#サクラミラージュ
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「何がいけなかったの、何が気にくわないの! 私は私が思う、最高のものを書いたつもりだったのに」
ガシャン!
女の細い手が、カップを勢いよく払い除ける。甲高い悲鳴を上げて砕けたガラス片が床に飛び散り裸電球の明りで輝くのを見て、獣のようにフーッ! と唸り声を上げた。
「忌々しい!」
バサッ!
今度は手近にあったお気に入りの本を投げつける。
「自分は何も書いていないくせに!」
バサッ!
「何よ、そんなに大口を叩くのなら書いてみなさいな! 売れてみなさいな!」
バタン!
本を投げ、書きかけの原稿を投げ、万年筆を投げ。身の回りのものを一頻り投げたあと、女は歯を食いしばったまま長い息を吐いた。
「腹が立つ」
窓ひとつ無い部屋の中で、黒髪を振り乱し女は苛立ちを募らせる。
掻き毟った肌を爪ががりリと削り、ミミズ腫れを幾つも作った。
――なら、あいつらに復讐しようか。
それを題材に、復讐劇を掻き上げるのも悪くない。いいや、面白い。
「これが『渡・かなゑ』の新作になる……、あは、ハハハッ」
●
『その桜がわたくしに見せたのは、彼の最期の姿でした。
秋に差し掛かったというのに狂い咲いた桜の傍を通り過ぎようとしたその時、わたくしは彼の墓参りに向かう道すがらの出来事でした。
贈って下さった反物を仕立て上げ今朝袖を通したばかりの袷は、まるで彼がわたくしに触れているように感じられて、震える指先で襟をぎゅっと掴んだのでした』
今し方読み上げたページを閉じ、水標・悠里(魂喰らいの鬼・f18274)はにっこりと笑い顔を上げた。
「無名の新人女流作家『渡・かなゑ』は処女作『桜隠り』で叶わぬ恋を繊細に、時に艶めかしく描写して一大センセーションを起こしました」
売れに売れ、出版が追いつかず嬉しい悲鳴が上がったとか。
「そんな中、彼女の発言が思わぬ不興を買ってしまいました」
――どうしたら先生のように書けるのですか。
――どうして何も書いていないのに、書く前からそんなことを聞くのかしら。
何気ない質問だったに違いない。しかしこの発言は新聞や雑誌に取り沙汰され、彼女は誹謗中傷に晒されることとなる。
出版社の擁護もなく孤立無援となった彼女は、失意のうちに自ら命を絶った。
「しかし彼女の死すら『桜隠り』で男性の後を追ったヒロインと重ね合わせるようにして、今も語り継がれているのです」
そして年に一度、彼女を偲び命日になると一本の桜の木にファンが集まるのだという。
「『桜隠忌』と呼ばれるその会では作中のワンシーンになぞらえて、夜になるとカンテラをもち舞台となった神社、公園、堤防を歩くのが慣例となっています。
皆さんにはまずはこの『桜隠忌』に参加し、彼女の噂を集めていただきたいのです」
非業とも、自業自得とも語られる彼女の死は、未だに噂も絶えないという。
「私から伝えられる確かなことはひとつ。彼女は癒えぬ傷を負い、影朧となった。
桜の精の力と皆様の説得があれば、次なる生へと導かれることでしょう」
しゃらん、とどこからともなく鈴の音が鳴る。
グリモアたる蝶が青白い身を閃かせ、帝都への門を開いた。
「皆様のお力で、どうか彼女を導いて下さい。お願いします」
水平彼方
初めまして、もしくは再びでしょうか。水平彼方です。数あるシナリオの中から目に留めていただき、ありがとうございます。
7本目はサクラミラージュ、影朧となった作家『渡 かなゑ』の復讐劇です。
第一章/日常『灯桜浪漫譚』
第二章/集団戦『夢散り・夢見草の娘』
第三章/ボス戦『魔縁ノ作家』
●第1章
『桜隠忌(おういんき)』と呼ばれるファンの集いに参加いたします。
夜にカンテラ片手に帝都を練り歩きます。最初はファンが彼女と作品を偲んで行っていましたが、今ではひとつの風物詩のように一般の参加者も増えています。
夜の帝都を楽しみながら、『渡かなゑ』に関する噂話を集めて下さい。
もちろん、楽しむだけでもOKです。
●第2章
集団戦『夢散り・夢見草の娘』
かつて華やかな世界を目指していましたが、道半ばにて散った桜の精の影朧です。
『桜隠り』のヒロインを演じるという役目を果たしながら猟兵たちに襲いかかります。
詳細は断章にて公開します。
●第3章
ボス戦『魔縁ノ作家』
絶望のうちに自殺した一人の作家『渡・かなゑ』
詳細は断章にて公開します。
●プレイングについて
各フラグメントの【POW】【SPD】【WIZ】は行動の参考にお使いください。
プレイングについてはマスターページにてご案内させて頂いております。そちらを参照ください。
●シナリオ運用について
第1章のみOP公開後から受付開始となります。
その後につきましてはマスターページおよびTwitterにて告知致します。
告知以前に頂いたプレイングは場合によってはお返しさせて頂きます。
なるべく全てのプレイングを採用させて頂くつもりです。内容によってはお返しさせて頂きます。
それでは、皆様のプレイングを心よりお待ちしております。
第1章 日常
『灯桜浪漫譚』
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POW : 狭い裏路地へ
SPD : 川にかかる橋へ
WIZ : 桜咲く公園へ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
プレイング受付期間
【10/18 23:59まで】
※お気持ちに変わりなければ再送をお願いします。システム側から受付できなくなるまでロスタイムと致します。
※受付期間変更※
【10/19 (土) 23:59まで】一日延長します。
御明・咲久
◎
帝都暮らしは長いし、作家の名前は聞いたことがある
が、作品は読んでいないし、詳しいこととなると何も知らんな
とりあえず情報を得に行くとするか
カンテラ片手に帝都を練り歩く
俺が訊くとどうも訊問じみちまうし、
仮にも追悼の日にそれで口を割っちゃくれねえだろうから
複数人で歩いてる奴等の会話に聞き耳を立てさせて貰うとしよう
同じようにカンテラを持っているのは同輩か、若しくはファンだろう
それらしい人物がいたら、それなりに距離を保ちながらぶらりと追跡する
勿論、疑われない範囲でだ
俺は一人で追悼に参加してると装って、出来る限り歩調を落として歩くとしよう
景色に目をやりながらぼんやりとすれば、警戒もされにくいだろう
●
思い返せば長いこと帝都に住んでいた。退屈はしないし、御明・咲久(花篝・f22515)の好奇心を満たすものを探せば何かしらに行き当たるだろう。
『桜隠り』。渡・かなゑの処女作にして出世作。そして絶筆となった一遍の恋愛小説である。
聞いたことはある。が、咲久は作品は読んでおらず詳細は何も知らない。
ならばと探偵は手渡されたカンテラを受け取り、前に倣って夜の帝都へと繰り出したのだった。
咲久が尋ね訊けばやんごとなきファン達を怖がらせてしまう。追悼の日となれば、それも尚更。
視線を周囲へと流しぼんやりと『見とれて』ながら、ぶらりぶらりと談笑する女生徒の後を歩く。
「ねえ、ご存じ? 最近風の強い日にあの桜の下で『桜隠り』を再現すると恋が叶うんですって」
まあ、と頬を染め胸をときめかせる乙女に思わずじとりと視線を向けてしまいそうになる。慌ててガス灯の数を数えるフリをしてカンテラを微か揺らした。
「それならば勿論! 再会の約束を誓う場面なのでしょうね。ああ、将校様と叶わぬ約束を交わしそれでも思い続ける『鏡子』の一途さといったら」
どうやら『鏡子』はヒロインの名前らしい。一途さ故に、最期は自らの手で命を絶ち彼の元へと逝ったのだろうか。
「でも最近あの桜の下で神隠しがあったと噂になったでしょう。隣の教室の生徒だったって話よ、私は少し怖いわ」
夢想の恋にうっとりと瞳を蕩けさせる彼女を現実へと引き戻すように、友人たる少女はそう言って裾を引いた。
自ら書き上げた物語をなぞるように、渡・かなゑは死んだ。
散らばった手がかりなら兎も角、他人の心の内を誰何するなど至難の業。推理のためのピースは、まだ乏しい。
噂の真偽を確かめれば、何か掴めるだろうか。
咲久は女生徒のから離れると、桜の木を目指して歩き始める。
ガス灯の明りが遠くに並んでいるのを見て、帝都に這う闇の深さを改めて思い知った。
大成功
🔵🔵🔵
ディフ・クライン
桜隠忌か
ヒトが亡くなっても、作品は消えない
余程胸に残る物語だったのだろうね
待雪草のランプを揺らし
参加者についてゆく形で歩いてみよう
物語自体は読んだことがないけれど
そう言えば、色々教えて貰えるだろうか
表情が変わらぬことを、不審がられなければいいけれど
少し宵闇に顔を隠そうか
大ヒットして持て囃されたかと思えば、たった一言が周囲の不興を買って、命までもを追い詰める
……オレにはよくわからない
夜の帝都を眺め、人々の中に紛れ
繊細な感情を描いた物語
それを読めば、感情を知れるだろうか
けれど
愛しさも憎しみも知らぬ身が読んだとて、何を理解できるだろうか
心などあるかどうかも知れぬ身で
微かな吐息と共に宵闇に紛れ往く
●
『桜隠忌』
渡・かなゑを偲び、命日に行われるファンの集い。その中にディフ・クライン(灰色の雪・f05200)の姿があった。表情を宵闇に隠して、周りの人々を観察していた。
そのヒトは死んで尚、作品を残していった。時の流れに埋もれ消えることのないその小説は、よほど胸に残る物語だったのだろう。多くの人がカンテラを手に歩くのを見て、ディフは未だ愛される彼女の作品のことを考えた。そうして待雪草のランプを揺らし、人の流れに沿って夜道を歩いてくと、いくつか耳に入る言葉がある。
「渡先生は『桜隠り』を執筆なさる前に、縁談が破棄されたとか」
「大きな事件があって相手が巻き込まれたと、確かに噂になったな」
結ばれる筈の相手と、無理矢理引裂かれた恋。昇華できぬ思いを苦しみの果てに綴ったのが『桜隠り』だという。
「申し」
声をかければ驚いた顔をされたが、学生らしき青年達は話が聞きたいというディフを快く輪に入れてくれた。物語自体は読んだことがないけれどと控えめに言えば、彼らは差し障りない範囲で作品を熱く語る。
「とりわけ『鏡子』の身を裂くような恋の情念と一途さの配分が絶妙なんだ。あまりにしつこいと男も辟易するというものだが、いじらしさがあって、俺がなんとかしてやらなければ! と思わせてしまうんだ」
「読み進めているだけで、物語の中の彼らから話を聞いたかのように人情の機微に触れられる。新人とは思えない文才だった。だからこそ、あの質問があったのかも知れない」
そう話した青年の言葉尻は明らかに沈んでいて、窺い見ようとしたものの俯いていて分からない。
「どうしたら先生みたいに書けるのか、そりゃあ知りたい。けど添削と技術を伝授するのじゃ話が違いすぎる。分かるが――そこで先生は言葉選びを誤ってしまった」
そこまで語り終えると、変な話しをしてしまったねと青年が詫びた。気にしていないとディフが答えた後、そこで別れることとなった。
持て囃されたかと思えば、たった一言が周囲の不興を買って命までも追い詰める。
読み継がれる物語には、繊細に移ろうヒトの感情が描かれている。
ましてや心などあるかどうかも知れぬ身だというのに、それらを聞き、読んだとて、情を解さぬ人形が何を理解できようか。
夜の帝都を眺め、人々の中に紛れ。そうしてディフはヒトのように振る舞いながら、やがて微かな吐息と共に夜闇へと消えていった。
大成功
🔵🔵🔵
西条・霧華
「少しだけ…、渡・かなゑさんの想いもわかる気がします。」
質問の返しを傲慢と取られたのでしょうけれど…
きっと命を懸ける程の情熱をもって筆を執ったのでしょうね
だから、それがどれ程大変か知る前に、軽々しく聞いて欲しくなんてなかったんでしょう…
…でも、きっと本当は「あなたにはあなたにしか書けない物語があるのに」と言いたかったんじゃないでしょうか?
所詮これは、「そうであって欲しい」と言う私の願望です
だから、ちゃんと彼女を知る為に、渡・かなゑさんの噂を伺います
人となりや生前の行動、そして何より、作品に向けていた想いを…
悲劇が美しいのは物語だからです
彼女には、少しでも幸せな結末を迎えて欲しいと思いますから…
●
歩みに合わせてカンテラがゆらりと揺れる。西条・霧華(幻想のリナリア・f03198)は一人で帝都の街を歩きながら、グリモア猟兵の言葉を思い返していた。
質問の返しを傲慢と人々は受け取った。霧華は彼女の真意がどういうものか、歩き、そして考える。
「きっと命を懸ける程の情熱をもって筆を執ったのでしょうね。だから、それがどれ程大変か知る前に、軽々しく聞いて欲しくなんてなかったんでしょう……」
堤防から穏やかな川面に視線を向ければ、橋の上に並ぶガス灯の光が映っていた。
「……でも、きっと本当は『あなたにはあなたにしか書けない物語があるのに』と言いたかったんじゃないでしょうか?」
所詮これは霧華の願望だ。『そうであって欲しい』という、理想の筋書きだった。
彼女には、少しでも幸せな結末を迎えて欲しいと思う。霧華はその思いを胸に、周囲の参加者を見て声をかけた。
同じ年頃の少女は、頬を赤らめて霧華に熱心に語って聞かせてくれた。
「渡先生は本当に、この作品にご自身の恋を重ねていらっしゃったそうよ。
でもこれは出版記念パーティーで『この物語は私が恋愛が如何なるものか真剣に向き合い、納得のいく恋を描いたつもりです』と仰った事が曲解されて伝わったとも言われているわ」
幼い自分から古典文学から流行の小説まで幅広く読み、何度もかなゑなりに書いていたらしい。
「努力し、積み重ねたものがあるからこその実力を持っていたのですね」
かなゑは作家として、作品を生み出すことに情熱を傾けた人だった。だからこそ誰かに教わって書いたものが、自分にとって納得できる小説になるとは考えられなかったのだろう。
「ありがとうございます。色々調べてみたのですが、渡さんへの誤解も根強いものでしたから」
霧華が礼を言うと、彼女はとんでもないと胸の前で両手を振った。
「私も先生は悪い人では無いと思うんです。ただ、本当に。気の強い方だったようで」
あの発言には、性格も災いしたのだろう。
その後公園へと向かう彼女と別れ、霧華はその場で話聞いたことを整理する。
悲劇が美しいのは物語だから、現実に起こればそれは凄惨な事件となる。
これ以上かなゑが人を傷つける前に、守護者として止めなければ。誓いを胸に、霧華は桜の木の方へと戻り始めた。
大成功
🔵🔵🔵
青葉・まどか
◎
先ずは『桜隠り』を拝読いたしましょうか。
(長い時間を掛けて読了)
素敵だね。私自身は恋も知らない小娘だから全てが理解できるわけではないけれど、一人の男性に恋焦がれる描写には圧倒されるね。
こんな素敵な作品を書かれた作家さんが自害されて新しい作品が読めないのは残念だよ。
……そして、作家さんが影朧として人に仇を為さないようにしたいね。
『桜隠忌』に参加してファンの方と交流するよ。
作品に出会ったばかりの新参者らしく作家や作品の事になんにでも興味津々の態度で情報収集。
この世界では影朧は広く知られている存在。
非業の最後を迎えた『渡・かなゑ』が影朧になったり、更に転生する事を願っていたりする人もいるのかな?
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その恋は文字だけで綴られたはずであるのに、青葉・まどか(玄鳥・f06729)はただ只管に圧倒された。
恋を知らぬ小娘だからこそ、一人の男性に恋い焦がれる様は理想の恋愛に思えてしまった。悲恋の結末でさえまるでそれが二人の恋路では正しいのだと、そう思わずにはいられない。
これなら八つ時に読了するだろうという目論見は、大きく外れることとなる。最後の頁を捲り終わり裏表紙を閉じた頃には、どっぷりと日が暮れていたのだから。
「こんな素敵な作品を書かれた作家さんが自害されて新しい作品が読めないのは残念だよ」
次の作品を読みたい、きっと次も私は好きになるだろう。そんな思いが胸に満ちて、叶わない現実にほろ苦い心地になる。
そんなまどかだからこそ、誰かと語り尽くしたいという願いを聞いてファンたちも快く迎えてくれた。
「先日初めて読了したばかりなのですけど、周りに話が出来る人がいなくて。だから今日を楽しみにしてきました」
目を輝かせ語るまどかの言葉は真実だ。今日初めて出合ったのだという女性達は年齢もばらばらで、改めて作品のファンの幅が広いことを知ることとなった。
話題は作品から、己の恋まで。次々に話に花が咲き、気づけば遠くまで来てしまった。
「一時は先生が影朧になったと噂になったけれど」
そこまで言いかけた女生徒を、一人の女性が止めておきなさいと窘めた。
「あの事件を思えば先生がどれほど心を痛められたことか。もしそうだとしたら、早く解放されて欲しいわね」
そう語った女性は、夫君から贈られた簪をそっと指で撫でた。
まだ娘だった頃。丁度『桜隠り』を読み感銘を受けた頃、恋人――今の夫君から贈られた思い出の品だという。そして祝言を挙げる頃に、かなゑ自害の報が帝都を駆け巡ったのだという。
「先生自身の恋がモデルになったと言われていましたから。先生の発言だけが一人歩きして作品ごと貶められるようなことは……、まるで自身の恋を貶められたような心地だったでしょうね」
女性の話を聞いて、まどかは息を呑んだ。そんな思いもあったのかと、気づきもしなかったからだ。
ファンに愛される作家。しかし彼女は自身の発言によって世間に追い込まれ、死んだ。半ば伝説と化した作家であったとしても、人として親しむ人も居るのだ。
「……作家さんが影朧として人に仇を為さないようにしたいね」
その思いを胸に、まどかは彼女たちの後を追って歩き出した。
大成功
🔵🔵🔵
紫谷・康行
◎
小さな悪意でも寄り集まれば大きくなる
小さな一言も広まれば大きくなる
悪気がなくても人は傷つく
迂闊と言えばそれまで
だとしても
俺は次を与えたい
先に作品を読んでおき話を合わせられるようする
また、内容から人が集まりそうな場所を予想しておく
まずは彼女の心に響く言葉を集めることかな
それと詳しい事の顛末
人となりが分かれば彼女を「生かす」道に近づくだろう
消えない空色のカネンカを使い
姿を隠して集まった人達の会話を盗み聞きする
熱心なファン同士の話なら詳しい事情も分かるかもしれないしね
関係者か古くからのファンを探そうか
ある程度話を集められたら姿を現して
最近ファンになった人のふりをして情報を集めつつ顔を繋いでおく
●
『桜隠り』を読了した紫谷・康行(ハローユアワールド・f04625)は、作中に登場した建物や道路を照らし合わせふらりと夜の帝都を歩く。『消えない空色のカネンカ』で姿を透過させた康行の事を、だれも気に留めることはない。
ただ肩がぶつからないように気を配りながら、大通りを逸れ細い道へと入っていく。
参加者には女性が多かったが、三割程は男性だった。予想していたよりも数が多い。
彼らの会話を盗み聞きながら目的の言葉を探していく。
康行が公園に差し掛かった時、他とは違う面持ちの男女が立っているのを見かけてするりとそちらへ寄っていった。
「渡はこの公園が好きでしたね」
男性は壮年に差し掛かったくらいだろうか。ファンとは違う、彼女本人を思う言葉だと気づき足を止めた。
「『小説は男のものではない、恋愛小説は女性のものでもない。読まれるためにこの物語は在る』――私にそう啖呵を切っていたのが懐かしいです」
それは渡本人の言葉だった。その後の会話を追っていくと、男性は元編集者で女性はかなゑの友人だった。女性は付き合いも古く、『桜隠り』の執筆中に原稿を読み意見を求められたと当時を語っていた。
「最後に逢った時、たった一言――『書きたい』と。それが別れの言葉になるなど、思いもしなかった」
「ええ、私も。始めはかなゑさんの小説が認められて本当に嬉しかった。けれど一変して世間が槍玉に挙げると、みるみるうちに塞ぎ込んでしまって――」
そこで女性は言葉を切ると、手巾で目元を押えた。
そこまで聞けば十分と、康行は二人から離れ人目の無い場所でユーベルコヲドを解除した
「すみません。『二人が逢瀬を重ねた公園』というのはこっちかな」
近くを通りかかった人を呼び止めて、あたかも道を尋ねるふりをして同行する。
作中の話題で盛り上がり、思わぬ解釈に新たな見解を得たと二人で盛り上がった。その脳裏では、公園の男女の会話が頭から離れない。 渡・かなゑが発した言葉は恐ろしい程の力を持っていた。怪物を手なずけるために、彼女は言葉を選ばねばならなかった。
小さな悪意でも寄り集まれば大きくなる。小さな一言も広まれば大きくなる。
発言に悪意がなくとも迂闊と言えばそれまでだ、だとしても康行は次を与えたいと思う。
「書きたい」
それが渡・かなゑの願いだった。
大成功
🔵🔵🔵
白紙・謡
集いに参加する迄に
じっくり拝読致しましょう
作品を識らぬ儘では話も弾みませんし
読んでみたいと想うのです
切なく震える心の機微を
しっとり儚く描き乍ら
然し深く強い情念の底知れなさをも知らしめる
其れは誰にでも書ける筈もなく
質問が何気ない物であったのと同様に
渡先生の『答え』も――ごく当たり前だったのでございましょう
だって
書き上げたからこそ世に作品が出たのだから
喩えば「先ず書き始めてみて」と背を押したのなら、世間は赦したのでしょうか
言っている事は同じですのに
喩えば「よい本を沢山読む事です」と当たり障り無く応えたならば
世間は歓迎したでしょうか
わたくしは
その質問を「されてしまった」事にこそ
先生の無念を想うのです
●
カンテラの灯りが揺れる夜の道。その灯りは世を忍び逢瀬を重ねる恋人達の道標、そして絶えぬ恋情を表した姿でもあった。
白紙・謡(しるし・f23149)は自身もまた手にする灯りと、点々と連なるそれらを見て改めて物語を読んだ時のことを思い出した。
『桜隠り』を読み終えた白紙の小さな赤い唇からほう、とため息が溢れた。
切なく震える心の機微をしっとり儚く描き乍ら、然し深く強い情念の底知れなさをも知らしめる。其れは誰にでも書ける筈もなく。
白紙の隣で話を聞く女性は、『桜隠忌』に長く参加しているという。思わぬ熱弁に白紙は恥ずかしくなり頬を染めたが、彼女は微笑んで頷いた。
渡・かなゑという作家の、読み手の心を捉える文章というのは実に巧みなものであった、と。
「『どうしたら先生のように書けるのですか』などと聞かれても、どれが良いと感じるか人それぞれでございましょう。
その質問に答えたのなら、質問された方も同じものが書けるというのでしょうか。そんな保証など在りやしませんのに」
喩えば「先ず書き始めてみて」と背を押したのなら、世間は赦したのでしょうか。
喩えば「よい本を沢山読む事です」と当たり障り無く応えたならば、世間は歓迎したでしょうか。
「わたくしはその質問を『されてしまった』事にこそ、先生の無念を想うのです」
白紙の問いに女性はにっこりと微笑んで答えた。
「ひとは、言葉一つで人を判断してしまうのですね。私達が思いを言葉にしても、十のうち一しか伝わらないことも多いでしょう。先生の言葉には伝わらなかった九の思いがあった。それを推し量る心も、必要だったのかも知れませんね」
からん、と女性の下駄が石畳に鳴る。
それはとても難しいと言うことも、白紙はすぐに理解した。文字と文字、行間を推し量るというのは読み手に求められるもの。そしてその解釈の結果は、人の数だけ存在する。
かつて多くの人が渡・かなゑを批判した。しかし今も尚、彼女を思い続ける人々も存在しているのだ。
横手に見えた桜を見て、白紙は改めて言葉の力の大きさを噛みしめた。
その桜は『桜隠り』の終幕で主人公鏡子が自害した場所であり、渡・かなゑが遺体となって発見された場所でもあった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『夢散り・夢見草の娘』
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POW : 私達ハ幸せモ夢モ破れサッタ…!
【レベル×1の失意や無念の中、死した娘】の霊を召喚する。これは【己の運命を嘆き悲しむ叫び声】や【生前の覚えた呪詛属性の踊りや歌や特技等】で攻撃する能力を持つ。
SPD : 私ハ憐れナンカジャナイ…!
【自身への哀れみ】を向けた対象に、【変色し散り尽くした呪詛を纏った桜の花びら】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ : ミテ…私ノ踊りヲ…ミテ…!
【黒く尖った呪詛の足で繰り出す踊り】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
イラスト:前田国破
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
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『桜隠忌』のメインであるカンテラ道中から戻る人々が、必ずといって良い程通り過ぎる場所があった。
「逢瀬の桜」と呼ばれる一本の桜の木は、作中においてヒロイン『鏡子』と将校が人目を忍んで逢瀬を重ねた場所であり、鏡子が自害した場所でもある。
そして、渡・かなゑが遺体となって発見された現場でもあった。
この事から、渡・かなゑと『桜隠り』は一つの伝説となり、今も帝都に語られているのである。
「しかしそれは、渡・かなゑの悪評を絶えず語られることにもなったのです」
彼女の無念は悲劇と共に、記事に書かれた話と共に残り続けた。
純粋に小説家としてでは無く、『一大センセーショナルを起こし、傲慢な言葉で世間に追い込まれ自殺した小説家』という一つの代名詞として。
そんな彼女が、この世に未練を残さず命を絶ったと思えるだろうか。
「渡・かなゑは影朧となり、今もこの桜の木の下で小説を書き続けている」
それは誰かの願いだろうか、畏怖だろうか。
いつしか、この桜の木の下にはかなゑの思いに引きずられた存在が集まるようになったという。
スタアを夢見た少女達は『ヒロイン』となり、観客の居ない舞台の上で演じ続けることとなる。
筋書きは、渡・かなゑ自身が綴る新たなる物語。
「悲劇望むなら、書いてみせましょう。復習を望むから、書いてみせましょう。
私の言葉に嘘偽りなど無かったと、私自身が証明するために」
これは一つの復讐譚。
「その無念を武器にして、私達は帝都へと復讐を果たす」
作家の綴る次なる物語の、始まりの頁が開かれる。
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第2章、集団戦『夢散り・夢見草の娘』
カンテラを片手に帝都を回った猟兵たち。
渡・かなゑと彼女に纏わる噂話を集め、ここに一つの桜の木の下へと焦点が移ります。
舞台は「逢瀬の桜」その下で、花が散り続けるなかでの戦闘となります。
娘達はかなゑの復讐劇、その筋書きで『自身を貶めた相手へと復讐を果たす』という役を演じます。
復讐の方法は相手を害するほか、磨き上げた歌や演技を見せつけるなど、様々な方法があるでしょう。
お望みの復讐がありましたら、その旨をプレイングに記載してください。
●プレイング受付
【10/24(木)8:31 から 10/26(土)23:59まで】
●
ーー逢瀬の桜、今一度合わせておくれ。
憎い憎いあの姿、あの声。あの人とこの場で巡り合わせてください。
『鏡子』は恋焦がれるままに、誰とも知らぬその人へと手を伸ばした。
青葉・まどか
正直、悲劇も復讐譚も嫌いじゃない
でも、それは本や映画、フィクションでの出来事に限るの
ねえ、先生。現実に苦しむ人や被害に遭う人のいる『事件』を作品とは呼ばないで
どこからともなく現れた影朧の少女達
彼女たちは歌い、踊る
生前は認められなかった
努力を惜しまなかった、血がにじむような練習もした
でも、スタアにはなれなかった。世間には認められなかった
だからこそ認めなかった世間に人々に自らの歌を踊りを演技を知らしめるのだ
私は無価値じゃないと
素晴らしい歌や踊りだったと思う
でもね、今の貴女達の歌や踊りでは人が傷つけられるの
歓声と悲鳴の区別がつかなくなっているのが私は悔しいよ
ごめんなさい。私が貴女達を終幕させます
ルベル・ノウフィル(サポート)
やぁやぁ、通りすがりのサポート猟兵でございます
味方がいればこの身を呈して庇いましょう
僕を肉壁とお呼びください
星守の杯で回復要員もできますぞ
ソロ戦ならリザレクトオブリビオンで死霊騎士を前に出し自身は蛇竜に乗って霊符彩花を念動力で放ちましょう
接近戦なら妖刀墨染、隠し芸のトンネル掘りで敵の足場崩しもできますぞ
ん?探索と日常?クイズ?
それは困りましたね
僕は頭がふわふわしているとよく言われます
しかし、わかりました!
そちらのサポートも僕に任せてください
現地の人と友好的に話して世間話風に質問したりして探索しますとも
あと僕、白い狼になれます
NGなし、口調も性格もキャラブレ楽しむ派なので全て好きにしてください
紫谷・康行
復讐しようとは思わないからわからない
相手にも事情があったりするだろうしね
暗い思いに囚われるより
何か新しい事をはじめた方が楽しいだろう
心はままならないものだけどね
その心を軽くしてあげる事はできるかも
復讐方法は憎しみと嘆きを糧に描き上げられた巨大な絵画達
身の毛がよだつようなものもあれば
空のように美しいもの
涙が出るような静かで優しいものまで
無言語りを使い彼女らの悲しみや憎しみ、復讐心を無かった事にしてその存在理由を消してしまおうとする
強い想いは人の心を震わせるものを作るものだよね
怖がらせる事も勇気づける事も慰める事もする
作られたものは消さない
次は幸せに生きられるよう
心を軽くした上で君達を消そう
西条・霧華
「復讐ですか…。ええ、解っています、『それ』が生むものが少ない事位…。」
それでも尚、そんな想いを抱いてしまうのは人であるが故でしょうか?
…私の中にも、そんな想いが全くないとはとても言い切れませんしね
纏う【残像】で眩惑し、【破魔】と【鎧砕き】の力を籠めた[籠釣瓶妙法村正]にて『幻想華』
敵の攻撃は【見切り】、【武器受け】しつつ【オーラ防御】と【覚悟】を以て受け止め、返す刀で【カウンター】
…ですが、復讐を目的とするのなら、その凶行は止めなければなりません
それに…
復讐心と復讐相手が無い借り物の復讐劇程おぞましいものは無いと思います
ですから私は、守護者の【覚悟】を以てこの剣を、復讐以外の為に奮いましょう
白紙・謡
◎
成功を掴むのはほんの一握り
そして掴み取ったとして、光浴びる場に留まるのは難しい
――物書きも、スタアも同じこと
理不尽のようでいて、然しながらそれは、人の世の常でございますね
今一度
彼女の作品を思い起こし乍ら
胸に残るその文章に描かれる姿は美しくて
……歪んでしまった筋書きをどんなに演じられても、
わたくしには……この夢破れた『ヒロイン』達は
かの作品のヒロインには見えぬ
質問はこうです
「貴女は『誰』なのですか」
スタアとして華やかに光を浴びる
恐らく、渡先生の作品のような名作演じる事を夢見た
憧れの世界で輝きたかった少女の名は
煌びやかな世界に生きたかった彼女達のその名は
――かの桜隠りの『鏡子』ではございますまい
フランチェスカ・グレンディル
「いべんと」の途中参加、失礼致しますね
ご本人にお会いする前に先ずはこの桜に惹かれた方たちを解放しましょうか…
どんな道を目指す人にも、多様な困難は訪れます
スタアを夢見たあなた…いえ、あなたたちもきっと何かがあったのでしょう
故に夢かなわなかった事を憐れとも、可哀想とも思いません
生前伝えられなかった、あるいは魅せられなかったものをこの目で最後まで見届けましょう…一人の観客として
(それがどのようなものだったのかはお任せ致します)
頑張ってる人に頑張って、なんて酷なことは言いません
あなたももし新しい生を得られたのなら、今度は夢が叶いますように
だから今はさようなら
…浪漫の空に咲き狂え、鈴蘭
●
伸ばされたその手に、軽やかな爪先に。唯一の人に恋い焦がれた人を思い浮かべて『鏡子たち』は桜散る舞台へと上がる。
「愛し恋し彼の人を貶めたあなたを私は許さない」
その彼が望もうと、望まざれど構わない。恥じらいながら手を重ねたその手は、今は復讐のために振るわれる。
「復讐ですか……。ええ、解っています、『それ』が生むものが少ない事位……」
それは衝動だと西条・霧華(幻想のリナリア・f03198)と思う。
「それでも尚、そんな想いを抱いてしまうのは人であるが故でしょうか?」
隣に立つ青葉・まどか(玄鳥・f06729)その声に応えない。何も言わずレンズの向こう側から、影朧の少女達を静かに見つめた。
彼女たちは歌い、踊る。役になりきるために努力を惜しまなかった、血の滲むような練習をした。
けれど認められなかった。スタアにはなれず、世間には認められなかった。
――私は無価値じゃない。
演技の裏側に滲む叫びが聞こえたようで、まどかは目を伏せる。
「私は色んな物語が好き。そこに知らない事があるのなら、知りたくなってつい読んでしまう」
『鏡子』の嘆きは、生きた人間の生々しさを露呈するかのように真に迫ったものだった。
とても素敵だとまどかは思う。けれど、彼女たちはこの言葉で満足するとは思えなかった。
求めたのは空を割るが如く鳴り響く拍手喝采、国民だれもが名前を知り、憧れるスタアという存在なのだから。
「ですが成功を掴むのはほんの一握り。そして掴み取ったとして、光浴びる場に留まるのは難しい」
――物書きも、スタアも同じこと。
この世の誰も、白紙・謡(しるし・f23149)という作家の名を知らぬ。覆面作家として様々な作品を世に送り出した彼女は、名を明かすことが出来ない。
それでも書き続ける謡は、作家としての人生を歩むために答えを見出したのだ。
「理不尽のようでいて、然しながらそれは、人の世の常でございますね」
謡の言葉に頷いたフランチェスカ・グレンディル(オラトリオのクレリック・f06390)は青い瞳に憂いを湛え、少女たちを見つめていた。
「どんな道を目指す人にも、多様な困難は訪れます。スタアを夢見たあなた……いえ、あなたたちもきっと何かがあったのでしょう」
厳しいレッスンに耐え、オーディションの狭き門を潜り抜け、煌びやかな世界へと階段を駆け上がるシンデレラ。けれど残ったのは選ばれ無かった現実と、徒労感。何のために人生を捧げてきたのかと、選ばなかった者たちへの怒り。
「故に夢かなわなかった事を憐れとも、可哀想とも思いません。生前伝えられなかった、あるいは魅せられなかったものをこの目で最後まで見届けましょう……一人の観客として」
決意を持った眼差しで前を向くフランチェスカに、霧華も続く。その手は既に籠釣瓶妙法村正へとかけられていた。
「復讐しようとは思わないからわからない。相手にも事情があったりするだろうしね」
静かに佇む紫谷・康行(ハローユアワールド・f04625)の見定めるような視線に、『鏡子たち』が飛びかかろうとして、僅かに躊躇った。思い出されるのは自分たちを価値を値踏みするように見る目、目、目。
オーディションで披露した演技、歌、踊り。それらはお眼鏡にかなう事無く、夢破れていった。
しかし康行の視線は彼女たちを知るために押さえ込んだ苦しみを見透かし、流した涙を掬い上げるような温かさがあった。
「暗い思いに囚われるより、何か新しい事をはじめた方が楽しいだろう」
心はままならないものだけど、その心を軽くしてあげる事はできるかも。そう呟いた康行の言霊が、光を伴って飛び、弾けた。
「虚ろなる眼窩に見出された全き無。お前は世界に在る真なる虚。在ることは無く、虚ろにして全。残るはただ静寂のみ。心はままならないものだけどね、その心を軽くしてあげる事はできるかも――さあ、どんな夢が見えるかな」
●
その絵はまるでありのままの娘達をモチーフに描かれたようだった。
憎しみ、嘆き。それらを糧に描きあげられた巨大な絵画達。
虐げられる少女といった身の毛がよだつような惨劇もあれば、穏やかな空から降り注ぐ光を一身に浴びて野を駆け回る少女達。
ただ喜びを一身に受け止め溢れ出る涙のままに静かに笑う、感謝に満ちた優しいものまで。それは様々だった。
「ふむふむ、これはなるほど。この脚本の真理を突いたような見事な絵でございます」
ルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)は軽佻とも聞こえる声と共に現われた。ぐるりと辺りを見回すと、心得たと言わんばかりに得物に手をかけ死霊を喚ぶ。
「私はルベル・ノウフィル、通りすがりの猟兵でございます。事情は存じませぬが、お困りならばお手伝い致しましょう。なに、こう見えて色々出来てしまいますので」
さあさ、ご覧じろ! と声高らかに宣言し、騎士をけしかけるルベル。蛇竜の背に乗って高みへと昇れば、舞台を上から一望する。
「この舞台を特等席から観覧と参りましょう」
死霊の嘆きが癒やしとなるのなら、『鏡子たち』の嘆きも同じでは無いか。
にやりと笑うルベルに薄ら寒いものを感じながらも、『鏡子たち』は絵画へと襲いかかった。
「ああ、そうだ。憎い、悲しい! でも、どうして、どうして……!」
この絵を見ると、私がそこに居るような気さえしてしまう。その怒り悲しみも、夢見た喜びも。
満たされてしまえば、胸の底に煮えたぎる衝動が薄らいでしまうようにに感じられて、その薄ら寒い恐怖から逃げるように『鏡子たち』は猟兵たちへと牙を剥いた。
悲痛な叫びに合わせて、鬼気迫る演技をみせる少女達。桜の花に混じってぽとりと落ちたのは、涙だろうか。
「正直、悲劇も復讐譚も嫌いじゃない。でも、それは本や映画、フィクションでの出来事に限るの」
素晴らしい歌や踊りだったとまどかは思う。
「でもね、今の貴女達の歌や踊りでは人が傷つけられるの、歓声と悲鳴の区別がつかなくなっているのが私は悔しいよ。
――ごめんなさい。私が貴女達を終幕させます」
彼らへの幕引きを告げたあと、まどかはここには居ない作家へと投げかける。
「ねえ、先生。現実に苦しむ人や被害に遭う人のいる『事件』を作品とは呼ばないで」
これは紛うこと無き、人を害する目的で演じられる、血まみれの舞台。まどかは自身の能力を一気に解き放ち、抜きはなったダガーで次々と『鏡子たち』へ斬りかかる。
合わせるように霧華が地を蹴ると、勁力の瞬発を乗せ変幻自在に疾走し敵中へと飛び込んだ。
「私の中にも、そんな想いが全くないとはとても言い切れませんしね。……ですが、復讐を目的とするのなら、その凶行は止めなければなりません」
彼女たちの復讐心ごと、この剣で断ち切れてしまえば良いのに。そう願った事もあった。
「復讐心と復讐相手が無い借り物の復讐劇程おぞましいものは無いと思います」
霧華の剣で出来ることは、女優達を斬りこの舞台を終わらせること。
踊る爪先を刀身で受け止め纏ったオーラで受け流すと、横にいなして桜の降る中に身を隠す。
「どこ!?」
見失った影を追い求めて死の舞踏を踊る『鏡子』。その視線の先で薄紅の幕が上がり――
「幻想の華が如く、散りなさい」
瞬間、走った剣閃によって悲鳴が上がる。まどかと霧華、二人の剣先で数体の少女達が崩れて消える。
「頑張ってる人に頑張って、なんて酷なことは言いません」
それはまだ地獄が続くのだと宣告するようなものだ。どんな道を目指す人にも、多様な困難は訪れる。
スタアを夢見た『鏡子たち』――夢散り、夢見草の娘達にもきっと何かがあったのだろうと、優しい少女は慮る。
「故に夢かなわなかった事を憐れとも、可哀想とも思いません。あなたももし新しい生を得られたのなら、今度は夢が叶いますように」
――だから今はさようなら。
祈りと共に白い花弁が空へと舞い上がる。
「……浪漫の空に咲き狂え、鈴蘭」
可憐な花が嵐の如く咲き、触れた場所から滲む毒が蝕んでいく。この悲しみも終わりますようにと、眠るように別れへと誘っていく。
ぱたり、と細い指先が地面の上に横たわる。その脇を、怨嗟の声を上げながら『鏡子』は台本通りに演技を続けるのだった。
「……歪んでしまった筋書きをどんなに演じられても、わたくしには……この夢破れた『ヒロイン』達はかの作品のヒロインには見えぬ」
謡は痛々しい姿に目を伏せ、今一度彼女の作品を思い起こし乍ら目蓋の裏側に現われた文字を諳んじる。
「恋に胸を躍らせ、ひたむきに思い続ける一人の女性は、桜の花のような方でした」
胸に残るその文章に描かれる姿は美しくて、その最期故に儚く消える。
それは決して、復讐心に塗れた目の前の『鏡子』では無い。
「貴女は『誰』なのですか」
スタアとして華やかに光を浴びる、恐らく、渡先生の作品のような名作演じる事を夢見た憧れの世界で輝きたかった少女の名は。
煌びやかな世界に生きたかった彼女達のその名は。
――かの桜隠りの『鏡子』ではございますまい。
厳しい謡の言葉に、『鏡子たち』はたじろぎうろたえる。
「わ、たしは……『鏡子』よ。そう、この帝都で、桜の下で一番美しく、人々の憧れとなった! 憧れて、いた……」
ああ、と零れ落ちた声に重なるようにして、獣の牙が貪り食らう。
「復讐劇とは、斯様に鮮烈なるものなのですね」
死霊騎士が剣を振るう様を見下ろしながら、ルベルは赤い目を眇めた。
「だからこそ、作られたものは消さない。次は幸せに生きられるよう、心を軽くした上で君達を消そう」
康行の言葉に、ルベルは頷いた。
「それが君たちが導いた答えなんだね」
ならばと、ルベルが騎士に合図を送る。絵に見とれて、ただただ呆然と膝を突く最後の一人を葬るために。
さようなら。おやすみなさい。
そう呟いたのは、誰の声だっただろうか。
騎士の剣が振り下ろされ、娘の首が落ちる。その目には、温かな涙で濡れていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
第3章 ボス戦
『魔縁ノ作家』
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POW : 〆切の無間地獄
非戦闘行為に没頭している間、自身の【敵の周辺空間が時間・空間・距離の概念】が【存在しない無間の闇に覆われ、あらゆる内部】、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要になる。
SPD : ジャッジメント・ザ・デマゴギー
自身の【書籍、又は自身への誹謗中傷】を代償に、【誹謗中傷を行った一般人を召喚、一般人】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【敵に有効な肉体に変質・改造し続ける事】で戦う。
WIZ : イェーガー・レポート~楽しい読書感想文~
対象への質問と共に、【400字詰原稿用紙を渡した後、自身の書籍】から【影の怪物】を召喚する。満足な答えを得るまで、影の怪物は対象を【永久的に追跡、完全無敵の身体を駆使する事】で攻撃する。
イラスト:もりのえるこ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「アララギ・イチイ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
ふわり。
『逢瀬の桜』が散りゆく中、一人の女性が物思いに耽っていた。
どうやらこの空間にはかなゑや『桜隠り』に関する情報が、そこら中に散らばっていた。それらを摘まみ、拾い上げて目を通す。
かなゑが物語を書き始めたのは、ひとつの恋が非情にも引裂かれてしまったことに始まる。
命を捧げる程、身をやつした恋だった。彼は謂われのない罪を着せられ、形式だけの申し開きの場で無実を訴えた後処刑された。
ついて行きたかった。しかし生きたい思ってしまったかなゑは、その思いを書き殴った。
「この物語は私が恋愛が如何なるものか真剣に向き合い、納得のいく恋を描いたつもりです」
あなたについて行けなかったから、代わりに『鏡子』が思いを遂げられるように。
『桜隠り』を開きかつての自分が込めた思いを読み取りながら、再び恋の熱に喜び浸ったのも束の間。
ひらりと落ちた新聞の切り抜きを読んだ瞬間、全身から血の気が引いた。
――傲慢ナル作家、渡・カナヱ ウヌボレタル様ハ烏滸ガマシク横柄デアリ、自身ノ恋ニナゾラエタトイウ物語モ虚構デハナイカ。
「違うわ」
読めば分かる。この恋は、本当に命を賭けてもいいと思ってしまった程、身を焦がした恋だった。
――どうしたら先生のように書けるのですか。
――どうして何も書いていないのに、書く前からそんなことを聞くのかしら。
「小説は男のものではない、恋愛小説は女性のものでもない。読まれるためにこの物語は在る。私が先駆けとなって、多くの夢見る人々が筆を執れればと思ったわ。
あなたが作家として生きるためには、あなたの言葉で書いた物語が必要だった。
上手な書き方なんて知らないわ。私はただ、思いが形を変えないまま多くの人に伝わるように必死で書いただけよ」
この恋が、誤解されて伝わるなど耐えられなかった。
「私の言葉は伝わらなかった。踏みにじられ、ねつ造され、砕けて散った」
どうして。
「どうして! 私が一番伝えたかった言葉はもみ消されて、あなた達の言葉は嘘偽り無く私へと届けられたの!」
ただ書きたかった。くすぶり続ける情念の埋み火を昇華するために、書いていたかった。
「書きたい」
今この身を満たすのは理不尽に貶められた女の怒り。
「その心を描くとすれば、復讐劇がいいかしら」
もうすぐ、彼らはかなゑを見つけるだろう。舞台女優達は束の間の夢を叶えたのだろうか。
「序章は終わり。さあ、本編の幕を上げましょう」
======================================
受付期間中は何度再送していただいても構いません。
【締切 11/4 (月)12:00まで】
紫谷・康行
聞いて欲しかった
だから書いた
そう言うことなのかもしれない
書くのは手段で
目的じゃない
どう書くかより
何を書くか
誰が書くか
それが大事という事なのかもね
復讐したいわけじゃないんだろうね
たぶん、まだ聞いて欲しいんだろう
だから手を伸ばすのかもね
大丈夫だ
俺は信じよう
コード・イン・メモリーを使い
さっき聞いたかなゑの事を大切に思う人達の様子と言葉を再現する
その後に聞き込みした話からかなゑが生きていた頃の大切な思い出を再現しようとする
生きている事嬉しさが伝わるように
言葉は心を運ぶ入れ物かもしれない
だからこそ力を持つ
伝わる人には伝わる
うまく行かなくてもやり直す事はできる
諦めなければ
倒すのは誰かに頼むかな
その場を去る
ディフ・クライン
参ったな
理屈で感情を理解しようとするオレにとっては、激情への対処は少し難題だ
【淪落せし騎士王】を呼ぼう
王よ、貴方ならどうするのだろうね
かなゑ、此処に来るまでに貴女の本は読んだよ
人形のオレに感情を読み取ることは、難しかったけれど
でも、本が「これこそが自分の恋だ」と叫んでいるようだった
…書きたいなら、書けばいい
けれど、貴女の本を読み、貴女が込めた言葉を真っすぐに受け止めた人が、たくさん居たよ
貴女の言葉は、貴女の本を読んで貴女の言葉を感じ取った人々に、きちんと伝わっている
なのに今貴女が復讐譚など書いたら、その思いすら途切れてしまうよ
それで、いいのかい
それでどうにもならなければ
王よ、斬っておくれ
西条・霧華
「この哀しみを終わらせたいと思います。」
…言葉は時に歪められます
でも、言葉にしなければ伝わらない事もあります
だからあなたは筆を執ったのではないのですか?
あなたの伝えたかった言葉は本当に復讐ですか?
あなたが本当に書きたかった、伝えたかった『思い』は、形にしたかった想いは…
『あなたにしか書けない物語』は本当に復讐ですか?
【残像】を纏って眩惑し、【破魔】の力を籠めた[籠釣瓶妙法村正]にて『君影之華』
相手の攻撃は【見切り】、【武器受け】しつつ【オーラ防御】と【覚悟】を以て受け止めます
悲劇は終わりにしましょう
あなたにしか書けない、あなたの言葉で書かれた物語は…あなたにとって幸福なものであって欲しいから…
青葉・まどか
転生をして貰うために対話
はじめまして、渡先生
先生のファンです。お話、よろしいですか?
(原稿用紙を渡され)作品の感想?ええ、喜んで!
先生に直接、読んでいただけるんですもの感想を綴るのに妥協は出来ません
(発言からの炎上と作品への誹謗中傷に対する怒りの言葉を聞き)
伝わっていましたよ。先生の言葉
そうじゃなければ、『桜隠忌』なんて行われませんよ
先生のお気持ち、全て分かるとは言いません
一ファンとして言わせてもらえれば残念です
世間の誹謗中傷を次の作品でねじ伏せて欲しかった
もっと先生の作品が読みたかった
先生。本当に血生臭い話が書きたかったんですか?
本当に書きたい作品はどんなものですか?
私はずっと待っています
白紙・謡
◎
渡先生、お会い出来て光栄でございます
説得、と云えるかどうか
読者としてわたくしの感想を、嘘偽りなく告げましょう
胸の奥に灯るこころを描くやわらかなことばも
やがて命を燃やし尽くす程に燃え上がり
尽きる迄を鮮やかないろに照らし出す鮮烈なことばも
どれ程、わたくしのこころを動かしたかを
――切々と、自分の言葉で
読んだ時の感動を想い起こせば瞳が潤む程の
…
ずっとずっと、桜隠りを長く大切にしてらっしゃる愛読者の方々と
先程迄ご一緒していたのです
桜隠りの一冊を大切に抱いて生を歩む人もまた少なくない
魂込めた作品とは読んだひとの人生すら変え得るもの
先生の作品を愛する心は、先生を悼むファンの心は
先生へと届きましたでしょうか
フランチェスカ・グレンディル
◎
一応説得を試みましょうか、無理であれば…始末するしかありません。
復讐劇もまた「渡・かなゑ」の作品として悪くないのかもしれません
あなたの小説は想いを書き綴ったものであったから
今の身を焦がす怒りのままに書けばそれもまた素敵な作品となるでしょう
ですがそれをしてしまえば世はあなたの「小説(おもひ)」を否定する
しかし一方でこの「桜隠忌」に参加してるあなたのふぁんたちの様に夢中になるかもしれません
言の葉は受け取り方次第…それ次第で歪められたりもするし、伝わったりもするのです
あなた自身のおもいを否定しないためにも復讐はやめてください
成仏して輪廻の中で想い焦がれた人とゆっくり休んでくるといいです。
●
舞台を通り抜け、桜の花びらが成す薄紅の紗を過ぎれば――そこは『逢瀬の桜』が散る続ける幻想の世界だった。
「来たのね」
咲き誇る花の下で、一人の女性が立ち尽くしていた。
「ここまで来たのなら、私の事は知っているのね」
女性――渡・かなゑの質問に、青葉・まどか(玄鳥・f06729)が前に進み出て答えた。
「はじめまして、渡先生。先生のファンです。お話、よろしいですか?」
「……今さら何を語るか知らないけれど、聞くくらいならいいでしょう。勿論、下らない回答であれば邪魔者として消えて頂くだけで無く、悪役として復讐劇の登場人物になってしまうかも知れませんよ
――さあ、あなた達は言葉を私に向けるのかしら」
重ねた質問と共に、まどかはかなゑから原稿用紙を受け取った。
「作品の感想? ええ、喜んで! 先生に直接、読んでいただけるんですもの感想を綴るのに妥協は出来ません」
かなゑの手にする黒い小説から影を怪物がどろりと零れ落ち、無数の手となってまどかへと腕を伸ばしていく。
桜の下で死んだ女の怨念が、彼女を貶めた人々を食らっていく。妖しくも悍ましい復讐劇。
『血桜奇譚』
影なる怪物が筆を執り、今まさに執筆されるその物語はどんな結末を迎えるのだろうか。
かなゑの新たなる物語の頁が、開かれた。
●
「今さら感想を貰ったって、私に恋はもう書けやしないわ。その熱意も、恋すらも。踏みにじられ詰られ、人々の嘲笑の種にされた」
かなゑの胸中を渦巻くのは、聞き届けるもの無かった言葉達。
「あなた達が何をしようと構わないわ。ただ、邪魔をするというのは分かるのよ」
だから、消えなさい。
まどかへと迫る手を西条・霧華(幻想のリナリア・f03198)が籠釣瓶妙法村正で受け止め、切り払う。
「……言葉は時に歪められます。でも、言葉にしなければ伝わらない事もあります。だからあなたは筆を執ったのではないのですか?」
「伝えたわ! 何度も違うと、声を上げそして書いたわ。でもそれは届かなかった!」
叫び喚くかなゑの声に、霧華は一瞬たじろいで刀で怪物を弾く。
しゃっと紙面の上を走る羽根ペンの先から、文字が零れ落ちる。
――鏡子の叫びを受けて、彼らはたじろいだ。怒りは真っ直ぐに彼らの喉元へと刃を突きつける。
――彼らにとってその言葉に思い当たる節など無くとも、鏡子の思いを邪魔する彼らを許せるはずが無い。
「参ったな」
かなゑの怒りは、その視線や言葉を向けられただけでちりちりと身を焦がされるようだった。理屈で感情を理解しようとするディフ・クライン(灰色の雪・f05200)にとって、激情への対処は少し難題だった。
「王よ」
貴方ならばどうするのだろう。彼女の激情に、何を向けるだろうか。愛馬に跨がる王であった死霊騎士は、未だ語ること無く沈黙を守っていた。
その、次の一瞬。
膠着した両者の間を散り続ける桜の花びらが、ふと途切れた。
『渡はこの公園が好きでしたね』
そう言ったのは、かなゑにも見覚えのある男性だった。もっと若く、情熱に溢れた眼差しを、かなゑは何度も何度も見ていたのだから。
『小説は男のものではない、恋愛小説は女性のものでもない。読まれるためにこの物語は在る』――私にそう啖呵を切っていたのが懐かしいです』
かつて同じ年の少女だった彼女は面影を残して、母として凜と立つ女性になった。
「あ……」
これは、夢だろうか。懐かしい、でも分からない。思わず伸ばされた震える指先が、二人の男女へと近づいていく。
呆然とするかなゑの前で、虹色に走るノイズがそれが幻想だと教えてくれた。
『最後に逢った時、たった一言――『書きたい』と。それが別れの言葉になるなど、思いもしなかった』
「だって、もう。私には……」
くるり、くるり。
時計の針が逆巻くように二人の姿は徐々に若返り、よく知った姿へと変わっていく。
『ねえ、千枝。私は小説家になれるかしら』
『いきなりどうしたの。でもきっとなれるわ。かなゑの文章はとても上手で、私はいつも泣かされてばかりですもの』
貴女はいつも泣き虫で、私が男の子を打ち負かして。そんな、少女らしさの欠片も無い私が文壇でのし上がるなんて夢のまた夢だと思っていた。
『私は渡さんの――いえ、先生の小説を絶対に世に送り出さねばならないのです!』
伊勢崎さんは、右も左も分からない私に沢山の事を教えてくれた。どうすれば良いのか、伝わるのか。語り合って喧嘩もしたわ。
それでも、書き上がった時はそんなことも忘れて子どもみたいに大はしゃぎしたのだったかしら。
「伝わっていましたよ。先生の言葉。そうじゃなければ、『桜隠忌』なんて行われませんよ」
過去の幻想を懐かしんでいたかなゑは、声に驚きはっと顔を上げた。かなゑの前に、原稿用紙の束が差し出される。それはまどかが『桜隠り』への綴った結晶だった。かなゑは原稿用紙を受け取ると、ぱらり、ぱらりと読み進めていく。
「先生のお気持ち、全て分かるとは言いません。一ファンとして言わせてもらえれば残念です。世間の誹謗中傷を次の作品でねじ伏せて欲しかった。――もっと先生の作品が読みたかった」
まどかの言葉を引き取って、フランチェスカ・グレンディル(オラトリオのクレリック・f06390)はつぐんでいた口を開いた。
「復讐劇もまた『渡・かなゑ』の作品として悪くないのかもしれません。あなたの小説は想いを書き綴ったものであったから、今の身を焦がす怒りのままに書けばそれもまた素敵な作品となるでしょう」
かなゑが綴った物語だからこそ、読みたかった。
「もし貴女が復讐を果たしてしまえば世はあなたの『小説(おもひ)』を否定する。しかし一方でこの『桜隠忌』に参加してるあなたのふぁんたちの様に夢中になるかもしれません。
言の葉は受け取り方次第……それ次第で歪められたりもするし、伝わったりもするのです」
「胸の奥に灯るこころを描くやわらかなことばも。やがて命を燃やし尽くす程に燃え上がり、尽きる迄を鮮やかないろに照らし出す鮮烈なことばも。
ひとりの感情に寄り添い、丁寧に綴られ選び抜かれたことばたち。それがどれ程、わたくしのこころを動かしたことでしょう」
こうしてかなゑ自身に訴えるために、白紙・謡(しるし・f23149)は居ても立っても居られず逢瀬の桜まで駆けつけてしまう程に。「頁に綴られた言葉は、人の声で語られているかのようでした。僅かな抑揚も、息を呑む音すら聞こえてくるようで」
『桜隠り』を読んだ時の衝撃に震えるような感動を想い起こせば、謡の瞳は自然と潤みハンカチで目元を押えた。
「かなゑ、此処に来るまでに貴女の本は読んだよ。人形のオレに感情を読み取ることは、難しかったけれど……。
でも、本が『これこそが自分の恋だ』と叫んでいるようだった」
人の心をディフは知らぬ、人の心を語る言葉を人形は知らぬ。それでもこの身を満たす魔力がざわりと波立ち、『鏡子』の身を焼く感情が恋なのだと、それしか聞こえない程に叫んでいた。
誰もが考えるよりもかなゑの行動はずっと単純ものだったのかも知れない。聞いて欲しかった。だから書いた。そう言うことなのかもしれない。
「書くのは手段で目的じゃない」
作りだした思い出が役目を果たしたと悟った康行は、ユーベルコードが映し出した世界を解いていく。ここから先は、康行自身の言葉で伝えるために。
「(復讐したいわけじゃないんだろうね)」
まだ聞いて欲しいんだろう。だから猟兵たちにも手を伸ばすのかもしれない。
「なら、大丈夫だ」
呟いた言葉は康行にしか聞こえない程小さく、力強く。
「俺は信じよう」
かなゑのその心を、言葉を。今から記す物語を。
「どう書くかより、何を書くか、誰が書くか。それが大事という事なのかもね」
「……書きたいなら、書けばいい」
「随分と簡単に、言うのね」
「――どうして何も書いていないのに、書く前からそんなことを聞くのかしら、と。簡単に言ったのは、貴女だ」
淡々と切り返すディフの言葉に、かなゑは自らの言葉の意味を理解した。
「そう……」
「貴女の本を読み、貴女が込めた言葉を真っすぐに受け止めた人が、たくさん居たよ」
彼ら彼女たちは、かなゑが生涯でただ一冊の著作を胸に、作品に込められた思いと言葉を語り継いでいた。
「貴女の言葉は、貴女の本を読んで貴女の言葉を感じ取った人々に、きちんと伝わっている。なのに今貴女が復讐譚など書いたら、その思いすら途切れてしまうよ。
それで、いいのかい」
「それ、は……」
揺らぎ始めたかなゑは、ディフの問いかけに答えることが出来ない。
「あなたの伝えたかった言葉は本当に復讐ですか? あなたが本当に書きたかった、伝えたかった『思い』は、形にしたかった想いは……。
『あなたにしか書けない物語』は本当に復讐ですか?」
復讐に精神を焼かれる痛みと熱量を、霧華は知っていた。その言葉が語られる以上に、重いものであるとも。この先にあるのは無限に続く暗闇を進むような、耐えがたい苦痛の道だとも。
「言葉は発した人の思いが形を変えたもの。その中で理想の言葉をいただく機会などがあるとすれば、どれほど恵まれた奇蹟なのでしょう」
フランチェスカの思いに、康行が続く。
「言葉は心を運ぶ入れ物かもしれない。だからこそ力を持つ。伝わる人には伝わる。
うまく行かなくてもやり直す事はできる。貴女が諦めなければ」
「諦め、なければ」
ぽつりと、繰り返された言葉に謡は力強く頷いた。聞いて下さりますか、と優しく一声かけてから続きを語り始めた。
「本日はずっとずっと、桜隠りを長く大切にしてらっしゃる愛読者の方々と先程迄ご一緒していたのです。
『桜隠り』の一冊を大切に抱いて生を歩む人もまた少なくない。魂込めた作品とは読んだひとの人生すら変え得るもの。
先生の作品を愛する心は、先生を悼むファンの心は。先生へと届きましたでしょうか」
謡の言葉にかなゑは驚いて目を見張った。
「あなた達、ファンだったの。手厳しい読者の間違いでは無くて」
力なく笑うかなゑに、まどかは
「先生、今一度聞かせて下さい。本当に血生臭い話が書きたかったんですか? 本当に書きたい作品はどんなものですか?」
「また、あの時のような、恋の物語を書いてみたい。今度は幸せになるために、桜の下で交わした約束が、長く、永く、続いていくような」
そんな、物語を。
「ならば、私はこの哀しみを終わらせたいと思います」
霧華は納刀状態の刀の柄に手をかけ、呼吸を整える。
一つ、地を蹴り。
二つ、桜吹雪の中を影を残して走り去る。
「この身が鬻ぐは所詮殺人剣……。ですが、『殺す』ものを選ぶ事はできます」
この世界に悲劇を齎す執着を、今は静まったかなゑの思いを断ち切る刃だ。
「私は、あなたにしか書けない、あなたの言葉で書かれた物語は……あなたにとって幸福なものであって欲しいから……」
この一刀に思いを込めて、霧華はかなゑへと迫る。
「王よ」
再び、ディフは問いかける。彼の王の選択を聞くために。
静かに佇んでいた王は、剣の柄に手をかけた。それが、答えだった。
「ならば、王よ。斬っておくれ」
この悲しみから、彼女を解き放つために。
ディフの言葉を聞き届け、王は剣を抜き愛馬の腹を蹴った。我が身を王と戴く人形の願いに応えるために。
霧華と王の刃が、かなゑの身体を切り裂いた。
「おいで、おいで」
謡は逢瀬の桜の下に、二人の男女を招く。それは『桜隠り』の鏡子と、一人の男性。結ばれなかった恋人達が、幸せそうに寄り添い年老いていく姿を、描写し映し出す。
最後に、夢をみせるために。
「ああ……」
それは本当に、幸せな夢だった。
夢の余韻に浸りながら、地に倒れたかなゑは逢瀬の桜を仰ぎ見る。
「書きたい、なあ……」
作家の夢を千枝に語った少女のように。伊勢崎と諍いながらも書き上げた女性のように。
暗闇に沈むかなゑの視界に、桜の精が舞い降りる。
「ありがとう」
次の夢を、みせてくれるのね。
そうして、渡・かなゑという影朧は、桜の花弁となって消えていった。
復讐は果たされず、残された桜は万代まで彼女を待つだろう。
幸福な恋の物語を携え、晴れ晴れとした表情で笑う少女と再び出会うために。
大成功
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