7
草食狼と飛竜の卵

#アックス&ウィザーズ

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アックス&ウィザーズ


0





(「くそっ、今晩もか……」)
 村の外、荒野の彼方から響く狼の遠吠えに、ジョセフは身を固くした。ここのところ、連日だ。最初はすぐにも狼の襲撃があるかと、慌てて男手を集めて寝ずの番を立て、村の防壁を補修して回ったものだが……。
(「やはり、襲ってくる気はないのか……?」)
 狼たちは、村に近付いてくることもなく、ただ付かず離れずの距離で深夜まで遠吠えを続けるばかり。かといって、まさか夜の警備をやめるわけにもいかない。不慣れな緊張の連続に、村人たちが日に日に消耗していくのを、村長であるジョセフは肌で感じていた。
 そして、恐れているのは家畜も同じなのだろう。ここ数日、牛の乳の出が悪いという報告も上がりはじめている。これが続けば、早晩、村の死活問題となるだろう。
 憔悴した顔で頭を抱えるジョセフを嘲笑うかのように。

 ――どこか切なげな、狼の遠吠えが響いた。


「やはり子どもを抱えた母親というのは、ええ、母親というのは、どんな種族でも強いもの。己が子を守らねばならぬとあれば、気も立ってしまうものなのでしょうね? ――まあ、今からそれを、奪い取りに行っていただくのですけれど」
 うふ、うふふ。一体何がそんなにおかしいのか。堪え切れない様子で、鈴の音を鳴らすような笑みを漏らしながら。此度のグリモア猟兵を務める小柄なオラトリオのメイドは、そう語り始めた。

「まず、最後の目的からお話しましょう。今回のターゲット、ええ、ええ、いわゆるメインディッシュというものは、ワイバーンとなります」
 既にあいまみえたことのある猟兵も多いだろう、赤い鱗を持つ凶暴な亜竜。人語を解するほどの知能はないものの、その急降下による攻撃は非常に強力で、並の冒険者では歯が立たない強さだという。決して油断のならない相手だ。

 それに加えて、今回は特筆すべき事項が一つある。
「荒野の中、ちょっとした渓谷の中にこしらえた巣で、卵を暖めているそうなのですね、このワイバーン。
 で、皆さん、この卵、取ってきて下さいな。それも、ええ、それも、戦いの前に――です」

 なんでもこれは、魔物研究家から酒場への依頼なのだという。未だ謎の多い竜の生態を調査すべく、生きた卵を持ち帰って欲しい。卵は複数個あるはずなので、片端から奪えればそれが一番。なお、ワイバーンの卵はとても大きい。大人が両手で抱えるほどの大きさで、重さも見た目相応だ。
 ワイバーンは基本的に巣を離れることはない。なんとか死角を見つけて忍び込むもよし、あるいは何らかのユーベルコードを用いて忍び込むもよし、あえて姿を現し引き付けるもよし、方法は猟兵たちに一任されている。
 ただ、流れ弾や、攻撃を受けたワイバーンの動きによって卵が割れてしまうと台無しのため、この段階において「ダメージを与える攻撃」は厳禁である。
 たとえば、ある猟兵がワイバーンを引きつけている間に他の猟兵が……といった作戦を取る場合も、周囲に被害が及ばないよう、細心の注意と努力が求められるだろう。

 卵を奪い、安全な場所に運び出し。それからワイバーンを退治する、というのが基本的な流れだ。無論、卵を奪われたワイバーンは、怒り狂って襲いかかってくることだろう。
「うふ、うふふ。最初はなんだか同情を誘う言い方をしてしまいましたけれど――元々、積極的に人を襲う竜ですからね。ええ、どうぞ良心の呵責なく、存分に斃しなさいませ」

 それだけか? なら、最初に話した村の予知はなんだった?
 そう問いかける猟兵に、メイドはうふふと愉しげに笑い、宙空に手をかざした。細い指先から白い炎が立ち上り、アルストロメリアの花に似た形状の「グリモア」となって――そして、蜃気楼のようにゆらりと透き通り、花の向こう側を映し出す。
 花の彼方に映し出されたのは、荒野の端の草原にたむろする、毛足の長い狼の群れの姿だ。

「狼――ええ、狼。とはいえ、こう見えて、実は草食ですのよ、この子たち。
 本来ならばおとなしく、人に害も及ぼさないのですけれど――要は、産卵をして気が立ったワイバーンに追い立てられて、人里近くに移ってきてしまったのですね。それで、すっかり怯えてしまい、毎晩、遅くまで遠吠えを繰り返すものだから……今度は、近くの村の人や家畜が怯えてしまう。うふふ、悪循環ですね」
 そもそもこの草食狼、実は昼行性だ。「怖くて夜も眠れない」、ということらしい。
 なので、ワイバーンのところに行く前に、ちょっとこの子たちのところに寄って。説得するなり寝床を整えてあげるなり何なりして、落ち着かせて上げてくださいな。なに、ちょっとしたついでです。そんな風に言って、にこにこと笑う。

 ちょっと待て、と、先ほどと同じ猟兵が声を上げる。ワイバーンに追い立てられてきたというのなら、放っておいても、ワイバーンを退治したら元の縄張りに戻るんじゃないか? そんなもっともな問いに、メイドは初めて笑みを消し、心外そうに口を尖らせて。

「――そんなの、可哀想じゃありませんか。私、大好きなのですよ、狼さん」


黒原
 卵を抱えてヨタヨタ走るあれは好きじゃありません。黒原です。
 今回はワイバーンの卵泥棒に挑戦していただきます。泥棒といってもその後戦うわけですので、居直り強盗といった方が正しいでしょうか。

 杏花の説明が前後してしまいましたので、全体の流れの確認を。
 1章では草食狼への対処、2章は卵の奪取、3章はワイバーンとの戦闘です。

 1章について。狼に対して言葉で話しかける場合、「実際に動物と話す(言葉が通じる)能力があるのかどうか」については、ふんわりでも構いませんので言及頂けると助かります(特にビーストマスターの方)。スキルがあれば記載なくてもOKです。
 杏花は放置した場合のことについて適当かましましたが、実際には荒野の生態系もそう単純ではなく、争いを好まない草食狼たちはやすやすと元の縄張りに戻るわけにはいかないようです。また、村の状況を考えても、早急な対処が望ましいという思惑もあるとかないとか。

 一度2章で卵の奪取に成功した後は、3章の戦闘で、卵を守ることについて考える必要はありません。
 戦闘描写に登場していない猟兵が安全な場所で守っている、とでもお考え下さい。

 ではでは。
 皆様のキャラクターの思いや性格、素敵なところが伝わるプレイングを、お待ちしております。
82




第1章 冒険 『眠れない獣たち』

POW   :    苛立ってケンカを始める獣たちの仲裁。

SPD   :    寝床を工夫して整えてやる。

WIZ   :    心の落ち着く歌や音楽で眠りに誘う。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ゼン・ランドー
狼に見えて草食とは面白い。畜産化は出来ないものでしょうか?
いっそバサリと毛皮に出来れば即金なのですが
確実にクレームが付きますねぇ
ここはステークホルダーとの今後の関係に配慮した
エコロジーなソリューションが求められます。

というわけでこちらと致しましては
解決策に【催眠術】を採用させて頂きました。
眠れや、オラァ!眠れ!!という感じで
原価も掛からず大変お得ですね。

管狐たちは役立つかわかりませんが一応待機させておきましょう。


月輪・美月
こうみえても人狼、狼相手なら得意分野です……華麗な話術で説得してみせましょう。

やっべ、地元の狼じゃないから何言ってるかさっぱり分からない……助けて母さん……動物会話もうちょい練習しておくべきでしたか

まあでも、気合で行けるでしょ、気合。会話はともかく誠意は通じるはず……狼ならば、ワイバーン程度に怯える必要はない、僕がぱっぱと追い払うので、毅然とした態度で待っていてほしい……という気持ちを、身振り手振りで……!後誰か会話通じる人がいたらサポート(通訳)たのみます……

【会話はなんとなくでしか通じませんが、頑張って仲裁します】
他の人達との絡みなど大歓迎です


富波・壱子
うーん、草食って本当なのかな。疑うわけじゃないけど、もし万が一のことがあったら可愛そうだけどちょっぴり痛めつけて追い払おう……。
そんな少し物騒なことを考えながら現場に向かいます。

でもやってきたのはいいけど私、狼の言葉なんて喋れないし安心してもらうってどうしたらいいのかな。草食ってことはお肉で餌付けとかもできないよね?
よし、分からないことは他の人に聞いてみよう!
【コミュ力】も使って笑顔で他の猟兵の人に話しかけて、手伝えそうなことがあったらそのまま手伝うよ。お手伝い中もユーベルコードは使いません。

すいませーん!何か私にもお手伝いできそうなことってありますかー!



●汝はアウェーなりや
「……こ、これは……」
 昼下がり。現地――荒野の端の草原に辿り着いた富波・壱子(夢見る未如孵・f01342)は、驚きに目を見開いた。
 その橙の瞳が映すのは、揃って耳をぺたんと寝かせ、きゅーんと怯えた声を漏らす、毛足の長い狼たちだった。その数、実に数十体。結束してかかれば壱子のような少女ひとり、怖がることもないだろうに、何やら岩場の影に隠れている狼までいる。
 草食って本当なのかな、疑うわけじゃないけど、もし万が一のことがあったら、可哀想だけどちょっぴり痛めつけて……。そんな物騒なことを考えてここまで来た壱子であったが、どうやらグリモア猟兵の情報に間違いはなかったようだ。というか、いくらなんでも怯えすぎである。 
(「もしかして、私のことをワイバーンの手下だとでも思って……」)
 いやいやまさか、と首を振る。壱子とて、平穏な人生ばかりを歩んできたわけではないが、いくら何でもドラゴンもどき扱いされる筋合いはない。……はずだ。

「うーん、とはいえ……どうしようかな?」
 困ったように口元に手を当てる。ここまで怯える狼たちを痛めつける気にもなれないが、壱子は狼の言葉など話せない。いっそ普通の狼なら、その辺の獣を倒してお肉を一緒に食べれば仲良くなれるかもしれないけど……。
 これまたバイオレンスな思考を振り払い、壱子はきょろきょろ、辺りを見渡した。分からないことは人に聞くのが一番だ。ちょうど近付いてきた白い髪の青年に向け、元気良く手を挙げて。

「すいませーん、何か私にもお手伝いできそうなことってありますかー! ……あれ?」


 灰色の髪の女性に声をかけられて、逆ナンパとは幸先が良いかと思いきや、今度はいきなり不思議そうな顔を向けられて。月輪・美月(月を覆う黒影・f01229)は、きょとんと首を傾げた。もしかして、自分が格好良すぎるせいで驚かせてしまったのだろうか。知り合いではないはず……いや、待った。どこかで見覚えが?
 内心の疑問に答えたのは、相手の女性の方が先だった。
「あのー、もしかしてキマイラフューチャーに、初詣に来てませんでした? 確か、妖精の子と一緒に……」
「ええ、帰りにすれ違いましたよね。一目で分かりましたよ、あの時の素敵な女性だって」
 さらりと答えると、最初から覚えていましたよ、と言わんばかりに唇の前で指を立てて決めポーズ。
 壱子の、他の女性といる時の思い出としてそれはどうなんだ、という視線には気付かないフリをして、簡単に自己紹介を済ませると。

「それで、どうしました?」
「あ、ああ……えーっとですね、私、狼の言葉は話せないので、何かお手伝いできたらなって」
 なるほど、と頷いて。
「では、まず僕が試してみましょう。こう見えても人狼、狼相手なら得意分野です。まずは任せて下さい。話を聞いてみれば、何かお願いすることも出てくるかもしれませんし」
 そう、にこりと笑い。壱子が見守る中、美月は手近な狼に語りかける。

「こほん。えーと……わん、わん(意訳:誇りある狼ならば、竜など恐れるに足りません)」
「Grr……?」
「がるる、ばう、わう(意訳:僕がぱっぱと追い払うので、毅然とした……)」
「BoW!? Woon!」
「えっ……そ、そう興奮せず、ちょっと落ち着いて」

「……あの、どうですか?」
 どうやら苦戦していると見たか、しびれを切らした壱子の問いに、美月は爽やかな笑顔を返し、
(「やっべ、さっぱり通じない……助けて母さん」)
 冷や汗。地元じゃないからだろうか、と自問してみるものの、考えてみれば当然だ。いい美月、あなたの知ってる狼って人狼なんだから、みんな人間の姿で日本語喋ってたのよ、通じて当然なの……心の中に響いた母の声に、もっと動物会話を練習しとけば良かった、と悔いても後の祭り。心なしか、目の前の草食狼も困り顔である。
 美月はこほんと咳払い、壱子に向き直って。
「えぇとですね……すみません、少し方言が強いみたいで」
「方言」
「はい。なので、ここは気合で……ボディランゲージを使いましょう。一緒に」
「一緒に。……一緒に!?」

 ――それから、女性の前で後に引けなくなった美月と、手伝うと言った手前、断り切れなかった壱子は、それはもう頑張った。
 四つん這いになってみたり、遠吠えしてみたり、手で狼の顔を作ってみたり。 
 まあさっぱり通じなかったのだが、どうやら敵意はないらしいということだけは伝わってきたのか、数匹の狼とは徐々に打ち解け始めて、ちょっと撫でさせてくれるようになったり……。

 いやなんだこれ。
 2人が目的を見失いかけた頃。

「おやおや、お困りのようですね」
 影が、もう一人。


「うん? あなたは……」
「あ、ゼンさん!?」
 不思議そうな美月と違い、立ち上がって草を払いながら、見知った相手の姿に驚いた声を上げる壱子。そこに立っていたのは金色の髪を七三分けにした長身の優男、ゼン・ランドー(余燼・f05086)だった。

「いやあ、それにしても平和な光景でしたねぇ。狼に見えて草食とは面白い。畜産化は出来ないものでしょうか? ……いっそバサリと毛皮に出来れば即金なのですが」
「いやいやいやいや、怖いこと言わないで下さいよ、狼の毛皮なんて需要ありませんって!」
「そうですよゼンさん、本当に草食みたいですし、さすがに……」
 さらりと口にした、サムライエンパイア出身の商人だというゼンの言葉に、美月と壱子は慌てて口を挟む。とはいえ、その反応は織り込み済だったのだろう。妖狐は肩を竦めて。
「まあ、確実にクレームが付きますねぇ。ここはステークホルダーとの今後の関係に配慮した、エコロジーなソリューションが求められます」
「狼ステーキもダメですって」
「違いますよ美月さん、ステ……ステッキ?」
 流れるような意識の高い商人語を聞き取れなかった2人は放っておいて、ゼンは懐から、秘密兵器を取り出した。それは彼が使役する管狐が住まう、竹筒――ではなく。
「……お金ですか? あの……古い時代劇で投げるやつ」
 壱子の呟きに、まあ、間違ってはいませんがねぇと頷き返して。
 ゼンは取り出した六文銭に飾り紐を結わえ付けると、不思議そうに様子を伺う狼の眼前に差し出すと、ゆらゆらと揺らし――

「眠れや、オラァ! 眠れ!!」
 クワッ。裂帛の気合による呪詛……もとい催眠術で、狼をあっさり眠りに落とした。

「えっ……なんか、私が想像したのと違う……!」
「で、でも、狼は安らかに眠ってますね……」 
「もちろん、害はありませんよ……というか、やはり寝不足だったのでしょう。私もここまで効きが良いとは……原価も掛からず大変お得ですね」
 くいっと眼鏡を持ち上げて。さて、次に行きましょうとゼンは周囲を見るが――。

「あっ……」
「……まあ、そうなりますよね。僕も怖かったですし」
 異様な光景に恐れを成したのか、せっかく心を許し始めていた狼たちは、また距離を取って震え上がってしまっていた。

「…………まあ、無事、1頭は眠らせた、ということで…………」

 気まずい沈黙の中。すやすやと、狼の寝息が響く……。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

藤塚・枢
SPD

生憎私は昔話の登場人物ではないので、アニマルなランゲージは分らない
説得や説明は他の人に任せるよ
好きだけれどね、動物は

地縛鎖で地域の情報を吸い上げる
ユーベルコードで上空から地形も確認しておく
他の動物と生存競争を比較的しなくても済む場所も、一応探しておくよ
そういう場所なら移住したいって言う可能性もゼロじゃないしね

地域と地形、それらの情報を加味した上で寝床周辺の整備
可能な限り地形の利用をする
他の生物から身を守れるようにカモフラージュとかね
いざという時の脱出経路も整備しておく
過保護かなって少し思うけれど…まあ動物は可愛いんだよ、仕方ないね
このあたりの説明は、狼さんとお話できる羨ましい人に任せよう


星海・耀
ふーん、いいじゃんいいじゃん、ちゃんと狼さんたちの事まで考えてるとか、あたしそーいうの嫌いじゃないよ。
それじゃーいっちょイイ感じの寝床作っちゃおっかなー。

なんて言ったものの、あたし的にはノープランだったり?
いやーノープランってほどでもないんだけど、よくわかんなかったり?
まぁ論よりやってみせろだっけ?そんな感じで。虹の呼び鈴(コール・ランダマイズ)。
米は米屋って言うじゃん?動物の寝床は、動物に作ってもらうのが一番かなーってねー。
なんかこー、草食系でもふもふで、狼さんと似たような大きさの動物とか、いっぱい出てこないかなー。
寝床作ってー、あと一緒に寝てくれてーってしたら、もう完璧パーフェクトじゃん?



●待雪草と愛多き妖狐
(「草食の狼、か。まるで絵本の登場人物のようだね」)
 藤塚・枢(スノウドロップ・f09096)は、胸中で独りごちた。視線の先に映るのは、狼の一団だ。枢がここに来た時には狼らしくもなく――そもそも草食の狼が狼らしいと言えるのか、彼女の感覚からすれば疑問だ――怯え切っていたものだが。
 今は何やら、金髪の妖狐の女性と打ち解けあった様子で、もふもふとスキンシップを取っているのが見える。
 枢とて動物は嫌いではない。少しばかり、同じように触れてみたい、あるいは彼女のように話してみたいと思わないではなかったが……。

(「生憎、私の方は――昔話のキャラクターじゃないからね」)
 動物と話すとか、癒やすとか。そういうものは――散々に手を汚してきた自分の領分ではない。いつも変わらぬ飄々とした笑みを浮かべたまま。自虐でも自嘲でもない、ただの事実として、そう思う。……そんな枢を、不思議そうに見つめる妖狐の視線には気付かずに。
 枢は、とんと地を蹴った。用いるユーベルコードは『颯の歩法』――またの名をシルフィード・ステップ。続けざまに空を蹴り、また蹴って、どんどんと高く昇っていき。

(「――ふむ。水場は右手、左手には森。村は背後だから……左の彼方の岩山、あの辺りがワイバーンの巣か?」)
 確認するのは周囲の地形だ。危険な生物が来るならどちらからか、利用できる地形はないか。逃げ出すならばどちらが良いか……そんな情報を、頭に叩き込んだ地形利用のノウハウと、そして「襲撃者側」としての知識を活かし、長いとは言えない滞空時間の中、てきぱきと分析していく。

「うわ、っとぉ! ……あいたたた」
 ……が、集中するあまり、高く跳ぶことにジャンプ回数を使いすぎてしまったようだ。着地の際の減速が足りず、少しばかり膝に衝撃が残る。
「わわ……ちょっとー、ダイジョブー?」
「うん? ああ、心配はいらない。君は狼たちの相手を続けていなよ」
 ついに心配げに駆け寄ってきた金髪の妖狐に、軽く腕を挙げてみせ。次いで、その挙げた上、ゆったりとした袖に隠れた手の中から取り出したのは――無骨な鎖だ。
 地縛鎖。大地からの魔力と、その地域にまつわる情報を吸い上げる鎖である。一説にはシャーマンズゴーストなるUDCがもたらしたと言われるそれを地面に打ち込み、周囲の情報を確かめる。
 地質、気候、それに植生。少々過保護かもしれないが、草食だと言うなら一年を通じての餌の状況も重要だろう。それらの情報を加味し、寝床を用意するならば――

「……。…………うん? どうかしたのかい?」
 ふと、思考を中断し、顔を上げれば。先程の妖狐が、豊かな胸を支えるように腕を組み。じぃ、とこちらを見つめていたのであった。


「べーつにー……?」
 のんびりとした口調で返しながら、小柄な――といっても自分と大差はないが――枢を見つめる「金髪の妖狐」。名を、星海・耀(Loveは愛を救う・f02228)と言った。
(「あたしそーいうの、嫌いじゃないよー? うん」)
 グリモア猟兵の少女の言葉に対して思ったことを、少しだけ思い出す。ちゃんと狼さんたちの事まで考えてあげるとか、そういうのは嫌いじゃない。むしろ良い。だって、Loveだ。世界にLoveが溢れているのは、良いことだと思う。
 目の前の、可愛らしい少女もきっと同じ。飄々とした様子ながら、彼女が随分と熱心に情報を集めているらしいのは、見ていればすぐ分かった。分かりはした、が。

「……んでー、調子はどーお? うまく行きそー?」
「ん……ああ、大体方向性は固まったよ。単純に屋根を付けるのが一番だろうね。恐らく、彼らは森の方から来たんだろう。ワイバーンといえば空からの襲撃者だし、いきなり見通しが良い場所に放り出されれば、不安になるのも……」
「おっけー。じゃ、あたしの方、手伝ってー?」
「……え?」
 きょとんとした顔に取り合わず、くるり、草食狼に向けて振り向いて。
「待って、私は動物の言葉は――」
「ダイジョーブだって、そんなのノリでぇ。さーて、『虹の呼び鈴(コール・ランダマイズ)』。今日のもふもふはー、誰かなー……っと」 
 抗議の声に取り合わず、取り出した虹色の鈴を、りぃんと鳴らせば。ランダムな動物を呼び出すそのユーベルコードの力で、どこからともなく現れる――

「おおー。えっと、なぁに、あなたたち。ビーバー? にしてはおっきいけど……」
「……いや、これは……恐らく、カストロイデスだね。とうに絶滅した……いや、異世界なら関係ないか……」
 3頭ほどの、尻尾まで含まれば全長2メートル以上はありそうな巨大なビーバー……枢が教えてくれたところでは、かすとろいです。後ろ足で立ってもらって触ってみれば、もふもふ。なかなかいい手触り。
「米は米屋って言うじゃん? 動物の寝床は、動物に作ってもらうのが一番かなーってねー」
「餅は餅屋、だよ。……しかし、一理あるか……ダムは作らなかったという説もあるが、器用そうだし……少なくとも、力はありそうだ」
「でっしょー? じゃあ、指示よろしくー」

 ――こうして。枢の集めた情報を基に、枢と耀、そして何よりカストロイデスたちの大活躍で。
 日が暮れる頃には、簡易的に空を遮り、それでいて狼たちの生活を邪魔しない、シンプルな拠点が出来上がったのだった。

 最初はカストロイデスを警戒してまた怯えていたものの、拠点は狼たちのお気に召したようで。
 カストロイデスを送還した後は、何頭かの狼が入れ替わり立ち代わり、拠点でくつろぎ、今は揃って寝息を立てていた。

「よーっし、いいじゃんいいじゃん。あと一緒に寝てくれてーってしたら、もう完璧パーフェクトじゃん?」
 腕を組み、満足げに笑う耀。
「ああ、お疲れさま。じゃあ、私はこれで……」
「じゃ、枢ちゃんはあっち側ね」
「……うん? いや、私はそういうのは……」
 戸惑う様子の枢に、悪戯っぽい笑顔を向けて。
「だって、もー真っ暗じゃーん? 泊まってくしかないっしょー。それに……可愛いなーって、見てたでしょ?」
「……まあ、嫌いでは……ないけれど」

 少し揺らいできた様子に、これは時間の問題だなー、と思いながら一足先に狼の隣にダイブ。もうすっかり慣れたのか、狼も耀のもふもふを受け入れてくれて。
 その感触を感じながら、耀は満足げに笑う。

 臆病な狼も、おっきなビーバーも、真面目過ぎる女の子も。
(「あたしは、みーんなが大好きだからねー」)
 みんな楽しくハッピーが一番だ。なにせ、Loveは愛を救うのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雪華・グレイシア
【WIZ】

草食の狼さん! そういう子たちも居るんですねっ!
夜も眠れないなんて可哀想です……私が少しでも役に立てるといいんですけれど……。

動物とお話する力はなくても音楽に感動したり、心が落ち着いたりする心は同じはずっ。
【歌唱】による歌声で【シンフォニック・キュア】を使用して、狼さんたちが気持ちよく眠れるように頑張ってみますっ!
同じようにする人が居たら、コーラスなんてできるか試してみましょう!
一人より二人、ですよぉっ!

…………大切な場所がなくなるのはきっと辛いことだろうからね


浅葱・シアラ
ひぅ……!
ワイバーンのせいで優しい狼さん達が怖がってる……
狼さんってだけで怖いけど……怖いのは狼さんも、村人も同じなんだ……
だから、シアたちが、なんとかしなきゃ……!


【WIZ】で判定
きっと動物たちも素敵な歌を聴けば落ち着いて眠ってくれるはずだよ

お母さんがいつも子守唄として歌ってくれた歌、狼さん達にも聴かせてあげる
「ひらりひらり、ふわりふわりと蝶々の羽ばたき、調べに合わせて静かにお眠り……」

歌を聴かせた後は他の皆が狼さん達を落ち着けている間に、ユーベルコード『紫光蝶』を使って、傷付いた狼さんたちの身体を癒してあげるね
子守唄を聴いて、身体の痛みがとれればきっと落ち着いてくれるよね


アリマ・バートル
【WIZ】
相手が狼という事なら、私でも少しは役に立てるかな?
他の動物ならともかく、狼相手なら言葉も通じるしね。

狼たちのところに行って、まずはお話。
相手の警戒心を解くためにも、占い師としての演技の顔じゃなく、
素の自分の顔で話かける。
まぁ今回は占いするわけじゃないし、キャラづくりする必要も無いしね。
色々と不安で言いたい事もあるだろうし、狼たちの話を聞こうかな。

ある程度話を聞いて落ち着いたようだったら、横笛で音楽でも奏でて気持ちを落ち着かせる。
【楽器演奏】もあるし、ちょっとは落ち着かせれると思うし。
あまり人前……狼前で演奏した事は無いから恥ずかしいけどね。

おやすみなさい
また朝にね


ミーユイ・ロッソカステル
――たとえ、言葉は通じなくとも。
音楽で気持ちを静めることくらいは、できるでしょう。
……えぇ、私の【歌唱】でも、誰かを安らげる事ができるのだと、今の私は知っているから。


……とはいえ、そうね。
私の編纂した魔歌では、安らぎには程遠いのは間違いないから。
……猟兵の歌い手ならば皆が知っている、この曲を。あなたたちに捧げましょう。
そう呟いて、「シンフォニック・キュア」を群れへと語り、聞かせるように周囲に響かせて。

……一般的な歌だもの、他に同じような事を考える方もいるのではなくて?
多ければ多いほど、より多くの狼へと届くでしょう。
……即興の合唱も、悪くはないわ。



●蝶は雪華の傍を舞い
 ――夜の帳が落ちた頃。

 浅葱・シアラ(黄金纏う紫光蝶・f04820)は、おっかなびっくりひらひらと、一番大きな狼の一団に向けて近付いていた。
 さすがに狼たちも、小さなシアラの身体を怖がる様子はないが、落ち着かなげな様子。集まる狼たちの視線に、シアラはびくりと震え上がる。

(「お、狼ってだけで、怖いよぅ……!」)
 ……怖い、けど。狼さんたちはこっちを見るだけで、何かをしてくる様子はない。やっぱり、優しい狼さんなんだろうと、そう思えば、少しは落ち着いてくる。
「怖いのは……狼さんも、村人さんも、同じだもんね……。だから、シアたちが、なんとかしなきゃ……!」
「その通りですよ、シアラさん!」
「ひぅぅぅっ……!?」
 いきなり後ろから声をかけられ、シアラは文字通りに飛び上がった。思わず狼の後ろに隠れ、いややっぱりここも怖いようとひらひら飛び回りながら振り向けば、
「……ぐ、グレイシア……?」
「ええ。ごめんなさい、驚かせちゃいましたねっ」
 えへへと笑うのは、分厚い猫を被った……もとい、女装……でもなくて……はにかんだような表情の「少女」、雪華・グレイシア(アイシングファントムドール・f02682)だ。

「グレイシア……なんでここに?」
 なんて思わず聞いてしまうけど、答えなんて決まっていて。
「もちろん、狼さんたちを落ち着かせてあげるために、ですよっ。夜も眠れないなんて可哀想ですもんね」
 それにしても、草食の狼なんているんですねっ。依頼先でもいつも通り、街で出会った時と同じように笑う友人の姿に、シアラも力が湧いてくるのを感じて。
「……えへ……あの、あのね、グレイシア……えっと……歌、を……」
「歌……? ……ああ! 丁度良かった。なら、一緒に歌いましょうかっ。一人より二人、ですよぉっ!」
「……! うん、うんっ……! あのね、歌ってみたい歌があるの……」
 我が意を得たりと頷いて、嬉しそうに説明するシアラ。

 シアが眠れない夜に、お母さんがいつも歌ってくれた子守唄。きっと、狼さんたちにも届くはずだから。

 ……懐かしそうに語られた、そんな思い出に。
「……グレイシア……?」
「あ、ごめんなさいっ。素敵な思い出だなーって。いいですよ、やりましょう! 合わせますから、お願いします。ふふ、私、これでもシンフォニアですから、任せて下さいっ」
 一瞬青い瞳に浮かんだ複雑な色を振り払い、グレイシアはにこにこ笑って、シアラを促す。
 戸惑いながらも歌い始めた小さな妖精に、じ、と視線を注ぐ。

 暖かい家族の思い出。過去のない自分。
 偽りの自分。相手を油断させる隠れ蓑として作り上げたに過ぎない、この姿。
 グレイシアの心には、二重三重の壁がある。それは自ら望んでした蓋だ。
 けれど。
(「……大切な場所がなくなるのは、きっと辛いことだろうからね」)
 少なくとも。今日この日、狼たちに向けた、ささやかな思いやりには、嘘はなくて。

 雪を溶かす春の訪れのように、柔らかく。
 2人の歌声が、重なっていく。
 
 ――ひらりひらり、ふわりふわりと
 ――蝶々の羽ばたき、調べに合わせて
 ――静かに、お眠り……

●先見の蒼狼と紅の歌姫
 そんな、雪華の少女と妖精の歌を、少し離れて見つめながら。

「キミは、行かないの? 確か、歌、得意なんだったよね」
「行くわよ。ただ、少し、曲に迷っているだけ」
 小さな岩に腰掛けて。アリマ・バートル(白い牝鹿は蒼き狼と交わり・f00656)は、傍らに立つミーユイ・ロッソカステル(微睡みのプリエステス・f00401)を見上げる。別段、大親友というわけでもないが。お互い滞在する宿に交流があり、互いのことくらいは知っている――そんな距離感だった。

「曲……というと?」
「……狼相手とはいえ。私の編纂した魔歌では、安らぎには程遠いでしょうから」
 ミーユイは、小さく肩を竦めてみせる。既に日は落ち、星灯りに照らされた今は、彼女の時間だ。そういう意味ではコンディションは万全なのだが――葬送曲、行進曲、鎮魂歌。彼女の得意なレパートリーは、子守唄というには剣呑が過ぎて。もちろん、彼女とて打つ手なしというわけでもないが、少しばかり、迷っていたところだった。
 そう聞けば、アリマはんー、と唇に手を当てて。
「昼間だったら、それらしいアドバイスもしたんだけど」
「昼間? ……あぁ……占い師、だったかしら」
「うん。まあ、今日はオフってことで。さっきまで、この調子で狼の話を聞いてあげてたから……今更キャラを戻すのも、なんだか恥ずかしいし」
 そう微笑むと――アリマは傍らの荷物に手を差し入れ……一つ、楽器を取り出した。
「それは……横笛?」
「そうそう。あまり、人前で吹いたことはなくて……恥ずかしいけど」
 本職のシンフォニアの前では、なおのこと。「お手柔らかにね」なんて断って、アリマは笛に、唇を当て。

 ――響き始めた涼やかな音色に、狼たちの、そしてグレイシアとシアラの視線が集まり……次いで、笑顔が漏れて。
 自然、始まった即興の演奏会に……ミーユイは、ほんの少し、責めるような、拗ねたような視線をアリマに向ける。
 まだ迷ってたのに……こんなもの、乗らないわけにはいかないじゃない。

(「私の歌でも、誰かを安らげることはできる。今の私は、それを知っているのだもの」)

 そして。ミーユイは目を閉じて、夜の静けさに染み入るような、透き通った声で歌い始める。
 笛の音色に、3人の少女の歌声が絡み合う。流れに任せた即興演奏(アド・リビトゥム)。途切れることなく静かに続く子守唄に、込められたのは狼たちへの慈しみと、シンフォニアたちの癒やしの力。
 疲弊しきった狼たちの身体に、暖かく、柔らかな光が流れ込んでいき――。


 歌声が、自然と終わるのを待ってから。
 アリマは、そっと横笛から唇を離す。
 見渡せば、狼たちは皆ぐっすり。怯えていたことなんて忘れたように、眠りについていて。
 その様子に、彼女は安心したように微笑んで。

「――おやすみなさい。また、朝にね」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マロン・チェスナット
狼さんって肉食のイメージがあるからね怖がられるのは解るけど
この狼さんは草食系で無害なのにね

人間と狼さんのお互いの平和にために狼さんを説得してみましょう
人間や牛さんにも狼さんは怖くない存在だと教えたい

三大欲求の中で一番に重要な睡眠欲を満たしてあげる
お日様をいっぱい浴びた草を寄せ集めふかふかの寝床を用意

狼さんに話しかける
狼さん狼さんちょっといいかな
不安な気持ちはわかるけど遠吠えは控えてもらえないかな
狼さんの遠吠えで怯えている動物さんがいるのでお願いしたいの
怯える気持ちは狼さんもわかるよね

狼さんに触っていいか許可を取って撫でる
撫でて狼さんの心を落ち着かせる

狼さんと添い寝をして一緒に寝てしまう


百鬼・葛葉
元野狐なのでどうぶつの声は何となくわかりますっ!
というわけでママとして狼さんを甘やか癒してあげますっ!
まずは歌唱を使いつつシンフォニックキュアで癒しながらせっきん
誘惑や優しさで柔らかく微笑みつつご飯になる…そうですね、「人が作った」とわかる干し草を持っていきましょう
さぁ、たんと食べるんですよー
おなかがくちくなったら、ゆったりと歌を歌いつつ、皆をブラッシングですっ!
ついでにこの干し草はあそこの村の人が作ってくれたんですよー。とか、仲良くなるときっといいことありますよっ!
とやさしく語りかけます
あんまり吠えちゃうと怖がっちゃう点を教えてあげたりしつつ…村の方と狼さんの仲介が出来ればなと思ってますっ!



●7と6とオオカミ村
 くー。くー。すぴー。
「……………………はっ」
 寝顔を照らす淡い日差し、どこからか聞こえる鳥の歌声。朝の訪れを察し、わずか7歳のキマイラ少年、マロン・チェスナット(インフィニティポッシビリティ・f06620)は、枕代わりに抱き着いていた草食狼の隣でぴょこんと飛び起きた。
 ごしごしと顔をこすりながら、辺りをきょろきょろ見渡せば。一角に敷き詰められているのは、いい匂いのする、柔らかい草を集めた手製の寝床。……マロン自身が昨夜こしらえた、狼たちのための天然のベッドだ。
 そこまで思い出すと、マロンはにっこりと笑い。
「ねえねえ狼さん狼さん、どうだった? 昨夜はよく眠れた?」
 動物と話す技術を遺憾無く発揮して、話しかける。

(「人間と狼さんのお互いの平和のためには、まず狼さんに、人間は怖くないって教えてあげないとね」)
 そう考えるマロンだが、狼たちは何やら顔を見合わせる。昨夜は、マロンや他の猟兵たちのお願いや努力もあって遠吠えを控えてくれたようだが……彼らが去った後のことを考えれば、まだまだ不安は尽きないのだろう。住み慣れた地域を離れ、追いやられてきたのだから、無理もない。 
 うーん、もうちょっと説得してみようかな。マロンがそう考えた矢先。

「はーい、朝ご飯ですよーっ」
 ぱんぱん、と手を叩く音とともに響いたのは、幼い声。こちらはなんとマロンを下回る6歳の妖狐少女、百鬼・葛葉(百鬼野狐・f00152)だ。とはいえ、その振る舞いは、そこまでの幼さを感じさせることはなく。
 そして彼女の足下にあるのは、たっぷりの干し草の山だった。狼たちは、普段干した草を食べることがないのだろう。少し戸惑った様子だったが……
「ほらほら、どうぞ。たんと食べるんですよ」
 葛葉の柔らかい笑顔に促され、まずは一口。一頭が恐る恐る口にすれば、そこからはもう、我先にと干し草の山に取り掛かり始めた。
 なお、葛葉に動物の言葉は分からない。それでもなんとなく通じているのは、元野狐としての経験……そして何より、その小さな身体から溢れ出る謎の母性……いわゆる一つの、バブみという物のお陰だった。
「ふふっ、おいしいですか? その草はね、あそこの村の人が作ってくれたんですよー。仲良くなると、きっと良いことがありますよっ!」
 村の方をジェスチャーで示しながら、さりげなく勧められるそんな言葉に……狼たちの耳がぴくぴくと動く。
 その様子を見ていたマロンもまた、なるほどという顔をして。
「仲良く、できるかな……? 人間も牛さんも、怖いのは同じなんだよ。怯える気持ちは、狼さんもわかるよね」
 そう語りかけながら、一言断ってから、狼の頭を、落ち着かせるようによしよしと撫でる。狼たちは、緩やかに尻尾を振り始め。
「うんうん、良い子っ。じゃあ、ご褒美に、食べ終わったらブラッシングをしてあげますねっ!」
 説得の成功を感じた葛葉は、そう、にっこり笑うのだった。


 ――しばし後。
 ワイバーンの件が片付いた後も、草原に住み着いた狼たちは、近隣の村人と、付かず離れずの距離を保ちながらも、友好的な関係を築いていき。
 時には村人が狼たちの住処を修理してやったり、時には狼たちが吠え声で村に近付く害獣を追い払ってやったり。
 そんな光景が評判を呼び、後には、「オオカミ村」なんて呼ばれるまでになったというが――

 それはまた、別の話である。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 冒険 『竜の卵回収調査』

POW   :    あえて親の竜の前に姿を表し、親の竜の気を引き付ける

SPD   :    親の竜の隙を見て、気づかれる前に卵を回収する。

WIZ   :    魔法で自らの匂いや気配を消して近づく。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●飛竜の卵を盗み出せ!
 そんなこんなで、なかなかの重労働だった狼の対処も終わり。
 そこからたっぷり半日かけて森を抜け、猟兵たちはワイバーンの住む岩山に辿り着いた。
 岩と岩の隙間が狭い入り口となっていて、なんとかここから侵入することができそうだ。恐らくワイバーンは、空から出入りしているのだろう。

 さて、どこか道化たグリモア猟兵のメイドの言葉を覚えているだろうか? 
 攻撃は原則禁止、方法は自由。中の細かい様子は入ってみるまで分からない。
 卵は一度盗み出して森の中にでも隠してしまえば、少なくともこの後の戦闘が終わるまでは大丈夫だろう。

 ――では、ミッション開始だ!
西園寺・メア
行き当たりばったりでどうにかなる相手じゃなくてよ
ひとまず偵察をしてくるわ(WIZ)

迷彩でコソコソと隠密しつつ聞き耳、目星でワイバーンの巣の情報収集
風上などワイバーンに気付かれないように注意して卵の位置、ワイバーンの位置、隠し場所の森の位置、その他障害になり得る情報などを得て一旦戻り、コミュ力を応用して仲間と情報を共有する


「こんな大きい卵を運ぶだなんて、悪目立ちもいいところじゃないかしら?ひとまずこれで誤魔化しましょう」
盗み出す卵に迷彩を施し、視覚的に誤魔化して運び出す



お嬢様思考、アドリブ歓迎


ミーユイ・ロッソカステル
……いえ、静かにしろ、と言われてもね。
……どうしろと、言うの。
珍しく、本当に珍しく、心から困ったという表情を浮かべては。


まあ、やれることはやりましょう。
今回に相応しい歌は……これかしら。
と脳裏に浮かべるは、「鮮血令嬢 第1番」
勿論、目の前で歌う訳にはいかないから、事前に済ませてから、になるけれど。

使役するは、諜報用の、血だまりのような眷属。
ワイバーンの動きを見晴らせつつ、得た情報は逐一、卵を運搬中の仲間へと伝えましょう。

……眷属がワイバーンに見つかりそうになったら? そうね……。
巣の中ならば、食い散らかした餌の滓、そこから飛び散った血の跡くらいはあるでしょう。
そういった物に紛れさせましょうか。



●令嬢たちの調査
 巣の「入り口」の様子を、少し離れて窺いながら。
「……どうしろと、いうのかしら」
 珍しく――本当に、珍しく。
 森の中、わずかな木漏れ日すらも厭うように日傘を差した女は、困りきった表情で呟いていた。
 ミーユイ・ロッソカステルは、歌姫である。衆人の注目を浴び、自分という存在に惹き付けてこそ、その歌声は真価を発揮する。あらかじめ勧められたような、自らの匂いや気配を消す魔法など、心得てはいなかったのである。
 無論、あえて竜の前に姿を表し、気を引き付けた上で、その豊富な魔力を込めた魔歌を活かす道も考えられたかもしれないが――
「……卵を奪われた親、となれば。そう簡単に、歌に心を奪われはしないでしょうね」
 そういう意味でも、自分に向いた戦場とは言い難い。そもそも攻撃は禁止だというし。
 しばし迷った後。ミーユイは目を閉じて、小声で旋律を紡ぎ始める。
 どれほど迷ったところで。彼女にできるのは、歌うことだけなのだから。

 曲目は、ブラッディ・メアリー。『鮮血令嬢』が第1番。

 ――血だまりの中に、たゆたうは
 ――真っ赤な真っ赤な、いとし子よ

 恋人の耳元に囁きかけるような、かすかな歌声。
 それに呼応するように足下に血溜まりが生まれ、そこから這い出したのは、掌大の赤いスライム。ミーユイの使役する使い魔、眷属だ。

 ――乙女の悲鳴を、ゆりかごに
 ――呪われ生まれし、落とし子よ

 閉じたままの瞼の裏に、周囲の光景が映し出される。視界をはじめとする五感の共有、それがこの使い魔の能力だ。
 スライムはぴょこぴょこと跳ねると、人間がギリギリ通れる程度の大きさの入り口をゆうゆうとくぐり、素の中に潜入していく。使い魔による偵察こそ、ミーユイの選んだ選択肢。

 ――血だまりの外へ、旅立つは
 ――されど優しき、いとし子よ

 通路は、やはりやや狭く、思ったよりも奥まで続いていた。視点であるスライムの歩幅が小さいとはいえ、卵を担いで逃げる際には注意すべきだろう。
 進むことしばし、スライムはようやく、開けた空間に飛び出して。

 ――乙女の涙を、拭わんと
 ――お前の重ねし、いさおしは……

(「……あら? あれは……」) 
 ミーユイの/スライムの、視界に入ったのは――……。


(「行き当たりばったりでどうにかなる相手じゃなくてよ。まず必要なのは、調査だわ」)

 ワイバーンが居座る巣の中で。西園寺・メア(ナイトメアメモリーズ・f06095)は得意げな顔で胸を張り、腕を組む――のだが、その顔も、姿も、誰にも見えない。ただ、身動きする度、ジジッと微かに周囲の空間が揺らいで見えるだけだ。
 VR迷彩外套。自身の姿を周囲に溶け込ませるように、周囲に随時VR――空中に投影するという意味ではむしろ拡張現実、ARだろうか――映像を展開し、隠密性を劇的に向上させる、メアお嬢様自慢のバーチャルレイヤーである。
 骨の影に隠れてだまし討ちする戦闘スタイルのお陰か、見た目に似合わず本人の気配の消し方もなかなか堂に入ったもの。おかげでワイバーンに気付かれることなく、巣の偵察を始めることが出来ていた。

(「……とはいえ、酷い匂いね。用が済んだらさっさと戻りたいものだわ……」) 
 顔をしかめて周囲を見渡す。ワイバーンが出入りするだけあって、巣の空間はそれなりに広い。これなら戦闘にも困らないだろう。目立った障害物はないが、岩肌はゴツゴツと切り立っており、得意な者ならばあれこれと利用することもできるだろう。地上には他の入り口がない、洞窟のような雰囲気だが、上を見上げれば大きく青空が覗いて見えた。
 匂いの原因は…‥隅に積み重ねられた獲物だろうか。野生の動物であろう、鹿や熊……それに、狼の死骸。子供が生まれた後に食べさせるのか、卵を温める間の食料なのかは分からない。腐っている、というほどではないのだろうが、人間の嗅覚には、あまり快適な空間ではないと言えた。

 ――と。そうこうしている内、卵の上にうずくまっていたワイバーンが、ゆっくりと身体を起こした。

(「あら? お陰で卵が見えるわね。ひとつ、ふたつ……」)
 背伸びして巣の方を覗き込む、迷彩中のメア。
 ……ふと、影が差したように感じて、上を見上げると。
 そこにはワイバーンが、ずしんずしんと近付いてきていて。

 ブォン。

(「っきゃあああああ!!?」)
 なんとか悲鳴を上げることなく、爪の一撃をかわせたのは奇跡と言っていいだろう。……お陰でごろごろ、不潔な地面を転がって、服が盛大に汚れてしまったが。

(「な、な、な……何ですの!? 気付かれた!?」)
 心臓をバクバク鳴らしながら見上げれば、どうやらそうでもないらしく。ワイバーンは、手応えのなかった空間を訝しげに見下ろすと……顔を上げ、ふんふんと鼻を鳴らし。
(「……に、匂い……!」)
 まずい、見つかる。そう直感し、咄嗟に出口に向けて駆け出した判断は、果たして正解だったかどうか。ジジっと揺れる迷彩に違和感を持った様子で、ワイバーンはもう一度、メアの背中に向けて爪を振り下ろし――。

 そのメアを。物陰から飛び出してきた、鮮血のような真っ赤なスライムが突き飛ばした。

(「痛っ……ひああ、臭……っ!?」)
 心の中で珍妙な悲鳴を上げてしまったのも仕方ない。突き飛ばされたメアは、先程見たばかりの、腐りかけの狼の死骸に突っ込んでしまっていた。自慢の髪も服も酷い有り様である。
 もっとも、自分の身代わりになって竜の爪にかかり、バラバラに弾け飛んでしまった赤いスライムの姿を見れば、あまり文句も言えないが……。

 とはいえ、不幸中の幸いか。死骸に突っ込んだことでメア自身の匂いが誤魔化されたのか、ワイバーンはひとまず、スライムを蹴散らしただけで納得してくれたようで。ずしんずしんと足音を立て、卵の下へ帰っていく。

(「……こ、これ以上は危険ね……あと、せめて髪拭きたい……」)

 あわよくば卵も盗んで……と思っていたが、現状では難しい。もう一度見つかる前にと、メアは巣から退散するのだった。


「……なんと、いうか……素敵なドレスね?」
「あなたのスライムにやられたのだけれど!? いえ、助けて頂いたことには礼を言うけれど……!」 

 巣から出てきて迷彩を解除した姿に引き気味のミーユイと、文句たらたらのメア。
 令嬢たちの、身体を張った――のは片方だけだが――調査によって得られた貴重な情報は、2人自身の口から、猟兵たちに拡散されていく……。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

石動・劒
POW
腕試しに竜の卵を盗って来いってどういうことだよメイドの。
いやビビってるとかじゃなくて。いや竜ぐらい楽勝だってのマジ。……良いだろうやってやろうじゃねえか!!!!!!

というわけで誰かしらと組んで、挑発で囮役を買って出る。
よお飛竜の。ちと手合わせ願うぜ。竜ってのは強いと聞くが、どの程度お前の攻撃が俺に通用するのか。それを見せてくれよ。
第六感と戦闘知識を頼りに、残像と見切りで回避に専念して時間稼ぎするぜ。
クソっ、攻撃しちゃあならねえってのもまだるっこしいな……。俺だったらもう数回はあの素っ首切り落とせて――ああ?盛り過ぎ?嘘じゃねえってマジだから!!クソ、今度会ったらあのメイドの許さねえ……!


月輪・美月
富波・壱子(f01342)さんと協力して行動します
一章で仲良くなった僕らのコンビネーションなら余裕です

重い物を女性に持たせるなんて、心苦しい決断ですが、危険な目にあうよりはいいでしょう、という事で

まずは僕が囮役として潜入します。見つからずに卵を運び出せればよし。おそらくワイバーンが守っているでしょうから、相手を誘い出すように、外へと逃げます

もちろん、ワイバーンに攻撃しないよう注意しながら、こちらに引きつけ、
壱子さんからの合図があったら、影に潜って離脱します。あとは他のみなさんと合流という流れになるでしょう

卵を落としそうになった時など、影から手をだして上手くフォロー出来たらいいですね


富波・壱子
月輪・美月(f01229)君と参加。よーし、今度こそ役に立つからね!

それじゃまた後でねと笑顔で手を振って囮役の美月君を見送るよ
囮役なんて心配だけど、美月君ならきっと大丈夫!頑張って!

美月君に釣られてワイバーンが巣から離れたら、その隙に巣に侵入してユーベルコード『あなた達をずっと忘れない』発動
現れた少年少女の影と協力して卵を運ぶね
さぁみんな、手伝って!運んで運んで!

運び終えたらチョーカーに触れて戦闘用人格に交代。ユーベルコード『あなたを決して逃さない』による瞬間移動で囮役をこなしている美月と合流します

美月、こちらは任務完了しました。一度味方と合流しましょう

伝え終えたら一足先に瞬間移動で帰還します



●影渡り、影法師、そして
(「うわ、こっわ。なんかもう立ち上がってるんですけど……」)
 こっそり巣の中を覗き込んだ月輪・美月は、中の様子に顔を引きつらせた。
 外で素敵な女性たち――特に立派な物をお持ちな一人はそろそろ見慣れてきたわけだが、視線が痛い気がしたので頑張って顔だけを見つめた、美人だった――から聞いた情報と、少しばかり食い違う。ワイバーンは何か気がかりなことでもあるのか、立ち上がり、落ち着かなげに巣の周りを歩き回っていた。

「気付かれずに卵を……とは行きそうにありませんが。まあ、都合は良いですね」
 ふうと溜め息一つ残し、姿勢を低く、駆け出す。
 巣の真ん中に走り込めば、当然警戒体勢のワイバーンはすぐに気付き、咆哮を上げて突進してきた。
 がちりと食らいついてくる巨大な顎を、下をくぐりぬけるような飛び込み前転の動きでかわし、そのまま足の間をすり抜けて。
「やはり、これを女性に任せるわけにはいきませんね……少し、僕に付き合ってもらいますよ!」

 彼にとって幸いだったのは、卵から離れないためだろう、ワイバーンが飛び上がる素振りを見せないことだった。
 主な攻撃手段は牙と蹴爪。気をつけるのは、長い尾による薙ぎ払いくらい。それにさえ注意すれば、あとはただ図体が大きいだけの、地を這う獣と何も変わらない。で、あるならば――他ならぬ美月にとって。一人で倒せと言うならともかく、『時間を稼ぐだけ』なら、容易い相手だ。
 ――巨獣の牙と相対する修練ならば。恐らく生涯来ることもないだろう「万が一」に備え、親よりよほど厳しい伯母の手で、散々叩き込まれてきたのだから。

「とはいえ、心臓に悪いことに変わりはないんですけ……どっ!」
 ぶぉぉん、と振るわれた巨大な尾を、思い切り跳躍して飛び越えて――わずかにかすってしまった衝撃にバランスを崩し、ごろごろと巣の地面を転がって。続けざまに振り下ろされた踏みつけを、さらに転がってかわしながら、なんとか立ち上がる。
 今のは危なかったと、美月の端正な顔を冷や汗が伝う。一切攻撃してはならないというのは、やはり厳しい条件だ。

(「――ま、まだかかりそうですかね……」)
 ちらりと。美月が視線を向けた先には――。


「よーし、何とか気付かれずにここまで来れた……!」
 富波・壱子は、ワイバーンの卵を前に、ほうと安堵の溜め息をついた。
 寝床なのだろうか、集められた草木の影に隠れて様子を窺えば、今もワイバーンは美月を追いかけ回していた。よくよく見れば、こちらに注意が向かないよう、美月が慎重に立ち回っていることが見て取れた。
 そう。美月が囮となり、壱子が卵を盗み出す……それが、狼たちとの対話で協力し合ったことからすっかり打ち解けた、2人の立てた作戦だった。
(「美月君ってば。『重い物を女性に持たせるなんて、心苦しいですが』なんて……」)
 どう考えたって自分の方が危ない役割を引き受けたのに。その言い分を思い出して、思わずくすりと笑ってしまう。
 けれど、その気遣いを無駄にするわけにはいかない。彼を信じてはいるものの、いつまでも逃げ回り続けることはできないだろう。

 目の前の卵を見れば、確かにこれはなかなか、大きい。自分の腕力で運ぶのは大変かもしれない。けれど。
「大丈夫。私に出来ないことでも、わたし達なら……!」
 ユーベルコード『あなた達をずっと忘れない(ネームレスチルドレン)』。その発動と共に、壱子の周囲に現れたのは、18人の、小さな、年端も行かない少年少女の姿の影法師だった。
 彼ら彼女らの正体を知る者は、この場には壱子をおいて他にない。けれど、あるいは彼らは、壱子と共に、あの暗い――。

「――みんな。この卵を運んで! 1人じゃ重いだろうから、協力してね」
 壱子の呼びかけに、それぞれ頷いて。影法師たちは、4人5人と集まって抱えあげるように、よたよたと卵を運び出していく。その数、実に4つ。ゆっくり、ゆっくり、巣の端の影を伝うように。美月に気を取られたワイバーンに気付かれぬように。

 壱子は物陰に隠れたまま、その様子を伺う。自分も、とは思ったが、それでは美月から離れすぎてしまう。
 美月の方にも、影法師たちにも、咄嗟のフォローに回れる役割が必要だった。
 恐らく時間にしてわずか数分、けれどその何十倍にも感じる「待ち」の時間。何度か危ない場面はあったものの、影法師たちは、なんとか卵を巣の出口まで運び。

 ――そして。最後の影法師が巣を出た瞬間。壱子は、首に嵌めた革製のチョーカーに触れた。


「美月、こちらは任務完了しました。一度味方と合流しましょう」
 駆け寄ってきた壱子の様子が、先程までとは別人のような雰囲気を纏っていることに、美月は軽く目を瞠り――蹴り上げられた飛竜の爪から慌てて飛び退きながら、それどころじゃなかった、と我に返る。

「壱子さん、こちらへ……!」
 伸ばした手を取ってくれた壱子の手をしっかりと握り、2人の足下の影が一つに繋がった瞬間。とぷんと、2人の姿が影に沈み始める。
 『影渡り』。父から受け継いだ、影狼の力だ。影の中に入るだけでなく、近くの影から出ることもできる、この力でなら巣から離脱を――

「――美月、後ろを!」
 壱子の鋭い注意に思わず振り向けば。飛竜が腰溜めに身を低くし、爛々とした目でこちらを睨みつけていた。
 これまでになかった動き。恐らく、気付いたのだろう。自分が騙されたことに。幾つもの卵が奪われたことに。今この時を逃せば、自分たちに逃げられることに。
 そして飛竜は全身の筋肉を膨れ上がらせ、翼を広げ――

 ――間に合わない……!


「よお」

 果たしていつのまに間合いを詰めたのか。
 飛竜の目と鼻と先に、男の影が現れた。
 思わずのけぞる飛竜はバランスを崩し、唯一の追撃の機会を見失い。

 美月が壱子と共に、影の中に消えるまでの刹那の間――狼の金瞳に映っていた姿は。

「やるじゃねえか、執事の。ここは俺に任せときな」

 その身を包むは臙脂色の陣羽織。腰にはただ一振りの愛刀を佩き。
 飄々と飛竜の前に立ちはだかる――
 侍の、背中だった。


(「腕試しに竜の卵を盗って来い、たぁ――どういうことだと思ったけどな、メイドの」)
 抜くわけにはいかぬ刀の柄に手を置いて、石動・劒(剣華上刀・f06408)が思い返すのは、此度のグリモア猟兵である、態度と胸のでかいピンクのメイドだ。
 少し戸惑ってみせれば、ビビってるだの、予知がなければ自分がやるのにだの、出来が良いのは顔だけだの、好き放題。
 ……そんなこと言ったっけ? 言ったかもしれん。言ったわ。そういうことになった。
 とにかく売り言葉に買い言葉で、こうして竜と相対することになったのであった。

(「ま、お陰で面白いモンは見られた」)
 身一つで竜の攻撃をかわし続け、恐らく少女と影法師に注意が向かぬよう、気を引き続けていた白い人狼の青年。足運びを見れば分かる。恐らくあの彼も、相応の剣腕を身に着けていることだろう。一度手合わせしてみたいところだが――

「まずはお前だな、飛竜の。ちと手合わせ願うぜ」
 竜ってのは、強いんだろう?
 にぃ、と笑って言い放った侍の言葉を押し潰すように。怒り狂った咆哮を上げ、竜が飛びかかる。

 蹴り上げるように振るわれた爪を、わずかに顔を後ろに傾け、わずか1寸足らずの見切りでかわし。
 続けての振り下ろしからは、とんと後ろに跳ねて逃れ。
 上から襲い来る牙に手を添え受け流し。飛竜がそのまま地面に突っ込んで土砂が舞い上がれば、力の流れに抗うことなくふわりと跳んで――

 間髪入れずに薙ぎ払われたワイバーンの尾が、宙に浮いた劒の身体を消し飛ばす。

「――ま、残像だけどな」
 振り抜かれた尾の上に、ふわりと降り立ち。
 柄に手をかけ、一刀霊断――

「……は、しちゃダメなんだったか!」
 思わず抜きかけた刀をキンと収め、飛竜が苛立ち紛れに振った翼を飛び退ってかわし。そのまま2歩3歩と距離を取る。
「攻撃しちゃあならねえってのもまだるっこしいな……抜いていいなら、もう数回はあの素っ首を切り落とせてるんだが――」
 呟けば、なんとなしに思い浮かぶメイドの笑顔。あらあら、あらあら、随分とまぁ大風呂敷ですこと。三味線を弾くだけなら猫でも出来ますわよ、にゃん、にゃあん。
(「クソっ! 今度会ったらあのメイドの、許さねえ……!」)
 なぜ彼がここまでメイドに対抗心を燃やしているのかは定かではないが、それはともかくとして。
 
「とはいえ実際、どうしたもんかな……」
 美月たちはもう抜け出した頃だろう。となれば自分もとっとと退散したいところだが、さすがにそこまでの隙は見えない。
 何か一押しあれば……こちらに向き直ったワイバーンと睨み合いながら、そう思った瞬間。二つのことが起きた。

 一つ――劒の足下の影が、とぷんと水面のように揺らぎ。
 二つ――あらぬ方から飛来した白い何かが、ワイバーンの片目に貼り付いた。


 鬱陶しげに長い首を振り、数秒後、飛竜の視界が戻った時。
 そこには最早、侍の姿は何処にもなかった。
 走って逃げたにしては早すぎる。文字通り、影も形もない。状況を理解出来ず、飛竜が怒りの咆哮を上げる中で。

 つい先刻、「彼女」の視界を遮った何かが、ひらり、ひらりと舞い落ちる。
 それは、白いカードだった。無地の――否。そこに記された文字は。

『予告する。キミの卵を、頂くよ』

 怪盗の、犯行予告。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雪華・グレイシア
【SPD】

それじゃ……ここからは怪盗の時間といこうか
怪盗衣装へ装いを変えて、意識を切り替えるよ

怪盗らしく自分のスキルで盗みにいくとしよう
ワイヤーガンから移動用のワイヤーを発射して、【クライミング】【ロープワーク】で岩山を登ろう
ワイバーンに見つからないよう【地形の利用】で【目立たない】よう岩陰に隠れて、移動する時も音がでないよう【忍び足】

しばらくはワイバーンの動きを観察
巣から離れるタイミングを見計らって、巣へと飛び込んで卵を【盗む】よ
盗んだら【逃げ足】で【ダッシュ】
勿論卵は壊したりしないよう注意
盗んだ物を壊してしまうことほど格好悪いことはないからね
盗んだ卵は森の中にでも隠しておこうかな



●怪盗はワイバーンネストのうえ
 ――時を、少し遡る。

 怪盗衣装へと装いを変えた雪華・グレイシアは。認識阻害の魔術が込められた黒いマスク越しに、彼らの戦いを見つめていた。
 飛竜を引き付ける見知った青年。その隙に卵を盗み出す少女。彼らの撤退を助けるべく飛び出し、今、竜と対峙している侍。その、全てだ。

 無論、何も遊んでいたわけではない。
 ワイヤーガンから移動用のワイヤーを発射して、登攀し、目立たないよう頭上に潜む。そして、機を伺う。
 無論、風下を位置取ることも忘れない。竜にとって、この頭上の隙間は通り道に過ぎず――だからこそ、「自分だけが通れる」という思い上がりを生む。優れたマジシャンは、こうした意識の隙をこそ狙う。怪盗も同じことだ。
 宝を盗み出すとなれば、怪盗の本分。その段取りに隙はなく、無駄はない。さすがに卵を抱えた竜は神経が過敏になっているのか、自分に気付きはしないまでも、落ち着かない様子を見せていたが――大した問題ではなかった。

 ――だが、誤算があるとすれば。

(「……おいおい、マズいんじゃねーか?」)
 内心の言葉は少々口悪く。
 この時。戦況の全てを把握しているのは、恐らく、グレイシアだけだった。
 竜の攻撃を見事に見切り続けるも、間合いを離しきれない劒。
 そして――息継ぎのように断続的に姿を現しながら、影を伝い近付いてくる美月。侍の撤退を助けに、わざわざ戻ってきたのだろう。お人好しめ、とは思うが、それは分かる。けれど、
「竜も、焦れている……ぶっつけ本番で、タイミングを合わせられるか……?」

 当然のこととはいえ、劒が美月の動きに気付いていないのが痛い。
 戦場を俯瞰する怪盗の目には、五分五分だと映った。
 もし、しくじれば――侍一人ならかわせていたはずの攻撃をかわし損ねる、最悪の結果もあり得るだろう。
 そうなれば、共に知らない顔ではない、美月と劒は――。

「まあ、いいか。……群れるのも協力するのも、得意じゃない」
 呟き。自分の仕事をするだけだと、一枚のカードを取り出した。
 それは、用意はしたものの、使うつもりはなかった予告状だ。当然だろう、知性のない獣を相手に予告状を出しても、何の意味もない。今回に限れば、リスクの方が高すぎる。
 それでも投げ放ったそれは、正確な投擲技術に支えられ、ワイバーンの片目を塞ぎ――偶然にも、狙い澄ましたかのようなタイミングで、2人の撤退を助けることになり。美月は劒を影に引きずり込み、巣の出口に消えていく。

 そして、ワイバーンが怒りの咆哮を上げた瞬間、グレイシアもまた、飛び出した。
 竜の死角を狙い、ロープに捕まり振り子のようにぶら下がり、巣の中を一気に横切って――着地した時には、その小脇に大きな卵を一つ抱えて。

(「予告通り。頂くよ、君の卵を」)

 そして、勢いを殺さぬまま駆け抜ける。怪盗は最後までワイバーンに気付かせることすらなく、華麗に卵を奪い去り、巣から走り出てみせた。
 予告状を放ったのは、何も彼らへの助け舟というわけじゃない。ただ、あのタイミングなら効率良く激昂させて、隙を作ることができると考えた。それだけだ。

 ――そう。ただ、それだけだ。 

大成功 🔵​🔵​🔵​

詩蒲・リクロウ
ふふ、囮は任せてください!目立つ自分なら親のワイバーンを惹きつけるのにもってこいです!
ワイバーンぐらいならどうって事ありませんとも!みなさん、その隙に卵をお願いします!

___ぁぁぁぁあああああ、うわぁああーーー!!!
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ、すごい見てる、すごい怒ってる、すごい来てる!!
ひ、ひぇえ、どうして此処こんなに狭いんですか!?うひょああ!

ああぁぁああああ_____(木霊する情けない悲鳴)

(姿を晒して、ワイバーンの気を惹きつけ、遠くに逃げます。
堂々と晒すのではなく、下手な隠形でバレた風を装います。そのまま必死にチェイスします。思ったより迫力満点でビビり散らします。)


ゼン・ランドー
ここは親の目を盗んで【サイコキネシス】でさっと卵を運び出してしまいましょう
必要とあれば私自身が親の竜の気を引き付ける役をやってもよいのですが……
マルチタスクになりますし出来れば他の方と連携して挑みたいところですね

卵運び出す。までは【サイコキネシス】で問題ないでしょうが
そこから先、森まで運んで隠す。は得意な方に任せてしまうのも良いでしょうねえ。

正直、ドラゴン相手にこちらは攻撃禁止の大ハンデ
目をつけられて追い回されるのは避けたいところです。

中々にハードワークではありますが道中でひらめいた
「わくわく草食オオカミ喫茶~やさしいおおかみさんとふれあおう~」
で一発当てるため頑張るとしますか!


神威・くるる
囮になってくれてはる人らに隠れてこっそり潜入
沢山の猫ちゃん達を引き連れて卵のもとへ

途中でうっかり見つかってもーたら【催眠術】
あんたはんはなーんも見てへん。ええね?
【誘惑】出来るんやったらちょっと試してみたい気ぃもするんやけどなぁ

あややー、大きな卵
こないに大荷物、うちの細腕では抱えられへんさかいに
猫ちゃんらにお願いしよ
一ヶ所に猫ちゃんらを集めて
ふぅわりその背中に乗っけて
落とさへんように気ぃ付けおしー

……どうでもええけど
こないに大きな卵で玉子焼きとか作ったら
どんなん出来るんやろねぇ?
やらへんけど……ふふ



●卵奪取数、現在5
「ぁぁぁぁあああああ、うわぁああーーー!!? 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬーーー!」
 詩蒲・リクロウ(見習い戦士・f02986)は、悲鳴を上げて逃げ惑っていた。
 後ろを見るまでもなく、猛烈な追いかけてきているのはワイバーンだ。

 囮は任せてください、目立つ自分なら親のワイバーンを惹きつけるのにもってこいです! 
 ワイバーンぐらい、どうって事ありませんとも!

 近くで卵を盗みにいこうとしていた猟兵に向け、胸を張って宣言し、意気揚々と素に飛び込んだのはつい10分前のこと。
 ところが、ワイバーンの様子は予想とは少し違い。 
「すごい見てる、すごい怒ってる、すごい来てるぅー! 滅茶苦茶怒ってるんですけどーーー!!?」
 そう、既に幾つもの卵を奪われたワイバーンは怒り心頭、想像を遥かに超える剣幕で咆哮を上げ、襲いかかってきたのである。
 大仰な悲鳴は、何割かは飛竜を引き付けるためにわざと上げている……ところも、最初はあったのだが。あまりの恐ろしさにそんな考えはとうに吹き飛び、今やただただ必死に逃げ回るシャーマンズゴーストの少年であった。

「ど、どうしてこんなに狭いんですか、この巣!?」
 文句を付けながら、大きな手を崖肌に叩きつけるように反動をつけ、急旋回。
 わずか1秒後、
『グルァァァーーー!』
「ひょああああ!?」
 突っ込んで来た飛竜が崖に激突。ぐらぐらと地面が揺れ、崖肌からぼろぼろと岩が落ちてくるが、ワイバーンは怯む様子もなく、砂煙から姿を現し追いすがってくる。背中に感じる生臭い竜の吐息。
 一瞬でも立ち止まったら……やられる!

「卵! 卵! 卵が危ないから暴れないんじゃなかったんですかぁー!? ひ、ひぇえ……!!!」


「あやや、えらいことになってもーとるなぁ……」
「いやはやまったく。さすがに竜も平静ではいられない様子ですねぇ」
 一方、その様子を少し離れて眺めながら、どこかのんびりと言葉を交わし合う、2人の猟兵。
 猫のウェアライダーか、さもなければ妖狐のような獣耳を付けたダンピールの少女、神威・くるる(神の威を狩る黒猫・f01129)。そして七三分けの長身の優男、ゼン・ランドーだ。
 リクロウが飛竜を引き付けている隙に卵に近付いた2人だが、それぞれタイプは違えどマイペースなこの2人、どうにも緊張感というものがない。

「とはいえ、攻撃禁止の大ハンデ……目を付けられて追い回されるのは勘弁ですね。彼が頑張ってくれている間に事を済ませるとしましょう」
「ふふ、せやね。それはうちも同感。あれだけ怒ってはるの、催眠術で誤魔化せるかも怪しいし……」
 コロコロと普段通りの笑みを漏らしながらもゼンの言葉に頷いたくるるは、目の前の卵に視線を戻すと、再び、あやや、と声を上げ。
「やけど、こないに大荷物、うちの細腕では抱えられへんさかいに。猫ちゃんらにお願いしよか」  
 こてん、と首を傾ければ、首の鈴がりぃんと鳴り。その音色に惹き付けられたかのように――どこから現れたのか、物陰から無数の黒猫がくるるの足下に集う。
「はい、皆、ぎゅうっと集まってなー」
「ほほう、これは……文字通り、猫の手というやつですね。では、私も一つ」
 興味深げに猫たちの姿を見つめながら、ゼンが卵に手をかざせば。不可視のサイキックエナジーが引き起こした念動力によって、ゆらりと揺れた卵は、優しく転がるように「猫のクッション」の上に載せられて。
「あやや、おおきに。ほなとっとと行こか、あんたはん。猫ちゃーん、落としたらアカンえー」
 笑い合い。長居は無用とばかり、くるるとゼン、そして2人に付き従う黒猫の群れは、ワイバーンの卵を運び、すたこらさっさと出口に向かっていって。

「いや、本当によく馴れている……私、この道中で思いついた、『わくわく草食オオカミ喫茶~やさしいおおかみさんとふれあおう~』というものを考えているのですが、そこに黒猫の店員というのは、どう思われます?」
「商売熱心なんやねぇ。……けど、そんなら目玉料理も欲しいんちゃう? た・と・え・ばー……こないに大きな卵で玉子焼きとか作ったらどんなん出来るんやろねぇ……ふふ」

 ――この2人。本当に、どうにも緊張感というものがない。


「……あ! 良かった、2人とも無事に逃げられ、ひょわぁーー!?」
 囮を始める前に声をかけた2人が巣から脱出していくのがちらりと見えて、リクロウは安堵の吐息……を漏らす暇もなく、危うく飛竜の噛みつきをかわす。危ない、今ちょっと尾羽根に牙がかすめた。
「ぼ、僕もそろそろ抜け出さないと……!」
 けど、どうやって。一瞬悩んだ、彼に向け。

「――立ち止まらないで。そのまま走りなよ、まっすぐだ」
「!? は、はい、分かりましたぁーーー!」
 頭上から降ってきた、知らない声。落ち着いた様子の少女の声に思わず従って。巣の出口に向けて思い切り駆け出せば――毛むくじゃらで巨大な何かとと、すれ違う。

「えっ、今すれ違ったのって……」

 見間違いでなければ、そう、今のは――
 ――ゴリラ、だったような。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

藤塚・枢
ワイバーンってサイズ的に、あまり大量に産んでいるということはなさそうだよね
いや、ファンタジーに現代地球の常識持ち込むのはナンセンスか…

私は卵を奪取する猟兵のサポートを務めるとしよう
見ての通り非力なんだ、人形でも使わなければ巨大な卵なんて持って逃げられないよ
侵入する前に巣周辺の地形や、地縛鎖で巣内部の環境を確認
上手く中の地形も分るといいんだけれどね
もし分ったら、図面を引いて情報を共有しておく

影の追跡者を卵を奪取に向かう数名につけておいて、常に中の状態を把握
閃光手榴弾と煙幕手榴弾を使ってフォローに徹する
使う時は声をかけて了解取ってから
鏖の猟場をわざと外し、罠を張ってワイバーンの行動を阻害しつつ撤退


星海・耀
そーいえば卵の回収がメインなんだっけ、この依頼。
あはは、正直狼さんたちがあたしん中のメインになってて、すっかり忘れてた。

うちのコで、魔法使えるのなんて居ないんだよねー。呪うコは居るけど。
というわけでー、緑の呼び鈴!賢ちゃんよろしくー。

●POW
やっぱり囮は必須だと思うんだよねー。
でも、さすがに直接殴り合いなんてするの怖いしー。何より、卵が危ないしー。
でっかい賢ちゃんなら、いい感じに迫力あるし?こう、ドラゴンでも注意ぐらい向けてくれると思うんだよねー。
ドラミングしたりとか?あっはっは、あたしも一緒にやる事になるけど。
攻撃されるほどは近すぎず、卵に張り付かれても困るし遠すぎず、加減難しそーねーこれ。


ピート・ブラックマン
SPD

こそ泥みてぇな真似は趣味じゃねぇが、今回ばかりは仕方ねぇな

狭い入り口じゃ俺の相棒(バイク)は入り辛ぇし、近くに隠して停めておくか

身体を自在に変形させて、まずは物陰で様子見
他のやつがワイバーンの注意を引き付けたら、バウンドボディで身体を伸ばして一気に卵をキャッチ
そのまま急いで身体を戻しながら巣の外へ

あとは停めておいた相棒に卵を乗せてとんずらだ
【逃げ足】には多少自信があってな
ワイバーンが追いかけてきても、俺と相棒には追い付けねぇさ

相棒は割りとデカイから、一人くらいなら一緒に乗せれるかもな


十河・アラジ
メア……お疲れさま……
でもなるほど、ワイバーンは匂いに反応してくるんだね……
となると、やっぱり引きつける囮はいたほうが良さそうかな
ここはボクが囮になるよ
誰かの助けになるのがボクの役目だから

でも単純に出ていくだけじゃ物足りないと思う……
そこでより目立つために「生まれながらの光」を使うんだ
光ればいやでも目につくだろうからね

それとあえて体に傷を付けて血の匂いを付けて行く
それくらいなら慣れたものさ

引きつけた後は当然攻撃もあるだろうから、念のため鎧は装着していくよ
ただ重装備だと岩場では動きにくそうだから装着するのは腕だけだね

面と向かって戦う訳にもいかないし、岩場を上手く利用してワイバーンの攻撃を凌ぐんだ



●最後の卵は
「わぁー……すごいことになってるねー……」
 消耗し切った様子のシャーマンズゴーストの少年が巣から飛び出していくのとすれ違いながら。星海・耀は、巣の入り口から中を覗き込み、珍しく軽く冷や汗を浮かべていた。
 激昂しきった様子でこちらに突っ込んでくるワイバーンを――

「ジョインジョイン賢ちゃーん、ふぁいっ」
 耀の声援に応えるように。ユーベルコード『緑の呼び鈴』の力で呼び出した身の丈3メートル近い巨大ゴリラが、がしりと受け止める。
 なお、声援とは言いつつも、ゴリラは耀の動きをトレースしているので、がっぷり四つに組むようなポーズを取っているのは物陰に潜んだ耀も同じだ。パントマイムのようで、ちょっと恥ずかしい。
 ゴリラよりもなお大きな巨体。飛竜は、ゴリラの肩口から首を出すように巣の出口――シャーマンズゴーストの彼が出ていった、そして今、耀が隠れているあたりを憎々しげに睨みつけ、大気を震わす咆哮を上げる。

「怒ってるねー……ううん、焦ってる? ……当たり前だよねー」
 魔物とはいえ。子どもを、卵を奪われたのだから、怒りも、そして焦りも、当然だ。その必死とも言える様子を間近に見れば、あらゆる生物に愛を向ける妖狐の娘は、複雑な気持ちを抱かないでもない。
 けれど、思い出すのは、怯え切っていた草食狼の様子だ。正直、一時は彼らとの交流がメインだと思っていて、ワイバーンのことは忘れていたくらい。でも、あの様子を見れば……依頼達成のため、何かしてあげたいと思ったのだ。
 とは言っても、彼女も、彼女が呼び出せる友人たちも、あまり器用な魔法は使えない。こうして、出口を守り、竜を引き付け続けるのが精一杯なわけだが。

 ――そんな耀の思考を遮るように。はっと、ワイバーンが頭を上げ、ゴリラを突き飛ばすように離れると、ぐるりと首を回す。その方向にあるのは……7つ目の。
 令嬢2人が最初に行った情報収集によれば、最後の、卵だ。

「わわっ、ちょっと、待ってってばー」
 どんどこどんどこ、なんとか気を引こうと、慌てた様子でドラミングを始めるゴリラ。
 繰り返すがゴリラは耀の動きをトレースしているので、彼女もまた物陰でぽよんぽよんと豊かな胸を叩いているわけだが、その涙ぐましい努力も虚しく、ワイバーンはそれに目もくれず、ゴリラに背を向け、ずしんずしんと走り出し――。


(「こそ泥みてぇな真似は趣味じゃねぇが、今回ばかりは仕方ねぇな」)
 ずるり、と。物陰から姿を現した黒い影が、大きく身体を伸ばすと、取り込むように最後の卵を奪い取る。
 影の正体はブラックタール。ピート・ブラックマン(流れのライダー・f00352)だ。
 ライダーといっても、彼の相棒は巣の入り口を通れなかったため、今は身一つなわけだが……。

(「ま、これでターゲットは回収だ。あとはとっとと退散して……」)
「気をつけてー! ワイバーン、行ってるよー!」
「……ああ!?」
 入り口の方からかけられた声――耀のものだ――に顔を上げれば、怒り狂ったワイバーンが突進してくるのが見えた。
「チッ……肝心の卵を壊す気かよ!」
 もはや我を忘れている飛竜の様子に舌打ちしながら、身体を大きく変形させ、卵もろとも身をかわす。一瞬前まで立っていた場所を、飛竜の蹴爪が大きく抉る。
(「こりゃあ、逃げ出すのも一苦労だな……!」)
 そう考えた、その時。

 ――眩い光が、ワイバーンの巣を包む。


『グルァァァァーー!?』
 飛竜は、眩い光に視界を奪われ身をよじる。
 一体何だ、何が起きている。
 混乱の中、辺りを探れば――血の匂い。顔を向ければ、眩んだ視界の中、おぼろげな影が見えた。
 早く、早く。不遜な侵入者を駆逐して、我が子を取り戻さねば。
 焦りに身を任せるように――食らいつく。


「お……っと!」
 がきりと漆黒の呪鎧でその牙を叩き、逸らして受け流しながら。生まれながらの光を放った張本人、十河・アラジ(マーチ・オブ・ライト・f04255)は、その力の強さに息を飲んだ。だが、
「目で判断できない時は、匂いに反応する……メアの言ってた通りだね」
 狙い通り。後で労ってあげないといけない。そう思いながら、ワイバーンに向き直る。
 鎧を纏うのは最低限、腕だけ。そしてその星衣のあちこちからは、赤い血が滲んでいた。
 ワイバーンによる傷……ではない。彼自身が、ただこの一瞬、飛竜を引き付けるためだけに、自ら付けた傷だ。

 声を頼りにか、ぶぉんと振るわれた尻尾を飛び退ってかわす。
 自分が傷つくことは、怖くない。この程度、慣れたものだ。彼にとって、生きることは、正しくあるということ。正しいこととは、善であること。そして善とはすなわち、生きることだ。
 飛竜の存在は、多くの者を傷つけた。周囲の動物、村人、そして今、猟兵である仲間たち。で、あるならば――アラジは、生まれながらの聖者として。咎の非ざる者の盾となるべく、立たねばならない。そう、

「――誰かの助けになるのが、ボクの役目だから」

 決意とともに放たれたアラジの言葉に。言葉が通じぬはずのワイバーンが、わずかにたじろいで。
 ……ただ。その瞬間、ちらりと視線を逸らしてしまったのだけは、失敗だった。
 視線の先では。アラジの稼いだ時間をムダにすることなく、卵を飲み込んだまま人の形を崩して高速で移動するピートが、出口を守るゴリラの脇をすり抜けていくのが見えて。

「! 待て……!」

 アラジの制止を振り切って。ワイバーンは、その後を追い――。


「うわーお、また来た……!」
 卵を持ち出すブラックタールを見送って。耀が再び、ゴリラに身構えさせた時――。

「――――――――」
 頭上から、誰かの声がした。
 耀の知る由もないが、それは先程リクロウに指示を出した、彼にとっては見知らぬ声。
 そして、耀にとっては、聞き覚えのある声。

「……枢ちゃん?」
 わずかに驚きの声を漏らしてから。耀はひとつ、頷いて。


 ワイバーンを追って駆け出したアラジの視線の先で、幾つかのことが続けざまに起きた。

 ピートは無事、卵を持って巣から抜け出して。
 巨大なゴリラが雄叫びを上げてワイバーンを迎え撃ち。
 ワイバーンもまた、邪魔だとばかり、再びゴリラに飛びかかり――。

 衝突の直前、ゴリラが消えた。
 消滅、或いは送還だろうか。いずれにせよ、耀のユーベルコードが解除され。
 勢い余ったワイバーンは――巣の入り口。切り立った崖の狭い隙間に、思い切り、激突。
 先程からの戦闘の衝撃に、耐えきれなかったのだろう。その激突がトドメとなって――ガラガラと、崖が、ワイバーンの巣全体が、崩れ出す。

「うわ……だ、大丈夫ですか……!?」

 一番に心配だったのは、先程、入り口に隠れていた金髪の女性。彼女は無事だろうかと目を凝らした、アラジの目に。

 どるんどるんと響く重低音と共に。
 自分の光とはまるで違う、無機質で暴力的なハイビームが、砂煙を切り裂くのが見えた。


「ハッハァ! これでようやく一緒だな、相棒――!」
 土煙の中から飛び出したのは、外に退避する耀に卵を預けて戻ってきたピート。そして彼の「相棒」――宇宙バイク、Jane。拡張に拡張を重ねた大型のボディが狭い入り口をくぐることができなかった相棒を彼が駆り。本来の姿を取り戻したとばかり、ブラックライダーは崩れ行くワイバーンの巣を駆け抜ける。
 もがきながら身を起こすワイバーンを大きくかわして旋回、戦いの傷跡も生々しい巣の中を駆け抜けて、目指すのは――

「おらよ!」
「わっ、ちょっと……!?」
 思わず抵抗しかけるアラジを抱え上げ。ピートは再び出口へ向かう。
 遠目には、もはや翼を封印する意味もないと、宙へ舞い上がったワイバーンが追いすがってくるのが見えるが、
「あいにく、俺も相棒も、逃げ道には自信があってな!」
 そう簡単に捕まる気はないと、ピートはJaneのエンジンを大きく吹かし。アラジ共々、崩れ行く巣を飛び出していき――

 その背後で。ピートたちの背中を押すように、続けざまの爆発と、煙幕が広がった。


「……やれやれ、思った以上に派手なことになったね……」
 崩れ行く、ワイバーンの巣の上で。藤塚・枢は、小さく苦笑を漏らした。
 彼女が駆けつけた時には、既にある程度の情報収集と共有がなされていたのを知り。ならばもう一つの狙いをとサポートに徹することを決め、ワイバーンの巣の上に陣取ったのは――誰か似たようなことを考えた他の猟兵が残したものか、ロープが打ち込んであったのは助かった――しばらく前。
 戦場を俯瞰しつつ、必要に応じてアドバイスなど飛ばしてみながら、再び地縛鎖を用いて周辺の地形を調べてみれば――もうあと一押し、二押しで、この巣が崩れてしまうだろうことは見て取れて。
 最後の一押しを、耀を通じて、ワイバーン自身にお願いしたというわけだった。

「さて……そろそろ私も一旦下がらないと、巻き込まれてしまうね」
 ここでできる最後の撤退支援、ブラックタールのライダーたちの追跡を妨害するように煙幕手榴弾を投げ込むと。置き土産とばかり、煙の中に鋼糸の罠を張り巡らせて。
 そして懐から、不気味なテディベアのような戦闘用ぬいぐるみを取り出し、偽装を解いて巨大化。ぬいぐるみの腕に抱えられるように、枢もまた巣を飛び出していく。

「――随分と手間取ったが……いよいよだよ、オブリビオン」
 ぬいぐるみの腕の中、呟く。
 オブリビオンを始末すれば、私は太平こともなし。彼女は別段、戦闘自体を楽しみにするわけではないが――そう。戦いは、ここからが本番だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ワイバーン』

POW   :    ワイバーンダイブ
【急降下からの爪の一撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【毒を帯びた尾による突き刺し】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    飛竜の知恵
【自分の眼下にいる】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ   :    ワイバーンブラスト
【急降下】から【咆哮と共に衝撃波】を放ち、【爆風】により対象の動きを一時的に封じる。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●女王は再び舞い上がり
 何故だ。何故。何故。
 どうして、こんなことになっている。

 砂煙の上がる中、飛竜は舞い上がる。
 まとわりつく鬱陶しい鋼の糸を引き千切り、痛みも忘れて怒りの咆哮を上げた。

 昨日までは、王だった。否、女王だったのだ、彼女は。
 一体に彼女を脅かすものなどなく。悠々と卵を孵し、孵った暁には共に近隣のヒトの村を襲い、子どもたちの独り立ちを見守る――そのはずだった。

 だが、それがどうだ。
 守るべきものは奪われて。彼女の居城も、最早崩れさった。

 ――否。まだだ。まだ終わってはいない。
 愛しい子どもたちは、そう遠くに離れてはいない。親の勘というものか、それだけは分かっていた。
 ならば話は早い。不遜な猟兵たちを一匹残らず狩り尽くして、我が子を取り戻すのだ――!


 状況を整理しよう。
 背後には森。正面には半壊した、ワイバーンの巣であった岩山。
 狭い崖の入り口は崩れ、それこそバイクであっても侵入できる隙間はあるが、足場は少々悪い。
 飛竜は空に舞い上がっているが、遠距離攻撃の手段を持つわけではないため、攻撃の際には間合いに入らざるを得ないだろう。

 ――以上を踏まえ。ワイバーンを討伐するのが、猟兵たちの最後のミッションである。 
石動・劒
引き続き挑発で惹きつけながら第六感、残像、見切りで回避を…
…え、もう戦っていいの?マジ?
よーーーーし我が世の春が来たァーーーー!!!!

刀を抜いて応戦するぜ。スナイパーでよく狙った2回攻撃の援護射撃だ。徒刃鳴を散らせ!!
飛竜ってのは知恵がある。こっちを様子見に入ったら、遠距離攻撃手段を持ってる奴らに一斉に攻撃することで面を攻撃するよう呼びかけてみるかな。そっから守りに入っても墜ちて来ても集中砲火できりゃ万々歳だ。

ああ、やっぱ楽しいな。メイドのじゃねえけど、気が立ってる飛竜との一戦ってのは血が滾る!
生死を賭けた死合いってのはこうでなくちゃな!

…楽勝?竜相手にんなわけあるかよ。誰だのだそんな大言壮語


藤塚・枢
デカ過ぎる
支援と罠に尽力で

観察した卵を【土のいたずら】で製作
飛竜と交戦した人や周辺から、飛竜の体液を回収して臭い付け
中に破片手榴弾を山程詰め込む
ピンに鋼糸を通して卵から出し、いつでも抜けるように
美味しい“林檎”の詰め合わせだ

岩山付近の森で迎撃
わざと見えるよう木々の間に鋼糸で罠を設置
鋼糸を避けるとPE4を設置した岩肌の下を通過するような配置につく
通過時に起爆、落石を狙う
飛竜の知恵でバレないよう、人形や鋼糸での攻撃も真面目に

閃光や煙幕で時間を稼ぎ、人形に偽卵を持たせて目立つ木の上へ移動
これ見よがしに卵を空へ投げ、飛竜が卵を咥える等したらピンを抜く

知ってるかい?
こういう時、きたねえ花火だって言うんだ


ミーユイ・ロッソカステル
――ま、大きな図体だこと。
……ジョンだったか、誰だったかしら。テレビゲームに、確かあんなものが出ていたわね。
それとも、あれは彼の趣味ではなかったかしら。……まぁ、どうでもいいわ。

その時も……そう、狩りをするように、複数人で追いたてていた。
あの大きさ、あの翼を持つ生物ならば……必ず、行うでしょう。
高度を活かした、急降下ののち、攻撃――という、行動を。

それさえわかっているならば、防ぐのは容易いもの。
奏でましょう、「聖なる勇者の行軍 第3番」。

飛龍よ 高く高く舞え
飛龍よ 猛き声を鳴らせ
飛龍よ 飛龍よ 幻想の王者よ その瞳は 何を見る



●怒れる飛竜に捧ぐ歌
「――ま、大きな図体だこと」
 桃色から紅へ。色合いを変える艶めいた髪をかき上げて、ミーユイ・ロッソカステルは大空を見上げた。はるか数十メートル、上空の飛竜の姿。案外小さくも見えるが、この距離でこの大きさに見えること自体、遠近感が狂うほどの大きさだということだろう。

(「あれは、誰かがやっていたテレビゲームだったかしら」)
 脳裏に思い返すのは、ちょうど一年ほども前だろうか。寮のリビングのテレビで、同居人がプレイしていたゲームのことだ。丁度今のように、複数人で竜を追い立てる電子遊戯。
 大空を支配する飛竜――そうした存在を直接見知ったのは、あの画面を覗き込んだ時が初めてだった。確か、その飛竜は危なくなるとすぐに空に逃げるから、追いかけるのが大変なのだという。そんな飛竜が、この次に決まって打ってきた手筋。
 無論、ゲームの知識がそのまま通用するのかは、分からない。だが――
(「あの大きさ、あの翼を持つ生物ならば……必ず、行うでしょう。猛禽であろうと、同じことだもの」)

 胸中で呟き、濡れた唇を開けば、溢れ出す旋律は勇ましき行軍歌。その上に載せるテーマは、これから先の飛竜の姿だ。

 ――飛龍よ 高く高く 高く舞え
 ――飛龍よ 猛き声を鳴らせ
 ――飛龍よ 飛龍よ 幻想の王者よ その瞳は 何を見る

 響き渡る歌声に誘われた――というわけでもないだろうが。小さく見えたワイバーンが地上に迫り、見る間に大きくなって。

 ――飛龍よ 地を這う 獣を見据え
 ――飛龍よ 鋭き爪 打ち下ろし
 ――飛龍よ 飛龍よ 幻想の王者よ 彼の毒尾 勇士を貫かん

 急降下から振り下ろされる、爪の一撃。それを先んじて言い当てるように歌い上げれば――地の底から浮かび上がる、鏡映しの竜の幻像。
 地より湧き出た幻竜が飛竜の攻撃を相殺し、毒尾を振るう隙を与えない。

『――ッ!?』

 驚愕を漏らし、わずかにその巨体を浮き上がらせるワイバーン。
 だが、ミーユイは微笑みを崩さず――その歌が止むこともない。

 彼女が歌うのは、行軍歌。ならば次に起こることなど、決まりきっている。


 銀光一閃。
 振り下ろされた刃が鱗を浅く切り裂き、飛竜は怒りの咆哮と共に、新たに現れた小さな影を睥睨した。
「かてぇ鱗だな――だが、まあ。ここからは斬って良い戦だ。逃げ回ってたさっきまでとは違うぜ、飛竜の」
 にぃ、と口端を吊り上げる、臙脂の陣羽織姿――石動・劒。

 いざ、尋常に。

 囁くような声を置き去りに、侍は竜の懐に飛び込んで行く。切り下ろす一撃。応じて突き出された毒尾を見切って二撃。まだしも鱗が薄いと見た腹に三撃目、剣先を突き入れれば、やはり浅く、しかし赤い竜の血がしぶく。
「は、盛り上がってきたな、おい! 生死を賭けた死合いってのはこうでなくちゃな!」
 挑発じみた劒の快哉。するとワイバーンは怒りの咆哮を上げ――ばさりと羽ばたき、一挙に数メートル、浮き上がる。

(「楽勝――と、言える相手なら、斬っても自慢にゃならねえよな、メイドの」)
 間合いの外に出られたことを、逃げ、とは思わない。当然だろう。強弱以前の問題だ、羽虫が耳元を飛び回れば、人間だって一歩下がる。それだけのこと。竜とヒト、空の支配者と地を這う獣、その尺度の違い。強者は依然として、竜の方。気を抜けば瞬く間に竜は舞い降り、自分たちの首をねじ切るだろう。
 故に劒は、落ち着き払って刀を鞘に収め。

「咲いて、散れ」
『――――ッ!!?』
 抜き打ち。虚空に向けて愛刀を抜き放てば、間合いの外に赤い徒刃鳴(アダバナ)が咲いた。刃を振るって引き起こす不可視の衝撃波、理外のその技に、飛竜は今度こそ、悲鳴じみた慟哭を漏らし、身を捩る。
 劒はその様子から、一時足りとも目を逸らさぬまま。

「――今だ、撃ち落とせ!」
 飛び道具を手に機を伺う味方がいる。
 戦術眼と周囲の気配、そして何より仲間への信頼から、そう判断。侍は鋭く呼びかけて。


「……やれやれ。手動で起動する気はなかったんだけどね」
 藤塚・枢は、呟いた。


 身じろぎした自分を囚えようとするように左右から襲い来る鋼糸の網を不快げに見据え、ワイバーンは強く翼を羽ばたかせた。
 つい先程、一度引きちぎった物だ。今度もやろうと思えばそう出来る。だが、不可解な攻撃を飛ばしてくる猟兵の前で、時間をかけるのは望ましくない――咄嗟にそう判断し、網の下をくぐり抜け。かつての自らの巣をかすめるように飛び、一度距離を取ろうと――

 爆発。爆発。爆発。

『グルァ――――!?』
 突如、連続した爆風が崖を崩し、無数の落石。巨体の飛竜にその全てをかわし切ることは出来ず、岩に押しつぶされるように、地面に叩き落とされる。
 空から地に落とされた屈辱に燃える、その、目の前を――
 何かを抱えた人形が、よたよた慌てた様子で歩いていく。

『――!?』
 目を疑う。だってそれは、自分の卵だ。奪われ隠された筈の、彼女の愛し子。
 毒尾を振るい、鈍重な人形の首を引きちぎり。奪い返した卵に顔を寄せ――

 その瞬間。
 枢のユーベルコード、『土のいたずら(ノーム・フェイク)』により精巧に偽装されたワイバーンの卵――の、形をした仕掛け罠。
 卵の中に仕込まれた無数の破片手榴弾が、連鎖的に爆裂し。弾けた爆風が、ワイバーンの身体を崖に叩き付けた。


「――知ってるかい? こういう時は、きたねえ花火だって言うんだそうだよ」
 木陰から姿を現し、うそぶく枢。
 変わらぬ飄々とした様子の笑みと見えながら――再び崖が崩れ、ワイバーンが消えていった土煙を見つめるその瞳には、どこか暗い情念が渦巻いていた。

「…………まあ、狙えっつったのは俺だが」
 予想していたのとは趣きの違う惨状に、さすがに少しばかり困惑しながら、劒。
 卑怯、とは言うまい。徹底した騙し討ちは彼の趣味でこそないが、だからと言って戦場で綺麗事を並べ立てるほど初心でもない。ただ、

「祭りの終わりの花火を上げるにゃ、ちぃと早いぜ。まだ終わっちゃいねぇ」
 油断なく見据える劒の視線の先。土煙を吹き飛ばすように――飛竜が再び、舞い上がる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雪華・グレイシア
それじゃ、閉幕の時間だ
最期に一曲如何かな、レディ?
………なんてね

こうゆう正面からの切った張ったなんてのは怪盗のやることでもないけれど
ここまで来たんだ最後まで付き合うとしようか
とはいえ、もちろん手短に

通常サイズに戻したマスカレイドビークルをそのまま【終幕の三分前】で巨大ロボに変形
折角の荒れ具合だし、【地形の利用】をしていこうか

降りてこないようなら、崩れた岩山を駆け登り、足場にして跳躍
飛行しているワイバーンに蹴りで攻撃を仕掛けるよ
回避されたら……そこまでは予想内
跳躍する時に拾って、隠し持っていた岩の破片を【投擲】、【目潰し】してやろう
ロボに乗っていても怪盗なんだ、手癖は悪いよ?


西園寺・メア
体を張って得た偵察情報が役立ったようでなりより
さて、私もやられたままでは気がすまないので全力で挑みますわ

(どっちが被害者とかプライドを傷つけられたお嬢様に道理は通用しない)

トライアンフ・アーチで殴り込み
トレース操作で攻撃を見切り、骨杖に呪詛を込めた鎧砕きで地面に叩きつけたいところ
最後は全力を込めた捨て身の一撃をお見舞いする


星海・耀
家はボロボロ、子供は盗られて、今現在囲まれてフルボッコ、カッコ予定。
悲惨ー。てゆーか、さすがにちょっとかわいそー。やったのあたし達だけど。
てゆーか、完全MAX100%激おこじゃん、そりゃ怒るよねやっぱ。
うわー、当たりたくなーい、絶対痛いやつじゃん。かーえりたーい。

よーし、こーなったら必殺ー、黄の呼び鈴。
ふふん、金ちゃんはあたしのお友達ん中でも最強だからねー。必殺ってのはテンションで言っただけじゃないんだよねー。
引っかかれても噛みつかれても、タックルでも超痛いよー。スピードもパワーもあたしの100倍よー。あ、ごめんちょっと盛ったかも。
そういうわけで、あたし背中にくっついとくから、あとよろしくー。



●怪盗は巨大ロボットで追いかける
 空を舞い上がる飛竜を、追いかけて。崩れ落ちる瓦礫の雨をかいくぐるように、上へ、上へ。
 青を基調にした機体。悪路走破に特化した小型バイク、マスカレイドビークルを駆るのは、雪華・グレイシアだ。
 一際大きな岩の上で助走を付けて、マスカレイドビークルは大きく天へと跳ねる。無論、このままでは慣性を失い地に墜ちるだけだ。だが、

「正面からの切った張ったなんてのは、怪盗のやることではないけれど……ここまで来たんだ。最後まで付き合うとしようか」
 もちろん、手短に。
 そう呟いて。懐から取り出したダイヤル状の小型デバイス・ロジカルダイヤルの数字をかちりと合わせ、軽く目の前に放ると。

 ダイヤルが、ぱたぱたと展開したかと思えば、体積比を無視して巨大な機械のパーツとなり、グレイシアとビークルの姿を覆い隠していく。
 形作られるのは、巨大な胴――脚――そして拳。最後に内側からガチャンとせり出したマスカレイドビークルが頭部パーツとなって、変形完了。
 『終幕の三分前(ラストダンス)』――現れたのは、飛竜に比肩するほどのサイズの、巨大ロボット。そうとしか言いようのない、鋼の巨人であった。

「さぁ、勝利を奪い取ろうか?」
『――――ッ!?』
 突如現れた巨影に驚いたのだろう。空中で旋回したワイバーンは迎撃を試みるが、ロボットはいつのまにか拳に握り込んでいた礫――といっても人間の子どもほどの大きさだ――を投げ放ち、ワイバーンの顔面にぶち当てる。
「このサイズでも怪盗なんだ。手癖は悪いよ?」
 思わず仰け反る飛竜を挑発するよう、そう笑い――青いマシンアイを光らせて、背部に展開したマスカレイドスラスターから圧縮冷気を噴射。青白い輝きを推進力にして更に加速し、ワイバーンを追い抜くように上を取り――

「最期に一曲、いかがかな。レディ? ……なんてね」
 機体の全重量を込めた、飛び蹴りを叩き込む。
 脚部のホイールがぎゃりぎゃりと飛竜の肉を噛み、下へ、下へ。
 空の支配者を地に押し戻すべく、スラスターを全開。見る見るうちに、地上が近付いて――

 ――その様はまるで。青い尾を引く、彗星のように。


 どんどん地上に近付いてくる青い流星を、腕組みして見上げる令嬢が一人。
 なかなか、見事な光景ですわね。そう呟こうとも、その青と金のオッドアイに帯びた怒りは、まるで収まる気配を見せない。

「私も、やられたままでは気が済みませんわ」
 西園寺・メア。彼女の様々な意味で身体を張って得た情報収集は、その後の飛竜の卵奪取作戦を大きく円滑にした。
 そういう意味では「やられた」のはワイバーンの方であり、彼女はケガ一つしていないのだが……。
 それは身体の話。傷つけられた乙女のプライドは、そして台無しになったドレスは戻って来ないのである。

「勝利を我々のものに。呼応せよ――」
 ネクロオーブを掲げて詠唱を始めれば、森を不気味な冷気が覆い。
 カタカタ、カタカタ。笑い声のような物音が、どこからともなく響き始めて。
「――『門を開け、凱旋の時間だ(トライアンフ・アーチ)』!」
 瞬間。ぼこりと地面を割り開き、姿を現したのは――身の丈3メートルを超える、巨大な骸骨だ。果たしてこのような異形の人間がいたのか、それとも巨人のスケルトンなのか。
 ただ。もし、ここにサムライエンパイアの出身の者がいれば、こう呼んだことだろう。――妖怪・がしゃ髑髏、と。

「さあ、全力で挑みますわよ」
 いよいよ近付いてくる流星をふわりと見上げ、軽く開いた右手を掲げれば、巨骨もまたその動きをトレース。地面からぼこりと生えた巨大な骨杖を、がしゃりとその白い手に掴み。
「悪夢を、お届けいたしますわ!」
 フルスイング。ありったけの呪詛と鬱憤を込めた、がしゃ髑髏の渾身の一撃が、巨大ロボの蹴りと挟み込むようにワイバーンの身体を打ち据え、地面に叩き落とした。

『――――ッッ!?』
 苦悶の咆哮を上げ、それでも翼を打ち振って、再び舞い上がろうとする飛竜。
 ……2人がかりで抑え込む?
 一瞬、がしゃ髑髏と巨大ロボの視線――虚ろな眼窩とマシンアイだが、こう、気持ちとして――が交わるも。

「ちょーっと、ごめんねー」
 とんっ、と。間延びした声と共に、髑髏の背を蹴って、金毛の獣が跳ねた。


(「やーっぱ……さすがにちょっとかわいそー」)
 星海・耀は、思う。 
 家はボロボロ、子供は盗られて、今現在囲まれてフルボッコ(現在進行系)。
 そりゃあ、怒って当然だろう。だからといって、和解の道などあるわけもなく。彼女たちに出来るのは、必要以上に苦しめずに楽にしてやることくらいだった。
 だから、

「金ちゃーん。あたし背中にくっついとくから、よろしくー」
 くぉん、と応えるように鳴く巨大な狐の背中に、耀はまたがって……もとい、しがみついていた。
 その尾の数は、9。耀の「お友達」の中でも間違いなく最強の1匹、九尾の狐である。
 その九尾の狐ががしゃ髑髏の背を蹴って、飛竜の首に食らいつくのだから。これはもう、ちょっとした妖怪大戦争だった。

 耀が金ちゃんに向けるのは、無二の信頼だ。スピードもパワーも彼女の100倍……いやそれはちょっと盛った。盛ったにしても、彼女と触れ合い戦闘力を増す狐の力に疑う余地はない。実際、地を這う飛竜に食らいつき、見事に抑え込みながら、首筋に牙を食い込ませ、赤い血を流させていた。
 ただ、もし、耀に誤算があったとすれば……

(「うわー、完全MAX100%激おこじゃん、うわー、うわー、絶対痛いやつじゃん。かーえりたーいー……」)
 間近から憎々しげに睨み据えてくる、ワイバーンの瞳。その眼光の鋭さに思わず身を竦ませた耀を弱点と見たか、ワイバーンはまず彼女を狙おうと――

「あら、私を忘れてもらっては困りますわ?」
「いい加減、そろそろ閉幕の時間だよ」
 耀に食らいつこうとした頭部をがしゃ髑髏の骨杖が打ち据え、巨大ロボが毒針を備えた尾を抑え込む。
 耀は一瞬、2人に感謝の視線を向けて。

「よーし、金ちゃーん。やっちゃえー」
 友の呼びかけに応えるように。九尾の狐はぐぐっと飛竜の身体を持ち上げると――そのまま二度、三度と地面に叩きつけ、森の中へと投げ飛ばす――!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月輪・美月
正直、貴女に同情する部分はありますよ。子を奪われた母として、怒り狂うのも当然。ですが、貴女が人を襲い、狼達を追い払ったように。
貴女もこの世界において襲われる立場だという事を理解して貰いましょう。

ようやく正面から殴り飛ばせますね。白影、出番です……狼は竜になど負けはしないと、この世界の同族にみせてあげましょう

空中の相手は厄介です。相手の攻撃した瞬間に食らいつき、地面に叩き落とす所からですね。あとはまあ……皆がなんとかしてくれるでしょ

【巨大な影の黒狼で相手の攻撃を引きつけ、間合いに入ってきたら噛みつく】
戦闘が終わったら壱子さんといえーいっと、ハイタッチ。侍さんやグレイシアさんにお礼も言いたい


富波・壱子
親は猟兵に囲まれ今にも殺されようとしていて、奪われた卵は研究に使われおそらく最後は死ぬのでしょう
敵ながら悲惨と言ってよい有様ですが、特段何も思いません。殺します
私の情が薄いせいでもありますが、私自身も親を持たない元実験体ですから
たまにはそういうこともあるでしょう、と

以前こなした依頼で標的の弱点は把握しています
確か上方からの攻撃に弱い、でしたね
油断はせずユーベルコードによって敵の上方へ瞬間移動し構えた刀で翼を狙います

討伐後、美月がこちらに向けて手を挙げる意味をすぐ理解できず、少しの間見つめてからふと閃きます
……もしかしてハイタッチを求められているのでしょうか?
応じてみます。無表情のままで
いえーい


アリマ・バートル
あまり荒っぽいのは得意じゃないけど、もうちょっと頑張らないと
あの子達が安心して眠れるためにもね

カードを使い、この先の未来を占ってみる
見えたのは「平和の訪れた村、穏やかに暮らすいくつもの家族」


勿論、私のは予知や予言では無くて占いですから。
これを信じるも信じないも貴方次第……ですけど、こういう時の私の占いって結構当たるんですよね

(ユーベルコードを使うときだけ占い師の口調に。後は素の自分のままで)

【台詞のアドリブや他の参加者との連携等歓迎】


十河・アラジ
やっぱりこのまま素直に逃がしてくれるわけもないよね……
うん、ボクも腹をくくる

卵運びの時に囮になるために付けた傷はそろそろ塞がりはじめてるけどまだ血の匂いは残ってるはず……
それなら隠れるのには不利だから今度は攻撃に出る

ワイバーンの攻撃に合わせて翼の根元に斬撃を食らわせるんだ
……狙うのはワイバーンダイブの瞬間ただ一点
そこで絶望の福音を使えば、できるはずだ

翼を斬り落すまではいけないかもしれないけどそれで機動力は削げる……
片翼でも持って行ければ上出来だ!

危険は承知の上だけど、誰かの助けになれるのなら
怖くなんかないぞ……!

※今回は鎧は全身に着込みます。
【連携、アドリブ歓迎】



●戦いの終わり
『――――!』
 ばきばきと木を薙ぎ倒し、森の中に突っ込んだ飛竜。だが、よろめきながらも立ち上がり、その翼が再び空を叩く。ひとまず距離を取ろうとしたのか、低空、木々の間を縫うように飛び立とうとしたワイバーンを――
 迎え撃つのは、黒い毛並みの、巨大な狼だ。

(「――正直、貴女には同情する部分もありますよ。子を奪われた母が、怒り狂うのは当然のこと」)
 月輪・美月は、胸中で思う。だがワイバーンもまた、狼たちを元の住処から追いやってきたのだ。そのことを思えば、襲われる立場が入れ替わっただけのこと――弱肉強食は世の理である。だから、
「ようやく正面から殴り飛ばせますね……白影!」
 足の下、またがる獣に向けて呼びかければ、相棒からは頼もしい一吠え。白影という名に反して、影で形作られたその巨体は、わずかたりとも光を反射することはない、漆黒に彩られている。それはまるで、純白の美月の髪とは正反対。
 白影が、地を蹴った。音もなく飛び上がった影狼が、飛び来る飛竜の、生々しく血を流す首筋に食らいつく。苦鳴を上げ、空に舞い上がって逃れようとするワイバーンを、白影の強靭な顎は離さない。さすがに、その巨体をぶらさげたまま十分な浮力を得ることはできず、よろよろと力なく飛ぶ飛竜。
 美月もまた、振り落とされまいと白影を掴み、さらなる力を送り込み。
「離すな、白影! 狼は竜になど負けはしないと――この世界の同族に、示してあげましょう!」

 ――その鼓舞は。一見すると、無謀な物にも映る。ワイバーンは力なく、それでも浮き上がろうとしている。このまま高々度にまで舞い上がられれば、困るのは美月の方。
 だが……彼の仲間は、白影だけではないのだ。


 ふ、と。空間から滲み出るように。もつれあう影狼と飛竜の上に現れた富波・壱子の刀――『カイナ』が、飛竜の翼を浅く斬りつける。
『――!?』
 驚き頭上を伺うワイバーンだが、そこにはもう壱子はいない。
 瞬間移動の連発によるヒット&アウェイ。感情の薄い瞳で地上から竜を見上げながら、壱子は思う。

 親は猟兵に囲まれ今にも殺されようとしている。奪われた卵は研究に使われ、おそらく最後は処分されるのだろう。
 敵ながら悲惨と言って良い有様だ。彼女は、親を持たない元実験体である。そう考えれば、重なる部分もないではない。単なる事実として、そう考えて。
(「まあ、そういうこともあるでしょう」)
 だが……だからこそ、戦闘用の人格を表に出したままの壱子の感情は、さざなみ程度にも動かない。世には悲劇が溢れている。そんな中、この一件は――まだしも筋の通った、救いのあるものだろう。
 だから、
(「――殺します」)
 再び、瞬間移動。集中して狙うのは翼だ。積み重なった戦闘で既にかなり傷ついたそれは、あと一息で浮力を失うだろう。
 頭上を取り、切りつけ、また離れる。ただそれを繰り返すだけの作業。

 ――だが。その行程に、一つだけ誤算があった。

「――壱子さん、いけません!」

 刀を振り上げた瞬間。美月の注意に、わずかに目を見開く。視界の端に映ったのは、移動を読み、自身の脇腹に向けて迫る、尾の先端の毒針。
 決して、油断していたつもりはない。ただ、

(「――対応が早い。頭上は、苦手なはずでは……!?」)
 それは、かつて打倒した他のワイバーンの情報。
 別段、頭上の相手が得意……というわけではないだろう。確かに、大抵の生き物と同じく、あるいは常に空を取ってきた飛竜はそれ以上に、頭上への対処に慣れてはいなかった。
 だが、この飛竜は、以前の物とは違う個体。適応の速さもまるで別物。それだけのことだ。

 壱子の細い身体に、針が突き刺さり。
 赤い血が、弾けて。


「――――想像してみて頂戴」
 大人の女性の、落ち着いた声が響く。
 アリマ・バートル――狼たちの前で笛の音を奏でた時とはまた違う、ミステリアスな占い師としての姿。
 振り落とされてきた壱子の身体をそっと抱きとめて。
 細めた金の瞳に映るのは戦いの趨勢か、それとも人には見えぬ未来の光景か。
 細い指先がカードを繰って、一枚のカードを選び出す。そこに描かれていた絵柄に視線を落とし……くすりと微笑んで。

「平和の訪れた村、穏やかに暮らすいくつもの家族」
 ――彼女が語るのは、事件を解決した後の村の光景だ。
 髭面の村長は疲弊した村を立て直し、家畜たちも元気を取り戻して。
 草食狼たちと徐々に良好な関係を築き始めた村人たちは、彼らと平和に共存を始める。
 その村の中には、誰が建てたか『わくわく草食オオカミ喫茶』なんて新名所も――。

 それは、予言ではないけれど。朗々と語られる未来の姿が、美月の、壱子の、そしてあるいは白影の、胸の中に確かに浮かび。
「……あ、傷が……」
 その瞬間。壱子の抑えていた傷口から、急速に痛みが引いていく。影の狼にも一層の力が籠もり。この場でただ一匹、「未来」を理解できない飛竜だけが、苦悶の咆哮を上げ続ける。

「もう、大丈夫? 実は、荒っぽいのは得意じゃなくて……あとは、任せていいかしら」
「――はい。支援に感謝します」
 神秘的な雰囲気を霧散させ、気の良いお姉さんといった様子でくすりと笑うアリマ。その笑顔に、壱子は小さく、しかししっかりと頷き、その腕から降り。

 再び『カイナ』に手をかけ、身を沈める壱子を――ワイバーンの瞳が、ぎ、と睨み。


 最後の力を振り絞るように、飛竜は羽ばたいた。方向は、下。地面に叩きつけられ、呻く美月と影狼を振り払い。
 大きく。裂けよとばかり、その顎を開く。
 一瞬の後に放たれるのは咆哮だ。咆哮と共に衝撃波を放ち、爆風により周囲の者の動きを縛る、この飛竜の切り札――ワイバーンブラスト。
 足止めはほんのひと時だけでいい。それで逃げおおせることができる。――その、目論見を。

「――うん。僕も、腹を括るよ」
 まるで先読みしたかのように。顎の中に突き込まれた、黒鎧の篭手が遮った。

 十河・アラジ。生まれながらの聖者に覚悟を決めさせたのは、アリマの見せた未来の幻視だった。
『――ッ!』
「くっ……!」
 嫌な音を立てて、ワイバーンの顎の中で篭手が軋む。いかな呪鎧といえど、このような無謀、そう続くわけもない。今にも右腕は折れそうだ。
 だが――だが。この戦いを超えた先に、確かに幸せな未来が待つというのなら。自分の身が傷つくことを恐れる必要が、どこにあるだろう?

 左手で、十字架状の大剣を逆手に持ち替えて――翼の根本に、突き入れる。

『――ッ! ――ッ!!』
「ぐっ、うぅぅ……!」
 ぎりぎりと篭手が軋む。ぐりぐりと剣先を突き込む。

 時間にして、きっとわずか数秒――けれど、永遠に続いたかのような根比べ。
 ごきん、と。竜の片翼を、根本から断ち落とす。
 根比べの勝者は、アラジ――否。

「君の翼は、とっくにボロボロだった。僕の身体には、まだ癒やしの――未来を信じる力が残っていた。だから、これは」

 皆の、勝利だよ。
 
 それだけやっと、呟いて――よろめくアラジの脇を、刀を持った少女……壱子が駆け抜ける。
 最後の力を使い果たし、片翼を失いバランスを取ることもままならない飛竜に、もはや彼女の斬撃をかわすことは能わず。

 一閃、『カイナ』の刃が飛竜の足を斬り飛ばし――二閃。生きているかのようにぐんと伸びた返す刃が、飛竜の首を、断ったのだった。


 ――キン、と。音を立て、刃を鞘に収め。
 ふと顔を上げた壱子の目に映ったのは、駆け寄ってくる美月の姿。彼が両手を挙げている意味が分からず、数秒、首を傾げて。
 もしかして、こうだろうか。思い立つままに、
「……いえーい」
 無表情のまま挙げた手は、青年の手とパンと合わさって。

 その、どこか間の抜けた光景に――誰からともなく、小さな笑いが漏れて。戦いの終わりを、彩ったのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年01月18日


挿絵イラスト