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アースクライシス2019③〜神の愛した性癖

作者：岡崎三号

「……皆さんには性癖ってありますか？」
　とんでもない出だしで説明を始めるのはグリモア猟兵の空葉・千種。説明を行う彼女自身、腑に落ちない顔をしているがそれでもなんとか説明を続ける。

「今回、皆さんにはスカムキングの侵略作戦に対抗するためにニューヨークに向かってほしいんですけど……今回の敵『性癖神コンプレークス』に与えられた任務が『オブリビオンに有利に働く性癖を布教しろ』って任務なんです……！」
　千種が説明をした瞬間、場の猟兵たちは「理解している者」と「理解していない者」に二分される。千種は理解していない側だ。
「えっと、私もよくわからないんですけど今回『メリーバッドエンドいいよね……』とか『闇落ちヒロインをすこれ』みたいな性癖で民衆を洗脳して人々の正義を信じる心を弱らせるのが今回のスカムキングの目的らしいです」
　見た予知のままに説明を続ける千種。正直彼女はこれらの単語の意味を理解しないまま説明を行っているが、理解している人には多分わかるので問題はない。
　このような性癖が広く布教された場合、市民が悪の誘惑に堕ちやすくなることは理解している者にとって想像に難くないだろう。
「ですから、皆さんには性癖の布教を阻止してから『性癖神コンプレークス』を撃破してもらいたいんです！阻止する手段は市民の方々に被害が出ないなら何でも構いません。相手の性癖を予想して対策を打ち立てるも良し、先行して別の性癖を布教するも良し、シンプルに布教が行えない状況にするも良し……私はこうゆうのに詳しくないんですけど、猟兵ならきっとプロフェッショナルな人も多いと思いますからきっと大丈夫です！」

　そう締めくくった千種は転送装置のスイッチを入れ、これから布教が行われる一角へと猟兵たちを送り出す。
　互いの矜持をぶつけ合う、ある意味心と心の戦いとも言える作戦が今始まろうとしていた……。

第1章 集団戦 『性癖神コンプレークス』

POW   :    性癖語り 予め【自身の司る性癖について暑苦しく語る】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。 SPD   :    スキルマスター「イディオシンクラシー」 技能名「【(司る性癖の)属性攻撃】」の技能レベルを「自分のレベル×10」に変更して使用する。 WIZ   :    イディオシンクラシー 【性癖全開モードの海月姿】に変形し、自身の【常識】【自重】【シリアス】を代償に、自身の【性癖にこじつけた行動】を強化する。 イラスト：やぎさん 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　『薄命』の性癖を持つ性癖神、仮称『薄命・コンプレークス』は感じ取った薄命の匂いに引き寄せられ走り出す。
　遠くから聞こえた鈴のなるような声。きっと病弱で車椅子を手放せないような深窓の令嬢のものだろう。　
「ふふふ、丁度いいね。ボクの薄命性癖を布教するために君のことを……」
「筋肉、それすなわち生命！」
「嘘でしょ！？」
　しかし、待ち受けていたのは『元・車椅子令嬢』九十九・静香（怪奇！筋肉令嬢・f22751）のフロント・ラット・スプレッドであった！
　薄命・コンプレークスはほのかに残った静香の病弱の残り香に引き寄せられた形であるが、車椅子を上腕筋で改造し、病弱は僧帽筋で挟み潰したような見た目をしている静香は骸の海に叩き込んでもクロールで帰ってきそうな見た目をしている。

「あの黒いスーツの女の筋肉……もはやニューヨークに現れた筋肉葡萄じゃねえか！」
「やべぇ……！モニュメントバレーのような僧帽筋をしてやがる！」
　静香を取り囲み独特の掛け声を上げるのは薄命・コンプレークスが性癖を布教しようとしたニューヨークの人々。
「おい、何だよお前ら！こんな筋肉ダルマより儚げな女の子のほうが侘び寂びがあって萌えるだろ！？」
「うるせぇ！いいからプロテインだ！！」
　催眠術でアメリカ的筋肉信仰を刺激された彼らの視界にはもやしなんぞ入らない。筋肉で病弱を打ち破った実例がいる以上、薄命なんぞただの筋トレに耐えられないものの言い訳でしかないのだ！
「おい！誰か一人ぐらいボクを見ろよぉ！」
「筋肉は正義も悪もこえし物！かのジャスティスワン様の筋肉を見ればわかる通り、悪に傾倒し従う概念にはあらず！さあ、筋肉を愛しましょう！」
「お前以外に言ってるんだよ！？お前だけはこっち来るな！その筋肉から発する光をボクに向けるなぁーーーっ！！」
「敵という垣根を越え、今筋肉の素晴らしさを伝えます！ハッ！」
　人の命を軽視した性癖を焼き尽くす静香の強制筋肉改心光線。薄命・コンプレークスは自身の性癖と心の奥底から芽生える筋肉愛のぶつかり合いに耐えきれず……やがて牛乳に溶けるプロテインのようにその姿が消失した。筋肉を裏切り続けた彼女には筋肉を受け入れるだけの器がなかったのだろう。

「……悲しいことです。さあ、私達は志半ばで消えた彼女の分まで筋肉を育てましょう！」
「お前の腹筋が大海嘯！」
「メイク・マッスル・グレイト・アゲイン！」
　薄命・コンプレークスが消えようとも筋肉の宴は終わらない。マッスルパワーがアメリカを救うまで筋肉はいつまでも膨らみ続けるのだ……！

大成功 🔵​🔵​🔵​

「さて、眼鏡とは何だろうか？」
　エダ・サルファー（格闘聖職者・f05398）の哲学がニューヨーク市民にぶつけられる。「ある人は視力の弱さを示すことから「弱さ」のアイコンだと言っていた」
　そもそも眼鏡は性癖用のアイテムではなくあくまで視力矯正の道具でしかないのだが……そんな疑問を押し殺すことができているのはエダの聖職者としての経験だろうか。市民たちはただ黙ってエダの布教に聞き入っている。
「それも納得できる意見だが、個人的には「知性」の証、「強さ」のアイコンだとも思っている」
　それは眼鏡が『強さ』と『弱さ』どちらのシンボルにもなり得ることの提示。この新説だけでも新たな性癖として眼鏡の魅力に取り憑かれてしまう人物が現れそうなものだが、エダは更にその奥まで踏み込む。
「だが！眼鏡キャラ萌えというのは単にそのキャラの弱さや強さに惹かれることでは無い！例えば、あそこの『加虐』と『被虐』の性壁を持った性癖神。どちらとも根明で勝ち気な雰囲気だけど……『加虐』の方は人を虐げる事で自らが他人と異なる存在と化すことに興奮を感じ、『被虐』の方は相手が歪んだ手段で自らに欲望をさらけ出すことに興奮を感じている」
　そう、つまりはギャップ。それぞれメガネで自分は『特殊性癖なんてないノーマルですよ感』を強化しているが、その実態は暗い性癖に興奮する変態なのだ。
　メガネというペルソナの奥に隠されたものに気づいてしまったニューヨーク市民たちの目に映るのはもはや持ち前の明るさで他人に近づき自らの都合のいいように性癖を布教するオブリビオンではない。目の前にいる存在がいけない遊びに触れ妖しくも耽美な鎖に囚われた少女であることに気づいてしまった市民たちはただ生唾を飲むばかりであった。

「それを踏まえた上で！ここにいるヘスティア・イクテュス（SkyFish団船長・f04572）氏に話を聞いてみたい」
「実はわたしウサ耳パーカーで桃髪ペタンツインテール眼鏡オブリビオンをぶっとばしたい特殊性癖を持ってるの」
　エダの性癖布教に合われて暗い笑顔を表すヘスティア。当初のエダの予定ではもっと穏やかな性癖布教の予定であったが……『加虐』の性癖を持つ性癖神に立ち向かえるのは彼女しかいない。
「い、いやぁ、性癖は人に迷惑がかからない範囲で愉しむものだと思うんすよ、ヘヘ……」
「オブリビオンは人ではないのよ」
　自分のことを棚に上げ、社会常識で身を守ろうとする『加虐』の性癖神。……だが、オブリビオンが世界の敵である以上社会常識の具現たる一般市民は性癖神を守ることなく、むしろエダの布教のせいでこれからどのような退廃的行為が行われるのかと固唾を呑んで見守るだけであった。
「ちょっと！正義の味方がそれでいいと思って……ぐえっ！」
「いいのよ。オブリビオンを倒せればその過程で何をぶつけても正義なのよ」
　尻もちをつきもはやヘスティアから逃れることができない『加虐』の性癖神。
　『被虐』に助けてもらおうと『被虐』のいるはずの方角へ顔を向けると、その視線の先にいたのは地面に倒れ今にも消滅しそうになっている『被虐』の性癖神と、その上で馬乗りになる羽堤・夏（防人たる向日葵娘・f19610）であった。

「まって、話を……げふっ」
「お前の話は聞かない語らせない興味なーい！」
　夏の作戦はカウンター性癖が繰り出される前に相手の口を塞ぐこと。一種の万能言語である暴力を駆使して相手を徹底的に黙らせる。相手の性癖が『被虐』であったため、想像していたような反撃もなく場は夏のワンサイドゲームとなっていた。
「ああっ！世界を救うべき猟兵がただ私のことだけを視界に入れ、醜い感情を私だけにぶつけている！」
「余計なことを言うんじゃない！もっと少年漫画のやられ役らしく黙ってやられればいいんだ！」
　『反論の余地もなく蹂躙される』ことに興奮する性癖神とその姿に感情を逆なでされる夏。戦いに性癖を持ち込むという行為に怒りを感じながら殴りかかる夏に性癖神が追い打ちをかける。
「で、でもね。少年漫画でも傷つき倒れ血反吐はいてもそれでも立ち上がる展開は私王道だと……」
「うるさい！！」
　盛大に地雷を踏んだ『被虐』の性癖持ちはセリフをすべて言い切る前に夏の顔面ストレートを受けてこの世界から退場する。
　性癖とは妄想の中で完結するから許される行為なのであって、実際に巻き込まれる身としてはたまったものではないのだ。

「ごめんなさい！ゆ、許してくださいっ！」
『被虐』のような目には遭いたくないと涙を浮かべ命乞いをする『加虐』の性癖神。近くの地面には小さな水たまりができているようにも見える。
「大丈夫。ただの脅し的なあれでそんな性癖ないわよ」
「よかったぁ……！私は虐げるのは好きだけど虐げられるのは……ひっ！？」
　とっとと立ち上がりヘスティアから逃げ出そうとする性癖神に向けられるミスティルテインの砲口。
「苦しむ暇もないから安心しなさい？」
　『加虐』の性癖神は二度目の命乞いをする間も無くビームに焼かれ、ニューヨークから消え去ることとなった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「へぇ、アンタ猟兵なのにわかってるねぇ」
「私もそういったのは好きよ？あなた達を殺すのだって私なりの愛だわ」
　『殺し愛』の性癖を持つ性癖神に対して尾守・夜野（墓守・f05352）は形だけの同意を見せる。
「そう、愛。これが、これだけが本物だからウチは他のみんなにも『本当の愛』を知ってほしくてこうやって布教してる」
「そうね。『私』も好きな物程壊したいという気持ちは理解できるわ」
　闇の性癖を持つ者同士、表面上は和やかに会話が進む。……もし二人の間に違いがあったとすれば、『彼女』には自分以外の世界を感じさせてくれる人格がいた事に他ならないだろう。
「でも…全員がそう思う必要はないわ。色んな愛があるからこそ、世界はこんなにも…イトオシイのだから」
「そっか！理解し合えないのは残念だね！……どちらにしろウチは君のことが結構好きだから愛して（殺して）上げることに変わりはないんだけど！！」
　長い性癖語りを得て人外のスピードでぶつかり合う両者。性癖神が脇腹めがけて包丁を突き出したかと思えば、夜野は鉄扇で防ぎそのまま頸動脈を狙って斬りかかる。
　体をそらしてかわした性癖神の包丁は夜野の手の甲をかするが……これは夜野の狙い通り。夜野は手の甲から流れた血をそのまま鉄扇に垂らし自らの力を鉄扇に送り込む。
「欠片も残さず全て潰して上げる」
　殺戮捕食態と化した鉄扇が性癖神の下半身を叩き潰す。
　もはや自身が夜野を殺す（愛す）ことができないと悟った性癖神は最後の力を振り絞って愛をつぶやく。
「さあ、ウチの負けだよ。……最後は君が望むがままに……」
「あなたは私が愛する価値もないわ」
　事務的になんの感慨もなく性癖神を叩き潰す夜野。
　暴力を愛の手段として用いる両者であったが、夜野は暴力以外の愛も知っている。両者の違いを理解せぬまま性癖神の意識は無へと落ちていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「個人の性癖を否定する気は有りませんが、押し付けて回るのはいかがなものでしょうかぁ……？」
「なにをいってるんだい……？政府による管理の元、個々人にあった指向だけを与えるのが一番効率的じゃないか」
　夢ヶ枝・るこる（豊饒の使徒・夢・f10980）の問いかけを否定するのは『ディストピア』の性癖を持つ性癖神。
「効率的といわれましても……んっ、ぷはぁ。こうやって好きなものを好きなだけ摂ることができるのが豊かな社会というものであり、効率が幸福につながるとはかんがえにくいのですぅ」
　ふたりが問答を行っているのはるこるが始めた突発大食いショーの現場。フードファイトの本場であるアメリカではなかなかに大食いショーの評判はよく、少し膨らみながらも白い素肌を覗かせる腹部もあってオーディエンスの評判はるこる側に傾いている状態だ。
「好きなものを好きなだけねぇ……だったら限界値まで食べさせてあげるよ。せめて家畜として全体社会の役に立つと良い」
　スキルマスター「イディオシンクラシー」によるディストピア属性攻撃。
　市民のすべてを管理するのがディストピアであるなら当然栄養の管理も彼女の性癖の範疇。性癖神はるこるの口元に手のひらをあてると、常人であったら吐き出すどころか破裂死するほどの食品を召喚し、食道へと流し込み続ける。
　しかし、夢鏡の効果は『ディストピア』の性癖神の予想を遥かに上回った。彼女の消化能力は流し込まれた食材全てをこなし、るこるの肉体の糧へと変換し……夢鏡の効果が切れる前に性癖神のほうがエネルギー切れを起こす。
「はぁ……はぁ……あんな大量の食材がこいつの身体のどこに消えるというんだ……」
「わからないというのならぁ、今から見せてあげますねぇ？」
　夢鏡の反動でるこるの体が膨らみ始める。いくら身体能力が上がっていようとも相手に逃げられると反動の出ている体で捕らえられるかわからないのでるこるは抱き寄せるような形で相手を取り押さえた。
「やめろ！離せ！そんな無駄肉に挟まれて死ぬなんてっ！……んっ！ん"ん"ーっ！」
　反動で膨張した胸部に顔を呑み込まれ、そのままるこるが倒れ込むことで次は体全体を呑み込まれる性癖神。
　肉塊と化したるこるは性癖神を押し倒した後すぐに立ち上がるが、腹と胸の間からうさ耳パーカーの耳が飛び出しているだけで、もはや外界から性癖神の存在を確認することは不可能であった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「ナオちゃんは世界イチ！」
「ナオちゃんは世界イチ！」
　開幕洗脳でもやってるんじゃないかと考えさせられるコールアンドレスポンスを行う尾崎・ナオ（ウザイは褒め言葉・f14041）とニューヨークの市民。
「ナースキャップかぶってるから道交法違反にはならないんだよ！」
　そこから少し離れた位置でなんだかとんでも理論をぶちあげるのは大正ロマン風ライダースーツ和風ナース服の女性は数宮・多喜（撃走サイキックライダー・f03004）。
　なお、猟兵は世界の加護があるのでノーヘル運転も多分問題ないのだが、ちゃんとかぶる辺り多喜さんは根が真面目なんだね。そのまま真っすぐに成長して欲しい。22歳だけど。

　さて、情報量の多さに開幕死にかけになっているのは『ストーカー』の性癖をもつ性癖神。
　愛する人を病的に追いかけ、自分の思うままになるまで追い詰めることを推奨する彼女なのだが、その顔には暗に「はやくおうちに帰りたい」と書かれている。
　こんな奴らの相手をしてられないと逃げ出そうとする性癖神であったが、超絶プリチーなナオちゃんの美貌を見ずに変えることなど信者が許すはずもなく信者達に腕を引かれナオと多喜の前に連れてこられる。
「はぁい！注目☆」
「そうだ、アタシ達を見ろ！」
「世界で最も美しくて可愛い、ナオちゃんの登場ですよ！」
「そしてその隣が性癖を可能な限り詰め込んだロマンレディの数宮・多喜だ！」
「ナオちゃんは黒くしなやかなロングヘアに美しい顔立ち、それなのに自由奔放な性格がモストビューティフル！大人しそうな外見をしてるのに、口汚く罵りフリーダムに生きる笑顔の可愛い女性！ナオちゃんは本当に可愛いからね！この間なんかハリウッドで……」
「ほらほら、日和った話なんかしてんじゃないよ！性癖の過積載だなんてのは結局の所数を揃えることのできない負け犬の言い訳なんだよ！その点アタシを見てみろ！ルックス的な要素だけじゃなくてこう見えても腕っぷしも強いから……」
　情報量の洪水が性癖神に襲いかかる。二人のマシンガントークはなんとこの後3時間近くまで続き、後々性癖神は頭がおかしくなって呆けているところをナオの二丁拳銃で撃ち抜かれることになる。
　『ストーカー』の性癖神の最期の言葉は「頼むから事前にレジュメにまとめてくれ」であった。

「性癖、伝わったようで嬉しいですぅ☆」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　最後に残った性癖神は『メリーバッドエンド』と『闇堕ちヒロイン』。
「結局の所、私達も滅びる運命ということだったんだね……」
「ああ、でも闇の中で終わることにこそ私達の性癖の美しさがあるんだよ……」
　追い詰められてなお自らの境遇を用いて性癖の布教を行う両者であったが、性癖神が放つ暗い雰囲気を吹き飛ばすような明るい声が響き渡る。
「ノンノンですネー！フォールダウンしたりバッドエンドなどというのはヒーローの雰囲気とは違いマスネー！」
　フィラデルフィア・シャイントピア（シャイン＆シャドウ・f16459）は真正面から悲劇を否定する。光を信じ真っ直ぐに進むことができる彼女の言葉だからこそ、その発言には芯があり人々に差し掛かった闇を振り払うことができる。
「ええ、ええ。滅びの光景には、ある種の美しさがあり。苦しみや悲しみ、嘆きは心を震わせるわね。けれど……」
　……人が苦しみを乗り越え、悲しみを笑い飛ばす姿を眩しく思うの。と続けるアリソン・リンドベルイ（貪婪なる植物相・f21599）。悲しみに美しさがないと言い切れないが、それでも悲しみを終着点とするのはあまりにも不毛で愚かであると少女は言い切る。
「何時だって、笑って終わりが一番に決まってんだろ」
　結局の所鬼柳・雄（チンピラサマナー・f22507）の言葉が全てである。
　すべての世界に誰ひとりとして物語の奴隷になるべく生まれた人はいない。夢を願い、幸福を想うのは生命の基本原則であり誰であろうとも犯すことのできない最低限の権利。悲劇は物語だから許されるのであって誰一人として自らが悲劇でありたいと願う者はいないのだ。
「私は『物語の英雄』ではないけれど、せめて滅びに抵抗の意を示したいの」
「テメェらの胸糞展開なんざ真っ平だ。そんなモン他人に押し付けんじゃねえ」
「やはり人間誰しも本気で望むのはハッピーエンドデース！」
　歪みを現実に持ち込もうとする性癖神に対して、まっすぐに真摯に闇を打ち払う三人。　きっと、『正義は勝つ』ということを示せれば人々が闇の性癖に沈むことはなくなるだろう。

「ねえ、きみも堕ちようよ？……君には全てをさらけ出す権利がある。」
　イディオシンクラシーで海月の姿となった闇堕ちヒロインの性癖神がフィラデルフィアの精神にささやきかける。
「オーゥ！ダークサイドのパワーはストロングですが、それには意味がありませーん！」　フィラデルフィアは太陽の熱が込められた右腕で海月に殴りかかる。
「パワーはジャスティスの為に使うもの！むしろフォールダウンした方々をレスキューしてライトサイドにカムバックさせるほうがワタシの好みデース！」
　フィラデルフィアはかつて世界を飲み込まんとした邪神であったが、人間の文化が好きだから人間に近づき、やがて人間の守護者・ヒーローを名乗るようになった。
　だから、きっと彼女は闇に落ちることはない。すでに闇は彼女の中に潜んでいるのだから。
　しかし、それを正義で抑え込めることこそミスエクリプスの真の強さ。
　守りたいものがある限り闇がフィラデルフィアを覆うことは決してないだろう。

「ねえ、戦いなんて放っておいて家族のもとに行かなくていいの？……すべてが終わる時に大切な人のそばにいないのは悲しいことだよ？」
　メリーバッドエンドの性癖神が語る、終末にささやかな救いを与える誘惑。
　全ての生命はやがて朽ち、骸の海の存在となる。そのときに大切なものそばにいるということは絶望に対するささやかな救いであるのだが……
「冬が過ぎれば、芽吹きの春が来るでしょう。枯れ落ちた花が実を結ぶように、落葉が積み重なって土に還るように……」
　しかし、性癖神は彼女の大切なものを見誤った。確かに彼女の一番は『家族』や『庭』なのであろう。
　だが、二番手以降を喪っていいと彼女は思っていない。
「誰かの元にいつか訪れる幸いと笑顔を信じたい」
　ハッピーエンドを掴むために彼女は大量の巨大な蜂を召喚して巨大な海月の身体を蜂の針で貫く。
「だって、物語の最後は『めでたし、めでたし』の方が良いでしょう？」
　彼女には『家族』や『庭』以外にも大切なものが有り、それのために立ち上がることができる。きっと彼女の中にある他人への優しさこそが彼女を闇の誘惑から守る鎧となったのだ。

　フィラデルフィアとアリソンの攻撃を受けて満身創痍となった二人の性癖神。
　その前に立ちはだかる雄はダイモンデバイスでマルコシアスを呼び出し、炎と氷の剣先を一体ずつに向けさせる。
「ねえ、たまには私達のことを思い出してくれる？」
　もはやこれまでと諦めたメリーバッドエンドの性癖神は最後に救いを求めて雄に話しかける。
「あ？なんでそんな薄らくらいこと考えなきゃいけないんだよ」
　しかし、雄が返したのは完全なる拒絶である。短い時間敵として出会った存在にそこまで情けをかけてやる理由は雄には無く、その上
「俺たちにはそんな事考える時間はねぇんだ」
　ハッピーエンドを目指すものに悲しい結末を想像する時間なぞない。
　その時間で鍛錬をし、敵を倒さねばハッピーエンドへたどり着くことなどできないのだから。
「そっか……眩しいなぁ」
　さみしげに笑った性癖神を切り捨て、三人はニューヨークの街を後にする。

　さあ、次へ進もう。
　アースクライシス2019のハッピーエンドを見るためにはまだここで止まるわけにはいかないのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年11月11日