●宿場町の来訪者
天下泰平。広がる町は賑わいに溢れ、沸き立つ声は収束する気配を全く見せない。
木が組み上げられ、杭を槌で打つ音は一帯に響く。大八車で運ばれてくる荷物の布を剥がすと、珍品奇品が顔を見せた。
宿場町の一角。巡業する大道芸人の一座が、見世物を連れてやって来た。奇妙な一群の到来に町人が集まり、普段に増して大通りは盛況だ。
信長が討たれ早幾日。からりと晴れたエンパイアの空の下では、平和を享受する人々でごった返している。
その安穏を見下ろす大男が一人。五尺三寸の大太刀を片手で掴み、装着した総面の隙間から眺める。宿場を一望できる山中の崖に、胡坐を掻いて座り込んでいた。
「随分と、エンパイアも静かになったものだな」
思い返すは戦乱の世。血を浴び泥を飲む戦地と比べれば、活気ある町も無音に近い。
刀の鍔を指で押し上げる。覗いた刀身が光を返す。
「早速、攻め入るのニャ?」
男に後方から声が掛かる。頭から猫の耳が生えた妖が、二又の尾を揺らして男に近寄く。歩くごとに鈴がしゃりんと鳴った。
「ああ。罪無き者を斬るのは気が進まないが、そうしなければ俺が蘇った意味がない」
「難しいこと考えてるのニャー。これなら、信長の方が――」
男の鋭い目が妖を睨んだ。視線に刺され、妖は尾を立てて硬直した。
「で、できるだけ言うべきじゃなかったかニャ? ごめんニャ……」
「いいさ。朝倉家が滅したのも、今は昔。その信長も二度死んだなら、奴を嫌っても得るものはない」
首に手を当てる。かつての痛みがまだ残っているような、不可思議な感覚。
どうにも徳川は生き残り、国を築いたらしい。それ自体は、構わない。ただ、朝倉と対立する敵が未だに残っているのであれば。
「討ち滅ぼすまで」
「いい心意気ニャ、真柄直隆」
一体が笑みを零すと、妖の衆は崖から跳んだ男――直隆へと続く。向かう先は、繁華に満ちる町であった。
●グリモアベース
床に歴史書の冊子と巻物を広げ、木鳩・基(完成途上・f01075)は唇を噛んだ。
「なかなか、厄介な人が蘇っていたみたいですね……」
平穏を取り戻したサムライエンパイア、その宿場町で開かれる見世物小屋の興行で事件は起こる。猟兵が詳細を尋ねると、基は冊子の一つを突きつけた。
ある武人の人相が紙面には描かれている。没年の項へと目を移す。数字はエンパイアにおける、戦乱の時代に死亡したことを示していた。
「名前は真柄直隆、徳川家が幕府を開く前に存在した、朝倉家という戦国大名に仕えていた武将です。『太郎太刀』という大太刀を振り回す、所謂豪傑だったそうです。織田と徳川の連合軍を相手に取った戦いで、直隆は討ち死にしているはずなんですが……」
その戦は、朝倉側の敗走で終結した。敗北が濃厚となった瞬間、直隆は味方を逃すために単騎で徳川軍に突入。十二段構えの陣を八段まで突き進むが限界に達し、最期は自ら首を差し出したという。なおその後、朝倉家は信長の手により滅亡している。
「そんな逸話があるほどの人が、オブリビオンに。しかも、部下も引き連れているようですね」
巻物の端を転がす。姿を見せたのは、耳と尾が生え、手足の先が獣化した人型だ。
「確認できたのは猫又の群れです。気ままな性格から考えると、信長が消えた今、何となく強そうな存在に従ってる、とかでしょうか?」
どのみち妖怪の類いであることには変わりないし、身体能力と妖術は馬鹿にできない。素早さからして先鋒として襲い掛かってくるだろうが、気は抜けない。
説明を済ませ、基は床に置いた歴史書を片付ける。作業しながら、工程を話す。
「まず、先回りして宿場に向かいます。そこで敵を待ち受けることになりますが、できるだけ周りの雰囲気に馴染んでおいた方がいいですね」
周辺では見世物を目当てに人だかりができている。だからこそ大勢をオブリビオンの危険から救わねばならないが、逆に紛れ込むにはちょうどいい。
客に扮するにも良し、芸人や小屋の人間に扮するも良し。全国を悠々と廻る芸人なら頼んでもそう難しい顔はしないだろうし、いざとなれば天下自在符がある。
「そのときくらいは楽しんでも、罰は当たらないでしょう。……とはいえ」
楽し気に話す基の顔つきが、若干強張った。
「相手の能力は生前より上がっているはず。油断は厳禁ですね」
ただの人間からユーベルコードを操る殺戮魔へ。豪傑と呼ばれた所以を叩きつけて来るだろう。
それでも、戦争を経てやっと掴み取った平和だ。負けてはいられない。基はぎゅうと拳を作って、顔の高さに掲げた。
「どんな理由があっても、あの世界で暮らす人たちの哀しそうな顔はもう見たくないですからね。頑張りましょう!」
真っ黒な未来を砕けるように、その手に願いを込めて。
意気揚々と、基は転送を開始した。
堀戸珈琲
どうも、堀戸珈琲です。
戦国時代と江戸時代、まだまだ知らないことが多いなと痛感しています。
●最終目標・シナリオ内容。
『真柄直隆』の討伐。
●シナリオ構成
第一章・日常『見世物小屋がやってきた』
第二章・集団戦『猫又』
第三章・ボス戦『真柄直隆』
宿場町と見世物小屋の周辺での進行となります。長屋などがあるかもしれませんし、露店も立ち並んでいるでしょう。
●プレイング受付
各章、冒頭文の追加後に送信をお願いします。
制限については、マスターページにて随時お知らせします。基本的には制限なく受け付けますが、状況によっては締切を設けます。
それでは、みなさまのプレイングをお待ちしております。
第1章 日常
『見世物小屋がやってきた』
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POW : 小屋や天幕の設営を手伝ったり、怪力芸人として参加したりする。
SPD : 客の呼び込みを手伝ったり、軽業師として参加したりする。
WIZ : お客の一人として普通に楽しむ。
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●浮世の町
到着したときには既に、町は幸福そうな騒音に飲まれていた。
いくつかの舞台が組み上げられ、芸人が磨き上げた技をふんだんに披露する。空白を埋めるように、箱や檻も置かれていた。そこにあるのは、伝説に登場するものと同一だという真偽不明の宝物や、どこで見つかったのかも定かではない動物の標本。主成分が怪しさで構成されている品ばかりだが、娯楽として捉えれば必ずしも悪ではない。
一方で、まだ準備が完了していない舞台もあるようだ。もし暇を持て余すのであれば手を貸してやってもいいかもしれない。
猟兵の一人がぐるりと風景を見渡した。敵影はない。ここが現場となるのであれば、隠れ潜むのも迎撃の前段階。猟兵たちは、享楽的な空気へと身を沈ませる。
有栖河・鏡
凄い武将ねぇ…そいつは確かに喰い応えがありそうだ、俺の遊び相手には丁度いいかもなぁ?
●行動
とりあえずはフラフラとブラついて見世物を楽しむとすッか、地理と舞台や小屋の位置を頭に入れといた方が戦い易いかも知れねぇし。
「ヒューヒュー!イイぞイイぞ!」
見世物で興が乗ったら舞台に飛び入り、鞘に納めた愛刀を相手に艶めかしいポールダンスで観客達を【誘惑】してやるぜ。
「こんなの見た事ねぇだろ、これからのトレンドだからしっかり目に焼きつけな!」
ウケるかはわかんネェが重要なのは楽しむ事、馴染んどけばイザ戦いになった時も言うこと聞いてくれるだろうしよ。
●アドリブOK、NG無し
●踊り子の舞
目的なく人混みを歩く。喧騒を耳にして、有栖河・鏡(悪に咲く狂刃・f22059)は見世物の列を視界に入れた。一つに目を留めるが、すぐに飽きが来て立ち去った。
ふと想うは、今回の襲撃者の事。
「凄い武将ねぇ……そいつは確かに喰い応えがありそうだ、俺の遊び相手には丁度いいかもなぁ?」
戦国で暴れ散らした奴が相手なら、簡単に砕けてしまうほど柔ではないはずだ。無意識のうちに、歯を僅かに剥いて笑っていた。
ともかく、彼はまだ来ないとのこと。時間を無為に過ごすのも勿体ない。
「とりあえずはフラフラとブラついて見世物を楽しむとすッか」
暇潰しには丁度良い。催しの中を歩きながら人の流れを見て、それから宿場の全容を把握していく。建物の全長や、舞台や小屋の位置関係が見えてくる。狭い小路は奇襲に、設置物は身を隠すのに向くだろう。大群との戦闘も鑑み、頭の隅で演算を繰り返す。
ドン、と邪魔するように鼓が打たれる。思わずそちらを向いた。立て続けに空気を渡るのは笛の音。どこか可笑しさの籠った響きの中心では、扇を持った踊り子が舞台の上で舞い踊る。何やら、その手の出し物をやる場所に辿り着いてしまったらしい。
「ヒューヒュー! イイぞイイぞ!」
煽り立てた鏡は観客を掻き分け、最前列へ。音楽に合わせて彼女が舞うと、薄い着物は妖しく翻り、素肌が覗けた。
次第に興が乗ってくるのが自分でも理解できた。強敵との戦闘欲求も混ざり、興奮は抑えられそうにない。
群衆の中から駆け出し、舞台に飛び入る。困惑する演者と観客を余所に、鏡は愛刀を地面と垂直になるように持つ。
刀を軸として披露されるのは、艶めかしいポールダンス。身体の動きや手つきに、観客は原理の掴めない感情を覚えた。楽器の奏者も息を合わせ、ダンスを追うように場に音楽が流れる。
「こんなの見た事ねぇだろ、これからのトレンドだからしっかり目に焼きつけな!」
観衆へ叫ぶと、歓声が起こった。
ウケるかはわかんネェが、楽しんでくれるなら良し。そんな軽い気持ちではあったが好評ではあるようだ。いざというときも言うことを聞いてくれるだろう。
艶っぽい笑み、丈の短い衣装。それらを振り撒き、鏡は舞う。
成功
🔵🔵🔴
鞍馬・景正
◎
真柄直隆――本多忠勝殿との一騎討ちの逸話は何度も聴いたものですが、信長公を討った今になって彼ほどの猛将が姿を見せるとは。
怖ろしさもありますが、それに何倍もする期待が胸底から湧くのは私の悪癖なのでしょうな。
◆
旅の武芸者、という態で見世物に加わりましょう。
設営の人手が足りておらぬ所に手伝いを申し出、羅刹の【怪力】で肉体労働を主に片付けていきます。
そして開幕すれば、舞台を借りて一芸を披露し、場に融け込むように務めましょう。
刀を抜いて巻藁や古畳、投げ込まれたお手玉などを一太刀に断って御覧にいれる。
敵が現れる前の軽い準備運動にもなりましょう。
後は程々のところで退場し、戦を待つとしましょうか。
●一太刀・一閃
真柄直隆。その名を聞いて思い出すのは、本多忠勝との一騎討ちの逸話。激しく衝突する姿を思い浮かべられるのは、何度も話に聞いたせいだろう。
信長公を討った今、彼ほどの猛将が姿を見せるとは。
「怖ろしさもありますが、それに何倍もする期待が胸底から湧くのは私の悪癖なのでしょうな」
鞍馬・景正(天雷无妄・f02972)は自嘲した。
そんな中で思わず目に留まったのは、組まれる最中の舞台。周囲では男たちが木材を運び入れている。まだ準備の途中と合点して、男の一人に声を掛けた。
「失礼。作業が押しているようですが」
「あぁ? 資材の到着が遅れてな。あんたは?」
猟兵と正直に答えてもよかったが、場に融けることを考えればそれは適さない。一息置いて、景正は口を開いた。
「旅の武芸者です。……少々宜しいですか」
資材の積まれた地点を捉えると、迷いなく進む。重ねられた木を一本、また一本とバランスを保って肩に乗せていく。
戻ってきた景正を見て、男は唖然とした。その肩に乗った十何往復分の量を、たった一往復で済ませたからだ。
「さあ、仕事を片してしまいましょう」
種族の特徴でもある怪力の活用。景正の顔には、汗一つ浮いていなかった。
そんな怪力持ちが居れば、設営作業も早々に終わる。
無事開演となった舞台に、景正は立っていた。刀を抜いて、台座に置かれた巻藁を見据える。舞台端の捲りには『一太刀・一閃』という何ともな演目名が書されていた。
笛の音。高まる緊張を破って刀を振り下ろす。巻藁には線が入って、二つに分れて床に転がった。
続けざまに置かれたのは縦に置かれた古畳。此方も水平に振られた刀に真っ二つにされ、見物人たちは沸き上がる。その見物人へ、景正はお手玉をいくつか渡し、合図で一斉に投げ入れるよう指示する。
「一度に斬って御覧に入れましょう」
宣言すれば、騒めきが起こる。観客は構え、合図を待つ。沈黙を挟んで太鼓が打たれ、お手玉はばらばらに宙へ投げられた。
まさしく瞬間的な反応だった。剣は円を描くような軌道を取り、刃を直撃させる。内包物の粒が弾け、飛散した。
敵が現れる前の軽い準備運動にはなっただろう。満足感と歓声を一身に受け、景正は舞台を降りた。
成功
🔵🔵🔴
ニコラ・クローディア
天下自在符で見世物小屋の主と交渉し、呼び込みのお手伝いでもしましょうか
とはいえ、猟兵だから外見的には違和感も持たれないからウリが少ないのかしら?
まぁ、見世物小屋らしくちょっと派手な恰好をしておけば宣伝効果は十分、だといいのだけれど
ええとこういう時の宣伝文句は
「遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よ!
こちらに披露するは、かの信長のしゃれこうべ!」
信長ともなれば耳目も引けるでしょうし
まぁ、実際は落語みたいなものなのだけれど
「こちらは信長公3歳のころのしゃれこうべ
こちらは桶狭間のころのしゃれこうべ
そしてこれが極めつけ、なんと本能寺でこんがり丸焼きになったしゃれこうべです」
笑い、とれるかしら?
●奇品・信長の髑髏
その場でひらりと一回転。派手さと可憐さを備えた和装に身を包み、ニコラ・クローディア(龍師範・f00091)は小首を傾げる。
「見世物小屋らしく、ちょっと派手な恰好をしておけば宣伝効果は十分、だといいのだけれど……」
袖の端をつまんで持ち上げ、不安にため息を漏らす。
敵の来襲までは見世物小屋を手伝い、呼び込みに化けることにした。天下自在符を掲げて交渉すると、見世物小屋の主は平伏しながらも喜び、快く引き受けてくれた。
唯一気に掛かったのは看板娘としての印象。猟兵の特性上、外見的には違和感も持たれないからウリが少ないかもしれない。何かないかと主に頼み込んだところ、本来の呼び込み係が着る衣装を用意してくれた。露出は抑えながらも、装飾や小物、物珍しい柄で飾り立てている。
任されたのは珍品奇品の展示館。ええと、と宣伝文句を捏ね繰り回しながら、小屋の中から姿を現す。腹に力を入れ、声を張った。
「遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よ!」
歩く群衆がこちらを見る。このまま畳みかけてしまえ、とニコラは続けて叫ぶ。
「こちらに披露するは、かの信長のしゃれこうべ!」
おおッと驚く声が重なる。信長となれば、耳目も引けて当然だろう。
ぞろぞろと小屋の前に人が集まる。ニコラが小屋に入ると、大勢が後から続く。
まぁ、実際は落語みたいなものなのだが。人々の裏で、ニコラは仕掛け人としてニヤついた。
三つの台の前で立ち止まり、彼女は振り返る。台には大きさや色の違う頭蓋骨が置かれていた。事態を飲めず、群衆はぽかんとした表情を浮かべる。受け流し、右から順に手で示していく。
「こちらは信長公3歳のころのしゃれこうべ、こちらは桶狭間のころのしゃれこうべ、そしてこれが極めつけ――」
小さな髑髏と普通の髑髏を辿ってから指し示したのは、真っ黒焦げになった髑髏だ。
「なんと、本能寺でこんがり丸焼きになったしゃれこうべです」
群衆が一斉にひっくり返り、すっ転んだ。誰かが突っ込みを入れて、また誰かが騙されたと嘆く。本気ではなく、冗談として受け止めた上で。それを楽しめる平和が此処にはある。
誰かが笑えば、皆して笑い出す。誤魔化すように、ニコラはぺろりと舌を出した。
成功
🔵🔵🔴
スピレイル・ナトゥア
エンパイア・ウォーも終わって、サムライエンパイアの町にもだいぶ活気が戻ってきました
世界平和のために戦った猟兵の1人として、とても嬉しいです
……まあ、私はエンパイアウォーに参加していないのですが
それでも、みなさんの努力によって訪れたこの平和を乱そうとするオブリビオンさんの存在は絶対に許せません
お客さんの側でただ楽しむだけというのも芸がありませんね……
そうだ。タネも仕掛けもある手品はお好きですか?
怪力や軽業ではないのですが、ここは炎の精霊さんを呼ぶという精霊術士らしいムーブでお客さんたちを楽しませてみることにします
ペットの大鷲のルパクティと炎の精霊さんたちにコミカルなダンスをおどってもらいましょう
●楽しさを呼ぶ手品
活気に沸くエンパイアの町。横を通り過ぎていく老若男女の顔つきは皆して明るい。人々に釣られ、スピレイル・ナトゥア(蒼色の螺旋の巫女姫・f06014)は口角を上げる。
世界平和のために戦った猟兵の一人として、この活気は自分のことのように喜ばしい。戦争ではエンパイアの人々も兵士として参加したと聞く。平穏は、この国と猟兵が一丸となって勝ち取ったものだ。
「……まあ、私はエンパイアウォーに参加していないのですが」
独り、乾いた笑いを零した。それでも、不断の努力によって奪い返した平和には違いない。それを乱そうとするオブリビオンの存在は、絶対に許せない。表情は変えぬまま俯き、親指を他の指で包んだ。
そんなところで、はっとして顔を上げる。真剣になり過ぎても仕方ないと思い、見物客に混ざった。
「とはいえ、お客さんの側でただ楽しむだけというのも芸がありませんね……」
顎に手を添え、思案して歩く。ふと見れば、傍らで火吹き芸が行われていた。燃える炎を眺めているうちに、そうだ、と妙案を一つ思い付いた。
演目の終わった舞台に手を掛け、よじ登る。壇上から、スピレイルは観衆に問いかけた。
「みなさん、タネも仕掛けもある手品はお好きですか?」
どよめきが起こる中、二本の指をぴたり合わせて空に線を描く。指が通ると、後には火炎が噴き上がり、火の玉が意思を持って動き出す。
火花を散らすのは炎の精霊。囲むように喚べば、ぱちぱち炎を弾けさせて愉快に飛び回る。驚きに固まっていた観客も、精霊の様子に心を解されていく。
精霊術士らしい技を披露したスピレイルは、誰かを誘うみたく手招きした。羽を散らして飛来したのは、大鷲の精霊獣『ルパクティ』。
役者は揃った。微笑を湛えて腕を振り上げると、精霊たちは意図を悟って飛び出した。
「続いては舞踊です! ……精霊さん、ルパクティ、お願いします!」
炎の精霊が縦に列となり、宙を舞って渦を作る。その渦の隙間を縫って、ルパクティは飛んだ。分散や集合をコミカルに繰り返せば、次第に控えていた和楽器の奏者も乗ってくる。
音と笑顔に満ちた場所。やはり、守らなくては。自身も楽しい空気に浸りながら、決意を固く心に結んだ。
成功
🔵🔵🔴
黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流
真柄直隆!あの大太刀を振り回したっていう武将だろ?
それが襲撃してくるっていうのは、不謹慎だとは思うがちょっと楽しみだ。
宿場町っていうなら普通に旅人の姿をして客に扮した方が無難かな。
宿に荷物置いてきて暇つぶししてますって顔で露店見物。
気になるものは手に取ってもいいかもな。絡繰り物とかは好きだし。
襲撃があるのわかってるから懐事情と相談みたいにして実際には買わないでおくとして。
見物しながら周辺を見ておき、それとなく迎撃しやすいよう外周へと移動しておく。
実際避難誘導とかはちょっと苦手だが、壁ぐらいにはなれるからな。
奇襲に手ごろな場所を見といてもいいだろうな。
●絡繰り
人群れの間をすり抜けて、両脇に露店が並ぶ通りを行く。どの店もこれ見よがしに客を捕まえようとしているのが判った。
祭りに似た騒ぎを、黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)はどこか遠くに聞く。露店にも気は惹かれるが、敵への関心は剥がれそうにない。
「それにしても、真柄直隆。……やっぱり、ちょっと楽しみではあるな」
大太刀を軽々振り回す、エンパイアでは伝説の武将の一人。それが迫り来ると知れば、不謹慎だとは思いながらも、心は勝手に弾んで跳ね回った。
感情を一旦抑え、潜伏に努める。宿場町なら旅人を装って客に扮するのが無難だ。宿に荷物置いてきて暇つぶししてます、あたかもそんな身軽な振りで店先の品々を眺める。
いくつか店を通り過ぎていくと、子供が集まる屋台を通りに見つけた。ひょいと子供の上から覗き込む。目を見開き、ほう、と声が漏れた。
「絡繰り物か」
陳列棚では時計仕掛けの木造玩具が列を成す。踊り子の格好をした人形のネジを店主が巻くと、絡繰りは舞い踊った。
子供に混じって見物する瑞樹を捉え、店主は声を掛けた。
「兄ちゃん、動かしてみるかい。触っても金は取らんからよ」
「本当か? なら、お言葉に甘えて。こういうのは好きだしな」
棚を一瞥し、これと思った絡繰りを掴む。手に取ったのはお盆を持った茶運び人形。ゼンマイを摘まんで回して、きゅるきゅると機械音を内側で響かせる。付属の湯呑をお盆に置いて、絡繰りを作動させた。
人形はふらふら木の脚を揺らして前進する。若干はらはらして見届けた。転びかけながらも、人形は卓の端へと辿り着いた。
「人形って判ってても、上手くいくと嬉しいもんだなぁ」
「なあ、兄ちゃん。今だったら安くしとくぜ?」
一息ついたのも束の間、店主は此方を凝視した。なるほど、だから触らせたのか。だが、その手は食わない。
「悪いけど、これ以上懐を軽くすると不味いんでね」
苦笑して、瑞樹は立ち去った。
そのまま周辺も眺めつつ、町の外周へと入る。誘導なんかは苦手だが、壁役にはなれるだろう。軽く準備運動をしていると、建物の間の狭路が目に留まった。
「身を隠すには丁度いいか」
呟いて、広がる山を望む。此方の準備は出来ている、どこからでも来い。普段より強気で、瑞樹は両手に得物を構えた。
大成功
🔵🔵🔵
シャルロット・クリスティア
WIZ
華やいでいますね。
戦争が終わってからこちらの世界はご無沙汰でしたが、順調そうで何よりです。
まぁ……怪しげな品もちらほら見受けられますが。
買う気はないですけど、少し眺めて回ってみますか。
もしかしたら、魔術の素材になりそうなものが……。
……いや、でも安定供給が出来ないのはいただけないですね。やっぱり見ているだけにしましょう。
ただ見ているだけでも結構楽しいですからね。
まぁ……怪しまれない程度にそれとなく地形や退避経路の確認はしておきましょうか。
人混みでの乱戦は被害が出やすいですからね。
少しでも被害を軽減できるよう、ある程度の想定はしておかねば。
●見世物は何の為に在る
見世物の集合地点では頻りに人影が揺れていた。あちらへ、こちらへ、時には立ち止まって。大勢がたくさんの娯楽を享受しようと、ある意味慌ただしく動く。
熱に満ちた情景を眺め、シャルロット・クリスティア(彷徨える弾の行方・f00330)は安堵する。
「……華やいでいますね。戦争が終わってからこちらの世界はご無沙汰でしたが、順調そうで何よりです」
その戦争も過去の話。復興と再起の道を、世界は歩んでいる。
ぐるり、辺りを見渡す。見世物の箱の前にはどれにも人だかりが生まれていたが、隙間からその姿が覗けた。売り子の囃す声も聞こえるところ、見世物は購入もできるらしい。……何やら、怪しい物品もちらほら見えたが。
「私も、少し眺めて回ってみますか」
今のところ、買う気はない。それでも周辺の地形を確認しておく必要があるから、どのみち見世物の位置は掴んでおかなければ。人混みでの乱戦は被害が出やすいし、これだけ人が集まっているなら避難はより円滑に進めないといけない。頭の中で地図を描きつつ、シャルロットは群衆に潜った。
あちこちへ視線を飛ばす。それにしても、本当に胡散臭い品物が多い。神話の武具、高僧の数珠、妖のミイラ――。疑い半分で見るうちに、ある考えが降ってきた。
「もしかしたら、魔術の素材になりそうなものが……」
これだけ数があれば、魔力を秘めた何かがあるかもしれない。魔術の使い手として、また単純な好奇心も手伝って、食指が動く。
ある武具の前に立つ。妖気が生じている、ような気がした。
触れようとしたところで、我に返った。
「……いや、でも安定供給が出来ないのはいただけないですね。やっぱり見ているだけにしましょう」
こくこくと頷いて踵を返す。数歩進んで振り返れば、何人かの若者がそれを見て騒ぎ立てていた。彼らに真偽はどうでもよく、盛り上がれればそれでいいのだ。
「ただ見ているだけでも結構楽しいですからね」
別段腹を立てるようなものではない。珍奇な見世物は笑いのために。意識しないうちに、シャルロットの口許は丸みを帯びていた。
この賑わいをいつでも戻せるよう、できるだけ被害は減らしたい。経路の確認と同時に、彼女は見世物巡りを続行した。
成功
🔵🔵🔴
ナギ・ヌドゥー
◎
あれ、まだ敵は現れていないのですね。早く来すぎたかな?
敵を待ち受ける為に周囲に馴染んでおくのも任務のうち、ですか。
――この雰囲気……な、馴れない……。
娯楽を楽しむ事がこんなに難しいとは、、浮いた存在になって目立ったらまずいです。
しょうがないから軽業師に紛れて芸の真似事でもしましょう。
でも軽業ってなんだろう、
跳んだり斬ったり抉ったりしたらいいですか?
オブリビオンと戦う事の方が余程楽な様な。。
泰平の世に生きる、というのも難儀なものですねぇ……。
●不馴れな仕事
切り替わった情景を見つめ、一瞬固まる。殺気は何処にもないし、町は笑い声で覆われているかのように、音に富んでいる。
ナギ・ヌドゥー(殺戮の狂刃・f21507)は腕を組み、疑問符を浮かべた。
「あれ、まだ敵は現れていないのですね。早く来すぎたかな?」
少し考え、あっと声を発して気付く。
「先回り、でしたね。敵を待ち受ける為に周囲に馴染んでおくのも任務のうち、でしたっけ」
すっかり戦場が身体に染み付いてしまっている。頭を何度か横に振って、気分を切り換える。この風景、見聞きした事はあるはずだが、嫌に新鮮だった。それほどまでにこんな空間から遠ざかっていただろうか。
まあ、待てばいい。じきに空気が浸透してくるはず。
そして数分。転移した場所に、ナギは枯れ木みたく棒立ちになっていた。
この雰囲気――。
「……な、馴れない……」
娯楽を楽しむ事がこんなに難しいとは。硬い顔のまま、焦りがずんずん膨らんでいく。
先ほどから視線を感じる。確かにずっと突っ立ったままなら逆に注目を浴びもするだろう。
「浮いた存在になって目立ったらまずいです……何か、何かないでしょうか」
ぎこちなく体を動かし、歩き回る。ぱっと目に留まったのは飛び入り歓迎の舞台。
しょうがない。軽業師に紛れて芸の真似事でもしよう。藁を掴む気で駆け寄り、壇に登った。
しかし、軽業とは一体を指すのか。跳んだり斬ったり抉ったりすればいいのか。感情を混線させた状態で立っていると、目の前に何重にも積まれた瓦が運ばれた。
叩き割ればいいのか? ぼうっとしていると、早くしろという声が観客側から起こった。
何も分からないが、壊すだけなら。投げやりな絶叫と一緒に、手を叩きつける。勢いに任せて振られた手は瓦を貫き、舞台の床まで到達した。
沸き上がる拍手から逃げるようにナギは舞台を降りる。蓄積した疲労を感じ、呟く。
「オブリビオンと戦う事の方が、余程楽なような……」
汗を拭う。べっとり湿った手の甲からするに、やはりまだ馴れなさそうだ。はあ、とナギは息を吐いた。
「泰平の世に生きる、というのも難儀なものですねぇ……」
弱々しいナギの声は、晴れたエンパイアの喧しい空に吸われて消えた。
成功
🔵🔵🔴
空廼・柩
うーん、空が広い…って違う
人混みに紛れて待機しろって言われても
さてどうしたもんか…ん?
視線の先、準備が完了していない舞台
まあ手伝わなくても何とかなるんだろうけれど
自ずと足はそちらへ向かう
…手伝うよ、何をすれば良い?
別に礼なんて取らないから安心してよ
これでも力仕事はお手の物
白衣の袖を捲って設営作業を助力
設営ってなると怪我する人だって出るかも知れない
その時は医術知識を使って応急処置くらい出来るかな
はい、お大事に
次は気を付けてよ?
目立たなさとコミュ力を用いて客や芸人の中に紛れつつも
決して周囲への警戒を怠る心算はない
一応こっちのが本業だからね
基の情報にあった怪しい奴がいたら直ぐに反応出来るようしとこう
●舞台設営の一幕
太陽に手をかざす。指の隙間から光が差し込んで、手袋は影で濃い黒に染まる。
「うーん、空が広い……って、違う」
思わず自分で指摘するほど、穏やかな空気だ。建物の木壁に背を預け、空廼・柩(からのひつぎ・f00796)はボサボサの髪を指で解く。下された指示は、人混みに紛れて待機という簡素なもの。そうは言っても、役割無く混ざっても浮き立つのは明白だ。
「急に言われてもなあ。さてどうしたもんか……ん?」
瞼を微かに開いて見つめた先。人群れに度々遮られながらも、設営に追われる舞台が一つ。まあ手伝わなくても何とかなるんだろうけれど、と考えながらも自ずと背は壁から離れた。
「……手伝うよ、何をすれば良い?」
声を掛けられ、作業する男は戸惑った。別に礼なんて取らないから安心してよ、そう断りを入れれば、渋々と頷いてくれた。それでも、男は心配そうに柩を見る。顔色の悪い奴に肉体労働が、とでも言いた気だ。
白衣の袖を捲った。置かれた資材から何本か担ぎ、肩に載せる。しっかりと直立して見返し、反論代わりにいそいそと運搬。
「これでも力仕事は得意な方だからね」
言葉を零し、呆然としている男に働くよう促した。
十数分の経過。順調に設営が進む中、小さな悲鳴は裂いて渡る。場にいた者たちがその方をゆっくり向いた頃には、柩が発生源へと駆けていた。
そこには、片手を押さえてうずくまる男がいた。頑なに手を隠す彼に、柩は詰め寄る。
「見せてごらん、放置すると大事になるかもよ」
半ば脅しのように言うと、男は顔を引きつらせてぱっと手を見せた。一本の指の先。爪が砕け、流血している。槌で潰してしまったか。さほど大した怪我でないと安堵して、消毒液と包帯を取る。適切な処置を施し、指に包帯を巻いた。
「はい、お大事に。次は気を付けてよ?」
男は礼を言って、また作業に戻った。懲りないなと思いつつも、その背を見送る。
その後は何事も起きず、設営は完了。
見世物小屋の者が呼び込みを始めれば、すぐに人が寄ってくる。その中へと溶け込んで身を隠し、周囲を探った。怪しい奴がいたら即座に動く構えだ。
「一応こっちのが本業だからね」
白衣裏の暗器に手を掛ける。柩は鋭く、警戒心を巡らせた。
成功
🔵🔵🔴
第2章 集団戦
『猫又』
|
POW : バリバリ引っ掻くニャ
【両手の鋭い爪による引っ掻き攻撃】が命中した対象を切断する。
SPD : 猫の本領発揮なのニャ
【両手を地に付ける】事で【四足の型・高速戦闘モード】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : これが猫又の妖術なのニャ
レベル×1個の【鬼火】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
イラスト:風鈴
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●妖の群
町の外で索敵に出ていた猟兵の一人が空気の変化を掴む。獣の放つ野性的な殺気。鮮明にそれを受け、町を囲む林を睨んだ。しゃらんしゃらんと、鈴の音が耳に届いた。
「な、なんだ……? 分からんがみんな逃げろ! 建物の中に入れーッ!」
異音に気づき、猟兵の見る方へ視線を投げていた町民が叫ぶ。賑やかな情景が混乱に染まり始めた。
建物の屋根に妖が飛び移り、怒号は一度に凍る。一見、年頃の少女にも見えたその手先には、黒い刃とも変わらない爪を携えていた。にたりと笑みを浮かべ、鋭い歯が覗く。
「いるニャいるニャ。……ウチらの力で見世物よりもよっぽど凄いものを見せてやるニャ」
声に合わせて続々と、山中から猫又が地を駆けては現れた。屋根に、地上に。まだ宿場の街道に降り立つ個体は少ないが、民衆に危害を加えそうな位置にも敵はいる。
警戒していた者も含め、猟兵たちは武器を取った。平和を取り戻した世界を、血に穢すわけにはいかない。
有栖河・鏡
くひひひ…なんだよ、結構可愛い猫女じゃねぇか。
こんな時でもなきゃーーして、俺のーーでーーするトコだが…やべ、想像したら興奮しちまうな。
●戦術
建物の位置関係は把握してある、後は敵の位置と照らし合わせて…最適なルートは【見切った】ぜ。
「ンじゃ…殺ッちまうか」
頭の中に構築した道筋を頼りに【颯】を始動。
足を止めずすれ違い様に一刀両断したり手脚を【部位破壊】で斬り落としたりとランダムに斬獲して次々と猫又を嬲り殺しにする、反撃は【咄嗟の一撃】で斬り払うぜ。
「あーあ勿体ねぇ、一匹くらいお持ち帰りしてぇぜ…毎日可愛がってやるのになぁ…キャハハハハハ!」
●アドリブOK
●狂気の刃
「くひひひ……なんだよ、結構可愛い猫女じゃねぇか」
現れた敵を捉え、口の端を尖らせながら発する。景色の中で揺れる尾と袖、愛らしい顔。自分の笑い声を鏡は聞いた。
次いで、身に潜む欲求が危険な妄想を頭に流し込んだ。思い描く場面は何れも非道で、彼の愉悦を示す。こんな時でもなきゃ――。
「……やべ、想像したら興奮しちまうな」
蓋をするように口を手で塞ぐ。いま発露すべきは別の欲求。堪え、体内へ飲み込んだ。
鞘を取り、白刃が白昼に晒される。だらりと切先を土へ垂らして、地上に居る猫又たちを見据えた。悠々と一歩ずつ歩み寄る。
建物の位置関係は把握済み。敵の位置をその図へ嵌め込むと、鏡は歯を覗かせた。
「ンじゃ……殺ッちまうか」
蟲を殺すのと同等の感覚で呟いて、唐突に地を蹴った。ヒールの先端で抉れた土を残して、構築した道筋に従って駆ける。仮設小屋で一度視線を切り、抉るような急角度で群れに突っ込んだ。真正面に立っていた猫又は、驚愕を露わにして固まった。
貰い。そんな物を拾ったに近い軽さで刀を振り上げる。その一閃で大きな傷が開き、敵は妖気に満ちた靄に還った。立て続けに、脇にいた個体へ斜めに打ち下す。出鱈目にも見えた太刀筋は精密に右腕右脚を流し切りして、返す刀が胸を貫いた。
連続して距離を詰めては、刃が敵を裂く。斬撃は理解よりも早く、思考を赤に染めていく。
どさりと斃れる敵はもう頭に存在しない。群がっていたのを一掃したところで、鏡は眼前を一瞥した。
「おいおい、もうちょっと抵抗してくれてもいいんだぜ?」
へらりとした態度を示し、警戒する敵群を鋭く見返す。刀を肩に載せ、欠伸を一つ。
「な……舐めた口もそこまでニャ!」
尾を立て、キッと怒りを表出する様子が見て取れる。人型の獣は一挙にして押し寄せ、壁みたく鏡に迫った。
やはり単純。黒い爪が肌に触れる直前、平衡感覚を崩したかのように不安定に身を反らす。同時に横薙ぎの刀が、一手遅れて爪を受ける。硬い音が引っ切り無しに鳴り、猫又たちは弾かれて宙へ跳んだ。
全ての個体が退いた瞬間、鏡は詰め寄った。三日月みたく悪辣な笑みを添えて。
隙へと振られた刀身を躱せず、猫又は両断される。ばたばたと地面に伏せ、成れの果てが漂った。見下して、鏡は息を吐いた。
「あーあ勿体ねぇ、一匹くらいお持ち帰りしてぇぜ……毎日可愛がってやるのになぁ……!」
キャハハハハハ、と残虐な笑いが残響する。残った個体をどう料理するか、それを考えながら、鏡は刀を地面に垂らした。
成功
🔵🔵🔴
黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流
猫ならおとなしく日向で寝とけ。
【存在感】を消し【目立たない】様に死角に回り、可能な限り奇襲をかけUC五月雨及び、投擲できるだけの飛刀で【マヒ攻撃】を乗せた【暗殺】攻撃を仕掛ける。【マヒ攻撃】は一撃で殺せない時の一応保険。
動けない個体を増やせば一般人に被害が出にくくなるだろう。
奇襲をかけやすいように立ち回るが、一般人が巻き込まれそうになったら躊躇わず【かばう】。
敵の攻撃は【第六感】で感知、【見切り】で回避。
回避しきれないものは黒鵺で【武器受け】して受け流し、【カウンター】を叩き込む。
それでも喰らうものは【激痛耐性】【オーラ防御】【火炎耐性】で耐える。
鞍馬・景正
◎
来ましたか。
名高き豪傑にしては可憐な供侍を従えているようですが――。
といって手を抜く心算は一切なし。
この町の人々は誰ひとりとして傷付けさせはしませぬ。
◆戦闘
付近で逃げ遅れた人、襲われそうな人物がいれば我が身を盾にしても【かばう】事を優先。
敵との距離が離れていれば愛馬を呼び出し、【懸騎万里】による突進で、誰もいない方向に【吹き飛ばし】ましょう。
そのまま追撃するか、数が多ければ馬脚による【踏みつけ】で牽制しつつ、【怪力】を籠めた斬撃の【衝撃波】で一掃に取り掛かります。
他猟兵と連携が可能であれば、弓を引き絞っての【援護射撃】や、此方が敵を突き崩した隙に攻め懸って頂けるようにも尽力。
●刃は誰が為に
息を切らし、町人の男は走る。信長が消えた泰平の世、そこへ怪異は降って湧いた。恐怖が脚を引いて、宙に浮いたような気分に囚われる。そのうちに、脚をもつらせ転んでしまった。
必死で仰向けになる。妖の淡い紫の手が視界に入った。悲鳴より先に、手は振り下ろされる。目を瞑った。痛みは、何時になっても来ない。
瞼を開く。額に角を生やした若武者が、握った刀で爪を受け止めていた。
「怪我はありませぬか。無事なら、早急に御逃げください」
瞳だけを向け、景正は語り掛ける。慌てて礼を言い、町人は建物へと転がり込んだ。
目を正面へ移す。力任せに叩き切ろうとする猫又に対し、柄を握り締めて徐々に押し返していく。微かな虚を突いて爪を振り払った瞬間、相手の腹に蹴りを見舞わせ、強制的に相手を退かせる。
「来ましたか。名高き豪傑にしては可憐な供侍を従えているようですが――」
それでも、腕の無い者を従属させる甘い人物ではない。端整な顔立ちであれ、妖の一種。手を抜く心算は一切なし。
「この町の人々は誰ひとりとして傷付けさせはしませぬ」
芯の通った意志を口にし、構え直す。低く唸って、獣の怪は飛び出した。
そこへ突如として、後方から鋭い影が宙を舞って飛ぶ。幾多に裂けたかのような複数の刃が猫又の身体を背面から切り刻んだ。困惑の表情を浮かべたまま、敵は大気に溶け行った。
「猫ならおとなしく日向で寝とけ」
木造建築間の狭路から、陽の下に瑞樹が現れる。片手に短剣、片手に打刀。気だるそうに地面に落ちた剣を浮遊させ、敵の残香を払いながら口走った。狭路が役立ったあたり、偵察も無駄ではなかったらしい。
味方と知って安堵しつつ、景正は刀を下ろして先を眺める。屋根から街道に降りた敵は一旦は討ち果たせたが、建物を迂回した群れが見て取れた。
「待っていても敵は来るでしょうな。此処は私が先手を打ちましょう」
指で輪を作り、口笛を吹く。何処からともなく、颯爽と愛馬・夙夜が駆けつける。手早く跨ると片手で手綱を掴む。簡単な指示で、夙夜は走り出す。蹄と固められた土が打ち鳴り、空気に音が染み入る。軽やかなその音で、到着したばかりの敵群へ単騎突っ込む。何処となく彼に重なるな、と場違いのような思いを抱いて頬が緩む。
左右顧みず穿ち抜き、天地の外まで真一文字に突き通る。これぞ――。
「――鞍馬の戦なり」
静かに透いた声と、馬の突進に荒れる戦況は不一致。質量の塊をぶつけられて大勢の猫又が吹き飛ばされ、堪えた個体も転倒する。手綱を思い切り引くと、夙夜は前脚を大きく持ち上げた。強靭な馬の蹴りに迂闊な敵が巻き込まれ、粉砕される。半ば暴れ馬と化した夙夜と騎乗する景正に、誰も近付けない。
隙を見出し、景正は握る濤景一文字に力を籠める。この町の平和、それを脅かす存在を壊せる力を。張り詰め、剣先が震え出した最高潮の瞬間に、扇状に広がる猫又へと振るう。
空気を裂き、斬撃の波となって刀身から力は放たれた。鎌の刃のような弧を描く衝撃は、怪異を切り開いて真っ二つに両断する。
それでも、単一で群に向かえば死角も生じる。逃げ延びた猫又が転がり込むのも自然な話。爪を尖らせ、接敵を試みた。
その爪を、黒の刃が回り込む。幾多の刃は密集して空中を自在に飛び、肉体を切り裂く。攻撃を受けてふらついた猫又の首筋に、やはり背後から刀が掛かった。
「俺を無視して貰っちゃ困るな」
瑞樹の囁く声。しゅん、と左手の黒鵺が肌に線を引く。また一殺、前のめりに倒れた敵をそう数えた。
暗殺の器物として、前線で暴れる味方が居てくれるならこちらとしても仕事がやり易い。存在感を消し、発見されないように建物の陰に身を隠す。念力で自身の周囲に黒鵺の複製を浮かべ、獲物を探す。
前線を通り抜け、ばらばらと敵は街道を駆ける。視線を逸らして確認すると、まだまだ奥には逃亡中の一般人が控えている。大立ち回りはできないが、食い止めることなら――。
身を乗り出し、一群に向けて打刀の先を向ける。指令に従う兵の如く、複製が飛んだ。操作の精度は高く、四肢と頭部に狙いを定めていた。潜めた殺気を察知したときにはもう遅い。成す術もなく、群の多くが刃に貫かれた。四肢への攻撃で俊敏な移動が不可能になった個体も確認できる。これなら一般人にも追い付けまい。
しかし、それで殺し切れれば苦労はしない。仲間を盾にして凌いだ数体が、両腕を地に付けた。たんっと駆け出し、瑞樹へ接近する。目で追うのも厳しいほど高速だ。
残弾の心許ない五月雨では殺し切れないと判断した。即座に身構えて目を瞑り、感覚に身を委ねる。
何体かが襲い来る。身を翻し、動きを感知したところを連続で横薙ぎに斬る。倒れる身体を壁として、最後の一体が飛びかかった。速度の乗った腕を、黒鵺で弾く。だが余力により、爪はその左腕を掠る。刺さる痛みを奥歯を噛んで堪え、瑞樹は一歩踏み出した。
「喰らえ!」
数少ない複製が確実に猫又を刺して留める。固定された敵へ振り下ろされるは、光を返す胡の刃。その身が分けられ、断末魔とともに妖は消滅した。
敵の果ては見えない。元より素っ気ない猫が決死に戦うのは、大将の影響か。だが、未だ退くことは、猟兵には許されなかった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
スピレイル・ナトゥア
現れましたね……
私たち猟兵に待ちかまえられているとも知らずに
まさに、飛んで火にいる夏の虫です
精霊の力を使って一気に駆逐していきますよ!
「その程度の攻撃で!」
猫又さんの爪攻撃を、土の精霊の力を宿した盾と鎧と【オーラ防御】で受け止めます
そして、炎の精霊の力を宿した剣でカウンター気味に斬りつけます
この鎧と盾の防御力なら、お客さんたちをかばうこともできます
見世物よりも凄いもの……と、あなたたちは先ほどそう言ってましたが、怪我人がひとりも出なければ今回の戦闘も面白い見世物のひとつとなりましょう
お客さんたちは絶対に傷つけさせません!
あと、あなたたちの見世物が、私の見世物よりも凄いだなんて絶対に許しません!
●盾と成る
猫又は逃げ惑う群衆を追う。四足で駆けるその面が前方に気配を捉え、脚で急停止を掛けた。
「現れましたね……。私たち猟兵に待ちかまえられているとも知らずに」
まさしく、飛んで火に入る夏の虫。
猫又のそれにも似た猫の耳を立て、スピレイルが立ち塞がった。尾の揺れで、その先に結ばれた鈴が鳴る。ただ、それが振られる理由は全くの対極だ。
「関係ないのニャ! この爪の鋭さ、受けて驚くがいいニャ!」
走り出すと、手を地面と平行に構えた。
多方面からの引っ掻きを予見。スピレイルは巫女服の袖をはためかせ、術式の姿勢を取った。
「その程度の攻撃で!」
ぴたり、静止する。彼女の身体は朧な光を纏う。目を離せば朽ちてしまいそうなほどに淡い光輝は、次第に頑強な鎧の形状となり胴を囲む。同時に手許に現れたのは、鎧と同様の重厚さを持つ盾と、真っ直ぐに天を穿つ剣。剣は無彩からぽつりぽつりと紅を噴き、やがて焔が渦を巻く。
炎の精霊の加護を受けた剣、土の精霊の加護を受けた防具。巫女として喚んだ力を以て、目の前の敵を砕く。力押しで、一気に駆逐してしまうのが良い。
迫り来る爪に対し、盾に身を隠す。振られた獣の腕が直撃し、盾と一緒に突き出した片腕を通して振動が伝わる。それだけだ。連続する引っ掻きを受けても盾は破られない。
それに猫又たちがたじろいだ。瞬間、スピレイルは腕を振るい、盾で相手を横薙ぎに払った。殴打により、体勢が崩れる。
一閃、紅い軌跡が宙を斬る。叩き斬る剣は敵群を焼き、籠められた精霊の力がその身を焦がしていく。
「見世物よりも凄いもの……と、あなたたちは先ほどそう言ってましたよね」
倒れて消える敵を尻目に、スピレイルは盾を構え直して尋ねた。
「あなたたちとの戦闘もまた、此方に怪我人が出なければ面白い見世物のひとつとなりましょう」
先程から、刺さる視線をひしひしと感じる。建物に引っ込んだエンパイアの人々のものだ。平和の崩壊を、この戦闘は思わせるかもしれない。
しかし、ここで野望を打ち砕ければ。ぎゅっと剣の柄を握り締めた。
「お客さんたちは絶対に傷つけさせません! あと――」
歯を剥いて駆ける猫又を睨む。鋭い爪は盾に鎧に突き刺さる。耐え切れるなら何度でも、人々の盾に。
「あなたたちの見世物が、私の見世物よりも凄いだなんて絶対に許しません!」
哀しみしか生まない寸劇が、人々を笑わせる喜劇に勝るはずはない。
光の灯る精霊の剣で、スピレイルは敵を断ち続ける。
成功
🔵🔵🔴
ニコラ・クローディア
どうやら躾のなってないドラ猫のようだな
アンフィス、バイネイン、仕事の時間だ。そいつらの相手は任せた。
戦闘は使い魔たちに任せる
アンフィス:徒手格闘+ドラゴハウザー.50装備による前衛
バイネイン:ティヴェロン装備による後衛
相手は数に任せてくるらしいが、アンフィスによる足止め(存在感+戦闘知識)、それに引っかかった奴に対するバイネインのヘッドショット狙いの援護射撃(援護射撃+見切り+スナイパー)で一匹ずつ対処させていこう。
オレサマ?
後方に控えて指揮に徹する(情報収集+世界知識+戦闘知識)
有用な情報があれば無論仲間内での共有も図るぞ
アドリブ・連携◎
●躾
看板娘の衣装から普段の学園服に戻り、展示館の屋根に腰掛ける。脚を組み、眼下を望んだ。それだけで発せられる威圧感。もう、猫を被る必要はない。
暴れ散らかす猫又を見て、ニコラは呆れ乾いた声を出す。
「どうやら躾のなってないドラ猫のようだな」
屋根を伝い、それらはニコラの近辺にも降り立つ。飼い主の顔が見てみたいが、そいつもすぐに現れるだろう。どのみち、こいつらは蹴散らさねば。最も、相手するのはオレサマではないが。
双槍・アンフィスバエナを手許に喚ぶ。分割し、空へと放り投げた。当のニコラは目も向けず、広く戦況を眺めていた。
「アンフィス、バイネイン、仕事の時間だ。そいつらの相手は任せた」
宙で槍は溶け、歪んだ渦を描いてから青年たちが着地する。瓜二つ、瞳の色のみが異なる双子竜、その人型形態。仮初の姿とも呼べる肉体で、黙して彼らはニコラを見た。
追加して、彼女は武器を投げる。兄には拳銃であるドラゴハウザー.50を、弟には銃杖であるティヴェロンを。くるくる円を描いて飛んだ銃器を其々掴み、迫る猫又を顧みた。
「行け。指揮はオレサマが執る」
簡易な命令に従い、双子竜は敵に向かって飛び出した。アンフィスが先行し、直線上に居る猫又へ銃口を突き付け、無感情に引き金を引く。放出された魔力が敵の身を抉って、前のめりに倒れさせる。
そのとき、ティヴェロンは水平に構えられた。銃声が響き、バイネインの持つその銃の先端から刻印入りの弾丸が飛んだ。弾は猫又の頭部に当たると猶予なく爆ぜ、爆風とともに存在を消し飛ばす。
「数はこっちの方が多いのニャ!」
叫び、怪異どもは群れて襲い掛かる。遠巻きに見ていたニコラはそれを聞いて、項垂れて額を手で覆った。
「一匹ずつ対処されたらまるで無意味な戦法だな。……アンフィス、バイネイン!」
使い魔の名を呼び、ニコラは命ずる。こくり頷くと、一度兄弟は跳び退いた。それを追って飛び掛かった猫の攻撃を、アンフィスは淡々と躱す。
釣れた。ニコラは確信し、撃てと一言。バイネインの銃が火を噴く。直前まで弾の軌道を塞いでいたアンフィスが横へ転がれば、猫又には弾丸が瞬間移動したように映る。弾は何にも殺されず、妖の頭部を砕いた。
「これが戦だ。主人にそう教わらなかったのか?」
一匹ずついなし、連携により確殺する。糸で繋がったかのように動きを連鎖させ、釣り上げた魚を逃がして帰さない。
ニコラが冷酷に敵を見つめれば、意を汲む使い魔は次々と敵を殺していった。
成功
🔵🔵🔴
シャルロット・クリスティア
あまり統制が取れているわけではなさそうですが……その機動性は厄介ですね。
ただの人ではまず逃げ切れないでしょう。こちらで阻まねば。
マシンガンをフルオートに切り替え。【なぎ払う】弾幕を張り、【乱れ打ち】の【制圧射撃】を。
いくら速かろうとも、動く先がわかっていれば【戦闘知識】で意図は読める。
後は機先を制して阻み、逃げる町民の【援護】を。
私とて【スナイパー】としての自信はあります。連射と言えど、誤射などする気はありません。
銃の反動は【怪力】で抑え込めますしね。
生憎ですが、指一本触れさせる気はありませんよ。
そんな見世物では、笑いの一つもとれないでしょうに。
●阻む者
見世物の集合地にも、猫又は押し掛ける。華ある景色は何処にも無く、人々を追って獣は四足で地を馳せた。目を見張るべきは、その機動性。統率の取れた動きとはあまり言えないが、単純な速力は脅威に成り得る。
ただの人ではまず逃げ切れない。観察からそう踏んで、空いた舞台に跳び移った。今も町人たちは避難の最中。先程まで額に添えていた右手で、マシンガンのグリップを握った。
「こちらで阻まねば」
使命を噛み締め、シャルロットは零す。左手で銃を単射からフルオートに切り換える。ぱっと上げた顔が見る先、見世物の箱の間を猫又の群れが駆け抜ける。
掛けた指で、引き金を内側に押し込んだ。乾燥した破裂音が空間を埋め、弾丸が壁となって猫又を穿つ。何体かが蜂の巣になり、高密度の弾幕はその進路を塞ぐ。銃の向きを逸らして乱射すれば、迂回して行こうとした個体にも弾は当たった。だが、悪戯な誤射だけはしなかった。
一度手を止め、状況を頭に入れる。相手の意識は此方にも傾いたらしい。
「生憎ですが、指一本触れさせる気はありませんよ」
冷えた声で、何か言いたげな敵に応える。見れば、その前脚は地面につき、先は此方へと向いていた。来る、と直感が告げ、下ろしていた銃を再びもたげた。
猫又が地を蹴って、高速で舞台に詰め寄る。設置された箱の陰に隠れ、いちいち射線を切って接近する。
だが、周辺の地形は既に押さえていた。いくら速かろうと、動く先がわかっていれば意図は読める。隠れたら、現れるしかない。相手が走る通路を絞り、戦闘経験から出現地点を予測する。少しだけ姿勢を一方にずらし、トリガーを引いた。
まるで未来を視たかのように、放たれた弾丸は猫又の身を貫く。目を見開いて果てる敵に対し、シャルロットは眉一つ動かさなかった。
「そんな見世物では、笑いの一つもとれないでしょうに」
芸であるなら酷く御粗末。そう自身の中で評し、また銃の向きを変える。予測と違わぬ行動を取る敵を、連射によって確実に撃破する。しかし、見世物が弾丸の雨に傷つけられることはない。それだけの射撃の実力と、自信が彼女に備わっていた。
自然と、反動を殺すための左手にも力が籠る。珍品奇品であれ、平和の欠片。その場所では人が手を叩き、笑っていた。それを、無に帰させるものか。
ばっと、猫又の一匹が宙に跳び、被さるようにシャルロットに迫った。
「この世界の人たちの邪魔は、させません」
彼女は銃口を突きつける。猫の表情が凍った直後、点線みたいな穴を身体に空け、妖は霧散した。
成功
🔵🔵🔴
ナギ・ヌドゥー
◎
来たか……やっと役立てそうです。
所詮ぼくは凶器であり兵器、敵を血の海に沈める事でしか存在意義を見い出せません。
かなり数が多いですね、それに速い。
奴らを近接戦で同時に相手するのは悪手と見ました。
幸い敵が身に付けている鈴の音のおかげで位置は掴みやすい。
【第六感】【野生の勘】も駆使し敵の攻撃が届かない距離で戦いましょう。
極力、遠距離を保ちながら【誘導弾】で数を減らしていきます。
中距離まで近づかれたら武器の邪絞帯で絡め捕り瞬間動きを止めて撃ち殺す。
接近を許してしまったら【オーラ防御】展開しつつUC「咎力封じ」で敵UCを封じ、そのまま拷問具の餌食になって貰います。
●彼にとっての平常
獣の足音、鈴の音。享楽に埋まる町が一変、戦場へ。しかし荒れる風を身に受けて、心は安らいでいく。
ナギは顔を上げ、街道を見た。そこに映るのは、自身の後方へと逃げた人々を追う妖。
「来たか……やっと役立てそうです」
嫌な汗を拭い、湿った手を払う。固めた拳の内側に、拍動と熱を感じた。
所詮、自分は凶器であり兵器。敵を血の海に沈める事でしか存在意義を見出せない。泰平の緩んだ時間より、この土煙と波乱の方が肌に馴染んでいた。
しゃらん、遠くから鈴の硬い音が耳に届く。音から位置と距離間隔を算出して、ナギは真っ直ぐ手を伸ばす。
ぱっと開かれた掌から放出された光線。空中で捻りが加わって曲がり、上空から斜めに敵の身体を貫いた。
「一匹ずつ、減らしていきましょう」
自分に聞かせた一言は、酷く冷めていた。まだ染まり切ってはいない。戦闘に突入して殺意が思考を埋める中、薄く考える。
猫又もナギを認識し、四つ足を一度に地につけ地面を蹴った。ぐんと距離を縮め、接近する。
敵の数は多い。その上、速い。接近戦で同時に相手するのは悪手と即座に断じ、反転して駆け出した。しゃらんという音を再び聞く。敵が付けている鈴の音を拾えば、位置関係は掴みやすい。突然振り返り、音の鳴る方へ光線を射出する。光が敵を射止めたのを見てから、また走る。
「……この方が、疲れませんね」
はあ、と零した息には、歓喜が混ざっていた。やはり、自分は他者とは違う。殺める感覚こそ平常で、変えられない悦楽。不思議にも、それを哀しいとは思わなかった。
鈴の音が迫る。距離を取っても相手に走力で負ける。割り切って向き直ると、追ってくる敵群とはまだ間があった。
歯で手の甲を切って、そして呪詛の刻まれた包帯を猫又へ放つ。血に塗れた帯は重力に逆らった動きをして脚に絡み付く。引き倒されたところへ間髪入れず弾を叩き込み、相手を沈黙させた。
腕を振るって近付く妖を縛り、撃ち殺す。だが、合間を縫って猫又は此方へ踏み込んで来た。鋭い爪が喉元を狙い、振り上げられた。
咄嗟に覇気を放ち、弾き飛ばす。ぐらりと上体の崩れた敵へ、拘束具を立て続けに放り投げた。ガシャンと手枷が嵌って縄と轡が巻き付く。抵抗して暴れる猫又の目の前には、拷問具が喚び出された。
「苦しんで死ね」
殺気に塗れた声と一緒に蓋は開かれた。敵を内部に閉じ込めた器は振動したが、数十秒して鎮静した。
きっと、この性は剥がれない。ならば、役割を果たそう。血に飢えた目で、ナギは次の獲物を探した。
大成功
🔵🔵🔵
空廼・柩
随分と可愛い見た目…だけれど
舐めて掛ったら痛い目遭いそうだね、これ
眼鏡を外せば準備完了
【咎力封じ】を使って猫又達を縛り上げよう
四足で速度を上げられると厄介だけれど
ある程度は自分の直感を信じて
何とか拷問具で受けて防いでみる
…それとも、そのまま中に導いてあげようか?
拘束具だって易々と避けられそうな気がするし
ナイフを投げるとかフェイントを掛けて
注意が逸れた隙にがっちり拘束してしまおう
猫又の数が多いならば、死角を作らないよう注意
近くに猟兵がいたら警告も忘れず
逆に自身の目立たなさもフル活用
死角から暗殺を狙えるなら使わせてもらおう
…悪いけれど、見た目が可愛いからって優しく出来る程
俺は紳士的じゃないもんでね
●謀略
眼鏡を取ってつるを畳み、懐へ仕舞う。素顔で望む先には、少女の容姿を取った怪異の群れが着地する。
「随分と可愛い見た目……だけれど、舐めて掛ったら痛い目遭いそうだね、これ」
拷問具を立てて構え、柩は警戒する。精神を心の底に落とし、緩やかに息を吸う。
猫又は四足で駆け出した。素早い軌道を捕捉するのは難しく、厄介ではある。外して隙を生むより、刻一刻と迫る敵を敢えて待つ。
目の前で脚が地面を突いて、猫又は懐へ飛び込んだ。反射的に棺を動きに合わせて盾にし、衝撃に身が揺れる。砂を踏む音から回り込みを予測。がばりと蓋を開いて、敵の移動先では針地獄が展開された。
「このまま導いてあげよう。楽な旅路じゃないよ?」
方向転換は間に合わない。引き摺り込まれ、苦悶の声が硬い外装から漏れ出た。
内側で息絶えたのを扉を開かないまま確認して、また敵との距離を計る。点在する猫又に対して背を棺に預け、前へと走った。
速い相手なら縛り上げて自由を奪うのが鉄則だが、拘束具は易々と避けられてしまうだろう。白衣の内を探り、ナイフを取った。
此方に肉薄する敵へ刃物を投擲する。尖った刃の先が猫娘の頬を掠めて飛んだが、其れ迄。一本の擦り傷だけで躱し、横へ転がった。
「本領発揮した猫に、こんなものが避けられないわけないニャ――」
強気な言葉を遮って、口に猿轡が叩き込まれる。藻掻く猫又を拘束縄が取り巻いた。
「分かってるよ、そんな事は」
きゅっと縄は締って、猫又を直立させた状態で場に留める。周囲ににじり寄る敵影を認めると、またナイフを握って拘束した個体の首筋を切り裂いた。ばたりと倒れる同胞へ敵の視線が集まった。
仲間が地に伏せて完全に消滅したとき、猫又たちは目を見張る。柩の姿が何処にもない。慌てて後方を振り返った瞬間、一匹が断末魔を上げる。狼狽える猫又たちを嘲笑するかのように、また一匹が狩られていく。
凶刃に妖が斃れた裏、暗殺技術を駆使して柩が死角へと滑り込む。息を殺し、仕事を終えた瞬間には別個体の背後へ移る。どうも猫又は感情的な怪異らしい。混乱に追いやれば、呆気なく事態を引っ掻き回せた。
最後の一匹。気が付けば自分以外が全滅して焦りを見せるその個体へ、顔色を変えず刃を振りかざす。首、心臓部、腹、脚。流れるように刻み、猫又は脱力して崩れ落ちた。
「……悪いけれど、見た目が可愛いからって優しく出来る程、俺は紳士的じゃないもんでね」
靄となりて消える敵に語った柩の口調は実に穏やかで、故に淡泊だった。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『真柄直隆』
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POW : 陥陣営
単純で重い【太郎太刀】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : 真柄の大太刀
自身の【瞳】が輝く間、【太郎太刀】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ : 武士とは勝つことが本にて候
【悪鬼】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
イラスト:よつロ
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「孫六・兼元」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●魂果てても忠義は潰えず
猫又が山を下って現れる気配は、遂に消え失せた。
猟兵たちは街道に影を発見する。人々が屋内へ引っ込み、賑わいの滅した通りを一瞥。男は顎を親指で摩った。
「威勢よく突っ込んでいった割に、猫どもは全滅したか。……お前たちが猟兵だな」
殲滅された配下など意に留めない様子で、大男――真柄直隆は猟兵を見据える。端の破れた羽織を纏い、着崩した着物の隙間からは隆々とした肉体が露出していた。
「信長の討伐、それに猫又の群を蹴散らしたことからしても、事実として手練れなのだろう」
彼の背丈に匹敵する太郎太刀は片腕一本で地から離れている。それが当然と謂わんばかりに、直隆は機敏に身構えた。
「如何なる奴が立ち塞がれど、徳川――敵は、討ち果たさねばならぬ。偶然拾った命で生き永らえる気は、毛頭として無い」
朱に染まった瞳は一抹の緩みすら認識させず、不変のまま此方を見ている。
いざ、尋常に。誰かがそう呟いた気がした。
ニコラ・クローディア
尋常に…やるものかよ戦バカが!
退き撃ち上等、誉れある戦いよりも確実な勝利を目指させてもらう。
アンフィス、フロントは任せた。攻撃は考えるな回避に専念、一合たりとて競り合おうと思うな土台が違う。力で押し止めるな、速さで惹きつけ歩みを遅らせよ。
バイネイン、引き続きスナイパーだ。狙うは頭、可能なら目。いかなユーベルコードによる超耐久力があれど元が元、弾丸を弾くことはあるまいて。
武士は勝つごとが本分、なるほどそれは大したもんだが、理性を捨ててしまえば獣と同じよ!
分かるか、真柄直隆…貴様は狩るものから狩られるものへと自ら零落れたのだ。
理解できたのならば、骸の海へなど戻らずあの世で妻子と茶でも飲むのだなァ!
●獣狩り
異様な佇まいで、敵将は待ち構えている。油断などは何処にも潜んでいない。
決闘でも始まりそうな空気だ、と心の中で茶化す。正々堂々? 誰が従うか。
「尋常に……やるものかよ戦バカが!」
発すると同時に、ニコラの前で二双の使い魔が壁みたく集結した。一瞬だけ目線を寄越した彼らへ、先の戦闘に続き指示を出す。
「アンフィス、フロントは任せた。バイネイン、引き続きスナイパーだ。……行け!」
聞き取った瞬間に両者は飛び出し、距離を測りながら陣形を取る。
アンフィスが固く拳銃のグリップを握った。それを視界の隅で捉え、ニコラが叫ぶ。
「攻撃は考えるな、回避に専念しろ!」
命令を受けて僅かに減速した直後、アンフィスの数寸前を大太刀が過ぎった。突風を感じ、敵を直視する。
邪気を放ち、どす黒い闇に染まった直隆と眼が合った。形容するなら、悪鬼。朱の瞳がより渾然と、殺意に塗られているように思えた。
「一合たりとて競り合おうと思うな、土台が違う。力で押し止めるな、速さで惹きつけ歩みを遅らせよ!」
ニコラの声に反応し、アンフィスは跳び退く。太郎太刀の一振りがその地点を叩き壊し、礫が捲れ上がった。
土を蹴って直隆の横へ回る。攻撃を喰らう前に転がり、また立ち上がっては脚狙いの刃を飛び越える。理性を失い、直隆はアンフィスを追い続けた。
鋭い銃声がその耳を貫く。発生源へ目を向けたとき、後ろ頭を弾丸が抉った。
上体を揺らし、直隆の攻撃が止まる。そこへ畳み掛けるように、数発の弾が叩き込まれた。術式が作動し、魔導により二次的被害に巻き込む。
超耐久があれど、元が元。弾丸を弾くことはあるまい。顔色一つ変えずにバイネインが弾を装填するのを目に収めて、ニコラは戦局を眺める。
退き撃ち上等。誉れある戦いよりも確実な勝利。確定させた方針は、上手く相手に刺さったらしい。
武士は勝つことが本分。なるほどそれは大したもんだ。怪物と化してまで勝利を掴もうとするのは大層立派な心意気と謂える。
「だが、理性を捨ててしまえば獣と同じよ!」
鬼へ変貌した直隆が動き出す。動き回るアンフィスに意識を取られ、空振りが続く。
「分かるか、真柄直隆……貴様は狩るものから狩られるものへと自ら零落れたのだ」
単なる力勝負が戦ではない。惑わせ、策略に相手を乗せるのもまた戦。それを汲んで回避できそうにもない武将など、自ら首を差し出しに来た落ち武者と同義。
装填を完了させ、バイネインが銃杖で狙いを定めた。
「理解できたのならば、骸の海へなど戻らずあの世で妻子と茶でも飲むのだなァ!」
ニコラの言葉と同時に弾丸が放たれる。果たして声は届いたか、否か。右目を穿たれ、直隆は大きくよろめいた。
成功
🔵🔵🔴
シャルロット・クリスティア
◎
決死ですか……。
勝ちを捨てて、少しでもこちらの被害の拡大を狙ってきている。そう簡単には止まらない分、怖い相手です。
ここは【援護射撃】に徹しましょう。
隠れ身の外套を使い姿を消し、アンカーショットでの【ロープワーク】を使った立体機動も用いて【地形を利用】し、【闇に紛れ】死角を取る。
あまり乱射すると前衛の邪魔になる。単射で一発ずつ、確実に【スナイプ】します。
影から撃ってくる奴がいるのがバレてしまえば、流石に警戒はされるでしょうが……それならそれで前衛ばかりを相手する余裕は無くなるはずです。
卑怯とは言わせませんよ。戦とはこう言うものです。
鞍馬・景正
◎
――この烈気、あの大業物。
誰何せずとも真柄直隆殿と分からぬ筈ありませんな。
我が血がこれほど昂るなど、先の戦以来。
徳川家旗本、鞍馬景正。
その武門の意地、破らせて頂く。
◆戦闘
【羅刹の太刀】にて、同じく大太刀で挑ませて頂く。
これで条件は五分など甘い考えはせず、一瞬の油断も致しません。
【怪力】にて太刀を操作。
遠間から斬撃の【衝撃波】で牽制しつつ、その太刀筋や五体の動きを【視力】を動員して【見切り】に集中。
勝機と見れば疾走し、彼の太刀が振り下ろされる瞬間に合わせて跳躍。
地形を砕いた瞬間、太刀の背を【踏みつけ】る形で着地し、【鎧砕き】の打ちを叩き込む。
名将との戦、生涯の誉れとして記憶しましょう。
●戦塵の中
この烈気、あの大業物。
一目見て、景正は息を呑む。伝承に聞く豪傑、真柄直隆が見据える先に居る。何処か奥底で、熱が起こるのを知覚した。羅刹であるが所以だろう。これほど血が昂ったのは、先の戦以来。
他の猟兵の手により、直隆は既に傷を受けている。だが、依然として破断される気配は皆無。難攻不落の城塞みたく、二足で立つだけでこちらを圧していた。
面白いなどと思える余裕は起こらない。ただ愚直に相手に向かい、刀を構えた。真向から挑み、切り開く。千載一遇の巡り遇わせ、例え敵わずとも喰らいつくのが正剣遣いの信念。
「その武門の意地、破らせて頂く」
現れた直隆に対し、思いを巡らす者は他にも居た。
「決死ですか……」
生き永らえる気は、毛頭として無い。彼の発した言葉に引っ掛かりを覚え、シャルロットは暫し考えた。勝ちを捨てて、少しでもこちらの被害の拡大を狙ってきている。普通、次の機会を得る為に負けても敗走するものだが、今回の敵は違う。簡単に止まらない分、怖い相手だと歴戦の感覚が告げる。
「なら、確実に足を止めさせるまでです」
取ったのは一着の外套。コートの上から纏うと、シャルロットの体は町の風景に溶け入った。銃を内に隠して、他の猟兵の前を通る。姿が消えていると認識して壁に張り付いたとき、ガサと砂の擦れる音が鳴った。
踏み出し、直隆が距離を詰める。一瞬で最前線に立つ景正に接近すると、片手を添えて太刀を上段に構えた。本能的危機感により景正が跳んだ瞬間、立っていた地面が粉砕されて破片が散る。
大きく後方へ退いて、受ける風がやけに涼しく思えた。冷や汗か。それでも、怯まない。
屍山血河。羅刹が戦場に遺す物。それを成すには、見合う武具が要る。
刀を肩に担ぐ。数秒足らずで、体感重量が倍以上に増える。当然だ。刀は己の背を遥かに凌駕する、巨大な野太刀に変わったのだ。
「我が名は徳川家旗本、鞍馬景正。真柄直隆殿、手合わせ願う!」
片手で太刀の柄を握り、刃先を直隆へ。真摯に向き合って、もう一方の手を添える。条件は五分、ではない。甘い考えが混ざる思考の余地を、張り詰めた空気へ同化させていく。
名乗りを受けても、直隆は表情を崩さなかった。
「景正か。……徳川の者と名乗り上げたなら、斬られたとて悪く思うな!」
機敏な体の揺れ。動き出しを捉え、景正は巨刀を振るう。放出された衝撃波が空気を裂くが、直隆は軌道上から身体をずらしてこれを回避。太郎太刀を担ぎ、突進を仕掛けてくるのを視認する。打ち下ろされんとする刃。それを読み、寸前で躱した。
前線で繰り広げられる攻防。
猛追する直隆の腕を貫くようにして、弾丸が飛んだ。痛みに応じてその方を見やるが、何かがいる形跡はない。その間に、立て続けに第二発が身体に突き刺さった。もう一度、彼は凝視する。三発目の弾丸は、盾みたく使われた太刀により弾かれた。
「流石に、気付かれましたか」
物陰――長屋前の行燈の裏に潜んでいたシャルロットが銃を伏せる。あのまま戦いに夢中になれば狙い放題だが、そう簡単に済めば苦労もしない。
何にしても、位置は掴まれた。拳銃型の道具をホルスターの一つから抜く。狙うは、ある二階建て屋敷の壁。直隆を越えた奥にあるのは、壁から突き出た吊り看板だった。
火薬の弾ける音が一帯を渡る。銃口からは銛が打たれ、風を切って壁へと刺さる。ぐんと引かれる力に身を任せ、彼女は地を蹴って宙を往く。軒に敷かれた瓦に脚を下ろすと素早く看板裏に隠れ、銃の先だけは変わらず直隆へ向けた。跳ねる銃身を押さえ込んで射撃し、弾丸は直隆の背に捻じ込まれる。堪えたらしく、その体は前方に崩れかけた。一瞬目線がこちらへ飛んで、不可視であるかを疑いたくなった。
機銃を立て、シャルロットは息を潜める。一発ずつ、着実に。乱射しても前衛の邪魔になるだけだ。
初撃の時点で、影から撃つ奴がいるとはバレている。なら、警戒は存分にしてくれて構わない。意識を前衛以外にも分散できるなら、突け入る隙も生まれるはずだ。
「卑怯とは言わせませんよ。戦とはこう言うものです」
武人なら、それは理解できるだろう。持てる最大で殴り掛かってこそ、戦いの礼儀としては正しい。
反対側の屋敷へ、またアンカーショットを放つ。移動の最中、シャルロットは空いた片手で銃を構えた。きっと移動と銃撃の間隔も読まれている。それに、死角を見せる相手なら、弾は外さない。
反動と一緒に発射された弾頭は、直隆の脚を貫通。痛みより、読みの外れへの驚きが直隆を場に留めさせた。
勝機。観察と回避に徹していた景正が踏み込んだ。
「この好機、逃しません」
捉えた一瞬の隙を利用し、自ら直隆の間合いへと押し入る。携えた野太刀の質量をまるで感じさせないほど俊敏だった。
だが、その行為は危険に突っ込むのと同一。景正の向かう先、先手を打たせる間も与えずに直隆が太郎太刀を振り上げていた。
「我が太刀の錆と成りに来たのか?」
頭上へと振り下ろされる、石塊よりも重い一撃。
勿論、そんなはずがない。正面から向かうのは、砕く算段があってこそ。
振られた斬撃に合わせ、軽々しく跳躍する。まるで刃に飛び込むが如く跳んで、直撃する瞬間に身を反らす。脇を通過した太刀は勢いのままに地形を破壊した。
土の付いた太刀の刀身を、空中で見下ろす。一か八かの賭けには一先ず勝てたと踏んで、景正は蓋するように太郎太刀の背に降り立った。無理矢理押さえて、一切の反撃を封じる。更なる一手が下る前に、担いだ太刀を怪力によって掲げた。
自重と、そこへ景正自身の力も併合され、野太刀は打ち下ろされる。斬るというより、折る。鈍い重圧が直隆を喰らった。その衝撃に刀こそ離さなかったものの、大男は宙を飛び、何回転か転がってからの復帰となった。
未だ、戦は続く。かの真柄直隆は伝承に聞く通り、手強い御仁だ。
「名将との戦、生涯の誉れとして記憶しましょう」
間合いを取り直し、再び猟兵たちは武器を豪傑へ向けた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
オブリビオンだから真の当人とは言えないだろうけど、でもあの真柄直隆だ。
少しどころかかなりわくわくする。
尋常に勝負、と行きたいがどこまで通用するかな。
真の姿解放。右手に打刀の胡、左手に刀の様に姿を変えた黒鵺の二刀流(真の姿イラスト参照だと幸い)
UC菊花で真っ向勝負を仕掛ける。こっちは二刀流での18連撃。
UDCで奉納されてる太郎太刀見たが、あれが連撃で来るとか…怖いの通り越してゾクゾクする。
敵の攻撃は【第六感】で感知、【見切り】で回避。回避しきれないものは黒鵺で【武器受け】して受け流し、【カウンター】を叩き込む。
それでも喰らうものは【激痛耐性】【オーラ防御】で耐える。
●二刀と一刀
オブリビオンだから、真の当人とは言えない。でも、真柄直隆には違いない。威風堂々、虫なら殺せてしまいそうな覇気が、此方まで届いた。
緊張で乾く瑞樹の喉を、生唾が通る。拳が震えるのは、内側で感情が滾って収束を知らないからだ。とにかく、仕掛けるからには全力で。左に持った短剣が眩い光を放ち、瑞樹を飲み込んだ。
閃光が解かれて顕現するは、ヤドリガミとしての真の姿。白と本紫を主軸とした和装で数歩歩み出て、少々伸びた銀髪が揺れた。漆黒の刀を体の前で構え、ゆったりと柄を握る。両刃作りのようになった黒鵺の闇色が光を弾き、刀身で白は輝いた。
「尋常に勝負、と行きたいがどこまで通用するかな」
直隆をしかと見て、接敵する。途中で右手に胡を掴む。姿が変われど、戦闘の型は変わらず。太郎太刀の間合いに入る一歩手前、一思いに踏み切った。
空中で二刀を逆手に持ち替える。跳躍の勢いを乗せて振られた刃。だが、横向きに据えられた太郎太刀に阻まれ、刃音が周囲に散って終わった。
「二刀流……珍しいな。太郎太刀で捻じ伏せられるか、試してみたいものだ」
「そりゃどうも。なら、潰されないように立ち回らないとな」
鍔迫り合い、互いに刀を弾ませて退く。改めて、その太刀を目に収める。ふと思い浮かぶは、異世界で祀られていた太郎太刀の姿。装飾は錆ていながらもすらりと伸びた風貌が印象に根付いた。それを、熟知した使い手の技として迎え撃つことになる。
畏怖は心に存在しない。とうに通り越して、興奮へと変換されていた。
直隆の紅い瞳に光が灯る。距離を縮め、刀を薙いだ。発生した風を感知し、軌道上から身を外す。返しの一手が打ち下ろされるが、これも寸前で跳び退いた。
連撃を躱し続け、疲れの混ざった息を吐く。不味い、と消耗に気を取られた。太郎太刀の一撃が、重なるように頭へ打ち下ろされた。守護による防御壁を張るが、完全には殺し切れず。衝撃が頭を掠め、意識が薄らいだ。
「勝負あったな」
敵の声と追撃の殴打を、ぼんやりと認識する。
いや、まだ決してなどいない。刀の動きに合わせて黒鵺と添えた胡で十字を築き、ほぼ反射的に受け流す。払われた剣を認め、瑞樹は懐に転がり込む。
「こっちの手番だ。逃げられねぇぞ?」
金色に、瞳は瞬いた。一方は右下段から、一方は左下段から。刀を振り上げ、交わる点を一つ生む。それを初撃とし、連続して刀を縦横無尽に振り回した。数にして、二刀流による十八連撃。夥しい線を刻んで離脱すると、後方から痛苦の声を微かに聞いた。
「……多少なり効いてるといいんだがな」
あの直隆に一撃お見舞いした。手の熱から実感し、微かな笑みを瑞樹は零した。
成功
🔵🔵🔴
有栖河・鏡
デカイ刀、デカイ身体…色んな意味でゾクゾクしちまうぜ!
さァさァ楽しもうぜ、武将さんよぉ!
●戦術
呼吸、動作、体格、太刀の長さ、奴の間合いや太刀筋をきっちり【見切って】から愛刀を抜き放ち、斬り込む。
「そンだけの強さ、さぞや持て余してンだろ?
もっとヤりてぇ、もっと斬りてぇッてよ!」
見切った太刀筋を躱し、避け、それでも俺を捉えるなら【咄嗟の一撃】で斬り払い、必殺の間合いへ。
「滾っちまったモンは俺がスッキリさせてやるからよ、全力できな!」
そンで完璧なタイミングで渾身の【燕】をお見舞いしてやるぜ。
「真剣勝負ッてのは愛し合う事に似てると思わねぇか、なァ?」
こんな状況でも【誘惑】は忘れねぇぜ。
●アドリブ歓迎
●愛し、殺す者
品定めするように、鏡は相手を眺めた。巨躯を、名刀と謳われる規格外な太刀を。頭の天辺から脚の先まで。舌なめずりをして、満足気に口許を笑みで結ぶ。興奮が欲求を刺激し、行動を催促している。合格、と現物を見て初めてその印を押した。
「デカイ身体、デカイ刀……色んな意味でゾクゾクしちまうぜ! さァさァ楽しもうぜ、武将さんよぉ!」
鞘に収めた日本刀を突き出し、見せびらかすように振る。直隆は眉をひそめた。
「……お前のような輩は戦国でも幾多と見た。だが――」
土を踏んづけた。遠く鑑賞していた相手が、檻も柵も挟めない位置まで距離を縮める。
「――総じて死んだ。戦を甘く見ていたからだ」
胴を狩る横薙ぎの払い斬り。繰り出される直前で予測し、鏡はひらりと躱す。ぷっ、と噴き出した。
「俺はそんな軽薄な奴じゃねぇよ。相手の顔はしっかり見る主義だ」
飄々と間合いから逃げ延び、直隆を見返す。どうせ一戦限り、楽しむなら多くのことを知るのがマナー。鏡は繰り返し、相手の身体を隅々まで観察する。呼吸、動作、体格、太刀の長さ、間合いや太刀筋――一度に動ける限度は幾らか、危険地帯は何処か。徹底した観察は、頭の中を透いて見るのと同じだ。
その過程で、数秒にも満たない静止を捉える。即座に走り出し、柄に手を掛けた。
太刀を盾にする前に刀は抜かれた。居合から放たれた縦の一閃が肉体に傷を刻み、鏡は駆け抜ける。刀身に付着した血液を振り払い、切先を向けた。
「そンだけの強さ、さぞや持て余してンだろ? もっとヤりてぇ、もっと斬りてぇッてよ!」
キャハハハ、と殺気に染まった笑いを発してまた肉薄。果敢に飛び込んだ鏡を歓待するが如く、直隆は太郎太刀を上段で構える。
「滾っちまったモンは俺がスッキリさせてやるからよ、全力で来な!」
誘い文句の後、打ち下ろされた太刀。突発的な横跳びで回避すると、追うように側面から刃が襲う。別段、しつこい相手も嫌いではない。歯を噛み締め、立てた刀を振り上げて受け止める。適当に払って、瞬間的な硬直が生まれた。
一閃が、直隆を斬り裂いた。神速、と表現できる剣筋。回避不能な斬撃に思考が止まりかけた直隆は、本能的に第二撃を警戒して太刀を構えた。
「真剣勝負ッてのは愛し合う事に似てると思わねぇか、なァ?」
警戒へ差し込むように、鏡は言葉を送る。互いを知り、深めながら相手に接近する。生半可な理解では跳ね返されてしまう。忍び寄り、最後には射止める。
太郎太刀を撥ね飛ばすような、剛一閃が放たれる。別世界では彼以後となる剣豪の秘剣を再現した、飛行する燕みたく鋭利な剣技。深い傷が、直隆の体表に作られた。
「返事無しかよ、つれねぇなァ」
傷を押さえて沈黙する直隆を見下ろし、鏡は呟いた。
大成功
🔵🔵🔵
陽向・理玖
あんた最初は朝倉の客将みたいなもんだったんだろ?
それが朝倉の為に戦って死ぬ
それってどういう気持ち?
茶化してるわけじゃねー
純粋に分かんねーから聞いてんだ
忠臣なんだろ?
…何で還ってきた
教えてくれよ真柄直隆!!
龍珠を一つ弾いて握り締めドライバーにセット
変身ッ!
ダッシュで間合い詰め動き見切りグラップル
拳で殴る
陥陣営は太刀の動きよく見て見切り
あっぶねぇぇ…
これが音に聞く太郎太刀
やっぱかっけーわあんた
敵が体勢整える前に懐に飛び込み灰燼拳
でも返しとく
分かってんだ
生きてたら生きるしかねぇ
どんな悔しくても
無様でも
攻撃避けきれない時は敢えて喰らって捨て身の一撃
俺はあんたを倒してこれからも生きる!
激痛耐性で痛み耐え
●忠義の理由
陽向・理玖(夏疾風・f22773)は状況を整理する。空いた街道で孤独に立つ影、それが騒動の主原因。歴史に多少の見識を持つ理玖は、彼が此処にいる理由に疑問を抱いていた。
「おい、直隆。……あんたの忠義って、何だ?」
少年からの問いに、直隆は答えない。太郎太刀を握り締め、足先を向けた。
理玖は問い続ける。
「あんた、最初は朝倉の客将みたいなもんだったんだろ? それが、朝倉の為に戦って死ぬ……それって、どういう気持ちだよ。茶化してるわけじゃねぇ、純粋に分かんねーから聞いてんだ」
幾度と呼び掛けても、声の一つも聞こえない。痺れを切らし、身を乗り出して声を張る。
「忠臣なんだろ? ……何で還ってきた。教えてくれよ、真柄直隆!」
「教える義理があると思うか?」
発した言葉は敵意に塗れていた。直隆は地を馳せ、貫くような視線で標的を睨んだ。
目と鼻の先。そこまで敵が迫る。やるしかねぇと小さく言って、理玖は念珠を掴む。虹色の珠をつまんで、指で宙へと弾いて掌の中へ。思いの丈を籠めた粒をバックルの龍に嵌めた。
「変身ッ!」
短く叫ぶと、全身を装甲が覆う。装着が完了し、理玖もまた直隆へと走る。真正面から振られた太刀を見切って躱す。駆け抜けた際、腹に拳を見舞った。
受けた直隆は無反応。半ば驚く理玖を余所に、彼は太刀を担ぎ上げた。危機感を覚えて身を翻した直後、地面が陶器のように砕ける。
あっぶねぇ。心の中で吐露する。片や、先程無駄だった拳に一層の力を籠め、大きく振りかぶった。超高速の一撃が胴に刺さり、流石の直隆も声を漏らした。
手応えを感じ、一時離脱。それでも此方を凝視する彼に、もう一度語り掛ける。
「分かってんだ。生きてたら生きるしかねぇ。どんな悔しくても、無様でも。だから知りたいんだ。お前が掃討に燃える理由ってのを」
独りになったあの日を回想する。直隆への共感はそこにあるのだとは、薄々勘付いていた。
ゆっくりと腰を起こし、直隆は口を開く。
「確かに当初、真柄は客将だったと聞く。だが、それが俺に関係あるものか。俺は朝倉に従い、傍でそれを見届けて来た。もう国は亡いが、朝倉の誇りが在る。俺はそれを穢さぬよう、最期まで貫くのみ」
言い終えると同時に再動し、理玖へ接近する。唐突な転換に虚を突かれ、退避が間に合わない。ぎゅうと拳を固め迎撃を準備するが、先手を取られた。
重い一撃が打ち下ろされ、理玖は地面に沈みそうになる。成る程と、何処か納得もしていた。それほどの忠義が内在するから彼は脅威なのだ、と。しかし、負けてはいられない。ふらつく脚を立て、拳を握り直す。力が濃縮されていく。
「……やっぱかっけーわ、あんた。でも、俺は死ねねぇ。俺はあんたを倒して、これからも生きる!」
最大の力が籠った灰燼拳が打ち込まれた。直隆を殴り飛ばした理玖は、しっかりと地面に脚を下ろしていた。
大成功
🔵🔵🔵
スピレイル・ナトゥア
「あんな大きい剣で暴れられたら、町がめちゃくちゃになっちゃいます……!」
オブリビオンさんが敵なのははじめからですが、人々の平和な生活を守るためにもここはなんとしても倒さねばなりません
土の精霊を宿したゴーレムさんたちを召喚して、真柄さんの動きをなんとか封じようとしてみます
「土の精霊さん。まとわりついて、敵の動きを阻害してください!」
えーと、町に被害を及ぼさないで攻撃できる手段って、なにかありましたかね……?
あれがありました!
はじめて使うスタンライフルの【マヒ攻撃】で、ゴーレムさんたちも含めたみんなを【援護射撃】します!
過去の亡霊がいまを平和に暮らしているひとたちを脅かして恥ずかしくないんですか!
エウトティア・ナトゥア
◎:アドリブ歓迎
妹(f06014)のお手伝い。
スピレイルや、手助けは必要かの?
【巨狼マニトゥ】に【騎乗】し敵へ突撃、狼の爪や牙と【手製の短弓】による騎射で戦いスピレイルの土の精霊と共に前衛を支えるのじゃ。
『真柄の大太刀』に対しては、【野生の勘】で攻撃を【見切り】風の障壁で太刀筋を逸らして自身や味方を守るとするかの。
(銃を構える妹を見て)
それはこの前造った『スタンライフル』じゃな?
好機じゃ、合わせるぞ。
【風の精霊】の力を載せた【誘導】矢を放ち敵に突き立った矢の風術を暴走させて爆破するのじゃ。
ふう、これはなかなか効いたじゃろ?さて、明日は一緒に狩りに行く約束じゃ、はよ倒して帰るとするのじゃ。
●巫女姫たちの祈り
抜かれた大太刀の白刃を目に据える。会敵時、脅威であるのは即座に判った。
「あんな大きい剣で暴れられたら、町がめちゃくちゃになっちゃいます……!」
今までの交戦で街道が荒らされている、幸運にも。もし、相手が始めから家屋を狙って突撃していたら。
想像して眉を寄せ、スピレイルは体を震わせた。直隆が敵なのは最初から変わらない。倒さなくてはいけない。ただそれは、猟兵としての使命以前に、この町を守りたいからだ。安寧の世を生きる人々が、これからも穏やかな時間を過ごす為に。
「過去の亡霊が、いまを平和に暮らしているひとたちを脅かして、恥ずかしくないんですか!」
想いが結んで出た言葉。張り詰めた争いの空気を渡った。
「恥ずかしい、か。無いと思うか? どちらにせよ、俺は」
その言を受け、喋りながら直隆はスピレイルに向く。刃の先もそちらに向いた。
「何もせずのうのうと生き延びる方が、恥だ」
直隆の身体が黒に染まる。禍々しい瘴気が沸き立ち、鬼とも呼べそうな存在へ変わる。漫然とした観察を相手に許さず、彼は地面を蹴って接近した。
どうなろうと、実力行使でやめさせるしかない。スピレイルは脚を開き、腕を構える。けれど、術を発動する前にぴたりと止まった。
直隆との間に割り込むように、純白が彼女の視界を遮った。見覚えのある柔毛だと気付くのには数秒を要した。
突き出された太郎太刀は大きな脚に払われ、そこを破って獣の爪が直隆の胴を裂く。増援と捉え、直隆は距離を取った。
ふるる、と毛が揺れる。敵を見据えて首を動かした白い巨狼、跨る人影は自身の妹へと微笑んだ。
「スピレイルや、手助けは必要かの?」
上方から、エウトティア・ナトゥア(緋色線条の巫女姫・f04161)は呼び掛ける。短弓を片手に、淡い青リボンを結んだ尻尾を挨拶代わりにゆらりと振るう。
助けに現れた姉にぶんぶんと手を振って、スピレイルは頷いて応じた。
「はい、ありがとうございます! ええと、まずは……」
敵を一瞥。悪鬼と化した直隆を、自由にさせたくはない。
「真柄さんの動きを封じましょう!」
「了解じゃ。……往くぞ、マニトゥ!」
命じ、白狼に乗ってエウトティアは飛び出す。
一方、スピレイルは中断した術を再開する。脚を開いて、腕に力を。巫女服の袖を宙で舞わし、土が露わな地面を突いた。指の先から輪状に、魔力が伝えられる。
出てきてください。心の呟きに呼応するかのように地中からぼこぼこと突き出したのは、目と口らしき穴が空いた小さな土製の人形。太古のエンパイアに縁がありそうな、そんな見た目のゴーレムには土の精霊が宿っている。
「土の精霊さん。まとわりついて、敵の動きを阻害してください!」
願われると同時に、ゴーレムは一斉に行進する。カタカタと音を鳴らし、マニトゥを追い越し先行して直隆を取り囲む。地面から生み出されては積み重なり、乗り掛かって重しとなる。
直隆も何もしないわけではない。彼が振るった太刀で精霊の依代は粉々に粉砕される。だが、余りにも数で勝っている。立て続きに頭突きを受けて、すっかり一点に釘留めされてしまう。
そのど真ん中、宙を通って矢が直隆の右肩を貫いた。
「土の精霊はようやっておるな……このまま仕掛ける!」
エウトティアが矢筒から矢を取る間に、マニトゥが直隆の眼前に迫る。勢いを殺さず振られた前脚の爪がまた振られ、敵を線の形に抉った。言語でもない声を吐いた直隆へ、また矢は射られた。至近距離から胸に直接突き刺さって、彼は後ろ足を浮かせる。
その足が地に突いた瞬間だった。直隆は太郎太刀を一度後ろに引き、両手で柄を握り直す。
反撃の気配。肌で察知したエウトティアは、弓を持たぬ手を開いて正面に掲げた。
「風の精よ、全ての悪意から彼の者を護れ!」
瞳が瞬き大太刀が振られるのと、突風が彼女の後方から吹いたのは同時。風に阻まれ、前衛陣を斬らんとした太刀はあらぬ方へ。だが直隆は止まらない。煽られた腕を力で押し戻す。太刀筋の前兆を見出す度、風の障壁を放ち、それを捲り上げていく。
後方、スピレイルは攻撃を凌ぐ姉をおろおろと眺める。早く動きを封じなければ。でも、町に迷惑を掛けないことが前提。何かないかと考え込み、ぽんと手を打った。
金属同士が擦れるような音を背後で聞き、一瞬だけエウトティアが目を向ける。
「ほう、それは……」
にいと笑みを作る。
その手には、真新しい銃器が握られていた。
「この前造った、スタンライフルじゃな? 好機じゃ、合わせるぞ」
打ち下ろしを風で弾いて、マニトゥに一旦跳び退くよう指示する。エウトティアたちが離れていくのを見ながら、スピレイルは空いた射線にライフルの銃口を定めた。
使うのは初めて。土壇場で上手く機能しない可能性もある。募る不安がないわけではない。それでもこの銃を向けるのは、何一つ傷つけたくないからだ。引き金に指を掛けた。
「どんな思いがあったとしても……この町のひとたちを傷つけてもいいなんて、私は認めません!」
発射されたのは、まさしく雷光。バチバチと激しく雷鳴が鳴る。雷の精霊の力を借りた閃光が駆け抜け、痺れによって直隆は固定された。
完全に静止した敵へ、エウトティアは弓を引く。張った糸が最高点に達したのを指先で感じてから、ぱっと放つ。飛ぶ矢の周りには空気が渦巻き、直隆を深く射抜く。突き立った瞬間、濃縮された風術が暴走。雷と混ざり、爆発が起こった。
「ふう、これはなかなか効いたじゃろ? さて、明日は一緒に狩りに行く約束じゃ、はよ倒して帰るとするのじゃ」
エウトティア、スピレイルの見つめる先。爆ぜたはずの直隆は、黙してふらり起き上がる。何度でも迎え撃つ用意はできている。二人は再度、武器を構えた。
大成功
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空廼・柩
へえ、随分と潔いんだね
だったらお互い、どちらかが死ぬまで戦い尽くそうよ
白衣の裏から取り出した注射器
【青き侵蝕】で奴の身体に毒注入を試みる
自身の目立たなさを充分に活用
常に死角を取るようにして、可能な限り沢山の注射を打ち込もう
暴走した時も、全く別の方向に注射器を投げる事で
敵の注意を其方に向けられたならば、戦い易くなるかな
とはいえ…攻撃が直撃したらたまったものじゃない
痛みは耐性で堪えられるけれどダメージが軽減される訳じゃないし
もしこっちに攻撃が向けられたら
拷問具を盾にして攻撃を受け、そのままカウンターを叩き付ける
正々堂々なんて言ってないよ
第一、俺は暗殺の方が得意でね
だから…此処まで頑張った方でしょ?
●怪物殺し
「へえ、随分と潔いんだね。だったらお互い、どちらかが死ぬまで戦い尽くそうよ」
戦いの火蓋が切られる前に発した言葉をなぞって、柩は呟いた。
その声は聞こえたか、否か。それに関してはどうだってよかった。
視界の端、猟兵の一人が近接攻撃の為に土を蹴る。直隆がその人を注視したのを捉え、柩もまた走り出す。刃音が響く。目の前への対処に手一杯になっている隙に、その首筋を狙う。駆けながら懐を探り、確かに掴み取る。
直隆が相手を跳ね除け、太郎太刀を振ろうとした瞬間。注射器を、柩は突き刺した。青。筒の中に満たされた、不気味にその色を光放つ液体が針を通って身体に流れ込む。首を動かしてそれを見た直隆に、多少の動揺が伺えた。
間を置かず、痺れが襲う。毒と断定し、直隆は即座に柩を探す。先程までいた場所からは姿を消している。
「エンパイアの人間なら、そりゃ注射器も知らないか。でも安心して。たぶん、結果はあんたも知ってるから」
声へ振り向くより早く、二打、三打と針が腕に刺さる。
一度距離を取り、柩は直隆へ向いた。
「戦うのは当然。だけど、皆が正々堂々なんて言ってないよ。第一、俺は暗殺の方が得意でね」
無表情。しかしそこには微かな嘲りが覗けた。
麻痺する腕を震わせ、直隆が朱の瞳で睨んで言う。
「無論、それが戦。理解している。だが戦国は、愚劣な手を叩き潰してこそだ」
言い切ると同時に、邪気が直隆を覆う。黒く染まり、人ならざる化物へ移ろう。普段対峙する相手のような形になった敵。何となしに、柩には嫌悪感が湧いた。
ちょうど正面にいた柩を標的と定め、直隆は襲い掛かった。迫る巨躯に舌打ちし、背負う拷問具を掴む。鎖を振り、間一髪、突撃と太刀の盾に。衝撃に身体を揺らしつつも棺を抱えると、体勢を整える前に叩き込んだ。
小さく、怪物の声を聞く。ほんの少しだけ、身体がぐらつく。鎖を放すと、悪鬼の脇を潜り抜けて脱した。
咄嗟に、柩は注射器を後方へ投げた。肉体には刺さらず、すり抜けて目の前を通過。直隆は目でそれを追う。すとん、と置き捨てた棺に刺さって終わった。
一連を眺め、直隆は拷問具に太郎太刀を振りかざす。予想通りだ、と柩はため息をつく。怪物に変わる術は大抵、理性を失う。証拠も何も、自分がそうなのだから。後は、利用すればいい。
がら空きの背。持てる限りの注射器を指に挟むと、そこを目掛けて投擲する。一つも余さず、針は肉を貫く。
雄叫びに似た叫びが上がる。直隆は振り向くが、そのまま前へ崩れ、膝をついた。伴って、悪鬼変化も剥がれていく。
「正攻法が不得意な身としては……此処まで頑張った方でしょ?」
その声は聞こえたか、否か。柩の言葉は空気に溶けていった。
成功
🔵🔵🔴
ナギ・ヌドゥー
◎
ほんの数月前に蘇れば、怨敵と立合えただろうに……何とも間の悪い御方だ。
この国にアンタが太刀を振るう戦場はもう、無い。
まともな斬り合いでは分が悪い。
【精神攻撃】【呪詛】で揺さぶりを掛けながら攻撃、UCを当てる隙を作る。
『敵って無力な町民がか?朝倉家とは無為な虐殺が本業なのだな!』
【誘導弾】で牽制し間合いを測る。
『戦うべき敵なんてもう居ないんだよ……アンタが蘇った意味など何も無い』
【オーラ防御】を纏いつつ、【フェイント】をかけ一撃離脱。
『今のアンタは武士では無くただの殺戮魔だ』
少しでも隙が見えたらUC発動、首を狙い枷を放ち質問。
「今のアンタの行いは真に朝倉家への忠義と言えるのか?」
●真の忠義
地面に膝をつき、直隆は激しく呼吸する。それは嗚咽にも似ているほどだったが、突き立てた太刀を掴むと一息で立ち上がる。
しぶとい。これほど執着するなら、太刀を振るうべき相手は尚更オレたちではないだろう。ナギは目を伏せた。
「ほんの数月前に蘇れば、怨敵と立合えただろうに……何とも間の悪い御方だ」
結局、無意味だ。世は平定され、彼の帰る国も亡んだ。
ただ、事実を語る。
「この国にアンタが太刀を振るう戦場はもう、無い」
「……黙れ」
静かに、彼は断ち切った。
「俺は朝倉の為、全ての敵を討つだけだ」
埒が明かない、思考して意識が逸れかけた一瞬で、直隆は駆けて距離を詰めた。太刀を寸でのところで躱し、跳び退く。
まともな斬り合いでは分が悪い。そう踏んで、ナギは手を伸ばし、開く。
己の精神を削って撃つ光線と同時に放つは、滑稽な信義を責め立てる言葉だった。
「敵って無力な町民がか? 朝倉家とは無為な虐殺が本業なのだな!」
恐らく、敵は忠義に精神の軸を置いている。なら、その軸を挫く。外観が堅く、不屈であるように見えても、心というのは案外脆い。理性の淵に立つからこそ、それを知っている。
光線を切り裂き、直隆は叫んだ。
「違う! 俺とて乗り気ではなかった、しかし、奴らにも苦難を、敵に――」
「認めろよ」
再度、光を射出する。曲線を描いて向かうが、太郎太刀に弾かれた。防がれたって構わない。到達までの時間から、間合いを測れた。
「戦うべき敵なんてもう居ないんだよ……アンタが蘇った意味など何も無い」
「無い……? そんなはずが――」
「今のアンタは武士では無くただの殺戮魔だ」
畳み掛けるように言葉で串刺しを図る。こっそり、大振りの刃物をコートから抜いた。
「煩い、煩い!」
逆上したか、太刀の刃が土に着く。
しめたとばかりにナギが肉薄し、刃物を担ぎ上げた。その刃が振られるのを予測し、直隆は我に返って柄を取り直す。どう転んでも太郎太刀の間合い。連撃で凌ぎ反撃を試みて、朱色の瞳が輝いた。
しかし。ナギはぴたり静止し、初撃を避けて間合いの外へ。連撃は全て、空を切った。
戦いでの消耗、技の反動。肩で息をして、直隆は立ち尽くした。
ナギは歩み寄り、尋ねる。その問いと同時に放たれたのは枷。ぴったりと首に巻き付き、鎖の揺れる冷たい音がした。
「今のアンタの行いは、真に朝倉家への忠義と言えるのか?」
それを突き付けられ、直隆は押し黙る。何か口ごもる度に枷は締った。
忠義。果たすには敵を討つしかない。それを果たす覚悟はできている。
けれどそもそも、朝倉が戦った理由はなんだ。国を纏める為だ。何の為に。
ああ、そうか。
「武士は民の平穏の為に在る。平穏の今、俺は……」
枷は解かれた。だが、直隆は安らかに目を瞑って、地面に斃れた。限界はとうに迎えていて、柱であった忠義が抜かれ、そして朽ちたのだろう。主人が靄に薄れる中、くるくると太郎太刀が回って、遂に消え失せた。
見届けて、ナギはぼーっと空を眺める。また、自分には馴れない泰平が戻ってくる。ちらほらと、歓声が聞こえてきた。
エンパイアの空はからりと晴れ、ゆったりとした時間が流れていた。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2019年10月23日
宿敵
『真柄直隆』
を撃破!
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