欲深き者は破滅に向かう
●それは自分のあるがまま
「殺したくて、殺したくてたまらねえんだ……一人で死ぬのは寂しいんだよぉぉ!」
―――ある者は一心不乱に口に食べ物を運ぶ。
「食べたい、食べたい、お腹が空いた、食べても食べてもお腹が空くの……まだ、まだ食べたいぃ……!」
―――ある者は怒りに我を忘れ、周りを傷つけ、自分を傷つけ、腕がへし折れようと暴れる事を止めない。
村は暴徒達で溢れかえり誰もが正常ではなく、その暴走を止められる術はない。
殴り合い、殺し合い、また自滅の道へと進んでいく。
自分があるがまま望むままに出来る事、それは。
「良かったね、好きな事が出来て死ぬまで幸福だ」
●グリモアベース
惨状についてざっくりと言葉で説明した後にリドリー・ジーン(ダンピールのシンフォニア・f22332)は気分が悪そうに下を向いた。
「人同士で争い合わせるように仕向けている……趣味が悪い事だと思いませんか」
事件の場所はダークセイヴァー、先日までその村は打倒吸血鬼に向けてその圧政から逃れるための策を練っていた所だったらしいのだが。
「急に人が狂暴化し自身や隣人を傷つけあうんです。吸血鬼を守る配下の能力だと思うのですが、詳しく何をしたかは……予想する事しかできず確定した情報をお渡しできず申し訳ないです」
村人達も作戦決行の為に用意した武器が自身やお互いを殺し合う為の凶器になるだなんて思いもしなかっただろう。
やはり全てを言葉にするにはどうにも身が耐えられないらしくリドリーは口ごもる。
「猟兵の皆さんにはこんな事件をこれ以上増やさなくてすむよう主悪の根源であるヴァンパイアを倒して頂きたいのです、村にいけばもしかしたらまだ生存者がいるかもしれません、ですが気を付けて下さい、何が起こるか分かりませんから」
相手の使った手段は不明、村には何らかの情報が残されているかもしれない。
猟兵は被害にあった村から痕跡を辿り、相手の情報を掴む為に探索する事にする。
もしかしたら生存者も残されているかもしれない。
リドリーは村まで猟兵達を送る事を告げるとグリモアを起動させた。
以夜
初めまして、村探索は隅々まで調べてしまいたくなります。以夜です。
話は少々グロテスクだったり救いがない描写が入ってしまうかもしれませんがご了承頂ければ幸いです。
●
アドリブ、絡みをかなり……かなり盛り込む傾向があります。
多人数で絡ませる事も多いため。
単独行動希望の場合は文頭に”〇”をお願いします。
同行者さんがいる場合はチーム名や名前等を文頭にお願いします。
第一章冒険。
村での探索です。
辺りには様々な理由で死を遂げた村人達が埋葬もされず道に倒れています。
探せば生存者がいるかもしれませんが正常とは限りません。
第二章集団戦。
彼らに手を下した者が現れ猟兵達を襲いにきます。
第三章ボス。
全ての元凶であるヴァンパイアが現れます。
邪魔する猟兵を全て排除しようとしてきますので討伐してしまいましょう。
二章以降の受付は断章執筆後になります。執筆状況はMSページでお知らせいたしますのでどうぞよろしくお願い致します。
第1章 冒険
『冒涜者を討て』
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POW : 死者の安寧のために祈りや祝福など出来る事を地道に行う
SPD : 町を見回り、生存者がいないかを確認する
WIZ : 町の状況から推測される敵の戦力を考え、対策を講じる
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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アリウム・ウォーグレイヴ
アドリブ歓迎
酷く、悲しい。
通りでは大勢の人が死んでいる。
自然にではなく、誰かの意思によって。
できることは少ないが、それでもやらなければ、助けなければ。
向かう先は大通り、ではなく裏通りの人気の無い道へ。
生存者がいれば人の多そうな道は避けるはず。屋内で身を潜めている可能性もあります。
ホワイトパスで五感を強化し『情報収集』を。生存者の呼吸音、衣擦れ、足音、匂いでもなんでもいい。一人でも多く助けたい。
発見した際には保護を。襲われた際には『見切り』、拘束して落ち着くまで説得しましょう。
落ち着いた後には今回の事件の確認を。
予兆はあったはずです。些細な事でもいいので変わったことがなかったか聞いてみましょう。
「これは……あまりに惨い」
現状を目の前に、憂いに沈んだアリウム・ウォーグレイヴ(蒼氷の魔法騎士・f01429)の頬を乾いた風が撫でる。
あまりに惨く、酷く、悲しい。
胸は痛み、青の瞳は悲しみに伏せられた。
――大通りでは大勢の人が死んでいる。
それも、自然にではなく、誰かの意志によって。
「……できることは少ないが、それでもやらなければ、助けなければ」。
殺し合った者、外傷は見えないが何らかの理由で死に絶えた者。
彼らを助ける事はできないが、生存者がまだいる可能性があるならば。
大通りから外れ、裏通りの人気のない道へと足を進ませる。
(……生存者がいれば人の多そうな道は避けるはず、だとすれば)
屋内で身を潜めている可能性もあるはずだ。
彼らから事件の事を聞ければ、これから更に起こるである惨劇も回避できるかもしれない。
死が充満する村は静寂に包まれていて人の気配はない。――だが。
今のアリウムの五感は強大な魔力で強化されている。常人では聞き取れない足音は勿論の事、微かな呼吸音や衣擦れさえも逃さずその耳へと届く。
研ぎ澄まされた五感で生存者の存在を探る。
一人でも多くを助けたい、その一心が彼を突き動かし人の気配を求め行く。
「これは――物音
……!?」
足を止め、もう一度神経を研ぎ澄ませる。
確かに聞こえる、微かな音。
「呼吸、衣擦れ、……生存者……?」
通りを抜け、更に細い道へ、音を頼りに疾走する。
アリウムが走る度に音が近づく、彼は確信する。まさしくそれは生きている人間の出す音に違いない。
五感を頼りに辿り着いたのは小さな家だ。大通りから大きく外れ、細々とした場所に隠れるように建っていた。
こちらの気配に気づいたのだろうか、音の主は部屋の中でじっと固まっているように感じる。
……そこから血の匂いがない事にアリウムは安堵の息をついた。
「生存者の方、もしこの声が聞こえるなら安心して出てきて下さい、私は貴方を保護しにきました」
鍵のないドアは簡単に開いたが、人が出てくる気配はない。
侵入者に恐怖を感じ身を守っているのであればこちらに敵意がなく、安全であると伝えるのだが――
「ぐあぁぁぁぁぁあ!!」
「――っ!!」
突如! 常人とは思わぬ鬼のような形相の女が物陰から飛び出しアリウムに飛び掛かる!
(これは……! 正常な状態ではない、が、この村の生存者――!)
冷静に状況を判断し、女の突進を見切りで避けると、勢いの先を失った女はそのまま床へと体勢を崩して滑り転がった。
「ぐぅ、ううぅ……!」
その隙を逃さず両手を後ろに回し拘束し自由を奪う。
ただの人間で、女性だ。押さえつける事は容易だった。
「落ち着いて下さい! 私は、貴方に危害を加えに来たのではありませんから、話を聞かせて頂きたく――!」
「あぁぁああお腹が空いた、食べないと食べないと、私の欲は満たされない!」
「お腹が空いた……?」
改めてアリウムは辺りを見回す。部屋に散らかった大量の食材の残骸、果物の皮、穀物の破片が床に散乱している。
そして女の汚れたワンピース、何かの香辛料の匂い。
「朝からどれだけ食べても食べても満たされない! 三日分のご飯を全部ひっくり返して食べても、まだ満たされない! お腹が空いて死んでしまうぅ!」
「それは明らかに食べすぎです! 待って下さい、落ち着いて……!」
「はぁ、はぁ……! もう食べるものが家の中にない、食べたくて仕方ないのに……」
この女性を放っておくのはまずいと、落ちていた手短な布を引き裂き女性を縛り、壁端へと誘導し座らせる。
「どうして、どうして!? 私に危害を加えないって言ったのに! そういってたのに!」
「駄目です、暴れないで下さい。さぁ落ち着いて、……貴方の精神は普通ではありません。貴方を助ける為です。どうか今は我慢して下さい」
「ぐぅ……ぅ、そんなこと、いわれ゛てもぉ、ひっく……!」
「……乱暴にして、すみません。良ければここで何があったか話してはくれませんか。分かる範囲で大丈夫ですから。情報が欲しいんです」
アリウムを見上げた女性は少し考えるような動作をとり、また俯き首を振る。
「分からない、分からないぃ……いつの間にか村の外はうるさくて、私はただ、お腹が空いたと思っていて、本当にそれだけで」
「外には……出なかったんですか?」
「ずっと部屋に居たわ、部屋の中の食べれる物をたくさん食べて、お腹が空いて……二階から窓を覗いたら、外ではたくさん……人が……死んでて……! だから……」
――無理をしないで、ゆっくりで大丈夫だと、声をかけようとした時だった。
再び顔を上げた女の目から涙が溢れ、その瞳はじっと対峙したアリウムの瞳を見つめる。
「とても、美味しそうだから、食べにいこうと思ったの」
あぁ、これは、やはり、正常な思考ではない。彼女自身から生まれた言葉ではない。
「分かりました……その話が聞けて良かったです」
アリウムは女の拘束をきつくし、自由を更に奪う。
「……!? なんで、なんでこんな事――!」
「貴方を助けるためです」
このまま人を喰らってしまえば正常な意識に戻った時に彼女は生きていけるだろうか?
”仕方なかった”と割り切れる強い人間だろうか。
「……大丈夫です、私が約束します。必ず助けましょう」
それが今の私にできること、やらねばならない事。
他にも生存者が残っているかもしれない。
可能性を信じ、またアリウムは村の命を探しだす。
成功
🔵🔵🔴
九尾・へとろ
■SPD
屍の山は幾度か見てきたが、ここまで陰惨なものは初めてじゃよー。
臭いとかつかんじゃろな?
一先ずは生存者を探してやろうかの。
情報収集は得意じゃが…人伝がないとなると、死体の検分をしながら歩く事になりそうじゃな。
仏様に手を加えるのはいい気分はせんが…。
あとは建物や倒れてる位置などから建てられる推測を立てようか。
生存者がいれば正気か確認しようか。
錯乱しとる程度ならば気絶させて黙らせて安全なとこまで引きずっていく。
発狂してあるようなら…あぁ、もうそれはダメじゃな。
苦しまぬよう首を落として楽にしてやるから安心せい。
心という器はヒビが入れば治らんしのー。
しかし…悪趣味じゃな。
アドリブ連携歓迎
シエナ・リーレイ
■アドリブ絡み可
『お友達』候補が沢山いるよ!とシエナは歓喜します。
懐かしい気配を感じて村を訪れたシエナを待ち受けていたのは『お友達』候補が至る所にいる状況でした
シエナは自身のユーベルにより動き始めた村人と仲良くなる為にスカートの中から呼び出した『お友達』と共に彼らのお願いを叶え『お友達』に迎え入れようとします
シエナと遊ぶ事を望む人がいれば狂った様に遊び
食事を望む人がいれば料理が得意な『お友達』の給仕の元お食事会を始めます
『お友達』になってくれるの?とシエナは問い掛けます。
シエナの気分が高揚としていた場合、他の猟兵に止められない限り生存者に対しても同様の対応をとり『お友達』に迎え入れようとします
腐敗し始めてもなお死体は誰にも弔われず、地を転がされている。
猟兵達を迎える惨劇の跡地は誰もが眉を顰める光景なのだが。
「わぁ! 『お友達』候補が沢山いるよ!」
その光景を目にするが否や、シエナ・リーレイ(取り扱い注意の年代物呪殺人形・f04107)は赤の瞳をきらきらと輝かせ、その死体たちに向いて嬉々とした足取りを向けているのである。
「……正気かえ?」
その背中を見送り、九尾・へとろ(武舞の姫・f14870)はその例外じみた行動に呆気にとられざるを得なかった。……足を踏み入れるにも一度躊躇するような場所だと言うのに。
入口に一番近い屍に近づくと、足を折り、鼻先を擽る死臭から逃れるように振袖で鼻と口を覆う。
「……屍の山は幾度か見てきたが、ここまで陰惨なものは初めてじゃよー。臭いとかつかんじゃろな?」
そこに倒れていた二体の死体はお互いが激しく刺し合った出血が原因で息絶えたようだ。
見る限り外傷のある物は仲間内の刺し合いが死因の原因だろうが他はどうだろうか。
「ふぅむ……」
グリモア猟兵はこの村の人々は圧政に立ち向かおうと一致団結を決めていたと聞く。
この状況だけ見れば意見の食い違いからの殺し合い、に、見えぬ事もない。
「一先ずは生存者を探してやろうかの、シエナ様はどう――」
――その目はまたもその光景に釘付けになる。
死体がずるずると動き、シエナの前に立っているではないか。勿論それは死体が生き返ったわけではなく、彼女の能力によるものなのだが。
シエナが微笑めばスカートの下から彼女の『お友達』の、狼や鹿がずるずると這い出て現れ、シエナの傍でその死体を眺めている。
「――『お友達』になってくれるの?」
そのシエナの問いかけに、死体は狂ったような声で叫ぶ!
「ぐおおおおおおおおおお! 俺は強い! この強さを示したい! 閉じ込められるのはもうごめんだ! 殺す! みんな殺して俺の強さを見せつけてやるうぅぅ!」
発された言葉を聞き、少女への脅威を感じ取ったへとろは駆け付ける!
「何してるんじゃ! ここは――!」
だが、そのへとろを手を広げてシエナは静止させ、その言葉を聞いたシエナの瞳はまたもきらきらと輝きを放つ。
「それが『お友達』のお願いなの? 任せて! 私が叶えてあげるね!」
スカートの下から次々にアニマルドール達が現れる。小さき物、身長よりも大きな物、ぬいぐるみの物、骨だけの物。
それらは死体である男の頭を掴み、床になぎ倒すとその腕に食らいつく。
既に死体である彼に痛みはないからだろう。
動物たちに蹂躙され、押さえつけられ、それでも「強さを」「俺の力」と狂ったように叫び暴れまわる。
「もっと遊びたいの? それじゃあもっと沢山呼んであげるね! ふふ、ふふふふ!」
その光景に呆気にとられたへとろは、あぁー……と間が抜けた声を発し、その第二の惨劇をどうするか考えた結果。
「その『お友達』と出来る限り遊んでいてくれんかの……出来るだけ、あまり、動き回らずに」
と、言葉だけ置いてその場を立ち去った。
はたして、その言葉をシエナが聞いているのかどうかは分からない。
●
村の中を、へとろは生存者を探して歩く。
次々に死体は見つかるが、生きている人間と出会える事はなかった。
「仏様に手を加えるのはいい気分はせんが……」
生存者がいなければ推測をたてるため、死体を検分する事も必要だ。
今の所、全ての死体が同じような理由で死んでいる者はいたとしても、共通する事実は見つける事が出来ていなかった――いや、ある一つを除いて。
これで何体目の死体だろうか、路地の向こうにまた、一体の死体が目に飛び込んでくる。
「……あれも男じゃな」
この村に在る死体は全て男性だった。外だけではない、家屋にも入って調べたが、残されているのは男の死体だけ。
だが、女性が殺されていない訳ではないのだろう。ここに来るまでに何度か女性の腕のような物も落ちているのを目にしている。
では、ある事情があって女だけ連れ去られているのだろうか? そう、へとろが思った矢先だ。
「しっかりして! 私よ! 分からないの!?」
扉を隔てた向こう側、声がした。女性の声だが、先ほど一緒にいたシエナの物ではない。
警戒し、へとろは男女の声を扉越しに確認する。なおも中の人は部屋の中暴れているようだ。
「錯乱しているのか、狂気に溺れているのか……どうかのぅ!」
――勢い付けて扉をあければすぐにもみ合う二人の姿を視認し、女にのしかかる男に勢い付けた飛び蹴りを喰らわせた!
男は吹っ飛び壁へと強く叩きつけられるが、うめき声一つ――まだ動けるようだ。
「や、やめて! ……あの人、優しい人なの、気弱で、こんな事する人じゃないの!」
へとろに女は縋りつく、だが、へとろの目には部屋に倒れる三人の小さな子供の死体を見た。
「やったのはアレかえ?」
女は違う、と口ごもる。その瞳は揺らめく。へとろには女が庇う心理が見える。
「違うのは”そういう事する人じゃない”の違うじゃな。行為としては間違いないと」
否定の言葉は出てこない。
狂気に身を支配され、狂った男はへとろを見据える。右手に落ちていた斧を拾って。
ならばせめてと、へとろは武舞の構えを取る。
「……苦しまぬよう首を落として楽にしてやるから安心せい」
静止する女の声が響き――やがて辺りに静寂が戻る。
女は、錯乱していたものの、暫く時間が経つと落ち着きを取り戻す。目は虚ろで言葉を紡ぐに時間はかかるが――
へとろが安全な場所に行く為にと女に同行を願えば、女は頷くと黙ってついてきた。
「……ウチがこの村で見つけた生存者は二人だけじゃ、生きて動くという点で見ればの話しじゃが」
一人は先ほど葬った男を指す。だから、と女に向き直るへとろに、びくりと女は肩を震わせた。
「知っている事、話せる事をウチに聞かせてはくれんかえ? こうなった原因、何が起こったのか……同じような悲劇を止めるためじゃ。……こんな悪趣味な悲劇をな」
口ごもる女は震えた声で首を横に振る。
「分からない、突然……皆おかしくなってしまって……」
「分からないとは? 何も見ておらんのか、ずっと部屋で隠れていたのかえ」
「え、えぇ……私は、ずっとベッドで寝てたから……」
「村がこんなになるまでかえ? ……随分と肝が据わっているのじゃな……まあそれが功を成して今まで暴漢に襲われなかったと思えば救いか……」
「肝が……すわ……?」
会話の途中、突然、女がへとろに寄り掛かる。
致命的な怪我を受けたかと思い咄嗟に抱きかかえるが、どうもそうではないらしく、へとろの肩を借りて女は眠っているようだった。
「嘘じゃろ、こんな道の真ん中で寝るなんてどういう神経じゃ!?」
辺りは死体だらけ、死臭も強く常人では居てもたってもいられないだろうに。
「――いや……これがやつらの手口の一つかもしれんの……」
自力で立つ事をやめた人間の体はずしりと重い。
すうすうと寝息をたてる女を道の真ん中で寝かす訳にはいかず、へとろが引きずりながら道の端まで女を連れて一息を入れた所である。
「わあ! 新しいお友達?」
それを見ていたシエナが嬉々として近寄り、またもきらきらとした瞳で女を見つめていた。そして、ロリータ服をひらりとなびかせ、レースがついたスカートからアニマルドールズ達を――
「いかん! ダメじゃ! 生存者じゃぞ!」
ぴしゃり、へとろに静止され、今度はきょとんとシエナが目を丸め、アニマルドールズ達が引っ込んでいく。
「『生存者』はお友達じゃないのかな? さっきのお友達みたいにお腹すいてるかもしれないし、お話聞きいてみないと」
輝きを持つ、悪意なき瞳にへとろは気圧されるが、大きく否定の「だめじゃ」をシエナに突き付ける。
……シエナの向こう、超えて見えた『お友達』はまだ「俺の力!」といってズタズタに嬲られているものと大量の料理を与えれ絶えず喰らう死体の二体。
残念そうに肩を落としたシエナは、まだ居るたくさんの『お友達』候補達に目を配る。
「私、この場所にとても懐かしい気配を感じたの――ここならシエナの『お友達』、きっとたくさんできるね」
――懐かしい気配、その言葉にひっかかりを感じながら、へとろは現時点での唯一の生存者の女性を――ほんの少し、シエナから遠ざけた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
夷洞・みさき
現世の人が己の意思で自滅するなら、僕としてはどうでもいい話だけど。
オブリビオンが絡んでいるならそれは見逃せないか。
あぁ、煽動、洗脳、色々言い方はあるだろうけど、故郷を思い出して嫌な気分になるね。僕等は逆恨みだったけど。
【SPD】
救助を主として行動。
現世の人は善悪功罪問わず決して殺そうとしない。
【UC】による同胞達協力のもと、生存者を探す
怪我、欠損には【医療】と【所持する薬剤】を用いて治療
呪詛には【八寸釘】による【呪詛耐性】の付与
暴徒は【恐怖を与え】【踏みつけ】【ロープワーク】で拘束
僕達の様になる人が産まれる前に助けてあげないとね。
生存者に前後の状況、または村にある不似合いな何かを探す。
アド観
フェルメア・ルインズ
◎アドリブ連携歓迎
村人が急に凶暴化して殺し合い、か
精神に作用する魔術の影響……闇魔術? いや、呪術か?
なんにしろ面倒、かつ胸糞悪いやり方だな
村人が殺されて憤るとか、オレらしくもないが……まぁ元凶はぶっ飛ばしてやるよ
■行動
とりあえずは生存者を探しながら、建物や死体に何か痕跡や
魔力が残ってないか調査していく
あとは村人全員が一瞬で完全に狂ったわけじゃないだろうし
何か書き残したりしている可能性もあるかもしれない
生存者がいれば話を聞いてみたいが、襲ってきたらどうするかな
【UC】で、無理やり気力や活力を削って激情を抑えてやれば
少しは落ち着いて話が出来るようになるか?
後は元凶を倒して元に戻ればいいんだが……
十文字・武
<アドリブ連携ok>
【WIZ】
内乱で滅ぶ村かよ。
んなもんは幾つもあるが、確かにこいつは外道の法臭ぇわな。
まずは現地で情報を集めるか。
道端に痛ましい死体が並ぶ地獄なら、腐った腐肉を狙う烏や野犬や鼠もいるだろう。
【動物と話す・情報収集】で村に事前に異変は無かったか、見知らぬモノ、得体の知れぬモノが無かったかを聞いてみるか。
事前に聞いた話じゃ、村人達は己の欲のままに理性を放り出したって感じだが。
先輩猟兵達から聞いた話の中に、そんな伝承を持つ魔物が居なかったか?【世界知識】
まぁナニで在ろうと斬る以外に道はねぇが……。
……あぁ、くそっ。
悪喰魔狼の食欲につられるな。
この哀れな死体達は獲物じゃねぇ……。
夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)はその大きな目を細め、村を一瞥する。
そよりと吹く軟風が、死臭を彼の鼻先に運び、眉をしかめる。
現世の人が己の意志で自滅するならば、それはみさきにとってはどうでもいい話だ。
だが、今回の事件はオブリビオンが絡んでいる。――なれば、この現状をこのまま見過ごす訳にはいかない。
さくり、さくりと土を踏み、生存者を探し歩く。
……目で見る限り、この村にまだ人が生き残っているとは到底思えやしないが……
(人の気配に危険を感じて身を潜めている可能性はある。流石にすぐに人を信用できないだろうね。こんな死に方している村人ばかりでは……)
現に、他の猟兵達は何人かの生存者を発見したのだという話を耳にしている。中々真相に近づく話にはこぎつけていないが、大方の予想は立ってきたという所だろうか。
みさきは彼らがまだ足を踏み入れていないであろう場所へと足を運ぶ。
次々に目に飛び込んでくるのはお互いで殺し合い絶命した村人達、死体の傍には血に染まる武器も落ちている。
情景にまた、眉をしかめる。
(あぁ、煽動、洗脳、色々言い方はあるだろうけど、故郷を思い出して嫌な気分になるね。――僕等は逆恨みだったけど)
失われた都の情景は、目を閉じれば瞼の裏にまだ残る。死臭が胸をざわつかせて。
「んぁ? なんだお前もこっちに来たのか」
声に、みさきは瞼を開く。
みさきとは対象色の長髪の髪の毛を二つに束ねた見た目は少女。フェルメア・ルインズ(拘束されし魔神・f21904)は小さな一軒家のドアの前、積もる瓦礫の上に座っていた。
「……遊んでいるのかい?」
「あそっ……おいおい馬鹿言うなよ、ついさっき休憩に一息いれた所だって。探しても探しても死体死体死体死体死体……今の所妙な死に方で死んでる奴らばっかりだ、胸糞悪い」
フェルメアが言い捨てると瓦礫を飛び降り、みさきの傍へと歩み寄る、その目線は”あんたはどうなんだ?”と探索の結果を求めていた。
首を横に振った所でお互いの収穫はない事を悟ると、出るのは大きなため息だ。
こうしていても目に入る。犠牲になっている村人たちは大人だけではない。
「この状況で生存者がいるなら一刻も早く救助しないといけない、人手を増やそうか」
「俺らだけじゃ力不足だって?」
「手は多い方がいいだろう」
「――まぁ、そりゃ間違いない」
フェルメアがそう零し、みさきは自身の探索の助けとなる零体を召喚すべく言葉を紡いでいく。
「――澱んだ海の底より来たれ。身を裂け、魅よ咲け。我ら七人の聲を、呪いを、恨みを、羨望を示そう。忘却した者達に懇願の祈りを込めて」
――ゆらり。
微かに空気が揺れ、湯気のように景色を揺らしたかと思えば、それは目に見える程の姿となりこの世へと根源する。
彼らは、虐殺され海に捨てられた同胞、六人の咎人殺しの霊。
「へえ――便利だな、一気に八人。力は百人力ってやつか?」
「彼らには僕等の目が届かぬ所も捜索してもらう。生存者もずっと同じ場所に留まっている訳ではないだろうし。僕等が立ち去った後でこの場所にやってくる可能性だってある、生きてる人間の気配には警戒されてしまうかもしれないからね」
霊はみさきの意志を確認するように瞳を見た後、それぞれがふわりと姿を消し、散り散りにゆらぎながら飛んでいく。
一体は瓦礫の奥にある扉へ、一体は高い所から視野を大きく持って。
それぞれの役割を持って動き出す。
「これで早い所情報が集まるといいんだがな――と」
フェルメアがその霊を視線で追いながら歩みを進めると、足元にかつり、と何かがあたった感覚がした。
拾い上げればそれは村人の命を奪った包丁。固まった血は色をかえ、持ち手の部分まで汚されている。
血の部分を指でなぞる、武器が引き金になった可能性も考えたのだが、今の所そういった呪詛がかけられたものは見つかってはいない。
この凶器にもそういった類の物は仕掛けられてなさそうだ。
「――村人が急に狂暴化して殺し合い、か。精神に作用する魔術の影響……闇魔術……いや、呪術か?」
考えられる原因を口にする。
魔術や呪術……その類なのならば、依り代となった物、村にあるには不釣り合いな物が残されている可能性がある。
フェルメアが放棄されている死体を調べていった結果、死体からは何らかの魔力が残されていた。
――手口はこっちの線で考えて間違いなさそうだ。
「村人全員が一瞬で完全に狂ったわけじゃないだろうし、何か書き残したりしてる可能性もある……手をつける所は山ほどあるな」
「……八人では足りそうにないかい?」
「いや、それだけいれば十分――と、思いたいね、オレは」
フェルメアがそう返すと、ぴたりと、みさきは足を留めた。
「どうしたみさき? ……何か見つけたのか? 人か? 物か? それともヤツか?」
「人、だね……多分正常な、どうやらもう見つけてくれたみたいだ」
みさきの急ぐ足取りに追いつくように、フェルメアの速度もそれに倣って後に続く。
導かれるように二人は立ち並ぶ一つの家に入る。
顔を付き合わせたのは一人の小さな少女。
後ろに結んだ金色の髪の毛は乱れ、瞳は虚ろに揺れている。
――相手は少女とはいえ、二人は身構える。見据える。
その一挙一挙に注意を払う必要があった。少女とはいえ油断してかかるのも良くはない。
フェルメアは心殺しの矢雨を発動させ、呼吸を整える。もしも少女が飛び掛かってくるのであればその瞬間、放ち無力化を図る為なのだが。
「……それは当てても大丈夫なやつかな」
「大丈夫大丈夫! そんな物騒なもんじゃねえよ! こいつ”心殺しの矢雨(ダークネス・アローレイン)”が穿つのは精神だけだ。肉体に傷はつかない。お前は……何だ?その紐は」
「……少女であれ暴徒だった場合、拘束はしておかねば何をするか分からないだろう。自害する可能性も含め、相互の安全の為になる。……僕は現世の人は善悪功罪問わず決して殺すつもりはないからね」
――僕達の様になる人が産まれる前に助けてあげないと――。
そういって少女の方に目線を向ける。
年頃の子供ならこんな会話を目の前でされては怯えて逃げ出してもおかしくはない。反応がない、少女はぴくりとも動かない。
ただ、視線を虚空に彷徨わせ続けているだけだ。その手には何も力は残されていない。
「……君はこの村の人だね、話せるかな」
落ち着いた声で尋ねるみさきに、少しの間を置いて少女は小さく頷いた。頭を頷いた瞬間があまりに力なく、そのまま倒れてしまうのではないかとも思う。
その様子を見たフェルミアは、鎖をじゃらりと鳴らし膝を折ると少女の目の高さに合わせ、その瞳の奥を伺う。
食い入るようにその赤の瞳が近づいても、少女はその圧にはびくとも動かない。
「呪詛、魔力の類はかけられてないな……今まで死体には魔力の形跡が残されていたが…お前は大丈夫そうだ。なぁ、今までどこに居た」
このような小さな少女にこの惨劇の事を話せなど、酷な事なのかもしれない。
少女は押し黙る。何かを話し出す事を戸惑っている。
「……怪我してる。腕、見せて……怪我をしているのだろう」
何も答えない少女の腕をみさきが左手で持ち上げ袖をまくれば、ぱっくりと避けた皮膚から今もじんわりと赤い血がにじんでいる。
手早く傷口を薬剤を用いて治療をする。その手つきは非常に慣れていた。
「深く、何かで切ってる――どうかな、まだ痛むかい?」
「思ったより深い傷じゃねえみたいだな。刃物が原因じゃなさそうだ」
「外傷を見るに、おそらく木か何かで引っ掛けたのだろうね……そっちの腕も、見せてくれるかな」
言って、治療を終えた右腕を離し、左手のひらを掴むんで袖をまくる。
だが、彼女に傷口はない、服の袖に付着する血は、彼女の血ではない。
「……お姉ちゃんを助けて……おかしくされて、殺されて、連れていかれちゃった……お人形さんに……」
――小さく少女はそう、口を開いた。
●
「っだぁぁあ――!!」
けたたましい声が村中を響き、フェルミアが先ほどまで座っていた瓦礫の山が崩れていく。
内側から押し開けられたドア。汗を額ににじませた十文字・武(カラバ侯爵領第一騎士【悪喰魔狼】・f23333)は腕でその汗をぬぐった。
「くそ……ドアが開かねえと思ったら何だこの瓦礫は……嫌がらせか?」
ぶつぶつと不満を漏らし、武は辺り一体をぐるりと見回す。
運悪く他の猟兵が探索をするために邪魔な物や瓦礫を取っ払った所、それが扉の前に積み重なってしまったらしく、部屋の中にいた彼は外に出れないという被害を受けてしまっていたらしい。
このまま戦いが終わるまで出てこれないのでは? 何て、一時はどうなるかと思ったのだが――意外と、彼の人生とは何とかなってしまうものである。
そんな武の後をテンテンとついてきていた鼠は、外から入った光に目を細め、それを避けるようにまた部屋の奥へと引っ込んでいった。
小さな彼は、武に助言をしてくれたありがたき事件の目撃者だ。
姿の見えなくなった彼に武は小さく会釈するとドアを閉めてその場を去る。
「はぁ……”鼠”の話によると、どうやら皆一斉におかしくなっちまった訳じゃなさそうなんだよな……徐々に広がるような感じだったという、か……」
武は死体達が転がる道の往来へと歩を進めていく。
辺りは不気味すぎるほどに静かで、腐敗の匂いが充満していた。
……本来のこの村はどんな村だったのだろうか?
この大通りは人が絶えず歩いているような場所だったのだろうか?
――一般市民が束になった所でヴァンパイアになど勝てる訳がない。
それでも剣を振るい、恐怖と、圧政に戦う決意をした村人達の事を思うと胸が締め付けられるような痛みが走り、武は奥歯をかみしめる。
バサリ――と、黒の翼が考え込むように俯いて歩いていた武の視界を横切った。
「……いたいた」
武は死体に群がる烏達に足を向ける。
死体をつつきにやってきた烏は二羽、三羽と数を増やし、一体の死骸を啄んでいた。
腐肉を喰らう彼らにとってはこの村はご馳走の山だろうか。
武が近づけばバサバサと飛び立ち、距離を保とうと羽を大きく広げ回る。
「――お前らの食事を奪いにきたわけじゃねえよ」
そう、武が言葉を発すると、まるでその人の言葉を理解したかのように烏は逃げるのを止め、武の元へ、いや、死体へと戻ってくる。
武にとって烏は大事な情報源だ。
「……そうだ、食いながらでいい、お前らの知ってる事を少し俺にも教えてくれないか、見知らぬモノを見たとか、得体のしれぬモノがあった! とか。そういうの見つけるの得意だろ、お前らってさ」
家屋に潜んだ鼠では情報が限られていた。だが、空を飛び回り、上空から村の様子を見下ろす事が出来た烏達なら有益な情報を握っていてもおかしくない。
「カァ」
「だから体よくお前らを追い払うために言ってるんじゃねえって、食わねえから、死体とか取らねえよ」
「カァ」
「よーしよし、分かってくれたならいいんだ、話を聞いたらとっとと失せるって――」
――しかし、なんか、腹が減らないか?
「……ッ!」
武は目を見開く。まずい、と、烏から、死肉から距離を取る。
悪喰魔狼の食欲につられている――その死肉を欲している。
――駄目だ、つられるな。
腹がなる。
――つられるな。この哀れな死体達は獲物じゃねぇ。
見れば今にも飛びついてしまいそうな衝動を堪える。気が付けば喉がカラカラだ。
――少しくらいなら食べても誰も怒らないんじゃないか?
「くそっ……!」
地面に伏せ、視界をなくし、拳で地面を叩く。
脈打ちが早くなる、なんで――こんなにうまそうに――
「……何してるんだい?」
冷たい声に武は勢いよくバッと後ろを振り向く! そこにはフェルメアとみさき、そして小さな少女が三人並んで佇んでいた。
急激に抑えきれぬ程の食欲が引いていき、武の視界が定まってくる。
「い……いーやいや! これは遊んでる訳じゃないっすよ! これは俺流の! 立派な! 情報収集なんで!」
「ほう、見ているこっちからは、そう見えなかったがな」
まぁ、冗談だが、その言葉が付け足されるまで、武の滝のような汗はとまらなかった。少し間をおいてくるあたり人が悪い。
「一瞬冷ややかな視線に冷や汗でたんすけど……フェルメアさんの冗談、質が悪いから勘弁して欲しいっす」
武がそう言ってうなだれると二人共小さく笑ってくれた。その笑みが苦笑しているのか、和やかになってくれたのかは武本人には分からないのだが。
しかし、助かった。と、安堵する。
精神は安定し、取り乱す程ではなくなっている。
「それで、何か情報は入ったかい? 良ければお互い情報は共有しておいたほうがいいと思うんだけど」
「あれっ! 生存者も居たんすね! それは良かった良かった!」
武が笑顔を向けるも少女の瞳は虚空を見つめ続け、小さく唇は動いていても、それは言葉にはならない声であり、他の何か意味をなす言葉を彼女はずっと発してはいない。
「カァ――」
少女の姿を見た烏が一度、大きく鳴く。
武がその異質な鳴き声に振り替えり、その内容を理解しようと神経を集中させた。
「……ソイツ、何か、言ってんのか?」
念入りに烏の声を聞く武にフェルミアは声をかける。
随分と長い間、烏が喋っていた。
「――どうやら、この烏達、原因になったオブリビオン達を見たらしいっす」
そうして、三人は今まで集めた情報を一つにまとめあげていく。
●
その二つの影は突然と村にやってきた。
その時、その影は何を喋っていたかは分からなかった、何も喋ってはいなかったのかもしれない。
――彼らが来た途端に次々と村人達はおかしくなった。
武器を持ち、殺し合う者が多かったが、理解不能な奇行に走る者もいた。
己の欲に忠実に、爆発させるように。
影が足を進めれば、おかしくなる人々は更に増え、異変に気付いて逃げようとした人間もいたが、影が村を闊歩すればやがて村全てが狂気に染まり人の命は消えていく。
そして自滅の一途をたどった村に、村人達に、影は、確かにそう言った。
『これは約束されているから持っていかないと』
死体は選別され、女性の死体だった者達は自力で起き上がると影の後を追うように村から姿を消したらしい。
そして少女は、影を『お人形』だと言った。
「……そこの子はそのオブリビオンの呪詛の伝染が始まる前に村から逃げれたみたいっすね」
口を閉ざす少女の目にまだ光はない。
三人はここで伝えた以上の惨状を、惨さを知っている。
残された手記や遺体がそれを物語っていた。
――流石に、その内容は少女の前でそれを易々と口にできる程ではなく。
示し合わせた情報をもとに、武は一つ、その存在に思い当たる節があった。
自分が経験した訳ではない、出会った訳ではない。誰かの話で、それを聞いた事がある。
(……最近、そう、確か最近だ。オレ、先輩猟兵から聞いた事あっただろ……確か、こんな伝承を持つ魔物が――人形の……)
脳内に響いた少女の声と共に、その姿が鮮明に脳裏に映ったその時だった。
「カァ」
――また、烏が鳴く。
更に情報を持って帰ってきた六人の霊が集まりみさきに耳打ちをする――
フェルメアは肌にぴりりと威圧を感じた。
「……折角こっちが推理してたっていうのに、あっちから来てくれたみたいだな」
武が口火を切ると、二人は頷いた。
「ほう、元凶さんのお出ましか、そいつを倒して何人かの狂った奴は元に戻ればいいんだが……」
「戻るさ――そうでなければ救われないからね」
俯いていた少女は顔をあげ、瞳に闘志を宿した三人の顔をぼんやりと見ていた。
大成功
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第2章 集団戦
『ダペルトゥット・ドール』
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POW : 感情暴走の呪詛
【対象の強い感情や欲求が増幅され続ける呪詛】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : お返しの呪詛
完全な脱力状態でユーベルコードを受けると、それを無効化して【普段は存在が隠蔽されている巨大な繰り手】から排出する。失敗すると被害は2倍。
WIZ : 人形化の呪詛
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【運搬及び自衛用の人形】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
イラスト:霧島一樹
👑11
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猟兵達の前に霧から現れた二つの影――この街を死に追いやった元凶が姿を現した。
正装に身を包んだ男と女の表情はない。まるでこの世に一つも恐れがないように、ゆったりとした動きで土を踏みしめ歩いている。
二人の露出する肌から見えるのは球体関節――彼等は、人形だった。
死体の山に目にもくれず、街の中心部であろう場所まで歩みを進めると、どちらかが声をかけるわけでもなく、ぴたりと同時に立ち止まる。
猟兵達、彼らの傍らにいる生存者たちをを一瞥した後、その声は重なる。
「増えてるわね」
「増えてるようだ」
声質の違う二つの声。
何を目にしても、声を出しても、その表情は一つも変わらず無機質なままだ。人形たちは指を指す。それは猟兵達が保護した生存者の居場所を指した。
「それではコレも、もう持って帰りましょうか」
女性の姿をしたダペルトゥット・ドールが言う。
「そうだね、そういう約束だったから」
男性の姿をしたダペルトゥット・ドールが言う。
そして、顔を見合わせた。
「――だけど」
声が重なる。二人は辺り一面に散らばる死体に目を配った。
瞬間――生暖かい風が辺り一面に広がり、辺りの空気が苦しく重い物へと変質していく。
それらは猟兵達の身体に異変を起こさんとまとわりついて。
「――きっと君達は邪魔をする。だからその前に大人しくさせないとね」
感情のない瞳で猟兵達を捉えるダペルトゥット・ドール。
その刹那。まるで彼等を囲い守るように、村人の死体が立ち上がり、動き出し、猟兵達を威嚇するように睨みつけている。
「ほら、どうせ死ぬのだから好きに生きて。もっと求めて。……この世に未練なんてなくなるくらい。手伝ってあげる、最後くらい」
「好きにしたらいいさ、もっと、もっと、欲のままに生きて生きて生きて生きて生きてそして死んでいけばいい、手伝ってあげる、最後くらい」
安らかに眠るように死んでいた男も、右腕がない男も、烏に啄まれていた男も、皆皆が立ち上がり、けたたましい咆哮をあげて落ちていた武器を拾う。
その動きはぎこちない、空洞の目が敵意を持って猟兵を睨みつける!
「ほら、己が欲のままに生きればいいよ、あの人のように」
――気付けば猟兵達は多くの死体達に囲まれていた。
死体である彼等、そしてダペルトゥット・ドールを倒すしか猟兵達には道がないようだ。
痛みを失った彼等の守りは堅く、そこを突破したとして下手に近づけばダペルトゥット・ドールの精神を揺さぶる呪詛によって意と反した暴走をしてしまう恐れもある。
考える時間を与えず死体達は地を蹴った! 捨て身で猟兵達を襲い、術者の二人を守るように立ちはだかる――!
アリウム・ウォーグレイヴ
アドリブ歓迎
胸の中に黒いシミが広がるのを感じます。
村人に対する惨い所業と、その哀れな犠牲者をこれから自らの手で傷つけなければいけない現状。
凍らせるだけでは痛覚のない死者相手には威力不足かもしれません。
ホワイトナイツ。私と白銀の騎士達の『ランスチャージ』にて敵本体への一転突破を狙います。
人道に反すると説くのは無意味だと分かっています。それでもこの仕打ちは……。
敵の呪詛攻撃で思考がマヒしていく気がします。『呪詛耐性』がどこまで通用するか。
私の今の感情は怒りと悲しみ。そして俺の欲求はこの濁った感情を開放すること。
目の前の人形共を破壊してやる。二度も犠牲となった村人の報いをこの手で。絶対に。必ず。
十文字・武
あの人、あの人……。
誰ぞの人形が、更に人を欲で操るってか?
アイツに唆されるオレを見ているようで、どうにも忌々しい奴らだよ、くそが。
操り糸染みた呪詛が彼らを繋げているなら、そこにお前らの意思がのるならば、つまりはそこにお前らがいるって事だぜ?
UC【カラバ二刀流・弐の太刀】
魂へと伝えるモノ【霊力】を、侵食する【チカラ】妖力に乗せ、黄泉返った村人達へと斬撃する事で、呪詛を辿り直接【操るもの】へとオレの怒りをくれてやる。
……何時まで人形遊びを続けられるだろうな?
さぁ、オ前らノ魂も……【Error:呪詛の侵食過多により、怒りが悪喰へと変換。捕食対象を敵対者、操るモノへと固定】……ク ワ セ ロッ!
――ダペルトゥット・ドールは指先一つも動かさなかった。
その姿は、自らの前に立ちふさがり、防衛として存在する死体達に全てを委ねているようにも見える。
アリウム・ウォーグレイヴ(蒼氷の魔法騎士・f01429)は憂いに顔を曇らせる。
胸の中、黒いシミが広がるのを感じて手のひらを胸に置く。
目線は蠢く死体達を一人一人を捉えていた。これから、自らの手で傷つけなければならない悲しい存在に。
「惨い仕打ちで村人を殺し、加之死体すらも利用する。その人道に反する行為……その悪行を許す訳にはいかない」
「……全くもって同感だ」
アリウムの言葉に言い捨てるように呟く。十文字・武(カラバ侯爵領第一騎士【悪喰魔狼】・f23333)はおもむろに妖刀を抜いた。握りしめた柄にはカラバ侯爵紋と長靴の刻印が施されている。突き付けた刃は鈍く光った。
「あの人、あの人……誰ぞの人形が、更に人を欲で操るってか? アイツに唆されるオレを見ているようで――」
――死体達はその先の台詞を待たず、武器を振るい襲い掛かる!
地を蹴る足取りはおぼつかなく、上に武器を振りかぶり走りくる様は隙だらけだ。彼等はドールにとってただの操る肉壁でしかないのだろう。
「ぅ゛がぁぁぁあぁ!」
声にならないうめき声を発しながら振りかぶられた斧を、武は妖刀で受け流し、死体を蹴り上げる! その身体は宙を飛び、受け身も取らずに地に伏せ倒れた。
「――どうにも忌々しい奴らだよ、くそが」
ドールの二人は戦闘が始まってもぴたりと姿勢を正し、指一つ動かさなかった。
表情も変えず、戦乱と成り始めた往来を感情なき瞳で眺めているだけで。
●
「これは――どうだろうか」
襲い来る死体をアリウムは広範囲で凍らせて動きを留めれば押さえつけられないかと攻撃を試みる――が。
痛覚のない彼等は氷着けにされた身体を乱暴に扱い抵抗し、効いている様子はなかった。
ある物は足をねじり落とし、皮膚を剥がしているが痛みにより行動が制限される事がない。
「……凍らせても無力化できないみたいだね。痛覚のない相手では威力不足か――」
ならば、とアリウムはダペルトゥット・ドールに狙いを定め、言葉を紡ぐ。
狙うは本体――それが一番この戦いを終わらせる近道だと。
「――参集し、我が一族のため剣を振るった忠実なる騎士達よ。死して尚、我が一族に仕える事を願わん」
詠唱が終わった直後、反動がアリウムの身体を襲い、一瞬の眩暈に立ちくらみ眉を顰める。
代償として引き抜かれた強大な魔力により、白銀の騎士達が大いなる戦力としてアリウムの前に大量に表れた――!
「おぉっ! それすごいっすけど……身体大丈夫っすか? ……ふらついてたように見えたっすよ」
心配そうに顔色をうかがう武に、アリウムはふるりと首を振る。
「――心配しなくて大丈夫だよ。終わらせれば問題ないのだから」
魔力を引き抜かれた反動でふらつく身体はどうにもフワフワと視界を揺らしている。
まだ自分はここで倒れる訳にはいかない。ふらついている場合ではない。
アリウムは相手を見据え武器を構える。溢れるような感情は、怒りと、悲しみ。
―-それだけか?
「……っ!」
突如、抑えきれなくなる感情がアリウムの中で沸き上がる。
視界が黒くフェードアウトする感覚に、瞬きをしてなんとか意識を保とうと足を踏みしめ、唇を噛む。
黒く、赤く、それは――抑えきれぬ感情。
(コレは……まずい――)
額から汗が流れて頬を伝う。
――解放してしまえば楽になる。
(その感情は抑えなければならない――!)
頭によぎった邪念をかきけすように、その思考を否定し押さえつける。
彼が召喚したホワイトナイツ達は強大な力を手に宿してアリウムの指示を待っている。
●
「ど、どうしたんだ……アリウムさん、やっぱり調子が悪いんじゃ……」
現状を見て、武は代償の大きさにアリウムを苦しめているのだと思っていたのだが――自身の心の奥、焼け付く感覚に違和を覚え。
そして瞬間、理解し、舌打ちをした。
「……こいつ、まさか呪詛か……こんな範囲まで影響あるのかよ、アイツの呪詛ってやつは――!」
ダペルトゥット・ドールはまだ動かない。ただ身体を、心蝕む呪詛はそこに居るだけで広がっていく。
感情の制限、リミッターを外し、増幅させて。
奴らに近づけば呪詛が強大になり、その身を亡ぼす程の欲求に襲われ破滅に向かう――ならば距離をとれば。
襲いくる死体達に向けて、武は走り出した!
「操り糸染みた呪詛が彼らを繋げているなら、そこにお前らの意思がのるならば、つまりはそこにお前らがいるって事だぜ?」
言って、武はしたりと笑う。
死体達の攻撃力、回避能力は元々の村人の物だ、大したことはない。
奴らはこれを使って時間を稼いでいるのか、疲弊を誘っているのかは分からない。だが、これで攻撃を防いでるとは思うな――
「カラバ二刀流・弐ノ太刀……【御霊貫き】!」
武の手に退魔刀と妖刀、二本の刀が構えられた。――刹那!
「っはぁぁああ!」
二刀流が作り出す技――霊力の魂に直接伝える力と、妖力の侵食性が籠められた一撃は黄泉返った村人達に容赦ない斬撃を喰らわせる!
だが、その斬撃で死体は引き裂かれない。その場で倒れただけだ。
結果は、武の思惑通りだ――。
斬撃から呪詛を辿り、その威力は彼らを操っていた者。ダペルトゥット・ドールにまで届く!
ピシリと一筋、亀裂が陶器のような足に入るが、彼等にまだ焦っている様子はない。ただ、瞳を薄め、煩わしそうに猟兵達を一瞥するのみだ。
その斬撃に手ごたえを感じた武は嘲笑を浮かべる。
「……何時まで人形遊びを続けられるんだろうな?」
武は次の標的に狙いを定めると、死体達に刃を振う。
周りにいる死体達、全てを叩き伏せた時にはたしてダペルトゥット・ドールはその場に立っていられるのだろうか。」
その光景を良く思っていないドールの視線が武に注がれている! その隙をアリウムは突くようにランスチャージにて敵本体への一転突破を狙いを定める!
(薄暗さに俺は――私は、飲み込まれている場合ではないのだが――!)
胸の中、怒りと悲しみが満ち溢れる。それを抑え込むように胸を深く手で押さえつける!
「人形共よそ見をするな……! これを耐える事など、お前は! 出来はしない!! 己を亡ぼす者の顔をよく見ておけ――!」
意図せず声が荒くなる。
胸を押さえつける手が更に強くなる。服の上から臓器を取り出すのではないかという程に左手には力がこもり、声も荒々しく、吐く息も強く肩で息をしていた。
武はアリウムの様子を注視する。やはりおかしい、普段の彼では考えられぬ程の怒号をあげている。
呪詛は強くなっている。彼は大丈夫なんだろうか、――しかし、人の心配をし続ける余裕はなく、まずは目前の敵に集中しなければなるまい。
「くそっ……!」
手に持つ二つの刀で迫る死体人形達目掛けて振るう。それは本体への攻撃に繋がり着実なダメージを与え続けている。そうすれば相手も疲弊し、壊れていくだろうと――
そのはずだった。
武がダペルトゥット・ドールに間合いを詰める程に、脈が早く打たれていく。
(何だこの感情――あいつが、叫んでる?)
ふと、よぎる考えをもみ消した。今は余計な事を考えるべきではない。
ただただ目の前の敵を倒すだけ――そして、どうするんだ?
突如現れた疑念が頭の中を駆け巡る。
欲が、頭の中を埋め尽くして。
……もっと距離を取った方が得策ではないか? そんな理性が働いた瞬間だ。
視界が流転する。それはさっきまで武――オレで間違いなかったのに。
その目はダペルトゥット・ドールを捉えて、そして離さない。込み上げていた怒りが悪喰へと変換されていく。
ダメだ。――最後の理性の言葉は口には出なかった。変わりにでた言葉は――
「……ク ワ セ ロッ!」
●
――相変わらず、ダペルトゥット・ドールの表情は一つとして変わらない。
抑えきれぬ、爆発した怒りが向けられ、その悪喰の対象となってしてもなお。
表情は変わらない。だが、――嬉しそうな声色を響かせる。
「本性を見せなさい」
「本能を見せなさい」
――それが、貴方の本当に在るべき姿。否定しないであげて。
鈴を転がすような声、響く嗤い声。
耳に響き煩く反響するソレは感情を強く逆なでる
憎悪の感情にアリウムの頭の中を支配されつつあった。強い呪詛は理性をゆっくりと溶かすように消していき、残ったのは濁った感情だけだ。
「……俺が、人形共を破壊してやる」
留めていた言葉が零れる、留めなければいけなかった感情が零れる。
だがもう――止める手段はなく
「二度も犠牲となった村人の報いをこの手で――!」
白銀の騎士がその言葉に同調するように叫んだ。
広がる声は地響きとなり、死体達を圧倒していく!
人形に向けられる強い殺意。止められない衝動。だが、それが放たれた解放感がアリウムの気持ちを今は高揚とさせていた。
死体の群れをランスチャージの一振りで一掃させ、間合いを詰めて忌々しい人形を破壊せんと氷華を構える。濁る感情がその振りに勢いをつけるがその一閃は乱れ掠める!
●
人形達が指を動かし、死体の群れの動きを操る。
――途端、彼等の、死体達の動きが変わった。
アリウムはもう一度氷華を敵に向けて構え直す。どこで傷つけてしまっていたのだろう、また片眼鏡にヒビが入ってしまっていた。
(このまま押し切っていけば切られるかもしれない――いや、だが、構う物か。憎しみの連鎖をおこす根源さえ断てば良い)
アリウムは理性を捨て、止める事無く間合いを詰めた。
腹に剣が掠めて切れた場所から血がにじむ。だが――痛くはない。
死体の群れを掻い潜ってきた事はつまらなかったのか、ダペルトゥット・ドールは冷ややかな目線でアリウムをみた。そして攻撃をしかけようと腕を振るい動作を行う――が
――武が横から飛んできた。
跳躍で人形の一体を掴み押さえつけ、もう一体が押しとばされる。
武の身体は死体達に切り付けられたのであろうか、腕の傷が生々しく血を流していた。呪詛の力が強い。彼をどんどん悪喰が塗り替えていく!
「――貴方達の欲は自身を強くさせるのね、それで良かったじゃない」
ドールは、吹き飛ばされた片割れの方に目を向ける。
アリウムの手にかけられた片割れはまだ動いてはいたが、
まともにランスを身体で受け止めてしまい、何かがはがれるようなパキリパキリという音を声の代わりに鳴らしている。
しかしこんなものでは、この程度では、彼の憎悪は止まる事はない。
「欲望のままに生きる事も楽しいわよ。そのまま身を亡ぼすまで楽しんでみなさいな――まだまだ、遊び相手は沢山いるわ。ほら、死体達と死ぬまで踊りましょう」
武に押さえつけられた女のドールはくすりと笑う。
おちょくられているのだろうか? だが、武にとっては――悪喰魔狼にとってはそんな事はどうだっていい。
ただ、目の前の獲物を喰らいつくすまでだ。
訪れた甘美なる食事の時間。ヒト為らざるモノへと堕ちゆく感覚。目の前の景色が揺らぐ。
ただ、掠れゆく理性を手放し、本能のままに。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
フェルメア・ルインズ
◎アドリブ連携歓迎
欲を持つ事は否定しないが
他人に増幅、強制される欲なんて糞くらえだな
約束だかなんだか知らんが、させるわけないだろ?
■戦闘
こいつらは既に死んでるんだ、遠慮なく倒させてもらう
むしろ今ここで火葬してやるさ
【UC】で腕を象った炎を放ち、一つに纏めて巨大な炎腕にする
そのまま炎腕で立ち塞がる死体を【なぎ払い】地獄の炎で消し炭にしていく
攻撃は手枷による【武器受け】で防ぎ【怪力】で捻じ伏せる
本体も炎腕で燃やすか、近づいて粉砕してやるよ
呪詛については問題ない
オレも良く使うが、闇属性の魔術には精神に干渉するものや呪いも多くてな
応用でそういう攻撃へ対抗する為の術式も勿論あるのさ【呪詛耐性・狂気耐性】
シエナ・リーレイ
■アドリブ絡み可
懐かしい筈だよね!とシエナは納得します。
シエナが感じていた懐かしい気配の正体、それはシエナよりも先にダペルトゥットに作成された兄姉でした
かくれんぼの始まりだね!とシエナは元気よく駆けだします。
同じダペルトゥットドールであるが故に目の前の男女が仮初の体である事に気が付いたシエナは『お友達』と共に[失せ物探し]の要領で隠れた兄姉の器物の人形を探し始めます
器物が見つかればシエナは際限なく増幅された兄姉への「親愛」と「好意」に身を任せ[怪力]で兄姉の器物を抱き上げながら語り合いを始めます
そして、兄姉の器物の破損に気が付くと兄姉を修理をする為に新しい『お友達』を引き連れ家へと帰るのでした
夷洞・みさき
どうも他の人達も危なく見えるのだけど…、大丈夫かな。
村の犠牲者みたく僕もそうなると困るし、一応対策はしておくかな。
反した呪詛が人形に意味があるのかわからないけれどね。
釘を自身に刺し【呪詛耐性】を強化。
【WIZ】
死人であるがゆえに多少手荒に扱う。
【UC】により死人を飲み込み、自身の邪魔にならないような位置に押し流して集める。
その隙間から、自身を強化、さらに【水泳】を用いて人形に接近。
彼等は既に死に、現世の咎を禊終えた、ならばあとは安らかに旅立つだけ。
彼等を貶めた君達は僕の業のまま禊潰そう。
この領海に沈めば骸の海に還れるから安心するといいよ。
あ、生者の人は冷たさで頭が冷えてくれると良いのだけど。
ふらりふらりと死体達は起き上がる。操られているのは死体達だけではなく、猟兵達が保護した者達も含まれている。
彼等が出す呪術は意識を失った者も意のままに操られてしまうようだ。
――戦場を渦巻く呪詛の効力を物ともせず、フェルメア・ルインズ(拘束されし魔神・f21904)は吐き捨てた。
「欲を持つ事は否定しないが、他人に増幅、強制される欲なんて糞くらえだな。約束だかなんだか知らんが、させるわけないだろ?」
フェルメアが使う闇属性の魔術には精神に干渉するものや呪いも多く、その応用でこういった攻撃へ対抗する為の術式も体得している。
どれだけ強い呪術で踏み込んでこようと精神は揺らがない、絶対的な自信を持ち、敵を見据えるその瞳の中に業火を灯している。
その隣では冷静に夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)は辺りの状況を確認していた。
静かに首を左右に振れば、青の三つ編みがふわりと揺れて。
「どうも他の人達も危なく見えるのだけど…、大丈夫かな」
そう零して、少し考える動作を取る。
彼等の放つ呪詛は強く、不用意に近づけばみさき自身にも影響を及ぼすかもしれない。
村の犠牲者のように自我を失う程に引き出された欲に飲み込まれてしまえば、この場の収集もつかなくなるだろう。
みさきは――おもむろに取り出した釘を躊躇なく自身に刺した。
鈍色を放ったそれは血に塗れても美しく在る。
「! うわ、いってぇ……!」
その様子を見ていたフェルメアが表情ひきつらせるが、当のみさきは平気そうだ。
何度見てもこの光景をそうそう慣れる人間はいないのかもしれない。
「呪詛を当人に返す逸話がある呪具だよ。念のために耐性を。……反した呪詛が人形に意味があるのかわからないけれどね」
――そんな二人の一つ後ろ、シエナ・リーレイ(取り扱い注意の年代物呪殺人形・f04107)は瞳を輝かせ、両手を合わせて喜んでいた。
「懐かしいはずだよね! とシエナは納得します」
今までの猟兵との反応とは異なるその言葉と雰囲気に、二人は思わず振り返る。
ロリータ服に身を包んだ少女がダペルトゥットドールに向ける視線は恐怖でも怒りでもなく、それは慈愛に満ちた物だと言えた。
「なんだ、知り合いか?」
「シエナよりも先に作成された兄姉なんだよ。と、シエナは説明します」
言った言葉にそれはつまりと、追って真意を聞き出そうとするが、当のシエナはいつもの調子の笑顔を振りまくばかりだ。
そしてシエナは一歩二歩、と、兄姉と呼ぶダペルトゥットドールに近づくが、突如はっとした表情をすると、またニコニコと表情をやわらげた。
「かくれんぼの始まりだね! とシエナは元気よく駆け出します」
シエナは踵を返し、村の中へと走っていく。
残された二人はその行動に理解が追い付かず、顔を見合わせて首を傾げ合わせた。
――シエナは村の中を探して彷徨う。
同じ体であるがこそ気付いた。目の前にいるダペルトゥットドールの兄姉は仮初なのだ。だから、どこかに隠れた兄姉の器物の人形を。
『お友達』と共に。
●
ダペルトゥットドールの元へたどり着くには多くの死体達が邪魔をしている。
攻撃をあてるにも蠢く死体達をどかさない限り、彼等は肉壁となり防衛してくるであろう。
「さてどうしようか? 相手は死人だからね、多少手荒に踏み込んでも問題ない、と、僕は思うけど」
生者であれば気を遣うものだが、彼等は死人であり操られている。加減しなくても良いと考える。
みさきのその意見には賛同らしく、フェルメアも頷いた。
「同意見、だな。こいつらは既に死んでるんだ、遠慮なく倒させてもらう」
そう言った瞬間。フェルメアの腕を纏うのは地獄の炎。
一つ一つの小さな物が意志を持つように一つになり、巨大な獄炎となり火柱を上げる。
「むしろ今ここで火葬してやるさ」
それが弔いともなるだろうか。
死体となっても呪縛から解放されない彼等への。
「火葬……ね。僕も、彼等が安らかに旅立てるよう協力しようか」
「みさき、もし出来るなら、生きてる人間は火葬するわけにはいかねぇし、そのあたりうまくやってくれるように頼んでもいいか?」
そういって視線を促され見れば、死体の中の何人かには生者が紛れて存在していた。
このまま無差別に攻撃してしまえば死体と一緒に殺してしまうだろうか。
理解し、その言葉に頷く。
「あぁ――分かった。頼まれてあげるよ。そこは、うまくやってやろうじゃないか」
艶やかな表情をしたみさきが言葉を紡ぐ。
「彼方より響け、此方へと至れ、光差さぬ水底に揺蕩う幽かな呪いよ。我は祭祀と成りて、その咎を禊落とそう」
足元から周囲を侵食する呪詛を含む水気が覆いつくす。
増大していく海水達は川のように流れ、激浪を起こし、行く手を阻んでいた死体達一人一人の足をすくいあげると、外壁へとまとめて押し流していく。
その波間を掻い潜り、水泳の要領でみさきはダペルトゥットドールの元へと障害物をするするっと避けて泳ぎ進む。
死体に紛れて流された生者は突然の荒波に驚いたのか、慌てふためいて身をばたばたとさせていた。
聞こえる声や、様子を見るに、急な衝撃に少しは正気に戻ったのだろうか。
頭を冷やせたのであれば、丁度良い、と、みさきは流されている彼女等を目線で見送った。
生者達は生者達でうまくより固められ外壁側へ押し流し打ち上げる――これで生きている者同士で身を助け合う事が出来るだろう。
(さあこれで……うまくやったんじゃないかな)
障壁がなくなった海底で、みさきはぐんと泳ぐスピードを速めてダペルトゥットドールに襲い掛かる。
――既に傷だらけの男のダペルトゥットドールは海水から現れたみさきに対し回避行動がとれず、なされるがままに。
澱んだ海水の中現れたみさきの戦闘力は増している。その牙から、彼の土俵であるこの海域から逃げる事は出来はしない。
(彼等は既に死に、現世の咎を禊終えた、ならばあとは安らかに旅立つだけ。彼等を貶めた君達は僕の業のまま禊潰そう)
海水は人形を襲う。
優しく触れるように、沈むように。
脆く崩れていく人形の瞳は最後に金の瞳を見た。
その向こうでは、業火が舞う。
「――っだぁぁ!」
フェルメアは助走で勢いをつけた腕を大きく振るう。
その炎腕の直撃を受け、立ちふさがる死体は顔を歪めた。
「大人しく――どいておけっての!」
そのままの遠心力に任せて腕を振るえば死体達は業火に焼かれ、当てられた者達は次々消し炭へと化していく!
死体は隙を狙って後ろから襲いかかり、フェルメアの動きを止めようと武器を振りかぶるが、それをフェルメアが見過ごすはずもない。
気配を察知し、振り返り様に魔封の手枷で武器を受けた。
鈍い音がグワンと響く。村人達が集めた武器なぞでは手枷は傷一つもつかない!
「――残念だったなぁ、お前のソレじゃあ断ち切る事なんてできねぇ……よ!」
押し返された力に死体はよろめき、そのままフェルメアの小さな体から繰り出される怪力めいた力でねじ伏せらる。
「ぐぎぎぃ……!」
潰れた声をあげ、倒れる死体。
業火をまとったフェルメアには傷付ける所か触れる事すらできず、操られた死体達は次々と焼かれ朽ちていくだけだ。
「――お次は本体さん、お前も焼いてやらぁ!」
跳躍で飛ぶ。炎の弾丸めいたフェルメアに近づく死体達は例外なく次々と焼き伏せられて。
女のダペルトゥットドールはその焔から逃れる事も出来ず、焔に包まれ、塵となる。
みさきの領海に沈み、業火に焼かれた死体達は骸の海へと還っていく。
死ぬまで手のひらで操られた彼等もこれでようやく――武器を下ろす事が出来たのだ。
●
服に泥がとんだ。業火で焼かれた灰が飛んで、潮風が髪をたなびかせた。
「どこなの? とシエナは色んなところを探します」
声をかけてもそれは返事をしない。
代わりにやってくるのはシエナの動きを邪魔しようとする死体だけ。武器を振り下ろされようと構う事無くシエナはふらふらと村をさまよっている。
「お友達候補とはまた後で遊んであげるね。とシエナは諭します」
岩をどけ、邪魔な死体をどけ、家屋の中を漁る。
身体能力が増大した彼女には、邪魔な障壁となる死体達も一捻りだ。
……最も、シエナにとっては攻撃のつもりではないのだが、加減の知らぬ怪力により結果的にねじ伏せてしまう形になっている。
――そうしてやっとで見つけた兄姉の器物にシエナは飛びついた。
「みつけた! とシエナは兄姉を抱きしめます!」
瓦礫の下、埋もれていたそれを引き上げると、汚れたドレスを丁寧に手で払い、愛おしく抱きしめて。
積もる話も愛の言葉も、ただひたすらに。
語りつくす事はできないこれまでの話もこれからの話も人形の二人は黙って聞いていた。
だが、強く強く抱きしめられたその力はやはり加減がなく、人形は悲鳴のような音を出しながらヒビは破片となり崩れ落ち、ねじ曲がった腕も取れて地面へと落ちた。
破損に気付いた頃には、ダペルトゥットドールは見るも無残な状態で。
「……ここ壊れてるね。直してあげないと。とシエナは修理をする為に二人を連れて帰る事にします」
語りつくせない話は部屋でまたゆっくりと。
シエナは大事に二人を抱きしめ立ち上がり、気持ちを逸らせ村の外へと走り出した。
●
シエナが器物の人形を抱え村を出る頃。猟兵達の前にいたダペルトゥットドールは業火に焼かれ、海の底に沈んだ。
生者達は身を寄せてぐったりとしているが、外傷も大したことなさそうだ。
フェルメアとみさきは周りをぐるりと見渡し、ひと段落した事を確認すると一つ大きな息をつく。
「……とりあえず、こっちは無事解決か?」
戦乱の場と化していたこの村中も、今は猟兵達が村に来た時のような静けさを取り戻し、乾いた風が吹いているだけになっていた。
脅威の存在はもうここにはないだろう。
「――こっちはね」
器物のダペルトゥットドールも仮初のダペルトゥットドールも死体達も村から消え去り、道は開けた。
――後はこれを放った領主の存在。
その主悪の根源を倒す事ができれば、村人の無念はようやく晴らされるのだろう。
大成功
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第3章 ボス戦
『『血に濡れた伯爵夫人・アミラ』』
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POW : 血霧と踊りて
全身を【物理攻撃を無効化する深紅の霧】で覆い、自身が敵から受けた【負傷】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
SPD : 鮮血の荊棘
技能名「【串刺し、傷口をえぐる、生命力吸収、吸血】」の技能レベルを「自分のレベル×10」に変更して使用する。
WIZ : たった一人の私の味方
自身が戦闘で瀕死になると【逃走時間を稼ぐために従属吸血鬼】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
イラスト:銀治
👑11
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猟兵達がたどり着いた吸血鬼の館には警備する者、守る者は姿を現さなかった。
静かな館を警戒しながら猟兵達が館の奥まで進めば、広々とした空間へとたどり着き、結果、誰とも遭遇する事なく館の主と邂逅したのである。
暗闇の中から現れたオブリビオン。血に濡れた伯爵夫人・アミラは面白くなさそうに目の前の猟兵達を一瞥した。
「もう来たの……あれは、足止め程度しかならなかったみたいね」
冷たい表情をしたアミラは「元々大して信用してなかったけど」と、低く吐き捨て興ざめだと苦笑する。
コツリと、アミラが近づき靴の音が鳴る。
館は、異臭が充満している。
漂う澱んだ空気。
さび付いた鉄の臭い。
腐敗した肉の臭い。
先ほどの村の中と同じ臭いが充満していた。
――白い陶器のような肌の上、赤い唇が弧を描き不敵に笑う。
「丁度良かったわ。あれが村から連れてきた分では女の血が全然足りなくて、風呂に浸かるに物足りない。……男の血は、普段は使わないけれど……いいわ、折角来てくれたのだから。皆使ってあげる。捨てるだけは勿体ないものね」
猟兵達の退路である後方に一つしかない扉は突然閉まり堅く閉ざされた。
アミラは逃がさないとばかりに舌舐めずりをする。
「あれらはしたい事をしながら死ねて、幸せだったろう。お前たちもそうやって溺れて死んだ方が楽しく死ねたというのにここまで来るなんて。――生きて針のカゴに入るか? それともさっさと死んだ方がいいか? さぁ、今なら選ばせてあげるわ」
アミラはただ、永久なる美の執着の為にこれからも。
――己の欲の為に武器を取る。
十文字・武
<アド連携詠唱略ok>
お前があいつらの親玉か。
あぁ、確かに欲のままに生きるのはタノシカッタヨ。
己を縛る全てを投げ捨て、本能のままに、欲望のままに、獣の様に生きるのはな。
見たくもねぇ、このオレの本性を突きつけてくれて、ホントウにアリガトよッ!
UC【悪喰魔狼と裸の王様】起動。
全てを喰らう呪詛を刃に込め、物理攻撃を無効化する敵UCを切裂き相殺。
殺意を込めて刀を振れ【なぎ払い・串刺し・二回攻撃】
荊棘による吸収もUCさえ乗らなければ、そこまでは脅威足り得んさ。
残るは素のままのオレとお前だ。
互いに生汚さには自信があるだろう?【激痛耐性・生命力吸収】
さぁ、殺し合いですらない、壊しあいに付き合って貰おうか。
夷洞・みさき
拷問部屋みたいな臭いがするね。ここ。
いいや、もっと酷いかな。
他者を害するのは現世の人に許された権利だ。
ただ、それを咎人が唆すのは看過できないね。
突然隣人が豹変して襲撃者になる。
それは生き残った人達にこれからも疑心暗鬼を抱え続けるのだろうね。
だから、これが君の咎への禊だよ。
【WIZ】
逃げた先を氷白館につなぐ。
そこで起こるは誰も信用できない血腥い事件。
誰も彼もが疑わしく、それは”たった一人の味方”でさえ。
伯爵夫人を揺さぶるため【恐怖を与える】
真犯人は僕だけどね。
咎人をわざわざ逃がすわけないだろう?
このままこの屋敷の住人になるかい?それとも骸の海に還った方がいいかな?選ばせてあげよう。
アドアレ絡歓迎
アリウム・ウォーグレイヴ
アドリブ歓迎
殺しておいて幸せだっただろうとは、なんという傲慢さ。
姿形を美しく取り作ろうとも、中身は腐肉の様に醜いですね。
その欲深さが破滅を招く事を身をもって知ることになるでしょう。
貴方の言葉はもう聞きたくありません。私の心を穏やかでないものにする。
『全力魔法』『属性攻撃』ホワイトブレスで全てを凍らせましょう。貴方が何も語らないように、人々に害を為さないように。
敵に接近された場合は『見切り』躱していきましょう。
捕まって血を吸われる事だけは『第六感』が告げずとも不味いことだけは分かります。
怒りも悲しみもある。ですが私情であの敵を倒すのは私の流儀に反します。
私は猟兵。義務として戦います。
館の中の空気は冷たく、外気とさほど変わりはない。
照明の灯りも薄く心もとなく、辺りは陰々としている。
暗闇の中アミラの瞳がぎらりと光り、薄く開いた口からは鋭い牙を覗かせた。
「殺しておいて幸せだっただろうとは、なんという傲慢さ」
静寂の中声が落とされ、館の中を反響し、響いていく。
「姿形を美しく取り作ろうとも、中身は腐肉の様に醜いですね。その欲深さが破滅を招く事を身をもって知ることになるでしょう」
――よほどその言葉が耳障りだったのだろうか。アミラはぴくりと眉を動かし、アリウム・ウォーグレイヴ(蒼氷の魔法騎士・f01429)の方へと向き直る。
「傲慢? 醜い?……面白い事言うのね。その言葉、撤回した方がいいんじゃないかしら?」
「……私は見たままの真実を伝えた迄。撤回が必要でしょうか」
アリウムが言葉を紡ぎ終わる瞬間、背後から聞こえた金物の音。アミラは拾い上げていたナタをアリウムの頬すれすれに投げつけていた。
その動きが見えぬ程の早業。壁に突き刺さるナタから伺えるその威力。威嚇と威圧。
「――そう。それでは串刺し。お前たちを皆仲良く原型を留めない程に混ぜ合わせよう。煩わしい口を閉じ、死して私の美の糧になるがいいさ。あの村の者達と同じように」
だが、それに物怖じするアリウムではない。伏せられた目は悲しさからか、怒りからなのか。
「……貴方の言葉はもう聞きたくありません。私の心を穏やかでないものにする」
冷えた空気がアリウムを纏う。――本来なれば使いたくはなかった。しかし、目の前にいる相手ではやむを得ない。
全て、全てを凍り付かせてしまおうと。
アミラは眉を顰め、術を展開しようと静止するアリウムに先手を打つ為隠し持っていた鋭利なナイフを手に持つ――が
そのナイフは叩き落された。カラバ侯爵領騎士剣が光を反射しぎらりと光る。
「煩わしいのはお前の口だ。聞こえなかったのか? ――もう喋るなって言ってんだよ」
勢いに任せた二振り目はアミラを掠る。十文字・武(カラバ侯爵領第一騎士【悪喰魔狼】・f23333)はチッと舌打ちすると三度目――もう片方に握られた退魔刀で死角からの切り上げを試みる!
「獣かお前は。怒りに身を任せ剣を振るい、さぞかし気持ちがいいだろうな。そういえばお前はアレにあてられたんじゃないか? お前はどうなった? どうなりたかった? いい気分を味わえたか?」
煽るような口調、見ているはずがないのにまるで武の見られたくない場所へと潜り込んでくるような、全部知っているかのような言葉。
先ほどの光景がフラッシュバックする。ただ欲望に身を任せ、喰らい尽くそうとした先ほどの光景が。
人の神経を逆なでさせるような言葉を使うのは、アミラの戦術であり、趣味の悪い嗜好だ。
――武の眼光は鋭く光り、アミラを睨みつけた。
「……あぁ、確かに欲のままに生きるのはタノシカッタヨ。己を縛る全てを投げ捨て、本能のままに、欲望のままに、獣の様に生きるのはな」
また、右手に力がこもる。
青筋をたて、武は叫ぶ。
「見たくもねぇ、このオレの本性を突き付けてくれて、ホントウにアリガトよッ!」
振りかぶった妖刀の一撃は、アミラが拾い上げたナイフで受け止められる。
小さなナイフがそれを捉えられるのは、アミラがびくともしないのは、オブリビオンとしての力なのであろうか。
力押しで武が妖刀を押せばアミラはニヤリと小さく含んで笑った。
「ぐっ……!」
ギィンと甲高い音が鳴る。大きくアミラにはじかれ、武は飛びながら後退する。
もう一度と二刀流を決め踏み込もうとすると、隣に立ち並ぶ夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)がやんわりと耳打ちした。
「失礼だったらごめんね、今正気?」
「しょ……!? 当たり前だ……っす! こっちは正気も正気、ばっちりレイセイっすよ!」
「そう、それならいいんだよ」
みさきが目を細め、アミラに視線を投げる。
「あっちの土俵で戦って、手のひらで転がされてるのは癪に障るね、ああいう気丈ぶった女って言葉一つで綻んだりするんだけど。アリウム君はあの女の事をどう思う?」
ふいに言葉を投げかけられ、アリウムは考え込むように手を口に当てる。
「……私達に、これだけの数に囲まれてすらなお阻む配下が姿を見せない。隠れて奇襲をかけてくるかと思えばその様子もない。疑り深い性分故、傍にあえて腹心をおいていないのだと思いますが……誰も付き従う者がいなかったのかもしれませんが」
その言葉が聞こえたのか、アミラが柳眉を逆立てながら一際大きな声をあげる。
「馬鹿を言うな! 望んで配下を持っていないのよ。どうしようもない奴らが数いても邪魔なだけ、信用に足ると言える配下は一人居れば十分よ」
「それがあの人形の二人って事かな?」
「――そんな訳ないわ、私にはただ一人――」
瞳が揺らぐ、アミラは何かを言おうとしたが口をつぐんだ。
「そう、勘違いしてたみたいで申し訳ないね、水を差して悪かったよ」
みさきが三人に目をくべると”どうぞ”と手を差し出す。
その余裕さが癇に障ったのかアミラは「余裕めいているのも今のうちだ」と目先のアリウムに掴みかかろうと尖る爪の手を伸ばす!
視線はそこにあらずとも、アリウムはアミラの動きに対応し、するりとそれを見切りでかわし、手を伸ばした。
「――もう私から話す事はありません、もう貴方が何も語らないように、人々に害を為さないように」
凍り付くような声に反応するように、アリウムを纏う氷の魔力が敵意に向かい牙を向く。
極低温魔力の波涛がアミラに猛威を振るう! 異変に気付いて距離を取るもアリウムが視認する限り、その猛威の勢いは止まらない!
凍り付き、はりつき、視界の全てを白銀へと変えていく。
「なんだ、その目は……――! そんなに私が憎らしいのか貴様!」
「――個人的な感情はありません、私情で敵を倒すのは私の流儀に反します。私は猟兵、アリウム・ウォーグレイヴ。義務として戦います」
言葉にもう惑わされまいと、アリウムは冷静な表情を崩さずにその身体にまとう氷の魔力で猛威を振るう!
白銀が館全て飲み込んで、この地から消し去らんとばかりに侵食して。
「ぐぅっ……従順なる私の吸血鬼! 奴らを仕留めなさい!」
その様子にこれはまずいと判断したのか、アミラは吸血鬼を召喚するとアリウムと自身の間に盾のように遮り置いた。
吸血鬼は音もなく現れ、アリウムの元へと飛び掛かる!
「……ここまできて、……逃げる気ですか?」
アリウムが眉をひそめる。
そうはさせまいとアリウムは双方を魔法で足止めしようとする。
アミラは迫りくる脅威をかいくぐる。目の前に現れた吸血鬼を足止めする事は出来てもアミラの事をアリウムは止める事が出来なかった――という、ふりをしていた。
●
アミラは一瞬、目を覆う。
「――忘却に漂う館よ今再び物語を。扉の鍵は我が手の中に。舞台は此処に。事件は其処に。隠れた小部屋は何処にか」
誰の声だろう、どこからの声だろうとアミラは考える時間はなかった。ドアをあければぐらりと視界が反転し、その目をもう一度開いた時、まるで知らない世界にいたのだ。
自分は先ほど扉から飛び出して、外に出たはず、だったのだが?
「突然隣人が豹変して襲撃者になる。それは生き残った人達にこれからも疑心暗鬼を抱え続けるのだろうね。だから、これが君の咎への禊だよ。」
暗闇の中、みさきの声が響く。アミラはその姿を視認しようと辺りを見渡すが、見えるのは暗闇、そして小さな炎の心もとない灯り達だけでみさきの姿を捉える事ができない。
「――何を、どこから声を……」
もう一度後ろを見れば、既に来た時の扉もなく――。
閉じ込められた? どこに。何のために。
血の匂いがした。
甘美なる血の匂い? どこから? 足下には血だまりが出来ている。
暗闇に目を向ける――そこにあったのはアミラによく似た女性の死体。
「……何、だ、これは、幻影か?」
『こいつ、思ったよりも中々死なない』
それは聞き覚えのある声。
――その言葉の主の方向へとアミラは振り返る。
そしてやはり、アミラはその者を知っていた。
『君の大事な腹心。たった一人だけの信用たる存在。自分が信じているからといって相手が信頼しているとは限らないよね。君の心配している通りだよ。伯爵夫人――』
反響したような、自分の脳内にだけ聞こえる声のような。不思議な声が頭の中を響かせる。
「……馬鹿げている」
アミラは死体が転がる部屋から出る為に手身近なドアを開ける。またそこには惨殺された女性の姿が貼り付けにされ、十字架の杭を打たれていて。やはりその女性はアミラに似ていて。
『どれだけ憎かっただろう、その顔を見るたびに憎しみに苛まれた。もう二度と息を吹き返さないでくれ』
また、自身が信用する腹心の声が聞こえてくる。
「馬鹿にするな!」
徐々に不安に胸を侵食され、沸き上がる恐怖に息が切れていく。
たった一人しか信用せず、傍に仕えさせなかったその存在が、目の前で裏切る瞬間を、その顔を見た。
ドアをあける度に何度もアミラは事件を目撃してしまう。殺人事件は、狂気は終わらない。まるで自分が何度も殺されているかのようだ。
侮蔑する顔、嘲笑う顔、私の唯一の従者が私に対して仇名す事をするわけがない、この世界は嘘だ、幻想だと言い込める。
疑心暗鬼の心が膨れ上がり、元々疑り深く人を信用しなかったアミラの心が黒く黒く染まりざわついた。
ドアをあけて、ドアをあけて、ドアをあけて。いつまで続くのだろうか?
この疑念に囚われない場所を、安寧の空間を必死で伯爵夫人は探していたがそんな場所はここには存在しないのだ。
「うまく氷白館に逃げてくれたね、計画通りに事が進みすぎて驚きを隠せない。しかし……アリウム君は伯爵夫人を哀れに思うかい?」
みさきの問いにアリウムは静かに首を振る。
「報いは受けるべきです。無力な人間をいたずらにアレは殺しすぎた」
そして、殺してもなお、その遺体を粗末に扱った。
自身の美のための道具として。償い切れない程の咎を抱えた。
咎人にはそれ相応の報いを受けるべきだと、みさきは静かに言った。
「そうだね……さあ、そろそろ伝えてあげないといけない。このまま屋敷の住人になるのか、それとも骸の海に還るか、選ばせてあげよう」
彼女が僕等に選ばせたみたいに、と、みさきは小さく呟いて薄く笑ってみせた。
●
アミラは狂気に狂った従者から逃げるように今も扉を開け続けている。
開けども進めども知っている景色は現れず、外に出る事も、敵わない。
呪詛の類か、それとも固有結界の物なのか、何一つアミラは状況が掴めず冷静な判断すらできずにいる。
――その背後に、武は立つ。
「――いつまで逃げてんだ」
「ッ! 何だ! 貴様あぁ!」
既に狂気に飲み込まれているアミラは、その声に反射的に立ち止まり、振り向きざまに手に持つナイフを振りかぶった。
「さっき会ったんだ。もう自己紹介なんて必要ねえだろ」
みさきが作った氷白館。そこに入り込んだ猟兵が一人。廊下を滑走する。
「なっ
……!?」
次の瞬間、何をされたのか分からず、アミラは表情を強張らせた。
何かを放たれた。理解は時間が経てどもおいつかない。自身の能力が相殺されてしまっている、大事な何かが抜け落ちてしまった感覚に茫然とする。いや、そんな事があろうものかと。
葛藤している間にも武の二刀、振るわれた妖刀が、一つ、二つとアミラに傷をつける。
「がっ……わ、私に従順な従者よ! な、何をしているの、私の代わりにこいつを留めろ! しとめろ! 殺せ!」
叫ぶアミラの声はただ空虚に響き、応答は来ない。
武は刀を勢いよく横薙ぎに振るってアミラを薙ぎ払い、壁へと叩きつけると、もう一本の妖刀でその腹を串刺しにと刀を突きさす!
アミラには避ける事も出来ず、腹に食い込む刃。途端、アミラの口からは血の塊が溢れた。
「ぎ……! きさ、貴様
……!!」
壁へとはりつけ状態になったアミラは血管の浮き立たせ、片手で武の肩を掴む。
爪をたて、その鋭利な爪を肌へと食い込ませる。服の上からじんわりと血が滲み、ぎちぎちと音をあげたが、武は額に汗粒を浮かせながらも口端は笑っていた。
「化物め……」
アミラの言葉に、武は「あぁ」と目を細める。
「――お互い様」
滴る血は床に赤い水たまりを作って行く。更に気合をこめて押し込めば刀は何の抵抗もなくアミラの腹へと深々刺さっていった。
「ぐぁあぁぁ!」
耳をつんざくほどの絶叫が館の中を反響する。
村人たちの苦しみはこんなものではなかった。――これ以上の苦しみを味わった。
「互いに生汚さには自信があるだろう? さぁ、殺し合いですらない、壊しあいに付き合って貰おうか」
抉るように刀を埋める。忌々しそうにアミラは武を睨みつけるが、その激痛を受け、腕の力が徐々に抜け落ちていくのだった。
大成功
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ラジュラム・ナグ
盛り上がってるかい?おじさんもお邪魔させて頂くぞー。
にしても待遇を選ばせてくれるたぁ太っ腹だねぇ~?
おじさんもしたい事をしながら大往生を遂げて往きたいもんだ。
・・・という事で、お前さんの全てを頂くぞ。
大剣を左手に持ち替え右手に装備アイテム<全てを奪う闇>を剣の形状で握る。
大剣は持ち前の[怪力]で[武器受け]用にも活用だ。
UC《強奪時間》を発動し大いに暴れてやろうか!
敵さんの深紅の霧は闇で「奪う」ぞー。
転がってる残骸や床を[怪力]を活かし大剣で掬い上げ目隠しや盾としても活用だ。
死角から大剣を振りぬく勢いを利用した連撃で[生命力吸収]しつつ一気に畳みかける!
全てが奪われる気分はどうだい?
フェルメア・ルインズ
◎アドリブ連携歓迎
全く、人間を殺して血液風呂とか碌な事を考えねぇな
ていうか効果あるのか、それ? とてもそうは思えんが……
■戦闘
物理攻撃を防ぐのか、この霧
生命力も吸われたら面倒だし、吸血鬼ってのは厄介なもんだな
ここはまず、敵の攻撃を【武器受け】で致命傷を避けつつ防御
更に【激痛耐性】で耐えながら魔力を蓄え、敵が油断したり
隙が出来たところを狙って【UC】を発動
敵を丸ごと飲み込む炎の奔流で焼き尽くして、霧も一瞬で蒸発させてやるよ
もしまだ生きてたとしても霧はもう無いしな、そのまま【怪力】を活かして一気に仕留める
しかし、お姉ちゃんを助けて……か
亡骸だけでもと思ったが、せめて何か遺物でも見つけられるか……?
殺戮の館から放り出されるように自身の館へと帰ってきたアミラは、忌々しそうに唇を強く噛む。
腹を抑える左手は溢れる赤に染まり、血がこびりついた床に自身の鮮血を垂らしながら歩く。
「……忌々しい、忌々しい、忌々しい忌々しい!」
ボリュームを最大にあげた音楽機器のように突然声を張り上げるアミラ。目の焦点は定まりなくゆらゆらと狂気に揺れている。
「おーおー、盛り上がってるねえ、声量でかいしリズム感もばっちり! 伯爵夫人の適職は歌手だったのかもしれねぇなあ」
その様子を一笑して現れたのはラジュラム・ナグ(略奪の黒獅子・f20315)。
ラジュラムの緊迫する空気をかき乱す軽い声に、フェルメア・ルインズ(拘束されし魔神・f21904)は腕を組みながら呆れ声まじりに相槌を打つ。
「おいふざけんな、メディアであいつの顔を見るなんてオレはごめんだぜ? 血液風呂とか碌な事考えねぇ奴だ。信憑性のない美容法を流して世間を混沌とさせるにちがいねえ」
話している雰囲気、もしくは話す内容か。
アミラは静かに激昂し、力拳を作り、青筋を立ててアミラは一気に標的を二人へと見定める。
「……そうして、余裕ぶっているのも――今のうちだわ」
既に傷だらけのアミラは、ゆるりとした動作で自身の身体を抱きしめながら呟き、不気味な深紅の霧を体にまとい始めた!
霧は物理攻撃を無効化するだけでなく、アミラの体の戦闘力を高め、生命力吸収能力を持つ深紅のベールであり無敵のアーマー。
アミラは一度目を閉じ深呼吸をすると、また冷静な表情を携え、猟兵達へと一気に距離を縮める。
霧はアミラの射程距離を伸ばし、アミラが手を伸ばすと進行方向にぶわりと広がり進んだ。その手が掴まんとするのはラジュラムである!
「おおっ!? っと、伸びやがった。思ったよりも射程距離あるねえ~? おじさんびっくりしたよ」
カカッと軽く笑い飛ばし、身を反らせば拳一つ分霧はラジュラムに届かない。
アミラも小さく笑みを浮かべるが、冷たい瞳の奥は笑ってはいない。ラジュラムを殺さんとばかりに憎悪の炎が燃えている。
霧を使った演舞のようにアミラは広範囲で攻撃をしかけ立ち回る。
そこへフェルメアが飛び込む! 枷を使って薙ぎ払い、そのままの勢いでアミラの体を縦に一線、手枷を振り下ろせば直撃だ!
確かな感触とゴツンと鈍い打撃音!
しかし、びくともしないアミラを見るにこの攻撃は通用しない。霧は傷つくアミラを護るアーマーだ。叩いた所で、切り伏せた所でびくともしない!
「成程ね、普通に殴ってもノーダメージ。まず何とかしたいのは霧だよな……生命吸収なんてけったいな事しやがって」
「まーそうだわな。それじゃあおじさんは霧を先に”奪う”って事で立ち回りは了解した。だけど最後には――お前さんの全てを頂くぞ」
”お前さん”言って大剣で差されたアミラはその言葉を意も返さない。
やれるものならやってみろ――聞きとれぬ程の声で呟きアミラは疾走する!
「全てを頂くのは私だ! 生きたまま永遠にお前たちの身体から血を絞り出してやる!」
侮辱を噛みしめたアミラが疾走する! 霧がフェルメアの眼前まで迫る! 手枷で受けいなすが霧を掠った拳からじんわりと力が抜けていく。身体の中で何かが暴れまわったような痛みに思わず顔をひきつらせた。
霧の特性。生命力の吸収!
「……物理攻撃は防ぐ、生命力も奪う。吸血鬼ってのは厄介なもんだな」
痛みは耐えられぬ程ではない。繰り出される霧を避け、枷を盾に致命傷を避けながら引き付けるように猛攻を避ける。
「ナイス引き付け、お前さんは小さいが、念のため頭を下げときな」
フェルメアは背後から聞こえた声に反応し、反射的に頭を下げる。その頭上を飛んだのは床に転がっていた死体の身体。
ラジュラムが剣ですくい上げ飛ばしたソレは見事にアミラの顔に命中した!
「死体……ちょっとそれは待――!」
声を上げるフェルメアをよそに、攻撃で怯んだアミラにラジュラムは剣を容赦なく突き刺した! 剣の形をしているソレは全てを奪う闇。強奪の暴力を容赦なくアミラへと振るい、大剣はその勢いでアミラを弾き飛ばした。
「――おっと、何か事情があったか?」
一連の動作を華麗に済ませた後で、きょとんとした顔でラジュラムが問いかける。
それに困ったような表情をし、フェルメアは言いにくそうに答えた。
「……村の子供にお姉ちゃんを助けてって言われてる。間違いなくここに連れてこられたなら死んでるんだがな。せめて亡骸だけでも判別できたらと思ってたんだが――」
「はぁなるほどそういう事情ねぇ。しかしここにある死体は頭部はねえし四肢もバラバラ、どれが姉の身体だってその子に見せる事も出来ないしそりゃ困難だ」
「だよ、な。せめて遺品だけでも見つけられねぇかな」
「探してみるか? ここにくる途中ゴロゴロと貴金属やら服の切れ端も落ちてたし、一個くらいそれっぽいものがあるかもねえな」
そのためには目の前の吸血鬼を倒す事が先決だと、ラジュラムはまた武器を振るう!
迫りくる猛攻に、そんなものは効かぬとアミラが腕を使ってガードをするが――スパリと、大剣によって腕は叩き切られて飛んだ。
ラジュラムはにぃと白い歯を見せ笑う。先ほどの”強奪時間”に霧がふれた事により、アミラの霧の能力は、鉄壁のアーマーは奪われているのだ!
攻撃が通った事で先ほどのラジュラムの攻撃の意味を、意図を理解し青ざめるアミラ! 二度目の霧は発生させることができない!
「この蛆虫が……!」
歯を悔い締ばるアミラにラジュラムの踏み込みからの大剣の一撃。致命傷は避けるも、アミラは避ける事が精一杯で次の攻撃に転じる事が出来ない。
その怯み、攻撃のチャンスをラジュラムは逃さない。
一度避けても更なる追撃が死角から飛び込みアミラを襲う!
鍛え抜かれた身体が繰り出す連撃に一つの無駄もなく、重厚な大剣をまるで羽根のように軽いのではないかと思わせる程にラジュラムは武器を軽々振るった。
大きく平行に振るった首を狙う一線はアミラのおぼつかない足での後退により、受けた傷は皮一枚。白いアミラの首に赤の一線が描かれる。
「おじさんもしたい事をしながら大往生を遂げて往きたいもんだ。しかしまあ、お前さんはもう十分だろう。派手に往ってくれ」
これまで猛攻を繰り広げたラジュラムが剣を収め、大きく後ろに後退する。
不可解な動きに顔をしかめるアミラ。ラジュラムが後退した理由はただ一つ。――巻き込まれない為だ。
「最後まで好き勝手、さぞ人生謳歌できただろうよ」
赤い瞳が揺れて輝く。
フェルメアの両手から現れるは小さな炎。勢いをつけた跳躍でアミラの懐に飛び込んで。
その光景はまずいとアミラは冷や汗をかき、今度こそなりふり構わず逃げようと走り出す! だが、足元に落ちていた布に足をとられ、盛大に床へと転び身体を叩きつける。アミラの逃亡を阻止したのはラジュラムが先ほど飛ばした死体の服だ! 腕が一つ飛んだアミラは受け身すらも碌にとれる状態ではない!
「燃え尽きて消えろおぉっ!」
轟音のようなフェルメアの声!
地獄の炎がアミラの瞳の中の光景を埋め尽くして。
次々に身体にまとわり付く高温の炎は服も、体も、骨の髄までを焼きつくしていく!
「ぎぁああああああああぁぁぁぁ!」
床に身体を打ち付け炎から逃げようと慌てふためくアミラ。
自慢の肌も、自慢の髪も、全てが炎に焼かれ消えていく。
意味のある言葉はもう発する事は出来ない。ただ炎に焼かれ、死に行くだけとなったアミラを猟兵達は眺めていた。
傍若無人な振る舞いで、自らの欲のために村人を蹂躙したオブリビオンの末路を。
――やがて劈く断末魔も、アミラ自身も、炎に焼き尽くされて消滅したのだ
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「目的もなく探すってのも……う~ん」
フェルメアは猟兵達に協力を仰いで、遺品をかき集めていた。一つ一つを手にしては眺めて、屋敷にあった箱を頂戴し、それにせっせとしまい込んでいく。
アミラの部屋だと思われる場所から出てきた装飾品はかなりの数に上り、遺品箱は相当な量になっていた。
……勿論全てが遺品だとは限らないが。
「このネックレス、裏にイニシャルが彫ってあるな……あー……姉の名前くらい聞いておけばよかったか――こっちのイヤリングは見覚えあるような……」
フェルメアは青い石のイヤリングを目の前で揺らす。そのフォルムに既視感を感じ、恐る恐るとくるくる回し、目で、指で、その輪郭をなぞる。
(あの子がつけてたネックレスに似てる?――お前が、姉ちゃんか?)
丸い石のついたイヤリング。そんな物はよくある形だろう。普遍的なデザインで何の特徴も見当たらないのだが。……そうであればいいと思いもあって――
「どうだ? 遺品見つけたか?」
ラジュラムの声に急かされたように、フェルメアは急いで遺品達を箱にしまい込み、大事に両手で抱え上げる。
「あぁ、いっぱい居た」
「そうかそうか。あるといいねえ探し物」
静かに頷き、フェルメアは――猟兵達は皆館を後にした。
館の外はやはり陰鬱で、一つ事件が解決しようと空は晴れてはくれず、ここに来た時のように重い空気が身体にまとわりつく。
村は壊滅的な状況で、胸糞が悪い事件だった。
しかし欲深い領主は滅びて、生き残った村人たちは一時でも安寧を取り戻せるのだろう。
手に残る物は僅かで、戻ってこない物ばかりで、奪われた物が多すぎて。
――フェルメアはらしくない、とため息をつく。
村人達が殺されて憤っていた自分に改めてらしくない、と。
らしくない、そう思いながらも望んでしまう。
この箱の中に、あの少女の想う家族の形見があれば良い。
フェルメアは大事に箱を抱え、村にいる少女の姿を探すのだった。
大成功
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