生贄特急 ~こちら邪神行き~
●暴走特急の唸り
数十トンもの重みを支える車輪が甲高い音を立てている。
その車輪は鉄道車両を運ぶためのものであり、特急を終点まで届けるため高速で回転していた。
車体を支える金属製のレールが、車輪が、車体が、無茶な加速に唸りを上げる。それは聞く者すべての心臓を不安と恐怖で握りつぶす、悲鳴だ。運転席の速度計はとっくにレッドゾーンを指し示し、危険と限界を訴える。
だが特急の速度が緩むことはない。乗客もまた騒ぐことはない。
窓から覗く景色が矢のように流れてゆく。
深緑色の豊かな木々。白く彩られた山々。刈り入れを済ませた鳶色の畑。様々なものが映り、消えてゆくがどれひとつとして乗客の興味を引くことはなかった。
特急の乗客はみな、催眠ガスによって眠らされていたのだ。
車輪はさらに悲鳴を上げる。
際限なく加速してゆく列車の運転席に、運転指令所からの呼び出し音が怒号のように鳴り響いていたが、血溜まりに沈む車掌がそれに応えることはなかった。
こちら生贄特急。
車両の乗客数百人は邪なる神々を崇める教団によって、これより供物に捧げられるのだ。
●黄昏トレインジャック
「大至急、対処してほしい事件があります」
白い軍服に包んだ少女は顔面に焦りを張り付けたままそう述べた。
「事件が起きるのはUDCアースになります。そこのある特急列車を邪教団がジャックして、終点の駅に突っ込ませようとしてるんです」
同型車両の定員は600人であると、彼女は手元の資料に目を落として告げる。これに終点駅にいる人々を合わせれば千に近い数となる。このまま特急列車が減速せずに駅へ到達すれば、全ての命が失われるのだ。
「ぼくの予知したかぎりでは、運転手は既に亡くなっているようです」
そのため、特急列車が自然に減速することはない。猟兵たちが列車に乗り込み、そして停止させなくてはいけないのだ。
「そこで、ぼくは暴走列車へ乗り込むために、並走する列車から飛び移ることを提案します」
列車はUDC組織が用意してくれる。短いあいだだが無人の列車を目標の列車と並走させるというのだ。グリモア猟兵の誘導でこの無人列車へ乗り込み、あとは各々の手段で暴走列車へ乗り移ればいい。
「でも注意してください。目標の車両には仮面とローブで全身を覆った邪教徒がいます」
つまり特急ではすぐに戦闘となる。邪教徒の数は不明だが、決して少なくない。各車両に配置されているだろう。暴走列車と心中することをまるで意に介さない狂信者共だ。
「ばばーんとダイナミックエントリーしてそのまま勢いで数を減らしちゃうのがいいですよ!」
グリモア猟兵は両手をぐっと握った。どこか応援するようだった。
「先頭車両には幹部がいるようです。これを倒せば列車を止めるのは簡単です。でも幹部と戦う前に他の邪教徒に襲われたら大変なので、先に後部車両の邪教徒を排除していったほうがいいと思います!」
作戦は三段階。まずは暴走列車へ乗り込むこと。そして邪教徒の排除。最後に幹部の排除。グリモア猟兵は指を三本立てながら解説するのだった。
「みなさん、どうか。よろしくお願いします」
鍼々
鍼々と申します。よろしくお願いします。
この依頼は三味なずなMS、煙MSと鍼々によるコラボシナリオとなります。UDCアースに発生する列車ジャック事件を解決しましょう。
これらの事件は全く同じタイミングで起きるわけではないので、他のコラボシナリオと同時参加されても時系列的な矛盾はありません。どちらも素晴らしいマスターですので、お気軽にどうぞ。
タイトルは『生贄特急 ~始発地獄行き~』(三味なずなMS)と『生贄特急 ~斜陽のニア・デス・レールウェイ~』(煙MS)になります。
最初はUDC組織の用意した車両から暴走列車へ飛び移ります。好きな方法でどうぞ。フック付きワイヤーを投げつけたり、屋根から屋根へ飛び移ったり、窓を蹴り破って突入しそのまま邪教徒を車外へ蹴り出してもいいです。カッコよく乗り移ってカッコよく邪教徒の数を減らしましょう。いきなり先頭車両へ入ることはできないのでご注意ください。また、生存者もいるので車両を破壊する行動もできないのでご注意ください。
合言葉はスタイリッシュです。アクション映画のスターになった気分でどうぞ楽しんでください。
第1章 冒険
『走行する列車に乗り込め!』
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POW : 気合や卓越した身体能力を使って列車に掴まる。列車を気合や力技で減速させてから乗り込む。
SPD : 速度で列車に追い付いて飛び乗る。列車の仕掛けに外部から干渉することで乗り込みやすくする。
WIZ : 列車が減速する通過地点で待ち伏せして飛び乗る。魔術などを使用することで乗り込みやすくする。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
セレスティア・ナイトリー
私は戦斗機械、戦いある所に戦うべくして存在するのみです。
戦うことで戦いをなくせるなら、私は私の全存在にかけて使命を全うします。
UDC組織が用意してくださる列車、利用しない手はありませんね。
「協力に感謝します」
私は装備の体積が比較的多いので、皆さんの邪魔にならないように屋根から飛び移ることにしましょう。
初期加速のためにダッシュで助走をつけ、飛び移る際には全身の蒸気推進器で二次加速を行い、最接近中にワイヤーアンカーを暴走列車に打ち込んで巻き取り、移乗します。
全身の動作確認後、戦闘用プログラムを起動して武装を展開。
「対象構造物への進入に成功。これより敵性勢力の殲滅を開始する」
レナ・ヴァレンタイン
※他猟兵との絡み、アドリブ歓迎
昨今のカルト宗教はお外で元気にテロ活動か
イケニエの捧げ方がずいぶん乱暴なことだ
という訳で諸君。乱暴には暴力でお返ししてやろう
――1人も逃がすな。全員叩き潰すぞ
列車が並走するまでは屋根に伏せて極力姿を隠しながら暴走列車の窓を覗いて中の様子を確認
敵の配置、乗客の位置
確認せんことには流れ弾で怪我人が出る危険性が高くなる
それが把握できれば。あとはショータイムだ
暴走列車に乗り移り、ユーベルコードで屋根を切り抜く
位置は敵の頭上がいい。突入ついでに踏みつぶして動きを制限できる
クイックドロウで突入されて浮足立った連中を片っ端から撃ちぬく
好きな銃弾を選ぶがいい
好きなだけ喰わせてやる
●吹きすさぶ風の洗礼
「間もなく目標の列車へ接近します」
車内にアナウンスが響く。運行記録に残らない完全非公式の車両はUDC組織が手配したものだ。乗車している者の数は少ない。非公式の臨時特急の乗客は全員猟兵だった。
そのうち、一人の白い髪の娘が呟きをこぼす。
「協力に感謝します」
暴走列車への侵入、UDC組織の支援がなければ困難だっただろう。娘は静かに思い、目を伏せる。
その隣で金髪の娘が肩をすくめた。
「昨今のカルト宗教はお外で元気にテロ活動か」
イケニエの捧げ方がずいぶん乱暴なことだと皮肉をたたく。左右で色の違う瞳が、白髪の娘の顔面のその左側に向いた。
十人が見れば十人とも顔面の左側に視線を吸い寄せられるかもしれない。彼女のそこには小さくない傷跡があり、記憶領域に修復不能な障害を発生させている。彼女はミレナリィドールだった。胸にエンブレムを持ち、その刻まれた文字から己をセレスティア・ナイトリー(流転の機士・f05448)と名付けたミレナリィドールだった。
彼女は自分が何者かを覚えていない。だが戦斗機械であることと、戦いある所で戦うべく存在するものであることは断言できる。
そばに立つ金髪の娘もまたミレナリィドールだった。舞台役者のように手を広げ、口を開く。
「これはぜひ、乱暴には暴力でお返ししてやろう」
名はレナ・ヴァレンタイン(ブラッドワンダラー・f00996)という。長く豊かな髪と柔らかな容貌そして澄んだ声は女性のものだが、身を包む衣服と紡がれる言葉は男性のそれである。シャツとネクタイの下には精巧な愛玩用の体躯があることを誰も知らないだろう。
「1人も逃がすな。全員叩き潰すぞ」
猟兵でありながら、同じ猟兵へ命令を飛ばす不遜。諸君などという言葉を使う芝居がかった振る舞いは不思議と戦いの前の空気にはよく合っていた。
セレスティアは車外に取り付けられた梯子へ手を掛ける。最後尾車両から扉を開けたとき、荒々しい風に白い髪が攫われるなどしたが、体積と質量の大きい装備のおかげで体を風にあおられることなく梯子へ伝うことができた。装備が他の猟兵の邪魔にならないよう、屋根から暴走特急へ飛び移ることにしたのだ。いざ屋根の上にたどり着くと、凄まじい暴風が絶え間なく襲い掛かってきて、レナはフェドーラ帽子が飛ばぬよう押さえた。
列車の屋根はアンテナを除いて他に障害物がなく、助走するには充分な広さが確保されている。飛び移るのに不都合はない。
やがて目標の列車に追い付いてきた。レナは身を伏せて姿を隠す。車内の敵に見つかるのは避けたかった。そのまま僅かに顔を出してみれば、窓から覗けた乗客の姿はどれも静かに寝入っていて、とても事件が起きているようには見えない。しばらく目を凝らしていると、通路に仮面を被ったローブ姿が歩くのを見つけた。モーニングスターというのだろうか、棘付き鉄球が鎖で繋がれた武器を持っている。
そのあいだセレスティアは同じく伏せながら全身の推進器を素早く点検する。各部品の取り付けに緩みがないか目と指でひとつひとつ。確認しているうち、レナがこちらをじっと見ていることに気付いた。その黒い手袋が暴走列車を指す。
二つの列車が並んで、同じ速度になっていた。頃合いだ。
ふと、セレスティアはレナの言葉を思い出す。
――1人も逃がすな。全員叩き潰すぞ。
元よりそのつもりだ。戦いを求めるのでなく、戦いをなくすために戦う。それこそが彼女の存在を賭けるに相応しい、使命なのだ。このような事件を起こす者たちをもし逃がしてしまえば、またどこかで列車が狙われてしまうかもしれない。
いざ。
セレスティアは体勢を傾け短距離走の構えをとる。
そしてついに、暴風域のなかを走りだした。臨時特急の車内に硬質の足音を鳴らす。車両の屋根を斜めに通り抜けるコース。屋根の縁に脚を掛けたとき、彼女は渾身の力でそれを蹴り抜いた。
跳躍。
そしてすぐさま点火される推進機。大型の噴出口から飛び出す膨大な熱の奔流がさらなる加速を生み出した。続いて破裂音と共に腕部と腰部からアンカーが射出され、暴走列車の側面に食い込む。
限界まで圧縮した空気の推進力を、ワイヤーの巻取りで微調整し自身を乗降口へと誘導。勢いのまま強引にドアを蹴り開けることで戦斗機械は乗車を果たした。
関節各部の駆動に問題なし。推進機の発熱は許容範囲。顔面の左部は変わらず激痛を訴えている。いつも通り。
物音に気付いたのだろう、客席から仮面を被ったローブ姿が現れた。右手には漆黒の棘付き鉄球が握られている。邪教徒だ。
「対象構造物への進入に成功」
邪教徒が得物を振りかぶる。セレスティアの頭部を叩き割るための動作。
だがそれよりも、蒸気タービンのついた剣が仮面を貫き邪教徒の体を壁へ縫いつけていた。
戦斗用プログラム、起動。
客車からの新しい気配に気づき、急いで剣を引き抜く。だが迎撃の必要はなかった。
突如天井から降り注いだ光が邪教徒を貫いたのである。
ユーベルコード、熾天の炎剣(コード・ミケル)。レナの右肘に仕込んでいた武装である。超高熱の光の刃は彼女が事前に客席を観察していたおかげで、寸分違わず屋根からの奇襲を実現したのであった。瞬きする間にコートからリボルバーを引き出し、流れるような動作で引き金を引く。連続する発砲音。眠り込んだ乗客が起きることはなく、代わりに座席から二人を伺っていた邪教徒、隣接車両から駆けてくる邪教徒がそれぞれ、永遠の眠りに叩き落とされた。
「上から失礼。少し道に迷ったものでね」
帽子のズレを治しながらニヒルに笑む。対してセレスティアは表情を変えず静かに頷いた。
「これより敵性勢力の殲滅を開始する」
「そうだな。好きなだけ銃弾を喰わせてやる」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
フロッシュ・フェローチェス
列車、ね。
純粋な速度と質量、移動する限定された場。
……利用するには「もってこい」だろうね、確かに。
ならその常識を叩き壊して……度肝抜いてやるよ。
乗物?要らないよ【ダッシュ】して追いつくから。
そもバイク乗るより、己で走った方が速いし。
メカブーツは初っ端から高出力。慢心はせずにフルスロットルで突っ走ろう。
もし追い越せたなら斜め前から、限界を感じたなら一旦猛ダッシュしてから【選択したUC】の応用で突撃だ。
タイミングを【見切り】たいね。
敵の情報はもう知ってる。故、突入後はスピーディに行こう。
【先制攻撃】で【衝撃波】を蹴りだし吹っ飛ばす。
【早業】で散弾か、銃の変形後に重量弾をばら撒き、追い出してやるか。
アルフレッド・モトロ
「まさか人生初の列車体験がこんなことになっちまうとはなあ!」
人生で初めて「電車」っつーモノに乗るぜ。
件の列車には外から乗り込みたい。
線路沿いを【ヘルカイト】に【騎乗】しUCも使って爆走。
看板とか急な坂道とか、トラックの荷台とか、何かを【地形の利用】でジャンプ台にして、列車の天井に着地!
【ワンダレイ・アンカー】を振りかぶり、天井を【怪力】で【串刺し】にぶち抜いて豪快に侵入する!
これがほんとの駆け込み乗車ってね!
ガチガチの脳筋も一周廻ればスタイリッシュに見えてこないか?
(アドリブ・絡み大歓迎)
サーズデイ・ドラッケン
突入タイミングは列車が並走出来る一瞬だけ
それを逃せば猟兵が列車に取り付くタイミングは無い
…と、敵もそう思うでしょうね
【ウェイブストライカー】で暴走する列車に並走します
味方が突入し、UDC組織が用意した列車が離れていくタイミング
侵入に気付いた敵の一部が、これ以上の増援は無いと踏んで迎撃に現れるであろうその瞬間
レイヴンのスラスターを最大出力で吹かし、後部車両の進行方向側の窓を突き破って列車内へ侵入します
もし敵が迎撃に来ていれば、先に侵入した味方と挟み撃ちをし、迅速な制圧が可能と考えます
攻撃が必要な場合は【LS-スパロウ】をアクティヴにし、白兵戦の準備を
●その速さは矢の如く
エンジン音を轟かせて線路沿いに滑空するものがいた。滑空である、走行ではない。その正体はトビエイを模った乗り物で、地面すれすれの位置に浮かび高速で暴走列車に追随していた。サーファーのように騎乗する主はアルフレッド・モトロ(蒼炎のスティング・レイ・f03702)というクダマキエイのキマイラである。相棒に自信のある彼はUDC組織の用意した列車の利用を辞退し、このように追跡しているのだ。自信に違わず、その速度は暴走列車にもUDC組織の列車にも決して負けていない。
暴力的な風が間断なく顔を、ヒレを尻尾を打つ。だが飛空戦艦に乗る者なら慣れたものか、アルフレッドは風を全身に浴びながら口元を歪ませた。同類の存在を感じとったのである。
海の気配だ。例え乗っている物がサーフボードでなく大型盾であり、乗っている者が人型の軍用機であったとしても。大海原でなく星の海を駆けるものであったとしても、アルフレッドはその人物を海の男と捉えた。
サーズデイ・ドラッケン(宇宙を駆ける義賊・f12249)である。彼はアルフレッドと同様に己が相棒に騎乗し滑空しているのだ。244.9cmという大柄な体躯と重厚感のある大型盾が、重力を感じさせず軽やかに暴走列車を追う様子が頼もしい。
「よう、気が合うな!」
だからアルフレッドは考えるより早く声を掛けた。ぎざぎざした線を描く鋭利な歯を持つ口から放たれる声は大きく、暴風域にあってもウォーマシンへよく届く。
サーズデイは滑空に集中しながら手をあげて礼を返す。同じ目的を持った猟兵であることは、火を見るよりも明らかだ。
「カッコいいもんに乗ってんじゃねぇの。盾か? それ」
「ええ。でも、あげませんよ」
サーズデイの声に陽気さが乗る。線路沿いをそのまま突き進み、進路上にあった街路樹を二人で避けた。続いて揃って大きくジャンプし民家の屋根を飛び越える。これをやり過ごせばしばらく長い直線状の道が続くはずだ。
「やるじゃん」
「それほどでも」
二人分の笑い声が風に呑まれて消えていく。邪教団の乗っ取った暴走列車を止める仕事だが、それでも二人にはいまこの瞬間を楽しむ気持ちが芽生えていた。
「それで、どうやって乗り込む?」
アルフレッドは会話の切り口を変える。
「味方が突入し、侵入に気付いた敵が迎撃に出て」
二人の影が揃ってゴミ捨て場を飛び越えた。
「これ以上の増援は無いと思った瞬間に進入したいですね」
「なるほど」
応えるアルフレッドの声に笑いが混じった。
「すると味方と挟み撃ちになるわけだな?」
「それが理想ですね――…」
サーズデイは頷こうとし、視界の端に信じられないものを見て首を向けたまま固まった。
「なんだ?」
アルフレッドもまた、そこで驚くべき光景を目にするのである。
二人の視線の先、砂利を蹴り飛ばしながら線路のバラストを走る少女がいる。緑色の髪をした彼女は何にも乗っていなかった。機械のブーツを通した二本の足を動かし、暴走列車の速度に追随しているのだ。ゴーグルにいくらか隠れているが、その表情から無理をしている様子は伺えない。むしろ自然体で、それができて当然と言わんばかりだ。人間の範疇を大きく越えた加速を実現しているのは、彼女の装備する変形機能を組み込んだブーツと、加速の術式である。
フロッシュ・フェローチェス(疾咬の神速者・f04767)もまた、UDC組織の列車の利用を断った猟兵であった。理由はもちろん、自分で走ったほうが速いからだ。そこに油断も慢心もない。ただ確信だけがあった。
「おーい!」
そこへアルフレッドが線路へと進入しながら呼びかける。フロッシュは一瞥した。
「何か用?」
「すげぇ走りだと思ってよ」
フロッシュは暴走列車を向く。左右で大きさの違う目が壁の向こうにいるであろう邪教徒を睨み付けた。
「度肝抜いてやろうと思ったんだ」
「ああ抜けるぜ、間違いなくな」
純粋な速度と質量を持ち、移動する密室という特性を考えれば、列車は儀式へ利用するには恰好の餌だと納得できる。だから、だからこそとフロッシュは思うのだ。ここで彼らの計画も常識も悉く叩き潰して、二度と同じことを考えられないようにしなくてはいけないのだ。
いつの間にかサーズデイもそばに来ていた。
「もうじきUDC組織の車両が暴走列車から離れるようです」
「そろそろか」
「仕掛けるんだね?」
フロッシュの言葉に、二人が頷いて返した。
アルフレッドは自らの搭乗するヘルカイトを一気に加速させた。滑走しながら見つけたのはトラックの荷台、そしてマンションの階段。それらの地形が彼のなか電撃的に繋がり、一筋のルートを描く。クダマキエイの口元が吊り上がり、鋭い歯を晒した。
急加速、からのジャンプ。これによってトラックの荷台を滑り、さらにジャンプ。隣接するマンションの階段の手すりを勢いよく登る。およそ二階部分から三階部分まで走り抜け、大きく屈ませた姿勢から全身の力を足に集中させての大ジャンプ!
目標、暴走列車の屋根。身を切り裂く強風を一身に浴びながら大きな弧を描く。空中で体を捻り、スピンしながら飛空戦艦の錨を引き抜いた。
「まさか人生初の列車体験がこんなことになっちまうとはなあ!」
金属のひしゃげる破壊音。アルフレッドは屋根に錨を突き刺し、そのまま傷を広げて飛び込むのだった。
「豪快だね」
化物の右眼で一部始終を眺めていたフロッシュが呟いた。そして自身もペースを上げる。高速で走り抜ける特急に一歩も劣らない恐るべき脚力。機械ブーツの、そして加速術式の援護を得て車両を次々に追い抜いて行った。やがて完全に追い越してから頭だけで振り向く。
「機械ブーツ……」
途端に彼女の履く靴がその真価を発揮した。変形機能により高速移動重視から蹴撃の破壊力重視へ。
「可変完了」
瞬間。足元は爆ぜた。僅か126分の1秒。瞬きすらスローになる刹那の時間に、蹴りでバラストに凄まじい破壊力を叩きつける。そこに生じた膨大なエネルギーによってフロッシュは推進力を獲得。暴走列車の斜め前方から砲弾のように跳んだ。狙いは列車側面、先頭車両からやや後方にずれた位置の乗降口。ガラスの砕ける音を引き連れて、彼女は車内へ身を躍らせた。
「そこだね!」
乗降口にいた邪教徒をすかさず蹴り飛ばす。衝撃波の充分に乗った一撃は敵の体を窓ガラスへと叩きつけ、線路へ叩き落とすのだった。
サーズデイは盾に搭乗したまま、彼の背負うアームドフォートの宙戦用スラスターを点火する。アルフレッドとフロッシュが突入し、邪教徒共は彼らへ群がっている頃だろう。連続する破壊音と発砲音が戦闘の始まりを告げてくる。窓から伺える列車内は彼らが同一の車両で戦っている様子と、そして先頭車両から邪教徒が続々と送り込まれている様子がわかる。邪教徒が車両の出入り口を塞ぐため固まって立っているのを見て、彼は好機と判断した。
宙戦用スラスター最大。遠慮などいらない。
轟音を全身に帯びて、彼は一気に舵を切った。並走する列車の側面、それも味方のいる車両のやや前方、ちょうど邪教徒が固まっている箇所に。
「海賊のやりかたを魅せるとしましょう」
跳んだ。否、飛んだ。騎乗する大型可変防盾の推力とスラスター推力を束ねて実現する加速度の暴力。それを窓に叩きつけて一気に飛び込み、驚愕する邪教徒たちへ防盾を押し付け、さらに加速!
ローブと仮面に身を包んだ邪教徒たちは車両反対側の窓へ叩きつけられ身動きが取れないばかりか、手に持った武器を振り回すことすら叶わない。
「ご降車願いますよ!」
サーズデイの宣告ののち、窓はその耐久力の限界を迎えて破裂。そして幾人もの邪教徒の体を線路へ送りだした。
「なあ」
盾から降りて手に持つ彼へ声が駆けられる。見ればアルフレッドの笑みがあった。
「言われなかったか? 駆け込み乗車はご遠慮くださいってよ」
「お互い様でしょう」
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
ケイス・アマクサ
「列車ジャック……まーた恐ろしいことしやがるもんだ……いやぁ、いっつもそんなもんか」
【行動】
ナミル・タグイール(呪飾獣・f00003)と同行。
突入方法は、ナミルに「一任」する。
彼女を信じて「全面的に」任せるとするぜ!
……なぁんか、嫌な予感しかしねぇけどな……。
突入後は、何か縄が括り付けられてそうな気がするからそれを座席にしっかり括ってナミルに合図を送る。
まぁ出来りゃぁ邪教徒めがけてダイナミックアタックをかましたいところだな!
「お前らの暴挙……見過ごすわけにはいかねぇんだよ」
って、きっと恰好よく着地して決めちゃうんだろうなぁ俺は!
ナミル・タグイール
ケイス・アマクサ(f01273)と同行
列車って初めて乗ったにゃ。こんなに速いんデスにゃー!
(ジェットコースター感覚で楽しむ猫)
でも、乗り込むの大変そうデスにゃ。どうしようかにゃ。
他の人の方法や資料をみて考え
「ナミルにいい考えがありマスにゃ!」
【POW】
1:ケイスにUC【黄金の鎖】で鎖を繋ぐ
2:反対側はこっちの列車に繋ぐ
3:ケイスを繋げたままの鎖をぶんぶん回して勢いを付けて、列車の窓を狙って投げる
4:ケイスが頑張ってあっちの列車に鎖繋げてナミルがそれをつたう
(UCが無理ならロープで代用
完璧な作戦にゃ。
ケイスなら大丈夫にゃ。いってらっしゃいデスにゃー!
ケイスが失敗したら力任せに爪でしがみついて乗車
UDC組織の用意した列車にはしゃぐ姿があった。艶やかな黒い体毛に身を包んだ、猫頭の獣人である。
「列車ってこんなに速いんデスにゃー!」
初めて乗ったにゃ、と喜ぶキマイラの名はナミル・タグイール(呪飾獣・f00003)だ。小さく跳ねるたび、全身の装飾品がしゃらしゃらと揺れる。金と紫の瞳は窓の外へ、車内の席へ、そして傍らに立つ人狼の顔へとあちこちひっきりなしに視線を向けていた。無邪気に喜ぶさまは遊園地に訪れた童女に似ているかもしれない。
「そりゃあ、よかったな」
そんな猫に声を掛けるのは人狼。狼頭の獣人である。数々の装飾品を纏う猫と違って、こちらは糊のきいた黒スーツを着こなしていた。
二人の名はナミル・タグイール(呪飾獣・f00003)とケイス・アマクサ(己が罪業の最果て・f01273)という。
電車ひとつでここまで喜ぶのかとケイスは口元を綻ばせる。とはいえ、いつまでもナミルの様子を眺めていられない事情があった。二人は仕事で乗車しているのだ。
「列車ジャック……まーた恐ろしいことしやがるもんだ」
いやぁ、いっつもそんなもんか。と、彼は壁に寄りかかって腕を組む。UDCアースの事件に関わるのはこれが初めてではない。
そのとき、車掌のアナウンスが聞こえた。目標の暴走列車に間もなく追いつくらしい。UDC組織の手配した運行記録に残らない完全非公式の車両であるから、この車掌も組織の手のものだろう。
さてどうやって乗り込むかと、懐から取り出した資料を見ながら考え始めると、ナミルが彼の様子に気付く。
「乗り込むの大変そうデスにゃ。どうしようかにゃ」
柔らかな黒毛の尻尾が思案に揺れる。
ついに臨時列車が暴走列車へと並んだ。並走を維持できる時間はそう長くない。車体から物音が聞こえるのは、他の猟兵がさっそく乗り込んでいるからだろう。窓からは猟兵が屋根へと飛び移る姿がいくつか見える。金と紫の瞳を思案の色で染めながら、ケイスの持つ資料を覗き込む。彼はナミルにも見やすいよう角度を調整してくれた。
そのとき。
「ん――」
彼女のなかである一本の線が繋がる。
「ナミルにいい考えがありマスにゃ!」
花の咲くような満面の笑みである。さぞ名案なのだろう。だが、ケイスは内心で渋面を作る。
嫌な予感しかしなかった。
「……わかった、全面的に任せるぜ!」
かといって代案もない。
「すべてお任せデスにゃ」
始めの手順として、ナミルがケイスへとユーベルコードを使用する。黄金の鎖(グレイプニール)という、黄金の錠前によって対象を爆破し鎖でつなぐという力だ。全く遠慮なく投げられた錠前は当然のように人狼の男を爆破する。
「オッフ!?」
ケイスの嫌な予感はさっそく的中した。髭の先端がチリチリと焦げている。だが、黄金の鎖で両者を繋ぐことには成功しており、作戦の第一段階はこれで完了である。
そしてナミルが自身の持つ鎖を列車の座席にしっかりと巻きつけた。これで第二段階完了。
「あとはケイスがあっちの列車に行けば道ができマスにゃ」
「……俺はどうやっていくんだ?」
嫌な予感は終わっていなかった。
ケイスなら大丈夫にゃと、具体的な方法を示さないままナミルは両手で鎖を掴み取る。そして突然勢いを付けて引く。
「オオッ!?」
身長190cmの狼男の体が床から離れる。まさか。ケイスの表情が歪み、内心冷や汗が流れた。
自ら体を傾け、砲丸投げの要領で彼を振り回すナミルの表情は終始楽しそうだ。回転の勢いは際限なく増してゆく。
これが作戦の第三段階。『ケイスを投げる』である。
「いってらっしゃいデスにゃー!」
ぱっと放された猫の両手から、黄金の鎖と成人男性が弾丸となって迸る。開いた窓から飛び出し、目標の暴走列車の窓へと突き刺さるのだった。
「これでケイスがあっちで鎖を結んで、ナミルがそれをつたえばいいんデスにゃ」
完璧な作戦にゃ。
ガラス片の散乱する床に手を突くとじゃり、と音がした。ケイスは体を起こしながら首を振って、靄がかった思考をクリアにする。
「あー…」
お前らの暴挙を見過ごすわけにはいかない、などとカッコいい口上を考えていた矢先に身内の暴挙に曝された。割れた窓から並走する列車内で期待する表情のナミルが見えたので、色々と言いたいことを飲み込んで仕事を果たしに行く。座席へ鎖を結んで合図を送れば、満足げに彼女が伝い始めるのだった。
「さて」
音を聞きつけて仮面とローブのいかにも怪しげな者が寄ってくる。鎖のついた鉄球を引きずり、ケイスへと一直線に進むそれは間違いなく列車ジャック犯の仲間である。
彼女がたどり着くまで露払いのひとつもしておくか。
顔面を縦断する傷の奥、金の双眸に敵意が宿った。
「お前らの暴挙……見過ごすわけにはいかねぇんだよ」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
尾守・夜野
POW判定
窓を覗き狂信者がいるのを確認
武器改造でNagelの弾に紐結びつけて、その少し手前の車体に打ち込んで勢いを着けて飛び移るぜ!
空に浮いてる間に黒剣に持ち替え…狂信者ごと貫通させる!
車体を足場に体を支え、べきべきと力づくで入り口を切り裂いてあける
ここが壁?鉄?
んなものは関係ねぇな
刻印も合わせて使い、食い破っての登場だ
よう…またせたな!
あ、Nagelには別に巻き取り機能とかねぇからな?
全手動だぜ?
でっけぇ入り口作ったのは、ガスを逃がす道作る意味合いもあるぜ
●その血は我が刃の糧となり
尾守・夜野(群れる死鬼・f05352)は並走する暴走列車の窓を覗き込み、内部の様子を伺う。グリモア猟兵から聞く限りでは、乗客はみなガスによって眠らされてるという。実際に見える人々の顔はどれも静かに瞼を閉じていて、生命の危機に瀕しているなど夢にも思わないようだ。
「……」
夜野の赤い目が細められる。
客車の通路を歩く姿に気付いたからだ。顔全体を覆う仮面に、全身を包むくすんだローブ。間違いない。邪教徒だ。
目標の位置がわかればあとは早い。
懐からワイヤーリールを取り出し、端を歯で咥えた。片手を使ってぎりりとワイヤーを引き出す。夜野は暴走車両へ飛び移るための小道具を作ろうとしていた。空いた手には銃弾がひとつあって、素早い動作でワイヤーを結び付ける。それは特殊な銃弾だった。形状は釘に似ているが、返しと血溝があるのだ。そしてそんな弾丸を装填できる銃が特別製でないわけがない。ワイヤーを結ばれた弾丸が単発銃へと装填された。アンティークな作りのそれを彼はNagelと呼んでいる。
最後の準備だと彼は列車のドアを開け、人間ひとりぶんの隙間を作った。進路の確保だ。
発砲音。
暴走列車の車体に穴が開き、ワイヤーの橋が掛けられた。通路の邪教徒が音に気付いて壁へ近づいてくる。
好機。
「いくぜ!」
夜野はワイヤーを握りしめながら助走をつけた。一歩、二歩、三歩。ドアの縁に足を掛け、渾身の力で蹴り出し、同時に片手でワイヤーを一気に引き寄せる!
瞬間、車体から飛び出た体を風の暴力が襲う。長い漆黒の髪とマントが翻るが、彼の手元は微塵も狂わない。Nagelを素早く懐へ収納し、黒剣へと持ち替える。異端の血を啜る呪われた剣だ。列車の乗客を邪神に捧げようとする輩にはちょうどいい。
どん、と鉄板を打つ音が風の音に紛れた。
夜野は暴走列車の壁に取り付いたのだ。そして刃を閃かせ勢いよく突き入れる。窓が赤い飛沫に汚れた。邪教徒の血だ。
そのまま車体を足場に剣を動かし、傷を押し広げる。材質が鋼鉄だろうと夜野にとっては何ら障害になりえない。彼の刻印が黒剣を通じて鮮血を吸い上げ、目を覚ます。剣を振るう手に毛皮が這い、肌を覆い隠して人外の力を授けるのだ。
べきべき、ばりばりばり。
「よう、またせたな」
荒々しくこじ開けられた穴を通じて、絶命した邪教徒に声を掛ける。列車内に風が吹き込んで催眠ガスを吹き消していった。
大成功
🔵🔵🔵
プリンセラ・プリンセス
他の参加者との合同推奨(窓から入る人が居ればベスト)
(他のPCが乗り込んで教団員を打ちのめした後、反撃しようとした教団員の後ろから)
「ふう、初めて列車に乗ったのですから静かにしてほしいですわ」
あえてどう乗り込んだかは描写しない。いつの間にか乗り込んでいた枠。
読んでいた文庫本を閉じる。
「誰ぞ来よ。――戦の時間です」
応えたのは13番目の姉、ケイ。
服は黒いスーツに変わり、ハンチング帽を被る。
両腕にはモーゼル二丁。異世界文化を知ることで武器が変わったようだ。
座った状態から抜き撃ちで団員を撃ち倒す。
「切符は弾丸。お代は命。地獄への特急列車にご案内っと」
帽子を銃口で持ち上げて呟く。
ティアー・ロード
邪教徒の攻撃や窓如きでは私のボディは傷一つつきやしないさ!
窓を叩き割ってかっこよく後部車両へとダイナミックにエントリーするよ
「ふぅ、かっこよく登場しても観客はいないのは残念だ……
おっと、涙の支配者、ロード・ティアー推参!」
「ヴィランに明日を生きる道はないと思い知れ!」
ヴィランとの戦闘でも仮面単体で突撃して
全身を利用した体当たりやビンタをお見舞いするよ
「ハーハッハ!捨て身タックル!」
「必殺!捨て身ビンタァ!」
使用ユーベルコードは【サモニングガイスト】
邪教徒が逃げたり何か仕掛けようとしてきたらソレを防ぐ為に炎の戦乙女の亡霊を召還しよう
「おっと、そこから先は死んでから逝ってくれるかい?」
「甘いね!」
●闖入者ふたり
そのとき、並走する列車の間を小さな影が飛び移った。それは勢いのまま窓へ激突して穴を開ける。
あれはなんだ。鳥か、妖精か、いや…仮面だ!
「UDCアース製の窓ごときで私のボディは傷ひとつつきやしないさ!」
陽光を浴びて煌くガラスを背負い、ダイナミックにポーズをとる仮面の女。いや、よく見なくてはいけない。仮面を被った人物ではない。仮面そのものだ。仮面そのものがポーズをとっている。その名は、ティアー・ロード!
「ふぅ、かっこよく登場しても観客はいないのが残念だ…」
みんな寝てるからしょうがないね。
「おっと。涙の支配者、ロード・ティアー推参!」
それでも名乗り口上は欠かさない。ヒーローの鏡だ。どこからヴィランが見てるかわからないからね。
滞空する仮面はさっそく周囲を見回す。さながら天井から糸で吊るされたように、高度を変えないまま回転する様子は面妖と言って差し支えないだろう。
事実、その光景を目にした邪教徒が、状況を掴めず立ち尽くしていた。無貌の仮面によって表情こそ伺えないが、彼の口はぽっかり開いていることだろう。もっとも、仮面同士て親近感を抱いたりは特にしない。
ティアーはさっそく突撃を敢行した。
彼女の行動は早かった。あらかじめ敵の存在を伝えられていたのだ、物音に気付いて様子を見にきたら突然宙に浮かぶ謎の仮面と遭遇した邪教徒とはわけが違う。心構えが全く違う。
「ヴィランに明日を生きる道はないと思い知れ!」
敵が反応するより早く鳩尾へ飛び込む。
「ハーハッハ! 捨て身タックル!」
そのまま邪教徒の体を押し倒して。
「必殺! 捨て身ビンタァ!」
何度も何度も執拗に体を顔面へと叩きつける。仮面同士のぶつかり合う硬い音が車内に響いた。
説明しよう。涙の支配者ロード・ティアーは武器を持たず身一つで肉弾戦を仕掛けるため、攻撃のほとんどが捨て身になるのだ!
さて。実は仮面が仮面を滅多打ちにする一部始終を目撃しているものがいた。
紅玉のはまった控えめで上品なティアラ。体をゆったり包むシルクのドレス。フリルをふんだんに拵えられた衣装は見るものすべてに最高級品であることを示すだろう。王室御用達という言葉を思い浮かべる者さえいるかもしれない。
まさに王女然とした姿の少女。その名はプリンセラ・プリンセス(Fly Baby Fly・f01272)。彼女は正真正銘の姫であった。
いかなる方法で乗り込んだのか、プリンセラはすでに座席に腰掛け文庫本を開いて寛いでいたのだ。
ティアーが一方的に邪教徒を打ち据えているあいだ、彼女は構わずページを捲り続けた。列車に乗る体験は初めてなのである。足元から伝う規則正しい振動に、多少の感慨を覚えていたかもしれない。
やがて、紙を捲る指が留まる。新たに邪教徒が現れる気配を感じたのだ。ティアーの後方から棘付き鉄球を叩きつけようと握りしめたところで、彼女はついに目を伏せた。
「ふう」
溜息。ゆったりと口元を本で隠し、流し目で敵を見やる。
「初めて列車に乗ったのですから、静かにしてほしいですわ」
ぱたり、本が閉じられた。
バカンスはこれで終わり。ここからは猟兵の時間だ。
「誰ぞ来よ」
プリンセラは目を伏せ、問いかけを放つ。彼女の問いは猟兵に向けたものでも、敵に向けたものでもない。ましてや戦いを知らぬまま眠る周囲の民間人でもない。
それは己の内。彼女の未来を憂いて力を貸す多数のきょうだいたち。末姫の体に宿った人格という力。
「――戦の時間です」
やがて、ひとりの人格が声を上げる。彼女の13番目の姉にあたる姫だ。名はケイという。
プリンセラが再び目を開けたときには、彼女は何もかも変わっていた。
服は墨を流したような漆黒のスーツに変わり、ティアラはハンチング帽と交代する。驚くべきことにふたつの自動拳銃が手に収まっていた。恐るべき速さの着替えだが厳密には着替えたわけではない。彼女の持っていた礼装と剣が、人格の切り替えに対応したまでのことだ。
銃声が二つ。
そして死体がひとつ。
眉間と心臓から血を流して倒れる邪教団を一瞥し。
「切符は弾丸。お代は命。地獄への特急列車にご案内っと」
彼女たちは、硝煙の登る銃口で帽子を持ち上げて呟いた。
仮面を叩く硬質な音はすっかりやんでいた。
ティアーは赤い双眸を猟兵に向け、へえと感心する。
しかしその後ろで立ち上がる影がある。先ほどまで打ち据えていた邪教徒だ。敵はティアーの隙にすかさず武器を振り上げた。モーニングスターと呼ばれる凶悪な鉄球が目標を砕くべく加速する。
「甘いね」
殺意は仮面に届かなかった。戦乙女が槍で受け止めていたのだ。全身を炎に包む亡霊はティアーが呼び出したものである。
「そこから先は死んでからにしてもらえるかい?」
振り向きもせずにティアーは言う。
突如、火柱が敵を飲み込んだ。
恐るべき業火はだんだんと小さくなり、やがて灰だけを残して消え去るのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
須藤・莉亜
ゼット(f03370)と一緒にー。
「遅れないようにれっつらごー。頼むよ、コシュタ」
召喚した首なし馬に騎乗して列車へ飛び移る
しっかり助走してスピード上げてジャンプしよう。
「いえーい。ちょっと楽しいね」
着地点に邪教徒がいた場合は轢いとこう。
「さて、敵さんはどこに居るのかな?」
ゼット・ドラグ
「うおおおおおおお!いくぞ須藤!馬の準備は出来てるかあああああああああ!」
ゴッドスピードライドで、バイクのドラゴンチェイサーからブースター2基が飛び出たスタートダッシュモードに変形させて、列車に向かって全速力で飛び出し、窓をぶち破って侵入。ついでに邪教徒をバイクで押しつぶせれば良いんだが。
使用したブースターは切り離して邪教徒にぶつけて爆破する。
「よっしゃ、そんじゃこっからは戦闘と行こうか!」
最後にバイクから降りて、黒剣を握って邪教徒との闘いに備える。
●追突事故
「うおおおおおおお! いくぞ須藤! 馬の準備は出来てるかあああああああああ!」
線路を男の大声が駆け抜けた。
声の主はゼット・ドラグ(竜殺し・f03370)。体に機械部位を宿すサイボーグ戦士である。彼はUDC組織の用意した列車には搭乗しておらず、代わりに自ら用意した宇宙バイクを駆っていた。そのバイク、名をドラゴンチェイサーという。ユーベルコードに応じて大砲や大剣へと変形する機構を持った多機能バイクだが、今回ばかりは速度重視にされていた。
ブースター二基を増設した、スタートダッシュモードによる加速が空気の層を強引に突き破ってゆく。彼には確信があった。支援組織の用意した列車から飛び移るよりも、愛機を使用したほうがずっと気楽で、なにより馴染むと。
「須藤おおおお!」
そんな男は時折背後を振り返る。叫び続けるのは同僚の名だ。
ゼットより幾分か後方にひとりの男がいた。
紫の髪に紫の瞳。眠気を引き摺っているのかどこかぼんやりした表情を浮かべている。目の下には決して薄くない隈があり、彼の独特の雰囲気を強めていた。彼が須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)である。
「準備ならできてるよ」
ねぇ、と馬に同意を求める。須藤は馬に跨っていた。しかしただの馬ではない。首なしの騎士の操る首なし馬、コシュタ・バワーだ。伝承を元に須藤によって召喚されているのである。暴走列車どころか、同行者のゼットにすら追いつけるか危うい速度で駆けているが、須藤の顔に焦りはない。
首なし馬の実力はこの程度ではないことを知っているからだ。
とはいえ、ゼットの気を揉ませるのも本意ではなく。
「遅れないようにれっつらごー。頼むよ、コシュタ」
首なし馬は頷くような気配を見せ、そして足を速めた。四つ足が刻むビートは段階的に激しさを増してゆく。速く。より速く。さらに速く。
須藤は振り落とされないよう手綱強く握りしめていた。
「きたか!」
不意に前方から声を投げられた。
「おまたせ」
紫色の髪が風に振り乱れて、須藤は掻きわけた。自分より長いものの、硬そうに見えるゼットの髪がこのときばかりは便利そうに感じる。そんな感想を露にも知らずゼットは安堵した顔を見せた。
「そろそろ乗り込むぞ、加速できるな?」
「余裕だね」
ゼットはうなずいて、さらにスピードを上げる。二基のブースターがさらに熱量を増し、爆発的な加速を生んだ。スタートダッシュモードの本領発揮だ。前方にふたつの並走する列車を見据え、一気に距離を詰めてゆく。
須藤もまた合図を送る。すると首なし馬から嘶きが聞こえ、彼はそれを鞍にしっかり捕まれと促されてるのだと解釈する。
並走する列車へ、並走する一機と一騎が追い上げる。
ゼットは不意に走行しながら前輪を持ち上げた。後輪走行、あるいはウィリー走行と呼ばれる技術だ。須藤が興味深そうに覗き込んでくるが、なにも曲芸走行を披露するのが目的ではない。車体を上方に傾けることによって、ブースターの角度を調整したのである。
推進力が上を向くことによって車体に浮き上がろうとする力が掛かる。そのまま出力を上げれば。
「いくぜ、全開だ!」
ブースターが轟音をあげる。そして宇宙バイクが浮いた、浮き上がった。目標は最後尾車両。その窓だ。
「叩き破れ!」
限界まで加速したドラゴンチェイサーが、ついに暴走列車の尾へ食らいついた。
侵入を果たすなりゼットは邪教徒の姿を三人認める。素早くハンドルを切り、前輪と片足ついて後輪を空転させながら旋回。邪教徒目掛けて後輪を叩きつける!
目標残り二人。
「オマケにこいつも持って行きな!」
敵が対応するより早く、ブースターを切り離す。解放されたそれはたちまち邪教徒へと飛び込み、そして爆発した。
目標残り一人。
敵は棘付き鉄球を構えながらじりじりと距離を詰めてくる。上等だ。
「よっしゃ、そんじゃこっからは戦闘と行こうか!」
ゼットはバイクから降りながら黒剣を引き抜いた。
まさにその瞬間だった。
金属のひしゃげる音が車両を襲う。
「な――!?」
音の発信源が屋根であることを電撃的に察した彼は急いで見上げる。
すると、首なし馬の足が現れ、屋根を突き破りながら床へと着地するのであった。突風が車内を吹き抜け、割れた鉄骨やガラス、木板が浚われてゆく。そんななか、のんびりした声が響いた。
「いえーい。ちょっと楽しいね」
須藤の声である。
「無茶するなぁ」
これには肩をすくめるしかない。
「さて、敵さんはどこに居るのかな?」
続く質問にゼットは、馬の足元を指さして答えるのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
煌燥・燿
とりあえず掴まって入るだけでも身体使いそうだしPOWを使い。
装備してるフック付きワイヤーで列車に飛び移り
高温を発する妖精鋼、不死鳥降臨・再誕を使って。
列車のドアを溶解してこじ開け侵入するぜ。
◆
列車は遠隔の安全装置が色々あるはずなんだが。
それが動いてないって事は連中が何か細工してるんだろう。
色々細工して列車が過ぎ去ったらもうチャンスがない。
力押しで飛び乗る事にするぜ。
あちこち世界を渡ってる間に
故郷はこんな大変な事になってたのか。
学校もあるし身内も居る、やっぱり一番故郷が大事だ。
絶対にこんな奴らの好きにはさせないぜ。
ヴィクティム・ウィンターミュート
オイオイ、自分から棺を用意してくれるとは、殊勝なフリークスどもじゃねーの。納棺から火葬まで最高のサービスで導いてやるからよぉ…報酬代わりに命を置いていってくれや!
ユーベルコードで身体能力と演算能力を最大まで上げる。ランニングハックはデータシーフの代名詞。【ダッシュ】しながら【ハッキング】で列車のシステムを掌握、停止あるいは減速を試みる。そしたら【早業】と【ダッシュ】で加速、パルクールの要領で超機動かまして、【忍び足】で気配と足音を消して静かに侵入。
敵がいたら静かに一人ずつ、不幸にしてやる。
「しーっ…電車内の騒音はおやめください。他のお客様にご迷惑となりますので…静かにくたばってくださいってな」
●この世界の人々は邪神の実在を知らない
UDC組織の用意した列車が、床から規則正しい振動を伝えてくる。それを靴底に感じながら、腕を組み壁へ体重を預ける青年がいた。
煌燥・燿(影焼く眼・f02597)である。薄く開かれた緑色の瞳には憂いと疑問が湛えられている。
――おかしい。
UDCアースの列車には通常、遠隔の安全装置があるはずだ。例え邪教団が車掌を殺害し運転席を乗っ取ったとしても、遠隔操作で停止させることは本来可能なはずである。それが動いてないという事は連中が何か細工をしてることになる。
緑色の瞳は、床からある青年へと向いた。
左右二本のサイバーアームと、ゴーグルが目立つ青年だ。身長は燿より幾分か低い。それが座席に座り、右腕のデバイスを操作している。時折悪態が聞こえるのは、何らかの作業の進捗が思わしくないのだろうか。
苛立ちまぎれにデバイスのカバーを閉じて立ち上がる様子に、思わず声を掛けてしまった。
「何か困ってる?」
青年、ヴィクティム・ウィンターミュート(ストリートランナー・f01172)は意外そうな表情を向けてきた。話しかけられるとは思っていなかったようだった。だが、すぐに質問の内容を思い出して眉間に皺を寄せながら後頭部を掻く。
「列車のシステムを掌握して停止させようとしたんだがな」
「なるほど」
燿の眼から見て、暴走列車に減速する様子はない。うまくいかなかったのだろう。
「プロテクトが硬かったんだ?」
「いや」
ヴィクティムはすぐに否定した。一介の列車のシステムなど容易にハッキングできる。電脳魔術士である彼がその程度で躓くはずがない。元フリーの非合法工作員という肩書は伊達ではないのだ。
「システム自体は簡単に乗っ取れたんだ。けどな、車輪の動作がシステムの制御から外れてやがった」
果たしてインスタグラファーに電脳魔術士の説明を正しく理解できたかどうか定かでない。だが、運転指令所の遠隔操作を一切受け付けない状態であることは把握できた。
「つまり?」
「連中の大好きな邪神パワーとやらで制御してんじゃねぇの」
投げやりに放たれた言葉から、ヴィクティムの悔しさが伺える。
「そういうことか」
燿は床を踏み鳴らしながら、列車のドアを開けた。吹き込む風が薄いオレンジ色の髪を掻き乱してゆく。真正面に暴走列車が見えた。色々細工をしようとしてこれが過ぎ去ったらもうチャンスがない。他に選択肢がなかった。
「それじゃ、俺は力押しで飛び乗る事にするぜ」
「いや待て」
なに、と振り返る燿をヴィクティムの攻撃的な笑みが迎えた。
「お前が力押しすんなら、俺も無茶できると思ってな」
ドアから流れ込む風に裾を靡かせながら、燿はフック付きワイヤーを構える。
「15秒後だ。15秒後に減速させる。そんときに飛び込んでくれや」
背中から投げかけられた声に頷いた。
彼があちこち世界を渡ってる間に、故郷はいつのまにか列車テロに見舞われるような、大変な事になっていた。蒸気と魔法の世界があった。日本の歴史書から飛び出たような世界もあった。滅亡した人類の科学技術が煌く世界もあった。
だが、燿の世界はここだ。ここには学校があり、身内も居るのだ。故郷を、絶対に連中の好きにはさせない。
やがて15秒が経つ。突如眼前の車両から火花が舞い上がった。発生源は車輪だ。他の車両に変化はない。目の前の車両だけが火花を発している。見れば暴走列車の一車両だけが車輪の回転を止めている。金属の擦れる音が燿には断末魔に聞こえる。
「行け!」
鋭い声に背を押され、燿が跳ぶ。一、二、三歩。狭い車内で付けた助走で速度を稼ぎ、ドアを跳び越え風を切り裂く。手には掌サイズのナイフ。だがただのナイフと侮ってはいけない。彼が妖精鋼と呼ぶその武器のなかで、火と光の妖精が踊ればたちまち姿が変わる。すなわち刃が白熱して輝く長剣へと!
跳び込む勢いのまま壁面を斬りつければ、傷はオレンジ色に輝き広がって、青年を迎え入れるのだった。
「灰からもう一篇やり直してもらうぜ」
「へっ」
一部始終をゴーグル越しに見て満足気にヴィクティムは笑う。鼻と目尻からどろりと赤い線が垂れて、床に模様を作った。ユーベルコードの負荷だ。
彼の持つ電脳無辺(ニューロン・オーバーロード)が、脳のリミッターを解除しハッキング能力を劇的に飛躍させていたのだ。掌握した列車の運行システムから、一車両に限定して車輪を停止させたのである。邪神を奉じる邪教徒によって支配されていたところから、強引に制御権を奪い取ってやったのだ。
暴走列車の速度が目に見えて落ちる。これで他の猟兵も乗り込みやすくなったことだろう。長くは続かないがこれで充分なはずだ。なにしろヴィクティムも乗り込まないといけない。これがもし、ハッキングと突入と邪教徒への攻撃の全てをこなせと言われたら、どれかひとつが疎かになっていただろうが、燿が派手に突入してくれたおかげでだいぶ余裕ができる。彼には囮として役立ってもらおう。
「それじゃ俺も――…」
ヴィクティムが目標の列車を見据えて身を屈ませる。
「いくか」
直後。彼の体が車外へ跳び上がった。跳躍の高度は先達のそれより遥かに高い。使用したユーベルコードの効果は脳のリミッターを解除するだけではないのだ。超肉体強化と反射神経強化のプログラムが同時に使用されている。ヴィクティムは軽々と暴走車両を飛び越え、屋根に片手をつき減速しながら車体反対側の壁へと滑り込む。屋根の縁を片手で掴んだ宙吊りの状態だが、彼の表情に恐怖はない。車内の敵は皆、燿へ注目していることだろう。空いた手の指先で小さく穴を開けた窓から鍵を開け、素早く身を躍らせた。もちろん音を立てるような愚を犯さない。
青い瞳が通路を歩く邪教徒を捉える。敵は相変わらず燿へ向いている。内心ほくそ笑んで片手を伸ばし、背後から首を掴んだ。驚き振り返る仮面に人差し指立てて応える。
「しーっ…電車内の騒音はおやめください」
そしてそのまま握りつぶす。
「他のお客様にご迷惑となりますので…静かにくたばってくださいってな」
地獄行きの特急列車。自分から棺を用意してくれるとは、殊勝なフリークスどもだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
コーディリア・アレキサンダ
【氷室・癒(f00121)と同行】
……癒、流石にキミのその翼じゃ列車に追いつくのは大変だよ
《騒ぎ、翔けるもの》を使用
魔法の箒で列車に乗り込もう。これの速さなら追いつけるからね
ほら、癒もいくよ。……後ろでいいよね?
箒の姿をした悪魔――『ワイルドスピード』、もっと速度を上げて
曲がることは考えなくていいよ、今日はボクだけじゃないからね
癒、キミの羽根で方向転換を手伝って。……そう、上手
多少強引にでも、列車に突入。窓辺りを魔法で割りながら、箒で突っ込もう
……癒の着地は考えていなかったね。ごめん
抱き上げるように立ち上がらせつつ――さあ、始めようか
氷室・癒
【コーディリア・アレキサンダ(f00037)と同行】
大変です大変です! 600人ですっ! それはとってもいけないことですっ!
人が死んじゃうなんて危ないですっ!
コーディリアさんの箒で行きますっ! 二人乗りですっ!
ぎゅーって後ろから抱きしめて落っこちないように! 落っこちても飛べますが!
コーディリアさんの指示に従って翼を開いて補助します!
うおーっ! 右に! 左に! 急加速ーっ!
急加速しすぎて飛び込んだらどーんって吹っ飛ばされちゃうかもしれませんっ! ピンチっ!
きっとコーディリアさんが助けてくれるはずなので、その時は手を伸ばしますっ! ぎゅっ!
●彗星の如く
――大変です大変です! 600もの人が死んじゃうなんていけないことです!
――そうだね。
――さあいきましょう!
――さすがにキミのその翼じゃ列車に追いつくのは大変だよ
線路を一筋の銀が駆け抜ける。これを箒星と呼べばいいのだろうか。
正体は箒に跨った銀髪の魔女で、彼女はその背後に同じく銀髪の少女を乗せていた。コーディリア・アレキサンダ(亡国の魔女・f00037)と、氷室・癒(超ド級ハッピーエンド・f00121)である。二人は暴走列車の姿を求めて、線路上を猛烈な速度で追い上げる。絶えず暴風が二人を打ち付けていて、振り乱される銀の髪がまるで彗星の尾のように翻った。
癒は落ちないよう魔女の腰へ回した腕に力を込める。
魔女の箒への騎乗はコーディリアの提案だった。彼女が操るのはユーベルコードによって顕現させた、箒の姿をした悪魔。それは魔法の箒と聞いて大衆が思い浮かべるものとは一線を画す力を持つ。軌道の調整を捨て、直進にのみ集中すれば、暴走列車へ追いつくなどさして難しいことではない。
「コーディリアさん!」
「ああ、見えてきたね」
車輪に悲鳴をあげさせながら並走する二つの鉄塊。片方は邪神奉ずる狂信者共の支配した特急で、もう片方はUDC組織の用意したものだ。走行音とは違うものが時折聞こえるのは、すでにいくらかの猟兵が乗り移っている証左なのだろう。
「ワイルドスピード」
魔女が悪魔の名を呼ぶ。
「もっと速度を上げて」
瞬間、癒は唸り声を聞いた気がした。窄められた眉が、驚愕によって吊り上がる。箒が急激に加速したのだ。
「うわわわ」
全身を打つ風がより一層強いものとなり、通り過ぎてゆく景色が雑多な色の塊だけになる。あっという間に列車の最後尾が目と鼻の先まで来ていた。
「癒」
「はい! ぼくの出番です!」
癒はすぐさまオラトリオの翼を広げた。自慢の黒翼だ。二人乗りの箒に空気抵抗を生むのだが、コーディリアの計算通りである。
「右に」
「うおーっ! 右に!」
翼の角度を調整すると、彼女の体に横向きの強い力が掛かる。同行者を抱きしめる腕から力は伝播し、箒の進路を右に傾けた。
「そう、上手」
でもちょっと右に向きすぎたからやや左に、と注文すれば、癒は気合を入れて方向転換した。再び掛かった横向きの大きな力に、魔女は静かに悟る。
このスピードで咆哮の微調整は無理があったかな。
細かく方向を修正しようとしても蛇行する未来しか見えない。箒はとっくに最後尾車両を追い抜いていた。
まあいい、ここからでもやり方はある。
「右へ面舵いっぱい」
「え、それって」
暴走列車の壁に激突するコースだ。
「大丈夫だから」
コーディリアが、腰に回された手へ己が手を添え、癒の胸中に湧きあがった不安をそっと鎮める。
「はい! それじゃ、いきます!」
癒は胆力に力を込め、ぎゅっと瞼をつむった。そして大きく翼を広げる。
これまでとはけた違いの力が二人を包み、列車の側面へ飛び込ませた。
箒が客席の窓を突き破る直前に、魔法弾が入り口を作る。
飛散するガラス片が飛沫となって床に降り注ぎ、その上を二人の少女が転がり落ちた。魔法で減速するコーディリアと違って、癒は停止するまでころころと通路を転がり続けた。
やがて、何か弾力あるものにぶつかって止まる。
「あいたっ」
痛む頭を抑えながら、癒は衝突したものの正体を確かめるべく顔をあげた。まず初めにくすんだローブが見えた。次に顔全体を覆う仮面が見えた。最後に棘のついた鉄球が見えた。
邪教徒だ。じゃらり。モーニングスターを構えていた。
あ、と小さな声が桜色の唇から零れ落ちる。
「はい! いやしちゃんですっ!」
ひとまず笑顔で名乗ってみた。邪教徒は何も答えず鉄球を振り上げる。無情。
暴力がいよいよ振り下ろされるという瞬間、何者かが癒の手を引いた。
「ごめん」
破砕音と聞きなれた声。癒が直前までいた床を鉄球が粉々に打ち砕き、それと入れ替わるようにして箒の柄が突き出され、仮面を打ち据えて転ばせる。
「癒の着地は考えていなかったね」
尻もちをついた少女をコーディリアが抱き起こした。それから赤い瞳が立ち上がろうとする邪教徒を見据える。
――さあ、始めようか。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
レイラ・ツェレンスカヤ
こんなに速い乗り物に飛び乗ろうなんて、無茶ね!
失敗したらきっと無様なことになるのだわ!
うふふ、うふふふ!
さあ、並走する電車から飛び乗りましょ!
どこにでも引っかかればいいかしら!
血槍を突き刺して掴まるのだわ!
位置が固定できたら、волшебство・пушкаを進行方向の地面に向けて放つかしら!
楔を打ち込んで、列車を減速するのだわ!
こんなに速くて重いものに逆らうんだもの、反動でレイラの腕もきっと無事では済まないかしら!
でもでも、自分の幾千幾万倍のものに逆らって無残に折れ曲がったレイラの腕も、きっととっても可愛いのだわ!
ロカロカ・ペルペンテュッティ
ロヒカルメさん、こんにちは、ですね。
……あまりお話ししていられる状況ではないようですね。
無辜の人々を犠牲にしての儀式など、必ず止めなければなりません。
地霊の首飾りの力で精霊の声を聞き、最適な乗り移りポイントを割り出します。(技能:地形の利用)
この上で、あとは最適なタイミングを精霊の導きで測り(技能:第六感)、自裁に伸縮する鎖、『グレイプニルペンデュラム』を使って一気に車両にわたるとしましょう。(技能:ロープワーク)
もしも、何らかの妨害などでペンデュラムが届かない場合は車両の影から《影より伸びる腕》で自分を捕まえさせます。
白寂・魅蓮
邪教集団による列車の乗っ取りか。
随分とまあ思い切ったことをするものだ。
だけど挑んだ相手が悪かった、というのを教えてあげないとね。
見たところ列車の速度的には飛び乗っていけそうだ。
【刹那の舞「白夜公」】で一時的に高速移動を可能にさせて、一気に列車に飛び移ろう。
もし列車との距離が離れたとしても、これで追い付けるかもしれない。
中に乗り込んだら潜入し、相手に武装を用意させる前に勝負を決める。
扇子は投げて飛び道具にしつつ、軽業で鍛えた足技で無力化を図ろう。
※他の猟兵との協力、アドリブ歓迎です。
●精霊が指し示すものは
事態は一刻を争う。UDC組織が手配した臨時車両の、暴走列車と並走していられる時間は長くない。
事件を予知したグリモア猟兵と碌に話もできなかった。
残念に思う気持ちがないでもないが、儀式の阻止に失敗すれば無辜の人々が大勢失われるのだ。飛び移りのチャンスはきっと一度きりだから、慎重に慎重を重ねなければならない。、
ロカロカ・ペルペンテュッティ(《標本集》・f00198)は目を閉じ心を鎮めながら、臨時車両のなかを歩く。頭からぴんと立つ一対の野生的な耳に、どこかの伝統衣装を想起させる服装。さらに露わな肌を彩る刺青を持つ人物だ。年齢も相まって、男性でありながらまるで女性と見間違うような容姿が、道行く人々の視線を強く引き付けるに違いない。もっとも、猟兵の持つ外見に違和感を感じさせない力が、奇異の眼を集めさせることはないかもしれないが。
一歩、また一歩。歩くたびに首飾りが小さく揺れた。彼は地形を探るため、首飾りに意識を集中させる。こうして地霊の声に耳を傾けるのだ。いずれ乗り移りに最適な場所を教えてくれるはずである。彼はシャーマンだ。体の大半を覆う禍々しい刺青は飾りではない。
だが、そこで。
「ロカロカさん」
彼に声を掛けるものがいた。年の頃およそ十歳になるかという少年。ロカロカは少年の鈍く輝く銀の髪と紫陽花色の瞳を知っていた。
「魅蓮さん」
「邪魔しましたか?」
白寂・魅蓮(黒蓮・f00605)は話しかけたあとで、ロカロカの邪魔をしたかもしれないと思った。しかし相手は心配いらないと首を振る。
「どこから飛び移ろうかと考えていたところです」
「そうですか」
眉と口元で、安堵の表情を作る魅蓮だ。身長121cmと小柄な猟兵だがその体躯は舞踏により引き締まっている。彼はその年齢で既に、世界を旅して歩き回る芸者だった。年の割に落ち着いた話し方をするのは、世界を旅した経験から培われたものか。あるいはもっと別の何かによるものか。
魅蓮はやや目を伏せながら口元に手を寄せ、それにしてもと続ける。
「列車の乗っ取りとは、邪教の者も随分と思い切ったことをするものですね」
「ええ」
その後の二人の顔は対照的だった。必ず止めなければなりません、と厳しい眼差しで暴走列車を見やるロカロカ。そして、挑んだ相手が悪かったというのを教えてやらねばと表情を消す魅蓮がいた。
そのとき、ロカロカの首飾りがざわついた。精霊が口を寄せ、ロカロカの耳にささやいて、ある一点を指さした。
「こっち?」
彼は導かれるまま車両を進む。魅蓮もロカロカの様子から何かしらを理解したのか、黙って後を付いてゆく。
車両をいくつか越え、精霊の導きに従って歩く二人がやがて見つけるのは、癖のある豊かな銀髪を背に垂らした少女だった。
「うふふ、うふふふ!」
両手で口元を押さえながら、少女が可愛らしく笑う。開けたドアから覗く、車体を軋ませながら暴走する列車の迫力へ、まるで遊園地のアトラクションに目を輝かせる子供のように心を躍らせていた。
彼女は列車へ飛び移る自分を夢想する。無茶だ。失敗したらきっと、無様なことになるに違いない。それがあまりにもおかしくて、ふたたび天真爛漫な笑い声を転がす。
「うふふふ、ふふ!」
レイラ・ツェレンスカヤ(スラートキーカンタレラ・f00758)は背面から登場するふたつの影に気付かず、そのまま助走をつけて一息に列車から飛び出した。躊躇いなど微塵もなかった。
並走する列車のあいだを駆け抜ける暴風が、たちまち少女に襲い掛かる。髪と外套を無形の手が掴みかかり、少女の小さな体を浚おうとしてゆく。
風によって後方へと押し流されながらも、レイラは暴走列車の車体へたどり着いた。柔らかく細長い、白魚のような手先に赤黒い色が満ちる。それはたちまちうねり、輪郭を形成して、槍の形状をとる。血槍チェルノボグ、血を精錬して作られた武器なのだ。
鋼鉄製の壁を槍が突き刺して、レイラを捕まらせるのだった。荒ぶる慣性力が少女の体を側面にたたきつけるが、彼女の口元は弧を描いたまま変わらない。
そのまま槍を手掛かりに、車両へ穴を開け体を滑り込ませれば侵入は完了するだろうに、彼女の胸中は稚気でいっぱいだった。
――こんなに速くて重いものに逆らったら、どうなってしまうのかしら?
壁に突き刺さった槍を片手で掴んだまま、強風と列車の振動に揺られながら、少女は空いたもうひとつの片手を路面に翳す。白いてのひらに槍と同じ赤黒い色が生まれた。
形状は槍と似たものだが、今度はそれよりも大きく太い。それは杭だ。単純で重い、血の杭だった。
少女の稚気が最高潮に達したとき、線路のバラストへと杭が撃ち込まれた。
ぎゃりりりりい。
想像を絶する力が少女の腕を伝わった。限界を超えて加速していた車体と乗客の重量の持つ凄まじいエネルギーが、杭でブレーキを掛けるレイラの肘を肩を瞬く間に破壊する。筋線維と皮膚が裂け血液を噴き出させても、彼女の指は決して両腕の槍と杭を離さない。槍は自らを壁へと深く埋没させたまま、後方へと車体の穴を引き裂き広げた。
突然の強引なブレーキに暴走列車が減速する。
当然、気の狂うほどの激痛がレイラを苛むが、彼女は気にも留めない。自分の幾千幾万倍もの質量に逆らって、意を通すことが楽しくてしょうがないのだ。その代償で無残に折れ曲がった腕も、可愛いに違いないとすら思う。
レイラ・ツェレンスカヤは猟兵だ。しかし猟兵といえど体力は無限ではない。
握力を維持できなくなった腕はついに血槍を手放し、彼女を高速で流れる線路へと放り出した。
「薄暗がりに潜むもの、掴み絡みつくもの、君たちの力を借りるよ!」
呼びかけに応じて、列車の影から幾多もの腕が伸びた。枯れ木のように細長いそれは墜落する少女を抱えて持ち上げる。
ロカロカは減速の隙に鎖を使って飛び移っていた。自在に伸縮する鎖、その名をグレイプニルペンデュラムという。突然のレイラの暴挙に怯まず鎖で移動できたのは、精霊の導きによるものに違いない。
「無茶しますね…」
ロカロカにはなぜ少女が先ほどの行動を起こしたのか伺い知れないだろう。だが見捨てることはしなかった。あるいはこれも彼に囁いた精霊の意思なのかもしれない。
腕はペンデュラムが妨害されたときのための代替手段だった。魅蓮の存在によって妨害される可能性がなくなったから救出に使えたのもあるかもしれない。彼は後方を振り返り、レイラの背丈とよく似た少年を見る。
魅蓮は減速を待たず、一足先に列車へ飛び移っていた。
刹那の舞、白夜公。彼の修めた独自の舞踊のひとつ。再現するのは、かつて夜叉と呼ばれた凶悪殺人鬼。いや再現ではない、魂の降臨と表現すべきほどの鬼気迫る身体能力が彼に現れていた。僅か踏み込みひとつでの跳躍によって軽々と暴走列車へ飛び移る。
彼の体は列車への着地を果たしてなお止まらなかった。滅茶苦茶な方法で列車にブレーキを掛けた少女がいたのだ。金属の引き千切れる大音響がこの場へ敵を集めるに違いない。だから彼は止まらない。高速移動によって座席のあいだを縫うように駆け巡り、発見した邪教徒の姿に手元の扇子を投げるのだ。
「どうか、白夜の闇へと」
扇子の直撃を受けた邪教徒は驚愕しながら振り返る。だがそれが捉えるのは視界いっぱいに広がった靴底である。魅蓮の右足は邪教徒の顔面へと突き刺ささり動きを止める。
「――消えて」
さらに捻った体で回転運動。蹴りに使用した右脚をついて、空いた左脚で後ろ回し蹴りを叩きつけた。邪教徒の体は窓を砕きながら線路へと放り出されていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『黄昏の信徒』
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POW : 堕ちる星の一撃
単純で重い【モーニングスター】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : 神による救済の歌声
自身に【邪神の寵愛による耳障りな歌声】をまとい、高速移動と【聞いた者の精神を掻き毟る甲高い悲鳴】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 黄昏への導き
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【自身と全く同じ『黄昏の信徒』】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
イラスト:銀治
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
【お知らせ】第二章の導入は金曜日に公開する予定です。
●黄昏色の嘶き
UDC組織が手配した臨時車両はだんだんと力尽きるように減速してゆく。限界を超えて暴走する列車と並走するために相当な無茶を重ねていたのだろう。
暴走列車のほうはというと依然として止まる気配はない。車体にいくつもの傷を負いながらも、邪神の元へ贄を届けるべく加速し続ける。
猟兵たちの突入によって様々な衝撃と轟音が車両を伝わったが、催眠ガスによって眠らされた乗客たちに起きる気配はない。彼らは列車の異常に一切気付くことなく、命を邪神の元へと捧げられる。そういう運命が待ち構えている。
この場で邪神の筋書きをを書き換えられるのは猟兵に他ならない。
いくつもの足音が、猟兵を迎撃するべく駆け抜けつける。あるいは通路を縫うように、あるいは座席を足場にして、あるいは天井の穴から屋根を伝って。
無貌の仮面とくすんだローブで体を覆う邪神の眷属、黄昏の信徒。暴走列車との心中をものともしない狂気の集団が、禍々しい棘のついた鉄球を振り回して襲い掛かろうとしていた。
猟兵たちは注意しなくてはならない。
鈍色の棺となった列車は全体を軋ませながらも、決して崩れることなく終点へと到達するだろう。邪なる神の力が、贄の品質が損なわれることのないよう棺を包んでいる。列車の破壊は不可能に違いない。あるいは、車両を切り離すことさえも。
乗客が目を覚ますこともないだろう。そして恐るべきことに、黄昏の信徒どもは意識のない彼らを傀儡にする術を持っている。
最後に、列車の屋根は決して安全地帯ではない。既に少なくない数の信徒が暴風を背に受けながら車両を次々と渡っている。
遺された時間はそう多くない。
猟兵たちは列車が終点へ到達するまでに、黄昏の信徒を制し、そして先頭車両で待ち受けるであろう幹部を倒さなくてはいけないのだ。
セレスティア・ナイトリー
真の姿第一段階を開放。全身数箇所より武装への供給用チューブを展開接続、体内の蒸気回路よりエネルギーを供給し続けて高出力を維持。
【機士の進撃】にて攻撃回数重視で戦線へ突入、敵を殲滅する。
移動は脚部での走行と蒸気推進器での加速を併用。
人質らに攻撃を当てぬよう、砲による遠距離攻撃は控えて剣もしくはガジェットを近接仕様に組み替えた兵装で可能な限り接近戦を挑む。
砲撃は必要な範囲で限定的に使用。
攻撃を受け止める手段は主に盾、武器。やむを得ず被弾する場合は激痛耐性で怯むことなく突き進む。
可能であればワイヤーアンカーで敵を捕捉し盾として利用する。
我は機械、敵と認識する者は徹底的に排除する。
●回路の描く最適解
左胸にエンブレムをもち、客席から迫りくる邪教徒を見据える者。果たして彼女はセレスティアだろうか?
彼女の装備するすべての蒸気機器にチューブが接続されている。数分前までのセレスティアにこのようなものはあっただろうか?
いや、彼女に違いない。顔面左側を覆う傷が、止まぬ痛みのノイズが、全存在を掛けて使命を果たす闘志に満ちた眼差しが、何よりも雄弁にセレスティア・ナイトリー(流転の機士・f05448)であることを証明する。
蒸気回路を唸らせ、全身の武装へチューブからエネルギーを供給し続ける姿は、垣間見える彼女の本質だ。
視界に映る敵は三体。
暴走列車の通路を駆けて、距離を詰めてきた黄昏の信徒。殺意が振り上げる金属塊、それを握りしめる腕へ、彼女はハイキックを放つ。噴き出す蒸気を推進力にした蹴りが手首を捉え押し返したのだ。
のけぞりたたらを踏む敵へと向けて、ミレナリィドールが軸足で床を蹴った。くすんだ布に包まれた体へと膝を打ち付けながら推進器を炸裂させ、車両を区切るドアへと縫い留める。
敵に反撃する暇を与えず、彼女は剣を突き立てた。痙攣し脱力してゆく信徒を意識から外して振り返る。
次の信徒の振り下ろす鉄球が眼前に迫っていた。
がきり。金属が耳障りな音を立て、みしりとセレスティアの体が軋む。寸でで構えた盾が受け止めていた。
「……」
ミレナリィドールは表情を変えない。たちまちその腰部からワイヤーを射出し、信徒の足へ巻き付けて、勢いよく巻き取る!
すると敵は足を取られ転倒し、すぐさま鳩尾を踏みつけられるのだ。
意識を失う信徒は、次に腕部のワイヤーによって持ち上げられた。彼女はそれを盾とする。そして盾を構えたまま、推進器から白い靄を噴出させ急加速。残る一体へと押し付けさらに加速。まとめて壁へ叩きつけたあと、蒸気圧縮砲の接射が信徒の体を塵に変えた。
列車の乗客に被害を出さぬよう最小限に抑えた砲撃。そしてモーニングスターの稼働を阻害しつつの肉弾戦。とどめに運用される近接武器。これぞ機士の進撃。すなわち戦術編成プログラムと測的追尾プログラムを併用して弾きだされた、戦斗人形の閉所戦闘術。
――我は機械。
敵と認識する者は徹底的に排除する。何者も逃がしはしない。
大成功
🔵🔵🔵
ティアー・ロード
「多勢に多勢ではあるけれど、このままじゃぁ埒が明かないね」
「っとぅ!捨て身キィック!」
時間も惜しい
肉弾戦に適した人間体である真の姿へと変化し
更なる肉弾戦を仕掛けるとしよう!
(人間態である通常時のイェーガーカードを参照してくれると嬉しいね)
どこが捨て身だって?
ヒーローはいつだって全力なのさ!
(通常はサイキックエナジーを纏い全身を保護をしていますが
攻撃時は「オーラ防御」の制御すら攻撃に使用します)
「おっと、善良なる市民を犠牲にはさせないよ!」
「こういうのは先に発動したほうが優先されるのさ!」
使途が黄昏への導きを使うよりも先んじて
ユーベルコード【刻印「撲朔謎離」】を使用することで
乗客を味方にするよ!
●なぜバニーなのかと言ってはいけない
列車に飛び込んだ、宙に浮く面妖な仮面。それが敵性存在であると認識した黄昏の信徒たちは、影から這い上がるようにどこからともなく現れ出る。
ティアー・ロード(ヒーローマスクのグールドライバー・f00536)はその場で旋回した。敵の数は三。ひとつの車両に三人も配置されてるのなら、敵の数は相当に多いことになる。とはいえ、列車へ飛び移った猟兵も決して少なくない。多勢に多勢と言っていいだろう。
「とはいえ、このままじゃぁ埒が明かないね」
時間が惜しい。乗客を守り、幹部を倒して列車を止めなければならない。ヒーローは忙しいのである。
重々しく鉄球を振り回し始める信徒の、その通路に立つ一体へ向けて、彼女は飛び込む。
「っとぅ!捨て身キィック!」
仮面は浮いたまま僅かに高度を稼いだのか、仮面のまま敵の懐まで飛び込む。…とはならなかった。
突如現れた仮面の女が信徒の胸へ飛び蹴りを放ち、通路の床へと転がしたのである。突然の展開に全ての敵が度肝を抜かれていた。
果たして現れた仮面の女。彼女はティアーと同じ外見の仮面をつけ、長い白の髪を揺らしながら不敵な笑みで床の信徒を見下ろす。およそ二十台前半と思しき女性の姿は間違いない。これこそがティアー・ロードの真の姿、人間態である。
「驚いたかい?」
信徒の襟を掴んで拾い上げ、後方より肉薄する敵へと投げつける。それから彼女は跳びあがり、座席の上を蹴った。
視線の先、三人目の信徒が眠りこくる乗客の青年へ手を翳しているのだ。
乗客を操るつもりだ、とすぐに察した。
「おっと、善良なる市民を犠牲にはさせないよ!」
だからティアーの行動は一択である。信徒がその青年を傀儡にする前に、手を打たなければならない。
座席の背もたれを足場に猛禽の如く飛び掛かる。信徒の手が青年へと触れようとした、直前。
「こういうのはね」
青年の姿が突如赤く染まる。血液ではない。光沢を持った赤いスーツだ。頭頂部に兎の耳を付けたレオタード。その姿はバニーガールという!
「先に発動したほうが優先されるのさ!」
かくして青年は数奇な運命を辿る。彼に予定されていた黄昏の信徒の複写という未来が、猟兵の介入によって書き換えられたのだ。バニーガールの乙女として!
「ダブル捨て身キィック!」
仮面の下で唖然とした表情を浮かべる信徒に、ティアーとバニーガールの蹴りが同時に迸った。
「なぜ捨て身なのかって?」
倒れ伏し沈黙した信徒に、ティアーは長い髪を掻き上げて言葉を投げかける。
「ヒーローはいつだって全力なのさ」
市民を守るために、いちいち自分の身まで守ってられない。防御リソースをすべて攻撃に回して実行する民間人救助。
それが彼女の言うヒーローの全力だった。
成功
🔵🔵🔴
未魚月・恋詠
乗客に混じり狸寝入り
信徒が来たら騙し討ちで怯ませ戦闘へ
人形2体と共に、恋詠が人形を、人形が恋詠を援護射撃する連携戦闘
フェイントで星の一撃を躱し、地形破壊で逆に足場悪化での高速移動の無力化を狙う
義憤で火傷する程に燃え上がる精神は掻き毟る程度の声など聞く耳持たず、
乗客を操る暇を与えぬよう怒涛の攻めを
万が一操られた時は傷付けぬよう配慮しながら敵の目から隠れる壁とし隙間から千里眼で狙い射つ
「此度の運行、乗客の何方様も地獄行きの切符はお持ちではございませんね。
眠っておられるならこれ幸い。
目覚める頃には全て片付いておりますので、どうかごゆるりとお休みを。」
戦闘後可能なら並走するUDC車両へ乗客を移します
石動・劒
鉄の塊が走り回るってんだからまったく奇々怪々もここに極まる。こうして鉄の塊をぶん回す敵の方がまだわかりやすいぜ。
だがその得物を振り回されちゃ、この列車もマズいことになりそうだ。俺は弓で遠距離攻撃するとしよう。スナイパーで頭をよく狙って2回攻撃で援護射撃する。
さて、援護ついでに奴さんの手札の弱点ってやつを実証しよう。お前さんの高速移動はこの車内じゃいかにも場が狭すぎるし、悲鳴を上げるなら喉を潰せば対処可能だ。弓で射抜くか、刀で掻っ捌くか。それであの耳障りな悲鳴を封じるぜ。
ああ、まったく気に入らねえ。寝込みを襲うぐらいなら正面から命張った斬り合いで殺しゃあ良いものを。名誉も何もあったもんじゃねえな
●翻る袖と裾
振動と破砕音が連続するが、乗客に起きる気配はない。邪教徒の撒いたガスが彼らを深い深い眠りに落としている。
その車両にはまだ戦いの気配はなかった。ただ通路を黄昏の信徒が歩いているだけだった。
突然、信徒が足を止めた。くすんだローブがはらりと揺れる。表情の描写されない、無貌の仮面が座席の少女を覗き込んだ。この信徒、恐るべきことに意識のない人間へ己が姿を複写し、傀儡にするという能力を持つ。
列車へ乗り込んできた敵性存在へ対抗するため、傀儡を増やそうというのだ。
細い手が少女に翳される。
少女は起きない。
青い瞳を閉じ込めた瞼はひらかず、透き通った白い肌を覆う青い和服は呼吸に小さく上下するのみ。肩に掛かる程度の黒髪が窓から差す陽光を浴び艶やかに輝く。和装の美しい少女だった。しかし間もなく無貌の仮面を被るという運命など露にも知らぬに違いない少女だった。
そして信徒が少女の未来を塗りつぶそうとした、そのときだ。
「ああ、まったく気に入らねえ」
男の声が車内を通り抜けた。
「寝込みを襲うぐらいなら」
今しがた乗降口の扉を開けて入ってきた体の青年がいた。年は十代の半ばに見える、着物を臙脂色のマントで包んだ青年だ。帯刀している。
「正面から命張った斬り合いで殺しゃあ良いものを」
この青年は自分を殺して操ってみろと言っているのか。信徒は怪訝な表情を仮面の奥に隠し、片手のモーニングスターを握りしめた。そして少女の首筋に触れる。戦力の確保を急いだ。
青年の名は石動・劒(剣華上刀・f06408)という。サムライエンパイアより来た剣鬼だ。
彼は敵に声を掛け、自分を殺しに来いと言っただけで少女を塗り替えようとする信徒の行動に介入しなかった。
そこへ介入したのは、ほかならぬ少女自身である。
青い瞳が開かれ、突如花飾りを付けた人形姉妹が飛び出し信徒の体を突き飛ばした。人間のおよそ六分の一程度の身長の姉妹はそれぞれ傘と長弓を持ち前衛と後衛に分かれて布陣する。
少女が座席から立ち上がる。少女の名は未魚月・恋詠(詠み人知らず・f10959)といった。彼女も猟兵のひとりだった。
倒れた信徒を傘持つ人形ヒナゲシが抑え込もうと跳び込む。後方で弓を構えるのはナデシコと恋詠。隙を与えず頭を打ち抜くつもりでいた。
が、黄昏の信徒もさるもの。倒れた姿勢から地を蹴り身を回転させながら跳びあがる。回転を維持したまま通路を鞠のように連続で跳ね、距離をとった。
風を切る音。
一本の矢が仮面の位置していたところに突き立つ。劒の放った矢だ。彼もまた弓を取り出していた。一息のあいだに二射されたが信徒の体を捉えられない。
敵は車内の壁を蹴り、座席を蹴り、そして天井を蹴って縦横無尽に跳ね回る。いつしか耳障りな歌声がその体を包んでいた。邪神の寵愛によるものだ。敵へ出鱈目な機動力を授けている。
仮面の奥で息を吸う気配がした。間髪を入れず、信徒から叫び声が上がる。体を射抜かれたわけでもなく、どこかを切られたわけでもなく、ただ悲鳴を上げるだけ。それは攻撃なのだ。聞いた者の精神を掻き毟る甲高い悲鳴なのだった。信徒を中心に大気を震わせる。寝入っていた乗客たちが一斉に顔をしかめて魘された。
「耳障りだな」
聞くに堪えないと劒は奥歯を噛みしめつつ、敵の挙動を分析した。彼が見るかぎりではあの機動と悲鳴はどちらも同じものから来ている。邪神の寵愛から生まれる力だ。しかし狭い車内では機動力を十全に発揮できていない様子。ならばやりようはあると判断できる。
恋詠の攻めは苛烈だった。傘持つ前衛の人形、ヒナゲシが座席を足場にして縦横無尽に動き回り信徒を攻撃してゆく。人形の射程なら人間にとっては密着するほどに近い距離だ。そのような超近接戦闘ではモーニングスターは極めて運用しづらくなるのだろう。さらに間断なく長弓の後衛ナデシコと恋詠が矢を放てば、とても信徒に眠る乗客を支配する隙などない。
時折鼓膜を突き刺してくるけたたましい悲鳴も、義憤に燃え上がる精神を鈍らせるまでには至れない。
信徒が壁を一気に駆け抜けて、ナデシコと恋詠が次々と壁に矢を生やして追いすがる。ヒゲナシもまた追随した。
「さて、ここか」
劒もまた矢を引き絞っていた。狙いは敵のやや前方。当てるというよりは進路を変えさせるための射撃。立て続けに放たれた二射を避けて、敵は壁を蹴り青年めがけて飛び掛かる。空中で大きく振り上げられた棘付き鉄球。そして息を吸い込む動作。絶叫にて怯ませモーニングスターを叩きつけて確実に一人刈り取るという、信徒の描いた必殺の連携が劒を襲う。
だが。
剣鬼は既にそれを予想していた。誘導したのは他ならぬ彼自身なのだから。
弓を捨て、腰から刀を抜く。刀身は鞘に収まったまま、鞘ごと引き抜いていた。だがそれで充分。なぜなら、声を発しようとするその喉を鞘で突いてやれば悲鳴など上げられない。
空中で首から鈍い音を立ててバランス崩す信徒に剣鬼は素早く背を向ける。片手で鞘を握り、利き腕で柄を握り、振り向きざまに抜刀。
紫電一閃。
白刃の描いた軌跡は信徒の首を通り抜けて、やがて彼岸花を咲かせた。
苦戦
🔵🔵🔴🔴🔴🔴
差し当たった脅威が払われ、静寂を取り戻した車両内を恋詠は眺める。
信徒の絶叫にうなされていた乗客の顔もいまは落ち着いていた。
「此度の運行、乗客の何方様も地獄行きの切符はお持ちではございませんね」
彼らに起きる気配はない。深い深い眠りに落ちている。
「眠っておられるならこれ幸い。目覚める頃には全て片付いておりますので、どうかごゆるりとお休みを」
そして、彼女は袖を翻して先頭車両を目指す。
彼らの眠りを妨げる者、その首謀者がそこにいるのだ。
ナミル・タグイール
ケイス・アマクサ(f01273)と同行
狭いし乗客たちもいるし…動きにくいデスにゃー。
こういう場所は苦手デスにゃ。ケイスのサポートを頑張るマスにゃ!
・行動
最初に既にいる【黄昏の信徒】全員に【黄金の鎖】を投げてお互いをつなぎ目印にする
力あんまり強くなさそうだし5人くらいまでなら行けると思いたいにゃ!
とりあえず引っ張ってみて明らかに力が弱いやつがいたら変えられた人かにゃ?手加減猫パンチで気絶させるにゃ!
あとはひたすら力比べして拘束、ケイスフレーフレーデスにゃ!
明らかに本体だとわかって余裕があればナミルも斧で攻撃
基本は手加減した猫パンチで気絶狙い
ケイス・アマクサ
「ちっ……あーもう心底性質の悪ぃ連中だなぁ!!」
【行動】
ナミル・タグイール(f00003)と同行。
基本的にはフォワード。
加えてナミルへの指示及び、拘束された信徒へのトドメ役を行う。
また【●黄昏への導き】を使用され、乗客が信徒になった場合『出現位置』『戦闘力(手ごわさ)』等で元乗客と判別可能なものは、その旨をナミルへ伝え、気絶させるように促す。
逆に本体の信徒の連中は、ユーベルコード等用いつつ、乗客には気を付けつつも銃、殴り、手裏剣等あらゆる手段を用いて倒していくぜ。
「他人の命を勝手に捧げる、だぁ……? んな胸糞悪ぃ奴ら、全部ぶっ潰してやらぁ……!」
●名案ふたたび
ガラスを打ち破り、窓から黄昏の信徒が侵入してくる。そして元から車両にいた信徒が三人。
ケイス・アマクサ(己が罪業の最果て・f01273)はそれを見て舌打ちした。彼の視線の先には、不自然に空白となった座席がある。二人掛けの椅子にひとりぽつんと眠りこくる子供がいる。果たして子供がたったひとりで特急の座席に座るだろうか。保護者にあたる存在がそのすぐ横に座っているべきではないだろうか。
この違和感が正しければ。
「ちっ……あーもう心底性質の悪ぃ連中だなぁ!!」
窓から入ってきた奴を除いた三人、このなかに操られた乗客がいるということだ。数は1かもしれないし、2かもしれない。
彼の後ろのナミル・タグイール(呪飾獣・f00003)は困ったように尻尾を揺らしていた。戦いの舞台とするには狭い車内、その中に所狭しと並ぶ乗客たち。彼女にとってはたいそう戦いにくい場所だ。
黄金色の爪が伸びた手を頬にあてて、ケイスのサポートをと考える。黄昏の信徒に変えられた乗客が判別できれば戦いは楽になるだろうか。わからないうちは手加減した攻撃を主軸にしていくしかないかもしれない。
そんなナミルの気配を悟って、ケイスは奥歯を噛んだ。車内の信徒たちが得物であるモーニングスターを構え、またあるものは回転させる。二対四だ。こちらは全力で攻撃をするわけにはいかない。ハードな戦いになりそうだ。
もっとも、敵の戦力も純粋に四人分とはいかず、操られた乗客は力が劣るらしいのだが――…。
「……なるほどな」
瞬間、彼のなかで様々な事象に回路が繋がり、一本の線を描いていた。
「いけるぜ。案が浮かんだ」
振り返ったケイスの金の瞳がナミルの双眸と絡む。確信の色があった。
「わかったにゃ。全てお任せするデスにゃ!」
ケイスは笑みを浮かべて信徒へと向き直るのだった。
鎖の高い音が響き、棘付き鉄球がケイスへと振り下ろされる。それは名付けるならば堕ちる星の一撃。人体を粉砕するだけにとどまらず叩きつけられた場所すら破壊し地形を変える恐るべき威力だ。猟兵といえど直撃すればただでは済まない。
だがそれを、ケイスは片手で受け止めた。飛び散った血液が床を汚す。
「他人の命を勝手に捧げる、だぁ……?」
みしりと、軋む音が聞こえる。音の発信地は彼の腕ではない。受け止められた鉄球のほうだ。彼の腕から流れ落ちる血液は鉄球の衝撃に傷ついたのでなく、その内に宿した尋常ならざる力の代償を払ったのだ。
「んな胸糞悪ぃ奴ら、全部ぶっ潰してやらぁ……!」
鉄球を握る腕から、傷の縦断する左目から、震わせた喉から、悪鬼の如き怒りが迸る。
空いた片手が振りかぶられ、そして信徒の胸元を強かに打つ。鈍い音とともに思わず得物を話して、木の葉のように飛び上がった体は通路の上を転がる。
ケイスは奪い取った鉄球を、新たに振り下ろされた鉄球へと当てて防ぐ。入れ替わるようにやってきた新たな信徒が、元は乗客であるかをこの場で判別するのは難しい。膝蹴りにて信徒を強引に突き放す。
だから、彼はここで合図をするのだ。
「ナミル!」
「はいデスにゃ!」
すかさず彼女の金と紫の瞳が煌いた。視界に収まる黄昏の信徒四人全員が黄金の錠前を受け小さな爆破に包まれる。手加減された威力、乗客がいたとしても命に別状はない。彼女の目的はその次にあった。
じゃらじゃらと、信徒の体をぐるりと一周し錠前を掛けて、拘束しながらナミルと繋ぐ黄金の鎖。
「さあ、踏ん張ってもらうにゃ」
四本まとめて束ねた鎖を力任せに引き寄せる。両脚を開いて、半身に構えて、両手で鎖を掴んで重心を傾ければ、たちまち鎖は張りつめ信徒との力比べを始めた。
張り詰めた鎖が軋む。ナミルの足から伸びる黄金の爪が床を掻き、白線を描く。信徒もまたじりじりと床を擦りながら抵抗する。
先に限界が来たのは信徒のほうだった。
ひとりの信徒が、転倒しナミルの元へと引き摺られる。続いてもうひとり。
「こいつらだけ力が弱いデスにゃ!」
「よし、こいつらが乗客だ。殺さずいくぞ!」
ケイスの声にナミルが応じる。鎖から片手を放して、四人のうち力の弱かった二人を繋ぐ鎖だけ選んで力任せに引き寄せた。たちまちその体は浮き上がって、彼女の元へと飛び込む。
ケイスが胸の内ポケットから拳銃を取り出す。発砲するつもりはない。銃を握ったまま、そのグリップで仮面を強かに打ち付けた。
ナミルもまた鎖から片手だけを放し、爪の立てない手で胸を掴んで床へ叩きつける。
床へ倒れ込む二人の信徒から仮面が剥がれ落ち、気を失った顔が乗客の顔が覗いた。これで完全に支配が解けたわけではないだろうが、少なくとも無力化には成功していることだろう。
残る二体がすべて信徒本体であることがわかれば、もはや遠慮はいらない。ケイスは一気に踏み込んだ。巻きついた鎖から脱しようともがく信徒の体を渾身の力で蹴り上げ、浮きあがったそこへ発砲。一発、二発。仮面に穴を開けて絶命する信徒がこれでひとつ。
振り返ったケイスは黄金の斧をナミルが取り出すのを見た。刻まれた文字がルーンであることを知るのは一体どれだけいるのだろう。幾多もの装飾が付いた己は儀礼用のように見えるかもしれない。だが、高く高く振り上げられたそれが、信徒を防御に翳した鉄球ごと砕く場面を見れば、考えをすぐに改めるに違いない。
「よし。これでこの車両は大丈夫だな」
周囲を見回して安全確保するケイスに、ナミルは頷きを返すのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
都築・藍火
600をも超える無辜なる人々の命、絶対に失わせはしないのでござる。
邪教の儀式、この生命をとしてでも必ず防いでみせるのでござる!
拙者の戦闘スタイルと電車の中は相性が悪いものでござる
であれば、中ではなく外で戦うでござろう。拙者は電車の上で砕天號を召喚し戦うのでござる
安全地帯ではないでござるが、端から戦うことを前提とすれば広き良き戦場となるでござろう
ただし立ち上がっては風を受ける故、【怪力】で全力で電車の縁を握り、屈む、あるいは匍匐の構えを取り、前へ進むでござる
その状態でも片手が使えれば、砕天號で槍を振り回し十分戦えるでござろう。倒し切るより、槍で列車の外に弾き飛ばすことを主とするでござる
アドリブ歓
煌燥・燿
風通しはよくなったが車内で燃えた剣を振り回すのもなんだ。
こっからは環境には優しい俺専用の得物で戦わせてもらうぜ。
首にかけて来たカメラの殺影機を取り。
影焼透鏡で殺影を行う。こいつの有効撮影射程は350m。
一般的な車両の長さが20mだから射程は十分だ。
覚悟で集中して。破魔の力を宿らせ。
眩いフラッシュと共に黄昏の信徒を攻撃するぜ。
車内に敵の影が無ければ車外に身体を乗り出して
屋根を伝ってくる奴らを狙う。屋外で戦うのは危険だろうけど。
俺の攻撃は幸い、ピントが合いさえすれば見てシャッターを切るだけで済むからな。
●破魔の光
煌燥・燿(影焼く眼・f02597)めがけて黄昏の信徒が車内を走る。枯れ枝のように細い足が通路を蹴り、次に座席を蹴り、さらに壁を蹴って距離を詰めた。
「!」
燿は侵入に使用した長剣で反射的に構え、しかしそのまま固まる。彼の持つ剣の名は妖精鋼、火と光の妖精が踊り加護を与える白熱の刃である。車内で振り回すことに彼の理性が待ったをかけたのだ。列車の内装には木材も少なくない。万が一燃え広がったら大事だ。
それを知ってか知らずか、肉薄する信徒は力強く得物を握りしめた。凄まじい重量を持った棘付き鉄球。叩きつけられれば猟兵とて致命傷は免れない。
燿は敵を見据えたまま長剣を下げた。刃から熱と光が消え、やがて掌に収まる大きさのナイフの姿を取り戻す。
防御を諦めたのではない。別の得物と持ち替えるためだ。
新しく持ち上げるのは古びたカメラ。インスタグラファーの愛用の品なのだろう。いったいただのカメラで何をするつもりだと人々は言うかもしれない。だが恐るべきことに、映したものの魂をフィルムに焼き付け封印するという謂れがそれにはあった。
緑色の瞳がファインダーを覗き込んだ。
黄昏の使途が壁を蹴って、こちらへ一気に突っ込んでくる。
青年は素早くフォーカスを合わせた。
無貌の仮面と真っ直ぐ目が合う。
やがてシャッターボタンへ指が添えられた。
圧倒的な質量を誇るモーニングスターが振りかぶられる。
猟兵はついにシャッターを切った。
すると一体どうしたことだろうか。燿の眼前でいまに武器を叩きつけようとした信徒は突然放心したように体を傾けて、そして彼と擦れ違って通路を転がった。信徒はそれきり動かない。まるで肉体動かす中身をごっそり抜かれてしまったような姿でそこに残る。古びたカメラの謂れを想起させる光景だった。
「お前の生きていた一瞬を、永遠に焼き付けてやったぜ」
ふう、と安堵の息を吐きながら言葉を吐いた燿にやや古風な言い回しの言葉が投げかけられる。
「それどういう絡繰りなんでござるか?」
青年が振り返ると、そこに立つのは和服の少女の姿。興味深げに彼の手元のカメラを覗き込んだ。
「えっと…」
一瞬、この場が戦場であることを忘れて説明しそうになる燿の前で、少女がはっと表情を変えた。
「いやぁ失礼。敵はまだまだいたでござるな」
片手を差し出し御免、と言ってから。およそ屋根に2、3といったところでござろうか。などと彼女は付け加える。
長い艶やかな黒髪を一つに束ねた少女だ。和装して、槍などの武器を背負っている。燿が武芸者みたいだという感想を抱くがそれは的を得ていて、事実彼女はサムライエンパイアから来た剣豪である。
都築・藍火(サムライガール・f00336)というのが、彼女の名だった。
「屋根に?」
「屋根にござる」
鷹揚に頷きながら、疑問に彼女は応える。
「敵の首魁は先頭と聞いたでござる。ならば我々が先頭を目指すのを敵は見越しているはず」
「つまり、屋根を渡って信徒が後部車両へ移動すれば」
いかにも、と彼女は頷いた。
「先頭を目指す我々を背後から襲えるでござるな」
そして彼女は軽やかな動作で窓から体を翻し、屋根へと一息に登る。
するとすかさず狂風が頬を打ち、そして結んだ黒髪を靡かせた。ここで下手を打てば線路へと落ちるだろう。ゆえに彼女は身を屈めて前傾して姿勢を安定させる。
「三、でござったか」
風に目を細めながら周囲をぐるりと見回せば、すぐに見つかる黄昏の信徒。近距離には先頭からやってくる三人。遠距離にも少なくない数があった。
敵が藍火の存在を認める。邪教徒と猟兵が出会えば始まるのは戦いに違いない。くすんだ布を激しくはためかせながら、モーニングスターを片手に屋根を伝って敵が接近してくる。
風の荒れ狂う屋根で両者はじりじりと距離を詰め、やがて藍火が槍を背から引き抜いたとき、状況は一気に動き始める。
「これぞ我が奥義!」
瞬間。風を打ち砕いて、彼女の背後に鎧武者が呼び出された。下半身が存在せず宙に浮く異形の武者だが、上半身だけで3mを越える巨躯だ。それは藍火が持つ者と同一の槍を持ち、彼女と寸分のずれなく正確に動きを再現し構えをとる。
それこそが砕天號。巨大な得物を持ち、瞬く間に黄昏の信徒を貫いた外殻大武者の名である。
驚愕に身を硬直させた残りの信徒を横目に、藍火が片手で槍を振るう。すると、大武者は動きの通りに得物を振り上げ、突き刺さった骸を線路へと放り捨てた。
大武者の握る武器は藍火のものの拡大版だ。間合いは信徒のモーニングスターより遥かに広い。
無策の前身は死を意味すると気付いた黄昏の信徒二人が次に取った行動とは、なんとジャンプであった。走行する列車の屋根の上でのジャンプ。それは自殺と同義だろう。しかし彼らの立つ位置が藍火より前方ならば、凄まじい追い風が彼らを押し、捨て身の突進を実現する。
充分に勢いの乗った棘付き鉄球が藍火が襲い掛かるのだ。
「笑止!」
藍火は顔を色を変えなかった。迫る二つの鉄球を大武者の槍にて薙ぎ払う。忘れてはいけない、大武者は彼女の動きを再現するのだ。すなわち大武者が鉄球を横に薙ぐと同時、藍火の槍は信徒二人を同時に捉えて横一閃を放った。力技で屋根から叩き落とす。
瞬く間に処理した三体。だが前方を見て藍火は表情を変える。
「新手でござるか!」
仲間の、追い風を利用した接近方法を学習したのだろう。風を背に浴びながら恐ろしい勢いで得物を叩きつけにきた信徒が二人。
藍火は槍を振り抜いた姿勢のままだ。この風のなか、屋根から手を放して拳で迎え撃つべきか。僅かな逡巡が頭を巡る。
「ベストショット、いただくぜ」
すると声がした。若い男の声だ。先ほど車内で聞いた声だ。
燿が窓から車外に身を乗り出していた。手に持ったカメラを信徒へと向けていて、シャッターを切る。
眩いフラッシュが信徒を包み、魂を舐めてゆく。抜け殻がふたつ屋根を転がり、そして線路へと落ちていった。
「かたじけない。助かったでござる」
藍火が手を挙げれば、燿もまた窓から手を挙げ応えていた。
大成功
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コーディリア・アレキサンダ
【氷室・癒(f00121)と同行】
逃げ場のない空間でこの距離、交戦は避けられない
このタイプの敵とは以前も交戦したことがある
あの時は敵が利用したいものを先に利用して数の優位を崩したけれど――
乗客はまだ生きている。それに癒の前だ。あまり、怖がらせたくはないね
「それじゃあ、そっちは頼んだよ。ボクらは……前だ、バーゲスト」
利用される前に、癒に回収してもらえばこの場ですぐ数が増えることはない
《喰らい、侵すもの》を使いながらボクは前に出て、敵を狩ろう
そうすればボクらの後ろが安全地帯になる
目の前で操られて敵に回った一般人は……冷徹に処理しよう
全て助けるのが理想だけれど、万が一そういう泥を被るのもボクの役目だ
氷室・癒
【コーディリア・アレキサンダ(f00037)と同行】
「はいっ! いやしちゃん人命救助がんばりますっ!」
乗客さんたちが操られちゃうなんて危険です! 危ないです!
いやしちゃん全力で救助します! 操られないように、気絶中の人を運んだりします!
敵をやっつけても、乗客さんたちげ怪我をしてしまったらだめだめですっ! 全然ハッピーじゃありません! 目の届く範囲の人をできるだけ安全に助けちゃいますっ!
コーディリアさんがかっこよく守ってくれてるはずなので、よそ見なんてせずに救助に集中ですっ!
何が起こっても気づかないですけど、大丈夫! コーディリアさんを信頼してますから!
●誰が為のハッピーエンド
列車の通路に並んで立ち、前方で二人の黄昏の信徒に待ち構えられた女子たちの表情に動揺は見られなかった。
コーディリア・アレキサンダ(亡国の魔女・f00037)が一歩前に進み、氷室・癒(超ド級ハッピーエンド・f00121)が一歩後退する。
「それじゃあ、そっちは頼んだよ」
コーディリアは、銀髪を包み込む帽子のつばを抑えて目深に被った。
「はいっ! いやしちゃん人命救助がんばりますっ!」
癒は片手を高く挙げて笑顔で応じる。
すべては打ち合わせ通りに。
棘のついた鉄球を構えて踏み出してくる信徒へ、コーディリアは同行者を守るように杖を広げて持つ。決して広くない車内だ、杖を横にすればそれだけで柵になるだろう。だが柵を支える少女の体は華奢で、鉄球という凶器の前にはあまりに頼りなく、ひとたび叩きつけられてしまえばすぐに折れてしまうに違いない。
「ボクらは……前だ、バーゲスト」
しかし忘れてはいけない。このコーディリアという少女は、魔女であった。
「権能選択、限定状態での顕現――…」
目をやや伏せながら、彼女は言葉を紡ぐ。透き通った赤い瞳は敵に向きながらも敵を映さない。自我の海へ埋没するように、詠唱が己が体の内を反響する。
承諾確認。
やがて何も見えなくなる。やがて何も聞こえなくなる。暗闇の世界でただひとりスポットライトを当てられたように、彼女の知覚する世界は自我の海だけになって、そして一つの気配にたどり着いた。
我身に宿る悪魔。
コーディリアの呟きは小さくなり、唇の動きだけになってゆく。
空を駆ける魔犬。
立ったまま微動だにしない少女を叩き潰すべく、信徒がモーニングスターを振り上げる。
すうっと息を吸う音。赤い瞳が敵を見据え、敵意を宿した。
コーディリアがただの少女であれば、頭蓋を潰された無残な死体となっていたはずである。しかし彼女は魔女であった。では一体何が彼女を魔女たらしめるのか。それは彼女の身の内に宿った権能、すなわち悪魔の力なのである。
いま、コーディリアが瞳に宿した敵意を引き金にして、一柱の悪魔が顕現する。
「――喰い殺しなさい」
翼を持った猟犬が信徒へ飛び掛かった。悪魔は敵に悲鳴も抵抗も許さず、無貌の仮面で覆われた頭蓋を顎で捉え、無情に噛み砕く。信徒の体は生命を失ってなお振り上げられ、床に叩きつけられ、擦り切れた人形となるまで悪魔の玩具にされるのだった。
――このタイプの敵とは以前も交戦したことがあるんだ。
――ほんとですかコーディリアさん! 博識! 経験豊富!
――敵は乗客を利用して数の優位を作っていくから、そこを崩したいかな。
――はいっ! いやしちゃん崩します!
――じゃあ、さっそく頼みたいことがあってね。
癒は信徒に背を向けていた。逃げるわけでない。彼女もまたコーディリアとは違った手段で信徒へ対抗していた。眠る乗客を座席から引き離す。が、意識のない人間というのはなかなかどうして重い。狭い車内で翼を使うわけにもいかず、細腕でひとりひとり動かすしかない。
彼女は乗客が信徒の力によって傀儡とされないよう、その手が届かぬ場所へ移動させているのだ。乗客を戦いの余波から守る意味もある。
「ふんっ!」
と腹に力を入れ、形の良い眉をすぼめて、後方へ体を傾け体重かけて、両手で成人男性の服を引く。少女にとっては乗客のひとりひとりが重労働だ。時間だってかかる。そしてなにより、敵に背を向ける時間も決して短くはない。戦闘をすべてコーディリアに任せて、乗客の安全確保に専念してしまうと、戦いの状況が全く分からなくなる。
通路で癒が男性を引き摺ると、骨の砕けるような鈍い音が聞こえた。それでも、彼女は振り返らず救助に専念した。もしかしてコーディリアの身に何かあったのではないかという、悪い想像は彼女への信頼に駆逐される。
実際に、ほら。
癒が男性を移動させ終わり、新たに避難させるため座席へ戻ろうと前を向けば、健在な彼女の背中が見える。両脚を肩幅に空け通路を塞ぎ、自身を守るように立つ後ろ姿にはただ恰好良いと思うほかない。
次に子供の体を抱えながら彼女は想う。敵の数の優位を作らせない作戦だが、例えそうでなくとも彼女は救助に動いたかもしれない。
もし敵を自分たちが傷つくことなく敵を倒したとしても、乗客たちが怪我をしてしまってはだめなのだ。それは彼女にとっての成功ではない。目の届く範囲の人々すべてが無事に助かってこそ成功なのである。
だから成功を想えば、コーディリアの背中を想えば、癒の体に無限の力が湧いてくるのだ。
「……」
癒ならきっとそう考えると思うからと、コーディリアは静かに目を伏せた。
彼女の前には空の座席と、真新しい信徒の姿がある。
猟犬の悪魔バーゲストが一人目の信徒を殺害するあいだに、二人目が乗客へ魔の手を伸ばしていたのである。傀儡にされた乗客は信徒と全く同じ外見をとりつつ、戦力は本物に劣るという。そしてそれが解除されるのは24時間後だ。
この場で直ちに解除を試みるのは現実的ではない。
だからコーディリアは一度だけ背後を伺った。その先には懸命に乗客を救助する癒の後ろ姿がある。しばらく振り返ることはないだろう。
「バーゲスト」
小さく名を呼ぶ声に応えて、猟犬は唸った。そしてすぐに飛び出した。
列車内に顕現した恐るべき悪魔は瞬く間に新しい黄昏の信徒の首を砕き、絶命させた。そのまま残った敵を処理させる。
魔女は帽子を目深に被る。
これで、信徒の手に掛かった乗客などいなかった。
これで、犠牲者など発生しなかった。
魔女は沈黙する。
苦戦
🔵🔵🔴🔴🔴🔴
夕凪・悠那
テロリストに乗っ取られた暴走列車を止めろ
OK、割りとよくあるシチュだね
車内から先頭車両を目指す
【バトルキャラクターズ】を特殊部隊型で召喚
主装備は突入用のSMGだけど、3体ずつ合体させて火力を強化するよ
ボクを挟んで前後3体ずつ配置して、信徒化での後方奇襲を対策
信徒化した乗客はなるべく撃たない方がいいよね
【崩則感染】で黄昏への導きの影響を受けた乗客の信徒化を解除して、黄昏の信徒のみを速やかに([早業])狙い撃つ
要は攻撃厳禁NPCと敵エネミーが混ざってるステージみたいなものさ。
やってやるよ。
天井破ったり窓からとか、予想外の奇襲には[第六感]を働かせて[見切って][カウンター]
絡みやアドリブはご自由に
ヴィクティム・ウィンターミュート
敵は殺して、犠牲を出さず、儀式も阻止しろって?ヘビー過ぎだっつーの。
ま、それでもやってのけちまうのが…超一流さ。
物陰に隠れる、あるいは眠る乗客に紛れる。隠密から【忍び足】と【ダッシュ】で接近して【早業】による【暗殺】で確実に数を減らす。
信徒の死体は手足を潰しておく。
ただ、これがメインじゃない。俺はユーベルコードで、信徒がする蘇生術を阻止しにいく。こいつらみたいなタイプは以前に戦闘経験がある。そのデータを解析すれば精度の高い情報になるだろうし、失敗してもデータサンプルは増える。乗客が信徒にされたら気絶させておこう。
シーッ…騒音はおやめくださいと言ったでしょう?終点まで眠って…そのまま起きるなよ
●ニューロマンサーズ
あれはなんだ?
体型より幾分か大きいコートに身を包んだヴィクティム・ウィンターミュート(ストリートランナー・f01172)が座席から通路を睨み付けた。彼の視線の先を、短機関銃で武装したいかめしい者たちが、車両後方からやってくる。
足音を殺しながら、定期的にクリアリングしてゆくスリーマンセル。顔面全体を覆うゴーグルとマスクに加えて、全身を暗色で固めた重装備。凶悪事件対応などの特殊任務を背負った警察部隊と思しき連中が特急の車内を進む。
列車ジャック事件への対処と思えば、ある意味もっとも場面に即した存在かもしれないが、ヴィクティムの感想はというと、どこのハリウッドから来た連中だ、となる。
ヴィクティムは座席に座って、眠る乗客に紛れていた。彼の標準装備であるゴーグルと両腕のサイバーアームは、暗灰色のフードと袖によってすっかり覆い隠されていた。これで腕を組みながら俯いていれば、乗客のひとりとして紛れ込めるだろう。ひとりひとり乗客を確認したりしなければ、彼の存在に気付くものなどいないに違いない。なぜなら、彼の身を覆うコートはまさしく乗客のもので、彼の座る席の本来の主は上着を剥ぎ取られ布に覆われ、座席の下で大人しく丸まっていたのだ。
フードの下、ゴーグル越しに観察するヴィクティムの視線の先で、所属不明部隊が発砲した。
小刻みに連続する銃声とマズルフラッシュ。そして人が倒れる音。
所属不明部隊は邪教団と戦っていた。先頭車両に向けて、黄昏の信徒を倒しながら、ゆっくりと着実に進んでいる。
ヴィクティムの青い瞳が状況を注意深く見守る。すると、三人一組の所属不明部隊の後方から護衛されるようにして、ゴーグルを被った黒髪の少女が現れ出た。続くようにして後方を警戒する三人チームも。
彼は声を押し殺して笑った。なるほど同業か、と。
よく目を凝らせば、所属不明部隊の面子の額には数字が見えるだろう。彼らは、ユーベルコードによって召喚されたキャラクターなのである。もちろん召喚者はチームに挟まれながら進む少女、猟兵だ。
いま、列車内で猟兵へと襲い掛かる敵には、列車ジャック犯たる黄昏の信徒どもと、彼らによって信徒化された乗客の二種類がいる。事件の犠牲者を最小限に抑えるには、この信徒化された乗客の存在が厄介で、外見上の差異がない彼らを素早く選別して無力化しなければいけないのだ。
――要は攻撃厳禁NPCと敵エネミーが混ざってるステージみたいなものさ。
召喚したバトルキャラクター18体を3体ずつ合体させ、前後へ配置した夕凪・悠那(電脳魔・f08384)はそのように思う。この陣形はなかなかに具合がよくて、窓を突き破り屋根から侵入してきた信徒を、素早く銃殺できた。操られた乗客が屋根からやってくるわけがないのだから、そのような手合いは間違いなく本物の黄昏の信徒だ。即座に撃っていい。
撃たれた信徒は胸に3つの穴を開けて絶命していた。赤い染みが床にゆっくりと広がる。
悠那は歩を進めた。テロリストに乗っ取られた暴走列車とか、ゲームでもよくあるシチュエーションだなとどこか暢気に考えていた。同時に、操られた乗客を見つけたときはどうすればいいかと対処を考えてもいた。
そんなときである。
前方を進む部隊がサインを寄越す。前方敵発見、一人。
見れば、一拍遅れてこちらに気付いた信徒が、ゆらゆらと歩いてきている。一番前にいたバトルキャラクターが短機関銃を下ろしてナイフを取り出す。眼前の信徒が元乗客であるか判別する前に、発砲するわけにいかなかった。
やがて信徒が斃れた仲間の前まで進む。そして屈んだとき、驚くべき変化が起きた。
銃殺された信徒が突如起き上がって、肉薄しながらモーニングスターを振り上げたのである。
「ええ……そんなのありなの?」
黄昏の信徒の持つ、黄昏への導きという力には、相手を自身と同じ姿にして操るというものだ。恐ろしいのはその力が、戦場で死亡あるいは気絶中のものを対象とする点にある。即ち殺された仲間すら対象にできるものであり、それはつまり疑似的な蘇生として機能しうるのだ。
胸から血を流し続けながら、蘇生された信徒がナイフの何十倍もの質量を持つ鉄球を振り下ろそうとした。直撃すれば猟兵とて致命傷を免れられない一撃である。バトルキャラクターが受ければひとたまりもない。
地形を砕く一撃が部隊のひとりへ襲い掛かったとき、不意に男の声が響いた。
「アリなんだなぁこれが」
ヴィクティム・ウィンターミュート。暗灰色のコートを脱ぎ捨てた彼が、信徒の腕を掴み、そしてへし折ったのである。それは如何なる技量か、座っていた席からここまでの移動に、一切の音を立てなかったのだ。
蘇生された信徒は完全に虚を突かれたまま、抵抗する暇なく四肢を破壊された。
「こうやって手足を潰しておくのがおすすめだぜ。死体でもな」
突如現れたゴーグルとマシンアーム二機で武装した男に、悠那が目を瞬かせたのは僅かなあいだのことだった。
それが同業者だと知ると肩をすくめる。
「テロリストと戦うFPSだと思ってたら、ゾンビゲーだったなんて」
ははは、とヴィクティムが笑った。
残された信徒はというと、素早く通路左右の座席にいる乗客へ手を伸ばして触れる。すかさず力を行使、黄昏への導きによってたちまち彼らは仮面とくすんだ布に覆われる。
銃声。
乗客を支配した信徒は無数の銃弾を浴びて絶命した。その四肢はヴィクティムによって踏みつぶされてゆく。例え他の信徒によって蘇生されようと、手足が潰れたままでは何もできやしない。
そして新たな信徒へと変えられた元乗客の二人が、その得物を振り上げるよりも早く猟兵たちは次のアクションを起こした。
「ジューヴか」
呟きをひとつ。ヴィクティムのサイバーアームがその本領を発揮する。攻勢プログラムを満載したデバイスだ。解析終了。対象データのコンパイル完了。それが黄昏の信徒が齎した支配の力へ牙を剥く。ホストユーザー書換終了。No.005ハイジャック、実行。
「アンチUCウイルスだよ」
悠那の唇が小さな言葉を紡いだ。彼女のゴーグルはその内側に無数の明滅する文字数を流してゆく。人工電子精霊が、彼女の意を正しくくみ取って身を躍らせた。
「――お前のデータは全部俺の物だ」
「――砕けろ」
二人の言葉が揃う。
片や使用権限を奪う攻性ウイルスプログラム。片や構成情報を崩壊させるウイルスプログラム。奇しくも同業の二人が放った二種のプログラムが、信徒の支配効果を追い込み、乗客を解放するに至った。仮面が剥がれて倒れる乗客がその場に残る。
ヴィクティムは倒れた乗客へ向けて、立てた人差し指を口に寄せた。
「騒音はおやめくださいと言ったでしょう? 終点まで眠って…」
そのまま起きるなよ。
言葉を置いて猟兵は歩みを進める。事件の元凶、それが座する先頭車両に向けて。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
プリンセラ・プリンセス
人格は引き続きケイ。
屋根の上を行き、よじ登ってきた信者を即座に撃ち倒していく。
「登った瞬間は無防備だものね。操り人形にした人質では屋根まで登ってこれないでしょうし!」
腕だけ出して盲撃ちしてくる信者とパンタグラフを盾にして撃ち合う。
「ま、盲撃ちじゃそうそう当たるものじゃないわ。――向こうも腕には当てにくいとか思ってるんでしょうけど。それは大間違いよ」
相手の腕に向かって指鉄砲。一瞬遅れて天からの光が信者を打ち据える。
「こういう場合は銃より便利なのよね」
慌てて頭を出した信者をノールックショットで撃ち倒す。
「一番乗り、というわけにはいかないようね」
わらわらと無数に屋根に登ってくる信者に銃を構え直して〆
サーズデイ・ドラッケン
敵は屋根伝いにも増援を送り込んできますか
ならば私はそちらの迎撃に向かいます
他の猟兵が空けた天井の穴からワイヤーガンを使って屋根の上へ
…良い風ですね。気分が高揚します
敵の隊列を崩し、進行を遅らせます
【スライディング】の姿勢でブースターを使った【ダッシュ】
屋根に対し斜めに構えたハミングバードで、敵の足元を掬い上げ弾き飛ばしながら突撃
孤立した敵は味方に任せ、私は奥側の敵集団へ向かいます
まずはウッドペッカーで牽制
モーニングスターを振り下ろされる前にブースター最大出力の【ストライクシールド】を叩き込みます
さらにシールドに接続したワイヤーを【ロープワーク】で振り回し、【範囲攻撃】で敵集団にダメージを
●金属の暴力
拳銃からアンカーが打ち出され、穴の空いた天井に食い込む。するとたちまち拳銃内部のウインチが唸りを上げ、使用者の腕を引き上げる。天井へ躍り出るのはサーズデイ・ドラッケン(宇宙を駆ける義賊・f12249)、大型の武装を各種取り揃えたウォーマシンだ。
スラスターの補助を受けて屋根へ片膝ついて着地すると、驚いたように両手を挙げる。
目と鼻の先に銃口が付きつけられていた。
「……」
「あら、失礼」
声の主、サーズデイへ自動拳銃を向けたのは漆黒のスーツを着た女性の猟兵である。ハンチング帽が風に浚われないように、同じく自動拳銃を持った片手で押さえつけていた。彼女の名はケイ。プリンセラ・プリンセス(Fly Baby Fly・f01272)の身に宿った13番目の姉の人格だった。
「いいえ、大丈夫ですよ」
銃を下ろすケイへ朗らかに応じてサーズデイがゆっくりと立ち上がる。すると身長差がはっきり表れた。およそ1メートルの身長差である。高速で走行する列車の屋根ともなると常に恐ろしいほどの風が襲い掛かるが、常人より遥かに大きい体躯の彼はそれを一身に浴びながらも、良い風だと感想を抱くくらいだ。煩わし気に帽子を押さえる少女の手前、決して口に出すことはないが。
「相席いいですか?」
とサーズデイが問えば、ケイはどうぞと答えるのだった。
「敵は屋根伝いにも増援を送り込んで来てるようですね」
サーズデイは先頭車両のほうへ顔を向ける。強風にローブをはためかせながら、屋根を伝ってくる信徒がいくつか見えた。もし彼らの目的が、先頭車両へ車内を移動する猟兵たちに背後から奇襲することならば、一人たりとも見過ごすわけにはいかなくなる。
「私はその迎撃に来ました」
するとケイは形の良い眉を小さく挙げて、そうなの、と応じる。
「私は…」
言いかけて、発砲音。彼女の自動拳銃の硝煙が風に吹き消されると同時、窓から屋根に登ろうとしていた信徒が絶命して落ちた。
「ああ、だいたいわかりました」
サーズデイの納得にケイは満足気な笑みを返す。
「登った瞬間は無防備だものね」
なんだか身に覚えのあることだなと納得して、ウォーマシンは頭を巡らせた。客車から登ってくる信徒には、元乗客が紛れている可能性があるのではないだろうかと。するとケイはさらに笑みを濃くする。
「操り人形にされた者では屋根まで登ってこれないでしょう?」
やや前方、破損し穴の開いた屋根から信徒がよじ登ってくるのが見えて、それはやがて一発の銃声の後に姿を消す。
「なるほど」
これはサーズデイにとって良いニュースだ。すなわち屋根の上で戦うぶんには、元乗客のことは気に掛けなくていいということなのだ。先頭車両から屋根を伝ってくる信徒については言うまでもない。
彼は大型の盾へとワイヤーを接続する。それで一体何をするつもりか、大型の可変防盾もワイヤーも、とても屋根へと登ってくる敵を討つのに向くとは思えない。
ケイは先頭車両から来る信徒とウォーマシンの男性との間に視線を往復させる。
「飛び込むのね?」
「ええ」
すると、風切り音が聞こえた。二人のあいだを小型の鉄塊が通り抜けてゆく。列車の周囲に吹く強風が追い風となって、屋根の穴から信徒が放り投げた凶器を二人の元へと運んでいた。
「いまのは鉄球かしら」
「そのようですね。どうやら武器は一種類だけではなかったようで」
でも、とサーズデイは続ける。
「わざわざ鉄球を投擲してきたというと、敵に遠距離武器はないようですね。苦肉の策なんでしょう」
ケイはそれに頷いた。銃撃戦ともなればパンタグラフを盾にしようなどと考えていたが、その必要はないようだ。
そのうち、今度は割れたガラスらしきものが屋根の穴から投げ上げられ、追い風によって散弾となり二人へ襲い掛かる。だがケイに動揺は見られない。ガラスの軌道を一瞥し、特に回避行動をとることなくやり過ごす。
「ま、盲撃ちじゃそうそう当たるものじゃないわ」
涼し気なケイと対照的に、サーズデイはやや心配そうな視線を送る。彼女によって出鼻を挫かれた敵はアプローチを変えてきている。屋根へ登らずにこちらを攻撃しようとしてきているのだ。無論、信徒が直接鉄球を叩きつけてくるでもない限り、彼の装甲が傷つくことなどない。宇宙船の外装にも使用される特殊加工の金属でできた装甲は伊達ではない。だが見るからに人間の、それもたおやかな女性には例え割れたガラスでも凶器となるだろう。
突撃を諦めあの信徒を制圧するべきか。思考を始めたサーズデイであるが、ケイは静かに首を振る。金色の髪が風に流されながら波をつくった。
屋根の穴から僅かに信徒の手が覗き、小さな鉄球が投げられる。
「――体を隠しながら投げていれば撃たれないと思ったら。それは大間違いよ」
僅かに身を捩って凶器を躱し、ケイは自動拳銃を仕舞いながら指鉄砲を作る。人差し指がさす先は屋根から攻撃のたび屋根から覗く信徒の腕。すると一拍遅れて、天から眩いばかりの柱が降りる。それは如何なる技か、味方には暁の地平線から差し込む光に、そして敵には落雷の如き不意打ちの理不尽と映るに違いない。屋根の下に隠れた敵が光に撃ち抜かれ、建物の影に隠れるという行為は、ケイにとって全くの無意味であることが証明される。
「こういう場合は銃より便利なのよね」
だから、気にしないで行きなさいとケイはサーズデイの背中を押した。
「それじゃあ、お先に失礼します」
そして軍用機の男は、屋根を伝って続々と迫りくる信徒たちを見据えて、盾を構える。敵の攻撃から身を守ろうというつもりはない。そのために出した盾ではない。
身長245.3cmの装甲の塊は強風を物ともせず駆けだした。脚部が屋根を打ち、硬質な足音を立ててゆく。そして驚くべきことに彼は屋根に空いた穴を飛び越えてそのままスライディング、金属製の屋根に火花を散らしながら、敵の眼前で可変盾ハミングバードのブースターを点火しさらに加速!
屋根を越える数人の邪教徒が火花を纏って高速接近する機械兵に驚愕するがもう何もかも遅い。それはボーリングのピンのように弾き飛ばされ、列車から振り落とされてゆく。
全速前進。奥の車両の屋根に敵集団を認めてブースターの出力を上げる。ウォーマシンの体躯はスライディングの姿勢から立ち上がり屋根を蹴って空中に身を躍らせた。
盾を片手に、空いた片手で彼は銃を抜き放つ。カービン銃から荷電粒子弾が立て続けに飛び出して邪教徒の体とその足場に赤熱する弾痕を植えてゆく。
やがて金属の踵が屋根へと着地した。ウォーマシンは身を捻り、大型盾が振りかぶられ、ワイヤーで繋がれた凶器が信徒のモーニングスターより先に獲物を捕らえ、そして幾人も巻き込み薙ぎ払ってゆく。
まさに加速と質量の暴力。いまこの列車の屋根において、ウォーマシンの進撃を止められる者などいない。
目指すは先頭車両。ウォーマシンの男は最短距離を一気に駆け抜けていった。
「一番乗り、というわけにはいかないようね」
彼の背を見送って、ケイは自動拳銃に新たなマガジンを装填する。ひとりの猟兵が駆け抜けた道だが、屋根に捕まり身を立て直す敵は少なくない。また、列車の窓から屋根の穴から両手の指に収まりきらぬほどの敵が登ってくる。今度は物量で攻めるつもりらしい。
リロードが完了し、銃を構える。
しばらく屋根の上で、発砲音が続いた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
レイラ・ツェレンスカヤ
前へ、前へ!
楽しい楽しい、マーチの始まりかしら!
うふふ、アナタたち、ここで死ぬのが怖くないのね!
レイラは、力を解放して電車の中を進むのだわ!
立ち塞がる信徒の一切合切を穿ち、貫き、斬り捨てて、前へ、前へ!
例え元は普通の人だったとしても、逃してあげないかしら!
念入りに、動かなくなるまで串刺しなのだわ!
アナタは素敵な悲鳴を聞かせてくれるかしら!
倒れた人がアナタたちになるように、レイラたちやアナタたちの流した血が、レイラの力になるのだわ!
ここは密室!
苦しみと恐怖の色に染まった血を、思う存分撒き散らすといいかしら!
さあ、レイラの歩みは、誰にも止められないのだわ!
●彼女の歩みが止まるときは
うふふ、うふふふふ。
特急列車のなか、密室に幼い笑い声が満ちる。
ころころと鈴の転がるような可愛らしい声で、その主も声に違わず豊かな銀髪を持った少女だが、だらんと垂れ下がった血の滴る両手が凄惨な有様を見せていた。
座席の乗客たちは彼女の異常性に気付かない。彼女が列車へ飛び移る際にとった凶行の代償で両腕に重傷を負っていて、その痛みをしっかり感じていながらも、己の現状を面白おかしく笑っている姿に反応を返すことはない。
彼女が一歩、また一歩と先頭車両を目指すたび、滴が床に模様を作る。
じゃらり、鎖の音が車両で鳴った。少女、レイラ・ツェレンスカヤ(スラートキーカンタレラ・f00758)の持ち物ではない。車内にいた黄昏の信徒が得物を握りしめたのだ。
そしてレイラの進路を塞ぐように立つ。数はひとり。だが歩みを止めぬレイラを認めて、信徒は傍らで眠る乗客の頭に手を当てる。これで数はふたり。意識のない人間を自身と同じ姿に作り替え傀儡とする恐るべき技だった。
レイラは信徒の増員を目にしてなお歩みを止めない。笑みも消さない。先頭車両を目指して歩き、やがて信徒との距離はついに武器の届くまでに至った。
信徒が武器を振り上げる。巨大な棘付き鉄球である。いかな猟兵といえど直撃すれば命は危うい。小柄な少女など頭を柘榴にしてしまうだろう。
少女の瞳に好奇の色が宿った。それを自分に振り下ろすのかと問いたい様子だった。
無論である。
黄昏の信徒は猟兵の少女を叩き潰すためにそれを振り下ろす。振り下ろそうとした。しかし動かなかった。
否、動けなかった。
なぜなら少女の歩いてきた床に点在する血痕のすべてから、細く鋭い槍が飛び出し信徒の体を標本のように縫い留めていたのだ。さらには体内に侵入した赤い槍は至る所から枝分かれし、樹形図を描き、信徒の体の末端から苦痛を流し込む。信徒の体が痙攣した。倒れることは許されない。夥しい数の槍が体を貫いていたから。悲鳴を上げることも許されない。喉を突き刺した槍が声帯を破壊していたから。
やがて、槍が血痕へと戻り体を解放すると、信徒はずるりと倒れて血の溜まりを作る。
ぱしゃりと音を立てて、少女は血溜まりを踏んだ。するとどうしたことか、彼女の笑みがさらに綻ぶ。からからに乾燥した喉で、薔薇の朝露の仄かに香る冷水を飲んだときのような、そんな満たされた笑みだった。
少女は足を止めない。骸となった信徒の体を踏み、越えてゆく。
残されたもうひとりの信徒は恐怖した。元が乗客であった力無き信徒である。その精神に邪神の加護はなく、よってレイラに抱く恐怖から両足をすっかり震わせていた。
彼女は足を止めない。
突然信徒がレイラに背を向けた。逃げようとしたのだ。彼女から遠ざかる方向に生の希望を見て縋りついたのである。信徒は死にたくなかった。暴走列車との心中を覚悟した信徒ではないのだ。これまで平凡に一般人として生きてきた元乗客なのである。
駆けだした信徒の足に赤い槍が突き刺さり、転倒した。
少女は足を止めない。
信徒は起き上がり、必死に足を引き摺った。座席に手をついて支えにし、死に物狂いでレイラから逃れた。だが、その腕を無慈悲な刃が襲う。信徒は再び転倒した。
追いつかれまいと信徒は這う。無事な片腕と片足で床に爪を立てながら這う。
「うふ、うふふふ」
レイラは歩行のペースを落とした。ゆっくり、ゆっくり。これで哀れな信徒に希望を抱かせるのである。すなわち、このまま這えば逃げられるかもしれないと。必死に這う姿は健気でいじらしくて、それが彼女の心をどこまでも擽る。
だが鈍足のレースは長く続かなかった。失血と疲労、さらに痛みが信徒の体を蝕んでゆく。やがて限界が訪れ僅かにも進めなくなったとき、仮面の端から透明な筋が零れた。
「いいわ」
うふふ、うふふふふ。
「とっても惨めで、無様で、可愛らしいのだわ」
少女は信徒に追いつき足を止めた。信徒は何もしない、できない。荒い呼吸で胸を上下させるのみ。重傷だったはずの少女の手が信徒に触れ、それを仰向けに転がす。
「あなたが何者だったとしても、逃してあげないかしら」
血に汚れた瑞々しい指先が仮面に触れる、すぐに毟り取った。
金の瞳が、哀れな者の表情を映す。
ややあって断末魔が車内に響き渡った。
大成功
🔵🔵🔵
須藤・莉亜
【ワンダレイ】の人たちとの合流を目指しながら、先頭車両へ。
「崩れないなら、ちょっとくらい無茶しても良いよね?」
屋根の上に上がって腐蝕竜さんを召喚、彼に乗って先頭車両に向けて進軍する。
敵さんの耳障りな声は腐蝕竜さんに咆哮してもらったら、ちょっとはマシにならないかな?
僕は対物ライフルのLadyに自分の血をあげつつ、ちまちま敵さんを撃っときます。
「さて、誰か居ないかなぁ。…もう、先頭車両で待ってようかなぁ。」
●求める視線のその先は
「崩れないなら、ちょっとくらい無茶しても良いよね?」
そんな言葉が列車後方で紡がれた。
ちょっとくらいの無茶が、どの程度を指すかは個人によって大きく分かれるところだろうが、この言葉の主、須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)にとってのちょっとくらいの無茶は、つまり割れた屋根から登ってその上で体長20mを越える全身が腐食した竜を呼び出す程度を指すようだった。
呼び出した意図はというと、須藤がさっそく乗り込もうとする様子を見るかぎり、移動手段の用意が近いかもしれない。暴走列車を追いかけた首なし馬に引き続いて、二匹目の騎乗生物である。腐食し変色した竜の体へ触れることに何ら躊躇いはないのか、須藤は淀みない動作で竜へと乗り込み、普段のどこかのんびりした声を出す。
「それじゃあよろしくね」
暴力的な勢いで吹きつけてくる風。それを一対の翼で掴み、腐食竜が飛び上がった。突如列車後方で出現した巨大生物に、屋根を伝う黄昏の信徒が反応して近づいてくる。数はひとり、ふたり。
だが、モーニングスターを装備した信徒が駆け寄ろうと、既に空中にいる竜へと攻撃を届かせる手段はほとんどの残されていなかった。鉄球の鎖では距離が足りず、また屋根では支配すべき乗客もおらず、ただ唯一残された攻撃手段は悲鳴のみ。邪神の寵愛による不快な歌声を身に纏い、聞いた者の精神を苛み掻き毟りたくなる悪夢の悲鳴を喉から響かせるが、それすらも腐食竜の桁違いの声量を持つ咆哮が掻き消してしまう。
打つ手なし。屋根の上で立ち尽くすふたりの信徒を見下ろし、須藤は武器を用意した。ライフルだ。それも通常のものよりはるかに大きく、銃口も大口径弾を吐き出すのに相応しい直径となっている。それは対物ライフルだった。
須藤の合図に、腐食竜は襤褸のような翼と被膜を羽ばたかせて、徐々に高度を下げる。列車の真横を飛びながら、窓から客席の中が覗けるほどまでの高さになったとき、ついにライフルが火を噴いた。
巨大な発砲音。腹に響くほどに重い、花火に似た音が列車の窓を震わせる。発射された大口径弾の質量は一瞬で信徒の体へ到達し、木端微塵に砕いて赤い飛沫だけを残した。二拍置いて、再びの発砲音。列車の屋根にいた信徒の肉体は瞬く間に消滅した。
須藤は表情を変えない。ライフルを握る指を口元に寄せ、噛み切り出血させる。その手でライフルを握れば、白い銃身を血液の赤が彩った。白い対物ライフルという目を引く特徴を持つ武器だが、名はLadyという。使用者の血が捧げたられたいま、ライフルはさらなる射程と威力を獲得するのだ。
腐食竜が顔を上げた。白く濁った瞳が屋根の遥か先を見据える。新手が、屋根を伝って接近してくることに気付いたのだ。
竜の唸りを聞いて須藤はスコープを覗き込む。ぼんやりした紫の瞳が数度瞬きしてから、ゆっくりと引き金に指をかければ、たちまち信徒の肉体が消し飛んだ。
「さて、誰か居ないかなぁ」
自然と、そのような言葉が零れ落ちる。引き金を引く作業に食傷してきた彼はやがて、敵の姿よりも仲間の姿を求めるようになった。腐食竜が彼の意図を組み、窓から車内を覗ける高度を維持して進んでゆくが、どの車両にも彼の求める姿は見つからない。
「…もう、先頭車両で待ってようかなぁ」
溜息の混じった呟きひとつ。腐食竜は列車と並行したまま速度を上げる。
すべての猟兵たちの目的は先頭車両にある。終点駅へ突き進む特急を止める唯一の手段がそこにあるのだ。だから、先に到達してしまえば、彼の求める者たちがやってくるに違いない。
腐食竜の翼は召喚者の求めに応えてひときわ大きく羽ばたき、風を切り裂いて加速するのだった。
大成功
🔵🔵🔵
ポーチュラカ・ハイデルベーレ
【ワンダレイ】の仲間に合流するのであります!
第六感で仲間のピンチを察知して、飛んできたのでありますよ!この翼はダテじゃないのであります!
やのどの!大丈夫でありますか!? ラッパで動物どのを呼び出すついでに、仲間を鼓舞する演奏をして、音を緩和とかできないでありましょうか…?
《SPD》
相手のユーベルコードが厄介でありますね。
【もふもふ行進曲】で呼び出した動物どのたちにもふもふアタックしてもらって、成功したらユーベルコードを封じるであります。
尾守・夜野
【ワンダレイ】の皆が来てるらしいな?
電車の窓から見えてたし、合流を考える。
だが、俺のいる位置がわからん
皆の前でも後ろでも、どっちにしろガスが他の車両にあったら危ねぇな
数両置きに窓を開けていく(物理)
信者、民間人が見えたらUCで姿を隠し、接近し縄で縛っていく
元が何であれ身動き出来ねぇなら問題ねぇだろ
ついでに猿轡も噛ます
どっちが悪人だかわかんねぇなこれ
抵抗受けるなら何か動き留める系のそんなに害のない毒を使う
これで歌声防げればいいんだが…
くそっ耳障りな雑音だ
あた ま が わ れ…
っ皆!来てくれたのか!
合流してからは解呪がしやすいように動く立ち回る
アドリブ歓迎
こちらUDCアースでのトラウマ持ち
アルフレッド・モトロ
【飛空戦艦ワンダレイ】現地集合ってか!
俺が何車両目に着地したかは分からんが、
近くに居る奴から順に合流したい。
うーん民間人を巻き込みそうで、
迂闊に大振りな技が出せなくて困っちまうなァ…
信徒に変えられた民間人の攻撃はちょっと緩いらしいし
一度攻撃を受けてみてから、【野生の勘】で本物か否か判断。
本物と分かれば【カウンター】からの【二回攻撃】で追撃。
民間人の場合は【地形の利用】【敵を盾にする】を応用して 【ワンダレイ・チェイン】を使って座席や手すりなんかに縛り付けておきたい。
仲間から教えてもらった敵を優先に攻撃する。
なんだか辛そうな夜野には「しっかりしろ!大丈夫か!?」と声をかけて気を配っておく。
●集い始めるクルーたち
剣の切っ先が窓を突き破り、砕く。すると強い風が車内に吹き込んだ。
風はやがて乗客たちを眠らせたガスを押し流してゆくだろう。それに意味があるのかどうか、現時点では判断できない。だが漆黒のマントに身を包んだ青年は、あると信じて乗客をガスから解放していく。
赤い瞳が車内を巡る。尾守・夜野(群れる死鬼・f05352)は仲間を探していた。同じ猟犬の、そして所属を同じくする者たちのことだ。UDC組織の臨時列車から飛び移る際にちらりと見えたが、合流するためにはどうすればいいか、有効な方法を描けないでいる。
彼はひとまず先頭車両へと足を向けた。どのみち、敵の首魁がそこにいるのなら、遅かれ早かれ猟兵たちは集結するはずなのだ。
客席の扉を開け、乗降口を通り抜け、そして新たな客席に出ては窓を割ってゆく。
不意に彼の足が止まった。
人の気配がする。頭から伸びた特徴のある耳が微かな物音を捉えていた。大方窓の割れる音を聞きつけた邪教徒だろう。夜野は予測を立てながら再び足を進める。
一歩。青年の姿が徐々に色を喪う。
二歩。薄まった末端から体は透けてゆく。
三歩。赤い瞳と黒い髪が完全に消えた。
四歩。後には何も残らない。
自身と、刻印の触れたものを透明化するユーベルコード、消失事象の力を帯びて青年は進んだ。
前方の乗降口へ通じる扉が開く。姿を現すのは猟兵ではなく黄昏の信徒だ。無貌の仮面が車内を見回し、やがて割れた窓の一点に意識を向ける。
車内の通路を信徒が歩く。モーニングスターを手に持ち、窓を割ったものを探すために。
車内の通路を夜野が歩く。信徒を見据えながら、懐に手を入れて。
同一線上を歩く両者がやがて擦れ違おうとするとき、夜野は動いた。
擦れ違いざまに信徒の首へと縄を回し、背負うように勢いよく引く!
「!?」
信徒は突然のことに驚愕しながらも喉を絞られ声が出せない。首に掛かった縄がさらに引かれバランスを崩し床へと倒れ込んだ。夜野は身を翻して倒れた敵へ肘を落とす。肺から空気が絞り出されて信徒は声を出せない。彼はさらに膝を落とす。モーニングスターを握った信徒の腕を踏んで封じたのだ。
「大人しくしてろ」
夜野の手が素早く動いて、信徒の仮面を剥ぎ取り、縄を噛ませて腕を足を拘束してゆく。例え信徒が本物でも、操られた乗客でもこうなってしまえば同じである。
だが不意に彼は動きを止めて顔を跳ね上げた。扉の向こう側に物音。舌打ちをしそうになる。
彼は再びユーベルコードを使用した。拘束する信徒ごと透明化すれば見つかることはない。扉が開かれる頃には完全に姿を隠した夜野が敵を睨み付けた。
だが。
「!?」
押さえつけた信徒が抵抗し縄を緩めて、やがて大きく開いた口から引き裂かれるような悲鳴が迸った。
至近距離から放たれた悲鳴に夜野が歯を食いしばり、頭を押さえる。精神を掻き毟るというそれは、文字通り彼の心にあるかさぶた、あるいは塞がったばかりの傷を無残に掻き毟った。真新しい傷の鋭い痛みと古傷の鈍い痛みが合わさり、意識が明滅する。彼はたまらず体を折った。平衡感覚が失われていくなか、辛うじて床についた手が見え、その周囲を脂汗が点を作ってゆく。体を透明化する力はいつのまにか失われていた。
「あたま、が…」
割れてしまいそうな、痛みが。心が裂けてしまうほどの怨恨と後悔が、意識を真っ黒に真っ赤に塗りつぶそうと、した。
何か聞こえる。鎖の音。敵が近づいているらしい。何もできない。何か聞こえる。男の声。一体誰だ。何もわからない。
「しっかりしろ! 大丈夫か!?」
それは夜野にとって慣れ親しんだ声だった。肩に置いた手の体温が、沈みかけた青年の意識を掬い上げる。
アルフレッド・モトロ(蒼炎のスティング・レイ・f03702)だ。彼が片膝をついて夜野へ肩を貸そうとしていた。
「やのどの! 大丈夫でありますか!?」
アルフレッドだけではない。ポーチュラカ・ハイデルベーレ(六翼の聖獣使・f01720)もまたこの場に駆けつけていた。彼女は二人を背後に守るように立ち、金色の楽器を吹く。すると豊かな体毛に覆われた無数の動物が現れて黄昏の信徒へ殺到してゆく。行進曲の音色に従って、うさぎや羊、そして子熊たちが二人の信徒を押し出す。うさぎたちが座席の肘掛けや背もたれを足場に目まぐるしく跳ね回り、信徒にモーニングスターの狙いを決めることを許さず、羊と子熊たちがそれぞれ交互に体当たりして車両の端へと追い詰めた。
彼女の狙いは信徒の打倒ではなかった。アルフレッドの呼びかけによって夜野が立て直す、その時間稼ぎにある。ゆえに喇叭の演奏を止めない。鼓舞する演奏を決して途切れさせない。傷ついた仲間が再び立ち上がれるように、敵のあげる恐るべき悲鳴を少しでも遮れるように。
彼女の後方、二人の男が言葉を交わす。
「皆、来てくれたのか」
やや疲れを引き摺る表情に、エイのキマイラは鋭く並んだ歯を剥き出しにして笑いかけた。
「おう。ここから反撃開始だ」
彼は碇を肩に掛けて敵へ向く。その碇と繋がれた鎖はあまりに巨大。なぜなら飛空戦艦にて使用される代物である。一体なぜ戦艦のものがこの場にあるのかというと、その答えはこの男が握っている。いかにも、飛空戦艦ワンダレイの船長とはアルフレッドなのだ。彼はクルーを探して車両を巡り、そしてクルーの危機に駆けつけたのだった。
アルフレッドは狭い車内の通路を大股で駆け、ポーチュラカの前に出る。
「待たせたか?」
「いいえ。全くであります」
見れば車両端まで追い込まれた信徒二人はいよいよモーニングスターを構えていた。そのうち一人は顔から仮面が剥がれている。夜野が拘束しようとした者だ。
始めに仮面の信徒が仕掛けてきた。直撃すれば猟兵だけでなく周辺地形までも巻き込んで破壊する恐るべき鉄球の一撃がアルフレッドを襲う。だがそれが彼に届くことはない。棘付き鉄球は碇によって弾かれた。が、その一撃の重みに彼は渋面を作る。
「艦長?」
ポーチュラカの問いかけに彼は頷いた。碇を振るって鉄球を弾く。
「こいつはクロだな」
続いて仮面の剥がれた信徒が鉄球を振りかざし、アルフレッドはそれに片腕を翳す。直感があった、これならば受けられると。事実彼の腕は堕ちる星の一撃を真っ向から受け止め、棘で僅かに皮膚を裂かれるだけに留まった。
「こっちはシロだ!」
「ポーチェに任せるであります!」
明るい橙色の髪が揺れ、少女の演奏する喇叭から指揮が舞えば、力を貸す動物たちがひとりの信徒に向けて集中する。うさぎが顔面へと跳び、子熊が獲物持つ腕を押さえに掛かった。鮮やかな三対の羽を広げてたったひとりの軍楽隊が行進曲を紡ぐ。敵に向かう動物たちの表情は上官に従う兵でなく、親しんだ相手と目的を共有する友のそれだ。
一瞬の隙をついて、仮面の信徒が乗客に手を伸ばした。黄昏への導きという、意識のないものを自分と同じ存在へ変える恐るべき力がその手に宿っていた。
「てめぇ!」
アルフレッドが阻止しようと踏み込むが間に合わない。信徒の指先は乗客の頭に触れ、ついに力を行使した。
だが。
ここに乗客が予想外の反応を示す。頭を触れられた乗客は僅かに身じろぎをするだけに留まり、夢の世界に浸ったまま立ち上がることをしなかったのだ。
果たしてこの結果を正しく解説できるものがいるだろうか。窓の穴から催眠ガスが霧散していったことにより、乗客の眠りが浅くなっていたのである。黄昏への導きの条件を満たせぬほどに。
「……!」
その場で仮面の信徒が最も早く動いた。そして二番目にアルフレッドが動いた。信徒の振り上げる鉄球武器へ向けて碇を投げつけ、手から弾き飛ばす。
そして彼は車体が振動するほどの強い踏み込みによって肉薄し、敵の顔を仮面ごと握りつけた。握る手から血が滴る。鉄球の棘によって傷ついた手だ。無論ただ握るだけではない。
「そらよッ!」
掴んだまま力ずくで車両の壁に叩きつける。さらに。
「燃えろ!」
手のひらから溢れ出す地獄の炎がたちまち信徒の頭を包み込んだ。
濁った絶叫をあげる信徒だがたちまち喉まで焼かれ、抵抗力を失い、燃え尽きる。主の意志によって自在に消えるその炎は、客席のなかにありながら的確に信徒のみを焼いていた。
「さて」
ポーチュラカは決着の気配を悟って背面を振り返る。艦長が敵を燃やしていた。ならばあとは仮面のない眼前の信徒を拘束すればこの車両の戦いは終わりとなる。元は乗客だ、手荒な真似はできない。
「おまたせ」
そんな彼女へ声を掛ける者がいた。
「やのさん!」
漆黒のマントを帯びた青年だった。その手には縄がある。足止めありがとうと彼は言った。
途端、信徒が息を大きく吸い込む。あの悲鳴を上げるつもりかとポーチュラカが身構えて、素早く喇叭を吹き鳴らす。羊の頭突きをして信徒の肺から空気を絞り出し、子熊が立ち上がってその口を塞ぐ。
「どっちが悪人だかわかんねぇなこれ」
動物に押さえつけられた元乗客へ縄持ちながら近づく自分を思い、彼は苦笑いを浮かべる。そして今度こそその体を完全に拘束するのだった。
「そっちも片付いたみたいだな」
「艦長」
「船長」
二人の声に、アルフレッドは手をあげて応える。彼は暴走する列車の先頭に向いて口を開いた。
「さあ、先頭車両に行くぜ。他のやつらも来てるだろ、現地集合だ」
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
ゼット・ドラグ
「ふむ、旅団の皆は多分先行するだろう。俺は隠れてる奴がいないか、確認しながら進むとしようか」
【ワンダレイ】のメンバーと敢えて合流せず。最後尾から敵がいないか確認しながら進む。
敵を発見したら、黒剣を投げつける。当たればいいが、当たらなかったら一気に距離を詰め、ヴァリアブル・ウェポンで左手の甲から飛び出した刃で敵を切り裂く。
敵が複数いる場合、敵を斬りつけた後に左手の甲の刃を射出して、別の敵を奇襲する。
「どうだい、俺の隠し手は。油断しただろ?」
●隠し剣ヴァリアブル
ここに、車両最後尾を歩く男がいる。
名はゼット・ドラグ(竜殺し・f03370)、宇宙バイクに跨って仲間とともに暴走特急に追いついた男だ。だが、通路を歩く彼の傍らに同行者の姿はない。
彼は旅団の皆は先行するだろうと予想を立てていた。そこであえて別行動をとった。『俺は隠れてる奴がいないか、確認しながら進むとしようか』とは彼が同行者と別れるときに言った言葉である。
剣を片手に、サイボーグが足音を消しながら車両を遡ってゆく。乗降口を通り抜けて新しい車両へと出ると、そのたびに戦闘のあとが目に飛び込んでくる。首を失って横たわる信徒がいれば、無数の銃弾を浴びた遺体もあった。座席の乗客はいまだ目を覚まさず、戦いがあったことなど最後まで気付かないのだろう。
そして次の車両へと抜けると、気絶した信徒がいた。縄で拘束されている者もいる。彼らが止めを刺されていないのは、きっと元が乗客だからだろうか。
他の猟兵の姿は見えない。誰もが先頭車両へと移動しているに違いない。
ゼットは汚れた床に足音を立てず進み続ける。
すると、彼の後方でゆっくりと起き上がる姿があった。頭部に銃弾を受けた信徒が、それまで死者を装っていたのである。
信徒はゼットの背を無言で見送り、物音を立てずに眠る乗客へと手を伸ばした。意識のない者を黄昏の信徒へと作り変える恐るべき力。それによって先頭車両へ進んだ猟兵たちを討つための手勢とするのだ。
だが、それを許さぬものがいた。ゼットである。
振り向きざまに投げつけた黒剣が空を切り、信徒の体を浚ってゆく。ずだん、と胸を貫いた剣が硬い音を立てて壁に信徒の体を縫い留める。即席の標本のようだった。敵は数度痙攣したのち胸から血液を零していって、事切れた。
「いると思った」
そう短く呟いて剣を回収しようと振り返ったとき、座席の隙間に隠れていた新たな信徒が飛び出す。それは椅子を蹴り壁を蹴り、恐るべき身体能力で剣を失ったゼットへと襲い掛かる。手に構えたモーニングスターを振り下ろそうとしていた。直撃すればいかな猟兵とてただでは済まない破壊の一撃である。
が、ゼットは表情を変えず対処した。それぐらい予想済みと言わんばかりだった。
彗星のように落ちてくる鉄球を彼は身を捩って回避し、回転運動の勢いを殺さず着地した信徒へ足払いを掛ける。
倒れた信徒がすかさず悲鳴にて反撃しようとするも、片膝立てて姿勢を低くしたゼットの裏拳が阻む。左手が仮面越しに顎を砕いていた。
するとすぐに鈍い音が生まれ、信徒の頭から血液が広がる。
左手で裏拳を打ち込んだゼットの、その手の甲から刃が生えていた。
彼はサイボーグである。その武装は常識の範疇に収まるものばかりではない。
「どうだい、俺の隠し手は。油断しただろ?」
物言わぬ骸に声を掛け、剣を回収したのち、彼は再び先頭車両を目指していった。
大成功
🔵🔵🔵
白寂・魅蓮
あれだけ暴れてもまだ止まる様子がないとはね…。
乗り込むことはできたけど、事態は急がないと駄目みたいだ。
多少の無茶は覚悟で行くしかないか…。
あのモーニングスターの一撃を貰えばひとたまりもないだろう。
【見切り】で相手の攻撃を見切ってひらりと攻撃を避けながら、着実に蹴りや扇子を振った一撃を入れていこう。
気絶中の人達が黄昏の信徒になって増える前に、長引かせないようにはしたいね。
「邪教に魅入られた存在というのは恐ろしいものだね…」
敵が密集してきたら、【幽玄の舞「泡沫語リ」】で制圧しよう
※他猟兵との共闘、アドリブ歓迎
●その末路は泡沫のように
車輪と線路の産む定期的な振動が、床から少年へと伝わる。
それは少年にとって、少しずつ加速しているように感じた。
終点駅へ激突して夥しい数の死をまき散らす暴走特急。いまだ止まる気配はない。
乗り込むことはできたけど、事態は急がないと駄目みたいだと彼は思った。
この列車を止めるにはいち早く先頭車両へ到達しなければならないという。
だが少年、白寂・魅蓮(黒蓮・f00605)から先頭車両へと通じる道を、ひとりの信徒が遮っていた。
その手の先から、禍々しいほどに巨大な棘付き鉄球を垂らして、信徒は魅蓮へ無貌の仮面を向ける。モーニングスターという得物、一撃でも貰えばひとたまりもないだろう。魅蓮はそのように考える。
見れば、道を塞ぐ信徒の奥から新手がやってくるのがわかる。
「多少の無茶は覚悟で行くしかないか…」
表情を変えずに溜息をつく俯く少年の、鈍く輝く銀髪の下から覗く紫陽花色の左目が敵を見据えた。
堕ちる星の一撃が少年の体を襲う。だがそれを見切った魅蓮は、さながら風に舞う花びらのように身を翻してやり過ごしてゆく。彼の体はまるで重力を感じさせないほど軽やかに動き続けた。超重量の大雑把な武器で宙に舞う花びらを捉えられるかと言えば、至難の業と答えるしかない。驚くべきは息を切らさずに避け続ける少年の技量か。
魅蓮は一心に回避行動をとりながら、得物を振り回してくる信徒の奥を見やる。新しくやってきた信徒が、足元で倒れている仲間の死体に触れ、それを起こしていた。
敵の扱う黄昏への導きという力は、ガスで眠らされた乗客の支配だけでなく、猟兵に殺された仲間の再利用すら可能とするらしい。全身に切り傷を刻まれた骸はしっかりとした足取りで、そばで転がる鉄球を拾い上げていた。
「邪教に魅入られた存在というのは恐ろしいものだね…」
横薙ぎに振るわれる鉄球の一撃を跳んで回避し、彼は座席を蹴って最前の信徒を飛び越える。
狙いはいま死体を蘇生したばかりの信徒。それが乗客へと手を伸ばすのを跳び蹴りにて阻止した。
「さて」
魅蓮は通路に着地し背筋を伸ばす。背面をひとりの信徒に塞がれ、全面をふたりの信徒に塞がれて、囲まれた状況で彼はにやりと口元を緩めた。これで全員射程圏内である。
「これより踊りまするはひと時の夢物語――…」
扇子を口元に寄せた齢十に満たない少年から、朗々と口上が紡がれる。それまでの無表情から一変、怪しく甘い顔で言葉に愛想を乗せた。
「どうか心行くまで、溺れて、融けていただきます」
彼を挟んだ信徒が一斉に踏み出す。それぞれが少年の体を叩き潰すべく得物の鉄球を振りかぶるがもう遅い。
扇子が黒き蓮の花として咲き、花弁を散らしてゆく。無風のはずの車内でありながら風に浚われるように続々と花弁は散ってゆき、三人の信徒へ襲い掛かった。信徒の体の花弁に触れた箇所は抉り取られ、仮面の奥が驚愕に彩られる。だが花弁の勢いは止まらず、敵の全身へ吹き荒れた。音もなく出血もなく、たちまち全てを刻まれてゆく。それはどこか体の風化するような光景だった。敵は輪郭を失い水泡の如く融けていった。
やがてどれだけの時が経ったか、信徒の姿が完全に消えた頃には、扇子を持つ少年だけが残る。黒い蓮の花弁はもうない。
「さあ」
障害物のなくなった通路を少年の双眸が見据える。
「急ごうか」
後続車両に信徒の姿はもうどこにもない。あるのは骸と戦いの痕跡のみ。
やがて猟兵の姿も見えなくなる。彼らのすべてが先頭車両へ集結しつつあった。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『膨らむ頭の人間』
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POW : 異形なる影の降臨
自身が戦闘で瀕死になると【おぞましい輪郭の影】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
SPD : 慈悲深き邪神の御使い
いま戦っている対象に有効な【邪神の落とし子】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ : 侵食する狂気の炎
対象の攻撃を軽減する【邪なる炎をまとった異形】に変身しつつ、【教典から放つ炎】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
イラスト:猫背
👑17
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●生贄特急はいつ止まる。
先頭車両にたったひとり、信徒が佇む。たったひとりだ。この車両に他の生命はない。そこにいた乗客たちはすべて邪なる神への供物として殺害されていた。外傷のない静かな死だった。
後続の車両で動いていた黄昏の信徒がすべて果てていることを、彼は知っている。数多の世界からやってきた猟兵たちがこの列車を止めようとしていることも。
彼は教団の幹部のひとりだった。神へ贄を捧げる儀式の指揮をとるものとして、責任を果たすべく教典を取り出す。
彼は神を賛美する聖句を詠む。それが自身に何を及ぼすかよく理解していた。聖句によって神へ呼びかけ、力の一端を己が身に借り受ける。人の身に過ぎた力と知識に脳髄は耐えられないだろう。たちまち破壊されてしまうに違いない。
だが、この命は特急の乗客とともに供物として神へ捧げると決めた身。自身の完全なる喪失に何を恐れることがあろうか。
ただひとつ思うところがあるとすれば、神へと捧げる供物がここでひとつ消費してしまうことを歯がゆく思う。
ああ、叶うことなら貴き御身に我が脳髄を直接啜っていただきたかった!
ぼこり。
信徒の頭部が膨らみ、仮面が弾け飛ぶ。
ぼこりぼこり。
赤い結晶じみた物体が脳髄から拡大して彼の輪郭を変える。
――ああ。
彼は法悦に目を細めた。薄く開いた口から歓喜のため息の代わりに、蠅の羽音が漏れ出る。
――素晴らしきかな。これが貴き御身の叡智! これが貴き御身の権能!
彼は笑った。蠅の羽音が、蠅の羽音が、蠅の羽音が、漏れる。
やがて膨らんだ異形の頭部を宿した人間は列車後方へ向く。
そこに集結する猟兵たちを見て、大きく笑った。
蠅の羽音が聞こえる。
生贄特急を巡る最後の戦いがいま始まる。
猟兵たちよ。
列車の終着点は終点駅ではなく、ここであると、武力を持って示すのだ!
蠅の羽音は鳴りやまない。
.
【お知らせ】
プレイングをただいまより募集します。
2/8(土)まで採用率は低いものとなりますが、もしお気持ちに変わりがなければ、プレイングを再度送信していただけると幸いです。本格的な執筆は2/8~11の期間になります。
都築・藍火
さぁいよいよ最後の大ボスでござる。やつを倒せば列車の乗客は救える。であれば後はもう切り捨てるのみでござる!
この狭い車内、砕天號は出しようが無いでござるからな。拙者は持ち込んだ武具類を活用した接近戦攻撃を仕掛けるでござる。
特に厄介なのは数自体が増える邪神の落とし子。これは今戦っている相手に有効なものが召喚されるでござる。であらば、出てきた瞬間に武器を持ち替える事により戦い易く成るはずでござる。
もしも相手が瀕死になったならば、影の召喚も厄介でござる故、多少の怪我は覚悟で速攻仕留めにかかるでござる。
炎の対処は得意そうな誰かに任せたでござる!
アドリブフリーダムに歓迎
雷陣・通
列車……止めさせてもらうぜ
父ちゃんが言ったからじゃない、お前が邪神だからじゃない
人々の営みを取り戻すためだ
紫電会初段、雷陣・通。治にいて乱を鎮める武を以ってお前を倒す!
【POW】
ユーベルコード複合利用
『前羽の構え』とかばうを併用して攻撃を受け止めつつ
味方の布陣や攻撃の時間を稼ぐ
時が来ればカウンターで二回攻撃(鎧無視攻撃併用)
そこからは残像とスライディングで翻弄させて、時には正面から攻撃を見切りつつ、カウンター併用で二回攻撃へとつないで徹底的に動いて、殴る
多少のダメージは激痛耐性で我慢して、何か大きなアクションを取ろうとしたら『雷刃』の重たい一撃で叩きのめす
「知ってるか?空手家は蠅を指で捕える」
●二振りの刃
戦闘車両のなかを陣風が通り抜けた。
抜刀した娘が漆黒の髪を翻して、座席の背もたれを足場に駆けていた。頭の膨らんだ男を見据えて、都築・藍火(サムライガール・f00336)が一気に肉薄する。
閃く白刃。袈裟斬りの軌道で刀が振り抜かれる。肩口から斬り込み鎖骨を砕き肋骨を折ってゆく致命の一撃だ。だがそれは男の体へ届く前に、墨色の表紙によって止められた。
「むっ!」
男は藍火の予想を上回るほどに機敏な動作を見せる。続く突きも、水平斬りも、唐竹割りすら片手の教典で全て防ぎきっていた。男の薄く開いた口から笑いが漏れる。蠅の羽音だった。
ならばと藍火は体を捻る。右脚で大きく踏み込み身を屈め、左脚を軸に旋回。下半身の筋力を集中させ重心の移動を駆使して放つのは稲妻のような後ろ回し蹴り。それは寸分違わぬ軌道で教典を握る男の腕を蹴り上げた。
少女の眼光は敵の喉元を射抜く。蹴り上げた足で地を踏めば、たちまち突きが迸った。
が、男はそれをもうひとつの手で受け止める。ぶしゅう、と握りしめた手から血が噴き出し、吊り上がった口元から蠅の羽音が漏れる。笑っていた。
突如、教典が恐ろしい速さで捲れて、数枚の紙片が跳び出す。それはひらひらと舞いながら脈打ち、空中の一点で硬直して赤い染みを滴らせた。赤色は空中で複雑な模倣を描き、やがて赤く粘性の高い液体に包まれた眼球を生み出す。
「出てきたでござるな!」
それが邪神の落とし子であることを藍火はすぐに理解した。
浮遊する幾多の眼球が帯びる液体は蠢き、形を変え先端を槍のように尖らせ伸ばす。
藍火はすかさずそれを刀で切り払った。否、切り払おうとした。その手応えの重さに顔をしかめる。赤い液体はあまりに粘度が高く、切り離せないまま刀へと絡みついていた。
なるほど、これが自分に対して有効な性質を持った落とし子かと彼女は悟る。刃で切れぬ粘液に覆われていれば確かに刀には有効だろう。膨らんだ脳髄の男は蠅の羽音を漏らしながら嗤って、教典から新たに紙片を取り出した。
「だが――…」
藍火は刀から手を放す。そのまま流れるように背の槍を引き抜く。
「それくらいは想定済みだったでござるよ」
呼吸。そして槍の構え。光のように白刃が迸り、瞬く間に四体。粘液の奥の眼球を貫く。落とし子がぶくぶくと粘液を泡立たせながら消滅してゆくのを認めて、藍火は槍を翻した。間髪を入れず放たれたさらなる一撃が教典持つ手を捉え、貫通し引き裂く!
「―――…」
蠅の羽音がひときわ大きく聞こえた。見れば口を大きく開けて笑っている。
藍火はその口腔の奥に蠢く無数の何かを見た。
途端、手のひらの半ばから真横に切り裂かれた男の傷口から、炎が生まれる。やがて教典さえも炎に包まれた。邪なる神の力を受けた男の生み出した炎は、どこまでも赤い、毒々しい炎だった。
ひゅっと短く空気を吸う音。少女の足が強く床を蹴った。勢いよく下げた頭の上、そして寸前まで体のあった空間、足が蹴った床のそれぞれを爆発が襲う。
大量の爆竹をぶちまけたように、車内を無数の爆発が襲った。
そのときだ。
飛び出した小さな影があった。
赤髪に勝気な緑色の瞳を宿した人物。まだ子供で、少年だった。
それが両手を柔らかく前に突き出した姿勢で、爆炎の前に身を躍らせた。炎に飲み込まれんとする後方の猟兵たちを守るためだ。毒々しい赤が少年の肌を舐めて凄まじい熱と激痛をもたらす。
灼熱の悲鳴が喉から漏れそうになり、少年は懸命に噛み殺す。骨の芯まで焼けるほどの熱量なのに、悪寒が胸を締め付けるのは、その炎が魔性の力を帯びているからに違いない。
奥歯を折れそうなほどに噛みしめて、晴れた炎の向こう側を少年は見据える。邪神に肉体を精神を捧げ、異形の脳髄を露出させた男がいた。
「列車……止めさせてもらうぜ」
呻き声の代わりに言葉を吐く。
「父ちゃんが言ったからじゃない、お前が邪神だからじゃない」
炎になぶられた手で拳を作る。
「人々の営みを取り戻すためだ」
緑色の瞳に怒りが宿る。
「紫電会初段、雷陣・通。治にいて乱を鎮める武を以ってお前を倒す!」
啖呵を切ったのは小学五年生の少年だ。
男は即座に教典を掲げた。どこまでも濃く禍々しい紅蓮の炎が書から燃え上がり、男と少年を繋ぐ直線上へ数多の火球が生まれ、連鎖して爆発してゆく。少年の体はたちまち炎に飲み込まれ、見えなくなった。
が、それは残像である!
少年の体は爆発の僅かに届かぬ隙間を縫って、スライディングで距離を詰める。即座に立ち上がって、続く爆発を飛び越えた。座席を足場に空中で方向転換、残像が火球に飲み込まれる。
少年は一切体を止めなかった。常に前へ進みながら右へ左へ、飛んで跳ねて時には転がり、稲妻めいた軌道で肉薄する。
当然、少年の体も無事では済まない。紙一重で炎を避ければそのたびに肌は熱に晒され、体力を蝕んでゆく。だが彼は止まらなかった。そして敵の懐へ飛び込んだ。
蠅の羽音が聞こえた。男が空いた手に炎を纏わせ、伸ばしてくる。
通は姿勢を半身にして低くした。額に迫る炎の腕を左手で上に弾き、さらに踏み込みと同時に右腕、その肘を勢いよく突き出した。肉を打つ感触。肘を深々と腹に突き刺し、続けて少年は拳を跳ね上げ男の顎を裏拳で打つ!
男の口元からくぐもった呼吸音と蠅の羽音。
「知ってるか?空手家は蠅を指で捕える」
だからお前の借りた蠅の邪神の力など何も怖くないと、通は背の刀に手を伸ばした。引き抜かれた白刃はばりばりと空気の弾ける音を鳴らし、紫電を帯びる。
雷陣・通(ライトニングキッド・f03680)の刃が迸る。
対するは膨らむ頭の男。両手の炎を著しく拡大して、大振りな動作で以って通へ仕掛ける。
交差する剣と手刀。雷と炎。
がきりと硬質なものがぶつかり合う音。空気の焼け焦げる匂いがする。
勝利したのは剣のほうだ。
通の振り抜いた刀は男の腕を裂き、血華を咲かせて傷を刻み付けた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ケイス・アマクサ
「……さぁて、そろそろ終われよ。『ぶんぶんぶんぶん』鬱陶しいんだよいい加減」
【行動】
・ナミル・タグイールと同行
※他絡み等歓迎!
基本方針はUCを活用した早撃ち銃撃等での支援と、可能なら死角からの一撃だ。
正面切っての殴り合いはナミルに任せ、その背後等からの銃撃支援並びに、【邪神の落とし子】の撃退を行う。
また、【おぞましい輪郭の影】が現われた場合もできる限り引き受ける。
とにかく、ナミルに本体を叩いてもらうことを優先。
こっちの手が空いてりゃ、援護と近接含めた死角からの一撃っつー感じだな!
「邪神云々以前によ……お前の都合で、無関係の人間の命を奪おうってぇのが……許せねぇんだよ!!」
ナミル・タグイール
ケイスf01273と同行
な、なんだかグロい奴にゃ。あれが暴走の原因デスにゃ?
ぶんぶん気持ち悪いにゃ!頭パリーンして止めてやるマスにゃー!
・行動
突撃デスにゃー!力比べにゃ!
細かいことはケイスに任せてひたすら膨らんだ頭を狙うにゃ
殴られても知らないにゃ!こっちも殴るにゃ!【捨て身の一撃】にゃー!
【呪詛】を纏った斧でガンガンしマスにゃ!頭砕けろデスにゃ!
呪詛パワーで動き鈍らないかにゃー。既に呪われ感maxだけど更に呪ってやるマスにゃー
でっかい技を狙えそうな隙ができたら【呪飾獣の一撃】にゃ!
思いっきり振りかぶってドッカーンにゃー!
どうせなら赤じゃなくて金ピカ頭になって欲しかったにゃー。
・何でも歓迎
●邪悪を砕く鉛と呪い
車体を軋ませながら高速で走行する列車のなか、一匹の黒い獣が駆けた。
床を、黄金の爪が掻き、柔らかな肉球が蹴る。片手を前足の如く床に付きながら肉食獣を思わせる勢いで膨らむ頭の男へ走る。事実その獣は肉食獣であった。黒い、猫科のキマイラだった。名はナミル・タグイール(呪飾獣・f00003)といい、彼女は巨大な斧を片手に下げて、床を壁を蹴り音もなく男へ距離を詰めに掛かる。
振りかぶられるのは黄金の巨斧。儀礼用とまごうほどに精緻な装飾と刻まれたルーンが、怪しげな輝きを湛えた。
もはや先頭車両にナミルの動きを阻む要素は何もない。男の放った火球により前方の座席は爆破され、元いた乗客たちはすべて死に伏している。後方の車両で黄昏の信徒たちと戦ったときに感じた窮屈さはもうなかった。
床を壁を蹴る三角飛び。飛び上がったナミルが男へ得物を一気に振り下ろす。
男は手に持つ教典を翳した。まさかそれで受けようというのか、ナミルの下す黄金の軌跡に書が滑り込む。
硬い音が響いた。教典は果たして黄金の斧を受け止めていた。
がりり、と硬い音を鳴らして斧と書がせめぎ合う。力比べだ。斧はじりじりと後退して男の優勢を物語る。
それどころか斧を受け止めたまま教典が突如開かれ、勢いよく捲れて、6枚の紙片を吐き出す。それぞれが脈打ちながら宙を舞い踊り、中心から赤い染みを浮かび上がらせ複雑な模様を描いた。ナミルは目を見開いた。邪神の落とし子の召喚である。
が、銃声六連。突如として6枚の紙片すべてに穴が開く。
白濁し虚ろな男の眼の先、紙片に空いた穴の向こう側に銃口から煙を昇らせた男がいる。
ケイス・アマクサ(己が罪業の最果て・f01273)だ。彼の凄まじい速射と連射が召喚を止めていた。彼は拳銃から弾倉を捨て、すぐに苦無を構える。いまは弾倉を取り換える時間すら惜しい。
片手、五指に挟んだ四本の苦無が放たれる。描く軌道は一直線、狙いは天倒、人中、丹田。いずれも人体の急所だ。それが殺到すれば男とて防御行動をとらざるを得ない。だが、それはいまだ続くナミルとの力比べで致命的な隙を晒すことを意味する。
「思いっきり、ドッカーンにゃ!」
彼女の声が発せられると同時、金色の巨斧が押し切った。男の持った教典は斧の力を受け止めきれず一撃を許し、膨らんだ頭部で露出する結晶化した脳髄が刃を叩きつけられ削りとられた。床に降り注いだ破片が燃え上がる。
「オ"オ"オ"オ"オ"ッ!!」
初めて、男の喉から蠅の羽音以外が聞こえた。男の人間だった頃の声かもしれない。痛みと怒りのない交ぜになった怒号が車両全体を包む。
効いてる。
ナミルとケイスが手応えを実感した。
だが、二人の表情が変わるのはその直後だ。
吠えた男の口元に再び蠅の羽音が満ちる。
ケイスは即座に異変に気付いた。違和感は男の足元、その影。
車両の床に映る黒い影が輪郭を変えながら励起し、三つほどの塊に分かれて独立した。
それが何を意味するか理解するより早く、彼はリロードを完了していた。影の塊は三体の男の輪郭を取って、そしてたちまち頭部に二発ずつ銃弾を受ける。すべてケイスによる攻撃だ。彼は生み出された影を引きつけようとした。
狙い通り、影の注意が彼に集中する。漆黒の輪郭だけの存在だがなぜか視線を向けられた感覚を彼は覚えたのだ。だが、その後予想に反した事態があった。
「こいつ…!」
「な、なんだかグロい奴にゃ!」
影の銃撃された頭部が咲いた。およそ膨らんだ頭部が中央から幾重にも裂けて開き、翅が節足が触角らしき影が生えて蠕動した。やがて背からも翅が伸び、飽きるほど聞いてきた蠅の音を立てて襲い掛かる。
ケイスは拳銃の残弾を計算しながら、残った弾丸を迫る影の一体に浴びせる。頭部と胸を立て続けに貫通された影は虚空へ溶けるように消えた。これで一体。されど、ようやく一体。
消散した影から腕を伸ばしてくる二体目。その拳はケイスの腹を強かに打ち、座席へと吹き飛ばす。さらに三体目が肉薄。今度は手が顔面を握り締めてきた。めりめりと万力のように締め付けてくる握力に歯を食いしばる。視界は影の手に覆われ何も見えないが、狼の耳が笑い声に似た蠅の羽音を拾い、鼻先が熱の気配を嗅ぎ取った。頭を締め付けたまま焼こうとしているらしい。
「……そろそろ終われよ。『ぶんぶんぶんぶん』鬱陶しいんだよいい加減」
闇に閉ざされた視界で彼は呟く。得物の拳銃は残弾ゼロ。だが何も問題はない。炎の気配がいよいよ顔面を焼こうとしてくる直前、彼はグリップから弾倉を排出させた。懐から新しい弾倉を取り出し装填する動作に時間はいらない。例え何も見なくとも手の動きに寸分の狂いもない。幾千、幾万と繰り返してきた基礎動作が、基礎の積み重ねが彼を支える。生命の危機から生まれる極限の集中力によって、0.05秒という秒針の止まった世界で弾倉の排出から再装填、スライドを引き、引き金を引くまでを完了させた。
発砲音。十以上もの弾丸が影の胴に風穴を開ける。
「邪神云々以前によ……お前の都合で」
視界を塞ぐものが消えたことで捉えた三体目の影に回し蹴りを放ち、どかす。
「無関係の人間の命を奪おうってぇのが……」
薬莢が床で澄んだ音を立てた。片手には残弾のない拳銃。もう一つの手には新しく握った苦無。
「許せねぇんだよ!!」
影を蹴り飛ばすことで開けた射線を、一本の苦無が流星となって閃いた。
黒と金の獣が頭の膨らんだ男本体としのぎを削っていた。
黄金の斧が幾度となく結晶化した脳髄を狙って振るわれ、ことごとく教典によって弾かれる。男の身体能力はナミルと拮抗していた。男が虚を突いて燃え盛る腕をナミルの首へと突き出せば、彼女は弾かれたように上体を逸らして致命傷を避ける。避けたのは致命傷だけだ。回避しきれず肩に傷を作った。が、承知の上だ。彼女の戦い方はとうに捨て身である。
回避行動を最小限に留めたナミルが再び斧を振るう。男も再び防ごうと教典を翻す。しかし、男の動きは先ほどまでとは変わっていた。
鈍い。半身に鉛を流し込まれたかのように硬直し、末端を痙攣させている。
異形へと変化した顔が疑問の表情を作った。男に生じた異常の正体は呪詛である。黄金の斧に付与された装飾とルーンから、邪神の知と力が浸透しきった体へ呪詛を流し込み、動きを固めたのだ。
教典を持った腕が思うように動かない。それを察知した男は反対の腕でナミルの斧を防ごうとする。だが一筋の流星がそれを許さない。手首を苦無が貫いた。
両腕が封じられ無防備になった男へ、ナミルが大きく斧を振り上げる。
「ひっさつにゃ!」
渾身の力を込めて振り下ろされた斧は、男の結晶化した脳髄へと勢いよく突き刺さり、大きな亀裂と無数の破片を生み出した。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
未魚月・恋詠
「あまりに醜い。あまりに愚か。あまりに許し難い行いにございます」
「人の営みの内に生まれし神(ヤドリガミ)として、その悍ましき神性、疾く打ち払うと致しましょう。
貴方の神への献身全て、踏み躙って差し上げます」
UC『人形舞台』を発動、疑似人格を得た人形2体と連携、
フェイントを繰り返し敵のリズムを崩し、援護射撃で手数とスピードを重視した動きで攻める。
UC発動に伴う自身へのペナルティは、敢えて隠さないことで敵が其処につけ入る的とし、深手を負った振りで騙し討ちに利用
戦闘後は供物となった乗客へ黙祷
「申し訳ございません。どうか眠りだけでも安らかに」
アドリブ歓迎
真の姿の部分は着物で隠れて見えません
六代目・松座衛門
「援護する!」
戦闘用人形「暁闇」と共に先頭車両へ駆けつけ、自分は座席を盾にするように素早く移動し、人形の操作に集中。
「これだけ狭ければ! 【角砕き】…。」
「暁闇」の鋭い爪を、壁から天井へ突き立てながら移動。一番手前の敵へ近づけたら、天井を蹴りUC【角砕き】を発動! 最初の体当たりが当たらなくても、虚空に右ストレートを放つ。
「…からの【疾風】!」
さらに、【角砕き】の勢いを殺さずに、UC【疾風】の連続攻撃に繋げる! 敵の【落とし子】や【影】諸共、先頭の運転席側へ追い立てるように攻撃。
「止まれぇ!」
電車を止めようとする猟兵がいたら、自分も協力しよう!
【SPD】選択。アドリブ、連携歓迎
●啜る神あれば救うカミあり
男が苦悶の声を上げた。長く続くそれはやがてざらざらとした蠅の羽音に置き換わってゆく。
結晶化した脳髄からこぼれた破片が、床に落ちて燃え上がった。
「あまりに醜い」
戦闘車両後方。ひとりの少女が呟いた。青く澄んだ空色の瞳は憂いに揺れて、瞼が伏せる。
男は床を強く踏んだ。ずるりずるりと影が這い出る。始めは人間の輪郭を持ち、それは次に頭部が咲いて蠅の部位が乱雑に飛び出し、影は翅を背負って飛び上がった。その数、三。
「あまりに愚か」
白くたおやかな手が胸元に置かれた。空色の袖に描かれた花が揺れる。
影は羽音を増しながら猟兵へと迫る。漆黒に塗りつぶされた影では頭部の細部は伺えないが、見る者の正気を蝕むに違いない。
「あまりに、許し難い行いにございます」
少女は目を伏せながら、破滅へと突き進む鉄の揺り籠を想う。信徒へと塗り替えられた者を想う。邪なものへの捧げ物とされ喪われていった命を想う。先頭車両にはもう敵と猟兵しかいない。乗客はみな死んだ。
助けること叶わず、申し訳ございません。どうか、眠りだけでも安らかに。
声にならぬ呟きを紡いで、少女はそっと冥福を祈った。
少女も神だった。未魚月・恋詠(詠み人知らず・f10959)という名を持つ神であった。
蠅の羽音が近づいてくる。
空色の眼が見開かれた。おぞましい輪郭の影を捉える。
「人の営みの内に生まれし神として」
そう、ヤドリガミとして。
「その悍ましき神性」
胸に置いた手を影へと翳す。
「疾く打ち払うと致しましょう!」
二体の人形が影の迎撃に飛び出した。
花飾りをつけた姉妹の和人形。見開かれた両目に仮初の魂が宿り、得物を構える。撫子の華は構えた弓から瞬く間に二射。最も手前の影の翅へと矢を放ち、風穴を開ける。地に落ちた影へ雛芥子の華がすぐさま対応した。突き立てるように畳んだ傘で翅の根元を引き千切る。その奥からやってくる新たな影は恋詠の弓が出迎えた。影は顔面を襲う矢を振り払い、前進を止める。すぐさま姉妹の人形が後続の影を目指して飛び掛かり、反撃を受ける前に反転。前進を止めた影へ背から襲った。
一瞬、恋詠の意識を闇に落ちるような感覚が襲った。視界が狭まり情動が硬直し全身から現実感が失われていく、立ち眩みにも似た感覚。力の代償だ。彼女が自らの人形に自律した戦闘行動を行わせた力の代償。たたらを踏み、両足でふらつく体を支える。形の良い眉が顰められた。
だが、戦意は微塵も失われていない。弓に番えた矢の、その刃を頭の膨らんだ男へと向ける。
敵を見据えた彼女の先で、男は教典を掲げる。勢いよく頁が捲れて、紙片が舞う。
力の代償に脂汗を浮かべる恋詠へ、邪神の落とし子が召喚されようとしていた。
「援護する!」
車両の空気を猟兵の声が切り裂く。
勢いよく床を踏む靴が鳴らす音。通路を駆けた男の猟兵がスライディングをして座席のあいだに滑り込み、背もたれを盾とした。
そして弾かれたようにひとつの影が座席から飛び出た。頭の膨らんだ男の呼び出したものではない、漆黒の襤褸を纏った人間大の影。きらきらした数本の糸が、猟兵と襤褸の影を繋いでいた。
襤褸の影は飛び出たあと鋭い爪を壁へと突き刺す。深く喰い込ませてさらにもう一本。ざくざくと壁を足場に襤褸は駆けた。鋭い爪はやがて天井にも食い込んだ。襤褸はさらに天井を這うように駆ける。人ならざるものの動きだ。
襤褸の影は漆黒の布のほかに金属製の仮面を被っていた。手足もまた金属の光沢に覆われていた。金属の隙間から僅かに覗く部分は、節だった球体の関節を晒していた。
それは人形である。猟兵、六代目・松座衛門(とある人形操術の亡霊・f02931)の操る暁闇という名の、戦闘用人形だ。
松座衛門の持つ操作板から伸びた糸が、暁闇に動きを伝える。
人形が目指す方向には既に召喚された人間の胴ほどの大きさの邪神の落とし子がいた。蠅の複眼と翅の生えた長い毛髪の塊は、妖精程度の大きさの和人形を絡め取り封じるべく生み出された造形なのだろう。毛髪はそれぞれが触手のように蠢き伸びて、姉妹人形を破壊するべく牙をむく。
だが、そこに暁闇が割って入る。天井を蹴り勢いを付けて落とし子へ体当たりを打ちかます。鈍色に輝く腕がすかさず邪神の落とし子の髪を掴んだ。毛髪が左腕に絡みついてくるが、人間と同程度の体格を持つ暁闇にとってそれは束縛されるに至らない。
松座衛門が手元の操作板を動かす。彼も神の一柱だった。異形の魔性のものを討つべく受け継がれてきた人形躁術、その象徴である操作板。それこそが彼の本体。松座衛門はヤドリガミであった。
操作板より行動を与えられた暁闇は左手で掴んだ毛髪を引き寄せ、大きく振りかぶった右手から鋭い拳打を浴びせ吹き飛ばす。落とし子が座席へ叩きつけられ、恋詠たちが迎撃していた影を巻き込む。
暁闇の猛攻は止まらない。止まらない。止まらない。松座衛門が止まらせない。
大きく跳躍した戦闘用人形が、落とし子を踏みつぶしながら再び毛髪を掴み上げる。床へ叩きつけ、壁に叩きつけ、敵の召喚した異形の影にすら叩きつけて、車両前方の運転席側へと吹き飛ばした。
「これだけ狭ければ、自分だけで事足りるだろう」
そう車内がこれだけ狭ければ、暁闇一体で封鎖可能。敵の影も落とし子も猟兵に寄せ付けずすべて迎撃してみせる。
暁闇が毛髪をはなす。突然宙に放られた落とし子は為すすべなく、戦闘用人形の全力の蹴りを受けて消滅した。
「ここは自分が塞ぐ」
カミが言葉を伝える。短い言葉だがそれは人形の活躍の後では何よりも雄弁なもの。
「ありがたいことですわ」
カミが言葉を返す。構えた弓に呼応して、華の名を持つ和人形が彼女に倣って弓を構えた。
狙うは邪なる神の僕。
「貴方の神への献身全て、踏みにじって差し上げます」
斉射。放たれた三つの軌跡が男の胴を貫いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
プリンセラ・プリンセス
【真の姿を解放する】
「皆よ来よ。――決戦の時間です」
これにより他人格の全てのスキルや能力をプリンセラで使うことが出来る。頭の中では数十人の兄姉が喋っていて煩いことこの上ないが。衣装も変化する。それは女帝とも言うべき荘厳な物で。
「まずは蝿を駆逐しましょう」
王笏を振るえば炎の魔弾が無数に飛び交う。車内ゆえに威力は低いが蝿を吐き払うには充分。
「続いて蓋を」
氷属性で蝿の漏れる口を塞ぐ。
「これも効くでしょう」
聖属性の魔弾を追加。
「どんどん行きますよ?」
石化属性、催眠属性、服破り属性、足止め属性、捕縛属性等々……。
あらゆる属性に変化させて間断なくウィザード・バレットを撃ち込んでいく。
「邪神去るべし、です」
煌燥・燿
「やべっ、出遅れたかな」
一つの車両に複数人が入ってドタバタ暴れまわるのは。混むな……。
殺影の射程ギリギリから狙撃して。サポートに回るか。
カメラにフラッシュバルブ(閃光電球)を取りつけ。閃光手榴弾のような眩い閃光で【目潰し】して
【破魔】の力と光の【属性攻撃】を加えた殺影機の【撮影】で攻撃します。
相手が人の形を離れた異形であるほど殺影機は相手の魂を写し獲り生命力を奪って行きます。
邪神に目潰しが効くか分からないが、一応眼もあるようだし、光はエネルギーを持ってる。
こいつ、元はスペースシップワールドの光線銃だった物だしな。
落とし子が近づいて来るなら、零距離射撃でフラッシュだけ焚いて撃ち落とすぜ。
●魔性を打ち払う光
一人の青年が息を切らして走る。列車の通路を一直線に進み、乗降口へ続く扉を開け、大股で駆け抜けて、隣接車両への扉を開く。
こうして、新たな猟兵が先頭車両へたどり着いた。
向日葵色の髪を揺らして膝に手をつく。しばらく呼吸を整えていると、聞こえてくるのは銃声。そして蠅の羽音。
戦いは既に始まっていた。
「やべっ、出遅れたかな」
顔をあげるとまず飛び込んでくるのは、座席で眠るように死んでいる乗客たち。狭い車内のなか目まぐるしく立ち位置を変えて戦う猟兵たち。壁や床に刻まれた破壊痕。
このなかを分け入って戦うのはかなり大変そうだと青年は思う。緑色の瞳が懐へ向いた。そこにある小さなナイフに服の上から触れて、逡巡。やがて青年の手は別の位置にあった古びたカメラへと伸びる。
このカメラの射程ギリギリから狙撃して他の猟兵たちのフォローに回ろうか。状況を捉えながら青年は立ち回りを思い描いていた。
ちょうどそのときだ。
車両前方から届く戦闘音のなかで、連続した射撃音が彼の気を引いた。
カメラを両手で持つよりも早く、被写体を探すよりも先に、最前線で杖を振るい魔法を放つ戦の女帝を見つけた。
「皆よ来よ。――決戦の時間です」
鈴を転がすような声が聞こえる。
その女帝はまだ幼さの抜けない少女だった。だが、戦いの場にあって荘厳なドレスを纏い、一振りの剣と、そして権威の象徴たる王笏を握る。背筋を伸ばし、異形の敵を相手に一歩も引かず魔法を操る姿は、若いながらも一国を背負うに相応しい品格があった。
王笏が振るわれれば、彼女の周囲にいくつもの炎の球が侍り、頭の膨らんだ男へ魔弾となって殺到する。
だが、蠅の羽音が男の口から漏れた。笑い声だ。
男がそれまでに召喚していた数体の邪神の落とし子が、庇うように魔弾の軌道上へ躍り出て、炎を受ける。落とし子は紅蓮に包まれたが、炎が晴れると傷のない体を見せつけた。人間の上半身だけの異形の至る所から翅と節足を生やし、金属質の表面にぬめった粘液を帯びた生物。それがいまの邪神の落とし子だった。魔法への強い抵抗力を備えたそれは、魔法を操る女帝へと対抗するために生み出された存在だった。
男はさらに落とし子を増やすべく教典を掲げる。頁が勢いよく捲りあがって飛び出た紙片が舞った。紙片は落とし子を生み出す種となる。物量にて若き女帝を押し潰すのが狙いだ。
――あれをこれ以上増やされたら追い付かなくなるよ。
女帝の胸の奥底、帽子を被った13番目の姉が口を開いた。
――銃を貸すから、それで召喚される前に撃ちな。
姉が話を終えるとたちまち変化が起きた。女帝の握る剣、それが瞬きのうちに自動拳銃へと姿を変えたのだ。立て続けに鳴る発砲音が紙片に穴をあけて召喚を阻む。
そして女帝は王笏を長く持ち、舞うようにくるりと一回転。無数の氷柱が虚空に侍り、落とし子へ飛ぶ。
――敵の足元の影に蠢くものが見えます。どなたか対応できて?
――僕が剣を貸そう。プリンセラ、片手で持てるかい?
女帝の奥で姉と兄が話し合った。彼らは女帝の身に宿る数十ものきょうだいの人格だった。彼らは女帝をプリンセラと呼ぶ。プリンセラ・プリンセス(Fly Baby Fly・f01272)は、死した兄と姉たちの人格の力を借りて戦う末の姫。そして、猟兵でもあった。
蠅の部位を生やしたおぞましい影が翅でプリンセラへ飛び掛かる。すると片手に収まっていた自動拳銃が長剣へと姿を変え、影を薙ぎ払い押し返した。
――きりがない。
プリンセラの体力が持たなくなると、きょうだいのひとりが指摘したとき、彼らと敵は不意に強い光を浴びた。
光の発信源は車両後方の青年にあった。彼の構えるカメラに取り付けられた撮影用閃光電球が、瞬間的に車内を照らした。
するとどうしたことだろう、レンズの向く先にあった邪神の落とし子が突如、悶え苦しんだ。床の上に粘液が零れ落ち、金属質の表皮がぱりぱりと割れ剥がれてゆく。化けの皮が剥がれるとはこういうことだろうか、苦しみが治まった頃には落とし子はすっかり姿が変わり、人間の上半身という原型すら失い、一匹の巨大な蠅へと変貌していた。
さらに連続したフラッシュが落とし子を次々と照らし、巨大なだけの、ただの蠅へと変えてゆく。
蠅はそれでも戦意を失わず、翅を以って飛び上がり、プリンセラと青年へと襲い掛かろうとするが、あえなく炎の魔弾に焼かれて消えた。
膨らむ頭の男が目に見えて動揺した。口元の羽音もいささか大人しい。男の足元から染み出た異形の影も、たちまちフラッシュの光に魔性を剥奪され、ただの蠅の輪郭へと変えられる。間髪を入れず氷柱が突き刺さり、消散した。
青年、煌燥・燿(影焼く眼・f02597)が持つ古びたカメラには殺影機という名前がある。映した異形の魂を、フィルムに焼き付け封印するという謂れを持つものだ。フラッシュバルブとカメラの持つ破魔の力が、影と落とし子から魔性を剥ぎ取り著しい弱体をもたらしたのだ。
燿は何も言わない。ただ黙々と落とし子と影の迎撃に専念する。それが何より堅実な連携となって、プリンセラへ好機を与えた。
「では」
女帝の手元で王笏が回転する。ぼつぼつと火の球が生まれ、傍らに侍る。
「まずは蝿を駆逐しましょう」
それはたちまち飛びすさび落とし子と影の蠅を焼き払った。
頭の膨らんだ男は慌てて手を翳す。両手に炎が生まれ、一気に膨れ上がった。
「続いて蓋を」
しかし男の炎はプリンセラを襲わない。燿を襲わない。その両手は蓋をされたように氷で覆われ、消火されてしまう。プリンセラの放った氷の魔弾だった。
「これも効くでしょう。どんどん行きますよ?」
プリンセラは止まらない。燿も止まらない。男の抵抗を次々と潰し、ありとあらゆる属性を目まぐるしく替えながら魔弾を打ち込んでゆく。
「俺の故郷から消えてくれ」
「邪神去るべし、です」
猟兵二人の言葉が重なり、邪神の力を降ろした男は破魔の光と魔弾を受けて運転席へと吹き飛ばされた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
コーディリア・アレキサンダ
【癒と一緒に行動】
魔法で出したマントを癒に被せながら、ボクは前へ
明るく真っ直ぐな癒が、出来るだけ死を直視しなくて済むように
笑えるほど、楽しい状況ではないと思うんだけれど
後悔しろ、懺悔しろとは言わない
せめてこれ以上、何かをする前に終わらせてあげる
足元へ3重の魔法陣――拘束制御術式を刻む
残ったリソースをすべて回した〈全力魔法〉
ボクの切り札の一つ。《九王顕現・剣の王》を起動
同じ炎を扱う彼なら、炎を前にしても怯むことはないだろう
「ボクの魔力と怒りを糧に……アレを黙らせろ、アスモダイ」
キミの都合に、誰かを巻き込まないでくれ
この列車はボクらが止めるよ
氷室・癒
【コーディリア・アレキサンダ(f00037)と同行】
わわわわわっ、マントっ! 前が見えませんっ!
よ、よくわかりませんが、このまま頑張ればいいんですねっ!
いやしちゃんはコーディリアさんを信じていますから、ついていきますっ!
はっ、コーディリアさんがすっごい強い魔法を使おうとしている予感っ!
ならばそれまでの時間を稼ぐのはいやしちゃんの役目!
これがいやしちゃんのとっておきっ! うーん、ぴかーっ!
笑顔で光って悪い攻撃を迎撃しますっ!
たくさんの人の命を奪おうなんて、そんなの絶対いけないことですっ!
生きていないと幸せになることはできないんですよっ!
いっぱいの幸せはぼくたちが守りますっ!
●未来を掴み取るための魔法
氷室・癒(超ド級ハッピーエンド・f00121)が扉に手を添える。
乗降口から先頭車両に繋がる扉だ。その向こう側からは発砲音や器物の壊れる音が届いて、猟兵と邪教徒の戦闘が始まっていることを伝えてくる。
一際激しい爆発音がして扉がびりびりと震えて、手を押し返した。戦闘はとても苛烈なものになっているらしい。
この扉の向こうに、事件を起こした元凶がいる。きっとこれまでの敵とは比べ物にならないほど強力なのだろう。
癒はこれまで通ってきた車両を想う。邪教徒の用意した催眠ガスによって目覚めない乗客たち。きっと彼らにとって今の眠りは、長い電車の旅で疲れて寝入っただけのもの。終点が近づくというアナウンスに起こされ慌てて降車の準備をする、そんな些細で短いあいだの眠り。戦いになど一切気付かぬ眠り。
そうでなくてはいけない。眠っているあいだに命を奪われるなど言語同断だ。
たくさんの人の命を奪おうなんて、そんなのは絶対いけないことだと、彼女は意気込む。そんな死など決してハッピーではない。なぜなら生きていないと幸せになることはできないのだから。
癒はちらりと後方を振り返る。そこには魔女然とした装いの同行者がいた。とてもすごい魔法の使い手の、頼もしい女の子。
彼女が無言で頷くのが見えた。癒も頷いて返す。
乗客の眠りを安寧のままにするために、意を決して扉をあけ放った。開かれたそこからより鮮明な戦闘音が流れ込んでくる。
「いやしちゃんのエントリーです!」
自分の存在を元気よくアピールしながら車両へ踏み込んで二歩、三歩。始めに目に飛び込んできたものは他の猟兵の背中。それから瞬間的な眩い光。そして車両の壁と床、座席。
癒が座席に体重を預けて目を閉じる人々を認め、先頭車両にも乗客がいたんだと気付いたところで、視界がすっぽりと布に覆われた。
「わわわわわっ、マントっ!?」
前が見えません、と慌てる癒を抜かして歩くのはコーディリア・アレキサンダ(亡国の魔女・f00037)だ。癒に被せたのは彼女が魔法で呼び出したマントだった。
コーディリアは猟兵たちと戦う邪教徒の首魁へ歩みを進めながら、座席の乗客たちを一瞥する。
皆、静かな表情で死んでいた。外傷なく、まるで眠ったようにして。
歩きながら彼女は目を伏せて、祈る。明るく真っ直ぐな癒が、彼らの死に気付かないようにと。出来るだけ死を直視しなくて済むようにと。
彼女の瞳が曇るのを見たくないから。
癒の両手が振られる。唐突に被されたマントを取っていいのかいけないのか図りかねて、しかし前を見れないので障害物にぶつからないよう両手を進行方向へ振りながらおそるおそる足を進めた。
不安げに暗闇を探る手が、唐突に握られた。白く滑らかな指、コーディリアの手だ。彼女の手が癒を引いて通路を歩いてゆく。
「よ、よくわかりませんが、このまま頑張ればいいんですねっ!」
マントに隠れた癒の口元が言葉を紡ぐ。すると、肯定するように繋いだ手がぎゅっと握られた。
「いやしちゃんはコーディリアさんを信じていますから、ついていきますっ!」
コーディリアは歩く。落とし子を炎を駆使して他の猟兵たちと戦う男を。赤い結晶が頭から飛び出た姿は、きっと邪神と何らかの契約を交わしたのだろう。蠅の羽音が聞こえるから、蠅の邪神かもしれない。彼女にはその羽音が笑い声のように聞こえた。
笑えるほど楽しい状況ではないと思うんだけどなと、思う。
列車には大勢の猟兵たちが乗り込み、手勢はすべて倒され、いま最後のひとりとして囲まれている。この場にいる猟兵たちは、彼のしたことを、そしてオブリビオンを決して許しはしない。
「後悔しろ、懺悔しろとは言わないよ」
コーディリアは足を止めた。手を繋いだ癒も止まる。彼女たちは車両の半ばまで進んでいた。そこから先は最前線になる。
「せめてこれ以上、何かをする前に終わらせる」
魔女の指先が魔法を描いた。
するとたちまち、他の猟兵へ炎を飛ばしていた頭の膨らんだ男の、足元に同様の陣が浮かぶ。その数は三つ。三層の魔法陣が敵の足に対し効力を発揮し機動力を奪った。拘束制御術式だ。
突如両足が動かなくなった男は、白濁した目を魔女に向けた。突き出した手から浮かぶ赤黒い、毒々しい炎。もう片手に持った教典は勢いよく頁を巡らせ大量の紙片をまき散らす。新たな落とし子と悪性の火炎が男に従った。
対してコーディリアは防御行動をとらない。意識を内面に沈み込ませ、魔力をすべて次の魔法に回す。彼女の周囲で大気が震え、張り詰めていった。召喚されようとする王は、彼女の切り札のひとつだ。突如膨らんだ存在感に車両すべての者の意識が魔女に集中した。
だが、もっとも反応したのは癒だった。
マントの向こう側から、コーディリアが強い魔法を使おうとしている気配を感じて、両手をぐっと握った。
――ならばそれまでの時間を稼ぐのはいやしちゃんの役目!
マントで覆われた視界にはコーディリアを襲おうとする邪神の落とし子が見えない。射出される赤黒い炎も見えない。本人もそれに対処する様子はなく、華奢な体が暴力に手折られる姿をその場の誰もが想像した。
ただひとり、癒を除いて。
「これがいやしちゃんのとっておきっ!」
彼女は握り拳を高く持ち上げる。赤い瞳に希望と幸せをたっぷり湛えて、笑顔と動作で幸福感を表現する。それは眩い光を放つものとなった。彼女が目指すのはハッピーエンド。悪いものは倒されて、乗客がすべて助かり、みんな怪我せず無事に帰る。そんなきらきらした未来。皆を幸せにするために、自分の幸せをおすそ分け。
ハッピーエンドを、ただの空想で終わらせない!
「うーん、ぴかーっ!」
彼女を中心に放射状に放たれた光は車両のすべてに行き届いた。猟兵にも、邪教徒にも、落とし子にも影にも、そして魔女にも。その光はただ幸せのエネルギーがたくさん詰まった力だ。猟兵にあたっても問題ない。だが、光を受けた落とし子と影はたちまち動きを止めた。否、押し返されたのだ。彼らの運ぶ悪しき不幸は、癒の振りまく眩い幸福に近づくことができない!
魔女の口が薄く開く。
拘束制御術式展開。
光を背に浴びながら目を閉じたまま魔女は自己に埋没する。
目標の完全制圧まで能力行使を許可。限定状態での顕現を承諾。
唇が小さく動いていた。声を発さず、無言の詠唱を紡ぐたび全身の魔力が大きくうねる。
剣の王よ。
魔女の瞳が開いた。光に照らされる頭の膨らんだ男が見えた。落とし子も、影も見えた。炎も見えた。だから剣の王よ。あれら全てを。
「――滅ぼせ」
悪魔が顕現した。
「ボクの魔力と怒りを糧に……アレを黙らせろ、アスモダイ」
剣の王、アスモダイ。顕現したそれは車両全体を振動させるほどの咆哮を放ち、顎から炎を噴き出す。火炎弾の規模は頭の膨らんだ男のそれとは比べ物にならない。悪魔は慌てて回避する男のいた場所を融解させ、それだけでは飽き足らず大樹のように巨大な腕を振り回し、落とし子と影を粉砕した。
上半身だけの姿で悪魔は男に腕を伸ばす。恐るべき熱と膂力が床を削り、金属を融解させ、そして男を掴み上げて、炎で包んだ。
「キミの都合に、誰かを巻き込まないでくれ」
敵を床に叩きつけてなお暴れまわる悪魔を眺めて、魔女は呟く。
「この列車は、ボクらが止めるよ」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
サーズデイ・ドラッケン
屋根上から先頭車両に到着
突入時と同じように挟撃を狙います
ミサイルポッド、レールガンをパージ
閉所戦闘に最適化して屋根を焼き切り内部へ突入
LS-スパロウを構え、敵の背後へ急接近して一太刀
…と、簡単には行かないでしょうね
護衛の召喚を確認したら、接近を中止しウッドペッカーで牽制しつつ後退
実弾を投棄している現状、護衛は恐らくエネルギー兵器への耐性を持っているでしょう
追い詰められたのはこちらですか…
と油断をさせ、突入前に車外に展開しておいた【ソードスウォーム】全機を窓から飛び込ませ敵本体と護衛に突撃
斬り刻み、押し潰します
どうやら神の加護は無かったようですね。貴方を見限ってマカオにでも遊びに行ってるのでは?
●閃く光刃
突然、車両の天井から光の刃が生えた。戦っていた猟兵たちは手を止めて見上げる。火花を散らして刃がゆっくり動くのを、炎に焼かれて体勢を立て直す邪教徒も見上げた。車両前方、頭の膨らんだ男の上にその異変は起きた。
光の刃は鋼鉄製の天井を融断しながら大きく明るいオレンジ色の弧を描く。弧はやがて半円となり、そして円を作っていった。
何かが天井に穴を開けようとしている。光の刃を持つ何かが。
人々の注目を集めるなか、ついにオレンジ色の円が上部から蹴り開けられた。垣間見えたものは装甲で覆われている機械の脚だ。
融けた断面からウォーマシンが飛ぶ出す。全身を超重の金属に包んだ軍用機、サーズデイ・ドラッケン(宇宙を駆ける義賊・f12249)という男だった。大型盾を捨て、背のアームドフォートから重火器を切り離した閉所戦闘用の姿で、スラスターを点火しながら加速。風を切り、男の背後を取るように急速反転。
カトラス状の眩い刃が閃いた。
が、刃は男に届いていない。邪神の落とし子があいだに割り込んでいた。落とし子はあえなく体をふたつに焼き切られる。
返す刀でサーズデイはさらに踏み込み男へ斬りかかる。だが相手の行動のほうが僅かに速い。
男の持つ教典から飛び出た紙片が新たな邪神の落とし子を呼び出す。翅を持つ漆黒の光沢に覆われた八つ足の昆虫。それが、再び光刃を胴で受け止めた。
「……!」
今度はそのまま斬り捨てることができなかった。光学兵器の刃に触れた落とし子は、接触面を赤熱させる程度に留まる。それどころか、節足の先端についた鋭利な針でサーズデイを襲う。
彼は切り払いながら後退した。一歩、二歩。光刃への耐性を備えた落とし子はさらに増える。
猟兵は後退しながら片手で小銃を抜いた。刃を躍らせつつ荷電粒子弾を打ち出すが、それでも限界はほどなくしてやってきた。
「ちィッ!」
捌ききれなかった落とし子の針が装甲を抉る。耳障りな金属音を皮切りに、サーズデイを囲んだ落とし子たちが針を突き立ててきた。胸部の装甲が割れ、膝をつく。内部のパーツが露出してしまい、手で押さえた。
「……」
蠅の羽音が聞こえる。己を取り囲む落とし子と、頭の膨らんだ男の口元から漏れていた。彼にはそれが獲物を追い詰めた笑い声に聞こえる。
「まあ、そう思うでしょうね」
そのとき、列車の窓を打ち破って侵入するものがあった。
大型可変防盾ハミングバード。ブースターを搭載し乗り物にもなるそれで、サーズデイは列車への突入と邪教との掃討を果たしてきた。だが今回は一味違う。その数は複製され20に至り、展開したビーム刃で男と落とし子へ襲い掛かる。
ユーベルコード、ソードスウォーム。複製したハミングバードで刃と質量の嵐を作り敵を蹂躙する技。彼は予め盾を車外に展開しておき、敵が勝利を確信するその瞬間まで待機させていたのだ。
いかに光と熱への耐性を持った落とし子といえど盾がもたらす超重量には押し潰されるしかない。瞬く間に肉壁を失った男は光の刃によって全身を切り刻まれる。
「どうやら神の加護は無かったようですね」
サーズデイは刃を握りながら立ち上がった。
「貴方を見限ってマカオにでも遊びに行ってるのでは?」
そして、いまだ驚愕に目を見開く男へ、大上段から振り下ろし胸元を大きく切り裂いたのだった。
苦戦
🔵🔴🔴
白寂・魅蓮
いよいよ大将のお出まし…かな。
あれを倒せばこの列車もようやく止まる。
全力の舞を以て、倒させてもらうよ。
これだけ狭いと召喚術はあまり使えない…となればやはり自身を強化しつつ接近戦に持ち込むしかない。
持ち込んだ武具と体術で動き回りつつ接近しよう。
相手に技を使わせると数がどんどん増えてしまう…邪神の落とし子が召喚されたら、刀を持ち換えて剣舞に切り替えよう。
敵がだいぶ弱ってきたら影が降臨される。強力ではあるが、【見切り】でギリギリでかわしながら、相手の行動を注意深く見よう。一瞬の隙がわかれば、あとは隙を狙って【刹那の舞「白夜公」】で一気に畳みかけてとどめを狙おう。
※他猟兵との共闘、アドリブ歓迎
レナ・ヴァレンタイン
※他猟兵との絡み、アドリブ歓迎
流石にそろそろ時間も危ういな
力業で止めようにも妙な加護が働いてるときたものだ
――故に。一気に圧し潰す
ユーベルコード起動。“軍隊個人”発動承認
ガトリング、マスケット、リボルバーを複製
手持ち武装含め全66挺の一斉射撃を叩き込む
邪神の加護のおかげで列車そのものの致命的な破壊は防止されてる様子だからな
接近戦を仕掛ける仲間を巻き込まないように。注意すべきはそれだけだ
落とし子を出して弾丸に対処しようとした瞬間を狙い、弾幕に乗じて敵の脳天めがけてマスケットの銃剣による刺突を打ち込む
そのまま列車の壁にでも磔にして動きも封じたいところだが、それは上手くいけば、だな
●濁流を泳ぐ
幾たびも猟兵の攻撃を受けた頭の膨らんだ男は、傷跡から血液と、そして小蠅をこぼす。邪神の力を受けた肉体だ、結晶化し頭蓋から飛び出した脳髄だけに留まらず、異形化は皮膚の下にも起きていたのだろう。だが、ダメージは確実に積み重なっているはずだ。
レナ・ヴァレンタイン(ブラッドワンダラー・f00996)は懐から時計を取り出した。長針に目を落とし眉を顰める。
「流石にそろそろ時間も危ういな」
見れば猟兵の突入開始から少なくない時間が経っている。さて、列車が終点駅へ突っ込むタイムリミットまでにどれだけの猶予があるだろうか。
力技で列車を止めようにも、邪神の加護らしきものが阻むなら、残された手はひとつだけだ。邪神の加護の基幹となる邪教徒最後の男。
――それを、一気に圧し潰す。
ユーベルコード起動。
レナの背後に黒色の翼が広がる。重い光沢を持つ金属塊。翼のように見えたそれは、整列して展開された全66挺の銃器の軍団。レナ・ヴァレンタイン個人でありながら軍に相当する規模の制圧力。鉛の暴力を実現するのがレナのユーベルコードだ。並んだ銃器はすべて手持ちの複製である。
「さあ、戦争をしよう」
陣頭に立つ隊長が振り上げた手を降ろし、敵を示す。瞬間、火薬と鉛の暴力が牙を剥いた。
膨大な質量の銃弾が頭の膨らんだ男へと一斉に襲い掛かる。だが敵もただ立って見ているわけではない。激しく捲れる教典から紙片を出し、落とし子の群れを肉の盾にして弾丸を防ぐ。
そして。
攻め口を変えようと帽子を目深に被ったレナのすぐ横を、風が通り抜けた。
鈍く輝く銀の髪を揺らして走る少年。白寂・魅蓮(黒蓮・f00605)だ。彼はレナの火器の射線から僅かにずれた位置を駆ける。床を跳ね壁を蹴り、弾幕の隙間を縫って進む。それはレナの即興の援護も合わさり、鉛の濁流を泳ぐ魚のようだった。
車両のなかは狭い。通路など人間二人が擦れ違える程度で、車両前方の座席がこれまでの戦闘でなぎ倒されているため辛うじて弾幕を避ける余地がある、それほどまでに狭い。彼は召喚術を駆使した戦法を早々に選択肢から排除していた。すると戦い方は舞の動きを利用した近接戦闘に限られることとなり、結果、レナの射撃に背を向けながら敵へ飛び込むことを選択したのだ。
魅蓮は姿勢を低くし掛けながら敵を見据える。召喚した落とし子によって肉の壁を作り上げた男は、教典を勢いよく捲り、飛び出た紙片から新たな落とし子を呼び出すところだった。おそらく、銃撃への抵抗力に秀でたものが出てくるのだろう。
性質の異なる落とし子が壁に配置される頃には、彼はもう男へと肉薄していた。
だん、と強く床を踏む。銃弾の濁流を飛び越え、肉の壁の影に着地し振り向きざまに脇差を抜刀。頭の膨らんだ男と目が合った。敵は両手から炎を昇らせ、こちらへ突き出してきていた。
魅蓮は体格の小ささを利用して一回転しながら身を沈ませる。燃える腕が頭上を通り抜けた。回転の勢いを殺さず男の脇を通り抜け、防壁を組む落とし子の群れを背面から斬りつけた。
すると何が起きるのか。切られた落とし子が消滅するのである。対弾幕用に生み出されたそれは正面からの攻撃に対して無類の耐久力を誇るが、背面の耐久力は刃の一撃で絶命する程度だった。
肉の壁が切り崩されるとその隙間からたちまちレナの放つ弾丸が通り抜けた。魅蓮を燃やそうと掴みかかろうとした男が脇腹と腿に弾丸を浴びる。姿勢を崩した男に魅蓮は追い打ちを駆けた。脇差が閃くと、男の肩から血飛沫が舞う。恐るべき切れ味を持った刃は肉を切り裂いてなお美しい銀の輝きを失わない。
刃を振り抜いた勢いを殺さず一回転、次は首を落とすと踏み込めば、俯いた敵と眼が合う。
白く濁った虚ろな眼だった。だが、その眼は笑っていた。
ずるり。影、影、影、影。
男の足元から影の塊が隆起する。
敵の殺気を見切り、魅蓮は後方へ跳ぶ。彼のいた空間を黒い節足が通り抜けていた。その節足は影の頭部から生えていて、翅や触覚とともに影の頭を異形のものへ変貌させていた。頭部が蠅の部位の束に置き換わった影、まさにおぞましい輪郭の影である。それが四体。
魅蓮も対抗して札を切った。
「どうか白夜の闇へと」
それは、夜叉と呼ばれた者。凶悪殺人鬼として痕跡を世に残した者。その魂が幼き芸者の身に宿る。舞にて刃を振るわれればその軌道上のすべてを切り裂く。影のうち一体が、斜めに割断され消散した。
「――消えて」
影の頭部から伸びてきた黒い節足。魅蓮は小さな跳躍で垂直に避け、空中でくるりと一回転。床へ足をつく頃には水平に胴を割られた影が消滅。残る影の一体は頭部の翅で頭上から襲い掛かってきた。最後の一体は魅蓮の背後へ回り込んでいた。
無駄な努力だ。いかな濃い影とて、白夜に呑まれてしまえばすべて刻まれて消えるのみ。体に著しい負担を強いる殺人鬼の力は、代償に見合った力で瞬く間に影を滅ぼした。
魅蓮は最後に残った男の眼を睨み付ける。白く濁った虚ろな眼だった。そこに、焦りが見える。
「……おや?」
そこで、彼は何かを気付いたように動きを止める。
いつの間にか銃撃がやんでいた。
「私から目を離したのが運の尽きだったな」
滑らかで澄んだ声が尊大な言葉を作った。魅蓮と男の眼が声の主を探す。それは車両後方から駆けるレナだった。銃器の軍勢へ停止の指示を下してマスケット片手に目の前まで迫っていた。華奢な体の細い両腕がマスケットを強く握る。黒いフレームの奥で金と紅の瞳が加虐の色を浮かべた。
「前菜をくれてやろう」
マスケットが勢いよく突き出される。その先端に取り付けられた銃剣が、頭の膨らんだ男の露出した脳髄を狙って突き出される。
男は咄嗟に手で受けようとするがそれは敵わない。鮮血が舞う。魅蓮の介入があった。切り裂かれた腕は力を失いだらんと垂れ下がる。
やがて銃剣の刺突は結晶化した脳髄を捉えた。勢いを殺さず深々と突き刺さる。
「オ"オ"オ"オ"オ"ア"ア"ア"ア"ア"ッ!!」
絶叫だ。絶叫が響いたのだ。男の口から蠅の羽音以外のものが絞り出された。
「そんなに喜ぶな、まだ前菜だぞ」
口角を釣り上げてレナは笑う。苛烈な闘争心が美しく作られた女顔を歪める。
「それ、メインディッシュをくれてやる!」
男の脳髄へと突き立てられたマスケット。その引き金が絞られると、発砲音が鳴り、脳髄の破片を床に撒き散らすのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ティアー・ロード
墜ちた、いや殉教者のつもりか
まったく度し難い
神と乙女、どちらが尊いものか
そんな事もわからん脳髄なぞ……恐るるに足りない!
使用UCは【刻印「夢幻泡影」】です
使用する事で全身を透明とし、ヴィランにそーっと近づこうか
ある程度近づいたら不意打ちの力技で聖典とやらを奪うよ
ついでにパラパラっと内容を読もうかな
「んー、つまらん内容ですね」
「おっと、失礼。嘘はつけない性分でね、なにせ私はヒーロー……
涙の支配者だ!」
名乗った後は肉弾戦で攻撃を仕掛ける
邪悪な炎や邪神の落とし子なんぞは気にせず殴りぬけるよ!
「そんなもので退くと思ったのかい?」
「乙女たちの苦しみを味わいたまえ!」
「捨て身、シャイニングウィザードォ!」
●まさかのここでプロレス
「まったく、殉教者のつもりか」
戦いの喧騒に支配された車両内で小さな呟きが零れて、そして発砲音に紛れて消えた。
声のした場所には何もない。何も見えない。
しかし、ユーベルコードによって透明化した者がいた。美術品のように精緻なつくりの白い仮面。ヒーローマスク、ティアー・ロード(ヒーローマスクのグールドライバー・f00536)である。
実に度し難いことだと静かに嘆息する。
見れば列車を暴走させた事件の首謀者は、邪神へと身を捧げることで脳髄を膨張させ異形の輩になっている。外見相応に力を得ているようだが、彼女にとって重要な点はそこではない。
羽音のうるさい蠅などよりも、乙女の涙のほうが何倍もの価値がある。この先頭車両でいったいどれほどの乙女が喪われてしまったのか、それを想うだけでヒーローマスクの身でありながら胸が張り裂けそうになる。
彼女は義憤を心で揺らめかせながら歩を進めた。猟兵と邪教徒との戦闘は激しさを増している。敵がティアーに気付く様子はないが、近づけば流れ弾や邪神の落とし子たちと接触する恐れがある。
だが彼女は足を止めない。何も恐れることはない。なぜなら。
神と乙女、どちらが尊いものか、そんな事もわからない脳髄なぞ恐るるに足りないのだ!
「やあ」
ふいにティアーが透明化を解除し姿を現す。膨らんだ頭の男との距離は近い。
男の白濁した目に浮かぶ色は驚愕と警戒、そして敵意。傷つき血を流す腕から炎を立ち昇らせ、火炎弾を浴びせようと男が構えた、その瞬間。
ぱしり。
軽い音とともに男の手から教典が消えた。鋭いステップひとつで男と擦れ違ったティアーの手に、それは収まっていた。
咄嗟のことで男が反応できないうちに、彼女は教典を開く。何のことはない。ただ神を称える句が長々とあり、他に権能の説明が書いてあるだけだ。
「んー、つまらん内容ですね」
すると恐ろしい剣幕で男が振り返る。
「おっと、失礼。嘘はつけない性分でね」
だが彼女はそんな男など意に介さない。邪教団どもが生贄にしようとする乗客の人生を関知ないのと同じように、彼女も教典を奪われた邪教徒の感情にまるで関知しなかった。
両手から炎を浮かべて飛び掛かる敵を、彼女は顎の蹴り上げで転倒させる。
「なにせ。私はヒーロー、涙の支配者だからだ!」
教典を倒れた男の腹へ放り投げた。
「さあ立ちたまえ」
慌てて教典を懐に掻き抱き立ち上がる男を待って、それが戦闘態勢へ移るのを認めてからティアーは接近戦を仕掛ける。
長く白い髪の20台の女性。それが彼女の真の姿だ。すらりと伸びた腕が、炎を纏う男の腕を弾いた。
「そんなもので退くと思ったのかい?」
それから大きな踏み込みと同時に体を半身にして腹へ肘打ち。
「そんなもので躊躇うと思ったのかい?」
体をくの字に折る男の襟をつかみ、そして顔面へストレートを打ち込んだ。
「乙女たちの苦しみを味わいたまえ!」
ティアーの猛攻はまだ止まらない。敵に一切の反撃の隙を与えず、一方的にペースを握り殴り続ける。全身を守るオーラを拳に集中させて殴り抜くスタイルはまさに捨て身。防御リソースをすべて攻撃に回してもまだ殴り足りない。
「捨て身――…」
よろめいて膝を折る男へ踏み込んだ。曲げた膝を足場に彼女は跳び上がる。
「シャイニングウィザードォ!」
強く強く、高く高く。異形頭の顎を膝蹴りで捉え、飛ぶように戦場を舞った。
地を踏み背筋を伸ばす彼女の後ろで、男が大の字に倒れる。
「覚えておくといい」
白く長い髪が翻った。振り返りもせず口を開く。
「この世でもっとも尊いものは。乙女の涙なのさ」
大成功
🔵🔵🔵
ヴィクティム・ウィンターミュート
ようやく黒幕のお出ましだ。マナーのなってないフリークスには、きっちり躾をしてやらねーとな。神への賛美は地獄で存分にやってくれや。
さてさて、端役は端役らしい仕事をしなくっちゃな。ユーベルコードによる防御障壁で仲間への損害を減らしにかかるぜ。攻撃する【時間稼ぎ】ができりゃ、主役どもも動きやすいだろうさ。
強力な攻撃に対しては障壁の重ね掛け、範囲の広い攻撃なら障壁を繋げてカバー範囲を広げる。
予備動作を【見切り】、素早く【早業】で障壁を展開できるのが理想ってところだな。
さあお客様。この列車は間もなく終点に到着だ。お忘れ物の無いようにお願い…おっと──命を忘れてるぜ?ちゃんと地獄に持って行けよ
アドリブ歓迎
夷洞・みさき
ここに乗込む手段はこの二つ!
ロープワーク、減速待ち、そして今回のいつのまにか!
あ、三つだ。
殆ど失敗したけどね。
コホン
さぁ、同胞達、ここに咎人が顕れた。
何であれ只の神様騙りならどうでも良かったけど。
只人を害したなら、もう駄目だね。
だから僕は、僕等は己の業で君を禊落とそう。
咎も恨みも禊いで神様のいる海に逝くといいよ。
【WIZ】
燃えた身は冷やしてあげよう。
車両に残る死者の無念をUCに織り込む
その炎は被害者の【呪詛】なら僕も使わせてもらうね。
【呪詛耐性】で恨みを強奪【恐怖】として返す
邪神部分は念入りに車輪で叩き潰す
現世に残れない君達も
このままだと咎人になってから、
安らかに海に還ると良いよ。
アド同道歓迎
●男が落ちる行き先は
度重なる炎上と発砲により、車両内の空気はすっかり焼け焦げていた。ひとつ息を吸えば乾いた空気が喉を刺す。それは戦場の気配とも表現できる独特の香り。
そこに、ふと潮の香りが混じった。水面の煌く砂浜とは違う、もっと深い、暗く濁った深海の香り。海に沈んだものたちの香り。それを帯びるのは、青ざめた肌を持つ猟兵。夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)だ。
激戦の舞台とされ破壊痕と炎が充満し、邪なる神へ身を捧げた男が蠅の羽音を纏い身を躍らせる。戦いはまだ終わらない。
みさきは、車内の光景に笑みを浮かべた。この場に不釣り合いな、どこか楽観的な笑みだった。
「あれ、お前いつの間に」
「うん。それが聞きたかった」
話しかけたゴーグルの青年に、みさきは軽い調子で応じる。何処かの世界の鞭使いの冒険家のように咎人を拘束する道具を大胆に応用したロープワーク、また列車内部を海水で埋め尽くし邪信徒を車外へ流し出すなどの、手に汗握るアクションの数々があった。が、特に青年へ語って聞かせることもない。
青年はゴーグルを持ち上げ肉眼で岬を見たあと、膨らんだ脳髄が露出した男に視線を向ける。
「ようやく黒幕のお出ましだ」
みさきは頷く。
「マナーのなってないフリークスには、きっちり躾をしてやらねーと」
なぁ、と青年は声を掛けてきた。マナーという単語を出したとき、彼の眼は乗客に注がれていたことに気付いた。先頭車両の乗客はみな、外傷のない静かな骸となっていた。
「あれが只の神様騙りならどうでもよかったけど」
そうではない。既に犠牲者が発生している。
「只人を害したなら、もう駄目だね」
「ダメなのか。だったらどうすんだ?」
青年、ヴィクティム・ウィンターミュート(ストリートランナー・f01172)は口角を上げて問う。わかりきった答えを引き出す、稚気を帯びた笑み。
「僕は、僕等は己の業で彼を禊落とすよ」
僕を『僕等』と言い換えたとき、彼女の背に人影が並んだ。数は6つ。みさきを含めた7人の咎人殺し。だが、生者はひとりしかいない。彼らは淀んだ海の底から浮かび上がった、みさきの同胞なのである。
「さあ、同胞達、ここに咎人が現れた」
頭の膨らんだ男が炎を纏う。それは魔性を帯びたどこまでも赤く、しかし赤黒い呪詛の炎だ。それは鎧の如く男を覆い、そして火球を生み出した。焼かれたものを骨まで汚す火球は、みるみるうちに人間大のサイズまで成長し、みさきとヴィクティムへ向けて放たれる。
だが、眼前まで迫った炎に顔を照らされながら青年は舌を出す。
彼の腕に無数の文字列が迸った。
瞬間的に展開された三重の障壁が火球の進路を閉ざし、打ち砕く!
細かく散る炎の奥から変わらず笑みを浮かべたヴィクティムが現れた。
「悪ィがその程度じゃ通してやれねェな。この俺がいる限り、どんな攻勢プログラムだって無意味さ」
彼はそのまま中指を立てる。
「超一流ハッカーの防壁、破れるもんなら破ってみろ」
蠅の羽音がした。男の口元からだ。人間の声の代わりに漏れたそれには強い不快感が宿っている。たちまち連続して火球が放たれる。だが、そのいずれもが障壁に阻まれた。ヴィクティムの示す超一流は、理不尽なまでに堅牢だ。
ヴィクティムとみさきの視線が合った。この超一流が端役をやってやるんだ、お前は主役を務めて決めてこいという、挑戦的な色が青年の瞳にある。
みさきは頷いた。
戦闘が齎す破壊によって多少広くなった車両内を彼女は駆ける。6つの同胞を伴って、男との距離を詰めてゆく。
途中、幾たびも火炎が彼女を襲った。しかしその全てにヴィクティムの操る障壁が割り込み、彼女を無傷のまま届ける。
――澱んだ海の底より来たれ。身を裂け、魅よ咲け。
男の呼び出した影を跳び越え、みさきは消散した炎から呪詛を掬い上げる。
――我ら七人の聲を、呪いを、恨みを、羨望を示そう。
帯びるのは被害者の呪詛。何も知らぬまま眠りに落ち、何も気づかぬまま殺された乗客たちの、生者への羨望。
――忘却した者達に懇願の祈りを込めて。
無念を背負った、7人の咎人殺しが男の眼前で翻る。武器が腕が振るわれる。
男の抵抗は通じない。男が生み出す炎も落とし子も影すらも、全てが正確無比に障壁で弾かれる。あくまで端役に徹した青年は超一流だ。
一切の抵抗力を奪われて。男はまず初めに片腕に車輪を叩きつけられた。みさきの持つ人間ほどの全長と全幅を誇る巨大車輪だ、恐るべき重量に腕は轢き潰された。そして残る6つの同胞が、素手で男の胸を刺し腹を裂き足を握りつぶして結晶化した脳髄を砕き、さらにはもう一つの腕すら引き千切る。
「咎も恨みも禊いで神様のいる海に逝くといいよ」
みさきが呟きを終える頃には、無残に傷口を晒す男が倒れていた。
主役の活躍にヴィクティムは満足気な笑みで歯を見せる。
「さあお客様。この列車は間もなく終点に到着だ。お忘れ物の無いようにお願いします」
忘れるなよ? ちゃんと命も、地獄に持って行けよ。
果たして男が落ちるのは地獄か、海の底か。それはまだ誰にもわからない。だが、現世でないのは確かだろう。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
夕凪・悠那
相変わらず狂信者は異次元に生きてて嫌になるね
供物なんて捧げさせてやらない
ここで終われ
【バトルキャラクターズ】
悪魔狩りARPGからチョイスしたキャラ
18合体、大鉈とショットガンの二刀流
1番は手元に置いていざって時の盾にするよ
攻撃は[見切り]回避
距離次第で鉈か銃選んで[カウンター]決めていく
湧いた落とし子はショットガンの[範囲攻撃]で纏めてダメージ
戦いながら動きの癖を[情報収集]
手に入れたばかりの力なら振り回される形でどこかしらにパターン出るんじゃないかな
そのタイミングを見計らって[早業]で【座標改竄】
18番か手元の1番を転移させて死角からの一撃を叩き込む
贄になりたいんだろ?
叶えてあげる
絡み
アド歓
●イベントボス攻略情報
戦闘車両にて猟兵たちと激突した頭の膨らんだ男は、もはや惨々たる有様だった。
体は幾度となく貫かれ、頭から露出した結晶の脳髄は砕かれ質量を減らし、胴を中心に切り傷複数。火傷多数にして、教典持つ腕は潰れ、反対の腕は肘から先が失われている。
だが、男の口元は歪んでいた。弧を作っていた。蠅の羽音は鳴りやまない。体中の傷口から血液と小蠅を零しながら嗤っていた。邪神の知と力に脳髄を破壊された男は、己が体の惨状を顧みるより邪神の力に酔うことに夢中だった。
ゴーグルで目を覆った少女、夕凪・悠那(電脳魔・f08384)は小さくため息をつく。
――相変わらず狂信者は異次元に生きてて嫌になるね。
どうしてあんな有様で猟兵たちと戦い続けるのか理解ができない。とうに形勢は決まり、男に逆転の目はないはずだ。この状況にあってまだ乗客を生贄にすることへ拘るのだろうか。
――供物なんて捧げさせてやらない。
敵が諦めないのなら、悠那の行動はひとつだ。その野望を、終わらせる。
まるで悪魔のような外見の男に、彼女は相応しいバトルキャラクターを呼び出す。
列車を制圧するのに使用した特殊部隊とは違い、今回呼び出すのは大鉈とショットガンを装備した男。悪魔狩りのアクションRPGからそのまま飛び出してきたキャラクターだ。相手が悪魔でも邪神でも、これならば適役だろう。
召喚した19体のうち18体をひとつに統合。そして残る1体を護衛用に残す。冷静に戦力配分する悠那の眼は、キャラクターをエディットしてるように気軽で、同時に真剣だ。
ゲームデバイスを持つ少女が、ゴーグル越しに覗く世界は悪魔ハンターの視点だ。接近し大鉈で斬りかかるそれからは男の傷の様子がよく見えた。傷口、肉の下から覗く無数の蠅。
うえ、と生理的嫌悪感に眉を顰めそうになる。だがそれだけだ。男の足元から湧きあがるおぞましい輪郭の影にも、小さく舌を出すだけに留める。
悪魔ハンターは鋭い動きで踏み込み、男の持つ教典を弾く。そして返す刃で手首を斬りつけた。傷口から血の飛沫と小蠅が舞う。
彼女は決して眼前の光景から目を逸らさない。むしろ情報を得るべく隅々まで観察する。頭の膨らんだ男は頭部の異形化部位に目を引かれやすいが、その実もっとも異形化が起きているのは体の内部であると推測できる。男は人間の輪郭こそ保っているが、中はがらんどうで蠅がたくさん詰まっているのだろう。
であれば。
悠那はキャラクターの眼を通して、千切られ捨てられた男の腕を見る。それはいつのまにか浮かび上がっていた。傷口は黒々としていて蠢き、小蠅の巣窟となっているのが伺える。
「これ、部位破壊はあんまり効果がなさそうかな」
気分はすっかりイベントボスの能力の検証だ。
男が教典を通して邪神の落とし子を召喚しようとする気配に気づき、素早くゲームデバイスを操作する。指示を受けた悪魔ハンターは素早く大鉈と散弾銃を持ち替え、落とし子へ弾丸を浴びせてゆく。
「…ん。待って、ちょっと待ってね」
散弾というワードが妙に頭で存在感を主張する。悠那は浮かんだ仮説を検証するべくデバイスから指示を飛ばした。
悪魔ハンターは浮かび上がった斬り落とされた腕へ散弾を浴びせる。二回、三回。すると腕のなかの小蠅ほほとんどが死滅したのか、それきり腕が動くことはなくなった。
「なるほど面攻撃」
とはいえ相手は大人の男性。全身へ一気に面攻撃を加えるとするなら、それなりに規模の大きい攻撃が必要となるだろう。自分はいま用意してないが、それが可能な猟兵はいるはずだ。
「さあ、検証終了かな」
もはや用済みとばかりに彼女はユーベルコードを使用する。
ゴーグルから覗くキャラクターの視界が一瞬ぷつりと途切れた。直後に現れるのはこれまでとは視点の異なる場所。キャラクターは瞬間移動によって邪教徒の背後へ移動していた。
散弾銃の銃口が男の後頭部へと突きつけられた。
「贄になりたいんだろ? 叶えてあげる」
殉教という形でね。
やがて引き金を絞ると発砲音の後、結晶の床に散らばる音がした。
大成功
🔵🔵🔵
ロカロカ・ペルペンテュッティ
ポンプヘッド。邪神に魅入られたものの末路、ですね。
随分強力な力を降ろしているようですね。
……アレを、撃退するためには、ボクの一番の友の力を借りる他ありませんね。
ボクの深奥で眠る彼を呼び起こすのは忍びないですが、無辜の人々を襲う邪悪な敵を撃つためならば、力を貸してくれるでしょう。
強力な守りを持つ形態になる様ですから、持てる全力を一撃に注ぎ込みます。
体への負担が大きいですが、複合式連鎖刻印と封鎖紋による限定を解除し、UDCの因子を活性化して呪力を引き出します。(捨て身の一撃)さらに祭礼呪具と祭礼の呪杖を介して呪力を増幅。すべてを友に託して、全力の稲妻を放ちます。(技能:属性攻撃)
●それはもっとも偉大なる
敵は体の中まで異形化していて、蠅の巣窟となっている。撃破には全身へ大きなダメージを負わせてすべての蠅を殺すのが効果的。
そのような情報が、分析に徹していた猟兵からもたらされた。
だが、とロカロカ・ペルペンテュッティ(《標本集》・f00198)は困難に思う。
なぜなら敵は汚れた、恐るべき炎をその身に纏う。鎧の如く猟兵の攻撃を阻むその力に対して、全身へ大きなダメージを打ち付けるのはいかにも難しい。敵の全身を鎧の上から力任せに叩く必殺の一撃が必要になる。
「…随分強力な力を降ろしているようですね」
さすが邪神と言うべきか、素体がただの邪教徒であったとしても、顕在化した能力は驚異的なものがあった。しかし邪神に魅入られたものの末路にしては、いささかお粗末かもしれない。身に複数のUDCを移植され様々な動物的特徴を顕在化させたロカロカであるが、彼にとっても男の異形はあまりに歪で、醜い。
頭部に無数の銃弾を浴び倒れていた男が、操り人形のようにゆらりと立ち上がる。口から漏れ出る蠅の羽音は、相変わらず笑っているように聞こえた。
ロカロカは手を掲げる。その指先、人差し指と親指のあいだで小さな雷が見えた。
――君の力が必要なんだ。
独白するように彼は己が内に呼び掛ける。
彼が呼びかけるのは守護霊である。それは雷のエネルギーが集まり鳥の輪郭をとったもの。偉大なる翼を持ち、猛き雷を帯びた、恐るべき雷鳥であった。
――起こしてしまってごめんね。
ロカロカは済まなそうに眉を寄せた。雷の体を持つ巨鳥は彼の守護霊であり、同時に一番の友達でもある。普段は彼の内面の深奥で眠る友達であるが、彼は起こしても許されるだろうと確信していた。無辜の人々を襲う邪悪な敵を撃つためなら、それはいつだって力を貸してくれるのだから。
ロカロカの掲げた手で生まれた恐ろしいほどの雷が荒れ狂う。空気で弾ける雷の音、それ自体が千の鳥の鳴き声のように響く。このとき、膨れ上がる力と気配で男の顔にはっきりと驚きが浮かんだ。そして警戒も。
途端に男の体が燃え上がる。魔性を帯びたどこまでも赤く、しかし赤黒い炎。男の体を鎧の如く守り、全身へダメージを与えるということを著しく困難にする男の異能。
それを認めてロカロカは、手の先に呼び出した雷鳥の枷を解除する。枷とはつまり彼のほぼ全身に刻まれた刺青だ。左目の下から首筋まで、そして背中全体と両腕、両足という、広い面積に刻まれた刺青は制御装置である。解除すればたちまち彼の全身を激痛が襲い、視界が赤く明滅した。体を苛む痛みが、刺青によるものなのか枷を外された雷鳥の凄まじい力による反動なのか、区別がつかない。
頭の膨らんだ男はロカロカへ教典を突き出した。その先で汚れた炎が大きく膨らむ。男の身長を越えてさらに体積を増す火炎球は、ロカロカの呼び出したUDCへの警戒の表れだろう。
戦闘車両の前方と後方で、それぞれ炎と雷が圧を増し大気を震えさせる。
やがて、男から巨大な炎の塊が放たれた。凝縮した熱量、それは車両半分を飲み込み融解させるに余りある。
「偉大なりし雷鳥よ!」
そして、少年の手から雷の鳥が羽ばたいた。翼から数多の雷を従えて、自身も一条の雷となって突撃する。
車両中央で両者は激突した。
せめぎ合うことなどない、雷の巨鳥は汚れた炎をあっさりと打ち砕く。爆散し車両を舐める炎の残骸のことごとくに雷を叩きつけ火花へと塗り替えていく。
「!?」
男が目に見えて動揺した。邪神の力に脳髄を破壊された男が微かに見せる人間的な反応だった。汚れた炎は彼の渾身の一撃だったのだ。
そして凄まじいエネルギーの奔流が男を襲った。雷鳥の持つ光が熱が男の全身を焼きながら通り抜け、そして特急車両の壁に大穴を穿って大空へ飛び、瞬く間に見えなくなった。
「……っ、はぁ」
脂汗を垂らしながら膝を折るロカロカに見えるのは、倒れた男の姿と、その奥の穴から広がる青い空だった。
蠅の羽音はもう聞こえない。
成功
🔵🔵🔴
尾守・夜野
【ワンダレイ】の皆といく。
ただ、俺は邪神だったりにトラウマを持っていてだな…
多分まともには動けん。
相手に対して向かっていくのはどうあがいても無理だ。
過呼吸になる。
だが皆を守る為なら…!
もう一人の俺を呼び出して、何とか落とし子の対処にあたる。攻撃もこちらに引き付ける。…トラウマ?半焼死体だよ畜生。俺に対する落とし子はそんなのじゃね?
須藤・莉亜
【ワンダレイ】の人と参加。
最初はLadyで狙撃していき落とし子を召喚されたら、伝承顕現【首なし騎士】でデュラハン化して近接戦闘に切り替える。
「さあ、こっからが本番だよ。」
高速移動で一気に懐に飛び込み右手の大鎌で攻撃、敵さんに隙ができれば左手に持ってる自分の首で【吸血】と【生命力吸収】を狙う。
敵さんの攻撃でヤバそうになったら、衝撃波で攻撃しつつ一旦後退。
夜野のフォローも忘れないようにしとかないとねぇ。
夜野がキツそうなら衝撃波で彼に向かう敵さんをできる限り止めよう。
「夜野大丈夫?」
まあ、首だけで喋ってるから逆にダメージになりそうかな?ショック療法的な…。
アルフレッド・モトロ
【ワンダレイ】現地集合!
なんの捻りもないが、炎を纏わせたワンダレイ・アンカーを怪力でブン回して戦う。相変わらず夜野が心配だな…気を配りつつ敵の攻撃を捌く。邪神の落とし子は隙があれば攻撃。隙があるかどうかはまあ、勘だ!野生の勘!
狂気の炎!?だったらこっちは勇気と気合の蒼炎で対抗だ!
危ないからな、みんなに合図してから、出せる限りの最高火力で迎撃してやる!
俺のブレイズフレイムで燃え尽きやがれ!
(アドリブ・絡み大歓迎)
●終点
革の靴が車両の床を躍る。鋭い踏み込みに、細かなガラスの破片が僅かに浮き上がった。
戦場の空気を白刃が切り裂く。刃の描く軌道が影を切り裂いて、消散させる。刃が断ったのはおぞましい輪郭の影だった。
「船長」
刃の主は傍らのコート姿の人物へ声を掛ける。担当した影は倒したという響きがあった。
返答の代わりに錨が振るわれた。鎖に繋がった巨大な錨は炎を帯びて影へと振り下ろされる。錨爪が影の胸元へ深々と突き刺さり、縦に引き裂いた。
「夜野」
錨を引き抜き肩に乗せたコート姿の人物は短く名前を呼んだ。こちらの影も処理したという合図だった。
暴走特急先頭車両。その中央で尾守・夜野(群れる死鬼・f05352)とアルフレッド・モトロ(蒼炎のスティング・レイ・f03702)が背中合わせに立っていた。彼らが処理したのは頭の膨らんだ男が呼び出した影である。蠅の羽を生やした人間が、その頭部を無数の蠅の部位として開花させた輪郭は、まさにおぞましい輪郭の影と呼ぶにふさわしい代物だ。それは本来、敵が消耗したときに呼び出すもので、事実敵は瀕死と言って差し支えないほどに消耗していた。
邪神の力をその身に受けて脳髄が崩壊した男は、度重なる猟兵たちの攻撃を受けて、全身から血液と小蠅を溢しながら動く。既に死に体だ。肉体的には正しく死亡していたが、その身に植え付けられた無数の小蠅が傀儡として体を動かしていた。
白濁した目で空虚な笑みを浮かべた男は、笑い声の代わりに口から微かな蠅の羽音を漏らす。
「ひでぇ有様だなありゃ」
「同感かな」
それぞれ黒剣と錨を構える二人と相対して、男は足元から影を隆起させる。床から伸びる漆黒はやがて2つに分離し、それぞれ人間大の輪郭を取る。悍ましき影の再召喚だ。
いよいよ影が二人へ飛び掛かるとき、突如車両を轟音が走り抜け、ひとつを消し飛ばした。
「!?」
二人の表情が驚愕に染まりながら車両後方へ向く。硝煙を昇らせる白色のアンチマテリアルライフルと、眠そうなぼんやりした表情のよく見知った顔があった。
「須藤か」
「莉亜じゃねーか」
轟音再び。残るもう1体の影が弾け飛んだ。
「やっほー。来ちゃった」
隈をこさえた紫の眼をゆるく細めて、須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)が引き金から手を放し小さく挙げる。
「僕このまま射撃要員でいい?」
敵を前にしても現実感のない、どこかふわふわした言い方に、二人は頷きを返した。
「じゃあ、後方支援をよろしく」
「おし」
彼らはそれぞれの得物を構えて敵へ向く。
「こっから決めに行くぞ」
鋭く閃く刃。熱量と重量を叩きつける錨。そして破壊と衝撃波を振りまく大口径弾。それらは頭の膨らんだ男の呼び出す炎と影を打ち破り、猟兵と邪教徒の距離を縮めてゆく。
すると、男の潰れた手にある教典がばららと勢いよく捲れた。溢れ出す紙片はひらひらと宙を舞って、空中の一点で止まり中央から赤い染みを滴らせた。赤色は複雑な模倣を描き、眼前の敵への耐性を獲得した落とし子を呼び出す。
それは本来なら斬撃や錨の一撃、あるいは銃弾に対して強い抵抗力を持った個体が召喚されるだろう。だが、今回ばかりは毛色が違った。
焼け焦げた人間が、数体。
「なんだ…?」
「ん……?」
ぼうっと立つ五体満足の人間だった。しかし表面は燃え上がり、同時に醜く焼け焦げていた。これまでの落とし子とはまるで空気が違っていた。猟兵たちは怪訝な表情を浮かべる。
だが。
「―――…っ!」
ただひとり、違う反応を示す者がいた。夜野だ。
視線は燃え盛る死体へと釘付けになり、全身から脂汗が吹きだす。小さく息を吐き、大きく息を吸う。喘ぐように息を吸い続け、彼の呼吸は乱れに乱れた。眩暈と息苦しさ、激しい耳鳴りや悪寒が渦巻き彼を苛む。だが視線は死体から剥がせない。どうしようもなく彼の意識を吸い寄せるものがその手にあった。
村の人々を燃料にして作られた剣が、焼死体の手にある。悪意と悲鳴と喪失によって彩られた忌まわしき過去の象徴。あの炎は、あんなにも熱かったのに。ずっと忘れていたかったのに、いま目の前に付きつけられてしまった。
夜野はひざを折り、蹲った。全身を幻痛みが苛んだ。炎の記憶が蝕んだ。胸を掻き毟る喪失感が去来した。
「夜野ッ!」
アルフレッドと須藤は即座に彼の異変に気付く。蹲った夜野の首を断とうと剣を振り上げた焼死体に、素早くアルフレッドが割り込んだ。恐るべき儀式によって誕生した剣の、能力まで再現できなかったか、振り下ろされた刃を錨で難なく受ける。
須藤もまた動いていた。白い対物ライフルを捨てて鎧を纏った。兜だけのない鎧である。首なし騎士の鎧だった。須藤の首に横一文字の線が走り、彼の首がずれる。肉体もまた首なし騎士へと変異していた。
右手に大鎌を、左手に己が首を。首なし騎士は鋭い踏み込みで焼死体へ襲い掛かる。
予想以上に機敏な動きで燃える死体は剣を掲げた。大鎌を防ごうというのだろう、しかし首なし騎士の斬撃を前にそれはあまりにも力不足だ。彼は防御された箇所へあえて鎌を振る。すると大鎌こそ剣に阻まれて止まるが、刃が生み出した衝撃波は剣をすり抜け死体の上半身を攫っていった。
切断されて消えてゆく焼死体を尻目に首なし騎士は次の獲物へ接近、剣を構えるより早く頭から股下まで一閃。右半身と左半身を離別させた。加えて振り返りざまの大鎌横薙ぎ一閃。果たして鎌の描く軌跡の奥にいた死体たちは、刃の描いた線の通りに、衝撃波によってすべて斬り落とされていった。
瞬く間の連撃。恐ろしく早く制圧を済ませて、須藤は首だけで話しかけては逆に驚かせてしまうかもと考えながら、左手の首を俯いた夜野へ向ける。
「夜野大丈夫?」
「大丈夫よ」
俯いた夜野の代わりに応える者がいる。声は彼と同じ、だが女性の話し方だ。夜野のもうひとつの人格が傍らに立ち、手にした黒剣で忍び寄った影を貫いていた。
オルタナティブ・ダブル。それはもうひとりの自分を生み出すユーベルコード。夜野の傍らに立つ瓜二つの存在は女性人格が顕現している。
「大丈夫よ」
剣を翻して新たに影を切り裂きつつ、彼女は言葉を重ねる。
「だって、『お前は生きろ』と言われたんだもの。ねぇ?」
「――ッ!」
途端。俯いた夜野の眼が見開かれる。もう一つの人格から投げかけられた言葉は呪詛だった。彼の身に宿り未だ燻る呪詛だった。折れた膝に力を戻し、意地を焚きつけるものだった。夜野をいま一度奮い立たせて剣を握らせるにはそれで充分。
ああ。それに。
「まだ、みながいるからな…!」
夜野は黒剣を構える。囲んでくる影から仲間を守るため、そして自身の命を繋ぐために。
その様子に、もうひとりの人格は満足げに微笑むのだった。
「夜野、莉亜。下がっててくれ」
それからしばらくしてのことだ。焼死体の群れと影の刺客を迎撃するふたりに合図が来た。
飛空戦艦ワンダレイの艦長、クダマキエイのキマイラの猟兵が静かに頭の膨らんだ男と相対する。男が邪神から授けられた赤い炎とは対照的に、エイの尾の先端は青く燃え上がる。
男が教典持つ腕を炎に包み、そこから全身へと炎を伝播させる。敵を焼く呪詛と攻撃から身を守る鎧のふたつの機能を持つ炎だ。白く濁った虚ろな眼で、笑い声のように口から微かな蠅の羽音を漏らし、男は火柱となっていた。
アルフレッドもまた右眼を通る傷から蒼い炎を噴出させた。彼の全身を包むサメ革のスーツの下の古い傷跡の至る所から、次々と炎が昇りやがてアルフレッドをひとつの火柱に変える。彼の操る炎は地獄の炎だ。仲間に勇気を与える炎でもあった。
すると車両全体から悲鳴のような金属音がした。車内に発生した二つの火柱がその熱により車両のフレームを飴のように歪ませたのである。車輪がたちまち火花を散らし速度を失ってゆくが、それでも二人は炎の勢いを止めない!
「さあ燃え尽きやがれ!」
やがて相対した猟兵と邪教徒が激突する。片や地獄の蒼炎。片や邪神の炎。両者は拳を握り大きく振りかぶった。
先に拳を届かせたのは邪教徒だった。呪詛の乗った赤い炎が拳を通じてアルフレッドの胸を打つ。だが彼はびくともしない。
次にアルフレッドが拳を届かせた。全身の膂力を集中させた拳が敵の体へ突き刺さり、鮮やかに燃える蒼い炎が燃え移る。
敵はたちまち地獄の炎に包まれた。声にならない絶叫を放ち数歩よろめいて、床に崩れ落ちた。
「ここが終点だ」
アルフレッドは斃れた敵に背を向ける。仲間と目が合った。彼らは頷いていた。
地獄の炎に焼かれた男はみるみるうちに小さくなり、やがて灰すら残さず跡形もなく消え去る。それが、邪神に身を捧げた者の最後だった。
夜野はふと懐から懐中時計を取り出した。猟兵の突入開始から1時間が経っていた。
●
かくして、そこにいた猟兵全員の力を借りて、暴走特急は完全に走行を停止する。
邪教徒によって衝突を運命づけられた終点駅の、その僅か1キロ手前でのことだった。
催眠ガスによって眠らされた乗客たちは、この場で激しい戦いがあったことに気付かないまま、UDC組織によって終点駅まで運ばれるだろう。それからそれぞれの予定通りに日常を再開するのだ。
戦いに巻き込まれた一般人たちは邪教団と猟兵たちの戦いを知らない。それがUDCアースという世界である。
だが、猟兵たちが乗客数百名の命を守った戦いは、UDC組織のレポートにすべて残されるだろう。
こうして、生贄特急を巡る猟兵たちの戦いは幕を閉じるのだった。
大成功
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