アースクライシス2019⑧~恐竜たちのいるところ
●恐竜たちのいるところ
異常なほど高く噴出する間欠泉が、辺りを湿らせた。おかげで至る所から蒸気が上がって暖かく、周りではぬかるみや苔むした岩石が横たわる。
窪みに溜まった温泉や岩陰で休むのは、小型翼竜の群れ。彼らは集団で襲い掛かる性質で、見つかると長いこと追われてしまう。また雑食性と好奇心ゆえに、猟兵がどんな見目でも啄み、食らおうとしてくる。
もちろん翼竜だけでなく、穴ぐらから静かに這って忍び寄る竜もいる。姿勢の低さと岩やぬかるみに紛れる色合いは、気付かず踏んでしまわないよう注意したい。
一帯で湧出しているのは温泉といえど熱く、飛沫を浴びるだけで身が暖まる。噴き出す勢いも相まって、うまく乗れば遥かなる高みへ運んでくれるが、尋常ではない状態ゆえに予想外のところへ飛ばされる可能性もあるだろう。
そして熱と蒸気で霞む景色の向こうに広がるのは、超が付くぐらいに巨大化した植物たちの楽園。変態した植物が生い茂るため見通しも悪く、恐竜の咆哮や足音が響いて止まない。
捕虫袋で、人間どころか大型恐竜まで飲み込むウツボカズラ。
甘い香りでおびき寄せ、通り掛かった生き物を花びらで包み込み消化する食虫花。
そうした植物たちも恐竜と同じく、まだ知らぬ地上の味を今か今かと待ち続けた。
ここには肉食や雑食性の恐竜の他、装甲の固い鎧竜など草食性のものもいる。だが彼らも、自らの身を守るために攻撃してくるだろう。
訪れた者がどう動くにしても、闊歩する恐竜や、生息する植物の邪魔が入る。
そう、猟兵たちが足を踏み入れた大空洞は、危険と浪漫に満ちた世界──恐竜たちのいるところ。
●グリモアベース
「文字通りの冒険が待ち受けている場所です。向かって頂けるでしょうか」
ベルド・ググ(バイオモンスターのミュータントヒーロー・f16823)は、穏やかに本題を告げる。
植物の目覚ましい成長や、度を越えた間欠泉の活動といった、大空洞で発生している不思議な現象は、『鍵の石版』が秘める魔力によってもたらされたもの。
その『鍵の石版』を探し出すのが、今回の目的だ。
「センターオブジアースへの道を開くためにも、回収を急ぎたいのです」
目的を話したところで、それと、とベルドが付け足す。
「恐竜はオブリビオンではありません。しかし野生動物ですから補食します」
住み処や行動圏内に踏み入った生き物に、容赦なく襲ってくる。
そこで力の差を見せつければ、敵わないと気づき恐竜も逃げていく。
もしくはユーベルコードで服従させたり、仲間にしてみると、冒険もスムーズにいくはずだ。
いずれにせよ、地形や生物へ対策をしつつ石版を探す必要がある。
「……どうか、お力をお貸しください」
よろしくお願いしますと頭を下げて、ベルドは転送の準備にとりかかった。
棟方ろか
お世話になっております。棟方ろかです。
このシナリオは、一章の冒険パートのみでございます。
誰かが鍵の石版を発見できれば、そこで終了です。
石版の形状は「十戒の石板」をイメージして頂ければと。
なお、一般的にイメージできる恐竜の類は、だいたい居ます。
●プレイングボーナスについて
このシナリオには、下記の特別な『プレイングボーナス』があります。
「恐竜を無力化する、あるいは恐竜を仲間にする」
また、単に「○○を使う」と書くよりも、その技能やユーベルコード、アイテムをどのように使い、どう動くのかの記載があると成功率は上がるでしょう。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております!
第1章 冒険
『パンゲア大空洞の大冒険』
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POW : 探索の妨害となる恐竜を力づくで排除しつつ、正面から探索する
SPD : 見つからないように移動するなどして恐竜に邪魔させず、周囲の状況を良く確認し、探索を有利に進める
WIZ : 知恵を駆使して恐竜を懐柔あるいは排除し、探索の為の作戦を考案する
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
セルマ・エンフィールド
【SPD】
今までに見てきたヒーローズアースの風景とはまるで違う……1つの世界の中でこれほど環境が変わるものなんですね。
さて、警戒すべきものは……間欠泉、小型翼竜、這って忍び寄る竜、巨大植物、その他こちらを狙う肉食恐竜に縄張りを守る草食恐竜……危険なものばかりですね。
【絶望の福音】の予知じみた『第六感』で植物や間欠泉を避けつつ、特に大型の恐竜に見つからないよう、大型恐竜が通れない、通らないような植物の陰を『目立たない』よう進みます。
小型の恐竜に見つかった場合は【銀の弾丸】を。非殺傷の弾丸を召喚、『スナイパー』の技術で致命にならない箇所を狙って『クイックドロウ』したデリンジャーで撃ち追い払います。
鈴木・志乃
力の差を見せつける、かあ
火も考えたんだけど、間欠泉の近くじゃあ熱になれた個体も多いと思う、から……
UC発動、トランプで色々切断して見せましょうか
切ったあれこれは念動力で宙に浮かばせ、ぶんぶん振り回す。ここら辺はパフォーマンスの要領でやれそうだな
切断すれば多少は視界も拓けるでしょう、後は第六感を頼りに進むのみ
他とは違う箇所がないか確認しながら、少しずつ道を行くよ
オーラ防御常時発動
いざって時は全力魔法の衝撃波で諸々弾き返します
正直、恐竜怖いんだよね私
無事に終わると良いんだけど
目印もつけて迷わないようにしよう
光の鎖でも巻き付けておこうかな
同じ世界でこれほど環境に変化が出るものなのかと、いかなる世界の空をも映す青の双眸が揺らめく。大空洞に青はなく、けれどセルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)が宿す光に迷いはない。時代をも越えた景色の中、セルマは危険ひとつひとつへ思考を寄せていく。
熱湯が噴き出す間欠泉。辺りで休む翼竜の群れや、這い寄る竜。ごつごつした岩肌と湯気の地帯を抜けても、待つのは過度な巨大さを誇る植物たちの園。
──危険なものばかりですね。
支配を常として育ったセルマの故郷でも、死や危険と隣り合わせの日々が続いていた。
そして猟兵となった今は、危うき過去との対峙が絶えない。
──いつの世も、どの場所も、変わりないものなのですね。
漂う熱気に震える睫毛をまばたきで諭し、セルマはぬめる岩肌をゆく。噴出した蒸気と湯が湿らせた大地は、形状や苔の影響で滑りやすい。遥かな高みまで昇る温泉だけが脅威ではないのだと気づきながら、少し先の未来を福音から得て黙々と進んだ。
そんなセルマより少し先。
鈴木・志乃(ブラック・f12101)が、うーんと唸りながら、身を寄せ合う植物たちを前に佇んでいた。辺りを見渡せば、一面に伸びた巨大植物は志乃の知る木々よりも遥かに高く、おかげで地表は影で覆い尽くされている。古代の息吹を感じるにしても、大きすぎた。
どうしよう、と志乃は天を仰ぐ。仰いだものの、やはり葉や蕾などが邪魔をして視界が良いとは言えない。
それならばと志乃が手にしたのは、魔法のトランプ。篭めた意思に沿って、あるものすべてを切り裂く、志乃の得物だ。
「切断しておきましょうか。後続の方々も動きやすいですしね」
そうして先ゆく志乃から僅かばかりあと、セルマが同じ地点に足を踏み入れた。
セルマはやや伏せた眼差しで足元を捉え、蔓延る食虫植物の動きに神経を研ぎ澄ます。
仰げば頭上高くまで伸びた植物たちが、セルマを見下ろしていた──少しばかり刻まれた痕跡がある。おかげで全く手が入っていない状態よりも、先が見通しやすい。それでも植物たちから降るのは、いつ喰らおう、いつ飲み込もうと、機を窺うような威圧。だが、セルマが臆することは決してない。
葉を傘に、茎の狭間を目隠しにして歩む彼女の姿は、一見すると原始の森に迷い込んだ少女のようだ。しかし未開の地を拓いて突き進むセルマの後ろ姿に、戸惑いも躊躇もない。ただ成すべきを成すべく、歩むのみ。
だがセルマはそこで数歩先の景色を視認し、地を蹴った。
草葉の隙間、恐竜の影と気配が肌に刺さるのを感じながら、志乃はトランプを放つ。
──力の差を見せつける、かあ。
野生動物を追い払うといえば、思いつくのは炎だ。しかしここは、熱湯を撒く間欠泉からそう遠くない。きっと恐竜たちは熱に耐性があるだろうと、志乃は考えた。
自生する草花を絹のように引き裂きながら、トランプが宙を舞う。
切断した茎も葉も、志乃が念動力で宙に浮かせる。楽しげに泳がせて、志乃の周りを囲うように遊ばせる光景を、恐竜たちにも見せつけた。
すると恐竜たちは、様子を窺いながら志乃を囲み始める。腹を空かせたかれらにとって、食事にありつくための待機も慣れたものだ。
退路を塞がれるのでは。そう志乃が感じかけた瞬間、銀が駆ける。
振り向いた志乃が目にしたのは、セルマだ。恐竜の群れへと銀の弾が飛ぶ。セルマが短身の銃へ装填した銀の弾丸は、殺傷のためではなく、追い払うためだけに恐竜を撃つ。
「……やってみせましょう」
その呟きの通りに、道を切り開く。
すかさず志乃が、纏ったオーラで恐竜の爪をいなし、跳ねる。ふう、と一息吐きながら、眼光鋭く自身をねめつける群れへ、魔法のトランプを踊らせる。銀の弾とトランプの切り裂きが続けば、恐竜たちも根負けして一匹また一匹と離れていく。
志乃はそこで、遠距離から照準を定めたままのセルマへ首肯を送った。もう大丈夫だ。
──正直、恐竜怖いんだよね、私。
まだ受難は続きそうだが、それでも志乃は進み出す。彼女の無事を確かめたセルマも、別の方角へ姿を消した。
志乃は帰途を迷わぬように、光の鎖を太い茎へ括りつける。
後から続く猟兵たちにとっても、その光は目印となった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ヨナルデ・パズトーリ
恐竜のう
ま、夫の名が翼竜に使われた程度じゃが多少の縁はある故、傷つけん様にせんとの
『野生の勘』も活かし石板を探索
恐竜対策に『迷彩』で『目立たない』様にし『暗殺』の要領で『存在感』を
消して『忍び足』で移動
周囲をしっかり観察しつつ恐竜の気配を『野生の勘』と『第六感』を総動員して周囲の警戒も怠らない
遭遇した恐竜は遮蔽物の多い『地形を利用』してやり過ごす
どうしても補足されたらUCを『高速詠唱』で発動
『動物使い』の知識も動員し追ってくる恐竜の動き等も『見切り』翼竜に見つからない様に地上スレスレを『空中戦』の要領で高速飛行で飛びぶっちぎる
どうしても追いすがるなら『怪力』で巨大な岩を持ちあげ投擲
実力差を示す
シスカ・ブラックウィドー
ホンモノの恐竜だ!かっこいい!あのティラノサウルス連れて帰りたい!グリモアベースに連れて帰ったら怒られるかな……。
よし、あの恐竜とお友達になろう大作戦開始だ!
ぬいぐるみ劇団のミュージカルを見せて恐竜達を魅了しよう。ボクのミュージカル、恐竜達に響け!キャストのぬいぐるみは今回は恐竜メインにしよう。演目は原始人と氷河期を生き残った恐竜が触れ合うハートフルなお話で。
仲良くしてくれたらもっと劇を見せてあげるよ。ボクとお友達になってくれるかい?
恐竜を仲間にできたら背中に載せてもらって危険から守ってもらいながら探索を開始するよ。
ヒーローズアースでもなかなかお目にかかれない原始の風景。
日常から離れ遠くまで来たことを実感しながらも、シスカ・ブラックウィドー(魔貌の人形遣い・f13611)の胸も足取りも弾んで止まない。
「ホンモノの恐竜だ! かっこいい!」
右へ左へ忙しなく顔を動かして、恐竜の咆哮や歩みに鳴動する大地と空気を、たっぷりと味わう。吸い込めば湿った空気が鼻をくすぐり、ぞくりと背を伝うのは興奮だ。そわそわする気持ちも身体も抑えられず、踊るように巨大な枝葉へ登る。全身を包み込んでしまいそうな葉を蹴って飛び移れば、朝露がシスカの足取りを彩った。
賑やかに跳ねたシスカの近くを、そろりと足を忍ばせてヨナルデ・パズトーリ(テスカトリポカにしてケツァルペトラトル・f16451)が進む。
いろいろな植物が入り乱れた一帯は、いわば原始の森。広大な森をゆけば、ヨナルデにはかれらの音が届く。
──かたちは異なれど、過ぎってしまうの。
自身が伝えられた嘗ての原風景。今となっては遠く感じるが、色彩に溢れたこの大空洞も近しいにおいがする。それにしては奇妙な魔力のにおいも混じっているため、過去の趣そのままではない場所と知れた。
直後シスカの瞳が輝く。遠くに映るのは、正しく。
──ティラノサウルス! あれもぬいぐるみじゃないんだよね。
動作の生々しさが、本物だと物語っているものの。シスカが見てきたヒーローズアースやUDCアースでは、恐竜の皮膚や動きを見事に再現した人形も見受けられた。そんな展示物を知っているおかげで、遠目には真贋の見分けがつきにくい。だが不定の動きと匂いが、確かに生き物だと知らしめる。
──グリモアベースに連れて帰ったら、怒られるかな……。
大恐竜博覧会inグリモアベース。『ホンモノが、君を待つ』がキャッチコピー。
シスカの脳裏を過ぎた光景は、ちょっと魅力的だった。
そうして心踊るシスカがいる一方で、働いた勘がヨナルデに報せる。
「これは……」
呟きに予感が混じった。
遮蔽物は彼女を隠したが、異物の気配を恐竜たちは本能で感知する。だが小柄な分、巨大な生物の目を誤魔化しやすく、陰をゆく分には不都合もなかった。
ヨナルデはしかし、ハンターたる恐竜の群れに自分たちが囲まれていると察した。この辺りにいる、とかれらの嗅覚が感じ取っているのだろうか。
迫る気配の中、ヨナルデの詠唱は呼気と同じリズムで紡がれた。瞬く間に幼き少女の姿は、勇ましい翼と鱗で包まれた飛行形態へと移行する。まるで原始の森を支配する存在のごとく、威厳の残滓を象る影が地表に映った。
──さあ、翔けようぞ。
誰に言うたか。己が纏う力にか。
ヨナルデは天を仰ぎ、均されていない地面に触れるか否かのところを、滑るように飛ぶ。
追いすがる恐竜へ向けてヨナルデが掲げたのは、巨岩だ。魔力の影響を受けていないのか巨大植物よりは小振りだが、それでも恐竜たちの足を戸惑わせる。
──多少の縁はある故、傷つけん様にせんとの。
存分にその大きさを見せつけてから、ヨナルデは岩を投げた。転がった岩を避ける恐竜たちを横目に、ヨナルデはそのまま颯爽と飛び去っていく。
けれど怯まなかった個体もいた。
紫を湛える瞳でそれを目撃したシスカは、よしと頷く。
そして招いたのは、シスカが誇るぬいぐるみ劇団。
役者が揃えばそこは、多くのぬいぐるみたちと自身が立つ華やかな舞台と化す。突然の出来事に、シスカを取り囲んでいた個体だけでなく、ヨナルデを追っていた恐竜の意識も向く。
「さあ、幕があがるよ! とっておきの劇を楽しんでね!」
垂れ下がった蔓の幕が開き、ぬいぐるみの恐竜たちが動き出す。
シスカが過去に成してきた演目は様々だった。喜劇に悲劇、ヒーローショーもお手の物。そんなシスカたちが此度選んだ演目は、氷河期を生き残った恐竜と原始人の触れ合いを描いた、ハートフルストーリー。観劇した相手の知性や理解度の大小を問わずに、劇団の演技が魅了していく。
そして一幕を終えてから、シスカは周辺の恐竜たちへ笑顔を贈った。
「仲良くしてくれたら、もっと劇を見せてあげるよ」
言葉が通じているのか、それとも魅了による効果か、顔を突き合わせた恐竜たちがキィキィと騒ぎ出す。まるで相談しているかのようだ。
「ねえ、ボクとお友達になってくれるかい?」
答えは疾うに定まっていた。
やがてシスカは恐竜の背に乗り、大空洞の世界を駆けていった。
成功
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トリテレイア・ゼロナイン
地の底には御伽噺顔負けの不可思議な世界…
ですがなかなかに過酷な環境
対策は万全にして探索したいものです
●防具改造で不整地踏破力増強の為脚部を改造
湿気の対策も施し上空からの翼竜の襲撃を避ける為密林に突入
石板ならば雨曝しの可能性は低い筈
密林の奥や洞窟にある可能性が高い筈…ですが「魔法」ですからね
当てが外れても「無い」という情報が手に入るので空振りではありませんが
センサーでの熱源や音、振動等の●情報収集や●暗視を駆使し陸上を歩く恐竜の分布を●見切り接触を回避
接触時はUCを足元に撃ち込み歩行困難にさせて逃走
竜退治に来たわけでもなし
それにこのような自然…
私の故郷では望めない素晴らしき物でもあるのですから
果てがある地の底のはずなのに、最果てが見えない。
トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)の眼光が穏やかに大空洞を見渡せば、計り知れない生命の息吹がそこかしこから伝わってきた。餌を求めて鳴く恐竜の声も、様々な声色で大空洞に響いていく。そしてトリテレイアは、石版の魔力で活性化したらしき植物たちを仰いだ。まるで自身が縮小してしまったかのように巨大だ。口元へ近づこうものなら、一瞬でぱくりと飲み込まれてしまうだろう。
──ここは御伽噺顔負けの世界ですね。
不可思議に溢れた景色。トリテレイアの内ではそこへの興味よりも予測が走り、環境に適した機能を持とうと脚部へ手をかける。原始が息吹く世界の過酷さは、トリテレイアの知る記録にもある。
早速トリテレイアは脚部を改造し、踏破力を増強した。不整地はただ進むだけでもエネルギーが要る。慣れない動きが伴うため、石版を捜索するにせよ、恐竜を対処するにせよ、なんらかの影響がで出てしまうのは否めない。だからこそ湿気も含めて対策は万全にし、密林へ足を踏み入れた。
──石板ならば、雨曝しの可能性は低い筈。
魔力だけが込められているわけではないだろうと、トリテレイアは考えた。刻まれた言葉の意味、建てた者や周囲の人々の想い、そうしたすべてが石版を石版たらしめる。
ただひとつ気になる点を挙げるなら、魔法の力がかかっていることだ。
──普通の石版とは、状態も異なるのかもしれません。
しかし先ずは基本からと、洞窟の奥、密集する植物の中心、思い当たる地点をトリテレイアは探っていく。盛土の近くや、穴蔵の内部。袋を有する植物の中も読み取り、万が一にでも飲み込まれていないかを確かめる。
いずれも石版の発見には至らなかったが、「ここには無い」という情報が手に入った。標的の在り処を探すうえで、「ない」場所の情報は重要だ。
直後、巨大な植物の間を緑に輝く目で探る。
熱源や震動、音のデータを集積させ、恐竜の分布図を作り出していたトリテレイアは、行く手に群がる生体反応を察知した。恐竜たちが集団で広く闊歩している。接触は極力避けたいと、トリテレイアは思考を巡らせる。
「では、暫く停止願いましょう」
行動を抑制する薬剤を、恐竜たちの足元へと撃ち込んでいく。餌を追い求める恐竜たちにとって、歩行を困難にされるのは致命的だ。
「魔法の薬ほどではありませんが、応用が効くんですよ。色々と」
そう告げながら群れを躱し、トリテレイアは奥へと向かう。
生き物の気配が薄れたところで、トリテレイアは一度辺りを見渡す。トリテレイアの記憶回路を流れるのは、宇宙の暗さと星の煌めきが艦の中から望める世界。記録されている景色の中では、より情報量が多い光景だ。しかし今、トリテレイアが立つのは水と野のにおいが満ち、露が草葉から滴る大地の底。
──私の故郷では望めない、素晴らしき物でもあるのですから。
熱を冷ますにはちょうど良いと、静けさに身を委ねた。
大成功
🔵🔵🔵
スカル・ソロモン
【】:使用技能
推測だが、不思議な現象がより顕著な所に石版はありそうだね。
ユーベルコードでマンホールの蓋を作り出すとそれに乗って蓋を操作し、空を飛んで植物が一際大きく成長している場所、あるいは最も大きな間欠泉が発生している所を見つけて石版の在処に見当をつけよう。
候補が見つかれば、地上に降り立ち、徒歩で石版を探す。
恐竜に対しては自身の周囲にマンホールの蓋を複数枚展開して奇襲に備えつつ、【恐怖を与える】事で私が格上だと認識させ、大人しくさせて回避しよう。
見通しが悪ければ周囲の植物をマンホールの蓋を飛ばして薙ぎ払い、視界を開こう。
石版が見つかれば壊したり落としたりしないように、抱えあげて帰還するよ。
彼はぬるい岩肌を踏み締め、大地に降り立った。
隠れた眼差しは色を持たず、ただ笑みにも似た髑髏の表情だけを世に映す。スカル・ソロモン(目覚める本能・f04239)の面を熱風が撫でようとも、彼の立ち姿に歪みはない。ごつごつと荒れた岩と穴だらけの広大な地。そこかしこから噴き出す間欠泉だけが、空気の乾きを防いで色濃く染めている。
普段の大空洞であれば、度を越えた高さと勢いで温泉が噴出を繰り返すこともないのだろう。絶え間なく噴き続ける頻度も含め、異常事態が発生しているとスカルは痛感した。だからこそ。
──現象がより顕著な所にありそうだね。
鍵の石版。標的となる物体の在り処を探るべく、スカルは辺りに転がっていた無機物の要素を集わせる。湯気で曇り、湿った大地から沸き立つ蒸気にスカルの姿も覆われていく。その足元で生まれた円盤状の塊──マンホールの蓋が、此度の相棒となった。
ふわりと乗れば、スカルの均衡を崩さぬよう円盤が傾きを変えて緩やかに動き出す。
「行こうか」
言葉は少なくていい。スカルの声を合図に、蓋は熱と湯が降り注ぐ景色をゆく。
目星をつける先は決めていた。ゆえにスカルはまもなく目にする。活発に噴く間欠泉のうち、最も大きなものを。近づいてみれば大地に生まれた穴の周囲に、欠片がばらばらと散っていた。長い年月を経て穴が巨大化したのではない。つい最近食い破られて出来た跡だ。
スカルはすぐさま、浮遊するマンホールの蓋から降りた。ふわりと待機する蓋を後背に、スカルが歩みを寄せて覗く。顔を突き出さずともわかる。真っ暗な穴の奥、轟音が走っていた。右方から左方へ。底から地表へ。方向と高低差を感じさせる地の底の繋がりを思い、スカルはふむと唸る。
──この調子だと、植物の地帯にまで続いていそうだね……ん?
気配を感じたのは一瞬。しかしその一瞬でスカルは飛びのき、つい今し方まで自らが立ってた場所を見やる。どこからともなく飛び込んできたのは翼竜だ。むわりと立ち上る湯気の間からの突撃に、躊躇いはない。
一匹を見つけたら後は早い。咄嗟に浮かべたいくつものマンホールの蓋がスカルを囲み、四方八方から突っ込む群れを防ぐ──かれらの奇襲は失敗したのだ。
「悠々と調べさせてはくれないね」
仮面の奥から伝う声。柔らかい動作でかぶりを振り、スカルは飛ばしたマンホールの蓋で湯も蒸気も掻き消した。浮遊する円盤の速さと回転に恐れをなして、翼竜たちが道をあけはじめる。
「お逝きなさい」
スカルの一言がとどめとなり、ギャアギャアと喚きながら群れが遠ざかっていった。
成功
🔵🔵🔴
鎧坂・灯理
恐竜と植物の楽園か……
進化もせず、そのままの形で残っているのは興味深いな
植生などを調べてみたいところだが、戦争中だからな
しかたない、次の機会にするとしよう
さて
大型恐竜や、それをも飲み込む食肉植物やらが居るとのことだが
さすがに、山に絡みつくほどの大蛇は居ないだろう
来い、【月呑み大蛇】 散歩の時間だ
大蛇の頭の上に乗って石版を探そう
蛇の移動速度は結構なものだし、ただでさえデカいからな
野生動物は基本的に、己より大きいものに近寄らん
それでも向かってくる本能を失った個体が居れば
体で潰すなり尾で打つなりして処理する
食べていいぞ、クチナ
するり、するりと大蛇がゆく。
大空洞がいかに広大であろうと、かの蛇の行く手を遮るには力が足りない。
異常な成長を遂げた植物が、たとえ石版の魔力に感化されていたとしても。大型の恐竜が闊歩する地であったとしても。それらを凌ぐ蛇の散歩は優雅に行われ、そして蛇の頭で越しを下ろした鎧坂・灯理(不死鳥・f14037)の視線は、悠然と大空洞を眺めるだけだ。
──恐竜と植物の楽園か……。そのままの形で残っているとは。
古の時代に築かれた動植物たちの常世が、今なお生きる世界。
灯理にとって興味深い場所だ。だから暁も黄昏も見通す紫の双眸で、その楽園を見はるかす。
姿かたちは灯理がよく知る植物も多く、けれど異様な大きさや肉食の度合いなど、抱く好奇が拭えない。
──戦争中でなければ、植生などを調べてみたいところだ。
疼くものの今の目的はそこに無い。だから灯理は眼下から一度意識を外す。
「さすがに、山に絡み付くほどの大蛇は居なかったな」
自らを乗せた大蛇へそう囁き、灯理は口端で笑みを模る。
月呑み大蛇。それは長き牙と巨体で、灯理が見据えた世を渡る。あまりにも大きいためか、肉食草食を問わず、恐竜たちは蛇と灯理から距離を置いている。一度は刃向かおうとした個体も存在した。だが。
「食べていいぞ、クチナ」
灯理が告げれば大蛇は獲物を狙い済ます。そしてずんずんと近づくにつれ、迫る巨躯を知った個体が慌てて逃げ帰る。おかげで実際に噛み付くものなど居なかった。
しかし巨大植物の絨毯が蠢く地上は、高みからでは暗く沈み、杳として知れない。鍵の石版が空中にでもあればと仰ぐも、噴出する間欠泉ばかりが遠目に映る。
「宙や高所には無さそうだ」
無いという情報を胸に、灯理と大蛇は散策を満喫していった。
成功
🔵🔵🔴
ヨシュカ・グナイゼナウ
(アドリブ諸々歓迎)
恐!竜!だ!
すごい!大きい!格好良い…!(小声)
…ええと石版を探さなければ
【忍び足】で大きな古代植物群の合間を縫い、時には蔦など使い【地形の利用】をして大空洞を進行
!あの小さい恐竜は…映画で見た!ラプトル!(小声)
そっと近づき映画の様に両手を広げて【動物と話す】ように【コミュ力】を駆使しつつ
敵じゃあないです…!あ、【非常食(ひみつ】食べます?
仲良くなれたなら彼らから【情報収集】を試みます
あの、【失せ物探し】をしているのですが。こう、平たくて模様のある石の板知りませんか?
彼らと探索をする前に、一枚写真を一緒に【撮影】
ありがとうございました。さて参りましょう、と【手をつなぐ】
杜鬼・クロウ
アドリブ歓迎
空洞の中に広がる景色と浪漫溢れる世界、恐竜達に目爛々
一番魔力を感じる所に石板があると推測
未開の地への膨らむ期待
自分の手で切り拓くこの感覚、俺好きなンだよなァ
折角だ
楽しむぜ
奥底に眠る宝を探しに
刻むぜ、冒険譚の一頁に俺の名を
石板付近には番人的な強ェヤツが護ってたりしねェ?
そこに辿り着く迄に植物の罠とか恐竜待ち構えてっかな
植物が入り組み見通し悪い所を敢えて剣で切り分け進む
恐竜と遭遇後は【魔除けの菫】使用
極力傷つけず従わせ石板探索の協力者として乞う
恐竜に乗れたら空から外観確認
当たり絞る
間欠泉を一回転して回避
恐竜がいないと入り辛い場所あれば聞く
異常現象が特に発生してる所を重点的に調査
要警戒
七篠・コガネ
おお!なんだかワクワクしてくるですね
僕の世界にこういう
アミューズメントパーク的な宇宙船があったりします
視覚デバイスを【暗視】モードに切り替え
鍵の石板ならそう安易に踏み入れる場所には無いでしょう
内蔵センサーを感度MAXにしてエネルギー波を検知【情報収集】
怪しげなエネルギーをキャッチしたらそちらへ向かってみます
…と、恐竜!ドラゴンは見た事ありますが恐竜は初めてです!
UCで放電しながら【ジャンプ】して首筋に噛み付いてやります
牙と目で威嚇して“ただの恐竜じゃない”と思わせる狙い
僕を食べたら不味い上に電撃で痺れますよ!
分かったなら僕の子分になるですよ
そうすれば不要な戦闘は事前に回避出来るでしょう
グィー・フォーサイス
原始の植物は大きくて小さな僕では歩くのが大変そう
だから、仲間を増やそう
青い小鳥の笛を吹いて動物たちを呼んで話そう
比較的友好的な恐竜を教えて貰えればいいけれど
駄目でもまぁ…情報収集はできるよね
小さな群れとかがいいな
足跡を見つけて追いかけよう(地形の利用/追跡)
まずはお話してみるよ
…だめ?解ってくれない?
僕を食べるのかい?
分からず屋
あまり暴力で解決したくないけど、仕方がない
僕が群れのリーダーになればいいんだ
行くよ、ジェイド!
風の障壁での護りは任せたよ
僕は『配達区分』
僕の切手は追跡機能付きなのさ
行き先不明なんて郵便屋として出しちゃいけないからね
さあ、僕の仲間になって
背中に乗せておくれよ
一緒に探そう
レザリア・アドニス
この世界の地下に、こんな大きい空間があるか…
しかも大きいトカゲがたくさん…え、トカゲじゃないの…?(きょとん)
ここの大トカゲたちはどう見ても危険なので全力で警戒しつつ進む
動きやすい迷彩服とブーツを着用
木々の隙間を潜って進み、足下と上空も常に注意
どうしても必要な時だけ飛んで越える
恐竜の気配があれば咄嗟と隠れて通り過ぎるのを待つ
あるいは、蛇竜を呼び出して別方向へと誘き出す
移動の速度を上げるため、特にでかい個体には、気づかれないようにこっそり乗ってみる
出来るなら、交代に乗って進む
石版を探すには、植物や間欠泉の動きが一番活発な所へ
恐らく、近寄れば近いほど、受ける影響が大きいでしょう
見つけたら即確保
一面に広がる、高い高い草花の群れ。
原始を思わせるかたちや色彩が、猟兵たちをじっと見下ろしていた。
グィー・フォーサイス(風のあしおと・f00789)は背中からひっくり返ってしまいそうなほど、植物たちを仰ぎ見る。
──小さな僕では、歩くのが大変そう。
周りの猟兵たちを見ても、歩調で出遅れやしないかと考えが過ぎる。しかし煩う素振りは微塵もなく、グィーは陶器の鳥笛を取り出した。自生する草木の豊かさは、恐竜だけでなく動物たちにとっても居心地の良い場所だろう。
だからこそ話せる存在がいるはずだと、ぴぃぴぃ甲高く笛を鳴らす。間もなく訪れた青い鳥たちが、珍しい来訪者の頭上を旋回したのち、グィーの手元へ舞い降りる。
──友好を築くなら、小さな群れがいいな。
大きすぎると、ちょっと躊躇する。
恐竜について鳥たちへ尋ねてみると、話が通じやすいのは中型の足が速い一団か、草食を主とする大型恐竜だと教えてくれた。ただ、かれらを喰らおうとする肉食恐竜も多いため、無策で近寄るのは危ないらしい。なるほどと顎を引き、グィーは鳥たちへ礼を伸べる。
一方、文字通りぽかんと風景を眺めるのはレザリア・アドニス(死者の花・f00096)だ。人々の営みで栄えた地上とは、建造物どころか空気も草花もちがう。
「この世界の地下に、こんな大きい空間が……」
生態系の進化を連想させる、恐竜たちの楽園。物語にある風景が具現化したかのようで、レザリアは暫く驚きが隠せない。
きらり、きらりと星が煌めく。ヨシュカ・グナイゼナウ(一つ星・f10678)が広げた、未来を映すその瞳で。
「恐! 竜!」
そして大きく口を開いて、ヨシュカは踏みこんだ大空洞の雰囲気に、感動を模る。まだ姿なき恐竜の巨大さは、映像で頻繁に目にしてきた。迫力に満ちた体躯と、大自然に生きる逞しさ。年頃ゆえかヨシュカは、恐竜という存在に身も心も疼いて仕方がない。
おお、と傍らから感嘆の声があがる。
「なんだかワクワクしてくるですね」
奮起の声音を発して、七篠・コガネ(ひとりぼっちのコガネムシ・f01385)が古より続く美を見渡した。水を含んだ空気が機器に纏わりつく。朝露を乗せた植物たちが、こうべを垂れて歓迎する光景。視覚デバイスを切り替えたところで、コガネはふと記録を思い起こし、そういえばと呻いた。
「僕の世界に、こういうアミューズメントパーク的な宇宙船があったりします」
「恐竜いますかっ?」
何気ない発言に、ヨシュカが身を乗り出す。そばでは、グィーが想像を紡いでいた。
──宇宙船に、娯楽施設。
いつぞやに出向いた宇宙世界。神秘と星の瞬きがめいっぱい広がる果てしない世界に、そうした船が浮かんでいる。なんとも楽しげで、グィーは巡る思考に心を沈めた。
未開の地へ膨らむ期待を胸に、杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)もまた双眸を爛々としていた。大空洞で眠っていた広大な世界は、地表で見た風景とすべてが異なる。ひとの手が入らずに時代を経てきた、太古の息吹が根付く大地。
そこを、自らの手で切り拓いていく感覚。手の平に篭る力も、滾る想いも、クロウの心身を突き動かすものだった。
──好きなンだよなァ。
込み上げてくるのは奮えだ。そして逸る心から歩みも速まる。速度こそ前のめりなのだが、眼前に迫った問題は巨大植物群だ。
「しっかし、こうも見通しが悪ィとな」
立ち塞がる植物へと刃を入れ、クロウが曲がることなく真っ直ぐに道を切り開いていく。
その後ろ、レザリアは探険用の服とブーツをしっかり整えて進む。巨大な植物たちの陰では、根や蔓が自由気ままに伸びている。足を掬われぬよう時折ふわりと飛び、後続の仲間たちへ注意を促す。
ふと、風にふよふよとヒゲを靡かせていたグィーが、湿った地面が抉れているのに気づく。
「足跡だ。恐竜の。しかも、できて間もない」
グィーがよく観察してみると、奥へと伸びる痕跡はまだ柔らかい。距離が近いのだと知らせているようで。
直後。
「……と、恐竜!」
ぴこん、とコガネの身が跳ねた。暗視モードで検知した反応を辿り、足跡のうえを進むと、開けた空間が草葉越しにちらりと見える。
「見つけたか」
コガネの反応に気付いて、浮き立つクロウも近寄る。その後ろでは、恐竜という一言を耳にしたレザリアが咄嗟に隠れていた。湿った茂みから顔だけを出して、彼女は仲間たちを見つめる。
抜き足差し足忍び足。気ままになびく蔦のカーテンをかぶって、ヨシュカもコガネたちのそばへ近づく。皆で顔を揃えて様子を窺うと、今度はヨシュカの髪がぴこんと撥ねる。
「あっ、あの恐竜は……っ」
小さくほっそりした体型。ぱくりとくわえてしまいそうな顎。鋭い鉤爪。
特徴を自らの記憶と比べるため、何度も視線を行き交わせたヨシュカは、身を乗り出す。
「映画で見た! あれは……ラプトル!」
極力声を抑えながらも、興奮は隠しきれていない。
「すごい! 格好良い……!」
無邪気なヨシュカの様子に、恐る恐る後方からレザリアも歩み寄る。
大型恐竜と異なり、小柄な恐竜の群れだ。少なくとも、超がつくほど巨大な恐竜よりかは威圧感も低い。
「大きいトカゲが……たくさん……」
ぽそ、と呟く彼女のそばで、視覚部に群れの姿を焼き付けていたコガネが声を震わす。ぐっと握る拳にも、自然と力がこもった。
「ドラゴンは見た事ありますが、恐竜は初めてです! しかもこれほど近くで!」
「え、トカゲじゃない、のですか……?」
レザリアがきょとりと瞬く。改めて間近で見ても尚、大トカゲという表現がレザリアの中ではしっくりくる。
そうして各々の奮えが治まり切らぬ中、クロウが菫青石のピアスを指先で弾いた。
「古の力を揮え。我が掌中に囚われよ」
紡ぐ言葉が大自然の力を含んで鼓舞する。クロウの潜む巨大な葉から最も近い恐竜を、彼は術で囲う。
──全部、俺のモノだ。
不敵な笑みを浮かべれば、天を仰いで鳴いた恐竜がクロウの元へ寄る。
その間、ヨシュカはそっと間合いを詰めて、恐竜相手に両腕を広げていた。
「敵じゃあないです……!」
驚かさないよう、かける声量も適切に。
そして思い出したように、ごそごそと取り出したのは菓子だ。
「あ、非常食はどうですか? おいしいですよっ」
手の平へ転がした菓子から漂う、ドライフルーツやナッツの香りを嗅ぎ取ったのだろうか。それともヨシュカが向ける笑顔に興味を示したのか。ラプトルたちはそろりそろりと顔を近づけ出す。
ヨシュカが交流を試みた横で、グィーもまた植物の陰から離れて話しかけていた。
「……だめ? 解ってくれない?」
首を傾げるグィーに、クギュルァ、と恐竜がひと鳴き向ける。あまり友好的でない響きだ。
「僕を食べるのかい? 分からず屋だね」
やれやれとかぶりを振り、グィーは万年筆型の杖を手にする。
──あまり暴力で解決したくないけど、仕方がない。
それならばと、くるり万年筆を遊ばせて空へ放る。
「行くよ、ジェイド!」
直後に翔けたのは翡翠色の羽根。はばたいた翡翠が風を生み、ジェイドと呼ばれた精霊はグィーを守るように飛ぶ。風が緑を運び、緑が守護を編む間に、グィーが解き放ったのは切手だ。もちろんただの切手ではない。肉球と王冠が描かれた、オリジナルの切手たち。かれらはグィーの意思に沿い、辺り一帯を包み込む。
──僕の切手は、追跡機能付きだからね。
帽子をかぶり直して、グィーは恐竜たちを眺める。細々した切手が群れを追い、ぺたぺたと貼り付いていく。一度切手を貼ってしまえば、それはもう立派な郵便物だ。
「行き先不明なんて、郵便屋として出しちゃいけないからね」
暴れかけた恐竜たちが落ち着くまで、グィーは静かに見守った。
仲間たちが対処していく様を、コガネは感動を湛えた眼差しで見届ける。手際の良さも使う術も様々で、年頃の見目をした少年には斬新だ。ならば自分もとコガネが発動させたのは、目映い光。
「昔の人は、こう言いました……」
勢いに乗って、髪や目などを輝かせる。
「三寸の舌に五尺の身を亡ぼす!」
からだを大きく見せる動作で、コガネが地を蹴った。ずらりと揃った恐竜を思わせる牙が、放電の余韻が消えぬうちに恐竜へ噛み付く。がぶりと喰らう際に、視線で威嚇し、尋常ではない数の牙と鋭さを見せつける。それはまるで、原始が今なお生きるこの世界には存在しない恐竜。
「僕を食べたら、不味い上に電撃で痺れますよ!」
わかりましたか、と言い聞かせるためコガネが叫ぶ。新種の恐竜はかれらにとって脅威らしく、グルル、とやり場のない鳴き声がくぐもって零れていく。畳みかけるようにコガネは胸部を張って告げる。
「分かったなら、僕の子分になるですよ」
えへん、と音がしそうなほど得意げな色を、コガネは帯びた。
次々と恐竜を手なずけ、あるいは服従させていく脇で、餌付けを試みていたヨシュカが恐竜たちの輪に入り、口を開いていた。
「あの、探し物があって……知っていたら教えてほしいです」
顔を突き合わせたラプトルたちへと、めいっぱい手足を動かしてヨシュカが説明する。
「こう、たぶんこれぐらいの大きさで、平たくて、模様のある……」
ラプトルたちは、首を傾げる仕種をしてみせた。かれらの疑問に答えるように、ヨシュカは平たく告げる。
「石の板です!」
とたんに、クルルゥ、と喉を鳴らしてラプトルたちがざわつく。何かを話し合っているような雰囲気だ。
知っている素振りを示したかれらに、ヨシュカが嬉々として仲間たちへと振り返る。
「ご存知みたいですっ」
期待が満ちる声色で報告したヨシュカに、レザリアも太い茎から顔を出して頷く。
「よかった……乗れたら、移動速度も上がりますね……」
小型とはいえ、明らかに速そうな見た目だ。怯えさせないようゆっくりと背に手をかければ、恐竜がくすぐったそうに身を揺らす。
あっち、あっちと顎で示すラプトルたちを頼りに、意気込んだクロウが口角をあげる。
「石板付近に、番人的な強ェヤツが護ってたりしねェ?」
しねェかなァ、とこぼす言葉も、青浅葱の瞳も楽しげだ。
なにせ探すのは石版。奥底に眠る宝の在り処へ向かうかのようで。
「一番魔力を感じる所にありそうだよなァ」
考えれば考えるほど、高ぶるのを抑えきれない。
──刻むぜ。冒険譚の一頁に、俺の名を。
クロウは恐竜を愛騎にして、一足先に駆け出した。
ふとレザリアも視線を流す。石版の魔力が影響しているのか、奥では更に大きく育った植物の一帯がある。
「近寄れば近いほど、受ける影響も大きいでしょうね……」
魔力を素とするなら尚更。
そう告げたレザリアの横を過ぎ、すっかり恐竜を随順させたコガネが肯う。
「はい。この先から強力なエネルギーを感じます。きっとすぐ見つかりますよ!」
そこで、仲良くなった群れとの記念撮影を終えたヨシュカが、ぺこりとラプトルたちへ頭を下げる。満悦そうに上がった頬が、ヨシュカの心境を物語った。
「さて、探索に参りましょう」
両手にラプトル、乗るのではなく手を繋いで、ヨシュカが鼻歌交じりに仲良く歩き出す。彼の歌に合わせて、恐竜たちもキャウキャウと声を踊らせた。
彼らに続こうと、グィーも切手つきの恐竜へ好意を差し伸べる。
「さあ、僕の仲間になって、乗せておくれよ」
一緒に探そうと薄く笑めば、グィーの誘いを受け入れた恐竜が静かに身を低くする。好意にあふれた背へ羽根のような身のこなしで着地し、グィーも仲間を追った。
やがて、ラプトルたちから教わった方角、停まることなく探っていたクロウの声が、仲間たちのもとへ届く。
あったぜ、と声を張って手招くクロウのところへ集まれば、そこには──濃い魔の力を放つ平たい石版が、植物を傘にでひっそり横たわっていた。
大成功
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