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微睡みに詩の海

#アルダワ魔法学園

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#アルダワ魔法学園


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●漣に詩の海
 知っておいでか。眠れぬ詩の海を。
 眠りを望み、夢を欲し、されど目覚めを渇望したひとの願いの果て。
 真白のページに敷き詰められた詩の海が、どんな夢を望み、果ての目覚めを望んだかも知れぬまま。
 詩の才女が唄うように、願うように、紡いだという詩だけは残っている。

●微睡みに詩の海
「貴方とずっと、一緒にいるために。……ってね」
 詩の一節をなぞるようにそう言ったのは、艶やかな黒髪にアメジストの瞳をした少年だった。
「俺はユラ。ユラ・フリードゥルフ。おにーさんとおねーさんたちにちょっと依頼があってね」
 まぁ、ここじゃぁよく聞く話かもだけど、と言ってユラ・フリードゥルフ(灰の柩・f04657)は猟兵たちを見た。
 アルダワ魔法学園に幾つも存在する学園迷宮。そのひとつに、オブリビオンが住み着いてしまったのだ。
「住み着いたのは骸の海のダンクルオルテウス。古代魚の姿をしたオブリビオンで、目に着けば誰彼構わず攻撃してくるって厄介ものだよ」
 このまま放置すれば、迷宮に挑んだものに被害が出てしまうことだろう。
「というわけで、放置できないし。おにーさん、おねーさんたちにお願いってことなんだよね。討伐の依頼」
 なにせ、とユラは口を開く。
「あのダンジョンには詩の海の逸話があってね。まぁよくあるおとぎ話とかそういうの見たいなんだけど」
 眠りを望み、夢を欲し、されど目覚めを渇望した何かの願いの果てがそこには詰まっているのだという。
「永劫図書館っていう図書館型のフロアがあるんだよね。そこにある詩の海を見つけることができると好きな人とずっと一緒にいられるとかそういうの流行ってて」
 そもそも、眠りたくて夢を見たくてでも目覚めたいって思った時点でロクでもなさそうなんだけどね。とユラは言う。
「だいたい、それが本当にあったって証拠もないしね。よくある物語か……それとも、そう願った人があそこに言ったのかは俺には分からないけど」
 何かが起きるその前に、カタをつけたいのだとユラは言った。

「骸の海のダンクルオルテウスのいるフロアに辿り着くには、まず、この扉の間を抜ける必要がある」
 その名の通り、大量の扉がある通路だ。道としては一本。だが扉がとにかく大量に続いている。
「普通に開けていくのがいいのか、これ見よがしについている鍵穴に意味があるのかーーそれとも、開け方そのものが違うのか。扉自体は結構大きいものだから調べて見るのもいいかもね」
 次が永劫図書館。図書館型のダンジョンだ。巨大な本棚が多くある場所だ。道中も警戒して進む必要があるだろう。
「そこを無事に通り抜けられれば、骸の海のダンクルオルテウスのいるフロアだよ」
 決して容易い相手ではない。
 戦場となるのも永劫図書館の一区画となるだろう。
「立ち回りには十分、気をつけて。それと、もしおねーさんとおにーさんたちが気が向いたら、永劫図書館で詩の海を探してみるのもいーかもね」
 詩の才女が何者なのか、実在したのかも分からないけれど。
 託された何かが、願いの果てがそこにあるかもしれないから。


秋月諒
 秋月諒です。
 どうぞよろしくお願いいたします。

●各章について
 第一章では、扉の間に挑戦します。
 大量の扉が続く通路です。

 第二章では、永劫図書館の中を移動します。
 敵との遭遇が予想されます。

 第三章では、フロアボス骸の海のダンクルオルテウスと戦闘となります。
 戦闘後、希望があれば永劫図書館の中で詩の海についての探索などが可能です(1シーン)

●眠れぬ詩の海
 詩の才女が残したと言うある詩。
 見つけられれば好きな人と永遠に一緒にいられる、という噂がある。
 なぜそんな物語が残ったのか、ダンジョンに残ったとされるのかなど詳細は不明。
 *おまけな感じの逸話です。ふわっとした雰囲気で楽しんでいただければ。

 それでは皆様、
 ご武運を。
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第1章 冒険 『終わりなき扉の続く道』

POW   :    そこに扉があれば、突き破るのみ

SPD   :    卓越された鍵開け技術を披露するチャンス

WIZ   :    そもそも扉に鍵はかかっていない、開け方が間違っているだけ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●扉は続く
 ダンジョンの通路は、冷えた空気が溜まっていた。息が白くなる程でこそないが、暖かいとも言えない。足元に溜まった冷気を蹴り上げたところで、高い天井までは届くまい。手を伸ばして届くような高さではなくーーだがその先が見えぬ程でも無い。その、無骨な石造りの天井に迫るほどの大きさの扉が目の前にあった。
アルノルト・ブルーメ
眠りを求め、その中に夢を欲し、
そして、其処に求める夢はないと識って
目覚めを渇望した……というところかな……?

何にせよ、ロマンチストな詩人だね

突き破るのもスマートじゃないし
まず、開いてないか確認してみようか?
開いているなら扉を傷付けることもないし……

開いてないなら……そうだね。
卓越してるかは判らないけど
鍵開け、試してみるのも悪くないかな?

Viperのフック部分を利用して丁寧に解錠を試してみようか
探索者としての経験が役に立ってくれると良いんだけどね……
また、レプリカクラフトで鍵を模してみようか……

さて、どうかな?

補足
独り娘を溺愛する父親でありながらも
冷徹な咎人狩りの側面も持つ
案外とロマンチスト


終夜・凛是
扉、全部開けていけばいいだけ。
まっすぐ、まっすぐに。
最終的に、開かなければ壊せばいいよな、うん。

ボスにはあんまり、興味ない。
けど、図書館は気になる。行ったことないし。

それに、なにより。
詩の海。
みつければ好きな人とずっと一緒にいられる、とか。
そんなの無理だって、わかってるけど。でも、ちょっとだけ信じてみたくなる。
一緒にいられなくても、どっかで会えれば、それだけで幸せ。
嬉しい。
俺はそれで満たされる、多分。
でも満たされたらまた、欲張ってしまうのも知ってる。

探せるなら探そう、それを。
ちょっとだけ縋ってみるのもたまには、許されるはず。

ああ、次の扉……ちょっと邪魔だな。
開けるのそろそろ、めんどくさい。



●扉は続く
 見上げるほどの大きな扉が、目の前にあった。扉、とそう分かるのは事前に得ていた情報とーーあの取っ手だろう。ドアハンドルという言葉の方が似合うか。ゆるり、と尾を揺らしながら終夜・凛是(無二・f10319)はその扉の前に立つ。ハンドルを握ればーー動く。
(「扉、全部開けていけばいいだけ。まっすぐ、まっすぐに」)
 ぎぃ、と最初のひとつが開く。
 その奥にも扉がある。通路の幅はさほど変わらないか。サイズも然程変わらぬ扉に、ひたりと凛是は手をあてた。
「最終的に、開かなければ壊せばいいよな、うん」
 触ってどうにかなるようなもので無いことも、開けたことにより『何か』が起きるようなもので無いことも凛是が確認済みだ。奥へ、奥へと扉を開けて行けば何はボスのいる場所に辿りつくのだろう。
(「ボスにはあんまり、興味ない。けど、図書館は気になる。行ったことないし」)
 それに、なにより、と凛是は思う。
 詩の海。
 みつければ好きな人とずっと一緒にいられる、とか。
 そんなの無理だって、わかってるけど。でも、ちょっとだけ信じてみたくなる。
 信じてみたいことが、凛是にはあるのだ。
 一緒にいられなくても、どこかで会えればと。それだけで幸せ。嬉しいーーと。
(「俺はそれで満たされる、多分。でも満たされたらまた、欲張ってしまうのも知ってる」)
 自分というものが、どういうものであるか分かってもいるから。
「探せるなら探そう、それを」
 ちょっとだけ縋ってみるのもたまには、許されるはず。
 小さく落とした声は廊下に反響して、10個目の扉を前に凛是は眉を寄せた。
「ああ、次の扉……ちょっと邪魔だな。開けるのそろそろ、めんどくさい」
 手にしたドアノブが、ガチ、と音を立てる。硬い。
「……」
 うん、めんどくさいし。開かない訳だし。
「壊そう」
 拳を握り、足をーー引いた。
 ガウン、という音と共に衝撃が通路を抜けていった。轟音が響き渡る中、舞い上がった埃の向こうにアルノルト・ブルーメ(暁闇の華・f05229)は『それ』を見る。
「扉、か」
 正しくは、次の扉、だろうか。
 凛是の一撃は、高い威力を以って目の前の扉を壊していた。これは次の新しい扉というやつだろう。
「突き破るのもスマートじゃないし。まず、開いてないか確認してみようか? 開いているなら扉を傷付けることもないし……」
 ドアノブはーーどうやら回らないようだ。
 となれば、とるべき手段は限られてくる。
「卓越してるかは判らないけど、鍵開け、試してみるのも悪くないかな?」
 此処を抜ければ、噂の図書館だ。
 眠りを求め、その中に夢を欲し、そして、其処に求める夢はないと識ってーー。
(「目覚めを渇望した……というところかな……?」)
 ふ、とアルノルトは吐息を零すようにして笑った。
「何にせよ、ロマンチストな詩人だね。さて、探索者としての経験が役に立ってくれると良いんだけどね……」
 Viperのフック部分を利用して丁寧に解錠を試してみるが、流石にフックでは難しいか。もう少し細いものの方が良さそうだ。
(「扉が大きい割に、鍵穴は普通のサイズなのかな……?」)
 その違和を、アルノルトは覚えておく。
「なら、レプリカクラフトで作る鍵は……」
 このサイズか。手にしたレプリカの鍵を、鍵穴にいれる。
「さて、どうかな?」
 カチリ、と音がして扉がーー開く。音は軽く、ギィ、と重々しく開いた扉の向こう新しい扉が見えた。見えたのだが。
「色が違う」
「……ドアノブの形が違う、か?」
 凛是とアルノルトの声が、重なった。
 続く扉に変化が起きていたのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヒビキ・イーンヴァル
いや、本当この学園の地下ってどうなってんだろうな
長年ここで暮らして来た俺が言うのもアレだが

さて、何でこんなに扉があるんだか
これ一つ一つ調べて行ったら相当の時間がかかるのでは
とりあえず変な扉がないか、扉に変な箇所がないか、探してみよう
『第六感』で違和感のある個所を特定できないだろうか
だいたい変な仕掛けがあったりするもんなんだがな

何も探せなかったら、まあ、そうだな
物理的手段に出るしかないよな
ユーベルコードでぶっ壊す
……なるべくそうならないように頑張ろう


フィオリーナ・フォルトナータ
好きな人とずっと一緒にいられるなんて、とても素敵ですね。
(もしももう一度、あの方に、皆様にお逢い出来たのなら、……わたしは、)

…さて、今はオブリビオンの脅威を排除することに集中しましょう。
それが猟兵としての、わたくし達の務めですから。

【POW】
どなたか一緒にいらっしゃるのなら共闘したく
いらっしゃらないのであれば、行けるところまで参ります
わたくしは頭を使うのがそれほど得意ではないので、トリニティ・エンハンスで攻撃力を強化
渾身の力を込めて剣を振るい、扉を突き破りながら進みます
…開け方がそもそも間違っているような気もしますが
扉の一枚や二枚壊れたところで、迷宮そのものに影響はないですよね、…きっと


イア・エエングラ
ずうっとあなたが、好きだったの
お伝えするには言葉に溺れて息もできなくて
たくさんの想いが泡になって消えていったの
夢のうちなら、えいえんに、一緒に居られる、かしら
――なあんて、御伽噺だよう
そんな夢があるかしら
そんな詩だってあるかしら

あらあら、大きな扉ねえ
全部鍵をあけて、押して開いて、進んでいくのは大変そう
でも傷つけてしまっては勿体ないねえ

押して駄目なら引いてみて、鍵なんて僕はお持ちでなくて
ね、どうしようか
コンコンコンとノックは三度
扉を開けて、招いてはくださらないかしら
僕は図書館へ行きたいの

……音の響きが変わったら
扉に小さな戸があるかしらなんて下心もあるんだよう


ミカゲ・フユ
詩の海だって、お姉ちゃん
ずっとずっと一緒にいられたらしあわせだろうね

『彼女の福音』は常に発動。死霊のハルお姉ちゃんと一緒です

僕、全部の扉に鍵がかかってる訳じゃないと思うんです
前に神父さまから聞いたことがあります
押してだめなら引いてみろって
だから扉を押すんじゃなくて横に引いたりしてみます

何か魔力が感知できたらお姉ちゃんと協力して
僕たちの法力を重ねて封印解除の式を組んで魔力を無効化
それでもだめな扉があったら……
そうだね、お姉ちゃん。聖なる光の一撃でぶちこわしましょう!
魔術杖、遊星機構を構えて魔力を練り上げてどーん、です

この先の永劫図書館はどんな場所かな
でも、お姉ちゃんと一緒なら僕は何だって平気です



「好きな人とずっと一緒にいられるなんて、とても素敵ですね」
 ぽつり、と呟いた少女の声が、通路に落ちた。ほんの僅か、遠くを見るように青の瞳が細められーーふと、緩む。
(「もしももう一度、あの方に、皆様にお逢い出来たのなら、……わたしは、」)
 わたしは、と思う言葉の先は形に成らぬまま、フィオリーナ・フォルトナータ(ローズマリー・f11550)は、浅く息を吸う。
「……さて、今はオブリビオンの脅威を排除することに集中しましょう」
 それが猟兵としての、わたくし達の務めですから。
 まずは、扉への対応だ。
「剣を振るえば壊せそうですが……」
 自分一人であれば剣で扉を突き破りながら進む、という手を取ったのだが。
「そうだな、とりあえず変な扉がないか、扉に変な箇所がないか、探してみよう」
 今は一人では無い。
 同じようにダンジョンに降りてきていたヒビキ・イーンヴァル(蒼焔の紡ぎ手・f02482)が眉を寄せていた。
「いや、本当この学園の地下ってどうなってんだろうな。長年ここで暮らして来た俺が言うのもアレだが」
 アルダワ魔法学園の若き研究者たる青年にとっても、どうにも不思議な話だ。ほいほい出てくるダンジョンの話につきもののギミックとはいえーー……。
「何でこんなに扉があるんだか」
「はい。ある程度は突き破ってきているので……」
 そこまで言って、フィオリーナは思う。これ以上突き破っていくというのはやっぱり、開け方がそもそも間違っているような気がするのだ。
「扉の一枚や二枚壊れたところで、迷宮そのものに影響はないですよね、……きっと」
「あらあら、大きな扉ねえ」
 つい、と伸ばした手で触れた先、イア・エエングラ(フラクチュア・f01543)は藍の瞳を細めた。
「全部鍵をあけて、押して開いて、進んでいくのは大変そう。でも傷つけてしまっては勿体ないねえ」
 柔く落ちた声は歌うように長く続く通りに響く。扉を開けて開けて、作り上げた通路は洞窟のよう。真っ暗であったら蛇の穴倉だろうか。光る眼もなければ、取り立て殺気のようなものを感じることもないままに、イアはほっそりとした指先で扉を撫でる。
 この先にあるのは永劫図書館。
 詩の海があると言われる場所。
(「ずうっとあなたが、好きだったの。お伝えするには言葉に溺れて息もできなくて、たくさんの想いが泡になって消えていったの夢のうちなら、えいえんに、一緒に居られる、かしら」)
 ――なあんて、御伽噺だよう。
 吐息一つ零して、夜の裾曳く装束をはた、と揺らす。
 この先には、そんな夢があるかしら。そんな詩だってあるかしら。
 全てはこの扉の向こう。ね、どうしようか。と零した先、コンコンコン、とノックは三度。
「扉を開けて、招いてはくださらないかしら。僕は図書館へ行きたいの」
 扉のノックしたその音の響きは、普通のサイズのーーそれこそ店先の扉と然程変わらない。これほど巨大なのに、だ。それに、音がした。まるで内側で何かが動くような音が。
「何かがある?」
 内部の何かだろうか。即座に動き出すと言う雰囲気ではないが、反応があった。
「音の感じからすると、破壊自体もできそうですが……」
 あれは、剣が通るタイプの音だ、とフィオリーナは思う。一人では無理かもしれないが数人で攻撃をすれば可能だろう。戦場を知るが故の感覚。だが壊せるとして、壊して良いのか。ここまで壊せる範囲は突き破ってきた。そこで、壊せないーー少なくとも一撃では砕けないものを開けて、辿り着いた。
「僕、全部の扉に鍵がかかってる訳じゃないと思うんです」
 ふいに、そんな柔らかな声が落ちた。振り返れば、最初に見えたのはぴん、とたった狼の耳だった。少年の後ろには淡いピンク色の女性が見えていた。
「前に神父さまから聞いたことがあります。押してだめなら引いてみろって」
 ミカゲ・フユ(かげろう・f09424)はそう言って、扉に触れる。押すではなく、横に引いてみればーーキン、と高い音とともに何かが引っかかった。
「お姉ちゃん」
 ミカゲの呼びかけに少年を守るようにあったお姉ちゃんーー死霊のハルが動く。重ねた手は歌うような調べとともに二人の法力を重ね、紡ぎあげるのは封印解除の式。淡い光と共に、ふわり、風が舞った。
「……」
「開かないね、お姉ちゃん」
 ひょいと覗き込んだお姉ちゃんと一緒にミカゲは首を傾げる。むむむ、と少しばかり眉を寄せて。こうなるとやっぱり、壊すしかないのだろうか。とそう思ったところで「あぁ」とヒビキが手を打った。
「なるほど。そういうことか」
 扉は動く。破壊もできる。
 突き破り続け、最後に『鍵』という方法を仕掛けたことにより出現したこの扉は、封印解除の術式に反応した。これは『反応する扉』だ。
「こいつも最悪破壊はできるが、まぁ間違いなくなんかあるだろ。だいたい変な仕掛けがあったりするもんなんだがな」
 材質。術式の痕跡。
 違和感のある場所をじっくりと下がっていく中で、ヒビキは、は、と顔をあげた。
「これだな」
 ドアノブだ。
 さっきまでとは形が違うそれ。鍵穴こそついているがこいつは、中に何かをいれるというよりはーー。
「こいつ自体を、押し込む……」
 ぐ、と力を込めて、ドアノブを押せばーーガキン、音がした。ガラガラガラ、と歯車の動くような音と共にドアノブが扉の中に飲み込まれ、ガチャン、と派手な音が通りに響き渡った。
 それこそ、鍵を回したかのような音が。
「こいつ自身が鍵、か」
 息をつくヒビキの前、目の前にあった扉が壁の方へと収納されていく。一枚、また一枚と飲み込まれていく姿にフィオリーナは思わず息を飲んだ。
「これは、通路……」
「この先にあるのが、永劫図書館かしら」
 イアの呟きが壁に吸い込まれていく。
 詩の海、とそう呟いたのは誰であったか。見つけることができればひとつの願いが叶うという。
「ずっとずっと一緒にいられたらしあわせだろうね」
 ふわり、と浮いているお姉ちゃんにミカゲは言う。ふわふわと靡くピンクの髪に小さく少年は笑って、前を見た。カタン、と最後にひとつ聞こえたのはーー。
「床まで張り替え完了ってか。凝り性なことで」
 息をついたヒビキの前、見えていたのはさっきまでの床ではなく。古びた絨毯の敷かれた通路が奥へ、奥へと続いていた。どうぞこちらへと、告げるように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『書物の魔物』

POW   :    魔書の記述
予め【状況に適したページを開き魔力を蓄える】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD   :    ページカッター
レベル分の1秒で【刃に変えた自分のページ】を発射できる。
WIZ   :    ビブリオマジック
レベル×5本の【毒】属性の【インク魔法弾】を放つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●永劫図書館の怪異
 細長い通路を抜けた先で、天井が抜けた。広いというよりは、高い、と先に感じるのはさっきまでの通路のせいだろう。
 終わりなき扉の続く道を解除し、辿り着いた先、猟兵たちの目に映ったのは壁のようにそり立つ大量の本棚であった。一つや二つではない。図書館の通路そのものが、高い天井まで伸びた本棚によって作られていたのだ。
 足を踏み入れれば、リリ、と歌うような音と共に灯りがつく。壁や本棚の近く、少ない柱に燭台が備え付けられていたようだ。
 ダンジョンらしい灯りの点き方だと猟兵の一人が小さく笑う。あの燭台、簡単には手が届かない場所にある。梯子を使うか、何か手立てがなければ点けることもーー消すこともできないだろう。灯りのある場所を辿っていけば、この図書館が長方形の作りをしているのが分かる。本棚の並びを見る限り、どうやら側面から出てきたようだ。中央、正面の入り口らしい場所には灯りが二つ。明るく、開けた空間には読みかけらしい本が散乱している。だが、この永劫図書館に猟兵たち以外の訪問者はいない。
 ならば、あれは何か?
 なぜ、あの本たちのページは揺れているのか。
 カサカサと、サワサワと、木々の騒めきに似て、どこかそうーー潮騒に似た音色を響かせながら置かれたままの本たちは一斉にそのページを捲り、浮き上がる。
 それこそは書物の魔物。
 散乱していた何冊もの本たちの真なる姿。
 永劫図書館に住まう魔物達が、猟兵たちの存在に気がつこうとしていた。
今であれば、書物の魔物たちはこちらに気がついてはいない。あの扉から出られたことで、先制攻撃のタイミングを得たのだ。ここで、書物の魔物を倒さなければ骸の海のダンクルオルテウスのいるフロアにはたどり着けない。放置はできないだろう。
 ならばーーさぁ、どう攻めていくか。
アルノルト・ブルーメ
図書館の番人としては中々に相応しい……のかな?
何にせよ、この先に用がある以上、放置は出来ないし
するつもりもないのだけれど

記述とマジックにはViperで対応しよう
カッターには咎力封じを積極的に放ち拘束してあげようか
動きが見破られやすい……なるほど、そうかな?
手首の返しで動きに変化を付けたViperの動き
見切れるものなら見切ってごらん

技能の先制攻撃と2回攻撃を率先して利用

僕の動きを見切ったところで
同行する皆がお前達を確実に落とすよ

勿論、マジックもViperのフックで引き裂いてあげよう
数で戦うのは何も君達だけの特権ではないのだから、ね?

補足
探索者としての経験を活かし
皆の攻撃フォローを行うように行動を



 紙の擦る音が、さざ波のように聞こえていた。中央の入り口に溜まった書物の魔物たちは、永劫図書館への来訪者の存在を感じ取りながらもその場所を、正体を掴むには至っていないのだろう。
(「図書館の番人としては中々に相応しい……のかな?」)
 何にせよ、この先に用がある以上、放置は出来ないし、するつもりもないのだけれど。
 す、とアルノルト・ブルーメは腰を低め、手の中にワイヤーを落とす。軽量はそれは音を立てることもないまま、探索者として経験を生かし足音を立たぬ床を選び取る。明らかに足裏の感触が違う。何かのトラップという訳ではないだろう。ただ図書館らしく足音の響く場所と、よく使われていた結果、響かなくなってしまっている場所があっただけのこと。
 だが、そこを迷うことなくアルノルトは踏み込む。足裏の感触を信じ、身を前へとーー飛ばす。足音を殺し、間合いへと踏み込んだ男の手が空をなぞった。
 ガシャン、と音がする。ヒュ、と空を切り裂く音がする。
 高く響くそれに、咎力封じが発動したその時に初めて書物の魔物たちがアルノルトの存在に、気がついたのだ。
「キィイ」
「リィイイン」
 書物とは不釣り合いなーーそれこそ、鋼の擦れるような音を響かせ、慌てたように書物の魔物たちがこちらを向く。アルノルトの先制攻撃に、陣形を崩されたのだろう。攻撃の態勢を整えようとしてか、一斉にページをめくり出すがーーだが、遅い。
「動きが見破られやすい……なるほど、そうかな?」
 手首の返しで動きに変化を付けたViperの動き、見切れるものなら見切ってごらん。
 謳うように告げた男のワイヤーが、書物の魔物を縛り上げていた。毒蛇の異名を示すかのように、フックがガチリ、と踊るページにつきささる。パキ、と聞こえたのは受けたダメージでページが破れた音か。
「リ、ィイイイ……!」
 甲高い音を上げ、暴れるように書物の魔物がページをめくり出す。記述するのは、先の一撃か。赤い装丁が光を零し、叩きつけられた殺意にアルノルトは悠然と笑みを浮かべた。
 あれを使ってくることは分かっていた。
「僕の動きを見切ったところで、同行する皆がお前達を確実に落とすよ」
 さて、と男は手を引く。続く皆が動きやすいよう、迷うことなく、二度目の攻撃をViperを操り叩き込んだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

フィオリーナ・フォルトナータ
ここが、永劫図書館…
どれほどの想いや物語が、ここに眠っているのでしょう
このような場所を、魔物達の住処にしておくには忍びなく

一刻も早く、骸の海の魚の元へ向かいましょう
行く手を遮る無数の本達は、例えわたくし達がどれほど心を込めて
想いを紡いだとしても、通しては下さらないのでしょう?
ならば、倒すまで
わたくしの想いは、この剣に乗せて伝えます

敏捷さから不意打ちは叶わないでしょうから
本棚の影に身を潜めつつ、他の皆様と共に機を窺って攻め込みます
トリニティ・エンハンスで攻撃力を強化し
魔力を蓄えようとする個体には牽制を
倒せそうな個体がいれば優先して攻撃を
届く範囲で皆様を魔物達の攻撃からお守りできるよう立ち回ります


ヒビキ・イーンヴァル
ここが永劫図書館、か。すごい蔵書だな
これが猟兵の仕事中じゃなけりゃ、片っ端から読み漁りたいところだが
現実はそうもいかないか
魔物といえど、本を攻撃するのは気が引けるがやるしかねぇな

せっかく不意打ちできるタイミングなんだ、
ここでやらなけりゃ損ってな
『蒼き焔よ謳え、星の如く』で、本の魔物を燃やして行く
……すごく、罪悪感を覚えるんだが
魔物だから、あれは魔物だから!と自分に言い聞かせ
『高速詠唱』と『2回攻撃』を駆使して畳みかけよう

できるなら長引かせたくはないな……
こっちの精神が耐えられん
そういや、例の「詩」もこの辺にあるのか?


終夜・凛是
本……紙なら、燃やした方が早い、か。
でも俺、狐火の扱いは上手くない。にぃちゃんみたいに、綺麗に遊べればいいんだけど。
まぁ、最終的に困ったら掴んで破って壊すだけ。

掌の上に、狐火を……とりあえずひとつ、ふたつ、みっつくらいから。
近くにいるのに投げる。
上手にあたらなければ……もうめんどい。

狐火を拳に。自分のつくったものだから熱くはない。
熱はあるだろうけど、あんまり感じないから気にしない。
そのまま、目の前に向かってきたページは掴んで捕まえて、ぐしゃりと潰しつつ。
拳突き出し、捕まえて燃やす。

お前は、詩の海じゃないんだろ?
じゃあいらない、燃えればいい。
やっぱり縋るものも、ないんだろうな。


イア・エエングラ
僕の知っているご本は、あるかな
…分かっているよう、今はお仕事だもの

僕はお呼びだてしている間は動けないから
あまり狙われるよな行動も単独行動も避けたいかしら
だからとてお早うを待ってから動く道理もないもの
冒険譚にお決まりの、先手必勝も嫌いでないよ
諳んじるよに友を呼ぶよに招くのはリザレクト・オブリビオン
少し怖い子だけど一緒に戦って、あげてね
たくさん降ってくるのは困るから
起きた子に守ってもらおうな
先ずは手数を減らしましょうな

たくさんの扉をとざしてどんな言葉を、隠したかしら
きみたちが泳ぐ頁には、何が書いてあるのだろ
誰にも開かれない頁の子らは誰を待って、いるかしら
図書館の奥には、何があるだろうね


ミカゲ・フユ
素敵な図書館だけどここも迷宮の中
敵も居るならゆっくりはしていられません

『春彩の秘蹟』で僕の法力をハルお姉ちゃんへ
お姉ちゃんが聖なる光と赦しの十字で攻撃してくれる間に
僕も杖を構えて魔力を紡ぎます

――廻れ、回れ、歯車よ。遍く光をいま、ここに。
聖なる属性の魔法弾を撃ち放って
お姉ちゃんとタイミングを合わせて二回連続攻撃

頑張って走り回ってページや魔法弾は避けたいです
だめそうなら杖で受けます。痛いけど、これくらい平気!

敵が魔力を蓄え始めたら攻撃のチャンスです
ハルお姉ちゃん、僕が撃つ光の十字架に赦しを重ねて
……今だよ!

魔法の本に記されている内容も気になるけど
僕の役目は君たちを斃すことだから。容赦はしません!



●紙と踊れ
「リィイイイ!」
 鳴くように、叫ぶように甲高い音が響く。書物たちが共鳴するように、そのページをめくり出せば、通路の隙間を縫うように放たれたアルノルトのViperが空を切る。書棚を強かに打ちながらも、男は悠然と笑みを浮かべていた。
 請け負ったのは敵からの視線。その意識。
 書物の魔物たちは真っ直ぐにアルノルトを見据えーーだが、その意味に気がつかない。それが『いっとき』引き受けた視線に過ぎないことを。永劫図書館に彼らの住処以外の熱が灯ることにもーーなにひとつ。
「ひとつ、ふたつ、みっつ」
「リ、イ……!?」
 数えるように紡ぐ。なぞるように少年の声は、図書館に狐火を顕現させた。炎は足元を照らし、終夜・凛是の赤い髪に光をーー落とす。
 本、紙なら燃やした方が早いのだから。
(「でも俺、狐火の扱いは上手くない。にぃちゃんみたいに、綺麗に遊べればいいんだけど」)
 兄であれば、兄だったら。
 口の中、紡ぐ名は舌の上で溶けた。書物の魔物たちが振り返る。目らしいものなど無くとも、そう感じるのは溢れた敵意からか。そのうちの一冊が気がついても、二冊が凛是に迫っても狐火の方がーー早い。近くにいる本へと投げつければぶわり、と魔物のページから派手な炎が上がる。
「キィイイ!」
 焼け落ちたページに、警戒を告げるようにページが舞った。踊る紙の間、打ち出されたインクの魔法弾が凛是の頬を掠った。
「……」
 チリ、と走る熱に似た痛み。不機嫌そうに少年は眉を寄せ、狐火を拳に宿した。
 炎が舞う。た、と床を蹴り、飛ぶように間合いを詰めた凛是の一撃にページが舞う。キラ、と一瞬、その向こうに光が見えた。
(「あれはーー……!」)
 フィオリーナ・フォルトナータは身を、前に飛ばす。踊る本を飛び越えれば、初めてフィオリーナに気がついたようにページがめくられる。
自分には不意打ちは叶わないだろう、とフィオリーナは本棚の陰に身を潜めていたのだ。
 故に、書物の魔物たちに気がつかれぬまま、少女はそれに気がついたのだ。
 魔力を蓄えようとする個体に。
「ィ、リィイイ!」
 飛び越えるフィオリーナを仰ぐように、本が開く。そこは、とアルノルトの声が届く。
「足場にできる。本棚も皆、頑丈のようだ」
 探索者の声に、視線で頷き着地と同時に剣を抜き払う。足元、落ちた影は背の高い本棚のもの。空いた棚が目立つのは『あの本』たちが寝床にしていたからか。
(「ここが、永劫図書館……。どれほどの想いや物語が、ここに眠っているのでしょう」)
 このような場所を、魔物達の住処にしておくには忍びない。
「一刻も早く、骸の海の魚の元へ向かいましょう」
 告げる、言葉と共にフィオリーナは三種の魔力を身に纏う。青の瞳は真っ直ぐに、魔力を蓄えようとする魔書を捉えていた。
「リ、ィギィイ!」
 剣が、届く。切り上げる一撃がページを切り裂き、苛立ちを見せるようにこちらを向く。
「ギ、リイィ」
 だが、書物の魔物はそれ以上動けない。ページなどめくれない。自らの攻撃力を高め、打ち出された少女の一撃が深く、書物を切り裂いていたのだから。
「リ、ィイ」
 一撃の重さに、魔書が軋む。敵意がむき出しの殺意へと切り替わる。その視線を、少女は受け止める。行く手を遮る無数の本達は、例えフィオリーナ達がどれほど心を込めて想いを紡いだとしても、通してはくれないのだろう。
「ならば、倒すまで。わたくしの想いは、この剣に乗せて伝えます」
「リ、リリ、ィギィイイ!」
 軋むような、鋼を引っ掻くかのような音が永劫図書館響き渡った。およそ本が出すような音ではなく、だがページをめくるサワサワという音が重なり響く。果たしてそれはダンジョンらしい異様か、この地に似合いの怪異なのか。
「僕の知っているご本は、あるかな。……分かっているよう、今はお仕事だもの」
 踊る魔書と、光を視界にイア・エエングラは小さく息をつく。書物の魔物達の動きに連携らしい連携は無い。
「少し怖い子だけど一緒に戦って、あげてね」
 よに招くのはリザレクト・オブリビオン。友を呼び、イアは柔らかに紡ぐ。
「先ずは手数を減らしましょうな」
「うん、そうだね」
 頷いたミカゲ・フユが、とん、と踏み出す。ふわりと浮いたお姉ちゃんよりもずっと高い場所まである本棚。
(「素敵な図書館だけどここも迷宮の中。敵も居るならゆっくりはしていられません」)
 凛是の拳が、ページを捉える。上がる炎の向こうから、狙いを定めた魔書をイアが指し示せば、リィイ、と書物の魔物がーー叫ぶ。
「リィイイィイイ!」
「ハルお姉ちゃん、今だよ」
 お姉ちゃんの放つ聖なる光と、赦しの十字架がページを撃ち抜く。刃の色彩を得る前、放たれる瞬間に一撃を奪われた魔書がこちらを向く。
「――廻れ、回れ、歯車よ」
 その視線に、ミカゲは杖を構え、魔力を紡ぎ上げる。溢れるは光。さわさわと髪が揺れ、手を伸ばしたお姉ちゃんの一撃に続けて光をーー放つ。
「遍く光をいま、ここに」
 キュインと高い音色を残し、聖なる光によって撃ち抜かれた本が、崩れ落ちた。派手に散らばったページが地面に落ちる前に淡い光となって消える。
「魔法の本に記されている内容も気になるけど。僕の役目は君たちを斃すことだから。容赦はしません!」
 ミカゲの言葉に、バサバサと派手な音を立て、残る魔書たちがこちらに向かう。ぐん、と獣のように飛びかかって来る姿は、あまりに普通の本とはかけ離れているというのに、ページの捲られる音はヒビキ・イーンヴァルに馴染みのある音をしていた。
「魔物といえど、本を攻撃するのは気が引けるがやるしかねぇな」
 永劫図書館。その蔵書は、猟兵の仕事中でなければ片っ端から読み漁りたいところだが現実はそうもいかない。
「祝宴の始まりだ」
 息をつく。男の招くは蒼き焔。地下の迷宮に星を紡ぐ術式。夜の空に星が浮かぶように、幾つもの火球がヒビキの頭上に生まれーー。
「焔よ、舞い踊れ」
 その一言と共に、放たれた。
「リ、ギィイイ!?」
 蒼き焔に、魔書が燃え上がる。ぶわり、とページが飲み込まれれば、紙の焼けた匂いがヒビキに届く。
「……すごく、罪悪感を覚えるんだが」
 だってあれは本で。ここは図書館で。でもやっぱり猟兵な仕事中でわけで。
(「魔物だから、あれは魔物だから!」)
 自分の言い聞かせ、焔の中、生き残った魔書がインクの魔法弾を撃ち出すより先に、高速詠唱で二度目の攻撃を叩き込んだ。
 毒を帯びたインクが焔に飲まれ、開くページで一撃を受け止め切ろうとした魔書が煙をあげる。見れば、永劫図書館に浮かび上がった書物の魔物は、大きくその数を減らしてきていた。
「できるなら長引かせたくはないな……。こっちの精神が耐えられん」
 そういや、とヒビキは思う。此処が図書館であるのならばーー。
「例の「詩」もこの辺にあるのか?」
 本棚を見て回る暇はなさそうだが、詩の海が動き出して暴れるらしいという話は聞いていない。ならば、これは単純に魔物か。
 ぶわり、とページが舞い、紙の踊る音とリィイイ、と魔書の叫ぶ音が永劫図書館に響き渡る。放たれる一撃に、身を躱し、時に受けながらも踏み込んでいく猟兵たちに対し、不意打ちによって統制を失った書物の魔物たちは、ただ暴れるようにページをめくる。
「……」
 その刃を、凛是の拳が焼いた。狐火を拳に。自分の作ったそれは熱さを感じぬままに、目の前にやってきたページを捕まえたのだ。
「お前は、詩の海じゃないんだろ?」
 阻まれた一撃に。捕らえられた事実に、魔書が戸惑いに似た音を零す。ぶわり、と上がる炎は暴れる書物の本体まで届いていく。
「リ、ギ、リリ……ッ」
「じゃあいらない、燃えればいい」
 突き出した拳に力を込めれば、ぶわり、と捕まえた書物の魔物が燃え尽きた。
「やっぱり縋るものも、ないんだろうな。
 灰も残さず焼き尽くし、溢れる光さえ無い足元に凛是の声が、静かに落ちた。
 炎と光の中、紙は踊る。ワイヤーを操り、仲間の攻撃を援護するアルノルトを視界に、フィオリーナが踏み出す。
「リィイイ!」
「させません」
 真っ直ぐに、イアへと向かった魔法弾へとフィオリーナが踏み込む。一撃、構えた剣と共に受け止めたパラディンの背を視界に、イアは揺れる魔書を見る。
「たくさんの扉をとざしてどんな言葉を、隠したかしら。きみたちが泳ぐ頁には、何が書いてあるのだろ」
 誰にも開かれない頁の子らは誰を待って、いるかしら。
 詩の一節を紡ぐように謳い告げ、踊る指先がーーイアの友が本を貫く。破れ落ちたページを視界に、ミカゲは魔法弾を避け切った。
 たん、と少年は足を止める。キン、と目の端、光って見えたのは魔力を貯める書物の姿。
 あれは、攻撃のチャンスだ。
「ハルお姉ちゃん、僕が撃つ光の十字架に赦しを重ねて」
「ーー」
 頷くように、名を呼ぶように指先がミカゲの示す先と重なる。
「……今だよ!」
 その声に合わせ、二つの光が書物の魔物を貫いた。光の十字架に、重なり落ちた赦しが最後の魔書を、撃ち抜いていた。

●行く先
 最後の一冊が崩れ落ちれば、永劫図書館の中響き渡っていたざわめきがぱたり、と止んだ。漣に似た音も消えーーだが、カシャンと上の方で何か音がした。
「あれ……」
 聞いたな、と凛是が呟く。アルノルトが最初に鍵を使って扉を開けた時と同じ音。続けて響いた音は、あの時、皆で扉を開けようとしていた時に聞いた音に似ていた。
「此処にも仕掛けがあるのか?」
 眉を寄せたヒビキの横、いや、と柔く口を開いたのはイアだった。
「上かな」
 本が降ってきたら困るから、と起きた子に守ってもらっていたイアの目には、さっきまでなかったものが確かに写っていた。
「梯子か、階段……かな」
「あぁ、図書館のか」
 ヒビキが頷く。書棚は天井まで届くほどの高さがあるというのに、そこを見るためのものは確かになかった。
「……でも、ひっかかっているみたい、ですね」
 じじーっと見た先、ミカゲは小さく眉を寄せた。何かが実際に引っかかっているというよりは、魔術的な理由か何かで『あれ』は完全に降りてこられないのだ。
「全ては骸の海を倒せば……ということでしょうか」
 この奥にいるという存在。このダンジョンに住み着いたオブリビオンを倒せば、まず間違いなく変化は起きるだろう。
 さっきまでは感じられなかった、寒さにも似た感覚にフィオリーナは視線を奥へと向ける。
「図書館の奥には、何があるだろうね」
 イアの声が静かに響き、行こうか。と誘う。
 猟兵たちはこのダンジョンに住み着いたオブリビオン・骸の海のダンクルオルテウスとの対決の時を迎えようとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『骸の海のダンクルオルテウス』

POW   :    噛みつき
【噛みつき 】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    尾撃
【尾っぽ 】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
WIZ   :    影化
【輪郭のぼやけた影 】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠秋冬・春子です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●最果ての魔物
 その空間は、異様な程の静寂を称えていた。
 永劫図書館の半ばまで、あれ程の戦いを繰り広げていたというのにそこには埃ひとつ舞い上がらず、黴びた匂いも、冷えた地下の臭いも無い。
 永劫図書館の奥、重厚な扉は猟兵たちの到着を見届けるようにして消えた。残った紙片の示す先が何かは分からぬまま、猟兵たちは『奴』を見る。
 骸の海のダンクルオルテウス。
 死者の魚は、なぎ倒した本棚を寝床にゆるり、と弧を描きーー気がつく。己が領域に立ち入った者たちの姿を、来訪者の姿を。猟兵たちが武器に手を伸ばす姿に巨体を起こしーー吠えた。
「ルァアアアア」
 唄うように、叫ぶように。
 骸の海の咆哮に、なぎ倒された本棚たちがざわざわと震えた。
 攻撃では無い。威嚇に似た声に、震えた紙は共振したのか。崩された本棚の下、踏み潰された本らしいものは見えず、かと言って敵が増える様子はない。
 正真正銘、此処は奴だけの場所なのだ。
 円形の広間。
 無事、討伐が終われば永劫図書館の中を調べる時間も十分にとれるだろう。今は、目の前の相手だ。
 押し倒された本棚を寝床に、骸の海のダンクルオルテウスは己の領域で優雅に泳ぎ君達に牙をーー剥く。
終夜・凛是
俺より大きい……のは、当たり前か。
んん、図体でかくてもやることは同じ。
目の前に来たら、ただ殴るだけ。

近づいてくるなら、それを待って。こないならこっちから。
周りにいる猟兵とも協力する。
怯ませるなら顔面。いけそうなら眉間狙い。難しければ腹でも顎でも。狙えるとこを攻撃。
噛み付いてくるなら、いいぜ。片腕くらいなら喰ませてやるよ。
喰わせては、やらないけど。

無事倒せたら。
詩の海を探してみてもいい……さがす。
多分その本はないんだろうけど、でもあるかも。
この間だけは……にぃちゃんのことだけ考えてられる。
これはしあわせなじかん。
でも、こんなの、虚しくなってあとで、笑っちゃうんだろうな。


フィオリーナ・フォルトナータ
トリニティ・エンハンスで防御力を強化
噛み砕かれても壊れないよう、守りに重点を置いて立ち回ります
時に仲間の皆様を庇い、お守りしつつ、隙を見て攻撃を加え撃破の一助となるように
躯の海の魔物よ、あなたがいるべきは此処ではありません
どうぞ、在るべき場所へとお還り下さい

無事に戦いを終えられたら、そうですね、折角ですから詩の海を探してみましょう
見つけられなくとも良いのです
わたくしが永遠に傍に居たいと望むお方は、もう何処にもいませんから
けれど、それでも。何か残されたものを見つけることが叶ったのなら
決して忘れず、覚えておくことを約束いたしましょう
顔も名も知らぬ何処かの誰かが確かに生きていた、その証に


アルノルト・ブルーメ
牙を剥いたところで……何も変わりはしない
きみは此処で息絶える
オブリビオンである以上、それは揺るがない事実だよ

先制攻撃と2回攻撃で敵の出鼻を挫こう
その間に強力な一撃見舞ってくれれば良いよ

噛み付きと影化にはViperで対応
これまで同様に手首の動きで変化を付けて撹乱し
尾の攻撃は咎力封じを使用して、封殺を狙う

ここはね、きみの場所ではないよ
だから、返して貰おう
ロマンティックな伝承に無粋は要らないのだから

戦闘後
戻せる限り蔵書を棚に戻しつつ、図書館を探索
詩の海――

時が巡り繰り返されても
尚、変わらない
だから、ずっと一緒……という事かな

ずっと一緒に居るための、閉じた場所……
なるほど、永劫図書館の名に相応しいかな


ヒビキ・イーンヴァル
よし、やっとヌシのお出ましだな
今までの戦闘で鬱憤が溜まってたんだ
ここで全部晴らさせて貰おうか

『蒼き焔よ躍れ、嵐の如く』で攻撃
発生させた炎は全部バラバラに動かして、
色々な角度から当てて行こう
『高速詠唱』『2回攻撃』に『全力魔法』でフル回転だ
特に小細工しなくても炎が当たりそうなら、
全部一つに纏めてぶつける

敵さんからの攻撃は『武器受け』と『見切り』で何とかする
伊達に帯剣してる訳じゃないんでな
必要なら斬り込みもするさ

さて、これでゆっくり図書館内の探索ができるかな?
しばらくここに籠って本を読みふけりたい……
詩も気になるが、
どっちかと言うと、その噂の出所の方が気になるんだよな


イア・エエングラ
あらあら、本の紙魚にしては随分大きいのねえ
これでは文字も、食べられちゃうよう
やあ、怖い…笑っていては説得力はないかしら

最後まで付き合ってね
お呼びするのはリザレクト・オブリビオン
影と遊ぶほど速く動くには向かないけども
こちらにいらしたら本でも投げよか…怒られるかしら
泳いでいたところをごめんね、僕は先が、見てみたいの
だからそこを、退いておくれね

梯子の上から見下ろす書架の海はきっと壮観だろな
詩の海もとても、気になるけれど
潜ったら溺れてしまいそう
それとも、泡になって消えた言葉も探せるかしら
そうしたら、その底からすくい上げて
――ずうっと一緒に、いられるかしら
そんな御伽噺を夢に見ていた、だけだけど


セフィ・イーンヴァル
やっと追いついたよー!
ここからはわたしもお手伝いするね

この魚みたいな魔物を倒せばいいの?
じゃあいっくよー!
『属性攻撃』と『全力魔法』を乗せた、『蒼き氷晶の揺籃』で攻撃するよ
これで魚の動きを封じちゃおう
その間に、皆頑張って殴ってくださいっ
隙があれば何度でも攻撃するね
敵からの攻撃は『オーラ防御』で耐えるよ

迷宮にこんな図書館があるなんて、凄いね
探しものがあるなら、それもお手伝いするよ
あ、でも色々な本があって目移りしちゃいそう……
本にはね、書いた人の想いが籠ってるの
それがこんなにたくさんあるなんて、とても素晴らしいこと



「牙を剥いたところで……何も変わりはしない
きみは此処で息絶える」
 アルノルト・ブルーメのロープが巨体を捉えていた。先制の一撃に、骸の海の視線がこちらを向く。ガシャン、と音を立て、手枷がぶつかる。
「オブリビオンである以上、それは揺るがない事実だよ」
「ルグァアアア!」
 アルノルトの言葉に、一撃に骸の海はその牙をむき出しにすると、だん、と床を叩き影を生む。輪郭のぼやけた影へと変化した骸の海のダンクルオルテウスは、殺意をむき出しに、ぐん、とその身を戦場へと踊らせた。
「ルァア!」
「ーーっと」
 一撃が、アルノルトへと届く。一撃に鑪を踏みながらも、男の操るワイヤーが弧を描き踊れば骸の海の視線がそちらに向く。
 今の骸の海のダンクルオルテウスは、速く動く物を無差別に攻撃し続けることしかできない。
「ここはね、きみの場所ではないよ。だから、返して貰おう」
 手首の動きを使い、アルノルトはViperを操る。撹乱するように戦場に踊らせ、2回目の攻撃以降の動きを見据えたまま言った。
「ロマンティックな伝承に無粋は要らないのだから」
 た、と踏み込む一人の足音を聞きながら。
 自分から近づいてくることの無い相手に、終夜・凛是は行く。速く動く相手を狙う骸の海は間合いへと踏み込んだ。ぞわり、と泡立つ肌は殺気を感じ取ってか。だがそれに、臆する訳では無い。ただ、そうーー。
「俺より大きい……のは、当たり前か」
 図体がでかくてもやることは同じ。
「目の前に来たら、ただ殴るだけ」
「ルグァアア!」
 次の瞬間、骸の海の影の下、突き出された凛是の拳がオブリビオンの眉間へと叩きつけられていた。
「ルァア!?」
 一撃に、その衝撃に。輪郭を失った影が揺らぐ。分かりやすい戸惑い。怯んだ骸の海が頭を振るい、跳ねるように身を起こした。
「グルァア!」
 咆哮と共に骸の海が、大口を開く。だが、その噛みつきはーー凛是には届かない。
「ァ、ア……!?」
 先の一撃、怯んだ体では、距離が足らなかったのだ。素早い噛みつきも届かなければ、その鋭さを発揮できもしないまま。その身を戻した骸の海の牙に、凛是は小さく笑った。
「いいぜ。片腕くらいなら喰ませてやるよ」
 伸ばす指先で、触れる程に距離を詰めて。されど拳を握れば、込められるのは力。
「喰わせては、やらないけど」
「ル、ァアアア!」
 薄く笑い告げた言葉に、骸の海のダンクルオルテウスが吠えた。暴れるように身を起こす巨体に、あらあら、とイア・エエングラが息をつく。
「本の紙魚にしては随分大きいのねえ。これでは文字も、食べられちゃうよう」
 やあ、怖い。と笑い、ふ、と口元を緩める。
「笑っていては説得力はないかしら」
 吐息を零すようにして笑い、するり、伸ばす指先が戦場をなぞった。
「最後まで付き合ってね」
呼び出すのは死霊の騎士と蛇竜。冷えた空気に、ほっそりとした指先を骸の海へとーー向けた。
「泳いでいたところをごめんね、僕は先が、見てみたいの」
 音もなく、死者の騎士は駆け出す。冷えた空気を切り裂き、刃が鈍色の肌に届いた。
「グ、ァルウ……!」
「だからそこを、退いておくれね」
 深く、切り裂けば光が散る。向いた視線に、骸の海のダンクルオルテウスが纏う緑が色づきーー再び、輪郭のぼやけた影へと変貌した。
「リィイイイイ!」
 ぐん、と空を叩く尾が力を増した。高い攻撃力と、高い耐久力を纏い骸の海が、揺れる。
 輪郭のぼやけた影であるが故に。
 世に落とす影を見失い手に入れた力であるが故にーー。
「ルグァアアア!」
 その身は早く動く物を、無差別に攻撃しだす。
「!」
 一撃は、イアの死霊蛇竜に向かった。尾を振るい、暴れるように骸の海は床を踏み込む。輪郭のない影であるというのに、バキ、と床が鳴る。本でも投げられれば、と思っていたが、此処には無い。
「躯の海の魔物よ、あなたがいるべきは此処ではありません」
 そこに、踏み込む少女の姿があった。抜き払った刃を手に、骸の海の一撃をーー受け止めたのだ。
「ーー」
 炎を指先に、水の魔力を衣に纏い、踏み込む足に風の魔力を紡ぎフィオリーナ・フォルトナータは防御力を高めた。噛み砕かれても壊れないよう。
「どうぞ、在るべき場所へとお還り下さい」
 それは、覚悟と共に響く宣言。ぐ、と攻め込むオブリビオンに、受け止めた刃を刎ねあげる。
「ル、ァア!?」
 理性を失い、得た力に身を委ねた骸の海は気がつかない。永劫図書館の奥へとたどり着いた一人がいることに。
「やっと追いついたよー! ここからはわたしもお手伝いするね」
 たん、と足音高く。ふわり広げた翼と共に、少女は戦場へと降り立つ。ふわり揺れた銀糸の向こう、蒼く輝く瞳をセフィ・イーンヴァルは眼前の相手へと向けた。
「じゃあいっくよー!」
「ルァアア!」
 させるかと叫んだのか。邪魔をと吠えたのか。
巨大な尾で床を叩いた骸の海の周り、パキ、と空気がーー鳴いた。
「其は原初の力、其は蒼き光」
 それは、大気を変える音。研ぎ澄まされた冷気。自らが纏う冷気から、生み出すのは氷の楔。
「其は氷の揺籃なり」
 氷結の一撃が、骸の海へと突き刺さった。キン、と甲高い音を立て、骸の海のダンクルオルテウスが凍りついていく。
 一時的に封じた動き。永遠ではない。だがその一瞬を逃す猟兵たちではない。
「其は荒れ狂う蒼き焔、我が意により燃え尽くせ」
 生じたのは炎だった。氷結した骸の海は、自らを影へと変えられぬ炎を追う。発生した炎は全て、バラバラに動いていたのだ。
「やっとヌシのお出ましだな。今までの戦闘で鬱憤が溜まってたんだ」
 淡い光の中、嘗て色彩を変じた瞳を細めてヒビキ・イーンヴァルは言った。
「ここで全部晴らさせて貰おうか」
 上下、左右、全方位、様々な方向からヒビキの操る炎が骸の海へと叩きつけられた。
「グルァア!」
 衝撃に骸の海が頭をあげ、暴れるように振るわれた一撃がヒビキへとーー届く。
「!」
 筈だった。
 抜き放たれた刃が、骸の海の尾を受け止めていたのだ。
「ル、ァア!?」
「伊達に帯剣してる訳じゃないんでな」
 刃の上、火花が散る。落ちた光を視界に、ヒビキは二度目の攻撃を紡ぎあげる。
「蒼き焔よ躍れ」
 高速詠唱による即座の顕現。
 炎が、至近から骸の海へと叩きつけられた。
 ぶわり、と熱が踊る。炎熱の中から身を踊らせ、輪郭のない影となって飛び込んでくる巨体へとアルノルトのViperが絡みつく。ガ、と鈍く響いた音に、僅かに鈍る動きを逃すことなくイアは告げた。
「あそこだよ」
 向かうは死霊の騎士。打ち付ける刃の向こう、濃い影へと変じた骸の海は吠えた。
「ル、グァアア!」
 暴れるようなそれに、だが氷が届く。氷結の一撃。放つ一撃が骸の海へと突き刺さったのを確認してセフィは言った。
「皆頑張って殴ってくださいっ」
 全力で展開された一撃は、そう安安と振り払えるものではないのだから。
「ル、ァ、ルグァア!」
「躯の海の魔物よ」
 手にした剣に力を込め、壊れ切ることはなかった体でーーその手で、フィオリーナは薙ぐように剣を振るった。
「ル、ァアア!?」
 少女の一閃が、踏み込み払う一撃が骸の海の体を砕く。その身に纏う影が、高く紡ぎ上げられた防御がーー砕ける。
「これで終わりにしましょう」
「いい加減」
 終わりで良いだろうし、と声を落とし、凛是は拳を握る。踏み込む、一撃にヒビキの操る炎が舞う。
「全部ひとつに纏めるのもできるんでね」
「ル、グァアア!?」
 素早い拳と、炎に撃ち抜かれ骸の海のダンクルオルテウスはぐらり、とその身を崩す。巨体は緩やかに床に倒れーー淡い光となって、消えた。

●詩の海
 平穏を取り戻した永劫図書館に、ガシャン、と音がした。骸の海のダンクルオルテウスの住処から面へと戻れば、あの時、天井に見えていた梯子が降りてきているのが見えた。
「上の方にある本はあれで見るように、か」
 一人、探索者は頷く。見れば、さっき抜けてきた時より書架に本が増えている気がする。
「さすがは学園の地下迷宮、か」
「さて、これでゆっくり図書館内の探索ができるかな?」
 くぅ、とヒビキは背を伸ばした。見上げる程に巨大な本棚。足の代わりの階段も完備。床が特別汚れている訳でもないから、座るのにも十分。
「しばらくここに籠って本を読みふけりたい……」
「迷宮にこんな図書館があるなんて、凄いね」
 見上げてセフィは感嘆の息を零した。探し物があるなら、それもお手伝いするよ、と少女は言う。詩の海、というものを探しにいくメンバーもいるようだ。
「あ、でも色々な本があって目移りしちゃいそう……」
 似たような背表紙もあれば、全く違うものもある。持ち上げるにはきっと重そうなんだろうなという、ちょっと分厚い本も。
「本にはね、書いた人の想いが籠ってるの」
 背表紙をなぞる。名前の掠れた本には読まれた痕跡があった。此処はきっと、使われていた図書館だ。此処にある本も皆、読まれていた。
「それがこんなにたくさんあるなんて、とても素晴らしいこと」
 ほう、と零す息に、可愛らしい背表紙の本が、こてり、と倒れた。
「詩も気になるが、どっちかと言うと、その噂の出所の方が気になるんだよな」
 他のメンバーは、詩の海を探しに永劫図書館を見て回っているらしい。タイトルの無い背表紙を引き出し、ヒビキは僅かに眉を寄せる。
「ーー……これは、礼儀作法の書物か?」
 本、というよりは書き取ったメモのようなものだろうか。ページに書き込む文字に眉を寄せ、ぱらぱらとページをめくった先で、ヒビキはひとつの名前に出会う。
「流石に掠れてるか。……いや、でもこの文字は……」
 書き込みと文字と、同じ癖があった。
「これを書いた人間と同じ? 後ろにいれるのは名前くらいだが……」
 そうなれば、これは個人の持ち物だ。書物、というよりは所有物。それが此処に置かれていたのはーー……。
「何か理由があるのか?」
 永劫図書館と呼ばれるこの場所に、置き忘れられたのか。置いていったのか。それとも、何か他にあるのか。
「まぁ、折角だ。暫く籠もるか……」
 読む本は山のようにあるのだから。
 魔術書に音楽書。古典に、これは地図だろうか。学園の地図というよりは、随分と幻想的な光景に、差し込む夕日を指先で辿り凛是は小さく眉を寄せた。
「これも違う」
 詩の海を探してみてもいい、と思った。探す、と。
(「多分その本はないんだろうけど、でもあるかも」)
 本棚を辿り、背表紙を撫でて。指先で引っ掛けた本を見つけて、小さく、ちいさく凛是は笑う。本を探しているこの間だけは、兄のことを考えていられる。
(「これはしあわせなじかん」)
 でも、こんなの、虚しくなってあとで、笑っちゃうんだろうな。
 カツン、と足音ひとつ、背の高い本棚の落とす影が凛是の指先に触れていた。

「此処は、これで最後か」
 戻せる限り蔵書を棚に戻しつつ、アルノルトは図書館を探索していた。
「詩の海――時が巡り繰り返されても、尚、変わらない」
 だから、ずっと一緒……という事かな。
 呟いて、背の高い本棚を見上げる。天井にまで届く書架。目を凝らしても、道具なしではその先まではぼやけて見えない。
「ずっと一緒に居るための、閉じた場所……。なるほど、永劫図書館の名に相応しいかな」

 一方、イアは梯子の上に上がりきって書架の海を見下ろしていた。
「詩の海もとても、気になるけれど、潜ったら溺れてしまいそう」
 梯子に腰掛けたままイアは藍色の瞳を細めた。
それとも、泡になって消えた言葉も探せるかしら、と呟いて、するり、手を伸ばす。
「そうしたら、その底からすくい上げて――ずうっと一緒に、いられるかしら」
 そんな御伽噺を夢に見ていた、だけだけど。
「だけど」
 紡ぐ声は永劫図書館に溶けていく。

 二つ目の本棚の横を抜ければ、深い木の色がフィオリーナを出迎えた。折角だから、と始めた詩の海探し。でも、見つけられなくても良いのだ。
「わたくしが永遠に傍に居たいと望むお方は、もう何処にもいませんから」
 小さく零した言葉ひとつ、本棚を辿り、背表紙の色、ひとつ、ひとつをなぞりながら進む。判型も様々な本の中、フィオリーナは変わった一冊に出会う。
「これは……」
 今までの本とは違う。魔力が関与しているのか。そういえば、さっき眺めた時本棚にこの本はあっただろうか。
(「何らかの理由で出てくるようになっていたのであれば……」)
 そう、とページをめくる。そこに綴られた文字は掠れ、けれど誰かに当てた想いのようだとフィオリーナは思った。
(「決して忘れず、覚えておくことを約束いたしましょう」)
 それはもう会えない誰かに綴っていた言葉。掠れた文字の向こう、願い祈り綴られた文字にそっと、少女の指先が触れた。
「顔も名も知らぬ何処かの誰かが確かに生きていた、その証に」
 願うように綴られた言葉。掠れた文字で読み取れたのはひとつ。
 貴方とずっと、一緒が良かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月17日


挿絵イラスト