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隔離夜演武

#サクラミラージュ #逢魔が辻

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#サクラミラージュ
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#逢魔が辻


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●語
「やァやァ、お久し振りに御座いますなァ」

 何故だか用意された畳の上、敷かれた座布団に正座してにこやかに笑うのは白髪頭の器物少年、廓火・鼓弦太(白骨・f13054)だ。 金銀双眸をやわりと細めて手にした扇子で膝を打ち、少年は意気揚々に語り出す。

「さて、早速では御座いますが、皆々様にはこれより新世界サクラミラァジュに向かっていただきたく存じます」

 尽きず枯れずの美しき幻朧桜に満たされたこの世界には、他の世界と若干異なるオブリビオンが出現する。影朧と呼ばれる彼らは桜の精の癒しを受ければ再びこの世界で転生を果たせるのだという。
 が、この世にも例外は存在した。

「桜の精の皆様でも癒しきれない存在がおりましてね。此度の予知にて盗み見ましたはその手の類の集まる禍時の怪、逢魔が辻での影朧退治と相成ります」

 影朧救済機関「帝都桜學府」でも対処しきれないほどの大量発生。放置された影朧達が徒党を組んで蔓延るその場所こそ「逢魔が辻」だ。
 桜學府所属の一般學徒兵達だけでは太刀打ちできず、傍観を決め込むしかない異形たちのための大舞台。超弩級戦力と呼ばれる猟兵達でなければ解決できない事件なのだ。

「そして、皆々様に向かっていただきますは帝都より蒸気機関車で西に約一時間、今は廃れた旧街道のある川沿いでございます」

 かつては宿場町として多くの旅人に利用されていたのだが、それも過去の話。今は住む人も去り、町の面影を残すだけの寂れた場所となってしまった。
 しかし、一歩踏み込めば殺風景な川辺の景色はがらりと変わり、祭り囃子の鳴り響く夜の宿場町へと早着替え。白黒キネマの如く色失せた町は笑い声が聞こえども人はおらず、どの宿も戸は閉まり、どの建物にも入れない。
 が、朱塗りの橋を渡った先、川の真ん中に陣取る色鮮やかな一軒だけは扉が開いているらしい。

「そのお宿に入れば影朧達がわんさか襲い掛かって来るんです。なので、武器の手入れを終わらせたお方からどんどんお宿に突入してくださいませ」

 後はただ只管戦うのみ。早速現場へ出立――かと思いきや、鼓弦太は渋い顔。

「ひとつ、懸念が御座いますれば。どれだけの敵が待ち構えておりますのか、あっしには正確に視る事ができませんで。想定以上の連戦を余儀なくされる事も頭のはしっこに入れていただけますよう」

 かぃん、こぃん。
 拍子木を二度鳴らせばぐにょりと大口を開ける異空間。歪んだ道の先にはぼんやり映る桜色。立ち上がった鼓弦太がくるりと羽織を翻して入口の横へと着いたなら、どうぞどうぞと猟兵達を送り出す。

「いざや、いざや!道行く先は桜花朽ちなし浪漫の帝都!説得不要の問答無用、けがしけがれし影朧退治のはじまりはじまりィ!!」

 皆々様、ご武運を!
 彼らを見送り最後尾。提灯片手に道を閉ざしながら世界を渡った。


日照
 ごきげんよう。日照です。
 拾作目は器物損壊上等の大乱闘です。とにかく戦いましょう。

●シナリオの流れ
 一章では古塚の呪い達が襲い掛かってきます。
 街道に祀られた道祖神や近くの町で崇められていた土地神などの変化です。
 基本的に聞く耳持たずで攻撃してくるケガレ達です。とにかく倒してください。

 二章では女郎蜘蛛達が皆様を待ち構えています。
 宿場町で働いていた女達や、この町の近くで死んでしまった哀れな被害者たちです。
 部屋に潜んでいる可能性もあります。注意深く戦闘してください。

 三章では影竜と戦っていただきます。
 生まれてこられなかった赤ん坊の未練と、他戦場で倒した敵の集合体。
 強敵です。気を引き締めて倒しに向かってください。

●戦場について
 三階建ての木造建築です。
 が、内部は空間が捩れているため、部屋と部屋が繋がっていたり、延々廊下が続いたりと外観からは想像できない空間になっています。
 最初の出入口以外で外に出る方法はありません。
 外へ誘きだすことも不可能なため、屋内での連戦となります。

 なお一定数の敵を倒したら上階へ向かう階段を誰かしらが発見できます。
 探索等の必要はございません。

●プレイングについて
 敵の数が多く、上の階に向かうために「足止め役」が必要となります。
 そのため、参加できる戦場は猟兵様おひとりにつき「一カ所」のみ。
 どこかの戦場に一度でも参加した場合、それ以降の章には登場できません。

 その代わり、なるべく多くの方を採用できればとは考えています。

●あわせプレイングについて
 ご検討の場合は迷子防止のため、お手数ではございますが【グループ名】か(お相手様のID)を明記くださいますようお願い申し上げます。

 では、良き猟兵ライフを。
 皆様のプレイング、お待ちしております!
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第1章 集団戦 『古塚の呪い』

POW   :    百手潰撃
レベル×1tまでの対象の【死角から胴から生える無数の腕を伸ばし、体】を掴んで持ち上げる。振り回しや周囲の地面への叩きつけも可能。
SPD   :    百足動輪砲
【両腕の代わりに生えたガトリング砲】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【銃弾の嵐】で攻撃する。
WIZ   :    百足朧縛縄
【呪いに汚染された注連縄】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。

イラスト:小日向 マキナ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●呪
 時に皆々様、ケガレという言葉をご存知で?
 ……そうですなぁ、「穢れ」とは少しばかり異なるものなので御座います。

 そも「ケ」とは「気」、万物に宿るエネルギヰそのものを指す言葉であるそうで。
 ケガレとは即ち「気枯れ」、本来持ちうるエネルギヰが枯渇した状態なので御座います。
 かの神々は信仰を失い、神気を失い、神格をも忘れてしまった成れの果て。
 枯れたものを他で補った結果、神仏からも遠ざかってしまった黄泉返りの鬼共に御座います。
 故に、祓わなければなりません。清めなければなりません。
 
 皆々様の御前には、重々しくも容易く開く大扉。
 開けば其処は悪鬼犇めく魔境の御宿、御代は貴方のお命ひとつで結構とは愚の骨頂。
 猟兵様方。その御力、その御技、しかと見せつけてやりましょうぞ。
灰神楽・綾
世界から見放された影朧達の溜まり場か…
美しいこの世界も決して
美しい場所ばかりじゃない事を思い知らされるね
言葉は要らないなら話は早い
ただ存分に殺し合おうじゃないか

まず自身の身体を斬りつけ
その血をEmperorに付着させ
【ヴァーミリオン・トリガー】発動
強化したスピードを活かして縦横無尽に動き回り
敵を撹乱しながら斬りつける
その飛び道具は邪魔だね
ガトリング砲と化した両腕を優先して斬り落とす
敵の銃弾は戦場の柱などを盾にしたり
[念動力]で無数のナイフを操り迎撃したりしてやり過ごす
突破出来そうなら多少の被弾は
[激痛耐性]で耐えながら一気に接敵して攻撃
痛いくらいが燃えるんだよね、俺

おやすみなさい、何処かの神様



●楽
 突入して間もなく。灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)はこの地へと向かう道中の景色を思い出していた。
 サクラミラージュ、その名の通り至る所で桜が舞い散り続ける美しき世界。蒸気機関車での移動中も車窓から桜の彩りが消える事はなく、逢魔が辻に入れども視界から花弁の舞が失せる事はなかった。
 傷ついた影朧達の寄る辺、それが咲き乱れているにもかかわらずこの地に囚われた彼らは最早救われない。世界からも見放された彼らの存在が、この世界の美に隠された澱みを思い知らせた。

 襖を開けれど窓を開けれど続く部屋の連鎖。
 延々繰り返される空き部屋にいい加減退屈を感じ始めた次の部屋、襖をまた一つ蹴破って、足を止める。目の前の部屋はがらんどうだが、その奥の部屋から言いようのない怖気が漏れ出していた。
 襖を破り、ぞるりと這い出でるは百足の身体に武者鎧。脚代わりには無数に連なる人の腕、両腕代わりの多銃身回転式機関(ガトリング)砲を構えたそれが、綾を視界に捉えていた。
 部屋に収まりきらぬ巨体。鬼気迫る異形の登場に細めたままの目蓋がぴくりと動く。

「言葉が要らないなら話は早い」

 槍斧の切っ先に親指を滑らせ、傷つけながら獲物に己の血を分け与える。付着させた血が滲み込むほどに重さの消えていく槍斧を片手で大振りに薙ぐと、死角より迫った百足の尾が切り飛ばされた。
 外道の神仏が猛々しく咆哮すれば躊躇なく、綾はとぐろ巻く大百足の懐へ。此方へと伸びる腕の数々を斬り付けながら狙うは――見るからに厄介そうな機関砲の両腕だ。
 早々に切り落としたいと槍斧を振るうが、大百足の胴をうねらせる外道の神仏は狭い室内を器用に蠢き、綾の槍斧が定めた標的ではなく無数に生える腕の数本を切り落とさせる。がら空きの背に向けた銃口が、吼えた。

 着地と同時に床を蹴り、壁を蹴り飛ばしながら弾幕を回避して、綾は次手を整える。回避の最中に懐から落としたナイフ達は綾が念じれば浮き上がって群れ成した。
 弾丸の雨を守る刃の幕となり、動きを鈍らせる杭となる。縄の合間を縫って突き刺せば悶絶、呪いとなったそれが人語ではない罵声を飛ばして機関砲を乱れ撃ち。

「その飛び道具は、邪魔だね」

 壁を跳ね刃の幕をすり抜けた弾が綾の頬を、急所を庇った腕を、脇腹を無情に穿ち、思わず表情が歪みそうになる。痛いからではない。嬉しいからだ。
 ナイフ如きでは止まらない、そう簡単に間合いも詰めさせない。こうもうまくいかないと心が躍って仕方がない。ならば、ならば。
 後退、襖に背中から飛び込んで隣の部屋へと転がり込み、無理矢理に距離を取れば案の定。此方にぐるりと身体を向けて真っ直ぐと向かってくる敵の姿、向けてきた銃口を、綾は壁に足を付け垂直に見つめる。肩先で烏羽色を揺らし、此方も真っ直ぐと壁を蹴る。

「痛いくらいが」

 距離、約一尺九寸。両の眸が赫灼と輝いた。

「燃えるんだよね、俺」

 振りぬいた槍斧の穂先が面頬を掠り、その下で人の形を保った呪いの顔がぐじゃりと嗤う。が、その数瞬後。ごしゃんと側頭部を叩き付ける鈍重な一撃が歪めた顔を更にひしゃげさせた。

「おやすみなさい、何処かの神様」

 もう一度振りぬいて、今度は胴と首をと丁寧に斧で切り飛ばす。偽りの肉と骨とを切り離す感触に僅か口角がつり上がったのを自覚しながらも、綾は崩れて消えていく神の骸へ永久の眠りを告げた。
 槍斧を軽く振るえば血とも呼べぬ澱み切った体液が畳に散り、切っ先は緋色の鮮やかさを取り戻す。寿命は削れたままだが、そもそも未来の自分がどうなろうが今は関係ない。
 数歩先で死ぬかもしれない。半歩先で殺すかもしれない。今は命の瀬戸際だ。数秒先に待つ何者かと死合うこのひと時を前にして、命を惜しむなど愚かしい。
 変わらず微笑む目蓋の奥、貪婪に研ぎ澄ました衝動が次の獲物の影を捉えた。

「存分に殺し合おうじゃないか」

成功 🔵​🔵​🔴​

黒藤・水騎
桜學府の連中すら手間取る逢魔が辻……か。
いいさ、初陣には十分だ。
やれるって事を見せればいいんだろ。

連中、聞く耳もたずって事なら斬って捨てればいいだけだ。
考えることが少なくていい。

とは言え、自分の力を過信するつもりはない。
迂闊に攻め急がず、ある程度の距離を保って敵の腕の動きを【見切り】、空を切らせたうえで一気に踏み込んで【気合い】と共に【力を溜めて】斬り伏せる。

狭い廊下とかなら、腕の長物もやたら多い腕も存分には振り回せない筈だし、上手く待ち伏せして塞いでやれば一度に何匹も警戒しないで済む。
全滅は無理でも、足止めくらいならこなしてみせるさ。



●刃
 延々と続く廊下、外も見えない一本道。
 いつどこから敵が飛び出すかもわからないこの状況下で、黒藤・水騎(おちこぼれ・f22424)の胸には形容しがたい高揚が飛来していた。
 霊力もない、桜學府へも属せない、黒藤家のおちこぼれ。そんな自分が、彼らすら手出しできない魔境に踏み入り影朧達を鎮伏する。
 噫!こんな状況(コト)、興奮せずにいられるか!蔑んできた連中に反旗を翻せるのだ、陰口を叩く連中に自分の力を誇示できるのだ!なんと清々しい事か!
 そう内心で嗤う己を殴りつけたのが突入前。こんな事では何一つ斬れない、救えない。自分が成るべきは利己主義者ではない、ひとふりの刃だ。

(初陣には十分だ。やれるって事を見せればいいんだろ)

 否、見せつけるのだ。
 誰にというわけでなく己に、今までの努力が無駄ではないと証明するために。この戦いこそ幕開けだ、黒藤・水騎がいくさびとに、猟兵になるための初舞台だ。過信してはならない。今は敵をいち早く見つけなければと感覚を研ぎ澄ます。
 逸る心を理性で抑えて、水騎は刀に片手を添えたまま終わりのない廊下を走り続けて間もなく足を止めた。
 右。この世のものではない何者かの、這いずり回る音が近づいている。
 曲がり角より四尺の距離。鯉口を切って水騎は待つ。

(連中、聞く耳もたずって事なら斬って捨てればいいだけだ)

 必要なのは平常心、集中。柄を握る指先に力を籠め、鞘を押さえる掌が震えていたが自分に言い聞かせて無理矢理止めた。全身の筋肉を発条の様に縮めろ、間合いに入る瞬間を見逃すな、根を張る巨木の如く堪えろ。心の盆に水を張り、波紋ひとつとして起こすな。
 角の柱に異形の蒼白い指が芋虫の様に這う。兜が見えた、此方を見た。目は逸らすなと言い聞かせて、大きく目を見開いて来いと誘った。
 命あるものを見つけて外道の神仏が驚喜する。標的を此方へと定めて身体をうねらせる。巨躯を廊下の幅一杯に捻じ込んで無数の腕を伸ばしてくる。両腕の機銃は幅が狭くて背面に隠したままになっていた。距離、三尺二寸。呼吸を止めた。

――抜刀。

 音無く刀は鞘の内を滑り出し、踏み込んだ足は踵から爪先へと重心を移す。爪先が地を離れれば飛蝗の如く、伸び切った脚が、筋肉が、しなやかに抜き放った白刃が、異形の放つ言の葉と言の葉の間に刺しこまれた。
 一閃、逆袈裟に叩き込んだ一刀は鎧兜も注連縄も纏めて化物の胴を肩まで綺麗に切り伏せる。
 異形は吼えた。崩れ落ちる刹那に水騎へと掴み掛ろうとするが返す刃でその腕さえも切り落とす。力尽きたそれがずずんと倒れ、床に滲みて消えていくのを見下ろして水騎は大きく息を吸いこんで、吐き出した。

(っし!!)

 声には出さず、だが空の拳に力を籠めて一つ目の勝利に身を浸す。
 だがまだ気配は消えない。今の敵の咆哮で他の同類が寄せられてきているのだろう、今度は左右どちらからも百足の這いずる嫌な音が聞こえてきていた。結構な速さだ。水騎は刀を構え直して数歩下がる。
 細い廊下に図体の大きな長細い敵、一対一に持ち込めばこれほどに都合がいい場所もない。同時に来ようが此方の有利な状況にすれば連戦も耐え抜けるだろう。
 が、慢心はいけない。一体切り払ったところで満足などしてはならない。ここは戦場だ、己は剣士だ。猟兵だ。

「全滅は無理でも、足止めくらいならこなしてみせるさ」

 今はまだ、大将首を狙わずに。積むべきは亡骸ではなく経験なのだと突き当りの壁を見つめた。
 次なる敵が現れるまで、あと数秒。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オクターヴィア・オパーリン
誰ぞ!誰ぞ居らぬかー!オクターヴィアであるぞ!
うむうむ、出迎え感謝であるっ
褒美として妾んがおぬしらを洗い流し!
清い祓うてやろーう!

さあさ、ぱちりと手を合わせ、祈りを。
――あの海よ来ませ。
こっちのほうがプニプニちゃぷちゃぷして動きやすいであるな!
周囲の猟兵に影響なきよう、ぎゅぎゅっと圧縮して身に纏い。
波による【衝撃波】でケガレの胴を狙う!
反撃された場合は水の流れに乗って避けるもよし【地形の利用】
水の塊に一時身を沈めれば
銃弾くらいは防げるかもしれんな【オーラ防御】

おぬしらは海を知る神々だったろうか。
知らぬなら妾んが見せてやろう。
馴染みがあるならば、懐かしむといい!

※絡み・アドリブ歓迎であるっ!



●游
 猟兵達がまだ辿り着いていない大宴会場では、古塚の呪い同士による凄惨な争いが繰り広げられていた。
 今は同じ容姿であれど、元を辿れば異なる神、異なる仏、異なる信仰の元に祀られしもの達。更に言うのなら此処は秀真国(ほつまのくに)、古より閉じた国の中で喰らい合い競い合い続けてきた坩堝である。
 喩えるのなら蠱毒、呪いと化した彼らは互いを喰らい合いながらかつての威光を取り戻さんとしているのだ。その結果に得られるものが己が望みからかけ離れたものであろうと知らぬ儘。
 この大部屋は古に繰り広げられた神仏の争いを閉ざし、悪質化した縮図だ。また一柱、神であったものが屠られ、神であったはずのものへと強き呪詛が溜め込まれる。あと、二柱。
 このまま放置しておけばいずれ猟兵達でも太刀打ちできない大怨霊と化すだろう。が――

 すぱん!!
 勢いよく、小気味の良い音を立てて襖は開かれた。

「なははははっ!!たーのーもーぅ!!」

 場違い極まる溌剌とした声が、だだっ広い部屋一杯に響き渡る。
 燃える炎より、太陽のよりも輝かしく煌めくファイアオパールの髪を揺らし、オクターヴィア・オパーリン(愛しきおさかなちゃん・f07078)は外道の神仏たちを前に仁王立ち。突然現れた命あるものの出現に、二体の異形は敵意の矛先をどちらに剥けるかを判断しかねているようであった。
 オクターヴィアはその様子さえも満足げに、にんまりと頬を緩めて舞台入り。頭の上に陣取る真白い仔ダコも気合の籠った面持ちだ。

「うむうむ、出迎え感謝であるっ!お待ちかねの妾んこそがオクターヴィアであるぞ!」

 歌劇の主役(ヒロイン)の如く堂々と名乗り上げれば、悍ましの呪物達へ向けてぱちり。手を合わせて祈りを捧げる。

――あの海よ、来ませ。

 呼び起こすは憧れの海。魔力で形成した夢想の海流は純白のドレスへ重なるように、蒼緑のヴェールとなって柔らかにオクターヴィアを包み込んだ。後続の猟兵達の姿は見えないが、いずれやって来る彼らが戦うに辺り邪魔にならぬようにとそれを密に纏い直す。水は塊となり少女の爪先を重力より解き放った。

「褒美として妾んがおぬしらを洗い流し!清い祓うてやろーう!」

 明るい声色からは察されにくい、自分達を狩り尽くさんとするその意志に反応したのだろう。二体の異形はオクターヴィアを敵と捉え、我先にと機銃を、大百足の胴を差し向ける。撃ち放たれた弾丸の嵐は容赦なく少女の肢体を穿ち貫かんと降り注いだ。
 オクターヴィアは不動。しかし彼女を守るように揺らめいた水の壁が弾丸を一つとして通さない。圧縮された海流は彼女の元へと不浄を届けず、総ては蒼にと呑まれて消えていった。
 ばしゃり。
 魚の様に跳ねれば死角を狙った大百足の尾が先刻まで少女が立っていた場所を通り過ぎていく。宙を舞う儘、オクターヴィアが狙うのはがらんどうになった二体の胴部だ。

「縁あるものなら懐かしみ、知らぬというなら今知るがよい!」

 朝の海より眩い青が両の眸に煌いた。腕を真横に薙げば鋭く素早く打ち出される海嘯。凝縮された水の刃はオクターヴィアが四肢を振るうほどに波立ち、呪い達の胴を寸断した。
 一体が崩れ落ち、もう一体が片腕を失いながらも少女を狙う。構えた銃口がオクターヴィアを捉えるも、吐き出された弾丸はやはり届かない。
 接近、蒼緑の中で赤みを増させる宝石の髪が夕陽の如く煌きを広げる。無数の腕さえも彼女を掴むことが出来ず、呪いは呻き少女は高らかに笑った。

「そして還るがよい!母なる海はケガレ祓われしおぬしらを迎え入れよう!」

 斬、至近で撃ち出した波が古き呪いに毒された神仏を真っ二つに切り払い浄化する。崩れたそれが消えゆくのを見届ければオクターヴィアは纏う海流を一度霧散させ、とんと指先を地につけた。
 部屋にはもう彼女以外には誰もいない。呪いの残滓さえも取り払われ、残されたのは戦いの影響で襤褸くなった床と破れた襖のみだ。

「……うむ!ここはもう大丈夫であろう!次へ行くぞブレンペトリ!」

お転婆姫の舞台はまだ序幕。次なる舞台を目指して元気よく走り出した少女の頭上で、白蛸は誇らしげに足を伸ばした。

成功 🔵​🔵​🔴​

マリアドール・シュシュ
アドリブ◎

こういう時なんて言ったかしら
此処はマリアに任せて先に行って頂戴
これだわ!

影朧の冒涜的行為
神様を呪で穢すなんて
マリアの詩(こえ)で清め祓うのよ
はじまりではなく安らかな眠りへ誘う歌を(歌唱

マリアは希望の礎
いつだってそうでなくちゃ
…ね(鎮魂の街の彼女達を思い
先往く猟兵さんの為の道をマリアが作るのよ

目の前の敵に集中
竪琴で奏でるは呪い(まじない)の舞踏曲
つま先鳴らし華水晶は舞い踊る(おびき寄せ・パフォーマンス
マヒの糸絡め動き鈍った所を音の誘導弾で貫く
敵の縄は回避かケープで防戦(オーラ防御・カウンター
灯籠を変換させ高速詠唱で【茉莉花の雨】使用
光が灯る水晶花が散る
敵が逃げない様にUCで囲む様に攻撃



●礎
「こういう時はなんて言ったかしら……」

 血腥い戦場に似合わぬ可憐な容姿、星の瞬きを融かした白絹の髪をふわんと揺らして少女は思案する。眼前には威嚇する異形の神仏、背後には先に向かうべく階段を探していたのであろう猟兵の姿。
 思わず割って入ってしまったが、この状況下で言うべき言葉が浮かんでこない。ああ、あと少し、喉のこの辺まで来ているのに!と悩んでいた少女は、ぽっと思い出すと手を打って、

「此処はマリアに任せて先に行って頂戴!――これだわ!」

 華やぐ笑顔で後方の猟兵へと決め台詞を放った。隙だらけに見える背へと古塚の呪いは注連縄を投げつけるが、夜空色の裾を翻して華水晶の乙女――マリアドール・シュシュ(蜜華の晶・f03102)は華麗にステップ。躍るように攻撃を避けて先へと向かう背を見送る。
 一人残った戦場でもマリアドールは臆することなく、星芒の瞳には満天の輝き。

「改めて、ごきげんようどこかの神様。マリアはあなたを清め祓いに来たのよ」

 隙を伺う異形の神仏に対して優雅にカーテシー。顔を上げれば迫る注連縄、くるりと躱してポケットから小さな黄昏色を摘まみ上げる。
 ら、ら、ら。喉の調子を整えるように音を辿ると、音階に合わせて見る見るうちに黄昏色は小脇に抱えられる竪琴に変化した。構えれば撫ぜるように弦を震わせ、踵を鳴らす。

「さあ、マリアと一緒に踊りましょう。あなたが優しく眠るまで、マリアがお相手して差し上げるわ」

 鈴鳴る聲が他のすべての音を裂いて、りんと響く。
 少女の声に薄氷を踏み割るような冷たさを感じたか、古塚の呪いは雄叫びでマリアドールの歌を掻き消して、己と少女の堺により深き呪詛を二重三重に撓らせた。注連縄は少女の身体を打ち据えて、清らであった白の肌に無数の傷と浸蝕の呪を這わせてゆく――
 はずだった。しかしそこには既に少女はいない。二歩、三歩、躍る足取りで躱しながらもマリアドールの細い指は竪琴を奏でる。

 少女の奏でるまじないの舞踏曲は熱烈で軽やか。聴く者の心を昂らせ、旋律に踊らされるが儘に眼前のものへ熱中させる魔曲の類だ。果たしてそれらが打ち捨てられし彼らに通用するものか。
 勿論、通用する。そもそも「うた」とは言霊を持って魂を強く揺さぶり「打つ」ものだ。言の葉の意味を相手が知らずとも、籠められた祈りは耳を通り過ぎて目に見えぬ場所を直接刺激してゆく。
 呪物に堕ちた身であろうとも、複合された彼らの魂は存在する。己でさえも形を忘れかけていたそこをマリアドールの歌声が、旋律が奮わせた。

 故に、彼女を狙う。止めねばならないと魂が理解している。

 大きく身体を捻りあげると、今度は注連縄ではなく大百足の身体を以てマリアドールを壊さんとした。無数に生えた人の腕が華奢な少女を捕まえようと幾重に伸びる。

「だめよ。マリアはあなたたちと同じ所へは堕ちないわ」

 演奏を止め、そろりと撫でたのは花を鎖した水晶灯篭。触れた先から花弁の形に零れ落ちてゆけば、マリアドールを水晶の花嵐が攫っていく。少女を隠したその場所を大百足の尾が平らげるも、ぱきん、ぱりんと水晶群が割れる音だけが聞こえるのみ。彼女の身体を砕く感触はない。

「さぁ、あなたの為に歌いましょう。はじまりではなく安らかな眠りへ誘う歌を」

 水晶の花嵐は割れども割れども粉微塵に消えることなく外道の神仏を取り囲む。少女の姿は何処にも見えない。
 否、次第に勢力を増す水晶花弁のひとつひとつに、少女の姿が映り込んではいるのだ。そのどれが、本物の彼女に繋がるものか見極められないだけ。いくら腕を伸ばそうとも、機銃で撃ち尽くそうとも彼女まで届かない。最早、ここから逃れられない。
 少女は再び音を調整、竪琴の大きさと音階を切り替えれば奏でるべき曲をも変更する。熱烈な舞踏曲から、清廉なる鎮魂曲へ。

「おやすみなさい」

 遠く、誰かの姿を思い返して、マリアドールは笑う。
 微睡む呪いはただ静か、永劫の眠りへと沈んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天春御・優桃
 アドリブ歓迎

 桜の癒しも纏えはしねえが、一緒に舞い散ってやろう。
 さあ、塵鉄烈風、叩き起こして【ダンス】と行こうじゃねえか。

【ジャンプ】に【ダッシュ】【空中戦】を軸に踊るように刃を駆る。

 役割は足止め、抜ける猟兵に絡まれるのは困る。【存在感】に【誘惑】【挑発】で【時間稼ぎ】、余所見してる奴から刻んでいくぜ。
【第六感】と【地形の利用】で攻撃を避け、囲まれたなら、『塵風』で銃弾を弾きながら、縦横無尽に駆けながら、斬っていく。

 寿命無き神の、命のお代のもてなしとやら。
 見せてもらおうか?
 



●神
 襖が豪快な音を立てて吹き飛ばされる。
 ばらばらになって室内に飛び散る襖の上空を大百足の巨体が舞えば、反対側の壁へと叩きつけられて消滅。骸の海へと強制送還されていった。
 そのあとを悠々と、敷居を大股に跨いで現れたのは屈強な体躯にきっちりとスーツを着込んだ大柄な男だ。天春御・優桃(天地霞む・f16718)は、染みも残さず消えていった呪いの残滓を前屈みに見つめる。

「これでまた一体か。敵は神と寂れた社の寄せ集めが余物を取り込んで産まれた呪物と聞いていたが」

 それがこれだけ増殖し、群れ成しているとは。
 この世界の神が如何に衰退の一途を辿っているかをまざまざと見せつけられ、異世界の神は静かに目を伏せた。今はただの社会人として俗世に身を置く彼の身ではあるが、こうも歪な変化を見れば憐れむ心の一つも湧き上がるというものだ。
 しかしそれも刹那の情。ずるりと地を這う音を耳にすれば姿勢を正し、拳を握りこむ。背後に迫り来た新たな敵は優桃を見つければ驚喜し、久方ぶりに捧げられた贄へと躊躇なく凶弾の嵐を降り注がせた。

「桜の癒しを纏えねえ俺だが、せめて一緒に舞ってやろう」

 撃ち出された銃弾を前に、優桃は片脚を前方に大きく空振り。両腕を鎧う転地鉄刃が先程破壊した襖の破片を塵鉄へと変換すれば、両脚に纏う戴天空刃の烈風で撃ち出して弾丸を相殺。
 まさに舞踏。否、武闘。
鉄屑の塊を纏いながらも優桃は重さを微塵と感じさせぬ軽やかさで弾丸を防ぎ、避けていく。それだけではない。全身に風の衣を行き渡らせれば、踏み抜いて壊した壁を更に塵に変換。射出。
 撃ち出した塵の刃は注連縄巻き付く大百足の胴体を断ち、鎧の隙間へと入り込み直に呪物の身を裂いた。悶絶するそれを空中より見下ろしながら、屈強なる神は片腕へと風を集中させる。
 風に乗り瞬時に間合いを詰めれば至近距離。真上から真っ直ぐに、裂帛の気合と共に拳を振り下ろせば杭を打ち込むが如く。鎧兜も関係なく堕ちたる神仏を減り込ませるほどの勢いで地に伏せさせた。
 また一体、神であったものが彼の前に塵となる。亡骸ひとつ残さずに消えていく潔さに関しては羨ましささえ覚えるほどだ。
 だというのに、未だ気配は消えない。直ぐ近くまで迫っているであろう禍々しき神気と呪詛の混ぜ物を感じて、優桃は薄く笑む。

「まだいるか、そうか。まだいるよな。何体でもいいぞ、まだまだ俺は余裕だぞ」

 拳を鳴らし、直ぐ近くの壁を乱暴に殴り飛ばす。壊したそれを塵へと変えて纏えば仕込みは完了。溢れる風が部屋の外、続く廊下へと移動する男の背中に追い風を生む。
 ユーベルコードは解除しない。なんせ神とは寿命なき存在だ。信仰さえあればこの世に幾度となく降臨し、どこかで誰かが「嗚呼、神様仏様」などと無力に縋れば勝手に存在感を増させる。身体が朽ちて滅ぼうとも、人が祈りを捧げる度にその御霊は天に坐しまし、地に御座す。
 人がある限り、命に限りはない。故に人のため、神は戦える。
 優桃の気配に釣られてまたずるりと、成れの果てが大百足の胴を引き摺って現れる。前方に一体、今出てきたのとは真反対の部屋からも一体。後方からも嫌な音が聞こえてきている。

「お次はどいつかな。まだダンスは終わらねえぜ」

 蠢く敵達を前に不敵な笑みをひとつ。浅黒の肌に映える白い歯と乳白の瞳で外道の神仏を見遣れば、くい、と指で誘って見せた。

「寿命無き神の、命のお代のもてなしとやら――見せてもらおうか」

大成功 🔵​🔵​🔵​

永門・ひかり
「呪いを、眠りで鎮めればいいんだね」
『成れの果てたぁ哀れなモンだ。もっと早くにどうにかできてりゃあーー』
「後悔しても、星は巡り夜は明ける。道を、開きに行こう。メテオラ」

_

「【ゴッドスピードライド】で、あの弾よりも僕らは速く走れる!?」
『流星よりも速い弾丸なんざある筈無え!いくら撃とうが、俺らが、速い!!』
「オーケイメテオラ、じゃあやることはシンプルだ!縦横無尽に走り回って引き付けて、彼等を同士討ちさせる!もし撃たれそうになったら……極限までバイクの車体を傾けて避ける!いける!?」
『カーッ脚の悪い身体でよく言うぜ!やってやる、それでも駄目な時はーー』
「ヒーローの拳で、全昇華!!」
『善し!!!』



●赤
「呪いを、眠りで鎮めればいいんだね」

 開け放たれた扉、色失せた世界に浮いた極彩色。聞こえてくる異形化物の叫び声、知らぬ誰かの戦いの音。
 義足の少年はキャスケットを被り直し、グローブのベルトを締めた。指先の調子は良好、バイクのハンドルを丁寧に握り込む。


●赤
『成れの果てたぁ哀れなモンだ。もっと早くにどうにかできてりゃあ――』

 少年以外に誰もいないというのに何処からともなく返事が飛んできた。それは彼の頭上、星を飾ったキャスケット帽。彼の相棒の言葉だった。

「後悔しても、星は巡り夜は明ける。僕達にできるのは嘆く事じゃないさ」

 エンジンが唸り、身体が震える。少年の碧い瞳と、キャスケットに縫い留められた黄色の眼が同じ場所を見つめた。


●赤

「道を、開きに行こう。メテオラ」
『オーケイ、しっかり前見てろよ。ひかり!』


●青
 ――発進(GO)!

 永門・ひかりとメテオラ(f19090)は迷うことなく最後尾に飛び込んだ。いきなり直進通路、走り抜けると同時に床が悲鳴をあげながら割れていくがお構いなし。
 視界は良好、四つの目で確認する戦場はどこもかしこも大荒れだ。吹き飛ばされた襖、大穴の開いた壁、辛うじて無事だった柱も通り過ぎ様に折れて倒れていった。
 端に捉えた猟兵の誰かが槍斧で敵の頸を薙ぎ払ったかと思えば、ひとつ隣の廊下で誰かが大百足の胴を袈裟に切り落とす。
 銃弾の嵐を煌く水晶で受けきるものもいれば、塵風舞わせて撃ち落とし、回避する者もいる。猟兵達の戦い方を見比べ、ひかりは己のやり方を考えた。

「ねえ、あの弾よりも僕らは早く走れる?」
『流星よりも速い弾丸なんざある筈無え!いくら撃とうが、俺らが、速い!!』
「オーケイメテオラ、じゃあやることはシンプルだ!」

 それならば、と提案する。己の身体を操縦する彼に、何をして欲しいのか。

「縦横無尽に走り回って引き付けて、彼等を同士討ちさせる!もし撃たれそうになったら……極限までバイクの車体を傾けて避ける!いける!?」
『カーッ!!脚の悪い身体でよく言うぜこンの脳筋め!おうとも、いけるぜ!やってやる、それでも駄目な時は?』

 互いに一拍。

「ヒーローの拳で、全昇華!!」
『善し(グッド)!!!』

 満面笑顔、やる気に満ちたヒーロー達は猟兵と交戦していない敵の姿を探す。すると、遠目に見つけたその場所で、産み出した水の塊を敵の上空から降らせて押し潰すひとりの少女。――背後には、新たな敵の群れ。

『ひかり!助太刀するぜ!』
「うん!頼んだメテオラ!」

 全速力(フルスロットル)!
 駆け抜けて眼前を横切れば、群れる呪物の注意は少女から地を駆ける流星へ。ぞろりぞるりと通路一杯に追い駆けてくるのを確認すれば後ろ向きにかぶり直されたメテオラがないはずの口から口笛を漏らす。

『ヒュウ!図体はデカいのに動きは素早いときたもんだ!』
「追い付かれるかい?」
『追い付かれないさ!でも時々スピードを落とすぜ。餌が口の届く位置にいないと誘われちゃくれねぇからな!』
「オーケイ、君に任せるよ。頼んだよメテオラ!……あっ」

 突然前方に現れた古塚の呪いに反応しきれず、車体を浮かすも飛び越えられないまま顔面を轢く。思い切り。
 勢いに乗ったまま通路の先へと着地すれば、激怒した呪物が背後から機銃を乱射。銃口の向きで攻撃を読んだメテオラは咄嗟にひかりにハンドルを切らせて隣の部屋へと逃げ込み、床も壁も関係なく疾走した。

「めちゃくちゃに撃って来てるよ!?」
『下手な鉄砲数撃ちゃ当たるっていうもんな!だが!俺達には!』
「当たるはずないさ!!」

 ぎゅるん。
 速度を増させて天井を走る。誘いこまれた古塚の呪いが部屋に入って来たと同時にその背を、後頭部を轢き飛ばした。速さは鋭さ、そして重さ。最高速で突進された古塚の呪いは彼らの遥か後ろで塵と消えた。
 後方を確認していたメテオラは「あっちゃあ」と声をあげる。

『悪いなひかり!作戦失敗、倒しちまった!』
「いいや、大成功さメテオラ!言わなくてもやれるのはデキるヒーローの必須条件だからね!」
『ハッハー!それならこの調子で突っ走ろうぜ!!』
「オーケイメテオラ!どこまでも!!」

 進め!と少年の輝く碧が前を見た。気を付けな!と相棒の黄色い目が注意を促した。敵の姿が見える。前方後方どちらにも。しかし相手は彼らにとって虎でも狼でもない。彼らはひとつとして、行く手を阻む敵を恐れない。
 彼らは星だ、人の願いを背負った流星だ。最悪を吹き飛ばして打ち壊す隕石だ。遅れてやって来た最強無謀のヒーロー達は不敵に無敵に笑って最前線を駆け抜ける。
 天も地もなく駆け続け、同士討ちに轢き潰し。彼らの思いの熱を燃料にバイクは走り続けた。


 そして――

『見えた!』
「階段だ!」

 戦場は、次の怪へと。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『女郎蜘蛛』

POW   :    操リ人形ノ孤独
見えない【ほどに細い蜘蛛の糸】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD   :    毒蜘蛛ノ群レ
レベル×1体の、【腹部】に1と刻印された戦闘用【小蜘蛛の群れ】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ   :    女郎蜘蛛ノ巣
戦場全体に、【じわじわと体を蝕む毒を帯びた蜘蛛の糸】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。

イラスト:龍烏こう

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●花
 立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。
 女と謂う生き物は古くより花に喩えられますが、事実女とは花の如く愛でられる存在(モノ)であるのでしょう。
 万人の視線を奪うほどに誇らしく、道端で密かに蕾を結ぶようしおらしく。
 美しくもあり可憐でもあり、いやはや世を極楽と見紛うは花の彩りあればこそ。

 しかし同時に、花とは散りやすいものでも御座います。
 花の散り行く様をあわれと謂う、花の枯れ行く様をあわれと謂う。
 其れを女に重ねて見れば、女の散り際を美しいと謂う者は数知れず。
 故に事実小説関係なく何時の世も女は容易く手折られる。
 椿のように潔く散らしてくれもせず、桜のように儚く散らしてくれはしない。
 暴かれて、躙られて、奪われて、棄てられて。
 無惨に散らされ女(はな)は憎む。
 恨み辛みに妬み嫉み、数多の情念吸い付くし、ついには蜘蛛へとその身を転ず。
 願わくば、二度と食い荒らされぬようにと。

 さァて、皆々様お立ち合い!!
 お次の階にて対峙しますは、巣食えど救えぬ女郎蜘蛛。
 張り巡らした糸の先、捻れ捩れの意図は咲き、出逢えば哀れ千切れ裂き。
 最早我等は花ではないと、最早見世には並ばぬと、蜘蛛は隠れる閨の闇。
 女を哀れと思うなら、容赦なく退治なさいませ猟兵様方。
 二度目の季節を巡らせぬ為に。
ユキ・パンザマスト
百花百様、ええ、確かに、散りやすい花の多いこと。
けれども世には時折、不確かで潔くない椿もありまして!

さぁさ、咲け咲け! 【逢魔ヶ報】!
小蜘蛛や細い糸を寄る端から[衝撃波][なぎ払い]で吹き飛ばせ!
迷路は[ダッシュ]で駆け、[野生の勘][追跡]で親玉を捕捉し、
藪椿の手で[捨て身の一撃][生命力吸収]を喰らわせる!
全うに食らえば[マヒ攻撃]で、芯まで痺れるでしょうねえ。

あんたらに巡りはねぇすけど、くすんだ虫でいるよか、余程。
さぁさぁ、ほうら。黄泉路はあちら。
爛漫咲き誇る花々は勿論、したたかな大樹だって案外悪くない。
きっと眠りの先でなら、何にだってなれましょうさ。



●夕
 階段を駆け上がり、二階。先ず視界に飛び込んできたのはとっぷりと沈むように続く暗がりと、夕暮れにも似た蝋燭灯りの続く廊下だ。
 ちろちろと揺れる灯火を追いかけるようにユキ・パンザマスト(ありや、なしや。・f02035)は廊下を進んでいた。きぃきぃ軋む廊下は古びている割には割れ落ちる様子もない。
 見回してみても何もいない。あるのは壁、壁、壁、影。気配を探れば無数の気配。一階にいたやつに比べて、今度の敵は恥ずかしがり屋なんですかねえなどと零してみるも、反応はなし。
 ただじっと、物陰に潜むそれらが自分を、百と二十の眼で見つめている。
 このままでは探すも倒すも手間がかかる。猟兵仲間は周りにいないのを確認すると、丁度いいや、と呟いた少女の背後で歪んで映る白椿。

「夕焼け小焼けが聞こえたら、子どもはお家に帰らなきゃいけないんですよ」

 背負う花の映像が、ちかり、ちかり。踏切の如く点滅しては警報音を響かせる。それを見たか聞いたか、或いはそこに立つ女から異常を察したか、物陰に潜んでいた蜘蛛の仔たちが四方八方からユキへと飛び掛かり襲い掛かる。ならばと娘はけらり一笑。

「さぁさ、咲け咲け!禍時だ!」

 警告の咆哮が文字通り蜘蛛の仔を遍く散らし、虚空に波紋を広げた。複数の気配がこぞって消えれば獣の嗅覚も鋭敏に、親玉の居所を探り手繰り捉える。

 何方か、其方か?彼方か――此方か!

 開け放つ襖の先には宙ぶらりんと垂れ下がる黒く長いひとの髪、蜘蛛の肢体に女の胴体。みぃつけた、と牙を剥けばユキは獲物に飛び掛かる。腰を捻って大振りに振りぬく片腕。

「百花百様、ええ、確かに、散りやすい花の多いこと。けれども世には時折、不確かで潔くない椿もありまして!」

 刻み憑いた藪椿、ユキの拳は真っ向から肢体を抉り抜き、女郎蜘蛛は壁に打ちつけられる。身体の内にじわりと命の流動を感じて三日月に唇を開いた獣は、一歩一歩ゆっくりと近寄っていく。ピンで留められたかのように身動きが取れなくなったそれを前に、丸く開いた黄金が宵の明星めいて輝いた。

「あんたらに巡りはねぇすけど、くすんだ虫でいるよか、余程」

 女郎蜘蛛は奇声をあげる。まるで此方に来るなと叫んでいるかのような金切り声。いつの間にやら張り巡らせていた極細の蜘蛛糸で家具を倒し、網を作り、それの動きを留めようとした。
 しかし無意味、どれも無駄。家具は力任せに破壊して、網に滴る呪詛は効かず、往く手を塞ぐことはできない。逢魔が辻の怪異でも、逢魔ヶ時の化物(けもの)を前には為す術なく、痺れる四肢を震わせるのみ。

「さぁさぁ、ほうら。黄泉路はあちら。爛漫咲き誇る花々は勿論、したたかな大樹だって案外悪くない」

 すぐ目の前に立たれれば、捕食者の眼差しを真正面から受け止めて息も止まるほど。人であった頃はどうだったか、最早それにはわからない。花であった時がどうだったか、それにはわからない。
 ただ、この眼差しを前にしてどうなるかは知っていた。かつてはそれが恐ろしかったが、これの聲は優しく、甘く。ぶり返した恐怖が痺れて消えていくような、人の温もりに似た痺れ毒。
 その手が己を貫いても、痛みも恐れも感じなかった。

「きっと眠りの先でなら、何にだってなれましょうさ」

 鵺は微笑み、夜が来る。
 花であったそれは眠りの底で、かつての自分の形を追って逝った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
かなしいの?
つらいの?

ごめんね
わたしができるのは、きみたちをねむらせることくらい
なるべくいたくないようにするからね

駆け出し斧を振り
一体ずつ確実に仕留める
群がるようなら範囲攻撃で散らす
小蜘蛛にも範囲攻撃
合体する隙を与えないように

相手の攻撃は武器受け

この先はみんなにまかせるねっ
だからここはわたしたちにまかせて

クモだから天井や壁にもいるかも
斧の返しが間に合わなければ
シュネー、おねがいっ
人形によるかかと落とし

いっぱいのかなしいを
ここに置いていって
そしたら次はしあわせに咲けるかもしれない
そうであってほしい

まかせてって言ったんだもの
ちゃんとここはたおさなきゃ
きっとみんながつないでくれる
がんばろう、シュネー



●白
 進路を塞ぐ毒糸の迷路、沸き立つ無数の追跡者。
 道幅一杯に身体を捻じ込ませたのは何体かの蜘蛛の仔が結合した結果産まれた歪の蜘蛛。迷い込んだ餌を狩らんとひとつの影を追い駆ける、追い付く。
 影は時折蜘蛛の姿を視界の端に捉えながら複雑に入り組んだ廊下を右に左にと曲がり、蜘蛛の追撃を避けようとする。しかし、図体の大きさに反して蜘蛛の動きは機敏で、跳躍力も高い。少しの隙を作れども、蜘蛛は瞬く間もなく追い付いてくるのだ。
 あとわずか、蜘蛛が影の味を知るまでほんの数寸。

 刹那、影でも蜘蛛でもない物が吼えた。蒸気を噴き出し、周囲を白く霞ませながら鈍重な大斧に薄衣の翼を与える。加速した斧の切先が捉えたのは腹に弐拾参と刻印された蜘蛛の脳天だ。速度を乗せた一撃は薪を割るより容易く蜘蛛の身体を真っ二つ、裂いて散らせる。
 これを操るのは如何なる偉丈夫か、影の眼差しが斧の手繰り手へと自然に目を向ければ……そこにいたのは崩れた蜘蛛の成れ果てた塵を追う細身の青年――オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)だった。
 蜘蛛に追われていた影の正体、もとい上層を目指し戦闘を控えていた猟兵はオズへと感謝を示す。オズは物憂げに伏せた目蓋を一度持ち上げて、子猫の青色でふわりと微笑。

「この先はみんなにまかせるねっ。だからここはわたしたちにまかせて」

 柔らかなオズの言葉に、猟兵は会釈ひとつを残して走り去る。背中が次の曲がり角を抜けて消えた頃、オズは斧を握り直して来た道を戻った。
 まだ蜘蛛の群れる気配がある、親にあたる蜘蛛も見つけられていない。何より、この先に向かわせるわけにはいかない。

(まかせてって言ったんだもの。ちゃんとここはたおさなきゃ。きっとみんながつないでくれるから)

 傍らに侍る白雪少女の人形がかたりと関節を鳴らした。敵は近い。

「うん、がんばろうねシュネー。わたしたちなら、きっとやれるよね」

 姉であり友である愛しき彼女の名を呼べば、自ずと勇気が沸き上がる。斧を手に幼き青年は三方向に別れる廊下の真ん中で敵の襲撃に備えた。
 姿を表したのは、仔蜘蛛の群れ。未だ合体は行っていないようだが、すぐにでも身を寄せ合い襲いかかってきそうだった。

「させないっ!」

 大斧の先端が奇怪に変形する。その形は武器と形容しがたくも、類似した形状は容易く思い出された。ハンマーにしては厚くも平たく、斬るというより打つための重さ。そうだ、恐らくこれは、フライパンに近い形だ。
 眼前の敵の数、この形状、オズはすかさず振りかぶり、仔蜘蛛の集合するど真ん中へと打ち下ろす。強烈な破砕音、床と共に固まり始めていた蜘蛛の仔達が吹き飛ばされれば、もう一度。

「せぇ、の!」

 ごがぁん!と盛大に大振り一撃。壁に激突する僅かな間に蒸気機関解放、加速。打ち付ける衝撃は群れる蜘蛛の仔を瞬時に塵芥へと帰す。
 返す手で更にもう一打、振るう度に蒲公英の綿毛の如く吹き散らされる蜘蛛の仔たち。この調子で行けば、此方に向かってきている分はすぐにでもすべて倒せるだろう。
 と、休む間もなくガジェットを振るうその指に、くん、と何かがひっかかる。

「……!シュネー!おねがい!」

 雪白の人形が廊下の右側へと飛び上がる。仔蜘蛛に気を取られていたはずのオズを狙ったのだろう。音もなく天井を這い、近寄っていた女郎蜘蛛へと軽やかに踵を落とした。額の割れた女は呻きながら床へと叩き落とされる。

「……かなしいの?つらいの?ごめんね。わたしができるのは、きみたちをねむらせることくらい」

 幼子に似た辿々しさで謝意を表し、落ちた親蜘蛛を見下ろす。蜘蛛はふらつきながら八本の脚で身体を支え、吐き出す糸で己を固定した。二本だけの人の腕で頭を押さえ、低く獣の唸り声。
 オズの手元で再びガジェットが形を変える。出来ることなら、痛みなく。叶うことなら、悼みなく。望み願えば切先は大鎌へ、糸を吐き出し此方の動きを封じんとする蜘蛛へ慈悲を向け、凛と構えた。毒糸さえも絡め捕り、噴出する蒸気を推進力へと変えて急接近。

「いっぱいのかなしいを、ここに置いていって。そしたら次はしあわせに咲けるかもしれない」

 だから、おやすみ。
 振るう大鎌の一撃で女郎蜘蛛は糸の切れた人形のように倒れ伏した。

成功 🔵​🔵​🔴​

火狸・さつま
コノf03130と

第六感、暗視目を凝らし
ひゃー!あそこ!わらわら!わらわらしてる!!

先手必勝!素早く広範囲へと燐火の仔狐嗾けて
捉え損ねたのは雷火の雷撃をおみまい!

見えぬ程に細かろうが関係ない
全力魔法範囲攻撃、周囲一帯炎の仔狐まみれにすれば
楽し気に纏わりついていた炎の仔狐達が
野生の勘で攻撃見切り糸へと炎を灯す
相性が悪かった、ね?
俺の炎は大切なモノ以外は燃やせるんだ
貴方も糸も…毒さえも
綺麗に美しく燃やし尽くしてあげる

俺達に死角なんて無いよ作らせない
あれ?…コノ、なんか…やたら蜘蛛さばくの、手慣れて、ない…?
女性…(なるほど。姿変われど女性)
…優し、ね(へらり)


オーラ防御を纏い
激痛耐性と毒耐性で凌ぐ


コノハ・ライゼ
たぬちゃん/f03797と

さっすが逢魔が辻
ま、喰らわれてやる義理もねぇヨネ

相方の炎追う様『誘惑』の『呪詛』乗せた【彩雨】を周囲に広く降らす
さあさ出ておいで、愛おしい君
炎や雷を氷に反射させ空間照らし、敵影や潜伏場所を『情報収集』すんよ

迷路作る糸へ『カウンター』で雨降らし、凍らせ足場作り毒の回避
『2回攻撃』で素早く「氷泪」から『マヒ攻撃』乗せた雷奔らせ、本体狙う
物陰や頭上からの攻撃は足場蹴り跳んで『空中戦』で応戦
時折攻撃を集中させた雨に変え攪乱してこうか
重ねる攻撃で『傷口をえぐる』『生命力吸収』し体力の足しにしよう

……は?ソコは女性の扱いに長けてると言って頂戴
……はあ?喰らい尽そうってのの、ドコが



●駆
 襖を蹴破り、廊下から残照満ちる室内へ。窓の外など見えもしないのに、差し込む夕日により赤く染まった室内は秋の紅葉にも似て趣深く、されども物陰から、壁の穴から、あちらこちら四方八方から、侵入者を見つめる仔蜘蛛の群れが彩を乱す。

「さっすが逢魔が辻、満員御礼だコト」
「ひゃー!あそこ!わらわら!わらわらしてる!!」

 コノハ・ライゼ(空々・f03130)と火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)は平常運転。顔色一つ変えることなく、或いは遊園地でも巡り歩くようなはしゃぎ様。為すべきことは、忘れていない。
 見つけたのならば先手必勝!さつまが周囲にぶわりと呼び起こすのは青くふらつく狐火の群れ。近付いてくるものへと襲い掛かる狐達は空腹だ。悍ましき蜘蛛の化生で在れども呑み込んでしまえばただの滓。片っ端から炎の顎で喰い付いて、無邪気に焼き尽くす。
 仕留め損ねた仔蜘蛛達には、コノハの煌びやかな氷水晶の針の雨が降り注いだ。小さな胴を正確無比に貫いたなら、飛び出してきたその場所へと逆戻り。壁に、天井に、床に縫い留められればさつまの狐火が余さず喰らう。

「ホント、うちの店もこれっくらい繁盛してくれればいいんだケド」
「こんなに繁盛したら、店員さん足りなくなって、コノ、大変じゃない?」
「そン時にはたぬちゃんに賄い抜きでたぁっくさん働いてもらうから大丈夫よ」

 死角から飛び出した合体仔蜘蛛へ電流迸る尾の一撃を叩き込みながらも、さつまはこゃーん!!?と目を丸くした。冗談ヨ、と語尾にハートマークでもついていそうな声でコノハが微笑めば、疑いの眼差しを向けつつも狐火達を操る。
 蜘蛛の仔数十を燃やせども、磔にしても、親玉の姿はまだ見つからず、まだ見えず。何処に隠れた、どこにいるかと探すは宛ら隠れ鬼。
 誘惑のまじないも乗せて放った煌く雨にも反応なしか――と溜息一つの間に、一匹の狐火がちろりと空に火を点した。何もない空間にぽつり浮かんだ青の焔は左右へと広がり、細く細く。限りなく不可視に近い蜘蛛の糸に色を付け、道を作る。

「――!コノ!」
「ええ、やっとネ」

 その先、一際大きく束ねあげた水晶針に映ったのは、仔狸姿の狐火に炙り出された女郎蜘蛛が苦しみながら這い出てくる姿。

「ようやくお出ましね。愛おしい君」

 にぃ、と笑みを深めたコノハが女郎蜘蛛へと接近し、さつまが背面を警戒しながら追う。蜘蛛の女もまた二人の接近に気付いたならば、吐き出す蜘蛛糸。継ぎ目の捩れた空間に毒の滲み込む糸の檻が加われば、コノハの足も止まる。
 が、進めないから止まったのではない。真っ直ぐに前方、今にも糸の群れに隠れそうな女郎蜘蛛を直視。右の瞳に刻まれた薄青が見開かれれば、雷を纏った氷牙が一直線。視線に乗せて女郎蜘蛛へと突き刺さる。
 同時に彩雨を己と女郎蜘蛛の間、直線状に篠突くほどに鋭く展開。毒諸共に糸を凍らせて道を確保すれば迷わずコノハは女郎蜘蛛へ素早く接近。蜘蛛の胴体に一筋二閃、重ねて抉る柘榴の切先が花の命に牙を立てた。
 悲鳴を上げて、しかし襲撃者から目を逸らすことなく、女郎蜘蛛は裂けた腹をそのままに二対の蜘蛛脚と一対のひとの腕でコノハを掴み上げ吊し上げんと襲い掛かる。反応は出来た、躱すこともできる。しかしコノハは動かなかった。否、必要がなかったとも言える。
 彼以外のすべてを焼き払ったのは、さつまの蒼い狐火の群れだった。

「俺の炎は、大切なモノ以外はなんでも燃やせるんだ。貴方も糸も……毒さえも」

 迷宮の主が燃え崩れ、毒糸の迷宮が焼け焦げていく。鼻につく嫌な臭いに眉根を寄せつつもさつまは悪友に近付いた。怪我がないことを確認してから、さつまはコノハの戦う姿を見てふと浮かび上がった疑問を口にする。

「コノ、なんか……やたら蜘蛛さばくの、手慣れて、ない……?」
「……は?ソコは女性の扱いに長けてると言って頂戴」

 女性?と小首を傾げた後に、さつまは消えゆくそれの姿をもう一度見つめ、気付く。女郎蜘蛛と呼ばれる影朧へと成り果てて、誰もが化物だと罵る悍ましい化け物へ変わり果てたとしても、『それ』ではなく『彼女』として葬ったのだと。へらりとコノハへ微笑んだ。

「……優し、ね」
「……はあ?喰らい尽そうってのの、ドコが」

 腑に落ちない、とコノハは唇を尖らせるが、新たな蜘蛛の気配に二人揃って反応すれば不敵に笑んで視線を合わす。

「さ、もうちょっと頑張りましょ」
「ん、いこっか」

 二匹の狐は次の獲物を探して、駆ける。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

五逆・業
小馬鹿にしたカーテシー、中からぞぶぞぶと湧き出す触手
さ!遊ぶぞぉ!♡

蜘蛛の糸が絡まった事が、【怒り】のトリガー
うわ、無いと思ったのにあっちもこっちも……やだ!!髪の毛洗うの大変じゃんふざけんな!!!
バイオミックオーバーロード、廊下を埋め尽くし物量で蹂躙してあげる。
蜘蛛糸を質量と怪力で突き破っていくんだあ。あは、虫ケラが化け物を止められると思うなよぉ。

あーあ、女の匂いがへばり付いてて汚なーい。
花の匂い?蜜の匂い?
雄がほしくて仕方ないならボクの触手にでも喘いどく?
ん?脚が多くて股間が何処だかわかんないや。全部貫いときゃいっか。
へへ、ちょっと楽しくなってきた……

やーんもー、帰ってお風呂はいりたーい!



●辣
 スキップ、ステップ。るんたった。
 鼻歌交じりに歩く乙女は、ウインドウショッピングに来たかのような上機嫌。毒糸の迷路もなんのその、彼方へ此方へと歩き回る。
 そこから少し先の部屋で、巨躯の蜘蛛が餌が網にかかるのを待ち受けていた。己の領域に入り込んだ蝶一片がただじっと糸に触れる瞬間を、絡め捕られて藻掻いて、何れ抵抗する意志さえも失う瞬間を待ち侘びる。
 糸の絡まる感触に、にたりと裂けた口で嗤う。噫、掛かりおった、掛かりおった。蜘蛛は音無く餌の元。廊下の先へと跳んで移り、餌の姿を確認した。
 しかし蜘蛛も思うまい。巣へ踏み込んできたのが蝶とよく似た極彩翅の毒蛾であったなどとは。

「うわ、無いと思ったのにあっちもこっちも……やだー!!髪の毛洗うの大変じゃんふざけんな!!!」

 声を荒げて糸を振り払っていたのは小柄な乙女の形――五逆・業(エデンズエンド・f16708)だ。艶やかな黒髪やすっぽりと両腕を覆う大きめのパーカーの袖には細く粘つく蜘蛛の糸がちらちらきらりと蝋燭灯りに煌いている。
 望んだ通りに藻掻き、嫌悪感に歪んだ乙女の顔は蜘蛛にとっては馳走の一つであるはずだった。
 しかし、どうにも、近寄れない。
 業と蜘蛛との間には木目より細かく敷き詰められた蜘蛛の毒糸以外に何もない。何者もない。身動きの取れない蜘蛛がその場で業をただ見つめていると、きょろり、とキャンディーピンクが此方を向く。己でも理解できていない程の何かがそれから滲み出している。

「あは💛」

 ぐらんと揺らした首を傾けたまま、その場でカーテシー。
 広げた黒いセーラー服のスカートから、少女らしい細身の太腿が見えた――のは、ほんの一瞬。ぞぶんと落ちてうねって這い出てきたのは触手の群れ。乙女の形に収まりきらない変異生物の肉体が、みちりと廊下中に広がっていく。
 さ、あっそぶぞぉ!と可愛らしい声と相反する圧量で迫る異物の肉壁。元の容量も然ることながら、乙女の容姿を穢された怒りによって余剰に、過剰に膨張した業が廊下を埋め尽くしながら女郎蜘蛛へと襲い掛かる。
 その様を見て、影朧は何を為したか――逃げた。ここにいてはならないと消えかけていた理性が警鐘を打ち鳴らし、一刻も早く『あれ』から離れなければと本能が距離を取らせた。
 が、蜘蛛の跳躍力より速く、業の触手が細い足を掴む。折れる。

「あは、虫ケラが化け物を止められると思うなよぉ」

 丸く見開く狂気が、蛸の足の如く八方を塞ぐ触手が、蜘蛛の行き場を無くした。

「雄がほしくて仕方ないならボクの触手にでも喘いどく?」

 溢れる触手が蜘蛛の身体も女の肉も穿ち、こそぎ取っていく。臓腑の熱を先端に感じれば恍惚の表情。

「ん?脚が多くてアソコが何処だかわかんないや」

 しょーがないなあ、と息を吐き、全部貫いときゃいっか、などと笑む。あとはそのまま、宣言通り。
 別に業からすれば何処を貫こうか関係はない。甘ったるいチョコレヰトの銀紙を無茶苦茶に暴いて好きなだけ食い散らかす快楽を、蜘蛛の形をしたそれに対して行っているだけだ。罪悪感の欠片もなく、良心の欠片もなく、業は好き勝手に蜘蛛の身体を貫いて貫いて貫いた。
 足を千切った。腕をもいだ。ちょっと楽しくなってきた。蜘蛛の身体と人間の身体の継ぎ目がどうなってるのかを調べたくなって引き裂いてみた。首飾りが可愛いと思ったから奪って試しに着けてみた。思っていたほど似合ってなかったし面白くなくなったので全部まとめて放って棄てた。

「あーあ、女の匂いがへばり付いてて汚なーい」

 身体に染みついたのは花の様に薫り高く、蜜の様に甘ったるい。その上花粉のようにこびりついて厄介な異臭に顰めっ面。温かいお風呂と新しく買ってきたいい香りのシャンプーを恋しく思いながら、業は再び軽い足取り。
 ぞるんと触手を収めて、か弱く愛らしい乙女の形へと戻ると鼻歌が再びでたらめなリズムを取り始める。

 蜘蛛はとうに事切れていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

渦雷・ユキテル
ステップ踏むような足取りで糸の迷路を通りましょ
つめあと付けるよう戯れに、
毒糸の壁をクランケヴァッフェで引っ掻きながら
先へ先へ!

なにも遊びに来たわけじゃありません
迷路の構造、敵の潜む場所
凡そ分かれば攻勢へ
憧憬と軽蔑が織り成す気持ち
電流に込めたら糸を伝って届きます?
【属性攻撃】【範囲攻撃】【マヒ攻撃】
ほら、出てきてくださいよ
朽ちたところで花は花
最低な人生だろうと女でいられるなら、

あは、でもそんな格好になるのは御免ですねー!
足で床を叩いて紫電を巡らせれば
あなたの巣はあたしの舞台に様変わり
最後のお仕事は銃の的?
それとも哀れ串刺しに?
うらみごと咲いてみせて
あたしが綺麗に散らしてあげますから!



●咲
 スキップ、ステップ。らんらんら。
 鼻歌交じりに歩く乙女は、ウインドウショッピングに来たかのような上機嫌。毒糸の迷路もなんのその、彼方へ此方へと歩き回る。
 そこから少し先の部屋で、巨躯の蜘蛛が餌が網にかかるのを待ち受けていた。己の領域に入り込んだ花弁一枚がただじっと糸に触れる瞬間を、絡め捕られて藻掻いて、何れ抵抗する意志さえも失う瞬間を待ち侘びる。
 糸の絡まる感触に、にたりと裂けた口で嗤う。噫、掛かりおった、掛かりおった。蜘蛛は音無く餌の元。廊下の先へと跳んで移り、餌の姿を確認した。
 しかし蜘蛛も思うまい。巣へ踏み込んできたのが花ではなく、花弁に擬態した蟷螂などとは。

「あ、来ましたか?来ましたねー、お疲れ様でーす」

 クランケヴァッフェで壁に傷を作りながら歩いていた乙女は、蜘蛛の姿を見つけてぴたりと立ち止まる。フランクに女郎蜘蛛へと声掛けた渦雷・ユキテル(さいわい・f16385)は、待ち合わせにやってきた友人へ挨拶するように開いた片手をひらりと翳し、無感情の笑みを向ける。
 勿論、女郎蜘蛛は返事などしない。床を二対の脚で蹴り飛ばして接近、奇声に等しい哄笑と共に極細の糸を吐きつけた。が、ユキテルは手にした点滴台をくるり。器用に回転させれば己へと吹き掛けられた糸をパスタでも巻き取るかのように絡みつけて振り払う。
 破顔、ユキテルは爪先に電流を走らせれば、点滴台をその場に突き刺して前のめりに跳躍。壁のワンクッションを挟んで蜘蛛の上空。天井間近。

「ちょーっとびりっとしますよ」

 降下、直撃。ユキテルの落とした蹴りの一撃は女の肩へと綺麗に入り、身を焼く鋭い熱が蜘蛛の全身を駆け巡る。絹を裂くような強烈な悲鳴を上げて蜘蛛がユキテルから距離を取ると、着地されるよりも素早く撤退。逃げながらも新たな毒糸で道を塞ぎ、迷路を更に歪に変形させていった。
 廊下を曲がって、すぐ目の前に糸の壁を作られて、蜘蛛の姿が見えなくなってもユキテルは急いで後を追う事もなく、悠々と点滴台を引き抜く。真新しく練り上げられたが故に造りの雑な糸の壁を振り払えばじっと目を凝らす廊下の先。
 道は二つ、襖はいくつか。構造自体は今まで通って来たところと何ら変わりがない。なら、と爪先へ再充電。

「――ほら、出てきてくださいよ?」

 とん、と床を叩けば瞬きするよりも早く、電流は毒糸の迷宮を形成する糸へと広がって奔り出した。何本かはそのまま迷宮を焼きながら壁や天井に沿って駆け抜けていったが、内二本。獲物を感知するために己自身に繋げていたものだろう、宙を駆ける紫色の稲光が女郎蜘蛛目掛けて糸を伝う。糸の道しるべを辿っていけば、ひとつの部屋。
 糸を切り離す間もなかった。蜘蛛の身体はほぼ焼かれて、人の肉の部分はぐずぐずに焦げている。それでもなお、敵意が消える事はない。一度は退いた身なれども、逃げられぬと悟れば蜘蛛は牙を剥いて威嚇し、反撃の機を伺った。
 異形の姿にユキテルは僅かに己を重ねて見た。今となっては女を名乗る事しかできない自分。対して相手は朽ちたところで花は花。最低な人生だろうと女でいられるなら、きっと。

「あは、でもそんな格好になるのは御免ですねー!」

 感傷は即、切り捨てた。
 最早己の領域へと塗り替えた蜘蛛の迷宮で、乙女はひゅおんと点滴台を回して構えると迷いなく、女の胸の中心目掛けて投げる。紫電の檻により強化された一投は避けることも敵わず、胸の中心を射抜かれた女郎蜘蛛はそのまま背面の壁に打ち付けられた。
 すかさず懐から抜いた自動拳銃の安全装置を外したなら、口付け代わりの弾丸を装填。

「さあ、うらみごと咲いてみせてください。あたしが綺麗に散らしてあげますから!」

 真っ直ぐと伸ばした腕が、照準が、女郎蜘蛛の顔面に定められる。眉間だと思わし位置にぴたりと合わされば震えなく、人差し指のワンアクションで吐き出す弾丸、跳ねる腕。寸分狂わず狙い通りの場所へと弾丸は吸い込まれ、女の後ろの壁にどす黒く変色した体液が花火の如く飛び散った。
 蜘蛛はゆっくりと身体を塵へと還し消えていく。最期、ユキテルへ向けて手を伸ばし、羨むような声を上げながら。

(……気持ち、本当に伝わったんでしょうかね)

 蜘蛛を追う電流へと籠めた二種の想いを口には出さないまま、ユキテルは部屋を出ていった。
 まだ、もうすこし、乙女は花の形に咲く振りをして、先へ。先へ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

奇鳥・カイト
ホント、蜘蛛の巣だな

花のままでいられりゃ幸せなのに、牙を持ちゃやられちまうのも当然だろ


糸の迷路たぁ迷惑なもんだ
ただまあ、俺なら張り方を見ればどんなもんかわかる──この地形を逆に利用しない手はねぇな

・戦闘
基本は不良のように素手でラフなファイトスタイル、その辺にあるものも使いつつ攻め込む

UCは【風車】使用する
糸のまんま束縛切断させるの以外じゃ、マトモに攻撃って感じの術

ま──本領は別にあるんだよな、これ
騙し討ちする形で悪いが、お前ェの糸は巻き取らせて貰うぜ
どーも元は対糸使い用の技でな、巻き込みながら絡め取っていく繭なんだわ

ま、カウンターよろしく自分の糸でやられるのも乙なもんだろ

アドリブ・連携歓迎



●糸
 夕闇の廊下、学生服の少年が歩く。左右の壁には等間隔で蝋燭が風もないのに炎を揺らめかせ、少年より少しだけ背高の影がふたつ、廊下にずるりと伸ばしていた。
 ふと、廊下の異変に気が付いたのか。学生服の少年――奇鳥・カイト(自分殺しの半血鬼・f03912)は立ち止まる。眼前の薄暗がりをじっと睨み付ければ、微かな煌き。

「……ホント、蜘蛛の巣だな。糸の迷路たぁ迷惑なもんだ」

 どうやらここは迷宮の「行き止まり」にあたる道のようだ。極細の毒糸は僅かに隙間を残して目の前の道を塞いでおり、気付かずにこのまま突っ切っていればあっという間に絡めとられ、蜘蛛の餌食となるだろう。
 触れれば毒され、無理に断てば武器に粘着質の糸が纏わりつき使い物にはならなくなる。燃やせるのならば一番だが、それができないのなら迂回するのが賢明だ。
 が、カイトは糸の張られた壁側へと視線を移す。糸は縦横無尽に張り巡らされてはいるものの、その先に道がないわけではない。そしてよくよく見ると通路を塞いでいる糸の他に何本か、通路奥まで壁を這う長い糸がちらちらと煌いていた。

(多分、センサーか何かの変わりなんだろうな)

 獲物が絡みついたなら、この先にいるはずの女郎蜘蛛本体に知らされるのだろう。女郎蜘蛛がやってくる頃には動けなくなった獲物がこの場所に転がっている。あとは望む通りに調理すればいいだけ、ということなのだろう。

「なら、利用しない手はないな」

 カイトは斬糸で壁となった糸を切断。完全に除去しつつ、仕込みも一つ。すると進行方向前方、かさりと薄く音を立てて巨躯が此方にやって来る。餌がかかったと誤認したそれが近づいてくるのが見えれば真逆へ走る。廊下は曲がり角ひとつなく、左右に部屋もないただの一本道。
 網に捕らわれておらず活きのいい餌を前にしても、蜘蛛は嬉々としてカイトを追う。狭い廊下を一足飛び。距離を近づけていき、もう間もなく射程範囲。喰らい付けるというところで――身動きが取れなくなる。
 腕一本、脚一本、動かす事ができない。顔の向きさえ変えられない。開いた顎が閉じない。辛うじて指先は動くがそれが何故だか理解ができない。状況処理が終わらぬ女の眼は眼前で無防備に立つ少年の、猩々緋の眼差しを受け止めることしかできなかった。

「よくわからないって顔してるな。同じ手を使わせてもらっただけだぜ」

 カイトは、先程の罠の行き止まりを除去しつつ、同様に己の糸を廊下の四方へと貼り巡らせておいた。やってきた蜘蛛をそこにおびき寄せるように後方へと走り、何も知らずに突っ込んできた蜘蛛を逆に捕らえた。至って単純な作戦だった。
 女郎蜘蛛は怒りの声をあげて蜘蛛糸を吐き出しカイトを捕えんとした。巻き取り、自分の方へと引き摺りこめば喰らい付けると思ったのだろう。
 それも愚行。カイトは既に指の先、小石ほどの繭玉を生み出していた。高速回転する斬糸の繭玉を蜘蛛へと向けて放れば、吐き出された蜘蛛糸は割り箸に巻き付く綿飴のように繭玉へと絡め捕られていく。

「カウンターよろしく自分の糸でやられるのも乙なもんだろ」

 撚り、合わせ。
 強化された繭玉は女郎蜘蛛の前で弾け、網となった。躱す術なく全身に貼り付いた糸は獲物を捕らえる為の強い粘性で己を縛り、遍く切り裂く鋼の糸は藻掻くほどに身を裂いた。

「花のままでいられりゃ幸せなのに、牙を持ちゃやられちまうのも当然だ」

 抵抗すれども為す術なくその場で網に絡まる女郎蜘蛛へとカイトは接近し、跳び上がる。
 駆ける勢いを殺さず叩き込んだ踵が女の頭蓋を割り砕けば、別れの言葉を交わすことなく崩れて消えてゆく蜘蛛を――元となった女が後生大事に身に着けていた十字架が千切れて消えていくのを見送った。

 これも、かつては神に祈ったのだろうか。

 問うたところで解はなく、聞いたところでどうという事もない。首を振り、思考を切り替える。この一匹を倒したところで戦闘は終わらない。迷宮はまだ毒を撒き散らし、消え去る気配もない。
 風車で罠用に使った糸を回収すれば、カイトは次の蜘蛛を探して再び夕闇の奥深くへと消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

絢辻・幽子
ふふっ。恨みつらみ、孕んで産んで、吐いてまた孕む
そうして膨れた穢れほど、 おいしい なんて、思いません?
ひとりごとですけど、えぇ。

あぁ、可哀想なあなたに糸をあげましょう
ほら、赤い糸に夢をみて溺れて、焦がれて燃えて、なあんて。
そちらが糸を張り巡らせるのなら
こちらも同じ手を使うまで、【ロープワーク】と【地形の利用】で
幽ちゃん賢いのよ?なんて。

あとは、そうねぇ
上手く糸が絡まれば【傷口をえぐる】そして【生命力吸収】を
あなたはどんな味がするかしらねえ?

攻撃は壱の子で【盾受け】しましょうか
あぁ、かわいそうな私のかわいい子。

※飄々として人で遊ぶのが好きだけれど
尻尾を汚されると怒るタイプの女狐



●仝
 こういう迷路の攻略法はどうするものか。思い出したのは片手を壁にあてて歩くというものだった。撫でるように指先だけを当てて歩いていると、薄く、感覚すらない程にやわく絡んでくる蜘蛛の糸が、規則正しい美しさを乱して千切れてゆらゆらと尾を引いていく。
 毒がある、というのはなんとなくで気が付いた。僅かな耐性が残してくれた甘い痺れにほんの少しの高揚。ああ、この先に、いるのかしら。

「ふふっ。恨みつらみ、孕んで産んで、吐いてまた孕む――そうして膨れた穢れほど、おいしい……なんて、思いません?」

 藤色に塗った唇を空いた手でついとなぞって見せて、ひとりごと。絢辻・幽子(幽々・f04449)の霞めいて揺らめく声が無人の廊下にしんと広がった。まあ応える人などいないのけどねえ、と微笑むその背に無音の殺意。
 女が乱した蜘蛛糸から僅かな振動を頼りに居場所を辿って、追って、確認して。音もなく背後から追っていたのは女郎蜘蛛。揺蕩うようにゆうらり歩く女の背へ、答えを返す代わりに吹き掛けられたのは常人の眼では捕え難き、細くも強靭な蜘蛛の糸。

――を、平然と躱して距離を取る狐の女は、糸が絡まぬようにと尾を小脇に抱え込んでいた。

「まあまあ、やあっとお出まし?」

 困ったように下がった眉の下で朧朧とライラックの眼差しが弧を描き、汚した指先を蜘蛛へと向ける。ちらちらと煌く白い糸を、ぼう、と菫色の狐火が燃やして漂い、息を吹きかけて見せれば散開。蜘蛛の眼前を覆い尽くす炎の花吹雪が、そこいら中で小さく爆ぜ散りながら蜘蛛を襲った。
 動きは遅いが軌道は読めず、揺れて惑って距離が掴めず。避けようかと思った時には脚に、胴に、人の形の掌にぼんと当たって弾けていった。負傷自体は薄いものの、どうにも何かが不自由だ。蜘蛛が次こそ距離を取ろうと跳び上がろうとしたその瞬間。
 ぴぃんと張った、赤い糸。

「ほぅら、赤い糸に夢をみて溺れて、焦がれて燃えて――」

 幽子の指先と繋がった赤い糸は狐火の爆ぜたその場所にと結ばれていた。束ね掴んで、ぐんと引いたなら蜘蛛の身体ががくんと揺れる。結んだ場所にはぎりりと強く締める音。
 蜘蛛も負けじと糸を吐きつけるが、幽子の元へは届かない。手首の捻り、腕の一振りで壁や天井、床の割れ目、燭台にまで結ばれた赤が蜘蛛の極細糸を全て絡め捕っていく。狐火の幾つかをわざと外して爆ぜさせたのはこのためだ。

「そちらが糸を張り巡らせるのなら、こちらも同じ手を使うまで……幽ちゃん賢いのよ?」

 なぁんて。と悪戯っぽく笑えば蜘蛛へ絡めた糸を締め上げる。ぎりりみしりと音を立てて、苦しむ蜘蛛へと追い撃ちの狐火。脚、脚、胸、頭――隈なく糸を結び付ければ雁字搦め。赤く、赤く、夕闇色の蝋燭灯りの中に溶け落ちるような茜色が蜘蛛に迎えの灯を送る。

「人の心も同じよね、たぁくさん結ぶといつか駄目になる。重い女は好かれないけれど……あなたはどうだった?」

 ぎり、ぎり、多重に縛られた赤い糸は蜘蛛を強く締め上げる。とぐろ巻く蛇の強さにも似て逃げようのない圧の中、抵抗する力もなくなった蜘蛛はみしり、ぱきりと壊れていく。そうして、赤く染まった世界の中で女郎蜘蛛は完全に砕け散った。
 はい、おしまい。と糸を解けば再びたわわに揺れる尾を抱える。汚れはついていなさそうだと確認したならほっと一息。散り逝く蜘蛛に然様ならひとつを送ったならば、道の先。
 蜘蛛の迷路は未だ消えず、然して道は拓かれた。女が角を曲がった先には一風変わった大扉。押してみたなら見目より軽く、開けて見たならその先に。女の唇には花の綻び。


「ああ、こんなところにあったの?」


 舞台は終に、最上怪へと。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『影竜』

POW   :    伏竜黒槍撃
【影竜の視線】が命中した対象に対し、高威力高命中の【対象の足元の影から伸びる黒い槍】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    影竜分身
【もう1体の新たな影竜】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ   :    影界侵食
自身からレベルm半径内の無機物を【生命を侵食する影】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。

イラスト:芋園缶

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●儚
 坊や良い子だ、ねんねんころり。
 母の歌う声が聞こえた。背を撫でる掌の温もりを感じていた。
 あやされたのは何時の日か、はては其れさえ幻か。
 母に抱かれたあの日が真実(まこと)か、腹から流れたあの日が現実(まこと)か。
 今となっては全て泡沫、夢幻の如くなり。
 己の在処を彷徨い微睡む赤子の魂百幾つ、産まれて泣いた理想を見ながら溺れて消えた命無数。
 人の形を知らぬ儘、人の言葉を知らぬ儘、寄り添いあって撚り合わさって造り上げたは影の竜。

 そうだ、我等は、我等の望みは。

 さァさァ、やって来ました最上階。待ち侘びたるは最上怪。
 息を飲み込み踏み込めば、春夏秋冬描いた襖が手も触れない間にすぱんと開く。
 開いて、開いて、開いて、開き、奥で蠢く大影朧。
 我等の言葉を彼等は聞かず、彼等の言葉を我等は知れず。
 触れず避ければ彼等は救えず、斬って捨てれど輪廻を巡れず。
 故、為すべくは。問答無用の情け無用、切った張ったの大立ち回り、想いを乗せての大演舞!
 遠慮も躊躇も要りはしません。彼等をどうぞ永久に、眠らせてやってくださいませ。
多々羅・赤銅
竜の言葉が分かるでも無し
それでも、ちょいと、嗤って斬るには
お互い、愛に飢えてんなあ。
いやあ、ガキにゃ酷え事出来ねえんだよなあ

さて、遊ぼうか
母さんの事、上手に捕まえてくれよ
抜刀、跳躍
跳ぶことで落ちる影を縮め、かつ脚から離す事で串刺しまでのラグを作る。
それに影から出てくると分かってりゃあ、それを斬りとばす事自体は難しかねえ

接敵、閃く刃は、触覚ーー「痛覚」のみを断ち切って
寂しい上に痛えのは困るもんな?
痛覚を伴う遊びをするにゃあ、ちいと幼すぎるしな!

私ら猟兵に救いを求めるその限りは
お前らの怒りも寂しさも、何一つとして邪魔しねえ

返す刃
急所に見える赤の臓を斬り飛ばす
痛くなかったろ?
よおし、元気で偉いなあ!



●儘
 其れは啼いていた。
 怒り狂うように猛々しく、恨み妬むように毒々しく、されど吹雪く雪道に轍を残すが如く凜凜と、下階より吸い上げた怪異達の妄念が混ざり膨れ上がった影の竜は啼いていた。
 視線は正面。其れに視力というものがあるのなら既に猟兵達を捉えているだろうが、目覚めたばかりの眼には世界も歪んで見える物。
 しかし、此方に接近してくる物くらいは判別がつく。形の定まらぬ影の頭に目玉と呼べぬ赤が揺れ、迫るひとつめを睨めつけた。

「さて、遊ぼうか」

 抜刀、跳躍。しゃらりと姿を現した白刃が翻り、桃色と空色を躍らせるひとりの鬼が――多々羅・赤銅(千早振・f01007)の鼈甲色がやわりと竜へ向けられた。敵対するにしてはあまりにも優しい声色に、竜も思わず動きを止めて飛び掛かって来る女を見上げる。
 其れが何か。この地へ運んだ語り部は教えてくれはしなかったし、竜の言葉が分かるわけでもなし。だが赤銅の鎖された目蓋の奥に其れの本質は確り見えていた。寂しいと鳴く竜の聲が、行かないでと伸びた虚ろの涙が、小さく丸まる背中と四肢が、見えたような気がしていた。
 あれは子供だ。生まれて間もない赤ん坊、産まれる事すら儘ならなかった赤子達。赤銅の眼にはそう見えた。

(いやあ、ガキにゃ酷え事出来ねえんだよなあ)

 刃を向ける理由はあれども嗤って斬るにはあまりに幼い。お互い、愛に飢えてんなあと眉尻を下げて笑いつつ、赤銅は身を捻って天井を蹴った。畳の上に落した小さい影から黒の槍が伸びるも、抉り抜いたは爪先のみ。

 さあおいで、こっちだよ、母さんの事、上手に捕まえてくれよ。

 飛んで跳ねて隙を伺って、視線は外させず狙いは外させて。伸びた影の槍を寸でのところで切り払い、最低限の負傷でやっと見つけた刹那。強く踏み締めて跳び上がると、ぎんと目玉を見開いて自ら鍛えた刀を振り上げ、

「寂しい上に、痛えのは困るもんな」

 大業物『卵雑炊』の一刀は竜を頭から縦に真っ二つ――に、斬っていない。
それどころか、傷の一つも負っていない。竜自身も何が起きたか理解できず、否、身に起きた変化を把握してはいたが「それが何故か」を理解できていない。
 狼狽える其れの姿に、赤銅は己が望んだ通りに切り捨てられたのだと口元を緩め、腰を捻り刀を構え直す。

「私ら猟兵に救いを求めるその限りは、お前らの怒りも寂しさも、何一つとして邪魔しねえ」

 両手で柄を握り込み、渾身。

「……が、痛覚を伴う遊びをするにゃあ、ちいと幼すぎるしなぁ!」

 一閃、続けて打ち込んだ一刀が赤く割れた胸元をさらに大きくこじ開ければ、血の一滴も流れ落ちぬ影の身体が派手に飛散した。にも関わらず、竜は痛みをひとかけたりとも感じていない。

 痛くない、何故か。竜は答えを知れない。
 痛くない?そうか。知っているのは赤銅だけだ。

 解らぬ儘に視線を向けて、女の影から幾重もの影の槍を伸ばす。直撃、此方には腹を抉り抜かれる痛みはあるが、何しろたった今流したばかりの鮮血が傷口を塞いで回るのだ。赤銅にとってすればこの程度、致命傷でも何でもない。
 何より多少痛くとも、ぐずる子どもを前にして容易く女は泣けないのだ。

「よおし、元気で偉いなあ!」

 己の影から伸びる槍に身を貫かれて尚にっかりと歯を見せ笑う女の顔に、竜は見知らぬ母の面影を見た。

大成功 🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
アドリブ◎

言葉は不要か
己が手で葬ってやるコトだけが唯一の救いの道
倖せを抱いて眠れ

徐に背負う剣の柄握り
敵を睨み据え駆ける
玄夜叉に炎宿し敵を斬り刻む
UC使う為に挑発
怒りを態と買う

バスの終着点
紫苑を置いた雪の日

お嬢(主の娘で弟の主)との決別からも
時折”妹”に重ね、面影を見る俺が
其れを使うに値するか
俺が人の器を得た生誕の日に馨の姫君から届いた新たな奇跡の力を
お前はどんな想いで託した
その好意を俺は…

俺の為すコト総て…
愛する只一人より、世界を選んだ男が何を、
俺が歩む道に惑うコトはない
悔いも…
クソが

【聖獣の呼応】使用
羽搏く時の残り香に目瞑り朱の鳥撫で
羽根の攻撃に続き連撃
灼き尽くす

戀とは
あいとは

…分からねェよ



●俤
 女を視界から外し、竜は眼前に蔓延る敵意へ目を向けた。
 不自然なほど軽くなった身体はどれだけ動こうが痛みを感じず、けれど一度空いた心の洞は一向に塞がる気配もない。言いようのないこの隙間を埋めるに必要なものは何か。赤く明滅する竜の眼光が射抜いた先には、嘗て求めていたはずの物とは異なる血肉の群れ。
 その先頭で、ひと際強く輝く敵意の色が――杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)の二色の眸と豪奢な黒衣がはためいていた。

「言葉は不要か。なら、己が手で葬ってやるコトだけが唯一の救いの道」

 さあ、来いよ。
 注意を引くようにすぐ目の前で背負う剣の柄を握り、敵を睨めつける。引き抜いた剣へ炎を宿して見せれば、竜も脅威を察して吼えた。陽炎めいて歪む尾を一振りして遍く薙ぐもそこに男は既におらず。
 尾の一撃を回避して鋭く斬り付ければ迫り来る浸蝕の影から飛び退き、当てては避けて当てては避けて、笑みを挟んで斬り付けてはまた退きの繰り返し。
 遮断された痛覚のお陰で肉の損傷程度では止まらないものの、いつまでも当たらず倒れぬ相手と続ける鬼遊びは竜の根底に混ざる何かを確実に苛立たせていた。無差別に変換する影が彼方に此方に浮き上がり、しかしどれもがたった一人を捕らえられずに躱される。
 策に溺れつつある影竜を前にクロウは一旦距離を取った。振り抜いた剣を一度下ろして指先へ霊力を集中させ始める。

(愛する只一人より世界を選んだ男が……俺が、歩む道に惑うコトはない)

 悔いも――
 否、違う。悔いのないはずがない。
 大切だと思う人がいた。お嬢と呼び慕った病床の彼女は去りゆく自分の背を押してくれたが、彼女の最期は知らぬまま今この戦場に至る。
 その面影を映す人がいる。瓜二つの顔に選べなかった道の先を夢想しては、眼前にいるはずの『彼女』を視ずに振り返れなくなった岐路へ置いてきた一輪を思い返す。
 幻の中で再会して尚変えなかった決断が過ちだとも思ってはいない。今往く道は、その他大勢の他人を救う道だ。
 だから苦しい、だから悩ましい。今の自分へ好意を向けてくれる人に対してさえ迷いが消えない。この指先へと降ろすはずのものにさえ躊躇いを感じていた。
 クソが、と心中で悪態を吐く。迷っている間に新たな影が生み出され、この命を奪わんと迫り来ている。

(だからって、立ち止まれないんだよ!)

 遠つ神恵み給え――!
 諳んじた祝詞に呼応した清き鳥の形は、優しく香を馨らせてクロウの指先へと留まった。生まれ直したその日を言祝いでくれた人が、彼へと託した奇跡の御業。朱の鳥は強烈な敵意を感知して翼を拡げ、影の竜へと飛んで行く。
 朱の鳥は影竜のすぐ目の前で旋回し、浄化の矢羽根で撃ち注いだ。思う儘に獲物を倒せず捕える事も出来ない不快感から叫ぶ竜は、駄々をこねる子供の泣き顔にも愛憎に狂った女の様相にも見えて、クロウの胸を掻き毟る。

(戀とは、あいとは……俺には分からねェよ)

 されどもせめて、己は未だ届かぬそれに、この竜が辿り着けることを祈りながら焔で撫ぜた。

「――倖せを抱いて眠れ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

朧・紅
《朧》人格のみで参加
アドリブ歓迎
※武器情報に変化有

殺した、殺した
ガキもジジィも抵抗無き者も…テメェらみてェなモンも
燃やし、潰し、斬り刻んだ
すべて総て容赦なく
向けられた恐怖も憎悪も甘美に喰らって愉しんだ
だから安心しな、テメェラが何者だろォが遠慮も躊躇も要りはしねェ
何を通ずる事もねェ
あァ、殺ろうぜェ
その望み諸共に破壊してやる

只一瞬
脳裏で産声を聴く
11年前のあの日の……

うぜェ

ゆえに
すべて総て全て
目に見えるすべてを己が全てで断ち斬ろう
不覚にも心揺らした目に見えぬソレが斬れぬものであったとしても



●伐
 鼻先を擽る煤けた臭いが心地よかった。

――殺した、殺した。

 赤く燃える景色、崩れゆく瓦礫、舞い散る火の粉の中で嗤う男がいた。
 其れにとって相手の容姿身分は関係なく、ただ生きていればいい。生きてさえいれば殺戮の愉悦に浸る事が出来る。すべて総て容赦なく食い荒らした。
外聞など知ったものか。己へと向けられる澱んだ感情が、蹂躙される者達の生に縋る一瞬が、それらを簒奪する己が、手に残る命の感触が実に甘美で心地の好いものだった。
 だから、悔いなどない。死の淵に立たされても男は変わらず嗤っていた。巡り付いた先、あの産声を聴くまでは――

 白昼夢。持ち上げる目蓋の下から金色が一対。
 うぜェと吐き棄てた朧・紅(朧と紅・f01176)はギロチン刃を複製し、切り落とされた尾の代わりに新たな部位を形作ろうと蠢く影竜へ向ける。
 複製したうちの一本を目の前で固定すると竜の胴体に照準を合わせ、足をかけた。

「射線から退きなァ!!」

 前線を駆ける猟兵達へと最低限の忠告を飛ばし、蹴り飛ばす断罪の一刃。
 天地の合間を真っ直ぐに撃ち出された分厚の刃が影竜の胴へと突き刺さると、背後へ押し出された不定の身体が飛び散って霧散した。損傷は軽微、されども竜は己を削いだ刃の先にいた一人の姿に――その周囲に増え続ける凶器の数に脅威を憶えた。
 次なる一刃。天井より斜め、射出した刃が影竜の肩から胴にかけてを袈裟に斬り落とす。が、ぼとりと裂けた昏い殻より赤い闇を揺らめかせたかと思うと突然にぞるんと身体を分け、各々で再生。もう一体の影竜が姿を現した。
 新たな竜の出現に対して、朧は眉根の一つ動かさず空中に固定した刃の上を跳び駆ける。

「安心しな、テメェラが何者だろォが遠慮も躊躇も要りはしねェし、何を通ずる事もねェ」

 己を追う竜の視線を遮るように断罪刃を飛ばす。二体に増えようが関係なく、四方八方万遍無く囲う刃が間断なく降り注げば攻撃の暇も与えられぬまま竜の身体は切り刻まれる。
 痛みもなく、幾ら斬られようとも直ぐ様塞がる影の身体だ。どれだけの刃を降らせども致命傷は与えられていない。
 それでも己を刻む刃へと、注ぐ殺意の源へと向けられた赤く澱んだ怨みの眼差しは、朧の中に渦巻く得も言われぬ渇望を満たしていた。

「……あァ、殺ろうぜェ。その望み諸共に破壊してやる」

 目が合う。互いを互いが敵として認識し合う。跳び上がる朧の真下で影の竜が吼え、己の影から生えた黒の槍がこの身を貫かんと伸びあがって来ていた。
 構わねェ、とロープを引き、愛用のギロチン刃へ全体重をかければ垂直。増えた片方へと朧は落ちていく。

 目に見えるすべてを己が全てで断ち斬ろう。
 この命総てを刃として、その命総てを奪い尽くそう。

 今も昔も不変と語る『彼』の、唯一無自覚の変化。一方的な蹂躙よりも、より強い者との総てを賭けた殺戮に惹かれてしまったが故の狂喜が、竜の形をした何者かへと吸い込まれ凶器となって貫くと――

 がちん、と刃の先で何かが割れた。

 瞬間、引き裂いた影竜の身体がぼろりと崩れて跡形もなく消え失せる。身体の内に核となるものがあったのだろう。其れが砕けて、此れは散った。
 何だ、ちゃんと死ねるじゃねェかと畳に刺さった刃を引き抜きながら、脚から伝った感触に浸りかけていたところを黒い爪が横薙ぎに襲い掛かる。
 そうだ、一体ではない。身を分けて生んだ己を殺されて、残る影の竜が怒り猛っている。溢れる憎悪に、咆哮に爛爛と黄金の双眸を輝かせれば、この極限に命の眩さを見出して朧は笑った。

「さァ、俺の命を奪ってみなァ!!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

千桜・エリシャ
華やかな世界にも影は付き物ですのね
嗚呼…“華やかだからこそ”かしら?
桜の下には屍体が埋まっている
美しさとは対極の上に成り立つものよ
だってそれらを糧に咲き誇るのですもの

宿場町で水子の魂
…女郎が堕ろした赤子かしら
うちの宿も昔は郭でしたから
可哀想に
母の元へ還してあげる
その首を斬り落としてね

そんなに見られても私はあなた方の母にはなれませんの
串刺しになる寸前
この身を解いて桜に変えて
するりと見切り避けてみせましょう
さぁさ、捕まえてごらんなさい
束の間の鬼ごっこ
翻弄しては斬撃に生命力吸収を載せて私の糧にして
頃合いを見て背後に顕現
首を斬り落として差し上げましょう

あとに残るは血染めの桜
私が咲くための糧にしてあげる



●儺
 焼かれど斬られど、影竜の暴威は衰えず。
 散り飛ばされた箇所に怨情を接ぎ足して塞ぎ、それでも足りないというのなら下層で散った同胞達の命を吸い上げて禍く生長していた。赤く発光する形なき眼が敵の姿を捕捉せんと忙しなく蠢く中、悠々と一人の女が和傘片手に竜の視界内へと歩み出でる。
 しゃんと伸びた背筋、宵色に桜を隠した柔い髪を揺らして止まり、千桜・エリシャ(春宵・f02565)は薄く花を盛った唇をなぞる。

「宿場町で水子の魂……女郎が堕ろした赤子かしら」

 自分が譲り受けた旅館もまた妓楼であった建物を改築したもの。この階にやって来るまでに似た匂いを感じていたこともあり、エリシャは其れの基盤をすんなりと見抜いた。
 問題があると言うのなら、その水子の魂を余剰に覆い過剰に纏う数多の怨念邪念。

「母の元へ還してあげる。その首を斬り落としてね」

 陽に曝された事の無いような白い膚へと視線を移した影の竜が低く唸り声をあげればエリシャは傘を閉じ、代わりに手にかけたのは大太刀の柄。抜き放つ一刀は墨の如き艶黒。いざ参らん、凛と微笑むエリシャの足元で影が泡立った。
 真下から鋭く突きあげた黒塗りの剣山が女の華奢な肢体を串刺して赤く血潮の花を咲かせる――等と謂う未来は桜吹雪が掻き攫う。

「そんなに見られても、私はあなた方の母にはなれませんの」

 ごめんなさいね、ところころ微笑むエリシャの姿が少し離れた場所に現れる。影竜が再び視線を向ければ影より伸びる槍が女を貫く。が、やはりその身は桜の花弁となって躱されて、ふわり、ひらり。舞う蝶よりも軽やかに黒槍の連撃を避けてゆく。
 鬼さん此方、手の鳴る方へ。さぁさ捕まえて御覧なさいと遊ぶ足元で影を躍らせながら、絢爛豪華な内装と影竜の醜怪な姿を見比べてエリシャは独り言ちる。

「華やかな世界にも影は付き物ですのね。……嗚呼“華やかだからこそ”かしら?」

 とんと爪先で畳を蹴る。鬼の膂力で振り翳す大太刀はただ一閃振るうだけで影竜が伸ばした腕を断ち切った。斬り落とされるはずの腕から先は地に着くことなく刀に吸われ、刃の黒を一層深く艶めかせる。
 あれは命を喰らうものだ、少なからず己を喰い尽くすことの出来るものだ。
 そう理解したところでもう遅い。影竜の眼は舞い踊る桜の花弁と女の姿を捉えきれなくなっていた。

「桜の下に死体が埋められるように、美しさとは対極の上に成り立つものよ」

 だってそれらを糧に咲き誇るのですもの。
 弧を描いて飛んだエリシャの身体が竜の眼前で桜に転ずる。あまく、甘い、桜の香りに包まれて竜は刹那、感覚のすべてをそれに奪われた。擦り抜けて背後、現出したエリシャは最初に告げた通り、影竜の頸を刎ね飛ばす。感触は薄く、人の頸とは勝手の違うそれに聊かの物足りなさを感じながら、刃を納めることなく影竜の姿を見上げた。
 まだこれは生きている。頸を落して尚、生の執着に藻掻いている。花霞の目に蠱惑の紅を差せば、ぞぶりと己の頸を飲み込み新たな頭を形作った影の竜へと向けて、

「私が咲くための糧にしてあげる」

 鬼が咲った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

六間・愛
まだ、赤ちゃんなのね。
ここは暗くてさみしいベビーベッドね。
お話できなくても、言葉がわかんなくても、ハグはわかるかなあ。
ううん、わたしがそうしたいだけ。かわいい子たち。
おいで、ぎゅってさせて、ちょうだい。

(募る愛おしさから二万由旬)
(宛ら、おままごとのお母さん役。影竜を抱きしめて、あやし、加減のない怪力で竜がひしゃげるほどの鎧砕きも敵う力をこめる)
(視線は受け止めて、傷つくことも厭わない)
痛いね、痛いのも、いとおしいの。
大きくなあれ、わたしのからだ。腕に赤ちゃんたちが収まるくらいに。

(小唄を口遊み)
大丈夫。あなたたちが眠る場所は、みんなもいつか行くところ。
お歌の続きは、お母さんが歌ってくれるわ。



●偽
 一見負傷は少ないものの、影竜の身体は最初にこの階へと足を踏み入れた時と比べれば幾分か小さくなっていた。
 注ぎ足し続けていた下層の怨念も各階に留まった猟兵達の足止めが功を為したか、いい加減品切れが近づいてきたらしく、影竜も次第に焦りからか攻撃が乱雑になっていた。
 耳を劈く雄叫びは痛ましい程に響き渡り、空気を裂いて其れの耳に届く。

(まだ、赤ちゃんなのね)

 吐息を漏らす六間・愛(インフェルノインハンド・f17540)の翠玉の眼には、影竜の紅く割れた腹に泣き喚く赤ん坊の姿を幻視していた。母を求めているような、温もりを探しているような、心に爪を立てるような竜の鳴き声に己が母性を揺らされて、愛は武器一つ持たぬ両の手を見つめる。
 会話できる相手ではないことは解っている。意思の疎通自体が難しいかもしれない。ならばせめて出来る事はないのだろうか。ぎゅっと掌を握り締めて浮かべるのは敵を倒すための手段ではなく、迷い子に温もりを与える方法。

(ハグは、わかるかなぁ)

 例え人非ざる身に堕ちようと人であった頃の感覚は残っているはずだからと――否、否。そうではない、わたしがそうしたいだけだと己の我儘を貫くために歩み出す。
 そうしたいから、抱きしめて、泣いているあの子を苦しみから解き放ってあげたいから。愛は両手を広げて影竜を見上げた。

「かわいい子たち。おいで、ぎゅってさせて、ちょうだい」

 一歩、乙女の熱は増大する。
 無限に平等、万人へ注がれる愛の情念は彼女自身の肉体を最適化する。即ち、彼の憐れなる赤子を腕に抱ける母に足りうる器(スケール)への昇華。
 一歩、乙女の愛は爆発する。
 前線にいた猟兵達が膨張してゆく愛の姿を見て一斉に後退する。戦闘を中断せざるを得ない程の規模、天井に届くなどという次元の話ではない。大広間一つを占領するほどの巨躯へと成り果てた愛は、いつの間にか影竜を見下ろしていた。
 巨大であるから鈍重である、等という発想は愚の骨頂。差し出した腕は影竜が動き出すより早く、不定形の身体を捕まえて腕の中へと閉じ込めた。

――こわくない、こわくないよ。わるいこね、いいこ。

 愛の声はまさしく聖母のそれであるというのに背筋が凍るほどに恐ろしかった。
 禍々しき竜へと頬を寄せ、目いっぱいに抱きしめる。そういえば聞こえは良かっただろう。実際は、万力の如く締め上げて、今にも潰してしまいそうなほど竜の形は拉げていた。
 痛みはない。なくとも確実な脅威を感じ取ったのであろう影竜は、愛の拘束から逃れんと身をうねらせた。遥か頭上にある化け物の緑眼を仰ぎ見て、部屋中に落とされた彼女の影から無数の杭を穿つ。そのどれもが愛へと突き刺さり、夥しい体液が零れ落ちていった。
 が、愛は微笑みを絶やさない。

「痛いね、痛いのも、いとおしいの。大丈夫。あなたたちが眠る場所は、みんなもいつか行くところ。お歌の続きは、ほんとうのお母さんが歌ってくれるわ」

 広げた翼をおくるみに、孵らぬ卵を温めるような堅牢さで影竜を抱きしめ直す。絶え間なく続く苦痛はまるで地獄の最下層。阿鼻叫喚さえ生易しいと錯覚する無間の情愛は影竜を決して逃がさなかった。
 口遊ぶは子守唄。宛ら獄卒の呪い声。
 総ては愛の気が済むまで続く一中劫の抱擁、無情な飯事は竜が抵抗を止めるまで続いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

風鳴・ひなた
【属性攻撃】で桜混じりの風を起こして窓を開き
四つ足で駆ける
窓の外が"外"じゃないとわかっていても
きみたちの最期を閉じられた世界で終わらせたくない

影竜へと亡霊ラムプから火を放つ
巨体のすべてを焼くことは叶わなくても目くらましには十分だろう
それでも黒い槍が伸びたなら、放った炎を一度消すよ
大きな光源を失って影の位置が変われば
そこから伸びる槍の向きにもズレが生じて避けやすくなるかも
相手の初撃が当たってしまったら、
視線から逃れるよう回り込んで爪牙での接近戦
上手く避けられたなら引き続き炎と風で注意を引けるように動く

閉じ込められていた僕を
此処にいない彼女を
重ねているだけかも
それでも、きみたちを外へ連れ出したい



●偲
 既に其れは擦り切れていた。
 幾度とない猟兵達の攻撃に身を斬られ、魂を奪われ、核となる中枢も罅割れて崩れかけ。あともう一押し、たった一押しでこの影朧は倒れて骸の海へと沈むだろう。
 そんな状況で、一旦攻撃を中断して欲しいと告げたのは彼の竜と同様の漆黒に染まった異形の獣。風鳴・ひなた(怪物と花・f18357)は武器を下ろした面々の合間を四つ足でゆっくりと歩いて、影竜の前。今となってはこの黒狼よりも小さくなった影竜は首をもたげて睨み付けるも、ひなたの影は動かない。
 その様子に、抵抗する力も残されていないのだと察したひなたは、警戒する野良猫へ語り掛けるように声を掛けた。

「ねえ、きみたちは、本当はここにいたくないんじゃないのかな」

 覗き込む六つの桃色に、竜の赤が映って揺れる。互いの言葉はわからない。竜には人間の繰る言語を聞いたことなどない。説得などできるはずもなかった。
 だが、音は理解できた。音に含ませた感情の変化程度は其れにも嗅ぎ分けられた。先程まで聞いてきた言の葉の数々も意味は分からないままであったが、明らかに敵意を感じられない者には攻撃を止めていた。
 故に、ひなたの言葉を聞き入った。音の響きだけで眼前に座り込んだ奇妙な生物が己を害さぬと理解した其れは傷付いた身体を動かさぬように視線だけを向ける。
 竜が此方へ攻撃してこないのだと解れば、ひなたは一際やさしく己の願望を語って聞かせた。

「きみたちを外へ連れ出したいんだ」

 誰も害さぬようにと、誰にも救えぬからとこの場所に閉じ込められ続けていたこの竜を、この狭い世界だけで終わらせたくない。
 脳裏へ浮かべる古い記憶が、この小さくなってしまった影朧と自分達を重ね合わせてしまうからかもしれない。あの日「彼女」の手を取れなかった、一緒に往けなかった弱い自分のままでいたくなかったからかもしれない。
 これが偽善であっても、救いたいと祈る心は無垢であると信じたかったから。

 とはいえ、ここは窓のない密閉された大広間。更にはどれだけ壊せども屋外へと至る事は出来ず、歪に繋ぎ合った室内の風景は無限と続く。
 どうやって?と問いかける誰かに、ひなたは尾を揺らしていくつかの推測から見出した解の一つを説明した。

「ここは結界なんだ。きっと、ここに巣食う影朧達が思い描く共通の安全圏。自分達が生きていた、過去の一部をそのまま切り取った結界がこの宿。多くの影朧がここから出てこなかったのは、この建物の外が違う時代――自分達が知らない時代だったからなんじゃないかな」

 だから、と一息。

「この子が、この子たちが自分達から出ていこうとすれば、ここから出られると思う」

 下層も足止めに残った猟兵達により完全に占拠されている今、この場所に存在している影朧はこの竜一体。あとはこの竜の意思ひとつで結界は解かれるはずだとひなたは推測する。
 付け加えるなら、猟兵達が存分に疲弊させて影竜自身も戦意が失われた現状ならば、あとは脱出の手伝いをするだけでそれらの条件が揃うのではないか、と。
 どうだい?と問い掛けるが影竜の反応は薄い。内容の把握もさることながら、結界に関すること自体特に察してはいない様子ではある。
 よく解らぬと言いたげな竜に、ひなたは感情の分かりにくい獣の顔にやんわりと笑みを浮かべて見せる。

「――だいじょうぶ、僕達で導くよ」

 揺らす亡霊ラムプが赤い光を湛えた。
 竜の眼よりも温かく、夕焼けのように柔らかな炎が漏れ出して、ひとつの火球となる。それがふわりゆらりと浮き上がると、これについていって。とひなたは天上へ向けて指差した。
 意図を汲んだか、竜は炎の後を追うように翼を広げた。優しい風がよろめく竜の身体を支えればゆっくりと押し上げる。その様子を見て、他の猟兵達も各々が為すべきと感じた行動をとった。

 誰かが手を振って、彼らの背を押す代わりにと別れのしるしを地上に残した。
 誰かは何もしなかった。ただ弱り切ったそれを見送るだけに留めた。
 誰かが刃を振るって、彼らの道を遮らぬようにと天井を打ち壊した。
 誰かは何もできなかった。しかし空いた天井の先に続いた景色が、次なる部屋ではなく見知らぬ空であることをその目に捉えていた。

 暗澹たる空の中に吸い込まれたさそりの心臓を目印に、影竜は滅びながら飛んでいく。
 散り散りになった身体を、桜の花へと変えながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​


●幕
 昏く鎖された夜の結界、世から隔離されたその場所で。
 多くの邪念、妄念、悍ましき怨念の数々を削ぎ落された一体の影朧は思い出す。


――そうだ、我等は、我等の望みは、産まれてきたかった。それだけだったのだ。


 泣きながら駄々をこねるだけの自分達に、温かかった何かが知らせてくれた。
 檻の中に在りながら地獄を巡った自分達に、願いのありかを教えてくれた。
 だから其れは未来を求めて、灯かりを追い駆けた。
 きっと何処かで彼らを癒す桜の精と出逢うだろう。頭を垂れる彼らは癒され、何れ世界に融けていき、新たな命として生まれ往く。

「此れにて、幽世を舞台に繰り広げられし大演舞は無事終幕。
 まつろわぬ者達は最早此処には居らず、いつかどこかに産まれ来る。
 次なる舞台は現世か。或いは異なる世界の何処か。それを知るのはまた、何れ」

 斯くして、影朧連なる逢魔が辻のひとつは消滅し、この地に平和が訪れた。



                               ――――完

最終結果:成功

完成日:2019年11月15日


挿絵イラスト