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スピリトーゾ・スビート・アファシナーレ

#UDCアース #【Q】

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#UDCアース
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#【Q】


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「時に皆さん、UDCアースで邪神復活阻止した経験はあります?」

 シーカー・ワンダーが口元に手を当て、小首を傾げる。逆の手には、黒金のイースターエッグめいた物体が握られていた。表面には、禍々しい五線譜の彫金。
 これまで、UDCアースにて数々の邪神復活の儀式が阻止されてきた。それらは猟兵の活躍あってのものだが―――実は、これまでに何体もの邪神が、既に完全復活していたのだと言う。

「今回の依頼はですね、その完全復活した邪神をやっつけてもらおー……ってことなんですけど、ちょっと一筋縄ではいかない事情がありまして。というのも、完全復活した邪神が地球上にいなくって……」

 召喚された邪神の不在。これには理由がちゃんとある。邪神を超える力を持った、強大な『何か』が、邪神を自身の領域に集めたらしい。星辰揃いしときに始まるという、『大いなる戦い』の為に。あたかもラグナロクに備えるオーディンめいて。

「それでその領域なんですが、どこにあるかはわかりません。宇宙の果てか、それとも別の次元にあるのか……とにかく干渉不可能だったんです。そこで、これ」

 シーカーが手にした卵型の物体を差し出して見せる。
 それは、猟兵の儀式魔術【Q】が暴き出したもの。絶対不可侵領域たる『何か』の世界に至る『銀の鍵』だ。シーカーは予知夢によってこれを探し出し、完全なる邪神がいる場所へゲートを開くことが出来るようになったのだ。

「これを使って行きつく先は、超次元の渦って呼ばれてます。何かすごいエネルギーで作られた空間なんですが、招かれた邪神の手で勝手にリフォームできるみたいですね。今回の空間、ちょびっとだけ覗いたんですが、ダンスステージみたいな感じでしたよ」

 また、超次元の渦に首を突っ込んだことで、敵の存在も予知できた。
 この歪なるヴァルハラにステージを作り出した邪神の名は、『『ネットアイドル』サイバーエリィ』。その名の通り、インターネットを駆使したアイドル活動で信者(ファン)を集める邪神なのだが、何かしらの力によりいつも妨害されているのだという。
 今回闘うにあたって、サイバーエリィは二つの曲を歌うことで前座となる邪神を二種類呼び出す。
 最初は『クゥイラトァ・グラルハ・メラルヒニトの書』という魔本の邪神。次に、『『幻星兇刃』アステリア・シグマ』という青年型の邪神。
 この二体の邪神を打ち破らない限り、不可思議な力によってサイバーエリィへの攻撃は届かなくなってしまう。加えて、『クゥイラトァ・グラルハ・メラルヒニトの書』は大量に出現する。一体一体がボス級の力を持っているため、一人で複数相手どったりすると立ちどころにやられてしまう。上手い立ち回りが求められるだろう。

「今のところ、サイバーエリィを招いた存在のことはわかってません。ですが、完全復活した邪神をこのまま捨て置くことも出来ないわけで……」

 三度戦う敵は全て強敵。油断ならぬ相手だ。苦しい戦いになるかもしれないが、是非とも力を貸してほしい。
 ちなみに、アステリア・シグマとサイバーエリィは単騎での戦いとなる。あくまで多勢で押し寄せてくるのは魔本のみだ。


鹿崎シーカー
 ドーモ、鹿崎シーカーです。今回のシナリオはボス戦×3のガチバトルでございます。
 ガチのバトルでございます!

●舞台設定
 強大なる『何か』が凄まじいエネルギーによって生成した超空間『超時空の渦』です。
 本来は重力も何も無い空間ですが、現在はサイバーエリィの力によって広大なダンスステージに模様替えされているようです。ステージ奥の壁には超自然の力でネットに接続された大型モニタが三つあります。

●第一章『クゥイラトァ・グラルハ・メラルヒニトの書』
 邪神を崇める狂信者によって書かれた人皮装丁本。記載内容は様々な邪神についての召喚方法、必要な生贄の人数や召喚に適した場所など。オリジナルは一冊のみで他の狂信者の手で複製されており、世界に多数存在する写本。
 ボス戦ですが、全10体出現します。

●第二章『『幻星兇刃』アステリア・シグマ』
 生前ある組織の隊長を務めた男。冷静沈着で洞察力が高い。汚れ仕事を押し付けた挙句自分達を捨てた社会に多少の恨みはあるが感情的になることは無く、ただオブリビオンとしての任務を遂行する。戦闘は機動力と抜刀術が主軸。
 ボス戦。一体での出現です。

●第三章『『ネットアイドル』サイバーエリィ』
 現実で会えるネットアイドル。ネットを駆使して信者を集める邪神系ネットアイドル サイバーエリィ。そんな彼女の配信はいつもすぐに止められる。それでも彼女は諦めない。歌って踊って魅了する。だって私はアイドルだもん。
 ボス戦で、一体での出現です。

 アドリブ・連携を私の裁量に任せるという方は、『一人称・二人称・三人称・名前の呼び方(例:苗字にさん付けする)』等を明記しておいてもらえると助かります。ただし、これは強制ではなく、これの有る無しで判定に補正かけるとかそういうことはありません。

(ユーベルコードの高まりを感じる……!)
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第1章 ボス戦 『クゥイラトァ・グラルハ・メラルヒニトの書』

POW   :    読み解けば死
【恐怖や狂気】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【宙に浮く文字】から、高命中力の【呪詛の塊】を飛ばす。
SPD   :    目が合えば死
【視線】を向けた対象に、【本に記載されている呪詛の言葉】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    理に至れば死
【開かれた本】から【呪詛の塊】を放ち、【具現化した文字の群れ】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠違法論・マガルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

リドリー・ジーン
一人称・私 二人称・あなた 三人称〜さん

一体一体確実に仕留める方向性で
UCで出現させたこの子達を一体に狙いを定めて四方八方から握りつぶすように攻撃するわ

視線の攻撃も厄介ね、できるだけ視界に入らないよう影の手達に視界を遮る邪魔もしてもらいましょう

援護攻撃として上に射った矢で本を貫き地面に突き刺して動きを止めてみたいけれど
...うまく刺さってくれるかしら


鈴木・志乃
即UC発動
オーラ防御常時発動

さーてさてさて第六感で攻撃を見切りながら呪詛だけ頂いて力溜めたいとこですねっ
極力戦闘は回避しつつ、呪詛だけひょいひょいすれ違いざまに回収~
とにかく逃げ回って力溜めですよ!!!
どこだ本物……【第六感】

文字の群れは念動力に祈りと破魔の力を籠めて避けますよ
直接対決してる余裕ないもの

余裕出来たら手近なやつを零距離射撃の全力魔法(破魔)で屠って生命力吸収するんですけどね
本物と出会った場合も同様

あと囲まれて動けなくなった場合は全力魔法の衝撃波でなぎ払います
我ながら凄い力業になっちゃったなあ……

必要あれば念動力で光の鎖で本を縛り上げときますよ
開くなこのやろう


須藤・莉亜
「モニターはあれか…。カメラはどこにあるんだろ?」
カメラに向けてピースでもしとこうかと思ったけど。

地獄顕現【悪魔大王】のUCを発動。
基本は高速で飛行してのヒットアンドアウェイ。
強化された血飲み子と悪魔の見えざる手で攻撃し、一撃入れたら速攻で逃げる。
常に動き回って的にならないようにしよう。

敵さんの攻撃は【第六感】で嫌な感じを察知し、動きを【見切り】回避と、血飲み子と悪魔の見えざる手で【武器受け】して防御。

具現化された文字は、万物破壊で壊せるようなら一部を壊してそこから回避。
緊急時は転移で逃げるのもあり。

【僕・きみ・年上の相手のみ名前+さん、他は名前呼び捨て】


違法論・マガル
ようやっと本体にたどり着いたかと思えば……厄介だな
まあいい、十冊全て燃やせば済む話だ

■戦闘
なるべく多対一にならないよう、敵と自分の位置取りに気を付けて戦う
囲まれることのないよう他の猟兵の背面に行くように立ち回ろう

基本相手取るのは1体だけで、複数を同時に攻撃はしない
他の猟兵が狙っているものがあればそれに狙いをあわせて確実に1体ずつ体力を削り撃破を目指すか
複数から敵視されないよう、途中戦っている最中に別の個体に邪魔された場合はバウンドボディで素早く逃亡に徹し、ふたたび一対一の状況になれるまで粘る

■心情
終わりにしよう、メラルヒニト
お前の役目はとうの昔に終わっている。邪神を呼ぶにもそろそろ飽いた頃だろ


潦・ともの
美影と千里と参加
アドリブ大歓迎!
うー、こういうホラー系な相手は苦手ですの
でも。
あのこの紡ぐ英雄譚でいるためには邪神の1体や2体倒してみせねば

相手の視線攻撃には【フォース】【念動力】【第六感】で敵同士を向き合わせたり
瞼を閉じさせて防いでみる
呪詛の塊はセイバーで【見切り】【第六感】【武器受け】【カウンター】【オーラ防御】
味方を護る!

美影のなぎ払いにふと思い立ち

『美影、ちょっと借りますの!援護カードよろしく!』

【武器改造】【念動力】でフォースセイバーと美影の呼んだドラゴンを融合
大剣に変えてなぎ払う!


カタリナ・エスペランサ
人称はキャラシ準拠/年上には名前+さん付け、一貫してタメ口

最初は《迷彩+忍び足+目立たない》で潜伏して《全力魔法+力溜め》の《時間稼ぎ》をするよ
チャージ完了したら、もしくは味方のフォローが必要そうだったらUC【天災輪舞】を最大出力で発動して飛び出そう

派手なステージは嫌いじゃないけど、この手の悪趣味な代物はどうにも受け付けない
きっちり骸の海に叩き返すとしようか!

自慢の翼で《空中戦》を展開、高速移動を利用して敵の視線より速く飛び回ろう
攻撃はばら撒いた羽弾を操って《属性攻撃+誘導弾+スナイパー+乱れ撃ち+範囲攻撃》、命中したら羽に込めた炎と雷の《封印を解く》事で目くらましも兼ねた追撃を畳みかけるよ


天門・千里
一人称:私
二人称:君、呼び捨て

超次元の渦、ね。私「たち」の目的に近いものだろうか。
だとしたら、これほどすごいショートカットもないが…
「止めないとみんなに怒られちゃうし、止めますか」

相手の呪詛は【呪詛耐性】である程度はねのけつつ、
バイクの【運転】技術で囲まれないよう立ち回る
【高速詠唱】と光の【属性攻撃】に【破魔】の呪いをのっけたUCで攻撃
積極的に【スナイパー】の如く目を狙っていくか
破魔はあいつらにはいい【呪詛】でしょ
「しかし悪趣味な魔導書もあったもの…魔導書なんて、どれもろくでもないけども」
回収して売ったら高く買い取ってくれそうだけど、そうも言ってられないね
必要であれば、みんなと連携をとる


柚月・美影
せっちゃん(千里)やとものちゃん達と参加
一人称:アタシ
二人称:年上はさん、年下・同年代はくん、ちゃん付け
アドリブも歓迎

●戦闘
こいつら、悪趣味にも程があるわよ…
それに戦い方まで嫌らしい!
確りと連携していかないと…

宇宙バイクを【運転】し機動戦
直接見るのが難しいなら、それなりの戦い方があるわ!
【野性の勘】で相手を把握しながら【念動力】で強化したカードを【投擲】して【カウンター】
攻撃はバトルキャラクターズを使用
【罠使い】も併用して、可能な限り相手の邪魔をしていく
「敵が多くて、大型を出す隙が無いわね…
でも此の位!
頼むわよ『ギャラクシー・シャーマン』!
『クロノス・プリースト』!
呪詛なら、これで!」


アレク・アドレーヌ
邪神を倒せというのはわかるけどその位置がわかりませんってそれはどうなんだ

まぁそれでも行けって言う辺りに猟兵を使い勝手のいい便利屋か何かと思ってねぇかと思いつつどっちにしてもいくわけだが。

戦闘方法:
UC使用前提で技能を盛れるだけ盛り戦う…が相手が呪詛の『言葉』を飛ばしてくるなら『言葉』=音、空気の振動であるなら【衝撃波】【歌唱】で相殺は可能なはず。言葉がそのまま飛んでくるならどうしようもなさそうだが文字列が飛んできても【衝撃波】に【吹き飛ばし】も併用すれば行けるか

しかし邪神で宇宙とはどこかの神話にあったな…



 青と銀のラメが煌めくステージを、澄んだ歌声が震わせる。奥の壁に設置された三つの大型モニタに大写しとなる、エキゾチックな褐色肌の少女の顔。
 美しい歌声で、不明瞭な歌詞を歌う少女の前には、人皮装丁の魔本三冊。トライアングルを描くように浮遊したそれらは、表紙に着いた一つ目と口を動かした。紫紺の輝きが魔本を包み、バリトンコーラスが響く!
『ARRRRR―――ARRRRRRRGH!』
 三冊の口元に魔法陣が三つずつ出現し、高速回転! ガトリングガンめいて乱射される紫色の光弾は、強力な呪詛を帯びた謎の文字を形作る。横殴りの雨じみて襲い来る呪詛文字と向き合ったアレク・アドレーヌ(仮面の英雄・f17347)は、両手を地面に叩きつけ四つん這い体勢を取った。
 黄緑色の外骨格に覆われた体がメキメキと音を立てて膨張し、白い無貌の仮面に横一直線の亀裂が走る。腰裏はクジラじみた尾に変異! 大きく息を吸ったアレクは、迫りくる呪詛文字弾めがけて大声を張る!
『ARRRRRRRRRRRRRRRRRRRGH!』
 野太いエコー! 音波が暴風の如き衝撃波を為し、呪詛文字弾幕と正面衝突! ZGGGGGGGGGGG! ステージ全体が地鳴りを響かせ、ステージ照明が爆ぜるように砕け散る。負けじと声量を上げる三冊の魔本。呪詛弾発射速度が上がり、アレクの衝撃波が徐々に押し戻され出した!
(クソッ!)
 四つん這い体勢のままジリジリと下げられ、アレクは内心で毒づいた。白熊ぬいぐるみじみたテレビウムの説明が脳裏をかすめる。
(邪神を倒せというのはわかるけど、その位置がわかりませんってそれはどうなんだ。その上まずはボス級邪神を相手にしろだと? 人使いが荒いぜ。猟兵を使い勝手のいい便利屋か何かと思ってねぇか、グリモアの奴ら! ……まぁそれでもやるんだがな!)
『ARRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRGH!』
 ワンオクターブ上がったアレクの歌唱衝撃波が拮抗を取り戻し、相殺! ZGAAAAAAAM! ステージに放射状の風が吹き荒れ、呪詛文字弾幕が砂じみて霧散した。柔らかく分厚い白翼を広げた鈴木・志乃(ブラック・f12101)は、向かい風を交叉した腕で防御しつつ急降下! 三冊の魔本へと肉迫していく! 魔本たちの視線がアレクから志乃へと向いた。
「呪いは祈り、昏き願いは光の祝詞へ……!」
 志乃の全身を黄金色のオーラが覆った次の瞬間、ひとりでにページを開いた三冊の魔本は中からピンポン玉サイズの黒球を吐き出す。ブラックホールじみたそれは一瞬にして超巨大化して融合! 三階建て建造物レベルの大きさとなって志乃へと射出!
「うおっと!?」
 宙返りを決めた志乃は両手を突き出し、手の平から黄金色のオーラ光線を撃ち出した。流星じみたオーラの光は呪いの巨大黒球に命中し、表面全体を燎原の炎めいて包み込む。皆既日食めいた光景! 志乃はオーラを伝って逆流してくる黒い奔流を浴びながら、両腕を引くように身をひねる!
「向こう、行けっ……!」
 軌道を逸らされた巨大黒球は一回転する志乃をかすめて暗緑色の暗黒めいた空へと昇る。すれ違いざま、幾条も伸びた黒い煙型の呪詛に巻かれる志乃の真下でエンジン音が高らかに吠えた。蒼い光輪じみた車輪のモノバイクと、騎乗した柚月・美影(ミラクルカードゲーマー・f02086)が突貫していく!
「敵が多くて、大型を出す隙が無いわね……でも此の位! 頼むわよ『ギャラクシー・シャーマン』! 『クロノス・プリースト』!」
 美影が呼びかけた瞬間、モノバイクの左右に銀河色のローブをまとった人影が二体出現! 杖を掲げた人影は、魔本たちが放つ呪詛弾をバリアを張って防御していく。表紙の口で何事か呟いた三冊の目蓋が、突如赤く光って強制的に閉ざされた。
 背表紙を左右にシェイクし困惑する魔本たち。美影とタンデムした潦・ともの(Wild Flowers・f04019)は、真紅のオーラに包まれた両手十指を全力で折り曲げた! しかめっ面で歯を食いしばる。目蓋だけとはいえ、ボス級オブリビオン三体の同時拘束は負担が大きい!
「むむむむむむむ! 閉じろゴマ、ですの……!」
「ナイスよとものちゃん! 隙さえ出来れば……来て! ギャラクシー・クロノスドラゴン!」
 美影が片手を打ち振り、ローブを来た影二体が閃光と化し融合! 一際巨大化した光球を突き破って現れた巨竜が銀河色のビームは吐き出す! 恐るべき破滅の光が、混乱し目を開こうとする三冊の魔本に直撃して大爆轟を引き起こした! CABOOOOOOOOM! とものの両手がオーラ破裂の反動で跳ね上がる。美影は鋭くドリフトして制動をかけた。
「やった!?」
「うんにゃ、まだだぞ美影! いてて……」
 両手をブラブラと振りながらとものが言ったその刹那、ステージ壁を隠していた黒煙が吹き飛ばされた。そこには変わらず浮遊する三冊の魔本と超自然の蒼光ドーム状バリアに守られたサイバーエリィ! 無事である!
「っ……!」
 思わず息を呑む美影。そちらを見つめる三冊の魔本たちはバリトン音声でコーラスし、開いたページから湯気が立つように黒紫色の文字列を立ち上らせる。何本もの文字列は魔法陣を描き出し、中心を発光させ紫色のビームを放った! CADOOOOOOOM!
「美影っ!」
「やばっ……!」
 美影が目を見開いた直後、その頭上を三輪バイクが飛び越える。着地したバイクに乗った天門・千里(銀河の天眼・f01444)は、グレーのツインテールをなびかせながら蒼い剣杖を振りかぶった! 小さく何事か呟くと共に輝き始める刃を投擲!
 ミサイルめいて飛翔した剣杖は呪詛のビームと正面衝突し、蒼紫二色の爆炎を噴き出す! ステージを二分する炎を見た千里は三輪バイクをカーブさせ、美影に呼びかけた。
「なーにやってんの美影。ほら、逃げた逃げた」
「ありがとせっちゃん!」
 DRRRNG! ハンドルをひねった美影は再度エンジンを吹かせて走り出した。千里は晴れかける爆炎を一瞥すると、アレクの上空に手振りで合図。透明な床に座るが如く、虚空に屈みこんだ須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)は親指の皮を噛み千切った。血の一滴が彼の足元に落ち、波紋を広げる。波紋はダークレッドの大型魔法陣へと変化した!
「開門。んでもって第九圏へ直結。鉄拳制裁」
 魔法陣を横一直線の閃光が切り裂き、そこからシャッターを下ろすように石造りの巨大門を呼び出した。悪魔のレリーフが施された門が勢いよく開かれ、巨大な悪魔の右手が出現! 素早くバイクで走り去る千里の奥、爆炎が晴れた先にたたずむ魔本三冊に魔王の剛拳が迫る!
『AHHHHHHHHHH……!』
 魔本たちが三度コーラス! ひとりでにめくられるページからまき散らされた無数の文字が、魔本たちの前で理路整然と居並び巨大な防壁と化した! SMAAASH! 悪魔の拳が直撃し、防壁に大きな亀裂を入れる。だが魔王の手の甲にも紫に光るヒビが入り、手首から腕を伝って門へと昇る!
「ん?」
 門を見下ろした莉亜はその場を素早く跳び下がる。魔の拳を覆い尽くした亀裂が門の中へと入った瞬間、大気を激震させる凄まじい断末魔が響き渡った。石造りの門が悪魔の腕ごと爆散崩落! 胃・心臓・脳を同時にシェイクされたアレクと志乃が悲鳴を上げる。
「ARRRRRRGH!?」
「ぐあああああああっ!」
 耳を押さえた志乃が撃ち落とされた鳥めいて落下! なんとか羽ばたき、両手で床を引き裂くアレクの隣に片膝を突く彼女の背後に莉亜が降り立つ。くわえ煙草から細い煙が揺らめいた。
「ごめん。二人とも、無事?」
「無事じゃないって……! なに今の!」
「ルチフェロの声」
 事も無げに告げる莉亜を、志乃とアレクが恨めしげに振り返る。莉亜は平然と紫煙を噴き出しながら、ステージ奥を見やった。壁に埋め込まれた三つのモニターには相変わらずサイバーエリィの顔が投影されている。
「モニターはあれか……。カメラはどこにあるんだろ?」
「言ってる場合か。……来るぞ!」
 アレクが前に向き直った直後、トライアングル陣形を組んだ魔本三冊が陣形ごと旋回を開始! 陣の中央からバリスタじみた紫光の槍を解き放つ!
『AHHHHHHHHHHHHH!』
 ZGA-TOOOOOOM! ドリルめいて回転しながら飛来する呪光の大槍! アレクは四肢と背中をさらに膨張させ、仮面をバックリと割る亀裂を大口めいて開き咆哮した。
『ARRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRGH!』
 凄まじい重低音が暴走特急の如くステージ床を抉りながら走る! そのまま大槍と衝突―――しかし刹那の拮抗ののち、呪詛大槍は衝撃波をかき分けながらアレクたちへ襲いかかった! 魔本たちの表紙が不気味に笑う。アレクのアクションを学習し、対策したのだ!
(あいつらッ……!)
 アレクは歯噛みしたくなる気持ちを押さえ、さらに声量を上げた。槍の速度は僅かに下がるが、停止及び霧散には至らぬ! その時、アレクの後方に居た莉亜が斜めに跳んだ。シャツの背中を突き破って竜翼を生やし、衝撃波をかき分けながら突き進む呪いの槍真上に到達。白翼めいた刃を持つ大鎌を振りかぶった!
「アレク、そのままだよ」
 莉亜の両腕、ボーダーシャツの生地がひとりでに引き裂け、肌を破って噴き出した血が鎌の刃に吸い込まれていく。莉亜は赤黒く染め上げられた大鎌を投擲! 垂直落下した回転鎌は衝撃波を斬り裂いて呪詛光槍を寸断した。
 CABOOOM! 形を保てなくなり爆散する槍! 志乃はすぐさま大翼を広げて輝かせ、槍を構成していた呪詛の粒子を吸収していく。一方競合相手を失ったアレクの衝撃波は、そのまま魔本三冊を強襲! 音波砲は陣を広げるように散開した魔本の間を抜け、サイバーエリィのバリアに命中して霧散した。アレクは声を止め吐血!
「ゲホッ!」
「ちょっ、大丈夫!?」
 志乃が慌ててアレクの背中に手を当てた。彼のガラガラに枯れた呻き声を聞きながら、志乃は周囲を見渡した。
 先の三体は空中を縦横無尽に飛行する莉亜へ呪詛文字弾を乱射している。また別の三体はバイクに乗った美影とともの、千里を追い回しながら紫の文字列で作ったムチを振るう。サイバーエリィを移した三つのモニタの上に一冊ずつ。志乃は顔を引きつらせ、頭を掻いた。
「ああもう、どれだ本物! マガルさん、わからない!?」
「俺に聞くな」
 志乃に返事したのは、彼女からやや離れた地点を走る違法論・マガル(有耶無耶・f03955)! ジグザグダッシュで真横から飛んでくる文字弾を避け、直角カーブを決めて右手を突き出す。手の平に現れた光のキューブを射出! 十体目の魔本へ飛ばす!
『Arrrrr……!』
 低い声で歌った魔本は、眼球からビームを放ちマガルが飛ばしたキューブを破壊! マガルはそのまま顔面めがけて向かって来た光線をブリッジで避けた。キャップ帽のツバ先端がジュッと焦げ臭い音を鳴らす。素早く上体を起こしたマガルは、両手を胸元でボールを抱えるような形で構えた。
「全く、厄介極まる」
 ぼやく彼にビームの第二射! ZGYAAAAAAAM! 甲高いサウンドが耳をつんざく。
「ようやく本体に辿り着いたと思えば、十冊だと? どこの誰だ、増版した物好きは」
 マガルの目前に大型の光キューブが出現し、向かってくる光線を内部へ取り込む。マガルは構えた両手を押し潰すように動かした。キューブが震えながら収縮していき、KBAM! 呪詛ごと爆発四散!
「……まぁいい。十冊全て燃やせば済む話だ」
 呟いたマガルは両手を魔本へ突きつける! 手の平には光で出来たキューブフレーム。それを高速回転させ発射! 二重螺旋を描きながら飛翔したキューブの軌道上で、魔本は真上へ浮き上がり回避を試みる!
「そこっ!」
 次の瞬間、飛来キューブへ目を向ける浮遊本の真下に、横合いからレッドカーペットじみて伸びた影が滑り込む! 影の起点たるリドリー・ジーン(ダンピールのシンフォニア・f22332)は、黒く染まった地面に手の平を突く!
「捕まえて!」
 直後、魔本真下の影がざわめき無数のシャドウハンドが伸びた! 輪郭を影の手にガシガシつかまれ、魔本をダブルキューブの軌道上に引き戻す。マガルのダブルキューブが直撃・爆発! 噴き上がる煙はほどなくして薄れ、奥から装丁をいくらか焦げ付かせた魔本がギョロリとマガルをにらむ!
「っ!」
 その時、マガルは連続バク転を打ち距離を取る! キュキュキュキュキュキュン! 彼の居た場所をトレースするように紫の光線が撃ち込まれ、命中箇所に梵字めいた謎の文字を刻み込んだ。モニタの上に貼りついた一冊からの援護射撃だ!
「AHHHHHHH!」
 さらなる呪詛光線射撃! 着地したマガルは両足をポンプ状に圧縮させ、反動で垂直に跳躍して追撃を回避! 足元に呼び出した光キューブを足場にして二段ジャンプし、さらにもう一個生み出して三弾ジャンプ。執拗につけ狙う援護射撃光線! リドリーがマガルを見上げて呼びかける!
「マガルさん!」
「マークしてくれ」
 一言返され、リドリーは再度自分の影に両手を突き刺す。キューブ攻撃を食らった一体に四方八方から影の手がつかみかかり、拘束! さらに本数を増して戒めを強められながらも、魔本は汽笛じみて低い口笛を奏でた。
 VOOOOOONG―――人皮装丁全体が紫の燐光に包まれ、超自然の力が影の手を跳ね飛ばす勢いで本を開く! 噴水めいて噴き出した呪詛の文字列が魔本の上空で巨大な球を作り出し、ハンマーの如くリドリーめがけて振り下ろした! リドリーは横っ飛び回避! THOOOOM!
「きゃっ……!」
 インパクトの余波を受け、リドリーはステージの上を転がった。素早く跳ね起きた彼女の前で、文字列の球はモーニングスター状に変形! 無数のトゲを備え、リドリーに向かって高速でローリングアタックを繰り出す! 己の足元、影に手を突き入れるリドリー!
「影たちよ、お願いします!」
 アンダースローの要領で影に入った手が振り抜かれ、呪詛文字トゲ球へ漆黒の影が伸長! そこから大量に伸びたシャドウハンズが巨大トゲ球につかみかかるが、次々と轢かれ、潰され、引き裂かれていく。両足に力を込め、跳躍予備動作を取るリドリーの脇腹に紫の光線が抉り込む!
「くぅっ!?」
 体勢を崩したリドリーの太ももと二の腕に追撃が命中。モニタの上に貼りついた魔本の援護射撃を受けたリドリーを引き潰さんと呪殺トゲ球が転がり迫る! そこへ飛び込み前転で割り込むともの! 赤いフォースブレードを振りかざし、全身に赤いオーラをまとってトゲ球に斬りかかった!
「ふぬっ!」
 ZZGGOOOM! 雷鳴じみた音を立てて光剣が吠える。高速回転するトゲ球を押し切るべく足を踏ん張り、前のめりになるとものの後方、さらなる呪詛光線に狙われたリドリーを美影が素早くかっさらった! 後部座席にリドリーを乗せ、美影は援護射撃魔本へハンドルを切る!
「リドリーさん、大丈夫!?」
「ええ、なんとか。ありがとう、美影さん」
「気にしないで。それより、しっかりつかまっててよね!」
 美影はアクセルペダルを踏み込み、ハンドルを左右に切って蛇行運転! 迎撃の呪詛文字光線弾をかわし、距離を詰めていく! リドリーは三つの傷口から紫色の煙を立ち上らせながら進言。
「美影さん、向こうはけん制にとどめて! 一体ずつ仕留めましょう!」
「了解っ!」
 鋭くハンドルを切る美影の頭上で、ギャラクシー・クロノスドラゴンが銀河色の光弾を放った。壁にへばりついたままの魔本は表紙の口から息を噴き、謎の呪詛文字を眼前に展開! 即席のバリアにドラゴンの光弾が衝突してBOOOM!
 爆発の煙と炎で援護射撃魔本から視界を奪った美影は、その足でリドリーとマガルが相手していた個体へと向き直る。しかし彼女の道行きを塞ぐように三体の魔本がインターラプト! トゲ呪詛球をステップ回避したとものが三冊の魔本に手をかざす!
「やらせませんの!」
 とものを包む赤いオーラが彼女の手の平に集中! それと共に魔本三冊を赤いオーラが包み込んだ。とものは両腕を震わせながら力を注ぎ、抵抗するように振動する魔本三冊をお互いに見合わせるような形を取らせる。三冊の瞳が輝き、互いに爆発! のけ反るように上向く表紙!
「千里! 目潰しですの!」
「あいよー」
 とものの声を受け、三輪バイクごと跳んだ千里が魔本たちの真上を取る。右手に蒼い刀身の短剣を三本握り―――不意に、ステージの空を見上げた。歪んだ暗緑色の空、この空間本来の色彩を保つ天を。
「超次元の渦、ね」
(私たちの目的に近いものだろうか。だとしたら、これほどすごいショートカットもないが……)
 一瞬顔を出した思考を、千里は心の奥底に沈ませる。気だるげな視線は再度、真下で強制フレンドリーファイアをさせられ煙を上げる三冊の魔本に! 無造作に短剣を手にした右手を掲げた。
「ま、止めないとみんなに怒られちゃうし、止めますか。よっと」
 軽く投げおろされた刃が、狙い違わず魔本たちの眼球に突き立った。傷口からほとばしる黒い血液! 口々に泣き叫ぶ魔本たちを飛び越え、千里は美影を肩越しに見る。
「美影、それ引き潰していけー」
「オッケーっ!」
 ハンドルを引き上げるようにして跳躍する美影のモノバイク! 蒼い車輪が三冊のうち一冊を踏み潰して再跳躍する。その先には先ほどリドリーとマガルが対峙する魔本! リドリーは美影の腹に回した右腕を外し、左腕一本でしがみつく!
「美影さん、光を!」
「ギャラクシー・クロノスドラゴンッ!」
 バイクの後方に降り立った巨竜が背負った歯車を高速回転させ、星より眩い閃光を繰り出した! 逆光に黒く染まる美影のバイク。同時に光が魔本の一ツ目を焼き、バイクの影を色濃く長く伸ばしてのける。リドリーは右手を振り上げる!
「つかめ、影の手!」
 刹那、魔本の足元から無数の影の手が伸び、再び魔本を全方位からつかんで拘束! 引き千切らんばかりの力で引っ張り、表紙を軋ませた。
「マガルさん、今よ!」
「今か……!」
 バイクごと跳んだ二人の上空、キューブに乗ったマガルは口元を歪める。彼は今、トライアングル陣形を取った三冊の魔本に包囲されているのだ! 本のページからあふれ出した何本もの呪詛文字列が球状の牢獄を形成し、マガルを閉ざす!
「ち……!」
 両足にゴムの如き弾力を持たせて縮めるが、逃げ場がない! マガルを庇うように飛行する莉亜は、頭上に浮遊する大鎌を回転させてぼやいた。
「さて、参ったね。このままだとヤバい気がする」
「何か手はあるか?」
「まあね」
 莉亜は羽ばたいて後退し、マガルの肩に片手を置いた。文字列の檻は流動し、魔本の不気味なコーラスに従って光量を増してゆく。しかし莉亜の視線は檻の外、閃光に照らされ影に縛られた地上の魔本!
「3、2、1……」
『Ahhhhhhh―――AHHHHHHHHHHHH!』
 FLASH! 文字列の檻が地上のそれに負けない輝きを放ち、マガルと莉亜を押し潰すべく一気に収縮! 牢獄の一部が触れる寸前、二人の姿が掻き消えた。莉亜とマガルは影の手に縛られた魔本の真後ろに転移!
「脱出マジック成功、っと」
「なるほど、手も足も出たな」
 軽口を叩いたマガルはバックジャンプしながら影の手に縛られた魔本に両手をかざす。莉亜は頭上に浮いた鎌の柄をつかみ、バラバラとめくられ出す本のページに数度の斬撃を見舞った! SLALALALASH! ページをズタズタに引き裂かれて紙片を散らす魔本を光のキューブが飲み込む!
「まずは一冊。潰れろ」
 マガルが無慈悲に言い放ち、開いた両手を握り込む。光のキューブが一瞬で米粒大まで収縮し、BOOOOM! 魔本もろとも爆発四散!
「よしっ!」
 巨竜の放っていた光が収まり、美影のバイクが着地ドリフトしながらガッツポーズを決める。その後方では、千里に眼球を射抜かれた三冊が素早く上空へ離脱! 突き刺さった短剣を落とし、新たな眼球を迫り出させた三冊を見上げ、アレクは地に着いていた手を離す。彼の肩甲骨付近が激しく蠢く!
「アビリティシフト・フライトポイント!」
 黄緑色の外骨格を突き破り、大鷲じみた翼が出現! 思い切り屈んだアレクは、ロケットめいた速度で飛翔した。数秒と経たず魔本の一冊に辿り着き、オーバーヘッドキックを叩き込む!
「本が空を飛ぶなっつーの」
 命中した蹴り足に力を込め、SMASH! 真っ直ぐ地面へ突き落とす! すぐさま反応した別の二冊がページを開き、文字列を文字列を縄の如く放ってアレクを縛った。一方、墜落する一冊には志乃が疾走! その翼にはステージのあちこちから呪詛の煙が流れ込む!
「うん、そろそろ余裕出てきたかな……!」
 片手を握っては開きを繰り返した志乃は右手に黄金色のオーラを集める。前腕部に絡みつく光の鎖を顕現させ、墜落しながらこちらを見つめる魔本を狙って振り回す! 魔本は何事か呟きページを開かんとする!
「開くなこのやろう。そらっ!」
 右腕をムチめいてしならせ打ち振るう志乃! 投げ放たれた光の鎖が魔本に絡みついて強制的にページを閉じさせる。志乃は両踵を床に突き立ててブレーキをかけ、光の鎖を引き戻す! ワイヤーアクションめいて引き寄せられる魔本! 志乃は左手を引き絞った。
「想いよ、伝われ。浮かび上がれ……!」
 オーラが右腕から肩を伝って左手に流れ込み、輪郭をぼやけさせ晴天に浮かぶ太陽じみた光そのものへと変じさせる! 縛られた魔本は一つ目を動かして志乃をにらみつけ、鎖を噛まされた口をもごもごと動かした。瞳のすぐ前に紫の魔法陣が出現し、マシンガンめいて呪詛文字乱射!
 志乃の右二の腕を中心に、右肩や右足甲、腹部に次々と穴が開く。他者を肉体的に傷つける、スタンダードな傷害の呪い! しかし志乃は歯を食いしばり、傷口から呪詛の煙を吸い上げ白翼に吸収させる。そして目と鼻の先にまで来た魔本に、光と化した左手をSMAAASH!
「ARRRRRRRRRRRGH!?」
「はあああああああああっ!」
 SMACK! 光芒が爆ぜ、絶叫した魔本が砲弾めいた勢いで吹き飛んだ! 黒く焦げ付いた人皮装丁がボロボロと崩壊を始め、その欠片が志乃の翼に吸い込まれていく。それなりのダメージは与えたが、まだ浅い!
「まだ足りないか……!」
 うめく志乃の脳内に選択肢が浮かぶ。再度の逃亡からの呪詛吸収・変換か、もう一撃叩き込むか。だが決断する寸前、マガルが光鎖に縛られた魔本へ低姿勢ダッシュを敢行! 両手をかざし、魔本を光キューブの中へと閉ざす!
「そのまま捕まえていろ。……ふんッ!」
 マガルが両手の平を向かい合わせ、渾身の力で押し潰しにかかった!
 ZANKZANKZANKZANK! キューブが表面に電光を走らせ、少しずつ収縮を開始する。モニター上の三冊がマガルに短機関銃掃射じみて呪詛文字弾を浴びせかけるが、莉亜ととものがインターラプト! 大鎌と赤光剣の連撃が呪詛を次々叩き落としていくものの、抗しきれぬ文字が二人の頬や袖口、髪の一部をもぎとっていく!
「結構痛いねコレ。マガル、まだかい」
「ふぬぬぬぬぬ……!」
 極限まで斬撃速度を速めて対応する二人に庇われながら、マガルはなおも両手に力を注ぐ。囚われた魔本は呪詛文字を四方八方に飛ばし、内側から潰されぬよう抵抗しているのだ! 決して軽くはない一撃を食らいながら、トドメをしのぐ耐久力! 噛みしめたマガルの奥歯が軋む。
「ぐッ……!」
「マガルさん、援護します!」
 リドリーが告げ、志乃の前に滑り込む。素早くアイコンタクトをかわした志乃は、光芒化をした左手を掲げて発光させた。リドリーの足元から影が放射状に展開し、ステージ床の広範囲を漆黒に塗り潰す! その中心に座るマガルのキューブを、全方位から伸びた影の手が押し潰しにかかった!
「ORRRRRRRR……!」
 キューブ全方位を影の手に囲われた魔本が苦しげな呻き声を零す。拮抗が崩れ、徐々にキューブが圧縮されていく! その時、上空に漂う二冊が縄状の文字列を振り上げ、捕らえたアレクをマガルの脳天めがけて突き落とす! マガルはキューブ圧縮に全集中し対応不可だ!
「そうは……行くかッ!」
 アレクが言い、上下逆さの状態で身をひねった。錐揉み回転しながら方向転換を試みる! だが魔本たちは決して離さず、さらに強力な呪縛でアレクを締め上げた。外骨格が悲鳴を上げる! 直後、美影のドラゴンの背を駆けのぼり、千里が三輪バイクに乗って跳び出した。VOOOONG!
「よっと」
 右手五指に挟んだ短剣を呪詛文字列へ投げつける。蒼い光の尾を引いた刃は狙い違わず呪縛の文字列縄に直撃し、半ばから断ち切った。文字列消失!
「ほらアレクー。上がれー」
「そうさせてもらうか」
 気の抜けた声でどやされたアレクは背を曲げ、U字に急上昇! 滞空する千里のバイクを下から担ぎ上げ、二冊の魔本より高く飛んで高度アドバンテージを奪った。そちらに目を向け、呪いの歌を紡ぐ魔本コンビに、アレクは腕の筋肉をゴリラめいて膨張させて千里のバイクを振りかぶる!
「行、けッ!」
 THROWWWWWW! バイクごと斜めに投げおろされた千里は、蒼の剣杖を構えた。二冊の魔本が吐き出す呪詛文字弾丸の滞空射撃を、バイク前面に展開した蒼穹の如き色彩のバリアでしのぎつつ急降下! すれ違いざま、雑に刃を横薙ぎに薙いだ。SLASH!
「ん……ちょっと浅いか」
 千里は自由落下しながら剣杖を見下ろし、続いて背後を振り返る。浮遊する二冊には表紙に横一直線の切れ込みが入っているが、切断には至らずだ。千里が空中でバイクをウィリーさせて着地し、後輪で半月状の焦げ跡を刻んだところで、マガルたちの方で決着がついた。
「ふんッ……!」
 キューブが極小圧縮され、KBAM! 二冊目の魔本が跡形も無く消滅! マガルの手から白煙が上がり、目深にかぶったキャップ帽の下で顔から少し血の気が引いた。強大なオブリビオンの完全消滅は負担が大きい! 直後、ドラゴンを従えた美影が莉亜ととものの背中に叫ぶ!
「とものちゃん、莉亜さん! マガルくんをお願い! ギャラクシー・クロノスドラゴン!」
 二人は素早く視線を通わせ、最後の一撃を放って前後反転して疾駆。消耗からやや猫背気味の姿勢になったマガルを頭上に持ち上げるとものの背後を、美影が守るように割り込んだ。なおも放たれる呪詛弾幕を鋭く指差す!
「薙ぎ払え! ギャラクティック・オーバーブラスト!」
「GAAAAAAAAAAARGH!」
 咆哮したドラゴンは横薙ぎにレーザーブレスを放射する! 魔本三冊は壁から剥がれて空中に退避。次の瞬間、横一文字に振り抜かれた銀河色の光線が三つのモニターをまとめて爆破粉砕してのけた。歌っていたサイバーエリィが苛立たしげに口を閉ざす。
「……なんてことするの……?」
 怒気をはらんだ口調。その瞳は八冊の魔本と対峙する猟兵たちに向けられていた。彼女の背後で、大部分を抉り取られたモニターがバチバチと火花を散らす。サイバーエリィは握り拳を震わせた。
「……そう。そこまでして私のライブを邪魔したいんだ……。でも負けない。あなたたちに、私の邪魔は絶対にさせない……!」
 屹然と宣言したサイバーエリィは目を閉じ、再び澄んだ声を響かせ始めた。八冊の魔本たちが空中を滑るように移動し、サイバーエリィの前に横一列に並び立つ。訝しげな表情をする猟兵たちの前で、八冊の魔本は低い男性声でコーラス。不明瞭なサイバーエリィの歌詞に合わせて声を張る。
『AHHHHHH―――AHHHHHHHHHH―――AHHHHHHHHHHHHHH―――!』
 歌声に対応するように、ステージ全体が地鳴りめいて振動し始める。離れた場所で油断なくバイクハンドルに手をかけながら、千里が言った。
「なーんかやろうとしてるな、アレ。しかし悪趣味な魔導書もあったもの……魔導書なんて、どれもろくでもないけども。ねえマガル」
「同感だ。そいつを増やすアイドルもな。サイン本にしろ、もっとマシなものがあるだろう」
 頬の汗をぬぐうマガル。軽口を叩きながらも、構えには一切の慢心なし!
 元々のプランは一対一に持ち込み、確実に撃破するというもの。だが残る八体がそろっている今、攻め込むのは実際下策だ! 焚き火にダイブする蚊の如き無謀は死を招く!
 そして今、声を重ねて歌う魔本たちの装丁は紫色の光に包まれ、徐々に光量を増している。猟兵たちが固唾を飲んで見守り続ける―――刹那、八冊の魔本を中心として無数の呪詛文字が放射状にステージの床を覆い尽くした! 当然猟兵たちの足元もだ! 志乃の全身が総毛立つ。
「んなっ、なにこれ!? 物凄い……嫌な感じ……!」
「何か不味そうね。腐っても邪神って事か……!」
 美影が冷や汗を流しながら呟く。そんな彼女たちを遠くに見たサイバーエリィは、片手を緩やかに持ち上げた。鈴の音の如き声で紡がれる不浄の言葉!
「いあ、いあ。あぐれいときんぐふうきやんふおろうめにいいびるごっず。いあ、いあ。あっとざたいむおぶばとるうえんおおるもおたるすふおおるいんとうまっどねす」
 ステージ床を埋め尽くす呪い文字が一斉に発光! 次の瞬間、ステージのそこかしこから螺旋状の文字列がいくつも噴き出し、どす黒い色の肉を持つ! まるで巨大なタコ足の如き形状を持つそれは―――実際純粋極まる呪詛の塊! アレクが半歩下がり、腰を落として言った。
「おいおいマジか。邪神で宇宙でタコとは、どっかの神話で聞いたことあったが……!」
 サイバーエリィは片手をすっと上げ、猟兵たちを指差した。
「死んで」
『AHHHHHHHHHHHHHHHHHH!』
 強まる一斉コーラスと共に、呪塊触手が一斉に波打ち猟兵たちに襲いかかった! 一同は即座に飛び出して散開。数瞬前まで彼らが居た場所を複数の触手が叩き潰す! CRAAASH! 破砕音を背後にしたアレクの四肢がギュッと引き締まった。
「スタイルチェンジ・スピードシフト!」
 姿勢を低くしたアレクは一気に加速! 残像を残して触手の攻撃をかわしつつ、魔本たちへ肉迫していく。サイバーエリィは腕をひと薙ぎ。魔本表紙の唇が上向き、ステージ床から彼らを守るように触手の柵が突き上がった! 急ブレーキをかけたアレクを、触手柵が一斉に倒れ込むような形で急襲! 高速後退し、触手プレスの範囲を抜けたアレクの左肩から脇腹にかけてがバックリと裂けた。
「クソッ!」
「アレクさん! 伏せて!」
 背後からリドリーの声。さっと這いつくばるようにした彼の周囲から間欠泉じみて影手の束が飛び出し、彼を叩き潰さんとしていた触手を受け止める。
 リドリーがほっと胸をなでおろすのも束の間、彼女の周囲をぐるりと取り囲むように呪い触手が噴出! それらはドームを形成するかのように動き、頂点で先端を折り曲げ垂直に突き下ろした! リドリーと背中合わせになった志乃が光化したままの左手を握る。
「まとめて薙ぎ払います! 気を付けて!」
「はい!」
 リドリーが屈み、足元に手を当てて待機する。志乃は垂直降下してくる触手に左手を振り上げ、勢いよく開いた! FLAAASH! 凄まじい閃光が爆発し、衝撃波が触手たちの攻撃を阻む。光を受けた触手の輪郭が激しく揺らいだ。
「邪悪なる者よ、立ち消えなさい!」
 志乃の宣告と共に光と衝撃波は勢いを増し、CABOOOOM! 触手の処刑檻を跡形もなく吹き飛ばした。志乃は肩越しにリドリーの無事を確認し、息を吐く。
「我ながら凄い力業になっちゃったなあ……。……っ!?」
 突如志乃が両目を見開き、自分の足元を見下ろした。彼女の両足首に巻きついた触手が骨肉を無惨に握り潰していたのだ! 触手は志乃を持ち上げ、床にうつ伏せで叩き伏せた!
「ぐあっ!」
「志乃さん!」
 思わず振り返るリドリー。その一瞬の間隙を突いた黒い触手がリドリーの腹を刺し貫き、ケバブめいて高々と掲げる。同時に志乃もまた真下から突き上げた触手に腹を射抜かれ、ブラド・ツェペシュの串刺し平原死体じみて吊り下げられた。
 その時、二人の心臓がドクンと拍動。触手に四肢を引き裂かれ、首をねじ切られ、両目を潰して触手が体内へ―――複数のイメージが嵐めいて荒れ狂い、二人の脳内を滅茶苦茶にかき乱す! 直後!
「うああああああああああああああっ!」
「いやあああああああああああああっ!」
 志乃とリドリーが絶叫! それは無数の惨殺イメージをねじ込まれた理性の断末魔だ! 喉が裂けるほど叫び、涙をあふれさせる彼女たちの周囲を呪詛文字の列が球状に包囲。四方八方から小さな黒球をガトリング飽和射撃めいて叩き込んでいく! 穿たれた二人の体が鮮血をほとばしらせた。
 二人の悲鳴を聞いた千里は三輪バイクで急カーブを決めて触手プレスを回避。そのまま二人の方車体を向け、赤い稲妻模様が入った頬に冷や汗を流す。
「あ、待った。これは不味い。これはシャレにならないぐらい不味い」
 千里が腰のベルトに吊った短剣を片手でひったくるように取り出した刹那、黒い触手が短剣持つ腕に巻きついた! 反応する間も無く握り潰される千里の片腕。一拍遅れて千里の顔が真っ青になり、脳をトゲで突き上げられたかのような苦痛が意識を襲った!
「っぐあッ……!」
 苦悶の声を上げる千里! 止まった三輪バイクが触手の薙ぎ払いを受けて吹っ飛び、横転してくるくる回りながら千里を離れる。そしてそこに在った触手に押し潰されスクラップと化した。そして握り潰された腕を持ち上げられた千里も、床に人形めいて撃ちつけられる!
「せっちゃん!」
 美影が触手足払いをジャンプでかわす。彼女の頭上で断末魔! 見上げれば、ギャラクシー・クロノスドラゴンが五本の触手に胸を射抜かれていた。触手は巨竜の躯体をペーパークラフトめいて引き裂く。ドラゴンが爆発四散し、爆風が美影に振りかかった!
「くぅっ……きゃっ!?」
 バイクごと吹き飛ばされた美影を、待ち構えていた三本の触手が打ち返す! その軌道上に噴き上がる触手は、とものの光剣が斜めに寸断! 全身にオーラを巡らせ、とものは美影をキャッチした。
「美影! 千里! ライフはまだ残っていますの! しっかり!」
「うっ……」
 とものの呼びかけに美影がうめく。千里からの応答はない。気を失ったか? とものが美影を揺さぶろうとしたその時、彼女の背後から伸びた触手がとものの首を締め上げる!
「ぐぎっ!」
 首に巻きついた触手に爪を立てるともの! だが触手は拘束を解かぬままとものを激しく振り回す。その根元に走った莉亜が大鎌で呪いの肉を断ち切った。莉亜はすぐさま方向転換して走り、ひとりでに浮いた鎌をプロペラめいて回転させる。遅いくる魔本たちの呪殺文字弾掃射を弾く!
「マガル、僕の影から出ないでね。その代わり死角はよろしく」
「任された」
 莉亜と並走するマガルは反射的に振り返り、片手を掲げた光キューブを積み重ねた防壁が触手のスイングをガード! さらに前方にもキューブを生み出し別の触手刺突を防ぐ。頭上から叩きつけに来る触手もキューブ生成で防御! マガルはサイバーエリィと居並ぶ八冊を横目で見やった。
「キリがない……いや、それどころか近づけもしない……! どうにか分断するしかないが……」
「ちょっと厳しいよねー。っと!」
 莉亜が足を止めて身を反らし、足元から飛び出した触手を回避! だが背後から突き出したもう一本まではかわせず背中を貫かれてしまう! マガルがそちらに手をかざすも、全方向から呪い触手が押し寄せて来た。マガルは両手を合わせ、自身を光キューブに閉じ込めて防御態勢を取る! 触手の大群がぶち当たりキューブの壁が激しく軋んだ。
「本格的に、これは不味い……」
 合わせた両手を離さぬように努めつつ、マガルはうなった。
 八冊の魔本、『クゥイラトァ・グラルハ・メラルヒニトの書』はサイバーエリィの指揮の下分断されぬように動いている。周囲は触手にまみれ、既に行動も出来ぬ八方ふさがり! もはやこれまでか! ―――その時である! ステージ前から、蒼い雷が噴き上がった!
「何……?」
 サイバーエリィが警戒し、八冊の魔本の視線がそちらに向いた。収束する蒼雷の先、ステージを一望できる位置に滞空する白翼の人影。桃色の瞳に蒼い電光を走らせたカタリナ・エスペランサ(閃風の舞手(ナフティ・フェザー)・f21100)がケオスの戦場を見下ろしていた!
「お待たせ! チャージ完了! ……っと?」
 カタリナがすっと両目を細める。魔本が八冊。ステージ上は黒い触手が蹂躙中。小ぶりな獣耳の裏側をかきながら、カタリナは呟いた。
「随分な有様だね。ちょっと出遅れたかな? なら、遅れた分を取り返そう!」
「やって」
 サイバーリリィの指差しに従い、十数本の触手がカタリナへと刺突を繰り出す! だがそれらは命中する寸前に蒼雷に焼かれて崩壊! 不敵な微笑みを浮かべたカタリナは人差し指一本を立て垂直に手を伸ばした。
「残念。悪いがこちらの準備は万端なんだ。派手なステージは嫌いじゃないけど、この手の悪趣味な代物はどうにも受け付けない。きっちり骸の海に叩き返すとしようか!」
 カッとカタリナが両目を見開くのと同時、幾条もの蒼雷がステージに落下! ZGAM! ZGAM! ZGARAAAAAAK! 神殺しの雷撃に焼かれ、次々と炭化し崩れ落ちていく触手たち。魔本八冊の視線がカタリナを睨んだ瞬間、彼女の姿は掻き消えた!
 ZGA-TOOOOOM! ステージ上空を複雑な蒼の軌跡が塗り潰す! 雨の如く降り注ぐ電光が生き残った触手を、床の呪殺文字ごと絨毯爆撃。何もかも片っ端から消し炭に変えていく! サイバーエリィは絶句!
「な…………!」
「ふふふふふっ!」
 目にもとまらぬ速度で飛び回り、雷をまとった羽の散弾をまき散らしながらカタリナは笑む。やがて彼女は空中でトリプルアクセルを決め、魔本たちへ雷羽弾を乱射する! ZGAGAGAGAGAGAGAGAGA! 超時空の空を星の如く埋め尽くす光が、魔本の軍勢に襲いかかった!
「あっははははははははははっ! どうかな! 私のパフォーマンスは!」
 BBBBBBBOOOOOOOM! カタリナの高笑いを連鎖爆発の音が上塗りし、稲妻混じりの爆炎が魔本たちを覆い隠す。振り上げたカタリナの腕を蒼雷と紅炎が渦巻いて昇り、彼女の指先に巨大な雷と炎の球体を生み出した!
「さあ、もっと派手に行こう! クライマックスだ!」
 カタリナは振り上げた腕をしならせ、球体を魔本たちが居た場所へと撃ち下ろす! 緩慢に落下していく球は激しい雷鳴と閃光を撒き散らし、魔本たちを包む爆炎を引きはがした。ところどころ黒く焦げ付かせ、あるいは一部を抉り取られた魔本たちはコーラスを歌う。
『AHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!』
 彼らを守るようにそびえ立つ呪詛文字羅列の防壁が、カタリナの球体を真っ向から受け止めた。ZGAAAAAAAM! 盛大な爆音が空間そのものを軋ませ、激しく震わせる。派手な雷鳴に打ち据えられ、美影と千里は険しい表情で身を起こした。
「いったぁ……せっちゃん、行ける……?」
「片腕でいいなら。まあ、潰れた方もあんまり痛くないんだけどさ」
 握り潰された腕をだらんと下げ、千里は逆の手に蒼い剣杖を握る。美影は渋い表情のまま倒れたバイクを引っ張り起こし、山札から一枚引いた。そして手にしたカードを、扇状のデバイスにセットする!
「銀河再誕……蘇れ、我が魂!」
 美影の背後で銀河色の閃光が噴き出し、歯車を背負った巨竜が浮上する。美影はさらにもう一枚のカードを取り出す!
「相手が固まってる……ここがチャンス! 手札から罠カード発動! 『銀河連撃』!」
 再びカードをセットすると、巨竜の体が真紅のオーラに包まれた。美影は拳を握り、アッパーめいて突き上げる!
「このカードは『銀河』または『ギャラクシー』モンスターがいる場合手札から発動出来る! 連続攻撃だ、吼えろギャラクシー・クロノスドラゴン! ギャラクティック・オーバーブラスト、第一打ぁぁぁッ!」
 ドラゴンが咆哮し、銀河色のブレスを発射! 極光の一撃はカタリナの球体を爆ぜ散らした魔本たちの防壁に突き刺さった。既に大きな亀裂の入った呪文字バリアが甲高く軋む! だがそれでも突破までは至らずブレスは霧散。美影は構わず拳を振り下ろして叫ぶ!
「第二打! 第三打! 第四打!」
 ZGAAAM! ZGAAAM! ZGAAAM! 立て続けにビームを叩き込まれ、呪詛防壁に亀裂が走る。ガラスが砕ける寸前の如きサウンドを聞き、美影は勢いよく人差し指を突きつけた!
「ギャラクティック・オーバーブラスト、五ぉぉぉ連打ああああああッ!」
「GRAAAAAAAAAAAAAARGH!」
 大きく息を吸い込み、ドラゴンはブレスで防御壁を薙ぎ払う! CRAAAAASH! 破砕し吹き飛ぶ呪詛文字壁。防ぎきれなかった光に焼かれて魔本の二体が焼き払われた。胸元を押さえて血の咳を吐く美影の隣から千里が駆け出し、とものが続く。
「美影、ドラゴンちょっと借りますの! 援護カードよろしく!」
「ごほっ……任せて……!」
 美影は吐き出しかけた血を飲み下し、新たなカードをデバイスにセット! 巨竜が煌めく光に包まれる。
「速攻魔法、ギャラクシー・エンカウント! ギャラクシー・クロノスドラゴンをとものちゃんのフォースセイバーに融合させる! 受け取って!」
 銀河色の巨竜が光の筋となり、猛然と突撃していくとものに追随。走り幅跳びめいてジャンプしたとものの手中、赤いレーザーブレードに追突したドラゴンの光は、ビッグバンじみた閃光で周囲を照らした。サイバーエリィが手の甲で目を庇い、顔をしかめる。閃光が斬り払われたそこには、長大な銀河色の光剣を携えたともの!
「完成! ギャラクシー・トライス・ブレイド! うううりやあああああああああああああっ!」
 ZGYAAAAAAAM! 天突く巨大な光刃を吹き上げ、とものは空中で一回転! 銀河色の光大剣で魔本の群れを薙ぎ払った。サイバーエリィの視界が真っ白に染め上げられ、KRA-TOOOOOOOM! 眩い爆発がステージの壁上部を消し飛ばす。光が消えた時、表紙の全てと裏表紙の一部を抉り取られた魔本が二冊落下し、黒い塵となって消えた。
 魔本たちが再度コーラスするため息を吸ったその時、千里は手にしていた剣杖を投げ放った!
「食らえ」
 彗星めいた光の尾を引いて飛翔した刃が、魔本の一冊の眼球を串刺しにした。痛みに叫ぶ魔本の背後に莉亜が出現! 大鎌の一太刀で魔本を斜めに斬り捨て、見えざる両手が残りをぐしゃぐしゃに破り捨てる。即座に前方回転跳躍で離れる莉亜の後ろで、残りカスが黒く変色し、霧のように消滅。
 魔本たちの目が動揺してギョロギョロと動き、サイバーエリィが判断に詰まる。一瞬生まれた隙を突き、一直線に伸びて来た金の鎖が魔本の一冊を捕縛! マグロ一本釣りめいて引き上げた。鎖の先には、血みどろの翼で辛うじて浮き上がった志乃!
「はぁ、はっ……酷い目にあった……。あった、けど……つかんだ……!」
 憔悴しきった目で呟き、残る力を振り絞って縛った魔本を引き寄せる。そして再度光化させた左手で人皮の表紙をわしづかみにし、光量を一気に引き上げた! KBAM! 魔本が破裂四散し、残りカスのような黒い霧が志乃の傷ついた翼に吸い込まれていく。彼女はそのまま、鎖を持っていた方の手を傍らに伸ばし光芒を放つ。陽光の如き暖かな光を浴び、倒れ伏していたリドリーが身を起こした。
「ありがとう……志乃さん……!」
 息も絶え絶えに告げ、リドリーは魔本に向かって弓矢を引いた。ふらつく足にムチ打ってありったけの力で弦を引き、SHOOOOT! 放たれた矢は開かれた本のページを貫き、弧を描いて地面にぬい留める!
「かふっ……うまく、いった……!」
 うつ伏せに倒れ、やつれた表情で呟くリドリー。昆虫標本じみて床に固定された最後の一冊の真上に、マガルが飛び出した。片手を下方に突き出し、魔本を光キューブに閉ざす。マガルはキャップ帽の鍔を下げて言った。
「終わりにしよう、メラルヒニト。お前の役目はとうの昔に終わっている。邪神を呼ぶにもそろそろ飽いた頃だろ」
 マガルの手の平がキューブ上部に触れた瞬間、光の箱は縦に潰れて床に描かれた平面と化した。光る正方形は中央から爆発四散! 最後の一冊を消し飛ばした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『『幻星兇刃』アステリア・シグマ』

POW   :    一ノ太刀・衝星
対象のユーベルコードに対し【その核をなす部分を割断する斬撃】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
SPD   :    二ノ太刀・閃星
【視認不可の高速移動で肉薄し、居合の一太刀】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    三ノ太刀・滅星
【事象の起源を断ち切る斬撃】【現象の結果を打ち砕く斬撃】【心象の根源を削ぎ落とす斬撃】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はジェイド・カレットジャンブルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●お知らせ

 断章を追加し次第、プレイング受付を開始します。
 少々お待ちください。
●断章

 想い有れども引きずらず。
 恨み有れども刃は向けず。
 ただひと振りの剣として、今世に降りて務めを果たす。
 その背を押すのは邪神の歌声。
 我が身を賛美し、

 ―――『忘却骸海』第三章、或る歌姫のアリアより抜粋

●お知らせ

 プレイングの受付を開始します。期限は10月22日8:29までです。
アレク・アドレーヌ
で、次の相手は…これ邪神か?なんというか邪神というには拍子抜けしそうではあるが油断も慢心もしない。

相手が高速移動してくるというなら、『敢えてその土俵に乗っかってやる』だけだ。
…尤も相手がただ近づいてくるだけだというならそもそも近づかせなきゃいいというシンプルな対策もあるし常に一定の距離で留めさせるのも手ではあるが。

一対一であるなら相手のが有利だろうけどこっちも多数でもって乗り込んできてるわけだから数の利を十二分に使わせてもらうとしよう


リドリー・ジーン
先の戦いで深手を負っているしあまり無理につっこまない方がいいわよね
基本的に仲間の攻撃があたりやすいような誘導の【援護射撃】当てる事よりもあえて避けてもらう事を考えて。

今回の人、話は通じるのかしら……?
相手の事を揺さぶる何かやサイバーエリィについて有力情報を問いかける事ができるならUC【影の手】で捕縛。
今の状態で間合いに入るのは危険だからなるべく距離をとって、問いかけは【拡張デバイス】のブローチを使って響かせるわ。【歌唱】で召喚場所も敵の足元へ

周りと連携をとってここぞの時に隙を作るわ。私には強大な力はないけれど、厄介な事をして邪魔してあげる。


カタリナ・エスペランサ
次は警備員のお出ましってトコかな
《武器改造》でダガーに魔力を通し騎士剣に錬成、使うUCは【閃風の庇護者】
さっきは皆にだいぶ無理させちゃったみたいだし、今度は積極的に前に出て仲間を《庇う》ように立ち回ろう

敵の動きは《第六感+戦闘知識+見切り》で先読みして対処するよ
戦術構築に予備動作、初速最高速から次の行動に移る時の隙まで
一つでも上回れば先手を抑えるのは無理な話じゃない
更に戦いの中でも《情報収集+学習力》で見切りの精度を上げていく

攻撃には《早業+破魔+怪力》で《カウンター+先制攻撃+武器落とし》。
動きの起点を潰してから《2回攻撃+部位破壊》で追撃するよ
《属性攻撃+マヒ攻撃》の雷で行動阻害も狙おうか


柚月・美影
せっちゃん(千里)やとものちゃん達と参加
一人称:アタシ
二人称:年上はさん、年下・同年代はくん、ちゃん付け
アドリブも歓迎

●戦闘
ユーベルコードを封じる相手か
相性は最悪だけど、ここはフォア・ザ・チームで仲間を信じますか

攻撃を担当
宇宙バイクを【運転】
【クライミング】も駆使しての機動戦
【運搬】でとものちゃんも後ろに
カードで左右の防御陣を敷きつつ他は彼女に任せる

《バトルキャラクターズ》を使用
【念動力】で力を込め【罠使い】【カウンター】でコンボ発動
「さあ、これで勝利へのピースは揃ったわ!
『銀河激震』
『銀河連撃』
『時空間隙』
『時空歪曲』の4枚を発動!
フルトラップコンボ!
行け、ギャラクシー・クロノスドラゴン!」


須藤・莉亜
「初っ端からハードだったねぇ…。煙草休憩が欲しいとこだよ。」
吸っちゃダメかなぁ。煙草ごとぶった斬られるかな?

竜血摂取のUCを発動。スピードと反応速度を強化して戦う。
居合を躱すのは難しそうかな?なら、躱すのは諦めて、斬られた瞬間に強化された反応速度を駆使して敵さんを捕捉。んでもって、超速再生で傷を治しつつ敵さんにカウンターを打ち込む。
そうだね、出来るだけ綺麗に斬って欲しいかな。その方がくっつけてやすいし。
悪魔の見えざる手には奇剣で僕の攻撃に合わせて攻撃してもらうかな。

あ、悪魔の切り売りで敵さんに高重力をかけて、動きを鈍らすのも忘れずに。

「流した自分の血の分は、敵さんの血を吸いたいなぁ。」


潦・ともの
美影と千里と参加
アドリブ&連携大歓迎!

今度の相手は美影や千里には相性が最悪
ならば今回は【王者の決闘】を全て味方を護る事に使う!

美影達が攻撃できるように
相手の太刀を【見切り】【武器受け】で受け止める
見えない太刀にも【第六感】で対応
一度では防げないものも二刀に持ち替え【時間稼ぎ】【2回攻撃】で防ぐ!

防御しながら【カウンター】で太刀の【部位破壊】を狙う
これほどの剣筋
微かな綻びでも乱せるかもしれない

攻撃力やユーベルコードを封じられてもやることは変わらない
仲間の攻撃へ繋げるために【時間稼ぎ】

『フォア・ザ・チーム、あなたの刀でもそう易くはなくてよ?』

笑みを浮かべて虚勢を張る
決して虚構ではない誇りの為に



 古戦場めいて荒れ果てたステージに静寂のトバリが降りた。
 ナスカの地上絵めいて刻み込まれた黒い焦げ跡。浅い抉り傷によってズタズタにされたそこには、既に猛威を振るった魔本たちの姿は無い。壁に埋め込まれたモニタがバチバチと火花を散らす。リドリーは周囲を見渡し、肩で息をしながら呟いた。
「や、やった……? うっ……!」
 目元を押さえ、後ろによろめくリドリーの背を、カタリナの腕が抱きとめた。万華鏡めいて回る視界にくらついたリドリーをゆっくりと屈ませたカタリナは、柔らかな声で囁く。
「大丈夫?」
「平気。ちょっと……目眩がしただけだから……」
 ぺたんと座り込んだリドリーが、両目を手で覆ったまま返す。彼女の脳内では、先ほど流し込まれた惨殺のビジョンがバグにさらされた動画めいてリフレイン。狂気に堕ちきる寸前でどうにか踏みとどまるリドリーの額からは、脂汗が滝の如く流れ落ちていた。
 カタリナはリドリーの背中を撫でてやりつつ、柔和な面持ちで言う。
「やっぱり、ちょっと時間かけ過ぎちゃったかな?」
「ううん。助かった」
「それなら良かった。……で、そっちはどう?」
 濃いピンクの瞳がリドリーを外れ、彼女の反対側に向けられた。そちらでは、黄緑色の外骨格をゴキゴキ鳴らしながらうごめかせるアレクと、大鎌を抱いたまま屈み込む莉亜。アレクは元に戻った仮面の奥で小さくうなった。
「ちょっとキツいが……まぁなんとかなるだろ。面倒くせえ相手だったぜ、まったく」
「初っ端からハードだったねぇ……。煙草休憩が欲しいとこだよ」
「生憎と、そんな暇は無さそうだがな。見ろよ、アイドル様がおかんむりだ」
 アレクがステージ奥へと顎をしゃくる。ブラックアウトし、火花を散らす中央モニタの下。両拳を握りしめたサイバーエリィが、憤怒の形相で猟兵たちを睨みつけていた。食いしばった奥歯がギリギリと異音を発し、震える肩はどぎつい虹色の瘴気を湧き立たせている。
 ステージを滅茶苦茶にされた怒りを―――しかし、サイバーエリィは深呼吸して落ち着けた。前髪を払い、仮面じみて冷徹な表情を作る。
「さすが、とだけ言っておくわ。ここはあの方が用意してくれた、私のヴァルハラ。元々誰も入ってこれない私のソロステージよ。そこに踏み込んで来た熱烈さは褒めて上げる」
 腹の奥が煮えたぎるような感覚をこらえ、サイバーエリィが硬い声音で告げた。一方、モノバイクを起こした美影は片頬に汗を流しながらサイバーエリィをじっと見据える。バイクは銀河色の光に飲まれ、動画の逆再生めいてリペア中。時間稼ぎも兼ねて、美影が挑発的に言う。
「褒めてくれるのはありがたいけど……お礼に何かくれるのかしら? 限定カードとか?」
「ふん。図太いこと」
 サイバーエリィは不愉快そうに鼻を鳴らす。瞳には焼けつくような怒りの炎。
「ファンはステージに上がるなってマナー、聞いたこと無い? それもこんなにしてくれちゃって。…………炎上案件だから。わかる?」
 にらみ合う美影とサイバーエリィ。そこに、カタリナの声が割って入った。
「おっと、それは困るね。他人のステージを台無しにする旅芸人だなんて評判がついたら、路上ライブもさせてもらえなくなりそうだ。どうにか手打ちにできないかい?」
「別にいいわよ? アイドルの裁判騒ぎは面倒だもの」
 軽く肩を竦めて見せつつ、アイドル邪神は息を吐く。閉じた目が開いた次の瞬間、吹雪めいた殺気がステージを駆けた。ステージの壁の上空後方に、太陽めいた輝き! 朝焼けの空じみた明かりが傷ついた部隊を照らし出し、猟兵たちの目を焼きにかかる!
「でも、タダで済ませるわけには行かない。不届きな害悪ファンには絶対屈しない。そういう態度を見せつけなくちゃ」
 SMACK! 太陽めいた輝きから一条の光線が放たれた。それは∞を描きながらステージへと接近し、サイバーエリィが背にした壁の真上で宙返り。壁の上に垂直落下して直撃し、閃光を撒き散らした。
 一瞬の光芒が収まり、長い尻尾めいた薄い金髪がなびく。壁の上に片膝立ちするのは、短い赤黒のマントを羽織った剣士の青年―――『幻星兇刃』アステリア・シグマ! シグマは立てた膝に腕を乗せ、壁下のサイバーエリィを皮肉げに見下ろす。
「召喚に応じ参上したぜ、お姫様。これはまた、随分と派手にやられたもんだな」
「馬鹿なこと言ってないで、呼ばれないでも早く来て。一大事なんだから」
「はいはい。あの薄気味悪い本が蹴散らされるとは思ってなかったんでね……」
 シグマはひょうきんに肩をすくめると、壁から跳躍。前方回転を一度決め、猟兵たちとサイバーエリィのちょうど中間地点に着地した。右手に刀を持ったまま背筋を伸ばし、地面と水平にした刀を胸の前に据える。左手で柄をつかむと、彼の足元に光るつむじ風が渦巻いた。
「そういうわけだ。あんたたちに恨みはないが、これも仕事でな」
 各々身構える猟兵たち。シグマの足を包むつむじ風が勢いを増し、ブラッドレッドの上着を下から巻き上げはためかせる! わずかに引き抜かれた刃が、十字の極光を放つ。
「星辰は、汝らの死を指し示した。我が刀の錆となれ」
 抜刀と共につむじ風が拡散! 吹き荒ぶ突風に吹かれながらも、カタリナは右手の袖からダガーナイフを飛び出させ、アレクは両手の甲からサメの背びれじみた形状の刃を生やす。莉亜が細く長く息を吐いた。
「……今、煙草吸っちゃダメかなぁ。煙草ごとぶった斬られるかな? どう思う? アレク」
「ぶった斬られるに一票だな」
 アレクは両腕を左右に開き、身を沈めた。無謀の白仮面に緊張が走る。視線は刀持つ右手を真横に伸ばし、ピンとした立ち姿で間合いとタイミングを測るシグマから離さぬ。一見、人間と大して変わらない出で立ち。
(……これ邪神か? なんというか邪神というには拍子抜けしそうではあるが……)
 重い沈黙が場を支配する。感情の薄い目で猟兵たちを見据えるシグマが―――掻き消える!
 直後、アレクの喉笛にあてがわれる白銀の刃。仮面の奥で目を剥いたアレクは神速のブリッジで首狩り斬撃を回避! 再度ワープめいてステージ中央へ戻ったシグマに、とものが真正面から斬りかかる! 赤い光剣の斬り下ろし!
「ふぬっ!」
 シグマは逆手に握った刀を掲げて光剣を防御し、回転サイドキックでとものを蹴飛ばす! 真紅のオーラを翼めいて広げたとものは空中で減速して着地。彼女の眉間をシグマの刺突が射抜きにかかった。真横に吹っ飛ぶともの! とものを蹴っ飛ばしたカタリナの手中でダガーナイフに光が灯った。
「割り込み失礼! さあ、ここが君の特等席だ!」
 光に包まれたダガーナイフの刃を伸ばし、カタリナは高速の剣技を繰り出した。その全てを刀一本でしのいだシグマの右足を踏み付け行動阻害! シグマの真後ろに回ったアレクが左手の刃を振り下ろさんとす!
 シグマは左足のバックキックでアレクを吹き飛ばし、左手に握った刀の鞘でカタリナの首筋を打つ! 怯んだ彼女を左回し蹴りで打ち払ったところで、シグマの影から飛び出したシャドウハンズが彼の両足をつかみ地にぬい留めた。リドリーは己の影に両手を突いたまま叫ぶ!
「美影ちゃん!」
「マジックカード発動! ギャラクシー・テンペスト!」
 美影がカードを垂直に掲げた刹那、シグマの上空に純白の渦が展開し、中心から乳白色の大竜巻を噴き下ろした! シグマを飲み込み足場に突き刺さる白の災害が大爆轟を引き起こす! 離れた場所で戦況を見守るサイバーエリィが両腕で顔を庇った。CABOOOOOOOM!
「っ……!」
 サイバーエリィをドーム状のオーロラバリアが覆い隠し、光の津波から彼女を保護する。オーロラの外側、真っ白に塗り潰されたサイバーエリィの視界が―――縦一直線にSLASH! 閃光が左右にバックリと割れ、ステージの光景が戻った。中央では無傷のシグマが美影を横目で見る。
「見え透いてるぞ。時間稼ぎか?」
「ご明察っ! 莉亜さん、とものちゃん!」
 美影の声に合わせ、シグマの影が前後に伸長! 前方の影からともの、後方からは莉亜が出現し挟み込む。莉亜は奥歯で黒いカプセルを噛み砕いた。口内にあふれ出すどす黒い液体を飲み下し、眉根を寄せる。
「うぇっ……。ごめん、とものあと二秒ちょうだい」
「仕方ありませんの!」
 口元に腕を当てる莉亜をよそに斬りかかるともの! シグマの横薙ぎ一閃を左手の赤い光剣でガードし、右手に握った機械筒のスイッチを親指で押す。噴き出す青色の光剣で肩口狙いの一刀! シグマは軽く下がってこれを避け、引き戻した剣で神速の連撃を放った! SLLLLLLASH!
「むぅっ!」
 とものは二刀を振り回して銀閃を次々と弾くが、右肋骨付近と左太ももに深い裂傷が走った。歯を食いしばり、とものが赤青の二刀をそろえて袈裟斬りを打つ! シグマの逆袈裟斬りと衝突する光の剣。とものは拮抗する刃をさらに押し込む!
「ぐぬぬぬぬぬっ……!」
「速いな。俺ほどじゃあないが」
 呟いたシグマが剣を引き、つんのめったとものの鳩尾に前蹴りをぶち込む! 砲弾めいて真後ろに飛ぶともの! 両の爪先を床につけて急減速をかけつつシグマの後方へ呼びかけた。
「二秒! もう経ちましたの!」
「ん」
 シグマが振り向きざまに繰り出した斬撃が莉亜の大鎌一閃を弾いた。瞬間、シグマの腹を横一文字に引き裂かれて血を噴出! だがシグマは一切揺るがず斬り上げ一発で莉亜の右腕を斬り飛ばす! 寸断された肩口から血飛沫をまき散らしながら莉亜は眠たげな表情で問う。
「……なんともない? これやったら大体みんなビックリするんだけど」
「それはお互い様だろう。腕を失って、ずいぶんと冷静だ」
「どうせ治るからね」
「ほう」
 シグマが片頬を吊り上げ、超高速の連続斬撃を莉亜に浴びせる! あらゆる角度から襲撃する剣撃は空中で無数の火花を散らして軌道を逸らした。火花と金属音の壁でシグマと隔てられた莉亜は後方に大ジャンプ! ボーダーシャツの背中を突き破って黒紫色の竜翼を広げ、大きく羽ばたいた。
「でも流石に細切れは困るかな」
 莉亜は大きく吸息し、濃紫色のブレスを吹き出した! BFOOOOOOOOM! 空から襲い来る猛毒の衝撃を見上げたシグマは納刀。鞘ごと刀を引き絞って居合いの構え!
「一ノ太刀……衝星」
 SLASH! ブレスが左右に分かたれ、莉亜の顔面から鳩尾までが裂ける。莉亜は全身を漆黒に染め上げ爆発四散! 無数の蝙蝠の群れとなって散った。シグマの足元で影が円状に広がり、彼を取り囲む形で四角い大型スピーカーが複数浮上! リドリーは真紅のブローチを口元に添えシャウト!
「Ah―――――――――っ!」
 全方位から放たれた大音声がシグマを一点に固定した。彼の頭上に跳躍したアレクは昆虫めいた翅を生やし、両手十指の爪をレイピアじみて鋭く伸ばす! 真下に突き出した両手を合わせ、ドリルめいて回転しながら垂直落下! シグマは剣を振り切った姿勢で一言唱えた。
「巡れ、『星鋼』」
 シグマの刀が陽炎めいた揺らぎに覆われた直後、彼を中心にソナーレーダーじみた剣閃が走りスピーカーをまとめて切断! そこへアレクが落下し、墜落の衝撃で噴煙が上がった。煙の一部が真横に突き出す。疾走で煙を引きはがしたアレクとシグマは高速並走しながら斬り結ぶ!
 SLALALALALALALALALALALALALA! 鋭く滑るような金属音が幾度も響き、丁々発止の剣戟を展開。片足を突き出して急ブレーキをかけたアレクは、爪先をトゲ状に変化させたその足でシグマの顎を蹴り上げる! 攻撃はシグマを透過した。残像!
「後ろかッ!」
 両かかとから鎌状刃を生やし、アレクは後ろ回し蹴り! 低姿勢でこれを避けたシグマは居合い斬りを仕掛けた。すんででクロスガードしたアレクが強制後退の憂き目に遭う! シグマの両目がすっと細まる。
「速いな。少し舐めてたか?」
「ああ。ちょっとばかり侮り過ぎだ!」
 シグマに打ちかかるアレク! シグマは半歩だけ下がり、指の爪と手の甲の刃をフル活用した零距離斬撃乱打を刀一本で次々といなす。両手の爪による心臓狙いの刺突攻撃に刃を添えて後ろへ流したシグマは、アレクの腹に光速の膝蹴りを叩き込んだ! SMASH!
「ぐふッ……!」
 呻きながらも、アレクは蹴り足を抱え込んだ。シグマの背後から迫る銀河色の騎士甲冑! バイクでシグマを遠巻きに走る美影が吠える!
「時空騎士、ダイレクトアタック!」
「オオオオオオオオッ!」
 銀河色の騎士が両手剣を大上段に振りかぶって斬りかかる! シグマは一本足を支えに前後反転し、騎士の胴にアレクをぶつけた。引き戻した足を踏みしめ、刀を抱えて騎士の剣閃を跳ね返す。次の瞬間、Z字斬撃が騎士の頭から胸にかけてまでを引き裂いた! 騎士の頭部、首、胸が泣き分かれて爆発四散! その時、美影のバイク後部座席からとものが跳躍!
「王者の波動が天を砕く! あまねく力よ、私に集え!」
 とものを包む真紅のオーラが竜翼と竜尾を形成し、さらに左手を色濃く覆った。上半身を限界までひねったとものは、視線を寄越すシグマに全力で腕を突き出す!
「アブソリュート・パワー・ブレイズ!」
 繰り出された左手が業炎じみた光線を放射! 暴走特急めいて突撃してくるそれを、シグマは無造作に斬撃を振るって消し飛ばす。振り切った刀の真下に潜り込むカタリナ! 光の騎士剣を振りかぶり脇を狙って斬撃を繰り出した!
「片腕、もらった!」
 だがシグマは即座にバックステップを踏んでかわし、カタリナの第二撃を斬撃で迎え撃つ。素早く逆手に持ち替えカタリナの首を狙った一撃! カタリナはブリッジ回避し、地を蹴って後退。起き上がると同時に羽ばたき羽弾を連射! 白雷まとったそれらをシグマは神速剣で叩き落とす!
「片腕か。こっちはもうもらったんだが……」
 シグマはトンとステップを踏み、一瞬でカタリナに肉迫! ワン・インチ距離で刀を高々と振りかざした。
「もう一本、もらっておくか」
「おっと、それは勘弁願おう!」
 ニヤリと笑ったカタリナはシグマの胴にタックルをかます! そのまま騎士剣を掲げ、体勢を崩して勢い弱まる斬り下ろしを防ぐと、さらに剣を閃かせて足斬りの一閃をガード! 刺突を剣の腹で受け、鎖骨を断つ剣戟を弾いた。一瞬だけ視線を交錯させた二者は、超高速で斬り結び始める!
「はあああああっ!」
 裂帛の気勢を上げるカタリナに対し、シグマは冷たい眼差しで相手の斬撃軌道を分析。自分の剣の出始めを狙った迎撃。刃を交えるごとにその速度は上がり、徐々にシグマの剣を裂き回りしつつある! シグマはほんのりと苦笑を零す。
(手負いと思って甘く見たか。これは、お姫様を笑えないな)
 シグマは斬撃一発を弾かれると同時に風めいた速度でバック! 静止した彼は眼球を潰しに来る騎士剣の切っ先を首を傾けて回避し、急角度の突き上げを仕掛けた。零距離で顎を跳ね上げたカタリナは、頬に沿うシグマの刀を横目にしつつ不敵に挑発!
「どうかしたかい? だんだん鈍くなってる気がするけど?」
「そいつは失礼した。さっきも言ったが、少々舐めすぎてたらしい。……いや、傷ついた獣ほど凶暴になるものだったな」
 直後、シグマの姿がピンボケ写真じみてぶれ、あらゆる方向から刻まれた赤黒いラインがカタリナの全身を斬り刻んだ。彼女の後方に再出現したシグマは、肩越しにカタリナを見返しつつ宣言する。
「トップギアだ。ついて来い」
 一拍遅れてカタリナの全身から噴き出す鮮血を合図にシグマは再加速! ステージを縦横無尽に吹き荒ぶ赤黒い風。猟兵の動体視力を以ってしても捉え切れぬ速度のシグマを見たとものは、美影の方を振り返った!
「美影! アクセラレーション! ですの!」
「おっけーとものちゃんっ!」
 美影は山札から引き抜いた一枚のカードをともの、アレク、カタリナへ投げた。カードは三者三様の翼を広げる背中に蒼い光となって吸い込まれ、彼女たちの体を燐光で包み込む!
「『時空加速』! 行けぇぇぇぇぇぇッ!」
 拳を振り上げる美影の声を背後に、三人はハイビームじみた蒼光と化してステージを光速で飛翔! 疾走するシグマの前に回り込んだアレクが刃の生えた両腕でラッシュを仕掛ける! シグマはこれを正面から恐るべき速度の剣技で迎撃!
 ギャギャギャギャギャギャギャギャギャ! 刃同士がシノギを削り合い、金属片と細かな火花で二人を彩る。鈍色の粉はアレクの腕から飛び散るものだ! 拮抗のように見えてアレクの方はやや劣勢! シグマは薄っすらと笑みを浮かべて見せる。
「まだ遅いな!」
「いいんだよ……フォア・ザ・チームだ! せあッ!」
 腹部を抉る一撃を刀に弾かれたアレクは逆の腕を胸の前に掲げて剣閃をガード! そして薄い角めいた形状の刃を膝から生やしての飛び膝蹴り。シグマもまた飛び、アレクの顎を蹴り上げて両肩にドロップキック! 彼の肩を足場にしてハイジャンプした先にはともの!
「たのもうっ! でぇぇぇぇぇやっ!」
 ビームサーベル二刀流による乱打がシグマに降りかかる! ムチめいてしなる刃が描く不規則軌道を、シグマは一刀の下に斬り捨てた。前方回転の勢いを乗せたかかと落としでとものを強襲! とものは再展開した刃を交叉してシグマのかかとを受け止め、跳ね返す! 回し蹴りで追撃!
「しゃッ!」
 上下反転したシグマは身をひねりムーンサルト回転でとものの蹴り足を回避した。回転から射出された無数のカマイタチを、とものは柄尻で連結したビームサーベルを高速回転させて防ぐ! そして連結光剣をブーメランめいて投擲! シグマはバク宙を決めて体勢復帰し、光剣を叩き落とした。不意に見上げるとそこには騎士剣を大上段に掲げたカタリナ!
「シッ!」
 振り下ろされた両手直剣と刀が衝突!
 恐るべき速度でステージ上を荒れ狂う蒼光と赤黒の嵐を前に、リドリーは間合いを測りかねる。目で追えぬ!
(どうすればいいの……? きっと下手に差し込めば邪魔になる……!)
 内心葛藤するリドリー。影に手を入れたまま唇を彼女の耳朶を打つのは、美影の呼び声!
「リドリーさん! リドリーさんっ!」
「!」
 急いで視線を巡らせると、ステージモニタのうち端に設置された一台の前で美影が四枚のカードを掲げて見せていた。
「これ、一枚お願い! もう一枚は莉亜さんにっ!」
 リドリーは一瞬迷い、力強く頷いた。彼女の影が美影へと延長され、先から這い出した影の手が美影の投げた二枚のカードを受け取り影へと潜る。同時にリドリーの足元からカードを持った手が出現した。
 リドリーは視線を巡らせ、莉亜の姿を探る。超高速で斬り結ぶ四者の上空に、一点集中するコウモリの群れを発見! 黒い渦の中心から頭を出すのは、もみあげ付近から顎下にかけて紫色のウロコで覆われた莉亜だ!
「莉亜さん!」
「ん……」
 色濃い隈に縁どられた莉亜の目がリドリーを捉えた。その視線がわずかにズレる。リドリーがつられて目を向けると、ステージの端に斬り落とされた莉亜の片腕! 目線を戻した莉亜は煙草の端を噛みつつ言った。
「リドリー、僕の腕取って」
「…………!」
 口元をひきむすんだリドリーは頷き、影に突き入れた両手指をぐっと握った。ステージの端に転がった莉亜の腕を、近場の地面から伸びたシャドウアームが持ち上げ莉亜へと投げ渡す。隻腕でキャッチした莉亜は迷わず切断面同士を接合! 直後、元鞘に戻った腕が脈動した。
「ちょっとだけ出してあげるけど……言う事聞いてよね」
 莉亜の腕が激しく蠢き、膨張して黒く変色! 指先には尖った爪が伸び、狼じみた黒い剛毛で覆われる。変質した腕に美影のカードを握り込んだ瞬間、指の隙間から銀河色の閃光がほとばしった。莉亜はそのまま、真下へ変異した手を振り下ろす!
「頭上注意、っと」
 潰れたドーム状の銀河光がステージ全体を包み、THOOOOOOOOOM! 巨大なクレーターを生み出した! 生み出された重力帯の中央には、両足首まで床に埋め込まれたシグマ!
「っ……ぐおおおおおおおお!?」
 全身の骨がメキメキと音を立て、重力に反する両足の筋線維が千切れる。美影は重力帯に巻き込まれながらも、動きを止めたシグマと上空に逃れたカタリナとアレクを見やった。重力に逆らってカードを持った手を振りかぶり、全力で振るう!
「アレクさん! カタリナさんッ!」
 投げ放たれたカードが斜めに飛び、大気圏を抜け出すロケットの如く二人へ飛び立つ。銀河色に瞬いたカードは流星の逆再生じみて莉亜の重力帯を抜け、アレクとカタリナへと向かって行った! 反応した二人がカードをキャッチ。美影は拳を握った。
「さあ、これで勝利へのピースは揃ったわ! 莉亜さん、『時空激震』!」
「了解」
 莉亜が五指を限界まで広げた刹那、銀河色の重力帯が大地震を引き起こす! 激しい震動に奥歯を噛みしめた美影はリドリーを呼ぶ!
「リドリーさん、『時空間隙』!」
「今ね……!」
 強烈な重力に両肩を押し潰されそうになりながらも、リドリーは影に沈めた手につかんだカードを握り潰した! 彼女の足元から広がった影がステージ全体をブラックホールめいて飲み込む。シグマの沈下が進み、膝下までが足場に埋まった。刀の切っ先が地を舐める!
「カタリナさん、『時空歪曲』!」
「やれやれ。随分な無茶をするじゃないか……!」
 カタリナが苦笑しつつ、残った片翼にカードを潜り込ませた。翼はたちまち銀河色の光を灯す! 光に照らされた重力帯がその下の影ごと渦巻くようにねじれ、莉亜とリドリーの表情が険しく歪んだ。美影のバックアップありきと言えど、力の負荷に体が全身の骨や筋肉が悲鳴を上げているのだ!
(けど、もう後には引けない! ここで決めるッ!)
 決然たる想いを瞳に燃やした美影は再度声を張る!
「アレクさん、『銀河連撃』!」
「ああ。ここでいいんだったな!」
 捩じり上げられる重力帯の真上に来たアレクの両腕が輝き、背中から千手観音じみて異形の巨大腕が大量出現! アレクは全身の外骨格を軋ませながら、数百の腕でラッシュをねじれる重力帯に叩き込む!
 ZGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGA! 鼓膜を突き破らんばかりの轟音と衝撃! 重力帯がギシギシと軋み、背を曲げたシグマをどんどん地に打ち込んでいく。重力、衝撃、影によって生まれた亜空間から伸びた影が剣士を奈落へ引きずり込まんとす!
「うおおおおおおおおおおおおおおおッ!?」
 シグマは刀を持つ腕を強いる! 服の下から縄めいた筋肉が盛り上がり、太く浮いた血管が爆ぜて血を噴いた。既に太ももまでがリドリーの影に取り込まれ、刀も刃の半ばまで埋め込まれている!
 奥歯を噛み砕き、それでも剣を持ち上げんとするシグマの目前に、小さなキューブ型のスピーカーが現れた。リドリーは力を振り絞って召喚した機器へと声を流す。
『待って! それほどの力を持っていて、どうしてサイバーエリィに従うの!? あの子に一体何があるの!?』
「さあな……!」
 両目を裂けるほど見開き、背骨のひび割れる音を鳴らしながらシグマは応えた。
「何があるかと言われれば、何も無いんだろう。人望、実力、信仰、なにもかも中途半端だ。敢えてあるものを挙げるとすれば……そうだな、不屈の精神と自負ぐらいか? ……だが、そんなことはどうだっていい。力を求める意志によって召喚された。ならば、俺は俺のやるべきことをやるだけだ……ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおッ!」
 裂帛の気勢とともに、亜空へ堕ちかけた刀が僅かに引き戻される! 上空の莉亜はアレクの殴打衝撃越しにそれが見えている―――が、これ以上の力は出せぬ! 彼は重い溜め息を吐いた。
「はぁ……流した自分の血の分は、敵さんの血を吸いたいなぁ。あと、人件費ってことでひとつさ……だめかな?」
 げんなりと呟く声が、耳から脳までを貫く鋭いノイズにかき消されていく。同じ耳鳴りじみたサウンドを聞きながら、美影はそれに負けじと喉を嗄らす!
「フルトラップコンボ完成! 行くわよ、ギャラクシー・クロノスドラゴン!」
「GAAAAAAAAAAAAARGH!」
 どこからかノイズを吹き飛ばすようなドラゴンズ・ロア! 美影の背後から飛び出した銀河色の巨竜は、しかし重力帯と湾曲する空間にさらされ苦悶に身をよじる。美影はそれでも、動き出さんと抵抗するシグマに右手を突き出した! 千載一遇の好機!
「撃滅の……ギャラクティック・オーバーブラストぉぉぉぉぉッ!」
 苦悶に叫びながらも、巨竜は周囲の重力帯と銀河光ごと大気を吸い込む。口腔から眩い閃光をのぞかせ、ブレスを放った! CADOOOOOOM! 彗星の如き輝きの光線が空間のねじれに流され、シグマの周囲を旋回。渦巻きながら接近していき―――直撃! KRA-TOOOOOOM!
 ビッグバンじみた大爆轟が重力帯を、空間歪曲光を、亜空間の影を、巨拳による乱打をまとめて消し飛ばす! 全てが真っ白に染め上げられた世界の中、シグマの体から赤黒い上着が燃えて引き千切れて滅され、露わになった肌を塵に変えていく!
 半ば削られる炭じみた有様と化したシグマは―――それでも眼光で白を塗り返す! フルトラップコンボからの解放。全てが消し飛ぶ一瞬の中で、彼は横薙ぎに刀を一閃! ビッグバンじみた爆轟が幕を払うように切り開かれ、世界が元のステージへと戻る。シグマは、未だ倒れず! 美影が愕然と目を見開く!
「なッ……!」
 上半身のほとんどが炭化し、左半身を削り取られた姿。顔も左頬が無く、長い金髪もショートヘアに変化している。しかし、シグマはまだ刀を持ち、二本の足で立っていた! 眼光は刃のように鋭い!
「ハァ……まだ、だ……俺の、役目は……ッ!」
「なんで……どうして、そこまで……」
 呆然と呟くリドリー。シグマは振り子めいた軌道で斬撃を放った。地を引き裂きながら飛ぶ巨大なカマイタチは、立ち尽くす美影もろとも銀河の竜を一刀両断! 右鎖骨から脇腹までを分かたれ、唖然とした表情で膝を突く美影を、とものの声が叱咤する!
「美影ッ! ドラゴン、かりますのっ!」
「は……っ!」
 我に返った美影の切り傷から火山噴火めいて出血! だが美影は手にした最後の一枚を頭上に掲げた。彼女の後方から走って来たとものが跳躍してそのカードを手に取り、自分の胸に押し当てた。断末魔の悲鳴を上げる巨竜が光の粒子となってとものの体にまとわりつく! 背中に大型のギアを、右腕から肩にかけてガントレットを形成。剣はドラゴンの頭部をかたどったものに!
「フォア・ザ・チーム、あなたの刀でもそう易くはなくてよ?」
 とものは背中のギアを回転させ一条の閃光と化した! そちらを見据え、高々と刀を振り上げるシグマと、銀河色の閃光がすれ違う。シグマは己の体を見下ろした。胸から腹が消えていた。彼の後方に抜けたとものが、銀河色の光剣を斬り払う。シグマの残っていた部位が炭のような黒へと変貌し、塵と化して消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『ネットアイドル』サイバーエリィ』

POW   :    歌います!『画面の向こうからこんにちは!』
完全な脱力状態でユーベルコードを受けると、それを無効化して【インターネットに接続した画面の中 】から排出する。失敗すると被害は2倍。
SPD   :    それじゃ行くよ!『隠さないであなたの心』
【相手の心と同調する曲を放ち 】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ   :    聞いてください!『私にとってのヒーロー』
対象のユーベルコードに対し【相手を魅了する曲 】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はビードット・ワイワイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●お知らせ

 断章は特にありません。
 人数がそろい次第執筆を開始します。受付は10月25日8:31からです。
カタリナ・エスペランサ
さて、いよいよ終幕か
戦闘前の会話に平行して《高速詠唱+全力魔法+ドーピング》の応急手当と自己強化で備えときたいね
ダメなら先制を凌いだ後になるかな

先制対策は《咄嗟の一撃+カウンター+先制攻撃+衝撃波》での《時間稼ぎ》
仲間を巻き込めない分できる死角は《武器落とし》で埋めるよ
足りない分は《オーラ防御+気合い》で乗り切る

予想・回避されるってなら速さで上回るまでさ
思考も動きもね
【閃紅散華】に《早業+怪力+破魔》を乗せ仕留めに行くよ
防御は《第六感+戦闘知識+見切り》の精度を戦いながらの《情報収集+学習力》で引き上げていこう

もっと迅く、鮮やかに。
キミがどれだけ強いとしても――アタシはその先に辿り着いてみせる


須藤・莉亜
「…(一服中)」
さて、もう一踏ん張りかな?

大鎌を55本に複製、40本を攻撃用、残りを防御用にする。

んでもって、敵さんの動きを【見切り】、攻撃用の大鎌で全方位から敵さんを攻撃して行く。

僕の心と同調するって事は、デカい吸血衝動に襲われるのかな?血が飲みたくてしょうがなくなるんじゃない?

それで動きが鈍るようなら、その隙に大鎌で首を狙う。大して意味なかったら、悪魔の見えざる手に攻撃してもらって隙を作ってもらおう。

敵さんの攻撃は防御用の大鎌での【武器受け】と【第六感】、【見切り】で回避。

「ところで、あの方って誰なのかな?プロデューサーだったり?」

【僕・きみ・年上の相手のみ名前+さん、他は名前呼び捨て】


アレク・アドレーヌ
さて…最後の相手ではあるんだが。うん…この何?
説明しづらいがこれが邪神…いや、強さと見た目は比例しないか

それはそれとしてここまで来るのに結構無理したのと休みなく戦ったということもありちっとは休憩とるべきなんだろうがやるしかないからやるが

一旦ちょっと離れた場所より相手を『観察』し(休憩じゃないぞ、これも戦術だ)相手の攻撃手段を把握する。
攻撃としてのUCが無さそう、かつ攻撃UCに対しカウンター的なのを持っているのと味方の疲弊っぷりを顧みてこのUCを使って頭数は減るが総合的な戦闘力を高め、攻撃手段としてのUCを用いずただ『普通に』殴る蹴るで応対することにしよう

多分この依頼で一番面倒な相手かもしれん


リドリー・ジーン
彼の強い意志に心打たれ、思案が巡るわ。
自分の在り方に信念を持っている方。もし生きた人として出会えていたのであれば彼の背負う物語を聞いて見たかった。
でも、それは出来ないから。
だから私は共にいる人達の話を沢山聞き、その姿を目に焼き付けて生きる。
不屈の精神――こちらも負けてはいないから。

【援護射撃】で応戦しながら【第六感】で攻撃を予測し回避行動、仲間に危険が及べば少々手荒になったとしても【影の手】を使って仲間の動きを止めたり軌道を逸らせて直撃は避けさせる。
私の攻撃を回避されればされた先を狙うまで、弓も手も駆使しましょう


貴方の歌、いい歌ね。きっと私、一生忘れてなんてあげないわ。


柚月・美影
今度こそ、せっちゃん(千里)やあっちゃん(アルフォリナ)とものちゃん達と参加
一人称:アタシ
二人称:年上はさん、年下・同年代はくん、ちゃん付け
アドリブも歓迎

●戦闘
魅了された仲間はカードを【投擲】し正気に戻す

【メカニック】で壊れた武器の応急処置
前回の戦いでシグマが見せたものに一瞬迷うけど、仲間の励ましに奮起する
「…分かってる。そうよね…皆、譲れないのよね」
《バトルキャラクターズ》を使用
【念動力】で強化したカードを【クイックドロー】で引き
【野生の勘】で仲間とタイミングを合わせて【罠使い】でフェイントを入れ、とものの腕からエースを蘇生する
「…アタシは未来を選ぶ!
『銀河再誕』を発動!
甦れ、我が現し身!」


天門・千里
一人称:私
三人称:君、呼び捨て

ちっ。しばらく見てたが超次元の渦とやらはまた私らの目的とは別のものか。
嗚呼、時間を無駄にした。
「さて、と。さぼってた分働くとしましょう。」
とりあえず、めんどくさそーなのはわかった。
と【見切り】で相手の行動を予想し、【スナイパー】で光【属性攻撃】
「動きを予想できるのは君だけではない、ということだー」
でも予想がめんどくさくなったら
【全力魔法】と【一斉発射】による【範囲攻撃】でお茶濁そう。
魅了には【破魔】の魔力を自身にまとって抵抗を試みる
「おあいにく様!歌は演歌しか聞かない主義でね!」
演歌聞いたことないけど。


アルフォリナ・アスタロギア
千里に少し遅れて美影、とものに合流
待たせたわね!
ようやく追いつきましたわ!

適宜味方には戦術指示
敵の集中攻撃を避けつつ
此方側にリズムを引き寄せますわよ

厄介な敵なのは間違いありませんけど
消耗している上に相手の土俵で戦っては勝機を逃しますわよ?
付き合って競わず、持ち味を活かしなさい!
貴方達には貴方達の歌、リズム、戦い方があるでしょう!
…等と連戦の疲れや敵の戦力に押される仲間達を【鼓舞】し
同時に魅了や同調の妨害を試みる

WEB使いは貴女の専売特許ではなくてよ?
【毒使い】【だまし討ち】【高速詠唱】【暗号作成】【時間稼ぎ】で
リアルタイムにウィルスやスパム
ループ処理を仕込み
インターネットの力の利用を妨害します


潦・ともの
美影と千里と先生参加
アドリブ&連携大歓迎!

右腕の義手の調子が悪いと口実を作り
美影の横に立つ
『止まるのは彼らに対して失礼ですの』
あの矜持をみせられては膝などついていられない
竜の剣をそのままに【王者の決闘】も継続

脱力状態にフランケンシュタイナー的な投げ技等でその状態を崩し【時間稼ぎ】
近接戦闘で相手に脱力させる間を与えずに肉薄
美影ならわかるはず!
『それ』と同時に【全力魔法】【王者の決闘】も上乗せしてもってきなさい
『独りでは出せない輝き、魅せてあげますの!』

予測には【2回攻撃】による手数+
その予測の先を【第六感】イメージして【見切り】【カウンター】

『私を魅了するにはボリューム足りませんの。お胸の!!』



 ステージ奥を、毒々しい色合いのオーロラが霧めいて覆う。
 不穏に揺らめく色彩の正体は、サイバーエリィを戦闘から遠ざけていたドーム状のバリア、その成れの果て。従えていた邪神たちとのリンクが途切れ、複雑に絡み合った繊維がほどけるように雲散霧消した庇護の障壁。モニターやポップな色彩の壁を隠すそれから、小柄な人影が歩み出て来た。
 青と黄色のグラデーションに染まった瞳に怒りをたたえ、宇宙じみた色彩の髪を逆立たせた少女。サイバーエリィは両拳を握りしめ、ツカツカと足音を立てながら肩で風を切る。彼女の前には、浅いすり鉢状のクレーターと化したステージ。
「腹立つわ……」
 サイバーエリィは口元を歪め、吐き出すように言った。
「本当に腹立つ。私が直接、相手しなきゃいけないなんて。荒事のためにアイドルになったんじゃないのに」
 歩みを止め、クレーターの中央を見やる。そこは、つい先ほどまでアステリア・シグマが立っていた場所。半身を失いながらも立ち続けた彼は、斬り捨てられて塵と消えた。サイバーエリィの瞳は、冷徹な目で吐き捨てる。
「……使えないんだから」
「使えないって……そんな言い方は、無いんじゃないかしら」
 サイバーエリィの視線がステージのふちに移動した。両膝を突き、消耗した様子で荒い息を吐くリドリーが、真っ直ぐな瞳で見返して言う。
「彼は、あなたを守るために戦ったのよ? 生きてるのも不思議なほどボロボロになってまで……労ってあげないの? なにか、思うところはないの……?」
「そんなの、無い」
 サイバーエリィは即座に突っぱね、うつむいて肩を震わせた。
「クゥイラトァ・グラルハ・メラルヒニトの書も、シグマも、私を邪魔する人たちを始末するために居たんだもの。でも出来なかった。自分のやることもできない、役立たず……!」
 スーツの手足や背中から、ぶすぶすと濁った虹色の瘴気が昇る。鼻孔と喉にへばりつく異臭を感じながら、ふわりと降下したカタリナは小声で何事か呟いた。片翼の切断面から花火じみて金色の火が噴出し、根元から新たな白翼を再形成。
 カタリナは光の騎士剣を両手でつかみ、傍らで煙草を吸う莉亜を横目で見やる。
「さて、いよいよ終幕か。傷の具合は?」
「…………」
 莉亜は応えず、無言で紫煙をくゆらせる。カタリナと同じく莉亜を眺めていたアレクは、人知れず一息零して胸元に手を当てた。心臓の裏側を針で刺されたような痛みが襲う。
(ここまで連戦、それも無理を押してのぶっ通しだ。少なくとも、ちっとは休憩取るべきなんだろうが……)
 アレクの視線が莉亜を外れた。次に目を留めたのは、バイクを銀河色の光でコーティングした美影と、その右横に立つともの。とものは左手で美影のハーフジャケットをつまんで引っ張る。
「美影、美影」
「なに? とものちゃん」
 美影はサイバーエリィを見据えたまま、モノバイクに埋め込まれたモニターを目端に捉える。画面には『レストア:78%』の文字。とものも、またサイバーエリィから目を離さないまま告げた。
「ちょっと右手の調子が悪くなりましたの」
「義手が? ……不味いわね。整備してる時間は無さそう……!」
 眉間にシワを刻む美影の先で、目を閉じたサイバーエリィが小さく息を吸って口を開く!
「Ego daemonium―――non in cor―――de―――…………」
 澄んだ歌声が響いた直後、サイバーエリィの足元から邪悪な虹色の竜巻が噴出! 広がる余波―――黒ずんだ風がステージの風景を陰らせ、夜の訪れめいた薄暗さを醸し出した。
 美影は『レストア:87%』の文字を一瞬見やって歯噛みした。バイクの超自然的応急修理もまだ途中だ!
「ごめんとものちゃん! 右手診てあげたいけど……!」
「美影」
 ヴォン! 振動じみた音が言葉を遮る。視線をスライドさせる美影の隣で、とものは銀河色の光剣を大きく背後へ振りかぶる形で構えた。両膝を曲げてロケットスタートの予備動作。右肩甲骨付近に出現した歯車が回り始める!
「あの矜持を見せられて、膝を突いてなどいられませんの。止まるのは彼らに対して失礼ですの」
「止まってなんて……」
 言いかけて、美影はぐっと詰まった。胸中に渦巻くたった数分前の光景。銀河色の重力帯に押し潰され、影の沼に引き込まれかけ、空間もろとも捩じられながらなお立ち続けた赤黒の剣士。ビッグバンめいた閃光。半身を消されながらもなお立ち上がり、刀を振るわんとした雄姿。
 美影は口元をきゅっと引き締め、ハンドルを握る。
「……分かってる。そうよね……皆、譲れないのよね」
 DRRRRNG! モノバイクがエンジンをいななかせ、銀河光を吹き散らす。レストア緊急中止!
「わかった、ありがととものちゃん! 最後の決戦、トバして行くよ!」
「うむ! それでこそですの!」
 とものの右腕を包む覆うガントレットがライン状の光を走らせ、ドラゴンヘッドを模した光剣の柄を握る。
 一方、どす黒い虹の竜巻の内側では、サイバーエリィの四肢が無数の01に包まれていた。数字の羅列が内側から弾け飛ぶと、そこには悪魔めいた装甲! 続いて両の太ももから喉元、肩口までが同じく01の文字列に飲まれ、爆ぜた数字の下から薄手の機械鎧に包まれた胴体が現れる。
 腰の両端を飾る三対六つのひし形デバイス。竜巻に巻き上げられた髪をかきわけ、猫耳ヘッドホンが両耳に装着される。右耳部分から伸びた金属棒の先にはマイクロマイク。閉じていた目を開き、サイバーエリィは両手を頭上に掲げ、左右に振り下ろして竜巻を吹き飛ばした! 跳ね上げられていた髪が下り、背中から悪魔めいた機械翼が生える。
 追加で飛び出した長い鋼の尾で地を叩き、かかとのローラーを滑らせ一回転、前傾姿勢で両拳を引き絞った!
「私のステージに……余計なノイズを入れないで!」
 叫ぶと同時、サイバーエリィは足元にチョップを振り下ろし青紫の斬撃を射出! 獲物を狙うサメの背びれじみて地を裂きながら進む斬撃へ、カタリナは光の騎士剣を横薙ぎに振るう!
 SLAAASH! 横一文字の閃光斬撃が飛び、サイバーエリィのそれと激突し、衝撃波を放射状にまき散らす。大きく翼を広げたカタリナは不敵な微笑みを浮かべて啖呵を切った!
「さあ、トリロジーの第三幕だ! 気合い入れていこうか!」
 十字の衝突剣閃が球状に収縮し、CABOOOOOM! 青と黄の光を撒き散らす爆発を飛び越えた莉亜が手中で大鎌を回転させて地上を示した。彼とすれ違い流星群めいて降り注ぐ白い円形白光! それらは複製された彼自身の大鎌だ! サイバーエリィは押し寄せる回転鎌の雨に両手をかざす。
「邪魔!」
 彼女の両手の平を中心に青色の波紋が広がり、DOOOOOM! 腹に響く轟音と共に大鎌が押し止められ、打ち返される! 莉亜は目の前を薙いで15本の回転大鎌をバリアめいて展開、返って来た鎌を片っ端からしのいでいく。身を沈めて呼気を吐くサイバーエリィの横合いからともの!
「ぜぇぇぇぇいっ!」
「……!」
 サイバーエリィがとものを睨み、裏拳で振り下ろされる銀河光剣を防御する。白熱する閃光! 剣に力を込めつつ、とものは目を剥いた。刃が不可思議な波紋に阻まれ、サイバーエリィの手の甲に触れていない! サイバーエリィはとものの腹に回し蹴りを叩き込んだ!
「がふっ……!」
 口から血を吹き、とものの体がCの字に曲がった。サイバーエリィは深く食らいついた蹴り足を振り抜いた。SMAAASH! 超速で吹き飛ぶとものに体を向けたサイバーエリィかかとの車輪が高速回転! 鋼の尾で地を叩き彼女は爆速で飛び出した! 歌いながら拳を固めてとものを追撃!
「霞む両目に映った、正しい答えは本物? 僕が書いた解答、誰かがぼやく間違いの一言。教科書丸写しが正しいってこと? そんなので本当にいいの?」
 吹っ飛んでいたとものが空中で静止し、迫るサイバーエリィへ磁石めいて引っ張られていく! 大きく拳を振りかぶるサイバーエリィ! 直後、二人の間に漆黒の矢が五本突き刺さった。矢の後端が手の形に変化し、飛来するとものを受け止め真上に投げ上げる! 二の黒矢を番えるリドリー!
「影、縫い……!」
 SHOOOT! 放たれた矢がサイバーエリィの影をめがける! サイバーエリィはフィギュアスケートめいた回転キックで矢を蹴り返して跳躍! 放り上げられたとものへ跳躍し、ジャンプパンチの構え!
「筆者の心なんてわかるわけない。どうせどうしたって不正解。それならテスト用紙なんて破いてしまえばいいから―――」
 とものから青紫の波紋が発生し、彼女を虚空にぬい留めた。美影はデバイスの山札から引き抜いたカードを投擲! カードは空中で二枚に分離し、片方は真っ直ぐとものへ。もう片方はサイバーエリィをめがける!
「アタシは時空戦闘機・ギャラクシーストライカーを召喚!」
 美影が宣言すると同時、サイバーエリィを狙うカードが眩い光を爆発させる。中から飛び出した銀河色の戦闘機が宙を舞うサイバーエリィへ先端を突き入れんとす! サイバーエリィはすんでのところで戦闘機の先端をつかんで止め、膝蹴りを叩き込んでへし曲げた。
「今ですわ千里! 狙い撃ちなさい!」
 どこからか飛ぶ声! 直後、サイバーエリィの横顔を蒼光が照らし出した。そちらを見たサイバーエリィの視界一杯に、迫りくる蒼の切っ先!
「冗談じゃないUnknown Future! ペンを走らせるならせめて夢を描いて、誰の目に留まらなくても自分だけに応えてくれればそれで充分!」
 サイバーエリィは握り止めた戦闘機を振り回して飛来する刃を殴る! 軌道を逸らされた蒼い剣杖はサイバーエリィの頬を掠めて天空へ飛翔。投げ返された戦闘機の先には腕を振り切った千里! 気の抜けた足取りでよろめく彼女の前にアルフォリナ・アスタロギア(星詠みのお嬢様・f04639)が割り込み、杖の石突で足元を叩いた。
「リジェクト・オブ・トレント!」
 アルフォリナの目前に絡み合った巨木の幹が飛び出し、戦闘機を防御! 前半部をひしゃげさせた機体は爆発四散した。美影は次のカードを引きながら驚いた顔でそちらを見やる。
「アルフォリナさん!」
「待たせたわね、美影、ともの! ようやく追いつきましたわ! まったくもう……二人が戦っているときに、千里は一体何をしていましたの!?」
 厳しく問われ、千里は両手を上着のポケットに突っ込んでそっぽを向いた。
「別に。……ちっ。時間を無駄にしただけだよ」
「まったく、貴女って子は……! まあいいですわ。お説教は後に回します! 援護射撃!」
「はいはい。さて、と。さぼってた分働くとしましょう」
 千里はポケットから引き抜いた両腕を交叉した。両手十指には蒼の短剣! 跳躍してアルフォリナが呼び出した巨木に飛び乗り、右手の短剣を投げ左手の短剣も投げる! 彗星めいた光の尾を引いて翔け上がってくる短剣群に、サイバーエリィは右手を振り下ろした。
「自分だけの正解目指して何度つまずきながら! それでも前へ行く!」
 紫の力場が短剣たちを覆い、地面へ強制垂直落下! 墜落した刃が地面に叩きつけられて噴煙を上げた瞬間、滞空し続けるサイバーエリィを360度回転大鎌が包囲! 自立して動く刃の大群をにらんだ莉亜は指を鳴らす! CLAP!
「解体して」
 大鎌の球状包囲が一気に収縮し、内側から弾け飛んだ。サイバーエリィは青紫の力場球に包まれて無事! 彼女の上方からはとものが脳天を貫かんと急降下刺突を繰り出す、が力場級は銀河色の刃をぐにゃりと捻じ曲げサイバーエリィを防護する。
「滑る鉛筆の芯が折れて、描きかけの絵が出来なくなった」
 歌いながら悪魔じみた手甲に包まれた手を上下反転させ、親指にくっつけた中指を弾く。刹那、とものの鳩尾が銃撃されたかの如く凹み、矮躯が派手に吹き飛んだ! 影から飛び出した三本の黒い矢をつかんだリドリーはそのまま弓を引き、とものへ射出!
「受け止めて、影の手!」
 一瞬でとものが吹っ飛ぶ先に先回りした矢は、矢尻を彼女の方に曲げて影の手を発射! とものをガシガシとつかんで受け止めた。影の手はとものを投げおろし、飛び来る三つの青の重力球を食らって爆散! リドリーは追加の矢をマシンガンめいてサイバーエリィに撃ちつつアルフォリナを呼ぶ。
「アルフォリナさん! とものちゃんを!」
「ええ、わかっていますわ!」
 優雅に両腕を広げたアルフォリナは、とものの落下点を左手に握ったヘッドで示めした。
「フルッフ・オブ・クレイドル!」
 とものの真下に赤い魔法陣が出現し、BOFF! 真っ白い綿毛の山が吹き出し、とものをキャッチ。そちらを一瞥したサイバーエリィは、胴体を串刺しにせんとする影の矢に右手をかざし、左手を真横に真っ直ぐ伸ばした。
「I came from nowhere,When I'm a nameless girl. To find meaning my life」
 彼女の手の平から生まれた紫色の波紋が影の矢と回転大鎌を全ガード! 手を軽く振ってそれらを吹き飛ばしたサイバーエリィにカタリナが真正面から挑みかかった。金色の騎士剣が真紅に染まり、稲妻をまき散らす!
「その目を以て焼き付けよ、その身を以て刻みつけよ。此処に披露仕るは無双の演武! 速度勝負と行こうか!」
 羽ばたくカタリナの翼が虹色のグラデーションにまたたいた。次の瞬間、サイバーエリィは息を吐いて目を閉じ、軽く両腕を広げて斬撃を浴びる!
 ZGAGAGAGAGAGAGAGAGAM! 雷鳴と共に斬り刻まれるサイバーエリィ! 超高速の剣戟を叩き込みながら、しかしカタリナは険しい表情のまま向き合い続ける。サイバーエリィの歌が途絶えぬ!
「I came across the stage, Full of light here. Longing, Loving, I stated singing……Heavenly gospel. So I became idol in the small screens」
 サイバーエリィが括目した刹那、カタリナの頭上に円形のスクリーンが出現し真紅のビームを撃ち下ろした! ハッと空を見上げたカタリナを飲み込んだ赤光は、サテライトレーザーめいてステージに突き刺さり大爆轟を引き起こす! サイバーエリィは―――無事である!
「I―――m singing―――here―――!  No matter what "Useless". I―――m singing―――here!」
 床に突き立ったままの赤光柱が滅茶苦茶にステージを斬り刻み始めた。乱雑にペンを動かすが如く、クレーターとなった床に太い焼き跡を入れていく! 美影はバイクを走らせ、綿毛のベッドから頭を出したとものの腕をつかんで疾走! 莉亜は不規則軌道で飛行しながら光線を避け、鎌を飛ばす!
「Here I come!」
 サイバーエリィの声が反響し、レーザーの一閃が複数の大鎌をまとめて薙ぎ払う。巨樹の影に身を隠した千里は、わずかに顔を出してサイバーエリィを見つつアルフォリナを見た。
「アルフォリナ、どうする? 近づけないけど」
「くっ……厄介な敵なのは間違いありませんけど、消耗している上に相手の土俵で戦っては勝機を逃しますわよ? 付き合って競わず、持ち味を活かしなさい! 貴方達には貴方達の歌、リズム、戦い方があるでしょう! そこのあなたも!」
 アルフォリナが真横を振り向く。そこには片膝立ち姿勢で右拳を床につけたアレク。彼はアルフォリナに視線を返した。
「休憩じゃねえぞ? 観察だ、観察。これも戦術だ」
「では観察してわかったことを教えてくださいまし!」
「ま、見ての通りだが」
 アレクは立ち上がり、首をゴキゴキと鳴らす。
「よくわからんが、なんかの力を使って攻撃を防ぎやがる上に、UCには手ひどいカウンターを返して来やがる。多分この依頼で一番面倒な相手かもしれん。しかも浮いてると来た。……どうするかね?」
 アルフォリナが厳しい面持ちで親指の爪を噛んだ。アレクはだらんと両腕を下げ、サイバーエリィを見上げる。外骨格が激しく軋んだ。
「ま、普通に殴るしかねえわけだが。指揮すんなら頼むぜ。……アビリティシフト・フライトポイント」
 アレクの背中からセミめいた翅が飛び出す! 薄く透明なそれを広げたアレクは身を屈め、サイバーエリィまで一直線に飛翔した。彼の接近に気づいたサイバーエリィは左手を振り上げ、青紫色の力場球体を投げおろす! 端のステージモニタに走っていたリドリーは即座に方向転換。アレクに狙って影矢を射出!
「アレクさん! 引き寄せます!」
 矢の先端が手に変化し、アレクの腕をつかんで引っ張り寄せた。彼の側面スレスレを力場球が通過! 直後、アレクを挟んで影手の反対側から赤い光線が床を引き裂きながら迫る!
「ったく、面倒くせえ……ほら、今だ!」
 アレクが声を張ると同時、巨木の影から滑り出た千里が青い剣杖を振りかぶって投擲! 赤い光線が通り過ぎた後の空を斜めに斬り裂いて飛来する刃を、サイバーエリィは左手を突き出し波紋力場を生成してガード。右拳から千里へ力場砲弾を発射! GAUUUUUUUUM!
「ああ、うん。まあそう来るよね。知ってる」
 歪なノイズを発しながら降ってくる砲弾を見上げ、指笛を吹く。バク宙し、背後から虚空を走って来たバイクに騎乗! ハンドルをひねってエンジンを吠えさせ、力場砲弾の真下を潜り抜けた。追加の力場砲弾が降り注ぐ!
「動きを予想できるのは君だけではない、ということだー。いよっと」
 蛇行運転する千里の左右で力場砲弾が激突! 激突! 激突! サイバーエリィの視線が自分の真下を抜ける千里を見送った瞬間、彼女の後頭部に殴打の衝撃が走った!
「!? ……!」
 つんのめり、驚愕するサイバーエリィ。硬直した彼女に竜翼を広げた莉亜が急接近! 大鎌を振り上げ断頭の一撃を放つ! サイバーエリィは大鎌を振り上げた片腕でギリギリガード。彼女が打ち込む反撃のパンチが差し込まれた二本目の大鎌にしのがれた。
 鎌を弾かれた反動で下がった莉亜は無表情のまま呟く。
「ああやっぱり。それ、僕の悪魔だ。正確にはそのパクリ……いや、ちょっと違うか。もしかして、僕の精神に同調して似たようなことしてるのかな。辛いんじゃない、それ」
 莉亜はとっさに大鎌を横薙ぎに振るう。彼の前に回転する大鎌が五本一列に並び、五重防壁を形成! サイバーエリィの重力砲弾が一本目に衝突し、粉砕。二本目、三本目、四本目を打ち砕き、五本目をも破壊!
 他方、横っ飛びしてステージを斬り抜く光線をかわしたリドリーはゴロゴロと転がり、自分の影に手を突っ込んだ。
「影の手!」
 アレクをつかんだままのシャドウハンドがムチめいてしなり、彼をサイバーエリィへと投げる! 翅を広げたアレクはサイバーエリィの裏拳から放たれる重力砲に両手をかざした。念動力!
「はァッ!」
 アレクの両腕と羽がホタルの如き燐光をまとうと同時、重力砲弾が同様の光に包まれ撃ち返された! サイバーエリィは顔を歪め、頭から垂直降下する。彼女の落下点を弧を描くように回り込む美影のバイクからとものが跳んだ!
(来る!)
 地面スレスレで前方回転して着地したサイバーエリィは、両腕を開いてとものの斬撃を迎え入れる体勢。ワン・インチ距離まで迫ったとものは剣を振り下ろす―――が、光の刃はサイバーエリィを幻影めいてすり抜けた。代わりにとものの両足がサイバーエリィの頭を挟む!
「むぐっ……!?」
 瞠目するサイバーエリィ。美影の手中でカードの一枚が溶け消えた。
「トラップカード、ギャラクシー・ロールバック。攻撃をやり直す!」
「私を魅了するにはボリューム足りませんの。お胸の!」
 とものは大きく背中を逸らし、巴投げめいてサイバーエリィを後方に投擲! ステージ奥の壁めがけて投げ飛ばされた彼女の前方にカタリナが浮き上がり、両の翼から眩い閃光を放った! FLAAASH! 壮絶な光がサイバーエリィの目を焼き、壁に出来た巨大な影を映す!
「忍法極光の術……なんてね? 影縫いに合わせて作っただけの目くらましさ!」
 カタリナが悪戯っぽく輝く一方、リドリーは影の矢を五本いっぺんに番えてサイバーエリィの影を射る。影の外周をなぞるように黒い矢が撃ち込まれ、サイバーエリィを中空でハリツケにした。サイバーエリィは憎々しげな表情で身をよじる。その体を包む青紫色の反重力力場!
「こんな、ものっ……!」
「おっと、大人しくしてな」
 アレクがサイバーエリィに両手をかざし、彼女を翡翠色の燐光で抑え込む。さらに三輪バイクに乗って急接近した千里が車体ごと跳躍! サイバーエリィとすれ違いざま、短剣を胸に零距離投擲して彼女の後方着地。もう一本の短剣をもてあそびつつドリフトを決めた。
「悪魔の力ってんなら、これで剥がれるでしょ」
 短剣を突き立てられた機械鎧に蒼い亀裂が広がり、崩壊! 同時にサイバーエリィを包んでいた班重力力場も掻き消えた。防御解体! 千里は再度バイクを走らせながら呟く。
「ま、フィニッシュムーブの手伝いしたなら、サボッた分は取り返せるでしょ。美影、あとはよろしくー」
 その時、ステージの中央で赤と青の巨大な光柱が噴き上がった! 柱の中央には、右手を高々と掲げたともの。彼女の体から赤いフォースが放散し、右肩のギアが高速回転しながら銀河色の粒子を散らし霧散!
 右肩からガントレットも砕けていき、二の腕、肘、前腕、手首を伝って光剣も破砕。装甲を光柱に捧げたとものは、声高に言い放った。
「独りでは出せない輝き、魅せてあげますの! 美影―――っ!」
「……アタシは未来を選ぶ! マジックカード、『銀河再誕』を発動!」
 美影がカードをとものの光柱へ投げ入れた。天突く巨樹じみた閃光は半ばから膨れ上がり、心臓の拍動めいて点滅。その奥で開く銀河色の眼を直視し、美影は声を振り絞る!
「甦れ、我が現し身! ギャラクシー・クロノスドラゴン!」
 丸い膨らみが爆散し、ダイヤモンドダストの如き光の粒子を浴びながら銀河色の巨竜が吠える! 数刻前に砕け散った竜が産声を上げ、赤いオーラを身にまとって息を吸い込む。ステージ中の大気が震え、甲高いサウンドが周囲を満たした。
 美影は巨竜の足元に並び立ち、サイバーエリィへ方向転換! 空中で縛られもがく彼女を指差す!
「これが! 魂の一撃ッ! ギャラクティック・オーバーブラストぉぉぉぉぉッ!」
「GAAAAAAAAAAAAARGH!」
 巨竜が咆哮とともに銀河色のビームを吐き出す! CADOOOOOOOM! 赤混じりの光がサイバーエリィに肉迫していく。サイバーエリィは縛られたまま、肺の空気を締め出した。直後、KRA-TOOOOOOOOOM! 凄まじい爆音が響き、ステージ奥の壁をブレスが貫く!
 超時空の彼方へと伸びる破壊の光。それがだんだんと勢いを弱め、細くなり、一条の光の線となって散る。ステージを静寂のとばりが降りた―――その時である!
「あき……らめ、ない……!」
 身を削るようなサイバーエリィの言葉が静寂を破る! 息を呑む猟兵たちの前、巨大な風穴の空いたステージ壁を背にした立ったサイバーエリィは、全身を焦げ付かせながらも今だ五体そろった姿で立っていた! 半ば膝を突きかけた体勢ながら、その瞳の闘志は消えず!
「あきらめない……あきらめきれ、ない……だって、だって……!」
 よろめきながらも顔を上げ、猟兵たちを真っ直ぐにらむ少女の周囲に、大型の円形スクリーンが複数壁を形成するように出現! サイバーエリィは背を伸ばし、透明な歌声でシャウトする!
「私は、アイドルだから―――ッ! Ah―――――――――っ!」
 CADOOOOOOOM! スクリーン全てが銀河色の破壊光線を発射した! ステージのそこかしこに直撃しては引き起こされる大爆轟。眩い光が猟兵たちを飲み込み、超時空の渦を激しく揺るがす。CABOOOOOM! CABOOOOOM! CABOOOOOOOM!
「はぁっ、はぁっ、くぅっ……!」
 地震の如き振動を足に感じつつ、サイバーエリィは喉を押さえて身を折った。乾いた風が喉を通るような感覚。視界が万華鏡じみて回り始める。
(喉が乾いて……声が、出ない……! まだ、歌わなきゃ、いけないのにっ……!)
 速い呼吸に混じる、掠れた声。口の中に残響めいて鉄の味が広がっていく。生唾を飲み込み、喉にムチ打って顔を上げたサイバーエリィは唖然とした顔で凍りついた。
 ステージを蹂躙する無数の光線。蒼い爆炎と噴き上がった煙に覆われ、客席があるべき場所が全く見えない。振り返れば抉り取られたステージの壁。奥に見えるのは暗緑色が渦巻く虚無だ。砕かれた舞台を前に、サイバーエリィは立ち尽くす。
(歌う? なんのために? こんな……こんなところで、どうやって……)
 ZZZZZT! サイバーエリィの思考をノイズが断ち切る。ハッとして周囲を見回せば、銀河色の光線を乱射するスクリーンが砂嵐めいてその輪郭をぶれさせていた。
 ステージ端、樹木で作り上げた砦に背を預けたアルフォリナは、滝のような汗を浮かべてタブレット端末を高速で操作! 端末画面がめまぐるしく変化し、スクリーンのノイズが激しくなっていく!
「WEB使いは貴女の専売特許ではなくてよ? 皆、無事ですわね!?」
 ウイルスプログラムを片っ端から叩き込まれ、円形のスクリーンがついに千切れるように消滅。光線が止み、もうもうと立ち込める爆煙を突っ切ってアレクが飛び出した! 振り返すサイバーエリィに全速力で殴りかかる!
「ったく、ステージごと客を消し飛ばすアイドルがあるかよ。スピードシフト!」
 外骨格がぎゅっと絞り込まれて細くなったアレクが、黄緑色の残像を引いてサイバーエリィのゼロ・インチ距離に踏み込んだ! 振りかぶった腕が丸太めいて膨張!
「パワー……シフトッ!」
 撃ち出された鉄拳がサイバーエリィの腹を捉えて宙に浮かす。アレクはさらに一歩踏み込み、剛拳を振り抜いた! SMAAASH! ステージの外側へ殴り飛ばされるサイバーエリィ。同時にアレクの全身が突如ひび割れた。度重なる猛攻と変異を重ねた外骨格が限界なのだ!
「クソッ、やっぱ休憩が要るか……! 行け! 莉亜! 血なら多少分けてやるッ!」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
 アレクの背後に現れた莉亜が、破片を零した肩に牙を突き立てる。噛み傷からにじみ出た血の雫を吸い上げた莉亜は、離した口元を腕でぬぐった。
「ところで、あの方って誰なのかな? プロデューサーだったり?」
「さあな。大方、ここ作った邪神様じゃねえの?」
「ふうん……まあ、聞けばいいか」
 竜翼で空を叩いた莉亜が大鎌を手にサイバーエリィめがけてロケットジャンプ! 一方、虚空を漂うサイバーエリィは我に返った。いつしか喉の渇きは消え失せ、大鎌を構えた竜人が突っ込んで来る! 降って湧いた疑問を振り払い、サイバーエリィは歌い出す!
「Ah――――――!」
 突き出した両手の平に浮かび上がる青と黄色のハート模様。放たれる二色の光線は真っ直ぐ向かってくる莉亜を迎撃―――する寸前で、飛来した蒼い刀身の短剣と激突して爆散した。抉れたステージ壁に寄りかかった千里は、ボロボロになり袖を片方失ったジャケットから短剣を取り出した。
「おあいにく様! 歌は演歌しか聞かない主義でね! 聞いた無いけど!」
 短剣を足元に、自分を囲うように投げ刺していく千里。刃で作られた円は魔法陣を作り出し、光芒を暗黒の空へと打ち上げる! 彼方から一等星じみた閃光がまたたいた次の瞬間、無数の蒼い短剣が雨の如くサイバーエリィに襲いかかった!
 サイバーエリィは逡巡! フレンドリーファイアの危険もいとわず迫る莉亜を迎え撃つか、短剣の飽和爆撃を受けるか! 意を決し、歌うための息を吸い込んだ彼女の胴体を、赤い稲妻が斜めに引き裂く! サイバーエリィの後方に、赤雷をまとったカタリナ!
「遅いッ!」
 カタリナが姿を掻き消し、サイバーエリィをあらゆる方向から真紅の斬撃が斬り刻む! SLALALALALALALALASH! 肌をズタズタにされたサイバーエリィの目前にカタリナが再出現し、横薙ぎ斬撃を残して再度消滅。直後、莉亜が彼女とすれ違った。リドリーが莉亜のうなじに矢を向ける。
「莉亜さん! そのままで!」
 SHOT! 長く伸びた影の矢が莉亜の首根っこを引っつかみ、仲間の元へと引っ張り戻す。力なく空中を漂うサイバーエリィの喉元に赤い筋が生まれ、頭が離れた。呆然とする彼女の視界を、降り注ぐ刀身の蒼が埋めつくす。逆らいもせず引き戻された莉亜を突き出した両手で受け止めながら、リドリーは超次元の虚空を見上げた。
「貴方の歌、いい歌ね。きっと私、一生忘れてなんてあげないわ」
 静かなつぶやきと同時、サイバーエリィは刃の雨に飲み込まれ―――バラバラに引き裂かれ、血煙となって暗緑色の宇宙に消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年10月29日
宿敵 『クゥイラトァ・グラルハ・メラルヒニトの書』 を撃破!


挿絵イラスト