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アースクライシス2019②〜セミの音

#ヒーローズアース #戦争 #アースクライシス2019

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●天使の海にセミが鳴く
 アメリカ西部の大都市、ロサンゼルス。
「SHIT! 敵はどんだけいやがるんだ!」
「弾丸が足りる気がねえぜ!」
 その海岸は、銃声と砲火が鳴り止まず、怒号飛び交う戦場と化していた。
「追加のロケット弾、持ってきたぜ!」
「俺のユーベルコードならここからでも届く!」
「オブリビオンに遠慮はいらねえ! パイナップルもお見舞いしてやれ!」
「ラジャー!」
「って、バカかてめぇ! フルーツじゃねえ! 手榴弾だ!」
 砲弾、ユーベルコート、爆弾。時にフルーツも飛び交う激しい戦場である。
 国連軍・ヒーロー・ヴィランからなる『ロサンゼルス防衛軍』がビーチに防衛線を敷いて『オブリビオン軍』を必死に食い止めている形だ。
「この調子なら――!」
 兵士の誰かが、そんな事を口走った。
 確かに一見すれば、状況は五分と五分――そう見える。いや、思いたかった。

 ズンチャ、ズンチャカ、ズドドドドドドッ!

 オブリビオン達の向こうから聞こえてくる音を、誰もが幻聴だと思いたかった。
 ダンッ! ズドドドドッ!
 景気よく鳴ってるけど、ごめん、これ銃声じゃないんだ。
 ドラムの音だ。
 そしてドラムセットを叩いているのは――。

「ミーン! ミンミンミンミーンッ!」
 セミだった。

 ダラララララララーッ!
 ジャーンッ!
 ジャーンッ!
 すっげえノリノリでドラム叩いている、その名もセミドラマー!
「くっそぉぉぉぉ! セミに負けたくねぇぇぇぇ!」
「だが勝てる気もしねぇぇぇぇぇぇ!」
「うおー! 早く来てくれー! イェーガー!」

●ピンチなんだ
「という状況なんで、ひとっ飛び、ヒーローズアースのロサンゼルスまで行って、セミぶちのめしてきて。よろしく」
 いやいや待て待て。
 ツッコミどころだらけな説明を話し終えるなり、転移の準備にかかろうとしたルシル・フューラー(ノーザンエルフ・f03676)に、流石に待ったがかかる。
 もうちょっとこう、他にないの?
「ああ、そうそう。国連軍・ヒーロー・ヴィランが『ロサンゼルス防衛軍』を来んでいる理由だけど、敵が持ってる兵器が問題」
 アトランティス――かの世界の太平洋の海底に眠る、海底人の海洋文明。
 オブリビオン達は、その海洋文明の洪水兵器を要している。
「洪水の兵器化は、ロサンゼルスのみならず世界をも滅ぼしかねない。そんな危機感が種族や思想を超えた防衛軍を結成させたのさ」
 それでも、ぎりぎりの所で侵攻を食い止めるのがやっと。
「そして軍の部隊を指揮するボスのオブリビオンは、彼らでは歯が立たない」
 ボスを止められないという事は、軍備・戦力共に勝るオブリビオン軍を、彼らだけでこのまま食い止める事は不可能だという事だ。
「だから猟兵の出番なんだけど――その間も防衛戦、続いてるから」
 防衛軍もオブリビオン軍、休みなく戦い続けている。
 砲弾やユーベルコードの飛び交う戦場を潜り抜け、セミドラマーを倒す。
 それが、猟兵に求められている役割だ。
「なお、何でセミがドラマーやってるんだと言うのは――私にも判らない」
 わからないんじゃ仕方ないね。


泰月
 泰月(たいげつ)です。
 目を通して頂き、ありがとうございます。

 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「アースクライシス2019」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 ロサンゼルス防衛戦です。
 今回は、敵味方が大軍同士で戦闘を続ける中、その放火を掻い潜って敵部隊の指揮官たるオブリビオンを倒すミッションとなります。

 そのような状況ですので、『飛び交う砲弾やユーベルコード、雑兵の攻撃をかわす』ための行動があると、プレイングボーナスとなり有利に立つが出来ます。
 敵指揮官は、セミドラマー!
 蝉です。蝉のドラマーです。なんでや。
 悪の組織に攫われて、体を改造された蝉らしいです。なんでや。

 なお戦争シナリオという事もあり、今回は『全員描写』は確約致しません。

 ではでは、よろしければご参加下さい。
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第1章 ボス戦 『セミドラマー』

POW   :    256ビート
【リズムを刻む】事で【256ビートモード】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD   :    生ける騒音公害
【けたたましい蝉の鳴き声】【ダミ声のボーカル】【ドラムの爆音】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ   :    セミロックバンド
【蝉のロックバンド】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。

イラスト:天之十市

👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はニィ・ハンブルビーです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ヘンリエッタ・モリアーティ
……うるさいわ……。
いや、うるさすぎる。これには私もブチギレ阿修羅にならざるを得ません
えっ?なに?本当にうるさいわね

――【黄昏】。
怒りをパワーにする技があってよかったわ。怪力で地面を割って隆起させます
音波の阻害にはならないかもしれないけど、雑魚を散らすにはちょうどいいでしょう
さあ、「ダークヒーロー・ウロボロス」がきましたよ……ああもううるさい

まずそのドラムをボコボコにしてやるわ
ひたすら殴る
刻むわ私のビート 砕けろお前の関節
シンバルで首でも刈り取ってやろうかしらこの野郎
いいえ素手で引きちぎってもいいわね
――いいや、もう。やりたい放題殺してやる

沈黙が好きよ。
迷惑な演奏会はこれでおしまい


鍋島・小百合子
POW重視

あちこちで喧騒や騒音が鳴り響く…五月蠅い戦場が続くのう
ここも例外ではないな

「ええい!やかましいわ!」
騒音対策で耳に栓をしておく
UC「黄金勇霊装」発動
黄金の甲冑を纏い勇気に比例した戦闘力を得たら飛翔能力とダッシュを交えて戦場を駆ける
矢玉の嵐は残像を纏いながら掻い潜り、薙刀を前方に風車の如く回して捌いていく(なぎ払い、武器受け、衝撃波併用)
敵将たるセミとの戦では敵の速さに飛翔能力とダッシュで追従しながら風の属性を纏った薙刀で切り結ぶ(空中戦、なぎ払い、範囲攻撃、串刺し、鎧砕き、属性攻撃併用)
敵の攻撃には残像を用いた回避、隙あらば小太刀による咄嗟の一撃を食らわす

他の猟兵との連携、アドリブ可


クトゥルティア・ドラグノフ
※アドリブ共闘大歓迎

何故?WHAT?WHY?
セミ、セミなんで?
……いやいや呆けてる場合じゃない!倒さないとね!

【蒼色月光】をすぐさま使用して液体化するよ!
そうすれば大抵の攻撃は通用しなくなるし、高速移動も可能だ!
もちろんそれでもダメージを負いそうなら、【見切り】で回避したり【怪力】を活かした剣技でたたっ切るよ!

たどり着いたならリズムを刻まれる前に高水圧弾を発射!
いくら鋼鉄を裂ける弾丸でも、私の一部であることには変わらないしダメージは大したことないかもしれない。
だけれどそれで怯めば御の字!
その間に近づいて切り伏せる!
間に合わなくてビートを受けても構わないという、私の【覚悟】と【勇気】を味わえ!


ダビング・レコーズ
これより戦闘行動を開始します
イェーガーズ・アッセンブル

【POW・全歓迎】

目標はセミですか
バイオウェポンの類でも無いようですね

乱れ飛ぶ弾幕を掻い潜って進まなければなりませんか
回避にはセミが発生させるこのリズムを利用しましょう
当機の運動性(ダンス)と機動力を合わせれば可能な筈です

ブラストグリント、スタンバイ
リズムとビートに合わせ舞踏するように回避運動を取りつつ突撃
雑兵やミサイル等は軌道を見切り薙ぎ払って迎撃処理
進攻を妨げる敵はスヴェルでシールドバッシュし強烈なドラム音をプラスしましょう

セミの元へ到達後はサイリウム
訂正、ルナティクスによるソードダンスを披露
空中機動も織り交ぜた乱舞で斬り刻みます


レイチェル・ノースロップ
・POW
Umm…なんか愉快な状況ですけど、兵隊さんにヒーロー&ヴィラン連合も参ってるみたいね
セミの騒音、恐るべし
ストレスフルで銃弾が飛び交う戦場を【見切り】ながら【ダッシュ】で駆け、砲弾は斬ったり華麗に【踏みつけ】て【ジャンプ】
サンシタらをそのまま一気に飛び越えてBOSSに一直線よ

さぁ、セミ=サン
このスワローテイルが相手に…って、ドラムをただ打ってる相手を斬るのも気が引けるわね…
そうだ、バンドよバンド
【ブンシン・ジツ】の分身体と一緒にバンド【パフォーマンス】勝負デース
丁度楽器ショップがあったから拝借して…っと
A one,two,one two three four Rock 'n' Roll!


六代目・松座衛門
「音楽で平和を歌う…ってわけではないのか。」
奇妙な音響兵器(?)に戸惑いつつ、UC、弾丸飛び交う戦場へ飛び込む準備をする。

「さぁ、どんな怪物が出てくる!? 演目「荒天」!」
おもむろに人形「暁闇」を戦場のど真ん中の上空へ飛ばし、あたかも「透明で巨大な怪物に地面に叩きつけられた」ように地面へぶつけさせ、その様子を見た敵味方全員の連想を糧に怪物を召喚させる!

「兵隊さん、援護を頼むぞ!」
UCの性質上、怪物が自分へ放つ攻撃を【フェイント】を交えて躱しつつ、戦場を横断する。

「ドラムを叩いている場合じゃないぞ!」
そのまま怪物を『セミドラマー』の場所まで誘導し、攻撃に巻き込ませる!

アドリブ、連携歓迎


亜儀流野・珠
セミな。うん。
思考に使う時間もエネルギーも勿体無い!さあさっさと終わらせよう!

ライオンライド……黄金のライオンを召喚、騎乗する!
これなら多少のことなら蹴散らし進める!戦闘はせず一直線に進むぞ!
俺とライオンの動体視力・運動能力で攻撃や敵は躱しながら進もう。味方のピンチや隙だらけの敵がいたらついでだ、踏ん付けていく!

で、セミな。
ライオンよ、お前セミ好きだったよな?ああ今決めた。食ってしまっていいぞ!
ドラムは動けんからな!思い切り突進して噛み付いてしまえ!
俺も折角だし楽器で参戦しよう。ギター「火トモシ」……で殴る!ドラムも殴る!
ギター振り回してドラムも破壊!現代の音楽とはそういうものらしいからな!


兎乃・零時
アドリブ絡み大歓迎

何でフルーツ…?え、せみ?え……何か想像以上にごった煮だ―!?
(怖いとか以前になんだ之?!いやほんとなんだこの戦場!?)


フルーツ塗れも爆弾とかも色々御免だ…!

迫ってくる攻撃やら諸々は「紙兎パル」の【拠点防御・オーラ防御】で上手い事防いだり【援護射撃】で弾いたり
俺様自身も光【属性攻撃】な魔力放射で敵をぶっ飛ばすぜ!

セミドラマーに近づく時は
「紙兎パル」の【念動力】パワーで一種の【ドーピング】が如く自身の動きを無理やり早くして貰う(正直動きが早くて怖い)
その勢いのまま【ダッシュ・ジャンプ】で疑似【空中浮遊】!
蝉の頭上から【零距離射撃・捨て身の一撃・全力魔法】な、全力全開の…UCだ!


フィランサ・ロセウス
周辺の【地形を利用】して、ニンジャ・フックシューターを次々と引っ掛けていく事で高速移動
砲弾や敵の攻撃が当たらないようにするわ
セミドラマーの元にたどり着いたらダーク・ヴェンジャンスを発動して…これ、鼓膜へのダメージも負傷に入るのかしら?入るよね!
ともかくこれであっちが騒音を出し続ける限り、こっちの戦闘力が強化されるはず
強化された一撃でその短い生命、吸い尽くしてあげる!

それにしてもセミかぁ…セミを破壊(アイ)するなんてはじめてだわ
私も全力で頑張るから、最期まで素敵な声で鳴いてね!


フィーナ・ステラガーデン
いやいやいや!?
どこから突っ込めば良いのかもわからないわ!?
ええ?あのドラムのリズムで士気でもあげてるのかしら・・?
っていうかあのセミ、自分の寿命削ってまで演奏してるわよ!?
何がそこまであのセミにそうさせるの!?
短い寿命でけたたましく頑張りすぎでしょ!
どんだけ精一杯、今を生きてるのよ!ある意味尊敬するわ!

ま、まあいいわ!とにかくやかましいしちゃっちゃと片付けるわよ!
【地形を利用】もしくは仲間猟兵の後ろで魔力を溜めて
雑兵の攻撃をやり過ごしつつ魔力を溜めて
一気にUC【全力魔法】で炎の剣を伸ばして雑兵ごと一気になぎ払うとするわ!
どこの世界にも色物はいるものね!
(アレンジアドリブ連携大歓迎!)


釘塚・機人
いやなんでだよ!!!?(ド直球ツッコミ)


と、とりあえずあのセミをやっつければいいんだよな…

よし、依頼で動かすのは初めてだが、ここはコイツに働いてもらうとすっか
(ブラッドサーカス(以下BC)の上に乗り)


砲弾等の攻撃はBCに乗って回避、乗りこなすべく【騎乗】【操縦】の技能を活用

【地形の利用】として海岸周辺に段差や岩場、樹木があれば飛び乗ったり盾代りにする

場合によっては「万形歯車射撃」で大きいサイズの歯車を発射、盾に使う他、洪水攻撃には高速回転させて発射し水を拡散させ威力を弱める


セミドラマーには選択UCを発動、咆哮で周囲の音を満たすことで敵のリズム刻みを妨害し、その隙に弾丸の雨をぶつけていく


レナータ・バルダーヌ
もうだいぶ寒くなってきましたけど、セミさん……!
お元気そうでなによりです。
でもやっぱり夏の風物詩ですし、骸の海にお帰りいただかないといけませんね。

道中の砲火は躱すといっていいのかわかりませんけど、策ならあります。
【B.I.ライダー】で高温の炎を纏えば、兵士さんたちは簡単に近づけないでしょうし、鉛玉程度でしたら当たる前に蒸発させられます。
爆炎などは温度を上げるのに利用できるので、炎の鎧で防げないような攻撃にだけ注意して進みましょう。

セミドラマーさんに辿り着いたら炎の温度をさらに上げ、輻射熱で攻撃します。
最後にもう一度夏の暑さを思い出していただけたら、ささやかながらお土産にならないでしょうか?


レナ・ヴァレンタイン
ほほう?セミが?ドラムで?ビートを刻んでいる?…うん?
いやまあいい。あんなんでも脅威は脅威だ、なんとか斬るか

事前準備として防衛軍にある程度の手榴弾や爆発物を分けてもらう
敵に戦闘ヘリのようなものがあるなら、それが第一目標
ないなら砲台、銃手、あるいは爆発物を扱ってる者
そちらへとユーベルコードの次元跳躍で移動、爆弾を投げたら次の目標へ
そうやって次々に目標を変えて爆破&銃撃を加えながら侵攻

ボス格に対してもユーベルコードの瞬間移動から【スナイパー】【乱れ撃ち】【クイックドロウ】【鎧砕き】技能を組み合わせたアームドフォートの抜き打ちで最低限ドラムだけは破壊する
あとは手持ち武装の火力で早急に押し切るだけだ


御堂・茜
珍種にございます
章様がとても来たがっておられましたが
柱に縛りつけておきましたわ!!
虫全般悪にございますが
セミは…セミだけは!御堂が成敗せねば!!
ミンミンの輩もカナカナ鳴く輩の親戚にございますからね!!

参りましょうサンセットジャスティス!
加速装置の紋所も装着しバイク形態に
【気合い】の【オーラ防御】を纏い
UC【暴れん坊プリンセス】でセミに突撃しますッ!!
飛び交う攻撃は勘と操縦技術で避けれるものは避けますが
極力最高速度を維持し【捨て身の一撃】を加える事を重視

ドラムの騒音にはエンジン音と【鼓舞】の大声でかき消し
セミをドラムもろとも…轢きます!!
轢きます!!!
跡形もなく!!!
とても善行をした気分ですわ!


ジャスパー・ドゥルジー
【ジャバウォックの歌】使用
ナイフで腹肉削いで相棒召喚
俺がセミ野郎を燃やしに行く間
雑魚の攻撃を惹き付けてくれ
続く奴が立ち回りやすいように
雑魚減らしも頼んだぜ

相棒の炎に紛れるようにして接近
引きつけきれなかったやつはナイフ投擲ですっこんどいて貰おう

256ビートはやべェだろ
BPMが10くらいなんだろ?
そうと言ってくr……うわっうるせぇ
セミの羽音とドラムがダブルでうるせぇ
セミが寿命削ったらそのまま死なねェか?
死なねェの?
じゃーしゃあない
燃える血をナイフに塗りつけて
炎のナイフで串刺しにするぜ

こ、いつ
ちょこまか飛び回りやがって…!
さっさと俺に刺されろ
じゃねーとあんたのドラムセットに火ィつけるからな!(脅迫)



●第1楽章――困惑と騒音
 ドドドダダダダダズドドドドダンッ! ジャーンッ!
 転移してきた猟兵達を、砲火よりも喧しいドラムの音が出迎える。
 叩いているのは――セミ!

「いやなんでだよ!!!?」
 釘塚・機人(ジャンク愛好メカニック・f02071)のド直球なツッコミさえも、大音量のドラムの音にかき消される。
「何故? WHAT? WHY? セミ、セミなんで?」
 クトゥルティア・ドラグノフ(無垢なる月光・f14438)は、実際にドラムを叩くセミの姿を目の当たりにして、思わず目を白黒させていた。
「確かにセミですね。バイオウェポンの類でも無いようですが……」
 ダビング・レコーズ(RS01・f12341)の機械の瞳が、分析するように明滅する。
 その横を、何故か通り過ぎていくパイナップル。
「何でフルーツ……? え、せみ?」
 飛んでいった黄色い硬そうな皮を持つ果物とドラム打ち鳴らすセミの姿に、兎乃・零時(そして少年は断崖を駆けあがる・f00283)も軽くパニックで。
「手榴弾をその見た目から、俗にパイナップルと言うと、当機のデータベースにはあります。何故勘違いしているかは、当機にも分かりかねますが」
 その疑問の1つには、ダビングが淡々と返す。
「え……何か想像以上にごった煮だ―!?」
 それでも、零時の理解が追いつけず、困惑は深まるばかり。
「ほほう? セミが? ドラムで? ビートを刻んでいる? ……うん?」
 レナ・ヴァレンタイン(ブラッドワンダラー・f00996)も目の前の事実を口に出して、そのおかしさに首を捻った。
「セミかぁ…セミを破壊(アイ)するなんてはじめてだわ」
 フィランサ・ロセウス(危険な好意・f16445)は、ドラムを元気に叩くセミに向ける視線もハートが浮かんでいて、まあ通常運転だ。

 こんな状況も、ろうせず受け入れる猟兵もいる。
 と言うか、むしろ――。
「もうだいぶ寒くなってきましたけど、セミさん……お元気そうでなによりです!」
 レナータ・バルダーヌ(復讐の輪廻・f13031)は、いつもの柔和な笑顔で、ドラムを叩くセミの元気な姿を喜んでいるようだった。
「秋に元気なセミ。確かに珍種にございます」
 レナータの言葉を首肯しながら、御堂・茜(ジャスティスモンスター・f05315)が拳を握り締める。
「珍種とあらば、なおの事。セミだけは! 御堂が成敗せねば!!」
 ある意味いつも通り。いつも以上に。
 茜は、己の正義に燃えていた。

「あのドラムのリズムで士気でもあげてるのかしら……?」
「音楽で平和を歌う……ってわけではなさそうだが」
 フィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)と六代目・松座衛門(とある人形操術の亡霊・f02931)が、ドラムの音が聞こえる方に耳を立ててみる。
 すると聞こえて来たのはセミ配下達の声。
『ああ! アレはイェーガー!』
『ちぃっ、ついに来たか!』
『ま、まずいぞ! セミドラマー様の音量が……!』
 セミドラマー配下のオブリビオン達は、何故か猟兵の出現に慌てているようだ。
 ズダダダンッ!
 ダダダダダダダッ! ジャ! ジャーン!
 その後ろで、ドラムの音が激しさを増した。
『奴らを近づけさせるな! セミドラマー様の音量を上げさせないためにも!』
『これ以上五月蝿くなってたまるか!』
 どうやらオブリビオン達としても、鼓舞を通り越して五月蝿い指揮官らしい。
「思ったのと真逆だわ!? 確かに士気が上がっているのかも知れないけれど!?」
 想像の真逆という現実に、フィーナが思わずツッコミの声を上げる。
「平和どころか……奏でるのは混沌か」
 松座衛門は何処か残念そうに、溜息を零していた。
「まあ、どこの世界にも、色物はいるものね!」
「色物で済むの!? 怖いとか以前になんだ之?! ほんとなんだこの戦場!?」
 一言で片付けたフィーナの横で、零時が頭のトンガリ帽子を抱えていた。

 ドコドコドコドコジャーンジャーンドドドドドッ!
 留まる所を知らずに鳴り続けるドラムの音。
 そして、その音量を上げまいとする敵の声は、レイチェル・ノースロップ(ニンジャネーム「スワローテイル」・f16433)の耳にも届いていた。
「Umm……なんか愉快な状況ですけど、兵隊さんにヒーロー&ヴィラン連合どころか、直属の敵すら参ってるみたいね。セミの騒音、恐るべし」
 愉快とは言いながら、レイチェルが浮かべた笑みは、やや苦笑混じり。
「あちこちで喧騒や騒音が鳴り響く……五月蠅い戦場が続いとるのう。ここも例外ではない――どころか、やかましいわ!」
 鍋島・小百合子(朱威の風舞・f04799)は、堪らず両耳を掌で塞ぐ。
 すぐに無駄だと思い知って、離したけれど。
「……うるさいわ……」
 ため息まじりに呟いたヘンリエッタ・モリアーティ(Uroboros・f07026)も、眉間にも不愉快そうに皺が寄っている。
「うん。こうなるともう、思考に使う時間もエネルギーも勿体無い! つまり、さっさと終わらせよう!」
 亜儀流野・珠(狐の恩返し・f01686)の言葉に異論は上がらず。
「肯定。これより戦闘行動を開始します。イェーガーズ・アッセンブル」
 ダビングの機械の目が、強い輝きを放つ。
「そうだね。呆けてる場合じゃない! 倒さないとね!」
 呆けていた自分に気づいて、クトゥルティアは気合を入れるように頬を軽く叩く。
「我は纏う勇に相応しき極みの鎧……輝け!」
 小百合子の全身が、黄金の輝きに包まれる。
「そんじゃあ――出番だぜ、相棒!」
 そしてジャスパー・ドゥルジー(Ephemera・f20695)が、自分の身体にナイフを勢いよく突き立てた。

●第2楽章――混迷深まる戦場
「さ、刺した!?」
『その上、抉ってやがる!?』
 文字通りに自腹を切ったジャスパーの行為に、敵も味方も驚きの声を上げる。
 そんな声を聞き流し、ジャスパーが抉った肉は1ポンド。
 それを代償に呼び出すオウガは、魔炎龍ジャバウォック。その黒い炎が、ジャスパーの背中から立ち昇り――。
「いや、待て。あの行動……あれはもしや」
「どうした? 知ってるのか、隊長!」
 そんな時だった。
 後ろの国連軍の中から、そんな声が聞こえてきたのは。
「ああ。俺が見たものとは違うが――間違いない。アレは、SEPPUKU!」
(「――ンンンッ?」)
「SEPPUKU――そ、それって」
「YES! またの名をHARAKIRI! そして角に見えるものはおそらく、KABUTO!」
「HARAKIRIとKABUTOだと!? そ、それはまさか――」
「ああ、間違いない。彼はジャパニーズSA・MU・RA・Iだー!!!」
 胸中で首を撚るジャスパーの後ろで、国連軍の皆さんの暴走が止まらない。
「鬼とか悪魔は言われ飽きてるけどよ……なんだ、これ」
 呻くジャスパーの背後で、すっかり顕現していた巨大な赤い鱗の龍――ジャバウォックが、なんてけったいな所に呼んでくれたの、と言いたげな視線を送っている。
「そんな目で見るなよ。俺がセミ野郎を燃やしに行く間、雑魚は頼んだぜ」
 ジャバウォックの返答は、言葉ではなく炎。
 浴びたものを混沌と化す黒炎が、飛び交う矢弾も敵も燃やして行く。炎が拓いたその道を、未だ炎が消えきらぬ中、ジャスパーは悠々と進みだした。

「――黄昏」
 短く告げて、ヘンリエッタが足元の地面を殴りつける。
 瞬間、水底が隆起して、海が割れて形を変えた。
「やはり音はさほど遮断出来ませんか。ま、雑魚を散らすにはちょうどいいでしょう」
 気怠そうに呟いて、ヘンリエッタは引き抜いた拳を再び振るい、海を割り、土の壁を作り上げる。
 地形を変えるほどの怪力が、ヘンリエッタの細腕の何処にあるのか。
 その力の根源は、怒りだ。
「さあ、『ダークヒーロー・ウロボロス』がきましたよ……ああもう。うるさい」
 その怒りの根源たるセミを目指し、ヘンリエッタは地形を変えながら進み征く。
 そして変えられた地形は、他の猟兵たちにとっても足がかりとなっていった。

「はーっ。すっごい力ねー」
 ドゴン、ドカンッと拳で地形を変えながら進んでいくヘンリエッタの背中を見送るフィーナの口から、感嘆の息が漏れる。
「せっかくだから、これ使わせて貰いましょ」
 隆起した土の壁の陰に身を隠し、フィーナは杖を握り締めた。
 ようは――セミに攻撃が届けばいい、のだ。
 そうせずとも可能であるのならば、セミに『近づかなければいけない』という道理は、何処にもない。
 そしてフィーナには、それを可能とする業がある。
「魔力を溜める時間は――当てにさせて貰うわよ」
 握った杖の先端がパカッと開くと、フィーナはそこに魔力を溜め始めた。

「邪魔よ、邪魔」
 集団のオブリビオンの頭上を、フィランサが飛んでいた。
 その手にあるのは拳銃型の射出装置、ニンジャ・フックシューター。
 ここはロスの海岸。
 フックを引っ掛けるモノなど、通常ならばほとんどない。だが、ヘンリエッタが変えた地形は、フックを引っ掛けるのに最適だった。
 それに――フックを引っ掛けられるのは、何も無機物に限ったことではない。
『うおっ!?』
『俺たちにフックをかけて!?』
 セミ配下のオブリビオン。その身体にもフックを引っ掛ける事で、フィランサは敵の集団を飛び越えていく。

『い、行かせるな! ぶぎゅっ』
 頭上を飛び越えたフィランサを目で追って、思わず振り向いてしまった配下オブリビオンを黄金の足が踏み潰した。
 珠が召喚した、3mほどの黄金の獅子である。
「いいぞ、ライオン! 隙だらけのやつはどんどん踏ん付けてやれ!」
 飛び交う弾丸を飛び越えた獅子の上で、珠が声を上げる。
「踏んづけたら、それでいい。相手にするな。邪魔なのだけ蹴散らして進むぞ」
 珠の指示に頷いて、ライオンは野生の動体視力と運動能力で飛び交う流れ弾を避け、行く手を塞ぐ配下は踏んづけて駆けていく。
『く、くそぉ――ぶべっ』
 ヨロヨロと立ち上がったオブリビオンを、今度は更に大きな機械の足が踏み潰した。
 機人の蒸気機械獅子『ブラッドサーカス』である。
「コイツを実戦で動かすのは初めてだが……これなら行ける!」
 ブラッドサーカスを操り、機人は流れ弾の砲弾を食わせながら突き進んむ。
『と、止めろ!』
『行かせ――ぐぎゃぁっ!?』
 戦場を駆け抜ける二頭の獅子が通った後には、踏まれた配下オブリビオンが累々と横たわっていた。

 松座衛門が、戦闘用人形「暁闇」放り投げる。
 ふわりと浮かんだそれは、空中で突然勢いを増して、バシャンッと派手な水音を立てて海に落ちた。否――落ちたと言うより、叩き落されて降ってきた。
 松座衛門の巧みな人形操術は、十字あたかも『目に見えない巨大な何かによって、人形が空に打ち上げられ海に叩き落された』と周囲に連想させていた。
 それもその筈。
 松座衛門は鬼猟流を今に継ぐものにして、ヤドリガミとしての本体は手板と呼ばれる十字形の、人形を操る道具。この世界風に言えば、言わばコントローラー。
「人? いや、人形……か?」
『な、何か他にいるのか!?』
 ざわめく周囲に、松座衛門は小さく笑みを浮かべる。
 鬼猟流 演目其ノ三。――その仕込みは充分。
「さぁ、どんな怪物が出てくる!? 演目『荒天』!」
 松座衛門が声を張り上げた直後、何かが海に足跡を刻んだ。
 それは、敵も味方も構わずに、人形の動きを見た周囲の全ての者の連想を糧に松座衛門作り上げた、目に見えない怪物。
 果たして、鬼か、巨人か。松座衛門自身にも、詳しくは判らない。
「こいつは近づく者を誰でもぶん殴る。近寄らないで援護を頼むぞ、兵隊さん」
 召喚者自身にも向かう怪物の一撃を避けながら、松座衛門は後ろに声をかけた。

「ううむ。更にやかましい事になってそうじゃのう」
 呟いた小百合子の耳に、周囲の喧騒はほとんど聞こえていなかった。
 あまりに五月蝿いので、耳栓しちゃったのだ。
 そんなものを耳に入れれば、当然あらゆる音が遮断される。手投げの爆弾が、ほとんど音を立てずに小百合子の背中に降ってきて――ズドンッ!
「む? なんじゃ、爆弾か?」
 爆炎を背中に浴びながら、小百合子は平然としていた。
 黄金勇霊装――黄金に輝く武神の甲冑は、流れ弾程度、ものともしない。
「とは言え、衝撃は多少来るのう。とっとと突破するに限るな」
 背中に黄金の輝きを翼の様に広げて、愛刀たる薙刀『竜王御前』を風車のように振り回して阻む敵をなぎ倒し、小百合子は戦場を突破せんと突き進む。

 敢えて音を断つものがいれば、音を利用するものもいる。
「ふむ。この距離でも充分聞こえるリズム……利用させて貰いましょう」
 激しい戦場の中にあっても、存在感を放つドラムのリズム。
 ダビングは、ほとんどが騒音としか聞いていないそれを、利用しようとしていた。
「当機の運動性と機動力を合わせれば、ダンスのような立体軌道も可能な筈です」
 かつて大破した際に記憶情報のほとんどを喪失したからか、ダビングには感情と呼べるものは存在しない。故に、ダンスのような娯楽を必要とはしない。
 されど、感情の概念とそれを発露させるべき状況は、知識としては得ている。
「ブラストグリント、スタンバイ。これより戦闘――否。舞踏行動を開始します」
 ダビングの背中に6枚3対の刃翼が展開される。
 フライトユニットからエネルギー光を噴射して、ダビングは滑るように飛び出した。
 ダララダダダンッ!
 スネアドラムのリズムとビートに合わせて、ダビングの3m近い白銀の機体が跳び上がって、空中で4回転した。
 ジャーンッ!
 シンバルの音に合わせて飛び上がり、空中で回転しながら敵を飛び越え着水。
『バ、バカな! セミドラマー様に合わせてるだと!?』
『イェーガーの機体は化け物か!』
 自分たちでも出来ない事をやってのけたダビングに、驚く配下オブリビオン達。
『だが、進ませるわけには――っ!?』
 果敢に行く手を阻もうとした配下を、ダビングはスヴェルの盾打ちで、ゴォォォンッと小気味いい音を鳴らしてふっ飛ばした。

 必要な事は、戦場を抜けてセミドラマーに辿り着くこと。
 他の敵を相手にする必要は、一切ない。
 そしてここは海辺――クトゥルティアには、この場に最適と言える業があった。
「こういうこともできるんだよ? ――液状化!」
 飛び交う砲弾の爆発が、クトゥルティアを飲み込む。
 爆炎が晴れた時――クトゥルティアの姿は、立っていた場所にはいなかった。
『や、やったぜ! 何がイェーガーだ!』
 勝ち誇る配下オブリビオンの足元で、海水がぬるりと動く。
 クトゥルティアは『そこ』にいた。海水に、身体を変化させて。
 蒼色月光――ディープブルー・ムーンライト。
 自身を圧力を自在に変えられる海水へと変える業。今のクトゥルティアにとって、海辺というこの戦場に、身を隠す場所は無数に存在している。
 尤も、海水状態で蒸発してしまえば致命的であり――。
(「炎の術を使う人には気をつけないとね」)
 クトゥルティアは吹き上がる紫炎から離れながら、セミを目指し進んでいく。

「これで砲火を躱す――と言って良いのか判らないですけど」
 レナータの身体に残る傷痕から、炎が吹き上がる。
 淡い紫色の炎は、この世成らざる地獄の炎。高温の炎を、レナータは翼と変えずに自分の身体へと纏わせた。
 炎を鎧と纏ったその姿は、レナータの業。ブレイズインフェルノ・ライダー。
「これで兵士さん達は、簡単に近づけないでしょう」
 レナータの呟いた言葉の通り、これには味方の兵はおろか敵の配下も近づけない。
 何しろ、その炎の鎧は、飛んできた流れ弾がレナータに届く前に溶かしているのだ。
 それほどの高温。触れれば火傷ではすまないと判っていて、触れられるものなどそうそういるものか。
『止めろ! 砲弾を撃ち込め!』
 ならばと撃ち込まれた砲弾も、レナータは意に介さない。
 物理的衝撃が大きい、直撃だけを避ければいい。余波の爆炎は全て、炎の鎧に取り込み糧と出来るのだから。
 纏う熱量を上げながら、レナータは悠々と戦場を歩みゆく。

『くっ、俺たち程度のユーベルコードでは効かないのか!?』
『アイツラを止める武器はないのか!』
 あちこちからセミドラマーへと近づいていく猟兵達に、配下オブリビオンが呻く。
「爆弾が足りない? ほら、使いな」
 そこに、ふらりと現れたレナがさも味方のフリをして、ぽんと爆弾を手渡した。
『おお。助か――って、これピンが抜けでゅおわっっ!?』
 受け取った爆弾が次の瞬間には爆発しては、オブリビオンにその爆発から逃れる術などある筈もない。
 爆炎が収まった後には、黒焦げで海に浮かぶオブリビオンが一体。
 レナの姿は、その周囲には何処にもない。
『くそっ、爆弾だ! 爆発で奴らを足止め――!』
 随分と離れた別の配下の頭上に現れたレナが、欲している爆弾を放り投げて、またすぐにかき消える。
 断ち切れぬ追撃者――ライト・ビハインド・ユー・ベイビー。
 次元跳躍を繰り返し、レナは配下の数を着実に減らして回っていた。

「避けてくれ!」
「ん? ――うぉっ!?」
 聞こえた兵士の声に零時が振り向いて見れば、どうも手からスっぽ抜けたらしいパイナップル(果物)が明後日の方向にふっ飛ばされた所だった。
 パイナップルを弾き飛ばしたのは、零時の周囲に浮かんでいる小さな紙のウサギ。
 紙兎パル――零時の溢れる魔力で動く、半ば全自動状態な式紙である。
「だから何でまだパイナップル投げてんだよ! いや、当たったら痛そうだけど!」
 誰か手榴弾だと教えてやれ――と零時は思っていたが、手榴弾は手榴弾でポンポン飛んできているので、まあ、パイナップルでも何でも武器になるなら投げてしまえ、ってなっているのかもしれない。
『余所見してるとあぶねーぞー!』
 零時が何かに気を取られている、とみた配下オブリビオンが飛び掛かっ――。
『うぉーっ!?』
 パイナップル同様、紙兎パルが勝手に張った魔力障壁に弾き飛ばされた。
「フルーツ塗れも爆弾とかも色々御免だ……!」
 零時自身も魔力光を放ちながら、少しずつセミへと歩みを進めていく。

 次第に撹乱される戦場。
 その流れを見切って、レイチェルが一気に駆け抜ける。
『く、来るな!』
「サンシタはお呼びじゃないね!」
 気づいた敵が投げた爆弾を逆に踏ん付けて、レイチェルはその爆風に乗って敵の頭上を軽々と飛び越える。
(「見えてきた、けど。ドラムをただ打ってる相手を斬るのも気が引けるわね……」)
 スダダダダッ! ダカダカダカッ、ジャーンッ!
 空中でセミドラマーの打ち鳴らす音を聞きながら、レイチェルはそんな事を思う。
 先行している猟兵は、既にセミドラマーに迫ろうとしていた。他の猟兵達もそれぞれに戦場を抜けつつある。
「しからば、ここは――バンドね!」
 レイチェルの指が印を組む。
「ブンシン・ジツ!」
 着水した瞬間、レイチェルの姿が増えた。
「「「Quantity to Quantity……こんな事もあろうかと、楽器は街でお借りしてありマース!!!」」」
 全く同じ姿のレイチェル達が、思い思いに楽器を構えた。
「さぁ、セミ=サン。バンド勝負デース!」
 告げられたセミが、スティックを一度止めた。
 そして、ダラララララララララ――ダンッ!
 セミドラマーが、ドラムロールを激しく打ち鳴らす。
 その音に呼応する様に、海の中から何かが聞こえてきた。

 \ミーンミンミンミン/
 \チーニーヂーニイニーィ/
 \カナカナカナカナカナ/
 \ジージージリジリジジジー/
 \オーシンツクツクオーシンツクツク/
 \シャワシャワシャワシャワ/

 海の中からそれぞれに鳴き声を響かせて、続々出てくる各種のセミ。
 蝉のロックバンドが、勢揃いしていた。

「WHY? 何故? WHAT? セミ、セミなんで増えた?」
 クトゥルティアが思わず顔だけ戻して、海から顔を出す。
 その表情は、目が点になっていた。
「いやいやいや!? どこから突っ込めば良いのかもわからないわ!?」
「ツッコミどころありすぎるだろ!」
 堪らずフィーナと機人がツッコミを上げていた。
「何で海からセミなんだよ! 増えるにしてもせめて空から出てこい!」
 機人のツッコミが、止まらない。
「それに、アメリカにいたらおかしいセミだっているよなぁぁぁぁ!?」
 ジャンクが絡まなければ、機人は結構、常識人なのだ。
「楽器もおかしいのがいるぞ……」
 珠の言う通り、ベースだのエレキギターだのキーボードだのトランペットだのマラカス辺りは、まあロックバンドにいてもいいだろう。
 チェロとかティンパニとかはちょっとクラシック系だが、そう言うロックもある。
 だが、銅鑼とかバグパイプは、明らかに変わり種だ。

「カ、カナカナが……カナカナまでもが出てきましたー!!!」
 それを見た茜が、興奮した様子で声を上げていた。
「ミンミンの輩もカナカナ鳴く輩の親戚……そう思ってございましたが、まさかカナカナ鳴く輩まで出てくるとは……!」
 カナカナと鳴くセミは、蜩。茜が色々と弄っているネオジャスティスミドウ城のある藩の名前は、とても似ているらしい。
 ネオジャスティスミドウ城の中でも、色々あったらしい。ここにいない黒衣の誰かが、柱にふん縛られたりとか。
「遅れを取るわけには参りませぬ。全速で参りますよ、サンセットジャスティス!」
 名馬サンセットジャスティスの額に、背伸びした茜がジャスティスミドウ・モンドコロをバシッとセットする。
 するとサンセットジャスティスの姿が光に包まれ――バイクに変形した。
 もしかしたら、こっちが本体かもしれない。
 茜は慣れた様子でサンセットジャスティスに跨り、ハンドルを握るとスロットルを徐々に上げて全開にして、一気に加速し始めた。
「虫全般悪にございます! セミだけは御堂が成敗すべきもの! 故に、セミの配下は等しく悪でございます! 御堂は正義でございます!!」
 正義の三段論法を叫びながら、茜は邪魔な配下を轢いたり跳ね飛ばしたりして、目指すは隆起した岩盤。
 それをジャンプ台代わりに駆け上がり――茜の乗ったサンセットジャスティスは、セミドラマー配下達の頭上を飛び越えた。

 そして、そのジャンプ台となる岩盤を残して来ていたヘンリエッタはと言うと。
「いや、うるさすぎる。これには私もブチギレ阿修羅にならざるを得ません」
 騒音が元のご近所トラブルに耐えかねた人ってこんな気分だったのか――なんて思いながら、増えてやかましくなったセミ共に対する激憤と憎悪に身を任せた。

●第3楽章――セミドラマー&セミロックバンド
 指揮官はセミドラマー。
 それを倒せばこの戦いは終わる。
 故にクトゥルティアは、ロックバンドを無視してセミドラマーを狙っていた。
 ほとんど音もなく、青い軌跡がドラムにぶつかる。
 クトゥルティアが放った、高圧の海水だ。
 原理はウォーターカッターと同じ。高圧で放たれた水は、鉄すら穿つ弾丸となる。
 パシャッ。
 しかしその水は、ドラムセットに当たって弾けて散った。
「ダメージは大した事ないかもしれない――とは思っていたけれど」
 海水に身を変えたまま、クトゥルティアは眉をひそめる。
「だったら、これはどうだ!」
 飛び出した珠が、炎の様に真っ赤なギター『火トモシ』を振り上げる。
「ギター振り回してドラムを破壊! 現代の音楽とはそういうものらしいからな!」
 だが――珠が振り下ろしたギターも、セミのドラムも壊れなかった。
 クトゥルティアの水弾も珠の打撃も、届かなかったわけではない。
 ドラムを傷つけるに留まり、破壊には至らなかったという事だ。

『ミーンミンミンミンミミミミミミミィィィッ!』
 ダダダラララダダダジャジャジャダダダラダラダジャダラジャダラジャダ――!
 セミドラマーが突如として、より一層、激しく鳴いて、残像すら残らぬ程にスティックを激しく振り回し、音が重なるのも気にせずにドラムセットを叩きまくる。
 岩にも海にも染み入りそうにない、セミの音である。
 それこそが――256ビートモード。
 そんな常軌を逸した叩き方に壊れずに耐えられるドラムセットが、ただのドラムである筈がない。
 猟兵達にとっての武器や防具と同等。或いは、ドラムまで含めてのセミドラマー。
 どちらにせよ、容易く壊せるようなものではあるまい。
 そしてその音に釣られる様に、セミロックバンドも――。
 ギュイーンッ!
 ポロロン!
 ぱぷー。
 何と言うか、更にやかましくなっていた。

「マジで256ビート叩きやがった……BPM幾つだよ、あれ。やべェだろ」
 常軌を逸したリズムを叩きながら、飛び回るセミドラマーを見上げてジャスパーが眉根を寄せる。
 ――BPMが10くらいなんだろ?
 そう思っていた頃が、ジャスパーにはあったけれど。
「セミの羽音とドラムがダブルでうるせぇ」
 これが現実に起きている事である。
「あんなに動いて、セミが寿命削ったらそのまま死なねェか?」
 思わず口走ったジャスパーを見下ろす位置で、突如セミドラマーが動きを止める。
『死ナヌ。死ネヌ。オ前ダッテ肉抉ッテモ生キテルデハナイカ』
 そして、ホバリングしたままくぐもった声を発した。
「そりゃまあ――って、あんた喋れんのかよ!」
 その声に思わず頷いてしまってから、ジャスパーが思わずツッコむ。

「喋ったー!?」
 少し遅れて、離れた岩陰からフィーナの声も上がる。
「え? え? あのセミ、自分の寿命削ってまで演奏してるってこと!?」
 そしてその喋った内容を理解して、フィーナは思わず顔を出して口走ってしまう。
 256ビートモードほどの激しい動きはセミドラマーにも、負担が大きい。
「何があのセミにそうさせるの!? 短い寿命でけたたましく頑張りすぎでしょ!」
『ソレガドウシタ。セミハ寿命ナド惜シマヌ』
 フィーナが上げた声に、セミドラマーが再びくぐもった声で返した。

「死なねェか。死ねねェか」
 そのやり取りを聞きながら――ジャスパーは笑っていた。
 思わず頷いてしまったのも、もう何故か判っていた。己が身を傷つけて戦うなんて、この男には日常茶飯事なのだから。
 戦場に赴くのは、痛みを得る為なのだから。
「じゃーしゃあない」
 だから、燃える血を、肉を抉ったナイフにつけて。
「俺と殺し合おーぜ♪」
 炎を纏わせた刃を手に、ジャスパーはいつものにやけた顔で告げる。
 ダララララッダンッ!
 返答は、ドラムの音。
 されどセミドラマーは256ビートのスピードで離れていって。
 その間を埋めるように、セミロックバンドが猟兵達の前にふわりと舞い降りる。
「ええい、邪魔じゃ!」
 小百合子も薙刀『竜王御前』で、割って入ったセミロックバンドを切り伏せる。

「A one,two,one two three four Rock 'n' Roll!」
 レイチェルの本体が歌声を響かせ、分身体達が、ギターをかき鳴らし、トランペットを吹いて、ドラムを叩いてリズムを刻む。
 それに対抗する様に、セミロックバンドも思い思いに楽器を鳴らしている。
 レイチェルの思いつきで始まったパフォーマンス対決は、まだ続いていた。
 セミドラマー以下、ミュージシャンなセミ共も乗っかって始まったが、はたしてこの勝負、何処に着地点があるのだろうか。
 どちらも何も言っていないので、ゴールが見えていない。
 尤も、レイチェルが分身と共に歌い音を鳴らしている限り、セミロックバンド達はパフォーマンス対決に気を取られている。
 やかましい事を除けば、セミドラマーを庇うくらいしか行動出来ないだろう。
 そう言う意味では、無駄ではない。
 セミロックバンドを叩く、絶好の機会だ。

「行きますよ、サンセットジャスティス! セミドラマー様は、一先ず後回しで、御堂が倒すべきはアレでございます!」
 バイク形態のままのサンセットジャスティスのハンドルを握り締め、茜がそのタイヤを向けたのはセミロックバンド。
 その中の、更に1体。
『カナカナカナカナカナカナ』
 シャッカシャッカシャッカ、と景気よくマラカス振り回してるヒグラシである。
「いざ、尋常に――轢きます!」
 はたして、バイクで轢き潰そうっていうのに尋常も何もあるのだろうか。
 なんてサンセットジャスティスが思っていたかどうか、定かではない。
 茜がハンドルを握っている以上、何か言っても無駄だし。
『カナカナカナカナカ――カナッ!?』
 マラカスヒグラシが気づいた時には、既に遅い。
 茜が駆るサンセットジャスティスの突進が、容赦なく横から轢き潰した。

「そうだ、着いてこい! お前さんの敵は、こっちにいるぞ」
 時折後ろを振り向つつ走りながら、松座衛門が何もいない――様に見える空間に向かって、声を張り上げる。
 目には見えない透明の怪物に、その声は届いていたのか。
 されど海に刻まれる足跡で、怪物が着いてきているのは判る。
 だから松座衛門は、セミドラマーへ怪物を誘導せんと走り続ける。
『ミーンミンミンボエー!』
 ドダダダドドドダドドドンジャンドダドジャジャン!
 例え向かう先が、けたたましいセミの鳴き声とドラム音の中に更に耳障りな濁声が時折混ざって響いているとしても。

「成程。あれが256ビート……はて。人の聴覚で全て捉えきれるものでしょうか」
 セミドラマーの常軌を逸したビートを機械的に分析し、ダビングは淡々と呟く。
「しかしこれがセミの音楽なら。当機の取るべき行動は――」
 ダビングの手が、白い柄に伸びる。
 ヴンッ――!
 そんな小さな音を鳴らして、月光のような光が伸びた。
「生音。つまりライヴ。ならば、サイリウムを振り回します」
 うん、どう見てもサイリウムではない。
「訂正。PB8ルナティクス――荷電粒子ブレードです」
 ウォーマシン故に表情がなく、真顔でボケた状態になったダビングに、他の猟兵達もどうツッコんでいいのか、と言った様子である。
「では、ソードダンスを披露しましょう」
 そんな空気に気付かなかったか、敢えて読まなかったのか。
 刃翼を広げたダビングは空に飛び上がると、宣言通り、舞うように光の刃を振り回しセミロックバンドを斬り刻んでいく。

「ライオンよ、お前セミ好きだったよな?」
 セミロックバンドの群れを半眼で眺めていた珠が、ふと思い出した様に跨っている黄金のライオンに向かって声をかけた。
『え!? おい待て、何を言っている』
 動物会話の能力を持たない猟兵にはウニャとかフギャとかしか聞こえない声で、ライオンは珠に抗議を上げる。
「ライオンも猫科だろ。猫はセミ食うし。だからお前、セミ好きってことで」
『今決めたみたいなノリで言うなぁっ!』
「ああ今決めた。食ってしまっていいぞ!」
 ライオンの抗議を聞き流し、珠はセミを食えと促す。
 食ってしまっていいぞ、を意訳すれば食ってしまえ、だ。
「増えてウザいからな。思い切り突進して、噛み付いてしまえ!」
『……』
 珠の指示に、ライオンは突進とは呼び難い速度でぽてぽてと歩いて行って、パフォーマンス勝負に夢中なセミロックバンドの一体を、頭からパクリ。
 もっしゃもっしゃ。
『…………意外とイケるな』
 珠の耳に、ライオンのしみじみとした声が届いた。

「お元気なセミさんが、こんなに沢山……」
 飛び交うセミロックバンドを、レナータが何処か嬉しそうに見つめている。
 だが、その穏やかな言葉とは裏腹に、纏っている炎は道中の戦火を取り込んで、轟々と燃え盛っていた。
「でもやっぱり夏の風物詩ですし、骸の海にお帰りいただかないといけませんね」
 笑顔で告げたレナータは、纏う炎の温度を意図的に上げていく。
 煌々と輝くまでにレナータが熱を高めた炎は、人の視覚領域外の光を放っていた。
『ジャワッ!?』
 その熱は、セミロックバンドのクマセミの背中の翅に、セミ自身も気付かぬ内にシュボッと小さな炎を灯す程。
 炎を灯した正体は、輻射熱――遠赤外線による発火である。
「最後にもう一度夏の暑さを思い出していただけたら、と思いまして。頑張って炎の熱を上げています!」
 笑顔で告げるレナータだが、遠赤外線を発していると言う事は、平たく言ってしまうと電子レンジみたいなもんである。
「夏の日差しのような熱さ、ささやかながらお土産にならないでしょうか?」
 レナータはそう言っているけれど、何処がささやかというのか。
 とんでもない埒外現象である。

 256ビートモードになって飛び回るセミドラマーに向かって、黄金の輝きがそれ以上の速さで飛んでいく。
「やかましいだけの蟲ではないようじゃのう」
 薙刀『竜王御前』に風の力を纏わせて、小百合子はセミドラマーに追いすがり、その刃を振り下ろす。
 狙うはセミドラマーの両手にある、スティック。
「太鼓の方が壊せぬなら、鉢を狙うまでよ!」
 コォォン――ッ!
 硬い音を立てて、スティックと『竜王御前』の刃がぶつかり合う。
 何とセミドラマーは、交差させたスティックで小百合子の薙刀を受け止めてみせた。
 ドドドドドドドドドッ!
 だと言うのに、ドラムの音は止まっていない。
「足、か――!」
 セミドラマーの動きに気づいて、小百合子が瞠目する。
 ドラムセットの中でも最も大きく存在感を放っている、ベースドラム。足元に設置されるそれは、ペダルを使って踏み鳴らすものだ。
『ミミミミミミミッ!』
 セミドラマーは小百合子を突き放すと、小刻みに飛び回りドラムを叩き続ける。
 飛行速度では小百合子に分があるが、反応速度はセミドラマーの方が上だ。
「ぬぅ、抑えきれぬか――わらわ1人では、のう」

「ブラッドサーカス! 纏めて薙ぎ払っちまえ!!」
 小百合子が呟いたの同時に、跨っていた機械の獅子の背中を蹴って飛び降りながら、機人が大声で指示を飛ばした。

 ――グオォォォォォォ!!!

 次の瞬間、機械獅子の口から大音量の雄叫びが発せられた。
 何故わざわざ、機人がその背中から飛び降りたのか。
 その理由の1つがこれだ。
 背中にいたら、あの咆哮を近くで浴びることになる。
 それでも――セミドラマーの刻む256ビートを妨害するには至らない。256ビートが、早すぎる。音の大きさだけでは、止められそうにない。
 だが――機械獅子が放ったのは、雄叫びだけではなかった。
 鈍色の鬣から蒸気が吹き上がり、幾つもの弾丸が放たれる。
 その弾丸が、機人が降りたもう1つの理由。
 咆哮暴風銃弾乱雨――シャウトアンドバレットテンペスト。
 放たれた弾丸は、雨の如くセミドラマーへと降り注いでいく。
『ミ゛ィィィミ゛ミミミィミ゛ミミミ゛ミミ』
 サッ!
 サッ! ッササッ!
 セミドラマーはドラムセットごと飛び回り、弾丸の雨を掻い潜らんとする。
 されどそれだけの弾丸。反応速度を高めても全て避けきるとは行かず、幾つかがセミドラマーの身体とドラムセットに傷を刻み込んだ。
 そして、回避に専念すればそれだけ動きの範囲も狭まるという事。
「そこじゃ!」
 その隙を突いた小百合子の薙刀が、セミドラマーの腕を一本、斬り飛ばしていた。

「何処へなりとも逃げてみろ」
 セミロックバンドを無視して、レナは次元跳躍でセミドラマーの頭上へと現れた。
 跳躍の合間に抜いた『ギャラルホルン』の銃口を突きつけるのは、やはりセミドラマーではなくドラムセット。
 ドゴァンッ!
 銃声と言うより砲弾のような音を響かせて、装甲破砕砲の散弾がドラムセットの中のスネアドラムを叩く。
 ガァンとだいぶ鈍い音が響いて、スタンドの上でスネアドラムがグラグラと揺らぎはしたが――それでも、まだ壊れなかった。
「ちっ――破壊力はあるものなのだがな」
 舌打ちするレナの前から、セミドラマーが離れていく。

 カンッ。
 そのドラムを、水の弾丸が叩いた。
「怯みもしない? それならそれで――」
 クトゥルティアは、隙あらば水の弾丸を放ち、ドラムセットにぶつけ続けていた。
 効果が薄いと判って放つ水の弾丸は囮だ。
 海水となった自身の身体を海の中で長く伸ばし、水弾を撃ちながら、セミドラマーの真下まで忍び寄る為の。

 狙いが甘かっただろうか――胸中で、レナは思案する。
 次元跳躍で接近出来るとは言え、今のセミドラマーのスピードと反応速度では、悠長にじっくりと狙いをつけていたら、あっという間に射程外に逃げられてしまう。
「だったら――」
 呟いたレナの姿が、再び消える。
「だったら、火力で押し切るだけだ」
 再びセミドラマーに肉薄する距離に現れたレナの左腕から、今度は刃が飛び出す。
 刹那、その刃から雷撃が迸った。
 それは、次元跳躍の連続使用にともなう余剰熱量の発露。
 今の何度目かの次元跳躍は、連続使用の限界数ギリギリ。ある意味、最後の一回。
 暴発寸前まで溜まった熱を変えた高電圧の電気が、セミドラマーに浴びせられた。

「いまだ!」
 そしてクトゥルティアは、その好機を逃さず、海の中から自身の全身を一気に集めて飛び出した。
『ミミィィンンンッ!?』
 水音で気づいたか、セミドラマーがぐるんと向きを変える。
 だが、浴びた電撃でその腕の動きは鈍くなっていて。
 間に合わないかもしれない。その可能性を考慮し、覚悟を決めて飛び出したクトゥルティアの速さは、鈍ったセミドラマーがドラムを叩くよりも早く、己の全身を使った水の一太刀をセミドラマーに叩き込んでいた。

「よし――ここだ」
 セミドラマーの姿を目に捉えた瞬間、松座衛門は急に向きを変えて真横に跳んだ。
 そのまま身を低くしていると、何かが頭上を通り過ぎる。
『ミーンミンミッ?!』
 次の瞬間、セミドラマーの鳴き声とドラムの音が途切れて、その身体がドラムセットごと何かに殴り飛ばされた様に吹っ飛んだ。
「もうドラムを叩いている場合じゃないぞ!」
 数分前、戦場の真ん中で投げた人形のように。
 透明な怪物に海に叩きつけられたセミドラマーに、松座衛門が告げる。
 だが、その言葉に反抗するように、再び浮き上がったセミドラマーは256ビートモードのまま、ドラムを再び叩き始めた。

「きゃう」
 全身を漆黒の粘液で覆ったフィランサが、セミドラマーが叩きまくって鳴り響かせているドラムの音の衝撃にふっ飛ばされた。
「ううん。こんな音、鼓膜へのダメージどころではないわね」
 衝撃のダメージを気にした風もなく、フィランサが立ち上がる。
 ダーク・ヴェンジャンス。
 纏った粘液は、フィランサが負傷すればするほどに、力を与える。
 何度も音に吹っ飛ばされれば、それだけ――力が増していく。
 ついに、フィランサはセミドラマーに飛びかかれるまでに、近づいた。
「その短い生命、吸い尽くしてあげる!」
 漆黒の粘液でぬらぬらとテカるフィランサの腕が、セミドラマーに触れる。
 瞬間、感じたのはセミとは思えない強靭な生命力。
 吸い尽くせるものではなく、フィランサがまたふっ飛ばされた。
「しぶといなぁ。でも素敵」
 それでも、フィランサは起き上がる。
「私も全力で頑張るから、最期まで素敵な声で鳴いてね!」
 歪んだ笑顔を浮かべて。

「こ、いつ」
 ヒュッと炎の刃が空を切る。
 いつしか、ジャスパーの顔から笑みが消えていた。
「ちょこまか飛び回りやがって…!」
 負傷してなお、256ビートモードのセミドラマーは捉えるのが難しい。
「さっさと俺に刺されろ。じゃねーとあんたのドラムセットに火ィつけるからな!」
『ミィィィィィィィィンンンンンッ!』
 ジャスパーの脅迫に返って来たのは、大音量の鳴き声。
 やれるものならやってみろ、と言わんばかりである。

 そこに、エンジン音が近づいて来ていた。
「参りますよ、サンセットジャスティス。次はドラマー様に突っ込みます!」
 目的のマラカスヒグラシを仕留めて満足そうな笑顔を見せた茜だったが、今は再び表情を引き締めてハンドルを切り、スロットルを更に上げてサンセットジャスティスを走らせている。
『ミミミッ!?』
「お、なんか嫌そう。ジャバウォーック!」
 ツッコんでくる勢いを警戒したか。セミドラマーが見せた違う反応をジャスパーは見逃さずに、振り向きもせずにその名を呼べば、呼応して放たれる黒い炎。
 炎はセミドラマーの逃げ道を塞ぐように吹き荒れる。
 混沌の炎に触れるのを厭わず、ジャスパーはその炎の中に紛れ込んだ。
「燃えちまえ」
 ジャスパーが突き出した刃の炎が、ドラムセットの中でも、最も傷だらけのスネアドラムに火を点ける。
 そこに、茜と(正確にはサンセットジャスティスと)セミドラマーが(こちらも正確にはドラムセットが)、ロスの海で正面衝突した。
 弾かれる両者。だが、炎が燃え移っていたセミドラマーのスネアドラムが、この事故の衝撃で、ついに砕け散った。

 セミドラマーのドラム。硬いが、壊せないモノではない。
 そうと証明された。
 故に、ヘンリエッタが動く。
「そのドラム、ボコボコにしてやるわ」
 ヘンリエッタが硬く握った拳を、セミドラマーのスネアドラムに叩きつける。
『ミィィィンッ!?』
 ゴインッと鈍い音がスネアを揺らした瞬間、セミドラマーが凄まじい勢いで滑る様に後ろに飛び退った。
 ダダダジャンダンダダジャーンッ!
 セミドラマーは飛び退りながらもドラムを叩き続けて、音の衝撃をヘンリエッタにぶつける。
「――いいや、もう」
 音の衝撃と震動で足が止まったヘンリエッタが、俯き小声で呟いた。
 何処か投げやりな言葉とは裏腹に、拳には更に力が籠もる。
「やりたい放題殺してやる」
 顔を上げたヘンリエッタは、阻もうと降りてきたセミロックバンドのトランペットを持つ腕を掴んで――ブヂィッと無造作に引き千切った。
「皆殺しじゃ、生ぬるい――絶滅よ」
 黄昏――アナイアレイシオン。
 怒りを根源に怪力をヘンリエッタに齎すその業の本質は、殺しの暴力。彼女の邪魔をする者を、あらゆる手段を用いて殺害手段を用いて絶滅させる為の手管。
 腕を握りつぶし、羽を毟り、奪い取ったシンバルで頭をかち割る。
 セミロックバンドの屍を轍と残し迫るヘンリエッタから距離を取ろうと、セミドラマーが滑る様に後ろに飛び退る。

「パル――念動力で俺を動かして、無理矢理動きを早くしてくれ」
 それを見ながら、零時は周囲に漂う紙兎に、小声でそんな頼みを告げていた。
 そうでもしないと、目の当たりにしたセミドラマーの256ビートモード激しい動きと反応速度には、着いていけそうにない。
(「っていうか――正直動きが早くて怖い」)
 そんな及び腰な本音は声に出さずに、零時は胸中で呟いて――。
「え?」
 その身体がふわりと浮き上がる。
「パル、ちょ、待――」
 紙兎は零時の懇願を聞かずに、その背中を押し出し手足を勝手に動かしはじめた。
「うぉあぁおあぁぁぁぁっ」
 半ば強制的に始まったダッシュで、零時はセミドラマーに迫っていく。
「こうなったらやるしか――!」
 走りながら意を決して、零時は藍玉の杖を握り締めた。
 セミドラマーに近づいた所で自分の意志で足元を蹴って、空に浮かび上がる。
『ムダダ。ワガドラムセット、クダケハ――』
「今までのはただのビームだ! ――そして、これから撃つのが本気の本気! 避けれるもんなら……避けてみやがれ!!!」
 零時が向けた杖の先から、膨大な魔力が膨れ上がる。
 全力全開・最大出力魔力砲。
 杖が一度しか耐えきれないほどの膨大な魔力を集めて放つだけの、至極単純な――されど一発限りの業。
 反動が零時の身体を吹き飛ばすが、セミドラマーも魔力の奔流に押し流されていく。
 その先に待つのは、笑顔のヘンリエッタ。
「いい加減――黙りなさい」
 ガァンッ!
 叩きつけた拳は今度こそ、もう1つのスネアドラムとベースドラムをも打ち砕いた。

「どんだけ精一杯、今を生きてるのよ! ある意味尊敬するわ!」
 セミドラマーの口から発せられた、潔すぎるとも思えた答え。そしてドラムセットのメインとも言えるドラムを両方失ってもなお、叩く事をやめない姿に、フィーナは素直にそう感じていた。
「でもそれ以上にやかましいから――片付けるわよ!」
 フィーナが両手で構えた杖を掲げる。
 練り込み、溜めた魔力は充分。
「炎よ!」
 掲げた杖から轟々と立ち昇った黒炎は、散らずに収束し――炎の剣と化した。
 斬リ払ウ黒炎ノ剣。
「なぎぃ――払えぇぇえええ!!」
 戦艦すらも断ち切りそうな巨大な黒炎の刃が、まだ残っていたセミロックバンドを焼き払いながら、セミドラマーに振り下ろされる。
『ミ゛ィィィィン゛ミンミンンミミミミッ!』
 カーン、カーン、ジャーン!
 残るシンバルを打ち鳴らし、そして鳴き声も響かせるセミドラマー。
 されどシンバルだけでは、ビートは刻み切れず。フィーナの振り下ろす炎の剣を、押し戻すには力が足りない。
 そして――炎がセミドラマーを飲み込んだ。

「油断してはなりません!」
 黒焦げになったセミドラマーが落ちたそこに響く、茜の声とエンジン音。
「ひっくり返ったセミは、まだ生きている事がございます」
 セミファイナルと呼ばれるアレである。
「故に、轢きます!!! 跡形もなく!!!」
 茜が迷わず走らせたサンセットジャスティスの車輪が熱でひしゃげたドラムセットをグシャッと潰し、その先のセミドラマーを――ぷちっ。
「ふぅ……とても善行をした気分ですわ!」
 潰れたセミの先で、茜がやり遂げた乙女の笑みを浮かべる。

 いつの間にか、周囲の戦闘音もなくなっていた。浜辺からは、歓声が上がっている。
 セミドラマーの敗北を知って、残るオブリビオンは撤退していた。
「やっと静かになったわね――沈黙が好きよ」
 その背中をみやり、ヘンリエッタは吐息を零して呟く。
 迷惑な演奏会はこれでおしまい。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年11月07日


挿絵イラスト