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マウント・オン・マウント

#キマイラフューチャー

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#キマイラフューチャー


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●要出典
 知は力である。(※要出典)
 しかし、一言に『知』と言ってもそれは一体なんだろう。何をもって頭の良さをはかるべきか、そもそも頭の良さを示す言葉か……我々は常々自らにそれを問いかける。(※要出典)

 一方、こちらは配信画面に映る皆さま。
「あなたの言っていることは、まるで意味が分かりません」
「ほう、それは本当に言っているのですかな……?」
 いつまで生討論をするつもりなのか、配信者同士の討論がしばらく退屈に流れていくと思われたところ、突如として一人の男が立ち上がる。
「それが本当だとしたら、あなたはあの――ブレーメンの左手の法則をご存知ないということになりますな」
 何。今なんて言った? その感想を抱いたのは他の配信者も同じだったのか、なんだそれはと問いただそうとする面々。だが、その鼻先を抑えるように立ち上がった男は悠然と、自信に満ち溢れた表情で言葉を続ける。
「他の皆様方におかれましてはそのようなことありますまい。今回のテーマを齧ったことがある者ならば誰しも知っていて当然ですからなあ」
 誰しも、知っていて当然。そういった魔法の言葉を前にすると、面々は不思議と口を閉ざし、ある者はうなずき、ある者は視線を外し、ある者は最初に指摘した者を非難の視線で見つめ始めた。
「そんなでたらめな……!」
「おおっと。まさか、かの法則が何かとは聞かないでくださいよ。だって、あなたの知識不足はあなたの責任なんですから……」

●編集ページ
 ナイン・アークライト(九体目・f05754)は、それなりにかしこい。(※要出典)

 そんな彼女は今日も今日とて表情を変えぬままに首を傾ける。
「みんなは、『ブレーメンの左手の法則』って知ってる?」
 なんだそれは。また変なこと言いだして、と集まりだした猟兵たちに対し、ナインは応えずやはりマイペースに説明を続ける。
「なんだか、それっぽいことをそれらしく言ってね。頭を良く見せる怪人がいるの。だから倒してきて」
 曰く、キマイラフューチャーで配信されている動画に出演すれば『ブレーメンの左手の法則』をはじめとする架空の存在を用いて他の配信者をこき下ろし、自分が一番インテリであると宣伝する……そんなはた迷惑な怪人がいるらしい。
「あまりに自信満々でね。内容はでたらめなのに、みんな実在を信じこんじゃうの」
 インテリジェンスという言葉から遠く離れた行為ではあるが、話す姿勢や言葉のトーン、テンションの切り替え等により一気に場の空気をさらっていくので、視聴者はもちろん、同席した他の配信者もついつい騙されてしまうらしい。
 更には、正しく指摘してきた者を排斥し、妄信的な視聴者を増殖させ、閉鎖的なコミュニティの作成を助長し……と、このままでは動画配信の衰退につながるかもしれない。その姿はキマイラフューチャーにとって望ましい未来ではないだろう。だからこそ、早急に対峙する必要がある、と。

 猟兵たちの表情が真剣なものに変わったことを確認すると、ナインは詳細について説明を始める。
「まずは誘き出し。動画を配信してれば凸されるから。今回は、スピーチ大会にしてみる。スピーチが終わった後、のこのこ出てきた相手を『論破』してみて」
 相手を殴って倒そうにも、画面の向こうは叩けない。よって、今回はまず敵からやってくるように仕向ける必要がある。そのためにも、まずは画面越しでは埒が明かないことを相手に思い知らせなければならない。そしてこれは同時に、妄信している視聴者たちの目を覚ますことにもつながるだろう。
 スピーチ? という猟兵の視線に対して返されたのは短い回答。
「テーマはなんでもいい」
 もう少し丁寧に聞いたところ、それぞれがスピーチで語った内容に対して、怪人は基本的にマウントをとろうとしてくるので、そこにカウンターパンチを食らわせれば良いとのこと。
「ポイントはね? 相手がでたらめなら、こっちもでたらめでいいってこと」
 怪人は間違いなく難癖をつけてくる。しかし、難癖をつけることができるのは怪人に限られない。そう、猟兵だって難癖どころか、ハッタリだって自由自在。むしろ、裏付けのない相手の主張を揺さぶるにはこれ以上ない方法とも言える。
 それから、怪人との応答でマウントをとる方針は大体3種類、とナインは指を立てた。
「まずは、叫ぶとか。大きな声はそれだけで響くから」
 情熱的なシャウトは視聴者の心を動かす。情熱は理論を越え、理由とか根拠とかを置き去りにする性質を有している。だからこそ、大声は大事、と。(※要出典)
「それか、逆に感情的にならず、冷静に話すのもいいかも。それっぽいから」
 焦りというものを感じさせない表情は、その主張に合理的な何かを付与する。必要最低限の発言のみでなされた主張には、鋭さが宿る。やっぱり、それっぽさは大事、と。(※要出典)
「あとは……流れで。何か言われたら、とにかくおかしなところを指摘して」
 でたらめや出まかせは自ずとボロがでるもの。そこを的確に、まっすぐに指摘できれば自壊は時間の問題とも言える。結局のところ、その場しのぎで取り繕った知性などメッキ同然。猟兵たちなら容易く剥がせるはずだ、と。(※要出典)
 でたらめな新理論を提唱してもいいし、友達と一緒とか、誰かと集団になって主張する方法もあるし、細かい方法は任せたとナインは告げる。
「じゃ、第一陣の説明はこのぐらい。配信場所まで行こっか」
 怪人がすぐ現場まで手を出せるよう、撮影場所は包み隠さず公開しておくらしい。
「ちゃんと、戦える場所にしておくから。……公園でいいよね?」
 でたらめではなく、ちゃんとかしこい出典を示すべく、できる子アピールを忘れないままに。


メヒ子
 カニピラフー(挨拶)
 メヒ子です。
 今回はマウントを取りに来た相手にマウントを取り返してください。

●シナリオの流れ
 1.スピーチ&論破!
 スピーチをすると、なんかマウントをとりにくるコメントが流れるので、流れてくるコメントをある程度想定したうえで主張と、コメントに対する反論をご準備ください。
 もうありもしない理論とかありもしない世間の声とか使いまくってくださって結構です。ふつうは駄目ですけどこのシナリオでは大丈夫です。

 2.妨害工作!
 コメントで勝てないとなると、怪人は工作員(妄信した視聴者)を送り込んで配信の乗っ取りを画策してきます。「これからは知ばかりではなく力も必要だ!」という主張をしてきますので、相手の主張を飲んで拳闘試合で黙らせてください。
 ユーベルコードの使用はできませんが、ここでもでたらめやハッタリは使いたい放題です。真面目に戦っても構いませんが、「へえ……面白い」等と含みのあるコメントを使うと視聴率も爆上がりです。

 3.直接介入!
 もう直接怪人が来ます。返り討ちにするだけですが、ここでもでたらめやハッタリは使いたい放題です。真面目に戦うことはもちろん、拳闘試合同様に含みのあるコメントの多様を推奨するほか、「あ、あの技は!?」と味方同士で掛け合いをしたりすると怪人もビビるので、戦闘を有利に進めることができます。

 ふんわりしてますが、強者を装えば装うほど有利になるやつです。
 よろしくお願いします。
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第1章 冒険 『勝利の栄光を掴め!』

POW   :    情熱を燃やして優勝する

SPD   :    冷静な作戦で優勝する

WIZ   :    なんやかんやで優勝する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●怪人さんスタンバイ
 面白い話であると思った。
 今やこの界隈は自分の世界である。その世界で、こともあろうかスピーチとは。
「いやはや、怖いもの知らずですねえ」
 革張りの椅子に深く腰掛ければ、目の前に表示されたスクリーンでは配下からの連絡通り、『新春スピーチ大会』と名付けられた生放送が。
 流れていくコメントを目で追えば、それは電子音声で次々と読み上げられていくようだ。しかも、それは会場内に聞こえるぐらいの音量で。
「面白い」
 これなら、主張する者を徹底的に痛めゲフン、指導することができると。その男は口元に笑みを浮かべ、構えた指の前にキーボードを呼び出す。配下たちに対する指示も万全だ。私の言うことは正しい。そのように同意せよ、喧伝せよ、教示せよ。それこそが本任務における汝らの責務であると。
 さあ、会場の前説も終わり……ついに一人目が登壇するようだ。
 楽しくなるぞ、と男は思った。

 これから自らが対峙する者の、大きさを知らぬままに。
桑原・こがね
※アレンジ歓迎です

スピーチすれば良いのね?よく分かんないけど分かったわ!

あたしの旅団の人材募集をしましょう!
雷鳴団はその名の通り、天下に名を轟かせるために結成した旅団よ。
優秀な人材を募集しているわ!
あ、別に優秀じゃなくてもやる気があればいいのよ!

難癖をつけてこられたら気合と勢いで乗り切るわ!

目標が曖昧?
そうね!正直勢いだけでやってるところがあるのは否めないわね!
勢いだけなら大したもんよ、かかってきなさい!

言う割には無名?
これから有名になるのよ!あたしがいるんだから!
今入団しておけば、有名になってから自慢できるわよ!



●あれは雷鳴団!
「まずはあたしよ!!」
 アナウンスが終わり、颯爽と登場するは金髪藍眼の剣客少女、桑原・こがね(銀雷・f03679)。えいやと振るは、その手に掲げしのぼり旗。稲妻の絵が描かれたそれを思う存分振り回せば、これでよしと言わんばかりに演台の隣に突き刺した。
「あたしの名前は桑原・こがね! 知ってる人はお利口さん、知らない人は目にも見よ! あの雷鳴団の棟梁こそこのあたしよ!!」
 あの雷鳴団の! あの! 雷鳴団の!!
 あー、知ってる知ってる。あの有名な感じの。そんなノリがまかり通りそうな勢いで捲し立てれば、会場の聴衆も本当に知っているようにうなずいて。
「そのあたしが今日、何を言いに来たかわかるかしら?」
 ざわつく会場。『何』『はよ言え』『知らんがな』『パネェw』等々、次々と読み上げられるコメント。
 そのざわつきが一定程度高まったところで彼女はズバリと目的を切り出した。
「雷鳴団はその名の通り、天下に名を轟かせるために結成した旅団よ。そこで、今日は優秀な人材を募集しにきたわ!」
 あ、別に優秀じゃなくてもやる気があればいいのよ、と手を振りながら付け加えるも、その取り消しの対象に人材募集は含まれておらず。
 するってぇと、何かい? つまり、パフォーマンスでも何でもなく、彼女はここに、本気で、人材募集の主張をしにきたことになる。
 会場のざわつきはより一層高まる。動揺か、感心あるいは関心、それとも疑惑か。流れるコメントも賛否が分かれ、『いいね!』『は?』『知らんがな』『パネェww』と感想が一気に音となって入り乱れる。

 その時だった。
『やれやれ、この場で人材募集とは呆れました。あなたはスピーチが何たるかを理解していないと見えますね』
 ひときわ長文で、ひときわ大文字で、ひときわ色を付けたコメントが会場前方のモニターに流れれば、こがねにも聞こえる程の音量で機械音声が響く。
『出た!』『Red&Bigの旦那だ!』『旦那が来た!』『そうだそうだ!』『帰れ』『知らんがな』『パネェwww』と、それを皮切りに一気に増えていくコメントの数々。
 察するに、Red&Bigだの旦那だの呼ばれている奴が今回のターゲットなのだろうか。こがねが少しだけ考えると、ターゲットかどうかはどうでもいいことだと切り捨てた。
 こいつは、あたしを邪魔しようとしている。ならば、ターゲットだろうとそうでなかろうと、あたしの敵には変わりない!!
 故に、彼女は会場を見渡せば、気合を入れて。
「スピーチの何たるか? そんなの理解してるわ」
『ほう? それは一体なん』
「今あたしが一番言いたいことを言う! それがスピーチよね?」
 だって、これが今あたしが一番主張したいことなの――コメントが返ってくるのも待たずにそう叫べば、笑顔と共に両手を広げ。だからこそ、あえてここで言うのだと。その口からは団活動の楽しさを表現する言葉が、彼女の野心を乗せてこれでもかと流れ出す。
 その言葉と表情に、現地の聴衆はやがてまた一人、二人と真剣に耳を傾け。その身振り手振りの一挙手一動にやんややんやと拍手を送る。同じくしてコメントも同様、徐々に肯定的な意見が増えれば、『俺でもいいのー?』『ここ近所だし今から行くかな』『草』『知らんがな』『パネェwwww』と、一部を除けば、興味を持つ視聴者も増え続けているようで。
『人の話を聞きなさい。いいですか、そもそもスピーチというのは』
「わかるわ。確かに目標が曖昧かもね。そう! 正直勢いだけでやってるところがあるのは否めないわね!!」
 はい、わかってません。
『だから人の』
「でもね、勢いだけなら大したもんよ、文句あるならかかってきなさい!!!」
 はい、聞いてません! そんなこと知ったことかと拳を握り、右手を会場に向かって突き出せば、観衆からはどよめきと共に熱い声援が送られる。
 面白くなってきたぜと会場の熱が上がれば、コメントにもそれは伝播して連打される良いねボタン。対抗して連投が増えてくるのはひときわ長文で、ひときわ大文字で、ひときわ色を付けたコメント。

 そう、Red&Bigの旦那とはやはり例のターゲット、怪人であったがかなり、かなり戸惑っていた。かなりって2回使うぐらい戸惑っていた。だって、今までこんなことはなかったから。だって、今まではみんな人の話を聞いてくれていたから。だってだって。それがこれはどういうことだ。どうして人の話を聞かないあいつがこの場の空気をつかめているのだ? おかしい、おかしい!
『そもそも雷鳴団なんて組織、聞いたこともありません』
(そうだ。あんな出まかせに騙されるとはなんと程度の低い連中だろうか!)
 自分の行為を棚に上げれば、怒りに支配されたままにキーボードを叩く手を強める。忙しい、言葉を打ち出すのに忙しい。くそ、通常の立ち合いであればあんな手合いに後れをとる自分ではないのにと、苦虫を噛み潰したところに更に苦虫が飛んできたような顔つきで。

 だけど、それはこがねには知ったことではなかった。話したいことを楽しく話し、楽しそうに本懐を果たす。それこそが彼女なりに考えたスピーチの在り方でもあった。故に、
「言う割には無名? これから有名になるのよ! あたしがいるんだから!!)」
 流れる否定のコメントも意に介せず、彼女は自信満々に誇り、宣言する。
「今入団しておけば、有名になってから自慢できるわよ!」
 だから、来なさいと。かかって来なさいと。飛び込んで来なさいと。
「泣く子も黙る雷鳴団の鬼団長、桑原・こがねがお相手仕るわ!」
 その宣言に応えるは、会場の拍手。そして、流れゆくコメントの数々。
『今確かに無名と認めま『感動した』『団が大事にされていた』『知った』『パネェwwwww』
 かぶさった機械音声に満足そうにうなずけば、こがねは一礼した。

――これが、かの雷鳴団の歴史に残る1ページとなった……かどうかは、また別のお話。

成功 🔵​🔵​🔴​


●怪人さん休憩中(1)
 地団太を踏む面持ちで登壇者を見送れば、男は椅子にもたれかかった。
 声に対してコメントで対抗することが、どれだけ困難であることか。
 そんな、初歩的なことを今更のように感じた彼は、自らの負ったハンデの重さをここで思い知っている。
「大丈夫……大丈夫。登壇者全員が全員話を聞かないなんて、そんなはずが……」
 不確かな言葉で自我を保ちながら、拳を握る。
 そうだ、まだ1人目だ。これからが本番だ。切り替えていかねばならない。そのためにも、そのためにもまずすることは――

『パネェwwwwwww』

 取り急ぎ、流れてきた言葉をNGワードに登録した。
神羅・アマミ
なるほど!『ブレーメンの左手の法則』が何なのかはさっぱりわからんが面白そうじゃのー!
これはアレじゃろ?「定説を覆す法則が見つかった」とか言って片っ端から嘘ぶっこけばええんじゃろ?
『シクラメンの右手の法則』とか『ラガーメンの左足の法則』とか『パーコーメンの頭の法則』とか。

「そんなものはない」と噛みつかれるじゃろが、「最新号の科学雑誌にはちゃんと載っている」「ネットに頼りっきりだから騙される」「勉強してください?」とアナログ方面に訴えることで混乱を呼び時間を稼ぐ。
いい加減煮詰まってきた頃合いに「全部嘘に決まっとるじゃろが。『ブレーメン』も妾の吐いた嘘の一つだったと何故気づかぬ?」と巻き込むぞい!


レムナント・ノア
オホホホ! わたくしインテリジェンス迸る淑女ゆえ
冷静に対応致しますわ!
他の猟兵達にも快く相槌を。手と手を取り合います。

なるほどなるほど、わかりますわ。
それらはすべて気圧が関係してますわね……つまり
ヌタウナギヌルニーニョ現象の影響ですわ!

あら、あら。そうですわね。ヌタウナギヌルニーニョ現象は
少し前までそのように否定されていましたの。
(一度否定を飲み込みますわ!)
ですが先月、高名な大学の研究により存在が証明されましたの!
化学賞も間違いなしと、有識者の間では最早常識と思っておりましたけれど……?
まあ、落ち込まなくて良くってよ。最先端に乗り遅れただけです。
貴方はお若くていらっしゃるから、オホ、オホホ!



●定説は覆すためにある
 熱気冷めやらぬ現地にて。続いて壇上に上がった人影に、会場はざわついた。それはコメントも変わりなく、『は?』『えええええ』『(※このコメントは表示されません)』等々の羅列と機械音声が止む気配はない。
「オホホホ! 大盛り上がりのご様子! わたくし達、期待されておりますのね!」
「お主のせいだと思うんじゃがのー」
 オホホホ! 何あの格好!? オホホホ!? 長身痩躯の男から発せられた言葉が、オホホホ!?!? 
 おそらくそういったニュアンスの反応に心地よいものを感じるように、ハイテンションなその男、レムナント・ノア(おてんば・f07798)は口元に手を当てて大きく笑う。
 一方で妾も目立ちたいんじゃがのーと静かに嫉妬心を燃やす小柄な少女、神羅・アマミ(凡テ一太刀ニテ征ク・f00889)はこの場の主導権を握らんとマイクへ手を伸ばし、声高に叫んだ。
「あーあー、テステス。よし! お主たち聞こえておるな? 妾は森羅・アマミである! 今回は……」
「わたくしは淑女こと、あらやだ間違えた。インテリジェンスな淑女ことレムナント・ノア改めキャスリンですの! またはエリザベスでもよくってよ!」
 淑女! 淑女!? インテリジェンス! インテリジェンス!? 改めキャスリン! またはエリザベス!? 会場が荒れればコメントも荒れる。『草』『これはひどい』『どっちかにしろ』『(※このコメントは表示されません)』等々、其は大波のごとく。
「今わしがしゃべっとったじゃろうが!!」
 強烈なカウンターシャウトを喰らわすと、身を乗り出してきたレムナントを押し返し、アマミは今度こそと言葉をつなげる。
「今回、妾たちは最近ネットで話題になっておる、ある法則についての研究結果を発表しに来たのじゃ」
 人材募集の次は研究発表と来たか。会場もコメントも二人目もとい二組目を前にして大方の空気を察したかのように、次の言葉を待つべく徐々にそのざわめきを鎮めて。
「本日いらっしゃった方々はわたくしたちに出会えて幸運でしたわね! オホホホホ!」
 鎮めてたんだけどなー。
「ギャワー! 出番が来るまで黙っとれー!!」
「あら失礼! ではわたくし、いいと言われるまで黙っておりますわ」
 口調に慣れても服装が残る、服装に慣れても口調が残る、両方慣れても奇妙な、一般男性の裏声にも似た――そのものである甲高い笑い声が耳に残らせながら。どこ吹く風と微笑みを携え、レムナントは会場を見渡す。社交界とは違った景色であるけれど、これはこれで面白い、と。
『おやおや、スピーチ会場で漫才ですかな?』
 そこに流れてきたのは、やはりひときわ長文で、ひときわ大文字で、ひときわ色を付けたコメント。
 素人は黙っとれ。全てを無視して呼吸を整えれば、ついにと言わんばかりにアマミは本題を切り出した。
「実はな。定説を覆す法則が見つかったのじゃ。その覆される定説とは、なんじゃと思う?」
 しん、と水を打ったように静まり返る会場。機械音声によるコメントの読み上げが無機質に、ただ音として流れ続けていく中、アマミは満足そうに答えを提示した。
「……聞いて驚け、なんと、かの有名な『ブレーメンの左手の法則』なのじゃ! あんなものはでたらめじゃ!」
 一拍遅れ、二拍遅れ、三拍遅れたぐらいでようやく、会場は爆発的に盛り上がりを見せた。それから数拍遅れればコメントも追いついて殺到する。
 あの! あのブレーメンの左手の法則が!? ブレーメンの左手の法則? 聞いたことあるわー、ある気がするわーという例のノリがまかり通るこの風潮、ちょっと不安です。
『マジ?』『それマ?』『なにそれ』『(※このコメントは表示されません)』と横殴りの雨のように流れるコメントをかき分けて、これに反応せざるを得ないのがRed&Big。
『それは聞き捨てなりませんな。そもそもあなたはブレーメンの左手の法則を理解しているとでも?』
 そのコメントは予測済みと言わんばかりに、音が出るほど演台を強く叩くアマミ。
「もちろんじゃ。理解した上で言っておるに決まっておろう。ま、ここでくどくど説明するよりかは新説の説明をしたほうがいいかのう? これが、シクラメンの右手の法則というものでじゃな」
 シクラメン! 左手の法則! すげー、どんどん知らない言葉が出てくる!!
「これは理論としては簡単なもので、ラガーメンの左足の法則を前提にしたものなのじゃ。そこなコメントの主もそれぐらいは知っておるじゃろ?」
 ラガーメン! いよいよどうかと思うけれど左足の法則! そして半数が頷く会場と長いものに巻かれつつあるコメント。『あれね』『知ってる』ってコメント、記録に残るぞ。『(※このコメントは表示されません)』ってコメント、いい加減他の単語を使え。
『馬鹿馬鹿しい、そんなの全てでまかせなのは皆さんもご承知のとおりだ。実際には何も説明していないのだから』
 長い、長いコメントを無機質な音声が読み上げる。それを最後まで聞くのも割と大変であることに会場も、そして運営も気づきつつある。
 そんな中、アマミはあくまで立場を変えずに。退屈そうにコメントへと反応を続ける。
「何について説明が必要なのかがよくわからぬのう」
 もしや、と。
「これらの法則が何かとは聞かないでほしいものじゃのう」
 知らぬのはお主の責任であろう? と。
 灰の髪が揺れれば、紅い瞳が妖しく光る。

 これには怪人も愕然とした。
 この小娘、まるで動じないどころか……すべての責任をこっちに押し付けてくるつもりだ! しかも、何か既視感のある方法で!!
(ふざけるな……ふざけるな! そんな論法が通ってたまるものか、この恥知らずめ!)
 残念ながら、怪人の部屋に鏡はない。
 反論を打ち込む手が高速で稼働すれば、自ずと配下へ支持する暇はどんどんと削れて行き、ついには画面を流れていく反論も徐々に少なくなっていく。
『研究成果を発表しようとしている以上、あなたには説明義務がある』
 自然とコメントの口調も強めになれば、食いしばられた歯はミシミシと音を立てるようで。
(絶対に、負かす)
 その決意が、彼の打つ手を支えていた。

 一方こちらは余裕余裕。コメントを最後まで眺めればニヤリと歯を見せて。
「仕方ないのう、じゃあ簡単に説明するとじゃな」
 ちらりと、隣を見る。
 不気味もとい奇妙なオブジェと目が合った。オブジェは静かに微笑みを湛えている……。
「喋れと言っとるんじゃ」
「あららー! 言ってました? 今本当にそう仰いました!?」
 オホホホホ! 帰ってきたオホホホホ男は黒髪を振り回し、髪と同じ色の瞳でマイクを見つめる。両腕を垂らし、不思議なポーズのまま、遅れて流れる機械音声に耳を傾けて。
「うんうんうんうん、はいはいはいはい」
 なるほど、わかりましたわと頷いて。
「まあすべて気圧が関係してますわね、気圧ですわ気圧」
 ハイ解決、と言わんばかりにあっさりすぎる回答をマイクに囁いた。
 気圧ってなんだ? 気圧は知ってるだろ! 会場の反応を余所に、低気圧が続くと頭痛がするのよねーという彼に関する豆知識を聞かせられるがまま、何から指摘すればいいか迷ったところに追撃が届く。
「つまり……ヌタウナギヌルニーニョ現象の影響ですわ!」
 何。なんて? もう会場も追いつけない。いわんやコメントをや。
『ヌタウナギヌルに0如現象など、またわけのわからないことを』
 そしてRed&Bigは焦ってタイプミスをする。誤ったまま流れていくコメントと、誤ったままに読み上げる音声。
『先ほどからあなたたちの発言には根拠がひとつもない。気圧がどう関係するというのです。そもそものブレーメンの左手の法則を知らないからそういうことを』
「あら、あら。そうですわね。ヌタウナギヌルニーニョ現象は少し前までそのように否定されていましたの」
 はい、この人も聞いてません。
 わたくしは謙虚に否定も受け止めましょうと、そのオブジェもとい彼はまた頷く。良くうなずく人ほど話を聞いていない説を提唱されれば、思い切って信じてしまうほどには。
「でーすーがー」
「そう、根拠ならあるのじゃ!」
 再びアマミ。彼女が根拠として上げたのは名だたる科学雑誌の名前。
「そも、最新号の科学雑誌には載っておったはずじゃ。お主、読んでおらんのか?」
「そうですわ! そう! 先月、高名な大学の研究により存在が証明されましたの! 最新号の科学雑誌なら間違いなく載っていてよ?」
 オホホホホ!
 まだわしがしゃべっとるんじゃが!? というアマミの抗議を聞き流し、レムナントは何度目かわからぬ高笑いを会場に響かせる。
「受賞も間違いなしと、有識者の間では最早常識と思っておりましたけれど……?」

 その何にも恐れぬ、確固たる主張は、Red&Big――怪人に対してとある疑念を抱かせた。もしかして本当に、そんな法則があるのだろうか、と。基本的に、いつも自分が対峙する相手はうろたえていた。それは、自信がないからだ。未知に遭遇した時に、大体の者がとる行為は守りだ。故に、未知を防ごうと勉強し、そうした人がコメンテーターとなって意見を許されている。よくわからないが、たぶん大体そういう風にできている。
 でも、そんな努力はしたくない。したくないから怪人はこうして今日も活動している。それが今までうまくいっていたところ、今日はうまくいかない。とことんうまくいかない。それは、果たして相手が話を聞かないからだろうか。否、もしかして本当にこいつらが知識人である可能性は?
 特にあの男。見るからにおかしいが、天才ほどアレとも言う。もしかして、もしかして……?
 思索に陥った怪人。故に、反論のコメントは遅れ、トドメの一言が突き刺さる。
「まあ、落ち込まなくて良くってよ。最先端に乗り遅れただけですもの? それに、おそらく赤字の貴方は……きっとお若くていらっしゃるから、オホ、オホホ!」
 それは、一方的な勝利宣言だった。
『そんなはずはない』
 思わず打ち込んだコメントは短く、単なる否定の言葉。
「ネットばかりに頼っておるからじゃのう」
 加えて、自分より年下であろう少女にただ、勉強せい、とまで言われればもはや怪人も引っ込むわけにはいかず。何とか反論を絞り出そうと苦慮したところに浮かび上がったのは、最初から分かり切っていた紛れもない事実――

『ブレーメンの左手の法則なんてもの自体が出まかせだ』

 だから、お前たちの主張は誤りだとコメントが流れる。それを追う音声も。それは、確かに二人が重ねた主張を崩す、必殺の一打。
 あの! あのブレーメンの左手の法則が!? ブレーメンの左手の法則? 会場は本日何度目かわからない盛り上がりを見せれば、いやいやさっきも見たけどこの流れ。『俺は知ってた』『わかる』『誰か言ってくれると思ってた』『(※このコメントは表示されません)』等々、コメントもやっぱり大盛り上がりです。
 喧々囂々、追及が壇上に殺到すれば二人、積み上げたものを崩された状況に反してまるで勝利を確信したかのように――否。
「んんー、確かにわたくし達の主張は誤りだけれど……結果としては大正解ですわ」
「だから、最初から言っておるじゃろうが」
 既に勝負は終わっていた。

「妾は最初に、ブレーメンの左手の法則なんぞ、でたらめじゃと言ったんじゃ」

 そういえば、そうだったか。そうだったかもしれない。
 矢継ぎ早に繰り出される新理論に、新法則に、会場もコメントも、ここに立つ二人以外が惑わされていた。そう、わけのわからない法則を否定するための話が、いつの間にか、わけのわからない法則の話にすり替えられていたことに気づかず。
「赤字以外に誰ぞおるのか? ブレーメンの左手の法則なんてものを肯定する奴は」
 反応はない。不思議と芽生える静かな感動に、会場は沈黙し、そして覆いつくす拍手。
「大体こんなん、全部嘘に決まっとろうが! すぐに気づかずしてお主たちはなんじゃ!」
「オホホホホ! 皆様、何でもかんでも、信じ込んではなりませんことよ」
 それこそが、本来二人が主張したかったテーマだと言わんばかりに。二人はそれぞれ会場に、そして画面の向こうにいるであろう視聴者に向かって声を上げる。
 かくして、称賛するコメントの中にRed&Bigはまたもや流されて。

 言うべきことは言いつくしたと互いに顔を見合わせれば、二人は礼をした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​


●怪人さん休憩中(2)
 男は無意識に吠えていた。
 やられた、でもなく。この野郎、でもなく。
 言葉にならない叫びをあげて、椅子の背に頭を擦り続ける。

 そしてようやく、冷静になった。そう、れいせいになった。
 やってしまったことは仕方ない。そう、しかたない。

 だから、とりあえず、次の法則を考えておこうと。
フィリップ・スカイ
キーラ(f05497)とコンビで挑戦だ。

スピーチねえ。面白いことになってるが、今回俺は裏方。
喋るのはキーラに任せますよ。
カメラの後ろからキーラのサポートに徹するとしましょう。
カンペで的確に指示を出していきますよ。

向こうさんはどうせ下らない謎理論とか嘘知識でマウント取ってくるんでしょうが、
冷静になれば全然怖くねえですね。

謎理論には矛盾を付く。
いちゃもんってのはそもそも本質に関係無いことが多いのさ。
そこを付かれりゃ世迷い言に落ちるってもんですよ。

嘘知識はどうせネットで軽く検索しただけでボロが出るやつでしょうよ。
調べて出ない言葉はデタラメだと指摘してやればいいし、それでも言い張るなら出典出せってな。


冬晴・キーラ
フィリップの野郎(f05496)と合わせ希望。

 今日のスピーチで観客共にお伝えしたいのはこれだ☆
「この世で一番美味しいお菓子『ランバージャックの切株』説」
ちょっとマイナー気味だし、コンビニとかでは中々手に入らないけど、ほんっとうまいからこれ★
 甘さ控えめのミルクチョコレートと香りの良い全粒粉入りビスケットの組み合わせで、見た目も食感も味も抜群! 大ボリューム! しかもお財布に優しい100円!
 蓋を開けると楽しい間違い探しも入っていて女児も大喜び☆

細かいことは知らんぜ! 反論はフィリップに任せる☆
困ったらメガホンで大声を出したり、涙目になったり、あざといカメラ目線可愛いポーズでごまかすぜ★



●ダイレクトマーケティング
「おらおらー、キーラちゃんだぜー☆」
 二人組からバトンを受けて、壇上に登ってきたのはこれまた小柄な少女。冬晴・キーラ(星空アジタート・f05497)は星に彩られたメガホンを片手に、マイクを除けて自己紹介を始める。勢いよく手を振れば金の髪は揺れ、藍色の瞳でウインクすれば流星が飛ぶ。
『かわいい!』『ぱちぱちー』『半端ないって』とコメントが流れるより早く、会場は新たなアイドルを前にして半ば歓迎ムードに包まれる。さっきとは違って、不思議な高笑いも聞こえないし! キーラちゃーん!!
 一方、その光景を前にしばし考えると、カメラの後ろから【とりあえず元気に】とカンペを出す男、フィリップ・スカイ(キャプテンスカイ・f05496)。
「ま、特別気張る必要なんてありませんからね」
 いつも通りやってくれればそれでオーケーですよと壇上の相棒に視線を飛ばす。
 そのカンペと視線に気づいたかはともかく、一通り会場に手を振ると、キーラはずずいと身を乗り出した。
「今日のスピーチで観客共にお伝えしたいのは、これだ☆」
 共て。ともかく、メガホンがその声を響き渡らせれば、どこからかぴょこぴょこと。小さなぬいぐるみたちが壇上、両端に広がって前に出てくる。
 なんだなんだ、何が始まるんだ。『かわいい!』『どういう仕組み?』『半端ないって~』と、会場もコメントもこの演出には興味津々。皆が固唾をのんで見つめる中、フィリップは【共→みんな】と細かく指示を送って。
『人材募集、漫才ときて次は人形劇ですか』
 復活のRed&Big。しかし今はみんなそれどころではない。今いいとこだから!
 配置が終わり、いよいよかとざわつく会場。早くと催促が流れるコメント。【元気よく】と出されるカンペ。全てを受け止めたのち、せーの、とキーラが合図を送る。
 かくして、ぬいぐるみたちが一斉に空高く掲げたものは――何かの棒、ではなく。何本もの棒にかかるよう張られた横断幕。書かれた内容はずばり、
「この世で一番美味しいお菓子『ランバージャックの切株』説ー!」
 キーラが読み上げた通りの内容が、そこにはあった。すなわち、今回の本題。
 すかさずフィリップが拍手を始めれば、会場もそういうノリかと拍手に乗って。
『すご』『ぱちぱちー』『半端ない』等々、コメントもその演出に対し肯定的なものが多く。
「聴衆を味方につけるのが一番楽ですからね、こういうのは」
 計算通り。凝った演出を考えた甲斐がありますわと、場の盛り上がりを前に彼は苦笑する。視線の先、キーラがメガホンで合図を送ると、来た時と同じようにぬいぐるみたちは退場。
『スピーチの場で商品紹介とは、まさかステルスマーケティングですか』
 Red&Bigのコメントが流れるのを確認すれば、【無視】というカンペを出して。
「じゃ、あとは頼みましたよ」
 一仕事終えたと言わんばかりに、フィリップは深く息を吐き出した。

 じゃあ早速紹介するぜ☆と、カンペの指示通りコメントは無視したまま。キーラは取り出した菓子を、観客や視聴者に見えるようになるべく高く掲げる。
「ちょっとマイナー気味だし、コンビニとかでは中々手に入らないけど、ほんっとうまいからこれ★」
 ほんっとう、のあたりに気持ちがこもっている。やや溜めの入った表現に、演技の類は感じられない。キラキラした目が何より雄弁にそれを語っている。
『いいですか、あなたのやっていることは商品の宣伝で』
「甘さ控えめのミルクチョコレート!」
 ミルクチョコレート!
『このような開かれた場で特定の商品を紹介することは』
「そこに香りの良い全粒粉入りビスケットの組み合わせ!」
 全粒粉入りビスケット!
『その企業から金銭の提供を受けたと疑われても仕方の』
「見た目も食感も味も抜群!」
 抜群! すごい! よくわからないけどおいしそう! 会場は通販のノリ!
『先ほどから全く返答がないのはやましい気持ちが』
「大ボリューム! しかもお財布に優しい100円!」
 大ボリューム! これにはコメントもノリノリ!『うちの壁コンコンコンしたら出るかな』『店行け』『ちょっとコンコンコンしてくる』『これ半端ないって~』 キマイラフューチャーの住人は今日もノってます。
「あー、言ってたら食べたくなったじゃん。ここで食べていいよな☆」
【感想は大声で】と肯定のカンペが返ってくれば、徹底的に赤字は無視したまま、キーラは掲げた菓子の袋をわくわくと開けて。
「そうそう、蓋を開けると楽しい間違い探しも入っていて女児も大喜び☆」
 カメラ目線でおまけを指させば、ウインクと一緒にまた星が飛んでいく。さあ、一口とチョコビスケットにかぶりつこうとすれば、それでもあきらめないのがRed&Big。
『これは悪質です。通報させてもらいます』
 通報。温度差の違うコメントに、会場もコメント欄にも動揺が広がる。
 いや、それよりも今この状況で食べて良いのか悪いのか? キーラ様にとってはそちらのほうが大事だとフィリップを見やれば、出てるカンペは【泣け】の一言。
「う……うぅ……キーラちゃん、通報されちゃうの?」
 どんな無茶ぶりだと思うものの慣れたもの。やや縮こまり、カメラ目線。涙目になって会場に問えば、返ってくるのは応援の声。そして他のコメント。
 がんばれー! がんばえー! 『泣かないで』『笑ってー』『もぅ半端ないって~』
「いやー、残念ながらもうみんなこちら側なんですわ」
 カンペを出しながらフィリップは一人笑う。相棒の演技の白々しさと、会場の一体感に想像以上のものを感じながら。
「じゃ、反撃していきますか」
 無視は終わって反撃タイム。【なんで?】と、次のカンペを出すとキーラはその意を汲んで。
「どうして通報されちゃうの?」
 小刻みに震えると、顔の前に小さく握った両手を当てて。最初に除けたマイクが、小さくその声を拾い上げる。それはまさに、年相応の少女がか細く、必死に絞り出した反論のように。
 そうだそうだ、と会場。『無視していいでしょ』とコメント。大体の世間は少女にやさしい。それはこの世界でも変わりなく、プラスとなって働いていく。
『それは先程から言っています。これは、ステルスマーケティングだと』
 瞬時に流れる赤字コメントに、また素早く反応するのはフィリップのカンペ。
【好きなものを言ってるだけ】
「キーラちゃんは、好きなものを、好きって言ってるだけなのに……」
【何が悪い】
「何が悪いの? 好きって言っちゃ、いけないの?」
 態度に合わせて口調も変えれば、味方たちの声は一気に爆発する。
 負けるなー! 良いよー! 『好きって言ってー!』『キーラ、半端ないって~』
 押し寄せる声、怒涛のコメント。かくして、Red&Bigは――

 ずるくない?
 いやいやいやいやずるいわ、と怪人はうなる。
(これじゃあ、こっちが悪役じゃん……!)
 悪役です。
 そして悪役は考える。好きなものを好きという行為が今、この会場と視聴者たち認められてしまった以上、先程までのコメントではまた二の轍を踏むばかりに違いないと。
 よって、方針を変えようと決意した。
 あのわけのわからない菓子を貶めて、正しく導くスタンスで勝とう、と。

『通報は軽いジョークです。でも、その菓子の栄養素はどうなっていますか? グレーテルの第三理論からすると、その菓子はあなたにとってもおすすめができません。ましてや、世界一だなんて』
 ひときわ長いコメントが、帰ってきた。グレーテルの第三理論とやらを携えて!
 なんだそれは、なんだなんだと会場が反応を示せば、壇上のキーラもぽかんとした顔で。これはそんな理論云々より、栄養なんて元から気にしたことがない顔。開けたコレをまだ食べちゃダメなのかという顔。
『グレーテルの第三理論ですよ。ご存じない?』
「そんな下らない謎理論。冷静になれば全然怖くねえですわ」
 畳みかけるように流れていくRed&Bigを鼻で笑い、フィリップは持ち出した端末で新理論とやらを並行して検索。結果を確認すれば、用意していたページをめくり。原稿どおりに、事前の打ち合わせの通りにとキーラに合図を送る。曰く、対でたらめシフトだと。
「あー、そうやって赤字ちゃん。まーたウソ教えようとしてんじゃねえのー☆」
 意を得たと、キーラは歯を見せて再びの強気スマイル。まーた、のところにアクセントを込めて、全てをお見通しだと言わんばかりに。
『ウソとは心外です。ご存じないのであれば、あなたの勉強不足ということで』
【どこで?】
「おっかしいなー、今キーラちゃんの端末で検索してもそんな言葉出てこないぜー☆ ちょっと、どこを調べれば載ってるのか教えろよ★」
『それはご自分でたどり着いていただかないと意味がありませんから』
【おすすめは?】
「おすすめできる菓子が他にあるのけ?」
『法則を完全に満たすお菓子は市販品にはありませんね。やはり手作りこそ、必要な栄養に満ちた、理想の菓子でしょう』
 繰り返されるやり取りを聞きながら、フィリップは詰めを考える。墓穴を掘らせるために必要な質問を。
【足りない?(泣)】
「じゃあ、この『ランバージャックの切株』は、そのなんちゃらの法則に及ばないんだ……」
 悲しそうにと、注文通りに返答させれば。
『足りてません。栄養学的には未熟と言っても良いほどには』
 まるで勝ち誇ったように。あるいはマウントポジション。赤字が会場の画面に大きく流れ、機械音声がそれを読み上げる。果たして、それは――
「でもそれって、他と組み合わせれば足りる話じゃねえの★」
 二人にとっての反撃の契機。そもそも、おやつタイムがお菓子ひとつで終わるものかと。大ボリュームであったとして、それだけで満足できるほどキーラは聞き分けがよくはない。
「足りてないなら、これ以外に他のお菓子も食べられるってことじゃん☆」
 足りないと断言するぐらいなら、喜んで他のお菓子でバランスをとってやると。ここでようやく食べれるとチョコビスケットにかじりつけば、満面の笑みがアップになって会場のスクリーン、そして番組の映像としてアップで表示される。交じりっ気のない純粋な笑顔は、強い。
 あー確かに。別にお菓子だけで栄養とるものでもないもんな、と会場。『野菜ジュースとか飲も?』『甘いの食べるとしょっぱいの欲しいよね』『半端ないって☆』とコメント。
『いいえ、足りないのは栄養だけであってカロリー的にそのお菓子は』
 なおも食い下がるRed&Bigに対して、キーラ。
「これ、実は一般的なものより低カロリーだぜ★」
 そう言って読み上げられた数字は、さすがの全粒粉入り。
 これよりカロリーが高いお菓子なんてざらにある。ならば、総合的に評価してこのお菓子は――良いお菓子という結論で良いのではないか。最強においしいかは知らんけど。会場は動き、コメントも同意する。
「いちゃもんってのは、そもそも本質に関係無いことが多いのさ」
 謎理論には矛盾をつくもんですよと、フィリップがカンペに書き出していたのは、『ランバージャックの切株』の栄養成分表示。今回であれば、栄養に焦点を当てたのが相手の悪手。栄養が無いからダメだという割に、組み合わせて補うという思考が足りていない。まるで、ネットに記載された栄養素のみを考慮して、貶めんとする特定商品のことしか考えていない。全く、出来の悪いいちゃもんですわと小さく伸び。
「あの菓子しか調べてないんじゃ、そりゃあ平均値もわからないことで」
 栄養学の心得があるならば、あのカロリーが低めであることは一発でわかったろうに。それを指摘されるまで気づかなかったことが、この赤字がでたらめを告げている証拠に他ならない。
「いちゃもんなんて、そうした矛盾をつかれりゃ世迷い言に落ちます」
 そう言ってカンペに書かれたのは、最後の指示。
【好きにやれ】
 言われなくとも、と。
「じゃあみんなー★ 最後に、合わせてシャウトしようぜー☆」
 キーラがマジカルメガホンを構えれば、会場も、視聴者も、一部を除いて一つになって。

「世界で一番おいしいお菓子はー!?」

 ランバージャックの切株ー! 『ランバージャックの切株ー!』『切株ー!!』
 お菓子の名前が会場内で唱和され、コメントは画面さえ塗りつぶし。
『何をもって世界一とするの『半端ねぇ切株ー!!』『切株半端ないって~!』
 三度目の挑戦も、Red&Bigの声は遮られて消えた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​


●怪人さん休憩中(3)
 もう法則は使わないほうがいい気がしてきた。
 男は、そんなことを誰もいない室内で呟く。
 うかつだった。通常の配信のように、アバターで飛び込めればよかったのだ。
 それが、声も飛ばず、コメントしか飛ばせないがためにこのような窮地に陥っている。ほかに原因があるかもしれないが、たぶん窮地の原因はこの環境差に他ならない。今決めた。そう決めた。

 かくなる上は、乗り込んで実力行使も想定せねばなるまいか。いや、それはこちらが負けを認めたようなもの。あくまで、提供されたフィールドで勝ってこそ、権威を示せるというもの。

 次こそは。怪人は決意を固める。次でダメならば、奥の手だと。
シエラ・アルバスティ
SPD

さぁ……魂のスピーチで【わからせる】よ(目がマジ

自信しかない初撃

「可愛いって素晴らしいですよね、特に幼女」

高速詠唱

「幼女とは全人類の癒し、他に類を見ない究極の可愛さを持つ天使です。彼女らは無邪気に人懐こい、余りにピュアで余りに危うい」

反論は許さない

「シャラップ!!」

誘導

「あなた、小動物は好き?」

引き込み

「なら貴方は幼女好きになれる、可愛いを守りたいという本質は同じだから」

わからせる

「可愛いは正義! 尊い! 守るべきなのです、命を賭してでも!!」

両手を広げ満足そうに目を閉じ皆と心を一つに!

「さぁ、皆さん! 盛大なる幼女コールを!!」

分からず屋には『雑貨屋【朧月】のお箸』を音速で投げつける



●かわいいことはいいことだ!
「風の声が聞こえる……」
 第一声がそれか。しかし会場もコメントも慣れたもの。新たな登壇者を温かい拍手で迎えれば、今度は何を話してくれるのかと期待に満ちたまなざしを、コメントを、次々に壇上へと向けていく。
 対して、登壇者たる彼女、シエラ・アルバスティ(自由に生きる疾風の白き人狼・f10505)は緊張した様子もなく。
「私はシエラ。さぁ……魂のスピーチで『わからせる』よ」
 あー、そういう感じの人かー。
 しかしてその瞳に冗談の色はなく。本気と書いてマジと読むアレ。いざやとマイクをつかめば、流れ出したのは本題。

「ふふ、可愛いって素晴らしいですよね、特に幼女」

 うーん、うんうん。わかるわかる。可愛いっていいよね! 力だよね! でも今幼女はどうだろう。会場の迷いを受けたまま、コメントの皆さんを追えば『やべえやつじゃん』『わかる』『は?』『草』と、早速大荒れ。
『可愛いもので、なぜわざわざ幼女を上げるかが理解に苦しみますね』
 これを機としてRed&Bigが長文をコメントすれば、遅れてくるコメント読み上げより先に、シエラの高速詠唱が牙を剥く!
「幼女とは全人類の癒し、他に類を見ない究極の可愛さを持つ天使です。彼女らは無邪気に人懐こい、余りにピュアで余りに危うい」
 故に守護らねばならぬ。他ならぬこの手で! この私が! 私こそが!
 その目に宿るのは狂気ではなく、狂気にも似た純なる信仰。彼女を支える理想が、信念が、この会場とコメントに暴風を呼び立てる。
『仰っている意味が分かりませんね』
 ここは全面的に正しいRed&Big。しかし、正論は時に暴風を前に吹き飛ばされる。
「シャラップ!!」
 黙れと制すれば、白い長髪を振り乱し。緑の双眸がカメラを通して怪人を睨みつけた。
 なんだなんだ、なんなんだこの人は。
 あの人、ヒーローなんだよね? 会場も戸惑う。『ヒーローって、みんなこうなの?』、コメントも戸惑う。
『あなた方の思想はずいぶんと変わってらっしゃるのですな』
 怪人も戸惑う。
「そうです!」
 嘘を言うな! 運営も戸惑う。
「まあまあ、みんなの言いたいこともわかるよ……わかる! でもね、少し視点を変えてみて♪」
 荒れるというよりかは、やや引き気味な会場に語りかけるように。半分盛り上がっているコメントをさらに煽るように。そして、赤字で流れるコメントには優しく諭すように。
「あなた、小動物は好き?」
 小動物。各々がそれぞれ想像すれば、それは猫か。それより小さい栗鼠か、ハムスターという可能性もある。どれも愛らしく、つぶらな瞳を思い浮かべれば自然と顔はほころんで。
 会場もコメントも、肯定の意見があふれればそれはRed&Bigも同じ様子。
『好きです』
 珍しく短文。そして肯定。小動物は対立の垣根を取り払う平和の象徴であるのかもしれない。ようやくわかりあえたのかと、ひとつの瞬間を目の当たりにした会場、そしてコメントは一種の感動に包まれる。
 それはシエラも同じように、その返答に瞳を輝かせれば――

「なら貴方は幼女好きになれる、可愛いを守りたいという本質は同じだから」

 感動に包まれてたんだけどなー。
 かかったなと言わんばかりに手を広げ、我々は仲間だというポーズ。
『幼女が好きとは言っていないでしょう。私は小動物が』
 うるせー! かわいいという共通点があるじゃろがい!! そんなことを彼女が感じていたかどうかは定かではないけれど、意に介せずとその口は次々に言葉を捲し立てる。
「イエス! 可愛いは正義! 尊い! 守るべきなのです、命を賭してでも!!」
 敬礼のように、胸にあてた手を宙へまっすぐと伸ばし。そう、とにかくまっすぐ。彼女の主張は曲がることを知らず、ひたすらに直進する。
 好きって言ってもいいのだろうか? 会場から声が上がった。
 コメントも、『好きって言っても通報されない?』と流れた。
『駄目でしょう』
 Red&Bigは冷静だった。
 ともあれ、シエラの熱い思いが、徐々に良識という名の氷を溶かしていく。シエラはその光景を目の当たりにすれば、満足そうに目を閉じて。何かの教祖の如く、両腕を天に向かって広げれば、ああ! 皆と心を一つに!

「さぁ、皆さん! 盛大なる幼女コールを!!」

 幼女! 幼女! 『幼女!』『幼女!』

 なんだこれ。
 会場とコメントに取り残されたRed&Big――怪人。
(あれ、今回に限っては正しいこと言ってるはずなのに)
 今回に限っては。
 故に悩む。おかしくない? いやおかしいだろ。怪人はひとり、頭を抱える。
 こんなに、正論を言うことが難しいことだとは。今まで、自分と相対した者すべての顔が脳裏に浮かべば、次々とその苦労がしのばれて。
 いいや、だからこそ戦わねばならぬ。今ここで。自分が打倒してきた者たちのためにもと、謎の義務感に突き動かされるように。

『みなさん、目を覚ましてください。あなたたちは先導されて』
「うるせー!!」 
 シャウトと共にカメラへ投げつけられたのは、雑貨屋【朧月】のお箸。
 かくして音速の投擲を前に、カメラは破損。鳴りやまぬ幼女コール。
 言いたいことを言いつくしたまま、番組は一時中断。
 Red&Bigの決意は、喧噪に飲まれ消えていった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 冒険 『ファイトクラブ』

POW   :    パワーと気合で敵を圧倒!

SPD   :    スピード、テクニックで相手を翻弄!

WIZ   :    頭脳戦でバトルを支配する!

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●シフトチェンジ
 中断した映像を前に、怪人は決意した。
 真面目に論破しようとした、自分が愚かだった、と。
「ならば、次の手だ」
 そっちがその気なら、こっちにも手がある。
(真面目にとりあおうとしないスピーチ大会など、物理的に滅茶苦茶にしてくれる)
 即座に配下――自らを妄信する視聴者たちに会場への乱入を命じる。何、奴らはどうせ口だけの相手だ。こちらの配下は相当数が控えている。その数に任せて暴動を起こせば、放送の再開もなく、奴らもついでに叩き伏せつつ、私の気が晴れるというもの。
「ふふ、相手が悪かったですねえ」

 果たして、それはどっちのことか。
●颯爽登場、妨害軍団!
 そして会場。カメラが直った折、想定されたとおりに謎の集団が会場へと殺到する。
「これからの時代は知ばかりではなく力も必要だ!」
 どんな時代だ。
「そうだそうだ!」
 そうだそうだではない。
「ヒャッハー!!」
 ヒャッハー!!

 しかし、それを理由にカメラを止める猟兵たちではない!
「続きまして、第二部……」
 アナウンスが流れれば、高らかに宣言されるのは――
「新春拳闘大会フリー部門『武は口ほどにものをいう』を開始いたします!」
 そう、そっちがその気ならこっちもこの気!
 カメラをこう、なんやかんや的な感じで止めるな! 襲い掛かるゾンビもとい暴徒を前に猟兵たちは気合を入れなおす。そっちのほうが手っ取り早いやと、臆した様子も一切なく。

 いざ、第二部。はじまりはじまりー。
神羅・アマミ
いくら暴徒とは言えキマイラの住民なんじゃろ?
流石にボコしたらあかんのじゃなかろか…なんたって妾は無垢なる人々を守護する盾じゃからな!

というわけで第二部開会セレモニーとして「瓦割やってみた」のパフォーマンスをしてみたいと思うんじゃよー。
大体瓦10枚重ねで、こう、勢い余って『グラウンドクラッシャー』も発動しちゃって(コード使えないって明文化されてるけど!)、床板もろともバッキバキに粉砕してやれば住民たちも多少はたじろいでくれるじゃろ?

ただ、そこで敢えて「す、すまねー!妾の拳は所詮実戦向きじゃねーんじゃよー!話し合おう!な!?」と謙る。

それでも歯向かってくるナイス度胸な奴には死なない程度に腹パン



●開会セレモニー
 アナウンスが流れれば、殺到するかと思われた暴徒は足を止め。距離を取るようにして演台周辺を取り囲み、じりじりとその距離を詰める。
 何人いるのか、数えてる途中でちょろちょろと増え続けるので、そのうちアマミは数えるのをやめた。
「しかし……お主ら何故覆面なのじゃ?」
 見たところ、暴徒たちの背格好は怪人でもなんでもなく、この世界に生きるただの住人たちに思える。それぞれ、多種多様な努力で隠されている頭部を除けば。
「俺たちにも生活があるからよ!」
 とはヘルメット。
「身バレは避けなきゃならないのさベイビー」
 続けるはカーニバルマスク。
「特定だけはカンベンな!!」
 ミイラもどきが叫べば、要するに彼らの叫びはひとつ。

「「「邪魔したい!!! でもリスクは負いたくない!!!」」」

 風が……吹く! これが、これこそがこの世界の、この時代の叫びであろうか。
 その曲がることを知らない姿を前にして、アマミは耐える。この大たわけッ!! と思わずマジ叫びしたいぐらいの正直な主張に、眉間に力を入れ、歯を食いしばり耐える。
(ぼ、暴徒とは言えキマイラの住民じゃろうからな……!)
 そう、つまるところ相手は扇動されただけの一般人にほかならず。本来守るべき対象に対して手を上げるのは、彼女の『盾』たる矜持が許さない。
「わかったか、嬢ちゃん」
「年を重ねるということは、リスクと向き合うことなのさ」
 ヘルメットはどうだと言わんばかりに腕を組み、カーニバルマスクは風に吹かれた髪をそっと手で整える。お前そのマスク全然隠せてないからな。
 彼らの横柄な態度がまたアマミの感情を逆撫でれば、握る拳にも徐々に力が入り。
(流石に、流石にボコしたらあかんのじゃなかろか……あかん……あかんよな……)
 何とかこの場を暴力抜きで納めるべく、様々な構想を頭の中で練っては投げて、練っては投げて、ちぎっては投げつけて――ああ投げ飛ばしたいこの暴徒。
「あー、わかった、お主らの恰好のことはわかったのじゃ。じゃがな? なぜこんなことを……」
「ガキの相手はカンベンな!!」

「あ?」

 ミイラもどきを目で制すと、自ずと剣呑な音がアマミの口から漏れ出す。
 てへ、いっけないいっけない♪
「……っあー、ひどいのう。それでも、妾は無垢なる人々を守護する盾じゃからな!!」
 いやー、今のは危なかった。危なかったのじゃーと咄嗟のリカバリ!
「すみませんお嬢さん」
「気を悪くしないでください、レディ」
「許してくださいお嬢様」
 対して少女に対してビビる大人たち。リカバリとは。
「んっんー! ほ、ほら! とりあえずお主たちもアナウンスは聞こえたのじゃろ! とりあえず、妾はこれから開会セレモニーをするから……」
 それまで待っていてほしいのじゃ! とアマミが伝えれば二つ返事で肯定が届き、上下の形がぼんやりと浮かび上がれば物事はスムーズに進み。
「ちょっと待っててだって!」
 ちょっとでいいの? なんで? そりゃあ、あの子よりこっちのほうが年上だし? セレモニーの準備が進む壇上を注視しながら、暴徒たちの中でそんな会話が続く。
「暴徒にもマナーはありますからね」
 暴徒とは。

 かくして、演台が片づけられ、代わりに配置されたのはコンクリートブロック。そしてその上に積みあがった10枚の瓦。
「はい、というわけで今日は瓦割やってみたということでじゃな?」
『スピーチから切り替え早くないですか?』
 生きていたのかRed&Big! もっともな指摘をすれば、気づけば他のコメントも『期待』『神展開』『がんばえー』とこの状況を注視している様子。
 それは確かに、演武的なセレモニー。
 いやしかし、あの華奢な体であれほどの枚数を割れるものか? いやいやいや、どうせやらせに違いない。口だけの連中が誰でも割れるように、おおよそ最初から割れやすいよう加工されている瓦だろう。ちくわぶ大納言。お前にアマミちゃんの何がわかるんだよ! おい誰だ今の。
 会場も、暴徒も、そして流れゆくコメントも。その瓦と、瓦の前に立つアマミへと全ての意識を持っていかれる。ガチか、やらせか。その見極めのため。
(この注目は好都合……たじろいでもらうには、人ではなく物にたいして全力じゃ!)
 周囲のざわめきに反して、ただ静かに構えをとる。やがて、アマミの腕には戦意に応じた紋章が浮かび上がり――
「破ッ!」
 声を吐けば、振り上げた腕が音よりも早く結果を現界させる。
 瓦はおろか、その土台たるコンクリートブロックを粉砕し、なおその衝撃は止まることを知らず。それは、多少の怒りが成した業か否か。抵抗を知らぬ一撃は更に床板を食い破り、其を支える地面に身を預けてようやく消えた。……その余波を周囲に拡散しながら。
『火薬使いました?』
 それを、Red&Bigの見当違いな突っ込みであると、笑える者はどれだけいただろうか。立ち込める土煙、飛び散った破片、大破した壇上と静まり返る会場。そこに、五体満足で立つ少女が見えなければ只の大惨事であったことだろう。だが、アマミはそこに立っている。この一撃こそは火薬でもなんでもなく、彼女の技によるものなれば……
「す、すまねー!」
 突如としてアマミは両手を合わせ周囲に向かって謝罪を始める。半ば、畏怖と驚愕に包まれていた会場は呆気にとられる中、本人に至っては、まるで今の行為がなんでもない、ただの失敗であったと自嘲するようにして。
「妾の拳は所詮実戦向きじゃねーんじゃよー! 話し合おう! な!?」
 それは、はたして謙遜か。
 舌を出して、照れくさそうに謝る姿は年相応の少女だが、その側にある破壊の傷跡があまりにも生々しく、その言葉の裏にある真意を悟らせる。
「俺たち大人だから話し合えるなら話したほうがいいと思う」
 ヘルメット、正解。
「これからは知性の時代、それがよくわかったよ」
 カーニバルマスク、正解。
「つまり、実戦だと俺たちが有利ってことかな」
 オイオイオイオイ、死んだわミイラもどき。

 かくして、セレモニーは無事終了。
 物わかりのいい者は退場し、暴徒の総数を一定数減らせた形で、乱戦上等拳闘大会がスタートする。
「暴力は何も生まないんじゃがのー」
 ミイラもどきに腹パン(やさしめ)を入れながら、アマミは息を吐いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レムナント・ノア
暴漢! 暴漢ですわ! キャーーーー!!
イヤァーーーー!!!

わたくし見てのとおりか弱い非戦闘員の乙女ですの!
拳闘大会なんて野蛮なこと……わたくしの騎士(ナイト)ことタマちゃんが致します!

ライオンライドでライオンのタマちゃん召喚ですわ~。
それそれネコパンチ! ネコキック! 踏んづけておしまいなさい!
まあ、食べちゃダメですわよ?

わたくし? わたくしはすることがないので
【楽器演奏】でタンバリン叩いてますわ。
シャンシャンシャン! シャラリラシャンシャン!
タマちゃんの背は視界が広いので、他の猟兵方が不意打ちされないように
声掛けも忘れず応援してますわよ~。
わたくしを守ってくださいね? シャンシャンシャン!



●絹を裂く音
 ではなく、鋼板を裂く音だろうか。
「キェイァーーー!!」
 違いました、悲鳴でした。
「暴漢! 暴漢ですわ! キャーーーー!!」
 乱戦上等こと拳闘大会が開始されれば、まず何より大音量で飛び込んできたのはレムナントの声。奇抜な恰好、奇怪な言動、奇妙な声。3Kそろえば大人気とばかりに暴徒に追われ、息も絶え絶えに――
「イヤァーーーー!!!」
 全然息が絶える気配がない。
「悪いなあ、旦那の指示だ」
「ちょいと画面に映れない姿になってもらうぜ」
 紙袋を被った暴徒カラースプレーを、麻袋を被った暴徒が黒い油性マジックを持って近づけば、彼の悲鳴はより一層迫力を増して。
「キーーーイーーーヤーーーァーーーーーー!!!!」
 いつ息吸ってんのこの人。
 今夜夢に見そうだわと追う方も追う方。今更狙いを変えるわけにもいかず、ようやくのことで追い詰めれば。
「わたくし見てのとおりか弱い非戦闘員の乙女ですの!」
「お前のような乙女がいるか!!」
 見逃しなさいと吠えるレムナントに刺さる、暴徒の正論。か弱いところを否定しなかったのは、せめてもの恩情か。しかし、状況に代わりがないのなら、恩情に意味などなく。この状況を乗り切るべく、彼は決意を固める。
「うぅ、拳闘大会なんて野蛮なこと……代わりにわたくしの騎士(ナイト)ことタマちゃんが致します!」
 宣誓と共に構えられた独特のポーズ。そこに来て、ようやく暴徒は警戒する。そういえば、こいつもヒーローらしい。だとすれば、自分たちの及ばぬ力を手にしているのではないかと。
「大丈夫、俺たちも落書きするだけだから」
 途端に、頭脳派だけど駆り出されちまって、と折れようとする暴徒。
「そうそう、映れないようにすればいいってだけ言われたから俺たち」
 すかさず差し込まれる、もう一人による危害を与えるつもりはないアピール。レムナントを狙っていたのは、体力に自信がないためだったのか。しかし、
「タマちゃ~ん!!」
 自称お嬢様は、やはり人の話を聞かなかった。いや、聞く余裕がなかった。その頭の中で作成されためくるめく未来の悲劇が、その聴力を奪ったとも言える。目指す高みは四大悲劇。辱めを受けるぐらいなら、と振り切ったお嬢様の決心。そしてそれが生み出したのは、4m近い高さを誇る黄金のライオン!
「それそれネコパンチ! ネコキック!」
 颯爽と騎乗すれば、踏んづけておしまいなさいと。
「いや、あの、拳闘大会……」
 紙袋の暴徒が巨大な肉球にはたかれつつ、また正論を言った。
「キーッ!! 角材や火炎瓶を持ち込む輩が何を今更申しますの!!」
「これは、カラースプレーと油性マジック……」
 麻袋の暴徒が巨大な足に砂をかけられながら、続けて正論を言った。
『おやおや、どうやらルール違反をした者がいるようですね。それか、拳闘の意味をご存じない?』
「タマちゃんの拳で戦えば拳闘ではありませんこと!?」
 Red&Bigがここぞとばかりにコメントを流せば、レムナントも逆上するようにして声を張り上げる。必死だった。その場にいるすべての者が必死だった。
 紙袋の暴徒は、自分はライオンに食われるかもしれないと。
 麻袋の暴徒は、自分もライオンに食われるかもしれないと。
 Red&Bigは、このままだと妨害工作が失敗するかもしれないと。
 レムナントは、この人たちに滅茶苦茶に、悲劇の主人公にされてしまうかもしれないと。
「「食べないでください」」
「まあ。じゃあタマちゃん、食べちゃダメですわよ?」
『拳闘大会の意味を広くとらえすぎではないですか?』
 結ばれる協定、そして流れるRed&Bigの憂い。今回ばかりは赤字に賛同するようにコメントも多く流れる。『やりすぎ』『俺がルールブックだ!』『草』『(※このコメントは表示されません)』等々……よく見るとそうでもないし、まだ同じコメントしてる人いますね。

 シャンシャンシャン! シャラリラシャンシャン!

 なんだ、急になんだ。
 死んだふりをする周囲の暴徒が、こわごわと見上げれば。
「オホホホホ! 皆さん、わたくしが応援いたしますわ! どうぞ、わたくしの代わりに!!」
 頑張ってくださいまし、と黄金のライオンの上。レムナントが高らかにタンバリンを鳴らしている。
 悪夢だ、と暴徒の誰かが言った。今日寝るときに見そうとか、そういうレベルではなく。現在進行形で見せられている系の悪夢。結果、死んだふりの演技により一層のリアリティ、すなわち磨きがかかる。
「皆さんを応援することがわたくしの無事につながるのです! ですからどうぞご遠慮なく。そこの方、背中がお留守ですわよ!!」
 シャンシャンシャン! オホホホホ! シャンシャンシャンシャン!! オホホホホホ!!
 
 うるさいと、タマちゃんが背中の騒音を振り落とした。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

フィリップ・スカイ
続けてキーラ(f05497)と行くぜ。

よってたかって来ても雑魚は雑魚ってな。
ユーベルコードを使うまでもねえ。
俺の鮮やかなフットワークとマッハパンチを見せてやりますよっと。
キーラ、後ろは任せたぜ!

あれ、キーラ何してんだ手伝え。
いやいや、俺一人で十分とか応援すればいいだろとかそういう問題じゃないでしょ。
相棒の絆にヒビが入りますよ?
ったくしょーがねーな。

いやいや、完全にサボりモード入ってんじゃねーか!
ふざけんな働け!
ガジェットショータイム!
4、5人ぐれーふっとばして押し付けてやる!


冬晴・キーラ
えー、口で負けたから暴力ってそういうのよくねーと思うなー☆
でもまー、キーラちゃん、荒事は苦手だから相棒であるところのフィリップの活躍をボンボンとか振ってぬいぐるみと一緒に応援してます☆
飽きたら、カメラに向かって可愛いポーズしたり、旅団の宣伝したり、お菓子くったりゲームしたり寝たりするぜ☆
なんかしらないけど、フィリップがいたらあいつがなんとかするでしょ。知らねーけど。

押し付けられたら、慌てて立ち上がってマジカルメガホンでぬいぐるみ共に撃退してもらうぜ☆
囲んで棒で殴ったり、どっか彼方のほうに運んでいったり、もう一回フィリップにふっ飛ばし返したり。

気が向いたら、二人でせーのでふっ飛ばしたりするー☆



●適材(敵在)適所
「えー、口で負けたから暴力ってそういうのよくねーと思うなー☆」
 壊れた壇上、キーラは傾いた演台に腰掛けながら、煽る。見下ろしているのか、見下しているのか、そのメガホンは迫りくる暴徒に向けられて。
「フィリップー」
 少し角度を変えて声を届ければ、飛び掛かる暴徒を彼の右ストレートが吹き飛ばす。
「ったく、ちっとは怖がった方がいいですよ?」
 動じぬ相棒の代わりにと前に出れば、我も我もと集う目出し帽の群れ。銃は無し。刃物もなければ統制もない。かつての修羅場に比べりゃイージーモードってとこですかね、と口の端をを上げて。
「よってたかって来ても雑魚は雑魚ってな」
 堪えきれずに飛び出した暴徒の足をひっかければ、雪崩れる後続。遅れた飛び込みを間髪なく拳で撃ち落とすも、彼の足は止まらず。絶えず動くようにステップを踏み、残りを見やる。
「キーラ、後ろは任せたぜ!」
「おっけー、がんばれがんばれー☆」
 ばっちし、理解してるぜと。その背を見守る姿はいつのまにか増えて。キーラがボンボンを振れば、ぬいぐるみたちも真似て手を振って。キーラちゃん、荒事は苦手なの☆ カメラに気づけばそう言ってポーズ。フレーフレーフィ-リップ☆ フレーフレーフィーリップ☆

「何してんだ」
「応援☆」
「手伝え」
「えー」

 だって、そいつらキーラ様よりフィリップに用事があるみたいだぜ? そう彼女が指さしたのは、起き上がり肩を組む暴徒たち。その目に燃えるのはひとえに、憎悪。
「「「「「イケメンめ……!!」」」」」
「俺に対してだけ風当たり違いませんかねえ!?」
 スクラムを組んで突進してくるそれを咄嗟に両腕で押さえつけて。拳闘というよりそれはかの国に伝わる伝説の協議、SUMOに似た何か。
 がっぷりと組み合えば、会場の歓声と共にコメントも『そうだ!』『頑張れ!』『イケメンバスターズ!』と大興奮。
『おやおや、これは拳闘大会だったはずでは?』
「ねー☆」
 ウケる。Red&Bigに賛同しながら、キーラは継続してカメラ目線。あっちは相棒ひとりで安心とばかり、応援さえもぬいぐるみたちに任せれば、視聴者に向けてウインク☆ 仕事は終わったとスピーチ用の予備のお菓子にかじりつく。
『拳闘しないんですか?』
「にぇー☆」
 ウフェう。口にものを入れながら、自分まで指摘されているとは気づかないまま。歓声悲鳴、奇声とタンバリン。そこに相棒の呼び声がミックスされた空間で、彼女は今まさに幸せタイムを満喫している。
「いやいやいやいや、そうじゃないでしょ」
 両足をどっしりと地に着いたまま、じりじりと暴徒に押されながら。首だけ振り向き声をかけようとするも、角度の限界を前にアイコンタクトは通らないまま。
「や、確かに俺一人で十分かもしれませんけどね? 働いてもらえます?」
 相棒の絆にヒビが入りますよ? いや本当に。おい聞いてんのか。
「可愛いぬいぐるみたちが客共をお出迎え! お菓子が飛び出すスロットマシーンがあるのは、カジノ宇宙船『エルドラド』だけだぜ☆」
 あー、働いてるわ。ちゃんと働いてるわーキーラちゃん。お菓子を食べ終わればカメラに向かって宣伝中。小さくして仕事ができる支配人、冬晴・キーラ。
 反応としては『楽しそう』『かわいい!』『キーラちゃーん☆』と、コメントは上々。
「そうじゃありませんよねえ!?」
 絆はもうボロボロ。
『拳闘大会と聞いていたのに、どうやら最初だけですか』
 相棒の叫びと併せてRed&Bigからも指摘があれば、ぬいぐるみたちも所在なさげにキーラを見つめ。カメラも寄る中、しかたねえなーと彼女は呟く。

「じゃ、ゲームでスタミナ消費してからな☆」

「いやいや、完全にサボりモード入ってんじゃねーか!」
 ふざけんな働け!! 裂帛の気合がこもったその叫び。スクラムを弾き飛し、ポーズと共に叫ぶのは――今まで数多くの修羅場を駆け抜けた愛機の名。
「ショウタイムッ!」
 かくして眼前に喚び出されたガジェットがとった形は、ドライヤーのような何か。武器ではない日用品のような何か。これが有効とされた意味、フィリップがそれを考えるよりも早く、今すべきと感じたことが彼に正解を導いた。
「働かねえなら、無理矢理押し付けてやる!」
 立ち上がらんとする暴徒の背後に回れば、ガジェット・スイッチオン! 大気を震わさんと機関がいななき、口から放たれた烈風が暴徒を吹き飛ばす。
「あっ、フィリップてめ」
 対して真顔。慌てて演台から飛び降りれば、激突する飛来物をキーラは間一髪で避けて。振り向きざま手早くメガホンを構えると、おーいぬいぐるみのみんなー☆
「囲んで棒でたたけ★」
 温度差で風邪をひきそうな命令。そしてそれを素直に実行するぬいぐるみのみんな。さっきまで横断幕を掲げていたそれを凶器として、ボコスカ★ かわいい効果音を出しながら、何体かがカメラに映らないように煙幕を出している。そっかー、漫画のアレってああいう仕組みだったんだー。
『なんか凶器つかってません?』
「ぜんぜん★?」
「キーラ、次だ!」
 第一便を片付ければ、熱風と共に到来したのは第二便。今度は避けるのではなく、別に呼び出したぬいぐるみたちに受け止めてもらえば、そのままカメラが映さないところまで運ぶよう指示をして。
 遠くから柔らかい打撃音。くぐもった悲鳴。柔らかい打撃音。くぐもった悲鳴。
『なんかひどいことしてません?』
「ぜんぜん★?」
 フィリップが吹き飛ばしたものをキーラの指示のもと、次々にぬいぐるみが分業で片づけていけば、二人の周囲にいた暴徒は徐々に『不思議と』姿を消して。後に残ったのは、一塊の暴徒改め有志。脅威を目の当たりにしてなお、ボロボロになってなお、イケメンに一泡ふかさんという決意のもとに結びついた熱き漢たち。
「さっすがフィリップはモテモテだな☆」
「いや、覆面にモテても全然うれしくねーんですわ」
 ようやく二人が並び立てば、息をするように軽口。前もこんなことがあったなとキーラが言えば、あんときより大分ラクですよとフィリップ。
「「「「「イケメン……タオス!」」」」」
 息巻く群れに向き合えば、息の合った二人。堰を切った突進にも臆することなく、今日の夕飯を考えるようなテンションでそれぞれの得物をぶつけ合う。
「気持ちは汲みたいんですが、もう閉店なんで。すみませんね」
「またのご来店お待ちしてまーす☆」
 ありがとうございましたと、言葉はあれど礼はせず。フィリップは淡々とドライヤーのスイッチを入れた。重ねて、キーラの声がメガホンから響けば、ぬいぐるみたちは見送りのように手を振って。それは、エルドラドにおける日常か。日々繰り返された、手慣れた動作をそつなくこなすような一連の流れ。暴徒改め有志改め『お客様』を見送れば、あとに残るのは――

『あの、拳闘大会では』

「なーにが悲しくて覆面集団にもみくちゃにされなきゃいけないんですか」
「せめて覆面バニー姿だったらよかったのにな☆」
「誤解されるようなフリやめてくれませんかね」
 流れてきた赤字の言うことがもっともだったので、二人は反応するのをやめた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​


●怪人さん休憩中(4)
 口がうまいやつは、たいてい頭でっかちだからと。そこにこそ勝算があると思われたところ、果たして現状はどうか。そもそも、口がうまいとかそういう話では無かった気もするけれど、画面に映る会場の惨状はより生き生きと熱を運ぶ。
「おかしい……こんな、こんなはずでは……」
 奴らにマウントをとるつもりがこれじゃ、どこぞの祭りのようだと声を漏らして。いや、茫然としている場合ではないと気を確かに立ち上がり。
「所詮、キマイラたち」
 配下で妨害できぬ相手なら、私が直々に動くべきかと。何としても奴らの顔に泥を塗らんと、それは怪人としての自信。

『ただ今の試合経過、ヒーローが優勢です!』

 アナウンス。移動時間を考慮すれば、今出ねば機を逃す。携帯端末を手に取れば、身支度も早々に。何度目かの決意の雄たけびと共に、怪人は外へと飛び出していった。
桑原・こがね
早速入団希望者かしら!違う?違うのね?
なるほど拳闘大会か!良いわね!
あたし、素手でも結構強いのよ。うちの流派は徒手空拳もやってるからね!
あたしの戦いはこれからだ!

せっかくだから技をいくつか見せておこうかしら。
はい、これが上段順突きからの中段逆突き!基本ね!
下段回し蹴り!相手の動きを止めるのに良いわ!
胴回し回転蹴り!こんな風に相手の顎に当てるのは結構練習が必要だけど、威力は高いし、虚をつけるから覚える価値はあるわよ!
水月蹴り!思いっきり打ってふっ飛ばせばまとめて何人か倒せるわね!

まだまだ技を見せ足りないからどんどんかかってらっしゃい!
あたしを見ろォ!



●雷鳴団リターンズ!
 こちらは再び会場。
 様々な場所で、様々な猟兵に、様々な方法で叩きのめされる暴徒。転がってきたそれらを興味深そうに、こがねはのぞき込むようにして問う。
「早速雷鳴団に入団希望者かしら!」
 違う? 違います。違うのね? 違います。
 ならいいわ! と笑い飛ばせば、すかさず隣から割り込んできた暴徒の腕をとって。なるほど拳闘大会かと、容易く捻り上げる。
「あたし、素手でも結構強いのよ。うちの流派は徒手空拳もやってるからね!」
 わかった、わかりましたと苦しむマスクマンの腕を離すと、次に彼女がとるのは拳闘の構え。やや腰を落とし、右足を引いて。溜められし拳に宿るは雷鳴たる力か。
 既に主張すべきことは主張した。叫ぶべきは叫んだ。成すべきことを成したなら、次にすべきは求められたこと。それが、かの大会への参加なら――
「あたしの戦いはこれからだ!」
 迷いなし。それを証するべく放たれた拳は、容易に眼前のバンダナマンを突き飛ばす。これが、かつて師範代にまで上り詰めた彼女の実力。崩れ落ちた相手、すなわち己の成果を満足そうに見やると、こがねは上機嫌にほほ笑む。今日も絶好調と。そうだ、せっかくだからもっと技を見せてあげると。
『もう十分伝わったのではないでしょうか』
 怪人たる自分がたどり着く前に終わりそうな光景、それを危惧したRed&Bigのコメントが流れれば、惨劇を予想した周囲の暴徒は肯定するように首を縦に振る。
「ええ、わかったわ! 緊張する気持ちは誰しもあると思うけど、遠慮しないで!!」
 天然純粋にして無情。
 まずは胸、それから腹! 手近な的に狙いを絞れば、放たれる神速の二段突き。
「はい、これが上段順突きからの中段逆突き! 基本ね!」
 それは、定石通りで飾り気のない技。飾り気のなさとは、無駄のなさ。究極まで無駄をそぎ落とし、威力のみを求めた技ならば容赦はない。一打目が呼吸を封じ、二の打は狙い通りに軸を砕く。
「よし、じゃあ次!」
 倒れれば次の人。笑顔と共に挨拶すれば、まるで握手会のノリ。こがねが一歩踏み出し近づけば、二歩目は鋭い蹴りとなる。
「相手の動きを止めるならこれね!」
 既に止まっていたけれど、震える膝を横から掬い上げるは下段回し蹴り!  
 一瞬で二人が倒れた光景を前に、暴徒がとれる選択肢は二つに一つ。逃げるか、戦うか。
『逃げなさい! 多少粘りながら逃げなさい!』
 暴徒が皆やられれば、終わる。かといって暴徒が皆逃げれば、終わる。自分が行くまで終わらせるなと、自分本位なRed&Bigのコメントが機械音声により読み上げられれば、蜘蛛の子を散らす暴徒と立ち向かわんとする暴徒。
 一方こがねはそうこなくちゃと微笑めば、まだまだ見せ足りてないからと。
「魅せるのはこれからこれから!」
 悲壮な覚悟を抱えた相手の突きを横に躱せば――否。突きに合わせて飛び込めば、その飛び込んだ勢いのまま振り子のように弧を描く足が捉えるは、相手の顎。足から伝わる感触、それと遠くで聞こえる音からするにかっとんだには違いない。
「こんな風に相手の顎に当てるのは、結構練習が必要なんだけどね」
 これが胴回し回転蹴り! 威力は高いし、虚をつけるからと。その有用性と覚える価値を実演実証しながら、カメラに向かってしっかりアピールも忘れない。そうだ、見ろ、もっと見ろ! 昂ぶりを覚えれば、もう抑えきれぬとその身は前に駆け出して。
「そしてこれがっ!」
 みぞおちを穿つ脚撃。しかし、彼女の技はそれで終わることは無い。其は助走にほかならず、蹴りこんだ勢いそのままに肩へ駆け上がり、もう片方の足が捉えるは――頭!
「水月蹴り!」
 命はとらない、あくまで競技レベルの一撃なれど。その音は重く。慣性を帯びて後方遠くへ吹っ飛ぶ体は、他の暴徒を巻き込んで。
 自身の技の冴えを前にして、この場を取り巻くすべての者の注目を確信し。こがねは更に奮い立つ。
「さぁ……どんどんかかってらっしゃい!」
 成程、これは泣く子も黙る雷鳴団の鬼団長、桑原・こがね。その言葉の意味を、その場のすべての者が、今更に思い出して。

「あたしを見ろォ!」

 ――雷鳴団、おそるべし。
 ――桑原・こがね、おそるべし。
 彼女と向かい合った者たちは、のちにそう語る。

成功 🔵​🔵​🔴​


●怪人さん急行中
 オイオイオイオイ、やべえわマジで。
 誰しも焦ればおのずと素が出る。
 それは例え怪人であろうと変わりなく。

 人の話は聞かないのに、ちゃんと強いのはどういうことか。
 それとも、人の話を聞かないから強いのか?
 端末を握る手が汗ばむのを感じながら、まだかまだかと車窓を見つめ、それから再び画面に目を落とせばそこは、ヒーローショーと化した配信の光景。
「怯えなくていいから、急いでくださいますか」
 ああ、早く着かないかと焦る一方で、今にも逃げ出しそうな運転手をなだめることも忘れず。

 キマイラタクシーの車内は、怪人には少々窮屈だった。
トゥール・ビヨン
知ばかりではなく力も必要か
でも、これ動画配信されてるんだよね?

うーん、それなら特にルールは設けないから、動画を観ている人にもわかりやすく、腕相撲で力比べにしようか

どう、いいよね?

よしっ、それじゃあ――

※当たり前のように公園の隅に置いてあったパンデュール(全長2mの機械鎧(ロボ))に搭乗

※当たり前のように腕相撲をスタンバイ(唸る駆動音)

あれ、どうしたの?後ろがつかえてるから早くしないと

だって、特にルールは設けないって話しだったから問題は無いよね?

それじゃあ――レディーゴー!

※【手をつなぐ4】で上手に手をつないでへし折る勢いで腕相撲で悪い奴を倒していきます



●跳べ、パンデュール
 歓声が聞こえる。
 悲鳴かもしれないけれど、掛け声も聞こえてまるでお祭りのよう。
 断続的な音は、普段慣れ親しんでいる精密なリズムとはまた違っていて。
 こういう時の刻み方もあるんだね。その妖精、トゥール・ビヨン(時計職人見習い・f05703)は乱闘の隙間を縫うように会場(戦場)を見渡す。
「これ、動画配信されてるんだよね?」
 誰に問うでもなく、まずは会場のスクリーンでその答えを確認。次に、知ばかりではなく力も必要と、暴徒たちの唱える理論を口の中で反芻。すると自然、彼の脳裏に浮かぶのは相棒の姿。彼にとっての「力」が明確に浮かび上がったなら、とる手段は一つ。
「ねえ、そこの人。腕相撲で力比べにしようか」
 特にルールは設けないからさ、と。動画を観ている人にもわかりやすくしたいからとトゥールが提案をすれば、声をかけられた暴徒もその声の主を見て快く承諾。そう、相手が妖精ならば、体格からして後れを取るはずはないと。痛い目に合わずに済むどころか、むしろ戦える。そう思えば、即答に近い形で。
「他のみんなもどう、いいよね?」
 イエスフェアリー!
「よしっ、それじゃあ――」

 ダダッダ、ダダッダ、ダダッダッダダダーン♪
 空白の瞬間。
 そんな音楽が、流れたようにも思えた。
 ギュイッキシャーン!
 そんな効果音が、響いたようにも思えた。
「おまたせー!」
 先程までと比較すると、どこかこもった声。そして近づいてくるのは、先ほどまでは発生しえなかった足音か。いや、足音にしたって重いような。軋むような金属音と接地音とが交互に聞こえれば、徐々にその音は大きくなって。
「じゃ、はじめよっか」
 ガシンガシーン!
 その全長、200cm。謎の機械鎧が、駆動音と共に暴徒たちの前で腕を構えた。
『だれですかあなた』
「トゥールだよ。ちなみにこれは、相棒のパンデュールだよ」
「ハイ、トゥール。ショウカイアリガトウゴザイマス」
 いやいやいやいやいや。『かっけー』『ロボだ!』と純粋な驚きのコメントが流れる中、Red&Bigのコメントと暴徒の抗議が入り混じる。おかしいだろうと。詐欺だろうと。そもそも、どこから持ってきたんだよと。
「この会場の、公園の隅に置いといたんだよ」
「ヒマデシター」
 何か問題? と操縦者が問えば、パンデュールはオールグリーンと勝手に抗議を解決済みにする。抗議の処理が終われば、準備万端と機械鎧の駆動音が一段階上がって。
 やる気だ、と本能で察すればお互いに譲り合うのが暴徒たち。お前がやるって言ったんだろ。いや、お前だって言っただろ。何がイエスフェアリーだこの馬鹿と、問答問答押し問答。
「あれ、どうしたの? 後ろがつかえてるから早くしないと」
 待ってられないやと、あわれ押し出された一人の腕を掴めば――
『レギュレーション違反ではありませんか』
 掴まれた暴徒の悲鳴と、入る物言い。一寸先の未来を前に気持ちはわかる、気持ちはわかるけれど。
「だって、特にルールは設けないって話だったから」
 なら、問題ないよね?
「モンダイアリマセン」
 問題ないかなあ。例え疑問を抱こうと、それを問う暇はもう与えない。しっかりと手と手をつないでお互いの気持ちを通じ合わせれば、あとはもう正々堂々! 一対一の真剣勝負!!
『それって2対1では』
「それじゃあ――レディーゴー!」

 そこから先は、もう一方的な蹂躙だった。
 かの鎧が人を掴んだら、ハイ衝撃。地が揺れたような錯覚を前に、赤子の手をひねるとはこのことかと。抵抗という言葉を忘れさせる勝負は――そもそも、それを勝負というのだろうか。何にせよ、一方的な蹂躙は見る者の言葉を奪う。それらの顔に浮かぶのは、驚嘆か、興奮か、はたまた絶望か。
「ボクの勝ちだね!」
「ハイ、ビクトリー」
 静寂を破るようにガッツポーズをとれば、鎧と手をつないだままの暴徒がだらりと宙に浮いて。それは、狩りの獲物を天高く掲げる構図に似ていた。自らの力を誇るように、あるいは見せしめのように。
「じゃ、次の人?」
「ハイドウゾー」
 戦意を削がれた暴徒たちに対して、来ないならこちらから行くねと。近くの者を掴めば、空気を揺らし。近くの者を掴めば、それまでの悲鳴を掻き消して。掴むたびに聞こえるのは、本来腕相撲では聞こえぬ音。
「ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ」
「ワン、ツー、スリー、フォー」
 一定のリズムと共に聞こえる音は、徐々に大きくなって。

 まるで、時計が近づいてくるようだ。
 折れなきゃいいなと祈りながら、暴徒は目をつむった。

成功 🔵​🔵​🔴​

光・天生
まず無言で暴徒の一人に歩み寄って。
低身長を活かし、エグめの角度で、鳩尾に一撃。
大丈夫、殺しはしな……あれ、みんな引いてます?
…………。

「……俺達には、戦い以外の道があるはずなのに……!!」
〝望まぬ戦いを強いられる悲劇の主人公〟的な雰囲気で乗り切ります。
いや、暴力沙汰とかPOW的なやつとか【グラップル】とか大っ得意なんですけど。

ああ悲しい。(頂肘)
ああ切ない。(掌底)
戦い以外の手段があればいいのに。(鉄山靠)
こんな戦い、無意味だと思いませんか?(【殺気】)(【恫喝】)

ああ。
……どうして、俺達はこんなことになってしまったんでしょうね……。
(【グラップル】と【捨て身の一撃】と【鎧砕き】を乗せて)



●悲劇の終わりに
 既に大勢は決した。
 配信を妨害せんと集った者共は次々に飛ばされ、あるいは膝をつき。自らの挑んだ壁の高さを悟れば、悔やむべきは何か。己の力量か、見極めの精度か――かの者の言葉に乗せられた結果である今を思えば、おそらく後者かと。
「……結局、俺たちが馬鹿だったってことか」
 自嘲するように、あるいはようやく目が覚めたように、暴徒の一人が空を見上げ呟く。冬空は青くシンと透き通り、視界を遮るものは何一つとして存在しない。ああ、もういっそこのまま空に吸い込まれていければどんなにいいことだろうと。
「お、おい……誰か来るぞ」
 茫然と浮きかけた意識も周囲の声に引き戻され。その声が指し示す先を見やれば、彼らに近づく者がひとり。一目で少年とわかる背丈の光・天生(鈍色の天蓋に神は座す・f05971)が、一歩ずつ、一歩ずつ。立ち尽くす暴徒と歩み寄る天生と互いに目が合えど、そこに一切の言葉はない。
 この少年もヒーローならば、この先の展開について疑うものはないだろう。しかし走るでもなく、自身を睨むでもない少年に暴徒は、まるで、敗者に寄り添わんとする聖者の姿を重ねていた。
 かくして、その手の届く距離。天生の左手は、優しく触れて。それから天生の右手は――

 炸裂を思わせる踏み込みと共に、高速で暴徒の鳩尾を打ち上げる。

 其は下方より放たれる研ぎ澄まされた一打であり、身長差を活かし角度をつけた技巧の一撃。まるで、自らを発射台としてかの暴徒の願いを叶えるよう空に飛ばし、現実たる大地に戻ってくるまでの遊覧飛行をご提供。
「大丈夫、殺しはしない」
 自らの技を誇るわけでもなく、威力のほどを確かめるでもなく。足元でうずくまる暴徒に視線もくれなければ、天生が次に見据えているのはまだ二本足で立っている暴徒たち。あいさつ代わりに呟いた言葉が彼らにもたらすのは、安堵か、それとも――
「えっぐ、えっぐい角度で入ったわアレ」
「オイオイオイオイ生きてるわアイツ」
「いっそ、いっそ楽にしてくれー!!」
 恐怖だった。糸が切れたように叫ぶ暴徒と、それを彩る『ヒエッ』『こわ』『メディーック!!』といったコメント群。
『暴力は良くないと思いますよ』
 Red&Bigの自身を棚に上げた発言が流れれば、そうだそうだと戦意を失った暴徒からは抗議の声があふれ出して。
「……あれ、みんな引いてます?」
 引いてます!
 あれれどうしたものか、と天生。俺はただ、やさしい人たちが戦わずに済む世界をと、顎に手を当てしばし思案。悪いやつを懲らしめるだけなのに、なぜこうも引かれてしまうのか? 離れすぎた実力は弱者に同情を集めるという世の理について、彼が到達するにはまだ早い。
 よし、と。とあるアイディアが思い浮かべば、早速行動に移すべく、頭を抑えてしゃがみこみ、苦悶の表情で地を殴る。
「……俺達には、戦い以外の道があるはずなのに……!!」
 一通り、一通りの流れをやったところで決意を新たに、天生は構えをとる。どうしてこんなこと、と駆け出せば、暴徒たちからも「どうして!?」の声。
「どうしてもあなたたちが戦う意思を捨てないのなら、こっちにも考えがあります!」
 もう捨ててます! という反論があれば、いいやそんなはずはない! 正直になってください! と、天生の拳がそれを黙らせる。そう、これは【望まぬ戦い】であると。自分は戦いを強いられる悲劇の主人公だから、この一撃は仕方のない一撃であると、ちゃんとカメラ映りも意識して。そう、強いられているんです!!
「その割には」
 眉をしかめれど、その目が語るものは隠しきれず。指摘されれば飛びついて、組み伏し首元へ掴みかかる。いけませんね、そういう風にいう口は――
「くっ……もうやめてください! こんなこと……ッ!」
 カメラが音を拾うのは天生の慟哭。その、やむを得ず振り下ろし続けている拳の先がどうなっているのか、時折挟まる音の正体は何か、彼の背中がそれを映すことを許していない。
『言ってることとやってること違いませんか』
 手慣れてる、とコメントで指摘されるもそれはそれ、これはこれ。日頃の鍛錬の成果をもって彼らを更生させることこそ自らに課せられた義務として。付け加えれば正当防衛であると、ゆらりと立ち上がり頬の汚れをぬぐう。

「か、過剰防え」
「ああ悲しい」
 反論は頂肘に沈む。

「も、もうしませ」
「ああ切ない」
 反省も掌底に沈む。

 暴徒が倒れて道ができれば、その道を踏み越えて天生は行く。戦いを終わらせんと確たる意志のもと、指の骨を鳴らしながら前へ、さらに前へと歩みよれば――そこに立ちふさがりしは暴徒最後の希望。
「マスク・ザ・ジャイアント!」
「俺たちの中で最も巨躯な頼れる男だぜ!」
「やつは俺たち四天王の中でも最強!!」
 それは天生の接近にも微動だにせず、無言。マスクでその表情は隠したままに、他の暴徒の壁となるように直立している。さすがにこの体格差、そして狼狽えることもない余裕の構え。これは、多少なりとも逃げる時間は稼げるに違いないと、他の暴徒に希望を与えて。
「ああ……」
 その巨躯を前に天生は嘆く。なんてことだとかぶりを振ると、歩みを止め。しばらく見上げる形で相手を見つめれば、くるりと向きを変えるように。これは天生のリタイアかと、俄かに騒ぎ立つ暴徒たち。諦めてくれたなら実質俺たちの勝ちではという主張に『おめでとう』『やったか!』等々、コメントにも何故か流れる祝賀の声。
 果たして、天生の方向転換は途中で止まり、屈む。あれ、という間もなく地を震わすは彼の踏み込み。
「本当、戦い以外の手段があればいいのに」
 後はその勢いで体をもたれかけるように――しかし、触れたが最後それはかなわず。背面から当たりにいくその独特な技こそ、八極拳が誇る鉄山靠。打ち、浮かす。其は、当身と投げの融合なれば、一当てにて如何なる巨体も動かさん。
「やつは俺たち四天王の中でも最も巨体」
「本当は優しいやつだけど巨体だから俺たちが無理やり連れてきたやつ」
「いいやつだった……」
 地に沈む巨躯を前に、残された三人の巨悪がそれを惜しめば、天生の嘆きは殺気を孕み、矛先は自ずと声のする方へ。
「こんな戦い、無意味だと思いませんか?」
 ねえ、という問いかけに「はい」といっても地獄。「いいえ」といっても地獄。ならばもうここは、すでに地獄だったのではあるまいか?

「……どうして、俺達はこんなことになってしまったんでしょうね……」

 大体お前のせいだという反論は、言葉にするより前に消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『餅巾着侍』

POW   :    御澱流・田楽刺し
【長巻を用いた鋭い刺突攻撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【煮え滾る味噌だれ】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    御澱流・チカラモチ
自身の肉体を【つきたての餅めいた形質】に変え、レベルmまで伸びる強い伸縮性と、任意の速度で戻る弾力性を付与する。
WIZ   :    ちくわと鉄アレイ
【伝説的なニンジャマスター】の霊を召喚する。これは【食べると体力を回復出来るちくわ】や【当たるとダメージを受ける鉄アレイ】で攻撃する能力を持つ。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ハヤト・ヘミングです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●怪人さん入ります
 かくして、猟兵たちの活躍によりすべての暴徒が倒れゲフンおとなしくなり、第二部のプログラムも終了かと思われた折。

「待ちなさい!!」

 公園の入り口から、声が響く。
 走り去るタクシーを背景に、会場中央へ近づいて来るのは着流し姿。加えて、暴徒同様に奇妙な覆面をしているように見える。しかし、徐々にその姿が明確になれば、それは覆面ではなく頭部そのものだということがわかるだろう。つまり、彼こそが、怪人!
「よくも、よくも私をコケにしてくれましたね……」
 マウントをとるのは好きだけれど、自分がマウントをとられてままではいられない。人の話を聞かない、暴徒による妨害も効かない、ならば!
「この私――餅巾着侍は、相手が敗北を認めるまでつきまとうのがポリシーです!」
 そんなポリシー捨ててしまえ。
 ふざけたセリフとは裏腹に、抜かれた長巻とその全身から放たれるオーラを前にして、猟兵たちは各々の武器を構える。

「私は粘着質ですからねえ……餅だけに!!」

 彼にとっての鉄板ギャグを聞かされた形だけれども、ここが正真正銘正念場。
 いざ最終戦――ヒーローショーの始まり始まりー。
ファン・ティンタン
公園脇を通り過ぎようとして、足を止める
何か、変なのがいる(餅の人(人…?)のこと)

頭が餅巾着、どう考えても不審者
挙句、人の大勢いるところに長巻なんて持ち込んで…今話題の“イキってる”ってヤツなのかな
あと、下らない冗談、つまらない

今までの経緯は知らないけれど、まぁ、いいや
とりあえず―――“斬っとこう”

群集が視界を遮る【地形の利用】、餅の人(人?)に辿り着くまで【殺気】を抑えて静かに向かう
到着まで【力溜め】続けて、一声

ねぇ、危ない物、持ってちゃ駄目だよ

餅の人(???)の長巻だけを狙って、自らが原点たる【天華】で
【2回攻撃】を極意とする【番い燕】を仕掛ける

尚、長巻を落とすか破壊すれば満足して帰る模様


桑原・こがね
いきなり出てきて何なのよあんた変な頭して……あっ、そういえばそういう趣旨だったわね確か。いけないいけない。
今も配信中?カメラどっち?それ?よし。

この世に悪の栄えた試しなし!
卑劣な大ぼら嘘八百、天がそれを見逃すか!
舌先勝負で敗れ去り、慌てて来たのは何用か?
腕前勝負を望むなら、退治てくれようオブリビオン!

決まったわ。天を指差し注目を集めるのよ。
喋ってる最中に攻撃してきちゃ駄目よ。人の話を聞きなさい!

戦闘は速度重視で行くわね。
攻撃は全部叩き切って落としてやるんだから。
伸びてる時は流石に切りにくいかしら。【銀雷】も混ぜて行きましょ。
あっ、何この鉄の重り。投げて攻撃するのにちょうどいいわね。えいっ。



●口上合戦
 ついに怪人と相対した猟兵たち。いざいざ作戦は大詰めを迎え、観衆の期待も高まれば各々の表情にも気合が漲り。そう、あたしたちは今の今までお前をここで待ち受けて――
「いきなり出てきて何なのよあんた、変な頭して!」
 こがねさんすみません、ちょっとカンペ出しますね。
「あっ、そういえばそういう趣旨だったわね確か」
 いけないいけない、と作戦を思い出せば周囲を見渡しカメラを探しはじめる。ドローンで宙に浮くカメラを見つければ、ちゃんと撮るよう指さし合図。いいわね? いいと思います。
 一方怪人、誰だ何だと聞かれたら答えてやるのが我らの流儀、と。
「私を――餅巾着侍たる私が誰かご存知ない? あなた、少しものを知らなすぎませんか?」
 まだここに来てまだ回答を勿体ぶりながらも、大見得を切るタイミングと知れば揚々と一歩を踏み出す。歌舞伎役者もかくや、大きく首を回せば――
「あー、旧き世より出て負け知ら……」
「この世に悪の栄えた試しなし!」
「んんっ、天地を束ねる我が智慧、千里走りてま……」
「卑劣な大ぼら嘘八百、天がそれを見逃すか!」
「あの」
「舌先勝負で敗れ去り、慌てて来たのは何用か?」
「ちょっと、ちょっと」
 言葉が被ればかぶりをふって。静止してもらうよう手を振るも、被せられた弁舌は全く速度をゆるめない。
 天を指さしたまま全ての口上を述べきれば、こがねはとどめとばかりにその指を怪人に突きつける格好で。
「腕前勝負を望むなら、退治してくれようオブリビオン!」
 その流れるような一幕に、間髪おかず会場に響くは観衆の声援。
 決まったわ、と自身の口上に酔うように声援を全身で感じれば、あとはもう満足したとばかりに愛刀へと手をかける。だが――構えるより前に、殺気。
「あなたは本当に、もう少し人の話を聞きなさい……!」
 怪人の頭から比喩ではなく湯気が上がる。その体が伸縮性を帯びれば、上体を反らすと同時に首が伸び、頭を遥か後方へと伸ばさんと。その所作こそ、かの怪人が持つ三奥義が一つ、『御澱流・チカラモチ』! 弾性を活かした高速の頭突きをお見舞いせんと、弓を引き絞るがごとくその異質な頭部を伸ばしきれば――

「ねぇ、危ない物、持ってちゃ駄目だよ」

 ふと、隣から聞こえた声。そして腕から伝わる弐連の衝撃に、戻らんとする頭部を支える体のバランスが崩れる。結果、その餅巾着はコントロールしきれぬ暴投となり、こがねより数歩先、目の前の地面へと土煙と悲鳴交じりの轟音を立てて埋まった。

「結構、丈夫」

 いつから居たか、先程まで怪人が立っていた場所に立つは白き剣士。
 ファン・ティンタン(天津華・f07547)の左目が、紅く怪人を見つめていた。

●通りすがりの話
 話は、少々前へとさかのぼる。
 特に目的があるわけでもなく、強いて言うならば猫を探しつつ、ファンがぼんやりと公園近くを通り過ぎようとしたところ。

『この私――餅巾着侍は、相手が敗北を認めるまでつきまとうのがポリシーです!』

(何か、変なのが、変な……人? 餅? ……変なのがいる)
 そう、やかましい声のする方を見やれば、ファンの目に映りこんできたのは不可解な存在。頭が餅巾着、体は人。これなーんだ?
「どう考えても不審者」
 どう考えても正解。その不審者の様子を観察すれば、ついには人が大勢いるところで刃物まで持ち出した。これは、今話題の“イキってる”ってやつなのかどうか、前に聞いた言葉を頭の中で反芻すれば、果たしてかの不審者の迷惑行為は目に余るものであることは誰の目にも、ファンの左目にも確か。

『私は粘着質ですからねえ……餅だけに!!』

「下らない冗談、つまらない」
 そのジョークが、ファンの逆鱗に触れたのかどうか。総合的に考慮して、彼女は決断した。あの不審者の行動理由も、公園に人が大勢いる理由も、今までの経緯は全く知らないけれど、まあいいやと。とりあえず――“斬っとこう”と。
 そう決断したならあとは実践あるのみ。公園の人混み、観衆たちの中へと身を沈め、不審者あるいは不審餅に気取られぬように距離を詰める。あくまで野次馬を装って。その一方で、鞘の内にある自身の原点へ気を練りこむのも忘れず。誰かとの問答に気を取られているならば、ただ一度の機会を活かすべく、一歩、また一歩と。そうして抜けた人混みの先、その姿に接近すればあとは単純に。

「ねぇ、危ない物、持ってちゃ駄目だよ」

 声かけと同時に、白き剣士の白き一振。不審者の握る長巻目掛けて、ファンが原点たる護り刀――『天華』が閃いた。

●風と共に去りぬ
 かくして場面が戻り、怪人がよろよろと起き上がるところ。
「なんですかあなたは奥義の途中で出てきて! マナーというものをご存じない?」
 絞り出すような声で、怪人。
「人が大勢いるところで、そんなの、振り回す方がマナー違反」
 対して正論でファン。
「ここで登場するなんて、もしかして……雷鳴団の入団希望者!?」
 マイペースにこがね。
 三者三様にて各々視線を交わらせれば、まず最初に動いたのはこがねだった。
「だったら、もう速攻でカタをつけるわ!」
 入団希望者の前ならば、更にかっこいいところを見せなければと地を蹴り、その思い込みのままにいよいよ抜刀。気合の入った掛け声と共に、横薙ぎに切りかかる。
「あなたの攻撃はまっすぐすぎます。私にかかれば見切ったも同然」
 インテリなので、私はインテリなのでと怪人はこれを上体を反らし回避。餅ならではの伸縮性・弾性が不規則に姿形を変えると、続けざまの連斬もアクロバティックに回避。
「インテリ関係なくない!?」
 関係ないと思います。関係なくとも思い込み、プラシーボさえも力にすれば攻撃を切り抜けた先、怪人がとるは刺突の構え。そして口にするは観衆を震撼させる必殺技宣告!
「そう、これより放つは私の三奥義がひとつ……この技を受けたものは二度と立ち上がれぬと噂されし脅威の技……!」
 三奥義!? 二度と立ち上がれない!? 驚異の技!? そもそもさっき奥義使ってなかった? ばっか、あと二奥義残してんだろ!
 観衆に動揺が広がるも、大して冷静な一言がまたもやそれを妨害する。
「誰が、噂してるの」
 怪人が技を放つより先、長巻の刀身へと叩き込まれるファンの斬撃はいよいよ傷を残すように。一太刀で軽ければ二の太刀にて。言うは易く行うは難しとされるそれを、行うも易しとばかりに精密なる高速の弐連撃。
「さっきから、邪魔をするんじゃありません! みんな噂してます! みんな!」
 聞いたことのあるような言い訳。怪人はたまらずファンに狙いを変えるも、その必殺の刺突『御澱流・田楽刺し』の初撃をくぐられれば、できた隙をこがねが見逃さない。
「できる団長はね、機を掴んだら離さないの!!」
 轟ッ、と。掛け声と共に放たれるは銀の雷。まるで可能性の如く、無数に分かたれれば矢のようにして。風を切り空を裂き、殺到するそれは破邪をもたらす銀の弾丸か。
「今なら、壊せる」
 銀の光に貫かれ、うめき声をあげる怪人を見やれば、ファンは確信をもって跳ぶ。中段正眼。ただまっすぐに敵の喉元へ突きつけるよう詰めれば、避けられぬ怪人がとるは、天華目掛けた横からの打ち払い。
「あなたも、どうやらまっすぐすぎるようですねえ!」
「そうでもない」
 横から打たれる瞬間、想定通りに天華を振り上げれば長巻は空を切り。その無防備な状態となった刀身へと、振り上げし上段から一撃を叩き込む。神速の一振りにてヒビ入れば、其を終わらすは返しの太刀――『番い燕』
「私が、見切られた……!?」
 聞こえし剣戟の音は、閃撃なれば弐撃も一のみ響かせて。茫然とする怪人の側に、折れた長巻の刀身が突き刺さった。
「まっすぐだったのは、そっち」
 それは、一種の勝利宣言。目的は果たしたと怪人に背を向けて、ファンはまた公園の外へ向かい歩き出す。既に興味を失ったように、観衆の視線も意に介さぬまま。
「ま、待ちなさい!」
「そうよ! あなた雷鳴団の入団希望者じゃないの!?」
 敗北を認めぬ怪人、それと直感を信じて疑わないこがね。人混みに消えるファンの背を追い、こがねも一時カメラの画面外へと消えれば――ひとたびの強風が砂を飛ばし、観衆の視界を奪う。ようやく風が収まり視界が晴れたとき、折れた長巻を握り、怒りに震える怪人の姿のみが取り残されていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

神羅・アマミ
「どうやら諸悪の根元がおいでなすったようじゃのー!」
まずは一歩前に進み出てふてぶてしく見栄を切る。
「そう…全ては彼奴の仕業!純真な心を弄ばれた暴徒たちに一切の咎はない!罪なき一般人を煽動するなど、とんだ不届き者もいたもんじゃぜー?」
そして突然住民の方を意識してアジる。

「そうだそうだ!」という罵声や投石を期待。
声が小さければ住民側に振り返り無言で拳を振り上げすごんで見せる。

「ハッ!惨めよのー!最早貴様に味方する者は誰もおらん!これが民衆の総意じゃよー!」
精神攻撃は基本。

人々の想いを背中に受けた彼女は最早最強に強まっているので既にあらゆる攻撃は見切済だし大体2秒もあれば怪人を殺せる(確定ロール)。


レムナント・ノア
機嫌の悪いタマちゃんはハウスに帰してしまいましたし
あちこちで暴力沙汰が起きていて、わたくし心細いですわ。
ノアはどうやって戦っていたかしらって……イヤァーー餅ィーー!!

この粘着質なオーラ! 戦い慣れていない事を悟られたら
きっと粘着されますわ!

ええい近寄らないでくださいまし!
取り出したるは熱線銃!
これは対怪人用に改造された最終兵器ですの。
その頭の餅巾着をを消し炭にしてくれますわー!

……わたくしったらビームは危ないからと
熱線銃をホイップクリームが出てくる甘い誘惑(スイーツガン)に
改造した事を忘れていました。

お餅にホイップクリームって合うかしら?
オホホ……。

イヤァーー!! 助けてくださいアマミさん!!


光・天生
(リアクション担当したいので誰かと一緒の参戦を希望)

餅巾着……粘りけがありそうで、格闘戦主体の俺としては……。
……あ、肉体は普通?
じゃあいっか。

「下らない。人間の方が、餅よりずっと陰湿で粘着質だっていうのに」

シリアスなようで場の空気のせいでシリアスになりきらない台詞と共に。
ユーベルコードを「防御力重視」で使用。
決め手が欠けるなら、【捨て身の一撃】での掌底を。
他の誰かが大技を使うなら、執拗に脛に小キックを見舞って動きを邪魔します。
なんか丸出しだし。

ほか、雑なリアクションを担当。
銃だろうが何だろうがあらゆる技を拳法の謎流派に結びつけます。
「あの構えは……!」
「まさか、伝承者が残ってたなんて……」



●傷口に塩とホイップ
 レムナントは焦っていた。
 タマちゃんは機嫌が悪くハウス返したところ、目の前に現れたるはおかしな頭部の怪人。
(イヤァーー餅ィーー!!)
 その外見と、粘着質なオーラを目の当たりにして、レムナントはただただ焦っていた。ああも自称しているぐらいだから、わたくしが戦い慣れていない事を悟られたら……きっと粘着されるに違いない、と。
 一方、勝気に立ちはだかるのはアマミ。
「クハハハハ、どうやら諸悪の根元もここまでのようじゃのー!」
 一歩前に出て見得を切れば、今回の騒動の種明かしだと、観衆に大声で語りかける。
「そう……全ては彼奴の仕業! 純真な心を弄ばれた暴徒たちに一切の咎はない! 罪なき一般人を煽動するなど、とんだ不届き者もいたもんじゃぜー?」
「そうですわ! とんでもない方もいたものですわねえ皆さん!?」
 お主には語り掛けとらんのじゃが、という視線も何のその。ここはアマミの勢いに乗って自らの焦りを誤魔化さんと、レムナントが畳みかけるように聴衆へ語り掛ける。扇動には扇動と、それはアマミの当初の目論見。期せずしてヒーローが二人がかりとなった呼びかけは、観衆に対して一種の正義感を植え付けさせた。すなわち、彼らが怪人の敵となるように。
「何を言うのです! 私はただ、正しい知識を伝えようとしているだけです。彼らも、私と志を共にする者……私の指示によるものではありませんが、きっと熱く燃える何かが彼らを突き動かしたのでしょう!!」
 要するに私は悪くない、という長い言い訳を前に果たして観衆からは、罵声の嵐。
 ふざけんな! 何がブレーメンだ! と続けば、おでん食えなくなったじゃねえか! と徐々に広い範囲でざわめきが敵意となり、食べ物で遊ぶのはやめろ! とお叱りの言葉が飛び交う始末。
「ハッ、惨めよのー! 最早貴様に味方する者は誰もおらん!」
 これが民衆の総意じゃよー! とその光景を悪い顔で眺めるアマミ。そして、
「餅だから粘着質、でしたっけ? 下らない。人間の方が、餅よりずっと陰湿で粘着質だっていうのに」
 目の前の光景を冷めた瞳で見つめる天生。その顔は、急造の連帯感・正義感で罵声を届ける観衆を前に、どこか空虚を感じるよう。まったくと胸の前で両指を鳴らせば、ウォーミングアップはとうに済んでいると、パフォーマンスはこれで終わりかとアマミたちに問うようにして。
「オホホホホ! やってくださいまし!!」
「それじゃ、後悔してもらいますよ」
 食い気味なレムナントの回答と、ようやくかと天生。
 いざ、独自の呼吸をとれば、炭田より全身に行きわたる氣が彼の体を鋼とする。其は攻防に使える彼の『龍氣一極』。とうに武器は折られ、身を雷に焼かれた相手ならば――あとは殴り合いで十分だと。そのための自己強化に一切の余念はない。
「その身一つで私に向かってこようなどと、笑止!」
 表情は全く読めないものの、その言葉にあるのは怒りか、焦りか。怪人は折れた武器を地面に投げつければ、印を結ばんと両手を目の前で組み始める。
「私の、三大奥義が最終奥義――」
「そういうのは、いいです」
 中距離からの踏み込み。一瞬にして肉薄すれば、下段より放たれるは天生の掌打。印を組む手の下から鳩尾をえぐれば、何らかを呼び出さんとする術式は詠唱の途中で立ち消える。
「あ、あなたも人の話は……こふっ……最後まで聞いたらどうですか!」
「だって、絶対にろくなもの呼ばないでしょう」
「ばっ、そういうのは見てから判断してください! これこそが私の最終奥義――ちくわと」
「はい」
 怪人の抗議を流しつつ、天生は今一度、うずくまる怪人の肩へと掌打。今の手ごたえを確かめるように放てば、確かに感触は通常の人を打つそれ。餅相手だと格闘戦は不利かと思いきや、その四肢は平時においてただの肉体であることを確信する。
(ああ、さっき伸びていたときは確か、頭から湯気が……)
「おおお、奥義の名前ぐらい言わせるのがマナーでしょう!!」
 再度の抗議に反応するは、回送中の天生に代わりけたたましい笑い声
「オホホホホ! いいですわいいですわー! やっておしまいなさい少年!!」
「そうじゃそうじゃーお主らも言ってやれーやってしまえー!!」
 タンバリンを叩くレムナントと、拳を振り上げノリノリで扇動するアマミ。彼らが声を上げれば、観衆も同じように次々と声を上げて。天生を応援する声もあれば、怪人をこき下ろす声もあり。それが何より、怪人にとっての苦境を招くものと知ってのことならば、精神攻撃は基本とアマミが笑う。
「好き勝手なことを……まずはあなた達から、黙らせる必要があるようですね!」
 あのまま放置はさせられないと怪人。立ち上がりレムナントたちに向き直れば、いよいよ反撃開始と頭からは湯気。すなわち、最初に見せたひとつめの奥義こと『御澱流・チカラモチ』の構え!
「ええい近寄らないでくださいまし!」
 返してレムナントも怯えるだけではなく、その懐から取り出したるは熱線銃。
「これは、対怪人用に改造された最終兵器ですの……」
 だからこれだけは、これだけは使いたくなかったんですのと呟けば、隣のアマミも驚いた顔をして。
「まさかあの、対怪人用に改造されたという、あの熱線銃なのかえ!?」
「そうです! あの対怪人用に改造されたというあの熱線銃ですの!!」
 まったく情報量が増えていないし『あの』って2回言った。
「あの構えは……対怪人改造流が奥義、熱線拳!?」
 天生もアマミと同じように驚けば、銃と拳の区別ができていない。しかしながら観衆はそれらのやりとりに尋常ではないものを感じ、騒然としてレムナントの一挙手一動を見守れば、果たして頭を伸ばさんとする怪人にもやや困惑の色が見られ、飛び出すは迷走する主張。

「ぶぶ、武器を持ち出すなど、あなたには心が無いのですか!?」

 お前が言うな。
「わわわ、わたくしを狙うからこうなるのですわ!!!」
 ただ一人ツッコむ余裕もなく、他の人を狙わないお前が悪いと逆上するレムナント。その彼目掛けて、何とかその発射を妨げようとついに怪人の頭が伸びる。しかし、その頭が彼に到着するよりも先に、今度は長巻ではなく足に伝わる重い衝撃。
「えいっ、えいっ」
 天生が着流しから露になった怪人の脛を蹴り続けていた。体を支える足に伸縮性を持たせるわけにもいかず、変化の届かぬ部位を見極められれば妨害の妨害として。変化が届かねば、耐久性は人並みにしてその痛みも人同様なれば。
「ンンンーーーーッ!!!!」
 痛みに声を上ずらせ、どこかで見た流れと同じように今度はレムナントの目の前、数歩先の地面に落下する餅巾着。
「そそそ、その頭の餅巾着をを消し炭にしてくれますわー!」
 セルフエコーがかかりそうな叫びと共に、この隙を逃しはしないとトリガーを引けば銃口から放たれたるは必殺の――ホイップクリーム。

 ホイップクリーム?

 餅巾着にトッピングされていくホイップクリームを見つめて、あれだけ盛況だった会場にしばし静寂が流れる。
「……わたくしったらビームは危ないからと、熱線銃をホイップクリームが出てくる甘い誘惑(スイーツガン)に改造した事を忘れていました」
 それは懺悔か。見る見るうちに山盛りになっていくホイップクリームを眺める瞳は死んだ魚のよう。
「聞いたことはあるが……まさかあの、ぱんけーきとやらにトッピングされる、あのホイップクリームかえ!?」
 そこまで驚くことじゃないと思いますけど多分それです。
「ホイップ流クリーム脚……まさか、伝承者が残っていたなんて……!!」
 二回目だけれども今度はクリームと脚の区別がついていない。
 二人とも一生懸命フォローしてくれているけれど、そんな雑なマウントで効果があるわけが――
「ぐ、ぐおおおおおお! わ、私も知らなかったわけではありませんが……これほどとは……!」
 効いたわ。めちゃくちゃ効いてるわ。逆プラシーボ効果とでもいうべきか、頭上のホイップクリームがついにはハワイアンパンケーキのそれに追いついたところで、怪人は苦しみだし、字の如く頭を抱えて悲鳴を上げて。
「よくも、よくも私にここまでやってくれたな……ホイップ流伝承者……!」
 白粉姿とでも言うべきか、クリームまみれでようやくと起き上がれば、怪人が凄む。
「イヤァーー!! 助けてくださいアマミさん!!」
「お主はなんで妾の方に来るかなあ!!」
 体躯で考えれば全くの逆という構成。レムナントがアマミの背に隠れれば、アマミも仕方なく怪人の前に立ちはだかって。
「そこを、どきなさい!」
 怪人の怒りと共に放たれたのは、反省を活かして頭ではなく腕を伸ばした一撃。されど、結論から言えばその腕は届かない。たとえ何発放とうが同じことだと彼女は笑うだろう。なぜなら、
「説明するのじゃ!」
 なにか始まった。
「人々の想いを背中に受けた妾は最早最強に強まっているので既にお主のあらゆる攻撃は見切済だし大体2秒もあればお主を殺せる。おわり」
 すっごい早口。
「オホホ、その人々にはわたくしも含まれていまして?」
「あれは……見切流二秒必殺拳!!」
 そんなものはない。
 しかし、確かに怪人の拳を見切れば、アマミは逆にその伸び切った腕をつかんで。もう片方の腕でやおら和傘を構えれば、それだけで餅の戻る力を活かした必殺のカウンター。
「クハハッ! 最早妾には一切が通じると思うな! 死ねーッッ!!(※)」
 これに対して怪人、とっさに腹部を伸縮化させ致命打を回避。しかし、突き刺された傘のダメージすべては殺せぬまま、接触の衝撃ではるか後方へと吹き飛ばされる。
「こ、こんなはずでは……」
「誰だって、そう言いますよ」
 そう言って落下地点、天生が待ち構えているならば後の展開は容易。飛んできた怪人に合わせて打ち込まれた掌打は餅つきのように。より遠い会場中心部――決着にふさわしき舞台たる壇上跡へとそれを運び込んだ。
「いよいよクライマックスですわね、オホ、オホホホホ!!」
 かくして、会場にタンバリンは鳴り続ける。

(※)タイムシフト(録画)においては、副音声扱いです。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

フィリップ・スカイ
※アレンジ歓迎です

続けてキーラ(f05497)と行くぜ。

いよいよ本命のお出ましってな!
しかしなんともまあ、おもしれえ顔してんなあいつ。
キーラ、ちょっと分けてもらったらどうだ。
餅巾着好物だろお前。

おっと、馬鹿なこと言ってる場合じゃねえですね。
乗れ、キーラ!俺のバイクのスピードなら、そうそう攻撃は当たらねえ!

攻撃を躱しながらヒットアンドアウェイだ。
アレイが邪魔だが、俺のドラテクなら避けきれるぜ。
え、何、ちくわも出てくんの?
キーラこれも食っとけ食っとけ。

おっ、巾着に引っ張りやすそーな紐ついてんじゃん。
あれ引っ張ったら倒れるか、ちぎれるか、破けるか。
試してみんのもおもしれえ。


冬晴・キーラ
フィリップの野郎(f05496)と合わせ希望。

スピーチのことはよくわかんねーど、取り敢えず顔と声がムカつくしぶっとばしとくかー★
フィリップのバイクに乗りながらメガホンから星を飛ばして支援したり、ぬいぐるみを怪人に纏わり付かせて動きを止めたところをまとめて轢いたりするぜ☆
その華麗な活躍は【グッドナイス・ブレイヴァー】で全世界に配信するー☆ ついでにスパチャも募集しとく💫
ヒーローだし、ビシッと決めてやろうぜ☆

えー、餅巾着って餅が、なんかこう、ドロッてするからあんまり……卵とじゃがいもと厚揚げは好き☆
ちくわなー、いやちくわを食うのはいいけど、バイクに乗りながら喰うのは無理だろ☆ あちーわ★



●危ない二人
 文字通り、打たれた餅巾着が飛ぶ。
 まるで飛行機雲を眺めるかのように、フィリップは笑う。おもしれえ顔、と。
「キーラ、ちょっと分けてもらったらどうだ。餅巾着好物だろお前」
「えー、餅巾着って餅が、なんかこう、ドロッてするからあんまり……」
 怪人がべちゃりと頭から着地すれば、巾着から少し流れ出た中身を見て、やや顔を険しくするのはキーラ。フィリップに勧められるがまま、巾着を結ぶかんぴょう部分をちょいちょいと引っ張れば、痛がる様子にパッと手を放して。
「キーラ様はー、卵とじゃがいもと厚揚げは好きなんだけどなー☆」
「なぜですか!?」
 自らが負った肉体的損傷よりも、その言葉による精神的損傷こそ問題であると。その発言を取り消すように訴えんと地を踏みしめて立ち上がるは怪人の姿。自分こそおでん種の王道なれば、卵はまだしも、じゃがいもと厚揚げには負けられぬという覚悟の姿。ボロボロながらも両手を組み印を結べば、ついに呼び出したるは忍者の霊。
「私の三大奥義が最終奥義! ちくわと鉄アレイ!!」
 ちくわ。鉄アレイ。
「ちくわかー、ちくわは嫌いじゃないけどなー☆」
「いやいや、そこはネーミングに突っ込んであげてくださいよ」
 宣言通りに、現れた忍者が次々にちくわと鉄アレイを空高く放り投げてくる。それにしたって技名はもっと他にあるでしょと、軽口を叩くフィリップの足元に鉄アレイが鋭く突き刺されば――流石にこいつは馬鹿なこと言ってる場合じゃないですわ。
「乗れ、キーラ! 俺のバイクのスピードなら、そうそう攻撃は当たらねえ!」
「オッケーフィリップ! ライドオーン☆」
 相棒が呼び出したバイクに飛び乗れば、キーラの構えたマジカルメガホンが星を飛ばし、進路上に落ちてくる鉄アレイを打ち落とす。怪人と忍者から離れすぎぬよう、フィリップがハンドルを切れば急ハンやめろ★ としがみつくようにして。
「そうだ、せっかくだから配信しよーぜ☆」
「あー、そのへんは任せますわ」
 アクセルを吹かせば、こっちはこれで手一杯なんでねと急加速。てめー★ という抗議の声をエンジン音でかき消して。これが俺たちのヒット&アウェイだと言わんばかりに、進路の先には怪人。
「まさか、ヒーローがひき逃げとでも!?」
「そんなわけないでしょう。轢くだけですわ」
 淡々と処刑宣言。フィリップがギアを上げれば、愛機はその姿を変える。
「ハイ、というわけで今回のキーラちゃんは『怪人をバイクでやっつけてみた』ってことでー☆」
 背後では動画撮影用のドローンを飛ばし、着々と進むキーラちゃんねる☆(仮称)での全世界への配信手配。早速視聴者からのコメントが届けば、応援は力となってバイクの速度が増していく。
「教育上、そんな配信をしていいと思ってるんですか!?」
「正義は勝つ放送だからいーんだよ☆」
 スパチャありがとなーとドローンに手を振れば、しっかりつかまってろとフィリップ。間近に迫る敵影へ姿勢を低くして突っ込まんとすれば、怪人も黙って轢かれるわけにはいかず。
「私とて誇り高き怪人。はいそうですかと、轢かれるわけにはいきません!」
 車線から離れるべく横に飛びのくようにすれば、待っていたのは――ぬいぐるみの群れ。元の車線に戻ってもらおうと、みんなが一生懸命に押し返してくる。まあ、かわいい。
「これやってること大分えげつないですからね!?」
 迷惑な怪人に人権はねー★ マジカルメガホンの号令の下、ぬいぐるみたちの目的はひとつ。わっしょい、わっしょい!
「ニンジャマスター!! 進路を防ぎなさい!!」
 怪人の呼び声に応え、忍者は素早く車線に登場。怪人を防ぐように立ちふさがればバイクに向かって必殺の投擲――数々のちくわが熱々と二人へ殺到する!

「忍者―――――ッ!!」

 ちくわで人は傷つくものか。忍者の霊はそのまま轢かれて消えた。
「くそっ、せめて鉄アレイなら……!」
「せめてもなにも、普通そこは手裏剣じゃないんですかね」
 忍者の飛び出しにより進路が少し狂えば、すれ違いざまに生まれるは高速の意思伝達。次は外しませんよとターンを決めれば、キーラが構えるメガホンからは天の川のような星の弾幕。そう、宇宙バイクとは宇宙のバイクであるからして――その姿は星の海を走るが如く。
「あちち★」
 しっかり食ってんじゃないですかと、背中の相棒に。いかなる時でも冷静に、いかなる時でもマイペース。それこそ、二人がコンビを続けられている所以。
「やめなさい! あなたたちにとって、何のメリットがあるというんですか!」
 何故私を轢くのかと問いただす怪人に対して、返す答えはひとつ。
「とりあえず顔と声がムカつくし、ぶっとばしとくかー★」
「だそうですよ」
 ぬいぐるみたちに囲まれ、身動きが取れない怪人に突きつけられた答えは理由という理由でもなく。けれど、難しい単語を並べるより遥かに単純な答えならば、怪人も逃れられぬ自らの結末を察して。
「そんな理由で、私が!? 私がーーーー!!」
 閃光。風を超え光となったバイクが、怪人を貫く。音を置き去りにすれば、走り去った背後に聞こえるは爆発音。

「ま、こう見えてもキャプテンなんでね」
「良い子のみんなは、飛び出しにご注意だぜ☆」
 勝利を祝したご祝儀とばかりに飛び交うスパチャ。
「勝った勝った、今夜はピザだ☆」
 そこはカツ丼でしょと、コメントに指摘されながらキーラはカメラに微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


●最後の問答
 戦いは終わった。
 しかし、よろよろと怪人は起き上がり、猟兵たちに向き直る。
「何故、ですか」
 私は、インテリだった。私は誰よりもかしこかった。それが、どうしてこんなやつらに!!

 放っておけば、怪人は消えるだろう。
 されど、伝えねばならない。諭さねばならない。
 カメラが回っている今だからこそ、第二第三の怪人が生まれぬよう、最後に告げねばなるまい。

 怪人の敗因を告げるべく、猟兵たちは一歩を踏み出す。
 マウント・オン・マウント!
トゥール・ビヨン
パンデュールから降りて、よろよろの怪人に向き合って話しかけるよ。

キミの戦ったあの人達を見てよ。
なんかみんな楽しそうでしょ?

彼らはキミに勝とうと思って戦っているんじゃ無い。
精一杯楽しみながら、この世界みんなの平和のために戦ってる。

誰が上とか、下とか、賢いとか。

キミとは見ている場所が違った、その差じゃ無いかな今の状況は。

キミは何の為に戦っているの?戦って、誰かの上に行って、でもその先に何も無ければこんな空しいことは無いよ。

ここまで話したらパンデュールに再び搭乗して怪人に向き合うよ。

さあ、聞かせてキミの戦う意味。

――よしっ、それじゃ戦おう

キミはキミの意味のため、ボクはボクの意味のために!

UCで攻撃



●答え合わせ
 怪人へ、答えを告げる役を請け負ったのは一機と一人。
 相棒たる機械鎧『パンデュール』から降りれば、トゥールはふわりと怪人に向けて飛ぶ。彼に猟兵の言葉を届けんと、その顔――餅巾着の近くまで寄り沿って。
「ねえ、キミの戦ったあの人達を見てよ」
 なんかみんな楽しそうでしょ? と、笑う顔に一切の敵意はなく。指し示す先に立つ猟兵たちの表情もみな同じなれば、怪人はいよいよわからない様子で。
「どうしてですか……弁論も、拳闘も、何もかも……すべては戦いです!」
 戦いに、どうして楽しみがあるのか。勝つために、胃を痛め、神経をすり減らし、我慢をし続けることが勝負ではなかったか。それが、どうして笑っていられるものか! 旧時代より今に至るまで、勝ち誇るために粘着し、固執し続けてきたこの体が、頭がそう言っている。
「それはね」
 トゥールは、決して怪人の考えを否定はしなかった。
「彼らはキミに勝とうと思って戦っているんじゃ無い――」
 ただ、自分たちには自分たちの考えがある、と。
「精一杯楽しみながら、この世界みんなの平和のために戦ってる」
 ただ、そういう考えもあることを知ってほしいと。そして、許容してほしいと。理解を求めるわけではなく、小さな物語を紡ぐように言葉をつなげれば、いつしか怪人も聞き入るようにして。
「今は……そんな戦いを、許してくれる時代……なのですか?」
 その問いにトゥール。時代とか、世界の違いのせいかはわからないけど、と。
「誰が上とか、下とか、賢いとか……そんなこと考えてなくて。ボクたちとキミとは見ている場所が違った、その差じゃ無いかな今の状況は」
 それは、残酷な答えだったかもしれない。それでも、まっすぐな回答であったことだろう。勝者から敗者に対する言葉ではなく、共に競い合ったライバルへの言葉。

「キミは何の為に戦っているの?」

 戦って、誰かの上に行って、その先に何があるものか。もし、その先に何も無いのだとしたら――こんな空しいことは無いと、自身ではあずかり知らぬ謎を怪人に、猟兵に、会場に、そしてこの世界に問いかけるようにして。
「……このインテリな私が、簡単に……教えると思いますか?」
 怪人の答えに対して、そうだねと笑えば――最後の対峙。
 今一度構える怪人と、再びパンデュールへと乗り込むトゥール。ここまでくれば、あとはこれだけだ。これまでと同じように、後の答えはマウント次第。よし、それじゃあ戦おう!

「さあ、聞かせてもらうね――キミの戦う意味!」

 パンデュールの猛進。満身創痍の怪人を前に、手加減などは一切なく。其は対等な立場なれば、全力でぶつかるのみと小細工を抜きにした真っ向勝負。いざ、その手に握られし双刃『ドゥ・エギール』が上段に構えられれば――
 
「……誰よりも、高く!」
 怪人の伸びた右腕が、パンデュールの肩装甲に飛ぶ。
「……誰よりも、上に!」
 怪人の伸びた左腕が、パンデュールの脚部に伸びる。
「……誰よりも、誰からも……」
 怪人の伸びた頭部が、パンデュールの頭部へと襲い掛かる。
 勿体ぶっていた理由も、残りの力も、そこに一切の出し惜しみはない。生き様を全うせんとする咆哮にも似た回答は、殺気を帯びてパンデュール、トゥールへと殺到する!

 だが、届かない。
 パンデュールの猛進は止まらない。怪人では、もう止められない。プログラムされた命令を誠実に履行するならば、その先に出力される結末はすなわち、怪人の敗北。

「他の……誰からも……認めてもらうためッ!」

 それは夢か、はたまた呪縛か。
 どちらにせよと双刃にて迫る右腕を切り落とせば、返す一振りが左腕を薙ぎ払い。
 嗚呼、ここに決着するは怪人・餅巾着侍との死闘。

「キミはキミの意味のため、ボクはボクの意味のために!」

 トゥールの叫びと共に、パンデュールが各部より蒸気を排出する。機関最大開放と、その目を輝かせたならば最後、食らいつかんとする怪人の頭部を、大上段から袈裟に斬り裂いて――勝負あり! 本大会、最後に答えを通したのはトゥールとパンデュール!

「……あなたたちに妬けてしまいますよ、餅だけに……」

 耳をすませば、怪人が爆発するまでの刹那、そんな台詞が聞こえたかもしれない。
 かくして彼の呪縛が断たれたなら――新春スピーチ大会、全プログラムが終わる。

●今日も平野に雪が降る
 かの配信が世界に拡散されて数か月。
 いまだに語り継がれる『それ』は、録画もタイムシフトも世にあふれ、風化することを知らない。

 あの日爆発し、消えていく怪人の姿に、観衆と視聴者は果たして何を見たのか。
 あの日の猟兵たちの主張に、観衆と視聴者は果たして何を思ったのか。
 そんなこと、全くわかりはしないけれども。

『そんなことも知らないんですか?』
『知りませーん!!』
『パネェw』
『じゃあ仕方ないので教えてあげます』
『上からー!!!!』
『パネェwww』

 もしかしたら、少しだけ――どこかで、世界が優しくなったかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月15日


挿絵イラスト