7
畜生道に導きて

#サクラミラージュ

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サクラミラージュ


0




 秋も深まる頃の話である。
 さる富豪の屋敷に、彼ら彼女らは集まっていた。

「しかし滝沢先生も随分と酔狂ですなあ。こんな山奥に洋館を建てるとは」
「そこはそれ、曲亭に合わせたんでしょう。何せ、先生の出世作ですからなあ。あやかりたいという気持ち、分からんでもないですよ」

 屋敷の主は滝沢というキネマ監督である。
 様々な作品を世に送り出し、安定した人気を誇っている第一人者だ。

「んー、アタシよくわかんないわあ。アレでしょ? 部屋がとても汚い人だったんでしょう?」
「おいおい、ソレは北斎だよ。まあ、偏屈さではどっこいかもしれんが」

 滝沢はいわゆる天才であり、さらに職人肌であった。
 『映画を作る』ことに心血を注いでおり、それ以外のことはとんと無頓着である。一人にしておくと、風呂や洗濯は言わずもがな、飯すらすっぽかして制作にのめり込む有様だ。人としての能力を、全て映画制作に回した鬼才である。

「使用人でも雇えばいいのにねえ」
「見知らぬ奴が家をうろつくのは我慢ならん、邪魔だ、とさ」

 その性質はこうして成功してからも変わらない。いや、むしろ理解者が増えることによって加速していった。
 滝沢は基本的に人嫌いだが、たまに猛烈に気に入る相手が現れる。そういった『友人』を家に招いては、何かしらの催事を行う。それも大がかりな悪ふざけであることがほとんどだった。

「で、今回はどういった趣向で?」
「さあ。聞かされてないの」
「『八犬士』関係者が集まっているんですし、それにちなんだものじゃあないですか?」

 今回招かれたメンバーには共通点がある。
 滝沢の代表作である『八犬伝』に深く関わっているのだ。主役八名の他、主要スタッフも何人か顔を見せている。

「いやあ、それにしてもいい現場でしたねえ」
「ええ。こうして集まっているとあの頃を思い出します」

 偏屈きわまりない滝沢が、人間関係に煩わされることがなかっとされる奇跡のメンバー。今ではそれぞれ多忙な身だが、珍しくほとんど全員の都合が付いた。

「タマキちゃんだけは……残念だったけどねえ」

 ――沈黙。
 ただ一人。二度と来ることのないその名前に、全員が押し黙る。
 何かその名前にただならぬ事情があることを察するには十分な反応だった。

「ま、まあ! それより滝沢先生を呼びましょう! どうせいつもの私室でしょう!」

 空気を変えるように明るい声を張り上げると、数人が滝沢の部屋へ向かう。
 ここまで顔を出さないことも珍しいな、と誰かが思った。

 扉を開ける。
 ――そこには。

「せ――先生ッ!?」

 カラカラ回る映写機の側で、腹に刃物を突き立ててうずくまる、血まみれの――。


「如是畜生発菩提心、でしたっけ」
 集まった猟兵たちに事のあらましを説明すると、織戸・梨夜(ミズ・オルトロスの事件簿・f12976)は独りごちた。
「私は現代語訳しか知らないので詳しくは語れないのですが……。ともあれ、サクラミラージュの洋館で殺人事件が起こります。それを食い止めて頂くのが今回のミッションです」

 どう見ても殺人事件が起こるシチュエーションですがどうすればいいですか?
 答え。行くな。
 身も蓋もないが、これがサクラミラージュの事件への最適解の一つなのだから仕方が無い。

「関係者の皆さんには既に話をつけて、合流を控えて貰っています。が、それだとオブリビオン――影朧がそもそも現れません。ですので、皆さんが代わりに向かって犠牲者になってください」
 大丈夫、頑張れば死にません、などとにっこり微笑む梨夜である。まあ、影朧にとって大事なのはシチュエーションだ。誰が誰かといった細かい差異を認識できるかどうかは別問題――ということらしい。
「ちなみに本来は見立て殺人っぽいです。滝沢監督が撮った『八犬伝』の劇中演出に沿った殺し方をされるんだとか。そして誰もいなくなったエンド、と」
 無論、原典の八犬伝は超大作である。完全再現などは望むべくもない。
 キネマに纏めるにあたって、エッセンスの抽出と大胆な解釈をした独自冒険活劇である。役者の好演や各種演出が綺麗に噛み合って、名作に仕上がった、とのことだった。

 要するに、どういう殺し方をしてくるかは、映画をちゃんと見ないと分からない、ということである。

「あ、加えて一つ、ちょっとどうしようもない案件がありまして」
 これまでの話の流れでなんとなく推測が付くかもしれない。
 滝沢監督は変わり者。そして映画に生活の全てを捧げている人間である。
「『影朧に殺される? なるほどそれは面白い。ならば早速カメラを回すぞ!』……とのことです。護衛対象、お一人入られます。頑張ってください」
 好奇心が猫をも殺す。
 あるいは、一部の芸術家にとっては、死の恐怖すら得がたい経験なのかもしれなかった。

 迷惑な話である。

「……そういえば、最初に割腹自殺って……さしずめ伏姫なんですかね?」
 猟兵を見送りながら、梨夜はそんなことを呟いた。


むらさきぐりこ
(サクラミラージュは)初投稿です。
 原作は現代語訳しか読んだことなかったクソにわかです。

 色々書いてありますが、要するに「クローズドサークルの洋館で、ミステリによくある連続殺人事件を演じる」シナリオとなります。

 一章、二章は冒険、三章が戦闘となっております。

 一章:カメラが回っています。屋敷の中で「それっぽい」ムーブを楽しみましょう。
 二章:影朧がトリックを仕掛けてくるので、死んだふりをしましょう。なお相手はガチで殺す気ですので頑張って耐えたり対策してください。
 三章:犯人の影朧をとっちめましょう!

 舞台設定の補足。
 場所:山奥の洋館。名キネマ監督「滝沢」の私邸。
 本来集まるはずの人たち:滝沢監督の映画『八犬伝』のキャストおよびスタッフ。それぞれ人気スタアや文豪並の実力を持つ一般人。帰れと言われて素直に帰りました。
 見立て殺人:割と雑。映画の再現だが、八犬伝の原典をなぞっているとは言いがたい(ので二章で食らうトリックはお好きにどうぞ)
 タマキちゃん:敵役だった出演者の愛称。何やらあったらしくタブーらしい。
 滝沢:名キネマ監督。五十代の人間。殺されると知らされて、なんとか事件をカメラに収めようとする変人であり一般人。猟兵の介入により事件の因果が変わっているので、死亡する順番は最後になっている(ので無理に護衛を頑張る必要はありません)。

 以上、よろしくお願いします。
27




第1章 日常 『キネマの天地』

POW   :    衣装を借りて撮影エキストラ体験

SPD   :    セットを探訪して名画の雰囲気を味わう

WIZ   :    役者たちと交流して記念のサインを

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

政木・葛葉
へぇ、八犬士、ねー。
聞いたことあるよ、政木ってお婆さんに九尾の狐が化けるんだって。
あたしも政木っていうんだ、なんか運命感じちゃうよね。
九尾に至る神通力はないけど、百年はとっくに生きてるよ。そんな感じで、ひとつどうかな?

【政木茶屋】を召喚、セットにこんなのどう?って提案。
渋茶と茶菓子でもてなすところを撮ってもらおう。
服はこの世界に潜入する用のメイド服を持ってきたけど、和風の方がいい?貸衣装もちょっと見せてもらいつつ【変装】するよ。
しかしタマキちゃんって人は何があったんだろうね?教えてくれそうな時があったらしれっと【コミュ力】を活かして聞いてみようかな。なんとか、波風は立てないように……。



「狐、で、政木だとォ?」
 滝沢監督は、政木・葛葉(ひとひら溢れし伝説の紙片・f21008)の名前を聞くなり、じろりと彼女を睨めつけた。
 その瞳はぎらぎらしていて圧が強い。よく言えばエネルギッシュで、年齢を感じさせない強さがあった。
「そう、政木。八犬伝にも出てくるんでしょ? 政木っておばあさんに化けた九尾の狐」
 なんか運命感じちゃうよね、とからから笑う葛葉に、滝沢の眼光はさらに鋭くなる。
「へェ。じゃあやがては竜に至るってかい」
「ううん、まだまだ。とっくに百年は生きてるけど、九尾にすら至らないかな」
 その言葉をどう受け取ったのか、滝沢はうろんな目を葛葉に向ける。

 ――しかし、葛葉は滝沢が何を求めているのか心得ていた。
「でも、謂われない罪から人を助けることくらいは出来るよ。記念すべき千人目、とはいかないけど、まだまだ徳を積んでいくよ。今回はさしずめ大刀自の真似事かな?」
 政木狐。
 南総里見八犬伝に登場する九尾の狐であり、作中で善なる神獣であることが強調されている存在である。
 いま葛葉が語ったのは、劇中での活躍を要約したものだ。

 滝沢はニィっと笑った。
「――なるほど、ちょっとは勉強してるみたいじゃないかい。ったく、最近は親兵衛編まで読んでる連中が少なくて困るよ」
 そう。この手の変人に一番効くのは『きちんと理解した上での共通の話題』だと、葛葉は直感的に悟ったのである。
 そしてそれは上手くいったようだった。
「で。犬士なら誰推し?」
 滝沢の態度が一気に軟化する。葛葉はふわりと笑いながら、しばし雑談に花を咲かせた。

「それで、セットにこんなのどう?」
 せっかくカメラを回しているのだから、と葛葉は茶店を呼び出した。簡単な屋台ではあるが、劇中の雰囲気は良く出ているだろう。
「おお、政木狐の茶屋と来たか。そんなユーベルコヲドを使うったあ、アンタますます縁深いな?」
「それじゃあ衣装はメイド服……というよりは給仕服って言った方が雰囲気出るかな?」
「割烹着の方がいいだろ。ちょっと待ってな」
 どうやら屋敷の中には本格的なセットが揃っているらしい。エキストラとして周囲の猟兵も巻き込んで、『茶店で一休みする図』が綺麗に撮れた。
「いい出来だぜ。んー、このシーンはどう使ったもんかねえ……」

 ――滝沢は上機嫌だ。なら、そろそろこの質問をぶつけるべきだろう。

「そういえば先生。タマキちゃんって人、何かあったの?」
「――おい、誰から聞いた、その名前」
 露骨に眉を顰める滝沢である。だが話を打ち切られることはなかった。
「誰だったかなあ。ここに来る前に耳に入って」
「チ」
 滝沢は少し悩むそぶりを見せてから、憎々しげに答えた。

「――玉置あずさ、っていう女優だよ。顔だけの大根さ。スポンサーが出せ出せ言うもんだから、名前に相応しい役を振ってやったのさ」
 数年前にくたばったがね、と吐き捨てるように言う。

 もし、滝沢が伏姫に相当する立ち位置だったとするなら――なるほど、確かに出来すぎであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

八坂・操
【SPD】

洋館に集められた著名人! 凶刃に倒れる名監督! 一人また一人と倒れる中、惨劇の犯人は誰だ!?

という訳で、操ちゃんは新聞記者辺りに『変装』して、色々とインタビューして回ろっかな?
ホラ、秘密に集るマスコミって、いかにも標的にされそうな感じするし♪
「本日はお招き頂き、ありがとうございます。ああ、私空音新聞の操と申します」
「次回作については何か構想があるのでしょうか? やはり代表作『八犬伝』に絡んだ作品を?」
「『八犬伝』にて出演されたタマキ様に関して、何かコメントはありますでしょうか?」
ここまで露骨に『情報収集』すれば、視聴者からのヘイトも買えて、被害者になったとしても、誰も心痛まないよね♪



「ほうほう。それで? その玉置あずさという人物について何かコメントはありますでしょうか?」
 ずずい。
 ハンチング帽を被り、カメラと手帳を構えた女性がすかさず滝沢に詰め寄る。
「ねえよ。終わった話だ。とっくにくたばった女のことなんか知るかい」
「ええー? そう言わずそう言わず。『八犬伝』は穏やかな現場だったと聞いております。その中で――一人だけのけ者扱いなんて、気にならない方が嘘ってものですよう」

 ――おい、こいつ本気でやってんじゃねえだろうな、と滝沢がぼやく。周りの猟兵は曖昧に濁した。いかんせん全容の把握できない多重人格者、どこまでが演技なのかはかりかねる。
 八坂・操(怪異・f04936)はカメラの前で『うざったい記者』に扮することにしたのである。

 ――だって、秘密に集る記者って、いかにも標的になりそうでしょ?
 ミステリやサスペンスではよくあることだ。しつこく伏線と情報をばらまきながら、さんざん視聴者ヘイトを買った上で毒牙にかかり、そうして溜飲を下げさせる。そういう立ち回り。
 なるほど便利だなー、などと操は思う。
「今回の作品もやはり『八犬伝』に絡んだ作品を?」
 こういう強引な手合いが空気を読まず混ぜっ返すことで、『物語』を動かすエンジンとなる。いざ作る側に立ってみると、これほどありがたい役回りもない。だから嫌われ役は愛用されてきたのだなあ、という実感があった。

 ちなみに、映画の流れとしては『撮影中に起こった殺人事件』――つまり劇中劇の流れを取ることになっている。

「うるせえやい。テメエみたいな手合いに話すことはなんもねぇ」
「あらあら、今日は引っ込むことにします。ああ、そうそう改めまして。私は空音新聞の操と申しますので、気が変わりましたらいつでもお呼び出しください」
 操がわざとらしく名刺を差し出す。滝沢はそれをふんだくるように受け取ると、これ見よがしに破り捨てた。
 まあ、半分以上は素だろう。これ以上は『演技』だとしてもよろしくない。
 ニタニタと不気味な笑みを浮かべながら、操はカメラからフェードアウトする。

「さーて、これでヘイトモリモリ。どうやって犠牲になったらスッキリするかなー☆ 出番まで考えてまーす♪」
 一転、けらけらと笑う操に滝沢はため息を吐いた。
「血のりべったりだ。派手にいけ。私ならそーする、誰だってそーする」
「はーい!」
 ――さてさて、影朧はその辺り空気読んでくれるかな?

成功 🔵​🔵​🔴​

木常野・都月
俺は好奇心旺盛な狐。
セットを観てまわりたい。

俺には昔の記憶がなくて…
気がついたら野生の狐として生きてきた。
だから、こういう「テレビや画面の中の世界」を実際観るのは初めて。

凄いと思う。
よくこんな大きなセット?を作れるよな。

それにカメラとケーブル!
これ、俺より力がない、普通のヒト達が持ったり抱えたりして撮影するんだろ?

重労働だよな…。

今回の『八犬伝』もこんな感じで作られたんだろうなぁ。

ちなみに俺自身、八犬伝はまだ読んだ事がない。

まあ「犬」って字があるんだから、犬絡みの話なんだろうな。

俺はまだ難しい本は読めなくて…
小学3年生が読む本位しか無理なんだ。

図書館で今度探して、読めそうなら借りてみようかな。



「わあ……」
 感嘆の息と共に、ぴょこぴょこと黒い尻尾が揺れる。
 木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)は、始めて見る「テレビの中の世界」に心底感嘆していた。

 改装が施された洋館は、簡単なセットならすぐに作り上げることが出来る。思いついたときにいつでも映画が撮れるように、という滝沢の執心の賜だが、それがどれほど常識外れか都月にはまだ分からない。
 ただ、「こんなに知恵と工夫を凝らしてテレビの中は作られている」という感動があるのみだ。

「すごいな……。よくこんな大きなものを作れるな」
「なんでィ、お前さんは随分浮き世離れしてるっぽいが」
 お前が言うな、とは思っても誰も言わない。背丈こそ青年の都月だが、世間ずれしていないためかいくらか幼さを残している。滝沢はそんな都月を気に留めたようだ。
「カメラにケーブル……俺より力のない、普通のヒトが持ち運んだりするんだろ?」
「そんなところに感動するたぁ、お前さん相当な田舎もんだな?」
「そうなるのかな? ずっと森にいたから」
 都月の素朴な返事に、滝沢は目を丸くした。
「ほう、ほうほう。こいつぁ面白れぇ。良かったらちぃと話してみてくれねぇか」
 自身の来歴が分からず、ただの狐として過ごしてきた青年。ヒトの老人と出会い、少しずつ自分を取り戻していく。
 そんな不思議な在り方が思いの外、滝沢に刺さったらしい。偏屈な映画監督は、素朴な青年の思い出話を興味深そうに聞いていた。

「『八犬伝』も、こんな風に撮ったのか?」
「セットを使うこともあったが、いかんせん予算の都合がね。そこはプロの腕でなんとかしたが」
「ふうん……俺はまだ読んだことがないんだ。犬の文字が入っているから、犬の話なんだろうけど……」
 まだ、きちんと本を読めるだけの教養がない。子供向けの本でじっくり基礎を固めているところだ。
 そう言うと、滝沢は破顔した。そうしていると、まるでただの気のいい年長者のようである。
「ちゃんと勉強する気概があるたぁ感心感心。そうだな、低学年向けの本もたくさん出てるから、そっからあらすじを覚えるのがいいだろ」
 本来の八犬伝は長く続く因果を巡った壮大な物語だ。だがその全容を把握している者は少ない。曲亭馬琴は神経質なまでに設定と伏線を敷き詰めていただからだ。
 そのため、導線として勧善懲悪のヒーローものとして軽くした本も複数刊行されていた。そういった『初学者向け』の本を、滝沢は何冊か見繕う。
「貸してやる。事が始まるまで読んでな」
「うん、ありがとう」
 如是畜生発菩提心。
 まだ幼い獣の青年は、また一つ世界を知る。

成功 🔵​🔵​🔴​

呑龍寺・沙耶華
POWで行動
役者になりすまして悲劇の回避とは面妖なお願いですわね…。
現時点では相手の犯行動機も能力の解かりませんので、あえて敵の計略に乗らせて頂きますわ。
問題は…演技などの芸事に不慣れなので長いセリフとかがある役だとちょっと心配ですが…出来るだけ頑張ってみます。

こういう時は不平を漏らす高飛車な態度で落ち着きのない感じで居ましょうか、変にユーベルコードを使ってこちらの手の内を明かすわけには行かないので今回は活性化せずに動くことにします。
滝沢監督はあらゆる経験が映画の糧と思っているようなのでうっかり見失って敵の手に落ちるようなことが無い様に【聴き耳】で行動を把握しておきたいですわね。

アドリブ歓迎



「面妖な……」
 呑龍寺・沙耶華(ブシドープリンセス・f18346)は独りごちた。
 悲劇から守るためとはいえ、役者の真似事をする日が来るとは思わなかったからである。回りくどいやり口だが――。
 とはいえ、相手の犯行動機や能力がまだ分からない。これもサクラミラージュでの情報収集の一環と考えれば、決しておろそかにしていいものではないだろう。

『いつ迎えは来ますの? わたくし、もう我慢なりませんわ』
 沙耶華はわざとらしく爪を噛みながら、高慢ちきな女性を演じる。自分が演じるならこういった役回りだろうか、と立候補したのだ。
 高飛車で嫌みのある令嬢。これも犠牲者としては鉄板だ。だから影朧が出るまでの時間をこの役で演じきる。
『こんな庶民の……いえ、腕の立つ職人の拵えの……いえ、いえ。わたくし、息が詰まるのです。先ほどのお茶は大変美味しゅうございましたが』
 鼻持ちならない令嬢を、
『そう、こういう時は一杯の珈琲があればいいのです。古き良き習慣も趣がありますが、同様に新しいものを嗜むのもまた――』

「うん、お前さんにその方向性は無理だ。育ちの良さが見えすぎる」
 もっとも八犬伝じゃあ、善人の女は長生きしないがな、と滝沢は意地悪く笑った。

「はあ……。難しいものですわね、悪女を演じるというのも」
「そこら辺は素質次第だな。自身と正反対だから演じやすいって奴もいれば、底意地の悪さが見える奴もいる」
「そういうものなのですか」
「役者のクセを掴むのも制作側の仕事なんでね」
 もっともあんたらは素人だが、と滝沢はからから笑う。
「つまり、悪人を演じる方は、まったくの善人か、それとも悪人だと?」
「こういう商売だ。たまにゃ真性の悪人も紛れ込んでくるがな……ま、それを言ったらどこだってそうよ。『八犬伝』の時だって――」

 ぞわり。

 その時、沙耶華の耳が確かに何かを捉えた。
「……いや、何でもねぇ」
 ――許すまじ、と。そう囁く女の声が。

「それは――今回の犯人に何か心当たりがある、と?」
「……」
 沙耶華がじっと見つめると、滝沢はばつが悪そうに目をそらす。トチった、と唇が動いた。

「まあ――心当たりならある。あの女は、真性の魔性だったよ」
 ため息とともに、滝沢はそれだけを口にする。
 それが誰のことを指しているのかは、ここまでの話の流れで明らかだった。

 タマキちゃん。玉置あずさと呼ばれた女優のことだと。

成功 🔵​🔵​🔴​

香月・赤兎(サポート)
「戦うのはまだちょっと怖いけど…頑張るよー!」
「乙女を傷つける奴は万死に値するんだからねっ!」
「ふえ〜…もう帰りたーい…」

お転婆で元気一杯!
恋に憧れ、甘いものに目がなく、可愛いものが大好きな普通の女子。
戦うことには苦手意識があるけれど、それ以上に理不尽な奴が許せない!
特に卑怯な男はこの世から滅亡すればいいと思っている。

基本的には弓を使った攻撃を得意としており、敵と一定の距離を置いて戦おうとする。
追い詰められた時には最終手段としてユーベルコード【いつか王子様が…】で現状を打破しようと試みる。

お色気系NG。
それ以外はシリアス系でもネタ系でも何でもお任せでご自由にどうぞ!



 それはそれとして。

「うっわー、これチョーかわいいー!」
 ガラスケースに入れられたふわふわの犬のぬいぐるみを見つけて、香月・赤兎(赤い月・f03801)は思わず飛びついた。
 赤兎が抱えられるくらいのほどよい大きさだ。マスコットサイズにデフォルメされた白犬には、何やら和風の装飾が施されている。正月飾りみたい、と赤兎は思った。
「八……はち? なに?」
 ぬいぐるみの前には名前らしきものが書かれたプレートが置いてある。残念ながら赤兎には読み取れなかったが、

「やつふさ、だ」
 たまたま通りがかった滝沢がそうフォローする。
 ヤツフサ――八房と書く。伏姫の愛犬であり、八犬士の父とも言える。物語の引き金を引いた存在だ。
 滝沢がその辺りの設定をかいつまむと、赤兎は眉を顰めた。
「えー……。それって、この子お姫様を攫ったヤツってこと……?」
 こんな可愛いのに、とぼやくと、滝沢は呵々と笑った。
「そもそも玉梓の呪いから生まれたのがコイツだよ。それが伏姫の祈りによって浄化されて菩提心を得、それが八犬士として生まれ変わる――そういう話だ」
 最終的には神仙となった伏姫の騎獣として振る舞っていたりもするが、ともあれその辺りは赤兎にはどうでもいいことであった。
 『可愛いツラしてろくでもないオス』という印象が残っただけである。
 お姫様を攫った魔王じゃねーか。何マスコット面してんだコイツ。赤兎は内心で毒づいた。

「ま、分かりやすい象徴だからな。宣伝にはもってこいってだけだよ――それよか、あらかた撮り終えたぞ。お仲間んとこ戻れ。そろそろ影朧がやってくるんだってよ?」
「あ、そなの? ありがとー。でもセンセーも気をつけてよ。狙われてるんだから」
「お気遣いあんがとよ」
 あしらうように手を振る滝沢に、赤兎は堂々と宣言してみせた。
「まっかせて! 乙女を傷つける奴は絶対許さないんだから!」
「まあ、アンタらにはいい女がいっぱいいるからなあ――」
 これから猟兵たちは、影朧の襲撃を耐えなければならない。それも殺す気の一撃だ。この依頼には女性の猟兵も多く参加している。
 赤兎は『女性の敵』が特に嫌いだ。影朧の正体が何であれ、女を理不尽に傷つけるものは許せない。
 滝沢は、そういう意図の宣言だと受け取った。
 赤兎は「それもあるけど」と言った。

「いくつになっても乙女は乙女ってこと! じゃ、いってきまーす!」
 びしりと指を突きつけられ、滝沢は気まずそうに頭を掻いた。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 冒険 『文豪やスタア達の自殺を止めろ!』

POW   :    タックル等の力ずくで止める。

SPD   :    自殺に使う道具をピンポイントで破壊する。

WIZ   :    説得や魔法を使って止める。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 本来の予知の話だ。


 ――滝沢の死。
 その隣でカラカラと回る映写機、そしてフィルム。

 そこには女が移っていた。
 花のような美女。匂い立つとはまさにこのこと。映像越しにもかかわらず、所作の一つ一つから香しい匂いが漂ってくるのだ。
 女は、集まっていた招待客に向けて笑った。

「た、タマキちゃん――!?」
 ありえない、と誰かが叫んだ。女の名前は玉置あずさ。『八犬伝』の始まりを作った毒婦『玉梓』を演じた女優である。
 彼女は既にこの世を去っている。不慮の事故だと報道されていた。彼女を新しく収めた映像など撮りようがなく、

『愛すべき滝沢先生と、その他の皆さんへ』

 滝沢と玉置は、致命的なまでに相性が悪かった。
 スポンサーと事務所の意向。彼女を売り出すことが映画を作るための条件である。当時まだまだ無名だった滝沢にとって、それは飲まざるを得ない条件だったのだ。

 美人を笠に着ている、と人の言う。男を支配し、女を蹴落とし、のし上がるためなら何でもする悪女。玉置あずさにまつわる噂はそんなもので、この場にいた半数ほどはそれを事実と認めていた。

 フィルムの中の美女は笑う。
『こっちへ来ましょう? そして、映画を作りましょう? あの時のように――』
 ニタリと笑って、フィルムは終わった。

 そして――彼らは死にはじめる。
 首吊り、毒ガス、自傷、転落。密室の中、まるで自殺のような有様で。


 だが――役者は入れ替わった。世に誇るべきスタアたちの代わりに、猟兵たちがそれを受け止める。
 影朧の蠢く気配がする。誰かが『死ぬ』気配が屋敷のあちらこちらに発生している。
 全てを起動しなければ、きっと本体は現れない。そういう『脚本』なのだ。

 なら、罠を受けた上で、耐えてみせる。それが今回の仕事だ。
木常野・都月
殺される…か。
反撃はダメなんだよな?

とはいえ、上手くすれば敵と会ういい機会でもある。

UC【俺分身】を使用、分身には俺の代わりに死んでもらう。
分身なら、まあどんな殺され方でも大丈夫だろう。

俺は、どこかに隠れて影朧の[情報収集]したい。

ふと思ったけど…影朧…玉置さんに犬の特性…特に嗅覚とか盛られてないよな?

念のため[野生の感、第六感]を使用、臨機応変に動けるように備えておきたい。

万が一、俺が見つかったら[激痛耐性、呪詛耐性]で我慢しよう。

唯一困るのが毒ガスか。毒耐性がない。
風の精霊様に新鮮な空気を送ってもらうようにお願いして…
俺も準備万端!

って…分身が変な顔してる。
…仕方ないだろ。仕事なんだから。



 わざと殺されろ。ただし死なないように。

 改めて、文字に起こすとかなりの無茶ぶりである。与太話としか思えない前提条件だが、影朧をおびき寄せるためだと言われれば真面目な猟兵の仕事である。
「反撃は……ダメなんだよな?」
 そんな中、木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)の態度は端から見るといつも通りだった。その表情に感情の色はまだ薄い。『仕事だからやる』。ともすればそういった意識で動いているようにも窺えたかもしれない。
 黒い尻尾をそわそわと揺らしながら、都月は館の中をそぞろ歩く。

 滝沢の言葉を思い出す。
『いや、玉梓は犬じゃねえ。化けるとすれば狸だな』
 ――それはそれで、嗅覚が優れているかもしれないってことか。
 都月は警戒しながらそっと扉を開く。ひんやりした空気に、紙とインクと埃の臭いが漂ってくる。
 どうやら、資料室のようだった。
 黒い尻尾が所在なさげに揺れた。

 生前の玉置あずさは、その美貌を除けば普通の人間だったらしい。だが、影朧として発生したなら、何かしら超常の力を身につけていてもおかしくはない。そしてそれはこの場に相応しい因縁であるはずだ。
 なら、玉置の『役』ではないかと都月は考えた。そして『八犬伝』なら『犬』の特性を付与されているのではないか、と。
 それに対する滝沢の答えは上述した通りである。玉置あずさは玉梓役であり、それなら狸だと。だから心配しなくてよい、とも。
 ……どうも滝沢はピンと来ていないようだったが、都月の心配は『嗅覚』である。狸も立派なイヌ科で、嗅覚の鋭い動物だ。
 つまり――。
 都月は一見飄々とした顔をしながら、資料をめくる。

 ふわ、と甘い香りがした。
 頭の芯まで蕩けるような、甘美なにおいだった。
 そして、どこかアーモンドのような、

『ぐ――ッ!』
 とたん、都月が胸元を押さえる。
 痙攣した手足が資料を取り落とし、紙束が足下に散らばる。
 その上に黒狐の青年はもんどり打つと、そのまま悶絶してぐしゃぐしゃと辺りを散らかした。

 そして、ぴたりと動かなくなった。

 くすくす。
 まずは、ひとり――。
 いつからそこにいたのか。その様を女は笑って見下ろしていた。そして、すぐに消えて見えなくなる。

 後に残されたのは、無惨な姿で転がる妖狐の、

「……まさか本当に毒ガスで来るとは」
 違う。そこには何も残っていなかった。
 悶死したはずの都月だったモノはどこにもなく、隠れていた都月『本人』は窓の外に顔を出す。
「風の精霊様にお願いしておいてよかった……」
 室内に空気が流れ込み、よくないものを外へ送り出す。ひとまずここは凌げた。『分身』には悪いことをしたと思うが、これも仕事なのだから仕方が無い。

「……すごい美人、ってことでいいのかな」
 そういう機微には疎めな都月にも分かった。
 世の中には人を蝕む美しさがある。あの影朧の女は、そういう類の魔性だと。少なくとも、もう少し暴れさせてからでないと『飲まれる』。
 都月は仲間にそう連絡することにした。

【第一の自殺。毒ガスによる窒息死】

大成功 🔵​🔵​🔵​

呑龍寺・沙耶華
襲われるわずかな時間ですが少しでも玉置さんが秘めている心残りの手掛かりを集めておきたいので、「大根なりに勉強いたしますわ」と理由を付けて過去の作品の記録などを探しておきましょうか。
たぶんこの行動も玉置さんに監視されていると思いますので、わがままお嬢様キャラを崩さない様に気を付けながら「監督の求める演技は難解で困る」などの不満を言いながら探索して行きます。

ある程度の資料を閲覧した後は、相手が狙いやすいように屋敷内をうろついた付いた埃を流すため洗面所で顔を洗うなどの視界を失う状況にあえて立つことで相手の掌の乗るよう行動いたします。
死を装うなら洗面器の水で窒息…でしょうか?

連携やアドリブOKです



「まったく、監督の求める演技は難解で困りますわ」
 『ぷりぷり怒り』ながら、上物の着物を纏った女性がわざとらしく靴音を立てる。
「せめて大根と呼ばれないよう――ではなく。大根なら勉強してこい、だなんて」
 失礼しちゃう、などと呑龍寺・沙耶華(ブシドープリンセス・f18346)はわざと声高に言う。
 『高慢ちきなお嬢様系の役者』というキャラを、沙耶華は律儀に守り続けていた。

 とはいえ。

 隠しきれない邪悪の気配がする。具体的にどんな、というものではない。ただ漠然と『よくないもの』があちこちに漂っている。
 ――どこにいても玉置さんの監視下、と考えた方がよさそうですわね。
 かつん。沙耶華はブーツを鳴らしながらそんなことを考える。
 人を堕落させる天性の魔。酔ってしまいそうな甘い香り。毒には獲物に恍惚を与えるものもあると言うが、なるほどその類だろう。耐性のない一般人なら、そのままつられて自殺してしまう、というのも分からない話ではなかった。

 ならば――沙耶華ならどうする?

「ああ、もう埃っぽい!」
 ふと目に入った扉を見て、沙耶華はわざとらしく叫ぶ。
 そこは洗面室だった。

 埃っぽい、というのはささやかな本音である。滝沢は人嫌いであまり使用人を雇いたがらない。よって豪奢な屋敷ではあるが、清掃が行き届いているというわけでもなかった。
 水道を開ける。洗面器に水を汲む。溜まった水に、沙耶華の顔が映っている。
 顔を洗う。顔に浮かんだ汗を気にしないようにしながら、手のひらに水を汲んで、

 水面にもう一つの顔が映った。
 次の瞬間、沙耶華の後頭部に強い圧力がかかり、そのまま顔面が水面に叩き付けられる。
「――――!」
 漏れた空気によって水面が泡立つ。どうしてか顔を動かせない。水は溜まり続け、沙耶華の鼻と口は水中に沈む。
 ごぼごぼ。
 藻掻く身体がやがて動かなくなり――。

 ――わかるわあ。
 ――あの■■、不細工なくせに何様なのよ、ねえ?

 女は動かなくなった沙耶華に向けてけらけら笑う。そしてそのままかき消えた。


「……ぷはっ!」
 しかし、沙耶華は息絶えてなどいなかった。
「はっ、はっ……!」
 常人なら溺死していたであろう時間を、沙耶華は息を止めることで耐え抜いた。スーパーヒーローとして、剣豪として、鍛えた肺活量で真っ向勝負を挑んだのである。

「――なるほど。随分と下品な言葉を使うようですわね」
 お里が知れますわ。
 影朧の残した滝沢への嘲笑を、沙耶華はそう内心で斬り捨てた。

成功 🔵​🔵​🔴​

八坂・操
【SPD】

さぁてパーティタイム! 鮮血を撒き散らして無残な死に様を晒そう!
とはいえ、実際に死んじゃうと監督さんも守れないし、予め【影の煩い】で同年代の操ちゃんとすり替わっておくよ♪

「またまたー♪ これも撮影の一環でしょ?」
当面はまだ分かってない風に『演技』して、露骨に死体の写真とか撮ってよっか♪
知らず知らずの内に証拠を集めるとか、犯人からのヘイトも盛り盛りだ☆

ヒヒヒッ、所で八犬伝で悲惨な死に様といったら、やっぱり船虫辺りかな?
本物の牛は用意出来ないけど、牛頭骨なら簡単だよね♪
家具落下からの圧死とか、派手な血糊も用意出来てピッタリだ☆

「あっ、え?」
「血、嘘、やだ……死んじっ、死にたく……な……」



「あっは☆ 派手な撮影ー♪」
 長い黒髪を陽気に弾ませながら、八坂・操(怪異・f04936)は屋敷を練り歩く。どこまでも無遠慮に、カメラのシャッターをバシャバシャと切っていく。
 そこには『死体』が転がっている。
 保たれるべき『死者』の尊厳を、操はファインダーを通して容赦なく踏みにじっていく。

「だってこれ、撮影でしょー?」
 カシャリ。
 ハンチング帽の下で、ニタリと口元を歪ませた。

 いやはや、なるほど確かに『便利』だ。本当に便利なのだ。操はしみじみそう思う。
 『タチの悪い記者』は、場を混ぜっ返すだけが役割ではない。
 事件直後の現場をひたすらカメラに収めていく。つまりその分だけ『動かぬ証拠』がフィルムに蓄積されていく。
 無自覚に悪意を振りまいてヘイトを買いながら、同時に物証をも手に入れるファインプレーをこなしていく。

 ――ああ、なんて美味しい役回り!
 一見安易なキャラ付けが、サスペンスにおいてこれほどまでに役立つとは、この操ちゃんの目を持ってしても見抜けなんだ。
「さーてさーて、お次はー」
 そして、役目を終えるのはそろそろかしらん?

 嫌な気配がした。
 多分この辺りが『そう』なんだろうと辺りをつけながら、操は敢えてそこに足を踏み入れる。
 家具がいい感じに散らかっており、バランスの悪い調度品がいくつもある。
「おっとっと」
 何かの線を踏みつけた。
 それでバランスが崩れたのか、がたがたと頭上から音がした。

 ――ちょっと、あなたは目障りだわぁ。
「えっ」
 次の瞬間、操の頭に牛の頭蓋骨が降ってきた。

「あ、あ、あ、――」
 胸元に、ざっくりと牛の角が刺さっている。ぼたぼたと血が溢れだし、床を汚す。
「なん、血、出、――」
 どこからかケラケラと笑い声がした。
「や、死にたく、な、」
 ずん。だめ押しのように木材が落ちてきて、派手に血しぶきを上げながら操は息絶えた。
 奇しくも、滝沢に指示されたとおりの『派手な死に様』だった。さぞかし視聴者の溜飲も下がること請け合い。


「いやー、牛の角で死ぬとか、操ちゃん船虫ポジだったかー」
 あらかじめ入れ替わっていたドッペルゲンガーの死に様を見ながら、操はそんな感想を漏らした。船虫は八犬伝を代表する悪役だ。演者としては最高の評価、と言っていいだろう。
 ――大丈夫、影朧の姿はだいぶはっきり見えるようになってきた。
 だいぶ恨みを吐き出したと見える。あともうちょっと『死人』が出れば、尻尾を掴むことが出来るだろう。

 まあ、一つツッコミどころがあるとすれば。
「ていうか、もうこれ自殺じゃないよね」
 流石に無理があると思う。それだけ当初の思惑から外れている、と前向きに考えよう。

【第二の自殺。洗面所での溺死】
【第三の自殺。家具へ激突しての失血死】

大成功 🔵​🔵​🔵​

政木・葛葉
お出ましみたいだね。
政木狐の死に方、狐竜になって天寿を全う、なんだけど。
最後は石になって空から落ちてきたんだっけ。それになぞらえてくるなら……転落?犯人に拘りがあるならだけど。
あと、あたしが政木って知らないとやってこないかな?逆にそこまでやってきたなら大したもんだね。

茶屋セットもあるし、吊りの線もあるかも。この二つは自殺に見せかけやすい。自傷とかは明らかに刃物で血が出るから不審になりやすいもんね。

落としてきたら、【空中浮遊】で地面に叩きつけられるのを防ぐ。吊りでも浮遊して気道確保かなー。見た目は【演技】でカバーするよ。
演出用の血糊とか予め借りとこうかな。落下とか、斬ってきた時も偽装に便利そう。



 自分の出現させた茶屋に腰掛けながら、政木・葛葉(ひとひら溢れし伝説の紙片・f21008)は思案した。

 この事件が南総里見八犬伝になぞらえたものだとして、だとしたら『政木狐』に照応する葛葉は、それになぞらえた殺し方をされるのだろうか?

「さて、どうだか。あのアマにそんな教養があるとも思えねぇ」
 葛葉の問いに、滝沢は首を横に振った。
「でも相手は影朧だよ。玉梓の役割を持っているのなら、本来持っていない原典の知識があってもおかしくないと思うけど」
 ふむ、と滝沢は唸る。
「ちなみに――政木狐の最期は言えるか?」
「ええと確か――天寿を全うして、岩になって落ちてくるんだよね」
 すぐさま答えた葛葉に、ほう、と感心したような声を上げる滝沢である。
 これが描かれるのは『最終決戦後のエピローグ』だ。訳書では省かれやすいエピソードである。つまり、なかなか知るものが少ないということだ。
「つまり、あるとしたら……転落かな?」

 『見立て』を行うなら十分に筋が通る。
 葛葉はその期を待っていた。……だが、こちらに来る気配は未だない。
 既に『殺人』は行われている。それも自殺に拘泥しない形で、だ。

 ――そうなると、既に影朧の行動は破綻している?

 いや、どうだろう。葛葉は考え直す。
 『政木狐』は作中において霊験あらたかな聖獣として描かれている。しかも玉藻の前を引き合いに出した上で『それは創作で歪められた姿だ』とまで言及しているのだ。八犬伝の世界において、九尾の狐は聖なるものと定義されているということになる。
 いかな玉梓といえど手出しが出来ないのではないだろうか?
 それともあるいは――。

 葛葉は何の気なしに立ち上がった。
 その瞬間、

「、ぐっ……!」
 しゅるり、と縄が首に巻き付いた。そしてそれが勢いよく引っ張られる。
 ――首吊り……!
 ここに来て、自殺『らしい』手口だった。

 とっておいてあげたのよ?
 宙に浮いた影朧は、にたにたと笑っていた。

 ――政木狐の最期。
 『親兵衛と孝嗣の目の前で空に昇る』というのも、物語からの退場という意味では間違っていない。孝嗣というキーマンを味方に引き込むために大事なシーンのため、省かれにくいのだ。
 その解答では滝沢辺りに言わせれば『浅い知識』なのだろうが――。

 ――いいわあ。お望み通り、堕としてあげる。

 影朧は高く吊り上げたロープから手を離した。
 首を吊った葛葉は、そのまま地面に転落し、ぐしゃりと朱色をぶちまけた。

 ――そういう通ぶったの、本当に嫌いだったのよねえ。


 なるほど。つまり、滝沢との会話を聞いて方針を転換した、ということか。
 もらった血のりが無駄にならなくてよかった。
 吊られて藻掻く演技も、転落する様も、だいぶ真に迫っていたらしい。見事に騙されてくれたようだ。
 絶妙に宙に浮きながら致命傷を避けていた葛葉は、頭上の気配が消えるのを確認すると、内心でほくそ笑んだ。

【殺した。みんな殺した。……?】

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『咎忍『玉梓』』

POW   :    禁呪『八房』
【巨大な犬】に変形し、自身の【回避能力】を代償に、自身の【牙】を強化する。
SPD   :    禁呪『妙椿』
【鎌鼬を纏った勾玉】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    禁呪『ヨミガエリ』
【黄泉比良坂】から、【腐敗】の術を操る悪魔「【黄泉醜女】」を召喚する。ただし命令に従わせるには、強さに応じた交渉が必要。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は政木・朱鞠です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ただ、怒りがあった。

 玉置あずさにとって、他人とは悉く自分に傅くものだった。それが当然のことだったからだ。
 ただひたすらその美貌によって愛され続けてきた。そういう天性の才であり、自分に理解を示さない有象無象は認識すら出来なかった。世界は自分を肯定する。それが彼女にとっての常識だった。

『顔がいいだけの大根め』
 だから、『八犬伝』の現場でそう滝沢に正面から切り込まれた時、生まれて初めて斬り付けられたような痛みを覚えた。
 始めて認めざるを得なかった他人の才能。その相手に拒絶された困惑。
 本来なら歯牙にもかけないはずの醜い顔。なのに、不思議とその言葉は玉置の心を痛めつけて離さなかった。

 許さない、と思った。
 本当に偶然の事故。車で移動している最中、落石に巻き込まれてあっけなく命を落とすその瞬間まで、滝沢のことだけを憎み(おもい)続けていた。

 ずっと怒りがあった、のだと思う。

「なんだ。まだ死に足りないのね?」
 影朧の女は、ふわりと美しい笑みを浮かべる。形こそ笑顔だが、酷薄だった。
 その装いは姫君のようにも遊女のようにも見える。劇中の、毒婦玉梓の衣装そのままだった。
「いいわ、いいわ。もっと遊びましょう」

 滝沢に肩入れする猟兵たちを見る。ああ、そういうのは私のものだったはずなのに。死んだふりをしてまで命を庇うなんて、そんな――。
 憎い。きっとこれは怒りと憎しみだ。他人のことなんてどうでもよかった。それがずっと滝沢のことばかりを考えているなんて、そうでなければ説明が付かないのだから。

 畜生道に導きて、この世からなる煩悩の犬となさん。
「その不細工な女についたことを、後悔させてあげる」
木常野・都月
可能な範囲で、転生への説得をしたい。
しかし説得が無理だったり危害を加えるようなら倒したい。

確かに、このヒトは美人だ。
でも、見た目だけ。
心は飢えた獣だ。

事故に遭ったのは、災難だったけど…それは別問題。

ヒトは認めたがらない事だけど、自分の獣の部分を認めないと、先に進めないぞ。

認めた上で、皆そこから努力するんだと思う。

新たにスタートする為にも、転生を勧めたい。

ダメならUC【狐火】を使用、火力は強め。
影朧に張り付いて焼いていきたい。

敵UCは[カウンター、全力魔法、火の属性攻撃]で迎撃したい。

迎撃が無理なら[野生の感、第六感、逃げ足、ダッシュ]で回避、避けきれないなら[オーラ防御、激痛耐性]で凌ぎたい。



 『本来の』玉梓の悪行は、八犬伝そのものを支配していると言ってもよい。
 序章において処刑されるものの、その時に残した呪いによって登場人物の悉くが悲劇に見舞われた。
 それらを克服した者として八犬士の活躍に繋がるわけだが、これを受けて玉梓を『八犬士の悪性の親』とする解釈もある。
 故に。

 ぞわり、ぞわり。
 床に黒い染みが生まれたかと思うと、そこからゆらりと何かが立ち上がる。
『行きなさい、黄泉醜女』
 女は召喚したモノをそう呼んだ。国産みの母、イザナミノミコトの使役した存在である。
 するとそれらは皮膚の爛れた女の姿を取った。
 それらは不思議なほど、滝沢の顔に似ている。

 チ、という滝沢の舌打ちを木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)の耳が捉えた。
 ヨモツシコメ、というものが何かは分からないが、あんなゾンビめいたものに似せられるのはいい気分ではないだろう。
 玉置と滝沢、この二人の女の間にどういう感情の機微が働いているのか、世俗に疎い都月には分からない。代わりに、都月なりの感想が浮かんだ。

 ――この人は、飢えた獣だ。
 見た目はとても美しいのに。
 その心は、ぎらぎらと牙から唾液を垂らす獣のそれと同様のものだ。

「それじゃあ、ダメだ」
 都月の木訥とした、強い言葉に玉置は振り返る。
『何がダメなのぅ? ボウヤ』
 言葉が耳朶を叩く度、ふわふわと甘い匂いがする。都月は努めてそれを無視し、自分なりに考えてみる。
「事故に遭ったことは災難だったと思う。……でも、それは別問題」
 くすくす、と女は笑っている。
「今のあなたは、醜い獣だ。それを見ない振りしてる。それを認めないと、先に進めないぞ」
 だから、転生してもう一度やり直そう――と。

 言いかけた瞬間、呪いめいたものが醜女から放たれた。都月は反射的に魔力をぶつけて相殺する。
 玉置はケラケラと笑った。
「獣! ええ、そうね、私は獣なんだわ。何せ狸になっちゃう女の役なんですもの。役者冥利に尽きると思わない?」
 げらげらげら。
 心底愉快そうに笑いながら、醜女は都月を狙って腐敗の気を放ってくる。

 にべもない反応に都月は唸った。
「むう」
 何か勘違いがあったのか、それとももう少し弱らせないといけないのか。
 いずれにせよまだ話し合うには早いらしい。
「仕方ない。少し、お、……をすえないと」
 ど忘れしたのか、少し口ごもりながら、都月は自身の周りに無数の火の玉を浮かべる。黄泉の国から来たというのならば、火をもって還さなければならない。

 少し間が開いて、あ、と滝沢が口を開いた。
「……もしかして、お灸か?」
「それ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

八坂・操
【SPD】

哀れな哀れな玉置ちゃん♪ 貴方の恨みは何処ですか?
ヒヒヒッ、畜生道へ陥れた存在が、修羅道に落ちてちゃあ意味ないね☆
人の道にはまだ戻れないかな?

「ターマキちゃーん♪ あっそびーましょー♪」
ま、操ちゃんにはそんなの関係ないけどね☆ 遊びたいなら存分に遊ぼっか♪
包丁で応戦しつつ『フェイント』を用いて『カウンター』を狙おう! 
「ヒヒヒッ、そーんな怖い顔して、折角の美人さんが台無しだね♪」
軽く挑発すれば攻撃も激化してくれそうだし、隙を見て包丁を手放して、『だまし討ち』気味に『串刺し』貫手を叩き込もう! ヒヒヒッ、ピンチを演じるのも『演技』の見せ所だね♪
言葉に視線に片手……【独鬼】つーかまえた♪



 玉梓は序盤で命を落とし、呪いという形而上の概念で物語を蝕むのは前述の通りである。
 しかし終盤の親兵衛編において、『将軍を誑かす毒婦』という存在が登場する。その名を妙椿と言う。

「ずたずたにしてあげるわぁ。行きなさい、妙椿」
 玉置はそう言って笑うと、色とりどりの勾玉を取り出した。それは風を纏い、やがて真空の刃となって高速回転する。その様は――。

「……え、鎌鼬? まっさかー、妙椿は狸だよ?」
 その矛盾に、八坂・操(怪異・f04936)はけらけらと笑った。
「細かい事はいいじゃなぁい。狸に凶暴なイメージなんてないでしょう?」
 飛び交う勾玉を器用に躱しながら、操はじわじわと距離を詰めていく。せっかくなので演技で使ったハンチング帽はそのまま、くるくると踊って戯れるように。
「隠神刑部とかあるじゃん?」
 その手にぎらりと光る包丁さえなければ、友達と遊んでいるようにすら見えただろう。
「――あっそう。さっきからうざったいのよね、アンタ」
 玉置の口元から笑みが消える。飄々とした操の態度が気に入らない、とその目が如実に語っている。
「まったまたー☆ そんなこと言わずにあっそびーましょー♪ 哀れな哀れなタマキちゃん、あなたの恨みはどこですかー♪」
「アンタとは遊ばない。――殺すわ、すぐに」
 ぎゅう、と玉置は手を握りしめる。すると辺りを舞っていた勾玉が急に角度を変え、操めがけて飛んできた。
 四方八方からの膾切り。腹立たしい女の身体はへたくそな操り人形のようにガタガタと跳ね、その手から包丁が滑り落ちて事切れたことを確信し、

「見ぃつけた」

 言葉によって激昂した。
 取り落とした武器に視線を向けた。
 そして、繰り出された操の貫手が、玉置あずさの腹部を貫いていた。

 だから。
 ――電源の落ちた部屋。ザザザとノイズを垂れ流すブラウン管。浴室に沈んだぬいぐるみ。
 自分(あずさ)がぬいぐるみになっている。それに包丁を突き立てる、長い髪の女がいた。
『私の勝ち』
 ■■■(みさお)の口がそんな風に動いた。ああ、今すぐにでも追いかけないと――。


「んもう、そんな怖い顔してちゃあせっかくの美人が台無しだゾ☆」
 物語には新しい物語を。影朧としての概念を操の怪談で上書きされ、玉置はしばし停止していた。
「……興味あるな、その話」
 そして滝沢はそんな操に興味津々だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

呑龍寺・沙耶華
POWで行動
貴方の苦悩に対してどんな言葉をかけても薄っぺらく思われるでしょう…もしかしたら、滝沢監督への感情を持て余した戸惑いが貴方を『憎しみ』というわかりやすい感情へと歪めてしまったのかもしれませんね…。
幸いにも憎しみに凝り固まってしまった貴方を解き放つ術を私たちは持って参りました。
貴方の悪いループをここで絶たせて頂きます…お覚悟よろしくって?

戦闘
思う所は有りますが戦闘は避けられぬなら…『スーパー・ジャスティス』を使用してちょっと強化状態で受けた後に攻めに転じます。
技能をいかして【残像】や【見切り】で翻弄し、武器はサムライブレイドの斬撃でダメージを狙います。

アレンジや他の猟兵との連携OK



 八犬伝において、八房ほど分かりやすい象徴はないだろう。
 物語の始まりの犬。窮地に追い込まれた里見家を助け、しかし見返りとして伏姫を要求した愛犬。
 八犬士の『父』であり、伏姫の敬虔な祈りによって菩提心を目覚めさせた畜生。
 その正体は――玉梓の残した呪いの化身である。

「この――畜生どもめ」
 ままならない戦況に業を煮やした玉置は、憤怒の形相で自分の顔に手をかける。その有様でさえ、見る者によっては美しいと思わせるだろう。
 一本芯が通っているとすら思わせる憤怒。玉置あずさ/玉梓という魔性を形作っている憎悪。

 ともあれ。
「どんな言葉も、薄っぺらく感じてしまうのでしょうね」
 刀を向け、一歩踏み出す。呑龍寺・沙耶華(ブシドープリンセス・f18346)はそう独りごちた。
 ――まだ、アレと対話は不可能だ。
 どの言葉も届いていない。持てあましている感情が溢れて止まらないのだ、と沙耶華は読み取った。

 全ては想像でしかない。けれど彼女の話をしていた滝沢の態度を見るに、『ただ気に入らない相手』というだけでもない気がしていた。

 容姿だけ見れば凡庸な、しかし映画の才能に満ちあふれた滝沢と。
 容姿だけ見れば高嶺の花の、しかしそれ以外を持たなかった玉置。
 相互理解などあり得ない。けれど思うところはあった。その正体不明の感情が爆発し、それに囚われたのがあの影朧ではないのか。

『食われろ、食われろ。みんな、みんな嫌い――!』
 めりめり、と女は巨大な犬へと姿を変える。始まりの犬、八房を模した何かは、大きな口を開けて弾丸のように突っ込んできた。

「その憎しみ、わたくし達が断ち切って差し上げます」
 瞬間、金色の気を身に纏った沙耶華がその牙を刀で受け流す。
 鋼の擦れる音が悲鳴に聞こえる。
 ただ、哀れだった。ここまで肥大化した感情を抱えて現世に留まっているなど、どれほどの苦痛なのだろう。

「――お覚悟、よろしくて?」
 ならば、もう一度菩提心を授けよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

政木・葛葉
はー。あたしだって別にそんな美女って訳じゃないし、綺麗な人は羨ましいなーって思うけどさ。
顔が全てじゃない、って月並みすぎるかな?

あと、監督さん。あたし、まだ竜には至らないって言ったけど……ごめんね、あれ半分嘘なんだ。
ちょっと大掛かりなズルすればなれちゃう!

【昇華・翔竜善狐】……時の神の力を受けて、あたしが将来至る姿を作り出す。
炎とかも吐けるけど、屋敷が燃えちゃうのは避けたいね。
ダメージの通りにくい大きな図体を利用して、巻いて取り囲んで噛みつきかな。
大きな犬には大きな……ってね。

はは、これじゃ八犬伝っていうか怪獣映画だね。いい絵になるかもしれないけど、巻き込まれないようにカメラは程々にね!



 正直、どうでもよかった。
 事務所が取ってきた仕事の内容に興味はない。いつも通りに笑っていればそれで終わる。こなしていくだけの仕事、それだけの毎日。
 なのに。
 ――顔がいいだけの大根め。
 なんで、あんな不細工の汚い言葉が、こんなにも心をかき乱したのか。
 それが未だに、分からなかった。

 影が跳梁し、鎌鼬が飛び回り、犬と化した玉置が顎を開く。
 追い込んでいる実感は確かにあった。しかし同時に攻撃の苛烈さも増していく。
『ウザい、ウザいウザいウザい……!』
 きっと倒すだけなら時間の問題だ。しかしそこまで長引けば――。

「監督さん、この屋敷が壊れたらどのくらい困る!?」
 政木・葛葉(ひとひら溢れし伝説の紙片・f21008)はいったん距離を取ると、滝沢にそう問いかけた。
「どのくらいって言われたら、それこそ自殺するね! おれの人生そのものだ!」
 滝沢は即座に意味を理解して吐き捨てる。
 冗談ではない。資産価値もそうだが、貴重な映画関係の資料が山ほど保存されているのだ。それを全て破壊されるとなれば、もう生きる意味はない。
「分かった、その方針はなし!」
 正真正銘本気で言っていると理解して、葛葉はすう、と息を吸った。

 元より滝沢の自殺を防ぐための依頼だ。その大前提を間違えては意味がない。
「――ねえ監督さん。あの人のこと、本当に嫌いだったの?」
 ふと気になって、葛葉はそれを改めて尋ねた。
 返答は早かった。
「当たり前だ。あんだけの顔がありゃあ、おれだってもうちょっと人生楽できたろうよ」
 つまり、持つ者への嫉妬だ、と。苦虫をかみつぶしたような顔で、滝沢はそう言った。

 ――顔だけが全てじゃない、なんて、月並みすぎるか。
 男のような振る舞い。男のような口調。皺と染みで男のようにも見えてしまう、顔。
 滝沢という女性の人生にとって、それだけは『生理的に受け付けない』というものだったのだろう。
 伏姫と玉梓が相容れないように、お互いがお互いの天敵だった。これはそういう話だった。

 よし、と葛葉は構え直した。
 疑問(なぞ)は解けた。なら後は猟兵らしくするだけだ。
「――ごめん、監督さん。さっき、半分だけ嘘吐いた」
 唐突な葛葉の言葉に、滝沢は眉を顰める。
「あたし、竜にはまだ至らないって言ったけど――ちょっと反則すればなれちゃうんだよね!」
 たん。
 走る。
 軽やかな一歩と共に、葛葉の時間が加速する。瞬く間にその身体が光を帯び、成熟していく。
「いい絵になるかもしれないけど、巻き込まれないよう程々にね!」
 とん。
 跳ねた。

『光陰よ、矢となれ。今ここに、我が善行の果てを示せ――!』
 限定的な時間跳躍。功徳の前借り。政木葛葉がいずれ至るであろう境地を、擬似的に呼び寄せる神秘。

 葛葉をまるで政木狐そのものだと滝沢は称した。
 その通り。
 狐の毛並みを連想する金色の鱗。九尾の形に分かれた鬣。
 正しく、狐竜の姿がそこにあった。

「あ――」
 自分に襲いかかる竜を、玉置は呆然と見上げていた。
 綺麗だ、と。
 生前、ついぞ自分以外に使うことのなかった言葉が、思わず口を吐いて出た。


 後のことは語るまでもない。
 悪は去り、善が勝つ。八犬伝とは、そういう話なのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年11月23日


挿絵イラスト