アースクライシス2019②〜黒龍戦線
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合衆国西海岸はロサンゼルス。そこは今や昼夜問わずの激戦区だった。
国連軍、ヒーロー、そしてヴィランすらも混じえたロサンゼルス防衛軍は、洪水兵器による攻撃を企むオブリビオン軍を阻止するため、各地に防衛戦を貼っていたのだ。
それは海岸線や市街地、そして、
『――行くぞa隊! 奴をL.A.に近づけさせるな!』
ロサンゼルス沖の海上を含めた、広大なエリアだった。
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国連軍の戦闘機、そして単独飛行可能なヒーローとヴィランを主体としたa隊は、南にあるロングビーチを垂直に突っ切り、ロサンゼルス沖の上空へ飛び込んでいった。
『……なぁなぁ? 俺達は今、L.A.を守ってるわけだが、それってつまり、おおよそはビバリーヒルズの金持ち共を守ってるわけだ。だから実際のところ……、この後、連中からいくら貰う?
いやなに、俺も本当はそんなことどうでも良いんだ。本当だって、誓ってもいいとも。何より大事なのは平和と安全! それに平穏に……あと何だ? 安寧? まぁいいや……。――いいや、よくない! そうだよな友よ!
…………ただ、俺もこういうことは言いたくないんだが、どうもアイツらがミュータントのお前に、ちゃんとチップを支払うか疑問が残るところだ。だろ? だからそこら辺の交渉は、俺に任せて欲しいんだけど……いいよな? いい? んン?
――っと! オマエら、邪魔だぜぇ〜!』
『お気遣いありがとう。報酬は特に望んでいなかったが、ステープラーが必要なことを思い出したから、私はそれでいいよ。十分だ。百個程貰おうと思う。
――前々から縫い合わせたいものがあったのだ』
空を埋め尽くすほどの敵機を撃墜し、自分達を狙う対空砲やユーベルコードを回避して行くa隊は、正しく防衛軍の精鋭だった。
そんな彼らが向かう先にいたのは、海面をぶち破って現れた一機の戦闘機だった。
『お喋りはそこまでだ、二人共。“黒龍”だ……! ――撃て!』
“黒龍”。過去に数多のヒーローを苦しめたその機体と正対した彼らは、長距離兵装の発射と同時、あるものを見た。
「――――」
光だ。
海水の飛沫散る向こう側に、翠色の迸りがある。
『あれは――』
何だ、という隊長の言葉は続かなかった。直後に増幅した翠光が、空を突き抜けていったからだ。
大小様々な光線、否、光線の内、最大のものは直径十メートルを超えており、それはもはや光の柱と、そう形容した方が適切だった。
無数の光線と一本の光柱が、周囲に残る飛沫を吹き飛ばし、接近してくるミサイルも、その奥にいたa隊すらも貫き、飲み込んでいった。
「――!」
空と海の間に、赤黒い華が複数咲いたが、それも一瞬だった。
『……!』
爆発炎と黒炎で出来た華は、高速で間近を通った“黒龍”によって散らされていったからだ。
『――!』
世界都市ロサンゼルスの上空で、龍の咆哮が響いた。
●
「――迎撃をお願いしますわ」
猟兵たちの拠点、グリモアベースでフォルティナは言う。
「“アースクライシス2019”……。ヒーローズアースの命運を賭けた戦争は、様々な箇所で行われていますが、皆様に向かっていただきたいのはロサンゼルスですの」
アメリカ合衆国、その西海岸の地図を表示しながら、
「海底文明アトランティスの洪水兵器を操るオブリビオン軍と、それを阻止するために種族や思想を超え、世界各地から集まった防衛軍がそこで激戦を繰り広げていますの」
「軍備、戦力共に勝るオブリビオン軍を前に、彼らは激しく勇敢に戦って、ぎりぎりの所で侵攻を食い止めていますわ」
けれど、と言葉は続く。
「敵の“ボス”だけは、あまりの強さに彼らではどうすることも出来ませんの……」
劣勢の最中、強大な存在がさらに現れればどうなるか。
「戦線は瓦解し、防衛軍はさらに窮地に陥りますわ……。しかも、今回現れたのは戦闘機型のオブリビオンですの」
制空権を取られれば、地上や海上の防衛軍が壊滅するのも時間の問題だ。
「敵は、過去に数多のヒーローを苦しめた“黒龍”。竜をモチーフとした無人戦闘機ですの」
そこまで言うと、フォルティナは開いた手を見せ、そこに光を生み出す。
オレンジ色の光はグリモアだ。
「戦場はロサンゼルス沖。その近くまでは、グリモア猟兵である私の能力で皆さんをテレポートしますわ」
猟兵たち一人ひとりの顔を確認しながら、フォルティナは言葉を続ける。
「そこから先は正しく戦場。“黒龍”以外にも敵の航空戦力は存在し、防衛軍側も同じですの。
それらを撃墜するために、地上と海上からは互いに対空砲やユーベルコードを放っていますし、地上と海上でも勿論激戦ですの」
つまり、
「皆様がどこに転移を希望し、どこで“黒龍”と相対するかは自由ですが、必ず、『飛び交う砲弾やユーベルコード、雑兵の攻撃をかわす』ことを意識しておいて下さいまし」
全員の顔を見渡すと、フォルティナは眉を立て、口角を上げた。
「そうすれば、皆様に必ず活路が生まれると思いますの。――ご武運を!」
シミレ
シミレと申します。TW6から初めてマスターをします。
今OPで21作目です。ヒーローズアースは2回目です。
不慣れなところもあると思いますがよろしくお願いいたします。
●目的
・オブリビオン軍のボス、“黒龍”の撃破。
●説明
・ヒーロズアースのロサンゼルスで、オブリビオン軍が洪水兵器による世界的な破壊を狙っています。
・それを阻止するために防衛軍が結成されましたが、オブリビオン軍の『ボス』には彼らでは立ち向かえません。
・今回の依頼は、その『ボス』を撃破してもらう依頼です。
●プレイングボーナス
今回の依頼は現場が戦場です。つまりそこかしこで防衛軍、オブリビオン軍の攻撃が飛び交っています。
ですので、以下に基づく行動をプレイングに書いていただければ、プレイングボーナスが発生します。
プレイングボーナス……飛び交う砲弾やユーベルコード、雑兵の攻撃をかわす。
※プレイングボーナスとは、プレイングの成功度を複数回判定し、最も良い結果を適用することです(詳しくはマスタールールページをご参照下さい)。
●他
皆さんの活発な相談や、自由なプレイングを待ってます!!(←毎回これ言ってますが、私からは相談見れないです。ですので、なおのこと好き勝手に相談してください。勿論相談しなくても構いません!)
第1章 ボス戦
『黒龍』
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POW : “黒雲翻墨既遮山”
【機体内部に格納していた鋼の四肢を解放する】事で【格闘戦形態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD : “灰雨跳珠亂入船”
【随伴ドローン機と翼下の副砲】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ : “卷地光來忽吹散”
【機首】を向けた対象に、【機首下の主砲から発射される緑色の光線】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠フォルティナ・シエロ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
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a隊はそれを見た。自分達が行く先そこに生じた、新たな影をだ。
「……!」
爆発や砲声、果ては火炎や雷鳴の轟きといった超常的な流れの中に生まれた新たな影は複数だ。
砲火降り注ぐ大地を駆け抜けるものや、戦闘の余波で揺れる海上を制するものもいれば、そんな海中を突き進むものもいた。
そして、
『おぉ〜! サインくれよ、サイン!』
空だ。
高速で飛行するa隊を背後から追い抜かしていった集団を見て、隊長は言う。
『――猟兵か!』
自分自身の足や、翼、魔法による瞬間転移や、機械による超加速。推進の方法も、姿も、何もかもが多様な集団が、次々と戦場に参入していく。
『――散開!』
a隊の軌道はそれまで“黒龍”に向かう前進の軌道だったが、隊長の号令でそれを一斉に変更し、散っていく。
『“黒龍”は任せたぞ猟兵……!』
ジャスティス・ボトムズ
★アドリブ歓迎 連携歓迎
戦闘機が敵かよ
なかなかぶっ飛ばしがいがありそうな相手じゃねえか
正義を執行するという強い意志を持ってUCを使うぜ
こっちだって高速で飛ぶくらいできるんだぜ
飛び交う攻撃を避けるのにいちいち神経使いすぎてると目の前の敵がおろそかになりそうだぜ
だから俺は高速移動し続けてどっから飛んでくるかわからねえ攻撃は躱す方向で行かせてもらう
立ち止まらないってのが作戦だぜ
敵に対しては武器で攻撃する
怪力と鎧砕きを乗せたフルパワーの攻撃で叩き潰す
パワーで叩き潰す
それが俺の正義だからよ
正義執行を開始するぜ
敵は必ず叩き潰す
これは正義のヒーローの義務だぜ
空で戦うのもたまには悪くねえな
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ジャスティスは空を見上げていた。
戦闘機の敵か……。
彼が立つのはロサンゼルスの市街、そこにあるビルの屋上だ。そのような高い位置からだと、南の海に現れた敵がよく見える。
『……!』
「なかなかぶっ飛ばしがいがありそうな相手じゃねえか」
水柱を立ち上げ、咆哮を挙げる“黒龍”。彼我の距離は数十キロメートル以上離れているが、ジャスティスは気にした素振りを見せず、手に持った剣を構えると、
「行くぜ……!」
鋭く吠えた。直後、ジャスティスの姿が屋上から消えている。
その場に残されていたのは、彼が立っていた場所を示すセメントのひび割れと、
「――!」
何かが高速で射出されたことによって生じた、衝撃波と轟音だった。
轟音は、海へと続いていく。
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制空権を取ろうとするオブリビオン軍の一体が目に入ったかと思えば、次の瞬間には背後に置き去っていく。
視界に映る何もかもが、前方から背後へ高速で流れる。そんな速度域で、ジャスティスは己の身体にただ前進を命じていた。
「――!」
周囲に存在するのは敵と味方と、それらを撃ち落とさんとする様々な力の広がりだ。
機銃、機関砲、対空砲、ユーベルコード。全てが空で弾け、散っていけば、空は随分と狭くなる。
空白の空域も中には存在するが、次の瞬間には、
「――!」
飛来した榴弾が炸裂することで、爆炎が生じる。ジャスティスの視界に赤と黒の色が見えたのも刹那。
「はっ! 避けるのにいちいち神経使ってられねぇな……!」
そこを突き破っていく。前進に浴びた熱波も、高速で抜ければ一笑に伏せるだけだ。
全方位からいつ飛んでくるか解らない攻撃の嵐を、高速で抜けていくことを選択したジャスティスは止まらない。
「正義を執行するぜ……!」
その一念で飛ぶ身は既に音速を優に超えており、敵の元へ辿り着くのも一瞬だった。
『……!』
正面から飛来するジャスティスに、“黒龍”が迎撃として主砲を放った。
顎にも似た砲の中で収斂した翠光は、機首から数メートルの先で拡散すると、柱のような太さを保持し、空を突っ走っていく。
進路は正面。ジャスティスへの直撃コースだ。
ジャスティスは二メートル近い巨躯だが、迫りくる光柱の先端は十メートルを越し、もはや壁のようだった。
「――上等」
しかしジャスティスは臆さない。
加速したのだ。
迫りくる翠光に、時速四千キロメートルを超す速度で向かえば、双方の衝突は正体速度で一瞬だ。
高密度のエネルギー同士が正面からぶつかり合えば、何が生じるか。
「――!」
答えは、落雷にも似た響きを持っていた。
翠光が周囲に爆散したのだ。
否、正確には、
「……!」
爆散は今この瞬間も続き、“黒龍”側へ接近していっているのだ。
『……!?』
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人工知能が演算した結果とは違う光景。それに驚愕した“黒龍”は直後に気づいた。
「ぉお……!」
己が放った光柱の中から、男の声が聞こえることにだ。
それはやがて、翠光の向こう側に影として視認できるほどにもなり、そして、
「――抜けたぜ……!」
声の主が“黒龍”の眼前に現れた。
ジャスティスだ。掲げた“シャイニングシールド”を外に振り、代わりに虹色に煌めく剣を振りかぶる。
「正義執行……!!」
大上段に構えられた“ジャッジメントブレード”が、前進する勢いのまま、叫びと共に一気に振り下ろされた。
『――!?』
機首を始めとする前面の装甲板が砕かれた“黒龍”は、一気にその高度を落としていく。
「敵は必ず叩き潰す……。これは正義のヒーローの義務だぜ」
もんどり打つような機動で眼下に落ちていく見ながら、ジャスティスは肩をすくめる。
「――空で戦うのもたまには悪くねえな」
大成功
🔵🔵🔵
伊藤・毅
「D01作戦空域に侵入、マスターアーム点火、エネミータリホー、D01エンゲイジ」
敵に【空中戦】を仕掛ける
機体のセンサー系や味方とのデータリンクから【情報収集】を行い敵味方の攻撃を【戦闘知識】から予測、【操縦】の腕前で躱しながら接敵
【目立たない】ように遠距離から【誘導弾】の【一斉射撃】にて【先制攻撃】、そののち接近して、敵の攻撃を躱してからの【カウンター】による機関砲の【零距離射撃】で確実にダメージを与える
「レーダーロック、ミサイル全弾発射、FOX3」
「ボアサイト、とらえた、ガンズガンズガンズ」
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ロサンゼルス防衛軍の機甲部隊は、急ぎ前線に向かっていた。
ロングビーチに現れた“黒龍”によって前線が突破されることを警戒し、追加の戦力を向かわせているのだ。
ロサンゼルスを南下する州間高速道路百十号線、そこを車列を組んで走っていたとき、通信が入った。
『――DO1作戦空域に侵入』
「? 何者だ――」
車列の隊長が疑問したのと、“それ”が来たのは同時だった。
全天広がるフリーウェイでは後方から接近してくることは事前に解り、よく見えもしたが、見止めることが出来なかった。
「――!」
あまりに高速だったからだ。
車外カメラを振り、窓から身を乗り出すが、追いつけない。“それ”は常に防衛軍の視界の先にいた。
車列上空を瞬間的な動きで過ぎ去った存在が後に残したのは、南の空へ続く二本の白い帯だ。
高空を彩る白帯、それは防衛軍にとって馴染みのものだった。
「……!」
遅れて音が来る。轟音だ。
「ヴェイパートレイル……!」
音速超過の機体が、ロングビーチに向かっている。
殴りつけられるような音の圧の中、防衛軍が理解できたことはそれだけだった。
●
毅は後方の車列からの通信に、灯火の瞬きをもって返答とすると、全域へ向けて二度目の通信を放った。
『マスターアーム点火』
全兵装のロック解除。それが意味することは何か。
ヘルメットとキャノピーで制限された視界の中、毅は前方を見据え、言葉を続ける。
『エネミータリホー、D01エンゲイジ』
数十キロメートル先、そこに敵機がいるのだ。
『……!』
水柱を立てて現れた存在、“黒龍”に対して毅が選択する行動は一手だった。
『レーダーロック、ミサイル全弾発射、FOX3』
ウェポンベイを開放し、そこに格納していた長距離ミサイルを全て露出させると、
「――!」
一斉という勢いで、その全てを解き放っていった。
空に投げ出されるようにして放たれたミサイル群は、その加速器に火炎を点火すると一直線に直進していく。
『……!』
レーダーロックを感知した“黒龍”は急ぎ回避の挙動を取るが、間に合わない。
一斉の弾着は、一つの爆炎を高空に作り出す。
だがその爆炎を突き破るものがあった。翠光だ。水が飛沫くような音が高鳴り、カウンターとして、毅の乗る戦闘機、ライトニングに突き込まれていく。
『――ブレイク』
短く告げると、毅は機体を一気に傾けた。右翼を下げ、左翼をかち上げるようにして天上に向ける。そこで機首は右に振れば、機体がその方向に流れていき、
「――!」
すぐ後ろで、極圧の熱線が通り過ぎたのが解る。膨張した大気によって機体が押されたからだ。
すんでのところで回避したが、しかし攻撃は止まない。敵は“黒龍”だけではないのだ。
「……!」
戦闘音を聞きつけたのか、ライトニングの周囲に押し寄せてきた敵の数は無数だ。
直後。無数の攻撃が、ライトニングを襲った。
上昇気味の機動を取っていたライトニングは、そんな攻撃の雨の中を掻い潜っていき、
『DO1、バーナーオン、MAXパワー』
己の出力を全開にした。
直後、
「――!」
爆発的な推進力を得たライトニングが、その高速とそして何より、そんな速度域でありながら曲芸染みたマニューバで、周囲の敵を翻弄していった。
『……!?』
通信も何もしていないが、毅は“黒龍”が混乱しているのが解った。
高速で機体を振り回せば、その内部ではおよそ人の身では耐えられないGが生じる。無人機である“黒龍”にとっては、なおのこと理解の出来ない所業だろう。
だが毅は、相手のそんな混乱に答えることなく、言うなれば殺人的な機動で周囲の雑兵を振り切り、“黒龍”へ距離を詰めていく。
『ボアサイト、とらえた、ガンズガンズガンズ』
淡々と、高負荷なGが掛かっているとは思えないような声音でそう告げると、機関砲のトリガーを引き絞る。
連射だ。
『……!!』
“黒龍”も無人機特有の機動で、迫りくる鋼弾の嵐から逃れようとするが、
『――ボアサイト』
毅も同じことは出来るのだ。
背後を取った毅を撃墜しようと、“黒龍”の随伴ドローンが射撃を送ってくるが、毅は構わない。
それを機動によって回避し続け、
「――!!」
只々、トリガーを引き絞る。
狙いは“黒龍”本体。マニューバによって視界は目まぐるしく変わるが、その狙いは常に正確だった。
『……!?』
やがて、機関砲によって砕けた装甲から黒煙を吹きながら、“黒龍”はその高度を下げていった。
大成功
🔵🔵🔵
ミハエラ・ジェシンスカ
ほう……あの火力
ヤツは銀河帝国の戦艦並みかそれ以上の主砲を持っているらしい
たかが戦闘機一機と油断はできんな
フォースレーダーの全周照射による【情報収集】で戦闘空域の状況を把握
常に敵味方の行動や射線を【見切り】つつ立ち回る
【念動加速】による飛翔で空中戦へ
あの主砲は危険だ
故に撃たせる前に白兵戦へ持ち込ませてもらう
戦闘機では文字通りに「手も足も出るまい」が悪く思うな……なに!?
と斬り掛かり、敵の格闘戦形態への移行を誘発
隠された四肢に不意を突かれた風を装い、敵の格闘攻撃を敢えて受け
そうして晒した隙に、隠し腕を展開して【だまし討ち】を叩き込む
ああ、悪いな
手足を隠しているのはそちらばかりではなかったらしい
●
「ほう……」
地上にいたミハエラは、空を突き抜けていった翠光を見た。
「あの火力、銀河帝国の戦艦並みか、それ以上の主砲を持っているらしい」
頭上にあった光柱は次第に減衰していき、消えていく。
それを最後まで見届けながら、ミハエラは同時にあるものを起動していた。
「――――」
彼女が有するレーダー、フォースレーダーだ。
自分が持つサイキックエナジーを照射することにより、周囲の状況を把握するための装備は、その使用によって周囲の、それも上空の状況が手に取るように解っていく。
「敵機の位置は……」
と、そこまで言ってから首を降る。
「――全域だな」
言った直後、ミハエラは機械の両腕を内から外に高速で払った。
「――!」
遅れて、彼女の背後で二連の爆発が生じた。弾着だ。
「…………」
ミハエラの感覚素子が得た情報は、先ほどの言葉通りだった。
ロングビーチを暫定的な前線とし、そこを中心にして空は敵機も味方機もひしめき合っている。
たった今、振るったフォースセイバーもそれらの流れ弾を断つためだった。
ミハエラは、自分の武装の具合を確かめるようにそれを手の中で一度、一回転させると。
「――――」
次の瞬間には、自身を鮮血の如き紅きオーラで覆っていた。
うねりを感じさせるような紅の流れは、次第にその勢いを増していき、
「――!!」
その力を大地にぶち撒けた。
行くのだ。
●
“黒龍”は接近してくる存在を、己の感覚素子で知覚していた。
大きさは極小で、それが戦闘機やそれに準じるようなものではないと、機龍に搭載された人工知能は判断していた。
単独飛行可能な人間。相手はそれだ。
『……!』
ヒーローを狩るために製造された“黒龍”は、そのような相手との相対方法もインプットされており、そのため武装の選択も迅速だった。
随伴ドローン。小回りの効く二機の従僕を放ち、相手の機動につきまとうのだ。
己の視覚素子を回してみれば、従僕の先に敵は黒鋼の身体を有する人型で、一見にして猟兵だと解った。
「……!」
小口径だが、快速の連射が猟兵に襲いかかっていく。
四方からの射撃でこちらの眼前に追い込み、主砲で撃墜する。それが“黒龍”の狙いだ。
しかし、
『――?』
次の瞬間に起こった事を、“黒龍”はすぐに把握できなかった。
敵が、消えたのだ。
何故。
「――!」
直後。大気の破裂する音と、それによって生じた衝撃波に揺らされた従僕達、“黒龍”はそれら二つを同時に検知した。
音速突破、その証は先ほどまで敵がいた空域から大音として知らされてきたが、それだけではない。そこから真下に向かって伸びるものがあった。
白の帯。大気を高速で突き破ったことで生じた水蒸気爆発の軌跡は、空域を下降するその途中でターンし、
『――!』
こちらに向かって上昇して来ている。
一度降下してからの急上昇突撃、その最先端にいるのはやはり猟兵だった。観測してみたところ、相手の時速は五百キロメートルを超えており、衝突は一瞬という結果が算出される。
紅は、もうすぐそこだ。
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行くぞ……!
ミハエラは己が持つフォースセイバー、フォールンセイバーを握りしめ、頭上を睨みつける。
今、彼女の時速は五百キロメートル超過で、向かう先は“黒龍”の腹だ。
相手が持つ武装は主砲と副砲は前面照射のみで、周辺を哨戒するドローン機は先ほどミハエラが出力を全開にした際の衝撃で、ダウンしている。
「直下からの攻撃、戦闘機では文字通り、手も足も出るまい……!」
このまま突撃し、腹から切り裂き、背へ抜けていく。それだけであり、それで終わりだ。
「悪く――」
思うなと、言葉は続かなかった。
ミハエラの前方で、異変が生じたからだ。
「何……!?」
「――――」
鋼鉄が擦り合う軋みを響かせながら、龍の腹が開いたのだ。
そこから生えるように突き出て来る物は、柱にも似た四つの影だった。
「がっ……!?」
逆光でよく判別できなかったが、その内の一本に捕らわれた時に、ミハエラはその詳細を知った。
脚だ。鉄鋼で出来た四肢の内の一本、機龍にとっての右前腕にミハエラは握られていた。
『……!』
“黒龍”が歓喜の咆哮を上げながら、握り締める力を高めていく。
「ぐぅっ……!!」
着陸や、地上戦を想定した四肢は相応の出力がある。自身を圧迫する力と、間近から聞こえてきた駆動系の高鳴りで、ミハエラはそのことを強く感じていた。
このままでは己のフレームが砕け、鉄屑として眼下の海にばら撒かれるだろう。
「――だが、そうはならん」
短い呟きの直後、龍の前腕に紅の閃光が走ったかと思えば、
『……!?』
次の瞬間には、前腕を構成していたパーツが周囲に散らばっており、内部を巡っていた駆動油が行き場を失い、大空にばら撒かれる。
「ああ、悪いな」
飛散するパーツや油の雨の中、ミハエラが平然とそこにいた。
しかし、彼女に先ほどまでとは違う部分があることに、“黒龍”はすぐに気付いた。それは、
「――手足を隠しているのはそちらばかりではなかったらしい」
肩、そこから新たに伸びてきたもう一組の腕に、赤黒いフォースセイバーが握られているのだ。
『……!』
「まぁつまりは騙し討ちなわけだが……」
再度捕らえようと、“黒龍”が残った左前腕を伸ばすが、ミハエラの身体に辿り着く前に、合計四振りのフォースセイバーによって瞬時に裁断されていく。
「貴様は邪剣と相対していたと、そう言うことだ」
蹴り込まれてきた後ろ脚は、もはや存在しない。遥か眼下で水柱が連続するだけだ。
『!?』
急ぎ逃れようと、“黒龍”が加速器に光を溜め込むが、
「逃がすと思うか?」
真下から四重の刺突を喰らい、切り開かれるようにして露わになった腹部へ、
「ぉお……!」
『……!!』
四重の斬撃が、一斉に走った。
大成功
🔵🔵🔵
リアナ・トラヴェリア
あれは空を飛ぶゴーレム…なんだね
あれくらいの強さなら竜の名前をつけたくなるのは分かる、かな
…速い!
これくらいの速さだとウィンドゼファーと同じくらいかも。
でも、私もあの時よりは!
黒竜の翼を発動!
高速の空中戦を仕掛けるよ、この速度と距離なら弾丸もユーベルコードも簡単には当たらない!
変形して格闘攻撃をしてくるのなら、付き合って打ち合うよ!
相手の攻撃に合わせて、攻撃に使ってきた部位を攻撃!
ついでに高速での戦いを引き伸ばしながら、相手の寿命を削っていくよ!
そう、目的は時間稼ぎ。
こんなに高速で戦える時間は長くはないから、速度で戦うんじゃなく時間で戦えば勝てる。
…あなたの敗因は長く存在できなかったことだよ。
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リアナは最前線であるロングビーチ、そこにあるビルの屋上で、頭上を見上げていた。
「あれが“黒龍”……」
遥か上空、雲にも届く位置を飛行するのはオブリビオンだ。
『……!』
黒の機体が過ぎ去った空から、爆音と怒りの念を感じさせる咆哮、そして、
「――!!」
雲を断ち払い、大気を焼いていく焦熱音が聞こえる。オブリビオンから放たれた翠光だ。
「あれは空を飛ぶゴーレム……なんだね」
様々な世界を渡り歩いたリアナ自身も、今口にした形容が厳密ではないことを理解しているが、やはり己に通ずる納得としてはこれが最適だと、そうも思う。
「あれくらいの強さなら竜の名前をつけたくなるのは分かる、かな……」
大空を翔け、その息吹で障害を焼き払っていく存在を、この世界の者達は“黒龍”と名付けた。
すると“黒龍”が、その後部にある加速器に光を蓄えたかと思うと、
『……!』
一気にその力を開放した。
……速い!
音速を優に超える敵を、視線で、首で、身体を振って、追う。
「これくらいの速さだとウィンドゼファーと同じくらいかも」
思い返すのは五月にキマイラフューチャーで巻き起こった戦争、“バトルオブフラワーズ”にて出現した敵軍幹部の一体だ。
リアナ自身も相対したその敵も、“西風”という異名の通り、自身の高速を武器にしていた。
花弁が舞い散る戦場での戦いに、思いを馳せる。あの時の自分は、どれほど疾風についていけていただろうかと。
「でも、私もあの時よりは……!」
空を見上げながら叫んだリアナの言葉は、一つの力の現出を伴っていた。
「――――」
魔力だ。
渦巻く漆黒の奔流は絶えず現れ続け、リアナの身体を覆っていく。
「“地を離れゆく黒竜の翼”……!」
黒竜。その魔力はリアナの意思に呼応するように、脈動を早め、ドラゴニアンである彼女が持つ翼に力を送る。
「――飛び立って! 私の翼!」
彼女の叫びと共に、背にある黒翼が大気を打った。
それはたった一度の羽ばたきだったが、
「――!!」
次の瞬間には、彼女を大空へと運んでいた。
「!!」
地上から突然上昇してきた存在に対し、オブリビオン軍は一瞬の驚愕の後、海上を含めた全方位から撃墜狙いの攻撃を放った。
だが、
「行くよ……!」
リアナは羽ばたきを止めず、大空を埋め尽くす敵の群れの中に突っ込んでいった。
この速度と距離なら簡単には当たらないよ……!
雑兵からの攻撃には構わず、振り払うようにして大空を翔けていく。
時速にして四百キロメートルを超える彼女は、時折気流に揉まれて甘いホップを得るが、己の身体に命じるのは常に一つだった。
「前進!」
それだけだ。
黒の竜が、己の敵を追っていく。
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二頭の竜の接近はすぐに果たされ、そして直後に生じた両者の衝突は、苛烈の一語だった。
『――!』
「……!」
高速で接近してきたリアナに対し、“黒龍”は機体内部に格納していた鋼の四肢を開放したのだ。
迫りくる鋼鉄の爪撃を、リアナは己が手に持つ黒剣で受け止めていく。
っ……! 重い……!
相手は頭から爪先まで鋼鉄で出来た“ゴーレム”だ。リアナとの重量差など比較するまでもないが、
「だけど戦えるよ!」
『!?』
目の前のオブリビオンを撃破する。その一念で常に強化されたリアナの戦闘力は、押し寄せる連撃全てを受け止めていくのだ。
「はぁあっ……!」
前脚が正面から振り下ろされて来れば、リアナは黒剣の形状を変え、先端が鋭利な細剣にすると、回避することなく、正面から突き込んでいく。
鋭い一閃に龍の装甲が抉れ、内部の機構にまで刃が到達すれば、重撃は差し止められる。
『……!!』
距離を取ろうと、相手が腕を薙ぎ払ってくれば、
「見切ってるよ……!」
広げた黒翼で、身体にエアブレーキをぶち込み、薙ぎ払いの真上を回避。宙返りにも似た回避機動には反りを持った曲刀が付随しており、一回転する頃には敵の爪の殆どが裁ち落とされていた。
そんな優勢のリアナだが、そこから追撃や深追いと言った攻撃はしなかった。
「…………」
眼下の海に落ちていく“黒龍”のパーツをリアナは一瞥すると、“黒龍”に剣を突きつけ、言う。
「部品の落下が、最初より随分多くなってる」
それが意味することは何か。
「“黒龍”、あなたのその形態は寿命を削る。つまりはゴーレムとしての一生を終えようとしているんだよ。――そろそろ限界じゃないかな」
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リアナは言葉を続ける。もはや勝利は見えたと、そう確信しながら。
「さっきから隙を見ては、加速器? そこに力を蓄えてるけど、それって私から距離を取ろうとしてるってことだよね」
つまり、
「格闘戦を長く続けたくない。だって――」
『……!』
言葉を遮るように、最後の脚が轟音で蹴り込まれてくるが、
「――――」
先端にある爪を断っただけで、脚部は根本から折れていった。
「……私が追撃をしなかったのはこのため。
あなたはこんなに高速で戦える時間は長くはないから、速度で戦うんじゃなく時間で戦えば勝てる。そう思ったんだよ」
黒剣を構え直し、
「“黒龍“」
そう呼びかけながら、リアナは最後の言葉を告げた。
「……あなたの敗因は長く存在できなかったことだよ」
大成功
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