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舞台の奥のサナトリウム

#サクラミラージュ

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#サクラミラージュ


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 音楽の都は維納(ウィーン)には無数のオペラハウスや音楽堂、劇場がございますけれど。
 こちらの劇場は少々風変わり、何せ役者は皆が皆、うら若き乙女達なのだから。
 愛らしき少女は勿論のこと、老婆であれど腕白な男の子なれど、演じるのは少女達。そしてその中でもトップスタアは、美しくも格好良く、妖しい魅力を湛えた男装の主役。
 嗚呼、当地の文豪が書き下ろしたという悲恋のミウジカル、口付けの相手は娘役のスタアであってもやはり黄色い歓声が客席からは絶えぬもの。歌えば夜鳴き鶯の如く、流し目すれば気絶する娘達が多々、舞台を下りても凛々しい詰め襟に長い髪を馬の尾結びに街を闊歩する姿は、ストリィトで気づかぬ者はないという。
 けれど如何したことだろう、維納の街にありながらどこか江戸っ子めいたかのスタアは、最近めっきり不機嫌になって。
 憂いを帯びた溜息に、ついにあの方も恋をされたか、さてお相手は殿方か、それともあの娘役か、と邪推する者も多いのだけれど――そのどこか苛々とした様子、やたらと予定を放り出したり、あるいは数日もいなくなったり、あれが欲しいなどとスタアの特権を振りかざして我儘を言ったり。
 今までなかったそんな姿に、むしろ劇場の者達は影朧にでも憑かれたのでは、と心配そうに噂するので御座います。

「そしてその噂は、真実だということだ」
 仙堂・十来はグリモアベースに集まった猟兵達を見渡すとそう告げた。新たに見つかった世界『サクラミラージュ』では『影朧』と呼ばれる不安定なるオブリビオンが出没しており、歌劇団のスタアである柏木エイレはある影朧を『姉だと思い込まされて』いる。
「本来、柏木エイレには実際に姉がいて、幼少期の彼女に歌を教えて役者になる切っ掛けを作ったのだが、数年前に長患いの末に亡くなっている。柏木エイレの認識では、影朧は『今も闘病中の姉』ということになっている。影朧自体が思い込ませているだけではなく、彼女自身がそう『思い込みたい』という部分もあるのだろう……」
 軽く、深呼吸するように息を吐いてから、改めて十来は顔を上げる。

「しかし、まずはこの『影朧』がどこにいるのかが判明していない。ゆえに、まずは柏木エイレと接触し、ある程度の交流を深めることで、その場所への手がかりを得てもらいたい」
 とはいえ今、柏木エイレは姉を亡くす直前のような、不安定な精神状態にある。ふらりと姿を消すのはおそらく影朧と共に過ごしているのだろうが、他にも姉への差し入れや薬を求めたり、異国の目新しい話などを求めたり、と普段ならば言わないような我儘を周囲に言って困らせることもあるが、逆にその『お願い』を聞くことができれば柏木エイレ自身、そして周囲の同僚役者達や劇団関係者の信頼を得ることができるだろう。
 ――そして、影朧と接触できた際には。
「この『サクラミラージュ』という世界では、影朧は不安定な存在であり、その荒ぶる心と肉体を鎮めた上で桜の精に許されれば『転生』する可能性がある。戦いは必須ではあるが、その中で影朧自身が納得できるような言葉や行動があったとしたら……その影朧は、まさしく『救われる』かもしれない」
 無論、転生した先がどうなるかまで、見届けられるわけではないけれど。
 猟兵達も、柏木エイレその人も。
「どうか、よろしく頼む。……スタアに、再び笑顔を取り戻させてあげてほしい」
 そう、十来は送り出す猟兵達に、一礼して告げたのであった。


炉端侠庵
 こんにちは、炉端侠庵です。
 大正浪漫と聞いてやってきました。サクラミラージュ、初シナリオです。
 ちなみにサクラと言われると「菊の季節に桜が満開」とかの方を思い出すタイプです。

 というわけで今回はトップスタア・柏木エイレと仲良くなる第一章(日常)、そこから冒険の第二章を経ての影朧(ボス)戦でお送りいたします。
 戦いにおいて非常な強敵、という相手ではありませんが、柏木エイレの、そしてこの影朧の『救い』は、皆さんの行動次第で変わってくることになることでしょう。
 それでは、よろしくお願いします。
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第1章 日常 『我儘なスタア』

POW   :    これを向こうに持っていって下さる?(山のように届いた差し入れを運ぶ)

SPD   :    ああ、あれとあれとあれが欲しい……。(大量に頼まれたものを買ってくる)

WIZ   :    ――何か面白い話はありますか?(滑らない話)

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

空葉・千種
アドリブ歓迎
話は捏造・改変OK

私大したお話できないんだけど…とりあえず身に覚えのない連帯保証人にされてマグロ漁船に乗せられた時の話で良いかな?
(中略)
…それで船長が「惚れた女のためならヤクザだってメじゃねえ!」って叫びながら事務所に突撃しちゃって。
そのせいで船長が官憲に捕まっちゃうんだけど後の奥さんが「あんたが出所するまで待ってる」って涙ながらに船長にキスをして、ついでにヤクザさんも捕まり私の借金も事実無根なのが証明されたから大団円ってわけなの!

私は経験ないけどやっぱり恋っていいよねー…
ねぇ、私ばっかり話しっぱってのも寂しいな。
エイレちゃんは恋バナとかないの?
知り合いの話とかでもいいから!ね?



 維納(ウィーン)の街で、3日間も代役を立てていたミウジカルが再び今日から柏木エイレ主演で行われると噂になったその日のこと。
 いけません柏木は今から稽古が、と係の者に足止めを食らっていた空葉・千種に「私は構わないよ」と言い放ってさっさと自分の控室に通してしまったのは他ならぬそのエイレであった。
「わざわざ会いに来てくれたと言うからさ、何か面白い話でも持ってきてくれたのかと思って」
 そう一見気のおけない、けれど試すような目で尋ねたエイレに千種はんん、と頬を軽く掻いてから。
「私大したお話できないんだけど……とりあえず見に覚えのない連帯保証人にされてマグロ漁船に乗せられた時の話で良いかな?」
「マグロ漁船!?」
 見習い劇団員が運んできた茶を吹き出しそうになってから目を丸くして聞き返すエイレに、千種が語るのは当世流行の冒険小説のような海が舞台の物語。船倉の下働きに放り込まれたが入り込んだヤクザのスパイを同じ境遇の者達と協力して船長に突き出したことでその実力を認められ、マグロの網を引き上げたはずがかかっていたのは巨大クラァケンだった時の大立ち回り、立ち寄った港では偽の海軍小隊に化けて取り締まりに来たヤクザと大立ち回り、無論魚市でも妨害しに来たヤクザの横暴に困っていた大問屋の娘と船長が一目惚れ――!
「それで船長が『惚れた女のためならヤクザだってメじゃねぇ!』って叫びながら事務所に突撃しちゃって」
「凄いね、元から侠気の塊みたいな船長だが、ここに来て恋をしてさらに強くなったってことじゃないか! それでそれで、どうなったんだい?」
 夢中で話に聞き入る様子はまるで紙芝居を楽しみにする幼子のようにも見える。本来その屈託なさが、きっと柏木エイレという少女の性格なのだろう。
「それで船長は官憲に捕まっちゃうんだけど、その大問屋の娘さんが『あんたが出所するまで待ってる』って涙ながらに船長にキスして」
 わぁ、と感慨深げに溜息をつくエイレ。にっこり満面の笑顔で頷く千種。
「で、ついでにヤクザさんも捕まって、私の借金も事実無根なのが証明されて、船長は結局すぐに出てこられて大問屋の娘さんと結婚して、つまりは大団円ってわけなの!」
「おおお!!」
 熱烈な拍手。まるで自分がいつも舞台で浴びているようなそれを、エイレが惜しみなく千種の話に送る。
「ふふ、君ほど上手く語れるかわからないけど、姉さんにも話してあげよう。きっといい気晴らしになって……楽しんでくれる」
 そう嬉しそうに、けれど少しだけ寂しげに呟いたエイレの顔に、さらりとエイレは話を振る。
「私は経験ないけどやっぱり恋っていいよねー……ねぇ、エイレちゃんは恋バナとかないの?」
「え!? そ、そんな劇団員に恋愛はご法度だよ!」
 慌ててぶんぶん首を振るエイレにも、千種は諦めず詰め寄ってみる。
「私ばっかり話しっぱってのも寂しいし、知り合いの話とかでもいいから! ね?」
「え、えっと、そりゃ……姉さんには婚約者がいたけどさ、病になっても待ってる、って言ってくれた……」
 けれどその顔には、恋の持つ明るさではなくすっと影が落ちていた。
「でも、この前噂を聞いたよ、とうに別のご令嬢と婚約してお披露目も間近なんだってさ。……こんな話姉さんに言ったら気落ちしてしまうもの、千種の話してくれたマグロ漁船の話の方が、余程姉さんも元気になるよ」
 軽く肩を竦めると、稽古があるから、とエイレは席を立ってしまう。
「ありがとね、楽しかった! もう一杯お茶を出させて、帰りも誰かに案内させるよ。そして是非とも今宵の舞台も見に来てくれたら最高に嬉しいね、では!」
 再び笑顔を貼り付けて、駆けていく足音。――千種の話に聞き入ってくれていた時とは違う『役者の笑顔』だったように、思えた。
 既にエイレの心を捉えているのは影朧に過ぎず、本物の彼女の姉は亡くなって久しい。だからその婚約者が既に新たな縁談を承諾していてもそれは自然なことで、けれど。
 影朧と同時に過去にも囚われてしまったエイレに思いを馳せる。辛い別れをもう一度味わわせてしまうことになっても、それでも過去は過去だと納得できなければ、きっと彼女は前に進めなくなってしまう――。

成功 🔵​🔵​🔴​

レムリア・クラウンハート
【WIZ】
スタア、と言うのはつまり、キマフューで言うアーティストと同じようなもの……かしら。
その認識でいいのなら、話すことには困らなさそうね。

茶屋で休んでいるところにでもお邪魔させてもらうわ。
片やリアルの劇場で生きる者、片や電子の劇場で生きる者。
異文化交流と行きましょうか。

滑らない話、とは違うかもしれないけれど。
お互いのファンの話、なんてどうかしら。

毎回配信を観に来てくれている人。
お約束のネタを持っていて、ちょっとした有名人になっている人。
ファンアートや漫画を描いてくれる人。
まだまだいるけれど、全員挙げようとすると切りがないわね……

と、私ばかり話しても仕方がないわね。
貴女の方はどうかしら?



 レムリア・クラウンハート――普段は引っ込み思案な少女『レムリア』、しかし世界を脅かす者達から平和を奪い返す怪盗として活躍する時は『クラウンハート』、その2つの顔を持つ電子の海からやって来た少女の在り方は、役者とも共通するところも多い。
「スタア、と言うのはつまり、キマフューでいうアーティストと同じようなもの……かしら」
 クラウンハート自身も、その相似を感じ取っていた。その認識でいいのなら話すことには困らなさそうね、と呟いて、柏木エイレがよく通っているというカフェーに向かう。ミウジカルの練習は激しいもので、その後に甘味を楽しみに来るのはトップスタアのエイレのみならず、劇団員の日常の1つでもあると聞く。
 その中でも大通りからでも目立つテラス席でカップを傾けているのは、もしかすると劇場の宣伝も兼ねているのかもしれない。
「こちら、よろしいかしら?」
「ああ、構わないけれど。空いているのに相席とは珍しいね、何か用かい?」
 カップを置いた柏木エイレは、慣れた様子で給仕を呼び止める。彼女と同じものを、と注文したクラウンハートは、その問いかけに頷いた。
「ええ、同じ『劇場で生きる者』として、お話がしたかったの」
「へぇ! 面白いな、それこそそういうことを話す相手は同輩しかいないから。君もどこかの劇場にいるのかい?」
「そうね、私のいるのは……『電子の劇場』と言ったところかしら」
 テーブルの向かいで瞳を輝かせるエイレに、クラウンハートは軽くネットの活動について説明してから自分のファンの話へと移る。
 毎回配信を見に来てくれている人。
 お約束のネタを持っていて、ちょっとした有名人になっている人。
 ファンアートや漫画を描いてくれる人。
 全て彼女の、『クラウンハート』の大切なファンであり、彼女が最高のパフォーマンスを返したいと思う理由。
「まだまだいるけれど、全員挙げようとすると切りがないわね……と、貴女の方はどうかしら?」
「ふふ、わかるなぁ。確かに毎公演通ってくれる人もいて、同じ花をいつも送ってくれるちょっと有名な人もいる。ファンアート……とは少し違うかもしれないけれど、写真とは別に絵姿が売れるのは何だかちょっと面映い感じの嬉しさがあるし……」
 くつろいだ様子で話しながら、シフォンケーキを口に運ぶエイレは『別の世界の劇場』に興味津々のようだった。
「しかし、面白いね。君の『劇場』ではそこに足を運ばなくても君を見ることができる。私達の劇場には直接来ないと私達を見ることが出来ないから。……その『電子の劇場』があれば、姉さんにも……」
 ぽつり、呟いたその指先で、シフォンケーキを刺したままのフォークが揺れた。
「お姉さんは、公演を見に来られないの?」
「うん、入院しているから。肺の病だから、サナトリウムで療養しているんだ。遠くではないけれど……流石に、劇場まで来るのは難しいから」
 ――サナトリウム。
 その言葉をそっとクラウンハートは記憶に留めた。本物であるかはわからないが、おそらくは彼女が『サナトリウム』と認識する場所が影朧の隠れ場所。
「と、そろそろ行かないと、だ。ありがとう、楽しかったよ! いつか姉さんと一緒に、君の劇場にも『行って』みたいものだ!」
 そう言って慌てて最後の紅茶を飲み干して、会計を置いて駆け出す背中にクラウンハートは「ぜひいらっしゃい、楽しみにしているわ」と声をかけた。見せる機会はきっとある、それがネット配信ではなく――おそらくは、エイレにとって辛い時間になってしまうとしても。
 せめて彼女と『姉』のフィナーレを、美しい色で飾れるならば。

成功 🔵​🔵​🔴​

セシリア・フェッチ
【SPD】
エイレさん、可哀想に…!影朧の方も心配ですね
まずは劇場スタッフとして潜入し、エイレさんのお話を聞きましょう
その前に維納の地図を出来る限り記憶します
「今日からここで働くことになりました。よろしくお願いします」
エイレさんと合流出来たら、お使いに行きますね
記憶した地図をもとに最短ルートで行きましょう
同じ目的の方がいらっしゃったら手分けして探します
「これで全部…でしょうか」
追加注文は二つ返事で請けます
異国の珍しい品物があったらこっそり自腹で…
「あとこれは私からお姉さまへのプレゼントです」
「お姉さま、元気になるといいですね!」
うう、舞台の方も気になります…ちょっとだけ、舞台袖から見れないかな?



「エイレさん、可哀想に……!」
 そっとセシリア・フェッチはレースの縁飾りのハンケチで涙を拭った。カフェーの給仕であればさぞかし人気が出るであろう、という美貌が、切なげな悲しみに染まる。
「影朧の方も心配ですね、まずは……」
 維納(ウィーン)の地理をできる限り頭に叩き込んでから、まずは猟兵の身分を明かして劇場に協力を申し込み――、
「今日からここで働くことになりました。よろしくお願いします」
 下働きのスタッフとして、潜入することになったのである。新人のスタッフが突如トップスタア付きとなれば不満も出そうなものだが、明らかにおかしな最近のエイレの我儘にはスタッフ一同不安にも思っているらしく、またそのための人員補充だと理解されたらしかった。実際、この間までエイレ付きだったスタッフが、変わってしまったエイレの態度と要求に、疲労と何よりもショックで寝込んでしまっているそうである。
 カフェーでの一休みから戻ってきたエイレは舞台の準備に入りながら「ええとアレとアレが足りない、それに……」と口早に呟くと、セシリアに向かって振り向いた。
「それじゃ、これ全部買ってきてもらえる? 少なくとも舞台の半刻前には」
「わかりました!」
 ぽんと渡された財布を受け取って笑顔で引き受けたセシリアだが、内心冷や汗である。あとでまとめて伝えてくれない可能性を考えて、こっそりメモしておいて良かった。
 ともあれ頭の中の地図を元に、せっせと買い出しを済ませる。化粧道具や小道具の補修材料などもあるが、その中に漢方や西洋医学の薬、滋養にいい食べ物や寝間着などが混ざっているのにそっとセシリアは思いを馳せた。『姉』と思い込む影朧を思う心が、一見して我儘な態度の中に詰まっている。
「これで全部……でしょうか」
 両手の買い物かごにいっぱい、さらに紙袋にまで抱えた品物を確かめるセシリアの目に、ふと色鮮やかな硝子と貝や珊瑚を使った吊るし飾りが目に入る。聞けば南国の島より入荷した土産物、既に風の冷たい維納にはない暖かい色彩を確かに感じて、セシリアは財布を取り出した。これはエイレではなく、自分のだ。

「うん、足りないものはないね。早いな、助かるよ」
 予想より早いセシリアの帰りに満足して頷くエイレに、そっとその包みを差し出した。
「あと、これは私からお姉さまへのプレゼントです」
「!!」
 驚いたように目を見開くと、そっと包みを少しだけ開いて中身を確かめたエイレは、ぱぁっと花が咲くように微笑んだ。
「ありがとう! 暖かい色だ、姉さんも喜ぶよ」
「ええ、お姉さま、元気になるといいですね!」
 うん、と頷いた表情は、トップスタアよりも1人の少女の顔をしている。――けれど今から装いを整えて、柏木エイレは舞台に立つのだ。
 身支度は手の届かぬものを除いて自分ですることになっているらしく、セシリアはいくらか肩モールのボタン留めなどを手伝ったくらいであったが、人形師でもあるセシリアはその衣装にも、衣装を纏って見事に変身するエイレにも目を奪われた。
(うう、舞台の方も気になります……ちょっとだけ、舞台袖から見れないかな?)
 そうっと飲み物や手ぬぐいの用意の間に何とか覗き込んだ舞台。我儘な要求をする時とも、1人の少女としての笑顔とも違う、精悍な若き海軍将校がそこにいて、朗々と話し、歌い、港の娘とロマンスを演じていた。準備の時に見たのとも全く違う雰囲気に、またセシリアは息を呑む。
 3日も劇場を留守にしてなお、舞台に出れば万雷の喝采を浴びるその姿を、他のスタッフから声をかけられるまでセシリアは思わず見つめ続けていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ナイ・デス
ソラ(f05892)と

影朧は、姉だと思いこませている、だとか?
姉の影朧なのか、別人の影朧が、姉と思いこませているのかで、話はだいぶ、変わります、ね
……何にしても、まずはエイレさんから、信頼されるようなこと、ですね

通りすがりを装い、劇団員さん達をお助け、です
……主に、ソラが

私は、無理に荷物、運ぼうとして、どこか痛めてしまった人がいれば、その治療とか
病や、衣服で隠している古傷、肌年齢などなど、劇団員さん達から望まれるままに『生まれながらの光』で、治療します
疲れますけど、サアビスチケットで、食べ飲み放題など、させてもらって、いますし
これぐらいのお返し、当然、です


ソラスティベル・グラスラン
ナイくん(f05727)と

エイレさんに困る劇団員さんへ、通りすがりを装うわたしたち
何かお困りですかっ?わたしたちで良ければお手伝いしますよ!

持ち前の【怪力】で重い荷物もなんのその
【気合】と真心を込めて精一杯奉仕しちゃいます
心配は無用ですっ、鍛えてますので!むんっ
枯れぬ笑顔と尽きぬ体力、分かり易くお役に立てるのは楽しいですね!
もっとわたしに出来ることはありませんか~♪

うふふ、ナイくんも治療を頑張ってる頃でしょうか
エイレさんと雑談する中で、折を見てそっと話題に
わたしの隣に居た白くて小さな子
不思議な癒しの光が使えるんです、旅の疲れや怪我や…
『病気』も治せちゃうかもって!頼もしい自慢の相棒なんです!



「何かお困りですかっ? わたしたちで良ければお手伝いしますよ!」
 ソラスティベル・グラスランが弾けるように元気いっぱいの声で、劇場の裏口近くで難儀している団員に声をかけた。
「す、すみません、この衣装をお直しに持っていかないといけないんですけど、上手く持てなくて転んでしまって……買い出しにも行かなきゃいけないのに……」
 そっとソラスティベルの後ろから、相棒のナイ・デスが現れるとしゃがみこんだ団員の傍に現れる。
「腫れてます、ね。ん……」
 ユーベルコード『生まれながらの光』、ナイ本人の疲労と引き換えに即座に傷を癒す輝きは、あっという間に団員の捻挫した足首を治してしまう。
「というか大きいし重そうですもんね、わたし、持ちますよ!」
「えっ本当に重いですよ!?」
「心配は無用ですっ、鍛えてますので! むんっ!」
 大量の衣装が入った木箱を、ソラスティベルは軽々と持ち上げる。確かに金属の装飾やらスカートを膨らませるフープやらがとにかく多い。プラスチックがほぼ普及していないサクラミラージュでは、衣装の装飾や小道具に金属製のものもかなり多く、かなりの重量になりがちらしい。
「買い出しもお付き合いしますよ! パワーには自信があります、荷物持ちだと思って使ってください!」
 ずんずん歩き出すソラスティベルに、慌てて団員がお礼を言いながら後を追う。それを見送りながら、ナイは内心こそりと呟いた。
「影朧は、姉だと思い込ませている、だとか? ……姉の影朧なのか、別人の影朧が、姉と思い込ませているのかで、話はだいぶ、変わります、ね」
 思い込ませている、という表現からは別人のようにも考えられるが――考え込みかけたところでかけられた声に、ナイはふっと振り向いた。
「あの、すみません。今、うちのスタッフがお世話になったみたいで……」
「あ、はい、……これくらい、当然、ですから」
「ありがとうございます! それで、え、えっとおこがましいんですが……」
 裏口から出てきた青年の話では、怪我で舞台を休んでいる団員や、稽古中に傷を負ってしまった団員がいるとのことで、ナイは二つ返事でその治療を引き受けた。特に稽古中の怪我はつきもので、殺陣でもあればさらに倍増する。ほとんどは大したことのないかすり傷だが、それでもミウジカル中の動きに支障が出たり、顔に傷が出来てしまうと化粧で隠すにも大変、といろいろ細かい困りごとが出るらしいのだ。
 頼まれるがままにナイは治療を施していく。さらには持病の喘息や引きかけの風邪、といった病気などにも及び、医務室にはスタッフも役者も問わずに劇団員が押しかける事態になった。
(疲れますけど……サアビスチケットで、食べ飲み放題など、させてもらって、いますし、これくらいのお返し、当然、です)
 汗を拭うと、お疲れ様です、とそっとコップが差し出された。スポーツドリンクに似た味のそれは、劇団員達が稽古の合間に飲んでいるものだという。
「ありがとう、ございます」
「お礼を言うのはこちらですよ! 本当に、ありがとうございます!」
 深く頭を下げる団員に、ナイは小さく笑みを浮かべた。

 枯れぬ笑顔と尽きぬ体力。ソラスティベルのひたすらに得意分野である。
「いやー分かり易くお役に立てるのは楽しいですね! もっとわたしに出来ることはありませんか~♪」
 山程の買い出しの荷物を持ち帰り、そのうちの半分ほどをエイレの部屋に持っていき、洗濯物を持ち帰ってついでに洗い終わった分を受け取って干して、取り込んだ分を衣装部屋へ。くるくると働くソラスティベルはもう半ばスタッフと間違われている節もあるが、本人は気にしていない。というか楽しい。
「うふふ、ナイくんも治療を頑張ってる頃でしょうか」
「ふむ、医務室も騒がしいようだけれど、君も元気だね」
「はいっ!」
 くるっと振り向けばそこでは柏木エイレが微笑んでいる。どうやら結構な重さのある、シーツや寝間着の替えなどのお使いをあっさり済ませてきたソラスティベルのおかげで機嫌は上々のようだ。
「わたしの隣にいた白くて小さな子、不思議な癒しの光が使えるんです、旅の疲れや怪我や……」
「……それって、もしかして『病気』も?」
「はい、治せちゃうかもって!」
 頼もしい自慢の相棒なんです、と満面の笑みを浮かべるソラスティベルに、エイレは頷きつつも何か考え込んだようだった。
「病気の治る光……うん、でも、姉さんにかえって効かなかったら……」
「大丈夫、副作用はないんですよ!」
 実際は『ナイ本人が疲れる』というのが副作用と言えるが、とりあえず治療された相手に副作用はない。
「……もしかしたら、お願いするかもしれない」
 考え込みながら呟くように言うと、エイレは足早に廊下を去っていった。――ふとした予感に、ソラスティベルは彼女の後を追う。こういった追跡に向いているとは言えないけれど、考え込むエイレは気付いていないまま、徐々に劇場の奥深くへと入り込んでいく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『絡繰扉』

POW   :    絡繰ごと扉を破壊し、先へ進む

SPD   :    扉に仕掛けられた絡繰を解除しながら進む

WIZ   :    隠された絡繰扉に入り、ショートカットを狙う

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 劇場の奥へと踏み込む柏木エイレの後を追うと、そこは大量の扉が並ぶ廊下で――どこか、病院を思わせる作りであった。
 白を基調としたそれはまさしく『サナトリウム』。
 けれど、エイレがどの扉へと入ったのかはわからない。おそらくはその場所に影朧がいるはずなのだが――。
 近くの扉を試しに開けようとすると、鍵穴から針が手を刺した。別の扉は開けてもその先は壁、何なら扉に見えるだけの幻影、ドアノブを触ると絡繰仕掛けが動き出してハンマーが頭の位置に落ちてくる……とにかく多種多様な絡繰扉が並びに並んでいる。
 とりあえず、片っ端から調べてみるしかなさそうだ。他にもどんな扉というか罠というか、絡繰が出てくるものだかわからないけれど!
レムリア・クラウンハート
慎重に一つずつ解除して、扉を開けて、先を確認して……なんてしている時間もないかしら。
なら、そうね。外れを引くのを最小限に抑えていく方向で考えましょうか。

こんな所を訪れるのは、彼女……柏木エイレしかいないはず。
つまり開かれた痕跡があるのは、全て『彼女が開けたことのある扉』ということだわ。

なら私は、その扉だけを開けていけばいい。もし罠があったら、《咄嗟の一撃》で即座に壊すなり対処するなりしていくわ。

……それにしても、身内がそのままオブリビオンに、か。
“公演”、今回は止めておきましょうか。見世物にされるのは、二人とも望んでいないでしょうから。

(UC発動のために、独白してから扉を開けていきます)



「慎重に一つずつ解除して、扉を開けて、先を確認して……なんてしている時間もないかしら」
 一応、今まで柏木エイレは劇場を空けたとしても数日、必ず戻ってきている。
 けれどそれは『今までの話』だ。次も戻ってくるという保証はなく、また影朧がエイレの周囲に現れた複数の人物――猟兵達に気付いて警戒を深めた可能性も存在はしている。
「なら、そうね。外れを引くのを最小限に抑えていく方向で考えましょう。こんな所を訪れるのは、彼女……柏木エイレしかいないはず」
 かつ、かつ、と薄暗い廊下に硬質な靴音が響く。仮面の奥から覗かせた紫の瞳が僅かな光に妖しく輝いた。
「つまり開かれた痕跡があるのは、全て『彼女が開けたことのある扉』ということ。なら私はその扉だけを開けていけばいい――扉を開けるとなればそう、この怪盗クラウンハートの得意分野というわけよ」
 くるりと指を回してみせる。『見せ場前のひと語り』――前口上の長さに応じて次に行うことが『上手くいく』ユーベルコード。空けた痕跡はあるが施錠されているのを確認し、鍵の形式を確かめてからピッキングツールを鍵穴に差し込んだ。針金の動く僅かな音から一転して重く金属を転がすような響きと共に伝わる手応えが解錠に成功したと伝える。ドアノブに手をかける前に愛用の短剣を握り直し――扉を引くと同時に部屋側のノブと繋がれたピアノ線を断ち切った。外開きのドアを開けると同時に引き寄せられるはずだった仕掛けが壁に沿って虚しく落ちる。チョークか小麦粉か、とにかく害はなさそうなだが普通に扉を開けば白い粉が頭の上から降り掛かってくる仕組みだったようだ。
 そしてその部屋は、小さな図書館状になっていた。専門書のように見える一角の本を見れば装丁だけで中身は白紙であったり、本の形の飾り物であったりするが、絵本や小説あたりは最後までちゃんと文章が揃っているものも多い。いくつかの楽譜もある。主に小説の棚には、かなりの空欄があった。おそらくはエイレが入室した時に持ち出し、そして影朧の元に持っていったのではないか、とクラウンハートは考える。そして、この空間自体が影朧の作り出したか、少なくとも『影響を受けている』ものだろうとも思った。図書室を模してはいても揃えた本の内容に、おそらくは影朧の記憶に基づいているのではないか、と推測できる偏りがある。

(……それにしても、身内がオブリビオンに、か)
 影朧はエイレに自分を「姉だと思い込ませている」――けれどそれが「本物の姉である」可能性はないわけでは、ない。ただ、いずれにしてもそれは既に「生きている柏木エイレの姉」ではなく、討伐すべき対象である。それは、確かだ。
(『公演』、今回は止めておきましょうか。見世物にされるのは、二人とも望んでいないでしょうから)
 そっと扉を閉めると再びクラウンハートは廊下を歩き出す。今回の戦いを『公演』にしないことを決めたが故に、その独白はかの『姉妹』だけに捧げられていく――。

成功 🔵​🔵​🔴​

ナイ・デス
ソラ(f05892)は、どこでしょう?
こっちか、にゃ(【第六感】パートナーの勘
【忍び足ダッシュ】でソラの傍へ
ソラ、どうしました?

合流、情報共有して
ふむ……患者は、ここ、ということ、ですね
はい。追いましょう……あ、まだ演技、忘れないように、ですよ?ソラ
お姉さんが、病気みたいだから。私達は善意で、治療できないか探してる人、です

ソラが力任せに壊していくの、苦笑しながらついていき
怪我したなら、ちゃんといってください、ね?
と『生まれながらの光』で治療

疲れます、が……大丈夫、です
幻術解除も兼ねて【地形の利用】地縛鎖を大地……建物に繋げる【ハッキング】
そして魔力を吸い上げる【生命力吸収】
そしてソラが、怪力


ソラスティベル・グラスラン
ナイくん(f05727)と

エイレさんに悪いと思いつつ、こっそりと追って
劇場の奥にこんな場所が…ここは、病院?
あ、ナイくん!探しに来てくれたんですか!

簡単にナイくんと情報共有
エイレさんに『病気を治せるかも』と伝えたら、ここへ…
…ええ、恐らくは
本来のお仕事開始ですね!追いますよナイくんっ
見つかったら誤魔化しちゃいましょう!

近くのドアを開けようとすると
痛っ…くないですよ!ふふふ、少し針がちくっとしただけです!
うぅぅ、内心泣きつつ今度は慎重に…【怪力】を籠めてノブを回して
べきっ、ぼりん

ナイくんは治療でお疲れですから…先導はわたしがっ
罠は【見切り・盾受け】でしっかり受け止め
力尽くで全ての部屋を調べます!



「ソラは、どこでしょう? ……こっちか、にゃ」
 長らくのパートナーとしての冒険で、なんとなく足取りは掴める。その直感に従って、ナイ・デスはほとんど音を立てぬまま、早足で劇場の奥へと進んでいけば。
「こんな場所が……ここは、病院……?」
 そう、相方のソラスティベル・グラスランの背中が見えたかと思えば、ナイの気配で振り向いた。
「あ、ナイくん! 探しに来てくれたんですか!」
「ええ、ソラ。どうしました?」
 ――かくかくしかじか。
 既に互いの動き方は知っていたおかげで、情報交換もさくさくと進む。
「エイレさんに『病気を治せるかも』と伝えたら、ここへ……」
「ふむ……患者は、ここ、ということ、ですね」
「……ええ、おそらくは」
 赤と青の瞳を合わせ、頷き合う。
「本来のお仕事開始ですね! 追いますよナイくんっ、見つかったら誤魔化しちゃいましょう!」
「はい。追いましょう……あ、まだ演技、忘れないようにですよ、ソラ」
 早速飛び出すように足を進めるソラスティベルを、ナイがまた猫のような静かな足取りで追う。
「お姉さんが、病気みたいだから。私達は善意で、治療できないか探してる人、です」
 ナイの言葉に頷いたソラスティベルは、早速近くの扉に手をかけた。

 ――かつてユーベルコードの加護すらない頃、人々は、主に戦士達は『がんばる』『がまんする』など独自の魔力を駆使して戦っていたという。
 ソラスティベルのユーベルコード『勇者理論』はその正当なる後継――かどうかはわからないが。
「勇気で攻め! 気合で守り! 根性で進む! 一部の隙も無い、完璧な作戦ではないですか!」
 うん。
 どこから攻めても同じって意味である意味で隙がない。
 そしてまた、かつて戦士達が用いた扉を開ける方法、鍵開けの技術を持たない者が最後に頼るもの。
「えしょっ!」
 すなわち怪力。時にドアノブを捻って鍵を破壊し、どうしようもなければ扉を破る。
 が。
「痛っ……くないですよ! ふふふ、少し針がちくっとしただけです!」
 この方法の最大の弱点はいわゆるトラップというやつである。
「怪我したなら、ちゃんといってください、ね」
 ソラスティベルの手を取り、そっと『生まれながらの光』で治療を施すナイ。そう、治癒の力があるということは、力押しに頼っても最後のセーフティネットは存在する、ということなのだ。
「ありがとうございます! よし、今度は慎重に……」
 そしてさらなる力押しができるということなのだ!
「ナイくんは治療でお疲れですから……先導はわたしがっ」
 ちなみに扉を開けてから発動する罠は、もうソラスティベルの身体能力頼みである。
 あるいはさっと身を翻し。あるいは盾で受け止め。ナイにも、そして使用のたびに疲労するナイの治療をできるだけ少なくするためにも、常に扉を開けるのは緊張の瞬間である。おかげで鍵も罠もない扉も数個壊した。うっかりである。
「疲れます、が……大丈夫です」
 幻術の扉を見抜くことも兼ねて、地縛鎖をこの建物へと繋げる。いわゆる電子機器を利用したハッキングに近い状況で幻影の扉がどれかを見抜き、ついでに魔力を吸い上げて疲労を回復する。
 ――扉そのものが幻影、というような強い魔力はそれとわかるのだが、それとは別にナイはこの廊下全体がうっすらと幻術を帯びているのを感じていた。どこに、とは言えないくらい、全てが薄く魔力でコーティングされているような、印象。
 そしてその源は……そっとナイは、ソラスティベルの袖を引いた。
「もっと、奥です。……多分」
「わかりました、じゃあそこまで一旦飛ばしましょう! またそれっぽかったら教えてくださいね!」
 一度扉を開くのを中断し、奥へと進んでいく。ナイが感じ取った魔力の濃度が高まった場所で再び、ソラスティベルが怪力で扉をこじ開けて。
「……病室ですね、空ですけど」
「なら、近いかも、です」
 頷き合うと2人はすぐに次の扉へと取り掛かった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

セシリア・フェッチ
【SPD】
ここがエイレさんのお姉さまのいらっしゃる処なんですね
病院のよう…ですがなんだか異様な雰囲気…
うわっ、危ない…!
…後続の人が探索しやすいよう、色々解除しながら進みましょう
最初に石礫や棒などで扉を点検し、問題なさそうであれば絡繰を解除します
解除中に発動する絡繰もあるかもしれません…そちらも警戒します
影朧と対峙するのは初めてですが、今回は影朧の近くにエイレさんがいるはず…扉を開ける前にエイレさんの声がしないか確認します
何か物音がしたらすぐさま扉から離れ周囲を見回し安全確認です
エイレさんに見つかったら「すみません、お姉さまのお見舞いをと思ったんです…!」と言って警戒されないよう気を付けます…


空葉・千種
アドリブ絡み歓迎

どうしよう、基本パワーイズパワー戦法の私に探索用のユーベルコードは使えないんだよなぁ……
仕方ないから手当り次第扉を開けて道を探す!罠にぶつかったら耐える!
ハンマーでもたらいでもわかめでも何でも降ってこーい!
でもやっぱりできれば控えめでお願いします……!

命に関わるような罠があったら最悪UCで巨大化しようかな?
役に立つかはわからないし何なら移動しづらくなるけど多分耐久力だけは上がるはず!

スタァのようにかっこよくないし、多分三枚目みたいに情けない状態になるけれど、
それでも……あんな顔を見た後にエイレちゃんを一人にはできないから。
ねえ、お見舞いに来たよ?……今度は三人でお話しよっか。



「ここがエイレさんのお姉さまのいらっしゃる処なんですね、病院のよう……」
 白を基調とした廊下を見渡したセシリア・フェッチは、けれど同時にその違和感をも感じ取る。
「ですが、なんだか異様な雰囲気……うわっ、危ない……!」
 そっと扉に手をかけた次の瞬間、びりりとノブに走った電気仕掛けに慌てて手を離す。電流を流しているのは小さな装置で細い電線を切ればいいだけの簡単な仕組みでえはあるが、後続の人が探しやすいようにそっとケーブルを切っておいた。
 隣の扉はノブが取れて実は引き戸という仕組みで、挙句手が込んでいる割には単なるがらんどうの部屋であるので、軽く開いたまま次の扉へ。石つぶてをぶつけたり棒でつついたりしてまずはすぐに発動する仕掛けがないか確かめて。
「影朧と対峙するのは初めてですが、今回は影朧の近くにエイレさんがいるはず……」
 扉を開ける前に気付く絡繰を解除したら、まずは扉の向こうにエイレの声が聞こえないか確認、その後扉を開く時に発動する絡繰を警戒。見事な伝統的スカウト、もしくは有能なシーフの立ち回りがそこにはあった。元々人形師としてやっていこうというからには手先は器用なセシリア・フェッチ、目下の悩みは副業のはずの咎人殺しの方が収入がいいという現実であった。

 ――そして後続。
「どうしよう、探索用のユーベルコードは使えないんだよなぁ……」
 空葉・千種の戦法は基本的にパワーイズパワー。すなわち力押し。
 無論、手当たり次第に扉を開けるという戦法に辿り着くこととなった。絡繰に怯まずとにかく開ける。罠にぶつかったら耐える。パワーファイターの基本戦略というやつだ。
「ハンマーでもたらいでもわかめでも何でも降ってこーい! でもやっぱりできれば控えめでお願いします……ぎゃん!」
 ゆっくりと開けば発動しないが、勢いよくばーんと開くと上から落ちてくる、という仕組みのために、セシリアが気づかなかった罠が見事に発動。上から期待通りとばかりに降ってくる乾燥昆布。
「いたたたたた!!」
 正直わかめよりは痛い。が、ハンマーやたらいよりはマシである。
 ――ともあれ、危険な罠はある程度解除されていて、巨大化する羽目にはならなさそうではあった。
 無論、扉の向こうの風景が幻影で、飛び込もうとした千種が思いっきりおでこをぶつける、などの事故は頻発したのであるが。
 ――スタアのようにかっこよくないし、多分三枚目みたいに情けない状態になるけれど、それでも……あんな顔を見た後にエイレちゃんを一人にはできないから。

 どこかでセシリアとは別の道に入り込んだらしく、急に罠の数も増えたし危険も増した。結局二回くらい巨大化もした。一度は結局落ちてきたハンマーを受け止めるため、もう一回は扉を通った瞬間その戸口に落ちてきた鉄格子を無理やりこじ開けるためである。
 水に濡れた長い髪はぎゅっと絞って、まだ濡れたまま次の扉へ。――そして。
 猟兵達は『どうしたら開くのかわからない』1枚の扉の前へと、いつしか集まっていた。

 セシリアがそっと扉の前で耳をすませば、確かにエイレの声が聞こえた。話の内容まではわからないが、おそらく何かを朗読しているようで、その声はとても、とても優しい。
 けれどその優しい声を猟兵達を、分厚い扉――というよりは『壁』が隔てていた。
 装飾は重厚な木製の扉で、けれどおそらく鉄よりも硬い。ドアノブらしきものもない。もしかしたら、幻影を纏った何かなのかもしれない。
 それでも。
 それでもこの扉を開かないと。
 そこにエイレの、束の間の過去の思い出が存在しているとしても、彼女がいくらそれを失いたくないとしても。

「ねえ、お見舞いに来たよ? ……今度は、3人でお話しよっか」
 そっと、千種が扉に手を触れながら話しかける。伝えるように呼びかける。
「……心配で、来てしまったんです。エイレさん」
 セシリアが隣で扉に触れて、囁いた。この場に集まった猟兵達の手が伸びて、触れて、その思いを伝える。
 ――溶けるように、扉が消えた。目の前に広がった光景は、木漏れ日の差し込む白い病室に、木組みの重厚なベッド、真っ白な寝具、その傍の椅子に物語本を置いて立ち上がるエイレと、ベッドに半身を起こして腰掛けた――病衣ではなく赤いワンピースに身を包んだ、エイレと同じ年頃の少女であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『振愛・弐号』

POW   :    ♪「小さなベティちゃん」
【自身の影】から、【獄炎】の術を操る悪魔「【ベティちゃん】」を召喚する。ただし命令に従わせるには、強さに応じた交渉が必要。
SPD   :    ♪「スカボロー・フェア」
【慈愛に満ちた抱擁の】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【愛】の協力があれば威力が倍増する。
WIZ   :    ♪「女の子は何でできているの?」
【砂糖】【スパイス】【素敵なものぜんぶ】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。

イラスト:善治郎

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は安寧・肆号です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 険しい表情で猟兵達に何か言おうと、柏木エイレは口を開こうとして――それより前に、驚愕に目を見開いた。
「姉さん!?」
 軽やかにベッドの上に立ち上がると、すとん、と床へと降り立つ。金色の髪がふんわりと揺れた。

「終わらせに、来てしまったの?」
 息を呑むエイレの前に、それよりは背の低い少女が立ちはだかる。
「幸せな夢。凛々しくて、けれど愛らしい少女の見た夢。過去の幻影。けれどここに来ればそれは現実。――私と、『妹』の、世界を……終わらせてしまうの?」
 引き込まれるように無垢な瞳。
 けれど、少女は確かにオブリビオンとしての存在感を持っていた。歌うように紡がれる言葉には、『力』がある。それは本当の歌となれば、ユーベルコードとなって猟兵達を襲うだろう。
 ――柏木エイレは、亡くなった姉から歌を教わり、それが劇場に入るきっかけになったのだという。おそらくは『歌』を共通点として、この影朧はエイレに『姉』として認識されるよう振る舞い、そしてそう思い込ませたのだ。
 もしかすると、影朧自身すら、本物の姉妹だと思い込んでいるのかもしれない。
 もしかしたら、影朧自身が、本当に彼女の姉の魂を宿しているのかもしれない。
 それは、きっともはや誰も知るすべのないことなのだ。

「私と、妹は……私が守るわ」
「姉さんっ! 待って、どうして……何が起こってるの!?」
 混乱するエイレを庇うように片腕を伸ばすと――歌声を響かせるべく、赤いワンピースの少女は深く息を吸った。
セシリア・フェッチ
【SPD】
とうとう影朧と戦うんですね…
「エイレさん、危ないので外へ!」
「大丈夫です、お姉さまに酷いことしたりしませんから…」
エイレさんを部屋の外に送り人形を使って影朧を撹乱します
歌を歌わせないようにしないと…戦闘の合間に説得を試みます
「…いいえ、終わりません。エイレさんが信じている限り、貴方が信じている限り…夢は夢のまま在り続けます!」
「もし転生したら…その時はまたエイレさんと歌いましょう、歌を!」
人形が破壊されたら私自身の血を使って拷問具を動かします
「あまり使いたくないんですが…」
隙を見て咎力封じを使います
説得に成功してもしなくても倒さなくては…皆さんがギリギリまで粘れるようサポートします!


飛鳥井・藤彦(サポート)
『絵になりそうな話がぎょうさんあって、困ってまうなぁ』
『絵師には絵師の戦い方があるんやで』
『ほな、さいなら』
特徴的なイントネーションの柔らかい言葉を話す、飄々とした雰囲気のイケメン浮世絵師。好きな色は青。
由緒正しい陰陽師の家の生まれだが、実家のことは疎ましく思っている。
戦闘では大筆「輝紅篠画」と「花鳥風月符」を使って戦う。
「戦いは性に合わへんなぁ」と嘯きつつも、どんなオブリビオン相手でも臆したり躊躇することがない。
戦場を鮮やかに彩り、華のある戦いを好む。
口八丁手八丁で情報収集や交渉も得意。
男女種族関係なく絵になるような美人が好きで、隙あらば観察したり、絵のモデルにならないか口説いたりする。



 ついに、影朧そのものとの戦い――セシリア・フェッチは一つ深呼吸をしてから、まずはとエイレの元に駆け寄った。
「エイレさん、危ないので外へ!」
「だ、駄目だよ! こんな状況で1人で外になんて行けない!」
「大丈夫です、お姉さまに酷いことしたりしませんから……」
 その間にも柔らかな歌声が、マザーグースの一節を歌い上げる。ふわりと舞うのは白い砂糖、乾燥させた葉や果実のスパイス、それに素敵なもの――ひらひらと現れた楽譜が粒子となり、吸い込まれるようにして影朧の華奢な体を覆う。
「んー、戦いはそんな得意とちゃうけど、まずはここは僕に任しとき。そちらさんが西洋の歌謡いやったら、こっちは東の果ての風雅といこか」
 すっ、と飛鳥井・藤彦がエイレを庇うように立ったセシリアと、影朧の前に立ちはだかった。身の丈もあらんという大筆を手に、花鳥風月の画と歌を描いた符を懐に。
「別嬪さんは……んー、どっちも別嬪さんやけど、エイレさんが危のうないよう頼むわ。無事に済んだらトップスタアの絵姿の一つも描かせてくれたら絵師冥利に尽きるしなぁ」
 ひらり、大筆をその質量に見合わず華麗に振るえば絵具が舞う。柔らかな音色に見合わぬ衝撃を飛び散る青が相殺する。真っ白な病室を、真っ赤なワンピースを、藤彦の色に染めていく。
「エイレさん、こちらに……」
「駄目、このまま何が起きてるかもわからないのに、何も知らないことは、できない」
 藤彦が盾になるように戦う間に、セシリアは扉の方までエイレを連れて行こうとするも、必死にエイレはそれに抗う。それでも、危ない目には合わせたくない、という思いで扉まで辿り着き、手を触れさせたセシリアは思わず目を見張った。
 また、扉には『何もなくなって』いる。
 ノブも、ノッカーも、鍵穴も――もはやそれは板でしかない。それはエイレを逃さないという影朧の意志なのか、それとも……エイレの『ここから逃げたくない』という心情も、何らかの形で影響しているのか。
「終わりたくないのは……『妹』も、同じだわ」
 ふ、と青に染まるその向こうから、赤い瞳がセシリアとエイレを見つめた。どこか寂しげな表情は、けれどまたそのどこかで自信に満ちている。エイレが、自分を手放せるはずはないと。無理に引き剥がされるのでないならば。
 覚悟を決めた顔で、セシリアはエイレを庇ったまま振り向いた。幸い影朧は、エイレ自身を狙ってくる様子はない。守りながら戦い、そして言葉を交わすことは、可能なはずだ。

「……いいえ、終わりません。エイレさんが信じている限り、貴方が信じている限り……夢は夢のまま在り続けます!」
 己の使役する人形を、十指の糸で操りながら藤彦の支える前線へと向かわせる。愛らしい少女姿の人形は、抱擁を帯びた影朧の突進の対象を、藤彦からそちらへと咄嗟に変えさせた。少し緑を混ぜた碧が、その隙を逃さず描くように飛沫を上げて赤いワンピースをさらに染めていく。
「もし転生したら……その時はまたエイレさんと歌いましょう、歌を!」
 転生。
 その言葉に、はっとしたようにエイレは目を見張った。
「影朧……そう、そうだ。ええと……姉さん、そう、姉さん、は……何年も、前に……」
 そう。
 影朧は、そしてそれが『桜に導かれて転生する』という概念は、サクラミラージュでは一般的な知識。劇団の演目にも、それをテーマにした悲劇、あるいは救出劇が掲載されることもある。
 セシリアの懸命の説得は、エイレの改竄されていた記憶にも鍵を差し込んだのだ。
「姉さん……? 違う、姉さん、は、じゃあ……影朧に……」
「……夢のままではいられないわ、私が、消えたら」
 からん、と抱擁のままに砕かれた人形が転がる。まだ染まらない赤い瞳が、じぃっとセシリアとその後ろに守られたエイレを見つめる。
「夢ですら、なくなってしまう。桜に許してもらえるかなんて、わからないのに……どこに転生するかだって。だったら、このまま夢の中のまま、同じ夢に連れて行ってしまいたいんだもの……」
 今までは、エイレはこの病室と現実を行き来していた。けれど、いつしかこの病室から出なくなれば、生身の彼女はただひたすら衰弱し、いつかは死に至り――それが影朧となれば。そう、赤い瞳と幼い表情が訴える。
「それは……」
 一緒にいたいという思いは本物だとしても、それは、猟兵達には認められないものだ。影朧という特殊な存在ではあっても、オブリビオンの犠牲者を黙って見過ごすことはできない。
「あまり使いたくないんですが……でも!」
 拘束具を投げつけ、その動きを絡め取ろうとする。まだ拘束ロープがようやく巻き付いたに過ぎずとも、動きは鈍る。猿轡は歌という影朧の武器には一番効くのだろうけれど、それだけに彼女も優先して避けたのがわかった。
 人形の代わりに、自ら流した血で拷問具を操って戦いを援護する。別離を悲しむ歌の符を、藤彦が懐から引き抜くとそっと読み上げれば符はひらりと鳥の姿になり、撹乱するように飛び回る。そこにセシリアの操る拷問具と藤彦の描き出す絵画が、影朧を追い詰めていく。
 袖を引かれる感触に、思わずセシリアは振り向いた。
「あ、ご、ごめん邪魔をした!」
 慌てて手を離すエイレに、セシリアは笑顔で首を振る。目の前に広がる戦場に、何かに縋りたかったのだと、その不安げな顔が語っていたから。
「大丈夫ですよ、必ず……エイレさんも守りますし、お姉さまも転生まで、導かせてもらいます」
 震える手が再びそっと袖を掴んで、トップスタアはただの少女、ただの妹の顔になって頷いた。お願いします、と小さな声を届かせて、再び手を離したエイレとの約束を守るべく、セシリアはまた己の血を捧げ、咎を断つ者としての戦いを繰り広げた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ソラスティベル・グラスラン
ナイくん(f05727)と

…騙していたことは、ごめんなさい
ですが終わらせに来たのではありませんっ!

ベティちゃんと戦いつつ説得
影朧さんには刃を向けず
ナイくんを【かばい】、【盾受け・オーラ防御】で身を守る

過去に囚われていては、エイレさんは先に進めない!
幸せだった夢を見続け足を止めるよりも
『転生』という希望に賭けてみませんか!

斧をしまい【勇者理論】(防御力重視)
【優しさ・コミュ力】で無抵抗に近づき、再度お願いしますっ

深い絆は強い『縁』を結ぶ
物語には生まれ変わって尚、運命のように再会する人々もいます
別れは辛いこと
それでも希望を胸に、笑顔で「またね」と言えたなら
新たな生の先に…きっとまた巡りあえますよ!


ナイ・デス
ソラ(f05892)と

……現実を。死者と生者の時を、進めにきました
世界は、終わりません。ただ、あるべき姿に、変わるだけ

エイレさんの前で、影朧を傷つけるのは避け
基本【第六感】で感知し【見切り】避ける、腕で【かばい】受け防ぐ
【覚悟】しているし【激痛耐性】慣れてる。どれ程痛くても、死ぬ程ではないから、問題ない
焼けても折れても【念動力】が肉と骨の代わりに、身体は動く

姉と、姉の影朧は、違う者、でしょう
どれだけ、同じと思っても。本物の、死んだ姉からみれば、きっと
姉を、確りと、みてください

『生命力吸収光』を広げる【範囲攻撃】
【生命力吸収】加減して、苦痛なく、眠るように消滅させる【暗殺】

おやすみなさい


レムリア・クラウンハート
【SPD】
助けに来たわよ、と言いたいのだけれど……
直接的な戦闘はあまり得意ではないのよね。
だから私は、なるべくお姉さんに抵抗させないようにする。
姉の姿をした者が暴れまわって、傷つけられて……なんて光景を、エイレはあまり見たくはないでしょうから。

私のユーベルコード『極彩色の枷』は、動きを阻害するだけのもの。ダメージを与えることは出来ない。
だけど、今回はそれで充分。これで注意を引いて《時間稼ぎ》をしている間に、周りの傭兵に説得か……除霊か、どちらかをお願いするわ。

あら、私にも抱きつくつもりかしら。
気持ちは嬉しいけれど……この薄暗い室内で、《迷彩》を掛けた私を捉えるのは、そう簡単ではないわよ?


空葉・千種
アドリブ絡み歓迎

エイレちゃんを抱えて一緒にお姉さんの近くに向かう
エイレちゃんにダメージが行かないようにかばいながら悪魔を弾き飛ばして無理矢理でも話をしに行くよ!

私たちはもう話したから最後にあなたの話、聞かせて?

…あなたの言う通りここは失ったものがある幸福な世界だと思う
でも…失ったもの以外に価値はないのかな?
サナトリウムだけの世界はきっと幸せで、穏やかで…それでも寂しいと思うの
だから…歌って、エイレちゃん
夢、冒険、恋。病室の外には全てが溢れてるって知ってもらうことが始まりだから!

ねえ、いつかもう一度あなたの話を聞かせて?
私にも婚約者さんにも「私が一番幸せだ」って言い張れるあなたの人生の話を、ね?



「助けに来たわよ、と言いたいのだけれど……直接的な戦闘はあまり得意ではないのよね」
 ――だからこれが己の最善手。姉の姿をした者が暴れまわって、傷つけられて……なんて光景を、あまり見たくはないだろうから。
 レムリア・クラウンハートの手からホログラムのワイヤーが様々な色彩を持って飛び出す。『極彩色の枷』――当たっても動きを削ぎ、最大でも相手のユーベルコードを封じる、敵を傷つけることはできない技。
 それでも十分だ。光学迷彩を纏いその所在を揺らがせて、数多の輝きによって影朧の動きを封じる。そうして注意を引けば、他の猟兵達が動きやすくなるはずだ。現にクラウンハートに抱きつこうとするにも位置を掴みきれず、影から悪魔を呼び出すにもそれが操る炎の強さは限られる。
 それでも召喚に応じた悪魔の、まだ獄炎と言うに相応しい火焔を纏った一撃を、蒸気機関の稼働音を響かせながらソラスティベル・グラスランはスチームシールドで受け止めた。炎を切り払うように斧を振るう。あくまで影朧ではなく、その呼び出した悪魔――『ベティちゃん』だけに的を絞って。
 いかに従わせるために交渉が必要な悪魔とて、命令されずとも自分を守るためには戦うだろう。だからこれは、一方的に影朧に有利な戦い方だ。
 けれど。
「……騙していたことは、ごめんなさい。ですが!」
 相棒を庇って炎を受け止めた盾の向こうから、呼びかける。
「終わらせに来たのではありませんっ!」
「……現実を。死者と生者の時を、進めにきました」
 庇われたナイ・デスが頷く。音であるがゆえにソラスティベルの盾だけでは防ぎきれないソプラノの歌撃も、音の中心からは離れつつ腕で自分を庇うように受け止めた。
「世界は、終わりません。ただ、あるべき姿に、変わるだけ」
「そうです! この過去に囚われていては、エイレさんは先に進めない!」
 一層燃え上がる劫火に耐えて奥歯を食い縛りながらも、盾で強引にその軌道を捻じ曲げながら斧を振る。
「幸せだった夢を見続け足を止めるよりも『転生』という希望に賭けてみませんか!」
 幾度目かもわからないその斬撃が、ようやく獄炎の悪魔を消し飛ばした。
「姉と、姉の影朧は、違う者、でしょう。どれだけ、同じと思っても。本物の、死んだ姉から見れば、きっと」
 ナイの言葉はエイレにとって酷な事実であり、けれどこの世界では救いとも言えるはずだ。
 おそらくは、桜の精に癒されて転生果たすことの方が『正しい命の在り方』に戻ると言えるはず。影朧はオブリビオンであり、まさに影であり朧でしかない。
「姉を、確りと、みてください」
 ナイの呼びかけに、エイレが震える拳を握り締めた。
「……『姉さん』が、悪いんじゃない」
 私が、そう望んだから。そう、普段は朗々と歌い上げる喉を絞り出すように呟いた。
「私がまた一緒にいたいと思ったから、『姉さん』が応えたんだ。だから……影朧として繋ぎ止めたんだとしたら、私も……」
 エイレの記憶は正常に戻りつつある。姉が死んだことも認識している。目の前にいる存在が、影朧であることも。
 それでも『自分が再び共にいたいと望んだから』という思いが鎖になっている。きっとそれはエイレにとっても、『姉』の影朧にとっても。
 確かに、きっとそれは真実だったのだ。偽りの記憶を受け入れたいとエイレが思ったからこそ、影朧も強い影響力をエイレへと及ぼすことができた。けれど。
 転生を果たすためにも。
 前に進むためにも。
「深い絆は強い『縁』を結ぶ……物語には生まれ変わって尚、運命のように再会する人々もいます」
 その鎖を影朧とその被害者としてのものではなく、転生先で会えるかもしれないと望むための絆に、『縁』に変えなければいけない。敵意を表さないように、ソラスティベルは斧を仕舞った。盾を手にしてはいても、攻撃の意思はないというように片手は空けて、ゆっくりと歩み寄る。
 待って、と云いかけたエイレの体が、急にふわりと宙に浮いた。驚いて振り向けば、天井にギリギリで頭をぶつけない程度の大きさまで巨大化した千種がしっかりとエイレを抱え込んでいる。
「エイレちゃん、しっかり掴まってね!」
 新たに影から喚ばれた先程よりも随分小さくなった悪魔は、踏んでから蹴飛ばして消滅させた。2メートルは床より上まで抱えあげてしまえば、ある意味では安全圏だ。さらにソラスティベルが盾の角度を斜め上方のエイレを守るように変え、クラウンハートが極彩色の輝きのワイヤーをさらに増やす。赤いワンピースはいつしか、虹のような線で拘束され、同時に彩られていた。
「最後にあなたの話、聞かせて?」
 エイレを見上げる影朧の瞳と、影朧を見下ろす千種の視線が絡み合った。
「あなたの言う通りここは失ったものがある幸福な世界だと思う。でも……失った以外のものに、価値はないのかな?」
 この白い病室、サナトリウムだけの世界はきっと幸せで、穏やかで……それでも。
「寂しいと思うの」
 そう、きっと、寂しい。
 この白い穏やかな、箱のような世界に閉じ込もるのは。そのまま柏木エイレの未来も、転生という影朧に許される可能性のある未来も、閉ざしてしまうのは。
 けれど、今のエイレよりも若くして闘病し亡くなったというならば、それを知らないかもしれない。
「だから……歌って、エイレちゃん。夢、冒険、恋、病室の外には全てが溢れてるって知ってもらうことが始まりだから!」
 一度、千種に聞こえるほどに息を呑んで。
 揺らいでいたエイレの目がその瞬間確かに据わった。
「千種さんごめん、ちょっと体縦にして、腕に座らせてもらっていいかな」
「あっうんもちろん!」
「その、できればもう片手で足場作ってもらえると助かるんだけど」
「任せて!」
 ささっとエイレと自分の体勢を変える千種にありがとう、と微笑んだ時には、もう彼女は『スタアの笑顔』になっていた。
 舞台で魅せるための笑み、けれど心から舞台を楽しむ笑み。その表情で、動きで、そして歌で全てを魅了するスタアの姿に。
「『姉さん』、私は……今、海軍将校なんだよ。港の愛らしいレディと恋をして、けれど賊徒と戦うために勇ましく甲板に立つ……それに今の私は怪盗にもなれるし、成り上がりだけど高潔な新興貴族にもなれる。姉さんが、教えてくれた歌で……!」
 朗々と声を張る。伴奏はなくとも響く歌だけでサナトリウムを舞台にする。
「別れは辛いこと、それでも希望を胸に、笑顔で『またね』と言えたなら、新たな生の先に……きっとまた巡りあえますよ!」
 ソラスティベルの、『勇者理論』全開と共に浮かべる満面の笑顔に。
「ねえ、いつかもう一度あなたの話を聞かせて? 私にも婚約者さんにも『自分が一番幸せだ』って言い張れるあなたの人生の話を、ね?」
 千種の懸命に視線を合わせて告げた言葉に。
 そして維納(ウィーン)の劇場で響くのと同じ歌の中――すう、と影朧がその目を閉じた。穏やかな笑みは、聞き入っているかのように凪いでいる。
 小さく頷いたナイが、ユーベルコードを解き放つ。痛みもなく、苦痛もなく、ただ、その存在を薄れさせる光。
 はらり、と桜が舞った。
 赤いワンピースが、金色の長い髪が、目を閉じた笑顔が――桜の花弁へと変わっていく。それと同時に病室であった場所が薄らいで――猟兵達が気がつけばそこは劇場の裏庭で、桜の花弁はふわりと晴れた空へと舞い上がっていった。
 桜の精が花弁となった彼女に癒しを与えたならば、その魂はいずれ転生に至るのだという。
 元のサイズに戻った千種と一緒に地面に下りたエイレは、それを見送ってから袖でぐい、と頬を拭って。
「ありがとう、……それと、またこの歌を、聞きに来て。一番の特等席に私が招待させてもらうから」
 まだ少しだけ泣き笑いの、けれどはにかむような笑顔を猟兵達へと浮かべたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年10月26日


挿絵イラスト