8
クルカ・コルカの逍遥書架

#アルダワ魔法学園

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アルダワ魔法学園


0




●不語の随章
 ……がしゃん。
 沈黙するコンベアを跨ぎ越え、今日もそれは漫歩する。

 がしゃん、がしゃん。

 それは機械。それは魔法。それは番人。それは、書架。
 在って然るべきところに在る。それが役目。
 在って然るべからざるものを排する。それが役割。
 それだけの、もの。

 がしゃん、がしゃん。

 壁の灯を受けてきらめくものは、その鋼の体躯のみにあらず。
 巨体の随所に突き刺さる、剣。槍。矢やそのほかの無数たち。
 宝を求めた者たちが、嘗て一度は、それに永い停止を齎した。
 その、爪痕。

 がしゃん、がしゃん。

 異物を噛んで悲鳴する機構に、しかしそれは厭わない。
 ひとたび停まり、また蘇ってなお、それが為すことは変わりない。
 ただ、巡る。廻る。徘する。徊する。定まった途、定まった時。
 繰り返し。繰り返し。繰り返す……その、はずだったけれど。

 がしゃ、――。

 絶えず迷宮にこだまする足音がはたとやんだ、その日。
 在るとも知らず、幾度と知れず通り過ぎた、傍、その道。
 そこは、『うえ』へと続く道。

 ――しゃん、がしゃん。

 埃に沈んだ階段を見つめ。埃に霞んだまなこを瞬き。
 そぞろ歩きの機械書架は、ゆっくりと、その向きを転じた。

●魔廠宮クルカ・コルカ
「其のひかりも知らぬ我らの地底に、其に勝る宝があるものか。青いソラという見果てぬ夢を、身果てなお満ちぬ、このこころのカラに架しませい――」
 しかつめらしい面と声色でそう謡った白鳶・イトセ(バーチャルキャラクターのグリモア猟兵・f00571)は、ふっと相好を崩した。
「……それっぽかった? なんてセンチメンタルなコト、ミレナリィドールでもないただのゴーレムが、ましてオブリビオンが考えたかなんて分からないケドね。でも、理由はなんであれ迷宮のオブリ――もとい災魔が、地上のアルダワ魔法学園へと向かってる。それだけは、歴然たる事実」
 だからそれを挫き、学園の平穏を守ってほしい。呼称を現地になぞらえながら、イトセはそう語りを続く。
「敵はトレジャリーガードと呼ばれるゴーレムの災魔が一体と、その眷属たち。ひと口にゴレームといってもイロイロあるけど、この個体は……元々は書物にゆかりのあるトコで創られたのかな、肩や背中が本棚になってるの。眷属っていうのも、そこにしまわれてた動く書物の魔物だよ」
 敵方の先鋒として、まずこの眷属の群れがやってくる。後続の災魔が追いつき加勢する前にこれらすべてを撃破し、万全の状態で首魁を迎えうちたい。
「でね。このストーリーの舞台となる学園迷宮は、生徒たちにはクルカ・コルカって呼ばれてるみたい。いまは稼働してないケド、大がかりな工場と倉庫とが合体したよなトコで――学園のヒトに聞いた話だと、深層には宝物庫があるんだとか。くだんの災魔も、はるばるそのへんから来たのかもだね」
 それはさておき、今回の戦場となるのは最上層付近の一画だ。素性の知れないがらくたが散らばってはいるが、広く開けて見通しも利き、戦うに不便はないだろう。

 そこでひとくぎりを置いたイトセは、ふっと肩の力を抜いた。大事な話はこれでオシマイとほほ笑んで、身振りで資料を仕舞うよう猟兵たちに促す。
 そうして手近な机に浅く腰かけたイトセは一同に、正確にはそのいでだちに視線を巡らせた。……その瞳は、なにやらわくわくとした気色をはずんでいるような。
「ちなみに、ね。ここで手にいれた品については、ありがたいコトにあたしたちで役立てていいよって、学園からのお墨つきなの。だからもしも使えそなモノがあれば、持って帰ってきて大丈夫だよ」
 蒸気と魔法の織りなす世界。その廠にして、ましてやダンジョンだ。冒険にはお約束、猟兵たちの力になってくれる品々がきっと眠っていることだろう。それは、そのまま武具かもしれないし、なにかしらの素材かもしれないし、各々の愛器に華を添える魔法かもしれない。
 それを手に入れられるかは、猟兵たち次第だけれど。
「ちょうどこの後の時間、演習の予定で学園の修練場をスケジューリングしてあったんだ。すなおに武具の取り回しをトレーニングしてくのもいいケド、熱戦でほてった体を冷ましがてら、そこで戦利品を弄ってみてもいいかもね」
 とはいえまずは、オブリビオンを倒さないことには始まらない。
 ぱたん、白本のグリモアが啼く。それを翳すが役目の娘には、事の肝要に添える余力はないけれど。
「学園のゆく末、みんなに託したからね。ハッピーエンドはアナタの手で!」
 せめて、この頼もしい背中たちを押すことくらいはしたいから。
 常と変わらぬ笑顔を湛え、そうしてイトセは言葉をとじた。


Nicha



●特殊設定
 猟兵を支える陰の主役たち、アイテムを主題としたシナリオになります。
 迷宮《クルカ・コルカ》には、使い道がありそうながらくたが転がっています。また、敵を撃退することでも、なにかしら得ることができそうです。
 そんな舞台を通じて、新たなパートナーを生み出したり、みなさま愛用の品々を見つめなおすお話です。

●章立て
 ※第一章、第二章で素材を入手したい場合は、その内容をお書きいただいたうえ(お任せでも大丈夫です)、判定によって成否を決定します。成功度次第で品質や内容が多少変動します。
 ※戦術面の字数は少なくて大丈夫です。想いをぎゅっとつめこんでいただけたら!
 ※第三章は、特にご指定がないかぎりすべて大成功といたします。(製作失敗などはありません)

 ○第一章 集団戦『書物の魔物』
 生きた書物たちです。内容は何かの呪文書や設計図などさまざまです。
 倒すと、たまに頁を残して消滅します。ごくたまにまるごと残ります。

 ○第二章 ボス戦『トレジャリーガード』
 宝物庫の守人、魔法と機械の結晶たるゴーレム。その一種、本棚を備う個体です。
 体には先人の武器が遺されており、内部にいくらか宝物も紛れこんでいるようです。また、破損させれば部品を得られます。

 ○第三章 日常『猟兵達の戦闘訓練』
 学園の修練場を借りての訓練風景です。工房が併設されており、学園の技師さんも常駐しています。
 道具の扱いを鍛錬するはもちろん、戦利品からなにかを拵えたり、相棒の手入れをしてあげてもいいかもしれません。
 イトセはそんなみなさまのようすをしげしげ眺めています。御用がなければ登場しませんが、もしなにかありましたらお声かけください。

●ご注意
 システム上、本シナリオで入手したアイテムの報酬配布などはございません。
 ご自身でのアイテム作成に際するフレーバーや、愛用の品の表現にご用立ていただけたら幸いです。

●余
 こんにちは! お目にとめていただきありがとうございます、Nichaです。
 戦いに明け暮れる猟兵たちにとって、いのちを預ける相棒にはいろんな思いでがあるのではないでしょうか。はたまた、これから育まれてゆくのかもしれませんね。
 そんな素敵な逸品を教えてください。そんなひと振りとの出会いの一歩を、ここに刻んでみませんか。そうした趣向の物語です。
 たのしんでいただけますように! ご参加、お待ちしております。
59




第1章 集団戦 『書物の魔物』

POW   :    魔書の記述
予め【状況に適したページを開き魔力を蓄える】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD   :    ページカッター
レベル分の1秒で【刃に変えた自分のページ】を発射できる。
WIZ   :    ビブリオマジック
レベル×5本の【毒】属性の【インク魔法弾】を放つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ラスベルト・ロスローリエン
『機巧の書架に書の魔物。埋もれた知識を求め地下迷宮へ……うん、実に浪漫だ』
若輩ゆえについ胸を躍らせてしまうよ。

【WIZ】
腕に絡み付く“永久の白緑”から【高速詠唱】で《古森の手枷》を喚び魔書を絡め取る。
戒めの古枝で書の魔力のみを封じ傷つけ失わぬよう丁寧に回収しよう。
『これでも叡智の果てを追い求める者の端くれ……己の魔法で損なうのは忍びない』

回収した書物の中から僕と波長が合うものは見つかるだろうか?
書と人にも相性というものがあるからね。
【情報収集】で実りある知識を得られたら魔道書として編纂するのも悪くないな。
これまで紐解く事は多々あれど自らの書を持ったことは無かったから。

※素材の内容はお任せします



(機巧の書架に書の魔物、か。むべなるかな、叡智の息衝くを感じる、ここは浪漫の地下迷宮……)
 鍔広のトリコーンに銀葉を揺らし。ラスベルト・ロスローリエン(灰の魔法使い・f02822)は、あらゆる可動が沈黙した廠を眺める。もう幾許かののち、彼我が奏でる鉄の騒ぎが去ればやがて、ここはまた停滞したしじまに沈んでゆくのだろう。
 見渡すラスベルトのまるい鏡玉の翠いろに、ふと、もうひとつの面影が朧に映りこむ。見比べば、草葉と歯車。快気と陰気。およそ、真反対のような景色だけれど。
(似て、いたのかもしれないな。彼処と此処、そこに在った閑けさは)
 かすかに馳せたのは郷愁か。森の人にしても稚い顔立ちに浮かぶのはしかし、哀惜と呼ぶにはいささか不似合いに確りと未来をみつめた情。そこにいくばくかの昂ぶるも滲むのは、根っからの探究者たる彼の性ゆえだろう。
 ――遠く、遠くへと行ってしまったふるさとよ。伸べてもそこに届かぬこの腕は、ならば、把めるものを握むために揮おう。
「これでも叡智の果てを追い求める者の端くれ、その終わりも知れぬ旅路だ。君たちの懐く知識は余さず、僕の足跡とさせてもらうよ」
 そう述べ伸べた指さきに端し、腕へ肩へと這って添うのは若木。『永久の白緑』、郷を同にしたはらからが宿る、白花の枝遊。
 その所作に魔法の気配を察知し、魔書がラスベルトを向いてふるえる。毒性のインクを放たんとするそれらを見つめ、それを叶うまえに、ラスベルトは【極めて端的に】台辞を詠う。
「 “目覚めよ” 」

 趨勢は、呆気なく決した。――余人の目には映らぬその代償は、決して軽いものではなかったけれど。
 幾重もの老枝の檻としてあらわれた『古森の手枷』。それに絡みとられた魔書の数冊は瞬く間に動きを減じ、ぱたりぱたりと地に落ちる、静止する。あたかも、はなからそうであったとでもいうように。
「ふう。知識の集積というべき書物を、この手にかけるのは忍びないからね」
 ならばと魔力を封じた、その計が功を奏したようで、書物の魔物たちは読むを能うありさまとなっている。若木に生える古木を仕舞い、歩み寄ってラスベルトは、拾い上げたそれらの埃をていねいに払った。
 人と人とのそれに同じく、人と書とにも相性というものがあるものだ。この身に重なる知識があればいい、若きエルダールはそう願いながら、それらの語るところを斜読に【読み解いた】。
 ……そうして傍に積まれたのは、《枯木理解論》《シルフの質量》《蒸気煙草銘鑑》と題された三冊。
「――おっと、いけない。ついつい耽ってしまったな、ここは戦場だと忘れるところだった」
 置き去るには惜しいが、かといってこの状況では抱えていくにも嵩張るものだ。ラスベルトは手早く、各書の要旨を記した頁を数枚ずつ摘みとる。
 このいずれかなりと己の知識とを併せれば、新たな書を編むこともできるだろうか。ふとそんなことを思いながら、ラスベルトは仲間たちの元へと駆けていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジュジュ・アギナ
お宝が手に入るというなら行くしかないわね!

まあ、まずはこの子達を片付けないといけないみたい。【串刺し】しようにもひらりと避けられちゃいそうだし………… イムルナちゃんと連携して片付けるとしましょう。

とりあえず槍として投擲、避けられるのは想定内、イムルナちゃんを竜化させて、挟み撃ちにして一網打尽よ。それに、相手は紙なんだし、私の【アート】で私の作品にでもしてしまいましょう。あとは燃やしてもらうわ。

…………イムルナちゃん、頑張りましょうね。



 片手に武器を、片手にブキを携えて。書物の数多が浮遊するさまを目し、その金はやわと双つ銀を細む。
「まあ、随分とたくさん居るものね。これは腕が鳴るってものかしら」
 埃の舞う戦場よりも、華夜に舞うがはるかにふさわしい。そんな艶美な貌に蕩けるような微笑を湛えたひとがたの竜、ジュジュ・アギナ(囚われの心情・f10955)の眸に、無邪気な少女じみた好奇がちかりと光る。
 ひとたびお楽しみが待っていると聞けば、ジュジュにとってそこを訪れないという選択肢はありえない。だって、
「やっぱり、ね、楽しいことが一番だもの。そんな心も躍るようなお宝のためにも、まずはあなたたちの相手をしてあげないと、かしら」
 動き出した魔書を捉え、ひらり。握るの穂先の天地を転じ、徐、めがけて抛る。
 緩な動作から弧を描いて繰りだされた投げ槍は、果たして、はたと身を翻した書物を貫きはしなかったけれど。
「さ、――おいでなさいな、イムルナちゃん!」
 それは織りこみ済み。ぱちんと響いた拍と同時、地に咬みついた滅槍『ドラグヴァルム』が俄か、そのかたちを変ずる。
 ぶわと砂埃を渦巻いて顕れたのは、ジュジュがイムルナと呼する深紅の一翼。羽搏き敵の背後に降り立った魔槍の竜はひとたび、ふたたび嘶いて、主に仇なす悪書の群れに炎の息を吹きかける。
「ふふっ、素敵ね! 私も負けないわ、この子たちを染める合作といきましょう!」
 間髪入れず、ジュジュも対の手を閃く。魔書の頁に、装丁に、瞬く間に描かれてゆく彩々のグラフィティ。
 油を多量に含んだ塗料を喰らって、焚書のほむらはいっそうあかあかと燃えあがり――……。

 はらり。焦げた紙片が余風に舞い、ぼろぼろとその身を崩して消える。彼女が彩った作品たちは、苛烈な劫火に頁のひとつすら遺すことなく、その悉くが焼け果てていた。
 それを見届け、次なるキャンバスの在処へと歩き出そうとしたジュジュの服の裾を、イムルナが柔く銜えた。振り返る彼女の足元に、紅竜はきらめくなにかを鼻先で押し出す。
「これは……」
 拾いあげたものは、精緻な細工が施された金属のかけら。魔導書の装飾が欠けたものらしいその表面には、彼女が戦いのさなかに放った黄と赤のいろがふた筋、まるでジュジュとイムルナを喩うように寄り添っている。竜の生んだ熱に熔けた端部は波うって幾重のきらめきを宿し――それはまさしく、【芸術】と呼ぶにふさわしいふたりの合作で間違いないだろう。
 くだんの竜はといえば、なにかを期待するかのようにジュジュを見つめ。そこにはつい先刻までの勇ましさは影もなく、ただ、甘えたな仔犬のようなそぶり。
「ありがとう、イムルナちゃん。……迷宮に眠るお宝探しのつもりが、とびきりを傍のあなたからもらっちゃうだなんて!」
 そのかけらに備わっていたはずの魔力も、もうほとんど抜け落ちてしまったようだけれど。しかしジュジュにとっては、愛しい相棒のこんな小粋ほどまぶしく、うれしいものはない。
 自然、顔がほころぶのを感じる。擦るように擡げた首元を擽ってやれば、イムルナはくるると喉を鳴らしてジュジュのてのひらに頭を預けた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

サラ・クロック
本は故人の語り掛け、時の証明、伝承、或いは夢というもの。
『ヒト』の生み出したそれらはこの身を形作るものだから安易に壊したくは無いのだけど。
それが今回の指示なのであれば、従うのみよ。

●戦法
本は紙。紙は火に弱い。はたしてその常識は今回通用するのか。
ルーンソードで炎属性の攻撃をしていくわ。

●希望素材
・召喚術の知識が記された書物の1項
火の精霊「サラマンダー」召喚の魔法陣
(攻撃により必要な素材の記された部分が一部燃えてしまっている)

・ボス戦の際に欠けた部分の素材入手希望

●入手時
何の魔法陣かが傷みが酷くてわからないな…終わったら調べてみよう。


アドリブ・他者との絡み可
属性:クール、淡々と、命令の実行最優先



 ふわり、ただよう気配がある。
 雪の一片のように淡いそれに、サラ・クロック(紛い物の行進・f01057)は手を伸べた。触れようとしたその間際、薄肉の陶器が崩れるようにほろりとたち消えたそれは、遍くいのちが生ずる魔力の源泉。サラが《マナ》と呼ぶ彼女の動力でもあるところのそれは、分厚い無機質に閉ざされたこの檻でずいぶんと幽かだ。
(うっかりここで機能停止しようものなら、私もがらくたに仲間入りね。地上の空気が恋しい)
 敵方を見遣れば、浮漂する本。本。本――、と表現するに代わる言葉はどれほどあるだろう。浮かんでみれば、故人の語り掛け、時の証明、伝承、そして、夢。
 いずれにおいても、そのありようはおよそ静的で、ヒトに与するものだ。それが牙を剥き、ヒトに害なさんとしている状況はロジックとして破綻していると絡繰の少女は思う。言いようのないこの胸のわだかまりは、歯車に注したオイルが悴せてしまったためだろうか。
「できれば、あんまり安易に壊したくは無いのだけど」
 けれど、この一件を言いつけた猟兵が。なにより、この鉄の肉を与えてくれたほかならぬあのヒトが、ヒトを護れというものだから。
 たとえその相手が、自分という存在をこの世界に在らしめた、もうひとりの母と呼ぶべき智慧の結晶であるとしても。
「指示とあらば、従うのみよ」
 未だ姿を見せぬ書架と同じ。それが、己が生を受けた由なのだから。
 刃区から切っ先へ。すらりと抜いた剣、その刀身に刻まれた文字をなぞってゆく。つ、とかよう指さきの動きを追うように、サラの髪色に似たあかいあかりがゆらゆらと立ちあがる。先の猟兵の戦いようを観れば、炎は通ると見て間違いないだろう。
「……君たちに、来世というものがあるのなら。次はマスターのようなヒトの書架に収まることを祈っていて頂戴」
 ぼう、唸る火の尾を靡かせてサラは駆ける。奔る光は直線に魔書の一冊に達し、熱を渦巻く刃でその体を一断する。続けざま、二の閃、三の閃が並ぶ無数を喰らう。紙きれが散ってゆく。
 書を喰らう赤。迷いなく齎される結末は、或いは、彼女なりの弔だったのかもしれない。

 焼けた魔書が、煤けた紙のひときれを残して霧散する。宙にとりのこされた魔書の遺し子は寄る辺なく、どこか心細げにひらりはらりと舞う。
 それを目して、ふと、過ったのだ――あのヒトが私を創ってくれたように、私にも、なにかを生みだせるだろうかと。
 淡々と、着実に、滞りなく命令を遂行すること。是を其とするサラにとって、それは本来必要のないものであったけれど。
 気づけば受け止めていた一頁。一瞥。一部の記述が炎に巻かれ喪われてしまってはいるが、そこに記された魔法陣はなにかしらを喚ぶもののようだ。
 束の間、それに視線を落とし。そっと懐に収めたサラはふたたび、己がつとめを果たすべく走り出した。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

キョウ・ヴァゼラード
※戦利品
守護の魔法で強化された白き大盾
三章で忠臣の『盾のアイギス』に渡し、以後愛用品になる予定
(入手の仕方などはお任せ、落ちてたとかでも)
「これは…守護の力を宿した盾、か?」

「迷宮で宝探しか…我らの世界で言う冒険者になった気分だ」
剣を抜き、高速の詠唱で聖剣解放を行い戦闘準備。
「領主であった身では叶わぬ事だったが…いや、戦さ場で余念が過ぎるか。
行くぞ、アイギス!」
『イエス、マイロード!』

「アイギスは私の死角を守れ!

敵の群れを【怪力】で振るう聖剣の【二回攻撃】で【薙ぎ払い】殲滅してゆく。
私の守護は【戦闘知識】を活かして指示を出した盾のアイギスによる【盾受け】に任せる。
『閣下には指一本触れさせぬ』



「どの世界にも、悪逆の芽は蔓延るものだな」
 未だ数を減らさぬ魔書の姿を涼やかな黒に映し、キョウ・ヴァゼラード(ヴァゼラード伯・f06789)は呟く。遥々は斧と魔法の世界より出で、幾つもの境界を渉って来たが、鎌首をもたげた過去の落とす影のくらさはどこも変わらない。
 そして、そうした世界の垣根とは、そもそもキョウにはさしたる意味を持たなかった。窮する人々がそこにいる、ただそれだけで彼が剣を揮うに値する。ノブレス・オブリージュ――誉れ高きヴァゼラードを継ぐ彼にとって、無辜の民草を護ることは呼吸に等しくあたりまえのことで。
「それら魔物の討伐。加えて、宝探しとはな。我らの世界で言う冒険者にでもなった気分だ……アイギス」
「はっ」
 呼んだ名に、それまで背後に控え沈黙を貫いていた聖霊騎士が短くいらえる。艶やかな黒を靡いて歩み出る、ふたつ大盾を携えた長躯の女性は、恭しく頭を垂れながら剣のひと振りを差しだした。
 誅すべき敵からは目を逸らさぬままに頷いて、キョウはそれを取る。ゆるりと抜き払う、ながくほそく刃の擦れるを残響して鞘から姿を顕したのは、あわい迷宮の灯にもまばゆく輝く刻文の銀――当家の誇りと共に継承されてきた、『聖剣グランネージュ』。
 『聖剣解放』により封印を解かれた、その破邪の威容。翳す。号令。
「――いくぞ、アイギス!」
「イエス、マイロード!」
 放つや否や飛び出したキョウは、敵の群れへと躍りこむ。【目にもとまらぬ剣捌き】でもって有象無象を聖剣に【撫で斬る】、その彼の死角から迫る魔書の牙は、アイギスが悉く【盾で弾いた】。
 攻と守と。寸分たがわず息の重なった連携に、寇し得るものはこの場にない。

 聖なる銀が、最後の一冊を貫く。その視界の端、ふと、白が瞬いた。
(む、あれは――)
「閣下?」
 部下の怪訝には答えず、剣を収めたキョウはそれに歩み寄る。その白いろの正体は、瓦礫に身の半ばほどをうずめた大盾。表面にうっすら膜する埃を払うべく手を触れれば、生きた魔法の気配を感じる。
(ほう。これは、守護の魔法か)
 嘗て迷宮を訪れた誰かが遺したものか、はたまた宝物庫から運び出されたものか。その来歴すら知れないが、ただ、未だ実用には充分すぎるほどに供していることは確かだ。
「閣下! 御身はこのアイギスがお守りいたします。盾を持つなど不要でしょう」
 こちらも歩み寄ってその正体を目し。思わず声をあげたアイギスが、はたと思い当たったように整った眉尻を下げる。
「それとも……手前では。力不足に、思われたのでしょうか」
 絞るような彼女の音に、キョウは目を瞬いて。その心中を解すると、ゆるとかぶりを振った。
「いや、そういう訳ではない。訳ではないが――これは拾っていく」
 言い切り、キョウは持ちあげた白盾を携えつかつかと歩き出す。酌めぬ主の心に困惑の表情を浮かべながら、アイギスもその背を追う。
(領主であった身では叶わぬ事だったが……なかなかどうして、悪い気はしないものだな)
 内心にこの戦を終えた後のことを描きながら、知らずキョウの口許は穏やかに綻んでいた。

成功 🔵​🔵​🔴​

紬雁・紅葉
まぁまぁ♪己のみならず武具道具も鍛えられるとは…こんな機会もあるのですねぇ…
迷宮には不慣れながら物珍し気にゆるゆると分け入る

【炎の魔力】を攻撃力に付与
薙刀、ルーンソード、弓を適宜に切り替え、炎の属性攻撃で範囲を薙ぎ払っていく


※素材
「あら?これは…?」
良質の木炭…良い鋼を作るために炭は欠かせない
叶う限り多く

※資料(出来れば…)
「…!これって!!」
何気なく残った1頁
書いてあるのは温度と時間
焼き入れ水の温度は鍛冶の秘中の秘
「…試す価値はありそうね…」

※アドリブ、緊急連携、とっさの絡み、大歓迎です※



「まぁ、まぁ♪」
 神さびた機巧の迷宮に、その空気からはおよそ外れたたのしげな声が響く。からりころりと下駄の音が響く。
「己のみならず、武具道具も鍛えられるとは。こんな機会もあるのですねぇ」
 そうおっとりと笑うのは、これまた蒸気や魔法とはずいぶんと趣を異にする装、紬雁・紅葉(剣樹の貴女・f03588)だ。巫女装束の裾を舞いしずしずと歩を進む、すがらあちらこちらと視線を彷徨う、その柘榴には隠しきれない昂りが滲んでいる。
 さもありなん。彼女の額に聳え、つやつやと光をこぼすのは黒曜の双角。ほかでもない、武に闘にこそ胸を焦がす羅刹の証だ。となれば、撫子然とした彼女がその身に渦巻く炎を纏い、徐に臨戦態勢をとったとしても驚くに値しないだろう。
「では」
 依然湛えるほほ笑みはそのままに。跋扈する獲物を遠目に捉えると、紅葉はゆるりと『破魔重弓』を構えた。
 榊と竹。たかきものを招く神籬と材を同じくする倭弓は、不浄の一切を祓うに優る。こと榊はすなわち、境木だ。羅刹と賢書、巫女と魔書。彼我を隔てる境界が克明なほどに、その言霊はいっそうの威を鏃に宿すものだ。
「参ります――」
 きゅうと眸を細むと同時。弓の向くを魔書のはるか上空に向け、紅葉は一度に番えた数本をまとめて射つ。射つ。尚も射つ。火矢の群れが、分厚い地表に隔てられた大空に向けて飛翔する。
 その行方を見届くことなく、紅葉は次いで呪(まじな)いの彫られた剣を抜く。空を切ってひと振り、その刃に焔を灯せば、構えてひらりと魔書へと跳んだ。着地の勢いに任せた一刀。血しぶく代わりに舞い上がる紙片を隠れ蓑に、其処な背表紙に滑り込んで二刀。振り向きざま背後への三刀、重ねて四刀。
「ふ、ふ。ふふ、ふふふっ」
 笑をこぼす、羅刹の表情は吹雪する紙に帳され窺えない。そんな紅葉とそれを囲う魔書の頭上から、遅れて追いついた火矢が【雨あられと】飛来する。
 瞬く間に紅葉は得物を薙刀へと替える。『巴』と名されたそれは己の発する熱のみにあらずして、てのひらにあたたかい。次々と書に喰らいつく火雨は主にさえ牙を剥く、その度々に紅葉は切っ先で魔書を切り伏す合間、頭上でぶんと回してはそれらを弾いて飛ばす。傍目に自殺行為のような行いすらもまた、彼女が自身に課したひとつの鍛錬。
 ――嗚呼、心地よい。たのしくてたまらない。この身に巡る血潮が湧きたつ、ぞくぞくと背筋を擽るような悦びに、紅葉はゆたかな躰を震わせる。
 この時間がもっと続けばいい。そんな彼女の願いもあえなく、羅刹の苛烈にまもなく一帯は沈黙した。

 からり、ころり。
 啼かせた下駄になにかが触れたのを感じて、紅葉は身を屈めた。その素性を検めて、紅葉は目をまるくする。
「まあ、これって……!」
 思わず歓喜の滲んだ声音。要る熱量、要る時間。その云々が記された一頁は、紅葉の目には鍛冶の真髄と明らかだ。
 これを叶うには燃えるもまた、要る。そしてここは工廠だ。
 ならばと期待をこめて見廻したさきに果たして、横倒しの台車からあふれる木炭の山が映った。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヘンペル・トリックボックス
さてはて、先日の戦いで左の義手が破損してからというもの、満足にトランプマジックすら披露できない有様。ここいらで修理もかねて、新しい機能を追加したいところです…!
精密な動作が難しくなった義手を取り換えるため、クルカ・コルカを目指します。首魁であるトレジャーリガードとの闘いまでは極力余力を残しておきたいので、道中の眷属は式神を呼び出して使役。私は【目立たない】ように【忍び足】で先に向かうとしましょう。基本的に、全部右腕での操作になるので若干ぎこちないです。

「うへぇ、勘弁カンベン!一張羅にインクの攻撃は致命傷です!」



 その手で武威を示す羅刹があれば、荒事を避けて通ろうとする人形もいる。
 剣のさわぎを隠れ蓑に、姿かたちはさながら黒子のように。戦場のすみっこで【そろりそろりと】歩を進めるあやしい影は、その名もヘンペル・トリックボックス(仰天紳士・f00441)。技能で誤魔化してこそいるが、この陰気に沈んだ迷宮でおしゃれなワインレッドのタキシードとシルクハットのいでだちは、なんとも言えない存在感を発している。
 直截に言って………………浮いてる。
(いやはや。ご同輩の奮闘にも関わらず、なかなか数を減らさないものですねぇ。これもひとえに、私が紳士であるがゆえなのでしょうか)
 そんな余人の印象もつゆ知らず。ぱったぱたと元気にはばたく魔書たちを尻目に、ヘンペルは依然とほそ長い脚でひとつふたつ【忍び足】を滑らせている。
 そんな体の動くに伴い揺れた、彼の左の肩からぶらぶらりと垂れさがる義手。
(私のすばらしいトランプマジックすら満足に披露できないこの有様、紳士にあるまじき為体です。折角なら機能の追加も織りこんで、修理に使えそうな物品を戴きたいところ)
 先の戦いで傷ついたそれは、まったくがらくたまでとは言わないまでも、稼働に大きな支障を抱えていた。
 しかし気配を忍んで探し回れど、どうもこのあたりにそれを叶えそうな品はない。機巧の腕と鑑みれば、本命はやはりこの後に待つ逍遥書架だろうか。
(となれば無用な消耗は避け、スマァトに本命に達したいものですね。えぇ、スマァトに。なにせ紳士ですから)
 心理描写であっても逐一紳士を主張してくるこのヘンペルは、こんな場所でも絶やさぬ笑みはそのままに、したり顔で頷く。
 その彼を直後、悲劇が襲う。
「あ」
 ……あっ、積まれたがらくたを派手に蹴っ飛ばしたぞ!
 あたりに騒音を響いて崩れるなにがしか。暫しの硬直、きちきちと鳴るオノマトペとともに振り向いたヘンペルは、こちらを向く魔書の無数を見る。
 それらの、インク弾を飛ばすを見る。
「あっ、あーっ! 勘弁カンベン! 一張羅にインクの攻撃は致命傷です! ……うへぇ!」
 これなる紳士度のバロメーターを汚すなど、全時空紳士協会(非公認)の末席に連なる者として断じて許されぬこと――!
 必死に身を捩って宙を舞ってインクを避けながら、ヘンペルはステッキでシルクハット……もとい『ビックリドッキリ異次元シルクハット』を小突く。くるりと一回転して手に収まったそれを、窺い知れぬその内側を敵方に向ける。
 かっこいい詠唱も唱えている暇はない。右腕しか使えないとか、そんなこと言ってる場合じゃない。ピンチ!
「――助けて!」
 身も蓋もない台詞とともに発したのは『式群招来・獣聚鳥散陣』。シルクハットの内から、数を百にも及ぼうかという式神の群れが飛び出す。黙々と仇へと飛んでいく彼らの無感情は、心なしか、ヘンペルにちょっとつめたい。
 インクの雨と紳士の追いかけっこは、彼の式神がようやく本元を消滅せしめるまで続いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

シゥレカエレカ・スプートニク
愛しのギドと!

凄い!凄いわギド!学園の下にこんな風に入らせてもらえるなんて!
もしかしたら「大妖精リラリルレラの碑日記」の写本とか、「碓氷の書」とか、見つけられちゃうかもしれない…!

今にも飛び出しそうになっていると、ギドの指先が宥めるように触れる
詫びるように、それに頬を寄せ

…わたし、あなたに新しい魔術具を造りたいわ、ギド
ここなら相応しい材料があると思うの
それに、本も!
インスピレーションがグングン刺激される気がする
楽しみね、デート ふふ

…でも
でも!
遺ったページなんて見逃せるわけないじゃないー!
まるごとなんて遺ったあかつきには、安全確認してからそっとフェアリーランドで…
ああ、戦うギドもかっこいい…


ギド・スプートニク
シゥレカエレカと

私は然程、物には頓着しない性質だが
質の低い装備に身を預ける気はせぬしな

ふ、と笑い
尤も私に関して言えば、そのような心配は無縁か
肩口のシゥレカエレカに指で触れる

まだ見ぬ宝にはしゃぐ姿もまた愛らしく

贈り物は嬉しく思うが、あまり気を遣わなくても良いのだぞ?
自分用でも売り物でも
作りたいものを作れば良いと思うが…

尤も返答の予想も付く
それは嬉しくもあり
困りものでもある

古書の整理か
まとめて焚書とすれば早いだろうが
此度はそうも行くまいな

拷問具の鎖にて敵を拘束
無力化できぬのであれば刀で突くなり浄化を得意とする者に任せる


シゥレカエレカに危険が及ぶようなら即座に葬る

*素材や物品に関する采配は委ねよう



 クルカ・コルカにあるひとつ、華やいだおとが響く。
「……凄い! 凄いわギド! わたし、学園の地下迷宮に入らせてもらうなんてはじめてよ!」
 学に長じたフェアリーに、書の数多をも蔵する宮はそれこそ宝物庫のように映るのだろう。ゆるりと歩を進めるギド・スプートニク(意志無き者の王・f00088)の肩にきれいに納まって――否、ちょっぴり腰を浮かせ気味に、シゥレカエレカ・スプートニク(愛の表明・f04551)が忙しなく視線を巡りながら「はあぁん……!」と黄色い感嘆をあげている。
「ねえ見て見て、ギド! 飛んでる魔導書もあんなにたくさんあるわ!」
 うんと身を乗り出して、ぎゅううっと目を眇めて、シゥレカエレカは遠いそれらの表紙を検分する。うっかり《大妖精リラリルレラの碑日記》の写本とか、《碓氷の書》とか、紛れ込んでいたりはしないかしら。
「……シゥレカエレカ」
 そんな妻を見かねたようにギドの声が降る。伸べられた指のさきはどこかぶっきらぼうな声の響くに反してやさしく、危く彼の肩から落ちようとしていたシゥレカエレカを定位置にそっと押し戻す。
「あっ、わたしったら。つい年甲斐もなくはしゃいじゃった」
 ごめんなさい――、目を伏し、ふんわり頬を染めた妖精は囁いて。ちょっぴりとだけかたい良人の指に、その一本ほど大のてのひらを添わせれば、そうと頬を寄せた。……デートと思えばいっそうに、このこころは逸ってしまうものだから。
 指を擽る、そんなシゥレカエレカのなめらかな肌の感触をとくとく味わいながら、ギドは仏頂面のままに敵方に視線を送る。妻のこの小柄では、あの書物の群れに飛び込むなり瞬く間に囲まれてしまうだろう。そのままうっかりぱたんと挟まれようものなら、押し花ならぬ押しフェアリーになりかねない。
 ……それはそれで、この愛らしい妻の姿をいつまでも残せると思えば、
「ンンッ」
 いや、いい訳はない。咳払いとともに邪念を追い払う、そんな夫のようすを目をぱちくりとして眺めつつ、シゥレカエレカは口をひらく。
「ギド。思ったのだけれど……わたし、あなたに新しい魔術具を造りたいわ」
 見渡した、この廠の景色。随所に転がるがらくたの無数を探れば、相応しい材料は隠れていそうで。
「それに、本も!」
 本のフェアリー、もとい虫、もといフェアリーとしてやっぱりそれは欠かせない。インスピレーションがグングンだわ! そうぐんぐんとこぶしを握ったシゥレカエレカの眸はまだ、リラリル何某を諦めてはおらず。うっかり魔書が頁も残そうものなら、そのまま飛びつきそうな勢いだ。
「気持ちは嬉しいが、あまり気を遣わなくて良いのだぞ」
 当のギドはといえば、シゥレカエレカの好きなように、好きなものを作ってほしい思いがある。
(それに。シゥレカエレカと違い、私は然程、物には頓着しない性質で)
 誇り高き吸血鬼の血統は、その身に生半な道具を辞むものだから。
 そんなギドの薬指にちかりとまたたくのは、この肩に座す愛しいぬくもりとの誓約。『死がふたりを別つとも』、揃いの名を冠する揃いの指輪、交えた言葉と想いのあかし。
 ふと目し、ああ、と。頓着しないと言えど、彼女が関わるとなれば話は別で――そうと自覚すればこそ、自ずとあわい笑みが漏れる。
(そもそも。彼女相手には、不要な意地か)
 横に目すれば、シゥレカエレカもふるりと頭を振る。
「わたしは、ギドにあげたいと思うからそうするの。それだけ、そんなわたしの勝手よ」
 旦那さまは、お嫁さんの我儘を許してくださらないのかしら? そう茶目をまじえてほほ笑む妻に、ギドはやれやれと瞑目する。……悪い気は、していない。
「では、古書の整理といくか。本来なら、焚書とすれば早いのだろうが」
 少し揺れるぞ、視線は魔書を目すまま肩へと短く告げて。ギドは徐、己の手を口許へ運び――尖った八重歯で、指の腹を咬み千切った。
 咬むと言っても深くはない。深くはないが、血は出る痕だ。
「動いてくれるなよ。書の本分を思い出せ」
 そして。血が出たとなれば、それは門になる。彼の拷問具を顕す、門に。
 血の雫の数滴を散り、疵口から手枷が、猿轡が、拘束縄が飛び出す。書の魔物に揃って喰らいついたそれらは魔力を啜り、瞬く間に只の書のかたちへと変えてゆく。
「……ああっ、待って待って! 消えちゃだめーっ!」
 夫の雄姿をうっとりと眺めるも束の間、悲鳴をあげる妖精。無力化された魔書は次々と、ぼろぼろその身を崩していくけれど。
「待て。……あれを」
 飛び出そうとする彼女を、敵のすべてが沈黙するまで制し。そしてギドが指したさき、灰に埋もれながらも遺った一冊が顔を覗いている。
 ぱあっと顔を輝いたシゥレカエレカ。右よし左よし、指さし確認したのちに、取りだしたる魔法の壺を携えふわふわそれの元へと羽搏いた。翅に舞う風で灰を払う、そうして目した題は。
「《雪の骨》?」
 そっと触れた雪白の魔書は、ひんやりとつめたい。

 片や。
 ころころと転がるなにかが、靴にこつんとぶつかった。屈んでギドは拾いあげる、それは中にきらめくを抱く透明の管。
 その硝子管の内部には、シゥレカエレカの右の眸に似た紫いろの結晶がまたたいている。摘んで眺めた、指の傷からは結晶に魔力の息衝くがどくりどくりと伝わってくる。
 ギドはふたたび足許を見やる。傍に散らばる、筒や割れたレンズと思しき破片から推すだに。
(……カメラ、の部品か?)
 機械に明るい友人か、学園の技師か、はたまた物知りな彼女に尋ねたならばひょっとして、その正体が撮像管と呼ばれるものと知れるだろう。といえすこしふしぎな魔法科学の産物、本来ならその内にあるは結晶ではなく電磁の機構。ゆえにこの管は、一般に知られる機能とは違ったり、そも他の用途を有しているかもしれないし……もちろん硝子管を割れば、中の魔水晶自体を取りだし加工することだって可能だろう。
「ギドーっ! どうかしたの? 早く行きましょう!」
 わたしはまだまだ、魔導書を諦めてないんだから! 思慮に沈んだ彼の耳に、遠くから腰に手をあて主張する妖精の声が響く。戦利品の一冊目は、きっちりフェアリーランドにお届けしたらしい。
 見やれば、魔術具を造りたいという妻。
 あるいは、己に物を贈りたいという妻。
「ああ、今行く」
 懐にそれを仕舞って、ギドはシゥレカエレカの元へ歩き出した。

 追い縋る歩、踊る翅。おおきな歩みとちいさな羽搏きは、みるみるその距離を縮めていく。
 見つめたさき、くるり、ひらり、鱗粉のきらきらひかるを纏い、ころころと鈴を転がすは夢色の乙女。ギド、ギドと愛しげに呼びかけては、夫のてのひらにすっぽり収まってしまうほどの胸に、そのちいささにはあふれてしまいそうな想い、想いのいっぱいを、ただただ眸を細めほそめたほほ笑みだけに発露する。
 ギドには妻が時折見せる、そんなふにゃりと泣きだしてしまうような笑顔がなによりも眩しくて、……愛しくて。
「シゥレカエレカ、」
 思わず口を衝いたその名。そのさきに続くべき、この情を正しくあらわす言葉は長年連れ添って未だ、彼自身も知らなかったけれど。
「ええ――」
 囁きを返すシゥレカエレカもまた、求めてはいなかっただろう。……だって彼の蒼いろが伝えるそれは、わたしの胸に、こんなにもあたたかい。

 万の言葉を尽くしても得られない。
 どちらからともなく【手をつなぐ】、ただ互いが伴にあるこの一瞬。それに勝る宝など、きっとこの世にはあり得ない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鴛海・エチカ
丁度良い、魔術媒体を探しておったのじゃ
学園の平和の為にも、そしてチカの為にも
お主達には糧となって貰おうぞ!

よいしょ、とチェシュカの箒星に横乗りして空中へ
ユフィンの星霊杖を振るって『定言命法』を紡ぐのじゃ
我が命じるのは「其処を動くでない」というルール

良い魔導書の基になる本を探しておるゆえ
箒の上からじっくりしっかり見定めるぞ
そうじゃな、占星や天文の本などが良い
表紙の装丁は蒼だと文句はないのじゃが
そういう物が上手く此処に有れば……高望みかのう
なぬ、ぴったりなのがいるではないか。逃さぬぞ!

ふふ、チカの力を侮るなかれ
『エレクトロレギオン』で追い詰め、『二律排反』でどかーん、じゃ
勝利は此処にあり、じゃの!



 『ユフィンの星霊杖』にいただく天球儀が。蒼水晶が。その七耀が、揺れる。
 此れより紡ぐは、我が令ずる絶対的命法――
「 “其処を動くでない”! 」
 たからかに宣う、『定言命法』によって魔書の凍るを見届けた鴛海・エチカ(ユークリッド・f02721)は、よいしょとガジェットの箒に腰を降ろした。『チェシュカの箒星』はいつか妖狐の君に晒した失態など知らんぷり、しゃっきりばっちり主を書の上空に導く。
(魔導書の基になる本を探しておったからの、丁度良い)
 占星や天文の本が良い。叶うなら、蒼いいろがほしい。
 矯めつ眇めつ。動けぬ書の群れを見おろしてふわふわと、悠々と吟味するエチカの眸に、
(ぬ――)
 ふと、一冊が留まる。
 きらめく金の散る、その真蒼もまた淡く光沢し、瀟洒な階調の機微はそのまま夜空を切りぬいたかのよう。眺める角度を変ずれば降るあかりにその表情もまた、万華の如くにうつろい変わる。そしてなにより目を引くものは、その表の央にちょんと納まって配われるちいさな真鍮のアストロラーベ。
 頭。題された葉は言も少なに、己を《羅針》とのみ語る。
「ほほう……高望みかと思ったが、ぴったりなのがいるではないか。これはめっけもんじゃの」
 したり顔で頷いたエチカは、白手套のほそい指さきで、つ、と花ぎれを擽る。逃さぬぞ――微動だにできぬ魔書にそっと唇を寄せて、幼なかたちに似つかぬあまい囁きを落としたエチカはふたたび、ふわり箒星に身を游いだ。
 あなめでたや、魔女の贄は決した。然らば、贅を凝らした宴でもっておまえを迎えよう。
「ふふ、チカの力を侮るなかれ」
 学園の平和の為にも。そして、チカの為にも。
「お主達には糧となって貰おうぞ!」
 展じた『エレクトロレギオン』が書を囲う。危機を察し、甘んじて違約の罰を身に爆ぜ揺らいだ魔書に、しかしもはや逃げ場はない。直上からエチカは星霊のしるべを繰る。齎したるは流星の矢、『二律排反』、そのゆるりとおちる。
 くらい宙。光芒引く尾のきらめきを追って、フィエスタローズが刹那に出でては散ってゆく星々を映す。
 ――遥か高みより睥睨するは、あゝ、遍く未知を翫らんとする星の海の魔女。その貪婪の、なんとまばゆいことか。
「……どかーん、じゃ!」
 号ぶと共に迸る。暁光のごとく鮮烈な白が魔書を、エチカを、迷宮を、――すべてを呑みこんだ。

「勝利は此処にあり、じゃの!」
 ふふんと小鼻を鳴らして、とん。脚をきれいに揃えて降り立ったエチカは、いそいそと散らばった魔書たちに駆け寄った。祈るように懐いた箒にぎゅうと力をこめた、その柄の端を彩る白紐が背を押すようにそよいだことに、彼女は気づいたろうか。
 見回す、それらの悉くが、ぼろぼろとその身を灰に変えてゆく……その中央に、果たして。
「あっ……あったのじゃーっ!!」
 のじゃー! のじゃー……! のじゃー――……
 思わず衝いた叫びをいっぱいに木霊させ。満面に喜色を花ひらき、お気に入りの白帽子をふわりと踊らせながら、エチカは目当ての一冊に飛びついた。
 ぺたんと腰を降ろせば地べたに触れた、『星』を冠する特注の魔女服が、そこから覗いた小麦の脚が、そして青の書を拾いあげたてのひらが煤に汚れることさえも厭わずに。
「ふふ、ふふふ。今日からお主はチカのものじゃ。さあて、どう働いて貰おうかのう」
 それはまったく、新しいおもちゃをもらったこどものはしゃぎようにそっくりで。
 両手でしっかと握った一冊を、エチカは飽きることなく眺めていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

鵜飼・章
突然だけど僕は音楽の成績がよくない
通知表はいつも5段階で2か3だった
獣奏器(オカリナ)を使うと皆がっかりするんだ
『意外に下手だな』って

今日はそんな現状を打破しようと
愛着が持てそうな楽譜や楽器を求めて来た
練習?
しようと思ってはいる
思っては

歩く書架の迷宮なんて素敵だね
長閑に逍遙したいけど今は戦闘優先
獣奏器を奏でたら音楽の本が襲ってこないかな
…ほら、また鴉達が微妙な顔してる
不協和音でごめんね

周囲に他の猟兵がいない事を確認し魔導書を開く
UC【裏・三千世界】で一気に掃除
鴉が本達を喰い散らかして
視界が白い紙吹雪でいっぱい
綺麗だね
食べた頁が全て僕の知識になれば
演奏もすぐ上手くなるのにな

戦果はMSさんにお任せ



 僕は、鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は、あまり音楽が得意でない。

 そう彼の告白するはただの謙遜でも、まして益体もない嘘でもなく純然たる事実なのだと、彼の奏でるオカリナを聴けば誰にだって知れる。
 成績だってよくはなかった。あれから何年も経ったけど、獣奏器を扱う僕を見つめた瞳を見返せば、そこに滲んだ落胆はあれからまったく上達してない腕を教えてくれる。
 だので。愛着が持てそうな楽譜とか、楽器とか。それに一瞬心が浮つくのに任せて。
(この現状をなんとか……まあ、素直に練習しろ、という話もあるんだけど)
 それはそれ、これはこれ。
「ほら、何をするにも体裁は伴う。なら最初に体裁から入ってみたって、結果は同じになるんじゃないかな」
 眠いわけでもなく、ちょっと眠たげな紫の眸に有象を映して、章はゆるゆると言葉を紡いだ。肩の鵜象もかあと啼く、それは同意か不同意か。
 無論、意も志も口もない紙の束が返す聲とてなく――遣るはただ佇む黒に向け、刹那、鋭く研がれた頁の奔る。
「っ、とと」
 コンマの渺を見透かして、章はひらりと身を躱す。着地して前屈、踏み締めて脚を撥条する、勢いまかせに宙を駆けた。
 ――あれに腰を抜かして喚いたら、ちょっとはヒトらしいんだろうか。
 過る念。けれど実行するにはいささか抵抗があるし、もう避けてしまったからには後の祭り。『悪魔の証明』。翻ってはためく服の裾。
「そういうわけだから、うん、文脈が因果してないって文句は後で聞くね。きみたちを片します」
 一気にね。
 淡々。坦々。ふわり、着地、ふるり、睫毛の翅を羽搏く。片手には図鑑、口づけたオカリナ。そして奏でる、『裏・三千世界』。
 ピィ。
 と響く、いちの音。にの音。さんの音にはあばれる黒が埋め尽くす。図鑑の檻から現れた人喰い鴉の無数たちが、戦場に残された魔書の悉くに、貪るように喰らいつく。その荒れ狂うが章の奏でるおとの為かは知れないが、縦に横にと割かれ裂かれて、紙の吹雪が視界を染める。
「綺麗だね――」
 半ばからは、碌に見ないで嘯いた。ミにならない僕の分まで喰らい尽くしてくれればいい。
 黒と白の螺旋に在す。渦の枢は、ひどく空虚だ。

 かさり、余波に紙片が囁く。戦禍が去れば戦果在り。
 紙きれの海に拾いあげた、一冊は文庫ほどの大。やけにカラフルでパワフルな装、曰く。
 《感嘆符過多なサイボーグと上手に付き合うためのたった3つの大切なこと》。
「……」
 どこか食い入るように見つめた章のてのひらの内で、
(…………)
 啓発本と思しきそれはぼろぼろと崩れていく。
 ………………屑を被った手をはたいて、なおも章は漫ろ歩く。

 おや。

 鴉がなにかに群れている。なにかをつついて群れている。
 ごめんね。歩んでぽつりと囀れば、鴉はざあと身を引いた。そんな黒の無数の遠巻くに見守られながら、章はなにかを……書を、譜の重なるを拾う。
 はらはらと頁を繰ればあらわれる、たとえばそこは、彩の滲む、線の踊る、字の盡す。啄まれ、ところどころが虫食いとなった幾重は、独創のうえに奇怪と難解を塗り重ねている。
 それは、その別を図形譜に定義するもの。奏でる楽器はあらず、ただみつめる目にこそ響くもの。
 十ヒト十イロ、そのどれもが解にして、そのどれもがうそっぱち。観測者にこそ実態を委ねられる、おとのかたち。
 であれば。ヒトのもどきを自負する章に、それらはどう聴こえたことだろう。ひょっとしたらそれは、この編が冠するに同じ《衝撞》だったろうか。
「……ふうん」
 茫漠を湛える白皙は、相変わらずその真意を滲まない。滲まないけれど、章は思った。
(外っつらだけはそれらしい)

 ――それはまるで、僕みたいだ。

苦戦 🔵​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『トレジャリーガード』

POW   :    ロケットパンチ
【剛腕】を向けた対象に、【飛翔する剛拳】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD   :    コアブラスター
【胸部からの放つ熱線】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    マジックバーレッジ
【自動追尾する多量の魔力の弾丸】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【絶え間ない弾幕】で攻撃する。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠茲乃摘・七曜です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●徒然の果て

 がしゃん、がしゃん。

 『其のひかりも知らぬ我らの地底に』
 『其に勝る宝があるものか』

 がしゃん、がしゃん。

 『青いソラという見果てぬ夢を』
 『身果てなお満ちぬ』
 『このこころのカラに架しませい』

 がしゃん、がしゃん。

 『そしてソラに手を届くこと』
 『この無間の檻カラ放たれること』
 『そのいずれすら叶わぬというならば』

 がしゃん、

 『つめたい』

 がしゃん。

 『わたしに』


 たゆたう魔書の一切が散り果てた、空間の奥。
 あなたたちが見つめるその階段から、それは現れる。

 廠の番人。傷ついたゴーレム。クルカ・コルカの逍遥書架。

 かれは、あなたたちをみとめて。
 ぴかり。まなこに、赤を灯した。


 ――『おわりを』
シゥレカエレカ・スプートニク
夫、ギドと

――これが、クルカ・コルカのトレジャリーガード
逍遥書架…凄い発想ね
守護まで宝箱にするなんて
いえ、理に適ってるというべきかしら…

ずっと、守り続けてきたのだものね
青空くらい見せてあげられたら……よかったのだけど
だからこれは、わたしの力不足
あいにく、わたしはあなたが嫌いなぬすびとみたいなものだけど
せめて、ソラの夢を見て

ダイアモンドダストに光の属性を合わせたエレメンタル・ファンタジアで真冬の星々の煌めきが如き幻想を
少し、あなたの動きを止めるわ

…そうね、ハッピーエンドなんかじゃない
でもこの子は望んでいたわ、ギド
きっと、夢の終わりを

終われば、ギドの肩に戻る前に
そのほほをそっと撫でて


ギド・スプートニク
シゥレカエレカと

>手向けを送る妻に
私などは亡霊の戯言と耳を傾けすらしていなかったが
その優しさは、きみの美徳だろう
好きにするといい
手伝えることがあれば、何なりと


どうだ、少しは満足したか?
歪んだその魂に心が残っているかまでは知らぬ
私が貴様に救いの手を差し伸べる事も、無い

*少しは嫉妬の気持ちもあろう
*亡霊如きに彼女の情けを受ける程の資格があるとも思えぬ
*だがそれこそ彼女の自由、私に口を出す権利はない
*それに資格で言えば――、私とてそんなものは有しておらぬのだから

これにて終いだ、逍遥書架

眼光を強め空間を支配
妖刀の居合いにて敵を斬る

美辞麗句を並べようと、終わりは終わり
ハッピーエンドには程遠かろうな


鴛海・エチカ
さあて、目的のものは手に入った
ならば後はあやつを屠るだけじゃのう

箒から地に降りて杖を構える
初撃から最後まで『二律排反』を放っていくぞ
避けられたとて我が足元に宿る魔法陣が力を与えてくれる
出来る限り陣に留まりつつも時には杖で受け、攻め込んでゆくのじゃ

お主からは妙な悲しみめいたものを感じるぞ
……望んではいけない希望を抱くのは苦しいのう
チカもな、昔は籠の鳥であったぞ
今こうして外に飛び立てた我に慰めは言えぬ
すまぬ、チカにはこうすることしか出来んのじゃ

その代わり、全力で葬ってやろう
我が流星の矢が導くはソラの彼方
クルカ・コルカの逍遥書架よ、その姿、その力――
我らの眼にしかと刻み、記憶の星のひとつとしようぞ!


サラ・クロック
煌々と燃える揺らめき、なのに聞こえる“声”はとても冷たく寂しい。
君は、何に閉じ込められているのー?

◆戦闘
君には、炎はあまり効果がなそうだね…さて、どうしたものか。
《トリニティ・エンハンス》水の魔力で防御力+炎への耐性を上げ
対象を捉えさせない様可能な限り後ろに回り込んで軸脚の関節部分を一点集中で攻撃
致命傷は期待しない。
敵の気を散らし、周囲のサポートに集中し任務完遂のみに重点を

倒れる直前、消えかかる炎の中から零れ落ちた一欠片の赤い石
呼ばれた気がしたのは、気のせいだったのだろうか…


◆素材
サラマンダーの血が閉じ込められた赤い宝石


※アドリブ、他者との絡み可


鵜飼・章
《衝撞》
それは手に入らないものへ惹かれる虚ろ
ブラックホールみたいな底のない無から
あふれる冷たい好奇心の塊だ
眼を見ればわかる
きみも僕とおなじだね

奇怪と難解を重ねた独創に僕なりの解法を与える
五線譜も指揮も楽器だって必要ない
そう、常識には縛られない
世界は僕の未だ識らぬ感情に満ちているのだから

奏でるは【悪魔の証明】
針と嘴で弾く滅茶苦茶な独奏
金属と金属のぶつかる音
煩い鴉の合唱
うん、こっちの方が僕らしい
空に焦がれるきみの命を素敵な標本にしよう

楽器は要らないと言ったばかりだけど
前言撤回、やっぱりあれ貰うね
詳細は素敵なMSさんに任せた

おいで
僕と世界を見に行こう
夜明けの空の美しさぐらいならいくらでも話してあげる


キョウ・ヴァゼラード
「あれがゴーレム…もし仮に、イトセの言うように空に焦がれ歩みを進めるのだとしても」
盾のアイギスから聖剣を受け取り、抜き放って聖剣解放。
「我らは背に負う民の為に戦うのみ。悠久の時を経たヤツの想い…悠久の時を重ねたヴァゼラードの歴史で応えよう」
『御意』

「アイギスは私の前へ!このまま距離を詰める!」
『イエス、マイロード!』
【戦闘知識】でアイギスを指揮し、彼女を前衛としゴーレムの攻撃から私を【盾受け】で庇わせた瞬間、私が飛び出して距離を詰め【怪力】で聖剣を振るい【二回攻撃】による連続斬りでゴーレムを【薙ぎ払う】
「果てなき歴史を持つ聖剣、それを振るう古き血統ヴァゼラードの剣術!
これがお前への手向けだ!」


ラスベルト・ロスローリエン
ほおずきのように揺れるまなこと瞳を交わせば思い出すだろうか。
迷宮に降りる前に耳にした一節を。
『嗚呼。君もまた、遥か蒼天に浪漫を抱いたのだね……』
天穹の極みを頁に綴り君の書架へと収められぬが無念でならない。

◇WIZ 自由描写歓迎◇
自立人形の類なら身体の何処かに核がある筈。
それもまた書架に納まる魔書かな?
【見切り】で攻撃を避けつつゴーレムを構成する魔力の流れを観察する。
核らしき部分を見定めたら“翠緑の追想”で中空に円を描き【高速詠唱】で《万色の箭》を編む。
『見えるかい?これが世界を彩る四つの色彩だ』
「疾風」「巨岩」「流水」「火焔」の矢で【全力魔法】【属性魔法】を以て射抜く。
夢叶わぬ君への手向けさ。




 ぎぎ、ぎちり。
 駆動を貫く剣に異音をあげながら、傷ついた体躯を引き摺ってなお侵入者を睨むトレジャリーガード。口を持たない鉄塊がなにを語ることもないけれど、その姿を目し、猟兵たちも各々に感ずるところがある。
 彩々の胸中にうずまく情は、短くも永く、場に奇妙な沈黙を齎していた。

 喩えばそれは、無常か。憐憫か。共感か。
 その男に限っては、並べたいずれにも当てはまらなかった。懐くはただ、一切の無駄を排した敵意――否、それほどすらも裡を起伏させない、ともすれば研ぎ澄まされた無感情なのかもしれない。
 いずれにせよ、彼の面に滲む情はひどく単純で淡泊だ。……少なくとも、災魔に向くものに限っては。
「どうした。誰も動かぬならば私が片付けてしまうぞ」
 ゆえに。氷水晶を冠る杖をコツンと啼かせ、徐に歩み出たギド・スプートニク(意志無き者の王・f00088)は吐く言葉を嚆矢とする。これもまた氷の如くに冷えきったいろを湛える眸は、彼の台詞に言葉の綾でなく事実そうたらしめんとする意嚮を滲みつつ、容赦は一抹ばかりも滲まずに斃すべき災厄を射貫いた。
 そんな夫とは合わせ鏡、傍にたゆたうシゥレカエレカ・スプートニク(愛の表明・f04551)の眼差しは淋しげだ。艶やかな紫と蒼は、錆びた金を映してほのかに揺れる。
 その身すらを宝箱とされたゴーレム、逍遥書架の造形に窺える突き詰めた実利への志は、創造主がそれに傾けた情の皆無を暗に物語っている。道具は道具。与えられた役割だけをこなせばよくて、そして書架は事実、それを愚直に叶えてきた。なにかが狂った、今日このひまでは。
(あなたはずっと、守り続けてきたのだものね。ひとりぼっち、くらい迷宮の底で)
 そんな真面目なかれにとっては、お生憎なこと、自分たちこそが嫌われ者のぬすびとみたいなものだけれど。でも、叶うなら青空くらい見せてあげたかった。
 やさしい妖精は、きゅうと眸をほそめて唇を噛む。悔しかった。力不足だ。胸を刺すような実感に歯を食いしばり、それでも、この腕でできる限りを諦めたくはない。
 だから。せめて、
「せめて。ソラの夢を見て――」
 ゆるりと振るう精霊の杖。俄かその先端に兆してかがやく光の溜まりに唇を寄せ、ふうと淡い息を吹きかけた。はらはらと風花の如くに舞う光輝の粒子は徐々にその量を増し、凍てる光の風と変じてゴーレムに渦まいた。
 廠のあかりに万華と耀う細氷。ひかりを乗せたダイヤモンドダストは、『エレメンタル・ファンタジア』のひとつの実現。きらめきのみちるに冬空を描かんとする、妖精の慈悲。書架に積もる光雪は互いをつなぎ、その動きを止める枷となる。
 そうしたシゥレカエレカの情に、ギドは思うところこそあれど阻むことはない。むしろそれを妻の美徳だと知っているからこそ、彼女がなにかを為すために手伝いを望むなら喜んで従う意志がある。かく思う彼自身、書架に傾ける情など一切も持ちあわせていなかったとしても。
 鈍化してゆく動きに隙を見出し、ひらめくは誰かの祝福の宿る外套の宵闇。吹雪くを避けて、ギドも書架の間合に迫る。
 けれど。
 ――ぎぎ、ぎぎぎ。降りた霜を割って突き出した片腕が、キュルキュルと耳衝く金属の金切りをあげながら旋転を始める。摩擦による発熱、徐々に溶ける氷。格納して掌、その袖部から覗く無数の銃口に灯る魔力が渦巻くは、書架が『マジックバーレッジ』の乱射を予兆している。
 近接したギドと書架、彼我の距離は零に等しい。まともに全弾受ければ、いかな彼といえど無事では済まない。
「ギド!!」
 書架に情が滲んだか、制御の手元が狂ったか。いずれにせよ凍て星がゴーレムを完全に停めるには至らなかったと知り、思わず金切ったシゥレカエレカの悲鳴。
 一方当のギドはといえば、背を向けた妻には見えないのをいいことに、こんな状況にも関わらず口許を緩んでいる。この場に不要なそれといえ、彼女が自分に懸けてくれる想いは素直にうれしい。
 瞑目。直後、書架が魔弾を放った、その刹那に重ね。
 カッと見開いた双眸。『意志無き者の王』の透る水のいろを塗り盡し、爛、目を眩むほどの金がきらめいた。
「――これにて終いだ、逍遥書架」
 同時、ぎちりと軋んで凍てる世界。
「彼女の慈愛に少しは満ちたか? だが、私はシゥレカエレカとは違う。貴様に差し伸べる手など、無い」
 書架も、それが射出した魔力の無数も、微動すら許されず空間に縫い付けられている。
 そしてギドは抜き払う、『玲瓏』、その真の容。杖に仕込まれた妖刀は、抜刀の残響のみに一帯の魔力を揺さぶり、その波形に中和して宙ぶらりんの魔弾を悉く消滅せしめた。
 見届け。ぎりりと籠めて柄を握る掌から、いまなおこの身の魔力を貪り喰らう氷狼の貪欲に僅か顔を顰めつつ。ひと度はそれを鞘に収めた、元々長く抜くものではない。ゆえに構えて、居合の呼気。
「今を息衝く世界の全てが貴様を拒む。……在るべき塵芥の海へと還れ、残痕」
 徒花。閃く、耀。
 瞬きの刹那に疾った刃は、溶けるようにその切っ先を書架の鋼に埋め。直後いろを取り戻した時間、それは思い出したかのように、胴部からまるく刳り抜かれた鋼が盛大な地響とともに落下してその守る内を露にする。

「自立人形の動力機関――核の在処は、そこか!」
 激昂したように振るわれた腕、それを後方に跳んで避けたギドと入れ替わり、観察眼で以ってゴーレムにうつろう魔力を紐解いていたラスベルト・ロスローリエン(灰の魔法使い・f02822)が叫ぶ。
「なるほど。つまり、そこを崩せば我らの勝利じゃな!」
 言葉を重ねた鴛海・エチカ(ユークリッド・f02721)が魔女帚から降り立って構える、ユフィンの星霊杖の戴く天球儀を星知らぬ書架へと差し向けた。昂然たる彼女のフィエスタの花咲、そこにも幾許かの寂寞が滲む。
(お主とチカは似ていた。チカもな、昔は籠の鳥であったぞ)
 望むことをこそ望まれぬ。それでも叶わぬ希望を抱いてしまうことは、どんなにか苦しかろう。
 すまぬ、――唇からこぼれおちる、詫びの言の葉。
「今、こうして籠から飛び立てた我に、慰めは言えぬ。その代わり、な」
 ここで永い夜へと導いてやろう。この身に能う、全力で以って。
 翻る蒼水晶、齎すは『二律排反』の星照。おどれよ流星、かの災魔にとこしえの夢を――
「!!」
 ひと足が、及ばなかった。
 エチカが星の矢を放つと同時。ギドに防がれたとは違う、トレジャリーガードは残る片腕を星海の魔女へと差し向けた。そして幕する、魔弾の雨あられ。
「にゃ、あ――ッ!」
 咄嗟に杖で往なすも、すべてを躱すには至らない。殺しきれない衝撃の余波に、軽いエチカの躯は容易く宙へと放られる。
 爆ぜたこまかな石礫が肌を打つ。風が弄ぶ羽根のようにふわと投げ出された肢体が地面に叩きつけられようとした間際、寸で起動したチェシュカのそれの浮力を錨し、危うくも二本足で着地した。
「大丈夫かい!」
「っ、大事ない! チカを構うな、お主はお主の為すべきを成すのじゃ!」
 手傷を負ってなお、エチカは気丈に笑ってみせた。彼女が射た、見当違いのほうへと飛んだ星矢は何も喰らわず、而して脚衝いた在処に陣を兆す。洩れいでる星光は、彼女を勇気づける導。
 齢にして五の乗を違える少女の凛に、ラスベルトもまた頷きを返して視線を戻す。見つめる、書架に煌々とまたたくほおずきのようなまなこの兆し。刹那に交わした線に、ラスベルトはグリモア猟兵が謡った一節を想起する。
(――極致に焦がれる君の書架へ、天穹の極みを綴った頁を収められぬが無念でならない)
 ならば、この腕に描けることを描く。それは埋め合わせに足るだろうか。
「逍遥の学徒よ、僕に出来るのはこの程度だ。『万色の箭』の彩々に、世界のいろを教えてあげよう」
 掲げたる『翠緑の追想』、この胸に懐く記憶の裡に、いまなお聳える大樹の俤。忘れ形見の枝切れの端、填めこまれた晶はひかりを宿し、引く尾でもって描きだす円環。【詠う】。示す。其は流転、其は無限、其は万象――円弧は、縁故のおわりを兆すもの。
 矢庭、おだやかな彼の【渾身の】号と同時、四色の嚆矢の数の百が弧を弦として放たれる。宿す性は疾風、巨岩、流水、火焔。世界を織りなす四つの色彩。
「ほう、洒落た趣向じゃな。ならばチカの魔法でもって、四象に星の彩も添えてくれようぞ!」
 目し宣す。ゆれる七曜に招いて、『二律排反』、その二本目。けれど先のそれとは舞台が違う、地に煌々と描かれた六芒の星陣が、それを踏み締めて毅然と在すエチカに力を与えてくれる。
 引き絞り絞った流星の矢。ふくれあがる魔力は、その一手自体をもまた、みるみると肥えさせていき――、
「手向けだ。夢叶わぬ君、クルカ・コルカの逍遥書架よ」
「これを目せよ、我らもしかと眼に刻む。お主の辿りついた涯――ここに、記憶の星のひとつとしようぞ!」
 放つ。嵩高な銀の一矢が、四彩の百矢を纏いて疾る。乱反射の光輝は、虹の一条と容を変じて剥きだしのゴーレムの機構に喰らいついた。甚大な威力の奔流は超重を軽々と持ち上げ、その躯を天井に強かに打ち据える。廠に帳された、ソラの彼方の在処に。
 はらはらと崩れる瓦礫、数拍を置いて轟音を伴う巨躯の落下。ここに至って再三の衝撃は、その機構が懐く動力源、魔石を罅割って破片を散らした。

 体を軋んで腕をつく書架。ふしゅう、排熱孔からもうもうと蒸気を吹く、動きはあきらかに鈍化している。その懐に肉薄するのはサラ・クロック(紛い物の行進・f01057)。二脚の隙間から滑り込んで背後を取る、そのすがらに肌をあぶった書架の焔に顔を顰める。
(熱い)
 なのに。
(冷たい――)
 つめたくて、ひどく寂しい。サラがその鋼に聞いたこえの響きは。
 反転、地を蹴り、抜き払う。疾く翳す手で剣に宿す『トリニティ・エンハンス』の発露。魔書を炙った赤と対極、その刀身に纏うのは蒼く透って水の滴る。このゴーレムの恰好から判ずるに、火よりはこちらのほうが有意だろう。
 狙う、ゆらりと立ち上がろうとする書架の関節部。振りかぶって、切る、斬る、伐り崩す。閃くと同時、切っ先から噴き出る鋭い水流が、その操るを加速すると同時切れ味も増す。
 ぎ。力を喪った片足、楯突く小柄を感知して、書架が腕を薙ぐ。咄嗟上体を屈めて回避、掠めてちりとサラの赫絲の数本を散らした威力に唇を噛み、尚も脚の裏へと追い縋る。振り払うように再度排熱孔から発された高熱の蒸気は、突き出す剣から展じた水のヴェールで防いだ。水が悲鳴、スチームに加えてぶわり、水蒸の煙幕が一帯に立ちこめる。
(……君の心中を眺めることができたなら、きっとこんな景色なのでしょうね)
 長い睫毛をはためいて伏目、煙を隠れ蓑に身を滑らせる。視界を覆う白、五里霧中。往くべき宛てすら朧に、書架はずっと迷っていたのかもしれない。
 だとしたならば、書架をそうあらしめたものは。
「ねえ、」
 閃く。掲げた清水の鋼は、あわい廠のひかりを映して切なくきらめいて。
「君は、何に閉じ込められているの――?」
 閑な問いを籠めて振りおろされる、全力をも籠めた一刺。深々と絡繰を穿った刃は、その駆動に致命的な損傷を齎す。空回りの歯車が異物の剣を擦って、ぎいいと耳障りな悲鳴をあげる。
 直後。退がって、――鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)が響いた声を聞きとめるなり、サラは一切の逡巡すら見せず即座に書架の下を脱する。
「ご苦労様。仕事人と呼ぶに相応しい働きぶりだね」
「……どうも。君も早く役目を果たすことを勧めるわ」
 あわい嘆息。なにか物思うところがあったのだろうか、書架を視界に収めたまま訥々と返したサラに紫紺を瞬いて、章はふわりと苦笑を溢す。
「はい」
 いらえてゆるりと取りだすのは、先に廠で拾った一冊。鴉が穴した無数の図形譜、《衝撞》の名。
 目すさき、脚から火花を散らしてよろめくあれにもまた、衝撞は息衝いていたのだろうか。星海に御座す黒洞に似た、底なしの虚ろが冀う虚ろ。無よりうまれてあふれ出る、つめたい好奇心の塊。
(……ああ、いや)
 考えるまでもないことだった。あの眼を見れば、知れたことだった。
 差し伸べる編。はらはらと無風に頁が踊る。どれを見たっていくら見たって不可思議な情緒の筆致は、しかし章がしらべるにまったく似合いな非常識の体現。
 奇怪と難解を重ねた独創に僕なりの解法を与えよう。僕の未だ識らぬ感情をひとつ、教えて。
「空に焦がれるきみの命を、素敵な標本にしよう」
 ……おいで、僕と世界を見に行こう。
「“例えばきみのいない明日”。譬うまでもなく僕らが齎す、きみのいない明日」
 夜明けの空の美しさぐらいなら、いくらでも話してあげるから――。
 情と動。ちぐはぐの齟齬に生ずる無為な混沌は、あるいは章なりの、不器用な衝撞のあらわれだったのだろうか。
 刹那。譜面から射出された大針の数本が、足元不覚にゆらめく書架をめがけて飛ぶ。腕を、胴を、脚を貫いた針はその身を壁まで弾き飛ばし、深々と廠に縫いつけた。身動きを取れない書架の泣きっ面に蜂、否、襲い掛かるは無数の鴉。
 嘴で弾く滅茶苦茶な鉄の独奏、煩い鴉の大合唱。がんがんがあがあがんがんがあがあ、廠を塗り潰すような騒音は、ここに書架の一切の動作を許さない。

 なお飛翔する鴉に交って、もうひとつ、いやふたつ、獣にしてはおおきな黒が飛びだした。翼に代わり、艶やかな金刺繍がはしる戦装束の裾をはためいて駆けるキョウ・ヴァゼラード(ヴァゼラード伯・f06789)、そして従者の盾乙女、アイギス。
「アイギスは私の前へ! このまま距離を詰める!」
 彼女より受けて鞘から払う、銘をグランネージュとする聖剣。『聖剣解放』に伴って迸る光と舞う風は、ふたりの背中を加速する。
「イエス、マイロード!」
 進み出た盾持ちの背中越しに目する、鉄の威容。
(あれがゴーレム……もし仮に、イトセの言うように空に焦がれ歩みを進めるのだとしても)
 我らは背に負う民の為に戦うのみ。感傷に鈍らせた刃で、誅すべきを違えてはならない。
 間近に迫るゴーレムの巨躯。迎撃に書架が放たんとする剛拳は、しかし章の串刺した大杭のために叶わない。ゆえにここに護るための盾は不要だと、そう判じたアイギスは、振り向いて主に叫ぶ。
「閣下!」
 かよわせた視線に彼女の意図を察し、キョウは頷く。
「任せる!」
「はっ! ……――ぁあああっ!!」
 いらえて直後、大呼とともに遥か上空に向けて己の片盾を投じたアイギスは、その咄嗟に身を反転する。主を向きながら遠ざかる側へ滑ろうとする体、それを土埃を巻きあげながら踏ん張った両の脚で急停止、屈んで残された盾を地面へと突き刺した。
 射角に構えた大盾は、主を高みへと導く滑走路。それに脚し、踏切板の代わりに跳躍したキョウは、二足目をまたアイギスが投じた盾に掛け、猶々の頂に昇り詰める。
 至る、書架の直上。急下、その重を刃に載せて。
「――悠久を経たお前の想い、悠久を重ねたヴァゼラードの歴史で応えよう!」
 落下任せの袈裟斬り、飛燕する【二閃】。ふたりの絆と悠久の重み、研ぎ澄まされた剣の圧は、ゴーレムの両の腕を胴体から切り離す。そして尚キョウは止まらない、ここに齎すべき幕引きが、彼の役目なれば。
 目せよ、古き血統ヴァゼラードの剣術。それを振るう、お前を終焉せしめる者の姿を。
「この一刀が――お前への手向けだッ!!」
 十年一剣、百年一剣。かの家の歴史になぞらえば、幾星霜のひと太刀が“ひと”を断つ。
 きいぃんと残響する玲瓏。余韻の幾許、聖剣を空に払い、ゆるりと収めた鞘と柄とが奏でた、かすかな金鳴り。
 ――チン。
 同時。……ゴーレムの核が、千々に砕けた。



 戦場が沈黙する。
 胴部は拉げ、駆動は割れ、脚は砕かれ、腕は捥がれ、その身を貫いて杭の無数。廠の壁にやや傾いて凭れかかり、ふつ、ふつり、力なく明滅するまなこの灯は、逍遥書架がもはや誰に手を下されずとも自ずと迎えよう、その終焉のほどちかさを物語っている。
 ひと太刀振るえば迅く果てる。そうと知れてなお得物を収め、猟兵たちは誰からと知れず、終わろうとする鉄に歩みを寄せた。
 書架は見ていた。
 天井を。その先を。
 涯の涯て、終にその終わりに、やっと見果てたソラの在処を。
 その。錆にまみれた、鋼の貌に。
 
 こぼれる。
 青をうつした赤の眸。蒼をうつした淦の、一縷。

 最期。
 書架は、ゆれるまなこに、猟兵たちを映して。
 かすかに身じろぎ、――ふつ、と。

 そして、灯は消えた。



 ……

 災禍は過ぎた。幕引きは呆気ない。
 ひとり、またひとりと、猟兵たちは帰路を往く。
 各々がいだいた、宝物とともに。


 章はメトロノームを拾う。書架の傍らに打ち棄てられた、埃かぶった螺子まきの指揮。
 ――そう、メトロノーム。見回しても、ほかに楽器らしい楽器の姿はない。
「できれば、演奏できる代物が良かったんだけど。これも諦めて真面目に練習しなさいっていう神様の思し召しか」
 嘆息。そのへんのパイプを拾って穴を刳り抜けば笛代わりになるだろうかと、未練たらしく巡らせていた視線はやがて手中のそれへと戻す。
 形容するならがらくた、取り繕えばアンティークと呼べるだろうか。片手に納まる大のそれは木の部分は塵に汚れ、金具は錆び、極めつけには肝心の針がひしゃげている。針は行方知れずの錘に代わり、書架を駆動していた魔石の欠片を貫いてぴたりと納まりよく、そのほのかな輝きとともに章を見つめ返していた。
 かあ。
 どこぞへと飛んでいた鴉の一羽が、章の頭にぽすっと着地。重にかくんと首を傾いで目に留まる、先に拾った図面譜の一冊。腕の曲がった千鳥足の指揮者と、枠に外れたこの譜とは、ひょっとするとある意味とりあわせがいいのかもしれない。
「……一緒に行くかい。それくらいこぢんまりとしてくれれば、僕の腕にも運べる」
 たぶん僕らは似てたんだ。お互いきっと、いい道連れになるだろう。
 章の問いかけに、その指が触れたわけでもなく、おのずと針がゆるりと振れる。魔石の魔力のいたずらか、鴉の羽搏きが風したか、それとも。
 ちっこり、ちこり、拍子狂いがうたう。それの響くはひどく慢で、けれどどこか、逸るようだ。
                         【💎  】

 エチカはなにも拾わない。彼女にとっての宝物は、いま、彼女が携えている魔書の一冊だ。
 それの戴くアストロラーベのリートをくるくると爪で弄びながら、彼女は廠を見渡した。そこに魔書の痕跡はなく、すこしまえまでは逍遥書架と呼ばれていた鉄のかたまりも、夜の星の巡りゆくに伴ってゆっくりと朽ちてゆくのだろう。
 この場所、この瞬間、ここに一切の脅威は去った。そうと見とめれば、エチカは爪さきから指のさきまで、く、とおおきく伸びをする。空を飛べば消耗もひとしきり、洩れたあくびを噛み殺しながら傍らのチェシュカの箒星を指で小突けば、股ほどの高さにふよりと滞空した。
「さあて、災魔は屠って、目的のものも手に入った。ピャピャっと帰るとするかのう」
 ふりふりスカートの越しに腰を落ち着けて。いざ、
「しゅっぱ――ふゃあぁっ!?」
 揚々と拳を振り上げると同時、元気よく推進――することはなく、ふつっと力が切れたように落下する魔女の箒。掲げた拳のそのままに、伴って落下する魔女のお尻。
 べちーん!
「……あ、いったたた。これ、またかこのポンコツー!」
 打ちつけた腰を擦りさすり、しょっぱい顔でぺちぺちと相棒をはたくエチカ。
 仕事はきっちりやり遂げたとばかり。気まぐれな機械仕掛けの箒星は、うんともすんともぷすんとも言わない。
                         【💎  】

 サラは赤い宝石を拾う。書架が崩れた刹那に飛び出した、きらめくもの。
 戦闘のさなか、喩うなら幼な児が心細く服の裾をくいと引くように、滑ってこつりとこの靴を小突いたそれ。落ち着いたいま、地面を探して拾いあげれば、艶やかできれいな涙型の晶だ。
「……何だろう、これ」
 ゴーレムの動力源かと目せど、どうにも違うよう。翳してみれば、血のような赤は鮮やかに深く、そのむこう側を見通せない。
 そしてその石が擁く不可思議は、容はどう見ても無機物なのに、握ればじんわりとあたたかいこと。ほむらの内からまろび出でたとはいえ、それからしばらく時間が過ぎている。となればこの熱は書架が懐いていた炎の余韻のためではないと、指さきから幽かに伝わる鼓動のような震えから――なによりは、そこからこぼれるマナのきらめきからも知れた。
(思わず拾っちゃったけれど。なんだか、これの内側に眠るなにかから、呼ばれたような感じがして)
 それだけでない。彼女の魔法騎士としての素養が、そこに息衝くなにかしらの縁を訴えている。
 先に拾った魔法陣と併せて、学園で腰を落ちつけて調べる必要がありそうだ。そう結論してくだんの頁とおなじところに仕舞おうと運んだ刹那、ぱちり、ふれた陣と宝石とが赤い火花をまたたいた。
                         【💎💎 】

 ギドとシゥレカエレカはなにも拾わない。それぞれの品は、既にそれぞれの懐に納まっている。
「終わりは終わり。それ以上でも、それ以下でもない。どんな美辞麗句で飾ろうとも、それが持つ意味は何も変わりはしない」
 ハッピーエンドには程遠かろうな。淡々と呟いたギドにシゥレカエレカは目を伏せて、けれど冷えきった鋼の頬を、偲ぶようにそうと撫でる。
 そうね。けれど、きっと。
「夢の終わりを。……この子は望んでいたんだわ、ギド」
 ――おやすみなさい。
 最後に囁きを残してふよふよと宙を泳いだシゥレカエレカが肩に納まるのを見届けると、ギドは沈黙する廠の番人をひと睨み、踵を返してさっさと歩み去る。
「なあに、ギド。ひょっとして……拗ねてるの?」
「知らん」
 言葉少なに告げてしかし、かつかつとやや逸った歩の進むは彼の心中を雄弁に教えている。
(過去の残滓、亡霊如きが。シゥレカエレカの情を浴するなど)
 事実、フェアリーの指摘は的中だったよう。
(尤も。その資格で言うならば、私とて同じ――、か)
 それでも。
 ゆれてさまよう情念の枝が、葛の藤の如くに絡まって混濁する。たとえ己が彼女には不釣り合いだとしても、その身には過ぎた冀望だとしても、愛しい女の感情のうつろうさきは自分だけであってほしい。
 そう思うことは女々しいか。そう願ってしまうことは、強欲だろうか。
(ふふ。……このひとは)
 ふたりきりの時にだけ彼が覗かせる、ちょっぴり気弱に伏せられた眸に感情のぐるりぐるりと渦巻くようすを見とめて、シゥレカエレカはてのひらを胸に寄せてほほ笑んだ。
 連れ添ってもう、いくつめの冬を数えたっけ。時にはお互いおへそを曲げて、時にはお互いおもちを焼いて。でも、そんなでことぼこの道だったからこそ、こうしてお互いがぴったりはまってはまりこんで、もう二度と離れることすら叶わないほどの情を通わせるに至ったのだろう。
 だから。以心伝心なんては言わずとも、相手が思うことがわかるときは、わかる。奥さんって、そういうもの。
「えい」
 よくよく見れば若干尖っている気がする唇。そんな夫の頬を、シゥレカエレカはぷにとつついた。
「……なんだ、シゥレカエレカ」
「なんでもないでーす」
 くすくすと鳴らしながらそっぽを向いて、ぽてん。ちいさな妻は、おおきな夫の頬に体重を預けた。冷めた死生観を諳んじてみせた彼は、わたしたちのそれにしても、果たしておなじ台詞を紡ぐのだろうか。シゥレカエレカは思う。
 ――いつか、死がふたりを別つまで。並んで眺めるソラの青さを、そのいろを華やぐ魔法に、もうちょっとだけ溺れていたい。
                         【💎💎💎💎  】

 キョウは白い大盾を拾う。決戦のまえ、瓦礫に立て掛けておいた、守護の白盾。
「そういえば、閣下。結局のところ、その盾はどうされるおつもりなのですか」
 お持ちしますと進み出たアイギスに、そちらはもう手が一杯だろうとキョウは首を振り、その広い肩に背負った。恐縮に目を伏せる黒糸。しかし主の聖剣をしかりと預かっていることもまた、立派な務めのひとつだ。
 問いには、どう返したものかと少々思案するキョウ。
「ふむ。ところでアイギス、この逸品、どう見る」
「は、ええと。そう、ですね」
 問われて、アイギスは盾に顔を寄せる。埃を拭われ、薄く水を張ったように光沢する盾の鏡面は、ひかえめで灑落な装飾とあいまって上品な風格を纏っている。
 武人気質な彼女にはその洗練された容が好ましく――、そしてまじりけのない白の無垢に、盾の鏡面に映った瞳にほんの僅か、少女のような羨望を滲ませた。
「……素晴らしい、と。閣下には、よくお似合いになると思います」
「だから、私が使うつもりはないと言っただろう」
 どこまでも実直な部下の言に、キョウは思わず苦笑した。盾を担ぎ直して、視線を前に向く。
「なに。いまに分かるさ」
                         【💎💎 】

 ラスベルトはなにも拾わない。彼が手にしたのは三冊、その端切れ。
 ゆるりと歩を進めながら懐を探り。取りだしたのはそれら魔書の頁に代わり、『浮酔草』。愛煙家の無聊を慰める、彼のとっておきだ。
 乾燥した薫香の草葉をパイプに詰め、指さきにちいさく灯した『神秘の焔』に燃す。ほそくくゆる煙を眺めて深々、舌に転がる香はあまく、そして。
「……ほろ苦いな、少しだけ」
 一服、ほうと息を吐いて余韻。嘆息に伴う白煙がじんわり宙に融けてゆく。
 振りむけば、鉄の亡骸はもうずいぶんと遠い。彼の小柄もあいまって、間近で目せば見あげるほどだった体躯は、ここからだとオート麦のひと粒ほどにちっぽけだ。
 かの書架は果たして、ほんとうにものを想っていたのだろうか。数多の書を紐解いた彼とて、鋼鉄の裡までは見通せない。けれど最後、あのほおずきから伝ったものは、生身の我々になぞらえれば涙のようにも読み解けた。
(で、あるならば。その徒然の結びはきっと、不満足なものでもなかったんだろうな)
 瞑目。あるいは黙祷。
 そして彼は傍らのがらくたに歩み寄る。いつかどこかの書に聞いた、とある国の風俗では、死者は香を焚いて弔うらしい。ゆえに、これを実在も知れぬ魂への手向けとしよう。
 最後に味わってもう一服、唇を離れたパイプを手に、錆鉄の平坦にこつんと叩いた。落ちてこんもりとちいさな山を成したパイプ草は、もうしばらくは煙をあげて燃えるだろう。

 ――眠る書架に捧ぐ、ちいさな墓標。
                         【💎💎 】


 そして、彼は廠を去り。残る仲間たちも、やがて去り。
 ふたたびの沈黙が満ちみちる、魔廠宮クルカ・コルカ。
 刻む名も知らぬ、灰のエピタフに立つひとすじの煙は、
 天井のむこう、高いたかいソラをめざして昇ってゆく。

 書架は。
 書架はなにも拾わない。
 書架は、二度と動かない。


 書架は。
 青いソラを見た。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『猟兵達の戦闘訓練』

POW   :    肉体を鍛える訓練をする。

SPD   :    速さや技量を鍛える訓練をする。

WIZ   :    魔力や知識を高める訓練をする。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●栞する日に
 激闘の末。
 魔法学園の凱旋を果たした猟兵たちは、グリモア猟兵が示した区画へと足を運ぶ。

 辿りついた修練場はなかなかに立派だ。練習台の案山子や射撃用の的に始まり、魔法仕掛けに蒸気仕掛け、多種多様な訓練設備が配されている。もちろん、手合わせ用の広場もばっちり完備されているよう。
 隅には机と椅子を備えた休憩スペースがあり、並んで居を構える工房の煙突からはゆるゆると長閑な煙が立ちのぼっている。目せば、その入口で技師と思しき男性が笑顔で手を振った。ちょっとした素材の譲渡や道具の貸与、加工の依頼程度なら、なんといっても転校生たるあなたたちのため、快く応えてくれることだろう。

 ――ここに紡がれるは、ひとつの物語の幕引き。そして、これからの物語の幕開け。
 そのてのひら、握りしめたおもさと共に。このひととき、あなたはどう過ごしただろう?
ラスベルト・ロスローリエン
知識の墓標より叡智の学び舎に戻ってきたか。
この手にあるは絡め取った知の断片……さて。

◇WIZ 自由描写歓迎◇
当初の予定通り書を綴るかな。
魔導書に適した霊紙もこの工房なら揃えているだろうしお裾分けして貰おう。
休憩所の一角で取得した《シルフの質量》の頁を紐解く。
自由奔放な風が舞うなら“エゼルオール”をタクトのように振るい風の流れを指揮する。
僕の知る精霊の世界の知識も織り込み空中で淡く光るエルフ文字へと転じ紙面に落とし込む。

後は工房で装丁を飾り立てれば出来あがり。
題名は“蒼穹に至る風”とでもしようか。

嗚呼、忘れていた……頁の最初に直筆で書き足す。
『地にありて大空に思い馳せし全ての者に本書を捧ぐ――』



 無言の煙をくゆらせて、なんとはなしに銜えたままでいた空のパイプのさきが微かに揺れた。きらびやかな魔法学園の広漠を、ラスベルト・ロスローリエン(灰の魔法使い・f02822)は佇んだままにただただ眺めている。
 この日の旅路、ここまで自分が足跡したのは死んだ知の在処、そしてここから足跡するのは生きる智の在処。ひとつ歩みにふたつの時を跨ぎこえたような感覚が、いまを息衝く世界のいろのあまりの絢爛が、俄かに寒風を面に吹き付けられたかの如く、この数歩をすこしだけ鈍らせた。見あげる、広々とした空は、こんなにも青い。
(知識の墓標より、叡智の学び舎に……か)
 ふたたび視線を地上におとせば、森都とは似ても似つかぬ景色に思い出す。ほそめた眸に馳せる、あの日。運命の日。
 歴史として語るにはあまりに日が浅い。天を覆った枝葉を、いのちを薫った風を、馴染み深きあの通りを、縁した幾多の面影を。この胸にそれらは未だ鮮やかだけれど、日々が過去へと追いやられるに伴って、いずれは古書の頁の如く褪せていってしまうのだろうか。
 叶うなら。せめてこの身が続く限りは、ひとつ知として魂に綴ったあの日々を、かの廠に眠ったそれらのように死なせたくはないものだ。
 そよいだ風にゆれる『濃灰の帷』。つつむ者がいつまでも陽のようにかがやき続けるようにと、おのれを鈍い曇天のいろに染めた外套。その裡に腕を差し入れて、取りだしたのは魔書の断章。絡め取った知の断片を手に、ラスベルトは修練場の一画、工房へと足を向ける。
 腐り朽ちるを待つばかりだった知識たちがこの勉強家に拾われ、現在へと掬いあげられたことは、きっとかれらにとって途轍もない幸運だったのだろう。ましてやそこに、あらたないのちを吹き込もうとラスベルトは考えていたのだから。

 工房から譲り受けた霊紙の束を手に、ラスベルトは休憩所の一角に落ち着いた。魔導蒸気技術の先端たる学園の一級品だ、魔導書の頁とするに不足はないだろう。それを机の央に据え、手前にならべて魔廠宮で得た数枚、《シルフの質量》の頁を配する。
「さて。――ひとつ、語りあかそうじゃないか」
 そうして翳したワンドは、銘を『エゼルオール』。トネリコに宿る四彩の恩寵に誘われたかのように、微かにふるえた頁からふわり風が巻きたつ。次いで、ラスベルトはそれをタクトのように振るう。奏でる。すると無邪気に気ままに舞う風は、彼の指揮の元に一定の秩序を得た。エルフの夢に導かれ、円環を成してぐるぐるり、行列してひらひらと宙を踊る霊紙たち。
 ふと耳を過ったそよ風は笑い声に似て。くすくすと鳴るちいさな息吹を先端に戴く緑柱石に渦し、ラスベルトはもう一度エゼルオールを繰る。描きだすのは彼の識る智慧、精霊の世界のすがた。淡くひかるエルフ文字として虚空に形した筆致は、ふうと杖を離れたシルフの質量に導かれて霊紙に吸い込まれてゆく。
 ぱたたた。そうして机のうえに行儀よく、積まれて層成した無数の紙。シルフの風とエルダールの叡智によって編まれた篇は、ここに一重の物語を紡ぎ出した。
 ――名づける題は、『蒼穹に至る風』。
 遥かたかきへと吹き抜ける、目には見えないうつくしきもの。

 工房で拵えた装丁は緑を基調とした。かの書架へとラスベルトが放った箭の一色に同じ、それは風のかたちを示し、同時に郷にあふれた草葉にも似る。そして冠した題に冠して、上辺にひとつあしらった真蒼の晶。そのまたたきに教える、ソラのありか。
「……嗚呼、忘れていた」
 この手がこの世に初めて生みおとした一冊。自著を感慨深く眺めていたラスベルトは、はたと思い当たって筆をとった。ページの最初、物語のはじまりに、さらさらと書き加えた一節。

 風にじんわり乾きながら、紙にじんわり沁みてゆく想いの葉。
 書はうたう。千夜万夜の未来に在りて、いつかこれを手にする者たちへ。

 “ 地にありて大空に思い馳せし全ての者に本書を捧ぐ―― ”

成功 🔵​🔵​🔴​

鵜飼・章
あの啓発本勿体なかったな…
さて、鴉達が鳴くから帰ろう
…何、どうしたの

……
分かった練習するから

譜をひろげ傍らにメトロノームを
ここで笛の練習をしている落第生も僕ぐらいだろうな…
小学生の頃リコーダーが吹けなくて
居残りさせられた事を思いだす

調子の悪いメトロノームは
僕の笛とは気が合うみたいだ
苦笑が滲む
汚れは丁寧に落とすけど修理は…
このままでいいか

特訓の成果は白鳶さんに聴いてもらえたら
きみはゴーレムの心を信じる?
電子の精が導く答えに興味がある

僕にとって感情は理論と空想で生むものだ
この針の先の錘はかれの心の欠片
ヒトはそう感じると思うんだ
良い旅の伴を有難う
なけなしの心をこめて

少しは上手くなった?
…努力します



「あの本、勿体なかったな……」
 蒸気文明の空をしみじみと見あげつつ、あのやたら長ったらしい題の啓発本を偲ぶ鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)。ゆるり宙を泳ぐゴンドラのむこうに、ぼんやりとサムライサイボーグのキメ顔が浮かんだ。
(……、さて。思ったより長居してしまった事だし)
 鴉達が鳴くから帰ろう――そう、ゆると自身のグリモアを浮かんだてのひら。
 に、滑りこむように着地する鴉の一羽。掻き消えるグリモア。沈黙、見つめあう、大小の黒。
「……何、どうしたの」
 平坦に問いかける鵜を、手中よりじぃぃっと見あげる鴉。かあの一声も発さずに、つぶらな瞳はちょっぴり切実になにかを訴えているような。
「……」
 …………。
「…………」
 ……………………。
 獣に屈するビーストマスター。

 休憩所の机のひとつに置かれたのは、虫食いの図形譜。偏屈のメトロノーム。それに、布巾と薬液がいくらか。章の手でていねいに磨かれた鉄木の指揮者は、そこはかとなく年季を帯びた風格をただようまでに至っていた。――その腕のはこびは威厳もへったくれもなく、相変わらずとっちらかったままだけれど。
 針と錘の気まぐれに振れるを眺め、抽象画じみた譜面を眺め、章は銜えたオカリナに黙々と指を繰る。吹く。思う。もとい、確信。
(ここで笛の練習をしている落第生も僕ぐらいだろうな……)
 譜面から目をあげれば映る、魔法学園の校舎。四階の窓のむこうに、なにかがきらりと輝いた。目を凝らせば、陽をちかちかと反射する喇叭。部活動か、それを精いっぱいに吹いているのだろう、まっかな顔した男の子。
 目をほそめ、思い出すのは小学生のあの日々。リコーダーがうまく吹けなくて、居残りに過ごした放課後の時間。赤い空に鴉が鳴くまでやっていた。
 あの頃に比べたら、ちょっとはヒトらしくなれただろうか。それとも、遠ざかってしまったろうか。
 はたと我に返れば、耽思ながらにも音色は途切れずいたらしい。どうやら気儘な指揮者と僕の笛とは気が合うようだ、オカリナから離れた章の口許に苦笑が滲む。
「――あら。演奏会はもうオシマイ?」
 突然降った声。傍を目せば、いつからそこにいたのだろう、隣の机に腰を預けたグリモアの猟兵がひとり。
「きみか。聞かれてたと思うとちょっと恥ずかしいな……、今日は良い旅の伴を有難う」
 獣奏器を握った腕を下げ。そうほほ笑んだ章には僅かなり、ほんものの感情が滲んでいたろうか。それにイトセは目を瞬いて、ちょっぴり照れくさそうに頷いた。
「こちらこそ。旅が良いモノになったなら、それはアナタ自身のおこないのお陰だよ」
 そう返してこなたへと歩み寄った影に、ふと、降ってわいた興味が首をもたげる。
「ねえ、白鳶さん。会議の時、きみは災魔の心中を謡ってみせたけど、きみ自身は本当にゴーレムの心を信じてる?」
 突然の問いにきょとんとした相手に、章は言葉を続く。
「僕にとって感情とは、状況と因果に構築される理論に、空想を働かせて生むもの。その理屈に従えば、このメトロノームの錘はかれの心の欠片だと――ヒトは、そう感じると思うんだ」
 であれば。ヒトとはルーツを異にするもの、電子の精の解は、いったいどんなものだろうか。
「うーん、そだな。……理屈っぽいあたしを参考にすると」
 章のとなりに腰を降ろして、イトセはむつかしい顔をする。
「理論たす空想は、感情。章サンの言葉を借りればね、この式は、章サン自身が証明。で、とっかえて空想たす理論、これに示されるものはなにか」
 とん。イトセは二本指で己の胸を叩いた。
「それは、あたし。正しくはあたしをあらしめる物語……つまるトコ、心かな。物語ってさ、こちゃこちゃした空想に理論の枠を与えたモノでしょ?」
 ああ、と章は合点する。
「なるほどね。それでそっちは白鳶さんが証明だ、と」
「そゆコト。そいでだ、電子データのあたしにも、どこかヒトばなれしたアナタにも、理論と空想は息づいてる。なら、ゴーレムはどうなのかってなれば」
 こういうの、悪魔の証明っていうんだっけ。イトセは笑う。
「ふたりで心と情とを導く、この式の二項がもしもかれにもあったなら。からっぽの本棚にもなにかしら、抱いてたモノはあったんじゃないかな……とはいえ、さ」
 区切り。イトセは、人間がへたっぴな青年の顔を覗きこんだ。
「結局いちばん大事なコトって、“ヒトが”どう思うかじゃなくて、章サン自身がどう感じたかだと思うよ」
 そうヒトを語るヒトでなし。彼女の言に、章はふうと目を伏せる。
(僕自身、か)
 頭に巡ってうつろう思惟は、すぐにはまとまりそうにない。だから返す言葉を紡ぐ代わりに、章は笛に唇を寄せて――。

「少しは上手くなった?」
「もうひといき」
「……努力します」

成功 🔵​🔵​🔴​

キョウ・ヴァゼラード
「ふむ異常は無し…実用にも耐え得るな…」
『盾のアイギス』を訓練場に待たせ、工房で技師と共に手に入れた大盾を検品し状態を確認し、訓練場へ戻る
「イトセ、悪いが一緒に来てくれ。見届けて欲しいのだ、我らの…儀式を」

「ヴァゼラード伯キョウの名において、聖霊騎士アイギスの献身と功績を称えこの盾を贈る。
…これまでよく仕えてくれた。
今後も頼りにしているぞ、アイギス」
『有り難き幸せにございます、閣下』
訓練場でイトセに見届けて貰いながらアイギスに白き大盾を渡す。
大仰で申し訳ないが、我々のような人種にはこういう儀式が必要なのだ。

「久しぶりに受けて貰おうか、我が剣を」
その後は大盾を慣らす為、模擬戦に明け暮れよう。



 賑やかな絡繰の絶え間ない響。工房にあったのは、キョウ・ヴァゼラード(ヴァゼラード伯・f06789)の姿だ。しかし今までとひとつようすが違うことには、魔書の無数を相手取った時も、逍遥書架に止めを下した時も、常に傍に控えていた彼女の姿に代わり、伴っていたのが技師の男であることか。
「……へぇ、こいつは驚いたな。お兄さん、結構な逸品を拾ってきたもんだ」
 得体の知れない装置をごちゃごちゃと載せた拡大鏡を片手に、クルカ・コルカでの拾いもの――白色の大盾を鑑別していた技師が感嘆の声を漏らす。立ち上がった彼に、その様子を眺めていたキョウは問うた。
「どうかされたか。私の見立てでは、別段異常は無いように思われたが」
「その通り、ああいや、違うな。この盾には一切の異常がない、その事自体が異常なのさ」
 腕を組んで盾を見おろす男。低く唸った彼の瞳には、一介の工匠としての興奮と、隠しきれない憧憬が滲んでいる。
「材質、様式、そして掛けられた魔法の幾何から判ずるだに、こいつが打たれたのは相当の昔だぞ。加えてお兄さんの話じゃあ、碌に手入れをされるどころかただただ瓦礫に埋もれてうち棄てられてたって言う。そんな歳月と環境を経てなお、こいつの表面には疵ひとつ見当たらねえんだ」
 ひとえに魔法の緻密さと技巧の賜物だろうな。そう品評を締めくくった技師に、キョウはなるほどと呟いた。
「となれば、実用には充分耐え得りそうだ」
「応よ。並大抵の攻撃じゃびくともしねえ、なんならそこいらの店で工面した代物じゃあ物足りなくなること請け合いだろうな。大事に使ってやんなよ、……つっても、お兄さんは大事にされる側かも知れんがね」
 にかっと笑って工房の外を顎で示す、修練場の外に待つひとりのことを言っているらしい。
 返してふっと笑うキョウ。几帳面に礼を述べると共に持ち上げた盾を片手に、そんな検品風景を眺めていた人影に声を投じる。
「イトセ、悪いが一緒に来てくれ」
 しげしげと見入っていた白色は、不意にかけられた声に目をまるく。
「あっ、ええと。もちろん構わないケド、どうしたの?」
「そう構えなくていい、大した事ではないさ。大した事ではないが、大切な事でな」
 提げた盾を僅かに持ち上げてみせ、キョウは静かにほほ笑んだ。
「見届けて欲しいのだ。我らの……儀式を」

 修練場の空に陽は高く、その一面は青々と清々しく晴れ渡っている。そよいだ風に幕されたか、あるいは荘厳な気配のあらわれだろうか、その一角は周囲の喧騒から切り離されたように閑かで、満ちる空気は心地よく張りつめている。
 誓いを証すにはうってつけの日和だと、グリモア猟兵はもの思う。そんな彼女が見守るさき、向き合うふたりの黒い髪が過るやわらかな風に踊った。ひとりは佇み、ひとりは膝をついて頭を垂れている。
 誰の目にも明らかに、それは儀式だった。刃のつめたさにこそあたたかな生の在処を見出す者――騎士たちの、粛然たる儀式だ。
「――我らの生涯を映す数多の鋼たちよ、ここに騎士の契りを見届け給え」
 微動だにせず、ただ己へと深くふかく礼する女性。『盾のアイギス』を見つめ、長く沈黙を保っていたキョウがやおら言葉を詠う。その響きは戦闘のさなかに在る彼のように厳格で、しかし言葉の裡にほんのり、おだやかな情を滲んでもいた。
「ヴァゼラード伯キョウの名において、聖霊騎士アイギスの献身と功績を称えこの盾を贈る」
 掲げる、いと白き大盾。雲のように汚れない色彩に染まる一重は、降りそそぐ陽光を一面に浴びて、艶めいた肌理をまばゆく耀いた。
 そして、ふっと肩の力を抜いたキョウ。ここまではヴァゼラードとしての言葉、替わりここからは、キョウとしての言葉だ。盾を差し出しながら、彼は目許を緩めて言う。
「……これまでよく仕えてくれた。今後も頼りにしているぞ、アイギス」
「有り難き幸せにございます、――」
 返す言葉は依然厳かに。けれど語りに僅か喉を詰まらせたのは、アイギスの忠義の顕れだろう。下げた頭に表情を隠したままに、アイギスはなにかを堪えるように絞り出す。
「この身、果てるその日まで。聖霊騎士アイギスは、閣下の盾たり続けることを誓います」
 ふるえる指さき。そっと差し伸べた、ほそい腕。
 ――白鉄をきずなに、ふたりの手が繋がった。

「大仰で済まなかったな。だが、我々のような人種にはこういう儀式が必要なのだ」
 祭礼の装は隅に纏め、身軽になってキョウは苦笑する。手に携えたのは抜き身の聖剣、グランネージュだ。
「ううん。率直な感想だケド、すごく素敵なモノを見せてもらったよ。むしろ、あたしがお礼を言いたい気分」
 まるで物語のワンシーンみたいだった。そう言って笑う、物語の集積。
「そしてアナタたちふたりは、これからもっともっと、素敵な物語を紡いでくんだろなって……そう思った。――さ、あたしの出番はここまでだ。お待ちかねだよ、いってらっしゃい!」
「ああ」
 イトセの見送るを背に、広場へと歩を進むキョウ。見つめるさきには、白き盾を構えて佇むアイギスの姿。
 対峙して、キョウは聖剣を構える。これから繰り広げるは、彼女が得たあらたな腕を慣らすための模擬戦だ。
「――さて。久しぶりに受けて貰おうか、我が剣を!」
「お相手仕ります、閣下!」
 笑いあえば、双方同時に地を蹴って。
 修練場の澄み渡る空。その青が赤に染まるまで、軽快な鉄の音は長らく響いていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

サラ・クロック
方針【WIZ】

凱旋後
素材に関してを学園の書庫で調べ
そこで魔書の一部については、火の精霊「サラマンダー」の召喚に使用する魔法陣だということを知る。
懐に入れる際に魔法陣に触れ反応していた宝石に思う所があり、修練場の空いたスペースで召喚術を試る。

読んだ本の内容を思い出しながら欠けた魔法陣を自らの手で書き足し、魔法陣の中心に宝石を置き、自身の火の魔力を注いで。
詠唱後、生まれたのは小さな小さな火のドラゴン「サラマンダー」

常より小ぶりなその身が踊る様に舞う姿を見て宿ったこの“あたたかいもの”は何なのか。
君と共に過ごしていればいつかわかる時が来るのかな…?

◆宝石は指輪へ加工


※心情、台詞等のアドリブ加筆歓迎



 ちく、たく。ちく、たく。
 壁に掛けられた老時計のこえに耳を傾くことはできるけれど、その囁きと永い時を共にした古書たちを香ることはできるけれど。その“時計”、つめたい歯車に稼働するサラ・クロック(紛い物の行進・f01057)が、そこに情趣を見出すことはないのだろう。なぜならそれらは彼女にとって、うわべだけヒトを繕った計器によって示される、ただの記号の羅列でしかないのだから。彼女を衝き動かすものはあたたかく鼓動する心臓ではなく、無抑揚な理論にかたち創られた魔導炉だったのだから。
 修練場に向かうに先立ち、彼女には立ち寄り先があった。窓からの陽にただよう埃のきらめくはマナに似て、けれど彼女の眸に映るほんもののそれは幽かな――ここは、学園に無数とある書庫のひとつ。階を幾つかに跨ぐ広大な書の棲処にヒトの気配は疎らで、サラが足を運んだ区画には自働式の返却台のほかに動く影はない。横目に捉えた、すれ違った働き者の魔導機械は、空けた台に嵌まるプレートに一画を『魔術書・召喚魔法』の在処と教えていた。
(この辺り、かな)
 足を止めて見回す書架のいくつか。それらが歩むことはない、そんなあたりまえの事実に僅か目をほそめ、片手に取りだしたのは魔書との戦いで手にした魔法陣の一頁。彼女の有する魔術の知識は、かの陣を目してなにかを招くものだと告げる。そのなにかがなにか、判らない。となれば、自己に完結しない不明は外部に解法を求めるのが合理だ。
(さて……本の頁に収まる程度の規模。陣自体の情報量もそう多くない、となれば喚ばれるものは小型、小規模な存在)
 淡々、論を構築しながらに書棚を巡っていた足は、やがて一所で止まった。見あげる、書棚に吊られた看板は其処を精霊の智慧の在処と謳う。
(魔法陣に反応した宝石、恐らくはこれを触媒とする魔法か。触媒、触媒――赤、が象徴するのは火の属性、籠った熱からも間違いはないかな。加えてマナを帯びていることは、自然に近縁な存在である証明……)
 取る、一冊十冊。繰る、百枚千枚。ヒトの目では像も朧な速度でぱららと頁を舞わせていた指が、はたり、止まった。
 眸に切り取られたフレームの刹那に、画像のセンサがぱちりと火花する。その書、その頁に描かれた、紙切れのそれと寸分たがわぬ魔法陣。釈は伝える、そこに招かれるべきものの名を。
 《サラマンダー》、と。

 冴え冴えと澄んだ修練場の空にふうと過ぎた風は、造りものの肌にすこしだけ寒い。元々熱には欠ける指のさきから更に奪われた体温を、握った赤涙の晶はすぐにあたためてくれる。
 指に抓む、そのまたたきを重石のように載せた、魔法陣の頁。書庫に見たそれをなぞり繕った陣は触媒を抱いて刹那、線を文字を発光する。推論と段取りに抜かりはなかったようだと、金の眸に陣の赤くひかるを映してサラはあわく息を吐いた。
 必要な事物は揃い、必要な事象は整った。あとはここにきっかけを与えてやるだけ――そこに至って、サラは自問する。
(私は、この手で精霊を生み出して、そして。そして……何がしたいのだろう)
 その答えは、しかし彼女自身にも判らず、そしてこればかりは書庫のどの本にも載ってはいなかっただろう。
 ならば。この場を納得する理由を、自覚ある理屈に依るとしよう。
(きっと、君が私を呼んだから。……そしてきっと、私も、君を呼んでいるんだ)
 だからおいで、私によく似たなまえの君。私たちはきっと、なにかになれるから。
 伸べた指のさきに雫のように灯る、ひかり、火の魔力。それが滴りおちた刹那、俄か魔法陣から巻きあがり、ごうと吼えて宝石を喰らう炎渦。
 拡散。収束。ふたたび弾けて、そしてそれは生まれた。風を添い、生まれたての翼をいっぱいに広げて。
 ひらりくるりと、主に、母に戯れるように舞いおりた――ちいさなちいさな、火いろの竜の仔。

 その躯は、書に記されていたものよりもだいぶ小ぶりだった。ひとしきりその小柄を無邪気に溌剌と飛び交わしていた火の精は、はしゃぎ疲れたのだろうか、いまは翼を畳んでサラの手中に落ち着いている。ぽかぽかとした体温はサラのてのひらにあたたかく――そして不思議と、胸のあたりまでぬくもる気がした。
 その現象は、サラにとって不可解で。不可解だけれど、何故だろう、この時間が続けばいいと思う自分がいて。
「君と共に過ごしていれば、この何故がわかる時が来るのかな……?」
 そっと問うたさき、蜷局してけぷと火の粉をあくびした仔竜。かれは主の声音にまんまるなまなこをぱちくり、ぱたり羽搏けばきゅうと返して、一回転ののちにサラの指に頬を擦り寄せた。
(……ああ。頁は焼けてしまったけれど、あの宝石は、まだ残っていたのね)
 そんなちいさきものを眺めて、サラは。
(後で工房に寄って行こう。指輪にしたら、丁度いいかな)
 ――それは、あのヒトの人称をヒトに聴いた時と同じもの。こころを知らない、知らないはずの彼女の“表情”。

 その口許が綻んでいたことに、彼女は未だ気づかない。

成功 🔵​🔵​🔴​

ギド・スプートニク
シゥレカエレカと

確かに
文化の違いを見るのはなかなか面白いな

落ち着いたところで、どうするか、と懐に忍ばせた部品を見る
そうだな。この世界の技術であれば、この世界の者に聞くのが早かろう

撮像管を嵌めれるような機械を借りて、試しに撮影をしてみる

あまりせっつくなよ、シゥレカエレカ
イトセ嬢も困っているだろう

済まないな、迷惑を掛けてしまって
軽く世間話などを交わしつつ

妻は宿を営んでいてな
暇があれば遊びに来るといい

大事なのは過去よりも現在と未来なれど、偶にこうして記録を残すのも悪くはない
尤も、遊んでいてばかりで物作りには結びつかなかったが…

構わない
物作りは不得手だ
きみに任せた方が、きっと良いものができるだろう


シゥレカエレカ・スプートニク
ギドと


凄いわ、ギド、見て!
わたしの知ってる学校とは全然違うの
魔術と機械がこんなにも入り混じって…

……あ
ねえギド、もしかして彼ならあなたの拾い物、正しい姿に戻してくれるんじゃないかしら
たぶんそれ、機械の部品だもの

映像を記録する、かあ
ビデオカメラって言うのよね
折角だから映してみましょ!
あそこにちょうどイトセちゃんもいるし!

こんにちは、イトセちゃん
あなたのおかげでまたひとつ世界が救えたね、ありがとう
いまね、拾ってきた部品を動かしてみてるの
イトセちゃんも笑って!ギド、見た目より怖くないから!


…ねえギド、カメラの中の魔水晶なんだけど
よかったらわたしに預けてもらってもいい?
こう、インスピレーションが!ね?



 校舎の外壁に在って無数、ゆったりと旋転する歯車たちの機構。随所から立ちのぼる蒸気の幾筋、絡繰の動きに伴って、屋上に備えられた何物とも知れぬ設備が複雑な動作を繰り返している。修練場に辿りついたギド・スプートニク(意志無き者の王・f00088)が遠目に見つめて、彼の薬指にきらめく輪ほどの大だ。間近で見たならば、それらはどれほど大きいことだろう。
 興味深く眺めるギド――ギドと、こちらも彼の数歩のうしろからきらきらとした二色をあっちこっちに凝らす、シゥレカエレカ・スプートニク(愛の表明・f04551)。前方不注意、不意に立ち止まった背中に追突して「ふぎゃん」と鳴き、涙目に鼻をおさえる彼女の頭上を賑やかな風が疾り抜けた。
 見あげる、瞬く間に遠のいてゆく風は、箒に乗った学園生たちだ。鞄を箒の柄に引っ掛けて、たのしげに笑う少年少女たちはやがて校舎のひとつに消えた。それはなんてことはない、ありふれた魔法学園の日常風景。そんな景色も、ふたりに始まる猟兵たちの手で守られた、かけがえのない宝物だろう。
「ねえギド、今の子達を見た? ここ、わたしが知ってる学園の姿とは全然違うのっ。凄いわ!」
 興奮しきりなようすで頬(と鼻頭)を染めた妖精。対する吸血鬼はといえば、つい先ほどまで学園へと向いていた興味の矛先はまるっと、今しがた背後から聞こえた珍妙な悲鳴に持っていかれていたり。
「そうだな。ところでシゥレカエレカ、いま――」
「あーあー! 時間が許すなら、学園中を回ってみたかったわ。今度またふたりで旅行に来ましょ、ね!」
 耳を塞げば、蝶翅に顔を隠してみせる。そんな彼女を眺めながらに、ギドは懐に忍ばせていたものを取りだした。目の前まで運んだそれは、かの迷宮での拾い物。振り向き水いろを眇めて翳す、紫水晶を包んだ管は、その透明に複雑怪奇な世界の構造を映した。
(確かに、彼女の言に違いない。こんな代物も、故郷に居ては触れることもなかっただろう。こうして文化の違いを直に見知るのは、なかなかどうして面白いものだ)
 そう内心にひとりごちるギドの姿を見て、ふとシゥレカエレカは思い当たる。
「……あ、ねえギド。もしかしてだけど、あなたのその拾い物って」
 自分へと向いた彼の視線を、シゥレカエレカはさした指に導く。
「あそこにお願いすれば、正しい姿に戻してくれるんじゃないかしら」
 修練場のおとなり。ゆるりと煙突に煙する、そこは工房だ。

「――待たせたねご両人。さて、預かった部品は撮像管っていう。んでそいつを取りつけて使うのが、これだ」
 がちゃん。
 工房の中。夫妻に示し、技師の男が机上に置いたものは、レンズを備えた片手大ほどの機械。ギドの見立てのとおり、カメラの一種のようだ。
「転校生のお兄さんらにゃ馴染はないかな、ビデオカメラって道具の一種だ。映像を記録すんのに使われてな、普通は機材がなきゃ撮った動画は見られねえんだが……」
 カメラの底面の蓋を外してみせた。顔を覗かせた幾重の紙のようなものに、ギドは心当たりがある。
「それは……フィルムか?」
「その通り。この機種は、映像を動く写真としてその場で現像できるのさ。面白いだろ、本体は貸すから遊んでみるといい。フィルムは……そっちの好奇心で爆発しそうなお嬢さんに免じて、プレゼントだ」
 まあ! 顔を綻ぶ、男の二倍ほどは生きていそうなお嬢さん。
「ありがとう。ギドっ、早速使ってみましょ!」
「よし。じゃあ持ってみなお兄さん、使い方を教えるぜ」
 並んでごそごそやりだした男性陣。他方、被写体を求めてあたりを見回したシゥレカエレカは、彼女だけを写せればいいという夫の心中も露知らず、工房の外に道行く人影を見出した。
「ねえ、イトセちゃん!」
 鈴のようなこえに呼びとめられた娘は、振り返ってこなたへと舞い、紫糸がふるり宙に踊るを見た。
「わ、しぅれかえれかサン。アナタも来てたんだね、てコトは、旦那サンもご一緒?」
「ええ。今ね、そこの工房で、拾ってきた部品を弄ってみてるの。彼もすぐに来るわ、きっと」
 笑いあって。ほほ笑みはそのままに、シゥレカエレカは双眸に真摯な情を灯して言葉を続く。
「――そんなね、お宝探しも素敵だったけど。あなたのおかげでまたひとつ世界が救えたね、ありがとう」
 やさしい言の葉に、イトセははにかんで。
「えっと。あたしはただ視ただけだよ、だからあたしにもお礼を言わせて。学園の平和を守れたのは、想いと力を尽くしてくれたアナタたちのお陰」
 鐔を抓んだ帽子を胸に、ぺこと会釈をしてみせる。そんな彼女のようすに、シゥレカエレカはくすりと笑う。
「ふふ。……ねえイトセちゃん、わたしの旦那さんもあなたと同じ、グリモア猟兵なの。わたしはそんなギドのお役目が大切なものだってよく知ってるし、だからこそ、誇りに思ってるわ。それはね、あなたも一緒」
 もっと、胸を張っていいと思う。少女らしい端正な顔だちと裏腹に囁かれた、それは相手より長い時を識る者としてのおだやかな訓示。
 うれし恥ずかしさに頬を染めたイトセはといえば、恐縮にいっそう身を縮こまらせて。
「……あまりそうせっつくなよ、シゥレカエレカ」
 イトセ嬢も困っているだろう。常どおりの冷然とした表情に発して、工房の扉から降る、ほんのり苦笑の気配を滲んだ言葉。
「ぎどサン」
「済まないな、迷惑を掛けてしまって」
 そんなと首を振るイトセの元へ、ギドもまた歩みを寄せる。
「迷惑だなんて、とんでもない! あたし、いろんなヒトと話したくてこのお仕事してるから、むしろ本望ってトコだよ」
「それならば良かった。確かにグリモア持ちの職務は、人嫌いにはなかなか厳しかろうな」
「そそ。ましてやね、ふたりみたいに気さくに話しかけてもらえるの、うれしくて」
 予知者ならではの話題に暫し、花を咲かせるふたり。
「あの通り、妻は話好きな性質でな。彼女は宿を営んでもいるのだ、暇があれば遊びに来るといい」
「妖精のお宿! すごく素敵な響きだね。ぜひ、人肌恋しくなったら遊びに行きたいな」
 冗談めかして返したイトセ。ふと目したギドの片手には、一台のアンティークちっくなビデオカメラ。
「あれ。気づかなかったけど、なにか撮影中?」
「ああ、シゥレカエレカを――と、その工房で借りたものだ」
 淡々のまま本音を誤魔化す、彼の手元でカメラは撮影中を示すランプを灯していて。そのレンズはばっちり、奥さんを向いている。
「さっき言った拾い物の話よ。ね、ギド、イトセちゃんと撮ってちょうだい!」
 当のシゥレカエレカは満面のわくわく顔。言うやいなやイトセの肩へと飛んでって、ちょんと落ちついた妖精。
 たおやかな翅のゆらぐ、ふんわり鼻を擽って芳香。うつくしい女のかたちを、ひとたび意識すればイトセはこくと唾を呑んだ。ちょっぴりの緊張の由来はそんな彼女への憧憬だとか、あるいは、芸術品のように思われた彼女を傷つけまいと思われたゆえか。
「ほら、イトセちゃんも笑って! ギド、見た目より怖くないから!」
 たぶん、ギドのせいじゃない。それでも夫に対する彼女の物言いに、くすりとしたイトセの肩の力が抜ける。
「その調子! どうかしらギド。上手に撮れた?」
「恐らくな。どれ、ひとつ現像してみるか」
「よーし、なら次はわたしが撮るわ。ギド、イトセちゃんパス!」
「パスされないし、あれをアナタが持つのは大変そだ。てコトであたしが撮るよ、ぎどサン、奥サンをパスだ!」
「あ~れ~! ギド、受け止めてーっ!」
「自分で飛べるだろう」
 わいのわいの。冷静に指摘しつつも、きっちりシゥレカエレカを抱きとめるギド。腕の中の彼女と目があえば、愛しいひとの胸に手を添わせた妖精はにこり、綻んで。
 そんな妻を見て。ギドはふと、もの思うのだ。
(過去は過去、消費された事象だ。その価値は、現在と未来には及ばない)
 瞑目。なれど、思いでに笑う彼女はいつだって、そのまぶしさを褪せないものだから。
(偶にはこうして記録を残すのも、存外と悪くはないものだ――)

 が。
「遊びに耽って結局、何も作れず終いだったな」
 イトセに別れを告げ、カメラの筐体は工房に戻し。結晶入りの硝子管を指先に弄びながら、ギドは呟いた。
「それなんだけど、ギド。その魔水晶、よかったらわたしに預けてもらってもいい?」
 肩の定位置から彼のてのひらを見おろして、シゥレカエレカが問うた。ギドが傍目に見遣る、彼女のじぃと見つめる眸は、映した撮像管に重ねてなんらかの姿を見出している。
「無論だ。物作りが不得手な私より、きみに任せた方がきっと良いものができるだろう」
「ありがと! ふつふつ湧きあがるこのインスピレーション、ばっちり形にしてみせるわ!」
 ぐぐっと握りこぶしを作る、羽ばたきの宿のアトリエの主。ギドがあわいほほ笑みと共に肯いて振り返る、魔法学園の景色は斜陽にあかく染められている。
「では、もう良いかな」
「ええ。あ、でもギド、旅行のことも本気だからね!」
「考えておこう。……つくづく、グリモアとは便利なものだな」
 語るに挙げたそれをふわりと翳した、ギドの無骨な片掌。そのうえに、シゥレカエレカの繊細なそれが重なって。
 かよう眼差し。かよわせる想い。そんなふたりを包んで、ぴかり、青いろがきらめいた。

 ――帰ろう。この日という記憶に栞して。
 どちらが欠けても広すぎる、ぬくもりにあふれたふたりの在処へ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

マリアドール・シュシュ
花盛・乙女(f00399)と行動
アドリブ歓迎

「マリアに新しく芽吹いた力があるのよ。
その力を試せるのなら試してみたいのだわ!
まぁ!マリアでよければ是非手合わせお願いしたいのよ」

軽く自己紹介
乙女と模擬戦
全体的に力は抑え目

青のドレスの裾を抓んで恭しくお辞儀し笑顔
竪琴構える
攻撃が届く範囲で距離取る
舞い踊る様に【パフォーマンス】
音色に【マヒ攻撃】を付加し演奏で攻撃

「ふふ。マリア楽しいわ!乙女ったら、本当に強いのよ。
だから、ちゃんと応えたいの。あなたの剣筋から伝わるその想いに。
…行くのだわ!全て捌けるかしら?」

【高速詠唱】で【茉莉花の雨】使用
竪琴を花弁へ
一撃でも乙女から攻撃を食らったら倒れる
戦闘後は治癒


花盛・乙女
マリアドール殿(f03102)と行動

これは立派な修練場だな。試合場まであるじゃないか。
手合わせしてみたいところだが…いるな、丁度良いのが。
幼く可憐ながらも力を使いたくて仕方ないといった風に見える。
マリアドール殿を鯉口を鳴らしながら試合に誘おう。
名を名乗り、名を聞き、一礼。
黒椿と乙女の二振りを構え、一足飛びに斬りかかる。

見るからに力ではなく術士。
私は愚直に攻める術しかもたない。
であれば状態の異常は怪力で持って己の頬を張り気合で飛ばす。
花の吹雪には素直に感嘆し、礼として鬼の吹雪で花弁を散り晴らしてみせよう。

あくまで試合。刀身は当てず、寸止めで。
一太刀当てれば私も自分を止められそうにないのでな。



 ざり、――砂を噛んだ雪駄が歯を軋る。ほそく鳴いて過ぎる風に鴉羽のいろがふわり、その艶を結わう呪い紐の端を伴って舞いあがった。
 佇んでしげしげと眺めた女性の像は、ほうと声を漏らす。
「鍛錬にと訪れてみれば、これはまた立派な修練場だな。試合場まであるじゃないか」
 武人気質な彼女に似合い。その落ちついた声のあやに歎をひとりごちたのは、裡に肚に苛烈の性を飼う羅刹のひとり。花盛・乙女(誇り咲き舞う乙女花・f00399)だ。
 愛刀の飾り紐に指掛けて背負う、その黒朱の鞘のさきをぶらり遊ばせて戦乙女は探しもの。もの、いや、ひとがいい。これほど仕合うに誂えな舞台だ、不愛想な案山子を相手にしては勿体ない。
(折角だ、誰とぞ手合わせを願いたいところだが……)
 見回したさきに、いた。というより直截に目があった。丁度良いのが、ゆれる白晶ときらめく琥珀に期待を滲ませて、こちらをじぃと。
 相手が自分を見とめたと知れば、少女はぱあっと顔を輝かせた。そんな気色に透な髪までをもいっそう光彩したような、マリアドール・シュシュ(無邪気な華水晶・f03102)は宝石のひと。さきを青に至る癖っ毛な結晶質を駆け足にはためいて、とん、そろえたつまさきに立ち止まった彼女は乙女を見あげる。
「ねぇ、ね、そこのあなた。今、ちょっとお暇でいらして?」
 よければマリアと遊んでほしいのよ。鈴鳴りに問うクリスタリアンの眸に、その可憐とは裏腹の“遊び”への期待を羅刹は見た。思えばそれも道理だろう。いまここに彼女が在り、彼女を抱くのは綾錦に飾る袱紗の肌ざわりではない、張りつめて鉄華を金切る修練場の空気だ。
 願ってもない。ちきと鯉口、ちりと鈴音のもうひとつ、椿と珠とを啼かせて乙女はほほ笑む。
「見ての通り、来て早々にひとりの退屈を拗らせていたところだ。私の方こそ、お相手を願いたい」
「よかった! マリアはね、新しく芽吹いた力があるのよ」
 だから、あなたと試してみたいのだわ!
 無邪気に綻ぶ宝石の少女。逸る気配の晶にくっくっと腕を引かれ、乙女もまた、ゆるりと歩を進む。

 円形の試合場、向き合った白と黒。ふたりの距離に、清々しい風が吹き抜けた。
 手は抜かないが、一線も超えない。双方ともに肝にする、これはあくまで試合だと。ティーテーブルを挟んでおしゃべりするのと同じ、ただ、その場がちょっと無骨なだけで、その言葉がちょっと激しいだけのこと。
「では、私から名乗らせて貰おう。姓は花盛、名は乙女。この通り――」
 片手に抜いた『乙女』の柄頭で、右の額に聳える一角を指す。
「羅刹だ。思う所あり旅をしている、世界をな」
 慇懃な一礼。対し、やっぱりね、呟いてマリアドールはひとさし指を唇に添えた。
「とあるお宿でね、同じ角した人を見たのよ。お洋服からも分かるようだけれど、あなたも転校生なのね」
 見遣って風に靡く、華やかな戦装束の袂。対して洋のドレスに身を包んだマリアドールは、あざやかな青に染まるスカートの裾を抓んでゆるり、礼を返した。
「マリアドール・シュシュ、クリスタリアン。楽しいことが、素敵なものが好き。だぁい好き」
 にこりと笑んで、取りだしたる『黄金律の竪琴』。片腕に抱える大のそれを構えた相手を目し、乙女もまた彼女と同銘に番するもうひと振り、『黒椿』を抜きはらう。
「だから。ね、乙女」
 瞑目。俯き。深呼吸。そして。
「――楽しみましょう、思いっきりね!」
 叫ぶと同時に奏でる、戦端の響。刻を重ね、乙女もまた、跳ぶ。
 女らしい華のかたちに隠されて、しかし乙女は里に随一と謳われた戦士だ。桜紺の二色に覆われた鎖帷子の重を感じさせず、ひらり一足飛び、一瞬にしてマリアドールに肉薄する。
 ひらめく二刀。それをマリアドールは身を捩って避け、追い縋るもう一刀もステップに躱し、着地に屈めた身の高そのままに弦を弾く。流麗な一連、質量を伴って奔る音は、低空飛行に乙女の足を掬う。
「おっと!」
 敢えてそれに身を任せ、ぱんっと地に衝いたてのひら。刻まれた蓮華が風に舞うように、膂力に発条してくるり反転、一転、もう一転。それは水切る石のように、高く低く、ひらひら地上を泳いでマリアドールの捕捉を許さない。
「……んもう! 凄いわ乙女、イルカみたい!」
「ふふっ。悠長に眺めるばかりでは、そのイルカに齧られるぞ!」
 最後の旋転、ひときわ高い跳躍に加える横軸の刃の廻。迫る暴風に、しかしマリアドールもただ手をこまねいていた訳ではない。
 追えないならば待てばいい。赤と金、天地をたがえたふたりの視線が至近にかよった刹那、彼女は竪琴に音階を奏でる。先の音弾がフォルテなら、ここに敷く音罠はアラルガンド。直ちに飛び退る、残されてびりびりと振動する音波の停滞が、乙女を呑んだ。
「ッ! く――」
 全身に走る痺れに、力の抜けた脚は着地を損なった。落ちる勢いのまま、どうと倒れこんだ乙女。
「残念! がぶってしたのはマリアだったわ、」
 得意げの表情に追撃を奏でんとしたマリアドール。が、はっと目を開く。
「ね……」
「――っぁああ!!」
 ぱんと響いたのは頬を張る音か。大気をふるわす気合の号、乙女は布巻の手甲に地を殴る。逆境に滾る羅刹の情動が、大地を発破して石礫を飛ばす。
 咄嗟に顔を庇ったマリアドールは、ゆえに土埃に紛れた切っ先の執念に寸でまで気づかない。
「きゃあっ!」
 咄嗟に翳した竪琴が、頑丈な柱に辛くも主を庇う。けれど勢いまでは殺せず、振りぬいた乙女の腕力でそのままぶんと放られた。暫し宙を舞って乙女におあいこ、ぽてりと落下したマリアドール。
 手にまだ若干と残った痺れを振り払い。呼吸を整えながら乙女が見つめる、起き上がったマリアドールはちょっと土埃をかぶって、けれど至極たのしげで。ぱんぱん、ドレスの汚れを払いながら上機嫌に口ひらく。
「ふふ、ふふふっ、マリア楽しいわ! 乙女ったら、本当に強いのよ」
「こちらの台詞だ。愚直な剣の私からすれば、マリアドール殿の戦術は舌を巻く」
 健闘を讃えあう、さわやかな少女たちの勝負はまだ決着してはいない。なんたってまだ、大一番を残しているのだから。
「ありがとう、乙女。マリアもね、あなたのまっすぐな剣筋から、あなたの想い。まっすぐ伝わってきたわ」
 だからね。区切ればそっと撫でた、腕に抱えた竪琴がみるみるその質量を増してゆく。
「ちゃんと応えたいの。全力で応えるのよ、マリアは」
 どしり、地に脚した琴は乙女の背丈も凌いで一回り大きい。抱くように添わせた指に、ぽろん、ぽろん、爪弾きとともに少女は唄う。
「――行くのだわ! 全て捌けるかしら?」
 俄か閃いて、激しく舞い踊る指のさき。奏でて齎す彼女のコード。咲けよハルモニア、馨れよ旋律。そして降らせて、『茉莉花の雨』。
 ざあと、琴がその像を崩す。欠片と見えたそれは透きとおり、模るのはジャスミンの花弁。ぶわり群なした透明な薄刃の数多、咲き裂き誇る奔流に乙女へと迫る。
「乙女! マリアに見せて、あなたがいだいた万象を!」
 興奮にいろづいた少女の声は、果たして乙女の耳に届いていただろうか。それほどまでに、乙女にとってその満開は目を奪うもので。
(美しい)
 ただ純粋な感動に嘆息を漏らし、伏した眼。宝石の少女の全霊だ、ならば修羅の己も全身を尽くして報いるが礼というもの。
 轟。
 握りしめた悪刀。籠めた力と想いをくべて、刀身に燃え上がった赤黒いほむら。
「返礼だ、マリアドール殿」
 華は、散り際が最も美しいとは誰が言ったか。
「この花の吹雪を散り晴らす、鬼の吹雪を見届けると良い――!」
 その言は、ここに疑いようがなかっただろう。
 片手して悪鬼の刃、片手して母愛の情。尾を引く黒、陽を散る白、ひらめく、きらめく、めくるめくは『鬼吹雪』。万華にひらく、花盛流の妙。
 やおら駆けだした、彼女の両手の巡り廻るは絶え間なく、ともすれば舞踊にも似て。ゆるりひらり、彼方此方へと奔る閃は波動の花弁とかたちを成して、ちいさなジャスミンの透華を喰らって崩す。ぱりん、ぱりり、はぜて割れる水晶の薄肉。きらきらと粉と化して風に融ける、乱反射の花骸はまばゆく世界を染めてゆく。
 千を散れ。百を散れ。十を散れ。
 一を超え、零に至り、その果てに咲く彼女に届け。
 ――虹色の風を駆け抜けて。ふるりと目を瞬いたマリアドールを傷つけず、間一髪を挟む彼我に乙女の刃が添えられていた。

「負けたのだわー!」
 ぱたん、仰向けに倒れてマリアドール。彼女の表情は、しかし眺める青空の如くに晴れ晴れとしている。
「遊んでくれてありがとうね、乙女。マリア、とぉっても楽しかったわ!」
「私もだぞ、まさに血湧き肉躍る心地がした。見事なものだな、私よりひと回りほどは若いだろうに」
 彼女の傍に立って、しみじみと振り返る乙女。
 とはいえ。乙女にしてみれば、やはり整った宝石のすがたを汚してしまったことは少々忍びなくもあって。
「どれ、お互い土をかぶったものだ。ここはひとつ、汗ごと流しに湯屋に付き合ってくれないか」
「もちろんなのよ! 楽しかったのはそれとして、やっぱりさっぱりしたいわ!」
 そのあと、よければお茶でもどうかしら。算段に花を咲かせる華水晶に、肯いて乙女は手を差し伸べた。
 ほほ笑む乙女、返して、マリアドールも笑いかける。

 重ねた、羅刹の柔と宝石の剛。
 対極、そして、どこか似たもの同士なふたりは繋ぐ。てのひらを、――この一日に兆した、あたたかな絆を。


 ――ここに紡がれたは、ひとつの物語の幕引き。そして、これからの物語の幕開け。
 そのてのひら、握りしめたおもさと共に。これからのさき、猟兵たちにはきっと、胸をぬくもる日々が待っている。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年01月29日


挿絵イラスト