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アースクライシス2019④〜神鉄の壊獣

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 咆哮、轟音。聳え立つ岩山が枯れ木のように倒れ、赤茶けた砂煙が舞い上がる。
 土埃を避けるように報道ヘリが軌跡を変え、乗り合わせたニュースキャスターが声を上げた。
 「他文明からの襲撃を受けて既に数日、ここモニュメントバレーに生じた洞窟からは地底文明センターオブジアースからの刺客が連続的に出現し、ヒーローによる懸命の防衛戦が行われております。
 先ほどの岩山――ビュートの倒壊も戦闘によるものでしょうか。

 あっ、また新たな、また新たなオブリビオンが現れました!! 先ほど倒れたビュートの根元、鎧をまとった怪獣の様なオブリビオンがさらに別の岩山を殴りつけ破壊しています。
 モニターの前の皆様、見えますでしょうか! あの怪獣の如き姿! 全身を包む神鋼の鎧は多くの攻撃を弾いてしまうと言われ、ほとんどのヒーローが歯が立ちません。
 一刻も早い猟兵の対処が期待されます。――現場からは以上です!」


「ヒーローズアースでオブリビオンによる攻勢が始まっている。
 敵の作戦目標はいくつかに分かれているが、今回はアリゾナ州モニュメントバレーに行ってもらう」

「敵は壊人ヴァルニール、破壊衝動のままに暴れまわる怪人だ。それだけならお前たちが苦戦する相手ではないが、センターオブジアースの支援――神鋼の鎧によって強化されている。いくつかの鎧の隙間を除いて攻撃は無効化されると考えたほうがいい。
 狙うべき攻撃の隙間は五つ。
 まずは首、そして尻尾の付け根、この二か所の隙間は閉じる事はない。
 後は敵の両拳。攻撃の為に拳を握りしめた時、奴自身の握力が鎧をゆがませて隙間を生む。
 そして背中、これは巨大化した際だな。身長が数倍になる影響でフォローしきれない部分が出るようだ。
 最後に瘴気で生み出した分身。一体だけ鎧を身につけない分体があらわれるようだ。それを見つけて攻撃すれば本体にも相応のダメージが通る。」
 拳や背中、分身に関しては敵が使用するユーベルコード次第になる、とディスターブは補足する。
「現場、モニュメントバレーは起伏の多い戦場になる、その高低差は武器になるだろう」
 言ってディスターブはローブの下から、信頼に満ちた声をかける。
「知らしめてやるがいい、神代の鋼と言えどお前達の攻撃を防ぐには足りぬとな。」


雲鶴

 今回マスターを務める雲鶴と申します。
 ボス敵との純戦シナリオ、割といつものオサレバトル系シナリオです。
 攻撃手段を工夫して敵の鎧の隙間を狙うことでプレイングボーナス&オサレポイントが得られます。
 それでは皆様の熱い、ヒーローらしいプレイングをお待ちしています。

●プレイングボーナス
 このシナリオには、下記の特別な「プレイングボーナス」があります。これに基づく行動をすると有利になります。
 =============================
 プレイングボーナス……どこかにある「鎧の隙間」を狙う。
 なお鎧の隙間は下記の5カ所で、そのうちどれか1つを狙えばボーナスとなります。
 1.首     :常時攻撃可能。
 2.尻尾の付け根:常時攻撃可能。
 3.両拳    :POWUC使用時。
 4.背中    :SPDUC使用時。
 5.分身の内一体:WIZUC使用時。
 =============================
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第1章 ボス戦 『壊人ヴァルニール』

POW   :    塵拳
【瘴気を纏った拳】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    壊世
【破滅願望】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
WIZ   :    冥連
自身が【壊したい感情】を感じると、レベル×1体の【瘴気で作られた小型の分体】が召喚される。瘴気で作られた小型の分体は壊したい感情を与えた対象を追跡し、攻撃する。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ナイツ・ディンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

シャーロット・キャロル
鎧によって強化ですか…… これは厄介な相手ですね。
ですがマイティガールはこんなことでは後退しませんよ!

どうやら瘴気を纏った拳で攻撃してくる際に隙があるようですね。パワーとパワーのぶつかり合いなら得意分野ですしそこから攻めるとしますか!

「さぁこのマイティガールが相手になりますよ!どこからでもかかってくるがいいです!」
ファイティングポーズを取って相手に真正面から勝負を挑みますよ。
狙いは●塵拳を放ってきた瞬間。そのタイミングで一気に正面から掴みかかりますよ。※怪力には自信があるんです。
動きを止めたらそのまま【マイティヒートヴィジョン】で隙間を攻撃です!
両手が塞がってても目からのビームならどうです!


ヘンリエッタ・モリアーティ
――へえ、強そうな竜だこと
殴りあいましょうよ、同じ「竜」同士
初めまして、ダークヒーロー・ウロボロスです

【黄昏】で殴りあうわ
武装は「死樹の篭手」で挑むことにしましょう
両拳を突き合わせるようにして、カウンターを狙っていきます
そうよね、何でもかんでも壊してしまいたいわよね――わかるわよ、私もなんでも壊したくなってしまうから
実際、前まではそうだったし
だけれど、教えてあげるわヴァルニール
――壊すよりも、救うほうがもっと難しい。そっちのほうが、たのしいわよ。
全力で迎え撃ち、負傷しても怯みませんとも
ヒーローが退いてどうするのよ、勝ちしか認めないわ
――ぶちのめす。打ち砕いてやる。私の護るべき「未来」のためにね


荒谷・ひかる
うっわぁ。なんだか怖いのが出て来たんだよ。
でもでも、きっと倒せない相手じゃないんだよ……わたし、ふぁいとっ!

沢山居るなら、囲まれたら厄介なんだよ……だから、迷宮に閉じ込めてあげるんだよっ!
【草木の精霊さん】発動
植物で覆われた密林の如き迷宮を戦場に作り出し、分体諸共呑み込む
丸ごと呑み込んだら、全部一か所に集まるように通路を再構築
全部集まったら……そこに仕込んだトラップ(捕縛の蔦、粘着樹液、毒の花粉、木の実爆弾、羽虫の群れ等々)を一斉に起動!
鎧付きもそうじゃないのも、一緒くたに纏めて攻撃してやるんだよっ

そこはさながら、ウツボカズラの底。
捕まった時点で、もうおしまいなんだよっ!


ロバート・ブレイズ
【背中】を狙う。
対象が『壊世』を発動させるまで鉄塊剣で接近戦を行う。可能ならば『情報収集』で相手の動きを読み解き、行動パターンを把握する。
相手が『破世』を発動させた瞬間に『探索者の心得』を使用。正気固定機でデメリットを消し、全力で回避
相手に隙が出来た瞬間に『恐怖を与える』一撃を背中に。
抉るように。掻き混ぜるように。対象の中身を『想像力で創られた地獄の炎』で焼き尽くす
「クカカ――貴様の中身を悉く否定し、冒涜し、焼却して魅せる。我々は奈落だ。英雄と悪役の領域に異物は……過去の戯れは不要と知れ」


月待・楪
ふーん…でっけー図体してんなァ
…くはっ狙いやすくていいじゃねーか

【ダッシュ・スライディング】で一気に接敵したら【先制攻撃】
攻撃を【見切り】躱しつつ
カルタとガランサスで【挑発】ついでに尻尾の付け根周辺を狙って【クイックドロウ・乱れ撃ち】
なるべくこっちにヘイトを向けてりゃ狙いのモン出して来るだろ

それまでの間に【EasterLily】を発動
全部ミニミに変換したら【念動力】で一気に操って上空に展開
分体が多かろうが知ったことか
全部に弾丸を浴びせちまえば関係ねーだろ!
ミニミで一気に【2回攻撃・一斉射撃・制圧射撃・部位破壊】を狙う

どれだけ増えようが、んなモン俺の前じゃ的が増えただけだっての


クネウス・ウィギンシティ
アドリブ&絡み歓迎
「強力な敵に、防御力……厄介な」

【POW】

●準備
・『サーチドローン』を展開し敵【情報収集】
・『ホバー戦車』を【地形の利用】で起伏に隠して待機

●戦闘・POW UC対抗
『アームドフォート』の背面ブースター(【空中戦】)で飛行し、鎧の隙間である「首」を狙います(【スナイパー】)。
「視えた、其処ですか」

空中を飛行すれば、敵の拳(30cm)は跳躍でもしなければ当たらないはず。
跳躍するなら、逆にその瞬間が狙い目。
「CODE:LAXIS。聖銀貫通弾、装填。打ち貫く!」

●戦車砲撃
『ホバー戦車』を自動【操縦】モードに切り替え、本体と同時に【一斉発射】します。
「上からだけではありませんよ」


緋月・透乃
流石にどこへ行ってもオブリビオンがいるね。私にとってはありがたいことだけどね!どんどん戦っていこー!

それにしても、神鋼の鎧とはなかなか厄介そうだね。でも、そういうのを打ち破ってこそだよね!
狙いはただひとつ、拳にある鎧の隙間だよ!
真っ直ぐに突っ込んで、間合いに入ったら昂破滅命拳で拳と拳のぶつかり合いを仕掛ける、これだけだね!
お互いに技の出が速くて見てから反応していては遅いと思うから、突っ込んでいる最中に相手の視線だけで拳の来る位置を予測して、私も技を放つよ!一瞬で終わる一か八かの大勝負だね!


リューイン・ランサード
凄く強そうな相手です・・・。
正直帰りたいところですが、頑張っているヒーローさん達を見捨てる訳にはいきませんので頑張ります!・・・怖いですけど<汗>。

色々と考えましたが、相手の決め技(塵拳)に真っ向からぶつかって打ち破れるなら必ず勝てます。

瘴気を纏った拳による恐るべき攻撃に対し、【光のオーラ防御】を右拳に集結した上で、相手に拳を突き付けて「受けて立ちます!」と挑発。

相手の塵拳に対して、瘴気を打ち消す【光の属性攻撃、破魔】の力を右拳に宿し、【全力魔法】を籠めたUC:震龍波を発動。
翼を広げ【空中戦】で素早く突進、【第六感、見切り】で相手の動きを読み、右拳の攻撃に全てを賭けて、塵拳ごと相手を粉砕する!


フェルト・ユメノアール
ヒーローもヴィランも市民の人たちも、みんながボクたちの勝利を願ってくれている
みんなの笑顔を守るため、この勝負、絶対負ける訳にはいかない!

『トリックスター』を取り出し、敵に『投擲』
こちらに注意を向け【冥連】の発動を誘発
そして、召喚された敵に苦戦、防戦しながら下がるような『演技』をしながら『ワンダースモーク』を使用
周囲を煙で包み込み、敵の目を誤魔化してUCを発動する
現れろ!【SPウィングウィッチ】!
今までの行動は配下を引き付け、さらにウィッチ召喚を気取られないようにするための策だったのさ!
そして、影に潜れるこの子なら悟られず敵まで接近して
弱点である『尻尾の付け根』に『カウンター』を入れられるはず!


ヴィクトリア・アイニッヒ
未知なる文明、神代の鋼。それらを武器に襲い来るオブリビオン。
……今回の戦いも、厳しい物になりそうです。

とは言え、怯んではいられませんね。
私達は、猟兵。過去より迫る脅威を祓う者。その務めを果たすため……

「主よ。この難敵に挑む勇気に祝福を与え給え……!」

UC【神威の光剣】を使用。
瘴気で造られた分身は、相当な数となるでしょう。
ですがこちらとて、物量でなら負けはしません。
主の象徴たる太陽の威光が陰らぬ限り、無数の光剣を戦場に降らせ続けます。
分身は一体たりとも逃しません。破壊衝動という、その悪意。斬り祓ってみせましょう。

※アドリブ歓迎です。


クリスティアーネ・アステローペ
こっちの世界にも竜はいるのねえ
随分と頑丈な鎧を纏っているようですけど…まあ、どうにかしてみましょうか

上方から巨大化した敵の動きを《見切り》
マルツェラによる《高速詠唱》で多数の槍を生成し《衝撃波》で射出
鎧の隙間を狙い《串刺し》にする刺突の《属性攻撃》

怯ませたのなら【咎力封じ】で拘束してしまいましょう
首を垂れなさい。綺麗に落とせないと余計な苦痛を感じるのは貴方よ?
斬首の失敗での苦痛は本意じゃないわ
首を伸ばすように拘束した後は刑の執行、《祈り》を籠めたエヴェリーナによる《鎧無視攻撃》で首を落としてお仕舞ね?

「朧月の魔たるクリスティアーネより壊人ヴァルニールへ。その魂に永き平穏の有らんことを」


龍ヶ崎・紅音
アドリブ・絡み歓迎

【POW】

「衝動のままに破壊を繰り返すわたしたちが退治するんだから!!」

まずは、ホムラを【槍投げ】で"首"を【串刺し】にしようとするよ
たとえ弾かれることになっても牽制になるはず

あとは、少し【勇気】がいるけどあえて懐に【気合い】で飛びこんで、ヴァルニールの『塵拳』を『黒焔一閃』でかわしつつ、"隙間"である"拳"、その勢いのまま"首"を焔【属性攻撃】で切りつけるよ


バンリ・ガリャンテ
壊人さんよ。ヒーローさんに代わってお相手務めさせて頂くぜ!ちょいとヘリを意識してポージング。
一先ずはうまく立ち回って懐に飛び込み首の隙間、回り込んで尾の付け根をしつこく狙うか。この暴れん獣め。弱点粘着してやっから覚悟しやがれよ。

塵拳発動時にゃ待ってましたとカウンター。此方の灰燼撃で拳と拳の真っ向勝負よ。捨て身で鎧を砕いてやりながら向こうさんの体力吸収しちゃうんだ。捨て身じゃねえな。

巨大化したらジャンプで頑張って背中に叩き込むぞ。分体にゃ範囲攻撃薙ぎ払いでダメージ通る奴探しゃいいかな?
見切りと武器受けでお前の瘴気をさばいてやるよ。俺ぁやすやす壊されんぜ。 
【連携・アドリブ大歓迎です!】


オリヴィア・ローゼンタール
世界を砕く破壊の獣……討伐します!

白い着物の姿に変身
氷の加護(属性攻撃・オーラ防御)を纏う
それ以上の暴虐は赦しません! 氷漬けにします!

脚力を活かして岩山や岩壁を駆け上がり(ダッシュ・クライミング)、高所から飛び降りる勢い(ジャンプ)も借りて【踏みつけ】
反撃されたら【衝撃波】を起こす蹴りの反動で自身を【吹き飛ばし】て距離を取る

拳の攻撃の予兆(瘴気)を感じ取れば、自身も拳に凍気を集中する
繰り出される拳を【見切り】、【カウンター】で【怪力】による【氷獄滅塵葬】を放つ
相手の威力も上乗せされるので拳一つくらいは持っていける筈(部位破壊)
殴り砕く!



 モニュメントバレーの赤い大地に報道ヘリの飛行音が鳴り響く。
「皆様、見えますでしょうか! 黒い壊獣はヒーローからの攻撃をものともせずに我が物顔で歩きまわり、モニュメントバレーの貴重な自然遺産を破壊し続けています!
 しかし、大きい。まるで黒い山が歩いているような光景です。 おや、あれは――」
 キャスターの言葉を押し留めるようにヘリの外からジェスチャーを送ったのは、クネウス・ウィギンシティ(鋼鉄のエンジニア・f02209)。背面ブースタ―で宙を舞いながら、報道ヘリを追い抜いてサーチドローンと共にヴァルニールへと向かっていく。
 それを追うように飛行するのはクリスティアーネ・アステローペ(朧月の魔・f04288)とリューイン・ランサード(竜の雛・f13950)。
「こっちの世界にも竜はいるのねえ。随分と頑丈な鎧を纏っているようですけど……」
「強力な敵に、防御力……厄介ですね」
「凄く強そうな相手です……。帰りたい。でも――」
 リュ―インの目がヴァルニールの周囲の人影――ヒーローたちの姿を捉える。
「あの人たちを見捨てるわけにはいきませんもんね」
 決意を込めたようにリュ―インが拳を握りしめて、壊獣を見据える。その目の前で全身に鎧をまとった巨大な壊獣が体当たり一つで岩山を崩して見せた。その破壊音にリューインが身をすくませる。
「うう、僕やっぱり怖いです」
「……まあ、どうにかしてみましょうか」
「ええ、地上班が相手をしてくれている間に配置につきましょう」
 そう言った三人の眼下で、ヴァルニールが瓦礫を手に、ヒーローへ投げつけようと振りかぶり――。

 横合いから一つの影が飛び掛かった。すれ違いざま放った一撃がヴァルニールの右手に突き立つ。追い払うように振るわれた右腕を躱し、一撃を放った女は豹のように着地する。
 放られた岩が遠くで地を穿つ音を聞き、彼女――ヘンリエッタ・モリアーティ(Uroboros・f07026)は壊獣の巨躯を見上げる。
「へぇ、強そうな竜だこと。――初めまして、ダークヒーロー・ウロボロスです。それじゃあ」
 言って彼女は『死樹の篭手』をまとった拳を握り壊獣に向けて構えをとる。
「殴りあいましょうよ、同じ『竜』同士」
 咆哮と共に降りかかる巨拳、拳同士を合わせるようにヘンリエッタが殴りかかり、激突。神鋼に包まれた壊獣の拳をヘンリエッタの一撃がひしゃげさせる。同時に彼女自身の拳が腕が骨が軋むような音を上げる。
 跳び退った彼女を追うように壊獣が左の拳を振り上げ、叩きつける
 寸前、飛び込む人影と衝撃音。振り下ろされた拳の下、砂埃の中から現れたのは、放たれた巨拳を両手で受け止める一人の少女。シャーロット・キャロル(マイティガール・f16392)。
 彼女が、受け止めた拳を両手で挟み込むように押しつぶそうとした瞬間、ヴァルニールが拳を引いて後方へ跳ぶ、地鳴りのような着地音と共に砂煙が舞た。
 様子を窺うように見下ろすヴァルニールと睨みあいながら、シャーロットは手に残った感触を思い返す、あらゆる攻撃を跳ね返す硬質な触感、まるで傷一つつけることも許されないような”何か”。
――アレが神鋼の鎧による強化ですか。これは厄介な相手ですね。ですが……。
 挟み込み力をかけた時、確かに軋む感触があった。パワーで解決できるなら、それは彼女の得意分野だ。
「さぁこのマイティガールが相手になりますよ!」
 人差し指を突き付けての宣戦布告、ヴァルニールの怒りに満ちた視線にシャーロットは不敵な笑みを返す

「うっわぁ。なんだか怖いのが出て来たんだよ」
 少し離れた岩山の影、術式の準備を進めながらも荒谷・ひかる(精霊ふれんず癒し系・f07833)はあきれたようにヴァルニールの巨体を見上げる。
「でもでも、きっと倒せない相手じゃないんだよ……わたし、ふぁいとっ!」
 と、気合を入れなおし精神を集中。周辺に存在する草木の精霊たちとの交信を始める。
 同時に周囲のそこかしこで草木がゆらぎ、ざわめく。その気配に何を感じ取ったか、ヴァルニールが首をもたげて辺りを見回し、ひかるの姿を捉えた。
 咆哮、同時にヴァルニールの体から巻き上がる黒い瘴気が小型の壊人を象り、ひかるへと駆け出してくる。
――まだ術が完成してないんだけど……。

 冷や汗を流すひかるを守るように立ちはだかったのはヴィクトリア・アイニッヒ(陽光の信徒・f00408)。聳え立つ巨獣とそこから生まれる無数の分体……黒い津波の様な光景を前にひるむことなく斧槍を掲げる。
「私達は、猟兵。過去より迫る脅威を祓う者。その務めを今こそ果たしましょう!」
 斧槍の刃が陽光をうけてチラリと煌めき、直後、無数の光の剣が天から降り注いだ。分身たちの足が止まる。分身もまた神鋼の鎧によって身を守ってはいるが、無数に降り注ぐ刃に身を晒して進むより、ヴィクトリアの術の切れ目を狙う方を選んだようだ。
 足を止めて威嚇するように喉を鳴らす分身たち。
 ――未知なる文明、神代の鋼。それらを武器に襲い来るオブリビオン。……今回の戦いも、厳しい物になりそうです。ですが――
「こちらとて、物量でなら負けはしません。主の象徴たる太陽の威光が陰らぬ限り、神威の光剣は降り注ぐ!」
 言葉と同時、先ほどに倍する刃が分体たちへと襲い掛かり――そのうちの一体、神鋼の鎧をまとっていなかった壊人を貫いた。

 ヴァルニールが悲鳴を上げ、同時に分体達が掻き消える。チャンスとばかりに踏み込んだのは月待・楪(Villan・Twilight・f16731)。
「ふーん……でっけー図体してんなァ、っと」
 振り下ろされる拳を見切って躱し、巨体の下へとスライディング。楪が二丁拳銃を構えた先は、鎧の隙間の一つヴァルニールの尻尾の付け根。
 ろくに狙いを定めぬ乱射、しかし銃弾の一つが弾かれることなく神鋼の隙間を貫き、ヴァルニールに悲鳴を上げさせる。
「くはっ、狙いやすくていいじゃねーか」
 喜んだのもつかの間、ヴァルニールは破壊衝動に燃えた目で楪を見据えて拳を握る。
「おっと、オレのお目当てはそっちじゃないんだがな」
 言って楪が見上げた先、ヴァルニールが拳を振り上げた瞬間。

「視えた、其処ですか」
 上空から飛来した銃弾がヴァルニールの首を撃ち抜いた。
 黒い血を溢れさせてヴァルニールが天に吼える。彼が見上げた先で上空を舞う狙撃者。クネウスがアームドフォートをライフルモードに構えていた。
「確かに隙間に打ち込んだはずですが、まだ足りませんか――タフですね」
 ガチャリ、とアームドフォートを操作しすぐさま次弾を装填、発射。放たれた銃弾が神鋼の鎧に防がれる。照準器の中でヴァルニールが弱点を守るように身をかがめている。
 その顔、上空にいるクネウスをにらみつけているのが見える。アイサイトの向こう、昏い瞳と目が合った。そして気付く。
――これは身を守ってやり過ごそうという目ではない。これは、怒りと復讐の目だ。

 巨体が跳んだ。痛撃を受けた応報を加えようとヴァルニールがクネウスへ向けて飛び上がりその拳の射程に捉えた瞬間、二人の猟兵が動いた。
 地上、岩山を走るのはオリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)。凍気を纏った白い着物をはためかせヴァルニールに向けて岸壁を駆け上がる。そして上から、クネウスのさらに上空、拳を構えたリュ―インが急降下。その右拳にオーラの光を纏わせて落下の勢いのままヴァルニールの拳に突撃、当時にオリヴィアが跳躍。
 ヴァルニールの瘴気の拳とリューインのマナの拳、リューインの手に宿る光が瘴気を打ち破りヴァルニールの拳に罅をいれ――リューインの拳から光が消えた。押し負けそうになる寸前。
「それ以上の暴虐は赦しません! 氷漬けにします!」
 オリヴィアの踏みつけるような跳び蹴りがヴァルニールの脇腹を捉え、その体を凍り付かせ自由を奪う。
 羽ばたき一つ、リュ―インが拳を引いて距離を取り、オリヴィアは蹴りの反動で離脱。空中でバランスを崩したヴァルニールが態勢を整えて着地しようと身をよじるが……。

「そうはいかないわよ?」
 ヴァルニールの頭上を飛行しながらクリスティアーネはマルツェラのトリガーを引く。発砲音じみた高速詠唱と共に無数の黒槍が生まれ空中のヴァルニールへと降り注ぐ。咄嗟に首元と尻尾を守りながら、ヴァニールは地上へ落下。衝撃と共に大地が揺れ土煙が舞い上がる。その煙が収まる暇も惜しいと地上の猟兵が殺到する。

 初めに駆け付けたのはバンリ・ガリャンテ(Remember Me・f10655)。
「壊人さんよ。ヒーローさんに代わってお相手務めさせて頂くぜ!」
 言って叩きつけるように拳を振るう、狙いは尻尾の付け根の隙間、命中の寸前ヴァルニールが跳ね起きて体をかわす。身をよじるように放たれるカウンターの裏拳、それを受け流しバンリは即座に目標を変更、懐へ飛び込む。狙いは首元、鎧の隙間。
 ――この暴れん獣め。弱点粘着してやっから覚悟しやがれよ。
 勢いを乗せた拳が違わず鎧の隙間を抜け首元の鱗を貫く。バンリの頭上、ヴァルニールの口から空気が爆ぜるような悲鳴が上がる。

 そこへ追い打ちのように鉄塊剣を振るうのはロバート・ブレイズ(冒涜翁・f00135)。
「クカカ――我々は奈落だ。英雄と悪役の領域に異物は……過去の戯れは不要と知れ」
 開いた下あごをめがけて鉄塊剣を跳ね上げ、敵の拳を受け流し、壊獣の巨大な眼球へと切っ先を突き出す。鈍く弾かれる感触にロバートは頷く。
「やはり――神鋼とは言葉遊びと解す。その鎧、冒涜の邪神の玩具の如く、見者を痴者へと変える陥穽――不可視の守護を身に纏うか、壊人」
 ロバートはあえて隙間に執着せず、相手の動きや攻撃の癖を観察するように、ヴァルニールと剣戟を交えていく。
「さああと何枚だ、貴様はどれだけの札がある、全て切れば後は奈落だ―――クカカ」
 奇妙に渦巻く覆面の下でロバートが笑い声をあげる。

 その光景を見ながら緋月・透乃(もぐもぐ好戦娘・f02760)は狙うべき場所を見定める。
――あれだけの攻撃を防ぐんだ、神鋼の鎧とはなかなか厄介そうだね。でも、そういうのを打ち破ってこそヒーローだよね!
「さあどんどん戦っていこー!」
 一声上げるとヴァルニールへ向けて全力疾走。彼女の狙いはヴァルニールの拳の隙間、彼女自身を囮としたカウンターだ。牽制に一つ二つと拳を交え、ヴァルニールが塵拳を放とうとすると同時、その軌跡へと突っ込んでいく。目を向けた先、ヴァルニールの視線からインパクトの瞬間を予測して、透乃は身を翻し渾身の裏拳が巨拳を捉える――が硬い。明らかに隙間とは違う感触に透乃の体が一瞬固まる。

 そしてヴァルニールの巨拳が彼女の体を捉える寸前、壊獣の首元に白銀の槍が投げ放たれる。槍は鎧に弾かれて宙を舞い、それを追うように壊獣が拳の軌跡を変えた。掴みかかる指の隙間から白い竜――ドラゴンランス『フレア』が現れ、龍ヶ崎・紅音(天真爛漫竜娘・f08944)の手元へとかえる。
 透乃を庇うように構える紅音、振り下ろされる拳をいなし、二人はかわしながらカウンターの隙を伺うが――。 猛り狂り暴れまわるヴァルニールの攻勢に、反撃の糸口をつかみきれない。一撃二撃と凌ぐうち大きく後退させられ、三発目、紅音へと振り下ろされる拳をロバートが鉄塊剣で防いだ。そのまま彼は背中越しに二人に告げる。
「アレは狩られるだけの獣にあらず、竜であり壊人であると解すべき。破壊衝動に全知全能をつぎ込んだ、まさにあれこそ人である――カカカ」

 不可解な言葉に首をかしげる二人の横合いから一筋のナイフが飛んだ。投げ放ったのはフェルト・ユメノアール(夢と笑顔の道化師・f04735)。ヴァルニールの周囲を駆け回りながら、二度三度と同種の投げナイフ『トリックスター』を投げつける。
 振り下ろされる拳を前転でくるりと躱し、さらに投擲。
 業を煮やしたヴァルニールの全身から瘴気が湧き上がり、次々に小型の壊人へと変わる。
「わっと、ちょっとタンマ! 数多すぎ!」
 壊人の群れに追われフェルトが駆け出す、反撃のナイフを壊人の首へと投げつけるが――刺さらない。本体と違って全身が神鋼の鎧に覆われている。取り囲まれ小型壊人が拳を振り上げた瞬間、フェルトが地面に球体――『ワンダースモーク』を叩きつける。砕けた球体から溢れた煙があっという間に周囲を包み小型壊人達の視界を奪う。闇雲に放たれる拳も空を切るだけ――そして煙が晴れるより早く、ヴァルニールが悲鳴を上げた。
 壊獣の尻尾の付け根、影の如き魔女が闇の魔法を叩き込んでいた。煙に紛れて逃れていたフェルトが快哉を上げる。
「引っかかった、引っかかった。さっきの煙は彼女を呼び出すための策だったのさ。そして、分体も本体もボクがひきつけて集まっている。つまり――」
「まとめてやっつけるチャンスなんだよ!」
 言葉を継いだのはひかる。紡いでいた術式を発動させると同時に草木が一斉に生長、草木がより合わさって壁となり、植物の迷宮となってヴァルニールとその分体たちを封じ込める。あちらでは脱出しようとする壊人に伸びた蔦が絡みつき神鉄ごと木の壁に封じ込める。また別の場所では無数のハチが壊人達を刺し貫く。
「そこはさながら、ウツボカズラの底。捕まった時点で、もうおしまいなんだよっ!」
 言って胸を張るひかる。迷宮の中からヴァルニールの悲鳴が断続的に響き渡る。そして機械の駆動音。クネウスが岩山の影に伏せさせていたホバー戦車だ。上空の狙撃ポイントを移動しながらクネウスは眼下のヴァルニールに狙いをつけてホバー戦車と当時に発砲。上空からの銃弾が隙間を狙い、戦車からの砲撃が分体達を吹き飛ばした。
「取り巻きは消えましたか――あとは本体だけですね」
「このまま首と尻尾を狙い続ければ、何とかなりそうですね」
 空を舞いながら安心した様子を見せるリューイン。
 そうかしら、とクリスティアーネが首をかしげる。
「私が知っている竜ってはそんなに簡単に仕留められるものじゃないけれど――ほら、あいつ何か始めるつもりよ!」

「ところで、荒谷さん?」
 ヘンリエッタがひかるへと声をかける。
「この迷宮の出口は、今の私達がいる方向の反対側、よね。もし真っ直ぐ抜けようと思ったらそこの壁で行き止まり?」
 迷宮の外壁を指さすヘンリエッタにひかるがうなずく。同時にヘンリエッタはその壁へと走り出す。そして彼女が『死樹の篭手』を構え振りかぶった瞬間。轟音と共に壁が爆ぜた。突き出される壊獣の巨拳に合わせるようにヘンリエッタが拳を叩きつける。
「ええ、そうよねヴァルニール! お行儀よく出口になんか行っていられない。
 邪魔するものは、何でもかんでも壊してしまいたい――わかるわよ、私もなんでも壊したくなってしまうから!」

 予想外の展開に一瞬呆然とする猟兵たちだがすぐに反撃を開始し、現場はたちまち乱戦と化した。楪が巨体の下に潜り込むように駆け込みながら二丁拳銃を乱射、彼へと振り下ろされる拳をシャーロットが捉えようとするが、ヴァルニールが一瞬早く離脱する。着地際クリスティアーネが黒槍を降り注がせ、ヴァルニールの纏う神鋼の鎧がこれを弾く。オリヴィアが放った凍気が鎧ごとヴァルニールを凍てつかせ、動きを止めた隙を狙ってロバートが切込み、バンリが殴り掛かる。それを迎え撃つ瘴気の壊人。生まれた壊人にヴィクトリアの光の剣が降り注ぎ、同時にひかるが術式を再構築、植物の迷宮へ捉えていく。それを妨害しようとヴァルニールが突撃してくるのをリュ―インが押し留め、フェルトが煙幕でもって二人を隠し別の場所へと退避させる。見失い首をあげた所をクネウスの銃弾と紅音の槍が狙い、ヴァルニールの振り上げた拳にはカウンターを合わせようと透乃が待ち構える。

 ヴァルニールの憎悪に満ちた視線を見返しながら、透乃は先ほどのロバートの言葉を思い返す。彼は獣ではない人である。ならばその心を思考を読み解くことはできるはずだ。振り抜かれる拳に向けて突進しながら、彼女の思考は加速する。こちらが拳を狙っているのは分かっている。――ならば隙を最小にする為にインパクトのその瞬間だけUCを発動させるはず――ヴァルニールの黒い巨拳が彼女に迫りその拳圧が彼女の前髪を揺らし、瞬間反転!
 透乃の放った渾身の裏拳が隙間の空いた巨拳を捉えて、見事にその指を砕いた。

 悲鳴と共に後ずさったヴァルニールに向けて紅音の手から白銀の槍が跳ぶ。その軌跡から首を逸らしながら、壊獣がカウンターの一撃を放とうとした瞬間、紅音が抜刀、向かい来るの拳へと踏み込んだ。咄嗟に拳を緩めて隙間をカバーするヴァルニール。その拳の下を駆け抜け紅音は一気に跳躍、狙いは――首元。振り下ろした愛剣「黒焔竜剣」がヴァルニールの首を大きく引き裂いた。
 着地と同時に跳んで距離を取り構える。
「衝動のままに破壊を繰り返す壊人なんて、わたしたちが退治するんだから!!」

 その言葉に異を唱えるかのようにヴァルニールが咆哮を上がる。同時に溢れる瘴気が再度、分体達を作り上げる。迫りくる壊人達に押されるように仲間の猟兵が下がる中、一人楪が笑った。
「どれだけ増えようが、んなモン俺の前じゃ的が増えただけだっての」
 彼が右手を上げた瞬間、ヴァルニールによって破壊された無数の瓦礫が宙に舞い、無数の軽機関銃に変化する。
「はっは、どれだけ多かろうが知ったことか。全部に弾丸を浴びせちまえば関係ねーだろ!」
 放たれた銃弾の奔流が壊人達に襲い掛かる。鎧を身につけていない分体を守るように壊人達が隊列を組むが、軽機関銃は楪の念力のままに自在に宙を舞い、360度全方位から銃弾を浴びせ続け――分体の中央にいた無防備な壊人を撃ち抜いていた。
 笑う楪に一矢報いようとヴァルニールが突進し拳を放つ。それを庇うように立ちはだかったのはシャーロット。放たれた拳を両手で抱え込むように受け止める。その拳の僅かな動きも見逃すまいと拳を見据え――その両目にエネルギーを溜めていく。狙いに気付いたヴァルニールが塵拳を放とうとするが既に遅い。シャーロットが瞳から放ったレーザービームが集中した瘴気ごと、その拳を貫いた。

 痛みに呻き後退した壊獣へ追い打ちをかけるように、バンリが挑みかかる。
――どんな手が来ようと対応する手段は考えてあるさ。巨大化も分体も対応できらぁ。そして、そう。拳で来たなら……。
「捨て身の、真っ向勝負!」
 振りかぶる巨拳に向けて飛び込むようにバンリは駆け出し、一切の回避を見せず己の拳を叩きつける。バンリの右手が鎧の隙間を穿ち、その内部の拳に確実にダメージを重ねる。そして同時に衝撃によって跳ね飛ばされるように彼女の体が宙に投げ出され、地に転がる。
 そのままバク転し機敏な動作で立ち上がる。
「だ、大丈夫ですか?」
 問いかけるリュ―インにバンリは軽口を返す。
「だいじょーぶ、さっきの一撃で向こうさんの体力吸収したんだ。捨て身じゃねえな」
 からりと笑うバンリの足元が揺れた。

 追撃とばかりに壊獣が拳を握りしめ、それを阻むようにオリヴィアが凍気を纏って構えをとる。
「世界を砕く破壊の獣……この場所で討伐します!」
 放たれる拳を一つ二つを見切って躱し、三発目。拳を蹴り飛ばしてその反動で高く跳躍。同時に彼女が集中した凍気がその右手を強く輝かせた。落下際を狙おうとヴァルニールがこぶしを突き上げ――。
「もう、遅い!」
 オリヴィアの右手から放たれた凍気がヴァルニールの拳を凍てつかせ、落下と同時に放ったオリヴィアの拳がヴァルニールの拳を粉砕した。
 悲鳴を上げて身もだえる壊獣、その頭上で再び銃弾を込める。
「これで止めです――CODE:LAXIS。聖銀貫通弾、装填。打ち貫く!」
 放たれた銃弾が壊獣の首を討ち貫き、ヴァルニールの巨体が倒れ伏す。

「否、物語はなお途上と解く。奴の札はまだ残っている」
 ロバートの言葉と同時にヴァルニールの体が蠢く。流血が止まり肉体が奇妙にねじれ膨れ上がり、今までに倍する巨体となって立ち上がった。
「そうだ最後の札。巨大化――虚題化だ。肉体の再構築。しかし最高築ではあるまい。空虚な実体、膨張する泡だ。つまりは――爆ぜるまで叩き潰すと説く!」
 振り下ろされる拳をロバートはひらりとかわし、岩山の側面に足をかけて跳躍、ヴァルニールの背中めがけて鉄塊剣を突き立て、開いた傷口に地獄の炎を叩き込む。
「クカカ――貴様の中身を悉く否定し、冒涜し、焼却して魅せる」

 苦悶の叫びと共に暴れまわるヴァルニール、それを迎え撃つようにヘンリエッタが拳を交える。一合、二合とヘンリエッタが押し負けていたが不意に彼女の空気が変わる。ヴァルニールと同じ怒りと憎悪に満ちた昏い瞳。三合目、ヘンリエッタの拳がヴァルニールの右拳を撃ち抜き砕く。
 悲鳴と共にヴァルニールが後退し、ヘンリエッタがふらりと倒れ掛かる。それを支えたのはリュ―イン。
「大丈夫ですか、もう無理はせず休んでいてください」
「嫌よ、冗談じゃないわ。ヒーローが退いてどうするのよ、私は勝ちしか認めないわ。
 打ち砕いてやる。私の護るべき『未来』のためにね」
 ……護るべき未来。ヘンリエッタの言葉を反芻するように繰り返すと、リュ―インは拳を握ってヴァルニールの巨体を見据えた。
「それなら――あとは僕がやります」
 言い置いて羽ばたき一つ、リュ―インはヴァルニールの目の前に立ちはだかり、挑発するように拳を突き付ける。その答えは地の底から響くような咆哮と降りかかる左の巨拳。
 迎え撃つようにリュ―インがマナを活性化させ光を右手に纏う。
「今度こそ……行くぞ!」
 翼をはためかせ壊獣へと突撃するリュ―イン、繰り出される壊獣の拳をヒラリヒラリとかわしながら肉薄し、壊獣の拳が瘴気を纏った瞬間、塵拳にカウンターの一撃を叩きつけた。ギシリギシリと軋む音を響かせながらも、リュ―インは一歩も引くことなく、右手の力を強めていく。
 その姿を地上から見上げて少女たちがいた。
「主よ。彼の難敵に挑む少年に祝福を与え給え……!」
 そう祈るのは太陽神の信徒ヴィクトリア。
「お願い皆、彼に力を貸してあげて」
 その隣でひかるが聖霊に呼びかけを続けている。
 押し合いながらもリュ―インの拳の光が徐々に輝きを増して瘴気を払い、やがてヴァルニールの左の拳が鈍い音とともに砕けてひしゃげる。ヴァルニールの悲鳴。
 精魂をつき果たし落下するように着地するリュ―イン、ふっと爽やかな草原の香りと暖かい太陽の香りが彼を包んだ気がした。
 両拳を破壊されたじろぐヴァルニール、そ目の前でフェルトが『ワンダースモーク』を発動させ地上の猟兵たちを覆い隠す。咄嗟に壊獣は尻尾を丸めて首を縮め地上からの奇襲に備える。
 そこへクリスティアーネが空から拘束具を投げつける。手枷に猿轡、長大なロープがバルニールの動きを封じ込めていく。
「いかにも何かを隠した振りをして反対側でタネを仕込むのはお約束だよねー」
 けらりと笑うフェルト。ヴァルニールはそれどころではない。クリスティーナが斬首剣を構えて彼の元へと近づく。
「さあ、首をたれなさい。綺麗に落とせないと余計な苦痛を感じるのは貴方よ?」
 その言葉にヴァルニールは一層暴れだす首を振り、猿轡をかみ破ろうと歯を食いしばる。
「そうそれがあなたの生き方ね。ならばそれを尊重しましょう。
 ――朧月の魔たるクリスティアーネより壊人ヴァルニールへ。その魂に永き平穏の有らんことを」
 言葉とともに振り下ろされた斬首剣”慈悲深きエヴェレーナ”がヴァルニールの首を切り落とした。ボトリと落ちた首は憎しみに満ちた目で虚空を見つめている。そこにへンリエッタが歩み寄る。
「教えてあげるわヴァルニール。――壊すよりも、救うほうがもっと難しい。そっちのほうが、たのしいわよ。あなたが知るには遅すぎたけれどね」
 言って彼女はそっとヴァルニールの瞼を閉ざす。同時に壊獣の全身が光の粒子に包まれ、身につけていた神鋼の鎧が消えていった。

 報道ヘリの飛行音が聞こえてくる、鳴り響いていた壊獣の足音は、もう聞こえない。このモニュメントバレーも直に静けさと平和を取り戻すだろう。人々の笑顔と歓声に満ちた穏やかな日々を。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年11月08日


挿絵イラスト