アースクライシス2019④〜祭の夜に幕を閉じ~
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アメリカ大陸の一角、メサと呼ばれるテーブル型の台地や侵食が進んだ岩山ビュートが点在する地域。
まるで複数のモニュメントが並んでいるようにも見える光景から、モニュメントバレーと呼ばれるようになっているその場所に、突如として幾つもの洞窟が出現していた。
それは神々の住む地球の中心、センターオブジアースからの刺客を放つためのもの。
鋼神ウルカヌスが授けた『神鋼の鎧』を装備したオブリビオンが、その洞窟を通って次々と地上に現れたのである。
「この『神鋼の鎧』というのがなかなかに厄介な代物でね、聖地であるモニュメントバレーの中では、あらゆる攻撃への超耐性を持ってしまっているんだ」
さすがは神の賜り物だと肩を竦め、エンティ・シェア(欠片・f00526)は用意していたメモを更にめくる。
あらゆる攻撃というのは、言葉通り、物理的なものから魔法的なものなどの直接的なダメージを齎す類から、毒やガス、果ては精神に作用する不可視のものまで、何もかもだ。
「とは言えこの鎧も無敵ではないらしい。あくまで『耐性』であり『完全無効』ではないため、わずかだけど攻撃は通るよ」
それ以上に。
「鎧の『隙間』をつけば、耐性をすり抜けて直接的なダメージを与えることが出来るんだ」
さてそれでは具体的な隙間の所在をお伝えしよう、と。声が続ける。
鎧を授かった敵の名は『ミス・ワルプルギス』。かつては悪徳企業や犯罪組織などからの盗みなどで名を馳せた怪盗だった。
決して人を傷つけることをしなかった矜持ある犯罪者であったはずの彼女も、オブリビオンとなってしまった今では、無差別に奪い殺す凶悪な存在へと変貌してしまっている。
その力は夜を象徴するようだ。三日月を刃とし、星を銃弾とし、夜色のドレスは彼女自身に高速移動と鮮血色のエネルギー派の放射を可能とさせるもの。
「そんな彼女に、篝火のような鮮やかな赤の鎧が重ねられている状態だよ。兜と胴鎧。身軽な怪盗殿には不釣り合いな、なんとも重たそうな造りのね」
似合うとは言い難いものを与えるなんて、女性への贈り物としてはナンセンスだよねぇ、と両手を上向かせ、大仰な所作でやれやれと首を振ったエンティは、広げた左手をすぃと己の首に添えた。
「彼女の鎧の隙間は、ここだよ」
腕や足は鎧に覆われているわけではないが、そこを狙っても意味がない。
頭と胴の繋ぎにあたる、首の部分。
致命的な攻撃を与えられるのは、唯一、その部分だけ。
「いっそ落としておしまいよ。彼女の終わりには、きっと相応しい」
簡単に狙える場所でもないけれど、君達なら上手くやってくれるだろう、と。
微笑みを添えて、ヒーローズーアースへ至る道を展開するのであった。
里音
鉄壁の防御を打ち砕くべく、張り切ってまいりましょう!
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「アースクライシス2019」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
このシナリオでは、鎧の何処かにある隙間を狙うことでプレイングボーナスが得られます。
今回は『首』です。
それ以外の鎧に覆われていない部分に攻撃しても、鎧の超耐性効果でダメージはごく微小なものに抑えられてしまいます。
足払いや拘束など直接ダメージに至らないものの効果は(それなりに)発揮されますので、隙間を狙う際の参考にどうぞ。
皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『ミス・ワルプルギス』
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POW : キリング・クレセント
【三日月型の光の刃】が命中した対象を切断する。
SPD : 流星魔弾
【「あなたの命、頂戴します」と書いた予告状】が命中した対象に対し、高威力高命中の【星型の光弾】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ : 紅い夜の吸血鬼
自身に【夜闇色のドレス】をまとい、高速移動と【鮮血色のエネルギー波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
イラスト:麻風
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠神楽火・皇士朗」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
レイ・アイオライト
怪盗がそんな重い鎧つけてて立ち回れるのかしら。……オブリビオンとなった今じゃ、破壊の意志に従順になってるってことね。
敵の攻撃は『早業・第六感・見切り』で回避、影ので『オーラ防御』よ。
首が弱点ってなると、真正面から掻き切るのは厳しそうね。
だけど……全くの認知外からの攻撃はどうかしら。
【朧ナル潜影ノ従僕】はアンタの認知外から奇襲する。
魔刀で背後から『目立たない・クイックドロウ・暗殺』で首を掻き切るわ。
悪いわね、正々堂々と勝負する気なんて初めからないのよ。
これは殺し合い、悪く思わないでね。
クトゥルティア・ドラグノフ
※アドリブ共闘大歓迎
怪盗かあ、小さいころテレビで見た怪盗に憧れたなぁ。
でも堕ちてしまったなら仕方ない!
この世界の人々のためにも倒させてもらうよ!
予告状を【見切り】と【野生の勘】で回避しながら【勇気】と【覚悟】で接近するよ!
回避できそうにないときは剣で相殺するよ!
そして指定UCの射程に入ったならそのまま発動。
水球に取り込み動きを鈍化させるよ!
水生キマイラ、私のホームグラウンドへようこそ!
息継ぎなんてさせないよ!
高速【水泳】から【怪力】【戦闘知識】をフル活用した剣技で、入れ違い様に首を狙って攻撃していくよ!
身動きがまともにとれない水中で、どこまでその隙間を守れるか、試してあげるよ!
山鹿市・かさみ
アドリブ歓迎
首、首ッスか・・・
うええ、首を攻撃ってちょっとグロテスクなの想像したッス・・・
それでもカサミがやらねば誰がやる、
「情け無用の女」大音帝ヤカマシャー!行くッスよ!
まずカサミは選択UCで真っ向から挑む・・・
と見せかけて敵の足元周辺にUCを叩き込み、
岩が盛り上がって尖る程度に破壊するッス。
そして【ダッシュ】と【残像】で敵の攻撃をかわしながら後ろへ回り込む・・・
と見せかけて正面から【怪力】と【グラップル】で相手の足や下半身などを掴み、
【ジャンプ】で勢いをつけて首の部分を思いっきり尖った岩に叩きつけるッス!
・・・我ながらヒーローの技じゃないッス・・・
それでもやらねばならぬッス、頑張るッス。
黒鵺・瑞樹
アドリブ共闘OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流
まずはその「隙」を作ってもらわないとな。
UC五月雨と複数の柳葉飛刀の投擲による弾幕で目くらましをかける。わざと投擲音を出すようにし、陽動兼相手の攻撃との相殺を狙う。
一方で【存在感】を消し【目立たない】様に死角に回り、可能な限り奇襲をかけ【部位狙い】【暗殺】で、首を狙う。人型でよかった、狙いやすいもんな。
さらに【マヒ攻撃】も乗せ仕留めきれなくとも後続の猟兵の助けになればと思う。
敵の攻撃は【第六感】で感知、【見切り】で回避。しきれない物理攻撃は黒鵺で【武器受け】から受け流し、胡で【カウンター】。それ以外は【激痛耐性】【オーラ防御】【呪詛耐性】で耐える。
ナイツ・ディン
「狙うは一撃、妖精の力ってやつを見せてやるぜ!」
『調子に乗って足元掬われぬようにな』
ドラゴンランスの紅竜『ディロ』に窘められつつ槍を握る。
敵の攻撃を見切りや第六感、武器受けで凌ぎつつひらりひらりを避けていくぜ。
時折攻撃もするが本命打ではないので弾かれるの前提で力をセーブ。
いっそ盗み攻撃で予告状を掠め取っておこうか。
「へぇ、なかなか洒落てるな。お返しするぜ?予告通りにな?」
と軽く挑発も交えつつ。
大ぶりな攻撃が来たら見切り、盾受け、カウンターからのシールドバッシュ。場合によっては激痛耐性で堪える。態勢を崩せたら《フラッシュニードル》、鎧無視攻撃で神速の一撃を放ってやろう。
「ディロ、喰らい尽くせ!」
御形・菘
はっはっは、怪盗とはまた良いキャラではないか!
邪神たる妾の命は超貴重、奪えるものならやってみるがよい!
ダメージが僅かでも入るのならば問題ない
特に弱点など狙わず、真正面から相対し体力を削り倒す!
攻撃の刃など、元より回避する気など無い!
全身に防御のため二つのオーラを纏い、斬られて致命的な部位に当たりそうな時のみ左腕でガードよ
お主が妾に一撃入れる間に、それ以上のダメージを入れていけば、差し引きで十分!
…と見せかける!
バトルを続けていけば、防御にだけ使っている邪神オーラが、自在に武器として鋭い刃へと変形できるとは思うまい
身体も斬れ、わざわざ血の準備すら必要ない
隙が生まれた瞬間に、一気に首を狙う!
カーバンクル・スカルン
兜と胴鎧。なるほど大企業とまともにやり合っていた怪盗にはあまりにも不釣り合いだ。……呪われた芸術品を盗んでしまい、着続けなきゃいけなくなったなんて裏があればまだ納得できるけどねー。
で、オーダーは「首を落としてこい」ね。了解した。
相手に気づかれないように注意しながらこっそり後方から近付いて、鎧がお留守な首にワイヤーを巻き付けてフックで固定。
そして光の刃でワイヤーが切られる前に一気に吊り上げたら待ち構えさせていたワニの牙が怪盗さんの鎧の隙間に重なるように、口の中に放り込んでトドメを刺させてもらう!
クーガー・ヴォイテク
無差別に……かね。そりゃーちょっと聖者として、守る者として見過ごせないぜ
ここらで観念して貰おうかね
戦争での被害を食い止めるため"祈り"【聖者の誓い】を捧げる
真っ向から【聖者の行進】によって接近し、敵の攻撃は【聖者の気合い】による"気合い"で受けると"覚悟"を決めておく
傷が目立って来たら【聖者の闘争】によって奮い立たせる
全ての攻撃は"気合い"で乗り切る"覚悟"があればなんとかなる!!はず!!!
敵の攻撃をかいくぐり、首をへし折る勢いで"怪力"任せに【聖者の鉄拳】を叩き込むぜ
アドリブ絡み等歓迎
ヘスティア・イクテュス
オブリビオンとなって矜持を失って…
似た存在(宇宙海賊)のわたしとしては彼女を哀れに思うわね
一思いに切り落としてあげましょう…
ミスティルテインを撃って牽制…
流石神の贈り物、良い鎧ね、欲しいわ
オブリビオンの貴方にそんな上等な鎧は宝の持ち腐れねわたしが頂くわ(挑発)
マイクロミサイルにフェアリーズをフル使用
爆炎等で姿が見えなくなった隙に光学迷彩を使用
電脳魔術で自身のホログラム【フェイント】も作ってね
そっちに気を取られた隙に接近
ビームセイバーで首を…
闇之雲・夜太狼
ライアーヒーロー「クライウルフ」参上!
俺が来たからにはお遊びはここからだよ!
怪盗だったの?わー、かっこいい!
それに夜の力なんて、なんだか気が合いそうだね(名前的に)
戦場を【逃げ足】を活かして走り回りつつガオウ丸を使って、
俺が隠れられる闇属性の煙の柱をたくさん作っちゃうよ
真っ黒で火事みたいだけど違うから安心してね
そして煙に潜んでは逃げ、潜んでは逃げを繰り返しながら、
同じく闇【属性攻撃】の弾丸で何度もちょっかいを出してあげる
苛立つ頃合いを見計らって、その首、狙わせてもらうよ!
と相手の前方の煙から攻撃するフリをして選択UC発動!
死角から、フレイルのように振り回したMAGの先端で首にチョップだ!
九条・救助
犯罪者の時代のヴィランか。
じゃ、現代ヒーローとして負けるわけにいかねーな。
高速移動にエネルギー放射……しかも鎧で防御も万全ときたか。さすがに一筋縄じゃいかないな!
なら、【凍神領域】で対抗する。周囲の空間を凍結させることで動きを鈍らせられるはずだ。
更に氷矢レタルアイを生成し投射!牽制程度にしかならないだろうがそれで十分だ。一瞬を見出し、ダメージ覚悟で一気に接近!捨て身の一撃を叩き込んでやる。
丸腰に見えるだろ。油断したか。
オレは自分の傷口から血液を凍結させ、叛逆剣ハウルブラッドを形成。
あんたは強いな。……だから、ブチのめしてやらなきゃ気が済まない。
これで終いだ。装甲の隙間。その首叩き落としてやる!
フェルト・ユメノアール
悪い奴から盗みを働く、義賊って事だよね?
元とは言えそんな人と戦うのは気が引けるけど……
みんなの笑顔の為にも、やるしかないよね
素早そうな相手だし、そのまま首を狙うのは難しいね
なんとか隙を作らないと……
まずは障害物で攻撃を躱しながら『トリックスターを投擲』して牽制
さらに投擲物の中に『ワンダースモーク』を混ぜる事で煙幕を作って視界を塞ぎこちらの姿を見失わせる
そして、そのまま敵の不意を突いて、攻撃する……と見せかけて
そう、すでにボクは【SPミラーマジシャン】の効果を発動していた!
煙幕は敵に鏡に映した虚像を本物だと誤認させるための罠
虚像の反対、つまり相手の背後から弱点の首に『カウンター』を決める!
クロト・ラトキエ
不似合いな鎧に、ピンポイントに、首に隙間。
逆に考えれば、チョーカーが足りてないー、という催促かも?なぁんて。
月の刃は、投擲の姿勢・挙動、速度等より軌道を見切り回避を狙い。
或いは厳しいなら、外套を外し振り抜き当てて、身代わりにして。
UCで喚ぶは風の魔力、防御力強化からの速さへと換え。
左右よりワイヤー二本、打ち据え狙うは上半身。
超硬の鎧、傷すら付かぬ…は承知の上。
それはフェイント、フックを錘に巻き付けるを図り、
動きを一寸でも止められれば上々。
本命は、2回攻撃にて同時に放つ慣れた得物。極細の鋼糸。
無論、隙間…その素っ首へ。
鮮血の色。奪う君の全て。
永劫の所有の証、首輪めいて…
其方の方が、割と好みですよ
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犯罪者の時代。ヒーローズアースにおいてそのように称されていた時代に、彼女は存在していた。
怪盗、ミス・ワルプルギス。かつてはいわゆる義賊であった彼女は、その姿だけはそのままに、まるで別人のように成り果てていた。
いや、今に限って言うならば、姿さえも以前とは違っていると言ってもいい。
身軽な『怪盗』には、そして夜そのものでもあるような彼女には不釣り合いな、篝火色の鎧を身に纏っているがゆえに。
「怪盗がそんな重い鎧つけてて立ち回れるのかしら。……オブリビオンとなった今じゃ、破壊の意志に従順になってるってことね」
「呪われた芸術品を盗んでしまい、着続けなきゃいけなくなったなんて裏があればまだ納得できるけどねー」
レイ・アイオライト(潜影の暗殺者・f12771)の呟く声に、カーバンクル・スカルン(クリスタリアンの咎人殺し・f12355)はそんな想像を膨らませてみたが、似合わない『贈り物』だという答えが既に出ているのだから、つまらないことだ。
もっとも、その鎧がレイの言うようにワルプルギスの行動を阻害するかと言えば、そんな事は無いようで。
洞窟が出現した高所の位置から、ほぼ垂直の岩肌のちょっとした足場を器用に渡り降りてくる姿は、かつての彼女そのものの動きなのだろう。
「怪盗だったの?わー、かっこいい! それに夜の力なんて、なんだか気が合いそうだね」
「はっはっは、怪盗とはまた良いキャラではないか!」
自分の『名前』が闇に夜であるがゆえに。闇之雲・夜太狼(クライウルフ・f07230)親近感を抱いてしまうと言わんばかりにけろりと笑い、御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)もまた、相手の怪盗と言う有り様を愉快げに笑う。
「怪盗かあ、小さいころテレビで見た怪盗に憧れたなぁ」
華麗な身のこなしと紳士的な振る舞い、ミステリアスな雰囲気など、怪盗という存在はことメディアで見るならば浪漫が詰まっている存在と言えよう。
クトゥルティア・ドラグノフ(無垢なる月光・f14438)はそんな昔の思い出を過ぎらせつつも、目の前の敵へと意識を切り替える。
「でも堕ちてしまったなら仕方ない! この世界の人々のためにも倒させてもらうよ!」
たっ、と。ワルプルギスの軽やかな足がモニュメントバレーの大地を踏みしめた瞬間、周囲に居る猟兵の存在を警戒するように身構える。
既に取り囲まれているような状態であることは把握しているようだ。しかし、『神』より授かった鎧の存在がワルプルギスに余裕を与えていた。
「ふむ、不似合いな鎧に、ピンポイントに、首に隙間」
逆に考えれば、チョーカーが足りてないー、という催促かも? なぁんて。
ゆるりと笑ってクロト・ラトキエ(TTX・f00472)は手にフックの付いたワイヤーを遊ばせる。
微笑む顔が見つめ合う。そんな瞬間は長くは続かない。
『刺客』として、ワルプルギスはその場の猟兵を倒すべく、地を蹴った。
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「ライアーヒーロー「クライウルフ」参上! 俺が来たからにはお遊びはここからだよ!」
ヒーローを自称するならば、名乗りは大切なものなのだ。
夜太狼の高らかな声に呼応するように、猟兵達もまた、次々と攻撃を仕掛けていく。
「狙うは一撃、妖精の力ってやつを見せてやるぜ!」
『調子に乗って足元掬われぬようにな』
小さな体躯で軽やかに空を舞い、ナイツ・ディン(竜呼びの針・f00509)がドラゴンランスの柄を握れば、そこに宿るドラゴン『ディロ』の嗜める声が返ってくる。
けれど長く連れ添った相棒の言葉は、勢いを削ぐものではなく、鼓舞するもの。
ナイツは力強く頷いて、ワルプルギスの眼前へと迫る。
そんな彼へ突きつけられるのは一枚のカード。怪盗らしい予告状を綴ったそれは、目印とするかのようにナイツへと投擲される。
だが、そのカードはナイツに到達する前に、ひょいと飛び込んできた足に叩き落される。
飛ぶように軽やかに小さなカードを踏みつけて跳躍したのはフェルト・ユメノアール(夢と笑顔の道化師・f04735)。そのまま、お返しとばかりにダガーを投擲するが、牽制代わりのその刃は、身軽に躱される。
その瞬間、ぱちり。フェルトとワルプルギスの視線が絡んだ。
「悪い奴から盗みを働く、義賊って事だよね?」
「昔はそんなこともしていたわ」
「昔……元とは言えそんな人と戦うのは気が引けるけど……みんなの笑顔の為にも、やるしかないよね」
手の上で幾つもの球体をジャグリングさせながらのフェルトに、ワルプルギスは再びカードを取り出しながら笑った。
――あなたの命、頂戴します。
予告を綴ったカードを、しかし今度は投げることなく、対の手に三日月の刃を生成させて放った。
その攻撃を、気合で以て真っ向から受け止めようとするクーガー・ヴォイテク(自由を愛する聖者・f16704)を軽く突き飛ばして、ヘスティア・イクテュス(SkyFish団船長・f04572)はクーガーの代わりに地面を抉った三日月の威力を見る。
「人を傷つけないとしてきた者の出す技じゃないわね」
「無差別に……かね。そりゃーちょっと聖者として、守る者として見過ごせないぜ。ここらで観念して貰おうかね」
「ええ、オブリビオンとなって矜持を失って……似た存在のわたしとしては彼女を哀れに思うわね。一思いに切り落としてあげましょう……」
自称ではあるが宇宙海賊という存在であるヘスティアにとって、そして聖者であるクーガーにとって。依頼された仕事である以前に、個人的な感情として、ただの殺戮者に成り果てたワルプルギスを放って置くことは出来ない。
それは現代に生きるヒーローである九条・救助(ビートブレイザー・f17275)にとっても同じこと。
負けるわけには行かないと果敢に攻め込む救助に対し、ワルプルギスはその身に夜闇色のドレスを纏い、高速移動で距離を取りながら、エネルギー波を放つ。
その鮮血色の波を紙一重で躱しながら、救助は高揚にも似た心地にほんの少し口角を上げた。
「高速移動にエネルギー放射……しかも鎧で防御も万全ときたか。さすがに一筋縄じゃいかないな!」
狙うべき隙間の事は、この場の誰もが知っている。無論、ワルプルギス本人も理解の上。
簡単には狙わせてくれないだろうし、それ以上に……。
「首、首ッスか……うええ、首を攻撃ってちょっとグロテスクなの想像したッス……」
「絵面は悪いけど、人型の方が狙いやすいよな」
「それは! そうッスけど!」
ヒトの、首を。平然と落とせるほど山鹿市・かさみ(大音帝ヤカマシャー・f01162)は淡白ではなく。どうしても想像してしまう情景にふるりと寒いものを感じたものだが、対する黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)のなんともあっけらかんとした台詞に、思わず声を上げていた。
「それでもカサミがやらねば誰がやる、「情け無用の女」大音帝ヤカマシャー! 行くッスよ!」
腹から出すような声は、かさみの心を奮い立たせる。喧しいのは許してもらおう。ここには近隣住民は居ないのだから。
そんなかさみに、威勢のいい、とくすり笑って、ワルプルギスは己の鎧の継ぎ目をなぞる。
その挑発めいた行動に、レイはふぅんと口元で呟く。
「そう簡単には狙わせないって言いたげね」
確かに真正面からは狙いにくかろう。だが、正々堂々狙ってやる義理が何処にあろう。
レイの得意とする分野は、暗殺だ。そして、得意な分野で全力で挑むことこそ、戦の作法と言える。
背に刻まれた傷跡から漏れ出る影は、レイの暗殺術の代償として使われる。それにより呼び寄せた漆黒の暗殺者達を、ワルプルギスへと放つ。
「後ろ、気をつけたほうがいいわよ」
気をつけた所で、無駄ではあるのだけれど。
漆黒の暗殺者達は常にワルプルギスの死角へと転移し、攻撃を仕掛けてくるのだから。
そして、相手は暗殺者達だけではない。レイ自身もまた、死角へと潜み、ワルプルギスへと攻撃を仕掛けるべく動くのだ。
狙う場所が割れている分、身を捩り鎧で防ぐことが出来てしまっているが、視界の外からの執拗な攻撃には、チッ、と短い舌打ちが溢れた。
「これは殺し合い、悪く思わないでね」
「苛立ってるとこ悪いけど、もーっと苛立ってもらおうかな!」
夜太狼の構えた銃から放たれる幾つもの弾丸が、ワルプルギスの周囲に闇色の煙柱を幾つも立ち上らせる。
炎を伴わない黒煙は、夜太狼の姿を煙に紛れさせるもの。銃での攻撃と煙の中への退避を繰り返しながらの夜太狼は、攻撃の合間にワルプルギスの表情を伺い、苛立たしげな様を見て、に、と口角を上げて笑った。
「その首、狙わせてもらうよ!」
そうして、ワルプルギスの真正面から攻撃を――と見せかけて。
「いないいなーい……♪」
一瞬で、その背後へと転移した夜太狼は、手にした手形パーツの付いたワイヤーを振り回し、その首筋を狙った。
だが、狙う場所を明言したのが仇となったか。ぐるりと巻き付くようなワイヤーは、掲げられた女の腕に。
あ、と声を上げた夜太狼の方へと振り向いたワルプルギスの視界から彼を隠すように、フェルトもまた、手で遊ばせていた玉を放り、煙幕を展開させた。
「――あぁ、やだやだ。煙たいったらないわね」
視界は悪いし、ちょっかいを掛けてくるやつらは鬱陶しいし。
そんな苛立ちを宥めるようにか、あえて軽口を叩いたワルプルギスは、煙の範囲から逃れるように大きく後退する。
そうして、ぼふん、と煙の中から現れるのを待ち構えたように、クーガーが拳を振りかざしていた。
「人生を謳歌せよッ!!」
その一撃は、ワルプルギスの兜を捉え、華奢な彼女の体を容易に吹き飛ばすほどの強打だった。
蹴り飛ばされたボールのように弾んで、弾んで。けれど、ワルプルギスは何でもない顔をして立ち上がる。
それを見て、菘は声を上げて笑った。
「はは! 噂に違わぬ頑丈さだな!」
クーガーとて、首をへし折るつもりだっただろう。常ならば、鎧なんて諸共に破壊してしまう程だろう。
だが、聖地において無敵を誇る特殊な鎧が打撃そのもののダメージをほぼ抑えてくれるなら、殴られるに任せて飛ぶだけでいい。それで、勢いが殺されてしまったのだ。
「ダメージが僅かでも入るのならば問題ない」
ふん、と小さく鼻を鳴らし、菘は真正面からワルプルギスへと対峙した。
防御のためにオーラを纏った菘は、ワルプルギスが放つ三日月の刃を躱すこともせず、真っ直ぐに彼女へと向かっていく。
「お主が妾に一撃入れる間に、それ以上のダメージを入れていけば、差し引きで十分!」
「肉盾にでもなるつもり? 面倒なのよね、そう言うの」
相手が菘だけならば、じわじわと刻んでいくのもありだけど。
ちらりと横目に確かめたそこには、かさみの姿があった。
菘と同じように、真っ直ぐに突撃してきたかさみは、強く握りしめた拳を振りかざし、
「今こそ響け終局の鼓動!! ド・レ・ミ・ファイナアアアアアル!!!」
ワルプルギスへと叩き込む――と見せかけて、その足元へと叩きつけた。
拳を中心に広がるのは、振動で周囲を粉砕するほどの音。地響きにも似たそれは、ワルプルギスの足元を抉り、隆起させる。
「逃さないッスよ!」
足元が不安定になった隙に、かさみは素早く背後へ回り込むと、ワルプルギスの体へと組み付いた。
簡単に振りほどかせやしない。力を込めてしがみついたかさみは、一つ跳ね、勢いをつけて、ワルプルギスを地面へと――隆起し、鋭利に尖った岩へと、叩きつけてやった。
「ぐ、くうぅ……!」
「うぅ、我ながらヒーローの技じゃないッス……」
狙う場所が首という特殊な状態で、真っ向勝負ではそうそう捉えられない場所であるのだから、搦め手が含まれるのは致し方ない。勝たなければ、ならないのだから。
下半身を狙って組み付いたことで、狙いが僅かに逸れてしまったか、衝撃に呻きはするものの、まだ、致命傷には至っていない。
至近からの三日月の刃でかさみを引き剥がし、立ち上がったワルプルギスへ、再び菘が迫る。
「ダメージが、嵩んでおるようだな?」
「この程度!」
目論見通りと言うように笑って見せる菘へ放たれた三日月は、やはり、躱されない。致命傷を避けるために左腕を掲げて防御する素振りは見せるが、それだけ。
その目論見の甘さを打ち砕いてあげると言わんばかりに、ワルプルギスは幾度かの攻撃を仕掛けようとする。
――その、隙を。待っていた。
掲げた左腕は、防御のためにあらず。己の流した血を代償に、その腕に纏った縛霊手が殺戮捕食形態へと姿を変え、ワルプルギスへと食らいついたのだ。
ぼたりと、その首元から血が溢れる。しかし全てを抉り取られる前に、強引にねじ込んだ腕で、菘を突き放し逃れるワルプルギス。
「休む暇なんてないぜ。――喰らえ!」
ひゅん、空気を裂いて、黒い刃を持つナイフが飛んでくる。
手にした予告状を飛ばして弾き、あるいは手で叩き落とし、躱し、見やった先には瑞樹がいた。
いや、その姿を正確に捉えられたのは一瞬のこと。念動力によって飛び交う刃を掻い潜る間に、操り手である瑞樹の姿は影に死角に潜まれる。
どいつもこいつも、と苛立ちも顕にワルプルギスは呟いて。
「そんなにこの首が欲しいのね」
「そうだな、なんならあんたの洒落た技みたいに、こっちから予告状を投げてやろうか」
ほしいのは首であり、『あなたの命』である。挑発めいた顔で笑いながら、ナイツは瑞樹のナイフの合間をも掻い潜り、ワルプルギスへと迫っていく。
死角を狙う戦い方もあれば、視界を翻弄させる戦い方もある。
ナイツのフェアリーとしての小さい体は、高速で飛び回れば嫌でもその意識を引きつけるもので。
自然、目立たぬようにと潜んでいた瑞樹の存在から気が逸れていた。
マヒを乗せた瑞樹の攻撃が、ワルプルギスの死角から繰り出される。首を狙った一閃は、するりと鎧の隙間に吸い込まれたように滑り込んだが、刃が食い込んだ一瞬、払いのけるように腕が振り上げられ、暗殺は未遂に終わる。
だが、その体を痺れさせることは出来た。一瞬かも知れないが、一瞬で、良かった。
「目に物見せる? いいやお前は見ることすらできんよ! ディロ、喰らい尽くせ!」
ふわり、一度中空を旋回したナイツが、その一瞬の隙を狙い、突撃する。
残像が残りそうな程の神速に至ったナイツの槍は、ワルプルギスの首筋を、抉って――。
「――つかまえた」
ひたり。添えるようにナイツに宛行われた一枚のカード。
それを狙い撃つようにして、星型の光弾が飛ぶ。
小さな体を吹き飛ばすような光弾の行方を見届けて、かふ、と喉にせり上がった血を吐いたワルプルギスは、笑う。
「まだ落ちてないわ」
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「……オーダーは「首を落としてこい」だったかしらね。そうでもしない限り倒れないって顔してるし」
カーバンクルは篝火よりもずっと暗く、重い色をした血を流し始めたワルプルギスを見て、小さく零した。
もとより首は人体においての急所。狙われればひとたまりも無かろうが、逆に言えば、そこを狙ってくると分かっているならば、防ぎようも躱しようもあり、致命傷でさえなければ、幾らでも戦いようがあるのだろう。
無敵級の鎧の超耐性が彼女の自信に拍車を駆けているのだろう。血で汚れ始めた鎧を見つめ、なるほど、とヘスティアは呟く。
「流石神の贈り物、良い鎧ね
――欲しいわ。
「オブリビオンの貴方にそんな上等な鎧は宝の持ち腐れねわたしが頂くわ」
ビームライフルを構え、牽制に放ちながらのヘスティアの言葉に、ワルプルギスの顔が一瞬歪み、それから、愉悦気味のえみに変わる。
「怪盗の私から奪うつもり?」
「わたしも、海賊だもの」
言うが早いか、妖精の羽を象った白いジェットパックから、マイクロミサイルやビームを放つ球体状のドローンを次々と放っていくヘスティア。
身軽な所作と鎧の力で兵器そのものがワルプルギスへのダメージに繋がることはなかったが、夥しいまでの爆炎が上がった隙に、光学迷彩によってその姿を消すヘスティア。
その状態に、先程同じような背後を狙ってきた攻撃を思い起こし、ワルプルギスはそっと自身の首筋を手で抑えながら、警戒するように周囲を見渡す。
爆炎の中に、幾つかの動く影。見極めるように見やったその影がナイフを放とうとするのを見つけ、予告状を投げつけた。
そのカードは、確かに命中したけれど。
星の光弾が撃ち込まれたそれは、中空に浮いた、鏡だった。
「残念!」
「本命は、こっちよ」
爆炎に紛れて鏡を仕掛け、自身の虚像で罠を仕掛けたフェルトと、光学迷彩で姿を消していたヘスティアが同時に背後から首へと攻撃を仕掛ける。
「そんなことだろうと思ったよ!」
簡単には斬らせてあげない。鎧の力を使い、強引に、素手で猟兵達の武器を弾き、展開させた夜色のドレスの高速移動で、再び煙の中から離脱するワルプルギス。
また誰かが待ち構えていることを警戒したけれど、彼女が想像したような攻撃は、仕掛けられず。
変わりに、辺り一帯が凍えるほどに寒くなっていることに、気がついた。
吐く息さえも凍りつきそうな空間。
「ここから先は……オレが、支配する」
辺りを生命を滅ぼすような凍土へと変えたことで、ワルプルギスの高速移動もいくらか制限されたようだ。
だが、まだ足りない。救助は周囲に残る水分を氷の矢へと転じさせ、放っていくが、鮮血色のエネルギー波が次々と砕いていく。
(牽制できれば、十分……!)
ダッ、と、救助は地を蹴りワルプルギスとの間合いを詰める。
真っ直ぐに走る救助は、飛び交うエネルギー波が自分を掠めるのも気に留めない。
氷の矢を全て砕き落とし、救助の姿を確かめるように見たワルプルギスは、その手に武器らしい武器が無いことに、気がついて。
「丸腰……なわけ、ないわよね」
「あぁ、そうだな……あんたは強いな。……だから、ブチのめしてやらなきゃ気が済まない」
怯まず踏み込んだことで、追った傷。流れる血は、それこそが武器だ。
「これで終いだ。装甲の隙間。その首叩き落としてやる!」
ぱきりと血を凍らせて構築させたのは、赤き剣。深く入り込んだ間合いから振り抜かれる一撃は、ワルプルギスを捉え……その首を、掠めた。
「私にもね、ヴィランの意地があるのよ」
ヒーローになんて、負けてやれないの。
鮮血色は、彼女から飛び散ったものか、それとも、彼女が放ったものか。
同じ色をしたエネルギー波が、救助を穿つ。
もう、誰もが気付いていた。ワルプルギスの『首』という特殊な部位を狙うためには、隙をつくことよりも、ずっと、その動きを止めることの方が有効であると。
「蒼き彗星にその涙あり。廻る星たちにその涙あり。冥暗に流れる白の流星に、母なる海の祝福を!」
そしてその点で、クトゥルティアのユーベルコードは、非常に効果的であった。
詠唱と共に現れたのは、水の塊。それが展開されると同時に、ワルプルギスの身体を飲み込む。
如何な身軽な怪盗と言えど、水中で『自在に』動くことは、敵わない。
「水生キマイラ、私のホームグラウンドへようこそ!」
ごぼりと泡を吐き出し、水の塊から逃れようと視線を巡らせるワルプルギスだが、クトゥルティアがそれを許すはずがない。
「息継ぎなんてさせないよ!」
長く閉じ込めればその分優位になるのはクトゥルティア。高速で泳ぐ彼女を容易に捉えられるはずもなく、ワルプルギスは首を抑えるようにして防御に徹した。
「なかなか狙わせてくれないね。でも、身動きがまともにとれない水中で、どこまでその隙間を守れるか、試してあげるよ!」
縦横無尽に泳ぎ回り、力を込めた剣戟で首を押さえる腕を弾いていく。
さぁ、捉えた――!
次の一太刀で決める、と力強く水を蹴ったクトゥルティアは、弾いたワルプルギスの手元で、手品のようにカードが踊るのを、見つけてしまった。
どろりとした赤が水中に溶ける中で、ワルプルギスは突きつけるようにして予告状をクトゥルティアへと命中させて。
「しま……ッ!」
光弾が、水の外へとクトゥルティアを弾き飛ばした。
その隙に、ワルプルギスは水球の中から逃れる、けれど。
「お待ちしてましたよ♪」
ここが最上。またとない好機を得て、息を整えるより早く、その体にワイヤーが絡みつく。
フックの付いたワイヤーは、クロトの左右の手から一本ずつ、忍び寄るように伸びて、ワルプルギスの上半身を捉えた。
そこへ、カーバンクルの鋼糸が放たれる。
「一発で仕留めてあげる。……だから安心して死になさい」
機械仕掛けのワニを控えさせ、カーバンクルは細い糸を鎧と兜の隙間に絡ませた。
幾つものワイヤーが、糸が、絡みつく。腕に、体に――首に。
そうして、吊り上げられる。
「くっ……」
硬く細い糸が食い込む感覚は、それだけでも十分に脅威だ。だが、カーバンクルの糸だけならば、それが己の首を落とす前に、断ち切るなり解くなり、出来ただろう。
あるいは、本命が仕掛け罠だと言うならば、それを防ぐために首を腕で庇うなどすれば済んだだろう。
だが、その腕は、クロトが巻きつけたワイヤーで縛られているのだ。
自由の利かない体が吊り上げられれば、カーバンクルの罠は万全の体制で作動する。
狙いすまして、首を、落とすために。
「鮮血の色。奪う君の全て。永劫の所有の証、首輪めいて……」
其方の方が、割と好みですよ。そう語ったクロトは、その首に絡めるのが自分の糸ではないのが残念だけれど、と笑う。
そんなクロトを振り返り、くつり、ワルプルギスは笑った。
「真っ平よ」
刹那、がちりと硬質な金属音を立てて、機械仕掛けのワニの口が閉じた。
ごろりと首が落ちて見えたのを、見据え、あるいは目を逸した者も居たことだろう。
いずれにせよ、一瞬飛び散った鮮血も、首と離れた体も、全部、次の瞬間にはさらりと音を立てて崩れる灰になっていた。
篝火色の鎧もまた、より鮮やかな光の粒となって、何処へともなく消えていく。
ひゅぅ、と。モニュメントバレーに一陣の風が吹けば。
戦の名残だけを残して、静寂が戻るのであった。
成功
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