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慈雨

#UDCアース

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#UDCアース


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 優しい雨が降っている。
 水の匂いの内側に、拍動する様に蠢くものがひとつ、在った。

 ――ねえ、きみは、どこまでいってしまったの。
 ――ねえ、ぼくは、いつまでここで待てばいいの。
 ――ねえ、ぼくは、きみと――……。

 それは優しい怪物だった。
 それはたぶん、慟哭だった。
 いくら『きみ』に良く似たものを集めたところで、どこにも『きみ』は居やしない。
 それでも、ずっと、待っている。

 ただ、待っているだけなのだ。
 親しき友の再訪を。
 あの懐かしい眼差しを、吾が悍ましき全身に受けるのを。
 ――ただ、待っている。

●降雨
 優しい雨が降っている。
 映し出された何の変哲もない街角には、さやさや降り頻る雨が微かに見て取れた。
「比較的ここ最近で、行方不明者が複数名、立て続けに出ているそうだ」
 虎色の女――斎部・花虎(ヤーアブルニー・f01877)は髪を揺らして猟兵たちに向き直る。
「場所はUDCアース、日本。人口が多い訳でも少ない訳でもない、地方都市のひとつ――雨宿市、と云う。ウスク、音読みだな」
 その手の中でゆらり揺らめくグリモアが、眸と同じ色の燐光を得て淡く灯る。
 睫毛の下で伏せられた双眸が、それを読み解く様に続きを告げた。
「消えた者たちは、皆が皆、若人だ。それも素行不良の中学生や高校生、親元を離れ友人もまだ少ない下宿生、仕事に忙殺され周囲と疎遠になりつつある社会人――そう、行方不明になった事が騒がれにくい者たちばかり」
 そして、といちど言葉が途切れる。
「……かれらは拐かされた。実行したのは邪神に傾倒した、何処ぞの信徒たちの様だ。用途は贄――そう、邪神復活儀式が密やかに計画されている」
 この雨宿市では周囲の環境的なものから、年間通して比較的降雨の日が多いらしい。痕跡の残りにくいそんな雨の日に拐っていくのが、信徒たちのやり方の様だ。
 ああ、と花虎が思い付いた様に言い添える。
「拐う、とは言ったが、必ずしもそうでないかもしれない。日常に疲れ果てた所を甘言で惑わされる様な事も、在っただろうからな」
 被害者が帰って来ない事に気付き、他者の手により警察に届け出が為されたケースもあるが、そうでない場合だってある。いずれにせよまだ出てきていない情報も数多くある筈だ。
 それらを辿り紐解いていけば、必ず儀式の阻止に繋がるだろう。
「希望の場所を言ってくれれば、そこまでおれが送ってやろう。雨宿市にはオフィス街や繁華街、住宅地、学校の多い地区……そうだな、大凡一般的な場所やものはあると思って良い。――、」
 そこまで告げて、ふと彼女は声を呑んだ。言い掛けた事を噤む様な所作だった。
 そうして、碧翠の眸が猟兵たちを見つめる。
「言葉にするまでもないと解っているが、……おまえたちは猟兵だ。おまえたちが、正しいんだ。憂う事なく、仕事を完遂してきてくれ」
 グリモアで何を視た、とも花虎は語らない。
 ただ眼前に居並ぶ猟兵たちを信じる様に、或いはその胸中に生まれるやもしれない何かを拭い去りたい一心で、訥々告げる。
 緩慢な仕草で、告げた彼女は背後を振り仰いだ。
「――止まないな、」
 街中には悄然と、柔らかな絹糸めいたそれが降り続いている。
 雨はまだ、暫く止みそうにない。


硝子屋
 お世話になっております、硝子屋(がらすや)で御座います。
 UDCアースでのお仕事です。

 儀式が行われるであろう場所を特定する為、まずは情報収集を。
 第一章は朝~昼間くらいの時間帯を想定しています。
 第二章(夕刻)、第三章(夜)にてオブリビオンとの戦闘、及び対決になります。
 また、今回は『心情寄り』での展開を予定しております。
 敵を気持ち良く斬って捨てるよりかは、思い悩み、考えながらの戦闘になるかと思います。

 全編通して降雨、及び時間帯が進めば視界不良がありますが、判定上での不利には働きません。
 エフェクトの様なものと捉えて頂けますと幸いです。
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第1章 冒険 『人知れずに消える者』

POW   :    しらみつぶしに聞き込みをして目撃者を探すなど、足で情報を集める

SPD   :    被害者に関わりのありそうな人物、団体に当たりをつけて調査を行い、情報を集める

WIZ   :    被害者に似た境遇を装い、接触してくる人物から情報を集める

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

数宮・多喜
…いやな予感がぬぐえない。
まさか、「アイツ」もそうやって消えて…や、詮無い事だね。

【SPD】
まずはアタシができるのは…会社員の被害者が所属してた会社に
「取引してた相手」として変装して接触してみるよ。
「最近〇〇さんから連絡が来なくなってて、ウチとしても困ってます。
何かあったんでしょうか?」と切り出してから、
普段の社内での態度とか扱いをそれとなく探ってみるよ。
たぶんあまり有力な情報は出ないだろうけど…
そこに厭世的な何かを感じ取ったら、
「アタシも少し心配だったことがあるんですが…
何か思い詰めてませんでしたか!?」
と大げさに詰め寄ってみるよ。

大げさに動く事による周囲の変化をテレパスで探知できるかね…?



●オフィス
 拭い切れない自らの内の不安を振り払うの様に、数宮・多喜は緩く首を左右に振る。
 他の誰でもない『アイツ』の姿が脳裏に浮かべど、いまそれを考えたって詮無い事だ。
「新山、ですか……」
 スーツ姿の壮年の男性の声が苦くそう返すのに、多喜の思考が引き戻される。
 応じる様に居住まいを正すその姿は、この会社――つい先日行方を眩ませた会社員の男性、新山が所属していた総合商社――その取引先の担当者だと名乗るに相応しい、ビジネス・スタイルだ。
 心配そうに眉尻を下げた多喜が、真摯に頷いて返す。
「ええ、連絡が来なくなってて、ウチとしても困っています。何かあったんでしょうか?」
「まあ……そうですね、一応は長期の休暇という事になっておりまして……本人は新入社員ということで、相応の気疲れと言いますか、疲労もあったでしょうから……」
 自社の体裁を気にしてか、それともそれ以外の何かを案じてなのかはわからない。ただ社員のプライベートをそう簡単に話す訳にもいかないのだろう。濁されてばかりの言葉尻に、多喜の片眉が僅かに持ち上がる。
 多喜はちいさく呼吸して、そうしてネットワークを開く――テレパスを得る為に、アンテナを外側に向けて。
 いらえる声は少しだけ張る。何かしらを引っ掛ける為の、呼び水がないといけない。
「――何か思い詰めてはいませんでしたか?」
「そ、そのような事は……なかったと認識しておりまして……」
 強い語気で向けられる言葉に、男性はしどろもどろで頭を掻く。見えている部分だけでは判断し難いが、新山の所属していた部署では所謂、ブラックと呼ばれる業務形態だったのやも知れない。
 けれど、嗚呼でも――収穫は、ありそうだ。
『――……、嗅ぎ付けられて――……』
『はい、執拗に聞――……傘木…ル……――』
 広げられたアンテナに、ごく僅かに引っ掛かるのは若い女の声だった。誰かに恐らく電話を通じ、多喜の事を報告している――同じ社内に、信徒が潜り込んでいたのだろう。
 傘木ビル。会話から、多喜は確かにそう聞き取った。
「――不用心だねぇ、」
 双眸が笑う形に眇められ、聞いてもいない言い訳ばかりを繰り返す男性を尻目に、多喜は艶やかに囁いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

終夜・凛是
行方不明者の探し方。
よくわかんないけど、うん。俺も人探しはしてるから、それと同じに歩き回って情報収集する。

俺が向かうのは素行不良の学生のところ。
……にぃちゃんの真似したほうが話しやすそう

歩き回ってたまり場にいく。
繁華街の…路地裏。悪そうな雰囲気のあるところ。
コンビニの前も通ってみる。徒党組んでる奴らを探して。
見つけたら話を、消えたやつの知り合いを装って。

われらアイツ知らん? 最近姿みんじゃろ。
アイツと約束しとったんやけど、連絡とれんくて。
行きそうなとこ知らんか?
なんや知っとーなら、言うてしまえや。

…俺がすごんでもあんま恐くないか。
答えてくれなければ仕方ない。
じゃあ、拳できく。



●路地裏
「――ぁンだよ、てめえ」
 何だか暗い気がするのは、雨が降っている所為だけではない。コンビニのすぐ横、通りと通りを結ぶ細い路地裏には、掃き溜めのにおいが淀んで滲む。
 しゃがみ込んで屯する自分たちに影を落とす影に気付いた青年は、舌打ちと共に影を――終夜・凛是を睨め付ける。
「ちょぉ、聞きたいんじゃけど」
 漸く見つけたその姿に、視線を迎え入れる様に凛是が橙を眇めた。
 彼の出で立ちや向けられた言葉に、屯する若者たち――煙草を咥えている者も居たが、高校生くらいに見て取れる彼らは僅かに雰囲気を緩める。
「何、ヤニ売ってもらえねえの」
「違う。……われらアイツ知らん? 最近姿みんじゃろ、」
 揶揄する様に浅く笑いながら向けられた言葉に、薄く眉宇を顰めてから凛是は首を傾ぐ。
「アイツ? ――……あ、あー、ヒロユキ?」
 怪訝そうに語尾が上げられる、がすぐに合点して、リーダー格と思しき青年がぼやけた声を漏らす。
 会話の端に出てきたそれを掴む。肯いた凛是が継いだ。
「そう、ヒロユキ。アイツと約束しとったんやけど、連絡とれんくて」
「約束ゥ? アイツが? てめえと?」
 別の青年から嘲笑う色の野次が飛んだ。見るからに年下と思しき癖っ毛の少年をじろじろと無遠慮に視線で物色して、また笑う。ある訳ないだろ、そんな風に。
 特段気にせず凛是は顎を引く。降る雨の向こう、ぼやけた風体で嗤うばかりの矮小な青年たちに竦む必要など、まるでない。
「行きそうなとこ、知らんか?」
「知ってても言うかよ、バッカだな」
 唾棄する如くに言葉が投げ捨てられ、共に下卑た哄笑が重なる。
 彼らが優位と誤認しているから、気付こう筈もないだろう。雨音に紛れて凛是が一歩目を踏み出した事を。
 間合いを、詰めた事を。
「なんや知っとーなら、言うてしまえや。――ほら、」
 伸びた指先がリーダー格の胸倉を掴んで引き上げる。正しい姿勢を取る暇も与えず、その鼻っ柱に拳を叩き込んだ。
 潰れた様な声を上げて昏倒する姿に、怒号と共に別の青年が殴りかかって来る――が、避けるに他愛ない。所詮は一般人だ。
 軸を移動させる勢いで身体を入れ替える。青年の片腕を取って背後に捻り上げると、情けない声が上がった。
「おう、ほら、言うことあるじゃろ、」
「まッ、マジで知らねえよ、ただアイツ、最近妙なトコ出入りしてたくらいで――」
 凛是が促すと、痛みに顔を顰めながら青年は言う。
 それ、とちいさく呟いた。
「とっとと吐けや、なあ」
「拳構えンのやめろ! かッ、傘木ビルだよ、とっくの昔に廃ビルになっちまってンのに、未だに取り壊されてねえ幽霊ビルだよ!」
 あれだ、と慌てふためく青年が示した先には、そう背の高くないビルが見えた。凛是の視線がそちらに逸れた瞬間、伸びたリーダー格を抱えて若者たちが走り去っていく。
「……幽霊ビル、か」
 呟くと共に、靴裏が水溜りを蹴って歩き出す。吼えた拳は鳴りを潜め、ただ赤髪が歪む街並みに融けていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

花咲・まい
【POW】ははあ、なるほど。どの世界、どの時代においても物騒な面は変わりませんですね。
しからば、情報収集と参りましょう。

私は足で情報を集めますです。
年若いものが狙われるというならば、年若いものを中心に何かしらの噂が巡っているはずですからね。
私と同じくらいの年齢の方にお話を聞いて回りますですよ。
うまくいけば、良い足掛かりになるはずですから!
※使用技能:情報収集、野生の勘

もし協力できる方がいれば、一緒に収集するのも良いと思いますです!



●蒐集
「噂?」
 尋ねられた女子学生は鸚鵡返しに語尾を上げ、傍らに居る連れ合いと思しき男性と顔を見合わせた。
「ええ、何でも! 私、そういうお話を記事にして、ウェブサイトに纏めてますです」
 人懐こい笑みを浮かべて花咲・まいは肯く。
 学生街にほど近いカフェチェーン店の片隅で、なんかあったっけ、と女性の方が思い出す様に視線を投げ上げる。
 同じく顎に手を宛て考えていた男性側が、ああ、と思いつく事があった素振りと共に声を上げた。
「あれは? 『宗教勧誘』って、最近結構聞くけど」
 途端、女性が遮るように顔を顰める。
「やめなよ、実際誰か連れてかれて戻って来ないって話じゃん」
「宗教勧誘……です?」
 まいは恐る恐ると云った風体で、続きを促す様に囁いた。
 渋るような彼女とは対照的に、彼氏の方はこのテの話をしたがりな質らしい。いかにもそれらしく声を顰めながら、けれどにやにや笑ってまいに向けて囁き返す。
「そうそう。夜遅い時間の校門とか、公園とか、ぽつんと一人でいると声を掛けてくる奴らが居るらしいんだよね。声掛けられたけど逃げたって奴によると、どうにも言ってる事が怪しくて、絶対宗教の勧誘だろうって話――」
「――雨の日に?」
 まいが尋ねると、彼は驚いた様に眉を跳ね上げた。と思えばつまらなさそうな顔になる――なんだ、知ってんじゃん、と顔色通りの声が落ちた。
 いいえ、とまいは続ける。
「それだけです、他には何も知らないのです! 他にも何かご存知の事、教えて頂けませんですか?」
「じゃあ、気を付けた方がいいかもよ」
 男性は再びにやっと口端を持ち上げた。怪談でも語ってやろうかと云う軽妙さだった。
「狙われてるのは大概が君やおれたちみたいな若者で、ひとりで居る時らしいから。それで、幽霊ビルに連れ込まれるって……」
「もう――、そんな話ばっかり」
 まいが怯えるのではないかと危惧したらしい女性側が、上擦った声で止めに入る。
 ごめんね、と眉尻を下げる彼女に咲く様な笑みを返し、聞いたのは此方ですから、とまいは首を振った。
「雨の日にひとりで居ると、連れてかれる、ってトコですかね――ははあ、なるほど? 幽霊ビル、ですか」
 ここに至る迄に、何故かテナントの無いまま忘れられているビルを雨中に見つけていた。野生の勘は伊達ではないのだ。
「ありがとうございますです! 良い記事が書けそうです」
 ひとつ繋がるものが雨筋の中に見えている。
 今はまだ熟さぬ薄緑の眸でふたりを見遣って、まいはその表情に笑みを満たした。

成功 🔵​🔵​🔴​

彩瑠・姫桜
雨は…私は、好きではないわ
特に冬の雨
優しいようで、その実、ひたりと身体と心から温かさを奪っていくから

花虎さんの言葉に、先日向かったある島の事を思い出す
…これから対峙するものに、本当の意味で私が正しくあれるかはわからない
けれど、できるかぎり…少なくとも、私にとって最良と思う事をしようと思う

SPD
学校の周辺で、聞き込みするわ
中高生…ちょうど私と同じくらいの年代の行方不明者に関して、
同級生や、先生など、学校関係者に絞り込んで聞き込みをしていくわね
学校での様子は、同級生と先生とでは印象が違うと思うから人となりも知ることができるかしら
それ以外に行方不明になる前後に変わった様子がなかったかも聞いてみるわね



●少女
 降り頻る雨は遠慮なく、その薄白い絹糸で彩瑠・姫桜の衣服の端を色濃く斑に染めてゆく。
 傘からはみ出してしまったその箇所を引き戻しつつ、姫桜はその胸中に苦く滲む景色を噛み締めた――あの島を。その記憶を。
 雨は、好きではなかった。殊更、冬の雨は。優しい様に見えて、けれどどうしたって冷たいのだ。
 ふと吐息で空気を白く染め、姫桜は辿り着いた高校の門扉を見遣った。
「ねえ、あなた」
 授業の用事だろうか、制服姿で校門近くを走り抜けようとしていた少女に声を掛ける。
 少女はきょとんと瞬くが、姫桜が同じ年頃くらいの見目である所為か、あまり警戒心を抱く様子はない。なんでしょう、と従順にいらえて立ち止まる。
「最近この辺で、女子高生が誘拐される事件があったでしょう。まだ未解決の――」
「……みやちゃんの事ですか?」
 不安げに少女の顔つきが変わる。門扉越しにふたりの少女の視線が揺れ合う様に絡まって、それから姫桜は淡く笑んだ。
 冷たい雨は彼女の不安を煽るだろう。少しでもそれが和らげば良いと思った。
「行方を、追っているの。――何か、切欠になる様な事をご存知でない? 居なくなる前、いつもと様子が違っていただとか――」
 柔く言葉を紡ぐ。絆された様に眼前の少女が緩く顔を上げ、辿々しく唇をひらく。
「みやちゃん、黙って居なくなる様な子じゃないんです……でも、あの。少し前に、お母さんと喧嘩しちゃったんだって……」
 少女は訥々語る。
 被害少女・みやは些細な事で母親と仲違いをしてしまっていた事。
 彼女は母子家庭で、少しだけ世界が狭かった事。
 構って欲しさからか、夜中に出歩いたり、学校をさぼったりする行為が増えていた事。
「……ひとりだったんです」
 括られるその言葉に、姫桜はそっと双眸を伏せた。
 鳴り響くチャイムと共に、幾度か会釈をしながら走り去る少女の姿を見送って、重たい吐息が唇を白く彩る。
「――趣味の悪い、」
 孤独に侵された者たちばかりを集めて贄とする――居場所を求める若者たちを甘言で惑わし、或いは力づくで連れ去っていく邪神の信徒。
 胸中にじわりと広がる心地悪さを握り潰すかの如く、姫桜は左胸の上で拳を握った。
 ――できるかぎりを。少なくとも、私にとって最良と思う事を。

成功 🔵​🔵​🔴​

古高・花鳥
行方不明の中高生の方だとか、下宿生の方について。学校周辺にて聞き込みを試してみます、服装はセーラー服が自然でしょう
色々な生徒さんにお話を伺ってみますね
(使用技能は礼儀作法、コミュ力、優しさ、手をつなぐ)
そしたらお話で得られた情報を元に、被害者と同じ状況を装ってみます
現段階では、高校の制服で人気のない路地に独りぼっちでいる……ぐらいしか思いつきませんね

……もしもわたしが同じようにひとりぼっちで、寒くて暗い夜に、優しい言葉をかけられたのなら
わたしの弱くて脆い心では、きっと惑わされてしまいます
だから、その気持ちが痛い程に分かるんです、支えになりたいんです
必ず助けます、独りの寂しい雨の中から……



●繋ぐ
「ひとりでいると、幽霊ビルに連れて行かれるんだって――……」
 握られた手の暖かさに蕩かされるかの様に、少年の唇はそう語る。
 この話が民間の捜査機関にまで伝わっていないのは、ひとえに被害者たちが『ひとり』を好んでいた所為だ。
 素行が悪いから、きっと何か自業自得で悪事に巻き込まれたのではないか。
 ひとりで外をふらふらしている時間が長いから、その延長で家出でもしてしまっただけではないか。
 会社に縛り付けられるだけの人生を厭って、衝動的にどこかへ出掛けているだけではないか。
 ――死体が上がりでもしなければ、誘拐事件の大半はそんな風に片付けられる。
「でも、アイツがそんな風にどっか行くなんて、考えられない。だから絶対、連れてかれたんだ」
「ええ、ええ」
 優しい相槌と共に、古高・花鳥は空いた片手で以て、繋いだ手を包み込む。
 冬の雨の日は温度が低くて、おもくて、つめたい。効果は覿面だった。
「話して下さって、有難う」
 親しげに、けれど真正面から礼儀正しく、努めて温和に行われた花鳥の対話は、複数の生徒たちからその様な証言を引き出した。
 故に彼女は――花鳥は、それを擬える。
「……もしもわたしが同じようにひとりぼっちで、寒くて暗い夜に、優しい言葉をかけられたのなら――」
 謳う様に囁くのは、或いは自分に言い聞かせる為なのかもしれない。
 ともすれば惑わされてしまいそうな、わたしの弱くて脆い心を叱咤する。
 雨は止まない。まだ止みそうにない。降り続く雨はその白い水煙のなかに全てを抱え込んで、離そうとはしないのだ――だから誰かが、助け出さなければならない。
 空には曇天が垂れ込めている。陽の光はごく薄く、浅い。
「――おひとりですか?」
 水音響く足音ひとつ、揃えた女が花鳥に声を掛ける。雨に打たれてセーラー服を色濃く染め上げた彼女が、そっと露の滴る前髪から濡羽色の眸を覗かせた。
「……そう、ですけれど」
 いらえる声はか細く震える。ひとりきりの自分に添える、それは手薬煉引くのと同じ事だ。
 声を掛けてきた女は、どこにでもいそうな普通の出で立ちだった。傍から見ればひとりで寂しげに佇む女子高生に声掛けをする、優しいおとなにしか見えないだろう――傍から見る者など、この場には居やしなかったが。
「学校は? お休みですか? どなたか待っているのでしょうか」
「――……放っておいて頂けませんか」
 少しだけ突き放す。従順に従っては、かえって不審に思われるかもしれない。
 そうして花鳥の返答を聞いた女が、劣悪に笑む。
 否、品の良い笑みだった――獲物を前に舌舐めずりをする様なものと思えば、とても。
「――私と共に、いきましょう。貴女をひとりにした世界など、置き去りにしてしまえば宜しいのです」

成功 🔵​🔵​🔴​

松本・るり遥
【WIZ】
人との関わりが少なそうな、若者。
…………、行ってくる。

二人掛かりだ
「勇気のない」俺と、『未練がない』俺の二手だ。基本待ちの手だし、関係者の目にとまりやすいよう少しでも範囲を広げておく。
『その方が、捕まえてもらいやすいもんな』
嬉しそうに言うんじゃない。
こんな雨の中、勇気のない俺が、イヤホンで音楽でも聞きながら、本数の少ないバス停でぼーっと待ってれば。
『あるいは、未練のない俺が、人通りの少ない二本くらい隣の横道で、雨合羽でとぼとぼしていれば』
どにらかには
『来てくれるかもね』

うっそり笑う、未練無しを見て不安に思いつつ。接触があったら何か連絡飛ばせよ、と、連絡機器を互いのポケットに忍ばせた。



●未練無し
 雨が降り籠めている。この街すべてを呑んでいる。
 勇気のない俺は巧くいったろうか――松本・るり遥から分かたれた未練無しは二人のうちの一人となり、雨合羽でとぼとぼ歩く。
 人気のない横道は夕暮れの如く暗かった。隘路の所為もある。雨が降っている時にそんな所に好んで入り込む者など居ないだろう。
「君、」
 声が。
「――学校は?」
 世話を焼く。男の声だった。るり遥のそう大きくはない体躯を見て、学生と判断したのだろう。
 るり遥は足許をつと見下ろした。伸びた影が絶え間なく落ちる雨雫に歪みながらも、後ろの男の姿を映し出している。警察や補導の類では、ない。
 それで充分だ。
「行くように見える?」
 踵を軸にぐるりと身体の向きを変える。
 雨合羽の端から滴り落ちる水滴が、視界も世界も何もかもを邪魔していた。
「見えないな。ひとりかい?」
「ふたり居る様に見えるなら眼が悪すぎだなあ、それ」
 実際ふたり居るがここには居ない。勇気無しは向こうの向こう、そのバス停でぽつねん待ち惚けている筈だ。
 ポケットに入れた連絡機器のスイッチを、気取られぬ様にオンにする。
「――おっさん何? 補導? 学校にも親にも、連絡されんの困るんですけど」
 声を張る。こどもが威嚇する様に。ついでに布越しの連絡機器が、確実にこの声を拾い上げる様に。
 男はミッドナイト・ブルーの傘の下で柔和に笑った。
「気色悪」
 るり遥がつい呟く。
「そう怖がらなくても良いさ、」
 相手の耳には都合の良い何か別の単語になって届いたらしい。
「学校や家は嫌いか。居場所がない? それとも、ひとりで居るのが好きかい」
「だっせえ台詞回しだな、売れねえ脚本家か何かかお前。――……、」
 差し向けられた問い掛けに、けれどるり遥はうっすらした笑みと軽い悪態ばかりで真実をいらえる事はない。
 問答はるり遥にとって無意味だった。この男が――邪神の信徒のひとりだろう此れが、るり遥を持ち帰りさえすれば良い。
「もしも居場所が無いのなら、」
 男は満面の笑みだった。贄が増えた事に喜色を隠そうともしない――相対するその少年が、猟兵だとは夢にも思わない。
「僕と共にいこう。君をひとりにした世界なんか、置き去りにしてやれば良い」
 差し出されたその手を、躊躇う事なくるり遥は取る。
 雨合羽の下には思惑が滲む。口の端に上がる彩りの悪い笑みらしきものが、その片鱗だった。
「未練とか、ねえからさ」

成功 🔵​🔵​🔴​

境・花世
*WIZ

右目の花は眼帯の下
傘も差さずに雨に濡れて
路地裏、ひとりぼっち

風邪を引いても
林檎は剥いて貰えないし
わたしがいなくても
全然誰も哀しまない

こういうのって、
孤独っていうのかな
自由っていうのかな

近寄る影に向ける笑みが
淡く儚く見えるように
視線には催眠を一滴混ぜて

わたしを、連れてってくれるの
ねえ、どこへ? 何のために?
――ねえ、そうしたらもうさみしくない?

素直に手を取りついてったっていい
その時は猟兵の誰かに宛てて痕跡を残すよ
ひらひら、薄紅の花弁
こんな時に連絡する相手もいないのは、
演技じゃなくて、本当のこと

(正解は自由だと思うなあ)
(そのはずだけど、)(どうだろう?)

※アドリブ、絡み歓迎



●花
 大輪が咲けど、それが審らかにされる事はない。
 否、確かにそこに花は居るのだ――色彩鮮やかな人影が。
 雨中に佇む花はしとどに濡れそぼってそこに在る。境・花世は、己が輪郭を伝う雫を厭う様に緩くかぶりを振った。
 ビルとビルの隙間、道と道を繋ぐ路地裏には人影など在ろう筈もない。雨に慣れたこの街の人間たちは辟易して、雨曝しにならない様に屋根の下で難を逃れるばかりだ。
 視界の奥に色が咲く。雨に万物の輪郭が蕩け歪む向こうに、ダーク・グレイの傘が開かれている。
「おひとりで、どうなさったんですか?」
 花世に声を掛けたのは、線の細い男性だ。厚手のコートにデニムを履いた、どこにでも居る風体の。
 顔貌の整った彼は、心配げに眉尻を下げて花世に少しずつ歩み寄る。
 雨音が幾ら清廉にその気配を隠した所で、滲み出るものは猟兵に難なく伝わるだろう――贄を探し歩く、狂信者のそれを。
「――ねえ、」
 花世の唇から零れ落ちて紡がれるのは、儚く甘い声だった。
 取り残されたおんなを装う。彼へ向ける眼差しに一滴、交えるは催眠――容易い事だ。視線を絡め取って花世の側に引き寄せてしまえば、それで成る。
「……譬えばわたしが風邪を引いたとして、林檎を剥いてくれるひとなど居やしない」
 一歩。吸い込まれる様に、男のつま先がまた花世の方へ歩を進める。
「わたしがいなくても、全然誰も、哀しまない」
 何か触れがたいものに触れたがる様に男の指先が伸ばされる――が、それは空を掻く。今はまだ逃げる様に、花世は僅か後ろに身を引いた。
 艶やかに微笑む。情のいろが頬に散る。
「こういうのって、孤独っていうのかな。自由っていうのかな。……君には、わかる?」
「わかりますよ、」
 ――孤独と云うのだ。
 再び諦め難く伸ばされた手が、今度こそ遂に花世の細い手首を掴む。共にいきましょう。整った顔にどこか歪む儘戻らなくなった笑みを灯して、男は誘う。
 厭世の気配を纏って花世は眸を眇める。
「わたしを、連れてってくれるの」
「ええ。勿論です」
 謳う様な遣り取りが重なる。グレイの傘の下、花世はあえかに言葉を継いだ。
「――ねえ、そうしたらもうさみしくない?」
「約束しましょう」
 男の表情を窺う気はもう失せた。
 花世の指先から、その裾から、はらりと薄紅の花弁が散り落ちる――彼女が確かにここに居て、それからどこかへ連れられた真実を、ひととき、花弁は物語る。雄弁だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴァロ・タハティ
※喋らせないでください※

ぼろぼろで汚れたローブをきていくよ
とぼとぼうつむいて、しょぼくれた感じ、でてるかな?
家出したこどもって思ってもらえるかな?
雨ざらしのまま、学校地区の河川敷へ
話しかけやすそうでかつ拓けてて目につきやすい場所をあるくよ

声をかけられたら
濡れたノート切れ端に文字をかいて

"おかあさんもおとうさんもいなくなっちゃった"
"まってて っていったんた。むかえにくるって"
"でも、どれだけまっても、こないんだ"

もうつかれたよ、とばかりにしゃがみこんで

"どこにいくの?" "そこはなにをするところ?"
"もう、ひとりで待たなくてもいいんだよね?"

連れていってもらえそうなら
ボク、そのままついていくね



●こども
 薄汚れた格好で雨の中をとぼとぼそぞろ歩く、そんなこどもが居て声を掛けないおとなもそう居ないだろう。
 但し気を付けねばならない――その中には邪な思惑を持つ者だって決して少なくはないのだから。
「坊や、大丈夫?」
 ヴァロ・タハティに声を掛けたふくよかな中年の女性も、そのひとりに相違ない。上っ面ばかりは心配げに柔らかな微笑みを浮かべてはいるが、仮面を剥げばどうせ鬼だ。
 どうやら市内にある廃ビルに行方不明者たちが集められているらしいと、仲間の猟兵たちから得られる情報を縒り合わせればそう繋がる――人身御供として彼らを、贄を集めた狂信者たちの、そのひとり。
 声を掛けられ、ヴァロは携えていたノートを辿々しい手付きでひらく。濡れた頁に、少しずつ文字が書き綴られた。
『おかあさんも、おとうさんも、いなくなっちゃった』
 いちど手を止めたヴァロが、所在なく視線をいちど女性に投げ上げる。すぐに悄気げた様に顔は俯けられ、ノートに続きが加えられた。
『まってて、っていったんた。むかえにくるって』
『でも、どれだけまっても、こないんだ』
 一生懸命にちいさな手が綴る文字を、口許に手を宛てた女性が不憫そうに見下ろす。そうして自分の差す傘を、そっとヴァロへと傾けた。
 雨の遮られたまるい影の下、ヴァロが力なくしゃがみこむ。歩き疲れたこどもが、不意にそうしてしまう様に。
 ――この女性が、確実にヴァロを件の廃ビルへと連れて行く様、仕向ける為に。
「なら、おばちゃんと一緒に来ない? アナタみたいなお友達が他にも居るの。皆で居られる場所があるのよ」
 甘やかす如くに差し伸べられる手と声は、紛れもない罠だ。ちいさなこどもなら、他愛なく堕ちてしまうだろう。
 けれどヴァロは、自らそれを掴み取りに来たのだ。故に迷う事はない。
『どこにいくの? そこはなにをするところ?』
 釣られる様に尋ねる。女性は大らかに首肯しながら、もう少し向こうの方よ、皆で過ごす為の場所なの、等と実態の掴めない事ばかりを口にするだろう。
 ヴァロの震える手が――そっと、もうひとつを書き添える。
『もう、ひとりで待たなくてもいいんだよね?』
「ええ、そうよ。アナタはひとりなんかじゃないわ」
 猫撫で声で返る言葉に、うんうん、とヴァロが肯く。
 さあ行きましょう、と促されて歩き出すその背中にふと回されたヴァロの片手が、ぐっと器用にサムズアップを掲げてみせた。
 ナイス、ボク。

成功 🔵​🔵​🔴​

木目・一葉
では仕事に取り掛かろう
「幸いだな
僕は友達が少ないし、一人暮らし
この件には向いているだろう」

【WIZ】被害者に似た境遇を装い、接触してくる人物から情報を集める

送ってもらう先は雨宿市の学校の多い地区
向かう先は、僕と同様に友達の少ない下宿生の下宿場近くの公園
「自分で友達が少ないと自覚してながら、それを幸いという自分も間抜けだな。自分は何を言ってるのか……。」
くたびれた学生服を着て、ベンチで疲れた様子で座っていればよいだろう
接触してきた人物がいたら、このコミュ力で以下の情報をとる
①なぜこんな僕に声をかけたの?
②どこかに人が集まる場所はない?
③貴方は何をしている人なの?
④心の拠り所となるよなモノはない?



●下宿生
「幸いだな、」
 小道具ついでと買い求めた暖かなコーンポタージュの缶で指先の暖を取りながら、木目・一葉は雨中に独りごちる。
 友達が少ない上に一人暮らし――この件には向いている。
「……――いや、何を言っているのか……」
 それを自覚してしまうのも何だか違う気がして、一葉はそばかすの彩る鼻先を擦って感情ごと誤魔化してしまう。
 止まない雨と学生街、公園の煤けたベンチに腰掛ける学生姿の自分。構築したシチュエーションとして、とても良く出来ている。
 故に、控えめな所作で話し掛けてきた女性が居た所で、それは一葉にとって想定内だ。フードの下から赤茶の眸を爛と覗かせ、迎え撃つ様に彼女を見遣る。
「おひとりですか?」
 見た目通りの穏やかな声だけ聴けば、彼女が贄を探して声を掛けているとは夢にも思わないだろう。ぞっとしないなと双眸を眇めて、一葉はフードを少しだけ目深に下げた。
「――なぜ、こんな僕に声を?」
 声色には不審さを滲ませる。初対面の相手に全てを明け透けに語ったところで、そう簡単に信頼を得られるものでもないと弁えていた。
「ひとりきりで、――なんだか放っておけなくて。ご迷惑でしたか?」
 尚も控えめに女性は語る。否定も肯定もひとまず横に置いておいて、一葉はふいと視線を逸した。作る表情が崩れるところを見られたくはなかった。
「……別に。――貴方は何をしている人なの?」
 問い掛けると共に、ちらと視線だけをくれて反応を窺う。
 女性は穏やかに微笑む姿勢を崩さぬ儘、すんなりと告げた。
「救済を」
「――、驕ってるなあ……」
 零す呟きは、きっと彼女には聞こえない。音にされたかも定かではないほどの声量で、一葉の唇のあわいに消えていった。
「おひとりで居るしかない若者に、新たな居場所を。必要とされる場所を」
「それを救済、と?」
「ご興味がお有りですか?」
 尋ねると尋ね返される。ちっとも崩れない微笑みの鉄仮面に心地悪さを感じて、一葉はほそく喉を上下させた。
 心の拠り所。問うた所でその救済へ誘導されるのだろう。用意していた質問を嚥下して、一葉は投げ出していた両脚を引き寄せて立ち上がる。
 雨がどんよりと降り続いている。
 どこへ逃げようとも、この街にいま蔓延る闇を払わない限り、雨が上がる場所などない様な気がした。
「まあね。必要とされる場所って、興味あるな」
 女はうっそり笑った。共を求める様に、その掌を差し伸べながら。

成功 🔵​🔵​🔴​

イア・エエングラ
【WIZ】ワンコインのビニール傘に灰のコートで下宿生は装えるかしら
冬の雨は冷たくて長く待っているには堪えるね

くるりくるり傘さして人気のない公園のブランコで待ち惚け
雨に遊ぶ人の声もなくて灰色の景色は寂しくて
音がないのはまるで水の底のよう
緩く息吐き指伸べて、そうねこんなに寂しいのなら
優しい声についていきたくなるのも道理かしら

もうねぇ、ずっと待っているの
目を閉じれば泡のような光が瞼の裏に蘇る
もうお声も届かないこの指では触れられない
僕も連れて行ってくれるかしら
――そうな、本分は忘れてはいないけれど
もしも本当に、本当ならば僕は、なんて
だからこそ利用しては騙してはいけないもの
本当に、縋りたいのだとしても



●幽霊
 ビニール傘には色も何も無いものだから、その下にあるものが丸見えだった。
 雨の雫を無遠慮に滴らせてばかりの透明なそれは、真下に抱えるものを――イア・エエングラを包み隠しやしないのだ。
 灰色コートの前を指先で手繰り寄せながら、イアは腰掛けたブランコをぎいぎい揺らす。雨が多い所為かすっかり錆び付いたそれは、宛ら現状を嘆く悲鳴の様に歪な鳴き声を吐き散らす。
 藍色が瞬いた。薄暗い雨中に夜の裾めく何かがコートの下に揺らめいて、イアは絶え間なく泣き濡れる空を傘越しに見上げる。
 外にある水底。戯れに指先を伸ばすも、そこに何か確かなものがある訳でもない。
「――優しい声についていきたくなるのも道理かしら、」
 こんなに寂しいのなら――、――緩慢な吐息は内包するものが多すぎる。
 靴裏が水を跳ねる音がした。
 引き摺られる様に、イアの眸がそちらを見遣る。穏やかな眼差しの、けれど年の頃がどうしても読めぬ男性が、曖昧な笑みで佇んでいた。
「やあ、何とも嬉しい事です。今日はとても捗りました。あなたで最後に致しましょう」
「……僕で最後にしてくれるの」
 ふと淡い笑みが、その唇の端に浮かぶ。
 そうして瞑目する――瞼の裏に弾けるのは泡のような光だ。
 ずっと待っている。もう声が届かずとも、この指で触れられずとも。
 憂えて慕って儚くその手を伸ばしたところで、どこにも届きやしないのだ。きっとそれは、この眼前の男にも薄々知られている事だろう。
「僕も連れて行ってくれるかしら」
「この世界を置き去りに?」
 笑うように男は謳う。その準備はきっと出来ていて、強引にイアを連れて行くのも叶うのだろう。けれどこれは、この男は、イアが堕ちてくるのを待っている。その本性が、猟兵だと云う事も知らぬ儘で。
 イアの表情が輪郭緩く揺れ動く。本分を忘れた訳ではない――ないけれど、でも。
 縋りたくなる気持ちがその幼い両手を心の柔い部分に掛けるのを、イアはそっと離してやる。
 見て見ぬふりと言い訳は、自分の為に他ならない。
「いまは、――置いていくよ」

 そうして猟兵たちは辿り着く。
 手に入れた情報により、そのビル――テナントが全て廃されて数年、何故か取り壊しも何も決まらないままで投げ棄てられていた『傘木ビル』へと至る者。
 或いは今まで行方を眩ませた者たちと同じ様に、信徒による導きを受けてここを暴いた者。
 陽は随分と傾いていた。いつもよりかは随分昏い、逢魔ヶ刻が街の端を侵食している。
 ――雨は、まだ、止まない。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『泥人』

POW   :    痛いのはやめてくださいぃ…………
見えない【透明な体組織 】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD   :    悪いことはダメです!!
【空回る正義感 】【空回る責任感】【悪人の嘘を真に受けた純粋さ】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ   :    誰か助けて!!
戦闘用の、自身と同じ強さの【お友達 】と【ご近所さん】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●それら
「――何、何なの!?」
 拠点を把握してしまえば、後はしおらしく潜んでいる必要もない。
 猟兵たちが各々得物を構えるのを見遣れば、新たな贄を連れて来たと思い込んでいた信徒たちは当然の如く狼狽し始める。
 廃ビルの中は薄暗い。降雨で天候が宜しくない所為も在るだろう。
 元は一般的なオフィスビルだった様だ――旧い為か、エレベーターは無い。ただし階段は少し大きめに造られており、複数人で上がっても余裕があるだろう。
 猟兵たちが雪崩込んだ一階のエントランス・フロアはがらんとして、見張りと思しき信徒が複数名居るだけだ。とは言え予期せぬ猟兵たちの襲来に右往左往するばかりで、とても戦闘が出来るとは思えない。
 ――猟兵たちは迷わず階段を駆け上る。或いは窓から。または、別の手段で。拐われた者たちを助け出さねばならない。
 だが、登るにつれ奇妙な事に気付くだろう。
 ――見張りらしい見張りがまるで居ない。
 いても一人でぼんやりスマートフォンを弄っている様な手合ばかりで、とても荒事に対応出来るとは思えない。
 ならば誘拐された者たちは、意識を奪われ監禁されているのだろうか。
 否、否、それもまた違うのだ。
『や、や、やめてください……!』
 殆ど無人の二階を通り抜け、三階に辿り着いた猟兵たちを待ち構えていたのは――人間の少女そっくりに擬態した泥人たちが、両腕を広げて何かを庇う様子だった。
「――……、」
 先行していた猟兵のひとりが、何かを言いたげに唇を噛む。
 不安そうな顔をした、素行の悪そうな金髪茶髪の少年少女。
 困惑した眼の色をした、窶れた風体のサラリーマン。――他にも、恐らく『そう』だろう顔ぶれが幾つもある。
 そう、泥人たちの背に庇われていた何かこそ、この雨宿市で続いていた行方不明者たちに違いなかった。

 誰かが悪態をつく。理解をした誰かだった。
 教団は恐らく、年端もいかない少女の姿をした穏やかな泥人たちを、贄の見張りや世話役に宛てていたのだろう。
 贄を使って邪神を呼び醒ました後は、空腹のそれの餌として泥人を捧げば良い――無駄の無い、効率的な話だ。教団の手をそう煩わせる事も無いだろう。
『ひ、ひどいこと、しないで……!』
 泥人たちは勇気を持って立ち上がる。
 自分たちを害しに来た猟兵を排除する為に。狭く暗く穏やかに築き上げた虚構の空間を、護り抜く為に。

 グリモアを操る虎色のおんなは言った筈だ。
 ――おまえたちは猟兵だと。おまえたちが正しいのだと。
 故に臆する事なく、躊躇いを抱かず為すべきだ。身を挺して『仲間』を庇おうとする泥人たちを討伐し、彼女らに護られながら不安そうにこちらを覗く民間人の救出を。
松本・るり遥
ど畜生。あああ"あ"あ"あ"

泥人達の前で土下座する
額を床につけ、冷たさを身に浴びて。
床を伝い、声がフロア中に響く。

『ごめん、ごめん、ごめん、ごめん!!!!!俺はお前らの事傷付けたくない、戦えない、出来ない、みっともない!!!!ただの女の子を倒す事なんて出来るもんかよ!!!ごめん、だめだ、笑ってくれ、だって普通の。女の子じゃねえか!!!!!』

感情の限り叫んだら。変な男の子だと、怖がりながらも、少しでも嗤ってくれるかな。
インパーフェクト。成立だ。少女らをマヒが襲うだろう。
庇われている中にいる『未練のない俺』が、動けない彼女らを、殺してくれる筈だから。

酷い顔だ?
お前は、悪魔みたいな顔してるよ。


ジン・エラー
オレたちが正しい?
正誤に興味なンざねェーっつゥーの
オレはただ、救うだけだ

はァ~~~い生贄だった皆さァ~~ン♪
救いに来てやったぜェ~~~♪

おうおう落ち着けよ女ァ
とりあえず簡単な質問に答えてくれや

お前は死にたいか?生きたいか?
生きてェーなら、"ひどいこと"はしねェー
けどそこの生贄は貰っていくぜ

どちらにせよ、お前らを縛ってるクソ邪神はブッ潰してやるからよ
それでお前らは救われるだろ?
今すぐ、ここで【オレの救い】を見せてやってもいいけどな

証拠?ならオレの【光】でやられたお仲間サンを救ってやるよ
あァ、約束だ


お前らも救ってやるとも



●聖者と愚者
 ジン・エラーは嗤う。歪なジッパーの向こうが笑む様に崩れる様は、けれど誰にも見えやしない。
 誰かの語る正誤になんざ興味はない。
 ――オレはただ、救うだけだ。
「はァ~~~い生贄だった皆さァ~~ン♪」
 ぴんと張り詰めた線を無遠慮に切る如くに声が投げられる。賽だった。
「救いに来てやったぜェ~~~♪」
 その機嫌の良い猫撫で声はこの場に於いては異質でしかない。彼の在り様もまた異質であるのと同じ事だ。
 雨降る音を蹴散らす靴裏が水溜りを跳ね上げる。泥の様な肌に爛と煌めく桃と金が、身構える泥人たちを睨めた。
 つと彼がまた息を吸って――けれど、それが言葉を為す事はない。
「――ごめん、ごめん、ごめん、ごめん!!!!!」
 派手な水音とほぼ同時に、別な震えた声が空気を打つ。
 埃混じりの水溜りに膝を付き、泥水を跳ね上げ額を擦り付け、裾が黒く汚れに染まるのも厭わぬ様子で土下座する、それは松本・るり遥と云う。
 それを見遣ってジンはぐるりと視線を投げ上げた。破裂する如くに哄笑する。
「ぶァ、ァははっはハハハハハ!! まァ~~~~じかよそれェ~~~~!!」
「うるせえ黙ってろ!」
 額を付けたままるり遥が吼える。老朽化したビル内は雨漏りが酷い。べたりと地に伏せた躰を雨粒が重く這うのに、そう時間は掛からない。
 るり遥の一喝にもジンに臆する様子は微塵ですら無かったが、ぅくく、と品無く笑い声を零し続ける口許を態とらしく手で覆った。
 マナーだ。眼の前の愉しいショウを観る為の。
「俺はお前らの事傷付けたくない、戦えない、出来ない、みっともない!!!!」
 冷ややな、或いは困惑した視線を投げ付けてくる泥人たちに土下座を貫いた儘、叫声を次ぐ彼は松本・るり遥と云う。
「ただの女の子を倒す事なんて出来るもんかよ!!!」
 彼には勇気がなかった。
「ごめん、だめだ、笑ってくれ、だって普通の、」
 彼にはもうひとりが居た。
「――女の子じゃねえか!!!!!」
 もうひとりには未練がなく――未練がない故に、一足先に既に教団に導かれ、人身御供の贄としてここに居た。
 泥人の誰かがくすりと笑う。異質なものふたりの組み合わせにか、それともこの滑稽な言動にか、――それがトリガーとも知らぬが故に。
『あっ、ア、ひ、……いや、いやぁ……!』
 言葉には麻痺が宿る。遅効性の毒の如くに、それを嗤って掛かる者に牙を剥く。
 嗤った幾人かの泥人が、動けない事に気付いた所でもう遅い。
 居並ぶその頸が綺麗に揃って跳ね飛ばされ――溶け落ちるその骸の後ろからのっそり姿を現す雨合羽に、ジンは指笛を鳴らして囃し立てた。何なら拍手だって添えてやろう。
「茶番は終わりましたかねェ、もうおっ始めちゃってイイ?」
 ジンの声にるり遥は視線でいらえる。未練なしの雨合羽の方が。
 そうして未練なしは、土下座から半ば頭を擡げた体の勇気なしを見下ろした。
「酷い顔」
 穏やかに笑んで囁く未練のないるり遥を吐きそうな顔で睨め上げてから、勇気のないるり遥はコンクリートの床に爪を立てた。
「お前は、悪魔みたいな顔してるよ」
 すらりとした脚で大股に歩みながらジンが笑う。
「どっちも面白ェツラだわエンターテイメントだよ。――さァて、」
 立ち止まり、そうして視線がずるりと這う――斃れた仲間たちを青褪めた顔で眺め、こちらを威嚇する泥人の群れ。
「お前は死にたいか? 生きたいか?」
『や、……い、いや……ひどいことしないで、……かえって……!』
 問われた泥人は質問の意図を巧く理解はしないだろう。与えられている命令は贄たちの世話と、逃さない為の監視だ。
 人間を模した、紛い物ですらない何かに、ひとの言葉は通じない。
 くく、とまたジンは笑う。その笑い方の名残で肩が、指先が、眦が揺れる――それでもその色違いの眸の奥に宿るものの本質は揺らがない。
「生きてェーなら、『ひどいこと』はしねェー。けどそこの生贄は貰っていくぜ」
 ジン・エラーは救う者だ。
 彼の身体から、暗がりを掃き清める様な光が滲む。
「どちらにせよ、お前らを縛ってるクソ邪神はブッ潰してやるからよ――」
 救いを。與える。
 潰えたばかりの泥人の一体が、光を浴びて復元される――但しそれははっきりと形を為さぬ儘、また頸を飛ばされ堕ちてゆく。そんな事は、未練のないるり遥にしか出来やしない。
「悪趣味、」
 囁く。さてそれはどちらのるり遥だったろう。
 緩く掲げていた手をひらりと下ろして、ジンは明るく言葉を継いだ。
「――あァ、約束だ。それでお前らは救われるだろ?」
 救いの形ほどいびつなものも無いだろう。語り騙る者に拠ってそれらすべては同一でなく、ここで救いを述べるのはジンだった。
 にい、と笑うかたちで表情が崩れる――その半分はマスクに覆われ見えねども、嗤っている事だけは確かだった。
「お前らも救ってやるとも」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

数宮・多喜
【アドリブ改変大歓迎】

…ッチ。屋内も湿気ッてら。
胸糞悪い話だぜ…
言葉どころか心まで通じそうな奴が相手なんて…ん?
そうだよ、話をすればいいんじゃねぇか。
(コミュ力)活用で泥人達に問いかけるよ。
「あんた達、彼らがどうなるのか分かってるのか?」
「その後、あんた達もどうなるか分かってるのか?」
「ほかの在り方を考えた事はないのか?」
「死ぬのは怖くないのか?生きたいと思わないのか…?」
もし泥人達から「生きたい」という意思が出たなら
ここは戦場じゃないんじゃないかな。
「教団に誘拐された民間人と、
騙されて利用されていた友好的UDCの集団」
の救出現場になるだろうから。

…もし話が平行線になったら、無力化にとどめる。


木目・一葉
なんと胸糞の悪い展開か――
だが意思の確認はする
「泥人よ
このままではその人達はもっと酷い目に遭う
助けたいのなら、今すぐ彼らを帰してくれ」
承諾すれば良し、拒否された場合は気持ちを切り替えて戦う

戦闘の注意点は救出対象の人から妨害行為を受ける事
ゆえに彼らの神経を逆撫でする発言は慎み、また泥人と彼らの距離が離れるよう戦闘する
主に影人の縫い針(影の追跡者から飛び出す縫い針)で泥人のユーベルコードを封印していく

僕は思う
自身を本当に助けられるのは、自分自身だけだ
周囲にできるのは、背中を押すことと涙を受け止めることだけ
簡単に人を救うと口にするのは、助けられない自分への慰め行為だ
これを仕組んだ連中を、僕は許さない



●虫唾の走る
 綻んだ天井から滴る雫は、室内に饐えた匂いを連れて来る。錆びを含む汚水は見るからに害を及ぼすもので、つまりこの部屋に長く贄を留めておく気も無かったのだろう。
 小さく舌打ちを零して数宮・多喜は一歩を踏み出す。既に開かれた戦端がそこに横たわる――けれど彼女は、対話に臨む。
 胸糞悪い話だ――嗚呼、本当に!
「あんた達、彼らがどうなるのか分かってるのか?」
 持ち前の交渉能力は、その声に凛と筋を通して意志を持たせる。
 今にも飛び掛からんとしていた泥人は、多喜の声に含まれる色が戦闘のそれではない事に気付いたのだろう。訝しげに窺おうとする。
「その後、あんた達もどうなるか分かってるのか?」
『私達は言われました』
 泥人のどれかが声を上げる。ひとの真似をしたにすぎないその返答は、輪郭の歪んだ不明瞭な声は、さぞ耳に障るだろう。
『この人間たちを護り抜き、決して外から来た悪人に渡してはならないと』
 それが果たさねばならない誓いなのだとでも言いたげに。
 歯痒い思いが多喜の胸中を満たす。きっともう、この命令は書き換える事など出来ないのだ。泥人たちを動かす為の命令は、それらが潰えるまで失われる事はない。既に彼女らは騙され切っていた。
 けれどそれを理解はすれども納得は出来ない。多喜は尚も言葉を重ねる。
「ほかの在り方を考えた事はないのか?」
 問い掛けるべきだと思った。応えを待ちたかった。そうせねば他の誰でもない自分が、自分自身を赦せない気がした。
「死ぬのは怖くないのか? 生きたいと思わないのか……?」
『悪人の甘言には、騙されません……!』
 泥人のどれかがまた、悲壮な色合いの声で応える。
 使い捨てられようとしている自らを憂いている訳ではない。
 尚も自分たちを騙そうと言葉を出鱈目に並べ立てているだけに違いない、猟兵たちを――憂いていた。
「――ッ、」
 唇を強く噛み締める。多喜の握り込む指先が、ぐっとその掌に食い込んで傷跡を創る――けれど、それに寄り添う様に歩み出る影が在った。
 少女だった。
「このままではその人達はもっと酷い目に遭う」
 泥人に真っ直ぐ投げかける声は木目・一葉のものだ。
 割れた窓硝子から忍び寄る逢魔ヶ刻が、一葉のロングコートの色を黒く染め上げている。感傷的な夕焼けなど何処にもない。
 ただ、雨が降っている。
「助けたいのなら、今すぐ彼らを帰してくれ」
 滾々と説くが、それが効果を為さない事は誰の眼にもすぐに解っただろう。
『そうやって、彼らをまた悲しい場所へと連れ戻すんでしょう……!?』
 震える声で返す泥人が、慟哭する如くに嘆き嘶く――喚び出される。ひとのかたちをしたなにかが。
「嗚呼、」
 一葉が嘆息する。
 否、多喜だったかもしれなかった。或いは彼女ふたりの。
「駄目だな」
 切り替える様に一葉はちいさく呟いた。
 彼女の足許、闇と影との境目からずるりと獣が頭を擡げる。影色の獣は迅速に地を蹴り泥人へと駆け、嘆く彼女に飛び掛かる。
 放たれるは針だった。今まさに発動されようとしていた召喚を、それを阻止すべく縫い止めてしまう。
『させません、させません、――絶対に!』
 輪転する。けれどそれらはどうしようもなく空回りだ。その正義感も、責任感も。
 要は仕込まれたお仕着せの建前だ。信徒たちから念入りに植え付けられた彼女らの寄す処、その嘘が。
 それらを軸に自らをまたひとつ上へ引き上げようとするのを、迅速に飛び出した多喜が防ぐように飛び付き組み伏せる。
「――あたし達にこんな事、させんなっての」
 多喜が選んだのは泥人たちの無力化だ。喩えこの後すべてが討伐されようとも――自分が相対する、その時限りは。
 唸る様に零すその言葉を、傍らに居た一葉だけが聞いていた。彼女もまた、泥人たちの手段を封じる事での無力化を選ぶ――自身に出来る、最良を。
 最優ではないのかもしれない。けれど、それでも。
「……自身を本当に助けられるのは、自分自身だけだ」
 誰に語る訳でもない。ただ訥々紡がれる一葉の声は、それでも――眼前で縮こまる贄のなかの誰かには、届くのかもしれない。
「周囲にできるのは、背中を押すことと涙を受け止めることだけ」
 彼女の針が僅かな灯りを犀利に拾って煌めく。いや、と悲鳴を上げた泥人の身体が水溜りに縫い留められる。
「簡単に人を救うと口にするのは、助けられない自分への慰め行為だ」
 ――これを仕組んだ連中を、僕は許さない。
 言葉よりも雄弁に、少女の双眸は欄と赫く。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

マディソン・マクナマス
景気づけにバーボンを一気飲み。酒の勢いに頼って冷酷で残忍な傭兵を演じ、嗤いながら敵を【恫喝】。心底愉快そうに、心底不愉快に。

「こちとらあっちゃこっちゃの紛争に顔出しちゃあ、上官様のご命令で民間人でも捕虜でもぶち殺してきたさ。傭兵万歳ってな。銃口の前に立ってる以上お前さん達は敵なんだよ、だからあれだ、死ね」

民間人が勝手に動いて巻き込まれる事を危惧。【フラッシュバン】と【スモークグレネード】で民間人を気絶&戦闘を見せない様にし、【二回攻撃】で泥人にも両グレネードを投擲。
対UDC軽機関銃の【追加のフルオート射撃】で敵の命中率を下げ、攻撃を躱しやすくしながら、強化された敵が毒や流血で死ぬのを待つ。


トジコ・イリングワース
健気で頑張り屋の泥人形さんネ。
でもワタシ猟兵だかラ、民間人は連れて帰らなきゃいけないノ。
ワタシサイボーグだかラ、アナタ達の考えてる事わからないノ。

ユーベルコード『ジャッジメント・クルセイド』を主な攻撃手段として使用。民間人に当たらないようにしっかり泥人を狙っていくアル。相手からの攻撃は「見切り」でかわすのが一番だけド、避けきれないなら多少当たっても良いワ。ワタシ普通よりずっと頑丈だもノ。
泥人を倒す手が足りてるなら民間人の救出にあたるけド、大人しく救出されてくれるかしラ。拒むかも知れないアルネ。その時は無理にでも連れて行きまショ。
ワタシサイボーグ、人間の気持ちなんてわからないアル。

アドリブ歓迎。



●為すべきこと
 その猫の毛並みは随分草臥れていた。
 自慢のオレンジ色はすっかり艶を喪って、そんな彼がバーボンの小瓶を呷るものだから、否が応でも視線で追いかけてしまう者は少なくない。
「――ハハ、」
 猫は――マディソン・マクナマスは笑う。酒焼けした嗄声に、泥人の視線が彼を向いた。
 ジャケットの裾を引き摺り、マディソンは彼女らを睨め付ける。
「こちとらあっちゃこっちゃの紛争に顔出しちゃあ、上官様のご命令で民間人でも捕虜でもぶち殺してきたさ――傭兵万歳ってな、」
 それは心底愉快そうな声で、心底不愉快そうに紡がれる。地の底を震わす様な破鐘の如きその声は、恫喝と呼ぶに他ならない。泥人のひとつが、びくんと肩を竦ませる。
 マディソンがジャケットの裾を払う。背負い直された得物の銃口が、襤褸の蛍光灯が明滅するのを受けてぎらりと目を醒ました。
「銃口の前に立ってる以上お前さん達は敵なんだよ、だからあれだ――死ね」
『やっぱり、外から来るのは悪者ばっかりなんだ!』
 死ね、と端的に向けられた言葉に泥人たちが奮い立つ。
 が、挑発したマディソン自身はまだその銃口を構えない。まずは彼女らの後ろに護られる、贄――民間人への対応が先だ。それが彼の判断だった。
「この先、アンタらにゃあ、ちいっと刺激が強いからな」
 呟くと共に、マディソンの手が器用にフラッシュバンとスモークグレネードを扱う。派手な光と音は贄たちから暫しの間、五感の一部を拭い去るだろう。目を回して気絶をしてしまった者も居るが、まあ、保護されている事に変わりはない。
 鮮やかな手付きで再び取り出されるそれらは、今度こそ泥人に投げ付けられる。
「よッ、と」
 もう一度音と光の煙幕に隠れ、マディソンは背負っていた機関銃を構えた――が、それよりも極僅か、泥人の方が早い。
 空転する正義と責任は、彼女らに何よりも強い力を齎す。たちの悪い純粋さが、それに拍車を掛けている。
 自らを苛む毒に時折喀血しながらも、泥人は躊躇う事なくマディソンに肉薄し拳を振り上げた――が、それは彼には届かない。
「結構すばしっこいアル、この泥人形」
 重い衝撃音が散り落ちる。
 高く掲げた脚でそれを受け止め弾く少女が黒髪を揺らす。トジコ・イリングワースが、その間合いを制していた。
「助かった、嬢ちゃん」
「お互い様アル。アナタのお陰で民間人の救出しやすくなったネ」
 そうしてトジコはつとその赤く艷やかな双眸を眇めた。相対する泥人たちを視線で嘗めて、嫣然と笑む。
「健気で頑張り屋の泥人形さんネ」
 空を撫でる様に、そっとその指先が擡げられる。――あれだ、とトジコの指先が泥人のひとつを定めた。的であれと、そう決めた。
 故にそこに、天より光が降り下るのだ。
「でもワタシ猟兵だかラ、民間人は連れて帰らなきゃいけないノ。……ああ後、ついでニ」
『ぃ、やぁ、あぁぁああぁ、痛い、痛いよう……!!』
 光に焼かれた泥人が、断末魔を上げて焼き切れる。
 その光景を目の当たりにした別の泥人が、ひっ、と引き攣れたような悲鳴を喉奥で殺した。
「ワタシサイボーグだかラ、アナタ達の考えてる事わからないノ」
 軽やかなトジコの声色は、泥人の恐怖を煽るには充分だったろう。
 泥人は嘆く。慟哭する。呼び立てるのだ――隣人を、力を貸してくれる仲間の存在を。
『――ァ、アァァア、たすけて、たすけてえ――……!』
 ずるりと水溜りから這い出る様に顕れる新手二体は戦闘に特化した個体だ。
 俊敏に襲い掛かってくる泥人たちに、トジコの柔肌が割かれて鮮血が咲く。皮膚を走る鋭い痛みに、彼女は思い切り顔を顰めた。
「あン、もウ!」
 次の獲物を示す指先に躊躇はない。蹲って震えるこの二体の召喚主を指し示す――光がそこへ、轟き落ちた。
 喚び手が喪われた事で、トジコに傷を付けた二体も道理の如く消えてゆく。
 けれどまだ泥人たちが尽きる事はない――怯えながらも、竦みながらも立ち向かう事を止めない泥人たちを見遣ってから、トジコはちいさく息を吐いた。
「ほんと、わからないアル」

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

古高・花鳥
わたし達はあなた方を迎えに来ました
どうか、どうか信じてください
本当に生きるべき世界へ、救いに来たんです……

戦闘技能は「先制攻撃」と「かばう」ことを頭に置き「見切り」もして「捨て身の一撃」も考えます
【居合域】は迎撃のために展開します
わたしだけでなく、皆さんに対する攻撃を斬り落とします
ただ、領域の範囲は狭いです
前線に出た上で、抜け目なく駆け回ります
それから、とどめは必ず急所を狙って、【月下抜刀流・花鳥一閃】の一太刀

……利用されているのだとしても、正義と覚悟を持って挑んでくるのであれば、決して臆せず、情けもかけず、真っ正面から。
わたし達も本気の覚悟で参らねばならないのだと、わたしは信じています


境・花世
健気ないきものを前にして、
口のなかで小さく呟く“偽葬”

『ああ可哀想に、なんてこと
こんなに優しいきみたちを
倒さないといけないなんて!』

心にもない台詞にじわり滲む毒は
けれどこの躰を甘く酔わせ動かしてゆく
仲間が攻撃を担ってくれるなら、
早業で素早く敵の間を縫って駆けて
ひとりぼっちだった人々の元へ

全部終わるまで、眠っておいで
そう、催眠入りの優しげな声音で囁きかける

わたしは彼女らを潰すのに
ほんとうは少しも躊躇いはしないけど
自分を守ろうとする背中なんて、きっと、
あの静かな空白を埋めてしまうだろうから

お別れはどうか、目に映さないままで
何もかも知らないうちに救い出そう

――雨の匂いがする、まだ、止まないでいる


イア・エエングラ
あらあら勇敢
そんなに怖いのなら、逃げてしまえば良かったのにねえ
此処へ来たのだもの。逃げる人も、いないでしょうに
これでは僕ら、悪者ね
気の利いた科白も思い浮かばないかしら

僕もお友達なら呼べるのよ
招くリザレクト・オブリビオンはやはり悪者みたいね
僕は動けないから協力して狙おうな
迷うことなく、本体を
灰は灰へ塵は塵へ、泥は泥へと、かえるのかしら
溢しかけた言葉は呑みこんで為すべきを
一度崩れて毀れたものはもう戻りはしないもの
あの子らと引き換えるおつもりだったの
この舞台をご用意した方は随分と意地が悪いとは思わない?

まだ、ゆくわけにはいかないの
まだ、此方の岸にいるのだもの
あの傘は、どこへ置いてきてしまったかしら



●烟る雨
「――わたし達はあなた方を迎えに来ました」
 穏やかな声色がひとつ、染み落ちる。
 言葉と共に、鯉口を切る音が混じる。それは決して穏やかでない象徴めいたものの筈なのに、なぜだかどうしたって優しかった。
 どうか信じて下さい――古高・花鳥は、祈る様に声を織る。
「本当に生きるべき世界へ、救いに来たんです……」
 救いの真意を、その言葉が内包するものを、花鳥はけれど口にはしない。己が心に指針として秘める、それだけで充分だ。
 彼女のかんばせの、その双眸が緩く伏せられる。呼吸を整え集中すると共、そこには彼女の領域が張り巡らされる――その刀の切っ先の、届く範囲が彼女のものだ。
 彼女の護るべき距離だ。
『そうやって、私達を惑わせようとして……!』
 猛る泥人の一体が、再び虚空を仰いで叫声を上げようとする。仲間を呼び立てる為のそれは、けれど為される事はない――花鳥の方が、先んじている。
 抜刀術は彼女の嗜む最たるものだ。音なく抜かれたその剣に斬られた事など、泥人に理解出来よう筈もない。
 動きを止めた泥人を、花鳥がひたと視線で射止める。
「――月下抜刀、一の太刀」
 突進と共に放たれる斬撃は、大輪の花が咲き綻ぶが如し優美さでそこに在った。
 花鳥が前線で攻撃を担う隙に、乱戦の隙間を縫って動く影もまた、在る。
「『ああ可哀想に、なんてこと』」
 境・花世のそれは毒である。
「『こんなに優しいきみたちを、倒さないといけないなんて!』」
 心にもないそんな台詞は偽りと呼ぶ他ない。
 それでもそれは甘美な毒となり、唱えた傍から血潮に混じって身体を甘く酔わせてゆくのだ――駆けろ、駆けろ、自分をひとりぼっちだと驕った贄たちの許へ。
 他の猟兵の手により既に気を失わされたもの、視界を暫しの間封じられた者も疎らに居る。けれどそれは全てではない。
 眼前の光景に怯え震え、動けない者がまだ複数、そこに居た。
「――あ、あんたは、……助けに来てくれたのか、それとも、」
 草臥れたスーツの男が花世を見上げて問い掛ける。
 花世は艶やかに微笑んだ。何の衒いなく美しいその百花の微笑みに、男は見惚れる様に呆けて口を開けた。
 片眼の花は見えねども、花世がそうである事に違いはない。
「君は何を助けと呼ぶのかな、――君たちを護ろうとする、あの健気な背中を? それともそれを誅しに来た、君たちを外に連れ戻そうとするわたしたちを?」
 語り掛けると共に、男の瞼がとろりと落ちる。抗える事も無いだろう。催眠混じりの声色は束の間の眠りを誘う様に、彼ら彼女らの耳朶を甘く食んでいる。
 ――全部終わるまで、眠っておいで。
『ッ、そのひとたちから、離れて……!』
 勇気を奮い立たせる声がする。花世の接近を許した事に漸く気付いた泥人が、その身を蕩かし弾丸と変えながら猛然と駆けてくる。
「あらあら勇敢、」
 夢見る声がそれを謳う。イア・エエングラの喚び出す騎士と蛇竜とが、躊躇いなく駆ける泥人の身体を目掛けて穿つ――他愛もない。胴体が千切れて色を失い、その個体が消えてゆく。
 ――そんなに怖いのなら、逃げてしまえば良かったのに。
 死霊たちを従えるが為に動けぬも、泰然と構えたイアが夜になりゆく夕闇に語る。
「これでは僕ら、悪者ね。……気の利いた科白も思い浮かばないかしら」
 水底めく藍色がいちど、厭う様に伏せられる――次にひらけばくるりと泥人たちを振り返った。
 無粋な指示を口にする事はない。ただ滑る様に指先が泳いで、あれだと泥人を指し示す。
 騎士と蛇竜とが二体揃って従順に奔る。けれど彼らの、『友達』の見目は矢張り悪者めいている――ふ、とイアの口端に滲む笑みは諦念だ。少なくとも、これに関しては。
「灰は灰へ塵は塵へ、泥は泥へと、かえるのかしら」
 それを考えた所で詮無い事だ。イアはそれを理解すれど、けれどどうしたって唇を割って綻んでくる。
 心の底が波立っている。胸の上から撫でてそれを諌めながら、操る二体に次を屠れと指先を閃かせた。
「一度崩れて毀れたものは、もう戻りはしないもの」
 まだ、ゆくわけにはいかない。まだ、此方の岸にいるのだ。傘の行方を気にすれど、この場にない指標は何の助けにもなりはしない。
 独りごちるイアの傍らに、いちど引き上げてきた花世がそっと佇む。
 躊躇いはないのだと彼女は囁く。泥人たちを、彼女らを潰すのに、躊躇いなどしないのだけれど、でも――。
 イアはふと微かに笑った。そうしたと気付かれない程度のささやかさで。
「この舞台をご用意した方は、随分と意地が悪いとは思わない?」
 花世もまた、いらえる代わりに笑うのだ。言葉にもならない曖昧な笑みはこの場だからこそかもしれない――思惑と躊躇とちっぽけな勇気が満たす、この雨降りの日だからこそ。
 はっきりとした言葉でそれを斬る事など、少なくともこの場に居る者には出来なかった。
「お別れはどうか、目に映さないままで。……何もかも知らないうちに救い出そう」
 半ば自らに言い聞かせる様にして、花世が零す。
 それでも知り得てしまう事を留め切るのはきっと、難しい。心構えはでも、そこにそうして咲いている。
 きん、と澄んだ音のする――側近くに、花鳥もまた舞い戻る。
 彼女もまた戦場を見遣って声を漏らす。
「……利用されているのだとしても、正義と覚悟を持って挑んでくるのであれば、」
 決して臆せず、情けもかけず、真っ正面から。
 誰の物言いも、決してはっきりとは言い難い。雨が降り続く所為なのだろう。終わればきっと雨は上がるし、割り切れるものが残る筈だ。それが良い。
 乱戦はまだ続く――雨もまた、止む事はない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

終夜・凛是
あー……そういう、うん。そっか。
居心地が良い場所からは、出たくないだろうけど。
でも俺は、ソレを壊して、暴いて。あんたら連れ出すのが仕事。
あんたたちは、そこで。ソレに守られて、幸せ?
贄になるのが幸せだって本当に思ってるなら――悪いケド。
挫くから、離れるなら今の内。

泥人はまがいもの。
それがナニにもなれないものだってわかる。いや、餌にはなるんだっけ。
見えない攻撃きても臆せず、まっすぐ向かう。
目の前の泥人を懐踏み込んで拳で穿つだけ。

ほんとに痛くて、痛いって言うなら、もっと心に響くだろ。
全然響かねぇ。何喚かれても俺は、揺れない。
お前がにぃちゃんの姿してたら、さすがにどうか、わかんなかったけど。


彩瑠・姫桜
泥人へは【咎力封じ】使用の上
ドラゴンランスで【串刺し】にするわ
対象の苦しみを軽減させるためにも
できる限り一撃で仕留めるわね



泥人達を見て思う
「あの時」と同じ

それでも絶望的な状況じゃない
今、「ここ」には助けられる人達がこんなにも居る

だから私は「悪」になるわ
「ひとごろし」でも、憎まれてもいい
私にとっての「最良」を目指してみせる



>民間人へ
確かに現実は「ここ」みたいに優しくもない
世界は残酷で、あなた達をいとも簡単に置き去りにする
それでも
私は、あなた達に現実を、世界を見てほしいわ

私に怒りを覚えるなら、憎むならそれでもいい
私に攻撃したいならしてみなさいよ
そうやって、現実に、世界に立ち向かってみなさいよ!



●雨音喝采
 嗚呼、『あの時』と同じだ。
 彩瑠・姫桜の喉が薄く鳴る。
「それでも、絶望的な状況じゃない」
 凛と声にしたのは鼓舞のそれだ。今、ここには助けられる人達がこんなにも居る。
 ――だから私は『悪』になる。
「『ひとごろし』でも、憎まれてもいい――私にとっての『最良』を、目指してみせる」
 竜を従え姫桜は征く。いつかのあの日の自分に報いる為に。否それよりも、今この眼前に広がる光景の為に。
 贄たちを護る様に身を挺する泥人に、迷う事なく姫桜は捕縛を投げる。手脚の自由を封じるそれに泥人は当然抵抗を見せたが、確固たる意志を持って差し向けられた縄から抜け出せはしない。
 心の有り様をこれと決めた者は勁い――どうしようもなく。この場に於ける、彩瑠・姫桜がそうである様に。
 捕らえた泥人の胸部を、躊躇う事なく姫桜の竜槍が貫く。断末魔を上げる事もなく、槍を受けた泥人の身体がどろりと融け出し落ちてゆく。
 躊躇のない急所への攻撃は、けれど情けの一端だ。どうか無為な苦しみを得ぬ様に。どうか痛みを憶える間も無く息絶える事が叶う様に。
「――確かに現実は『ここ』みたいに優しくもない」
 泥人の身体に槍を突き立てたその姿勢で、凛と姫桜が声を張る。
 それは贄たちへ向けての――否、ここに囚えられていた幾人かの、ひとりだった誰かの為の言葉だった。
「世界は残酷で、あなた達をいとも簡単に置き去りにする。……それでも!」
 雨音が一層強くなる。止まない。止みはしない。
 けれど雨音は何かに似ているのだ――轟雷の如く響く、喝采と共に浴びせられる拍手のそれに。
「――私は、あなた達に現実を、世界を見てほしいわ」
「居心地が良い場所からは、出たくないだろうけど」
 姫桜の声に添う様に、またひとつ声が雨音から剥がれて染みる。
 終夜・凛是もまた、逢魔ヶ刻のはざまで佇みながら、囚われた者たちを見下ろしていた。
「あんたたちは、そこで。ソレに守られて、幸せ?」
 問われて応える者は誰もいない。だってそうだ。一応は皆、自分で選んでここへ来た。
 薄く橙の眸を細めて凛是が継ぐ。
「贄になるのが幸せだって本当に思ってるなら――悪いケド、」
 けれど遮る様にして、ひとつ、声が跳ね返る。
 尚も降り続く雨に負けない様な、甲高い声だった。震えながらも礼儀正しく片手を挙げた、学生だろう制服姿の少女がそこに居る。
「あたしは、……かえりたい」
「――よく出来ました」
 凛是の語尾が、その眦が、僅かに柔く貌を変える。
 彼女の主張が引き鉄だった。何人かが覚束ないながらも立ち上がって、雪崩れる様に猟兵たちの方へと駆け寄る――戻ってくる。虚構の優しい嘘から、厳しくも確かにそこにある、現実へと。
「あんたらを連れ出すのが俺の仕事。……離れてな」
 凛是はそう言って、残る泥人たちと対峙する。その傍に、竜槍を番える姫桜の姿もまた在った。
『護らなくちゃ、いけないのに――!』
「あなたが何を言おうと、私は揺らがない!」
 吼えるようにいらえて、再び姫桜の槍が泥人の真ん中を穿ってゆく。鮮やかなその手際が、目論見通りに泥人を焼き払って伏せてゆく。
 むずかる様にかぶりを振って地団駄を踏む泥人の仕草は、年頃の少女がちょうどそうするものに良く似ていた。
 どうしようもなく、それはひとを模したひとでない何かなのだ。
『かえって、かえって、ひどいことしないで――いたいの、痛いのに……!』
 拒絶する様に、体組織から産み出された弾丸が凛是を狙って放たれる。
 ――それが何にもなれないものだと、凛是は理解していた。まがいものだ。故に何を言われたとて臆さずに、ただ真っ直ぐに踏み込んで。
 その脳天を、拳で貫くだけだ。
『ぃぁあぁ、ふ、あ、ぁぁ、』
 不完全な紛い物がいくら痛い酷いと喚いたところで、その痛みが伝わらないのなら凛是は揺れない。
「全然響かねぇ。何喚かれても俺は、揺れない」
 不明瞭な断末魔も、すぐに消えてしまうだろう。人を模した色彩も何もかもを喪って、泥人たちは一体ずつ融けて絶えてゆく。
 雨音が、戦いを経て緩んだ建物の隙間から流れ込む雨が、余計なものを押し流してしまう今なら――それを口にしてしまったとしても、誰にも届かないだろう。
「――お前がにぃちゃんの姿してたら、さすがにどうか、わかんなかったけど」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヴァロ・タハティ
※喋らせないでください※

おばさんの手はあったかで
傘にだっていれてくれたけど、

ずうっと胸がチクチク痛いんだ
どしゃぶりに降られたみたいに
だってこの人達は
さみしい人をバケモノのゴハンにしようとしてるって
ボク、しってるから

手を振りほどく勢いで
おぶおぶ転げるように転がれば

おろおろ周囲を見回す
だって
だって、だって!

(ねえ、ボクたちは……誰とたたかうの……?)

賢いけものでも
おぞましいバケモノでもない、ソレは

こんなのヒドイや!

民間人にあたらないように『属性攻撃』する
動かなくなった泥人を
【ゴースト・リボーン】でボクたちの仲間にして
民間人の警護や召喚者の抑えをして貰うよ

ぼたぼた、ぱたぱた
涙でふやけた視界をぬぐって


セラ・ネヴィーリオ
泥の子たちにも守りたいものがあるんだよね
で、僕たちにも日常に返したい人たちがいる

奪われる悲しみは、知ってるつもり。だけど
僕たちは、彼女たちから奪う側に、ならなきゃ、いけない

いっそ見て見ぬフリは出来なかった?
……駄目だよね。ごまかせないよ。知っちゃったんだもの
僕らは"猟兵"

そこまで分かっておきながら、
割り切れないのは、僕が弱いからなんだろうなあ……っ!

【鈴蘭の嵐】を【全力魔法】
彼女たちに魂があるならせめて死後は穏やかにと【祈り】を込めて……泣きそうになるかもだけど、【歌唱】で歌も
せめて逝くその時に、少しでも綺麗な光景と、音を分けてあげられますように
「――ごめんね」

(アドリブ/連携歓迎)



●雨のはて
 触れた手は確かに暖かかったのだ。
 血が通っていた。傘を傾けてくれた彼女は確かに優しかった。
 それでも胸の痛みは潰えない。
 ヴァロ・タハティは知ってしまっていたからだ――彼女ら邪神の信徒たちが、その復活の為に贄を集めている事を。甘言で拐かした人々を、化物の餌にしようとしている事を。
 しとどに雨に濡れながら、ヴァロは振り払った手の感触を辿る様に、いちどだけ視線を掌へと落とす。
 そうして緩く指先を握り込んで、辿々しくまた顔を上げる。視線の先には戦場が在る――猟兵たちが贄を救出すべく、泥人を屠るその最中が。
 ――ひとのかたちをして、ひとの言葉を喋り、意志を持つ、けれど決してひとではない泥人たち。
 首から提げた鉱石ランプだけがいま、ヴァロの内に辛うじて灯を絶やさないだけだった。
「(ねえ、ボクたちは……誰とたたかうの……?)」
 賢い獣でも、悍ましい化物でもない。
 それは確かに、隣人のなりをしていた。
「僕たちは、彼女たちから奪う側に、ならなきゃ、いけない」
 ヴァロの胸中に触れたかの如くに柔い声がそこへ降る。
 艶めく雪に染み入る様な紅の花水木――セラ・ネヴィーリオが、共に臨む。
 窺うように持ち上げられたヴァロの眸がセラを見上げる。言葉でいらえる代わりにセラの瞼は粛々と伏せられた。
 花よりも尚赤い眸は僅かに翳を得る。
「――いっそ見て見ぬフリは出来なかった?」
 唇から滑り落ちるそれは問い掛けの体だ。誰に向ける訳でもない。否全員に向けたのかも知れなかった。否、否、或いは自らの裡に潜む自身へ向けての。
 奪われる悲しみは知っているつもりだ。
 けれど違えようもなく、この場に挑み泥人に、贄に相対する者たちは猟兵だった。
「……駄目だよね。ごまかせないよ。知っちゃったんだもの」
 ヴァロの背に、そっとセラの掌が触れる。
 添えられる程度に留められたそれは、決してその背を押すものではない。ただ彼の様に惑い悩む者はひとりではないのだと、それでも往く者が居るのだと、それを示す為の仄かな熱だった。
 猟兵の隣人は猟兵である。懊悩を分け合い持つ事だって、出来るのだ。
「――、――……」
 ちいさなシャーマンズゴーストが、ん、と背伸びをしてしゃんと立つ。
 悪はいつだって、それと判じるに易い存在ばかりではない。誰が悪いのだろう、例えばヴァロがそんな風に誰かに問うた所で返る答えはきっとひとつきりではない。
 それでも揺らがないものがひとつ在る――贄として囚われた人々を、助け出さねばならない。
「…………、」
 物言わぬヴァロはその指先に雨の雫を宿しながら、そっと属性で編み上げた力を泥人へと弾き飛ばす。
 彼女らは疲弊していた。仲間を削がれ護るべき対象を奪われて。故にその単純な攻撃でも、容易く崩れて消え逝こうとする――けれどそれは、もう少し先だ。
 崩れ落ちる脆い身体を、ヴァロの生み出す星の光が再編する。泥人の骸を苗床に生まれ落ちるシャーマンズゴースト人間は、ひとときのあいだヴァロに忠実な駒になるだろう。
「――――、」
 ヴァロが、泥人側に残る贄たちを指し示す。言葉はなくとも意志は通じる――泥人だった星の駒は従順にそちらへ赴き、護る様な所作を見せた。
 けれどそれも永遠ではない。そう遠くない内に効果は切れて、その果てで死した泥人として昇華するのだろう。
「(…………ああ、だって、――ヒドイや)」
 涙は拭う暇もなく溢れてやまない。雨に混じって頬を濡らすそれは、けれど雨に混じるが故に他の誰にもわからない。
 雨よりも暖かな雫が頬を伝ってぱたぱた十重二十重に落ちたとて、ヴァロ以外は誰も気付きやしないのだ。
「――割り切れないのは、」
 室内の光景を視界の端に捉えながら、セラはちいさく呼吸を重ねる。どこか向こうで聞き覚えのある声もした――そちらを検める事はしなかったけれど。
 誰も彼も戦っている。何と。
 ――たぶん、自分と。その行いを赦さない、誰かと。
「僕が弱いからなんだろうなあ……っ!」
 引き絞る様な声が鈴蘭を喚ぶ。美しくとも毒性を持つその花弁は、自らの身体を離れてふわりと群れを為す。
 持ちうる総てを載せたそれは、残る数少ない泥人たちを花の嵐に抱き込んで仕舞う。祈りが輪唱する。誰の。
 僕のだ。
「――ごめんね」
 雨には歌が響く。
 雨音に閉ざされたこの廃ビルに、不釣り合いな穏やかな歌だった。
 ――きれいなものが、あなたたちを送ってあげられますように。

 雨は続く。
 それでもそこには静寂が戻る。
 ――泥人たちの声は、もう聞こえない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『鑼犠御・螺愚喇』

POW   :    友、死にたまふことなかれ
【友を想う詩 】を聞いて共感した対象全てを治療する。
SPD   :    怪物失格
自身の【友の帰る場所を守る 】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
WIZ   :    永遠の怪
【皮膚 】から【酸の霧】を放ち、【欠損】により対象の動きを一時的に封じる。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は吾唐木・貫二です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●優しいばけもの
 ――ねえ、きみは、どこまでいってしまったの。
 ――ねえ、ぼくは、いつまでここで待てばいいの。
 ――ねえ、ぼくは、きみと――……。

 それは優しい怪物だった。
 それはたぶん、慟哭だった。
 いくら『きみ』に良く似たものを集めたところで、どこにも『きみ』は居やしない。
 それでも、ずっと、待っている。
 ずっと昔、降り続く雨の中で出会ったお友達。
 雨が晴れたら居なくなった。どうしてだか、解らない。

 ただ、待っているだけなのだ。
 親しき友の再訪を。
 あの懐かしい眼差しを、吾が悍ましき全身に受けるのを。
 ――ただ、待っていた。
 その怪物の名を、『ラグオ・ラグラ』と呼称する。



 泥人たちが護っていたフロアのすぐ上が、最上階になっている。
 踏み入った途端、そこに密やかに満ちる異臭に猟兵たちは顔を顰めるだろう。人体に良い訳のない、酷い臭いだった。
『――どなた?』
 美しい声が尋ねる。
 壊れた天井から降り注ぐ雨の中、そこには化物が鎮座する。
 何とも形容のつかぬ身体。
 蠢く器官。
 害を為す匂い。
 悍ましい見目をしていた。紛うことなき、怪物だった。
 そのたもとには、人間らしきものがふたつほど転がっている――壮年の男と女。恐らく化物の何かに当てられたのだろう、無残な死を遂げていた。
 恐らくはこの教団を纏める立場に在った者ではないか、と勘の良い猟兵なら気付けるだろう。指揮系統が既に死んでいた所為で、ビルの警護は恐らくあれほどまでに杜撰だったのだ。
『この間までおしゃべりをしてくれていた人がいたんだけれど、すっかり声が聞こえなくなってしまって』
 化物は歌う様に囁く。綺麗な声だった。
『その人たちが、会いたい人に会わせてくれると言っていたんだ』
『ぼくはずっと、友達をここで待っているんだよ』
『――もしかして、きみが、ぼくのお友達? ううん、でも、』
 懐かしい薫りがしないなあ、とラグオ・ラグラは暢気に呟く。
 それに害意は無い様だった。それでもその足許には死体が転がる。
 意志がなくとも傷付けてしまうのだ――化物ゆえに。それ自体に他者を害する意思がなくとも、居るだけで害悪なのだ。
 そういう、優しい怪物だった。
『きみは、何をしにいらしたの?』
 この化物を核に、邪神を喚び下ろす計画だったのだろう。
 けれどそれは砕かれた。餌として与えられる筈だった泥人たちも駆逐した。
 これを滅すれば、『仕事』は終わる。

 人語を解し、麗しい声で喋り、おとなしくそこに鎮座する優しい怪物。
 ラグオ・ラグラとはそういうものだ。
 ――辺りは夜の帳が優しくその裾を下ろしている。
 夜の果てで、雨はずっと降っている。
トジコ・イリングワース
ワタシはネ、猟兵ヨ。
さっきまで下で戦ってたノ、ここに連れてこられた人達を連れ戻しに来たノ。
そしてこれかラ、アナタのこと倒さなきゃいけないワ。
ねエ、気がついてル?アナタとおしゃべりしてくれてたヒト、アナタのそばで死んでるノ。

引き続きUC『ジャッジメント・クルセイド』で攻撃。
「衝撃派」を込めてみたノ、少しダメージが上がるといいけド。

民間人を守る泥人形、友達を待ってる怪物。
わからないことばっかりアル、サイボーグになる前のワタシならわかったのかしラ。

……いヤ、余計な事考えるのは止めましョ。
ワタシサイボーグだもノ、わからなくていいワ。
ワタシ猟兵だもノ、敵は倒さなきゃいけないワ。


※アドリブ・連携歓迎


数宮・多喜
【アドリブ改変・連携等大歓迎】

…ああ。良かった。話せる相手かよ。
それならしっかりと、思いを伝えられる。
アンタさ、取り残されちまったんだよ。
友達は、もうここには来ない。来れないんだ。
だからさ…待ってるだけじゃダメなのさ。
アタシみたいにさ、アンタが探しにいかなきゃいけない。
道行きの手助けは…アタシたちがやってやるよ。

ラグオ・ラグラには共感するところはあるけど、
だからこそ全力を尽くす。
雨が降っているなら、広範囲に電撃を放射するのは危険だろ?
ラグオ・ラグラに近付き、
至近距離でサイキックブラストの放射を開始。
灰は灰に、塵は塵に。旧き良き思い出は思い出のままに…!
自分諸共、黄泉送る檻に閉じ込めるよ。


彩瑠・姫桜
【咎力封じ】使用
化物でも、ひとと同じように接して、倒したいって思う
【拘束ロープ】を放ち少しでも動きを止められるようにするわ

命中しない場合でも
相手の動きを観察して弱点を探してみるわ
人間であれば心臓にあたるような
一撃で息の根を止められそうな部分がないか見ていくわね

うまく見つけられたら
ドラゴンランスで【串刺し】にするわ



こんにちは、優しいあなた
私は彩瑠姫桜というわ

私はあなたの友達にはなれないわ
私はあなたを殺す事しかできないから

あなたが待ち人に伝えたい事があるなら
私が代わりにそれを聞くわ
いつか、あなたの友達に会った時にしっかりと伝える
約束するわ

おやすみなさい、雨を子守唄に
寂しいなら、私が見送ってあげる



●まちびと
 ラグオ・ラグラは泰然とそこに在る。
 在るだけだ。
 ただじっと、相対する猟兵たちを見つめている。
「……ああ。良かった。話せる相手かよ」
 数宮・多喜はそう呟いた。けれどその声は微かに軸を見失って震えるのだ――どうにも。どうしたって。感情の振れ幅は、抑えようがないものだ。
「アンタさ、取り残されちまったんだよ」
 雨音の向こうに声が反響する。
 ラグオ・ラグラは身動ぎをした様にも見えた。攻撃に移る訳でもなく、ただ黙って、多喜の言葉に意識を傾けている風体だった。
「友達は、もうここには来ない。来れないんだ。だからさ――」
 待っているだけでは駄目だ。
 探しに行かなければいけない――自分の様に。
『さがしに、いけたら良かったのですが』
 綺麗な声でラグオ・ラグラは淡くいらえる。
『あの子は、またここへ来るからと、ぼくにそう約束してくれました』
 綺麗なばかりの声からは、感情らしきものは読み取れない。
 ぐ、と多喜の喉奥が詰まる。少しだけ言葉が出てこなかった。
「こんにちは、優しいあなた」
 甘やかな声の散る――彩瑠・姫桜が、そこに在る。
「あなたが待ち人に伝えたい事があるなら、私が代わりにそれを聞くわ」
 雨中でも靴音は良く響いた。多喜の傍らに居並んだ姫桜が、臆する事なく化物を――ラグオ・ラグラを見つめてそう声にする。
 だって、友達にはなれない。
 私はあなたを殺す事しかできない。
「約束するわ、」
 声色は凛として、
「――いつか、あなたの友達に会った時にしっかりと伝える」
 どこまでも、穏やかだった。
 いつかどこかの果てで、数奇な出逢いにまみえる事が在るのならば。
『ほんとうに?』
「約束するって、言ったでしょう」
 ラグオ・ラグラの問い掛けは、子供のする様な色を含む。
 それをあやす如くに往なしながら、姫桜の指先より戒めが滑り落ちる――咎を封じるその縄が、化物の身体に枷を嵌める。
 ――化物であれ、ひとと同じように接して、倒したい。
 背筋を伸ばす姫桜の胸中を占める、その想いこそが今の原動力に他ならない。
「そのまま抑えといてくれ、」
 刺す様な速度で声が入る――ひとつ、床を踏みしめて多喜が距離を詰める。
 雷鳴帯びた掌がラグオ・ラグラに触れようとする、が、彼はそれを迎撃する素振りは見せなかった。寧ろ己が身が狙いだと解れば安堵さえする様な、そんな風に戒められた身体を多喜にひらく。
 多喜が薄く双眸を瞠った。
「なんで、」
『ここが、壊れてしまうのは困るんだ』
 綺麗な声で化物は云う。
 いち早く意図を理解した姫桜が、嗚呼、と薄く唇を噛んだ。
『あの子のための、めじるしだからね』
 友よ、目掛けて帰ってくるが良い。変わらず在る、この場所へ。
 変わらずそこで待つ化物の、この傍らへ。
「――でも、ダメ」
 ラグオ・ラグラの帯びる気配がひとつ段階を上げた気配を感じ取って、トジコ・イリングワースは短く吐き捨てた。
 あれが悪だと天に知らしめる様に化物を指すその指先から、苛烈な光が迸る。外皮の器官を遠慮なく焼かれ、化物の苦鳴が雨音を裂いた。
「ねエ、気がついてル? アナタとおしゃべりしてくれてたヒト、アナタのそばで死んでるノ」
 再びその指先に光が焦点を結ぶ――それを練り上げながら、トジコは淡々とそう紡ぐ。
 トジコ・イリングワースは猟兵だ。彼女だけではない。
 ここに集い化物に対峙するものは、皆須らく『猟兵』を全うすべきだ。
「さっきまで下で戦ってたノ、ここに連れてこられた人達を連れ戻しに来たノ。――そしてこれかラ、アナタのこと倒さなきゃいけないワ」
 それは彼女が全うすべきものだ。
 言い聞かせる様に彼女は声にする――誰に? 誰でも良い。自分なのかもしれなかった。
 そうして再び聖なる光が化物を焼く。酷い臭いと共に、情けない呻き声がフロアの毀れた床を這う。
『うう、ううう、……』
 ひとを守る泥の人形、友達を待ち続ける化物――わからないことばかりだ。
「サイボーグになる前のワタシなら、わかったのかしラ」
 小さく呟くトジコのそれを聞き咎める者など居なかった。かぶりを振って、彼女は姫桜と多喜とを振り返る。
 自分はサイボーグだ。わからなくていい。
 自分は猟兵だ。敵は斃さなくてはいけない。
 ――今はそれだけで良い。それが心の内側に、柔い部分にささくれを残す事になったとしても。
「追撃ヲ、」
「――ええ」
 呼吸と共にいらえる姫桜が、付き従う竜を喚び起こす。その姿を美しい拵えの槍に変えるが早いか、姫桜はそれを掴んで真っ直ぐにラグオ・ラグラへと突き立てた。
 痛い痛いと化物が悲鳴を上げている。綺麗な声が生にしがみ付く様に長く尾を引くのを、多喜は薄く唇を噛んで聞き届ける。
「灰は灰に、塵は塵に。旧き良き思い出は思い出のままに……!」
 聖句が闇の最中で閃き意味を成す。雷撃とそれとが織り成す檻に、けれど閉じ込めてしまうのはラグオ・ラグラ一体だけではない。
「道行きの手助けは――アタシたちがやってやるよ」
 共感をするから全力を尽くす。
 自身諸共取り込んだ雷鳴の檻に烈しく焼かれながら、数宮・多喜はその背筋を凛と張った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

境・花世
ひとりぼっちと驕った彼等は、
いっそ贄になれたら良かったろうか
けれどそしたらきみは
動かなくなる友達をみて
さみしさに、うつむいたろうか

ふらりと近付いてゆく呼吸が
悍ましい匂いに毒に軋んでゆく
けれど、どうしてだろう、
近くにいきたくて

ゆびさき、触れた傍からきっと、
侵されて腐ってゆくかもしれないけれど
例えばわたしが抱き締めて、
さみしくなくなるものがいるなら
それで死んだってほんとうは構わない

だけど、きみがずっとさみしいままで待っているなら
ここで終わらせたほうが、
ほんとうのさいわいなのかもしれないと

――“紅葬”

いっとう綺麗な餞の花束をきみに捧げよう
あの海におかえり、きっとあえるよ
いいこ

ゆっくり、おやすみなさい


イア・エエングラ
屍二つはかわいそに、さっきの子らもかわいそう
それならお前も、そうかしら
これでは文句も言えないものな
お前が殺して、しまったものね

ずっと待っているのはさみしいものね
呼んでもらえないのはかなしいものね
それならどしたら会えるのかしら
――なんて、お伺いしてもわからないねえ

おいで、リザレクト・オブリビオンでお招きしましょ
崩れたとて彼らもいたまないほんの少しも迷わない
同胞が傷つくよりは盾になって、あげてね
さよならするのも、僕よりよほど上手なの

そうな、僕はたすけにきたの
お前を、ではないのが残念ね
落ちる雫に紛れてしまってお歌ももう聞こえないかしら
晴れたら彼らも、行けるかな
またお迎えは、来なかったね


終夜・凛是
綺麗な声。俺は、おしゃべりをちょっとだけ
慰めに、してやっても、いい……したい
お前の気持ち、ちょっとわかる、かも

どこまでいった、いつまで待てばいいって
俺にも覚えがある
俺は、喚いて、決めて、飛び出して、追いかけてるけど
たぶんそれが、俺とお前の違い
知ってる、良く似たものを、集めても……俺は、与えられたけど
それは違う、から。何も感じないんだ

雨が、お前にとって綺麗な想い出なら……その中でしぬといい
きっとしあわせ
俺はお前の友達になれないけど、それくらいはしてやれる

泥人形には何も感じなかったけどお前はちょっと、何かが、いたい
正しいから、いたい
この拳で全部請け負って、おわりを、あげる
お前に触れた事、忘れない



●思惑
 ひとりぼっちと驕った彼等は、いっそ贄になれたら良かったろうか。
 そうしたら、この化物は――動かなくなる『友達』をみて、淋しさに俯いたろうか。
 雨の気配に芳しい毒の馨が混じる。それが境・花世だった。
「例えばわたしが抱き締めて、さみしくなくなるものがいるなら、」
 ――それで死んだって、ほんとうは構わない。
 雷鳴にその身を焦がされ呻く、憐れで醜いラグオ・ラグラだ。
 終わりを與えるのが最良で倖いなのかもしれなかった。それは驕りだと誰かが花の裡にて袖を引く。それでも彼女は毒を滲ませる。
 近付けば近づくほど、花世の呼吸もまた穢される――ラグオ・ラグラの皮膚から滲む酸の霧が、一切の容赦なく彼女の肺を、内側を腐らせてゆく。
『きみじゃ、だめだなあ』
 花世の言葉を受けて、ラグオ・ラグラはぽつりと呟いた。
「どうして?」
 花世が薄く微笑む。悲観は混じらない。ただここで待つだけの彼に、何かを選び拒む気概が残っているのに気を引かれた。
『いなくなった友達の代わりを、きみは誰かに求めたりするのかい』
「代替品には、そうだね、なれない」
 飽きもせず降り続く雨は、けれどこの空気を浄化はしてくれない。
「それでも」
 近づくごとに呼吸が苛まれる。それでも近くに在りたかった。
 花世のその身が花を纏う――八重の牡丹が毒を割り開く様に咲き乱れる。
「隙間を埋めうる何かには、なれるかもしれない」
 化物に差し向けられた花弁がその血を吸って艶やかに染まる。命を糧に視界を染める、それが麗しいものでない道理など無いだろう。
 きれいね、とイア・エエングラは囁く――痛がり身を捩らせるラグオ・ラグラから同胞たちを護る様に、その手が手繰り寄せた死霊たちが戦場に熾きる。
 硝子の眸が化物を見遣った。
「ずっと待っているのはさみしいものね、」
 謳う様にイアが紡ぐ。
 呼応する様にラグオ・ラグラの身体が揺れる――その膚から酸の気配が滲んで溢れる。
 触れ落ちるものすべて溶かし欠けさせてしまうだろうそれは、けれど死霊の騎士が阻む故に何の害にも成りはしない。
「呼んでもらえないのはかなしいものね、」
『――だからぼくはここで待つんだ。もう一度、逢いたいから』
 待っているだけだった。
 ただもう一度、逢いたかっただけだった。
 けれどラグオ・ラグラは化物だった――その身は暴かれ誰かの害意に利用され、果てにはそれを目論む誰かを虐げ屠った。
 イアの口端には優しさが染まる。慰めになんて、なりはしないけれど。
「それならどしたら会えるのかしら――なんて、お伺いしてもわからないねえ」
 だめよと彼が囁いて。
「僕らがたすけにきたのは、お前ではないもの」
 残念ね、とそれを括った。
 雨音ばかりが反響して、他には何も聞こえない。眼前の、この化物の慟哭ばかりが雨音の喝采に、不服をがなり立てる如くに添うだけだった。
「晴れたら彼らも、行けるかな」
 止まない雨を、未だ夜明けの遠い空を見遣ってイアは零す。
 いらえる様に花世が唇を綻ばせた。
「ならば、餞の花束を捧げよう」
 この淀む曇天の下であれ、いつか晴れ上がるだろう空であれ、葬送の紅はきっと映える。
 きっとあえるよ、とあやす様に彼女は囁く――雨の果て、死のむこう、あの海へおかえり。
「俺にも覚えがある。どこまでいった、いつまで待てばいい、って」
 イアの連れる蛇竜が酸を庇うその袂から、鮮やかな色の耳が声と共に顔を出す。燃えるが如くの艶やかな、それが終夜・凛是だった。
 その身の裡には淡い同調が在る。綺麗な声で語られるそれに、覚えがあると凛是は自覚する。
「俺は、喚いて、決めて、飛び出して、追いかけてるけど――たぶんそれが、俺とお前の違い」
『きみは、それを、……いえ』
 拙く尋ねようとして、けれど化物は口を噤む。詮無い事と断じたのか、それとも先のない自らの少し未来を思い描いたのか、それは自分たちには解らねど。
 良く似たものを集めたって、何かがそれは違うのだ。良く知っている。
「雨が、お前にとって綺麗な想い出なら……その中でしぬといい」
 重なる言葉は雨音混じりに流れてゆく。
 素直に真っ直ぐに織り上げられる言葉は、だから何にも邪魔をされずにラグオ・ラグラに突き刺さる。
『それが、しあわせでしょうか』
「たぶんな」
『待っていては、だめですか』
「きっと、誰も赦しちゃくれない」
 問答に、凛是の顔が少しだけ歪んだ。いたかった。
 だからその手を握り締めては拳を結ぶ――友達にはなれないけれど、これくらいはしてやれる。
 おわりをあげる、そのくらいは。
 酸を産む膚に、悍ましいその器官を貫く様に、総てを灰燼に帰す様な拳が放たれた。
「お前に触れた事、忘れない」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

木目・一葉
この怪物はかつての友達に関わるモノを触媒として呼び出された
だが懐かしい薫りがしないとの発言から、それが隠されたか、失われたかの可能性がある
「今ここに貴方の友達はいない、連れて来ることもできない」
真の姿を解放する
自分は怪物の霧に注意し、隙をみて【影人の縫い針】で怪物のユーベルコードを封印
またその行動中、周囲を観察して【失せもの探し】で触媒を探す
もし発見したら事実を告げる
「貴方の友達も望んでいないだろう
どうか還ってほしい」
承諾しないなら戦いを続けて倒す
承諾するなら触媒を渡し、見送ろう

この二つの亡骸が、人、泥人、怪物の想いを踏みにじった
その哀しみがこの雨になったのかもしれない
でもきっと
「次は晴れる」


セラ・ネヴィーリオ
泥の子たちから平穏を奪った手を見る
彼女たちはその暮らしを守りたかっただけで
眼の前の歌の子も思い出を大事に守っているだけ

「きみたちは、生きて、出会いたかった。暖かな記憶を、大切にしたい」
「それだけなんだよね」

雨に濡れた顔でも微笑むくらいはできるかな
僕には彼らが悪いようには思えなくて
だって、僕たちだって命を奪って生きている
だから

「せめて君は。君たちのその想いは」
「お友だちのところまで、きっと僕たちが連れて行こう」

この子が怖くないように
きっと寂しくないようにと
その魂に【祈り】の手を伸ばす

――白魂、励起
防御はいらない。後は誰かが継いでくれるさ
僕は語りかけるだけ

さあ、帰ろう。あの日へ

(アドリブ連携歓迎)


古高・花鳥
……ごめんなさい、弱い意志でここに立つわたしを、恨んでもらって構いません……憎んでもらって構いません
それでも、わたしはあなたに刃を向けなきゃいけないんです

【永遠の怪】による味方の被害を警戒して「捨て身の一撃」の要領で「かばう」ように動きます
【居合域】で多少の霧を払うことならば「見切り」ながら可能かと、この戦いは基本この動きで補助に回ります
相手に深手、特にとどめになりうる場合のみ「先制攻撃」により「残像」と共に【月下抜刀流・花鳥一閃】を

……可能なら「優しく」「手をつなぎ」お話をしたいのです
あなたがここにいてはいけないこと、今はどうか眠っていてほしいこと
……こんな形でしかあなたを救えなかったこと



●優しき
 セラ・ネヴィーリオが幾らその手を見下ろした所で、何か肯定が返る訳でも無いのだ。無論、否定が在る訳でも。
 それを重々理解はすれども、セラは考えるのを止められなかった。泥人たちの平穏を奪ったその手を見下ろして、幾度も幾度も反芻する――言葉にすら出来ない微細な迷いを。その惑いを。
「きみたちは、生きて、出会いたかった。暖かな記憶を、大切にしたい」
 ラグオ・ラグラを見遣ってセラは云う。
「それだけなんだよね」
 雨に濡れた頬が笑う様に揺れる。けれどその頬に引っ切り無しに雫が伝うものだから、きっと上手には出来ていない。
 ――だって、僕たちだって命を奪って生きている。
「せめて君は。君たちのその想いは」
 緋色の眸の鮮やかな、その雪めくかんばせに寂寞が混じる。
「お友だちのところまで、きっと僕たちが連れて行こう」
 祈る様に囁くセラの傍らで、古高・花鳥は瞑目した。
 左胸に掌を置く――それこそ、祈る様に。誰に向けたと云うでもない、ただ、悔悟をしたかった。
「……ごめんなさい、弱い意志でここに立つわたしを、恨んでもらって構いません……憎んでもらって構いません、」
 ラグオ・ラグラを痛ましげに見つめ、花鳥は声を零した。
「それでも、わたしはあなたに刃を向けなきゃいけないんです」
『……そっか』
 ぽつんと、化物が呼応する。
『ぼくはそんなに、悪いものだったんだね』
「ッ、……」
 花鳥がぐっと唇を噛み締める――けれどその肩に、寄り添う様に手を置く者が在った。
 木目・一葉が、その隣から歩み出る。ラグオ・ラグラに向けて一歩、二歩と踏み込んでゆく――その身体には、焔色の筋が走る。色はそれだけでなく炎を噴き上げ、彼女の額には焼け焦げた角が現出する。
 真のそれを解放せし一葉の、彼女の足許に色濃く蟠るは影だった。
「今ここに貴方の友達はいない、連れて来ることもできない」
『そう、でしょうね』
 物悲しげに化物は云う――その膚に、また酸が滲もうとする。
 なれどきっとそうはならない。一葉の操る縫い針が、その色濃い影を縫い糸として、ラグオ・ラグラをそこに縫い止めてしまうからだ。
 堰き止められて酸は流れない――猟兵たちの身を溶かすそれを為す事は、けれど一葉の命を分銅として求められる行為だった。
 一葉はそれを気にする風もなく、ひたと視線を化物へ据える。
「貴方の友達も望んでいないだろう。どうか還ってほしい」
『あの子が望む望まざるは、あの子のくちから聞くよ。――ぼくは、ここで待つ』
 穏やかな、けれど意志の強い拒絶だった。
 揺るがないだろう――揺るがないのならば、斃さなければならない。
 花鳥の喉がか細く上下する。そうして刀の柄に掛けていた指先を、そっと解す。懸念していた酸の霧は一葉の針によって封じられ、そしてここで刀を抜いた所でラグオ・ラグラの致命傷にはまだ至らないだろう。
 ならば。それならば。
「――ごめんなさい。でもあなたはどうしたって、ここに居てはいけない」
 ゆら、と細い身体が前へ進み出る。花鳥の指先が、醜い化物の器官に触れる――まるで、手を握ろうとするかの様に。
「どうか眠って居て欲しいんです、――こんな形でしか、あなたを救えない」
『優しいね』
 化物が微笑む。
 顔はない。けれど確かに、微笑んでいた。
『でもそれは、ぼくに、ここで死ねと云う事だ。救いとは、即ち死なんでしょう?』
 花鳥の指先が拍動する様に震える。
 きっとこの場に集う誰もが理解していた事だ。理解していながらふんわりと柔らかなものに包んで、直視をなんとなし避けていたものだ。
「――下がって、」
 セラの声が囁くと同時、花鳥の身体を強引に引く。代わりに自分が手を伸ばす――ラグオ・ラグラの許へ、その魂へ。
 溢れるほどの、呆れ返るほどの途方もない祈りを載せて。
 どうかこの子が怖くないように、きっと寂しくないように。本質はそう、誰かの為の純粋な願いに過ぎない。
 魂が励起する。自らを護るものは捨て去って、ただこの優しい化物と向き合いに往こう。
「さあ、帰ろう。あの日へ」
 ただ世界が優しかった、かの日々へ。
 止まない雨を、綻んだビルの天井から曇天の夜空を見上げた一葉が、喘ぐ様に唇をはくと動かした。
 優しい世界なら、きっと哀しみの雨は似合わないから。
「次は晴れる」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ジン・エラー
あァ?そうか
アイツは、まだ
しゃァーねェな、要するにいつも通りだろ?
“好きにする”

どォーも
ご紹介に預かったジン。ジン・エラーだ
オレは聖者だ
覚えておいて損はないぜ?

オレも”友達”になれるか?
――そうか
お前が”そう”なら、オレも”そう”する

いいか、るり遥――ああ、”お前”もだよ。そうだ。
一つ言っておくとなンだがよ
『救える』『救えない』じゃねェ

【オレが救う】ンだ

オレの【姿】しっかり見ておけよ


それは聖者の光そのものである
燃え盛る太陽であり
慈母の微笑みである

神様である
輝きである
隣人である

どこまでいっても、彼は聖者だ


光に【影の面】は、必要ない


松本・るり遥
やあ。るり遥なら仕舞ったよ
僕が出ないと、あの子きっと、あの"ひと"を守る為に動いて、壊れるから
でも君といるなら一安心かな、ジン。

僕は、るり遥の破綻を防ぐ人格。「悲しまない」或いは「楽観者」。
どうしてこんな綺麗なひとを。そうるり遥が何でか泣いたから、僕の番

無防備に歩み寄る。
『きみ、綺麗な声だ。僕とも話をしようよ』
『僕は君の友達になれるかな』
『そうだ、僕の友達の話もしよう』
『カッコいいよ。君とも仲良くなれると思う。ちょっと我が強いけど、そこも気に入ってる』
『"不満"があるとすれば』
息を吸い、声が届くよう、高く
『彼に救えないものはきっと無い事が、悔しい。だから、救って』って

るり遥が言ってたよ、ジン。



●機構
 傍らに佇む松本・るり遥を見遣って、ジン・エラーは怪訝そうに顔を顰めた。
 それを汲んでるり遥が双眸を眇める。笑ったようだった。
「やあ。るり遥なら仕舞ったよ」
 ジンは片眉を跳ね上げる。その破綻の防波堤の顕れは、つまりるり遥が壊れてしまう事を懸念したからだ。
 マスクの下で唇がひらいて、けれど閉じた。聞かずとも良い。
「しゃァーねェな、要するにいつも通りだろ?」
 好きにする、と書いてそうルビを振る。そんなものだ。
 るり遥が笑う。何も気にしていなさそうな、楽観視を隠そうともしないそれだった。
 そうして無防備に歩み寄る――ラグオ・ラグラは輪をかけて醜くなっている。憔悴し、疲れ果て、猟兵たちの想いと力とを受け止めて。
「きみ、綺麗な声だ。僕とも話をしようよ」
 化物がむずがる様に身を震わせる。るり遥はそれを気に留める様子もない。
 悲しまないのは最適だ。このしょぼくれた雨に満ちた廃ビルを往く上で、障害は無いに等しいだろう。
「僕は君の友達になれるかな」
『なれるものなら。でも、ぼくが待っている友達は、決してきみじゃないんだ』
「迂遠だな。代わりになりに来たんじゃないよ」
 呼吸をする如くに言葉は打ち返される。緩く広げられたるり遥の両腕が、振り切れない親しみと共にラグオ・ラグラに忍び寄る。
 化物が呻いた。
『ぼくのお友達は、ひとりでいいんだ。あの子だけでいいんだ。ぼくと一緒に笑ってくれた、雨が上がったらまた来ると言った、ぼくに優しくしてくれた――――』
 慟哭と相違ない。友の為に吼えた化物は、けれど誰かにそれをぶつける事もない。
 ただ、幾人かに光が降る。何かを感じ取った者に、柔らかな祷りが落ちて染みる。
 けれど、るり遥にもジンにもそれは宿らない。光は彼らに何も齎しはしなかった。そんなものに惑わされてやれるほど、優しくはない。
「そうだ、僕の友達の話もしよう」
 雨音に声が混じる。切り替える様に。それごと、漱いでしまう為に。
「カッコいいよ。君とも仲良くなれると思う。ちょっと我が強いけど、そこも気に入ってる」
 ラグオ・ラグラの器官が眸の様にるり遥を視る。
 恨めしげだと思った。
「『不満』があるとすれば」
 るり遥の様子が変生を遂げる。否、最初から変生していたのだ。勇気のないこどもから、それを庇護する背伸びの誰かに。
 声を届ける為に息を吸う、その音はたぶんノイズだった。
「彼に救えないものはきっと無い事が、悔しい。だから、救って」
 ――るり遥が言ってたよ、ジン。
 それは彼に届いた所でにべもなく捨て置かれる蛇足に過ぎない。不満を、世界を、打破する力が聖者に宿る――いびつな容れ物が、救いを齎す者に成る。最初からそうであった様に。
 どォーも、と輪郭の蕩けた声が軽く化物に挨拶を投げる。
「オレは聖者だ。――覚えておいて損はないぜ?」
 臆する事なくそれを掲げる。不動の前提だった。
「覚えておいて損はないぜ?」
 棺桶が水溜りを引っ掻き波紋を生む。知った事か。
 ジンはラグオ・ラグラに相対する。
「オレも友達になれるか?」
『――、……いらない』
 綺麗な声は拒絶する。
「――そうか」
 特段の落胆もなく、呼吸する様にいらえてジンは首を後ろに倒す。雨に濡れて闇に溶ける髪を揺らし、じろりと色違いの鮮やかな眸がるり遥を捕らえた。
「いいか、るり遥――ああ、“お前”もだよ。そうだ。一つ言っておくとなンだがよ、」
 それはジン・エラーにとって酷く大事な要素だった。
 大切なことだ。取り扱いを違えてはいけない。
「『救える』、『救えない』、じゃねェ」
 傲慢だった。
 驕傲だった。
 不遜だった。
 その総てが輝きに成り得る――光が氾濫する。濁流よりも尚危ういのだ、何せそれは劇物だ。だって何もかもを救って仕舞う。
「“オレが救う”ンだ」
 燃え盛る太陽、慈母の微笑み、或いは神様、或いは輝き、或いは隣人。
 どこまでいっても、彼は聖者だ。
 その足許に影は無い。
 暴力の様な光に、ラグオ・ラグラは初めて怯えた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

壥・灰色
お前を殺しに来た

それ以外に、何か言うことがあったか
おれは、お前を殺しに来たんだ

それが悲しいことだったかも知れないと、そう思うこともある
おれがそう吼えること、そのものが、もしかしたら、らぐお・らぐらの心を殺すような所業かも知れないと
けれど、彼は生きているだけで、今後多くの人を駆逐する可能性がある
おれは、ただそれだけの合理的な理由で、彼自身を駆逐する

恨んでくれていい。どうせ、憎まれて、いつか朽ち果てる身だ
殺すほどに厚く憎んでくれ。その方が、おれはきみを覚えておける

さよならだ。

右腕に、全ての撃力を集中させる
せめて一撃の内に。彼が何も、覚えぬうちに昇華させようと
ただそれだけを、祈っていた



●雨上がり
 何をしにいらしたの。
 優しき化物、ラグオ・ラグラは最初にそう尋ねた。
 壥・灰色はそれにいらえてひとつ告ぐ。
「お前を殺しに来た」
『うん』
 襤褸切れの様になった肉体で、ラグオ・ラグラは微かに身動ぐ。
『はっきりしてるなあ』
「それ以外に、何か言うことがあったか」
 言葉は簡潔だった。
 そう――殺しに来た。それが猟兵の為すべき事だ。
 この化物は、優しくとも化物なのだ。既にひとが死んでいる。害を為している――それが意図的なものでないにせよ。
 いずれ多くを殺す前に、この命ひとつを摘めば良い。
「恨んでくれていい。どうせ、憎まれて、いつか朽ち果てる身だ」
 彼の刻印に力が走る。回路が噛み合って動き出す――灰色の言動は乖離しない。殺すと言えば殺すし、恨んでも良いと言えば恨まれても良いのだ。
 いっときは轟く様に降り注いでいた雨も、いつしか少しずつその勢いを削がれていた。
 ラグオ・ラグラに同調する様に。或いは、その中に在るものが泣き疲れてしまったかの如くに。
 灰色の言葉に、化物は笑った。確かに笑ったのだ。
『優しくも、穏やかでもないだれかに、踏み躙って貰えるなら』
 悍ましい見目の器官が揺れる。さざめいている。
『ぼくは、それでいいなと、思うよ』
「――、どうして」
 回路が稼働を止める事はない。それでも灰色は、反射の様にそう尋ねる。
 単純に好奇心かもしれなかった。それを情動と呼ぶかどうかは、彼の心の裡ひとつだ。
『ずっと待っていたからね。来ないなあって、絶望する前に――ぼくは、』
 綺麗な声が、すべてを詳らかにする事はない。言葉の続きは紡がれない。
 後は仕舞い込んで噤むラグオ・ラグラに、灰色は緩く片腕を掲げる。
「殺すほどに厚く憎んでくれ。その方が、おれはきみを覚えておける」
『じゃあ、憎んでなんかあげないよ』
 子供の様に化物は笑った。
 灰色はもう応えなかった――優しくとも、人語を解すものであっても、ラグオ・ラグラは化物だ。怪物だ。
 しっているから、こたえなかった。
「さよならだ、」
 回路に流し込まれた暴力が、目標を殲滅する力と為ってそれを果たす。
 右腕に集中する撃力は甚大で、送り届けるには丁度良い。だって一瞬だ。何を感じる事もなく、それを昇華する事が叶うだろう。ただそれだけを、祈っていた。
 ――壥・灰色の祈りを嘲笑うかの様に、今際の際にあどけない声がひとつ咲いた。
『ばいばい』



 雨音が、それで絶えた。
 夜の果てには黄金色の朝陽が滲む。
 空の裾には朝が在った――曇天は払われ、その向こうには太陽が薄く陣取っている。

 ひとりぼっちの贄たちは、ひとりぼっちの人間としてそれぞれの生活に苦く戻ってゆくだろう。
 核となる存在を喪った教団も、信徒たちが散り散りになってしまえば後は雑踏のはざまに消えゆくだけだ。死したふたりの事は、怪死事件として少しだけ新聞やワイドショーを賑わせるだろう。長らく放置されていた廃ビルにも、警察の手が入っていつかスクラップに成り果てる。
 それだけ――それだけだ。友達を待っていた化物ひとつ消えたところで、ひとの営みはそう大きく変わらない。
 けれど贄となる者たちは解き放たれ、いつかの未来で死す筈だった命は救われたのだ。誇るべき事だ。賞賛されるべき事実だ。
 だから、胸を張って良い。
 どれだけその胸中に、引っ掻き傷が残ったとしても。

 ――雨は確かに、上がったのだから。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年01月18日


挿絵イラスト