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ケムリ経絡雪景色

#アルダワ魔法学園

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#アルダワ魔法学園


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●白一面に潜る牙
 「それ」がゆっくりと泳いでいるのは、ケムリ経絡のあだ名で呼ばれる地下迷宮。
 トウヨウの医学に唱えられている、人間の循環経路、「経絡」のように入り組んだこの迷宮の最深部の中である。
 最深部にお宝がある訳でもなく、深部には人を傷つける野生動物もおり、迷うばかりのこの迷宮は、生徒たちには人気の低い地下迷宮であった。
 その理由は簡単だ。ケムリ経絡は見た目以上に攻略のリスクが大きい。地盤の至る所から噴出し、床や壁の隙間から一定の周期で顔を出す蒸気は侵入する生徒たちの足を止め、充満する白い煙はそれなりに熱く、視界も悪ければ火傷の危険も高いからである。
 入り組んだ迷宮と、そして充満する白い蒸気。それが、「ケムリ経絡」の名前の所以であった。
 だが、今のここは輪をかけて様子がおかしい。
 入り口と中腹にかけては常のケムリ経絡よりも更に熱く、超高温の蒸気が辺り一面を支配する有様。そして最深部に至っては、入口の蒸し暑さが嘘のように極端に寒くなり、凍えるかのような気候であった。辺りは一面雪に覆われて、経絡は蒸気の白ではなく、白銀の白に染まる。
 まるで隣り合わない二つの地下迷宮が、何らかの力によって接合してしまい、地下迷宮が暴走してしまったかのような異常。
 そして、「それ」は姿を見せる。
 頭と肩、尻尾部分を覆う堅い装甲。異常に鋭く尖った牙と尾。ネオンライムグリーンの薄ぼんやりとした影が、目玉を始めとして身体全体を覆っている。
 ダンクルオルテウス。骸の海より現れて、アルダワ魔法学園の地下迷宮の最奥へと転移してきた「それ」は、人肉を求めて雪に紛れ、空を泳ぎ、そして姿を現した。
 ケムリ経絡の奥地で、オブリビオンは真っ白い雪に身を潜め、侵略の機会を待ってはじっくりと進んでいく。アルダワ魔法学園に危機が迫っていた。

●蒸気と雪を乗り越えて
「新年早々悪いな。今回もまた、オブリビオン退治に向かって欲しい」
 納・正純(インサイト・f01867)は、猟兵たちよりも遅れて部屋に入ると、地下迷宮の資料を机に広げてこう言った。
「潜って欲しい場所がある。アルダワ魔法学園、地下迷宮の一つ。その名もケムリ経絡だ」
 話を聞くと、どうやらそこにオブリビオンが出現したらしい。
「そこは常に蒸気が噴出しているって以外、別段見るべきとこがない場所のはずなんだが……どうも様子がおかしい」
 問題なのは、ケムリ経絡の最深部で見つかったオブリビオン反応の細かい座標が未だに特定できていないことらしい。
「恐らく、そのオブリビオンは姿を隠しながらアルダワ魔法学園に向かって移動をしているんだろう。猟兵の皆には、こいつがまだ最深部にいる段階で調査に赴き、そしてこいつを叩いてほしいんだ」
 地脈に近いケムリ経絡は、元々蒸気が至る所から噴出し、火傷の恐れがある上に視界も悪い場所として知られていた。
 しかし、今は違う。床や壁の隙間からあふれ出す超高温の蒸気は、もはや素肌で触れた場合ただの火傷で済めば奇跡といえる程に熱い。恐らく、耐性も考えもなしに進めば重度の火傷を負ってしまうのは必至だろう。
 そこを進むだけでさえ、突入の準備や蒸気噴出を和らげる策を講じる必要がある。
 それに、更に問題がある。
「蒸気の噴出が活発になっていること自体、異常な事態ではあるんだが……。しかも、奥地は雪と氷で覆われているらしい」
 触れれば火傷では済まない蒸気の迷宮に、雪と氷に覆われた極寒の迷宮。まるで相反するような二つの迷宮が並んでいるのは異常な話だ。
「恐らく、ケムリ経絡に起きている異変と、最深部の異変は同じ原因によるものだろうな。オブリビオンによる影響も考えられる」
 猟兵にやって来て欲しいことは、大きく分けて二つ。
 異変の起こったケムリ経絡の踏破。また、異変の原因と考えられるオブリビオンの排除だ。
「二つの特性を持つ地下迷宮に、最深部のオブリビオン。危険な要素は多いが、お前らになら任せられる任務だ。頼んだぜ」
 正純はそう締めくくると、猟兵たちに頭を下げるのだった。


ボンジュール太郎
 元気になったボンジュール太郎です。
 今回はアルダワ魔法学園のお話だ~~がんばるぜ~~。
 最初の迷宮は高温の蒸気が、奥の迷宮は寒さと雪が猟兵の征く手を阻みます。
 その奥に隠れるとはオブリビオンめ、狡猾な奴! 是非倒してやってください。
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第1章 冒険 『蒸気で満ちた迷宮を』

POW   :    蒸気を物ともせず、勢いで突き抜ける

SPD   :    なんらかの技か方法で蒸気を無効化し、先に進む

WIZ   :    蒸気が吹き出る原因などを取り除き、先に進む

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

エウロペ・マリウス
暑いのは得意ではないのだけれど……。
戦闘の前に火傷は遠慮したいから、申し訳ないけれど実力行使とさせてもらうよ

行動 WIZ 
ユーベルコード:使用創造せし凍結世界
技能:火炎耐性・暗視2・視力1

【暗視】と【視力】を使用しつつ、しっかりと蒸気が吹き出ている箇所を見つけて確認しては、コードを使用して凍てつかせながら【火炎耐性】で先に進むよ


シュクルリ・シュクルグラッセ
【WIZ】
高温化した迷宮と、極寒の迷宮
繋がっているのは、不可解ですね
予測される原因としては、熱量の制御でしょうか

蒸気が吹き出る原因に対処して、先へ進みますです
深部の異変と原因が同一であれば、ここで対処できれば、進みやすいでしょう

ハッキングとメカニックにより迷宮に対処して、慎重に歩を進めますです
ミレナリィドールと言えど、当機は耐熱装甲は所持していませんです。マスターの用意した服が焼けるのも、この躰が焼けるのも、避けて通るべき課題です

火傷はしない躰ですが、機関部には悪影響です
蒸気機構を解除、あるいは停止させて、ある程度は冷えた箇所から進みましょう
蒸気を弱めることができれば、後続も進みやすいはずです



●熱気を冷やしてその先へ
 アルダワ魔法学園の地下に広がる地下迷宮の一、ケムリ経絡。
 オブリビオン出現と同時に活性化した蒸気はすでに迷宮中を覆い隠し、道もわずかに見えるかどうかという有様である。
「高温化した迷宮と、極寒の迷宮……。この二つが繋がっているのは、不可解ですね」
「暑いのは得意ではないのだけれど……そうも言ってられないか」
 その地下迷宮を進むのはエウロペ・マリウス(揺り籠の氷姫・f11096)とシュクルリ・シュクルグラッセ(ガーディアンドール・f10278)。
 二人は侵入時にほとんど同じタイミングでの転送だったこともあり、協力して進むことにしたらしい。
「ミレナリィドールと言えど、当機は耐熱装甲は所持していませんです。マスターの用意した服が焼けるのも、この躰が焼けるのも、避けて通るべき課題です」 
 深部の異変と原因が同一であれば、ここで対処できれば進みやすい。シュクルリはそう考えたようで、迷宮に入ってすぐに自身の持つハッキング技能を駆使するべく魔導式コンソールを展開していく。
 彼女は魔力を集中させると指先から魔方陣を描き、空中へ次々と投影していく。
 手慰みに絵を描くような気軽さで煙の中に映し出されていくのは、彼女の用いるハッキングのためのツールたち。探るのはこの地下迷宮の全て。彼女の指が滑るたび、余すところなく地下迷宮の大気中の情報は彼女の手中に集まっていく。
「空間走査終了。迷宮内の湿度と温度から、近くの蒸気噴出口と思しき地面の亀裂、壁の罅などサーチ完了です。どうやら入口付近にそこまで警戒すべきポイントはありませんですね」
「へえ? それはハッキングか何かの応用かい? すごいな、キミは。ボクも少し楽できそうだ」
 幸いにして、入口付近はまだそこまで迷宮内の温度も高くはないようだ。シュクルリの調査の甲斐もあり、二人はさしたる危険もなく地下迷宮を進んでいく。
 当然行き止まりや分かれ道、ゴールへと繋がっていない道も多々あるが、そこは大気中の湿度や温度、風向きを読むことで若干の手間をかけながらも着実な足取りだった。

 二人が足を進めていると、奥の方で規則的にプシュー、という音が聞こえてくるようになった。目の前の濃くなった蒸気に足を踏み入れる前に、エウロペが制止をかける。
「……待った」
「蒸気が吹き出る音……対処すべき原因が近づいていると考えますです」
 この音は、蒸気がどこかの亀裂から噴き出している音と考えて良いだろう。エウロペの纏う純白のローブ、クラルス・アルブスが、空気中の水分を吸ってわずかに肌に張り付いていく。
 シュクルリの戦闘服であるトランシュ・ドラジェにも、既に水滴が多く纏わりついている。周りの温度が上昇して蒸気が濃くなり、湿度が高まってきた証拠である。
「大分進んできたように思うが、これ以上は策を講じなければ進めないな」
 問題なのは視界の通らなさ、それから温度と湿度だけではない。当然、奥地に進めば進むほど温度が上がるという事は、奥地に近付くほど蒸気の噴出口が増えている、という事でもある。
「戦闘の前に火傷は遠慮したいから、申し訳ないけれど……」
 そう言うと、エウロペは自前のエレメンタルロッド、コキュートス・アニマを構えて白い煙の中にいながら魔力を高めていく。
 その魔力の元素は氷。熱を奪い、大気を凍えさせ、全てを凝固へと導く力。冥府の凍った湖の名を冠する杖の周りの大気は急速に冷やされて、彼女の杖の周りの蒸気はたちまち壁に張り付いては水滴となって地に落ちる。
 エウロペの周囲にはすでに魔力が充填している。それを杖の先に集約させると、先端に集まった氷の魔力の結晶は急速にその姿を変えていく。
 それは弾丸。氷の魔力による、狙った標的へ過たず飛んでいく魔弾。エウロペの技の一、【創造せし凍結の世界】のそれだ。
「すでに近い場所の走査は完了してますです。超高温の蒸気の噴出口と思しき罅、亀裂、隙間、……合計6ヵ所発見。位置情報を伝達しますです」
「素晴らしい、それじゃ……実力行使とさせてもらうよ」
 シュクルリのハッキングによる空間制圧が済んでいる今の状態では、視界を奪う蒸気もエウロペの攻撃の枷とはならない。
 魔弾は白いケムリの中をまっすぐに複数飛んでいく。魔弾射出の余りの速さに蒸気は自分から退いて道を作り、そして見えなくなって数瞬。
 ……どこかで弾着の音。もう一つ、もう二つ、三つ。そして一斉に響き渡る快音。エウロペの魔弾に込められた魔力が弾け、そして大気中の水分が一斉に凝固する音だ。
 二人の猟兵は噴出口の氷の結晶が融解する前にケムリ経絡の道をスイスイと進んでいく。
 白い煙幕がやや薄まった迷宮の中でようやく蒸気が復活の兆しを見せたのは、彼女たちが鮮やかな手腕で奥に進んだずいぶん後のことであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トラゴス・ファンレイン
アドリブ・絡み・ネタ大歓迎!

多少の火傷なら気にせんで突っ込むけど、このレベルは正直きっついわ。
茹で蛸になるのは勘弁や。神さんら、すまんけど俺に力貸してくれな。

・行動
【WIZ】
ユーベルコード『精霊招致・鷲』で召喚した神さんらに迷宮の中調べて貰って、蒸気が吹き出とる原因を突き止めることから始めよか。
原因をどうにかできるお仲間が居たら連携。無理ならスクラップシールドで蒸気を出来るだけ浴びんようにしつつ、俺の拳と神さんらの攻撃でなんとかぶっ壊すなり出来ればええな。


四軒屋・綴
おのれ……あんなに熱いとは……

なんかワクワクしてきたぞッ!変身は後にして選択する行動は【WIZ】ッ!このゴーグルに何故か付いている電脳空間展開機能を使用しつつエレクトロレギオンを突っ込ませて蒸気の出所を検索検索ゥッ!あとは具現化プログラムで一時的に蒸気を塞き止めたりそもそもこの蒸気は物質なのかはたまた魔法の一種なのか分析してみたりするがもはやそんなことよりなんか楽しくなってきたぞ凄いな地下迷宮ッ!

「『電脳空間』ならばハッキング出来るか…?」

「あっ駄目か……」



●走査、協力、進軍
「うおおお人影ッ! 勇蒸連結ッ! ジョウキングッ(カッコいいポーズ)!! 初めましてッ! 貴方も地下迷宮攻略の口だなッ!? 俺の名前はシケンヤッ! 被ってみないかッ!」
「おおお、なんや? 格好ええ人やんな。俺にはほれ、この角があるから被るのは遠慮するけども、うん、初めまして。俺はトラゴス。トラゴス・ファンレインや。よろしゅうな」
「よしッ! トラゴスさんだなッ! 迷宮の先の敵を倒すまで、どうかよろしく頼むッ! 後この先の道分かったりしないッ!?」
 地下迷宮に次に足を踏み入れたのは、とてもキマイラっぽい見た目をしているキマイラと、小豆色のヘルメット型ヒーローマスクの取り合わせ。
 二人はそれぞれトラゴス・ファンレイン(エスケープゴート・f09417)と四軒屋・綴(大騒動蒸煙活劇・f08164)といい、一猟兵としてこの事件を解決するために乗り込んできた強者たちである。
 ただ、幾つもの事件を乗り越えてきた彼らであっても、やはりこの蒸気の迷宮は攻略するのに相当の手間がかかる様子。そもそもの所からして、二人が出会ったのも蒸気まみれの地下迷宮の真っ只中であった。
「んん、実は俺も少し手詰まりかなと思ってたんや。思った以上にこの蒸気が濃いし、多少の火傷なら気にせんで突っ込むけど、このレベルは正直きっついわ」
 トラゴスの言うとおり、更にまずいのはこの温度だ。空気中に漂う白い蒸気はまだ蒸し暑いの範疇で済むものの、時折壁や床の隙間から噴出する半透明の蒸気に至ってはもはや「熱い」という言葉では足りないほど。
 対策もなく、耐性もない一般人が素肌に受けた場合、一瞬にして肌が爛れてしまうほどのその温度は、もはや地下迷宮における災害である。
「ふむ、トラゴスさんもそうだったのか……。実は先ほど試しに手探りで進んでみようとしたんだが、少しだけ膝に足元からの蒸気噴出を受けてしまってな……。おのれ……あんなに熱いとは……」
 そう言う綴の膝の装甲は今も赤く熱を持っていた。彼の属性である「熱」が多少の耐性となったのだろう、普通の人間であれば既に膝部分の皮膚は爛れていたはず。それほどこの迷宮は無策な者に対して手痛い仕置きを喰らわせるのだ。
「ああ、これは……俺なら相当危なかったやろなあ。真っ赤な茹で蛸になるのは勘弁や。……しゃーない」
 そう言うと、トラゴスは綴に再度協力を要請し、相談を開始する。どのみち奥に進むほど視界もなくなるこの迷宮を、何もなしで抜けられないのならば、やることは決まっていた。
 猟兵としての超常の力。全ての障害に対し、真っ向から挑むためのその力の名前は、ユーベルコード。一つだけでも莫大な力を発揮するそれを最大限に活かすには、猟兵たちの協力、連携が必要不可欠である。
 二人は僅かに話し合うと、その相談を恙なく終了させる。どうやらお互い、持ち寄った力は似ていたようだ。

 相談を終えた二人が姿を現す。濃度が上がった白い蒸気の幕の影から、彼らの姿が徐々に見えてくる。
 その表情は自信にあふれ、目の前の困難に頭を悩ませる様子は一切ない。むしろ、この危機すらも楽しんでいるかのように、彼らの足取りは軽いものだった。
 ひと際蒸気の噴出が激しくなって、一寸先すら見えない場所までたどり着く彼ら。そこは、先ほど一人で進んでいた綴が引き返した場所。
「原因をどうにかできるお仲間が居たら連携しよとは思っとったけど、これなら何とかなりそうやな」
「すべて承ったッ! トラゴスさん、『電脳空間』ならば任せてくれッ! なんかワクワクしてきたぞッ!」
 足を止めた綴は、シケンヤゴーグルの中の電脳空間を現実世界へと展開していく。彼の視線は蒸気の中へ、そして電脳の網目の中へと吸い込まれるかのよう。
 そしてそのまま蒸気の迷宮の情報を電脳空間に投影すると、生身では知ることができない迷宮構造を把握していく。その調査は最早完璧すぎる程であり、蒸気の噴き出る原因や蒸気の成分までが手に取るように分かりそうで分からないほど。
「うおおお何だこの成分はッ! そもそもこの蒸気は物質なのかはたまた魔法の一種なのか分析してみたりするがもはやそんなことよりなんか楽しくなってきたぞ凄いな地下迷宮ッ!」
 綴は地下迷宮の楽しさを噛みしめながら、ユーベルコード【エレクトロレギオン】を展開し、現在の立ち位置からではつかめないような場所の操作も行っていく。
 小型の戦闘用機械兵器は次々に飛んでいき、そして高温の蒸気を浴びた個体から破裂していく。それほどまでに蒸気が危険という事でもあるが、これで蒸気噴出口の大まかな場所は掴んだ。
「トラゴスさんッ! 大体の位置は掴んだぞッ! あとは頼んだッ!」
「おう、お任せや。神さんら、すまんけど俺に力貸してくれな」
 トラゴスは天然石ブレスレット(大連珠)を軽く掲げると、小型の戦闘用員として契約した鷲の精霊たちを次々と召喚していく。狙いは綴の放った機械が壊れていった場所の、その根本。
 彼が契約した鷲たちは、綴の事前の調査も相まって正確に噴出口をその鋭い嘴と爪で破壊していく。その全ての動きに無駄は無く、複数あった蒸気の入り口はすべて鷲の一飛びの元に閉じられていく。二人の猟兵が同じ方策を持ち得ていたからこそできる技であった。
「よしッ! これで進めッ……!」
 破壊を確認し、二人の猟兵は歩みを進める。……そこへ、新たな危機が迫る。
 周辺の噴出口を破壊されてせき止められたことで高まった圧力が、迷宮内の壁を割って二方向から新たに飛び出してきたのだ。
 だが、彼らも百戦錬磨の猟兵である。噴出の前兆である高音を聞いただけで体は動き、自在に蒸気へと対抗する。
 綴は漂蒸繫治パストスチームによる蒸気の排出を利用してトラゴスへと噴き出した蒸気を見事に相殺し、トラゴスは背負っていたスクラップシールドで綴の肩口に襲い掛かる蒸気を汗一つかかずに防いでカバーし合う。
「ハハ、スクラップシールドで蒸気を出来るだけ浴びんようにしようと気ィ張ってた甲斐があったわ。そっちもありがとな」
「いいやッ! こういう時はお互い様だトラゴスさんッ! さあッ! 次に行こうッ!」
 二人の猟兵は更に足取りを速めていく。ケムリ経絡の奥地に向けて、彼らの足取りは軽いままだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ジーマ・アヴェスター
【POW】

暑い、というよりかは熱いと言うべきだろうか

タール状の体を鎧の中で蠢かせ、そう呟く
面倒ごとはさっさと片付けるべし

バウンドボディとは面倒くさがりに便利なもの
体を伸ばせば遠くのリモコンに手が届く
遠くの物を掴んで勢いをつければ、パチンコのように飛んでいく

重い体を引き寄せるのは一苦労だが、是非もなし
体に纏うジャンクこそが、仕事道具であり浪漫なのだから

しかし、曲がり角はどうにかなるとしてどうやって止まる?
蒸気の熱さに反比例して、ない背筋がうすら寒い


荒谷・つかさ
すごい熱気……確かにこれは、無策で突入するのは無謀ね。
私の手持ちの策でどれだけ対応できるか……ま、やるだけやってみましょう。

対策として以下の行動を取る
突入前に【五行同期・精霊降臨術】を使用
火行の精霊の力を強めに降ろし、高温環境への適応力を上げる(防御力強化)
「風迅刀」の「属性攻撃」による風起こしを応用し、自身を中心に気流を展開、熱風を遮断
突発的な蒸気の噴出は面積の大きな「零式・改二」での「武器受け」で防御

これらの対策を取った上で、速やかに強行突破を試みる
これでも何かしら足りない部分は「勇気」と「気合い」と「根性」でカバーするわ
(結局の所は脳筋体育会系であった)
(※根性という技能は存在しません)



●高温の壁を破るのは
「暑い、というよりかは熱いと言うべきだろうか」
 タール状の体を鎧の中で蠢かせ、そう呟くのはジーマ・アヴェスター(究極の引き篭もり・f11882)。
「すごい熱気……確かにこれは、無策で突入するのは無謀ね」
 その隣でジーマの言葉を受けて返すのは荒谷・つかさ(護剣銀風・f02032)。二人は既にケムリ経絡をある程度進んでおり、蒸気の迷宮の踏破ももうわずかといったところまで来ていた。
 二人が辿り着いた雪の迷宮への最後の通路は、まっすぐ、そして長い道であるがゆえに蒸気が充満している道。
 これまでは他の猟兵たちの活躍もあって進みやすかったという事もあるのだが、しかし、この先の熱気は最早吹き出す蒸気を直接肌に受けずとも分かるほど異様だ。
 白い蒸気は最早時を問わず常に高温にて噴出しているために水分量を増して更に白くあり、高い湿度と熱気は大気中に放たれた蒸気の温度を下げること無くその熱を伝えていく。
「どうしましょうか、ジーマさんの方に何か方策はある?」
「一応は。ある、と自身を持って言えるほどのものでもないが。……ただ、少し急いだ方が良さそうだ」
 ジーマはそう言って魔道蒸気機械の集合体であるATM-09-STの外身に触れる。既に蒸気機械のである彼のですらアーマーですら、異常な熱気を持ってしまっていた。
 突入前に【五行同期・精霊降臨術】を使用し、高温環境への適応力を上げておいたつかさにもわずかに疲労の色が見える。それほどこの通路は危険なものだ。
 異常に高い温度と湿度は生き物の発汗機能を狂わせ、蒸気混じりの大気では呼吸はどんどん浅くなっていく。このままここで悠長に話している余裕もないらしい。
「さて、面倒ごとはさっさと片付けるべし。始めよう」
「同感ね。ここまで来たら下手な策よりも自分の持ち味を活かす方が賢明だもの」
 二人は軽く相談を行うと、煙で白ちゃけた迷宮の中で思い思いに準備を行う。全てはこの先までたどり着くため、自分の持ち味を活かすという一点のみを考えての行動である。
 それが結果的に協力となり、強固な連携と姿を変えることに繋がる。超強力なスタンドプレーは、持ち味を活かすという事でもあるのだ。

 からくり糸を自在に操り、ジーマは自分の装甲を操りながらも【バウンドボディ】を発動する。
「バウンドボディとは面倒くさがりに便利なものでね……」
 自身の肉体をバウンドモードに変更し、強い伸縮性と、任意の速度で戻る弾力性を得て、彼はガジェットで傷を付けた迷宮の外壁に手をひっかけ、そして少しずつ後ずさりをしていく。
 彼の腕は人間では考えられないほど自由に伸び、そして10m近く後ずさったかと思う所で、ジーマは足を止めた。
「さて、私の手持ちの策でどれだけ対応できるか……ま、やるだけやってみましょう」
 後ずさったジーマの裂き、超強力な蒸気の通路の前で武器を構えて精神統一を図るのはつかさ。
 彼女は腰元の風迅刀の鍔を作った手の内でしっかと握りこむと、その力を解放する。その力の源は風の精霊。常に圧縮空気を纏い、光を歪曲させ不可視状態としているその刀の刀身が、彼女の手の内で今滑らんとする。
「………………」
 つかさは蒸気の噴出が立てる音を聞く。まだだ。まだ今ではない。もう少し、あと少し、まだ、……そして、蒸気の噴出がほんのわずかに和らいだことを耳で捕らえたつかさは、鞘の中から風迅刀を奔らせた。
「…………今ッ!」
 一瞬だけケムリの中で煌めいた刀身をそのまま幾度となく振り翳すと、つかさはジーマに合図を出す。彼女が行ったのは属性攻撃による風起こしの応用。
 自身を中心に気流を展開し、熱風を遮断する技だ。もはや彼女の剣速は白い蒸気の中でわずかに刀身の瞬きが起こるのを目にできるかどうかといったものであった。
「体を伸ばせば遠くのリモコンに手が届くし、勢いをつければ、ーーパチンコのように飛んでいくものだ」
 つかさの後ろで控えていたジーマが、それを見て腕を思い切り離す。長く、長く、蓄えられた運動エネルギーは支えを失ったことで解き放たれ、彼は異常ともいえる速度を持って蒸気の通路へと突入していく。
 そしてそのまま蒸気の中に突入する寸前でつかさを抱えると、ジーマに抱えられた状態でつかさは風の防壁を次々に張り巡らせていく。
 高温の蒸気を斬り裂き、道を拓くのは幾多もの風の刃。そして狭い道をつかさを抱えてひた走る推力を持つのはジーマの身体そのものであった。
「ジーマさん、はい、鎧。必要でしょう?」
「おお、いつの間に。助かった、体に纏うジャンクこそが、仕事道具であり浪漫なもので」
 超高温の蒸気の通路を突破した二人は、速度を緩めず進む。ジーマに捕まる寸前に鎧を掴んでいたつかさの動きはさすがというべきか。
「……しかし、曲がり角はどうにかなるとしてどうやって止まる?」
「えっ。……まさか、考えてなかった?」
 通路の中の蒸気の熱さに反比例して、二人の背筋にうすら寒いものが走った。……が、彼らの突撃は止まらない。
 目指すはこの先。雪と氷の支配する迷宮だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『白の迷宮』

POW   :    前衛となり罠や敵を力で蹴散らす。気合で寒さに耐える。滑る床に踏ん張って耐える。など

SPD   :    敵や罠の警戒、解除。危険な気配の察知。氷上を華麗に滑る。雪玉を投げる。など

WIZ   :    魔力による探知。魔法で暖を取る。雪や氷を溶かし道を切り拓く。魔術的トラップの解除。など

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●白銀の迷宮
 蒸気の迷宮を向けると、そこは雪景色だった。
 白、白、白。
 一面が白に染まる銀世界。
 ケムリ経絡の深部にたどり着いた猟兵たちは、目の前に広がる雪と氷の世界を見る。
 先ほどまでの地下迷宮の熱さは嘘のように、至る所に霜が降り、雪は積もって、壁の割れ目から流れる水の周りには氷が張り、通路の隅には凶暴なオオカミや熊などの野生動物が生息している。
 寒さは当然のこととして、そこにはどうやら通路上に自然に出来たクレバスのような場所や、巨大なツララ、氷で覆われた通路など、自然のトラップと呼べる代物が数多くある。最深部に到達するだけでも、相当の注意か対策が必須だろう。
 蒸気で満たされているはずのケムリ経絡は、オブリビオンの出現によってその姿を完全に変えてしまった。
 もはや地下迷宮を支配するのは熱気ではなく、冷気である。そしてどうやら、その冷気は奥に進むほど強まっているらしい。
 猟兵たちは環境の激変に身を凍えさせながらも、最深部に潜むオブリビオン討伐のため、積もった雪に足跡を付けながら歩き始めるのだった。
四軒屋・綴
改変絡み歓迎

ふーむ……雪だるまというのは中々難しいんだな……

さてッ!遊んでてわかったが『蒸気』とは違いダメージのある『冷気』が満ちているわけではないらしいなッ!

よって選ぶのは【POW】ッ!今さらながらユーベルコードを発動してカッコいいポーズをとりつつ防御力重視の蒸気機関車系ヒーローに変身ッ!装甲を頼みにブーストダッシュで駆け抜けるッ!ついでに雪玉も転がすぞッ!

「勇・蒸・連・結ッ!ジョウキングッ!」
「除雪車並みに吹き飛ばしてやろうッ!」
「わーいつららだぁ!」
「冷気と熱……熱交換か?」


ルベル・ノウフィル
わーい、雪でございますー!
spd

僕は雪を見て大はしゃぎして遊びます
雪玉を投げてもよいのですか?
そーれっ
罠とかは、雪玉を投げてたら作動してきますでしょうか。

あっ、ここは滑りますね
ツルツルでございますー!
わーい!
はっ、ここは深いですね
雪がこんなに!ずぶずぶ埋まります、スゴイ
ハマって動けなくなっちゃいました、あわわわ
おたすけぇ……

へっくしゅあ!(くしゃみ)
ふむむ、しかし、とても楽しかったのでございます
迷宮とはアトラクションのごとし……!

あっ、おやつに金平糖を持って参りました
皆さま、もしよければどうぞです

尻尾パタパタ
アレンジアドリブ連携全て歓迎


トラゴス・ファンレイン
いや寒暖差激しすぎるやろ……でも熱いよりはマシか。
寒い時は体動かすのが一番や。罠も敵もまとめてぶっ飛ばしたるわ!

・行動
【POW】罠や敵を力で蹴散らす
「野生の勘」である程度罠の位置に見当つけたらそこに一直線、大連珠握って威力高めた拳で壊して回る。
野生動物が襲ってくるようなら勿論応戦。敵からの攻撃は「見切り」とガードで臨機応変に対応しつつ、至近距離まで接近したらユーベルコード『灰燼拳』で殴り倒す。
雪やら氷やらで足場悪いけど「覚悟」と「気合い」で踏ん張るで!

※アドリブ・ネタ・絡み全て大歓迎


ヴァーリャ・スネシュコヴァ
ちょーっと出遅れてしまったな!だが、ヒーローは遅れてやってくるものだろう?
つまり、こういう場所は俺の得意中の得意ということだ!むしろ俺は暑いところの方が苦手だからな!

【氷結耐性】を使用、寒さや冷気などによる影響やダメージを軽減させる。(寒さに強い!という感じで)
氷の道の上を進む際は、靴裏に氷のスケートブレードを出現させ、軽快に氷の上を滑るぞ。
トラップは【第六感】を使用し気を張り巡らせ、危険に遭遇した場合は【ジャンプ】or【ダッシュ】+【スライディング】で素早く避ける。
危険な獣に出会った場合は、氷の【属性攻撃】+『雪娘の靴』で手早く決着をつけさせてもらうのだ。…心苦しいがこちらも引けないからな!



●静寂の中にあって、なお賑やかな
 雪、雪、雪。
 白く冷たいその物質は地下迷宮に満ち満ちては、音と温度、そして侵入者の生気をその中に吸い込んでいく。
 ケムリ経絡の奥地に進んだ猟兵たちの目の前に広がるのは、先ほどまでの熱気と音、蒸気の熱さといった騒々しさではない。
 急速に固まったかのような氷。それがわずかに解け、落ち窪んだ通路に集まってできた小さな池と、そしてそこに薄く張る表面の氷。
 白銀の雪と冷たく白い風は地下迷宮の通路を大きく風化させ、積もった雪は地盤を崩しては目には見えない大きな穴を作って猟兵たちの行く手を阻む。
「いや寒暖差激しすぎるやろ……でも熱いよりはマシか」
「冷気と熱……熱交換か? ……というかトラゴスさんッ! 背中辺りが開いているその服すごく寒そうだぞッ!?」
 先ほどまではうるさいほどに聞こえていた蒸気の噴出する音などももう聞こえない。響くのは道を進む猟兵たちの声だけだ。
 その声も、彼らから少しでも離れると空に消える。白い雪が色鮮やかな音を全て吸い込んで、かき消してしまうからだ。余りの静けさは危険が手招く声か、過酷な状況からの警告か。
 一般人ならばとうに凍えているか、一歩も進むことなく引き返しているだろう程の冷気を目の前にして、しかして猟兵たちの進軍は止まらない。むしろ、その行進は先ほどよりも活気に満ちたものだった。
「わーい、雪でございますー!」
「ちょーっと出遅れてしまったな! だが、ヒーローは遅れてやってくるものだろう?」
 そんな中でも断然元気な猟兵が二人。雪を見て大はしゃぎして遊んでいるのはルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)。
 実は暑いのが苦手だったため、蒸気の迷宮を抜けてやる気を出し、高台から姿を現したのはヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)だ。
「むッ!? この声は……雪に強そうで頼りになりそうなヒーローによる名乗りッ!? どこだッ! 姿を見せろッ!」
「ここだ! とーう! むしろ俺は暑いところの方が苦手だからな、こういう場所は俺の得意中の得意! ここは俺に任せてもらおう!」
「こんなに雪がある……ということは、雪玉を投げてもよいのですか? そーれっ」
「んー、まあ、寒い時は体動かすのが一番や。満足するまでいっぱい投げてみたらええと思うよ」
 先を行くトラゴス・ファンレイン(エスケープゴート・f09417)と四軒屋・綴(大騒動蒸煙活劇・f08164)に新たに合流した二人を加えて、四人は静かな雪の中をひた進む。
 狙いはオブリビオンのいる最深部。猟兵たちは熱気と活気を伴って、静寂の雪と強固な氷塊が征く手を阻む迷宮を進んでいく。

●遊んでいるわけでなく
「ふーむ……雪だるまというのは中々難しいんだな……」
 そこらじゅうの雪を退かすついでに雪だるまの土台を作り、転がすことで道を作りながらクレバスへの対処策にしようとしているのはヴァーリャと綴。
 綴は身に纏った勇蒸連結ジョークロスを雪だらけにしながら大きな大きな雪玉を作ろうと四苦八苦している。降り積もってまだ時間もそれほど立っていないのだろう、周りの粉雪はサラサラとしていてうまくまとまってくれない。
「見てくれ綴! 雪だるまの頭はもう俺が作っておいたぞ! 完璧な球体なのだ!」
「なにいッ! これは……負けられない戦いッ!」
 対してヴァーリャは生来持ち得ている冷気を操る力を自在に活用し、粉雪ですら上手に球体に変えていく。彼女の手には、すでに程よく大きい奇麗な丸い雪玉があった。
 それは彼女の力と、雪と氷への類まれなる理解力が成し得た芸術といっても良いほどの出来。それに発奮した綴は雪玉を転がしながら道を作る速度を増して、全身の蒸気の気炎を上げる。中々に煙い。
「そーれ、そーれっ、むむむ、雪玉を上手く飛ばすのは難しいものですね……」
「おー、当たりそうで当たらんもんやなあ。頑張れ、頑張れー」
 近くの雪をかき集めては雪玉を作り、投げてはまたそれを繰り返しているのはルベル。亡きあるじが編んだ服はすでに雪まみれでまっしろだ。
 彼の傍に控えているトラゴスはその様子を見て楽しそうに雪玉を作る手助けをしている。雪景色の中にあって、彼の色黒の肌は良く映えた。
 そして、ルベルの雪玉がいよいよ狙ったものに向かってまっすぐ進み、「それ」にぶつかる。
「あっ、当たりましたっ」
「わーいつららだぁ!」
「おー、良い狙いやないか。ほんじゃ、さっさと壊して先に進もか」
 ルベルが先ほどから狙っていたのは、通路の上部に垂れ下がっていた巨大な氷柱たち。人里では決して見れないような大きさのそれは、ルベルの雪玉を根元に受けると一斉に地に落ちる。
 地に落ちて道を塞ぐその巨大な氷の塊に向けて、トラゴスは雪の上を駆けながら一直線に向かっていく。そのまま手にした大連珠を力強く握ると、彼の拳の威力はどんどんと高まっていった。
「そう、れッ!」
 そうして強化した自分の拳を思い切り振り回しながら、トラゴスは堅いはずの氷柱を豆腐を潰すような気軽さで次々に割っていく。
 洗練された拳打は氷の中心を捉え、多く集まっていた氷柱たちは中心から粉々に破壊されては、光を反射する破片をまき散らして消えていった。
「さてッ! 遊んでてわかったが、今のところは『蒸気』とは違いダメージのある『冷気』が満ちているわけではないらしいなッ!」
「そうだな、寒いとは言っても雪や氷に触れちゃダメな訳でもない! これくらいなら、皆と進めば怖くないぞ!」
 四人の猟兵は遊んでいるように見えて、先に進むために必要な行動を的確に行っていく。そんな彼らの雰囲気は心なしか明るく、そして暖かかった。

●迫る危険
「あっ、ここは滑りますね、ツルツルでございますー! わーい!」
「こういった場所は俺の独壇場だな! スケートならお手の物だぞ!」
 雪を乗り越え、氷柱を砕き、氷の道にたどり着いた猟兵たち。どうやら迷宮外壁の亀裂から流れ出た地下水が、そこで凍っている様子。天井にはまたしてもいくつかの氷柱が散見された。
 足元が凍ってうかつに動けない事に加え、天井に聳える氷柱の恐怖で脚がすくむようなそこでも、猟兵たちは決して止まらずに手助けし合いながら先に進んでいく。
「む……思ったより滑るッ! 怖いッ!」
「足場悪いけど、まあこのくらいなら踏ん張れるで!」
 意地でも進むという気合いと根性でゆっくりと着実に進むトラゴスや、クレバス対策の雪玉を転がしながら来ている綴などはさらに苦戦している様子だが、そこはヴァーリャが助けているようだ。
 魔力を流すことで瞬時に靴裏に氷のブレードを精製できる靴、トゥーフリ・スネグラチカの靴裏に氷のスケートブレードを出現させ、軽快に氷の上を滑るヴァーリャにとって、氷の上という状況は慣れたものなのだろう。
「グオオオオアアアアア!」
 ……が、その時。他の猟兵よりも一足先に氷の道を渡り切ったルベルに向けて、危機が迫っていた。
 彼の近くに他の猟兵の姿がいないことを確認するや否や、すぐさま飛び出してきたのは超巨大な白熊。付近の雪に潜んでいた凶暴な獣が、ルベルを強襲せんと駆け寄ってきたのだ。
 真っ白い体毛に隠した強靭な筋肉と鋭い爪と牙が、足元が雪と氷であることに関わらず異常な速度で近付いてくる。体の大きさもおおよそ自然にみられるようなサイズではない。
「あっ、あれは……! はっ、ここは深いですね、雪がこんなに! ずぶずぶ埋まります、スゴイ……ハマって動けなくなっちゃいました、あわわわ」
「ルベルさんッ?! まずいぞッ!」
「あかん、こっからじゃ間に合わへん……!」
 さらに運の悪いことに、氷を渡り切ったルベルが踏んだのは運悪く柔らかい雪が降り積もっていた場所。彼の下半身はみるみるうちに雪の中に埋まってしまう。
 綴とトラゴスは仲間に近付く危機を見て、すぐさま助けるべく走ろうとする。しかし、摩擦の少ない氷の上では思ったように速度が出ない。
 白熊は動けないルベルに爪を立てんとして、さらに四足の脚で雪の積もった地面を踏みつけ、蹴飛ばし、加速を続けていく。もうダメか、と思われたその時。
「おたすけぇ……」
「ーーああ、もちろんだ!」
 その白熊を止めるべくひと際速い速度で動いたのはヴァーリャだ。彼女は足のスケートブレードを自在に操ると、氷の上で走るようにスピードを上げていく。狙いは当然、ルベルを襲おうとして走る熊だ。
 持ち前の第六感を使用し気を張り巡らせた彼女は、薄く張っていると看過した足場を踏む前にジャンプを行い、着地の衝撃で近くに落ちてくる氷柱はスライディング姿勢を取りながら滑ることで素早く避ける。
 ヴァーリャの薄氷の髪を氷柱が僅かに裂くが、彼女の速度は衰えない。菫色の瞳で熊を捉えると、さらに加速して危機に飛び込んでいく。
「言ったろう、ヒーローは遅れてやってくるものだと! ほらほら白熊め、こっちだぞ!」
「グウウウウウウウオオオオオオオオアアアアアアア!」
 ヴァーリャはルベルの前に颯爽と現れると、ユーベルコード【雪娘の靴】を発動する。大気を覆う氷と雪、その全ては彼女の味方だ。
 彼女は自分の氷の魔力を遺憾なく発揮すると、常よりも大きい靴裏に精製した氷のブレードによる蹴りが、氷上を超速度で走ってきた勢いそのままに白熊が振り下ろそうとしていた右前足の肩口を抉っていった。 
「白熊には悪いが、手早く決着をつけさせてもらうのだ。……心苦しいがこちらも引けないからな!」
 ヴァーリャの特大の威力を誇る蹴りを右の肩口に受けて、白熊もさすがに怯んだ様子。しかし、凶暴な獣は攻撃の手を緩めることなく、怪我を負いながらも左手の爪をルベルたちに振り下ろそうとしている。
「ええい、しつっこい熊やな……! こうなりゃ、罠も敵も、氷も熊もまとめてぶっ飛ばしたるわ!」
 白熊の不運なところは、ここに至った段で逃げの手を打たなかったことだろう。いくら猟兵たちが氷の上で歩くのに不慣れであっても、ヴァーリャの稼いだ時間があれば優に対岸までたどり着ける。
 雪と氷の上を走り、未だに攻撃をあきらめない熊に対して一撃を入れるのはトラゴス。
 彼は接近するや否や、手持ちのスクラップシールドを一直線に振り上げて、攻撃を仕掛けてくる白熊の顎をカウンター気味に揺らす。トラゴスの持ち得る野生の勘と、見切りが無ければ到底できない技だ。
「グッ、オオッ……?!」
「まだや、俺の狙いは……こっちやで!」
 そしてそのままショックで思わず立ち上がった白熊の至近距離まで接近したトラゴスは、ユーベルコード【灰燼拳】を発動する。数珠を握りこんだ超高速かつ大威力の一撃が、白熊の腹部に深々と突き刺さった。
「グッ、グギャアアアアアアアッ?!」
 腹部に今まで味わったことのない未知の衝撃を喰らった白熊は、もはや理性を欠いた状態で突進を仕掛けてきた。非常に大きな巨体が猟兵たちに迫った時、もう一人のヒーローが現れる。
「それ以上はさせんッ! よおしッ! 除雪車並みに吹き飛ばしてやろうッ! 来たれッ! マイボディッッ!」
 氷上で綴が発動したのは、ユーベルコード【蒸騎構築】。防御力重視の蒸気機関車系ヒーローに変身した彼は、足場の悪さと落ちてくる氷柱をものともせず白熊へと突進していく。
「待たせたな皆ッ! 勇・蒸・連・結ッ! ジョウキングッ!」
 ジョークブースターのブーストを最大限に加速しダッシュで駆け抜ける綴は、持ってきていた巨大な雪玉ごと、他の猟兵に向けてひた走ろうとする白熊に突撃を行った。
 今まで転がされてきたことによって圧倒的な質量を持つ雪玉と、白手克裁レジストハンドによる綴の速度の乗った拳を顔面に受け、白熊は既に出鼻をくじかれたも同然。
「ギャウッ?! グ、ギャインッ!!」
 猟兵たちの度重なる攻撃で流石に不利を悟ったか、白熊は雪の中に姿を消していった。あれほどに痛めつけたのだ、もう人を見ても襲おうとは思わないだろう。

●口に甘さを、傍に仲間を
 その後助けられたルベルは、へっくしゅあ!と大きくくしゃみを一つ放つと、三人に感謝の気持ちを伝えていく。雪の中がよほど寒かったのだろう。
「ふむむ、危ない所をどうもありがとうございました! しかし、とても楽しかったのでございます! まさに迷宮とはアトラクションのごとし……!」
「それはちょっと違うんちゃうか? ま、無事なら何よりや」
「うむッ! ルベルさんに怪我がなくて良かったッ!」
 猟兵たちは危機を乗り越え、さしたる怪我もないまま、また一歩足取りを進めるべく態勢を整える。先ほどの蒸気の迷宮とは違って直接的なダメージはなくとも、やはり長居は避けたい場所だ。
「あっ、そういえば……! 僕、おやつに金平糖を持って参りました! 皆さま、先ほどのお礼によければどうぞです」
「えっ、ほんとか!? 俺は甘いものに目が無くてな、是非貰いたいぞ! ……おおお! これは美味くて甘くて……素晴らしいものなのだ!」
 ルベルは尻尾をパタパタさせながら金平糖を取り出すと、他の三人に配っていく。ヴァーリャも大変喜んでいる様子だ。寒い場所では糖分も大事というし、この状況で素早く摂取できる金平糖は素晴らしいチョイスなのだろう。
 四人の猟兵は雪を踏み慣らし、氷を滑って、遮るものを壊しては白熊を撃退し、そしてさらに進んでいく。
 オブリビオンの反応まではもう間もなく。彼らは金平糖の甘みを楽しみながら、待ち受ける敵に向けて闘志を燃やすのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エウロペ・マリウス
ボクにとっては、先程の場所よりは慣れ親しんだ環境だね

行動 WlZ
使用技能【氷結耐性】【視力】【暗視】【全力魔法】

【凍結耐性】【視力】【暗視】を使用しつつ、前に進むよ
クレバスや氷柱は、ユーベルコードで凍らせてしまえば問題ないかな
氷で塞がれたところは、端をちゃんと凍らせて補強してから、【全力魔法】で破壊だね

凍てつく環境でも、箇所によっては氷が薄くなっていたり、破壊した衝撃で、その近辺が崩壊したりするだろうから
それに注意して、危険そうな場所は、ユーベルコードでしっかりと補強して進むように心掛けるよ


唐草・魅華音
かなり冷えますね…銃は冷えて撃てなくならないよう懐に。視界も吹雪いて塞がるかもしれませんし、慎重に行かないといけませんね。

【バトル・インテリジェンス】を起動させておき、不意打ちも対応できるようにしておいて、
刀を抜き確認の杖代わりにさくさく地面を刺して穴とかないか確認しながら進みます。
敵を見つけたら、銃を懐から抜いて威嚇射撃から入ります。戦わないに越した事ありませんからね。

「雪山の雪は、幻想の道みたく罠が潜む事もあるのです」

アドリブ・共同OKです。


荒谷・つかさ
……。…………。………………寒っ!?
わかってたけど何この寒暖差!?

引き続き【五行同期・精霊降臨術】で自己強化
今度は寒冷適応……水行を基本に、相性のいい金行で補佐して強化すれば行けるかしら(防御力強化)
いつもなら地形破壊で罠とか纏めて壊して突破する所だけど、うっかり氷を踏み抜いて水没したりしたら目も当てられないので慎重に
滑りやすい所は武器をハーケン代わりにしながら攻略
敵は出会ってしまったらなるべくその場で仕留めていく
付近に深い谷や落ちて来そうな氷柱があるなら、「吹き飛ばし」技能でそれらの方に敵を飛ばし、逆に利用
あとこれで足りない所は「気合い」技能でカバーよ

あと蒸気で濡れた服は予め着替えるわね。


ジーマ・アヴェスター
【SPD】ガジェットショータイム
使用技能【防具改造】【かばう】

「ブラックタールでなければ骨の1本や2本は軽く折っていたな」
蒸気路から荒い着地をし、安堵のため息を吐く。
周囲を見渡すと、足場は氷結しどこか遠くから獣の唸り声が聞こえるようだ。

ふむ、と一つ考えアンカー付の大盾を生成する。足装甲には防具改造でスパイクを生み出し氷上を踏みしめた。


粘性の体による耐久力、盾とスパイクによる安定性。
魔道蒸気機械による排熱も合わされば、それはまさに城砦の如し。

「先程は少々はしゃぎ過ぎたからな。ここは堅実に、目の前の脅威を打ち払おう」

機械城は一歩、また一歩とオブリビオンを追う。



●不安は消して、着実に
 長かったケムリ経絡もいよいよ終盤。進めば進むほど雪は激しさを増し、横殴りの暴風を伴って猟兵たちの身体から熱を奪っていく。
 その迷宮の中で、普通の人間が見たこともないような量の雪を見下ろし、一直線の道を異常な速度で飛んでいく影があった。
「……!」
 既に目の前は吹雪で見えにくく、至る所が強固な氷に覆われた足場の上では、少しでも気を抜けば転倒の危機を免れない。
 しかし、飛んでさえいれば転倒の危機などは考えずともいいし、何も問題はない。速度による寒さを考慮しなければ、の話であるが。
「…………!」
 堆く積もり積もった白すぎる雪は通路のありようを分かりにくくさせ、注意を怠ればすぐさまクレバスが口を開けて侵入者を飲み込もうとしている。
 二つの影はそのクレバスさえも無視して一気に距離を稼いでいく。叫び声がようやく聞こえ始めたと思ったその時、二つの影は着地の体制を取った。
「………………寒っ!? わかってたけど何この寒暖差!?」
「ブラックタールでなければ骨の1本や2本は軽く折っていたな」
 雪埃を派手に上げながら着地する影は二つ。先ほどの蒸気の道を勢いよく飛んで突破してきたジーマ・アヴェスター(姿持たぬ粘体・f11882)と荒谷・つかさ(護剣銀風・f02032)の二人。
 蒸気路から勢いよく飛び出しては荒い着地をし、何とか止まれたことに安堵のため息を吐くのはジーマ。彼の特性である流体としての自在性がここに来て功を奏したのだろう、着地の際に生じた衝撃によるダメージもほとんど無いようだ。
 濡れた服を予め着替えていたつかさも共に行動してはいるが、この寒さにはさすがに声を荒げる。服が濡れていなくても、この豪雪の中は相当厳しい。ジーマの超高速での突撃に便乗していたのもあってか、光耀の羅刹紋に裾や袖から入る雪は彼女の身体をどんどん冷やしていく。
「ううう、こうしちゃいられないわ……。今度は寒冷適応……水行を基本に、相性のいい金行で補佐して強化すれば行けるかしら」
「ほう、五行の力か。便利なものだな。ものぐさな身としては羨ましい」
 つかさは引き続きユーベルコード、【五行同期・精霊降臨術】で自己強化を行い、自分の身体の適応力を高めていく。
 常であればこのまま体温を奪われて昏倒まで見えていた場面であったが、彼女は持ち前の機転と応用で事なきを得たようだ。先ほどよりも呼吸が安定し、深く息を吸うことで肩の力も抜けてきている。
 指先の感覚も戻ってきたようで、これならつかさが自分の刀を振るうのに何の問題も無いだろう。試しに一度鍔の握りと刀の滑りを確かめた彼女は、よし、と呟いてジーマに相談を持ち掛けた。
「うーん、いつもなら地形破壊で罠とか纏めて壊して突破する所だけど……、何だかこの先は凍ってない道も多いみたいだし、うっかり氷を踏み抜いて水没したりしたら目も当てられないわね。滑っても嫌だし、ここは慎重に行きたいところだけど……ジーマさんはどうかしら?」
「ふむ。……そうだな。足場に不安があるのなら……」
 そういうと、ジーマは自分の纏う装甲、ATM-09-STの足装甲部分をおもむろに弄りだし、脚部に大きなスパイクを付けるという防具改造を行っていく。
 彼の装甲が魔道蒸気機械の集合体であるからこそできる大胆な発想である。同時に作り出したアンカー付の大盾を構えて歩みを再開したジーマは、目の前の氷をおもむろに踏みしめた。力強く、一歩一歩足場を確かめるように、体の重量を載せて盾のアンカーを氷に刺していく。
 そうして目の前の氷が割れないことを確認すると、ジーマの脚部に増設されたスパイクは氷をしっかと捉え、滑ることのないように彼の身体を半固定する。実に安定した足取りを保ちながら、彼はつかさを先導して歩き始めた。
「これで、不安はなくなった訳だ」
「なるほど、スパイクなら足場も安定するし、アンカーを足元に刺した時点で割れそうな氷は把握できるか……やるわね、ジーマさんも」
 つかさはその後を付いていきながら、滑りやすい所はジーマの作り出した足跡に自分の武器をハーケン代わりにしながら攻略していく。
 二人の足取りはここに来て着実に、そして確実にオブリビオンを追い詰め始めていた。
 
●氷を渡って、その先へ
「この場所、奥に行けば行くほどかなり冷えますね……」
 時を同じくして雪の迷宮を攻略せんと歩みを進めているのは、唐草・魅華音(戦場の咲き響く華・f03360)とエウロペ・マリウス(揺り籠の氷姫・f11096)の二人だ。
「ボクにとっては、先程の場所よりは慣れ親しんだ環境だけど、寒さに慣れていない人には厳しい環境だね」
 寒そうにしながらも、せめて銃が冷えて撃てなくならないよう懐に入れて進む魅華音とは対照的に、エウロペはこの極寒の中にあってもそこまで応えていないようである。
 彼女たちもまた、ジーマやつかさたちが通った道と同じように、雪と氷に支配された真っ白い道を切り開いていく。オブリビオンの反応があった最深部は一つだが、そこに至るまでの道のりは決して一つではない。
 今はもう蒸気の姿は影も形も見当たらないが、雪の積もったここも、元々はケムリ経絡の一部であった地下迷宮。人間の神経のように入り組んだその道のりは、時に折れ、時に交差し、時に分かれては進む猟兵たちを惑わせる。
「吹雪が強くなってきたところから見ても、前に進んでいることは確かだと思うんだが……」
「今は良くても、この調子じゃ吹雪で視界も塞がるかもしれませんし、更に慎重に行かないといけませんね」
 そう言う魅華音は、既にユーベルコード【バトル・インテリジェンス】を発動させている。視界の悪いこの状態で野生動物に襲われてしまった場合、最悪噛み付かれてから襲撃に気付いた、なんて事態もあり得ない話ではない。
 雪の迷宮に足を踏み入れてから即座に起動したのは、全ての情報を視界に頼らずとも不意打ちに対応できるようにしておく彼女なりの心構えなのだろう。
 そんな魅華音は自分の刀、野戦刀・唐獅子牡丹を鞘から抜いて、確認の錫杖代わりにさくさく地面を刺しながら戦闘を歩いている。彼女が確認を決して怠らないのは、急いで移動したとしても見えない穴などに嵌ってしまっては元も子もないからだ。
「雪山の雪は、幻想の道みたく罠が潜む事もあるのです。注意するに越したことはありませんね」
「同感だ、ここは手堅く行こう。なに、幸いなことに見ているのはそれこそ雪くらいのものさ」
 雪の恐ろしさと、それを恐れる魅華音の心構えを分かっているのだろう。エウロペは自然に魅華音の後ろに付くと、絶えず後方と左右を確認してくれている。雪と氷に慣れ親しみ、視力も良い彼女ならではの見事な手助けであった。
 しっかりと通れる足場の身を通って進む二人の目の前に現れたのは、広い湖のある空間。
 壁も床も、そして肝心の湖でさえも凍てついているその空間を乗り越えるには、どうやら湖の上を通る以外に道はないらしい。
 さらに問題なのは、湖の上に沢山吊り下がっている氷柱の群れと、そして氷柱が落下してきた場合割れるだろうことがハッキリ分かるほどに薄い湖の氷だ。足場とするには物足りなさすぎる薄氷は、遠目から見ても頼りなさが見て取れた。
「ううん……これは、ちょっと通るには厳しそうですね。エウロペさん、他の道を探してみましょうか?」
「いや、ちょっと待ってくれ。水面や氷柱は、ユーベルコードで凍らせてしまえば問題ないかな……? ……うん、今の環境なら……行けるな。ボクに考えがある。ここは任せてくれ」
 足元確認のための愛刀を鞘に仕舞って道を引き返そうとした魅華音を、エウロペが止める。彼女には何か、この湖を越えるための方策があるらしい。
 彼女が唱える力は【創造せし凍結の世界】。先ほど蒸気の迷宮の噴出口を凍らせたその技である。
 あの時は高温多湿の状況と熱気があったが、いま彼女を取り巻くのは雪と氷だ。もはや彼女の魔力はとどまることを知らない。
「ーー新たに生まれる、氷に閉ざされた世界に案内してあげるよ」
 エウロペが先ほどと同様に魔力を込めてコキュートス・アニマを振りかざすと、その先端には先ほどよりも大きく、巨大で、かつ洗練された一つの雪の結晶が現れ出でる。まるで、彼女の魔力に周りの環境が力を貸しているかのよう。
 全ての力を杖に。全ての魔力を氷に変換して放つ、エウロペの全力魔法の一撃が、今湖の中心に向かって放たれる。
 雪の結晶の形をした魔弾が湖に静かに吸い込まれ、湖面に潜って姿を消した。一秒、二秒。一つ瞬きをした魅華音の前に現れたのは、一面が厚い氷によって覆われた湖であった。
「す……すごい! 端まで全部凍って、これなら……!」
「ああ、自信を持って言える。ここはもう、安心して通れる道だよ」
 魅華音はエウロペに促され、湖の水面に張った厚い氷を刀で確認してみる。数度叩いても何ともないそこへ足を載せてみると、想像以上に安定しているようで、何ともなく進めるようだった。
 湖の中心はもちろん、端まで補強のためにしっかりと凍らせてあるそこは、もはや湖ではなくただの平坦な通路だ。更にエウロペの気遣いからか、二人の歩く氷はわずかにザラついており、足を取られる心配もなかった。
 意気揚々と更に進もうとする二人。しかし、そんな彼女たちの背後に迫る影があった。

●力を合わせて、最奥へ
「待て。……どこか遠くから獣の唸り声が聞こえるようだ」
「唸り声……!? もしかしたら近くに猟兵がいるのかもしれないわ。少し様子を探ってみましょう」
 獣たちの声を聴いたのはジーマだった。彼らは聞こえた方向からある程度の距離を割り出すと、その方向に向けて足を進める。
 次に聞こえるのは、何かの銃声のような音。まるで威嚇射撃のように一発だけ響いたそれを聞いて事態が火急であることを悟った二人は、更に速度を上げて音のした方向へ進んでいく。
 そこに広がっているのは、魅華音とエウロペに今にも飛び掛かろうとしている雪オオカミの群れ。すでに彼女たちを取り囲んでいる獣たちは、口元から涎を垂らして目を血走らせている。
 オブリビオンの登場による影響かは分からないが、とにもかくにも穏当な雰囲気ではないことは確かだった。
「……魅華音!? ……いえ、ここは助太刀するわ!」
「えっ、つかささん!? 助かります! このオオカミたち、威嚇射撃をしても全然気にする様子がない……!」
 面識のある二人のみがそこでわずかに驚くが、だからと言って彼女たちが戦闘において支障をきたすようなことはない。
 飛び込んだ勢いそのままに零式・改二でオオカミたちに斬りかかっていくつかさを、魅華音は持ち前の銃火器であるMIKANEで援護していく。
「せいッ!」
「そこ……!」
 つかさが一足飛びにオオカミを一つ斬れば、浮足立った集団を魅華音が捉える。魅華音が撃ってばらけさせたオオカミたちを、つかさは返す刀で落ちてきた氷柱を薙ぎ払って敵の方向に向かって射出し、個別に撃破する。
 二人のコンビネーションは既にお互いの行動を知っているかのように卓越されたものだった。これに業を煮やしたか、集団の中で何匹かのオオカミがエウロペに向かって走り寄っていく。
 後衛に位置する彼女なら与しやすいと思ったのだろうか。しかし、そんなオオカミたちの狙いは脆くも崩れ去ることになる。
「先程は少々はしゃぎ過ぎたからな。ここは堅実に、目の前の脅威を打ち払おう」
 粘性の体による耐久力、盾とスパイクによる安定性。魔道蒸気機械による排熱も合わされば、それはまさに城砦の如し。【ガジェットショータイム】によって機械城と言って差し支えない鎧をまとったジーマが、回り込んでオオカミたちの進路を止めたからである。
「悪いことをするオオカミさんたちには、お仕置きが必要だね」
 そのジーマの後ろから飛んでくるのは、エウロペの詠唱する氷の魔弾だ。もはやオオカミたちは成す術もなく散り散りになって逃げ去るしかない。
 猟兵たちは無事に合流を果たし、一歩、また一歩とオブリビオンを追う。オブリビオン反応のあった場所は、もう既にそこまで近付いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『骸の海のダンクルオルテウス』

POW   :    噛みつき
【噛みつき 】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    尾撃
【尾っぽ 】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
WIZ   :    影化
【輪郭のぼやけた影 】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠秋冬・春子です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●言葉を介さない宣戦布告
 ケムリ経絡。常は蒸気によって覆われたそこに現れたのは、雪の迷宮から現れたオブリビオンだった。
 彼(もしかしたら彼女かもしれないが)は、アルダワ魔法学園の地下に広がる地下迷宮の外壁を食い荒らし、自分の領域すらも越えて、隣接する雪の迷宮からケムリ経絡に現れたのだ。
 ケムリ経絡の蒸気の流れを狂わせたのも、ケムリ経絡を乱して奥地を雪と氷で満たしたのも、全てはこいつの仕業と言える。
 そんな彼が佇んでいるのは、猟兵たちが進む地下迷宮の最深部、一番奥まった広い部屋。
 不思議と寒くも暑くもない適温が保たれているそこに、オブリビオンは潜んでいる。いや、潜んでいたというべきか。
 彼は既に猟兵たちの侵入に気付いている。猟兵たちが自分のテリトリーを荒らし、自分に仇成す存在であると気が付いているのだ。
「Grrrrrrrrrrrrrrr……rrrrrrrraaaaaaaaaaaaAAAAAAAAAA!!」
 彼は自分の故郷に最も近いこの空間に身を留めると、目玉をライムグリーンの光で満たしながら怒りをあらわにし、空中を泳ぎながら大きく叫んだ。
 それはまるで、猟兵たちに自分の居場所を伝えるかのよう。言葉を介さないオブリビオンからの、宣戦布告のようなものだった。
ルベル・ノウフィル
wiz
恩返し かばう
アドリブ、アレンジ、絡み歓迎

道中で助けていただいたり苦難を共にした仲間への恩返しでございます
僕は傷付いた味方の皆さまを星守の杯で癒します

また、味方の方への攻撃を身を呈して(庇う技能)お守りしましょう

攻撃はお任せいたします
防御はお任せください

オブリビオンは僕の敵
亡きあるじの仇でもあるのです
全てのオブリビオンは、滅ぼす

猟兵の決意が世界を救うと信じて待て次号!
あれ、なんか打切りエンドみたいな幕引きになりそうな……

僕はシリアスでございます
頑張ってシリアスするのでございま……(クリティカルにダメージ受けて)くっふぅ……あとは、お任せしました。


四軒屋・綴
世界が違えば板皮綱、目を輝かせる人も居るだろうが……絶滅してもらおうッ!

まずは蒸気機関車型ユニットを用いて弾幕を貼って味方を援護ッ!後方に陣取るよりも味方と足並みを揃えつつ包囲網を狭める形で戦うぞッ!

今回の狙いは【噛みつき】ッ!味方が狙われればダッシュでかばいに、そうでなければしっかり構えつつ装備を納めて素手で受け止めるッ!
なんでも似たような生物の化石には『トゲが口の中に刺さって死んだ』ものがあるらしいなッ!大きく口を開けさせてモックズブッパでブッパだッ!味方も呼ぶぞッ!

動きが鈍って来たらユーベルコードで思いっきり頭を殴るッ!

「急行(ムーブメント)、乗り遅れるなよッ!」


トラゴス・ファンレイン
熱くもないし寒くもない適温て、お前ズルいやろ。俺らかなり過酷な所通ってきたんやぞ、楽しかったけども!
叫ばれても何言ってるかこれっぽっちもわからんわ、けど怒っとるのはこっちも一緒やで。

・行動
目があるなら目潰しも有効やろ。まずユーベルコード『閃光弾』で隙を作ることから始めよか。上手いこと動きが止まったら御の字、一気に接近して一発打ち込んだる。
●噛みつき●尾撃 はスクラップシールドでガード。避けられそうなら「見切り」で回避。
『閃光弾』が効かん時、攻撃が激しすぎて近付けん時は後退してユーベルコード『絡目手』使用。敵の体締め上げて捕まえて味方が攻撃しやすいように補助したろ。

アドリブ・絡み・ネタオールOK


ジーマ・アヴェスター
【SPD】

おう、ついに真打登場か

思えばこれが初陣、初めての共闘
共闘相手は誰も彼もが最高に輝いていた

「なるほど猟兵とはそういうものか。己の最もトガった部分を叩き付ける。つまりはやったもん勝ちだッ!」

とはいえ初陣
できる事など限られている
さらに今回は空飛ぶ相手。近接武装では分が悪い

ならば盾として先輩方の支援をしよう

ユーベルコードにより鎖付のトラバサミを生成
【盾受】で攻撃を受けた後、拘束を試みる

上手くいけば装備のアンカーで少しでも拘束を
他が狙われるのなら【かばう】で援護だ

失敗した場合は【フェイント】機械【操縦】で離脱を試みるか
なんなら鎧からぬるりと脱出しよう

盾として守り、生き残る事が俺の戦いだと信じて


ヴァーリャ・スネシュコヴァ
なるほど…こいつが原因というわけだな!こいつは食べてもあまり美味くなさそうだな…ということは遠慮なく凍らせても良いわけだ!

敵には遠距離からの氷の【属性攻撃】で攻撃・気を引きつつ、【ジャンプ】+『スカイステッパー』を使用し、敵よりも高い位置まで空中を飛び上がる。
そして勢いよく急降下し、そのまま敵に向けて踵落としの要領で【先制攻撃】+『亡き花嫁の嘆き』で攻撃! できれば脳天にガツンと行こうと思うぞ!

敵の攻撃は【第六感】を使用。回避する際は【残像】+【ダッシュ】により敵を惑わせて回避を試みるぞ!

空中を移動できるのは俺だけではないからな! さあ、大人しく冷凍マグロになれ!


荒谷・つかさ
雪の迷宮出身で、常温のここに常駐してるってことは……寒さには強くて、熱や暑さは苦手っぽいかしら?
まあ、実際どうかは試してみればわかることね。

風迅刀の「属性攻撃」による風の刃で牽制しながら、まずは動きを観察
ある程度動き方を見切ったら【五行同期・精霊降臨術】を発動
火行に木行を加え、炎熱の力を大剣「零式・改二」に付与(攻撃力強化)
赤熱する零式・改二でもって「怪力」「鎧砕き」技能を乗せた一撃を真っ向からぶつけに行く

もし噛み付いてきそうであれば、それはそれでチャンス
その口の中に向かって零式・改二を突き出しながら「ジャンプ」技能で飛び込む
外殻は硬そうだけど、中から串焼きにしてあげるわ


唐草・魅華音
せっかく広げたナワバリを荒らされた怒りでしょうか。しかし、こういった事を繰り返すなら、いずれぶつかるのは必然。お互いのナワバリ主張を賭けて、勝負です……。目標、迷宮を荒らすオブリビオン。退治、開始。

囮役で動きます。
【バトル・インテリジェンス】起動させ、銃は牽制・刀は小振り重視で回避しやすい体制で動き、積極的に近づいてこちらに注意の目を引きつけます。他の人に目を向けそうになってたら、見立てでダメージを与えやすそうな箇所を狙って刀を打ち込んでこっちに目を向けさせなおします。
「動きが間に合わないか…わたしを引っ張れ、ドローン!」

共闘・アドリブOKです


エウロペ・マリウス
悪いけれど、キミの侵略は阻止させてもらうよ

行動 WIZ【全力魔法】【誘導弾】【高速詠唱】【属性攻撃】
使用ユーベルコード【射殺す白銀の魔弾】

全力魔法と属性攻撃で火力を
高速詠唱で手数を
誘導弾で命中率を強化して戦うよ

影化の無差別攻撃対策として、
・最低限の移動で、相手との距離を保つ
・相手が影化を使用後、【誘導弾】で相手が釣れるかを確認

基本的には、他の人への攻撃を邪魔するような形を主体にして戦うよ
たぶん、皆、一気呵成に攻撃が主体だろうしね
ボクはどちらかというと、敵を打ち倒すよりも、極力、皆の被害を抑えたいかな
それに、初手は慎重にいって相手の戦闘を確認しておきたいからね



●奥に潜んだ元凶へ
 ケムリ経絡最深部、最後の行き止まり。
 多くの障害を乗り越えてここにたどり着いた猟兵たちに宝もなく、報酬もなく、賞罰もない。
「熱くもないし寒くもない適温て、お前ズルいやろ。俺らかなり過酷な所通ってきたんやぞ、楽しかったけども!」
「はいー、僕もトラゴス殿と同意見です。寒かったですが、めくるめくアトラクションの数々、とても楽しかったのでございます」
 強いて言えば、彼らが今までの道中で得たのは冒険で遭遇した障害と、それを乗り越える経験のみ。
 しかし、トラゴス・ファンレイン(エスケープゴート・f09417)とルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)の二人は満足そうにそれを楽しかったと言ってのける。蒸気と雪の視界の悪さを笑顔で乗り越えてきた彼らは、見た目以上に強い。
 そんな彼らを見、笑いもせず口を開けて待っているのは、一匹の怪物だけ。「それ」は自身の領域を荒らされたことに対し、不愉快であるという気持ちを隠すことなく咆哮で示す。
「NNMHH……GGGuuu……uuuuuRRRAAAA!!」
 骸の海のダンクルオルテウス。このオブリビオンは、猟兵たちに対してひときわ大きな声で吠えると、空中を力強く泳ぎ出した。
「おう、ついに真打登場か」
「せっかく広げたナワバリを荒らされた怒りでしょうか。しかし、こういった事を繰り返すなら、いずれぶつかるのは必然。お互いのナワバリ主張を賭けて、勝負です……」
 ジーマ・アヴェスター(姿持たぬ粘体・f11882)と唐草・魅華音(戦場の咲き響く華・f03360)は敵の姿を見て思い思いの感想を述べる。
 魅華音はあくまでも目の前の敵を排除するため、冷静に敵の動向を観察し、その怒りに付いて推論を述べる。ほぼ完璧に当たっているその推論を口にしながらも、魅華音の視線は敵の牙と尾っぽに注がれる。
 あの俊敏さから繰り出される攻撃をどう対処するかを考えているのだろう、彼女は最終の局面に至って冷静であった。
 対してジーマが思うのは、ケムリ経絡踏破の記憶達。初陣、初めての共闘、そして共闘相手。その全てが最高に輝いていたことを考えると、自ずと自分がこの局面で何をすればいいのかもわかってくるような気がしたのだろうか。
 『各々の強みを活かす』。様々な個性を持つ猟兵たちが最大限力を発揮できるのは、正にその一点なのだ。
「雪の迷宮出身で、常温のここに常駐してるってことは……寒さには強くて、熱や暑さは苦手っぽいかしら? まあ、実際どうかは試してみればわかることね」
「ああ、その通り。たとえ敵に多少の耐性があったとしても、自分の力をぶつけてやるだけさ」
 エウロペ・マリウス(揺り籠の氷姫・f11096)と荒谷・つかさ(護剣銀風・f02032)の二人も、それは既に理解しているようだった。
 思い思いの力を持ち寄った彼女たちは、お互いに異なる行動を取りながらもそれを良しとする。周りに合わせて行動するのではなく、自分の得意や長所を用いた作戦行動を各自が取ることによって生じる相乗効果。
 それこそが猟兵の強みであり、オブリビオンを倒すための近道であると、彼女たちは知っているからだ。
「なるほど……こいつが原因というわけだな! こいつは食べてもあまり美味くなさそうだな……ということは遠慮なく凍らせても良いわけだ!」
「美味そうだったら食べるつもりだったんか? ……ま、遠慮なくってとこには同感やな」
「ええ、オブリビオンは僕の敵。亡きあるじの仇でもあるのです。ここで倒してしまいましょう」
「うむッ! その通りだッ! 世界が違えば板皮綱、目を輝かせる人も居るだろうが……絶滅してもらおうッ! 今、ここでッ!」
 ヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)と四軒屋・綴(大騒動蒸煙活劇・f08164)の二人も、トラゴス達と一緒に活気を絶やさず迷宮を踏破してきた強者。
 八人はオブリビオンの前に並び立つと、自分の獲物を握りしめてその目に敵を映す。
 トラゴスは天然石ブレスレット(大連珠)を付けた手を軽く回し、綴は霊蒸剣銃モックズブッパを腰に構える。
 ルベルが星守の杖に癒しの魔力を集中させたのと、ヴァーリャのトゥーフリ・スネグラチカに氷のブレードが姿を現したのは同時のことだった。
「VVVVVVAAAAAAAArrrrrrr!!」
 ダンクルオルテウスが大きく嘶く。猟兵は敵。猟兵は破壊すべきもの。言葉は分からなくとも、それだけは理解した動きだ。
 もはや一切の問答も無用とばかりに、オブリビオンは空中を尾っぽで思い切り蹴ると、高速でジグザグと不規則な移動を開始しながら最深部の空間を大きく使って泳ぎ始めた。
「それじゃ、私は炎熱の力でも纏って真っ向から立ち向かってみようかしら。それが一番自信あるし」
「ボクはどちらかというと、敵を打ち倒すよりも、極力、皆の被害を抑えたいかな。最初は敵の出方も見たいしね」
「なるほど猟兵とはそういうものか。己の最もトガった部分を叩き付ける。つまりはやったもん勝ちだッッ!」
「では、わたしは囮役で動きます。……目標、迷宮を荒らすオブリビオン。退治、開始。皆さん、ご武運を」
 零式・改二を構え、自身の手の内で握りをわずかに整えるのはつかさ。氷の魔力をコキュートス・アニマに集約するのはエウロペ。
 機関の鎧と蒸気槍壁の強度をジーマが確かめるように撫でる横で、野戦刀・唐獅子牡丹を腰に差しながらMIKANEの銃口を敵に向けるのは魅華音だ。
 戦闘が始まる。誰も見ていない迷宮の一番奥で、猟兵たちとオブリビオンが雌雄を決するときが来た。

●暴れるダンクルオルテウス
 まず最初に動いたのは綴。彼は自身のガジェット、蒸気機関車型ユニットである装蒸甲化ジョークアームズを用いて次々に弾幕を張っていく。
「良いけん制だ、乗らせてもらおう」
「合わせるぞ、綴!」
「ヴァーリャさん達かッ! 応ッ、まかせてくれッ!」
 エウロペとヴァーリャも綴のけん制に合わせ、大きな図体のダンクルオルテウスの進路を狭めるように包囲しながら自身の自慢の氷によって戦端を開いていく。
 猟兵たちは位置取りと距離を互いに目くばせし合いながら、阿吽の呼吸で敵に攻撃を行う。
 ヴァーリャがスノードームから冷気を放ち、綴が蒸気の弾幕を張りながらステップで敵との距離を大胆に詰め、時に離れ、次々に攻撃を重ねていく。
 味方の動きに合わせながら、エウロペも最小限の動きで敵との距離を保ちつつ、自分の得意とする立ち回りを展開していく。
 全力魔法と属性攻撃で火力を、高速詠唱で手数を稼ぎながら、敵の行動に合わせて動く彼女は正に魔法を唱えているかのようだった。
「GGGyyyyyEEEErrrrrrrrrr!!」
 オブリビオンも蒸気と雪の二つを一斉に飛ばされるとは思っていなかったらしく、派手に嫌がるような素振りを見せながら猟兵たちの包囲を破らんとして突撃を行う。その口に光るのは鋭利な牙。そして、狙いは魅華音だ。
 既に【バトル・インテリジェンス】を起動させている魅華音は、周りに合わせながら自身の持つ銃火器にてダンクルオルテウスを派手に牽制していた。どうやらそれが敵の癪に障った様子。
 多少の被弾も無視して突っ込み、自分のヒレと尾っぽで加速をつけると、敵は魅華音の至近距離で身をくねらせて尾っぽを大きく振るっていく。魅華音の華奢な体に、鉄のような堅さを持った尾っぽが迫る。
「そう来ると……思った!」
 しかし、それをむざむざ受けるような彼女ではない。そもそも、けん制を行っている魅華音の立ち位置は他の猟兵よりも一歩奥、けん制の弾幕も人一倍厚い。
 その狙いは、自身を狙わせて敵を動かすこと。魅華音は握りこんだ野戦刀・唐獅子牡丹を鞘から抜き放つと、敵の攻撃に対して真正面に刃を向けるのではなく、斜めに受けて衝撃を殺す。
「ありがたいわ、魅華音! ありがとう!」
 ダンクルオルテウスの攻撃を魅華音が受けている間、更に攻撃を重ねるのはつかさだ。彼女は風迅刀の属性攻撃による風の刃を幾重にも召喚し、高速で刃を振るうことで敵に攻撃を浴びせていく。
 つかさの左から右への横薙ぎ、袈裟斬り、斬り上げ、斬り下ろし、最後にもう一度右から左への薙ぎ払い。五芒星を描いて飛んでいく風の刃は、オブリビオンの身体にダメージを蓄積させることに成功した。
 そして、魅華音も負けてはいない。つかさの攻撃を受けて敵が怯んだタイミングに合わせ、自分自身も短く構えた自分の刀で防御の合間に斬りこんでいく。彼女の最適化された行動は、比類無き正確さで敵の尾っぽを斬り裂いた。
 回避しやすい体制で動き、積極的に近づいてこちらに注意の目を引きつけようとしていた彼女の目論見がきれいにハマった形だ。味方の行動もそれに乗じてさらなるけん制と攻撃を重ねていく。
「NnnnGGGuRRRRaa!!」
「お……っと、危ない」
 それを良しとしないダンクルオルテウスは、空中で旋回を試みると、傷付いた尾っぽを盾のようにして周りの猟兵の攻撃を弾き、そして旋回の勢いをつけたまま纏わりつく魅華音を振り払おうとして尾っぽによる攻撃を試みる。
 それを魅華音はまたもや自分の武器で受け、敵の攻撃を受け止めるのではなく、同タイミングで後ろに飛ぶことで勢いを殺して見せた。
「くっ、こっちにきたか!」
 だが、敵からしてみれば魅華音を引き離せただけで充分だったのだろう。
 新たに敵に狙われたのはヴァーリャ。ダンクルオルテウスは彼女やエウロペの氷を瞳に受けながら、しかしてライムグリーンの光を強めると加速を行い、彼女の懐に迫らんと空中を泳いで高速で移動を開始した。
「ちょい待ち。泳ぐのは上手みたいやけど、目があるなら目潰しも有効やろ。止まってもらうで」
 しかし、敵が動くならば猟兵たちも動く。当然のことだ。敵の接近を邪魔するべく動き出したのはトラゴス。彼は床を思い切り蹴ってヴァーリャに接近しようとするオブリビオンの目の前に立ち、懐のポケットから何かを取り出した。
「嬢ちゃん、皆も。ちょっとだけ目ェ瞑っててな。……そら、食らえや」
「えっ? わ、わかったぞ! 目を閉じるんだな!」
 彼が取り出したのは、閃光弾。強く光を放ち、目くらましにより対象の動きを一時的に封じるそれは、彼の力、ユーベルコードの一つ。
 ヴァーリャに目をつぶっておくように言った彼は、オブリビオンの眼前にそれを投げ込む。ヴァーリャが咄嗟に目を閉じたその数瞬後に、ケムリ経絡の最深部は一瞬だけまばゆい光に包まれた。
「!? THHhhhhVLLLLllllaaaaa?!」
 迷宮の中で最も強い光が、オブリビオンの目を焼き、感覚を狂わせる。ダンクルオルテウスが戸惑い、空中をのたうち回るように自分の巨体を震わせたのは無理もないことだ。
 恐らく、敵が食らったのは今までの経験からでは考えられないほど白く大きな光。迷宮の最深部にある全きものを照らすそれは、今まで土と雪に身を隠していたオブリビオンにとってもはや攻撃にも等しい。
 敵の行動の起点を潰し、反撃のチャンスにすべく行動を取ったトラゴスの起点と、選択した行動は正に最適解と言って良いだろう。
「おおっ、なんだ今のは!? すごいぞトラゴス! ありがとう!」
「なあに、礼には及ばんよ。御の字御の字、この隙に……!」
 トラゴスはこの機を逃さずに、更に一発喰らわせようとオブリビオンに接近する。が、敵もそれをやすやすとは許さなかった。
 ダンクルオルテウスは自分の身体を無理やりに跳ね回らせると、自分の牙と尾っぽを思い切り振り回しながら体当たりを敢行する。
 牙や尾っぽの直撃はもちろん、その巨体から繰り出される重さの乗った体当たりだけでも、もろに喰らった場合の威力は中々のものだろうと予測できるほどの速度だ。
「GYYYYYYYAAAAAAAAAAAAA!!」
「ッ、トラゴスさんッ! うおおおおおッ!! ……勇・蒸・連・結ッ! ジョウキングッ!」
 トラゴスの危機にダッシュでかばいに走るのは綴だ。彼は蒸気機関車の意匠を肩に光らせて、勇蒸連結ジョークロスに守られた腕を肩口からまっすぐに伸ばし、僅かに膝と肘をまげて衝撃を吸収する構えを取った。
「さて、こちらは初陣。できる事など限られている。ならば盾として先輩方の支援をするだけだ」
 そして、仲間を守るために敵の眼前に立ちはだかったのはもう一人。堅牢な鎧に身を包んだジーマである。彼は最初からほとんど、敵の防御をするということ以外を狙っていなかった。
 自分が狙われるならよし、他が狙われるのならかばう。そう割り切るのは、彼が自分の持ち味で最も活かせるのは防御だと、そう思った故。そしてそれが、結果的に味方を助け、敵の討伐に繋がると信じているからこそ。
 さらに今回は空飛ぶ相手であり、自分の近接武装では分が悪いと考える彼の行動は、まさに最適なものだったと言えるだろう。一人で全てができる人間がいないことを分かっているからこそ、猟兵たちは互いを信じて協力が出来るのだ。
 すでに武器も全て仕舞い、綴は素手で受け止める事を狙っている様子。味方を守るために全てをかけるその姿勢を取った彼に、オブリビオンの牙が加速と激昂を伴って迫る。
「GRRRRuuuuuAAAAAAAAAAaaaaaaaaA!!」
 綴の傍らでジーマはユーベルコードにより作成した鎖付のトラバサミを構え、蒸気槍壁を敵の尾っぽに向けて構える。追加補助腕も全て用いて、全力で敵の攻撃を受け止め、行動を拘束する腹積もりのようだ。
「させるか!」
 オブリビオンの突撃の速度を少しでも和らげようとするのはヴァーリャだ。彼女はスノードームから冷気を放つと、氷の壁をいくつもダンクルオルテウスと綴の間に生み出していく。
 彼女の妨害によって若干速度を落としながらも、オブリビオンは突撃を止めない。そして、ダンクルオルテウスの牙が綴の肩口にいよいよ迫った。
「RRRRrrrrraaaaaaa!!」
「くッ……さすがに、重いな……ッ! ぐ、ぐあああああッ!」
 無慈悲で凶悪な顎の噛み付きが、猟兵の抵抗をものともせずに飲み込んでいく。全力で敵の攻撃を止めるべく挑んだ綴にも、見た目以上のダメージが積み重なっていく。
「これは……想定以上……!」
 尾っぽを受け止めたジーマの機械壁も、既にオーバーワークの証の蒸気が噴出しているほど。それを支える彼の腕にかかっている負担はいかほどのものだろうか、想像もできない。
 既に戦線は崩壊寸前。壁役を担ってくれている二人がここで倒れてしまえば、ダンクルオルテウスは激昂のままに猟兵たちを喰い散らかしてしまうのではないかと言う考えが周りの猟兵たちの頭にチラついたその時。
 攻撃を受けた彼らを救うべく、二人の猟兵が行動を開始した。

●誓い、魔力、覚悟
「……杯を逆さに……」
「……幸運の白い薔薇を……」
 その杖に込められた思いは誓い。生命続く限り世界を巡り人々を助け続ける、という誓い。
 その杖に寄り添い、集まるのは氷の魔弾。数えきれないほどの魔力は姿を変えて、敵の動きを止めるために虚空に集まっていく。
「高虚より降り注ぐは……」
「持たぬあなたは、ただ……」
 金色の杖、その先端にはめ込められた紫の宝石に、先ほどから溜めていた魔力が充満していく。薄ぼんやりと光っては、目映く暖かい光を湛えている。
 どこまでも白く、果てしなく青く、水色のようにも見える、氷の青。氷の結晶を模した杖は、既に薄く震えて魔力を解き放つタイミングを今か今かと待っている。
「……皆様、道中で助けていただいたり、苦難を共にした仲間への恩返しでございます。どうか、受け取ってくださいませ」
 ーー夢の、星粒。後方に控えていたルベルが、詠唱と共に握った星守の杖の魔力を一気に解放していく。それはケムリ経絡の最深部、その上空に広がって行くと、猟兵たちの身体に癒しの光をもたらした。
 煌めく夜空に瞬く星と見紛うその光の群れは、空から舞い降りる金平糖。ルベルのユーベルコード、【星守の杯】だ。
「ボクからのプレゼントはこれさ。皆、一気呵成に攻撃が主体だろうしね。キミの動き……止めさせてもらうよ」
 ーー魔弾に貫かれるだけの運命。エウロペの放つ魔弾は、詠唱が終わると氷の魔力を有して素早く空間を飛び回っていく。数えきれないほどの、氷の魔弾による連続攻撃を可能にする魔法。それこそが、エウロペのユーベルコード【射殺す白銀の魔弾】。
 魔弾は鮮やかに飛んでいくと、綴とジーマをよけて次々に飛来しては炸裂して冷気を放ち、その全てが吸い込まれるようにダンクルオルテウスの外皮を凍らせていく。そして、その中の一群が敵の尾っぽを完全に凍らせた。
「QQQQQQLLLLLaaaaaaa?!」
 オブリビオンはエウロペの凝縮させた魔力を受け、体にダメージを負っていく。猟兵たちにとってありがたいのは、エウロペの魔弾が敵の尾っぽを完全に凍らせることに成功したという点だ。
 活動の起点であり、推力を得るための重要な機関であり、時には攻撃手段ともなり得た敵の尾は、すでに根元から大きく凍り付いている。もはや自由には動かせないだろう。
「これは……ッ!? ありがとう、ルベルさんッ! うおおおおおッ!!」
「氷による支援か……感謝するッッ!」
 弱っている敵を尻目に、ルベルの光を受けて綴の傷がみるみるうちに回復していく。限界かと思われたジーマの盾受けも安定し、満足に動かせない尾っぽなど怖くないというように敵を押し返していく。
 綴はさらに足の踏ん張りとジョークブースターの加速を用いて立ち止まらんとし、ジーマのトラバサミが尾っぽの付け根とヒレを拘束していく。
 彼らは見事、オブリビオンの体当たりを見事受け止めて見せたのだった。
「VVVVvvARYaaaaaaaa!? RRRRAAAAA!!」
「さあて、上手いこと動きが止まったやないか。……なあ、あんた。叫ばれても何言ってるかこれっぽっちもわからんわ、けど怒っとるのはこっちも一緒やで」
 綴が止めたオブリビオンの腹に向けて一撃をぶつけるのはトラゴス。
 彼は握りこんだ天然石ブレスレットで自身の膂力を強化すると、足を止めたオブリビオンの下腹部に向けてて潜り込む。
 そしてそのまま左足を軸に体を大きく腰から回して右足を踏み込み、右腕を回転させながらまっすぐ上に伸ばすと、勢いの付いたアッパーカットをオブリビオンの腹に食らわせた。
 彼の強化された身体能力と、周りの猟兵たちの援護、そして何よりそれを信じたトラゴスの覚悟が成し得る技である。
「Aaaaaaaaaaa……! GIIIILLAAAAAAAAAA!」
 ダンクルオルテウスもこれには悶える。すでに視界は無いに等しく、その上普段は攻撃を受けることさえ想定していないであろう腹部に攻撃を受けたのだ。
 思わずその口を大きく開き、悲痛な叫び声を上げるが、その次の瞬間には自信を影に浸した。【影化】。理性と引き換えに自分の身体を輪郭のぼやけた影に変化させ、超攻撃力と超耐久力を得るその技は、オブリビオンの身体を無理に動かすにはちょうど良かった。
 さらに強化された攻撃が至近距離にいる猟兵たちを無差別に襲おうとしたその時、ルベルが再度動いた。
「攻撃はお任せいたします、防御はお任せください! ……全てのオブリビオンは、滅ぼす……そのためなら!」
 彼は咄嗟に味方の前に出ると、ダンクルオルテウスの牙を真正面から受け止める。
「猟兵の決意が世界を救うと信じて待て次号! あれ、なんか打切りエンドみたいな幕引きになりそうな……後はお任せしました……!」
 だが、決意に満ちたルベルの身体をダンクルオルテウスの牙が無慈悲に引き裂き、クリティカルダメージを叩きこもうとしていく。
 最早危ういというルベルを救い、敵の攻撃を止めるべく、他の猟兵たちは彼を救うべく一斉に動いた。

●最終盤
「動きが間に合わないか…わたしを引っ張れ、ドローン!」
「心配せんでも大丈夫や、俺がこいつを釘づけにしたる。さっきは皆の回復、ありがとな」
 ルベルに目を向け、牙を立てているダンクルオルテウスの背後より現れては自分の見立てで次々と斬りこんでいくのは魅華音だ。彼女は自分の力のみでは迎撃に間に合わないことを悟ると、作業補助ドローンに無理やり身体を引っ張らせて回り込んだのだ。
 彼女は先ほどトラゴスの打った下腹部や、もう満足に動かせないであろう尾っぽで防げなくなった箇所など、ダメージを与えやすそうな箇所を狙って的確に刀を打ち込んでいく。
 AIによる行動の最適化と、魅華音自身の経験と、武器と手首の慣れ親しんだ握り。その全てがきれいにかみ合って、影に身を包んだオブリビオンであっても痛打を与えることに成功した。
「……、! QQQQQQQLlllllllaaaaaaaaa!!」
 自身に敵の目を向け直した魅華音は、敵意が自分に向いていることを悟るや否や、またしても防御優先に立ち回りを行っていく。
 先ほどの猛攻よりも動き自体は激しいが、尾っぽの攻撃がなくなった分彼女に優勢だ。牙の攻撃を刀で受け、手持ちの銃火器でさらなる攻撃まで重ねることで、魅華音は敵の目を惹き続ける。
「……これ即ち五行相生、星の理也!  五行同期、精霊降臨!」
 敵の攻撃をいなし続ける魅華音の後ろで敵の行動を観察し、力を貯めているのはつかさだ。【五行同期・精霊降臨術】。
 本来ならば五芒星の陣を媒介に同期、自らに降ろすことで天然自然を構成するとされる五つの精霊の力をその身に宿す技であるが、彼女は先ほどのけん制を活かして既に剣先で五芒星を描くことに成功していた。
 技の発動条件を満たし、敵の行動を読み切り、魅華音が攻撃を請け負ってくれている今、つかさの刃を止める理由などここにはない。
「魅華音! 合わせて頂戴! はああああっ!」
 火行に木行を加え、炎熱の力を零式・改二に付与した彼女は、赤熱する零式・改二の刀身で用いて彼女のすべてを込めた一撃を放った。
「分かりました、つかささん! ……せいっ!」
「他の猟兵の本気の一撃を止めさせるわけにはいかないね。ボクも協力しよう」
 つかさの突撃に合わせ、ロングブーツ“DIVER”を高らかに鳴り響かせて魅華音も動く。更に敵の注意を引き付け大技を誘うべく、意識を引くように大きく移動しながらMIKANEによる一斉射撃を開始した。
 それに合わせるように、エウロペの氷の魔弾も再度放たれていく。誘導弾のように動き、空中を暴れる敵を逃がさず捉えていく彼女らの攻撃に、ダンクルオルテウスは視界を塞がれて、逃げ場すらもなくしていく。
「おまけや、取っとき」
 退路を断たれた状態で更に放たれるのは【絡目手】。トラゴスの持つユーベルコードだ。
 彼が視線を向けた対象を地面から生えてくる蛸の脚で締め上げるこの技は、猟兵たちからの一斉攻撃を受けながらも諦めず、ルベルの身体に多大なダメージを与えんと動く敵の動きを一瞬止めた。
「俺からも贈り物だ、遠慮せずに受け取れ」
 蒸気槍壁をアンカーとして使用し、動きを止めたダンクルオルテウスにさらなる拘束を仕掛けるのはジーマ。彼らの拘束は痛みを伴いながら、オブリビオンの移動を全て止めることに成功する。
 そして、猟兵に取ってはその一瞬が。「敵の移動を完全に止めた」というその一瞬が、まさに勝利のカギになり得るのだ。
 【スカイステッパー】を使用し、敵よりも高い位置、ケムリ経絡の天井近くまで空中を飛び上がり、最大限に高度を得るのはヴァーリャ。
 彼女は先ほどルベルの回復を受け、魅華音やトラゴスたちが敵をたじろがせるのを見るや否や、仲間を信じて飛んでいたのだ。
「やつは仲間たちが止めてくれるはずだ! よそ見しているその隙に、俺は自分にできることを……!」
 ヴァーリャと同タイミングでもう一度攻撃せんと動くのは綴。彼は敵の姿に見覚えがあるらしく、似たような生物の化石には『トゲが口の中に刺さって死んだ』ものがあるらしいという事を知っていた。
 それならばと狙うのは敵の口蓋の内側。仲間によって傷は癒え、仲間によって敵は動きを止めている。彼が足を動かすにはそれで充分だ。これ以上ないほど、滾るものを感じる。
「仲間が作ってくれたこの急行(ムーブメント)……、乗り遅れるなよッ!」
「VVVVLLLLLLLLAAAAAA!!!」
 綴は自分自身に言い聞かせるように一つ吠えると、動けないながらに噛み付きで応戦しようとする敵の口に腕を伸ばす。中々タイミングが掴めない綴を助けたのはつかさの刃。
「外殻は硬そうだけど、中から串焼きにしてあげるわ! 四軒屋さん、今!」
 ダンクルオルテウスの口の中に向かって零式・改二を突き出しながらジャンプ技能で飛び込んだ彼女は、牙の隙間から刀を通して敵の体内から炎を浴びせていく。
「AAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaa!?!?」
 体の内側から身を焼かれたオブリビオンが思わず口を開いて激痛の慟哭を上げた時、綴はダメ押しと言わんばかりに無理やり口の中にモックズブッパを突っ込むと、そのままトリガーを引いて敵の口の中を攻撃していく。
「荒谷さんありがとうッ! ヴァーリャさんッ! 今だッ!」
「おう! まかせろ!」」
 綴はヴァーリャに声をかけると、敵の口の中でモックズブッパ:ソードモードを起動させる。
 口内でいきなり銃から飛び出してきた刃が上あごを斬り裂く衝撃を受けて、ダンクルオルテウスは更に悶え苦しんだ。
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
「空中を移動できるのは俺だけではないからな! さあ、大人しく冷凍マグロになれ!」
 そこへヴァーリャが勢いよく急降下し、敵に向けて踵落としの要領で【亡き花嫁の嘆き】で攻撃を重ねる。 オブリビオンの脳天に過たず靴裏に精製した氷のブレードによる蹴りがガツンと入って、敵はその口を閉じざるを得ない。
 口内の上あごに向かって伸びた熱のブレードと、脳天から振り下ろされる氷のブレード。二つの衝撃が二方向からダンクルオルテウスを内側と外側から斬り裂き、二本のブレードはインパクトの瞬間に敵の頭蓋に更にめり込んで、穴をあけることに成功した。
「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaa……!!aaaaaaa……!」
 頭蓋に穴を開けられたダンクルオルテウスは、しばし悶えると迷宮の中でチリとなって消えていく。
 猟兵たちの活躍が、ケムリ経絡の悪を今まさに退治したのだ。あとに残ったのは、ダンクルオルテウスの残した牙だけだったという。

●ケムリ経絡雪景色
 猟兵たちがダンクルオルテウスを討伐してから、数日が経った。
 ケムリ経絡はすでに元の活動を再開させ、至る所から柔らかく微弱な蒸気を噴き出している。人には害のない程度のものらしい。
 また、不思議なことにケムリ経絡の深部からは凶暴な野生動物の姿は消え、さらに今でもわずかながら雪が降っている場所があるという。
 猟兵たちが通った際は豪雪地帯であったそこ。エウロペが凍らせ、魅華音と渡った大きな湖。
 そこは、吹き出す蒸気と地脈の熱によって適度に温められ、かつ運が良ければ最深部の方に雪が見える温泉地帯として、アルダワ魔法学園の学生たちの秘密の憩いの場となっている。
 季節が来る度、学生たちは口々にこう言って猟兵たちの活躍を思い出すのだ。
「ケムリ経絡の雪景色を見に行こう」、と。
 猟兵たちは、また一つ、確かに平和を取り戻した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月15日


挿絵イラスト