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旅籠『蜃気楼』

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 東海道を品川から西へ三日ほど進んだ宿場町に、とある旅籠がある。
 名で一瞬訝しむ者もいるだろうが、その名を『蜃気楼』。構えはなるほど立派なものの、敷地内の離れでは岡場所まがいのいかがわしいなりわいが行われている。もっともそちらは知る人ぞ知るといったあたりで、珍しいおもむきの屋号に首を傾げつつ何も知らずに暖簾をくぐるような客にはごくあたりまえの、やや豪奢な内装の旅籠、というだけ。
 多くの人が行き交う宿場町だけに、誰も旅籠に入っていく人数とそこから出て行く人数の違いなど気にもとめやしない。
 まして入り口がひとつでないのならば尚更だ。
「お客さあん、どうですか、お風呂もちょうどいい湯加減ですよお」
 糊がきいた黄八丈に屋号が染めぬかれた前掛けをしめ、いかにも健全な旅籠といった体で呼び込みをかける奉公人の若い女。何かの用事を足してきた下男らしき中年男も、風体はしっかりとしており挨拶を欠かさない。
「ようこそいらっしゃいませ。長旅お疲れでしょう、すぐに盥を」
 きびきびと立ち働く女将も洒落た色の江戸小紋。あうんの呼吸で番頭が宿帳と筆を客に差し出し、その間に下女が熱すぎもぬるすぎもしない、ちょうどよい温度の湯を張った盥を客の足元へ据える。
 しかし鼻のよいものはそこで気付くのかもしれない。
 品良く漂う香の中へまじる、とろりとした甘い腐臭に。

●旅籠『蜃気楼』
 今回は東海道の旅なんてどうかしら、と呟いた水衛・巽(鬼祓・f01428)がやや含みのある笑い方をする。
「色々と取り締まりが厳しい江戸をはなれた宿場町……って考えると、いかにもな話ではあるんだけど」
 くるりとグリモアを回転させると、巽の背後に賑やかな宿場町の一角が現れた。見る限りは普通の、立派な老舗旅籠である。
「おおむね品川宿から東海道を三日、東海道五十三次には存在していない宿場よ。伊豆と駿河寄りにある小藩、愛鷹藩の藤宿という所にある旅籠『蜃気楼』。どうもこの旅籠、主人に気に入られた旅人が神隠しに遭うって噂が立っているようで。そこを調査してほしい」
 当然、ただの失踪だったり夜逃げでないなら神隠しなんてあるはずもない。人が理由もなく消えるということは、オブリビオンがどこかで関与しているという意味だ。
 情報収集を行う方法については、旅人として宿泊してみるという方法でもよいし、周辺で聞き込みをかけてもいい。あるいはこっそり忍び込む、ということもできるだろう。
「内部構造についてはこれが見取り図だから、参考にして。ただし蜃気楼建築当時の絵図面でしかないから、部屋が足されていたり戸がなくなっていたりする事はあるかもしれない。その時は各自で更新するなりして対応してね」


佐伯都
 こんにちは、佐伯都です。暖冬とか言われていた長期予報はどこへ。
 それではさくっと以下補足とおさらいをどうぞ。

●プレイング受付について
 1/13の東京オフ出席にともない、1/15までの間はリプレイをお返しするのが難しいです。ゆっくりプレイングを練ってご参加いただければ幸いです。

●旅籠『蜃気廊』周辺および内部、情報収集について
 建物は母屋と離れ、蔵が一つありますがそのほかすべてOP通りです。
 巽から絵図面を渡されているので、まずまず迷うことはありません(構造が変わっている可能性はありますが、渡された図面から無理なく推測して戻れる範囲)。探索系や話術・情報収集系の技能やユーベルコードをうまく使えば、能力値が低くとも良い結果が期待できる場合があります。

●戦闘および章移行に関して
 戦闘が発生する章では、敵オブリビオンのユーベルコード一覧や外見が参照できます。
 章移行時は一度状況説明をはさみますので、そちらをご確認のうえプレイングをかけていただくのがおすすめです(移行後、状況説明が出るまでタイムラグがある場合があります)。

 成功条件は『第3章ボス』の撃破。

 それでは皆様の熱いプレイング、お待ちしております。
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第1章 冒険 『怪しい旅籠』

POW   :    旅人として宿泊

SPD   :    コッソリと旅籠に侵入

WIZ   :    旅籠に出入りする人間に聞き込み

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


陽が西に傾きかける頃、宿場町の賑わいは最高潮を迎える。行き交う旅人と客寄せの威勢のいい声がせわしなくいりまじる時間だ。
 愛鷹藩は藤宿、格子窓をあければ富士のお山が松の梢をかすめて見える。そんな宿場町の一角に『蜃気楼』の屋号はあった。
 一見する範囲ではどこもおかしな所はない。離れをもつだけあって敷地は広そうだ、という程度だ。表通りからつづく小路の先にあるものの、静かな雰囲気は旅慣れたものや老人には大いに好まれそうであるし、なにより少々贅沢な滞在を楽しみたいものには心惹かれる立地と門構えである。
 さて、見るかぎりでおかしな所はない。どう攻略したものか――。
ベガ・メッザノッテ
主人が気に入った旅人サンたちに共通点とかあれバ、何か手が打てるかもしれないネ。とりあえず旅籠に入らないことには何も始まらないよネ!

【SPD】
離れとか蔵が怪しい気がするノ。長居は良くないと思うシ、【暗視】&『リザレクト・オブリビオン』の死霊蛇竜に乗ってちゃっちゃと何か手がかりとかないか探すワ〜!

探索後は母屋へ。お客サンもいらっしゃると思うから蛇竜は消すヨ。客の共通点を探しつつ、先程得た物に関する場所を隈なく調べテ、さらに手がかりが手に入れば他の猟兵サンたちと情報共有するワ。

主人のニコニコの笑顔の裏にハ、何が隠されているのかナー?

●口調プレイングに合わせて下さい。改変アドリブ連携、歓迎です。


黒蛇・宵蔭
狐に化かされたような……話ですね。
待つのは桃源郷か、美女か。
ともあれ、駄賃代わりにとって喰われるとなれば、ぼったくりが過ぎると思いますけどね。

私は『コッソリと旅籠に侵入』します。
目立たず、忍び足と技能を使用し裏を目指してみます。
侵入できたら地図を参考に、声が聞こえれば聞き耳で情報収集できないか試しつつ。
本命は母屋か、離れなんですが、私が目指のすは蔵。
ここに何か隠されていないか、調査します。
ただし無理に押し入らず、様子を窺い、基本的には情報を持って撤収します。
空振りになっても、可能性がひとつ潰せたということで。



「狐に化かされたような……話ですね」
 老舗の風格を漂わせる門構えを小路のなかばからちらりと見やり、黒蛇・宵蔭(聖釘・f02394)は低く呟く。待つのは桃源郷か、それとも美女か。あるいはそれらを装った蟻地獄か、もしくはそもそもが虚構の上に打ち立てられた砂上の楼閣か。
 とは言え駄賃代わりに取って食われるならぼったくりも良い所なので、命あっての物種とはよく言ったものだと宵蔭は興味なさそうな表情を装い、きれいに掃かれ水も打たれた小路を途中で逸れた。
 初めて訪れる街でも宵蔭は地形をうすぼんやり把握できるので、勘に従って右へ左へ、細かく折れながら旅籠の裏手を目指す。何も正面きって旅籠に潜入するばかりが手段ではないのだから。
 一方、ベガ・メッザノッテ(残夢紅華・f00439)もまた正攻法ではなく侵入を狙っていた所だった。まずはこの旅籠に入らなければ何も始まらない。
「やっぱりここは蔵とか離れが怪しい気がするノ」
 まだ夕暮れという時間帯なので夜目はさほど必要とも思えないが、蔵や離れの陰に何かあれば気付きやすいだろうと踏んでいる。もっとも、ベガがちゃっちゃと手早く見回った程度で簡単に手掛かりが転がっているはずもないし、そもそもそんなにわかりやすければ潜入の必要だってないだろう。
「『蔵には簡単に入れなさそうだ』という情報も、それはそれで情報としては有益かと」
「厳重に仕舞い込まれている何かガ、事件に関与しているかどうかはわからないけどネ」
 それは単に店の金品というだけかもしれないし、そもそも鍵のかかっていない蔵など何の意味もないので当たり前と言えば当たり前だ。しかし何も分からないという事と、蔵に簡単に入れない事を確認したという事は、一見同じようでいて決定的に違っている。
「本命はむしろ母屋か離れだったんですが……今は無理に押し入らず、様子を伺ったり聞き耳で情報収集できないものか試すにとどめましたが、夜までの間では特に、何も」
 日が暮れて周囲が暗くなるまで宵蔭は粘ってみたものの、蔵から物音らしきものは聞こえず人が来る気配もなかった。そのことを、同じく潜入捜査に参加している他の猟兵と共有するべくベガに託し、宵蔭は再度暗闇の中へ消えていく。
「さテ……女将のニコニコの笑顔の裏にハ、何が隠されているのかナー?」
 しれっと宿泊客のふりをして紛れ込んだ母屋の片隅、宵蔭の背中を縁側で見送ったベガは肩越しに母屋を振り返った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

オル・クブナス
ふむ、これがエンパイアのハタゴというものでございますか、知識としてはありますが実際に目にしてみると格別でございますねえ。では『旅人として宿泊』し、事が起きるまで大人しくするとしますかな。
木を隠すには森の中といいますように私は客に紛れる事にいたしましょう。

潜入の基本は【目立たない】ことでございますからな。なに、【礼儀作法】をわきまえ、堂々としていればよいのです。上手くいけば気に入られてオブリビオンに近づくことができるかもしれませんしね。



「ふむ、これがハタゴというものですか」
 懐から扇子をとりだしはたはたと扇ぎはじめたオル・クブナス(殴られ屋・f00691)に、火鉢の炭を入れにきた仲居がからりと笑う。
「うちは凡百の木賃(きちん)宿はもちろん、そんじょそこらの旅籠ともちょっと違いますよお。朝晩の御膳はもちろん、お湯だって自慢なんです」
「お湯ですか」
「ええそう、ほら、外を見るといっぱい湯気あがってますけど、あれ全部うちの裏手の源泉から引っ張ってるんですよお。でも湯船に入るまでにやっぱり冷めちゃいますから」
 宵闇の空に、いくつも細く白く湯気がたちのぼっている。言われてみれば、かすかに硫黄の香りがしないでもない気がした。
「……なるほど。源泉から引いてやっているということは、周りの宿から湯料もあがってくる、と」
「いやだあ、そこまで言ってませんって」
 言ったも同然のことを言ってどの口が、という台詞をオルは用心深く特徴のない微笑みの奥へしまいこむ。宿場に温泉があればそれだけ客入りも増えるものなので、周囲の旅籠にとっては蜃気楼の源泉の存在は貴重だろう。
 目立たず、作法をわきまえ、それでいて堂々と。
 オルは悠然と火鉢へ歩み寄り、そこに腰を下ろした。世間話の端々に匂わされる、この宿の情報はどれもが貴重である。
「離れもあるようですし、相当に潤っておいでのようだ」
「お客さん、離れが気になりますか」
 火がまわりだした炭をちゃっちゃと並べなおし、さらに炭を追加していく。
「ええ、そこまで大きな旅籠はなかなかないですし」
「……うふふ、そうですか」
 仲居の口元が、どこか歪むように笑みをつくった。
「ここだけの話ですけどね」
 その割にはたまらなく言いふらしてみたそうだな、とやはりオルは無言のまま言葉の端を呑みこんでおく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

桑原・こがね
キャロライン(f01443)と参加よ! 旅人として宿泊するわ! 大道芸修行旅って設定よ。
「ねえ、キャロライン、愛鷹藩って初めて来たわ。かわいい名前じゃない?」

他の猟兵が動きやすいように、一肌脱ぎましょうか。目立つの好きだし!
旅籠の人に許可を貰って、大道芸を披露しましょう。 刃物でお手玉したり、菜箸を手裏剣みたいに投げて木の板に突き刺したりできるのよあたし。【投擲】得意だからね。
失敗したら笑ってごまかすわ!修行中だからご愛嬌! そもそも注目を集められれば良いのよ!【存在感】あるから大丈夫。

落ち着いたらお店の人つかまえて聞いてみましょうかね。お店の屋号の由来とか、つけた人とか気になるわ!


キャロライン・ブラック
こがね(f03679)さまと参加いたします
ふたりで大道芸修行旅、その道中での宿泊という設定ですわ

「ええ、こがねさま。とても愛らしい響きのお名前かと存じますわ」
「それだけに、名前にそぐわない事件は解決いたしませんと」

設定の目的といたしましては、囮となり、黒幕の出方を伺うこと
後はこがねさまのおっしゃる通りですわね

大道芸では演出を担当いたします
色鮮やかな塗料を投擲の的として空中に繰り出したり
頭の上に林檎を乗せるなどが定番でしょうか

それと、小道具やお化粧なども演出の範疇ですわ
大道芸はあんまりですけれど、【アート】なら多少の自信はございますのよ?

また大道芸中、それとなく怪しいものや視線には注意いたします



 羽振りのいいお大尽や口の堅そうな、あるいはちょっとつつけば一晩のあいだに何が起こったのか墓まで持っていきそうな気弱そうな男。
 そういう手合いに、離れで行われているなりわいへの誘いをかけているようだ、という事は他の猟兵により判明していた。それを受けて桑原・こがね(銀雷・f03679)とキャロライン・ブラック(色彩のコレクター・f01443)の二人は、大道芸の修行中であるという設定で様々な演目を披露することにする。
「ねえキャロライン、愛鷹(あしたか)藩って初めて来たわ。かわいい名前じゃない?」
「ええ、こがねさま。とても愛らしい響きのお名前かと存じますわ」
 きゃっきゃと楽しげな大道芸人見習い二人の様子に、話を聞きつけて大広間に集まってきた宿泊客達がはやしたてにかかる。
「お嬢ちゃん達大丈夫かー、失敗しても泣くんじゃねえぞお」
「失礼な! 修行中とは言えモノを投げるのは得意よ、あたし」
 にんまり笑い、こがねは厨房から借りた包丁でお手玉を始める。そしてキャロラインと二人、広間の端と端に立った。
「さてお立ち会い、取り出しましたるはただの菜箸。なぁんの変哲もございません。これよりこちら、的の中央に当てましたらば御喝采!」
 演出担当のキャロラインが芝居がかった口調で煽り、畳一枚分ほどの木板を扇で示した。その中央には色鮮やかな的が掛かっている。
 お手玉をしながらこがねは笑い、軽くふりかぶって菜箸を投げた。刃物ではないのでさすがに土台の木板を貫通まではいかないが、カッ、と高い音をたてて的の中央に菜箸が突き立つ。次々と当たる位置をほぼ変えずに投げられる菜箸に、自然と観客から歓声があがりはじめた。
「なんだ、やるじゃないか嬢ちゃん。持っていきな!」
 多少酒も入っていたのだろう、宿泊客達から雨のようにおひねりが飛んでくる。
 名目としては他の猟兵が動きやすいよう囮となって黒幕の出方を伺う――というものだったが、大いに湧いている広間からでは他の猟兵が今どうしているかは残念ながら不明だ。そこは後ほど仲間に尋ねるとしよう、とこがねとキャロラインは冷静に旅籠の人間の動向を観察し続ける。
 大道芸を披露している間じゅう、特に怪しげな動きをした者はいなかったようだが、旅籠の者はもちろん客をもこちらにひきつけて猟兵達が見咎められるような事が減りさえすれば、こちらの狙いはそれで達成できたと言えるので問題ない。
 さて、何か新しい情報はあっただろうか。少し心楽しみに思いながら、おひらきになった大広間を片付けつつこがねは座布団を重ねている仲居に尋ねてみる。
「ところで、ちょっとここのお店の屋号って変わってるわよね。何か由来でも?」
「由来、ですか」
 確かに変わってはいますけど、特に由来とかは……と年若い仲居は心許ない笑い方をした。もう少し年かさの者を狙うべきだったか、とこがねが一瞬落胆しかけたその瞬間、ぱたりと仲居が手の平を打ち合わせる。
「……そういえば昔の屋号は初代の故郷からとった『加賀屋』で、『蜃気楼』自体はやはり故郷の名物からとった離れの建物の名前だった、というのは聞いたことがあります」
「ふうん? じゃ、いつからお店自体の屋号まで『蜃気楼』に?」
「今のご当主になってから、みたいです。なんでもごひいきの八卦見(はっけみ)の方の薦めとか」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

深緋・椿
【POW】
神隠しか…面妖なことよ。
ここは一つ調べてみるかの。

行動
旅人を装い旅籠に潜入
おかしなところが無いか調べよう。先ずは蔵あたりからかの、見咎められたら「誘惑」を使ってごまかしておこう。
もし、仲間が調査している場合は情報を共有しようぞ



 大道芸人見習いと称した猟兵達が大広間を湧かせていた時間帯、深緋・椿(深窓の紅椿・f05123)はひとり蔵の付近まで来ていた。
「それにしても、このご時世に神隠しか……面妖なことよ」
 岡場所まがいの事が行われているという離れの方向からは、ちんしゃんと三味線の楽の音や華やかな笑い声が聞こえている。何も知らずにさえいれば、どこかのお大尽が宿場芸者でも呼びつけているのだろうとしか思わない、その程度だ。
 今は離れは置いておくとしても、問題はこの蔵だろう。
 他の猟兵の調査で、蔵の周辺に怪しい点は見当たらず厳重に鍵もかかっており入れない、という事がわかっている。日暮れ近くから夜は更け、すでに晩の膳が客へ出されている頃合いだ。早い者は早々に湯ももらったことだろう。
 誰かの足音が聞こえたわけではないが、自然と忍び足になる。ひとまず蔵の周辺をひとめぐりした所で、椿の感覚に何かが「触った」気がした。
「……何じゃ……?」
 椿の第六感が、しんと静まりかえった蔵の内部に「何かある」と知らせている。そんな気がする。
 それも良いほうの何かではなく、悪いほうの。

成功 🔵​🔵​🔴​

ロカジ・ミナイ
【POW】
このしがない旅の薬売りに、
一室お借りできませんかねぇ。

しかし素晴らしい設えのお宿でいらっしゃる。
ご主人はさぞご立派な方なのでしょうね。是非御目通り賜りたいものです。
叶いましたならば、当社イチオシの湯薬をご紹介したく。
香りに効能に、こちらの旅籠にピッタリかと。
一夜明かしたお客さんのウケが良いと評判なんですよ。

……ここだけの話、在庫を抱えておりましてね。
ご贔屓頂いてた江戸の旅籠が改装で長期休業になっちまいまして。
お代は結構と申し上げたい所ですが、
タダより高いものはないと言います故。
ご主人のお見立てにお任せいたしましょう。

勿論お返事はお試し頂いてからで結構です。
いつでもご用命下されば。


彩花・涼
トナーシュ(f03264)と参加

2人で旅人として宿泊する。
長旅をしてきた感じで程よく埃っぽい感じの服装に疲れた感じを装う。
ん?トナーシュは年下だから弟のようなものだしな、部屋は一緒でいい。
別だと、何かあった時に守れないからな。
湯を張った盥を持ってきてくれるなら、ここは敢えて足を浸けてみる。
その際に匂いや色、触覚に普通のお湯と違うかどうか調べる。
【戦闘知識】で日々戦場で嗅ぐ匂いがすれば、温泉や水源が怪しいな。

その後はトナーシュと温泉にも行き、温泉周囲を探索して行方不明者が居ないか探そう。
……もちろん服は着ていくぞ。人がいない男湯に【目立たない】で隠れながらな。


トナーシュ・ベルテ
涼(f01922)と一緒に旅人として宿泊

敵地なので敢えて一緒の部屋です
…べ、別に緊張などしてませんとも

俺の髪は丁度茶色に汚れているので
野宿してきた旅人に見えるかな
着いて足元にお湯の入った盥を持って来たら
俺は各地の温泉を巡って温泉ソムリエを目指していると自称してみます
情報収集の能力を使い、温泉の効能や
どこから源泉をひいているか、まずはその辺りを聞き出したい所

その後は涼と温泉へ行き、周囲を探索します
情報収集で怪しいと感じた点があればそこを重点的に
男湯なら大丈夫そうですが
念の為もし何か怪しまれている気配があれば
目立たない技能を使います



「いやはや、しかし……なんとも素晴らしい設えのお宿でいらっしゃる」
 冬の夜風さえ意に介した様子もなく、ロカジ・ミナイ(薬袋路橈・f04128)はよっっこらせと三和土に旅道具をおろした。すぐさま下女が湯を張った盥を運んでくる。
「へえ、ありがとうございます。お陰様でよい商売をさせてもらっておりまして」
「ご主人はさぞご立派な方なのでしょうねぇ、是非御目通りを賜りたいものです」
 完璧に旅の行商人を装っているロカジの少し後、彩花・涼(黒蝶・f01922)とトナーシュ・ベルテ(12番目の錆びた釘・f03264)の二人組が暖簾をくぐってきた。ああこりゃどうも、お互いお疲れ様ですねえ、とロカジがのほほんと呟く声に、いやこちらこそ、とあくまで初対面という空気を崩さず涼が会釈する。
 履き物を脱いでちょうどよい温度の湯にロカジが足を漬けると、思わずほっと溜息が漏れた。なにぶん潜入捜査なので実際の山道を歩いてきたわけではないが、この時期外を歩けばそこそこ足は冷えるきまりなので、あたたかな湯は純粋に嬉しい。
「もしご主人に目通り叶いましたならば、イチオシの湯薬をご紹介したく」
「湯薬、ですか」
 女将は厨房の差配中なのか、宿帳片手に番頭がロカジへ手ぬぐいを差し出してくる。
「大変有り難いお話ですが当店は直接出湯(いでゆ)を引き込んでおりまして」
「まあ最後までお聞き下さいよ、……一夜明かしたお客さんのウケがすこぶる良いと評判でごさいましてね。いえ一夜明かす前も、とも申せましょうか」
 手ぬぐいを受け取って足を拭く間に、番頭の顔が徐々に真顔になった。ダメ押しとばかりにロカジは横目で囁く。
「……効能はもちろん香りもよく、こちらの旅籠にぴったりかと」
「……ふふふ、何の話だか、手前どもにはわかりかねるお話で……まあ、主人にはお客様の売り物のことは、お伝えしておきましょう」
「ありがとうございます。どうぞよしなに」
 内心どこの悪代官の会話だとも思いつつ、ロカジは話をそこまでに留めた。黙って足を洗う涼とトナーシュにも聞こえていたはずなので、こちらからの誘いとしてはこれくらいで十分だろう。
 トナーシュは涼の反応を待ってみるが、彼女は軽く鼻を鳴らしただけで何の反応も示さない。どうやら湯のほうは何もおかしな所はなさそうだ。ほかには品の良い香が軽く香っているくらいで、宿の玄関まわりは何も怪しい箇所はない。
「お部屋はどうしましょう、隣同士でひとつずつお取りすることもできますが」
「いや、一つでかまわない」
 トナーシュがはっと顔を上げた事に気付いているのかいないのか、涼は黙々と足を拭きつつあっさりと番頭に告げる。
「弟のようなものだしな、一緒でいい」
「り、涼……」
「なんだ不満か?」
「いや別に」
 これは発言内容が本来逆なのではないかと一瞬トナーシュは首を傾けたが、やはり涼はそこに気付いているのかいないのか。
 薄汚れた旅人を装った甲斐あり、二人は何も怪しまれることなく部屋へ通される。温泉ソムリエ、要するに各地の湯をめぐり情報をまとめるような事をしていると話すと、ならば是非ともうちの自慢の湯をこころゆくまでご堪能くださいませ、とむしろ歓迎されたのでひとまず怪しまれずに潜入する第一目標は達成できたと思っていいだろう。
 先に潜入を果たしている猟兵から、源泉の位置や効能などは把握済みだ。湯そのものに何かおかしな部分はないことは涼の反応からもわかっているので、ここはひとまず湯殿周辺の調査に移ったほうがよいかもしれない。
 膳の時刻を聞いてくる仲居にしばらく後の時刻を告げてから男湯に向かい、涼は極力目立たぬようにしながら周囲を探索する。二人としては行方不明者の情報や手掛かりがあればと考えたのだが、湯殿や温泉そのものにはどうやら本当に何もおかしな事は起こってないとみるべきだろう。
「うーん……これは空振りかな……」
「温泉自体には何もない、とわかっただけでも一歩前進だ。読みが外れたのは確かに口惜しいが、それはつまり残りを疑えばよいということだからな」
 多少肩を落としているトナーシュを、涼はなんとか励まそうとしているらしい。
 そして、そろそろ晩の膳が運ばれてくる頃合いなので男湯を離れようとする二人の目に、何かが見えた。
 庭木の向こうにかすめて見える離れの濡れ縁、そこに青い髪の――何か、陰陽師のような占い師のような、どこか猟兵にも通ずる「何か」を漂わせる背中を垣間見る。すぐにその人物は室内に姿を消したので一瞬だったが、不思議と二人の印象に強く残った。
「……今の」
 しかもその印象は、好人物であるという手合いのものではない。
 どこか危険を、不吉な空気を拭えない、そういう印象だった。

 さて、宿内の客に晩の膳がひととおり出され終わり、仲居が回収にまわる頃合いにロカジの部屋の襖の外から女の声がした。
「大変失礼いたしますがお客様、わたくしこの宿の女将、キヱ(きえ)でございます」
「おやおや、それはご苦労様なことで」
「先ほど番頭へ湯薬の話を頂戴したとのことで。ありがとうございます」
 ロカジが襖を開けると、そこには低く頭をさげ三つ指をついた女将の姿があった。まだ年も明けてまもない時期、折り鶴と宝尽くしの江戸小紋は店の吉祥を祈る女将になるほどふさわしい。
 キヱと名乗った女将はおおよそ40手前かそのあたり。先代が健在ならば若女将と言われてもさしつかえないだろう。
「主人はただいま加賀へ調度の品定めに出ておりまして、代わりに私がお話を伺わせていただこうかと。宜しいでしょうか」
「ああ、それは全くかまいやしませんよ。何せここだけの話、結構な在庫を抱えておりましてね。ご贔屓頂いてた江戸の旅籠……まあ品川なんですが、改装で長期休業になっちまいまして」
 品川と言えば岡場所の代名詞のような地名なので、ロカジは改めてブラフを混ぜる。頭を下げたままの女将の口角が、笑みに引きあがるのが見えた。
「もちろんお返事はお試しいただいてからで結構です。ただし、お試しゆえお代は結構と申し上げたい所ですが、タダより高いものはございませんので――」
「ええ、ええ。それは私どもも商売人、わきまえておりますとも」
 するりと身を起こした女将の目が細くなる。
「是非ともその効能、離れにて拝見いたしとうございます」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『腐怪の蟲』

POW   :    腐敗の瘴気
【腐敗の瘴気 】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    粘着糸
【尻尾から発射する粘着糸 】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    腐敗の溶解液
【口から発射する腐敗の溶解液 】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を腐らせ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 人目を避けるためだろうか、女将は夜半過ぎに迎えにくると言い残してひとまず去った。
 女将が離れに客をいざなうのは何故なのか、まだ猟兵達には理由を知る手段はない。ただひとつ理解できるのは、恐らく自分達は虎口にいざなわれているのだろうという薄い予感。
「お客様、よろしいでしょうか」
 そして月が中天を過ぎる頃合い、艶然と笑った女将に先導され、夜の庭へと歩き出す。月が明るい。その夜は冬らしく雲ひとつない晴れ渡った空で、満月だった。
 庭を横切り蔵のある区画にさしかかった所で、猟兵が眉根を寄せる。
 どこかから、ほんのりと甘いような、とろりと崩れた果肉を思わせる腐臭が漂っていることに気付いたからだ。
「お客様? 如何なさいました」
 女将はにっこりと月光の下、笑っている。
 黒光りする蔵の錠前が月光に照らされていた。
 その錠前が、内側からの軽い衝撃でぼとりと落ちるのを猟兵は見る。……ゆっくり開いていく観音開きの蔵の戸。その内部から噎せ返るような腐臭と共に巨大な芋虫状の怪異が姿を見せた。
黒蛇・宵蔭
これはまた面白いものを貯蔵しておいでですねえ。

正面からの力試しは他の方にお任せし、力を削ぐお手伝いをいたしましょう。
腐食した箇所へ踏み込まないように、慎重に立ち回ります。
鉄錆巡らし、極力自分自身に触れぬように避けられるものは避け。
守りを削ぎ、傷を抉り、血を啜るは鉄錆の得意とするところ。
人影などを利用し、死角を狙い、仕掛けます。
「熟れすぎたゲテモノはお気に召しませんか。食わず嫌いはよろしくありません」
私は生憎と食指が動かないので結構です。

機を見て、七星七縛符で拘束を狙います。
百鬼符はその場で適当に作ります、無傷なら指先を軽く噛み、負傷していればそれで。
堅実に参りましょう。



 しらじらと月光が降り注ぐ夜の庭、うぞうぞと這い出る『腐怪の蟲』の群れに宵蔭が軽く目を細める。
「……これは、また。面白いものを貯蔵しておいでですねえ……女将」
 やや皮肉げな宵蔭の声に、女将はくふりと鼻を鳴らすように笑った。
「旅人はその土地の、山海の珍味を愛するものと相場が決まっております。我が宿の真のおもてなしはそこな芋虫共が承りますので、どうぞご堪能下さいませ」
 蔵の前を中心に宵蔭はやや怪異と距離を取る。女将はそのまま高みの見物と洒落込むようで、逃げる様子もなく芋虫の様子を見守っていた。
 ここはひとまず怪異の動きを封じる事に専念すべきかと宵蔭は考えを巡らせる。有刺鉄線じみた外観の鞭を、周囲を囲ませるように広げたままじりじりと庭のもっと開けた方へ後退した。
「熟れすぎたゲテモノはお気に召しませんか。食わず嫌いはよろしくありません」
 その声が合図だったように、それまでどこか緩慢にのどかに地面の匂いを嗅いでいるだけだった芋虫が、一斉に襲いかかってきた。ぎりぎりまで狙い澄ました、宵蔭の七星七縛符がその動きを完全に封じるとも知らずに。

大成功 🔵​🔵​🔵​

深緋・椿
漸く敵のお出ましか…
折角の月夜に似合わんの
こう言うのは早めにご退場願わなければの

【戦闘】
初手でユーベルコード
敵の動きを封じて、仲間が攻撃しやすいようにしておくかの…
隙が出れば攻勢に転じよう。


ベガ・メッザノッテ
ヤダ、あの蔵にこんなカワイくない虫がいたなんテ!お宝とかお菓子が入ってたら良かったんだけどナー。

『血統覚醒』で今宵の月に犬歯を光らセ、瞳を爛々とさせちゃうヨ!

瘴気もあるし近接攻撃は危険かナ、ここはアタシの二体の人形たち(装備品)に頑張ってもらうヨ〜!
沢山の芋虫を人形を浮遊させて1箇所に留めさせテ、瘴気のタイミングを【見切り】、そこに緋椿(装備品)で一気に【なぎ払い】をキメたいよネ!アイツ、マシュマロより柔らかそうだシ、一発当てられれば倒せると思うワ!……甘い匂いらしくオイシそうだったら良かったのにナー。

●口調プレイングに合わせて下さい。改変アドリブ連携、歓迎です。


桑原・こがね
※アドリブ歓迎です

キャロライン(f01443)と共闘。

さあて、雷鳴団を結成してから団員との共闘は初めて!
ようやく格好いいところ見せる機会が来たわね!

あたしが前で、キャロラインが後ろ。
突っ込んでいってばっと斬る!
キャロラインには援護してもらうわ!

あの芋虫瘴気で攻撃してくるみたいだし、
できるだけ攻撃させたくないからキャロラインに動きを封じて貰いましょ。
技を出す瞬間はあたしから指示するわね。
行けると思ったら「今よ!」って叫ぶの。
そしてキャロラインの技で動きが止まったところを斬りかかる!
反撃できないぐらい速く鋭く連続で切りつけられると良いわね。
速さ重視で攻撃しましょう。


キャロライン・ブラック
こがね(f03679)さまと参加いたします
アレンジも大歓迎ですわ

こがねさまとの共闘は初めてですわね
ご活躍を見るのも楽しみですけれど
わたくしも、良い所をお見せいたしますわ

先ほどの大道芸ではございませんが
演出担当として、こがねさまをより輝かせて見せますの

敵と距離を取り、こがねさまを筆頭に猟兵の皆様を援護いたします
戦況を読みながら、敵の動きを封じますの

基本的には、敵の攻撃を阻害するように援護を
合図がありましたら、こがねさまの正面の敵の動きを封じますわ

さて、お立合い、繰り出したるは猟兵の技
此度は変哲ないとは申しません
その代わり、当てるだけとも申しません
これよりあちら、敵を打倒しましたらば御喝采!



 びきり、と突如見えぬ何かにがんじがらめにされたかのように芋虫の動きが止まる。残る猟兵達の布陣はすでに終わっていた。
「さあて、ようやくあたしの格好いいところを見せる機会が来たわね!」
「ふふ、そうですわね。こがねさまのご活躍も楽しみですけれど、わたくしも良い所をご披露いたしますわ」
 腐臭をふりまく芋虫の怪異、その足元から、なにか焦げたような焼けたような匂いがしていることをベガをはじめこがねとキャロラインは見逃さない。濃い瘴気にまかれる危険を犯すよりかはと、ある程度の距離を保ち相対した。
「ようやくお出ましか……しかも、折角の月夜には似合わぬ事この上なし」
 置き石や苔を灼いている芋虫の瘴気に眉をひそめ、椿はダメ押しとばかりに七星七縛符を重ねる。シャアッ、と短く太い牙をならべた口から苦悶するような、乾いた鳴き声が漏れた。
「かような蛆虫には早めにご退場願わなければの」
 符は怪異の動きそのものはもちろん、その攻撃さえも完全に封じこめていたが、それは代償として刻一刻と椿の命を削る。術を維持するように掲げられた椿の指先からじんわりと血色が失せていくのを横目にして、ベガが足早に前へ出た。
「もーヤダ、蔵の中にいたのがこんなカワイくない虫だったなんテ!」
 お宝とかお菓子だったら良かったんだけどナー、と軽く首をかたむけ微笑んだベガの口元で、鋭い犬歯が光っている。瞳孔の奥に何かが燃え上がったように爛々としはじめた瞳で、彼女が血統覚醒を発動させたのだと知れた。
「アイツ、なんだかマシュマロより柔らかそうネ? 一発当てれば倒せると思うワ!」
 もはや一歩も動けぬ芋虫に、集中砲火を浴びせるのは容易い。ましてやや退いた位置に立つキャロラインからの援護を受けたこがねとベガにとっては、言うまでもないだろう。
 肩越しに相棒を振り返ったこがねが、今だと短く叫んだ。
「さあてお立合い、ただいまより繰り出したるは猟兵の技」
 やや厳しい表情を向けている女将へヴァンパイア特有のうつくしい笑みを向け、キャロラインは虹色で彩られた杖をくるりと回す。バトンを扱うようにそのまま片手で回転を続け、頭上へと高く掲げた。
「こたびは変哲ないとは申しません――その代わり、当てるだけとも申しません」
「……」
 しっかりと視線を合わせ自信に満ちた笑みを強めたキャロラインに、女将は眉をゆがめる。宿を束ねる立場なら、大道芸人の口上くらい知っているだろう。そう予測した上での台詞だった。
「これよりあちら、敵を打倒しましたらば御喝采!!」
 勝利を確信したかのような高い声音。
 ゆるぎなく指し示された杖の先、そこから冷たく薄青い、氷河のいろを模した何かが奔流となって芋虫達を襲う。凍てつかせてしまえば綺麗なままでいられるだろうと、どこか傲然と、それでいて泰然としたキャロラインの視線が怪異の末路を語っているようで。
 置き石を蹴りこがねが一足で怪異までの距離を詰める。そこで椿が限界を迎えたのか、もっとも手前の芋虫が自由を取り戻したように身じろいだ。しかし、もう遅い。
 とうにベガの操る傀儡が芋虫をそれ以上前進させぬよう肉薄しており、こがねとの間に立ち塞がっている。ふわりと衣装の裾を舞わせ、こがねは大喝した。
「どこ見ちゃってんの? ――あたしを見ろォ!!」
 いまから己を両断する仇敵の姿を、今際の思い出にその目へ焼きつけていけとばかりに。
 最も手近な一体をこがねは見事両断してのけた。どくどくと芋虫の断面から瘴気をまとった体液がこぼれだしてくるが、もう気にも留めない。
「ふふ、もっとオイシそうだったら良かったのにナー?」
 残る3体を、ベガの深椿が薙ぎ払う。まるで大鎌になで切りにされたように見えた怪異が軽々と吹っ飛ぶありさまを、女将は火でも出そうな目で睨んでいた。
「憐れよな、女将」
 ゆらりと月光の下に立つ椿を、女将は歯噛みしながら振り返ることしかできない。
「忘れたわけではあるまい? まだまだ、我らの攻勢はこれからよ」
 そして黄金の瞳が笑みに細まるのも、ただ黙って見ていることしか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

亜儀流野・珠
良い夜だな。
飯は美味いし月は綺麗に満月だ。
…そこにコレは無いな!台無しだ!
せめて…せめて風呂の前にして欲しかった!
この旅籠もこいつらの瘴気でできた幻じゃないだろうな?

狐火で焼き払いたいところだが止めておく。
こう…匂いとか酷いことになりそうだからな。
よし!「千珠魂」、俺たち召喚だ!
俺も俺たちも薙刀「狐の爪」を使おう。
少しでも間合いを取りたい。余り近付くのは良くない手合いだ。
俺たちは小さいからどうしても近くなってしまうが…仕方ない。
何してくるかわからんから正面は避けつつ、数と動きで翻弄しながらとにかく斬る!
柔らかそうな腹でも狙ってみるか?

で、女将よ。コレは何なんだ?


彩花・涼
トナーシュ(f03264)と参加

怪しいのは蔵だったか……読み違えたな。
だが敵が姿を現したのなら、此処からは全力で行けそうだ。
トナーシュ、無理はするなよ。

黒華・改で敵に【2回攻撃】と【生命力吸収】で攻撃する。
敵の瘴気は極力吸わないように息を止めつつ【毒耐性】で耐え、【ダッシュ】で後方に下がって黒爪・改で離れた所から銃撃する。

しかし凄い匂いだな、体に染み付きそうだ……。
溶解液でトナーシュの本体が溶けたら大変そうだ。
トナーシュが攻撃を食らいそうなら黒爪・改で敵の攻撃を【武器受け】して【かばう】ぞ。


トナーシュ・ベルテ
少し遠回りしても、必ず真相に辿り着きましょう

出来るだけ涼(f01922)のサポートに回ります

【WIZ】
腐った地面に敵を立たせないようする為
出来るだけ溶解液を遠くへ放つよう仕向けてみようと思う
俺の技の射程距離と、相手のどちらが長いかは解らないけど
届く範囲ギリギリの所から【無色無音の釘付け】で動きを封じます

敵の知性が低そうなら
弱ったフリ、動きが鈍いフリをしながら引き付け
涼や他の猟兵さん方が攻撃しやすい位置に、敵の目を向けてみます
…でも涼の言う通り、無理はしませんとも
危なかったら涼の後ろへ下がります
錆びそうで怖いですし…液なんて…はぁ…


ロカジ・ミナイ
うわぁぁ!
何ですかい?こいつぁ!?

驚いて尻餅なんてついて、煙管を落とし損ねたりして、
とりあえず一先ずしらばっくれて見せるが
はてさて女将はどんな顔で立っているのやら。

やれやれ驚いたが……安心おしよ、女将さん。
実は僕は猟兵でね。怪異の類の相手ならお手の物。
ほら、こいつの匂いを嗅ぎつけたお仲間もこの通りお出ましだ。

……しかしめちゃめちゃ臭い。
……コレ系のって穴開けると中から変な液とか
飛んできそうでキライなんだよなぁ。
……よし、燃やそう。

さぁ、後ろへ下がって大人しくしておきな。
そこを動いちゃぁいけねえよ。
逃げるなんて危ない真似は以ての外だ。
……アンタとは大事な話が残ってるからねぇ。


オル・クブナス
おやおや、これは出遅れてしまいましたかね?少し温泉でくつろぎすぎてしまったかもしれませんなぁ。

さて、他の猟兵の方々がさんざん弱らせてくださっているでしょうし、私はその【傷口をえぐる】ことにいたしましょうかね。
『バウンドボディ』によって弾性を得た体で地を跳ね、敵を翻弄しながら突撃し勢いをつけた拷問具を敵の体に突き刺して攻撃しましょう



 さぁ後ろへ下がって大人しくしておきな、そこを動いちゃぁいけねえよ、と横目で言い放ったロカジに、女将は小さく唸った。
「逃げるなんて危ない真似はもってのほか、……アンタとはまだ大事な話が残ってるからねぇ」
「……どの口でそんな台詞を……よくも騙してくれたね!」
「そいつはこっちの台詞だよ」
 やれやれ、とロカジは目元を覆う。
 女将からの誘いをうけてすぐに旅籠へ潜入中の猟兵達と連絡をとり、何かあればすぐに駆けつけられるよう根回しをしたのは当のロカジだ。最初こそ居並ぶ猟兵相手にも余裕の表情だったが、こうしてあっさり芋虫の怪異が撃退されつつあるのを目にして驚愕を隠せないらしい。
 もっともその狼狽ぶりがなかなか面白いので、何ですかいこいつぁ、なんて芋虫相手に滅多に裏返らない声をあげて尻餅までついた苦労も報われるというもの。
「逃げるなんて危ない真似はもってのほか。アンタとは大事な話が残ってるからねぇ」
 薙ぎ払われた芋虫がようやく起き上がりかけようとしている所へ、亜儀流野・珠(狐の恩返し・f01686)が憤然として呟いた。
「飯は美味いし月は綺麗、それに満月と来ればなかなかに良い夜じゃないか。……なのに、そこにコレは無い。無いな! まったくもって台無しだ!」
 ついでに薙刀【狐の爪】も構えて、珠は眦をつりあげる。
「この旅籠も、もしやこいつらの瘴気でできた幻じゃないだろうな!? だいたいこの臭い自体ひどい! せめて風呂の前にしてほしかった!」
「幸いと言いますか何と言いますか……温泉や建物は幻というわけではないようですねぇ」
「言葉のアヤというやつだ、察せ」
 何故かぼよんぼよんとその場で縦に収縮をはじめたオルの横槍に、珠がぼそぼそ呟く。バウンドボディを発動したオルは、今や全身が黒いゴム人間といった印象だ。
「敵が姿を現した以上、ここからは全力で行くこととしよう。――無理はするなよ」
「それはもちろん。少し遠回りしても、必ず真相に辿り着きましょう」
 決然と前を見据えたままの涼が漆黒の蝶の群れで覆われていくのを眺めつつ、トナーシュは深く息を吸う。
 腐った地面へ怪異を立たせないようにするため、できるだけ溶解液を遠方へ放つよう仕向けるのがよいだろうか。こちらと相手のどちらが射程が長いかは未知数な所があるものの、そう大きく差をつけられるような事はないだろうとトナーシュは推測した。
 ばらりと開いた指の先、何か透明な――向こう側がわずかに歪んでいるので『透明な何か』が存在しているのだとわかる――針のような棒のようなものを浮かせてトナーシュは目を細める。
「雨風に晒されて腐り果てるまで、ずっとそこに居るのはどうかな」
 言いざま、トナーシュの眼差しが急速に力を帯びた。数多の透明な『何か』――無数と言ってもいい透明な釘の嵐と、その場へ敵を縫いとめる視線がいまふたたび怪異の自由を奪う。
「しかしものすごい臭いだな、体に染みつきそうだ……」 
「然り。こちらも狐火で焼き払いたいところだが」
 焼けば余計ひどいことになりそうでなと一瞬遠い目をした珠に、たしかにその可能性は高い、と涼もまた遠い目になった。これ以上悪臭が蔓延するのはできれば御免被りたい。
「とは言え、あまり近付くのは良くない手合いであるしな」
 身動きできぬ状態とは言え、やはりあまり近付くのは得策ではないと判断した珠は己が分身を召喚した。『千珠魂』により出現した珠の分身がわらわらと怪異の腹へとりすがり、斬りつける。
 きしゃあ、しゃああ、と絹を引き裂くような高い鳴き声があがり、斬りつけられるごと瘴気を含んだ体液がそこかしこへ飛び散った。
「トナーシュの本体が溶けたりしては洒落にならんな」
 涼もまた素早く体液をかわしつつ、容赦なく黒華・改で追い打ちをかける。ほぼ完封のままで猟兵に軍配があがりそうな気配に、いよいよ女将の顔色が青ざめてきた。
「ばかな……こんな話、あるわけが」
「まあ安心おしよ、女将さん」
 まるで安心できない胡散臭げな笑顔で、ロカジは煙管に口をつける。
「僕等猟兵は怪異の類いの相手ならお手の物だ」
 そう一言うそぶいた後、慣れた手つきで煙草の火種を掌へとり、そのまま勢いよく苦悶する芋虫へ向けて吹いた。花火のように、炭火のように赤く光る火種がぶよぶよと柔らかそうな腹に当たる。
「おやつの時間だよ、僕のヤマタちゃん」
 瞬間、どこからともなく七つ首の大蛇が鎌首をもたげ、怪異に舌をちらつかせた。あくまで芋虫であり蛙ではなかったはずだが、大蛇がこれから己を狙う事は理解したのだろう、破滅の未来から逃げ出すように芋虫の怪異は猟兵へ背を向けようとする。
「おやおや、少々出遅れてしまいましたかね? 私の獲物も残しておいてくださいよう」
 のんびり呟いたオルの身体がひとつ大きく収縮して、そのまま宙空を跳ねた。高い弾性を得た身体で怪異の間を跳ね回り、翻弄しつつも拷問具をもって芋虫の傷口を抉りにいく。
 もはや芋虫達に為す術はなく、おもむろに身を起こした大蛇から逃れることもできない。
「困りましたなあ、女将」
 びよんびよんと縦に横に収縮する顔でオルは笑う。
「少し我々を見くびりすぎてしまったかもしれませんなあ」
「うるさい……うるさい、黙れ! 『旦那』がお前等なんかに負けるものか!」
 悲鳴じみた叫びに、大蛇の甲高い鬨の声が重なる。既にオルにさんざん傷口をえぐられ広げられていた怪異の群れは、大蛇の牙に引き裂かれ、あるいは食まれ、庭の岩塊に叩きつけられて千々に張り裂けた。
 愕然と膝をつく女将を横目でながめやり、珠はふうっと溜息を吐く。
「……さて。で、女将よ」
 怪異は滅された。しかし薙刀を手放さぬ珠の視線は油断なく女将の――その背後、を睨み据えている。
「『ソレ』は何なんだ?」
 茫然とうずくまった女将の背後に音もなく立っていた、青色の術士を。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『刻命』の阿頼耶識』

POW   :    私は今、『禁忌の果て』に至る
対象の攻撃を軽減する【半人半獣の戦闘形態】に変身しつつ、【蒼炎を纏った矢】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD   :    『刻命』よ、力の一端を開放しなさい
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【仮初の命を与えた絶対服従の傀儡】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
WIZ   :    では…切り札といきましょう
自身が戦闘で瀕死になると【自身と全く同じ姿をした2体の分身】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はセリオン・アーヴニルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 細切れになった怪異の屍が、ぶすぶすと焦げ付くような煙をあげて小さくなっていく。まさか、そんな、と譫言のように繰り返す女将の傍らを通り抜け、青い髪の術者が進み出てきた。
 猟兵の中にはその風体に見覚えのある者もいるかもしれない。旅籠の探索中に庭木の向こうへかすめて見えた離れの濡れ縁、そこに垣間見た姿と同一人物に他ならなかった。
「『旦那』」
 茫然と見上げる女将を、陰陽師のような占い師のような男は軽く手を振って黙らせる。しかし袴のような着物のような衣装の長い裾に隠された両脚は、人のものとは違っていた。茶の毛並みに鹿のような蹄。
「まさかこんな事になるとはね」
 計画の頓挫を嘆くどころかむしろ面白そうに、半人半獣の術者はうすく笑う。
「しかし、すべてが順風満帆とはいかぬのが人の世というもの。お相手仕りましょう」
深緋・椿
陰に隠れておったか
漸く出てくる決心がついたようじゃのぉ(挑発的に)

先手必勝、悪いが動きをとめさせてもらおうかの、その後は2回攻撃使用での攻勢に転じよう
さて、妾の力にどれくらい耐えれるか見物じゃな


ベガ・メッザノッテ
あらあラ、アナタも人形遣いの端くれなのネ!
でも与える命は仮初だなんテ、三下のやることだワ。ここはアタシ直々にお手本を見せてあげる!

戦場で死亡した対象というト、芋虫たちがまた動き回るのよネ。それなら息吹を与えたアタシのアルタイルとデネヴ(装備品)が弾き飛ばして相手のSPD攻撃を妨害しちゃうヨ〜

さらに蜘蛛の撚金糸(装備品)で残りの芋虫の一部を人形として扱うワ。コイツの体液でヤツに目潰しを仕掛けテ、攻撃の隙を作りたいよネ。あとは皆に任せるヨ!

操る人形の数が多いほどコントロールが難しくなるけド、そこは『血統覚醒』で補うワ。

●口調プレイングに合わせて下さい。改変アドリブ連携、歓迎です。


黒蛇・宵蔭
命弄ぶ術士の宿命というものは、どの世界でも同じこと。
……美女でないのが、少々残念ですが。
冗談はさておき。

距離をとって、鉄錆で阿頼耶識の守りを崩すよう努めます。
人影を利用した死角からの鎧砕き、傷を負っていれば更なる追撃。
血界檻鎖の形状は呪符を束ねた組紐で足を狙います。
分身しても傀儡がいても本体狙い。
命を術とするそのものが根源なのですから。

真の力を解放する場合、右腕が屈強な鬼の腕になります。
その際は真紅に持ち替え(窮地に陥ったか、トドメを刺せるときのみ)

さて、戦場での女将のことは私は知りませんが。
『旦那』を信じて共に行くならば、それも良いでしょう。
……そこまで面倒見よくは無さそうですけどね。


オル・クブナス
ふむ、彼がこの事件の黒幕…というわけでございますね。
では、私は彼を引きつけることにいたしましょう。本命の攻撃は他の方に任せることにします。

弓による遠距離の攻撃は厄介そうですから、距離を詰めて銃と拷問具で連撃を叩き込み、敵の注意をできる限りこちらに向けさせましょう。
『蝶のように舞い、蜂のように刺す』というやつですな。

もちろん無策で突撃するわけでははございません。【紳士たれ】と定められた立ち居振る舞いによって極限まで高めた気を防御にまわし、ナノマシンアーマーで致命傷はなるべく避けますとも。
私は『殴られ屋』ですので攻撃を受けることはむしろ得意分野でございますよ。


ロカジ・ミナイ
おやおや、こいつが女将の旦那かい?……それとも。
いずれにしても黒幕のお出ましと取って良さそうだねぇ。

しかしやしかし、随分と美脚持ちの男前な事で。
胡散臭さなんてとても勝ち目がないなぁ。
こういう手合いが女将の好みだったなら、
僕もさっさと狐の尻尾を出しておくべきだったか。

で、アンタは捌いても周囲の被害は少ない方と見た。
……ちょいとばかり獣臭そうなのは置いておいて。
この奇稲田、血肉だけじゃなくモツの類も好物なんだよ。

しかし何やら面倒な術を使いそうだ。
ホンモノを見失わないように。

欺かれぬためには、欺く奴の手の内を知ればいい。
目と耳で技を得て、この腕の糧とすりゃあいい。
全く騙し合いってのは不毛で愉快だ。



 飛び石でも踏んだのか、『刻命』の阿頼耶識の蹄がこつりと鳴った。ようやく出てくる決心がついたようじゃの、と挑発的に呟いた椿を一瞥し、半人半獣の術者はゆっくりとその手の矢をつがえる。
「彼がこの事件の黒幕……というわけでございますね。では、私は彼を引きつけることにいたしましょう」
「美女でないのが、少々残念ですが」
「おや奇遇だねぇ」
 進み出るオルの背中へ呟いた宵蔭の軽口が、ロカジの興味をひいたようだった。ざらりとした阿頼耶識の殺意と戦意をむしろ心地良く思ったのか、アルタイルとデネヴを手繰るベガの頬にも笑みが読み取れる。
「こういう手合いがそちらさんの好みだったなら、僕もさっさと狐の尻尾を出しておくべきだったかなぁ」
「……やっちまって下さい旦那、そいつら全部!! そうしたら何もかも元通りなんだ!」
 少々金切り声じみてきた女将の言い分を容れたかどうか定かではないものの、阿頼耶識の弓が大きく引き絞られた。
「悪いが少々、動きを止めさせてもらおうかの」
 喉の奥で笑い、椿は着物の長い袖の中から護符を引き抜く。大きく水平方向へ半円を描いた指先から離れた護符は、そのまま阿頼耶識の眼前へと飛んだ。不可視の縄か鎖か、もはや外すほうが難しいほどの精度を誇る七星七縛符が術士の自由を奪う。
「小癪な真似を……」
「小癪結構、獲物をみすみす逃がすほうが三下のやることだワ」
 笑みを強めたベガの目は、さらに赤さを増していた。命の刻限を削りそのまま力に変換するかのようなヴァンパイア特有の能力だが、今の彼女にそのデメリットを憂える気配は微塵もない。
 それは七星七縛符を維持する椿も同じことだった。
「下がれ。邪魔だ」
「それはそれは、大いに結構。私は『殴られ屋』ですので」
 人を食ったようなことを言いながら立ちはだかるオルに、阿頼耶識はやや眉をひそめる。ただでさえ七星七縛符による拘束を受けているというのに、そこへ宵蔭が放った呪符による組紐で足元を縫いつけられてはさすがに一歩も動けないようだった。
 命を弄ぶ術士がたどる宿命などどのみち碌なものではない、宵蔭はそう思っている。
「そちらの女将は如何なさるので?」
 宵蔭の声に、びくりと着物の形が震える。阿頼耶識は答えなかった。
「だ……旦那……」
「『本物の旦那』ってわけじゃなさそうだけど」
 商家の女による言葉なので、当然ながら文字通りのそれではなくお得意さんだとか男性客への呼称のひとつ、という意味のほうに決まっている。しかし不在にしているという主人のことも念頭に置き、ロカジは女将の出方を探ってみた。
「……まさか、アタシまで殺そうってんじゃないですよね、旦那」
「まあ、そこの旦那とやらを信じて共に行くならば、それも良いでしょうが」
 やや突き放すように言って、宵蔭は女将と阿頼耶識の双方から集中を切らさない。もっとも女将はともかく、阿頼耶識のほうは彼女を伴って逃走するほど面倒見が良さそうには見えないが。
「殺しはしません」
 軽く息を吐いて阿頼耶識は目蓋をおろす。女将が明らかにほっと表情を緩めるのがベガにも見えた。数瞬のあと、椿と宵蔭の拘束が破られ阿頼耶識はやや目を細める。どこか楽しげに。
「私は、ですが」
 ひどく恐ろしい含みのある台詞に女将が真っ青になるが、オルにとってはもう女将がどうなろうがどうでもよい事だった。真実さえ明らかになり、かつこのオブリビオンを葬れるのならば。
 庭の片隅ですっかり萎れている芋虫の怪異を一瞥し、阿頼耶識は何事かごく少ない単語を口早で口にした。
「『刻命』よ、力の一端を開放しなさい」
「アルタイル! デネヴ!!」
 素早く反応したベガの操る傀儡人形が、細切れになった怪異の屍体と阿頼耶識の間に割り込む。あえての近接攻撃とばかりに、銃と拷問具で連撃を叩き込んでくるオルへ阿頼耶識は忌々しげな視線を向けてきた。
「あらあラ、操るのが屍体とは言えアナタも人形遣いの端くれなのネ! でも与える命は仮初だなんテ、語るに落ちるとはこの事かしラ」
 うふふっと肩を揺らして笑うベガに阿頼耶識は何も答えない。もはや何を語る事もないと思っているのだろう。
 拘束を破られた椿が、薙刀を手にオルと共に斬りかかった。続けざまの華麗な2回攻撃、そして凶悪なフォルムが特徴的なオルの【苦悩の梨】で攻め立てられた阿頼耶識がまるで踊るように後退し間合いを取り直す。
 『紳士たれ』にて自己強化したオルの狙いは、他のメンバーが阿頼耶識との戦闘に余計な気を回さずにすむように、という実にシンプルなものだ。
 おそらく先の怪異の屍体を傀儡とした攻撃を軸に据えてくるものと宵蔭は想像していたが、それは今のところベガが封じ込めている。今はこの機に乗じて攻め続けるが上策だろうか。
「命を術とする、そのものが根源なのですから――何があっても本体狙いが定石と言えるでしょう」
 一瞬真の力を解放することも脳裏をよぎったが、今はまだそれには早いと宵蔭は判断する。
「さて、アンタは捌いても周囲の被害は少ない方と見た。ちょいとばかり獣臭そうなのは置いておいて――この奇稲田、血肉だけじゃなくモツの類も好物なんだよ」
 ロカジの声に阿頼耶識が振り返った。
 その眼に仕込簪が映るも、阿頼耶識はそれが己が運命を決する一撃になるということを、まだ知らない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

キャロライン・ブラック
こがね(f03679)さまと共闘いたします
アドリブも歓迎ですわ

あの風体、ごひいきの八卦見とやらかしら
先ほどの虫よりも、随分と手強いご様子
これは腕の見せ所ですわね、こがねさま?

わたくしは引き続き、距離を取りながら戦いますの
ただ、お次は動きを止めるのでなく、牽制の射撃と致しましょう

隙がございましたら、急所を狙い打ちますわ
本来は外しても効果のある技ですが、此度は別
確実に当てて参りましょう

もしも敵が分身を繰り出したら、後は本体のみを狙いますの
急所を狙い打って塗料を放ったのだもの
本体にはもう、的が描かれているのではなくて?

さぁ、これにて準備は整いました
雷鳴団の団長として、お決めくださいまし、こがねさま!


桑原・こがね
※アドリブ歓迎です
キャロライン(f01443)と共闘。

よおし!いよいよ真打ちね!
行くわよキャロライン!雷鳴を轟かせろォ!

あたしも今回は距離を取って少し様子見かしら。
銀雷を放って牽制するわ。隙を作れると良いわね。

そういえば旦那さんにはあたし達の芸を見てもらって無かったかしら?
せっかくだからもう一回見せてあげるわ!

「さてお立ち会い、取り出しましたるはただの短刀。なぁんの変哲もございません。これよりこちら、的の中央に当てましたらば御喝采!」

キャロラインが描いた的にめがけて全力投擲!



 ここは我等が腕の見せ所と、キャロラインとこがねは互いに視線を交わす。
「いよいよ真打ちね、行くわよキャロライン!」
「ええ、ごひいきの八卦見とやらは先ほどの虫より、ずいぶんと手強いご様子。――ここは確実に当ててまいりましょう」
 キャロラインの言葉にしっかりと首肯し、雷鳴を轟かせろォ! と威勢良く言い放ったこがねに、阿頼耶識は一瞬目元を歪ませた。その身は先の猟兵達の攻撃によって袈裟懸けにされ、斜めにざっくりと裂けている。
 それでも一見まるで堪えていないようにしか見えなかったが、今はともかく手をゆるめずに攻めるしかない。
 本来外してもかまわないものではあるが、ここは『刻命』の阿頼耶識を確実に仕留めんためキャロラインは狙いを定める。互いに阿頼耶識とは距離を保ち牽制しながら、こがねはうすく笑った。
「そう言えば旦那にはあたし達の芸は見てもらってなかったかしら? ――折角だから冥土の土産に見せてあげる」
 そう呟きつつ、こがねは懐から短刀を抜く。阿頼耶識の視線がこちらに向くのと、キャロラインがグラフィティスプラッシュを放ったのはほとんど同時だった。ドッ、と青黒い着物を塗料が染めあげる。
「さぁてお立ち会い、取り出しましたるはただの短刀。――なぁんの変哲もございません」
 意図が伝わったのか、阿頼耶識が眉根を寄せて身じろぐ。その場から跳びすさろうとして、しかし、できなかった。顔にこそ出てはいないが、これまでに猟兵達が加えてきた攻撃による痛手は確実に積み上がっている。
 がくりと足元の塗料の海へ膝をつく阿頼耶識。キャロラインはあでやかな華やかな笑みで、勝ち誇ったように両手を広げた。
「さぁ、これにて準備は整いました――雷鳴団の団長として、お決めくださいまし、こがねさま!」
「これよりこちら、的の中央に当てましたらば御喝采!」
 どっせええええい! と渾身でもって、こがねは短刀を投じる。
 どうにか身をよじろうとして、しかし、阿頼耶識はやはり動けなかった。こがねの投げた短刀がその胸元に吸い込まれるのをキャロラインは見る。そして、確実にその一投がかの術士を追い詰めたことも。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

トナーシュ・ベルテ
涼(f01922)と共闘

温泉を訪ねる人の命を繋ぎとめる為にも
負ける訳には行きません

【WIZ】
正直、力技もスピード技も得意では無いから
奴の切り札と同じ魔力で勝負です

涼の動きに合わせながら戦います
涼が攻撃する前は
高速詠唱でエレメンタルファンタジアを使用
放つのは火柱、制御できそうなら奴の視界を遮るよう打ちたい所

もし奴が瀕死で、分身したなら
本体狙いで行きたいですが、なにせ精霊の気まぐれもあります
分身も本体も、もろとも全力で倒す気持ちで行きましょう

涼の掛け声に合わせて
全力魔法でエレメンタルファンタジアを使用
涼の攻撃を邪魔しないよう、氷の釘を放ちます


亜儀流野・珠
これだけ攻勢を掛けられてもまだ余裕を保つか!
お前が何なのかとか女将との関係とか色々と気になるところではあるな!
今回の事件の事も含め全て吐きながら倒されるか、黙って倒されるか選ぶがいい!

さっきのアレは焼きたくなかったからな…やっと使えるぞ狐火が!
小細工無しだ!全ての狐火を一つに纏めて…真正面からぶつける!最大火力だ!
そして狐火の後ろに隠れてた俺が薙刀で斬りかかる!
これ小細工だな!まあいいか!
この炎と刃をもてなしの礼だと思って受け取るがいい!

にしても何と言うかお前はあれだな。ワルイオトコだな!


彩花・涼
トナーシュ(f03264)と参加

旦那、か。コイツがすべて裏で糸を引いていたわけだな。
ここで倒し、神隠し事件は終いにしよう。

【ダッシュ】で建物の柱や壁を【地形の利用】で足場にして動き、敵の死角から黒華・改で斬りかかる。
ダメージは入りにくいかも知れないが、【生命力吸収】も付与して削りに行く。
トナーシュの攻撃タイミングを見て、攻撃直前に黒柵を敵の足に巻きつけ動きを阻害する。
「トナーシュ、今だ!」
敵の攻撃は黒爪・改で【武器受け】で矢を弾きつつ【カウンター】で銃撃する。

苦戦した場合は真の姿(コートを羽織った漆黒の甲冑)になり、黒蝶の鎮魂歌を使用して敵の視界を妨げて攻撃する。



 ようやく幕引きが近付いたことを確信し、珠は得物の薙刀を阿頼耶識に向ける。
「お前が一体何なのかとか、女将との関係とか、他にも色々と気になるところではある……が、事の真相を全部吐いてから倒されるか、黙って倒されるかは選ばせてやろう。どちらがいい」
 極彩色の海に膝をついたまま、阿頼耶識は不思議に凪いだ視線で珠を見上げた。珠の背後、やや苛立ったように涼が声をあげる。
「事の真相もなにも、コイツがすべて裏で糸を引いていた、それだけだ。さっさと倒して神隠し事件は終いだろう」
「……まあ、涼の言う通りではありますね。しかし多少、ことの全容を描くには足りない欠片があるのも事実」
 トナーシュは女将を警戒しつつ考えを巡らせる。これまでに得られた情報を繋ぎ合わせてはみるものの、結局、神隠しの噂は何だったのだろう? 姿を消したという人々の行方は?
 そしてこの阿頼耶識が何を最終目的にこの旅籠で暗躍していたのかも、実はわかっていない。そもそも今は加賀に出向いているという旅籠の主、彼がこの一連の事件に関与しているのかさえ不明なままだ。
 このまま阿頼耶識を倒し女将を番所に突き出すことで真相は明らかになる、そう考え納得すれば済む話なのかもしれないが――。
「しかしここで逃げられるのも業腹です。素直な回答は期待しないでおくべきでしょう」
 多少、情報収集において守りに入りすぎたかとトナーシュは眉根を寄せる。しかし黒幕をこうしてひきずり出し追い詰めた以上、この事件は終わりだ。目的は達せられたと言っていい。
 阿頼耶識はなぜか満足げに笑ってトナーシュの顔を眺めている。その表情に真相が阿頼耶識の口から語られることはない確信を得て、珠はひとつ頭を振った。
「吐くつもりはない、という事か。よかろう、……やっと使えるぞ狐火が! もはや小細工無しだ、この炎と刃をもてなしの礼と思い受け取るがいい!」
 その数、二十にも迫ろうかという狐火が珠の周囲へあらわれる。高熱であぶられた空気が急速に舞いあがり、衣装の裾をはためかせた。
「トナーシュ、今だ!」
 死を覚悟した阿頼耶識が何かしらの悪足掻き、もとい小細工を弄する可能性も考慮したのだろう、涼の声を聞いたトナーシュは阿頼耶識の視界を遮るように火柱を放つ。高速詠唱によるそれは、確かに敵につけいらせる隙も、その時間も与えはしなかった。
 せめて立ち上がろうとでもしたのか、身じろいだ阿頼耶識の足元に涼の黒柵が巻きつく。茶の毛並みの獣脚を絡め取ったそれはどこか虎挟みを思わせた。
「これだけ攻勢を掛けられても、まだ沈黙を保つか」
 言葉通りに遠慮なしの最大火力なのだろう、珠の狐火がさらに温度を上げる。延焼分を任意で制限できるので何も気にする必要はないのだが、それを知っていてもなお、涼が一瞬息を飲むほどその炎は苛烈だった。
「吐くならこれが最後だぞ」
「……言うとしても、すでに破綻した手の内をみせびらかすほど、みっともない真似もない」
 わかった、と珠はひくく呟く。ゴッ、と狐火がひときわ鋭く燃え上がった。
 高温の狐火に先駆け、トナーシュの放った氷の釘が阿頼耶識の着物、手脚も、何もかもを地面へ打ちつけ縫いつける。足元だけではない、上半身まで強かに引き倒された阿頼耶識はどこか、白州へ引き出され平服させられた罪人によく似ていた。
 首をねじ曲げるように猟兵を見上げた目は、まだ笑っている。
「これで、終いだ!!」
 死角から斬りかかった涼の斬撃に、珠の狐火が加わる。
 囂々と燃え上がる炎の下、『刻命』の阿頼耶識はその命もろとも事件のすべてを灰にして文字通りに崩れ落ちていった。

 もはや自分で立っていることもできぬ女将を猟兵達は番所へ突き出し、旅籠『蜃気楼』を舞台にした神隠し事件は終息を見る。
 そして藤宿の人々は口々に噂するのだ、あれほどに人の絶えなかった件の旅籠はなぜ急に看板をおろしてしまったのだろう、と。あそこで働いていた者は一体どこに消えてしまったのだろう、と。
 人の姿が絶え、夢から醒めてしまったかのように急速に色褪せていく旅籠の門は何も語らない。
 かつてその離れで人目を憚るようにして行われていた一夜限りの夢のように、行けども行けどもたどり着けぬ海の果ての幻のように。その名を『蜃気楼』と謳いあげたように。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年01月30日


挿絵イラスト