ストレンジ・パーティ
●ハロウィンの夜
学園の大教室に用意されたハロウィンパーティ会場は、華やかに飾り付けられていた。
ビュッフェ形式の料理も豪華だ。パンプキンパイやパンプキンプリンに、色鮮やかなゼリーと可愛いカップケーキ。他のお菓子も全て可愛らしくデコレーションされている。サンドイッチやピザ、シチューといった食事も数多く並んでおり、どれも美味しそうだ。
そんな会場に忍び寄る黒い影があった。香ばしい匂いが周囲に漂う。
「あ、あれは!?」
誰かが気づく。
そこには宙に浮かぶ黒いフライパンの上で弾けるオブリビオンの群れがいた。
「ひよー、ひよひよー!!」
彼らは可愛らしい声で鳴きながら熱々の体で弾け飛び、学生や教師達へと降り注ぐ。
「きゃー! 熱いー!!」
「火傷しちゃうー!!」
パーティ会場は大混乱だ。大騒ぎで逃げ惑う人々を見て、彼らは目を細めて嬉しそうに鳴いた。
●香ばしくて、もこもこ
「ハロウィンですが、大変です! 熱々で美味しそうな災魔がパーティ会場に現れます」
カードを手に、占い師の仮装をした岡森・椛(秋望・f08841)が猟兵達を呼び止めた。
アルダワのハロウィンは、過去に行われた「装魔封災戦」という、人類が災魔の仮装をして災魔の拠点に侵入し、大規模な奇襲で大量の災魔を封印した大作戦の成功を祝うことで始まったそうだ。その為、今も本能的にハロウィンを忌み嫌う災魔は多いらしい。
「現れるのはひよこーんという、見た目は可愛い災魔です」
封印されていた種が迷宮の発する熱によって覚醒し、弾けた――というオブリビオンだ。熱を維持しなければ萎む為に常時フライパンの上にいるが、熱々の体で弾け飛んで襲いかかってくる。なお、もこもこした部分は美味しく食べられるようだ。ほんのり塩味、もしくはキャラメル味らしい。
「ひよこーんは仮装している者を優先的に狙います。ですので、必ず仮装して欲しいです」
周りにはハロウィンパーティを楽しむ学生や先生達もいるが、猟兵達が目立つ仮装をしていれば、彼らが被害を受けることはない。その為にも仮装は必須ですと椛は説明する。
また、パーティを続けながら戦えば敵は冷静さを欠いて隙だらけになるだろう。だからしっかりパーティを楽しんで欲しいと椛は言う。
「学園を守る為に、仮装してハロウィンパーティを思いっきり楽しんでくださいね!」
楽しい夜になりますようにと、椛は笑顔で手を振った。
露草
露草です。
このシナリオは第1章のみとなります。
アドリブ多めになると思いますので、アドリブが苦手な方はお手数ですが一言記載をお願いします。
●仮装
必須です。
南瓜行列SDイラストをお持ちの方は「SD参照」と書いていただければそちらを参考に描写致しますが、その場合もお手数ですが「何の仮装か」を簡単にで構いませんので必ずご記載ください。(凝った仮装の場合など、仮装内容を勘違いしてしまうと申し訳ないので……)
イラストをお持ちでない方も、仮装内容を記載していただければ気合を入れて描写致します。
●ひよこーん
たくさんいます。どんどん撃破してください。
●パーティ
敵の冷静さを失わせる為にも、自由にお楽しみください。
OPに記載してある料理以外にも、色々なメニューが用意されています。食べたいものがありましたら自由にお書きください。
もしくは「可愛くデコされたお菓子が食べたい」「甘くないものが好き」等、PC様の好みを指定していただければ、お口に合いそうなものをご用意致します。
プレイング受付やリプレイに関するお知らせがある時はマスターページに記載しますので、お手数ですがご確認をお願いします。
【10/31(木)AM 8:31】より、プレイング受付を開始致します。
どうぞよろしくお願いします。
第1章 集団戦
『ひよこーん』
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POW : ひよひよあたっく
【弾けたひよこーん】が命中した対象を燃やす。放たれた【不可視】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD : ひよー、ひよひよー!
【鳴き声】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
WIZ : ぱちぱちぽんぽん
【体内の熱】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
イラスト:Miyu
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
ひよひよと、ひよこーんの群れがパーティ会場を覗いている。
ハロウィンなんて大嫌い!
だから楽しんでる人達を酷い目に遭わせてやろう。
ターゲットは、誰よりもハロウィンを楽しんでるように見える……あの仮装の人!
●補足
ひよこーんは理性が低下している上にそれほど強くはありません。攻撃して来ますが、軽く往なしてパーティを楽しみ続けても大丈夫です。そうするとひよこーんはひよひよ! と怒りますが、冷静さを失ってますます隙が大きくなります。
パーティ会場は広いです。戦闘の際の足場等も気にしなくて構いません。
エンジ・カラカ
ちくちく賢い君の糸で縫い上げたぬいぐるみと一緒に
賢い君ももちろん一緒に
コレも賢い君も一緒にぬいぐるみ屋サンごっこをするンだ。
『SD参照』
椛がいたら椛に声をかけよう。
甘いモノは嫌い嫌い
甘くないモノが欲しいネェ。
パチパチ弾けるヒヨコ?ヒヨコー、ヒヨコ。
ウン、パーティーを楽しもうそうしよう。
で、甘くないモノはどれどれ?
コッチノは甘そう。
アァ……このジュースは美味しいなァ。
南瓜の味がする。
真っ赤なジュースはある?
賢い君みたいに真っ赤な飲み物!
クッキーもたーくさんあるなァ……。
ぬいぐるみみたいなクッキーも沢山あって面白い面白い。
一つ持って帰ってもイイ?
●
その大教室はハロウィンパーティの為に華やかに飾り付けられていた。巨大な南瓜のランタンが輝き、南瓜やオバケ型のバルーンが浮かび、天井からもオバケのライトやガーランドが吊り下げられ、仮装コンテスト用のステージも設置されている。参加している学生も先生達も、皆とても楽しそうだ。
そんな周囲を見回しながらエンジ・カラカ(六月・f06959)は会場を歩いていた。ここに転送してくれた仲良しの少女は仕事がある為に残念ながらパーティへの参加は叶わなかったので、後でどんなパーティだったのか伝えようそうしよう。そう思いながら、エンジは大盛況な会場内を興味深そうに眺める。
今日の彼はぬいぐるみ屋サンの仮装をしている。金糸で縁取りした紺色ケープに帆布素材の臙脂色ショルダーバッグを斜め掛けしたその姿は、まさしく絵本に登場するぬいぐるみ職人そのものだ。両手に抱っこしたぬいぐるみは、全てちくちくと賢い君の糸で縫い上げた。ウサギも、クマも、ネコも、エンジと賢い君の合作である。ところどころ縫い目から綿がはみ出していたり、金に輝く針が突き刺さったままになっているが、そんなところもハロウィンらしく、すれ違う女子学生達がエンジの腕の中のぬいぐるみを見つめて「可愛い!」と黄色い声を上げる。エンジはへらりと笑って胸元に視線を落とす。
「賢い君、賢い君、ぬいぐるみ屋サンは大評判だ。君の糸で縫い上げたぬいぐるみはとーってもカワイイカワイイ!」
視線の先の相棒も嬉しそうだ。赤い糸をつうっと伸ばし、エンジの周囲でふわふわと揺れる。そしてエンジが右手に握っている針の小さな穴をするりと通った。今日はコレも賢い君も一緒にぬいぐるみ屋サンごっこをするンだと決めていたが、賢い君もかなり乗り気のようだ。
アァ、もっとぬいぐるみを作るのもイイ。また切り刻んで縫おう縫おう。次に作るなら何がイイかなァ。 イヌか、トリか、それともヒツジか――。
そんなことを考えながら歩いていると、お菓子が大量に並べられているテーブルの前に到着した。どれもデコレーションされた可愛らしいものばかりだ。ふうむ、とエンジは考え込む。
「甘いモノは嫌い嫌い。甘くないモノが欲しいネェ」
しかし、どれが甘くないモノなのだろうか。可愛いデコレーションの影響だろうか、全てがとても甘そうに感じてしまう。そこに大きなトレイを手にした女子学生がやってきた。ささやかな仮装なのか、頭に猫耳を付けている。
「すみませんー、焼きたてパイを並べますね! 出来立てほやほやですよー!」
空いているスペースにテキパキとトレイを置く。その時、漂ってきた香りにエンジは覚えがあった。この香りは確か、今年の秋の始めの頃、街角で出会ったOLにお礼にどうぞと貰って食べた――。
「カレーパン!」
エンジの声に、女子学生はえっと振り返る。
「このアツアツはカレーパン?」
「ええっと……これはカレーパイです」
「カレーパイ?」
「召し上がりますか? ピリ辛ですよ」
女子学生はトレイの上に並べられたカレーパイを指差した。エンジはオバケとコウモリのイラストが印刷された小袋から半分だけ顔を出しているカレーパイを袋ごと手に取り、一口囓ってみる。サクリとした歯応えだ。表面のパイがぱらぱらと少し崩れる。そしてあの時と同じように、仄かな辛さが口の中に広がった。
「甘くないナァ。おいしいおいしい」
「そうですか! よかった!」
女子学生は調理部に所属しており、今回のパーティの料理を部の皆で協力して作っているらしい。自信作だったカレーパイをエンジに褒められてとても嬉しそうだ。
そこに何かが飛んできた。ぱちーんとエンジにぶつかる。
「……パチパチ弾けるヒヨコ?」
エンジは飛んできた物体を不思議そうに見つめた。恐らくこれがグリモアベースで話に聞いていたひよこーんだろう。
「ひよー、ひよひよー!」
ひよこーんはぷんすかと怒っているが、全く迫力がない。それどころか、渾身のアタックを受けても少しも痛くなかった。
「ヒヨコー、ヒヨコ」
エンジは指先でひよこーんをつついてみる。ひよこーんは、ひよー! と鳴きながらぴょこぴょこしているが、それだけだ。
「ウン、パーティーを楽しもうそうしよう」
エンジはひよこーんを華麗にスルーしてパーティを楽しみ続けることにした。
「で、甘くないモノはどれどれ?」
調理部の女子学生に尋ねてみると、友達が作ったものですと、スライスチーズを切り抜いて作ったオバケが乗っているトマトソースのピザを勧めてくれた。
●
パイやピザを食べると喉が渇いてきた。何か飲み物をと、エンジはドリンクが並んでいるテーブルに移動する。
「コッチノは甘そう」
多種多様なドリンクも、やはり甘そうなものが多い。だがその中にとても気になるものがあった。きっとこれならばと、グラスを手に取り口に運ぶ。
「アァ……このジュースは美味しいなァ。南瓜の味がする」
煮た南瓜を潰して牛乳を加えた南瓜ジュースだった。こういう自然の甘さはとても美味しい。
「真っ赤なジュースはある? 賢い君みたいに真っ赤な飲み物!」
ドリンクコーナーの係をしている学生が、エンジの質問にありますよと笑顔で答える。差し出したのはブラッドオレンジジュースだ。ストローには魔女の帽子の飾りも付いている。
「賢い君、賢い君、真っ赤でそっくりだナァ」
理想通りの真っ赤なグラスを手に、エンジは懐の相棒に笑顔で語りかける。そこから伸びる赤い糸が嬉しそうにふわふわと揺れているのを見て、エンジは上機嫌で真っ赤なジュースを飲み干した。
「クッキーもたーくさんあるなァ……」
喉の渇きを癒し、エンジは再びパーティ会場を歩く。時折懲りずに襲いかかってくるひよこーんを容易く追い払いながら、足を止めたのはクッキーが並んでいるテーブルだった。その場でアイシングの実演も行われている。
「ぬいぐるみみたいなクッキーも沢山あって面白い面白い」
クマも、ウサギも、ネコもいる。どれも可愛らしくデコレーションされていた。
「一つ持って帰ってもイイ?」
アイシング実演中の女子学生に尋ねると、一つと言わずお好きなだけ詰めていいですよと、お持ち帰り用の箱を渡してくれた。
「アイシングは少しコツがいりますが、チョコペンで顔を描くのも楽しいですよ」
勧められて、エンジは無地のウサギクッキーに顔を描いてみることにした。賢い君と作ったぬいぐるみと同じにしようと、まずはチョコペンで目を描き、次にストロベリー味のチョコペンで縫い目を描く。本当は真っ赤なペンが欲しかったが、無いのでピンク色で代用だ。
「うんうん。こうやって、こうやって……」
完成したウサギクッキーは、賢い君の糸でチクチクと縫い上げたぬいぐるみとそっくりだった。
「賢い君、賢い君、クッキーもかーわいくなった!」
ぬいぐるみとクッキーを見比べて、エンジは満足そうに笑う。次はクマクッキーの顔を描いてみようと、再びチョコペンを手に取った。
そんなエンジにまたしてもひよこーんが体当たりしてきたが、今度は赤い糸でぺちっと叩いて払い除ける。ついにひよこーんはひよーと鳴きながら消滅してしまった。そしてふと思いついた。次に作るぬいぐるみは、ひよこもいいかもしれない。
「賢い君、賢い君、どーしよ?」
服の上から胸元に手を当てて、エンジは大事な相棒に問いかける。賛成とばかりに、赤い糸の先がエンジの右手に優しく触れた。
大成功
🔵🔵🔵
コイスル・スズリズム
SD参照
南瓜の国のプリンセス!
いたずらと甘いものが大好きだよ!
こんなにかわいくて
おいしそうで
甘そう
なのに!ハロウィンが嫌いだなんて
食わず嫌いなんじゃない?
ほら、ひよこーんちゃん、ダンスしよ?
普段は魔法学園の生徒だけど、プリンセス、気分
踊るようにふわふわ袖口を動かして
「見切り」「武器受け」「残像」で相手の攻撃を受けながら
UCで取り出すのはキャンディ
いたずらするあなたたちにもね、とウインク
会場に足を運んだら
まずはしょっぱいもの
次に、甘いもの
続いて、しょっぱくて甘いもの
ずうううっと繰り返しちゃえそう!
デコってそなkawaii!を重点的に探していく
ひよこーんちゃん、
遊んでくれてありがとっ
アドリブ大歓迎
ギヨーム・エペー
海賊が来たぞー!わはは。この宝箱の中身?開けてびっくり、キンキラピカピカの宝石のような煮干し。お菓子デス
(SD参照)
せっかくだから脅かしてみたいよなー。グワーッゾンビだぞー!!
…とか?脅かしたお詫びには菓子をあげよう。無理には受け取らなくていいからね!
色々料理あるんだなー。飾りも華やかでいいね!
そうだなー、甘いお菓子は欲しい。ゼリーも綺麗でいいな。カップケーキもカワイイ。見ているだけで楽しい。
シチューは具材なんだろ。どれも食ってみないと味はわからないか。どれにしよう。お、ポップコーンもある。…ヒヨコ!
ヒヨコも楽しんでるかー!?ないかー。
じゃ、果たしておれを楽しくさせないことができるかー?!
●
二つ結びにした柔らかな金髪をふわふわと揺らしながら、パンプキンカラーのドレスに身を包んだお姫様が軽やかな足取りでパーティ会場を訪れた。コイスル・スズリズム(人間のシンフォニア・f02317)だ。
自然の恵みを感じさせる橙色と黄緑色を基調にしたミニ丈のドレスは、アメリカンスリーブ風で肩が大きく出ているちょっぴりセクシーなデザインでありながらも、南瓜を思わせるパフスリーブとふわふわな姫袖がとても愛らしい。ふわりと広がるスカートはゴージャスに三段になっており、外側のたくし上げた部分にはキラキラ輝くドロップ型のクリスタルがあしらわれている。もちろん、ブーツもドレスとお揃いのデザインである。
髪にもドレスと同じ色の大きなリボン揺れている。右側は橙色、左側は黄緑色で、それぞれ半分だけ点線ストライプの模様付き。頭には宝石が光り輝くティアラを乗せて、髪や服には大きな南瓜の花と、様々な色の小花が散りばられている。姫袖から覗く指先の碧いネイルも印象的な彼女の仮装は、南瓜の国のプリンセス。今日のコイスルは、いたずらと甘いものが大好きなお姫様だ。
コイスルはキョロキョロと辺りを見回した。普段はアルダワ魔法学園の生徒であるが、いつもの学園とは全く違う。見慣れている大教室がこんなにも素敵なパーティ会場になるなんて、こうやって歩いているだけですごくワクワクする。それになによりも、今日はプリンセスの気分なのだから!
右を見ても左を見ても、お菓子や料理でいっぱいだ。どれにしようと悩んだコイスルは、まずはしょっぱいものから食べることにした。甘いものが大好きなお姫様だが、甘さをより際立たせる為にも、しょっぱいものは非常に重要なのだ。
最初に選んだのは揚げたてのポテトチップス。ジャガイモがジャック・オー・ランタンや魔女の帽子の形に型抜きされており、普段食べているポテトチップスとは異なる雰囲気だ。ほんの少し形が変わっただけで可愛いさ大幅アップのポテトチップスを指先でつまみ、パクリと食べる。程よい塩加減で、パリッとした歯応えも心地よい。
「うんうん、おいしい!」
用意されていたウェットティッシュで指先を拭いて、次は甘いものだ。コイスルが重点的に探すのは、デコってそなkawaii! である。
数多くのドルチェの中で彼女の目を引いたのは、チョコムースのシュークリームだった。ココア生地のシューの中にはチョコムースがたっぷり詰まっており、そこにはオバケの顔や手が可愛く描かれていた。コイスルは目を輝かせながら、今にもシューの中から飛び出してきそうな愛らしいオバケをケーキトングで皿に取り分ける。
「食べちゃうぞっ!」
いらずらっぽく囁きながら一口食べた瞬間、口の中で蕩けるチョコムースの甘さは幸せそのものだった。
続いて、しょっぱくて甘いものを探し始めたコイスルは、塩キャラメルディップのパンプキンチェロスを手に取った。チョコペンでコウモリの絵が描かれており、袋も可愛い南瓜のイラスト付きだ。
甘いものとしょっぱいものを交互に食べると止めらなくなり、終わりが見えない。
「ずうううっと繰り返しちゃえそう!」
まさにエンドレス――それでもやっぱり美味しくて、楽しい!
●
そんな時、オレンジ色の長い髪とコートの裾をなびかせながら、1人の男性がパーティ会場に飛び込んできた。
「海賊が来たぞー! わはは」
日焼けした焦茶色の肌に継ぎ接ぎゾンビメイクを施した海賊――ギヨーム・エペー(海賊船長だぞー。これ?アジの煮干し!・f20226)は、高らかに笑った。会場中の皆がギヨームに注目する。
ダンピールの皮を被ったフランス人気質のダンピ野郎であるギヨームの仮装は、鉄紺色のパイレーツコートを纏った海賊船長だ。フリントロック式のレトロな海賊銃2丁を斜め掛けした革ベルトにセットし、小脇に木製の宝箱を抱えたその姿は、まさに海賊そのものだった。足元には柄に青い宝石が輝くサーベルを突き刺した南瓜も転がっている。ギヨームはその南瓜の上に左足を乗せてポーズを取った。ワイルドで格好いい姿に会場内がどよめく。
もしかして、あの宝箱の中には金銀財宝が入っているのでは……!? 多くの人の視線が宝箱に集まっていることに気づいたギヨームはニヤリと笑う。
「この宝箱の中身?」
うんうんと頷く周囲の学生達。彼らの期待に満ちた眼差しを一身に受けて、ギヨームはパカリと宝箱の蓋を開けた。
「開けてびっくり、キンキラピカピカの宝石のような煮干し。お菓子デス」
まさかの煮干しに全員がびっくり仰天だ。ダークセイヴァーの何処かの山の奥深くに建つ、楓の木々に覆われた小さな洋館に住んでいギヨームは、山から海へと毎日遊びに行っては往復10キロを帰還する生活を送っている。そこは世間と断絶された空間であり、自給自足で暮らしているのだが、今年の夏はアジが大漁だった。それはもう、どっさりと山ほど捕れた。最初こそ嬉しかったが、捕ったからにはきちんと消費しなければならない。だから食卓には毎回アジが出た。魚の調理はお手の物の彼は、飽きが来ないように様々なアレンジを続けてきたが、流石にもう限界だったので全部煮干したのだ。
それでもやっぱり減りは遅く、なかなか減らない。サイズ考えずに全部煮干したから一匹一匹がデカいせいで、すぐに満腹になってあまり食べられないのである。
食べ物を粗末にはしたくないギヨームは非常に困っていた。
だがある日、突然閃いたのだ。
――あっこれ全部配ればよくない?
折しもハロウィン。煮干しだって菓子だろ。菓子だよ。甘いもの食べたら塩っぽいの食いたくなるし、いけるって。善は急げと宝箱に煮干しを詰め込み、パーティ会場へとやって来たのだ。
「アジの煮干しは!! お菓子!!!」
大きな声で力説するギヨームに、南瓜の国のプリンセスが声をかける。
「アジの煮干し、もらえる? しょっぱいものが欲しいの」
甘い紫芋のミルクプリンを食べ終えたばかりのコイスルは、次に食べるしょっぱいものを探していたところだったのだ。まさにナイスタイミングである。
「おっ、食べる? どうぞ!」
ギヨームは笑顔で煮干しを差し出した。コイスルは受け取った煮干しを齧る。大きいので一口では食べきらない。
「……うん、しょっぱくていけるっ」
その言葉を聞き、事の成り行きを見守っていた学生達もこぞって煮干しを欲しがり始めた。次々にギヨームに向けて手を伸ばす。
「沢山あるよ! どんどん持って行って!」
宝箱の中身はあっという間にほぼ空っぽになった。残りは、なんとたったの2匹だ。
既に満足感でいっぱいだ。すっかり軽くなった宝箱を抱えながら、ギヨームは会場内を歩き始める。
「せっかくだから脅かしてみたいよなー」
独り言ちながら周囲を見回せば、すぐ側で小学生くらいの2人組の少年が虹色の綿菓子を食べていた。彼らを驚かせてみようと、音を立てずに2人の背後に回り込む。少年達がまだギヨームに気づいていないことを確認し、襲いかかるふりをしながら大声をあげた。
「グワーッゾンビだぞー!!」
「わあー!!!」
少年達は飛び上がって驚いた。手を伸ばして捕まえようしてくるギヨームからわーわーと逃げ回る。しばらく走り回った後で、少年達は大笑いしながら床に倒れ込んだ。
「楽しかったー!」
「ゾンビさん……あれ、海賊さん? ありがとー!」
心底楽しそうな少年達の表情に、ギヨームも笑みを浮かべる。
「脅かしたお詫びには菓子をあげよう。……無理には受け取らなくていいからね!」
差し出した『お菓子』は、宝箱の中にほんの少しだけ残っていた煮干しだ。
「僕、お魚大好き!」
「俺も!」
1人に1匹ずつ渡し、これで煮干しは全て無くなった。まさかこれほどまでに多くの人達に煮干しを喜んでもらえるとは思いも寄らず、ギヨームは空になった宝箱を見つめて感慨に浸らずにはいられなかった。
●
アジの煮干しも美味しかった。次は甘いものをと、可愛いドルチェを眺めているコイスルに、何かがパチンとぶつかった。
「あ、あれ?」
それはもこもことした、ひよこによく似たひよこーんだった。ハロウィンを思いっきり楽しんでいるコイスルが憎くて全力で襲いかかって来たのだ。
だがひよこーんは弱かった。ぶつかっても全く痛くない。コイスルは床に落っこちてジタバタしているひよこーんを拾い上げ、手のひらの上に乗せてじっと見つめる。
「こんなにかわいくて、おいしそうで、甘そう……なのに! ハロウィンが嫌いだなんて……食わず嫌いなんじゃない?」
小首を傾げながら問いかけてくるコイスルに、そんなことない! 嫌いなんだから嫌い! と、ひよこーんは体をふるふると震わせながらぷんすかと怒っている。だがそんな姿も可愛らしい。コイスルは眦を和らげ、ひよこーんを手のひらに乗せたまま、その場でくるりと回った。
「ほら、ひよこーんちゃん、ダンスしよ?」
「ひっ、ひよっ?」
突然のお誘いにひよこーんは戸惑い、目を丸くした。コイスルが体を左右に動かせば、袖口もスカートもツインテールもふわふわと揺れる。我に返ったひよこーんが飛び跳ねて体当たりしてきたが、動きを見切っていたので避けるのは簡単だった。ぴよーと悔しそうに鳴くひよこーんに、コイスルはにっこりと微笑みかける。
「感謝祭の翌日。先週から鳴り描いてるマスカラ。でもそうじゃなくったっていいんでしょ?」
魔法の呪文のように唱えながら、揺れる袖口から取り出すのは甘いキャンディ。
「いたずらするあなたたちにもね」
ウインクしながらひよこーんにプレゼント。途端にひよこーんの動きが極端に鈍くなり、のっそりと動くのが精一杯らしい。随分と弱っているようにも見える。
「ひっ……よっ……」
鳴き声ものっそりだ。コイスルは再びひよこーんを手のひらの上に乗せた。そしてくるりと華麗に回る。これがきっと、ラストダンス。
「ひよこーんちゃん、遊んでくれてありがとっ」
優しい声と共に、ひよこーんを右手の指先でパチリと弾く。それだけでひよこーんは光の粒になって消えていった。あっという間の出来事だった。
美味しそうな香ばしい匂いが微かに残っている空間で、コイスルは澄んだ藍色の瞳で空っぽになった手のひらを少しの間見つめてから、穏やかな表情でバイバイと手を振った。
●
「色々料理あるんだなー。飾りも華やかでいいね!」
ギヨームは上機嫌でパーティ会場内をあちこち見て回っていた。料理が多すぎて、何から食べようか迷ってしまう。ううむ、と顎に手を当ててギヨームは考え込む。
「そうだなー、甘いお菓子は欲しい」
ゼリーも綺麗でいいな。赤、オレンジ、グリーンと、色鮮やかなゼリーが小さなグラスに入って並んでいる。味は赤ぶどう、オレンジ、青りんごだろうか。全て愛嬌のある表情をしたオバケ型のホワイトチョコが乗せられており、微笑ましい。
カップケーキもカワイイ。軽い口当たりのバタークリームで飾り付けられ、南瓜やフランケンシュタイン型のマジパン細工付きだ。見ているだけで楽しい。
「シチューは具材なんだろ。どれも食ってみないと味はわからないか。どれにしよう……」
悩みに悩んでいるギヨームの胸元に、ぽこんと何かが飛び込んできた。
「お、ポップコーンもある」
それはとても美味しそうな匂いの、熱することにより固い種皮が弾けてスポンジ状に膨張した食べ物だ。だが手を伸ばして違うと気づいた。目がある。こっちを睨んでいる。
「……ヒヨコ!」
「ひよー、ひよひよー!」
ポップコーンらしき物体の正体は、怒りまくっているひよこーんであった。ぴょこぴょこ跳ねて、何度もギヨームに体当たりしてくる。これはもしや攻撃しているつもりなのか? それならば、ちょっと弱すぎではないだろうか? 痛くも痒くもない。
「ヒヨコも楽しんでるかー!? ないかー」
プンプン怒っているひよこーんはどう見ても楽しんでいるようには見えない。
「じゃ、果たしておれを楽しくさせないことができるかー?!」
「ひよっっっ!!!!」
ムキーと、ひよこーんは渾身の力でギヨームに突撃した。だが、ギヨームはひよこーんをパシリと右手で捕まえた。
「ひっひよっ!」
ギヨームの右手の中でジタバタするひよこーん。ポロリポロリと、もこもこした部分が崩れていく。
「パーティを邪魔したら駄目だぞー!」
言っても聞かないのは分かっている。だからこそ、彼らには迅速に退場してもらわねばならない。ギヨームは生まれ持った氷の魔力でひよこーんを包み込んだ。熱を失ったひよこーんは急速に縮み、そのまま最初から何もなかったように消え去ってしまった。
どんな味なのか、もこもこした部分を少しは食べてみればよかったかなと思いつつ、ギヨームはシチューを食べに行くことにした。どうやらトマトクリームシチューらしい。星やコウモリの形にくり抜かれた南瓜や人参も入っており、思わず笑みが溢れる。
綺麗に完食した後はさっぱりしたものが欲しくなり、ギヨームはゼリーが並ぶテーブルに向けて歩き出す。その途中でクッキーやマドレーヌが並んでいるのが見えた。
そうだ、焼き菓子をお土産にしよう。鍋パにデザートがあればきっとますます楽しい時間になるに違いない。折角だから、この空になった宝箱に入れて持って帰ろう。新しい宝物も、きっと山奥の洋館で待っている皆を笑顔にしてくれるはずだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
浮世・綾華
セト(f16751)と
仮装:猫又
セトは狼男か
かっこいーじゃん
確かに。並ぶといー感じ
そいじゃ仲良く楽しもーぜ
セトはどんな食いもんが好き?
へえ、なんか酒飲みになりそーだなぁ
端から端という言葉にはけらけら
成長期すげー
いいよ、折角だしな
俺も食ってやろーじゃねーの
――って、うわっ
なんか飛んできた
弾けるひよこーんを夏ハ夜(扇)で吹き飛ばし倒す
火傷しなかったか?
めっちゃひよひよ鳴いてる
かわいーケド熱いからこっち来んな
来んなって言っても来るこーんをしょうがねえと皿できゃっち
ぱたぱた仰いで冷ましたら
食べたら撃破したことになるよな
おっけー、せーの…と一回フェイント
あはは、ごめんて
ちゃんと食うよ
もっかいもっかい
セト・ボールドウィン
綾華(f01194)と
選んだ衣装は狼男
もふもふの耳と尻尾
猫又になった綾華と並ぶと、揃えたみたいでちょっと嬉しい
ほら、獣っぽいとことかさ
んーとね。果物は何でも好きだよ
あとは…塩気のあるものかな
チーズとかハムとか、揚げたイモに塩振ったやつとか
とは言うものの、こんなに色々並んでたら
全部食べてみたくなるものじゃない?
とりあえず、このテーブル端から端まで!
!すげー、ひよこーん可愛いな
弾けるひよこーんから目を庇いつつ
ちょっとだけ可哀想だけど、千里眼射ちで反撃
うんっ、だいじょーぶ
程よく冷めたひよこーんを前に
少しだけ考える
これ、さっきまでひよひよ鳴いてたんだよね
でもいい匂いするし
…ね。綾華
せーの、で食べない?
●
いつもとは違う、楽しい時間の始まりだ。
浮世・綾華(千日紅・f01194)とセト・ボールドウィン(木洩れ陽の下で・f16751)は並んでパーティ会場へと足を踏み入れた。
綾華の仮装は猫又だ。綾華が普段から好んで着ている服装を彷彿とさせる現代風にアレンジされた紅色の狩衣を纏い、頭にはもふもふとした猫耳付きだ。背後でゆらゆらと揺れる長い尻尾は2本に分かれている。狩衣の袖口からは水晶の花で作られた緋紅色の紫羅欄花が連なるブレスレットが覗き、耳には緋色の柘榴石をあしらった鍵型のピアスが輝いていた。
長身の彼の麗しい猫又姿は多くの学生達の目を引いた。特に女子学生が熱い視線を送っている。
綾華の横で、青葉の茂る大きな樹を思わせる緑色の瞳をキラキラと輝かせているセトは、狼男の仮装をしていた。パンクロック風のファー付きジャケットに、もふもふの耳と尻尾。アクセサリーはどういうものがいいだろうかと迷ったけれど、首には本革製のチョーカーを、腰にはウォレットチェーンを巻いてみた。普段よりも大人びて感じられるワイルドな姿に綾華は目を細める。
「セトは狼男か。かっこいーじゃん」
「へへ。そうかな」
綾華の言葉に、セトは嬉しそうに笑う。
――猫又になった綾華と並ぶと、揃えたみたいでちょっと嬉しい。
そんな気持ちを包み隠さず綾華へと伝えた。
「ほら、獣っぽいとことかさ」
「確かに。並ぶといー感じ」
猫又と狼男は顔を見合わせて笑いあった。すぐ隣にいる猫又の頼もしい背にはまだまだ追いつけそうにはないけれど、こうして横に並べることが誇らしくなる。
「そいじゃ仲良く楽しもーぜ」
まずは何から食べようかと相談しながら歩き始めた彼らに、誰かが遠慮がちに声をかけた。
「あ、あのっ、ちょっといいでしょうか……!」
綾華とセトが振り返ると、そこには3人の女子学生がいた。それぞれ、クマとリスとキツネの仮装をしている。綾華とセトに比べるとかなり簡素で地味な仮装だが、付け耳は全員もふもふだ。
「お2人とも、とっても素敵な仮装ですね! ……あ、あの、それで……私達も動物の仮装をしていて……よかったら一緒に写真を撮ってもらえませんか?」
クマの少女は真っ赤になりながらそう言った。動物の仮装をしている人達で集まって写真撮影がしたくて、勇気を出して綾華とセトに話しかけたらしい。
「俺はいーケド、セトは?」
「んーとね、俺もいいよ。折角のハロウィンパーティだしね」
「ありがとうございます! 思い切ってお願いしてよかった……!」
綾華とセトから許可をもらえて、動物の仮装の女子学生達は嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねている。彼女達は皆で写真を取る時も、その写真を確認する時もきゃあきゃあと大騒ぎだ。綾華とセトも写真を見たが、皆もふもふで、思わず笑みが溢れる良い写真だった。
●
「とっても素敵な写真が撮れました! 猫又さん、狼男さん、ありがとうございました!」
楽しそうに手を振る女子学生達と別れて、沢山の食べ物が並ぶコーナーへと到着した。
「セトはどんな食いもんが好き?」
綾華の質問に、セトはほんの少しだけ考えてから答える。
「んーとね。果物は何でも好きだよ。あとは…塩気のあるものかな」
「塩気? 塩バニラとか?」
「そういうのもいいけど、チーズとかハムとか、揚げたイモに塩振ったやつとか」
「へえ、なんか酒飲みになりそーだなぁ」
綾華は楽しそうに微笑む。セトはまだ13歳の少年だ。共に酒を飲めるようになるのは7年後である。7年は長いようで意外と短い。ヤドリガミである綾華にとっては尚更だ。成人したセトはどのような姿に成長しているのだろうと、綾華は茫と思い描いた。
――とは言うものの……。
セトは真剣な表情で綾華を見つめる。
「こんなに色々並んでたら、全部食べてみたくなるものじゃない? とりあえず、このテーブル端から端まで!」
その言葉に綾華はけらけらと笑った。
「成長期すげー」
「だって全部美味そうだしさ」
「いいよ、折角だしな。俺も食ってやろーじゃねーの」
「うんっ、2人で全部食べよう!」
ちょうど目の前のテーブルにはカナッペが大量に並んでいた。チーズやトマト、生ハム、アーモンドなどがクラッカーの上に盛り付けられたオードブル風のカナッペや、フランスパンの上にクリームチーズとドライ無花果をトッピングしたカナッペ。牛肉と黒豆のディップのカナッペや、スモークサーモンとクリームチーズのカナッペは小さくても食べ応えありそうな雰囲気で、食欲をそそる。
苺やキウイ、オレンジやブルーベリーを乗せたフルーツカナッペも豊富で、生クリームが添えられたものもある。ところどころにオバケの顔やコウモリが海苔やチョコペンで描かれており、ハロウィンムードも満点だ。
これだけの種類があり、しかも一口サイズでる。いくらでも食べられる。
有言実行で、テーブルの端から端まで、全種類のカナッペを食べてしまった。満足感に包まれながらセトは思う。やっぱり美味いものは誰かと食べた方がずっと美味いと。綾華も南瓜サラダのカナッペを食べ終え、全種類制覇だ。
「どれも美味かった。何か飲み物が欲し――って、うわっ」
綾華とセトに向かって、何かがばびゅーんと飛んできたのだ。ひよひよひよひよと鳴きまくるそれは、話に聞いていたひよこーんの群れであった。
「! すげー、ひよこーん可愛いな」
セトは目を輝かせる。もこもこしている見た目も、鳴き声もとても可愛い。だがひよこーんは怒りまくっていた。仲良くお揃いっぽい仮装をして、みんなで写真撮って、美味しいカナッペいっぱい食べて、そんなにハロウィンをめいっぱい楽しんでるなんて許せないー!!
どうやら、ずっと綾華とセトを物陰から見ており、襲いかかるタイミングを見計らっていたらしい。カナッペを食べ終えた後にやってきたのは相当空気が読めている気もするが、綾華は夏ハ夜という名の闇夜に重なる黄金の輝きの如き扇を素早く取り出し、舞うように扇いで怒りのままに弾けたひよこーんを吹き飛ばした。
弾けるひよこーんから目を庇いつつ、ちょっとだけ可哀想だけど――と、胸をチクチク痛めつつ、セトも千里眼射ちで反撃した。10秒間集中し、ひよこーんに向けて矢を放てば、貫かれたひよこーんはあっという間に消滅した。
「火傷しなかったか?」
「うんっ、だいじょーぶ」
気遣う綾華に、セトは笑顔で答える。どちらかというと、可愛いひよこーんを倒したことによる胸の痛みの方が大きいかもしれない。
●
これで一件落着かと思われたが、一息ついている2人に向けて新たなるひよこーんの群れが飛来した。びゅんびゅんと飛んでくる。
「めっちゃひよひよ鳴いてる……」
綾華が呆然とするほどに大量のひよこーんが群がってきた。ひよひよひよひよと、鳴きまくるひよこーん達。
「かわいーケド熱いからこっち来んな」
ある程度は冷めているのか、火傷するほどの熱さではなかったことは幸いだが、こうも群がられると熱いし鬱陶しい。ひよこーんも、来んなと言われて来るのを素直に止めるような、ヤワな災魔ではない。その言葉を聞き、まるで嫌がらせをするかのように綾華に纏わりついてくる。もこもこアタック状態だ。
「……しょうがねえ」
それならばと、綾華は近くのテーブルに置かれていた大きな皿を手に取った。飛んでくるひよこーんをその皿でキャッチし、夏ハ夜でぱたぱた仰いで迅速に冷ます。
「ひっ……ひよ……」
熱を失い、急速におとなしくなっていくひよこーん。そのまま綾華が扇ぎ続けると、目も消え、嘴も消え、何処からどう見ても単なるポップコーンになってしまった。どうやらこのひよこーんの群れはほんのり塩味らしい。香ばしい塩の匂いが漂っている。
セトは、程よく冷めたひよこーんを前に少しだけ考えた。
「これ、さっきまでひよひよ鳴いてたんだよね」
「ああ」
「でもいい匂いするし」
「そうだな」
「……ね。綾華。せーの、で食べない?」
「食べたら撃破したことになるよな。おっけー、せーの……」
今すぐ食べるかと思いきや、一回フェイントで動きを止める綾華。セトは見事に引っかかってしまった。
「! 綾華ー!」
「あはは、ごめんて」
笑って謝りながら、しっかりとポップコーンを指先でつまむ。
「ちゃんと食うよ。もっかいもっかい」
「今度こそだよ。じゃあいくよ……」
「「せーの!」」
息を合わせて、口の中へとポップコーンを放り込む。
「やっぱり塩気のあるものは美味いね」
期待通りの味にセトは笑う。確かに見た目も味もポップコーンそのものだ。とても先ほどまでひよひよ鳴きながら動いていたとは思えない。
――きっとこうして食べることも供養だろう。
綾華は2個目のポップコーンを口へと運んだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
紫・藍
藍ちゃんくんでっすよー! セロのおにーさん(f06061)と一緒にお祭りを楽しむのでっす!
仮装は王子様『SD参照』
義賊で素敵なおにーさんと世直し道中かもでっすよー!
あ、藍ちゃんくんも可愛いマフィン、いただいちゃうのでっす!
美味しいのでっす!
ひよこーんさんはおにーさんとひよよと誘惑し、存在感でおびき寄せ!
どこへって?
ポップコーンと言えば映画館(UC)召喚でっす!
ステージのギミックである巨大ポップコーン容器(映画を見る時のあれなのでっす!)で弾け飛び降り注ぐひよこーんさんをキャッチ!
むしろ本能で入ってきてくださらないでっしょかー!?
キャッチしたひよこさんはおにーさんといただきますなのです!
セロ・アルコイリス
藍ちゃんくん(f01052)と!
仮装は『皐月の王』、どっかの義賊らしいですよ
『SD参照』
へへ、相変わらず素敵なお召し物で、王子サマ
(カップケーキもぐもぐしつつ、藍ちゃんくんにもはいと差し出して)
じゃあ世直しついでに口直し行きますか!
甘いモン食ったら塩っ気欲しくなりましたし!
すげー、映画館みたいですね! 資料で見たことあります!
フライパンから跳ね上がった敵を【シーブスギャンビット】使ってステージにご招待
鳴くならひよよって返しながら敵を追いかけます
王子サマ、そっち行きましたよ!
…あ、美味しい
けど甘いモンまた欲しくなんなぁ(藍ちゃんくんにも勿論お裾分け!)
お任せ歓迎、きゃっきゃ楽しみたいです!
●
ジャック・オ・ランタンを模したミニハットと南瓜のパンツ。ゴージャスなフリルスタンドカラーとラッパ袖。胸元の紫色のリボンの中央には南瓜のマスコットがにっこり笑う。オレンジと紺色を基調とした王子様の仮装をした紫・藍(覇戒へと至れ、愚か姫・f01052)は、胸元のリボンと同じ色のリボンで結った藍色の長い髪がゆらゆら揺らしながは、おお! とパーティ会場内を見回した。
「すごいパーティなのでっす!」
「本当にすげーです。盛り上がってますね!」
藍の隣に立つのは皐月の王の仮装をしたセロ・アルコイリス(花盗人・f06061)だ。松葉色の服に市紅茶色のマントを纏い、虹を帯びる白い髪を紅掛空色のターバンで纏めた彼は、何処かの義賊らしい。弓の名手である彼が手にしている木製の弓矢は苦しむ民衆の為だけに使われるのだろう。その肩では青い小鳥が羽を休めていた。時折、可愛い声でピイと鳴く。
「へへ、相変わらず素敵なお召し物で、王子サマ」
「ありがとなのでっす! おにーさんも決まってるのでっす!」
いつでもハイテンションなアッパーボーイの藍はその場でくるりと華麗に回った。そしてビシリとポーズを取る。こんなにも賑やかで、沢山の人達が楽しんでいるパーティが敵に狙われているのだ。これは頑張らなくてはならない。
「義賊で素敵なおにーさんと世直し道中かもでっすよー!」
「ですね! 行きましょう!」
頷き合い、2人は世直しの為に歩き出した。
でもまずは腹ごしらえからである。世直しにはエネルギーが必要なのだ。
セロは華やかにデコレーションされたカップケーキを手に取った。ココア味のカップケーキに、紫芋パウダーを混ぜた生紫色のクリームがぐるぐると絞り出されており、その上に可愛い顔の描かれたマシュマロが乗っている。アラザンやカラースプレーも散りばめられていて、とても可愛いオバケのカップケーキだ。
しかも、マシュマロに描かれた顔は全て違う。ウインクしたオバケ、ちょっと怒ったオバケ、居眠りしているオバケ――どれも愛らしい。その中でセロが選んだのは、頬にハートのペイント付きの笑顔のオバケだった。親近感か、ほんの少しばかり食べることが躊躇われてしまったが、もぐもぐと食べた。とても美味しい。
「あ、藍ちゃんくんも可愛いマフィン、いただいちゃうのでっす!」
藍ちゃんくんにはこの表情が似合いそうだと、セロは満面の笑みのオバケをはいと差し出す。
「ありがとなのでっす!」
オバケと同じ笑顔で受け取った藍はパクリと齧り付く。
「美味しいのでっす!」
「デコレーションも凝ってるし、すげーですよね」
もぐもぐと、2人とも綺麗に食べ終えた。笑顔で食べてもらえてオバケもきっと喜んでいるだろう。
「じゃあ世直しついでに口直し行きますか! 甘いモン食ったら塩っ気欲しくなりましたし!」
「平和と塩味を求めてえいえいおーなのでっす!」
セロと藍は気合を入れる。その時、部屋の隅っこから彼らの姿をじーっと見つめていた影が動き出した。
●
ぴょーんと、何かが藍に向かって飛んでくる。そして、ぽふりとぶつかった。柔らかな感覚で、ほんのりあったかいが全く痛くない。
あれ? と思い指先でつまんでみると、それは1匹のひよこーんだった。
「ひよっひよっ」
ぷんすか怒っているが、全然怖くない。むしろ可愛い。ふと気づいて辺りを見回すと、ふわふわと黒いフライパンが宙に浮いている。その上では沢山のひよこーん達が熱されながら待機中だ。どうやら、せっかちなひよこーんが足並みを揃えずにたった1匹で突撃してきたらしい。ドジっ子さんかもしれない。
「おにーさん! ひよこーんさんが現れたでっす!」
「来ましたか! では計画通りに行きましょう!」
セロに合図して、2人でひよこーんをおびき寄せる作戦を実行する。
「ひよよーひよよー」
藍はひよこーん達を誘惑した。その抜群の存在感に、ひよこーん達はフライパンごと引き寄せられる。
「ひよよー、こっちなのでっす!」
藍はとある場所へとひよこーん達を誘導しようとしていた。一体何処へ連れて行くつもりなのだろうか? その疑問はすぐに解消される。
「まるでミュージックビデオのようなステージをお届けしちゃうのでっす! 参加型のステージなのでっすよー!」
藍はパチンと指を鳴らし、自信満々な様子で高らかに宣言する。一体何が起きるのかと、ひよこーん達だけではなく、パーティの参加者達も注目していた。
「ポップコーンと言えば映画館召喚でっす!」
なんと、彼は映画館を模したステージセットをその場に召喚したのだ。シアターだけではなく、売店も横に設置されている。おおーと周囲からどよめきが起きた。
「すげー、映画館みたいですね! 資料で見たことあります!」
藍が召喚した大掛かりな仕掛けにセロのテンションも上がる。ひよこーん達はというと、誘導されてすぐ側まで近寄っては来てきたが、突然の出来事にびっくりしてフライパンの上で身を寄せ合って固まっていた。
けれども、単身で突撃したドジっ子ひよこーんが助けを求めるかのように「ひよよ」と鳴いた影響か、こんなハロウィンパーティは絶対壊してやる! とばかりにフライパンから跳ね上がり始める。熱く弾ける前のタイミングを逃さずに、セロはダガーを素早く振るい、ひよこーんをステージに向けてぽーんと打ち上げる。
「ひっ、ひよー!?」
まるで野球のフライのように緩やかな弧を描き、飛んでいくひよこーん。ステージ上では藍が巨大ポップコーン容器を手に待ち構えていた。この容器もステージのギミックのひとつだ。
「キャッチ! なのでっす!」
その言葉の通り、藍は飛んできたひよこーんを容器ですぽんと受け止める。
「藍ちゃんくん、ナイスキャッチ! もっと行きますよ!」
次から次へとセロはダガーでひよこーんを打ち上げていく。だがひよこーん達は大量だ。全てのひよこーんをステージに招待したいが、この速度では間に合わない――だがセロは慌てず騒がずマントをぱさりと脱ぎ捨てた。リミッター解除によって加速したセロは、今までの数倍の速度でダガーを振るった。先ほどまでとは比べ物にならない勢いでひよこーん達がステージに向かって飛んでいく。
「ひよひよー!!」
大量に降り注いでくるひよこーん達。藍も必死になって受け止めた。
「すごい量でっす。多すぎて華麗なキャッチにも限界が……むしろ本能で入ってきてくださらないでっしょかー!?」
そう叫ぶ藍に引き寄せられたのか、それともやっぱり本能なのか、彼らの多くは自主的に巨大ポップコーン容器の中へと飛び込んでいった。まるでショーを見ているかのようで、パーティ参加者達も大興奮だ。
しかし何匹かのひよこーんは容器に入らず、ひよひよと鳴き続けていた。頑張って戦うつもりらしい。
「ひよよ!」
それならばとセロは彼らを真似て鳴き、ダガーを片手に追いかけた。
「ひよよー!!」
ひよこーん達は大急ぎで逃げる。セロが追い込んだ先は、もちろん、ステージの上だ。
「王子サマ、そっち行きましたよ!」
「了解なのでっす!ひよよ!」
そのまま容器の中へと誘導し、全て捕獲完了だ。残されたフライパンはというと、力を失ったのかガチャンと音を立てながら床に落下し、何も残さずに消え去った。
容器の中のひよこーんは、最初こそひよひよ鳴いて大騒ぎだったが、すぐに動かなくなった。どうやらある程度冷えると単なる食べ物に戻るらしく、今ではポップコーンにしか見えない。セロはその中のひとつを指でつまみ、口の中へと放り込んだ。
「……あ、美味しい」
「藍ちゃんくんもいただきますなのです!」
2人でぱくぱくとポップコーンを食べる。やはり甘いものの後に食べる塩味は最高だ。セロの肩の小鳥も美味しそうに啄ばんでいる。
「けど甘いモンまた欲しくなんなぁ」
ごく自然な要求であった。この対照的なふたつの味はどうしても交互に食べたくなる。そしてこのパーティ会場には甘いものも塩辛いものも山ほどあるのだ。願いはいくらでも叶う。
「おにーさんは映画館に行ったことあるでっす?」
「ねーです。資料で見ただけですね」
「では今度一緒に行くのでっす! 本物の映画館はもっと楽しいのでっす!」
新しい約束も交わし、2人は甘いものを求めて再び歩き出した。ふと気になり、セロは藍に質問する。
「映画館では、ポップコーン以外には何が売られてます?」
「ドリンクやホットドッグが多いでっす。お菓子ならアイスクレープなんかもあるでっす!」
「アイスクレープ! 甘くて冷たくて美味しそうですね!」
探してみると、このパーティ会場でもアイスクレープが用意されていた。バニラアイスにストロベリーソースが添えられており、魔女の帽子のチョコレート付きだ。
「藍ちゃんくんも少し食べます? お裾分け!」
「ありがとなのでっす!」
塩味の後だからか、それとも一仕事した後のせいか、ひんやりとした甘さがとても心地よかった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
カーティス・コールリッジ
【虹彩】
おれ、ハロウィンはじめて
えっと、そう!
あいことばは、トリックオアトリート!
もこもこの手、もこもこのあし
上を向いたみみ、しっぽ!
おれ、おおかみ!
がおー!たべちゃうぞ!
わあ!オズおにいさんののみもの、きれい
むらさきはぶどうで……うえはオレンジだ!
おれにもちょっとちょうだいな!
クラウはなにをたべてるの?あ、プリンだ!
じゃあじゃあ……おれは、かぼちゃのパイにする!
ライラ、ねえねえ
ハロウィンはかぼちゃがおうさまなんだね
じゃあじゃあ、かぼちゃのおかしをたべちゃったおれとクラウは……
たいへん!とんでもない『いたずらもの』だ!
みんなのまねしてひよこーんをおおきな口でキャッチ
あふい!ふふ!でもおいひい!
クラウン・メリー
【虹彩】
ゾンビキョンシー『SD参照』
ぴょんぴょんと跳ねながら
皆はどんな仮装なのかワクワク
わぁ、皆とってもお似合いだ!
それじゃあ!せーの
トリックオアトリート!
お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞ!
皆とハロウィンパーティー出来て嬉しいな!
見て見て!可愛いお菓子が沢山!
ジャックオランタンの形をしたおっきなカボチャプリンをぱくり
わぁ、これとっても美味しい!
口に欠片を付けながら
ライラも一口どーぞ!
カーくんどれが気になる?取ってあげる!
ひょえー!と両手を頬に当てる
ひよこーんがきたらお口の中でお出迎え!
サクサク
わ、キャラメル味で美味しい!
おずりんは何味だった?
塩味美味しそう!
バターも気になる!もっと食べよ!
オズ・ケストナー
【虹彩】
SD参照(オズの魔法使いモチーフ)
トリックオアトリートっ
ねえライラ
おばけの形したアップルパイがあるよ
あんぐり開いた口がかわいい
わあ、やったあ
魔法つかえた
カーくんの好きなぶどうを探して見つけた紫
ジュースだ、オレンジときれいに分かれてる
どうしてまざらないんだろう
すごいね
うん、のんでみてっ
あれもこれもと積んでいたら
黒と白
まっくろなクッキーだ
コウモリの形
まっしろはミイラだね
クラウの色にうれしくなって
そうだよ、ライラとわたしもおなかま
いたずらなかまで、いっしょにたのしんだなかまだねっ
いいにおいに振り返ると
むぐっ
ひよこーんだ
わたしはしおあじっ
ふふ、あつあつでおいしい
わたしも、キャラメルのたべたいっ
ライラック・エアルオウルズ
【虹彩】
(SD参照/チェシャ風な化猫)
トリックオアトリート、を共に唱え乍ら
皆の素敵な装いを眺めていると、
僕からも御菓子をあげたい心地だ
おや、オズさんは正に願い叶える魔法使いだね
早くも、僕の好物を見つけてくれるとは
けれど、可愛らしくて何だか惜しいなあ
神妙に悩む末、欠片付ける姿には笑って
クラウ、口に“美味しいの”が付いた侭だよ?
指差したなら、御言葉に甘えて一口頂こう
南瓜プリンの蕩けるような甘さ、
微笑ましい心配に表情は綻ぶ
そうだねえ、カーティスさん
でも、それを言うなら――
僕とオズさんも『いたずらなかま』さ
口に飛び込む物は慌てて頬張り
ン、此は、……バター味?
美味しいけれど、僕もキャラメルが欲しいかも
●
ぴょこんと跳ねて、元気いっぱいのキョンシーがパーティ会場へと足を踏み入れた。キョロキョロと周囲を見回して、その華やかさに金色の瞳を輝かせる。
クラウン・メリー(愉快なピエロ・f03642)の仮装はゾンビキョンシーである。継ぎ接ぎゾンビメイクは大迫力で、顔だけではなく、お腹も足も、全身が継ぎ接ぎ状態だ。青い肌に真っ赤なペディキュアもよく映えている。長い袖に隠れて見えないが、きっと指先にもお揃いの真っ赤なマニュキュアが塗られているのだろう。清時代の満州族の正装である補褂を大胆にアレンジしたパンプキンカラーの衣装の隙間からはお菓子が見え隠れている。背中の羽根も、今日は特別仕様でカラフルだ。胸にはピエロの格好をしたオバケのアップリケも付いている。
――皆はどんな仮装なのかな?
クラウンはぴょんぴょんと跳ねながら、皆がやってくるのをワクワクと待つ。どんな仮装をしているのか、ハロウィン当日まで秘密だったのだ。その方がきっと楽しいと考えて決めたことだったが、思っていた通り、ワクワクが止まらない。
「クラウ、おまたせっ」
明るい声と共に現れたのはオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)だ。
「おずりん! ハッピーハロウィン!」
「クラウはゾンビのキョンシーなんだね。わたしの仮装はね……」
「あっ言わないで! 当ててみるから!」
クラウンはうーんと考える。常にオズと共に在る、彼の姉であり友達であるからくり人形のシュネーの水色のジャンパースカート姿と、彼の周囲に居る可愛いカカシとブリキの木こりとライオンを見てピンときた。
「オズの魔法使い?」
「ふふ、そのとおりだよ。にあうかな?」
「おずりんにぴったりだよ!」
オズの魔法使いモチーフのオズは、蒲公英が飾られた大きな魔法使いの帽子を少し揺らして嬉しそうに笑った。胸元にも蒲公英が飾られており、長いリボンもふわふわのファーもマントも、彼にとてもよく似合っている。
続けてカーティス・コールリッジ(CC・f00455)とライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)もやってきた。
「おれ、ハロウィンはじめて」
カーティスは緊張しているのか、ほんの少しだけ不安そうでもある。そんなカーティスを見て、ライラックは「大丈夫だよ」と彼の肩に手を置いた。尊敬する人の温かくて大きな手に安心して、カーティスの緊張は途端にどこかへと飛んでいってしまう。そしてクラウンとオズに向けて、がおーと両腕を上げて、格好いい威嚇のポーズを取った。
もこもこの手、もこもこのあし。上を向いたみみ、しっぽ!
「おれ、おおかみ! がおー! たべちゃうぞ!」
カーティスはもこもこの狼の着ぐるみを被ってきたのだ。まるで狼に捕食されているが如く、全身もこもこである。こんなにも可愛い狼が他にいるだろうか――そのとてつもなく愛らしい姿に、皆の胸がときめいた。威嚇のポーズにきゃー! と、怖がりつつ、満面の笑顔だ。
顔を綻ばせてカーティス達を見つめるライラックの仮装はチェシャ風な化猫だ。大正浪漫風の着物を着て袴を履いたスタイルに、羽織とお揃いの色の中折れ帽には美しい猫面と紫丁香花が飾られている。ピンクと紫の縞々尻尾がゆらゆらと揺れ、手にした本を開いた状態で口元に当てれば、装丁と重なり合ってあたかも化猫がヒヒヒと笑っているようにも見えて、とても妖しげだ。目には見えない不思議なオーラを纏っているようにも感じられた。
「わぁ、皆とってもお似合いだ!」
皆を待っている間、クラウンはとてもワクワクしていた。そして皆で集合した今、さっきよりももっともっとワクワクしている。
「それじゃあ! せーの……トリックオアトリート! お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞ!」
まずはハロウィンの大事な合言葉だ。
「えっと、そう! あいことばは、トリックオアトリート!」
「トリックオアトリートっ」
「トリックオアトリート」
嬉しそうなクラウンと、元気いっぱいカーティスとオズと共に唱えながら、ライラックは思う。
――僕からも御菓子をあげたい心地だ。
穏やかな微笑みの化猫は、皆の素敵な装いを優しい眼差しで眺めていた。
「皆とハロウィンパーティー出来て嬉しいな!」
クラウンの言葉に、全員がうんと笑顔で頷く。みんな同じ気持ちだった。合言葉もばっちりで、いよいよ楽しいパーティーの始まりだ。
●
「見て見て! 可愛いお菓子が沢山!」
お菓子が並ぶテーブルの前でクラウンがはしゃぎ、オズとカーティスは瞳を輝かせる。ライラックも華やかで細かな細工に感心していた。
「ねえライラ。おばけの形したアップルパイがあるよ。あんぐり開いた口がかわいい」
オズが指差す先を見て、ライラックは幸せそうに微笑む。
「おや、オズさんは正に願い叶える魔法使いだね。早くも、僕の好物を見つけてくれるとは」
その言葉に、オズの顔はぱあっと明るくなる。
「わあ、やったあ。魔法つかえた」
オズは楽しげにトングでそのアップルパイを皿へと取り分け、ライラックへと差し出した。ありがとうと笑顔で受け取るが、彼はふうむと顎に手を当てて神妙に悩み始めた。
「けれど、可愛らしくて何だか惜しいなあ」
好物のアップルパイだが、ずっと見ていたい気持ちになってしまう。少しとぼけた表情のおばけは、見つめていると自然と眦が和らいだ。
クラウンが選んだのはジャック・オ・ランタンの形をした大きなカボチャプリンだ。ぱくりと食べれば、柔らかな甘さが口の中に広がった。
「わぁ、これとっても美味しい!」
もう一口、ぱくり。これは皆にも食べてもらいたい! 口についた甘い欠片にも気づかずに、ライラックに笑顔でプリンを差し出す。
「ライラも一口どーぞ!」
どれどれと、振り返ってクラウンの顔を見たライラックは、欠片を見つけて小さく笑う。
「クラウ、口に“美味しいの”が付いた侭だよ?」
指差して伝えれば、クラウンはひょえー! と両手を頬に当てて驚き、慌てて口を拭った。
「御言葉に甘えて一口頂こう」
その姿に和みつつ、お勧めのカボチャプリンをスプーンで掬って一口ぱくり。蕩けるような甘さ――なるほど、これは口に欠片がついていることさえ忘れさせる見事な味だ。もしや自分の口にも欠片がついているのではと心配にすらなってしまい、念の為にそっと口の端を指で拭っておいた。
可愛いお菓子ばかりで、どれも食べてみたくて、そして大事な友達にも喜んで欲しくて、オズはあれもこれもと手にした皿に積んでいた。彼の皿の上は幸せでいっぱいだ。
ふと、テーブルに置かれた黒と白に気づく。
「まっくろなクッキーだ」
それはコウモリの形をしたクッキーだった。その横のまっしろなクッキーはミイラだ。黒と白。オズにとってこの2色はサーカスの衣装は基本的に白黒メインである『クラウの色』だ。オズはうれしくなって、急いで皿へと乗せる。カーティスやライラックを思わせるクッキーはないだろうかとキョロキョロ探すと――あった。狼のクッキーと、化猫のクッキーだ。
ワクワクしながらそれぞれにクッキーを届ければ、皆大喜びだった。
「クラウはなにをたべてるの? あ、プリンだ!」
カーティスはクラウンの食べているプリンを覗き込む。
「とっても美味しいよ! カーくんどれが気になる? 取ってあげる!」
「じゃあじゃあ……おれは、かぼちゃのパイにする!」
カーティスはテーブルの上を指差した。任せてと、クラウンはトングでかぼちゃのパイを掴み、皿へと乗せてカーティスへと渡した。
「クラウ、ありがとう」
サクサクで、自然の甘さいっぱいのかぼちゃのパイもとても美味しい。夢中になってもぐもぐ食べていると、オズがジュースのグラスを持ってやってきた。
「カーくんの好きなぶどうを探して見つけたよっ」
最初にドリンクコーナーで見つけた時は紫色のぶどうジュースだと思ったのに、よく見ると2色に分かれたセパレートジュースだった。
――オレンジときれいに分かれてる。
その美しさに心惹かれ、カーティスにも見せたくて、急いで持ってきたのだ。
「わあ! オズおにいさんののみもの、きれい。むらさきはぶどうで……うえはオレンジだ!」
「うんっ。どうしてまざらないんだろう……すごいね」
オズとカーティスはグラスを不思議そうに見つめた。そして、きっとハロウィンの魔法なんだと2人で納得する。
「おれにもちょっとちょうだいな!」
「うん、のんでみてっ」
カーティスが南瓜のマスコット付きのストローでそっと飲むと、オレンジと紫が緩やかに混じり合い、夕焼け空によく似た幻想的な色になった。
美味しいジュースを飲んで、かぼちゃのパイも食べ終えて、ふとカーティスは心配になった。
「ライラ、ねえねえ……」
彼はライラックの袖をくいくいっと引っ張る。
「カーティスさん、どうかしたのかい?」
「ハロウィンはかぼちゃがおうさまなんだね」
「ああ、そうだね」
ライラックの言葉に、カーティスはやっぱり! と表情を曇らせる。
「じゃあじゃあ、かぼちゃのおかしをたべちゃったおれとクラウは……たいへん! とんでもない『いたずらもの』だ!」
どうしよう――カーティスは本気で思い悩んでいる。その微笑ましい心配に、ライラックの表情は綻ぶ。
「そうだねえ、カーティスさん。でも、それを言うなら――」
ライラックはしゃがんで、カーティスと視線を合わせた。そして、いたずらっぽい表情で楽しげに言う。
「僕とオズさんも『いたずらなかま』さ」
その言葉を聞いたオズも、朗らかに笑いながらカーティスに伝える。
「そうだよ、ライラとわたしもおなかま。いたずらなかまで、いっしょにたのしんだなかまだねっ」
カーティスの表情が一気に明るくなる。そうなんだ。みんな、いたずらなかま! いっしょ!
「うんうん、それに今日は、誰かが悲しむようないたずらは駄目だけど、みんなが楽しくて笑顔になるいたずらは大歓迎の日だからね!」
クラウンの説明に、カーティスはわあー! ともふもふの両手を挙げた。
「そうか、だからトリックオアトリートなんだね!」
カーティスの好きなレーションはポテトサラダ味だ。地上のドーナツとキャラメルナッツバーはもっともっと好き。でも、今日はもっともっともっと好きになったものがある。それは、みんなと食べるハロウィンのお菓子だ。
その時突然、おどろおどろしい音楽が鳴り響いてパーティ会場が真っ暗になった。びっくりしたカーティスは慌ててライラックの服の袖を掴む。オズとクラウンもカーティスを守るような位置に立った。事故か、それとも敵が現れたのかと驚いたが、どうやら特別なイベントが始まったらしい。
壁にプロジェクションマッピングのように吸血鬼の城が映し出される。立体的な映像でコウモリが飛び交い、オバケが踊り、巨大な南瓜が空から落ちてきて――ぱっと照明が点くと、パーティ会場の中央に、全長2メートルはありそうな巨大な南瓜のケーキが登場していた。
「すごいー!!」
会場中が大騒ぎだ。クラウンもオズもカーティスも目を輝かせ、ライラックも楽しそうに巨大ケーキを見つめていた。
切り分けられ始めた南瓜ケーキを皆でもらいに行こうとしたその瞬間、何かがびゅーんと飛んできた。今度はイベントではない。
「あっ! もしかして、これは……!」
クラウンはすぐに気づいた。ひよこーんが弾けて襲いかかってきたのだと。
「ひよひよ! ひよー!」
「ひよこーん、待ってたよ!」
クラウンはそのままひよこーんを口の中でお出迎えした。そして食べる。サクサク。
「わ、キャラメル味で美味しい!」
オズもいいにおいに振り返ると、口の中に何かが飛び込んできた。
「むぐっ……ひよこーんだ!」
もぐもぐ食べる。とても香ばしい。
「おずりんは何味だった?」
「わたしはしおあじっ。ふふ、あつあつでおいしい」
「塩味美味しそう!」
楽しくて美味しそうなクラウンとオズを真似て、カーティスもおおきな口を開けてひよこーんをキャッチする。はふはふ、もぐもぐ。
「あふい! ふふ! でもおいひい!」
「カーティスのは、なにあじ?」
「キャラメルみたい! あまいよ!」
「いいな! わたしも、キャラメルのたべたいっ」
皆の様子を微笑ましく見守りながら、ライラックも口に飛び込んできたひよこーんを慌てて頬張った。
「ン、此は、……バター味? 美味しいけれど、僕もキャラメルが欲しいかも」
「バターも気になる! もっと食べよ!」
ひよこーんは4人目掛けて次から次へと飛んでくる。しかし、飛んでいる最中は何味か判別不能だ。これは口でキャッチし続けるしかない。4人は片っ端からひよこーんを食べ続けた。
「やったあ、キャラメルだっ」
「残念、4連続で塩味だ。次こそキャラメルを……」
こうして、ハロウィンパーティを壊そうと襲いかかってきたひよこーんは、全て4人に美味しく食べられて消えてしまった。
「塩味もキャラメル味もバター味も美味しかった! ……あっ、南瓜ケーキが残りちょっとになってる!」
4人は慌ててケーキももらいに向かう。間に合ってよかったとほっと一息だ。
バニラアイスがトッピングされた南瓜ケーキを受け取り、皆で美味しく食べた。他にも気になるものは山ほどある。次に何を食べようと相談する時間も楽しくて、笑顔の時間はまだまだ続いていく。ハロウィンの魔法は終わらない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ニコ・ベルクシュタイン
仮装:SD参照、狼男
毛の色がピンクになってしまった理由は
仕立屋さんに一任したため本人にも分かっていません
合法的に美味しい料理を好きなだけ楽しんで良いと聞いては
居ても立っても居られないという物だな
此の衣装ではちと食器を手に取りづらい
鉤爪で摘まんでも大丈夫そうな…カップケーキなどをメインに
食事を存分に楽しみたい
幸い食事に好き嫌いは無いのでな、勧められれば喜んで食べるぞ
む、何やらポップコーンの方から勝手に飛んで来る気配がするな
此の宴席にわざわざ飛んで来るとは気が利くではないか!
と、わざと災魔を煽る言動で冷静さを失わせつつ
パーティの演出も兼ねて【花冠の幻】で迎撃だ
無差別範囲攻撃など此の俺が許さんぞ?
榎・うさみっち
仮装:南瓜SD参照。魔獣使い
仮装の鞭をペシーンとしながらうさみっち様登場!
トリックオアトリート!!
お菓子くれないとこの鞭を浴びせてやるぜ!
などと悪者っぽくパフォーマンスしつつ
お菓子を食べまくる!
大好きな抹茶のお菓子を制覇してやるぜー!
(※色んな抹茶系スイーツでお任せします)
ひよこーんも食えると言っていたな!
ならば食うしかあるまい!!
いでよ【こんとんのやきゅみっちファイターズ】!
日々の鍛錬の成果を見せる時だ!
飛んでくるひよこーんをグローブで華麗にキャッチ!
たまに本能的にバットで打ち返す奴も居るとか
やきゅみっち達と一緒にひよこーんを美味しく頂きました
塩とキャラメルどっち派~?と総選挙してみたり
●
「合法的に美味しい料理を好きなだけ楽しんで良いと聞いては、居ても立っても居られないという物だな」
狼男の仮装をしたニコ・ベルクシュタイン(時計卿・f00324)は、パーティ会場に並ぶ様々な料理を興味深く眺めていた。
背中が大きく空いたホルターネックの黒いシャツに、ボトムは白い虎を思わせる柄。首に巻いた赤い首輪には鎖を引きちぎった痕跡があり、腕には南瓜の飾り付きだ。非常にワイルドな印象である。耳も尻尾ももふもふで、手と足ももふもふでありつつも、鋭い鉤爪が光っている。毛の色がピンクになってしまった理由は、仕立屋さんに一任したため本人にも分かっていないが、それはやっぱり愛のせいではないかという天の声が聞こえてくる気がした。
とても格好いい仮装だが、いざ何か料理を食べようとした時、食事の際にはかなり不便だということに気づいた。
――此の衣装ではちと食器を手に取りづらい。
もふもふの狼グローブをはめた状態だと、トングですら掴むことが難しいのだ。ニコはふうむと悩みつつ、まずは鉤爪で摘まんでも大丈夫そうなカップケーキを手に取った。
その時だ。パーティ会場の入り口から、何かがニコ目掛けて猛スピードで飛んできた。もうひよこーんが出現したのかと一瞬だけ身構えたニコであったが、その正体に気づいてカップケーキを落としそうになるほどに驚愕した。
仮装の鞭をペシーンとしながら現れたのは、最愛の人である榎・うさみっち(うさみっちゆたんぽは世界を救う・f01902)だったからだ。
「うさみっち様登場! トリックオアトリート!!」
ペシンペッシーン! 魔獣使いに仮装したうさみっちは鞭を派手に振り回す。もふもふとしたファー付きのコートと帽子は、両方とも普段着ているパーカーとよく似た青色だ。二股のピエロ帽子のデザインも愛らしい。南瓜パンツも左右色違いのタイツもカラフルな縞模様で、髪にはニコとお揃いの南瓜の飾りが付いていおり、足元には可愛い南瓜とクロスがほわんと輝いている。そして最大の注目ポイントは、やはり手に持った真紅の鞭だろう。襟元の赤いリボンを揺らしながら、うさみっちは鞭を構えてポーズを取った。
「お菓子くれないとこの鞭を浴びせてやるぜ! ……あれっ、ニコ! 来てたのか!」
うさみっちは、ぽかんと魔獣使いうさみっちを見つめているニコがいることにやっと気づいた。悪者っぽいパフォーマンスに夢中になりすぎて、種族を超えた何かを感じている大切な人に暫く気づかないとは、なんたる不覚。
「うさみも来ていたのか。驚いた」
「おう! 普段は朝8時30分の一番乗りに定評のある俺だが、今日はみんなの南瓜SDの感想を言ったりしてる間にすっかり出遅れたぜ! でも猛ダッシュして、パーティに間に合ってよかった! ニコにも会えてラッキー!」
「うさみよ、お疲れ様だ」
「ニコもな! 大変そうだし、お疲れ様だぜ!」
同じ仕立て屋さんにお揃いで依頼した仮装は、やはり隣り合わせの時が一番輝く。思いがけない場所で出会えたことも嬉しくて、2人ともとても幸せそうな表情をしていた。
●
「よーし、大好きな抹茶のお菓子を制覇してやるぜー!」
うさみっちは気合を入れた。ハロウィンだけあって南瓜を使ったお菓子が多いが、抹茶味も多い。流石、抹茶味は定番中の定番で大人気の味である。
まずは抹茶クッキーからだ。緑のオバケのアイスボックスクッキーは、目と鼻の部分はココアクッキーで作られている。少し顔が歪んではいるが、それもまた不気味な感じで可愛らしい。
次は抹茶のデコレーションマドレーヌだ。パータデコールで作成した愛らしいジャック・オ・ランタンや黒猫のイラストが付いており、とても華やかである。
「こうやってお菓子に絵を描く方法もあるんだな!」
うさみっちは感心してマドレーヌを見つめる。神絵師の腕を持つうさみっちは、推しキャラの絵を描いたデコマドレーヌやデコケーキを作ってみたい気分になった。それをSNSに投稿したらバズりそうだ。
まだまだ抹茶のお菓子天国は続く。抹茶チョコで作られたゾンビのチョコポップもキモカワである。串が刺さった丸いチョコにチョコペンでゾンビの顔が描かれているのだが、抹茶チョコの深い緑色は顔色の悪いゾンビにぴったりで、抹茶とゾンビの相性の良さに驚かされる。同様に、抹茶のパウンドケーキにデコられたフランケンシュタインの顔も、なかなかいい雰囲気である。南瓜プリンの横に置いてあった抹茶プリンも見逃さずに持ってきた。ホワイトチョコの可愛いオバケがちょこんと添えられている。
ニコが食べる料理も、うさみっちが取ってきて彼の皿の上に乗せた。並んでいる料理を自分の皿に取り分けるのも大変だと思っていたニコはとても喜んだ。幸い、ニコに好き嫌いはない。うさみっちが好きな抹茶のお菓子も一緒に楽しみ、甘い幸せを堪能していた。
鉤爪では食べにくいものは、うさみっちがフォークやスプーンでニコの口へと運んだ。所謂あーんであるが、今回はこういう状況なので、決して公衆の面前で所構わずイチャイチャしているという訳ではなく、必要不可欠なのだ。
そんなこんなで思う存分イチャイチャ、ではなくて抹茶系スイーツを楽しんでいるところに、ついにひよこーんが襲来した。
「ひよひよー!!」
ひよこーんの群れは一直線にニコとうさみっちに向かって突っ込んでいく。
「む、何やらポップコーンの方から勝手に飛んで来る気配がするな」
ニコはひよこーんの気配を迅速に察知し、黒縁眼鏡越しの鋭い眼差しでひよこーんの群れを見据える。
「此の宴席にわざわざ飛んで来るとは気が利くではないか!」
その煽るような言動に、理性が低下しているひよこーんはますます冷静さを失った。ニコの狙い通りである。
「ひよこーんも食えると言っていたな! ならば食うしかあるまい!!」
うさみっちは宙に浮かんだまま、ビシリと右手を掲げてポーズを決める。
「いでよ【こんとんのやきゅみっちファイターズ】! 日々の鍛錬の成果を見せる時だ!」
うさみっちの号令に合わせて、野球服うさみっち団、通称やきゅみっちが次々に現れた。1軍と2軍を合わせた人数のやきゅみっちが……いやもっと大量のやきゅみっちが整列している。もしかしたら3桁はいるかもしれない。しかも今回はハロウィン仕様ということで、野球帽の代わりに魔女の帽子を被っており、実に可愛らしい。バットとボールはペロペロキャンディとキモカワな目玉チョコだ。グローブもクリームドーナツである。その姿に、きゃー可愛いとパーティの参加者は大盛り上がりだ。
やきゅみっち達は飛んでくるひよこーんをクリームドーナツで華麗にキャッチした。
「ひよよっ!」
捕まえられたひよこーんは鳴いたが、そのまますぐに動かなくなった。やきゅみっち達は動かないひよこーんを容器の中へ入れて、素早く次のひよこーんを受け止める作業に戻る。瞬く間に容器から溢れるほどのひよこーんが集まった。どう見てもポップコーンである。たまに本能的にバットで打ち返す奴もいて、ジャストミートされたひよこーんは吹っ飛びながら散っていった。
だが全やきゅみっち団が死力を尽くしても対処しきれないほどの、大量のひよこーんが一斉に飛びかかってきたのだ。
「数が多すぎる……! もっと人員を増やしておくべきだった!」
うさみっちが悔しげに呟いた時、ニコが動いた。
「うさみがひよこーんを捕まえるのを邪魔しないようにと思い見守っていたが……任せておけ」
ニコはうさみっちの前に立ち、ピンク色の腕をそっと掲げて静かに詠唱する。
「夢は虹色、現は鈍色、奇跡の花を此処に紡がん」
穏やかな風が吹いたかと思うと、ふわりふわりと虹色の薔薇の花びらが現れた。楽しい祭に血生臭い戦いは似合わない。パーティの演出も兼ねて、ニコは美しいこの技を選んだのだ。奇跡の花言葉を持つ薔薇から溢れた花びらはひよこーんに向かって飛んでいく。そして怒りに支配されている彼らを包み込むように優しく受け止めた。
「無差別範囲攻撃など此の俺が許さんぞ?」
ニコが再び腕を掲げると、ひよこーんを包み込んだ花びらは風に乗ってふわりと円を描くようにニコの元へと戻ってきた。そして動かなかったひよこーん達をうさみっちの用意した容器の中へそっと落とし、淡く光りながら消えていった。
「ニコ……! やきゅみっち達がキャッチできなかったひよこーんは消えるのかな、勿体ないなと思ってたら……!」
「この程度は造作も無い。うさみを悲しませずに済んで何よりだ」
大切な人の気遣いにうさみっちは打ち震えるほどに感激した。もう動き回っているひよこーんは1匹もいない。全て容器の中で沈黙しており、美味しそうな香ばしい匂いが周囲に漂っていた。
そしてうさみっちとニコは、やきゅみっち達と一緒にひよこーんを美味しく食べた。パリパリポリポリ、皆で食べるとすぐ無くなった。
「塩とキャラメルどっち派~?」
急遽開催された総選挙も大盛り上がりである。パーティ参加者達も面白そうだと票を投じてくれたのだ。結果はというと、僅差で塩が勝ったようだ。比較的レアなイチゴミルク味や明太子マヨネーズ味、ゆずこしょう味などを支持する者もいて意外と票が割れ、ポップコーンにも色々な種類があるのだなと思うニコとうさみっちであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リル・ルリ
【春告鳥】
アドリブ歓迎
SD参照(ぺんぎん
八咫烏な君の横でご満悦
クロウ!とりくおあとりと!
お菓子頂戴!
わぁありがとう
ぺんぎんの!可愛い
お菓子を貰って満面笑顔
ちょこにましまろ、飴にくっきー
はろいんの柄で可愛い
食べるのが勿体ないと言いつつもりもり食べ
クロウはたべないの?
僕のあげる
こーひの飴ね
…苦いのが食べれてすごい
はろいんの呪文言ったら渡すよ
ひよこーんだ
いい香り、美味しそう
ばたーの味がいいな
塩もいいし
きらめるもいい
仮装姿は動きにくくて
お菓子守るよう籠を抱き込んだまま歌唱に鼓舞をこめ歌う
「魅惑の歌」
動きを止め…
熱!
降ってきたひよこーんに驚き転がる
クロウ!起こして(じたじた
嗚呼これはいい!
このままいこう
杜鬼・クロウ
【春告鳥】
アドリブ◎
八咫烏風の仮装
リルの仮装、ヨルだよなァ!
凄ェ可愛いぜ
櫻も見惚れそうだ
お、待ってたぜその魔法の呪文をよ!
指鳴らし夜雀召喚
一輪のトルコ桔梗に棒付き飴持参
俺からはコレな
ペンギンのアイシングクッキーと南瓜カップケーキの詰め合わせ渡す
リルにとっちゃ最高の祭だな!
俺は甘いの苦手だから珈琲味の飴欲しい
…とりっくおあとりーと(イケボ
可愛すぎると戦いづれェケド
って今日のリルは食いしん坊だなァ
俺はチーズと黒胡椒味がイイ
リルを護る形で前へ(飴舐め
動き鈍った所を魔水宿した玄夜叉で一刀両断
リル、平気か?!
可愛…じゃねェ今助ける(起こし
ンじゃこうするか(片手でリル抱え敵蹴散らす
お前の歌があれば余裕だぜ
●
ぽてりぽてり。
丸っこくて可愛いぺんぎんが、お菓子がいっぱい入った南瓜の籠を大切そうに両手で持って、パーティ会場を歩いていた。――いや、ぺんぎんではない。ぺんぎんの着ぐるみを着用したリル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)だ。先端を瑠璃に染めた秘色の長い髪は着ぐるみの外に出ており、歩く度にゆらゆら揺れる。
同じく着ぐるみに収まりきらない月光ヴェールの尾鰭はとても美しく、まるでウェディングドレスの裾のようにふわり揺らめく。可愛らしくてお気に入りの仮装に、リルは上機嫌だ。
そして、上機嫌の理由がもうひとつある。八咫烏風の仮装をしている杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)が隣にいるからだ。洋風アレンジされた黒い和服の袖には八咫烏を思わせる優雅な羽飾りが付いている。袖口でじゃらりと揺れる装飾品は勾玉モチーフで、和服の裾に金の糸で刺繍された印象的な三本ラインは八咫烏の三本足を思わせた。髪には鳥籠モチーフの一本簪が飾られている。とても格好いい八咫烏のクロウの横でリルはご満悦だった。それに、ぺんぎんの動きがゆったりのんびりで遅くても、クロウならゆるしてくれる気がするから安心だ。
「リルの仮装、ヨルだよなァ! 凄ェ可愛いぜ。櫻も見惚れそうだ」
クロウの言葉にリルはえへへと嬉しそうに笑う。クロウが言う通り、このぺんぎんのモデルは、わんぱくでやんちゃなぺんぎんの赤ちゃんのヨル。リルの大切な家族だ。大好きなヨルの仮装ができてリルはとても嬉しくて、可愛いとクロウに褒められてもっともっと嬉しかった。
リルとクロウの横を小学生くらいの男の子がお菓子を大量に抱えて歩いていた。それを見て、あっ、とリルは何かを思い出したようだ。クロウをじっと見つめて、口を開く。
「クロウ! とりくおあとりと! お菓子頂戴!」
「お、待ってたぜその魔法の呪文をよ!」
クロウは楽しそうに目を細め、パチンと指を鳴らす。
微かに風が巻き起こり、瞬く間に夜雀という名の蝙蝠に変化する果実型式神が召喚された。夜雀は一輪のトルコ桔梗に棒付き飴を持っており、それをリルにどうぞと差し出した。リルの為に用意してきたのだ。
「わぁありがとう」
「俺からはコレな」
クロウから手渡されたのは、ペンギンのアイシングクッキーと南瓜カップケーキの詰め合わせだ。金のラメが散りばめられたパンプキンカラーのリボンを巻いた可愛い小箱に入れられており、見ているだけでも楽しい気持ちになる。
「ぺんぎんの! 可愛い」
キラキラと、リルは薄花桜の瞳を輝かせる。夜雀とクロウから素敵なお菓子を貰って満面の笑顔だ。
●
ちょこにましまろ、飴にくっきー。
パーティ会場内には数多くのお菓子が用意されていた。それに、可愛いぺんぎんの仮装をしたリルに、通りすがりにお菓子を渡してくれるパーティ参加者も少なくなかった。リルの元にはあっという間に沢山のお菓子が集まって、手にした籠も既に満杯だ。
「はろいんの柄で可愛い……」
リルは幸せそうにお菓子を見つめる。どれも可愛いハロウィン柄パッケージに入っていたり、ハロウィン風の飾り付けが施されているのだ。可愛すぎて食べるのが勿体ないと言いつつ、美味しそうなお菓子の誘惑には抗えずにもりもり食べていた。
「リルにとっちゃ最高の祭だな!」
楽しそうに笑うクロウにうんと返事をした後で、リルは小首を傾げて不思議そうに尋ねた。
「クロウはたべないの?」
「俺は甘いの苦手だから珈琲味の飴欲しい」
「こーひの飴ね」
クロウのその言葉に、リルはごそごそと沢山のお菓子の入った南瓜の籠の中を探す。あった、と取り出したのは、茶色と金色のストライプ模様の包み紙の珈琲飴だ。
「……苦いのが食べれてすごい」
その飴を貰えるのかと、手を出して待機しているクロウにリルは言う。
「はろいんの呪文言ったら渡すよ」
どうやら魔法の呪文は必須らしい。なかなか厳しい。
「……とりっくおあとりーと」
偶々すぐ近くに女子学生の集団がいて、彼女達にまでその言葉を聞かれることに若干の抵抗を感じたクロウはリルの耳元に口を寄せ、リルにだけ聞こえるようにとイケボで呪文を囁いた。リルはうんうんと満足そうに頷いて、はいどうぞと珈琲飴をクロウの手に乗せる。ころりと、ほろ苦い大人の味が大きな手のひらの上で転がった。
●
「このゼリー、リルっぽくねェか?」
クロウが指差す先には、青と水色の美しいグラデーションのゼリーがあった。小さなグラス入りで、中には可愛いお魚とコウモリが一緒に泳いでいる。
「わぁ本当だ」
リルは嬉しそうにそのグラスを見つめた後、隣の珈琲ゼリーに視線を移す。上にトッピングされたクリームはオバケの形だ。
「この黒いゼリーは、クロウみたい」
「ン、珈琲ゼリーか。これなら俺も食えるぜ」
「じゃあ、一緒に食べよ」
スプーンを握り、2人でゼリーをぱくりと食べる。優しい甘さと、ほろ苦さ。ほんのりと冷たいふたつの味を2人で楽しんだ。
そしてリルは気づく。扉の陰から、こちらの様子を伺っている影があることに。
「……ひよこーんだ」
香ばしい匂いが漂ってきたのですぐに分かった。いい香り、美味しそう。クロウも同じ方向に視線を向ける。フライパンに乗ったひよこーん達がこちらを見つめている。その丸くてもこもこした姿は、戦う相手としては少々ラブリーすぎる。
「可愛すぎると戦いづれェケド……」
「ばたーの味がいいな。塩もいいし、きらめるもいい」
「……って今日のリルは食いしん坊だなァ。俺はチーズと黒胡椒味がイイ」
「それも美味しそう」
「ひよー! ひよよ!!」
楽しいポップコーン談義が始まりそうだったところへ、ひよこーん達が鳴きながら突撃してきた。
「来たか」
可愛すぎるが戦わねばならない。クロウはリルを護る形で前へ出た。そして先ほどリルからもらった珈琲飴を口の中に放り込む。甘さ控え目の苦味は望み通りの味だ。力が湧いてくる。
やはりぺんぎんの仮装姿は動きにくい。 でもクロウが護ってくれているから安心だ。リルはお菓子守るよう籠を抱き込んだまま、想いと祈りを込めて歌い始めた。
――何を見ているの どこを見ているの 何を聴いているの――そんな暇があるなら、僕をみて 僕の歌を聴いて。離して、あげないから。
奇跡のように澄み切った透徹の歌声がパーティ会場内に響き渡る。この世のものとは思えぬほどの美しい歌声だ。かつて水没都市にある劇場の歌姫だったリルの歌声に魅了されぬものなどいない。魂を惹き付け離さず、恍惚と陶酔を齎す。そして蕩ける程に身も心も魅了して、気づいた時にはもうリルの虜になっているのだ。
「ひ、ひよっ……!」
ひよこーんもその歌声に一瞬で魅了された。ぴたりと動きが止まったが、ごく一部のひよこーんは魅了されつつも全力で飛んでいた勢いが止まらずに、そのままリルに引き寄せられるように降り注いでしまった。
「熱!」
リルは降ってきたひよこーんに驚きころりんと転がった。このぺんぎん姿で転倒すると自力で起き上がることは困難だ。
「クロウ! 起こして」
「リル、平気か?!」
クロウは慌ててリルの元へと駆け寄る。じたじたと短い手足をばたつかせるリルはあまりに可愛すぎた。
「可愛……じゃねェ今助ける」
怪我はしていない様子に胸を撫で下ろしながら、クロウは手を伸ばしてリルを抱き起す。リルは安堵のため息をついた。
自力では起き上がることができず、不安だっただろう。もうリルを転倒させる訳にはいかない。ではどうすればリルを護れるのか――クロウは僅かに逡巡したが、答えはすぐに出た。
「ンじゃこうするか」
クロウは片手でリルを軽々と抱えた。宝物を護るように優しく、そして力強く。リルはわぁと驚き、そして笑顔になる。
「嗚呼これはいい! このままいこう」
「お前の歌があれば余裕だぜ」
リルは再び歌い始める。途端にひよこーんは動きが鈍った。その機を逃さず、クロウは玄夜叉と名付けた黒魔剣を構え、念を込めてその刃に魔水を宿す。
「鬼も隠れし十重二十重にて消えし我が銘をクロウと号す。天照へ祝を奏上し請い願う――八咫が守りし遍く輝きにて、昏き禍つを祓う力をと!」
力強い声で詠唱すれば、握りしめた玄夜叉から流れ込んでくる力がはっきりと感じられた。そのまま迷いなく愛刀を振り下ろす。ひよこーん達は一刀両断されてあっという間に消滅した。
「あ、ひよこーん……」
食べたかったけれど、全部消えてしまった。リルはほんの少しだけしょんぼりしていたが、南瓜の籠の中に何個かのポップコーンが入っていることに気づいた。最初に降り注いだひよこーんがまだ残っていたのだ。指先でつまんで、ぱくりと食べる。
「ばたーの味だ」
食べたかった味だ。さくさくとして、とても美味しい。リルは嬉しくてにっこりと笑った。
「クロウも食べる?」
籠を差し出され、クロウも口に放り込んだ。
「お、塩味」
「ひよこーん、美味しかったね」
もうひとつだけ残っていたひよこーんを、リルは大事に口に運んだ。最後の一粒は、甘くてほんのちょっとだけ苦いきらめる味だった。
「ねぇ、クロウ。もっとお菓子が欲しい。もらいにいこう」
「イイぜ。ンじゃ行こう」
ぺんぎんと八咫烏。親子のようにも見える2人は並んで歩き出す。きっと沢山の可愛くて美味しいお菓子と、甘さ控え目で胸焼けしないお菓子に出会えるだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エドガー・ブライトマン
アキラ君(f03255)とやってきたよ!
仮装はSD参照、妖狐の姿だよ。尻尾がフワフワ
そう、偶然にも同じデザイナーにお願いしていたのさ
ああ、こんな機会はなかなか無いからね!
おいしいものをたくさん食べたいなあ!
レディもその方がいいって言ってるぜ(白手袋をしたままの左手を振る)
多分私も好き嫌いは無いよ
少なくとも記憶にはないなあ…
私ちょっと忘れっぽくてね
気になったものは一通り食べていく
このクモみたいなやつ、チョコレートで出来ているんだ!
いいね、写真を撮ろう
それならきっと忘れても、思い出せるから
オブリビオンっておいしいのかい?
レイピアでつついて食べてみる
あっおいしい
ちなみにレディは働かないよ。鬼嫁なんだ
鵜飼・章
エドガーさん(f21503)と
仮装はSD参照、幽霊の花嫁
偶然同じデザイナーさんなんだ
いつもご飯を食べ忘れて空腹な僕…
晩御飯がパンのかけらなエドガーさん…
今日はお腹一杯食べて帰ろうね
レディさんもこんばんは(手を振り返し
彼女も心配してるのかな…
エドガーさんは好き嫌いある?
…多分?ふふ、そう
僕も結構物忘れ酷いよ
よし、目についたもの全部食べよう
全部おいしい
食べ物ってすごいね…
虫や鴉がモチーフの料理は食べる前に撮影
チョコの蜘蛛、凄く可愛い
そうだ、一緒に写真撮らない?
忘れるなら写真に残せばいいよ
勿論ひよこーんも食べる
紹介するよ、これは夫のカブトムシ
倒してもらって食べる
頼れる夫だなあ
きみの家庭円満を祈るよ…
●
「アキラ君! 美味しそうなものばかりだよ!」
「すごいね。とても豪華なパーティだ」
エドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)と鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は賑やかな会場内を見回した。
エドガーの仮装は妖狐だ。彼はかつてサムライエンパイアを旅して『肝試し』と呼ばれるお祭りに仮装姿で参加したことがある。その際に今回とよく似た仮装を経験しており、その時の楽しかった記憶を元に妖狐の仮装を選んだのだ。
その時は、マントがないのは少しさびしいとも感じた。だが今回は、デザイナーさんがまるでひらひらした裾がマントのようにも感じられるデザインに仕立ててくれた。尻尾もふわふわで、背中がとても暖かい。寒い冬はこの尻尾を常に付けておきたい気分にもなってくる。もちろん耳もふわふわだ。紅白を中心とした色使いも、リボンのように結ばれた紅白の注連縄も目出度い印象で、彼は皆に幸せを齎す王子なのだろうと実感させる。周囲に浮かぶ狐火も妖しく美しく、着物の袖の部分は狐火の色と揃いのグラデーションで染められていた。
そして、章の仮装は幽霊の花嫁である。白磁の肌によく似合う純白の花嫁衣装は少し黒ずみ、ところどころ破れている。腰に巻かれた布地はふわりとしたスカートの一部なのかと思いきや、包帯のようだ。腕の部分の花柄レースも美しく、首に巻いた漆黒のリボンが花嫁に突如訪れてしまった悲しい死を感じさせる。そして、頭には枯れた花が飾られたヴェールが揺れていた。寂しげに佇む姿はあまりにも儚く、真珠の飾りは零れ落ちた涙のようだ。花嫁だがしっかりとスラックスを履いているところにもデザイナーさんの気遣いが感じられた。章は普段は黒い服を好んでいる為、白い服はとても新鮮な雰囲気でもある
2人はかつてアリスラビリンスの会社で出会い、サクラミラージュの同じ店で鍋をつついたこともある。そして偶然にも同じデザイナーさんに今回の衣装を依頼していたのだ。互いにシンパシーを感じずにはいられない。
――いつもご飯を食べ忘れて空腹な僕……。
――晩御飯がパンのかけらなエドガーさん……。
こういうところも妙に親近感が湧く。章はエドガーに微笑みかける。
「今日はお腹一杯食べて帰ろうね」
「ああ、こんな機会はなかなか無いからね! おいしいものをたくさん食べたいなあ!」
エドガーは朗らかに笑った。そして白手袋をしたままの左手をひらりと振る。
「レディもその方がいいって言ってるぜ」
「レディさんもこんばんは。彼女も心配してるのかな……」
章も笑顔で手を振り返した。左腕に宿る狂気のバラはいつもエドガーと共に在り、彼を独占している。だからこそ、章が想像している通りに彼のことを誰よりも心配しているのだ。
少し離れた場所で、頭に悪魔のツノや天使の輪っかを付けた数人の女子学生達が章とエドガーを見つめて「ねえ、見て見て。かっこいいー!」と騒いでいた。おお、とエドガーは感心する。
「アキラ君の人気はすごいね! 前に潜入した学園で握手会を開催していたのも見かけたよ。ここでも臨時で握手会を開催すればあっという間に列ができそうだ」
「ふふ。彼女達はエドガーさんを見てたんじゃないかな。それに、今日は顕微鏡を持ってきていないからね。握手会の疲れを癒す術がないので止めておこう」
「なるほど。モテるというのも大変なことだね!」
「エドガーさんもモテそうだけどね。王子様だし」
「いやその、私にはレディが……あ、レディ、怒らないでくれ。一筋だから……」
慌てて左手を抑えるエドガーを見て、その微笑ましさに章は小さく笑った。
●
「エドガーさんは好き嫌いある?」
豪華な料理の前で、章はエドガーに質問した。
「多分私も好き嫌いは無いよ。少なくとも記憶にはないなあ……」
「……多分? ふふ、そう」
「私ちょっと忘れっぽくてね」
少し照れ臭そうにエドガーは言う。レディはエドガーの記憶を蝕むことで生きていけるのだ。愛するものの為だからこそ、エドガーは記憶を喪い続ける運命を受け入れた。
「僕も結構物忘れ酷いよ。数日間、食事することを忘れたりするし」
「それは命に関わりかねない大変な物忘れだね!」
「うん……だから今日は食べ貯めしようと思って……よし、目についたもの全部食べよう」
このような目的だと、やはり自然とお菓子類よりもおかず系のメニューが食べたくなる。気になったものは一通り食べていくと決めていたエドガーも、最初に目に入ったのはジュージューと焼かれている分厚いステーキだった。
まずは目の前で焼かれたヒレステーキを食べた。柔らかくて美味しい。次に、職人が握ってれる寿司屋台に向かい、マグロとサーモンを握って貰う。今日は学園から要請があり、新鮮なネタを持参してこのパーティに臨時出店しているらしい。シャリの3倍くらいの長さの特大ネタに感激しながら食べた。当然のように美味しい。ロティサリーで焼き上げたひな鶏も、いかにもご馳走といった雰囲気だ。焼きたてホヤホヤで勿論美味しい。キャラメリゼしたローストポークも食べておこう。ソースも最高だ。ローストビーフはカッティングサービスで、調味料も選べるそうだ。やはりグレービーソースが合うだろうか。だがトリュフ風味のフレーバーソルトも高級そうで気になるところだ。オマール海老のグリエも忘れずに食べないと後悔しそうだ。それに野菜も必要だろう。新鮮そのものな有機野菜のフレッシュサラダを食べておこう。
「全部おいしい。食べ物ってすごいね……」
「そうだね。食べ物はすごい」
この人達は普段は何を食べているのだろうと心配になってしまう会話を繰り広げつつ、そろそろデザートも欲しい頃合いだ。
「チョコの蜘蛛、凄く可愛い」
章はパシャリとカメラで撮影した。虫や鴉がモチーフの料理は食べる前に撮影している。青虫の抹茶ロールケーキや鴉のアイシングクッキーなど、可愛いものが多い。蜘蛛の巣模様のレアチーズタルトも芸術的で美しかった。
「このクモみたいなやつ、チョコレートで出来ているんだ!」
エドガーは夢中になって蜘蛛を見つめた。かなりリアルで、まさかチョコレートだとは思わなかった。いつか忘れてしまうとしても、今は記憶に残しておきたい。
「そうだ、一緒に写真撮らない? 忘れるなら写真に残せばいいよ」
章のその言葉に、エドガーはハッとする。
「いいね、写真を撮ろう。それならきっと忘れても、思い出せるから」
忘れることは慣れている。それでもやはり、寂しさはある。ならば、思い出せるようにしておこう。その時に起きた出来事を、そしてその時の感情を。撮った写真をプレビューで見てみると、章もエドガーもとてもいい笑顔をしていた。
●
そしてついに彼らがやって来た。
「ひよひよ! ひよー!!」
怒りに我を忘れ、フライパンの上で熱々になったひよこーん達が突撃して来たのだ。
勿論、章はひよこーんも食べるつもりだ。周囲に広がる香ばしい匂いを吸い込みつつ、エドガーはかねてからの疑問を章に尋ねてみた。
「オブリビオンっておいしいのかい?」
「おいしいものはおいしいよ。でも顔がついていると一般的には食べにくいよね」
「一般的……アキラ君は大丈夫なんだね」
「食べられるものは全て受け入れる心意気なんだ」
「さすがだね、アキラ君!」
楽しそうに微笑みながら、章は確証バイアスですごくかっこいい巨大カブトムシを召喚した。世界の未来を担うカブトムシロボ……ではない。
「紹介するよ、これは夫のカブトムシ」
まさかの夫であった。花嫁だから夫がいるのだろうとは思っていたが、カブトムシだったのは予想外だ。だがしかし。
「アキラ君。キミとの付き合いは決して長い訳ではないけれど……なんとなく、キミがカブトムシと結婚したと知ったら、キミの周囲の人達の95%くらいは心から祝福しそうな気がしているよ……」
「ふふ。そうかもね。僕も嬉しい」
章は微笑み、カブトムシにそっと寄り添い、その体に手で触れた。妻の期待に応えるように、カブトムシはツノを振り回してひよこーんを倒しまくった。章は倒されたひよこーんが床に落ちる前に籠でキャッチする。美しい夫婦の共同作業だ。
「頼れる夫だなあ」
籠いっぱいになったひよこーんを見て、章は幸せそうに笑う。エドガーは思わず拍手してしまった。今日の出来事はハロウィン限りの一夜の夢だが、カブトムシ夫婦の未来に幸あれ!
エドガーも自分の側に飛んできたひよこーんをレイピアでつついて食べてみた。
「あっおいしい」
予想していたよりもずっといい味だ。続けて何匹か食べてみた。これはいける。また食べられそうなオブリビオンと出会ったら食べてみよう。パンのかけらよりもずっと良さそうだ。
「ちなみにレディは働かないよ。鬼嫁なんだ」
仲睦まじいカブトムシ夫婦を見て、思わずぽろりと言ってしまった。途端に左手がギリギリと締め付けられる。
「い、痛……レディごめ……いたたたた!」
あまりの痛みに蹲ってしまうエドガーに、章は沈痛な面持ちで声をかける。
「きみの家庭円満を祈るよ……」
レディさんは心からエドガーさんを愛している。だからきっと大丈夫だろう。そして籠の中のひよこーんをぱくりと食べた。塩味もキャラメル味も美味しい。
しかしまだまだ食べ足りない。もう少し何か――と、周囲を見回して、カブトムシケーキがあることに気づいた。これはすごい。急いで夫の元へと持って行き、一緒に写真を撮った。
「エドガーさんも、さあ一緒に」
やっと立ち上がったエドガーも誘い、2組の夫婦で記念撮影だ。ハロウィンは本当に特別な時間で、あと数時間後には魔法は解けてしまう。けれども写真を見ればいつでも思い出せるだろう。美味しかった料理も、楽しかった気持ちも。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リュカ・エンキアンサス
マリアドールお姉さん(f03102)と
アドリブ歓迎
狼男の仮装で
お姉さんがお菓子をいっぱい持ってきてくれるというのでお腹をすかせていくことにする
勿論会場にあるお菓子も貰う。折角の機会なので、食いだめしておければいいかなって思ってるのはちょっと秘密
かわりにお茶を入れよう
珈琲は得意だけれども、紅茶もちょっと自慢できるよ。お姉さんはどちらが好き?
…すごいね、お菓子がたくさんだ
トリック・オア・トリート?
で、いただきます
うん、今日のお菓子もとても美味しい
ありがとう
ひよこーんがきたら隠していたダガーで応戦
お姉さんはキャラメル味がいいそうだから、悪いけれどもいただいていくね
落ち着いたら、お茶会の続きにしようか
マリアドール・シュシュ
リュカ◆f02586
アドリブ◎
・仮装
うさ耳カチューシャに尻尾
花柄の着物に袴
籠には沢山の星型チョコクッキーと種入り南瓜マフィン
包み丁寧
リュカは可愛い狼さんなのね!
マリアは兎さんだから、がおーってされちゃうかしら(ふふ
さぁ、お菓子が欲しければあの呪文を唱えて頂戴?(くす
バレンタインの時に渡したお菓子より美味しい筈なのよ!(お菓子作りの腕は密かにあげてた
沢山食べてね
リュカが淹れたお茶をまた飲めるなんて(嬉々
今度は紅茶にしてみるのよ
お砂糖たっぷりの
このひよこーんも食べれるらしいのよ
キャラメル味や苺味…(じゅるり
兎らしくぴょんと跳ねて竪琴で陽気な旋律を奏でて攻撃
退治後はお茶会の続きを
美味しい料理に舌鼓
●
大きな狼耳が付いている黒いフード付きケープを着て、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)は人を待っていた。少し動く度に、背後のもふもふとした茶色の狼尻尾がゆらゆら揺れる。
リュカの仮装は狼男だ。胸元にはクリーム色と紫色の大きなボタンが留められており、オレンジ色の大きなリボンが揺れる。フードの裏地は青空と夜空を思わせるチェック模様で、靴紐も、まるで空を切り取ったような鮮やかな青色だ。左側の狼耳には愛嬌のあるオバケの顔がオレンジの刺繍で描かれており、ケープの陰に隠れた籠には笑顔の南瓜が入っている。ふと、時計を確認する。かなり早く来てしまった。待ち合わせの時間まで、もう少し――。
「リュカ!」
名を呼びれて振り返る。花柄の着物に袴を履いて、ふわふわのうさ耳カチューシャを付けたマリアドール・シュシュ(蜜華の晶・f03102)が、大慌てでこちらに向けって駆けてくるのが見えた。淡いクリーム地に紅樺色の花が咲く着物に、桑の実色の袴。いつもは青系の服を着ていることが多いマリアドールなので、リュカにはなんだかとても新鮮に感じられた。
大正浪漫風の和服兎さんは、丸い尻尾もふわふわだ。大事に抱えられた籠の中には沢山の星型チョコクッキーと種入り南瓜マフィンが入っている。全てキラキラした星が金色のインクで印刷された透明な袋と、青いリボンで丁寧にラッピングされていた。
「ごめんなさい、お待たせしたかしら?」
「大丈夫。今来たところだから、そんなに待ってないよ」
「よかった……」
リュカの言葉に、マリアドールはほっと胸を撫で下ろす。そして狼男のリュカをじっと見つめた。
「リュカは可愛い狼さんなのね! マリアは兎さんだから、がおーってされちゃうかしら」
ふふと楽しそうに笑うマリアドールに、リュカは少し考えてから、両腕を上げてポーズを取ってみた。
「がおー」
殆ど表情を変えずに威嚇してきたリュカに、マリアドールはきゃあとはしゃぐ。
「さぁ、お菓子が欲しければあの呪文を唱えて頂戴?」
マリアドールはくすくす笑いながら、お菓子が詰め込まれた籠をリュカに見せる。
「……すごいね、お菓子がたくさんだ。呪文は……トリック・オア・トリート?」
唱えられた呪文にマリアドールは眦を和らげる。そして籠を手渡した。
「ふふ、可愛い狼さんにプレゼント! バレンタインの時に渡したお菓子より美味しい筈なのよ!」
マリアドールはお菓子作りの腕は密かにあげてたのだ。美味しいお菓子を食べてもらいたくて。何よりも、喜んでもらいたくて。
「沢山食べてね」
「これは全部もらっていい?」
「もちろんよ!」
それならと、リュカは早速星型チョコクッキーを袋から取り出した。
「いただきます」
サク、と心地よい音が響いた。マリアドールはドキドキしながらリュカの様子を固唾を飲んで見守る。もぐもぐ、ごくん。
「うん、今日のお菓子もとても美味しい。ありがとう」
その言葉にマリアドールは心底ほっとする。
リュカは、マリアドールがお菓子をいっぱい持ってきてくれるというのでお腹をすかせて来ていた。美味しいお菓子をたくさん食べたかったからだ。もっと食べたくなり、種入り南瓜マフィンも袋から取り出してぱくりと頬張る。このマフィンもとても美味しかった。
美味しいお菓子のかわりにと、リュカはお茶を淹れることにした。パーティ会場には参加者用のテーブルや椅子も用意されており、そこで自由にお茶を淹れることもできる。タイミングよく、ちょうど席も空いていた。
「リュカが淹れたお茶をまた飲めるなんて」
マリアドールは嬉しくてソワソワしていた。
「珈琲は得意だけれども、紅茶もちょっと自慢できるよ。お姉さんはどちらが好き?」
マリアドールは思い出す。バレンタインの日の夜。立ち昇る珈琲の湯気。星空を見ながらリュカとゆっくりといろんな話をした時のことを、今でも鮮明に覚えている。つい長く滞在して、気づけば珈琲も冷めてしまって……けれども、とても美味しい珈琲だった。あの珈琲もまた飲みたい。けれども、今日は――。
「今度は紅茶にしてみるのよ。お砂糖たっぷりの」
リュカが淹れてくれる、大好きな紅茶が飲んでみたい。
「分かった。紅茶だね。少し待っていて」
お茶を淹れる道具や茶葉は持参した籠の中に用意してある。お湯は会場側で提供されているものを利用できた。美味しく淹れる為に、茶葉の量はティースプーンで正確に量る。そして砂時計で時間を計って茶葉をきちんと蒸らし、温めてあるカップに注いだ。
「はい、どうぞ。マリアドールお姉さん」
「リュカ、ありがとう」
リュカが自分の為だけに紅茶を淹れてくれるなんて、すごく贅沢だ。温かな湯気と共に、とても良い香りが漂っている。濃い赤褐色の水色も美しい。マリアドールは胸をドキドキさせながら砂糖をたっぷり入れ、ゆっくりとカップを口に運んだ。
「……美味しい」
「よかった。マリアドールお姉さんにそう言ってもらえて、今までよりも自信がついた」
「ふふ。本当に美味しいの。今まで飲んだ紅茶の中で一番かも……」
決してお世辞ではない。心からそう思ったのだ。マリアドールもリュカも幸せそうに微笑んでいた。
●
笑顔と優しさと紅茶の香りに包まれた和やかなお茶会に、突然何かが乱入してきた。
「ひよひよー!!」
それはひよこーんの群れであった。美味しいお茶を飲んでハロウィンを楽しんでいるリュカとマリアドールが許せず、突撃したのだ。
リュカはケープの裏に隠し持っていた、よく研がれた無骨な短剣を素早く取り出した。そして飛んだきたひよこーんをぺしりと弾く。ひよこーんは、ひよーっと悲しげに鳴きながら床に転がった。その姿を見て、マリアドールはよだれを垂らしそうになりながら、あのねあのねとリュカにそっと伝える。
「このひよこーんも食べれるらしいのよ。キャラメル味や苺味……」
「……マリアドールお姉さん、よだれ……」
「えっ。は、恥ずかしい……」
マリアドールは慌てて両手で口元を覆った。ふむ、とリュカは考えて、次に飛んできたひよこーんを床ではなくテーブルに置いてある皿の上に転がした。
「お姉さんはキャラメル味がいいそうだから、悪いけれどもいただいていくね」
皿の上に転がったひよこーんはすぐに動かなくなる。次々とひよこーんは飛んできたが、全てリュカの手によって皿の上に案内され、うず高く積み上げられていった。
マリアドールはその様子を楽しげに見ていたが、自分目掛けて飛んでくるひよこーんに気づいた。兎らしくぴょんと跳ねて回避して、黄昏色に眩くハープを構え、ひよこーんを見つめながら詠唱と共に陽気な旋律を奏で始まる。
「煌き放つ音ノ葉を戦場へと降り注ぎましょう──さぁ、マリアに見せて頂戴? 玲瓏たる世界を」
ひよこーんはテーブルの上でしばらくマリアドールの演奏に聴き惚れていた。そして演奏が終わると同時にコロンと倒れ、そのまま動かなくなった。
もう襲いかかってくるひよこーんはいないようだ。リュカは皿に積み上げたひよこーんをつまんで食べてみた。
「キャラメル味だ。マリアドールお姉さん、どうぞ」
マリアドールもぱくりと一口。
「……美味しい! やっぱりキャラメル味が好きよ」
「もしまた何処かでひよこーんと出会えたら、その時は苺味のひよこーんだといいよね」
「ええ。苺味のポップコーンもとても美味しいのよ」
2人で夢中になってぱくぱく食べれば、あっという間に皿は空になった。
●
ハロウィンパーティの危機は去った。これで安心してお茶会の続きを楽しむことができる。
「折角だから、会場のお菓子や料理も食べよう」
リュカの提案にマリアドールも笑顔で賛成した。美味しそうなものがたくさんあるのだ。色々と食べてみたい。リュカは密かにこの機会に食いだめしておければいいかなと思っていたが、それは秘密だ。
「マリアドールお姉さんはどんなお菓子が食べたい?」
「可愛いお菓子かしら。どれも可愛くて迷ってしまうけれど……」
ハロウィンモチーフのお菓子が所狭しと並んでいる。コウモリ型のチョコレートが乗せられたブラッディー・シフォンケーキも、お墓の形のティラミスも、とても気になる。熱々のパンプキングラタンのようなセイボリーも美味しそうだ。
そんな中でマリアドールの目に留まったのは、艶やかなミラー仕上げのチョコレートムースケーキの上に金箔と銀箔が散りばめられた、まるで星空のようなお菓子だった。
「リュカ。まるであの時に一緒に見た星空みたいね」
「……本当だ。本物の星空みたいだ」
まずはこれねと、マリアドールはそのムースケーキを自分達の皿へと取り分ける。
「リュカ。もう一杯、紅茶をいただけるかしら?」
「もちろん。何杯でも、マリアドールお姉さんの好きなだけ」
星空をフォークでつつき、甘い紅茶を楽しむ。
次は何を食べる? と相談する。
とてもとても、幸せな時間だ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
クーヴェルシュイユ・ティアメイア
頭には赤ずきん、籠の中身はケーキ
…は、わたくしのほっぺにパンくず残して行方不明だけど
地球で読んだ童話の仮装だよ
たしか…林檎の馬車にのった七匹のこぶたと、お菓子のお城をたてるのよね
はらぺこになるお話だったもの、ばっちりおぼえてるわ
そのままいただける災魔なんて、初めて見た…!
跳ねる子をルルの刃先で搦めとるよ
香ばしいかおりに頬がゆるんで、思わずベーゼをおひとつ
ふふ。きみ、とってもキュートね
キュートで…すごくおいしそうだわ
ぱくり
あちち
しょっぱい子が多いから、あまいおやつも食べたいわ
ひんやりしたお飲み物もうれしいかも
UCと併せてハングリーなわたくしよ
会場のだれより、ひよこちゃんをいただいちゃうんだから!
●
お花飾りのついた赤いずきんを被った少女がパーティ会場を楽しげに歩いている。ふわりふわり、まるで海の中を漂っているかのように、碧いグラテーションの美しいウェーブの髪とカラカルの耳を揺らしながら、とても可愛らしいお菓子の前で立ち止まる。自慢の大きなベタの鰭もひらひら揺れていた。
クーヴェルシュイユ・ティアメイア(沫浹・f01166)の仮装は赤ずきんだ。大事に抱えた籠の中身はケーキ……だったが、クーヴェルシュイユのほっぺにパンくずだけを残して現在は行方不明だ。いなくなってしまって、籠の中も、クーヴェルシュイユの心も、とても寂しい。
クーヴェルシュイユがこの仮装を選んだのは、地球で童話を読んだからだ。彼女の記憶によると、確か、林檎の馬車にのった七匹のこぶたと、お菓子のお城をたてる話……らしい。
――はらぺこになるお話だったもの、ばっちりおぼえてるわ。
どうやら幾つかの童話が入り混じっているようだが、そんなことは気にしない。そういえばまだまだ続きがあったような気もする。あひると一緒にまめの木に登ったり……。
ああ、思い出すとますますはらぺこになってしまう。
だからクーヴェルシュイユは新しいお菓子を求めてパーティ会場内を歩いていた。周りには美味しそうなお菓子がこんなにもたくさん並んでいるのだ。空になった寂しい籠も、新しいお菓子を追加すれば寂しくなくなるだろう。
何にしようか悩むけれど、この赤いずきんに似合うお菓子を選ぶのもいいかもしれない。チョコのコウモリが飾られたレッドベルベットカップケーキなんてどうだろうか。真っ白なフロスティングと、真っ赤な生地のコントラストがとても鮮やかだ。赤いな薔薇の花びらを散りばめたショートケーキもあまくて美味しそうだ。まるで赤い宝石みたいな真紅のチェリータルトも捨てがたい。
どうしよう、どうしよう。たが迷っている最中に、クーヴェルシュイユは非常に重要なことにはたと気づいた。
「食べ放題のパーティだもの。別に迷わなくていいのよ。全部食べてみたいわ」
そうと決まればどんどん食べるのみだ。あまくて、可愛くて、美味しいお菓子達を、たくさん――。
クーヴェルシュイユは過去の記憶が無い。深い海の帳に抱かれ、記憶は泡と融けてしまった。仄かに憶えているのは、とてもからっぽだったことだけ。けれども「すき」は失われていない。海がすきで、青がすきで、なによりおいしいものがすきだ。なのに、いくら食べても食べても、喉の下のあたりがきゅうと鳴ってしまう。温かなスープを飲んでもつめたいままだ。なんだかとてもからっぽで、苦しくて、もしかしたら、この空虚さを埋める為においしいものを求めてしまうのだろうか。いつか、満たされる日はくるのだろうか。
ぱくりぱくり。蜘蛛の巣のチョコが乗った真っ赤なアールグレイショコラを食べながら、突然漂ってきた香ばしい匂いに顔を上げる。そこにはふよふよとフライパンが浮かび、その上にはぷんすかと怒っているひよこーんが大量に乗っていた。フライパンの熱で熱々になって、今まさにクーヴェルシュイユに飛びかかろうとしている。
「そのままいただける災魔なんて、初めて見た……!」
クーヴェルシュイユは感激していた。先陣を切って跳ねてきたひよこーんを、ユテュリカ・ルルの片鱗と名付けた三叉のデザートフォークの刃先で搦めとる。ひよこーんは愛らしい声でひよっと鳴いて、動きを止めた。香ばしいかおりにクーヴェルシュイユの頬はゆるんでしまう。手のひらに乗せたひよこーんに優しく桜色の柔らかな唇を寄せて、ベーゼをひとつ、そっと落とす。
「ふふ。きみ、とってもキュートね」
突然の出来事に、ひよこーんは目をぱちくりさせた。頬もほんのりと赤くなっている気がする。
「キュートで……すごくおいしそうだわ」
ぱくり。ひよこーんは一瞬でクーヴェルシュイユの口の中に消え去った。
「……あちち」
だがちょっぴり熱すぎた。頬の内側が火傷しそうだ。もしかしたらこの熱は、ひよこーんの最後の抵抗だったのかもしれない。
しょっぱい子が多いから、あまいおやつも食べたいわ。
ひんやりしたお飲み物もうれしいかも――。
ひよこーんをより美味しく食べる為に、クーヴェルシュイユは準備を始める。先ほど気になったあまいお菓子達を全て皿に乗せ、冷たいアップルジュースをその横に置く。クーヴェルシュイユはとてもハングリーだ。浮遊するグルメツールに似たナイフの姿として召喚されたルルもすごい戦闘力になっている。
「会場のだれより、ひよこちゃんをいただいちゃうんだから!」
飛んでくるしょっぱいひよこーんをルルの刃先や自身の口で受け止め、合間にあまいおやつやアップルジュースで口直しをする。そうすることで、ますますしょっぱい塩味ひよこーんが美味しく感じられるのだ。
途中でアップルジュースを飲み干してしまったので、おかわりは微炭酸のジンジャーエールにしてみる。仄かにしゅわしゅわで、口の中がさっぱりした。
たくさんたくさん食べ続けて、気づけばひよこーんはクーヴェルシュイユの口元に僅かな欠片だけを残して、全て行方不明になっていた。
やはりぽっかりは満たされない。けれども、なんだか不思議な充実感のようなものはあった。可愛いひよこちゃん達のおかげだろうか。
だが、まだまだ食べ足りない。もっとあまいおやつをもらいに行こう。デビルズフードケーキが気になる。可愛い南瓜のデコレーションが施されたブラックマドレーヌも――。
いつかきっと、このぽっかりも満たされる。クーヴェルシュイユはそう信じて前を向き、ピンク色の瞳を輝かせながら軽やかに歩き始めた。
大成功
🔵🔵🔵
彩波・いちご
冬香さん(f05538)と一緒に参加
コスはSD参照、魔法少女です
「冬香さんのウサミミ、似合ってますよっ」
えっと、ひよこーんってそういうものではないような…
突っ込まれるとかはともかく、普通にピザとかいただきましょうか
あーん?はいいですけど、冬香さんも食べてくださいよ?
…あ、頬にチーズがくっついてます(ひょいパク
なんて食べさせてもらったりなんだかんだで楽しんでるとひよこーん出現ですか
詠唱省略、ヒールで床を鳴らすのを合図に影の中から対ひよこーん用の細い触手を召喚
絡みつかせて動き封じた後、冬香さんに踏みつぶしてもらいましょうか
…あと、あまりその脚を大胆に魅せられると照れますです…(赤面
緋薙・冬香
【彩波いちご(f00301)】と参加
久しぶりのデートねえ
仮装ねえ、今年の流行りはバニー?違う?
でもたまにはふりふりワンピにウサミミといきましょうか
ひよこーんって熱々なのよね…
つまりこれはいちごの口の中に何か熱々のものを突っ込めって啓示
というわけでいちご何食べたい?
焼きたてのピザとか出来立てのシチューとか
何ならひよこーん押し付けるけども!
あ、ダメ?
そんな感じで遊んでたら大丈夫でしょう
襲いかかってきたひよこーんをウサミミで
揺らして翻弄した後にぺしっと落としてみたりして遊んだ後で
きちんと倒さないとね
『魅せる脚』で…踏む?踏み踏み
まあその辺は流れで倒すけども凄惨にはならないようにね
●
久しぶりのデートだ。デートの日は、普段見慣れた風景も、いつもと違って不思議と輝いて見える。
今日のデートの場所はハロウィンのパーティ会場。今宵は一年にたった一度の特別な夜である。華やかな飾り付けと、美味しそうな料理と、眩い照明。そして、隣にはいとおしい人。びっくりするくらいに世界が輝いて感じられた。
彩波・いちご(ないしょの土地神様・f00301)と、緋薙・冬香(針入り水晶・f05538)は、仲良く並んでパーティ会場に訪れた。
いちごはまるでアニメから飛び出してきたような魔法少女の仮装をしている。ピンクを基調とした華やかな衣装は、フリルとリボンたっぷりだ。ピンクとイエローの三段フリルのミニスカートはパニエによってふわふわと広がり、背中ではもふもふとした狐尻尾と共に大きなリボンが揺れている。ショートブーツもお花が咲いたようなデザインで、胸元のリボンには金色の猫のマスコット付きだ。三つ編みアレンジの髪型もキュートである。
少女の様な容姿のいちごにぴったりの仮装で、そのまま腕のいい原型師によってフィギュア化されて欲しいと感じるほどだ。
冬香は今年の流行りらしい魅惑的なバニー……ではなくて、真っ白なふりふりワンピースにウサミミの、白ウサギの仮装だ。大人びている彼女だが、たまにはこんな格好もいいかなと思ってこの仮装を選んだ。
冬香は女性ファッション誌を中心としたモデルと、ナイスバディを生かしてのグラビア活動を並行しているモグラ女子である。スタイル抜群の彼女は何を着ても似合うが、甘い雰囲気のふりふりワンピース姿もとても可愛らしい。モグラ女子だけあって、どんな服も見事に着こなすのだ。
「冬香さんのウサミミ、似合ってますよっ」
「そうかしら? ありがとう」
いちごがにっこりと微笑みながら伝えると、冬香は幸せそうに笑った。いちごに褒められると嬉しくなる。他の誰に褒められるよりも、ずっとずっと嬉しい――。
●
「ひよこーんって熱々なのよね……」
グリモアベースで聞いた情報を思い出し、冬香は真剣に考える。そして、何かを閃いた。
「つまりこれはいちごの口の中に何か熱々のものを突っ込めって啓示」
「えっ」
予想もしなかった冬香の言葉に、いちごは一瞬固まってしまった。だが、冬香はあくまで真剣だ。
「えっと、ひよこーんってそういうものではないような……」
それにどういう理屈でそんな啓示になるのだろう……? うーんうーんと悩んでいるいとおしい人の顔を真っ直ぐに見つめて、冬香はいちごに質問する。
「というわけでいちご何食べたい? 焼きたてのピザとか出来立てのシチューとか……何ならひよこーん押し付けるけども! ……あ、ダメ?」
熱々を口の中に突っ込む気満々であったが、流石にいちごの複雑な表情を見て、この提案はダメらしいことは悟ったようだ。
「う、うーん、そうですね。突っ込まれるとかはともかく、普通にピザとかいただきましょうか」
「ピザね。了解よ。美味しいピザ、あるかしら」
ピザと一口に言っても、様々な種類がある。このパーティ会場でもかなりの種類のピザが用意されていた。
やはりトマトソースベースのピザが多いようで、最もポピュラーなメニューであると言われているマルゲリータは大人気らしい。白い水牛のモッツァレラチーズと緑のフレッシュバジリコがトマトソースに映えて食欲をそそる。
海鮮たっぷりのペスカトーレも美味しそうだ。イカ、エビ、アサリ、ホタテやムール貝も所狭しと乗せていた。
トマトソース以外なら、クアトロフォルマッジが人気らしい。「4種類のチーズ」という名前そのままのピザは、チーズ好きにはたまらない。
いちごと冬香は迷った末に、マルゲリータに生ハムとルッコラがトッピングされたものを選んだ。ちょうど石窯で焼きあがったところで、出来立てホヤホヤの熱々だ。
「はい、いちご。あーん……」
冬香はピザをいちごの口元に差し出した。
「あーん? はいいですけど、冬香さんも食べてくださいよ?」
少し照れつつ、いちごは差し出されたピザをぱくっと食べた。その食べ方も可愛くて、冬香は幸せそうにいちごを見つめている。
「美味しい?」
「もちろんです」
その言葉に顔を綻ばせながら、冬香もピザを口へと運んだ。蕩けたチーズが糸を引いて伸びる。うん、確かにとても美味しい。もう一切れ、と手を伸ばしたその時だ。
「……あ、頬にチーズがくっついてます」
冬香の頬に付いているチーズの欠片を見つけ、いちごはひょいと優しく指で掬う。そして何も迷うことなく、パクっと自らの口へと入れてしまった。
「あ……ありがとう……」
今度は冬香が照れる番だ。ふわふわの白ウサギは頬をピンク色に染めた。
●
そして、ついにひよこーんはやって来た。
「ひよひよ! ひよー!!!」
イチャイチャしながらハロウィンパーティを楽しむなんて! ぷんすか! 許さないー!! と、すごい勢いで襲いかかってくる。
「来たわね……」
冬香はひよひよ鳴きながら飛びかかってきたひよこーんを、ウサミミで揺らして翻弄する。
「ひっ、ひよひよっ??」
ふわふわしたウサミミでもふもふされて、ひよこーんは混乱した。そのまま逃げ出すこともできずに翻弄されまくる。揺られすぎてぐるぐると目を回したひよこーんを、冬香はそのままぺしっと床に落とした。
「ひよ……」
冬香に遊ばれて、ひよこーんはフラフラだ。そんな姿もちょっと可愛くて、いちごは思わず微笑んでしまう。けれども、ずっと遊んでいる訳にはいかない。次々にひよこーんは襲いかかってきているのだ。
「遊ぶのも楽しいけれど……きちんと倒さないとね」
冬香はヒールで床を鳴らした。その音を合図に、いちごは自らの影の中から細い触手を召喚した。とても繊細な、対ひよこーん用の特別な触手だ。それをひよこーん達に素早く絡みつかせて動きを封じた後、いちごは冬香に声をかける。
「冬香さん!」
「ええ。踏み潰しましょう」
「ひよひよー!!」
動けないひよこーん達はジタバタしながら鳴きまくった。
動きが封じられた相手など、仕留めるのは簡単だ。だがここはパーティ会場。凄惨な戦いは似合わない。それならと、冬香は踊るように体をくるりと回転させた。
「あら、見たいの? 魅せられないよう気をつけなさい?」
ふりふりふわふわのスカートの裾を翻しながら、そのまま軽やかなステップでひよこーん達を踏みつけた。
「ひよっー!」
可愛らしい鳴き声を響かせながら、冬香に踏まれたひよこーん達は光の粒子となって消え去った。
「冬香さん、ダンスしてるみたいですごく綺麗でした」
「ふふ、ありがとう」
「……あと、あまりその脚を大胆に魅せられると照れますです……」
いちごは真っ赤になっている。翻るスカートの裾から見える冬香の長い脚はとても綺麗で、見惚れずにはいられなかった。
●
「冬香さん。せっかくだから、お菓子も食べていきませんか」
「ええ、喜んで」
いちごの誘いを断る理由なんてない。ひよこーんも無事に倒したので、デート再開だ。
「いちご。この季節でも、苺のお菓子も色々あるのね。これにする?」
冬香が指差す先には、苺ソースと苺で飾られたクレームダンジュが並んでいた。愛嬌のある顔をしたチョコのオバケも添えられている。
「美味しそうですね。あのシューアイスのモンブランクリーム添えも美味しそうで……両方食べたいし、半分こしますか?」
「もちろんよ」
いちごと冬香は楽しそうに笑う。
ハロウィンデートは、とても甘くて美味しい時間になった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
都槻・綾
SD仮装
文昌帝君+蒼頡
学問の神+漢字の創始者
実はよく食べる方でして、と上機嫌に綻び
魅惑の料理を次々皿に乗せては瞬く間に平らげる
食べ放題って素敵ですねぇ
何度目かの完食の後
ふくふく笑みつつ
箸休めの南瓜アイスを焙じ茶で味わう、温かなひと時
仮装の序でに手にしていた帳面は勿論
世界の美味や様々を記録する為の物
どんなことでも学びと発見の毎日でして
覗き込む生徒さんへ
学舎で過ごす日々の応援となるよう
綴った頁を開いて見せ乍ら
学ぶ事の楽しさを伝えられたら嬉しい
傍らで
同じく手元を見ようと跳ねているひよこーんもまた愛らしく
微笑んでそっと馨遙の誘眠を編む
種に還ることは叶わぬけれど
海へ帰ることはできるから
どうぞお眠りなさい
境・花世
◆SD参照
血塗れ真紅の聖女の衣装
ほんとはベリージャムなのは内緒、内緒
禍々しく深い色合いの酒杯を手に、
おどろおどろしい雰囲気で卓をうろつく
今宵の十字架は肉系の肴に飢えてるんだ
さてさて、いただきま――
あふ!?
口に飛び込んできたひよこーんにぱちくりと
もう、しかたない仔たちだなあ
メインディッシュと順番が逆だけど、
特別に遊んであげるよ
ぽこぽこ跳ねるひよこを両手に掴まえて、
片端から食べてく終わりのない戦い
気付けば塩とキャラメルのエンドレスで
いけない、このままだと肉が入らなくなる……!
心を鬼にして薄紅の花びらで包み込み、
香ばしい匂いは隠してしまおう
今日はたくさん働いたからお代わりも許されるよね、うん
●
しゃらりしゃらりと冠の玉飾りを揺らし、漢民族の伝統的な民族服を着用した都槻・綾(夜宵の森・f01786)はパーティ会場を訪れた。手には筆と帳面を持っている。
綾の仮装は文昌帝君と蒼頡を合わせたもの。それぞれ、旧中国の知識人の間で信仰された学問や科挙の神と、漢字を発明したとされる伝説上の人物だ。長い袖や襟などが歩く時にさやさやと揺れる感覚が漢服の特徴であると言われているが、綾もその独特な感覚を楽しんでいた。色合いも、浅縹色や黄唐茶色などの上品で落ち着いた内容で纏められている。
テーブルの上にずらりと並ぶ料理を見つめ、綾は上機嫌に顔を綻ばせる。
「実はよく食べる方でして……」
そう言いながら、最初に選んだ料理は前菜代わりのアボカドと海老のアスピックだ。その次は、やはりハロウィンらしい南瓜料理が食べたくなり、南瓜と鶏肉の照り焼きサンドを手に取った。甘辛さが癖になりそうな味をしている。バスケットでつくられたメルバトーストに、トマトとチーズをトッピングして食べるのもなかなか美味しかった。ライブキッチンでは目の前で焼かれたビーフステーキを皿に乗せてもらい、その柔らかさに驚く。目の前でカービングカットしてもらえるハモンセラーノにもじっくりと味わい、ちょうど完成したばかりの魚介たっぷりのパエリアにも舌鼓をうった。
綾は魅惑の料理を次々に皿へと乗せては瞬く間に平らげていく。
「食べ放題って素敵ですねぇ」
幸せな気分で独り言つ。まだいくらでも食べられそうだ。次は甘いものを食べてみようと、まずはアールグレイとオレンジのサヴァランを選んだ。ホワイトチョコレート製のオバケのマスコットも乗せられており、見た目も可愛らしい。南瓜のブリュレもにっこり笑うジャック・オ・ランタンの飾り付きだ。
既に何皿か、完食済みだ。綾はふくふく笑みつつ、箸休めの南瓜アイスを焙じ茶で味わった。アイスの冷たさと、焙じ茶のぬくもりが心地よい。温かなひと時を過ごしながら、懐にしまっていた蛇腹折りの帳面を取り出した。
仮装の序でにと、手にしていた帳面は勿論、世界の美味や様々を記録する為の物だ。綾は筆でサラサラと、今食べたものをひとつずつ、丁寧に記していった。
「どんなことでも学びと発見の毎日でして……」
綾の仮装に興味を惹かれたらしい、吸血鬼のマントを羽織った学生が近づいてきた。まるで古文書のような蛇腹折りの帳面に達筆で何を書いているのだろうかと、気になっているようだ。
「おや、興味を持っていただけましたか」
綾は楽しげに声をかける。
「あ……突然すみません。すごく凝った仮装だなと思って……それに筆でサラサラ書いているのもかっこいいなって……」
照れ臭そうに話すその姿に、綾は穏やかに笑う。そして学舎で過ごす日々の応援となるようにと、綴った頁を開いて見せた。
「どうぞご覧ください。ここには世界の美味や様々を記録してあります」
「すごい……! こうやって記録すると、記念にもなりますね。楽しそうだなあ……」
学ぶ事の楽しさを伝えられたら嬉しいと、綾は考えていた。ほんの少しのきっかけで、何かを学ぶ喜びは増していくからだ。綾お手製の宝の地図の如き蛇腹折りの帳面に目を輝かす学生の様子を見て、その願いが叶ったことを実感していた。
●
ちょうどその頃、パーティ会場に新たなる参加者が現れた。血塗れ真紅の聖女の衣装を纏った境・花世(*葬・f11024)だ。
柔らかな体のラインがはっきりと感じられるマーメイドラインの真紅のシスター服は、コンシャスなシルエットであり、とても妖艶だ。 パーティ会場へと入ってきたその瞬間から、妖しくも美しい聖女は周囲の人々の注目の的である。普段は薄紅の八重牡丹が咲き誇っている右目は大きな黒い眼帯で隠されていた。豊かな胸元にはクロスが揺れ、手にした巨大な十字架は真っ赤な血に塗れている。見れば両手も血塗れで、赤いネイルと鮮血のふたつの赤が混ざり合い、鮮烈な印象だ。そして右の頬にも二筋の血の跡が……。
――ほんとはベリージャムなのは内緒、内緒。
その証拠に、花世の周囲にはほんのりと甘い香りが漂っていた。すれ違った人の中には、鼻腔をくすぐるベリーの香りに、なんだかお腹が空いてくるものもいたかもしれない。
彼女は禍々しく深い色合いの酒杯を手に、長く美しい赤い髪を揺らしながら、おどろおどろしい雰囲気で卓をうろついていた。
「今宵の十字架は肉系の肴に飢えてるんだ」
ふふと楽しげに笑いながら、麗しき血塗れの聖女は美味しそうなお肉を求めてライブキッチンへと向かう。1ポンドの厚さのステーキが目の前で焼かれ、その厚みに花世のテンションが上がる。ソースはブラックペッパーソースかガーリックソースが選べると聞き、ブラックペッパーにした。ガーリックソースも美味しそうだけど、最初からガーリックは乙女的に臭いがちょっぴり心配で、でも次の機会にはきっとと心に決める。
他にも気になる料理は山ほどあるが、まずはこのステーキを熱々のうちに食べよう。空いていた席に座り、南瓜のマスコットが付いているカトラリーを握る。
「さてさて、いただきま――」
……と、口を開けた瞬間、何かがそこに飛び込んできた。
「あふ!?」
口の中に香ばしい塩味が広がる。じんわりと熱いが、幸いにも火傷する程ではない。早速、ひよこーんが花世目掛けて突撃し、口の中へと飛び込んだのだ。
突然の出来事に、花世はぱちくりと眸を瞬かせる。見れば、たくさんの――何匹いるのか分からないくらいの大量のひよこーんが、ふよふよと宙に浮かぶ熱々のフライパンの上で、じーっと花世を見つめていた。そのもこもことした姿は可愛すぎる。
「もう、しかたない仔たちだなあ」
花世はちょっと困った様子で、でもとても楽しそうに笑いながら立ち上がる。
「メインディッシュと順番が逆だけど、特別に遊んであげるよ」
花世の言葉を聞いたひよこーん達は、待ってましたとばかりに彼女に向かってぴょーんとジャンプした。上手くジャンプ出来ずに、のんびりふわふわ飛んでいるひよこーんもいる。
花世はそのぽこぽこ跳ねるひよこーん達を全て両手に掴まえた。可愛いひよこーん達が腕の中でひよひよひよひよ大騒ぎだ。
「みんないただくよ!」
ひよこーんを片端から食べてく終わりのない戦いが始まった。気付けば塩とキャラメルのエンドレス。こうなるともうやめられない。
「いけない、このままだと肉が入らなくなる……!」
花世はとても慌てた。まさかこんなに止まらなくなるなんて。ひよこーん、おそるべし……!
●
一方その頃、綾のところへもひよこーんが現れていた。しかし、1匹だけ。どうやら皆とはぐれてしまったらしい。
このひよこーんは好戦的ではないらしく、ひよっと鳴いてほわりと跳ねて、綾の肩に止まった。そして不思議そうに綾の帳面を覗き込んでいる。綾は微笑みながらひよこーんをそっと撫でた。この仔の体は熱くはない。心地よい温もりが指先から伝わってきた。
ふと、聞き覚えのある声に顔を上げる。そちらに向かった歩き出せば、ひよこーんと美味しくも激しい戦いを繰り広げている花世がいた。
「おや、かよさんも来ていたのですか」
突然声をかけられて、花世は目を丸くする。
「綾! ここで会えるなんて嬉し……で、でもその、ひよこーんが強敵で……!」
そろそろ心を鬼にしなければならない、と思っていたところだ。死出の旅への餞であれと祈りながら、花世はひよこーんを薄紅の花びらで包み込んだ。
――香ばしい匂いは隠してしまおう。
かの海へと流れ散りゆく薄紅の花びらに包まれて、ひよこーん達はひよひよと鳴いている。綾も花世の花びらに合わせて、そっと馨遙の誘眠を編んだ。肩の仔にも、そっと別れを告げる。
「種に還ることは叶わぬけれど、海へ帰ることはできるから――どうぞお眠りなさい」
ふわり咲く花の薫香のような柔らかな馨が広がっていく。フライパンは一足早く消え去った。ひよこーん達はもう鳴いていない。すやすやと眠り始めたようだ。
「神の世、現し臣、涯てなる海も、夢路に遥か花薫れ――」
「やすみよ、おかえりよ」
美しい薄紅の花びらと夢のような馨と、2人の優しい声に見送られて、食べきれなかったひよこーんの群れは骸の海へと還っていった。
●
「ええっ。綾はもうこんなに食べたの……?」
綾の帳面に記された『今日食べた美味しいもの一覧表』を見て、花世は愕然とした。
「わたし、まだ、ひよこーん以外殆ど食べてない……」
折角の分厚いお肉もすっかり冷えてしまった。それでも美味しかったけれど、やはり残念だ。
「私はまだまだ食べられますから、共に食べましょう。ほら、あの鷄も美味しそうです」
綾が指差す先には香ばしい匂いのロティサリーチキンが並んでいた。その横には豚ロースのグリル焼きも用意されている。他にも肉系の肴がいっぱいだ。花世は目を輝かせた。
それに宝石のような輝きの可憐なドルチェ達も花世を誘惑している。ジャック・オ・ランタン型のクグロフに、オバケの飾り付きのかぼちゃ&紫いものハロウィンパフェ。黒ごまのクッキーシューからはぷるぷるゼリーの目玉が覗いており、フランボワーズとバニラのムースにはチョコのコウモリ付きだ。どれも気になってしまう――!
「今日はたくさん働いたからお代わりも許されるよね、うん」
花世は満面の笑みを浮かべた。そして新しい皿を手に、綾と花世は美味しい料理を求めて2人で歩き出す。
美味しいものを食べる時間は幸せそのもの。そして、次は何を食べようと楽しく悩みながら相談する時間も、とても幸せだ。
それは1人だけでは決して得られなかった幸せである。本当に偶然だったけれど、出会えてよかったと綾と花世は笑い合った。
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猟兵達の活躍でハロウィンパーティを破壊しようとしていたひよこーんは全て消え去った。
けれども学園の何処かには、まだまだ数多くのひよこーんが潜んでいるのだろう。もしかしたら、あなたが次に出会うひよこーんは、ほんのりピンク色のいちご味かもしれない。
大成功
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