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お涙頂戴猿芝居

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●三文にも満たぬ
 鉄の棒が叩き付けられると、人の足なんてものは容易く折れ曲がる。
 泥水へと顔から転んだ女は、起き上がろうとした上体を獣に押さえつけられ大量の水を飲む。
 それでも手を伸ばした。つい数刻前まで隣で笑い合っていたひとの背へ。
「どぉしで!? 愛しでうってあなた、ずっと守っガボッ、ゴッ……言ったじゃなあッガ、ァ」
「愛? そんなもん命あっての物種だろうが」
 ぶちぶちぶちと肉を引きちぎる音がして、食事に入ったと知り。男は昏い安堵とともに角を曲がる。
 よく回る口は残しておいて正解だ。それがきっと、あの方のお気に入り。

 小さな兄は、這い回る以外自己表現の術を失った妹を背負い。
 ある娘は目の不自由な母の手を引き走る。
 またある男は、ある女は、ある老女は――巡り巡る追いかけっこ。
 薔薇を通して見える光景に手を叩く音は乾いて響く。
『ハッハ、見たか!? あの男はいいな! どれ、斧も一本くれてやれ』
 絶望に歪む顔、来ない助けを叫ぶ声、最期の瞬間地を掻く指。
 それらすべては魂込めてこそ価値がある。
 芝居とは、こうでなくては。

●お涙頂戴猿芝居
「お楽しみ中の領主さんをちょっと、懲らしめてあげてほしいのです」
 ニュイ・ミヴ(新約・f02077)は諸々の準備を終えたようだ。ぺこと体を折る。
 "私を楽しませることが出来たなら、今後一切、貴方の生を脅かさない"。
 甘い言葉に唆され近くの村から集まった人々が、今、領主に囚われている。
 食? 芸能? それとも? オブリビオンである領主の嗜好など知れていた。
 芝居と読んで、生きようともがく人々の群像劇。
 敷地内では既に芝居――生存をかけた戦いが繰り広げられている。
「どうやら、数時間ペット……もちろん魔獣ですが、それから逃げ回ることが出来たのなら良しという形式のようです」
 約束が守られる保障も、どこにもありません。ニュイは続けた。
 領主は猟兵を正しく認識するが。乱入、芝居を盛り上げるその演出をひとまずは歓迎する筈だ。
 ただし、此方の力量が知れた後なら話は別。
 只人のものより著しく強い力や派手な力を使うと、進行に差支えがあるとして大量の配下を差し向けられる可能性が高い。
 それを踏まえた上で力押しして速さを取る選択肢もあるが、合流後、配下の群れを前に生存者を守り通す難度は語るまでもない。

 獣の爪牙を潜り抜け、生存者の元へ辿り着いたのち。
 安全を確保しつつ避難支援。その後反転攻勢、領主の撃破までを狙いたい。当然、妨害を悟っての追撃が予想される。
 力の揮い方と立ち回りについては、合流後にも注意が必要だ。
「本格的な戦いに巻き込んじゃったら、ただの人はひとたまりもないかも――とはいえ、人の腕には限りがあります」
 みなさんで掴まれた結末なら、ニュイはなにも。ああ、けれど、無理だけはなさらないでくださいね。


zino
 閲覧ありがとうございます。
 zinoと申します。よろしくお願いいたします。
 今回は、お安い芝居の罷り通るダークセイヴァーへとご案内いたします。

●最終目的
 領主オブリビオンの撃破。

●第1章目的
 領主館敷地内・薔薇庭園での"追いかけっこ"を制し、人命救助および保護。

 血のような赤薔薇の垣根が迷路状に続く広大な庭園。
 獣型の魔獣が多数放たれており、彼らの餌場でもある。食事中は大人しい。
 到着時点で、十数名の生存者がまだかけっこ中。あとはそこらに欠片で落ちている。
 人間同士も蹴落とし合いの最中。多少の武器となるものが与えられている。
 何らかの力が働いているようで、傷付いた垣根はすぐに元に戻る。
 注意点等はOPの通りとなります。

●その他
 痛い、救いのない方面で、気分のよろしくない描写が頻発することが予想されます。ご留意ください。
(一般人の状態目安:大成功→無傷や軽傷、成功→何か手を打たねば死ぬ程度の重傷、苦戦以下→死亡)
 猟兵は通常攻撃無効能力を持ちません。例えば、一般人から一般人への攻撃を庇う等の行動をされた場合、何も無ければ相応の損傷を受けることとなります。
 セリフや心情、結果に関わること以外で大事にしたい/避けたいこだわり等、プレイングにて添えていただけましたら可能な範囲で執筆の参考とさせていただきます。

 以上、ご参加を心待ちにしております。
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第1章 冒険 『花散る饗宴』

POW   :    体力や力づくで追いかけっこを制する。

SPD   :    速さや技量で追いかけっこを制する。

WIZ   :    魔力や賢さで追いかけっこを制する。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

弥久・銀花
これは少し、許せませんね……。

生きる為に他者を蹴落とすのは1000歩譲ってまだ有りですが、この状況を仕掛けて、尚且つそれを玩弄するなど品性下劣にも程があります。

この様な催しは主催者の首で購って貰いましょうか。



先ずは大きめの魔獣の首を、近くに落ちているピッチフォークで突き刺して、私に血飛沫が掛かる様にして一匹仕留めます。
この時、息を切らせて精神的に焦燥している様に演技をします。

そしてその辺で拾った鉈で仕留めた魔獣の腹を裂いて、私より小さな子供とか、親子とかが隠れる避難所にします。
こうすれば少しは時間が稼げるでしょう。

嫌がったらこう言います。
「生きなさい、まだ希望はあります、私達が持ってきます」




 赤と黒で染まった舞台の上、ひときわ白い毛並が頼りなく揺れる。
 それを追うたったと弾む足音は気分も上々、幼くか弱いごちそうを前に垂れる涎が止まらない。
 息を切らした獲物がもつれるように膝を折った時、にぃんまり笑むかの如く耳まで裂ける口が開かれた。
 一息に飛び掛かる――小動物と大動物。喰われる者と喰らう者。
 誰もが予想できた砕ける頭蓋の音はしかし、小さな娘からでなく。
 大動物。鳴らすのは、魔獣の喉奥に突き立てられ口を閉じる程に軋む、錆びた農具の鉄の歯だった。
「はぁっ、は……」
 噴き出す紫がかった血が伸し掛かられた少女へ降りかかる。艶のある白髪が、軍服が、同じ色に染められて。
 ぬめる両の手で重たい体を押し退け、ふらつきながらも身を起こす。彼女は、弥久・銀花(人狼の剣士・f00983)。息はまだ上がっている。
 少なくとも、そう聞こえるようにと意識して浅く速くを繰り返していた。

 一連の光景はあたかも"疲れ果てた子どもが転んだ弾みで手にした武器が、偶然に突き刺さった"かのように。
 それでいて、薔薇から背けつと流し見る瞳に怯えの色はなく。芯の強い赤がそこに映すのは、千切れた腕が握る鉈。
「ヒッ」
 傍に泥まみれで転がる、元々の腕の持ち主たる女がひきつけに似て息を呑む。
 一本では抱えきれなくなったのだ。地面に投げ出された乳飲み子はうつ伏せで、泣き声は聞こえない。
「……はやく起こした方がいい」
 それだけ囁くとともに銀花は鉈を拾い上げ、事切れた獣の腹に押し当てた。
 頑丈なようでいて、その実腐り果てた死肉の塊だ。骨まで容易く叩き斬り、不要な中身を掻き出しては脇へと棄てる。
「あ、あなた、は……?」
 吐き気を誘う作業を、小さな娘が黙々とこなす様は傍目に気が触れているとしか。やっとの思いで助言を理解し、わが子を掬い上げた女の震えは依然強い。
 ――私は?
 許せないだけだ。
 生きる為に他者を蹴落とすのは千歩譲ってまだ有りだとして。
 この状況を仕掛け、尚且つそれを玩弄する"敵"の品性下劣が。
「その子とともに、この中へ。少しの目眩ましにはなるでしょう」
 問いに今はと首を振る銀花。腰に差した刀がしゃん、と、確かな存在を告げる。
「生きなさい。まだ希望はあります、私達が持ってきます」

 芝居だというのならば、このひととき演じてやろうではないか。
 被る前髪の下、瞳のずっと奥、斬り捨てるべきへ心の刃を突き付ける。
 購いに唯一相応しい、主催の首へ。

成功 🔵​🔵​🔴​

ロベリア・エカルラート
行動・WIZ
自分が囮になって、出来るだけ多くの人を助るように行動する
人同士が争ってたら、わざと怪我をするくらいの勢いで割って入るよ

「っ、いた……そんなこと、してる場合じゃないでしょ」
「そんなに助かりたければ、キミ達一緒に助かりなって。囮なら私がなるからさ……」
「私はもう手遅れだからさ。ほら、早く行きなって」

魔獣に対しては普通の武器を拾って、出来るだけ必死になって武器を振り回すような演技で撃退するよ

怪我が厳しいなら、魔獣と接触した時等にコッソリ【吸血】【生命力吸収】で死なない程度に回復

ホントに大怪我すれば騙せるでしょ

●心情
裏で見てる奴、絶対見つけて踏み潰してやる

今は本物の『演技』を見てれば良いよ



(「何が芝居よ」)
 目に余る惨状は、ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・f00692)の嗜む劇と似つかない。
 裏で見てる奴、絶対見つけて踏み潰してやる。
 血薔薇が纏う濃い芳香は女の心にひとつの影を過らせる。あぁ嫌だ。嫌だ嫌だ――ぶつんと、その思考を途切れさせるのは悲痛な叫び。
「死にたくない! なぁ、年取った親が家で待ってるんだよおぉぉ」
「うるせえっ、てめえが先に殴ってきたんだ! ひとが怪我人だからって、このクソがっ」
 ボコボコに顔を腫らした男が組んだ両手を掲げ地面に這い蹲っている。対する男もまた血まみれで、腹には爪痕。棒切れを持つ腕を高く上げる。下ろす。上げる、下ろす、上げる、
「誰だって死にたくねぇんだよ……俺だってぇっ!」
 ――だとして。
 生の臭いを嗅ぎつけた毛むくじゃらがすぐそこの角から顔を出したというのに、これではまるで自殺行為じゃあないか。
 三度下ろされる凶器のもとに、鮮血が咲いて散る。
「っ、いた……」
 しかし零れるは細い声。はらりと風に混じる赤は流れ落ちず。男の目に、それが彼女の――割り入って身を晒したロベリアの、生まれ持つ色と初めて知れる。
「っおんな!? い゛ッ」
「そんなこと、してる場合じゃないでしょ。そんなに助かりたければ、キミ達一緒に助かりなよ」
 軽く手首を捩じって折れた棒を抜き取る、僅かな所作で彼女は男の体を引く。よろめいて前へ数歩、姿勢を崩した彼の背中があった位置を汚れた大きな爪が薙いだ。
 ルルルル、……落ち窪んだ獣の眼が忌々しげにロベリアを捉え。
「私はもう手遅れだからさ。ほら、早く行きなって」
 囮なら私が、とは、すれ違い様ごく小さく届ける言葉。
 悲鳴もどこかへ吹き飛ぶほど肝の冷えた只人に感謝の余裕はなく。娘もそれを求めることなく、駆け行く彼らに続く道をただ塞ぐ。
 冷や水みたく頭から血が伝う感覚。獣が跳ぶ。
(「こんなもの」)
 振るわれる牙も爪も、この世界に馴染んだ身には見飽きて久しい。それでも今は悲劇のヒロインかのように、握る武器をがむしゃらに振ってみせるのだ。
「イヤ! うそよ、来ないでったら……」
 今は本物の"演技"を見ていれば良いと、そう。

 咎人殺しを生業とする手指は演技とはいえ着実に、動きを制限する傷を積み重ねる。
 決めの一手は胸へ。横腹を裂く爪との相打ちの図を作り上げ、鋭利にささくれた棒を深く捻じ込む。
「これは、こうやって使うのにね」
 ぐりんと捻り、潰れるまで。耳元、呟きを拾える者はいない。共に倒れるようにして頽れ、握り込む血の塊を口元へ。
 ……酷い味。
 望まずとも、ダンピールたる証左。開いた傷が静かに塞がってゆく。

成功 🔵​🔵​🔴​


黒塗りの部屋、黒塗りの椅子、黒塗りの鎧。

 見つめる先には突如舞い込んだ二人の娘の姿。
『ほう。猟兵……私の敷地へ? 自ら飛び込んで? 命と引き換えに人助けだとでもいうのか? これは傑作!』
 いいぞ、捨て置け。表へ飛び出さんとする男たちを宥める風に手を広げる。
 お前たちも知っているだろうと声が嗤う。
 希望をちらつかされた後の絶望が、いかに極上か。
ニコ・トレンタ
【SPD】

胸糞悪いやり方ね。
こんな奴は許せない……。
一人でも多く助けたいわ。

だまし討ちを使って獣たちを騙す。
その隙に逃げ延びたり、救助を行いたいわ。
私が正義と思った道が正義
誰にも邪魔はさせないわ!
武器を手に入れたら迷路を武器で壊して突き進むわ。

食事中は大人しいのよね。
人だった欠片を拾って獣共にくれてやる
生きていた者を今更助けることなんて出来ないの
使えるものは使うだけよ。
でも、生きている者を見殺しになんて出来ないから
恨みたいなら恨めば良いわ。

誰かが逃げていたら欠片を獣に投げて逃げる
獣の足も機械の足には勝てないでしょうね。


スヴェトラーナ・リーフテル
 【世界知識】から魔獣とオブリビオンと人間の心理学をより詳細に思い起こし、その習性や基本的なデータを全員と共有します。これによって如何にすれば領主の気を最も引けるのか、そしてパニック状態の人間を落ち着かせ魔獣から守る事が出来るのかが判明します。
 私自身はそれを利用してサイバーアイで適時確認を行いながら領主の関心を集め、魔獣と人間を一定の方向へ誘導し、其れ等が他の猟兵の邪魔をしない様【時間稼ぎ】を行います。例えば、獣型の魔獣には食事中だと錯覚させる【呪詛】、人間には沈静化と興奮の【呪詛】を適宜掛けて領主の関心を喪わない様八百長をします。この際他の猟兵と共同できる場合はそれを重視します。(WIZ)




 如何にすれば領主の気を最も引けるのか。
 パニック状態の人間を落ち着かせ魔獣から守る事が出来るのか。

 スヴェトラーナ・リーフテル(実装者・f03738)は脳裏で、世界を巡って収集している知識の引き出しを開けてゆく。
 彼女がそれを探り当てるまで、獣どもがお利口に座って待っている筈もなく。
 がちん、がちんと空を食んでは襲う牙へは、時折、ニコ・トレンタ(ニゴサンレイ・f05888)が白っぽいものを投げ噛ませていた。
 ベキッボキ、かすかすのそれはひと噛みで砕けてしまうけれど。
 数秒とはいえ獣の足を止めさせる役割を担っている――死して尚、落ちた粉まで舐めあげられる人間の骨は。
「犬と変わらないわね」
 最悪の気分。許せない。胸糞の悪い敵のやり口にそうと感じながらも、赤毛の女は"生きているもの"をひとつでも多く助けることだけに心血を注ぐ。
 今まさに跳び越えた肉塊も、手にこびりつく乾いた血も、今更元へ戻すことなんて出来やしないのだから。
(「恨みたいなら恨めば良いわ」)
 犬。
 駆ける女の横で、スヴェトラーナも同じことを考えていた。
 群れる彼らは強大な獲物に対して集団で狩りをする。大きな力を使ったならば自然ひとところに集まるのではないか、――だがそれには下準備が不可欠となる。只人を巻き込まぬ準備が。
「そうですか。単純な話ではありますが、こうしましょう」
 生存者と魔獣とを別々の道へ振り分ける。片や駆け回っての救助、片や離れた場所での八百長芝居というわけだ。
「生存者に関しては、あなたが」
 足がとてもお速いようですから。僅か口元に笑みを湛えスヴェトラーナは、ザッ、と、靴の形に土を盛りながらぬかるむ大地を踏みしめる。
 編んだ髪だけ先へしなって、それから肩の線に沿ってなだらかに落ち、女は獣と相対した。
 ――演算結果。殊更この世界では、力無き綺麗ごとでは人の心は支えられない。
 より求められるのはつまり、此処で身体を張り。且つ勝ち取る、という明快な選択。
「どうぞお願いします」
 機械と共にある彼女らの体は、獣にとって如何ほどの馳走に見えたものか。
 たすけて、と。今もまた道の向こうから上がる声が消えかけたなら、もっと柔そうな肉がそばを走っていることを思い出し、獣の鼻先が逸らされる。
 瞬間をニコは見逃さない。
 次は骨でも肉でもない、懐から取り出したスパナをぶん投げ爛れた横っ面を痛烈に殴るのだ。
 ギャウン! 鳴く獣の頭部は凹む。あれだけ歪まされたなら、口の開閉にまで支障が出てもおかしくはない。
「置き土産よ」
 ただでは譲らぬ青目に信頼。ニッと笑ってみせる女は、すぐに分かれ道へと消えてゆく。
「粋ですね。……さて、どこまで効きますか」
 演技も私の力も。
 呪いを唱え上げながらスヴェトラーナは、どこかから視ているのであろう敵を思う。

 断っては塞がる荊の垣根はたしかに障害ではあったが、後先考えず突っ切るのならば道とも呼べぬことはない。
「魔術だかなんだか知らないけれど」
 己が正義と思った道が正義。誰にも邪魔はさせない!
 かくして最短で辿り着いた声のもと、ニコはふたつの人型を見ることになる。片方は歪な――恐らくうまい部位だけ食い荒らし飽きられたか――上体の肉をごっそり失った姿ではあったが。
(「もう長くないわね」)
 すぐにそうと分かってしまう。その体に取りついて涙する少女の頭に手を置くと、顔を上げさせる。歩く他、ないのだからと言って聞かせ。
「おかあさんも、いっしょじゃなきゃいや……!」
「っ……わかったわ。お姉さんに任せなさい」
 だから、ついてきて。何も曲げないと――女は、人と称すにはさみしいほど軽い、しかし息衝く肉体を背負い上げた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

氏神・鹿糸
明石・鷲穂と参加

芝居…裏切りとかがお好きなの。なら良い機会に簡単な猿芝居をしてみようかしらね?

「じゃあ、逃げましょうか。」
ひとまず、2人で魔獣たちから逃げるわ。
私が遅れてきた時に、ユーベルコードで鷲穂を襲って魔獣の囮に。
「油断したわね!私の代わりに食べられてちょうだいな!」
嫌ね、悪い女。ごめんなさいね。

そこで鷲穂が目を引いて囮となってる間に、精霊たちを使って探し、生存者を一箇所に集めるわ。
「足は動くわね?ならば体は生きたがっているということ。ほら、さっさと走って!」

追いかけてくる魔獣へは生存者から距離をとって、ユーベルコードで攻撃。
当然無傷ではいられないもの。庇うことも辞さないわ。


明石・鷲穂
氏神・鹿糸と参加。
共にWIZ〔魔力や賢さで追いかけっこを制する〕ぞ。
嬲って遊ぶのは良くねえよなあ。

鹿糸の猿芝居に付き合い、魔獣から逃げる。
不意打ちでユーベルコードを受け、横転。
「おい、お前…!!」
マジか。不意打ちな上に痛い。


ひとまず生存者を集めている間の、領主の眼や、魔獣達を引きつけるために戦いを互角に、長引かせる戦法。

「問答無用だな。獣同士の争いだ!」
武器は無く拳。互角に見えるよう、魔獣からの攻撃は中傷程度に受ける。
傷が多くなったらガチキマイラで頭部を鷹にして噛みつき、回復を繰り返す。

戦闘が落ち着いたら、生存者の集まる所へ急ぐ。
途中生存者を見つければ、俺の背中に乗せて連れていこう。



走る、走る。

「嬲って遊ぶのは良くねえよなあ」
 走る。残ってしまった肉片らを明石・鷲穂(門前の山羊・f02320)の蹄が土に帰す。
 氏神・鹿糸(四季の檻・f00815)は彼に遅れて続きながら、途絶えぬ花の迷路に手を触れる。
 艶に咲き誇っておきながら生気は感じられない。つくりもののそれだと、分かる。残虐な遊戯に利用される花々がないことだけがせめてもの救い。
 二人はひと芝居打つことで合意している。追い来る獣を追いかけっこで引き付けて、生存者から目を逸らさせること。
 だがそれだけでは芸がない。より確実をと女は念じ。
(「裏切りとかが、お好きなら」)
 過激な方がいいかしら。
 ひらり五指を開いて向ける先は獣でも垣根でもなく。少し前を走る仲間――、直後。
 大気を裂いて、雨粒を濃縮したかのような水の塊が爆発した。他でもない、鷲穂の背で。
「――はぁっ!?」
 まともに喰らった男は圧で押しやられ、フェインティング・ゴートばりにすべらかに横転することとなる。ぴーんと脚が伸びた。
「おい、お前……!!」
「油断したわね! 私の代わりに食べられてちょうだいな!」
 捨て台詞まで鮮やかに、青緑の長髪が翻って。
(「嫌ね、悪い女。ごめんなさいね……でも、無駄にはしないから」)
 鹿糸はこれでも彼のことを信じている。頑丈さとか、そうしたあたりを。

 揮う相手が獣であればまた違ったろうが――迷わず駆け去る女の背へと、どこかから拍手の音すら聞こえてくる気がした。
 そりゃ付き合うとは言ったが……ここまですることあるか?
 だが、悪くはないか。背は焼ける痛みながらも切替は早い、振り子の要領ですぐさま跳ね起きた鷲穂は、半分頭に影差していた獣の上顎と下顎をそれぞれの手で掴む。
 ギチギチに食い止める。躍る舌が時に生ぬるく指を濡らす。
 閉じようとする力は強く、てらりと血に濡れた奥歯の形までよぉく見えるのだ。鳥でも山羊でも人でもない。ナニを、喰らわんとしているのかも知らぬまま。
 ハッ、と。その恐れ知らずの獣性に、吐く息へつい笑いが混じった。
「こうなりゃ問答無用だな。獣同士の争いだ!」
 頭を完全に引き抜き、腕の力だけで強引に閉じさせる。今の一動で数本の歯が砕けたが、地味な損傷は獣の不利を悟らせない。
 抗う爪を片腕で受け骨肉の盾として、突き出た長い口吻を殴る。撃って離せばギッと短く悲鳴が上がり。
 武器など無くとも拳だけで十分に渡り合う男の姿がそこにあった。
 ……圧倒してはよろしくない。事の要点も頭の片隅残しておき、適度に傷を重ねつつ時を稼ぐ。

「足は動くわね?」
 鹿糸が見つける生存者は、どれもこれもが気力で立っているかの容態。彼女の声に頷くだけで痛み引き攣れ眉を顰める。
「ならば体は生きたがっているということ。ほら、さっさと走って!」
 血の海に座り込む腕を引っ張り上げ、そこから先は当人の意思に委ねる。
 そもそもが生きたいからとこの場に集った者たちだ。襤褸同然となろうとも、それがどんなに儚かろうとも、射し込む光に立ち上がらずにはいられない。
 先も別な女に呼び掛けられたと、ひとりの男が問いかけた。
「あんたらは、参加者じゃないんだろ……? なら領主の……?」
「私なら、もっと綺麗な薔薇を見させて差し上げられたのに」
 また俺たちをハメる気かと紡ぎかけた唇へ、人差し指を立てる。
 ひとつ垣根を隔てた隣で獣の唸り声。おしゃべりは、後だ。

「生きてるなら乗ってきな」
 道中で拾ったのは、兄と妹であろう。背の妹は既に事切れているようにも見えたが……"認識できないこと"が精神の要となることもある。言及することはなく、鷲穂は彼らへ広い半獣の背を貸した。
 少し走れば進行方向に鹿糸の、それと、同じく生存者を集めていたらしい。同時に転送されていた猟兵ら数人の姿を見つけ一息。救えた頭数は九、はいるか。
 更に向こうには、獣を抑える役目を買って出た者がいるのだろう。
 加勢に駆けた知人のエレメンタル・ファンタジアは遠目にもそれと分かり、相変わらず力強い水柱を立てている。
「また派手にやってんなあ。……お」
 一体の獣が体をぐずぐずに綻びさせ、嵐と垣根を抜けてくる。
 まだ喰える方と思ったのか、目のあったキマイラ男とその背の子らへ向かい、真っ直ぐに襲い掛かろうと。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『闘奴牢看守』

POW   :    ボディで悶絶させてからボッコボコにしてやるぜ!
【鉄製棍棒どてっ腹フルスイング 】が命中した対象に対し、高威力高命中の【鉄製棍棒による滅多打ち】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    チェーンデスマッチたこのやろう!
【フックと爆弾付きの鎖 】が命中した対象を爆破し、更に互いを【鎖についてるフックを肉に食い込ませること】で繋ぐ。
WIZ   :    嗜虐衝動暴走
【えげつない嗜虐衝動 】に覚醒して【『暴走(バイオレンス)』の化身】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


が。
 獣が辿り着くことはない。ぱきゅっと、空気の抜けたボールみたく横へ弾き飛ばされたのだ。

 衝撃音の出所を辿れば、垣根の間から肌色の――ずんぐりと太い、足。足が突き出している。
『ふんふふんふ~~ん。犬ってのぁグズのアホでいけねえや』
 黒緑を割って姿を見せるのは、二メートルを超すかの熊のような図体をした大男。
 肩には担ぐ棍棒。わざとらしくさまよわせた視線を、下へ……低い位置に合わせ直した口元は下卑て歪。
『アンタたち飛び入りだって? ウチのボスがよぉ、退屈で寝ちまいそうなんでな。オレたちも特別出演しちゃいまぁ~っす』
 "たち"と、声にしたその時、男の背後で垣根が一斉にがさつく。
 そこから顔を出すのもまた、同じ筋肉達磨。
『なァんだ、村の役者も全部集まってんのかい?』
 おいおいどうするよと大げさに肩が竦められ、そして棍棒が持ち直された。
 一度に死んだんじゃもっと退屈させちまうじゃねえか!! 響き渡る、げたげた笑いとともに。

 敵数、生存者側に一。獣の抑え側に五……六。
 領主は能力を使いこなす抑え側を邪魔と判断したか。弱きを演じ駆け回る者と強く敵を押し留める者。作戦自体は、功を奏していたといえよう。
 相手取っていた魔獣の残りが尾を腹につけ散ってゆく。

 十数名中、過半数以上が存命。
 今はまだ――ではあるが。
弥久・銀花
犬の次は豚が出てきましたか。

中世以前の家に鍵を掛けない昔の農家では赤ん坊がよく豚に踊り食いされてしまった様ですが私達にもそうする趣向でしょうか?

そんな事はさせません、私が相手になりますので掛かって来なさい。
豚らしく屠殺してあげましょう。

手にした鉈を構えて、生存者の方に向かってきた大男に向き合い、挑発します。
私に注意を惹き付ければ生存者の方達が安全になると踏みました。

鉈で苦戦を演じつつ、大男の手足に傷を負わせて、返り血で自分の衣服や髪を染めて行きます。
私も【見切り】を使い、戦闘に支障が無い程度に傷を負います。

主催者も興奮させ注意力を落とす作戦です。

それなりに体が血で染まったら鋭刃線閃で倒します。




「ひっ……ひいぃぃぃぃ!!」
『ギャハァ、なんだって? ボクからころしてくだちゃぁあいってかあ!』
 我先に逃げ出さんとした者が泥に足を取られ転ぶ。震えるその足を軽々掴み上げ、宙ぶらりんに遊んではまた男は笑う。
「犬の次は豚が出てきましたか」
 決して、声を張っているわけではない。
 だが。下劣な笑い声に塗り潰されることなく少女、銀花の声は玲瓏に通った。
「中世以前の、家に鍵を掛けない昔の農家では赤ん坊がよく豚に踊り食いされてしまった様ですが」
 そうした趣向でしょうか。続け、手にしているのは人と、それに獣の返り血に汚れた鉈。
 言い終わりにぽたり滴が落ちたとき、大男の視線が彼女へと移る。
『豚ァ? ビビッて現実逃避ねぇ。おっよく見りゃお目目が片方お留守じゃあねえか!』
 滑稽なれば手を叩け。腹を抱えて声を上げろ。主の教え通り、そりゃあ仕方ねえよなあと叩こうとした手は、だが。
 片一方がどこにもないのだ。
『はぇ?』
 ――斬。くるくるり、宙舞う手首が泥に落ち。放り出されて気を失った只人の上を越え。一歩、踏み出した銀花は刃の先を指差すように突き付けた。
「豚らしく屠殺してあげましょう」
 豚は貴様で相手になるのは己だと、一振りのうちに叩き込んで。
 新たな滴が垂れようとするのと、顔を真っ赤にした男が飛び出すのは同時。
『って、てめええェェ!!』
 巨大な鉄製の棍棒は片手で御せる程ヤワでない。力の乗り切らぬ振り下ろしは本来銀花の体を沈ませる重みを伴いはしないが、敢えてそれを鉄鉈で受けたとき、少女は取り落とすかの動作をしてみせた。
 ただ血を流して呻きを発せば悦べるだなんて、児戯ほどに単純。
(「精々そこから見ておきなさい」)
 確実に急所から逸らした状態で受けた一撃に、体を折り沈むと見せかけ、地につく前の鉈を掴み取り。
 大振りの腕が戻り切る前に上方へと半月の軌跡でそれを挽いた。
『んギッ!?』
 飛沫が更に、銀花を赤に近付ける。半ばにまで切れ込みの入った腕に男は瞠目。瞠目して、完全に切り落とされる前にと振りかぶる腕が力みはするが。
「やはり、道具を扱うには早かったようですね」
 その一本は、"残してやった"のだ。
 剥き出しの白い肩を数筋色付ける以上の脅威とはならず、鋭刃線閃――錆びた鉄すら研ぎ澄まされた刀剣の如く、線引いた後には二つに分かたれた巨体が方々へ飛ぶ。

 鉈一本で何ができる、と。
 争いの音の中、目を覆っていた者が束の間訪れた静寂に開いた目に映るのは、真紅に染まりながらも凛と立つ小さな後ろ姿だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ニコ・トレンタ
【SPD】

下品な奴らだわ。
圧倒的に不利ってわけでもないでしょ。
やってみせる、まだまだ出来る!

ガジェット・ショータイムを使って
こいつらに有効な攻撃を仕掛けるわ。
お芝居でもなんでもこんなのは全然楽しくない
欠伸が出ちゃうわよ。

なるべく孤立しないように戦うわ
生きているものを見殺しになんて出来ない…
さっき助けた女の子が狙われたら
間に入って助けるくらいはしたい
この身体は機械だから大丈夫、全然痛くないわ!

2回攻撃も使って確実に倒して行く
味方との連携も必要よね。
辺りに気を配って、注意を促そうかしら。


ロベリア・エカルラート
素人め……中途半端に手を出すなって、全く……
ココまで来たら、力づくでもいいかな

正直この力大嫌いなんだけど、ヴァンパイアの下らないお遊びをぶち壊すためなら我慢しようか

【血統覚醒】を使って、抑え側である私のところに来た敵を倒すよ
敵のフルスイングは、覚醒で上昇したスピードで躱してこっちから武器を叩きつける。可能なら倒した敵の武器も奪おう

戦闘中も【生命力吸収】で回復
直接吸いたくないから武器越しに吸収で

眼の前の敵を倒したら、生存者を追った敵を追いかけて後から攻撃するよ。出来るだけは助けたいしね

「思ったより気が短いな。正直こういうのが劇を台無しにするんだよねぇ」

多少攻撃を受けても、ダメージは顔に出さないよ



幾度か切り結んだのちの決着、更に少女が酷く血に染まって見えるため、これもまたまぐれのまぐれと思ったのかもしれない。
『ヒャヒャ! アイツ死んでらあ! なんだっけ、ネズミがよぉ……最後っ屁で噛み付くって言うしなぁ!』
『あのチビからヤっちまうか!』
 若しくは、甚振る側に胡坐をかき続けた者に戦士としての勘など、疾うになかったか。
 ボス見てますかぁこっから盛り上がりどこですよ、そう声高に歩み出す首のそばで風が鳴る。じゃら、と、硬質な響きを伴って。
「どこまでも下品なのね。いっそ才能よ」
 ユーベルコードの力によって、今は鞭に姿を変えたニコのガジェット。硬い柄は揮い手の彼女にも似て直線に伸び、そこに括り付けられた紐は細くも金属のつくり。
 陽気な歩みをひたり押し留めたられた男が何か言おうと口を開く。
 開こうとした――が。
『ヒギャ!!?』
「もうやっちゃってもいいよね」
 言葉を結ぶには至らず、叫びが漏れる。要因は腹から突き出す刃。血を弾く黒のベーゼ・ドゥ・プランス。
 力づくでさ? 誰に尋ねるでもない、引っ掛かりなくするりと引き抜かれた黒剣はロベリアの手に。強いて言うならば己自身に――彼女の翠眼は見違えるほど朱く染まっている。
 大嫌いな力の解放。ヴァンパイアへの、血統覚醒。
 明日が訪れて当たり前だと思っているから、起きたことが信じられないでいるのだ。縮こまって固まる身をニコが蹴倒す。
「賛成。こんなお芝居、楽しくもなんともないもの」
 欠伸が出ちゃうわ。言い捨てる背には弱った人々。やってみせる。まだまだ出来る!
 ふわり風孕む裾はドレスのように優美でありながら、少しも甘くはない。
 転がったところへ踏みつけ贈る尖ったヒールの形、"偶然"にも柔い眼球に刺さったらしく転げまわる男に目もくれず、女は身を低くして次の一体へ。
『オ……オラアァァ!』
 棍棒を振り、伸ばされた紐を目前で弾き返した巨体は、その瞬間まで気付いていない。
 自身の攻撃の陰に入るようにして距離を詰めていた"オブリビオン"の姿に。
「これじゃ盛り上がりに欠けちゃうな」
(「素人どもが」)
 ハ――と。息はできず、穴の開いた肺を風が抜ける。
 片割れであろうと鋏は鋭利にものを殺ぎ、今や禁忌に身を晒したロベリアにとって彼らは、喋る肉程度の面白味しかない。
 それすら。
 斬って捨てる。すべてはヴァンパイアの、くだらないお遊びをぶち壊すため。

『なんだ!? コイツら……』
 またひとつ転がされる仲間の体に、さすがに現実を受け入れたようだ。焦りを滲ませた二体が目配せをし合い、同時に彼女へ飛び掛かり。
 ギイィィン!
 豪速のフルスイングと返す黒刃が宙でかちあう。
 いつ振るったのか――異様なまでの反応速度にまるで理解が追い付かぬまま弾かれる鉄の棒は、木の枝みたく跳ね飛んでゆく。
 だがもう一方は当たったろうと素早く隣を見てみればそこには、ぐらりと傾ぐ胸から上。
 閃いた刃は秒を縫う速さだ。僅かに構えの遅かった棍棒が、持ち主の上半分とともに、盾の役割すら果たせず土へ突き刺さった。
『ぜぇッ……ぜんッぜん、動きがちがッぐ、ゲェ』
 後ずさる男は蛙の役を主に命じられたということもなく。
 ニコの手によって締め上げる紐が喉仏を推し潰し、刃物同然食い込むのだから言い終えない。
「あなたたちのボス、だったかしら。人選を間違えたわね」
 それだけでも鞭というより蛇腹剣の鋭利さ。更に目一杯の力と信念とを込めたガジェットは蒸気の魔法と結び付き、煙を上げる程に高速で回転、首の肉を殺ぎ始める。
 絡め絡めて捩じり落とす頃には、二メートル分の高さから一気に地へと叩きつけた衝撃もあり、首だけころころ元気に弾む生物が出来上がっていた。
 こちらの方がまだ見栄えがいい。数秒ののち、靴裏でこれでもかと歪まされることになるが。
『おい、こっちもそっちもバケモンぞろいだ!』
 仲間の首をも蹴飛ばしながら走り出す大男。間髪入れずに追いかけるのは黒刃。
「思ったより気が短いし。こういうのが劇を台無しにするんだよねぇ」
 大切なのが、希望からの絶望だと云うのならば喜んでしかるべき展開ではないか。
 揶揄する風なロベリアの声は得物と同様、ぞっとするまでの冷やかさ湛え。
 斬り刻む。
『グぞォ! オまえラ! あっぢの能無しどもがが殺ぜべエェ!!』
 肉へと化す、死にゆく間際の一声。脅威を前に"芝居を盛り上げる演出"なんてものはすっぽ抜けた男たち。

 今?

 ――今はそうだ、泣き喚いて命乞いするかわいらしぃい弱者を心行くまで殺していたい!
 最も根幹にある嗜虐衝動。
 爆弾の取り付けられた幾つもの鎖が、その幾つかをすぐさま叩き落とされる中、身を寄せ合う生存者らへと矢のように伸び。
「っ、させない!」
 この身体は機械だから――投げ出してでも。ニコは、任せてと約束をした少女の側へと。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ニコラス・エスクード
【POW】

……鈍重なこの身ではどうにも出遅れていかんな。

しかし如何にもな下卑た存在が居たものだな。
コレの主ともなると想像するのも煩わしい。
嗚呼、退屈で眠いのだそうだな。
主共々、寝かしつけてやろうじゃないか。

挑発を行いながら生存者達をかばうように前へ。
此の身が盾である事は、此の身を得る前より変わりなく。
矛先が生存者へ向かわぬよう全て受け止める覚悟で迎え撃つ。
盾受けの技能も用い確実に受けきってやろう。

気持ちよく殴り終えたのなら此方の手番だな。
得物を構え直し、放つは「報復の刃」。
素っ首、叩き落としてやろう。
この汚い首で報いに値するとは思えんがな。



多重爆発。
 数はぐっと減らした。しかし我が身を懸けて伸ばす手も、追い縋る妨害の手も。
 本来ならば、如何に尊い覚悟とてその暴虐の前には届かぬ筈であった。

「鈍重なこの身ではどうにも出遅れていかんな」
 濛々と立ち込める黒煙の中、より色濃き黒鉄の鎧。
 ――彼、ニコラス・エスクード(黒獅士・f02286)が居なければ。
 前へと構えた白妙は、炎塊を弾いた今も煤けることなく光を返す。
 立ち続ける姿は、ただひとつの。姿変われど揺るぎ無い盾。
「りょ……――」
 領主? 母と共にある少女の横で、背に庇う者のひとりが声を上げた。現実味がなくともあまりにも、男の重圧は騎士のそれ。
「否。その面を拝みに来た側ではあるが」
 応える視界の隅で、幼き兄が妹の上に覆いかぶさるように倒れている。体は微かに上下しているようではあるが、意識はない。焼け爛れた背から骨が覗いてもその顔は綺麗なまま、為せたことに満足げですらあった。
 ニコラスが守り手であるように、彼もまたそうであったというだけのこと。
 蹴落とし啀み合うのが人、死体を庇って死ぬなんて馬鹿げた話だとしても。
 いとしい者を守るのもまた人。
 それだけの。
「…………」
 抜き身の剣を引き出し背中で語る。下卑たコレの主ともなると想像するのも煩わしいと、眺め見る先の配下残党。まだ靄がかる姿は、身振り手振りの大きさだけで慌てようが窺える。
『なァんで立ってんだあ!?』
『つうかアレよぉ、ボスじゃねえのかよ! もしかすっとお怒りかぁ?』
 煙が晴れ切るを待つまでもない。
「嗚呼、退屈で眠いのだそうだな。主共々、寝かしつけてやろうじゃないか」
 然して先手を狙い駆けるわけでもなく、ニコラスは一歩一歩と甲冑を軋ませ、男たちへと歩み寄る。長大な得物が地面に線を引き始め。
『あァ!? チッ、鉄屑に変えてやんよォ!』
 特別頭に血の上りやすい一体が黙っていられず飛び出した。
 間近に寄れば殊更に、命を縮めるだけとも知らず。
「一人でいいのか」
『……ッ黙れェ!!』
 相対す堅牢たる体躯はオブリビオンにも比肩するもので、一瞬、棍棒を振るう手に迷いが生じたことが見て取れる。だが、振り切る他はない。
 ――がうん、がごんと。
 右へ左へ鈍い音が続きはするが、精々が揺らすまで。広い円盾と夜闇にも似た黒獅の鋼を掻き消すには至らずに。先の爆発が無くては力を発揮できなかったやもしれない――と、思ったとして無理はない。
 彼のユーベルコードは、盾で在る強みを最大限に引き出すものなのだから。
「それでは此方の番だ」
 素っ首、叩き落としてやろう。
 次の殴打を高く弾き上げすぅと引いた盟のミクラーシュに代わり、矛たる剣が握り直され。避ける間も与えず、閃。
「この汚い首で報いに値するとは思えんがな」
 衝撃波までもが首断ちの刃。
 風船でも弾ける音で目前の首が飛んだかと思えば、続いて数個が胴を離れ。
 何がなんだか分からぬままに倒されていく仲間の姿に、俄かに男らは距離を取る。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
アァ……犬はクズでアホでいけないだろ?
キャンキャン吠えてうるさいうるさい。
お前らもコノ芝居の中だと犬と同じなんだろうなァ……。

先制攻撃で人狼咆哮
味方は巻き込まないように注意は促しておこう
キャンキャン吠えるヤツよりもうるさくないだろ?

ネクロオーブの紅花を使って筋肉達磨に呪詛を
吼えるのがうるさいならコッチはどうだ?
紅花はうつくしい君、静寂を装ってじわりじわりと侵食して行くんだ
お芝居にはもってこいだろ?

敵サンの攻撃は見切りで回避。
アァ……わざと当たって芝居を盛り上げた方が良いか
おーい、お前らの相手はコッチコッチ
村のヤツらには手出しさせない

連携トカできたらする


アルジェロ・ブルート
……ひひ。
ンじゃ、俺も飛び入りしちゃおっかなぁ。

筋肉達磨の攻撃なんていちいち喰らいたくないわけね。
そこらへんは【絶望の福音】で避けるとするわ。
さってンじゃあ【Sangue】でいこーか。
イロイロやっけどお前ら【激痛耐性】はあんのかよ。

領主を喜ばせてぇの?だったら手伝ってやろうか。
お前らが面白い位ぐっちゃぐちゃになれば、ゴシュジンサマも愉しいかもよ。
なぁんて胡散臭そうに笑って。
鬼ごっこすんならどっちが鬼でも良いわなぁ。
どーせお前らのゴシュジンサマは、お前らの事なんざさっきの犬と同程度にしか見てねぇよ。



「逃げちゃおっかなぁとか考えてる?」
 不意に、戦場へ舞い込んだ風は立ち尽くす残党の側面……つまりは垣根の上より吹いたもの。
 青い光は星ではなく双の瞳。アルジェロ・ブルート( ・f10217)の灰髪はさらさらと揺れ、利き手に馴染んだSangueを回す。
『次から次と!』
「視えてんだよなぁ」
 鎖を放った大男の攻撃はしかし、掠りもせずに上体の傾きのみで躱される。
「まぁ話くらい聞けよ。ゴシュジンサマをもーっと喜ばす手伝い、してやろうと思ってんだわ」
 "お前らが面白い位ぐっちゃぐちゃになる"っつうんだけどね?
 そうして少年は、月の代わりにおそろしいまでの艶笑を浮かべ飛び降りた。
「どーせお前らのゴシュジンサマは、お前らの事なんざさっきの犬と同程度にしか見てねぇよ」
「奇遇だなァ、まったくもって。キャンキャン吠えてうるさいうるさい」
 ひと跳びに並ぶエンジ・カラカ(六月・f06959)は這い寄る闇の静けさそのもの。足音も衣擦れの音もそこになく、幽鬼じみた出で立ちの中で紅花だけが酷く鮮やか。
(「村のヤツらは……任せとくか」)
 後方の守護を見たなら彼の踏み込みにはまだ先がある、余勢を駆って体当たりに押し込む風にも敵中へと跳び息を吸い――咆哮。
 逃しはしない、ユーベルコードの有効射程。
 罅割れる、そうした錯覚を覚える程空気を震わす声の波はいっそ烈しい砂嵐、肉体へひたり沁み入っては内から破壊する。血管は膨張し穴から粘性の赤が噴き出して。
「キャンキャン吠えるヤツよりもうるさくないだろ?」
『アッが、あだまが……ァ』
「ますますお近づきになりたくねぇ面になっちまったな、ひひ」
 いくら筋肉を誇っていようとも、中身なんてのは大差ない。
 鬼ごっこへと例えたならば完全に鬼の側――アルジェロの、揮う拷問具の突きはまたひとつそれを証明するかの如く。
 血の流れ出る目元口元を容赦なく抉ってゆく。
「そういやお前らこれ痛い?」
 世間話の続きを思い出したみたく問うてみても、最早答える術を持たぬ肉塊には痙攣し転がる他ない。
 どうせ大した興味もありゃしない。さくさくと殺しをこなす少年へ向けられかけた鎖については、危なげなくエンジが掬う。そう怒るなと笑うまやかし。
「吼えるのがうるさいならコッチはどうだ?」
 ――さぁ、紅花。うつくしい君。
 手にしたオーブへそっと指這わすだけでいい。
 どこまでも静謐に。残酷に。"彼ら"の呪いはじわりじわりと四肢と五感の自由を奪ってゆくのだ。
「お芝居にはもってこいだろ? ああ、もうワンとも鳴けないか」
 棒遊びにわざと当たってやろうかとも思っていたのだが、残念だ。
 這い蹲る筋肉達磨を色彩のない金の瞳が見下ろした。

 残党にはもはや力押しできるほどの体力も頭数も残ってはいない。
 足掻きで手繰った鎖は真っ二つに断ち切られ、棍棒を握る指も動かず死を待つばかり。
 エンジが呪詛を唱え、アルジェロが踏み躙る。
 双方とも死霊術士で咎人殺し。互いの手の内への理解があるからこそか、即席と感じさせぬ淀みない連携は敵を寄せ付けなかった。
「おっと、コイツで最後かよ」
 文字通り、ぐっちゃぐちゃに。地へ縫い付けた男が動かなくなったとき、二人はしばらくぶりに周囲を見渡す。
 よくもまぁ通してあれだけの力のぶつかり合いがあった場で、生存者がいたものだ。
 いくらか"死にそう""死んでるかも"が増えている程度であとはこの後の動き次第。
 ――そうであると、感じさせる足音が近付いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『異端の騎士』

POW   :    ブラッドサッカー
【自らが他者に流させた血液】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【殺戮喰血態】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD   :    ブラックキャバリア
自身の身長の2倍の【漆黒の軍馬】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
WIZ   :    フォーリングローゼス
自身の装備武器を無数の【血の色をした薔薇】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


硬質なもの同士がぶつかり合う、乾いた拍手の音が響いた。
 零時に魔法が解けるように。
 早送りで時が進むように。
 背の高い薔薇の垣根が、萎れて形をなくしてゆく。

『ごきげんよう来訪者諸君、私のためを思って頑張ってくれたようですまないね。そうだな……中々の傑作だったさ。特に、死体を眺める横顔なんかは』
 領主――黒甲冑のオブリビオン。
 兜越しに随分と濁ってはいるが、随分と穏やかに聞こえるそれは女の声だった。
 目線がどこへと向いているかは定かでない。
 分かり得るのは、手にした魔性の刃がひとたび形を変えるだけで、力持たぬ首が複数飛びかねないという事実。
『ただ、もう、極上の舞台は眺めるだけでは見られはしないと気付いてね』
 そういえばしばらく血を浴びていなかったなあ。続く一声は、表情までも見え透くほど楽しげに。
 猿共。諸君らの死を以て本公演はおしまいだ――ご退場いただこう。

 剣が抜かれる。
ニコラス・エスクード
公演主が出張るなど、稚拙な脚本があったものだな。
嗚呼、猿程度に壊された三文芝居の成れの果てか。
であれば結末も変えねばな。
支配者が応報を受け散り果てる、痛快な喜劇が良いだろう。

俺の行動の多くは変わらず、人の前に立つが盾の使命だ。
無辜の民の首を刎ねさせる気は毛頭無い。
庇いたて、矛先を此方へ向けさせるよう立ちはだかる。

まずはその傲慢さを鎧ごと打ち砕いてやろう。
剣には剣を、血には血を。
『ブラッド・ガイスト』を用い己の血を喰らわせた刃にて、
怪力を振るい捨て身の一撃をお見舞いしてやろう。

さぁ、然と受け止めろよ。
ただの一刃で首を刎ね落としては、
待ち望まれる報復には程遠いのでな。


エンジ・カラカ
頭の高いヤツってコトはお前がこの舞台の偉いヤツか
アァ……退場はまだしたくないなァ
一緒にとびっきり愉快な芝居をしよう

拷問器具の辰砂は賢い君。
血に飢えた賢い君。サァ……一緒に演じよう

先制攻撃でこの頭の高いヤツに咎力封じ
逃がさない、辰砂は絶対に逃がさない。
何度でも何処まででも追いかけてやる…
なァ……上から眺める景色はどうだ?
下から眺める景色を見せてやろうか?

二回攻撃に属性攻撃。
敵サンの攻撃は人狼の足、素早さを生かして見切りで回避。
ホーラ、支援はするからでかい攻撃は任せた。


弥久・銀花
漸くお出ましですか猿芝居の座長さん、貴女の催しは詰まらなかったですよ。

指摘点として、先ず一方的過ぎて感情の起伏に欠けます。
せめて村人にも扱える様に石弓を渡すべきでしたね、途中からはここの外で繰り広げられる日常と大差なかったです。

第2に、品性に欠ける者の個性が際立ち過ぎてて見苦しい者が嫌いな人には受けないでしょう。

第3に、主催者が完全武装で舞台に上がるとか興醒めも良い所です。


評価、地獄行き。

そんなに血が浴びたければ血の池地獄に叩き落して差し上げましょう。



私はここまで頼りにしてきた鉈を領主に投げつけ、隠し通してきた愛刀;白嵐玉椿を抜いて挑みます。

狙いは武器。
鋭刃線閃で勝負を掛けます。




 対峙する猟兵らも、銘々に獲物を構える。
 ――カツン、と。
 人波を縫い曲線を描いて放られ、初めに黒甲冑へ縦線を刻むのは、様々な血に汚れた鉄の塊。
「漸くお出ましですか。猿芝居の座長さん」
 銀花の投げた鉈。所作は、決闘を申し込む儀式にも似ていたか。
 隠し通してきた愛刀へと血糊の乾き始めた指が触れ、その出番を知らせ。鯉口を切ってすらりとした刃が抜かれる。
「貴女の催しは詰まらなかったですよ。指摘点をお教えします」
 目映いばかりのしろがねは、これより使い手と同様の色に染まるのだ。
『……ほう? 聞かせてもらおう』
 鉄靴のひと踏みが鉈を砕いたのを合図に、第二の幕が上がった。

 その一。
「一方的過ぎて感情の起伏に欠けます。せめて村人にも扱えるように石弓を渡すべきでしたね」
 途中からはここの外で繰り広げられる日常と大差なかったです。
 淡々と読み上げるかの声の合間にも、剣戟の音は鳴りやまない。
 鞘受けののち弾き飛ばされれば、反動を発条により深く踏み込み。
 かち合っては滑らせて重みを受け流す。幼少時より鍛錬を積んできた足さばきは、オブリビオンを相手にしようと取り残されずに渡り合う。
 その二。
「品性に欠ける者の個性が際立ち過ぎてて、見苦しい者が嫌いな人には受けないでしょう」
 それがそのまま、あなたの品性なのでしょうが。
 烈しい衝撃にも瞑らず開く右の瞳は射抜く鋭さ。似て非なる色をした空洞を捉え続ける。
『そうか。もう一刻早く邂逅していたのなら、より面白いものを見せてやれたのだろうがな』
 瞳――夥しく血濡れた様、それでいて軽やかな動きから、彼女を飾る血が当人でないものと見て取れば兜の下の声は喜色を帯びる。まるで、芝居好きの友を見つけたとでも云いたげに。
 騎士の黒剣が薄く紫のもやを帯びる。殺戮喰血態、その封印が解かれようとしつつあった。突き出す速度はこれまでの打ち合いよりも迅く、
『これは詫びだ』
「その三。公演主が出張るなど、稚拙な脚本があったものだ――だろう?」
 しかし、銀花の体を通ることはない。
 瞬間合間に振り下ろされた盾じみた大剣が、二つの合間を完全に断っていた。
 言葉の先を継いでみせたニコラスの剣もまた、己が血によりその性質を益々強化されている。
 志込め数多の首を落としてきた鋼が、戯れの前に折れる道理があるものか。
 これには些か不意を突かれ騎士の反応が遅れる一拍、とはいえ微かな間、ほんの微かな間に少女は構えを完成させる。
「ええ。ですので」
 ――評価、地獄行き。
「そんなに血が浴びたければ、血の池地獄に叩き落して差し上げましょう」
 狙い研ぎ澄まされた一振りのあとを花散らす嵐が追う。
 掻き消される紫煙。目算通りに黒剣へと届けた斬撃は、その刃身へヒビを入れるに加えいくつも破片を落とさせ。
 静として頽れず、白嵐玉椿は銀花の為に在る。

 幾人もの猟兵の背から奮戦を見つめ、すごい、と我知らず零してしまった子ども。
『ク、クク……ッハハハ! 見世物ではないのだよ、坊や』
 黒篭手が掴み取った欠片が投げナイフみたく宙を滑るが、厚く敷かれた守りの陣が黙ってはいない。
 第一に立ち塞がる黒獅の甲冑は、盾を持ち出すまでもなく身ひとつで事を成した。
「猿程度に壊された三文芝居の成れの果て。であれば、結末も変えねばな」
 支配者が応報を受け散り果てる、痛快な喜劇が良いだろう。貴様も猿のうちに過ぎぬと、即ち突き付けるニコラス。やや後方、怠げに首を摩るエンジ。
「アァ……退場はまだしたくないしなァ。一緒にとびっきり愉快な芝居をしよう」
 血に飢えた賢い君。サァ……一緒に演じよう。
 ついと揺らめき、褪せた指が躍る様は別個に意思持つ生物の如く。着込む闇の中から浮かび上がった拷問器具が一様に騎士へと放たれる。
 同時にニコラスが前へ出た。
『ふん、数を増やし過ぎたか』
 あれやそれから早めに降ろしてやればよかったと、舞台に立って初めて体感する猟兵らの連携。画面越しの感覚等そんなもの。
 女の頭は未だ冷静ではあった。絡みつく拘束の数々を鞘の最小動作で払い落とし、剣への対処は剣と足らねば鎧で受ける。時には男へ傷も増やす。
 だが、キリがないのだ。
 エンジの辰砂――拷問器具はどこまでも纏わり付く。さながら呪いであるかのように、小さな隙から泥濘へ引き摺り落とすべく喰らい付く。
 絶対に逃がさぬと込められた強い念。
「なァ……上から眺める景色はどうだった?」
 下から眺める景色を見せてやろうか?
 問いを重ねる、それはどろどろと底の見えぬ沼から響く誘いであった。
『っの、邪魔が!』
 ついに両の腕へと固く絡んだロープが騎士の防御を崩させる。ぴんと引き絞る男が手繰れば演技を始めるマリオネット。引き千切るために腕を張るなら、胴はがら空きといっていい。
「さぁ、然と受け止めろよ」
 そして、ニコラスは既に最大まで振り被っていた。ごうと風が巻く。
 ブラッド・ガイストは終わっていない――守るため多々流された血のすべてがこの瞬間に捧げられる。
 殴り殺すにも秀でる大剣が、左から入って肩胸腰の防具を剥ぎ取りながら半身を叩き割る。割る……そう形容すべき暴威。
『ガッ、は』
「ただの一刃で首を刎ね落としては、待ち望まれる報復には程遠いのでな」
「物足りないならくれてやる」
 銀花の与えた深いダメージを切欠に傷を広げていた黒剣は、今や長剣とは呼べぬ形となっていた。体勢整える間にエンジの飛び道具による追撃が入ったならばいなしきれず、数歩よろめき後退する。
 胸の真中へ穴が増えた。更にと迫る分厚い刃を鍔で止めるも、指数本がへし折れて。
「気分の方は?」
 堪らぬ消耗に幾何下がった頭へと平坦な声が掛けられた。今は手の内辰砂は役目を終えはしたが、いつでも彼の意のまま走る。……赤く光る双眸が、ゆっくりと上げられる。
『……なるほどな。よく、よく分かった』
 貴様らを我が手で殺すことが、ずっと魅力的に映る訳が。
 これといった予備動作があったわけではない。同色の赤が二つ増えたかと思えば、騎士の背後の暗闇から、漆黒の軍馬が滲み出た。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ニコ・トレンタ
【SPD】

お芝居なんかじゃない、偽物なんかじゃない
本物の命がすぐ後ろにあるんだから
絶対に抜かせない……!

まずはだまし討ち!
あらかじめ脳にインプットされているこの攻撃を
まずは馬に当てるわ。
同じ奴が2体もいると厄介ね……
属性攻撃であいつの弱点を突きたいわ。

敵が少女を狙いそうになったら間に割り込んで少女を守る!
お芝居は終わりじゃなかったの?
それならこの子たちは関係ないでしょ。
貴女たちの攻撃、機械の身体なら全然痛くないの。
少女の前では痛くても大丈夫ってかっこつけたいから
最後まで弱音は吐かないわ!
2回攻撃も使ってとにかく少女たちを守り切る!


氏神・鹿糸
あら、まあ。とうとう薔薇園の領主さまがいらしたのね。
でも、あくまで生存者を守ることを第一に。
「あなた達の領主は素敵な薔薇園を持っているのに。素敵な領民は大切にしなかったのね。」

生存者の一番近くで待機しつつ、ユーベルコードで後方から領主への攻撃。
「その目は何処を見ているのかしら。」
「さあ、行くわよ。舞台にあがった以上、あなたも喰らってもらうわ。」

もし生存者への攻撃があった場合は庇い切れるものは全て庇うわ。
私はヤドリガミだから。本体が破壊されない限り大丈夫よ。

これは希望のお話だけど。領主を倒すことが出来たなら、生存者にはこの薔薇園を綺麗に残して欲しいわね。素敵な花があるなら私もお散歩に来たいもの。


フィオリーナ・フォルトナータ
……あなたのような方ならば、
何を思うこともなく斬り伏せられるというものです。
あなたこそ、ご退場いただきましょう。
オブリビオンたるあなたのその命の終焉、それを幕引きとして。

共にいらっしゃるであろう皆様と、力を合わせて戦います
わたくしはトリニティ・エンハンスで自身の防御力を強化
仲間の皆様をお守りしながら立ち回りましょう
狙いは軍馬の脚、もしくは領主が揮う禍々しい剣
領主の守りを崩し、次の攻撃に繋げるための隙を作ることが目的です

…あなた自身もまた、つくりあげられた舞台で踊らされているだけだったことに気づかぬまま
けれど同情など微塵もいたしません
ここで終わらせて差し上げましょう


華切・ウカ
飛び入り参加――こういう突然の、突発的な事も上手にお立ち回り、できますよね?
舞台上の役者でしたらこれくらいアドリブでお返しくださいな。
ウカも――戦いの舞台にあがってさしあげます。

いままで皆様が重ねてきたものを無為にするわけには。
ただ、強敵にこのままで立ち向かえるのかとも。
大きな力には代償も必要、『降魔化身法』で自身の強化を。いずれの代償であっても敵に向かうのみ。

ウカの分け身を生み出して周囲に。
軍馬がいるならば、その腱を狙います。走れない馬は、いらないでしょう?
ウカではあなたの鎧ごと、断つ事は難しいでしょう。
けれど花鋏の――刃の入る隙間が少しでもあるならば断ってみせましょう




『人の持ついとおしさはどこからくると思う?』
 私はそれを、感情だと感じる。
 そう、馬へ飛び乗る女を猟兵も黙って見送りはしない。一撃を見舞おうとガジェットに手をかけるニコもそのひとりであった。
(「お芝居なんかじゃない、偽物なんかじゃない。本物の命がすぐ後ろにあるんだから。絶対に抜かせない……!」)
 主の意志を願い通り届けさせるべく、魔導蒸気機械が姿を変え始めたときだ。
 ふと甘い芳香が強まって。風に混じる薔薇の花弁が垣根のものではないと、微かな疼きに気付くのは。
『みせてくれ、心の底からの嘆きを』
 それらは鋭利な刃。魔剣の破片が花へと転じ牙を剥く――フォーリングローゼス、砕かれ力が減じていようとも、只人の肉程度容易く切り刻む。
「また……そうやって!」
 ――進むか? 守るか?
 今のニコには二択の前に迷いはない。
 飛び出す体は反転し、盾として投げ出された。
「わぷっ、っえ? ……え?」
 自らを押しやる背をぱちくり見上げる少女はまだ事態を認識できていない。大丈夫だから、言って聞かせる女の声はなだらかで……格好をつけて、振り向くことなく裂かれた肌を見せはしない。
「あなた達の領主は素敵な薔薇園を持っているのに。素敵な領民は大切にしなかったのね」
 この身はいくら傷付いたところで支障はない。
 鹿糸もまた、柔かな絹糸の髪が幾つ千切られても、花を愛する指が割れても晒す身を引くことはせず。
 サイボークとヤドリガミ。彼女らには一片の痛みもない? ――否。
 戦っている。心と体、より大きな痛みを己にも、誰にも与えさせはしないとその一念で。
 やがて花雨は本降りへ。
 突き刺さる刃が開かれた穴を通り抜けかけて、ニコはそれに手を重ねて握り潰す。露出した機械部から零れるものは血かオイルか。
「お芝居は終わりじゃなかったの? それならこの子たちは関係ないでしょ」
『なぁに、見たいものが変わっただけの話さ』
 なんとしても無辜の命を守り切る。そう心に決めていた者の多さは、きっとこの領主の好みであった。
 希望の塊である彼らが――いつ無力を嘆いてくれるか? 自らの手が届かぬために増えた亡骸を前に、やっぱり出来なかったと、頭を垂れてくれるか! その涙のうつくしさは!!
 ……恍惚と、そればかりを考えていたのだろう。
 ぶわりと花弁溶かす炎熱の訪れへ、幾何か、知覚が遅れてしまったのは。
「……あなたのような方ならば、何を思うこともなく斬り伏せられるというものです」
 佇むあわいオールドローズ。
 フィオリーナ・フォルトナータ(ローズマリー・f11550)は雨の中を歩む。纏う神秘の守護が、触れる端から鮮烈な花弁を褪せさせ灰へと変える。
「あなたこそ、ご退場いただきましょう。オブリビオンたるあなたのその命の終焉、それを幕引きとして」
 日差しのようにうららかな声色。しかしてそこには凄みがあった。人形、虫も殺せぬ乙女ではないと光湛える空の瞳が、繊細なつくりの魔法剣が物語る。
「お手を」
「まあ。薔薇園の精霊さんかと思ったわ」
 随分と乱された髪を掻き上げ、鹿糸はくすりと礼。涼しげながらどこか茶目っ気のある金目はこんな戦場にも明るい。庇い、掠り傷しか付けさせなかった腕の中の生存者を揺すり起こすと反応が返る。
 フィオリーナが二人の女のそばへ着く頃には、嵐は姿を消していた。
 力持つ猟兵が集えどすべての民が無傷とはいかない。中には胸や腹を裂かれた者もいる。それでもニコは、鹿糸は、他の守り手たちも両腕の届く範囲ものを確かに救った。

 軍馬が嘶く。
『……そうでなくてはな!』
 黒剣を翳し騎士が前へ。
 蹄を蹴り立て風の如く、進み出る彼らは――だが、直後に足踏むこととなる。
「飛び入り参加――こういう突然の、突発的な事も上手にお立ち回り、できますよね?」
 ぴんと張り巡らされたピアノ線のようにも、ひたり押し当てられた刃の数々。
 舞台上の役者でしょうと微笑って操る。其処はもう、鬼と契約をした華切・ウカ(空鋏・f07517)の領域。
『貴様、いつから』
 ウカも――戦いの舞台にあがってさしあげます。
 答えはいつも花鋏で以って。滑らす刃身が地を踏みしめる健脚から一度に肉を削ぎ落とす。
 踏み落とせど向かい来る刃は、馬にとって厄介なことこの上ない。駆けだしてみればどうだ、振り切れず刻まれるばかりというのだから。
 見定めたのなら最後まで。念動であるウカの分け身の姿には、彼女の譲らぬ想いがそのまま作用しているともいえた。
『これもまた面白い技だ。ひとたびあちらへ向けて振るえば、いくつの首が断てようか』
 馬上の女も剣でそれを弾きながら、嘆息した風に言葉を紡ぐのは力の使い道を誤っているからと、そう、猟兵に説きたかったのかもしれない。
 相容れはしない。力持つ貴様らが守ろうとしているものに如何ほどの価値があるのかと――そんな続きを終わりまで聞き届ける者がいないように。
「不思議なお話ね。その目は何処を見ているのかしら」
 目映い一筋のきらめき。
 舞台に上がった以上、等しく喰らってもらおうと届く鹿糸の裁きの光が馬の腰から後ろを貫通する。
 痛み驚きに上げられた前脚であったが、傷だらけのその一本はすぐのちに炎帯び引いて跳ね飛ばされた。
「まだ、お分かりではないようですが」
 傾く馬の体。下方で剣を振るったフィオリーナの青と領主の赤いそれがかち合う。
 それとて交わるには遠い。守るべきせかいに在る娘が見つめるのは、もっとその先の、未来。
 引き戻される白刃の二撃目と鋼を打ち交わす音が高く低く、この状況を。追い込まれているのは誰であるかを、声無く知らせ。
「走れない馬は、いらないでしょう?」
 それでは、と。親切心から物申すかの言葉選びでありながら、ウカの次の手もやさしくはない。
 剣が封じられた刹那を縫って数本ずつに重ねた分け身がより重く、より鋭く、残る馬脚の腱を切って断つ。
 もはや支え切れるものでもなく、崩れ落ちる軍馬の背から騎士が転がり落ちるに近く跳ぶ。
『……ぐ』
 女と馬とは生命力を共有していた。ここにきてしとど追加されたダメージに、地へついた片膝がすぐには上がらない。
 ニコさん。そう、好機の道を示す声はウカのもの。
「いつかの借りは返しました。……なんて」
 一度言ってみたかったんですよね、と少女の笑みは敵へ向けられたものとは比べものにならぬ温度。
 駆け出していた呼ぶ名の女とすれ違う。ありがとうと、確かに耳に。
 赤毛の彼女の踏み込みは速い。身を捻りどうにか避けようとした背を、突き立てられた花鋏の群れがどっと留める。
 口内に溜まる血の味を飲み下す。力の代償とした毒に深々と身が浸されて、立っているのもやっととは悟らせぬ細い二本の足。鎧の貫けぬことがなんだというのか。
 己は、華切は、巡り巡っては"断つ"ためのものなれば。
「……がんばって!」
 掠れた声だ。小さな声だ。それでもずっと後ろから、繋いだ命もニコに力をくれる――。
「あなたに人を! 生きる、その価値を! 語る権利なんてないッ!」
 零距離で叩き込む乱れ撃ちはプログラムド・ジェノサイド。
 人の身を捨てた女がしかし何より饒舌に、人のため揮う力。

 甲冑のあちこちとともに重厚な兜が砕かれて、長い黒髪が風に舞った。
「……あなた自身もまた、つくりあげられた舞台で踊らされているだけだったことに気づかぬまま。けれど同情など微塵もいたしません」
 ここで終わらせて差し上げましょう。告げる、フィオリーナの剣があらわになった首を差す。
 可憐な見目、抱く想い。戦いを続ける少女人形は、在りし日も今も変わらずに。
 ゆらりと身を起こした女の顔は、人の形をしておきながら血の失せた蒼白でいて。瞳はつくりもののように赤く、いつか。ヴァンパイアに魂を売ったものであると見て取れた。
 ――その姿を。
 遠目に見つめる傍ら、鹿糸は肩を貸し負傷者たちをより後方へと連れ歩く。
「あなたたちは、ここに咲く薔薇はお嫌いかしら」
 大半は領主の力によるものだったのだろう。見違えて萎れてしまった垣根たちの中にも、元は人の手で育てられたものであると分かる、鮮やかに咲き続ける赤がちらほらとある。
「もしも。よかったらね、……――」
 花の生も、人の生も変わらずひとつの芝居だとして。
 初めから終わりまで、役を定められ生まれ来るものなどあるのだろうか?

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

明石・鷲穂
領主、あいつかあ。カッコイイ見た目だな。でも、これから潰されちまうのはしょうがないよな。

ゲームを見るのが楽しかったのに、その舞台に自分が登場しちまったのか。我慢のきかない奴だな。

生存者の盾になるように、領主と生存者の間に位置。
相手の【ブラッドサッカー】は警戒して、発動したらしばらく距離を取ろう。

オブリビオンには信じる神はいるのか?
俺の神は拳に宿るんだがなあ。これが仏の道って云うらしいぞ!

捨て身の戦いになりそうだが、【灰燼拳】で大きなダメージを与えつつ、【ガチキマイラ】で噛みつき、回復するということを繰り返すつもりだ。

領民が受けた苦痛はしっかり、味わってくれよ。


アルジェロ・ブルート
やーお前の為じゃあねぇけどさぁ…ま、いーよォ、退場してやるよ。
お前を殺した後で、な!

【Sangue】で【2回攻撃】していくわ。あいつの鎧硬そうだしよぉ。
それとも【呪詛】のがお好みか?
だいたい【逃げ足】とー、あとはまー【第六感】使って避けてくが、
あっちのユーベルコードっていちいち面倒くせぇんだよなぁ。
【咎力封じ】で縛るとすっかね。

良かったなぁお前、ヴァンパイアだったら細切れにしてたぜ。
自分が騎士だったことを喜べよ。形くらいは残してやるよ。


ロベリア・エカルラート
「まったく、高い所が好きなのかな」

敵がどこまで見ていたか知らないけど、最初に人を庇った時の怪我とその後の戦いのダメージが残ってる様に装って不意打ちを狙うよ
まあ、正直実際痛いんだけどさ、最初の怪我。

「正直、演劇談義するには感性が合わなすぎて駄目だね。さっさと退場しなよ」
「……もう少し教養ってのを高めたほうが良いよ?本物のお芝居を見てればこの程度の演技は見抜けただろうにね」

 自分が攻撃する際に血統覚醒を使い、限界以上の力で攻撃する




 次いで騎士――今は只の女の元へと振り下ろされた黒刃は、もしも彼女に根付く"上位種に対するおそれ"が警告しなかったのなら確実に命を刈り取っていたであろう。
『ッ!』
「すっかり地面が馴染んでるね」
 篭手の破壊と引き換えに僅かに逸らされた刃身。それでも青白い首には赤い血の線が引かれた。確約された死であるように。
「もう少し教養ってのを高めたほうが良いよ? もっとも、感性が合わなすぎて演劇談義も話にならないだろうけど」
 接近、強襲、力の程……何もかも。本物のお芝居を見ていれば、この程度すぐ見抜けただろうに。
 贈ったロベリアは、いとしの形見とダンスを踊り。ふわりとした次のターンで罅割れた黒剣がそれに応じる。
『……まさか。ちょっとした幕間だ』
 戦いは加速、今ひとときはオブリビオンによる舞台。
 血統を呼び覚ましたロベリアの動きは、恐らくは只人からすれば何かがそこにいる程度の理解しかできなかっただろう。
 秒の間に数度に渡って剣同士が弾き合う。鋭い切っ先に皮膚がめくられるが今は痛みすら遠く。酷く、遠い――対峙する瞳とに映る"二体"の怨敵ごと刺し貫くべく滑らせる、縁切り鋏のなれのはて。
『人間崩れが。視ていたとも。血化粧で喜ぶ貴様は、此方側以外の何だというんだ?』
「ああ……これは本物。そこの猿っていうのにつけられたんだけど、こっちの方がまだ痛かったな」
 だからもう、さようなら。
 ヴァンパイアがキライ。ダンピールだからと言う奴がキライ。キライなものは消してしまえとずっと奥深く、抱え続けて膿む漆黒が刃に乗って。
 持てる限り込めた突きに――庇えと胸の前へ出された魔剣が、鏡を叩き壊すようにぱらぱらと砕け散った。
『かッ……ぁ』
 勢いは誰にも殺せず。鋏の先が、胸と胸の間へめり込む。肉を裂く。
 心の臓まで貫通する――終わりを予感させる短くも長い一瞬、その未来を拒む風に、ガッと振り払う騎士の鞘が俄かに二者の距離を生む。

 血反吐がシミをつくる。
 肩で息する女へと、差し伸べられるのはいつだって救いなどでなく――。
「退場口まで案内してやろうかぁ?」
 おどけた喋りの、耳触りの良い。
 俺も退場してやる。少年、アルジェロは甘やかに瞳を細めた。お前を殺した後でなと、こちらもまた声だけご機嫌に付け添えて。
 しかし連れ歩く空気は、明けぬ夜に染まり真に冷えていた。
『…………』
「だんまりたぁノリ悪ぃな」
 一方的なおしゃべりの終わる頃には周囲へ隙間なく彼の拷問具が展開されている。
 ぱちんと指が鳴った。
 合図ひとつで始まるのは音楽でなく……いや、飛び交う鉄や革の擦れ合う音はあるいは曲に近かったか。葬送の、それであるが。
 咎力封じ。きつくはめ込まれる手枷。
 千切り取ろうと足掻いたとて所詮ユーベルコードとそれ以外。比べものになるわけもなく、指の一本触れぬまま、少年の優勢は明らかなものとなってゆく。
「騎士さまの見る影もねぇけどー」
 まっ、殺しやすけりゃいっか?
 可動域の狭まった殴打からの回避は容易い。軽くステップ、くるくるりと面白おかしく操るようで都合の良い穴をがら空きにさせ、アルジェロは揮う。
 楽には死なせてやらないことに只管特化した刃物は、刺して引き抜く度に肉を解れさせる。
『――ぐ、うぅぅあアア!』
 色濃い、死への絶望。女は叫びによって今一度軍馬へ呼びかける。
 それすら無意味。すうと現れ始めた影は一閃の前に霧散した。
「へえ、虫の死んだふりでしたみてぇな? しかし良かったなぁお前、ヴァンパイアだったら細切れにしてたぜ」
 喜べ、形くらいは残してやるよ。
 細切れと肉塊に違いはあるのか――殺意の為せる業と呼ぶ他ない。
 ズタズタの鎧の合間へSangueが突き入れられ、僅かな接合部までも肉とともに斬って捨て、より"殺しやすい"形へと彼の――咎人殺しの手が作り上げてゆく。

 縛めが解けたのは、物理的に"拘束できるだけの肉がなくなった"から。
 骨の指に残されたのは微かな剣の欠片だけ。
「カッコイイ見た目だったが、まあ、しょうがないよな」
 かつり。と、静かに歩めば重さ感じさせぬ蹄音。
 鷲穂。予想していた泥仕合は訪れそうにない、なにせこの女はもう死に体だ。
 次の一瞬で決まると分かるから、振り向くまでのひとときに。なあ、と。
「オブリビオンには信じる神はいるのか?」
『……神?』
 そんなもの――言い終わりは果たして何だったろう。衝撃が掻き消す。すべての音喰らう轟、互いに繰り出す拳に懸けたピリオド。
 一番の差を上げるとすれば、男はこれが十八番であった。神を語るその口で手で死を運ぶことを善しとする、破戒僧。
 灰燼の力は表皮を剥ぎ、疾うに腐った臓腑へ辿り着くまで悉くの骨をも砕いていた。
 ごぽ。  ごぽ、ごぽ。
 骨と皮だけのような体が、鷲穂に少しばかり凭れ掛かる。背へ突き出した腕を抜くと濁った音が止まらなくなり、先に零れ落ちた中身を追ってするすると崩れ落ちてゆく。――このとおり、男は手指を開いてみせて。
「俺の神は拳に宿るんだがなあ。これが仏の道って云うらしいぞ!」
 傾く女の視界の中で、すこし咳込んだ鷲穂は尚も笑んで立っていた。カウンターに腹は暴かれ、口端から血が伝おうと結局は最後まで彼は自分の目だけで物事を見る。
 誰の悲哀にも引き摺られず、故に強固。今もまた女を見る銀灰は、殺したオブリビオンというよりもどこか、死にゆくいのちへ向けるそれのようで。
 領民が受けた苦痛のうち、僅かでも味わえたろうか。濁り始めた赤い瞳は、長い言葉を残すには不向きだとて。
「寝る前に何か言っとくか?」
『は……』
 人に生まれ。神を否定し。人を捨て。人と神の手で幕引かれる。
 悲劇に酔い痴れた、お涙頂戴の猿芝居――私の生こそが?
『――残念、だ』
 最上級を終ぞ目にできなかったことか。今になって、"それら"の実在を突き付けられたことか。
 杳として知れぬままに。倒れ伏す体は二度と起き上がることなく、やがてはらはら風に消えた。

 追加で送り込まれた戦力によって、猟兵と只人双方の重傷者にはただちに治療が試みられた。
 少女や多くを蹴落とした男をはじめ大半が一命を取り留める傍ら、娘を愛した盲目の母や、仲睦まじい兄妹が目を覚ますことはない。
 彼女らは幸せで、彼らは不幸せだろうか?
 ある者はそれに頷き、またある者は首を振るだろう。
 我らは皆が、魂込めた共演者。尽くしたのちに泣くも笑うも心ひとつ――――芝居とは、そうでなくては。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年01月09日


挿絵イラスト