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冬薔薇古城

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●吸血鬼の黒衣
「ねえ、この花が欲しかったんでしょう?」
 問い掛けと共に少女が握らされたのは、一輪の紅い薔薇。
 取り払われていない棘が柔肌にぷつりと刺さり、血の珠が肌に浮かぶ。
 此処は豪奢な装飾と甘い花の香りに満ちた古城の一室。
 薔薇を手にする少女の前には黒衣の少女が立っていた。その手を取った黒衣の君は花唇を寄せ、滲む血を舌先で舐め取る。
「ふふ……美味しい」
 黒衣の君もまた幼な子であるというのに、声に宿る色は妙に艶めかしい。
 震えて声も出せぬ少女は身を引こうとした。だが、黒衣の君はその腕を掴んで逃げることを阻む。そして、彼女は身に纏っている黒衣をゆっくりと脱ぎ始める。
 分厚い窓掛けの隙間から射し込む斜陽が彼女の肢体を薄く照らした。
「次は貴女の躰が『私』になる番よ」
 そう告げた彼女は、少女にそれまで自分が着ていた黒衣を被せる。ぞわりとした感覚。まるで誰かの髪が肌に触れたような心地がした。
 そして次の瞬間、彼女の身体が崩れ落ちた。ひ、と声をあげた少女は思わず薔薇を取り落とし、後ろに下がる。
 彼女は既に死していた。
 何が起こったのか解らず、少女は掛けられた黒衣を強く握る。
 そのとき、頭の中に声が響いた。

 ――貴女は私。私は、貴女。もう逃げられないわ。

 意識が、感情が、自我が塗り潰されていく。
 自分が自分でなくなっていく感覚に恐怖を覚えた少女はその場にへたり込んだ。
 だが、暫くすると少女は何事もなかったように立ち上がる。今までとは別人のような堂々とした足取りで天蓋付きベッドの方に歩き出した少女はサイドテーブルに置かれていた呼び鈴を手にして、ちりんと鳴らした。
 両開きの豪華な扉が開いたかと思えば、人の形をした影の眷属が馳せ参じる。
「その邪魔な死体を棄てておいて」
 そういって示したのは床に倒れた亡骸。
 用済みだから、と少女は影の使用人に吐き捨てるように命じ、寝台に腰掛けた。
 そして、まだ掌から滴っている血を自分で啜る。舌先で唇を舐めた少女は妙に艶めかしい声で満足気に呟いた。
「この躰、なかなか使い心地が良さそうだわ」

●薔薇の庭を目指して
 同じ頃、とある村にて。
 十二歳を迎えたばかりの村娘、イルセは村の外に続く道の前にいた。
「ヤーナ、どうして帰って来ないの……?」
 夕暮れが迫る中、ちいさく呟いた彼女の声は不安げだった。
 イルセにはひとつ年下の妹がいた。両親を病で亡くした彼女達は村の人に助けられながら、姉妹で支えあって懸命に生きていた。
 しかし数日前、出かけてくると告げたきり妹はずっと家に戻って来ていない。心配して方々を探したが見つからず、途方に暮れていたときにふと思い出した。
 思えば誕生日が来る前、妹はこんなことを言っていた。
『――あのね、この近くの古城の庭に綺麗な深紅の薔薇が咲いてるんだって』
 どうやら外で誰かが話していた会話を耳に挟んだらしく、お姉ちゃんは薔薇が好きだったよね、と妹は微笑んでいた。
「きっと古城に行ったんだわ。そこで何かあったんだ……」
 妹は自分への誕生日の贈り物として薔薇を摘みに出かけたに違いない。
 意気込んだイルセはぐっと手を握る。
 保護者代わりの村の人達に古城に行くと告げれば絶対に反対されるだろう。だから一人でこっそりと村を出るのだ。
「薔薇なんて要らない。ヤーナが居るだけで私は幸せだもん……!」
 妹を見つけて必ず連れ帰る。
 強い思いを抱いた少女は夕暮れ刻の街道を駆けていく。
 その先に待つのが黒衣の吸血鬼が棲む、薔薇の檻だとは知らずに――。

●絆を引き裂くもの
 或る日、グリモアベースにて。
「ゼラの死髪黒衣、というオブリビオンを知っていますか?」
 集った仲間達に問い掛けたのは人狼の少年、ミカゲ・フユ(かげろう・f09424)だ。
 それはゼラという女吸血鬼の遺髪によって編まれた黒衣であり、少女に憑依して相手の意識を自分の自我で塗り潰すという代物だ。
 その黒衣は現在、古城を根城としている。
 どうやら敵は言葉を発する影を使役する力を持っているらしく、『古城の庭に美しい薔薇が咲いている』という噂を近隣に流させ、少女を城に誘き寄せているようだ。
「もう何人か……三人ほどの女の子がお城の中に捕まっているみたいなんです」
 少女達はゼラの依代候補として古城の何処かに囚われている。
 もう既に何人もの少女が意識を上書きされ、その身体をゼラに使い捨てられているらしい。飽きたら肉体の生気をすべて吸い取り、次の依代に移る。そのような悪逆非道を繰り返すのが死髪黒衣というオブリビオンだ。

 赦せない、と拳を握り締めたミカゲは俯いた。
 そして、狼尾を悲しげに伏せた少年は申し訳なさそうに告げてゆく。
「僕の予知では古城がどの方向にあるかや、どの部屋に女の子達が捕まっているかまではわからなかったんです。でも、イルセちゃんという女の子が古城に行こうとしている予知も視えました」
 このままでは彼女は古城に囚われ、依代候補の一人となってしまう。
 急いで追いかけ、イルセを止めると同時に古城がある場所を聞き出さなければならない。そして古城内部に囚われた少女達も保護しなければならないのだが、城内には影の眷属達がうろついている可能性が高い。
 そして、最終的に『ゼラの死髪黒衣』を斃すのが今回の目的だ。
 また、現在ゼラに憑りつかれている少女――ヤーナはまだ生きている。
「ヤーナちゃんの自我はほとんど乗っ取られかけています。でも、ローブを剥がすか壊せばゼラの意識も離れて、助けることができるみたいです」
 ヤーナの身体ごと貫いてオブリビオンを倒すのは容易いことだ。
 だが、そうせずに死髪黒衣だけを引き剥がすことで少女は助かる。ただ相手も抵抗するだろう。解放が一筋縄ではいかないことは確かだ。
 それでも行ってくれますか、と問うミカゲの眼差しは真剣だ。
「僕はいやです。人の命が踏みにじられるのも、大切な思いが利用されることも……」
 だから、と仲間を見つめた少年は告げる。
 ――どうかあなたの力を貸してください、と。


犬塚ひなこ
 今回の世界は『ダークセイヴァー』
 或る古城に巣食うオブリビオン、ゼラの死髪黒衣の討伐が目的となります。

『第一章』
 肝心の古城の場所が不明のままです。古城に向かっているイルセという少女を追跡して追い付くと同時に城の情報を聞き出してください。イルセは古城に行きたがりますが、それを止める説得をしたり、または同行させるかどうかの判断も皆様の大事な役目です。
『第二章』
 冬薔薇が咲く古城の内部探索。三人の少女が城内に囚われていることや、内部に複数の眷属が居ることしかわかっていません。少女達の保護を目指し、標的の居場所を探る調査のターンです。
『第三章』
 ボス戦。どんな戦場や展開になるかは一~二章の流れ次第です。

 一章と二章は成功ラインに到達した時点で次の章に進む予定です。
 その為にプレイングをお返ししてしまう可能性もあるのですが、途中から、または三章からのご参加も大歓迎です。途中参加だからといって不利になる要素も、気兼ねする必要もありませんのでお気軽に!

 また、ボス戦で対峙することになる少女(ヤーナ)の生死は成功条件に含まれません。場合によってはシナリオの後味が悪くなることもあります。
 それでは、どうぞよろしくお願い致します。
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第1章 冒険 『薔薇の檻』

POW   :    気合とパワーで追跡する

SPD   :    スピード重視で追跡する

WIZ   :    賢く効率的に追跡する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

夏目・晴夜
【WIZ】
助けたいものですね、ヤーナさんもイルセさんも

村人に、イルセさんを見なかったか
あるいは近くにあるという噂の古城の場所を知らないかを尋ね、
その方向へ向かって【第六感】を頼りに追跡します

僅かでもイルセさんの姿を確認できたら
【憑く夜身】でイルセさんの影を操り、
転ばせない程度にその足首を掴ませて歩みを止めさせます
女性に対して少々乱暴だったかもしれませんが、どうかご容赦を

追い付き次第、古城の情報を聞き出して
個人的にはイルセさんには安全な自宅で待機して頂きたい気持ちです
ヤーナさん、きっとお腹を空かせて帰ってくると思いますよ
なので今から暖かい料理を作っておいて欲しいのです
絶対に助け出してみせますから


ユルグ・オルド
お嬢さんの足なら、そんなにまだ遠くへは行けないだろ
村で年恰好だけ確認したら、追うとしようか
まだ新しい、一人分の少女の靴の痕を

追いつけたら俺は引き留める方向かなァ
何があるかもわかんねぇし
そんなに思いつめた顔してどこ行くの。
今日はこの後雨だそうだよ。
歩調は合わせてゆっくりと
妹を探すのだと古城の名前を引きだせりゃ良いんだけど
まあどうしてもってんなら一人で振り切られるよりゃ共に行くけど

これでも少しは腕に自信があるもんで、
お嬢さんが一人で乗り込むよりは安全にお迎えに行けると、思うんだけど
どうだろ。やっぱり信じるには、足りないかい。


コンラート・シェパード
(※アドリブ歓迎)

【SPD】
地面に少女の足跡は残っていないだろうか。
あったならそれを辿り、技能『追跡』を利用してなるべく早くイルセを追いかける。
彼女に追い付いたら、あまり驚かせないように穏やかに挨拶を。
「こんにちは、お嬢さん」
怖がらせないように適度に距離を保ちつつ。
綺麗な薔薇を見られると聴いて、と能天気な人物を装ってイルセに古城までの道程を尋ねる。

彼女がその古城に行くと行ったら一応警告を。
「こんな時間に、それも一人で?…いくら何でもそれは危険だろう」
ただ彼女の気持ちは痛いほど共感してしまう。
絶対に私たち(猟兵)の誰かと共に行動することを条件に、私は彼女の同行含む意思を尊重したい。


ボアネル・ゼブダイ
行動選択:wiz
「相変わらず・・・吸血鬼共は趣味が悪いな。生きている時だけではなく死後もなお人々を弄ぶか。」
私は【零れ落ちる深淵】を使い、召喚した精霊と共に少女を効率よく追跡しよう
その際、周りに動物がいれば【動物会話】で彼らから情報を集めるのも手だな
見つけたら少女を怯えさせないようになるべく優しく話しかけ、古城の情報を聞こう、半吸血鬼である私を恐れないとも限らん
私はこれ以上の犠牲者は出すつもりは毛頭無い、だから自分が【生まれながらの光】を使い、聖者としての力を彼女に見せて、家で待ってもらうよう説得するつもりだ
「安心しろ、私達が必ず助け出し、妹を君の家に連れて帰ろう」


レクシー・ジー
綺麗な花は好きだけれど、主の性根が腐っているのでは台無しね
ひとの心につけ込む非道、必ず断ち切ってみせるの

【WIZ】
可能なら事前に周辺の地理環境を調べ地図を入手

急ぎ街道を辿り痕跡を追うわ
少女の脚力でも往復出来る距離と周辺の地形から
古城のある方角くらいは大凡の推測が可能かしら
一刻も早く接触する為、最適な道程を見出す努力を

接触出来ればお話ししましょ
飴を如何?チョコレートの方がお好きかしら
落ち着いて貰う為、優しく穏やかに心懸けて
古城の在処を知りたいの
あなたの大切な人を迎えに行くの
あなたは妹さんを大切に思っているのでしょ?信じてる?
無事に帰って来ると信じてあげられる?
それなら、あなたは待っていてあげて


レガルタ・シャトーモーグ
急いでイルセを止めに行く
村人にイルセの向かった方向を聞いて走って向かう
少女の足だ
そこまで遠くはないと思いたい
途中で見晴らせる場所があれば、少女の後ろ姿でも見つけられるだろうか

見つけたら村に帰るよう説得
…あまり得意ではないが、仕方ない
この先の古城には良くないものが居る
あんたを危険な目に合わせたくない
信じられないだろうが、信じて欲しい
ヤーナを連れ戻った時に、あんたが居ないんじゃ、ヤーナは…たぶん悲しむ

説得できたら古城の場所や人の出入りの状況について聞く
城に近づいた少女が囚われるなら、城主か手下がバラ園を見回ってるという事だろうからな
ヤーナの所在が判明するまでは慎重にいきたい


リーヴァルディ・カーライル
…両足に魔力を溜め、怪力化した脚力を【吸血鬼狩りの業】の応用で効率的に瞬発力に変換
第六感で大体の方向を定め、目立たない痕跡の存在感を見切り、街道を駆けた少女を追跡する
…これは時間との勝負。私には暗視があるとはいえ、日が落ちたら捜索の難易度が上がる

首尾よく少女に追いついたら、警戒させないよう礼儀作法に則って挨拶を
古城にいる吸血鬼を狩りに来たと告げ、城の場所を知りたいとも伝える
危険だと念押しした上で、引かないようなら…護衛する代わりに城への案内を持ちかける

…ん。危険だからと告げて素直に帰るなら、一人で古城なんか来ない
それなら、最初から目の届く範囲に居てもらった方が、安全…
…イルセ、貴女はどうする?



●灯が導く先へ
 此処は夜と闇に覆われた世界。
 僅かな陽が射すこともあるとはいえ、この世界の夕暮れは人の心を不安にさせる色を宿している。日が傾く前だというのに既に仄昏い景色を見渡し、村の様子を確認した夏目・晴夜(不夜狼・f00145)は思いを言葉にした。
「助けたいものですね、ヤーナさんもイルセさんも」
 かの姉妹だけではない、古城に囚われている名も知らぬ少女達の命も見捨てておけるものではない。
 レクシー・ジー(凍て蝶・f09905)もまた、同じ思いを抱いて村に訪れていた。
「綺麗な花は好きだけれど、主の性根が腐っているのでは台無しね」
 花を求める理由は其々。
 だが、ひとの心につけ込む非道は必ず断ち切ってみせる。レクシーは僅かに瞼を伏せた後、銀の瞳を昏い空に向けた。
 すると、二人の近くに少年が近付いてくる。
「お前達も猟兵か」
 レガルタ・シャトーモーグ(屍魂の亡影・f04534)だと名を名乗った少年は、協力しあおうという旨を提案した。晴夜にもレクシーにも断る理由はなく、その視線だけで承諾されたと分かったレガルタは頷く。
 来い、と言葉少なに先導する少年の背を追い、晴夜とレクシーも歩きはじめた。
 死の運命を救い、助ける。
 そのために先ず何を成すべきか考え、猟兵達は村の中に向かった。
「聞きたいことがあるのですが――」
「イルセという少女を知っているか?」
 晴夜とレガルタが村人達に聞いたのはイルセを見なかったかということ。
 しかし、少女は大人達に止められないように密かに村を出たようだ。イルセを見たという者も居たがそれは昨日のことであり、求めている情報ではなかった。
 それならば、と晴夜は古城について聞き込みをはじめる。
「近くにあるという古城の場所を知りませんか?」
「古城ねえ、いくつかあるが……」
「冬薔薇が庭に咲いているという噂のある古城らしいのですが、如何でしょうか」
「すまないが分からないよ。噂なんてものも聞いたことがなくてね」
 大人達に尋ね歩くも反応は著しくなく、件の噂を知っている者も少ないようだ。晴夜は表情を動かさぬまま、口許に手を当てて考える。
 レガルタも一緒に考え込み、ふと気が付く。
「噂が広まっていないのか? いや、広まってはいても大人は知らないのか」
 古城の噂自体はオブリビオンの配下が流しているものだ。
 そう気付いた晴夜達は村の少女達を探し、もう一度同じことを問い掛けてみた。
「少し宜しいでしょうか、お嬢さん達。薔薇が咲く古城のことを……」
「しってるよ! きれいなお庭があるお城のことだよね」
 すると村の少女は晴夜の言葉が終わる前に、瞳を輝かせて答えた。傍にいた他の少女も口々に知っていると語り、晴夜に笑顔を向ける。
「あっちの方にあるって、前にヤーナちゃんがいってた!」
「でも、ちょっと遠いからわたし達はいけないの」
 当たりだ。噂はきっと少女にだけ伝わっていたのだ。
 そう感じたレガルタは少女達に礼を告げ、あっち、と言われて示された方角――東を見つめた。方角さえわかれば後は事前に大人達から聞いていた、幾つかあるという古城の場所と照らし合わせるだけ。
 其処に別行動を取っていたレクシーが合流し、村周辺の地図を広げた。
「正確な地図はなかったけれど、交易に来ていた商人に書いて貰って来たわ」
 距離感などの精度は低いだろうが、大まかな方向や地理状況はこれで分かる。レクシーはレガルタと晴夜が集めた情報と地図を見比べ、或る森の中に建っているという古城に目星をつけた。
「そこで間違いはなさそうだな」
「それでは急ぎましょうか」
「ええ、間に合わなくなる前に――」
 情報収集の分だけ時間を取ってしまったが、きっと今からならまだ追い付ける。
 宝石を閉じ込めた灯を掲げた晴夜は、道行を照らした。
 そして、少女の行方を追うべ猟兵達は先を急ぐ。

●足跡を追って
 夕闇が胡乱な影を落とし、世界は次第に暗黒に包まれていく。
 やけに幽愁を感じさせる景色だと感じながらユルグ・オルド(シャシュカ・f09129)は今しがた聞いたばかりの少女の姿を思う。
「成程なァ、普通の村娘って感じか」
 それまでユルグが村人に訪ねていたのはイルセの年恰好について。
 彼女は銀色の髪をふたつに結った細身の少女らしい。同じ年頃や背恰好の少女は村に多く居たが、彼女達は常に何人かで行動していた。
 物騒な世の中なのだからいつも誰かと一緒にいろと教えられているのだろう。
 そうでなくても年頃の乙女達は群れることを好む。そういうものなのだと知っているユルグは探していく。
 だからこそ目立つはずだ。まだ真新しい、一人分の少女の靴の痕ならば――。
「あった、こっちか」
 ユルグは方々を注意深く観察していき、不自然な足跡を見つけた。
 それは東に街道に続く道への途中。馬車の轍や大人のものであろう大きな足跡に紛れて分かり辛かったが、ひとつだけちいさな靴痕が紛れているようだ。
 そのとき、ユルグの耳に男の声が届いた。
「どうやら向こうのようだな」
 低くあたたかな声。その主はコンラート・シェパード(シリウスの鉾・f10201)だ。
 ふとユルグが顔をあげると、星空を飼っているかのような煌めきを宿す彼の瞳と視線があった。相手が猟兵であると察した二人は静かに頷きあう。
 手短に互いに名を告げた彼らは街道の先に目を向けた。コンラートもまた、ユルグと同じように足跡に着目していたらしい。
「このまま追跡するのは少し不安があってな。ユルグのお蔭で確信が持てた」
 コンラートがそう告げるとユルグは礼には及ばないとして首を横に振った。未だ今は始まりに過ぎず、少女の追跡は此処から始まる。
 気を引き締めたコンラートは足跡を追って進み、ユルグもその後に続く。
「お嬢さんの足なら、そんなにまだ遠くへは行けないだろ」
「そうだな、このまま行けば追い付けるだろう」
 協力しあい、少しの違和感も逃さぬよう進む二人。
 即席ではあるが、二人は同じ追跡手段と目的を持つ相棒同士と言えるだろう。
 そして、村から離れるにつれて足跡は少なくなっていく。少女が残した痕跡も追いやすくなっていると感じてユルグは前方を指差した。
 街道の先には森があった。足跡はそちらに続いているようだが、もし少女が奥深くに入ってしまったならば追跡は困難を極めるかもしれない。
「少し急ぐか、コンラート」
「ああ、全力で追おう」
 街道から森を目指し、二人は駆けてゆく。
 その先に悲劇が巡らぬよう、猟兵としての務めを果たしに行く為に――。

●東へ
「相変わらず……吸血鬼共は趣味が悪いな」
 ボアネル・ゼブダイ(Livin' on a prayer・f07146)は暗雲が立ち込めはじめた空を振り仰ぎ、溜息にも似た思いを零す。
 思うのはオブリビオンとして蘇った吸血鬼のなれの果て、ゼラの死髪黒衣のこと。
「生きている時だけではなく死後もなお人々を弄ぶか」
 元より呪われし衣だったものは骸の海からこの世に顕現した際に変異し、悍ましいほどの悪行を重ねることでその身を更に闇に堕としている。
「――深淵を渡りし異相の精霊よ、」
 ボアネルは傍に精霊を召喚し、幾つもある村の出入り口を調べていった。
 とはいっても未だ手掛かりはない。
 何処かに動物でもいないかと見渡すも、村の中にめぼしいものはいなかった。だが、ボアネルは家屋の裏から出て来たちいさな影を見逃さなかった。
「……鼠か」
 動物と会話できる能力を用い、ボアネルは問う。
 ひとりで何処かに出掛ける少女を見なかったか、と。
 すると鼠は「見たよ」と示すように東の方向を見遣った。それがイルセだという確信は持てないが、其方に行ってみる価値はありそうだ。
 すまないな、と礼を告げたボアネルは精霊を伴ってその場を離れる。
 少女が街道を進んで行ったことは間違いない。ならば後は追うだけだと感じ、ボアネルは先を目指してゆく。

●勘を信じて
 その頃、街道の先。
 リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は駆けていた。
 両足に魔力を溜め、怪力化した脚力で以て地を蹴る。その速さは疾風の如く、リーヴァルディは少女を追う為に懸命に走った。
「……これは時間との勝負」
 元からこの世界は薄暗いというのに、夕刻を過ぎれば辺りは闇に包まれる。
 暗視があるとはいえ、日が落ちたら捜索の難易度が上がるだろう。その前に、と急ぐリーヴァルディの判断は正しい。
 情報は集めて来なかった為、方向は第六感任せだ。
 しかし、その力は村を出た少女を探すという簡単な目的の上で、十分な精度を発揮してくれた。最初は北に向かおうと思っていたのだが、途中で此方は違うと感じたリーヴァルディは東に進路を変えた。
 とはいえ、この方向が正しいと実感したのはもう少し後のこと。
 暫し駆けた先には分かれ道があった。
 森に続く道と、真っ直ぐに続く街道をそのまま行く道。
 目を凝らしてみると何かの建物らしき影が街道の先にあった。だが、森の奥にも何かがあるような気がしてならない。
 どちらに進もうか躊躇った時、リーヴァルディは森に入る人影を見つけた。
 内なる勘が、あの人影も猟兵であると告げている。
「あの人達も急いでここに来たみたい」
 それなら、とリーヴァルディはおそらく男性だと思わしき影を追って、森に続く道へと進んだ。彼らと合流するか、先に駆けて少女を探すか。
 それを考えるのは森に入った後で良い。
 地面を蹴りあげたリーヴァルディは僅かに視線をあげて空を見た。
 きっと――夕闇の空は間もなく、夜の帳に包まれる。

●イルセの思い
 猟兵達は其々に森の奥にある古城へと向かっていた。
 森は暗いが、まだ目を凝らせば先が見える。それに細い道もちゃんと通っているらしく此処を辿れば少女に追い付けると確信できた。
 そして、最初にイルセの背を見つけたのはユルグとコンラートのふたりだ。
「居たな。彼女に間違いない」
「驚かせないようにしないとな」
 ユルグが村で話に聞いた通りの銀髪の少女を見つけ、前方を指差す。コンラートも追いついたことに安堵を覚える。
 すると続いて森に入って来たリーヴァルディが二人に合流した。
「あの子を、みつけたの?」
 互いに猟兵だと手短に名乗りあった三人は走る少女を追う。そして、コンラートが彼女に警戒されぬよう、穏やかな声で話しかけた。
「こんにちは、お嬢さん」
「そんなに思いつめた顔してどこ行くの」
 コンラートに続いてユルグが問うとイルセはびくりと身体を震わせた。
 しかし、此方に敵意がないと知ると少女はほっと胸を撫で下ろす。そして、彼女が不思議そうに立ち止まった所へ、晴夜とレクシー、レガルタの三人が追い付いた。
「お前達が先に見つけてくれていたか」
「良かった、歩みを止めてくれたみたいですね」
 レガルタはリーヴァルディ達を見遣り、晴夜は無理に止める方法を取らなくてよかったと安堵を浮かべる。そうして、レクシーは仲間達に「まず私に任せて」と告げてからそっと少女に歩み寄っていく。
「飴は如何?」
「わあ、ありがとう……」
 少女は此処まで一人で走ってきて疲れている。それに暗い森の中で見知らぬ誰かに引き止められることで驚いてもいるだろう。
 少女がおずおずとキャンディを受け取ると、やや遅れてボアネルも合流した。
 皆が猟兵として少女を救いに来たのだと知り、仲間達は頷き合う。
「すまないな、驚かせる心算は無かったのだが」
「こんばんは。イルセ……でいい?」
 ボアネルが声を掛け、リーヴァルディが礼儀正しく挨拶をするとイルセは飴の包みをぎゅっと握り締めた。そうして、彼女は猟兵達に問い掛ける。
「皆さんは、村の人に言われて私を連れ戻しに来たの?」
 こっそり出て来たのに見つかったのかな、とイルセは俯いた。
「ちと違うが、そんなもんだな」
 ユルグは少女が妙に聡いと感じて誤魔化しは行わないことにした。村人はイルセの行動に気付いてはいないが、自分達が連れ戻しに来たのは間違いないからだ。
 彼女が古城に行く心算だという前提でコンラートはそっと嗜める。
「こんな時間に一人で古城に? ……いくら何でもそれは危険だろう」
「でも、妹がそこにいるかもしれないの。ヤーナ、ずっと帰ってこなくて……たったひとりの家族なのに……」
 イルセは心細さを思い出して泣き出しそうになっていた。
 レクシーは彼女の手をやさしく取り、お菓子をもうひとつ手渡してやる。
「はい、チョコレートもどうぞ。甘いものは少しだけ力をくれるから」
「……うん」
 無理に反対してしまうとイルセが反発する可能性がある。それゆえにレクシーのそれは彼女を落ち着かせるのに効果的な気遣いだ。
 レガルタは自分が説得の類が不得手だと分かっている。
 だからこそ正直に真実を言葉にした。
「この先の古城には良くないものが居る。あんたを危険な目に合わせたくない」
 信じられないだろうが、信じて欲しい。
 少年が向けた緋色の瞳は真剣だ。そして、リーヴァルディも自分達は古城にいる吸血鬼を狩りに来たと告げ、ヤーナも其処に捕まっているだろうと話す。
「……イルセ、貴女はどうする?」
「吸血鬼……。やっぱり、あそこは危なかったんだ。ああ、ヤーナ……」
 齢十二の少女とて、この世界に生きている以上は悪鬼の恐ろしさは知っているのだろう。リーヴァルディの問いに答えられない少女は吸血鬼の存在に怯えている。
 妹がもう生きていないかもしれないとまで考えたのか、力なく崩れ落ちそうになった。その身体を晴夜とボアネルがとっさに支える。
 見ればイルセにはちいさな擦り傷があった。
 おそらく此処まで走ってくる間に転んだのだろう。ボアネルは傷に手を翳し、生まれながらの光による癒しを施した。
 そして、ボアネルはイルセをしっかりと立たせてから、静かに願う。
「村に引き返すだけなら安全だ。家で待っていてくれないだろうか」
「…………」
 少女は逡巡している。
 古城に向かいたい気持ち。吸血鬼の存在に怯える心。妹の無事を願う思い。
 そのどれもが痛いほどに分かり、コンラートは顔をあげる。
「絶対に私たちの誰かと行動してくれると約束できるなら連れていける。イルセ、決めてくれるか?」
 コンラートは彼女の思いを尊重したいとして是非を訊ねた。
 考え込んだイルセと目線を合わせるように屈み込み、ユルグは問う。
「これでも少しは腕に自信があるもんで、お嬢さんが一人で乗り込むよりは安全にお迎えに行けると、思うんだけど。どうだろ。やっぱり信じるには、足りないかい」
「……本当に、ヤーナを助けてくれる?」
 ユルグ達に真っ直ぐな眼差しを向けたイルセの目には涙が浮かんでいた。
 妹に早く会いたい。
 けれど、自分が吸血鬼の住処に向かっても何も出来ないことは分かる。言葉にしないまでもそう思う心は伝わって来た。
「……ん、分かってると思うけど一緒に来るのは危険……」
「安心しろ、私達が必ず助け出し、妹を君の家に連れて帰ろう」
 リーヴァルディはこくりと頷き、ボアネルも約束すると告げて視線を合わせる。
 レガルタとレクシーも少女を見つめ、その気持ちを後押ししていった。
「連れ戻った時に、あんたが居ないんじゃ、ヤーナは……たぶん悲しむ」
「あなたは妹さんを大切に思っているのでしょ? 信じてる? 無事に帰って来ると信じてあげられる?」
 もしそうなら、あなたは待っていてあげて。
 レクシーの言葉に続き、晴夜も少女へ思いを伝えていく。
「ヤーナさん、きっとお腹を空かせて帰ってくると思いますよ。なので今から暖かい料理を作っておいて欲しいのです」
 絶対に助け出してみせますから、と告げた晴夜の言葉で少女の心は決まった。
 分かったと頷いたイルセは村に戻ることを告げ、妹から聞いたという古城までの詳しい道程を猟兵達に伝える。
 無理にでも少女がついてくる懸念は消えたと感じたリーヴァルディは頷いた。
 そうして、古城へ向かう猟兵達に少女は手を振る。
「私……ヤーナだけじゃなくて、皆さんのごはんも作って待ってるから!」
 だから、絶対に皆で帰って来て。
 懸命な心からの思いを受け、コンラートとオルグは手を振り返した。
 信じて送り出してくれた少女が駆けていく背を見つめ、その姿が見えなくなった後、猟兵達は行先を見据えた。
 
 目指すは森の奥。冬薔薇が咲く、悪しき吸血鬼の住処。
 ――戦いは、此処から始まる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『罠と解放』

POW   :    力づくでなんとかする

SPD   :    足を使って館内索敵

WIZ   :    魔法や頭を使って助ける

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●薔薇の古城へ
 森の奥に進み、辿り着いた先には城門が開かれた古城があった。
 扉の向こう側には城の前庭が見えた。
 其処には伝え聞いた通り、一面に深紅の薔薇が咲いていた。そして、更にその奥には古城の正面入口が見える。
 その扉もしっかりと閉じられてはいないらしく、押せば開くものだ。
 だが、城門から庭を窺った猟兵達は不穏な気配に気が付いていた。薔薇の生け垣に隠れてはいるが庭には幾つかの黒い影が彷徨っていた。
 それらは吸血鬼の眷属であり、噂に誘われた少女を捕える役を担わされている存在だと分かった。
 しかし、眷属達からは弱々しいオーラしか感じられない。
 頷きあった猟兵達は一気に庭を駆け抜けると同時に、素早く影を攻撃した。
 ぱりん、とちいさな音がしたかと思うと眷属の身体が崩れ落ちる。どうやら影達は一撃で壊れる程度の強さしかないらしい。
 見る間に薔薇の庭園に彷徨っていた眷属達は滅び、辺りから敵の気配が消えた。
 そして猟兵達は古城の入口に立ち、内部に続く扉に手を掛けた。
 城の中はしんと静まり返っていた。
 だが、悪しき存在の気配は感じる。おそらく、先程の影の眷属が何体も城内をうろついているのだろう。

 高さから見て、城の構造は三階建て。
 階段は正面玄関から見える所にあり、階の移動は容易そうだ。
 内部にあるであろう部屋は複数。大広間、幾つも並ぶ客室。遊戯室や浴室、武具倉庫。また、地下に続く階段があることも見受けられる。
 そして、一瞬だけ何処かから細い声が聞こえた気がした。それがどの部屋から聞こえてきたものなのかは遠すぎて分からない。
 影の眷属に襲われる心配はあるが、猟兵達の腕があれば撃退は容易い。
 また、首魁であるゼラの死髪黒衣がいるとされる部屋は他よりひときわ豪奢な扉であると予知されている。

 先ず救うべきは城内の何処かにいる三名の少女。
 おそらくではあるが彼女達は別々の部屋に囚われている。
 君は何処を探索し、どのような行動を取るのか。すべては君達が思う儘。予知の指標はないが、だからこそ自由な行動こそがきっと功を奏する。
 さあ、今こそ――救いの手を伸ばすときだ。
リーヴァルディ・カーライル
…ん。私が敵なら新しい体の候補になる少女を無下には扱わない
美しく磨いて、少しでも良い状態にしたいと思うはず

…まずは浴室…構造的に恐らく一階…に向かい、その後、客室を順に回っていく

…事前に装備に【常夜の鍵】を刻んでおく
防具を改造して魔力で光源を生むようにして、必要なら灯りをつける

城内では大鎌はしまい、短剣の投擲と銃で黒い影を排除する
黒い影が潜んでいる場所を見切り、第六感が危険を感じたら即座にその場から退避する

囚われた少女を見つけたら、自分の名前と助けに来た事を告げ、
もう大丈夫だと鼓舞した後、【常夜の鍵】の中へ案内する
必要なら他の猟兵が保護した娘も一緒に中に匿う
…安心して、この中は安全だから


レクシー・ジー
白馬の王子様じゃなくて申し訳ないけれど、身も心もきっと救い出してみせる

【WIZ】
地上階の部屋に囚われているのなら逃亡を阻止する為の工夫が成されているかも
城の外観を観察して格子や板等で塞がれた窓の有無を確認
あれば記憶し内部の部屋の並びと照らし合わせて優先的に捜索するの
微かな声や衣摺れも聞き漏らさないように神経を研ぎ澄ませて

辺りの精霊達にも助力をお願いしましょ
少女達には闇を照らす為の灯りや泣き疲れた喉を潤す為の水が必要だもの
わたしの武具に宿る精霊達からも呼び掛けさせるわ
無事発見出来たら優しく寄り添い落ち着かせてあげる

闇の眷属に会えば躊躇なく消えて貰うの
ごめんなさいね、あなた達は救ってあげられなくて



●探索開始
 城内は不気味なほどに静まり返っていた。
 一瞬だけ聞こえた声も今は止んでいる。あとは自分達の足で探す他ないとして、猟兵達は数組に分かれて探索を行うことを決めた。
 一階、二階、三階。そして地下。
 其々に踏み出した猟兵達は、必ず救うという意志を固めて城内をゆく。

●一階、水音響く闇の奥
 息を殺し、豪奢な絨毯が敷かれた廊下を進む。
 炎の精霊の棲まうランタンを掲げ、レクシーはリーヴァルディと共に歩んでいた。
 オブリビオンが此処を巣窟としてから手入れが十分になされていないのか、廊下の隅には埃が溜まっている。
 あの庭はあれほど手入れされていたのに、と外部と内部の差に違和を覚えながら、リーヴァルディは前を見据えた。
「……ん。私が敵なら新しい体の候補になる少女を無下には扱わない」
 美しく磨いて、少しでも良い状態にしたいと思うはず。
 そう推理したリーヴァルディの意見にレクシーも同意した。構造からして一階にあると踏んだ二人は先ず浴室があるであろう位置を探っていく。
「何か聞こえるわ」
「浴室……きっと、向こう」
 レクシー達はちいさな水音を聞き取り、その音の元を辿っていった。やがて廊下の最奥に辿り着けば、何かが滴る音がはっきりと聞こえて来た。
 だが、ドアノブを握った瞬間、レクシー達は妙な匂いを感じる。
「鉄……いえ、血の匂い?」
「それに何かいるみたい」
 警戒を強めたリーヴァルディ達は浴室の扉を開いた。
 すると奥には鮮血で満たされたバスタブが見えた。その傍には人型をした影の眷属が一体。そして――血を抜き取られたであろう少女の亡骸が転がっていた。
 咽返るような死の匂いの中、此方を侵入者だと見做した影が襲い掛かってくる。
 リーヴァルディはその軌道を読み、即座に一閃を避けた。その隙を狙ったレクシーは魔力を紡ぎ、周囲に渦巻く闇の属性を魔力の弾に変えて放つ。
 それは一瞬のこと。
 リーヴァルディが身を翻した時には既に影の眷属は消え去っていた。
「……予知で視えたという子かしら」
 レクシーは、血を抜かれ横たわる少女の亡骸に瞑目する。
 バスタブに満たされた血はきっと彼女だけのものではない。きっとこれまでゼラの犠牲となった少女達のものだ。
「多分、そう」
 リーヴァルディは亡骸に布を被せてやり、唇を噛み締めた。
 悪趣味だ。少女の命を奪って尚、このような仕打ちをするなど赦せない。リーヴァルディが暫し俯く中、レクシーは複雑な思いを振り払って顔をあげた。
「行きましょう。まだ救える命もあるわ」
「……ん。その為に私達が来た」
 リーヴァルディも死した少女の傍から立ち上がる。そして、彼女の第六感が『この近くにまだ誰かいる』と告げていた。レクシーが傍に呼び寄せた風の精霊もまた、ざわざわと何かを示すように外に注意を向けている。
 あっち、と浴室を出たリーヴァルディに続き、レクシーも廊下に向かう。すると今の僅かな戦闘音を聞きつけて来たのか、二体の影が迫ってくる姿が見えた。
 頷きあった二人は攻撃に移る。
 影絵の兵団が解き放たれ、風精霊の杖から魔力が溢れた。
「邪魔。退いて」
「ごめんなさいね、あなた達は救ってあげられなくて」
 瞬く間に敵を撃破した二人は先を急いでいく。
 そうして二人は一階の片隅にある鍵のかかった小部屋に辿り着く。手早くドアノブごと扉を壊して中に入ると、古びたベッドに少女が力なく横たわっている姿が見えた。
「ひっ……! 誰……?」
「助けに来たわ。白馬の王子様じゃなくて申し訳ないけれど……もう大丈夫」
 驚いて体を起こした少女にそっと近付き、レクシーはやさしく声を掛ける。
 その顔は涙に濡れていたが身体は何ともないようだ。
 リーヴァルディは少女を安心させる為に名乗り、心配しなくていいと鼓舞する。二人が影の眷属の仲間ではないと知った少女は安堵を覚えたのか、思わずレクシーに抱きついてくる。もう怖いことはないわ、とその背を撫でてやった彼女はリーヴァルディに目配せを送った。
 そしてリーヴァルディは魔法陣を描き、常夜の鍵を発動させる。
「……安心して、この中は安全だから」
「うん……!」
 ユーベルコード製の『常夜の世界にある古城』に繋がるゲートをひらいたリーヴァルディは少女をその中へ避難させた。
 これで一人目の少女が保護できた。
 一階には他に囚われた人間は居ないようだ。レクシーとリーヴァルディは上階に向かった仲間達に合流しようと決め、しっかりと頷きあった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

レガルタ・シャトーモーグ
ここか…
見つける迄に邪魔が入らなければいいが…

物陰に隠れながら移動
眷属を見つけたら不意打ちで倒したい
複数の眷属がいて死角が無い場合は鈴蘭の風で一掃を狙う

ここの吸血鬼がボンクラでなけりゃ、程なく侵入には気づかれるだろう
奇襲を警戒し素早く事を為す事を優先する
念の為廊下と部屋の大きさも測っておき、廊下と比べて部屋が狭いと感じたら隠し部屋を疑う

地下から鍵開けで閉じた部屋を中心に捜索していく
客室など隠れる場所が多い部屋は、眷属が居ない事を確認後
助けに来た、居るなら出てこい
と、小さい声で呼びかける

少女が居た場合は大きな声を出さないように制し
城の外へ逃がすか、出口に一番近い部屋に隠れているように言っておく


匕匸・々
この様な場所に一人きりで居るのは
少女達にとってさぞかし恐ろしいことだろう

【SPD】
豪奢な扉は避けつつ数の多い客室を。
【聞き耳】で声や物音が聞こえる部屋があればそちらを優先的に。
何も聞こえぬようならば順に探していこう。

ただし扉を開ける際や曲がり角の先を進む際には慎重に。
錬成カミヤドリで短剣を複製して眷属の襲撃に備えておこう。
敵がこちらに気付いていない場合には【暗殺】で先手を。

少女を発見した場合にはもう大丈夫だと声を掛け、
歩けるようならば共に、歩けぬようならば抱えて出口を目指す。
怖いだろうが…守らせてくれ、と錬成カミヤドリを俺達の周りに配置。
【オーラ防御】で何時でも少女を庇えるようにしておきたい



●二階、暗闇が満ちる先へ
 一方、正面階段を上った先。
 二階に向かったのはレガルタと匕匸・々(一介・f04763)のふたりだ。
「――こっちだ」
 息を潜めて手招いた少年に続き、々も物陰に身を隠す。
 真っ直ぐに続く廊下。
 既に日は落ち、外から射し込む光などない。ゆえに先は闇に包まれており、何もなくとも不穏な空気が流れているように思えた。
(「この様な場所に一人きりで居るのは少女達にとってさぞかし恐ろしいことだろう」)
 々は囚われの少女を思い、敵の気配を探る為に聞き耳を立てる。
 ギィ、と何処かで何かが軋む音がした。
 レガルタと々は視線を交わしあい、それが敵の近付いてくる音だと確かめる。そして、影が視界に入った瞬間。
 レガルタが宝珠を掲げ、々が掌を振り下ろす。
 途端に闇の中に鈴蘭の花が舞い、舞った懐剣の一閃が影を斬り裂いた。
 崩れ落ちた眷属が消え去るのを見下ろした後、レガルタは廊下の先へ進む。
「ここの吸血鬼がボンクラでなけりゃ、程なく侵入には気づかれるだろう」
 眷属もまた吸血鬼の力の一部。
 急ごう、という旨の視線を受けた々も警戒を怠ることなく歩いてゆく。
 二階は客室が多いらしく鍵が掛かった部屋も少ない。敵がいるかもしれない懸念も抱えつつ、二人は手分けして部屋を探っていった。
 そして、々は妙な扉を見つける。
「少しいいか。ここに遊戯室があるようだ」
 小声でレガルタを手招いた々は、その扉にだけ鍵がかけられているのだと告げた。
 鍵を壊すことで音が響く危険もあったが、中に何かがある可能性は高い。
 頼む、と告げたレガルタに頷き、々は周囲に纏った懐剣を一気に扉に放つことで鍵ごと扉を壊した。
 そして、二人は遊戯室内に飛び込む。すると其処には――。
「う……うう、……助けて……」
 的が描かれた壁に縛られ磔にされている少女の姿があった。それに加え、その周囲には数体の影が蠢いている。
 囚われた少女が玩具にされているのだと感じ取り、々は即座に床を蹴った。
「待っていろ」
「すぐに助ける」
 呼び掛けた々が手にした刃で敵を斬り裂く中、レガルタも再び鈴蘭の花を舞わせる。刃の軌跡と白い花が遊戯室内を彩り、影は次々と伏していった。
 敵もレガルタに近付いて闇の力を放ってきたが、彼は冷静に指先を動かす。
 刹那、引かれたリングに繋がる暗器から飛針が放たれた。影が割れ、まるで硝子が割れるような音が響いたと思った直後にはもう眷属達は全て倒れていた。
 縄で吊るされたうえに壁に張り付けられている少女に駆け寄った々は、懐剣の刃でそれを解いてやる。
 少女の腕や足には縛られた跡が残っていたが命に別状はないようだ。
「どうしてこんな……」
「生意気だから、暴れるから、お仕置きだって……」
 々が少女の置かれていた状況に疑問を落とすと、そんな答えが返って来た。
 レガルタは無言のまま拳を握り、吸血鬼の所業の酷さを思う。
「……」
 普段より影が宿っている表情に更に暗い色が落ちた。レガルタが心を痛めているのだろうと感じながら、々は眸を伏せる。
 此処に来る前、猟兵の一人が限定空間に転移できるユーベルコードを持っていると言っていた。ならば先ずは其処に少女を送り届けることが先決だ。
「俺の仲間が安全な場所に隠れられる力を持っている。まずは避難してくれ」
 々がそう告げると少女は頷き、でも、と言葉を続ける。
「もうひとり、連れていかれた子がいたの。三階のどこかに引っ張られていったから……お願い、助けてあげて!」
「分かった。必ず助けよう」
 悲痛な少女の願いにレガルタが答え、静かに頷いた。
 この城に囚われている者はすべて――ゼラの黒衣にその身を奪われている少女も含めて救い出してみせると決め、猟兵達は遊戯室を後にした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

コンラート・シェパード
(※アドリブ、マスタリング歓迎)
【SPD】
【聞き耳】を駆使しつつ【追跡】
人型よりも狼型のほうが上記二種の技能の精度が上がるなら狼に変身

仲間とは手分けして探し
私は人手の少ない方へ
部屋を探索し少女を探す際は、普段は槍であるドラゴンにも協力を仰ぐ
もし見つけられたなら(狼型であった場合は扉開ける前に人型に戻り)
膝をついて目線を合わせ、怪我をしていないか等尋ねる
…驚かせてしまったら申し訳ない

縛られていたなら縄を切り、穏やかに話しかける
「助けにきたぞ」
怖い中よく頑張ったな、もう大丈夫だ、と怖がられないようだったら頭を優しく撫でて微笑む
さあ、一緒に帰ろう。皆心配しているよ。
【手をつなぐ】為に手を差し出す


ユルグ・オルド
さってと、仲間も居るんなら手分して探すとしようか
右に行く左へ行く?
上か下か、人の少ない方に行くとしよう
そんで部屋をしらみつぶしかね情報共有も宜しくな

鍵や開かない扉は、……まあそこはね
どっかしらでマスターキーが見つかりゃいいけど
そうでなけりゃ錬成カミヤドリで呼び出したシャシュカの一本で
つまり物理的になんとかしようってんだけども
助け出す前にお出ましとあっちゃ困るんであんまり騒ぎにならないように、音は控えるつもりだよ
歩くのに邪魔なら薔薇でも切るさ
眷属相手ならやってやろうじゃねえの
来た道くらいは、脱出経路代わりに記しとくかな
お嬢さん方だけは戻さないと
約束したんだから、まだ戻るわけには、いかないさ



●三階、繋いだ手と約束
 同じ頃、三階の探索を行う者達は妙な気配を感じていた。
 城内は静かだ。しかし時折くぐもった声のような音が何処かから聞こえている。三階に上ってから聞こえて来たのだが、それは酷くちいさく捉え辛いものだった。
「人の声か……?」
「そうみたいだな。少女のものかはわからねえけど」
 コンラートが声を潜めて問えば、ユルグも耳を澄ませる。
 調べる人の少ない場所へ、と三階に向かったのは古城までの道中を共にした二人。この階に上がったときに聞こえた声が鍵になると察して、彼らは注意深く廊下を進んでいった。
 暗い、ただ昏い道の先。
 ちいさな物音ですら吸い込まれていきそうな暗闇。
 その先にコンラートは動くものを見た。少し奥の扉、その細い隙間からするりと抜け出てきたのは影の眷属。どうやらまだ此方には気付いていないようだ。
「敵だ。来る前にやるか」
「さってと、掃除しとくか」
 コンラートの呼び掛けにユルグが応え、二人は床を蹴る。音もなく、影の眷属を捉えた彼らが相手を屠るのにかかった時間は一瞬。
 錬成された彎刀が舞い、竜槍が振り下ろされる。刃がユルグの元に還り、コンラートの槍が元の子竜に戻るころには影の魔物は跡形もなく消え去っていた。
 そして、二人は影が出て来た扉を見遣る。
 見るに錠が掛けられており、入るには何かしらの鍵が必要そうだ。
 しかし現在のところはマスターキーのようなものは発見できていない。壊すとなると音が響き、敵が集まってくるかもしれない。ユルグがどうすべきか考えていると、聞き耳を立てていたコンラートの耳が妙な声を拾った。
『……っ、……! ――!』
 聞こえたかとコンラートが問うとユルグも頷く。
 三階に辿り着いた時に聞こえた声だ。しかもそれはどうやら少女のものらしい。
 こうなれば物音など気にしている暇はない。ユルグは己の周囲に幾本ものシャシュカを浮遊させ、一気に扉に向けて解き放った。
 その剣先が狙ったのは扉を閉ざす錠。甲高い音が闇の中に広がった後、扉をひらいたコンラートが内部に跳び込んだ。
 其処には二体の影に取り押さえられて尚、暴れ続ける少女の姿があった。
「……離し、てっ……! あ、ああ、たすけ――」
 少女はユルグ達の姿を見ると目を見開いて腕を伸ばす。
 見れば床に外れた猿轡が落ちている。妙にくぐもった声だったのはこの所為か。これまでも彼女なりに必死に逃げようとしていたのだろう。
 敵は彼女を尚も押さえつけようとしていたが、その方が都合が良い。
 何故なら――敵が此方に襲い掛かってくる前に斬り伏せることが出来るから。
「ああ、助けに来たぞ」
「邪魔な奴らはすぐに斬ってやるさ」
 これまで斬って来た敵と同じようにコンラートとユルグが槍と刃を振るった。抵抗すら出来ずに崩れた影の腕から少女が解放される。
 おっと、と駆け寄ったユルグが彼女の身体を支えた。
 コンラートは少女に傷がないかを確かめ、無事であることに安堵を抱く。
「怖い中よく頑張ったな、もう大丈夫だ」
 背の高い男性相手に一瞬はびくっと身体を震わせた少女だったが、コンラートが優しく頭を撫でて微笑んだことで緊張を解いた。未だ十歳にも満たないであろう少女はユルグにぎゅっとしがみ付き、大粒の涙を零す。
「こわかった……こわかったよお……!」
「一人でも逃げようとしてたのか。えらいな」
 ユルグは少女をあやし、ゆっくりと身体を離して自分の足で立たせてやった。
 扉を壊す際に大きな音を立ててしまった以上、新手の影が現れる可能性も高い。迅速な行動こそが少女の安全に繋がる。
「さあ、一緒に帰ろう。皆心配しているよ」
 コンラートが手を差し伸べれば少女もその手を強く握った。
 ユルグはこれまで来た道を引き返して仲間の元へ向かう。おそらく今頃は他の者達も囚われの少女を見つけている頃だろう。
 だが、現在のところはゼラの死髪黒衣が居るとされる部屋もそれらしき扉も見つかっていない。気にはなるが先に行うべきは保護だ。
「とにかく今はお嬢さん方だけは戻さないとな。約束したんだから、成し遂げるさ」
 ユルグは決意を言葉に変え、敵を排除する為に先を進む。
「安全な場所に繋がる魔法陣を描ける仲間がいる。そこまで頑張ってくれ」
「わかった……!」
 そうしてコンラート達は少女を伴って階下へと向かった。
 きっと首魁は昏き地下にいる。
 そんな予感を覚えながらこの先に巡る戦いを思い、彼らは進んでゆく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

夏目・晴夜
【SPD】
オブリビオンの思考回路なんざ理解しかねますが
客室や広間等の、いわゆる普通の部屋に
自身の肉体のストックを置いておくのは不自然な気もしますね
依代を移る時以外は使い道のないものですし

なので普段は使わなさそうな地下室や、
首魁がいるとされるひときわ豪奢な扉とは真逆の印象の
古びた扉あたりから足を使って調べていきます
隠し部屋が無いかにも気を配りつつ、
出来る限り早く見つけて助けて差し上げたい気持ちです

眷属に出くわした際には【妖剣解放】での高速移動を活かして
手早く切り裂いてぶち壊してしまいたく
もたもたしていては囚われの少女たちの不安を煽ってしまいますし、
イルセさんの折角のごはんが冷めてしまいますしね


ボアネル・ゼブダイ
「薔薇か・・・美しいが血の臭いがするな」
囚われた少女達を探索するためにまずは地下室へ向かう。
もし既に探索済みであるならば、幾つも並ぶ客室、遊戯室、武具倉庫の順番で探索し、探索中の猟兵がいれば協力して探す
付近に話が聞ける動物がいれば【動物会話】で彼らから話を聞き、情報を得る
発見した場合は囚われた少女が衰弱してる場合は【生まれながらの光】や【医術】あるいは【食糧袋】から軽い食事や水を出して少女達を治療する
発見した後は完全に付近の危険性が無くなるまで少女達を護る
「もうしばらくの辛抱だ、必ず君たちを無事に家に帰そう」
【他の猟兵達との絡みやアドリブ大歓迎】



●地下、影は色濃く闇に沈む
 深い闇が周囲に蠢き、襲いかかってくる。
 地下に向かった晴夜とボアネルは今、多くの影に取り囲まれていた。
「今です、ボアネルさん」
「承知した」
 解放した妖剣で敵の一閃を受け止めた晴夜は仲間の名を呼ぶ。その合図を受けたボアネルはフランマ・スフリスの名を冠する剣を振りあげ、敵を斬り裂いた。
 周囲にはまだ影が蠢いているが、ボアネルが召喚したインプ達がそれらを相手取っており、戦いは猟兵達にとって優勢だ。
 いま斬り伏せた敵でもう何体目になるだろうか、この地下には妙に敵が多い。
 晴夜も悪食の一振りで以て影の眷属を祓い、地下の奥を見据える。
 オブリビオンの思考回路など理解しかねるが、晴夜が予想したのは客室や広間等の、いわゆる普通の部屋に自身の肉体のストックを置いておくのは不自然だということ。
 それゆえに先ず地下を探すと言っていたボアネルにそちらを任せ、一階に隠し部屋などが無いかを探していたのだが――晴夜は気が付いてしまった。
 ボアネルが向かった地下から、恐ろしいほどの闇の気配が漂っていることに。
 そして現在、二人はこうして戦っている。
 ボアネルとて地下にひしめく眷属の多さに気付いて一度は引き返そうと考えた。だが、逆に考えればこれほどに敵が居る奥には何かがあるのではないか。
 そう考えて敵を一掃しようとした矢先、晴夜が加勢に訪れたというわけだ。
 何体もの眷属を倒しながら二人は進む。
 薄暗い地下の道中。石畳の地面は硬く冷たい。ふと一輪の花が落ちているのを見つけ、ボアネルはそれを拾いあげた。
「薔薇か……美しいが血の臭いがするな」
「この辺りは薔薇の庭の下にあるようですね」
 ボアネルが萎れかけた花に向けて溜息をつく中、晴夜は地上と地下の位置関係を探る。二人とも薄々と気付いているが、この地下は禍々しい空気に満ち過ぎている。
 地下牢でもあれば違っただろう。だが、あるのは只管真っ直ぐに続く石畳だけ。
 そして、新手の気配を察した二人は身構える。
「また影がいますね。蹴散らしましょうか」
「やはりか。随分と手堅く守られているようだな」
 これほどまでに眷属に守らせているのだ。おそらく地下に囚われた少女はいない。奥にあるのは間違いなく、ゼラの死髪黒衣がいるとされる部屋だ。
「確かめるまで引き返すことはできません」
「ああ、此処まで来たのだからな」
 いきますよ、と晴夜が地を蹴ればボアネルが詠唱を紡ぐ。
 晴夜は迫り来る影に悪食の刃を振り下ろし、ボアネルによって召喚された異界の戦士が其処に続いて剣を薙いだ。
 一撃ごとに一体が倒れ、影の眷属は見る間に倒れてゆく。
 そうして二人は最奥に辿り着く。
 其処で予感は確信に変わり、晴夜とボアネルは頷きを交わした。
 目の前にあるのはこれまで見てきたどの扉よりも豪華な装飾が施された大きな扉。そして、部屋の中から甘い花の香りが漂ってきている。
 すると、後方から他の猟兵達が訪れた。
 彼らは無事に三人の少女を安全な場所に保護した後、まだ戻ってきていないボアネル達を探しに地下に訪れたらしい。晴夜達が往く手を阻む敵を蹴散らしたお蔭でこうしてすぐに追い付けたようだ。
「少女達が無事ならば、後は悪しき吸血鬼を屠るだけだ」
「はい、手早く行きましょう。イルセさんの折角のごはんが冷めてしまいますしね」
 ボアネルは視線を戻し、晴夜も集った仲間達と共に扉を見据える。
 そのとき、不意に扉の奥から声が響いた。

『――ねえ、私の城を勝手に荒らすのは、だあれ?』

 その声は艶めかしく、それでいてぞっとするような冷たさを孕んでいた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『ゼラの死髪黒衣』

POW   :    囚われの慟哭
【憑依された少女の悲痛な慟哭】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    小さな十字架(ベル・クロス)
【呪われた大鎌】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
WIZ   :    眷族召喚
レベル×5体の、小型の戦闘用【眷族】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
👑17
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は吾唐木・貫二です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●冬薔薇古城の主
 囚われた少女達を古城から助け出し、猟兵が辿り着いたのは地下の奥深く。
 何処よりも豪奢な装飾が施された扉の前に立てば、妖しい声が響いた。
「――ねえ、私の城を勝手に荒らすのは、だあれ?」
 それと同時に扉が軋んだ音を立てながら開いてゆく。
 先ず見えたのは豪華なシャンデリア。其処には幾つもの蝋燭が燈っており、部屋の中には灯りが揺らめいている。
 奥には天蓋付きのベッドや金装飾が施されたテーブルや調度品の数々。
 広さは古城に入る前に通って来た薔薇の庭の半分ほどはあるだろうか。とにかく広くて豪華だという印象を受ける部屋だ。

 そして、部屋の中央に黒衣を纏った少女が立っていた。
 あれこそが此度、斃すべき存在――ゼラの死髪黒衣。
 本体は黒衣の方であり、その肉体は罪なき少女のものだ。
 彼女の姉であるイルセと言葉を交わした者は、彼女が間違いなくその妹であるヤーナだと分かった。姉妹の顔立ちがとてもよく似ていたからだ。
 しかし、その身にはゼラの意思が宿っている。
 一気に部屋に踏み込んだ猟兵達は彼女を取り囲む。だが、相手は全く動じる様子を見せずに一人一人を眺めた。
「私の可愛い眷属達を倒してまわっていたのは貴方達?」
 ふぅん、と此方を見定めるような視線を向けた少女は手をそっと掲げる。
 すると途端にその手に禍々しい大鎌が現れた。
「私の城で好き勝手した子達にはお仕置きをしなきゃね。ふふ……この身体の使い心地も確かめてみたかったから丁度いいわ」
 少女は双眸を細め、口許を歪める。
 かかってきなさい。そう告げているかのように猟兵達へ鎌の切先が向けられる。

 このまま少女ごと黒衣を葬るのは簡単だが、そうはいかない。
 真の意味で勝利するならば少女の身体から何とかして黒衣を剥がし、本体と分離させる必要がある。敵もそれを分かっているがゆえに抵抗するだろう。
 敵とて全力で此方を殺そうとしてくる。
 戦いが熾烈を極めることは、この場の誰もが感じ取っていた。それでも猟兵達が戦いに向ける意志は強い。何故なら、『約束』があるからだ。
 ――絶対に皆で帰って来て。
 妹を心配する少女から告げられた思いを胸に。そして、悪逆非道の路をゆく吸血鬼を屠る為に、猟兵達は敵を見据えた。
ボアネル・ゼブダイ
「聞こえるか?あと少しの辛抱だ、ヤーナ」

相手の眷属召喚に対して従順たる悪意を発動
本体をより狙いやすくするため眷属を蹴散らすよう攻撃

黒衣を攻撃する猟兵が多ければ生まれながらの光や招き入れる歌声で猟兵達の回復も行い
仲間達が危なければ全力で回復作業に専念

逆に少なければ血呪解放で防御力を上げて囚われたヤーナとの分離を最優先として攻撃

ヤーナを死なせないよう注意深く観察して
もしヤーナへのダメージが深ければ生まれながらの光を使い回復を行う

戦闘後は容態を見てヤーナを治療
「家に帰ろう、イルセも君を待っている」

もしヤーナを死なせてしまった場合は彼女の冥福のために静かに祈る
(他の猟兵との絡みやアレンジ大歓迎)


夏目・晴夜
【SPD】
そんな積極的に接近して下さるだなんて照れますね

敵が30cm以内まで近づいてきた瞬間を狙って「カウンター」
空いている片手でヤーナさんに纏わりついている忌まわしい黒衣を掴み、
妖刀でその黒衣のみを思い切り「串刺し」にします

少しでも黒衣を切り裂いて、破く事が出来ていたら御の字です
きっと黒衣の剥ぎ取りの成功に繋がる事でしょう

万が一痛手を受けてしまう事があろうとも気にせずに挑む所存
我々の傷は生きてさえいればどうとでもなるものですし、
私は最後に褒められさえすれば何でもいいのです

しかし、犠牲になってしまわれた方々の命はもう戻りませんのでね
弔いの為にも、約束を守る為にも、此処で塵と化して頂きます


レガルタ・シャトーモーグ
あのローブが元凶か…
人質を取られてるのは厄介ではあるが…、約束が、あるからな
少し慎重にいくか

遮蔽物に身を隠し、相手の出方を伺う
飛針やワイヤーで牽制しつつ距離を詰め
咎力封じで【囚われの慟哭】の封印を狙う

少し荒っぽくなるが、耐えてくれ

上手く行かなかったら再度攻撃のチャンスを待つ
背後や攻撃をした直後の隙を突き
手枷や拘束ロープで一瞬でも動きが止まれば
悪趣味なローブを引っ剥がせるチャンスもできるだろう

こんな辛気臭い服、あんたには似合わない
まだ意識があるなら戻ってこい

ローブを分離後、ローブ単体でも襲ってこないかは注意しておく
こんなもの、さっさと燃やしてしまえ


リーヴァルディ・カーライル
…ん。約束は果たす。あなたの妹は必ず連れて帰る
その為にも精々、油断して。お前の黒衣だけを私は狩るから

…【限定解放・血の教義】を発動
吸血鬼化して増幅した生命力を術式に吸収して魔力を溜め、
“闇属性”の“過去を世界の外に排出する力”を2回発動し両手で維持
1回目で眷属をなぎ払い、反動で傷口が抉れる痛みを呪詛にして闇を強化しながら
敵の行動を見切り、怪力を瞬発力に変換して接近
攻撃を【吸血鬼狩りの業】と第六感で回避しながら2回目の攻撃を行う

…これが私の魔法。過去を抉りだす闇
お前のような相手を狩る為に編み出したもの
消えなさい。永遠に…


…ん。イルセ、3人ほど追加しても大丈夫?
彼女達にも、何か温かいものを…


ユルグ・オルド
名乗りくらいは聞いておこうか
そんであんたにはお別れを
ヤーナを迎えに来たんでね

【錬成カミヤドリ】でシャシュカを呼び出し、他の仲間と手数でいこうか
一本は手に、残りは波状の隙間を埋めるように
その衣を縫い留め剥いでやりたいね、
……まァこればっかりは大目に見てくれ
さあ踏み込んでいこうか、目を離さないで最後まで踊ってくれよ
とはいえ、あんまり傷つけたかないなってのはやり難いね
本懐逃すよりはなんとかとしてやらないとなあ
てことで衣と武器狙いでいきてぇところ

誕生日、祝ってやりたいもんな
イルセも、探しに来てたし約束もしたかんね
傍にいてやる時間が何よりの、一番の、贈り物だと思うんだ


レクシー・ジー
大丈夫、大丈夫
命の雫をすくう為に差し伸べられる掌はたくさんあるもの

少女の体を傷つけないよう細心の注意を払うわ
黒衣を引き剥がす隙を窺いながら、そうして隙を生じさせる為に距離を詰めるの
大鎌の攻撃はステッキで受け流し、眷属は精霊銃で撃退し
慟哭はミレナリオ・リフレクションで掻き消して
一緒に哭いてあげるわ、あなたの気の済むまで
ゴーグルに宿した光の精霊を解き放てば一瞬の目眩しにはなるかしら
隙をついて強く抱き締め拘束を試みる
わたしが、あるいは仲間が、呪わしい黒を遠退けるまで

待っていてくれるひとがいるって幸せなことだと思うの
血塗られた悪夢は夜明けまで追っては来させない
だから一緒に帰りましょうね


コンラート・シェパード
(※アドリブ、マスタリング歓迎)

さあ、帰ろうヤーナ。
怖い夢は、もう終わらせよう。

◆戦闘
ヤーナを絶対に傷付けない
仲間との連携を意識

HPの低い者を優先的に【かばう】
攻撃を受ける際は可能な限り【武器受け】し攻撃を受け流す

隙あらばユーベルコード『灰狼』を発動
【スナイパー】で命中率を出来るだけ高め、【2回攻撃】で発動回数確保に努める
灰狼等敵のユーベルコードを封じる術が命中したり、ゼラ(ヤーナ)が膝をつく等ダウンしたら、
体格差を活かし羽交い締めにする等して黒衣とヤーナの分離を試みる


匕匸・々
彼女の、慟哭…。
約束を果たす為にも皆で帰ろう。少女と共に。

万一を考えて
黒衣を剥がすまでは少女には攻撃せぬようにしたいところ
少女からの距離を30cm以上に保ちつつ
慟哭には【オーラ防御】で負傷の軽減を

僅かな間隙があれば
シーブズ・ギャンビットで加速し【盗み攻撃】で
攻撃はせずに黒衣と少女の分離を図ってみるとしよう
もしくは仲間の援護に【フェイント】で
俺が目眩ましになるのもありだろうか

近付いた際に大鎌の標的になった場合に
避けられそうであれば【見切り】で回避、
叶わぬようならば【オーラ防御】での防御を

眷属、そして分離後の黒衣には
上記の戦法で…但し盗み攻撃はせずに
直接シーブズ・ギャンビットで攻撃していこう



●慟哭と願い
 大鎌を構えた少女の瞳は闇に染まっていた。
 その意志は今、ゼラの死髪の自我によって塗り潰されているのだろう。其処に自由はなく、ただ悪しき存在の意思だけが見える。
 だが、少女自身の意識も未だ奥底に眠っているはずだ。
 々が敵からの並々ならぬ悪意を受け止めて身構える中、ユルグはゼラ自身に呼び掛けてみる。こうして城主自ら出迎えてくれたのだ、多少の礼儀は見せるべきだろう。
「名乗りくらいは聞いておこうか」
「あら、賊に名乗らなくてはいけない理由があって?」
 相手はユルグ達に向けて嘲笑を浮かべる。それは齢十ほどの少女が見せるような表情ではなかった。
 ユルグは首を振り、己の周囲に呼び出したシャシュカを浮遊させていく。
「そんであんたにはお別れを。ヤーナを迎えに来たんでね」
「ヤーナ、一緒に戻ろう」
 コンラートも体の持ち主である少女にだけ言葉を向けた。だが、少女の眸は氷のように冷たい色を映しているだけ。
「聞こえるか? あと少しの辛抱だ、ヤーナ」
 ボアネルも内に封じ込められている少女の名を呼び、敵に向けて力を解き放つ。
 其処に呼び出されたのは暗く深き闇に蠢く邪悪、従順たる悪意を成すインプの群。往け、とボアネルが命じればインプ達はゼラの大鎌に纏わりつくように突撃した。
 其処に続くようにして晴夜が床を蹴りあげる。
 ひといきに距離を詰めた彼はボアネルのインプ達が敵の気を引いているうちに、と妖刀を振りあげた。
 黒衣の端でも斬り裂ければいい。そう思っての一閃は少女が身を引いた為に当たることはなかった。だが、晴夜はこれで敵の動きが分かったと頷く。
「やはり黒衣を守ろうとするようですね」
「人質を取られてるのは厄介ではあるが……、約束が、あるからな」
 晴夜の言葉にレガルタが呟きを落とした。守らなければならぬものと約束があるとして、レガルタは真っ直ぐに敵を見つめた。
 黒衣を剥がす隙は必ず訪れるはずだ。
 リーヴァルディとレクシーは頷きを交わし、少女の左右へと駆け出す。挟撃を狙った動きは成功すれば相手を追い詰める一歩になる。
 しかし、次の瞬間。
「甘いわね」
 少女が薄く笑ったかと思うと、リーヴァルディ達を遮る形で影が召喚された。
 主を護るようにして眷属は瞬く間に布陣する。
 相手に対抗するように掲げた大鎌でリーヴァルディは影を斬り放った。
「……ん。こっちだってそんなの、予想してる」
「阻まれるなら撃ち落としていくだけいくだわ」
 レクシーも精霊銃の銃口を向けて眷属を撃ち貫いていく。それらは一撃で葬り去れるものだが、問題は数だ。
 レガルタは此方に攻撃を仕掛けてくる影から逃れ、テーブルの裏へと身を隠す。コンラートは少年を守る形で立ち塞がり、状況を冷静に見極めていった。
 影とまともにやりあっていては埒が明かないのだが、それらがゼラへの射線を塞いでしまっているのも事実。
 ユルグは刃を舞い飛ばし、何体かの影を瞬時に葬った。
 しかし、ゼラの黒衣は更なる眷属を呼び出して周囲を守らせる。
「数には数で対抗する心算か」
 々は襲い来る影をダガーで弾き飛ばし、敵を見据えた。
 相対する猟兵が一人であったならゼラも最初から大鎌を振るったかもしれない。だが、周囲を取り囲まれた現状、敵はこう戦う判断を下したようだ。
 向こうから近付いてくれれば好機も得られるだろうが今は隙が見えない。晴夜は眷属を相手取りながら嫌な予感を覚えていた。
「此方を疲弊させる心算でしょうか」
 接敵しなければ黒衣に触れることすら叶わない。相手もそれを分かっているのか、猟兵達と眷属をぶつけて体力を奪おうとしているようだ。
 小癪な、とレガルタが呟くとゼラはくすくすと笑った。
「さあ、あなた達は何処まで抗えるかしら」
「どちらの見立てが甘いか確かめてみるか?」
 対するボアネルもインプを呼び寄せて影達に対抗させていく。
 それでも敵が召喚する眷属の数の方が多く、身を隠したレガルタの方にまで多くの影が迫っていた。レクシーは精霊の銃弾を放ち続け、リーヴァルディもレガルタを追う眷属の背を刃で斬り伏せていく。
「すまないな」
「大丈夫……邪魔なものは全部、壊すだけ」
 隠れさせてもくれないのかとレガルタが肩を落とすと、リーヴァルディは更に身構えた。そして、レガルタもリングから飛針を放つことで敵を仕留めていく。
 眷属に対抗することは簡単だ。
 されど此方も無傷ではいられない。このままではじわじわと力られるだけなのか。コンラートと々が悪い予感を覚えた、そのとき。

『――助けて――!』

 頭の中に響くような声が周囲に響き渡ったかと思うと、憑依された少女の悲痛な慟哭が衝撃となって部屋中を駆け巡った。
 それはゼラではなくヤーナ自身が発した思いだったのだろう。
 その波動は猟兵だけに留まらずゼラの周りにいた眷属をも巻き込むものだった。
 々は衝撃に耐えながら強く床を踏み締める。
「彼女の、慟哭……。約束を果たす為にも皆で帰ろう。少女と共に」
「少しばかり痛かったな。でも、これで邪魔者は消えた」
 ユルグは眷属が一掃されたことを確かめ、手にした刃の切先をゼラに向けた。
「この小娘……大人しく消えていればいいものを!」
 眷属を自ら消すことになってしまったゼラは舌打ちをして自分の身体を見下ろした。少女の慟哭はゼラの黒衣を通すことで禍々しい波動に変質してしまっていたが、今は間接的に猟兵達の助けになっている。
「ヤーナさん、待っていてください」
 すぐに助けますから、と告げた晴夜は一気に敵との距離を詰めた。
 相手も再び眷属を召喚しようとしたが、レクシーとボアネルがそうはさせない。
「何度も呼び出されるわけにはいかないの」
「悪いが邪魔させて貰う」
 瞬時に黒衣の裾がレクシーの銃弾によって貫かれ、ボアネルのインプがゼラに纏わりつくことで一瞬だけ隙が生まれる。其処を狙った晴夜は敵の間近で刀を振り下ろした。
 少女の身体は狙わず、ただ黒衣だけを裂く。
 するとゼラから悲鳴のような声があがった。それは小さく僅かなものだが、確実にダメージとなって響いていることは確かだ。
 コンラートはまた敵が眷属を呼ばぬうちに、と自らも灰狼を解き放つ。
「喰らいつけ、フロウズ」
 呼び掛けと共に幻影の狼が駆け、ゼラの動きを封じる為に飛び掛かった。
 黒衣のみを引き千切らんとして襲い掛かる灰狼。だが、ゼラはその大鎌を以てして狼を弾き飛ばす。
 しかしコンラートは怯まない。一度で駄目ならば二度、それ以上でも仕掛けてみせると決め、再び灰狼を傍に呼んだ。
 刹那、ゼラの傍に新たな眷属が召喚される。
 リーヴァルディは素早く後退し、裡に眠る力を解き放った。
「……限定解放」
 ――吸血鬼のオドと精霊のマナ。それを今、一つに。
 過去を世界の外に排出する力を用い、闇を顕現させたリーヴァルディはは眷属を一気になぎ払う。
「約束は果たす。あなたの妹は必ず連れて帰る」
 リーヴァルディが思うのはイルセとの約束。
 その為には遠慮も何もいらない。
 そう告げるようなリーヴァルディの攻撃に合わせ、レガルタが暗器を投げ放った。本来ならばあの慟哭を止めようとしていたが、現在のレガルタは眷族の召喚を封じようとしている。
「少し荒っぽくなるが、耐えてくれ」
 そう告げながら次々と暗器を放つレガルタは気付いていた。
 衝撃は荒々しいが、あの力は少女がゼラに抗おうとする力のあらわれだ。
 猟兵達にまで波動が襲い掛かるのは厄介だが先ほど受けた程度の痛みならば耐えられる。レガルタは少女も共に戦っているのだと感じ、ゼラの動きを止めようと狙う。
 だが、ゼラは再度影を呼び出した。
 これではまた近付けない戦況が出来てしまう。
 イチかバチか、晴夜はヤーナに掛けてみることにした。猟兵達が呼び掛けた声が届いたからこそ彼女は『助けて』という声を放ったはずだ。
「イルセさんも、あなたのことを待っています」
 そして、晴夜は彼女の姉の名を出す。
 すると――。
『帰りたい……戻りたいよ、お姉ちゃんのところへ――!』
 強い願いが込められた言葉が部屋に響き、衝撃波が巡った。
 それは眷属を一気に薙ぎ倒し、ゼラまでの障害を一瞬で祓う。猟兵達にまで痛みが齎されるかと思いきや、レクシーが描いた反射の魔力がそれを掻き消していた。
「一緒に哭いてあげるわ、あなたの気の済むまで」
「この……余計なことを!」
 ゼラは忌々しげに叫び、大鎌を構える。
 ユルグは仲間が力を封じる隙を作る為に敢えて其処へ飛び込んだ。
「その衣を縫い留め剥いでやる」
 手にした刃で黒衣を斬り裂き、更に浮遊させたシャシュカで波状攻撃を仕掛ける。
 ゼラとて斧で剣を弾き返し、身を翻すことで避けていたが全てを防ぐことはできていないようだ。その度に黒絹が破れ、少女の肌があらわになっていく。
「……まァこればっかりは大目に見てくれ」
 肌を晒されることは年頃の少女には酷だろうが、これは命を救う為の戦いだ。
「大丈夫、大丈夫。命の雫をすくう為に差し伸べられる掌はたくさんあるもの」
「耐えてくれ。その肌に傷は絶対に付けない」
 レクシーも銃による援護を行い、々も衣服だけを狙い続けた。
 そして、ユルグが振るわれた大鎌を受けた次の瞬間。
 事態は動く。
「今だ」
「フロウズ、頼む」
 レガルタが武装暗器から咎を封じる為の力を放ち、其処に続けてコンラートが喚んだ灰狼が駆けた。重なりあった阻害の力は見事に巡り、ゼラが配下を召喚する力と慟哭の衝撃波を同時に封じ込めることに成功する。
「何……? どういうことなの!?」
 自身の能力が阻まれたことに気付いたゼラはたじろいだ。
 そうして、近付くなというように鎌を振り回す。こうなれば後はもう畳みかけていくだけだと感じ、晴夜は敵との距離を一気に詰めた。
 それを防ごうとした少女が至近距離から刃を振り下ろす。
 だが、晴夜は軽い身のこなしで避け、素早い反撃で以て鎌を弾き飛ばした。そして、刀を持たぬ手で黒衣を掴む。
「やめなさい。やめて、止めろ……!!」
 暴れるゼラの黒絹を串刺しにした晴夜は、それをひといきに引き裂いた。
 念力で戻された大鎌が彼を襲い、深い傷をその身に刻む。晴夜はその痛みを気にかけることなく更に黒衣を引き千切った。
「我々の傷は生きてさえいればどうとでもなるものですし、私は――最後に褒められさえすれば何でもいいのです」
 己の信条を口にして、晴夜は敵と距離を取る。
 引き裂かれた黒衣の一部が少女から離れた瞬間、ゼラの禍々しい悪意も少しだけ弱まった気がした。ボアネルは仲間の傷が深いと察して精霊達を呼ぶ。
「――十字架の血に救いあれば、来たれ」
 召喚された光輝く精霊は歌声を紡ぎ、これまで受けた傷を癒してゆく。
 ボアネルの後押しを受けながら、リーヴァルディは黒衣だけを狙い続け、闇を解き放っていった。反動で傷口が抉れる痛みを呪詛に変えれば、闇は更に強化される。
「……そろそろ、終わらせる」
 リーヴァルディとユルグは戦いの終幕が近いと感じ、其々の力を揮った。
「さあ踏み込んでいこうか、目を離さないで最後まで踊ってくれよ」
 ユルグが舞い飛ばすシャシュカは一寸の狂いもなく、元凶たる死髪黒衣だけを次々と切り裂き、細切れにしていく。
 レガルタはユルグが散らした黒衣の切れ端が舞ってきたと気付き、それを手で掴み取った。少年が魔力を籠めれば、呪いの力は掌の中で消失する。
「こんな辛気臭い服、あんたには似合わない。まだ意識があるなら戻ってこい」
 少女自身に呼び掛けたレガルタの声は凛と響いた。
 慟哭はもう、放たれない。
 きっとヤーナは信じている。猟兵達が自分を救い出してくれることを、強く。
 そして、レクシーは精霊に願った。
 ゴーグルに宿した光の精霊を解き放てば、きっと一瞬の目眩しにはなる。刹那、目映い光の一閃が部屋を照らした。
「逃がさないわ。それに、もう大丈夫」
 隙を突いて少女に近付き、その身体を抱き締めたレクシーは仲間に視線を送る。
 それは悪しき敵にとっては拘束だが、罪なき少女にとっては優しい抱擁だ。
「離しなさい!」
「嫌よ。さあ、呪わしい黒を遠退けて」
 暴れるゼラの力は激しかったが、レクシーはその腕を緩めようとはしない。しかし、至近距離に居ることで念力に操られた大鎌の刃が迫る危険もあった。
 されどコンラートが即座に竜槍グリィズルーンで以て鎌を迎え撃った。重い衝撃がコンラートの身体に響いたが、今更それが何だというのか。
「さあ、帰ろうヤーナ。怖い夢は、もう終わらせよう」
 コンラートは少女を呼ぶ。
 それによって一瞬だけ、ゼラに乗っ取られているはずの少女の眸に光が宿った気がした。ゼラの黒衣はもう既に半分以上が引き千切られている。
 それならば、後は――。
「任せてくれ」
 々が床を蹴り、加速する。彼が狙うのは黒衣。
 自らの能力で攻撃と同時にそれを盗んでみせようというのだ。レクシーが決死の覚悟で抑えてくれている今、失敗は許されない。
 行け、とレガルタが々に思いを託し、ユルグと晴夜もしかと彼を見守った。
 そして一瞬後。
 少女から黒衣を剥がし、々は空中にそれを投げた。
 ボアネルと晴夜は頷きあい、更に黒衣を細かく引き裂かんとして動く。放たれたインプ達は群がって服を千切り、晴夜は妖刀で黒布を両断する。
 そして、晴夜は強く言い放った。
「犠牲になってしまわれた方々の命はもう戻りませんのでね」
 弔いの為にも、約束を守る為にも。吸血鬼は此処で塵と化して頂くのが道理。
 レクシーがヤーナを強く抱き締めて庇う中、リーヴァルディは最大限にまで高めた闇を顕現させた。
「……これが私の魔法。過去を抉りだす闇」
『おのれ、おのれぇ……!』
 黒衣だけになったゼラは邪悪な念を放ちながらひらひらと宙に舞う。その姿を捉えたリーヴァルディは吸血鬼を呪う力を解放した。
「お前のような相手を狩る為に編み出したもの。消えなさい。永遠に……」
 そして――広がった闇は瞬く間に黒衣を包み込む。

●古城の薔薇
 黒衣は跡形もなく千切れ飛び、オブリビオンは潰えた。
 レガルタは辺りを見渡して黒衣の欠片が残っていないかと確認する。古城に満ちていた悪意は消え去っており、どうやら敵は完全に消失したようだ。
「燃やすまでもなかったか」
 呆気ない最期だったと口にし、レガルタは息を吐く。
 々も戦いは終わったとして得物を仕舞い、レクシーに抱かれている少女を見遣った。そういえば黒衣を剥いだことで一糸まとわぬ姿になっているのだったか。
 そう気付いた々が気を遣って目を逸らすと、レクシーがさっと少女にベッドのシーツを掛けて包んでやった。
「もう平気よ。疲れて眠っているみたい」
 少女に見える傷といえば薔薇の棘が刺さった掌くらいだろうか。ボアネルは癒しの力を使ってヤーナと仲間達の傷と痛みを取り払っていった。
「そうか。家に帰ろう、イルセも君を待っている」
 ボアネルは眠ったままのヤーナの頬にそっと触れ、静かに語り掛ける。すると少女がむにゃむにゃと何を呟いた。
「ん……お姉、ちゃん……薔薇を……」
「そうでした、薔薇をプレゼントにしたいのでしたよね」
 晴夜はこんなになっても姉を想うヤーナに目を細め、古城に咲く花を思う。
「誕生日、祝ってやりたいもんな」
「戻る際に何本か摘んでいくか。それくらいは許されるだろう?」
 ユルグが深く頷き、コンラートは皆に問い掛ける。
 そうね、とレクシーが答えてレガルタも問題ないだろうと話す。
 オブリビオンという主を失ったことでこの古城には誰もいなくなった。薔薇を世話する眷属も消えたことで、あの美しい花々もいつか枯れゆくことになる。
 薔薇に罪はないが、咲いて散るのもまた花の命。
 それに赤い薔薇はきっと、姉妹をふたたび繋ぐ絆の証になってくれる。
「……ん。あの子達も薔薇を摘み来たはずだから、ヤーナとは別に三人分も……」
 リーヴァルディは保護した少女達を思い、仲間を見遣った。
 薔薇を摘んで村に帰ったらイルセに食事の追加もお願いしよう。きっと、イルセも快く迎えてくれるはずだ。
 まずは何か温かいもの食べて貰って、それから其々の村や街に送り届けたい。
 後の処理はまだまだ残っているが、猟兵達は為すべきことを成した。
 ユルグは皆で勝ち取った証を思い、帰ろう、と仲間を誘う。薔薇の贈り物も、妹の無事な姿も何よりも尊い土産になる。
 しかし、やはり一番大切なことはたったひとつ。
「傍にいてやる時間が何よりの贈り物だと思うんだ」
 ユルグはそっと呟き、歩き出した。
 この世界は昏い闇と哀しみや苦しみに満ちている。
 それでも身を寄せ合って生きていけるのは誰かと共に居る幸せを知っているから。
 そうに違いないと感じながら猟兵達は帰路を往く。
 紅い冬薔薇が咲き乱れる古城はただ静かに、その後ろ姿を見送っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月22日


挿絵イラスト