8
残されし過去はかく語る

#サムライエンパイア #戦後

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サムライエンパイア
🔒
#戦後


0




 ――もし。道に迷われたのですか?

 そう声を掛けられて、はっと周囲を見回した。

 暗い夜闇の中、薄っすらと見えるのは田園風景。
 広大な田畑の中を貫くように伸びる一本道に、自分は立っていた。

 どうやら相当にぼーっとして、歩いていたらしい。

 この年で迷子とは、何とも恥ずかしい話だが。
 右を見ても、左を見ても、見知らぬ光景が広がっている以上、女の言葉に頷くしかなかった。

 一体、どこで道を間違えてしまったのだろうか。
 とりあえずこの道を引き返すにしても、どれ程の距離があることか。

 私が途方に暮れていると、女はこう言った。

「では、今宵は私たちの宴に参加していかれませんか?」

 宴で体を休めて、夜が明けてから帰り道を探せばよいと、女はそう言うのだ。

 見ず知らずの人たちの宴に飛び入りで参加すると言うのは、何とも図々しいのではないかとも思ったが。
 しかし、一晩中歩き回る事になるかもしれない事に比べれば、図々しい奴と思われる方がましだった。

 よもや女に案内されるまま付いていった先で、このように美しい桜が見られるとは。

 月の明かりに照らされて。
 1本だけ狂い咲いたのだという桜が、はらはらと舞い散る光景は、この世のものとは思えぬほど。

 桜に団子。月に酒。
 それは各々が『思い出を語る』という、静かな宴であった。

 もっとも、飛び入り参加の自分には、語れる思い出の用意などなく。
 こうして、一刻程前の自分の体験を語るしかなかったのだが……。

 図々しく参加して良かったと、男が話を締めれば。
 宴の参加者たちに、静かな笑い声が広がった。

 どうやら語るのは、男が最後であったらしい。
 後に続く者はおらず、酒に火照った体を冷やしてくれる夜風に、桜がさわさわと鳴るばかり。

 そろそろお開きかと、男は猪口に残った酒を一気に呷るが。
 男をここまで案内してきた女が、ふと、月を見上げて呟く。

「新たなお客様が来たようですよ」

 ……客? 何のことだろうか。

 自分のように、また迷い人でも来たのだろうかと、男が首を傾げていると。
 女が振り返り、微笑んだ。

「次は、アナタが案内してきてくださいな」

 ぐにゃ、と。

 唐突に、女の顔が『歪んだ』。

 酒を飲み過ぎたか。
 男が目をこすり、顔を上げると。

 そこにあったのは真っ白な手。
 夜闇に開く花のように、白く。真っ青な手が、男の眼前へと迫って。

 ――終わらない宴が、また始まる。



「見えたよ。サムライエンパイアだ」

 戦が終わった後も、そう簡単には平和にならないね……と。羅刹のグリモア猟兵――蛍火・りょう(ゆらぎきえゆく・f18049)は、集った猟兵たちを見回した。

 エンパイアウォーによって、確かにオブリビオン・フォーミュラ『織田信長』は倒された。
 しかしそれで、即座に全てのオブリビオンが消え去る訳ではないのだ。

「今回事件を起こしているのも、その残党のオブリビオンだよ。『残滓』って呼ばれてる、幽霊の姿をした奴らだ」

 『残滓』は名前の通り、過去の人々の未練や後悔の念を集め、強化された幽霊のオブリビオンなのだが。
 その『残滓』たちによって、サムライアンパイアの人々が次々に行方不明になっているのだと、りょうは言う。

「人が夜に出歩いていると、『残滓』が人間の姿で現れて、宴に誘ってくるんだ」

 誘われるまま『残滓』に付いていくと、彼らの作る特殊空間へと連れていかれてしまう。

 そこは、満ちた月に照らされて。
 1本だけ狂い咲いた桜が、はらはらと舞う、とても美しい所。

 酒と肴は尽きる事なく振舞われ。
 桜が完全に散る事はなく、永遠に夜は明けない。

 そこで開かれているのは『思い出語』の宴。
 ただ各々が語りたいと思う『思い出』を語るだけの、静かな宴だ。

「悪くない宴と思う人も居るかもしれないけど、残念ながら、最後までこの宴に付き合うと『残滓』たちに襲われて、彼らの仲間入りっていう中々巧妙な罠でね。……行方不明になった人たちは、もう戻っては来られない」

 だから、容赦なくぶっ壊してきてくれ、と。
 りょうは、作戦と説明にかかる。

「夜にうろうろしていれば宴に招かれるから、まずは宴を満喫するといい」

 『残滓』たちは、人々の未練や後悔の念によって強化された幽霊。
 その念は簡単に消えるものではないが、その発端となった思い出を『誰かに聞いてもらえた』というだけで、多少の慰めにはなる。

「つまり、キミたちが『思い出語』の宴に参加してあげると、『残滓』たちの力が弱まる」

 宴では、誰かの語りを邪魔したり、否定しないというのが暗黙の了解らしい。
 それさえ守っていれば、残滓たちの語りを右から左に流しながら、ただ酒や肴を楽しむだけでも、十分効果はあるだろう。

「それに、人に話を聞いてもらう以上、彼らもちゃんとキミたちの話は聞いてくれるから、何か語りたい思い出があるなら、語ってきてもいい」

 語る事は強制ではないが、猟兵たちが語った思い出が、『残滓』たちにも共感できるような内容であれば、それもまた彼らの弱体化へと繋がるはずだ。

 何にせよ、猟兵たちが戦意を見せるか、または、全員が語り終わるまで、『残滓』たちは決して手を出しては来ないので、宴そのものはゆっくり楽しんでくるといい。

「とは言え、その後に戦闘が控えている事は忘れないでくれ。べろんべろんに酔っぱらうのは無しだぞ?」

 甘酒やお茶。それに団子などの甘味も用意されているので、酒に弱い者や未成年はそちらを楽しむといいだろう。

「宴がお開きになったら、『残滓』たちを過去に帰してやってくれ。それでこの事件は解決する、はずなんだが……」

 しかし、この『残滓』たちのやり口は手際が良すぎる気がすると、りょうは唸った。

「もしかすると、『残滓』たちに策を与えた『別のオブリビオン』が居るかもしれない」

 『残滓』を倒した後も、油断はしないでくれと、猟兵たちを見回して。
 りょうは転移の準備を始める。

「準備はいいかい? それじゃ、しばしの宴を楽しんできてくれ」


音切
 音切と申します。
 途中の章からでも、一部の章のみでも。気軽にご参加いただけましたら幸いです。

【1章】思い出語
 プレイングに指定が無い限り、既に宴の場に居る状態から始まります。
 月と桜。酒や肴を楽しみながら、各々の思い出を語る宴です。

 語る思い出は、楽しいものでも悲しいものでも、
 あるいは残滓の弱体化の為に、作り話をするのでも何でも大丈夫です。

 思い出を語る事は、特に強制ではないので、
 ひたすらお酒やおつまみを楽しむのもOKですが、
 語っておいた方が次の戦闘が楽になります。

 ※飲酒描写は、ステータスシートに表記されている年齢が
  20才以上の方のみとさせていただきます。

【2章】集団戦
 残滓との戦闘です。1章の結果に応じて、弱体化します。
 宴の参加者は、残念ながら全員残滓です。

【3章】???
 現時点で詳細は不明ですが、『別のオブリビオン』の存在が示唆されています。

【その他】
 プレイングは常時受付しておりますが、筆は遅い方です。
 プレイングを1度お返しする事になりそうな場合等には、
 マスターページにてお知らせしています。
73




第1章 日常 『お月見日和』

POW   :    月より団子。いっぱい食べよう。

SPD   :    月見に良い場所を探して陣取る。

WIZ   :    落ち着いた場所でゆっくり楽しむ。

イラスト:みささぎ かなめ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

樋島・奏弥
過去とは過ぎ去りし日々のことだ
俺にとっては忘れようとも忘れられない。己の根幹に関わってくるもの
なればこそ、あまりこういうことを口に出すものでは無い

…皆の話は団子食べお茶を飲みつつ静かに聞こう
己の口を隠しているマスクは食べるごとに少しずらして食べる

俺の番になったのなら
「光が無い本当の暗闇を俺は知っている。目が慣れるなんてものはありえない。助けなんて誰も聞き届けてはくれない。だから俺は、逃げた」

そして出会ったんだ
俺が倒さなくてはいけない敵【過去】に
だから俺は俺を匿い助けてくれた人たちに報いる為に戦う
貴方達の話も興味深かったけど…
皆が語り終わったのなら
己の刃を振るうために深く深呼吸をした



 そっとマスクをずらして、一口に団子を頬張れば。
 程よい甘みが、口の中へと広がっていく。

 宴の参加者――残滓たちの語る思い出は、やはり、悲しい内容のものが多いように思われた。

 今は丁度、初老の男性の語りが終わって。

 さわさわと。
 夜風に桜の鳴く中、次に語る者は一体誰かと。
 探り合うような視線が交わされていた。

 ――思い出とは、すなわち『過去』だ。

 樋島・奏弥(ノイズ・f23269)にとっての過去。
 奏弥の見てきたもの、聞いたもの、感じてきた事。その全てが、今の奏弥を形作っているならば。

 ……こういう事は、あまり口に出すものでは無いと。そう、思っているのだが。

 思い出を語る事で、彼らの。残滓たちの力を弱められると言うのなら。
 奏弥は、ゆっくりと口を開く。

「光が無い本当の暗闇を俺は知っている」

 元々、多弁な方ではない上に、マスク越しのくぐもった声。
 だが、それを咎める者は居なかった。

「目が慣れるなんてものはありえない。助けなんて誰も聞き届けてはくれない」

 語りながら見上げた空には、月が丸く輝いている。

 夜の闇にさえ、こんな光があると言うのに。
 あの暗闇には、そんなものは無かった。

 『虚無』と。そう言ってもいい。

 どれ程声を上げようとも、枯れ果てる程に叫ぼうとも。
 言葉は泡沫に消えて。誰の元へも届かない。

 己自身さえ、本当に存在しているのか、自分は何なのか。
 分からなくなりそうで。

「だから俺は、逃げた」

 ざぁ……と。
 強く吹いた風に、薄紅の花びらが奏弥の頬を撫でていく。

 知らなかったのだ。

 奏弥の居た世界に咲くものと、同じ花が咲く世界があるなんて。
 これ程までに、世界が広いものだったなんて。

 けれど、自分を匿い助けてくれた人たちのおかげで。
 今は異形となってしまった身で、それを知った。
 倒さなくてはいけない敵―過去―にも、出会ったのだから。

 この身、この力は、匿い助けてくれた人たちに報いる為に――。

 語れる事は、しかと語った。
 また次の誰かが語り始めて、いずれこの宴は終わるのだろう。

 その時に、刃を振るう事を躊躇わぬように。

 心を鎮めるように深く吐き出した息は、薄紅の花びらに紛れて。
 夜闇の中へと、消えていった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

秋穂・紗織
語る思い出の宴、ですか
おしゃべりは得意ですけれど、私の過去についてはどうなのでしょうね
人との感情の距離が遠い
思いが触れられない気がしてならない

ならばこそ、此処は物語を詠うとしましょう
過去なのか、架空なのか
それは伏せたままに
想像するから、楽しい物語でありうる


私が出会ったのは、山神の元で暮らす娘でした

口減らしにと捨てられた娘は山奥の屋敷に辿り着きました
ひとりで暮らしていた神は驚いたそうです
娘は己を全く恐れない

畏れ、敬われていたから、自由気ままに振るう娘に惹かれていった
何しろ外で来た娘は神だと知らぬのですから

異種婚譚と云えば簡単でも

「相手を知らないから、一番傍にいられる。それが幸せなのか、悲しいのか



(語る思い出の宴、ですか)

 この場に集う人々は、猟兵たちを除いた全員が、オブリビオンであると言う。
 猟兵たちにとっては、倒さなければならない敵であると。

 だが、彼らが過去の人々の未練や後悔の念によって、強化された存在であるというのなら。
 彼らの語る『思い出』に、嘘は無いのだろう。

 語られる思い出に涙を流したり、堪えるように拳を握りしめる、その心の揺らぎは。
 人間の『感情』と、何も変わらないのかもしれない。

 羽織と同じ色の花びらが、はらはらと舞う様を眺めて。
 秋穂・紗織(木花吐息・f18825)は、思いを馳せる。

 おしゃべりは得意だけれど。
 思い出を、過去を語れと言われれば。それはどうなのだろうか。

 紗織は己に問うてみる。

 これまで自分が過ごしてきた時。
 また1つ、年を重ねて。
 こうして積み上げて来た過去は、果たして、彼らの『共感』を得る事ができるのだろうか、と。

 藍色の髪の少年が、語りを終えて。

 ざぁ……と。
 強く吹いた風に、薄紅の花びらが紗織の前を通り過ぎていく。

 何となく、その薄紅に手を伸ばしてみるけれど。
 指の隙間をするり、と。いとも容易くすり抜けて。
 薄紅色が、夜闇の中へと消えていく。

 あぁ、やはり。
 自信を持って『出来る』と言えない事が、少しだけ寂しい。

 ならばこそ。詠うように、ゆっくりと。
 紗織は、言の葉を紡ぐ。

「私が出会ったのは、山神の元で暮らす娘でした」

 それは、口減らしの為に捨てられた娘が、山神と出会う。少しだけ不思議な物語。

「ひとりで暮らしていた神は驚いたそうです」

 何故ならその娘は、山神を全く恐れていなかったから。
 人間はみな、山神の事を畏れ敬っていたのに。

 自分を神とは知らぬがゆえに、自由気ままに振るう娘に惹かれていく山神と、相手が山神である事を知らず、自分を助けてくれた恩人として惹かれていく娘。

 異種婚譚と言ってしまえば、それまでだけれど。

「相手を知らないから、一番傍にいられる。それが幸せなのか、悲しいのか……」

 語る言葉は、ここで途切れた。

 酒を飲む手を止め、話に聞き入っていた者たちが、結論を求めるように視線を向けてくるけれど。
 それは、この話を聞いていた1人1人に委ねるとしよう。

 話は、おしまい。

 この思い出が、本当に紗織の思い出なのか。あるいは架空の物語なのか。
 真実を知っているのは、ただ1人であった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

薄荷・千夜子
綾(f02235)さんと

エンパイアウォーの戦場で何度かご一緒に駆けさせて頂きましたが、再度この地でご一緒できる……というのも何か縁を感じますね
色んな猟兵の方々にご協力頂けましたが、綾さんも多くの戦場を回っておりましたね
故郷の一大事、とても心強かったです
こうやって月に桜にと楽しみながらお話ができるのも無事に乗り切れたからこそ……救えなかった命もありましたが、前に進まなければなりませんね

あ、綾さんはお酒は飲まれますか?お酒のお付き合いはまだできませんが、お酌ぐらいはできますよ
わぁ、成人した時の楽しみができましたと微笑み
と、自分たちの話もしつつ話休みに飲食を楽しみながら残滓の話にも相槌を打ちましょう


灰神楽・綾
千夜子(f17474)と

エンパイアウォーじゃのんびりと
話している状況じゃなかったからねぇ
またオブリビオン絡みの依頼とはいえ
こうして腰を据えて話す機会が出来たのは嬉しいね
この満月と夜桜も宴会場にぴったりだ

思い出かぁ…千夜子と一緒に戦った時は
どちらも水晶屍人が相手だったか
あれはハードだったね、肉体よりも精神的に
俺にとってはまだ別世界の他人だけど
千夜子にとっては故郷の人達を
自分の手で倒すのは辛かっただろうね
でも救えなかった命があると同時に
救えた命があるのもまた事実
絶望も希望も前に進む為の力になるよ

普段はお酒あんまり飲まないんだけど
今日は折角だから貰おうかな
千夜子が成人したら今度は俺がついであげるよ



 月が照らす、桜の下。

 用意された徳利や甘味を盆へ乗せて。人々は思い思いの場所へと、腰を下ろす。
 集った猟兵たちも、また――。

 その顔ぶれの中に、見知った顔を見つければ。
 足は自然と、互いの方を向いて。

「再度この地でご一緒できる……というのも、何か縁を感じますね」

 薄荷・千夜子(鷹匠・f17474)が笑いかければ、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)もまた、その目をより細めて、笑みを返す。

 この地――サムライエンパイアで以前顔を合わせたのは、まだ夜も暑かった夏の頃。
 避けようのない大戦に、猟兵たちは北に南にと駆けまわり。必死で刃を振るった、あの時の事。

「エンパイアウォーじゃ、のんびりと話している状況じゃなかったからねぇ」
「綾さんも多くの戦場を回っておりましたね」

 丁度、2人で座る事が出来そうな場所を見つけて。
 腰を下ろしつつ、やれやれと肩をすくめて見せる綾の姿に、千夜子も笑みを誘われる。

「故郷の一大事、とても心強かったです」

 綾と千夜子が。
 ……いや。あの戦いに赴いた、猟兵たちの誰もが。
 この世界の命運を背負い、必死で戦っていた。

 互いに助けたり、助けられたりしながらも。碌に礼も言えぬままに、また次の戦場へと向かう。
 そんな日々が、ひと月に渡って続いた戦であったのだから。

「またオブリビオン絡みの依頼とはいえ、こうして腰を据えて話す機会が出来たのは嬉しいね」

 この空間が、例えオブリビオンの作った光景であったとしても。
 彼らが、この世界の過去に生きていた者たちの『残滓』だと言うのなら。

 一片の欠けもなく、明るく満ちた月に。薄紅の舞う、この美しい光景は。
 この世界のいつかどこかで。誰かが目にした光景なのだろう。

 少し冷たい夜風に、微かに桜の香りを感じて。

 思い出語りを邪魔せぬよう声を潜めた語らいに、自分たちは確かに『勝利』する事が出来たのだと、改めて感じれば。
 胸に満ちてゆくこの感情を、一体何と表そう。

 喜び。
 あるいは、安堵だろうか。

 あの戦いが、ただ、攻めてくる敵を攻撃すればいいという戦であったなら。
 このような気持ちにはならなかっただろう。

「千夜子と一緒に戦った時は、どちらも水晶屍人が相手だったか」

 あの戦の中、敵の将にはヒトの死を弄ぶ卑劣な者もいた。

 既に死した体を傀儡とし、死者を貶めるばかりか。
 その死者を使って、武器を手にしていない、ただの村人までも手に掛けたのだ。

 犠牲になった人々は、綾にとっては、別世界の名も知らぬ他人。
 だからとて、無残に命を落としていい等とは思っていないが。

 少なくとも、傀儡にされてしまった屍たちは、既に『敵』なのだと。
 そう、自分に言い聞かせる事はできた。

 だが今、自分の傍らに座る少女は。
 あの屍たちは、千夜子にとっては『故郷の人達』だったのだ。

 既に傀儡にされてしまった者たち――もう本当の意味では助けられない者たちを、『救ってくれ』と。
 そうグリモア猟兵に言われた、あの時。

 果たして、この少女の中に、どのような感情が渦巻いていたのか。
 想像に余りある。

 探るような、気遣うような綾の視線に。
 しかし千夜子が返すのは、いつも通りの真っ直ぐな光りを宿した瞳。

 確かに、あの戦いは決して楽はものではなかった。

 そこには、本当の意味では救えない命があって。
 自分の肉体を傷付けられるよりも、なお深い痛みは、簡単に割り切る事は出来ないけれど。

「無事に乗り切れたからこそ……前に進まなければなりませんね」

 戦いに赴き、自分に出来る事を成した。
 その事に、後悔はないから。

 今だって、そう。
 この宴で思い出を語る者たちと、いずれは戦わなければならないとしても。
 彼らの思い出に耳を傾ける事が、ほんの少しでも彼らの癒しなるというのなら。

 楽しい思い出にも、悲しい思い出にも。
 1つ、1つに。千夜子は丁寧に、相槌を打つ。
 
 そんな千夜子の様子に、綾は自分の心配が、杞憂に終わった事を知る。

 あの戦いで、救えなかった命があるのと同時に。
 そこには確かに、救えた命があったのだから。

 自分が何の言葉も掛けずとも。
 彼女は、絶望とも希望とも真っ直ぐに向き合って。また前へと進んでいくのだろう。

「あ、綾さんはお酒は飲まれますか?」

 2人で語る事に夢中で。
 折角だからと貰って来た徳利を、すっかり仲間外れにしていた事に気付いて。

 千夜子が差し出せば、普段はあまり飲まない綾も、今日は折角だからと猪口を手にする。

 月を映して。
 黄金に輝く酒の香りが、夜風の中に広がって。
 それだけでも、旨いと思える。秋の宵。

 残念ながら、口に出来るのは綾だけなのだけれど。

「千夜子が成人したら今度は俺がついであげるよ」

 こうして、縁が繋がったのだから。

 猟兵としての戦いには、まだ終わりが見えないからこそ。
 こんな風に、静かに語り合える時間は、大切にしたいと思う。

「わぁ、成人した時の楽しみができました」

 それは、桜が二度散り行くのを見送った、先の話。

 その頃には、あるいは。
 この地にも、本当の平穏が訪れているのかもしれない――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

五条・巴
上空に輝く月の灯りの中で皆で語らい楽しむお酒は素晴らしいね。
ふふ、いつもより早く酔いが回ってしまいそうだよ。

僕の番になって話すとしたら、もう誰か話したっけ?月の逸話についてだ。
僕の世界では月には兎が住んでいる、と言い伝えがあるんだ。
この世界もそうなのかな?

世界が違うだけ逸話が違う。
同じ月から何が見えるのかも、変わってくるんだ。
とある国では月の中にロバが見えるらしい。
他の国では女性が見えるとか。
ライオンが、見えるとか。
小さな頃は僕だって兎がいるって信じてたんだよ?
1人は可哀想だから僕が会いに行ってあげるんだ、って。

ふふ、面白いよね。

ねえ、君たちは月に何を見出すのかな。
皆の事、もっと知りたいな。



 手にした猪口の中、酒に映る金色の光はゆらゆらと。
 五条・巴(見果てぬ夜の夢・f02927)の手の中で、戯れるように煌めく。

 降り注ぐ月の光は、少し眩しいと思えるほどで。
 夜の静謐な空気の中に、思い出を語る、唄うような声だけが響いていく。

 今夏で、ようやく酒を飲める年になって。
 それなりに飲める方なのだと知った。

 だが、語られる様々な思い出に。
 その内容で、酒の味わいさえ変わるような気がして。

 ……今日は少し、酒が進み過ぎたかもしれない。

 ゆったりと海原を揺蕩っているような感覚と、熱を持った体を冷ます夜風が、何とも言えず心地よい。

 これが、平穏な宴であったなら。
 このまま、夢と現を彷徨って。心地よい酩酊に、身を任せるのも悪くは無かったけれど。
 
 既に猟兵たちも、幾人か語りを終えている。
 この宴は少しずつ、終わりへと――本当の、終わりへと近づいていた。

 それでも、誰かの思い出に耳を傾けて。
 時折頷いたり、目元を拭う参加者たちの姿は、ヒトそのもので。

「もう誰か話したっけ?月の逸話についてだ」

 今は、彼らの本当の姿には目を瞑り。1人の参加者として、巴は語り始める。

「僕の世界では月には兎が住んでいる、と言い伝えがあるんだ」

 夜の帳に、穴が開いたかのように。今は真ん丸な、夜空の光。
 それはこのサムライエンパイアだけでなく、様々な世界に存在しているもので。

 美しい輝きの中に、人は様々なものを見出す。

 あるいは、運命の暗示。
 あるいは、神秘の力。

 世界や地域が違えば、見出されるものもガラリと変わる。

「とある国では月の中にロバが見えるらしい」

 また違う場所では、女性の顔であったり、ライオンであったり。

 巴の語りに、参加者たちもまた、揃って月を見上げていた。
 彼らには、その光の中に何が見えているのだろうか。

「小さな頃は僕だって兎がいるって信じてたんだよ?」

 その頃の自分は、本当に小さくて。
 月に手を伸ばしてみても、その掌から月が零れてしまうほど。
 あの頃の月は、随分と大きく見えていたような気がする。

 そんな大きなお月様に、独りぼっちでは兎さんが可哀そうだから。

「だから僕が会いに行ってあげるんだ、って」

 面白いよね、と。
 巴が笑いかければ、穏やかな笑い声が周囲へ広がる。

「君たちは月に何を見出すのかな」

 いつか誰もが、この夢のような宴の時間から覚めるのだとしても。
 今この一時は、ヒトとして。見果てぬ夜の夢を――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
【WIZ】

酒はいらない、茶と多少口寂しくならないだけのつまみがあれば十分。
思い出なぁ…。……。
想い出、か。あるにはある。
ただ思い出というのは少し違う気がするけど。

大事な人が居た。大切にしたい人達だった。
でもいつか離れていくのがわかっていたから、自分から突き放した。
いつかじわじわと忘れられるぐらいなら…記憶から殺されていくぐらいなら、すぐに自分が消えた方がマシだと思った。
自分から死んだ方が良かった。
だからそうした。自分の感情を殺した。
これはずっと黙ってるつもりだったが、もういい。
だってもう誰だったのかもうろ覚えになってきてるから。
かすかに残った色彩も、再び巡り合わない限りは消えるだろうから。



 少し冷たい夜風に。
 満ちた月と、舞う桜。

 これだけでも十分過ぎるほど、この秋の宵は味わい深い。

 ただこの美しい光景も、流石に口の寂しさまでは、埋め合わせてはくれないから。
 酒は断ったものの、茶とつまみは既に確保済みだ。

 様々な思い出が語られて、次はいよいよ黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)の番。

(思い出、なぁ……)

 思い出を語る宴と聞いて。
 真っ先に、頭に引っかかったものがある。

 それは間違いなく、自分の過去の記憶で。
 『思い出』と、そう言い換える事ができるのかもしれないが。

 同時に、思い出と呼ぶには、何かが違うような気もしている。

「大事な人が居た。大切にしたい人達だった」

 それでも瑞樹の唇は、言葉を紡いでいた。

 頭の片隅で、「なぜ、語るのか」と。
 自分の行動に驚いている自分が居る。

 だが、言葉は止まらない。

「でもいつか離れていくのがわかっていたから、自分から突き放した」

 嫌悪されるのならば、まだいい。

 例え、良い感情ではなかったとしても。その人たちの中に、自分だけに向けてくれる感情が存在しているのだから。

 瑞樹が忌避したのは、そんな事ではない。

「いつかじわじわと忘れられるぐらいなら……記憶から殺されていくぐらいなら、すぐに自分が消えた方がマシだと思った」

 忌避したのは、『忘却』。

 今と言う時は、今この一瞬も消費され続けて。
 いつか必ず、自分は忘却される。

 その時に、この胸に感じるだろう痛みを、一体何にぶつければいい?

 自分を忘れた、大切な人達か。
 止まってくれない、時間そのものか。

 答えは、今も出ていないけれど。
 そんな事になるくらいなら――。

「自分から死んだ方が良かった」

 語る瑞樹の声から、感情の色が失せた。
 何の色もない。淡々とした、声だった。

「だからそうした。自分の感情を殺した」

 大切な人が居た。
 本当に大切であったからこそ、この話は誰にもする気は無かったけれど。

 「なぜ、語るのか」という疑問は、既にない。
 だって、自分は。忘却されたくない一心で、その人たちを忘れかけているのだから。

 雨で滲んでしまった絵画のように。
 その人たちの像はぼやけて。その色は、忘却の海へと流されていく。

 だから、もういいのだ。

 かすかに残った色彩さえ、もう消えていくはずだから。

 ただ、もしも。
 この世界に、運命の悪戯とか言うやつがあるのなら。
 その人に、再び巡り合う事が――――ように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

如月・ときめ
……陛下の御代が来る前のサクラミラージュは、きっとこんな世界だったのでしょうね
私も桜の精
世界は違っても、……せめて『残滓』たちの慰めになれたらいいな。そう、想います

人が少なめの席をわざと選んで。そこで静かに夜桜を眺めながら、物語に耳を傾けましょう
きっと残滓たちの中でも饗宴を好まない、物静かな方々の席なのだと思いますから
私自身は甘酒をいただきながら。……うん、そうですね
手酌がいい、という方はともかくそうでない方へは【慰め】る風にお茶やお酒を注ぎながら、静かに物語の先を促していきます

私自身の番が来た際には……
そうですね
家族と見た、夜桜の話をしましょう、か
家族が「揃って」見た、最後の宴の話、です



 貰った甘酒を手に。
 腰を下ろしたのは、宴席の端の方。

 桜からも少し離れたその場所は、人もまばらで。
 あえて、こんな場所を選んでいるという事は。ここに腰を下ろした参加者たちは、あまり饗宴を好まない者たちなのだろう。

 ここは、如月・ときめ(祇の裔・f22597)の生まれ育った世界とは、全く別の世界だけれど。
 舞い散る花びらの色は、ときめの世界に咲く花と、同じ色。

 少し肌寒い夜風の中に、桜の香りを感じれば。やはり。
 この世界はどこか、故郷に似ているような気がする。

(……陛下の御代が来る前のサクラミラージュは、きっとこんな世界だったのでしょうね)

 遠い過去や、あったのかもしれない歴史について思いを馳せると。
 それは事件の推理する事にも、少し似ていて。何だか、心が浮き立つ。

 人々が語る、思い出も。
 そこに込められた感情。ヒトの心は、ときめの世界の人たちと、何も変わらない。

 ときめの頭部を飾る薄紅色の花が、夜風に揺れる。

 この世界の桜は、自分を生み出してくれた『幻朧桜』とは、違うけれど。

 同じ花が咲き。
 同じく、心ある人々が生きている世界なのだと知れば、猶の事。

 桜の精として、生を受けたものとして。
 彼らの『癒し』になろうと、ときめは改めて、己が心に誓う。

 思い出の語り手が、想いのあまり声を詰まらせるのなら。そっと、酒を注いで。
 決して急かさずに、優しく先を促す。
 吐き出しきれない想いが、残ってしまわないようにと。

 何とか語りを終える事が出来た男が、大きく息を吐くと。
 特に、順番を指定されていた訳ではないけれど。参加者たちの視線は自然と、男に寄り添っていた、ときめの方へと向いて。

 ときめは、自分の番が来たのだと知る。

「そうですね……」

 事件の事を聞いて、思い浮かんだ思い出はいくつかあるけれど。

「家族と見た、夜桜の話をしましょう、か」 

 満ちた月と、桜の舞うこの空間を、彼らが作ったと言うのなら。
 夜桜の思い出は、彼らの心に響きやすいかもしれない。

「家族が『揃って』見た、最後の宴の話、です」

 それは決して、明るいお話ではないけれど。
 彼らの寂しさに、寄り添えたらと思うから。

 ただ、耳を傾けてくれる彼らが、悲嘆の色だけに染まってしまわないように。
 語り口は、穏やかに。

 凛と響く、ときめの声は。
 桜の花びらと共に、人々の元へと広がっていった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

辻・莉桜
それでは、お茶と団子で宴に邪魔をさせていただこう
お茶をいただきながら
それぞれの過去を黙って聞かせていただく
色々な思いを、静かに味わうように

私の番が来たら…少し緊張してしまうな
それでもこの桜とともに少しでも慰めになるのであれば

猫を、飼っていたんだ
私は諸事情あり、血のつながらない老夫婦に育てられたのだが
老婦人のほうが猫が好きでね
私もいつしか猫が好きになっていた

けれども、ある日老婦人は亡くなった
私と猫を置いてね
私は三日三晩泣いた
傍では猫がずっと涙をなめてくれた
私が立ち直った朝、猫は安心したように動かなくなったんだ

今でも猫を見ると思い出す話だよ
つまらない話だけど

絡み、アドリブ歓迎です



 夜の静寂の中に、聞こえてくるのは。
 さわさわと夜風に鳴く桜の声と、思い出を語る声。

 その内容に関わらず。
 辻・莉桜(花ぐはし・f23327)はただ静かに、耳を傾ける。

 お茶のお供として手にした、このお団子と一緒だ。

 彼らの話を、ただ耳に入れるのではなくて。
 しっかりと噛み締めて、味わう事。
 ただ、静かに。その余韻の、最後まで味わって。

 少しでも深く。少しでも長く。
 彼らの『慰め』となるようにと――。

 莉桜と同じ花を宿す、黒髪の少女が語りを終えて。
 とうとう、莉桜の番が回ってきた。

 少し張り詰めた空気に。誰もが莉桜の話を待っているのだと、そう感じられて。

 少しだけ、胸の鼓動が騒ぎだす。

 それを、宥めるように。ゆっくりと息を吸い込むと。
 冷たい夜風の中に、微かに桜の香りを感じて。

 遥か遠き世界の、同じ花より生を受けた者として。

 この桜とともに、少しでも。
 彼らの慰めになるのなら。

 莉桜は語る。

「猫を、飼っていたんだ」

 莉桜の家族になってくれた、血の繋がらない老夫婦の家には。
 老夫婦と莉桜と。そして、猫がいた。

 老婦人の方が、猫が好きだったから。

 最初はそれほど、気にしていなかったけれど。
 共に過ごすうちに、いつの間にか感化されていたらしい。

「私もいつしか猫が好きになっていた」

 それは、とてもあたたかな時間で。
 何となく、このままずっと続いていくような気がしていた。

「けれども、ある日老婦人は亡くなった」

 目の前に突然、真っ暗な穴が開いたようだった。
 どうしらいいのか、分からなかった。

 ただ、自分も、猫も。
 『置いていかれた』のだと思ったら。涙が止まらなかった。

 目が腫れて。声も枯れて。
 頭が痛くなっても、まだ止まらずに。三日三晩泣き通した。

「傍では猫がずっと涙をなめてくれた」

 三日三晩。決して、傍から離れる事はなく。
 そして――。

「私が立ち直った朝、猫は安心したように動かなくなったんだ」

 街中で、ふと。
 猫の声が聞こえた時に。姿を見た時に、思い出す。
 あの子の――。

 ぱらぱらと起こる拍手に、そういえば聴衆の前であったと思い出して。 

「……つまらない話だけど」

 つい、そっぽを向いて。
 余分な一言がくっ付いて。話はおしまい。

 けれど、本当は。
 その猫の形をした思い出は。
 今も莉桜の中で、色鮮やかなままだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリス・フォーサイス
美味しいお話がいっぱい食べられると聞いて。
参加するよ。

みんなのお話を存分にいただくことにするよ。
未練や公開のお話っていうのは、完全な味とは言えないけど、これもこれで楽しめるんだよね。

ぼくの話を聞かれたらそうだな。過去に倒したオブリビオンの話をしようかな。
人に楽しく食べられるために作られた食べ物たち。でも、異教徒たちの手によってそれが阻まれ食べられないまま集められました。
食べられることをただ望み、賞味期限がせまることにあせる食べ物たち。しかし、そこに正義の使者たちが現れ、彼等を美味しくいただくのでした。めでたしめでたし。



 『〇〇の秋』という言葉は、色々とあるけれど。
 今宵はきっと、『食欲の秋』。

 美味しいお茶と、美味しいお団子と。
 そして、美味しいお話。

 こんなにも、美味しそうなもので溢れているのだから。

 アリス・フォーサイス(好奇心豊かな情報妖精・f01022)は、1つ1つの思い出を、興味深く熱心に。そして、少し心を躍らせながら、耳を傾けていた。

 思い出を語る参加者たちの正体は、未練や後悔の念によって強化された幽霊なのだと言う。
 だからだろうか。

 語られる思い出の味は、何と言うか……完全と言うには、少し足りない。

 例えて言うのなら、クリームとイチゴがたっぷり乗ったケーキを注文したのに。何故かスポンジだけ出て来たみたいな。

 けれど、そう。
 例えスポンジだけであっても、ちょっと工夫をすれば、十分美味しく食べられると言うもの。
 何せ、量は沢山あるのだから――……?

「うん?」

 何だろうか。
 今、一瞬。物凄い既視感があって。アリスは首を傾げた。

 以前にも、似たような事があったような……?

 完全ではない、沢山の思い出……沢山の、美味しいもの?
 山盛りのスポンジ……ケーキ?
 他にも、そう。バーガーとか、ポテトとかが、あったような気がする。

 自身の記憶に、サーチを掛ける事、しばし。
 香ばしい焼き菓子の姿を思い出して、アリスは既視感の正体へとたどり着く。

 丁度、語る順番も回ってきたようだし。

「それじゃあ、あの話をしようかな」

 それは、人に楽しく食べられるために作られた、食べ物たちのお話。
 彼らは誰かの口に飛び込んで、噛み砕かれて。
 ただ「美味しい」と言われたかった。それなのに。

「異教徒たちの手によって、阻まれちゃったんだ」

 悪い神様を信じる者たちは、食べ物たちを利用した。
 食べ物たちを集めるだけ集めて、供物として破棄させようとしたのだ。

「賞味期限がせまることにあせる食べ物たち」

 時間が経てば経つ程に、食べ物は味が落ちていく。
 このままでは、本当に捨てられてしまう。
 万事休すかと、思ったその時――。

「しかし、そこに正義の使者たちが現れ、彼等を美味しくいただくのでした。めでたしめでたし」

 明る声色で、絵本を読んでいるかのようなアリスの語りに。
 参加者たちの口元に、くすりと笑みが浮かぶ。
 
 これは嘘偽りない、アリスが実際に倒した、オブリビオンの話だけれど。
 参加者たちには、想像力豊かな女の子から見た、ちょっと不思議な日常の思い出として、受け入れられたのかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『残滓』

POW   :    神気のニゴリ
【怨念】【悔恨】【後悔】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
SPD   :    ミソギの火
【視線】を向けた対象に、【地面を裂いて飛びだす火柱】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    ケガレ乱歩
【分身】の霊を召喚する。これは【瘴気】や【毒】で攻撃する能力を持つ。

イラスト:オペラ

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ――声が、止んだ。

 参加者たちは勿論。猟兵たちも、各々の語りを終えて。
 言葉を発するものはない。

 不思議と、風も凪いでいる。
 薄紅色は音もなく地に落ちて。桜さえも、沈黙していた。

「もう皆、語り終えたようですね」

 声を発したのは、参加者の女。

 月は、こんなに明るいと言うのに。
 俯き加減の女の顔は、影が落ちていて、よく見えない。

「では――」

 宴の熱気は、一気に冷めて。

 場の空気は重く、鋭く。
 呼吸さえ苦しく思える程に、張り詰めていく。

「宴を始めましょう」

 女の声を切っ掛けに、ぐにゃ、と。

 女の像が歪む。
 いや、女だけではない。

 参加者たち全員が、まるで、粘土細工を握りつぶしたかのように。
 歪んで。崩れて。
 本来の姿へと、立ち戻っていく。

 数え切れぬほど語っても。
 どれ程の言葉を尽くしても。

 決して完全に消えはしない未練と後悔が、形を成す。

 だがそれは既に、過去のもの。
 彼らを思い出の中へ帰す事が出来るのは、猟兵たちだけだった――。
樋島・奏弥
語るべき言葉はもう無い。
勿論目の前にあった菓子や茶は完食し
全員の語りが終わったのなら己の剣、壱彪を手に

「…過去は過ぎ去ると書く」
過ぎ去り消えていく物が存在する、というのはおかしなものだ

暫くは壱彪を振るい彼らを傷付けていく
戦いが中盤になれば己の腕を軽く傷付け【ブラッド・ガイスト】を起動させる
壱彪は敵を捕食する為の牙を出現させ、それを振るうたびにむしゃり、むしゃりと咀嚼の音を響かせる


「…っ、喰らえ、壱彪!」
「あんたたちは、…ここには、必要無い…っ」
「…ぐっ、まだ、いける…!」

戦いが終わったのなら壱彪を片付けて、痛む身体の傷にため息をつく
何かの予感を感じ、警戒を解くことをせずに

「終わった、のか…?」


アリス・フォーサイス
うん。始めよう。
終わりの始まりだよ。

骸の海へ帰って、未練や後悔をやりなおすんだ。
これはその始まりだよ。

浄化の炎で焼き付くすよ。
どんなに霊の分身を召喚しても、
残さず焼き付くして送ってあげる。



 語れるだけの言葉は、全て語り尽くした。

 最後に残っていた茶を飲み干して。奏弥は両手を合わせる。
 誰に用意されたものであれ、もてなしの心で、自分にと出されたものだ。
 粗末にすることはできなかった。

 けれどこの空間を包む空気は、既にピリピリと張り詰めて。
 近くに居る猟兵からも、少し緊張の色が伺える。

 誰もが、この時が来ること知っていた。
 静かな宴の先には、戦いがあるのだと、知っていたから。

 奏弥は傍らの、壱彪の柄をそっと撫でる。
 刃を振るう覚悟は、とうにできている。

 それはたぶん、今ではなく。
 自分を匿い助けてくれた人たちに報いると決めた、その時に。

 今は、その最初の1歩を踏み出す時なのだ。

 ――では、宴を始めましょう。

「うん。始めよう」

 奏弥が立ち上がるのと、同時。
 アリスもまた、立ち上がり。正体を現した残滓たちの方へと足を進める。

 残滓たちから感じる、未練と後悔。あるは悔恨と慙愧。
 あらゆる負の感情を、綯い交ぜにしたような。張り詰めた空気も、特に気にした様子はなく。
 アリスの足取りは、軽い。

「終わりの始まりだよ」

 ァ。
 ア゛ア゛ァァァーー――っ。

 アリスの言葉を切っ掛けに。
 残滓たちから、言葉にもならぬ悲鳴が上がる。

 空気を入れ過ぎた、風船のように。
 残滓たちの中で、渦を巻いていたのだろう感情は爆ぜて。

 残滓たちを突き動かす力となって、猟兵たちへと牙を向く。

「……っ」

 奏弥は壱彪を手に、残滓の攻撃を受け止めるけれど。
 その衝撃に息が詰まる。

「まだ、いける……!」

 掴みかかろうとする手が、奏弥の眼前へと迫って。
 しかしその手が届くより先に、力任せに、壱彪を振り抜いた。

 その手ごたえが、思っていたよりも軽いのは。
 幽霊と言う存在の、質量の軽さなのか。
 それとも、猟兵たちが彼らの思い出に耳を傾けた、成果であろうか。

 知る術はないけれど。

「……過去は過ぎ去ると書く」

 今この瞬間でさえ、時は消費されて。
 骸の海へと流れ、過去になっていく。
 だと言うのに。

「過ぎ去り消えていく物が存在する、というのはおかしなものだ」

 言の葉の、重みを知る少年は。
 あえてそれを、声に出す。

 ここに居てはいけないのだと。
 帰る時が来たのだと、諭すように紡いで。
 その手は、刃を振るう。

 だが是が非でも、猟兵たちを取り込もうと言うのだろうか。
 突如、残滓の体が、幾重にも分かれて。

 今度は多方面から、奏弥へと襲い掛かる。

 これには流石に、全ては防げぬと。
 奏弥が痛みを覚悟した、その時。

 空から降り注いだ炎が、残滓たちを貫いた。

 感情を叫ぶ声が、ぷつりと途切れて。
 傾ぐ残滓たちの体は、地に落ちるのを待たずに。炎に巻かれて消えていく。

「骸の海へ帰って、未練や後悔をやりなおすんだ」

 炎の矢を呼んだ主――アリスは、やはり慌てた様子はなく。
 ただ静かに、残滓たちを見つめていた。

 今、仲間を襲おうとしたのは、子供との思い出を語ったヒト。
 その右奥のヒトは、夏の宵に幽霊を見たといったヒト。
 その後ろは――。

 今は、みなが同じ。死に装束の姿となっていても。
 どんな思い出を語った残滓なのか、アリスには区別が付いている。

 抱えた思い出。語った物語の味が違うのなら。
 それはデータ上では、はっきりとした個々の違いとして現れるのだから。

 けれど、やっぱり。
 オブリビオンとしての姿を現した今も、彼らの物語は不完全なまま。

 本の中の、1ページだけを切り取ってしまったかのように。
 続きも無ければ、後にも戻れない。

 そんな物語は、あまりに寂しいから。

「これはその始まりだよ」

 切り取られたページを、また元の場所へ。

 ページが揃えば、本はめくられて。
 その思い出の、本来の持ち主が辿った軌跡が、完全な物語として繋がると信じて。

「残さず焼き付くして送ってあげる」

 アリスが呼び出すのは、夜空を赤く染める程の炎の矢。

 その熱風は、残滓たちの瘴気も毒も。全て跳ね除けて。
 その身を、思い出を、貫いた。

 燃え上がる炎は、縺れてしまった物語を解す、浄化の炎。

 その中を、奏弥が掛ける。

 自身で傷付けた腕が、痛みを訴えるけれど。
 止まってはいられない。

 残滓たちを倒しても、まだ終わりではないと。
 そう、予感があるのだ。

 グリモア猟兵に言われたからではなく、奏弥自身の猟兵としての勘が。
 この空間に着いた時から、警鐘を鳴らしているから。

「……っ、喰らえ、壱彪!」

 奏弥の血を喰らった壱彪が、目を覚ます。
 その刀身は、既に刃ではなく獣の顎と化して。

「あんたたちは、……ここには、必要無い……っ」

 残滓の体に喰らい付く――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
未練も後悔も覚悟の上なれば。それでも悩ますなら斬り捨てるだけ。
後悔は先に進むためのもの、未練は断ち切るもの。
だから俺は斬り捨てる。結果自分が忘れる事になっても忘れられる事になっても。
だって忘れる事は悪い事じゃない。心を癒すための手段だろう?
縛られ続けるのはつらいだけだ。

右手に胡、左手に黒鵺の二刀流。
UC五月雨と複数の柳葉飛刀の投擲で仕留める。
一方で【存在感】を消し【目立たない】様に死角に回り、可能な限り奇襲をかけ【マヒ攻撃】【暗殺】を乗せた攻撃もする。複数敵を倒せれば上等だ。
敵の攻撃は【第六感】で感知、【見切り】で回避。それでも喰らうものは【激痛耐性】【オーラ防御】【火炎耐性】で耐える。


秋穂・紗織
言葉に出せば、浮かび上がるが思い出というもの
記憶から、心から、消すことのできない残滓ほどそれは強く形を成す
ならばこそ、振り払うしかありません
生きるものは、悪夢を散らせながら明日を求むしかないのです
幾ど、それが浮かんでも
幾たび、それが過ぎても

「宴ならば、葬る歌をも乗せましょう。飾る音色を奏でましょう」
狂い咲く薄紅に色は任せ
声と音ばかりを私達が

ダッシュとフェイントを用いて、緩急をつけた動きで惑わすように動き
視線を誘導しつつ避け、一気に踏み込み、早業と2回攻撃での素早いUCでの連撃を
過去の残滓、というものに触れられたくも傷つけられたくもありませんからね

舞い、廻し、そして斬り散り、鳴らして流しましょう



 未練も、後悔も。
 それらは全て、過去のもの。

 だが、言葉にすれば。
 それは、色も鮮やかに、今と言う時の中に浮かび上がってしまう。

 水底に生じた、泡沫のように。
 ゆらゆらと揺らいで、上へ、上へ。

 今と言う時へ。
 浮かび上がって。そして――爆ぜる。

 ァ。
 ア゛ア゛ァァァーー――っ。

 もはやそれは。語る言葉などではなく、胸を裂かれるような悲鳴。
 血の気の引いた真っ青な残滓の手は、何かを求めるように、虚空をもがく。

 そんな残滓たちの声に応えるように。
 地が裂けて、噴き出すのは炎の柱。

 夜闇を貫くような、煌々とした赤色の、直撃こそ避けたものの。
 熱風が紗織の頬を撫でれば、ピリピリと。痛みにも似た熱さが、肌を刺す。

 残滓たちが、オブリビオンではなく、今を生きるヒトであったなら。
 これより抜く刃は、彼らが明日へと歩いていけるように。
 後押しをするための、風となっただろう。

 だが、彼らは違う。

 その名前が示す通り。彼らは、強すぎる念が今へと浮かび上がり、形を成してしまった『残滓』なのだから。

 ならば、今を生きるものとして。
 ただ、振り払うのみ。

 白き刃を携えて、真っ直ぐに。残滓へと飛び出せば。
 足元に、奇妙な振動が走って。
 再び地が割れて、炎が噴き上がる。

 紗織の体は、そのまま突っ込んでしまうかに見えたが。
 しかし、するりと。

 身を翻した柔らかな動線は、飛び出した速さを殺す事は無く。
 受け流すように炎柱を回り込み、かわしていた。

 幾柱の炎に、道を阻まれようとも。
 紗織の足は止まらない。

 流れる動きは、くるくると。
 隙間を抜けて、零れ落ちる水のよう。

「宴ならば、葬る歌をも乗せましょう。飾る音色を奏でましょう」

 熱風に煽られて、薄紅の花びらが彩る舞台に、紗織は舞う。

 その、鮮やかな舞踏の影で。
 銀の尾を引いて、瑞樹が走る。

 月の光を返す、銀糸の髪は。闇夜に紛れるには少し目立つけれど。

 残滓たちの前へ、身を晒した紗織へと視線が集まっている、今。
 展開された炎の柱が、瑞樹を隠す障壁となって。
 音もなく走る瑞樹に、誰も気づかないまま。

 放った銀の刃は、炎の柱を物ともせず、突き抜けて。
 咄嗟に身を庇った、残滓の腕を貫くが。

 同時に放っていた、黒き刃は軌道を変えて。
 夜闇に紛れて、残滓の背中を深々と裂いた。

 灰のように崩れ落ちていく仲間の姿に、恐慌したか。
 残る残滓が、声にならぬ悲鳴を上げれば。

 辺り一帯に、無差別に。焔が立って。
 瑞樹の前にもまた。もはや壁に等しい、炎が噴き出す。

 熱風が、肌を撫でて。
 肺を襲う熱気に、咳き込みかけるけれど。堪えて。

 刃を握る手に、力を込めて。地を蹴った。

 交差する銀と黒の刃が開いた、僅かな炎の隙間に。オーラを纏って飛び込めば。
 その先、驚いたように顔を上げた残滓と、目があった。

 だが、振り下ろす刃に、迷いはなく。
 痛みを感じる間もないだろう程に、一瞬で。その身を斬る。

 瑞樹の攻撃にまた1体、残滓が倒れて。

 炎の攻撃が緩んだ。その隙。
 宙へ身を躍らせた紗織が纏うのは、白い雪。

 熱の籠った体を、優しく冷やすように舞う雪は。
 月光の中、より白く輝いて。

 その光景に、残滓の1体がピタと動きを止めていた。

 ――そういえば、雪に纏わる思い出を語ったものも居た事を、思い出すけれど。

「生きるものは、悪夢を散らせながら明日を求むしかないのです」

 後悔は先に進むためのもの。

 幾ど、それが浮かんでも。
 幾たび、それが過ぎても。

 全ては覚悟の上なれば。
 それでも悩ますなら、今、ここで。

 ――断ち切る。

 それが、瑞樹の結論。

 心に負う傷は、体のそれよりもずっと深く。長く、痛むのだから。
 それを癒すための手段を、誰に取り上げる権利があろうか。

 結果、自分が忘れる事になっても。忘れられる事になっても。
 それを悪だとは、言わせない。

 ただ。

 そうやって、忘れて。
 何もかもを斬り捨てていった先に、いつかこの心と魂さえも、壊れてしまうのかもしれないと。
 その予感には、気付かないふりをして。

「喰らえ」

 振るう、刃は。
 残されてしまった過去を、今より断ち切る。漆黒の一閃。

 瑞樹が放つのと同時に、鈴の音が鳴る。

 紗織の抜く刃は。
 切り離された未練を、過去へと流す、白雪の一閃。

 黒白の刃は。
 しかし互いを邪魔する事なく、美しく交わって。

 しがみついた過去たちを、解き放っていくのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
千夜子(f17474)と

楽しい時間も終わりか
…嫌な思い出も全て吐き出す事で
成仏出来るならどんなに良かった事か

死はある意味全てから解放されること
死してなお負の想いに囚われ続けるのは辛いだろう
そうだね、彼女達には刃よりも
綺麗な花で眠らせてあげようか
こんなに有意義で楽しい宴の場を
用意してくれたその御礼も兼ねてね

【バタフライ・ブロッサム】で紅い蝶の花弁を
千夜子の鈴蘭の花弁とともに飛ばす
千夜子の花弁はまるで雪のようだね
雪から桜へ、まるで季節の移り変わりみたい

他の武器は千夜子を庇う時のみに使う
俺自身への攻撃は、敢えて受け止めよう
積もる想いも沢山あるだろうからね
最期に未練も後悔も全部ぶつけてから逝くと良い


薄荷・千夜子
綾(f02235)さんと

現れましたか
過去、想い出は懐かしむもの、大事なもの……悔やみや悲しみ、怒りもありましょう
でも、それに囚われていては先へは進めません
綾さん、手向けの花でお送りしましょう
【操花術具:神楽鈴蘭】を掲げて舞うかのように振り鈴の音を響かせ
≪操花術式:花神鈴嵐≫を発動
祈りを届けるよう破魔の力を纏った白の花弁を綾さんの赤き蝶の花を飛ばしましょう【祈り】【破魔】
せめて、此度は安らかに……美しい景色とともにお帰りなさい
本来の桜の季節まではまだありますが、赤と白が混ざって桜のよう……彼女にも届くと良いですね



 語る思い出の中に。未練も、後悔も、全てを吐き出して。
 静かに眠ってくれたのならば、どんなに良かった事だろうか。

 参加者たちの像は歪んで。
 オブリビオンとしての、本来の姿へと立ち戻っていく。

 衣は白く。しかし纏う気は、どす黒い怨念に塗れて。
 口から零れる叫びは、もはや言葉になっていない。

「現れましたか」
「楽しい時間も終わりか」

 夜風の冷たさも、耳に馴染む静けさも、心地よいと。
 そんな風に思えたあの宴の空気は、もはや何処にもない。

 今や、残滓たちが吐き出すのは、思い出ではなく、ただの毒。
 濁った瘴気をまき散らして、数を増した残滓は、飢えた獣のごとく猟兵たちへと迫りくる。

 背に、千夜子をかばう様に。
 1歩前へと進み出た綾は、残滓の攻撃をあえて受け止めた。

 手にした大鎌は、決して守りに向いた武器ではないけれど。
 不利は、承知の上。

 掴みかかろうと伸ばして来る残滓の爪が、綾の頬を。首元を削り取ろうとも。
 まだ攻めには転じない。

 残滓たちの纏う、白い衣は。この世界の死に装束。
 彼らは既に、死した存在だと言うのに。

 その体は、生きた人間を引きずり込む、呪詛に。
 その言葉は、ヒトを蝕む毒に変わってしまうほど。
 未だ、負の想いに囚われ続けているというのなら。

「最期に未練も後悔も全部ぶつけてから逝くと良い」

 傾けた耳で足りぬというのなら、あとはこの身で受け止めよう。
 積もり積もった、その想いの全てを、吐き出しきるまで。

 綾の言葉に、相槌を打つように。
 シャンと鳴り響くのは、高らかな鈴の音。

 千夜子は高く、神楽鈴を月へと掲げて。

 振るう都度、それは澄んだ音を響かせて。
 毒そのものと化した、残滓たちの叫びを宥めるように、鳴り渡る。

 残滓たちの語った思い出は、確かに大切なもの。
 彼らが、今を生きるヒトであったなら。
 それを思い出し懐かしむ事で、先へと進んでいく力に変える事もできたのだろう。

 だが彼らは既に、『囚われてしまった』ものたちなのだ。
 骸の海の中から、負の感情だけを掬い上げられて。捏ね合わせて、固められてしまった存在。

 その衝動をヒトへとぶつけて。いくら仲間を増やしても、ただ悲しみが増やすばかりで。
 決して、先に進むことは出来ないのだから。

 今、千夜子に出来るのは。
 残滓たちが、抱えた思い出と共に眠る事ができるよう、骸の海へと還してやることだけ。

 けれど、今この一瞬だけでも。
 ほんの少しでも、彼らの心が、自由になれるように。

「綾さん、手向けの花でお送りしましょう」

 千夜子の手の中。神楽鈴が、鈴の花へと姿を変える。

 見えぬ糸を手繰るように、千夜子が腕を振るえば。
 丸く愛らしい花たちが、綾へと迫る残滓たちを、押し返していた。

 その手に、神楽鈴が無くとも。
 千夜子の動きは、神楽そのもので。

 時に、緩やかで。
 時に鋭い、その舞は。鈴の花達に、神秘の力を与えて。
 残滓たちの吐き出す瘴気さえもかき消して、静謐な空気へと変えていく。

 月の光を受けて、夜闇に浮かぶ白い花は、一足早い冬の景色を思わせた。

「そうだね」
 
 千夜子が、残滓たちを押し返してくれた、その隙。
 綾は体勢を立て直すが、しかし、大鎌を構えてはいなかった。

 この、雪を思わせる真白な光景に、血の赤は似合わない。

 それに、残滓たちの目的はどうあれ。
 彼らが用意してくれた酒や甘味は、どれも美味く。
 何より、この美しい光景――これほど有意義で楽しい宴の場を、用意してくれたのだから。

 せめてその礼に。
 こちらも、千夜子の花の白さに見合うだけの技を――。

 綾の手の中で。
 ヒトを傷付けるための刃は、はらりと解けて花へと変わる。

 それは、血とは全く異なる赤色。
 決して痛みを与えない、慈悲の光を宿して。




 ――赤い花が、舞っていた。

 4枚の花弁は、ひらひらと。まるで蝶のようで。
 その赤は、虫のさざめく夏の夕日を思わせる。

 そんな赤い花に目を奪われて、空を見上げると。
 夜空に輝く黄金は、中秋の名月。

 その月光に照らされて。
 降る丸い花は、雪のように白かった。

 舞い落ちる鈴の花を、捕まえようとでも思ったのだろうか。
 残滓の1体が、手を伸ばすけれど。

 戯れるように。
 その手をするりと抜けていったのは、薄紅の花びらで。

 その薄紅色が、夜闇の中へ消えていくのと同時に。
 残滓の姿もまた、この世界から消えていた。

 風に乗って飛んできた花びらを、そっと。掬う様に捕まえて。
 千夜子は目を伏せる。

「本来の桜の季節まではまだありますが……」

 この世界の、巡る季節の美しさは。
 彼女の心に届いただろうか。

 いや。
 届いたと、信じよう。

 この世界で、生まれ育ったものとして。
 私の世界の四季は、本当に美しいと。胸を張って言えるから。

「せめて、此度は安らかに……美しい景色とともにお帰りなさい」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

辻・莉桜
未練と後悔は過去のもの
私たちは未来を作り出すもの
それならやるべきことは一つだけだよね
それでも、皆の語りはとても切なくて胸をしめつけられて…
そこに込められた気持ちは本物だったと思ってるよ

UC使用 桜の花びらを纏って火柱をくぐり抜け
速度を上げて一気に斬り込むね
【衝撃波】で切断するつもりで

あなたたちを過去に返す代わりに
私は前を向く
猟兵として、決意の一歩
…これは命の巡りのない世界での、初めての戦闘だから

でもせめて
骸の海に変えることで貴方達の未練が消えればいいね
そう願わずにはいられない

アドリブ、絡み歓迎です
※1章から口調変更しております
ご迷惑おかけいたします


五条・巴
ああ、宴は終わってしまったんだね。
静かな風が酔いを醒ましてくれる。
気持ちよく、悲しい風。

あのままずっと、楽しくいれたらよかったのにね。
もう戻れないかもしれないけれど、夢を見ることくらい許されるだろう?

”明けの明星”
導く光は静かな雷。
桜のような情緒はないかもしれないけれど、流星を感じて眠ってくれ。

ねえ、君たちは、月を見て何を思った?
それを感じていた時、君は確かに一人の人だったよ。
届かないかもしれないけれど、この矢と共に、届きますように。

月に、兎は独りでいないか、先に様子を見てきてよ。
寂しがってたら、一緒にいてあげて。



 涼しい夜風が、熱を持った頬を撫でていく。
 それは、鼻腔に残る酒の香りさえも攫ってしまって。
 宴の終わりを告げているようだった。

 その風が、より冷たくなったように感じられるのは。
 宴が終わる事の寂しさゆえか。それとも――。

「では、宴を始めましょう」

 オブリビオンとしての正体を現した、残滓たちの敵意が、巴の肌を刺すからか。

「あのままずっと、楽しくいれたらよかったのにね」

 既にもう、戻れない所まで来てしまったのかもしれないけれど。

 美しい光景に、美味い酒。
 あの夢のような宴席は、紛れもなく残滓たちが用意してくれたものであったのだから。
 夢の続きを望むことを、一体誰が悪だと言えよう。

(本当に……)

 そうあれたら、良かったのにと。
 巴の言葉に、莉桜も内心で強く頷く。

 思い出を語る事で、残滓たちが満たされて。
 桜の祈りのもと、また未来に生を受ける事ができたならと。そう、思ってしまうけれど。

 それは出来ないのだと、ちゃんと分かっている。

 ここは、莉桜の良く知る世界と、同じ花が咲く世界だけれど。
 莉桜の世界とは、全く違う世界なのだから。

 未練と後悔の、完全な過去そのものであるオブリビオンに、祈りは届かない。

 霊刀を握る手が、少しだけ震えるけれど。
 それでも、今を生きる自分たちは、未来を作り出して。進まなければならないのだから。

(それならやるべきことは一つだけだよね)

 意を決して。残滓たちの方へと、真っ直ぐに視線を向ければ。
 薄紅の花が、莉桜の周囲に舞う。

 覚悟は出来た。
 あとは、踏み出すだけ――。

 桜花の加護を受け、莉桜の体は一瞬で、速度を上げて。
 残滓へと迫る。

 させまいと、残滓の上げた叫びが戦場へと響いて。
 莉桜の進路をふさぐように、炎の柱が噴き出すけれど。

 地を蹴って、体を切り返し。1本、2本とかわしていく。
 だが突如として、目の前に噴き出した3本目は――。

 スピードに乗った今、既に止まる事も、かわす事も叶わない。

 それならばと、莉桜はあえて踏み出した。

 猟兵として戦っていくのだと。
 命の巡りのない世界で、刃を手にすると決めたのだから。

 その1歩は、莉桜の覚悟を示すように。
 力強く、地を踏みしめて。
 莉桜は、炎の柱へと飛ぶ。

 振るった刃は、衝撃波を呼んで。
 炎の柱を切り裂いて、更にその先。残滓の元へと、確かに届いた。

 声を上げる間もなく、残滓が消えてゆくのと共に。
 莉桜の眼前に迫っていた炎柱も、寸での所で消えていた。

 ……何とか、炎に飛び込む事は避けられたけれど。
 莉桜の飛び込んだ先は、残滓たちが群れる只中。

 そのまま、莉桜を取り込もうとでも言うのだろうか。
 手を伸ばし、数を増して迫る残滓に、一筋の光が落ちた。

「ねえ、君たちは、月を見て何を思った?」

 光を呼んだ主――巴は、残滓たちへと語りかける。
 その声はまるで、まだ宴が続いているかのように、穏やかで。静かだった。

 炎の柱が消えて、視界が開けて。
 深くなった宵闇に、夜空の月と星は益々輝きを増したように見えて。

 巴の語りに、みながあの月を見上げていた、あの時。
 その胸にあったものは。少なくとも、未練や後悔だけではなかったと、そう信じている。

「それを感じていた時、君は確かに一人の人だったよ」

 巴の言葉に、少し動きを鈍らせたのは。残滓だけではなくて。
 莉桜もまた、少しだけ目を伏せる。

 宴の中、思い出を語っていた残滓たちには、確かに心があったように思う。
 その声に、仕草に籠っていた感情は、自分たちのそれと何も変わらなくて。

 そんな宴が、まだ続いているかのように語る、巴の言葉は。
 あたたかくて、優しくて。どうにも、切ない。

 それでも莉桜は、顔を上げて。霊刀を構え直した。

「せめて、骸の海に還ることで貴方達の未練が消えればいいね」

 夜の風が、莉桜の頭部を飾る桜花を揺らす。

 その薄紅の花のような、情緒はないかもしれないけれど。
 夜空を見上げたあの時の感情を、もう一度。
 彼らが、骸の海に還るというのなら、その骸の海まで届く様に。

 巴の呼ぶ雷は、星の光のように瞬いて。
 一筋の光となって、残滓たちへと駆け抜けた。

「月に、兎は独りでいないか、先に様子を見てきてよ」

 骸の海は、遠く。この世界の遥か外側だから。
 きっと月の傍も、通るはず。

 もしも、兎がいたのなら。
 もしもその兎が、寂しがっていたのなら。

「一緒にいてあげて」

 流れた星光は。残滓たちは、この願いを叶えてくれただろうか。
 分からないけれど。

 光が、流れて消えたその後に。
 残滓たちの姿は、跡形もなく消え去っていた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『死霊女主人『髑髏彼岸』』

POW   :    この子達と遊んであげて?
【記憶】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【妖怪がしゃどくろ】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD   :    希望というのはよく燃えるわ
対象の攻撃を軽減する【紅く燃える人魂】に変身しつつ、【心を焼く呪いの炎】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    思い出して……
【優しい言葉】を向けた対象に、【悲しい記憶】でダメージを与える。命中率が高い。

イラスト:エゾツユ

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠鳴猫・又三郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 戦場に、静けさが戻った。

 残滓たちの姿は、影も形もなく。
 月は変わらず空に在って。桜がはらはらと舞っている。

 ――それは、異常な光景だった。

 思い出を語る宴が始まってから、かなりの時間が経っている。
 もう空が白んできても、おかしくないと言うのに。見上げた空は未だ、暗いまま。

 ここが、残滓たちの作った特殊空間であるのなら。彼らが消えた今、この空間も崩れ去るのが道理と言うものだが。
 一向に、夜が明ける気配はない。

「あの子たちは、みんな行ってしまったのね」

 その異常の元凶は、意外なほどにすんなりと。猟兵たちの前に姿を現した。

 黒い髪に、涼やかな目元の女は。一見は、普通のヒトに見えるけれど。
 その背に従えているのは、がしゃどくろに無数の人魂。
 なにより、女の纏う気配は、紛れもなく死人のそれであった。

「既に信長さまも去られた今、あの子たちに出来るのは、過去を偲ぶ事くらい。なのに、『猟兵』と言うのは、それも許してはくれないのかしら?」

 現れた女――死霊たちの女主人『髑髏彼岸』は、そう言って。
 しかし、くすりと笑って見せた。

「……まぁ、それは冗談ですけれど。『けじめ』は必要でしょう」

 信長さまを討った『猟兵』たちと、こうして見えたのだから。
 ねぇ、と。髑髏彼岸が振り返れば、がしゃどくろがカタカタと歯を鳴らす。

「では、宴を終らせましょう」

 猟兵とオブリビオンとの戦いには、すでに決着がついていると知っていて。
 それでも、退くつもりはないらしい宴の主催者――髑髏彼岸は、美しく笑う。

「最後まで、楽しんでいってちょうだいね」
樋島・奏弥
この敵で最後だ、とその空気が告げる
過ぎ去った過去が起こした事は、もうここで終わらせなければいけない
先程までの怪我はまだあるが動ける
俺の心も剣も折れることは無い


「あんたが何を思って居るのかは俺には関係無い。知りたくもない
敵である相手の言葉には耳を傾けず、その言葉すらも斬り捨てる様に壱彪を振るう
記憶とはそんな風に使う物ではない
人にとって大事なものであるのに
攻撃は出来るだけ避けたい受けたとしても出来るだけ防御を行う
相手が弱ってきたのなら、最後の一撃とばかりに【捨て身の一撃】を行う

終わったのなら、せめてもの餞と来る途中で拾った小さな花を一つ、置いていく


黒鵺・瑞樹
WIZ
アドリブ共闘OK

本当は想いは想いのまま海に返す方がいいのか、それともあの世界の様に新しく生まれ変わる方がいいのかはわからないけれど。
後悔したって未練があったって、先に進むならそれでいいとは思ってる。
身体にしろ心にしろ、痛みを感じる事は生きてる証拠なのだから。
存在を忘れても忘れられても、誰も傷つけずにいられたらそれでいいとも思ってる。

右手に胡、左手に黒鵺の二刀流。
【存在感】を消し【目立たない】様に死角に回り、可能な限り奇襲をかけ【マヒ攻撃】【暗殺】を乗せた攻撃もする。
敵の攻撃は【第六感】で感知、【見切り】で回避。それでも喰らうものは【オーラ防御】【激痛耐性】【火炎耐性】で耐える。



「あんたが何を思って居るのかは俺には関係無い。知りたくもない」

 髑髏彼岸の言葉に、奏弥が示すのは拒絶の意思。

 言葉の端から、『信長さま』とやらが髑髏彼岸にとって重要な存在であるらしい事は想像が付く。
 それを、『猟兵たちが討った』と言うのなら、それなりに大きな戦いでもあったのだろう。

 だが、それは。奏弥が世界の姿を知るよりも、以前の話。
 『猟兵たち』と一括りにされたところで、奏弥には関係のない事だ。
 奏弥にとって、重要な事はただ1つ。

「あら。それは残念ね」

 奏弥の言葉に、くすりと笑って返すこの女――髑髏彼岸こそ、この事件の元凶であるという事だけ。

 奏弥と共に立つ猟兵たちの顔には、『覚悟』の色が浮かんでいる。
 それは、奏弥の胸にあるものと、同じもの。
 『もうここで、終わらせなければいけない』という、明確な意思だった。

「それじゃあ、私の代わりに、この子たちに相手してもらおうかしら」

 髑髏彼岸の言葉と同時に、その背に控えた『がしゃどくろ』がみるみる巨大化してく。

 下肢は地に埋まっていて、移動も出来ない筈なのに。
 がしゃどくろが身を乗り出すように、奏弥の方へと手伸ばせば。奏弥の身長を上回る、巨大な掌が眼前に迫るのは、あっという間の事。

 考えている余裕などなかった。
 直感のままに、身を投げるように飛んで。かわし切れぬと、がしゃどくろの指に壱彪を振るえば。弾き飛んだのは、奏弥の体の方――。

「あら。上手にかわしたわね。それとも、この子に『くべた』記憶が足りなかったのかしら」

 くべた――……?
 記憶をくべたと言ったのか、あの女は。

 地に手を突いて、何とか体勢を立て直すものの。今度は逆の手が、虫でも払い除けるように、奏弥へと迫る。

 だが、今度は避けない。壱彪を縦に構えて、受け止める。
 衝撃に、靴底が地を削るけれど。
 その足はしかと、地に着いたまま。今度は飛ばされたりはしない。

「記憶とはそんな風に使う物ではない」

 それが、例え自分の記憶ではなかったとしても。
 敵の記憶であったとしても。
 それはヒトの在り方を形作る、とても大切なもの。

 決して、軽く扱われていいものではないと。
 奏弥の言葉は真っ直ぐに、髑髏彼岸へと届く。

 そんな奏弥と髑髏彼岸との、やり取りの間に。瑞樹が駆ける。

 髑髏彼岸の背面は、がしゃどくろの背面でもあるのだが。
 そのあまりに膨らみ過ぎた体躯――骨だけの体は隙間が多い。

 走る勢いのまま、ひらりと跳んだ瑞樹の体は、がしゃどくろの肋骨をすり抜けて。握る二振りの刃が、髑髏彼岸の首へと走る――。

「貴方も、この子たちと遊んでくれるのね?」

 だが、刃は空を切った。
 完全に、死角を突いた筈なのに……あるいは、髑髏彼岸の周囲を飛ぶ人魂たちが、瑞樹の接近を教えたのだろうか。

 かわされた理由は分からない。が、動揺している暇はない。

「優しい子なのね。貴方も」

 瑞樹が、刃を返して踏み込むより先に。
 髑髏彼岸の言葉が、瑞樹へと届く。

 それは、忘れた筈の『何か』を呼び起こす、毒の言葉。
 『今』と言う景色の中に、呼び起こされる『記憶』がチラついて。
 揺れる視界に、瑞樹の動きが鈍った、その隙。髑髏彼岸の言葉はより深く、瑞樹の心を刺す。

「本当に、消してしまってはいないでしょう? ほら、こうやって。切っ掛けさえあれば、思い出せるのだもの」

 ――この、視界に揺れる記憶は。
 自分のものだろうか。それとも、髑髏彼岸の作り出した、まやかしだろうか。

 ただ、どんな守りも。オーラの防御も叶わなわずに。
 この胸に感じる痛みは、本当のもので。

 それは、自分の心と魂が、まだ確かに存在している証。

 存在を忘れても、忘れられても。
 あるいは、また暗闇の中、1人で目覚める日が来たとしても。

 痛みを感じられる心と魂が、ここにあるのなら。先に進み続ける事はできるのだから――ただ、誰かが許してくれるのならば、誰も傷つけずにいられたらと。そんな風にも思うけれど。

 今は、斬り捨てるだけ。

 この手は、まだ刃を握れている。
 重み違う、二振りの刃を。目の前の、揺らぐ記憶へと振るえば。
 確かに、何かを斬った手応えと共に、悲しみの影は消えていく。

 桜の舞う、『今』へと戻って来た視界に見えるのは、目を見開く髑髏彼岸の姿と――赤く濡れた、瑞樹自身の切っ先。

 動きを縛るその攻撃に、髑髏彼岸だけでなく、がしゃどくろもまた動きを止めて。
 その隙に、今度は奏弥が髑髏彼岸へと駆けた。

 立て続けの戦闘に、体はあちこち悲鳴を上げていて。
 恐らくこれが、奏弥にとって最後の1撃。

 この世界では、過去は過去へ還るのみだと言う。
 ならばせめて、この戦いが終わったら。手向けの花を置いていこう。
 偽りの薄紅の花ではなくて、この地に咲く本物の花を。

 壱彪は既に、獣の姿を取ってはいるが。
 奏弥はあえて、その牙に手を添えた。

 鉄錆に似た臭いが広がって。戦場に響くのは、獣の咆哮。
 その牙を赤く染めた壱彪は獣の本能を全開に、髑髏彼岸へと喰らい付いていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アリス・フォーサイス
黒幕の登場だね。
キミも信長くんのところに送ってあげるよ。
まるで舞を踊るように、ファデエフ・ポポフゴーストも使いながら呪いの炎をかわしていくよ。

『過去』を偲ぶことは否定しないけど、ぼくたち『猟兵』は『今』しか生きられないからね。
せめてこれをお話にしてあげるよ。

舞を踊りながら魔力を貯めていき、全力魔法を放つよ。



「黒幕の登場だね」

 しっとり滑らかな物語のフルコースも、そろそろデザートの時間。

 現れた黒幕――髑髏彼岸の姿は、徐々に赤く燃える人魂へと変わっていく。
 どうやら今日のデザートは、燃え上がる情熱の味らしい。

 けれど、人魂へと姿を変えた髑髏彼岸が、炎を放てば。

 ぞわり、と。どこか寒気にも似た感覚が、アリスを襲う。
 この体が、人間と同じものであったならば。これが『鳥肌が立つ』と言う事だろうか。

 心を焼くというあの炎は、アリスのゴーグルを通しても、解析するのは簡単では無さそうだけれど。
 触れない方がいいだろうと言う事は、はっきりと分かる。

 迫る炎に、咄嗟に自分自身を解けば。量子化されたアリスの体は、一瞬にして消え失せたように見えて。
 しかし、炎が通り過ぎた後には、何事の無かったかのように再構成していた。

 足取りは軽く、ぴょんぴょんと跳ねるように、アリスは舞う。

 明るい月が照らす戦場は、アリスにとっての舞台へと変わって。
 自身の体を、幾度も残像へと変えながら。炎と戯れる妖精のダンスは続く。

 時折、かわし切れない程の大きい炎が来ることもあったけれど。共に戦う猟兵が、破邪の刃で切り払ってくれて。
 アリスのゴーグルは、着実に敵の情報を蓄積していく。

 敵の性質、攻撃のパターンが揃う程に、アリスのステップは速さを増して。
 視認せずとも、どのタイミングで姿を隠せば、炎を避けられるのか――もう、はっきりと分かる。

「『過去』を偲ぶことは否定しないけど、ぼくたち『猟兵』は『今』しか生きられないからね」

 少しずつ髑髏彼岸との距離を詰めながら、アリスが思い起こすのは、今日味わった沢山の『物語』の事。

 今を生きるヒトが、紡ぎあげるものが『物語』ならば。
 今を生きる誰かが、思い起こす過去もまた、『物語』。

 けれど誰にも語られず、忘れられた物語は、存在しない事になってしまうのだから。

「せめてこれをお話にしてあげるよ」

 怪異の話を一杯集める事を、この世界では確か『百物語』と言うのだったか。
 ――少し、意味が違ったような気もするけれど。

 この『百物語』の締め括りは、きっとこうだ。

『幽霊たちも、その主も。
 先に行っていた仲間――信長くん所へ行くことができましたとさ。
 めでたし、めでたし』

 舞の中、アリスが魔力を込め続けた魔力に、ウィザードロッドの姿をした情報端末が光を放って。
 おとぎ話のような神秘の力が、髑髏彼岸を打つのだった――。

成功 🔵​🔵​🔴​

灰神楽・綾
千夜子(f17474)と

織田信長か、彼もまた
既に雌雄は決していると分かっていても
一歩も退かずに向かってきたね
そういう所は上司に似たのかな、なんて

ここまで来たならちゃんと
宴の後片付けまでしてあげないとね
満月の後には美しい日の出が待っている
それは俺の故郷には無いもの

先の戦いで流した血で
【ヴァーミリオン・トリガー】発動
炎相手じゃどうにも斬った感触がしないな
千夜子が破魔の力で攻撃している間
彼女に攻撃が行かないように庇い
炎を[なぎ払い]風圧で散らしながら
暫くは時間稼ぎに徹する
浄化されていつまでも炎の形は保てないだろう
人型に戻った瞬間一気に接敵し斬りつける

最後にもう一度楽しい時間をくれた事には御礼を言うよ


薄荷・千夜子
綾(f02235)さんと

織田信長、あの戦いが終わった後でも未だに彼に従うものが残っておりましたか
それでは、あの戦争を駆けた者としてもこの宴にも幕引きを
綾さん、参りましょう

そちらが呪詛を纏う炎であるならば
こちらは清浄なる炎を纏った護り刀で
UCを発動させ、炎を纏った『夜藤』に【破魔】の力も加えて空中に展開
炎を撃ち落とすかのように【投擲】
綾さんを援護するように『夜藤』を自在に操りながら
その手には『操花術具:神楽鈴蘭』を持ち
シャンと清らかな音を響かせ辺りを清浄な気で包むように
過去を偲んでも、留まるべきではありません
貴女方は今を生きるものではない……骸の海へとお帰りなさい



『もはや儂に万にひとつの勝ち目も無かろうが……』

 その声を聴いたのは、まだ夜も暑い夏の頃。
 毎日、何処かで誰かが血を流す。そんな戦いに、ようやく勝利が見え始めた時の事。

『億にひとつでもあるのならば――』

 猟兵と、オブリビオン。決して相容れる事はないけれど。
 始めた戦いを投げ出す事無く、最後まで戦い抜いた男の眼光を、今もはっきりと覚えている。
 その男の名は――織田信長。

「あの戦いが終わった後でも、未だに彼に従うものが残っておりましたか」

 千夜子の見つめる先、髑髏彼岸は炎を纏って。人魂の姿へと変じていく。
 紅蓮の炎の中に佇むその姿は、いつかの信長の姿と、重なって見えた気がした。

「そういう所は上司に似たのかな」

 なんて、茶化すつもりはないけれど。
 綾が胸に感じているのは、『あの時』と同じ騒めき。

 既に、雌雄は決していると分かっていても。
 決して引く事なく、猟兵たちの前へ立ちはだかった信長との戦いは、世界の命運など、もはや関係なく。
 切り結ぶほどに、血が沸き立つような。心のままに魂がぶつかり合うだけの、純粋な殺し合いだった。

 上司が上司なら、部下も部下。
 全くこの『もてなし』の巧みさには、関心してしまう。
 なればこそ。

「ここまで来たならちゃんと、宴の後片付けまでしてあげないとね」

 こちらとしても、受けた『もてなし』に見合うだけの礼は、尽くさねばなるまい。

 残滓との戦いに流れた、未だ固まり切らぬ血で、2本の大鎌を飾れば。
 赤に彩られた鎌は重みを忘れて、吸い付くように両の手に馴染む。

「えぇ。綾さん、参りましょう」

 既に、夜風は冷たく。冬の足音が近づいているというのに。
 髑髏彼岸たち――オブリビオンたちにとって、未だあの戦が尾を引いているというのなら。

「あの戦争を駆けた者としても、この宴にも幕引きを」

 千夜子が懐刀を放つのと、燃える人魂と化した髑髏彼岸が炎を放つのは、同時。

 だが、髑髏彼岸の放つ炎は、燃え上がる姿とは裏腹に、鳥肌が立つようなおぞましい気を放っていて。
 下手に触れていいものではないと、猟兵たちの誰もが直感する。

 その邪悪な気に、呑まれてしまわないように。
 シャン――と、高らかに千夜子が鈴の音を響かせれば。放った懐刀は、幾本にも分かれて。その刀身に、炎を纏う。

「そちらが呪詛を纏う炎であるならば……」

 千夜子の放った懐刀――夜藤が纏うのは、破魔の炎。

 同じ炎でありながら、対となる性質の2つの炎は、互いを喰らいあうようにぶつかり合って。
 受け止めきれずに零れた炎が、千々に猟兵たちを襲う。

 すかさず、千夜子の前方へと躍り出た綾が、大鎌を振るって。
 巻き起こる風圧を前に、実態のない炎は虚空へと消えていった。

 そのあまりに軽すぎる手応えに、少し寂しさを覚えて。
 重みを失くしてる鎌を、くるりくるりと。つい、意味も無く振ってみるけれど。

 いやいや、と。
 自身の心を戒めて。気を引き締めて、綾は前を向く。

 この炎は、心を焼く呪詛が込められているという。
 ならば決して、千夜子の舞いを邪魔させないように。欠片も通す訳にはいかないのだと、綾は大鎌を振るい続ける。

 今は少し、髑髏彼岸の炎の方が勢いづいているだろうか。
 呪詛と破魔。2つの力の攻防は、見た目には分かりずらいけれど。

 鳴り渡り続ける鈴の音が、力強さを増して。
 千夜子の額に浮かぶ、玉の汗が、その攻防の激しさを物語っている。

 髑髏彼岸の放つ炎は、途切れることなく押し寄せて。
 少しでも手を緩めてしまえば、迫る呪詛の気に、魂ごと引きずり込まれてしまいそうで――。

 だがこの炎は、いつか必ず途切れる。
 綾や千夜子だけではない。同じ戦場に立つ猟兵たち全員が、その機を作る為に、動いているのだから。

「過去を偲ぶことは否定しないけど、ぼくたち猟兵は今しか生きられないからね」

 共に戦う誰かが、千夜子と同じ心を叫んでいる。

 今という時に、置いていかれないように。誰もが必死で進んでいくのだから。
 時折、後ろを振り返る事はあっても。
 猟兵として、今を生きるヒトとして、足を止めてはいられない。

 同じく炎を操る仲間の技に、髑髏彼岸の炎が緩んだその隙に。
 千夜子が力強く地を踏みしめ、神楽鈴蘭を高く鳴らせば。破魔の力は更に強く、夜藤を燃え上がらせて。

 燃える刃は流星のごとく。
 呪詛を突き抜け真っ直ぐに、髑髏彼岸へと突き刺さる。

「貴女方は今を生きるものではない……骸の海へとお帰りなさい」

 刃を通して、直に送り込まれた破邪の力に、髑髏彼岸は悲鳴を上げて。その姿は、元のヒトのそれへと戻っていく。

「最後にもう一度楽しい時間をくれた事には御礼を言うよ」

 千夜子が開いた髑髏彼岸への道を。綾は駆けた。

 満月の後には、美しい日の出が待っているように。
 穏やかな宴も、心躍る戦いも。
 いつかは終わるからこそ、次を――明日を迎えられるのだから。

 明けない夜は、自分の故郷だけでよい。

 髑髏彼岸へと振るう、赤の一閃に。
 綾の手は、今度こそ確かな手応えを感じていた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

秋穂・紗織
もう時は夜明けのもの
浅き夢みし、酔いもせず

「一夜の宴は終わり。最早、語る欠片はなく」

ならば散らせましょう
狂い咲くこの桜、この夜、この宴を


火の攻撃を誘い、見切り+早業で飛び跳ねて避けつつ、UCによるカウンター+2回攻撃を
相手の能力を封じるか、弱体出来れば次の攻めへと繋がる
火も
人魂も
全てを鎮めましょう

UC封じれば言葉と共に斬撃をその身、その心に

「あなたが残滓に、この宴を開かせたのは――美しい思い出が欲しかったのですか?」
信長を偲ぶが余り、或いは、骸の海で喪ってしまった感情、思いを欲しかったのか
ただ、あなたに渡せるものは欠片もない
雪と花と、火と夜と
来る朝日に溶けて消えなさい
終わり方こそ、せめて美しく


五条・巴
日中の煌めきがあってこそ、夜に浮かぶ月は輝くんだ。

残滓が過去を偲ぶ宴か、…君が信長を偲んだ宴だったのか。
楽しませてもらったけれど、朝を迎えよう。また、明日に進むために。
ふふ、君は一緒に朝を迎えてくれはしなさそうだね。

悲しい記憶、そうそう思い出せないんだよね。
僕はただ月を追い求めるだけの、お気楽な人間だよ。
運が良いだけの、諦めの悪い、なんでも楽しい‘ 人’。

君が優しい言葉を与える前に、僕が「悲しい」を思い出す前に、攻撃を仕掛ける
"薄雪の星"
仲間たちにも届く前に、降り注ぐ銃弾で嫌なことはかき消してしまえ

欲を言うと、もう少し君とお月見してみたかったな、残念。
また、は無いよ。
おやすみ。



 月は明るく、空に昇ったまま。
 白む空の眩しさは、未だ影も形もなく。桜も散る事はなく、しかし舞い続ける。

 静かな宴は、夢の中のように心地よい時であったけれど。

「日中の煌めきがあってこそ、夜に浮かぶ月は輝くんだ」

 陽の光を返して、月が輝くように。
 昼の騒めきがあるからこそ、夜の静けさを愛しく思う事ができる。

 夢のような時は、いつか覚めるからこそ、意味を持つのだから。

「朝を迎えよう。また、明日に進むために」

 巴の言葉に、髑髏彼岸は静かに目を伏せた。

「希望というのは、よく燃えるわ。進む先にあるはずだった希望でさえもね」

 髑髏彼岸の姿が、燃え上がる人魂へと変わっていく。
 仲間の猟兵たちの猛攻に、既にかなりの力を消耗している筈なのだが。やはり最後まで、退くつもりはないらしい。

 最後の最後まで、もがく姿は。巴の目に、ヒトよりもヒトらしく見えて。
 思わず口元から、笑みがこぼれる。

「君は一緒に朝を迎えてくれはしなさそうだね」 

 髑髏彼岸の放つ炎には、先程までのような勢いは、既に無く。
 その合間を縫うように、紗織が髑髏彼岸へと駆ける。

「一夜の宴は終わり。最早、語る欠片はなく」

 今こそ、狂い咲くこの桜も、この夜も、この宴も。
 全てを散らせて、過去へと還す時。

 燃える人魂となって炎の中に紛れても、髑髏彼岸の姿を見失ったりはしない。
 抜いた白刃は、惑わしの炎を切り裂いて。続けざまに繰り出す鞘が、本体の人魂を打ち据える。

「あなたが残滓に、この宴を開かせたのは――美しい思い出が欲しかったのですか?」

 最後に放った刺突は、あと半歩の距離まで髑髏彼岸に迫った所で、炎に阻まれてしまったけれど。
 心に掛かっていた疑問は、真っ直ぐに、髑髏彼岸へと届いた。

 ……そもそも、生きた人間を取り込みたいというだけならば。本当に『宴』を開く必要はなかった筈なのだ。
 それもわざわざ、残滓たちが弱体化するような『思い出語』をさせる必要が無い。

 その矛盾に気付いた猟兵たちの誰もが、『何故』と、疑問を持っていて。

(……君が信長を偲んだ宴だったのか)
(或いは、骸の海で喪ってしまった感情、思いを欲しかったのか)

 そこには、『ヒトの想い』に近い、何かがあるような気がするけれど。

 紗織の剣技に、技を破られて。
 ヒトの姿へと戻った髑髏彼岸は、それでもくすりと笑みを浮かべた。

「……私はただ、あの子たちの主として。信長さまに代わって『するべき事』を与えてあげただけよ」

 問いの答えは、はぐらかされてしまって。

 白刃を構え直して、間合いを計る紗織に髑髏彼岸が返すのは、返答ではなく人魂の炎。

「それなのにあの子たちったら、貴方たちが猟兵だと分かっていて、連れてきてしまったの」

 困った子たちよね、と。
 猟兵たちに笑いかける、髑髏彼岸の表情は、本当に困っているようには見えなかった。

「何故だと思う? 優しい猟兵さんたち」

 少し、髑髏彼岸の声に、耳を傾けすぎていたらしい。
 さらりと混ぜられた毒の言葉に、紗織の視界が揺らぐ。

 迫る人魂の炎を、1つ2つと、振り払うけれど。
 髑髏彼岸の言葉が呼び出す、実体のない『悲しい記憶』は、刃では払えない。

 『今』の光景の中に、別の記憶が重なって。
 揺れる視界が、紗織の刃を鈍らせる。

 けれど巴は、動きを止める事はなかった。

 悲しい記憶と言われても、これと言って思い当たるものもなく。
 いや、厳密に言えば、本当に存在しない訳ではないと思うけれど。

 悲しいも、寂しいも。苦しいも、辛いも。
 それを感じている自分を、全く別の所から見ているような感覚で。

 丁度、空に浮かぶあの月のように。
 それらの感情はいつも、巴から手の届かない、少しだけ遠い所にあるから。

「僕はただ月を追い求めるだけの、お気楽な人間だよ」

 だから、キミの技はあまり通じないのだと、微笑みかけて。
 巴が呼ぶのは、空を駆ける星の弾丸。

 その光は、いつも一瞬で。
 願い事を3度も唱えるには、あまりに短すぎるけれど。それでも。
 みんなの、悲しい記憶を消してあげてと。そう願いをかけて、呼ぶ。

「欲を言うと、もう少し君とお月見してみたかったな、残念」

 自分は運が良いだけの、諦めの悪い、なんでも楽しい『人』だから。
 届かない月に手を伸ばす事も、楽しいと思えるのだけれど。

 彼女――オブリビオンたちは。
 何かを求めて手を伸ばす程に、今と言う時を傷付けてしまうから。

 そっと、悲しい記憶さえ隠してくれそうな、薄雪の色をした弾丸が、髑髏彼岸の胸を貫けば。
 猟兵たちの視界から、過去の幻は消え失せて。

「あなたに渡せるものは欠片もない」

 しかと髑髏彼岸を見据えた紗織は、白刃に白雪を纏わせて、1歩踏み出した。

 理由は分からずとも、残滓たちが、猟兵たちを呼び寄せたというのなら。
 自分に出来る事は、ただ1つ――。

 信長を偲ぶと言うのなら、信長の元へ。
 喪った感情を嘆くなら、その思い出の在り処まで。

 全てを還して、鎮めるだけ。


 夜闇の中に、白い軌跡が走って。
 後を追う様に、ふわりと雪が舞う。

 その冬の景色を呼ぶ一撃が、止めとなったのだろう。

 髑髏彼岸の体が、傾いで。
 戦場の、空間の空気が『たわんだ』。

 満開であった筈の春の花は、瞬く間に散って。
 夏の残り火を抱く亡霊は、過去へと帰っていく。

「おやすみ」

 夢のような時に、別れを告げて。
 差し込んで来た朝日の眩しさに、猟兵たちは目を細める。

 その光は、宵闇が隠していた森の色を瞬く間に呼び戻して。

 赤に。黄色に。
 色づく木々が、猟兵たちの目の前に浮かび上がれば。

 その秋の景色の中に立つのは、猟兵たちだけであった――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年11月11日


挿絵イラスト