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浅草化猫奇譚

#サクラミラージュ #猫

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#サクラミラージュ
#猫


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●夜に鳴く声
 今も昔も、この浅草の街は演芸と共に生きている。
 侍の時代には芝居小屋が並んでいたと言うが、この大正の世でも幾多の寄席や演芸場、そして活動写真を上映する劇場が立ち並び、数多くの飲食店が軒を連ね、娯楽を求める大衆が集まる一大歓楽街。
 そんな賑やかな夜の街の片隅。
『にゃ~ん』
 ――ちりーん、ちりん。
「おお、また来てくれたんだな、玉次郎」
 建物の裏口で煙草を吹かしていた着物姿の壮年男性に近づいてきた一匹のネコ。
『にゃー』
「よしよし、腹が減ったんだろ? そこの料理屋で余した刺身、用意して待ってたよ」
『ふにゃー』
 男が皿に載せて地面においた魚をゆっくりもぐもぐ食べるネコ。それを複雑な面持ちで見つめる男。
「圓陣さん、そろそろ出番ですぜ」
「――ああ、解った。今行くよ」
 煙草を地面に落とし、爪先で揉み消す。男の視線の先、ごはんを食べ終わったネコは来た道に向けて歩み出したかと思いきや、ちらと振り返って一声鳴いた。
『にゃおぉぉん……』
 ちりん、ちりん――首に付けた水琴鈴の音と共に、幻の如き姿は夜闇に消えた。
「玉次郎……ここには、兄貴は……もう」
 解っている……あのネコが生きていたのはもう30年以上も前のことだと。

●化け猫奇譚
「男は椿家圓陣(つばきや・えんじん)っちゅう噺家。彼が出演する演芸場の裏口に、夜な夜な姿を見せるそのネコが影朧だと気付いてはおるみたいなんやけど……」
 蓮条・凪紗(魂喰の翡翠・f12887)は閉じた扇子を手の平に弄びながらそう語る。
 事件の舞台はサクラミラージュ。大正七百年の帝都は浅草。いつの時代も活気のある繁華街だが、あの世界では大正時代の趣はそのまま、劇場における舞台演芸が隆盛を誇っている。
 不安定なオブリビオンである影朧。今は大人しくしているが、いつどんな風に人々に危害を加えるか解らない。いずれは周囲を狂わせ、世界の崩壊を導く存在だ。
 そのネコがどんな過去によって出現し、圓陣と関わっているか――それがどんな形であったとしても影朧は放置はしておけない。
「予知出来たんが夜の裏口やさかいな……どの演芸場かまでは特定出来へんかった」
 なので日中に浅草に赴き、圓陣さんをまずは探す必要が有る。
「あの世界、そこら中に桜の花びら積もっとるから、午前中は街に生きる人々は掃き掃除に勤しんでるんやって」
 恐らく圓陣も例外ではないだろう。まずは彼を見つけ出し、話を聞くのが先決。
 そして夜を待ち、歓楽街のどこかにいるであろうネコを探す。水琴鈴の首輪を付けたサバトラ模様のネコを見かけた街の住人は少なくない。圓陣に会いに来る他に、そのネコは普段どこにいるのか。手がかりを求めれば答えは見えてくるだろう。
「ネコやし、人が仰山おるような場所には居ないとは思うけどな」
 正体を現したネコは会話は出来ないが、影朧となった影響もあってか賢く人の話す言葉を理解する事は出来る。思いが強ければ尚のこと。
「ただ倒すんは粋やない――あの街に生きる人々ならそう言うやろな。出来ればそのネコの魂が救われて、無事に転生出来るようにして欲しい」
 宜しゅう頼むわ――そう言って凪紗は転移の準備を開始した。


天宮朱那
 天宮です。またはネコの下僕。
 今回は心情重視。そして割とゆっくり運営の予定。

 舞台はサクラミラージュの浅草。影朧として現れた一匹のネコ。そして影朧と知りながらも餌を与えたりして秘かに関わっている壮年の噺家。彼らの関係を探り知った上で、最終的には影朧と化したネコを退治し、願わくば転生に導いて下さい。
 ある程度の時代考証はしますが、街の情景は雰囲気描写となります。

・噺家「椿家・圓陣」(つばきや・えんじん)
 50代くらいの落語家。夜に、とある寄席の裏口に現れる影朧のネコに餌を与えるなどして関わっている。ネコに心当たりがある故の行動。
・影朧のネコ「玉次郎」(たまじろう)
 サバトラ模様の雄猫。涼しい音の鳴る水琴鈴の首輪を付けた姿。オブリビオンとしては不安定なためか、人前では普通のネコの姿でいる。

 第一章は日常パート。時間は日中。人もまばらな時間帯に街の清掃をしているであろう人々を手伝いながら、圓陣さんを見つけて話を聞いて手がかりを得て下さい。
 第二章は冒険パート。夜の浅草繁華街でのネコ捜索。見つけても不思議な力で惑わされつつ探すことに。
 第三章は影朧としての正体を晒したネコとの戦い。

 探索は具体的に何をするかを明確に記載頂いた方がより良い結果になります。コミュニケーション系技能はあくまで成功率を高める補助扱い。戦闘シーンも同様です。
 技能名は【】や『』等カッコ不要です。技能の羅列のみはあっさり描写になります。

 各章開始には導入が入る予定ですので、プレイング受付はそれからになります。
 受付開始や締切についてはマスターページやTwitterなどで告知しますので随時ご確認頂きますよう宜しくお願いします。
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第1章 日常 『掃除のボランティア』

POW   :    花弁を一気に集めて! 一気に処理する!

SPD   :    東奔西走。花弁がある場所に急行する。

WIZ   :    花弁の位置を魔法で特定したり、使い魔等を向かわせたりする。

👑11
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 眠らない夜の街が眠るとしたら、それは朝。
 雀の鳴き声がそこらから聞こえ、明るい日差しが差し込む通りからは繁華街の違う顔が垣間見える。非日常は再び夜が訪れるまで身を潜め、人々が日常を営む息遣いが聞こえるかのようだ。

 さぁっと清々しい風が吹き抜けると桜の花弁が舞った。見るとそこかしらに薄紅色が積もって吹きだまりのようにもなっている。
 幾ら綺麗な色であるとは言え、年中咲いては散る桜。積もり溜まれば道を埋め尽くしてしまい、生活や通行に不都合もある故に。
 あそこにも、こちらにも。箒を手に花弁を掃除する人々の姿。彼らは皆、浅草に住まい生きる者。自分達の街を愛するが故に掃除もまた怠らない。
 床屋の主人に料理屋の女将、芸人や職人達。様々な職種の人々。気の良い下町の彼らは話に快く応じてくれるはず。
 掃除をしながら、噺家の圓陣さんを探し、彼から話を聞くのがまず先決。最終目的は影朧のネコを退治すること――彼にかける言葉は選ぶべきか。
 圓陣の周辺に探りを入れれば、彼の人となりや昔話も手がかりになるかも知れない。

 晴れて澄み渡った空。朝の浅草の街を、箒を手に歩み出す。
ソラスティベル・グラスラン
あっ……おはようございます!良い朝ですね!

早朝、誰より朝早く箒を持ち出しお掃除
ふふふ、誰より先に出れば後から来る人に挨拶と会話し放題ですっ
率先して精力的に、大変そうや困ってそうな人は助け
コミュ力と優しさを全開に、どんどん人とお話していきましょう!

今日のわたしは近くで宿を取る異国の旅人
依頼の事も忘れませんが、それはそれとしてっ
桜舞い散る美しい世界の為に
『勇者』の基本、『無料奉仕』です!

わたし、この街が大好きなんです!
演芸など娯楽も沢山、こんな楽しい街は他にありませんよ!
次は落語を聴きたいのですが…椿家・圓陣さんを知りませんか?
友人にお勧めされた落語家さんなのですが、演芸場が沢山あって…えへへ



「あっ……おはようございます! 良い朝ですね!」
 早朝の浅草。夜が明けてひんやりした空気の中、誰よりも朝早く箒を手にして掃除を始めていたのはソラスティベル・グラスラン(暁と空の勇者・f05892)だった。
 明るくはきはきとした笑顔の挨拶を道行く人に投げかけると、精が出るねとお年寄りにお褒めの言葉を頂戴した。
 誰よりもこうして先に出ていれば。後から掃除に出てきた街の人々に挨拶もしやすいし会話もし放題。
 勿論、依頼された影朧事件の事は忘れないが――それはそれとして、ソラスティベルはこの桜舞い散る美しい世界の為にこうして奉仕することが嬉しく思えた。それも『勇者』の基本が故に。
「嬢ちゃん、見ねぇ顔だけど異人さんかい」
 近くの寿司屋の板前が仕入れを済ませて浅草に戻ってきた所で声をかけてきた。
「はい、近くに宿を取ってまして」
 異国の旅人と称すれば、へぇと感心した板前の男はそこらにいる近所の板前衆に声をかけるとみんなぞろぞろ集まってきた。
「大したデキた嬢ちゃんじゃねぇか。旅先で俺達の掃除を手伝ってくれてるんだぜ」
「そりゃ感心だ。うちのカミさんにも爪の垢煎じて飲ませてやりてぇや」
 誰かの冗談に男達の野太い笑い声が響く。
「わたし、この街が大好きなんです!」
 ソラスティベルは笑みを浮かべながら、熱心にこの浅草の街の良さを口に出し。
「歴史と伝統が感じられて、でもハイカラな文化も沢山取り入れられてて」
「おう、浅草は江戸の頃から流行最先端な粋を走ってるからな!」
「演芸など娯楽も沢山、こんな楽しい街は他にありませんよ!」
 彼らも自分達の愛する地元を誉められて悪い気はしないらしい。饒舌になる板前さん達は見るからにご機嫌だ。
「ところで、次は落語を聴いてみたいんですが……皆さん、椿家圓陣さんを知りませんか?」
「お、圓陣の旦那かい。そりゃあ知ってるさ。うちの店のお得意さんだしな」
「本当ですか? 友人に是非聴いておけってお勧めされた落語家さんなのですが」
 箒を動かしながら、ちらっと通りの向こうを見つめる。あちらには演芸場が何件も軒を連ねているはずだ。
「演芸場が沢山あって……えへへ♪」
「ああ、そういうことか。初めてだと分かりずれぇよな」
「圓陣の旦那、今月は二葉亭の高座に上がるって言ってたはずだな」
 二葉亭――恐らく予知にあった裏口はその演芸場なのだろう。
「ありがとうございます、是非行ってみますね!」
「そうだ、嬢ちゃん朝飯はまだだろ? うちの店で食ってけよ」
 すっかり板前さんに気に入られたソラスティベルは、掃除が終わった後に寿司屋のまかない定食を御馳走になって浅草の食をも満喫したのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

吉備・狐珀
語(f03558)さんと

影朧と知りつつも猫と関わるということは圓陣殿にとって何か思い入れがあるんでしょうね。
転生に導いて悲しいオチになることだけは避けたいです。

散った花びらを掃除するのを手伝いながら街の人に圓陣殿がいそうな所を尋ねます。
聞けそうなら人となりや猫の話も。
圓陣殿にお会いできたら、噺家同士で盛り上がる話を聞きながら掃除の手伝いを。
2人の話の邪魔にならない程度に圓陣殿の得意な噺や師匠さんの話が聞けたら。
猫の話題になったら圓陣殿が警戒しないように気をつけつつ、語さんに話しを合わせます。


落浜・語
狐珀(f17210)と。

世界は違えど、噺家に使われた身として、天狗連とはいえ噺家やってる身として、何とかしたいな。

可能なら事前に圓陣師匠の口演の音源とか聞けるなら、聞いておく。話のきっかけになるだろうし。
花びらの清掃をしながら、町の人に居そうな場所を聞いてみる。
見つけることができたら、落語の話題から振って少しずつ猫の話題にも触れる。
俺、天狗連でやってまして、圓陣師匠と少しお話しできたらなぁと思いまして。最近、「猫の皿」をさらってて。
猫といえば、先日、あそこの演芸場の近くで鈴付けた猫を見かけたんですよ、サバトラの可愛いの。
本職相手に通用するかわからないけど言いくるめやコミュ力も活用する。



 さっ……さっ……二つの箒がゆっくりと舗装された道に散る薄紅色を掻き集める。
「影朧と知りつつも、そのネコと関わると言うことは――」
 吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)は箒を動かす手を止めずに小さく言葉を紡ぐ。
「圓陣殿にとって、何か思い入れがあるんでしょうね」
「ああ、そうだな」
 頷き応えるのは落浜・語(ヤドリガミのアマチュア噺家・f03558)。今回の事件に関わる男――椿家圓陣は浅草の噺家と聞き、彼は強く心を動かされたらしい。
 と言うのも、彼は高座扇子――つまり噺家が使った小道具のヤドリガミ。扇子は落語という芸において重要な役目を果たす。かつての持ち主からすると芸をする上での相方のような存在だったのではなかろうか。
「使われた身として、そして天狗連とはいえ噺家やってる身として、何とかしたいな」
 天狗連とはアマチュアのこと。噺家由来の物品であった彼が持ち主と同じ芸を嗜むのもまた自然な成り行きだったのか。
「何とか転生に導いて、悲しいオチになることだけは避けたいです」
「噺家のオチは人々を笑顔にさせるものだけだから、な」
 圓陣さんが影朧によって破滅に進まぬように。

 語は先に圓陣の口演の音源を聞けたら……と思っていたが、この大正で音源と言えばレコヲド。圓陣はそこまで高名でも無い故か録音の機会は無かったらしく。だが浅草のレコヲド屋に聞くと知る人ぞ知る名人だ、とは聞けた。
「おや、ご苦労さん」
 掃除をしながら演芸場の通りを行けば、中折れ帽を被った紳士が労いの言葉をかけてきた。蝶ネクタイをした男はどうやら近くの活動写真館の支配人らしく。
「ところで、椿家圓陣殿をご存じありませんか」
「ああ、彼ならさっき掃除している姿を見たな。二葉亭ならあちらだよ」
 狐珀の問いかけに紳士は快く応じた。曰く、独身だが面倒見が良く、後輩や子供達にも人気らしい。そして強く自分を出す性格でもなさそうだとも聞いた。
 言われた通りに進んで見れば、簡素な着物姿で箒を手に地面を掃いている壮年男性の姿。
「失礼、貴方が椿家圓陣師匠で?」
「へ……? はは、確かに私がそうだけど。師匠と呼ばれる程でも無いかな」
 小さく肩を揺らして圓陣は語の問いに答えた。成る程、見るからに良い人なのが伝わって来る。
「俺、天狗連でやってまして。圓陣師匠の芸が素晴らしいと聞きつけて……お会いして少しお話出来たらなぁと思いまして」
「全く、誰だい。私のことをそんなに誉めて。何も出やぁしねぇよ」
 苦笑しつつも、くすぐったいと感じているだろう笑みでもあった。
「で、君はどんな噺を演じるんだい?」
「最近は『猫の皿』をさらってましてね」
「……っ」
 ネコ、という単語に一瞬圓陣の顔色が曇ったのを二人は見逃さない。
「あ、ああ……私もあの噺は好きだな」
「ネコと言えば、さっきあちらの演芸場の近くで鈴付けたネコを見かけたんですよ。サバトラの可愛いの」
「――! 玉次郎、を?」
 圓陣は思わず口走り、慌てて口に着物の袂を当てた。そこにすかさず狐珀が問いかける。
「圓陣殿、ご存じなんですか? とっても可愛いネコでしたけど、飼い猫さんですか?」
「あ、いや。知人のネコでね。今は私が面倒を見てるんだよ」
「知人……お師匠さんとかです?」
「いいや、私の兄弟子のネコなんだ。忘れ形見みたいなものかな」
 この物言いは、その兄弟子とやらは故人なのだろう。
「ところで話が逸れてしまったけど。他にどんな演目が好きかな?」
 圓陣は取り繕うように笑みを見せた。どうやらその話題を避けたいらしい。
 無理に誘導しても警戒されるだけと狐珀は踏み、続けて彼の得意な噺や下積み時代の経験などを問うて見れば。
 元々上方出身だったとか、師匠は厳しかったとか言う話の中に――件の兄弟子の存在が、駆けだしの頃しか見えてこない事に二人は気付く。

 暫しして場を離れた二人は顔を見合わせた。
「玉次郎は圓陣殿の兄弟子殿の忘れ形見……それは大事な存在かも知れませんね」
「ああ、後は玉次郎が何故、影朧として現れたかだな――」
 ヒトの思いは解った。
 ネコの思いは――後続に任せ、狐珀と語は街の掃除に戻ることにした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

辻・莉桜
桜の花びらがこのような害になっているとは思わなかった
これは私こそが手伝わなければいけないだろう

竹箒を片手に片っ端から寄席の裏口を覗いていくつもり
「すまない、知人に圓陣どのの高座が好きというものがいるんだ」
「是非、お会いしてお話を聞いてみたいんだが」
好意的な返事があればその方についていくし
なければ、素直に掃除をして終わろう

もし圓陣どのに会うことが叶えば
丁寧に挨拶をした後に、不躾だが尋ねてみようか
「ところで猫はお好きですか」
「失礼、魚の匂いがしたものですから」
ちなみに私も猫は好きだ
だからこそ圓陣どのは放っておけない

「少々、猫のお話を伺いたいのです…落語ではなく、貴方の」

絡み、アドリブ歓迎


国栖ヶ谷・鈴鹿
【サアビス業の基本】
ぼくもパーラーメイド!オール・ワークス!(メイド服)で、まずはご奉仕!
(良い印象を与えられるように)

【探索】
噺家さんのいる場所と言えば演芸場、その付近で圓陣さんを探してみよう。
もし見つけたら、最近お手伝いにきた女給として、掃除のお手伝いをしながら、珍しい色の水琴鈴の猫の話をそれとなく聴き始めてみようかな?
昔、とても人懐っこい猫がいた昔話から切り出してみて、圓陣さんが昔、猫とどんな物語があったのか、話を聞いてみるね。

猫との物語、思い出、これらを大事に聴いてみようかな?

※もし見つからなければ、猫の普段いる場所を近くの住人に聞いてみよう。
もしかしたら、他に猫の話が聞けるかも?



 ヒラヒラと、空を舞う薄紅色は途切れることはない。
 辻・莉桜(花ぐはし・f23327)は竹箒を片手に裏通りを掃きつつ、片っ端から寄席の裏口を覗き込んでいた。
 件の噺家を探しながらも莉桜は地面に散る花びらを見て小さく溜息一つ。
「桜の花びらが、このような事になっているとは思わなかった」
 彼女は桜の精。桜色の髪より花咲く枝が覗き、その瞳は他の世界で有れば初夏に芽吹く葉のようで。まさに幻朧桜より生まれ出ずる存在。故に――。
(「これは私こそが手伝わなければいけないだろう――」)
 自分自身がこの花びらを撒き散らしたかのような気持ちにでもなってしまったのか。莉桜はせっせと箒を動かし掃除を続ける。
 やがて彼女は寄席の一つ・二葉亭の裏口を覗き込む。
 そこには既にメイド服に身を包んだ国栖ヶ谷・鈴鹿(超科学技術機械技師兼天才パテシエイル・f23254)が雑巾片手に中の拭き掃除などをしていた。
「随分また元気なお嬢さんが来てくれたもんだ」
「ええ、ご奉仕こそがサァビス業の基本だもの!」
 最近お手伝いに来た女給と言う設定の元、第一印象も良かったお陰ですんなりと潜入出来た模様。
「すまない、少々尋ねて良いだろうか」
 莉桜は鈴鹿が話していた寄席の裏方らしき男に向けて声をかける。
「私の知人に、椿家圓陣どのの口演が好きと言う者がいるんだ」
「おや、圓陣さんが好きたぁ通な知人さんじゃあねぇか」
「是非お会いしてお話を聞いてみたいんだが」
 莉桜の問いに寄席の開始時間を告げつつ、男はふと彼女の頭の向こう側に視線を向けた。
「噂をすれば何とやら。おーい圓陣さん。あんたのフアンだって方が見えたよ」
「私の……? 今日は随分モテるなぁ」
 苦笑い浮かべながら、箒を裏木戸に立てかけて圓陣は中にどうぞと声をかけた。
「鈴鹿さん、お二人にお茶でも出して差し上げなさい」
 そう言って男は奥に引っ込み、そこには圓陣と二人の猟兵が残された。

 裏口の段差に腰掛けた圓陣。鈴鹿が煎れてきた緑茶の香りが湯飲みより漂う。
「お時間を割いて頂き、恐れ入ります」
「いや、良いんだ。忙しい訳でもないしね」
 穏やかな笑みを浮かべる圓陣。それを見て莉桜は少しだけ申し訳なさそうな表情を見せて口を開く。こんな質問をいきなりぶつけるのは不躾だと解っているのだが。
「ところで圓陣どのは、ネコはお好きですか」
 ぶふっ。圓陣は口に含んだお茶を噴いた。明らかすぎる程の動揺が見られる。
「あ、いや失敬。……何でまたそんな」
「失礼、魚の匂いがしたものですから」
 しれっと告げる莉桜。そこで横で話に耳を傾けていた鈴鹿がお茶を煎れ直しながら話を継ぐ。
「ネコと言えば、珍しい色の水琴鈴を付けたネコがこの辺りにいるって聞いたけど」
 圓陣さん知ってる?と問いかければギクッとした表情をされる。
 彼の人の良さが余りにも解りやすく挙動不審に陥らせているのだろう。
 ――彼は気付いているのだ、あのネコが影朧だと言う事に。だからこそ、こうして尋ねられる事に危機感を覚え、後ろめたくも感じているのだ。
「圓陣どの――少々、ネコのお話を伺いたいのです」
 莉桜もネコが好きだから、彼のことは放っておけない。
「……落語ではなく、貴方の」
 その瞳は真っ直ぐに彼の目を見ていた。

 観念したかのように圓陣は肩を落として溜息一つ。
「玉次郎……あのネコの名前だけど。私の兄弟子のネコでね」
 煙草に火を付けながら彼はぽつりぽつりと話し出す。
「さっき鈴の話をしていたね。私の実家の近くにあるお寺のお守りさ。素敵な色と音が気に入ったんで兄貴が玉次郎に与えたんだよ」
「兄貴って――兄弟子さん?」
「そう。椿家圓突(つばきや・えんとつ)って名前でやってたんだよ」
 鈴鹿の問いにゆっくり頷いた。どこか懐かしそうな表情浮かべて。
「私と圓突兄貴はこの二葉亭で芸を磨いてたんだ。玉次郎は毎日のように夕方になるとそこの裏口にやってきてね。兄貴を迎えに来て鳴いていた――あの日も」
「あの日?」
「兄貴が初めて高座に上がった日さ。……最初で最後の高座だ」
「「――!?」」
 二人は一瞬言葉を失う。その言葉が意味することを察したから。

 椿家圓突は人生最初で最後の高座を勤め上げたその直後、大きく咳き込み大量の血を吐いて倒れて病院に担ぎ込まれたが、治療の甲斐無く帰らぬ人となった。死因となった病名は肺結核。享年二十五歳。
 その夜も、玉次郎は待っていたと言うのに――俺の晴れ舞台の後はお前にも御馳走やるからな――そう告げた圓突が裏口から出てくるのを。

 噺家が語るその昔話にオチは無い。有るのは、悲しい想い出だけ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

未不二・蛟羽
SPD
お掃除、手伝うっす!
ひらひらな桜も綺麗っすけど、それで困ってる人がいたらダメっすよね
困っている人がいたら助けるのがヒーローっすもん!それにさっぱりの気分でみた方が、もっときらきらでキレイっすよね!

笑顔とコミュ力で人懐っこく、色んな人に話しかけながら、お掃除が必要な場所をスカイステッパーで近道しながらダッシュして回るっす

お年寄りさんはきっと物知りさんっす!
だからおじいちゃんやおばあちゃんのお手伝いをしながら、この辺りの昔のお話聞いてみたいっす

あとは…野良猫さん、昔からこの辺りに多かったのかなー、とか、猫が集まる場所とか、人とか、教えて貰いたいっす!
猫、好きっすよー。なんか気が合うっすもん!


桔川・庸介
お、おおー……すげーっ!めっちゃ桜咲いてる!
あ。す、すいません、テンション上がっちゃってつい。住んでるとこと違う世界に来たの、今回が初めてで。
えーと、まずは外に出てる人たちに挨拶。このへんの地理とかも尋ねてみよっかな。
おのぼりさん……ってどういう意味?

掃き集めた花びら、あそこまで持ってくのかな。あ、じゃあ俺も手伝います!
強い猟兵たちとは比べ物にならない、フツーの高校生並みの力と体力だけど
町の人たちを手伝いながら、世間話とかするくらいはできる。はず!

話は聞き手になりながら、少しは探りを入れてみたり。
そうそう、俺たちこのへんで猫を探してるんすよね。サバトラの子なんすけど。
心当たりとかってあります?



「お、おおー……すっげーっ!!」
 桔川・庸介(「普通の人間」・f20172)はポカンと大きく口を開けて、桜色舞う空を見上げては声をあげた。話には聞いていたが、こんな桜に彩られた世界だとは。
「なんか口の中に花弁飛び込みそうな勢いっすよ?」
 箒を手に掃除しつつ、クスッと横で見て笑顔を向けたのは未不二・蛟羽(花散らで・f04322)。その声にハッとした庸介はちょっとはにかみ顔。
「あ……す、すいません。テンション上がっちゃってつい……」
「謝ることじゃないっすよ? テンション爆上がりになる気持ち分かるっす」
 蛟羽の人懐っこい笑みに釣られるように庸介は少し安心した表情見せた。何せ庸介は自分の住む世界と違う世界に来たのは、今回が初めてだった。歴史の教科書で少しは触れた大正時代にタイムスリップでもした感覚をも覚えるこの世界。緊張はしない訳ない。
「あ、お掃除手伝うっす!」
 一方、既に色々な世界を回っている蛟羽は持ち前の明るさもあってか、すぐに世界に適応しているようで。ちり取りでゴミを掻き集める老婆に気さくに声をかけていた。
「おや、あんたら見かけない顔だねぇ」
「えっと、こんにちはお婆さん。この辺りはどんな街なんですか?」
 庸介の問いに、一瞬きょとんとした老婆はくすくすと笑って。
「そら、浅草に決まってるよ。さてはあんた、おのぼりさんだねぇ」
「え、おのぼりさん……?」
 どういう意味?と小声で蛟羽に問うも、知らないっす☆とウインク一つ。こりゃダメだ。
「それにしても花弁積もって凄いっすねー」
 ひらひらな桜も綺麗だけど。それで困っている人がいるのは頂けない。
 何より、困っている人が居たら助けるのがヒーローだから。蛟羽は自然と身体を動かし、箒で花弁を沢山掃き集めていた。
「この集めた花弁、あそこまで持って行けば良いのかな」
「そうそう、そこにある袋に詰めてね」
「じゃ、俺も手伝います!」
 老婆に教えて貰いながら、庸介は花弁で一杯になった袋をゴミ集積場に運んでいく。普通の高校生並の力と体力だとは言え、このくらいなら家の手伝いと変わらない。
「うわぁ、綺麗さっぱりにしてから見ると、もっときらきらでキレイっすね!」
 道に吹き溜まって薄汚れた紅色を掃き清めた石畳が新たに舞い散る桜色を受け止める。その光景は先程よりもずっとずっと美しく感じられた。
「他に掃除するとこ無いっすか? 俺、ドコにでも飛んで行っちゃうっすよ?」
「おやおやありがとうね。今日は奉仕に出てる方が多くてすっかり街も綺麗になったから、もう大丈夫だよ」
 老婆はニッコリ微笑み、道具を手に抱えながら二人を手招きした。
「お兄さん達、ついておいで。お茶の一杯でも飲んで行くといい」
 そうして二人は一緒に向かった先は甘味処。カフェーの隆盛があっても、和の雰囲気を残した店は浅草に愛されているらしい。

 テーブルには温かい緑茶とクリヰムあんみつ。
 その甘味処は近所のお年寄り達の社交場にもなっており、若者二人が女主人を手伝ってくれたと聞いて立派な若者の顔を一目見てやろうとぞろぞろ集まってきた。
「昔はこんな事もあってねぇ……」
 御老人達が昔話に花を咲かせるのを庸介も蛟羽も真剣に耳を傾け聞いていた。
 その姿勢に実に好感を持ってくれたらしい。向こうからも何か聞きたい事はないかと問うてくれた。
「この浅草で起きたことなら、まぁ大体知ってるからねぇ」
「生き字引ってやつっすね!」
 蛟羽は目を輝かせてそう言うと老人達はどっと笑い声を上げた。だって、お年寄りはきっと物知りだから。件の噺家の昔の話くらい噂で聞いた事があるかも知れない。
「俺たちこの辺でネコを探してるんすよね。サバトラの子なんすけど」
 心当たりとかあります?と庸介が問えば。
「ネコなんて珍しいモンでもねぇからなぁ」
「野良猫さん、昔からこの辺りに多かったのかなって思ったっすけど」
 蛟羽が言えば、ああ、と工芸職人の親方が頷いた。
「多い多い。良くそこらでのたれ死んで――そういえば」
「どうしました?」
 親方はふと何かを思い出したらしく、首を捻って考える。
「いや、昔の話だけどな。俺がまだ若ぇ頃の話だ。道端でのたれ死んでたネコを見て、圓陣さんが泣いてやがったの思い出したんだが」
「ああ、圓突さんの形見のネコだって言うのにおっ死んだ子だね」
 蛟羽と庸介は顔を見合わせる。まさに聞きたいネコのことだ。
「その話!」
「詳しく聞かせて欲しいっす!」
 二人の勢いに不思議そうな表情浮かべながらも、老人達は知る限りの話をしてくれた。

 夭折した噺家、椿家圓突。
 彼の飼い猫だった玉次郎は、まるで主人が戻らぬのを心配するかのように、生きている時と同様に二葉亭の裏口を毎日夕方訪れていた。
 不憫に思った圓陣はネコに時折ご飯をあたえていた。引き取るつもりで何度か家に連れて帰っても、ぷいっと出て行ってしまうこと数度。
 そしてある日、姿が見えなくなったと思っていた玉次郎は亡骸で見つかった……。

 匙でクリヰムを口に運びながら、蛟羽はぼそっと庸介に囁いた。
「ネコ好きの俺としては、胸がきゅっとする悲しい話っす」
「多分、玉次郎は――その時と同じように亡くなった主人を待ってるんだな――」
 影朧となったネコの思いを知っているから、圓陣はあの時と同じように玉次郎と接しているのだろう。
 だが、そうした所で何も解決はしない。
 出来る事は影朧となった玉次郎を転生の桜に導くのみ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月白・白鴎
願ってしまうこともあるのでございましょう。
もう一度触れたいと。
…ですが立ち止まった儘でいれぬのは舞台とて同じこと
時を回しましょう。

拙は…舞い手として落語を学びに来たことに致しましょう
掃除をしている方に声をかけましょうか。
ご本人に出会えれば、幸いではございますが。

圓陣様の寄席は一度は見ておいた方が良いと言われまして

…実は、ある方に言われたのです。
拙の舞には迷いが見える、と。故に学んで来い、と

友人を…鳥を亡くしてからどうにも。
もう一度出会えればと願ってしまうのです。
終わりのその先へと送るべきでしょうに。
あの子の為にも。

…失った日のことを思い出せば今も心が痛む
故に分からぬ訳ではないのです



 朝はあっという間に駆け抜けて、昼下がりの午後。
 演芸場『二葉亭』の寄席は昼の部と夜の部の二部制。
 昼の部の出番を終えた圓陣は楽屋に一人、壁を背に胡座をかき、どこか上の空で天井をぼんやりと眺めていた。
 コツコツ、と。楽屋の引き戸を小突く音。どうぞ、と中の男が促せば。
「失礼……お疲れの処と存じてはございますが」
 桜色のヴェールに遮られた銀の瞳が静かに目を伏せ、頭を下げれば薄紫の髪がはらりとこぼれた。
「……先程、客席で見かけた気がするね」
「ええ、圓陣様の口演は一度は聞いておいた方が良いと言われまして」
 月白・白鴎(桜花繚乱・f22765)は薄く笑みを浮かべると楽屋の畳の上に滑る様に座す。その仕草は実に洗練されたもの。
「……もしや。見学に来ている人がいるとは聞いていたけど、君の事かな」
「はい、拙は舞い手にございますれば。己の芸を磨く為に他の芸をも学んでいる最中(さなか)にありまして」
 芸人が他の芸事を知る事で感性を磨くと言うのは良く有ること。圓陣は佇まいを直し、改めて敬意を払うように小さくお辞儀を一つ。
「その姿勢、私も見習わねばならないな。お若いのにご立派だ」
「……実は、有る方に言われたのです。拙の舞には迷いが見える、と」
 故に学んでこい、そう言われたのですがと前置きし、白鴎はほぅと一つ息を吐く。
「ですが、圓陣様。不躾を承知で申し上げますと、貴方様の噺にも迷いのようなモノを感じ取ってしまったのでございます」
 その言葉に遠慮は無い。芸に生きる者として感じたままを彼は告げただけだ。
 一方、告げられた圓陣は一瞬表情を強張らせたものの、はは……と力無く笑い声を上げた。懐から紙巻き煙草を取り出し立ち上がると、白鴎を促した。裏口へ、と。

 紫煙が舞い散る花弁の隙間を抜けて風に流れる。大きく息をつき、圓陣は白鴎に探るように笑みを浮かべて問うた。
「迷い、と言ったね。君の迷いの原因は見当はついているのかい?」
「友人を……鳥を亡くしてからどうにも。もう一度出会えればと願ってしまうのです」
 風に揺れるヴェールの下、目元が隠れてしまうとその表情は窺い知れない。
「終わりのその先へと送るべきでしょうに――あの子の為にも」
 そこまで聞いて、圓陣は煙草を足下に落とすと爪先でその火を消す。視線は足下から白鴎の銀の瞳に向けて移り、静かに彼は話し出す。
「私もね……随分と昔に友を亡くした。暫くして、彼の形見のネコも亡くした」
 亡くなった一人と一匹の為にも、自分は立派な噺家になって、友の分まで多くの人達に芸を見て貰いたい。そんなことを思いながらずっと過ごしてきた。
「そんな時、突然あの子が……玉次郎が現れた」
 二本目の煙草を口に咥える。白鴎がマッチを擦って火を差し出せば、再び紫煙の香りが辺りを漂う。
「願ってしまうことも、あるのでございましょう。もう一度触れたいと」
 失った日のことを思い出せば、今も心は痛むもの――。
「悼む心――故に分からぬ訳ではないのです」
「私は……俺は、どうしたら良いんだろうな」
「立ち止まった儘でいれぬのは、舞台とて同じこと」
 ――時を回しましょう。
 白鴎の言葉に、圓陣は何やら決意した表情を浮かべ、そして問う。
「……君も、桜學府から寄越されたんだろう?」
「さて……何のことやら」
「俺を訪ねて来る人が随分多いんだ、今日は。だけど君のお陰で踏ん切りがついた」
 圓陣は悲しそうな……しかし先程と違って迷いの薄れた表情を見せた。
「影朧なんだろうとは薄々気付いていた。通報する気になんてなれずにいた。あの子が可哀想で仕方なかったから。でも……それはきっと彼の為にはならないんだろう」
 玉次郎は夜にしか姿を見せない。圓陣が聞く限り、あの鈴を付けたサバトラのネコは昼間に見かけたと言う話は聞いていないのだと言う。
「今宵も恐らく、此処に来るだろう。最後の逢瀬だけは見逃してくれまいか」
 その帰りを――後を追って、彼を転生に導いてやって欲しい。
 圓陣は顔をそっと背けたまま、白鴎にそう頼むのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『眠らない街』

POW   :    とにかくぶらぶら歩いてお店を見て回る

SPD   :    路地裏や裏通りに隠れた名店や人を求めてみる

WIZ   :    雑誌や口コミなどの情報から手掛かりを得る

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 演芸場『二葉亭』。その裏口で煙草を吹かしながら、男は――椿家圓陣は待っていた。あのネコがあの時のように現れるのを。
 りぃん……ちりぃぃん……。
『にゃあーん』
「……来たか、玉次郎」
『にゃあっ』
 いつもの様に水琴鈴の澄んだ音色と共に、そのサバトラ柄のネコは姿を見せた。
 圓陣は目を細め、そっと用意していたアジの開きを皿の上に載せて地面に置くと、玉次郎は早速飛びついて一心不乱に食べ始める。
「……なぁ、玉次郎。お前、どうして戻って来ちまったんだ?」
『……(はぐはぐむしゃむしゃ)』
「って落ち着いて食おうな。誰も取りゃしねぇよ」
『なぁーん』
 苦笑いした男の声に、照れるような声で返事をしたかに聞こえた。
 圓陣はゆっくりとその身をかがめると、ネコの頭にそっと手を伸ばす。
 軽く頭を撫でてやれば、その毛皮の感触はあの頃と何も変わらない。
 手を離せば、もっと撫でて欲しいのか頭を擦り寄せてくるその様子に溜まらなくなった男は、ネコをそっと抱き上げてその温もりを確かめた。
『にゃあん……?』
「玉次郎……」
 ありがとうな。圓陣は心の中でそう呟くと、ネコをそっと地面に降ろす。
 そこに彼の出番を告げる声がかかった。
 ネコはその時、裏口の奥を――演芸場の奥を覗き込むように見つめたのを圓陣は初めて気がついた。そして思い出した。
 ――お前は中に入っちゃダメだよ。ここで待ってるんだ。
 亡き圓突の言いつけを守っているからこそ、中まで探しに行かないのか、と。
「さて、俺はそろそろ行かなきゃだ」
 またな、と一撫でしてやると、一声にゃあんと鳴いて、玉次郎は夜闇に去って行く。
 りぃん……ちりぃぃん……。
 見送った圓陣は着物の袖で目元を拭うと静かに演芸場の中に戻って行った。

 たったったっ……軽快な足取りでネコは浅草の道を駆けていく。
『……?』
 ぴと、と不意に立ち止まり、一瞬振り返ると。
 そのまま速度を上げて駆け出した。
 ネコの本能的なものか、オブリビオンとして猟兵の存在を感じ取ったのか。
 追った先、ネコの姿は掻き消えて、周囲を見回せば有らぬ所からあの鈴の音が聞こえてきた。どうやら幻影を見せて逃げる事が出来るらしい。
 すれ違う人々に聞けば、ネコの目撃情報は得られる。
 最終的に玉次郎はどこに向かうのか。
 夜の浅草における追走劇。猟兵達は惑わし逃げるネコを追って動き出した。
未不二・蛟羽
玉次郎さんは、逃げたいのかな、迷ってるのかな
それとも、探してるのかな…っす
…考えたって、分からないっすよね
直接会って確かめるっす

UCで子虎に変身して、塀の上や狭い隙間、猫の道を使ってダッシュで追いかけるっす!
途中すれ違う鳥さんとか猫さんとかの動物と話して、玉次郎さんの行方を聞きながら行方を探し
難しいなら人の姿に戻って聞き込むっす

こういう時、逃げた人はゆかりのある場所に行くって聞いたことあるっす
やっぱり玉次郎さんは、団突さんと会いたいからここにいるって思うから。あんまり、元の場所から離れてないんじゃないかなって…
だから、二葉亭から離れすぎないように、その周りを中心に探すっす
【アドリブ・連携歓迎】



 夜の闇に溶けるようにサバトラ柄が消えていく。
 圓陣が最後と決めた逢瀬を物陰から見つめていた蛟羽は、その視線を去って行く尻尾に送りながら考えていた。あのネコの気持ちを。
(「玉次郎さんは、逃げたいのかな、迷ってるのかな」)
 影朧は生前に傷ついた者、思い遺した事がある者の過去より生まれると聞く。
「それとも……」
 探しているのだろうか。考えたって分からない。それに考えるよりも動く方が自分の性分に合っている。
「直接会って、確かめるっす」
 眼鏡を外しながら、蛟羽はトンッと石畳を蹴って宙に舞う。
 しゅたっと塀の上に降り立ったのは小さな四つ足。蛟羽が変じたのは子虎。長ずれば獰猛な獣である虎も、子供のうちは少し大きなネコとそんなに変わらない。いや、尾が蛇だったりちっちゃな翼が生えてる時点で明らかにネコじゃない気もするけど。
 とにかく蛟羽はその小さな体躯を活かして狭い隙間も何のその、ネコ専用の道を進んでいく玉次郎の後をダッシュで追いかける。すり抜け飛び越えお手の物。
「……ん、見失ったっすかね」
 キョロキョロ探していると、上からカァと一鳴き聞こえた。
「あ、カラスさん。今ここを鈴付けたサバトラのネコさん通らなかったっすか?」
『んァ? てめェ見ねェツラだが……悪いこた言わねェ、アレに関わらねェ方イイぜ』
「へ、どうしてまた……」
『アレはネコの姿をしたバケモンだからさ』
 カラスはクチバシでくいっと示した。影朧だとカラスさんは察しているらしいが、恐らくそちらに向かったのだろう。
「ありがとっす!」
『クワッ! 忠告聞いてねェ!』
 心配して怒るカラスさんにお礼とお詫びも早々に蛟羽はそちらに向かってみると。
 塀の上に何やら集まって何かを見下ろしているネコさん達の姿。
「何見てるっすか?」
『にゃ、玉次郎さんいつもあそこに来てるよにゃーって』
「玉次郎さん、いるっすか!?」
 慌てて蛟羽もその塀によじ登り、ネコ達と並んでそちらを見ると。
 鈴を付けたネコが工事中の建物の前に佇んでいる姿。
「何してるっすか?」
 ぴょんと飛び降り駆け寄れば、玉次郎は驚いたように振り返るとそのまま勢いよくジャンプして、屋根から屋根に飛び移って逃げてしまった。
 流石に飛んで追いかけては警戒させてしまうと思い、蛟羽は元の姿に戻ると目の前の建築現場を軽く見回した。
「ここは……?」
 眼鏡をかけ直して周囲を確認する。二葉亭からはそんなに遠くも近くも無い。
「おや、あんたは昼間の」
「あ、甘味屋のお婆ちゃん!」
 丁度近くの道を通りかかった老婆が昼間に会った青年の姿を見かけて声をかけてくれた。
「知ってたらで良いっすけど……ここって昼間話した圓突さんと何か関係あったりしないっすかねぇ?」
「ああ、ここかい。ついこないだまではボロ長屋が建っててね。圓突さんは確かここに住んでたんじゃないかねぇ」
「え……?」
 それを聞いて蛟羽は切ない気持ちで胸が一杯になるのを感じた。
 嗚呼、あのネコはこの場所にも強い想いを感じていた筈だ。
 帰る場所も失った今、玉次郎はどこに行ったのだろう。
 蛟羽は老婆に再三の礼を告げると、再び夜の街を駆け出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

桔川・庸介
おーい。玉次郎ーっ。玉次郎やーい!
……うう。昼の町にはちょっとは慣れたかなーって思ったけど
夜になるとまた全然違う見え方になるから迷っちゃうんだよなあ。

足も速くないし飛べないし、夜目もない、土地勘もないし……てなると
直接後を追っかけるより、町の人に目撃談を聞きながら
玉次郎が居そうな方向を絞っていった方がいい、のかなあ?

うん。とりあえず、俺に出来ることからやるっきゃないし。
まずは足を使って聞き込みから!
できれば協力して、追っかけるのと話を聞くのと分担したいけど
アテが無さそうなら……やっぱ演芸場の周りの人たちからスタートかな。



「おーい。玉次郎ーっ。玉次郎やーい!」
 夜の浅草を照らすのはガス灯の明かりと居酒屋の入口に掲げられた赤提灯。そして色取り取りのネオン達。
 だが、ちょっと裏路地に入れば眠らない街の灯りが少し届く程度で。
 庸介は心底不安そうな表情でその夜の路地を歩む。
「……うう。昼の町にはちょっとは慣れたかなーって思ったけど」
 アース世界でも観光名所の浅草。夜になるとまた全然違う見え方になる、と言うのは変わらないとしても。彼は夜の世界=大人の時間を知るにはまだ早い年齢。初めてに近いこの夜の面を歩くにはどうしても迷ってしまう。
 声を上げたところで、ネコというのは警戒心が元々強い生き物である。やはり初見である自分の前には姿を見せてはくれないのか、と庸介は軽く肩を落とす。
「……いや、うん。とりあえず俺に出来ることからやるっきゃないし」
 足に自信がある訳でもなければ、空を飛べる訳ではない。夜目も利かない、土地勘だってない。無い無い尽くしな自分に出来ることは一つ。
 ――足を使っての聞き込み。直接ネコの後を追いかけたりは得意な人に任せ、行き先の目処を付けることに庸介は専念する。そうと決めたら、まずは演芸場の周囲からスタート。
「ああ、良く圓陣さんが餌与えてるネコちゃんね。見かけるわねぇ」
 そう告げたのは二葉亭の裏から少し離れた所にある小料理屋の女将。
「けど、なんでまたネコちゃんを探してるんだい? 二葉亭の裏にいつも来てるらしいんだし、そこで待っていれば来るだろうさ」
「あ、その……頼まれたんです。圓陣さんにご飯貰いに来てる時以外、どこにいるのか心配だって言うんで……」
 咄嗟にそれっぽい理由を作って述べる。一部は間違ってはいないはずだ。
「この辺は野良猫も多いから。一緒になって集まってたりするんじゃないのかねぇ」
「ネコが集まりそうな場所って心当たりあります?」
 庸介が尋ねると、そうねと女将はおでんの出汁をすくいながら軽く考え。
「料理やってる店の裏には漁りに来るの多いけど……」
「その中に鈴を着けたネコは……?」
「いや、いないねぇ。そもそもその子、圓陣さんにわざわざ貰いに行くくらいだろ?」
 女将の指摘通り。他の店の裏手に行っても、野良猫達の姿は見えども件の鈴を着けたサバトラのネコは見当たらない。
 だが、何件かの飲食店の裏をあたって庸介は気がついた。
 餌を漁り終わったネコ達は決まって向かう方向が決まっていることに。
「そう言えば――ネコって夜中に集会開くって聞くけど」
 もしかしたらこの地域のネコ達もそうかも知れない。
 ネコが集まると言うことは、人間の邪魔が入らない場所なのかも知れない。
「あ、もしかして――」
 庸介はこの浅草において、夜に人間が少なくてネコが集まれそうな場所を思い浮かべた。
 まだ人混みも多い時間だけども、深夜になれば――。
「浅草寺の敷地周辺に絞ってみるか……」
 ぽつりと呟いて、庸介は雷門の北、仲見世の賑わいが静けさに変わる頃を待つ事にしたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

吉備・狐珀
落浜・語(f03558)さんと

玉次郎は圓突殿が出てくるの待つために毎夜『二葉亭』に姿を見せていたんですね…。
圓突殿を探すのを邪魔されると私たち猟兵から逃げているのかもしれません。
必ず見つけだして転生に導きたいです。

街の人に澄んだ音色の鈴を付けたサバトラをよく見かける場所や圓突殿と縁のある場所を聞きながら、行方を探します。
UC【狐遣い】で五感を共有できる眷属の狐を呼び出し、烏の姿に変えさせて得た情報を元に空から玉次郎を探してもらいましょうか。
私達に驚いて玉次郎が逃げても狐が追跡してくれるから追いかけることができます。
だから、下手に刺激しないように気をつけながら探しましょう。


落浜・語
狐珀(f17210)と。

話を聞いてしまうと、なんというか…うん。でもまぁ、このままじゃ色々良くないからな。
圓陣師匠の理解得られたんだ、それに報いないとな。

コミュ力や情報収取なんかを総動員するつもりで、サバトラの猫を見ていないかを聞いて回る。
あとは、圓突さんと縁のあった場所や、猫の通りそうな裏道とかも。
聞き込みをしつつ、カラスにも空から探してもらおうかな。
空からの方が見えるものもあるだろうし、動物だからこそ気付けることもあるだろうから。
ってことで、カラス頼むな。夜なら、あまり目立たないだろうから、警戒されないだろうと思いたい。

アドリブ歓迎



「なんというか……うん」
 夜の浅草繁華街。ネオンの下を歩きながら、語は眉をしかめて考えていた。話を聞いてしまうと何とも言い難い気持ちで胸がいっぱいになるのは、彼もまた噺家という職業の所有物だった故なのだろうか。
「玉次郎は圓突殿が出てくるの待つために、毎夜『二葉亭』に姿を見せていたんですね……」
 共に歩く狐珀がぽつりと零した。余程、そのネコは亡き圓突のことを慕っていたのだろう。圓突は玉次郎を愛で、彼もまた男のことが大好きだからこそ――。
「でもまぁ、このままじゃ色々良くないからな」
 ネコが影朧として現出していることは世界に悪影響を及ぼす。可哀想だとも思うが在ってはならぬ存在と化してしまった以上は。
「圓陣師匠の理解得られたんだ。それに報いないとな」
「ええ、必ず見つけ出して転生に導きたいです」
 語の言葉に狐珀は大きく頷いた。

「サバトラ柄のネコ……?」
「ええ、澄んだ音色の鈴を着けた……」
 通りで客引きをしている者や、地元民と思しき人に声をかけては聞いてみる。
 丁寧に尋ねる狐珀に、軽妙な話術で相手との距離を瞬時に縮める語が上手く情報を引き出していけば、会話する毎に色々な話が必要不要関係なく飛び込んで来る。
 良く見かける場所の話を纏めていけば、どうも浅草寺に近付くにつれて目撃情報も増えてくる。二人もそちらに向かい、賑やかな仲見世よりも裏の路地に入り、周囲を探してみることにする。
「眷属 寄こさし 遣わし 稲荷神恐み恐み白す」
「カラス、頼むな」
 狐珀は眷属の狐を喚び出し、その姿を鳥に変えさせ。語もまた連れているカラスを空に放つ。浅草寺一帯に絞ってネコを探す寸法だ。
 二羽が夜空を羽ばたく間も二人はネコが通りそうな裏道を中心に探索を続ける。
「あ、ネコ……?」
 それらしきシルエットを見かけても件の鈴が無くて落胆することもしばしば。意外と地域猫の数が多い模様。
 そんな中、語は涼やかな鈴の音をかすかに耳にする。
「あれは……?」
 ちりぃん、ちりん。
 道の隅、ゴミ箱の影でペロペロと毛繕いをするネコの模様はサバトラ柄。首元には小さな丸い水琴鈴。そっとそっと近付いてみれば、そこにいるのは本当に小さな普通のネコにしか見えない。
『にゃん……?』
 ネコは耳をぴくっと動かし、こちらに目を向けた。夜闇の中、大きく見開いた瞳孔が爛々と輝いて見える。
「……玉次郎?」
『!! ふにゃっ』
 じり、じりと。ネコは歩を後ろに進め、一瞬で身を翻すと路地の奥に向かって逃げ出す。
「あっ……」
「待て……!」
 咄嗟に追いかける二人。角を曲がったところで、ネコの姿は突然霧散し掻き消える。
 どうした事かと後ろを振り向いた狐珀の視線の向こうには、反対方向に駆けるネコの姿。幻を見せ、翻弄するのがどうも得意のようだ。
「狐さん、頼みます……!」
 走って追いつくとは思えず、咄嗟に狐珀は鳥に姿変えた狐に追跡をお願いする。勿論、下手に刺激しないように。
 表の通りに出てみれば、どうやらそこは寿司屋の裏側だったようで。
「こちらのお店……」
 日中、別の猟兵が出逢った板前がいると聞いている店。圓陣のことをお得意さんと呼んでいるようだったが。
「もしかしたら圓陣師匠……昔は圓突さんと此処に来てたかも知れないな」
 そう考えれば、玉次郎が裏路地にいた理由としては辻褄が合うだろうか。
 そこに、バサバサと空から語のカラスが舞い降りてくる。
「どうした、見つけたのか?」
「カァッ!」
 一度彼の腕に乗り、報告のように一声鳴くカラス。
「あ、こちらも……ここは、浅草寺の境内のどこか?」
 狐珀の狐も玉次郎を捕捉したらしい。五感を共有する彼女は届く視覚情報より場所を推測し口に出す。
「成る程、夜なら観光客さえいなくなれば、この浅草じゃ一番静かかも知れないか」
 語は腕を上げてカラスを再び放てば羽音が寺の方向に向かって駆ける。
「行こう」
「ええ」
 二人は顔を見合わせ、境内に向かって急ぎ足を向けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月白・白鴎
亡くなったご友人の形見、でしたか。
ならばそのネコも圓陣様にとっては同じように大切だったのでございましょう

まずは追いかけましょう。
闇雲に走り回っても、路地裏の王は彼らでございましょう
拙は、圓陣様のお話にあったご友人に縁のある場所を訪ねましょう

後は……猫は集会所を持つと言いますが、ならば水のある場所か
顔を出してもらうには、好物にございましょうか
鮭トバが良いと聞いたので、用意してみたのですが…かのネコ以外であれば
動物と話すで居場所を問いましょう

それでも見つけられなければ…拙の鳥に空から探させましょう
攻撃はせず、探し物に専念なさい

見つければ不用意には近づかずに
主の元へ参りたいとは思いませぬか?



「亡くなったご友人の形見、でしたか」
 二葉亭より駆け去ったネコを物陰から見送っていた白鴎は、ほぉと小さく息を吐いた。ならば、圓陣にとってもそのネコは同じように大切な存在だったに違いあるまい。
 白鴎はネコの駆けていった方向に足を向ける。既に他の猟兵達も幻術に翻弄され、見失う者も出ているようだ。
「闇雲に走り回っても、路地裏の王は彼らでございましょうか……」
 そして彼は圓陣の話にあった友人――圓突に縁のある場所を訪ねる事にする。

 カラコロと足下に音が響くのはすっかり夜も更けたせいか。
 この浅草の街の象徴とも言える場所は、この浅草寺に他ならない。
 聞けば噺家の圓陣も、故人たる圓突も、何かと散歩に訪れた場所が此処であるらしい。浅草に住まう者の信仰がこの境内に集まっていると言えよう。
 そして観光客がすっかり居なくなった夜間であれば、ネコのたまり場にはうってつけ。何せ邪魔をする人間など、たまに夜半に横切る酔っ払いか寺の坊主くらいのもの。
 手水舎に足を向ければ、そこはネコの集会所。トコトコ歩いてくるネコ、その場で毛繕いに夢中になるネコ、ごろんとひっくり返って寝転がっているネコ。浅草中の地域猫がここに集まっているのでは無いかという光景。
「これはこれは……」
 ゆっくりと警戒されぬように近付いた白鴎。その気配にピクッと此方を見るネコ達。
 だがその小さな濡れた鼻をピクピクと動かし、にゃっと小さな声を上げたのは訳がある。
「鮭トバが良いと聞いたので、用意してみたのですが……」
 袂から油紙に包まれたそれをそっと取り出したらネコ達が一斉に立ち上がった。
 群がってきたネコ達に向け、動物と話す力をもって彼はまず落ち着くように呼びかけ。
「慌てずとも皆様の分はございます。食べ過ぎは身体を壊しますのでゆっくりと……」
 小さく裂いて寄越せば、ネコ達はあっという間に平らげていく。その様子を見つつ、白鴎は場にいるネコを見回すも、件のサバトラ柄のネコは見当たらない。
「失礼ですが、サバトラ柄で首に澄んだ音の鈴を着けたネコを存じませんか」
『にゃー』
『ふにゃー』
 ネコ達は一斉に返事をし、とある場所を彼に示す。

 そこは寺の境内に座する神域。
 鳥居をくぐり、一歩二歩と進めば目の前には対の狛犬が座す拝殿。
 ゆっくりと右手に目を向ければ神楽殿――。
「そこにいらっしゃるのでしょう、玉次郎さん」
 そう静かに声をかければ、欄干をゆっくりと奥より歩いてくるネコの姿。
 ちりぃん、ちりぃぃん。
『フゥゥゥ……!』
 尻尾を立て、前傾姿勢で白鴎を睨み付けるその様子は明らかに警戒している様子。想定内の状況。不用意には近付かない。ただ、静かに彼はこう問うた。
「主の元へ参りたいとは思いませぬか?」
『!!!』
 ネコ故に表情までは読み取れないが、明らかに動揺したかのようだ。
 ちりりん。鈴の音だけ立て、玉次郎は白砂の地面に降り立つと、その気配を膨張させていく――!!
「……影朧としての姿を現しますか……」
 この気配を感じた他の猟兵達も此方に向かっていることだろう。
 慌てることもなく、白鴎は姿を変えゆくネコをただ見つめていた。
 後ろ脚で立ち上がった成人男性ほどの化け猫が目の前に在る。
 その表情はこう告げているのだ。

 ――何故、自分を追っている。
 ――何故、自分達を識っている。
 ――主をどこにやったのだ、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『拾われた野良猫』

POW   :    引っかきラッシュ
【両手の爪】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    仲間の猫を呼ぶ
戦闘力のない、レベル×1体の【猫仲間】を召喚する。応援や助言、技能「【動物と話す】」を使った支援をしてくれる。
WIZ   :    怪奇・巨大猫
肉体の一部もしくは全部を【巨大な猫】に変異させ、巨大な猫の持つ特性と、狭い隙間に入り込む能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ロスティスラーフ・ブーニンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 浅草寺境内に並んで鎮座するは東京最古と称される浅草神社。
 その神域にてネコの影朧がその正体をさらけ出す。

 何故自分を追うのかと。
 何故自分達の事を識っているのかと。
 そして――主は何処にいったのかと。

『フニャァァゴォォッッ!!!』
 二足歩行の化け猫に姿を変じた玉次郎は、尻尾を逆立て膨らませてその場に次々と集まってくる猟兵達を睨み付ける。
 オブリビオンと化した彼は解るのだろう。彼らが自分を滅ぼす存在なのだと。
 そして獣である彼は知らぬのだろう。この世界の過去の存在には転生の可能性があるということを。
 此処に導いたグリモア携えし青年曰く――正体を現したネコは会話こそ出来ないが、人の言葉は理解出来る、思いが強ければ尚のこと――と。
 元々賢いネコだったのは、圓陣の想い出話から聞いても明らかだ。

 玉次郎が生前思い遺したことこそ、彼がこうして現れた理由。
 示すしか無いのだろう、悲しい現実を。
 打ち拉がれるかも知れないが、彼はずっと、ずっと待っていた強い子だから。
 彼の魂が幻朧桜に導かれるためにも――。
月白・白鴎
主の元へと聞いた時、動揺された貴方様の為に
幻の逢瀬も、これにて終わりでございます

貴方様を傷つけることを、先に圓陣様に詫びておくべきでしたね
隠り世の濡烏にて黒鳥を召喚し、動きを封じます

行きなさい黒鳥

巨大な猫であれば、受ける面も増えるというもの
風で多少であれその身を浮かせ、動きを阻害致しましょう
己の傷は構いますまい

玉次郎さん
貴方様の視線に答えましょう

ヴェールを外し、桜の枝を晒す。
拙は桜の精。貴方様は、もうただの猫ではなくなってしまったのですよ
だからもう一度聞きましょう
主人の元へ参りたいとは思いませぬか?

他に担うものがいなければ拙が巡りを
目を閉じて思い出してください、ほら、声が聞こえませぬか?


吉備・狐珀
落浜・語(f03558)さんと

玉次郎が転生するには圓突殿のことを伝えないといけないんですね…。

賢い玉次郎なら語さんの話が理解できるでしょう。
でも、今は興奮しているからまずは耳を傾けてもらうために心を落ち着けなくては。
UC【鎮魂の祓い】を使用して玉次郎の警戒心や猜疑心を祓う為に祈りをこめて笛を吹きます。
説得をする語さんが爪で引っかかれそうになったら痛みに堪えられるようにオーラを纏わせて庇います。

ずっと待ち続けて、探し続けた玉次郎だから、主思いの強い子だから。
玉次郎の思いは圓突殿の元にいつか必ず導いてもらえます。
だから会いに行くその鋭気を養う為に今はその魂を鎮めましょう。


落浜・語
狐珀(f17210)と

かわいそうだと思うけれど…
だからこそ、何とか転生できるようにしてあげられれば

待っていても、圓突さんはもう来ないんだよ。玉次郎と約束した日に、倒れてそのまま亡くなったんだって
だから、もう待たなくていいんだ。むしろ、ここで待ってちゃいけない。
すぐに納得するのは難しいのは、わかるよ。俺もお前と同じように、噺家の傍にいて…置いて逝かれたから。『おれ』は今も納得できてないから
でも、だからこそ、ここで待つのは終わりして、転生してほしい。そうしたらまた、いつかは圓突さんと会えるかもしれない
圓陣師匠は、それを望んでるだろうし、圓突さんだってそれを待っててくれてるんじゃないかな

アドリブ歓迎


桔川・庸介
う、わー、あの大きな影……あれが今の玉次郎、なのかな。
真正面から戦ったら絶対ただじゃ済まない。そう思うと怖くて震えるけど
でも。話を聞いてくれる可能性がある、ってことなら…!

どっちみち俺は攻撃できないし、玉次郎の爪をギリギリで避けながら
何度も何度も声を掛け続ける。それしかできないから。
ご主人がもう亡くなっちゃったこと。でもきっと、君を待ってること。
この世界の桜……えーと、幻朧桜、だっけ。桜が導いてくれたら
いつかまたご主人と会えるかもしれないってこと。

大丈夫だよ。こんだけ暖かい人達が生きてる世界だ。
あの世や、もしくは次の生を受けたときだって
きっとまた人の縁が引き合わせてくれるって、俺は信じてる。


未不二・蛟羽
待ってるって、どんな気持ちなんだろう
きっとさむいんだろうなって
でも、諦める方が、もう来ないって分かる方がもっともっとさむいから
だから待ってるのかな
…それをわかってて言う俺は、多分酷いんだろうなって

野生の勘で爪を避けながら静かに玉次郎さんに伝えて
「駄目っすよ…いくら待っても、圓突さんは絶対来ないっす」
だって、死んじゃったんだから

でも、でも、このままだと笑顔じゃないから!きらきらじゃないから!
玉次郎さんは強い猫さんっすから、さむいままなんて俺は嫌っす!
UCで刻印を虎の手足へ、パーカーを狼の大口へ
敵の爪を自身の爪で真っ向から受け止め、狼の口で喰いついて
ちゃんと還れるように
さむい気持ちをもぐもぐっす



 その紅い瞳は夜闇の中においても爛々と輝いて見えた。
『フゥゥゥ……』
 二足で立ち上がっても、その姿勢は前脚を今にも地面に付きそうな前傾姿勢。
 逆立った尻尾が彼の――玉次郎の警戒心を強く表している。
「……」
 月白・白鴎は己の身長ほどの背丈に変じた化け猫を前に怯むことも無く、その瞳をただ見詰めていた。
 ――主の元へ、と聞いた時。玉次郎はその動揺を隠せずにいた。
「斯様な貴方様の為に」
 彼は扇を手にすると僅かに指で滑らせ開く。
「幻の逢瀬も、これにて終わりでございます」
 白鴎がそう告げるのとほぼ同じくして、猫は耳をピクッと動かし、鼻を鳴らした。
 白砂を踏みしめて青年と化け猫の対峙を鳥居の所より見つけたのは桔川・庸介。
「う、わー、あの大きな影……」
 化け猫と言う形容が相応しいその姿に庸介は背筋が凍るような感覚を覚える。
「あれが今の玉次郎、なのかな……」
 ごくりと唾を飲み込む音すら聞こえそうな深夜の静寂。
『フニャアアアッッ!!!』
 新手の猟兵に気がついた猫が声を上げるとどこからともなくネコ達が集まってきて庸介に襲いかかる。
「うわああっ!?」
 野良ネコ達の引っ掻きや噛み付きから逃れるように神社の境内に更に足を踏み入れれば化け猫との距離は更に縮まった。
「ひぃっ……」
 影朧と化した玉次郎は如何にも強そうで、真正面からやりあえば一介の高校生に過ぎない自分では絶対ただじゃ済まない。そう思えば身は竦み恐怖に震える……しか無いのだが。
 ……でも。影朧となった事で元々の賢さを更に増しているというのであれば。話を聞いてくれるのであれば。可能性があるってことならば。
「玉次郎、話を、どうか話を聞いて欲しい!!」
『フギャアォォっっ!!』
 しかし気が立っている獣は聞く耳を持たぬのか。その鋭い爪を光らせて庸介と白鴎に向けて前脚を振り被ったその時。
「どうどう、少し落ち着くっすよ!」
 爪は二人には届かない。ネコ達に紛れて境内に到達していた未不二・蛟羽が変化を解きながら玉次郎の腕にしがみついてその攻撃を無理やり止めていた。
 蛟羽は二葉亭を出て、玉次郎を追い、見失ってここに来るまで、ずっと考えていた。
 待ってるって、どんな気持ちなんだろう。きっときっとさむいんだろうな――と。
 でも、玉次郎が諦めなかった。もう来ないって解る方が、もっともっとさむいから――だから待っていたのかな、と思うと。
(「それを解ってて言う俺は――」)
 凍えた水の中に突き落とすのと同じ――多分、酷い奴だ。でも、前に進む為にも。
「駄目っすよ……いくら待っても、圓突さんは絶対来ないっす」
 化け猫の抵抗が止まる。目を見開き、蛟羽を見ると、その前脚を思い切り振り回してしがみついた彼を引き剥がす。
 地面に叩き付けられる前に受け身を取って膝を付くと、静かに蛟羽は言葉続ける。
「だって――死んじゃったんだから」
 その言葉は残酷ではあった。が、遠回しに言って伝わるとも思えない。あくまで猫は猫で獣なのだから。真実は率直に告げねば伝わらない。
 そして、余りに明確すぎる答えを受け――化け猫は慟哭にも似た叫びを上げる。
『ウギャオォォォッッ!!!』
 彼に取っては受け止め難い、受け止めたくもない事実。混乱したのか興奮したのか。玉次郎は否定するかのように蛟羽に庸介にと再び爪を向ける。
 野性的な勘と所作で爪を避ける蛟羽。庸介もギリギリの所で爪を躱しつつ、猫に向けて必死に声を上げ呼びかけ続ける。
「玉次郎、君の気持ちは分かるから! どうか聞いてくれ!!」
「このままだと笑顔じゃないから! きらきらじゃないから!」
 その後ろより扇を広げて白鴎が使役する黒鳥を花吹雪の中より喚び出せば、凍える風が化け猫の身を浮かせ凍り付かせる。
「貴方様を傷つけることを、先に圓陣様に詫びておくべきでしたね」
 だからと言って心痛めるような素振りは露程見せず。猫の巨大化した一撃を数歩退くことで間際にて避ける白鴎。
 この猫が生まれ変わる為には、戦わねばならない。攻撃を与え弱らせて、その影朧としての力を削ぐ必要があるのだ。
 蛟羽が刻印の力を解放した虎の腕で化け猫の爪をしかと受け止めれば火花が散る。
「玉次郎さんは強い猫さんっすから、さむいままなんて俺は嫌っす!」
 頭にパーカーを被れば、その黒に隠れし暴食の狼が姿を現す。がぶりと獣は獣の肉に喰らい付く。ちゃんと還れるように、蛟羽は願う。その『さむい気持ち』ごと飲み込み受け止めよう、と。
 再び輝く爪は庸介が引きつけ回避する。攻撃こそ出来ないが彼は何故か避けきる術は身についていた。その間に白鴎が鳥を放ち、蛟羽の牙が喰らい付く。
『フギャアァァオォォ!!!』
 いやだ。いやだいやだいやだ――! そんなの、イヤだ!!
 玉次郎は喉の奥より鳴き叫ぶ。きっと彼も薄々感じていたのだろうか。主と慕う人間がもういないと言う事に。それでも大好きな主に会いたくて、もう一度会うことをただただ無心に願って。断ち切れない思いが彼を影朧にしたのだろう。
 ――そこに夜風に乗って笛の旋律が届く。霊力を秘めた音色は化け猫の心の猜疑心を、怒りを、悲しみを、負の感情そのものを鎮めるかのように響く。
 吉備・狐珀が笛を奏ながら鳥居の元に立って此方を見つめながら歩いて来る。彼女と共にやってきた落浜・語は駆け足で玉次郎の前にその身を滑らせた。
 語は息も絶え絶えに、正面より猫の目を真っ直ぐ真剣に見詰め対峙する。
「玉次郎、待っていても――圓突さんはもう来ないんだよ」
 琥珀の笛の音が響く中、呼吸を飲み込み整え、そして語は静かに告げた。
「あの日、玉次郎と約束した日に倒れて――そのまま亡くなったんだって」
『…………!』
「だから、もう待たなくていいんだ――」
 改めて告げられた事実に対し、猫はこれ以上興奮する事も無かった。むしろ、笛の音が続く事で彼の心は徐々に落ち着きを取り戻しつつあるのを琥珀は確信していた。
(「玉次郎が転生するには圓突殿のことを伝えないといけないんですね……」)
 辛い現実。人ですら同じ状況であれば悲しみに打ち拉がれることを、猫がどこまで理解し、どこまで受け止められるか。
 だがこの賢い猫は理解している。語の言葉に対する反応を見たら解る。
「――むしろ、ここで待ってちゃいけない――」
 語は一歩、二歩と化け猫に近付く。猫はただ黙って彼の言葉に耳を傾けている。
 ずっと待ち続けて、探し続けた玉次郎だから――主思いの強い子だから。言葉を紡ぎ伝えるのは語に任せ、狐珀は想いを籠めて笛を奏で続けるのみ。
 玉次郎の想いは亡き圓突の元に届き、その御魂は必ずその元に導かれると信じている。そして彼が主に会いに行く為、その鋭気を養う為にも、今はまず――その魂を鎮めることに彼女は専念する。それこそ、琥珀にしか出来ないことだから。
『ニャア……フニャア、ニャアッ!!』
「すぐに納得するのは難しいよな。わかるよ、だって、俺もお前と一緒だから――」
 力無く鳴き叫ぶ玉次郎の前脚をそっと手にとって、語は悲しそうに目を伏せた。
「俺も、噺家の傍に居て……置いて逝かれたから……」
『ニャ……?』
 語はそっと懐より取り出し見せたのは高座扇子。ヤドリガミたる彼の本体。それが噺家の使う道具であることを玉次郎は知っていた。そして青年の本質だと言う事を猫は本能的に理解した。
『ニャアン……ニャアアン』
「……『おれ』は今も納得できてない。だから玉次郎――納得するなとは言わない」
 余りにも似た境遇だからこそ言える。そしてその言葉は真摯に響く。
「でも、だからこそ! ここで待つのは終わりにして転生してほしい」
 玉次郎はゆっくりと膝をつく。かくんと力が抜けたかのように。
 そこに、白鴎がそっと近付いて猫に言葉をかけた。
「玉次郎さん、先程の貴方様の視線に、問いに答えましょう」
 ヴェールを外せばそこから覗くは桜の枝。
「拙は桜の精。貴方様は、もうただの猫ではなくなってしまったのですよ」
 空に舞う幻朧桜の花片が薄く輝きを増す。夜闇の境内に幻想的な桜色の光が広がり出す。
「今一度聞きましょう――主人の元へ参りたいとは思いませぬか?」
 その問いに、玉次郎は顔を上げて懇願するように声を上げた。
『ニャア……ニャアアアァァァ』
 会いたい。主に会いたい。そんな気持ちが伝わる鳴き声が響く。
 庸介と蛟羽は、そっと玉次郎の左右に寄り添い猫に身を寄せ告げる。
「きっとご主人は君を待ってるよ。この世界の桜……えーと、幻朧桜だっけ。桜が導いてくれたら、いつかまた会えるかも知れないってことだから」
「そうっす! 圓突さんが首をながーくして待ってるはずっす!!」
 語は玉次郎の目の高さに合わせるように膝をつく。彼の毛皮をそっと撫でて、そして出来る限りの笑みを作り、言う。
「また、いつかは圓突さんと会えるかもしれない。圓陣師匠は、それを望んでるだろうし、圓突さんだってそれを待っててくれてるんじゃないかな」
『ニャア、ニャアァァン!!』
 ――玉次郎の身体が小さく縮んでいく。そして最初に見たサバトラ柄の小さなネコにその姿を戻し、ちょこんと座って五人の猟兵達の顔をゆっくり順番に見上げて見詰めた。もう琥珀の笛の音が無くとも落ち着いたらしい。そして、五人の気持ちを受け入れたらしい。
「大丈夫だよ。こんだけ暖かい人達が生きてる世界だ」
 庸介は鼻の下をこすりながら玉次郎に向けて笑いかける。
「あの世や、もしくは次の生を受けたときだって、きっとまた人の縁が引き合わせてくれるって、俺は信じてる」
『にゃーんっ!!』
 白鴎が手にした扇を掲げれば、空を舞う花片の淡い紅色がざぁっと向きを変えて動き出す。彼は神楽殿の前に歩を進め、くるりゆらりと流れるが如くその身を舞に委ねれば、幻朧桜がネコの鳴き声に応じるように彼の周囲で輝きだした。
「さぁ、目を閉じて思い出してください――ほら、声が聞こえませぬか?」
『にゃあぁ……!』
 玉次郎はその目を細め、顔を上げて鳴く。何度も、何度も。
 桜の花片がネコの周囲を渦巻くように流れ、やがて彼を包み込んでいく。
 そして、ふわっとその紅色が弾けた。
 花片にいざなわれ、玉次郎は還っていった。
 ――ちりぃん、と。水琴鈴の音色を残して。



「そうして影朧は姿を消した。ああ、きっと今頃どこかで転生していることだろう」
 ちりぃん、ちりん。高座の上で椿家・圓陣は一人と一匹の形見となった水琴鈴の音を鳴らして噺を締めくくった。
 怪談噺とも人情噺ともつかぬ、彼の創作落語。玉次郎と、彼の為に尽力してくれた猟兵達を忘れない為にも、圓陣はこうして言霊を紡ぎ続けるのだ。
「――以上、浅草化猫奇譚」
 二葉亭に囃子の音が流れ――これにて物語は終幕と相成りまする。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年12月07日


挿絵イラスト