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午前0時のマヨナカトラベル

#UDCアース

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#UDCアース


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●マヨナカトラベル
 スーツ姿の酔っ払いの男が、とぼとぼと街を歩いている。
 ここは飲み屋街が近い。仕事で溜めたうっぷんを晴らしにでも来ていたのだろう。
「うー……たぁぁくしぃぃでもねぇぇかなぁぁ……」
 もう日付も変わってしまっている。終電の望みがないのか、あっちへふらふら、こっちへふらふら、覚束ない足取りで歩きながら、帰宅の足を探していた。
 そこに、音もなく背後から近づくバスが一台。ヘッドライトの光に気付いて男が足を止めると、バスはゆっくり男の横へ停車し、乗車口の扉を開いた。
「おぉぉ~? バァァスたぁぁありがぁぁたいねぇぇ……」
 ここにバス停はない。バスが走ってくることも停まることもないはずなのだが、酔っ払いの男にはその辺の判断などできるはずもなく、これ幸いとバスに乗り込んでいく。
 男が乗り込むと、バスは静かに扉を閉めて、街から走り去っていくのだった。

●バスはどこに消えたのか?
 この日もロザリア・ムーンドロップ(月夜の雫・f00270)はグリモアベースで猟兵達を集めていた。自身が視た予知についての話をするためだ。
「今回は、どこからともなく現れて、人を乗せて去っていく奇妙なバスの事件を解決してほしいんです」
 ロザリアは、事件に関する情報を記載した『ぐりもあのーと』を開き、概要を説明していく。
「今回の事件は『UDCアース』という世界のとある町で発生しています。その町では、真夜中……もう少し詳細に言うと、大体日付が変わる午前0時以降に、奇妙なバスが現れるそうなんです」
 都市伝説のようにも聞こえるが、事態はもっと深刻だという。
「そのバスは歩いている人の横に停まって、扉を開けて乗ってもらおうとするみたいですね。そして、もし乗り込んでしまうと、どこかに連れ去られてしまって、行方がわからなくなってしまうんです」
 もはや立派な誘拐事件だ。それが人為的なものであれば――凶悪事件に変わりはないにしろ、もう少し解決への道は楽なものだったろう。
「もちろん普通のバス会社が運行しているものではありませんし、バスで誘拐なんて目立つことをわざわざやるなんて、普通の事件とは考えにくいです。ですから、まずは奇妙なバスを調査して、その行き先を突き止めて下さい」
 事件を解決するには、その元凶を断つ必要がある。バスの被害を防ぐのではなく、あえて泳がせることで、その大本が何なのかを解明するのだ。
「バスは複数確認されているようなので、事件解決に赴かれる方々が一緒に一つのバスを追う必要はありません。皆さんそれぞれやりたいように調査してみて下さい。あと、行き先を突き止める必要がありますから、奇妙なバスの運行を阻止するのは、控えておいた方がいいかと思います」
 バスの行き先を突き止めれば、事件の首謀者か、それに近い存在に辿り着ける可能性が高い。この事件は普通ではない、と考えるのであれば、それは必然的に。
「事件の裏には、オブリビオンの存在があるかもしれません。その場合は、容赦なくやっつけちゃって下さい。よろしくお願いします!」


沙雪海都
 2019年も頑張ってまいります。沙雪海都(さゆきかいと)です。
 今回もまたまた初めて扱う世界、『UDCアース』での事件になります。

●第1章でやること
 バスの行き先を突き止めましょう。方法はお任せします。
 行き先当てクイズではありませんので「これなら行き先わかりそうだ!」っていう手法みたいなものを考えられると良いかと思います。
 OPでも触れていますが、バスを止めるような行動をしてしまうと、判定としても悪くなることが予想されます。注意しましょう。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『真夜中の空車(むなぐるま)』

POW   :    実行あるのみ、実際にバスを探し出し乗り込む。

SPD   :    バスのあとを何らかの手段でつけてみよう。

WIZ   :    目撃情報などを調査、バスの行先をわりだす。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

伊兵・ミカ
人さらいバスか…どこに連れてかれてるんだろう?
ここはそう、実行あるのみかな

POWで、実際にバスに乗り込むよ
バスが来るのは真夜中0時頃…
その辺りにバスが通る大きな道路でぶらぶらする
…酔っ払ってるみたいに、千鳥足のほうがいいのかな。一応、やってみよう
(フラフラ)
結構難しい
バスが来てくれたらラッキー
乗り込んだら大人しく寝ているフリをする
到着するまでドキドキするなぁ

来なかったら他の道路に向かって一人でいる人を追いかけよう
走って追いつけるかな…



●千鳥足入門
 街灯が等間隔に並ぶ大通り。昼は買い物客が多く、夜はレストランや居酒屋を目当てに集団が押し寄せる、といった形で賑わいを見せている場所だが、さすがに午前0時を回る頃には閑散としていた。
「人さらいバスか……どこに連れてかれてるんだろう?」
 伊兵・ミカ(PigeonBlood・f05475)は事件について考えながら、真夜中の街を歩く。
「……おっと、時間だね」
 ここからは奇妙なバスが出没するとされる時間帯。ミカは自ら奇妙なバスへ乗り込んで、その行き先を突き止めようと画策していた。
 バスは歩いている人の前に現れるようであったが、それ以外の現れやすい条件等はよくわかっていない。ただ、グリモア猟兵の予知の中で酔っ払いの男の前にバスが現れる場面があったためだろうか。ミカは試しに酔っ払いの振りをしてみることにした。
「千鳥足のほうがいいのかな」
 頭で酔っ払いの姿をイメージしながら、体をふにゃふにゃとくねらせて、足元もあえてバランスを崩すような感じで歩いてみる。
「……結構、難しい」
 試してみると、どうにもイメージ通りの動きができていない。何となくそれっぽい動きにはなるのだが、どうしても途中で足が止まってしまう。
 酩酊状態の者であれば、恐らくそのまま転倒してしまうところ。ただ、意識がはっきりした状態のミカだと転倒しないよう咄嗟に堪えてしまうのだ。
「もう少し、こう……」
 不出来な千鳥足へ、ミカはなんとか改良を加えようとする。足をクロスしてみたり、体重を後ろへ預けてみたり。
 そして試行錯誤を繰り返し、気付く。
「あれ、バスは……?」
 もう日付が変わってから結構な時間が経っているはずだが、未だミカの前に奇妙なバスは現れていない。
 千鳥足の演技がまずかったか、と不安になるミカ。だが、演技の上手下手などはその場にいなければわからないことだし、町は広い。今は他の誰かのところへ出没している、というようなことも考えられる。
 ここまで遭遇していないのは、ただ運が悪かっただけ。そう言う他ない。
 仕方なく、他に一人で歩いている人を探そうと考え、夜の街を走り回る。だが、ミカがいる近辺にはあいにくそういった人影もなく。
 諦めようかどうしようか、と考えていたところに、パッと周囲が急激に明るくなった。見ればそこには一台のバスが。
 徐行運転でやってきて、ミカの横に停車。ゆっくりと乗車口を開いた。
「バスだ……よかった……」
 ほっと胸をなでおろし、ミカはバスへ乗り込んだ。車内を見回したが、乗客はミカ以外にはいない。
(到着するまでドキドキするなぁ)
 あとはこのまま連れていってもらうだけ。ミカは最後部の長い座席に横になり、そっと目を閉じて待つことにした。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

リネット・ルゥセーブル
全国規模で発生している都市伝説の調査と来たか。
これは厄介だな。

とりあえず情報をかき集め、傾向を掴むとしよう。

インターネット上の、オカルト・都市伝説の類を扱っているサイトに片っ端から当たり【情報収集】する。
キーワードとしては『真夜中』『バス』あたりか。
すべてが正しい情報などまず無いだろうが、質は量でカバーする。
地図上にプロットし、傾向を見ていこう。

ひとまずの仮説は
・一定の箇所に集まるように動く
・何本かの線上に乗るような形で集まっている
の2つとしておく。
他に【第六感】で仮説が浮かべばその線でも調査してみようか。



●情報選択
 奇妙なバスに関する調査を開始するリネット・ルゥセーブル(黒ずきん・f10055)の姿はこの町のネットカフェにあった。
「都市伝説の調査と来たか……これは厄介だな」
 パソコンの前に座り、インターネットブラウザを起動する。すぐに有名な検索サイトが開いた。
「この手の話は質より量だ。まずは片っ端から情報をかき集めるか」
 『真夜中』や『バス』といった単語を入力して検索をかけ、出てきた情報を洗いざらい調べていく。
 やはり眉唾な情報が多い。ネット上の匿名掲示板などでも、嘘か真か、といったことが侃々諤々と議論されている。話が脱線し、単なる言い争いになっている場面もあったが、そこは丁寧に情報だけを拾っていく。
「目撃情報もあるな……」
 リネットはこの町の地図を適度な縮尺で印刷し、その中に、奇妙なバスが目撃された場所を書き入れていく。その情報が真実であるという保証はないが、何らかの法則性があれば、それなりに信憑性も出てくるというもの。
 リネットは仮説を二つ立てていた。一つは、『一定の箇所に集まるように動く』、もう一つは『何本かの線上に乗るような形で集まっている』というものだ。このどちらかに当てはまるようなら、この先も考えやすい。
「目撃場所に法則は……なさそうか」
 まずは点としてプロット。町の広範囲に目撃情報があり、これだけでは判断できない。
 目撃情報には、その場所で見た、というものの他に、ある方向へ走り去っていった、というのもあった。そのような情報があるものについては、点から矢印を伸ばし、方向を加えていく。
 改めて地図を眺める。点、そして線。この二つを以ってしても、その法則性は見えず――。
「……いや、これは……」
 悩みながら全体を俯瞰した時、ふと目に付いたいくつかの点。移動先の目撃情報があったものだが、その線を、自身の直感で伸ばしていく。
 その経路をバスが実際に通った、という根拠は全くないが。
「……山、か?」
 伸ばした線が集まってきた。調べてみると、この町の外れにある山は、休日はキャンプやピクニックなどのレジャーで賑わうとのこと。
「……何かあるかもな」
 もとよりネット上には確信に繋がる情報などない。リネットは自身の勘を頼りに、さらに調査を進めることにした。

成功 🔵​🔵​🔴​

オルト・クロフォード
UDCアースには初めて来るナ。(きょろきょろ)
しかし真夜中に人を乗せて去っていく乗り物……目的が分からないからか不気味に感じるナ……

【POW】の行動方針で行こうと思ウ。ただ、肝心のバスの事を知らなければ乗り込めないからナ。バスには特徴が有るのカ、どんな場所で目撃されているのカ、狙うのは一人きりのタイミングのみなのカ、等々そういった事を聞き込みなどで聞き出したり、【世界知識】で多少は知っているPC(図書館かネットカフェにあるやつ)で目撃情報を検索してみたりして【情報収集】してから、謂れの通り、午前0時頃に通行人のふりをして待ち伏せして乗り込むゾ。



●初めてのUDCアース
 人で賑わう街をきょろきょろと、周りをやけに気にしながら歩いている者がいた。一歩間違えれば不審者扱いだが、この男、オルト・クロフォード(クロックワーク・オートマトン・f01477)はれっきとした猟兵。奇妙なバスが現れるという事件の解決のため、ここに来ている。
「UDCアースには初めて来るナ」
 初めて訪れる世界。周りは興味を引く物ばかりだ。幸い、今のところ何らかのトラブルに巻き込まれるようなことには至っていない。
 オルトはまず、情報を集めることにした。最終的には件のバスへ乗り込むことを考えていたが、そのためにもそのバスに関する情報が欲しかった。
 道行く人に声をかけてみる。UDCアースの人たちはオルトに対して親切で、話しかければ答えてくれた。ただ、ほとんどの人は知らないか噂話程度で、なかなか有力な話は聞けずにいた。
 そんな中、オルトはあるサラリーマン風の男に声をかけた。すると、
「……ああ、あれか……?」
「知っているのカ!?」
「おう、前に一度、変なバスを見たことがあるぜ。あっちのアーケード街の向こうの通りを走ってるバスがあってよ。深夜バスか何かかと思ったけど、よくよく考えればあそこを通る深夜バスなんて、ねえしよ」
「そのバスの特徴ハ!?」
「あー……そういや、影みたいに黒かった気がすんなぁ……暗かったから、何ともいえんけどよ」
「情報に感謝すル。ありがとウ!」

 聞き込みを終えたオルトは、次にネットカフェに向かった。パソコンからインターネットに接続し、目撃情報の検索を始める。
 目撃情報その他、ネット上には情報が数多く存在していた。インターネットの性質上、真偽のほどは不明と言わざるを得ないが、先程サラリーマン風の男から聞いた目撃場所近辺の話がネット上でも確認できた。
「この辺ガ、怪しそうだナ」
 ここまでの情報を総合して、オルトはバスを待ち受ける場所を決めた。

 そして真夜中。オルトは一人、サラリーマン風の男に聞いた通りを歩いていた。
「……来たカ」
 ある時、ふっと音が消え、放射状に広がる光がすうっと横を通り過ぎた。そして、黒い車体のバスが、ピタリとオルトに横付けする。
 乗車口が開かれる。車内は暗く、人を迎え入れるには不相応にも見えたが、オルトは黙ってその中に乗り込んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

幻武・極
人攫いのバスとは奇妙だね。
大型車両じゃあ、目立ってしまうのにね。
何か意味があるのかな?

まあ、とりあえずはバスがどこに行くのかを調べないとね。
ボクはゲームデバイスのGPS機能をオンにしてバスの中に放り込むよ。
これでバスの行き着く場所がばっちり分かるね。



●バスは進むよどこまでも?
 幻武・極(最高の武術?を追い求める羅刹・f00331)は真夜中の街を歩く。ゲームデバイスを手に、バスとの遭遇を待っていた。
「人攫いのバスとは奇妙だね。大型車両じゃあ、目立ってしまうのに……何か意味があるのかな?」
 バスが現れるまでの間、少しばかり考える。何か、バスでなければならない理由でもあるのだろうか。
 考えてみても、答えはどうにも出てこない。やはり今は、事件解決のために調査を進めるしかなさそうだった。
 やがて、通りを歩く極の後方からバスが走ってくる。スピードをゆっくりと落とし、極の真横で停車した。
「……ようやくのお出ましだね」
 乗車口の扉が開いたところに、極はゲームデバイスを放り込んだ。GPS機能を搭載しているもので、位置情報を把握できるようにしてある。
 ゲームデバイスは床を滑って座席の下へ。それを見届け、極はその場を離れた。
 乗る者のいないバスはやがて乗車口の扉を閉め、静かに走り去っていく。
「……よし、バッチリだ」
 バスの後姿を見送りながら、極は位置確認用端末で動きをチェック。バスの動きに合わせて、端末上のマーカーが地図の上を動いているのが確認できた。
 バスはその後も少しばかり街中を走っているようだったが、やがて中心部から外れるように進路を変えた。それまで一度も止まらなかったところを見ると、おそらくバスは他に誰も乗せることができなかったのだろう。
「いよいよバスの行き着く場所がわかるね」
 マーカーの移動に合わせて地図を動かしていく。その先にあるのは近隣の山だ。バスは山道をどんどん進み、奥深くへ入っていく。
「山の中、か……この辺は人もあまり寄り付かなさそうな場所だし、凄い秘密がありそうだね」
 マーカーは山中のある場所で止まる。そこはおそらく敵地、ということだろう。
 極はマーカーの位置を記録すると、その場所へ乗り込むための準備を始めることにした。

成功 🔵​🔵​🔴​

シウ・ベルアート
バスでの誘拐となると被害者は一人だけではないはず…。
まずは最近被害にあったサラリーマンを起点に目撃情報やサラリーマンの通勤ルートを調べてみるか。
通勤ルートが分かればバスが止まった位置が特定でき、
さらに他の目撃情報や被害者の情報を繋げて大よそのバスが通ったルートがみえるはず…。
聞き込み調査でバスが通ったルートの他に被害者の共通点なんかも見つけられたらいいけど。
誘拐をするなら最終的に人気のない場所か大勢の人を確保できる場所に連れていくのがセオリーだ。
バスが通ったルートから推測してみようか。
ある程度、情報が揃ったらバスを待ち伏せし【影の追跡者の召喚】でバスを追跡してみよう。



●情報と推理
 ビルが立ち並ぶビジネス街。スーツひしめく雑踏の中にシウ・ベルアート(灰色の調律者・f04914)は佇んでいた。眼鏡の奥からじっと人々の様子を観察している。
「バスでの誘拐となると、被害者は一人だけではないはず……」
 シウはグリモア猟兵の予知の話を参考にしつつ、サラリーマンを対象に情報を集めることを考えていた。被害に遭ったサラリーマンから、その目撃情報や通勤ルートを調べ、バスの出没地点を特定する。それがシウの狙いだ。
 方針を固め、シウはさっそく聞き込み調査に入る。あくせく働くサラリーマン達ではあったが、シウの話には耳を傾けてくれていた。
 それでも、しばらく大した話は聞けなかったが、
「……そういや、隣の部署で一人、無断欠勤してるとかいう奴、いなかったか?」
「あぁ、そっすね」
 昼食のために外出していたサラリーマンの二人組に尋ねたところ、所在不明の人間に関する話が返ってきた。
「その人、いつ頃から無断欠勤してるんですか?」
「んー……先週の頭くらいか?」
「会社で見なくなったのはそれくらいっすけど、前の週にあった飲み会の次の日からメッセージの既読がついてないって話らしいっすよ」
 グリモア猟兵の予知の話と状況が似ている気がして、シウは詳細な情報を得るためになおも突っ込んで聞いていく。
 話の終わり、シウはサラリーマンの貴重な昼休憩の時間を割いて話をしてくれたことに謝意を述べ、その二人組と別れた。
「これはかなり有力な情報だね」
 所在不明の人物の、失踪したと思われる日の行動に、普段の通勤ルート。彼らはバスそのものを見てはいなかったが、行きつけの飲み屋街の場所なども教えてくれた。
 午後になり、人だかりがまばらになってきた。サラリーマンの姿は依然として見られるが、シウは一旦情報整理に専念することにして、夕方を待つ。
 日が落ち、街頭に灯が入るころ、シウの姿はサラリーマンに聞いた飲み屋街にあった。仕事終わりのサラリーマンが、一日の労をねぎらうために街に繰り出している。
 仕事が終わって気分がいいのか、サラリーマン達は色々な話をしてくれた。
「そういえば、あの先輩、最近見てなくない?」
「見てない見てない。体調崩したって聞いたけど、連絡しても返事ないし……」
 被害者と思しき人間の話がまた一つ。シウは詳細な話を聞きだして、情報を纏めておく。
 そんなことを繰り返し、夜が更けて。
「集めた情報を繋げていくと、バスのルートは……」
 バスの追跡までを考えていたが、日付が変わるまでにはまだ少し時間がある。シウは一日街を歩き回って集めた情報から、バスのおおよそのルートを推測することにした。
「……決まった道は走っていないように見えるけど、深夜でも人がいそうな場所にはよく集まってくるようだね。あとは……この辺り」
 地図の一点、そこは街の中心部からは離れていたが、何故か目的情報が他より多かった。
「多分、バスがどこからか来る時、どこかへ去っていく時にはここを通るんだろう。なら、ここで待ち伏せすれば、必ずバスに遭うはずだ」
 出現ポイントを割り出し、その場所に向かいながらさらに集めた情報について考える。
「被害者と思われる人達は、年齢も性別もバラバラ。あえて言うとすれば、全員成人、ってくらいか。深夜に起こる事件だから、深夜に出歩ける人が被害に遭う、と考えれば、妥当な結果ではあるね」
 その他、色々な方面から情報を見ていったが、特別事件の全貌を解き明かせそうな事実には当たりそうになかった。
 しばらく歩き、目的の場所までやってくる。時刻は午前0時をとうに過ぎており、いつバスが出没してもおかしくない。
 肌寒い風に晒されながら待っていると、遠くに見える二つの明かり。迫ってくるにつれ、その全貌が確認できた。
 バスだ。街の中心部のほうからやってきた鈍足のバスは、シウには目もくれず過ぎ去ろうとする。
「待ってたよ。じゃあ、やるとしようか」
 シウはユーベルコード【影の追跡者の召喚】を使って影の追跡者を召喚。夜闇に紛れさせながら、バスを追跡させた。
「この先は……山に入るのか」
 影の追跡者を通して見た風景。道が細くなり、両脇に木々が増え、上り坂になっていく。
「……なるほど、こんなところに」
 深い山中のとある場所、バスが停まった先に見えたものは。
「これはまずいね……早く行かないと」
 シウは改めて地図上でバスが辿り着いた場所を確認し、現場へと急ぐのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『マガツアリス』

POW   :    古き神々の意志
【邪神「第零の蟻」】を召喚し、自身を操らせる事で戦闘力が向上する。
SPD   :    呪われし鉤爪
【異様に膨れた両腕の鉤爪】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    軍隊蟻の行進
いま戦っている対象に有効な【悍ましき妖虫】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●儀式場・マガツアリス
 そこは地元住民のレジャースポットとしてよく知られる山。それでも、奥深くまで分け入れば、人が寄り付かぬ未開の地となる。
 そんな場所に作られていたのは邪神召喚の儀式場。周囲の草木が綺麗に伐採され、開けた土地となっていた。
 地面に描かれた巨大な魔法陣と、それを囲むように焚かれた炎。松明のようなものも立てられ、真夜中だと言うのに、この場所だけは真昼のように明るい。
 街へ向かっていた奇妙なバスが次々と到着する。召喚の儀式に必要な生贄を連れてくるためだ。
 今日は何人の生贄が集まったか。儀式場に集まっていた無数のオブリビオン――マガツアリスの一体が確認のためにバスに近寄ろうとする。
 だが、彼らは気付いていない。バスのいくつかには猟兵が潜んでいること。バスを追う猟兵がいること。集めた情報から、バスの行き先を割り出した猟兵がいること。
 猟兵達は見事この場所に辿り着いた。バスから飛び出し、または現場に駆けつけて、オブリビオンと激闘を繰り広げる――。
オルト・クロフォード
やはりロクでもない場所に着いたナ……さテ、どうしたものカ。

バスに近づいてきたマガツアリスに【ガジェット・ショータイム】を使用する。素早く窓を開けて召喚した蒸気式銃器型のガジェットで【属性攻撃】をすル。使う属性は氷。【スナイパー】技能を使い主に腕&凍結による動きの阻害を狙って攻撃すル。万が一の切断が怖いからな。バスの窓の下や座席の背もたれなどの遮蔽物を盾にして、できるだけ遠距離での戦闘を心がけたイ。なんならバスの中に入れないように銃の乱射で足止めするゾ。

増援が来たか妖虫を召喚してきたら、【フリージング・ロングハンドソーズ】も使用して冷気を纏った剣を召喚して放出し対処すル。

(連携歓迎です)


リネット・ルゥセーブル
成程、夜中怪しいバスに乗るような判断力の鈍った者なら、正気に戻る前に喰いきれるか。
実に業が深いことだな。数も多い。
……ではその業を拝借するとしようか。

まず【目立たない】ように森の中に隠れつつ『謂れなき呪詛返し』を当てて気を引く。
おそらく先遣隊として妖虫を差し向けて来るだろう。
それの攻撃をフィーネで受け、『歪む想定』で虫ごと拝借する。
それを仕掛けて相打ちさせていくとしよう。

万が一マガツアリス本隊が襲ってくれば、相手出来るにしても旗色が悪い。
【罠使い】で足止めの罠を仕掛けつつ、別の猟兵と合流を図る。
合流が出来次第【呪詛】の【援護射撃】で支援に回ろう。



●開戦! マガツアリス
「イケニエ、キョウモキテルカ?」
「チョットミテコヨウ」
 バスが儀式場に到着し、邪神復活の儀式を行うマガツアリス達はにわかに騒がしくなる。人間を誘拐していれば、それを生贄に邪神復活がまた一歩近づくのだ。
 特に警戒もせず、マガツアリスの一体がバスに近づいていく。だが、そこには――。
「やはりロクでもない場所に着いたナ……さテ、どうしたものカ」
 外の光が朝日のように差し込み、明るくなったバス車内。外の物音に気付いたオルトが窓からそっと様子を伺うと、そこには大量のマガツアリスが蠢いていた。
 姿形は人間に近く、風貌は女性を思わせる。全身がモスグリーンの装甲で覆われ、その手には蟹のハサミのような大きな鉤爪があった。
 そして特徴的なのが下半身で、足はあるのだが昆虫のように細く、胴から飾りのように生えて宙に浮いている。実際に移動機能を担っているのは、臀部が異常に発達した様を思わせる大きな尾部から伸びている触手状の足だ。
 マガツアリスは程なくオルトが潜伏するバスに乗り込んでくることだろう。そうなれば戦闘は避けられない。
「……やるしかないナ」
 一人掛けの座席の背もたれを力ずくで外し、盾として持つ。そして、乗車口の向こうに現れるマガツアリスを正面で待ち受けた。

 猟兵が潜むのはバスの中だけではない。付近の森には、ネットの情報などからこの場所を突き止めたリネットが息を殺して儀式場の様子を伺っていた。
「成程、夜中怪しいバスに乗るような判断力の鈍った者なら、正気に戻る前に喰いきれるか。実に業が深いことだな」
 この場で行われているであろうことを想像し、静かな憤りを見せる。
 マガツアリス達はリネットには全く気付いておらず、バスのほうに意識を向けていた。一体のマガツアリスが一台のバスに近づき――。
 静寂を破る破砕音が轟いた。
「何だ?」
 何かの攻撃をまともに食らったようで、マガツアリスは体を激しく弾かれて、糸の切れたマリオネットのようにふらふらと倒れていった。
 突然の事態に他のマガツアリス達がどよめき、バスのもとへ殺到する。
「他の猟兵か? なら都合がいい」
 森の中からの陽動的奇襲。偶然感づかれる可能性はあったが、他の猟兵との交戦により完全にマガツアリス達の意識がそちらに向いている今、その可能性は万に一つもなくなった。
 リネットはバスに集中するマガツアリスの群れへ視線を向ける。
『おすそ分けをしてあげよう』
 右腕に呪詛の黒い雷が迸り、手の中にエネルギー球が生み出される。それをマガツアリスの群れへシューティングゲームのように高速連射していく。
 想定外の襲撃に先遣隊のマガツアリスから叫び声が上がる。言葉を話す能力があるのか、実に人間らしい叫び声に聞こえた。
 だが、敵は紛れもなくオブリビオン。
「……では、その業を拝借するとしようか」
 リネットは後続のマガツアリス達が自分のところへ向かってくるのを確認し、絡繰り人形の一つ、くまの人形『フィーネ』を手に森を飛び出した。

 乗車口のガラス窓の向こうにマガツアリスの姿が見えた瞬間。
「吹き飛ベ!」
 オルトはユーベルコード【ガジェットショータイム】を発動させ、目の前に蒸気式銃器型のガジェットを召喚。ガジェットから放たれた銃弾が乗車口の扉を破壊した。
「グエッ!」
 マガツアリスは銃弾を鉤爪で防ごうとしたが無理だった。全身に銃弾を浴びたマガツアリスは成す術もなく倒れていく。
「よシ!」
 外のマガツアリス達が騒然としている。さらなる迎撃のために車内から窓を開けると、マガツアリスの大群が迫ってくるのが見えた。
「次ハ――」
「ウギャア!」
「グワァ!」
 オルトが『クロックフェイス・ガジェット』で狙いを定めたところに暗黒弾が飛来し、マガツアリスを先頭から次々に爆破していく。呪詛の力に飲まれた体は炭のように黒く染まって倒れていった。
「猟兵ガ、他にも来てるのカ?」
 姿は見えないが、仲間が他にいる。それだけで心強かった。
 マガツアリス達は暗黒弾が飛来してきた方向に目を向けていた。インパクトが更なるインパクトに塗り替えられ、マガツアリス達の意識の先は目下暗黒弾の主へ。そこに森から飛び出してきたのは、黒のロングマントを身に着けた妙齢の女性、リネットだった。
「アイツダ! ヤレ!」
 マガツアリス達は次々に地を這う悍ましき妖虫を召喚し、リネットに嗾ける。それをリネットは『フィーネ』を盾にして受け止めて、
『貰った』
 リネットは所持していたもう一つの絡繰り人形、ピエロの姿の『マッカラン』にユーベルコードの力を込め、マガツアリス達に向けて放った。『マッカラン』から溢れるように放たれた悍ましき妖虫が、マガツアリス達が放つ妖虫と次々に衝突し、攻撃を相殺していく。
「加勢するゾ!」
 リネットの絡繰り人形達が敵の攻撃を抑えている。その隙を突き、オルトは召喚した蒸気式銃器型ガジェットに氷の属性の力を込めて窓から敵軍を掃射した。
 まず狙ったのは腕。ガジェットから発射された冷凍弾はオルトの技術により的確にマガツアリスの鉤爪を撃ち抜き、凍り付かせていく。
 鉤爪を凍らされたことで一瞬戸惑ったか、妖虫召喚の波が緩んだ。そこをリネットが一気に押し切って、最後は同じ妖虫の突撃に屈しマガツアリス達は撃破された。
「君、名前は?」
「オルト・クロフォードダ」
「私はリネット・ルゥセーブル。リネットでいい。気を抜くな、次が来る」
 先遣隊は全て撃破したが、まだ大部分が残っている。
「ソノバスノヤツモヤッカイダ! ネラエ!」
 後続のマガツアリスはオルトとリネットの双方に襲い掛かる。先遣隊と同じくリネットには妖虫による襲撃を、オルトに対しては、後ろに控えていたマガツアリス達が高々と跳躍し、空中からバスを狙っていた。
「そっちへ飛んだぞ!」
 車内からは確認できない敵の攻撃を、リネットは声を張り上げてオルトに伝える。直後、バスのフロントガラスに鉤爪が突き立てられた。バラバラに砕け散って大きく解放されたフロント部分からマガツアリスがバスに侵入。さらに、ズドン、と破裂音と共に天井を突き破ってきた新たな鉤爪が。
「上からも来たカ!」
 オルトは正面のマガツアリスへ冷凍弾を見舞っていたが、上にいるものまで対処している余裕はない。正面のマガツアリスも、鉤爪を凍らされてなおオルトに襲い掛かろうとしている。
「こっちからやるしかないか」
 リネットは相殺していた敵の攻撃を一旦『フィーネ』で受けるだけに留め、
『我が罪を以てかの者を断罪する。其は焚き上げ棄却せし者。其は大地に着く足を失いし者。地よりも深く、穿て』
 言葉を紡ぎ、新たな力を解放する。リネットの体から湧き出すオーラは黒い鳥を模ってリネットに重なり、力を与えた。
 右腕の肩口から指先に向けて、黒い呪詛の炎が噴き上がる。
「燃えろ!」
 バスの天井へ上ったマガツアリスに向けて腕を振り出して黒炎を放射。鉤爪が天井を貫通したマガツアリスは回避行動をとれず、呪詛に焼かれて消滅した。
「……ここはもう厳しいナ」
 バスそのものの損傷が激しく、また死角が多いこともあり籠城が適さないと判断したオルトは、盾として使っていた座席の背もたれを目くらましに投げつけると、叩きつけられる鉤爪を転がるように回避し、破壊した乗車口から脱出した。そして素早く反転し、冷凍弾を車内のマガツアリスの頭に撃ち込んで活動を停止させる。
「助かっタ――いヤ、今度はそっちダ!」
 バスを襲撃したマガツアリスは撃破できたが、今度は『フィーネ』での防御が間に合わないほどの妖虫が二人に迫っている。
「またか!」
 リネットが『マッカラン』で再度防衛に回る。それと同時に、
『時を停めるのはさすがに無理だガ……動きぐらいなラ』
 オルトの周囲の空気が急激に冷え、空中に八十本もの氷の剣が展開された。時計の長針を模した氷の剣はオルトの意思に従い次々に発射され、前衛のマガツアリス達を貫いていく。
 氷の剣に射抜かれたマガツアリスが倒れると、妖虫の波も途切れた。
「まだまだいるようだが……戦えない相手じゃなさそうだな」
「あア、全て倒していけばいいだけの話ダ!」
 ここまでの戦いに大きな手ごたえを感じ、二人はさらにマガツアリスの集団に向かっていく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

幻武・極
ふう、やっと辿り着いた。
さて、ボクのゲームデバイスが乗っているバスはどれかな?
まずはゲームデバイスを回収してから、戦闘開始だね。

ボクはトリニティ・エンハンスで攻撃力を強化して殴り倒していくよ。
それにしても、あのオブリビオンのユーベルコードで出現したオブリビオンが邪神なのかな?
すごく禍々しい力を感じるよ。
いずれ、あれとも闘うことになるんだね。
それまでにもっと鍛えておかないといけないね。


アリア・ヴェルフォード
遅ればせながら加勢に来ました!
情報提供感謝ですね!
ここからは私も手伝いますよ!

【POW】
少々強力な個体のようですね!
やはり火力でお仕切るべきでしょうか!
光と闇の【属性攻撃】による剣撃で戦います。
【範囲攻撃】でまとめて斬りつけましょう。
囲まれてしまったらユーベルコードで周囲を一掃。
攻撃に集中するため【オーラ防御】で相手の攻撃を常に軽減
爪だけは【見切り】による回避で見極めていきます

私の属性は真逆に位置します!
はたして貴方達に常に有効手を出し続けられますか!?


シウ・ベルアート
戦闘となっても攫われた人達が邪魔になりそうだ。
マガツアリスは他の猟兵に任せ、僕は一般人の安全な場所に避難させる事を優先するとしよう。
【影の追跡者】を予め張らせておき、敵の死角や敵の位置を把握しておくか。

敵の動きに気付いていない振りをしながら一般人を避難させ、
一般人に襲いかかろうとしてる敵がいたらギリギリまで引きつけ、【ウィザード・ミサイル】や【シュバルツ・ウルフ】で返り討ちにする。
仕留め損ねた敵がいたらワザと攻撃を喰らい、「今だ、みんな奴を討つんだ」と叫び、敵に動揺を与え、血で起動した拷問具で騙まし討ちを仕掛ける。
「僕は君たちよりずっとズル賢いのさ」と決め台詞を放ち、【天刻蒼魔】で止めを刺す。



●激闘の果てに
 猟兵とマガツアリス達の交戦音は、真夜中の山中によく響き渡っていた。遠くに爆音や衝突音を聞きながら、三人の猟兵が山道を急ぐ。
「先に現地に辿り着いた猟兵がいたようだね。もう敵と交戦状態だ」
 シウは走ってずれた眼鏡を中指で直しながら、影の追跡者から見えた情報を仲間に共有する。
「凄い音がここまで聞こえるから、結構派手にやってるんだろうね。ボクも早く加勢したいけど、バスに放り込んだゲームデバイスを先に回収しておかないと」
 極は走りながら拳を握ったり開いたり。到着後すぐに暴れられるよう体をほぐすが、肝心の武器、ゲームデバイスはバスの行き先を突き止めるためにその車内へ放り込んでしまっていた。その回収が急務だ。
 そして、彼らと行動を共にするのは。
「戦いが激しそうですね。遅ればせながら加勢に来た甲斐があったというものです!」
 アリア・ヴェルフォード(謎の剣士X・f10811)。彼女はバスの行き先を突き止める作戦には参加していなかったが、調査に携わった猟兵が流した情報を聞きつけて、二人と合流したようだ。ブロンドのアホ毛を揺らしながら山道をひた走る。
「僕はまず、攫われた人の救助に回るよ。今日攫われた人はまだバスの中にいると思うから、間に合うはずだ」
 影の追跡者からはある程度現地、儀式場の様子が見て取れる。猟兵とマガツアリスの衝突は最初に儀式場へ帰還したバス、つまり敵陣に最も近いバスから始まっており、後続のバスは猟兵の奮闘もあって、まだ戦禍を被ってはいない。このまま到着すれば、バスに取り残されている一般人なら救出は可能とシウは判断した。
「あとは……全てが終わった後に、わずかでも可能性が残されていれば……だね」
 過去攫われた人が今も生存していたとしても、まずはマガツアリスの集団を駆逐しなければ話は始まらない。そして、このUDCアースにおいて、オブリビオンが人を攫うことが何を意味するのか。
 戦う力があっても救えないものがある。シウのやりきれない感情が固く握られた拳に滲む。
「……それより、僕も極ちゃんも到着後すぐには戦闘に加われない。だから、先陣はアリアちゃん、君に任せるよ」
「わかりました!」
 頼りにされてやる気十分のアリア。アホ毛も心なしかビヨンビヨンと躍動しているように見える。
「……もしかして、あそこじゃないのかな?」
 極が指差した先に光溢れる広野が見える。交戦音が急激に大きく聞こえるようになったのは、音を遮るものがなくなったせいだろう。
「そのようだね。じゃあ、打ち合わせ通りに」
「任せて下さい!」
 アリアは一段ギアを上げ、両手に剣を携え二人に先んじて戦場に突っ込んでいく。
「ボクは奥の方から探してみるよ。戦場に近い方が見つけた後に加勢しやすいしね」
「わかった。僕は手前から探してみるよ」
 極とシウの二人はアリアを含む交戦中の猟兵達を横目に、手分けしてバスの中を片っ端から探していった。猟兵達が押し気味であるためか、二人の行動はマガツアリス達には気付かれていないようだ。
 先に交戦状態にあった猟兵達が先遣隊含めある程度のマガツアリスを倒している。そこにアリアが後方から飛び込んできた。
「ここからは私も手伝いますよ!」
 アリアは二本の剣を巧みに操り、マガツアリスに斬りかかった。二刀流であるからこそ、攻撃の間隔が短い。袈裟に斬り下ろされたかと思うとすかさずもう片方の剣で逆袈裟に斬り上げられ、最初のマガツアリスは体に『X』を刻まれ倒れた。
 今までおよそ遠距離戦で猟兵に対抗していたマガツアリスは突然の近接戦闘にうまく対応できず、次々とアリアの剣の露と化していく。
「ナ、ナンダコイツハ!?」
「私は剣士、アリア・ヴェルフォード! 光と闇、相反する属性を同時に扱うこの私を、果たしてあなた達は止めることができますか!?」
 名乗りを上げつつ、さらに手近なマガツアリスを纏めて斬り捨てた。刻まれた傷に塗り込められた光の残滓と闇の残滓がゆっくりと混ざり合い、まるで消えゆく魂のように倒れたマガツアリスから離れ霧散していく。
「フザケルナ! オイ! 『ギ』ヲオコナエ!」
 どこかから号令がかかり、マガツアリス達は一斉に両腕を振り上げた。降参のポーズではない。自身を操る邪神『第零の蟻』の召喚の儀。ゆらゆらと黒い靄のようなものが立ち昇り、渦を巻き、集まって何かを形作る。やがてそれは、禍々しいオーラを放つ巨大な蟻となった。
 それぞれのマガツアリスの背後に巨大な蟻が一体。四本の足を動かすと、それに合わせてマガツアリスが鉤爪を立て、アリアに襲い掛かってきた。
 今までとは打って変わって、触手状の一本足とは思えないほどに素早く動き回る。鉤爪を真一文字に、アリアの体を刈るように振り回してきた。
「速いっ――!」
 アリアはオーラを集めた左の剣で受け止めようとするも、力負けして腕ごと宙へ弾かれた。邪神『第零の蟻』によって操られたマガツアリスは、力や素早さといった戦闘力全般が強化されているのだ。
 マガツアリスの鋭い追撃が迫る。右の剣を振るおうにも、左腕を跳ね上げられた体勢からではうまく剣に力が伝えられない。万事休すか――。
「させないよ!」
 またもや戦場に飛び込んできた影がマガツアリスの鉤爪を殴りつけ、寸前のところでアリアの被弾を阻止する。そこから流れるように回転して後ろ回し蹴り。踵がマガツアリスの後頭部に突き刺さり全てを刈り取った。
 さらに、後方からの魔法弾がアリアや極の脇をすり抜け、わらわらと群がるマガツアリス達の眉間を立て続けに撃ち抜いた。
「待たせたね。バスの中にいた人達は避難させたよ」
「ボクのゲームデバイスも見つかったから、ここからは三人揃っていけるね」
 際どいタイミングではあったが、極とシウが間に合った。極は先程回収したゲームデバイスを、シウは今まさに火を噴いた『シュバルツ・ウルフ』を手に、マガツアリスの群れを見据える。
「あのオブリビオンのユーベルコードで出現したオブリビオンが邪神なのかな? すごく禍々しい力を感じるけど」
 極が言うのはマガツアリスの背後でその体を操る邪神『第零の蟻』。確かに邪神ではあるが。
「いや、彼らが真に召喚を望んでいる邪神はきっと別にいるね。でなければ、人を攫う意味がないよ」
 シウはマガツアリスの垣の奥に意識を向ける。大量の光源は、何らかの意味を持って集められているのだろう。何かが執り行われようとしているのは間違いない。
「そうなんだ。そいつはきっと、こいつらよりさらに強い敵……できればもっと鍛えておきたかったけど、悠長なことは言ってられないね。ボクは、ここで強くなる」
 それは羅刹の性なのか。極は闘志を露にした。その瞳は一層赤く燃え滾る。
「聖剣と邪聖剣、すなわち光と闇が交わる時、全ての悪は消え去るのです!」
 アリアは両手の剣をクロスして頭上に掲げ、マガツアリス達に力を誇示する。
「僕も負けてはいられないね。さあ、やるとしようか」
 『シュバルツ・ウルフ』の銃口をマガツアリスへ突きつけ、放った魔法弾が再開の号砲となった。極とアリア、そして邪神『第零の蟻』に操られたマガツアリス達が一斉に飛び出した。
 極は【トリニティ・エンハンス】で攻撃力を強化。炎を宿した拳を武器に、マガツアリスへ接近する。
「はっ! やぁっ!」
 向けられた鉤爪も敢えて拳で受け、動きを止めたところにもう片方の拳を叩き込んだ。
 装甲が大きく凹み、中身に痛烈なダメージを受けて悶えたところに極は拳の雨を降らせた。脅威の回転速度で一気にマガツアリス達を叩き伏せていく。
「アイツヲネラエ!!」
 新たな号令に応じ、マガツアリス達が極に殺到した。隙間ないマガツアリスの壁は松明の光を遮り、極を暗黒に飲み込もうとする。だが、それを見透かしていたかのように、紅蓮の矢が射ち下ろされ生まれる新たな光。マガツアリスを背後の邪神もろとも串刺しにし、浄化の炎が赤々と燃え上がっていく。
「悪いね。君たちの弱点は見えているんだよ」
 シウは【ウィザード・ミサイル】による魔法の矢を、間髪を入れずマガツアリス達へ放ち続ける。影の追跡者を使用している間にマガツアリスの戦いぶりを見て、頭上に対してあまり意識が向かないことに気付いていた。
 死角からの一撃。マガツアリス達は防ぎようがない。
「アイツダ! アノギンイロノ――」
「そうはさせませんよ!」
 標的をシウへ変えようとしたマガツアリス達のもとへ、アリアがジャンプからの斬り下ろしで飛び込んだ。着地に合わせて振り下ろした二本の剣がマガツアリスの体を三枚におろし、さらに体勢を低く保ちながら道を切り開くように前進し、周囲を薙ぎ払っていく。
「ソイツヲヤレ!」
 斬り伏せられたマガツアリスの外から、新たなマガツアリスが猛然と襲い掛かる。アリアが敵陣深くに攻め入っていたため、四方八方から押しつぶされそうになっていたが、
「この時を待っていました!」
 アリアは二つの剣をそれぞれ構え、
『リアクター臨界突破!』
 属性の力を一気に流し込み、片や眩き光の剣、片や暗き闇の剣へと変貌させる。
『聖光と!』
 光の剣を空へ届かんばかりに跳ね上げ一閃。複数のマガツアリスを巻き込み、空を流れる流星のように光の粒子が迸って、
『暗黒の波動で!』
 続け様に、光の剣を振り上げると同時にピンと起こした体を回転させながら、闇の剣を反対側のマガツアリスへ薙ぐように振り下ろした。アリアの背後を狙っていたマガツアリス達が闇を齎す力に触れ、体を蝕まれていく。
『素粒子に還れ!』
 回転により勢いの増したアリアの剣はマガツアリスの鉤爪を弾き装甲を破り、次々と交差する裂傷を刻み込んで、
『クロスッ――』
 最後にアリアは剣を体の前で交差して、
『カリバーッ!!』
 腕を思い切り後方まで大きく広げ、周囲の全ての存在を薙ぎ払った。白き光と黒き闇があらゆる悪を飲み込んで、後には更地が残るだけ。
「見えたね。これが、この儀式場の全貌だ」
 アリアが渾身の一撃を放ち、残っていたマガツアリスのほとんどを葬ったことで現れた儀式場の核。傍らには三体のマガツアリスが立ち、巨大魔法陣として地に彫られた溝には真紅の光が流れ始めていた。
 魔法陣が起動しようとしている。マガツアリス達は猟兵達を足止めしつつ、真の邪神復活の儀式も始めていたのだ。だが、これまで長く戦っていたにも関わらず未だ起動半ばなのは、おそらく生贄が足りていないからだろう。
「あれはまずいね。ボクが止めに行く!」
 極が危険を察知して真っ先に魔法陣へ駆け出していったが、そこに割って入った一体のマガツアリス。これまでなぎ倒した無数のマガツアリスと何ら変わらないはずなのに、極の拳が止められる。
「ソウハサセンゾ! ノコッテイルモノハ、シンデモコイツラヲトメロ! ジャシンサマノカンゼンナルフッカツヲトゲルノダ!」
 鉤爪を盾にして極の拳を防いだマガツアリスが叫び、戦場の全てのマガツアリスが最後の特攻を仕掛ける。
「極ちゃん、気を付けろ! そいつが親玉だ!」
 シウが叫ぶ。最後尾で指揮を執っていた強力な個体。加勢したいが、左右から挟み込んでくる最後のマガツアリス達を放置して向かうわけにはいかない。
「このっ……!」
 正面がだめなら側面から。極は執拗に突きを放ち続けて鉤爪を正面に釘付けにしてから、回り込んで角度をつけたフックを放った。親玉のマガツアリスは触手状の足を伸縮させて飛びあがったが、尾部の装甲を打たれダメージを受ける。
「ヤルナ……ナラコレナラドウダ!」
 両手を頭上に掲げ、邪神『第零の蟻』を召喚し更なる力を得た。前傾姿勢をとるように足を曲げ、飛び掛かる速さは数段上がっていた。抉り込むように放たれた爪を極は腕をクロスして防ごうとするが、衝撃を抑えきれず体を宙に弾かれる。
「つぅっ……!」
 なんとか受け身を取って立ち直るも、腕にはびりびりと痺れが走っている。
「まずいね……」
 シウは魔法の矢と魔法弾で迫り来るマガツアリス達に応戦しながら、極の分の悪さを危惧していた。だが、シウ自身も手いっぱいで、何か援護することもままならない。
 それを見たアリアがシウとマガツアリスの間に立つ。
「なら、ここは私が一人で抑えます! 大立ち回りは私のほうが向いてそうですから!」
「……わかった、任せるよ!」
 シウは残りのマガツアリスをアリアに預け、親玉のマガツアリスへ意識を切り替えた。
(今は儀式を止める方が優先だね……なら)
 ウィザードロッドを振りかざし、殴りかかろうとする。だが、見え見えの攻撃は簡単に鉤爪で止められ、
「バカナコトヲ」
 ズン、と体の芯に重く響く衝撃。空いた鉤爪を腹に叩き込まれ、シウは苦悶の表情を見せる。鋭利な爪の先端が突き刺さって血が衣服に滲み始めた。
 だが、これこそがシウの狙い。自分の体に食い込む鉤爪に繋がる腕をがっちりと掴んで、
「今のうちに儀式中の奴を倒すんだ!」
 自分がこのマガツアリスを止めれば、極が自由に動ける。シウは自分の身を犠牲にして、最後の仕事を極に託した。
「ナ、ナニヲバカナコトヲ――」
「全ては計算通りというわけだよ」
 さらにもう一手。うまく鉤爪を食らい、血を流した。シウは動揺する親玉のマガツアリスに向けて拷問具を起動させ、至近距離から一撃を加えた。騙し討ちに強化された装甲が砕ける。
「オマエ、ココマデ――」
「僕は君たちよりずっとズル賢いのさ」
 突き放した親玉のマガツアリスへ、シウはゆっくり指先を向ける。
『裁きの時は来た。あとはもう、堕ちるだけさ』
「ギャアアアァァァ!!」
 天から伸びた蒼い光の柱が親玉のマガツアリスに降り注ぎ、光の力で焼いていく。断末魔が消えた時、黒く焼け焦げた装甲だけが残っていた。

 魔法陣の傍らで邪神召喚の儀式を進める三体のマガツアリスへ、極は炎の拳を浴びせかけた。儀式に集中していたこともあり、無防備な体へ連続で叩き込んでねじ伏せる。
「これで……終わりだよ!」
 最後の一体を下から突き上げるように拳を振り上げ、宙に弾き飛ばした。体を反らせ、放物線を描いたマガツアリスは地面に叩きつけられる。
「やりましたか!?」
 極が振り返ると、残ったマガツアリスの集団を斬り終えたアリアと、親玉のマガツアリスを倒したシウが駆け寄ってきた。
「うん、最後の一体に今トドメを――」
「……! いや、まだ――!」
 シウが気付いた時には手遅れだった。
「ククク……コウナレバ、ワガミヲササゲテ――!」
 極が手をかけた最後のマガツアリスが、死の間際、魔法陣に手を触れた。その身が崩壊しくと共に、魔法陣から噴き出す真紅の光が空に伸びる。
「まずい、邪神が復活する――!」
 三人は慌てて魔法陣から距離を取る。

 マガツアリスは全て撃破した。が、最後の一体のマガツアリスの悪あがきにより、不完全ながらも邪神召喚が行われてしまったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『黄昏色の啓蒙』祈谷・希』

POW   :    苦痛を受けよ、精神を死へと返せ。救済の日は近い
自身が装備する【『黄昏の救済』への信仰を喚起させる肉輪 】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
SPD   :    黄昏を讃えよ、救済を待ち侘びよ
【紡ぐ言葉全てが、聴衆に狂気を齎す状態 】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
WIZ   :    痛みと苦しみが、やがて来る救済の贄となる
【瞳から物体を切断する夕日色の怪光線 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は火奈本・火花です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●救済者
 猟兵達が見守る中、魔法陣の光の向こうに現れた者、それは――。
「世界に遍く救済を与えん――全ての生命に、等しく死の救済を――!」
 赤銅の輪を持つ白い胸像のような存在。造形的にはどこか教会のシスターを思わせるが、反転した白い瞳に純潔は感じない。
 血化粧のような筋が引かれた口が動く。
「ああ、救済を求める者達よ。肉を、魂を、全てを捧げよ。さすれば与えられん、完全なる死、完全なる救済が――!」
 邪神は猟兵達を認め、死を与えるべく力を解放していく――。
幻武・極
あれが邪神?
まだ不完全みたいだね。
なら、まだボク達に勝機がありそうだね。
完全復活される前にここで倒しちゃおう。

ボクはトリニティ・エンハンスで攻撃力を強化し、属性攻撃を風属性にしてかまいたちで敵の肉輪を切り裂いたり、風で肉輪を吹き飛ばしたりするよ。
勿論、本体を狙えそうなら本体を攻撃するよ。


シウ・ベルアート
「救済に贄が必要ならお前が最初の贄になるといいさ」

【戦術】
敵との距離を取りつつ【影の追跡者】を召喚し、敵の観察をしながら戦う。
【影の追跡者】が気付かれるまで『シュバルツ・ウルフ』で執拗に目を狙い、
気付かれたタイミングで【影の追跡者】を解除し、【天魔連斬】を発動する。
分身をまとったタイミングで【影の追跡者】を召喚し、6体目の分身(疑似)として自身の動きを追跡する様に動かす。
【影の追跡者】で斬りかかる動作を行い、夕日色の怪光線を誘発&空撃ちさせる。
空撃ちの後5体の分身との連続攻撃(拷問具)で肉輪の破壊を狙う。
肉輪が破壊出来たら敵の口の中に手を突っ込み【ウィザード・ミサイル】で内部からの傷を与える。


リネット・ルゥセーブル
……死のうが何をしようが、わたしを救ってくれなどしないじゃあないか。

まあいい。私の呪いもそうだが、君の主張に巻き込まれるべきでない者が巻き込まれているのは確かだ。
その点を以てしても駆逐するに余りある。
その自分の業に灼かれると良い。

『罪禍解放ー焔』を発動し、高速移動をしながら立ち回る。
攻撃を受けるまでは【フェイント】や【見切り】を交え回避し、【カウンター】で【呪詛】の炎を用いた攻撃を行う。

確実に被弾しそうになれば解除し、脱力。
『オペラツィオン・マカブル』による反撃を狙う。
高速で動き回り、十分に気を引いたのであれば、おそらく狙ってくるであろう。

生憎と、私は既に狂っていたようだな。今更ではあるが。


アリア・ヴェルフォード
邪神がでてきてしまいましたか!
ただまだ召喚されたてですし、つけ入る隙はあるでしょう!
完全に目覚める前に大きな消耗を…あわよくば倒しちゃいましょうか!

【POW】
見たところ力任せに暴れるタイプですね!
しっかり【見切り】で避けてから【カウンター】を当てて削っていくことにしましょう!
上手い具合に隙をつくれたらユーベルコードで大ダメージを狙います!
(アドリブ・共闘歓迎

少なくとも私は死が救済ではないのでお断りさせていただきます!
その完全なる救済とやらは貴方一人で受けてください!



●救済は望まない、そして望めない
 魔法陣は役目を終え、完全に色を失った。今は儀式用の松明と焚火が白磁の肌を黄昏色に染める。
 全体像は布のようなもので覆われており、はっきり確認できるのは顔と首の辺りまで。手や足は確認できず、体の支えか覆いの留め具か、どろどろと粘性のある液を滴らせる肉輪に体を通していた。
 人体で言えば頭から三割程度しかない存在だが、それでも体長は、数メートルはあるだろうか。見れば、その体はわずかだが宙に浮いているようだ。
「邪神がでてきてしまいましたか!」
「あれが、本命の邪神なのかな?」
「おそらくそうだろう」
「だけど、極ちゃんが途中で儀式を止めたから、この召喚は完全ではないはずだよ」
「では、どこかにつけ入る隙があるかもしれませんね!」
「不完全なら、ボク達にもまだ勝機があるね。完全復活される前にここで倒しちゃおう」
 不気味な神秘性を醸し出す邪神にも四人は怯まない。しっかりと倒すべき敵を定め、弾けるように各々が自分の間合いへと飛び出した。
「苦痛こそ、救済への始まりとならん――!」
 妙にくぐもった邪神の声は、自身が装備する肉輪を呼び起こした。空中に向きも角度もバラバラな無数の肉輪が現れ、四人の猟兵へ降り注ぐ。
「早速か」
 念力で操られた不規則な弾幕。それをリネットは念力での操作変更が間に合わないギリギリのタイミングを狙い、ロングマントを翻しながら巧みな足さばきと体重移動で避けつつ、
『――穿て』
 強く言い切られた詠唱に応えた黒鳥の影が、舞い降りるようにリネットの背にかぶさった。【罪禍解放-焔】により加速したリネットは、肉輪を全く寄せ付けない。
(このまま邪神の気を引きつけるとしよう)
 戦場を大きく速く動き回ることで、リネットは自身の存在を邪神に植え付けていく。
「まさか攻撃にも使ってくるとはね!」
 極が攻撃力を強化して放つかまいたちが戦場を走り、飛来する肉輪を真っ二つに切り裂いていく。破壊された肉輪は氷が溶けるように形を失い、地面に大きな染みを作った。
「力任せに暴れたところで、私は止められませんよ!」
 邪神に接近戦を挑むアリアが肉輪の嵐の中を突き進む。向かってくる者に対しての攻撃は苛烈に見えたが、リネットが敵の気を引き、極が肉輪の数を減らしていたことで、いくらか緩和されていた。
「少なくとも私は死が救済ではないですし、痛いのも全部お断りさせて頂きます!」
 ギュン、と垂直に飛んできた肉輪を耳元でかわして、ようやく見えた邪神の肉輪へ縦一閃。見た目に反し、ガキン、と硬質な金属の手ごたえが返ってきた。
「硬いですね……では、もう一度――」
「いけない! 離れるんだ!」
 アリアが反対の剣を振り上げようとしたところにシウの声が飛ぶ。アリアが咄嗟に後方へ跳ぶと、目の前を肉輪が通り過ぎていった。
 周囲を改めて警戒しながら、一旦退いて立て直しを図る。
「危なかったです……ありがとうございます」
「気にしなくていいよ。僕は『見る』のが役目だからね」
 シウは影の追跡者を利用し、二方向から戦場を把握している。アリアへの攻撃にいち早く気付けたのもそのためだ。
「あの輪には芯のようなものがあるのか……壊すのは、なかなか骨が折れそうだね」
 並の攻撃では歯が立たないのを感じつつ、シウは『シュバルツ・ウルフ』の魔弾を発射した。狙うは白眼。撃ち上げられた弾丸は角度をつけて邪神の右眼に飛び込んだ。
「ウアアア……ウゥゥ……」
 撃たれた右眼を閉じ、半ばウインクの形で震えながら悶える。開いた左眼がやや吊り上がりながら、右眼を傷つけたシウに向いた。
「痛みと苦しみが、やがて来る救済の贄となる――」
 白眼が黄昏の太陽の如く燃え、発射される怪光線。弾道をなぞる様にシウのもとへ。
「ぐっ……!」
 二の腕に灼けるような鋭い痛みが走る。回避が間に合わず、光線によりいくらか切られたか。
 怪光線はシウのみの留まらず、戦場に存在する猟兵達を無差別に狙っていた。
「……この光線は厄介だ」
 肉輪を高速で移動しながら回避し、敵の気を引いていたリネットだったが、邪神が放つ怪光線は一定の範囲にいる者に対し無差別に放たれるもの。回避そのものは肉輪と同じように可能だろうが、気を引く点では意味が薄くなってしまう。
 ならば、とリネットは手に呪詛の炎を灯す。
「私の呪いもそうだが、君の主張に巻き込まれるべきでない者が巻き込まれているのは確かだ」
 自身を引き合いに出しながらの邪神への糾弾。その犠牲の重さを身を以って知っているからこそ、リネットは邪神に裁きを下さんとする。
「その点を以てしても駆逐するに余りある。その自分の業に灼かれると良い」
 語りながら感じる、灼熱の幻覚。振り払うようにして呪詛の炎を扇状に放つ。揺らぎを孕んだ炎の波が邪神を取り巻いた。
「オォォ……痛み、苦しみ、それ即ち、救済の贄、完全なる救済の道――」
「救済に贄が必要ならお前が最初の贄になるといいさ」
「お前が言う救済ってさ、きっと誰も望んじゃいないと思うよ」
「そうです! その完全なる救済とやらは貴方一人で受けてください!」
 無差別に狙いをつけた怪光線をかいくぐりながら、シウは魔弾で今度は左眼を狙い、極は本体へ風を飛ばし、アリアは再び接近を試みた。
 さすがに両眼を潰されてはまずいと思ったか、邪神は水平移動を繰り返してシウの魔弾の狙いを外す。だが、その上で極が放つ風の刃をも避けることはできず、邪神の体には次第に裂け目が増えてくる。
「はああっ!」
 シウと極、二人からの攻撃に意識を割く邪神に、アリアは素早く詰め寄って思い切り剣を叩きつけた。二本の剣を同時にぶつけると、邪神が装着する肉輪がぐらりと傾く。
「……今なら破壊できるかもしれない。行こう」
 恐らくアリアも感じでいたであろう、これまでとは違った手ごたえに、ここまで邪神と距離を取っていたシウが走り出し、極とリネットも続く。アリアの援護をするように、魔弾、風刃、呪詛の炎は放ちつつ、
『今こそ断罪の時……』
 シウは五体の分身と同化し、さらに影の追跡者を自分に差し向けて、六体目の分身とした。
 だが、邪神もやられたままではない。
「黄昏を讃えよ、救済を待ち侘びよ――」
 顔に刻まれた赤い筋がにわかに発光し始めた。すると、これまで肉輪を崩しかけていたアリアの剣が全く入らなくなり、魔弾は皮膚に弾かれ、風や炎にも全く動じなくなってしまった。
「まずい、あの顔の赤いのが光り始めてから、全然攻撃が通らないよ!」
 極は拳圧を風へ変換し、連打の要領で風弾を一気に飛ばしていくが、どれも邪神の体を撫でるようにしてすり抜けてしまう。
「何らかの力で、耐久力を上げたんだ……!」
「こっちも、全然効かなくなりました!」
 鋼を打つような衝撃に、アリアの両手はびりびりと痺れていた。これ以上攻撃し続けていては手のほうが持たなくなる。攻撃の手を止めざるを得なかった。
「ウゥゥ……救済、救済をぉぉぉ――」
 邪神の変化は耐久力だけではない。その挙動にも変化が表れていた。狂ったように叫びながら、猟兵達のみならず地面や周囲の森など、所構わず怪光線を放ち始める。地面はめくれ上がるように抉れ、木々は跡形もなくなるほどに刻まれた。
 猟兵達は一網打尽にされないよう、一旦散り散りになって邪神の怪光線から身を守る。
「これじゃあ、攻撃どころじゃないね……何かいい手はないのかな……」
「……邪神の気を引く程度なら、私がやろう。そういう役回りのほうが、都合がいいんだ。後は、君達に任せる」
 リネットは怪光線を放ち続ける邪神の前にわざと躍り出た。邪神の視線が自分の身に刺さるのを感じながら、怪光線が撃たれる瞬間に高速移動でその場を離れる。土塊が宙を舞う中、邪神はなおもリネットを追っていた。
「今ならいけますよ!」
 理性を失った邪神は執拗にリネットの姿を追い続けていた。それを見て極、シウ、アリアの三人は邪神へ再び攻撃を仕掛けた。
「やぁぁぁぁっ!」
 極は強化された風の拳を直接邪神の肉輪に打ち付ける。やはり硬く、一撃では弾かれる。二度、三度。何度も何度も、極は拳を繰り出した。
 シウは分身と共に拷問具での連続攻撃を放つ。がりがりと削れるような音にかなりの抵抗を感じたが、手は緩めない。
『光と闇の奔流、受けてみよ!』
 アリアの二本の剣にそれぞれ宿る聖光と極黒の力。それを交差するように振り下ろして、
『エックス・カリバー!』
 剣の振りに合わせてなだらかな弧を描いた特大の斬撃波が邪神を襲う。邪神の耐久力と拮抗するように、光の火花を散らしていた。
 三人の攻撃を受け続けても、邪神は計り知れない耐久力を見せ、標的のリネットを追い詰めていく。もはや今の邪神には、逃げ惑うリネットしか意識にない。
「死こそ救済、救済いぃぃぃ!!」
 ぎゅるぎゅる向きを変えながら、ついに邪神の怪光線がリネットに追いついた。狂乱の中で叫びながら放たれたそれは、リネットの体に向かい――。
「……死のうが何をしようが、わたしを救ってくれなどしないじゃあないか」
 まるで邪神の叫びに答えるように。
 邪神の言葉がいかに狂っていようと、どんなに偽りであろうと。
 主体などどうでもいい。ただ、その言葉が。その単語が。自分が生きている中でわずかでも真実味を帯びていれば、それはどんなに甘美な響きだっただろうか。
 それを与えてくれるならば、悪魔だって、邪神だって構わない。
 だが、目の前にいる邪神も、真に望む救済を与えてはくれないのだ。
 リネットはぷっつり糸が切れたように全身から全ての力を抜いた。怪光線がロングマントを突き抜け、心臓を射抜く――その前に。
 【オペラツィオン・マカブル】。それは、成功すれば敵のユーベルコードを無効化し、反撃する力。
「やっぱり君には……いや、そう思うからこそ、か。生憎と、私は既に狂っていたようだな。今更ではあるが」
 『フィーネ』を両手で捧げるように持ち、ボタンの目から怪光線をそっくりそのまま返した。その人形にとってはひどく明るい怪光線は、邪神の防御をガラスのように砕いていく。
 同時に、耐久力の前に阻まれていた三人の攻撃も通り出す。極の拳がずぶりと肉輪の中にめり込んで、その芯に突き刺さった。
 斬撃波が肉のしぶきを飛び散らせ、大きな衝撃と共に肉輪を脆く変えていく。
「この一撃で……砕いてみせる!」
 拷問具を手に、分身と共に繰り出したシウの連続攻撃が、極、アリアの攻撃と共に肉輪へ強烈な歪みを与え――。

 ――パキィィィィン!!

 不思議なことに、肉輪はなおも宙に浮いたまま。だが、その輪には無数の切断面が現れていた。
「まだだ!」
 シウは肉輪のかけらを踏み台にして飛びあがった。視線の高さが邪神と合い、湧き上がる不快感を噛み殺しながら、右手を邪神の口に伸ばす。一瞬の隙。およそ手首の辺りまで突っ込んだところで。
「中から……焼かれろ!」
 手の中に炎を起こし、矢に変え口の中で一気に暴れさせた。大量の炎で加熱された内部の空気が膨張、暴発し邪神の頭が跳ね上がる様にのけ反って、シウの右手を解放した口には火柱が立った。
「凄いや、今のは結構効いたんじゃないかな」
「肉輪も一応は破壊できたし、この調子でいけば倒すのも時間の問題だね」
 四人と対峙する邪神は、口元から炎を零しながら、
「ウゥゥ……苦痛、救済……クツゥ、キュウサイィィィ……」
 壊れたレコードのように、救いようのない精神性を垂れ流していた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

リネット・ルゥセーブル
おめでとう。君が望んでいた救済<くつう>というやつだ。
これが欲しくて現世に舞い降りたのだろう?感謝してほしいものだな。

君の行動パターンは大凡【見切】った。私が【情報を収集】し、【学習】するには十分な時間が在った。
……何より、君にはわたしを殺せ<すくえ>なかった。

『悪魔の保証書』を発動しながら堂々と接近していく。
念の為フィーネは【盾受け】とするが、『私はその光線では殺し得ない。』

ああ、勿論これは論理的な思考ではない。
だが君にとっては【呪詛】として成立するだろう?
むしろ『なぜその程度で殺せると思った?』

ああ、私を呪おうとしても無駄だから止めておくといい。
【呪詛には耐性】がある。


オルト・クロフォード
……ウッ……(狂気や悪意に耐性のない青年人形、顔を顰める)
いや、立ちすくんでる場合ではないナ……

怪光線が当たらない遠距離から攻撃を仕掛けるゾ。
【フリージング・ロングハンドソーズ】を敵の放つ肉輪に【スナイパー】で狙いを定めて撃ち込む。地面に【串刺し】にして肉輪を使い物にできなくするゾ。剣が余るようなら敵本体にも当てよウ。氷結で動きを阻害することが狙えるからナ。
敵が耐久力を強化してきたらこちらも【トリニティ・エンハンス】で攻撃力を強化した上で攻撃力重視の【クロックワーク・ボム】を投げ入れるゾ。……周りにいる猟兵を巻き込まないように気をつけなくてはナ。



●呪に交われば赤くなる
 戦いの中、オルトの顔は少し青ざめているように見えた。猟兵として覚醒するまでは外界から隔離されていたミレナリィドールの青年は、今まさに邪神が放つような狂気や悪意への耐性がなく、戦場を支配する一種の瘴気に苦しめられているようだった。
 眩暈のようなものを感じ、時折額を押さえるような仕草を見せる。だが、
「いや、立ちすくんでる場合ではないナ……」
 顔を顰めながらも、肉輪が破壊され、炎にまみれる邪神を見据えた。
 一方、リネットは涼しい顔で戦場に立つ。
「おめでとう。君が望んでいた救済(くつう)というやつだ。これが欲しくて現世に舞い降りたのだろう? 感謝してほしいものだな」
 ある種の皮肉を込めて言い放たれた言葉に、邪神はただ、
「ウゥゥ……クツウヲニエニ、カノモノタチヲキュウサイセン――」
 幾分淀んだ声を出す。あくまでも、自分が救済する立場である、という姿勢は崩さない。
「……辛そうだな。この手の手合いを相手にするのには得手不得手がある。無理なら退いても構わないが」
「問題、なイ……これも、外の世界の一つの側面なのだろウ? ……少し、驚いただけダ」
 精神面で少々戦意を削られているような節はあるが、オルトはしっかりと地に足をつける。
 様子を伺ったリネットも、オルトの返答を受けて前を向いた。
「……私は前に出る」
「それなら、私は後ろにつこウ」
 邪神を前に、二人は互いに離れるようにして動き出した。リネットは別段急ぐこともせず、人形『フィーネ』を手に邪神へ接近する。
「イタミ、クルシミ……スナワチ、キュウサイノニエト――」
 邪神の隻眼が怪しく光る。だが、散々見せられたその挙動にリネットが素早く反応した。
『なんでうまくいくと思った?』
 まるで未来が決まっているかのように口ずさんだリネットの呪言が、邪神の意識に強烈な負のイメージを植え込んだ。放たれた怪光線はリネットにかすることもなく、傍らの地面を抉る。
 唸り声を上げながら、邪神はなおも怪光線を連射する。だが、決して歪むことのない夕日色のレーザーは、まるで根本から歪んだかのように狙いを外し続けた。
「君の行動パターンは大凡見切った。私が情報を収集し、学習するには十分な時間が在った」
 リネットが仕掛けた【悪魔の保証書(アンプローバブル)】は『失敗するイメージ』を放つことでユーベルコードを相殺するが、事前にそれを見ていればより確実に相殺できる。
 加えて、仲間達と共に戦った時間は、リネットが邪神の全てを見切るには十分すぎる時間だった。
 怪光線はリネットを狙い、後方までは飛んでこない。オルトはすかさず周囲に時計の長針を模した剣を生成した。切っ先が空に向けられた無数の剣を一斉に発射し、剣の雨を逆さに降らせる。それらはどれもが綺麗な放物線を描き、リネットの頭上を越え、邪神のもとへ。
「まずハ、その肉輪を頂くゾ」
 地を向いた剣は狙い澄ましたかのように邪神が持つ砕けた肉輪の欠片に突き刺さり、地面に縫い付けていく。一つ一つ、丁寧に食われるように肉輪が欠けていく。
 やがて、氷の墓標が邪神を囲み、肉輪を完全に封じた。
 さらに、空中にあった残りの剣が次々に邪神に降り注ぎ全身を貫いて。
「オォォ……」
 邪神の体は針山と化し、大きく揺らいだ。本体へのダメージが蓄積してきたのだろう。
 さらに、傷口から周囲へと、じわじわと氷結が広がっている。邪神が身じろぎするたびにパキパキと氷が砕けていくが、そのせいか動きが鈍い。
 思いのほか攻撃に効果が見込めた。オルトはすぐさま次の攻撃へ移る。【トリニティ・エンハンス】を発動し、魔力を攻撃力の強化に回した。魔力が放つ淡いオーラがオルトの体に浮かび上がる。
 その状態で、さらに小型の時計型爆弾のガジェットを手に取った。これもまた、攻撃力を重視したものを選び、一気に邪神を吹き飛ばす算段だ。
「……周りにいる猟兵を巻き込まないように気をつけなくてはナ」
 オルトは戦場を見渡す。今、邪神と一番接近しているのはリネットだが、先の剣と同じく上から落とすように投げれば、爆発に巻き込むこともなさそうだ。
 問題は、同じ方法で攻撃を二度続けるのが有効かどうかであるが。
「私が君に言葉を投げかけ続けるのが不思議か? ……ああ、勿論これは論理的な思考ではない。だが君にとっては呪詛として成立するだろう?」
 邪神は執拗なまでにリネットへ怪光線を放ち続ける。まるで初めから一対一の戦いであるかのように。
 リネットはそれを悉く回避し――いや、そもそも『リネットが微動だにせずとも当たらない』のだが。
 呪い遣い(まじないつかい)の彼女。本来は人形を用いた形での呪いを得意とするが、そこは呪の道に精通する者。単なる言葉にも呪いを込めて放てば、必然、邪神は呪に従い行動を縛られる。
 今はリネットに意識を支配され、『リネットを執拗に狙わされている』と言っていい。そして、攻撃は全てリネットが持つユーベルコードにより意味を成さなくなっている。
 完全な無防備。邪神にはその自覚すらなく、目の前のリネットに翻弄されていた。
 それは後ろから見ているオルトにも明らか。瞬時に爆弾を起動させ、
『3』
 カウントを始めて、邪神目掛けて空高く放り投げた。
『2』
 ガジェットが放物線の頂点に達し、緩やかな落下を始める。
『1』
 邪神の頭上。もう間もなく。
『そラ、ドカンと来るゾ!』
 邪神の眼前に降ってきたガジェットが閃光と共に巨大な爆発を起こした。夜空に咲く爆炎の大輪。邪神の体の上半分ほどが太陽の如く燃え盛る。
「アアアアァァァァ!!!」
 邪神が炎の中で喚く。傷つけられ、焼き尽くされ、いよいよ余裕のなくなった悲痛な叫び。浮遊の力の制御を失い、ズン、と地に墜ちた。
 焼け爛れた顔に、神秘の面影はない。赤黒く変色した肌にはもともと赤い筋が刻まれていたが、今は見分けがつかないほどに同化してしまっている。
 白眼はポツンとその中に埋め込まれ、一層異質な雰囲気を漂わせていた。
 それがぎょろりと真下に動き、忌々しくリネットを睨む。何かを訴えかけるような力を持つ視線に、リネットは、
「ああ、私を呪おうとしても無駄だから止めておくといい。呪詛には耐性がある。……何より、君にはわたしを殺せ(すくえ)なかった。それが何よりの証明だ」
 力尽きる目前の邪神へと、力量の差を淡々と突き付けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リネット・ルゥセーブル
さて。長らく戦ってきたが、そろそろ終わりにしようか。
『既に私を殺せる未来など見えないのだろう?』
【呪詛】のように呟きつつ、継続して『悪魔の保証書』を掛けながら更に接近。

ついでだ、人形たちの大行進といこう。【ロープワーク】を駆使して生み出す、乱れに乱れた軌道は、【フェイント】や【盾受け】にもなる。

道中、呪いの糸を絡ませたジャグリング用ナイフをマッカランに持たせ、それを投げつける。
当たればチェックメイトだ。最早君に出来ることは何もない。
力なき思想は唯の戯言に過ぎないからな。

わたしを殺してくれると思ったんだけどな。
でも、杓子定規<わたし>に論破されるなら、その程度だったんだよ、君は。
やり直してきな。


蛇塚・レモン
他の猟兵と連携希望だよっ!
物陰から今までの戦闘を盗み見て【学習力】で敵の攻撃パターンを分析
あの目から出る怪光線を封じちゃおうっ!

まず、あたいは物陰からユーベルコードで蛇神様を呼び出すよ
あたいの立ってる場所に結界を作って、蛇神様っ!
結界の効果を【地形の利用】と【オーラ防御】で高めるよっ!
あとは蛇神様が突撃して【マヒ攻撃】付与の【念動力】で【目潰し】攻撃するよっ!
怪光線が発射される瞬間を【第六感】で察知したら、邪神の顔を視線ごと【念動力】で真下に向ける【だまし討ち】だよっ!
首の骨、折れちゃえっ!
そのまま結界から蛇腹剣を伸ばして【衝撃波】【鎧無視攻撃】で真っ二つ!

神様の格の違い、思い知ったかなっ?



●力無き神に望むもの無し
 口を焼かれ、顔を焼かれ、肉輪は砕け地に縫い付けられた。見るも無残な邪神の姿が、猟兵達との熾烈な戦闘を物語る。
 そして、それを今まで物陰からつぶさに観察していた者がいた。
 戦場に散らばる猟兵達の、さらに後方。木々を隠れ蓑に、蛇塚・レモン(叛逆する蛇神の器の娘・f05152)は戦闘経過を目に焼き付け、そこから敵の攻撃パターンを分析する。
「最初は変な色の輪っかを飛ばしてたけど、邪神の喋り方がちょっと変になってからは怪光線しかしてないね。体の周りにあった輪っかもなくなっちゃったし、もしかして、もう怪光線しかできないのかな?」
 レモンは戦闘の推移から考察を加える。いくつもの攻撃に対処するのは何かと準備がいるだろうし、一人では成し得ないことも出てくる。だが、敵の攻撃がたった一つであるならば、
「よーし、あの目から出る怪光線を封じちゃおうっ!」
 方針は決まった。レモンは陣地の作成を開始する。

「さて。長らく戦ってきたが、そろそろ終わりにしようか」
 ここまで邪神の攻撃をほぼ完封しているリネットは邪神に引導を渡すべく、人形に繋がった糸を取る。
「既に私を殺せる未来など見えないのだろう?」
 邪神になおも語り掛けながら接近。邪神はリネットを恐れるように短い怪光線を機関銃のように眼から走らせるが、地面を抉り取ることしかできずにいた。まるでカートゥーンのような光景だ。
 そしていよいよ、邪神を手にかけようか、という時に。
『蛇神様の実力、思い知らせちゃうんだからっ!』
 真夜中のひんやりとした空気の中に響く澄んだ声。見れば森の中から、天に昇る竜の如く、巨大な白き蛇――『蛇神様』が地上に現れていた。その姿を全て晒すと、ゆっくりと降りてきてレモンの頭上に控える。
「終焉を飾る役者が増えたか」
 『蛇神様』の下にいるはずの召喚者の姿を、まだ捉えてはいない。だが、あれだけの大物を呼び出したのだ。直に何かを仕掛けてくるだろうと考え、
「ついでだ、人形たちの大行進といこう」
 今所持している全ての人形の糸を十指に結わえ、リネットは人形達を放った。古ぼけたくまの人形『フィーネ』、ピエロの姿の『マッカラン』、それにモノクロの猫の人形『テトラ』に、赤いドレスを纏った少女『ルビィ』。個性豊かな人形達が、邪神の前で練り歩く。
 縄を操る技術を応用し、巧みに糸を操って、時に一列真っ直ぐに、時にばらばら自由自在に。
「キュウ……サイ……キュウ……サイィィィ……」
 理性を失い、思考も途絶えて。それでも、自身の存在を肯定する言葉だけは、決して失おうとしない。
 足の長い怪光線が発射される。リネットの人形達は一か所に固まるそぶりを見せて、すぐさま離散。怪光線は空を切り、彼方へと伸びていく。その先にはかの『蛇神様』、そして邪神を視界に収めようと現れたレモンの姿。
 黙って怪光線の的になるはずもない。リネットが人形達で邪神を翻弄する間に、準備は整った。
「蛇神様っ! 結界ありがとっ!!」
 『蛇神様』の力はオブリビオンへダメージを与えることはもちろん、当たらなくとも、その場所にオブリビオンの攻撃を軽減する結界を作成できる。レモンはあらかじめ立つ場所にその念動力で結界を作り、それを周囲の木々の並びに結び付けて結界効果を強化。レモン自身もオーラを纏うことで防御力を向上させていた。
 怪光線が結界に刺さり、夕日色の光が水しぶきのように飛び散っていく。怪光線はエネルギーを消費しながら結界を削り、ついに突き抜けてきた――が。
 レモンが突き出した手のひらに、怪光線が止められた。一瞬じわっと熱い感覚があったものの、ほとんどのエネルギーを結界で失った怪光線はおもちゃの水鉄砲のように弱々しくレモンの手のひらを叩く。
「えいっ!」
 レモンがぐしゃっと手を握ると、怪光線はぷちっと千切れて霧散した。
「よーし、反撃だねっ! やっちゃえ、蛇神様っ!!」
 レモンの声に反応して『蛇神様』は空に舞い上がり、邪神へと向かっていく。最中、邪眼を光らせて放った念動力が、邪神の見開かれた左眼を縛る。まぶたがびくびくと痙攣しており、抗おうという意思は見えるものの、そこに力を使い切り、身動き一つできずにいた。
 それを見てリネットは、呪いの糸を絡ませたジャグリング用ナイフを『マッカラン』に持たせ、邪神のほうに向けさせた。
「さて、このナイフが当たればチェックメイトだが……何か言い残すことはあるか?」
 余裕たっぷりの口調で邪神に問う。『マッカラン』はナイフを宙に放り、くるくると回転させてまた手に戻す。いつでも息の根を止められる、と音もなく主張していた。
 念動力の効果で体が麻痺し、口も動かせないか、と思っていたが、やがて呻くように。
「ウアアァァ……キュウ……サ、イイィィ……」
 もとよりまともな答えなど期待していなかったが、あまりにも無意味な答えに、リネットはため息交じりに目を伏せる。
「最早君に出来ることは何もない。力なき思想は唯の戯言に過ぎないからな」
「ィィィ……ィィイイッ!」
 リネットの言葉に激高したかは定かではない。あるいは死を悟り、身を削る思いで力を振り絞ったか。新たな輝きと共に放たれようとした怪光線は――念動力により首ごと向きを変えられ、眼下に打ち付けられた自身の肉輪の欠片を砕くのみだった。
「これで……トドメだよっ!」
 レモンは『蛇腹剣クサナギ』を霊力で伸ばし、上段に構えてから全身で思い切り振り下ろし、衝撃波を放った。それは宙を滑るように邪神のもとへ。
「……わたしを殺してくれると思ったんだけどな」
 どこか寂しそうにリネットはぽつりと呟くと、『マッカラン』を操り、持たせたジャグリング用ナイフを真上に高く放り投げた。
 そこはレモンが放った衝撃波の通り道。無回転で放り出されたナイフの柄が衝撃波の先端とピタリと合わさり、即席の呪いの矢を形成した。ナイフの矢尻は狙い澄ましたかのように邪神の鼻先へ到達する。
「オォ――」
 邪神の断末魔が聞こえたのは一瞬だった。ナイフは何の抵抗もなく邪神の顔のど真ん中を貫き、続く衝撃波が頭を真っ直ぐ縦に裂いた。声になるはずだった空気の流れが吹き出すが、衝撃波に呑み込まれ何も残らない。
 ぱっくり開いた邪神の頭から首、体と裂け目が伝播して、それぞれ半身となった邪神の骸。さらさらと端から粒子化し、消滅が始まっていた。
 事を終えたレモンは結界から抜け出し、消えゆく邪神を近くで眺めて、
「神様の格の違い、思い知ったかなっ?」
 今日の戦果を満足そうに噛み締める。
「……杓子定規(わたし)に論破されるなら、その程度だったんだよ、君は」
 リネットが見つめる先は、邪神のようでどこか遠く。
 自分にとって真の『救済』とならぬ存在に意味はない、と言わんばかりに。
「やり直してきな」
 リネットの無慈悲な言葉を冥土の土産に、邪神は世界から去っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月15日


挿絵イラスト