながら、八千代は叫んだ。
「おらおらどうした、かかってこいやァ!! 俺がテメーらの獲物になってやんぜ!!」
 ――これは森の獣などより、遙かにたちの悪い猛獣だ。
 敵わないと踏み、慌てて逃げだした狼の一匹が、いつのまにか地面に張り巡らされていた鋼糸に足をとられ、木の枝に吊るし上げられた。枢が密かに設置した即席の罠だ。
「問題ない、すぐに追い掛けるよ。皆は捜索を続けてくれ」
 何事かと様子を見にきた他の猟兵へ向けて、枢は影の追跡者を放つ。
 承知したと頷き、先へ進む仲間の背を見送り、八千代と枢は残る狼たちを見据えた。狼に手こずるような猟兵達ではないが、全て追い払うとなると少々骨が折れそうだ。
「そうだね、それがいい。僕も手伝うよ」
 二人の想いを感じ取ったように、いつの間にか傍らに現れていたオブシダンが、黒曜石の剣をひゅんと軽く振るう。
 魔力を宿した刃は獣の鼻先をかすめ、ぷすりと煙をあげる。炎の気配に恐れをなした狼たちは、一目散に逃げ出していった。

 そうして幾つかの狼の群れを追い払ったのち、枢は少し疲れたのか、ほうとため息をついた。
 ふたつのユーベルコードを酷使したことによる純粋な疲労もある。だが、それ以上に枢を悩ませているのは、もっと別のことだ。
「妖精みたいなオブリビオン? ……それこそ悪い夢だよ」
 苦々しく呟いた枢の声に一瞬、狡猾な仮面の下に隠した等身大の少女の感情がにじむ。
 パラノロイド・トロイメナイト――実際にいるのなら、夢ではないのだろうけれど。
 オブリビオンを害虫とすら言い放ち、ひたすらに屠ってきた枢としては、にわかには信じがたい話なのだろう。一服していた八千代は煙を吐き出すと、なんとなくわかるぜ、と頷いた。
「そうだなァ、眠るように死ねるなら苦痛も何もないんだろうよ。ただ、今際の際の話すらできねェのは聊か情緒がねェなァ」
 死人にゃ口なしだ――生きてるうちに話さねーとな。
 昏い空にひとすじ、白い煙がのぼっていく。
「それで、君はどうしたい? 諦めるつもりはないんでしょう?」
 オブシダンが枢に問いかける。そのなにげない問いは、彼のユーベルコードの発動条件であり――おそらく純粋な疑問でもあった。
 何かの役に立てば。密かに薬品をつめてきた鞄を眺め、枢は二人に告げる。
「まあ……やれるだけはやってみるよ。私も少しだけ、信じてみたくなったんだ。深紅の薔薇の存在を」
「うん。君の望み、確かに僕が聞きとげた。見に行くと決めたのなら、最後まで行こう。ね?」
 僕も手を貸すからさ。
 オブシダンが穏やかに微笑むと、八千代の傷も、枢の疲労も、不思議と一瞬で消えてなくなってしまった。『願いを問う言葉』に共感した者を治療する力――【尽きぬ願いを】。
「ほら、急ごう」
 先へ行った仲間たちに追いつくべく、ただ一振りの剣は立ち塞がる藪を斬りひらいて進む。
 ヒトは時々、よく分からないことを願う。
 でも、願うなら手を貸すのが、僕達『道具』なのだから。

苦戦 🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

赤嶺・愛
●心情
一人で森の中に入ったら危ないよねー。
私達猟兵が、なんとか彼女を保護しないと。

●行動
POW判定の行動を取るね。

人探しは、気合とパワーだよ。

とにかく、人が通れそうな道を突き進んで探してみるね。
森の中でも歩きやすい様に、丈夫な靴を履いておくよ。
後は、念のため、照明となるものを用意しておくね。
深い森は暗いかも知れないから。

分かれ道とかになったら、樹に目印の傷を付けておいて
私も迷子にならない様に注意するね。

後は、大声でアンナさんを探すね。
「アンナさーん、一人は危ないよ、聞こえたら返事をしてねー!」
アンナさんを見つけたら、
『医術』で怪我している所があれば応急手当をするね。



●4
 多少の障害物があったって大丈夫。人探しは――そう、気合とパワーだ!
 昏い森の中で、可愛らしいピンクのリボンとフリルがひらひらと揺れる。
 全身を包むハートの意匠が施された装備には、いつかこの世界にもあたたかな平穏が訪れることを願い、ひたむきに剣をふるう彼女の信念が宿っている。
 足下を埋めつくす枯れ枝を踏みしめて、ぬかるんだ斜面にもひるむことなく、赤嶺・愛(愛を広める騎士・f08508)はずんずんと森の中を進んでいく。
 滑り止めや防水加工がほどこされた丈夫なトレッキングブーツにも、しっかりとハートのワンポイントが刻まれていた。

 人が通れそうだ、と思うところなら、愛はとにかくどこにでも行ってみた。
 ほかの猟兵達が探していないような場所――例えば、通り抜けられそうな洞窟の中を持参したライトで照らし、入口から声をかけてみる。
「アンナさーん、聞こえるー!?」
 愛の大きな声が洞窟の中ではね回って、残響がこちらへ帰ってくる。返事はない。
 洞窟の手前にあった樹のそばまで引き返した愛は、目印にバツ印の傷をつけておく。森の中は似たような景色が多く、こうして印をつけておかないと猟兵たちまでうっかり迷子になってしまいそうだ。
「ここにもいなかったかー。心配だなあ。私達がなんとか保護しないと!」
 幼いころに憧れたヒーロー。迷い、困っている人々の前に現れ、笑顔で手をさしのべるその姿を思い出し、ぐっ、と気合いを入れ直す。
 まだまだ諦めない。愛はまた元気よく進みはじめた。

 細かいことは考えず、とにかく行動あるのみ。愛用のバスタードソードで藪をかきわけながら、大声で呼びかけつづける。
「アンナさーん、一人は危ないよ、聞こえたら返事をしてねー!」
 ――その時、遠くからかすかに声がした。
「だれ!?」
「アンナさん!?」
 愛は声のしたほうへ向き直ると、すぐさま走り出した。突然現れた見知らぬ少女を前に、目をまるくして驚くアンナへ、愛はにっこりと笑顔を向ける。
「助けに来たよ!」
 ――あの日、憧れたヒーローのように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シェーラリト・ローズ
廃城の薔薇…オブリビオンのものなら今もありそう

「まずアンナを見つけないとねぇ」
アンナの痕跡を確かめながら追跡
自分の第六感や聞き耳を頼りにするだけでなく、足跡や草が倒れてる方向、折れた枝の他動物の糞なんかも注意して見ておくね
アンナを見つけたら、
「廃城の薔薇の噂を聞いたんだけど、あなたも探してるの? お仲間?」
信じて貰えるよう怖がらせないよう話す
どうして薔薇を見たいか聞かれたら
「こんな世界綺麗なもの見なかったら荒んじゃうからね」
どこでも物騒だしと軽口叩き彼女へ同行を希望
あると思うか聞かれたら
「ないと思ってたら来ないよー
こんな世界に残って綺麗に咲いてる姿是非見たい」

戦闘になったらアンナを護るね



●5
 アンナの気配を辿りながら歩くシェーラリト・ローズ(ほんわりマイペースガール・f05381)の鼻歌が、陰鬱な森の空気の上をふわふわ雲のように漂っている。まるで近所の森にピクニックにでも来たかのようだ。
「まずアンナを見つけないとねぇ」
 どこかのんびりとした仕草で藪をかきわけながらも、金の双眸は草の倒れている方向や、折れた枝などの痕跡をしっかり探している。
 その時――愛の呼びかけに応えるアンナの声が耳に入った。シェーラリトも声のした方向へ急ぐ。

「助けに……? あなたたち、この辺りでは見ない人ね。なんなの? どうしてわたしを知ってるの?」
「えっとねー、わたしたち、廃城の薔薇の噂を聞いて、あっちの方の街から来たんだけど」
 シェーラリトはそう言って、実際に故郷のある方角を指さしてみせた。
 信じてもらえるように、ちいさな事でもなるべく嘘は言わず、にこやかに微笑んで。
「わざわざ遠くからこんな所に来たの……?どうして?」
 この世界のありさまに絶望している者ならば皆そうだろうが、アンナはかなり疑り深い性格らしい。警戒心をあらわにし、こわばるアンナの肩をぽんと叩いて、シェーラリトはわかるよー、とうなずく。
 ――こんな世界、綺麗なもの見なかったら荒んじゃうからね。
「……別に、あるなんて思ってないわ、そんなもの。あなたたちも帰ったほうがいいんじゃない」
 いやいや、とシェーラリトは首を振る。
「ないと思ってたら来ないよー。こんな世界に残って、綺麗に咲いてる姿、是非見たいもん」
 心からの言葉だ。今も、薔薇はきっと咲いている。
 シェーラリトの発する言葉はほんとうに自然だった。そのひとつひとつが、この昏い大地で生きてきた娘としての実感にあふれ、アンナのねじれた心に響くものだった。
「あなたも探してるんだよね? お仲間なら一緒に行こうよ、ほら、どこでも物騒だし?」
 そうそう、一人じゃ危ないよと愛も声をかける。
「わたしは……」

 アンナは迷っていた。信用できるものなど、なにひとつなかった。
 なのに急に現れたこの人たちを、信用してもいいのだろうかと。
 アンナの心は揺れていた。
 奇跡を、信じてみたくなってしまう。
 こんな昏い森の中で、頭に桃色の薔薇を咲かせた少女に出会ったら、それは奇跡以外のなにものでもないのだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

レイブル・クライツァ
狼の鳴き声がしたら迂回とか、行くまでの道が廃れていたら合流し辛いかしら?
暗視と聞き耳と第六感を駆使して、違和感を感じる部分があれば逸れていないかを警戒して追跡を。
他の方が未だ通っていない所があれば、そこも調べつつ進みたい所。
何か目印をつけているかもしれないから、それらしい物も探すわ

アンナさんと合流出来た際、怪我しているなら医術で簡単に応急手当を施すわね。
その後は彼女の意思を尊重したいから、薔薇を自身の手で確保したいとかであれば護衛は任せて頂戴?と安心させてあげられたらと思ってるのよ。
お母様が無事目覚めても、貴女に何かあったら悲しまれるもの。
何もせずにはいられなかったから、此処に居るんでしょう?


エンジ・カラカ
探す、探す……
アァ……追跡を使って探そうか。
辺りに何か手掛かりになるものでも落ちていれば臭いを嗅いでみたり
あとは音。聞き耳でナニカ聞き取れたらそれもたよりにしたいなァ……

狼に食べられてしまう前にコッチが狼を食べないとなァ…
それにしても不思議なオブリビオンもいたもンだ。
アァ……おまえとどっちが優秀かな紅花。
ネクロオーブに潜む君に声かけて、おいかけっこも楽しいなァ……

足の速さと耳と鼻、ダレカの追跡は得意なンだよなァ……
あまり遅くなってもいけない、足の速さを生かしつつ見落とさないように耳と鼻も生かす。
速ければ良いってもンじゃない
他のヤツと情報共有できたらしておきたい。


空廼・柩
――ったく、母親の為だからって
自分まで命を落とそうとしてどうするんだよ
…放置したら死ぬって分かりきってるなら
助けなかったら寝覚めが悪いだろ?

アンナの追跡に【影纏い】が有効なら楽だろうけれど一筋縄でいかないだろうね
聞き耳で少女の足音等が聞けたらそれを手掛りに追跡を試みる
…獣に襲われる未来が見えたらしいから、そっちにも注意しないと
見つけた際、もしアンナが襲われていたら真先に庇いに行くよ
兎に角獣を追い払ってから己のコミュ力を駆使して話をしてみよう
この侭だとまた襲われるかも知れない
本当は家に帰すべきなんだろうけれど…その気はないんだろ?
だったら、俺達がその古城まであんたを送る
護衛にくらいはなる筈だから



●6
「見て……服の切れ端よ。少し血がついているみたい」
 閉ざされた森のなか、闇に慣れたレイブル・クライツァ(白と黒の螺旋・f04529)の瞳はちいさな痕跡を見逃さなかった。
 同行していたエンジ・カラカ(六月・f06959)がその端切れをつまみ上げ、臭いをかぐ。おそらく、若い娘の血。アンナが潅木の枝に服をひっかけ、負傷してしまったのだろう。
「足音も聞こえるわ。複数……穏やかではない気配ね。きっと狼だわ」
 レイブルが念のためと薙刀を構え、一時的に歩みを止める。獣の群れが落ち葉を踏み鳴らし、森の奥へ走り抜けていく足音が、エンジと空廼・柩(からのひつぎ・f00796)の耳へも届いていた。
「あっちへ行くみたいだな。ったく、人騒がせな」
 つめたい空気に影の尾をひき、ふらふら蝶のように漂いながらも、柩の蝙蝠はかすかな気配をたどって一定の方角へ進んでいる。獣らは、柩たちの進路とは真逆の方へ引き上げはじめているらしい。
 どうやら、仲間が狼を追い払ってくれたようだ――外面はいかにもやる気とは程遠い顔をしながらも、柩は人知れず安堵していた。今日も櫛を通さずに来た灰色の頭を掻いていると、その横で人狼がにたりと嗤う。
「探す、探す……狼に食べられてしまう前にコッチが狼を食べないとなァ……」
 そう言うなり、茂みに飛びこんだエンジは、捕えた狼の前脚にがぶりと噛みつき牙を立てる。突然の襲撃におびえた狼は暴れ、もがき、やっとエンジの腕から逃れて遠くへ走っていった。
 だめ押しだ。これでもう、当分人間を襲おうなどとは考えないだろう。
「本当に食うかと思っただろ……」
「アァ……それもイイねェ。痩せててあまり美味そうじゃあなかったけどなァ……」
 絶望的だなァ。なァ、紅花。
 けらけらと笑い声をあげたエンジは、ネクロオーブをいとおしそうに撫でると、呼び出した死霊――紅花とともに、アンナの流した血の臭いを辿って駆けだした。
 装う君の姿は、絶望の森のなかにあってもあざやかにこの眼を照らす。どことなく愉しげに、おいかけっこをするように駆ける彼らのゆく先は、蝙蝠が導く方向とも一致しているようだ。
「アンナさんが道を逸れていたら合流し辛いかと思ったけれど、大丈夫そうね」
 それを見たレイブルも安堵し、続いて足を踏みだす。
 彩りなき森に、彩りなき淑女。夜色のヴェールを纏い、歩く淑やかな立ち姿は絵になるものだが。
「おいあんた、そっちじゃないぞ」
「あら、本当ね」
 仲間が木につけたバツ印を見てレイブルは戻ってきた。どうやらこの人形淑女は、しっかりしていそうに見えて、少しばかり抜けた面もあるらしい。
 二人とはぐれないように気を遣いながら、柩は思う――不本意だがなんとなく、こういう役回りが落ち着いてしまうのだった。

 そうしてやはりアンナの元へ辿り着いた三人は、既に集まっていた仲間たちと共に彼女を説得した。それでもなかなか素直に同行を頼む気にはなれないらしいアンナの足からは、まだ血が流れ、すりきれた靴を赤黒く濡らしている。先ほど茂みで作ってしまった傷らしい。
「見せて。応急手当ぐらいならできるわ」
「いらない。別にいいわ、これ位。……あなたの服が汚れちゃうじゃない」
 レイブルの白いブライスの事を言っているのだろう。さして気にする様子もなく、レイブルは応急処置を行う。きゅっと唇を噛んで消毒の痛みに耐えるアンナを、柩はなんとなく眺めていた。
 ――ったく。母親の為だからって、自分まで命を落とそうとしてどうするんだよ。
 根はほんとうにただの、人並みに家族や他人を思いやり、この絶望の大地でしぶとく生をつなぐことにただ懸命なだけの娘なのだろう。
 目の前にいるこのちっぽけな少女が、あやうく無残な最期を迎えてしまうところだったのだ。
 だから、もう眠いというのについ来てしまった。こんな話を聞いて、助けなかったら――寝覚めが悪いに決まっている。
「狼の声は聞いたな?」
「! え、ええ……」
 すごく怖かったわ、とアンナはつい本音をもらし、はっとする。どうしてか、不思議な力で柩には素直に話せてしまうのだった。
 柩は深く頷くと、冴えない眼鏡の奥の瞳をまっすぐアンナへ向ける。本当はもうその心配はほぼないのだが、この場合嘘も方便だ。
「この侭だと襲われるかも知れない。本当は、あんたを家に帰すべきなんだろうけれど……その気はないんだろ? だったら、俺達がその古城まであんたを送る」
 護衛にくらいはなる筈だから。
 こう見えて皆、腕は立つの。任せて頂戴と、レイブルも優しく微笑む。
「お母様が無事目覚めても、貴女に何かあったら悲しまれるもの。何もせずにはいられなかったから、此処に居るんでしょう?」
「……わたし……そんなんじゃ……」
 アンナの瞳からぽろ、と涙がこぼれた。
 本当はとても心細かったのだろう。汚れた袖でいくら拭っても、アンナの瞳からはぽろぽろと涙がこぼれ続けた。
「……わたし、いつもお母さんのこと馬鹿にしてた。大人のくせに、なに夢なんか見ちゃってるのって、うっとおしがったり、冷たくしたりして……だからきっと、罰が当たったの。やだ……やだよ。……おかあさん……起きてくれなきゃ、やだ……!!」
 ――その時、柩は見た。
 その場に座り込み、泣きだしてしまったアンナ目がけて、場違いなほど美しい紫の蝶がふわふわと飛んでくるのを。
「え。……蝶……?」
「おい、そいつに触るな!!」
 間一髪、柩が光線銃で撃ち落とすと、不思議な蝶は紫の煙をふりまきながら消えていった。
 猟兵達が沈黙する中、くっくっと喉を鳴らすエンジの低い含み笑いだけが響く。
「それにしても、不思議なオブリビオンもいたもンだ。アァ……おまえとどっちが優秀かな、紅花……」

 猟兵達は、出発前に聞いた鵜飼の言葉を思い出していた。
 ――見慣れない蝶に気をつけて。
 ――それは夢幻の眠りをもたらす幻影。
 ――パラノロイド・トロイメナイトの使わせた、魔性のものだから。
 彼らは既に、幻想術師の鳥籠に囚われている。森のはるか向こうから一筋吹いた、やけにあたたかな風が、猟兵達の髪をさっと揺らしていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『禁忌の森』

POW   :    道なき道をひたすら進む

SPD   :    迷わないように事前に対策する

WIZ   :    村人から森の情報を得る

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


(一章終了です。ご参加有難うございました。●7が追加されるまでプレイングの送信は少々お待ちください)
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【1章あらすじ】
アンナを救出に向かった猟兵たちは、彼女の命を奪うはずだった森の狼たちを撃退し、無事にアンナを保護することに成功した。
一緒に薔薇を探しに行こうと説得する猟兵達の言葉に胸を打たれたアンナは、これまで母へ冷たくあたってきたことに対する後悔を吐露し、涙する。
不意にそこへ飛来した紫の蝶。
それは、幻想術師パラノロイド・トロイメナイトが使うという、夢幻の眠りをもたらす幻影であった。

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●7
「この森、おかしいわ……さっきから、進んでも進んでも同じ所をぐるぐる回っている気がするの」
 道を共にする猟兵たちが持ってきた森の地図を見直し、アンナは首を傾げた。
 確かに、猟兵たちも同じことを感じはじめていた。獣の気配は不思議なほどに失せ、つい先程までは順調に進んでこれていたはずだが、これもオブリビオンの能力だというのだろうか。
 森の奥の廃城に潜伏しているという、パラノロイド・トロイメナイト――簡単には見つからないとはこういう事かと、猟兵達は納得する。
 だが、逆に言えば、この森を抜ければ必ず古城があるということだ。アンナを護衛しながら、猟兵達は慎重に歩を進めていく。

 そうしてまた暫く進んだのち、一行は信じられないものを見た。
 木の幹によりかかるようにして、アンナと似たようなみすぼらしい恰好をした、ひとりの中年男性が眠っている。
 ひどく安らかで、幸せそうで、普通ならば起こすのが憚られてしまうような――そんな寝顔を見せて、眠っている。
「うそ。アドルフおじさん……!?」
 アンナは男性のもとに駆け寄り、強く肩をゆすった。アドルフと呼ばれた男は、まだ息はあるようであるが、まったく起きる気配がない。聞けば、ある日こんな生活はもうこりごりだと言って村を出たきり、帰ってこなかった者のひとりだという。

 ゆく道のところどころに、そうした人間たちの夢の死骸が転がっていた。
 アンナより幼い子供もいれば老人もいたし、彼女の知る顔も、知らない顔もいた。
 まるで故郷では有名な童話に出てくる、茨姫の眠りの森のようだと、ある猟兵が呟く。
 村など出たってなにが変わるわけでもない。
 この世界にいる限り、進めど進めど絶望しか待っていない。
 そういった者の多くはやはり、途中でオブリビオンの手にかかるなり何なりして、命を落とす運命だったのだろう。
 パラノロイド・トロイメナイトは、そんな希望を捨てきれなかった人々を、この安全な檻の中へ匿おうとしているのかもしれない。
 これ以上、理不尽に傷つかずにすむように。

 その時、森の奥から、ふわふわと無数の蝶がやってくるのが見えた。
 同時に猟兵達とアンナは凄まじい眠気に襲われ、危うく意識を失いかける。これは敵の術だ。寝たら絶対に駄目だと声をかけあいながら、一行はどうにか踏み止まった。
 危険は充分に理解できた。だが、もう引き返すことはできない。物理的にもそうだし――気持ちのうえでも、そうだ。アンナは閉じそうになる眼を懸命にこすりながら、猟兵達へ頭をさげた。
「……皆さん。さっきは失礼なことを言ってごめんなさい。改めてお願いします。わたしをお城まで、連れて行ってください……!」

 力で夢幻の蝶を払いのけ、道なき道を切りひらく者が必要だ。
 こんなこともあろうかと、事前に眠気を吹き飛ばす対策を講じていたならいま実行するといい。
 また、アンナと話をして打ち解け、彼女の心を奮い立たせることも助けになるだろう。
 パラノロイド・トロイメナイトは、希望を求める者の前に現れる。
 きみたちが、彼女が願えば、きっとこの迷いの森を抜ける道が見えてくるはずだから。
岡森・椛
この森は優しい檻なのかもしれない
でもどう考えても幸せな場所じゃない

【WIZ】眠気対策しつつアンナちゃんを励ます

私、椛っていうの
スーッとするガムを持ってきたからアンナちゃんにあげるね
噛んでると眠気が消えるよ
耳を引っ張るのもいいみたい
ほら、こうやって…
負けないで頑張ろうね

親が鬱陶しくなったり腹が立つ時って私もあるよ
でもやっぱりとっても大切
いなくなって欲しくないよね

絶望の中で生きていく気持ちは私には想像しかできない
アンナちゃんのお母さんはそんな中でも希望を持ち続ける強い人だったんだと思う
私達が絶対に起こしてみせるから
希望は、きっとあるよ

蝶は素早く払いのける
危険な時はアンナちゃんの前に立ちはだかり守る


シェーラリト・ローズ
「うん! アンナ、一緒に見に行こう」
怖いから手を繋ごうと手を差し出す
絶望なんてさせない
いざという時は【空に星を、地に花を】で守れるよーに!

アンナに話したい事がないなら、わたしから話をする
「綺麗なものを見たいのは、夢を見失うの嫌だからー
いつか、何の心配もなくお外でお昼寝してみたいんだー
今はただの御伽噺だけど、夢すら見られなくなるのを待たれてる気がするから、綺麗なものを見て忘れないようにしたいなーって」
殊更明るく笑って
「皆には馬鹿だなって言われるけど、わたしが生きたいよーに全力で生きるのがわたしにできる親孝行だから、明日の為に馬鹿でも自分の夢を笑って言い続ける」
アンナは独りじゃない
だから大丈夫だよ



●8
「うん! アンナ、一緒に見に行こう」
 頭を下げるアンナへ、シェーラリトが元気よく返事を返す。椛は眠気対策用にと持ってきたガムを鞄から取りだし、仲間たちとアンナに配った。
「私、椛っていうの。スーッとするガムを持ってきたからアンナちゃんにもあげるね」
「ガム? な、なんだかすごい色ね。それに変わった形……お薬?」
「お菓子だよ! 噛んでると眠気が消えるよ」
 UDCアースではコンビニ等で簡単に入手できる品だが、アンナは初めて見るらしい。恐る恐る口に入れてみた彼女は、ガムを一口噛んでみて、その味に驚いて飛び上がった。
「か、辛い! 辛い……? ううん、辛いのとはちょっと違うわ。口の中がすごくひんやりしてる……こんなの初めて食べるわ。それに凄いわ、噛んでも噛んでもなくならないの!」
 ガムとの出会いに感動しているアンナを眺め、椛は持ってきてよかった、と微笑む。
「……ねえモミジ。これ、いつ飲みこめばいいのかしら?」
「あ、飲んじゃ駄目なの! 味がしなくなったら、この紙にぺっ! って出すんだよ」
「そ、そうなの。不思議なお菓子ね……」
 そんな二人のやりとりがおかしかったのか、シェーラリトの賑やかな笑い声が森に響いた。
「うん、わたしも目が覚めてきたかも! ガムありがとー」
「役に立ったなら良かったよ。あ、耳を引っ張るのもいいみたい。ほら、こうやって……」
「こう?」
 椛の真似をして、シェーラリトとアンナも自分の耳をくいくい引っぱってみる。負けないで頑張ろうね、そう笑いあう三人の少女達の間からは、すっかり壁が消え去っていた。

「ねえ、あなたはどうして薔薇を探しに来たの?」
 アンナの質問に、シェーラリトは少し考えてこう返す。
「綺麗なものを見たいのは、夢を見失うの嫌だからー。いつか、何の心配もなくお外でお昼寝してみたいんだー」
「え……そんな理由で?」
 その気負いのない言葉に、アンナははっとしたように目をみはる。
 隣を歩いていた椛は、いままでに見てきた光景を思い返した。
 この闇と絶望に満ちた世界の片隅に、人々がなにひとつ思い悩むことなく、穏やかに眠れる場所がある――それはある意味では、シェーラリトの話す夢の光景とおなじものなのだろう。
「今はただの御伽噺だけど、夢すら見られなくなるのを待たれてる気がするから、綺麗なものを見て忘れないようにしたいなーって」
 殊更明るく笑ってみせたシェーラリトを、アンナは不可解なものを見る目でみつめた。
 けれど、その奥には、かすかな憧憬の光がともっていた。
「……現実が見えてるのに、どうしてそんなに笑っていられるの?」
「え、そう? 皆にはよく馬鹿だなって言われてるよー。けど、わたしが生きたいよーに全力で生きるのがわたしにできる親孝行だから、明日の為に馬鹿でも自分の夢を笑って言い続ける」
 アンナは独りじゃない。だから大丈夫だよ――とくに力むこともなく、当たり前のようにゆるゆると、見果てぬ夢を語ってみせるシェーラリトに、アンナはくすりと笑った。
「ふふ、そうね。あなたって馬鹿なのね、シェーラリト。お母さんみたい……落ち込んでるのがバカバカしくなってきちゃった」
 ――それは恐らく、彼女なりの褒め言葉。
 二人の話を聞いていた椛は、自分がいかに平穏で、幸せな暮らしをしてきたのか思い知らされて、何もかける言葉が見つからなかった。
 絶望の中で生きていく気持ちは、私には想像しかできない。けれど、共感できることはある。
「……あのね。親が鬱陶しくなったり、腹が立つ時って、私もあるよ」
 宿題やりなさい、勉強しなさいってしつこく言われたり。部屋を勝手に片付けられたり。
 そんなささいな事でたまに喧嘩になっても、やっぱりとっても大切なひとだ。いなくなったら、きっとアンナと同じように泣いてしまう。
「アンナちゃんのお母さんは、希望を持ち続ける強い人だったんだね」
 生まれた世界が違くとも、親を想う子の心はおなじだ。私達が絶対に起こしてみせる、改めて椛はそう心に誓う。
 永遠の安寧をもたらすこの森は、優しい檻なのかもしれない。
 でも――ここには希望も、未来もないから、どう考えても幸せな場所じゃない。

「ね、手を繋ごうよ。手を繋げば怖くないよ」
 シェーラリトがさしだした手をアンナは右手で握り、左手は椛と繋いで、三人並んで歩く。
 絶望なんてさせない。名もなき花の嵐が蝶を吹き飛ばし、平穏へと続く道を拓く。
 椛がおまじないをかけるように、そっと呟いた。
 ――希望は、きっとあるよ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

エンジ・カラカ
道に迷わないって言ったらやっぱり目印にバツ印をつけるやつだよなァ……。
闇雲に歩くだけだとまた同じ場所に辿り着くかもしれない
城に行きたいって気持ちがあるなら必ず辿り着くサ。
アァ……そこまでの護衛は任せてくれ。
バツ印をつけられそうな場所につけて道を進む。

眠ってくれるなよ。
眠ったらリセットは出来ないからなァ……。
目が覚めるようにとびっきりでかい声で蝶を追い払う
人狼咆哮。
声の餌食にならないように後ろに下がっておくンだなァ。

最初と同じように道の隅々まで観察はしておくカ
不意打ちってのもあるかもしれないからなァ。


リインルイン・ミュール
此処までは何とか、しかし此処からが勝負とも言えますネ!

事前に迷わないよう準備を
進む際に剣先を引き摺り地面に深い溝を付け続け、ザックリ10m間隔で木に数字を刻みマス
数字は刻む毎に1ずつ大きくシテ。迷ったと思ったら、溝と数字を逆に辿れば、良い所まで戻る事は出来るハズ

蝶が来る方向に城があるのではとも思うんですガ
それも惑わせの手段だと大変なので、あくまで可能性の一つとして留めおきまショウ

あとワタシ、歌いますネ。その方が眠気も多少は平気そうですカラ!
暗い世界で見つけた光は、支え合う人の心、純粋な願いを抱く心……そんな感じの歌を歌いマス
この歌はある意味で祈りの歌ですが、コレが一欠片の道標になれば良いな、と


赤嶺・愛
■心情
アンナさんが無事で良かったよ、
後は、アンナさんを城まで連れて行ってあげるね。

■行動
SPD判定の行動

道に迷わない様に注意するね。
事前に、簡易的な地図を用意して
自分が進んだ道と、道の形状・森の樹の生え方などをメモしていき、
通り過ぎた樹には傷を付けて目印にして
同じところをグルグル回らない様に工夫するね。
「視力」や「暗視」を駆使して、遠くまで見渡す様にするよ。
アンナさんが常に視界に居る様にしておき
はぐれない様に注意しておくね。

夢幻の蝶に対しては、自身を身体を抓ったりして
痛みを与えて眠らない様に注意するね。
「こんなところで、眠る訳にはいかないんだから!」



●9
 ――ずる、ずる、ずるずる。がりがりがりがり。
 リインルインの身体から生えた、地面につくほど長い尾は、尾であって尾ではない。
 黒一色の刀身は、すっかり彼女自身と同化しているように見えるが、これは自在にかたちを変える不思議な剣なのだった。ブラックタールらしい珍しい武器を、愛は興味深そうに眺める。
「それ、いいアイデアだよね! でも大丈夫?」
「ふう、ふう、此処までは何とか、しかし……此処からが勝負とも言えますネ!」
 リインルインが歩けば、引きずられた剣の尾が地面に深い溝を描き、皆が来た道を戻るときの道標になってくれる仕組みだ。ちょっぴりお尻が重たそうではあったが、そこはご愛敬だろう。
「あれ、ここはさっきも通ったよね」
「ワタシもそう思いマス……戻りまショウ!」
 視力を鍛えた甲斐があった。少しばかり暗くても、愛の大きな瞳は森の風景を遠くまでしっかり見通せている。アンナも、皆も、きちんとついてきているようだ。

 どこがどう繋がっているのか。正しい道はどれなのか。法則性は見つからない。
 最初はとにかく手あたりしだいに歩くしかなく、一行は何度も同じ場所に辿り着き、ぐるぐる回っているばかりだった。
「蝶が来る方向に城があるのでは、とも思うんですガ……」
 確かに、普通ならばそうだろう。
 可能性の一つとして検討してみよう、というリインルインの提案に皆も同意し、武器で蝶を散らしながら進んでみる。
 だが、ここはオブリビオンの檻の中。やはりそう素直にはいかなかった。
 また同じ場所に戻ってきてしまった一行は、どっと疲労を感じ、ふたたびの眠気に襲われる。
「本当にたどり着けるのかしら……」
 猟兵達にはまだ余力があっても、ただの村娘であるアンナは、すでにかなり消耗しているのだろう。
 思わず弱音を吐き、その場に座りこみかけたアンナの腕をエンジが捕らえ、ぐいと上へ引っぱりあげた。
 いきなり立たされ、びくりと跳ねたアンナの両肩をがっと掴み、目と鼻の先まで顔を近づける。
 礼儀も何もあったものじゃないその動作は、いつかこの昏い世界の更に奥底で、誰かと交わした『おはよう』の挨拶。

 月のいろを映した双眸は、まばたきひとつせずに少女の魂を覗きこむと。
「城に行きたいって気持ちがあるなら必ず辿り着くサ」
 どこか虚ろな眼をしたまま、口の端だけをニィ、と吊り上げる。
 端正な唇が三日月の弧を描いて、笑った。
 ――おはよう。

「あ、ありがとう。驚いてすっかり目が覚めたわ……そうね、諦めちゃだめよね」
「アァ……そりゃ良かった。そこまでの護衛は任せてくれ」
「うん、私達が城まで連れて行ってあげるね」
「ううん……でも、あなたたちに任せっきりは嫌よ。ねえマナ、わたしにも何か手伝えることはない?」
「じゃあ、通り過ぎた樹にこれで傷を付けていってもらえるかな?」
「わかったわ!」
 愛から借りたダガーを手にし、アンナは強く頷く。皆の励ましのおかげでだんだんとやる気になってきたアンナを見て、愛は思った。本当に無事でよかったな。
 進んだ道、道の形状、樹の生え方。愛は用意した地図の上に、地道に情報を書きこんでいく。
「道に迷わないって言ったら、やっぱり目印にバツ印をつけるやつだよなァ……」
 どこか愉しむような色を声に滲ませて、エンジが不正解の道の際に立つ木へバツ印を掘っていく。そうしながらも、不意打ちへの警戒は怠らない。
「それで、10メートルぐらい歩いたら、木に数字を刻めばいいのよね。刻む毎に1ずつ大きく……リインルイン、次は14でよかったかしら」
「ハイ、大丈夫ですヨ! 迷ったと思ったら、溝と数字を逆に辿れば、良い所まで戻れるはずデス!」
「すごいわ、同じところばかり歩いている気がしたけど、もう結構進んできているのね!」
 その証拠に、刻む数字が増えるとともに、少しずつ飛んでいる蝶の数も増えてきている。
 夢幻の蝶が眼前に飛来して、愛はすこし鱗粉を吸いこんでしまった。
 とたんに膝かがくんと落ち、その場に倒れこみたくなる。
「うっ……こんなところで、眠る訳にはいかないんだから!」
 眠気ざましも気合い一発。頬を両側からぱんと叩けば、ツインテールが揺れた。
 自分でほっぺをぎゅっとつねってなんとか意識をつないだ愛を、エンジは茫と眺めると、後ろに下がっておくンだなァ、と促した。
「眠ってくれるなよ。眠ったらリセットは出来ないからなァ……」
 すう、と息を吸って。
 もう一度、皆へおはようの挨拶だ――人の狼が、吼える。

 ――オォォォオォオォオォォオオォォオオオッッ!!!

 耳を塞いでもなお鼓膜を揺さぶる獣の咆哮は、仲間たちを目覚めさせると同時に、蝶を眠りの海へと押し戻す。はらはらと土のベッドに横たわった蝶の死骸は、なにかに吸い込まれるように消滅していった。
「サラサラ、さらさら。アァ……土になった。もうじき不思議なヤツに会えるかなァ、なァ、紅花。楽しみだなァ……」
「いいチームワークですネ、この調子でどんどん進みまショウ! あ、ワタシ、歌いますネ! その方が眠気も多少は平気そうですし、折角ですからこの出会いを楽しみまショウ。そうしまショウ!」
 こんな陰気な森の中だけど、なんだか楽しくなってきた。
 動物を象ったリインルインの仮面から、蒸気機関で増幅された不思議な歌声が響きはじめる。

 ♪暗い世界で見つけた光は 支え合う人の心 純粋な願いを 抱く心♪

 皆の様子を見ていて思いついた歌詞を、気の向くままに唄いあげていけば、彼女の歌自身もまた光となり、皆のゆく道を照らした。重かった足取りも軽くなり、まだまだ歩いていけそうだ。
 愛やアンナも鼻歌で口ずさんでみる。
「元気になってきた気がするね」
「ええ、いい歌ね。なんていう歌?」
「そうですネー……では『祈りの歌』とでもしておきマス!」
 今テキトーに考えたんですけどネ、とリインルインが言えば、皆が笑った。
 実はそんなに適当、ということもないけれど。
 この歌が、一欠片の道標になれば良い――そんな想いをこめて紡いだ、ちいさな祈りの歌が、静かな森にしばらくの間響きつづけたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

レイブル・クライツァ
早々に苦い漢方を口にしたので、口元少し震えてるのは此処だけの話

眠ってる人達が敵を始末した際起きるなら
森が有るし、地に栄養は有る筈。
作物用の土を森で調達とか
後は光が無くても育ち易い食物の種や苗の提供辺り
水をやり過ぎると腐る等の知識も必要よね

眠気でふらついたり、地面へ倒れそうな人が居れば支えるわ。
寝ないようするのは大変。
眠気が醒めやすい手のツボを教えつつ
厳しいならお勧め出来ないけど、とびきり苦くてばっちり目が醒めるのなら…良薬口に苦し。
漢方だから毒というより、おまじない感覚だけども

眠ったら簡単に全てが終わる。
只、村から離れ方法を探そうとした勇気が、無かった事になってしまうわ。
一緒に頑張りましょう?


藤塚・枢
SPD

随分と厄介な性格のオブリビオンだ
押し付ける善意は、もはや悪意と変わらないのだけれどね

眠気は超辛いガムでごまかす
駄目なら最終手段、アンモニアを鞄から出して少し嗅ぐ
他にも地べたに熱いベーゼをかましそうな仲間がいたら嗅がせてあげよう
臭い?
礼はいらないよ
こう見えて私は優しいんだ

颯の歩法で上空から探したり地縛鎖で地域情報収集
印をつけながら進む

アンナさんに話を聞いたりして、現状を打開する気持ちを強く持って貰う
「私の母も夢見がちな人でね
子供心に現実見ろと思ったものさ
けれど今は…明日へ繋がる希望を少しでも私に見せようとしていたのかもって思うんだ
アンナさんのお母様も、ただ夢を見ていただけではないと思うよ」



●10
「妙だと思ってはいたんだ。先程木の上から森を見た時、廃城らしきものがどこにも見えなかったからね。今も相変わらずの様子だよ」
 上空から森の状況を見ていた枢が戻ってきた。恐らく、城もオブリビオンの能力で隠されてしまっているのだろう。随分と厄介な性格のオブリビオンだと、枢は芝居かかった仕草で肩をすくめてみせた。
「押し付ける善意は、もはや悪意と変わらないのだけれどね……」
 道端で眠る人々を眺める枢の伏しがちな瞳は、普段よりさらに半分ほど閉じている。
 ガムを更に三粒ほど容器から取りだし、噛み砕いてなんとか眠気をごまかす。うっかりすると、ガムと間違えて毒薬を誤飲しそうな眠さだ。
 わずかながらに震える唇を開き、レイブルがぽつりと呟く。
「……苦いわね」
「苦いかい? 私は当たり前の事を言っているだけさ」
 再び歩きだした仲間たちを追って歩く枢の背を、レイブルはどこか不思議そうに眺めていた。

「ところで、先のアドルフさんという男性は一体何者なんだい?」
「アドルフおじさんは……村で作物の研究をしていたのよ」
 お母さんともよく話していたわと、アンナは当時の様子を述懐する。
 いつかこの村を、誰も飢えることのない豊かな場所にするのだと頑張っていた。
 だが生きる希望が見つからず、労働する意欲も失った村の大人たちは、彼の言う事にほとんど興味を示さなかった。
 それどころか、まだ諦めないのかと呆れ、鬱陶しがるばかりだったという。
 澱んだ現実がわだかまる村。そんな環境で育ったから、アンナも自然とそういう考え方を『正しい』と思うようになってしまったのだろう。
「そうだったの……でも、私は育つ可能性はあると思うわ。森が有るならここの土には栄養が有る筈だもの」
「うん、ありえるね。地縛鎖で土の状態を見ながら進むとしようか」
 枢が作物の栽培に適した土を探し、レイブルが持ってきた麻袋につめ、皆で手分けして持つ。
 良い土の近くに生えている木には、目印として枢の相棒・フォリーくんの顔を掘っておいた。
「後でまた探しに来ましょう。それから、これも贈らせてもらうわね」
 レイブルが持参したのは、直射日光に弱く、日陰を好む食物の種や苗だ。
「これはニラ。何度も収穫できるし、とても育てやすいわよ。こっちはミツバ。ショウガは滋養強壮にもいいわ。でも、水をやり過ぎると腐ってしまうから注意ね」
「……これが? 本当に育つの?」
「ええ。お母様やおじ様が眠りから目覚めて、元気になったら教えてあげて。貴女が村の人達に伝えるの、アンナさん」
「わたしが……」
 わたしに出来るかしらと不安げなアンナを見て、枢はどこか寂しそうに、けれど何かいとおしい日々を懐かしむように、ふふ、と笑った。

「私の母も夢見がちな人でね。子供心に現実見ろと思ったものさ」
 無理もない。明日から、急にそんな母の手伝いをしろと言われたら戸惑うだろう。
「けれど今は……明日へ繋がる希望を少しでも私に見せようとしていたのかもって思うんだ」
 枢もまた、母への想いを抱えて生きているから、よくわかる。

「アンナさんのお母様も、ただ夢を見ていただけではないと思うよ」
「クルル……わたし、そんな風に考えたことなかった。それに、もうお母さんの夢は、夢じゃないのね……」
 アンナの瞳が輝きはじめている。
 この現状を打開する。
 アンナがその強い気持ちを持ってくれれば、きっと道も、未来だって開けるはずだ。
 眠気でふらつく彼女を支えながら、枢とレイブルは励ましの声をかけ続けた。
「眠ったら簡単に全てが終わる。只、村から離れ方法を探そうとした勇気が、無かった事になってしまうわ」
 一緒に頑張りましょう?
 そっとアンナの手を取ったレイブルの、血の通わない指は冷たい。
 けれど、眠気が醒めるツボを押してくれる彼女の手は、どこか母の温もりを思い出させて――。

「!? な、何、この臭い!?」
「ああごめん、臭かったかい? 地べたに熱いベーゼをかましそうな人がいたものでね」
 突如広がったアンモニア臭の原因は――枢が眠気へ対抗する最終手段として鞄から出した、アンモニア水そのものであった。
「そんなに眠いなら、お勧めは出来ないけど、これもあるわよ」
 と言ってレイブルが取りだしたのは、唇が震えるほどに苦い漢方薬。しかも人形用で、人間が飲んだらどうなるか分からない恐ろしい代物だ。
 すちゃ。
 何故か持っていた伊達眼鏡をほぼ同時にかけ、二人がずずいと仲間へ迫ってくる。
「おまじない感覚だけども、良薬口に苦し。とびきり苦くてばっちり目が醒めるわ」
「え、遠慮するわ……」
「ほら、嗅がせてあげよう。礼はいらないよ。こう見えて私は優しいんだ――!」

 森の中にアンナと猟兵達の絶叫がこだました。
 ……この知性派達、なかなかの曲者なようである。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リヴィア・ハルフェニア
『絶対に貴女を私達がお城に連れて行く。
薔薇の事だって、なにより貴女が願い諦めなければきっと見つけられる。
だから一緒に頑張りましょう。
ここに居る皆は最後まで協力しくれるわよ。もちろん、私もね。』

アンナさんと会話をし励ましたり、森について何か聞いた事がないか尋ねましょう。【優しさ,鼓舞】

後は仲間と情報を共有や整理よ。【学習力,世界知識】
こういう時は一度、現在分かっている事を整理するか最初に戻ってみる事も必要だと思うわ。
ああ、それと何か人手が欲しいや手伝って欲しい事があれば、言ってね。

もし何か仲間と別行動になった場合は【絆繋がりし自然】で仲間と合流出来るようにしておきましょうか。


空廼・柩
【SPD】
ったく、最初からそう言っていれば良かったんだよ
どうせ術師からすれば良かれと思っての事なんだろうけれど
それは飽く迄「自分」にとってはだ
…誰も望まないなら、それは「救済」なんかじゃない

気休めにしかならないけれど、エナジードリンクで眠気を払いつつ行動
…アンナも飲んでみる?
炭酸入ってるから口が少しびっくりするかも知れないけれど

蝶が厄介だし手枷や猿轡、拘束ロープ全て駆使して振り払う
上手く振り回したら範囲攻撃にもなるんじゃない?
後は棺型の拷問具自体を盾にして防げそうなら、特にアンナを庇いつつ移動

――俺は守る事しか出来ない
けれど、あんたが城に辿り着く迄必ず守り抜く
絶望でなんか、終らせて堪るかっての


オブシダン・ソード
辛いのを忘れて眠りにつくっていうのも、一つの救いではあると思う
正しさの話は分からない
でもね、生を望んで手を伸ばすのがニンゲンの良い所だと思うんだよ
その手助けは逆だと思うんだ

眠らされるのは嫌だし、障害を振り払い、道を作るのが剣の仕事かな
錬成カミヤドリ。立ち並ぶのは僕と同じ形の剣達だ
蝶を、藪を、切り裂いていこう

眠ってしまいそうな人が居たら声掛け
さあさあ負けないで
彼等はともかく、僕達まで安寧に沈むわけにはいかないでしょう?
立って進もう
一応、応援するのは得意なんだよがんばれがんばれ

君達が願うなら、僕だってまだ頑張れるんだから



●11
「ひどい目に遭った……」
 普段にも増してぐったりした顔をし、柩はずり落ちた眼鏡を直した。まだアンモニア臭で鼻がつんとしている。
 リヴィアも処方された漢方薬の苦みで若干唇が震えていたが、心なしか効いたようで身体が軽い。麻袋につめた土を抱えあげた彼女は、ふわふわと隣を飛ぶルトに話しかける。
「ルト、貴方も飲んでみる?」
 ルトはふるふると首を振った。そもそも、精霊に飲めるものなのかは不明だが。
 目は覚めたが、何か。何か、口直しになるものが欲しい。切実である。
 鞄を探った柩は天の助けを発見した。気休めにでもなればと研究室の机の上に置いてあったのを持ってきた、心の友――エナジードリンク!
 よくやった数時間前の俺、と思いながら飲み干す。さすが魂の水、うまい。
「それは飲み物? 美味しいの?」
「……まだあるけど、アンナも飲んでみる?」
 さしだされた一本に口をつけてみたアンナだが、やはり驚いて飛び上がった。
「口の中で水がぶくぶくしてるわ! それに……何て言ったらいいのかしら、とても変わった味。あなたたち、変な食べ物をたくさん持ってるのね……」
「そうそう、僕も始めは驚いたなー。人の食べ物ってほんと色々あって面白いよねぇ。今では働いた後のごはんが楽しみで仕方ないんだけどね」
「やだ、なあにそれ、オブシダン。あなた人間じゃないみたいな事言ってるわ」
 ころころと笑うアンナを眺めたオブシダンは、赤い瞳を細めてへらりと笑んだ。
 ――うーん、実は僕、人間じゃなかったりするのかも。

 森について何か聞いた事がないかと、リヴィアはアンナに尋ねてみた。
「そうね……とても昔、もう百年ぐらい前かしら。その頃は素敵な領主様がお城に住んでいて、皆に慕われていたそうよ。でも、領主様の一族はヴァンパイアに滅ぼされてしまって……それ以来、お城に住む人は誰もいなくなってしまったの」
 けれど、村の人間たちは、今でも領主を偲んで森の廃城を訪れることがあるそうだ。アンナの父母もそうだったのだろう。
 リヴィアはアンナの話に真剣に耳を傾け、いま分かっている事を整理してみる。
「アンナさんのお母さんは迷わずにお城へ行けていたのよね。森がこんな状態になったのは最近だと思うの。だとすると……」
 アンナの母が見たという廃城の薔薇は、オブリビオンとは関係がない、ということだろうか。
 何かが引っかかるような気もしつつ、リヴィアはいったん検討を中止した。例の蝶が大量に飛んできたのだ。
「安全な檻、ね……どうせ術師からすれば良かれと思っての事なんだろうけれど、それは飽く迄『自分』にとってはだ」
 拷問具に自らの血をひとしずく垂らす。長いロープへと姿を変えた武器を鞭のようにしならせ、柩は蝶を追い払う。
 ぷつんと縄の両端を断ち切れば、切れ端は手枷と猿轡に変じる。少しばかり大きすぎるその枷に翅をもがれた蝶たちは、ぽてんと地面に落ちて消えた。
 ――誰も望まないなら、それは『救済』なんかじゃない。

「下がって。障害を振り払い、道を作るのが剣の仕事だ」
 ――錬成カミヤドリ。
 オブシダンの前に二十もの剣が立ち並ぶ。ただ黒耀石を削りだしたのみの、きわめて簡素なつくりの剣。それこそが、彼の魂の在り処。
 オブシダンの分身たちはふわりと空に浮き、ばらばらに剣の舞を踊ってみせた。
 縦へ、横へ、斜めへ。漆黒が半端な曇り空を切り裂くたび、まっぷたつにされた蝶が煙となって消える。
「柩、さっきの話だけどね。僕は辛いのを忘れて眠りにつくっていうのも、一つの救いではあると思う」
 それが正しいかどうか、は分からない。
「でもね、」
 怯え、縮こまるアンナと蝶の大群のあいだに、なにか大きな壁が立ち塞がった。
 ……『棺』。
 彼自身の名を冠するその壁は、柩が自らの血を代償に拷問具を変形させて作ったものだ。
「そうやって、生を望んで手を伸ばすのがニンゲンの良い所だと思うんだよ。ほら」
 ――だから、やっぱりその手助けは逆だと思うんだ。
 オブシダンに悪意ない笑みを向けられた柩は、何となく気恥ずかしくなって目をそらす。けれど、そらした先にはアンナの不安げな顔があったから。
「俺は守る事しか出来ない。けれど、あんたが城に辿り着く迄必ず守り抜く。……絶望でなんか、終らせて堪るかっての」
 リヴィアもルトに命じて二人のサポートをしながら、アンナを勇気づけた。
「絶対に貴女を私達がお城に連れて行く。薔薇の事だって、なにより貴女が願い諦めなければきっと見つけられる。だから一緒に頑張りましょう。ここに居る皆は最後まで協力してくれるわよ」
 もちろん、私もね。
 何か手伝って欲しい事があれば言ってね――夜明けの光を感じさせるような優しいリヴィアの微笑みが、暗く、澱んでいたアンナの心の最後の暗雲を消しさった。
 何より、ここまで仲間たちが見せた姿勢が、彼女の言葉をより信頼できるものにした。
「……わたし、薔薇が欲しい! こんなに力を貸してもらったんだもの、絶対に探して持ち帰ってみせるわ。そして元気になったお母さんと、村にいっぱい花を咲かせるの!」
「ったく、最初からそう言っていれば良かったんだよ」
 不愛想にそう言いつつも、柩はつい口許が緩むのを抑えられなかった。

 ――その時。
 リヴィアは無数の蝶の中に、一匹だけ変な方角へ向かっている個体を見つけた。よく見れば、翅がきらきらと輝いている。
「あれは……古き盟約により親愛なる隣人達よ――私の声に応え、姿を現せ」
 リヴィアが咄嗟に【絆繋がりし自然】を放てば、心を通わせた精霊達が輝く蝶の後を追い始めた。邪魔をする蝶の群れを各々の武器ではらいのけながら、一行は懸命に精霊達の後を追っていく。
 輝く蝶は一本の木に向かっていく。
 すると密集していた木々が生き物のようにぐねぐねと曲がり、今まで見えなかった道が開いた。同時に、道を埋め尽くす勢いで押し寄せてくる紫の蝶が見えた。
「さあさあ負けないで。彼等はともかく、僕達まで安寧に沈むわけにはいかないでしょう?」
 オブシダンの声。
 景色がぐにゃりと歪み、道端で眠っていた人々の姿がみえなくなる。襲い来る眠気で誰もが倒れそうになる中、手を握ってくれたのは誰だったか。
「立って進もう。一応、応援するのは得意なんだよ」
 がんばれ。
 ……がんばれ。
 その声だけを頼りに、猟兵達とアンナはゆっくりと歩を進める。
 うっかり閉じそうになる眼を見開いて、オブシダンは城門らしきものを閉ざしている茨の藪を切り裂いた――君達が願うなら、僕だってまだ頑張れるんだから。

 その最後の一枝が取り払われたとき、一行の意識はまるで魔法のように晴れた。
「……城だわ」
 アンナが驚いた声をあげる。目の前には、確かに荒れた城があったのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『幻想術師『パラノロイド・トロイメナイト』』

POW   :    記録■■番:対象は言語能力を失った。
【夢幻の眠りを齎す蝶の幻影 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    記録■■番:対象の肉体は既に原型を留めていない。
完全な脱力状態でユーベルコードを受けると、それを無効化して【数多の幻想が囚われた鳥籠 】から排出する。失敗すると被害は2倍。
WIZ   :    記録〓編集済〓番:〓編集済〓
対象のユーベルコードに対し【幻惑し迷いを齎す蝶の群れ 】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠鶴飼・百六です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


(二章終了です。ご参加有難うございました。●12が追加されるまでプレイングの送信は少々お待ちください)
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【2章あらすじ】
 パラノロイド・トロイメナイトの術により、森の奥は空間の歪んだ迷いの森と化していた。
 地道なマッピング作業により少しずつ前へ進みながら、猟兵たちはアンナと親睦を深める。
 母を想う気持ち、励ましの歌、優しい言葉……それらに触れるにつれ、アンナはだんだんと前向きな気持ちになっていく。
 農作の知識と育ちそうな植物の提供を受け、現実にも可能なことなのだと気づいたアンナは、ついに『お母さんと一緒に村を花でいっぱいにしたい』と希望を口にした。

 その時、城へ繋がる道が開いた。
 百年ほど前、当時の領主がヴァンパイアに滅ぼされてから、放置されたままだという古城。
 幻の深紅の薔薇は、本当にここにあるのだろうか……?

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●12
 百年のあいだ風雨に晒され続けた城はところどころ崩壊し、土埃でくすんだ城壁は枯れた蔦と、伸び放題の茨に覆われていた。
 当時の栄華は見る影もなく、ある種不気味な雰囲気すら漂わせている。陰気な世界にふさわしい、陰気な城だった。
「見て、花壇が……」
 アンナが指をさす。もちろん、そこに薔薇など咲いているはずはなく、堆積した枯れ葉に覆われているだけだ。
 城の庭は広い。探すべきはここだけではないだろうが――。

「! 誰!?」
 城の中から、なにかがゆらりと姿を現す。
今回の事件の元凶である、幻想術師パラノロイド・トロイメナイト。
 世界に滅びをもたらす過去からの怪物、オブリビオンだ。
 彼、もしくは彼女は、その場に佇み猟兵たちとアンナを静かに見つめている。どうやら、攻撃の意思はないようだが……きみたちは武器を手にした。
 自分の意思を言葉として発することができないパラノロイド・トロイメナイトは、不思議そうに小首をかしげる。
 だが、きみたちの言葉に耳を傾けることならばできるだろう。

●3章補足
 幻想術師パラノロイド・トロイメナイトには、武力のほかに言葉による説得が有効です。
 戦いながら説得を行う方が多かった場合、パラノロイド・トロイメナイトは全ての術を解除し、自ら骸の海へ帰っていきます。
 普通に倒した場合とは少しだけ展開が変わるかもしれませんが、どちらにしろ悪いようにはならない予定です。

 また、戦闘後に関するプレイングがあった場合は、シナリオ完結時にまとめて描写します。
 戦闘プレイングは薄めでも大丈夫ですので、この章では皆さんらしい選択を行なってください。
シェーラリト・ローズ
まず話してみよー
「ねー、聞いていい? ここに薔薇は咲いてる?」
アンナと薔薇を見に来た旨を伝える
「わたしは綺麗なもの見たくて来たんだー。いつかお外でお昼寝する夢の為にー」
でも、それは現実でやりたいこと
「例えばわたしが怪我や病気でもう長くなかったとしてもお別れする時間は必要だよ。遺される人そのままは駄目だし」
(アンナのおかあさんもアンナをこのままにしちゃ駄目だよ)
アンナの手をぎゅっと握り、慈悲深きコンソラトゥールを歌いアンナに勇気が出るよう祈りつつ
「君は今まで生きてきた軌跡をただの過去だと蔑ろにしてほしくて眠ってもらったワケじゃないでしょ?」
君が絶望の夢を見せてないのは眠ってる人の顔を見れば判るよ


岡森・椛
アンナちゃんは必ず守る

初めまして
話を聞いてね

味方と連携して【科戸の風】で戦いつつ説得
アウラ、宜しくね
悲しみも理不尽な事も全部飛んでいってしまえば良いのに
痛いの痛いの飛んでけ、みたいに

苦しみから護りたい気持ちは分かる
それは私も同じ

でも眠るだけが救いではないよ
アンナちゃんは目を開けて見る夢を…目標を見つけたの
だから応援してくれないかな
絶望に打ち勝つ為に強く生きていく事を

●後
薔薇を探す
希う想いの結晶
幻想術師の夢の余韻の中なら奇跡はきっと…

森で眠る人達も救助

アンナちゃんにレトルトパウチの病人食を渡す
湯煎してお母さんにあげてね
それと写真が多く花を育てるコツの分かり易い園芸本も
他にも手伝える事は進んでする


赤嶺・愛
●心情
遂に術の元凶が現れたね。
でも、できるだけ争いはしたくないな。
話し合いで解決できれば、幸いだよ。

●行動
SPD判定の行動を取る。

蝶の幻影の攻撃に対しては
オーラ防御で守ったり、第六感や見切りで避ける様にする。
アンナさんが攻撃対象になれば、かばうを使用して守るね。
説得が出来ない場合のみ、バスタードソード等で攻撃するね。

説得内容は
「貴方は、人々に安らかな眠りを与える、優しい妖精みたいだね」
「貴方と争うつもりはないの、私達のお願いを聞いてくれたら、それでいいから」
「村の人に掛けた術を解いてあげてくれないかな」
と、コミュ力、優しさ、礼儀作法などを駆使して説得を試みるね。



●13
「遂に術の元凶が現れたね……」
 ――静かだ。
 猟兵とオブリビオン。けして交わることのない、生まれながらの敵が顔を合わせた。
 その瞬間、戦いの狼煙はすでに上がっているというのに、誰も動こうとはしない。戦闘の構えをとった愛の靴が枯れた雑草を踏む音ですら、遠い風のうなりよりも大きく響いた。
 パラノロイド・トロイメナイトは比較的温厚な性質を持っているとはいえ、他の地区に現れた個体が街を滅ぼそうとした例も聞いている。充分に警戒し、愛は細身のバスタードソードを抜いて、左足を半歩ひく。
 ……。
 …………。
 確かに、パラノロイド・トロイメナイトは攻撃してこないようだ。
 戦いをせずに事がおさまるならば、それが良い。愛はほっとしていったん剣を下ろし、白い歯をみせてオブリビオンに微笑みかける。
 もしも、この不思議な敵にも平穏を願う心があるのなら、きっとわかりあえる気がした。
「こんにちは。私は赤嶺・愛っていうんだ。こっちはアンナさん」
「は、初めまして……アンナよ」
 突然現れた謎の生き物に戸惑いつつも、きょう一日で不思議なことがありすぎて慣れてしまったのかもしれない。礼儀正しくお辞儀をしてみせた愛に倣い、アンナも慌てて挨拶をする。シェーラリトと椛も二人に続いた。
「わたしはシェーラリトー。みんなで薔薇を見に来たんだ」
「初めまして。岡森・椛だよ。話を聞いてね」
 言葉もしっかり届いているようだ。敵意がないことが伝わったのか、パラノロイド・トロイメナイトも青いマントを翻してお辞儀を返してきた。その仕草は、ヒトにとてもよく似ている。
「貴方は、人々に安らかな眠りを与える、優しい妖精みたいだね。私達も貴方と争うつもりはないの。お願いを聞いてくれたら、それでいいから」
 お願い?
 そう問うように、異形の幻想術師は愛の言葉に首を傾げた。
「村の人に掛けた術を解いてあげてくれないかな」
 ふわふわと身体をゆらしていたパラノロイド・トロイメナイトが、ぴたりと動きを止める。
 ――何か来る。愛は直感した。

 そして、術師はおもむろに手に持った鳥籠の鍵を開けた。数多の幻想が囚われているという籠から、紫色の蝶が一気に飛び出してくる。
 第一陣が飛びかかってくるのと、攻撃を見切った愛が剣を振るったのは同時。斬られた蝶がばらばらになって、はらはらと地に落ちる。
「アンナさん、下がって!」
 どうせ良かれと思ってやっているんだろう、と仲間も言っていたが、やはりそう簡単には考えを改めるつもりはないという事だろうか。
 愛は左腕に構えた盾に護りのオーラを纏わせ、アンナを自らの後ろにかばった。
 蝗のように押し寄せてくる幻惑の蝶は、愛の気合いの壁に阻まれて、猟兵達のもとまで到達する事ができない。
「椛さん、今のうちにお願い!」
「うん! 大丈夫、アンナちゃんは私達が守るよ。アウラ、宜しくね!」
 椛の周りを漂っていた風の精霊アウラが、空中でくるりととんぼ返りをして、美しい杖に姿を変える。椛は祈りのような詠唱とともに、その先端を蒼い異形へ向けた。
「悲しみや穢れに満ちた暗雲を吹き払い、空を、世界を、明るくするの――」
 それはまるで、秋の訪れを告げる清らな風。椛のまわりで澄んだ空気が渦を巻き、足下の枯れ葉を空へと吹きあげる。杖の先にアウラの幻影が浮かび――神の風が、吹いた。
 押し寄せる【科戸の風】。穢れを打ち払う嵐が蝶たちを吹き飛ばし、紫の暴風をうつした椛の秋色の眸に、ふと憂いが宿る。

 願う事は似ているのに、どうして戦わないといけないんだろう。
 ちくりと痛む胸の上に、手をあてた。
 悲しみも、理不尽な事も、全部飛んでいってしまえば良いのに。
 痛いの痛いの飛んでけ、みたいに――。

 科戸の風に揺れる野薔薇のショール。風と花の聖痕が刻まれた手で愛用のマイクを取り、反対の手でアンナの手を握る。そして、シェーラリトは風とともに唄った。
 ――我ら手の届かぬ遙かなテール・プロミーズ。
 ――久遠なりし豊穣の地より、恵みの雨を風にて運び、慈しみの陽光と安寧の夜を。
 ――此の歩みに勇気の火を。
 それは、この昏い世界の底から生まれたひとすじの希望の歌。
 まだ遠い安寧を願い、この世界で生きるすべてのものへ、美しい朝の訪れを祈る優しい歌。
 絶望の底でたしかに咲いた薔薇。彼女ひとりにしか歌えない、たったひとつの夢と勇気の歌だ。
 その歌は皆の壁となる愛の、不安がるアンナの心を勇気づけ、椛の胸の痛みを少しばかり癒し、パラノロイド・トロイメナイトの攻撃を一時的に停止させる。
 異形の術師は、彼女の声に聴き入るようにしばらく佇んで、曇ったままの空を見あげた。
 そこに光はない。今は、まだ。
「……わたしは綺麗なもの見たくて来たんだー。いつかお外でお昼寝する夢の為にー」
 でも、それは現実でやりたいことなんだよね。
 眠ったままじゃ叶えられないよと、シェーラリトはマイクを下ろして笑う。
「例えばわたしが怪我や病気でもう長くなかったとしても、お別れする時間は必要だよ。遺される人そのままは駄目だし」
 ――だからアンナのおかあさんも、アンナをこのままにしちゃ駄目だよ。
 がんばれ、と祈り、シェーラリトはアンナの手をぎゅっと強く握る。
 震えるアンナの手が、わずかながらに握り返してくるのを感じた。
 巻き起こす風に逆らって飛び始めた蝶をなんとか押し戻そうと頑張るアウラへ、全力の魔力を注ぎこみながら、椛もパラノロイド・トロイメナイトへ語りかける。
「……苦しみから護りたい気持ちは分かるよ。それは私も同じ」
 杖を握る腕は震え、話をするのもやっとだ。けれど、白い髪を彩る紅葉がいまの実力以上の力をくれる気がした。私にも護りたいものがあるから、ここで負けることはできない。
 斬りかかろうと思えばできる。だが、愛は言葉が通じることを信じ抜き、剣をおさめた。
 説得を行う仲間を援護するべく、護りの盾となることに専念する。
「でも、眠るだけが救いではないよ。アンナちゃんは目を開けて見る夢を……目標を見つけたの」
 だから応援してくれないかな――絶望に打ち勝つ為に、強く生きていく事を。
 パラノロイド・トロイメナイトが顔を上げる。
「君だって、今まで生きてきた軌跡をただの過去だと蔑ろにしてほしくて眠ってもらったワケじゃないでしょ?」
 眠っている人々の顔を見れば判る。きっと彼らは、いまも幸せな夢を見続けているのだ。
 目覚めれば絶望が待っているだろう。
 それを否定するほど、わたし達はおめでたいわけじゃない。
 それでも――目をあけて抗わなければ、叶えられない夢があるから。

 だから、シェーラリトは尋ねた。
「ねー、聞いていい? ここに薔薇は咲いてる?」
 パラノロイド・トロイメナイトは――こくりと頷いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

リヴィア・ハルフェニア
そう…薔薇がある事は確かなのね。良かった。
ならこの辺りを荒らしたくない。
説得を続け防衛戦と行きましょう。
穏便に済むならそれに越したことはないわ。

アンナさんを後ろで守りつつ、攻撃は相殺。【学習】

どんなに苦しくても、救いを求めていても、安らかな眠りが本当に必要とは限らない。“人”はそんなに弱くないわ。と真剣に【優しく】訴える。

怪我人は回復し、さっきアンナさんと話した時に引っ掛かった事を術師に聞き、仲間にも伝える。
気になったままにはしたくないの。

戦闘後は皆と薔薇を探さないと。きっと皆が願えば見つかるわ
あと目覚めたお母さん達を【歌唱,鼓舞】でシンフォニック・キュアを使用し治療ね。

≪アドリブ、絡み歓迎≫


藤塚・枢
…くそ
分ったよ、認めよう
私が今まで見てきた奴等とは違うと

「キミが善意でしているのは理解したよ
けれどね、残された者がどう感じるのかを考えてみてはくれないか」

【土のいたずら】でパラノロイドそっくりの偽物を作り、鋼糸で人形劇さながら彼?の知人のように操る
爆発罠も仕込むけれど使うのは命に関わった時の最終手段

「ただの人形だよ
でもこれがキミにとって大事な友人や家族だったとして」
ぱたりと死ぬように眠ったみたいに横たわらせ
「突然理由も分らないまま、彼は目覚めなくなったとしたら?
唐突で一方的だとは思わないかい」

終わったら母親を薬で治療
肺炎になる前ならまだ何とかなる可能性は高い
村そのものも、清潔にしたり協力しよう


レイブル・クライツァ
言葉が通じる相手、か…
本当に優しさからその行動をとっていたのかしら?
いつまでも一緒に居てくれる都合の良い存在が欲しくて、偶然そうなったようにも見えたから
こうして沢山の人が眠って、身近な人々の記憶から忘れ去られる事が
当たり前になってしまう状況が悲しい事と言ったら、如何反応するのかしらね。
道中の狼が対象にならなかった時点で、狼が眠っている人々を餌にするかもしれない事を承知でしてるなら
私は刃を振るう事に躊躇はしないわ。その際は巫覡載霊の舞を

深紅の薔薇が、思ったように動かなかった対象を殺めた色で染まった薔薇でなければ良いのだけども
片付いたら、帰り道に土を回収して種と苗の育て方を広めて生活改善に努めたく


リインルイン・ミュール
蝶達には呪歌でお帰り頂きマス
幸せな眠りは、ワタシ達には必要ないので
攻撃するのは蝶だけ、あとは説得デス

ヒトは弱くて、すぐに絶望しちゃいますガ
一人では簡単に手折れる花しか咲かせられずとも、多くの手を重ねれば強い花が咲くのデス
ワタシ達が今此処まで来れている事が、その証明

全員がそうなれるかは分かりません
ですが先が無ければ、可能性すら消えるのデス
アナタの見せる夢は優しくても、先には滅びしか待っていナイ
過去に消えゆくものは、未来を生きる者に祈りを、願いを、希望を託すもの
どうか、そうして帰っては頂けませんカ

:後
シンフォニック・キュアで肺炎は治せるんでしょうカ?
内容は沢山の花咲く未来を願う歌、試すだけ試しマス



●14
 パラノロイド・トロイメナイトが首肯するのを見たリヴィアは、整った唇に安堵の微笑みを浮かべた。
「そう……薔薇がある事は確かなのね。良かった」
 薔薇がこの近くにあるといけない。なるべく庭を荒らさないようにしましょうと呼びかけるリヴィアの声に、リインルインが応じる。
「キミにはこんな歌を贈りましょうカ」
 リインルインの拡声器から、旧き亡者の呼び声のようなかすれた声が響きはじめた。
 陰鬱なコードで進行していく【旧きものへの呪歌】。呪いの子守歌は術師の見せる夢を悪夢へと変え、夢幻の蝶の動きを鈍らせていく。
「ルト、お願いね。皆を護って」
 攻撃パターンは読めつつある。リヴィアの声に答えたルトは、小鳥から大きな鳥へ姿を変えると、その勇猛な翼で蝶たちをつぎつぎに地面へ叩き落としていった。
「お帰りくだサイ。幸せな眠りは、ワタシ達には必要ないので」
 あくまで頭部を模した飾りであるリインルインの仮面に、ひとの感情がにじむことはない。
 けれど、ゆるやかな夢へ目覚めのときを告げる獣の声は、静かな森のなかに決然と響いた。

 パラノロイド・トロイメナイトは、相変わらず相いれぬ考えをもつ猟兵たちへの拒絶の攻撃を続けている。
 が、心なしか蝶の勢いは弱まり、肩を落としているようも見えた。その真意を推し量るようにじっと観察していた枢の指が、つめたい鋼糸にふれる。
 今まで数々の敵を葬ってきた道具だ。けれど、今これを掴んだ理由は、不意討ちや騙し討ちのためじゃない。
 もしも、これが和解の糸口となるならば――そう考えたのだ。
「キミが善意でしているのは理解したよ。けれどね、残された者がどう感じるのかを考えてみてはくれないか」
 枢の足元の土がもこもこと盛り上がり、いびつな土人形を形成する。それはやがてパラノロイド・トロイメナイトそっくりに姿を変えた。
 枢が見えない糸をひけば、偽物の幻想術師はまるで命があるように、枯れ草の舞台を踏んでぴょこぴょこと踊ってみせる。
 まるで人形劇さながら、それは【土のいたずら】。
 やわらかい手をくねらせ、ぱちぱちと拍手をするパラノロイド・トロイメナイトを、枢は呆れたように眺めた。
「……ただの人形だよ。でも、これがキミにとって大事な友人や家族だったとして」
 枢は糸をはずす。
 するとパラノロイド・トロイメナイトの人形は、ぱたりと倒れて動かなくなった。
「突然理由も分らないまま、彼は目覚めなくなったとしたら? 唐突で一方的だとは思わないかい」
 パラノロイド・トロイメナイトはとことこと近づいてきて、横たわる人形を手でつついた。
 人形は動かない。
 パラノロイド・トロイメナイトも、動かすそれを見下ろしている。
 死んだような、眠っているようなその姿に、この異形は今なにかを思っているようだった。

「貴方がそうして眠りにつかせた沢山の人は、やがて身近な人々の記憶から忘れ去られていくでしょうね。忘れられる事は死と変わらない、そう考える人もいるわ。それが当たり前になってしまうのは悲しい事よ」
 さくり、さくりと、レイブルの黒いハイヒールが草を踏む音がする。物思いに沈む敵の反応を窺いながら、彼女は静かに声をかけていく。
 そして、これもまた必要であろう、明確な非難を口にした。
「私は、正直に言って疑っているの。あなたは本当に優しさからその行動をとっていたのかしら? いつまでも一緒に居てくれる都合の良い存在が欲しくて、偶然そうなったようにも見えるわ」
 あえて厳しい態度を取るレイブルに対し、パラノロイド・トロイメナイトがどう出るのか。
 枢は慎重にその動向を観察しながら、まだはずしていない糸の一本に指を添える。
 ヒトに近い心を持つ存在だとはいえ、枢も手放しにオブリビオンを信用することはできない。
 この糸を引けば、人形に仕込んだ爆薬が破裂し――油断している敵を葬るしくみだ。
「深紅の薔薇は、あなたの思ったように動かなかった対象を殺めた色で染まった薔薇かもしれない」
 狼の土人形がやってきて、パラノロイド・トロイメナイトの人形に食らいつく。
「狼が森で眠っている人々を餌にしても構わない、そう思っているかもしれない」
 人形を操る枢にも緊張が走る。
 もしも敵がレイブルの言葉に怒って、こちらの命に関わるような攻撃をしてくるならば、その時は――。
「もしそうなら……私はあなたに刃を振るう事を躊躇しないわ」
 例えこの命を削ったとしても。
 レイブルは、パラノロイド・トロイメナイトの首へ薙刀を突きつけた。
 その白い刃にうすく浮かぶ模様は、どこかもの悲しいものだ。

 パラノロイド・トロイメナイトが怒ることはなかった。
 ただ、それは誤解だ、という風に小さく首を振る。
 実際、迷いの森に入ってからは死体も獣の気配もなかった。だが、問題はそこではない。
「あなたは良い事だと思ってしていたとしても、実際は私にそう疑われるだけの事をしていたの。狼が飢えていたのも、そのせいでアンナさんが恐ろしい思いをしたのも、あなたが彼らの生活圏を奪ったからじゃない? これで理解できたかしら」
 血染めの薔薇。その言葉を聞いたリヴィアは、先ほど感じた違和感について考える。
 百年も放置された城に、目をうばうような美しい薔薇が咲いているという話は、やはりこの荒れ放題の状況を見てもわかる通り、どう考えてもあまり現実的ではないのだ。
 それなのに、このオブリビオンはここに薔薇があると言っている。
 ならば――レイブルに叱られて非を認めたのか、しょんぼりしているパラノロイド・トロイメナイトを優しく許すように、リヴィアは真摯な声をかける。
「どんなに苦しくても、救いを求めていても、安らかな眠りが本当に必要とは限らない。“人”はそんなに弱くないわ」
 枢の土人形がひょっこり起き上がる。
 偽物のパラノロイド・トロイメナイトは、心細そうにあたりを見回した。
「一人では弱くて、すぐに絶望しちゃいマス。簡単に手折れる花しか咲かせられずとも……」
 リインルインがそう言うと、小さなパラノロイド・トロイメナイトの土人形がわらわらと出てきた。
 集まったちいさな土人形たちは、輪になってくるくると踊ると、合体して一輪の大きな薔薇になる。
 枢のユーベルコードで作られたそれは、けして精巧ではないいびつな薔薇だ。
 ルトのくちばしがその薔薇を摘みとって、パラノロイド・トロイメナイトのもとへと運ぶ。
「多くの手を重ねれば強い花が咲くのデス。ワタシ達が今此処まで来れている事が、その証明」
 後ろにひかえた仲間たちが、リインルインの言葉に強くうなずいた。
 種族も、年齢も、生い立ちもまるで違う、グリモアベースで偶然出会った仲間たち。
 けれど皆が協力したからこそ、励まし合ってここまでたどり着けた。
 全員が自分たちのようになれるかといったら、リインルインはそうではないと思う。
 どれだけ誰かが世話をしたって、支えきれずに折れてしまう、弱々しい花もあるだろう。
 けれど、先が無ければ。育てることをやめてしまえば、可能性すら消えてしまうから。
「アナタの見せる夢は優しくても、先には滅びしか待っていナイ。過去に消えゆくものは、未来を生きる者に祈りを、願いを、希望を託すものデス」
 ――どうか、そうして帰っては頂けませんカ。
 黒い獣がじっと、青い異形のすがたを見あげる。
 パラノロイド・トロイメナイトは――幻想の鳥籠に蓋をした。

 くそ、と短い声が響く。
「……分ったよ、認めよう。キミは私が今まで見てきた奴等とは違うと」
 枢は人形に仕掛けた罠を解除した。認めざるをえない悔しさと、かすかな清々しさを滲ませた彼女の口元には、わずかながらに複雑な笑みがうかぶ。
「以上だ。私達の人形劇は楽しんで貰えたかい」
 枢と一緒にパラノロイド・トロイメナイトの人形もぺこりとお辞儀をすると、また土へ還っていった。
 慈しむようにそれを見守っていたリヴィアは、本物のオブリビオンへと向き直る。
「私は、貴方の言う通り、ここに薔薇があるって信じてる。皆が願えばきっと見つかると思うわ。そして、それは貴方がここに現れたことと、何か関係しているとも思うの」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

シェーラリト・ローズ
「場所を教えてもらっていい?」
パラノロイド・トロイメナイトに案内を依頼
「ね、パラさんでいい?」
承諾を得られたら呼ぶ

アンナへ一緒に歌おうと誘う
「一緒に歌った方が楽しいよ」
歌いながらパラさんの様子は見る
(もしかしたら誰も救えなくて後悔した誰かの想いがそうなったのかな)

薔薇を見させてもらったらお礼を言う
「綺麗なものを見てないとやってらんない世界だけど…転ぶ人を助け起こすだけが救いじゃないよ」
パラさん、心配しなくて大丈夫
「君は今この薔薇を見せることで、わたし達の心を救った
もう、君自身が救われる為に眠ってほしい
君が救われなければ誰も救われない」
誰かを救う夢はわたし達が継ぐよ

わたしの言葉が届きますように


空廼・柩
この子が今回の元凶…何だか調子狂うな
けれど気を引き締めないと
絶対に、失敗出来ないからね

幻想術師、あんたは希望を求める者の元に現れるという
嫌な現実に押し潰される位ならばずっと眠っていたい
…そう思った事は誰だってあるだろうさ

けれど…アンナ、あんたの願いは何だったっけ?
幻の薔薇を探し出して持ち帰る
その薔薇を母親と共に村いっぱいに咲かせたい
それが彼女の願い――彼女の『希望』

どうか、彼女に薔薇を見せてほしい
その為にアンナは眠りに抗い此処まで来たんだ
優しい夢ではなく、厳しい現を取った
…そんな彼女も希望の夢に閉じ込めるの?

説得が決裂する迄は此方から攻撃しない
何があっても拷問具で皆を守る心算
…それが約束だから


藤塚・枢
さて、薔薇探そうか
彼が連れていってくれればそれが一番早いけれど
赤野薔薇みたいに自生しているのか、彼が育てているのか
彼…固体名ってあるのかな
あるなら呼びにくいし書いて貰おうか…

見つけたらアンナさんに
「持って帰ってもいいし、一緒に見に来てもいい
お母様はどっちが喜ぶと思う?
それに従えばいい」
後者だと嬉しいけれど、それは私のエゴだし黙っている

今回の一件で少しだけ大人になれた気がするよ
彼の行いを全否定する気はないし、別れ際には握手を求める
オブリビオンと握手とか、宝くじ当選より想像してなかった
感謝と別れを告げる時は自然な笑顔で
「ありがと
あなたに会えて、よかった」
ばいばい、優しい過去の残滓

病気治療も忘れずに



●15
 拷問具の棺桶の後ろにアンナを庇い、愛とともに護衛にあたっていた柩は、パラノロイド・トロイメナイトの様子を慎重に窺う。
 絶対に、失敗出来ない。敵が攻撃をやめたとはいえ、迂闊に気を緩めるような事はしない。
 何があっても皆を守る。それはアンナとの約束でもあったし、この場にいる数少ない大人として、自分が受け持つべき役割だ。
「嫌な現実に押し潰される位ならばずっと眠っていたい……そう思った事は誰だってあるだろうさ」
 研究と猟兵稼業で多忙な毎日。どんどん積み重なっていく書類の山に埋もれ、過労死という言葉を思い浮かべながら、どうしようもなく疲れ、椅子に座ったまま眠ってしまう夜もある。
 どの世界にも、その世界なりの嫌なことはあって、誰もがいつだって何かと戦っている。
「けれど……アンナ、あんたの願いは何だったっけ?」
 柩の後ろに隠れ、皆の話すことに耳を傾けていたアンナは、話を振られてはっとした。
「言ってあげなよ。俺の口からじゃなくて、あんた自身が話すんだ。大丈夫、もし何かあっても俺や皆がいるから」
 そう促されたアンナは、恐る恐る前に出て、パラノロイド・トロイメナイトと向き合った。
 安らかに目をとじた異形の仮面が、アンナをじっと見つめかえす。
「……わたしは、薔薇が欲しいの。薔薇を持って帰ってお母さんに見せたい。そして、村いっぱいに花を咲かせるの」
 数秒間の沈黙。
 敵が何もしてこないことに胸をなでおろしながら、柩は言葉を継ぎ足した。
「聞いたか幻想術師。これが彼女の願い――彼女の『希望』なんだ」
 パラノロイド・トロイメナイトが、今度は柩のほうを向く。
「優しい夢ではなく、厳しい現を取った……そんな彼女も希望の夢に閉じ込めるの?」
 柩の言葉を聞いたオブリビオンは、また何か考えこんでいるようだった。
 この世界に、そんな主張をしてくる人間がいるとは思わなかった、という風に。
 このパラノロイド・トロイメナイトにとっての救済は、辛い現実からの開放。
 絶望の中でもがき、苦しんできた人々に、永遠の安らかな夢を見せることであった。
 だが、この者たちの言うように、生きて立ち向かう希望を与えることが『救い』であるかもしれないならば――。
「あんたは希望を求める者の元に現れるんじゃなかったか。どうか、彼女に薔薇を見せてほしい。その為にアンナは眠りに抗い、此処まで来たんだ」
 ――もう、自分が今ここに存在している意味はないのかもしれない。
 パラノロイド・トロイメナイトは、ゆっくりと歩きだした。どこかへ向けて。

「ん、キミが薔薇の所まで連れていってくれるのかい? それが一番早いけれど」
「うん、わたしもそれがいいと思うなー。じゃ、場所を教えてもらっていい?」
 枢とシェーラリトの呼びかけにこっくりと頷いて、パラノロイド・トロイメナイトはまたゆったりと歩きだす。その場にいたほかの猟兵たちも、ぞろぞろと後を追いはじめた。
「ところでキミ、固体名ってあるのかな。どうにも呼びづらくてね」
「パラさんでいいんじゃない? ね、パラさんって呼んでいい?」
 シェーラリトの無邪気な問いかけを受けたパラノロイド・トロイメナイトは、不思議そうにこてんと首をかしげた。本来なら敵である猟兵にニックネームで呼ばれるとは思ってもみなかったのだろう。
 好きにすればいい、といった風に、術師はこくりと頷く。
「注意しときなよ、一応オブリビオンなんだから」
「もう大丈夫だよ。ね、パラさん」
 廃城にシェーラリトのご機嫌な鼻歌が響く。あまりにもマイペースな彼女の背を見ながら、柩と枢はやれやれと苦笑を浮かべた。
「パラさん、か……私にはとても到達できない発想だな」
 パラさん、と、枢は口に出してみる。
「呼んでみただけさ」
 振り返ったオブリビオンに、枢は不器用な微笑みを返した。

 シェーラリトの鼻歌は、やがて【慈悲深きコンソラトゥール】へ変わる。
 ――我ら手の届かぬ遙かなテール・プロミーズ。
 ――久遠なりし豊穣の地より、恵みの雨を風にて運び、慈しみの陽光と安寧の夜を。
 ――此の歩みに勇気の火を。

「アンナも一緒に歌おうよ」
「え? でも私、歌なんか歌えないわ」
「下手でもいいんだよー。大勢で一緒に歌った方が楽しいよ」
「そ、そうかしら……えっと、最初はなに?」
 アンナがシェーラリトの後に続いて歌いだせば、声の輪は猟兵たちの間にもだんだんと広がっていった。
 先程よりも明るく響くその歌は、ほんのわずかだけれど今この瞬間ほんとうに、世界の底をあたたかな灯火で照らしている。
 歌いながら、シェーラリトはパラさんの様子を盗み見る。
 仮面でその表情を窺い知ることはできないが、不定形の身体をゆらして歩く姿が、なんだか心地よさそうに思えた。

●16
 しなびた鈍色がどこまでも降り積もる森のなかで、嘘のようにあざやかな紅色が、城の角を曲がった猟兵たちとアンナの視覚にとびこんでくる。
 それは城全体の大きさからすると、ほんのひとつの点にも満たないささやかな差し色だ。
 城の東側の花壇に、一株だけひっそりと植えられた薔薇。
 そこに、たった一輪の薔薇が儚く咲いていた。
 それは猟兵たちにとっては久しぶりに見る、わりにありふれた色彩で、アンナにとっては――はじめて目にする、あまりに美しい赤だった。
「……きれい……」
 本当にあったのね。
 憑りつかれたように駆け出していくアンナを、リヴィアと椛が慌てて追いかける。
 深紅の薔薇のそばに顔を寄せ、しげしげと観察するアンナは嬉しそうというよりも、強すぎる感動ですべての感情が抜け落ちてしまったような顔をしていた。
 一緒に薔薇を見ていたリヴィアが、花壇の煉瓦に文字のようなものが刻まれているのを見つける。
「何か書いてあるわ……『親愛なる領主様』?」

 親愛なる領主様
       私たちの子をお守りください

「……これ。わたしの、お父さんとお母さんの名前……」
 その下に添えられた署名を目にしたアンナが、震える声でそう告げる。
 きっともう十何年も前、アンナの両親も、この場所でこうして深紅の薔薇を見つけたのだろう。
 そして、希望を感じて一抹の願いを託したのだ。アンナが強く生きてくれますようにと。
「この薔薇は……恐らく野生のものではないね。キミが育てているのかい?」
 枢の問いかけに、パラさんは首を横に振って返した。

 同じ場所に咲いている薔薇。
 数多の幻想が囚われているという幻想術師の籠。
 猟兵たちの、オブリビオンの力は、時に世界の法則すらも覆す。
 この薔薇は――パラさんと一緒に、捨てられた過去からやってきたのかもしれない。

「お母さん、お父さん……」
 両親の想いを知ったアンナは涙がとまらなくなり、その場に泣き崩れた。彼女を支えながら、シェーラリトはふと考える。
 ――もしかしたら、誰も救えなくて後悔した誰かの想いがパラさんになったのかな。
 この廃城には百年前に殺された領主の無念が、それを偲んで集まる人々の想いが、哀しい落ち葉のようにずっとずっと降り積もっている。
 この薔薇はその昔、優しい領主に愛され、お城の庭で咲き誇っていた薔薇なのかもしれない。
「きっと、皆が願ったから領主様の薔薇はまた咲いたのね」
「この薔薇は希う想いの結晶なんだね……」
 リヴィアと椛は美しい紅の花を眺めながら、遠い異界の過去に想いをはせた。
 かつてアンナの母が見たという薔薇も、やはりそうして人々の願いが結晶となり、過去からやってきてくれたのだろうか。
 しばらく薔薇をじっと眺めていたシェーラリトは、綺麗だね、と感嘆のため息をこぼす。
「ほんと、綺麗なものを見てないとやってらんない世界だけど……転ぶ人を助け起こすだけが救いじゃないよ」
 猟兵達の後ろから薔薇を見ていたパラさんのほうを振り返って、彼女は笑う。
 ――だから、パラさん、もう心配しなくて大丈夫。
「君は今この薔薇を見せることで、わたし達の心を救った。もう、君自身が救われる為に眠ってほしい。君が救われなければ誰も救われない」

 パラさんは、ゆっくりと頷いた。
 シェーラリトのその言葉に安心したように。
 青い身体から紫色の光がたちのぼって、つま先からゆっくりと、パラさんが無数の蝶になる。
 空に飛びたった夢幻の蝶たちは、曇り空にあえかな光を散らしながら――弾けて、消えてゆく。

 オブリビオンは、骸の海へと帰ることを決めたらしい。別れの時は近い。
 そう確信した枢は、この敵ともいえないふしぎな敵へ手をさしのべた。
 この優しい夢が醒めて、なくなってしまう前に、伝えたい事がある。
「その……パラさん。よかったら、握手をしてくれないか」
 何を言われているのか、オブリビオンは理解したらしい。
 ひょろりとさしだされた青い手を、枢はしっかりと握った。
 骨も皮もない、不気味な手ざわりの異形の手。けれど、この手には、ちゃんとひとの血が通っていたのだと思う。
 たとえ相容れない存在であるとしても、彼の行いを全否定する気は――ない。今の枢には。
(オブリビオンと握手とか、宝くじ当選より想像してなかったな)
 森に入った時と、今の枢の心境はまるで違う。すこしだけ、大人になれたのかもしれない。
 深紅の薔薇という希望を追いかけ、目にしたことで、変わったのはアンナだけではなかった。
 藤塚・枢という少女もまた、今日ほんのすこしだけ、未来へ進めたのだ。
「ありがと。あなたに会えて、よかった」
 自然と柔らかくなる言葉。枢の顔に、本来の14歳の少女らしいあたたかな笑顔が浮かぶ。
 両手で包むように握ったオブリビオンの指先が、枢の手のなかでまた蝶になり、飛びたつ。
 枢は静かに瞳をふせた。
 ――ばいばい、優しい過去の残滓。

「おやすみ、パラさん!」
 誰かを救う夢は、わたし達が継ぐよ――シェーラリトの言葉は届いただろうか。
 このひとときだけ曇り空をかがやかせる紫の光は、幻想術師の夢の余韻だ。蝶が最後の一匹となり、空に消えるまで、椛はずっと雲のむこうを見あげていた。
 柩と枢が、まだ泣いているアンナの肩を叩く。ふたりの指さす先を見ると、深紅の薔薇はその場にまだ残っていた。
「幻想術師の贈り物、なのかな……持って帰ってもいいし、一緒に見に来てもいい。お母様はどっちが喜ぶと思う? キミはそれに従えばいい」
 枢の言葉を聞いたアンナは、どちらがいいのかと思案する。
「そうね、お母さんはどちらでも喜んでくれそうだけど。ここに置いておいたら、あの青い子が淋しがるんじゃないかと思うの。ヒツギはどう思う?」
「なら持って行ったらどうかな。一緒にその薔薇を育てて、いつか村いっぱいに咲いたら、また俺達に見せてよ」
「うん……わたし、お母さんに薔薇を見せたくて、ここまで来たけど。もうひとつ新しい夢ができたのよ。綺麗な花でいっぱいになった村を、いつかあなたたちにも見てもらいたい」
 お母さんもきっと応援してくれると思うわ、と笑うアンナに、いいんじゃない、と枢は頷き返す。
 守り抜くという約束は、確かに守った。でも、また新しい約束が増えてしまったようだ。

 幻想術師は真実を語る言葉をもたない。
 すべては『もしかしたら』に過ぎないけれど。
 事実として、薔薇はそこにあった。
 『もしかしたら』を信じれば、それは――『奇跡』だ。

●エピローグ
 アンナと共に森から帰還した猟兵たちは、その後しばらくの間アンナの暮らす村に留まり、支援を行った。
「まったく酷いな……これでは風邪も流行るはずだよ。ここ、まだ汚れているよ」
「あ、あの、そろそろ休憩をですね……」
「あら、疲れたかしら。ならこの漢方薬を飲むといいわ」
「ひぃぃ、勘弁してくれぇぇ! 真面目に働くから!」
 枢は村の女性たちを捕まえて、徹底的に正しい村の清掃と消毒を行わせ衛生環境を改善した。レイブルも同じく、帰り道に回収した土を村の男たちに運ばせ、持ってきた種と苗の育て方を広めていく。
 二人のスパルタ指導によって、最初はいまひとつやる気のなかった村人たちの態度もだいぶ真面目になり、村での生活は以前よりも健全なものになったようだ。
「い、いったいこの村に何があったんだ……」
 眠りから覚めたのち、絶対にいいことがあるからという椛の呼びかけを受け、アドルフをはじめとした元村人たちは一度村へ帰ってきていた。
 半信半疑だった彼らも、実際に住人や村の空気の変わりようを目にしては驚きが隠せない。
「正直、今までどこで何をしていたのかもよくわからんが……こんなに村に活気があるのは生まれて初めてだ。ありがとう、旅の人!」
 アドルフ達はそう言って農具を手にすると、自ら率先して畑作りに加わっていく。猟兵達が去っても、これからは彼らとアンナがこの村を引っ張っていってくれるだろう。
 そして、アンナの家でも――。

「これ、お湯で温めるだけで美味しいおかゆができるんだよ。何個か持ってきたからお母さんにあげてね」
「す、すごいわね……どういう技術なの? ちょっと味見していい? あ、美味しい!」
 いつかあなたたちの村に遊びに行ってみたいわ、とアンナは夢見るように言う。きっと素敵なところなのねと言われ、椛は嬉しくなった。
「うん。とってもいい所だよ。いつかアンナちゃんが遊びに来てくれたらいいな……」
 実現は難しいかもしれないが、きっと電車や車やテレビに、いちいち物凄く驚くんだろう。そう考えるだけで楽しい。
「ふふふ……」
「な、なによお母さん」
「アンナ、とても表情が明るくなったなぁと思って。ちょっと前までは何を話しかけてもぶすっとしててねえ、生返事ばっかりしてたのよ、この子」
「う、う、うるさいわね! 悪かったわよ……反省してるわ」
 アンナの母も無事に目覚め、猟兵たちの治療によって風邪も回復に向かいつつあった。
 パラノロイド・トロイメナイトは母親に死の運命を見ていたようだが、現在の様子を見ている限りでは大丈夫そうだ。悪化して肺炎になる前に、適切な措置を行った甲斐があった。
 母親はふと、窓の外を眺めた。
 窓の外には、あの深紅の薔薇の鉢植えが置いてある。
 今はまだちいさな苗だが、大切に育てれば、いつかたくさんの花を咲かせる日が来るだろう。
「良かったわ、お父さんと見たあの薔薇がまだお城にあって。本当に綺麗……不思議なこともあるものね」
「そうだね、世界は不思議なことだらけだ。さ、今日も食後にこの薬を飲んでくれ」
 おかゆを食べたアンナの母親は、枢に渡された薬を飲むと、猟兵たちのほうへ向き直る。
「アンナが明るくなったのはきっと皆さんのおかげね。病気も良くなったし、なんてお礼を申しあげたらいいのか。元気になったら娘と一緒に頑張りますから、こんな村で良かったら、また遊びにきてくださいね」
 ――アンナも有難うね。
 母の言葉に、娘は照れたように背を向け、皿を洗っている。
 きみたちは、望むならまたいつでもこの村を訪れることができる。
 ここにひとつの希望を創ったきみたちに、グリモア猟兵は協力を惜しまないだろう。

 椛と枢が家の外に出ると、田植え歌にも似た朗らかな歌声が村の畑にひろがっていた。
「さあ、歌いまショウ! 歌に合わせて振るえば、重い農具も軽く思えマス!」
「私も一緒に歌うわ。ルト、貴方は踊って皆を励ましてあげて」
 リインルインが作ったという、沢山の花咲く未来を願う歌は、口ずさむとなんだか元気が出てくると村人たちのあいだで評判らしい。
 歌いながら畑作りを手伝うリインルイン、リヴィアと共に、村人たちは仕事にせいを出している。
 童謡のような明るくのどかなリズムに合わせ、ルトが楽しそうに空を舞っていた。
「素敵な歌だね。二人とも、そろそろ帰る時間みたいだよ」
「待って! モミジ、皆さん……帰っちゃうのね。また来てね、絶対よ!」
「あ、アンナちゃん! そうだ、最後にプレゼントがあるの。受け取ってね」
 見送りに来たアンナへ、椛は綺麗にラッピングされた園芸本をアンナへプレゼントする。
 見たこともないような美しい花の写真と、花を育てるコツがわかりやすく書かれたその本を、アンナは大事そうにぎゅっと抱きしめた。
「有難う……大事に読むわね。わたしからも、お世話になった皆さんにプレゼントがあるの」
 そう言ってアンナが猟兵達にさしだしたのは、ささやかでちいさな――押し花だった。

「これ、お母さんが作って、取っておいていた押し花なの。いつも何のために作ってるのかと思ってたけど、きっとこの花は、皆さんに貰ってもらうためにあったのね」
 ありもしない希望のかけらを見つけてくれた人たち。
 乾いた大地の底から見上げる昏い空を、少しだけ明るくしてくれた人たち。
「あんまり綺麗じゃない花だけど……受け取ってくれますか?」
 今はこんな花しかないけれど。
 きっといつか、素敵な希望の花を村いっぱいに咲かせてみせるから。
 だから――未来への約束と、ありったけの感謝をこめて。

『貴方に花を』

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月25日


挿絵イラスト