アースクライシス2019⑮〜その闇の一点を穿て!
「知覚:発見=己の居場所」
夜のマンハッタンの屋上で、その闇は呟いた。
見つからぬはずの己の姿が暴かれ……発見された事を。
しかし、想定していなかったわけではない。
何れこうなることは分かっていたし、故に焦りも動揺もない。
「追い詰めたぞ、ダークポイント!」
ヒーローの一人が駆け出し、ダークポイント向けて駆け出した。
炎を帯びた拳を振り上げ、一撃で消し飛ばしてやると言わんばかりに。
だが――――。
「推定:脅威度小=障害に非ず」
ボウ、と黒い炎に包まれて、倒れたのはヒーローの方だった。
ダークポイントは、なにかしたわけではない。
ただ――“見た”だけだ。
「あ、が、ぐあああああああああああああ!」
そして、もう襲撃者に意識を払うことはなかった。
ダークポイントには、分かっている。
居場所を暴かれた、ということは、次に現れるのは――。
「推定:脅威度大=猟兵の出現可能性」
しばし思案し、導き出した答えは、一つ。
「対処:鏖殺=全て殺す」
向かってくるのならば、全て殺す。
正体不明の殺戮者は、当然のようにそう判断し。
再び、マンハッタンの街へと跳躍した。
◆
「敵の有力オブリビオン、ダークポイントの居場所が判明したわ、……要注目」
ニヒト・デニーロ(海に一つの禍津星・f13061)は挨拶もなしに、グリモアベースに集まった猟兵達に告げた。
ヒーローもヴィランも見境なく殺す、正体不明の殺戮者、スカムキングのしもべ、ダークポイント。
クローンとしては既に戦場に出てきていたが、ついに本体が発見された、という知らせだった。
「場所はマンハッタン、高層ビルの死角にあった『不可視の領域』に潜んでいたのを、ヒーロー達が見つけたの。……だけど」
その強さはクローンとは比較にならず、ヒーロー達では太刀打ち出来なかった。
戦い、挑み、勝ちうる可能性があるのは、猟兵だけだ。
しかし。
「ただ正面から挑んでも、返り討ちにあうわ。何より厄介なのは、ダークポイントの能力。……即ち、無限の射程への対策」
ダークポイントはビル街を縦横無尽に飛び回りながら、猟兵に対し先手を取って、無限の射程による攻撃を放ってくる。
何かしらの対処法を用意せずに向かえば、猟兵と言えど敗北は免れない。
一つ。『視線』を向けた対象を漆黒の炎で焼き尽くす《ダーク・フレイム》。
二つ、無数のリボルバーから『全方位・超連射・物質透過』の弾丸を放つ《ダーク・リボルバーズ》。
三つ、銃口を向けた相手の『自殺衝動』を膨らませ、自傷に至らせる《ダーク・アポトーシス》。
どれもこれも、存在を知覚された時点で敵の射程内に入る。
どのユーベルコードを使ってくるかは、こちらの出方にも寄るだろうが……。
「それと、ダークポイントは常にビルの屋上を飛び回って移動しているわ」
必然、こちらも追いかけて、移動しながら行う事になる。
開いた距離を埋める方法や、敵に追いつく方法……更に接近戦を挑んだり、足を止めての打ち合いが必要なら、
“どうやってその状況に持ち込むか”も考えねばならない。
「強敵よ。厳しい戦いになる。だけど……」
無事に帰ってきて欲しい、と言い切ることは出来なかった。
それだけの、強敵の場所へと、これから猟兵達を向かわせるからだ。
だから、背中に向ける言葉は一つ。
「…………頑張って」
甘党
甘党です。
ボス戦です、気張っていきやしょう。
◆アドリブについて
MSページを参考にしていただけると幸いです。
特にアドリブが多めになると思いますので、
「こういった事だけは絶対にしない!」といったNG行動などがあれば明記をお願いします。
逆に、アドリブ多め希望の場合は、「どういった行動方針を持っているか」「どんな価値基準を持っているか」が書いてあるとハッピーです
◆負傷について
ボス戦なので結構痛い目を見たり、場合によっては苦戦したりするかと思います。
『激しいダメージ描写はNG!』『苦戦してるところは見たくない!』といった場合も、プレイングの片隅に明記してもらえると嬉しいです。
◆その他注意事項
合わせプレイングを送る際は、同行者が誰であるかはっきりわかるようにお願いします。
お互いの呼び方がわかるともっと素敵です。
◆章の構成
第一章:『ダークポイント』
【第一章】、ダークポイントとの決戦です。マンハッタンを縦横無尽に飛び回る、ダークポイントをぶっ倒しましょう。
注意事項はOPでも明記しましたが、『敵のユーベルコードに対してどう対処するか』が最大のポイントとなります。
猟兵が
POWのユーベルコードを使う場合は《ダーク・フレイム》。
SPDのユーベルコードを使う場合は《ダーク・リボルバーズ》。
WIZのユーベルコードを使う場合は《ダーク・アポトーシス》。
……で、それぞれ対抗してきます。プレイングの参考にしてください。
複数のユーベルコードを組み合わせて使用するプレイングであっても、
「プレイング時に選択したユーベルコード」で判定をします。
◆備考
今回のシナリオにはプレイングボーナスがあります。
ボーナスに沿ったプレイングを書くと有利になります。
プレイングボーナス……『敵のユーベルコードへの対処法を編みだす』。
(ダークポイントは必ず先制攻撃してくるので、いかに防御して反撃するかの作戦が重要になります)
それでは、プレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『ダークポイント』
|
POW : ダーク・フレイム
【ダークポイントの視線】が命中した対象を燃やす。放たれた【漆黒の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD : ダーク・リボルバーズ
自身に【浮遊する無数のリボルバー】をまとい、高速移動と【全方位・超連射・物質透過・弾丸】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : ダーク・アポトーシス
【銃口】を向けた対象に、【突然の自殺衝動から始まる自分への攻撃】でダメージを与える。命中率が高い。
イラスト:カス
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ハゼル・ワタナベ
○
(ダメージ描写・苦戦描写歓迎)
ああ、テメェがダークポイント…それもクローンじゃねえ、親玉ってワケか
機械みてーに喋りやがってやっぱ気味が悪ィ
って、おい逃げんじゃねえ!
畜生、逃げ足の速い奴だ…
俺は得物「ウロボロスの毒牙」に仕込まれたワイヤー「蛇骸」を伸ばして、ダークポイントを追いかけ、接近戦を挑むぜ
俺の挑むUCはSPD…ダーク・リボルバーズを放射するなら、俺は…!
刻器、真撃!
毒性を高める瘴気を放ち、ダークポイント本体に届くよう拡げてやる
同じ猟兵が身近に居りゃあ、一言声も掛けるぜ
俺の毒は無差別で危険だからな
…今も何処かで、結社の皆が、戦ってるかもしれねーんだ
俺も負けていられるかよ!
††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† †††
VS UROBOROS
††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† †††
夜闇に紛れ、宙を飛ぶダークポイントを最初に補足したのは――――。
「あぁ、ようやく見つけたぜ……!」
鋭い双眸を持つ青年、ハゼル・ワタナベ(“∞”のⅧ・f17036)だった。
手にした蛇腹剣を一振りすれば、ジャラリと音を立てて、刃を構成するワイヤーが伸びる。
ビルを噛み、縮めれば、闇を駆けるオブリビオンに勝るとも劣らぬ速さで移動できるというわけだ。
「標的:確認=排除」
ダークリボルバーもその姿を認めた。
即座に、移動しながらの応戦体勢、即ち――――。
「障害:否」
《ダーク・リボルバーズ》。
ダークポイントの周囲を浮遊する無数のリボルバーが、一斉に火を吹いた。
物体を貫通する故に防御は無意味。
全方位に超連射を行う故に回避は無意味。
「――――――!」
発砲音は連なり、重なり、ドラムロールの様に響いた。
避けきれるわけもない。足に腕に胸に鉛玉が突き刺さる。
「が――――!」
「標的:分析=防衛手段皆無」
ハゼルは、避けない。
ハゼルは、防がない。
「標的:確定=殺傷完了」
故にダークポイントは、その死は確定した、と判断した。
死刑宣告と共に、追撃の弾丸が放たれた――――所で。
「!」
表情というモノが存在しないはずのダークポイントが、確かに驚きを示した。
ビルを跳ねるはずだった足が、がくんと力を失い崩れ、落下しかけ――――。
「誰を殺傷したってぇ……?」
じゃらり、じゃらり、と金属がこすれる音がする。
それは伝い来る蛇の這いずる証拠に他ならない。
「刻器、真撃――――餐らえウロボロス!」
オブリビオンとは言え、命としてそこにある限り、その“毒”からは逃れられない。
大気を――空気を毒に変じる、毒蛇の吐息。
お互いを視界に収めた時点で、ダークポイントがハゼルを射程内に納めたように。
ハゼルも、ダークポイントを射程内に収めていたのだ。
「状態:汚染=解析完了。毒素分解開始――――」
「そう簡単にさせるかよ――――!」
文字通り、蛇の様に唸る斬撃が、ダークポイントに襲いかかる。
大気を毒に変じる根源が納められたその刃が。
「――――判断:確定」
ダークポイントは、故に判断した。
今すぐ毒素を分解しなければ、今後の行動に支障が出る。
しかし、行動を一瞬止めれば、より凶悪な“毒”が襲い来る。
だから――――前者を諦めた。
発砲音。
発砲音。
発砲音。発砲音。発砲音。発砲音。発砲音。発砲音。発砲音。
「ぐ、ぁ――――――――が、っは」
武器の使い手を始末する。
最速で――――それがダークポイントの答えだった。
代償は、体を蝕む毒に、数秒間身体を許してしまう事。
たとえ毒を分解しきったとしても、毒が侵した身体までは戻らない。
「…………はは」
身体から吹き上がる血の糸を纏いながら――ビルの合間、光射さない闇に落ちながら、ハゼルは笑った。
「テメェ、これで終わったと思うなよ」
どこまでもしつこく、蛇は言う。
ダークポイントはそれを見送った。
計算上、あの猟兵は落下した衝撃で死ぬはずだからだ。
そのはずなのに。
「思考:不明=解析不能」
なぜだか、意識を向けてしまう。
人はそれを悪寒と呼ぶが、闇の一点はそれを知らない。
知ることは、無い。
苦戦
🔵🔴🔴
秋山・軍犬
でたな幹部級、そして安定の絶対先制攻撃
実家のような安心感…じゃねえっす!
自分が発動するのは【UC:黄金の厨房】
このUCはフルコースゴールデンの発展形
故に現在の自分の行動速度は音速
だが相手も並みの使い手じゃない
速度で視線を避けるのは不可能
故に炎は回避しない
勝負を捨てた? 否!
敵が扱うのは漆黒だろうが何だろうが炎!
そして、すでにこの領域は黄金の厨房!
厨房で炎とくればフードファイターならば
どんな炎も扱えるっす!
(料理+破魔+見切り+早業+属性攻撃+オーラ防御+火炎耐性)
自分が勝てば炎の力で更にブーストされた
戦闘力でカウンター!
さあ、自分の料理技能とアンタの漆黒の炎
どちらが上か勝負だダークポイント!
††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† †††
VS FOOD FIGHTER
††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† †††
突き詰めれば、ダークポイントの優位性は、その攻撃の速射性と範囲性にある。
例えば、「見る」事によって発動する漆黒の炎……《ダーク・フレイム》。
「確認:対象目視=焼却」
それは相対した瞬間に勝負が決する、という意味である。
実際、ダークポイントが捉えた新たな猟兵は、一瞬で黒い炎に包まれて燃えていく。
「実行:黒炎=殺傷完…………?」
そのはずだった。
しかし、ダークポイントは“完了”の二文字を、ついぞ告げることは出来なかった。
何故か。
「熱い…………」
黒き炎が、フライパンの上で踊っていた。
「なんていう勢い……さすがジェネシスエイトっす。――――だけど!」
この場所は、確かにロサンゼルスのビルの上。
猟兵とオブリビオンが刃と銃弾を交える戦場。
で、あるはずなのに。
「ここが戦場だというのなら! 料理人の戦場は厨房っす!」
黄金のオーラが闇夜を引き裂き、世界を染め上げていく。
おお、見よ! 顕現せし黄金の厨房を!
荒れ狂う炎と対峙する秋山・軍犬(悪徳フードファイター・f06631)は、未だ燃え尽きず、その手にある中華鍋を強く振っていた!
熱気のドームを伴いながら、ぱらりと舞う米粒がまだ炭クズにならず輝いているのが、ダークポイントの黒炎に拮抗している確かな証であった!
「思考:判断=理解不能!?」
ダークポイントが叫んだ。
今や炎は黄金と漆黒の二色が混ざり合い、支配権を奪い合っていた。
燃やすと定めたモノを焼き尽くす黒。
その炎すら己が支配するものと定義する黄金。
「勝負を捨てた? 否! 断じて否!」
料理とは炎より始まる。
米も、パンも、パスタですら、まずは火種が必要だ。
その熱を、温度を、自由自在に使いこなしてこそ、この世にあまねく食材を、料理という芸術作品に加工することが出来る。
つまり――料理人とは、炎の支配者である。
ましてや、ここは黄金の厨房!
であるならば!
「どんな炎でも扱えるっす! フードファイターならば!」
二つの炎が混ざり、溶けて巨大な火球を形成する!
もはや誰も止めることは出来ない! ダークポイントは黒炎を更に広げようとするも、既に制御を失っていた!
「疑問:宣言=ありえない!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
はたして、黄金は漆黒をその内部に取り込み、爆熱の塊となった。
そして中華鍋の中で、今や炒飯は見事に完成していた。
となれば、炎はもはや、消える時分である。
「行くぞおおおお! 喰らえダークポイント! これが、自分のぉーっ!」
――――火球が、放たれる!
「――――――料理人魂だぁああああああああああああああ!」
「宣言:絶叫=理解――――不能!」
身を翻し、逃げようとしても既に遅し。
ダークポイントの体を、二色の炎が飲み込み――――天まで伸びゆく巨大な火柱が、ロサンゼルスを照らした。
大成功
🔵🔵🔵
ミーユイ・ロッソカステル
○
半身が吸血鬼なればこそ、ビルの上を木々を渡るように駆けることは問題ないけれど。
その銃口に捉えられたものは、抗いがたい自殺衝動に駆られる、と。
……皮肉なものね
獲物が銃や刃物なら、「それを持ち込まない」ことで対策も出来ていたけれど
……私の獲物は、「声」なのだから
自分の内より聞こえる声
己の最も得意とする方法で、自己を切り刻めと
それこそを、きっとお前の手にかかった父も母も望んでいる、と
……普段なら一蹴できていたであろうそれらの声が、なんと甘美に聞こえることだろう。
その望むままに歌いあげたのは、「夜との闘い 第3番」
……真なる「敵」を、灼熱の流星で焼き滅ぼす歌。
……私は、欺けても。
私の夜は、欺けない。
††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† †††
VS Die Diva der Nacht
††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† †††
その歌姫は夜の眷属だった。
故に、ロスのビル上を飛び回ることは、はしたなくスカートがぶわっと広がる事以外には、何ら問題はなかった。
「消耗……しているのかしら?」
遠目に捉えたダークポイントには、表情や感情、といった生物的な変化が見て取れない。
負傷はしているようだが、動きに鈍った所はなく。
「確認:目標=消去」
ターゲットを補足する精度も、速度も、衰えることはなかった。
「あんな――――距離から!」
ミーユイ・ロッソカステル(眠れる紅月の死徒・f00401)が息を呑んだのも無理はない。
距離にして1km以上は離れているのだ、夜の王たる吸血鬼の血をひいているからこそ、ギリギリ視認出来たはずなのに。
「――――っ!」
ドクン、と心臓が脈打つ。
何をされたわけでもない、ダークポイントはただ、静かに銃口を向けただけだ。
最も、それが彼の行う処刑であり、その動作だけで十分なのだった。
《ダーク・アポトーシス》。
それは、銃口を向けた対象に『死なねばならない』と思わせる、闇の呪いだった。
「――――――――――ぁ、ぁぁぁぁぁぁあ!」
頭が割れる。記憶が軋む。鼓動が激しくかき鳴り、全身が熱を持つ。
死ななくてはならない。
消えなくてはならない。
この世に居てはならない。
死ね、死ね、死ね、死ね!
お前が手をかけた父も母も、それを望んでいる!
――――通常であれば、その衝動に飲まれて人は終わる。
己の拳で、刃で、異能で。あらゆるヒーローが、ヴィランが自死を迎えてきた。
だが、ダークポイントは知らなかった。
その女の武器は――――。
◆
「対象:排除=完了」
知覚した対象にユーベルコードが作用したことを確信し、ダークポイントは「作業が終わった」として次の獲物を探す。
だが。
――――――――――ぁ。
遠く、遠くから声がする。
それは確立された音の流れに沿って放たれる。
リズムとテンポを有し、言葉ではなく旋律を刻むモノ。
人はそれを、歌と呼ぶ。
「疑問:確認=歌?」
ダークポイントも、もちろん概念としてそれは知っている。
だが、戦場に響くそれは、知らない。
どんどんと、歌は大きくなっていく。
遠く遠くにいるはずの彼にも、聞こえるほどに。
――――聴け この叫びを
――――見よ この光を
それは、ダークポイントにとって、脳の内側をガラスの爪でひっかくような、不快な歌だった。
いや、感情ではない、ダークポイントにそんなものはない。
ただただ、受け入れがたい感覚だった。
“これ”を聞き続けるのは、これからの作業に支障をきたす。
だが、何故死にゆくはずのモノが――歌を?
――――我が生命の灯火よ
――――燃えろ 燃えろ 塵となるまで
歌は止まない。
歌は終わらない。
「疑問:思考=何故――――?」
――――夜よ 夜よ 星に変えよう
――――願いも 思いも この生命すらも
それは葬送歌だ。
死にゆくものへの弔いだ。
「結論:殺傷=再度実行」
ダークポイントの行動は、ある意味どこまでも愚直だ。
意図は不明だが、それが敵の行いならば、速やかに息の根を止めるべし。
直接頭に弾丸を叩き込めば、この歌も終わるだろう。
――――星の輝きは
しかし、それは夜の歌姫を前に、最もしてはいけないことだった。
最も、選んではいけない選択肢だった。
殺そうとするならば、それは即ち、敵意だ。
何故歌が響くのか? 何故女は、夜を音で満たすのか?
その答えは明白。
女にとって、歌こそが――――武器だからだ。
夜空の星が一斉に光り。
ダークポイント目掛け、降り注いだ。
「――――――!?」
闇の一点は、光の収束に、焼かれ落ちていく。
◆
「―――全てあなたの敵である、ああ」
歌い終え、己の心が静まっているのを自覚する。
闇夜を照らす星の柱を見つめながら、頬を伝う一滴を指で拭って。
「……私は、欺けても」
たとえこの心に、偽りの自死を与えようと。
喉を飾るチョーカーにふれる。その向う側にあるモノこそが、与えられた愛の証。
「私の夜は、欺けない」
なぜなら、それは祝福なのだから。
成功
🔵🔵🔴
ロク・ザイオン
◎ジャックと
(ジャックの体に予め「擁瑕」を刻み、影の中に隠れて戦場へ。
敵からは、ジャックひとりがそこにいるように見えるだろう)
ジャック
…一発。貸して。
(ジャックの弾幕が敵の注意を、銃口を引き付けてくれるだろう。
その隙に、ジャックが複製した弾に【早業】で「擁瑕」を刻み直し
撃ち出された弾の影に乗って接近。
落ちた影、真下からの奇襲。
刹那に銃口を向ける余裕が、お前にあるか――あったとしても、
牙を向けられたら相手を殺す。
獣の絶対的な本能は、その一瞬拮抗する)
ジャガーノート・ジャック
◯ロクと
(ザザッ)
敵影を――ッ。
(発見を述べる迄もなく銃弾の雨霰。話に聞いていた通り。)
(即座に"Tempest"を発動。肉体を"砂嵐"に変え弾丸を透過し回避(残像×見切り)しつつ)
分析完了、複製を開始。
――ロク、行くぞ。
(敵の視界から"砂嵐"でロクを隠し(庇う×目立たない)つつ、"砂嵐"を通過した弾丸を複製射出。(カウンター×一斉発射))
全方位に飛ぶ数多の弾数。
物質透過。
射程といい厄介だ。
――故に、そのまま返すとしよう。
銃弾の迫る箇所を引き続き"砂嵐"化し、敵を撃ち応戦しつつ――
本命に至る一手は君に任せた、ロク。
君を奴の喉元まで運ぶのが本機のミッションだ。
(スナイパー×誘導弾)
(ザザッ)
††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† †††
VS TEMPEST & STORM
††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† †††
ダークポイントの戦いは、常に作業だ。
戦闘にならない。
発見した時点で攻撃は行われ、対象は死ぬからだ。
仮に反撃されたとして。
行うのはそれに対応した“作業”をするだけのことであり。
その凶弾に敵意はなく。
その黒炎に悪意はなく。
その銃口に害意はない。
なので……現在の負傷を踏まえた上で。
「目標=確認:殺傷」
猟兵の姿を確認した瞬間、攻撃を放つのは彼にとって当然のことであった。
◆
ザザッ。
「敵影を――ッ」
発見、と言う前に、最初の弾丸がジャガーノート・ジャック(AVATAR・f02381)の頬をかすめた。
小さな鉄塊を呼び水に、耳を覆う銃声の嵐が吹き荒れる。
(発見を述べる迄もなく銃弾の雨霰。話に聞いていた通り)
しかし、鋼鉄の豹躯に動揺はなかった。その程度の情報は把握している。
『本機を“見た”な。闇の一点』
声は届かぬだろう。相手も、聞くつもりはないだろう。
しかし。
敵意を。
悪意を。
害意を。
表明するために、ジャガーノートは言った。
「――――行くぞ、ロク。戦争を始めよう――オーヴァ」
◆
ダークポイントは見る。自らに追いすがる黒き機影を。
それが人であれ物であれ、弾丸は等しく貫き死を与える。
点の弾丸を面のように放つ。
回避不能、防御不能……そのはずが。
「着弾:確認=……出来ず」
通じなかった。
否、すり抜けた。
ダークポイントの弾丸は、物質透過、即ち物理的な防御を許さぬ性質を持つ。
しかし、だからといって物体である敵を透過するようなマヌケはしない。
ならばあれは。
「目視:判断=猟兵のユーベルコード」
然り。
ジャガーノートに触れた弾丸は、ノイズに混ざってその身体を通過する。
実体が失せている。実在が消えている。
ユーベルコード《“Tempest”》は、己の身体を電子の砂嵐へと変えるのだ。
この世界とは違う法則に基づいて、物理を捻じ曲げて、豹躯がみるみる迫ってくる。
「分析:完了=対処――――容易」
ダークポイントが、続けて一斉掃射を行った。
『!』
驚愕したのはジャガーノートだ。
弾丸は先程と同じく、身体を通過して行った。
だが。
弾丸が通り過ぎた部位が、己が起こしたものではない、別種のノイズによって乱れている。
『貴...様、..磁.....場を――ザッ――』
応える必要はない。
殺傷は、ただ淡々と行われれば良い。
弾丸に強力な磁性を付与し放つ事で、ジャガーノートを形成するノイズそのものを乱す。
作業の手段は無数にあり、その一つを選んだ、ダークポイントにとってはそれだけに過ぎない。
大量の弾丸は徹底的に空間をかき乱し、ジャガーノートの砂嵐を霧散させるだろう。
消滅を恐れて実体化すれば、その瞬間無数の弾丸の餌食となる。
故に弾丸を放ち続けていれば、この“作業”は、もう終わる。
『――――――勝っ.......思......たか?』
声が聞こえた。
消えゆく目標を眺めながら、ダークポイントは耳を澄ました。
もし今際の際に仲間の名前を呟くのであれば、それは次のターゲットになりうるからだ。
はたして。
『――――――勝ったと思ったか?』
ブレていたノイズが晴れた。
ジャガーノートの砂嵐の向こうから、“何か”が来る。
それは点だった。
それは鉄だった。
それは弾だった。
命を穿つ、ダークポイント。
放った数と同じ弾丸が複製されて、面となって襲いかかってきた。
◆
“Tempest”の本質は、己の身体を砂嵐にすることではなく。
その砂嵐に触れたものを“複製”することだ。
身体を通過した無数の弾丸を、性質ごと複製する。
つまりは――――。
『実に優位な攻撃だ――――そのまま返すぞ』
面の制圧射撃が、そのままダークポイントに放たれた。
即座に、敵も応戦する。同じ量の弾丸を同じ様に、いや、それ以上の圧を持って放ってくる。
弾丸同士がぶつかり合い――――はしない。
物質透過の性質が発動し、お互いの身体に着弾するまで弾丸が止まることはない。
『グ――――オ――――!』
砂嵐が激しく乱れる。磁性を帯びた弾丸は健在だ。
ダークポイントは銃弾を浴びて、なお怯まず撃ち続けてくる。まさに冷徹なる機械。
急所さえ撃ち貫かれなければ問題ない、という様に。
あるいは――――自らの生命に、一切の頓着などないように。
やがて終焉が訪れる。
弾丸の複製速度が、ダークポイントのそれに追いつかなくなっていく。
「計算:完了=二百八十手で抹殺」
無数の銃撃の応酬を前に、それはすぐにやってくる。
「対象:殺傷=確定事項」
遂にジャガーノートを形成するノイズが崩壊を始める。
弱々しく放たれた、最後の一発が、顔の真横を通過しても、やはりダークポイントは一切の動揺を見せなかった。
『任務――――――』
ザザッ、と砂嵐が激しく走り、ジャガーノートの体が遂に実体化した。
力を失い、そのままビルの上から落下していく姿を、ダークポイントは――――。
『――――完了』
見ることができなかった。
その銃を握る腕が、、殺意の塊のような剣鉈によって斬り飛ばされていたから。
◆
最初から
最初から、ロク・ザイオン(蒼天、一条・f01377)はそこに居た。
砂嵐と化したジャガーノートの傍らに。
その装甲の隙間に生まれた、小さな影の中に。
(ああ、ああ、ジャック)
撃たれ、乱れ、崩れ、壊れ、それでも突き進む相棒の姿を、最も近い所で感じながら。
それでも一切揺るがず、乱れず、ブレず、ただその瞬間を待っていた。
ジャガーノートが複製した弾丸の一つにその紋を刻み。
弾丸の影に紛れ、弾丸の速度で飛翔し、弾丸が詰めた距離が、そのまま森の番人の殺傷領域となる。
(痛いだろうか、辛いだろうか。きみは)
それは心配ではなく。
ましてや不安でもなく。
思考だった。
必殺の極点に至るまでの間、体を張る相棒の事を考える、思考。
(あれは、からっぽだ)
敵は空虚だ。
敵は虚像だ。
感情がない。
思いがない。
中身がない。
そんな物にジャックは敗北しない。
そんな事はわかりきっている。
だからこそ、考える。
(きみは、痛いだろうか)
その痛みを返してやるのは。
おれのやくめだ。
◆
ダークポイントの反応速度は、それでも凄まじかった。
ロクが“出現”した刹那には、もう銃口を向け終わっていた。
ただし。
自らへの殺意が、その野生の激情を上回るには、いくらなんでも時間が足りなかった。
「牙を、向けたな」
殺される前に殺す。
研ぎ澄まされた、獣の本能にして本質。
自死に至るより前に、殺傷の刃は振るわれる。
左腕の肘から先を斬り飛ばし、続けざまに首へ。
「お前が、死ね」
刃は間違いなく、その闇の一点に届いていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
鳴宮・匡
○
【AAA】
視認できる限り相手からは眼を切らない
聴覚は銃声を見極めるのに振り向け
自前の知覚で放射される弾丸の軌道を読み切り回避
必要に応じてレイガンでの撃ち落としも織り交ぜ
自身の“安定した狙撃能力”を残せる程度には身を護る
攻撃は任せる、と言われている
それは命令でなく信頼だ
だから、間違いなくこなしてみせようと思っている
相手が“踏むはずだった”ビルが倒壊する一瞬が勝負だ
移動が高速なだけで飛翔できるわけじゃない
足場がなければ急な制動や方向転換は難しい
ほんの僅かでも、逡巡の間があるはずだ
――その瞬間を衝いて、射抜く
やれるか、じゃない
“そうする”んだ
向けられた信頼の分くらいは、
俺だって、自分を信じてみせる
ヘンリエッタ・モリアーティ
【AAA】
『応龍』、――あそこのビル買い占めて
従業員はいらないわ
土地の権利だけ
うちの臨時社員は優秀よ
作戦を考えたのはArs――「ネームレス」
どうも。ダークポイント
「ウロボロス」です
『苦界包せよ円環龍』で誘導したビル内に残る人間の救助かつ、「ネームレス」からの信号を受信
弾を全て避け切る
「できない?」「不可能?」――nonsense!
「やってみせる」のがヒーローさ
おわかり?
打ち合わせ通り目的ポイントへ向かい
この柱が「大黒柱」ね。合図で破壊する
死傷者は0名、目指すは完全勝利のみ
ご紹介遅れました
貴方の死神の名前は――そちらにいる「ヴィジランテ・シャドウ」です
以上、素敵なショータイムを。
――BOMB!
ヴィクティム・ウィンターミュート
【AAA】〇
エリアのマップは事前に調べて叩きこんだ
特製の濃縮爆薬も、ボルトにセットしてある
──では、ランだ
『Gale Wind Move』発動、3人のニューロリンクを開始
知覚、演算能力を同期、共有化
戦闘の達人である2人の知覚を、俺がハブとなって繋ぐ
2人の眼があれば弾丸の軌道は全て見切れる
──奴の移動ルートはここから真っ直ぐ
仕込むぞヘンリエッタ!倒壊しても大きな被害の無い目標のビルへ先回り、ヘンリエッタが一般人を逃がしたら──
爆薬をセットしたボルトをビルの柱に撃ち、ヘンリエッタが一番大きな柱を砕くと同時に起爆
『ビルは倒壊する』
なぁダークポイント
"次の足場が無くなったら、どうするよ?"
撃て、匡!
徒梅木・とわ
○
制約が無いのは距離だけなんだよね?
ならやりようはある
辿り着いてやるさ
闇の所在、その二十間以内にね
敵は直線上に居る
都市構造を念頭に彼方此方で攻撃を受けるよ【世界知識、戦闘知識、情報収集】
情報が揃うまでは幾らでも傷を負おう
生憎とわは天才じゃあない
地道に積むさ
自傷は【激痛耐性】で堪え、【咄嗟の一撃】で霊符を放ち、言う事を聞かない部位を縛って【時間稼ぎ】
腕一本動けば這い進める、頭さえ動けば考えられる
誰かに繋がればそれでいい
他はくれてやろう
集めた情報で動きを予測、射線を切って先回り【学習力】
キミととわ、仲良くおやすみといこうじゃあないか
……ああ、くふふ
キミの方はきっとすぐに叩き起こされるだろうけれどね
††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† †††
VS AAA + A
††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† ††† †††
ダークポイントが発見される、少し前――――。
深夜。
突如、仕事用のスマートフォンに鳴り響く通知を、男はイライラしながら確認した。
ふざけた時間にふざけた電話がかかってくれば、怒りも頂点に達しようというものだ。
「明日から来なくていいってどういう事で――――」
『だから、会社が買収されたんだよ』
「それがふざけるなと言ってるんだ!? 買収!? どこの誰に!? 何の企業だ!」
『知るかよ! しかも俺たちだけじゃない……ビルごとだ』
「……は? なんだって?」
『だから、俺たちの会社が入ってるあのビルまるまる誰かに買われたんだよ!』
「なんだそりゃ!」
ロサンゼルスの一等地にある商業ビルだ。
気軽に“買う”が言える様な額でもなければ、簡単に売買が成立するような話でもない。
何十何百という企業が内側にひしめく経済の中心地。そのはずなのに。
『こっちが聞きてえよ! ……とにかく、俺達はもうあそこに入ることは出来ない、新しいオーナーのお達しだ』
「それじゃ明日から生活はどうすりゃあいいんだ!」
『…………それは問題ない』
「お前、何言って――――」
『問題ないんだ、“新しい仕事場”は用意されてる。書類に名前を書きゃ契約成立だ。業務内容は…………』
それは要するに、数日の休みを挟んだあと、今までと同じ仕事を、今までと同じ様に、ただ違う場所でやれ、というものだった。
すべての業務は滞り無く次の現場に引き継がれ、法的な問題は何一つ無い。
頭を抱えることがあるとすれば、出勤時間が二十分伸びることか。
「じゃあ何だ? つまり……」
『ああ、買収したやつが欲しかったのはうちの会社でも他所の企業でも無くて――――』
◆ 1 ◆
戦争とは結局の所、生きている者が勝ちである。
ダークポイントはまだ生きている。
左腕の肘から先が切断されようと、首を半分断たれようと。
「分析:負傷=全快時の64%」
傷はどちらも焼いて塞いだ。出血を防げればそれで良い。
戦闘の継続は可能、故に闇はまだ動く。
敵もまた、こちらに接近していることが確実故に。
「結論:戦闘=問題無し」
視界があれば殺せる。
銃を持てなくてもトリガーを引ける。
それがダークポイントというオブリビオンだった。
「対象:発見=殺傷」
故に、遠くに見えたそのターゲットに、右手で持った銃口を向けることも、当然厭うことはない。
◆ 2 ◆
見つけた、と敵を知覚した瞬間、死にたい、という感情が、閾値を超えて濁流のように心に流れ込んでくる。
幸いだったのは、徒梅木・とわ(流るるは梅蕾・f00573)はあまり凶器を持ち歩いては居ない、ということだっただろうか。
ただ、それは頸動脈を一瞬で断ち切るとか、心臓に穴をあけるといった事を出来なかっただけに過ぎない。
だから自らの首を絞めるのは、自らの手だった。
「ぐ、ぅ、うう――――」
細い自分の手に、こんな力が眠っていたことが信じられないと感じる程度には、自らへの殺意は明確だった。
どれだけ知恵を蓄えようと。
どれだけ手段を整えようと。
行く先に保証はない。
未来があるなどと誰が言い切れる。
今が満足できるのであれば。
この瞬間に絶ってしまえば、それを永遠にできるだろう。
ほら、とわは賢いのだから。
正しい道を選べるはずだ。
死のう、すぐ死のう、さぁ死のう。
苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで――――――。
「は――――ぁっ」
正しい道を選べるのであれば。
最初から、何もしなくてよかった。
行く先にあるのは、夥しい未知だけだ。
その暗闇を照らすために、とわという女は書を捲り、筆で綴るのだ。
「――――ぐっ、ぁぁっ!」
言うことをきかない腕を、強引に縛り上げる。
思考だけは正常に回せ。
考えることを止めるな。
抗い続けろ。
死ななくては。
死なないと。
今すぐに!
ああ!
足が勝手にビルの屋上、柵の外へと向かう。
非力な女を確実に殺す手段を、とわの頭は導き出せてしまう。
考えろ。近づく方法を。
考えるな、死ね。
導き出せ、一矢叩き込むすべを。
抗うな、終わってしまえ。
思考が並列する。倒すことを考えながら、死ぬことを想う。
身体だけが、言うことを聞かない。
(……っ、ああ)
ついに身を投げだし、宙に浮かぶ身体を。
「――――なんでこんな所にいるかね」
掴むその手は、普段知るそれよりも大きく感じられた。
◆ 3 ◆
ターゲットの始末を終えて、ダークポイントは次の戦場へ向かう。
猟兵はまだまだ居る、全てを始末せねば――――。
「…………」
…………ビルの屋上を跳ねながら、時折バッと振り返って、後方を見る。
即ち。
「疑問:不明=何故攻撃してこない……?」
誰かが、自分を狙っている。見ている。
それは理屈ではなく直感であり、同時に合理的な理由によるものだ。
なぜなら――――――。
『そんなに後ろが気になる?』
声は、背後から聞こえてきた。
ゆっくりと振り返る。
……誰も居なかった。
音を発しているのは、屋上に備え付けられたスピーカーだ。
『どうも。ダークポイント』
姿を見せない。
そう――それは対ダークポイントにおいて、最も有効な戦術。
『“ウロボロス”です』
名乗りを合図として、小さな爆発が連鎖的にダークポイントを襲った。
「警戒:被害=微小――牽制、または囮と判断」
その攻撃が囮であることを即座に見抜く――同時に、こちらを攻撃できるということは何らかの手段でこちらの位置を察知しているということだ。
「発見:確定=抹消開始」
大量に並ぶリボルバー。
電波、熱源、それらを分析し――――物質透過の射撃の雨が降り注ぐ。
ターゲットは、“下”だ。
◆ 4 ◆
「ハッハー! とうとう本気になったな!」
天から降り注ぐ弾丸を、ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)は意に介さずに進む。
ダークポイントの射撃に恐ろしさは、点の銃撃を面で放つ、圧倒的な制圧力だ。
横方向に放たれるそれは、広い面積を同時に潰す。基本的に避けようがない。
高所での高速移動は上下左右、どうあがいても限度があるからだ。
だが、縦に、下に向かって放たれるならば?
床を、壁を貫通しようと、真っ直ぐ横移動するならば、駆けるだけだ。
更に――――――。
「さぁ、集中しろよチューマ。見えるはずだ――――何もかも!」
Gale WInd Move。
風のように動け。
けして足を止めるな。
このオーダーを了承した者はすべて、ヴィクティムと同じ視野と知覚を得、共有する。
――――“観測手”が控えている今なら、これ以上無いほど有用に使える。
弾道を読み切り、分析し、弾丸を避けながら、懐から取り出したボルト・ガンを次々にビルの柱へ打ち込んでいく。
「敵の動きはこのまま直線だ――――ヘンリエッタ!」
『OK、ネームレス。準備は万全、意のままに』
「ウィズ! タイミングは二秒遅らせる。合図は?」
『不要。――――同じものを見ているでしょうに』
「だよなぁ――――」
にたりと口の端を釣り上げて。
ボルトに仕込まれた濃縮爆薬が、一斉に起動した。
◆ 5 ◆
弾丸の雨を避けながら、ヘンリエッタヘンリエッタ・モリアーティ(円還竜・f07026)は一般人の有無を確認する。
事前に買収を行い、ビルの中は殆ど無人だ。
「『応龍』?」
眼鏡の形をした自立型支援AIが、その成果を告げる。
かかった費用も、生じたコストも、支払った代価も。
すべては完全なる“勝利”のため。
「あぁ、一滴すら触れては行けない雨なんてある?」
降り注ぐ無数の弾丸に、僅かでもかすれば。
目標時刻に間に合わない。敵の移動に間に合わない。
タイミングが肝心だ――だから、喰らってはならない。
しかしそんなことは不可能だ。ダークポイントと戦ったものなら誰もが知っている。
「できない?」
『応龍』は告げる。否と。
「不可能?」
思考をつないだ仲間が告げる。NOと。
「――――Nonsense!」
己の意思が叫ぶ。笑わせるなと。
「不可能を可能に、綺麗事を現実に、悪夢を理想に――――“やってみせる”のがヒーローさ」
スピーカー越しに、告げる。
「おわかり?」
◆ 6 ◆
弾丸が敵を穿たない。
ダークポイントにとっての異常事態を前に、中性的の声が響く。
『おわかり? ――――さて、そろそろお別れの時間』
仕掛けるぞ、と告げてくる猟兵の声。
『貴方の死神の名前は――そちらにいる“ヴィジランテ・シャドウ”です』
スピーカーから、ノイズに混ざった声が響く。
『――――素敵なショーをお楽しみください』
瞬間。
銃撃を止め、即座にダークポイントが跳躍した。
―――― 一拍遅れて、立っていたビルが、爆裂し、崩壊した。
柱という柱がへし折れて、建物全体に亀裂が走り、自重で鉄骨が折れて崩壊するまで一秒もかからない。
確実に、徹底的に、即座にこのビルの標高を下げるためだけに行われた、破壊だった。
しかしそれも、ダークポイントは見切り、移動していた。
隣のビルの屋上へ、着地する。
――――その瞬間。
文字通り一瞬で。
積み木細工が崩れるように、下から地の底に飲み込まれていくように。
、、、、、、、、、、、、、
爆音とほぼ同時に、飛び乗ろうとした先のビルも連鎖的に倒壊を始めた。
「――――――!?」
ダークポイントには一切知る良しもないが。
二つのビルは、地元の人間には“ツインタワー”と呼ばれて親しまれている。
足場として見るなら二本の着地点でしかないそれは、低階層でつながっている一つの建物なのだ。
多数の企業と店舗が出店し、昼夜問わず人々が賑わうはずの場所に。
今は、誰も居ない。
ダークポイント以外には。
足を着く場所を失い、自由落下に至れば――――。
どれだけ速かろうと関係ない。
どれだけの距離を無視できようが関係ない。
地球という星の持つ力が、等しくその速度を等速にする。
、 、
――――だが。
「判断:分析=問題――――」
、、、、、、、、、
ダークポイントは空中に足を掛けて、跳ねた。
自身の周囲を対空するリボルバーを階段代わりに踏み込んで即席の足場とし、次のビルまで飛ぼうとする。
「――――無し」
落ちない。
無論、わかっている。
ダークポイントは知っている。
――ぽたぽたと、音がする。
己に対して最も有効な策とは即ち、認知できぬ“視界外”からの狙撃であると、理解している。
だから、常にそれを最大に警戒している。
狙撃に対して有効なのは、停止しないこと、動き続けること、軌道を読ませないこと。
――ぽたぽたと、音がする。
故に、ダークポイントは止まらずに、周囲を最大限に警戒する。
飛んでくる狙撃を避ければ、反撃で仕留められる。
――ぽたぽたと、音がする。
「疑問:提議=……音?」
雨の音。
雫が落ちる音。
ぽたり、ぽたりと。
ありえない。
、、、、、、、、、、、、、、、、
この戦場に雨など降って居なかったではないか。
足が滑る、いや、身体から力が抜けて、崩れ落ちる。
分析は、この状況でも厳密に進む。ああそうだ。
血を失い。
毒を喰らい。
それでも肉体の消耗を全て無視してここに至ったダークポイントの肉体は。
、、、、、、、、
生物として当然のように、休息を欲している。
傷を癒やす眠りへと誘うこの香りと音に。
極限の集中を持って、狙撃を警戒していたダークポイントは―――ほんの一瞬、僅かな時間だけ、抗うことが出来なかった。
◆ 7 ◆
腹から血を流し、倒れ伏しているというのに、不思議と心は安らかだ。
先程まで自分を襲っていた自殺衝動は、もうどこにもない。
冷静になれたから――かも知れない。
あるいは、安心しているからかも知れない。
体温なんてものを感じられない、冷たい腕の中で、それでも。
淡く香る梅の匂いに身を委ねて、とわは静かに息を吐いた。
誘睡霊符『寒九ノ雨』。
それは、雨だれの音を聞き、梅の香りに誘われたものを眠りへと導くとわの霊符だ。
射程圏内に収めさえすれば、誰でも等しく影響を受ける。
もっとも、正常な状態であれば、ダークポイントに通じることはなかったろう。
しかし、集中力を
「生憎、とわは天才じゃあない」
才能というものを一言で表すなら、それは“速度”だ。
天才、というのは必要な場所に、凡人より遥かに先にたどり着ける者の事を言う。
事前にすべての情報を叩き込んで置くことも。
現在の状況を全て読み切り、最適解を導くことも。
きっと、上手くは出来ないだろう。
けれど、一歩ずつ、少しずつ、方向さえ見失わずに前に進めば。
やがて、同じ場所に至るのだ。
、、
「――――さあ、出番だぜ、とわ」
頭の上から聞こえる声に導かれるまま、霊符を起動した。
まったく、あれはいつだって余裕綽々に振る舞って。
そのくせ、自分の無茶を無茶だと気づいていない人だと思う。
「……ああ、くふふ」
けれど、後を任せるのに、安心もできてしまう。それを知っている。
このまま意識を手放すのは、きっと間違いではない。
自分の役目を終えた確信を感じながら、とわは抗えきれぬ微睡みの誘惑に従った。
◆ 8 ◆
ダークポイントは常に“誰か”を警戒していた。
それをヴィクティムは――わかっていた。
何のことはない。
警戒心を失わないのは、自分だって敵だってそうだ。
足元を崩してやった所で、奴にはなにか隠し玉があるかも知れない。
あるいは、体勢を崩せても、狙撃を警戒していれば防御される可能性は残っていた。
だから――――とわが居たことは幸運だった。
助けられたことも。
支えられたことも。
プランの修正は即時。
知覚とを共有した、全員が即座に理解する。
“倒壊した直後”ではなく。
その後に訪れる真の一瞬。
闇の一天を穿つ、その時を。
「――――撃て、匡!」
◆ 9 ◆
『――――撃て、匡!』
通信機の向こうから聞こえる声に従って、鳴宮・匡(凪の海・f01612)はトリガーを絞った。
この作戦は、一から十まで、徹底的に。
、、、、、、、、、、、、
鳴宮が狙撃を成功させる事を大前提に組まれている。
失敗した場合の逃げ場はない。
全員、弾丸を叩き込まれて即死する。
チャンスは一度。たった一発。
外せば終わり、タイミングがずれても終わり、躊躇しても先走っても終わり。
崩れ落ちる瓦礫と、宙を舞う無数のリボルバーの隙間を縫って。
シルバー・バレットを撃ち込めなければ、それまでだ。
それでも、心は凪いでいる。
それでも、一切揺るがない。
ヴィクティムの演算補助? もちろんそれだって、材料の一つだ。
けれど結局の所。
失敗するつもりは、欠片もなかった。
何故と問われればこう返すだろう。
「任せた、って言われたから」
それは、“命を預けた”と言われたのと同じことだ。
鳴宮・匡であれば出来ると、思われているということだ。
いや……もしも、その言葉にうぬぼれてもよいのなら。
鳴宮・匡になら、命を任せても良いと思われている、信頼だ。
ならば、その分は、自分を信じよう。
ああ、当然のようにこなしてみせる。
当たるかどうかは必要無い。
「じゃあな」
当てるのだ。
――――闇の一点を、撃ち抜く。
夜闇に響いた銃声は、ひどく静かだった。
◆ 10 ◆
――――――スコープ越しに。
ダークポイントと“目”が合った。
目は口ほどに物を言う、最も奴にはその目すら無いが。
それでも視線が交錯したのを確かに感じ。
次いで、何が言いたいのかもなんとなく理解できた。
“そこにいたのか”。
ああそうだ、こいつはずっと、姿の見えない鳴宮を感じ取っていた。
果たして。
落ちながら。
それでもダークポイントは、先に弾丸を放った。
ビルを越え、ガラスを越え、壁を越えて、距離を越えて。
二つの弾丸が交錯する。
乱れた身体では、その狙いは精密とは行かなかった――――そう。
視線の合った狙撃手の頭部ではなく、肩を撃ち貫く程には、ずれている。
二射目はなかった。
死者は、引き金を絞れない。
頭部を撃ち抜かれたダークポイントは、落ちていく、落ちていく、堕ちていく――――。
『以上、如何でしたか? 我々の演目は』
芝居がかった声で、ヘンリエッタの声が通信機越しに響く。
ドシャリ、と自由落下を終えて、闇の一点が、地に叩きつけられた音が響いた。
『――――拍手喝采、感激感謝。では、良い終焉を』
かくして、夜のロサンゼルスの戦いに、一つの幕がひかれる。
死傷者零名。
ダークポイント、死亡。
猟兵達の――――完全勝利。
大成功
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