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銀河航路よ遥かなれ～黄金色の目覚め～

作者：滝戸ジョウイチ

　――未踏宙域。
　それは、かつての銀河帝国すら入植を断念したというスペースシップワールドの暗部。
　そして同時に、かつての大戦による破壊が及ばなかったと推測される唯一の星域。
　この世界の人々が新たな母星を見つけるには、この未踏宙域に航路を拓くほかない。
　旧帝国が残した文献を手に、勇敢なる探索者たちは危険を顧みず旅立っていった。
　だがそれは、帝国軍をも退けた恐るべき『脅威』との遭遇をも意味していた。

　クェーサービースト。
　小惑星にも匹敵する規格外の巨体を誇る、正体不明の超生命体。
　対話不可能、理解不可能、共存不可能。存在そのものが脅威たる、恐るべき星の獣。
　第一次探索計画において、人類は彼らの尖兵である『キエリビウムJOX』と遭遇。
　しかし予め護衛として同乗していた猟兵達の活躍により、辛くも撃破に成功。
　その際、クェーサービーストに対してユーベルコードが通用することが実証される。
　圧倒的サイズ差という壁はあるものの、その事実は宇宙の人々を大いに勇気づけた。
　そして帰還した探索船がもたらしたデータにより、更なる先への探索が可能となった。
　未踏宙域の深部。そこに棲まうクェーサービーストとの接触はもはや避けられない。

　☆　☆　☆

　グリモアベース。
「喜ぶがよい。汝らの働きにより、探索計画は第二段階へと移行することとなった」
　ツェリスカ・ディートリッヒ（熔熱界の主・f06873）の語り口はどこか誇らしげだ。
　グリモアと一体化した魔術書を開くと、未踏宙域の星図が立体映像として投影される。
　そこには確かに、これまでの探索によって拓かれた宙域深部への航路が描かれていた。
「この航路に沿ってワープを行うことで、更なる宙域深部への調査が可能となった。
　汝らの役目は調査船の護衛と補助……そしてクェーサービーストの撃破である」
　ツェリスカが指を弾くと、黄金色の外殻で覆われた異形の生命体が映し出された。
「これが『マインドミナBVA』である。その大きさはキエリビウムJOXを明らかに凌ぐ。
　小惑星級の巨体だけでも脅威だが、真の恐ろしさは金色に輝く『変身外殻』にある」
　無限に変化し続けるこの外殻は、理論上あらゆる物体を再現できるものと思われる。
　過去に交戦した旧銀河帝国の兵器のみならず、猟兵の攻撃すら模倣が可能だ。
「汝らが護衛するのは、前回の調査にも参加した外宇宙探索艦ゴールデンレコード号だ。
　肩書通り探索に特化した艦であるため、任務達成には汝らの尽力が不可欠となる」
　敵の外殻に対処しつつ、規格外の巨体に対してどう攻撃を通すかを考えるべきだろう。

「――さて、ここからがある意味本題だが、今回の任務は敵を倒して終わりではない」
　任務の準備へと向かおうとする猟兵達を呼び止め、ツェリスカは片目を瞑ってみせた。
「予知により、例の変身外殻は本体が活動停止しても消滅しないと判明したのだ。
　これはユーベルコードを伝達し、手にした者の思念で自在に変形する性質を持つ」
　この外殻を回収することで、今後の戦いを有利にする何かが開発できる可能性がある。
　もっとも、超巨大かつ強靭な外殻をより多く持ち帰るためには一工夫が必要だろう。
「今後、クェーサービーストとの戦いはより激しさを増していくに違いあるまい。
　今はともかく、いずれ更なる大型種と対峙すれば、彼我の体格差は絶望的となろう。
　ゆえに、使えるものは何でも使わねばな。汝らであれば成し遂げられると信じよう」
　期待しているぞと告げて締めくくり、ツェリスカは猟兵達を星の世界へ送り出した。

第1章 集団戦 『シェル・ウォーマシン』

POW   :    肉弾 【体当たり】による素早い一撃を放つ。また、【帰還用の推進剤を使用する】等で身軽になれば、更に加速する。 SPD   :    フィンガー・ブラスター 【両手の指先から熱線】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。 WIZ   :    姿勢制御システム 空中をレベル回まで蹴ってジャンプできる。 イラスト：ケーダ 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

「レーダーに感あり！　クェーサービースト、捕捉しました！」
　ゴールデンレコード号の艦橋にオペレーターの緊迫した声が響く。
　未踏宙域にワープアウト後、細心の注意を払いつつ航行を続けてどれだけ経ったか。
　既に覚悟はしていたとはいえ、船内には一瞬にして緊張が走った。
「スクリーンに出します！」
　映し出されたクェーサービーストの威容に、誰ともなく息を呑む。
　並のスペースシップなど優に凌ぐ、まさしく小惑星級と呼ぶに相応しい巨体。
　表面に突出した無数の削岩機のようなものは、例の『変身外殻』の一形態なのか。
　注意深く観察すれば、金色の部分は絶えず変形を繰り返し続けているようだ。
　あれが『マインドミナBVA』。未踏宙域の深部に棲まう、新たなる星の獣。

　だが、出撃しようと急ぐ猟兵達の耳に、今度は当惑したクルーの声が届いた。
「クェーサービーストの外殻が一部剥離！　その形が変化していきます！」
　モニターに映し出されたのは、外殻が変化した奇妙なウォーマシン群だった。
　砲弾に手足が生えたようなシルエットに、戦闘機のノーズアートめいたペイント。
　どこかユーモラスな印象すら受ける姿だが、目にしたクルー達は一様に青ざめている。
「……シェル・ウォーマシンか。銀河帝国が開発した、対艦用の特攻兵器だな。
　手足を収納した状態での突撃で敵艦の装甲を貫徹し、内部で格闘戦を行う設計だ」
　ブルードット艦長が、辛うじて声を絞り出す。
　この状況はつまり、クェーサービーストによる『対艦攻撃』に他ならない。
「シールドを張れ！　奴は既にこの艦の存在を捉え、真っ先に落とすつもりでいる！
　猟兵の皆様方も急いで出撃を！　本艦の装備だけで食い止めるのは不可能に近い！」
　ウォーマシン群はゴールデンレコード号を最優先目標として突撃してくるだろう。
　この艦が特攻を受ける前に、一機残らず迎撃しなければならない――！　


　それぞれの宇宙戦装備を纏い、急いで船外へと出撃していく猟兵達。
　直後にゴールデンレコード号がシールドを張ると同時、ウォーマシンが一斉に動いた。
　両手足を格納した突撃形態に変形し、ブースターを全開にして突撃を開始する。
　停止する方法など一切考慮しないその急加速は、まさしく砲弾のそれ。
　運動エネルギーすなわち破壊力。体当たりは原始的ながら最も理に適った攻撃だ。

「外殻が特攻兵器に……なんでもありですね」
　セルマ・エンフィールド（絶対零度の射手・f06556）は嘆息を漏らした。
　猟兵が戦う敵は常識の及ばない相手ばかりとはいえ、流石にあれは桁が外れている。
　オブリビオンの群れを、ただの飛び道具であるかのように難なく創り出すとは。
「とはいえ、弾が当たれば壊せるのであれば、やることも同じです」
　愛銃フィンブルヴェトのスコープを覗き込み、瞬時にウォーマシンへ照準を合わせる。
　同時に逡巡。一機ずつ順番に撃ち落としていくのでは、手数が足らないのではないか。
　万が一にも撃ち漏らしが後ろに逸れた場合、リカバリは非常に困難だろう。
　
　狙撃手ならではの迅速な決断で一旦銃を下ろし、セルマは迫り来る敵軍を見据えた。
「やはり出来る手は全て打っておきましょう」
　ユーベルコード発動。『氷雪の迷宮（ブリザード・ラビリンス）』。
　頑強な氷壁で球形の立体迷路を作り上げ、自分もろとも複数の敵を纏めて閉じ込める。
　内部は吹雪が激しく吹き荒れる冬の世界。外が真空の宇宙だろうと関係はない。
　突然の変化に対応できなかったのだろう、ウォーマシンは次々と氷壁に激突した。
　その衝撃で、本来は破壊困難であるはずの「氷雪の迷宮」全体が激しく振動する。
「力任せに突破される前に、狩りへと移りましょうか」
　敵が銀河帝国の対艦兵器ならば当然、吹雪の中で戦ったことなどないはずだ。
　対して、冬の世界はセルマの世界。環境の優位は完全にこちらへ傾いている。
　
　吹雪を隠れ蓑にしつつ迷路を移動していく。敵も同様に出口を探して移動中のようだ。
　知能の高いAIではないのだろう、恐らくは総当たりで迷路を踏破するつもりだろうが。
　高速で通路を疾走する一体を、曲がり角で減速したタイミングに死角から撃ち抜く。
　敵にとっては未知の世界だ、不意を突くのは容易い。居場所さえ分かれば暗殺できる。
　続けて二体目、三体目。雪中の暗殺者となったセルマの手で、敵は次々葬られていく。
「……！　この衝撃、ようやく力押しに出たようですが」
　再び迷宮内に響く振動。最後の一体が、強引な突撃で氷壁のひとつを突破した。
「もっとも、この迷宮は私の狩場。地の利はこちらにあるということです」
　障壁の先に待ち構えていたセルマの銃弾が敵を射抜き、迷宮内には冬の静寂が訪れた。　

成功 🔵​🔵​🔴​

「むむむ、氷の迷宮とは動画映えしそうな技ではないか。妾も負けていられぬな！」
　御形・菘（邪神様のお通りだ・f12350）は意気揚々と宇宙空間へ躍り出ていく。
　彼女がゴールデンレコード号を護衛し、クェーサービーストと対峙するのは二度目。
　たとえ前回より巨大な敵を前にしても、菘の情熱は決して翳りを見せることはない。
「妾の動画に一度でも参加してくれた者たちを、妾が見捨てるわけがなかろう！」
　だから超高速で迫り来るウォーマシンに対しても、堂々と声を張り上げてみせるのだ。
　
「聞けい貴様ら！　クェーサービーストより産み出されし鋼鉄の落とし子どもよ！
　貴様らは与えられた命令のまま、猟兵になど目もくれず艦を狙うつもりであろうが！
　そもそもこのステージの主役は妾であろう！　無視して素通りなど許しはせん！」
　だが菘の渾身のアピールも、ウォーマシン達は当然のように無視して直進していく。
　機械だから融通が利かないというより、そもそも言語理解能力があるのかも怪しい。
　だが菘には理由などどうでもよく、またしてもスルーされたという事実があるだけだ。

「ならば刮目させてくれよう！『見よ、この人だ（エッケ・ホモ）』！」
　高らかに掲げた指を一たび弾けば、真空の宇宙空間に鳴り響くファンファーレ。
　その音を聞いたウォーマシンのボディに、次々と情熱の炎が燃え広がっていく。
　炎がウォーマシンの心に火を灯すのは、菘から目を離したくないという情念だ。
「空気が無ければ音は伝わらないとか、兵器には聴覚も心も無いんじゃないかとか、
　金属は燃えないとか、あのウォーマシンの顔はペイントだから目線が動かせないとか、
　そんな諸々の懸念は一切合切問題ない！　なにせ邪神たる妾の使う技であるから！」
　猟兵のユーベルコードはあらゆる事象を超越し、常識の埒外にある結果をもたらす。
　宇宙に浮かぶ氷の迷宮に吹雪が吹くなら、ファンファーレも鳴るし機械の心も燃える。
　ユーベルコードとはそういうもので、そしてこれが御形・菘のユーベルコードだ。
「さあ、もはや妾を無視できまい！　来るがいい、存分に大歓迎してくれよう！」
　果たしてシェル・ウォーマシン達は軌道を修正し、菘へ向かって突撃していく。
　それを尻尾で砕き、異形の左腕で貫き、千切っては投げの大立ち回り。
　殺到するウォーマシンを次から次に叩きのめす姿は、まさしく菘の独壇場だった。
　

成功 🔵​🔵​🔴​

　広範囲に展開するユーベルコードによって、敵の進撃は食い止められたかに見えた。
　しかしその合間をすり抜ける形で、後続のウォーマシンが次々と艦に突進してくる。
　対艦攻撃用のシェル・ウォーマシンは、単体では猟兵にとってさほどの脅威ではない。
　やはり問題はその数と、脇目も振らずにゴールデンレコード号を狙うという性質だ。

　愛銃AHP238の照準を向けながら、陰樹・桧（要撃射手・f21490）は思考する。
「前回以上に困難な作戦、ですね」
　桧は既に、クェーサービーストの尖兵・キエリビウムJOXとの戦闘を経験している。
　だからこそ、新たなるクェーサービーストが更に強大な存在なのは認めざるを得ない。「それでも、ここまで来て成果なしでは帰れません」
　銃のグリップを握り直しながら、桧は素早く姿勢制御を行って態勢を整えた。
　その動きは、宇宙空間での活動に不慣れだった前回の時のものとは全くの別物だ。
　超高速で迫り来るシェル・ウォーマシンへと瞬時に狙いをつけ、愛銃へと魔力を集中。
　放たれるは緑色の閃光――霊木徹甲弾（サイプレス・アーマーピアシング）。
　魔力を纏った高速弾は狙い過たずウォーマシンを貫き、一撃でその機能を停止させた。
「シールドの状況、猟兵みんなに共有お願いします」
　ゴールデンレコード号から、事前に依頼してあったデータを受信したのを確認する。
　それは艦の周囲に展開されたシールドの、リアルタイムでの戦闘データ。
　これに敵の動きを重ね合わせると、相対的にシールドの薄い部分が狙われると分かる。
「この情報を、加えて伝えれば……」
　霊木徹甲弾で次なる敵を撃ち落としつつ、桧は周囲の猟兵達へと呼びかけを行った。

　同時刻。
「このデータ通りなら、敵の進路はかなり絞り込めます！」
　ユーイ・コスモナッツ（宇宙騎士・f06690）は、受信したデータの意味を理解した。
　敵がより突破しやすい箇所を狙っているというのは、ユーイ自身の体感とも合致する。
　そして敵の狙いが分かれば、そこへのコースもまた事前に予測できるということだ。
　データだけで読みきれない部分は、ユーイの視力と経験、騎士の勘で補うまで！
「ブースト・オン！　一気に加速して回り込めば！」
　反重力シールドを急加速させて、ユーイは一息にウォーマシンの進路上へ先回りする。
　敵の動きはユーイの予測通り――直線的に最短距離で目標地点を目指している。
　それは確かに特攻を敢行する上では合理的な動きだが、それゆえに分かりやすい。
「そして動きが分かれば、天球の虚数変換（セレスティアルスフィアシールド）で！」
　ユーイの周囲に展開された球状のバリアがウォーマシンの突撃を正面から受け止めた。
　単なる物理的な壁ではない。激突のエネルギーを虚数に変換、無効化する絶対障壁だ。
　最大加速の運動エネルギーを受け流され、その場に静止するシェル・ウォーマシン。
　そのボディを、バリア解除と同時に踏み込んだユーイのクレストソードが両断した。

「敵の突撃は、この要領で止めていきます！」
「了解、です。間に合わない位置のは、あらかじめ撃ち落としますね」
　ユーイにそう応えるや否や、桧の霊木徹甲弾が新たに侵入してきた敵を撃破する。
　魔力弾が残す緑の残光、その合間を縫うようにしてユーイの反重力シールドが駆ける。
　突撃する二機の推進力を続けざまにバリアで虚数変換、そのうちの一機を一刀両断。
　もう一機はユーイが離脱した瞬間に、桧によって撃ち抜かれてそのまま爆散した。
　二人は互いの弱点を補い合いつつ、そのエリアのウォーマシンを次々に駆逐していく。

　そんな中、桧の脳裏にふと考えがよぎる。
（敵の材料は剥離した外殻のようですが、サンプルとして回収できないのでしょうか）
　少なくとも見たところ、破壊されたウォーマシンが元の外殻に戻る様子はないようだ。
　回収する価値はあるのかもしれないが……少なくとも戦闘中は難しいだろう。
　桧は一旦そのことを忘れて、再び敵を撃ち落とすのに専念することにした。
　　

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　破壊されたウォーマシンの残骸が、物言わぬスペースデブリとして眼前を漂っていく。
　クェーサービーストの外殻が変化したはずのそれは、少なくとも機械にしか見えない。
「なかなか興味深い能力を持った存在もいたものです。ふむ、やはり宇宙は広いですね」
　シン・ドレッドノート（真紅の奇術師・f05130）はそう呟き、一人頷いた。
　持ち主の意思次第で何にでも姿を変える外殻。回収依頼が出るのも頷ける代物だ。
　盗賊稼業のサガなのか、やはり未知の品物に対しては好奇心が湧き上がるものだ。
「悪人専門の私が盗むには、持ち主に善悪の区別すらなさそうなのが気に掛かりますが」
　いずれにせよ更なる未知の領域へと航路を繋ぐためには、脅威は排除せねばならない。

　シンは愛用のスペースバイク『貴紅＜ノーブル・スカーレット＞』を急加速させた。
　名前通りに美しいだけでなく、機動性ならば敵の特攻兵器にも遅れを取らないだろう。
　単眼鏡で拡大した視界の先から、シェル・ウォーマシンの一団が迫ってくる。
　特攻を許すわけにはいかない以上、あれら全てを一人で食い止める必要があるが……。
「そのための手段は講じてあるということです。披露させてもらいましょうか」
　片手に構えた真紅銃が、コマ送りの残像のように大量の複製を生み出していく。
　もう片手に握った精霊石の銃もまた、複製されるや否や一斉に狙撃態勢を取る。
　更に背後へ展開するライフルビットの一群が、弾幕の量と質とを押し上げるだろう。
　乱舞する弾丸の嵐（ハンドレット・ガンズ）――もはや敵の数的優位は無いに等しい。
　
「ターゲット・マルチロック……乱れ撃つ！」
　シン自身が銃爪を引いた真紅銃に呼応するように、無数の複製銃が一斉に放たれた。
　圧倒的な弾幕。だが、むやみやたらと弾をばらまいているだけではない。
　銃弾とビームの暴風で食い止められればそれで良し、たとえ抜けてきたとしても。
「早速ですか……対艦兵器の突撃を真正面から受け止めるわけにはいきませんし」
　それならばと構えた腕輪が輝き、『閃光の魔盾＜アトラント＞』が展開される。
　避弾経始の概念。正面からの特攻をビームシールドで斜めにいなして衝撃を和らげる。
　進路を狂わされたウォーマシンが強引に軌道を変えようとした瞬間、更なる閃光。
　シン自ら構える二丁の銃が火を吹き、無防備な敵へと集中砲火を叩き込んだ。
　その直後に続いたウォーマシンには遠隔操作でソードビットを突き立てて破壊。
　遠近を問わない多様な手段と攻撃密度とが、敵の残存数を瞬く間に減らしていく。
「一機たりとも通しません……これで、最後！」
　真紅銃の銃身に形成された圧縮粒子の刃が敵に突き刺さり、粒子ビームが貫通する。
　全てを薙ぎ払う様は、まさしく弾丸の嵐。吹き抜けた後には残骸が残るのみだった。
　

成功 🔵​🔵​🔴​

第2章 ボス戦 『クエーサービースト・マインドミナBVA』

POW   :    BVAジェノビック 【無限に変化する外殻が超殺戮形態 】に変形し、自身の【防御力】を代償に、自身の【攻撃力と攻撃速度】を強化する。 SPD   :    BVAエクスタリ いま戦っている対象に有効な【無限に変化する外殻が変形した殺戮兵器 】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。 WIZ   :    BVAリモーフ 対象のユーベルコードを防御すると、それを【無限に変化する外殻によって再現し 】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。 イラスト：はるまき 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

　変身外殻が生み出したシェル・ウォーマシンは、その全てが機能を停止した。
　これ以上は無意味と本能的に判断したのか、更なる生産が行われる気配はない。
　ゴールデンレコード号防衛は、ひとまず成功したと言っていいだろう。

「これ以上足手まといにはなれないな。本艦はシールドを張りつつ後退する」
　健闘を祈る、との通信を最後にゴールデンレコード号は戦闘宙域を離脱した。
　これで心置きなく攻勢に移れる。猟兵達は頷き合い、進撃を開始した。

　だが、ほどなくして誰もが漠然とした違和感を感じ始める。
　敵との距離が思ったより縮まらない。データと感覚に齟齬がある。
　敵に感覚を惑わす能力はないはずだと不審に思い、やがて理解する。

　単純な話だった。敵が巨大すぎて、遠近感が狂っているのだ。
　実際に接近して、視界に収まらないその巨大さを誰もが体感した。

　猟兵を察知し、敵を覆う外殻が攻撃的な形状へと変化していく。
　ドリル状の構造物が、猟兵を文字通り粉砕すべく回転を始めた。
　真空の宇宙でなければ、鼓膜をも破る轟音が響いただろう。
　クェーサービースト。人類の理解を超えた生ける災厄。
　だが、人類の希望は、その災厄を越えた先にしかない。




　マインドミナBVAの外殻は、猟兵という異物を排除するため無限に変化を繰り返す。
　決してひとつの形に留まろうとしないため、敵全体の輪郭すら定かではない。
　もっとも、巨大過ぎるその姿の輪郭を視界に収めて初めて分かることではあるが。
「無限に変化する外殻……厄介な能力ですね」
　シン・ドレッドノートは、愛機『貴紅』に騎乗したまま冷静に状況を分析する。
　彼我のサイズ差がここまで大きい以上、適切な攻撃ポイントを狙わなければならない。
　まずは貴紅の機動力を活かし、あの巨体の何処かに付け入る隙を見つけたいが――。

「おーい！　ちょうど良かった、後ろに乗せてもらえないかな！」
　宇宙服の通信機越しに呼ぶ声に、シンは思考を一旦中断させて後方へ振り向いた。
「おや、タンデムをご希望ですか。これも何かの縁、是非ご一緒しましょう」
　機体を寄せると、朝霞・蓮（運命に敗れた竜・f18369）は軽やかに座席へ飛び乗った。
「いや、助かったよ。僕の攻撃はある程度近づかないと当たらなくて」
　眼光鋭い顔立ちからは意外なくらい柔らかい口調で、蓮は感謝の意を述べる。
「困った時はお互い様ですよ。代わりといっては何ですが、同時に仕掛けましょう」
　あれだけの巨大な相手だ、同時に攻撃する味方は多いに越したことはない。
　シンは貴紅を加速させて一気に距離を詰めつつ、攻撃ポイントを探ろうとするが。
「敵の外殻の動きが、急に……まさか砲撃するつもりでしょうか？」
　一旦ドリル状に変化していた外殻が、更なる殺戮兵器へと変化していく。
　こちらの接近を察知し、迎撃するための砲……たった今、ドリルの一つが装填された。
「まとまっているとまずいですね。この距離で構いませんか？」
「うん、十分だ。あとは自力で移動できる！」
　そう言うや否や、蓮は真空を『蹴って』貴紅の後部座席から身を躍らせた。
　その進路を確認し、シンは敵の意識を引きつけるように愛機のハンドルを切る。
　直後、二人のいた空間を、殺戮兵器から撃ち出されたドリル弾が通過していった。

「UDCアースで怪物は見慣れているつもりだったけど……これは、凄いな」
　竜言語〈縦横無尽〉を用いて虚空を跳躍しつつ、蓮は巨大過ぎる敵に狙いをつける。
　一匹一匹色の違う小竜を呼び出し、竜騎剣槍に変化させて次々に投擲。
　剣槍は狙い過たず変身外殻の隙間へと突き刺さり、再び小竜へと変化して戻ってきた。
「よし、ダメージは通る……これなら、十分引きつけられるな」
　元々フォローは性に合っている。援護に徹しようと考え、蓮は味方へ視線を向けた。
　白地に赤の宇宙バイクの周囲にはライフルビットが展開し、援護射撃を行っている。
　それらは主の意に従って自在に動き、敵の攻撃を引き付ける役目も果たしていた。
「閃光の魔盾＜アトラント＞広域展開――光よ！」
　敵の砲撃を察知し、シンはソードビットを介してビームシールドを拡大。
　その範囲と強度をもって巨大なドリル弾の質量を受け流し、辛うじて凌ぎ切る。
「流石の破壊力ですが、今ので動きは見切りました――蓮さん！」
「了解だよ、もう一発撃たせよう！」
　ライフルビットの射撃が続けざまに叩き込まれ、更に剣槍が次々に突き刺さっていく。
　その攻撃の元を断つべく、殺戮兵器の巨砲に新たなるドリル弾が装填され――。
「――見えたっ！　貫け、真紅の衝撃！」
　シンの『真紅の狙撃手（スカーレット・スナイパー）』が敵の動きを速さで上回った。
　超高速で撃ち出された紅い光弾の三連射が、砲台基部を正確に貫通して動きを封じる。
「今です、一斉攻撃を！」
　この好機を逃すはずがない。二人の猟兵が持てる力の限りをもって攻撃を加えていく。
　そして遂に、殺戮兵器はその形を維持できず無形の外殻として砕け散ったのだった。　　

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

「はーっはっはっ！　なかなかどうして、期待以上に派手な相手ではないか！」
　御形・菘のご機嫌な高笑いが、通信回線に乗って宙域中に響き渡った。
　実際、彼女はご機嫌だった。配信動画で戦う敵としては、この上なく見栄えがする。
　強いて難点を上げるとすれば、あまりに大きすぎてカメラに収めるのが難しいことか。
　だが、それくらいの困難は技術と工夫で乗り越えてみせるのがプロの配信者だ。
　銀河の向こうで楽しみに待つファンの期待に応えつつ、目の前の敵も倒して見せねば。

「さあ、この宇宙を覆わんばかりに！　スクリーン！　カモン！」
　菘が高らかに右手を掲げると、虚空に無数の空間ディスプレイが展開されてゆく。
　それら一つ一つに菘の動画の視聴者達が映り、彼女のバトルを待ちわびているのだ。
「はーっはっはっは！　今日も元気かのう皆の衆！　画面の具合はどうかのう？
　まだ微妙かもしれんが許してくれよ、妾もうまく見せるべく試行錯誤中なのでな！」
　菘の第一声に反応し、動画の評価ポイントや応援コメントが一斉に集まり始めた。
　初動の良さに満足し、菘は改めてクェーサービーストの規格外の巨体へ向き直った。
　敵は仕掛けてこない。他の猟兵の相手で忙しいのか、こちらの意図が読めないのか。
　突然のハプニングもリアルタイムの華だが、起こらないなら自分から仕掛けるまで。
　スクリーンの向こうからの歓声を背負い、菘は一直線に敵との距離を詰めていく。

　菘の接近を本能的に察したか、ようやく超殺戮形態のドリル群が迎撃に動き始めた。
　それ以上近付くのを拒むように、円錐形が一斉に高速回転しながら立ち並ぶ。
　マインドミナBVAがこれまで相対した敵であれば、有効な脅しだったろう。だが。
「……およそ、あらゆる者たちが真っ先に切り捨てた可能性なのであろうな。
　真正面からお主を直接ボコるという戦法は……だが妾にはできる！　できるのだ！」
　背後のディスプレイに映る視聴者達が盛り上がりを見せ、その力が菘へ流れ込む。
　これこそがユーベルコード『喝采よ、妾に降り注げ（エール・スクリーンズ）』。
　観客の応援が高まれば高まるほど力を増し、菘が身につける武器や防具を強化する。
「このエネルギーにより妾の左腕！　五行玻璃殿、パワーアーップ！！」
　異形の左腕へと膨大なパワーが集中し、それを拳で直接殴ることにより炸裂させる！
「皆の歓声が！　喝采が！　妾の拳に、星すらブチ砕く無限の破壊力を与えるのだ！」
　ドリルを掻い潜って打ち込まれた一撃を受け、敵の周囲にスクリーンが明滅する。
　外殻で再現したのだろうが、映る映像はノイズや幾何学的パターンばかりだった。
　単なるエラーか、それともあれが正しい映像なのか……少なくとも効果は出ていない。
「お主もクェーサービーストの視聴者を見つけておくべきだったのう！」
　コピーした技を使いこなせないマインドミナBVAへ、駄目押しの一撃が叩き込まれた。

成功 🔵​🔵​🔴​

　猟兵達の波状攻撃により、クェーサービーストの巨体が大きく揺らぐ。
　それは、この規格外の宇宙生命体がユーベルコードでダメージを受けていることの証。
　どれだけ巨大であろうとも無敵ではない。攻撃が通じるのなら必ず倒すことが出来る。
　いや、どのみち倒さなければ帰還はできない。進むべき航路は先にしかないのだ。

　無限に変化する外殻が作り上げたドリルの束が、獲物目掛けて槍のように伸びた。
　だが、このサイズでは槍というより塔だ。ドリルが寄り集まって形成された殺戮の塔。
　恐るべき速さで伸長するこの殺戮兵器を、ユーイ・コスモナッツは辛うじて回避した。
　巨体だから動きが鈍いと思いきや、逆に一挙手一投足の大きさが速度を生んでいる。
　その攻撃をかわせたの理由は、ユーイの卓越したシールド捌きと観察眼に他ならない。
「相手も焦っている……？　そういう感情があるようには見えませんが……」
　紙一重の回避で肝を冷やしながらも、ユーイは反重力シールドを操りながら考える。
　あえて攻撃を加えずに相手の周りを飛び回り、挑発を繰り返した結果の表れか。
　だが、少なくとも感情の類は感じられない。ならばあれは生存本能によるものだろう。
「いずれにしても、このまま速度と攻撃力に偏重させていけば……！」
　危険極まりない賭けだ。今はよくても、反応しきれない攻撃を受ける可能性はある。
　彼我のサイズ差を考えれば、その一撃が致命傷にもなりかねない。だが、それでも。

「それでも、私がこの怪物に一矢を報いるには、これしかありません！」
　これまでの戦いで培った技量の全てをもってシールドを操り、攻撃を連続で回避。
　もはや変形という域では収まらない破壊の嵐を掻い潜り、ユーイはただ一瞬を待つ。
　変身外殻が攻撃のために偏り、本体を覆う守りが薄くなるその瞬間だけを。
　その時、ユーイ目掛けて最大級の塔が伸びた。破壊のためだけに造られた殺戮装置が。
「――『彗星の重力加速度（コメットストライク）』！　吶喊しますっ！」
　シールドを反転、直後に最大加速。塔の伸長を正面からすれ違う形で回避する。
　死の気配に全身が総毛立つ感覚を覚えながらも更に加速、狙いは本体のただ一点！
「無駄死にはしません！　生きて、必ず――」
　その名の通り彗星のように駆け抜ける煌めきが、僅か一瞬だけ生ける災厄と交錯する。
　ユーイの命を賭した渾身の一撃は、確かに星の獣へと消えぬ傷を刻み込んだ。
　

成功 🔵​🔵​🔴​

　無尽蔵かと思われたクェーサービーストの生命力に、いよいよ翳りが見え始める。
　猟兵達の繰り出すユーベルコードはこの小惑星級の敵にも確かに通用していた。
　だが猟兵側も連戦で疲弊しつつある。どちらが生き残るにせよ、決着の時は近い。

「以前のものも相当な大きさでしたが……『小さな尖兵』などと呼ばれるわけですね」
　セルマ・エンフィールドの脳裏に、過去に交戦したキエリビウムJOXの姿が過ぎる。
　直接相対して実感するが、目の前の敵はかつての尖兵を明らかに凌駕していた。
　上位種は下位種とスケール自体が異なるというのがクェーサービーストの特性ならば。
　この先の宙域に待つであろう更なる上位種は、際限なく巨大化していくというのか。
「いずれにせよ、あれを倒さなければ先はありませんね」
　セルマは支援ドローン『ペレグリーネ』を起動し、牽制射撃を開始させた。
　機銃程度で倒し切れるとは思えないが、追い詰められた敵が反応してくれるなら……。
　そう考えた矢先、クェーサービーストの変身外殻が更なる変化を始めた。
　高射砲を模した外観。小型の飛行物体を撃ち落とすための形態――勝機が見えた。
　
「あと一息のようですが……簡単には倒せなさそうですね」
　陰樹・桧もまた、攻撃を回避しつつ注意深くクェーサービーストを観察していた。
　無人兵器から度重なる射撃を受けたことにより、敵は迎撃形態へと移行したようだ。
　より多くの砲塔を造り出し、一発一発の火力低下を弾幕の密度で補うつもりだろう。
　あれが戦術的な思考ではなく、生物の本能で為されているのが恐ろしくはあるが……。
「でも、生物だからこそ何処かに急所があるのではないでしょうか」
　桧はドローンへの攻撃を繰り返す敵の隙をついて、牽制射撃を本体へ加えていった。
　核があるはずだ。以前交戦したキエリビウムJOXにとっての水晶体のような。
　それさえ分かれば、桧にはユーベルコードがある。状況を打開するための切り札が。
　慎重かつ正確な射撃を加え続ける中で、ふとひとつの違和感が形を結んでいった。
　敵の変身外殻は一つの塊として大胆に体表を移動するが、一箇所だけ動きが鈍い。
　外殻を動かしたり兵器に変換すると不都合があるのだとしたら、あの下には――。
「――弱点を見つけました。協力をお願いします」
　桧は通信を送りつつ、自らも目標の部位を目指して移動を開始した。

「……つまり、あの場所を動かない外殻の下に、敵の急所があると」
「その可能性は高いと思います。集中的に破壊すれば、活動停止に追い込めるかも」
　協力要請を聞いて駆けつけたセルマは、桧の提案を受けてしばし思案した。
「賭ける価値はありそうですね。ですが有効打を与えるなら可能な限り接近しなくては。
　幸い敵はドローン迎撃に特化した射撃形態になっているので、不意は突けそうですが」
　対猟兵の戦術を取っていない今なら、距離を詰めて近距離攻撃を仕掛けるのは可能だ。
　だがその場合でも、あの弾幕を掻い潜って敵に取り付かなければならない。
「それなら、多分大丈夫です。あの部分の装甲を私が抜けば、敵の手は止まるはずです」
　桧がそう言って愛用の小型自動拳銃AHP238を構えるのを見て、セルマは小さく頷いた。
　愛銃への信頼と己の技量への矜持。武器は違えど銃手としての共感がそこにはあった。
「……信じます。それでは、私はドローンで牽制しつつ接近しますので、援護を」
　返事を待たずにセルマは目標箇所へと向かい、同時にドローンを逆方向へ飛ばした。
　敵がドローン迎撃に気を取られているであろう、その一瞬が勝負だ。

　セルマが敵の急所へと向かうのを確認し、桧はひとつ深呼吸した。
　彼女は信じてくれた。ならば、自分も射手として期待に応えなければならない。
　受け継いだ『霊木徹甲弾』は敵のあらゆる装甲を貫き、確実に仕留めるための能力。
　そのために磨き上げた技だ。信じてくれる人達のために必ず役立ててみせる。
　大きく息をつく。最善のタイミングを図る。敵の核を推定し狙いをつける。そして。
「――刹那の不滅を以て、憎悪を撃ち貫く！」　
霊木徹甲弾（サイプレス・アーマーピアシング）の輝きが、外殻を一撃で射抜く。

（迎撃が止まった！）
　緑色の弾丸が敵の装甲を貫いた瞬間、クェーサービーストの動きが一時的に鈍った。
　これは桧の推測が正しかったこと、そして彼女が己の仕事を為したことを示している。
　セルマは愛用のマスケット銃フィンブルヴェトを握りしめた。
　一人の射手として、この好機だけは絶対に逃すわけにはいかない。
　弾幕が凪いだ一瞬を狙って敵の体表へ接触、桧の徹甲弾が射抜いた銃創を狙う。
「……『凍風一陣』。これが今の私の全力……文字通りの絶対零度です」
　セルマ・エンフィールドのすべての力を、たった一発の銃弾へと注ぎ込む。
　己を蝕む呪縛の代償など構いはしない。ここで銃爪を引くためにここまで来たのだ。
　人差し指に力を込める。弾丸が射出される。絶対零度の凍気が内部へと撃ち込まれる。
　そして――――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

第3章 冒険 『マインドミナBVAの外殻を剥ぎ取ろう！』

POW   :    腕力と体力を活かして大量の外殻を剥ぎ取り、運搬する SPD   :    巨大な外殻を器用に解体し、運搬効率を高める WIZ   :    思念によって形を変える外殻の特性を利用し、変形させた外殻を運搬する 👑5 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　マインドミナBVAの表面を覆っていた兵装が、形を失い元の外殻へと戻っていく。
　唸りを上げていたドリルも、自分達へと狙いをつけていた砲も、もはや動きはしない。
　小惑星級の超生命体は、猟兵達の目の前で静かに沈黙していた。
　辛勝だった。きっと味方の誰一人欠けても成し遂げられなかっただろう。
　それでも恐るべき星の獣クェーサービーストは、確かに人の手で打倒されたのだ。

「――こちらゴールデンレコード号！　猟兵の皆さん、無事ですか！？」
　今や懐かしさすら感じるオペレーターの声に、猟兵達は一斉に安堵する。
　一人も欠けていないと伝えると、一瞬遅れて通信機の向こうで歓声が上がった。
「本艦もそちらに急行します。負傷者の手当をしますので、皆さんも帰艦してください」
　僅かな間をおいて、ゴールデンレコード号が再び宙域へと姿を現した。

　　　　　▼　　▼　　▼

「皆、本当によくやってくれた。私も宇宙の民の一人として、礼を言わせてもらう」
　ゴールデンレコード号の艦橋にて、ブルードット艦長が猟兵へ労いの言葉をかけた。
「あとの調査は我々に任せて、皆は身体を癒やしてくれ……と、言いたいところだが。
　生憎、もう一仕事残っている。あの変身外殻を持ち帰るところまでが任務だからな」
　艦長が指し示した先には、クェーサービーストの物言わぬ巨体が映る。
「既に知っての通り、変身外殻は非常に巨大かつ、容易に破壊できない構造をしている。
　我々の装備だけでは大量に持ち帰るのは難しいのだ。是非とも手を貸してもらいたい」
　どうやって引き剥がし、どうやって運び、どうやって積み込んで持ち帰るか。
　猟兵は装備もユーベルコードも千差万別。一人ひとり取れる手段は違うだろう。
「格納庫には限界まで詰め込んで構わない。それ以上持ち帰る方法があるなら別だがな」
　そう言ってブルードット艦長は猟兵達を激励し、再び宇宙空間へと送り出した。
　最後の重大任務だ。ここで持ち帰った外殻が、この世界の今後を変えるかもしれない。










　艦のクルー達から感謝と激励の言葉を受けながら、猟兵達は再び船外へと向かう。
　あの外殻は、スペースシップワールドの技術を大いに進歩させる可能性を秘めている。
　そういう意味では、先程までの戦闘と同じぐらい重要なミッションだと言えるだろう。
　巨大な外殻をどうやって回収するか、猟兵達はそれぞれに考えを巡らせてゆく。

「すみません、この艦に積んである工具をお借りできると有り難いのですが」
　ユーイ・コスモナッツが礼儀正しく申し出ると、クルーは快く格納庫へ案内した。
　流石に外宇宙探索艦だけあって、調査用の装備は各種取り揃えてあるようだ。
「お嬢さんの体格ならハンドドリルが使いやすいかな。いや、猟兵に体格は関係ないか」
「いえ、有り難くお借りさせていただきます！」
　お辞儀するユーイにクルーはいいよいいよと応じ、思い出したように付け加えた。
「ただ、既に結構派手にやってるみたいだから、ドリルの出番はあるかどうか……」
「派手に、といいますと？」
　クルーに促されてユーイが船外を覗いてみると、マインドミナBVAの姿が見えた。
　その小惑星級の巨体には、何故か流星群が雨霰と降り注いでいるのであった。

「はーっはっはっは！　さあ降り注げ流星よ！」
　御形・菘が指を鳴らし、それを引き金に召喚された流星が次々と外殻に激突する。
　彼女のユーベルコード『ほしのなみだ（スター・ティア）』によるものだ。
　非常に強固な外殻ではあるが、絶え間ない衝突は徐々に構造へダメージを与えていく。
　大技を叩き込むというシンプルな解決策。実際、回収はしやすくなるだろう。
「本来ならバトルで使えとツッコまれるところであろうが、残念ながら見栄えがしない！
　いや流石にこうもサイズ差があると、あまり迫力ある映像が撮れないというかな？」
　特に誰かがツッコんだわけではないのだが、とにかくそういうことらしい。
　菘は流星を降らせ終えてから左腕で破片を引っ剥がし、揚々と艦へ運んでいった。

　菘と入れ替わりに、陰樹・桧が愛銃片手にマインドミナへと接近した。
「なるほど。これなら亀裂に沿って射撃すれば、押し広げて切り出せそうですね」
　戦闘でも活躍した『霊木徹甲弾』を連続で撃ち込み、外殻の亀裂を大きくしていく。
　角度を変えて何度も撃ち込むことで、遂にはその一部を切り離すことに成功した。
「艦に持ち帰るのは、どなたかに手伝ってもらいたいのですが」
「それなら私が！　足回りの良さには自信がありますから！」
　桧の呼びかけに、反重力シールドで艦から駆けつけたユーイが名乗り出る。
　外殻の破壊に向いたユーベルコードがないぶん、足で貢献しようという考えだ。
　家紋の入ったクレストソードを工具として使い、受け取った破片を運びやすく細断。
「……これも世のため人のため。ご先祖様もきっと許してくれるはずです」
　自分に言い聞かせるように呟くと、ユーイは両手で外殻を抱えて艦へと帰っていった。
　
　彼女を見送り、桧は再び霊木徹甲弾を撃ち込んで外殻を切り出していく。
「……これでよし。もうひとつお願いします」
「では、それは私が持ち帰りましょう。試してみたいこともありますしね」
　今度は宇宙バイクに騎乗したシン・ドレッドノートが切り出された破片を受け取った。
　しかし直接運ぶのではなく、その破片にソードビットを撃ち込み思念を送り込む。
　すると外殻はみるみるうちに姿を変え、運搬・格納しやすい立方体へと変化した。
「本当に思念で形が変わるのですね……」
　淡々とした口調ながら感心した様子の桧に、シンは微笑みかけつつも応える。
「いや、本当に興味深い。出来れば私も個人的に持ち帰って研究したいくらいです」
「お土産に貰ってもいいのでしょうか？」
「さあ、どうでしょうね。あとで艦長さんに訊いてみましょうか」
　外殻のキューブをバイクに固定し、シンもまたゴールデンレコード号へと向かった。

　その後も、入れ替わり立ち替わり猟兵達は外殻を運んでいった。
　主に桧と、菘が（腕力で）外殻を切り離し、シンとユーイが運搬するという分担だ。
　シンは複数のソードビットを器用に操り、外殻を立方体に整形する役目も担っていた。
　キューブを両手で抱えて反重力シールドを走らせながら、ユーイは思う。
（カッコいいやり方ではなくても、ひとりひとりが自分にできることをコツコツと！　
　未知の外宇宙を開拓するには、何よりもこの気持ちが大切ですよね）
　ゴールデンレコード号に外殻を預け、ふと見ると発着場に見知った少女の姿がある。
「……セルマさん！　もう動いても大丈夫なんですか？」
　駆け寄るユーイの前で、セルマは感覚を確かめるように手を何度か握ってみせた。
「まだ影響は抜けていませんが……見ているだけというわけにはいきませんから」
　先の戦闘でセルマが使用したユーベルコードは、呪縛という代償を強いるものだった。
　あれから時間が経過したとはいえ、まだお世辞にも本調子とは言えない状態だ。
「ここからは私も手伝いますので、皆のところまで同乗させてもらえればと」
「お任せください！　でも、無理はしちゃダメですよ！」
　ユーイの反重力シールドに乗り、セルマもまたクェーサービーストの元へと向かった。

（……とは言ってもどうしたものか……もう一度『凍風一陣』は厳しいですし）
　セルマは思案する。自分が貢献できるとしたら、運搬よりも剥ぎ取りではあるのだが。
　最大威力の『凍風一陣』は、先の呪縛が今も残るようにリスクが大きい。
　威力に頼らない別の手段を模索するセルマの脳裏に、ふと閃くものがあった。
　外殻に近づき、そっと手を触れる。だが伝えるのは思念ではなく、ユーベルコードだ。
（通常の生物は有機物。ですが明らかに常識を超えた生物、ウォーマシンにもなる外殻、
　ユーベルコードを伝達する性質……これらを考えると、もしかしたら……）
　成功するとは限らない。それでも可能性がある以上は試さざるを得なかった。
　発動したのは無機物を吹雪に変換する『吹雪の支配者（ブリザード・ルーラー）』。
　本来なら生物を直接分解することはできないが、この常識外の相手には果たして……。
「……これは、驚きました」
　見守っていたシンが嘆息を漏らすのを聞き、セルマは上手くいったのだと悟った。
　外殻が無機物か否かよりも、ユーベルコードを伝達する性質が有利に働いたのだろう。
　真空の宇宙を、外殻が変換された吹雪がゴールデンレコード号へ向かって吹いてゆく。
　その光景はどこか幻想的で、過酷な戦いを潜り抜けた猟兵達を癒やす美しさがあった。
　　
　　　　　▼　　▼　　▼

「猟兵の諸君、本当によくやってくれた」
　ゴールデンレコード号にて、ブルードット艦長は感激した様子で猟兵達を労った。
「まさかあれだけの量の外殻を回収し、しかも持ち帰ることが出来ようとは」
　セルマの吹雪という文字通りの追い風もあり、最終的にかなりの外殻を回収できた。
　ただどう見ても艦の積載量を超えた量であり、放棄せざるを得ないかと思われたが。
「あれぐらいのサイズなら収納できると思っていましたが、見込み通りでした」
　シンのユーベルコード『永遠の輝き放つ星（エヴァーグリーン・スター）』。
　戦艦も格納可能な異空間へ、余剰となった外殻の全てを積み込むことに成功したのだ。
　結果、当初想定していた最高の結果を、更に上回る量を持ち帰れることになった。
「私もまだまだ君たちの力を軽く見ていたようだ。感謝してもしきれない」
　そこでだ、とブルードット艦長は顎髭をさすりながら、声を落とした。
「本来ならば、回収した外殻はすべて研究機関での分析に回すことになっている。
　だがまあ、あくまでほんの僅かな量であれば、持ち帰るのを見逃してもいいか、とな」
　むろん絶対に秘密だぞ、と艦長は片目を瞑りながら念を押した。
「マスターへの最適なお土産になりそうです」
　桧が安堵する傍らで、菘が勢いよく右手を上げてブルードット艦長に質問する。
「あとで『外殻触ってみた』って感じのレビュー動画上げてもいいかのう！？」
「それだけは勘弁してくれ頼む」
　打ち解けた空気を乗せて、ゴールデンレコード号は人類の勢力圏へと帰還していく。
　厳しい任務だったが、猟兵達は障害を乗り越えて新たなる銀河航路を開拓した。
　変身外殻が放つ黄金色の輝きは、この世界に新たなる目覚めをもたらすかもしれない。

　　　　　　　　　　　　　　　　　【銀河航路よ遥かなれ～黄金色の目覚め～】終

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年11月08日