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王の棺とパンケーキ

#UDCアース

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#UDCアース


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●たべたい
「パンケーキです」
 垂れた犬耳を動かして、アンリエット・トレーズ(ガラスの靴・f11616)が言った。彼女の手の平の上では、透明な光を放つ王冠に似たグリモアが浮いている。
「……。違います、間違えました。UDCアース世界の方で、事件……そうですね、放っておけば確実に惨事となる事件を起こすであろう、という予知をしました」
 危険の芽は摘んでおくに越したことはありません。きりりとしたしかつめらしい表情を作って見せながら、説明します、とアンリエットは続けた。

 ――そこは廃ビルです。
 いえ、正確には建設途中でスポンサーだか何だかが夜逃げしてしまったので、殆ど完成しているにも関わらず建設が中断されたままの中途半端なビルなのですが。テナントが入ることもなく、訪れる者もなく、という意味で廃ビルですね。
 そしてそこに、たくさんのゴーレムが潜んでいるようです。ロッジ・ゴーレムと呼ばれているヤツですね。無機物と融合することで生み出される怪物で、今回も例によってビルの建材であるコンクリートから作り出されています。
 ゴーレムは普段は壁や床や柱に潜んでいるわけですが、猟兵であるみなさんが侵入すれば自分から出てきてくれるでしょう。但しそれは攻撃するためですので、不意打ちを受けないようにだけは気を付けた方が良いでしょうね。怪我をしてしまいますので。
 総数はよくわかりません。そこまでは見えなかったので……、ビルは五階で建設が中止になったようなので、五階建てです。四階までゴーレムに守られていて、一番上には王様がいるようですよ。

 微妙に色の違う碧の双眸を眠たげに瞬かせながら、王様です、とアンリエットは繰り返す。

 聞いた話によると、その王様はエジプトとかいう国辺りの王様だったそうです。まあそんなことは今日関係ないのですが。
 多数の生贄をUDCに捧げて富などを得ていたとかいうトンデモ暴君でして、こいつがバカなヒューマ……人間を操り、肉体を得て復活しようとしていたようなのです。ええ、過去形ですよ。だってこれから阻止されるのですからね。
 この復活しかけの王様はビルの五階でふんぞり返っているそうなので、ぶん殴ってきてください。

「四角い建物の天辺にいる王様を、一番下を通り過ぎて地の底まで引きずり下ろすお仕事ということです」
 大して興味もなさそうな素振りでアンリエットは言い、それから、もし一般人が気になるようであれば、工事中の看板でも立てておけば良いのではないか、と付け加えた。工事をしているのならば、多少の音も納得してもらえるだろうし、そもそも最初から見向きもされていなかった、空白のようなビルだから、と。
「それとですね」
 またアンリエットの頭上にある耳が動いた。どことなくそわそわした落ち着かない様子になり、視線をあちらへ、こちらへ、と彷徨わせる。
 少しの間があってから。
「……この廃ビルの近所に、パンケーキの美味しいカフェがあります。ゴーレムと王様退治が終わったら、息抜きなどにいかがですか。いえ、是非行ってください。行くべきです。アンリエットも行きます。パンケーキが食べたいです。たくさん」
 つまり最終的にはそれが言いたいのだった。いや、最初からそれが言いたかったのだった。

 そのカフェにはですね、スタンダードなメープルバターから、ベリージャムソース、バナナチョコレート、レモンとリコッタチーズ、りんごとキャラメルソース、季節のフルーツからほうじ茶まで、たくさんのパンケーキメニューがあるのです。しかも! 生クリームとアイスクリームを選んで追加トッピングできたり、欲張って両方というのもできます。
 ベーコンエッグやソーセージ、アボカドサーモンなどごはん系パンケーキもありますし、フレンチトーストやサンドイッチ、もっと言うとベイクドポテトなど軽食もあるようです。
 お茶も美味しいそうなので、セットで頼んでみても良いのではないでしょうか。
 話しているうちに、お腹が空いてきましたね。

「アンリエットはパンケーキが食べたいのですが、みなさんが王様退治を完了するまで、行くことができません。なのでアンリエットのパンケーキはみなさんの手に掛かっているということです」

 ――全力で、頑張ってきてくださいね!
 今日一番、きらきらと力のこもった声だった。


ミキハル
 お読みいただきありがとうございます、こんにちは、ミキハルです。
 この度はゴーレムをどっかんどっかんやっつけて、一番上のボスこと王様をやっつけて、皆でパンケーキを食べに行きましょうね! という感じです。
 追加説明などは吃驚するほどありません。OPに記載されていないことは、無視しても良いですし、プレイングでご提案いただいてもオッケーです。(採用しない場合もあることはご了承ください)
 章の区切りには状況説明を一度挿入しますが、それ以前にプレイングを送信いただいても問題ありません。

 三章では廃ビルから徒歩圏内にあるカフェでパンケーキを食べることができます。
 OPで色々パンケーキのメニューを並べていますが、食べたいものを自由にご記載いただければと思います。概ねカフェっぽいメニューなら大体採用できるかと。
 アンリエットはお誘いいただければ登場しますが、そうでなくとも隅で元気にパンケーキを食べていますのでご安心ください。

 それでは皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『ロッジ・ゴーレム』

POW   :    ゴーレムパンチ
単純で重い【コンクリートの拳】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    サンドブラスター
【体中から大量の砂粒】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    ジャイアントロッジ
予め【周囲の無機物を取り込んでおく】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

最上・空
パンケーキにトッピングを全乗せしたい美幼女が参上です!

中で奇襲されるのは面倒なので、空は入口付近で音でも鳴らして敵を誘き寄せます!

中は薄暗いかもしれないので、美幼女オ-ラ(「封印を解く5」&「オ-ラ防御15」)を開放、灯り代わり&敵の注目を集めてみようかと思います! 美幼女オ-ラで明るくなるのかですか? 大丈夫です! 空の眩く光る美幼女オ-ラをご覧に入れますよ!

敵が来たら脚部に「属性攻撃8」&「衝撃波8」で氷を飛ばして、少しでも動きが鈍らないか試みます。その後【サモニング・ガイスト】を突撃させ、装甲の薄そうな部位や繋ぎ目を【槍】で集中攻撃して撃破狙いですね!

※アドリブ&まとめご自由に


カリオン・リヴィエール
安全第一と工事中の立て札は必要そうなので、しっかり置いておきましょう。
ゴーレムに対しては、ユーベルコードで対応します。代償として、こちらは出血しますがまあ大丈夫でしょう。竜焔で燃やし尽くして、闇で消滅し尽くす算段です。


ケイ・エルビス
【人払い】
念の為
工事中の看板と
立ち入り禁止テープを
廃ビル周囲に貼っていこう



【UC】
四階までゴーレムの不意打ちに
注意しながら
索敵して発見したゴーレムを
その都度「タリホー」で破壊
「遅すぎなんだよ、お前。」

何体倒したか
カウントしながら
駆け上がるぜ


【P】
敵のパンチで崩れた場所に
足を取られたり

【S】
厄介そうな無差別攻撃の砂粒を
近距離で食らわないよう
さっさと倒しちまおう

【W】
大技を使わせないよう
大きな鉄骨やコンクリートの塊は
崩させたり崩していく


【技能】
可能な限り技能をフルに使う

先制攻撃にフェイント攻撃

敵の部位や地形をスナイパー狙撃

必要時
仲間への援護射撃やかばうを
駆使していく

協力やアドリブ・台詞も大歓迎!



●一階
 街中に建つそのビルは、聳えると言うには些か高さが足りず、とはいえ周囲の建造物に比べればやや上背がある、という中途半端な具合だった。
 周辺を歩く一般人は、事前に告げられた情報通り、そのビルには一瞥すらくれず通り過ぎていく。用のない建物は、まるで存在しないかのようだ。質量に反した、街中の巨大なゴースト。
 ――とはいえ、万が一ということもある。念の為、人払いの策を講じておくに越したことはないだろうと彼らは考えた。

「では、私はこの『工事中』と『安全第一』を設置する」
「わかった。ならオレはこの立入禁止テープを」
 立て看板を手にしているのはカリオン・リヴィエール(石を愛す者・f13723)。彼女は入口の脇にその看板を置いてから、歩行者の邪魔にならない位置へと軽く調整する。
 首肯し応じたケイ・エルビス(ミッドナイト・ラン・f06706)もてきぱきと、赤い三角コーンを置き、その間にバリケートテープを渡していく。ぴょこぴょこと跳ねるようにそれを手伝う最上・空(美幼女・f11851)は、この現場を片付けた後でパンケーキにトッピングを全乗せする野望があるので、殊更に一生懸命だった。
「これで立派な工事現場ですね!」
 ぐるり、と人の通りがありそうな場所へ一通りの警告を設置し終え、けれど一仕事終えたというわけにもいかないのがこの仕事だろう。無論、空もそのことを承知していて、自動扉を設置する予定であったのだろう、ぽっかり開いた入り口へと足を踏み入れる。
 ――昼間だが、電気も通っておらず内装もなく、当然のように人の気配もないがらんどうの内部は、外よりも何段階か暗いように感じられた。
「不意打ちに注意、だったな」
 ケイもまた同じように足を踏み入れ、建てられたきりの殺風景な内部へと鋭い視線を走らせながら、愛用のブラスターガンへ手をかける。
「床の砂と埃。……人の気配はありませんが、出入りの痕跡があります」
「なら、確かにここが“王様”とやらの復活儀式場らしいな」
 元々はエントランスになることが予定されていたのだろうこの場所の壁や床を確認したカリオンの言葉にも、外と同じように首肯で応じる。――だが、踏み込んだここは敵地だ、先程とは緊張感が違う。
「奇襲されるのは面倒です。ここは誘き寄せる手が良いかと! たとえばそう、こういう元気な声でも良いのではないでしょうか!」
 けれどもその張り詰めた緊張感を破るが如く、言葉通りの元気な声量で空が言った。「ちなみに、勿論、追加の手も用意してありますよ!」と続けた彼女の足取りは軽く、二人よりも数歩前に躍り出ると、背伸びをするようにぐぐっと両腕を伸ばして見せる。
「……ま、いきなり出て来られるよりは、正面から向かって来てもらった方がわかりやすいよな」
 思わず口角を僅か笑みの形にしたケイの視線を受け、言葉少なに頷くことでカリオンもまた同意を示す。それをきちんと待った良い子の空はにっこりと笑顔を作った。
「空の眩く光る美幼女オ-ラをご覧に入れますよ!」
 その言葉と共に、それは空の周囲にある空気がまるで解けていくかのよう、光を放つオーラが可視化されてゆく。輝くような笑顔、という表現があるが、彼女の場合は雰囲気を明るくだとかそういうものではない、物理的な光源としてそれは作用した。
 ――と。
 元気な話声にか、エントランスを抜けたフロアに広がる美幼女オーラ――そう、美幼女オーラである――にか、空気とビルを振動させながら、その質量たちは起動した。
 壁や柱の一部が、或いはフロアの隅に放置されたままだった建材の山の中から、判りやすいもので言えば瓦礫の山に似たそれらが。微かに呪紋を発光させ、重たく引き摺るような音を引き連れて立ち上がる。
「嗚呼――なんて」
 薄い日光に照らされ立ち並ぶ灰色の影へ硬質な一瞥をくれ、呟いたカリオンの言葉はしかし、傍らでの強烈な踏み込みと共に放たれたブラスターの射撃音に飲み込まれた。
 ケイ愛用の熱線銃は改造された特別製だ、目視可能な射程距離内のゴーレム全てに先制攻撃を放つことはあまりにも容易く、侵入者に対応するため立ち上がりかけていた数体のゴーレムが、その衝撃に大きく身を傾いだ。
「遅すぎなんだよ、お前らは」
 ええ。とカリオンは言わなかった。同意の言葉こそなかったが、一歩。それから二歩目を踏み込み、静かに空気を吸い込んだ唇が詠唱を紡ぐ。
 それは地獄の名だ。
 双眸の赤がじりりと揺れた。正しく焔の揺らめく如く、宿した熱はけれどその傍から、同時に宿した闇に吸い込まれていく。
 三歩目は跳躍。ブラスターの一撃で体勢を崩した一体をはたくように触れれば、たちまち強烈な竜焔がゴーレムの鈍重な身体を呑み込み、焦げる間もなく鋭い吐息と共に二撃目が降る。巨大な熱が発されるより先に、その全てが『無』に帰した。
 はらはらと舞うのは、砂埃かそうでなければ僅かな灰ばかり。跡形も無いとはこのことであろう。
「ものすごい炎でした!!」
 空は目を丸くしながら、ぴょんと跳ねて驚きアピールをする。しかし視線のみで応じたカリオンから赤い滴りがあるのを見て「怪我をしたのですか!?」と別の驚きに身を強張らせた。
「いえ、これは代償。大丈夫です」
「無理があったら言えよ。予測された情報じゃ、あののろまでも攻撃は厄介なようだし、さっさと倒しちまおう」
 ケイがふ、と息を吐く暇があるほど、彼らは余裕だった。何せこの会話の間にゴーレムが出来たことと言えば立ち上がることだ。その度、ビルから質量が引かれて僅かに地形が変わってしまうが、そんなものは大した障害にもならない。
 何体倒したかカウントしようぜ。と、ブラスターを片手にケイは口角を上げた。

 実際、立ち上がったゴーレムたちを倒すことは造作も無かった。ワンフロアにおける数はそこそこで、複数体いるため少しばかり狭さを感じたが、注意して動きを見ながら特に攻撃態勢に入ったものを叩くことで、被害を殆ど抑えることができた。
 目にも止まらぬブラスターの連撃が見事頭部と脚部に直撃したゴーレムが、ごうん、と音を立てながらただのコンクリート建材の塊に戻るのを見下ろし、カリオンは自身の手に付着した灰を軽く払う。彼女の傍らでは、やはり建材どころか土塊も残さず、床に残る僅かな焦げ跡が何かの存在していた僅かな証となっていた。
 空の周囲では、空気が微かに冷たい。凍り付いたゴーレムの細い脚部が何ヵ所かに残っており、それらは全て彼女が練った魔力によるものだ。胴から真っ二つになっている残骸は、大概がサモニング・ガイストによって腹部を穿たれた所為だった。ほう、と息を薄白く染め、彼女は石塊の破片だらけになったフロアを見渡した。
「これで全部でしょうか?」
「最初に殆ど立ち上がってきたからな、そろそろ――、! 空ッ!」
 ケイの伏せろ、という声と振り返った空の小さな悲鳴は殆ど同時だった。
 瓦礫の合間から伸ばされた腕は灰色。速さこそないものの、距離が近すぎる。忍び寄ったのか今起動したのか定かではないが、その質量が空の小さな身体にぶつけられるのは間違いなく忌避すべきことだった。
 引き延ばされた一瞬。
 されどそれは一瞬だ。
 瞬きの間に、それは終わった。
「――……」
「……はぇ……」
「問題ありませんか、二人とも」
 それぞれ元、胴・脚・腕、と五つに割れたコンクリート塊が、焦げた床に伏している。熱線銃を片手、もう片側に空を抱えたケイは、長い息を吐き出した。
 まず、反射的に空がゴーレムの脚を凍り付かせる。そして腕と脚を、ケイが撃ち飛ばしながら空を抱え上げる。それから無言のカリオンがこのコンクリート塊を焼き尽くし、最後にまた、空の召喚した古代戦士の霊がその胴を真っ二つにして、事は済んだ。
「ふ、不意打ち注意とは、こういうこと、だったのですね……」
「肝が冷えたよ……だが、今日イチの連携だったな。この調子で駆け上がろうぜ」
「ええ。次ですね」
 息を整えて数秒。即座に気を取り直した空の「はい!」という声が元気よくフロアに響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カチュア・バグースノウ
パンケーキは大変ね
行きましょ

前衛、攻撃手で戦うわよ!
斧剣を振り回してフルボッコにしてやるわ
ユーベルコードはアックスソードブレイク

敵の攻撃はよく見て避ける
体が大きいから予備動作も大きいはずね、油断せずに行くわよ
サンドブラスターだけは「武器受け」でガードする
あと避けるのが間に合わなかったら「武器受け」ね
ちょっと攻撃痛いと思うけど仕方なし!

こっちも振りが大きいから、よくみて狙いすまして重い一撃を与えてやるわ
当たれば痛いわよ!

アドリブ、共闘歓迎


絡繰・ビリー
カフェ!最近までドタバタしてたからね、休むのに丁度いいや
それじゃ、仕事を始めよう!
・POW行動
材料はそこらにあるから、ビルドロボット!
決めポーズの【パフォーマンス】は短めで、でもキッチリやる
「合体!我がパワーを見せてやろう!」
数だけの量産型は、ヤラレ役なのがお約束
【武器受け】で防ぐ、【グラップル】で殴る蹴る、【零距離射撃】で破壊する!
でも囲まれないように気をつける
あ、皆の邪魔にならないようにしないと。盾になるのは良いけどね

ゴーレムやロボットのガチンコはロマン。ま、お仕事優先だけどさ!
アドリブ協力歓迎


ラウル・シトロン
狼の姿になるよ。
コンクリートのゴーレムか。
あまり炎が役に立たなさそうだから、積極的に前へ出ようと思う。
聞き耳を立てながら相手の動きを読んで逃げ足で攻撃を避けるよ。
その、上手く動いてゴーレムたちを翻弄することが出来ればいいんだけど……。
攻撃が当たっても激痛耐性と気合いで何とか動けると思うから、窮地に陥ったら【窮狼、竜を噛む】でその場から脱するよ。


花剣・耀子
なるほど。
これは重大な案件だわ。

決してパンケーキに釣られたわけではないのよ。
地域の保全はUDC組織の一員として大切なお仕事だもの。
廃墟と噂は不穏の温床。
手早く素早く確実に綺麗にしましょう。
ええ、決してパンケーキに釣られたわけではないの。

ヒトを巻き込まないのであれば、隠れて動く必要はないわね。
折角ご忠告頂いたことだし、不意打ちには警戒を。
物音や陰に注意しましょう。

ゴーレムの姿が見えたなら、
見える限り・届く限りの対象へ【《花剣》】
只でさえ廃ビルなのに、倒壊させられると困るのよ。
動かれる前に斬れれば上々。
思ったよりもしぶといようなら、腕を落として回りましょう。
――手は抜かないし、油断もしないわよ。



●二階より上へ
 そのフロアでは、既に石塊が積み上げられていた。
 瓦礫は全て元ゴーレム。中には座していた場所から立ち上がる暇もなく破壊されてしまったのだろうと思えるコンクリート人形たちも散見され、それらに刻まれた破壊の痕とはしかし裏腹、フロアには大した傷痕もなく、戦闘そのものの鮮やかさが見て取れた。
「パンケーキか」
「そうね」
「パンケーキは大変ね」
「ええ、これは重大な案件だわ」
 頷き合うのはカチュア・バグースノウ(蒼天のドラグナー・f00628)と花剣・耀子(Tempest・f12822)。耀子は曰くして「決してパンケーキに釣られたわけではないのよ」とのことだが、頷いてしまった以上、時すでに遅しである。とはいえ――。
「いえ、本当に。地域の保全はUDC組織の一員として大切なお仕事だもの。廃墟と噂は不穏の温床――手早く素早く確実に綺麗にしましょう」
 しかつめらしい顔を作って並べ立てる言葉はどこへ向けたものか定かでないが、兎にも角にも、ちゃんと仕事をしていますよという姿勢は作っておきたいのだ。嵐の如きその剣撃が、果たして照れ隠しであったかどうかは置いておこう。
 きりりとした雰囲気を保とうとする耀子と対照的なのは絡繰・ビリー(スクラップギア・f04341)だった。
「カフェ! 最近までドタバタしてたからね、休むのに丁度いいや」
 山と放置された建材をゴーレムたちからすっかり横取りする形で組み立てたロボットの姿は、材料の所為だがそのゴーレムたちに似ている。とはいえ性能の差は言うまでもなく、小振りなフック一撃を取っても速さから違っていた。重たく硬い音を立てて装甲に罅と見るや、追加した二撃目がそれを大きく広げて吹き飛ばしたのである。
 そうして吹き飛んできた罅割れた石躰に、カチュアが斧剣を振り下ろして終わり。――というのが先程までの顛末であり、ビリーは些か重い建材たちを一度パージし、今は朗らかに背伸びをしている。
「ああ、お疲れ様! 大丈夫だった? 怪我してないかい?」
 ビリーの掛けた声の先、ちゃか、という爪音は狼姿のラウル・シトロン(人狼のひよっこ探索者・f07543)だ。彼はこのフロアを駆け回り、起動したゴーレムたちの注意を引いて誘導を行う、囮役をしていた。攻撃対象の調整を行うための重要な役割のひとつだったが、彼はなんとかこなして見せ、その尾をやわく振って応える。
「うん、動きっぱなしだったから少し疲れたけど、そのくらいだよ。ゴーレムたちの動きが遅くて助かったかな」
 るるぅ、と喉を軽く鳴らしたのは安堵か上機嫌か。戦闘が一段落し、今は少なくとも緊張感から解放されている。仲間の下へ歩み寄り、腰を下ろしてから彼らと同様、周囲を軽く見回した。
「この階のゴーレムは全部倒したのかな」
 敵が敵なので死屍累々、というわけではないが、瓦礫がごろごろと転がるフロアになってしまった。どの石塊もぴくりともしないことを確認してから、そうね、とカチュアが受け合う。
「やっぱり連携ができると助かるわ。隙を見てフルボッコがやりやすいったら」
「巻き込むヒトがいないのだから堂々と動けるけれど、相手がこそこそしていたのじゃあね。見えているなら斬れるのだから解決よ」
 常に物陰や微かな音にも警戒しなければならない状態は神経を使う。其々、役割を持てたのは良いことだった。
「うん、この調子で次の階に上がろうか。カフェでパンケーキも待っているし!」
 そうしてビリーは先程まで腰掛けていた瓦礫から幾つか装甲程度に出来そうなものを抱え上げ、「ね」と階段の方を示す。
 エレベーター、というものの設置予定はあったようだが、そこもまたこのビルの入り口と同様に、ただ黒い穴をぽっかりと開けただけの四角い空間になっていた。よって上へのぼる手段は、階段を地道に上っていくしかない。
 階段と戦闘が繰り返されることに気付いた誰かが微かに溜息を吐いたが、歩き始めれば聞こえるちゃかちゃかというラウルの爪音は、この人気のないビルの中でどこか軽快に響いた。

「――ぎゃんっ!?」
 一瞬、誰もが何が起こったのかわからなかった。
 先頭を歩いていたラウルが三階のフロアへ上がり周囲を確かめようと首を巡らせた途端、それを待ち構えていたかのようにゴーレムの腕が伸びてきたのだ。彼の耳で何の音も拾えなかったということは、正しく待ち構えていたのであろう。
「こういう待ち伏せもアリなんて聞いてないわよ……!」
 面積やビル倒壊の危険性からして、少なくとも階段でゴーレムに遭遇することはないだろうと思われていたし、実際、階段を上っている間は安全だったのだ。恐らくどのゴーレムも『指定フロアへの侵入者』へ反応するように出来ているのだろう。
 だが、この入り口からでは、壁に遮られてフロア内がどうなっているか確認することが出来ない。起動しているゴーレムの数も、ラウルの状態も。
「ラウル!」
「――……動いてる、のは……まだ、二体だけだ……っ!」
 ビリーの声に、的確な情報が返った。声は苦しげだが、少なくともこちらへ情報を伝えられるだけの声量を出す元気はある。
 それを受け、逸早く飛び込んだのは耀子だった。封布から刃を抜き放ち、飛び込んだ先の変わり映えしない殺風景なフロアへ一瞬で視線を巡らせ、大きな石塊人形の位置を確認しその白刃を振るう――花が嵐と散るように、彼女の剣の前では、石もやわく儚いものと同然だ。その技の名をして《花剣》と云う。
 一体の斬り捨てた胴の向こう側に、起動し始めのゴーレムが見えた。そしてもう一体、壁を向いているそいつは、腕で以てラウルの動きを阻んでいる。彼は壁に叩き付けられたのだ、と、その時に初めて判った。耀子が両断したのは、そのゴーレムのか細い両脚だ――。
「ガルルルルゥ……、ッ!!」
 自身を壁へ押し付ける万力のような力が確かに緩んだ一瞬を逃さず、ラウルは気力を振り絞る。追い詰められた狼が、たとえ痛みを抱えようと、その相手が竜であろうとも喉笛を噛み千切るということを叩き付け証明する為に。
 低い咆哮と共に、牙はその人型の頭部へめり込んだ。みしり、と軋む音が耳に届く。人間であれば顔に当たる部位を深々と穿ち込みながら再度、狼は深く吼えた。
「がら空きね――あたしの一撃は当たれば痛いわよ!」
 そこへまるで置かれたボールをホームランコースへ乗せようとするかのようなスイングで、カチュアがその黒い斧剣を渾身叩き付けた、途端。
 ばきん、と。
 ラウルの噛み締めた頭部が割れ落ち、カチュアが刃を抉り込んだ胴が砕け崩れた。
「ストライク!」
「合ってるような違うような! ラウル、一度下がって!」
 持って上がった幾許かの瓦礫に併せ、ゴーレムから砕け落ちたコンクリート片なども確りと集めてからビリーは前に進み出る。三体目のゴーレムの腕は耀子が斬り飛ばしているが、今の一連の間に、このフロアに潜んでいた石塊たちは次々と起動を始めていた。
 だが、焦る必要はない。ざっと確認しても下の階に比べ数が多いということもないし、やること自体は変わらない筈だ。
 ユーベルコード・ビルドロボット――これを使い変形すれば、高さは今のところ二メートル半と少し。室内では決めポーズをするのに手狭な感はあれど、ゴーレムたちより上背があるのは確かなアドバンテージと言えた。
「合体! 我がパワーを見せてやろう!」
 何より、敵の攻撃を受けた仲間を守るための盾には十二分な大きさだ。立ち上がったばかりのゴーレムを先ずは一体蹴り倒し、拳を振りかぶった一体を阻むためその腕を掴む。
「さあ、掛かってくるがいい――!」

●三階。ところで
「……それにしても危ないところだったわ」
 斧剣を下ろし、ほう、とカチュアは息を吐いた。
「いやあ、私も吃驚したよ」
 落ち着きを取り戻したフロア内で、再び瓦礫の武装を解いたビリーの言葉に、刀を収めた耀子もまた「ええ」と首肯し同意を示す。
「ゴーレムたちにやたら動かれてビルが倒壊でもしたら一大事だとは思っていたけれど、まさか――」
 彼らが見るのは、このフロアの壁である。
「まさかあたしの一撃で壁が壊れるなんて……」
 壁を――壁のあった場所を見つめ、カチュアはそっと瞼を伏せた。
 崩壊した箇所からは、燦々と昼の日差しが降り注いでいる。幸い、こちらの壁はほぼほぼ人の通らない側に面しており、覗き込んで下を確認してみても、人的被害は全くなかったことがわかる。
 痛々しげな眼差しで壁だったところを見ながら、ラウルもまたくうんと切なく呟いた。
「その……最後の一体だったもんね」
「そう、最後の一体だったから……」
 気合を入れて、思い切り振り下ろしてしまったのである。単純な武器の叩き付けではあるが、単純であるということは、それだけわかりやすく重たい一撃であるということだ。結果的にその最後の一体であった不幸なゴーレムは数えるのが面倒な程の数に砕け、ついでに壁(それから床)も軽く砕けてしまったのであった。
「床だったら大変だったわ」
「崩落待ったなし、になるわよね。上に行くほど気を付けないと」
「パンケーキも待っているもの」
 すっかりただの無機物に戻ってしまったゴーレムたちを除けば、ここで重傷を負ったのはフロアの壁のみである。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

パレード・ペッパーポート
【H&F】
パンケーキを食べたいかーっ!?
拳を振り上げて社員を鼓舞する。

我が社の有能なマスコット、アンリエットからのタレコミだ。
パンケーキの美味いカフェと聞いて俺たちが黙っていると思うなよ。
ボーナスは出ないが、代金はすべて経費だ、経費!
会計には俺が謝る!

UDCだろうが王様だろうが、パンケーキ前の前哨戦だ。
きちんと体力を残し腹を空かせて完遂しろ。
行けっ、パンケーキ攻略隊!
今日は社長でなく隊長と呼ぶがいい。

俺はエレメンタル・ファンタジアで濁流を作り、
隠れているゴーレムどもを押し流す。
さあ突っ込めカヨ突撃兵!
なぎ払え、サユリ鉄砲部隊!
隊員同士、フォローし合って進め!
ゴーゴー!!


境・花世
【H&F】
心の底から! パンケーキが食べたい!
めらめらとやる気を見せる模範社員には、
あとで特別ボーナスが出たりしないかなあ

隊長の号令に軽やかに笑って、
ならばと早業ダッシュで駆け出そう
敵の攻撃は見切って、第六感で躱して、
奥深くまで単独で斬り込んで――

“花葬”

一斉に巻き起こる花吹雪で、
ゴーレムを纏めて掃討しようか
隅々まで掻きだしてくれるなら
それも全部壊すだけだ、
っと、と、わあ!?

死角からの攻撃に頭を押さえるも
さゆりに助けられてありがと、と笑い
これが緊密な部門間連携ってやつかな

頼もしい同僚に支えられ、
それじゃあ我らがシナジー効果
さらに発揮してみせようか


四・さゆり
【H&F】
おー!

コンクリートだろうが、王だろうが、
邪魔者は潰しておきましょう。
控えるパンケーキ戦への準備運動ね。
ええ、できるわ。
全ては経費でパンケーキを食べるために、
おなかすかせなくっちゃ。

たいちょーの号令を合図に、
傘の雨を降らしましょう。
漫ろ雨 で先行く花世の援護と、
目が合ったゴーレムは潰していくわ。

あかいあかい傘の雨、
咲いたらきっと綺麗でしょう。

不意打ち?ふふ、わたしの傘が薙ぎ払ってあげる。

気にしないで花世、そのまま進んでちょうだい。
女の顔を狙うだなんてよほど死にたいみたいね、それはわたしが潰しておくわ。

ごーごー。



●四階、パンケーキまっしぐら
 この殺風景なビルに猟兵たちが足を踏み入れてから、暫し。四階に至ってもHeel & Face CORPORATION面々の士気は高い。
「パンケーキを食べたいかーっ!?」
 社長であるところのパレード・ペッパーポート(“初恋煩いの”・f04678)は拳を振り上げ、共にこの現場を訪れた社員を鼓舞していた。
「心の底から! パンケーキが食べたい!」
「おー!」
 こうして勢いよく応じる境・花世(*葬・f11024)と四・さゆり(夜探し・f00775)こそがその社員だ。それから、この事件を予知しグリモアベースに持ち込んだグリモア猟兵も。
 社員たちの元気の良い素直な返事に、パレードは腕を組みうんうんと満足げに頷いた。なにせ、パンケーキの美味しいカフェと聞いて黙ってはいられない。ビルも随分上ってきたが、まだまだパンケーキのパワーは続きそうだ。
「ね、めらめらとやる気を見せる模範社員には、あとで特別ボーナスが出たりしないかなあ」
「いいわね、ボーナス」
 花世は傍らのさゆりに尋ねる風だが、声の大きさからして内緒話のつもりは全くない。パレードに聞かせたいのである。だってボーナスを出す社長本人がここにいるのだし。
 さてその社長はというと、腕を組んだままちらと灰の眸で二人を見遣り、仕方がないとでも言う風に長く息を吐いて見せた。
「ボーナスは出ないが、代金はすべて経費だ、経費! 会計には俺が謝る!」
 社長らしい――と言うべきかはわからないが、堂々と清々しく潔い断言であった。パンケーキは経費に入りますか。バナナはおやつに入りますか。パンケーキにはのせられます。
 ともかく、パンケーキ代に関しては社長の保障が出たのである、俄然やる気が出るというものだ。
 このビルに入りゴーレムたちと対峙しながら欠伸を漏らしていたさゆりも、閉じた赤い傘を揺らしてどことなくご機嫌になったように見えた。
「なら……コンクリートだろうが、王だろうが、邪魔者は潰しておきましょう」
 そう、コンクリートのゴーレムだ。忘れてはいけない、ここは敵地四階のフロア。三人が足を踏み入れた今、重たく擦れる音を立てながら、薄明りの中にも薄暗がりの中にも、大きな影が立ち上がり始めていた。
「勿論。UDCだろうが王様だろうが、パンケーキ前の前哨戦だ。きちんと体力を残し腹を空かせて完遂しろ」
 パレードがそれらの影を一瞥し杖を回せば、飾られた緑がさやと揺れる。
「行けっ、パンケーキ攻略隊!」
 今日は社長でなく隊長と呼ぶがいい。言いながら、今度は腕でなく杖を己の前へと突き出す。伝承の常緑、困難に打ち克つと呼ばれる葉が魔力を孕んで仄かに明るく輝けば、周囲の空気の振動へ僅かな変化が生じる。複数の大きな質量が動くときのそれだけではない、大気中の水分と、それからこの打ち捨てられたビル内の砂埃や残された一部の土砂が、ぞろりと動き出す強い気配。
「控えるパンケーキ戦への準備運動ね」
 ええ、できるわ。とさゆりは答えた。全ては経費でパンケーキを食べるために。赤い傘は最初から手に持っている。であれば準備は万端、一歩、前に出る。
「なんだか楽しくなってきたね」
 だから花世はそんな二人の声と様子に軽やかな笑みを浮かべ――駆けた。
 疾風のような速さで、彼女の赤い髪と薄紅の花を散らした裾が視界に尾を引いていく。彼女が奔れば、淡く嫋やかな花弁が舞う。まるでその花に惹かれるように、ゴーレムたちは一斉に彼女へと視線を向けた。
「いくぞ――さあ突っ込めカヨ突撃兵!」
 パレードの勇ましい声と同時、どう、と激しい音がした。それは水音だ。濁流。こんなビルの四階でお目にかかることは滅多にないであろう、くすんだ茶色に濁った鉄砲水が、示した彼の背後を起点にして大きくフロア内を迂回し、隅々のゴーレムたちの足を浚っていく。制御の難しい、それは紛れもなくひとつの自然の力だ。
 『隊長』の号令に「はあい」と応じて、水流に足を取られたゴーレムたちは捨て置き、立ち上がり明確に敵意を見せているそれらの方へ、花世は文字通り飛び込んだ。その身を掴もうとする腕を潜り、背後からの風切り音で拳を察し、石人形の間を踊るように突き進んでいく。
「なぎ払え、サユリ鉄砲部隊!」
「うん」
 傍らで杖を構えたまま濁流の制御に集中しているパレードをほんの少しだけ振り返って、さゆりは端的に答える。それからゆっくりと歩き出し、まるでふと思いついたかのように無造作な仕草で傘を宙に放り投げた。
――さあ、よいこたち。暴れてらっしゃい。
 さゆりの放った傘は放物線を途中まで描き、けれどその頂点でふわりと“増えた”。雨を受けるそれらが、まるで天から降る水滴と同じものであるかのように。降り注ぐ。花世の背を追わんとした石塊の背に、歩き出したさゆりへ目を向けたその顔に、身体を震わせざらついた砂粒を溢れさせようとしていた胴の中心に。どつ、と太く短い音を立て、長く細い赤色の傘が突き刺さってゆく。
 ぱつん。と音を立て傘が開けば、まるで赤い花が咲いたよう。
 そう、花だ。
 さゆりの援護の間に、花世はフロアの――すなわちゴーレムたちの――ほぼ中心へ辿り着いている。ざりり、と下駄で砂利を噛みながら立ち止まれば。
「――咲いて、散って、咲いて、散らないでいて」
 微かな囁き声。乞うような言葉と、呟くような音で。
 吹き荒れる。これは嵐と名付けられた花。葬るための花。渦を巻くよう、花世の姿をかき消すばかりにすさぶ花吹雪が、無骨なコンクリートで出来た人形たちを削り取ってゆく。
 パレードの操る流れに呑み込まれた石塊たちもそこから吐き出されれば、辿る道筋は全く同じだ。そしてたとえそこから逃れられても、花嵐の外では赤い傘の雨が降る。どこにもそれらの逃げ場はなかった。
 こん、こん、と下駄音を立て、その景色の中を花世は軽快に歩き――。
「っと、と……わあ!?」
 頬の傍、髪を掠めていったコンクリート製の拳に思わず声を上げ、咄嗟に頭を押さえた。
 傾いだ身体は灰色の方。柱の陰で重たい音を立て横倒しになったゴーレムの頭上には、閉じたままの赤い傘がふわと浮いている。その向こう側を見れば、さゆりが背伸びをするように黄色い袖の手を振っていた。
「ありがと!」
「気にしないで花世、そのまま進んでちょうだい」
 女の顔を狙うだなんて――伸ばしていた手の人差し指、さゆりがすっと下へ向ければ、応じた傘は不意打ちなどした無礼者の身体に突き立った。
「――よし、その調子だ! 隊員同士、フォローし合って進め! ゴーゴー!!」
「ごーごー。……でも隊長、さっきから一歩も進んでいないわよ」
 パレードの名誉のために補足しておくと、前述の通り彼の操っている濁流は自然現象に近いため制御が難しく、操作に大幅な意識と魔力を割く所為で非常に動きづらいのである。
 いいか、俺が重要な仕事をしているのはわかっているだろうサユリ――苦い顔をしながら靴裏を擦るようにじりじり進み始めたパレードと、働き蟻の列を眺めるときの目をしているさゆりの姿を見て、花世のかんばせに笑みが咲く。
 これがHeel & Face CORPORATIONにおける緊密な部門間連携というやつだろうか――。
 シナジー効果は確認された。ではここから更に、王座す頂点へ届くほどに、発揮してみせよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『イネブ・ヘジの狂える王』

POW   :    アーマーンの大顎
自身の身体部位ひとつを【罪深き魂を喰らう鰐】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
SPD   :    カイトスの三魔槍
【メンカルの血槍】【ディフダの怨槍】【カファルジドマの戒槍】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ   :    ネクロポリスの狂嵐
【腐食の呪詛を含んだ極彩色の旋風】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑17
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠神楽火・綺里枝です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●五階、メンフィスにて
 この無粋で味気ない建造物の上から下まで響くような重たい音の連続に、彼は褐色の瞼を持ち上げた。とろとろとした微睡みの背景音楽にしては、あまりにもそぐわない喧しさであったので。
 変わり映えのしない灰色の内装は、彼に貢がれた金の燭台やシルクの絨毯で飾られてはいたが、完璧には程遠く、そしてまた、彼の肉体も完璧とはとてもではないが言い難いものであった。
 玉座は頑丈な石材ではあったが、瓦礫そのものに似ており彼の趣味には合わない。次に訪れた信奉者に、もっとまともな玉座を用意させなければならない――彼は浅い眠りから引き上げられたばかりの意識で、茫とした息を吐きながら考える。

 次、耳に届いた足音はやはり騒々しかった。階段を駆け上がる複数の足音は慌ただしく、落ち着いたものも多少混ざっている所為でリズムが統一されていない。柳眉の間に皺が寄る。
 やはりこの時代の人間たちは使えない。室内を王に相応しいものにするにも時間が掛かり、またその王の身体を完成させるにも手間暇を掛けすぎる。下民の無能を愁い、彼はまたひとつ、息を吐いた。
「余に謁見しようというのであれば、最低限礼儀を弁えよ――」
 飾り気のない窓から差し込む早春の薄い陽光を受けた王の姿は神々しく、そして彼は自身の座す頂点まで上ってきた者たちを見て――不快に顎を上げた。
 これは、己の敵である。
 それは本能的な直感であり、紛れもない真実でもあった。
 身動ぎと共にマントの留め具がちりりと鳴る。白絹に似た髪を僅かに揺らし、その隙間から彼は己に仇なす侵入者たちを睥睨した。

「よい――わかった。汝ら、余の糧として死ぬことを赦す」
 衣擦れの音を立て、その王は立ち上がった。猟兵たちはその傲慢な亡王を見据え、問答無用の戦闘の開始を感じ取る。
カチュア・バグースノウ
やっちゃったわ…周りの環境のこと、すっかり失念してた
まぁでも、壊しちゃったもんは仕方ないわよね
ごめんなさい!

ボスね!
素早そうだから敵の攻撃をくらう前提で戦わせてもらうわよ!

攻撃方法は血花応報
攻撃を受けて流れた血をボスに飛ばす
攻撃受けてなかったら自分の腕を切りつける

頭部が飛んできたら、斧剣で打ち返す!
槍が飛んできたら初撃をできる限り避ける
あとは武器受けで受けつつ、避けて、最悪当たるのは仕方ないわね
ユーベルコードを封じられなければいいんだけど
なんか虹色の風が吹き始めたら距離をとる。前兆があれば

アドリブ、共闘歓迎


ラウル・シトロン
彼が話に聞いていた王様なんだね……。
僕は少し敵から離れて小さな火球で攻撃しようと思う。
敵からの攻撃は聞き耳を立てて逃げ足で避けるよ。
攻撃を受けても、激痛耐性と気合いで何とか動けると思うから。
相手の動きをしっかりと追跡して隙を見つけたら、【ウィザード・ミサイル】の炎の矢を一気に叩き込むよ。


最上・空
パンケーキの為に美幼女が王様をぶっ飛ばしに参上ですよ!

空は【ウィザード・ミサイル】を「高速詠唱5」で連射連打して、手数&物量で敵の動きや行動を阻害しつつ、地道にダメージを与えようかと思います! ちなみに、当てる事より連射を重視します!

他に味方さんが居る場合は誤射に用心して、余裕があれば攻撃タイミングや接近戦に合わせUCで弾幕を張り攻撃の支援でもしてみますよ!

攻撃が来そうだったら、自身の周囲に「属性攻撃8」&「衝撃波10」で氷を出現させ、その陰に隠れて即席の盾として運用、更に合わせて美幼女オ-ラ(「封印を解く5」&「オ-ラ防御15」)を全開にして何とか防御ですね!

※アドリ&まとめご自由に



●嵐と炎
 ぞろり、と。それは王の纏う布ではなかった。粘つくような不快感と色濃い殺気――このフロアの空気が、引き攣れるように動いた気配。滲み出るような毒性が、猟兵たちの肌をぴりぴりと刺す。
(彼が話に聞いていた王様なんだね……)
 ラウルは場に満ち満ちた一触即発の空気に目を細めながら、玉座の前に傲然と立つ男を見つめる。
 誰もが目の前の男が強敵であることを理解していた。古代は只の王であったかもしれない、だが、今となっては邪神と呼ばれる存在とほとんど同一であるもの。捨てられた過去より、幾度であろうと甦りし者。
 立ち上がり僅か首を傾いでいた男は再度ぐるりと場を睥睨し――それを最初の標的を選んでいるのだと気付いた者たちが、張り詰めた場の緊張を破り、動いた。そしてそれと同時、王とされる男もまた、褐色の手指をやおら持ち上げる。
 耳を動かし炎を灯したラウルもまた、火蓋の切り落とされたことを察知したうちの一人。
「嵐だ、――来る!!」
 瞬間。
 ごう、とフロアの空気が一気にかき混ぜられ、その場に集められた炎、魔力、そして極彩色の呪詛が、それぞれぶつかって弾けた。衝撃で砂埃が舞い、行き場を失くした『力』が強風となりフロアを揺らす。もしも窓にガラスが入っていたならば、その全てが一つ残らず砕けていただろう程の、相殺の余波。
「――……ほう。やはり満更ただの無礼者でないと見える」
 感嘆に似て、男は息を吐き出した。その身体の周囲には、淡い日光を受ける極彩色の残滓が漂っている。
 斧剣を床に突き刺すことで先の暴風をやり過ごしたカチュアは舌を巻いた。彼女は階下をうっかり破壊してしまったことを反省していたが、この王様ときたら! この場にいる彼の敵のどれが倒れても良いし、きっとフロアどころかこのビルそのものが倒壊したとしてもあの涼しいかんばせを崩すことはないのだろう。
「こっちが気を付けてやらなくっちゃいけないなんて、癪だわ」
 呟きながらちらと背後へ視線を遣る。距離を置いて攻撃できる者が揃っているのは先ほどの見事な相殺でわかった。となれば。
「前は任せて!」
「ふむ――」
 向かってくるか。男の呟き通り、カチュアは床を蹴り、駆ける。然したる距離ではないが、敵が構えるだけの時間は十分に取れてしまうだろう。雪のように白い髪の合間、男が腕を伸ばし構成する影が細長いことを見て取り、彼女はその華奢な外見からは想像できないような力強い機敏さで黒い斧剣を振り上げた。
 短く鋭い吐息。ギュ、と空気の捩じられるような音と共に高速で飛来した『槍』を、カチュアは正面から弾き返す。
「今ですよ! パンケーキの為に!」
 ――王様をぶっ飛ばします! 空の声には幼さが残っているが、勇ましさとウィザードとしての力は一人前だ。
 ロッドに飾られたリボンがひらと揺れる。魔力を練り上げる詠唱にかける時間は最小。それでも百を超える炎が周囲に灯った。コンクリート一色のフロア内が、橙色の炎で一気に染め上げられる。
 一斉に殺到する炎の矢。眉間に僅か皺を刻んだ王が、初めてその玉座を動いた。軽いステップとマントの裾を捌く所作で襲い掛かる炎を避けるが、それを確認するよりも早く、空は次の詠唱を重ねている。手数と連射を優先した魔力のミサイルはシンプルに標的を追い掛け、それゆえ敵が自由に動くことを許さない。
「っぐ」
 二射がその身体へと到達した。柔らかな白布を纏った身体が蹈鞴を踏み、余裕を保ち続けていた面が揺らぐ――そして走らせる視線。そう、今の二射のうち片方は空のものではない。
 追い討ちを嫌ってマントを強く払った姿へ、炎の描く軌跡が二本に増えていた。好機と見たラウルが、空のウィザード・ミサイルに己のそれを重ねたのだ。彼は敵との距離を常にある程度保ちながらその隙を窺っており、そこから最良のタイミングを見出すことができた。
「王様で、オブリビオンでも……決して万能なんかじゃない、ってことかな」
「小賢しい真似を……」
 憎々しげに吐き捨て、それでも男はなんとか二者の放つ炎を捌く。先程カチュアが向かってきた時そうしたように、しかし今度は己の身を守る為、男は手の平の上に夜空めいた色の槍を構成した。幾らかの炎を打ち落とし、ジリジリと金の装飾同士がぶつかり合う音を立てながら、本来不動なる王とは思えぬ動きで以て対応する。
「もう一押し必要ね……!」
「嗚呼、成る程。もう一押しをな」
 黒の斧剣を構え直し駆ったカチュアの声に応えたのは仲間ではない。三度の睥睨、今回その先は明確であった。鋭い狂王の視線が、高速で詠唱をし続けている空へと向く。
「僅かばかりなれど……忌々しいな」
 向けた手の平に槍はない。彼女との間には距離がある。言葉は負け惜しみであろうが、しかし。
「嵐だっ!」
「二度目も喰わないわよ!」
 それはフロアを呑み込む範囲攻撃だ。完全相殺には間に合わない今、防御姿勢を取るのが最善。打てる手のひとつとして、ラウルとカチュアは大きく距離を取った。これがあの王を中心とした狂嵐であれば。――しかし。
「空ーッ!!」
 彼女は即座に距離を取って回避できる場所にはいなかった。そも狙いが空であった以上、彼女を確実に巻き込む心算であったのだろう。
 呪わしい暴風が徐々に治まり、呪詛によって侵食されたコンクリートの柱や天井が露わになる頃。
「は、はい……はいっ! 美幼女、空! 生きていますですよ!!」
 コンクリートと同様に侵食され半ば溶け砕けた氷の壁、けれどその中には確りと空の姿があった。あの強烈な暴嵐の発生を受け、咄嗟に自身の周囲を氷で覆い盾としたのだ。
 怪我もなく無事であることの現状を伝えるため、緑のツインテールを揺らして跳び上がりながら、空は声を張る。
「空は無事ですけれど、王様の姿が見えません! 気を付けて――」
 ください、と。空の言葉尻とどちらが速いか、呪わしき極彩色の残滓を孕んだ砂埃を破り、古代の王は姿を現した。
 その腕には鰐の顎。
 その場所はラウルの左横合い。
「術師は喉を潰せと云うな」
「――ッ……!!」
 反射的に炎を生み出しながら、同時に腕で頭と首を覆った。思わず閉じられようとする瞼を、どうにかしてこじ開けていたいとラウルは願う。
 ぶつり。という音はあの屈強な鰐の牙が皮膚を破ったものだろう。ばたばたと血の落ちる音と強烈なにおいがしているのに、一向に痛みの訴えが届かないのは――。
「あ……! カチュア……」
「やーね、そんな悲壮な顔しないで。あたし、前は任せてって言ったでしょ」
 深々と。鰐の顎が食い込んでいたのは、カチュアの上腕だ。ラウルを庇うため王との間に肩から割り込んで壁になった彼女の白い腕からは、真紅の血がぼとぼとと滴り落ちていた。けれども彼を振り返りながら、何でもないことのように片目を瞑って見せる。
「献身的なことだ。赦す、汝を糧としよう」
「それはお断り、だっ、つーの、よ!!」
 間近の声に弾かれたように、カチュアは自由な片腕に渾身の力を込めて斧剣を薙いだ。深々と突き刺さっていた牙が抜かれ、それと同時に至近にあった敵の身体も遠のく。だが、それで良かった。
「手応えアリ、ね」
 振るった刃からは、彼女のものでない血が落ちる。喰い付きが深すぎたか復活の不完全な王が些か鈍いのかは定かでないが、間違いなく回避が間に合わなかったのだろう。視線を上げれば、裂かれた衣服を忌々しげに押さえ蹈鞴を踏む王の姿がそこにあった。落ちる液体は赤というよりは黒に近い。その量から見て、傷の深さはカチュアに噛み付いて回復した分と相殺といったところだろうか。
 カチュアはそれでは満足しない。手傷を負った王へと強く踏み込み、今度振るったのは武器を持たぬ腕――傷を負い、血を流す腕の方だ。
「初めから……このつもりだったのよ!」
 血飛沫が舞う――否、その真紅は最早血液ではなく炎だった。彼女の腕に穿たれた傷から流れる血は鋭く奔り、敵の肉体へ舞い落ちて紅蓮の炎と咲く。
 血の流れた分、必ず報いは受けさせる。正面に立つ男の衣服に付着した血液は本人のものだけではない。紅蓮は命中し、あるいは返り血より延焼し、低い呻き声を上げた男をその激しい熱で包み込んだ。
「これは! さっきのお返しです!」
「! ――僕は、あなたを許さない!」
 続く毅然とした宣言は空とラウルのもの。
 紛れもない、今こそが好機だった。
 二人が練り上げるウィザード・ミサイル。最早語るまでもなく、大量の魔力が注がれた炎の矢は二百をゆうに超え、フロア内が夕暮れのように真っ赤に染まる。
 既に紅蓮と燃え上がっている男へその照準は合わされ、一息の乱れも一片の容赦も無く――数多強烈な熱は今度こそ全て、再度滅びゆく王へと炸裂した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ケイ・エルビス
【作戦】

速攻攻めで挑発
相手の技を最初に
最小ダメージで受けきり
後々の動きを読みやすくする狙い

開始直後
銃とブラスターをその場に置き
「先制攻撃」

考える暇を与えねえ

「ダッシュ」で距離を詰め
「気合い」「フェイント」を入れたUCで
相手を「挑発」オレに意識を集中させる

「野性の勘」「見切り」で
急所への直撃だけ避ける
又は最小ダメージで食らう


【P】
最初に食らえば意味ねえよ


【S】
「物を隠す」で拾っておいたガレキで受け止め凌ぐ

【W】
初撃後「ロープワーク」で
ロープを結び転落をカバー


初撃後
移動し武器回収
仲間を「範囲攻撃」でサポート


「終わったらパンケーキの時間だぜ!
モタモタしてると店が閉まっちまうぞ!」
仲間を陽気に「鼓舞」


絡繰・ビリー
余の糧、ね。こっちのセリフだよ、我々のためにぶっ飛ばされるがいい!
(主にパンケーキとかの為に)
・SPD行動
と言っても、ゴリ押しは難しいはず
じゃ我はバックアップだ!ショウタイム!
スクラップビルド・ギアバット
散って、囲んで、機銃で【援護射撃】!
「我が脇役を務める!フォローは任せろ。主役の皆は決めてこい!」
【コミュ力】で方針を伝える
あとは、出来る限りになるが、敵に攻撃などの予兆や動作があったら指示するくらいか
こっち狙われたらそんな暇はないだろうけどね、回避で手一杯
いざとなればギアバットを割り込ませて我と皆の盾にする

さ、おやつの時間が待ってるよ!
ご褒美タイムってやつだね!
アドリブ協力歓迎



●ショウタイム・ビート・ラン
 傲然とした言葉には、往々にして反感が返るものだ。
「余の糧、ね。こっちのセリフだよ、我々のためにぶっ飛ばされるがいい!」
 ビリーとてその一人。実際のところ我々のパンケーキとかの為であるとははっきり口にしなかったけれど。
「そ。オレたちにはこの後もあるんだからな。――ビリー、ちょっとばかり後ろを任せたぜ」
「オッケー、じゃ我はバックアップだ!」
 ケイは頭のサングラス位置を直し、手にしていた銃器をビリーへ預けた。そしてその場で一度トン、と確かめるように跳び、身体を敵へと向き直る。琥珀色の眸には決意めいた確固たる意志があった。敵の技を全て見知って特徴を覚えてしまえば、対処はより容易になる筈だ――。
「さあて、王様とやら……そんなに糧が欲しいってんなら、オレが真っ先に相手になってやるよ!」
 コンクリートの床を力強く蹴り飛ばし、ケイは獲物を定めるよう再度視線を走らせていた王へと一直線に駆ける。彼の声と眸を受け止めた王は「ほう」と眉を上げ、既に玉座の位置からは追いやられた身、配慮は要らぬとばかり褐色の手の平に形成する細く禍々しい槍、三本。
 それを受け、ケイが口遊むは今気に入りの一曲。歩幅と歩調が合わせて変わる。戦いのビートを決めるのは、常に自身だ。
 ビリーにとってもそれはショウタイムの合図に同じ。どのフロアにも置いてあった同様の建材を使い、生み出すは《スクラップビルド・ギアバット》――その翼、機構の間から噴き出す蒸気が、そのコウモリたちを蒸気機械なのだと教えてくれる。
「我が脇役を務める! フォローは任せろ、主役はケイだ! 決めてこい!」
 背後から名指しにする声に、オレも仲間の為だぜと微かに笑い、ケイは床を踏みしめた脚に力を込めた。
 ――これだけ言われて決められないんじゃ、格好が付かないだろう?
「威勢は、良いな」
 低い声と同時に飛来した槍は一本目、メンカルと名の付いたそれに隠し持っていた瓦礫を正面から宛がい、盾にする。瓦礫ごと槍を捨て、ケイはそのキラー・チューンが胸の裡で鳴り響くままにステップを踏んだ。
 二本目、ディフダは彼に辿り着くよりも早くビリーの操作する機械蝙蝠たちの援護射撃がその切っ先を逸らし、フロアに並び立つ柱の内の一本に突き立った。
 最後の星、カファルジドマはいまだ王の手中――。
「ちょいと動きがとろいんじゃないか!?」
「戦いには武器が入用であろう」
 こっちは素手だぜとケイが笑うと、王は知らぬと応じた。その頬に浮かぶ笑みを獰猛に深め、これ以上の問答は必要ない。駆け出してから一度も動きを止めぬままに、打ち出す拳は速く鋭い。
 敵の手に武器があろうと、間合いの内側へ入ってしまえば問題はなかった。振るわれる長い凶器のより根に近い方へ片腕を当てて押し留め、ぐるり身体を捻って重たい踵を頭部目掛けて叩き込む。
 一曲が終わるまではまだまだ時間がある。何度もリフレインさせてきたビートに合わせ、インファイトを守りながら細かなフェイントも交えて放つ拳と蹴りはどの国のどの術とも合わない。自身の、今この時の為にのみチューンした曲であるならば。
「小賢しいことだ――」
「ケイ、王様の腕!」
 相手が握った槍の攻撃を防いで踏み込んだそのもう一歩だ。手指は槍を掴んだまま、その腕の“途中”が大顎へと変じる。
「小賢しいのはどっちだよ!」
 それが正しく一頭の鰐であるように蠢き鋭い牙の並んだ口を大きく開く。生物かすら判然としないそれの吐息が掛かりそうな程の距離で、けれど彼は冷静だった。人間の顎にそうするのと同様に、爪先で抉るように蹴り上げる。
 さすがに“飼い主”も鰐もそれで気絶するようなことは無かったが、至近距離においては十二分に通用するということがよくよく判った。――そしてそれと同時に、それを受けた側もまた、この距離での戦いが得策ではないということを悟る。
「ふむ。さすがにこの距離を許し続けることは――些か難しいな」
 躰に叩き込まれた拳に咳き込みながら、王の呟きに応じたのは風だった。ぶわり、と漂う力は浮遊感のようなそれではなく、明らかな殺意と敵意を孕んで刺々しい。そしてそれを文字通り肌で感じる程、ケイはこの男と距離が近かった。
(間に合うといいが――!)
 咄嗟に腕を振り解き、槍の追撃を喰らわないよう変則的な動きで間合いを取る。目の前で、前兆の微風がつむじ風に、そして暴風の嵐へと成長していこうとする様を目の当たりにして、ケイは舌打ちをした。
 ――と。
 ケイがインファイトでの攻勢を続けていた為に散らされていたコウモリたちが矢のように飛来する。その腹に備え付けられた機銃が文字通り火を噴き、嵐の幼生とその中心に位置する王へ銃弾の雨を降らせた。
「早く! 物陰に!」
 サンキューと礼の言葉を投げ、ビリーの忠告通り柱の陰へと転がり込む。
 刹那。ごう、と。フロアを舐めるように吹き荒れる呪詛は毒々しい極彩色。ひとたび吹き荒れれば一帯をネクロポリスと化す嵐は、その乱暴な風力もさることながら、何よりも孕んだ呪詛によってコンクリートすらも蝕んでいく。
 ぼろぼろと砂や砂利のごとく崩れ落ちていく破片を飲み込んだ風の渦はより凶悪になるが、幸いなのはそれがひと時であることだ。嵐は必ず通り過ぎる。
 吹き飛ばされぬよう咄嗟に自身の身体と柱をロープで結んでおいたケイは、それよりもと自身よりずっとフロアの隅にいたであろうビリーの方を振り返った。
「ビリー! 大丈夫か!」
「問題ない!」
 返事は即答。極彩色の残滓の合間、見える灰色は壁のように大きく――それは嵐が最大に吹き荒れる直前、ビリーが自身の傍に呼び戻し合体させたギアバットたちだった。その背後から、小さな手がひらひらと振られている。
 ほうと胸を撫で下ろしたケイへ、投げ寄越されたものがある。初めに預けた銃とブラスターだ。
「さ、おやつの時間が待ってる! 我もそろそろご褒美タイムが恋しいよ!」
「確かに、モタモタしてると店が閉まっちまう!」
 これが終わればパンケーキの時間だ。強敵の前であろうが笑い合い、再度撃鉄を起こそう。この距離ならばやることは決まっている。
 ケイはブラスターの照準を、そしてビリーは嵐を耐え切った魔導蒸気機械獣たちの銃口を、治まりつつある風の向こう側へと向けた。
 極彩色を僅かに含んだまま立ち昇る砂埃の中に浮かび上がる影。それが晴れ、標的の白い髪と金の眸を目視するや否や――熱線と数多の銃弾が一斉に放たれ、熾烈を極める熱と弾丸の嵐が、王を名乗った存在を襲った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

カリオン・リヴィエール
過去の王には、過去の暗殺者を。ユーベルコードで対応します。ちなみに、暗殺者はウルといいます。
時代が変われば、人もまた変わる。もはや、彼の時代ではないことを教えてあげましょう。

共闘、アドリブ大歓迎です!


花剣・耀子
なあに。御拝顔を賜り恐悦至極とでも言えばいいのかしら。

あたしは正面から斬りに行くわ。
此方に意識を向けさせれば、その分他も動きやすくなるでしょう。
きっと皆目的を同じくする同志でしょうから、
適宜協力していくわね。

何を形作ろうと関係ないわ。
【剣刃一閃】、触れた所から斬り果たす。
齧られても致命傷にならなければ捨て置いて、
奪われた分以上に斬り返しましょう。
カタチを得てここに在るのなら、あたしが斬れない道理はないのよ。
お前に喰わせてやる魂なんてないけれど。
どうしても喰いたいというのなら、丸呑みにしてみせなさいな。

土地もお墓も高いのだから、
オブリビオンにくれてやる場所なんてないのよ。
お前は只、消えなさい。



●闇と不明を裂く
「何たる不敬、不遜……無知ゆえか? それとも余を知りながら敢えての蛮行か?」
 褐色の手指で額を押さえる亡王から、既に余裕は失われつつあった。白い髪を垂らし不規則な息を吐き、地に着いたマントの裾がぞろと擦れて土埃に汚れる。過去の亡霊ゆえか猟兵たちに打たれながらもじわりじわりと再生する傷口はしかし、血液に似た黒い雫を滲み垂らし続けていた。
 艶やかな黒髪をさらと揺らしながら、耀子ははてと僅か自身の頬に触れる。
「なあに。御拝顔を賜り恐悦至極とでも言えば良かったのかしら」
 その物言いが既に不遜であったが、一体如何な問題があろうか。たとえば目の前で乱れた息を吐く男がどこの誰か知っていたところで、耀子のすべきことは何も変わりはしない。ちらと背後を振り返り、そこに立つカリオンが微かに頷くのを見る。
 一歩踏み込めば、黒曜とその背に広がる赤が揺れた。手にした刀を握り直し、静かな青の双眸はひたと討ち果たすべき敵を見据える。――憎々しげな金の眸が、耀子のそれを見返した。
「おのれ――」
 地を這うようなその声を合図に、耀子はざらついた床を蹴り駆ける。向かうは正面。たとえ陽動と判っても、堂々と向かってくる者を無視は出来まい。
 呪詛めいて吐き出される息と共に、投擲されるは一本の槍だ。それをやはり正面で受け下段からの斬り上げ、弾けば天井の一角がごろりと崩れる。彼女の脚は止まらない。二本目、一瞬だけ周囲を見遣って味方のない方角へと再度弾き飛ばす。三本目は先に弾いたそのまま刃を翻し、真っ二つに両断した。
 一息に間合いを詰めてしまえば、目の前に立つ王はただその窮地を隠せぬ一人の男のようにも見えた。苦虫を噛み潰したような表情と対照的に、耀子の涼しげな冷えた表情は変わらない。視界の端で褐色の腕が鰐の顎に変ずるのが見える。だが――。
「何を形作ろうと関係ないわ」
 ――《剣刃一閃》。触れたもの全てを斬り果たすひとつのユーベルコード。
 かろうじて半身を捻るようにし己が身へ刃の届くことを避けた亡王はしかし、耀子を喰らう為に変じた顎を腕ごと失う。宙を奔る白刃は多量の血を噴き出しながら逃げるその身を追い、豪奢な裏地の外套を、薄明りをも弾く金の装飾を次々に両断していった。
「貴様……愚民め!」
「お前に喰わせてやる魂なんてない」
 けれど、どうしても喰いたいというのなら。
「丸呑みにしてみせなさいな」
 レンズの向こう側でその青を微か細めた耀子の表情を確認せずとも、近接戦は紛れもなく己の不利だと王もまた気付いていた。それでも距離を取りきれぬのは、耀子がそれこそ喰らい付くように追い続けている為だ。
 再度、失われた腕をぼこりと“殖やす”ようにして生えた鰐の顎は三つ。幾つに増やそうと、カタチを得て在る以上、耀子に斬れぬ道理はない。受ければ斬る。構えた彼女の視界の外、いまだ『ある』方の腕に纏わる魔は極彩色を持っていた。
 それゆえ、
「――我が声に応え今甦れ!」
「ぬっ」
 柱の陰より飛来した短剣が、吹き荒ぶ前の呪詛を突き抜けその腕に突き立つ。噴き出すのは呪詛でなく、この男が人非ざる者ということを証明する黒の血液。
 カリオンの声に応じ召喚されしは古の殺戮者。影に紛れて敵を討ち、かつて人知れず朽ち果てたという存在だ。過去の王には、過去の暗殺者を――生涯、あらゆる者からその命を狙われてきたであろう『王』という存在においてはこれ以上ないほど、お誂え向きの天敵と言えるだろう。
「あなたはいかにも、王ぶっていますが……」
 黒い髪は同じでも、耀子と対照的な赤い眸を瞬かせ、カリオンはその威光を明らかに失いつつある亡王の姿を眺めた。そうして吐き出した息が果たして呆れであるか哀れみであるのかはたまた、載せられた感情は彼女自身にしか判らないことではあるが。
「時代が変われば、人もまた変わる。もはや、ここはあなたの時代ではありません」
 この世界に、王は必要ない。ましてや邪神など。今やこの男はアンディファインド・クリーチャーと呼ばれる存在でしかないのだ。
「そのことを、教えてあげましょう」
「黙れ! この下賤な民どもが――」
 ぼたぼたり。落ちたのは三つの顎。カリオンが指先を向け影に潜む暗殺者を動かすと同時、顎を六つ以上の数に刻んで斬り落とした耀子はその意図を感じ取り一度距離を取った。
 クソ、と悪態を吐いた男の視界を覆ったのは、闇だ。暗殺者は闇にこそ潜む。今が昼で陽光があるというのであれば――闇を生み出してしまえば良いのだ。
 突然の暗闇に思考が停止したのか、男は長躯の動きを止めた。その身体と同様に刻まれた外套の端が揺れ、自身の身に何が起きたのか把握するまで、数瞬。
 その数瞬こそが、致命的だった。
「がっ、ぁ、アァアッ……!!」
 闇ごと裂くように。地を這うかの如く低きから跳ね上げるように放たれた白刃の一閃が、ついにその躰を捉えた。
 どつり。
 男の、苦しみであり怨嗟の咆哮を穿つように。背後、紛れもない人体の急所へと兇刃は突き立つ。
 其々は耀子と、そしてカリオンがウルと呼ばう殺戮と暗殺の者。
 勢いよく噴き出した返り血を嫌って、耀子は幾つかのステップを踏んだ。髪先と服裾を揺らして、彼女はふうと息を吐く。王であった者へくれる一瞥は冷たい。
「いい。土地もお墓も高いのだから、オブリビオンにくれてやる場所なんてないのよ」
「このビルを墓標にするのも、無益な王には贅沢かもしれませんね」
 カリオンの呟くような言葉に、耀子はええと応じ白刃を払う。
 だから。
「お前は只、消えなさい」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

パレード・ペッパーポート
【H&F】
社員もといパンケーキ攻略隊を引き連れて5階へ
出たな、パンケーキの王!
大人しく囚われたパンケーキたちを開放しろ!
なに、そういう趣旨じゃない?
そうだっけ。でもこれを倒したら次はパンケーキだろ?
じゃあ同じことだな!覚悟しろ!

隊長は部下を援護する。
敵の放つ槍や旋風に対して、魔力を込めた氷の突風や炎の旋風で応戦。
少女を囮のは気が引けるが…信頼という麗句のもとに頼んだぞリップル!
パンケーキ!パンケーキ!パンケーキ!(集中)

テメェがこんな高いところにいやがるから、いい加減腹の空き具合が限界だろうが!
みろ、うちの社員たちの飢えたひもじい表情を!
追加オーダーの代金を請求される覚悟はできてんだろうな!?


境・花世
【H&F】

社長の示すビジョンを信じて
ついていくのが良い部下ってもの
わたし達の心は今一丸になってるんだ

――パンケーキ! パンケーキ!

璃歩留、ちょっと背中借りるね
頼もしいきみの背に隠れて
タイミングを見計らい
弾丸みたいな高速移動で、
敵の攻撃を掻い潜って眼前へ

吹き荒れる血の花びらで
蜂蜜バター色した冠なんて
容赦なく砕いてしまえ
パンケーキは生ける者の糧、
亡者に食べさせる分なんてありやしない

さゆり、頼んだっ
隣のきみへ攻撃を繋いで、
狭間にまた花びらで切り裂いて
間断なく波状攻撃を食らわせよう

――奢り! 奢り! 奢り!

モチベーションは十分だ、
まだまだ頑張ってお腹空かせれば
三皿くらいはいける気がする、絶対いける


星磨・璃歩留
【H&F】
いよっ隊長、いけめん!主人公!
隊長の信頼には食べるパンケーキの枚数で応えますじゅるり…
会社のお金でパンケーキ!

ねーねー王様、実際みんなの興味はパンケーキ一択だけどもさ、それって王様としてどう?
王様って名前だけ?パンケーキの前座?それとも噛ませ犬?

って煽れば少しはヘイト稼げるかな
敵の注意をわたしに向けて皆に反撃の機会を作るのが本懐なので

わたし達への攻撃は宇宙バイクの機動力とUCで尽く星屑に還すのだ、あっかんべぇ
ふふん任せて花世先輩、貴女に指一本触れさせないからねぇ!
さゆり先輩にも手ぇ出しちゃだーめ、さぁヤっちゃって下さい先輩!

もう誰もキミに興味ないよ、さらば噛ませ犬
ハロー!パンケーキ!


四・さゆり
【H&F】

おなか、減ったわ。
でも目の前にいるのは、パンケーキでないの。

‥‥パレード煩いわよ、
ひもじい顔なんてしてないわ。レディだもの、‥‥おなかへった。
追加オーダーの数であんたの信頼に応えましょう。

あんたの部下は有能であると、
証明してあげる。

ーーー

リップルの頼もしい煽りを彼女の後ろで拝聴しましょう。パンケーキみたいな肌色だけれどあれは食べられないのかしら。‥‥パンケーキ王ではないの、そう、役立たずね。

ふふ、花世のお花はいつ見てもきれい、ね
ええ、ええ、繋ぎましょう。

「篠突く雨」
お前に足りないのは、あか。鮮明な、あか。
わたしが飾ってあげましょう、
任せなさい、わたし、傷をえぐるのは得意なの。



●うるせえとにかくパンケーキだ!
 五階へと辿り着いたHeel & Face CORPORATIONの面々の前に立ち塞がる亡王がそのかんばせに苦悩の表情を浮かべているのは、果たして消耗の為のみだろうか。
「出たな、パンケーキの王! 大人しく囚われたパンケーキたちを開放しろ!」
「……」
「え? なに、そういう趣旨じゃない?」
 長躯と対峙する形で仁王立ちしていたパレードは、背伸びしたさゆりの華奢な指で背を叩かれ「そうだっけ」と首を捻る。
「でもこれを倒したら次はパンケーキだろ?」
「そうね」
「大体合ってるので大丈夫だいじょうぶ!」
「だろ?」
「本題はパンケーキだもんね」
「よし、じゃあ同じことだな! 覚悟しろ!」
 ちょっとした社内会議を経て、再度パレードが言い放つ。動機が義侠心であろうがパンケーキであろうが、確かにすべきことは変わらない。目の前に立つ、過去より甦りしオブリビオンを倒す――そういうことだ。
 彼を先頭にしているパンケーキ攻略隊こと社員の面々も囃し立てる。
「いよっ隊長、いけめん! 主人公!」
「うんうん、社長の示すビジョンを信じてついていくのが良い部下ってもの」
 ――パンケーキ! パンケーキ!
 この場所へ辿り着くまでにも見事な連携を見せていた彼らの心は今、正しく一丸となっていた。
「おなか、減ったわ。でも目の前にいるのは、まだパンケーキでないの」
 さゆりは頬の横でくるりと跳ねている黒髪を指に絡めながら不満げだけれども、パンケーキを求める心は同じだ。
「そうだそうだ! テメェがこんな高いところにいやがるから、いい加減腹の空き具合が限界だろうが! みろ、うちの社員たちの飢えたひもじい表情を! 追加オーダーの代金を請求される覚悟はできてんだろうな!?」
 見ろ、という言葉と共にそのさゆりを示しながらパレードがまくし立てる。もしかしたら一番お腹を空かせているのはこの社長なのかもしれない。
 杖でさゆりを示し、もう片腕を振り上げる元気なパンケーキ攻略隊隊長、兼社長を横目に見、さゆりは口をへの字にして愛用の傘の柄で彼の脇腹を強くどついた。先でないのは勿論やさしさというものである。
「パレード煩いわよ、ひもじい顔なんてしてないわ。レディだもの」
 本格的な戦闘開始前にダメージを受けるパレードからふいと顔を逸らして、けれども漏らす呟きは、おなかへった、というもの。
「追加オーダーの数であんたの信頼に応えましょう。あんたの部下は有能であると、証明してあげる」
「はぁいわたしも! 隊長の信頼には食べるパンケーキの枚数で応えますじゅるり……会社のお金でパンケーキ!」
 隊の前へと躍り出たのは璃歩留だ。彼女の騎乗した宇宙バイクは、持ち主のパンケーキへの意欲同様、その星型で堂々とこの世界におけるオーバーテクノロジーを主張している。
 彼らを眺める敵の目が果たして退屈なのかあるいはある種圧倒されているがゆえのものなのかは置いておこう。何しろ璃歩留の役割は、そのいかにも倦怠から目覚めたばかりですというような王様の意識を自分へと逸らすことなので。
 空気の孕む緊張感は、徐々に大きくなっていく。脇腹の痛みが治まりつつあるパレードもそれを察し、さっと部下たちへ目配せをした。
「――もう、よいか?」
「待ってくれるとは随分お優しいパンケー……王様だ。信頼という麗句のもとに頼んだぞリップル!」
 彼の性質上、少女を囮にするという作戦は気が引けたが、代替案があるわけでもない。元よりパレード自身も援護向きなのだ、ここまで辿り着くために打ち倒してきた木偶たちと同じとは思わないが、杖を構えて魔力の集中を始めた。
「パンケーキ! パンケーキ! パンケーキ!」
 集中の呪文である。ちゃんと集中している。この後のパンケーキに。
 ちょっと背中を借りるねという囁きに、任せてくださいと胸を張って。璃歩留は背後の頼もしい様子をちらと振り返ってから王の方へと向き直った。
 流星の名前を冠したバイクをしっかり起動させ、さあ行くよ、と彼女は宣戦布告する。
 合わせられる視線は傲然と、しかし初めの大層な余裕が残っているわけではないようだ。現にやおら手を持ち上げたその男は、既に二本の槍を顕現させている。当初は徐々に癒えていた傷も、あれだけのんびり構えておきながらちっとも治っていなかった。
「やる気バッチリだね! でも……ねーねー王様、実際みんなの興味はパンケーキ一択だけどもさ、それって王様としてどう?」
 掴みは上々。後は可能な限りその意識をこちらに向け続けるだけだ。
「パンケーキみたいな肌色だけれどあれは食べられないのかしら」
「うーん、さっき流してた血が黒っぽくてチョコレートソースみたいだったけど、美味しくはなさそう」
「……パンケーキ王ではないの、そう、役立たずね」
 璃歩留の後ろでそうっと内緒話をしてから。さゆりと花世の二人は敵への接近を果たすべく機を窺う。それはほんの少しで構わない。歯車を転がしていく為に、少しだけ押せばいい。
「王様って名前だけ? パンケーキの前座? それとも噛ませ犬?」
「成る程――先程から不敬極まりない汝の振る舞い。まず初めに余の糧になろうと」
 そういうわけだな。言い終わると同時、顕現済みの槍二本が空気を裂いて飛来する。最後の一本はやや遅れ、けれどどれも直線や放物線などではない、複雑な軌道を描いて璃歩留へと迫った。
 攻撃の瞬間は、裏を返せば隙になる。
 槍が放たれたことを目視した途端、璃歩留はバイクを急発進させた。そしてその陰から弾丸のごとく、花世が飛び出す。
「さあ、行くよ!」
「ふふん任せて花世先輩、貴女に指一本触れさせないからねぇ!」
 王は、小賢しい、と苛立ちのままに吐き出し、槍の軌道を変えさせるがそれは大して役には立たない。フロアそのものが殺風景で広々して見えるとはいえ、所詮は室内でのこと。逆に奔る獲物を追う軌道は単純になり、それを追尾と呼ぶなら厄介ではあるが。
「便利機能をご覧あれ!」
 敵の視線も釘付けにするべく、璃歩留は高らかに声を上げた。起動するコードは《$ planet_fw/.sh》――『シェルスクリプト・プラネットファイアウォール』、百聞は一見に如かず、それを見れば一目瞭然、彼女はきらり渦巻く惑星に似た球型を纏う。それはよくよく想像されるバリアというものだった。
 このバリアの難点は展開中に動けないことだが、今はそれが役に立つ。その場に留まることで花世を先へと進ませ、自身に追い付いた三本の槍は璃歩留に、否、その身を包むバリアに触れた途端、まるで冠した名のごとく、星屑となって弾けて消えた。
「なっ……」
「わたし達への攻撃はこうして尽く星屑に還すのだ、あっかんべぇ!」
 璃歩留は今日の空よりずっと澄んだ青の髪を揺らして愛らしく舌を出す。焼き色に似た褐色のかんばせに浮かんだのは明確な焦りだった。だけどそれでは遅すぎる。
 花弁。少し花を知る者であれば、それが牡丹のものだと判るだろう。かつて王と呼ばれた男の眼前に、その花はあった。
「見て。きれいに咲いたでしょう」
 ――これはきみへの餞。
 見上げる女の微笑みも、また花と美しい。
 美しいばかりの花でないことは――知れたことだ。その紅い花が齎すのは眠りだ。永久に、安らかに、終わる。きみを葬るために、吹き荒れる。
 男が上げたのははっきりとした呻き声だった。赤い、紅い、花びらは、花世の血を吸うほどに美しくなる。その身を裂き、刻み、砕き、終わらせるために荒ぶ八重の花。
 ばきん、と。黄金の冠が地に落ち、割れる。それが蜂蜜バターに似ていると言ったのはやはり花世だ。だけれどパンケーキというのは生ける者の糧だから。亡者にはこの王冠ひとつ分どころか、一口だって食べさせてはあげない。
「おのれ――」
 荒ぶ紅と落ちる黒の中、怨嗟の言葉と共に極彩色が灯る。呪詛の嵐で距離を取る算段なのだ、とはすぐに知れた。けれども攻撃の嵐を増す以外に、それを阻む方法があろうか。
 響いたのはパレードの声だ。
「カヨ、サユリ、そのままやれ! 隊長の仕事は――部下の援護だ!」
 フロアごと赤く染める、それは強烈な熱だった。ただの熱波ではない、魔力によって練り上げられ、操られている炎そのものの旋風。階下でやったようにぐるりと外周を舐め上げ、燃え盛る炎は玉座の裏から男もろとも呪詛を焼く。
「――――――!」
 極彩色の気配は炎の中に消え、男の悲鳴もまた同様に、少なくとも音としては聞こえなかった。
「……さゆり、」
 花世が傍らまで来ていた少女の名を呼べば、彼女は黄色いフードを被ったままことりと首を傾ぐ。
「花世のお花はいつ見てもきれい、ね。……それに比べて」
 なんて厭にしぶといのかしら。――治まりつつある業火の中、確かに立ったままの影があった。ざりり、と砂埃まみれに焦げた床を踏む足取りはおぼつかず、肌も服も裂かれ焼け焦げながら、あるいはそれを矜持と呼ぶのか、王とされた男は一歩、まろび出るように進む。
 花世が反射的にさゆりの前に立ち、さゆりは「だいじょうぶよ」とその袖を引いた。だってここまで、璃歩留と、花世と、パレードと、繋げてきたのだもの。
「さぁヤっちゃって下さいさゆり先輩!」
 背後からは、璃歩留の明るい声が聞こえている。
 ええ、と応えたかどうか。こつり、さゆりもまた前へと踏み出し。
「……せっかくだもの。お前に足りないものを、わたしが飾ってあげましょう」
 それは、あか。鮮明な、あか。
「任せなさい、わたし、傷をえぐるのは得意なの」
 微笑んだ――ように、見えた。少女はその手にした赤い傘をどこか優雅な動きで持ち上げる。《篠突く雨》と、彼女はそう呼ぶ。
 花世の刻んだ傷をなぞるように、その存在を確かめるように。
 どつ。
 突き立つ音は、ひどく短い。焼けた男は声もなく、ただ空気を吐いたような気はした。
「ああ」
 思い出したように、さゆりは呟く。そういえばこの男の血、チョコレートソースのように黒いのだった。
 仕方がないので、傘を開く。
「ほら、きれいなあかよ」
 赤い傘もまた、花によく似ていた。手向けの花に。

●おなかはじゅうぶんすきましたか?
「いぇー! さらば噛ませ犬、割と最初から興味なかった! そしてハロー! パンケーキ!」
 身体を張って囮をした璃歩留はしかし一切の無傷で元気よく腕を振り上げた。早く早くと跳ねる元気もある。
「わー! 奢り! 奢り! 奢り!」
 頑張ってたくさんお腹を空かせた花世も、いよいよとなればテンションが上がる。具体的に言うと三皿くらいはいける気がする。いいや、絶対いける。
 おなかすいた、と傘を抱いたまま屈み込んだのはさゆりで、そろそろお腹と背中がくっつきそうだ。
 彼女の傘の向こう側、覗き込めば死体も残らず砂になったオブリビオンを確認していたパレードはといえば――。
 ばさり。纏った裾を翻して勢いよく振り返ると。
「よし……よし! ご苦労、パンケーキ攻略隊! これにて……いいや、これより最重要ミッションへと移行する! 準備はいいな!」
 穏やかな日の差し込むフロアに響く声は「応」と食欲に満ちている。そして最重要ミッションというのは勿論のこと――香ばしい褐色の焼き色と黄金色の蜂蜜バターを冠した、パンケーキのことだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『カフェで一休み』

POW   :    わいわいお喋りしながらお茶する

SPD   :    店内を楽しみながらお茶する

WIZ   :    まったりのんびりお茶する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●カフェ・ゴールデンコフィン
 猟兵たちの戦った廃ビルから、横合いに入った通りを歩いて少し。人目を避けるような場所に、そのカフェはあった。
 飴色の看板には大人しい字で控えめに『Golden Coffin』と書かれており、揃いの色した扉を開けば、店内にはあたたかな橙色の灯りと、紅茶やコーヒー、それから何よりパンケーキの芳しい香が広がっている。木材と緑を基調にゆったりとした雰囲気漂う、まさしく隠れ家的なカフェであった。
 分厚いカウンターテーブルにはスツール、あとはそれぞれ、二人掛け、四人掛けのテーブルや、奥のソファ席を使えばもう少し人数が増えても全員ちゃんと座れるだろう。
 メニューを開けば、そこにはグリモア猟兵がたくさん並べ立てていたパンケーキメニューの他、紅茶の葉もいくらか選べるようになっており、小ぢんまりとした店ながら、色々な組み合わせを楽しめるようだった。

 今回はオブリビオンが本格的に動き出す前に、すっきりと仕事を終えることができた。――あるいは、初めからここへ来ることが仕事だった、とも言えるのかもしれないけれども。
 まだ少しばかり白々とした陽の差す初春の午後。あたたかい飲み物と甘く美味しい食事で、その心身を癒すのがいいだろう。
ラウル・シトロン
なんとか無事に戦いを終われてよかったよ……。
あの、怪我は大丈夫かな……。
僕、なんとか応急処置は出来るから。本当に簡単な奴しか出来ないけど……。

それで、僕はカフェには初めて来るんだ。
こんな風になってるんだね!
何を食べようかな。
とりあえず、まずは王道って話のメープルバターを頼んでみよう。
お茶も美味しいならセットで頼もう。楽しみだなー。

あと、ここってお持ち帰りって出来るのかな?
ちょっとキマイラフューチャーでお世話になってる人に持って行こうと思って。
その人は甘いものが好きだから、甘いのがいいと思うんだけど、何がいいかなー。


カチュア・バグースノウ
はふ、いい雰囲気のお店ね…
一人だし、いっぱいでなければ、カウンター席に行くわ

パンケーキと、生クリームたっぷりではちみつと一緒に
飲み物は、コーヒーね。砂糖とミルクはいらないわ

あら、アンリエッタ
どう?おいしい?
あんなにパンケーキ食べたがってたものね。食べられてよかったわね

おっとあたしのも来たみたい
いただきまーす
ふわーふわふわ
どれどれ(もぐもぐ)
ん〜はっぴ〜!
生クリームとはちみつがくどすぎず、いい感じに合わさってるわ〜。はーしあわせ!

コーヒーも…うんうん。
パンケーキの甘さに負けないしっかりとした味ね

ごちそうさま〜!

アドリブ、絡み歓迎



●ゴールデンメルツ
 初春の風はまだ冷たさが色濃く、飴色の扉を潜ったカチュアは店内のあたたかな空気に息を吐いた。戦闘の余韻と外気による緊張が、やわらかくほどけていく。
 立地のためか日取りが良かったのか、店内は空いている。視線で席を探し、カウンターがよいかと定めたところで、落ち着きない様子で狼耳を動かしているラウルの後ろ姿が目に入った。
「お疲れ様。どうしたの、大丈夫?」
「え。あっ」
 声を掛ければ、両耳をぴんと立てて振り返る。そうしてカチュアの姿を見とめると両眼をまあるくしたものの、すぐに「大丈夫」とかぶりを振った。
「カフェには初めて来たから、こんな風になってるんだなあって、内装を眺めてたんだ。それより、あの……」
 先ほどより更に落ち着きなく、ラウルは視線を右へ左へと動かした。それから、きょとんとしているカチュアの顔を見返して。
「あの、廃ビルではありがとう。怪我は大丈夫かな……僕、なんとか応急処置は出来るから。本当に簡単な奴しか出来ないけど……」
 言葉が進むにつれ、声音は徐々に沈んでいく。今度目を丸くするのはカチュアの方だった。そうしてぱちり瞬きをしてから、薄花色の双眸をやわく細めたかと思えばぱっと花の咲くように笑い、ラウルの横合いを通り抜けるようにしながら彼の腕を取って、カウンター席へと歩き始める。
「ヘーキヘーキ、心配してくれてありがと! でもほら、あの時のあたし、格好良かったでしょう?」 
 握り拳を作って自身の健勝さをアピールしつつ、お店の中でいつまでも立っているのも何だからと、カチュアは席に着く。それから自身の隣にあるスツールの座面を軽く叩き、ここへどうぞ、と片目を瞑って見せた。
 展開の早さに混乱していたラウルは、取り敢えず勧められるがままカチュアの隣の席に座る。一度腰を下ろしてみると、店内の穏やかさとカチュアの明るい雰囲気も相俟って、なんだか肩の力が抜けた。スツールの端から垂れた尾が一度ぱたりと揺れる。
「折角カフェに来たんだもの、楽しく食べましょ!」
 朗らかに手渡されたメニューを受け取りながら、うん、と頷いたラウルの顔には屈託のない笑みがあった。

「何を食べようかな。やっぱりまずは王道って話のメープルバターを頼んでみようか……」
「いいんじゃない? あたしはパンケーキ、生クリームたっぷりではちみつと一緒に。飲み物は、コーヒーね」
 砂糖とミルクはいらないわ、とカチュアが店員に告げ、ラウルはお茶もセットでください、と付け足す。
 初めての店での注文というのはなんだかちょっぴりわくわくするものだ。楽しみだなあと呟いたラウルの言葉通り、彼の尻尾はゆるやかに揺れている。
「あら」
 ――と、カチュアが先客に気付いた。今回の事件を予知した――まずこのカフェに行きたがっていた――グリモア猟兵のアンリエットが、既に自身の頼んだパンケーキを口いっぱいに頬張っている。アンリエットもまた二人に気付き、フォークを握っていない方の手をぱたぱたと振った。
「どう? おいしい?」
 尋ねられると口をもごもご動かしながら両手をめいっぱい使ってジェスチャーをする。美味しさを表現しているようだ。たぶん。
 カチュアとラウルは思わず二人揃って噴き出し、ふふ、と小さな笑い声を漏らした。あんなにパンケーキ食べたがってたものね、とカチュアは頷き、食べてていいのよと同様にジェスチャーで表現する。
 そうしているうちに、二人の注文がやってきた。
 重ねられたパンケーキは見るからにふわりと柔らかく、まあるく付いた焼き色と薄い卵色の穏やかなコントラストがあたたかい。焼いて間もない生地からはほんのりとした熱と甘く芳しい香りが立ち昇っている。
 カチュアのパンケーキに載せられた生クリームは接地している箇所がほのかに溶け、淡く白い線を描いて皿の上へ落ちて行こうとしていた。添えられていた小さなピッチャーを取って傾ければ、黄金色の蜂蜜がとろりと垂れ落ち、微かに生地へと染み込んでいく。
 ラウルも彼女に倣い、同様に添えられていたシロップピッチャーをそっと傾ける。零れ落ちるのは蜂蜜よりも色濃い琥珀色。甘やかな香が鼻腔一杯に広がり、パンケーキ生地の上にまるくくりぬかれて置かれているホイップバターに降り掛かる。
「いただきまーす」
「いただきます!」
 ほうと息を吐く間を惜しみ、二人行儀の良い声が重なった。期待のままに入れたフォークとナイフは呑み込まれるかのようにすんなりと生地を切る。かすかな湯気の立つあたたかな生地を口に含めば、柔らかな感触を残してそれは消えていくかのよう。
「ふわーふわふわ……ん~」
 咀嚼したカチュアは思わず「はっぴ~!」と声にも表情にも喜色が満ちる。それはラウルも同様で、初めの少し緊張していた面持ちはとうにどこかへ。今はパンケーキの絹のような触感とメープルシロップの甘味に顔を綻ばせていた。
「すごく美味しいね。びっくりするほど柔らかくて……」
「生クリームとはちみつがくどすぎず、いい感じに合わさってるわ~。はーしあわせ!」
 カチュアの白い頬にもほんのりと朱が灯る。自身の頬に手を当てて一息つきながら、ぽってりとした丸みのあるコーヒーカップへ手を伸ばすと、カップから立ち昇る香もまたこうばしく頬が緩んだ。
「……うんうん。パンケーキの甘さに負けないしっかりとした味ね」
「そういえば……ここってお持ち帰りって出来るのかな?」
 ポットを片手、芳醇な香が広がる紅茶を温められたカップへと注ぎながら、ラウルがふと首を傾いだ。
「ちょっとキマイラフューチャーでお世話になってる人に持って行こうと思って」
「聞いてみましょうか?」
 カチュアが腰にエプロンを巻いた店員を呼び寄せ尋ねてみると、フルーツソースなどではないスタンダードなメニューなら一応は可能ということだった。作り立ての良さを味わうことは難しいけれど、ふかふかの生地は冷めても十分に美味しい。今の内に注文してもらえれば、会計の時に箱詰めしてくれるらしい。
「ありがとう! その人は甘いものが好きだから、甘いのがいいと思うんだけど、何がいいかなー」
「そうね……キャラメル、はりんごだったっけ。じゃあチョコレートはどう? ソースを温めてからかければ、パンケーキ自体もあったかくして食べられるんじゃないかしら」
 二人揃ってメニューを上から下までじっくり眺める。互いにあれやこれと言いながら、パンケーキと飲み物が冷めきってしまわないうちにまたその佳味を味わい、胸をあたため微笑んだ。
 穏やかに過ぎる時間。美味しいものを食べながらメニューを見るちょっとした奇妙も、今はなんだか不思議と楽しい。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カリオン・リヴィエール
いつもは一人でまったりが好きなのですが。今回は、店内を楽しみつつ皆さんとおしゃべりしたいですね。
パンケーキ、本当に色々な種類があって目移りしちゃいますね!まずはスタンダードなメープルバター、次にごはん系に行っちゃいましょうかね。お腹も空いてるし。ベーコンエッグのソーセージ乗せとかできるかな〜


最上・空
糖分補給に美幼女が来店です!

ようやく、パンケーキにありつけますね!
戦闘でかなりの糖分を失いましたので全力補給ですよ!

空はとりあえず、ノーマルなパンケーキを注文し、全ての甘いトッピングを全乗せで理想郷を作り出します! 甘くないトッピングは結構ですよ!

飲み物はブラックコーヒーです! 美幼女にはブラックコーヒーが似合いますからね! あっ、トッピングは「ホイップクリーム&チョコシロップ&ハチミツ&ジャム」をマシマシで注文です!

「糖分が五臓六腑に染み渡りますよ♪」
「パンケーキとトッピングのおかわりをお願いします!」
「食べ過ぎて動けません! どなたか美幼女を助けて下さい!」

※アドリブ&まとめご自由に



●いっぱい食べる君が
 飴色やベージュで統一された店内は緑の差し色で穏やかな雰囲気を作り出している。カリオンもまた、そんな店内を楽しんでいる内の一人だ。
 いつもは一人でゆったりとした時間を好む彼女も、戦いを終えた今回は別。一先ずはメニューを開きながらも、他の猟兵たちとお喋りなどして交流を深めたいと考えていた。
「さあ! 糖分補給ですよ!」
 耳に届いた元気な声を辿れば、そこにあるのは空の姿だ。背伸びをするよういっぱいに両手を伸ばし、店内のあたたかな空気を満喫している。
「ようやく、パンケーキにありつけますね! 戦闘でかなりの糖分を失いましたので全力補給ですよ!」
 ぎゅっと両手を握れば気合は十分、パンケーキに全力で挑みかかる準備は万端な様子。
 幼い少女のやる気満々な仕草を微笑ましく見遣り、カリオンは自身の掛けたテーブル席、その正面の席を示す。
「こちらにどうですか」
「カリオンさんではないですか! はい! この美幼女、喜んでご一緒しますよ!」
 よかったと首肯して、カリオンは一度立ち上がった。空の背丈には少しばかり高い、正面の椅子を先に引くためだ。軽く引いてどうぞと促せば、空はぱちり瞬いてから、元気な声で「ありがとうございます」と満面の笑みを浮かべ椅子に飛び乗る。折角なのでカリオンはそのまま彼女の椅子をテーブルへと向け、距離が遠すぎないことを確認してから自身の椅子へと戻った。
「カリオンさんはとっても優しいのですねえ」
「そうでしょうか」
 正面からそんな風に言われると、なんだかくすぐったい気持ちになる。ひっそりとかんばせに笑みを浮かべながら、カリオンはまたメニューを開き、横向きにしてテーブルの中心へ置いた。
「注文は決めたのですか?」
「いいえ、まだ。本当に色々な種類があって目移りしちゃいますね!」
 首を横に振ったカリオンに空は胸を張り「空は決めていますよ!」と胸を張った。なので、空はメニューが無くても大丈夫ですよ、とも。双眸を細め「ええ」と応じながらも、カリオンは改めて手にしたメニューを、空からも見えるように傾けておく。
 床から少しだけ浮いた足をちょっぴりご機嫌に軽く揺らして、空は通りがかった店員を呼び止めた。もちろん、注文のためだ。
「空はですね、とりあえずノーマルなパンケーキを。そこにすべての全ての甘いトッピングを全乗せで理想郷を作り出します!  甘くないトッピングは結構ですよ!」
 躊躇の無い注文である。店員も思わず一度「全部乗せですね」と確認するほどきっぱりとした注文であった。
 飲み物は、と言いかけた空の方へ、カリオンがメニューの飲み物ページを向ける。
「飲み物はブラックコーヒーです! 美幼女にはブラックコーヒーが似合いますからね! あっ、トッピングは『ホイップクリーム&チョコシロップ&ハチミツ&ジャム』をマシマシでお願いします!」
 それは果たしてブラックコーヒーと言えるのだろうか? という疑問は誰も口にしなかった。美幼女とは何なのか? 味が取っ散らかりすぎてしまうのでは? 甘味にまっしぐらすぎなのでは? というコメントも誰もしない。
 何故なら空が自信満々であったので。きらきらと輝く円らな金の瞳を前にしては、そのような無粋な口を挟むことは出来ないのだった。
「では……ええ、私もまずはスタンダードなメープルバターを」
 カリオンもそのまま注文し、はたとお腹が空いていることに気付く。空がトッピングを山と盛ったのだから、もう一枚くらいお皿を追加してしまっても良いのではないか。ごはん系も行っちゃいましょうか。
「……あと、ベーコンエッグにソーセージを乗せるのは」
 出来ますか、と店員を窺えば、返るのは快い首肯だ。カリオンもまたそれに首肯で返し、ではそれで、と締めた。

 二人の元に届けられたパンケーキは、それぞれが全く違う様相を呈していた。
 空の前に堂々と置かれている皿の上、柔らかなパンケーキ生地がたわみそうなほどにトッピングが載せられている。ホイップバターはデフォルトだが、そこにまずはホイップクリーム、バニラとチョコレートという二種のアイスクリームが鎮座し、添えられているのはバナナ。その上からはホットチョコレートソースが掛けられており、クリームの類はゆったりと溶け始めていた。そして並べられたシロップピッチャーの中身はそれぞれが、蜂蜜、メープルシロップ、キャラメルソース、と錚々たる面々である。
 これを運んできた店員は、お好きなところにお好きなものをお掛けくださいね、と微笑んで去って行ったので、空はそれに倣い、さっそく蜂蜜を目一杯かけた。そして殆ど抵抗のない生地にナイフを入れ、まずは一口。
 ――言葉にならない幸福感に、空は満面喜色、屈託のない笑みを浮かべた。
「糖分が五臓六腑に染み渡りますよ♪」
 次はいそいそとメープルシロップのピッチャーを手にする彼女を少しだけ眺め、カリオンもまた自身のパンケーキに取り掛かる。
 カリオンが注文したスタンダードなパンケーキは、やはり薄い卵色の生地に付けられた焼き色がまあるく、甘やかな香りが食欲をそそる。隅のとろけたホイップバターの染み込んだ箇所だけがじんわりと色濃く、香りもまた芳しい。空と同じようにメープルシロップを、けれど彼女は適量とろりと掛けて一口分を切り取ると、口に入れた生地はふわり溶けるよう、ため息が漏れた。
「確かにこれは、とっても美味しい」
 あたたかいうちにもう片方も、とベーコンエッグが載せられソーセージの添えられた皿の方へと向き直る。端がカリカリになったベーコンと、その上に半熟の卵、ソーセージからはハーブの良い匂いが湯気と共に立ち昇っている。
 ナイフを入れると、半熟の黄身はぷっつりと薄い皮が破れて濃黄色がとろけて溢れた。ベーコンからは僅かな肉汁と、そしてパンケーキに届いた手応え。焼き色が美しいのは先ほどと同じだが、少しだけ抵抗があったように思われる。切り口を見てみれば、どうやらこちらの生地は食事という目的に合わせ全粒粉を使っているらしい。
 成る程と首肯しながら、切り分けたパンケーキの上にベーコン、卵をきちんと載せて口へと運ぶ。パンケーキ生地はきちんと柔らかく、ベーコンのやや強い塩味とそれを緩和する卵のまろやかさが見事だ。こちらもやはり美味しい、とカリオンの口角も自然に持ち上がった。
 じっくりと味わうカリオンの正面、全力で糖分補給に取り組んでいた空はといえば――。
「パンケーキとトッピングのおかわりをお願いします!」
 全乗せをもう一度とばかり、コーヒーカップを片手きらきら輝く双眸で、再度甘味の理想郷を求めていた。

●好きなんだけど限度があるよね
「食べ過ぎて動けません! どなたか美幼女を助けて下さい!」
「糖分補給は上手くいきました?」
「いきました! とっても! お腹がいっぱいで大満足です! 動けないくらい!!」
 二皿をきっちり食べきったカリオンは、テーブルに突っ伏すこともできず椅子の背もたれにのけぞるように呻く空を見、悪いとは思いながらも笑いを堪えぬわけにはいかなかった。
「少し休ませてもらいましょう。楽になってから、お店を出れば大丈夫」
 彼女を背負うことも考えたけれども。
 ――この賑やかなのに穏やかな時間をすぐに手放してしまうのは、なんだか惜しい気がしたから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

絡繰・ビリー
よし、おやつの時間なう!ご褒美だ!
完全プライベートモードなので、動画も気にせず楽しむよ!

とりあえず紅茶!ミルクと砂糖下さい。葉っぱはよく分からないや
なににしようか、予算は大丈夫だけど迷うな
まずはスタンダード、メープルバターに生クリームとアイスのトッピングで。食べ終わったら、メニューに沿って各パンケーキを順番に、一皿ずつ食べよう!
んー美味しい!このために生きてるって気がするー!
美味!贅沢!満足!
また来よう、そうしよう。ご馳走さまでした

アドリブ歓迎


ケイ・エルビス
なんとか敵をみんなで
倒したものの
生傷だらけだぜ

応急処置は手慣れてる

絆創膏や湿布に包帯を
巻いた顔や身体が
間抜けで決まらねえし
あちこち痛えが
今回も皆
無事に生還できて
良かったよ

勝利のティータイムと
いこうじゃねえか

アイスティーと
シロップとバターたっぷりなパンケーキを頼んで
チルタイムだ

連携した仲間の中に
相手がいないヤツがいりゃ一緒に
健闘を称えたり談笑

「あんたのおかげでさっきは助かったよ。
いい腕してるな!」

みんなに連れがいれば
奥の席で一人まったりして

「・・おっ、イケるじゃん。今度はあいつを呼んで寛ぐか」

相棒の女のことを
考えるぜ



●スイート・ワンダー・チルタイム
 ケイは店へと足を踏み入れるより先に、自身の応急処置をした。オブリビオンというのは今のところ常に猟兵たちより強いと言ってもいい。なんとか皆で倒すことができたものの、生傷だらけになってしまったから。
 処置自体は手慣れたもので、大した時間も掛からない。そこら中がまだ痛む上、絆創膏だの湿布だの包帯だのを巻いた姿は決まらないしなんだか間抜けに思えてやれやれだったが、全員無事に生還できたようで何よりだ、と彼は思う。
 だからこそ、勝利のティータイムといこうじゃねえか、と。
 飴色の扉を潜ると、店内には既に廃ビルで見た顔がちらほらと座っていた。無事で楽しそうな様子を数えながら、ケイもまた席に着く。その拍子に処置したばかりの傷が少しばかり傷んで、眉間に皺が寄ったけれども。
 ふうと息吐き片手で拾い上げたメニューを眺め、注文までに掛かる時間はごく僅かだった。店員を呼び止め、注文の内容を告げる。
「アイスティーと……シロップとバターたっぷりのパンケーキを頼むよ」
 よろしくな、と次げば店員は笑みで応じた。少々お待ちくださいという言葉にケイは首肯で返し、慎重に身体の力を抜く。――折角のチルタイムだ、痛みくらいに邪魔されちゃ堪らない。
 視線を動かせばふと、既にパンケーキが四分の一になっている皿が見える。ビリーだ。
 彼は戦闘中とはまた違った雰囲気の笑みを浮かべながら、パンケーキ上のメープルバターと生クリーム、アイスクリームを慎重に配分したのか、それぞれを均等に生地の上に載せて口へ運んでいた。
「よう、ビリー。美味いか? ……ってのは聞くまでもねえな、その横顔見ただけでわかるぜ。いかにも幸せそうな顔だ」
「やあケイ、君か! まさしく、これはご褒美に相応しい味だよ。まず口の中で溶けるようなパンケーキの生地は言わずもがな。メープルバターが濃厚なのに、いや、だからこそかな、生クリームとアイスの甘みとも喧嘩しないんだ。私の舌もご満悦!」
 完全プライベートモードのビリーは大層ご機嫌に饒舌で、ケイは「聞いただけで腹が減るな」と笑った。
 ふふ、と同じように笑い返しながら、ビリーはポットの紅茶をカップへ注ぎ、ソーサーに添えられていた角砂糖と、小さなピッチャーからミルクを入れる。よくわからなかったので店員に任せた紅茶の葉は、芳醇な香りよりもなお力強くこっくりとした味が良い。
「たっぷり期待しても大丈夫だと思うよ。それを裏切らない味さ――ところでケイ、もしかして、思っていたより傷だらけじゃない?」
 大丈夫? と首を傾いだビリーに、まあなと返す今度の笑みは些か苦いものになった。
「敵の攻撃を見極める為に全部受けたからな……役には立ったが、まあこの通り。だがこの程度、大したことねえよ。安いもんだろ?」
 ケイが片目を瞑って見せたところで、彼の分のパンケーキが運ばれてきた。テーブルに置かれた皿の上、ほのかに立ち昇る湯気の香りがまず甘く、そのあたたかさだけで戦闘後の空腹が強く思い出される。薄卵色の生地に付けられた焼き色、その上に載せられた淡いオフホワイトに似たホイップバターと、添えられたメープルシロップの琥珀色。色の組み合わせだけでも見事に柔らかく、触れるより先にその生地の細やかさが見て取れた。
「成る程……こいつは確かに美味そうだ」
 万が一ぐうと腹が鳴ってはいよいよ格好が付くまい。それより先にテーブルの方へと身体を向き直し、シロップピッチャーを片手に。とろり零れ落ちる甘い香りの琥珀色こそが、パンケーキを完璧なものにしてくれる。ナイフとフォークに持ち直し、触れればするりとほどけるよう、生地を切ることができた。
 そうして、まずは生地ばかりを一口。薄っすらとした甘みの主張は控えめで、何より確かに、とろけて消えるような口当たりが堪らない。すぐに次の一口が欲しくなるように出来ている、と感心し、ケイはもう一口、今度はシロップの掛かった箇所にホイップバターを塗り付けて口へと運ぶ。今度は舌に触れたメープルのさらりとした甘みを、バターの僅かな塩気が引き立てる。思わず漏れたのは、イケるじゃん、という感心しきりの一言だった。
 それから僅か、これを食べさせたい、と思う相手の顔が思い浮かぶ。今度はあいつを呼んで、一緒に寛ぐのもいい、と。
 自身の思案にふっと微かな笑いを漏らし、ケイは改めてその場にいる顔、つまりビリーの方へと視線を向ける。確かにこれは美味い、という同意の言葉を伝えるためだったが。
「……もしかして『次』の注文するのか?」
 そう、ビリーの皿の上は既に空になっており、彼の手にはメニューが広げられていたのである。彼は目を丸くしながら瞬くケイと視線を合わせ、少しの間同じように瞬いていたが、すぐに笑顔になり「そうとも」と歯切れのよい返事をした。
「メニューに沿って各パンケーキを順番に、一皿ずつ食べよう! と思っているよ。仕事終わりでお腹が空いているしね、何よりもここのパンケーキは美味しい! 一口食べる度、このために生きてるー! って気がして!」
 朗らかそのものの表情を向けられては、ケイもまた笑みを浮かべるしかない。というよりは、思わず笑みが湧いてきた。自身の傷に障らぬよう幾らか堪える必要がありはしたが、愉快が伝染したのか、晴れ晴れとしたところがいかにも可笑しかったのか、肩を揺らしながら、ケイは笑う。
「確かに。……確かにな! それにビリー、あんたのおかげでさっきは助かったよ。いい腕してるな! オレたちあれだけ働いたんだ、そりゃあ腹も減るさ!」
「ケイもとっても、ナイスファイトだった! ようし、そうとなれば次は……うん、レモンとリコッタチーズをいこう!」
 ビリーは明るい声で店員を呼び、追加の注文を告げる。ケイは再びその横顔を眺め、愉快な笑いの余韻とともにまた一口、パンケーキを口に運んだ。

「ううん、これはいかにも、美味! 贅沢! 満足!」
「一応言っとくが、全部が無理ならちゃんと『次』に残しておけよ?」
 やわらかな生地の上に切った瑞々しいレモンと生クリームにもよく似たリコッタチーズを行儀よく載せ、ビリーが感嘆の声を上げながら次々パンケーキを口に運んでいくのを、ケイは多分に笑みを含みながら眺めていた。
 果たしてビリーのテーブルに何枚の皿が重なるだろうか。彼がご馳走様と言うまでどれ程掛かるのか――知っているのはおそらく当人だけだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花剣・耀子
パンケーキ。パンケーーーーキ。
……悩むからちょっと待ってください。

メニューを熟読する女子高生。
表情に出辛いけれどテンションはたかい。

甘いパンケーキはもちろん大好きだけれど、しょっぱいのも捨てがたいのよ。
初めて来たお店なのだしスタンダードなパンケーキからと囁く天使と、
折角なので自分では作れないふわふわのやつがいいわと囁く天使と、
苺の季節よ苺!苺!!と囁く天使と、
もう全部盛りで良いじゃないって囁く天使がうるさい。
全部天使よ。だってパンケーキは正義だもの。

悩みに悩んで、メープルバターに生クリームと苺を添えて。
スクランブルエッグとベーコンのパンケーキも。
今日のカロリーは明日考えるわ。

いただきます。



●カロリーの天使が囁く
 耀子はスツールに腰掛け、メニューを開いた。ブック状にされたメニューは、ページごとに分類されたパンケーキが写真とともに紹介されている。フレームに嵌められたレンズの奥、それぞれの写真を見つめる彼女の眸は真剣そのものだ。
 じっくりと一番初めのページから順に、それぞれのパンケーキの名前、写真、添えられた簡素な説明文を目で追っていく。
 ふわふわパンケーキ。イチオシ、ふわふわのスフレパンケーキ。様々なトッピングにも合う、スタンダードな一皿。メープルシロップを蜂蜜に変更してもおいしい! ベリージャムソース。三種のベリーをあわせたジャムソースにホイップクリームを添えて。更にフルーツの追加も!? バナナチョコレート。正に王道の組み合わせ! スライスしたバナナをのせたパンケーキの上からとろーりホットチョコレートソースが甘くとろけます! レモンとリコッタチーズ……。
「……」
 それはもう一言一句逃さないとばかりの熟読であった。常々すずしげな彼女の横顔も、今はどことなく熱を帯びているように見えるのは気の所為ではあるまい。なにせ耀子だってパンケーキが食べたかったのだから。決してパンケーキに釣られてきたわけではないけれども。食べたかったのだから。
 開いたメニューの隅を持つ手に力が入る。だって見てほしい、このメニューの数。どれもこれも魅力的で食欲そそるパンケーキたちの写真。ここから選ばなくっちゃいけないなんて。
「パンケーキ。パンケーーーーキ……」
 これは懊悩の深さの現れである。呻き声ともいう。
 何せ耀子は甘いパンケーキはもちろん大好きだが、しょっぱいものも捨てがたい。一仕事終えてきた後となればますますであろう。
 今彼女の頭の中では、メニューからほとばしるあらゆる誘惑に対して大会議が行われているのだ。――いや、会議というよりは。
(初めて来たお店なのだしスタンダードなパンケーキからでしょう)
(折角なので自分では作れないふわふわのやつがいいわ)
(苺の季節よ苺! 苺!!)
(もう全部盛りで良いじゃない)
 あらゆる誘惑に応え囁く天使たちが飛び回っている、というのが正しいだろう。誘惑に応えるのだから悪魔ではないのか、などと人は考えるかもしれないが、全部天使に決まっている。だってパンケーキは正義だから。正義ならこれは全部天使。簡単なことだ。
 さて、悩みに悩み、天使の囁きを追い払えずスツールの上でぐぐっと背を逸らすなどしてみたり、メニューの写真を色んな角度から眺めてみたりなどしたものの。
「あの。……メープルバターに生クリームと苺のトッピングを。スクランブルエッグとベーコンのパンケーキもお願いします」
 このように常と変わりない表情で、無事に注文の品を店員へと伝えることができた。注文の品を。ふたつ。ふたつの注文の品を。
 ところで花剣耀子は女子高生である。まさしく花の女子高生である。なので無論、耀子も女子高生という生き物の例に漏れず、ちゃんとアレを気にしている。女子高生にとっては日々チェックするような重大なアレだ。
 耀子は一度レンズの奥で瞼を閉じ、静かな息を吐く。
(――今日のカロリーは明日考えるわ)
 パンケーキは正義であり、正義は最後に勝つものである。勝利が約束されているのだから、カロリーにだって勝利して然るべきであろう。きっと。
 鼻腔をくすぐるのは甘やかな香。卵とバターと楓と、その淡いコントラストに微か混じった甘酸っぱい季節の実り。それから芳しくダイレクトに空腹を刺激する、焼きたてのジューシーさ。これを前にして、逆らえる者はない。
 ナイフとフォークを、しなやかな指先で持ち上げた。
「いただきます」

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月22日


挿絵イラスト