3
手を伸ばしても届かぬ月

#サクラミラージュ

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サクラミラージュ


0





 私は貴方様をお慕い申し上げております。

 容貌に華やかさはなく、これといった才のない私にも分け隔てなく微笑んでくださる貴方様は私の憧れでした。
 満月が美しかったあの日、月光に照らされた貴方様の横顔。
 今でも鮮明に思い出せます。

 貴方様に出会ってから、私は貴方様の隣に在るのにふさわしい女になろうと日々努力しました。
 夜遅くまで勉学に励み、周りにいる素晴らしい女性の振る舞いを真似たりもしました。
 思い返せば、化粧というものを試したのも貴方様と出会ってからでした。

 ですが。貴方様は私を選んでくださりませんでしたね。

 私は貴方様をお慕い申し上げておりました。
 しかしながら、今となっては――憎くて憎くて仕方ありません。


「正直、他人事ではありませんのよね……」
 ため息と共に言葉を漏らしたリコリス・シュピーゲル(月華の誓い・f01271)は、招集した猟兵たちに見られていることを思い出し咳ばらいをする。
「どうかお忘れくださいませ。……さて、皆様をお呼び立てしたのは最近発見された世界、サクラミラージュにて、とある一般人が襲われると予知したからですわ」

「今回この地のオブリビオン……『影朧』に襲われるのは、藤宮家当主、藤宮・雄一郎という方ですわね」
 藤宮家は『二季草』という雑貨類を扱う店を帝都にいくつか構えている。
 強い力のある一族ではないが、優しい価格設定と顧客の心を掴む品揃いで堅実に売り上げを伸ばしているようだ。
 雄一郎自身も非常に気さくな性格をしており、顧客や従業員からの人気は根強い。
「簡単に調べた限りでは好印象な殿方ですわ。だからこそ、予知した影朧がなぜ彼を襲うのかが理解できませんの」
 今回影朧として雄一郎を襲うのは京子という、雄一郎が生まれるよりも前に死んだはずの女学生。
 直接の邂逅はなかったにも関わらず、彼女は影朧となるほどに強い恨みを雄一郎に抱いているのだ。
 もし彼女を説得して魂をも鎮め、転生に至らせようとするのならば、恨みの概要を把握する必要が出てくる。
「知ろうとするなら調査が必要となりますが……ちょうどいいですわ、私たちも慈善活動として幻朧桜のお片付けと参りましょうか」
 淑女の笑みを浮かべて仕事を増やすリコリスであったが、何も考えていないわけではない。
 藤宮家の近くにはちょっとした祭りの会場としても使われる広場があるのだが、どういう訳かそこには幻朧桜の花びらが溜まりやすいらしい。
 積もってからでは遅いということで、藤宮家と『二季草』の従業員らを中心に時々この広場の清掃ボランティアが行われているのだ。
 帝都の各地で商いを行う店の従業員や近所に住むボランティア参加者なら影朧の恨みに関連する情報を持っているかもしれないし、運がよければ本人、あるいは縁のある人物から話を聞くこともできるだろう。
 もちろん純粋に清掃活動を手伝っていい汗をかくのも立派な選択肢となる。

「如何なる理由があろうとも、人に仇なす影朧を放置することはできません」
 仕事として初対面の人間を暗殺したことのあるリコリスの目は冷たい。
 あくまでも今回の仕事はオブリビオン討伐なのだと、猟兵がオブリビオンと戦うために選ばれた存在である以上はき違えてはならないと言外ににおわせているのだ。
「ですが……倒した先に救いを願うのは皆様の自由ですわ」
 頼みましたわよ、とリコリスは頭を下げた。


灰猫
 いつもお世話になっております。灰猫と申します。
 新世界万歳ということで、今回はサクラミラージュを舞台としたシナリオを展開していこうと思います。

●第1章:日常『掃除のボランティア』
 人々が活動を始めた昼前~昼頃、藤宮家近所の広場で清掃活動を行ってください。
 広場はとても広く、従業員たちはいくつかのグループに分かれて活動を行っているようです。

●第2章:集団戦『???』
 女学生の手下として襲い掛かってきます。
 理性に乏しいので、転生する望みは薄いです。

●第3章:ボス戦『血まみれ女学生』
 生前は『京子』という名前だった、雄一郎に強い恨みを抱く影朧です。
 説得が多ければ、倒されると無数の花びらとなって飛んでいき、花の精から癒しが与えられて転生するのを待つことになります。

●プレイングの受付時期について
 第1章は9/29(日)8:30から受付開始。
 以降はマスターページにて案内を出す予定ですので、そちらをご確認いただければ幸いです。

 それでは皆様のプレイングを心よりお待ち申し上げます。
34




第1章 日常 『掃除のボランティア』

POW   :    花弁を一気に集めて! 一気に処理する!

SPD   :    東奔西走。花弁がある場所に急行する。

WIZ   :    花弁の位置を魔法で特定したり、使い魔等を向かわせたりする。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

オリヴィエ・ベルジェ
たくさんの花びらが落ちてくる場所って、とっても素敵……生花の特権。本当にいいものだと思う
でも、何事にも限度があるというものなのね……?
わたしもお掃除のお手伝い、頑張るわ

でも、わたしが使える魔法だと、花びらごと周りのお店も吹き飛ばしてしまいそう……
だから、今日はわたしの足で色んな場所へ行ってみようと思うの
[世界知識]を駆使して、どういった場所に花びらが溜まりやすいかとか、そういうのを探ってみたいわ

とにかく色んな場所を回って、数をこなす方向でお掃除よ
今回の事件について、誰かにお話を伺うのもいいかもしれないけど……
少しぐらい、この周りをお散歩、もといボランティアに集中してもいいかなーって……



 いつでもどこでも神秘の桜が咲き乱れる世界、サクラミラージュ。
 オリヴィエ・ベルジェ(飛び跳ねる橄欖・f05788)が降り立った広場もその例外から外れることはなく、少女の目に飛び込む世界を桜色が彩っていた。
「とっても素敵……生花の特権よね」
 ひらりと降り注ぐ瑞々しさあふれる花びらに向かって手を伸ばし、オリヴィエは魂が宿る前の自身にはなかった生あるものならではの魅力に顔をほころばせる。
 とはいえ、悲しいことに喜んでばかりもいられない。
 桜色を目で追いかけていると、ふと気になったのは箒を手にした男性の姿。
 彼の足元ではこんもりと花びらが山になっているあたり、なるほど美しいものを愛でるにも限度があり、純粋に『素敵』で終わらせるのは難しそうだった。
「わたしもお掃除のお手伝い、頑張るわ」

 決意を新たにしたところで、ひとまずの目的はこの広場の掃除を手伝うことだ。
 しかし彼女の駆使する魔法はひとたび制御を誤れば周囲の建物やボランティアの人々まで花びらのように吹き散らしかねない。
「それなら今日はわたしの足で探してみようかしら」
 奇跡に頼らずとも、今のオリヴィエには自由に動かせる身体がある。
 それに少しぐらいこの辺りを散歩してもいいよね、とオリヴィエは風に乗って飛び回る花びらたちを追いかけた。
 桜色の道を辿り、溜まっているところを見つけては掃除をし、終わったらオリヴィエ自身が持つ知識でより花びらが溜まっていそうな雰囲気の方向へと歩み出す。
 それを何度か繰り返したどり着いた先は、この世界に着いたときよりも多くの桜色に包まれた場所だった。
「わぁ……!」
 やや公園の奥の方にあるこの場所は人があまり立ち入らないのか、地に落ちた花びらも宙で踊る花びらに負けぬほど美しく、オリヴィエにはまるで桜色のカーペットを広げているように見えた。
「本当に綺麗ね」
 オリヴィエは花びらを踏んでしまうのを惜しむようなゆっくりとした動作で、桜が降り注ぐ空間の中心へと歩み寄る。
 空を見上げれば、青と桃色のコントラストが鮮やかで。
 ――もう少しだけ、いいわよね。
 桜色の特等席を独占するオリヴィエだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

三池・悠仁
俺的にはさ
的確に雄一郎を狙うっていうのが気になるんだよな
雄一郎本人を本当に恨んでるのか??
雄一郎じゃない別の奴を恨んでるとか重ねてるとかじゃねーのかな?

とりあえず、昔の人間なんだから
単純に昔から居そうな年寄りとかが多いグループに話聞きに行くのが一番かな?
当主の身内の話やら
花びらは昔から溜まり易いのか等聞いてみようかな?
違うならいつ頃からなのかとか……関係あるか判らないけど

掃除の方はしっかりやるからな!
花びらまとめた奴とかもちゃんと持ったり
細かい所とかもしっかりやるから、任せとけ!



 時を同じくして、三池・悠仁(幻想世界の迷子・f20144)は予知されている影朧の襲撃理由を調査するべく動き出していた。
 というのも、的確に雄一郎を狙う点が妙に引っかかるからだ。
 京子は雄一郎と出会うどころか、生きていた時間すらも異なっている。
 本当に恨みの相手は雄一郎本人なのか。そこからすでに疑わしい。
「なぁ、少し時間いいか?」
 昔の人間のことは昔のことを知っていそうな人に尋ねるのが一番。
 そう判断し、悠仁は近くにいた老婦人2人組へと声をかける。
「おや、見ない顔だけど……貴方もここの掃除かい?えらいねぇ」
 孫を見守るような温かい笑みを浮かべて答えたのは、ラベンダー色の上着が上品な老婦人の方だった。
「ちょっと用事があってさ。この辺って昔から花びらが溜まりやすいのか?」
「そうよー。私が今の貴方よりもずっと小さい頃からこの公園は桜色でねぇ。その時はこうして誰かがこまめに掃除するってことがなかったから、もっともっと溜まって家の大掃除よりも大変だったのよー」
「こうして藤宮さんのところが掃除しようと言い出したのは、宗次郎さんだったかねぇ」
 回数は増えたけど腰への負担はマシになったのよー、と腰をさすりながら苦笑いする婦人の横で悠仁はきょとんとした表情をしていた。
「宗次郎さん?」
「あら、知らない? この掃除の中心になっている藤宮家の先代当主で、今の当主である雄一郎さんのお爺様が宗次郎さんというのよ」
 ご婦人2人曰く、先代当主の宗次郎という男はすでに隠居生活をしているが、現役だった頃は人柄がよく老若男女に人気のあったという。
 また雄一郎の容貌は周囲の人間も驚くほどに宗次郎と似ているということで、悠仁にはこの点も影朧に狙われる要因の一つであるように感じられた。
「ふーん、そうなのか……。話を聞かせてくれてありがとな」
 悠仁は礼を言い、聞いた話を他の猟兵たちと共有しようとその場を後にしようとしたが、掃除もきちんとやるつもりだったのを思い出しすぐに足を止める。
 この周囲はすでに2人の手によって花びらを集める作業までは終えているようだったが、花びらを詰めた袋は婦人に持たせるには酷な大きさになっていた。
「この量はさすがに重いだろ。俺に任せとけ!」
 悠仁はひょいと花弁がぎっしり詰まった袋を担ぎ上げ、どこに持っていけばいいのかを手早く確認していく。
 男らしくも気遣いのある悠仁の行動は、ご婦人2人の胸を高鳴らせたとかなんとか。

成功 🔵​🔵​🔴​

壱季・深青
花びら…自然消滅…しないかな
(雪かき用の幅広スコップで一気にかき集める)

情報収集のために…年配の人が…多いチームに…参加
雄一郎が…生まれる前に…亡くなったって…聞いた
なら…親以上の…年の人の方が…何か知っている、かも
参加したら…早速聞き込み(掃除しながら)
京子っていう…女学生…昔いたんだけど…知ってる?
もう…亡くなってる…女の子
なんで…亡くなったのか、とか…何か…気付いたこと…聞く
(コミュ力、情報収集使用)

可能なら…藤宮家の人にも…聞きたい
父親…祖父…関係ないかも…しれないけど…念には念だよ
掃除は…ちゃんとやる…俺は真面目な…ボランティア

(「…」「 、」は適当で可)(アドリブ可)(POW)



 広場の各地で掃除は進めども、桜の花びらが舞う量は変わらない。
「花びら……自然消滅……しないかな」
 それは疲れからくるものなのか倦怠感から来るものなのか。
 雪かき用の幅が広いスコップで花びらをかき集めていた壱季・深青(無気力な道化モノ・f01300)の足元には、その成果が文字通り山となっていた。
「消えたらこうして掃除する手間もなくなるんだけどねぇ」
 そう笑って言葉を返したのは、深青の隣で花びらを袋に詰めていた老婦人だった。
 深青もまた話を聞くなら雄一郎よりも年上の、親以上の年の人に話を聞こうと考え、彼女のいる全体的に年齢層の高いチームに参加したのだ。
 夫人が口を広げた新しい袋にスコップで花びらを入れながら深青は口を開く。
「少し……聞きたいんだけど……。京子っていう……女学生……昔いたんだけど……知ってる?」
 深青の問いに、婦人の表情が一瞬強張った。
「藤宮さんのところの人は別の場所が担当だけど……あんたの言う『京子』があたしの知る京子ちゃんのことなら、少しは話せるよ」
 学生時代、『京子』という女学生と同級生だったという婦人は語りだす。

 かつて京子と宗次郎――雄一郎の祖父となる男は同じ学校へと通っていた。
 クラスも違い、目立たぬ京子と人気者の宗次郎とでは接点は少なかったが、ささやかな接触で恋に落ちた京子は、蕾がほころぶように女としての魅力を増していった。
 しかし、宗次郎に婚約者が出来てからは酷い有様だった。
 白雪の肌から生気が消え。きらきらしていた瞳は濁り、周囲の景色をぼんやり映すだけ。袖から時折見えた細すぎる手首は枯れ枝を連想させた。

「雨がひどかった日の翌日、京子ちゃんは少し離れたところの川で溺れ死んだと聞いたよ。……きっと、耐えられなかったんだろうねぇ」
 言葉の最後の方はどこか後悔を感じさせる声色となり、深青もつられて視線を足元へと落とす。
 実際に行動へと起こすほどに強い恋心を抱いたが実らず、無念を抱いたまま命を散らした。
 雄一郎への憎しみへと形を変えて抱き続けているその苦しみは、一体どれほどのものなのだろうか。
「暗くなっちまったね! どうだい、ここらで少し休むかい?」
「まだ、大丈夫……。俺は真面目な……ボランティア」
 静かながらも確固たる意志のこもった深青の声に応えるように、手にしたスコップの先がきらりと光った。

成功 🔵​🔵​🔴​

萌庭・優樹
SPD

サクラミラージュ……なんてキラキラした世界!
こんなにステキなところで惨劇なんて起こさせたくないですよねッ
お掃除にお仕事、張り切っちゃいます!

足には自信がありますから
あっちへこっちへ、お片付けが必要なら
どこへでも駆けてゆきましょう!
綺麗な花びらを掃除するなんて
その景色すらもキレイで、贅沢な感じですっ

どの辺りにお掃除が必要でしょーかって尋ねるついでに
『二季草』の方々や他のボランティアさんに
京子さんってお名前に心当たりがないか、も聞いてみましょうか
【情報収集】も頼りになればいいな

雄一郎さんが生まれるより前に
生きていたお方ってことは……
お年寄りのお爺さんお婆さん達なら
知ってる人がいたりして?


佐々・真子
お掃除をしながら情報収集しましょうか
私のまなこは些細なことも見逃しませんよー(第六感、視力)

さくらのつもり具合の濃淡を観察しましょう
どこがより濃く染まっているのか、その分布も

ただの風や地形の問題なのか
それとも、想いが花びらを運ぶのか

そう云ったお話も聞けませんかね(情報収集、言いくるめ、優しさ)
ついでです、追跡者も呼び出して人手を増やしてぱぱーっとお掃除してしまいましょう!



「サクラミラージュ……なんてキラキラした世界! 掃除が必要な場所の景色すらこんなにキレイで、贅沢な感じですっ!」
 萌庭・優樹(はるごころ・f00028)が初めて見る世界の輝きに感動しているその横で。
「ぱぱーっとお掃除しつつ、桜が積もる理由も聞けませんかね」
 佐々・真子(無個性派女子(主張)・f12501)は広場の中でもどこが特に積もりやすいのかつぶさに観察を続けていた。
 偶然転移のタイミングが一致した二人組であったが、桜の様子を見ながら歩いて情報収集するということで手を組むことになったのだ。
「お掃除にお仕事、張り切っちゃいます!」
「私のまなこは些細なことも見逃しませんよー」
 花も恥じらうお年頃な二人は拳を高く突き上げるのだった。

 箒を片手に優樹と真子は広場の中を歩き回る。
 周りの景色に気分を良くした優樹が真子の手を取って駆けだしたり、真子が地面に落ちた花びらを手に取って気になったことを優樹に話したり、追跡者という人手を増やしつつ二人並んで掃除をする光景はまるで仲の良い友達のようであった。
「この辺のお掃除は大丈夫そうですね!」
「ですねー。……これなら、桜は特に気にしなくても大丈夫でしょう」
 最初のうちは桜のつもり具合の差に何かの想いによる差が隠れているのではないかと考えていた真子であったが、優樹と散策しながら分布をメモしていくにつれ、地形の関係で花びらがこの広場に溜まってしまうだけで、影朧等による影響ではないと判断するようになった。
 些細なことも見逃すまいと念を入れて『まなこ』をも使用したうえでの判断であり、少なく見積もってもこの事件に桜が積もる原因が関わることはないと確信できる。
「それなら他にどこを掃除すればいいかと、ついでに京子さんのこともあそこにいる人にちょっと聞いてきます!」
 そう告げるや否や、返事を待たずに優樹は少し離れたところで袋を手にした老人の元へ駆け寄った。
「すみませーん! 他にどのあたりお掃除が必要でしょーか?」
「ん? おぉ、お嬢さんも参加しておったのか。ありがたいのぅ。掃除は時間的に今回収したものを集めたら終わりじゃろう」
 ポケットから取り出した藤の模様が入った懐中時計でちらりと時間を確認したあと、その老人は優樹の問いに答える。
 不意を突かれる形で述べられたさりげない感謝の言葉にむずむずしたものを感じた優樹は少し照れた様子だ。
「キレイな場所なんで張り切っちゃいました! あともう一つ、京子さんってお名前に心当たりありませんか? ちょっと調べたいことがあるんです」
「……よく知っているとも。なんたって、溺れたあの子を見つけたのは、ワシじゃからな」
 打って変わって悲し気な表情になった老人。
 気に障るようなことを言ってしまったのかと優樹が慌てたところで、おいてきてしまった真子が優樹と老人の元に現れる。
「まったく、急に駆け出さないでくださいよー。……その話、私も伺っても?」
「お嬢さんのお友達かのう。……あまり気分のいい話ではないぞ」
 それでもいいかという無言の問いに二人揃って頷いたところで、老人は話し始めた。
 曰く、溺れ死んだ彼女の胸元に遺書があったという。
 そこには『月明かりが美しい日のあの笑みが忘れられない』『あの表情に焦がれ、惑わされるのはあまりにも苦しい』と、悲しい叫びが綴られていたという。
「あの娘は先代様に恋い焦がれていたのは有名な話じゃ」
 ちなみにと老人は胸元から手帳を取り出し、挟んでいた1枚の写真を2人へと見せる。
 この男性が先代様だと告げられ覗き込むと、そこには転送前に説明のあった雄一郎とよく似た顔立ちの男性が写し出されていた。
「……雄一郎さんとよく似ていますね。もしかして、そのせい……?」
 思わず漏れた真子のつぶやきに優樹も頷き、同じ意見であることを示す。
 命を絶ちたくなるほど恋焦がれた笑みを浮かべる男がいる。
 別人ではあるが、初恋の人の血筋であり事実として驚くほど似ている。
 これは影朧として恨む動機としては十分な代物になる。
「お嬢さんたち、ひょっとすると超弩級戦力として名高い猟兵さんなのかね? それなら社長にも会っていかれてはどうかな?」
 疑問形ではあるものの、2人を社長の元へ連れて行くのは彼の中では決定事項のようだ。
 真子と優樹は一度顔を見合わせ、先導する彼の背中を追いかけた。

 しばらく歩いた先、3人は最後のまとめ作業に入っていたであろう大きなグループと合流する。
 よく見るとどうやら他の猟兵たちも集まっていたうようであった。
 そしてその人だまりの中心には。
「おや、その人たちも猟兵さんかな?」
 太陽のように明るい笑みを見せる男性――藤宮家当主、藤宮・雄一郎が立っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『女郎蜘蛛』

POW   :    操リ人形ノ孤独
見えない【ほどに細い蜘蛛の糸】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD   :    毒蜘蛛ノ群レ
レベル×1体の、【腹部】に1と刻印された戦闘用【小蜘蛛の群れ】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ   :    女郎蜘蛛ノ巣
戦場全体に、【じわじわと体を蝕む毒を帯びた蜘蛛の糸】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 にこにこと人あたりのいい笑みを浮かべ、雄一郎は掃除への協力に感謝の言葉を述べていく。
 よほどうれしかったのだろう。雄一郎は自分の家にも寄っていかないかと声をかけるが、招かれざる客人はそれを許さなかった。
「やめて。やめて。やめてやめてやめてやめてやめてやめて」
 どこからともなく現れた女学生。
 狂ったように拒絶の言葉を繰り返す彼女の周囲では蜘蛛の下半身を持つ影朧『女郎蜘蛛』が彼女を守るように立ち、節のある足を動かして猟兵らを威嚇する。

 女学生は涙の代わりに黒い蜜を、目からではなく黒百合から零してひたすらに嘆く。
 間違いなく予知された影朧は彼女だろう。
 しかし、彼女に攻撃しようにも今は女郎蜘蛛が邪魔だ。

 まずは女郎蜘蛛を殲滅しなくては。
萌庭・優樹
こ、こんなに大きい蜘蛛を見るの初めてだッ
虫は平気ですけど……っ! ちょっとビックリするなぁ

でも立ちすくんでちゃいられません
【シーブズ・ギャンビット】で応戦します
大きい蜘蛛だろうと小さいのの群れだろうとかかってこいっ

羽織ってたお気に入りのショールを
持っててくださいって一般人のどなたかに預けます
身軽になるし、ショール傷付けたくないしっ

『先制攻撃』『2回攻撃』のチャンスも狙って
合体される前に蹴散らしましょ
皆さんには手も足も触れさせない!

蜘蛛相手に油断は出来ないけれど
その隙から女学生の姿が覗き見えたなら

あの人が京子さん、かな
こっちを襲ってきてるに違いはないけれど
何だかすごく苦しそう
……救ってあげたいな


三池・悠仁
蜘蛛って怖いってより
……気持ち悪い方が強いわけで
それに一応あの蜘蛛、女性?ぽいんだよな
ちょっと直接攻撃するのも気が引けるんだよな

とにかく、桜の花びらって訳にはいかないけど
【紅ク染マッタ硝子】を使用
女郎蜘蛛の糸と小蜘蛛達を対象にして、攻撃していく

一般人(雄一郎)もいるわけだし、巻き込むわけにいかねーから
敵と一般人の間に入って庇える様に位置取りしつつ
ちょっとずつ一般人と一緒に距離取る様に移動していくな
出来ればさっさと一般人連れてこの場から逃げたいんだけど
……逃げさせてくれねーよな~あの影朧



「こ、こんなに大きい蜘蛛を見るの初めてだッ」
 萌庭・優樹(はるごころ・f00028)が息を呑むその横で、三池・悠仁(幻想世界の迷子・f20144)もまた女郎蜘蛛の気味の悪さに顔をしかめる。
 上半身は顔を隠しているが明らかに女性のもの。
 下半身は大きささえ無視してしまえば糸を吐き出す腹部に8本の足を持つ蜘蛛のもの。
 2人を、そしてその背後にいる雄一郎をはじめとする一般人を見下ろす影朧たちの姿は異様と呼ぶにふさわしい。
 可能なら一般人を連れて逃げたいと願っていた悠仁であったが、どの獲物をどのように嬲ろうか品定めする数多の視線を受け断念する。
「……やっぱり逃げさせてくれねーよなー」
「それでも皆さんには手も足も触れさせない!」
 優樹は羽織っていたおひさま色のショールを脱ぎ、近くにいた一般人の女性へと預ける。
 お気に入りのショールが傷つく懸念がなくなった彼女の目には強い意志が宿っていた。
「ここでやるしかねぇか」
 悠仁の視線の先では女郎蜘蛛が自身よりも小さな蜘蛛の群れと白い糸を生み出していた。
 周囲に張り巡らされた糸はみるみるうちに一般人らをも閉じ込める迷路と化し、閉じ込めた獲物を追い込んでから食らおうと小蜘蛛がにじり寄る。
 悠仁としては当初女性らしさを残した女郎蜘蛛を直接攻撃することに躊躇いを感じていたが、こうまでされては気が引けるなど言っていられない。
「紅い 赤い 朱い 逃げれると思うな」
 悠仁の呼び声に応え、彼を中心として無数の赤い欠片が宙に舞い始める。
 それは幻朧桜よりも赤く、幻朧桜のように浮世離れしており、糸の壁よりも高みから降り注ぐ日の光を浴びて輝く赤いガラス。
 見るものを魅惑する鋭利なガラスは小蜘蛛と糸の壁へと飛び行き、小さな切り傷を生み続ける。
 ひとかけらの威力はともかくとして、それらを集中的に浴びた蜘蛛はガラスとは異なる赤をまき散らす最期を迎えることとなった。
 また、強固な迷路も毒に蝕まれることのないガラスの斬撃を受け続け、壁の向こうにいた蜘蛛の姿が透けて見えるように。
「ここまで減れば俺一人でもなんとかなる。行って来い!」
 ガラスの吹雪を操作しながら蜘蛛たちと少しずつ距離を取る悠仁は叫ぶ。
「皆さんのことお願いします!」
 一点突破の斬撃は脆くなった糸を切り裂き、迷路の主たる女郎蜘蛛へと至る道を優樹は駆け抜ける。
 金色の羽を手放した優樹の動きは広場を抜ける風よりも速い。
 直線的な突撃と見せかけてフェイント。女郎蜘蛛が生み出した小蜘蛛2体に挟み撃ちを選ばせてからの離脱、小蜘蛛同士を激突させてからの斬撃。
 この場にいる何者よりも素早く、軽やかに小蜘蛛の間を駆け抜け、時には迷路の道を手にした刃で切り開き、鋭い刃でその首を刈り落としていく彼女は小蜘蛛たちに合体させる猶予を与えない。
 妨害に満ちた小蜘蛛の群れと迷路を潜り抜け、優樹はその勢いのままに女郎蜘蛛の胸に突き立てる。
 疾風が如き一撃を胸に受けた女郎蜘蛛が霧となって消えた一瞬。
 優樹はいまだ悲嘆に暮れる女学生と目が合ったような気がした。
 正確には女学生は優樹の後ろにいる雄一郎を見ていたのかもしれないし、優樹もすぐさま襲い掛かってきた別の女郎蜘蛛の相手をしなくてはならず確認と呼べる確認もままならなかったが、それでも女学生の目に宿る苦しみを感じるには十分で。
 ――救ってあげたいな。
 そう思わずにはいられなかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

壱季・深青
あの子が…京子…かな?
ちゃんと…話したい…ここにいるのは…違う人だって
だけど…アレがいるから…無理、だね
今は…雄一郎…守らないと
蜘蛛を…排除する

敵の糸攻撃には…視力を使って…よく確認する
あと…敵の動きは…毎回注視しつつ…第六感と…
野生の勘も使って…警戒はする
雄一郎に…攻撃がいかないように…できるだけ…
自分に、引付ける

黒曜豪剣…使って…攻撃
『黒曜染まりし刃にて、宿りし魂の破滅望まん…』
引付けて…近付いて…引付けて…近付いて
ギリギリまで…側に近付いたら…全力で…叩きのめす、よ

(「…」「 、」は適当で可)(アドリブ可)【POW】



 現在一般人に襲い掛かっているのは女郎蜘蛛ではあるが、事件の中心にいるのは雄一郎と京子であった影朧だ。
 直前まで彼女のことを調べていたこともあり、壱季・深青(無気力な道化モノ・f01300)もまた女郎蜘蛛との戦いの最中で女学生を気に掛けていた。
 ――ここにいるのは……宗次郎じゃない、違う人。
 ――ちゃんと……話したい……。
 一歩彼女の元へと踏み込もうとするが、視界の端で雄一郎たちを狙おうとする女郎蜘蛛を捉え方向転換。
「させない……」
 深青は素早く距離を詰め、糸を放つ寸前だった女郎蜘蛛の眼前に突きを繰り出す。
 その一撃は黒いベールをわずかにかすめるにとどまったが、邪魔が入り腹を立てた女郎蜘蛛は怒りのままに標的を深青に変えて糸を放った。
 動きを注視していた深青からすれば回避は容易なその一撃。
 しかしそれを雄一郎に届くことがないように、そして怒りの矛先を自身に集めるために、漆黒の剣を振るって糸を1つ1つ斬り捨てていく。
 放たれる糸を斬り、時折近づいて斬撃を見舞っては後退をして。
 深青の動きに翻弄された女郎蜘蛛はいつしか雄一郎から遠く離れた場所にまで誘導されていた。
「キシャアアアアアアアアアッッッ」
 人ならざる雄叫びを上げ、しびれを切らした女郎蜘蛛が深青めがけて突進する。しかし深青はまだ動かない。
 伸ばされた前足が刀の間合いに入る。それでも動かない。
 そして距離を詰め切った女郎蜘蛛が鋭く尖った脚を深青の頭めがけて振り下ろす。
「黒曜染まりし刃にて、宿りし魂の破滅望まん……」
 一瞬を制したのは深青。
 極限まで敵を引き付けて初めて届く超速にして全力の斬撃が女の首を捕らえた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オリヴィエ・ベルジェ
影朧……初めて見るけど、こんな姿なのね

相手の作る迷路から逃げるのは、ちょっと難しそう
だから《エレメンタル・ファンタジア》で炎の竜巻を起こして、全部焼き払うわ
迷路を作るユーベルコード、わたしも知っているの。その迷路の壁ってすごく頑丈だけど……壊れないわけではないのよね
わたしが魔法を維持できなくなるのが先か、迷路が壊れるのが先か、それともあなたが焼かれるのが先か……試してみるのも、いいかしら?

迷路が焼けたら、竜巻を影朧のいる場所に差し向けるわ
どんどん焼いちゃいましょう!

あ、周りの人を巻き込まないように、わたしがしっかり制御しておかないと……
燃えるのは、人を襲うような悪い子たちだけでいいのよ


佐々・真子
いらっしゃいましたね
蜘蛛は情念の化身でしょうか
地獄から引き上げる極楽蜘蛛ではなさそうですが

少し、気後れしますね

その募った想いの澱
そこまでの思慕を私は抱いたことがありませんから

ですが、ここで退きはしません
『見栄と強がりと微かな『勇気』』であっても、私はあなたを止めるためにここにいるのですから

この『まなこ』をそらさずに『第六感』と『視力』を駆使して女郎蜘蛛を観察し『情報収集』しましょう

あなたの操る糸、弱点は――軽すぎる
サイキックの『衝撃波』で撃ち落として吹き飛ばし
『愛でることの呪縛』を伝えましょう

あなたの愛は呪縛となってしまったのです

影の手により蜘蛛を拘束すれば後は皆さんにお任せです



 猟兵たちの猛攻を前に女郎蜘蛛たちは徐々に数を減らしていく。
 振り下ろされた爪を躱し間合いを取ったオリヴィエ・ベルジェ(飛び跳ねる橄欖・f05788)は改めて広場で暴れる蜘蛛の姿を見つめた。
「影朧……初めて見るけど、こんな姿なのね」
「蜘蛛は情念の化身でしょうか」
 誰にあてたわけでもない言葉に返したのは、その両目を一切そらすことなく女郎蜘蛛を観察することに専念し続けている佐々・真子(無個性派女子(主張)・f12501)。
 真子のいる世界には、地獄に落ちた悪党の男が生前に蜘蛛を助けたことがあり、その善行を思い出した神様は彼を地獄から救うために一本の蜘蛛の糸を男めがけて下したという話がある。
 しかし、同じ蜘蛛でもあれが垂らす糸の先に極楽が待っているとは真子には思えなかった。
 迷路を修復してこちらの退路を断ち、遠くから攻撃するために用いられているあの糸は、きっと振り払ってもその腕を絡め取り地獄へ引きずり込む糸だ。
 女郎蜘蛛を通して女学生の思慕を感じ取った真子は思わず気後れしてしまう。
 しかし、それはここで退く理由にはならない。
「ここで止めましょう」
「ええ。あの迷路の壁、すごく頑丈だけど……壊せないか試してもいいかしら?」
「では私はしばらく蜘蛛を足止めしてますね」
 真子を動かすのは見栄と強がりと微かな『勇気』。
 女学生らを止めるという目的を果たすべく、真子は観察し続けて見つけた弱点――糸の軽さを突くように、オリヴィエを狙った糸を衝撃波で吹き飛ばす。
 衝撃波によりふわりと宙を漂うしかできなくなった糸の先では、その主たる女郎蜘蛛が次の攻撃を放とうと腹を真子に向けたまま驚愕の表情を浮かべていた。
 地から伸びる黒い手が糸の発射口をふさぎ、糸の発射を封じ込めていたのだ。
 脚で振り払おうにも影の手は捕らえられず、その場から離れてもその手はどこまでも伸びて糸の出口をふさぎ続ける。
 オリヴィエも彼女に負けてられないと魔法を練り上げる。
 蜘蛛の糸で迷路を作り上げるユーベルコードとよく似たものをオリヴィエはよく知っていた。
 そしてそれは頑丈ではあるが全く壊せないものではないことも。
 オリヴィエは女郎蜘蛛の群れの中心に炎の竜巻を呼び起こした。
 荒れ狂う炎は偶然近くにいた女郎蜘蛛を巻き込んで燃え上がり、迷路の壁を焦がし始める。
 制御困難なそれは迷路の壁に当たっては離れを繰り返し、時折一般人やオリヴィエらがいる方向に向かって熱風を吹かせてくる。
 今は『熱い』と感じる程度で済んでいるが、おそらく暴走した炎に巻き込まれて無事でいられるのは、動けなくなる代わりに無敵状態になることができる真子だけだろう。
 しかしそれはオリヴィエの望まざる結果だ。
 燃えるのは、人を襲うような悪い子だけでいい。
 周りの人を巻き込まないようにとオリヴィエは持ちうる全力を竜巻の制御に注ぐ。
 糸の壁の強度。蜘蛛の生命力。オリヴィエの根気。
 最初に脱落したのは――女郎蜘蛛だった。
「オリヴィエさん、今のうちに」
 ところどころ焼け焦げた壁の近くにはその体を黒い手に這いまわされた女郎蜘蛛たち。
 軽く周囲を確認するが、現在真子の操る影の手から逃れた個体は見当たらない。
 そういうことならとオリヴィエは標的を迷路から女郎蜘蛛へと変更。
 見ているだけで目を焼きそうな赤はゆっくりとした動きで女郎蜘蛛たちへと迫っていく。
 影の手によって拘束され動く手段を失った女郎蜘蛛は、次々と業火が渦巻く竜巻の中に飲み込まれていった。
 熱すぎる熱風が広場から消え去り、気づけば残っているのは。
 ずっと黒い涙を零し続けた最後の『悪い子』――女学生のみだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『血まみれ女学生』

POW   :    乙女ノ血爪
【異様なまでに鋭く長く伸びた指の爪】が命中した対象を切断する。
SPD   :    血濡ラレタ哀哭
【悲しみの感情に満ちた叫び】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    応報ノ涙
全身を【目から溢れ出す黒い血の涙】で覆い、自身が敵から受けた【肉体的・精神的を問わない痛み】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 女郎蜘蛛が全滅してなお、女学生はその場に立ち尽くして泣いていた。
 黒い蜜と女学生の腕を伝う血が地面に落ち、女学生の足元を濡らす。
「もう苦しいのはたくさん。つらいのもたくさんだわ」
 静かに発せられたのは先ほどとは違い、『京子』という一人の人間としての、恋に破れた一人の女の、悲愴感溢れる言葉。
 しかし顔を覆う両の手の爪はべきべきと音を立てて伸びていき、凶悪な鋭さを持った凶器へと変貌していく。
「惑わされるのも、もうたくさんなのよ」
 顔を上げた彼女の瞳を満たすのは自身の願いを邪魔しようとする猟兵たちに対する怒りと、彼女を縛り上げる雄一郎への殺意。
「邪魔を、しないでよおおおおおっ!!」
 女学生の絶叫が広場に響き渡った。
三池・悠仁
だけれど、アンタはそれでもあの時輝いてたんだろう
苦しくてもつらくても
キラキラしてて それを未だに覚えてくれている人居るんだぞ
それを自身の手で真っ赤に染めようとするなよ
アンタ自身で頑張ってた事好きだったモノを否定するなよ……

邪魔?そんな事してる覚えねーよ!
俺はアンタがこれ以上アンタ自身を否定しないために行動してるだけだ

一通り猟兵の皆さんの説得終わった様なら
【グラフィティスプラッシュ】をタイミングを見て使用して攻撃に移ります
キラキラしてた時の事忘れたって言うなら
俺の《アート》で物理的に思い出させるからな!(
……思い出してください、お願いします


佐々・真子
黒百合……それは、あなたの自覚なのでしょうか

叫びを第六感を働かせて調整した逆位相の波で相殺し、耐えます
そしてあなたの影に呼び掛けましょう(汝は影、真なる汝)

「あなたのことを、教えてください」
「惑う心は、どうしようもなく焦がれる想いは、本当にいらないのですか」

叫びをひたすらに耐えて、彼女の心を吐露してもらいます
あなたのことを教えてください

まなこをそらさず、彼女のことを知りましょう(情報収集)
相槌を打ち、頷き返し、どうしたかったの? と未練を伺いましょう



 人間離れした哀哭が広場の空気を震わせる。
 女学生が体感した苦しみを物理的に再現したかのような一撃を、佐々・真子(無個性派女子(主張)・f12501)は女学生の声の波長と対となる衝撃波をぶつけ相殺した。
 叫びと衝撃波がぶつかり合ったことで舞い上がる桜を無視して真子は問いかける。
「あなたのことを、教えてください」
 とぷりと女学生の影から黒いものが這いあがる。
 それは徐々に人型に、そして女学生そっくりの影法師となって女学生と相対する。
「惑う心は、どうしようもなく焦がれる想いは、本当にいらないのですか」
「っ、いらないわっ! こんなにも苦しい思いをするくらいなら、全部、想いも過去もなにもかも捨ててやりたいくらいよ!」
 声を張り上げて反論する女学生に対して影法師が腕を伸ばすと、その表情に動揺が走り耳をふさいで頭を振る。
 そして三池・悠仁(幻想世界の迷子・f20144)も女学生へと言葉を畳みかけた。
「ふざけんな! アンタがアンタ自身を否定してんじゃねーよ!」
「うるさいうるさいうるさい、猟兵のくせに。私のことなんか知らないくせにっ!」
「あぁ、たしかに俺は知らない。でもキラキラしてたアンタをまだ覚えてくれている人いるんだぞ。 それすらも捨てるのか!?」
 悠仁の脳裏によぎるのは猟兵間で共有していた京子の情報。
 友人を名乗る婦人曰く、恋を知った京子は日に日に美しくなっていたという。
 恋に破れたとしても、失恋の事実がどれほどに苦しくつらいものだったとしても、その瞬間まで京子はたしかに輝いていたのだと。
 その事実を輝いていた本人が否定し、壊し、血の赤で塗り潰すことを望む。
 そのことへの怒りのままに、悠仁は一歩踏み込んで吼えた。
 その剣幕に押されたのか女学生はびくりと肩を跳ね上げる。
「教えてください。あならはどうしたかったのですか?」
 衝撃波による相殺を繰り返しながら静かに問う真子の目は一切ずれることなく女学生へと向けられていた。
「あの笑顔を、独り占めしたかった……。でも、あの人にはもう、他の素敵な女性がいるから……でも、好きなの。でも、あの微笑みは見ると苦しい。でも、でも、でも……」
 弱弱しい声で吐き出された言葉を是としたのか、影法師は再びただの影へと戻っていった。
 愛は時にゆがみ、人を蝕む呪いとなる。
 女学生の心に触れた真子には、静かに涙を零し続ける彼女の後ろで艶やかに咲き誇る黒百合がその象徴であるように感じられた。
 そして女学生は死してなお呪われ、瓜二つの雄一郎に復讐を果たそうとしている。
「あの微笑みに苦しむ私なんか、そんな私がいた世界なんか、いらないわ」
 留まることを知らない黒い涙は女学生の首を伝い、襟を濡らして指先にまで達していた。
 目から溢れる涙は量を増していき、女学生を世界から守るようにしてその身を包んでいく。
「なくなってしまえば、きっと諦められるでしょう?」
 力なく微笑みんだ女学生は、自身を中心に黒い花畑を展開。
 黒い花畑へと落ちた桜の花びらが一瞬にして茶色く枯れ果て、同時に女学生を覆う黒がより一層深い黒へと染まっていった。
「失わせるかよ!」
 絶望に染まり切った花の黒を悠仁の放った赤が上塗りしていく。
 最初こそ強化が施された女学生の黒が戦場を支配していたものの、悠仁の足元が赤く染まるにつれて塗料の勢いも増していった。
「忘れたって言うなら……物理的に思い出させてやるからな!」
 言葉こそ強気だが、胸に秘めるのは戦いへの恐れと生前の輝きを思い出してほしいという願い。
 悠仁は純然たる攻撃のためのためではなく思い出を呼び起こすために、目を見張るほど鮮やかな赤で大地と女学生を染め上げる。
 その色で女学生がかつて持っていた輝きを思い起こさせるために。
「……ひどい人だわ。全て忘れてしまった方が、きっと楽だったのに」
 涙の鎧が剥ぎ取られた女学生の顔はいまだ悲しげ。
 しかし、その口元はほんのわずかに綻んでいた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

萌庭・優樹
おまえが……いいえ
あなたが殺そうとしてる人のこと、よく見て、京子さん
こんなに想いの強いあなたなら気付ける筈
あの人はあなたが愛した人じゃない
よく似た――別人なんだ

京子さんを『追跡』
近くに迫って【Aim For Dear】使用
綺麗な着物に穴を開けるのは勿体ないけれど
『鎧無視攻撃』で、戦いには容赦を捨てましょう

苦しいんだろうな
好きで、好きで、どうしようもなかったんだ
気持ちは殺せるものじゃないんだ

皆さんを傷つけることは許さない
……でも、人を傷付けることで
これ以上あなたが傷付くことだって、おれは嫌です

ほんの少しの間だけ、憎しみを忘れて眠りませんか
目覚めたときにはまた笑えるように
おれ達が送ってあげるから



「おまえが」
 続けようとした言葉が不意に止まる。
 女学生が雄一郎たちを傷つけることを萌庭・優樹(はるごころ・f00028)は許さない。
 女学生が振るう爪を紙一重でかわし続けている今も、優樹の目から戦う覚悟は一切失せていない。
 しかしこれまで女学生のことを知ろうとし続け、彼女を見聞きした結果、女学生すらも許せない敵から傷ついてほしくない存在にかわっていた。
「いえ……あなたが殺そうとしている人のこと、よく見て、京子さん」
 頬のわずか横をかすめた爪が焦茶色の髪を数房切り落とす。
「あの人はあなたの愛した人じゃない。よく似た……別人なんだ!」
 叫ぶと同時に牽制の弾丸を放つと、女学生は大きく飛び退き距離を取る。
「……そう、ね」
 ぽつりと女学生は呟いた。
「あの笑みはあの人と笑みとどこか違うわ。ええ、どこかでそう思ってた。でも駄目なの、止められないの。あの人を重ねずにはいられないの。同じではなくても思い出してしまうの。似ているものがあるというだけで許せないの」
 感情を殺すのは容易ではない。
 自分ではどうすることもできず、命を絶つほどにまで至った感情なら尚更であろう。
 心も体も傷つき亡霊のように泣く女学生は、その爪先に殺意を乗せながらもどこか助けを求めているように見えた。
 その苦しみを一刻も早く終わらせようと、優樹は女学生の胸に飛び込む。
 その動きが見えず反応が遅れた女学生はひどく狼狽していた。
「止められないなら、憎しみを忘れられる場所におれ達が送ってあげる。だから、おやすみ」
 憎しみから解放されて、次に目覚めるときはまた笑えますように。
 祈りを込めて優樹は女学生の胸に押し付けていた機械銃のトリガーを引く。
 放たれた弾丸は女学生の胸に大きな風穴を開けたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

壱季・深青
戦いながら…話すよ
第六感と…野生の勘で…爪の攻撃…避けながら…焦らず近付く
黒曜豪剣…使う

酷い奴…だね
いつまで…そんな男のことで…悲しむの?
きっと…意地の悪い…女の子を騙す…最低な…イヤな男…だったんだね
女の子…泣かせる…そんな男のことは…忘れなよ

女の子は…笑ってると…可愛いんだよ
俺の知ってる…女の子たち…みんな…笑ってる
だから幸せとは…限らないけど…でも…女の子…泣かせちゃいけないって…俺でもわかる
相手の幸せ…願わなくてもいいし…恨んでもいい
だけど…傷付けるのは…違う
それは…自分もいっぱい…傷付く、から

京子…もしまた…会うことがあったら…笑って会えると…いいね

(「…」は適当で)(アドリブ可)


佐々・真子
真の姿を解放、とはいえ姿は何も変わりませんが

諦められませんよ、あなたはきっと

だって、私たちがあなたの好きな笑顔を護りますから
この世界にあなたの好きな笑顔は残り続けるのです

諦めることを諦めさせてしまうくらいに

この世界は巡る世界でしょう
なら――“雄一郎”さんが、笑顔が続く証になりませんか

彼は、あなたの好きな笑顔の持ち主の、残した素敵な笑顔ですから

今まで集めた情報をもとにこの『まなこ』で見据え
私の意思を込めて心の種を贈りましょう

私は、私が自分で口にした言の葉が実現することを、そしてあなたが再び巡り合うことを信じます

あなたの背中を押しましょう
応援、しております



 先代藤宮家当主――藤宮・宗次郎。
 女学生が苦しむきっかけとなった彼はいったいどんな男だったのだろうか。
 爪による斬撃を往なしながら壱季・深青(無気力な道化モノ・f01300)は考えていた。
 女の子を泣かせることはいけないこと。誰から教えられたかは定かではないが、それはたしかに深青も知っていることだ。
 ましてやこんなにも思いつめたような表情をさせてしまった男にいい感情を抱けそうにない。
「女の子……泣かせる……そんな男のことは……忘れなよ」
「そんなの出来っこないわ! だって、こんなにも憎くて、苦しくて、似たものの存在すら許せなくて……っ!」
 息を弾ませながら女学生はがむしゃらに腕を振るう。
 感情任せな攻撃を見切るのはたやすく、深青はわずかな動きで攻撃をかわしながら距離を縮めていった。
 距離を詰めれば詰めるほど女学生の表情がはっきりとし、深青は女学生の抱える苦しみや憎しみの強さを実感する。
 頭上から振り下ろされた爪を深青の漆黒の刀が受け止めた。
「女の子は……笑ってると……可愛いんだよ」
「だから何?!」
 深青と女学生の間で互いの得物が軋む音が響く。
「京子が……笑えるなら……恨んだままでも、いい」
 深青の発した静かな言葉に、音が消えた。
 ところどころ欠けた爪を引っ込めた女学生はどこか困惑した様子でふらふらと後退る。
 片手で顔を覆う彼女に戦闘直前のような激しさは残っていない。
「恨んで、も……? あれ、なん、で……? 嫌いなのに、見たくないのに」
「恨むことも諦めることもできませんよ、あなたはきっと」
 自問に答えたのは真の姿を解放した佐々・真子(無個性派女子(主張)・f12501)だった。
 一見どこも変化がないように見えるが、よくよく目を凝らせばその輪郭はわずかにぼやけている。
「雄一郎さんの笑顔は、あなたの好きな人が残した素敵な笑顔でしょう?」
 真子の目は肉体の向こう、荒れ狂った心の奥深くに鍵をかけて隠した本心をも知ろうとまっすぐ女学生の目を見据える。
 宗次郎を想い続けるのは苦しいから諦めたい。おそらくこれは事実。
 そのために似たもの――雄一郎の笑みをこの世から消し去りたい。これも間違っていない。
 しかし、彼女のまなこは女学生が苦しみながらもあの笑みを好いていることを見抜いていた。
 それがわかれば真子がとる行動は1つだ。
「私たちがあなたの好きな笑顔を護りますから。この世界にあなたの好きな笑顔は残り続けるのです」
 表情はあくまでも穏やかに。しかしその言葉に確固たる意志を乗せて真子は宣言する。
 女学生はしばらく口をはくはくと動かして真子を見つめていたが、やがて目を伏せ俯く。
 大きくため息をついてから顔をあげた女学生は、目から涙は流れているものどこか吹っ切れたような表情をしていた。
「もう、終わりにしましょう」
 脂汗を浮かべる女学生の限界は恐らく近い。
 しかしそこは最後に残った影朧としての執念というべきか、再び爪を鋭く伸ばし深青と真子めがけて突進する。
 それは今まで以上の速度。彼女が今出せる全身全霊の特攻。
 おそらくこれが最後の激突となるだろう。予感めいたそれを受けて深青は前へと飛び出し、真子も弾丸に自らの想念を籠める。
「傷つけるのは……これで、おしまい」
「これが私の意思です。あなたに心の種を送りましょう」
 距離を詰めた深青の刀と真子の手元から放たれた黒い煌めきが女学生の爪、肩口、腹、首を走り抜け、実体のない精神体に風穴を開ける。
 2人から受けた攻撃は致命傷へと至り、女学生の身体から力が抜けた。
 そして完全に地面へと崩れ落ちるかと思った瞬間。
 ぶわりと一瞬で女学生の全身が無数の桜の花びらへと変化し、風に乗ってどこかへと舞い上がっていった。
 深青も真子も、そして戦況を影から見守っていた雄一郎たちも景色の一部に溶け行く桜を目で追う。
 これで女学生――京子はきっと転生できる。
 誰もがそう確信するに値する、美しい光景だった。
「京子……もしまた……会うことがあったら……笑って会えると……いいね」
「応援、してますから」
 雄一郎が京子の愛した笑みを受け継ぎ。
 いつか京子と宗次郎は巡り巡って再び出会うだろう。
 そして向かい合った2人が微笑みあう、そんな未来が必ず来る。
 そう信じる深青と真子のつぶやきも空へと溶けていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年11月01日


挿絵イラスト